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バトルオブフラワーズ⑬〜天の祭

#キマイラフューチャー #戦争 #バトルオブフラワーズ #オブリビオン・フォーミュラ #ドン・フリーダム

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 コンコンコンすれば望みが叶う。
 欲望のままに願望のままに。
 求める全てが手に入る世界。

 それすなわち、理想にして完全なる絶対世界。
 想像力のままに創造力のままに。
 思うすべてが叶う世界。

「理想的で絶対的ですのに、どうしてこうも逆らうですの? わけわっかんねですわ」
 骸の海より這い出、現れた女は。
 超天才であり。超天災。
 天が二物を与えた、生きた災厄そのもの。

「まぁいいですわ。それもまた欲望。受け止めて、受け入れて、その上で―――」
 女は、嗤う。

「呑み込んであげましょ」

 ●

「ついに最終決戦だ!」
 ミコトメモリ・メイクメモリア(メメントメモリ・f00040)は、集った猟兵たちに、手短にそう告げた。

「敵はドン・フリーダム! 超天才にして超天災……自分でダブルミーニングであるところを語っちゃうあたり、相当自信があるんだろうね!? けど、正真正銘、バトルオブフラワーズ、最後にして最強の敵だ」
 放っておけば、ドン・フリーダムはシステム・フラワーズの【修理】を続けるだろう。それは、この世界の破滅を意味する。

「エイプモンキー、ラビットバニー、ウィンドゼファー……全員の能力を、彼女は持ってる。すなわち【絶対無敵バリア】【ユーベルコード対策マシン創造】【風の力】だ。自分がどう戦うかに応じて対応を変えてくる。気をつけてほしい――対策なしで挑んだら、瞬殺されるだろう。どころか……たとえ対策が万全でも、勝てるかどうかわからない、そういう相手だ」
 圧倒的な力を有する。
 まさに天才。まさに天災。

「何より……この戦いで勝利できても、また彼女は別の所から蘇る……だけど例によって、無限じゃあない。特に今回は、三幹部をそりゃあもう倒してる! 長期戦にはならないはずさ。だから――――」
 一息。

「この戦いは、間違いなく世界を救う戦いだ。超天才だろうが超天災だろうが、君たちに叶うものはいないと、証明してくれ猟兵!」


甘党
 甘党です。最終決戦です。よろしくおねがいします。
 対応する能力値とプレイングのルールを間違えないように!
 敵は強大、絶体絶命、まさにドン・フリーダム!

 ――処理能力の都合上、採用人数はそんなに多くはならないと思いますが、その分濃いものをお届けできればと思います。
 判定はごりっごりに厳し目ですので、ミコトメモリの言う通り【万全で完全な対策】をとっても、なお敗北するかもしれません。
 
 けれど、戦わなくては生き残れないのが世の常というもの。
 さぁ、世界を救おうぜイェーガー!

====================
 敵は必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
 加えて、ドン・フリーダムは使用する能力値別に違う対処が必要です。これらに対抗する方法をプレイングに書かず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、必ず先制攻撃で撃破され、ダメージを与えることもできません。

POW:絶対無敵バリアを展開します。エモいものを見せれば無効化できます(エモいの基準はラビットバニーと同じ)。
SPD:風で足場を崩してきます。
WIZ:猟兵のユーベルコードの弱点を見抜き、確実に反撃するマシンを作り出してきます。 その反撃マシンに反撃する方法を考えなければいけません。

 これらの能力はそれぞれ「ラビットバニー」「ウインドゼファー」「エイプモンキー」と同じですが、ドン・フリーダムは彼ら以上の実力者です。
====================
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第1章 ボス戦 『ドン・フリーダム』

POW   :    赤べこキャノン
【絶対無敵バリア展開後、赤べこキャノン】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    レボリューション・ストーム
【花の足場をバラバラにする暴風】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    マニアックマシン
対象のユーベルコードに対し【敵の死角から反撃するマシン】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。

イラスト:由依あきら

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「さてさて、なんだかわたくし結構やられてるみたいですわよ」
 花の足場に降り立ったドン・フリーダムは、迫る猟兵の気配を感じながら、一人虚空にそう告げた。

「しゃーない、ちと増やしておこですわ」
 雑に、足元の花をつま先で叩く。それはコンコンコン、というよりもザクザクザク、という音を立てた。
 が。
 次の瞬間。

「あーあ、そういう事すんですの?」
「さーすがあたくし、発想が違いますわ」
  、、、、、、、
 花の海の中から。
  、、、、、、、、、、、、、、、、
 二人のドン・フリーダムが出現した。

 オブリビオン・フォーミュラーに限らず、力あるオブリビオンは同時に複数体出現することはない。
 しかしながら、ここに居る合計三人のドン・フリーダムは紛れもなく本物だ。
 偽物でもない。
 複製でもない。
 存在を分割しているので、それぞれの出力が1/3とか、そういうこともない。

「じゃ、未来のわたくしはあっちを頼みますわ」
「じゃ、過去のわたくしは向こうに行きましょ」
「それじゃ、現在のわたくしがそっちということで」
 それでも、そんな理屈など関係なく。
 身勝手に、自由に、天災は動き出す。

 ――――これは、既に決着した戦いの、まだ記されていなかった戦いの記録。
        リプレイ
 即ち、天の祭の“再演”である。
セプテンバー・トリル
言いたい事は色々ありますが…顔より先に隠す所があるでしょう?!

【ユンボルギーニ】に搭乗した状態で会敵しますわ。
先制攻撃は【ガイドロッド】で召喚した【ナックルダンパー】で防御。
そして、そのままUCで【重機神ナガツキ】に合体変形です。
でも今回は通常と違い、ユンボルギーニとナックルダンパー2体と合体します!
両腕に剛拳を!最速なる無双を!超・重機神ナガツキYd(ユンボルダンパー)ここに降臨!

合体維持に必要な魔力は【華萌の宝石】から補填しつつ、【ダッシュ】【怪力】【グラップル】で格闘戦へと持ち込みます。
トドメは【吹き飛ばし】攻撃!くらいなさい!

ふにゃあぁ…また魔力切れですわぁ(気絶)



☆+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+☆
   重機の神は炎に焼けて
☆+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+☆

「はいどーーーーーーーーーーん」
 躊躇なく、容赦なく、虚空より出現した砲塔より放たれた赤べこキャノンの一撃が、見事爆発し、花の足場が燃えて舞う。

「で。人影見えたから叩き込んでみたけど、どんなもんですの?」
 死んでませんわよねえ、とドン・フリーダムが首をかしげると、爆炎の向こうから、堅牢な重機がキュラキュラと無限軌道で花の大地を踏みしめながら現れた。
 これこそ両腕型マルチビークル【ユンボルギーニ】! そして――――。

「いっきなりぶっ放してくるんじゃありませんわよ!」
 デカすぎる黄金の縦ロールを、四つ纏めてバサッと揺らすその登場者こそ、セプテンバー・トリル(ゼネコンのお姫様・f16535)その人である。

「あらやだ、語尾がかぶってやがりますわこいつ」
「こっちの台詞ですわ! それと! 他にもまだまだ言いたい事は色々ありますが……顔より先に隠す所があるでしょう!?」
「隠す所? ――――あぁ! そうですわね! ついうっかり」
 顔を覆う、笑みを浮かべた仮面以外一糸纏わぬドン・フリーダムは、ぽんと手を叩いて天を仰いだ。
 しゃがんで、花の地面をコンコンコン、と叩くと、ド派手な虹色の靴下(ショートタイプ)が出現し、いそいそと履き終えてふうと息を漏らす。

「やっぱり裸足はちょっとお行儀が悪かったですわねえ」
「そうじゃないですわーーーーーー! この私をツッコミに回らせるとは……さすがドン・フリーダム!」
「そりゃあわたくしがツッコミを入れるなんてありませんわよねえ、わたくしの想像を凌駕するものなんて滅多にございませんし?」
 それにしても、と仮面の向こう側から。

「わたくしの初撃を凌いだ方法には興味がありますわ」
 ドン・フリーダムの意識が、改めてセプテンバー及び、ユンボルギーニに向いた。
 その瞬間。

「っ」
 安全鉄壁であるはずのユンボルギーニの中に居ながら、セプテンバーは背筋に冷や汗が伝うのを感じた。
 ふざけた会話の最中、意識を向けられただけで。
 全身の細胞が、一瞬で戦闘態勢に入った。


「その車? にしちゃ腕が生えてますわね、なんですのそれ。それが硬かったってことですの? ふうん?」
「さぁ、どうですかしら」
 言いながら、わずかに舌打ちをする。
 並の超高圧超高温を物ともしない、無双運搬車両【ナックルダンパー】が――赤べこキャノンの一撃を受けて、溶けて砕けて捨て置かれたことなど、ドン・フリーダムは知る良しもない。
 防御の為の最強の切り札を、いきなり失っているということは……最も、防がなければその時点でやられていた。

 何より――。

(合体、出来ませんわ――!)
 本来なら、そのままナックルダンパーとユンボルギーニが合体して、【重機神ナガツキ】になるはずだった。
 絶対的防御力と豪腕を持つ合体重機のパワーによる近接戦であれば、如何にドン・フリーダムといえど渡り合えるはずだった。
 ナックルダンパーからの信号は、無い。

「――で、そこからわたくしをどうするつもりですの? あぁ、ちなみに絶対無敵バリア、絶賛展開中ですけども」
 ちょっとエモには足りませんわねえ、と告げて。
 手のひらで、小さく空間を撫でる。花がばさっと舞って、再び、赤べこの砲塔が姿を現した。

「二発目、かましますわよ?」
 ドン、と他愛ない、本当に面白みのない発砲音。
 その弾は、ユンボルギーニに、当然の様に直撃する軌道だった。
 対戦車砲のようなものだ。堅牢・強固が自慢の重機故に、回避などできようもなかった。

 直撃、轟音、爆炎。

 火は花へと燃え移り、爆風は更に花弁を高く舞い上げる。

「あーあ、つっまんね、ですわ」
 メカメカしい重機がでてきた時は、ちょっと期待したものだったのだが。
 せめて次はもっと面白みのある相手であってくれと思いながら、ドン・フリーダムは興味を失い、背を向けた。

 ●

 体が動かない。全身が熱い。
 ユンボルギーニの中で、セプテンバーの意識は、無と有の境をさまよっていた。

(……何も出来ずに、終わってしまいますの……?)
 無力。
 敵は強大、オブリビオン・フォーミュラーだ。
 この結末は当然だ、わかっていたではないか。
 敵はあまりに絶対で、勝ち目など薄いということを。
 あるいは……立ち向かった事自体が、間違いだったのだ。

(……いいえ)
 それだけは。
 それだけはない。
 誰かが戦わなくてはいけないのだ。
 誰かが立ち向かわなくてはいけないのだ。
 怖くとも辛くとも厳しくとも。

(――――何をしていますの、セプテンバー・トリル)
(――――何をしていますの、ユンボルギーニ)
(――――何をしていますの、ナックルダンパー)
 折れかけた腕を振り上げて、力強くキーを掴む。
 エンジン再始動。
 超出力ディーゼルエンジンの唸りは、まだ止まっていない。
 止まっていないのであれば――重機は、動くものだ。

「動きなさい、我が下僕達――――!」
 ……胸元で強い光を放ち始めた、花竜より生まれし宝石を、彼女は認識していただろうか。
 意思に呼応するように、叫びに反応するように。
 重機を、システム・フラワーズが形成する花弁が包み込む。

「…………シンクロ・ユニオン――――!」

 ●

 ボッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!

 あまりに品のない、あまりに激しい爆音が、空間を揺らした。

「なんですのなんですの?」
 さすがのドン・フリーダムも振り向いた。赤べこキャノンが焼き尽くした敵の残骸が、そこにあるはずだった。
 いいや。
 揺らめく赤の向こう側に、蹲った人型の、一つのシルエットがあった。
 それは、静かに動き出し――立ち上がる。

『 シンクロ・ユニオン! Code:ナガツキ! with――ナックルダンパー! 』

「おおう!?」
 炎の中より姿を表したのは、巨人であった。
 お世辞にも、立派なものではなかった。
 半壊した重機を核に完成した人型の両腕は、半ば溶けて使い物にならないダンプカーのそれ。
 それでも、両眼は確かに力強く光った。

「あれは――――」
『聞きなさいな! ドン・フリーダム!』
 昨今のゼネコンを支える力はなにか!
 それこそ人の叡智が生み出した最強の力!
 何万人もの力を凌駕し、産業を支える文明の根幹!

『私の名前はセプテンバー・トリル! 貴女に立ち向かうものですわ!』
 それがユンボル!
 それが重機!
 それがパワー!

『両腕に剛拳を!』
 故に!

『最速なる無双を!』
 たとえ壊れていようとも!

『重機神ナガツキ――――否!』
 たとえ動かなくとも!

『超・重機神ナガツキYd(ユンボルダンパー)! ここに降臨!』
 引くわけには――――行かないのだ!
 重機が止まれば、工事は進まないのだから!

「エッモ――――はっ!」
 その名乗り上げと、新たな重機神の覚醒に。
 つい見惚れてしまったがゆえに、最強のバリアは解け消えた。
 その隙を見逃すはずがない。最初で最後のチャンス。

 ツインナックルスタンピード
『双 重 剛 拳 突 撃 ォオオオオオオオオオオオオオ!!!』
 半壊の両腕を、それでも力強く前に突き出し。
 超・重機神ナガツキYdは与えられた魔力を全て振り絞って、突貫した。

「――――うふふあはははは! 前言撤回しーまーすーわー!」
 対するドン・フリーダムは。
 楽しそうに両手を広げ、新たな赤べこキャノンを生み出した。

「つっまんなくねーですわ! 最高ですわ!」
 放たれた弾とナガツキが激突したのは、ドン・フリーダムの眼前、僅かニメートル。

「さあ、もっともっと、あなた方の欲望を見せやがれでーすーわー!!」」

苦戦 🔵​🔴​🔴​

尾崎・ナオ
前衛さんが居るなら連携を取りたいところ~。
アドリブ・連携、歓迎!

【SPD】

●防御(回避)
足場の位置を【第六感30】で察知し距離を取って暴風は回避しよう。
UC【煽りは任せろ】を使って、回避。
自画自賛する事で、寿命を削りつつ一時的にスピードと反応速度を爆発的に増大させる。
「ナオちゃん、超可愛い!戦場の花とはまさにナオちゃんの事ね!」

●対処
UC継続で反応速度を上げたまま、敵攻撃の吹き飛ばしを利用して距離を取る。
回避後、即座に反撃開始!

●攻撃
UC【クイックドロウ】と、技能【クイックドロウ118】の合わせ技。
1秒間に何発撃てるかにゃー?
弾薬、いや、拳銃そのものを複数持ってるナオちゃんの手数は凄いぞぅ?


フェルト・フィルファーデン
欲望のままに願望のままに……ふふっ、ええ。それはとっても素晴らしい世界ね!……でもね?それは所詮、用意された紛い物だわ。

敵は強大。それなら、アナタの力を利用しましょう。
最初の攻撃は第六感、野生の勘で緊急回避。多少の痛みは激痛耐性で耐えるわね。
そして先制攻撃でUCを使用。弱点は、炎だから水には弱いところ。特に高圧の水流は効果的でしょうね。……そこを狙うわ。
炎の壁を周囲に幾重にも展開し突撃よ。あえて死角の一部分を薄くして、わたしごと貫かせるためにね。
相手は完璧なマシン。当然最効率の攻撃を狙ってくる。その射線上にアナタがいてもね!

