8
トラップ・ブラック・メイズ

#アルダワ魔法学園

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アルダワ魔法学園


0




「来てくれたか。皆、アルダワ魔法学園はわかるな? 事件だ」
 猟兵たちを待っていたのは、真白・葉釼(ストレイ・f02117)。彼は振り返ると、単刀直入に事件の予知をしたことを語り始めた。
「知っての通り、あの学園には幾つもの迷宮がある。その中のひとつで、探索中の生徒がオブリビオンからの強襲を受けた。そいつは迷宮内を徘徊し、襲撃の隙を伺い、獲物を探しているようだ。が、生憎、生徒たちの手には余る。つまり皆にはそのオブリビオンを始末してほしいんだが――」
 問題はそれだけではない、と言う。

 その迷宮内には、数々の危険なトラップが待っている。学園はこの迷宮への生徒の立ち入りを禁止したが、決定的な理由は強襲したオブリビオンの出現ではなく、設置されているトラップの危険性が高すぎる為だそうだ。
 だが、逆に言えばこれは、猟兵たちが迷宮内部を探索する際、学園生徒たちの身の安全などを考える必要がなく、じっくりとトラップ攻略やオブリビオンの捜索に集中できるということでもある。
「俺が今予知しているトラップには、どうやら蒸気機関が使われている」
 蒸気によって高速で上下する床、その動作の為、予期せぬ場所から高圧かつ高熱で噴出する蒸気。床や壁のとある部分に圧を掛けると動作する単純な槍や矢のトラップも、蒸気機関の力によって驚異的な威力を手に入れている。猟兵でなければ、壊滅的な被害を受けるであろう、と。
 ――逆に言うと、猟兵であれば対処が出来る。
 体力に自信があるならば、それらを正面から受け止めるのも良いだろう。身軽さに自信があれば、作動させたトラップを回避することだって可能だ。自らの知恵を使い、トラップの構造を予測しそもそも作動しないよう解除するのもスマート。
 自分の得意分野で挑んでくれればいい、と葉釼は首肯する。

「奥にはオブリビオンが待っている。だがまずはこの迷宮の危険性を跳ね上げたトラップたちを攻略しながら、探索を行ってほしい。暗い道を手探りで進ませるようなことをするのは申し訳ない。が、敵は獲物を探しているんだ、探索を進めればあちらから姿を現すだろう」
 油断せず、無事に帰ってきてくれ。そう締め、葉釼は差し出した掌の上にグリモアを出現させた。


ミキハル
 こんにちは、正真正銘初めまして、ミキハルと申します。
 やかんでお湯を沸かした後、注ぎ口の蓋を開けるの結構怖くありませんか? 僕は手の皮膚がやたら薄いのでめちゃめちゃ怖いです。熱い。

 それはそうと今回は一先ず、あつあつのトラップを攻略しつつ、迷宮を探索していってください。
 こういうトラップをこういう風に攻略してやるわ! みたいな気概で大丈夫です。解除だってフィーリングでいけるかもしれない。鹿もうろついていないから平気。
 お気軽に油断せず、迷宮へ潜りましょう。

 この度初めてリプレイを執筆させていただくので、速さにはちょっと自信がありませんと前置きさせていただきます。
 けれどそのたどたどしい感じを味わえるのも今だけ! と書いておけばお得感が出ませんか? 出ませんか……。
 がんばります。
 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
58




第1章 冒険 『蒸気トラップ』

POW   :    トラップを正面から受け止める

SPD   :    トラップを華麗に回避したり回り込む

WIZ   :    トラップの構造を予測して解除する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

鴛海・エチカ
【SPD】
斯様な罠など恐るるに足らず。チカに任せるが善いぞ!

先ずは入り口で辺りの様子を窺おうかのう
目で視るのではない、音や気配を一緒に探るぞ
蒸気機関とて物理法則に大きくは逆らえまい
音が巡る流れをよーく聞っ……にゃあああ急に床が動き出したのじゃ!やめるのじゃ!止まれえええい!

ええい、まどろっこしい
エレクトロレギオン――我が機械兵達よ、
飛んでくる槍も吹き出す蒸気もお主らが受けて防ぐのじゃ!

実際に間近で見て体験すれば周期や動きも読めて避けられるはず
少しの怪我もなんのその、じゃ
チカはこの黒き迷宮を抜けて先に行かねばならぬ
待っておれ、未だ見ぬオブリビオンよ。必ず其方に辿り着いてみせるゆえ!



アルダワ魔法学園の迷宮には今や数多の姿があり、訪れる度に姿かたちを変えることは周知の事実であろう。
 そして今回、迷宮内は真っ白な蒸気と無骨なくろがねじみた金属が広がり、歯車の噛み合いシャフトが回転する小さな音たちに満たされていた。時計の中に放り込まれたら、こんな風なのかもしれない。
 単純に歩き回るだけでも、迷宮は危険だ。どこにでも壁や床があるとは限らず、ぽっかりと開いた穴からそっと底を覗けば暗闇が全てを飲み込むようで、頭がくらくらしてくる。学生達はみな、この迷宮に毎日のように潜るのだ――。

 鴛海・エチカ(ユークリッド・f02721)は、開けた大部屋の入口で様子を窺っていた。立ち込める蒸気が視界を遮り、目だけで得られる情報は少ない。だからこそ、向こう側を透かすようにじいっと見つめながら、音や気配も共に捉えるのだ。
 階層全体に広がっている蒸気が肌をしっとりと濡らすのを感じながらも、彼女はひとつ首肯して、一歩、大きく踏み込んだ。
「うむ――うむ! 斯様な罠など恐るるに足らず。チカに任せるが善いぞ! 蒸気機関とて物理法則に大きくは逆らえまい、音が巡る流れをよーく聞っ……」
 がこん、という音と一緒に、床がエチカを運び出す。
「にゃあああ急に床が動き出したのじゃ! やめるのじゃ! 止まれえええい!」
 ゆりかごのような速度は束の間で、加速まではあっという間だった。ごうごうと噴出する蒸気が行く手を遮り、周囲の輪郭もおぼろに溶ける。
 慌ててなびく髪を押さえた彼女の耳に届いた、微かな音。
 ひゅう、と鳴ったそれに反射でしゃがみ込むと、頭の上を大きな斧が通り過ぎていった。振り返るとあれは、丁度ひとの首の位置にあったように見える――……小さなエチカであるから、しゃがんでいなくても平気だったかもしれない。それでもそこにあった大きな危険というものの気配は、蒸気よりじっとりと肌に纏わり付き、忌避感をかき立てる。
「っ……ええい、まどろっこしい」
 纏わり付くものを振り払うかのように手を伸ばす。その魔術師が指先を滑らせれば、端から宙が明滅し、何もない場所から生まれ出ずるものがある。鉄槍じみた重たいものの装填される影に向かい、放った声は気高く響いた。
 ユーベルコード・エレクトロレギオン――我が機械兵達よ!
「飛んでくる槍も吹き出す蒸気もお主らが受けて防ぐのじゃ!」

「あいた!」
 長い『床』を通り過ぎ、半ば放り出されるようにしてエチカは、随分と前進したように思われた。少なくとも、部屋は三つほど通り過ぎた気がする。
 なんだってこんなに急に途切れているのだろうと憤慨しながら立ち上がると、膝には擦り傷、なんだかちょっと鼻頭も痛い気がする。せっかく召喚したレギオンたちも、鉄槍や矢やよくわからないピストンなんかとぶつかって全部いなくなってしまったけれど、少しの怪我もなんのその。
 払った犠牲は最小で、間近に見た罠たちがどのような動きをするのかは、大体覚えることができた。これで今度こそ、罠など恐るるに足りないというものだ。
「……チカはこの黒き迷宮を抜けて先に行かねばならぬ」
 目的を確認するように小さく呟いて、軽く服裾を叩く。細い顎をきっと上げれば、けぶる道はまだ先に伸びて、未踏の白い闇が続いていた。
 だけれど。青い双眸に映る回廊は今や、ここへ足を踏み入れた時ほど、先の見えないものではない。
「待っておれ、未だ見ぬオブリビオンよ。必ず其方に辿り着いてみせるゆえ!」

成功 🔵​🔵​🔴​

以累・ナイ
SPDで、とにかく回避。

そういえば、何のオブリビオンがいるのか、わかんないまま来ちゃったな。
一番奥には、何がいるんだろう?
強敵なのかなあ、わたしでも役に立てるかな。

ユーベルコード【バウンドボディ】を使用。
どこから蒸気が出るかが問題だよね。ぷしゅって出たところを、よーく覚えて。
壁の接ぎ目とか、色の違うタイルを、じっと見つめる。

蒸気に触らずに通れる狭いエリアを見つけて、体を細ーく伸ばして通り抜けるの。
あとは、ぽん、ぽんと軽く跳ねて、弾力性を高めてから、ぽーんと飛び越えるよー。

反射が必要なときは、とっさに体を縮めたり、平たくなって、
ブラックタールならではの回避ができたらいいな。
うわ、熱っ! 熱いっっ



彼女には足音がない。
 ――以累・ナイ(どこにもいない・f02505)の話だ。黒々とした彼女は微かに濡れた音――強いて言うならそれが足音だ――をさせながら、所謂機械室に似た部屋へと辿り着いていた。
 各所を配管が通り、何処と繋がっているのかも知れぬシリンダーが忙しなく働いている。そして数え切れない配管たちの罅割れからは、定期的に蒸気が噴出していた。それに触れたら火傷をしてしまうなんてことは、触れてみなくてもわかる。何せ入り口付近に佇んでいるというのに、鋭い、もしくは高い大きな音のするたび、周囲の気温が上がるようだから。
 物珍しさに身体を伸び縮みさせ、歯車にもちょっと触ってみたい、なんて気持ちを抱えながら、ナイは入り組んで上下に広がる配管と、どこから続いているのか判然としない階段を見渡した。こんなところにも、色んなトラップはあるのだろうか。
「そういえば、何のオブリビオンがいるのか、わかんないまま来ちゃったな」
 ここまで来るにも、立ち込める蒸気でなかなか先が見えなかったけれど、この場所ではそれ以上に、複雑に組み合わされた配管、歯車、機械、その間を通る道々のせいで、何処へ向かっているのかもわかりづらい。確かに、こんなに死角一杯のところで襲われては、ひとたまりもなかっただろう。
「……一番奥には、何がいるんだろう? 強敵なのかなあ、わたしでも役に立てるかな」
 柔らかい身体を捩って考える。ここへ送り出してくれたグリモア猟兵の話でも、潜んでいるオブリビオンが『何者であるか』まではわからなかったらしい。
 ただ少なくとも、トラップに対しては猟兵なら対処できると言っていた。断言だ。
 なら、今、わたしにもできることがある。

