バトルオブフラワーズ⑫〜死線
●破壊に与する者
――ドン・フリーダム。
その思想を知る男は、ゆるやかに口の端をあげた。
かれの眼差しは虚空を捉えるばかりで、何を意識するものでもない。
たとえ阻む者たちが現れたところで、かれの色も音も、変わらないだろう。
欲望は、止められない。
●グリモアベース
ウインドゼファーらを退いた猟兵のもとへ、ホーラ・フギト(ミレナリィドールの精霊術士・f02096)はドラゴンテイマーとの対峙が可能となった旨を伝えにきた。
「大戦の流れとしては無視しても良いのかもしれないわ。でも……」
戦略の面だけで見れば、わざわざ人手を割いて攻略する必要は無い。
しかしホーラは猟兵たちの顔をのぞき見、微笑む。
「やっぱり、気になるわよね」
だからドン・フリーダムは一先ず仲間に任せるか、あるいは別の機を狙い、今回ドラゴンテイマーを倒したいと考える猟兵が向かうのが良いだろう。
「倒したいと……そう言ってくださるなら、全力でサポートします」
そう言い終えたホーラは、ドラゴンテイマーの存在について説明を始めた。
「ドラゴンテイマーは同時に一体しか存在しないの。前と同じね」
倒しても倒しても、かれは骸の海から蘇ってくる。
しかし短い期間中に、復活に必要とされる力の許容値を超える分だけ倒せば、蘇ることは不可能になるはずだ。
「だから倒せばいい、と言うのは簡単ね……」
ホーラは一度言葉を区切り、猟兵たちの顔を確かめた。
「これまでの誰よりも、強いの」
言葉の一音一音を明瞭に告げる。
ドラゴンテイマーは、『黒竜ダイウルゴス』を召喚する能力を持つ。
今までの各ステージに備わっていたような、特殊なルールは存在しない戦場だ。
その分、純粋に能力と戦法による衝突となるだろう。
舞台はシステム・フラワーズの中枢から少し離れた場所。
戦場は広く、動き回るのに難は無い。しかし、戦場には建物の残骸や廃品らしき塊が点在している。それをうまく利用するもよし、構わず戦うのも良しだ。
「私たちの強みは、相手の使うユーベルコードが予めわかることよ」
それを鑑みたうえで、強敵なのだとホーラは念を押す。
油断はせずとも、あるいは抜かりなく挑んでも、苦戦を強いられる可能性がある。
「……それじゃ、用意ができた方から転送します!」
いつでもどうぞ、と明るく笑って、ホーラは猟兵たちの準備が整うのを待った。
棟方ろか
お世話になっております。棟方ろかと申します。
1章のみのシナリオです。
オープニングならびに以下を一読のうえ、ご参加いただきますようお願いします。
敵は必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
この先制攻撃に対抗する方法をプレイングに書かず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、必ず先制攻撃で撃破され、ダメージを与えることもできません。
プレイングが非常に重要となります。
明らかな強敵が相手ですので、よろしくお願いいたします。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております!
第1章 ボス戦
『ドラゴンテイマー』
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POW : クリムゾンキャリバー
【赤き剣の右腕】が命中した対象に対し、高威力高命中の【黒竜ダイウルゴスの群れ】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : ギガンティックダイウルゴス
レベル×1体の、【逆鱗】に1と刻印された戦闘用【大型ダイウルゴス】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ : 文明侵略(フロンティア・ライン)
自身からレベルm半径内の無機物を【黒竜ダイウルゴスの群れ】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
イラスト:ハルヨリ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
レザリア・アドニス
まさかの、ゾフィラーガさん……いや、人間違いしたのきっと(首ふりふり)
蛇竜を召喚し、敵がギリギリ気づかない所まで近づき、後ろに潜伏して待機
常に相手の様子をよく観察して、行動のパタンを読んでみる
赤き右腕を突き出そうとすれば、蛇竜に素早く動き出させて腕を攻撃し、照準を邪魔する
ダイウルゴスが出てるとすぐに炎の矢で射殺、合体などさせない
そして花の嵐で生み出したダイウルゴスを一掃、少なくとも操作を邪魔する
後は騎士に敵を牽制させつつ、炎の矢で攻撃したり、蛇竜に後ろから奇襲させたりする
貴方が人の配下になるなんて…ありえない!