上に立つ者としても、大切な友達のためにも、負けるわけにはいかないのよ。



☆+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+☆
     風は炎と疾く燃ゆるか
☆+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+☆

 結論から述べると、フェルト・フィルファーデン(某国の糸遣い・f01031)の目論見は失敗に終わった。
 即ち、敵の初撃は避けるか、受けて耐えるという方針。

「いや、そりゃ駄目ですわよあなた。わたくしを誰だと思ってますの?」
 地に落ちたフェアリーの少女を、ドン・フリーダムは仮面の向こうからでもわかる――退屈をもって見下ろしていた。
 フェルトがとった対策――――勘に任せて避ける、というのは、言い換えるなら行き当たりばったりの無策と何ら変わらない。
 、、、  、、、、、、
 危ない、と思った時点で、もう遅い攻撃には抗えないのだ。
 即ち。

「か、ふ――――」
 意識が飛びかけ、身体は末端から痺れ、思考が定まらず、自由に動けない。
 生み出していた無数の、彼女を守る盾となり、敵を焼くはずだった防壁(ファイヤーウォール)の姿はどこにもない。

「苦しいですわね? 辛いですわね? あー、ほんっとイキモノってかっわいそ、ですわ」
 ドン・フリーダムの傍らにぷかぷか浮かぶ、蓮の葉のような形をした、機械仕掛けの植物がグルグル回る。
 それは、戦闘区域に存在していた酸素を根こそぎ奪い尽くしたのだった――要するに。

 炎の壁を消すならば。
 元の燃料供給を断てば良い、ということだ。

 火のない所に煙は立たないし。
 酸素のない所に火は燃えない。

 つまり――フェルトを襲っている症状は、空気そのものを奪われたことによる、純粋たる“酸欠”なのだった。

「まー、あなたもよく頑張りましたわ。そんじゃおやす――――おっと」
 小さな体を踏み潰してやろうと、脚を振り上げたその瞬間。
 ドン・フリーダムは何かに気づいたように指を鳴らす。

「ぅわっとぉーう!?」
 少し離れた場所から、そんな突拍子もない声が聞こえた。

 ●

 来るぞ来るぞと思っていたが、まさかこんなに規模がでかいとは。
 尾崎・ナオ(ウザイは褒め言葉・f14041)の荷重を受け止めていた花の足場は、もはや跡形もない。
 空から降ってきた暴風の塊に跡形もなく吹き飛ばされてしまった――――勘任せでなんとかしようとしていたなら、ひとたまりもなかっただろう。

「さぁーっすがナオちゃん! こういう攻撃もすぱっと避けられちゃうんだからーぁ!」
 しかし、ナオという女はどこまでも自己評価が高かった。
 いや、正しい言い方をするならば――――“高すぎる自己評価に身体と結果がついてくる”というべきか。

「ナオちゃん、超可愛い! 戦場の花とはまさにナオちゃんの事ね! ほぉらもうご到着!」
 二つ目の暴風は、もう彼女の速度に追いつけなかった。
 ドン・フリーダムの姿と、まさに踏みにじられそうになっているフェアリーを視認するのがほぼ同時。

「げ、なぁにそれぇ、オブリビオン・フォーミュラー様ともあろうものが子供相手にだっさい真似してんねー!」
「はぁーん?」
 煽りの言葉はもはや呼吸と同じ様に流れ出るし、ドン・フリーダムという女は安い挑発に乗ってしまう主義だった。

「べっつにマジになっちゃったりなんてしてませんわけどー??」
「あぁそっかごっめーん! マジにやってるのは若作りかぁ。ごめんねナオちゃんまだピチピチの二十一歳だからおばさんの肌問題にはアドバイス出来ないんだー」
「こんのクソガキ!!!!!!!!!!!!!」
 どうやら、最低でも二十一歳以上ではあるようだ。
 あるいは単純にノリがいいだけなのかも知れない、キマイラフューチャー全域に晒されたドン・フリーダムの裸身は、年齢を感じさせない美しさではあることだし。

「じゃあ若さに任せて走り回ってればいいですわ、いずれ足場もなくなって惑星中心までサヨナラ・グッバイですし」
「その前にナオちゃんがアンタを倒すって選択肢もあるけどにゃー!」
 ばっと手を広げ、獲物が空を舞う。黒の拳銃が並ぶこと四つ。

「それどうやって撃ちますのん?」
「こうやって!」
 一つ手にとってトリガーを引く――次の瞬間にはもう手放して放り投げ、隣の銃を手にして撃っている。
 銃のジャグリングだ。さながら機関銃の如く、一定の距離を保ったまま、弾幕が途切れることなく続く。

「あらあら器用でございますことねえ!」
 ドン・フリーダムは楽しそうに笑いながら、指を弾く。
 暴風が吹き荒れ、弾丸を反らし、あるいは押し返す。

「大道芸は好みですわよー!」
「ナオちゃんの早撃ちを大道芸っていうんじゃねー!」
 状況は拮抗する……一瞬だけ。
 ボン、ボン、ボン、と風が荒れ狂う音が響く。
 風が吹き荒れる度、花の足場は消滅していく。
 いずれ、ナオが立てる場所がなくなるだろう。

 ●

 ……一つ、ドン・フリーダムが失念していたことがあるとすれば。
 自身がそれを必要としないが故に、気を使わなかったとも言える。

「すぅ、はぁ」
  、、、、、、、、、、、
 風というのは空気の流れだ。
 それを武器にしなければならない為――既にマニアックマシンの動きは止まっていた。

「―――――ん」
 ギリっと奥歯を噛んで。
 フェルト・フィルファーデン(某国の糸遣い・f01031)は静かに身を起こした。
 気分は最悪だ。具合も悪い。吐き気がするし頭がズキズキする。
 目が焼けるように痛いし、内蔵がぐるぐる渦巻いている感覚が止まらない。
 それでも。

「やって……くれるじゃない……」
 不覚をとった。地に這いずった。
 それは決して、彼女が戦うことを諦める理由にはならない。

 妖精は、幻想と現実の境界を生きるモノだと、とある世界では語られる。
 だから、というわけでもないだろうが。
 彼女には、現実と電子の世界の境界を、超える力がある。

    F i r e w a l l - p r o t e c t i o n
《電子の炎よ、壁となりて我らを守り給え》

 花の足場を焼きながら、何十本もの炎の壁が直立した。

 ●

「!?」
 ドン・フリーダムからすれば、まさに青天の霹靂。
 消したはずの炎が再び燃え盛り、終わったはずのフェアリーが再び空を舞っている。

「はぁん、想像力を超えてきましたわねえ!」
 ならばもう一度――と想ったところで。

「あ、やべですわ」
 真空状態にしてしまうと、風が操作できない。
 風が操作できないと、ナオを攻撃を防げないし、足場を破壊できない。
 じゃあ、と操作した風の一部を炎の壁に叩き込んだ。
 炎はより一層、強く燃え上がった。そりゃそうだ。燃料供給しているようなものだ、さっきやったのとぴったり逆だ。

「んぇぇぇえ、めんっどくせぇえええですわ!」
 天才にして天災は、この時、安易な結論に頼った。
 炎には水。
 展開した赤べこキャノン水砲verから放たれた、超高圧水流のビームが、炎の壁に突き刺さる。

「その程度でっ!」
 水が火を消すのは、結局の所、酸素の流れを断ち切るからに他ならない。
 だから、大量の火勢を“一瞬で”消すのに、それだけじゃたりない。
 未だ燃え盛る炎の壁を従えて、フェルトは突き進む。

「欲望のままに願望のままに……ふふっ、ええ。それはとっても素晴らしい世界ね」
 欲望が叶う世界は、きっと満たされるのだろう。
 願望が叶う世界は、きっと素晴らしいのだろう。
 けれどそれは、認めていいものではない。

「……でもね? それは所詮、用意された紛い物だわ」
 自分の力で掴んでこそ。
 尊いものを手にしてこそ。
 それに価値が生まれるのだ。

「仲間を失ったのに、へらへら笑ってるようなやつに、私は――――」
 水圧の塊が、炎の壁を突き抜けて、フェルトの真横を通り過ぎた。
 まだだ、まだ止まらない。
 まだ行ける。

「大切な友達のためにも、負けるわけにはいかないのよ!」
「いいじゃんいいじゃんやってんじゃんフェアリーちゃん! よそ見してんなよ天才ちゃーん!」
 そして、フェルトに気を取られたことで。
 ナオの弾幕が、遂にドン・フリーダムを捉えた。

 ●

「はははははは!」
 そして、高らかに、天災は笑う。

「はーっはっはっはっはっは! おっもしれーですわ!」
 この場にあるものは?
 風、水、火、弾丸。
 面白い、実に面白い。

「だったら全部、混ぜちゃいましょ!」
「は!?」
 風の流れが変わった。花弁を巻き上げ、水流をまといながら、炎の壁に向かって吹き荒れる。
 その瞬間、ドン・フリーダムはまさしく無防備だった。ナオの放つ弾幕が、一斉に突き刺さり身体に穴を開けていく。
 それでも、ドン・フリーダムは、笑う。

「こいつ、何するつもり――――あ」
 燃料を供給された炎は更に勢いを増し。
 触れた側から、水を蒸発させた。
 どんどんどんどんと。

「あなた方、すんばらしーですわ。大変楽しかった。わたくしが驚くことなんて滅多にありませんので」
 ――――パチン、と指を弾いた。

「ですが驚きっぱなしこそちょうてんさいの恥さらし! 今度は――――わたくしが驚かせて差し上げましょう!」
 自らが巻き込まれることを一切厭わず。
 ドン・フリーダムを中心に、ナオもフェルトも飲み込んで、大量の水蒸気が引き起こす大爆発が辺り一面を蹂躙した。

 ●

「…………ふぇーい、ありがとうフェアリーちゃん」
「こっちこそ。あなたが来てくれなかったら、一矢報いることも出来なかったわ」
 爆発によって花の足場が消失し、遂に落下したナオを掴んで受け止めたフェルトは、そのままひらひらと、システムフラワーズを進む。
 戦闘区域から離れれば、花はまた密集している。ぽすんと降り立って、二人合わせて、顔を見合わせた。

「……あいつ、逃げたのかしら」
「さあねー、でもばんばん打ち込んでやったからナオちゃんの勝ち」
 へへ、と楽しそうに笑って、それから、フェルトの小さな頭に、人差し指を乗せた。

「後は他の皆に任せようぜいー、無傷じゃないさ、あっちもこっちもね」
「……ええ、悔しいけど」
 目論見通りにはいかないものだ。
 けれど、次の糧にはなる。
 とりあえず、今は少し休もう、気分はまだ、断然悪いままだ。
 花の足場に体を委ね、目を閉じた妖精の姿は、絵になるぐらいによく似合っていた。
 側でそれを見る女は、楽しそうに笑って、自分もぼすんと、花に身を委ねた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

天御鏡・百々

【SPD】

暴風による足場の崩壊に対し
念動力10での足場の操作、もしくは我自身を念動力で浮かばせることで対処する
それでは不足というならば、神通力(武器)で発生させたオーラ防御53による障壁を足場にすることで対処だな
暴風自体も、可能であればオーラ防御で被害を軽減しよう

そして、『鏡の中より出づる者』を使用するぞ
ドン・フリーダムを我が本体に映し、ドン・フリーダムの鏡像体を鏡の中より呼び出そう

貴殿がいくら強くとも、自分相手では楽に勝てることはあるまい
鏡像体を挑みかからせるのに合わせ
我も真朱神楽(武器:薙刀)で防御の隙間を狙ってなぎ払ってやろう
(なぎ払い21、鎧無視攻撃5)

●神鏡のヤドリガミ
●連携歓迎


雪華・グレイシア

でかっ

こほん、さてここが正念場ってヤツだ
……盗み甲斐というか盗む物がないというかその格好は流石に目のやり場じゃなかった
とにかく!
怪盗らしく、勝利を頂かせてもらうよ

まずはあの厄介な風から
自身を中心とした無差別攻撃、それなら精度は離れれば多少は低くなるはず
まずは【ダッシュ】と【逃げ足】で可能な限り距離を取るよ
崩れた足場は【ワイヤーガン】を使って【ロープワーク】と【ジャンプ】で移動
できるなら崩れた瓦礫を引っ張ってきて風の盾にするよ

風を乗り切ったらこっちの番
【歌唱】で呼び出した冬将軍による氷嵐!
今ならキミが崩した足場を凍らせて、特大の礫にしてオマケしてあげよう
こういうのも【地形の利用】ってヤツさ



☆+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+☆
      予告と、鏡と、氷と、自由と
☆+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+☆

 空を切りながら飛んできた紙片を、ドン・フリーダムは指二本でビシッとキャッチ。

「はぁん?」
 青いフレームに薔薇の模様が刻まれた、葉書サイズのそれには、手書きのインクでこう記されている。

『この世界の未来を、今宵、君から頂きに参上する』
 その予告状と同時に――――花の足場の上に、一人の怪盗が現れた。
 シルクハットにタキシード、目線を隠すマスカレイド。
 即ち、怪盗。

「怪盗らしく」
 マントを広げながら、帽子の鍔を目深にかぶって。

「勝利を頂かせてもらうよ」
「――――――エモっ!」
 言葉と同時、飛んできた方角目掛けて、暴風が吹き荒れた。

 ●

「さぁーって、ここが正念場だな」
 怪盗は、みるみる足場を飲み込んでいく暴風から距離を取りながら呟く。
 駆ける、駆ける、とにかく駆ける、が、それでも間に合わず、足元の花の足場が散ってゆく。

「ちっ…………さすがドン・フリーダム」
 しかし怪盗は、慌てず騒がないものだ。
 常に余裕を保ち、クールに立ち振る舞う――――胸元から取り出したワイヤーガンを、離れた花の足場に向かって打ち出す。
 アンカーは足場に食い込んで、身体を固定し、それを伝って移動できる――――はずだった。

 ズボッ。

「えっ、あっ」
 ……花は猟兵の体を支えてくれはするが、そもそもが花弁の集合体である。
 一点に強く食い込むワイヤーの先端は、そのまま足場を貫通して空を切った。

「しまったああああああああああああ!?」
 余裕どこいった。
 体を支えるものがなくなれば、待っているのは無限の自由落下である。
 ――――怪盗、システム・フラワーズに散る。
 完。

 ●

「……………………あっれ、来ねえですわ」
 風を切り抜けて、猟兵が来るものだと思っていたドン・フリーダムは、腕を組み豊かな乳房を押し上げるポーズでその場で待っていたのだが。
 なんか落下していくようにも見える。そのまま戻ってこない。
 まさか、あれ一発で死んだのだろうか。だとしたらあまりに手応えがなさすぎる。予告状でエモってた自分は何だったのだ。
 いやいや、流石になにかの間違いだろう。ちょっと待ってれば這い出てくるに違いない。
 ……いや、それもなんかエモくないな。どうしよう、このテンションの高ぶりは。

「ドン・フリーダムだな」
 ふわり、と。
 その思考を遮るように、空中を、一人の少女が舞い降りる。
 装いは天女を思わせる。美しく彩られた鏡を手に、幼い風貌に似合わぬ、荘厳な声で告げた。

「あーら、ちっこい事。わたくし、子供相手でも加減ってやつを知らねーですわよ?」
 新たな獲物を前に、下がりかけたドン・フリーダムのテンションはかろうじて保たれた。
 とはいえ、なにか面白いことをしてくれなければ、単に退屈を得て終わるだろう。

「楽しませてもらうとするですわ。そんでさっさとおさらばです」
「案ずるな、我も加減など望んではおらぬ」
 天御鏡・百々(その身に映すは真実と未来・f01640)は、その神鏡をドン・フリーダムに向け。

「そして――――楽しむ余裕があればよいがな」
 鏡面に映ったものが、百々のユーベルコードによって現れる。
 即ち、鏡の向こうから――――。

「――――鏡の世界の住人よ、現世へと来たりて我が力となるのだ」
 、、 、、、、、
 ドン・フリーダムが現れた。

 ●

『ハローわたくし』
「さよならわたくし」
 鏡より現れたドン・フリーダムと、本物のドン・フリーダムは、邂逅した瞬間、双方、同時に赤べこキャノンをぶちかました。

「ぶはっ! 躊躇なしか!」
 爆風に煽られた身体を、念動力で立て直し、なんとか空中に体を固定する百々。

「あっはっはっはっはっはっは!」
『楽しそうですわねえええ! わたくしぃっ!』
 視界の先で、二人のドン・フリーダムがぶつかり合う。
 砲撃と風が荒れ狂った結果、花の足場はとうにぐちゃぐちゃだ。花が人を乗せる領域を形成するのが間に合っていない。

「そりゃあわたくしとやり合う機会なんてあーんまりありませんですわ! ねえ!」
 純粋な暴力と殴り合いですら、ドン・フリーダムは凄まじい。裸身から繰り出される拳、躊躇なく広げられる脚からの踵落とし。
 お互いの身体を潰し、削りあい、壊し合う。
 破壊力そのものはほぼ互角だった、が。

『あらあら』
「ぐっ――」
 攻撃を受け止めた、鏡面のドン・フリーダムの腕が欠けた。同時に、百々の本体である神鏡にも僅かな亀裂が走る。
 神鏡の力によって生み出された鏡像のドン・フリーダム、その形を保つのもまた、神鏡であり、反動は直接、百々自身に跳ね返るのだ。

