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バトルオブフラワーズ⑫〜烈火の相対者

#キマイラフューチャー #戦争 #バトルオブフラワーズ #ドラゴンテイマー

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#戦争
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#ドラゴンテイマー


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●ドラゴンテイマー
 キマイラフューチャーにおける戦いが、その最終ラインを迎えようとしていた。己を「ちょうてんさい」と謳うドン・フリーダムの登場。ーー否、猟兵たちにより、引きずり出されたに近いのだろう。
「あらあら、もうみんなぶっ殺されたですわの?
 まあええやろ、切り替えていこですわ」
 だがその状況にあっても、ドン・フリーダムが憂うことも無ければ、臆することも無い。
 それこそが強者の証。
 嘗てシステム・フラワーズを作り上げたというその存在の証。
「……」
 その姿を遠く、観察するように立つ影があった。
「欲望は止められない」……。ドン・フリーダムの思想は単純明快だ」
 システム・フラワーズの中枢から少し離れた場所に、謎のオブリビオン『ドラゴンテイマー』の姿はあった。
「世界を破壊する思想。その純度。それ故に、私が与するに相応しい」
 だからこそ、侵略樹アヴェスタを与えたのだ。
 酷薄な笑みを浮かべ、ドラゴンテイマーは強者たる余裕を示すように背の翼を広げる。
「世界を破壊するに至るか。後は彼ら次第。私の役目は「持ち帰る」のみ」
 だが、と細めた瞳は憂よりは幾ばくか、思案に揺れた。
「ーー……あぁ、動くか。は、何処までやれるものか、見せてもらおう猟兵。いずれ私が、グリモアを再び手にする時の為に……」

●烈火の相対者
「おにーさん、おねーさん。来てくれてありがとう。ドン・フリーダムの放送、聞こえてたかな?」
 猟兵たちの姿を確認したユラ・フリードゥルフ(灰の柩・f04657)は、ひとつ息をついた。
「とうとう出てきた……っていうか、力一杯出てきちゃったって感じっていうのもあるんだけど……。まずは、今までの戦い、ありがとう」
 それと、とユラは猟兵たちを見た。
「おにーさん、おねーさんには、ちょっと行って欲しいところがあるんだ」
 ドン・フリーダムのいる場所ではなく、とユラは告げた。
「システム・フラワーズの中枢から少し離れた場所に、謎のオブリビオンの姿が視えたんだ」
 謎のオブリビオンーードラゴンテイマーとされる存在だ。
「ドン・フリーダムが戦いに出てきたこのタイミングで、あんな離れた場所にいるっていうのもちょっと気になって……。戦略的には、無視しても問題はないんだけど」
 目を、離せない気がするんだ、とユラが言った。
「強者であるのは確かだよ。『黒竜ダイウルゴス』を召喚する能力で戦うのは分かっている」
 そして、これまでの誰よりも強敵だ。
 紫のガスに包まれ、六枚の翼と赤き剣の腕を持つ。そして、確実に、先制での攻撃を仕掛けてくるのだ。対応を考えずに挑むのは、ただ、負けに行くようなものだ。
「無策は進めないし、甘く見ることは……まぁ、おにーさん、おねーさんがするとは思わないんだけど、一応、心配させて。やめといた方が良いよ」
 これまでの誰よりも強敵だという事実を、理解した上で聞いて欲しい、とユラは言った。
「容易い相手じゃない。だからここから先は、覚悟ができた人だけ来て欲しい」
 淡い紫の光に触れ、ユラは真っ直ぐに猟兵たちを見た。
「どうか、気をつけて」
 ちゃんと帰ってきてね、と言い添えて。


秋月諒
 秋月諒です。
 どうぞよろしくお願いいたします。

 このシナリオは戦争シナリオです。
 1フラグメントで完結します。

 ●敵について
 謎のオブリビオン『ドラゴンテイマー』
 同時に一体しか存在しませんが、何度でも骸の海から蘇ります。が、短期間に許容値を超える回数(戦力分)倒されれば、復活は不可能になる「筈」です。

====================
 敵は必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
 この先制攻撃に対抗する方法をプレイングに書かず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、必ず先制攻撃で撃破され、ダメージを与えることもできません。
====================

 先制攻撃への対処は、技能を使用する、だけではなく、敵の攻撃に対してどのように使用、またどのように行動するのかを具体的にお願いします。
 難易度相応の判定となります。
 また、シナリオの関係上負傷の描写が大きく存在します。腕とか飛ぶかもなので苦手な方はご注意ください。

 それでは皆様、ご武運を。
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第1章 ボス戦 『ドラゴンテイマー』

POW   :    クリムゾンキャリバー
【赤き剣の右腕】が命中した対象に対し、高威力高命中の【黒竜ダイウルゴスの群れ】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    ギガンティックダイウルゴス
レベル×1体の、【逆鱗】に1と刻印された戦闘用【大型ダイウルゴス】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ   :    文明侵略(フロンティア・ライン)
自身からレベルm半径内の無機物を【黒竜ダイウルゴスの群れ】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。

イラスト:ハルヨリ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

テオ・イェラキ
オリオf00428と参加

祖霊鎮魂す奉納の舞を使用するが、相手は俺より先に動くのだよな?
俺はSPD、オリオはWIZで行動するな
つまり相手の動きは、ともにダイウルゴスの召喚か

であるならば、俺はタップダンスで注意を引こう
より【存在感】を発揮しなければな

敵の注意を引いたならば、敵の足止めはオリオに任せよう
敵の足止めによりタップダンスが完成したならば、
あとはこちらの番だ
スカイステッパーと【空中戦】を活用し、
飛び交う竜を相手取りながら、高速移動で翻弄するぞ
敵の攻撃を避けながら、竜巻で突き落としてやろう

竜を倒した後は、ドラゴンテイマーへと全力で斧で切りかかるのみ
【カウンター】狙いで【怪力】で斧を振り抜こう


オリオ・イェラキ
テオ【f00426】と
狩りを、始めましょう

雄々しき舞を踊る夫の側で大剣を構え
表向きはこの剣で迎え撃つ、そんな面持ちで敵を見据える
竜達は夫の舞を止めようと攻撃を仕掛けるのかしら
でも視線を皆此方に向ける事こそわたくし達の狙い

そう、皆夫に注目して
彼等の背や下に存在する彼等自身の影から
夜を彩る蔓薔薇が生えた事に気付く頃にはもう手遅れ
彼等の動きを止め夫に叫ぶ
今ですわテオ、わたくしの緋鷹
飛んで――と

勿論わたくしも急ぎ翼を広げ夫を追うの
向かう合間、動けぬ竜達の合間を縫い
ドラゴンテイマーの視界から消えておきますわ
黒いドラゴンに黒いわたくし、良い隠れ蓑でしょう?