「よーし」
 ふるふると身体を揺らして、見上げたのは少し上の通路。ユーベルコード・バウンドボディを使えば、必ずしも道を通らなくたって先へ行けるし、蒸気を避けるのだって楽になるはず。
 問題は、その蒸気がどの辺りから噴出しているのか。道を横断して隣の配管に噴き掛けるものや、亀裂が斜めに走っているせいで宙を白く染めるもの、覚えるためにじっと見つめていると、床のやけに色の違うタイルや、蒸気の噴き出す度に切り替えの起きているレバー、そこから少しの距離にある壁に継ぎ目のあることも見て取れる。
 あからさまなスイッチや蒸気に触れずに通れる空間は狭いけれど、ナイの身体なら細く伸ばして通り抜けられるから。
 タールの身体で良かったなあなんて。便利を思いながら危険に満ちたエリアを通り抜けてしまうと、ここから上に行くなら、きっと真っ直ぐ飛び上がった方が早い。さっきとは逆に、飛び跳ねたりするのには向いていない身体だけれど、今はバウンドボディがついている。
「よいしょっ、と!」
 準備体操に一度伸び縮みをしてから、ぽん、と跳ねた。その先、配管脇、床、通路端と跳ねる度、身体をまあるくしていく。ボールみたいに――そう、ボールだ。狭いところにゴムボールを勢いよく投げ入れると、すごい速さで跳ねまわる。
 あれと同じ原理で――
「ひゃっ」
 確認したはずの配管の隙間から、急に蒸気が噴出した。
 びっくりして身体を縮めると、それに反発して速度が増す。ぽんぽん、ぽん。柱、階段、配管、壁、天井、と跳ね回り、お目当ての通路を思い出して、ナイはまあるく縮めた身体を広げた。
 べたん。
 ちょっと痛い。着地には成功したけれど。
「はああ……びっくりしたなあ」
 多分あれは、一度噴き出した後、次の蒸気が巡ってくるまでにとっても時間が掛かる箇所だったのだろう。長い配管に起こることだ。人型が手摺に体重を掛けるようにちょっぴりくったりと、配管の方へとよじ登るのに似て、広げた黒い身体を戻していく。――と。
「うわ、熱っ! 熱いっっ」
 思わず落ちる。蒸気の通ったばかりの配管はとっても熱い。通路の上でもう一度平たくなりながら、ナイは覚えた。

成功 🔵​🔵​🔴​

シエラ・アルバスティ
【SPD】

 持ち物はダガーと、良く分かんないガジェット()だけ
 だがしかし──私には優秀な切り札が一つだけあったのだった。

「あったのだったーーーー!! この聡明な頭脳が!!!!」

 聡迷なる迷推理

「同じ場所で何時間も腕組んで考え続けられるなんてきっと私は頭がイィ! きっと類まれなる叡知でトラップも斬り抜けられるハズゥ!」

 そう声を上げるや否や仕事を受けた私

 具体的にどうするかというとまず服を脱ぎます(ユーベルコードの効果)
 そしてダンジョンを素早く攻略できます!

「……このユーベルコードを私に与えた神様は変態に違いないよ」

 ていうか脱げる服とか一枚しか無いんですケド……どうすりゃいいんだよゴッド。



シエラ・アルバスティ(自由に生きる疾風の白き人狼・f10505)はうんうん唸っていた。勿論、この迷宮を攻略するためにたくさん考えていたのだ。数時間くらい。
 彼女の持ち物はダガーと、なんかわかるような気もするけど良くわかんないガジェットだけ。だがしかし──優秀な切り札が一つだけあったのだった。
「そう! あったのだったーーーー!! この聡明な頭脳が!!」
 背後で蒸気が噴出して、なんかいい感じの絵面ができてしまう。登場シーンでスモークがぶしゅーってなったみたいな。アレ。
「同じ場所で何時間も腕組んで考え続けられるなんてきっと私は頭がイィ! きっと類まれなる叡知でトラップも斬り抜けられるハズゥ!」
 明朗快活な一声。あまりにも聡迷な迷推理であった。

 ならばいざ往かん、トラップ迷宮の奥へ!
 というわけで、行く手には立ち込める蒸気と、その中で頻繁に上下する影がある。当然のことながら足元は見えづらく、部屋の壁もよくよく見えない。幸いなのは、蒸気の流れていく方向を見る限り、部屋の隅にはどうやら穴が開いているというのが判ることだ。変に床に跳ね上げられたり、蒸気に吹き飛ばされたりしたら、下の階層へ真っ逆さまといったところであろうか。
 このトラップたち、迷宮を素早く攻略するためにシエラのとった行動は――。
 まず服を脱ぎます。
 念の為もう一度書いておくと。
 まず服を脱ぎます。
 別にサウナ気分とかではない。溢れる蒸気がスチーム代わりにはなりそうだしお陰でここは乾燥とは無縁そうだがそういう問題でもなく。
 ユーベルコード・シーブズ・ギャンビット。
 身軽になることで加速することのできる、れっきとしたユーベルコードである。
 素早い加速を手に入れることができるこのユーベルコードを、走ることを愛するシエラが持ったことはある種の必然と言えたかもしれない。
 だん、と音の立つほどに強い踏み込みと共に蒸気の中へ飛び込めば、足元の床が跳ね上がるより先に次の床へ、ついた手が壁のスイッチを押したとあらば発動より先に次のトラップへ。降り掛かる鉄の矢を背景に奇妙なピストンを飛び越え、シエラはトラップの雨の中を濡れることなく、弾丸のように駆け抜ける。
「……このユーベルコードを私に与えた神様は変態に違いないよ」
 だって最初から薄着だし。脱げるものが殆どないし。どうすりゃいいんだよゴッド。今日は蒸気が深夜アニメの謎の光さんみたいに頑張ってくれるかもしれないってやかましいわ。
 ともかく、先は見えずとも、足場は何処にでも山のようにある。シエラは白い髪を靡かせてトラップの追い付くより速く、知らないアスレチックを、未踏の森を跳ね回るように、原始的な走る喜びに従って、驚異的な速度で次の部屋次の通路へと突き進んでいった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ラウル・シトロン
蒸気か……。怖いよね。
僕、火にかけてある鍋の蓋を開けたときに一回火傷したことがあるんだ。
それで、今回のトラップは上下する床に、それに連動して何処から出るかわからない蒸気、威力が増した槍や矢か……。
どれも厄介だね。出来れば、引っ掛からずに行きたいんだけど……。
とりあえず、僕は周りを注視しながら進むよ。
一部でも蒸気を流す配管を見つければ、ある程度トラップが来る場所を予測しやすくなるし。
あっ、配管を見つけたら、継ぎ手部分にも注意しないと。蒸気漏れしやすいって聞いたことがあるんだ。
それでトラップが発動したら、逃げ足で逃げて気合いで押し切って進むよ。
激痛耐性で、ある程度は耐えられると思うから。多分。


佐々・夕辺
フン、トラップね……蒸気の力で瞬発力が上がった矢とか、正直出会いたくないわね。
スカイステッパーで踏むトラップは避けていけるでしょう。回数に限度がきたら一度着地して……っと、きゃあ?!
何?!骸骨…ということは?!

飛来してきた高速の矢を慌ててスライディングで回避
あ、危なかった…!!全く、なんなのよ此処は!
骸骨がなかったら予測できなかったわね……、………。別に感謝なんかしてないけど。
(眼窩に刺さった矢を抜いてその辺に埋めてあげる)



やれやれと下ってきたものの、あちこちで噴出する蒸気を見ながら、ラウル・シトロン(人狼のひよっこ探索者・f07543)はその怖さを思う。
 以前、火にかけてある鍋の蓋を開けたときに一回火傷したことがある。鍋なら手指の火傷で済むけれど、この迷宮に蔓延るトラップに掛かれば、とてもじゃないがその程度で済みそうにない。
 髪から覗く耳を動かしてみれば、あちらこちらから駆動音や噴出音、それに加え自身と同様に迷宮内を探索しているのであろう猟兵たちが作動させたトラップとそれに対抗する音が聞こえてくる。見えている範囲では既に十数メートル先の床が、オセロでもしているかのように不規則な上下を繰り返していた。しかも、目を凝らしてみるとその周辺の床は幾らか抜けているように見えるから堪らない。
 槍や矢の姿は見えない。作動済みの壁や以前排出されたものがあってもおかしくはないが、何より立ち込める蒸気で視界が悪かった。
「とはいっても……どれも厄介だね。出来れば、引っ掛からずに行きたいんだけど……」
 視界の悪さも相俟って、慎重さが必要だろう。ラウルは周囲――特に床と壁、配管――を注視しつつ、歩を進めることにした。
 その背中を見るのは佐々・夕辺(チャーミングステップ・f00514)。複数の猟兵たちが既にこの迷宮内部へ潜入していたが、道が複雑なせいもあり、積極的にパーティを組む者以外ではあまり顔を合わせていない。彼女もまた単独でここまで下りてきた猟兵の一人だったが。
「フン、トラップね……確かに、蒸気の力で瞬発力が上がった矢とか、正直出会いたくないわね」
 彼女には少なくともスイッチを踏まない方法がある。――トン、と軽い足音。浮き上がったまま空を蹴ると、更に高く、華奢な身体は宙へと駆け上がる。
 ユーベルコード・スカイステッパー。スカイダンサーとしての力を持つ彼女にとって、危険な地面というのは迂回するものではない、その上を通って行けばいいだけのものだ。
 そうして軽やかな足どりで、ラウルの頭上を通り過ぎ様、彼へと声を掛けた。
「ねえ、あなた。勝手にその辺りのトラップを踏んで、私にまで当てないでよ。絶対よ」
「え。わあ!」
 振り返ったラウルが驚き顔のまま「わ、わかったよ」と返すのも待たず、夕辺は踊るように宙を駆けて行く。ラウルの琥珀色の眸に映る彼女の髪は蜂蜜の溶けるよう、そしてその姿はあっという間に、ミルク色の蒸気の向こう側へと消えて行ってしまった。
 彼は幾つか瞬きをしてから、息を吐くと共に尻尾をひと揺らしした。
「……いいなあ」
 あれなら確かに、変なスイッチも踏まないし、急に捲れる床に悩まされることもない。箒でも持ってきたら良かったかなと呟きながらも、気を取り直して歩き始める。
 特に気を付けて探すのは配管だ。配管の流れを見れば、トラップの配置されている場所も当たりが付く。それと管同士の接合部も見ておかなければいけない。継手の部分からは蒸気漏れがしやすいと聞いたことがあるから。
 じりじりと進みながら、蒸気の合間に見えた配管を目で追い、色の違う床を軽く跳び越え、ガチャガチャと喧しく鳴り蒸気を吐き出す床を困り顔で眺めていた時。
 ぴん、とラウルの耳が立った。

