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バトルオブフラワーズ⑬~ちょうてんさい行進曲

#キマイラフューチャー #戦争 #バトルオブフラワーズ #オブリビオン・フォーミュラ #ドン・フリーダム

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#ドン・フリーダム


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●自由への飛翔
 拓かれた道の果てに、彼女はいた。
 大理石から掘り出された石像のような、狂いのない美しさを有した白皙の四肢を惜しげもなく晒した女の姿。彼女こそが、システム・フラワーズを占領していたこの世界のオブリビオン・フォーミュラ『ドン・フリーダム』だ。
「惑星に住む次世代人類の皆様、そして猟兵の皆様、はじめましてですわ」
 惑星全域へ向けて、その声は届けられる。
 すべてのメンテナンス・ルートを攻略された今、如何なるオブリビオン・フォーミュラであっても後はない。そのはずだった。けれど、どうだろう。優雅ささえ感じられるほどのその声色には焦りなど欠けらもない。
 逆さまの笑みを貼り付けた彼女はそうして、高らかな演説を立て板に水のように続けて──自由を掲げて、嗤った。
「我慢しなくていいのですよ。欲望は止めなくていいのです」
 そう。我慢など、この世では無用の長物。
 ただ、ただひたすらに欲望のままに──オール・フォー・フリーダム。
 自由こそが、この世のすべてなのだから。

●自由に挑む者たち
「とうとう、このときが来たみたいだね」
 数多の戦場を制し駒を進めた猟兵たちは、ついに迎えた最終決戦を前にグリモアベースに集っていた。斯く言うクリス・ホワイト(妖精の運び手・f01880)もまた、そのひとりである。
 クリスは心配を潜めたいつもと変わらぬ笑みで猟兵を迎え、予見を伝えるべくさっそくと話しはじめる。
「敵はオブリビオン・フォーミュラ。この戦いの要となる、ドン・フリーダムだよ。この戦場にいるのはどうやら彼女ひとりのようだけれど、それでも今までのどの敵よりも強大な力を手にしていると思っていいだろうね」
 必要となるのは、どう戦うか──どう動くか、という対策だ。
 猟兵よりも遥か上手であるドン・フリーダムは、まず間違いなく先手を取ってくる。その先制攻撃を如何に防ぎ、そして反撃へ繋げるかがこの戦いの鍵となる。
 仲間と連携を取るのも良いだろうし、持つ力すべてを発揮して挑むのも良いだろう。決して簡単なことではないけれど、しかしここまで戦場を越えてきた猟兵なら、きっとやりようもあるはずだ。
「……厳しい戦いに、なると思う。けれど君なら大丈夫だと、僕は信じているよ」
 共に行くことは叶わない。それでも猟兵の背を少しでも押せるように祈りを込めて、クリスは激励を送る。そうして祈りの先に手を翳したなら、やがて線を描くようにして現れたグリモアの輝きに目を細めながら、猟兵を次なる戦場へと送り出す。
「──いってらっしゃい、親愛なる君」
 聞こえるか、聞こえないか。そんな小さな言葉は光と溶けて、花びらの舞う戦場に続く道は拓かれた。


atten
お目に留めていただきありがとうございます。
すべりこみました。
特殊なシナリオになりますため、以下ご留意ください。

▼ご案内
普段よりも判定が厳しいシナリオとなります。
ドン・フリーダムは必ず先制攻撃を仕掛けてきますため、どう対策を取るかなど思うままにお書きください。
よろしくお願いします。

====================
 敵は必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
 加えて、ドン・フリーダムは使用する能力値別に違う対処が必要です。これらに対抗する方法をプレイングに書かず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、必ず先制攻撃で撃破され、ダメージを与えることもできません。

POW:絶対無敵バリアを展開します。エモいものを見せれば無効化できます(エモいの基準はラビットバニーと同じ)。
SPD:風で足場を崩してきます。
WIZ:猟兵のユーベルコードの弱点を見抜き、確実に反撃するマシンを作り出してきます。 その反撃マシンに反撃する方法を考えなければいけません。

 これらの能力はそれぞれ「ラビットバニー」「ウインドゼファー」「エイプモンキー」と同じですが、ドン・フリーダムは彼ら以上の実力者です。
====================
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第1章 ボス戦 『ドン・フリーダム』

POW   :    赤べこキャノン
【絶対無敵バリア展開後、赤べこキャノン】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    レボリューション・ストーム
【花の足場をバラバラにする暴風】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    マニアックマシン
対象のユーベルコードに対し【敵の死角から反撃するマシン】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。

イラスト:由依あきら

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

オリオ・イェラキ
まぁ。随分寒そうね?
上等なドレスが似合いそうですのに

始めましょう
わたくしは星夜
貴女が観る、最期の夜

使用UCはWIZ
影より出る蔓薔薇が動きを封じる技
相殺ならば影を消す光を出すのでしょうね
確かに貴女の影は消えましたわ。でも光と影は表裏一体
どんな輝きにも影は存在し、消す事は不可能
例えば貴女の周り、そして戦場に降る沢山の花弁
綺麗ね。そう
花弁の数だけ影もある
降り落ち重なる花弁の間や
なんならわたくしの影からだって
僅かな影から生え伸びる夜の蔓薔薇が貴女を捕らえますわ