辿り着く果て、夫と戦う獲物を死角から斬り込みますわ



●竜騎疾風
 カツン、と固い足音が戦場に落ちた。この空間に足を踏み入れたその時から男は気がついていたのだろう。六翼を揺らし、紫色のガスに身を包んだ長身ーードラゴンテイマーが振り返る。
「ほう、来たか」
 細められた瞳から覗くのは、驚きでも無ければ感嘆でも無く。僅か、値踏みでもするように細められた。
「此処まで辿り着き、何を見せる。猟兵」
 ゆるり、と手が動く。グローブに包まれたままの指先が開く様を見ながらオリオ・イェラキ(緋鷹の星夜・f00428)は告げた。
「狩りを」
 嫋やかな姿からは凡そ、想像も付かないような言の葉に、だが、嘲るよりほう、と息を落としたのは闇を裂く黒い大剣を構えたのを見てのことだろう。
「狩り、か。果たして、その言葉に見合うだけのものがあるか」
 息がひとつ落ちる。ドラゴンテイマーの纏う紫が僅かに揺れーー……。
「見せてもらおう」
 戦場が『侵略』された。
「あれは……」
 その変容に、戦場の空気が塗り替えられる感覚にテオ・イェラキ(雄々しき蛮族・f00426)の背がざわつく。首筋に感じる気配を、正しく嫌悪と感じ取るのはその身に宿る一族の血が警鐘を鳴らすが故か。
「オリオ」
 短く、妻の名を呼ぶ。応じる声の代わりに、ぶわりと無数に『湧く』竜を前にオリオが大剣を構える。引き上げられた刀身に鈍く光る竜の瞳が映った瞬間ーー……。
「ルァアアアアア……!」
 無数の咆哮が、戦場に響き渡った。
 舞い上がった花びらさえ食い尽くすように、戦場にあった凡ゆる無機物がシステム・フラワーズの一角を構成していた物たちが変じていく。内側から食い破るように出現した無数の竜たちが吠えた。
「ァアアア……!」
 ァア、と続く声が、音が高音に達した。空気を割く音。羽ばたきと共に響いた方向がオリオの肌を割く。
「ーー」
 白い肌に、血がし吹いた。痛みに、その熱に、だがオリオは動じない。戦場に召喚された黒竜ダイウルゴスの群れが、ただ、羽ばたく為だけにいるなどとはオリオとて思ってはいないのだから。
「ル、グ、ァアア!」
 2度目の羽ばたきの向こう、一際巨大な竜が立った。
「動じない、か。……では、見せてやろう」
 ドラゴンテイマーの言葉に応えるかのように呼び出された大型ダイウルゴスたちが羽ばたく。グルァアアア、と地を揺らす程の咆哮と共に竜はーー来た。
「タップタァップ」
 一面を覆うかのような竜の群れに、テオが地を踏みしめた。爪先と踵を軽快に鳴らせば、場に変化が落ちる。軽い振動。続けて響く音。軽快な音は戦場に何処までも不釣り合いだというのに。
「タァァァァッップッ!」
 軽やかにーー響く。
「ルァアアア!」
 それがどうしたと、大型ダイウルゴスの群れが吠えた。一直線に向かい来る群れが、突撃と共に真空の刃を叩きつける。頬が、腕が裂けた。どっと流れた血は、黒竜の群れからも生じるものだ。
「ルァアアア!」
「グルァアアアアアア!」
 全てが、この空間に生じた「竜」の全てがテオを見ていたのだ。軽快に繰り出される舞に、祖霊の加護を纏う男にーーその存在に引き寄せられているとも知らずに。
「ーー」
 タン、と軽やかな踏み込みと共に、舞が完成する。風を待とう指先が、放つ竜巻が竜の放つ爆圧の咆哮をーーその軸線をズラす。
「ル、ァア!?」
 腕を、払い落とすかというほどの風が、空に抜けた。地面を抉るのではなくーー空に、だ。
「もう手遅れ」
 上向いた口。覗く牙が空を向いたのは夜を彩る蔓薔薇がその羽に、体に絡みついていたからだ。黒竜ダイウルゴスたちの影という影から。
「グ、ルァアア!?」
「今ですわテオ、わたくしの緋鷹」
 大型のダイウルゴスさえ蔓薔薇で絡めとり、睨め付ける竜の殺意を微笑で受け止めたオリオは囁いた。
「飛んで――」
「ーーあぁ」
 応じた男が飛ぶ。た、と地を踏む足音は軽くーーだが、蹴りあげたテオの動きは、早い。
「はぁああ!」
 穿つ、拳は真下から。竜巻と共に叩きつければ群の一角が崩れる。ル、ァア、と呻く声と共に爪が来る。ーーだが、弧を描く一撃を、テオは身を逸らすことで避けた。顎を逸らし、僅か、身を引いた体で腕を振るう。ゴォォオオ、と放つ竜巻が今度こそ竜を撃ち抜いた。
「ル、ァアアアア!」
 絶叫と共に崩れ落ちる黒竜の奥、大型種が口をひらく。羽を搦めとられようとも、口は動くということか。
「容易く落とせるとは思わないことだ」
 ドラゴンテイマーの僅か、笑うような気配と共に、爆圧の竜砲がテオを襲った。
「ーーっく」
 は、と息を落とす。熱が、衝撃が身を襲う。咆哮の中、飛び込むダイウルゴスの牙がテオを飲み込もうとする。
「……!」
 だが、その間をいく黒鳥の姿をテオは見る。鮮やかに振り上げられた大剣が竜の逆鱗に沈めば、竜砲は絶叫へと変わった。
「ル、ウァアアアア!?」
「あぁ」
 応じる声は、オリオへと向けたものだ。崩れ落ちる竜の、その身を蹴り上げて、テオは一気に奥に飛ぶ。身を前に。瞬発の加速で大型種の牙をーー躱す。
 否、ただ喰らい付きよりもテオが早かっただけのこと。
「グルァア!?」
「突き落としてやろう」
 放つ拳と共に竜巻が翼を引き裂いた。大型ダイウルゴスの追いすがる爪を払いあげ、残る一帯を撃ち抜けば、ほう、と息をつく男の姿が見える。
「ドラゴンテイマーよ」
「来るか。猟兵」
 赤の剣が持ち上がる。崩れ落ちる大型のダイウルゴスを足場にテオは飛んだ。大上段からの一刀ーー巨大斧を叩きつける。
 ガウン、と重い音がした。赤き剣の右腕が、一撃を受け止めてくる。
「重いが……、それだけか」
 猟兵、と告げる言葉と共に赤き剣が振るわれた。薙ぎ払う一撃に、だがテオは武骨な巨大斧を向ける。ギン、と上がる火花と共に、一撃を刃で弾きあげーー振り上げたのだ。
「くらぇぇええええい!」
「ほう?」
 カウンターの一撃。その怪力の全てを乗せた一撃がドラゴンテイマーに届く。刃が身に沈む感触が手に返り、だが、かは、とテオは血を吐いた。
「届かせたこと、評価には値するがそれでは、首を落とされるのを待つばかりだな」
「そうかしら?」
「ーー」
 声と、刃が同時に来た。
 死角から踏み込んできたオリオの大剣が、ドラゴンテイマーの翼に届いたのだ。竜達の合間を抜い、敵の死角から消えていたオリオの刃は正確にドラゴンテイマーの身に届く。
「黒いドラゴンに黒いわたくし、良い隠れ蓑でしょう?」
「成る程。だがーー」
 落ちた血を、その色彩を確認するより前に赤き剣がオリオに来た。咄嗟に跳ね上げた腕。大剣で受け止めた衝撃に、耐えきれずに体が飛ぶ。広げた羽と共に聞こえたのは夫の声だ。
「オリオ!」
「ーー大丈夫ですわ。……気がついていたと?」
 衝撃が、全身に伝わっていた。足元、ぱたぱたと血が落ちる。
「これを取り扱う私が、見間違えるとは思わないことだ」
 は、と笑いーーだが、広げた翼の一角、確かに敗れ落ちているそこが、テオの一撃に重ねるように赤を描く。 派手な動きで傷口が開いたのだろう。容易く倒れるような相手ではない。だがーー。
(「確かに、届きますわ」)
 一撃が、この刃が。届くのであれば、あれは狩の獲物。
「ーーほう、傷をつけた、か。猟兵、侮ってかかるべきではないか」
 二人が見据えた先、ドラゴンテイマーは低く声を落とした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

