行商や旅人が行きかう交易都市の酒場は、ある話題で持ちきりだった。
曰く、「霊峰の頂に竜が出た」と。
ドラゴン。それは他のモンスターとは別格の存在である。
かつて勇者に倒された帝竜とその一派が、いかほどの脅威だったか。この世界において、知らない者はいないと言っていい。
今回の噂話には、いくつかの目撃証言がある。
「山頂付近を飛ぶ巨大な竜の影を見た」
「雷鳴のような雄叫びが聞こえたと思ったら、山崩れが起きた」
などなど。
どの証言も、山に入った老年の猟師からのもので、信憑性はいまいちだ。酒場には依頼も出ていないし、冒険者たちも、自らの目で確かめる気はないようだ。
それもそのはずである。件の霊峰は、その頂に人を寄せ付けない。
険しい山道を超え、モンスターの襲撃を退け、山守の妖精が住む村で彼らを説得し、ようやく頂が見えてくるのだ。
そんな苦難を乗り越えてまで、実在するかどうかも分からない――いたとしても、生半可な実力では太刀打ちできない――竜に挑もうとする者は、名誉のために命まで懸けようとする連中だけだ。
今日食えるだけの日銭を稼ぎ、飲んで楽しく騒げればいい連中にとって、わざわざ竜などに関わる理由はない。
ただ酒の肴に、ケンカをする口実に、異性を口説く材料に、噂話を利用するだけだ。
◆
「貴様らは、竜を知っているか」
淡々とした中に怒気のような凄みを交えた声で、マクシミリアン・ベイカー(怒れるマックス軍曹・f01737)が一同を見回す。
グリモアベースの背後には、天高く聳える霊峰が映し出されていた。
「こいつはアックス&ウィザーズの、ある山だ。この山頂に、ドラゴンが出た。無論、オブリビオンのクソだ。それを殺せ!」
今回の目的は、それが全てだ。詳細な情報がないが、それはマクシミリアンが出し惜しみをしているわけでも、端折っているわけでもない。
「俺の予知では、山のてっぺんでクソドラゴンがふざけた翼で飛ぶ姿を見ただけにすぎん。ただ、予知で見た以上は実在し、しかもオブリビオンであることは間違いない!」
ドラゴンの能力もまた、不明だ。ただ言えるのは、決して油断してはならない種族であるということだけだろう。
「予知でバタバタ飛んでいたクソが帝竜ヴァルギリオスとどういう関係にあるのかは分からん。だが放っておけば甚大な被害が出ることは間違いない。何せ奴は――ドラゴンだからな」
その一言で説明がつく、それが竜という存在なのだ。
不機嫌そうに眉を寄せたマクシミリアンの表情は、彼の癖というだけではないように思えた。
「貴様らにはまず、山からいくらか離れた交易都市に行ってもらう。この町の酒場では、件の竜の噂が流行っている。入り浸っている冒険者どもから情報を引き出せ。竜のクソについて調べるか、登山中に沸く他のクソとの戦闘に備えた情報収集をするか。それは貴様らに任せる!」
酒場は宿も兼ねており、部屋は余っている。数日間の滞在なら可能だ。
各種の依頼はここから出されており、薬品の類も販売しているようだ。
金貨の詰まった袋を猟兵たちに手渡しながら、マクシミリアンは一人一人の目を覗き込むように睨んだ。特に意味はない。
「今渡した金袋は必要経費だ。酒場の連中から情報を引き出すのに使え。調査の手段は問わんが、世界の住人や貴様らから死人が出ることは許さん!」
竜を倒すつもりでいる冒険者がいたとすれば、彼らは気骨があり、腕利きだろう。話を引き出すために、力を証明する必要があるかもしれない。
逆に日銭を稼げればそれでいいというような冒険者から情報を得ようとすれば、金銭以外の対価を要求される可能性もある。素直に従うか、力でねじ伏せ無理やり聞き出すか。方法は様々あるだろう。
だが、誰かが死ねば信用は失墜し、情報を聞き出すどころか街から追放されかねない。そうなれば、事前準備なしに山へ挑むことになる。
安全にドラゴンまでたどり着けるかどうかは、猟兵たちの事前調査如何にかかっているのだ。
「無論、山を踏破して終わりじゃない。むしろそこからが地獄だと覚悟しておけ! 敵は竜だ。油断すれば一撃で粉微塵にされると思え!」
猟兵たちを砥がれたナイフのような目で睨みつけ、マクシミリアンは姿勢を正し、凛々しく敬礼をした。
「愚直なドラゴンキラーどもに、敬礼ッ! 戦いの果てに貴様らに得られるものは、栄誉か死のどちらかだ。選びたい方をもぎ取ってこい!」
グリモアベースの景色が揺らめく。
七篠文
どうも、七篠文です。
今回はアックス&ウィザーズです。
一章が情報収集、二章が道中での戦闘、三章が目標との戦闘となります。
一章では、フラグメントに書かれた行動例に沿ってもいいですし、独自の方法で情報を収集しても構いません。使う能力を明示してください。
その際の注意事項は、オープニングに書かれたとおりです。
酒場には様々な性格の冒険者がたむろしていますので、相性が良さそうな相手からうまいこと情報を引き出しましょう。
二章以降は、一章で集められた情報の分だけ疲労なく登ることができ、戦闘も有利になります。
戦闘の難易度は高めです。三章はより厳しくダイス目に従います。
苦戦判定は、出目の結果です。
七篠はアドリブをどんどん入れます。
「アドリブ少なく!」とご希望の方は、プレイングにその件を一言書いてください。
ステータスも参照しますが、見落とす可能性がありますので、どうしてもということは【必ず】プレイングにご記入ください。
また、成功以上でもダメージ描写をすることがあります。これはただのフレーバーですので、「無傷で戦い抜く!」という場合は、プレイングに書いてください。
「傷を受けてボロボロになっても戦う!」という場合も、同様にお願いします。
それでは、よい冒険を。皆さんの熱いプレイングをお待ちしています!
第1章 冒険
『酒場の賑わいの中で』
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POW : 酒の飲み比べ、腕相撲、一騎打ちなどで冒険者に認められる
SPD : 冒険者同士の情報を盗み聞き、地図をすり取る等でこっそりいただく
WIZ : 色仕掛けや説得など、口先で騙して冒険者から情報を引き出す
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
戸を開けると、賑わう冒険者たちの声が溢れてきた。
飲み比べに興じる者、依頼を選ぶ者、パーティを募る者……。
猟兵たちはごった返す喧騒に紛れ、早速聞き込みを開始する。
戸を開けた途端、明るい喧騒が猟兵の耳に飛び込んできた。
飲み比べに興じる者、腕相撲で力を見せ合う者、依頼の張り紙を難しい顔で睨む者……。リュートを奏でる吟遊詩人の歌が、それらの背景に薄っすらと聞こえる。
アルコールと、肉の焼ける匂い。まさしくこの世界の酒場だ。猟兵たちはここで、竜への手がかりを探すことになる。
金貨を片手に冒険者たちの輪へ溶け込んで、聞き込みを始めよう。
得意な手段で彼らの心をくすぐり、有益な情報を集めるのだ。
霑国・永一
金儲けにはなるか怪しいけど、竜の素材とか売れるかなぁ。
ま、人相手に盗んでばかりじゃマンネリだからね、気晴らし兼ねてやるとしよう
それっぽい冒険者の服装に【変装】して違和感なく内部で情報収集しようか。
テーブルとかでワイワイ会話してる人たちの近くに行って盗み聞きしたり、パーティ募る人をちらっと見聞きして竜退治狙ってる人が居ないか確認したり、依頼に注目してる人を特にチェックの対象としていくのがいいかねぇ
件の山の地図とか今すぐに手に入り辛そうで且つ必要そうなものを持っている人物を確認すれば、すれ違いざまに【盗み】取る、または置かれた地図から視線が外された瞬間にすり替えるとしよう。狂気の奪取も使うか
何が面白いやら、酒場のあちこちから上がる笑い声を聞き流しながら、霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)は適当なテーブルに腰かけた。
頼んだエールを呑むでもなく、周囲を見回しながら独り言ちる。
「金儲けになるか怪しいけど……竜の素材とか、売れるかなぁ」
事実、ドラゴンの鱗やら皮やら爪やらは、まず売りに出されることはない。あったとしても、本物と信じてくれる者がいるかどうか。
はっきりと言ってしまえば、ただ金を稼ぐだけならば、永一の盗みの腕を発揮した方が遥かに早い。
が、それではいつもと変わらない。せっかくこの世界に来たのだからと、永一は頬杖を突きながら笑った。
「ま、気晴らし兼ねて、やるとしよう」
彼は今、周囲に溶け込むべく皮鎧に身を包み、背には弓矢を背負っている。どれも先ほど買い揃えたばかりだが、敢えて使い古された中古品を選び、いかにも旅慣れた風を装っている。
猟兵はその容姿で怪しまれるようなことはないが、熟練の冒険者に馴染むための工夫は、他人が誰も永一を気にせず騒いでいることから、効果があると言えるだろう。
「さて」
エールを手に立ち上がり、若手の――永一と同じ程度の年齢だろうが――パーティがたむろしているテーブルの後ろに腰かける。
一口飲んで、背後に耳を澄ます。どうやら、今日の成果について話しているようだ。
酒場で一番安い肉料理を齧りながら、剣士が言った。
「まぁでも、妥当なところだろ。俺たちじゃまだ、トロールの群れは厳しいしな」
「でも、そろそろ新しい挑戦をしたいとも思うわよ。私たちも実力がついてきたんだし……」
女魔法使いのぼやきに、僧侶らしい男が首を横に振った。
「遠征できるほどの金があるわけでもあるまい。堅実に貯蓄せねば」
「なんなら、あの山でも行ってみるか? ドラゴン退治ってしゃれ込んでよぉ」
そう言って豪快に酒を煽るのは、ドワーフの女だった。彼女は大斧を机に立てかけており、パーティの最大火力を担っているであろうことは容易に想像がつく。
山のドラゴン。例の噂で間違いないだろう。永一は背後に意識を集中する。
女魔法使いが、ため息をつくのが聞こえた。
「そんな話を信じてるわけ? いたとしても、私たちでどうにかできると思ってるの?」
「ははは! 冗談だよ、冗談。ま、いつかは……なんて思うけどな」
「いつか、な」
「いつか、であるな」
女ドワーフの言葉に男連中も同意して、彼らは取り留めもない雑談に入っていった。どうやら、並の冒険者では話に出すのも馬鹿馬鹿しいようだ。
永一はエールを飲み干し、席を立った。依頼が張り出されている掲示板に近づき、そこに集まっている冒険者たちを見回す。