光が眩しくても、貴女に絡む夜薔薇は良く見えますの
わたくしの贈り物気に入って頂けたかしら
黒薔薇で飾る貴女も綺麗よ
ではさようならと大剣で仕留めますわ



●開花前線
 薄桃色に染まる花びらが、風に乗って舞っている。
 ふわり、ふわりと。風に流れるまま溢れる花びらに触れて、逆さまの笑みを貼り付けたその女──ドン・フリーダムはひとりきりで立っていた。
 この場所、システム・フラワーズと名付けられたこの世界の中枢部への道が拓かれたということは、既に幹部たちは骸の海へと再び沈んでいったということに違いない。続々と送り込まれてくる猟兵たちは、きっと立ちはだかるすべてを打ち倒して進んで来たのだろう。それでも。
「不本意ながらドラゴンテイマーの手を借りてはいますが、修理はもうすぐ終わります。できれば完成を楽しみにお待ちいただきたいのですけど、いかがでございますか?」
 ドン・フリーダムが立ち止まることは、きっとないだろう。自由こそがこの世のすべてであると言い切った彼女の信念は、もはや曲がることもなければ交わることもない。
 花びらの大地を踏みしめてやって来た猟兵を振り返り、ドン・フリーダムは穏やかな声色で問いかけた。

「──いいえ、」
 その問いかけに頭を振ることで応えたのは、オリオ・イェラキ(緋鷹の星夜・f00428)だった。
 宵闇を溶かし込んだような静かな眼差しで前を見据えたオリオは、その身によく似た星空を切り取ったような大剣を強く握りしめたまま、言葉を紡ぐ。
「始めましょう。わたくしは星夜......貴女が観る、最期の夜」
 ドン・フリーダムが先制を取ることは、あらかじめ分かっていた。粟立つ肌身に感じる威圧感は、紛れもなく彼女が幹部以上の実力者であることを示している。何より、どれだけ穏やかな声色で、お淑やかな仕草でその身を彩ったとしても、『超天災』と自ら名乗るその根底の苛烈さは消せはしない。
 瞬く速さで距離を詰めたドン・フリーダムを牽制するように、オリオの周辺を埋めた影から真夜中を彩る蔓薔薇が急速に伸びていく。それは今にも彼女の無防備な四肢を絡め取らんとしれいたけれど──、
「まあ、可愛らしい薔薇。でもそれだけでは、わたくしには届かないですわ」
 ドン・フリーダムの手によって、オリオの死角から放たれたマニアックマシンが、光を放つ。蔓薔薇が影であるなら、より強い光で影を吹き飛ばしてしまえば良いというのは、きっと簡単なロジカルだったのだろう。
 けれど。その論理を成り立たせるためには、その光は少しばかり強すぎた。
 そして何より、ドン・フリーダムが相殺という手に出てくることをオリオは知っていた。
「......確かに貴女の影は消えましたわ」
 でも、光と影は表裏一体。
 どんな輝きにも影は存在し、消すことは不可能。その輝きが強ければ強いほどに、影もまた色濃くその痕を残す。だからこそ、影咲く夜薔薇が枯れることはない。
 やがてオリオが紡ぐ言葉に合わせるように、強い光を浴びた影は濃くなっていく。影を這う蔓薔薇は、まだ生きている。そうして。
「な、んですの......ッ!?」
「例えば貴方の周り、例えば戦場に降るたくさんの花びら──なんなら、私の影からだって。僅かな影さえあれば、生え伸びる夜の蔓薔薇が貴女を捕らえますわ」
 ずるり、と。
 マシンに恐れることなく一歩踏み出したオリオの影や、宙を舞う花びらの影から生え伸びた蔓薔薇が、今度こそドン・フリーダムの四肢を絡め取って捕らえていく。
 相殺し切れていないことに気付いたドン・フリーダムが動揺を見せるが時は既に遅く、そして距離を詰めたオリオは手にしていた星空を切り取ったような美しい大剣を振り上げて、静かに微笑んだ。
「光が眩しくても、貴女に絡む夜薔薇は良く見えますの」
 ──わたくしの贈り物は、気に入って頂けたかしら?
 その問いかけに応える声はなかった。だらりと四肢が弛緩しているようにも見えたが、次の瞬間には瞬いた隙を突いたドン・フリーダムが夜薔薇を振り払い飛び退いていく。どうやら、先の一撃では仕留めるまでには至らなかったようだ。
 けれど、例え大剣で仕留めることはできなくても。その一撃は確かな布石となり、また後に続く猟兵たちへの道標となるだろう。それはまさしく、夜空に輝く明星のように。

成功 🔵​🔵​🔴​

虚・楓
自由、自由か。であれば俺がこうして戦いを挑むのもまた自由、じゃのう?