尭海・有珠
破壊する思想の純度ね
死者の群れか地獄を喚びたいのかは知らんが
私はお前を野放しにはしたくないのさ

黒竜の群れは遮蔽物があれば利用し、直視される数を減らす
攻撃は武器で逸らしつつ、ジャケットでも捌いて致命傷だけは避けよう
第六感頼りには出来ないが
急襲し易いだろう位置・機会等、敵の思考を読み回避に繋げる

「お前を放置すまいと思ってるのは私だけではないしな」
多少腕が飛ぼうが、激痛耐性で意識を失わず撃てればいい
群れの統制に綻びが見えたら攻撃に転ずる
高速で放つ魔法、氷の剥片の戯で剣と化した腕を狙う

再びってことは一度でも手にしたことがあるような物言いだな
素直にくれるとは思ってないだろうに
お前はまだ諦めないんだな



●尚深き地の底
 空間を軋ませるような咆哮が響いていた。地面さえ揺れる竜砲に、その羽ばたきに猟兵達の血が舞う。深く抉られ、だが、傾ぐその身で前にーー出る。
 敵が強者であることなど、承知の上だ。
「グ、ルァアアア!」
 咆哮によって砕けていた地面から、欠け落ちた床の破片が変じる。食い破られるかのように、黒竜ダイウルゴスの群れが姿を見せた。
「侵略せよ。今こそ、喰らい尽くせ」
 紫のガスを揺らし、詩の一節を紡ぐようにドラゴンテイマーは告げる。システム・フラワーズの中枢から少し離れた場所とはいえ、既に無数の群れが呼び起こされた後とは言えーー施設が残っている以上『侵略』し得るものは存在していることか。
「破壊する思想の純度ね」
 竜の羽ばたきが、黒く長い髪を揺らしていた。はた、はたと揺れるロングジャケットをそのままに尭海・有珠(f06286)は眉を寄せた。
「死者の群れか地獄を喚びたいのかは知らんが、私はお前を野放しにはしたくないのさ」
「野放しに、か。私を捕らえるとでも? 猟兵よ」
 ドラゴンテイマーの手が動く。緩やかに伸ばされれば指先から紫のガスが溢れーー竜が生じる。
「ダイウルゴスに喰らい尽くされることなくあり続けるか、見せてもらおうか」
 瞬間、空間が熱を帯びた。ぶわり、と生じた群の全てが有珠へと向かったのだ。
「グルァアアア!」
「ルァアアアア……!」
 足元、未だある距離を喰らい尽くすように風が届いた。竜の羽ばたきだ。来る、と思った次の瞬間、風が止みーー衝撃が、来た。
「真空の刃……、あの羽ばたきか」
 叩きつけた後、赤黒い瞳が見据えた先に来た一撃。肩口が赤く染まり、痛みより先に熱が有珠を襲う。ーーだが、その衝撃で足を止めれば喰らわれるだけだ。
「ーー」
 た、と有珠は飛んだ。身を横に飛ばす。僅か、傾いだ体で、地面に手をつく。ぬるり、と赤く染まった指先に舌を打つには時がない。僅か、残った柱の後ろに飛び込めば、一拍後に衝撃が柱を襲った。
「ルグァアアアア!」
「突撃してきたか」
 キュイン、と高い音と共に、チリ、と頬が熱を感じた。
 竜砲だ。
「ルァアアアアア!」
「ーー」
 腕に、引っかかるだけになっていたジャケットを放る。群の意識がロングジャケットへと向いているその瞬間に有珠は前に出た。群の只中を抜け、澪棘に魔力を込める。海の宝珠が、後方、叩きつけられる爆熱を静謐に叩き込む。
「グルァアア!」
 沈めの魔力は、海の静けさか。荒々しさか。
 真横から飛びかかってきた黒竜の爪を杖で受け止め、その勢いを利用するようにくる、と回る。爪先を逸らしきれば、ぱたぱた、と足元が血に濡れた。
 完全に防ぐことは無理な話だ。致命傷だけは避けようと、そう思っているからこそ、これは予想通り。は、と落とす息をそのままにーーだが有珠はドラゴンテイマーを見据えた。
 竜を作り出すのはドラゴンテイマーの手によるものだが、襲撃そのものは竜に任せている所がある。恐らく、軽い指示は最初から出しているのだろう。統率の高さは、指示をする者の存在を伺わせる。動きの詳細こそ、黒竜の本能に任せているところはあるがーーそこを締め付けずにいるのは余裕があるからか。悠然とした男は戦況を何処か見守るだけの余裕さえ見せている。その身に既に、猟兵達からの傷を受けていても、だ。
(「だが、竜の思考自体は然程、複雑でもない」)
 動くものを追う。それとーー他の群れを巻き込むことを、厭わないという事実だ。
「ルァアアアア!」
 咆哮と共に、尾が来た。振り払う一撃の重さに体が浮く。構えた杖だけでは受けきれずに、体制を崩せば竜の牙が見えた。
「ーー!」
 腕を、先に出したのは半ば反射だ。
 身を庇うように、首筋、喰らいつかれることだけは無いように。ミシリ、と牙の食い込む感触が肌に伝わった次の瞬間、引き裂く程の衝撃が身を襲った。
「ーーっく」
 引っ張られる。引き裂かれる。
 食らいつく竜の牙が、有珠の腕を持っていく。血がし吹き、視界が歪む。見開いた瞳に、追撃を狙う竜を見て有珠は杖を差し向けた。
「ル、グァアア!?」
 魔力を込めた一撃。眼前に食らえば、軽い追撃であればぶれる。ばたばたと落ちる血が、痛みが、有珠の意識を塗りつぶしていく。ーーだが。
「立ったか。竜に腕を食いちぎられながら」
 有珠は立っていた。激痛に耐え、意識を、まだ失うことだけはないように。両の足を地面につける。前に、引きずられかけた体を起こす。
「お前を放置すまいと思ってるのは私だけではないしな」
「猟兵たち、か」
 ドラゴンテイマーが眉を寄せたその瞬間、群の動きが僅かに揺らいだ。ほんの一瞬。だがその一瞬を有珠は見逃さない。
「来たれ、世界の滴」
 バキバキ、と空気が変じる。急速に生じる冷気に白く空気が色を染める。血に濡れた手で杖を構えーー有珠は力ある言葉を解き放った。
「群れよ、奔れ――『剥片の戯』」
 瞬間、高速で放つ氷の剥片が、ドラゴンテイマーの腕に、赤き剣の右腕を撃ち抜いた。
「っく、なんだと……」
 身を飛ばすだけでは斜線は避けきれない。それは、有珠が自ら操作することが可能な氷の薄刃だ。故に、力は確実に届くのだ。
「猟兵……、やはり、祟るか」
 声が不意に、低く変じた。瞬間、た、と踏み込む短い足音を聞く。斬撃だ、と気がついたのは刃が深く身を裂いた時だった。
「ーーっ」
「私の剣に手出しをするとはな」
「届いたから、な」
 は、と吐く息に血が滲む。引き抜かれる刃に、だが、ただ倒れることはしなかった。
「再びってことは一度でも手にしたことがあるような物言いだな。素直にくれるとは思ってないだろうに、お前はまだ諦めないんだな」
 ドラゴンテイマーを真っ直ぐに見据えたまま、有珠は告げる。再び向けた杖に冷気を引き寄せる。
「いずれ知る事となるだろう」
 声は低く、届く。歪む視界に、意識が閉じていくのを感じながらドラゴンテイマーの赤き剣に冷気と共に傷が残っているのを見る。
(「軋む音がする」)
 竜の群れの統率が、乱れつつあった。

