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バトルオブフラワーズ⑪〜その願いは純粋故に

#キマイラフューチャー #戦争 #バトルオブフラワーズ #ウインドゼファー

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「――だけど今なら、オブリビオンとして蘇った私達なら、無限大の欲望も喰らい尽くせるはず」
 赤い仮面の、女怪人が言う。
「私達は全てを手に入れる。誰にも、邪魔は、させないッ!」

 ●

 全て――全て、であるか。
 葛籠雄九雀は頭の中で女怪人の言について考えながら、集まってくれた猟兵に頭を下げる。その角度はいつも通り九十度だ。

「猟兵ちゃんたち、集まってくれて嬉しいのである!」

 今回の依頼は予知ではない。現在進行形の、戦争への案内である。そのためか、九雀の態度もいつもより少しだけ真面目であった。とは言え当人比なので、やはりどこか間の抜けた雰囲気を醸しているのは否めない。

「キマイラフューチャーが真っ二つに割れて、現在システム・フラワーズへの道が開かれているのは、猟兵ちゃんたちも既にご存知のことと思うのであるが」

 何ならオレより詳しいと思うのであるが、と付け加えて九雀は言う。

「エイプモンキー、ラビットバニーに続いて、怪人軍団の幹部であるウインドゼファーへの道が開かれたのであるぞ」

 このウインドゼファーを見たことがある人間は、存外多いかもしれない。何しろ今までにも、キマイラフューチャーのビル街、そこのホログラムにずっと映っていたのである。エイプモンキーの電光看板やラビットバニーの頭部を模した看板まであることも考えると、どうやら、彼女達の作ったブランドが残っていたようだ。

「彼女は『風を操る能力』で戦う……らしいのであるな。逆に言えばそれだけである。カウンターを考える必要もなければ、感情を揺さぶる必要もないのであるぞ」

 真っ向からの勝負――それは、彼女の『誰よりも速くなりたい』という欲望によるものか。誰よりも速く。誰よりも――その欲望に、ギミックの差し挟まる余地はない。

「彼女は必ず先制で攻撃を仕掛けてくるのである。飛翔もするし、足場も潰してくるのであるぞ。対抗策がなければ、彼女の、」

 そこで九雀は一度喋るのを止めて、それを表すための適切な語彙を探す。何瞬かの思考を挟んでから、九雀はようやく言葉を続けた。

「……彼女の願いを止めることはできんのである」

 だから。

「どうか、よろしくお願いするのであるぞ」

 そう言って、九雀は再度猟兵たちへと頭を下げたのであった。


桐谷羊治
 ====================
 敵は必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
 この先制攻撃に対抗する方法をプレイングに書かず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、必ず先制攻撃で撃破され、ダメージを与えることもできません。
 ====================

 なんだかポンコツなヒーローマスクのグリモア猟兵にてこんにちは、桐谷羊治です。
 三本目のシナリオは戦争となります。何卒よろしくお願い申し上げます。

 特殊ルールは上記の通りです。判定は全体的に厳しめとなり、成功する確率は低くなります。ご了承ください。

 こちらのウインドゼファー戦ですが、運営シナリオ数に制限はなく、戦場の戦力「40」をゼロにできれば制圧成功です。もしそれ以上の成功数があった場合も、上回った成功数の半分だけ、「⑬『ドン・フリーダム』」の戦力を減らせます。

 まだまだ新米ですが、誠心誠意執筆させていただきたく存じます。
 よかったらよろしくお願いします。
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第1章 ボス戦 『スピード怪人『ウインドゼファー』』

POW   :    フルスロットル・ゼファー
全身を【荒れ狂う暴風】で覆い、自身の【誰よりも速くなりたいという欲望】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD   :    レボリューション・ストーム
【花の足場をバラバラにする暴風】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    ソード・オブ・ダイアモード
対象の攻撃を軽減する【全タイヤ高速回転モード】に変身しつつ、【「嗤う竜巻」を放つ2本の車輪剣】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。

イラスト:藤本キシノ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 
「……来ましたか」
 赤い仮面の女怪人が、車輪を模ったような剣を、がしゃりと鳴らした。桃色の花びらが舞い踊るシステム・フラワーズ、その中心に、彼女はいる。
「ドン・フリーダムの邪魔立ては、決してさせない」
 だから――と、女は言う。
「参ります」
 そして、誰よりも速さを追い求めた女の、暴風が吹き荒れた。

