バトルオブフラワーズ⑫〜従え、統べる者
●漆黒に芽吹き、花開く
中枢から少し離れた地点。羅列される0と1に包まれた世界。
舞い落ちる花弁の中で、その男は一人佇んでいた。
「――漸く、ここまで辿り着いたという訳か」
今、この瞬間にも吹き荒ぶ風を越えんとする猟兵達の気配を察し、黒衣の男――ドラゴンテイマーは徐に顔を上げる。
「しかし、奴らの目的は中枢にいるドン・フリーダムのはずだが」
口にした疑問は頬を撫でる風に溶け、其処にはただ穏やかな笑みが残るのみ。
咲き誇る花々を踏み躙るよう、ゆっくりと。一歩、また一歩と歩を進めて。
「……なんとも聡いものだ。だが、"そういうもの"なのだろう? お前達、猟兵という存在は」
落とされた言葉は誰もいない世界の中で静かに花開く。
風は、もう吹いてはいなかった。
「私の役目はただ持ち帰ることのみ。だが――」
「さあ、来るがいい猟兵よ。はたしてそれは我が黒竜を屠る兵(つわもの)足り得るものなのか。……お前達の力、見せてもらおう」
●先の見えぬ暗闇に臨んで
「みんな、お疲れ様な! いよいよ中枢に乗り込んで、ドン・フリーダムとの決戦――と思ってたんだけど」
狼谷・賢太郎(イマチュアエレメントマスター・f09066)はそこで言葉を切り、複雑な表情で猟兵達を見遣る。
「システム・フラワーズのはずれ。中枢から少し離れた場所に、ドン・フリーダムとは別のオブリビオンがいるみてーなんだ。……それも、ものすげーヤバそうなやつが」
そのオブリビオンの名は『ドラゴンテイマー』。
幾人かの猟兵達が目撃したかの予兆に現れた黒衣の男であり、この戦いの裏で暗躍する存在。
静かな佇まいに反し、予想されるその力は激烈。
猟兵達が今までに戦ってきたどのオブリビオンよりも――もしかすると、この大戦争の首謀者たるドン・フリーダムをも上回る実力を持っているかもしれないと、賢太郎はうつむきがちに猟兵達へと告げた。
「ただ、何を企んでるのかはわかんねーけど……こいつは自分から積極的に戦おうとはしないみてーでさ。ドン・フリーダムさえ倒せばこの戦いは終わるし、その後は多分どっかへ行っちゃうんだと思う。だから、ぶっちゃけて言えばこいつは無視したっていい相手なんだ。でも……」
顔を上げ、その小さな体に宿した心に従うがまま、賢太郎は自らの思いを紡ぎ出す。
「オレ、こいつをみすみす見逃すなんて事はしたくねーんだ。この先何をするかわかんねーやつを放っておくなんて、オレにはできねーんだ! だってオレたちは――」
――蘇る過去の骸から未来を守る為に戦う、猟兵なんだから。
空蝉るう
猟兵の皆様、こんにちは。空蝉るう(うつせみ・――)と申します。
まだ見ぬ未来の為、そしてキマイラフューチャーの未来を守る為に、どうか皆様の力をお貸しください。
●だいじなこと
このシナリオは、一フラグメントで完結する「戦争シナリオ」です。
敵は必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
この先制攻撃に対抗する方法をプレイングに書かず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、必ず先制攻撃で撃破され、ダメージを与えることもできません。
プレイングには必ず【敵の先制攻撃への対処方法】と【その後の反撃方法】を記載してください。
対処方法や反撃方法が不十分な場合、苦戦する可能性が非常に高いです。
●やるべきこと
オブリビオン『ドラゴンテイマー』の討伐。
戦闘において『エイプモンキー』戦や『ラビットバニー』戦のような特別なルールはありませんが、今まで戦ってきた誰よりも強敵です。
判定についても厳しくなっておりますので、相応の覚悟の上で臨んでください。
それでは、皆様の熱いプレイングを心よりお待ちしております。
第1章 ボス戦
『ドラゴンテイマー』
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POW : クリムゾンキャリバー
【赤き剣の右腕】が命中した対象に対し、高威力高命中の【黒竜ダイウルゴスの群れ】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : ギガンティックダイウルゴス
レベル×1体の、【逆鱗】に1と刻印された戦闘用【大型ダイウルゴス】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ : 文明侵略(フロンティア・ライン)
自身からレベルm半径内の無機物を【黒竜ダイウルゴスの群れ】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
イラスト:ハルヨリ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
平良・荒野
予兆で見た御仁…いえ、オブリビオン、ですね。何が目的かは僕には分かりません… が、賢太郎さんが止めねば、と思う相手なら。
僕たち皆で、止めましょう。
挑む際には精神集中を。
僕がサイコキネシスで挑むなら、あちらは右腕の一撃で来る…
「武器受け」でまずはその一撃を凌ぎます。可能であれば、かわしきりたいところでは、ありますが。
ダイウルゴスの群も、「2回攻撃」の要領で往なせると良いのですが。
攻撃は、少しでも威力を増す為、ドラゴンテイマーが離れない内に至近から放ちます。
強大な敵だからこそ、この恐れを封じ込めて、「スナイパー」の眼で狙い撃つ…!
あなたの狙いは? いえ… なぜ、僕達を待っていたのですか?
●この身、未だ至らずとも
「……来たか」
転移を終え、黒衣の男と対峙した平良・荒野(羅刹の修験者・f09467)は、悠然と佇むその姿からどこか薄ら寒い気配を感じ取っていた。
幾人もの猟兵達が視たビジョン――おそらくは、荒野もその内の一人だったのだろう。
脳裏に浮かび上がる曖昧なイメージからは感じ取ることのできなかった明確な敵意。
まるで喉元へと冷たい刃を突きつけられるかの様な感覚に、荒野は転移の直前に聞いた言葉を反芻していた。
猟兵として倒さねばならない相手。
今までに対峙したどの存在をも上回る力を持つとされる、強大無比にも等しい過去の骸。
「……オブリビオン、ドラゴンテイマー……ですね」
「その通りだ、猟兵よ」
返されたのは色のない言葉。
張り詰めた空気の中で思わず浮足立ちそうになる心を鎮めるように小さく息を吐き出しながら、荒野は自身が倒すべき敵を見据え、ゆっくりと身構える。
必ずやこの男を止めてみせると、強い想いを胸に抱いて。
「では、見せてもらおうか。その力を」
落とされた言葉を知覚するよりも早く、荒野が見つめる世界で不意に煌めいた赤い残光。
瞬きの合間に眼前へと姿を現した黒衣から放たれる紅い凶刃に応じるよう、対する灰の衣が打ち付けた黒鉄。
舞い散る火花、翻る黒と灰。
巻き起こる一対の衝撃は咲き誇る花々を散らし、交差する視線は互いを捉えて離さない。
「っ……! あなたの狙いは――いえ……あなたはなぜ、僕達を待っていたのですか……!」
「それを知った所で何とする?」
絞り出すような荒野の問いかけに対し、余裕すら感じさせるドラゴンテイマーの言葉が圧し掛かる刃と共に容赦なく叩きつけられる。
「お前達猟兵と我らオブリビオン。相容れぬ二つが今日ここで"偶然"にもまみえた、故に戦う。ただそれだけの事だろう」
再び振るわれた冷徹な一撃は錫杖による守りを弾き、より一層に輝きを増す赤き剣へと呼びかけるようドラゴンテイマーが声を上げる。
「ダイウルゴスよ!」
刹那、空間を裂くようにして現れた黒竜の群れが荒野へと向けて――正しくは、その赤き剣の斬撃を受け止めてしまった荒野の持つ錫杖へと殺到する。
「しまっ……!」
今ここで錫杖を投げ出せば荒野自身はダイウルゴスの直撃を免れる事はできるだろう。