新品の鎧を身に纏う初心者から、初老の熟練戦士まで。皆一様に、自分に合う依頼を探している。どうやら予知の通り、まだドラゴン討伐の依頼は出ていないようだ。
人ごみを割って入り、掲示板を見る振りをしつつ、わざと周りに聞こえるように呟く。
「えー、竜退治、竜退治はっと。なんだ、まだないのか」
「お前、ドラゴン討伐に来たのか?」
すぐに声をかけてきたのは、驚くべきことにまだ幼い少年だった。年のころ、十に届くかどうか。
予想外の相手に頬を掻きつつ、永一は頷く。
「ん、まぁね。金になるかなと思ってさ」
「……やめときなよ。笑われるよ」
唇を尖らせる少年も、どうやら竜退治を夢見てやってきて、笑い飛ばされた口らしい。
一緒にされるのは少々思うところがあったが、貴重な情報源ではある。永一は少年の肩を掴んで、酒場の隅にやってきた。
「なぁ、ドラゴンは本当にいるのか? なんかどいつもこいつも、いない前提で話しててな」
「いるよ。俺は見たんだ! 朝方に、すっごい大きな声で吼えてさ、山の方に――」
嬉々として話す少年に適当な相槌を打ちつつ、尋ねる。
「で、竜退治の依頼があったら、受けるつもりだった?」
「当たり前じゃん! この目で見たいもん」
「へぇ。じゃあ山の地理とか知ってるんだ」
少年剣士は首を横に振った。拍子抜けしそうになったが、永一はすぐに、少年が指さす方向に顔を向けることになった。
「あのおっさんが、山の地図を持ってるって。竜退治の依頼が出たら見せてくれるって、約束したんだ!」
そちらを見れば、筋骨隆々な男が蒸留酒を水のように飲んでいる。巨大なサックからは、確かに古びた地図が見え隠れしていた。
少年は悔しそうに、永一に耳打ちをする。
「あの山、ベテランの冒険者の狩場でさ。モンスターは強いけど、いい金になるんだって」
「ほほう」
地図は必需品というわけだ。だが、それならば手段は一つだろう。
永一は少年に金貨を二つ手渡し、突然舞い込んだ大金に目を白黒させる彼の背を押した。
「まぁ、うまいもんでも食いな。ドラゴン退治は、それからだ」
「う、うん! ありがとう、兄ちゃん!」
走り去る少年剣士を見送ってから、永一は半分まで減ったエールを手に例の大男に近づく。
そして、大げさに転んだ。大きなサックに倒れ込み、鍛え上げられた大男の禿頭に、酒が派手にぶちまけられる。
「つめてッ!? てめぇ、なにしやがる!」
「あいたた……。悪い悪い、ちょっと酔っちまって」
「ざけやがってテメェー!」
岩のような拳が、永一の頬を捉えた。盛大に吹き飛び他人のテーブルを巻き込んで、罵声やら笑い声やらを浴びながら、立ち上がる。
「わ、悪かったって! 謝るから、ほら、金貨!」
「テメコラー!?」
喚き散らす大男に金貨を一枚投げつけて、這う這うの体で酒場を抜けだす。
背中には未だに嘲笑が投げつけられているが、酒場の扉が閉まると同時に、永一はいつもの調子で手を二、三度叩き、ズボンを払った。
「拳一発と金貨一枚。あぁそれと、飲みかけのエールもあったっけ」
いつの間にやらポケットに収まった古い地図に手をやって、彼は一人、肩をすくめた。
「十分な対価だよ、なぁ?」
大成功
🔵🔵🔵
駆爛・由貴
いやーおっかねーオッサンだったわマジで
こりゃ俺も気合い入れねーとだな
酒場にたむろする冒険者とお話しするぜ
俺は飲めねーけど『コミュ力』『言いくるめ』をフルに使って周りの冒険者に酒や飯を奢ったり意気投合したりして『情報収集』だな
ところでよぉ、ここら辺でヤベー奴が出たって噂あんだけど知らねーか?
集まった噂は全て俺のレンラク・イチバンに入力
事前に調べた現地情報と照らし合わせてより精度の高い情報を抽出するぜ
情報を出し渋る奴には選択UCをこっそり発動
人気のない場所まで操って喋ってもらうか
もちろんバレねぇように俺のディスガイズ・アデプトの認識阻害能力を使いながらな
さーて、お仕事の時間ですよっと
アドリブ歓迎
「いやーおっかねーオッサンだったわマジで」
げんなりとした顔で言いながら、駆爛・由貴(ストリート系エルフ・f14107)は酒場に入った。
終始不機嫌そうだったグリモア猟兵の顔がちらついてしょうがないが、討伐目標が強大な竜なのだから、彼の気迫も分からなくはない。
「こりゃ俺も、気合い入れねーとだな」
苦笑交じりに言いながら、受付で果実ジュースと肉野菜盛りを頼む。
「さーて……お仕事の時間ですよっと」
出されたグラスと皿を手に、賑わっている中心のテーブルに割って入った。
「よーよー楽しそうじゃん! あ、そこ詰めて、隣座らせてくんねー? そうそう悪いね、サンキュー。で、なんの話してたの?」
突然やってきて、まるで古い友人のように言う由貴に、冒険者たちは不思議と疑問を抱かなかった。彼のずば抜けたコミュニケーション能力の賜物だ。
何やら頭から酒の臭いが漂う禿頭の大男が、蒸留酒を飲み干しながら言った。
「そりゃお前、今日の狩りの成果よ!」
ジョッキをテーブルに叩きつけながら、大男はあまり聞いたことのないモンスターの名前を並べた。響きからして、いかにも強そうなものばかりだ。
実際に彼が実力者なのだろうことは、取り巻きの冒険者が向ける尊敬の視線で分かった。
ならば、持ち上げるに限る。由貴は身を乗り出して頷き、感嘆の声を上げる。
「すげーなぁ旦那! 俺も長いこと旅してきたけど、いやーあんたほどの男には会ったことがないぜー!」
「はっはは、そう褒めるな坊主! しゃーねぇな、一杯奢ってやるとするか!」
「いやいやいや! ここは俺が奢るとこだぜ。、好きなもんを言ってくれ。おーいお姉さん、こっち注文ねー!」
手を振りつつ気前よく金貨を何枚か取り出すと、テーブルを囲む全員の目がそちらに集まった。
ざわつく冒険者を代表して、大男が呻く。
「お前、この金貨は……」
「臨時収入があったってだけさ。あぶく銭はその日にってなー! だから遠慮しないで、みんなもガンガン飲んでくれよ!」
その一言をきっかけに、テーブルは盛況に包まれた。酒が次々に振る舞われ、肉料理が山積みになり、さすがに頼みすぎだろうと言う暇もなく、由貴ももみくちゃにされた。
酒が回り、大男の饒舌にさらなる磨きがかかってきたころ、由貴はおかわりのジュースを頼んでから、電子魔術スマートフォン「レンラク・イチバン」を手に、皆に尋ねた。
「ところでよぉ、ここら辺でヤベー奴が出たって噂あんだけど、知らねーか?」
「やべー奴だぁ? そりゃお前……もしかしてあれか?」
大男がニヤニヤしている。由貴は知らないふりをした。
「んー、それかもな。なにせ本当に風の噂なんだけどよ、とんでもねぇバケモンがいるって聞いたんだ」
「ドラゴン……」
誰かがぼそりと呟いて、数秒沈黙。直後に、割れんばかりの笑い声がテーブルを包み込んだ。
由貴の肩をバシバシと叩きながら、大男が頬を引きつらせるように笑いをこらえている。
「坊主、そいつぁ、竜の噂だ。ぐふっ、最近あの山によぉ、ドラゴンさんが出るらしくてな」
「ままー! こわくてねられないよー!」
野太い声で誰かが言い、またも爆笑に包まれるテーブル。何が面白いのか分からないが、とりあえず合わせて笑いつつ、由貴は頷いた。
「そっかードラゴンかー! そりゃいねーわな! はは、心配して損した!」
「姿を見たなんて噂もあるが、せいぜいワイバーンの見間違いだろうぜ。まぁワイバーンも、十分つえぇがな」
俺には敵わないが、と力こぶなど作りつつ言う大男に頷きながら、彼らからドラゴンについて引き出せる情報はないと確信する。
であるならば、山についてだ。由貴は即座に話題を切り替えた。
「じゃもう一つ。俺、山登りが趣味なんだけどさ、あの山のてっぺんに行くルート、ある?」
「あー、それはやめとけ」
これには至ってまじめな調子で、冒険者の誰かが即答した。それに何度も首肯しながら、大男が腕組みをする。
「せいぜい中腹だな。山頂は行く価値がねぇ」
「なんで?」
「旨味がねぇのさ。モンスターが凶暴な割りに素材は安いし、山頂までは切り立った崖が続く。何より、上の方にいる妖精どもがな」
山守の妖精。事前のブリーフィングでも伝えられていたが、どうやら冒険者も彼らには辟易しているようだ。
「そいつらがいると、上に行けないワケ?」
「認められないとな。だがその基準がフェアリーの基準らしくてよ、俺らにはイマイチ何が何だか」
呆れ顔でため息をつき、大男は肩をすくめた。
「ま、ともかく。山頂には行かない方がいい。なんなら俺と組むか? お前のこと、気に入ったぜ」
満面の笑みで言うあたり、どうやら本気で誘ってくれているらしい。他のメンバーも、一様に期待の目を向けている。
由貴はそれを丁重に断った。彼らの機嫌を損ねないよう奢り直しつつ「ちょっとトイレ」と席を立ち、酒場と宿舎を繋ぐ階段付近に移動する。
ふらりと、その背後から近づく人物。大男のパーティの一人だ。彼は今、由貴のユーベルコードに操られていた。
「やぁご苦労さん。悪いけど、一つだけ聞かせてくんねー?」
ドラゴンの話を笑い飛ばす連中の中に、一人だけ目が笑っていない者がいたのだ。それが彼だった。
ぼんやりとした様子で由貴の顔を見上げるその冒険者の瞳を、覗き込む。
「竜って、いんの?」
「……いる」
ゆらりと頷く冒険者に、由貴は「ふぅん」と相槌を打って、続きを促す。
彼は淡々と、知っている事実、見た真実を口にした。
「野営した晩、小便してるときに見たんだ。笑われるから言ってないが、あれは――ワイバーンなんかじゃない。あれは、ドラゴンだ」
「……」
操られているとはいえ、ようやく話せた安堵感を、冒険者はその顔に浮かべていた。彼は嘘をついていない。
つまり、噂は嘘ではない。それだけが分かれば、十分だ。聞いた内容をレンラク・イチバンにまとめて、由貴は冒険者を解放した。
スマートフォンをポケットにしまい、階段に座って頬杖をつく。
「さて、きな臭くなってきたねぇ」
その言葉とは裏腹に、彼はどこか、楽しそうですらあった。
大成功
🔵🔵🔵
セルマ・エンフィールド
【POW】
情報収集ですか。やれるだけはやってみましょう。
酒場で金貨を報酬に探し人の依頼を出します。内容は「私よりも弓の扱いが上手い者」で。銃ではなく弓とはいえ、スナイパーとして負けるつもりはありませんが。
依頼を見てやってきた人がいたら100歩ほどの距離からの的当てで勝負を。