成功 🔵​🔵​🔴​

篝・倫太郎
無機物を変換とか、チートも過ぎんだろ……

先制攻撃には
戦闘知識を元に見切りと残像を用いたフェイントで可能な限り回避
回避しつつ、華焔刀でのなぎ払いで防戦

先制攻撃を凌ぎきったら
反撃と行こうじゃねぇか

巫覡載霊の舞使用
出来るだけ死角に回り込んで攻撃
切り込んでからの刃を返して2回攻撃
フェイントも織り交ぜて行動

回り込んでの攻撃が困難な場合は
他の同行者の攻撃が通りやすくなるように
テイマーの意識をこちらに向ける

あんた、こんだけの強ぇのになんでフリーダムの下にいる?

尤も、答えなんざ端っから期待してねぇ
あんたの答えを信じる根拠もねぇしな

復活なんぞさせねぇよ
何度だってぶっ倒す

あんたの思惑ごと、何度だってな

アドリブ歓迎


クーナ・セラフィン
…テイマーって感じじゃなくないかな。
もっとえげつない気配を感じるというか…あの目をするのは大体ろくでなし。
放置するには危険だね。
横合いから全部台無しにされても困るしここでお引き取り願わないと。

可能なら他の猟兵と連携。
無機物を黒竜の群に変えて来るのには黒竜自身を足場にしつつ空中戦を挑み対抗。
物体がないかそもそも黒竜なら変換できない…といいんだけど。
できるなら風の属性攻撃で迎撃や自身を吹き飛ばし強引に回避。
その際小柄なのを活かし黒竜や地形、他の猟兵の攻撃を活かしテイマーの視界から隠れる。
UC使えるようになったら花弁と吹雪で黒竜の群を幻惑同士討ちさせ他猟兵の攻撃チャンスを作る。

