バトルオブフラワーズ⑫〜傍観者
漏れ出した濃い瘴気の紫が、ゆっくりと周囲を浸食していく。
鍛え抜かれた肢体を六枚の異形の翼で抱き、男はただそこにじっと佇んでいた。
腕には血の滴るが如き、鋭く紅い刃。
無造作に風に揺れるその長い髪の合間から、昏い眼が覗いている。
「……なるほど」
彼は与え、そして眺めるだけの存在。
興味深げに瞬くだけの、ただの傍観者だった。
●
「システム・フラワーズの中枢から少し離れた位置にいますね。
……あ、例の謎のオブリビオンの話です」
葵絲・ふるる(フェアリーのシンフォニア・f02234)軽く腕組みをしながら、顎に手を当てた。
ゆるゆると羽根をはばたかせながら、その場で回っている。
「どらごんていまー……戦略的には無視しても、何の問題もないんです。
見つけたからって、わざわざ戦力を裂いて構ってあげる必要性はないんですが……ただ放っておくには、彼の存在は少し気持ち悪いですね。ドン・フリーダムに手を貸したくせに、なにもせずただ見ているだけだなんて……」
ふるるはぴたりと動きを止め、猟兵達の方へと向き直った。
「というわけで……何かあった後じゃ遅いし、倒せるものは倒しておきましょう!」
ふるるはもう一度その場で、くるりと一回転した。
「彼は同時に一体しか存在しませんが、何度でも骸の海から蘇ります。
でも短期間に許容値を超える回数倒されれば、復活は不可能になる筈です。
絶対にむ復活しない! とは言えませんけど……とりあえず、全力で叩いてきてください。
刃を交え、少しでも言葉を交わすことができれば、なにか分かることもあるかもしれませんから」
ふるるは笑みを消し、真剣な表情で口にする。
「彼は『黒竜ダイウルゴス』を召喚する能力で戦います。
これまでの誰よりも強力な敵ですから……油断だけはしないでくださいね」
ふるるはそう言うと、両掌を捧げるように開いた。
微かに頷く猟兵達の頬を、グリモアの淡い光が照らし出す――。
珠樹聖
こんにちは、珠樹聖(たまき・ひじり)です。
●補足
敵は必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
この先制攻撃に対抗する方法をプレイングに書かず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、必ず先制攻撃で撃破され、ダメージを与えることもできません。
●注意事項
お友達と合わせての描写をご希望の方、互いに【お相手様の呼称とキャラクターID】、或いは【チーム名】をご記載ください。
プレイングの自動キャンセル期限は『三日』となっております。極力タイミングを合わせてご参加ください。
以上、皆様のご武運をお祈りいたします。
第1章 ボス戦
『ドラゴンテイマー』
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POW : クリムゾンキャリバー
【赤き剣の右腕】が命中した対象に対し、高威力高命中の【黒竜ダイウルゴスの群れ】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : ギガンティックダイウルゴス
レベル×1体の、【逆鱗】に1と刻印された戦闘用【大型ダイウルゴス】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ : 文明侵略(フロンティア・ライン)
自身からレベルm半径内の無機物を【黒竜ダイウルゴスの群れ】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
イラスト:ハルヨリ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ジャック・スペード
――傍観者は退屈だろう、暫し遊んで行くと良い
ドラゴンを観るのは初めてだ
学習力で竜の動きをよく観察して見切り、回避に努める
避けられなければオーラ防御を試み
物理攻撃に限っては怪力でグラップルして往なしたい
ダメージは激痛耐性で堪える
一通り攻撃を凌いだら、此方のショータイムだ
召喚するガジェットは電気纏った機械仕掛けの大剣
先ずは合体を防ぐ為に竜の数減らしを
大剣振り回し衝撃波で竜達に雷属性の範囲攻撃
取り零しにはリボルバーをクイックドロウし、マヒの弾丸をくれてやる
此の剣と銃が届くならば敵本体も叩きたい
勇気と覚悟を胸に、目立たぬよう敵の懐に捨て身の一撃
お前を狼狽させられるなら、腕や足の数本位、惜しくもないな
淡い光に導かれ現れたジャック・スペード(J♠・f16475)に動じることもなく、その男は静かに佇んでいた。
身を包む漆黒の外衣を、舞い上がった花びらが優しく撫でる。
不釣り合いな景色の中、男は視線だけをジャックへ寄越した。
「傍観者は退屈だろう、暫し遊んで行くと良い」