 
イサナ・ノーマンズランド
【廃墟】で参加
SPD

敵UCで足場を崩されたら、【早業】で準備した手榴弾の【破壊工作】で爆風を起こし、自分を【吹き飛ばし】て【ジャンプ】。
滞空中は動体【視力】を生かして舞い散る花弁の動きから暴風を見切り、棺桶の【盾受け】で被弾を抑える。

更に相手の動きを牽制するUC【爆導索】を発動。
棺桶から射出したワイヤーで相手の移動を誘導・制限しながら、仕込んだ爆発物を次々爆破。
爆風で手傷を負わせるつもりの大雑把な攻撃。
味方の攻撃を叩き込む隙を作るのが主目的である。

「どんなに強くても、きみはひとりだ」
「どれだけ早くても、きみはひとりだ」
「…………はやすぎるから、はやさしかみていないから、ひとりぼっちなんだ!!」


才堂・紅葉
【廃墟】

「さて、行きますか」
【蒸気バイク】を盾にし、更に【紋章板】を用いて暴風を凌ぐ。
背後の射線に味方の狙撃手が潜んでいるので、そちらも密かに庇う位置取りだ。
足場が危うくなった所で、蒸気バイクを足場に跳躍で移動する。
【戦闘知識、かばう、盾受け、オーラ防御、ジャンプ】

空中で符丁で味方に合図し閃光手榴弾【目潰し、暗号作成】。
着地と同時に身を低くし、暴風に舞い散る花弁に紛れて【迷彩、忍び足】。

隙を見て【獣の眼光】で銃撃。
これは場を濃密な【殺気】で覆い、味方の気配を奴から隠す意味もある。
そして放つ銃弾は奴の最も嫌がるであろう『速度を削る』重力の【属性攻撃】の詠唱弾だ。

「さぁ自慢の速度を穢してあげるわ」


シーラ・フリュー
【廃墟】で参加
風は強すぎるのはあまり好きじゃないですね…そよ風くらいが一番です…。
…それにしても、せっかく綺麗な場所ですのに…もったいない…。

…私の役目は敵を狙撃する事ですね。
【目立たない】ように…なるべく遠くに離れて【鷹の目】で【スナイパー】による攻撃を。
遠ければ風は弱まりますし、流石にこんな遠くまで足場をバラバラにはしてこない…はずです…。
ですけど、念の為にいざという時の足場用に、ガジェットのドローンを待機させておきますね。

後は好機を伺いつつ…使えそうな【戦闘知識】を思い出したり、動きを観察して【情報収集】しながら敵の動きを予想、【第六感】も頼りに当てられそうな時に【早業】で撃ちます…。


五曜・うらら
【廃墟】

ほほう、風ですかっ!
まさに疾風の如くといったところでしょうか!
足場を崩してくるのならば、まずは距離を取る為にも跳びましょうっ!
そのまま落っこちるわけにはいきませんからね!

そして空中からそのまま驚天動地の示を披露いたしますっ!
私のような可愛らしい姿の分身ですが甘く見ないでくださいな!
いざ、かかれっ!

ええ、確かに分身がその風を突破するのは難しいでしょう!
しかし、あなたの風は連続して放てますかっ!
分身を時間差で攻め込ませることで隙を作りますよっ!

私は分身と、この宙を舞う五本の刀で
風さえも切り裂き、貫いてみせましょうっ!
ですから皆さん、必ずやその瞬間を撃ち抜いてくださいねっ!