※アドリブ絡み等お任せ



●雪花の舞
「喰らい尽くせ、黒竜ダイウルゴスよ。良い機会だ」
 表情一つ変えず、ドラゴンテイマーの紡ぐ言葉に竜たちが吠える。重なり響く咆哮は空間さえ震わせーーぴくり、とクーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)は灰色の尾を揺らした。
「喰らい尽くせ、か。確かに、啄むって感じじゃないね」
 数、だ。召喚された竜の数は、猟兵たちを圧迫する程に確かに存在はしているが、覆い尽くす程ではない。先駆けの二人が、最初期に召喚された群れの全てを落としたからだろう。駆け抜けた風は、その流れは、まだ戦場に残っている。
「……テイマーって感じじゃなくないかな。もっとえげつない気配を感じるというか……あの目をするのは大体ろくでなし」
 やれ、と息をついて、クーナは羽根付き帽子をつい、とあげた。
「放置するには危険だね。横合いから全部台無しにされても困るしここでお引き取り願わないと」
「ーーだな」
 は、と篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は息をつく。琥珀の瞳に、舞い上がった花びらが、床の欠けらが『震える』のが見えた。魔力の残滓。内側から何かが食い破ってくるという気配。
「無機物を変換とか、チートも過ぎんだろ……」
 ため息交じりの倫太郎の言の葉に、ドラゴンテイマーが浅く、笑った。
「当然の結果だとも」
「当然だ?」
 眉を、立てたその瞬間、戦場がーー震えた。舞い上がっていた花びらが、破片が中空に止まる。砕け散った柱の残骸たちが魔力を帯びる。
「来るぞ、キミ」
「ーーあぁ」
 分かってる、と続く筈の倫太郎の声が、咆哮に喰われた。
「グルァアアアア」
「ルァアアアアア!」
 それは、二人の視界を染める程の黒竜ダイウルゴスの群れの出現であった。
「侵略せよ。ダイウルゴス」
 ドラゴンテイマーの言葉に、ルグァアア、と咆哮を以って群は応えた。ぐん、と顔を上げた竜の赤黒い瞳が光を帯びれば、短い羽ばたきと共に風がーー来た。
「ーーッ、と」
 真正面からの風に、倫太郎は身を横に飛ばす。瞬発の加速に、生じた残像を竜が切り裂く。た、と着地した瞬間、ぐん、と腕を振り上げたのはーー半ば、反射だ。
「ルグァアアア!」
「おっも」
 華焔刀が竜の爪とぶつかり、火花を散らした。防ぎきれなかった衝撃が、肩に、斬撃を叩き込む。至近での羽ばたき。真空の刃に、刀を振り上げーー前に、飛んだ。
 衝撃よりも、前に。
 身を低めて飛び込めば、後方に飛んだ風が倫太郎の背を切り裂いた。ーーだが、青年は行く。
「やられたままでいられねぇんだよ!」
 攻撃の全てを、回避できるとは最初から思ってはいない。相手は群れ、だ。残像を食らうにしてもひとつ潰されれば、華焔刀で防戦するこちらに気がつくだろう。だからこそ、足を止めはしなかった。
「ルグァアアアア!」
 吠える、喉元へと華焔刀を振り上げた。斬撃は深く、鱗を貫き肉を割く。カン、と硬い感触に辿りついたのはこの竜が最初は無機物から変換させられたものだからか。引き抜いた瞬間、後方から、鋭い声がした。
「後ろだ!」
「!」
 来るぞ、と響く声と共に、風が来た。強風は竜の羽ばたきではなくーークーナの操る風だ。その勢いで自らを吹き飛ばし、竜砲を交わした騎士猫の警戒に倫太郎は強引に、振り返った。
「グルァアアア!」
「ーーっ」
 咆哮と共に、振り下ろされた爪が庇う腕に届く。ぐ、とかけられた重さに、腕を引き裂かれる感覚に、意識が持っていかれかける。だが、それでも浅いのだ。風の勢いが無ければ、背を撃たれていた。それを分かっているからこそーー倫太郎は華焔刀を突き出した。
「ルグ、ァアアア!?」
 絶叫と共に、黒竜が崩れ落ちるのをクーナは見た。ルァアア! と短い咆哮と共に打ち出された真空の刃が一拍、反応の遅れたクーナの腕を割いた。
「ーーっ、物体がないかそもそも黒竜なら変換できない……とかだったら良かったんだけど」
 倒した分の竜が消えるのは確かだ。だが、間合いへと踏み込まれた時には、ドラゴンテイマーは竜を元の無機物へと返していた。
(「それに、此処は広さもある。群れに変換されないことがあるとは、思わなくて良さそうだね」)
 やれ、と内心息をつく。とんだ戦場になりそうだと。
「グルァアアア!」
「ルァアアア!」
 重なり響いた咆哮に、クーナは風を纏い飛ぶ。跳躍という程、指向性はない。半ば無理やりに、吹き飛ばす手法だ。結果的に、竜の爪とかち合うこともある。だが、竜砲は躱した。ひとつひとつは、一撃で崩れ落ちる程の重さは持たずとも軽い、と言い切れるものではない。ドラゴンテイマーが召喚した竜が、ただ、群れるためにいる訳も無いのだ。
「確実に、倒すために来るか」
「グルァアア!」
 ァア、と高く、響いたその声に、風を纏う体をクーナは起こした。ぐん、と顔を上げて。迫る牙に銀槍を振り上げる。
「これで相手だよ」
 振り上げる一撃は浅くーーだが、牙を弾くには十分だ。
「ほう、その程度で相手というか?」
「ーーなに」
 嘲るかのようなドラゴンテイマーの声に、クーナは息を零す。切り上げた勢いそのままに、くる、と宙で身を回し、黒竜の頭を、足先で踏み抜くようにしてーー飛ぶ。
「こんな趣向はどうだい?」
 騎士猫の姿は、空にあった。飛び上がったクーナの手、掲げられた白雪と白百合の銀槍が雪混じりの花吹雪を放ったのだ。
「ル、ァアアア」
「グルァアアア!?」
 吹き荒れる冷気に黒竜の群れが、その動きを緩める。羽ばたきは一度止まりーーだが落下の勢いを利用し、竜が大口を開けた先は。
「グルァアアア!」
 同じ、黒竜ダイウルゴスだ。
「なんだと……まさか、幻覚か」
「その通り、と此処で種明かしをするのもね」
 苦笑ひとつ、告げたクーナにドラゴンテイマーの低い声が響いた。
「幻覚程度で、ダイウルゴスを。竜を操るなど」
 カツン、と足音が響く。小柄な体型を生かし、黒竜の間を抜い、ドラゴンテイマーの視界から隠れてはいたがーーその数も減ってしまえば、召喚主であるドラゴンテイマーが見誤ることもない。
「覚悟はできているか?」
「は、そいつはこっちの台詞だぜ?」
 瞬発の踏み込みに、割り込んだのは神霊体へと変じた倫太郎であった。滑り込むように身を飛ばし、振り上げた華焔刀でくる、と回る。最初の一撃は確かに通った。クーナへと意識が向いていた分、奴の死角はとれた。だがーー2回目からはそうもいかない。
(「フェイントにもひっかからない、か。回り込めやしない」)
 隙が、ないのだ。それでも多少、打ち合っていられるのはその身に降ろした神のお陰だ。だがそれとて、永遠ではない。軋む心臓が、削っているのは己の寿命だと伝えてくる。
(「それなら……」)
 使うだけ、だ。
「あんた、こんだけの強ぇのになんでフリーダムの下にいる?」
 声を、投げた。打ち込んだ先、衝撃波が砕かれる。破砕の音が戦場に響き渡りーーだが、敵の視線がこちらを向いたのを倫太郎は知る。
 それが、一瞬でもいい。
 その一瞬を、逃すような猟兵では無いのだから。
「私の解を求めるか。ひどく単純な話だ」
 それは、問いへの答えか。煽りに気がついてか。別段、答えなど端から期待はしていない。だが、続いて聞こえた言葉は、答えと言うに相応しい話であった。
「「欲望は止められない」……。ドン・フリーダムの思想は単純明快だ」
 世界を破壊する思想だと、ドラゴンテイマーは告げる。
「それ故に、私が与するに相応しい。ーーそう、言えばどうする? 猟兵よ」
「あんたの答えを信じる根拠もねぇしな」
 は、と笑い、倫太郎は華焔刀で赤き剣を弾きあげる。勢いのまま振るえば、衝撃波がドラゴンテイマーの肩口ヘとーー届いた。
「復活なんぞさせねぇよ。何度だってぶっ倒す。あんたの思惑ごと、何度だってな」
 叩きつけた一撃ごと、災禍狩りの二つ名を持つ青年は吠えた。
「ーーならば、その一度さえ、打ち払えば足りるだろう」
 弾き上げた剣が、瞬間、叩きつけるように振り落とされたのだ。
「ーー!」
 刃が、腕に沈む。今度こそ、引き裂かれる感覚と共に強烈な痛みと熱が倫太郎の全身を襲う。
「ーーく」
 落とした声は、ただ一つそれだけに。血がし吹きーーだが、衝撃の中、神霊体へと変じた身は崩れ落ちることを許さずーーそれ故に、見た。
「そこまでだよ」
 竜の羽を蹴って飛んでくる騎士猫の姿を。突撃槍を構え、落下の勢いと共に叩きつけられた一撃が、深く、刀傷の奥へと入った。
「……ッく」
 ドラゴンテイマーの声が、跳ねた。息を詰める声に、その身から溢れたものに倫太郎は瞬く。こっちだ、とクーナの手が、華焔刀を持つ手を掴んだ。
「無事かい?」
「は、棺桶に片足突っ込んでいる気分は、あるけどな」
 まだ、と続くはずの言葉が血に濡れた。
「死ぬって言って出てきてねぇし」
「ならば、生きて帰るべきだよ。キミ」
 小さく、息を詰めたドラゴンテイマーの身とて、無傷では無い。重なり、続けた猟兵たちの刻んだ傷が、赤き剣の右腕にさえ残る傷が、強者であるドラゴンテイマーを同じ戦場へと叩き落とした事実を示していた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