こちらが勝てば時間を取らせた手間賃代わりと称して件の山の情報、特に襲ってきそうな生物に関して教えてもらいましょう。情報を持っていないのなら仕方ありません。酒場で甘いジュースでも奢ってもらいます。
最初の方にくるであろうお金目当ての人よりも私の腕が広まった後半にくる腕試し自体を目的にするような人を情報源としては重視したいですね。
「なに? 『私よりも弓の扱いが上手い者』……?」
一人の冒険者が見つけたその依頼は、すぐに酒の席で話題となった。
なんでも、最近この町に来た新参が、弓の名手を探しているらしい。彼女と弓矢の勝負をして勝てば、金貨五枚だとか。
ただし、負けた場合は言うことを一つ聞くことになる。当然、報酬はゼロ。
たかが弓勝負に金貨五枚とは、とんでもない破格だ。負けた後の条件が何だか怪しいが、まさか命まで取られはすまい。
ものの試しにやってみようじゃないか。どれ早速。
俺も、私も、わしも。
瞬く間に冒険者が集い、大きなイベントとなってしまった弓矢勝負は、がめつい酒場のマスターが出店まで出す始末となった。
◆
思ったより――というより、思っていたより遥かに、人が集まっている。
いつもの愛銃ではなく弓矢を背負ったセルマ・エンフィールド(終わらぬ冬・f06556)は、少々困った様子で頬を掻いた。
「ちょっと、予想外ですね……」
「おいおい、今更怖気づいたのか? 逃げるなら金貨は置いていけよ」
随分な口を聞く逆毛の男は、どうやら一番手らしい。使い古された弓を握る姿が様になっていて、なかなかの実力者のようだ。
セルマは首を横に振って、淡々と答えた。
「まさか。思った以上に金貨に釣られる人が多いなぁと思っただけです」
「……このガキ。どこの貴族か知らねぇが、有り金巻き上げてやるからな」
凄んでくる逆毛を無視して、セルマは集った弓手たちにルールを説明した。
標的は、酒場の入り口から彼女の歩幅で百歩の距離に置かれた、三つの円が書かれた的。中心に近ければ近いほど、得点が高い。
手持ちの矢は十本で、より多くの点を得た者が勝ち。シンプルなルールだった。
「そういうわけで、お先にどうぞ」
順番を譲られた逆毛は、「黙らせてやるぜ」などと意気込みながら腕を回して、位置についた。
キリキリと弦を引く音が聞こえ、そして止まる。狙いを定める逆毛の目は、まさしくハンターのそれだった。
放たれた一射目は、真ん中よりわずかに右上に逸れた。だが、相当よい腕だ。
「へへ、どうだおい」
自慢げに振り返った逆毛の男に、セルマは表情を変えずに頷いた。
「はい。じゃあ続きを」
「……なんだよ、つまんねぇ女」
文句を言いつつも、大衆の中にいる女性陣に手を振っては無視されつつ、逆毛は競技を続けた。
結果、彼はなかなかの好成績を収めた。我こそはと集った連中から「やめとこうかな」という声が上がるのも、無理はない成果だ。
悪くない。感心しているセルマに、大衆から声がかかった。
「言い出しっぺ! 今度はお前だぞ!」
「いきなり負けるなんてマネはしないでよね! あんたに賭けてるんだから!」
次々に飛んでくる野次を涼し気に受け流しながら、セルマは弓を確認した。中古だが、よく整備されている。
木目を撫でて、深呼吸。銃と勝手は違うけれど、スナイパーとして、負けるつもりはない。
構える。矢を番え、ゆっくりと引く。狙いを定めた視線が、的の中心に吸い込まれていく。
場の緊張が最高潮に達し、空気までもが止まったかのような静けさの中、セルマは矢を持つ右手を、解放した。
◆
結局、逆毛戦が終わってから挑戦者が半減してしまい、ろくな情報も得ることができないまま、夕暮れになってしまった。
セルマの矢はほとんど中心に的中し、驚くべき得点をたたき出した。結果、よほど自信のある者でなければ挑んでこなくなったのだ。
情報を持たない連中に奢らせたジュースのおかげで、お腹もタプタプだ。何度か負けてしまって金貨も払っているし、そろそろ潮時かと思った、その時だった。
「おぉ、間に合った。どれ、吾輩も混ぜてはくれぬか」
振り返ると、古びた鎖帷子を纏った初老の男がいた。場がざわつく。
「天弓卿だ……」
「まじかよ、この町に来てたのか」
「本物?」
様々な声が聞こえるあたり、有名人らしい。見れば、背中に弓を、腰には剣を差している。どちらも相当使いこまれていながら、美しい光沢を持っていた。
一目で、手練れと見抜く。セルマは自然と頭を下げていた。
「勝負願います」
「おや、挑むのは吾輩の方かと思ったが……まぁ、どちらでもいいか。受けて立ちますぞ、お嬢さん」
穏やかに微笑んで、天弓卿は的を見た。顎に手を当て、
「ふむ。大きすぎるな。あぁ君」
意気消沈していた逆毛を呼び出し、目を白黒させながらやってきた彼に、天弓卿が銅貨を二枚持たせる。
そして、笑顔で言った。
「あの的のところで、これを空中に放ってくれないか。それが的だ」
再びざわめきが大きくなる。セルマもさすがに驚いた。
だが、天弓卿の笑顔は本気だ。周りからの期待の視線もあるし、何よりこの勝負に勝てれば、ベテランの戦士から情報を得られるかもしれないのだ。
「では、先手は」
「同時でよかろう。二枚のコインを一辺に投げ、近い方を射る。どうかね」
「……分かりました」
そして二人は、弓を構える。逆毛が息を呑みながら、銅貨を空へと、放り投げた。
鈍い輝きを、セルマと天弓卿の目が追う。矢じりが空を向き、そして――。
◆
「参った! いやはや大したものだ」
とは言うものの、セルマはまぐれであると自覚していた。
二人の矢は、どちらも見事に銅貨にヒットした。逆毛が一生懸命探してくれたコインの傷が、勝敗の分かれ目となった。
セルマの銅貨が真ん中を凹ませ、天弓卿の銅貨は端が歪んでいたのだ。
「……釈然としませんが」
酒場の喧騒から離れた席で、セルマはわずかに頬を膨らませる。隣に腰かけて酒を煽った天弓卿が、くつくつと笑った。
「勝ちは勝ちだ。誇ってくれたまえ、そうすればこの爺が喜ぶ」
「そうですか。ところで――」
味気ないとも思ったが、セルマは本題に入った。件の山について、知っていることはないかと。
何かモンスターの情報でも引き出せたらと思ったが、天弓卿が話してくれたのは、昔話だった。
曰く、かつてあの山には神がいたと。それはそれは恐ろしい神様で、気に入らぬものを全て崩壊させてしまうという。
それを鎮めるために、えらい妖精が山に住み、神様のお世話をした。
ある日神様は人間の勇者に退治されてしまったが、妖精たちは今でも、山を守り続けている。
「……崩壊の神と、妖精ですか」
「うむ。こうした話は真実を伝えていることも多い。吾輩はあの山に登ったことはないが、話に類することが、かつてあったのだろうな」
山に妖精がいるという話は、聞いていた。なるほど、『崩壊の神』というキーワードは、覚えておいて損はなさそうだ。
セルマは素直に頭を下げた。
「ありがとうございます。それで、山に出るモンスターなどは……」
「先ほども言ったが、吾輩は行ったことがないのだ。すまないね。まぁ、冒険者諸君が狩りに行くくらいだからな。君の腕ならば、道中の敵は大した脅威ではないと思うがね」
「そうですか」
彼からこれ以上の話を引き出すのは、難しそうだ。水浴びをして休むという天弓卿にもう一度礼を言って、セルマは寝泊まりしている部屋に戻った。
ベッドで横になり、考える。『崩壊の神』がドラゴンを指しているのだとしたら、その復活が意味するところは――。
「……やめましょう」
一人で考えても仕方がない。明日、然るべき時間に、仲間の猟兵たちに情報の共有をしよう。
そう考えながら、まどろみの中に身と心を沈めていった。
翌朝の酒場で、セルマは冒険者たちに「天弓姫」と呼ばれて面食らうことになるのだが、それはまた、別の話である。
大成功
🔵🔵🔵
月宮・ユイ
任務了解致しました。行動開始します。
<機能強化>維持
準備期間がある為、酒場にて給仕として働きじっくり”情報収集”
対価なし条件に途中用事で抜ける許可貰う
酒場で一夜の客とる者もいる為か割とすんなり許可貰える
ドラゴンはまだ人里には来ていないとのこと。収集は山の情報(道や敵等)優先
魅了”誘惑の呪詛”を身に施す
”暗殺”技能応用し”目立たない”様働きつつ”聞き耳”たてる
気になる話は”催眠術”用い心緩ませ、”第六感”交え嘘”見切り”つつ”コミュ力”使い深く聞く。
真の狙い目は私の小細工を見抜く人
実力があれば情報も多く持つでしょう
後は情報の重要性知る故に対価が手持ちで足りるか、かしら
※対価お任せ、ご自由にどうぞ
「ユイちゃーん! こっちにエールとミートラップ二人前ね!」
「俺んとこはジョッキワイン! あとチーズ!」
「すぐ行きますー!」
酒場の喧騒に紛れて聞こえる注文に返答をしつつ、月宮・ユイ(捕喰∞連星・f02933)は素早く厨房へオーダーを伝える。
冒険者たちは新人の給仕が珍しいらしく、積極的に声をかけてくれた。おかげでまだ二日目だが、名前が知れ渡るほどにはなっている。
朝から晩、それも相当遅くまで淡々と仕事をこなす姿に好印象を持たれた、というのも大きいだろう。
実際のところ、ユイは自分に誘惑の呪詛を施して、情報を引き出しやすいようにしていた。話しかければ大抵の者は何でも答えてくれるし、出し渋る者には薄い催眠術を使うこともあった。
相当数の人間に話を聞いたが、今のところ、山頂のドラゴンに対する有益な情報は得られていない。冒険者たちの噂話に上がることはあっても、大抵笑い飛ばされて終わりか、話半分に聞き流されている。
穀物を練って焼いたものに肉を挟んだ料理とエールを運びながら、周囲を窺う。大半が常連で、腕が立ちそうな者も多い。誰か一人くらいは、例の竜を知っている者がいてもよさそうなものだが。
料理をテーブルに並べながらそんなことを考えていると、大剣使いの大きな男が後輩らしい青年剣士に笑った。
「あのなぁ。毎日食うために狩るだけだから中腹以上には登らねぇ、それは分かるだろ」
「分かりますけど。でも俺は名を上げたいんすよ! 頂上まで行って、そこにいるドラゴンを倒して!」
ユイの手が止まる。すぐに料理を並べる作業に戻ったので気づかれることはなかったが、注意深く耳を澄ます。
「ドラゴン、ねぇ。いると思ってんのか?」
「分かんないじゃないすか」
「そうだな。百歩譲ってドラゴンがいたとして、お前勝てんの? そもそも山道も崩落やらなんやらで危ねぇし、妖精の村は避けられん。登れるのか、お前」
「それは、まぁなんとか」
出されたエールを飲みつつ、動かないユイを横目で見てから、大剣使いはやや叱るように首を横に振った。