 
 ウインドゼファーを中心として吹き荒れる強烈な暴風に、美しいが脆弱な花の足場が、めくれるように吹き飛んでいく。
「――はっ!」
 イサナは勢いよく足場から跳ね上がると、早業で準備した手榴弾のピンを抜き、まだ辛うじて存在していた足場に叩きつけた。直後、手榴弾が爆発し、その爆風がイサナを一層高く吹き上げる。そして、少女は思った。
(……ああ、やっぱり、そうなんだ)
 上から見る女怪人は、周囲の足場を一切失い、独りで花園に立っている。
 嵐の中で、面白い芸当ですねとウインドゼファーが笑った。まだ風は吹き荒れている。イサナは吹雪く花弁の動きから暴風の流れを見切ると、棺桶――再殺兵装『カズィクル・ベイ』――を盾に被弾を抑えつつ、風を受けて滞空時間を伸ばす。
「それでどうするつもりです。何もできないでしょう」
「……何もできない、わけじゃないよ」
「何?」
 訝しげな声を上げたウインドゼファーへ、イサナは言う。
「……この棺桶には、こんな使い方もある!」
 豹変した少女が叫ぶと同時、ジャッ!と、特殊ワイヤーが射出され、暴風を貫いてウインドゼファーを襲う。
「当たりませんッ!」
 その動きは、最速の願いに相応しく敏捷だ。難なくイサナのワイヤーを避け、女が「その程度ですか?」と落胆を滲ませた台詞を吐く。事実、少女のワイヤーは、女を取り囲むように突き立つばかりで、どれ一つ命中していない。
 だが、それで構わない。
「……ボーナスステージだ」
 女が、落下するイサナを見上げる。
「纏めて吹き飛ばしてやるぜ!」
「――クッ!!」
 ウインドゼファーの仮面の下から、呻きが漏れる。足場の花弁を吹き散らして、ワイヤーの爆薬が次々に連鎖して爆発し、女を包んだ。爆風の中から女が飛び出す。そこを狙って、再びワイヤーを射出。構わず爆破する。
「それで私が倒れるとでも?」
「まさか、そんなわけないよ」
 女が、訝しげに、ではなぜ、と少女へ問うた。
「……どんなに強くても、きみはひとりだ」
 ワイヤーが三度爆発する。
「どれだけ速くても、きみはひとりだ」
 花弁の舞台を、女は独りで駆けている。
「…………はやすぎるから、はやさしかみていないから」
 イサナ以外の猟兵が、イサナの仲間が、何をしているかなんて、見ないまま。
「――ひとりぼっちなんだ!」
 暴風が、弱まる。
 舞い散る花吹雪の中――うららの分身が、ウインドゼファーに肉薄していた。

 ●

「……ぐ、ッ!!」
 身をよじるように後退し、刃を回避したウインドゼファーが、再び暴風を引き起こして、少女の分身を、システム・フラワーズの遥か彼方へと吹き飛ばす。
「ほほう、また風ですかっ!」
 辛うじて残っていた、靴底ほどの足場に着地すると、うららは全身のバネを駆使して高く跳躍する。そのまま落ちるわけにはいかない、まずは距離を取らなければ。一瞬遅れて、その足場までもが吹き飛ぶ。
「まさに疾風の如くといったところでしょうか!」
「そうですッ、私は速さを求めた! そしてこの力を――この風を手に入れたのです!」
 ウインドゼファーの放つ暴風のおかげで、彼女の周囲にはもう碌な足場はない。だが、分身はまだ十分に残っている。うららは分身と共に、眼下のウインドゼファーへ刃を向けた。
「無駄ですッ」
「そうですか!」
「そうです――あなたは、先程の攻撃で私を捉えられなかった! あなたのその可愛らしい式神では、私の風を貫けない!」
「ええ、確かに分身がその風を突破するのは難しいでしょう!」
 女の指摘に、うららは素直に頷く。驚天動地の示〈キョウテンドウチノシメシ〉で召喚した分身たちは、数こそ三十と多いが、うららの幾十分の一程度の強さしかない。この式神たちで暴風を突破するのは、至難の業であろう。
「しかしっ!」
 攻め込んだ分身が、暴風に弾かれてくるくると独楽のように回って遠くへ落ちる。先程と同じだ。だが、その落下地点は、先程より――僅かに近い。
「――あなたの風は連続して放てますかっ!」
 止まない雨がないように、人が走り続けられないように。
 吹き荒れる嵐も、いつかは必ず終わりが来る。
 その間隙を――うららの波状攻撃は、見逃さない。
「私のような可愛らしい姿の分身ですが甘く見ないでくださいな!」
「何を……ッ!」
「いざ、かかれっ!」
 戦闘用装束を纏った、うららそっくりの分身が、時間差でウインドゼファーへ迫る。無論、うらら本人も傍観してはいない。超常の力で五本の刀を操り、分身と共に嵐を進む。ウインドゼファーが咆える。荒れ狂う風に分身が弾かれ、落下するうらら自身も吹き飛ばされそうになる。花びらが、少女の体を弾丸のように叩いた。痛みに、全身が悲鳴を上げる。だが、うららは止まらない。
「その風さえも――私は切り裂き、貫いてみせましょうっ!」
 叫ぶ少女の白刃が、風を、花を、女の速さを貫いて――