黒蛇・宵蔭
グリモア、ですか。
――まあ、気にしても意味は無い。
集中しないと、死ぬかもしれませんしね。

私に出来る事は凌ぐことだけ。
鉄錆を構えてダイウルゴスの攻撃を受けて弾き、致命傷を避ける。
武器を落とすのは少し得意なのです。
相手が相手、軌道を逸らすのが精々ですが。

何とかやり過ごせれば、傷から血をとり符に呪を書き付けて押しつけましょう。
……竜に比べれば小さな蛇の牙でも、まあまあ苦しいものですよ。

守りを穿ち、命を啜り、傷を深める。
我が友が楔となりて、反撃の切欠を作れれば充分です。
如何に傷を負おうと耐え、立てる限り戦場に立ち、役割を果たしましょう。

あなたが求めるものは、私達の知るものとは違う……のでしょうね。



●黒竜と蛇の祟り
 咆哮と共に生まれる暴風が、戦場を荒らしていた。巻き上げられたのは地面と言うべきか床と言うべきなのか。無数の花びらは血に濡れ、炎に焦げ落ち。鉄と炎、そして血の匂いがシステム・フラワーズの中枢から少し離れたこの戦場を満たす。
「ルァアアアア!」
「ルァアア!」
 だがそれとも、黒竜ダイウルゴスの羽ばたきを得れば一瞬にして変わる。零す血さえ巻き上げられ、血を汚す頃には竜の突撃が猟兵たちに届けていた。
「見せてもらおう猟兵。いずれ私が、グリモアを再び手にする時の為に」
「グリモア、ですか」
 覚えのあるーーというよりは、幾分か、身近と黒蛇・宵蔭(聖釘・f02394)にとっても言える言葉であった。だが、だからこそ思うのだ。
 ――まあ、気にしても意味は無い、と。
(「集中しないと、死ぬかもしれませんしね」)
 考え事をしていられるほど、この戦場ーー容易くは無い。
「あぁ、その通りだ。だからこそ、これ以上があるか見せてもらおう」
 顎を引いた宵蔭に、ドラゴンテイマーは纏う紫のガスを揺らしーー笑い告げた。 
「侵略せよダイウルゴス」
 瞬間、空間がーー歪んだ。舞い上がった破片さえ食い破られたかのように内側から竜が生じる。システム・フラワーズに舞う花びらさえ、淡い光を塗りつぶすかのように無数の竜が宵蔭に姿を見せたのだ。
「グルァアア!」
「ルァアアア!」
 戦場に刻まれる傷ひとつ、落ちた破片ひとつ、竜へと変じさせるというのか。羽ばたきは風を生み、ごう、と唸る音と共に宵蔭の上着がばたばたと靡く。ひゅ、と高い音を残しーー来訪は、一直線で来た。
「ルグァアアアアアア!」
「ーー」
 長大な身は、向かいくるだけで切り裂く風を作る。穿つ程の一撃に、その牙が見えた場所で宵蔭は鉄錆を振り上げた。打ち据えるのではなく、内側から外に向かって鞭を振るったのだ。
「グル、ァアア!?」
 突撃は高速だ。故に、横っ面を払い上げる一打はその軸線を容易に崩す。食らいつく牙の斜線はずれーーだが、大きく開いた身が逃さぬと爪を伸ばした。
「ルァアア……!」
 追いすがるように、だが、崩す勢いをそのままに振り下ろされた黒竜の爪が宵蔭を肩口から割いた。引きずり倒されるような衝撃に宵蔭が傾ぐ。ぐらり、と揺れた身はーーだが、足をつけたその時に動きを変じた。
「躾が足りなかったようですね」
 血濡れの腕、落ちかけたそれを構えた鞭ごと振るったのだ。ひゅ、と放つ音は短くーーだが、有刺鉄線の鞭が竜の足に絡みつけば、肉を割くのは容易い。
「グルァアアアア……!」
 ルァア! と短い咆哮と共に、キュイン、と空気が変わる。頬に、感じた熱に身を逸らす。半身、逸らすだけにしたのはその背後から一体、迫る竜を見ていたからだ。
 この戦場を利用し、召喚されたのは黒竜ダイウルゴスの群れなのだから。
「さて、どうする。猟兵よ」
 問いかける色こそ残しながらも、ドラゴンテイマーの指先は宵蔭へと向けられていた。行け、と短く告げる先は、黒竜の群れに間違いないだろう。
「ルグァアアア」
「グルァアアアアアア!」
 竜砲を最後に、片腕は焼け落ちた。靡くコートの半分が、ばたばたと派手に靡く。だが、宵蔭の操る鉄錆は確実に黒竜の牙の、爪の軌道をずらしていた。竜の爪とて、狙いくるのが己であればその軌道は弧を描く。伸びきったそこで貫くのであればーーその基部を、打ち据えるのだ。
「ルグァアアア!?」
 一撃が、空を切った。派手に体制を崩した黒竜を背後から迫る群の一角が食いつぶすように吠えた。
「ルグァアアアア!」
 羽ばたきが生むのは真空の刃だ。跳ね上げた鉄錆が、破砕音と共にその軸線を知らせる。弾ききれなかった分が、宵蔭の頬に傷を残した。
「成る程。竜の爪、逸らして見せるか」
「えぇ。武器を落とすのは少し得意なのです」
 僅か、関心したように響くドラゴンテイマーの言葉に、宵蔭は悠然と笑う。最も、相手が相手、軌道を逸らすのが精々だ。何より、腕のひとつは持っていかれると覚悟すべきだろう。かろうじて引っかかっているだけの腕は、さすがに感覚もない。
(「それでも動くのであれば、使えますね」)
 赤く染まる手の甲を、どこか他人事のように見て宵蔭は符を手に取る。ルグァアア、と何かを感じ取ったか、竜が飛び込んでくる。
「グルァアアア……!」
 チリ、と肌に熱が伝わる。撃つのは竜砲か。だがーー今、ドラゴンテイマーを守る黒竜はいない。
「……竜に比べれば小さな蛇の牙でも、まあまあ苦しいものですよ」
 血濡れの腕を引き上げて、百鬼符に指を押し当てる。入りが僅かに荒れた呪は、だが、その血と共に姿を現す。
 大蛇を、この地に呼び込む力として。
「踊れ、呪いの顕現。穢れし大蛇」
「何……!?」
 迫る黒竜を置いて、力はドラゴンテイマーに向かい、放たれた。宵蔭の指先から百鬼符が落ち、瞬間、変じた地面にドラゴンテイマーが翼を広げる。ーーだが。
「踊れ、呪いの顕現。穢れし大蛇」
 足元より、突如開いた顎の方が遥かにーー早いのだ。
「っく、ぁ……!?」
 食らいつく大蛇の牙が、ドラゴンテイマーを地上に叩き落とした。宵蔭の眼前まで迫ってきていた黒竜の群れがーー崩れる。
「守りを穿ち、命を啜り、傷を深める」
 我が友が楔となりて、反撃の切欠を作れれば充分です。
「私の、邪魔をするか。やはり猟兵……!」
 足を喰らい、胴に牙をたてられれば、吐き出す息が熱を帯びた。宵蔭の前、黒竜は無機物へと返り、ばらばらと地面に落ちる。
「あなたが求めるものは、私達の知るものとは違う……のでしょうね」
 落ちる破片の雨を眺めながら、宵蔭は告げた。忌々しげにドラゴンテイマーは息を落とす。
「お前たちはグリモアをよく操れている。だが、それがグリモアの全てでは無い」
 そして今こそ、とドラゴンテイマーは唸る。
「私が手にする時の為に、猟兵。邪魔はさせんぞ」
 低く、低く響く声と共に赤き剣の右腕を構え、動き出した。その剣に、足元に、切り裂かれ穿たれた傷を残しながら。僅か、動きこそ鈍りながらも攻撃力は変わらぬ強者がーーだが、自ら前に出てこようとしていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
あれは黒竜の化け物を操るらしい