『さぁーってどうしますかしらね、このままわたくしがやられると、あなたもパリンといきませんこと?』
「……で、あろうな」
『わたくしを消すなら今のうちですけれど』
「その時は、手札を失った我がどちらにしろやられるだけであろう」
『よくご理解できてるようで。では作戦は?』
「――やつを倒す、手伝ってもらうぞ」
『仰せのままに。ってことらしいですわ、わたくし』
 作戦を立てるのを、特に手を出すでもなく眺めていたドン・フリーダムは。
 仮面の向こうで、口元を歪めた。

「ええ、構いませんわわたくし! かかってこいやですわぁ!」
 返答は、攻撃によって行われる。
 薙刀を構えた百々と、鏡面のドン・フリーダムが左右に別れ、そして挟み込むようにして、同時に突っ込んだ。

「あははは! おっもしろい!」
 ドン・フリーダムからすれば、当然警戒すべきは鏡面の己だ。
 何せ破壊力が違う――――予想通り打ち込まれた赤べこキャノンを同じく赤べこキャノンで相殺しながら。

「あっちのわたくしを倒せば貴女が割れる、ってぇことは」
 移動速度は、ほとんど瞬間移動に等しかった。
 自らの後方に風を起こし、無差別攻撃に自らを巻き込みながら、百々に向かって突っ込んでいく。

「!」
「貴女を割ってもあっちのわたくしは消える、ってことですわよね?」
 薙刀の一撃を、指の二本で抑えこみ、反対の抜き手が、百々の腹部を貫いた。

「がっ――――」
『あらあ――――』
 神鏡に無数のヒビが入り、鏡像のドン・フリーダムもまた、文字通り割れるようにして消えていく。
 ヤドリガミが得た、小さな肉体の体から、だばっと大量の血液が吐き出された。

「いや、結構面白かったですわホントに。さすがわたくし、ちょーつよでしたもの。無傷じゃあ、とてもいられませんでしたわ。誇ってよくてよ?」
 ドン・フリーダムの肉体もまた、傷ついていた。
 傷ついては、いた。
 だがそれは、致命傷には程遠い。
 戦闘が落ち着いたことで、花の足場が再形成されてゆく。
 改めて足をつけたドン・フリーダムは、血に濡れた手を引き抜こうとして。

「……?」
 ぐ、とそれを抑え込む、小さな手を見下ろした。
 非力なものだ、振り払おうとすれば振り払える。
 あまりに細やかすぎて、何故そんなことを? と疑問を抱いてしまうほどに。
 
「えぇーと……?」
「……強いものは、どうして、油断をするのだろうな……」
「そりゃあ、強いからでしょう。何よりわたくしはちょうてんさいですもので。欲望願望を胸に生きるには余裕綽々でなくては」
「ああ、だろうな…………だから」
 百々は、こぷ、と小さな血の塊をもう一度吐いて。

「負けるのだろうな」
 告げた。

 ●

 ドン・フリーダムからすれば負け惜しみにしか聞こえず。
 故に首をかしげるのみだった。
 しかし、一応警戒しておくかと思ったところで、気づく。

「……んん?」
 脚が凍りついていた。
 全く不自由だ、びくともしない。
 何故? やいつのまに? を差し挟む余裕もない。
 なにか応じようと瞬間には、背後から心臓を貫かれていた。

「言ったろ」
 細いダガーに氷を纏わせて作られた一本の刃が。
 無慈悲に、躊躇なく、容赦なく。

「勝利を頂くってね」
 予め告知するが故に、予告状。
 雪華・グレイシア(アイシングファントムドール・f02682)は、疾く、その役割を全うした。

 ●

 しばし時は撒き戻る。
 そう、重力に従って、落下し続ける一人の怪盗が居た。

「ああああああああああああああああああああぁぁぁぁ――――なんてね」
 空中でひらりと身を翻し、着地するのは――凍った花の上だ。
 グレイシアの“歌”は氷雪を司る“冬将軍”を呼び出すユーベルコードだ。
 落下中の悲鳴を“歌”として、舞い散る花々を凍らせて、即席の足場とする。

「さて――――――」
 ワイヤーガンを構える。今度は外さない。
 ただの花はとらえられないが、凍ってしまえば別だ。
 怪盗は、ドン・フリーダムより“下”の座標にいる。
 今、敵は仲間の猟兵との戦闘に集中しているはずだ、もはや“終わった”怪盗に興味も注意も払ってはいないだろう。

「心の隙を突いてこその、怪盗さ」
 だから、自由に動ける。
 警戒されずに、防御されずに、無防備な背後から。
 ――――急所を狙える、それが。

 ●

「我らの作戦よ……上手くいったようだな」
 さすがのオブリビオン・フォーミュラも、心臓を失ってはどうしようもないらしい。
 百々は抱き起こされながら、ふふと笑った。どう見ても重傷だが――。

「大丈夫なの?」
「我の本体は鏡だからな……コチラも、しばし休息が必要だが」
 もっとも、その鏡にすら、びしびしにヒビが入っているのだから、中々困難な戦いだった。

「そっか、じゃあとりあえず外に――……」


「あら、つれませんわねえ、もっと付き合ってもらえませんの?」


 むくり、と。
 心臓に穴を空けたドン・フリーダムが、起き上がった。
 ダラダラと流れる血は本物で、身体を赤く濡らしているにもかかわらず。

「ぁー……マジ効きましたわ、コレは中々」
「……いやぁ、化物ですかアナタ」
 百々を庇いながらワイヤーガンを構えるグレイシアを、仮面の向こう側から見据え。

「化物ですわよ、ご存知なくて?」
 そう言うドン・フリーダムの横に、開いた蓮の葉のような機械が、くるくると回りながら対空していた。

「ま、ネタバレしますと、外部コントロールってぇ奴ですわ。流石に血を流しすぎたので、わたくしはコレで失礼、心臓を修復しませんと」
 戦うつもりはない――というよりも、逃走を選んだようで。
 ひょいと風と共に飛び上がって、ドン・フリーダムの姿が見えなくなった。

「待――――ちぇ、大ボスのくせに逃げるのに躊躇いないな」
 ワイヤーガンを向けるより、敵の動きが速かった。
 背後の百々を、かばうかどうかを一瞬、迷ったこともあるだろうが。

「……あれが、ドン・フリーダムの強さ、なのだろう」
 呼吸を整えながら、腹を抑え、百々が呟く。

「本能に、欲望に、忠実で……躊躇せず、最適解を即座に選ぶ……まったく、身勝手よな」
「……どうする? 治療されたら水の泡だけど」
「大丈夫だ、この領域には、我ら以外にも猟兵が居る、逃しはせんさ……それよりも」
 けふ、と、また小さく血を吐いて、百々は告げた。

「すまん……少し手伝って欲しい」
「……了解」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ジャガーノート・ジャック
◆ロク・ザイオンと

(ザザッ)
(ロクのすぐ隣に召喚される)
救援要請に応じ参上した。ミッションを開始する。
行くぞロク――オーヴァ。

(ザザッ)
敵の油断を誘う。
足場が割れたならば敢えてそこに呑まれよう。
敢えて"すぐ側に呼ばれたのを見せて"から――ロクには二度目の召喚で本機を"敵の真後ろ"に呼んで貰う。
召喚範囲は"ロクのlv二乗mの範囲内"、彼女のすぐ側である必要はない。

(ザザッ)
その上で――Call:Gepard。
三基の熱線銃と浮遊戦車を融合・巨砲に変形。
早業・零距離射撃にて速やかに、チャージ(力溜め)をした砲台で攻撃を敢行。

友が作った隙を無駄にはしない――
Fire.(ザザッ)


ロク・ザイオン
○ジャックと

(「RR Call: J.Jack」でジャックをすぐそばに喚び出す)
欲望の、かたまり。
……お前は病だ。
この世界の。病だ。

やろう。ジャック。
おーば。

(先んじて【地形利用、ロープワーク】で足掛かりを張る。
足場が無くなっても、少しは耐えられるように。
狙いをつけない無差別攻撃は【野生の勘】で躱す)

りりーふりくえすと、こーる――

(捲れ上がる足場の、暴風の向こう目掛けて。
この風が、遣い手を傷つけないのなら
真ん中は、凪だ)

――ジャック!!

(敵のすぐ後ろにジャックを再召喚する。
一撃で倒し切れないなら、風の檻の外から見守って、常に病の死角に召喚し直そう。
猶予は、きっと。自分が風に倒れるまで)



☆+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+☆
   I’ve been to the ZION
☆+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+☆

「さぁーって、心臓修復マシンをちゃっちゃと作ると――――」
 しましょうか、という独り言すら許されなかった。

「みつけた」
 その女は、一見すると野生の獣のようだった。
 外見ではなく、雰囲気が。
 それは本能に優れた狩猟者であり、森の守護者であり、そして今は世界の為に戦うものだった。

「――――する前に、一仕事、必要みたいですわねえ。それもまた“いいね”、ですわ」
 心臓を穿たれても、なおその裸身は美しく。
 血は流れても、なおその余裕に変わりはない。

「いいね、か」         シズカ
 森人は、剣鉈を片手に携え、 寂 に呟いた。

「こーる、じゃっく」
 その傍らに、電子のノイズが走る。
 数秒後には、豹頭の鉄人が出現した。
 女性としては背の高い森人よりも、なお高く。
 アイバイザーが赤い光を放ち、それが戦闘の準備を整えていることを示した。

「なにもよくない――お前は、欲望のかたまり、だ」
「ええ、それが何か?」
 言われ、ドン・フリーダムは髪をかきあげた。

「欲望! 素晴らしい言葉ですわ! 欲があるから人は進化する! 欲があるから人は前に進む! その到達点がこのわたくし! ちょうてんさい! ドン・フリーダム!」
 ただひたすらに美しく。
 ただひたすらに容赦なく。
 ただひたすらに絶対的で。
 ただひたすらに君臨する。
 天才にして天災は、高らかに告げる。

「そのわたくしが、今度こそ完全に、皆の欲を思う様、願うままに叶えてあげようというのです。何の問題がありまして?」
『(ザザッ)だが、その末にお前達は滅びたのだろう。あらゆる欲望が満たされた結果、生きる気概を失って』
 ノイズ混じりの音声が、豹頭から放たれる。

『今一度、キマイラ達が欲に溺れ負けたら――(ザザッ)また人類は絶滅する可能性が生じる事になる』
「あぁ」
 そんなことか、とドン・フリーダムは他愛ない事の様に告げる。
  、、、、、、、、、、、
「そんときゃそん時ですわ」
 きっとこの女は変わらないのだろう。
 それが当然なのだろう。
 自らの思うがままに振る舞い。
 結果何があっても、それは仕方ないことだと。
 死んでも、滅んでも、終わっても、尽きても、だってしょうがない。
 だって、このちょうてんさいに、着いてこれなかったのだから。

「……お前は病だ」
 今度こそ、話すことはなくなった。

「この世界の、病だ」
 お前が居る限り、世界は蝕まれ、狂い続ける。

「やろう。ジャック」
『了解、ミッションを開始する』
 だから。

『(ザザッ)行くぞロク――オーヴァ。』
「おーば」
 倒す。

 ●

「威勢はよろし、では近づいてご覧なさいな!」
 ドン・フリーダムを中心に、暴風が吹き荒れる。
 花の足場を削りながら、無差別に周囲を巻き込む風のユーベルコード。

『ロク!』
 豹頭が森人を背に乗せて、一気に走る。
 二人の逃げ足は、実際中々の物だった。
 事前に目星をつけていた足場へ器用に飛び乗り、一箇所にとどまらず距離を取り続ける。

「あら、偉そうに言っておいて逃げ一択ですの? それじゃ“いいね”はくれてやれませんわねえ――――!」
 暴風はなおも荒れ狂い、逃げ場を奪っていく。
 足の踏み場がなくなった時、イコールそれがタイムリミットだ。
 身体を押しつぶされ、吹き飛ばされ、奈落に落ちる。

『起動――《Call:Gepard》』
 豹頭がその言葉を発すると同時、その腕に砲塔と浮遊戦車が合体し、巨大な砲塔を作り上げた。

『――――射撃』
 熱線が一条の光となって、ドン・フリーダムに襲いかかる。
 しかし、暴風の壁の前ではそれも意味がなかった。
 屈折した空気にかき乱され、歪んで明後日の方へと逸れていく。

「は……射撃なら届くと思ってたならざーんねんでーすわーねー。何発か打てば当たるかも知れませんわよー?」
 それを見たドン・フリーダムは、もう若干やる気を失っていた。
 彼らがこの風を乗り越える手段がないなら、ゆっくり治療に当たれる。
 つまりは退屈だ。想像を超えてこない敵に対して、踊る心をちょうてんさいは持ち合わせない。
 だが一方で。

「みえた」
 そう。

「りりーふりくえすと、こーる――」
 森人は確かに見た。
 ドン・フリーダムは、花の足場にしかと足をつけている。
 それ即ち、あの暴風の中央には、風がないということだ。
 真ん中は、凪だ。

「――――じゃっく!」
 ユーベルコード、射程圏内。
 森人……ロク・ザイオン(明滅する・f01377)の言葉、即ち《Relief Request Call Juggernaut Jack》の要請に従って。

『オーヴァ――――戦闘域に突入する』
 豹頭……ジャガーノート・ジャック(AVATAR・f02381)は、その姿をノイズ混じりのモザイクへと分解し。

「――――――は?」
 直後。
 、、、、、、、、、、、、、、、、
 ドン・フリーダムの背後に出現した。

 ●

 ロク・ザイオンがジャガーノート・ジャックを呼び出す際の制約は、半径1.2km圏内である、ということだけだ。
 コレは言いかえるなら、その射程範囲の中で、ジャガーノートを自由に移動させることができる、という意味でもある。
 例えば。
 暴風の中心、風を浴びない、唯一絶対の安全地帯にして、最大の攻撃ポイントに。
 あらゆる障害物を乗り越えて、移動させることができる。
 座標さえ理解していれば。
 視認さえしていれば。
 ロクは見ていた。
 ずっと見ていた。
 追い立てられながら、逃げながら、じっと見ていた。
 必殺の位置を。

『友が作った隙を無駄にはしない――――』
 砲塔は既に、ドン・フリーダムを捉えている。
 エネルギーは最大まで充填され、後は引き金を引くだけで良い。

「あっ、は」
 その上で。
 ドン・フリーダムは笑い、その五指を伸ばす。

「あははははははは! 成程ぉ! それは想定外! わたくしの想像を越えてきますわねえ! あははははははは!」
 拳で鎧を砕けばいい。
 足で中身を穿けばいい。
 まだ、まだ終わっていない。
 ドン・フリーダムは終わっていない。

「楽しいですわ楽しいですわ! 貴方達もそうでしょう!?」
 死してなお、生きている実感。
 欲望を叶えた先にあるのは、新たな欲望。
 自分一人で満足できていたはずのそれは、やがて外へ形を求めだす。
 ドン・フリーダムの充実は。
 誰かを踏みにじらずして、存在し得ない領域に来てしまった故に、。

『――――下らない』
 ゼロ距離。
 穴の空いた心臓の場所に、違わず銃口が押し当てられ。

『一人で満足していろ――――Fire.』
 光条は、内側からドン・フリーダムを焼き広げるように放たれた。

「うふ」
 体内から体外から、熱で焼かれ、蒸発していく肉体を確かに感じながら。

「あははははははははははは! そう! そうですの! これがわたくしのおしまい! あはははは!」
 それでも笑う――――ああ、だってこの戦いはなかなか楽しかった。
 どいつもこいつも予想外で、誰も彼も中々にエモい。
 なるほど、部下たちだってやられるというものだ、だって基準が自分と同じなのだから。

「――――気持ちぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
 塵になって消滅するまで。
 ドン・フリーダムは、恍惚の叫びを上げ続けた。

『――――ミッション、コンプリート』
 そして。
 全エネルギーを射撃に注いだジャガーノートは、ガクリと膝をついて、巨大な砲塔を花の大地へと落とした。

 ●

「ジャック、おつかれ」
 髪も服も乱れ、傷ついた体を引きずって、ロクが戻ってきた頃には。
 もうドン・フリーダムはいなかった。消滅したのだろうと確信出来たのは、問いかけに反応がなく――ジャガーノートが沈黙していたからだ。

「……ああ、つかれたな」
 その横に、どっと横になる。
 花の大地はどこまでも柔らかく、人を包んでくれた。
 これだけならば、居心地も気分もよいのに。

 これ以上を求め続けるなんて。
 おかしなことだと、そう思わなかったのだろうか。
 ちょうてんさいは。

「おれは」
 戦いの後だというのに。
 良い香りがする。

「てんさいじゃ、なくていい」
 わかることとわからないことがあって。
 できることとできないことがあって。
 それを例えば、誰かにやって貰う代わり。
 自分もまた、助ける。
 それで、シンプルでよいのだ、きっと。

「……ふう」
 目を閉じたら眠くなってきた。
 何処かで、まだ戦いは続いているのだろうが。
 自分たちの役割は、一旦終わった。
 少しだけ、眠るとしよう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

聖護院・カプラ
こんにちは、ドン・フリーダム。
…貴女は欲望を受け止めて、受け入れて、呑み込むと云った
欲を捨てた身ではありますが、ふと聞いてみたい欲が湧きました。

”修理してコンコンコンすれば望みが叶う、求める全てが手に入るようになる”
”修理すれば”…十全であったシステムが1度壊れたという事です
何故完全であるものが不完全になってしまったのでしょうか。
元よりその”完全”は不完全だったのではないでしょうか?