しかし、それでは次に襲い来るであろうドラゴンテイマーの攻撃を防ぐ手段が無くなってしまう。
故に、荒野の取れる行動は一つしか残されていなかった。
「くそっ!」
振り上げた錫杖の一打、そして返す二打目が押し寄せるダイウルゴスの群れを打ち据え、往なしていく。
しかしその全てを撃ち落とす事は叶わず、次々と迫る鉤爪が纏う灰色と覆い隠された白い肌を深く抉り、荒野の体と足元の花々を赤々と染め上げる。
全てを飲み込む嵐が如き黒竜の群れが過ぎ去った後に残されたのは、血に塗れて片膝を突き、息も絶え絶えな一人の少年。
その姿を認めたドラゴンテイマーは残された命を刈り取らんとするべく、静かに歩み寄る。
「……猟兵とは、この程度か」
終わりだ、と。言葉と共に振り下ろされる無慈悲な一撃。
しかし、その刃が皮膚を裂き、肉へと達する瞬間は訪れなかった。
「……何?」
放たれた一閃を受け止めたのは黒鉄の錫杖。傷だらけの体が掲げる決意の形。
訝しむような表情を浮かべていたドラゴンテイマーが不意に感じ取ったのは、荒野の左腕に篭められた力の奔流。
「俺を……俺達を……!」
強大な存在を見据える漆黒の双眸に恐れなどない。
たとえその身が引き裂かれようとも、その心だけは決して折れることはない。
向ける一撃は異変を察したドラゴンテイマーが刃を引こうとするよりも速く、疾く。
「俺達猟兵を……舐めるなぁっ!」
至近にまで迫ったその身を、ただ撃ち貫くのみ。
「…………!」
削り取るかの如き勢いで黒衣の胸を穿った念動の力。しかし、それは致命には程遠い未達の一撃。
されど、その一撃が与えたダメージは決して少なくはない。
予想外の反撃に飛び退くよう距離を取り、ドラゴンテイマーは自身の胸元へと手を翳す。
「……見誤ったか」
忌々しく吐き捨てられた言の葉が、世界の片隅に響き渡った。
苦戦
🔵🔴🔴
ヴェル・ラルフ
自分は安全ってやつ、好きじゃないなぁ
■対先制
召喚された龍には数でも不利、力も強いんだろう。演技じゃなくても苦戦するよね。
早業で残像利用して龍の攻撃を避ける「フリ」をする。狙うは龍の尻尾の方。わざと尻尾で攻撃を受けるように。オーラ防御や激痛耐性で耐えるけど、痛いだろうなぁ…
■反撃
でもそれでいい。自身の如意棒「残紅」にも衝撃波を乗せて攻撃をしつつ尻尾の衝撃を受ける。方向も調整できるように見切っておかないとね。
ぶっ飛ばされる方向は、僕が決める。油断を誘うために呆気なく気絶したフリをして、ドラゴンテイマーの元へ騙し討ち。
おじさん、見学だけなんてつまらないよ?
至近距離でUC発動。
おじさんにも、傷、あげる
●その想いは世界を染める
転移を終えたヴェル・ラルフ(茜に染まる・f05027)が降り立ったのは戦いの真っ只中。
点々と赤色が散りばめられた花弁の大地に浮かぶ漆黒の姿を認めれば、何かを考えるよりも早く、ヴェルは地を蹴り出していた。
「……分かりきった問答など必要無いという訳か。手間が省けて何よりだ」
ドラゴンテイマーの語る一言一句はまるでその身を制する鎖のように絡みつき、放たれる重圧がヴェルへと容赦なくのしかかる。
しかし、その足を止めることはない。
自身の獲物である深緋の如意棒――残紅を構え、今はただ前へ、前へ。
「なれば、私が手向けをくれてやろう」
言葉と共に振り上げられる右腕の剣。
ゆっくりと、まるで舞台の幕でも下ろすかの様に虚空へと描かれたのは赤色の軌跡。それは世界に刻まれた一筋の傷跡。
染み出した黒色が白を蝕み、現れた亀裂が大口を開けた時、幾重もの轟きがヴェルの視界を揺らす。
「黒竜の波に飲まれ、朽ち果てよ」
先の見えぬ暗闇から現れたのは夥しい数の黒竜――ダイウルゴスの群れ。
鋭い爪が、邪悪な牙が、打ち付ける尾が、瞬く間に世界を黒一色へと染め上げていく。
「……そうやって、自分は見ているだけなんだね」
それは自然と漏れ出していた言葉。
その身で風を切りながらも静かに唇を噛み締めたヴェルは、琥珀色の双眸で漆黒に姿を隠すドラゴンテイマーを見遣った。
ヴェルへと向けられたのはただの尖兵、ドラゴンテイマーの持つ力の一端に過ぎない。
――この戦いで猟兵達が対峙してきたオブリビオン達は、その形に差はあれどもそれぞれの矜持を持ち、胸に思い描く理想の為に戦い、そして散っていった。
中枢で猟兵達を待ち受けるドン・フリーダムでさえも、恐らくは彼ら同じ考えを持っているはずだ。
しかし、眼前の男はこの戦いには興味が無いかの様に振る舞い、今ではない遙かな先を見据え、猟兵達の手の届かぬ場所からその戦いを見下ろすばかり。
「……好きじゃないなぁ、そういうの」
残紅を握る手に思わず力が篭もる。
だが、今は眼前に迫る脅威への対処が先だと小さく頭を振り、ヴェルはダイウルゴスの群れへと視線を移す。
「おじさんは言わずもがな、あの竜の一体一体ですらも力は強いんだろうね。おまけに数でもこっちが不利、なら……」
不意に首元を伝った一筋の汗。しかし、ヴェルには既にその"覚悟"があった。
大地を強く踏みしめるその姿は、見る者の瞳に残像を焼き付ける程に速く、舞い上がる花弁の中を駆け抜けていく。
瞬間、ヴェルの体を襲ったのは黒い衝撃。
自らも残紅を振るい放つ衝撃で黒竜達を退けるも、避けきれなかった一撃一撃がその身を削り取る。
「ぐっ、あ……ッ!」
黒色の嵐の中で文字通り身を刻まれる様な痛みに体を捩らせ、漏れ出したのは苦痛の声。
「……策も無く我が黒竜の前にその身を晒すとは、愚かな」
吐き捨てられた言葉に呼応するかの如く、不意に動きを変えた黒竜の群れ。一つ、また一つと溶け合い始めるその体躯。
そうして傷だらけのヴェルの前に現れたのは、一体の巨大なダイウルゴスだった。
「疾く消え失せよ」
風切り音と共に飛来する黒竜の勢いは今までの比に非ず。
ヴェルは横っ飛びになる形で回避を試みるも、尋常ではない速度の前ではそれすらも叶わない。
繰り出された尾撃はまるで花弁を吹き散らすかの様にヴェルの華奢な体を捉え、咄嗟に構えられた残紅諸共、激しく打ち上げた。
「……時間を無駄にしたな」
自身の足元へと転がってきた傷だらけの肢体を見下ろした後、ドラゴンテイマーは次なる猟兵を求め、眼前の少年からは興味を失ったかのように背を向ける。
既に立ち上がる気力もない。自らが手を下さずとも、ここで朽ち果てるだけだろう、と。
「――見学だけなんてつまらないよ?」
それは、不意に耳朶を打った小さな囁き。
横たわる体に纏い付いた地獄の業火はその男が振り返るよりも疾くに空を切り、天を焼く。
ドラゴンテイマーの視界を染め上げるのは茜色。
「何っ……!」
翻す黒衣がその企みに気がつくには、少しばかり遅すぎた。
「おじさんにも、傷、あげる」
巻き起こる爆風は目に映る全てを焼き尽くす。
これこそがヴェルの抱いていた覚悟の力。
黒竜の群れに立ち向かい、傷だらけになったこと。
強大な力を正面で受け止め、意識を失ったように見せかけたこと。それら全ては計算の内。
負った傷も、内に秘めていた激情も、全てはこの一瞬の為に。
――爆煙が晴れた後ヴェルの視界に映ったのは、片膝を突いて荒い息を吐き出すドラゴンテイマーの姿だった。
成功
🔵🔵🔴
シキ・ジルモント
◆SPD
対峙して賢太郎の判断は正しいと確信
こいつは危険だ、放置はできない
◆敵先制攻撃
ダイウルゴスを合体前に各個撃破し対処
ユーベルコードを発動
スピードを上げ手数を増やし、目等の脆い部分を狙い撃ち(『スナイパー』)合体前に手早く倒す
敵の攻撃はワイヤーでの行動妨害と強化した反応速度で『見切り』回避
◆反撃
倒したダイウルゴスをドラゴンテイマーに倒れ込ませ一瞬視界を塞ぐ
狼に変身し視野から外れユーベルコードで強化したスピードで死角から一気に接近
人型に戻り命中率と威力重視の『零距離射撃』の間合いで反撃
反応されてもダメージ『覚悟』で『カウンター』攻撃
使えるものは全て使う
そうでもしないとあんたには届かないだろう?