「特に退屈はしなかったが……。
せっかくの申し入れだ。暫し戯れるとしよう」
男の深く静かな眼が、怪しげな紅い光を帯びる。
――異変はすぐに起こった。
(これは……)
逆鱗に1の数字を刻んだ何体もの巨大な竜が、次々生まれ出る。
目覚めの時を待っていたかのように首を擡げたダイウルゴスの双眸が、ジャックの姿を捉えた。
けたたましい咆哮を上げ、先を競うように襲い来る。
初めて目にするドラゴンの姿に、ジャックの金の光が明滅を繰り返した。
つぶさにその動きを判断し、回避を試みる。
直線的な動きではあるが、目標を定め次々と襲い来る巨体をすべて捌き切るのは難しい。
突き立てられた固く鋭い爪と牙にオーラ防御で抗うも、体のあちこちが悲鳴を上げ始める。
尚も襲い来るダイウルゴスに組み付き、ジャックは力任せにその巨体を放り投げた。
「まずは数を減らさねば」
機械仕掛けの大剣が、荒々しい雷光を纏いその手の中へ召喚される。
宙を旋回し再び襲い来るダイウルゴス達目掛け、ジャックは剣を振り抜いた。
鋭く放たれた衝撃波が先陣を切る竜達へと叩きつけられ、何体かが勢いを失い地へ落ちる。
尚も向かい来る竜目掛け、ジャックはDeus ex Makinaの引き金を引いた。
幾度も引き金を引きながら、黒竜との間合いを図る。その最中、ジャックはちらりと男へ視線を送った。
男はただじっと眺めるように、昏い眼をこちらへ向けている。観察の対象はとうに自身へと切り替わっていた。
(目立たぬように近づくのは、なかなか難しそうだ)
――それでもジャックの足は動き出していた。クイックドロウで竜を打ち抜きながら、突っ込んでいく。
追い縋る竜に背後から裂かれながらも、ジャックは男の懐へと飛び込んだ。
「捨て身でくるとは……」
「お前を狼狽させられるなら、腕や足の数本位、惜しくもないな」
振り上げた大剣が重々しい音を響かせ、紅い刃と噛み合う。
「なかなかに興味深くはあったが……」
背後からの衝撃と共に、何かが軋み割れたような音が辺りに響く。
膝を折ったジャックの双眸が、不安定な明滅を繰り返した。
苦戦
🔵🔴🔴
アストリーゼ・レギンレイヴ
【アカリ(f00069)と】
作戦はシンプルよ
あたしが受け止め、アカリが貫く
自身の前面に、オーラ防御を盾のように展開させ
殺到する竜たちの攻撃を受け止める
武器で受けて流し、衝撃を少しでも殺しながら
倒れぬように踏み止まるわ
……全て防ぎきれるなんて慢心はしない
長く留め置けるなどと傲慢なことも考えない
一瞬、ただの一瞬で構わない
背に庇った彼が、竜の群を掻い潜るための
その一瞬の隙さえ作れればいい
痛みには慣れている
この身に代えても彼を送り出す、その覚悟とて決めている
――だから
躊躇わず、振り向かず往きなさい
無論、素直に斃れてなどやらないわ
《漆黒の夜》を纏い、体力の続く限り
彼の背を狙う竜たちの猛攻を受け止め続ける
皐月・灯
アスト(f00658)と
ヤツの文明侵略は、……アストに任せる。
言っとくが納得はしてねーぞ。
けど、……あの竜の群れには、それが一番可能性の高い手だ。
……ぜってー無茶すんなよ、アスト。いざとなったらオレを置いてけ。
【全力魔法】を発動しつつ、アストの背後から竜に飛び乗る。
……群れなら好都合だ。足元一面がヤツの竜だってんなら、
【地形の利用】で連中の背を足場にして、前進してやる。
抵抗する竜には【先制攻撃】の《轟ク雷眼》を叩き込めば、少しは動きを封じられるだろ。
――駆け抜けるぞ。あの無茶女が潰れちまう前に、ケリをつける!
あの羽野郎に、この拳を届かせる。
チャンスを【見切り】、【捨て身の一撃】を叩き込む!
「言っとくがオレは納得はしてねーぞ」
自身の目の前に立つアストリーゼ・レギンレイヴ(闇よりなお黒き夜・f00658)の背中に向けて、皐月・灯(喪失のヴァナルガンド・f00069)が呟く。
アストリーゼが黒竜ダイウルゴスの群れをすべて引き受け、その隙に灯がドラゴンテイマーに攻撃を叩き込む――危険な賭けだ。
彼女の背に庇われることに納得してはいないものの、灯自身もあの男へ攻撃を叩き込むには、それが一番可能性が高いと判っていた。
「大丈夫、痛みには慣れてるわ」
「そういうことを言ってるんじゃねーよ」
「それでも、やるしかないじゃない」
「……ぜってー無茶すんなよ、アスト。いざとなったらオレを置いてけ」
アストリーゼは苦々しく思いながらも、少しだけ頬を緩ませた。
彼女とて、ドラゴンテイマーの攻撃の全てを防ぎきれるとは思っていない。然程長く留め置けるとも考えてはいなかった。
(一瞬……ただの一瞬で構わない。
竜の群を掻い潜るための、一瞬の隙さえ作れればいい)
二人の視線が前を向く。
ドラゴンテイマーは顔色一つ変えることなく、ゆっくりと左手をもたげた。
「話が纏まったのならば、始めるとしよう」
途端、そこかしこから咆哮が上がる。