この世界の人々は不完全を楽しんでいます。
元より不完全な土台の上だからこそ、完全を目指して歩む事ができる。
その有様こそが完全ではないでしょうか。

バリアの解除を確認したなら、貴女に武装解除するよう『説得』致しましょう。



☆+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+☆
      Presence
☆+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+☆

「こんにちは、ドン・フリーダム」
 その一声ですら、常人であれば思わず息を呑むほどの“圧”がある。

「おぉ、こりゃ中々の存在感ですわ。わたくしに張り合おうなどとは生意気でございますことねぇ」
 ちょうてんさいたるドン・フリーダムですら、見ただけで狼狽するような存在は、それが初めてだっただろう。
 後光を背負い、圧倒的存在感を持って君臨するは、聖護院・カプラ(旧式のウォーマシン・f00436)その人(?)であった。

「張り合おうなどとは思いません、私はあなたに止まる様、説得に来たのですから」
「止まる。はぁ、わたくしが。なにゆえに?」
 その理由が本当に“わからない”と言いたげに、ドン・フリーダムは首を傾げた。
 それは猟兵がオブリビオンを、ましてオブリビオン・フォーミュラたる自身を“説得”などという手段で干渉しに来ること、そして、あらゆる願望を叶える願望器たる“コンコンコン”を止めようとするのだろう、という二つの疑問だ。

「貴女は欲望を受け止めて、受け入れて、呑み込むと云った」
「えぇ、わたくしが受け入れてみせましょう、叶えてみせましょう、そのための“コンコンコン”でしょう」
「その為にシステム・フラワーズに干渉し、コンコンコンを修理すると」
「その通りですわ。それが何か?」
 何が言いたいのだ、という仮面の向こうからの視線。

「――修理すれば。それは十全であったシステムが、一度壊れたという事です」

「…………」
「何故完全であるものが不完全になってしまったのでしょうか。元よりその”完全”は不完全だったのではないでしょうか?」
 天才は全能ではなく、天災は全知ではない。
 何故ドン・フォーミュラがオブリビオンなのか。
 何故過去より至る災厄なのか。
 簡単だ、滅んだからだ――――コンコンコン、とは。
  、、、、、、、、、、、
 現在に至れなかった過去なのだ。

「この世界の人々は不完全を楽しんでいます」
 彼らはいつだって能天気だ。怪人がでても騒ぐし、世界がこうして半分に割れても全力でそれを楽しんでいる。
 きっとすべてが満たされたら、そうはならないだろう。

「元より不完全な土台の上だからこそ、完全を目指して歩む事ができる――その有様こそが完全ではないでしょうか」
「未完成が故に完成――――と。アナタはつまりそう言いたいわけですわね?」
「如何にも」
 少しの間、沈黙があった。
 カプラもドン・フリーダムも、何も言わず、お互いを見つめていた。
 やがて、音を生んだのはドン・フリーダムだった。
 彼女は、小さく嘲笑った。

「ナイナイナイナイ。だってそれじゃあ欲望が満たされないじゃあありませんのことよ?」
「欲望が満たされた先にあるのは、虚無でしょう」
「ほざきますわねぇ! よくぞ言えたものですわ! 御大層な後光を背負っちゃあいますが、要するにアナタ自身がコンコンコンと同じ――――」
 ドン・フリーダムの傍らに花が集まる。砲塔が形成されていく。

  、、、、、、、、、、、
「人の欲望を受け止める器じゃあありませんの!」

 赤べこキャノンの一撃が、カプラに吸い込まれるように放たれる。

「人に望まれて、人に求められたままに振る舞う、人の願望を満たす為の機械なんでございましょ? そりゃあもはや、出来損ないのコンコンコン以下ですわ」
 爆音、熱風、黒煙。

「確かに私は信仰の器です。人の為に有り、その行いを良しとし、守る存在です」
 その向こう側に、聖護院・カプラは居る。

「――――それは、人が己を振り返り、自ら良き行いを成し、良き存在となる為の“鏡”の役割に過ぎない。私は欲望を叶えません。人の営みを支えるだけです」
 後光が守護する彼の身体は、それでも損傷を免れていない。
 だが、その挟持が折れることも、またないだろう。

「どの様な世界でも、人は自らの意思で歩かなければならない。貴女がしようとしているのは、それすら奪う傲慢です」
「その歩みがすっとろいから、ケツをひっぱたいてやろうっていうんじゃあありませんの」

「戦いをやめるつもりはないのですね」
「当たり前でございましょ、わたくしを誰だと思ってまして?」
 十。
 二十。
 三十。
 無数の砲塔が、一斉に展開される。

「ちょうてんさい、ドン・フリーダム! 他人にとやかく言われて止まるような生半可な狂人じゃあありませんわ!」
「残念です」
 対するカプラの放つ存在感が、光へと変じ収束し。
 後光と赤べこキャノンのぶつかり合いによって、システム・フラワーズの内部が、激しい閃光で満たされていく。

「――――ま、このわたくしと問答なんぞしようというその姿勢は、中々“えも”でしたわよ」
 ユーベルコードの中心にいる両者までもが破壊に飲まれ、その区域の花の足場は“消滅”した。

成功 🔵​🔵​🔴​

富波・壱子

なんでもは手に入らなくたっていいよ!欲しいものを手に入れるために頑張れる今が、わたしはすっごく楽しい!
だから止めるよ!あなたを止めて、いつも通りの明日でまた頑張りたいの!それがわたしの今の欲望!
そのために、力を貸して、私!
叫びながらチョーカーに触れ、戦闘人格へ交代
任務了解。目標達成の為、対象を抹殺します

私のUCの弱点は移動先への攻撃です。転移と同時に出現予定地点へ攻撃されれば回避できません
なのでドンフリーダムの背後へと背中合わせになるように転移し、死角からの攻撃を彼女を盾にすることで防ぎます
誤爆すればそれでよし、そうでなくとも攻撃を止めさせることはできるはず
怯んだ隙に刀の抜き打ちで追撃します


シエナ・リーレイ


寒くないの?とシエナは訪ねます。

とても寒そうな恰好なお姉さんの演説を聞いたシエナは彼女へ問い掛け序でに遊ぶ為に『お友達』と共に行進します

ただ、お姉さんはお猿さんよりも頭が良いらしいので仮初を入れ替えただけでは駄目かもしれません

なので、今回はとても目の良い鳥さんを仮初にしてお姉さんでは視認すら難しい程の距離から『お友達』へのお願いをする事にしました

この方法ではお姉さんと仲良くなれないかもしれません
それでもシエナはお姉さんへ『コンコンコンで死んでしまった者が戻って来る様になるのか』という質問の答えだけでも得ようとするでしょう

わたしの初めての『お友達』も戻って来るの?とシエナは質問します。



☆+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+☆
     Theatre de poupee
☆+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+☆

「うーん、後何人ぐらいいやがりますのかしらね? こりゃ三人に分けて正解でしたわ」
 古びたウォーマシンと、問答の末の損傷が、まだ回復しない。
 思ったよりも手強いし、思ったよりも手こずっている。
 彼ら彼女らにとって、理想のコンコンコンはそんなに嫌なものなのだろうか?
 だって理想だ、全てが思い通りになる世界だ。
 良いことはあれど、悪いことがあるわけがない。
 ……まあ一度それで人類は滅んじゃったけど、何、物事は何事もトライアンドエラー、絶滅させるぐらいでなければ超天災は務まらない。

「おや」
 そんな適当なことを考えていると、眼前に、刀と銃を携えた少女が立っていた。 
 あれが、このドン・フリーダムにおける、次の相手らしい。

「あー、もしもし? そこの貴女? へえ中々おっぱい大きいじゃないですの、いいねですわ」
「何でいきなりセクハラを……っ!」
「まぁわたくし程じゃあありませんわね――――ちょうてんさいはバディもナイスでっすっわー!」
 一糸まとわぬ超全裸で、全く隠すこともせず、腰に手を当て高笑い。
 どんな倫理観を持っていたらこの様な存在が生じるのだろう。壱子は少しだけ思考を止めた。

「――――で、猟兵ですわよね。ぁー……そだ、ちょっと興味本位で質問良いですの?」
「オブリビオンが、私に?」
「どぉせ死ぬんだから良いじゃありませんの。ちっとした戯れですわ。気が向きゃ助けてあげるかもしれませんし、そ~じゃないかもしれませんし」
 ひらひらと手を振りながら、ドン・フリーダムは告げる。

「ねぇ、一体どうしてそこまでわたくしの邪魔をしますの? コンコンコンが完成すれば誰も彼も全ての願いと望みが叶いますわ。どうしてそれを拒むのかわっかんねーんですわ」
「……わからないの?」
「えぇ、ちょうてんさいであるわたくしの虹色の脳細胞をフル回転させてもサーッパリ。ですからお嬢さん、一つお応えくださいな」


「どうして、完全なるコンコンコンの存在を拒むのです?」


「…………っ!」
 その質問に応じたのは、チョーカーに指を伸ばしかけた壱子――ではなかった。
 チチチチ、と鳥の鳴き声が、不意に響いた。
 小刻みに羽を動かしながら、小さな鳥が戦場に舞い降りた。
 ……色彩豊かな体毛を持つのに、どことなく生気のない瞳をしている。
 それはよく見れば、羽毛や糸で紡がれたぬいぐるみ……器物なのだった。

「……鳥?」
「……鳥?」
 揃って首を傾げる二人に、鳥はくちばしをパクパク開いて。

『こんにちは、お姉さん達、とシエナは挨拶をします』
 と、愛らしい響きの声色で告げた。

「喋ったあああああああああああああああ!?」
「喋ったあああああああああああああああ!?」
 ドン・フリーダムと壱子の声がシンクロした。

『……? びっくりさせてしまいましたか? とシエナは謝ります』
 鳥のぬいぐるみは不思議そうにそう告げて。

「あ、あぁ、猟兵ですのね。あーびびりましたわ。ノリビビリでしたわ」
 本気で驚いたというよりは、単純に空気に乗るタイプなのだろう。

『……寒くないの? と、とても寒そうな格好のお姉さんにシエナは訪ねます』
「寒くありませんわ! 心が燃えているから! ……で、なんですの? 今わたくしの質問タイムだったはずですが
 もしかしたらこのオブリビオン・フォーミュラは超弩級の馬鹿なのかもしれない。
 けれど、そんな有様であっても隙がない。

『コンコンコンがあれば、どんな願いも望みも叶うというのは本当でしょうか、とシエナは訪ねます』
「えぇ、本当ですわよ。どんな願望も満たすのが、わたくしの完成したコンコンコンですわ」
『じゃあ』
 鳥は、光を映さない虚ろな瞳のまま、問いかける。

『“わたし”の初めての“お友達”も戻って来るの? とシエナは質問します』
「…………!」
 その言葉が含むところが、わからぬ訳もない。
 この鳥の向う側に居る誰かは、こう訪ねているのだ。“死者をよみがえらせることはできるのか”と。

「えぇ勿論」
 ドン・フリーダムは、一切迷わず、一切躊躇わず、それが正しいという確信を持って、自信満々に答えた。
  、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
「貴女の中に存在する貴女の思い描く貴女のお友達が、ありのままの姿で貴女の前に現れるでしょう」
 鳥のぬいぐるみは、僅かな沈黙の後、念を押すように問う。

『本当? 本当に? とシエナは確認します』
「ええ、それこそがコンコンコン! それこそがわたくしの最終目標! 叶わない願いなど――――」
「違うっ!」
 両手を掲げ、叫ぼうとしたドン・フリーダムの言葉を。
 壱子は遮った、刀を抜いて、ぬいぐるみとちょうてんさいの間に、割り込むように立った。

「死んだ人は帰ってこない、絶対に、何があっても」
「それを可能にするのがわたくしのコンコンコンですわ」
「そんなワケない、アナタが言ったんだよ、“あなたの思い描くお友達”って――――けどそれは、その人、本人じゃない」
 だって、他人の事を全部などできやしない。
 何を考えて、何を思い、何を好み、何を嫌い、何を愛し、何を憎むのか。
 その同一性を共有できない者を、人は『他者』と呼ぶのだ。

「きっとそのコンコンコンから生まれてくるのは、自分の想像の中にしかない、自分の思い通りにしかならない、誰かに似た違うモノだよ」
 きっと見た目はそっくりだろう。
 思い出の中にある通りの言葉と仕草で振る舞うだろう。
 望む言葉をかけてくれるだろう、望み行為をしてくれるだろう。
 それを生み出した人間の、願望通りに。それは――――。
         、、、、、
「そんなの――タダの人形だよ」
  、、、、、、、、、、、、、
「それの何がいけないんですの?」
「――――っ」
 ……壱子は間違いない、完全なる断絶を感じた。
 結局、この女にあるのは“自分”だけなのだ。
 自分の信じた世界が全て、自分の信じた価値観が全て、自分の信じた自分が全て。
 その認識の中には“他者”が居ない。
 誰もいないから、何にもならず、誰とも共感出来ない。
 彼女にとって、自分以外の存在は、考慮するようなモノではないのだ。
 鬱陶しいとも目障りだと思ってない、そもそも、認識の範疇の外にある。
 石ころを拾って愛でることはあっても、それを愛することなどないように。

「いいわけ、ない――――」
 たとえ失った者達が戻ってくるとしても。
 たとえそれが本物であったとしても。
 それはいけないことだ。
 誰かの人生を、誰かが生きて死んだ事実を。
 なかったコトにする権利は、誰にもないのだから。

「なんでもは……手に入らなくたっていいよ」
 それは、現在を生きている者たちへの侮辱に、他ならない。
 そして。

「欲しいものを手に入れるために頑張れる今が、わたしはすっごく楽しい!」
 富波・壱子は――たしかに今を生きている。

「だから止めるよ! あなたを止めて、いつも通りの明日でまた頑張りたいの! それがわたしの今の欲望! その為に――――」
 チョーカーに指を触れるのは、“交代”のスイッチ。
 他人のことはわからない。
 自分のことだってわからないのに。
 けれど、あの子はわたしで、わたしはあの子。
 思いは一つで、やるべきことは定まった。

「任務了解」
 そこにいるのは、壱子ではあって壱子ではない誰か。
 いや――壱子であって、壱子である誰かだ。
 片手に刀を、片手に銃を。

「目標達成の為、対象を抹殺します」
 戦うための存在は、一切の躊躇なく、死線を踏み越えた。

 ●

 シエナ・リーレイ(年代物の呪殺人形・f04107)は知りたかった。
 あの子は帰ってくるのかな、と。
 けれど、それは望まぬ形で終わってしまった。
 期待していただけに、とてもとても残念だった。

 だって、仮にコンコンコンが完成しても。

              、、、、、、、、
 でてくるのが人形では、今と何にも変わらない。
 仕方がないから、今日は違う方法で遊ぶことにした。

 ――――鳥は飛び去った。
 いや、厳密に言うなら、その場から離れた。
 だって巻き込まれては困るのだし。
 これから始まる“遊び”は、大人数でのパーティだ。

 ●

「んっふ、瞬間移動ってぇ奴ですわね?」
 ドン・フリーダムの想像力は、人智のそれを遥かに超える。
 一目みただけで、ユーベルコードの詳細を暴き立て、その対策を瞬時に作り出す。
 壱子の能力もまた、ひと目で暴かれた。
 即ち、任意の場所への瞬間移動。
 対処は容易だ。転移後の座標に攻撃を指定して合わせればいい。そのためのマシンはもう出来た。
 名付けて『テレポート? は、無駄無駄はいさよなら乙~キャノン』。蓮の葉を模した機械が回転すれば、自動で転移先に射撃をぶちかましてくれるという寸法だ。