華折・黒羽
あなたが己の成すべき事、成したい事をしようと構わない
俺も俺で、己の思うまま成すだけだ
先制攻撃には屠で対抗を
怯まず退かず前に進むのみ
縹の符で氷の属性を纏わせた屠で属性攻撃を繰り出しながら
竜の動きを少しでも鈍らせ
武器受けで可能な限り黒の竜を斬り捨てる
傷は負うだろうが構わない、その傷が「屠の糧」となる
生命力吸収で命を繋ぎ地を蹴って
敵の懐へと、一撃でいい、届かせる為に
届け……、っ届け──!
敵の懐に届く事ができたなら攻撃が迫ろうと退かず
幾筋も流れる己の血を飲み狂暴な捕食者と化した屠をその右腕に
随分と“お預け”をしてしまった
待たせたな屠
──さあ、食事だ。
この血を贄に、黒を呑み込め。
※アドリブ、連携歓迎
●朽ちぬ輝き、命を繋いで
「……不覚を取った」
そんな言葉がドラゴンテイマーの口から零れ落ちる。
猟兵という存在を甘く見ていた。侮りすぎていた。
――故に、この失敗をもう繰り返すことはないだろう、と。
爆煙が晴れると同時、その右腕に携えた赤き刃が煌めいた。
「…………!」
激しさを増すこの戦いに身を投じる者の一人、少し離れた地点から駆け寄っていたシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)はその輝きを見た。
直後、肌を裂くような迅風と共に飛来する大型ダイウルゴスの群れ。
先にあるドラゴンテイマーの姿は見えずとも、シキの磨き上げられた感覚――幾多もの戦場を切り抜けきた戦士としての直感が、そして自身の本能が告げている。
少年の懸念は正しかった。あの男は危険だ、と。
「悪いが、構っている暇は無い……!」
その言葉がダイウルゴス達の元へ達するよりも速く、音も無く構えられたシキの愛銃・シロガネから吐き出される鋼鉄の殺意の雨が黒竜の群れを貫いた。
ある竜はその目を潰され、苦しみ悶えながら血に塗れた大地へと頭を下げる。
ある竜は翼膜を裂かれ、十全とは呼べぬ翼をはためかせながら仲間達を巻き込み、虚数の海へと沈んでいく。
ある竜は心臓を穿たれ、夥しい血を流しながら呻き声と共にその命を終える。
ドラゴンテイマーに与えられた仮初の命が、一つ、また一つと潰え、消えていく。
そこに感情など残さない。憐れむ必要など無い。
全てはあの男を止める為、猟兵としての役目を果たす為。
その的確な射撃は少しずつ、だが確実に迫りくる嵐の勢いを削ぎ落としていた。だが――。
「この、数は……!」
シロガネの銃口は赤熱し、焼き付く様な硝煙の臭いがシキの鼻をくすぐった。
既に撃ち落とした黒竜の数は十を超え、二十へと差し掛かろうとしている。
しかし、押し寄せるその勢いは未だ留まる事を知らない。
「二度も力量を見誤るとは……恥ずべき失態だ。だが、三度目は無い」
押し寄せる黒い波の中には既に融合を果たし、その姿を一回りも、二回りも肥大化させた個体の姿すら認められるようになっていた。
「認めよう。お前達猟兵は我が黒龍を屠り、我らの道を阻むに足る兵(つわもの)であると。故に――」
――その命、ここに置いて逝け。
紡がれた言葉に情は無く。落とされた響きは暗く、昏く、深い闇へと溶け込むように。
その黒衣を大きく翻しながら、ドラゴンテイマーは大地を強く踏み躙る。
"何かが来る"。
それは咄嗟の判断だった。
シキの撃ち出したワイヤーは地を這うダイウルゴスを捉え、自らの眼前へと引き寄せる。
――その体躯が二等に分割されたのは刹那の間、閃いた赤き剣光はシキの鼻先を掠めて空を斬る。
「勘が良いな」
底冷えするような響きがシキの全身を包み込む。
最早迷う暇すらも与えられない。一瞬でも気を抜けば、其処に待ち受けているのは――。
視界を覆う役目すらも果たせなくなった肉塊をドラゴンテイマー目掛けて打ち捨てれば、間髪を置かず放たれたワイヤーは飛翔するダイウルゴスの足を捕らえ、シキの身を引き上げていく。
重力に逆うシキの目が捉えたのは再びの剣閃。十二の肉塊へと分たれた黒竜と、迫り来る黒き竜使いの姿。
「言ったはずだ、"三度目はない"と」
三度振るわれた赤き刃は、確実にシキの姿を捉えていた。
――届け……。
風が啼く、刃が迫る。しかし、その身を動かすことは叶わない。
――届け……!
「終わりだ」
……っ、届け――!