 ●

「……さて、行きますか」
 呟いて、直後放たれたウインドゼファーの暴風を、蒸気バイクと紋章板で防ぐ。それなりに距離を離しておいたつもりだが、それでも紅葉の周囲の足場は、剥がれるように吹き飛ばされては、風の中に舞い上がっていった。
(これは、少しでも気を抜くと盾ごと吹き飛ばされるわね)
 紅葉の背後には、狙撃の準備をしているシーラがいる。千メートル近く離れている彼女のところまではそれほど風も届いていないはずだが、紅葉の役割は彼女を『庇う』ことだ。それには、風から守ることだけではなく、『ウインドゼファーの視線を遮る壁になる』ということも含まれている。狙撃は、一発目を外せば二発目を当てるのが一発目よりずっと難しくなる。だからこそ、隙を見ての、一発必中。そのために、紅葉はシーラの壁になるのだ。
 独りで戦うウインドゼファーは、イサナにかまけて、壁として動かない紅葉のことなど気にもしていない。うららの分身が斬りかかるが、それを即座に躱して、ウインドゼファーが再び暴風を放った。当然、その風は紅葉のところまで届く。
「……く……!」
 流石に、そろそろきついか。盾で守っているとは言え、足場は既に、紅葉の横幅分程度もない。もう少し、もう少しでいい。うららが、分身と共に、風を切り裂いていく。
 そして――少女が振るう五本の刃、その切っ先が、ウインドゼファーの喉元へと届いた。紅葉はその瞬間、蒸気バイクを放り出し、危うくなった足場を放棄して跳ぶ。目指すは次の足場――バイクだ。宙に浮いたバイクを踏んで、更に跳ぶ。女怪人が、半身を捻って、うららの刀を再度躱した。だが避けきれず、喉の装甲を鋼が抉る。
 事前に決めておいた符丁を叫べば――ウインドゼファーが紅葉を見た。間髪入れず暴風が吹き荒れる、だが、彼女の閃光手榴弾は、既に投げられている。
 直後、あたりを白く染め尽くす光と、軍用イヤーマフ越しでもわかる音が、手榴弾から迸った。予め把握していた地点に着地すると、紅葉は身を低くして舞い散る花弁の中を、女に気付かれぬよう突き進む。光が薄れて――紅葉はウインドゼファーの背後。紅葉は獣の眼光〈サツイノカタマリ〉を発動させながら、リボルバーを、女へ向ける。即座に満ちる濃密な殺気と、閃光や爆音の残滓に惑わされ、ウインドゼファーはすぐ後ろの紅葉に気付かない。ましてや、千メートル向こうのシーラになど。
 装填するは、重力の属性を付与された、詠唱弾。おそらく彼女が最も嫌がるであろう、『速度を削る』弾だ。
「――さぁ、自慢の速度を穢してあげるわ」

 ●

 星の輝く宇宙を背景に、桃色の花びらが、ウインドゼファーの風に吹き散らされて舞う。夜闇に踊る花吹雪、その光景に、シーラは勿体ない、と思った。
(せっかく綺麗な場所ですのに……)
 風は、強すぎるのはあまり好きじゃない。そよ風くらいが一番いい。スコープのレティクルに見るウインドゼファーは、ミルドット二つ分か、それより僅かに小さいくらいだ。十分当てられる距離ではある。だが、このままでは風が邪魔をして彼女まで届かないだろう。それに、本人の動きも激しすぎる。もし初弾が外れて、シーラの位置が判明してしまえば、その時点で狙撃は失敗だ。ポイントを変えようにも、この遮蔽物もない戦場では、シーラがどう動くかなど、すぐにわかってしまう。前線の外、風の届かぬ花畑で、シーラはじっと、目立たないよう息を潜めて、狙撃の瞬間を狙う。周囲には一応ガジェットのドローンを待機させているが、この分なら使うことはないだろう。
 ウインドゼファーが、レティクルの中で踊る。イサナのワイヤーが爆発し、分身のうららが刃を向ける。その度、風が花弁を巻き上げ、散らした。幻想的ではあるが、戦いの産物となれば素直に喜べはしない。女が俊敏なバックステップで分身を避ける。動きは短く、すぐ反撃に移れる体さばきである。そう言えば、イサナのワイヤーも、大きく回避したりはしませんでしたね。シーラは踊るウインドゼファーを、戦闘知識で以て観察する。
 やがてうららの刃が、女の喉を抉った。それと同時に壁としてシーラを守っていた紅葉が、バイクを使って高く、そして遠くへ跳躍する。少女の符丁が聞こえて、シーラは僅かに目を閉じ――手榴弾の爆音がして目を開く。レティクルの中には、光と音に眩暈を起こしたらしいウインドゼファー、それから、リボルバーを構えた紅葉。回避行動も取れず、まともに詠唱弾を食らった女が、よろめきながら紅葉の方を振り向く。だが、その動きは、先程までよりも明らかに鈍重である。風もない――閃く第六感のままに、決める。
 撃つなら、ここだ。
 シーラは迷いなく、引き金を引く。空間を引き裂いて、マグナム口径の弾丸が、女目掛けて流星のように飛んだ。何かを察知したのか、ウインドゼファーが、それを避けるために動く。だが、それも計算しての弾道だ。彼女がどう動くか、シーラには予測が立っている。
 女怪人の頭部が――シーラの銃弾に大きくひしゃげたのは、次の瞬間のことであった。