負けぬよう上手く使ってくれ
…冗談だ

師を庇い多少なりその姿を、準備を隠すことも狙い前へ
ガスに惑わされぬ様暗視・視力共に研ぎ澄ませながら
男を急襲せんと駆け出す

剣の右腕から目を逸らすことなく
第六感、全ての感覚を以て見切ることに集中
直前で翼を広げ、残像と残すよう跳び
僅かでも軌道から逃れんと

抉られ裂かれようと激痛耐性を以て一撃を凌ぎ
カウンターでドラゴンテイマーの体を捕らえられれば
放さぬよう怪力を篭め【星守】を
我が腕にあれば動けぬのは貴様も同じ
――師父、任せる

師へ危険が及ぶなら解除し即、庇いに
むざむざ他の竜になど喰わせはせぬ
滅びるまで何度でも斃してくれる


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
…ふん、どうせ吐くならば
もっと笑える冗談を寄越すが良い

生なき物より生み出された黒竜を睥睨
っは、我が従者の方が幾分愛嬌があるわ
先制攻撃は第六感で挙動を予測
見切りを試み反撃へ繋げる
避けきれずとも激痛耐性、オーラ防御で凌ぐ
彼奴が群れを使役するならば範囲魔法で対処
ジジを巻き込まぬよう、寧ろ我等の周囲を守護するよう
高速詠唱、2回攻撃で絶え間なく【雷神の瞋恚】を落とす
赤き剣を避けんとする従者へ竜が群れぬよう支援惜しまず

我が身顧みぬ愚か者の行動が功を奏すか否か
一瞬でも隙が出来れば及第点だ
…良くやった、ジャハル
ならば私も期待に添うとしよう
罅が入る程の最大魔力による天罰を――墜ちよ、竜使い