シキの視界を一面の黒が覆い尽くす。
しかし、その瞬間はいつまで経っても訪れることはなかった。
「……やっと、あなたに追いついた」
迫る赤を止めるは黒き剣。
その身に携える黒翼は宛ら空を翔ける天狗が如く。
――いつか押した、少年の背中がそこにあった。
「ほう」
開かれた眼が捉えた漆黒の毛並み、割り込む様に飛来した華折・黒羽(掬折・f10471)の姿。
思わず漏れ出た音は敵ながら天晴と、そう告げるように。
「では、死ね」
掲げた殺意を、冷酷に振り下ろす。
「悪いが、あんたの思う通りにはさせない」
その動きを見切るのは獣の眼光。黒羽とドラゴンテイマーの間に火花が散る。
シロガネから放たれた銃弾は刃を弾き、続け様の射撃が頬を掠めればさしものドラゴンテイマーも距離を置く。
「集え、黒竜! 我が呼び声に応えよ!」
赤く輝く刀身は空間を斬り裂き、染み出した悪意は0と1の世界を塗り替え弄ぶ。
仮想と現実の境すらも歪めゆくその力は黒き奔流となり、黒羽とシキの元へ降り注がんと牙を剥いた。
「ここは俺が!」
黒羽の呼び掛けに一つ頷けば、シキは巻き上げられるワイヤーに身を任せ、その姿を狼へと変え宙を舞う。
「賢しいな、猟兵!」
空をなぞるは赤き線。導かれるままに這い出した黒竜の群れは、真紅を受け止めた黒き剣――屠へと押し寄せる。
「言っただろう、あなたの思う通りにはさせないと!」
借りた言葉を叩きつけ、その刀身に纏わせるは縹の冷気。
一つ、二つ。押し寄せる波をかき分けながら、三つ、四つ。
「ならば凌いでみせよ!」
斬れども斬れども止まらぬ流れは、何れその身を蝕んでいく。
だが、それでいい。それこそが"糧"となる。
重力に惹かれるがまま大地へと降り立った黒羽は再び地を蹴り、ドラゴンテイマーの元へと肉薄する。
零した命は新たな色で繋ぎ、生く。
斬り捨てたダイウルゴスから得た生命の力は、僅かではあるが黒羽の傷を癒やし始めていた。
「待たせたな、屠」
一度は届いたその斬撃が、二度は届かぬという道理など無い。
随分と"お預け"をしてしまった。
――さあ、食事だ。
「…………!」
さしもの黒衣も着ける地が無くば翔ける事は叶わず。
そこは、既に黒羽の領域。
「この血を贄に、黒を呑み込め――!」
斬り開いた真一文字は、世界に新たな色を齎す。
「おのれ……!」
胸元から滴る赤色を気に留める事もなく、激情に燃えるドラゴンテイマーは降り立った大地を蹴り出し黒羽へと駆ける。
煌めいた赤光がその身を引き裂いた時、屠もまた、その体を捉えていた。
「あなたが己の成すべき事、成したい事をしようとするのは構わない」
ぼたり、と互いから漏れ出した命の色が地を染める。
「俺も俺で、己の思うままを成すだけだ……!」
それは抉り取るような一閃。
ドラゴンテイマーの脇腹へと突き立った屠の一撃は、その身を引き裂き、更なる赤を齎した。
「ッ、貴様……!」
荒い息を吐き出しながら、ドラゴンテイマーは赤き刃を振り翳す。
「――随分と周りが見えていないようだが、さっきまでの余裕は何処へ消えた?」
不意に死角から響いた男の声。
ドラゴンテイマーを襲うのは文字通り、身を焼くような痛み。
既に人型への変化を終えていたシキの銃弾が、その右腕を撃ち貫いていた。
「……言ってくれるではないか」
しかし、それでもまだ倒れない。
黒羽とシキの与えた一撃一撃は本来であれば致命にも等しいそれ。
だがそれらを受けきって尚ドラゴンテイマーの動きは鈍る事もなく、むしろ先程までの冷静さを取り戻しているようにも見えた。
「二度ならず三度までも、私にこの様な屈辱を味わわせるとはな」
これがかの首魁をも超えると評されたオブリビオンの力なのかと、シキは内心で息を呑む。
まだ、こちらの手札が切れた訳ではない。それに、そうでもしなければ――。
「――あんたには届かないだろう?」
その言葉に目を細めたドラゴンテイマーは、まるで見定めるかの様に視線を這わせて。
「……無駄だ。お前如きでは、私に至る事はない」
再び赤き刃を構え、そう宣告する。
「確かに、俺一人ならそうかも知れないな。だが――」
「俺達二人なら、あなたに届くと証明したはずだ」
シキに続く様、その隣に並び立った黒羽が言葉を重ねる。
――……やっと、あなたに追いついた。
過った声に、溢れる笑みが一つ。
「……ああ、そうだな」
あの日の誓い、紡いだ言の葉。
それらは今、確かに実を結んだ。
「…………」
音もなく刻まれた世界。
溢れ出す黒竜の嵐が、ドラゴンテイマーの姿を覆い隠す。
「逃げるつもりか……!」
反射的に放たれたシキの銃弾は何かを掴む事もなく虚空を切る。
黒竜が飛び去った時、そこにいたはずの黒衣は姿を消していた。
「……チッ」
思わず舌を打つ。
だが、二人は知っている。
猟兵は自分達二人だけではない。今正にこの地へと駆けつけてくれている仲間達がいるという事を。
そして、自分達が討ち果たす事は叶わずとも、必ずや彼らならやり遂げてくれるであろうという事も。
黒羽とシキは互いに頷き合い、消えたドラゴンテイマーの後を追った。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
オブシダン・ソード
【帽子と剣】
器物はアメリアに預けておく
うんうん……うん?
ぶっつけ本番? 本気?
アメリアのバイクに二人乗り
とりあえずの運転は抵抗せず、彼女に任せる
任せたからね、頼んだよ? 【鼓舞】くらいはしよう
●先制攻撃対応
バイクで右手の初撃を受け止め
そこから先は、アメリアの離脱に関わらずバイクをそのまま前進させる
マジでやんの?
と、とりあえず倒れなきゃいいでしょ。囮として追撃に来る竜は全部こっちで引き受ける
せめてオーラ防御で時間稼ぎ
アメリアに呼ばれたところで人間の体は放棄、器物へと意識を戻そう
痛い思いした分、返させてもらうよ
彼女の斬撃に合わせてUCを発動
何もかもぶった斬ってあげよう
もちろん、君の髭もね
アメリア・イアハッター
【帽子と剣】
こっちがアクセルでこっちがブレーキ
で、ここを捻るとジャンプするからね
オッケー?
それじゃお髭のおじさん、倒しに行きましょ!
宇宙バイク「エアハート」に2人乗り
相棒を前に座らせ自分は後ろから覆い被さる様にして一緒にハンドルを握る
なーに、私の騎乗技術に任せなさいって!
敵の元へバイクを走らせ、接近後前輪を高くあげ敵の右腕を前輪で受け止める
破壊されても後輪で走行可能な筈
破壊されなくば勢いで回転し敵の脇を抜ける
攻撃を受け止めたら相棒の本体である剣を持ってバイクから跳躍
バイクと相棒の人間体は囮
その隙に空中から敵をUCで蹴り落とし、勢いそのまま相棒で斬りつける
そのお髭、ダンダンで剃り落としてあげる!