【POW】
以前らびっとばにーとは戦ったが同じことが相手に通用するとは思えん。
故に別の方向性で「えもさ」を出すように努力しよう。
具体的には……相手の撃ち出してくるきゃのんの砲弾を「斬る」。(見切り、武器受け)
「どーが」とやらでは日本刀がどこまでの物を斬れるか等を検証したりするそうじゃしのう。俺もそういうノリに乗っかろうではないか、持っているのは包丁じゃがな。

そうやって相手の攻撃をいなしながら接近し、バリアが解けていればそのまま攻撃(二回攻撃・鎧無視攻撃・属性攻撃(雷))。まだ解けてないなら今度は砲弾に乗って飛び回ってみるかのう!



「自由、自由か」
 オール・フォー・フリーダム。自由こそがこの世のすべてと信じた女の言葉に虚・楓(霊魂料理人・f14143)は大らかな笑みを崩すことなくゆっくりと相槌を打つ。
 自由の名を冠する彼女の強さは、対峙した瞬間から感じていた。ここに至るまでの道で打ち倒してきたラビットバニーも強敵だったが、彼女──ドン・フリーダムは更に手強い相手となるだろう。それでも。
「であれば......俺がこうして戦いを挑むのもまた自由、じゃのう?」
 どれだけ相手が強くても、背を向けることはしない。退くこともしない。変わらぬ笑みに、確かな覚悟を灯して楓は手にしていた『朝霧』と『夜露』をドン・フリーダムへと差し向ける。
 料理人である楓に相応しく、どちらも刀のような鍔こそ付いているがその本質は包丁だ。断ち切ることに優れた包丁たちは、ひとつはさ迷う魂葬送するため、またひとつは悪魂を断つためにその身を貸して楓の力となるだろう。
 切っ先を向けられたドン・フリーダムはその覚悟の眼差しさえ受けて、楓を迎え撃とうと両腕を広げる。
「良い目をしていますわね。.....ええ、ええ、それもまた自由ですわ。なればこそ、わたくしも受けて立つとしましょう!」
 広げられた白皙の腕に呼応するように、薄づきのバリアが展開されていく。絶対無敵バリアと呼ばれたその技は、楓が打ち倒してきたラビットバニーが使用していたものとおよそ違いはないだろう。ただひとつ違うとすればそれは、楓が見たものよりももっと強力であるということだ。
 そのせいだろうか。バリアの展開後に現れた赤べこもまた、見知った赤べこよりもどこか凶悪な様相をしているように見える。操る腕が楓を指し示したなら──開かれた口から、強大なキャノン砲が放たれた。
「お前さんがそう来ることは、知っておったぞ」
 それは、束の間のこと。
 壱の型・無形斬刻。その太刀筋で放たれた一瞬を瞬きもせずに捉えた楓は、キャノン砲を正面から受けてしまうその一手前に、滑らかな動作で砲弾を斬る。それは見事なまでに、真っ二つに。
 彼がそうしたことには、理由がある。絶対無敵バリアを解除するためには、ラビットバニーのときと同様に『エモさ』 を演出する必要があった。しかし、同じようにスイーツを作るだけでは通用するとも思えない。そうして彼が考えた末に選んだエモさ、それこそがこの魅せる技だったのだ。
 受けるでもなく、避けるでもなく。匠の技を以てして迫り来る凶弾を退けた楓の姿に、目を見開いたドン・フリーダムはわなわなと震える唇を開く。
「そ、それは......サムラーイ! クール・オリエンタル!?」
 ただ斬るというだけの行為が、これほどに美しいとは。
 その洗礼された動作は、一種の芸術といっても良いのだろう。彼が持っているのは本質的には刀ではなく彼自慢の包丁だったにも関わらず、その太刀筋は侍のように美しい。そのうえで、その見事な切れ味によって作り出された動画映え間違いなしの一瞬を視界に収めたドン・フリーダムは、興奮したように僅かに声を張り上げる。
「トラディショナルカルチャー......! エモエモのエモですわ......!」
 それは、ドン・フリーダムがエモさを噛み締めた瞬間でもあった。
 ぱりん、とガラスの割れるような鋭い音を立てて、やがて彼女の築いた絶対無敵のバリアが崩れていく。そして。
「──勘違いしてもらっては困るのう。俺はただの、料理人じゃて」
 崩れるバリアの隙間を縫うように一瞬で距離を詰め、楓は苦笑いを零しながらも続けてもう一太刀。『朝霧』と『夜露』による変化をつけた斬撃をドン・フリーダムに浴びせることに、楓は成功したのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

宇冠・由
お母様(f00173)と参加

親子の協力プレイで世界を救ってみせますわ

地獄の炎を盾のように多重展開
赤べこキャノンの勢いを完全に殺すことはできませんが、直撃回避するだけの時間稼ぎにはなります

仮面を割って真の姿に
その姿はお母様と同じドラゴニアンの様
(この姿、お母様にお見せしたくありませんでしたが、お母様が傷付くより余程良いです)
並び立ち、ドン・フリーダムと相対します