目の前の男の姿を、遥かなる骸の海の底に埋葬された、かつてあった世界の異形の主と重ねる
穂結・神楽耶
あの放送が正しければ…此度の侵攻の原因たる方ですね。
放置するには恐ろしすぎる。
わたくしが対峙するのは黒竜の群れですか。
数の暴威にはこちらも数で。
展開した複製太刀による『なぎ払い』『範囲攻撃』『属性攻撃』を交えて片付けていきましょう。
殲滅戦の様相ですね。
──そう見せかけての『だまし討ち』。
補充のきく竜を狙い続けるなど欺瞞でしかない。
必要なのはほんの僅かな隙間。
真正面からやり合って勝てる相手でないのは承知の上。
これは、未来(つぎ)へ繋ぐための一刺しなれば。
喉元示す切先にて意志を掲げましょう。
此れが、いつかあなたを射抜く刃でございます。
●散ればこそ
システム・フラワーズの中枢より少し離れた場に、赤と黒、二輪の花が咲く。
炎よりも赤く燃える紅の花──穂結・神楽耶(思惟の刃・f15297)が思い起こすのは、先日の光景。
あの放送が正しければ、と神楽耶は凛として標的を見据える。
標的であるドラゴンテイマーは、いくつもの翼と忌まわしき気を纏って佇む。訪れた猟兵にすら関心を寄せぬ、曲がり者。その男を遠目に、神楽耶は細く息を吸った。
「此度の侵攻の原因たる方、ですね」
吐き出した音にさえ、敵は揺らがず。
その近く、夜の底より深きを知る黒の花──レザリア・アドニス(死者の花・f00096)は、頭の内側にかかる靄に思考を苛まれていた。男の姿に、覚えがあるのか、否か。レザリアは振り払うべく頭をゆるゆると動かして。
「……ひと違い、のはず」
目の前の事態に集中するべく、レザリアは内なる死霊へ話しかける。
ドラゴンテイマーの男は、彼女の僅かな挙動を視界の隅に捉えつつ、興味は示さない。
だが点在する建物の残骸らしき山が、突如として震え出した。それにレザリアと神楽耶が気付くより早く、残骸は竜を模る。鮮やかな光と色に彩られた世界を、瞬く間に黒が侵食した。
そしてレザリアが蛇竜を招くよりも先に、黒竜が羽ばたき足場に風を叩きつける。
「くっ……!」
強風に煽られながら踏ん張るふたりの内、レザリアめがけ別の黒竜が尾を振り回した。
轟音を散らして、レザリアの繊細な身体が吹き飛び、遠く瓦礫の山に沈んだ。濃い粉塵と、硬い瓦礫の砕ける音が噴出する。
レザリアの無事を確かめたく思うも、神楽耶は前を見たまま振り向かない──振り向けなかった。気を逸らせば押されると、持ちうる血肉と武器のすべてが警鐘を鳴らしている。
だから神楽耶は鯉口を切り、ドラゴンテイマーたる男へ刃を向けようとする。
男は、得物を複製した少女の仕種に呼応し、文明を侵略し始めた。枯れた廃品に息吹が宿り、鮮烈な色彩で満ちるキマイラフューチャーの世界を黒き竜の形に染める。
──対峙するのは……この群れですか。
神楽耶が思うが早いか、竜は戦の気に満ちた彼女を狙う。先手、滑空する間さえ惜しんだのか直下で落ちた竜を、腰を深く落とした神楽耶が太刀でいなす。
そうして刀を傾けた脇から、舞い上がる時間をも削いだ瓦礫竜が、地面と擦れんばかりの低空飛行で突撃してきた。払おうと振った太刀ごと胴を持っていかれ、神楽耶の両足が浮く。ズゥン、と低い地鳴りを響かせて、神楽耶の背は瓦礫の山をも突き抜けた。
すかさず刀を盾にしたおかげで、竜の牙に腹をがっちり挟まれるのだけは防げた。
しかし全身を強打した少女は、すぐに立ち上がれず、地を転がり竜と間合いを取った。臓も骨も軋み、咽ぶ。どうにか息を整えながら、何事もなかったかのようにはばたく竜を神楽耶は見上げた。
「っ、人の身とは……こうも侭ならぬものなのでございますね」
神楽耶はようやく太刀を複製し、背筋を伸ばす。
やはり、放置するには恐ろしすぎる。
そう男の存在を再認識した神楽耶の視界の隅で、別の瓦礫へ沈んでいたレザリアが、咳込みながら顔を覗かせる。
レザリアに巻き付いていた蛇竜が、溶けて消える。よろめいてはいるが、すんでのところで蛇竜が身に纏わりついたおかげで、深手に至らず済んだ。
尚も立ち上がるふたりの少女を目にしたドラゴンテイマーが、くつくつと息を喉で殺すように笑う。
「竜ごときでは倒れぬか」
立ち上がるレザリアの柔らかかった灰色の翼も、黒に艶めく髪や衣も薄汚れ、もはや元の色を保てていない。
──やっぱり、先制攻撃をどうにかしないと……。
咥内に飛び込んだ苦みをしかと覚えつつ、彼女は瓦礫の山から抜け出した。
レザリアが、男の後背を奪うべく蛇竜を再び召喚しようとするも、機先を制した男が水を差す。
ガラスや金属の芥で造られた竜がはばたいた。戦場に強風を叩きつけて、あるいは突進でもって襲いかかる。
すでに複製した神楽耶の刃が、この世界に満ちる色彩を滑らせ、風を斬る。一振りは竜の翼を薙ぎ、二振り目は、突き出された頭を片端から斬首に処す。
溢れる黒竜たちを斬り伏せていく神楽耶は、正しく殲滅戦の様相。