●結んだ絆、折れない心
時々刻々と移り変わる戦局、より激しさを増す戦火に包まれた世界。
しかし、中にはその流れに囚われぬ者達もいる。
ここは戦場より少し離れた地点。
流線を描く特徴的な宇宙バイクの前に、二人の猟兵が集っていた。
「こっちがアクセルでこっちがブレーキで、ここを捻るとジャンプするからね。オッケー?」
アメリア・イアハッター(想空流・f01896)によって口早に告げられたそれは、彼女の操る宇宙バイク・エアハートの基本的な操縦法。
語られるがままに相槌を入れていたオブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)が言葉の真意に気がつけば、その顔色は早変わり。
「うんうん……うん? え、ぶっつけ本番?」
見つめた翠の瞳には一点の曇り無く。
本気か、と。思わず喉まで出た問いかけはそっと飲み込んで。
「なーに、大丈夫! 私がサポートしてあげるから!」
不安気に自身を見つめる視線に気がつけば、アメリアは溢れた笑みを隠すこともせずにそう告げる。
「さあ、乗って乗って!」
急かされるがままに握りしめたハンドルは、オブシダンが想像していたよりもずっと冷たく硬いもの。
されどその上に重ねられた柔らかな温かさは、まるで不安に凍てつく心を溶かしてくれるかのようで。
「んー……まあ、やれるだけはやってみる。でも、本当任せたからね。頼んだよ? とりあえず応援くらいはするから」
命を預けるのはお互い様、背中に感じる重みは確かな信頼の証。
たとえ抱いた不安は消えずとも、それに応えぬ道理は無い。
「私の技術に任せなさいって! ……よーし! それじゃお髭のおじさん、倒しに行きましょ!」
遂に腹を括った相棒の姿を認めれば、その号令は高らかに。
二人のヤドリガミを乗せたエアハートは今、大地を蹴り出した。
「……随分と騒々しい輩もいるものだ。礼儀を知らぬと見える」
地維を揺らし、響き伝わる重低音。
彼方を見据えるドラゴンテイマーが捉えたのは静寂を引き裂く猟兵の姿。
瞬刻、世界を歪めた黒の軌跡。
次いで流れる赤と紅。手負いなれどもその動きに一切の迷いはない。
「来た! それじゃ、後は作戦通りに!」
禍々しい気配を感じ取る最中、相棒から告げられた言葉に思わずオブシダンの表情が強張った。
「マジでやんの? ……と、とりあえず倒れなきゃいいんでしょ」
未熟な乗り手の命を受け、黒き鉄塊が徐に頭を擡げればその唸りは一際高く。
されど一切の勢いを殺す事は無く、その身を一陣の風と化して迫る脅威へ立ち向かう。
「誰が面を上げて良いと言った?」
届いた声はどこまでも冷ややかに。
次いで訪れた衝撃はオーラの守りを容易く砕き、地を駆ける燕の頭を無慈悲に落とす。
前輪を失ったエアハートはドラゴンテイマーの横をすり抜け、轟音と共にその身を横たえた。
「……どうやら躾が足りないようだな」
制御を奪われた鉄の車から離れる影が一つ。
しかし、振り返る黒衣の冷たい視線は今だ鉄塊に縋る青年を捉えて離さない。
「それ程までに愛しいとあれば、下らぬ玩具と共に逝け」
一拍を置いて世界に染み出す黒の嵐。
現れたダイウルゴスの群れがエアハートへと――残されたオブシダンへと殺到する。
宛ら鳥葬の如く群がる黒竜の爪が閃いた時、白い世界は爆炎の赤に包まれた。
「……ダンダン!」
アメリアの呼び声にドラゴンテイマーが視線を戻せば、眼前に迫るは超速の蹴撃。
「仇討ちのつもりか? その様な感情に囚われるとは、愚かな事この上なし」
哀れむ様な視線を向ける黒衣は言葉よりも早く右腕を振り上げて――。
「――ああ。痛い思いした分、返させてもらうよ」
はたして紡がれた言葉は何処からのものだったか。
ドラゴンテイマーの動きにほんの一瞬だけ――されど、致命的な隙が生まれたのはその瞬間だった。
「ガハッ……!」
アメリアの蹴撃がドラゴンテイマーの視界を揺らす。
口内に広がる鉄の味。歪む世界の中でドラゴンテイマーが見たものは風を切る身が携える一本の剣。
「……ヤドリガミか、忌々しい!」
そこにあったのは人型の体を捨て、本来の形である"ただ一振りの剣"へと移り変わったオブシダンの姿だった。
「ご明察。賞品という訳ではないけれど――」
蹴撃の勢いのままにぐるりと空中で一回転したアメリアは、オブシダンを構えて。
「君の髭ごと、ぶった斬ってあげよう」
「そのお髭、ダンダンで剃り落としてあげる!」
ドラゴンテイマー目掛け、振り下ろす。
「侮るなよ、猟兵」
刹那、翠と紺碧の世界を彩る赤い火花。
間を置かず、不快な金属音を立ててオブシダンの身を削る赤き刃。
「まさか玩具が玩具を操っているとは恐れ入った。だが、"一度防いだ"程度でお前達二人の其れが私に届くと思ったか?」
「なっ、ダンダンは玩具なんかじゃ……!」
その言葉を遮るように、響き渡るドラゴンテイマーの叫びが電脳の世界を支配する。
「今一度集え、ダイウルゴスよ!」
空間の軋む音、響く唸声。
眼前から滲み出る悪意の色に、アメリアとオブシダンの感じる悪寒は今、現実の物となる。
「己が身を囮とする覚悟は見事。では、二度目はどうだ?」
耐えてみせよ、と。
落ちた言葉から広がる波紋。何かが砕ける音と共に、暴虐な黒が世界を染める。
「アメリア、僕を投げるんだ! 早く!」
オブシダンの言葉を受けたアメリアが決断するよりも早く、虚空から飛来するダイウルゴスの群れは赤き刃を受け止めた剣を巻き込み空を舞う。
仲間の手を離れた剣に出来る事など何もない。
押し寄せるダイウルゴスの爪が、牙が、紺碧の刀身を――輝くその命を削り取っていく。
「ぐっ……あぁあ……!」
打ち付けるような嵐が過ぎ去った時、そこにあったのはボロボロな一振りの剣。
弾かれる様に地を蹴ったアメリアは横たわるオブシダンを拾い上げ、その勢いのままにドラゴンテイマーとの距離を取る。
「ダンダン、ダンダン……! しっかりして!」
手放しかけた意識を呼び止めるその声が、オブシダンの見つめる世界を明瞭なものとする。
その全身には今だ鋭い痛みが走るものの、それら一つ一つは致命には及ばない。
「……僕は、大丈夫、だ。まだ、戦える……!」
返ってきた言葉に安堵の息を漏らしたのも束の間、背後へと迫る気配にアメリアは振り返る。
「……お前達には本当に驚かされる。だが、その幸運が何度も続くとは思わないことだ」
煌めいた赤い軌跡。
しかし、そこから新たな色が生み出される事はない。
アメリアの意思とは関係なく、再び握られたその剣は赤き刃を受け止めていた。
「随分と、お待たせしちゃった、ね……。さっきの分も含めて……今度こそ、お返しをさせてもらう、よ……!」
折れぬ刃から響くは確かな意思。
「面白い、ならばやってみるがいい」
再び振り上げられた赤き刃がその身へと降りかかる。
――ドラゴンテイマーが右腕に伝わる違和感に気づいたのは、その瞬間であった。
「…………!」
オブシダンの刀身は迫る真紅を捉え、流れるようにして一本の線を描く。
――その身、金剛不壊の剣也。
何物も傷付ける事の叶わなかったその刃を、そしてキマイラフューチャーの未来を。
ただ一振りの剣が今、斬り開く。
「……馬鹿な!」
ドラゴンテイマーの眼が驚愕に見開かれると同時、感情のままに跳ね除けられた刀身が声を上げる。
「アメリア、今だ!」
「うん!」
次は逃さない、と。
篭められた想いは二人分、振り上げられた刀身は溢れんばかりの光を受けて。
「「はぁあああああ!」」
眼前の黒衣を、袈裟懸けに斬り裂いた。
「言ったでしょ、ダンダンは玩具なんかじゃないって!」