不定形の身体でないため傷も負いますし肉体再生もありません、けれどそれを捨ててでも上回る膨大な攻撃力
地獄の炎を幾重の津波のように操り、私とお母様の姿を視界から消しつつ反撃

私は敵側面から炎を速射連打し、敵の目を引きつけつつ防御を手薄にします


宇冠・龍
由(f01211)と参加

呪詛を周囲に展開、何重にも張り巡らせ、魔術的な不可視の結界として作用、由の炎と合わせて赤べこキャノンの威力を減衰、直撃を回避します

まるで姿の変わった娘の姿に一瞬だけ驚きますが、すぐに視線をドン・フリーダムに戻し、娘と共に並び立ちます

多くは語りませんし追及もしません
その行動が誰かのためを想ったものと分かります
親は子を信じるだけ。だからこそこうして共にいるのですから

由が炎で敵の目を引き付けている間、私は不可視の霊を別方向から向かわせ攻撃
相手が回避し動き回っても、戦場には先に展開した呪詛の結界網。触れればダメージは負いませんが怨嗟の声で動きは阻害される筈
親子の連携で仕留めます



 傷を負おうとも、ドン・フリーダムは変わらず花の大地に立っていた。彼女が幹部以上に手強く、強大な敵であるということはあらかじめ分かっていたことだったが、どうやらその身の無防備さに反してとてつもなく強靭な身体を持っているらしい。だがその事実にも怯むことはない。
「私たちも参りましょう、お母様!」
「そうね、共に戦いましょう」
 再び展開された絶対無敵のバリア、そして口を開いた赤べこキャノン砲を前に地獄の炎を盾のように多重展開していく宇冠・由(宙に浮く焔盾・f01211)は、世界を救ってみせるという決意を胸にその足で立っていた。
 そしてそれは、隣立つ宇冠・龍(過去に生きる未亡人・f00173)もまた同様に。吐き出された呪詛を幾重にも張り巡らした龍は、由と共に赤べこキャノン砲へと立ち向かおうと試みていた。
 もちろん、どれだけの壁を作っても絶対無敵バリアには及ばない。赤べこキャノン砲を完全に相殺することができるとは、由と龍も思っていなかった。けれど威力を減衰させ、直撃を回避するだけの時間稼ぎにはなる。けれど。
「親子揃っての涙ぐましい努力ですわ! けれど、いつまでその盾は持ちますかしら?」
 そう、防戦一方では勝機がない。
 ドン・フリーダムの言葉通り、絶え間なく放たれる赤べこキャノン砲の威力に押され、じわじわと戦線は下がっていくのが分かる。それは変えようのない事実だ。しかし、そこで終わる猟兵でもない。
「......分かっていますの、これはただの時間稼ぎ。本領発揮はここからですのよ!」
 ぶわりと、声高に叫んだ由が身に纏う赤き炎が猛る。
 ──お見せしましょう。
 炎に巻き上げられた花嵐に掻き消えるほどの小さな声が笑う。躊躇なく自身のマスクを割った由はそして、地獄の炎で象ったドラゴンイアンにも似た姿へと変貌した。その姿こそが、由の真の姿である。
 それは隣立つ龍、由がお母様と呼び慕う彼女にもよく似た姿だった。
 本当はこの姿を、龍に見せたくはなかった。それでも、彼女が傷つくよりはずっと良い。由は見せたくはなかった姿を見せてでもただ世界を、そして何よりお母様を守りたいという気持ち一心でドン・フリーダムと対峙する。
「由、あなた......!」
 目の前で変貌していく娘の姿に、龍もまた小さく息を呑む。けれど、龍がそれ以上言葉を紡ぐことはなかった。それは、由のその行動が誰かのためを想ったものとすぐに分かったからだった。だから多くを語らなければ、深く追求することもしない。
 親は子を信じるだけ。だからこそ、こうして共にいるのだから。
 そして。
 目を交わさずとも通じあった親子が並び立ち、強敵へと挑む光景を目にしたドン・フリーダムが、思わずと口を開く。
「何ですのそれエッッッッモ!!!!!」
 それは心からの叫びだったのだろう。
 ドン・フリーダムの受けた衝撃を表すかのように、絶対無敵バリアは盛大な音を立てて崩れていく。そしてドン・フリーダムもあまりのエモさに膝から崩れ落ちていく。それは紛れもなく2人の手によって生まれた僅かな隙だった。
「お母様、今ですわ!」
「ええ、──死海に還りし息吹達、視界を寡黙に泳がれよ」
 瞬く間。由のその言葉を合図として、地獄の炎が幾重にも連ねた津波のようにドン・フリーダムの視界を遮り、同時に不可視の霊を死角から向かわせた龍の一撃が容赦なくドン・フリーダムの四肢へと喰らい付く。そしてそのまま、身動きの取れないドン・フリーダムを地獄の炎が呑み込んでいく。
 それはまさしく、親と子成した連携技である。それゆえか、例え地獄の炎に灼かれて呑み込まれていこうとも、ドン・フリーダムはその親子という関係性が彩るエモさから最後まで目を離すことはなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヘンリエッタ・モリアーティ
超天才?――私のほうが上だ、取り消せ。その肩書き
さて、では如何にこちらの方が天才かということを証明せねば
愚か者め、自由は束縛がなければ成立しない。ナンセンスだ