邪魔にはなるまいとでも判断したのか、ドラゴンテイマーは傷だらけのふたりに手を割こうとしない。
それでも無機物から成る竜の群れの下、神楽耶の歩みは忍んで近づく。
補充の利く竜を延々狙うなど、欺瞞でしかない。そう考える神楽耶が望むのは、黒竜を斬って斬って斬り伏せる最中に生じる、ほんの僅かな──隙間。
真正面からドラゴンテイマーと相対したところで、勝てる相手ではない。それは神楽耶も承知の上だ。だから神楽耶は、肩に食らいついた竜の喉を一突きにし、直刃の切れ味の波に乗せて、払う。首が裂け廃品をほろほろ零す竜を場に残し、神楽耶の歩みは次なる地を目指す。
神楽耶の動きから何を察したのか、男は廃品からダイウルゴスの群れを新たに造り上げる。
その直後、竜たちを花嵐が包み込んだ。
とつぜん現れた花の舞いに驚きよろめいた竜は、近くを飛んでいた別の個体とぶつかる。また別の数体は、飛行のバランスを失った。
「……させ、ない……っ」
神楽耶を狙っていると察したレザリアが、息を切らし言い捨てる。
一矢報いたレザリアのまなこは敵を観察し続け、不規則に獲物を狙う竜の挙動をも掌握しつつあった。
そして神楽耶は、総身を巡る激痛も、肩から流れる朱も胆力で堪える。彼女の刃は、ひとの未来のため、縁のため群れに紛れて。
──これは、未来(つぎ)へ繋ぐための一刺しなれば。
その男、ドラゴンテイマーの喉もとを示す切っ先に、ヤドリガミたる少女が宿すのは心。
「……此れが」
眼差しに燈る光が、少女の意志をこれでもかと男へ刻みつける。
「いつかあなたを射抜く刃でございます」
神楽耶が揮うは、結びの一太刀。複製された刀の群れが舞い、男の翼に風穴を通す。
けれど男は苦痛すら露にせず、膝から崩れそうな神楽耶にも興味を寄せない。
「ゆけ。追いはしない」
男は、そうとだけ答えた。
途絶えた花嵐の欠片がひとひら、またひとひらと消えるなか、薄れゆく意識でレザリアが朧げに浮かべたのは、かつて在った世界に見た異形の主だ。否が応でも重なってしまう。遥か骸の底に葬られた、なにかの姿。
「ゾフィラーガさん……」
気づいたときには、そう呼びかけていた。
レザリアの呼び声に、かれは眉ひとつ動かさない。
「貴方が、人の配下になるなんて……ありえない!」
窄む喉から搾り出すも、男から返るのは卑俗じみた笑み。
花は命を燃やして咲く。散るまで咲き続ける。
ただ散れども想いは枯れず、次なる一手へ種子を渡し、紡がれていく。
苦戦
🔵🔵🔴🔴🔴🔴
セリオン・アーヴニル
見ただけで解る。
アレは、強敵だ。
…くくっ、柄にもなく心が躍るな。
【UC対策・戦術】
数で来るならこちらも数だ。
【境界崩壊】を発動しLv分の自身の複製を生成。
全員が同じ装備を有する利点を使い、
16名を『武器受け、怪力、オーラ防御』を併用した防波堤、
18名を銃器や『全力魔法』の光線魔導兵器でのつるべ撃ちで抵抗しつつ数を減らす…
と見せかけ、それらは全員『囮』に使用。
本命はドラゴンテイマーへの強襲。
囮の陰で本体と残り1名の複製が防具とカードの効果『迷彩、目立たない』を発動。
遮蔽物を使い両サイドから接近し機を見て複製と共に挟撃急襲。
腕の一本でも獲れれば上出来だ。
可能なら奴の情報が得られる様な戦利品を回収。
●ヒトデナシの手段
粟立つ肌にも、踊る心にも抗えない。
常であれば憂いに沈んだようなセリオン・アーヴニル(並行世界のエトランジェ・f00924)の眉根も、今ばかりは血気で寄せられている。彼の視界に映るのは、ドラゴンテイマーたる男。
──見ただけで解る。
ゾクゾクと肌身を這う高ぶり。アレは強敵だ。得物を交える前から突き刺さるほど伝わる。悠然と佇む男の外形も、禍々しい気を放出する異形でしかない。
いずれにせよセリオンには、相手が数で攻めてくるのはわかっていた。ならばと揃えた武装にも、抜かりはない。
だからセリオンはそれを複製するべく息を吸う。己の武装のままに、互換を共有できる複製体を。
しかし、敵が手ぐすね引いて待っていなくとも、猟兵が手を打たなければ当然、機先を制するのは難敵であるドラゴンテイマーだ。
男が招いたのは巨竜ダイウルゴスの目覚め。瞬時に巨竜が群れを成し、複製を作り出すより先に間断なく襲来する。
セリオンは咄嗟に、槍剣で竜の首を突き返した。しかし突いた敵に代わって別の個体が眼前へ迫り、続けざまに銃剣で払う。反応が遅れる角度を抉ったのも、また竜だ。さすがに数が多い。
後背をやられると察知し身を捻った刹那、窺っていた別個体の強襲を受ける。前後を挟まれ、頭上にまで黒影をかぶせられては、成す術がない。
腕を、肩を、胴を喰らう牙による痛みを堪え、セリオンは一頭の額を踏み台にして跳ね、ようやく竜の巣から抜け出す。
ふとドラゴンテイマーを見やるも、男の振るまいに変化はない。
──やはり簡単には討ち取らせてくれないらしい。
くくっ、と苦痛をも跳ね退けセリオンは笑いを噛む。