辺りに轟くダイウルゴスの声に、空気がびりびりと震えた。
生まれ出た数多の黒竜が、アストリーゼと灯目掛けて一直線に突っ込んでくる。
殺到する黒竜は正面からのみ攻め来るわけではない。対象範囲内の無機物を悉く竜とする。
視界の端にとらえた竜の姿に、盾のように前面にオーラ防御を展開していたアストリーゼの顔色が変わる。
「くっ……!」
油断なく月闇を構え、衝撃を殺し倒れぬようぐっと堪える。
背後に灯がいる以上、回避はできない。
横から襲い来る竜の攻撃も、灯の元へ届く前に、無理な体勢をとりながら盾となって受け止める。
「アスト、無茶すんな!」
(そうね……思っていた以上にまずいわ。もう持たない……)
「アカリ、行って」
「なに言って――」
次々襲い来る黒竜の攻撃に、自身が中々隙を作り出せていないことは理解している。この状況で心配するなという方が難しいだろう。
けれどアストリーゼは、その身に代えても灯を送り出そうと覚悟を決めていた。
――だから、彼に躊躇ってもらっては困るのだ。
「振り向かず往きなさい」
覚悟を込めた鋭い言葉に、灯が一瞬押し黙る。
「くそっ……この無茶女!」
ふっと目元を和らげ、アストリーゼは正面から来たダイウルゴス目掛け、身の丈ほどもある禍々しい大剣を振り抜いた。
巨体が傾ぎ、少しの空間が生まれる。
その隙を逃すことなく、灯は飛び出した。
武器を大きく振り抜いたことで、大きな隙を生んでしまったアストリーゼの脇腹に黒竜が食らいつく。
肉の引きちぎられる強烈な痛みに、四肢とのどが引き攣った。
黒竜の攻撃は止むことなく、彼女の体を次々衝撃が襲う。
紅い飛沫が視界を彩る。
光を失った双眸に、竜の背へ飛び込む灯の背中が映り込む。
微かに吐息を零すように口元に笑みを刻み、アストリーゼは意識を手放した。
――振り向かず往きなさい。
彼女の言葉に突き動かされるように、灯は群を成す黒竜の背を足場にドラゴンテイマーの元へまっすぐに突っ込んでいく。
足場となる竜の動きが変わったことも、彼は既に気付いている。
しかし彼は振り向かなかった。
ほんの一瞬でも振り向けば、そこに待つのは死だ。
彼女が決死の思いで作ってくれた好機を、溝に捨てるわけにはいかない。
『アザレア・プロトコル3番――《轟ク雷眼》!!』
灯を喰らわんと首を振り上げた黒竜に、拳を叩き込む。
迸る轟雷が黒竜の動きを止める。
ぐらりと傾き落ち掛けたその背を蹴りつけ、灯はドラゴンテイマーの目掛け一直線に突っ込んでいった。
「ぜってーにケリをつける!」
「……!」
傾ぐ黒竜の影から飛び出した灯の姿に、男は一瞬目を見開いた。
即座に花弁を踏み締め迎え撃たんとする男の下顎を、灯の捨て身の一撃が捉えた。
「ぐっ……」
奇しくもそれは、男の振り上げた紅い切尖が、灯の胴を薙いだのと同時。
ぼとぼとと灯の腹から、血肉がこぼれ落ちる。
「ざ、まぁ……」
殴られた衝撃に吹き飛んだ男の姿を視界に収めながら、灯はごぼりと血を吐き出した。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
姫城・京杜
與儀(f16671)と!
何か不気味な野郎だな
でも、敵ならぶっ飛ばす!
な、與儀!(一緒で嬉し気
與儀と合わせ敵初撃【SPD】に
対策は【天来の焔】確り構え
【紅き陽炎】で10倍に護り固め二人分の攻撃請け負う
與儀を何が何でも庇い護りダイウルゴスの攻撃を耐える!
く、すっぽり隠れるからちっちゃくてよかったぞ
與儀まで絶対に攻撃は通させねェ!(踏ん張り歯食いしばり
耐えたら反撃
與儀の踏み台になりつつ強化シールドバッシュで牽制支援
周囲の邪魔な大型竜鋼糸で刻む
テイマーの攻撃が與儀に向きそうなら、何より最優先で大連珠握る拳でぶん殴る!
身を挺してでも強引に絶対割って入る!
…ちゃんと護ったんだから、お前まで倒れるなよ…!
英比良・與儀
ヒメ(f17071)と
な!じゃねェよ、嬉しそうにしやがって(蹴りつつ)
尻尾ふりすぎなんだよ、お前は
ヤローの相手よりあの恥ずかし気のねェボスの方が良かったんだけどな
まァ、こっちでいいか
先に仕掛けられた時は耐えるヒメの後ろに
しょうがないので、守られてやる
けど、きついのはわかる
今はちっさくてよかったと、思っててやるよ
が、敵が格上なのがわからねェ程、馬鹿じゃねェ
初撃凌いで、それでも長々と戦えるとは思わない
距離詰めるのもめんどくせェ、ガジェットショータイムで召喚するのは二丁拳銃
ヒメの背中を勝手に借りて跳躍し竜の上を跳んで
スカした顔に風穴は無理でもせめて、身体の真ん中を狙う
羽根にでもあたればもうけもん
瞼を開くと、男は既に視界内にいた。
下顎に左手をあてがい、ごきりと骨の位置を正す音を響かせる。
無表情にこちらを眺めるその視線と、姫城・京杜(紅い焔神・f17071)の視線とがかち合った。
「何か不気味な野郎だな。
でも、敵ならぶっ飛ばす!