 夕辺は文字通り軽やかな足どりで宙を跳んでいた。立ち込める蒸気の上を歩くのは、迷宮内に潜っているにも関わらず雲の上を歩くようで、なんだか気分がいい。
 惜しむらくはスカイステッパーには回数制限があるということだろう。人にもよるが、多くはその技量に依存する。そして例によって彼女にも限界はあり、一先ず床の抜けていないことだけ確認して、着地することにした。
「っと――きゃあ!?」
 思わず悲鳴を上げたのは、何かを踏み砕いた感触と共に、人影に似たものがすぐ傍にあることに気付いた所為だ。
 夜に似た藍の双眸に映ったそれは、人の形に似てはいるが、既に人ではない――。
「! 骸骨……ということは!?」
 鋭い音とどちらが早いか、夕辺が反射的にスライディングすることで身を屈めると、蒸気を纏うように裂きながら通り過ぎた矢は、彼女の髪を僅かに散らしていった。遠く向こう側の壁から、カカッ、と矢の当たった音が聞こえる。
 座り込んだ骸の横合いで同じように屈み込んだまま、夕辺はほうと息を吐く。
「あ、危なかった……! 全く、なんなのよ此処は!」
 背筋の冷えたことに憤り、慌てて立ち上がり乱暴な所作で服を払うと、怒りに任せて傍らの骸骨を――蹴飛ばそうとして、やめた。
「……あなたがそこに座り込んでなければ、予測できなかったわね」
 別に感謝なんかしてないけど、八つ当たりに蹴るのはやめてあげるわ。

「大丈夫!?」
 蒸気で濡れるやら火傷をするやら、槍か矢がたくさん掠ったのか、傷だらけのラウルが夕辺に追い付いたのは、そのすぐ後のことだ。
 夕辺は丁度、骸の眼窩に刺さった矢を放り投げたところだった。彼女は不機嫌そうな所作で、訝しむような顔をする。
「……なによ」
「えっ。いや……悲鳴が聞こえたから、急いで来たんだけど」
 その骸骨は、とラウルが恐る恐る尋ねると、夕辺は顰め面で考えるような間を置き、ややあって「借りがあるから、埋めてやるのよ」と答えた。
「埋めるの?」
「そうよ。もう少し土の多いところまで移動させなくちゃいけないけど、その辺にあるでしょう。……ところであなた、どうやってここまで?」
 走ってきたよ、と彼は答えた。逃げ足と気合と、それから激痛耐性ってやつでなんとかなるもんだね、と。細い笑いを零しながら、垂らした尾を少しだけ揺らして。
 彼女が重ねた顰め面をなんと取ったものか、或いはよくわからなかったのでよくわからないままにしておいたのか、いてて、と小さく漏らしてから、そのまま言葉を続ける。 
「手伝うよ。なんだか気の毒だし」
「……あなた、さては物好きね」
 ふんと鼻を鳴らしてにべもない返事をした夕辺はしかし、拒絶をしなかったので。
 二人で要所を支えながら持ち上げると、人型一人分の骨というのは存外大物で、そのくせ案外重くは無かった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

茲乃摘・七曜
心情
ふむ、学生さんには危ない状況になってしまいましたね

行動
トラップの機構そのものを壊すことによる無力化

トラップ索敵
Angels Bitから【歌唱】による風【属性攻撃】【範囲攻撃】でソナーように不自然な空隙を探る
「まずは、引っかかる前に探さないといけませんね

対落とし穴
支えを落とし、穴を開く機構をAngels Bitの火【属性攻撃】【全力魔法】で融解させ動作不全を起こさせる
「開かなければただの蓋ですよね。補強は必要かもしれませんけれど」

対射出罠
射出される矢をAngels Bitの火【属性攻撃】【範囲攻撃】直接攻撃し事前に破壊し対処
「どんな強力な射出機であろうと撃ちだすものがなければ空撃ちですよね?



コツリ、と足音の高く響くのは、床によく金属の混じっている所為だ。けれどそれ以上に響くものがある。壁に、床に、天井に、部屋の先へ続く回廊に――歌声が響いていた。その美しさは優しく、慈しみや祈りにも似ている。
 歌声の主は茲乃摘・七曜(魔術人形の騙り部・f00724)。漆黒の髪の合間、耳元に小さな棺を揺らし、彼女はここまで下りてきた。
 彼女はただ歌っているわけではない。その周囲に浮遊している小型の拡声器を使い、自身の声をソナー代わりにしているのだ。彼女がその優美な声を響かせれば響かせるほど、数多の罠が露になる。
「ふむ――」
(確かにこれでは、学生さんには危ない状況になってしまいましたね)
 形の良い唇を僅かに引き締めると、七曜は帽子の大きな鍔の影から、周囲に目を走らせた。この迷宮は、濃淡はあれど何処を歩いても蒸気に満ちていて、視界が悪い。今歩いている場所も例外ではなく、両目に頼るだけでは、設置されているトラップの半分も確認することは出来なかった。
 けれど彼女には“視えて”いる。
 引っ掛かる前に探す。そしてそれを無力化させるのが彼女の目的だ。――いや、既に通り過ぎた道々で、幾つもを無力化させてきた。そうすれば自身は勿論、後でそこを通る誰か――猟兵であれ、立ち入り禁止の解けた後の学生であれ――も、安全に通ることができる。
 花を撫でるような所作で黒に包まれた指先を滑らせると、Angels Bitと呼ばれるその小さな拡声器たちは、こぞって七曜の行く手、その床へと向かって行った。彼女の声を響かせていた仕掛けはそれそのまま、今度は炎を増幅し灼熱を吐き出す。高温よりその苛烈な勢いに周囲の蒸気が僅か立ち消え、床からはしゅうしゅうと沸騰しかけのやかんのような音が聞こえた。
 Angels Bitが七曜の元へと戻って暫し。彼女はことりと首を傾いでから、いまだ少し湯気を立てている床の上へそっと、ドレスのスカートを上品な仕草で持ち上げその爪先を乗せる。力を込めても軋んだ音を僅か立てるばかりで何も起こらないことを確認すると、首肯をひとつ。
「良かった。開かなければただの蓋ですよね。補強は必要かもしれませんけれど」
 と、呟きながら床の端を見遣った。炎が溶かしたのは床そのものではない。床を落とし、動かす為の一部分だ。それらが近い位置にあった所為で、床の隅も溶解しかかっているけれど――これならむしろ、冷えた頃には隣の床と接合されているかもしれない。
 七曜はひっそりと微笑を浮かべ、どことなく軽い歩調で悠々と床を踏んだ。

 とはいえ、問題はもうひとつあった。正確には、トラップが。
 七曜の見立てによれば、落とし床を踏まないことに成功しても、その先で数多、走れば走る程、或いは避けようとして手を付こうとしたところで、矢の射出スイッチを押す破目になる。トラップだけでも問題であるのに、数が多い。彼女はひとつ、息を吐いてから。
「どんな強力な射出機であろうと撃ちだすものがなければ空撃ちですよね――?」
 先ほどの床にしたのと同じように、けれど圧倒的広範囲へと、拡声器たちが広がる。ユーベルコード・ミレナリオ・リフレクションは、対象のユーベルコードと同様のものを放つことで相殺することができるが、それを応用することで――。
 まるで火の海だった。
 七曜当人はといえば、これ程にするつもりはなかったのですけれどと言う風情で、黒に包まれた手を軽く白皙の頬へ当てている。
 彼女の目的は、トラップが射出するべき矢を無くしてしまうことであり、炎はそれを全て破壊してくれさえすれば良かった。単純に、トラップの数が多かったのだ。あちらにもこちらにもと各所に存在する矢を全て破壊する為には――やはり、火の海になっただろう。
 そうして炎の勢いが収まった頃、室内はすっかりと蒸気も取り払われ、トラップも完膚なきまでに破壊され、ただ清々しいまでに迷宮の一室が存在するだけになっていた。完全に――落とし床の抜ける可能性はあるものの――安全になった室内を、七曜は声を響かせることで確認し、帽子の陰になった顔色は窺えないまでもどこか満足そうな様子で首肯をする。
「これで何方も、怪我をすることはないでしょう」
 完璧な仕事であった。

 トラップをすっかり破壊してしまった七曜の進んだ先――そこには扉がひとつ、ある。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『篝火を繋ぐ暗き路』

POW   :    手当たり次第に探し回る。<気合>や挫けない<覚悟>などが助けになるかもしれない。気持ちで頑張る。

SPD   :    出来る範囲をしよう。<暗視>や物を見つける<視力>などが助けになるかもしれない。手数の多さで頑張る。

WIZ   :    よく考えてみよう。目に頼らない<聞き耳>や<第六感>などが助けになるかもしれない。工夫して頑張る。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


猟兵たちが開けた扉、その先に広がっていたのは暗闇だった。ただ遠くに僅か、柔く小さな灯りがひとつ、見える。
 その他に灯りになるものは存在せず、これまで通ってきた場所の中で最も開けた部屋であろうことが推測された。内部に満ちた影と静寂は不気味で、足を踏み入れることが躊躇われる。
 しかし、先へ進まなければ何も始まらない。

「なんだ、これ」
 先頭を引き受けた猟兵が、唯一の灯りまで辿り着く。
 灯りの正体は、机の上に固定された燭台、そこに設置されている蝋燭の火だった。そしてその机の脇に、鍵の開いたままの宝箱がひとつ。中を覗き込んでみれば、短い蝋燭が大量に詰まっている。
「……この蝋燭持って、この火だけで出口を探せって言うのか……?」
「待てよ、こっちに何かある」
 部屋の広さを確かめる為、別の方角へ直進を行っていた者の一人が、声を上げた。
 灯りを持ってきてくれと言うので宝箱にあった蝋燭へ燭台の火を移し歩み寄ると、どうやらその猟兵は一応壁まで辿り着いていたようだ。
 頼りない火に照らし出されたのは、黒塗りの燭台と蝋燭。壁に固定されており、どうしたものか、蝋燭も燭台からは抜けそうにない。一先ず火を移してみると、問題なくともった。
 猟兵たちは顔を見合わせる。

 机にある燭台と蝋燭は動かせないが、どうやらどんなに時間を掛けても蝋が減らないらしい。
 壁の蝋燭も同じように蝋は減らない。但し、通常のライターや魔法を使って火を付けようとしても、全く灯る気配がない。またこの蝋燭は、隅々に暗闇ばかりのわだかまるこの室内、その壁のあちらこちらに複数存在するようだ。
 おそらくこの部屋には、魔法か何かで特殊な仕掛けがされている。条件を満たさなければ、進むことができないのであろう。
 結論は出た。
「まあ――取り敢えず」
 今は唯一の手掛かりであるところの黒い蝋燭を探し出し、片っ端から火を付けてみるしかない。
ラウル・シトロン
まずは壁に沿って歩こうと思う。
今のところ、蝋燭がありそうな場所は壁以外わからないからね。

それにしても、塗料なのか魔法の影響かはわからないけど、黒い蝋燭は暗闇の中で探すのには厄介な代物だ……。
ちょっと臭いを嗅いでくるよ。――あっ、勿論、蝋燭の話だからね! 机にある方の。
僕は臭いによる追跡で蝋燭を探すよ。