「ではさような――――あ?」
 早速マシンを起動。何処に転移しようともはやその砲塔から逃れるすべはない。
 ……はずだったのだが、砲塔は何故かドン・フリーダムを捉え、そして弾を容赦なく放った。

「んんんんんんんんんんん!?」
 慌てて飛び退いて避ける、間一髪、顔の横を通り過ぎたその弾は、遠くで着弾して花の足場を消し飛ばし、でかいきのこ雲を作り上げた。

「あ、あっぶねですわ、一体何――……ゴッ!」
 鋭い感触が身体を打ち据えた。滑らかな肢体に反し、理外の身体ゆえに頑強なその体に、浅い切傷が刻まれる。

「ダメージ軽微」
 刀を振り抜いた壱子が、立っていた。

「――――まさか貴女、わたくしの」
「追撃を行います」
 姿が消える。マシンが反応する。
 ドン・フリーダム目掛けて、またも弾丸が放たれる。
        、、、
「わたくしの、後ろに!?」
 作戦は単純だ。
 転移先をピンポイントで攻撃することが予測できるならば、転移先にドン・フリーダムがいればよいのだ。
 移動先は、ドン・フリーダムの背後。
 砲塔が壱子を狙う以上、ドン・フリーダムもまた巻き添えになる。

「あ、あなたわたくしと一緒に死ぬつもりですの!?」
 無駄口は叩かない。殺すのに必要な行為だけをする。
 背後から斬りつけ、対応されてもすぐに転移する。
 常に寄り添って離れない――――“もうひとりのドン・フリーダム”が、とある猟兵のコンビに取られた作戦と、ほぼ同じだ。
 記憶を共有できたなら、対処のしようもあったかもしれないが。

「――――は、いいでしょう。いいね、ですわ」
 だったら、方針を変えよう。
 ドン・フリーダムは極端なのだ。
 、、、
「乗ってあげますわ――――レッツパーリィ!」
 再び壱子の転移。放たれる砲塔。
 ドン・フリーダムは――避けなかった。

「!」
「一緒に爆発しちゃいましょう! わたくしとあなた、どちらが先に死ぬか試してみるのもそれはそれでですわー!」
 正気じゃない。
 だが、距離をとった時点でおしまいなのだ。
 応じるしかない、この戦いに。

「―――――抹殺します」
「できるものなら!」
 砲弾が、二人に突き刺さる。
 一瞬の後、大爆発が巻き起こり、ちょうてんさいも、少女も、一切区別なく、纏めて吹き飛ばした。

 ●

(損傷――――)
 控えめに見て。
 あの威力の爆発に巻き込まれて、ただでは済まないと思っていた。
 その認識は確かに間違いではなく、直撃であれば、壱子は死んでいたかもしれない。
 実際、五感が塗りつぶされてマトモに機能していない。
 視界は白く染まり、皮膚は焼けて、味を感じず、耳鳴りが続き、肌の感覚もない。

(――――軽微?)
 だが、身体の消耗は、その状況に反して、己が動ける事を告げていた。

「大丈夫ですか? とシエナは心配しながら問いかけます」
 自分は今、柔らかいものの上に乗っている、という認識が得られる程度に身体の感覚が戻ってきたと同時、そんな愛らしい声が耳をくすぐった。
 
「ここは」
 戻ってきた視界に映るのは、銀髪の可憐な少女だった。
 壱子の顔を覗き込んでいたその娘は、にこりと唇を笑みに形にして、嬉しそうに。

「目が覚めてよかった、とシエナは安心します」
 と告げて、手にしていた彫刻刀をそっとしまいこんだ。

「……ぬいぐるみ?」
 そう、壱子が乗っているのは、大量のぬいぐるみの上なのだった。
 大小合わせて二百近くになるぬいぐるみたちは、それぞれがわちゃわちゃと動き回っている。
 鼻をふんふんとしている個体は、ドン・フリーダムを探しているのだろうか。
 ……あの鳥のぬいぐるみを操っていたのは彼女なのだろう、と壱子は当たりをつけ。

「間に合ってよかったです。お姉さんは何処かへ行ってしまいましたが……シエナは残念な気持ちでいっぱいです」
「逃してしまいましたか」
 とあらば、もうこのままでいる意味も無いだろう。
 チョーカーに触れると、人格が切り替わる。
 日常を担当する壱子が身体を投げ出すと、ぬいぐるみたちはわちゃちゃ、とその体重を支えてくれた。

「……あなたが助けてくれたの?」
「? シエナ達もパーティに混ぜてほしかったのですが、とシエナは首を傾げます」
「……ま、いっか、ありがと」
 手傷は追わせたはずだ、ならば一応の役割は終えたと言っていいだろう。

「……死んだ人が蘇ったら、なんて、ひどい話だよね」
 そう零した壱子のことを、シエナは不思議そうに首を傾げて見つめていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ネグル・ギュネス
◯【アサルト】で参戦

生憎だが、貴様が何者であろうと興味はない
天災だろうが、何だろうが、我らに討ち破れぬ者はない
いざ、参る

先制攻撃は、解析結果から、瞬時に判断
崩れた足場を【ダッシュ】で飛び回り、また【残像】と【迷彩】で撹乱しつつ、避けきれない攻撃は【武器受け】で弾き返す

足場が崩れた?
ハ、其れが走れぬ理由にゃならん
───来い、ファントム!
【幻影疾走・速型】と【騎乗】の腕で、天地左右、縦横無尽に走りながら、刀で斬り込んは、逃れ、また斬り込む!執拗に、我が愛機と共に!

貴様が如何なる技と頭脳、才能を持とうとも、勝てぬ理由を教授してやる
独りでは、戦は勝てん

それを証明してやる!
我ら三人が、そして仲間達がな!


鳴宮・匡

◆アサルト

足場の揺れや風の流れ、音
相手の僅かな体の動き、顔の向きから
敵の動きやその狙いまでを【見切り】、読み取って
常に先の動きを推定/予測し
互いに情報共有、回避にあたる

足場の崩落を回避しきれなかったら
丁度いいところにバイクがあるんで後ろでも借りるよ
適当なところで降りるけどさ
固まってたらいい的だ

落とされないよう回避を優先しつつ
ヴィクティムの支援を待つよ
あいつなら確実にこなす、それは信用してる

だから、観察に徹する
最良のタイミングで、研ぎ澄ました一撃を叩き込むために
相手がどう動くか、「視る」ことに集中しろ

「推定」じゃ足りない
「確定」してその先を狙う

あいつらが信じて託してきたんだ
外すわけにはいかない


ヴィクティム・ウィンターミュート
〇【アサルト】

まずは先制攻撃対処
全サイバネ【ハッキング】
機能を限界までオーバーロード
拡張された演算能力で「足場がどこから崩れるのか」高速計算
的確なルートを算出、足場から足場へ【ダッシュ、ジャンプ、早業、地形の利用】を駆使して飛び続け復帰する
2人にもどの足場を使えばいいか瞬時に情報共有しておく

──さぁ、本番は二発目だ
成功すれば大チャンス
失敗すれば…死が見える

分の悪い賭けなのは分かってる
正直堪らなく怖ェよ
…それでも
必死に勝利に食らいつく【覚悟】は出来てる

勝負しようぜ、天災!
テメェの風が最強のエネルギーを秘めてるんなら!
「その力にテメェが耐えられるかな?」

反撃の時間だ!
報復の刃がお前を地に堕とすぜ!



☆+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+☆
    Team “Assault”
☆+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+☆

 予想を裏切る、という点で。
 猟兵の行動は、ドン・フリーダムの常に上を行っていた。
 思いもよらない攻撃を、思いもよらない方法で、思いもよらぬ角度から打ち込んでくる連中の相手は、なるほどなかなか楽しいものだ。
 焦げた皮膚の見栄えを取り繕う事はできたが、炭化してしまった中身の修復はまだしばらく掛かりそうだ。

「ま、切り替えていこですわ」
 しかしながら、終わったことは気にしないのがちょうてんさい。
 さっさと残りの猟兵を片付けて、コンコンコンの完成に取り組むのだ。

「ん?」
 ぷつん、と何かが足に引っかかった感覚を覚えた時にはもう遅い。
 ワイヤーの先に繋がれた手榴弾のピンが引き抜かれ、爆煙がドン・フリーダムを飲み込んだ。

 ●

『やったか?』
「フラグを立てるなよ」
 フラグ? と通信機ごしに疑問の声を上げる男に対し、ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)は苦笑しながら答えた。

「奴さん、ピンピンしてやがる、ついでにこっちに気づいたみたいだぜ」
 望遠鏡など使わなくても、電脳的な補助を加えた視界にはその姿をしかと捉えていた。
 なにせ――二キロ先の向こうにいるドン・フリーダムと、“目”が合った。

「さて、オーダーは?」
『狙撃で仕留める。タイミングを作ってくれ』
 あまりに短く、端的な要求だったが。
      、、、
「OK。任せろ」
 その返答も、また端的である。
 答えは出ており、やるべきことは決まっており、後は実行するだけである、ということが確定しているのだった。

「それじゃ、美人を口説きに行きますかね」
『美人かどうかはわからないだろ、顔が隠れてる』
「謎が多い女はそれだけで美人だろ? ま――――」
 徐々に、徐々に。
 迫りくる速度が上がる全裸の女を視界に収め、ヴィクティムは笑った。

「好みにはあわねぇけどな」
 数十秒で、その存在はヴィクティムの前に降り立った。
 艶かしい肢体、笑顔の仮面、長い髪の毛、花の主。

「罠とは姑息な真似をしてくれるじゃありませんの。髪の毛の先が焦げちまいましたわ」
「パーティの始めにゃシャンパンを開けるもんだろ? 気に入ってもらえなかったかい」
「もうちょい刺激的な方が好みですわねぇ、で――――」
 指をついっと振るう。それだけで。

「他に持ち芸がないのなら、あなた、もうおしまいですわよ?」
 ドン・フリーダムを中心にごう、と吹き荒れる暴風が、花の足場を消滅させながら、周囲を無差別に飲み込み始めた。

「俺相手に手札の多さを問うとはな――想像力が足りてねえぜウィズワーム」
 ドラゴンを示す言葉だが。
 ドラゴンみたいなものだ、いや。
 それよりもっと、質が悪いか。
 それでも――――やるしかない。

「さぁてごらんじろ――――」
 ヴィクティムは己の身体を支配し、指示を下す。

 ――さぁ始めるぞ俺。
 ――まずは軽く限界を超えるとするか。
 ――なぁに心配しなくていい。
 ――死ななきゃ安いとはよく言ったもんだ。
 ――演算速度を並列処理で二百六十五倍に拡張。
 ――オーバーヒート警告? 知るか、ネグルにでも喰わせとけ。

「――――行くぜ」
 行われた物理演算は視界に直接、色彩として結果を映し出す。
 世界を1/10000に圧縮し、どの足場が何秒でどこから崩れていくか、全てが手に取るようにわかる。
 その情報は即座に――事前に仲間に渡しておいた端末を経由し、伝えられる。

 代償として全身を駆け巡る生体細胞やら血管やらが弾けた気がするが、まぁ最近はこういう流血カラーがおしゃれだろ。
 オーライ、気にせず駆けろ。駆け抜けろ。

「ついてこいよ、ドン・フリーダム、地獄に招待してやるぜ」
 鼻血を指で拭いながら、ヴィクティムは風から逃れる為に足を動かす。

 ●

 そのバイク――S R・ファントムに、通常のモノと同じ様なエンジンが必要かどうかと問われれば、否だろう。
 そもそも仕組みが違うのだ、無音の駆動だって問題なくできる。
 しかし、戦いにおけるその音は、戦闘の始まりを告げる鬨の声でもある。
 だから――――ネグル・ギュネス(ロスト・オブ・パストデイズ・f00099)は大きくアクセルを捻って、その轟音をかき鳴らした。

「――行くぞ、ファントム」
『OK,My Master――Are You Ready?』
「あぁ――――出来ているよ!」
 崩れ行く花の足場から、遠ざかるのではなく突き進む。

「――――」
「――――」
 風に背を向けるヴィクティムとすれ違うのはほんの一瞬。
 目線だけで行われるやり取りは、言葉にするのも無粋ではあるが。
 あえて記すとすれば、こうだろう。

(頼んだぜ)
(心得た)

 そして。
 文字通り風を斬って、銀の一条が天災へと突き刺さった。

「おやぁ、まだいましたのね! このちょうてんさい相手に突貫してくるその根性はぁ、褒めたげますわ!」
 突撃を片手で受け止め弾く。放り投げられたネグルは、すぐさま躯体を立て直し、アクセルをさらに蒸す。

「生憎だが、貴様が何者であろうと興味はない――――」
 弾けるように襲い来る風を、ネグルが駆るファントムは直撃寸前で躱していく。
 さながら踊っているようだった――――姫が仮面で全裸では、なんともしまったものではないが。

「逃げてばっかりじゃ埒があきませんわよ?」
「無論、そのつもりだ!」
 刀を抜き放ち、走りざまに斬りつける。
 花の足場は刻一刻と崩れていくが、SR・ファントムは花弁の一つひとつすらも“足場”と捉え飛び回る。
 もとより宇宙空間を駆けるバイクなのだ、地に足付ける必要もない。

「一つ答えろドン・フリーダム!」
「なんですの? 言っておきますけどわたくし、今すっげぇ機嫌がいいですわよ!」
 風の弾丸を斬り払い、そのまま首元目掛けて刃を放つ。
 対するドン・フリーダムは、なんと生身の腕で受け止め、拮抗した。
 何たる頑強、何たる反射速度。

「貴様は本当に、あらゆる願いをかなえることが世界のためになると思うか!」
「当然ですわ! 欲望を満たす事こそが、人の生きる理由でしょう!」
「ならシステムの完成は、生きる理由を奪うのと同義だ!!」
 縦横無尽、上下左右、あらゆる角度から駆け巡り、放たれる斬撃を、ドン・フリーダムは受けきれず、少しずつ斬り刻まれていく。

「過去から現れ出た貴様が、今を生きる者達の未来を奪う権利が何処にある!」
「そりゃあ考えの相違ってぇ奴ですわ。未来は奪われるのではなく、目の前に来るんでしてよ?」
「何――――」
「それで今の人類が絶滅しても、何、次の人類はきっとわたくしのコンコンコンに適合しますわ。それも滅びたらまたそれだけのこと」
 ドン・フリーダムは。
 ドン・フリーダムだけは。
 その欲望に際限がない。
 コンコンコンが完成した結果滅びる人類なら、滅びてしまえばいい。
 それもまた超天災がもたらす結末の一つに過ぎない。

 そしたら、“次”また頑張ろう。

 その生態系の環の中に、支配者として、ドン・フリーダムは君臨する。
 永遠に、永劫に、人々を欲望という名の災禍で飲み込みながら。

「――――わたくしが作った世界で、皆好きに生きればいい。皆好きに死ねば良いのですわ。何か問題が?」
「……あぁ、わかったよ」
「おや、ご理解が早いようで――――」
「――貴様が敗北した理由がわかった」
 バイクに跨ったまま、正眼の構え。
 ドン・フリーダムは理解できないという風に、指を頭の横でくるくると回した。

「……ぁん?」
「貴様が如何なる技と頭脳、才能を持とうとも、勝てぬ理由を教授してやる」
「ほぉう? そりゃまたなんでですの?」
「――――お前は独りだからだ。独りでは、戦は勝てん」
 圧倒的すぎて。
 全能的すぎて。
 誰もついてこれない。
 誰も共感できない。
 究極の孤独、絶対の単独。
 たった独りの突然変異、たった独りのちょうてんさい。
 だから、ドン・フリーダムは勝てない。
 群れなす人々の意思に、決して。

「……知ったような口を叩きやがりますわね」
「知っているのさ、一人の弱さを。そして誰かと戦う強さを」
「鬱陶しいですわね」
「それを証明してやる! 我ら三人が!」
「――もう死ねや」
 SR・ファントムとドン・フリーダムが交差する。