白猫の彼曰く先制をするのだったか
いいよ、お互いに頭脳戦と行こう。ドン・フリーダム
プロフェッサーだ。どうぞよろしく
【沈黙の羊】で相殺合戦と行こう
私が放つ弾を確実に消してくるのだろう――私も確実に殺すときは死角を狙うよう指示する
ワトソン、私の死角から現れる機械どもから私を護れ
おい、私だって防戦一方じゃないぞ。なあ、「モラン」
小さな竜に一瞬でも思考を阻害されれば、こちらの手数が少し上回る
――計算途中に目を離すなよ、大天才。『超天才』はこの私だ



「超天才?」
 聞き咎めたのは、その一言だった。
 ちょうてんさい。かつてシステム・フラワーズを作り上げたちょうてんさいであると、そう名乗り上げた目の前に立つその女こそがドン・フリーダムだ。それもただの天才ではない。物凄くかしこいと物凄く迷惑のダブルミーニングでありハイブリットであるちょうてんさいであると言うドン・フリーダムを前に、ヘンリエッタ・モリアーティ(獣の夢・f07026)は不愉快げに眉を顰める。
「──私の方が上だ、取り消せ」
 その肩書きは己の方が正しいと、敵を前に言ってのけたヘンリエッタに、ドン・フリーダムはころころと鈴を転がすような声音で愉快げな笑みを漏らす。
「あら、豪胆な方ですのね? 良いですわ、そういう方もわたくしは嫌いではありませんの」
 けれど、それは言葉だけでは是も非も問えないことだ。貼り付けられた逆さまの笑みを不気味に光らせたドン・フリーダムは変わらない穏やかさを湛えながら、ヘンリエッタを受け入れるように白皙の腕を開いて、ひとつの提案を打ち出す。
  ──それでは、どちらがより超天才に相応しいか。戦って示すと致しましょう?
 向かい立つは猟兵とオブリビオン。であれば、その道はいずれにしても交わることはないのだから戦うしかない。
「我慢しなくてよいのです。欲望を止める必要はないのです。オール・フォー・フリーダム……だってすべては、自由なんですもの」
「愚か者め、自由は束縛がなければ成立しない」
 彼女の語る言葉はあまりにもナンセンスだ。しかしそれも、この会話にこれ以上の実りはないだろう。鼻を鳴らしたヘンリエッタは、気を取り直すように『レジスター』を手に静かに構える。どの道戦うしかないのであれば、ドン・フリーダムの提案に乗るしかないというものだ。
「さて、では如何にこちらの方が天才かということを証明せねば──、」

 初撃を仕掛けたのは、ドン・フリーダムだ。しかし、それはあらかじめ分かっていたことでもある。先制を取り距離を詰めたドン・フリーダムに焦ることなく銃弾を放ち牽制したヘンリエッタは、死角から更なる反撃をしてくるマニアックマシンに唇を釣り上げる。
 何故ならそれも、分かっていたこと。
 動じることないヘンリエッタの足元から瞬く間に現れた『ワトソン』が、死角を守るようにマニアックマシンの凶弾を弾いていく。その間も、沈黙の羊とマニアックマシンによる相殺合戦は続いていた。
「埒があかないですわね」
 ドン・フリーダムは小さく息を吐く。互いに相殺し合うということは、互いに防戦一方ということだ。それではどちらの体力が先に尽きるかという泥仕合になってしまう。
 鬱陶しげにマニアックマシンを操るドン・フリーダムに、ヘンリエッタは静かに唇を釣りあげた。
「おい、私だって防戦一方じゃないぞ」
  ──なあ、『モラン』。
 その呼び掛けに応えたのは、黒い鱗に金の瞳、飛竜にしては這うような変わった動きを見せるヘンリエッタの頼もしい武器だった。普段は黒い豪奢な槍として使うことも多いが、今日ばかりはその必要はない。
 ただ、一瞬。空を駈けた黒い小さな竜にドン・フリーダムの意識が逸れる瞬間。それが相殺し合う戦場の均衡が、崩れた瞬間だった。
「──計算途中に目を離すなよ、大天才」
 崩れた均衡。手数が上回るその瞬間を待っていたというように、瞬く間に眼前に迫る脅威。
 それに気付いた時には、既に時遅く。
「超天才はこの私だ」
 一撃は素早く、それでいて重く。ドン・フリーダムを撃ち貫いたその凶弾こそが、ヘンリエッタの証明となるだろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルカ・アンビエント
ザハール(f14896)と