矢継ぎ早に襲い来る竜へ休まず応戦しながら、セリオンは後ずさる。無数の巨竜から絶え間なく攻め立てられては、容易くいかない。
初手の猛攻で負傷し、少しばかり機動力が落ちようとも、短い呼吸を繰り返して彼は隙を狙う。
そして成すのは、境界崩壊──生成された複製は、セリオン自身の強さに副う。彼らもまた、セリオンという『個』であり『総』であった。
数には数で応える。防波堤となる複製たちが竜の襲撃を受け、残る複製体たちが銃器や魔導兵器を全力で打ち込む。おかげで戦場は瞬く間に賑やかさで満ちた。静謐を湛えているのはドラゴンテイマーぐらいだ。
──そう、これでいい。
セリオンは顎を引き、気配を殺して移動を始める。竜の咆哮とはばたき以外の音と影が飛び交う中、ひとりの複製体を連れて。
大勢での迎撃は、巨竜が覆った空を元ある色へ着実に戻していく。セリオンの複製体が残数を減らせば、同じく複製の数も減少していく──時間は余らない。
騒がしい戦地で、瓦礫の山に隠れたセリオンと複製ひとりが挟撃に挑む。そこへ。
「忘れられては困る」
ドラゴンテイマーが、そう呟いた。
かれは左腕へ向かう複製体の一撃を翼で受け、右腕へ迫ったセリオンを赤き剣で串刺しにする。武器は標的に届かず宙を掻く。
「ぐっ、がは……」
セリオンが吐いたのは呼気ではなく、身を貫く剣と同じ色の飛沫。
「私の目も、空いていることを」
黒に澄んだ意志で、男が告げた。
複製を追うのが竜であれば、かれの眼差しは何を追ってきたのか。
「……っ、見せてやろう」
セリオンの言葉に応じ、複製体が片翼に縋る。一瞬、ドラゴンテイマーの均衡に乱れが生じた。
揺らぐ意識に躊躇いなど皆無。セリオンは傷つき冷えきった腕でレヒトの銃口を、かれへ向ける。それが精一杯だった。
「これがっ……ヒトデナシだからこその、手だ……」
銃声が消えるより早く、セリオンも複製も崩れる。だが銃弾は間違いなく、男の左肩を撃ち抜いた。
ドラゴンテイマーは黒衣の銃創にそっと触れ、倒れたセリオンに構わず歩き出す。
そこで寝ているがいい、と淡泊に言い捨てて。
苦戦
🔵🔴🔴
空廼・柩
やあ、黒竜使い
そんな所に居たら暇で仕方ないだろう?
――折角だし遊びに付き合ってよ
眼鏡を外して黒竜達の挙動を観察
聞き耳もフル活用で死角を竜に狙われぬよう留意
流石に全てを避けきれぬのは覚悟
その上でダメージを激痛耐性で凌ぎつつ致命傷に至らぬよう武器受けや見切りを試みる
その侭カウンターに【咎力封じ】で雁字搦めにしてやるのも手
黒竜という凶器付きの拘束具で奴等の主へ殴りつけたら、ダメージを与えられずとも一瞬の隙を作る事は出来るかも
黒竜の猛威を振り切りつつ拘束具でドラゴンテイマーを拘束
目立たなさを活用して騙し討ちすれば成功率も上がるかも
奴は強敵に違いない
次に有利に繋げる為に、少しでも弱体化出来るよう努めよう
●からっぽの柩
眼鏡越しの景色は、物を通した世界でしかない。
透明のケースに入った薬、ラックの中の実験動物、プレパラートに挟んだ観察対象。そうしたものによく似ている。
だから空廼・柩(からのひつぎ・f00796)は眼鏡を外し、呼び覚まされた黒き竜の挙動を視界におさめた。照る逆鱗の数字が目映い。しかし裸眼で直視した巨竜は、黒さ際立つものの輪郭に光を帯び、ぼやけて見えた。
それでも、見抜く片目の青に淀みはない。死角だけは預けてはならないと気を研ぎ澄ませ、柩は耳をそばだてる。
「やあ、黒竜使い」
彼が轡や枷を掬い取れば、音を殺したにも拘わらず竜がどよめく。
ドラゴンテイマーである男はしかし、柩を注視などしない。
「そんな所に居たら、暇で仕方ないだろう?」
かれの持て余す暇を、柩は指摘した。すると柩の言葉も言い終わらぬ裡に、竜の群れが狙いを定める。
数えきれぬ量の黒が埋め尽くす柩の視界──この世の終わりを連想させるほど、凶事に溢れる光景だ。
咆哮と共に次から次へと、牙が柩へ食らいつこうとする。すべてを避けられるとは柩自身も思っていない。けれど死力を尽くして抗うべく、細い腕で餞を掲げた。折れてしまいそうな腕ながら、大きな竜顎を叩きあげ、頭からがぶりと喰らわれずに済む。
顎を殴られよろめいた竜の脇から、別の一体が風に乗って滑り込む。柩はすかさず空いた腕で短銃を向ける。大型の竜を前に、銃口も彼の腕も小振りだが、確実に額を撃ち抜いた。
扱い慣れなくとも、持っていて正解だった。そう柩が僅かに息を吐いた直後、他の数体が彼へと迫る。
──多い……っ。
柩の思考が瞬時に編まれるも、瞬く間に囲われ、青年の姿は黒に埋もれた。
一部始終を目撃しつつも、ドラゴンテイマーは喜色すら顔に塗らない。
まるでたわいない茶飯事のように、ゆるりと瞬くだけだ。
「……無駄に命散らすか。愚かなことだ」
哀れむ素振りで呟くも、男の声に情はない。地上を眺めても、空を仰ぎ見ても、竜たちの巣と化した世界。覆らぬ現実に、男はかぶりを振るだけで。
そのときだった。
