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バトルオブフラワーズ⑬〜バイバイ・フリーダム

#キマイラフューチャー #戦争 #バトルオブフラワーズ #オブリビオン・フォーミュラ #ドン・フリーダム

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●オール・フォー・フリーダム!
「あらあら、もうみんなぶっ殺されたですわの?」
 ころころと、まるで笑っているようだった。
「まあええやろ、切り替えていこですわ」
 裸身に近い女は、極楽浄土からの迎えの如く印相を成し、独特な言葉遣いで猟兵たちへ名乗りを上げる。
 自分こそは、かつてシステム・フラワーズを作り上げたちょうてんさい、『ドン・フリーダム』だと。
 そして今、成そうとしていることは破壊ではなく、修理なのだと。
「そう、皆様がご利用中のコンコンコンは、完全なコンコンコンではないのです。本当のコンコンコンは、コンコンコンすれば望むものが何でもコンコンコンされる。コンコンコンとはそうあるべきではないですか?」
 けらり、ころり。
 罪深い程、欲深く。
 キマイラフューチャーのオブリビオン・フォーミュラは自由を謳う。

 ――否、『程』ではない。
 理なき自由は、ただの罪だ。許されざるものだ。人が誰かと手を携え生きる為には、排さなくてはなくてはならぬものだ。

●バイバイ・フリーダム
 いよいよ大詰めだね、と連・希夜(いつかみたゆめ・f10190)は呑気に笑った。
 だってここまで来たのだ。猟兵たちが負けるはずがない――と楽天家な男は半ば本気で思っている。
 されど相手はオブリビオン・フォーミュラ『ドン・フリーダム』。
 辿り着いたシステム・フラワーズの中枢にて待っていた者にして、これまで倒して来た三人の幹部の能力を有す相手。
「ついでに言えば、能力値は3幹部より上がってるけどね?」
 物騒なことを何でもない事のように希夜はさらりと言う。最早ただの無責任な気がしないでもないが、これが彼なりの信頼の証なのだ――きっと。
「えぇと。絶対無敵バリアと風と弱点、だっけ。無敵バリアはエモさを見せつければ破れるし、他の二つもちゃんと考えれば、きっと何とかなる!」
 幾度でも蘇るオブリビオンだが、短期間に許容値を超えて倒せば限界は必ず訪れる。
 ちなみにね、と。これから皆に相対してもらう個体は、天才に焦がれるも絶対に及ばぬ者の葛藤がお好みみたいだよ、と希夜は言い添え「エモいって奥深い」とまた笑う。
「自分のこと、ちょーてんさいって言ってるからかもしれないね。あ、ただの天才じゃなくて天災でもあるのか」
 ――面白いね。
 キマイラフューチャーに最も相応しいと思う賛辞を、ほんの少しだけ電子の光を残す瞳に感慨を滲ませ希夜は呟き、猟兵たちの転送準備に入る。
「勝利は目前。ま、肩の力を抜いて。楽しくいってらっしゃい!」

 然して猟兵たちは舞い降りる。
 欲望渦巻く、最後の戦場に。


七凪臣
 お世話になります、七凪です。
 バトルオブフラワーズ、ラスボス戦の開幕です!

●特殊ルール
 敵は必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
 加えて、ドン・フリーダムは使用する能力値別に違う対処が必要です。これらに対抗する方法をプレイングに書かず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、必ず先制攻撃で撃破され、ダメージを与えることもできません。

 POW:絶対無敵バリアを展開します。エモいものを見せれば無効化できます(エモいの基準はラビットバニーと同じ)。
 SPD:風で足場を崩してきます。
 WIZ:猟兵のユーベルコードの弱点を見抜き、確実に反撃するマシンを作り出してきます。 その反撃マシンに反撃する方法を考えなければいけません。

 これらの能力はそれぞれ「ラビットバニー」「ウインドゼファー」「エイプモンキー」と同じですが、ドン・フリーダムは彼ら以上の実力者です。

●シナリオの流れ
 このシナリオは戦争シナリオです。1フラグメントで完結いたします。

●シナリオ傾向
 POW・SPD・WIZの選択によりテンションはやや異なります。
 なおPOWの『エモ』ポイントはOP内に記してありますので必ずご確認下さい。
 SPD・WIZは技能やUC主体ではなく、それを如何に活かすかをお考え頂けるとより輝けるかもしれません。

●その他
 プレイング受付はOP公開時点より。
 受付締め切りはマスターページ等でお報せします。
 描写人数は十人前後になるかと思います。
 連携は二人組まででお願いします。

 皆様のご参加、心よりお待ちしております。
 宜しくお願い申し上げます。
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第1章 ボス戦 『ドン・フリーダム』

POW   :    赤べこキャノン
【絶対無敵バリア展開後、赤べこキャノン】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    レボリューション・ストーム
【花の足場をバラバラにする暴風】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    マニアックマシン
対象のユーベルコードに対し【敵の死角から反撃するマシン】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。