 わずかな間を置いて。
 フレームがひしゃげ、タイヤが飛び、胸を穿たれ、刀が折れ。
 ネグル・ギュネスの体が花の大地に叩きつけられた。

 ●

「――わたくしに適うわけねぇだろ、でーすーわー」
 ドン・フリーダムは横たわるネグルの頭を踏みつけ、ぎりぎりと力を込める。

「が――――」
 みしり、と何かが砕ける感触、圧されていく頭蓋骨、中身までも。

「――――やめろテメェ!」
 ……虚空より現れたのは、マントを羽織った血まみれの工作員だった。
 電磁迷彩による透明化。おそらく、ずっとファントムの後部座席に乗っていたのだろう。

「やぁーっぱ側にいると思いましたわ」
 ネグル一人で、あの風を避ける戦闘軌道が出来たとは到底思えない。
 支援が合ったのだろう。ずっと側で分析と指示を続けて居たのだ。
 ヴィクティムも腕利きの猟兵ではあるが、こと近接戦闘においてはネグルのほうが上だろう。
 そして、ネグルを圧倒したドン・フリーダムに、敵う道理はない。

「これが仲間との連携、ですか。はぁーん」
 放たれた抜き手はあっさりと、ヴィクティムの腹を貫いて、血の花を咲かせた。

「ぐ、が――――っ」
「あら、機械細工だと思ったら、どうしてなかなか綺麗じゃないですの」
 けれどそれももう終わった。
 ぽいと端役を投げ捨てて、改めてネグルの頭を砕こうと足を持ち上げ。

「やめろって――――」
 弱い力が、その足首にすがるようにかかった。
 
「言ってんだろ――――!」
「ぁー、もういいですってばそういうの」
 邪魔だし。
 ドン・フリーダムの周囲に再び風が渦巻き始める。
 暴風で吹き飛ばし、そのまま花の足場を破壊して、ふたりとも纏めて虚空の穴にでも落としてやろう。
      、、、、、、、、、
「――――そう来ると思ったぜ」

 ●

 完全なる脱力。
 それが、ヴィクティムのユーベルコードの条件だ。
 しかし、事ここに来て実感する――ドン・フリーダムの持つ“圧”に。
 どれだけふざけた様に見えても、紛れもなくオブリビオン・フォーミュラである彼女は、向かい合った存在を否応なくその存在感で飲み込む――緊張を生む。
 緊張は硬直に繋がり、硬直とは即ち無駄な力みだ。

(あぁ、分の悪い賭けなのは分かってる)
 失敗すれば死ぬ、という純粋な恐怖。

(正直堪らなく怖ェよ)
 それでも、恐れは見せてやらない。
 端役の仕事は怯えることではない。
 立ち向かうことだ。
 あぁそうだ。

「勝負しようぜ、天災」
 ――生理的な反応で、身体がどうしても力むのならば。
  、、、、、
 死ねばいい。攻撃を受けて、生命活動を限りなく零に近づける。
 それこそが極限の脱力だ。だが。

 全ては勝利のための伏線だ。故に。
 ヴィクティム・ウィンターミュートは、口の端を釣り上げて笑う。

「テメェの風が最強のエネルギーを秘めてるんなら――――」
 元素を電子に変換。
 プログラム構築。
 ウィルス作成。
 散布。
 、、、、、、、、、、、、、、、
「その力にテメェが耐えられるかな?」
「!」
 ドン・フリーダムに、その時初めて“狼狽”というものがあった。
 身体がおかしい。言うことを聞かない。
 その症状を、具体的に把握できているのはヴィクティムだけだった――今、ドン・フリーダムの肉体は、急速に侵食するウィルスによって、細胞と細胞を結合する機能が失われようとしているのだった。

「ネグル!」
 叫びと同時。
 カ、と双眸を開いたネグル・ギュネスが、瞬時に起き上がり、折れた刀をドン・フリーダムの心臓目掛け突き刺した。
 強固であるはずの皮膚が、肉が、いまや倒れかけた身体でも食い込むほどに弱体化している。

「ドン・フリーダム、成敗――――!」
「――――――んふふふふふ」
 ……いや、いや、いや。
 ドン・フリーダムは終わらない。
 ネグルの手首を掴み上げ、握り潰す。まだだ、刃が浅い、届かない。

「それでも想像を超えねぇんですわ――――アンタ達風情じゃあ!」
 ドン・フリーダムの咆哮に。

「――――はっ」
「――――ふっ」
 二人の男が、同時に嘲笑った。
 その瞬間。
 一発の弾丸が飛来して、ドン・フリーダムに突き刺さった刀の柄を、杭打つ様に直撃した。

 ●

 鳴宮・匡(凪の海・f01612)は、ただじっと身を横たえながら、スコープ越しに戦いを見続けていた。
 ずっと見ていた。
 たった一度、訪れる瞬間の為に。

 最大倍率まで拡大した視界の中、心臓を穿たれたドン・フリーダムは。
 顔をゆっくりと起こし。
 こちらを見て。
 、、、、、、、
「見つけましたわ」

 そう言った。声は、ヴィクティムとネグルが持つ、通信機越しに聞こえた。

 ず、と腹部を軽く押す感覚。
 次いで、激しい熱と痛み。
 それは破壊されたバイクのパーツ、鉄パイプの一部が胴体を貫いている感覚。
 ドン・フリーダムのサイコキネシス――――いかなる手段を使ってか、SR・ファントムの残骸を操作し、転移させたのだった。

「か、はっ」
 内蔵を損傷した人間の生体的な反応として、鳴宮は吐血した。

 ●

「とぉーくから見てんのはわかってたんですわよねえ。ま、我慢できなくてもしゃーなしですわ」
 三人居る、とネグルが言ったことで、その予感は確信に変わっていた。
 不意打ち狙いの存在が居ることはわかっていた――後はそれをあぶり出せばいい。

「テメェ、なんで生きてやがる……」
「あぁん? 心臓なんて三つ四つ予備を備えておくのがとーぜんでございましょ」
 あっさり答えたドン・フリーダムは、ようやく大きな息を吐いた。
 ネグルとヴィクティムの動きは、明らかに何かを“待って”いた――――だからこそわざわざ殺さなかったのだ。
 狙撃手がどこかから見ているのならば、仲間の危機には必ず動く。
 何せ猟兵というのは、不思議と信頼しあい、助け合う、友情に厚い連中だ。
 見殺しになど出来ないだろう。見捨てることなど出来ないだろう。
 その瞬間、敵の位置が確定する。あとはどんな方法でも構わない、仕留めればいい。
 さて、今度こそ本当におしまいだ。
 念の為、この辺り一帯は猟兵ごと全て吹き飛ばして、安全なところで回復を待とう。
 そう思った矢先。

「――――あ?」
 “なにか”が、ドン・フリーダムの眉間を貫いた。
 少し遅れて、タァン、という聞き慣れた音が響いたが、仮面の向こう側の脳幹を貫かれた時点で、もうドン・フリーダムの耳にそれは聞こえていなかった。

 ●

 ドン・フリーダムが二つ、勘違いしていたことがある。
 鳴宮は、仲間を助けるために、とどめを刺すために撃ったのではない。

 鳴宮は『狙撃で仕留める。タイミングを作ってくれ』と頼み。
 ヴィクティムは『任せろ』と言った。

  、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 だから仕留められるタイミングが来るまでは絶対に撃たない。


 その弾丸は仲間を助ける為に放たれたのではない。そんな物は必要とされていない。
 生物が一番油断するのは、つまるところ、勝利した直後なのだ。

 、、 、、、、、、、、、、、
 故に、居場所を知らせるために撃った。
 、、、、、、、、、、
 わざわざ三人居ることを教えてまで。

 警戒していた狙撃手を仕留め。
 策を潰し、手段を奪い、敵を倒し終えたその瞬間。
 自らが生き残ったという、その安堵こそが、決定的な隙。
 ドン・フリーダムなら鳴宮の居場所を暴けば、瞬時に反撃に出るだろう。
 だが、ヴィクティムが仕込んだウィルスと、ネグルとの戦闘で消耗した身体では、即座に大規模な攻撃は出来ないはずだ。

 そしてもう一つの勘違いは。
 鳴宮・匡という男が。
 、、、、
 たかだか腹を貫かれた程度で、止まるわけがないということだ。

 八割方、ここで仕留められる、という瞬間もあった。
 もしあのタイミングで撃てていたら、二人がこれほど傷つくことはなかったかもしれない。
 傷つくとわかっていながら、見過ごした。
 確実に殺すために。
 間違いなく当てるために。
 二割で避けられる。
 或いは仕留め損なう。
 それでは、何の意味もない
 推定では足りない、確定だ。
 その前にトリガーを引くには、あいつらに対する侮辱に他ならない。
 その瞬間が来るまで。
 瞬間を、呼び寄せるまで。
 スコープの中で血を撒き散らかす二人の姿を見ながら。

 ――耐えた。
 ――――――耐えた。
 ――――――――――耐えた。

 だと言うのに。
  、、、、、、、、
 自分が死にかける程度の事で、どうして手を止められようか。

 ドン・フリーダムの認識には“他人”がない。
 だから、その感覚は、おそらく一生わからないだろう。

 自分が傷つく事よりも、誰かが傷つく事こそ許せない人間の存在など。

 、、、、
「確定した」
 死が。
 だから引き金を躊躇なく。
 イメージ通りに弾丸は放たれ、寸分足りとも狂わない弾道で空気を切り裂き、その亀裂に飛び込んだ。
 割れた仮面の向こう側にあったのは……まぁ、整った造形なのではないだろうか。よくわからないが。
 しかし――狂っている事はよくわかる。何故ならば、死を目前にした彼女の表情は、どこまでも楽しそうな笑顔だった。

「――――任務完了」
 ちょうてんさいの断末魔は、ここからじゃ聞けもしない。
 塵に変じ、躯の海に帰っていくドン・フリーダムから、スコープ越しの視界を外す。
 さて――――終わった瞬間、身体が“このままでは死ぬぞ”と警告を発し始めたが。

「……帰らないとな」
 絶対に死ぬ訳にはいかない、というほど生に執着しているわけでもないが。
 ただ、ここで死ぬ理由もない。
 どこかのハッキング馬鹿が、現実の傷をクラックしてくれるまで、とりあえずは、生きるためにあがいてみるとしよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アンネリーゼ・ディンドルフ

POW
「暑い日が続きますね。さて今日ご紹介する商品はこれです!」
アンネリーゼは徐にアイテムを取り出すと、声高に商品解説を始める

「この【ハンディエアコン】は、指に挟んで持てる程の超小型空調機器です。この1本で【冷暖房/除加湿/除菌/消臭】の機能があります。そしてなんと7色に光るんです」
「お値段1本1万円のところをなんと半額の5千円。今なら更にもう1本ついてお値段5千円。送料、手数料は無料です」

(エモくない?)

ドン・フリーダムの攻撃は【第六感/見切り】で回避を試みる

バリアが解けたら【たけのこドリル】を装着してUCを発動
ドン・フリーダムに接近し“食べてみる”
「砲撃は接近戦に弱いんですよ~❤」



☆+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+☆
      Direct Shopping
☆+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+☆

「暑い日が続きますね。さて今日ご紹介する商品はこれです!」
 アンネリーゼ・ディンドルフ(オブリビオン料理研究所の団長・f15093)が徐に商品を取り出すのを、最後に残りし未来のドン・フリーダムは神妙な面持ちで眺めていた。

「この【ハンディエアコン】は、指に挟んで持てる程の超小型空調機器です」
「ふむふむ」

「これ一本で【冷暖房/除加湿/除菌/消臭】の機能があります」
「なるほど」

「そしてなんと! 7色に光るんです!」
「まあ、七色に!」

「お値段1本1万円のところをなんと半額の5千円」
「あら、お得ですわね!」

「今なら更にもう1本ついてお値段5千円。送料、手数料は無料です」
「ええっ! ってことは事実上二倍じゃありませんの!」

「さあ、いかがでしょう、エモくないですか」
「え……別に」






「……えっ」
「いやだって、コンコンコンであらゆるモノを無から生み出そうという、ましてあらゆるマシンを想像し創造できるこのわたくしに対して、既存の物品のプレゼンは何の意味がありまして?」

「……………………………あっ」
「はいどーーーーーーーーーーーーーーーーん!」
 無慈悲な赤べこキャノンがアンネリーゼを吹き飛ばした。
 さらばハンディエアコン。
 さらばおすすめ商品。
 個人的には悪くないかと思うがちょっと相手が悪かった。

「…………いや、結構いいかもしれませんわねこれ」
 ぶおおおおおお、と音を立てるスティック状エアコンを拾い上げ、ドン・フリーダムはしばしその機能の解析に勤しんだ。

失敗 🔴​🔴​🔴​

アリス・フォーサイス
欲望は止めなくていいんだね?じゃあ、ぼくの、キミを倒してキマイラヒューチャーを元に戻すっていう、ハッピーエンドを食べたいって欲望も止める必要ないよね。

グッドナイスブレイヴァーで複数のドローンを飛ばし、死角がないように配置するよ。

それでも発生する死角があるね。それは地中の中だ。
地中から攻撃しようとすれば、当然、地中の抵抗を受ける、そしてその振動は伝わってくるんだ。わかってれば、避けられるよ。
さらに念には念を入れて、地中の振動を計測し、振動を計測したらその軌道を予測し、ジェット噴射でよけるバックパックも装着しておくよ。

避けられたら、全力魔法で氷漬けにするよ。キミの氷像はきっと絵になるだろうね。



☆+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+☆
    Freedom Eating Fighting
☆+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+☆

 バトルオブフラワーズ。
 それはキマイラフューチャーにおける今後の未来を担う戦いだ。
 だから当然、注目度はナンバー1。

「やっべマジやっべ」
「すっごい猟兵すっごい」
「ドンブリもすごい」
「ドンブリて」
 キマイラ達がハラハラしながら見守るのは、一つの戦場の様子だった。
 球体関節を持つ、ちみっとした、文字通り人形のような少女。
 アリス・フォーサイス(好奇心豊かな情報妖精・f01022)の様子を映し出したドローンの映像だった。

「次ドンブリ来るんじゃないかな」
「ドンブリ来るよドンブリ」
「アリスちゃん逃げてー逃げてー」
「あー来る来る来る来る!」
「逃げてーーーーーー!」
 視聴者達からすれば、それはホラー映画を見ているにも等しい。
 なにせドン・フリーダムは――――必ず先手を取ってくるのだから。
 アリスが、また一歩踏み出すと同時、周囲の花弁が一斉に盛り上がった。

「「「ああああ~~~~~~~~~~~!!!」」」
 足場を食い破るように、巨大なトラバサミを模した機械が出現し、即座にガチンと食い合って、その上にある物全てを食いちぎった。


 ●

「さーてさて、獲物はかかったですわかしらーっと」
 勿論、そんなものを仕掛けるのは一人しかいない。
 オブリビオン・フォーミュラ、ドン・フリーダムその人である。

 ここに居た猟兵は、ドローンを展開することで、常に動画配信を行うことで死角を廃する作戦をとっていたらしい。
 、、、、、、、
 だったら下から攻めてやれば良い。
 光源を消滅させて暗闇を作り出すなり、電波障害を起こしてドローンを機能不全にする事も考えたがそれはそれ。
 ドン・フリーダムもまたエンターテイナーである。視聴者がいるのであれば、それなりの見せ場を作らねばならない。
 自分が視聴者だったとして、映像がぶつんと途切れてオシマイ、ではあまりに面白くない、それは美学に反する。
 とは言え。

「グッチャグチャになっちゃったら放送禁止ですかしら。まあそれもいいねってことで」
 さてさて中身を確認しようかな、と近寄ったところで。


「甘い甘い、当然、お見通しさ」

   、
 声が上から聞こえてきて。

「な、なんですってぇ~!?」
 ドン・フリーダムが視線を向けるのとほぼ同時、強烈な吹雪がその全身を包み込んだ。

 ●

「い、今なにがあった!?」
 視聴者キマイラとしてはそれどころではない。
 なにせ彼らからすれば、アリスは喰われたようにしか見えなかったからだ。

「なんて速度だ……俺じゃなきゃ見逃しちゃうね」
「お、お前はベテランキマイラ、どういうことだ!」
「スロー再生で見てみろ、あのアリスちゃんの行動を!」
 ドローンが映し出す動画が、空気を読んで再現を行う。
 トラバサミが発動したその瞬間、周囲の花びらが電子分解され、光がアリスの背に集まっていく。
 形成されるのは背負うタイプのジェットパックだ。
   ア ナ ロ ジ ー メ タ モ ル フ ォ ー ゼ
 《類推的手法による物質変換》によって、周囲の花弁を装備に変換したのである!
 勢いよく燃料を射出し吹上げ、アリスの身体は宙に上昇!
 その速度があまりに速かったため、視聴者からはまるで喰われてしまったように見えたのだった!