「バカ、無理だ無理。少なくともお前じゃな。王都にでも行って依頼こなした方が、よっぽど名声上げられるぞ」
「そりゃ、まぁ。でもデカい一山を当てたいって思いません?」
「思わんね」
いじけたようにエールを飲み干す後輩剣士に、大剣使いがため息をついた。それでこの話は終わったようだ。
もしかしたら、この大剣使いは山に相当詳しいのではないか。気になったユイは、座っている大剣使いに顔を寄せ、尋ねる。
「あの」
「なんだ? ユイちゃん」
「お山について、詳しいんですか?」
「あぁ、まぁな。親父が木こりで、昔からよくついていってたんだ。山頂にも一回行ったぜ」
可憐な給仕の少女に聞かれれば、自慢げに答えるのも無理はない。だが、先程の話しぶりからして、恐らく嘘ではないだろう。
狙いを決めたユイは、顔を近づけたまま、にこりと微笑んだ。誘惑の呪詛が発動する。
「もっと……お話聞かせて、もらえますか?」
普段ならば、頬を緩ませて頷いたり肩を抱き寄せられたりするところだ。それで情報が得られるのなら安いものだと思っていた。
が、今回は違った。大剣使いの男はわずかにユイから目を逸らし、笑った。
「俺は卑怯な手で口説く女は嫌いでね」
「……」
見抜かれた。どうやらこの大剣士は、本物らしい。呪詛を消して見つめること数秒、息を呑む後輩剣士をおいて、大剣使いは言った。
「どうしても知りたいなら――今夜、俺の相手をしな」
「ちょ先輩! それは」
立ち上がりかけた後輩を制して、大剣使いがユイを見据える。笑っていなかった。
「どうだ?」
「……じゃ、後で伺いますね」
答えて、ユイは、笑った。
◆
冒険者たちの賑わいは、まだ続いている。本当ならばユイも働いている時間だが、今日は給料なしでいいからと、早く抜けさせてもらった。
事情を察したマスターが「うちはそういう店じゃないぞ」と困ったように言っていたが、初めてのことでもないのだろう、止められることはなかった。
いろいろと考えた結果、給仕のユイというイメージを崩さないように、支給された服からエプロンだけを取った姿で尋ねることにした。
二階の宿に上がり、指示された扉をノックをすると、中から「入りな」という、淡々とした声が聞こえてきた。
戸を開けると、使い込まれたベッドに椅子と机だけという、質素な客室が目に入った。
「お邪魔します」
頷いて入室し、扉を閉める。ついでに鍵をかけたが、大剣使いが警戒した様子はない。
促されるままにベッドへ腰かけ、椅子に座る男と向き合う。彼はユイを観察するように見てから、言った。
「お前さんが山の情報を集めてるのは知っていた。あれだけ呪文だかなんだかを振り撒けば、嫌でも誰かが気づく。……気づかせるつもりだったんだろうが」
そこまで感づかれていたか。ユイは驚きながらも首肯して、認めた。
「そうですね。誘惑の呪詛で聞き出される情報に期待はしていなかった。私の小細工を見抜く人を探してたというのが、本当のところです。あなたのように」
「そうまでして山に登るのは、なんでだ」
「竜を倒すため」
一瞬面食らったように目を見開き、大剣使いは何かを言おうとして、止めた。ため息交じりに、一冊のノートを取り出す。
ユイに手渡しながら、彼は呆れたように言った。
「山の中腹以上の場所に出るモンスターリストだ。出くわさないのが一番だがな。道は途中でなくなるが、倒木と崩れた岩を目印に進め。そうすれば、妖精の村までは辿り着く」
「ドラゴン退治を、馬鹿にしないんですか?」
ノートを受け取りながら、試すように首を傾げる。すると大剣使いは、わずかに表情を緩めてから、真剣な眼差しをユイに向けた。
「何もないところから、噂は出ない。ドラゴンだろうがそうじゃなかろうが、山頂に何かいるのは間違いない。依頼が出る頃には、街にも不安が広がってるだろう。そうならないに越したことはない」
見ず知らずの冒険者が、気づかないうちに討伐してくれたなら、暮らしは平穏なままでいられるということだ。この辺りが故郷らしい大剣使いからすれば、もっともな話だった。
「ドラゴン退治の冒険者なんて連中が居座ったら、街の治安は悪くなる。どんな英雄が生まれようと、故郷が荒れるのは見たくない」
「まるで、勇者の考え方ですね」
「……よせ、馬鹿」
照れたように頬を掻く大男に、ユイはくすくすと笑った。
「貴重な情報をありがとう。何か、対価を払わないとって思っていたのですけれど」
金か、体か。他の者であれば要求はそんなところだろうか。
ユイをチラチラ見ながらしばらく考えて、大剣使いはため息をひとつ、唸るように答えた。
「山頂の化け物を、倒してくれ。俺たちの楽しい日々が続くことが、対価だ」
「……そう。交渉成立ですね」
立ち上がり、もう一度礼を言ってから、部屋を出た。
閉まる扉の向こうから、「もったいなかったかな」という声が届いたが、サービス料として、聞かなかったことにした。
大成功
🔵🔵🔵
雛菊・璃奈
腕利きの冒険者に話を聞くなら、自分も力を示すのが手っ取り早いよね…。
事前にギルドに寄ってなるべく大物のモンスターの討伐等の依頼を受けて【妖剣解放】等使用して手早く討伐し、証明として素材を持ち帰り、依頼達成帰り、という風に成果をテーブル等に置いておく事で実力派の冒険者に力を示すよ…。
一緒に自身の魔剣とかも置いておくとより効果的かな…?
後は興味を示した腕利きの冒険者の人達から、【誘惑、催眠術】等も使って周囲の好感や術によって情報を聞き出しやすくさせて、竜の情報や竜までの道程についての情報を貰おうかな…。
…あ、酒場だからって不逞を働こうとする輩は【早業、呪詛】で手早く叩きのめすから…
※アドリブ等歓迎
真昼間の酒場にある、冒険者の依頼斡旋カウンターが、どよめいた。
一人の少女剣士が、大量の首級を上げて入ってきたのだ。それも、大型のモンスターばかり。
ハイドラやオーガ、ジャイアント。どれも熟練冒険者がパーティを組んで討伐するような連中だ。
羨望やら驚愕やらの視線を浴びて、少し恥ずかし気に俯きながら、雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)はカウンターの女性に呟いた。
「……あの、手続き……」
「あ、あぁそうね! ごめんなさい。えぇとじゃあ、金貨が――」
硬貨袋に報酬がどんどん詰め込まれていき、その様子にまたざわつきが大きくなる。なんだかくすぐったかったが、こうして注目を集めることが、璃奈の目的だった。
腕利きの冒険者に話を聞くならば、力を示すのが手っ取り早い。報酬を受け取ってから、璃奈は酒場に進んだ。
首は報酬受け取りのために手渡したが、他にも剥ぎ取った素材がいくつかある。それらと魔剣をテーブルに並べて、ジュースを頼んだ。
「……ふぅ」
少々疲れがあったが、大型モンスターは鍛錬の相手としても丁度良かった。あれも恐らくオブリビオンだろうし、一石二鳥というやつだ。
ジュースが運ばれてくる前に、璃奈は一瞬で冒険者たちに囲まれた。
「ようお前! さっき見てたぜ、ハイドラ倒したんだろ!?」
「あなたソロ? うちのパーティ入らない?」
「可愛いお嬢さん、ぜひ僕の歌にさせていただきたい……」
「どこ出身の剣士だ? その剣も相当な業物だな」
矢継ぎ早に質問されて目を白黒させながら、それでも璃奈は一つ一つ丁寧に、ところどころを誤魔化しながら答えた。
酒場の喧騒に対して、璃奈の声はとても小さい。面白いことに、彼女が話そうとすると途端に皆が黙り、耳を傾けてくれるのだ。
力とは、冒険者にとって存在価値の象徴である。討伐依頼という最も証明しやすいもので実力を示した璃奈は今、酒場の中心となっていた。
「この辺り……強い敵がたくさんいるって聞いたから……」
「まぁな。確かに危険な巣だったり大型が住み着いてたりするが、でもその大型も、お前さんが倒しちまったからなぁ」
エール片手に豪快に笑う槍使いに周囲も釣られて、璃奈のテーブルが沸く。頬を赤く染めて照れながら、魔剣の柄に触れた。
「でも、もっと強い敵とも……戦いたいな……って」
「根っからの戦士だなぁ、嬢ちゃん」
若い剣士が感心したように言うと、女エルフの魔法使いも頷いた。
「そうね。でも、ハイドラやジャイアント以上の強敵、いたかしら」
皆が腕を組んで唸りを上げる。すると、キザな吟遊詩人が長髪を掻き揚げ、リュートを無意味に鳴らした。
「いるじゃないか。美しき天才少女剣士が挑むべき強敵が、山の頂に」
「……」
誰もがじっとりとした半眼を向けるも、吟遊詩人は気にした様子を見せず、さらにリュートを弾いてから、璃奈にウィンクをした。
「ドラゴン。君に相応しい強敵さ」
「……ドラゴンが、いるの……?」
わずかに目を見開いて聞くも、冒険者たちは皆頭を掻いたり誤魔化すように笑ったりするばかりで、要領を得ない。
誰かが「ただの噂だよ」と言うと、璃奈を取り巻くほとんどの人が頷いた。
俯いて、璃奈は唇を尖らせる。
「そう……残念……」
「あぁ、悲しまないでくれたまえ、銀の君。貴女に涙は似合わない」
人をかき分けて無理矢理隣に座った吟遊詩人が、肩に手を回してくる。その手つきがいやらしくて、思わず身構えた。
こちらの気配に気づかず、吟遊詩人は耳元で囁くように言った。
「もしよければ、世界に散らばる竜の歌を聞かせてあげよう。僕の部屋で、二人きりで、朝まで――」
「いらない……」
わずかに拳を動かして、吟遊自身の横腹に叩きこむ。短く呻いて立ち上がったキザな男は、またも人をかき分けて、「吐く」と繰り返しながら酒場の外へ消えた。
女性陣から喝采を浴び、またも照れつつ、璃奈は一同を見回した。
「もう一度、教えて欲しい……竜は、いないのかな……」
「噂はあるけどなぁ。与太話だと思うぜ」
ドワーフの斧使いがあくびをしながら答えた。しょんぼりと肩を落とす様子に同情されたが、情報がないのではどうにもならない。
ジュースを飲んでから、どうやら期待されているようだったので、璃奈は金貨を四枚取り出して、手短な剣士に渡した。
「みんなでなんでも食べて……。お話、楽しかった……」
その場の全員が飛び上がるように喜んで、給仕に金額分の酒と料理を頼み、各々のテーブルに散っていった。これが彼らの楽しみ方なのだろう。
竜や山についての情報が手に入らず困っていると、璃奈のテーブルに新たな人物が現れた。筋肉質な、大剣使いだ。
彼は何やら複雑そうな顔で、璃奈の戦利品と魔剣を見てから、こちらの顔を覗き込んだ。