鴛海・エチカ
こう暗くては先が見えぬ
取り敢えずはそうじゃな、闇に炎と云う名の星を燈そうか

【WIZ】
蝋燭を手に取って火から火を繋いで順に炎を点ける
手分けすれば僅かでも部屋を見渡せる光源は確保できるはずじゃ

こういった仕掛けはパズルになっておることが多い
ただ全てを灯しただけでは進めぬのが鉄則であろう
ふむ、近くの壁の燭台を調べてみるとするか

違う形であったり違和感を覚えるような物があればそれに注目
必要あらば火を消し、特定の物だけの火を点けるのじゃ
後は灯す火で一定の図形や陣を形作ってみるだとか
スイッチで出現する仕掛けがないかも確認するぞ

案ずるでない、闇は怖れるものではないのじゃ!
さあて、この先には何が待っておるのかのう


佐々・夕辺
まだ真の姿はとっておいて、SPDで判定するわ。
この燭台にあう、黒い蝋燭を探せばいいのよね。私には自慢できる特技がないけれど――とにかく火をつけていくわ。
短い蝋燭に火をともして……端から一つ一つ火を移していきましょう。
もし順番を重視するトラップなら、何処かで失敗して全部の火が消えたりしないかしら。
そうでなくても、壁が明るくなるのはいいわ。蝋燭のほかに何か見つかるかもしれない。




 暗闇の中、ぽつりぽつりと灯りがともり始める。蝋燭に火を灯した者や、自前のランプを使う者、魔法で光球を生み出した者もあった。小さな蝋燭は特に頼りないが、用意されているということは必要な存在なのであろうし、数だけは十分にある。二、三本をポケットに突っ込んで探索を始める者もいた。
 部屋の歩き方は各人各様だが、あちらこちらへ行くより、ともかく壁には当たってみる、という者が多い。壁まで真っ直ぐ歩いてみるか、壁に沿って歩いてみるか――。

 ラウルも壁沿いに行くことを選んだ一人だ。何せ、塗料なのか魔法の影響かはわからないけど、黒い蝋燭は暗闇の中で探すのには厄介な代物だから。
「僕、ちょっと臭いを嗅いでくるよ。――あっ、勿論、蝋燭の話だからね!」
「何の言い訳をしているの、それ」
 傍らにいた夕辺――結局ここまでラウルと一緒に来てしまった――は、呆れ顔で机の方へ向かった彼の背を見送る。先ほど火を移した手元の短い蝋燭を見遣り、それからおそらく黒い燭台のあるであろう方角を睨んだ。
 ひとつの部屋であるにも関わらず、こうも端々が暗いと不安も生まれる。ひとの感覚とは不思議なもので、見えない場所には、自然と驚異や恐怖を結び付けてしまうものだ。まして先ほどまで猟兵たちは罠に溢れた道を通ってきたのだから、何かが潜んでいるような、居心地の悪さを覚えてしまっても仕方がない。
「こう暗くては先が見えぬな」
「そうね……とにかく火をつけていくわ。今のところ、私には自慢できる特技がないもの――」
 はたと瞬いてから、ぴんと立てた金の耳の次、夕辺が顔を向けたそちらにいたのはエチカだ。大きなとんがり帽子の先を揺らし、彼女もまた、闇をじいっと見つめていた。
「そうじゃな、闇に炎と云う名の星を燈そうか」
 指を立ててくるりと回しながら。手分けをすれば、僅かでも部屋を見渡せる光源が確保できるはず、とエチカは言う。そして、蝋燭へ順に火を点けていこうというのは二人とも共通の考えで。
「もし順番を重視するトラップなら、何処かで失敗して全部の火が消えたりするかもしれないでしょう。そうでなくても、壁が明るくなることで蝋燭のほかに何か見つかるかもしれない」
「うむうむ! スイッチで動く仕掛けなどもあるかもしれぬ」
「二人とも色々考えてるんだね」
 ラウルもまた、小さな蝋燭を手にして戻ってきた。夕辺とエチカが顔を突き合わせ代わる代わる提示する可能性に、彼は感心したように両の眼をまあるくして瞬いている。
 エチカの続けて言うには、燭台の形にも注目すべきだ。違う形であったり、違和感を覚える箇所はないかを調べ、その上で必要ならば火を消し、特定の蝋燭だけに火を点ける。若しくは、設置された燭台の位置を確認し、灯す火で図形や陣を形作ってみるだとか。
「なるほど……においは覚えてきたから、追跡で蝋燭の位置は探せると思うよ。幾つあるのかがわからないから、図形を作れるかもわからないけど……難しいことさせるんだなあ、迷宮のトラップは」
「こういった仕掛けはパズルになっておることが多い。ただ全てを灯しただけでは進めぬのが鉄則であろう」
 小柄なエチカが胸を張るのを見ながら、ラウルはしかつめらしい顔つきで「なるほど」と応える。けれど夕辺の見たところ、ラウルの頭上の耳も後ろの尾も、心持ち垂れ下がって見えるのだった。

「――案ずるでない、闇は怖れるものではないのじゃ!」
 エチカのその一声を皮切りに、壁に沿った探索を手分けし始める。広々とした部屋の隅から隅まで離れてみると、小さな蝋燭一本の灯りは、殆ど見えないような距離があった。
 そして壁同士の距離と同様、目的の燭台同士の距離も随分離れているようで、初めに発見されたものの位置から目星を付けようにも、そもそも自身の位置情報も正確に得られず、感覚のみが頼りとなってしまう。
 初めからその感覚――嗅覚を頼りにしたラウルは、先ずひとつ、燭台を見つけた。この部屋に入った当初ほかの猟兵が見つけたものと同様、きちんと蝋燭が刺さっており、しかもやはり、一点の揺らぎもない黒塗りだ。
 手にした蝋燭からそっと火を移すと、黒い蝋燭も、通常のそれと変わらぬ灯りをともし、僅かに周囲が明るくなる。
「そうだ、壁……壁……」
 少女たちの言葉を思い出しながら、目を凝らし、手の平で壁に手を触れてみるも、今のところ、他の箇所と特段変わりはないようだった。
 夕辺は、初めから壁に手を触れていることにした。迷路を脱出する時には使える手だ。それに万が一仕掛けがあった場合の見落としを減らすことができるし、トラップの起動装置には気を付けなければいけないけれど、力加減を誤らなければ大丈夫だろう。
 金の髪と尾を揺らしながらどう考えてもやけに広い室内を歩いて暫し。夕辺は手の触れるより先に目視で、壁に真っ黒な燭台と蝋燭のセットを発見した。
「本当に見づらいわね……」
 柳眉の間に皺を寄せながらも小さな蝋燭から火を移し、手指を使って燭台の形を確かめる。次いで壁の方も調査してみたが、触った感覚や念入りな観察でも、変わったところは見当たらなかった。少なくともこの場所には燭台と蝋燭以外はなにもない、と判断し、夕辺は次を探し始める。
 エチカが背伸びをして火を点けた蝋燭は二本目だった。第六感、というのもバカにならないもので、常に上を向いているのでなく、ふっと視線を上げてみるとあった、というのが二度続いている。
 この部屋は不思議なもので、歩くのに不便なもの――出っ張りやへこみ――も無く、ここまで来るのに多々見た金属の気配もない。ただ石造りで、足元が見えないものだからその隙間に爪先を引っ掛けそうになるくらいだ。他にも猟兵たちの気配があるにも関わらず、悲鳴や怒号の全く聞こえてこない辺り、本当に暗いこと以外は安全な部屋なのかもしれない。
 周囲を見渡してみると、遠く暗闇の薄れている部分がところどころあるように思われた。星々の気配がする。闇を払うに、ここまでは順調に進んできている。
「さあて、この先には何が待っておるのかのう」
 炎とはまた違う星を散らしたスカートを揺らし、同じ爪先を大きく上げて一歩、エチカは先へと踏み出した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

アリア・ヴェルフォード
私は暗視があるので暗いところも見えますが・・・とりあえず明かりはあって困るものではありませんし使っておきましょうか
他の人たちから私が何処にいるのかもわかりますからね!

【行動指針】POW
剣に光属性の魔力を纏わせて光源を確保
壁際を探索しているようなので中央部分での探索をしましょうか
蝋燭をもって【気合い】で火をつけて回っていきましょう

蝋燭以外にも何か見つけられるといいんですけどね



アリア・ヴェルフォード(謎の剣士X・f10811)は暗視を活用していた。これで少なくとも、突然足元のものに躓いて転んだり、予期せぬ障害物にぶつかったりすることはない。
 とはいえ、他の猟兵たちも彼女と同じように見えるわけではないので、あちらからぶつかってこられてしまうこともあるだろう。
「あって困るものでもありませんしね。使っておきましょう」
 共に室内にいる猟兵たちへの目印として。自身の言葉に首肯しながら、アリアもまた小さな蝋燭を手に取り火を点けた。
 しかしなんとも頼りない灯りである。正しく吹けば消えてしまう小さな炎を見、少し考えてから、彼女は自らの剣を取り出した。刀身が微かに光を放つような――それは聖剣と呼ばれるものだ。
「さあ、Xカリバー、私を助けてくださいね」
 手首を捻るように軽く一振り。
 すると今度こそ間違いなく、その刀身は光を纏いアリアの周囲を明るく照らし出した。魔力を纏わせることでたちまち光り輝いて光源となってくれる剣に、うんうんと頷く。
 ――しかし、と歩き出しながら彼女は思う。この聖剣の光あってなおこれだけ室内の闇が濃いというのは、迷宮そのものの仕掛けなのだろうか、『周囲を見る』という行為そのものが妨害されているようにも感じられる。この迷宮は奥に潜む災魔によって姿形を変え続けているとは聞いたものの、こんな暗闇を作り出すなんて。
「きっとここにいるオブリビオンは根暗に違いありませんね! さあ、気合を入れて火をつけて回りましょう!」
 壁際を探索している猟兵の多いことを見て取って、他の者よりも視界が良いということもある、アリアは広大な室内の中央部付近を探索場所に選んだ。
 それにしたって、足元に落ちている壁から剥がれ落ちたのだろう小石などを蹴らなければならない程、何もない。彼女と同じ思惑を以ってか、或いは壁際を歩くことに飽きたのか、時折他の猟兵とすれ違うようなこともあったが、彼らの表情を見るに、やはりと言うべきか収穫はないようだった。
 青い眸を瞬かせ、成る程とアリアは唸る。
「変わり映えしない退屈な室内、視界の悪い中での困難な捜索……こちらにストレスを与えようという強い悪意を感じます……やはりここのオブリビオンは根暗……なんという嫌がらせでしょう」
 オブリビオンの思惑は定かでないが、こうなれば兎に角、部屋の中央を目指してみようと爪先を向けた。折角明るい光源を持っているというのに、何の成果も得られませんでしたでは立つ瀬がない。蝋燭以外にも、何か見つけられるといいんですけど。
「たとえば食料……ハッ、違う。違います、仕掛けや宝や情報など、そういうものです」
 歩けばお腹が減るものだ。