イラスト:由依あきら

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

フェン・ラフカ
さて、私の休暇を潰した報いを払って頂きましょう。

ゼファー戦と同じく20m四方の壁を【レプリカクラフト】でドンの方向へ少し傾けて作り上げます。
ゼファー戦と同様に初撃を緩和出来れば良いですが……
多少のダメージは『激痛耐性』で誤魔化しましょう。

壊れる壁を駆け上がり、必要ならば『ロープワーク』を使い、最悪【レプリカクラフト】で足場を作り、崩れる足場から逃げて相手側へジャンプ&体重を乗せた飛び蹴りをします。
蹴りは当たっても外れても良いのです、本命の追撃として『クイックドロウ』でヴィストラルを抜き撃ち。


貴女が望む形に"修理"した先に待つのは、堕落と破滅でしょう?
そんな止まった世界はまっぴらゴメンです。



●果敢
 転送は一瞬。降り立った花の大地に『それ』の姿を見止めたフェン・ラフカ(射貫き、切り拓く、魔弾使い・f03329)は、一呼吸を置く事なく駆け出した。
「さて、私の休暇を潰した報いを払って頂きましょう」
 速度を、競いに征く。
 足元を崩す風は、ウインドゼファーとの対峙で経験済み。
 だから疾く、疾く、疾く。
 フェンは風の騎士にそうしたように、仮初めの防御壁の展開を試みた。
 ――しかし。
「あらあら、さっそくぶっ殺されにいらはりましたですわの?」
 独特な口調は長閑ささえ感じさせるのに、ゆるり首を巡らせる仕草だけで振るわれた力は苛烈にして絶大。
 フェンのユーベルコードが発動しきる間もなく、キマイラの女の足元は砂の城のように崩壊を始める。
 風の流れを、見極める隙さえなかった。
(「これが、オブリビオン・フォーミュラの力ですか――っ」)
 急速に落下していく感覚と、荒れ狂う風に身を引き裂かれる感触に苛まれながら、フェンは懸命に意識を保つ。
 こんなところで終わるわけにはいかない。
 何かを探し求めるフェンの本能が、彼女を戦場へと繋ぎ止める。
「これなら、」
 途切れてしまった力の形成。守りに傾けるつもりだったそれを、フェンは足場への転用に試みた。
 最悪の場合の奥の手として考えていた策。けれどそれはフェンを生かす道と成る。
 たんっとレプリカクラフトで造り上げた地面を蹴り、フェンは跳ぶ。跳んでは、また足場を構築し、戦場へと舞い戻る。
 纏う黒衣を千々に引き裂き、足から胴へかけて伸びる爬虫類の肌からまでも血を溢れさせる傷は浅くなく。僅かな耐性では、一撃を加える時間を維持するのが精一杯だった。
 それでもフェンは、その一瞬に賭ける。
「あらあ、戻ってきたでございます? しぶといだわね」
「貴女が望む形に"修理"した先に待つのは、堕落と破滅でしょう?」
 狙いを定める余裕はない。けれどドン・フリーダムのいう『自由』を拒絶する心は、フェンに奇跡の軌跡を与える。
「そんな止まった世界はまっぴらゴメンです」
「――あらぁ?」
 長年愛用している半自動狙撃銃から放たれた弾丸は、ドン・フリーダムの摂取不捨印を成す指の一本を吹き飛ばした。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

月雪・千沙子
依世凪波(f14773)と同行

とても強い人が出てきたようだけど
ここで引くわけにはいかない…
凪波、行きましょう

足場が崩れたら凪波に手を引いてもらって危険を回避
別の足場に移り、すぐになぎなたを構え
【七星七縛符】を放てるようにドンをまっすぐ見る

弱点を見抜かれ、反撃マシンが反撃をしてきたら
こちらもなぎなたで咄嗟の一撃とカウンターをし
衝撃波でなぎ払って反撃マシンを足場が崩れた所へ飛ばす

マシンをどうにかできても…
ドンが無傷のままでは勝てない

凪波…まだ立てる?
大丈夫なら…決着をつけましょう

凪波の後について駆けて
なぎなたを全力で振り下ろす

私は心を映し出す鏡のヤドリガミ
あなたが心から望む自由をここで断つ!


依世・凪波
千沙子◆f15751と

アイツが敵の親玉か!?
おー!ここが最後の頑張りどころだなっ
千沙子と一緒に協力してやっつけてやる

バラバラになる足場に鉤縄をロープワークで投擲し
風に飛ばされぬよう足場を引っ掛けて盗み
そのまま追跡しつつクライミングとジャンプ移動

千沙子あぶない!
救助活動で足場の移動に手を貸し、落下の危険は鉤縄を投擲し確保
ひとりじゃないんだ!ほーらこっちはお留守だぞっ
マシン反撃には予備ダガーを投擲し武器落としで千沙子の援護射撃

勿論!まだいけるぞーっ

野生の勘を頼りに足場の地形の利用し忍び足でドンに近寄り
【シーブズ・ギャンビット】で加速し反撃も覚悟の上で突っ込み
捨て身の一撃なだまし討ち
コレでもくらえ!