「お前も竜を探してるのか?」
「うん……」
素直に頷くと、大剣使いは何やら呆れたようにため息をついた。
「隠しもしねぇとはな……。本気か?」
「……うん」
「ここ数日で、竜を探す奴が一気に増えているが、仲間か?」
「……そう、かも? わからない……」
潜入任務の邪魔になると悪いので、適当に答える。うまく誤魔化せた自信はないが、大剣使いは「そうかい」と頷いた。
「昨日も竜を探してる奴がいた。そいつに色々教えたんだが、伝え忘れたことがあってな。もし仲間なら伝えてくれ。違うなら、まぁ役立てりゃいいさ」
「ドラゴンについて……?」
「いや、あの山についてだ。山頂までの道のりとモンスターについて教えた。ただもう一つ、これは木こりの親父から聞いた話だが――」
曰く、山の上方に住む妖精を、最近見ないとのことだ。木こりたちは伐採の前に必ず妖精たちに対価として果物などを捧げるそうだが、最近はそれを取りに来ないという
「何十年も続いていたんだが、ここ最近になってぱったりだ。何かあったと見るべきだろうが、依頼もないんじゃ、行くやつもいねぇ。俺一人じゃ、どうにもならんしな」
「そうなんだ……。じゃあ、見てくるよ……山頂に行くついでに……」
「奴らは排他的だ。うまく説得しなけりゃ、てっぺんまでの道を開いてくれない。異常事態まであるとしたら、面倒だろうが」
「大丈夫……ありがとう……」
にこりと微笑むと、大剣使いは肩をすくめて、「礼を言うのはこっちの方だ」と答えてくれた。
ドラゴンに対する直接的な情報ではないかもしれないが、妖精たちに何かあったのならば、それは山頂へ向かうための重要な問題になる。
立ち上がり際に、璃奈は金貨を一枚取り出して、大剣使いに手渡した。
「これ、お礼……」
「いらんよ。ただ、そうだな。じゃあ俺と、そう、だからつまり、あれだ」
こちらをチラチラ見ながら何かを言おうとして、突然項垂れたかと思うと、大剣使いは咳払いをして言った。
「……ま、ドラゴンを見つけたら倒してくれ。それでいい」
「そう……? うん……任せて……」
真面目な男だなと思いながら、璃奈は情報をまとめるために宿泊している部屋へ向かった。
背後で大剣使いが「吟遊野郎を見習うか……?」などと呟いているのが聞こえたが、意味はよく、分からなかった。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
POW
竜が霊峰の頂から降りていないというのは幸いでした。人的被害が齎される前に討伐したいものです
……御伽噺の竜退治を思わせるこの状況、不謹慎ですが少し興奮を覚えてしまいますね
とはいえ騎士としての本分を忘れるつもりもありません。気を引き締めます
霊峰には妖精の村があり、その案内が無ければ頂にたどり着けない…そのような情報がある様子
妖精の村なら同じ妖精の冒険者を当たってみます。その村に何か用事があったが竜の噂を聞いて怯えて留まっている方もいるやも
●礼儀作法と●優しさを感じさせる振る舞いで警戒を解き、●怪力を見せつけ信頼を得て、村までの伝言役を頼まれましょう
村についての情報を得られれば良いのですが
酒場の外で、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は霊峰を見上げていた。
あの頂に、ドラゴンがいるという。
「竜が霊峰の頂から降りていないというのは幸いでした。人的被害が齎される前に討伐したいものです」
淡々と機械的に呟いたのは、どうしてか踊って止まない心を沈めるためだ。効果は、得られなかったが。
御伽噺のドラゴン退治を思い出させる任務に、トリテレイアは興奮している自分を認めざるを得なかった。
「不謹慎な……。いけませんね、こんなことでは」
騎士としての本分を忘れるつもりはないが、いくら言葉にしたところで、この高まりは消えてくれそうになかった。
それならそれで、できる限り気を引き締めるだけだ。一人頷いて、トリテレイアは酒場の扉を開けた。
入ってすぐ目の前には、依頼斡旋のためのカウンターと、各種依頼が張り出された掲示板がある。まずは掲示板を眺めた。
討伐、収集、人探し。畑仕事の手伝いまである。いつの世も、人手は足りていないものらしい。
いくつもある依頼を眺めていたが、やはり竜関係のものはない。例の山での討伐依頼は、近場ということもあり人気らしく、ほとんどが出発扱いになっている。
山の上部にあるという妖精の村についての依頼も、ない。他の人との関りを断っているのだろうか。
仲間から聞く話によれば、木こりたちとの接点も最近はなくなっているという。
「心配ですね」
何事もなければいいが。そう思えば思うほど、嫌な予感がしてくる。
トリテレイアは、妖精の村についての情報を集めることにした。であるならば、フェアリーの冒険者から話を聞くのがいいだろう。
酒場を見渡してみたが、小さな妖精の姿は見られなかった。酔っ払った巨漢が暴れるこの場所は、彼らにとって危険地帯なのかもしれない。
外を当たるかと思った時、ふと、開かれた窓に座る小さな二つの人影が目に入った。なるほど、テーブルはうまく避けているらしい。
青い果物ジュースを二つ頼み、それを手に窓に近づく。金属質な足音に気づいて、魔法使いの服を着た少女のフェアリーが振り返った。
「あら、こんにちは!」
「どうも。私はトリテレイア・ゼロナインと申します。ご一緒しても?」
「はわわ、大きいですわ! お隣どうぞですわ!」
もう一人のフェアリー――こちらは僧侶だ――が、慌てて魔法使いの方へと身を寄せた。
譲られたところで座れるわけもないが、代わりに二人のために買った飲み物を置いた。
「よろしければ、どうぞ」
「え、いいの! ありがとう!」
「はわわ、ナンパですわ!」
言われて、確かにそう取られても仕方ないことをしていることに気づく。
巨大な鋼鉄騎士がフェアリーの少女を口説いていると知れたら、どんな噂になるか分かったものではない。
咳ばらいを一つ、トリテレイアは即座に本題に突入した。
「実はお二人に、聞きたいことがありまして」
「何かしら! 依頼のこと!?」
「はわわ、スリーサイズはだめですわ!」
「……あの山にある、妖精の村についてなのですが」
ため息をつきたい気持ちをぐっとこらえて、霊峰を指さす。二人のフェアリーが釣られてそちらを見上げて、一緒に頷いた。
「山守さんのいるところね!」
「はわわ、怒りんぼの村ですわ!」
どうやら、二人とも知っているらしい。僧侶に至っては、行ったことがあるような口ぶりだ。
小さな体で人間サイズのジュースを飲みこむ二人が一息ついてから、トリテレイアは質問を続けた。
「山守さん、とは」
「こわーい神様を鎮めているのよ! 崩壊の神様!」
「はわわ、怒ると山が崩れてしまいますわ!」
「神様は勇者に倒されたんだけど、怒るとまた蘇るかもしれないのよ! あの子たちは、そうならないようにずっと見張ってくれているの!」
「はわわ、山守さんもいつも怒っていますわ!」
山頂に人が近づかないよう、厳しく見張っているということだろう。だがそれは、敵対しているというわけではない。
現に二人のフェアリーも、怒られたというだけで、危害を加えられたわけではないようだ。
「わたし、あの村に友達がいるのよ! 時々遊びに行ってたんだけど、元気にしてるかしら!?」
「はわわ、連絡が取れませんわ!」
「そうそう! 最近は冒険者も行かなくなったしね! トリテちゃんは、山に行くのかしら!?」
思わぬ呼ばれ方に面食らったが、トリテレイアは気を取り直して頷いた。
「えぇ、そのつもりです。山頂に用があるものでして」
「山頂まで!? すごいね! でも大丈夫!? 最近ドラゴンが出るらしいわよ!」
「はわわ、噂ですわ! 噂に決まっていますわ!」
プルプルと震える僧侶のフェアリー。どうやら、二人はドラゴンの存在を信じているらしい。
大丈夫も何も、トリテレイアの目標はドラゴンの討伐だ。それを言えば大事になりそうなので、誤魔化すように笑った。
「ドラゴンとは、また恐ろしいですね。お二人は、見たことが?」
「ないわ! でもいるわよ!」
「はわわ、真実ですわ! お爺ちゃんは見ましたわ!」
フェアリーは、人間に比べれば大自然と縁の深い種族である。もしかしたら、超常的な生物を察知する能力が高いのかもしれない。
どちらにしても、ドラゴンについて信じているのならば、話が早い。小さな二人と目線を合わせるようにしながら、尋ねた。
「そのドラゴンとは……先ほどの、崩壊の神様でしょうか?」
「うーん! どうかしらね!? 確かに似てるかも!?」
「はわわ、昔々の物語ですわ!」
さすがに、その辺りの確証は取れないようだ。が、恐らくはそうなのだろうとトリテレイアは踏んでいた。
であるならば、なおさら妖精の村が気にかかる。無事を祈るように霊峰を見上げていると、魔法使いフェアリーが飛び上がり、トリテレイアの肩に乗った。
「ねぇトリテちゃん! よければこの手紙、友達に渡してくれないかしら!? 山守の男の子なんだけど!」
「はわわ、ラブレターですわ!」
「違うよ!! 報酬は銀貨三枚でいい!? 公式の依頼じゃないけど、どうかな!?」
差し出された小さな手紙を、トリテレイアは慎重に指でつまんだ。
「もちろん、いいですよ。お代は結構。貴重なお話を聞かせてくださいましたから」
「いいの!? ありがとう!!」
「はわわ、騎士道ですわ! ナイトですわ!」
「いやいやなんのなんの」
軽く首を横に振りつつ、褒められて浮かれそうなブレインを鎮める。言われて喜ぶ程度では、騎士とは名乗れまい。
咳ばらいを一つ、二人のフェアリーへと、頭を下げる。
「それでは、私はこれで失礼しますね」
「うん! バイバイ、トリテちゃん!」
「はわわ、また会う日までですわ!」
手を振る二人に背を向けて、トリテレイアは酒場の外に出た。往来を行き交う人々を眺めてから、霊峰の頂を見上げる。
分厚い雲に覆われた山を見上げていると、遠くから雷鳴に似た低い音が聞こえた。
通りすがった誰かが「明日は雨だな」と呟くのを耳にしながら、トリテレイアは一人、拳を握りしめた。
大成功
🔵🔵🔵
露木・鬼燈
竜の目撃情報があるのですか。
竜は殺すっ!
とゆーことで、逸る気持ちを抑えて情報収集。
ここは冒険者の集まる酒場がいいだろうね。
彼らなら目撃のあった山の情報も持っているだろうね。
もしかしたら入ったことがある人もいるかも?