天才を語る存在はああなりがちなんですかね。
まぁ、貴女の好き勝手にされるわけにはいかないので

ザハールが攻撃を誘う分、
霊符を構え少しでも、互いの斜線をズラせれば
直撃は避け、後は痛みに耐え立ってみせる

は、その台詞、そのままあんたに返しますよザハール
俺のいる戦場で倒れたら救急箱投げるんじゃすまないんで
立っててください? と小さく笑い

ーーもう失えないだけの話だ。
傷つくなら、その分俺に守らせろというだけのこと
死なせはしない、何があっても

生憎、あんたに殺される気はないんですよ
目の前にあるものだけが全てと思わないことです

戦場の亡霊を発動。
我らが同胞。容易く躱せるとは思わぬことです


ザハール・ルゥナー
ルカ(f14895)と

自由を絵に描いたような女だな。
欲望ゆえの力……私にはよくわからないが。
今を生きるものが止めてくれというのだから、止めよう。

愉快な外見に似合わず、恐ろしい火力だ。
私にできるのは相手の攻撃を誘い、見切り、耐えるだけ。
射線を見て、直撃を喰らわぬよう。
見切った軌道はルカにも告げる。

ルカへ無理はするなよと、と冗談交じりにいい。
血塗れになろうとルカの前で無様は見せられぬ。
傷はともかく……絶対に死なぬと誓っているからな。

怒られるのは構わないが。
泣かれると、困るからな。

どれほど我が身が損傷しようが、構うものか。
不敵に笑い。
記憶の残滓――この戦場には私達だけではない。
過去と共に還るがいい。



●バトル・オブ・フラワーズ
 どれだけ傷を負っても、どれだけ挫折を味わおうと、ドン・フリーダムが倒れることだけはなかった。それほどに彼女が強力であるのか、はたまた自由を掲げた信念の強さがあってこそのものか。薄桃色に色付く花びらもまた、散れども散れども数を減らすことはなく彼女の周りを彩っている。それは一重に、このシステム・フラワーズが依然として彼女の制御下にあるという目に見えた事実に他ならない。
「自由を絵に描いたような女だな......」
「天才を語る存在はああなりがちなんですかね」
 驚きと、それからほんの少しの呆れを混じえた溜め息をひとつ零して。対峙するにはあまりにも強烈なドン・フリーダムの出で立ちに思わずとルカ・アンビエント(マグノリア・f14895)とザハール・ルゥナー(赫月・f14896)は顔を見合わせる。
 しかしその溜め息よりも、ドン・フリーダムが反応して見せたのは天才の一言だった。
「ただの天才ではありませんの。わたくしは『ちょうてんさい』。そこのところお間違えにならないでほしいですわ!」
 物凄くかしこいと、物凄く迷惑なちょうてんさい。例え自分よりも上手の存在が現れようとその在り方はブレることなく、またただの天才とは一線を駕したものであると胸を張ったドン・フリーダムに、緑色の猫目を瞬かせたルカは気を取り直すように『白鴎』へと手を伸ばした。
「まぁ、貴女の好き勝手にされるわけにはいかないので」
 超天才であろうとも、超天災であろうとも。目の前に立つドン・フリーダムが猟兵にとって倒さなくてはならない相手であるということには変わりない。そう言って強い呪力や真言の籠められた巫術の証を手にしたルカに、ザハールもまた大きく頷いた。
「欲望ゆえの力……私にはよくわからないが。今を生きるものが止めてくれというのだから、止めよう」
 ザハールが手にするのは、『シャウラ』と呼ばれた刃の厚い投擲ナイフだ。退魔士の霊符と、肉裂くナイフの切っ先。紛れもない闘気を向けられたドン・フリーダムは隠すことなく嘆息する。
「猟兵の皆様にはぜひ大人しくお待ちいただきたかったのですけれど──貴方様たちも、その気はないようですわね」
 それならば、仕方ないと。口にするが否や、ルカとザハールへ向かって赤べこキャノン砲が襲いかかる。同じ技を使っていたラビットバニーよりも凶悪な様相の赤べこが口を開いたなら、次にそこから放たれるのは強力な砲弾だ。
 だが、それ故に彼女が命中力よりも威力を重視していることが見て取れた。その軌道を見切ったザハールは直撃を避けるようにルカにも告げて、絶え間なく撃ち出される凶弾のさなかで鋭い紫の瞳をルカへ向ける。
「無理するなよ、ルカ」
 それは冗談交じりの、けれど本気の言葉だった。その紫の瞳に秘められた思いを見て取ってか、唇を釣り上げたルカは霊符を構えザハールに応える。
「は、その台詞、そのままあんたに返しますよザハール!」
 自分のいる戦場で倒れたなら、それこそ救急箱を投げるだけじゃ済まさない。立っててください、と小さく笑みを向ければ、当然だと言うように力強くザハールは頷いて見せる。
 例え血濡れになろうとも彼の前だけでは無様は見せれない。それは彼にある矜恃というよりも、絶対に死なないという誓いあってのことなのだろう。
「まぁ、お熱いのね。けれど、いつまでも避けてばかりではつまらないですわよ?」
 もっと、もっと熱くなってみせていただかないと。
 貼り付けられた逆さまの笑みがそう言って不気味に光る。この様なら数撃てば当たるとやり方を切り替えたのか、ドン・フリーダムが次に撃った赤べこキャノン砲は威力よりも確実に当てることを重視しているようだった。ルカとザハールの位置を鋭く捉えた一撃の軌道は避けるには足りず、絶対無敵バリアを破るまでの間にやがて2人は少しずつ、しかし確実に疲弊していく。このままでは、勝ち目がない。
「ぐッ......」
 視界が、赤く染っていく。薄桃色の世界が遠のき、花の大地はぐらぐらと揺れて今にも崩れそうだ。けれど、諦めることはしない。
 どれだけ傷付いても痛みに耐えて立ち続けたその身体は、きっととっくに限界を超えていただろう。しかしそれでもその膝を折らないのは、ルカにとっては至ってシンプルな理由。
 なぜならそれは──もう、失えないだけの話だ。
「生憎、あんたに殺される気はないんですよ......ッ」
 それが意地でも、矜恃でも、なんでもいい。
 傷付くなら、その分自分に守らせろというだけのこと。
 見開かれた緑色の瞳に輝くのは、何があってもザハールを死なせないという強い意思だった。けれど、その想いを抱えて立つのはルカだけではない。
「怒られるのは構わないが......泣かれると、困るからな」
 傷付くことは怖くない。自らの損傷も厭わない。ただ、それ以上に泣かせたくなかった。
 それゆえに。
 不敵な笑みを浮かべ、体勢を立て直したザハールもまた、ドン・フリーダムを強い眼差しで見据える。そして。
「──この戦場には私達だけではない」
 そこに伺えるのは確かな信頼と、諦めない心の強さ。
 血に濡れても立ち続ける男たちの姿にぞわりと、ドン・フリーダムの白い腕が粟立つ。
 その間にも。ずるり、ずるりと彼らの記憶の残滓から戦場の亡霊たちが生まれていく。
 それは決して多くない数だ。絶対無敵バリアがある限り、ドン・フリーダムには脅威にならないはずだった。
 けれど。
 ドン・フリーダムは粟立つ肌を、震える唇を、胸打つ心を隠せなかった。
 そうして強い緑の輝きと、紫の鋭い視線を身に受けたドン・フリーダムは──、
「なんですの、なんですの!? 確かにもっと熱くなってとは思いましたけど! オブリビオンに向かってなんですのそのエモさ!!!」
 精神の限界を迎えたのだろうか。
 呻くように頭を抱えたドン・フリーダムの声に呼応するように、がらがらと絶対無敵のバリアは音を立てて崩れていく。
 そして、エモさに打ち震える姿に隙を見た戦場の亡霊たちが待ってくれるはずもなく。
「我らが同胞。容易く躱せるとは思わぬことです」
「──過去と共に散るがいい」
 押し寄せた歴戦の屈強な亡霊たちによって、身を守る術を失ったドン・フリーダムの一撃を与えることに成功したルカとザハールは、限界を迎えた身体を互いに支え合い送還されていく。
 仕留めるには至らずとも、既にドン・フリーダムの精神が限界を迎えた以上は体力の限界も近いだろう。絶対無敵バリアも粉々に砕かれ、もはや再現することは難しい。彼らの必死の一撃によって築かれた損傷は激しく──バトルオブフラワーズ、猟兵がそう名付けたこの戦いの終わりは近いだろう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アルバ・アルフライラ
やれ、巫山戯た格好をした奴だ
欲望は人を成長させるが
…理性まで無くしてはただの獣ぞ?