な、與儀!」
強敵を前に、ひたすら與儀と一緒にいることが嬉しげな京杜の背中を、げしりと踏みつけ英比良・與儀(ラディカロジカ・f16671)がぶっきらぼうに言う。
「な!じゃねェよ、嬉しそうにしやがって。
尻尾ふりすぎなんだよ、お前は」
案ずることはない。これが二人の通常運転だ。
「…………」
そのやりとりに反応することなく、ドラゴンテイマーはごきごきと首を鳴らしている。肩凝りだろうか? 間違いなく彼もこれが通常運転だろう。
與儀は京杜の背後に陣取りながら、不快そうに眉を顰める。
「ヤローの相手より、あの恥ずかし気のねェボスの方が良かったんだけどな。まァ、こっちでいいか」
「ああ、確かにあいつ、着込みすぎだよな! 暑くないのかなー」
「そういう意味じゃねえ」
尾を振りっぱなしの京杜に、與儀はため息をつく。
「……さて、始めるとしよう」
滲み出すように漂う紫の濃いガスが、形を変え姿を成してゆく。
残念ながら、脱いではくれないようだが――その代わり現れた何体もの巨大なダイウルゴスが、次々京杜と與儀へ襲いかかる。
「くっ重てえ……!」
硬い牙に盾を咬み込まれ、京杜の視界に炎が散る。
目の前の個体を飛び越え、新たな黒竜が牙を剥いた。
「やっべえ、下がれ與儀!」
「おう……って、おい!」
盾をかき消した途端、京杜は言葉に反し與儀を小脇に抱えて飛び退く。
勢いのまま突っ込んでくるものと、真上から迫り来るものとがぶつかり合い倒れ込むも、それを飛び越えさらに多くの黒竜が襲い来る。
再び與儀を背後に庇い、京杜は真っ白な手袋を前にかざす。
「すっぽり隠れるからちっちゃくてよかったぞ」
「……今はちっさくてよかったと、思っててやるよ」
再び焔の盾を形成するも、次なる黒竜の攻撃にはじかれぐらりと後退する。
揺らいだそこを狙うように、影から現れた竜が爪で薙ぐ。
強く脛を裂かれ、びしゃりと血が飛び散った。真上から踏みつけるように舞い降りる竜の攻撃を、かろうじて盾で受け止める。
払うように空を切った爪が、そのわき腹を深く裂いた。
「ぐっ……絶対に與儀まで攻撃は通させねェ!」
何十体といるダイウルゴスの攻撃を、躱すことなく受け止め続ける。
何が何でも護ってみせると、京杜はその覚悟だけで立っていた。
血飛沫が視界を染める。
最早嬲られているといって良い状態だ。必死に堪えるその背中を見詰め、與儀は歯を食い縛り堪える。
ドラゴンテイマーが感情の読みとれぬ眼でじっとこちらを眺める姿が、竜の群れの合間からちらりと見えた。
怒りがこみ上げ、拳を握りしめる。
(敵が格上なのがわからねェ程、俺だって馬鹿じゃねェ。
これを凌いだって、長々戦えるわけじゃねェし)
息の上がった大きな背中の上で、紅葉のように赤い髪がふわりと揺れる。
その遙か上空、ニ体のダイウルゴスがざらりと紫苑に溶けゆく。
漂う濃霧は渦を巻いて雑じり合い、より強力なダイウルゴスとして新たに形を成した。
――今の状態で、アレの攻撃を受け止めきれるのか?
このままでは一矢を報いることもできず、共倒れになるのではないか。
與儀は反射的に動いていた。
「受け止めきれねーだろ、躱せ!」
「いでっ」
勝手に京杜の背を借り、與儀は跳躍した。
強化されたダイウルゴスと、襲い来るダイウルゴスの合間を抜かんと突っ込んでいく。
「うっ……」
右足に強い痛みが走り、直後に背後で強烈な激突音が響く。
自身の右足や、連れの無事を確かめている余裕はない。
最早これが最後の機会だ。
京杜の元へ向かっていたダイウルゴスの背を蹴りつけ、與儀は何かを掴むように両手を伸ばした。
握り込んだその手中、二丁の拳銃が形を成す。
方向を変えたダイウルゴスが、小さな背へと追い縋る。
背後で黒竜ががぱりと大きな口を開けた刹那、與儀は全力で引き金を引いた。
「スカした顔しやがって!」
「……窮鼠、といったか」
忌々しい――自身の弾丸があの男に風穴を開けたかどうか、確認する間もなく視界が翳る。
強烈な呻り声と共に、與儀の世界は閉ざされた。
苦戦
🔵🔵🔴🔴🔴🔴
三嶋・友
転移前から晶花には氷の魔力を纏わせ孤蝶と共に構える
狙うのはシンプルに初撃の回避
余計な防御には一切意識を割かない
失敗は覚悟の上
ワンオアナッシング位の覚悟がなくちゃ、格上相手に上手なんて取れっこないでしょ?