●凪波と千沙子
 きっと一人だったら、何もできなかったはずだ。
 けれど依世・凪波(元気溌剌子狐・f14773)と月雪・千沙子(ヤドリガミの陰陽師・f15751)は手を携えた。
 溌剌と笑う妖狐の少年は軽やかに跳ね。長き年月を封じられていた鏡に宿った魂の少女は、淡々と戦況を読み。
 互いが、互いに成すべきことを。幸運さえ味方につけて、凪波と千沙子は成す。

 轟々と唸る風が、瞬く間に二人の足元を砕く。理不尽な嵐に呑まれる瞬間、凪波はとっさに千沙子の腕を引くと、そのまま彼女を空高く放り投げた。
「さすが、敵の親玉! やっぱり強いなっ」
 バラバラになる足場へ鉤縄を投げ、それを頼りに凪波は風を凌ぐつもりだった。だが、迫り来る花弁の渦に、凪波は鉤爪をかけるモノ自体がない事を悟った。
 自分の逃げ足では、千沙子を抱えてドン・フリーダムの攻撃範囲を脱する事も出来ない。
 このままでは、共倒れになってしまう。
 ならば――と。凪波はロープで千沙子の身体を絡め取り、全霊を賭して辛うじて残る足場の際を目掛けて投擲したのだ。
「凪波……!」
 風に煽られながら、千沙子は崩れゆく足場と運命を共にする凪波へ懸命に手を伸ばす。
 だがコントロールできない飛翔は、千沙子の指先に空を切らせるだけ。
「気にするな! これが、協力ってやつだからな!」
 大丈夫、大丈夫。
 きっとどこかに引っ掛かっている、と花嵐に巻かれながら凪波は笑う。確信はないが、獣の勘がそう告げているのだ。
「千沙子ー! 俺の分まで頼んだぜ!!」
「――ッ」
 谷底から響くような凪波の声を耳に、千沙子は危うい大地に立った。長い前髪から覗く銀の双眸に、陽光さえ照り返す鏡の輝きが宿る。
「あらら、一人残ったのでございますわ?」
「ここで引くわけにはいかない」
 討てば、反撃が来るのは分かっていた。だからと言って、怯む理由が今の千沙子にはない。
 おそらく、与えられるのは一撃だ。でも、その一撃に凪波の分まで千沙子は込めると『心』に誓う。
「あんたさんは、何をなさるのでございましょうです」
 笑う仮面に隠れた女の口元が、ゆるやかでありながら歪な弧を描いたのを千沙子は見た気がした。
「では、勝負と参りますでわ」
 ヴンと羽搏きの音を立て、ドン・フリーダムの立つ造り物の蓮から無数のマシンが飛び立つ。それらは一帯を漂う花弁にするりと隠れ、千沙子の視界から消えた。
 しかし千沙子は微塵も臆さず、さっと袖を捌いて護符を放つ。
 死角から出現したマシンが、その護符を処すことまで千沙子の予想の範囲内。然して思った通りドン・フリーダムの先兵は千沙子の背後より現れ、吹き出す炎で護符を焼き捨てた。
 更にそこへまた別のマシンが迫る。
 ――その突撃を千沙子は敢えて受けた。
 巻き起こる小爆発に、清らかな白と薄青の衣が破けて煤ける。にも、関わらず。千沙子はぐっと力強く踏み込んだ。
「私は心を映し出す鏡のヤドリガミ」
 繰り出すカウンターは、薙刀の一閃。
 足元で巻き上げた花弁が、軌道を形にする。
「あなたが心から望む自由をここで断つ!」
 渾身の力で薙ぎ払い。生んだ衝撃波は、オブリビオン・フォーミュラを護るように展開する花たち花で相殺し、玉の肌に確かな痕跡を刻んだ。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

銀座・みよし
花の足場をバラバラにする強風かぁ…
ならばわたくしは相手の風を味方に付け、乗りこなして見せましょう
即ち空中戦にございます
…わたくしに翼がなくても大丈夫
このブロアー付き箒の封印を解けばあら不思議!
空すら飛べる風パワー!(ただの属性攻撃)
聞き耳による風の流れの情報収集、視力によって障害物の確認…
これらを怠らなければ多分どうにかなるのでございます

痛いのは仕方ないけど打ち落とされたら、UCで翼あるスフィンクスさんを呼びます
なぞなぞは後でちゃんと答えますので今はドン・フリーダムへの攻撃優先でお願いします!
…慎みは大事にございます
ええ、何がとは申しませんが!どこがとも申しませんが!

(連携やアドリブ等歓迎!