「……。……。なんと……誰も一度もぶつからなかったのでしょうか」
 聖剣の光を翳し、或いはその光を隠して暗がりを見通してみたところ、どうやら今アリアの立っている位置がこの部屋の中央に当たるようだった。
 そして彼女の前には、すんなりと立つ漆黒の燭台がある。黒い所為で目立たないが、観察してみればその意匠は見事なものだ。その上に刺された蝋燭は特段変わったところのないように見えるが、ただ黒い。
 部屋の中央に堂々と立つ燭台にアリア以外が辿り着かなかったのは、ひとえにこの暗さと広さの所為であろう。茫漠とした暗闇の中を真っ直ぐ突っ切ろうと考えられる者はなかなかいない。
「初めに発見された蝋燭が壁にありましたからね、これは盲点! というやつだったかもしれません。ともかく」
 手の中で少しずつ溶けゆく小さな火から、真っ黒な蝋燭へ。
「……おや?」
 私の聖剣より暗いのですねえと、アリアは小さく呟いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

銀座・みよし
むむむ、これは出来ることをするしかございませんよね…

・WIZ
わたくし、【第六感】や【聞き耳】に多少の心得がございます
即ちメイドの基本スキルにございますね!
そちらの方で皆様のお力になれるやもしれません

…とはいえ、そちらだけを頼りにするのもメイドの名折れでございましょう
わたくしなりに更なる情報収集と参りましょう

ダンジョン、更にいえば真っ暗な中とはいえ何かしらの小動物はいるでしょう?
えっ、鹿はいない?
左様でございましたか…ならばそれ以外の子らを呼んでお話は聞けないものでしょうか…
敵は獲物を探していると聞きましたし、
【動物と話す】ことで僅かなりでも良いので敵の情報が知れたら儲け物にございます


以累・ナイ
広さは落ちつかないけど、暗いのは居心地がいい。
昔住んでいた洞窟は、真っ暗だったし。

ちらちら揺れるろうそくの炎、きれい。
あれが星なら、今は、空に星を浮かべてるのかなー。
そう思うと、楽しくなってくるね。

ユーベルコード、バウンドボディで、しらみつぶし作戦。
体の一部をにゅいーんって伸ばせば、最大で13m。
これを、壁いっぱいにぴったりくっつけるようにして、進む。
壁面全体を触りながら移動できるわけだから、
壁のろうそくや、何か仕掛けに触れれば、気づけるかなって。

みんなの目線より上や、部屋の側面づたいに行くと触れない単独の壁、
調べ落としそうなところを中心に調べる。
黒いろうそくか。ふふ、わたしと同じいろだね。


鴛海・エチカ
少しは明るくなったが未だ辺りは昏い
これはパズルや罠を疑う前にじっくりしっかり灯していく他ないのう

しかし、路は見えてきておる
チカはこの程度で諦めるほどヤワではないゆえ
兎に角今は黒い燭台を見つけ次第、火を灯すべし!
というか少し楽しくなってきたのじゃ

夕辺のように壁に手を付きつつ、ぴーんと来た箇所で上を見上げる
皆が試してきた方法で地道に地道に……お主ら、大丈夫か?
チカが常備している金平糖があるゆえ遠慮なく食べるが良いぞ!
疲れには甘いもの、そうでなくとも糖分は思考を冴えさせるのじゃ

さてさて、これで何本目の蝋燭を灯したかの
そろそろ何かしら動きがあっても良いはずじゃ!
火の光が示す道筋、しかと見極めてみようぞ




「むむむ、これは出来ることをするしかございませんよね……」
 ぽつりぽつり火が灯っているとはいえ、いまだ部屋の広範囲にわだかまる闇をじいいっと見つめているのは銀座・みよし(おやしきのみならいメイド・f00360)。
 あちらへこちらへと燭台を探す猟兵たちの背中や気配を見渡せば、これは皆様のお力にならねばと力が入る。まず使うべくは彼女曰くメイドの基本スキルだ。
 耳が良ければ主人の声を聞き逃さずに済むし、第六感があればその危機にだってすぐさま駆け付けられる……なので基本スキルである。他の猟兵たちがどの辺りを探索しているのかを耳で把握し、燭台の場所を第六感でキャッチしようという寸法だ。
 とはいえ、そのスキルだけを頼りにした仕事ではただのメイド。猟兵なりの仕事ができなければ、メイドの名折れでございましょうとみよしは云う。更なる情報収集を行うべく、彼女は早速動き出す。
「ダンジョン、更にいえば真っ暗な中とはいえ何かしらの小動物はいるでしょう」
 ちなみに鹿はいない。迷宮で鹿に遭遇したら逃げるべきだと何処かの世界の冒険者が云った。
 ――それはそうとして、みよしはビーストマスターである。動物と話すことは得意分野で、そうなれば先に潜む敵の情報だって知ることができるかもしれない。
 そろりと人の少ない壁際を歩きながら、迷宮を棲み処にしている動物たちを呼んでみる。通常、洞窟などであればコウモリ辺りが代表的であろうが、ここへ来るまでの道中はとてもではないけれど彼らに住み良い環境とは言えなかった。と、すると。
「おや!」
 ちゅう。とみよしの足元で声がした。想像通り、ねずみが数匹、彼女の足元をうろちょろと走り回っている。
 これがお屋敷の中であれば何としても追い出さねばなるまいが、今の彼らはみよしにとって情報屋だ。結わいだリボンを揺らしてよいしょと身体を屈め、ねずみたちからこの部屋の、そして或いはこの迷宮に巣食う災厄の情報を引き出そうと試みる。
「……なるほど」
 くるくると駆け回るねずみや、小石を齧るねずみを眺めつつ、みよしは顎――と思しき場所――に指を当てて頷いた。
「燭台は全部で、十二、あるのですね」
 ちゅう。ところですぐそこにもあるよ。とねずみが鳴いた。

 ナイにとって、この部屋の暗さは居心地がいい。昔住んでいた洞窟は真っ暗だったから。これでもう少し狭ければもっと落ち着けたのだけれど。
 既に幾つかの燭台に火が灯されており、彼女と同じように燭台を探している猟兵たちの持つ小さな蝋燭の火もまた、部屋の各所に点在している。無論それが十分な明かりとは言えないが、闇の中でちらちらと揺れる蝋燭の火は美しく見えた。
 あれが星なら、とナイは考える。
「あれが星なら――今は、空に星を浮かべてるのかなー」
 ここは迷宮の中だけれど、なんだか楽しくなってくる。ちょっぴりうきうきした気分で、ナイは柔らかな身体を少し伸び縮みさせた。――わたしも星を、浮かべてみたい。
 探索に使うのは、ユーベルコード・バウンドボディ。今は身体を最大で十三メートル伸ばすことができるから、壁一杯にぴったりとくっついて進めば、燭台でも仕掛けでも、しらみつぶしに探すことができるはずだった。
 壁全体に身体を触れ合わせながら、ゆっくりとナイは進む。これなら見落としをすることもないから安心だ。蝋燭を手にした他の猟兵たちが目を向けないような高さや、部屋の側面伝いに行ったのでは出くわせない離れた壁、疎らに立つ石の柱も忘れない。一人で隅々探すのが難しければ、誰かが隅だけ探せばいいのだから。
「あ」
 伸ばした身体に触れる『物』を、ナイはしっかりと感じ取る。
 一旦身体を戻してみると、そこには確かに打ち付けられた箇所から刺さった蝋燭の先まで真っ黒な燭台がひとつ。場所は柱の一面だった。成る程、他の猟兵たちが見落としているわけである。そもそも暗さと広さの所為で、この部屋に柱があることに気付いていない者もあるだろう。
 ともすれば暗い室内で輪郭の曖昧になりがちな身体を波打たせながら、どこか既に宝物を見つけたような気持ちで、ナイはまじまじと蝋燭を見つめる。
「黒いろうそくか。ふふ、わたしと同じいろだね」
 ナイはひっそりと微笑んで、部屋の暗闇にまたひとつ、星を添えた。

 小さな蝋燭が溶け切らないうちに取り替えて、エチカは改めて室内を見回した。少しは明るくなったが、未だ辺りは昏い。それに何より、この部屋の広さといったらない。
「これはパズルや罠を疑う前にじっくりしっかり灯していく他ないのう」
 むむむ、と唸る仕草をしながらも、エチカの眸に宿る薔薇色の星は、光り衰えることなどない。僅かでも灯された火があるということは、路は見えてきているということだ。姿は可憐なれど、エチカはこの程度で諦めるほどヤワなドールではない。
「兎に角今は黒い燭台を見つけ次第、火を灯すべし!」
 ぎゅっと両手を握って、闇の薄まりつつある中へと踏み出す。既に結構な距離を探索しているが、足取りは軽いものだ。――だってむしろ少し楽しくなってきたから。
 壁に手を当てながら、迷宮散歩でもしているかのようにしかし、第六感はしっかりと研ぎ澄ませながら進む。地道ではあるが、これで灯すべき蝋燭を発見したことがあるという実績のある方法だ。先ほどだって、闇を見るにもたまにすれ違う猟兵の顔を確認するにも飽きてふと上を見たら、きちんと蝋燭がそこにあったのだから。
 上機嫌で歩むエチカの前に、なにやら塊がふたつ、現れた。
「む? ……むむ……」
 あ。と思わず声を漏らす。暗いばかりにただの塊のように見えたのは、座り込んだみよしと、その傍でちょんと静座している――おそらく――ナイの姿だった。
 手元の小さな灯りの届く場所まで歩み寄ると、みよしの周りをくるくる走っているねずみの姿も見えてくる。こんな迷宮にも馴染みのある生き物がいたのだと瞬きながら、エチカは首を傾ぎ、二人の前でしゃがみ込んだ。
「……お主ら、大丈夫か?」
「うーん……わたしは大丈夫。まだへいきだよ」
 でも、と言いながらナイが身体を震わせたのは、視線をエチカからみよしへと移動させたのだろう。
「い、いえ、わたくし、決して疲れてしまったとかではなく……その、周りをあまりにくるくると回られるので……」
 目が回ってきてしまったらしい。みよしの言葉を聞いて、ねずみはぴたりと動きを止め、暫し悩んだような間を置いて、周囲をうろうろと徘徊し始めた。彼女は次いですみませんと呟く。
 成る程成る程と首肯しつつ、エチカは自身の荷物に手を入れた。そして程なく目当ての物を探り当て、胸を張って取り出したるは、
「見よ! チカが常備している金平糖があるゆえ遠慮なく食べるが良いぞ! 疲れには甘いもの、そうでなくとも糖分は思考を冴えさせるのじゃ」
 ずずい、と金平糖を差し出すエチカ。その勢いになんだかぱちぱちと拍手をするナイ。みよしの周辺でなんとなく欲しがっているような雰囲気を出しているねずみたち。
「あ、ありがとうございます。わたくしメイドであるというのにこのような……あっ、甘くて美味しい……」
 うっかりすんなり受け取って食しているみよし。
「なに、どうやらこの部屋には災魔も潜んでおらぬようじゃ。少しくらい休憩を取ったとて構わぬとも」
 同じようにナイにも金平糖を勧め、それから自分でもひとつ摘みながら、その甘さにエチカは微笑んだ。