ドラゴンテイマーへ突然、一匹の黒竜が飛びかかる。いち早く男は翼で払い落とし、そこで気付いた──飛んできたのは黒竜の頭だ。頭部だけがぼたりと地に落ち、頭部を繋いでいた鎖が、穴の空いた男の翼に絡み付く。
鎖を辿り、投擲した主を男が見やる。竜の渦に呑まれたはずの柩が、そこにいた。
柩の呼気は荒く、満身創痍で意識を保つのがやっとだ──痛みへの耐性などで受けきるには、あまりに数が多く、敵も強大だった。だが柩は苦難を凌駕し、肉体を奮い立たせる。灰染めの髪はくすみ、ただでさえ年季が入った白衣は、朱と黒に染まって、それでも。
──奴は強敵だ。事実は違いない。
竜の群れに襲われ、まともに神経が通じずとも、彼の放った黒竜の骸はドラゴンテイマーに食らいついた。弛みなく伸びた鎖のもう一端は、言わずもがな柩に繋がっている。
「納める棺は用意してあるから……」
鎖を引き絞った柩の眼差しが、男を射抜く。
「慌てないで、少し遊びに付き合ってよ」
それは次へと繋げるため、少しでも弱体化に努めようとする柩の意志でもあった。
瞬間、男が吐息だけで笑ったのが、柩にも伝わる。
「その身体で言いのける気概。興味がある」
尚もドラゴンテイマーの──かれの佇まいは静かなものだった。
苦戦
🔵🔴🔴
一駒・丈一
SPD重視
先制されるならば、竜召喚は不可避か。
ならば、
竜ごと敵本体を一閃する他あるまい。
集団の敵を相手取るのは得意分野なのでな。
が、もう少し確度を上げたいところだな。
ならば…
UCを放つ直前に『咄嗟の一撃』で煙幕弾を敵の群れに『投擲』する。
己の身隠す為ではない。竜の「味方同士の視認を阻害する事」が目的だ。
要は、竜の合体連携を阻害する為の苦肉の策だ。
その後、UC『罪業罰下』を使用し、
『早業』で『咄嗟の一撃』を意識しつつ素早く繰り出しテイマーと竜を纏めて一閃する。
以上の過程を遂行する際、テイマー自身からの攻撃も警戒しよう。
攻撃が飛んで来た際は『見切り』や『第六感』で回避に全神経を回して立ち回ろう。
●映し出すのは
一駒・丈一(金眼の・f01005)は、眼差しこそ敵を見据えたままに、己に課せられた因果へ想い馳せた。
そんな丈一の動作に反応したのか、ドラゴンテイマーは色なき表情で巨竜を呼び覚ます。言葉通り瞬く間に、無数のダイウルゴスが戦場を、そして空を埋め尽くした。数える余裕などありはしない。逆鱗に刻印された数字が、ただならぬ薄気味悪さで丈一をねめつけるだけだ。
──竜召喚は不可避、か。
止められはしまい。解っていた。
召喚という行為そのものを止めるのならば、相応の策や覚悟が要る。
それは言わば茨の道。難に難をふんだんに塗りたくったようなもの。
──ならば。
機を逸せず、丈一は握ったものを振りかぶる。
手に収めてあったのは、武器でもユーベルコードの一端でもない。
煙幕弾だ。竜が翼を広げて織り成す黒い幕の眼下へと、抜群のコントロールで投げつけた。途端に、大蛇のごとき煙がもうもうと立ち込める。キマイラフューチャー特有の彩り豊かなネオンも、システム・フラワーズの名に恥じぬ花咲き誇る戦場も、煙りの濃淡のみが充たしていく。
ドラゴンテイマーは眉根を寄せた。
刹那、竜の過剰なはばたきが突風と化し、地上のあらゆるものを綯い交ぜにする。まるで風の息のように煙幕を拡げ、ところによっては穴を開けた。
空いた風穴から竜の群れが急降下し、丈一へ襲いかかる。煙りに身を隠すつもりなど更々なかった丈一は、竜が起こした烈風で足元を掬われた。そして振られた尾に腹を強打され、煙幕ごと吹き飛ぶ。
積み重なる瓦礫に背から着地した丈一は、崩れて転がる瓦礫の音へ竜が群がらぬうちに、その場を離れた。直撃こそ受けたものの、彼の姿は再び煙幕のいずこかへ失せる。
──もう少し、確度を上げれば。
丈一が煙りの幕を展開したのは、身を隠さないどころか、同士討ちを狙ったものでもない。竜と竜の視認を阻害するのが目的だ。彼が最も阻もうと考えたのは、竜の合体。
対峙する相手が先手を打つ男だからこそ、丈一はその次へ目を向けていた。
──それでも、ダイウルゴスの一撃が重すぎる。
立ち直ってもまだ骨が軋み、胃腸が抉れたように痛む。尾ではたかれただけなのに、走るのは凄絶な激痛。
煙幕なき景色の下でまともに喰らい、もしくは群れに囲われ、あるいは死角から襲われでもしたら、ひとたまりもないだろう。今の一打で丈一はそれを察し、ゆるくかぶりを振った。
薄れつつある煙りの世界を仰げば、そこかしこから竜の咆哮が鳴り響く。幕に空いた風穴から覗き込むようにして、竜たちは恐らく丈一を探し回っていることだろう。仲間同士でぶつからないよう、距離も見計らって。
おかげで竜たちは合体もせず、一心不乱に翔ける。効率よく個々に探し、丈一へ食らいつくために。
煙りの内で丈一は口端をあげる。集団の敵を相手取るのは、丈一の得意分野だった。
これならば、と丈一は漸く、己に課せられた因果を逆転させる。凄まじい奔流はほんの一瞬。だが丈一を成す要素のすべてが、そこに集約される。