トトリ・トートリド
…うん、そうだ
ここまで、来たから
トトリたちは…負けない
負けるわけに、いかない、から

仲間と連携
エレメンタル・ファンタジアで炎の、竜巻を
…弱点は、知ってる
水に弱いこと、制御が難しい…こと
死角からの、一撃…くらう覚悟もできてる、けど
…むざむざ、やられる気なんて、ない
水に耐えながら、炎の制御に集中
蒸発する水と火のゆらめき
陽炎に、トトリの姿は、どう歪む?
蜃気楼が歪めた死角を、駆け抜ける
魔法はときどき、計算、なんだ
…とっておき、あげる
水に孔雀緑青の蔓、匍わせて
吸い上げた魔力で育てた飛沫、ぶつける

…別に、与えてくれなくて、いい
トトリは、友達から…色とりどりの気持ち、もらった
…それで充分、だから
さよなら、だ


クロト・ラトキエ
あのなんとかなるマンには後で負った傷見せたろうそうしよう。

さておき。
進めば足元、跳べば足場、花は崩れ暴風が襲う。
…が。
無差別攻撃=空間全て武器って筈はなく。
花は、穴が開くならあの足元は目となるだろう、
嵐に耐えるなら多少無茶も利く強度だろう。
…消去法ですがね?

なら。
駆ける。
踏み出す先を定める。
跳ぶ。
着地点を定める。
何をも単調に、可能性を絞り最適解を絞らせ、来るべくして来る結末を

剪絶する。
見切りの機を極限まで図り、UCに併せ
鋼糸を花に、無理繰り進路を変じ。風すら推進力に。
…無傷でとは驕りませんが。
敵の足場に届いたならフックで斬撃。

誰かが為す最良に繋げられればそれでいい。
何とも強欲で、無欲でしょう?



●風と炎と水と翼と
 不思議だった。
 花で埋め尽くされた足元は、砂浜のように衝撃を吸収するわけでもない。やわやわのふかふかだったら走りにくかったのだろうか、とシャーマンズゴーストの少女――銀座・みよし(おやしきのみならいメイド・f00360)は眼をきゅるりと円め、この地面が間もなく砕かれることを想像する。
(「花の足場をバラバラにする強風かぁ……」)
 しみじみと感じ入る時間は僅か。
 ピアノが上手な老婦人の元へ帰る為にも、みよしは着慣れたメイド服の裾をひるがえす。
「おんやぁ、かわいらしい子でございますですわ」
 迫る気配に、ドン・フリーダムがゆるりと首を巡らせた。
 直後、大気がざわめく。
 先に来たのは圧だった。次いで風の先駆けがみよしの首元を飾る繊細なリボンを揺らし、嵐の直中に放り込まれたかの如き轟音が一帯を支配する。
 裸身の女を中心に、花弁が舞う。見入ってしまいそうな光景だ。しかし失われてゆく地面が、ここが戦場であることを知らしめる。
 視界を覆う花嵐は、一呼吸の間にもみよしの元まで到達する。
 しかし一瞬の連続に、みよしは全神経を研ぎ澄ます。
(「大丈夫でございます」)
 聴覚で、音を拾う。
(「風を味方につければよいのでございます」)
 拾った音から、行く先を予測する。
(「見事、乗りこなしてみせましょう――」)
 そして大きく瞠った目で、帯のようにも見える花嵐を見つめ。みよしはお屋敷遣えの戦友ともいえる箒に跨った。
 アルダワ魔法学園の技術の粋を集めたそれは、ただの箒に非ず。翼なき者にも空中飛行を可能にさせる――のではなく、超パワフルなブロアー機能を搭載したもの。そこへみよしは自ら起こしたささやかな風で暴力に等しい風に指向性を与え、一気に空へと舞い上がる。

「あわわ、あわわ、あわわわ……っ」
 優しい花の色をしたシャーマンズゴーストの少女が、風に攫われてゆく。
 きりもみ回転にはなっていないので、辛うじてコントロールは出来ているのだろう。
(「なぁんて、余裕をみせてる場合ではないですね」)
 迫り来る風の際を走りながら、クロト・ラトキエ(f00472)は視線を上空から嵐の中枢へ戻す。
 留まろうと抗えば、地面さえ破砕する力任せの風だ。掠る程度に巻き込まれただけで、触れた部分が引き裂かれる。
(「あのなんとかなるマンには、後で負った傷をみせたろうそうしよう」)
 ――なんて、呑気な顔で送り出した青年のことを思い出すのも一瞬。
 クロトは可能性の取捨選択を始める。
(「空間全てが、武器ではない」)
 無差別に襲い来る嵐だ。しかし『嵐』として存在するなら、空間そのものがドン・フリーダムの支配下にあるというわけではない。
(「攻撃の始点はドン・フリーダム。中心も、同じ」)
 ならば彼女の立つ足元は、目。
(「とはいえ、周囲の崩壊に耐えるのですから」)
 十分な強度はあると想像できる。
 全てが仮説だ。必ずしも、そうであるとは限らない。しかし硝子のレンズで守る双眸を鋭く眇めた男は、消去法で導き出した唯一の答に全てを賭けた。
「――ッ」
 身を翻しただけで、大地をも砕く風に全身が苛まれた。
 けれど男は更に強引に踏み込み、駆けて、跳ねる。
 風の刃が衣服を、肌を、髪を裂く。次々刻まれる裂傷が、風を赤く染める。それでもなおクロトは風を見切り――。
「面白い試みをする者がいるものですのわ。でぇも、わたくしはちょおてんさいでございますだわ」
 己が立つ、蓮の台座に転がり込んで来た男を、ドン・フリーダムはにこやかに歓待した。まさに飛んで火に入るなんとやら、だ。
「さぁ、ぶっ殺してさしあげですだわ」
 光を帯びた花弁の奔流が、クロト目掛けて収束する。間合いは無いといっていい、ほぼ零距離。
「――剪絶する」
 だが、クロトは。持ち得る無限の可能性をたった一つに束ね、奇蹟の糸を紡ぎあげた。
「なんですのこと!?」
 寸でで己の攻撃を躱しきった男に、オブリビオン・フォーミュラが驚愕の音を奏でる。されどクロトにも余力があるわけではない。むしろ、しでかした無茶に全身は悲鳴を上げていた。
 だから、たった一撃。
 ――誰かが為す最良に繋げられればそれでいい。
 ――何とも強欲で、無欲でしょう?
 くつりと笑みを口元に刻み、クロトは自分を貫く筈だった花矢を鋼の糸で絡め取り、自分も乗る台座へ穿ち落とす。
「トトリ、お任せします!」
 唯一砕けぬ足場にひびが入り、裸身の女が傾いだのを見止め、クロトは知った名前を呼んだ。