初撃までに間があれば風の魔力を宿した宝石を展開
少しでもその動きを阻害
第六感まで全てを駆使し、残像による相手への幻惑も仕掛けながら見切りを狙う
動きの全てを見切れなくても良い
その赤い剣の一撃さえ避けられれば
魔力で強化した視力でただ一色、”赤”に反応し、避ける
孤蝶の煌きと氷の魔力を通した晶花の青白き耀きは赤を見出しやすくする為のもの
ただ無心でその”赤”に反応する!
成功出来たら即座に全力で輝氷嵐を発動
新たに現れた猟兵の姿を目にしたドラゴンテイマーが、僅かに顎を引く。
三嶋・友(孤蝶ノ騎士・f00546)の手には既に二つの愛剣が握り込まれていた。
戦闘の始まりを告げる蝶の幻影が優美に舞い上がり、友の周囲に幻想的な光景を生み出している。
魔力を充分にそそぎ込まれた晶花は、冴えた氷を思わせる青白に煌めいて――人目を引くその姿は、無論狙いあってのこと。
(ワンオアナッシング位の覚悟がなくちゃ、格上相手に上手なんて取れっこないでしょ?)
日頃ゲームに興じる彼女らしい考えではあるが、ある意味の正しさを持っている。
己の思う最良の結果を得るためには、何に重きを置き、何をどこまで捨てられるかだ。
「……面白い。それが望みであれば、試してやろう」
そう言うや否や、ドラゴンテイマーは地を蹴り付けた。
自身の考えを読みとったらしき彼の言葉に、友はどこか挑戦的な笑みを浮かべる。
――失敗は覚悟の上だ。
一気に距離を詰めてくるその速度に舌を巻きながらも、友は冷静に動き出す。
彼女の狙いは初撃の回避。ただそれだけだ。
それさえ叶えば、苛烈極める黒竜の攻撃を喰らわされずに済む。
密かに仕掛けを施す間もなく、ドラゴンテイマーが肉迫する。
びりびりとした空気の震えを肌に感じる。
自身の身を守る考えなど、端から捨てていた。
紅い剣の一撃さえ避けられれば、それで良い。
魔力で強化された視力で、すべてを捨て紅のみを観る。
青白く輝く友の視界において、紅いのはあの男の双眸と刃のみ。
まっすぐに突っ込んでくる紅い軌跡に、友は反射的に左へ飛んだ。
するりと紅が右へと流れ、残した残像を引き裂くように振り上げられる。
油断を誘うその動きに、友は目も呉れない。
残像を引き裂いた紅の軌跡は、途切れることなくまっすぐ友の元へと伸びてくる。
爪先が地に触れた時、紅は早くも友の芯を捉えようとしていた。
もう一度飛び退くため地を蹴れば、その動作そのものが致命傷となる。
「……!」
ドラゴンテイマーの刃が空を切る。
花の大地に背から落ち転がった友の心臓が、どっと激しく脈を打つ。
「凍れ、その身も心の底までもッ!」
晶花から放たれた絶対零度の凍気に、男は僅かに目を見張る。
友は反動をつけ、後方へ飛び退きながら起き上がる――その眼前に、まっすぐに紅い切尖が伸びてくる。
「くっ……!」
「評価に値する。実に有意義だった」
身じろぐ間すらなかった。
突き出された刃が額を割り、数多の黒竜の群れに友の視界は覆い尽くされた。
大成功
🔵🔵🔵
エルス・クロウディス
さてさて、追撃だ。
出来ればお前は逃がしたくない。
さて、こいつの先手となると、もう躱すしかないな。
持ち前の<視力>で敵の挙動を逃さず<見切り>、足で軽く地面を叩いて風<属性攻撃>。
<地形を利用>して花を舞い上げ、<目立たない>よう紛れ込み、<カウンター>に闇套で<串刺し>に!
しようとするところを、花の<迷彩>に紛れ込ませた<残像>の<フェイント>で演出する。
本命は下段から滑り込むように放たれる、疾風斬鉄脚。
武装を支点にした伸びる射程と柔軟な機動。
肉体と武器による波状<2回攻撃>により、攻撃の予測を振り切りながら致命の一撃を狙う。
さぁ、俺の蹴りは当たれば痛いじゃすまないぞ?