張った煙幕が竜を惑わせようと、ドラゴンテイマーは、男は戸惑わない。
丈一の狙う場所は、疾うに定まっていた。そして繰り出すのは妖刀による一閃だ。竜も竜使いも一網打尽にする一振り。
煙の幕も穴もまとめて裂いた刃は、身骨を砕いて巨竜を断ち、そして。
「おもしろい一手だ」
男の声が地に響く。
かれの姿は丈一からまだ遠く、声だけが明瞭に届く。
薄れた煙り越しに透けるのは、背負う翼がふたつ、欠けた姿。
けれど男は動揺せず、丈一の姿を──見た。
「おまえたちに興味が湧いた」
かれの面差しは未だぬるく、しかし確かな意識の矛先を覗かせた。
成功
🔵🔵🔴
トリテレイア・ゼロナイン
銀河皇帝を含め多くの強敵との作戦に参加してきましたが、その皇帝すら凌駕しかねない力を持っているようですね
ですが騎士として退くわけには参りません。刃を届かせ、後顧の憂いを絶たせていただきます
●防具改造で大盾を機械馬に取りつけ、遠隔●操縦で動かし、テイマーの斬撃から私を●盾受けで●かばわせます。召喚竜達は斬撃が命中した相手を襲うならば機械馬に群がるでしょうね
そこで●破壊工作で機械馬に仕込んだ自爆機能を発動。竜達を吹き飛ばします
その爆炎でテイマーを●目潰ししつつ、自分のセンサーで相手の位置を●見切りUCの隠し腕で●だまし討ち
足を掴んでワイヤを巻き取り●怪力で振るう剣で●串刺し、格納銃器で追撃します
●機士の徒
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は数多の気が渦巻く戦場に、悠然と立った。
ただ過去に接敵してきた強者の記録を読み起こし、知りうる情報を内側で比較する。
──かの銀河皇帝をも凌駕しかねない力。それを持っているようですね。
此度の大戦における戦略や効率といった要素は、トリテレイアの計算に含まれない。
目的は後顧の憂いを絶つ。それだけだ。
そうして静かに佇むトリテレイアを、ドラゴンテイマーも黙したまま見ていた。すでに翼が欠け、残る翼にも左肩にも穴が空いた男は、無事とは言えない姿だ。けれど男の顔に動揺も焦りも感じられず、トリテレイアはただ眼前の状況を己へ刻む。
そんなトリテレイアに並び立つのは、機械の白馬だ。逞しくもスマートな白馬は肌も艶やかで、行き届いた手入れを思わせる。常であれば身軽な外形であったが、今回ばかりは大盾を装着し、はたから見ても守りに特化した改造が為されていると判る。
白馬の嘶きが合図となり、戦況が動き出した。
花で溢れる戦場を、機械馬が駆ける。跨がるトリテレイアの姿は正しく、騎士そのもので。
疾駆するトリテレイアの一手を防ごうと、ドラゴンテイマーは地を蹴った。腕に秘めるものをトリテレイアは隠したまま、迫る男の速さに意識を向ける。速い、とトリテレイアが思う頃にはもう、男の影は互いのため息すら聞こえる距離にあった。
多くを語らずかれが紡ぐのは、赤き剣による一撃。翼や肩の負傷に不都合のない右腕で、強固な機械を貫く──トリテレイア本人ではなく、馬が身につけた盾を。
ほう、とドラゴンテイマーは彼の盤石な防御に唸る。鋭利な剣の赤で、貫通した盾を砕きながら。
ぱらぱらと落ちる盾の破片も、トリテレイアは気に留めない。男の刃から距離を置こうと、馬を走らせるだけだ。失せた大盾の守りによって、彼は丸裸にされた騎士として映った──男のまなこにも、例外なく。
だから男は黒竜の群れをけしかけた。刃が喰らった相手めがけて。
いかな駿足も、かれの右腕に蝕まれたが最後。ダイウルゴスの大群に啄まれ、跡形もなく果てる宿命にある。トリテレイアもまた、かれの毒牙によって頽れる。
そのはずだった。
だが、竜は騎士ではなく半壊した盾を備えた馬に群がりはじめる。肝心のトリテレイアは黒竜の波に呑まれる直前、白馬の背を蹴り脱していた。
ドラゴンテイマーが感づいた時にはすでに遅く。トリテレイアは躊躇なく自爆機能を作動し、竜も馬も境なく爆破し四散させた。
爆発により上がった炎は男の元へも届き、それに紛れてトリテレイアは格納してあった腕を放つ。風を切った腕で掴むのは、男の翼でも武器でもなく、足。そうでなくても、度重なる猟兵たちの手で鈍りつつあった男だ。しかと握り締めた腕のワイヤーを巻き取れば、情けなくも転倒し、引きずられる。
ここへきて初めて男は瞠目し、しかし狼狽もなく剣でワイヤーを切断した。とはいえ僅かに遅れ、騎士の繰り出す剣に片足を囚われる。腿を串刺しにすれば、さすがの男も呻かずにはいられない。トリテレイアは瞬く間に銃弾を叩き込むも、かれの剣捌きは侮れず、すべてを撃ち込むのは叶わなかった。
弾の衝撃に震えたトリテレイアの刃を押し上げ、片足の損傷も厭わず男は立った。不適さばかりが際立っていたかれの気配に、不和が生じる。
「護りの手は尽くしたようだが」
かれはトリテレイアへそう告げた。