(「……うん、そうだ」)
 トトリ・トートリド(f13948)は戦うことを好ましいとは思わない――が。
(「ここまで、来たから」)
 呼ばれた名に、託された未来に、何より悲しい明日を好しとしない為に。
(「トトリたちは……負けない。負けるわけには、いかない、から」)
 鮮やかな天然色を操る優しき森の賢人――シャーマンズゴーストの青年は、鋭い鉤爪で宙を掻いた。
 途端、鋭い何かに射抜かれる。それはオブリビオン・フォーミュラが発する殺気。
「ですから、わたくしはなんだってお見通しでございますだわ!」
 トトリの行動の先を読んだ女が、砕けかけた蓮より機械音を奏でる何かを羽搏かせた。
 されど言葉に惑わされず、トトリは自分の内側へと意識を集中させる。
 大丈夫だ。相手が全知全能の神ではないのは既にクロトが証明している。それに、例え全てを見通されようと、抗う術はあるはず。
 何より、自分の手の内を最もよく知るのは、他でもない自分自身だ。
「……炎には、水」
 ジッ、と。爪先に灯した炎を、トトリは抱え込むように全身で守る。直後、ちょうど真後ろ。視線の届かぬ空域より放たれた水流を、トトリは背中で受け止めた。
 ただの水流ではない。炎を消す、そして身を穿ち喰らおうとする水だ。オブリビオン・フォーミュラの意が形となった水だ。
 じりじりと灼かれるような痛みに、トトリはじっと耐える。元より、一撃をくらう覚悟は出来ていた。そして、漫然とやられるつもりなんて、爪の先ほどもない!
「燃えて」
 とつり、と。トトリは掌の中の炎に呼び掛けた。すると赤は紅蓮に一気に膨れ上がる。
 急激な温度上昇に、風が生まれた。それは益々炎を猛らせ、熱を上げる。
「それで、なにがしたいんでござんしょます?」
 轟と渦巻く紅蓮を、クロトを蹴飛ばし転がしたドン・フリーダムが見ていた。
 視線が再びトトリを射抜く。しかしトトリは炎の制御に専心する。やがて炎は白く輝き、トトリが浴びせかけられていた水を蒸発させ始める。
 じゅ、じゅ、じゅ、と。水が空へ還る。
「それで防いだおつもりでございますわ?」
 届くことない熱に、オブリビオン・フォーミュラは慢心していた。孔雀緑青の蔓が、己が肌に匍う瞬間まで。
「なっ」
「陽炎。知ってる?」
「!?」
 すぐ後ろから、不意に届いた朴訥とした声にドン・フリーダムは長い髪を戦慄かせた。
「蜃気楼、は。幻。光の、屈折」
 炎は、攻撃する為ではなく。敵の目を欺く為の手段。刹那の嘘を真と思わせ、形なき鏡を纏ったシャーマンズゴーストの青年は、ドン・フリーダムの死角をとった。
「魔法はときどき、計算、なんだ」
 ――とっておきを、あげる。
 担いでいたペイントローラーを、トトリは振り上げる。すぅと動いた空気の流れに、水が添う。
「……別に、与えてくれなくて、いい」
 透明な青が、エメラルドグリーンへと変わった。それは既に水であって、蔓でもあるもの。
「トトリは、友達から……色とりどりの気持ち、もらった……それで充分、だから」
「うそよ、うそ。ひとは、もっと強欲。嘘、嘘、嘘ですだわ」
「嘘じゃ、ない――今、だ」
 飛沫を上げる太い蔓でドン・オブリビオンの自由を奪ったトトリは、振り仰ぐ。そこには、翼あるスフィンクスに跨るみよしがいた。
「なぞなぞだ。顔が6個、目が21個。これは何だ?」
「後でちゃんと答えますので!! 今は、ドン・フリーダムへの攻撃優先でお願いします!」
 生命力を共有したスフィンクスの謎かけを、みよしは後への積み残しにして天翔ける。
 抗わなかったとはいえ、様々を破砕する風に任せた体はあちこち痛みを訴えていた。だが、この好機は絶対に逃せない。
「慎みは、大事にございますっ」
「おまえたち、なんでございますですの!?」
 迫り来る気魄に、オブリビオン・フォーミュラが反射で身を捩る。されど、スフィンクスはみよしの倍ほどもある体格。その程度の動きでは、突進を躱せない。
「ええ、何がとは申しませんが! どこがとも申しませんが!」
 然してみよしとスフィンクスはドン・フリーダムを撥ね飛ばし、余った勢いで砕けかけていた蓮の台座を完膚なきまでに叩き割った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ロータス・プンダリーカ
(敵の前にミカン箱が現れた!)
裸の女の人を凝視するのは失礼ですのにゃ。
でも、綺麗な身体ですのにゃ(はわわ。箱の下から窺い感想)