一直線に向かい来るドラゴンテイマーの姿をその目に映し、エルス・クロウディス(昔日の残響・f11252)は回避のため身を引こうとする――しかし紅い刃がまっすぐにその肩を貫いた。
軽く舌打ちしながら、続く攻撃に備える。エルスはよろめきながらも、足で軽く地面を叩いた。
襲い来る黒竜の群れが、次々エルスに牙を剥く。
舞い上がった花びらに紛れるように移動しながら、エルスは黒竜の横っ面目掛け闇套で串刺しにした。
横から突っ込んできた黒竜が、ばくんとエルスの体に喰いつくも、その姿は残像――。
(そうそう思い通りにはいかないか……でも、出来ればお前は逃がしたくない)
滑り込むように黒竜の体の下へと潜り込む。背後で黒竜が地面に突っ込み、盛大に花を散らした。
エルスはそのまま臆することなくドラゴンテイマーへ接近すると、下段から強烈な蹴りを放つ。
「さぁ、俺の蹴りは当たれば痛いじゃすまないぞ?」
「……くっ」
風斬る音を響かせ、強烈な蹴りが男を襲う。
武装を支点に放たれた蹴りは、見る見る男の身に迫る。
咄嗟に地を蹴りつけ攻撃を避けたその背から、ばらりと羽の一枚が落ちた。
濃い紫のガスが、血のように溢れ出す。
「浅かったか」
僅かに目を細め、ドラゴンテイマーが再び剣を振る。
体勢を戻しきる前に接近され、深く腹を貫かれる。
次々襲い来る黒竜の群れに、エルスは抵抗の術なく飲み込まれていった。
成功
🔵🔵🔴
コノハ・ライゼ
避けよう、ナンてのは不得手だからネ
読んで耐えて力で喰らう、しかねぇデショ
素早く周囲の無機物を確認
凡その物量、方向を情報収集し読み備え
攻撃は動きを見切り躱しきれぬ分はオーラ防御で凌ぐ
手足頭が繋がってれば戦えると細事は気にせず
傷は激痛耐性も合わせれば耐えるに不足ない
攻撃凌ぐ狭間で高速詠唱にて【彩雨】喚び黒竜と本体をカウンターで迎撃
全て撃ち落とせずとも隙作り
2回攻撃で懐へ踏み込んで「柘榴」で斬りつける
アンタはナニを見る
ナニを喰らう
オレにも分けてヨ、ねぇ
再び黒電で黒竜を迎撃すると見せかけてだまし討ちでの捨て身の一撃
黒電と柘榴を全て本体へ向け傷口をえぐり
意識が離れる前に生命力吸収し少しでも傷を広げよう
アルバ・アルフライラ
やれ、しぶとさだけは随一よな
貴様が幾度と黒竜を従え現れようとも
何度でも我が魔術で退けてくれよう
黒竜共の召喚に際し、オーラの守りを展開
数は多けれど極力彼奴等の挙動を把握
死角から寝首を掻かれぬよう第六感も用いて見切りに努める
多少傷を受けようが激痛耐性で凌ごう
そして可能な限り早く、高速詠唱にて【愚者の灯火】を召喚
最低限の炎で己の守護を固め、広範に及ぶ全力魔法で敵を焼き払う
罅が入ろうが構うものか
…然しこの身は貴様の竜なぞにくれてやらぬ
火力が足りぬならば炎を重ねる事で威力を重視
手数を減らし、最後は竜使いへと至るよう
絶え間なく我が魔力を注ぎ込もう
黒き竜は我が従者で充分でな
――塵すら遺さず、灰燼と帰すが良い
舞い上がりかけた花弁を柔く踏みしめ、コノハ・ライゼ(空々・f03130)はつぶさに自身の周囲へ視線を走らせた。
(避けよう、ナンてのは不得手だからネ……読んで耐えて力で喰らう、しかねぇデショ)
これまでのどの敵よりも強力な相手との戦闘だ。自ずと導き出された答えはこれに尽きる。
おおよその物量と方向を頭に叩き込み、コノハは無言のままこちらを見つめる男へ視線を向けた。
「一人……否、二人か」
男の視線が、流れるようにコノハの背後へ向かう。
こつりと軽やかな足音を響かせ、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)がほの白い光とともに降り立った。
出会い頭から向けられた不躾な視線に、彼はふっと瞳を細めて応じる。
「やれ、しぶとさだけは随一よな」
どこか楽しげにも聞こえるその声に、男もまた僅かに眼を細めた。
「貴様が幾度と黒竜を従え現れようとも、何度でも我が魔術で退けてくれよう」
「ではその技量、見せてもらうとしよう」
僅かに風に揺らいだ髪の向こうで、紅い眼が妖しく煌めく。
途端にそこかしこから聞こえる咆哮、咆哮、咆哮――。
「安心しろ、相手をするのに一人も二人も然程変わらん」
男が左腕を軽く擡げたその瞬間、黒竜ダイウルゴスが群を成しコノハとアルバ目掛け突っ込んでくる。
「聞き捨てならん言葉だな」
「だネ」
牙を剥き喰らいつかんとする一体を躱し、横から突っ込んでくる大きな爪を、オーラ防御と柘榴の刃で受け止める。
咬み合う硬質な音の中に、カタカタと細かに震える音が入り交じり――。
「……キミ、ちょっと太りすぎじゃナイ?」
圧されるまま飛び退き、次の攻撃に備え身を翻す。追い縋る黒竜の爪が、コノハの腕の肉を削いだ。
しかしその程度で彼が怯むことはない。
致命的な一撃を避けさえすればいい。手と足と頭さえが繋がっていれば、戦える――刹那的な思考、その大胆さがコノハの身に数多傷を増やせど、着実に牙を穿つ未来へと導いている。