「「「あ、アリスすっげーーーー!!!」」」
 そして上空に飛んだアリスはそのまま――――。

 ●

 ファンタジーめいたロッド――に見せかけた高度情報端末は、周辺物質の組成を変換し別の物質に組み替える。
 これをとある世界では“魔法”と呼び、バーチャルキャラクターたるアリス・フォーサイスはこれを自由に使いこなす。
 吹雪に打ち据えられたドン・フリーダムの体は、端々から凍りついてゆく。

「キミの氷像はきっと絵になると思ったけど……」
 すとん、と着地したアリスは、うーん、と首を傾げながら、氷像となったドン・フリーダムを眺め。

「間抜けだなあ……」
 何せ両足をガバッと開いてびっくりしたポーズで固まっているのだから面白くない。
 全世界にこの動画が中継されてるのはもうかなり酷い有様なのではないだろうか。

「どうしよっかな、砕いちゃったほうがいいのかな?」
 若干絵面はやばいことになるかも知れないが、オブリビオンの親玉だ、それぐらいしないと駄目だろう。


「――いやいや、そりゃあ困りますわね」


「!」
 表面に、ビシビシと罅が入った。
 なにか身構える前に、バリンと音を立てて、間抜けな女の氷像は、威圧と畏怖を兼ね備えた化物へと変じる。

「まだコンコンコンも完成してないですし――あぁ、楽にしてていいですわ。次のマシンを考えてるところなので」
 眼前にアリスを見ながら、ドン・フリーダムはひらひらと手を振った。

「にしてもわかりませんわねえ、キマイラのみなさーん?」
 アリスを撮影するドローン越しに、ドン・フリーダムは声を上げる。

「理想のコンコンコン、欲しくありませんの? 何でも望み、叶えたくありませんの? 応援するならわたくしじゃなくて?」
 返事はない。当然だ、配信は一方通行、向こうからこっちには届かない。

「あなたもそうですわ。如何です。見た所、好き放題やるタイプな感じですけれども。コンコンコン、必要じゃないですの?」
 問われ、アリスはふうと――生物としてそれは必要ではないけれど、感情表現のバリエーションとして――ため息を吐いた。
 、、、、
「食べたいんだよ」
「――は?」
「だから、食べたいんだよ。お話が好きなんだ。物語が好きなんだ。そのストーリーが最後を迎えた時に、それを食べるのが大好きなんだ」
 情報生命体であるがゆえの食性。
 あらゆる生物が欲するモノ。
  、、、、、、
 満たされたいと思う願望。

「ドン・フリーダム。言ったよね」
 そう、本人が、世界に向けて口走ったのだ。

「欲望は止めなくていいんだよね?」
 アリス・フォーサイスは、今、満たされていない。

「じゃあ、ぼくの、キミを倒してキマイラヒューチャーを元に戻すっていう」
 是非食べてみたい。世界を救った時の味。

「ハッピーエンドを食べたいって欲望も止める必要ないよね」
 それが彼女の行動原理――――即ち“欲望”だ。

 笑う、笑う。ドン・フリーダムは笑う。
 ただひたすらに高笑う。
 全く新人類は不甲斐ないと思っていたが!
 ここまで己の欲望に忠実な化物が、ちゃんと育っているだなんて!

「成程! 確かに! そりゃあわたくしとは相容れない! そしてその欲望は実に“いいね”ですわ! それじゃあ――――」
 氷と、機械がぶつかりあう。

「――――どっちの欲望が強いか、比べあいと行きましょう!」

 ●

 キマイラ達は見た。アリスとドン・フリーダムの戦いを。
 そして考える。欲望とは、願望とは。
 コンコンコンが叶えてくれるものとは。

「――いや、でもさ」
 誰かが言った。

「コンコンコンが完成したら、きっとこんな戦い見れないよね」
 それは、すごく残念で、寂しいことだ。
 その場にいるキマイラ達の考えは、奇しくも一つにまとまっていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

アムレイド・スヴェントヴィット
【架華】◯
POW
「エモいとは一体なんだ……!?」

◆行動
彼にはエモがわからぬ
何故バリアが破れぬのか
為す術なく崩折れるだけなのか……

差し伸べられる嫋やかな指に、金の双眸を見開いて答える
「アムレイド・スヴェントヴィット……」

もはや恐れはない
少女の手引きは正に僥倖
……もしや、これがエモいのでは?
ならば救われた身としてーー彼女を守ってみせましょう!

一角獣の背に跨り彼女と挟撃
その背を渡り、時にワイヤーを操り回避を狙う
マリアが狙われぬ様可能なら庇いに向かう
「少女に傷を負わすなど、私の矜持が許さない」

彼女の号令と共に駆ける一角獣に合わせ【クラタエグス・エヴァンジェ】
「彼女と我が名に依りて、貴方を浄化します!」


マリアドール・シュシュ
【架華】

SPD

高速詠唱で【華水晶の宴】使用
33体の一角獣召喚
3体合体させ背に乗る
5体合体させアムレイドが苦戦し敵の攻撃をモロに食らいそうな時に颯爽と救う

騎士様、お怪我はなくて?(軽く自己紹介
マリアのお友達が間に合って良かったのよ
このままどうかマリアと一緒に戦って頂戴、アムレイド(一角獣の角を柔く突く。同じ志持つ者同士必ず敵を穿つと意思を強くし

一つの足場に長く滞在せず、連携取り常に動く
竪琴構えマヒ攻撃付与し楽器演奏
敵の攻撃は風音の誘導弾でカウンター

一角獣10体で挟撃し派手に動き撹乱
隙を作りアムレイドと同時に演奏攻撃
9体合体させ角で強烈な攻撃
各3体ずつ二人を護衛

あなたの野望はマリア達が打ち砕くわ



☆+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+☆
     騎士の名は
☆+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+☆

「ぐわああああああああああああああああっ!」
 赤べこキャノンの一撃が、アムレイド・スヴェントヴィット(断裂者・f14644)の身体を吹き飛ばす。
 花の足場に抱かれることで、かろうじて死は免れたが、爆発の衝撃と熱傷のダメージは如何ともし難い。

「意気揚々と挑んできた割には、大した事ありませんわねえ」
 攻撃を放ったドン・フリーダムは、その有様を見下ろしながら、退屈そうに告げた。

「黙れ……ドン・フリーダム!」
 それでもなお、アムレイドは起き上がった。銀の剣を抜き放ち、裸身の女に向けて振りかぶる。
 剣閃も、構えも、太刀筋も、間違いなく一流のそれ、獲物も、黒竜の牙から削り出された最上質のものだ。
 それでも、このオブリビオン・フォーミュラを傷つけるには至らない。
 何故なら――――。

「まぁーったくエモが足りてねぇー、ですわ」
「ぐうっ!」
 ドン・フリーダムの身体に刃が触れる前に、展開された絶対無敵バリアがその一撃を完膚なきまでに無効化する。
 この女の感情を揺さぶらない限り、アムレイドがどう戦おうと、決して傷を負わせることは出来ないのだ。
 だと言うのに。

「エモいとは、一体なんだ……!?」
 そう……男には、エモという概念がよくわからなかったのだ。

 考えてみよう。
 そもそもエモいってどんな概念だろうか?
 言葉で説明できるだろうか?
 エモーショナル。
 じゃあそれをどうすれば表現できるのだろうか。 
 ていうかそんなんで本当に破れるのだろうかバリア。

「それでオシマイならそれで良いですわ。それじゃサヨナラサヨナラ」
 ドン・フリーダムに躊躇はない。
 次の一撃には耐えられまい。戦いは敗北で終わり、この世界の危機は続くだろう。

「く――――!」
 無念だ、あまりに無念だ。
 この敵に一矢報いる事すら出来ぬとは! 
 エモとは! エモとは一体なんなのだ!
 彼が答えに辿り着く前に――――

「はいどーん」
 十分にチャージされた赤べこキャノンが放たれた。
 爆風がすべてを飲み込み、戦いは執着した。

 ●

「…………?」
 ――はずだった。
 しかし、アムレイドは生きていた。
 身構えていた、予測できる致死の一撃は彼に至らなかった。
 何故か。

 ……彼の前に、水晶の体を持つ巨大な幻獣が立ちはだかっていたからだった。

 炎の赤を反射し、仄かに光る有様は、ある種幻想的で。
 だが、アムレイドが目を奪われたのは、そんなものではなかった。

 華水晶の姫君が、ユニコーンを背に立っていた。
 先端にゆけばゆく程、豊かな色彩を描きだす、緩やかな波を描く髪の毛。
 磨き上げた琥珀を思わる黄金の双眸。
 世界に対する慈愛を示すように、その口端は柔らかく笑みの弓を形作る。
 ……姫君、即ちマリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)は告げた。

「騎士様、お怪我はなくて?」
 透き通った水晶同士が触れ合った時に鳴る様な、耳障りの良い声だった。

「マリアのお友達が間に合って良かったのよ――お名前は?」
 問われて、名乗らぬ理由がなかった。
 この場に彼女が現れたのは、何かしらが導いた運命か。

「アムレイド・スヴェントヴィット……」
「アムレイド。敵は強く、そして苦戦は免れないかも知れませんの。けれど、貴方にその志があるのなら」
 姫君は、細く柔らかな指を騎士に差し向けた。その手を取れば、もう引き返すことは出来ない。

「このままどうかマリアと一緒に戦って頂戴」
「―――今この時、私は貴女に救われた身」
 言葉を発した直後。
 アムレイドは一歩前へ踏み出し、マリアドールの肩を抱いて、己の後方へと押しやった。
 ほぼ同時、二人を守っていた、巨大な水晶のユニコーンが、融解しながら砕け、溶け、崩れ落ちていく。
 ドン・フリーダムによる、赤べこキャノンの第三波が放たれたのだった――――だが。

「ならばこそ――――貴女を守ってみせましょう! 一人の騎士として!」
 一閃は、ユニコーンを破壊し、なお迫る砲弾を真っ二つに切り裂いた。
 二人を避けるように飛翔したそれは、遥か遠くの花の足場を吹き飛ばし、塵へと変じる。

「頼もしい騎士さまね? アムレイド」
「貴女が与えてくれた力です、マリア」
 何より。

「少女に傷を負わすなど、私の矜持が許さない」
 騎士もまた、金の色を瞳に持つ者だ。
 双眸は、もはや刃の届く敵となった女を見据える。

「は――――――なんですのそれは」
 ぱりん、と音が響いて、絶対無敵バリアが砕け散った。

「騎士と姫の誓いの瞬間――エッモエモですわぁ!」
 さりとて攻撃は止まない。
 ドン・フリーダムを中心に暴風が吹き荒れ、二人に向かって襲いかかった。

 ●

 現時点のマリアが作り出せる水晶のユニコーンは、総数にして三十三。
 マリアとアムレイド、それぞれを背に乗せるのは三体合体の瞬馬だ。
 速力と跳躍力で、ドン・フリーダムの暴風を切り抜ける。
 無論、無傷ではすまない。風は確実に水晶の身体を削る。
 長くは保たない――――故に。

「皆――お願いしますのよ、勝利への道を、マリアに作って!」
 声に応じ、ユニコーン達が動き出す。
 十体が駆け出し、ドン・フリーダムを撹乱するべく動く――が。

「あっはー、あそこまで盛り上げておいてしもべ任せなんてつまらないでしょう! 自分で来たほうがいいんじゃないでーすーわー?」
 ドン・フリーダムを中心として巻き起こる暴風が、一撃でそれら全てをクリスタル・ダストへと変えてしまった。

「っ」
 少なくとも単体では足止めにすらならないらしい。
 自由に動かせる個体は、残り十二体。

「ご安心を、マリア」
 動揺を見取ったのか、並走するアムレイドが静かに告げる。

「必ず私が道を作ります」
「わかったわ――――信じるのよ」
 気持ちは一つだ。この敵を、倒す。

 ●

「ドン・フリーダム!」
 フェルニゲシュの浄牙を構え、一人突出するアムレイドに――――。

「やる気満々じゃあねえですわ! 好みですわよ!」
 ぶっ放される赤べこキャノン。威力は絶大、しかし。

「はっ!」
 手元のワイヤーを繰り、ユニコーンの背を飛び降りる。
 砲塔の直撃を受けて砕け散るユニコーン、だがその時にはもう、次の個体の上に着地している。

「今度は曲芸ですの! 器用ですわねえ!」
「貴様は一辺倒だな!」
「あら、こういう事もできましてよ」
 ならば、と吹き荒れる暴風。

「マリアが、させませんのよ!」
 騎乗したまま、マリアが奏でるハープの旋律は、完全とは言わぬまでも、アムレイドを襲う風を相殺する。
 同時に――――。

「ふうん……音に仕掛けがあるんですのね」
 わずかにドン・フリーダムの動きが鈍る。耳にしたものを強制的に縫い止める、特別な音色。

「ま、それもまた“いいね”ですわ。どうせわたくしには」
 遂に刃が届く…………はずだった。

「く…………ドン・フリーダム、貴様!」
「敵いませんわよ、夢見ちゃってますの?」
 ユニコーンの速度と剣速を乗せた一撃を、白刃取りで受け止める。
 何という反応速度、何という怪力、その華奢な腕の何処にそんな力が存在するのか。

「それじゃあ騎士様、さようなら」
「まだだ…………っ!」
 剣を手放し、懐からサンザシの小枝を取り出す。
 触れたものに浄化の光を浴びせる、アムレイドの必殺の一撃。
 だが。

「はい、どーん」
 虚空より現れた赤べこキャノンの一撃が、それより速く放たれた。
 三体合体のユニコーンは、一瞬だけ形を保ったものの、すぐさま溶解し。

「がっ…………」
 衝撃が貫通し、今度こそアムレイドを捉え、直撃した。
 爆炎が舞う、黒煙が上がる。


 ――――――その向こうから。


「お願い、一角獣さん!」
 残り全ての個体を費やした、最強の一角獣が姿を現した。
 角を向けて、その先端をドン・フリーダム向けて、突き刺す為に!