近づく戦いの終わりを感じながら、膝を付くドラゴンテイマーへとアメリアは高らかにそう宣言した。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
黒谷・英壱
確かに今は親玉を仕留めれば終わる
ただそれとは別の妙な存在、か
俺もこのまま野放に出来ないてのには同意だな
それに少なくとも能力が同等かそれ以上という事ならば尚更
賢太郎の見立てが正しければ、奴は周りの物体を好きに操れる
……つまりシステムへの介入が出来ると
だけど悪いな、こっちも遊びでPC使ってる訳ではないから易々と受け入れる気はないぜ
しばらく住んでた以上俺はここの通信事情それなりに知ってるしな
ただいかに【時間稼ぎ】が出来るかが勝負の鍵て所か
奴の変換動作から【情報収集】し、そこから隙を見て逆【ハッキング】
UCで複製を得たら【フェイント】をかまして【だまし討ち】
お前はあいつの仲間か違うのか、どっちか答えな
●Rewrite the World
「……こうも数を揃えられては厄介この上ない」
与えられた傷から齎されるは流れ出る命の色、尽きる事のない痛み。
荒らげた呼吸の中でドラゴンテイマーの見上げた先には新たな影が一つ。
遅れながらも転移を終え戦場へと降り立った黒谷・英壱(ダンス・オン・ワンライン・f07000)の鋭い瞳は、既に満身創痍ともいうべき黒衣を見据え、静かに口を開く。
「お前はあいつの……あのドン・フリーダムとかいう奴の仲間なのか、違うのか。どっちか答えな」
返答を待つこともなく開かれたのは英壱愛用のノートパソコン・IndieNote Pro。
そこから展開された電脳術式は広がる世界を蝕んだ色を読み取り、中枢区域に残された傷跡――その現状を偽ること無く伝えてくる。
――"Fatal error: can not read this file. "
絶えること無くモニターから溢れ出した文字の奔流。
関節が白くなる程に握り締めた拳を解き、英壱はキーボードへと指を走らせる。
「……随分と俺たちの世界を荒らしてくれたな」
これ以上、この男を野放しにしておく訳にはいかない。
それが敵の首魁と同等、もしくはそれ以上の力を持っているというのであれば尚の事。
確かに親玉さえ仕留めれば、この戦いは終息するのだろう。
だが、今はそれよりも、何よりも――。
「また問答か、随分と悠長な事だ」
その言葉は怒りに震える英壱を嘲笑うかのようで。
立ち上がったドラゴンテイマーは右腕に携えた赤き剣へと視線を移す。
真一文字に刻まれた深い創傷は、それが決して無視できぬ損傷であることを如実に物語っていた。
「……ならば、お前にはこういった趣向こそが相応しい」
鳴らされた指と指の擦れ合う乾いた音、それは傷だらけの世界に染み入るように。
世界を象る大地を、構造物を、その全てを侵し、新たな色へと塗り替えていく。
「我らオブリビオン、その目的はお前達も正しく理解している筈だろう。……ならば、その質問に何の意味がある?」
摂理を歪め、未来を喰らい、世界を弄ぶ忌まわしき力の奔流。
与えられた仮初の命は空へと飛び立ち、怨敵たる猟兵目掛けて降り注ぐ。
「……試してみる価値はあるよな」
ドラゴンテイマーについての詳細な説明を受けた際、英壱は薄々ながらある事に気がついていた。
敵は周囲に存在する無機物を好きなように改変し、ダイウルゴスへと変換するユーベルコードを持っている。
仮想とも現実とも取れないこの不可思議な空間に存在する無機物を書き換える力。
それは即ち、キマイラフューチャーの中枢であるシステム・フラワーズへのシステム介入と同義なのではないか。
そして、たとえ物理法則すらも捻じ曲げるユーベルコードには及ばぬとはいえ、それらの無機物は自身からの介入すらも受け付けるのではないか、と。
――幸いにも英壱の手元には先程読み取ったデータ、黒竜を生み出した世界を蝕む黒い"バグ"についての情報がある。
後はそれを基に、迫る黒竜の群れを無害な物体へと再変換することができれば――。
考えるよりも早く、指が動いていた。
0から1へ、1から0へ。歪められた世界の数列(ルール)を書き換えるその手は止まらない。
右へ左へと絶え間なく揺れ動く瞳は流れ落ちる文字の羅列を脳へと伝え、巡る思考は確かな"解"を導き出す。
「これ以上、お前らの好き勝手にさせるかよ……!」
噛み締めた奥歯は軋むような音を立て、鼻からは温かな何かが滴り落ちる。
それでもここで止まる訳にはいかない。
白く染まり始めた視界の端で、英壱が捉えたのは迫る鉤爪と、辿り着いた一つの答え。
癒えぬ傷を抱えたままに佇む黒衣へと向けて、英壱は不敵に微笑んだ。
「……悪いな、こっちも遊びでPCを使ってる訳ではないんだ」
弾かれた最後の一打。
眼前にまで迫った黒い殺意は世界を彩る花弁の嵐となり、英壱の元を吹き抜ける。
「全部、返してもらうぜ」
吹き抜けた花弁は巡り巡って再びドラゴンテイマーの元へと。
「小癪な……!」
視界を覆い尽くす花吹雪の向こう側、不意に映った黒い影。
ドラゴンテイマーが理解するよりも早く、訪れた衝撃はその身を削り、打ち倒す。
「な……に……?」
黒衣の縛りから解き放たれた黒竜は、英壱が思い描くがままに宙を舞う。
鮮血を撒き散らしながら倒れゆくドラゴンテイマーの瞳が映したのは、迫る新たな猟兵達の姿だった。
成功
🔵🔵🔴
才堂・紅葉
【廃墟】
「あれはやばいわ。正直、手を出したくない」
割に合わないが第一印象。
だが経験上、ここで見過ごす一手は禍根になる。
【紋章板】を盾として構え、狙撃手を庇って赤の一閃を受け止める。受けきれない威力は自ら飛んで流す。
【盾受け、かばう、怪力、見切り、野生の勘、ジャンプ】
吹き飛びつつ閃光手榴弾で【目潰し】。
「来なさい、蒸気王!!」
空中で【蒸気王】を召還し、ブースターで垂直に飛んで追撃回避をはかる。
天頂で一転。
黒竜の群れごと、必殺の重力加重の対地突撃で潰しに行く。
【気合、操縦、属性攻撃、封印を解く】
「ここで散りなさい、竜使い!!」
これで仕留めれるかは賭けだ。
しかし、この隙を私の仲間は見逃さない。
シーラ・フリュー
【廃墟】で参加
お強そうな方ですね…まぁ、ここまで来たらやるしかないでしょう。
前には心強い味方がいらっしゃいますし、後ろからもしっかりしないと…。
先制の防御に関しては味方にお任せし、少し離れた場所で【目立たない】ように位置取り【スナイパー】で竜を撃ち落とすのをメインに【援護射撃】。
敵の動き方を【情報収集】しながら【戦闘知識】にある似たようなパターンと組み合わせ【第六感】も頼りに撃ちます。
もし敵が近寄ってきたら武器を持ち替えずに【早業】で迎撃の準備。
【零距離射撃】を狙いつつ【猟犬の咆哮】で敵を迎えますね。近ければ大体は撃てば当たるので…。
その後【ダッシュ】で別の場所に移動し再び援護をしていきます。
五曜・うらら
【廃墟】
ほほう、竜を操るものですか……
私も小者と言えど竜を斬ったことはあります!
あなたも同じようにして見せましょうっ!
確かに、その右腕は危険……
しかしあくまでその群れが襲うのはその剣が触れたもののみです!
今あなたが斬ったのは残像ですよっ!
そしてどこでも手に入るような粉をばらまけば……
その剣は、竜は!私たちに届く前にそれらを襲うでしょうっ!
あなたがどれほど強かろうとその群れを放ち続ける事が出来ますか!
それが弱点ですっ!
これでゆーべるこーどを一時封じる事が出来ても油断はなりません。
しかしながら、隙は必ず作れるはずです!
その為にも、宙を舞う剣達よ、彼のものを逃がさず追い続けちゃってくださいっ!