腕に自信があってお酒が好き。
そんな人間とは相性も悪くないしね。
楽しくお酒を飲んで聞き出すのです。
飲み比べ?
負けないですよ!
最悪、ナノマシンと気功術を併用して急速分解すればいいしね。
限界まで飲んで騒いで楽しい時間を過ごすですよ。
勿論、情報収集は忘れていないですよ。
山の様子や必要な装備を聞き出したのです。
地図は…教えてもらえるかな?
かなり重要な情報だからね。
そこまで仲良くなれたかな?
夜。酒場は大変な賑わいを見せていた。とはいえ、いつものことではある。
その最中で、露木・鬼燈(竜喰・f01316)はすっかり意気投合した冒険者連中と共に、凄まじい量の酒瓶を開けていた。
度数が高いだけの安酒だが、酔って楽しめればなんでもいい。
賑やかなテーブルでは、ひっきりなしにドラゴンの話が飛び交っていた。例の山にいるらしい竜のことではなく、世界をひっくり返すような大戦争の果てに、勇者たちに倒された帝竜とその配下の話だ。
そもそもの発端は、未来の竜殺しを名乗る鬼燈から始まった。彼は竜を殺すために武を磨く一族の出であり、おかしなことを言ったつもりはない。
だが冒険者からすれば、酒の席を賑わすほどの豪胆っぷりだったのだろう。鬼燈はすっかり人気者になっていた。
「竜殺しよ! まだまだ酒が足りてないんじゃねーの!? ドラゴンを倒すっつーのに、酒も飲めなくてどうするんだっての!」
「おっ、僕に酒を勧めるですか? いいですよ、財布が空になるまで飲んでやるっぽい!」
大きなジョッキに注がれた安酒を、吹っ掛けてきたドワーフと同時に傾ける。互いに一歩も譲らず、一気に空となった。
「ふぅー、ご馳走様っぽい!」
「やるねぇ! ドワーフの飲みっぷりについてくるとはな!」
テーブルには、すでに潰れてしまっている者もいる。飲み始めてから時間が経っているのもあるが、底なしに酒を流し込む鬼燈について来れる者が、少ないのだ。
酒の勢いも借りて、鬼燈は高らかにジョッキを持ち上げた。
「竜は殺すっ! どこにいても!」
「ヒュー、言うねぇ! ドラゴンキラーの勇者に、乾杯だぁッ!」
ガチンガチンとジョッキがぶつかり合い、運ばれてきた料理を貪るように食べながら、場は笑いに包まれる。
そんな中、料理に夢中だったエルフの剣士が、鬼燈に尋ねた。
「なぁ鬼燈、ドラゴンが出たとして、お前マジで戦うつもりなのか?」
「なんで?」
間髪入れずに聞き直した鬼燈は、素直に質問の意味が分からなかった。戦わない理由が、あるのだろうか。
エルフは困ったように周りに助けを求めて、目を逸らされたと知るや、観念した様子で頭を掻いた。
「いやだって、ドラゴンだぜ? 天災みたいなもんだろ」
「生きてて、殺せる。なら問題ないっぽい」
「……思った以上にホンモノだな、お前。まぁいいや。竜殺しのために旅してるって言ってたけど、ここに来たのは、やっぱりあの噂か?」
冒険者側から本題が飛び込んできた。これ幸いとばかりに頷いて、鬼燈はテーブルを囲む者を見回す。
「そうそう。あの山のてっぺんにいるっていう竜を狩りに来たです。みんな、何か知らない?」
誰も、何も答えない。どうやら竜については、本気で捉えている者はいないようだ。
それなら致し方なし。肉を巻いた野菜を口に放り込んでから、「じゃあさ」と続けた。
「あの山について、教えてほしいっぽい。必要な装備とか、最近の様子とか」
「それならアレだ。手土産だ」
何杯目かも分からない酒を飲み干したドワーフが、ジョッキの底を名残惜しそうに見つめながら答えた。
次の酒を頼みながら、鬼燈は首を傾げる。
「手土産? ドラゴンへの?」
「んなわけねーだろ。フェアリーだよ、妖精の村。聞いたことあるだろ?」
「あぁ」
山を守っているという一族だったか。素通りはさせてもらえないとも聞いていた。
だが、手土産とは。そんなもので通してもらえるのかと思っていると、これにはエルフの剣士が補足した。
「正確には、お供えもんだな。山の神様を鎮めるために必要なんだと」
野菜サラダの皿を舐めつくしてから、エルフは肩をすくめた。
「新鮮な魚と果物、それと磨かれた石。全部この街の道具屋で手に入るが、山頂に行く代金としちゃ高すぎるよなぁ」
「なるほど」
よほど重要な儀式なのだろうか。郷に入っては郷に従えと言うし、ここは準備を万端にした方がよさそうだ。
供え物の詳しいメモをエルフが渡そうとしてくれたが、隣から伸びた手にひったくられた。
ドワーフだ。何やらニヤニヤしている。
「竜殺しよ。そう簡単に情報は渡さんぞ」
「……ふぅん。僕に挑むつもりなんだ?」
「この酒場には、サラマンダー殺しって酒がある。とんでもねぇ強さだ」
挑戦的な視線に、鬼燈は高鳴る競争心を抑えきれず、ニヤリと笑った。
「面白い。受けて立つっぽい!」
「っしゃあ! 親父、サラマンダー殺しを持ってこい!」
テーブルの食べ物が退かされ、山盛りの塩と赤い酒瓶、小さなコップが並べられる。
酒場中の冒険者が集まり、賭けまで始まっている中で、鬼燈は凄まじい臭いのアルコールが注がれたコップを手に取った。
「勝敗条件は?」
「もちろん、どっちかが潰れるまでだ」
「オーケーっぽい。それじゃ――」
乾杯。コップをぶつけ合って、冒険者たちの歓声を受けながら、鬼燈とドワーフは同時に灼熱の酒を喉に流し込んだ。
二人一緒に飲み干して、二杯、三杯と続いていき、途中でひっくり返りひっくり返られ、それでも起きては笑いに笑って、また飲んで。
ドワーフが潰れてギブアップし、取り上げたメモを掲げて高らかに勝利宣言をしたところまでしか、鬼燈の記憶には残っていなかった。
大成功
🔵🔵🔵
エーカ・ライスフェルト
「今日は仕事、仕事よ」(蒸留酒に目が行くが度数低めの酒を注文する)
今回は【目立たない】事を重視するわ
酒場に入る前に、できるだけ気付かれないよう【世界知識権限】を使用する
目的は、冒険者やその関係者が使用する略語や隠語や独特な表現に関する知識よ
「あら結構美味しい……ではなくて、暗号代わりに使われることがあるから」
冒険者や酔っ払いに話しかけられたら雑にあしらったり飲み比べしたりするけど、基本は動かず聞き取りね
電脳ゴーグルで録音できれば面倒が減るのだけど
集まる情報は真実1割誇張が4割無責任な放言が5割だと思う
真実の割合が高そうな人を見つけたら、他の情報とあわせて猟兵に伝えるようにしておくわお酒美味しい
酒場のカウンターには、幾本もの蒸留酒が並んでいる。
美しい琥珀色。蓋を開ければ芳香が漂い、うっとりとした夢心地になれるのだろう。
そんなことを想像しつつも、エーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)は首を横に振った。
「今日は仕事。仕事よ、エーカ」
彼女は酒場に入る前に、ユーベルコードで世界への知識を広げている。冒険者にしか分からないような隠語や表現に関する知識を得ていた。
例えば、今飲んでいる安酒。世界的に有名なブランドらしいが、熟練の冒険者たちには安い依頼を占有する中堅以降の戦士を比喩するのに、その名を使われるらしい。
比喩の意味を確認するために一口含み、舌に転がして、辛味の強い酒を味わう。
「あら、結構美味しい……ではなくて。こういうのも、暗号に使われることがあるのね」
自然体を装うために、仕方なく酒を飲んでいるのだ。決して好き好んで一杯やっているわけではない。
カウンター席に腰かけていると、背後のテーブルから賑やかな会話が聞こえてくる。取り留めのない会話ばかりだが、世界を旅してきた者の話もあったりと、興味深い。
じっと耳を澄ましていると、隣に男が座った。吟遊詩人のようだ。
「こんばんは、美しいレディ」
「どうも。そしてさようなら」
この手の男に話を合わせるのは、完全に人生の浪費だ。有限の時間を割いてやる理由はないので、鬱陶し気に手をひらひらとさせる。
しかし、吟遊詩人は粘った。ハエでも払うかのようなエーカの手を取り、無駄に感動してみせる。
「おぉ、なんと透き通るような肌だ。まるで南国の海の如く――」
「私は塩辛いって言いたいのかしら」
げんなりと答えながら手を引っ込め、安酒を口に放り込む。
グラスを置いて、エーカは吟遊詩人から少し遠ざかるように、椅子をずらした。
「あなたと遊んでいる暇はないわ、坊や。どこへなりとも失せなさい。黒焦げにされないうちにね」
「そんなことを言わずに。ここで出会ったのも何かの縁でしょう」
「あいにくだけど、その縁はすでに私が焼き切ったわ」
あしらいつつ酒を追加しながら、エーカは背後の冒険者たちへ耳を傾けていた。そのほとんどが放言や誇張の話だが、一割でも真実があれば、儲けものだ。
だが、どの話も噂の域を出ない。まともに信じている者は、ほとんどいないようだ。
彼らにとって、ドラゴンの噂はただの賑やかしに過ぎないのだろう。
「はずれ、かしらね」
小さくため息をつくと、まだいたらしい吟遊詩人が頬杖をついて、こちらに顔を向けた。エーカは目を逸らした。
「何かをお求めかい?」
「……竜、をね」
腐っても吟遊詩人だ。有益な情報を持っている可能性はある。酒の勢いで、エーカはキザな男に尋ねた。
「妖精の村があるっていう山の、ドラゴンの話よ。興味があるんだけど、あなた知らない?」
「ふむ。最近かの噂を確かめる者が増えていてね。僕も興味が出たものだから、街で一番長生きしている老人に話を聞きに行ったんだ」
思わぬ返答に、目を丸くする。エーカの反応を見ているのかいないのか、吟遊詩人は一冊の本を取り出した。
日記のようだ。それも、かなり古い。
「この本、話を聞いた老人の、曾祖父の物らしい。日付を見る限り、百年とちょっと前。もはや歴史的な文献だね」
「ずいぶん古いけれど、読めるのかしら」
「読めたよ。僕はね」
自慢するでもなく言って、吟遊詩人がページをめくる。エーカの世界知識によれば、中の言語は古代文字に近いものだった。
なぜこれを読めるのか。もしかしたらこの男、見た目によらず博識なのかもしれない。
吟遊詩人の手が止まった。あるページを開くと、左には霊峰の絵が描かれており、右側に文書が綴られていた。