 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​


 
 長距離からの狙撃を頭に食らったウインドゼファーが、錐揉みして花の足場を転がる。その赤い頭部は大きく抉れ、人間ならば死んでいるような様相を呈している。それなのに、彼女はまだ――起き上がるのだ。
 まだ、倒れる訳にはいかないと言って。
「私は門番です……門番が倒れたら……おしまいでしょう? だから、私は倒れない」
 車輪剣を杖代わりに、ウインドゼファーは体を支え、猟兵たちを見据える。
「私達は……私は、誰よりも、何よりも、速くなるのだから!」
 女が叫び、その身が暴風に包まれた。

 
カレリア・リュエシェ
【POW】

強敵だ。物語の騎士をどこまで演じていられるか。
いや、最後まで演じてみせよう。それが私の願いだ。

【世界知識】を使い、ウインドゼファーの装備や見目から行動に前兆や癖などないか考える。
思考時間を与えられないなら【戦闘知識】と【第六感】で全力回避。
攻撃で負う傷や痛みは【覚悟】して耐え、ひたすら粘りながら彼女に声をかけよう。

速くなりたいという願いなのに、求めるものは全てとはおかしなことだ。
喰らうどころか取り憑かれているぞ――と、思考を揺るがすことで暴風や戦闘力を削ぎ落とせないか試みる。

体力が尽きず、好機が訪れたなら【捨て身の一撃】。
ウインドゼファーの攻撃を利用し【カウンター】で剣を押し込む。


レナータ・バルダーヌ
スピードと冠するくらいですから、攻撃を当てるのも至難の業でしょう。
ですので向こうから当たりに来ていただきます。

わたしは念動力の【オーラによる防御】壁を纏い、【痛みに耐え】つつ先制攻撃を凌ぎ続け、飛翔したゼファーさんがこちらを目掛けて、なるべく地面に対して垂直な軌道で急降下してくるタイミングを待ちます。
チャンスが訪れたら、【防衛本能:原点回帰】の効果により、苦痛を受けるほど増幅された【念動力】で自身を中心に斥力場を形成し、ゼファーさんの飛行軌道を狂わせ地面に激突させます。

このスピードですから、タイミングの判断は運任せに近い一瞬の勝負になると思いますけど、絶対に成功させてみせます!