キャノン当たったら痛そうだから箱の中で丸くにゃって防御に徹しますにゃ。
って、ふにゃああん!?
(当然、箱ごと吹っ飛ばされて飛び出てゴロンと転がるにゃんこ)
にゃあ…綺麗で強くて凄い頭良くて、一人でいっぱい持っててズルいにゃズルいにゃ!
天は二物与えずってウソですにゃあ!
(尻尾膨らまし手足じたじた)

羨ましいからこうしてやるにゃ!
(一気に近づき、てしてしとにくきゅうぱんち(素手))
てんさいだからって何しても良いわけじゃにゃいですのにゃ!!
人災ですにゃよ、このひとのやってること。



●羨望の逆襲(ただしあざとい)
「そ、そんな。ちょうてんさいのわたくしが、わたくしが……どういうことですわの?」
 混迷のまま、風という風、砲という砲、マシンというマシンで猟兵たちを退けたドン・フリーダムは、眼差し遠く花の地面に佇んでいた。
 傷ひとつなかった肌は、深い傷が刻まれている。
 豊かに波打っていた髪も、ところどころがほつれ、千切れ、憐れな様だ。
「猟兵の皆様は尽くころころしてさしあげるつもりでしたわのに――……」
 相変わらず定まりない口調が、不意に、唐突に、ふつと途絶える。
 何故なら、ものすごく場違いなものがそこにあったのだ。
「――こんなものあったでございますです」
 ぺたぺたと歩み寄った女は、場違いなもの――『ミカン』とでかでかと書かれた木箱を軽くつつく。
 いや、軽くのつもりで思い切りよくつついた。
 すると――。
「みゃ!?」
「――みゃ?」
 ミカン箱が鳴いた。
 いや、ただのミカン箱が鳴く訳ない。ちなみに、ミミックとかそういう類のものでもない。中に誰かがいるだけだ。因みに中身の名をロータス・プンダリーカ(猫の銃形使い・f10883)という。れっきとしたケットシーの格闘家だ。
 何故、そんなロータスがミカン箱の中に入っているかというと。
(「裸の女の人を凝視するのは失礼ですのにゃ」)
 ――……ということらしい。
 だが、近くに立たれてしまえば隙間からどうしたって見えてしまう――断じて覗いているわけではない。
 ふかふかのレッドタビーの毛並みの自分とは違い、つるりと輝く女の肌にロータスはミカン箱の中でうにゃうにゃと唸る。
(「きっと、こういうのを『綺麗』っていうのですにゃ」)
 あわあわと目のやり場に困りながらも、ロータスは感嘆の息をにゃーと漏らす――が、その瞬間。
「うにゃああああ!????」
 絶対防御のつもりのミカン箱の上半分が吹っ飛んだ。
 きれいさっぱり吹っ飛んだ。
 背中を猫背に丸めていなければ、ロータスの頭も間違いなく吹っ飛んでいただろう。
「ふ、ふにゃあああぁぁ」
 涼しくなってしまったミカン箱の上部から、よろよろとロータスは顔を出す。赤べこキャノンにふっ飛ばされた断面がじりっと熱かったが、動揺のあまり気付かなかった(もしかしたら肉球は猫舌でないのかもしれない)。
 当然そこには、ロータスの様子をしげしげと窺うドン・フリーダムがいた。
「あらまぁ、なんとも弱そうな猟兵ですわのこと」
 ころり。女が鈴を転がすように笑った。
 ぷちん。ロータスの中で何かが弾けた。
「にゃあ……綺麗で強くて凄い頭良くて、一人でいっぱい持っててズルいにゃズルいにゃ!」
 元からいっぱいいっぱいだったのだ。そこへ侮辱を投げられて、ロータスの内で変なスイッチが入ったのだ。
 ずるい、ずるい、ずるい。
 こんなにもたくさん、いろんなものをもってるなんてずるい!
「天は二物与えずってウソですにゃあ!」
 長毛種ならではのふわっふわの尻尾をぶわりと膨らませ、ロータスは駄々をこねるように全身で地団太を踏む。
「――くううっ」
「羨ましいからこうしてやるにゃ!」
 猫の身軽さで、ロータスが跳ねる。そのままてしてしてしてしっと肉球パンチを繰り出す!
「てんさいだからって何しても良いわけじゃにゃいですのにゃ!!」
「ちょっ、こういうのも、あるですわの!?」
「人災ですにゃよ、このひとのやってること」
「はああああんっ、えっ、も……っ」