駿馬なき騎士への一言はしかし、トリテレイアの意志を報せるきっかけにしかならない。
「騎士として、退くわけには参りません」
凛として答える彼に、ドラゴンテイマーは苦々しく口角を歪めた。
成功
🔵🔵🔴
アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎
見るからに強敵ですね。
私が今まで戦った相手の中で一番かもしれません。
私の氷の技がどこまで通用するか……。小細工は捨て、真っ向から勝負です。
相手の力と数、山津波の如く押し寄せる竜を押し返すには、私も同じ手段を取るしかなさそうですね。
『全力魔法』のホワイトブレスをホワイトホープで『属性魔法』強化し、『範囲攻撃』で全てを飲み込んで魅せましょう。
出し惜しみはしません。『捨て身の一撃』の『覚悟』です。
ただの『時間稼ぎ』でもいい。
ここを凌げば他の猟兵が討ってくれると信じていますから。
『激痛耐性』。痛みは私が止まる理由ではありません。
この絶望的な暗黒の中、少しでも光が燈せるのであれば本望です。
プリンセラ・プリンセス
表に出ている人格は姉のケイ。銃器に魅せられた自信家。
背広を着て、テイマーを800m先から睥睨する。
その手にあるのは軽機関銃。
もちろんテイマーも存在に気づいて攻撃してくるだろうが。
「射程は火力! 両手で抱えた300発がお前へのカウントさ!」
ダイウルゴスを召喚される先から「スナイパー」「鎧無視攻撃」「カウンター」「吹き飛ばし」「範囲攻撃」を乗せた残弾行進曲で撃ち落とす。
合体は行う瞬間を狙って弾を叩き込む。
数字の大きい合体をすれば軽機関銃を捨てて接近。
ギリギリまで「おびき寄せ」た後に「フェイント」ですり抜け2丁拳銃を抜いて再度残弾行進曲。
「右手の15発と左手の15発。それがおまえへの地獄の土産だ!」
●死線の先に
まるで山津波の如し一景だと、アリウム・ウォーグレイヴ(蒼氷の魔法騎士・f01429)は目を眇めた。
黒々と世界を塗り潰す竜の殺意は、遍く生命へ向けられる。幾度となく猟兵が阻んできたからだろうか。竜そのものが情を挟まずとも、使い手であるドラゴンテイマーの機微に乱れが生じている可能性は、充分にある。
──見るからに強敵ですね。
風貌や佇まいから滲み出るのは、穏やかながらも虎視眈々と狙うような、男の気質。読み取れはしない。見抜けもしない。平たく言うならば、何を考えているのかわからない相手だ。
ひとつひとつ、記憶を遡ってみてもアリウムが対峙してきたオブリビオンの中では、恐らく最上の強さ。
けれど、男は無傷ではなかった。
──私の氷の技が、どこまで通用するか……いえ、試す前から恐れてはいけませんね。
アリウムが望むのは、悔やみも迷いもなき、真っ向勝負。
どこへでもなく眼差しを投げるドラゴンテイマーは、アリウムにも関心をわずかながら示した。言葉は掛けぬままに。
カツン、と踵で固い足場を踏み、アリウムが掲げるのは黒竜と反する──白。青白く目映い精霊の加護を、ゆるりと糸を紡ぐように巻いて寄せる。招く精霊が力をもたらすより早く、ドラゴンテイマーが夥しい数の巨竜で戦場をのみこんだ。
アリウムは、はっと息をのむ。無数とも呼べる数の竜は、凍てついた光をも侵食するほど、どろりとした過去の闇に染まっていた。
しかし何故かそのうちの数十体は、どこかへ向け飛翔する。アリウムの与り知らぬ猟兵の元へ。
おかげで埋め尽くさんばかりだった黒き戦場の空に、疎らな穴が空く。残った竜の群れがアリウムを取り囲み、喰らう。純白の花びらから伸びた切っ先で一体をいなし、もう一体を斬るも敵の攻勢は緩まない。
牙に追い立てられ、尾で叩かれて、ふらりとよろめく。それでもアリウムは、踏ん張った。
堂々たる面差しで世を照らし、プリンセラ・プリンセス(Fly Baby Fly・f01272)はドラゴンテイマーから遥か遠くに、背広姿で佇んでいた。現在の彼女が映し出すのは、プリンセラに眠るもうひとつの人格、姉のケイだ。睥睨する様には、憂いも迷いもない。
キマイラフューチャーに吹き渡る風が、少女の柔い髪を、衣をなびかせる。携えた軽機関銃もまた、プリンセラの姿と同じく鋭い光を肌身に滑らせ、きらめく銃口が唸るときを今か今かと待ち望んでいた。
ユーベルコードの働きに感づいたのか否か、彼女の宣言が始まるよりも早く、巨竜の大群が押し寄せる。
どちらが真の空か判断つかぬほど、暗澹たる色──無数のダイウルゴスが生み出した光景だ。敵との距離がある分、大きく上回って先制されることはない。だが、それなのに滑空する竜の群れは勢いが止まずに。
「射程は火力!」
そう叫んだプリンセラの声量は、戦場をも揺るがすものとなった。竜たちの目が、自然と彼女を射抜く。
「両手で抱えた300発が、お前へのカウントさ!」
ジャキン、と機関銃が楽しげに鳴る。歌うように小気味よい調子を刻んで、銃撃が花開く。