――来い、ジャバウォック
暴風で崩れる足場より逃れ、高速で【夢より這い出し混沌】を召喚
竜に乗り空中戦を仕掛ける
聞き耳で風音を
視力で障害物の動きを観察
第六感、見切りで障害物の回避を試みる
避けきれぬ際は高速詠唱でそれ等を撃ち落とす
我が身が多少砕けても構わぬが
墜ちる事態は避けねばなるまい
となれば守りのオーラは欠かせんな

避けきれぬ嵐が起きた時は…
魔力に耐え切れず我が身に罅が入ろうと全力魔法で風穴を開けてやる
…ふふん、無論貴様も例外ではない
叶う限り広範に魔術を行使
それこそドン・フリーダムにも及ぶよう
渾身の魔術を披露してくれる



「どうしてですの?」
 道に迷った迷子のような、幼げなこどものような。そんな頼りない声音が零れ落ちる。それは純粋な疑問だった。
 分からない。分からない。どうしても分からなかった。
 何故なら彼女──ドン・フリーダムは己の掲げた自由を信じていた。だからこそ、この行いは正しいもののはずだった。
 我慢などこの世には必要ない。欲望のままに生きればいい。自由こそがこの世界のすべて。そのために、不完全なこの世界のシステムを完全なものにしようとした。これは支配ではなく、破壊でもなく、正しい修理のはずだ。それなのに。
 ふらつく脚に鞭を打つように毅然と立ち、ドン・フリーダムは向かい立つ猟兵を見る。
 真っ直ぐな眼差し、諦めない心、倒れない背中──嗚呼、これではまるで。
 自分が間違っているようではないか。