イサナ・ノーマンズランド
【廃墟】POW
棺桶による【盾受け】で防御を試みつつ、【激痛耐性】でなんとかダメージを抑えて踏ん張る。
そのまま【目立たない】ように蒸気王を【迷彩】代わりにこっそりしがみつき、突っ込む蒸気王を盾にしてドラゴンテイマーに接近。
蒸気王が攻撃を叩き込んだ直後に、すかさず自分もUC【伝承殺業:破邪滅法】を発動。
目標物以外は透過する一撃で、蒸気王をすり抜け、ドラゴンテイマー目掛けて追撃の二発目を思い切り叩き込む。
「ろくなことしなそうだからね……。 言うでしょ、出る釘は叩かれるって」
「……がんばって、じょーきおー……!」
「ついげきだ! ……二度と生えてこないように、わたしの金槌でひん曲がるまでぶっ叩く!」
●繋ぐ心は世界を越えて
「……まだ、倒れてやる訳にはいかん」
その動きは緩慢なれど未だ止まることはなく。
双眸には冷たき意思を、胸には漆黒の炎を。
内から溢れ出る邪悪を身に纏い、黒衣は今一度猟兵達を迎え撃たんと立ち上がる。
「全ては"私"が"私の目的"へと達する時の為に。……お前達のその力、底の底まで見せてもらおう」
ドラゴンテイマーを中心として、再び世界が白から黒へと書き換わっていく。
「……あれはやばいわ。正直、手を出したくない」
"割に合わない"、と。
塗り替えられて行く世界の中で才堂・紅葉(お嬢・f08859)は独りごちた。
こちらから手を出さずとも退くのであれば、態々藪をつついて蛇を出すような真似をする必要はないと。
「でも、だからといって、みすみす見逃す訳にもいきません」
だが、今までの経験上、そして一人の猟兵として、"あれ"を見過ごす訳にはいかない。
今ここであの男を見過ごす一手、それは後の禍根となる。
「……うん、ほっといたらろくなことしなそうだからね……。でしょ?」
その言葉に頷いたイサナ・ノーマンズランド(ウェイストランド・ワンダラー・f01589)は紅葉と並び立ち、誰に向けた訳でもない言葉を紡ぐ。
「――確かにお強そうな方ではありますが……まあ、ここまで来たらやるしかないでしょう」
それは先を行く紅葉とイサナの少し後ろ、システム・フラワーズ内に並び立つ構造物の合間から黒衣を狙う一人の傭兵。
シーラ・フリュー(空夜・f00863)は小さく息を吐き、星のワンポイントに飾られた愛銃――リュエール・デ・ゼトワールのスコープを覗き込んだ。
狙撃銃越しですら伝わってくる強大な圧迫感。
自身の意思とは裏腹に、トリガーへと重ねた指に震えが走る。
「……前には心強い味方がいらっしゃいますし、後ろの私もしっかりしないと」
だが、シーラは決して一人で戦っている訳ではない。
纏い付く寒気を振り払い、確りと前を向いた先には信じられる仲間達がいる。
紅葉、イサナ、そして――。
「ほほう、竜を操るものですか……」
五曜・うらら(さいきっく七刀流・f00650)は抜き放った刀を突きつけ、ドラゴンテイマーへと名乗りを上げた。
「私も小物と言えど、竜を斬った事はあります! あなたも同じようにして見せましょうっ!」
宣戦布告とも取れる高らかな響きを前に、ドラゴンテイマーは穏やかに佇むのみ。
「面白い、やってみるといい」
猟兵達へと向けられた赤き刃が放つ輝きは、手負いである事を感じさせない程に強く。
身構えるうらら達、しかしドラゴンテイマーの意識は遥か先へ。
「だが……"一人足りぬ"ようだな?」
底冷えするような響き。向けられた視線の先には身を隠す狙撃手の姿。
黒衣が地を蹴るのと同時、その行く手を遮るように飛び出した紅葉が声を荒らげる。
「ッ、やらせない……!」
放たれた一閃を受け止める紋章板は鈍い衝撃を紅葉へ伝えると同時、両者の間で激しく火花を散らす。
紅葉達がシーラに命を託しているのと同じよう、シーラもまた紅葉達へとその命を託してくれている。
その信頼を裏切る訳にはいかない、故にここを通す訳にはいかない、と。
決して折れぬ事のない鋼の決意を宿した双眸が迫る黒衣を真っ直ぐに射抜き、その身を跳ね除けた。
「殊勝な心掛けだ。何処まで耐えられるのか、見ものだな」
言葉と共に返された刃が紋章板を再び捉え、十文字に残る傷を描く。
抜き払われた真紅の輝きを抑えるものは何もない。
「今一度我が元に集い、怨敵を穿ち、その悉くを喰らいつくせ! ダイウルゴスよ!」
ドラゴンテイマーの両隣から染み出した黒色の歪みは静かに口を開き、解き放たれた二重の螺旋が紅葉へと――そして、後方で銃を構えるシーラへと襲いかかる。
「――いけない……!」
押し寄せる黒と黒。
シーラの放つ的確な射撃が仮初めの命を奪い去り、向けられた勢いを受け流さんが為に紅葉が後方への跳躍を試みるその中で、イサナは見た。
それは叩きつけるような濁流の内側。
三度刃を構え、視界を遮られた紅葉を今正に貫かんとする黒い影を。
――考えるよりも先に、体が動いていた。
棺桶型の武装コンテナ・再殺兵装『カズィクル・ベイ』を振りかざし、目指す先は黒竜舞い飛ぶ悪意の渦。
「くっ、ああぁ……!」
押し寄せる身を刻まれるような痛みの波に耐えながら、それでも掲げた守りは崩さない。
放たれた一突きは吸い込まれるように、盾として構えられた棺桶の中心へ。
しかし、煌めいた赤き刃は無情にも更なる嵐を呼び寄せる。
「イサナさん! 紅葉さん! ……くっ!」
三人を捉える三重の螺旋はより激しさを増し、全てを呑み込む暴風と化して花吹雪舞う世界を覆い尽くす。
「いくらゆーべるこーどだからとはいえ、限度というものがあるでしょうっ!」
巻き起こる余波が大地を揺らす。
他者の介入を許さぬ激烈な力の奔流に、うららは思わず歯噛みする。
これこそが今までに戦って来たどのオブリビオンよりも――そしてこの戦争の首謀者、オブリビオン・フォーミュラたるドン・フリーダムに勝るとも劣らないとまで評されたドラゴンテイマーが持ち得る力の真骨頂。
世界の法則さえも覆す超常の力、ユーベルコード。
三重にまで重ねられたかの力が生み出す流れは終わりなき螺旋を生み、この世界の在り方、キマイラフューチャーの未来、そして、猟兵達の存在すらをも拒絶する。
「こうなったら……!」
囚われた仲間達を救う為、うららが決死の覚悟を決めたその瞬間――。
「――――!」
それは突如として響き渡った鋭い破裂音。
螺旋の中で輝いた、迫りくる闇を打ち払うかのような眩さが一つ。
眼前で巻き起こった聴覚を奪う衝撃と視界を覆う光の奔流にドラゴンテイマーの動きが鈍る。
「――来なさい、蒸気王!」
巻き起こる闇の渦を打ち破り、垂直に舞い上がったのは鋼鉄の巨人。
紅葉とイサナの二人を背に、大空を翔ける蒸気の化身。
ドラゴンテイマーが怯んだのは一瞬、されど、これ以上の好機は無い。
「……がんばって、じょーきおー……!」
傷だらけの右腕でその背を握り締めるイサナの鼓舞を受け、蒸気の王は唸りを上げる。
天頂にまで届くかの如き飛翔の後、その身を星の力に委ね、紅葉は一人宙を舞う。
紅葉の動きに導かれるがまま、蒸気王が振り翳した拳は未来を拓く反撃の一手。
「ここで散りなさい、竜使い!!」
それは天から降り注ぐ超重の一撃。
重力に引かれるがまま、蒸気に包まれたその身は赤熱し、目に映る全てを轢き潰す。
――刹那、大地をも砕く衝撃が、世界に深々と突き刺さる。
「――ガッ……! ……はあ、はあ……やってくれる……!」
爆心地の如き不毛の大地の中心で膝を付く影が一つ。
重力に身を任せ落下を続ける紅葉は辛うじて直撃を免れたドラゴンテイマーの姿を捉えていた。
――これで仕留められるかは賭けだった。
だが、生み出したこの一瞬が無駄になることはない。