 休憩を取り、暫し。
 話しをしたところによると、どうやらこの広い暗室といえど、猟兵たち全員で手分けし探索した今は、全容が把握されつつあるようだ。始点の机では、簡単なマップを書いている者もいるらしい。
「さてさて、これで合計何本の蝋燭を灯したかの」
「全部で十二本あると、ねずみたちは言っていましたが」
「となると……そろそろ何かしら動きがあっても良いはずじゃ!」
 意気込んで見れば、先ほどまでいた筈のナイの姿が見えない。室内の暗さは薄闇になってきたとはいえ、彼女の真っ黒な身体は、明かりの届いていない場所ではとても見つけられそうにないと思えた。
 この状態ではぐれたということはないだろう。では、また改めて蝋燭を探しに行ったのであろうかと思ったその時。
「――ねえ、見て」
 それはナイの声だった。こっち、と呼ばうに誘われ、声だけを頼りに歩み寄ってみると、そこにはナイだけでなく、みよしの周囲にいた筈のねずみたちもいつの間にか集まっていた。
 ナイが身体を伸ばした先、柱のごく上の方、見上げてよくよく目を凝らしてみれば、どうやらそこにも漆黒の燭台と蝋燭がある。そして、ちゅう、と鳴くねずみたちの声。
「なんと! ねずみさんによればそれが最後だそうですよ、これは大きなお手柄でございますね!」
「えへへ」
 みよしが喜色を湛えて手を叩けば、ナイも嬉しそうに揺れた。
「チカたちは背が……うむ、小さいゆえ、ちょっぴり危機感を覚えたが。ナイがぐぐっと身体を伸ばせば、あそこまで届くのじゃ!」
 背と手を目一杯伸ばして燭台を指差すエチカはしかし、その高さの半分にも届かない。手段が無ければ他の猟兵の力――スカイダンサーや単純に肩車をしてもらうなど――が必要だったかもしれないが、今ここには身体を自在に伸縮させられるナイがいる。
 みよしとエチカの視線を受け、彼女は勢い良くその滑らかなタールの全身を伸ばした。その様自体はどことなくエチカのした背伸びとよく似ていたが、違いは一目瞭然、物理的によく伸びる。
 あっという間に燭台と同じ高さまで届いて、ゆらゆら揺れる姿勢を柱にぴったりくっつくことで安定させ、そして。
「よいしょ、っと」
 最後の一本に、火が灯った。
 おお、と思わず感嘆の声が漏れる。するすると戻ってきたナイもまた、二人と同じように、今自分の灯した蝋燭の火を見上げた。
「これで最後、なんだよね?」
「はい。ねずみさんたちが言うには、ですが」
 エチカは室内に灯された火を振り返った。薄闇に浮かび、流れる小さな光たちと、その火を分け与えることで存在を露にする燭台の炎たち。それらが描く図を見極めるべくして。
「火の光が示す道筋、しかと見極めてみようぞ――」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ミミックロボット』

POW   :    トレジャーロボット
無機物と合体し、自身の身長の2倍のロボに変形する。特に【貨幣もしくは宝石】と合体した時に最大の効果を発揮する。
SPD   :    ゴーレムフォース
レベル×1体の、【額】に1と刻印された戦闘用【小型ゴーレム】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ   :    フルスチームグラップル
【フルパワーでの掴みかかり】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 十二本の蝋燭に火が灯されると、まるで誰かが闇を手で払いでもしたかのように、ふっと室内が明るくなった。
 いまだに形容するとすれば『薄暗い』の当て嵌まる室内ではあったものの、見渡すことに支障はない。改めて見てみれば、成る程広大な石造りの一室となっていた。天井近くの壁には魔術紋らしきものが描かれており、幾人かのウィザードがその内容を確認している。
 そして、ごうん、と。
 部屋が揺れた。
 すわ罠の発動かと周囲へ目を走らせた猟兵たちの視界に入ったのは、音を立てて動く壁の一部。部屋の中央から始まった漆黒の蝋燭が、螺旋を描くように辿り着いた先が、その壁の端だった。
 そしてその壁がまるごと上へとスライドし、大きく口を開いていく。
「……これだけ歩かせておいて、まだ道が続くのか?」
 暗闇の中を歩き回ってうんざりしたのだろう猟兵のうち一人が、確認のため奥を覗き込む。だが、その目に映ったのは長く続く通路ではなかった。
「! 見ろよ、これ!」
「? ……宝箱だな。しかもたくさんある。もしかしてここ、ご褒美部屋みたいなやつか?」
 その声につられて覗いた者の目に映る、十数は積まれた宝箱。ダンジョンには罠とパズルがつきものだ。そして勿論、奥には宝が眠っている、というのもたいへんポピュラーな話だった。よってこの部屋の仕掛けを解いたことで宝が得られるというのも、十分にあり得る話ではあったのだが――。
 今回は、そういう話はされていない。
「おい、待てー―」
 違和感を覚えた一人の猟兵が声を上げたが、しかしそれは間に合わなかった。
 凶刃。
 そう呼ぶのが最も適切だろう。軽率に――一見すれば――宝の部屋へと足を踏み入れた猟兵を、瞬間的に噴出された蒸気の激しい音と共に、鋭利を伴った重い質量が襲い掛かったのだ。
 ミミックだ、と誰かが言った。宝箱に姿を偽装し、獲物を待ち受けるモンスターだと言われている。確かにこの姿であれば、たとえ迷宮探索に慣れた学園の生徒だったとしても、強襲を受けかねない。
 金属同士の触れ擦れ合う耳障りな音を立てながら、その災魔は自身の形を整えていく。不意の一撃を喰らった猟兵は、吹き飛ばされた壁の下で咳き込みながらもなんとか距離を取っていた。
「さてはこいつが目当てのオブリビオンだな――!!」
 ガチガチと爪を鳴らす災魔は言葉を話さないが、その態度は明白だった。
 ――今日の獲物はお前たちだ、と。
鴛海・エチカ
にゃああ、驚いたではないか!
隠された宝と思いきやミミックとはのう

まあ良い、チカ達の役目は災魔退治じゃ
我がユフィンの星霊杖が秘める力、此処で発揮してみせようぞ!

先ずは『二律排反』で全力魔法を紡ぐのじゃ
外したとて何も問題はない。足元に描かれた陣こそ真の狙い
固執はせぬが出来る限り魔法陣の上で攻撃を放つのじゃ

杖を振るって星の魔力弾を撃ちつつ
此方に攻撃が迫れば『定言命法』で
敵に「動くな」と命じてルールを宣告してやろう

ええい、手強い……!
貨幣や宝石と合体するのならばそれごと弾き飛ばしてやるのじゃ
『エレクトロレギオン』よ、キラキラ光る物を回収してしまえい!

此処まで随分と苦労してきたのじゃ
絶対に屠ってみせるぞ


アリア・ヴェルフォード
懐かしいですねミミック
と言ってもこっちの世界(A&W)のミミックはこんなにメカメカしくなかった気がしますが!
さて!これを倒して終わりにしましょうか!

【POW】
光の【属性攻撃】を付与して切れ味をあげた『剣刃一閃』でその金属の身体を斬り捨ててあげましょう!
今日から私も斬鉄剣が自慢できますね!
鉄なのかわかりませんが!
一撃一撃が重そうなのでしっかり【見切り】で回避しましょう
油断せずに行きます!
(共闘・アドリブ歓迎です


佐々・夕辺
お宝なら大人しく箱になってなさいよ!
べ、別に興味なんてないけど……興味なんてないけど!!

真の姿は温存して戦うわ、……あまり好きじゃないのよね。
フォックスファイアで相手の関節部を狙うわ。こういうロボット?カラクリ?だとそれが常套手段だと聞いたことがあるし。
掴みかかりは【スライディング】でかわせないかしら。ぎりぎりの勝負になるけど、それくらい……森でのウサギ狩りに比べたら、このカラクリはのろまだわ。
フォックスファイアを散らして相手を狙うから、出来るだけ先んじて攻撃するわね。他の人を巻き込んで、文句言われたらたまらないし。


ラウル・シトロン
あれが話に聞いていたオブリビオンか……(狼の姿になる)
あんな大きな爪を喰らったら一溜りもないよ……。

僕は真の姿(全身の毛量が増えて牙が太く鋭くなり瞳が紅くなる)になるけど、オブリビオンから少し距離を取らせてもらうよ。
まずは魔法で小さな火球を飛ばして応戦しようと思う。
それで相手の隙を見て、全力魔法で【ウィザード・ミサイル】を使うよ。
あのオブリビオンの細い腕を狙って、複数の炎の矢を放つよ。
運が良ければ、片方だけでもあの爪を炎の力で落とせるかもしれない。




 ガチャガチャと耳障りな音を立てながら車輪で宝箱を蹴散らし、ミミックロボットはその狭い“お宝部屋”を出る。車輪に弾き飛ばされた宝箱は重たい音を立ててその蓋を開き、中に詰まっていた硬貨や宝石らしきものを派手にまき散らした。
「にゃああ、驚いたではないか!」
「本当よ! お宝なら大人しく箱になってなさいよ!」
 思わず声を上げたのはエチカと夕辺。夕辺の視線が散らばった宝箱の中身の方に向いている気がするのはご愛嬌。もしくは気の所為だ。別に興味なんてないけど! というのが本人談であるので。
「懐かしいですねミミック……と言ってもアックス&ウィザーズのミミックはこんなにメカメカしくなかった気がしますが!」
 弾き飛ばされてきた空の宝箱や石塊を潜るように避けながら、アリアはその鋼鉄を振り仰ぐ。さほど巨大というわけでもないが、少なくとも彼女自身よりは身の丈があった。例えどれほど大きくとも、すべきことは一つだ。私に勝利をと呟いて、彼女は愛用の聖剣を解き放つ。
「あれが話に聞いていたオブリビオンか……」
 ラウルは目の当たりにした災魔の姿に息を呑む。あのロボットから禍々しさ、というものはあまり感じないが、一見しただけでもその強硬さ、何より特徴的な爪の凶悪さは見て取れた。ぶるり、と身体を一度震わせると、彼は臨戦態勢をとる。ざわりと、全身の毛が逆立ち始めた。
 その場にいた猟兵たちが一斉に武器を構えるのと、変形前は箱であった装甲部の隙間から蒸気を噴き出しつつミミックロボットが突進してくるのは殆ど同時だった。
「隠された宝と思いきやミミックとはのう……!」
 そもそも思い出してみればこの迷宮に宝が眠っているという話はグリモア猟兵からはされていないし、初めから役目はこの災魔――オブリビオン――を退治すること。
 当初を果たすだけとエチカもまた倣い、天球を模した杖を、今は遠き空へ向けて掲げた。
「――我がユフィンの星霊杖が秘める力、此処で発揮してみせようぞ!」