●竜と星
 捲き上る破片さえ、力を帯びていた。砂埃も柱の飾りでさえもドラゴンテイマーを前にすれば「侵略」の対象となり得る。
「侵略せよ。その力を見せよ、黒竜ダイウルゴス」
 果たして、それは呼びかけであったのか。
 ドラゴンテイマーが手を伸ばせば、紫色のガスが揺らめき、竜たちは呼応するように吠えた。
「ルァアアア!」
「グルァアアアア!」
 羽ばたきは真空の刃を生み、咆哮は竜砲となってシステム・フラワーズの中枢から少し離れたこの場所を燃やす。この程度では、騒ぎとはなり得ぬのか。熱線が駆け抜けた先、先にかけた猟兵の一撃がドラゴンテイマーへと喰らい付いた余韻が、まだ残っていた。
「いずれ私が、グリモアを再び手にする時の為に。見せよ」
「……」
 尊大な物言いに、その実、僅かばかりの焦りをアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は感じ取った。値踏みよろしく、竜を操り後方に控えていた者が、踏み出してきたのだ。踏み込まれることにより、こちらの力を推し量っていたという時期を終えたからーーという訳ではない。あれは「攻撃に移るための動き」だ。竜を呼び、切り結び、一太刀、浴びれば返す一撃を持ってドラゴンテイマーは強者を示してきた。猟兵の攻撃を読み、対処する。それをも利用するように、一撃を返す。攻撃と連動した防御はドラゴンテイマーが猟兵を倒すための対処に過ぎなかった。
(「それが、ずれたか」)
 穿つ一撃が。剣に残された傷が。斧と大剣による一撃が。食らいつく大蛇の牙が、ドラゴンテイマーから選択肢を奪い取っていたのだ。
 対処だけでは最早、倒しきれぬと。
「あれは黒竜の化け物を操るらしい」
 た、と短な踏み込みにはジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)も気がついているのだろう。カツン、と固い足音が、跳躍めいた動きを見せればアルバを庇うように、その背に隠すように前に出る。
「負けぬよう上手く使ってくれ」
 吐息、ひとつ零すような言葉であった。さわさわと揺れる黒髪だけが、よく見える。表情は伺えぬまま、……冗談だ、と落とす声が耳に届く。
「……ふん、どうせ吐くならば、もっと笑える冗談を寄越すが良い」
 息つき、返す言葉を紡ぐ頃にはアルバの黒竜は駆け出していた。たん、と足音は強く、踏み込んだ先、足裏で床を捉えたジャハルは身を低めーー飛んだ。
「ほう。来るか。ーーならば、共に侵略せよ。黒竜ダイウルゴスよ」
 その言の葉を合図とするように、巻き上がった破片が、最後の一つ、残っていた柱が内側から食い破られるように姿を変じる。
「ルグァアアア!」
「グルァアアアアア!」
 中空で折れた柱が、竜へと変じた残り、その破片さえも魔力を帯びーー侵略される。
「グルァアアア!」
 システム・フラワーズの一角、残されていた設備の全てが竜へと変じた瞬間であった。
「っは、我が従者の方が幾分愛嬌があるわ」
 生なき物より生み出された黒竜を睥睨し、アルバは星追いの杖を向ける。瞬間、戦場の空気が震えた。
「グルァアアア……!」
 風が、ひゅう、と音を鳴らした。甲高く響いた音に、一拍の後、地面を引き裂く真空の刃が飛ぶ。
「ーー」
 一撃が、アルバの腕に届いた。肩口へと、走る衝撃にーーだが、息をつくより先に、身を横に飛ばす。ばさり、と装束が揺れ、弾け欠け落ちた身が、一瞬、戦場に色彩を与えるのを見送って続く真空の刃に杖をーー向けた。
 ギィインンン、と高く響く音が、戦場に響き渡った。真空の刃は空に抜け、紡いだ防御のオーラが一度、弾ける。
「ぬるい」
 破砕の音は、受け切ったが故か。それでも、全ては受け止めきれず、指先に、腹に傷が残る。だがそれでもーーアルバは立っていた。踏み込む、従者の背をその目に焼き付けながら。
「ほう、あの群れを躱したか。啄む気でいたが……」
「容易く……」
 ならば、と続く筈のドラゴンテイマーの言葉を潰すように、ジャハルは加速した。瞬発の加速。飛び込む竜に、は、とドラゴンテイマーは笑う。
「私の剣に挑むと」
「好きに言うといい」
 広がる六翼が、ドラゴンテイマーの加速を援護した。踏み込みの足だけでは速度は測れない。視認した三歩目からが一気に加速した。まだ距離はある。刃渡りを思えばまだ距離はある。ーーだが。
(「来るか」)
 そう、思ったのは赤き剣の右腕から目を逸らさずにいたからか。全ての感覚を剣へと注ぎ、踏み込んでいたジャハルの前、風が、抜けた。
「ルグァアアア」
「グルァアアアアア!」
 召喚された、黒竜たちだ。風は羽ばたきではない。一撃、狙ってか。
「連れも、後で落としてやろう」
「ーー」
 笑う、声が耳に届いた。だん、と踏み込みと同時に、深く沈み込んだドラゴンテイマーの赤き剣の右腕が来る。
 空に逃げれば、黒竜が切り裂くと、そう告げるように。ーーだが、ジャハルは飛んだ。直前で翼を広げ、残像を残すように跳ぶ。
「ルグァアア」
「グルァアア……!?」
 空で待ち受けていた黒竜たちが翼をたたきつけようとしたその時、雷が落ちた。立て続けに二撃。雨のように落ちる雷光が、空の竜を落とし、飛び上がった竜を守る。
「なんだと……!?」
 頭上、飛び上がった先でジャハルは剣先を見据える。緩く描く弧。上を取った分、だが、続く踏み込みで六翼が開いた。
「させるか!」
 ドラゴンテイマーが吠えた。一度、上がり切った腕がその勢いから突き出される。赤き剣の切っ先がジャハルの足に届いた。
「ーーっ」
 痛みというよりは、感覚は熱に近かった。足を落とす勢いで放たれた一撃。勢いよく血はし吹いたがーーだが、この足は繋がっている。
 浅かったのだ。
 ドラゴンテイマーの一撃は。
 裂かれた足が、だらりと傾ぐ。だが、この背には翼がある。腕を振り上げきった今、ドラゴンテイマーの胴は開いている。向かうには、あとひとつ、足があれば十分だ。
「な……!?」
 落下からのカウンターの一撃。とん、とついた一歩から飛び込んだ竜の拳がドラゴンテイマーの腕を、掴んでいたのだ。殴るわけでもなく、ただ掴んでいた。そう、掴んでいるだけだというのに。
「貴様、私に何を……!?」
 ドラゴンテイマーは動けずにいた。振り上げる腕が、己の剣が目の前の男に届かない。切り捨てられる筈の体が。
「何故……!? まさか」
「我が腕にあれば動けぬのは貴様も同じ」
 その身を呪詛が模る竜鱗の装甲に変えたジャハルは、ドラゴンテイマーの言葉にひとつ告げーー声を、背に送った。
「――師父、任せる」
「……良くやった、ジャハル」
 我が身顧みぬ愚か者の行動に、その竜を守るべく高速の詠唱で魔力を回していたアルバが星追いの杖に触れる。
「ならば私も期待に添うとしよう」
「な……!? 貴様、待てまさか……!?」
 そのまさかだと、ドラゴンテイマー相手に告げてやる必要もない。魔力を、回す。黒竜たちの躾で首に、胴に入った傷が軋むように痛む。だがそれを置いて、アルバは魔力を回す。罅が入る程の最大魔力による天罰を。
「っく、放せ。貴様……ッダイウルゴスよ!」
 吠えるドラゴンテイマーに、残る竜が蠢きだす。だが、その風を、熱を慮る気などアルバにはない。
「墜ちよ、竜使い」
 そして、天より穿たれた雷がドラゴンテイマーを撃ち抜いた。
「くッぁあああ……!」
 爆圧の雷が、ドラゴンテイマーを撃ち抜いた。羽が砕け、飛びかかる筈であった黒竜たちが空中にて消え失せる。落ちる破片さえ、淡い光の中に消え、手を放したジャハルに、せめてと伸ばされたドラゴンテイマーの腕さえアルバの雷の飲まれーー消えた。
「猟兵たちよ。次、見合う時、は……」
 天より落ちる雷に、撃ち抜かれる中、崩れ落ちる長身は最後の最後、そう不敵に笑いーー消えた。

●烈火の相対者たち
 竜の声が遠く、聞こえる。戦場に吹き荒れていた風が消え、熱の名残だけがシステム・フラワーズの中枢から少し離れたこの場所に残っていた。舞う花びらは、この地の名残だとしてもーー竜へと変じぬ事実が、猟兵たちの勝利を告げていた。
 この地を取り戻し、ドラゴンテイマーに、確かに、叩きつけた勝利だと。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年05月27日


挿絵イラスト