 ロータス・プンダリーカ(30歳)(30歳)(30歳)(幾度でも繰り返すが、30歳)。
 果たして彼は、ドン・フリーダムを守る絶対防御のバリアーがいつの間にか解けていたのに気付いたろうか?
 然して、裸身の女に襟首をむんずと掴まれ「あっちいけですのわー!」と放り投げられるまでぽかぽかぽかぽか肉球アタックを繰り出し続けたロータスは、その後オブリビオン・フォーミュラが力なく――あるいは脱力しきって――その場に頽れたことを知らない。

成功 🔵​🔵​🔴​

終夜・凛是
エ……モ……?
よくわかんない

でも、葛藤は――ある
だれよりも強い俺のにぃちゃん
遠くからでもわかるほど、猛る狐火を自由に扱って
ああなりたいって、思うけど……そうなれないと、思う
俺はあんな風に、狐火を扱えない、真似できない、追いかけられない
そう、なるべきでは……ない
踏み込みたい、踏み込みたくない気持ちもある
どうしたらいいのかわかんないまま、ただ拳ふるうのは…
間違っているのか、正しいのか

ねぇ、てんさいなら……何が、ただしいかわかるはず
教えて
……なんて問うけど、答えはなくていい

その答えを示すようにただ前のめり
痛い想いしても別にいい
致命傷は避けるようにキャノンの起動を見て動き、バリア壊れたなら拳を叩き込む


ジャック・スペード
劣等感なら尽きぬ身だ、鬱屈を曝け出すとしよう
先ずは砲撃の回避からだな

最初は第六感と見切りに頼りつつ敵の動きを観察し回避
慣れたら学習力で敵の行動パターンを分析し
射程外に滑り込む等して回避を
砲撃凌げばバリアへと数発銃撃して銃を降ろす

――駄目か、俺は量産型の旧式、然も欠陥品だからな
天才、即ち特別な存在のお前に適う訳がない
努力では生まれ持ったスペックの差は覆せない
俺は其れが堪らなく悔しい――だから
天才に追い付く為なら「ヒトらしさ」すら犠牲にしてやる

云い棄てる台詞に覚悟と勇気滲ませ、理性を代償に最終武装モードへ変化
クイックドロウを活かした零距離射撃で、炎属性の捨て身の一撃を
損傷は激痛耐性で耐えてみせる



●『バイバイ・フリーダム』
 先に立ち合った猟兵たちの仕事だろう、台座である作り物の蓮を失った女は大地に蹲って動く気配はない。
 だがそれが彼女が既に沈黙――骸の海へ還ったわけではないのは、物騒な銃口のぎらつきで分かった。
 ドン・フリーダムの動向へ、ジャック・スペード(J♠・f16475)は人ならざる双つの眼を光らせる。
 バカげたフォルムのキャノンの射程距離は計り知れない。少なくとも彼女を視認できる位置にいる限り、放たれた一撃は獲物を捕らえるだろう。
(「伊達にオブリビオン・フォーミュラではないということか」)
 電子回路の頭脳に視覚から取り込んだ情報を流し込み、弾き出した解にジャックは瞳に灯る金の光を緩く明滅させた。
 試しに数発の弾丸を撃ちこんでみる。が、その全ては尽く見えぬ壁に阻まれた。
 距離を詰めたらどうだろうか?
「――ッ」
 されど数歩の距離を進んだ途端、女の傍らのキャノンが起動音の一つも立てずに眩い光を撃ち放った。
 辛うじての回避行動が功を奏したのか、直撃は免れた。にも拘わらず、掠められただけで黒い装甲の一部が溶け、内部構造が顕わにされている。
 ジジ、ジジ、と。ウォーマシンの男があげぬ悲鳴の代わりに、破壊された体が火花を散らす。
「――駄目か」
 捨てられた筈だった命を偶然にも拾い上げられた男の、機械仕掛けの『こころ』がじくじくと痛む。
「俺は量産型の旧式、然も欠陥品だからな」
 今でこそダークヒーローとして人々を守る為に奮戦する身だが、ジャックは元来、銀河帝国の衛兵として製造されたモノ。しかも戦闘中に大破した、役立たず。
「天才――即ち特別な存在のお前に適う訳がない」
 おべっかを使っているわけではない。自分のことを「ちょうてんさい」と言える女のことを、心底羨んでいるのだ。
 努力では、生まれ持ったスペックの差は覆せない。
 どれだけ足掻こうと、換装しようと、届かない領域があるのだ。それは人の手により造られたジャックだからこそ、痛切に理解る事実。
 そしてオブリビオン・フォーミュラたるドン・フリーダムは。人にとっても上位種。神ともいえるかもしれない存在。
 抗う方が、無駄なのだ。
「俺は其れが堪らなく悔しい――」