 
 暴風を纏った女を見ながら、レナータは念動力でオーラの防御壁を展開し、己もそれを纏う。速さを願い、自らスピードと冠する怪人の彼女。それに攻撃を当てるのは、おそらく至難の業であろう。であれば、レナータが選ぶ手段はただ一つ。女が、足場を蹴る。
「……っぐぅ……ッ!!」
 その速度は、音速を超えていただろうか。あまりの速度に赤い流線と化した女が、飛翔してレナータを掬うように打ち上げた。超速度で打ち込まれた打撃に、かは、とレナータの柔らかな唇から、掠れた声が漏れる。胸に激痛が走り、息が詰まった。けれど多分、まだ骨も折れていない。内臓も大丈夫だ。耐えられる――そしてこの苦痛こそ、レナータが求めているものなのだ。
「……ついて来られないでしょう」
 地に落ち、痛みに震える足で立ち上がれば、女が、静かな声で言った。
「そう、です、ね……」
「防御しているのですか? ……苦しみが長引くだけでしょうに」
 どうなっても恨まないでください。女が、赤い弾丸が、速度と質量のままに、レナータを吹き飛ばす。みしり、と、ついに、骨の軋む音がした。花の足場にバウンドして、少女は壊れた人形のように落ちる。起き上がろうとしたレナータを、横からウインドゼファーが跳ね上げ、蹴り落とし、放り投げて、追撃し続ける。いつの間に血を吐いたのか、少女の視界に映る花園には、赤い飛沫と線で歪な絵画が描かれていた。ごぶり、と、咳と共に赤黒い塊を鼻と口から溢れさせ、レナータはその菫色の瞳で、女を見る。
 その視線に何を思ったのか――ウインドゼファーが、柔らかな、慈しみすら滲む口調で、少女に語りかけた。
「……もう、眠りなさい。お嬢さん」
 女が、動かぬレナータの前で、『天高く飛翔した』。少女は激痛の中で目を見開き、ウインドゼファーの動きを捉えるべく集中する。
 タイミングは一瞬。
 外したらおそらく次はない。判断のすべてが運任せに近い、一瞬の勝負だ。けれど、絶対に成功させてみせる。レナータは防衛本能:原点回帰〈ドロローソ・ダ・カーポ〉を発動させると、己の念動力を強化する。
 受けた苦痛の分だけ。
 吐いた血の分だけ。
 被虐の報復の輪廻で――レナータの力は強くなる。
 ウインドゼファーの動きが止まる。急降下が始まるのだとは――すぐにわかった。地面へ転がるレナータへの、垂直な軌跡。念動力で、少女は斥力場を形成する。二人が接近する、その刹那。
 ――吹き飛んだのは、ウインドゼファーの方であった。

 ●

 レナータの斥力場に弾かれ、地面へと墜落した女怪人が、それでも立ち上がる。その姿には折れぬ信念が、朽ちぬ宿願があった。
 ああ――間違いのない、強敵だ。カレリアは黒剣の柄を握り直し、女を見据える。私は、この女を前に、物語の騎士をどこまで演じていられるか。
(――いや)
 カレリアは、頭に浮かんだ考えを否定する。
「……己の速さが返ってくるとは……皮肉ですね……」
 呟くように女が――おそらく、嗤った。
「けれど……それでも、私は、速くなる。もっと……もっと!」
 ごう、と女が暴風を纏う。叫ぶ願いは、あまりに鋭い。だからこそ、カレリアは決める。最後まで、彼女を屠るその一瞬まで、カレリアは騎士を演じ続けてみせると。
(それが――私の)
 女が、宣言通り一層速い速度で飛翔した。それを第六感で避けて、騎士は女に話しかける。
「貴殿! 速くなりたいのだろう!」
「……ええ!」再び飛翔。同様に第六感で回避し、カレリアは続ける。
「それが貴殿の願いなのだろう! それなのに――求めるものは全てなのか!」
「そう! 私達は全ての願いを叶えるのです! 欲しいものを全て、全て!」
「おかしいとは思わないのか! 貴殿は速さの他に、何を望む!」
 飛翔した女を第六感で避けるが、紙一重で肩が接触した。甲冑に守られているはずの関節が、ごぎりと嫌な音を立てる。
 だがこのような痛み――最初から覚悟の上。
「無限大の欲望〈リビドー〉を喰らうどころか、取り憑かれているぞ!」
「――言いたいことは、それだけですか?」
 女の冷ややかな声。
「願いも欲もない者にはわからないでしょう。進化への道を捨てた者たちよ」
「……それは間違いだ。私にも、願いはある」
「どのような?」
「『騎士として』――最後まで戦い抜く!」
 女が一瞬、唖然とした、ように見えた。それから、大声で笑う。
「それは――確かに、願いですね!」
 金属に覆われた女の足が、じり、と僅かに動いたのを、カレリアは見逃さなかった。何度も打ち据えられるレナータ、その光景を見ていて――その癖に気付いたのだ。彼女のおかげで、カレリアは今、この一撃を放てる。
 爆発するような、女の飛翔。それを、騎士は――
「……み、」
 ウインドゼファーの足から力が抜け、カレリアに凭れかかる。
 その胸には、騎士の黒剣。
「見事、です。願い、は……あなたの方が、強かった……よう、ですね……」
 それでも、時間稼ぎにはなりましたか。それだけ言って、女はこと切れた。

 お互い、顔も知らぬ二人の。その願いの……それが決着であった。

 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年05月25日


挿絵イラスト