「ここだ。読んでみるよ。『昨日の晩、雷鳴を聞いた。だが空は晴れている。女房が怯えていたので、私は安心させるために空を見た。すると、竜が飛んでいた』……すごい書き出しだろう?」
「そうね。それから?」
「焦らないで。彼は直接山に行って確かめたらしい。『私は山守の村に向かった。彼らは私を警戒したが、供え物を渡すと中に入れてくれた。そして、崩壊の神が荒れているので、なるべく早く帰るようにと言った』……山の神については、僕も知っていたんだ。しかし、ドラゴンとはね」
これまで得られた猟兵の話からも、二つの存在が符合するのではないかという予想は建てられていた。
もはや、疑う余地はない。ドラゴンは、崩壊の神として祀られていた。妖精の村は、そのオブリビオンを封じる一族だったのだ。
吟遊詩人が、日記の一節を指さす。
「ほら、ここを見て。最後に、彼は山のフェアリーからこんなことを教えてもらっているんだ。『崩壊の神。あれを山の外に出してはならない。その力が解き放たれれば、全てが崩れるのだ。山も、海も、生命も。世界が、崩壊する。妖精はそう語った。私は恐ろしくなり山を下りて、妻に心配はないとだけ語った』……どうだい。お気に召したかな?」
「えぇ、これは、すごいわ」
思わぬ収穫だ。素直に頷いて、エーカは一番高い蒸留酒を頼んだ。一杯は吟遊詩人へ、もう一つは、自分へ。
グラスを持ち上げ、笑みを浮かべる。
「正直、ふざけた坊やだと思っていたわ。でも、見直した」
「それは何より。美しいお姉さんの役に立てて、光栄だよ」
話しが出来て満足したのか、吟遊詩人は一杯飲んで雑談をしてから、別の女性のもとへと去っていった。
その背中を見送るでもなく、残った酒を喉に流し込んで、エーカは一人、物思いに耽る。
崩壊の力。それがドラゴンの能力だろう。山に封じなければ世界が滅びるほどの存在を相手に、どう戦うか。
「……今回も、楽じゃなさそうね」
手の中のグラスで溶けた氷が、からりと小気味良い音を立てた。
大成功
🔵🔵🔵
フランチェスカ・ヴァレンタイン
【POW】
ほんの数年――星の海へと渡る以前は、ええ。わたしもこんな感じでしたねえ…
若干感慨に浸りつつ、昔取った何とやらで情報収集を
下心で寄ってくる相手は思わせぶりにあしらい
馴れ馴れしい身体接触にはにこりと微笑んで関節を極めたり
淑女然としながらも冒険者なりの対応をしつつ、篩に掛けていきます
高精度な交渉を口実にイケメンの類に口説かれても表向きセメント対応です、が…
――滞在中、影でちょくちょく男に抱き寄せられながら宿の方に連れ込まれる翼人女性がいたとか何とか
「…あら、わたし以外にも翼人の方が?」
出処を伏せた有益な情報を妙に艶めいた雰囲気でいくつも持ち込み、白々しくそう語る誰かさんの姿がありましたとさ
どちらかというと粗暴な女が多い酒場において、フランチェスカ・ヴァレンタイン(九天華めき舞い穿つもの・f04189)は非常に目立つ存在だった。
純白の翼はもちろんそうだが、何よりも彼女の持つ雰囲気は、こうした酒場よりも、貴族がいるような宮殿の方が似合う。
琥珀色の酒が揺れるグラスをワインか何かのように揺らすものだから、酒場のマスターも複雑な顔をしていた。
「ほんの数年――」
強い酒のせいか、わずかに赤らんだ顔のフランチェスカは、上目遣いでマスターを見上げた。
「星の海へと渡る以前は、ええ。わたしもこんな感じでしたねえ……」
「……そうかい」
よく分からない奴には、とりあえず頷いておく。酒場を経営する人間の常套手段で切り抜けたマスターに、微笑を浮かべる。
遠い昔ではないはずなのに、ここの雰囲気は、なんだか感慨深いものがある。そんな心情に浸りつつ酒を傾けていると、背後から声がかかった。
「お姉さん、隣いいかい」
「……」
微笑が冷たくなるのを自分で感じながら、フランチェスカは振り返った。
そこには、禿げた頭の大男がいた。彼の視線は、こちらの顔から胸へと下りていく。実に分かりやすい。
見たところ、腕は立つようだ。実力者であるならば、ドラゴンや山について知っていることがあるかもしれない。
フランチェスカは左手を右の腿においてわざと胸を強調し、右手で妖艶に頬を撫でた。
「あら……なんでしょう」
「野暮なこと聞くんじゃねぇよ。美人と酒を飲みたいだけさ」
巨体からすれば小さなカウンターの椅子に腰かけ、彼は一番強い蒸留酒を注文した。グラスは二つ。
うち一つをフランチェスカの前に置き、自分のものをこつんとぶつけた。
「へへ、奢りだ。飲んでくれよ」
「わたし、もう酔っていますわ。そんな強いものを飲んだら、倒れてしまうかも」
実際は相当余裕があるのだが、敢えて困ったように目を伏せる。禿げた大男はにやつきながら、肩をすくめた。
「そんときゃ介抱してやるさ。今日は安心して飲めるぜ」
「……そう、ですか。せっかくですものね、いただきますわ」
ゆっくり頷いてからグラスを取って、改めて乾杯をする。
強いばかりの酒は喉に張り付くようだったが、飲めなくはない。それでも、一応むせてみせる。
「おいおい大丈夫かい。へへ、ゆっくり飲みなよ、夜は長いんだ……」
「えぇ」
もう自分のものにしたと思っているらしい大男に辟易しつつも、表情には出さない。
一口二口飲んでから、フランチェスカはグラスを置いた。
「……あなたは、冒険者でいらっしゃるの?」
「お? おう、そうだが」
「じゃあ、あの山のこと、ご存じ?」
酔ったふりをしてカウンターに肘をつくと、その振動で豊かな胸元が揺れた。大男が鼻の下を伸ばし、マスターが眉を寄せた。
男は頷いて、椅子ごと距離を詰めてきた。
「あそこは俺の庭みたいなもんだ。ハイドラにジャイアント、デーモン。なんでも狩ってきたぜ」
どれも大型のモンスターだが、マスターの顔色を窺うに、誇張らしい。とりあえず乗ってやることにした。
「まぁ、怖いわ。そんな恐ろしいモンスターが」
「なぁに大した奴らじゃねぇさ。俺の手にかかれば、な」
力こぶを作って見せる姿に微笑みつつ、フランチェスカは自分の唇を撫でた。
「頼もしいですのね。山の頂上に、行かれたことは?」
「ん、……ま、なくはない。だが、まぁ行くまでもないな」
突然きょろきょろし始める、分かりやすい大男である。とはいえ、彼の言う通り、行ったところで旨味がないらしいことは、他の猟兵からの情報で聞いている。
中腹以降には危険なだけのモンスターもいるというし、山を守るフェアリーの村もある。日銭を稼ぐ冒険者にとっては、行く価値がないのだ。
だが、よそ者にしてみれば関係のないこと。それを装いながら、フランチェスカはさらに妖しく身をよじった。
「最近では……ドラゴンも出るとか……」
「んっ――」
ごくりと生唾を呑み込みながら、大男は頷いた。
「そんな噂も、あるな。俺のパーティにも、竜の吼える声を聞いたなんて奴がいた。だが心配すんな。竜の一匹や二匹、俺がなんとかしてやるさ」
さらに身を寄せ、もはや隠す気もないのか、じっとりとフランチェスカの豊かな体を凝視する大男。
「そう、俺が守ってやるさ……。昼も、夜も。隣で、よ……」
男の手が、腰に回る。露骨に上へと上がってくる手の感触に、フランチェスカは心が一気に冷えていくのを感じた。
そろそろ潮時か。いつでも関節を極められるよう手を動かした、その時だった。
「最近」
グラスを磨いていたマスターが、突然言った。驚いた大男の手が、止まる。
「夜半になると、男に抱き寄せられながら、外れの宿に連れ込まれる翼人女性を見た、という話があってな」
半眼を向けてくるマスターに、思わず苦笑する。大男の手が、離れた。
酔ったふりを止めて、フランチェスカは肩をすくめた。
「……あら、私以外にも翼人の方が?」
「かもな」
露骨に呆れているマスターは、ため息ついでにグラスに息を吹きかけて、磨き始めた。
「連れ込んだ男は、次の日には骨抜きにされていたそうだ。『山とドラゴンは勘弁してくれ』『もう何も出ないから』。誰もがそう言っていたらしい」
「まぁ、怖い。何が『もう出ない』のかしら……ね?」
妖艶な、しかし冷たさのある表情でくつくつと笑ってから、フランチェスカは、大男を見た。
「それで、あなたの隣にいればいいのかしら。もっと『山とドラゴン』のお話……聞かせてくださる?」
「いや、なんでも、ねっす」
後ずさりをして椅子から転げ落ち、大男は小さくなりながら、酒場の外に出ていった。
結局、あまり有益な情報は得られなかった。しかしそれは、今回の話だ。
仲間たちには、すでに得たあらゆる話を伝えてある。その出処を聞かれて伏せたら、怪訝な顔をされてしまったが。
「今回は、外れね」
「邪魔したかい」
グラスを磨き終えたマスターに聞かれ、フランチェスカは溶けた氷で薄まった蒸留酒を飲み干して、艶めいた笑みを浮かべた。
「いいえ。むしろ助かりましたわ。今日は、ですけれど」
「そうかい」
よく分からない奴には、とりあえず頷いておく。
マスターの姿勢は、一貫していた。
大成功
🔵🔵🔵
アストレア・ゼノ
◆POW/アドリブ歓迎
冒険者稼業をやっていると小娘と侮られる事は多いが
今回はそれを逆に利用してやろうか
酒場に入ったら如何にも浮足立った駆け出しを装い
ドラゴンの首を獲りに来た!情報を知ってる奴は居ないか!
と声高に宣言しよう
当然周囲は嘲笑うだろうが
腕っぷしならこの場の誰にも負ける気はしない、等と挑発し
『敗者は勝者の言う事に1つ従う』
という条件で力比べの賭けに誘う
生意気な新人を懲らしめるチャンスに食い付いた誰かを
【怪力】【グラップル】【気合い】で返り討ちに出来たら
勝者の権利でドラゴンについての【情報収集】だ
話を聞き終えたら、預かった金貨で相手の飲食代を持とう
騙すような真似をした訳だし、せめての詫びだ
ユーフィ・バウム
※アドリブ・絡みは大歓迎です!
ドラゴンを倒すことは、森の戦士の誉れ
さぁ気合を入れて臨みますよ!
事前に現場のことは【世界知識】で事前学習
竜を倒すつもりでいる冒険者に接触を図り、
一目置かせてみましょうか
まだ酒を飲んで歓談できる年齢ではないので、力を見せます
「私も竜を倒すつもりで参りました!
竜への道を、教えてはいただけないでしょうか!」
竜を倒す力は、あるつもりです。
こちらから提案できるなら腕相撲を申し出。
【力溜め】ての【怪力】を活かして押し切りますよっ!