「分からないのか?」
 吹き荒ぶ花嵐の向こう側で、陽に透く黎明のような髪をなびかせて小首を傾げる。アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は呆れを含んだ溜め息を零して、ドン・フリーダムに答えた。
「欲望は人を成長させるが……理性まで無くしてはただの獣ぞ?」
「……それの何がいけませんの? 人とて獣。人とは獣。理性など初めから必要のなかったものですわ」
 きっとそれは相容れない問答だった。平行線はどこまで行っても交わることはない。だからこそ、オブリビオンと猟兵は戦うことでしか相見えない。
 精神が限界を迎えようと、身体が疲弊していようとも、最後まで戦うことを選んだドン・フリーダムを中心として、やがて暴風が吹き荒れはじめる。
 絶対無敵バリアは既に粉々に砕けていた。相手の技を相殺できるほどの精神力も残ってはいない。それでもまだ、この風があれば戦える。理性まで無くしてはただの獣だとするなら、傷を負ったドン・フリーダムは今まさに手負いの獣に他ならない。
 そうしてぶわりと吹き上がる嵐のような暴風はたちまちに花びらを巻き込み空を駆け、アルバを呑み込もうと襲い掛かる。
 しかし、先制を取られるということも、足場を狙ってくるということさえもアルバにはあらかじめ分かっていたことだ。
「──来い、ジャバウォック」
 崩れていく花の大地から逃れるように、自身を影で覆うほど大きな名状し難き黒の翼竜を召喚したアルバは瞬く間に空へと上昇していく。
「空へ逃げても無駄ですわ。風が届く限り、その竜ごと墜として差しあげましょうッ!」
「……ならば、その前に貴様に風穴を開けてやろう」
 空まで逃れても、その風からは逃れられない。であれば、迎え撃つしかないだろう。暴風に揺れる不安定な視界の一方で、その星を秘した瞳に不安が過ぎることはなかった。吹き荒れる風を撃ち落とすように魔法を放ちながら、アルバとジャバウォックは空中を旋回する。
 自身が多少砕ける程度なら、それで構わない。けれど堕ちる事態だけは避けねばならない。その身を形作るスターサファイアはダイアモンドにも次ぐ硬度を誇るが、それでもこの嵐のような暴風に堕とされ大地に叩き付けられれば無事では済まないだろう。
 ごうごうと耳元で唸るような暴風は、なかなかどうして捉えどころがない。アルバは風の音を聞きながら、すべてを撃ち落とし続けることはできないと考えるが早く、次の嵐が吹き荒ぶまでの僅かな間で叶う限りの広範に及ぶ魔術を行使するために魔力を編んでいく。
  ──ピキリ、と。
 風の音に紛れて聞こえるのは、その身がひび割れていくが故の無機質な悲鳴だ。魔力を集めれば集めるほどに、音に連なりその罅もまた少しずつ拡がっていく。それでも。
「ふふん、」
 ひび割れた頬を無理やりに押し上げて、アルバは唇を釣り上げた。
 渾身の魔術を披露するのだ。多少この身が崩れようとも、構うことはない。いま此処にはいない従者にこそ叱られるかもしれないが、身体は再び繋ぎ直せばい良い。
 そうして、編み上げた魔法の炎が幾重にも重なり、膨らみ──吹き荒ぶ風を受けてより広がりながら、堕ちていく。
 無論、ドン・フリーダムもただただその炎を受け入れることはない。花の大地をバラバラに崩すほどの高威力を誇る暴風で跳ね除けようと、ドン・フリーダムも負けじと出力を上げて空から降り注ぐ炎へと挑む。
「わたくしは、間違ってなどいません……ッ!」
「貴様が間違っている等と言うつもりはない。だが──貴様がその道を信じたように、我々もまた別の道を信じた、」
  ──それだけの話だ。
 その言葉が、最期だったのだろう。空から降り注ぐ炎はあまりにも重く、暴風はやがて広範に伸びた魔術に呑まれていく。
 そして限界を迎えたドン・フリーダムの体もまた、花の大地に崩れ落ちる。膝を着いた彼女から剥がれ落ちた逆さまの笑みを刻む仮面は、無残にも真っ二つに割れていた。けれど、流れる艶やかな髪が帳を作りその表情が伺えることはない。
「それでも、わたくしは──わたくしは、ただ、」
 呟くような、その言葉。しかしその先を紡ぐことは、叶わなかった。
 アルバが騎乗しているジャバウォックの背から見下ろした花の大地で、瞬く間に炎に呑まれ塵となって消えたドン・フリーダムの体は風に混じり遠くへ、骸の海へと流れていく。
 拓かれたその道に、もう誰も立ってはいない。彼女の支配下にあったシステム・フラワーズは、おそらく少しずつではあるが元の形へと戻っていくことだろう。キマイラフューチャーを騒がせていた怪人の幹部たちを含め、彼女もまた再びの海へ還ったのだ。
 こうして1ヶ月にも渡るバトルオブフラワーズ──キマイラフューチャーの戦いに終止符は打たれたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年05月29日


挿絵イラスト