的確な取捨と実力が伴ってこそではあるが、その点でいえばアルバもまた似たようなもの。自身の従者の顔が浮かんではほどほどに慎まんとするものの、局所に刹那的思考が見え隠れする。
(ふむ。一人も二人も然程変わらぬ……か)
測られている。男は傍観者としての姿勢を終始崩してはいない。
しかしアルバは識っていた。観ようと考えるその時点で、心の内に僅かばかりの侮りが存在することを。
確りと黒竜の挙動を把握し、死角より来る攻撃を、勘を働かせ回避に努める。
矢継ぎ早な攻撃に、身に走る痛みを堪える最中、アルバは高速詠唱で以て愚者の灯火を召喚した。
浮かび上がる焔を、全力で打ち下ろす。広範に燃え上がる焔に入り交じり、コノハの放った水晶の煌めきが、雨矢のごとく花の大地に降り注ぐ。
範囲に次ぐ範囲。
高火力で放たれる攻撃に、片方が討ち漏らした黒竜も否応なく巻き込まれる。
穿たれ、燃やされ、黒竜達が末期の咆哮を上げる。
焔を掻い潜り襲い来る黒竜の牙が、アルバの肩口に喰い込んだ。
ぴしりと弾ける音を耳にしながら、アルバは怯むことなく黒竜へ視線を向ける。
「この身は貴様の竜なぞにくれてはやらぬ」
重ねるように炎を落とされ、黒竜は身を引き攣らせて墜落た。
しかし無機物へと還ったそれらは、ドラゴンテイマーの力によって再び黒竜と成る。
一進一退、ギリギリのところで繰り広げられる攻防に、男の紅い双眸には深い好奇の色が宿っていた。
「手間は然程変わらぬと言ったこと、訂正しよう。頭の回る者が群れるのは厄介だ」
全く違う性質のようでいて、どこか繋がっている。コノハとアルバのその思考の有り様が、期せず互いのミスを補い合っていた。
しかし――ようやく考えを改めたのであろう、男は自身の放った黒竜に紛れ、地を蹴り飛び出した。
「ようやくやる気になったか。しかしこれでは視界が悪かろう」
焔の玉が、主人に注がれる魔力に応えるように色を増す。
「黒き竜は我が従者で充分でな。
――塵すら遺さず、灰燼と帰すが良い」
一斉に解き放たれたアルバの炎が、次々黒竜を焼き落とす。
「……!」
一瞬の悪寒に身を退く。
のたうつ黒竜の只中から飛び出したドラゴンテイマーが、右腕を鋭く振り抜いた。
「くっ……!」
咄嗟に致命は免れたものの、硬質な音を立て何かが吹き飛んだ。
腕に迸る痛みを堪え、男から距離を取る。
視界の端で、美しい青糸の絡みついた綺麗な切断面の鉱石が煌めく。
襲い来る竜の息の根を止めんと刃を突き立てたコノハは、あちこちから血を零す体を弓なりに、ずるりとそれを引き抜いた。
(あっちが先かぁ……ま、好都合だケド)
コノハの手元から、溢れるように子狐の影が生まれ出る。
子狐はころころと戦場を駆け、それぞれが黒竜達の元へ向かっていく。
その動きを受け、ドラゴンテイマーは片手で杖を構えたアルバを追い打たんと一歩踏み出した。
その瞬間――コノハは強く花を蹴り付け、一気に男との距離を詰める。
「そう来るか――」
「うっ……!」
防御を打ち破り、アルバに刃を突き立てる。倒れ込む硬質な音を耳に、男は素早く身を翻した。
振り向き様に振るわれた紅刃が、コノハの視界の端で翻る。
直後、コノハとぶつかり合った男の背を、最期の力を振り絞り放たれたアルバの焔が焼いた。
「ぐあぁっ」
コノハの左腕を斜めに割り、一直線に首筋へ上った切尖が、勢いを失いぴたりと止まる。
大量の血飛沫が視界の中で踊り狂うも、捨て身で打ち込んだ柘榴から伝わってくるその感触に、コノハは薄らと笑んだ。
「アンタはナニを見る。
ナニを喰らう。
……オレにも分けてヨ、ねぇ」
掠れた声に応えるように、子狐の影が身を翻し男の元へ集う。
流れ出る血の勢いに、次第にコノハの意識が遠のいてゆく。
黒い稲妻がその引き締まった肢体を打つ最中、震える手で柘榴の刃をさらに捻り込む。
「最期の、最期まで……!」
何か吸い上げられる感触に、男は刃の食い込んだままのコノハ体を蹴りつけた。
「この戦いの記憶、確ともらってゆく」
刃を抜かれ崩れ落ちた体を一瞥し、男は自身の胸から濡れた刃を引き抜いた。
大成功
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シズホ・トヒソズマ
※連携・アドリブOK
・POW
シュヴァルツヴィアイスの予測演算による◆見切り、リキッドメタルでの◆盾受けで、敵の右腕による攻撃及びそれを当てる為にしてくるあらゆる部位での攻撃を防御もしくは回避し、右腕の攻撃の回避に務める
捌き切れず右腕の攻撃が当たりそうな時は、◆目立たないように自身の花の足場の下に◆迷彩で隠していたユングフラウを◆早業で◆操縦し、フラウ自身で◆武器受けし自身への命中を回避。フラウ向けて竜が来るときはフラウを遠くに◆投擲
UCでヴィアイスと合体し、ダイレクトに◆操縦する事により素早く接近、予測演算による◆見切りからの◆カウンターで◆呪詛の偽三呪剣で攻撃
「私の故郷は利用させません!」
ラティファ・サイード
わたくし強い方は好きですわ
敬意を以て相対します
引くわけにいかないのはお互い様でしょう?