「はっ、一手遅かったみたいですわねえ――――――!」
 ドン・フリーダムは躊躇わず、二射目を放った。
 水晶の身体に砲弾が食い込み、ねじれ、熱が伝播し、衝撃が飲み込み、爆発する。
 これで粉々だ――――とドン・フリーダムは嘲笑い。

「いいえ……間に合ったのよ!」
 その余裕を、マリアの声がかき消した。

「な――――」
 五体合体のユニコーンは、アムレイドをかばう時、ドン・フリーダムの攻撃を一度耐えて見せた。
 ならば――残りの個体を全て合体させたこの子なら。

「――――何ぃ!?」
 一撃は、必ず耐えられる計算だ。
 首元に大穴を穿たれ、溶解しかけていても、なおユニコーンは止まらなかった。

「――――ちぃ、ですがこの程度――――」
 ここまで追い詰められてなお。
 ドン・フリーダムには余裕があった。仮にこれを喰らったとしても、もう一撃ぶち当ててやれば破壊できる。
 そうすれば、もう彼らを守るユニコーンは消える――そう思っていた。

 だが。

「一つ、いいことを教えてあげましょう」
 既に始末したはずの騎士が、姫に抱き起こされながら、しかし口の端を釣り上げ告げる。

「私が狙ったのは、貴女では、ない」
 くるくると。
 空から、小さな小さな木の枝が落ちてきた。
 それは、アムレイドがドン・フリーダムではなく。
 あえて上に放った、サンザシの小枝。

「…………彼女と我が名に依りて、貴女を浄化します! ドン・フリーダム!」
 こつん、とそ触れたのは、今まさにドン・フリーダムに迫る、マリアの守護獣。水晶のユニコーン。
 アムレイドの《クラタエグス・エヴァンジェ》が生み出す浄化の光を、ユニコーンはその体に受け入れた。
 体内で反射し、増幅し、圧縮された力の塊は、一際鋭く磨かれた角の先端へと収束する。

「言ったはずなのよ――――」
 楽隊を統率する指揮者を取るように。
 マリアが片腕を掲げ、ついと指を振るった。
 騎士と姫の力が、今ひとつに合わさった。
 その力は、もはや想像もつかぬ領域へと至る。

「あなたの野望はマリア達が打ち砕くわ、って!」
 ドン・フリーダムの胸を貫通するように、一撃が突き立った。

 ●

「あははははははははは!」
 コレは予想外だった。
 コレは想定外だった。
 成程、騎士と姫、素晴らしい組み合わせ。

「エモーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
 絶叫と共に、光がドン・フリーダムの身体を駆け巡り、内側から爆ぜた。
 最後に彼女が残した言葉は、二人の関係性を讃える、辞書にまだない慣用句だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 ●

 己の時間軸を過去・現在・未来に分割したドン・フリーダムは、その全てを打倒された。
 だが。
 幾度となく躯の海から蘇り出るのがオブリビオンだ。
 そして、ドン・フリーダムはその首魁である。

「――――ぁー…………」
 ただし、その出現は通常の蘇生とは異なるようだった。

 胸に大穴。
 凍てついた身体。 
 へし折れた足。 
 ひび割れた仮面。

 全ての時間軸で体験した戦いと滅びのすべてを、この体は記憶していた。

「変なことしちまいましたか……ま、それも“いいね”ですわ」
 生きているのならば、すべきことをなすだけだ。
 ぱちんと指を鳴らすと、みずみずしい皮膚が身体を覆った。
 見た目復活、というやつだ。

「さぁーって……次はどんな猟兵がくるやら」
 もうエモは十分だ。
 知恵比べにも飽きてきた。
 遊びはとっとと終わりにして。
 さっさと瞬殺してしまおう。
黒川・闇慈


「自称超天才ですか……天才となんとかは紙一重と申しますが、あなたはどちらなのでしょうねえ。クックック」

【行動】
wizで対抗です。
今回使用するUCは死霊を使役するもの。弱点は明白ですね。聖なるエネルギーやそれに類するもので死霊を昇天・成仏させられることです。
故に今回の作戦は「ダミーがしゃどくろ作戦」です。私の死霊術でごく少量の死霊を用いたガワだけ立派ながしゃどくろを召喚し、呪爪で殴りかかるフリをします。
ドン・フリーダムがダミーを無力化した直後の隙を突き、呪詛、高速詠唱、全力魔法の技能で迅速に本物のがしゃどくろを召喚、呪力砲撃で速攻をかけましょう。



☆+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+☆
  DEAD END APPROACH
☆+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+☆

「自称超天才ですか……天才となんとかは紙一重と申しますが、あなたはどちらなのでしょうねえ」
 クックック、と嫌な笑みを浮かべる黒川・闇慈(魔術の探求者・f00672)に、ドン・フリーダムは呆れた様子で肩をすくめた。

「天才とはその紙を作るもの。天災とはその紙を破くもの。即ちこれ、法則の外にある存在という奴ですわ」
「その割には随分とボロボロのように見えますがねえ?」
「………………」
 身長よりもなお高い、黒十字を背から下ろし、闇慈はにたにたと細目でその裸身を観察した。
 一見、傷一つないように見えるが。
 歩幅、言葉、所作、全てに威圧感がない。
 壊れないように気を使いながら歩いている、継ぎ接ぎ細工の人形のようなものだ。

「今の貴女なら安易に倒せそうだ。美味しい所だけを頂いていくとしましょう。何、ちょうてんさいとやらのサンプルはしかと活かして差し上げますのでどうかご心配なく」
「もう勝った気でいやがりますの?」
「私とその状態で相対した時点で負けなんですよ貴女は」
 おいでなさい、と囁いて、右手の手袋を外す。
 その人差し指にはめられた、指輪の宝石が――――どす黒く染まり、一滴の雫が滲み出て、滴り落ちる。
 ぽた、と花の足場を濡らしたそれは、一瞬で広がり、深く巨大な闇の沼を作り上げ。

 オォォォォォオオォォォォォォォオオオオ…………!

 慟哭の叫びを上げながら、“それ”が姿を表した。
 肉のない白骨の腕が、現世へと侵食する。その大きさは有に十メートルを超える。
 生者を憎む怨嗟の念によって形作られた、巨大ながしゃどくろ。

「怨敵呪殺、皆敵鏖殺、急急如律令――――」
 闇慈の唱える呪言によって与えられた命令を、がしゃどくろは速やかに実行する。
 中身のない口腔に、圧縮された呪力が溜まっていく。これを砲として打ち出す事で――――。

「タッパだけでわたくしに勝とうってんなら百年はえーですわよ」
 ぱちん、と指が鳴る。ドン・フリーダムのスナップと共に、その胸から莫大な光が零れ出た。

 ●

「! なんですかそれは!」
「先ほどエモな騎士と姫にぶっこまれた“浄化の光”ですわ。八つ当たり気味にくれてやりますわごきげんよう」
 体内で、なお荒れ狂うエネルギーを取り出し、束ね、解き放つ。
 がしゃどくろ――即ち負の感情の集合体に、浄化の光は天敵だろう。 
 ついでに余計なものを片付けられて一石二鳥だ。ああさようなら猟兵、永遠に。

「馬鹿な馬鹿な馬鹿な! ありえない! そんな馬鹿な!」
 闇慈が叫ぶその間にも、光を浴びたがしゃどくろは、瞬く間に塵になっていく。

「なんてことだ、そんな――――こんな! こんな――――――」
 油断も余裕も、強者が持ち合わせて初めて意味のあるものだと言うのに。
 たかだか猟兵一人ごときが、このドン・フリーダムを前に何ができると思っていたのだろう。
 狼狽するその姿を、退屈そうに見据えながら……さっさと本体にとどめを刺すべく、一歩を踏み出した。
 でかいだけで勝てると思ってるのなら本気で拍子抜けだが、それ以上にここまで狼狽えるなど、全くもってエモくない。

「こんな、こんな、こんな――――――――あっさり引っかかるだなんてねぇ?」

 ●

 ――――にたりと、底意地の悪い笑みを浮かべ、闇慈はその手で十字を切った。
 直後、ドン・フリーダムの背後から、がしゃどくろが出現した――――今度は、“ハリボテ”ではない。
 そう、ハリボテだ。
 最初に召喚したがしゃどくろは単なる見掛け倒し、ガワだけ整えた紛い物だ。
 そりゃあ、すぐさま塵に還りもするだろう。本命は最初から仕込んであったのだ。
 がしゃどくろの白骨の五指が背後からドン・フリーダムを貫き、口腔から吐き出された怨念の塊が全身を焼く。
 防御が間に合うわけもなかった、仮面の向こうで血を吐き出したドン・フリーダムを、今度は闇慈が目を細めて見据えた。

「……本当に本調子でないようですねえ。別段、私が特筆して貴女と相性が良いというわけでもないでしょうに」
 まぁ楽でよかったですがね、と。
 がしゃどくろに蹂躙されゆくドン・フリーダムを見ながら、闇慈はつぶやいた。

「…………きひ」
「?」
「きひひひひひ……そーいや、昔っからそうでしたわね」
「……なんです? 突然」
「わたくしは対して気にしてませんでしたが……えぇ、だってちょうてんさいのわたくしにとって他者の意見などどうでも良いですもの。ですがかならずいるのですわ。わたくしの行く道を阻もうとする者が」
「…………」
「わたくしにはわかっている、わたくしには見えている。わたくしに従えばすべてが手に入る! ……なのにどうして? それだけがわかりませんわ」
 ジ、ジ、ジ、と。
 貫かれた身体の穴から、火花が散り始めた。

「はぁ、どうしてもこうしても」
 対する闇慈は、あぁきっとなにかするつもりなのだろうなと思い、さり気なく一歩引いてから、眉をしかめて告げた。
  、、、、、、、、、、、
「他人から与えられるモノなんぞ何の興味もありませんので」
 自ら学び、自ら知り、自ら解き明かし、自ら構築した魔術にこそ、意味があり、価値がある。
 探究心と自己研究、己の興味に対し突き進む存在が故の答えは極めてシンプルだった。

「私はこの世界の未来なんてどうなっても構いませんがね」
 光が強くなっていく――――――。

「研究の材料がなくなるのはごめんなんですよ、それだけです。大層な理由なんてありません」
 果たしてその答えを、彼女は聞いていたのだろうか。

「私の欲望の邪魔なので、さっさと消えて下さい」
「――――――きひっ!」
 ドン・フリーダムの体が、内側から弾けるように、まばゆい光を伴って爆発した。

 ●

「――――逃げましたかね」
 闇慈は傷を負わなかったものの、盾になったがしゃどくろは、今度こそ完全に破壊されてしまった。
 ……まぁ、あれはもう放っておいても消滅するだろう。役割は終えたと思っていいようだ。

「やれやれ、まぁ私にとっては」
 本当にどうでも良いのだが。

「さようならドン・フリーダム。貴女の理想は実につまらなかった」
 答えだけが手に入る世界。
 理想だけが手に入る世界。
 ああ。
 、、、、、、、、
 なんてつまらない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夕凪・悠那

完全なコンコンコンは正直ちょっと欲しい
欲しいんだけどさ……
それが無害だって信じられるわけないだろ
存在が胡散臭いんだよお前

対先制攻撃
『仮想具現化』で[空中戦]可能な鳥を具現化
その背に飛び乗り空に逃げて躱す
暴風の直接攻撃も、バラバラになって舞う花弁が風の流れを[見切る]のを助けてくれるはず

第一波を凌いだら【英雄転身】
選ぶのは自力で飛べるタイプの魔法使い……っていうか魔法少女
鳥を離脱させて、空中戦を維持しながら砲撃戦を展開するよ
雷[属性攻撃]の[誘導弾]を撃ち込みながら、[全力魔法]砲撃を叩き込むタイミングを見計らう

――ああ、ところでさ
さっきの鳥……消したなんて言ってないよね(回り込ませて不意打ち



☆+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+☆
  After Festival& END GAME
☆+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+☆

 正直な所。
 完全なコンコンコンは正直ちょっと欲しい。
 むしろ、心惹かれないほうがおかしいのだ。
 欲しいものは努力で手にするべきだの、自分だけのなにかだの、綺麗事を並べ立てるのは、結局自らそれを手にした者達の意見だ。

 努力しても何もつかめなかったり。
 努力することすら出来ない、ただの人間たちにとって、それがどれだけ高いハードルだろう。

「欲しいんだけどさ……」
 夕凪・悠那(電脳魔・f08384)は、朽ち行く今回の戦争の首謀者に、吐き捨てるように言った。

「それが無害だって信じられるわけないだろ」

 ●

 全身が塵になっていく。間もなく、このドン・フリーダムは、今度こそ完全に消える。
 何処かで蘇るドン・フリーダムは、また同一の別人だろう。あるいは、この死が、最後になるかも知れない。
 結局の所、どうなるかはわかったものではないが、ここが終焉の一つであることは間違いなく。

「トンデモな世界の、ハチャメチャな人類だけど、こっちのゲームで遊ぶのは結構好きなんだ。誑かすのは止めてよね」
 完成したコンコンコンは、あらゆる望みを叶えてくれる。あらゆる欲望を叶えてくれる。
 それは即ち、“他人を必要としなくなること”にほかならない。
 他者と共感できない、たった一人の異端児、ちょうてんさいのドン・フリーダムの様に。
 ――或いは、誰もを“ドン・フリーダムにしてしまう”モノこそが、完成したコンコンコンの正体なのかもしれない。

 そして――――その欲望に溺れ、狂い、壊れ、滅びていった者達の事を、怪人、と呼ぶのだろう。

「…………きひひ、あーぁ、小娘に説教されるようになったらわたくしもおしまいでございますわね」
「とっくにおしまいだよ、そんなボロボロで」
「ハァー、わかってねぇですわねぇ、この状況からでも巻き返せるからこその――――」
 不意に。
 倒れ伏したドン・フリーダムを中心に、風が巻き上がり始めた。
 徐々に、徐々に、徐々に徐々に、勢いが強くなっていく。微風は強風に、強風は暴風に、暴風は嵐となって、システム・フラワーズの全てを飲み込んでいく。

「超天災、でございますわ」
 空気の塊が爆発する。
 ――飛び退くのが遅ければ、飲み込まれていた。

「あ、そう――――どこまでもやる気だってんなら」
 大きな大きな鳥だった。とあるファンタジーゲームで、主人公達が世界を巡るのに使う、伝説に生きる白き神鳥。
 電子の世界から現実に出力されたその個体は、悠那を掴んで疾く飛び上がった。
 暴風圏から高速で遠ざかりながら、その中央で崩壊する身体をなお酷使するオブリビオンの姿を見据え。

「相手してあげるよ、ラスボス退治だ、ドン・フリーダム」

 ●

 ぱ、っと神鳥から手を離した時には、既に変化は完了している。
 悠那の意匠はUDCアースの近代的なそれから、ファンシーなフリル多目のドレスに変わっていた。
      ロールプレイ・ヒーロー
 即ち《 英 雄 転 身 》。箒にまたがり空を駆ける、ゲームキャラクターの力を己に宿すユーベルコード。

「弾幕ゲーは、得意?」
 自機の周囲に展開する、収束した無数の雷が、一斉に轟音を立てて、風の中に飛び込んだ。

「あははははははは! どんなゲームも初見ノーミスノーボムパーフェクトクリアの連射王がこのドン・フリーダムですわ!」
「だったら避けきってみなよ――――高難易度だけどさ!」
 残弾など気にしない、一気呵成に畳み掛ける。
 ドン・フリーダムに向かう雷の弾丸は、いかなるギミックなのか、風によって逸らされ、直撃しない。
 そうしている間にも、どんどん暴風の効果圏内は広がっていく。巻き込まれたら、ひとたまりもない。

「楽しい追いかけっこを続けましょうかぁお嬢ちゃん! だんだんテンション上がってきましたわぁー!」
「その体でよくそこまで好き勝手言えるね!」
「いかなる時でも自由! オール・フォー・フリーダム! 自由こそが、この世の全てなのです! それがわたくし、ドン・フリーダム!」
「あ、そう――――だったらもういいでしょ」
「はい?」
「自由に生きすぎたんだよ、過去の亡霊はもう寝る時間だ」
「は――――偉そうにほっざきやがりますけど、全然弾は届いてなくてよ?」
 ドン・フリーダムの言う通り。
 暴風の壁は思った以上に強く。
 悠那の雷の弾丸は決定打にならない。数を撃ち続ければいずれ当たるだろうが、その前にコチラが風に飲み込まれる。
 あれだけ傷ついていても、なおこれだけの力を出せる、さすがとしか言いようがない。
 けれど。

「――――別に弾を当てるのを狙ってるわけじゃないから」
「…………あん?」
「一度攻略したボスも、対処法は復習するタイプなんだよね。あなたのユーベルコードはウィンドゼファーとおんなじだ」
 私が対処したのとは違うけど、と付け加えて。

「台風の目がある。真ん中だけは凪いでる」
 それは他の猟兵もドン・フリーダムに指摘したことだ。それで“過去”のドン・フリーダムは敗北したのだから。

「―――ところでさ、さっきの鳥……消したなんて言ってないよね」
 はっと気づいて、ドン・フリーダムが上を見上げたときには遅かった。
 高高度からの急降下。白い身体を一直線に、神鳥が空から降る。

  バードストライク
 《神鳥の裁き》。

 それはあたかも、天から降り注ぐ、罰の様に。

「が――――――――!」
 その一撃は、崩壊しかけていたドン・フリーダムへのとどめとして、十二分の威力を備えていた。
 取り繕っていた身体がほころび、四肢が砕け散り、胸の風穴から光がふきあげ、まるで逆再生のように、風が内側へとうずまき始める。

「はっ、ははははは! そりゃあ確かに――――ふふふふ! あぁー! わっかりましたわ! この戦いはお前達の勝ちでいーいーでーすーわー!」
 高らかに笑いながら、楽しそうに、ゲラゲラと。
 仮面が砕け散る。その向こうにある顔は、まぁなんというか。
 ――何も言わなきゃ、美人だった。

「あー! ――――――楽しかったぁ!」
 それが、今度こそ最後の言葉。
 自らの風に飲み込まれ、全身が塵に変わっていく。
 悠那が空中での動きを止めた時、後に残っていたのは、舞い散った花の足場の残骸だけだった。

 ●

 ――――こうして、少しはみ出た戦いの記録は終わる。
 誰もが勇敢に戦い、己の挟持を賭けてぶつかった。
 確かにこの一幕は、世界を救う戦いだった。
 天才と天災が齎した、天の祭。

「……ゲームクリア、お疲れ、ドン・フリーダム」
 気は全く合いそうにないけれど。
 命がけの勝負ではあったのだけれど。

「楽しめたんだ? ……なら、よかったね」
 選別として言葉を残し、あとはもう、躊躇いなく振り返り。
 悠那は、戦場を後にするのだった。

 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年06月20日


挿絵イラスト