 きっとそこに見えない壁がある。
 俯いたウォーマシンの男の背中を見つめていた終夜・凛是(無二・f10319)は、ふぅと重い息を吐く。
 絶対無敵のバリアーを解くには、『エモさ』が必要だと聞いている。だが時流に乗らず、何者も寄せ付けないよう瞳に明るい焔の色を映す少年には、それが何だか分からない。
 分かりはしない――けれど。
 一人の男の――正しくは、青年――の姿を彷彿させる透明な壁に、凛是は唇を真一文字に引き結んだ。
 ――だれよりも強い、俺のにぃちゃん。
 赤みを帯びる凛是とは異なり、兄の毛並みは灰青だった。過去形なのは、長らく姿さえ見ていないから。
 それでも凛是ははっきりと憶えている。
 纏う色は熱から遠いものなのに、兄は誰より見事に猛る狐火を自由に扱っていた。遠くから垣間見るだけだったにも関わらず、その鮮烈さは今なお網膜に焼き付いている。
「ああなりたいって、思うけど……」
 頭上の狐耳は力なく折れ、尻尾も垂れ萎む。日頃は険を含む眼差しさえ、弱々しく揺れていた。
 ――なりたい、と思う。
 ――しかしなれないと思う。
「俺はあんな風に、狐火を扱えない」
「真似できない、追いかけられない」
 ぽろりぽろりと呟く度に、凛是の輪郭は世界に溶けて儚くなるよう。
 不意に火吹いたキャノンが巻き起こした花嵐が、凛是の存在そのものを翳ませる。
「違う? そう、なるべきでは……ない」
 踏み込みたい、と願い自分がいる。
 踏み込みたくない、という気持ちを抱えた自分もいる。
 果たしてどちらが正しいのだろう?
 ひらひらと降る花弁の中、黄味を帯びた一片を凛是はぼんやりと眺めた。そしてその向こうに、豊かな髪を花の地面に落とし蹲る女を見る。
 アレ、は。
 討ち倒さなければならない相手だ。
 されど凛是の中に『ねばならない』意義はない。勝手にすればいい、と思ったりもする。だってアレは、凛是の生き方に関係ないもの。凛是の琴線に一切触れぬモノ。
「けど、にぃちゃんなら――」
 無意識に漏らしてしまった言の葉をしなだれた耳で拾い上げ、凛是はきゅっと眉根を寄せた。
 全てが『そこ』に帰結している。
 だがどうやったって、自分は兄には及ばないと、真似できないと、追いかけられないと思ったばかりではないか。
 そして、そうなるべきではないと、迷いを抱えているではないか。
「わかんない、わかんない……わかんないよ、にぃちゃん」
 どうしたらいいのか分からない侭、ただ拳を振るうことは間違っているのか。それとも正しいのか。
 分からない、分かりようがない。
「ねぇ、てんさいなら」
 ゆらり、幽鬼のように凛是はオブリビオン・フォーミュラへ向け踏み出す。
「……何が、ただしいかわかるだろ?」
 どうしてだか、鼓動が騒ぎ出している。
「――教えて」

「アアア、アアアア、アアアアアア、ん、もううううううう!!!!!」
 それまでぴくりとも動かず蹲っていた女が、髪を振り乱して絶叫したのは突然だった。
「えもイ、エモい、エモいでありますでわ!!!!!」
 ドン・フォーミュラの手が、花の大地を掻く。
 ぎりり、と爪を立て。女は――身悶える。
 狂乱の姿に、ジャックのセンサーが反応した。
「――ッ」
 あった筈の絶対防御のバリアーが消え失せていた。
 好機が、目の前に、無防備に、晒されている。
「そうだ。俺は悔しい――だから。天才に追い付く為なら『ヒトらしさ』すら犠牲にしてやる」
 はっきりと云い棄てて、男は自らの体躯を最終武装モードへ転じさせる。より『人』の形より遠退くが、それで良かった。構わなかった。
 『こころ』に、覚悟と勇気が輝いているから。
 そしてジャックの行動を目の当りにし、耳と尾に風をはらんで凛是も走り出す。
 『教えて』と請うたのは、ほんの一瞬前のこと。されど凛是は『てんさい』に答を求めていない。
 答えを示すのは、誰か、何か。
 はっきりとは掴めていないけれど、凛是は逸る何かに突き動かされ疾駆する。
 ドン・フォーミュラを守るように巻き起こった花吹雪が、鋭利な刃となって凛是を襲う。
 細かな傷が無数に刻まれる痛みはあった。
 飛んだ血が、淡い花弁に色を添えるのも、目には入らなかった。
 今はただ、ただ、ただ――。

 漆黒の男が、我が身を火炎弾としオブリビオン・フォーミュラへ肉薄する。
 妖狐の少年が、前のめりに拳を突き出す。
 集約された一点で、花弁の柱が高く高く聳え立つ。
 そしてその一片までもが地に落ちた時、この地にいた身勝手な自由の権化は跡形もなく消し飛んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年05月25日


挿絵イラスト