臆せず間合いを測り
赤き剣の右腕、その刃と切っ先の動きを注視
攻撃の軌道を見極め
叶うならば扇、ランディーニを放り
わざと『命中』させてしまいましょう
ただそれをも貫いて向かってきたなら
この腕の一本くらいどうぞ差し上げる
黒竜ダイウルゴスの群れが襲い来ようと
痛みを歯を食いしばり耐え
尚も歩を進め懐へ飛び込みます
喉さえ無事であればいい
わたくしは守護者です
守る以上
倒れはしませんわ
何を守る?
あなたを通しはしないという
わたくしの矜持です
十分引き付け狙いを定め逃さない
更に奥へ踏み込む
存分に味わってくださいまし
かぐろいの業火をあなたへ
花の香に紛れ、焦げ付いた匂いが辺りを漂う。
男の胸部からは、取り分け濃い紫の霧が漏れ出していた。
平然と目の前に立ってはいるものの、背から伸びる羽も欠落し、彼がこれまでの戦闘でかなり消耗していることが伝わってくる。
ラティファ・サイード(まほろば・f12037)は敬意を込め、彼と向き合った。
ふっと和らげるように瞳を細め、蠱惑的な笑みを浮かべる。
「わたくし強い方は好きですわ」
――引くわけにいかないのは、お互い様でしょう?
柔らかな唇が言葉を辿るように動く。
「引くも引かぬも、私はただ観ているだけだが……」
「ふふ、本当に観ているだけなのかしら?」
眼前に迫るドラゴンテイマーに、ラティファの笑みは崩れない。
右腕の剣の切尖の動きに注視し、相手との間合いを測らんとする。
まっすぐに突き込んでからの、横薙ぎの一閃。
わざと命中するように放り投げた扇が弾かれ、ひらりと天を舞う。
烏の濡れ羽のような艶めきが、吹雪く花びらと共に舞い落ちた。
「ますます気に入ってしまいましたわ。
よろしくてよ……この腕の一本くらい、どうぞ差し上げる」
その刃は右腕を裂き、まっすぐに腹を割っていた。
ラティファの柔らかな肌が、溢れる紅でしとどに濡れる。
「不要ならば貰っておくとしよう」
襲い来る黒竜の群れが、ラティファを呑み込んでいく。
黒竜の群れが花の戦場を蹂躙する最中、シズホ・トヒソズマ(因果応報マスクドM・f04564)は送り込まれた。
体を取り巻く最後の光の粒が消えたその瞬間から、シズホはシュヴァルツヴィアイスによる予測演算を開始する。
「次から次へと、よく集まるものだ」
間を置かずドラゴンテイマーが突っ込んでくる。シズホはその刃をリキッドメタルで受け止めた。
途端に襲い来る黒竜の群れ。
「くっ! これは……!」
ユングフラウを繰り攻撃を受け止めるものの、次々襲い来る強烈な攻撃を捌ききることが出来ない。
黒竜の突進に体勢を崩した瞬間、強烈な爪の一撃を貰い地面へと叩きつけられる。
「余所見をするなんて、罪な方」
ばらばらと花びらが散る只中を、紅い斑を刻みラティファは一直線にドラゴンテイマーの元へ駆けてゆく。
「その体でよく耐えたものだ」
「お褒めに与り光栄ですわ。わたくしは守護者。決して倒れはしませんの」
「ただの傍観者たる私から、一体何を守るというのか」
「あなたを通しはしないという、わたくしの矜持ですわ」
「己が誇りに命を賭す……か」
数多の傷を負い、血肉を落としたとは思えぬほど優美な笑みを湛え、軽やかに身を踊らせその懐へと飛び込む。
紅い双眸でまっすぐラティファを捉えたまま、男は右腕を振り下ろした。
肩口へ斜めに叩き下ろされた刃を目掛け、躊躇なく血の滴る右腕を差し向ける。
ごとんと重々しい音が響き、花びらが舞い上がる――刃は勢いを殺され、ラティファの鎖骨の辺りで動きを止めた。
「そうそう、お忘れでしたわ。
あなたに差し上げたこの腕……存分に味わってくださいまし」
黒竜の群れが迫り来る最中、薄く開いたラティファの唇から、誘うような甘い吐息がこぼれ出す。
忽ちドラゴンテイマーの上半身を、漆黒の炎が覆い尽くした。
「ぐぁっ……!」
剣を引き払い、男は身を捲く焔を掻き消さんとする。
その背後、三本腕の騎士人形と合体したシズホが素早く跳躍し、接近した。
「私の故郷は利用させません!」
手にした偽三呪剣が、男の首の根目掛け叩きつけられる。
「ぐっ……うぅ……」
深い紫の靄が、渦巻くように彼の体を包み込む。
振り向き様に斬り上げられ、傾いだシズホの体が、黒竜の群れに刻まれ吹き飛ばされた。
散々に散らされた花びらが、血にまみれ静かに地面に降り積もってゆく。
最早立ち上がる者のない戦場を、男は体を引き摺りながら歩き出す。
一歩、二歩、ゆっくりと進み出ると、彼は深い吐息を吐き、ざらりと紫苑の闇に溶けていった。
成功
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