大群を撃ち落とすため広範囲へと動きを拡げ、黒という黒を片端から撃つ。しかし弾一発で落ちるほど黒竜は弱くない。翼を射抜き、身に穴をつくっても尚、群れはプリンセラの居場所まで飛翔し、そして。狙い定めれば脇目も振らず、群れが急降下する。
まだまだ、とありったけの弾を撃ち込む彼女の猛攻は留まるところを知らない。
突撃を試みる竜は額や目を撃たれ、はばたきによる烈風でプリンセラも弾も吹き飛ばそうとすれば、風に乗った弾の軌道が竜の感覚を狂わせる。
襲来する巨竜はこうして、銃弾の雨の餌食と化す。呼び出された竜の数が減ってしまえば、ドラゴンテイマーへ攻撃もしかけやすくなる。
──ここからだと、いくらなんでも距離があるから……。
黒き竜と異なり、強敵たる男そのものを討つには。
おびき出すことが叶えば良かったが、己の目的を主としてシステム・フラワーズの中枢近くで待機していたドラゴンテイマーだ。わざわざ遠く離れた猟兵を討ち取りには来ないだろう。
だからプリンセラは、召喚された大型の竜の殲滅に専念する。賑やかさに惹かれた竜のすべてが、仲間を襲うのを諦め、プリンセラ自身を追ってきてくれれば良いのだが。
すると突然、天高く飛んでいた巨竜ダイウルゴスの群れが、逆鱗の示す数値を重ねるべく、融合した。プリンセラの目の前で。
ふふ、と鼻先で笑いプリンセラは機関銃を置き去りにする。
「そういうことなら……カウントダウン開始だ!」
能力の膨れ上がった巨竜へと、少女は美麗な二丁拳銃でたたき落とそうとする。限界まで近寄ってさえくれれば、拳銃の弾も間違いなく当たるだろう。代わりに、敵の強撃も喰らいやすい。
だがプリンセラは構わない。誘導した個体を間近から射抜けば、詰め寄った別の竜がふわりと後背へ急降下し、プリンセラの背広を爪で引き裂く。休まず攻められると厳しく、少女は軽機関銃で防御も兼ねた。じんわりと、苦痛が滲んでいく。
「右手の15発と、左手の15発……」
バレットカウントマーチの宣言も、もちろん忘れない。
大空を映したかのような青い双眸で、敵を見据えて。
「それがおまえへの、地獄の土産だ!」
凄まじい音と衝撃を轟かせて、彼は残弾が尽きるまで竜の群れを倒しつづけた。
●その男
激痛がアリウムの皮膚下を迸る。骨が軋み、臓が絞られたかのような苦悶。
使い手の呼んだ竜から放たれた一撃だけで、こんなにも強烈とは。まともに受けて立っていられる猟兵は、果たしてどれぐらいいるだろう。
「ですが……っ」
好機と見たアリウムは、より集めた白き希望の灯を、今度は極低温魔力の波涛へ纏わせようとした。
「……私が止まる理由では、ありません」
アリウムの言の葉にか、あるいは気概にか、ドラゴンテイマーはくつくつと喉の奥で笑った。かと思えば、アリウムの一手に先んじて、再び大型のダイウルゴスを喚ぶ。戦いのため現れた竜の大群には、極寒の空気も、視界が溶けてしまう白も、恐れる気配がない。不安や懸念といった感情など、かれらには備わっていないのだろう。そう考え、アリウムは睫毛を震わせる。
直後にアリウムが生み出したのは、システム・フラワーズ周辺の気温にかかわらぬ、白く息がくゆるような寒さ。蒼く透けた氷を、希望の灯にそっと抱かせれば威力が増す。
──いえ、出し惜しみはしません。
躊躇わぬアリウムから放たれた魔力は、尋常ならざる氷の吐息。迫っていた数体の竜を瞬く間に凍死させるも、合間を縫って突撃してきた別の竜に体当たりされ、帯びていた魔力が儚く崩されてしまう。
竜の群れに次ぐ大群の召喚──残敵があまりに多い。
不意に男が唇を震わす。
「やはり、お前たちを気にかけていて正解だったようだ」
意味深長に綴るかれの声音は、やはり揶揄を含んでいて。けれど続きは知らされない。
華やかな色彩がきらきらと走る、この世界独特の建物を背に──アリウムは再び呼気に似た氷を撒く。青白く舞台を染め上げたそれは、冬の湖面を想起させる美しさを湛える。飛行の手段を選ばずにいた竜の命へ、一瞬で終焉をもたらした。しかし。
「時間が迫っている」
翼の欠けた男、ドラゴンテイマーは猟兵たちの生きた戦場を、いつのまにか見下ろす高さにいた。負傷のためかどことなく動作はぎこちないものの、かれの面差しに曇りはない。
とっさに声を張り上げようとしたアリウムだが、痛みと不快感に苛まれる。脳天を激しく揺さぶられるのに似た、めまい。拡がる視界に浮く男の輪郭さえも、霞んで遠ざかっていった。
白む景色が、ほのかに優しい。
──少しでも、光を……燈せたなら。
そう願った青年の意識は、そこでぷつりと途絶える。
骸の海へ帰す過去はなく、死線を越えた先で猟兵たちは遥かな強さの一端を見た。
それでも猟兵たちは戦いによって、間違いなく男へ植え付けたであろう。
猟兵という存在が。過去を守り、未来へ歩み、今を生きる猟兵の力が。
──オブリビオンにとって、いかに脅威であるのかを。
苦戦
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