命を賭けて生み出したこの隙を、私の仲間は見逃さない――。
「言うでしょ、出る釘は叩かれるって」
舞い散る砂埃の中で響いた言葉はすぐ近く。
顔を上げた黒衣の目に映ったのは、蒸気の巨人をすり抜け迫る一筋の煌めき。
「ついげきだ! ……二度と生えてこないように、わたしの金槌でひん曲がるまでぶっ叩く!」
その一閃は咄嗟に構えられた赤き刃をもすり抜けて、より深く、深く。
無防備となった、その左腕を斬り飛ばす。
「貴様ッ……!」
鮮血が舞い飛ぶ中で、怒りに燃える黒衣の眼はイサナを捉えて離さない。
――パン、と。乾いた音が響き渡ったのはその時であった。
弾かれた右腕、焼け付くような鋭い痛み。
この感覚をドラゴンテイマーは識っている。
「忌々しい、猟兵共が……!」
銃口から立ち上る硝煙がシーラの鼻をくすぐった。
押し寄せる嵐の中で垣間見た、ドラゴンテイマーの動きに表れる小さな癖。
幾多もの戦場を潜り抜けてきた猟兵としての――そして、傭兵として得た知識。
それらを繋げ、広大な思考の海から拾い上げたたった一つの答え。
照準を定め、磨き上げられた己の感覚を信じ、後はそっと、添えられた指先に力を込めるだけ。
――だが、これだけでは終わらない。
立ち上がり、懐から取り出したリボルバーを携えてシーラは戦場を駆け抜ける。
「そろそろおじさんだって限界でしょ……!」
イサナの振り上げた大鎌を寸でのところで躱しながら、ドラゴンテイマーはその小さな体躯を蹴り飛ばす。
「腕の一本を落とした程度で、この私を――」
瞬刻、背後に感じた新たな殺気。
屈めた頭の上を通り過ぎるのは鋭き一閃。
「ようやく隙を見せてくれましたね! もう逃しませんっ!」
至近から刃を振るううららの姿に舌打ちを一つ。
「邪魔だ、小娘……!」
力任せに振るわれる幾度目かの赤き一閃。
だが、この瞬間こそがうららの待ち望んでいた一瞬。
その体を正確に捉えていたはずの赤き刀身は、新たな色を生み出す事無く空を切る。
「かかりましたねっ! 今あなたが斬ったのは残像ですよっ!」
響いた声は三歩先。
その大小に関わらず猟兵達が積み重ねてきた一撃一撃は、俊敏だったドラゴンテイマーの動きを容易に見切ることができる程にまで削ぎ落としていた。
うららと黒衣、両者の間で煌めいた粉塵。
「……何のつもりだ」
その苛立ちを隠す事もなく、自身へと降りかかった粉を振り払い、黒衣はうららへと剣を向ける。
「これはどこでも手に入るようなただの粉ですっ!」
どこまでもマイペースに、そして自信満々に告げるうらら。
ぴくり、と。ドラゴンテイマーの頬が引きつった。
「そして今、あなたは私の残像と共にこの粉を斬りました!」
「だから、其れがどうしたと言っている……!」
迫る刃は鬼人の如く。
怒りに震える一撃を流れるように躱しながら、うららは更に言葉を重ねていく。
「その右腕の刃……あなたのゆーべるこーどはどうしようもなく危険なものです」
ですが、と。
突きつける言葉と共に紡がれるのは必勝の一手。
「しかし、あくまで現れる群れが襲うのはその剣が触れたもののみです! つまり、その剣は、竜は! 私たちに届く前にあなたの斬った"粉"を襲うでしょうっ!」
冷ややかな視線がうららを射抜く。しかし、そんな事は気にしない。
「それこそがあなたの剣の――ゆーべるこーどの弱点ですっ!」
突きつけた答えに返されたのは静寂。
どこか呆れたような表情を浮かべるドラゴンテイマーは、憐れむにうららを見遣る。
「……成る程、我が黒竜はこの剣に触れた物を襲う。確かにその通りだ」
直後、音もなく振り上げられた赤き刃がうららへと襲いかかった。
「だが、それが何だ! この程度で我が力を封じられると思ったか!」
逆上したドラゴンテイマーが刃を打ち付けた先はその手に構えられた一本の刀。
舞い飛ぶ火花の向こう側、浮かび上がった嗜虐的な笑みはうららの努力を嘲笑うかの様に。
「"触れた"な? ――ダイウルゴスよ!」
高らかに響くは竜使いの一声。
振り上げられたその刀身は今、赤く輝いて――。
「――その輝き、私、知ってますっ!」
その言葉に応えるが如く、うららの手を、そして鞘を離れて宙を舞い飛ぶ五本の刀達。
虚空をなぞり、描き出されたのは一枚の陣。
そこから放たれる光が、赤き刃を静かに包み込む。
「何だ、これは……!」
輝きを失った刀身を見つめ、次いで浮かんだのは驚愕の表情。
「ダイウルゴス、黒竜よ! 我が呼び声に応えよ! ……どうしたのだ、我が剣よ!?」
ドラゴンテイマーがいくら声を荒らげようとも、その刃は応えない。
「隙あり、ですっ!」
愕然とするドラゴンテイマーが視線を移すよりも早く、その五体を刀達が穿っていく。
「馬鹿な、馬鹿な……!」
――不意に鼻をかすめた硝煙の臭い。
振り返ったドラゴンテイマーの額へと突きつけられる銃口。
それは、太陽のワンポイントが施された大型のリボルバー。
風に靡いた灰色の髪がはらり、と。
「この距離なら――外しません」
放たれた銃弾は、真っ直ぐにその額を撃ち抜いた。
●そして、世界は巡り行く
課せられた仕事をやり遂げ、息を切らしながらも静かに膝を付くシーラ。
「……終わった、の?」
ほうほうの体でシーラ達の元へと歩み寄る紅葉。
そして、その体を支えるイサナが静かに頷いた。
「うん、さすがのおじさんもこの傷じゃ――」
――まだ、だ。
見開かれる血走った瞳。ゆらり、と立ち上がったその姿はまるで幽鬼のよう。
「えっ……」
「嘘でしょ……!」
その動きはうららが刀を抜くよりも、イサナが再び大鎌を構えるよりも、そして紅葉が隠し持っていた六尺棒を取り出すよりも早く。
輝きを失った赤き刃を、背を向けていたシーラへと振り上げる。
「そこまでです……!」
「往生際が悪いよ……!」
須臾にしてその体躯へと突き立ったのは黒鉄の錫杖と深緋の如意棒。
荒野とヴェルの放った一撃はその体を大地へと縫い止める。
「今度こそ、あんたに届いたぞ」
「言っただろう、二人なら届くって……!」
追いついたシキの銃撃が赤き刃を弾き上げ、黒羽の放つ屠の一閃はその刃を斬り落とす。
「さあ! いくよ、ダンダン!」
「え、ちょ、マジでやんの!? いくら何でも乱ぼ――」
そんな言葉と共に飛来した一振りの剣。
アメリアによって全力で投擲されたオブシダンがドラゴンテイマーの胸元を貫いて。
「……トドメは任せたぜ」
ギーボートの上で踊る指先、紡がれた音。
英壱によって書き換えられた世界は、ドラゴンテイマーを縛る強固な鎖となる。
「……皆っ!」
紅葉の呼び掛けに応えるよう、四人は各々の武器を構えてドラゴンテイマーへと振り翳す。
「これで終わりよ!」
「宙を舞う剣達よ、彼のものを逃がさず仕留めちゃってくださいっ!」
「……あばよ、此処がテメェの終わりだ」
紅葉の突き立てた六尺棒が、宙を舞ううららの刀達が、そしてイサナの――レイゲンの放つ大鎌の一振りが無防備なドラゴンテイマーへと突き刺さり、そして――。
「――さようなら、ドラゴンテイマー」
シーラの放った弾丸が、長きに渡る戦いの終止符を打った。
ドラゴンテイマーの体が消えていくとほぼ同時、システム・フラワーズを侵食していた黒は消え、歪められた空間が閉じられていく。
きっと後半刻もすればこの星は閉じられ、星の中枢は誰も立ち入る事のない再びの静けさを取り戻すはずだ。
――だが、それでも、今だけは。
猟兵達の歓声は風に乗り、舞い踊る花弁と共にこの世界を駆け抜けて行くのだろう――。
大成功
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