「そらっ、そこが弱点なんでしょう!」
 先手を打って夕辺の放った狐火は、細く軌跡を描きながらミミックロボットへと殺到する。その数十六。華奢な指先が示した通り、炎はその装甲の隙間を縫うように間接部、部品の繋ぎ目を的確に襲い掛かった。
 まるで鬱陶しがるような仕草を見せるミミックへ、追い討ちのように火球が着弾した。――射手はラウル。今はその名に違わぬ『人狼』の如き姿を解放し、距離を取りながらも全身を覆うくろがねに似た毛を魔炎に揺らしている。
 彼は紅く染まった双眸に炎と敵の姿を映しながら、その一際目を引く敵の凶爪に似て鋭い牙を剥き出しに、低い唸り声を上げた。
 術士を見て取った敵のすることはひとつであろう。その手足を、紡ぐ口を塞ぎに行くことだ。石造りの床を削ろうとでもするように車輪を急速に回転させ、ミミックは猟兵たちを轢き倒す勢いで発進する。
――星の命題よ、因果と為って廻れ。
 静かな声と共に、星が墜ちた。
 二律排反《レトリック・アンチノミー》――エチカの全力魔法を側面からまともに喰らい大きく身体を傾がせたミミックは、元の勢いも手伝って部屋の石壁へと激突する。砂煙を上げ、部屋全体がずんと揺れるほどの力だ。
 星は幾つか床に落ちたが、それは気にするようなことではない。そこにはまるで目印のように、魔法陣が描かれていた。これこそが彼女の真の狙いだったと言ってもいい。
「――うむ! まだまだゆくぞ!」
 輝星散らした爪先で軽やかに陣の上に立ち、エチカは天模した杖の先へと魔力を編む。
「はい! これを倒せば終わりですからね!」
 軽快に応じたのはアリアだ。声と同様のステップ。軋みを上げながら壁から復帰しようとしているミミックの下部を駆け上がり、振るうはXカリバーと名付けられた聖剣。
 纏う光の粒子に重ね、発動させるはユーベルコード・剣刃一閃――。
「その金属の身体を斬り捨ててあげましょう!」
 ミミックの左腕と肩、その装甲が音を立てて落ちた。床にぶつかり美しく真っ二つになったそれより一瞬早く着地したアリアは、反撃を受けぬうちにと反動を使い素早く距離を取る。
「ううむ我ながら見事。今日から私も斬鉄剣が自慢できますね! あれが鉄なのかわかりませんが!」
 つまらぬものを切ってしまいましたと満足気にするアリアをしかし、ミミックはその場で急激にターンをし追い縋らんと車輪を奔らせた。
 伸ばされる腕。背部から噴出するは強烈な蒸気。あれを間近で喰らえばそれだけで酷い火傷をしそうなほどの代物だ。
「危ない!」
「油断はしませんよ……っ!」
 アリアの正面へ迫った凶刃へと、夕辺は至近の横合いから炎を放つ。手数の多さの反面、火の粉の散って危険な面もあるそれをこの局面で使用したのは、敵の魔手を逸らすだけでなく目眩ましになれという考えからだ。
 炎と蒸気の奥、ごう、と音がする。
 ――――。
 ……。
「……っはー! 見ましたか! これが私の見切りとそしてダッシュ!」
「……ふん! 森でのウサギ狩りに比べたら、このカラクリはのろまだわ」
 立ち込める白を切り裂くように、姿を現したのは駆けるアリアと床を滑るようにして身体を跳ね上げたばかりの夕辺。
「お主ら早くもっと距離を取らんか!」
 声を張り上げながらも、エチカは二人の為に流れ星を以ってミミックの側頭部を撃つ。ユーベルコードをして描かれた魔法陣の上、高められた彼女の魔力で放たれるその星は敵の首を揺らがせる程に重い。
「エチカ」
 後ろから掛けられたその声がラウルのものと気付くのに、彼女は一瞬だけ掛かった。声色だけは変わらなかったから、彼を彼と知ることができる。
「あんな大きな爪を喰らったら一溜りもない……でも腕の部分は細いから、全力魔法で片方だけでも落とせないかやってみる」
「夕辺も弱点と言うていた……うむ、承知した。少しばかりあやつの動きを止められるよう、チカがやってみよう」
 次に彼女が紡ぐは光。小さく、けれど数多煌く星の光だ。
 いまだアリアと夕辺に固執しているのか両腕を振り上げ車輪を回す背中はがら空きで、散らばる星々を避けることは到底できまいと思われる。
「此れより紡ぐは、我が令ずる絶対的命法――」
 自身を取り巻く小さな星々にミミックが気付く頃には、もう遅い。
「――《動くな》!」
 その鋭い声に反応し、鋼鉄の身体は秒を待たずに振り返ろうと蒸気を吐き出す。その言の葉は定めるところが簡単である程、強力に敵を撃つのだ。
「今じゃ、ラウル!」
「二人とも離れて! せー……のっ!」
 不可視の力による強烈なダメージを受け身動きのできないミミックの身体目掛け、ラウルが放つはウィザード・ミサイルと呼ばれる炎の矢――総数・八十。
 狙いは装甲に比してあまりにか細いその腕だ。
 エチカが魔力を紡ぐ間、全力で編まれていたその炎は、敵の噴き出す蒸気とは最早比べ物にならない程の灼熱を宿し、その姿を塗り潰すほどの勢いを持って大きな鋼鉄へと着弾した。
 魔力を爆発でもさせたかのように立ち上る凶暴なほどの炎柱。

「いやはや、なんとも危ないところでした、ありがとうございます」
「私が巻き込むんじゃないかと思ってたのに、危うく巻き込まれるところだったわ」
「えっ、あっ、そ、それはごめん!」
「はらはらさせおって……助かって何よりじゃが、これで終わりではあるまい」
 何せ――と続けようとしたエチカの声を遮るように、大きな音を立て、先程まで猟兵たちを苦しめていた凶悪な爪、その腕が一本、溶けかかって床に落ちた。それと共に強烈な熱気と砂埃、或いは蒸気がほどけるように薄れていく。
 灼熱に溶けかけた装甲、僅か動くたびに大きく軋んだ音を上げる全身、車輪も歪んで形を変え、転がそうと思えばごとりと大きな音が立つ。
 しかしそれでも――その鋼鉄は、停止することなくそこに佇んでいた。
 キチキチと、初めに鳴らしたそれとは質の違う何事か呟くような音。一つしかない眼窩の奥で、弱く明滅する“眼”は、決して負けを認めてはいない。
「! 何……」
 夕辺が警戒したのは、目前の敵の立てる音とは別の、金属同士の触れ合う澄んだ音を耳にしたからだ。
「ひえっ! 後ろから何か飛んできました!」
「弾き飛ばされてた宝箱や宝石が……!」
「いかん! こやつ、貨幣や宝石と……ええい、エレクトロレギオンよ、キラキラ光る物を回収してしまえい!」
 エチカに生み出された小さな機械兵器は数多。其々が急いで呼び寄せられる金貨や宝石たちに飛び付き、その合体を阻止せんと集め回る。
 しかし、ミミックロボットの潜んでいた部屋に用意されていた宝箱もまた数が多く――必然、その全てを防ぐことは難しい。
 猟兵たちが手を尽くし金貨や宝石の殆どを回収したが、石塊までも無機物に含め引き寄せた上、宝箱ほどの大きさのものを多数確保しておくことは難しく即ち、妨害を受けて尚、鋼鉄はその体積と身の丈を倍に増やした。
 溶けかけた顔と爪、車輪。しかしそれを上回る装甲を再び、その巨体は纏い聳え立つ。眼窩の奥の凶暴な光が、彼らをあざ笑うかのように細められた。
「この大きさは……すごいな」
「その上更に硬そう、一撃が重そうになりました」
「なんてヤツ……でも、元からうすのろだって言うのに、ますます身体を重くするなんて、バカだわ」
 当初広大とも思えた室内が狭く感じられるほどの巨躯を見上げながら、だが誰も、その闘志を失ってはいない。
「此処まで随分と苦労してきたのじゃ――絶対に屠ってみせるぞ」
 強い意志の込められた言葉。各々が武器を握り直すと共に、同意の声が頼もしく響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

銀座・みよし
これほどメカメカしいものが守護者とは…何と想像以上の凶悪さにございましょう
このまま兵刃を交えるには些か危険がすぎると思います

…ゆえにおいでくださいまし、見らるることなき打ち倒すものよ
わたくしにあなたの姿は見えませぬが、その威光は十二分に存じております

つまり
メジェドさーん!目からビームでございますよビーム!
ビームが当たれば相手の攻撃力を下げられましょう
そしてわたくし自身も【第六感】とあわせ、敵に隙が出来た瞬間に攻撃をいたします
これでも【スナイパー】の様に矢を当てることができるのでございますよ
どうぞ援護射撃はお任せくださいませ!

(アドリブも絡みも大歓迎にございます!


佐々・夕辺
バカだわ。間違いなくバカだわ。重い体ならどうってことないわ、削ぎ落してあげる!
鎌【ミズクメ】とユーベルコードで一気に相手を削ぎ落すわよ。
【2回攻撃】をフルに使って外側をがりがり削いだら、管狐行軍を使うわ。
管狐行軍はボスへのダメージ付与ではなく、削いだものの徹底破壊に使って、更にうすのろになるのを防いであげる。
気を使ってあげてるのよ? いいダイエットになるでしょう。

相手が掴みかかってきたらスライディング……さっきもやったけど、逃げ切れるかしら。
まあいいわ、逃げられなかったらその時よ!


鴛海・エチカ
災魔め、愚かな奴よのう
その鈍間加減、まるで見切ってくれと言っているようじゃ

お主の動きは見極めたぞ
『ミレナリオ・リフレクション』で自分の前に魔法陣を描く
そしてグラップルが振るわれた瞬間其処から同じ力を放出する
つまりお主の腕に幻影の腕を重ねて相殺じゃ

チカの一撃を……いや、チカ達の連撃をその身で受けるが良い!
『定言命法』で放つ全力の煌めきで最期を彩ってやろう
往くぞ、皆。最後の一押しじゃ!

にゃははは!
我らに敵は無し。これで一件落着じゃ
罠の海に暗闇の部屋に偽の宝箱……
思えば大変な路だったが思い返せば愉快じゃった

さあて、学園に帰るのじゃ
これほど大変な思いをしたゆえ…
ふふ、葉釼に何か奢れとでも強請ろうかのう




 戦いの余波で室内は強烈な熱に満ちている。それはある種この場にいる者たちの闘志が尽きないことに似て、目前のオブリビオンという敵を必ず打ち倒すという熱気であるようにも思われた。
 半ば溶解した頭部や片腕を宝箱や石塊だったもので覆うミミックロボットの姿は、今や異形のそれに近い。或いは、怪我人が添え木をし包帯を巻くような――だが、その鋼鉄の合間に見える眇は怪我人と言うよりは手負いで凶暴になった獣そのものだった。強固に鎧い、最早決して負けはないと言うような、確かな悪意に満ちた光。

「これほどメカメカしいものが守護者とは……」
 何と想像以上の凶悪さにございましょう、とみよしは感想を漏らす。溶けかけた爪は恐らく当初の鋭さこそ失われているものの、破壊力と重さは健在もしくは上昇しているようにも見受けられる。
 異様とも言える姿を目にして後退りそうになった踵を叱咤し、熱い空気を鋭く吸って、みよしは自身の心を整えた。
 ガチガチ、ギチギチと、壊れかけた機械が軋むときの厭な音を立てながら、巨大な鋼鉄は残った腕を振り上げる。――最早それだけで良かった。広大な部屋をして尚巨大に見える身体ならば、僅か動かすだけで他者への攻撃に等しい。
 けれど猟兵たちには、そう脅威に思わない者もいる。
「災魔め、愚かな奴よのう。その鈍間加減、まるで見切ってくれと言っているようじゃ」
 エチカは双眸を細めながら、熱気と蒸気で頬に張り付いた髪を軽く払って笑みを作った。お主の動きは見極めたぞ――その言葉と共に向ける杖の先、編まれる魔力は鏡の破片のように水晶と宝玉を煌めかせる。
「ええ、バカだわ」
 先刻口にしたように、再び夕辺はその言葉を投げ付けた。
「間違いなくバカだわ。重い体ならどうってことないわ、削ぎ落してあげる!」
 彼女もまた同様に笑みさえ浮かべ、室内に満ちる熱気を切り裂くように駆け出した。手にした武器は鎌。切れ味の良いようには見えないが、ミズクメと名付けられたその刃に鋭さは必要なかった。必要なのは、敵を破壊する。その役割を果たすには多少なまくらな方が都合がいい。
「……このまま兵刃を交えるには些か危険がすぎると思います」
 彼らの背を見、メイド服の裾を揺らしながら。ゆえに、とみよしは不可視の存在へ喚びかける。
「おいでくださいまし、見らるることなき打ち倒すものよ――わたくしにあなたの姿は見えませぬが、その威光は十二分に存じております」
 巨大な身体を持て余すように殊更蒸気を噴き出しながら腕を振り回し、半ば用をなさない車輪で床を破壊してはその石塊を弾丸の如く弾き飛ばすミミックロボットへと、彼女は指先を差し向ける。
 つまり。――つまり。
「メジェドさーん! 目からビームでございますよビーム!」
 それは不可視なれど『打ち倒す者』と呼ばれた存在だ。図にすると何やら愛嬌があるのだが、不可視なので割愛しておく。
 幽か、みよしの傍らにそれは在った。あたかも宙より発生したように放たれた光線が部屋の一角を占拠する程の巨大を外すはずもなく、十二分に捉えその鋼鉄を鈍らせる。
 次いで響いたのはその鋼鉄の身体を駆け上がらんとする夕辺の足音。
 琥珀に揺らめく髪と尾を揺らし、踊るように厚い装甲を踏みつけ斬り付けていく。一歩踏めば二閃、二歩で四閃。鎧う無機物の群れ、身を寄せ合ったそれらの隙間を狙い切っ先を捩じ込んで、捻れば力は必要ない。嵌め込まれたパーツを文字通り剥ぎ取り、それが叶わずとも抉り取っていく。
 巨大な身体を肩まで登り切ってから、彼女は身を翻し宙を踏んだ。
「さあここからよ。知ってる? 熱くなった後に冷やすの、身体にいいんですって」
 こん。と片手を狐のかたちにして、夕辺は夜明けに似た藍の眸を細める。
 発動させるユーベルコードの名は、管狐行軍《クダギツネ・フルバースト》――数多の精霊は宙を駆ける狐の姿で、ミミックロボットごとその周囲をたちまちに凍てつかせていく。周囲の空気が一気に冷え、先ほど彼女の削ぎ落した“かつて鎧だったもの”たちは無機物と呼ぶにも憚れる氷像に似たものと化した。
「更にうすのろになるのを防いであげたわ。これはね、気を遣ってあげてるのよ?」
 いいダイエットになったでしょう? 床に降り立った夕辺は鋼鉄を振り返り、晴れやかな声で言った。

 轟音に似ていた。鉄板の軋み曲がる音と凍り付いた車輪を無理矢理に回そうとする音が冷えた室内に囂々と、正しくそれは鋼鉄の上げる怨嗟の声だった。
 最早動くこともできまいと思われたミミックロボットはしかし、今やこの部屋を崩壊させても構わぬとでも言うように床と壁を抉り、もがき苦しむのに似てその身体を戦慄かせている。
「いけません――!!」
 みよしの悲鳴とどちらが早いか、夕辺は舌打ちをし急いでその場を駆け出した。
 鋼鉄の車輪を繋ぎ止めていた氷に亀裂が入り、けたたましい程の破壊音と共に大きく石造りの床が抉れ、手負いの凶悪が放たれる。
「夕辺! チカの下まで来るのじゃ!」
 エチカの声を受け、夕辺は弾かれたように方向を定め、飛ぶように駆けた。
 車輪は既にそうと呼べぬ程に歪み、氷の破片を纏いこの上なくいびつだったが、回るのならば前に進むことが出来る。巨大な鋼鉄は射掛けられようと物ともせず、半ば這うように己に深手を負わせた夕辺の背中へと一心不乱に突進した。
 伸ばされる腕。爪は疾うに爪と判別のつかない銀色の塊になっている。それでも夕辺の細い身体をへし折るには十分すぎた。それは爪の先だけでもと彼女の尾に追い縋る魔手。
「っ、せぇい!!」
「よく来た、夕辺!!」
 間一髪、身体を屈め床を滑った夕辺の僅か上を、虚しく剛腕が過ぎてゆく。それを認識した瞬間、まるで逆上したように、その悪魔の鋼鉄は全身から蒸気を噴き出し全身全霊――或いは最期――の力を込めて、エチカと夕辺を叩き潰さんと巨大な腕を大きく振りかぶった。
「怒りに我を忘れれば、見えているものも見えなくなるというものじゃ」
 そう、逆上したミミックロボットには、彼女らの足元に描かれている魔法陣が見えていない。
 ――ミレナリオ・リフレクション。
 それは自身に襲い掛かる攻撃と全く同様のものを放ち相殺する、鏡のようなユーベルコード。彼女たちに落とされた強烈な質量と完全に同量の光の幻影の腕が、魔法陣からふうと浮き上がるようにして現れた。
 それらのぶつかり合った瞬間。獰猛なまでの衝撃波が生み出され、巨大な鋼鉄の身体が浮き上がり、蹈鞴を踏むように後退する。
「もう討ち損ねぬぞ――チカの一撃を……いや、チカ達の連撃をその身で受けるが良い! 往くぞ、皆。最後の一押しじゃ!」
 エチカの言葉に返すが如く、鋼鉄もまた咆えた。その身体を取り巻く煌めきは星屑と似ているが、この光はその鋼の凶悪を縛る。否定をすればする程に、がらがらと音を立てて崩れてゆく。
 最後の足掻きであるかのように噴き出され視界を覆った大量の蒸気の中しかし、その純白の熱気を穿つよう放たれた矢が、もう随分心許なくなった鎧の隙間へと正確に突き刺さった。
「残念ながら、わたくしには視えておりますよ――どうぞ援護射撃はお任せくださいませ!」
 スナイパーはみよし。器用に矢を番え構えられた弓には、緑のリボンが靡いていた。
 再度空を裂く鋭い音と共に奔った矢が、鮮やかにミミックロボットの頭部、いまだ苛烈な光を湛えた隻眼を貫く。
 悲鳴か怒号のように響く軋みを上げながら、果たして痛みにか衝撃にか、天を仰いだ鋼鉄が見たのは。
 ――――。
 鈍い音だった。殆どへし折るようにして、随分前から既にぐらついていた鋼鉄の悪魔の首が――落ちた。
「……悪いわね。私じゃきれいには斬ってあげられないわ」
 中空から。夕辺は墜落するようにして、ミズクメでそのトドメを刺した。彼女の振り返った先、矢の突き刺さったままの眇が怨み言のように一度、二度、明滅し。……程なくして消えて逝った。


「にゃははは! 我らに敵は無し。これで一件落着じゃ」
 立ち込めていた砂埃と蒸気が薄れ、室内での熾烈な戦いの痕がはっきりと姿を現す頃、エチカの明快な笑い声が響いた。彼女は小さな身体でいっぱいに伸びをして、やれやれと息を吐く。
「罠の海に暗闇の部屋に偽の宝箱……思えば大変な路だったが、思い返せば愉快じゃった」
「嘘でしょ……」
 夕辺はと言えばたいへんに仏頂面だった。
 なにせ服の裾も髪も尾の毛並みも砂埃で汚れていて、それが倒したオブリビオンがやたらに噴き出していた蒸気のせいで水分を含み泥のようにへばりついている。
 この上、これがあるから少しはマシと思われた貨幣や宝石たちまでも、あの鋼鉄を討って暫しの後、土くれのように崩れていってしまったのだから堪らない。(一説によると、ミミックが宝箱に擬態しているのではなく、ミミックがより都合の良い環境を求め宝箱を生み出すのだと言われているらしい)
「ちっとも愉快なんて言える気がしないわ……もう……あれだけ走って……もう……」
 言葉もない。普段はぴんと立った耳がしんなりと萎れてしまうほどに。
「まあ、まあ、そうお気を落とさないでくださいまし。お召し物などはわたくしにお任せいただければ、新品同様の姿にしてさしあげますから……」
 しゅんとしぼんでしまった夕辺の尻尾を見ながら、みよしは彼女をなんとか慰めようと一生懸命にメイド服の裾を揺らしてアピールしている。
 わたくしの専門分野ですのでと言葉を重ねるみよしの背を見ながら、エチカはうむうむと頷いた。
「チカとてお気に入りの服が汚れてしまうと悲しいとも。であれば尚のこと――さあて、学園に帰るのじゃ」
 大して時間の経っているわけではないだろうに、どうしてか長いこと空を見ていないような気がする。それは暗闇を経由した所為かもしれなかったし、これで終わった、と強く意識した所為かもしれなかった。
「これほど大変な思いをしたゆえ……ふふ、葉釼に何か奢れとでも強請ろうかのう」
「甘いものがいいわね」
「それはわたくしも頂けるのでしょうか……」
 可憐ながら強靭な猟兵が三人寄ればかしましい。花の咲くような帰り道、彼女らの間で金平糖やビスケットが行き交い、無骨な迷宮の中に甘く華やかな香りが残されていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年01月16日


挿絵イラスト