ひとしきり注目を集められたら、【情報収集】を。
模擬戦で力を示す場合でも無力化にとどめるよう注意
他、【野生の勘】で良いことが閃いたなら従い行動します
日中にもかかわらず、酒場では飲んで騒ぐ冒険者たちの声が空気の如く満ちていた。
依頼斡旋カウンターには、今日も多くの冒険者がいる。ベテランから駆け出しまで、装備の品質も様々だ。
その中にありながら、異質であることを示すのは容易ではない。が、二人はあっけなくやってのけた。
「ドラゴンの首を獲りに来た! 情報を知ってる奴は居ないか!」
「わたしも竜を倒すつもりで参りました! 竜への道を、教えてはいただけないでしょうか!」
恥も何もなく高らかに宣言したのは、アストレア・ゼノ(災厄の子・f01276)とユーフィ・バウム(セイヴァー・f14574)。どちらも、新品の装備品に身を包んでいる。
先ほど買ったばかりだ。すべては、新入り冒険者を装うためである。
呆気にとられる冒険者たち。酒場すら静まり返ったその様を見渡し、アストレアはなおも声を張り上げた。
「なんだなんだ、いないのか!? あの霊峰にいるというドラゴンだ。噂になっているだろう、知らないとは言わせないぞ!」
「そうです! ドラゴンを倒すことは、森の戦士の誉れ。戦いに身を置く者にとって最大の名誉じゃないですか!」
ぶんぶんと首を縦に振りながら言うユーフィに、冒険者たちが徐々にどよめき始める。
初めはただのざわつきだったが、それに大きな声が混ざってきたと思うと、だんだん笑いが含まれるようになり、そして最後は、大爆笑に包まれた。
「おいおいおい! 最近この手の連中が増えてるが、こりゃたまげたな!」
「駆け出しの嬢ちゃん二人が、ドラゴンの首を獲るってよ! こいつぁ傑作だぜ! なぁ!」
もはや完全な笑いものになってしまったが、ここまではアストレアの予想通りだった。ユーフィは顔を赤くして、怒っているようだが。
噂云々を抜きにしても、少女二人が強大な敵を狩ると息巻いていれば、こうなるのも無理はない。アストレアは握った拳を冒険者たちに向けた。
「臆病者の三下どもめ! 私はこの力でもって竜を狩る。腕っぷしならば、この場の誰にも負けはしないからな!」
「……あんだと?」
冒険者たちの顔色が変わる。酒と同じほどにケンカ好きな連中だ。食いつかないはずがない。
好機とばかりに、ユーフィも日焼けした腕をまくった。
「わたしもです! 竜を倒す力は、あるつもりです!」
「上等だコラー! 教育だオラー!」
躍り出たのは、男連中だった。筋肉の盛り上がった腕を見せつけながら、アストレアとユーフィに迫る。
二人の少女と幾人もの男が睨み合う、一触即発の状態だ。いざケンカかと冒険者たちが賭けの準備をし始めた、その時だった。
酒場のマスターが、えらく大きな音で咳ばらいをした。
「昼時は、冒険者以外も飯を食いに来る。やめろ」
「でもよマスター! こいつらが――」
「やめろ」
酒場において、マスターの言葉は絶対だ。これから何を頼んでも安酒しか出てこなくなる可能性がある。
それでも引っ込みがつかない男連中に、ユーフィが手身近なテーブルを片付け、その上で肘を立てた。
「みなさん、これで決めましょう!」
「なるほど、それはいい」
隣に座ったアストレアも、同じように肘をつく。その体勢のまま、挑発するように手招きをした。
「これなら問題ないだろう。敗者は勝者の言うことに一つ従う。この条件で勝負だ」
「……おもしれぇ」
激しく音を立てて座ったのは、モヒカンとスキンヘッドの男二人だ。アストレアとユーフィを見て、にやりと笑う。
「へへ、近くで見ると……上玉じゃねぇか。さて、何をしてもらうかねぇ」
「そういうことは勝ってから言いましょうね、おじさん」
「おじ……!?」
ショックを受けるモヒカン男の手を無理矢理取って、ユーフィが構える。アストレアもまた、スキンヘッドの男の手を握った。
すでに賭博場に発展している酒場が、異様な盛り上がりに包まれる。
どこからともなく現れた吟遊詩人が、リュートを構えた。
「それでは僭越ながら、僕の美しいリュートを合図に。用意はいいかい?」
四人が互いを睨み合い、頷く。吟遊詩人の手が上がり、そして――。
弾むような音が、鳴った。
「んおぉぉぉぁぁぁぁッ!」
「ぎぃぃぃぅぅぅぅぅッ!」
酷い叫びを上げているのは、男二人の方だ。アストレアとユーフィも腕に相当の力を感じているが、まだ余裕があった。
なるほど、前に出るだけあっていい腕力をしている。腕の立つ冒険者なのだろう。
が、勝負は勝負だ。ユーフィが横目でアストレアを見ると、目が合った。
頷いて、一気に力を込める。酒場が揺れるのではないかという音とともに手を叩きつけられ、モヒカンとスキンヘッドが悲鳴を上げた。
「いってぇぇぇッ!?」
「折れた!? 折れた!?」
「折れてません!」
手を打ち払って、ユーフィは情けない声を出す男二人を叱りつけた。
一瞬で勝負がついてしまって、場内からはなぜかブーイングが起こっている。その矛先は、どうやら男の方らしい。
小突き回されながら引き下がるモヒカンとスキンヘッド。二人に変わって、新たな挑戦者が現れる。
またも筋肉の塊のような男たちだ。腕っぷしを発揮したい奴はいくらでもいるらしい。
「誰か、負けた奴をメモしておいてくれよ。後で言うことを聞いてもらうんだからな……」
不敵に笑うアストレアに、新たな挑戦者が息を呑んだ。
「決めた。俺あの女の子に賭ける」
「いや、俺はダチに賭けるぜ」
「友情じゃ酒は飲めねぇよ。見ただろ、今の勝負」
口々に出てくる言葉から、アストレアとユーフィの印象は、だいぶ変わったようだ。
だが、これからだ。がっちりと手を組んで勝負の姿勢になったところに、吟遊詩人がリュートを構える。
「それでは、次の戦いだ。用意はいいかい?」
軽やかな音が響き、男連中の絶叫が酒場を支配した。マスターが迷惑そうにしている。
その数秒後に、テーブルを割らんばかりの大きな音が響き渡った。
ずどん、ずどんという重く恐ろし気な音は、その後も定期的なリズムを以て、酒場に鳴り続けるのだった。
◆
夕暮れの街道に、伸びた冒険者の男連中が積み重なっている。
「参ったな」
アストレアが言うと、ユーフィも困ったように頬を掻いた。
「やりすぎ……でしょうか」
「死んではいないさ。……でも、これではな」
腕相撲に挑んできた者たちを完膚なきまでに叩きのめした二人は、いざ情報をと思った途端、不服を訴える男たちに囲まれた。
なんでも、不正を使ったのではないかということだった。言い合いをした後、ならばケンカでケリをつけようじゃないかということになった。
酒場の表に出て、二人対十数人という、おおよそ少女を相手にするには不公平が過ぎる戦いが始まった。
そして、今に至る。さすがに冒険者だけあって手強く、二人も何度か殴られはしたものの、それは大した問題ではない。
つい熱くなってしまったが、気絶されてしまっては、情報を聞き出すことができなくなってしまう。
頭を掻きながら、アストレアがぼやいた。
「参ったな……」
「うーん。見ていた人に聞きましょうか」
そうしようということになり、二人は酒場に戻った。
すでにやじ馬たちは酒盛りに入っていて、ユーフィとアストレアを見るや、大歓声で出迎えてくれた。
「おぉ! 帰ってきた!」
「ほら見ろ、やっぱり女の子の勝ちだ!」
「嘘……あの数で負けたの……パーティ抜けたい……」
様々な感想が飛び交う中、二人は物おじせずテーブルに座った。ジュースを二つ頼み、給仕が持ってきてくれる間に、冒険者に囲まれる。
「大した腕っぷしだなぁ! どこで鍛えたんだ?」
問われたアストレアは、自慢するでもなく淡々と答えた。
「私は、森でな」
「あ、わたしも森ですよ。密林です!」
森に一体何があるというのか。冒険者たちは目を合わせて首を傾げていた。
それはともかく、と青年剣士が言った。
「君ら、ドラゴンを退治するつもりなんだろ? いやーなんか、俺も出来そうな気がしてきちゃったよ!」
「お前じゃ無理だっつってんだろ」
先輩と思しき大剣使いが、後輩剣士を小突く。笑いが起こったが、不思議と誰もドラゴン退治を笑うことはなかった。
力の証明。それがこれほどの効果を得られるとは。ユーフィは驚きながら、よく通る声で尋ねた。
「それで、噂の山なんですけど。ドラゴンはいるんですか?」
「……最近、そういう話を集めてる奴がずいぶんといる。もしかしたら、本当にいるのかもしれねぇな」
長いひげを撫でながら、ドワーフの男が言った。何やら迷いのある様子に、アストレアが身を乗り出す。
「はっきりしないな。誰か、見た奴はいないのか?」
冒険者たちは一様に顔を見合わせ、そして首を横に振った。
妙だと思った。なぜ、山でモンスター狩りをしている冒険者たちが、ドラゴンを見ていないのだろう。
しばし考え、アストレアは顔を上げた。
「……目撃情報の、猟師なんだが。何を狩っていたんだ?」
「夜鹿だよ。夜行性だから、一晩中山にこもるんだ。その時に見たらしい」
同じ冒険者であるアストレアは、合点がいった。モンスターを狩るのは、多くが日中だ。夜は危険すぎる。
体を休める時間だから、彼らは見なかったのだ。わずかな目撃証言が夜に偏っていたのも、そういうことだ。
「でもよ、危なくねぇか? 最近じゃ山は雲ばっかで、雷がずっと聞こえてるじゃねぇか」
逆毛の弓使いが言うと、皆が確かにと頷いた。日中でも夜でも構わず、ここ数日は山の雲から雷鳴が轟いている。
「……そういえば」
ユーフィが呟いた。別の猟兵が入手した情報によれば、百年ほど前にドラゴンが現れた時に聞こえた声も、雷鳴のようだったという。
山守によって封じられていたドラゴン。その封印が、夜だけ弱まっていたのだとしたら。
そして今や、その力が失われているのだとしたら――。
この情報を、冒険者たちは知らない。言葉には出さずにアストレアを見ると、彼女も同じ答えに至ったようだった。
事態は、思っていたよりも、悪いかもしれない。
静まり返った酒場の戸が開き、外で伸びていた男共が帰ってきた。
「あーくそ! やられた!」
「体中がいてぇ……」
ブツブツと言いながらも、こちらを見ても何も言わない。過ぎたケンカを掘り起こすことはないようだ。
彼らのおかげで、酒場の空気が和らいだ。アストレアは努めて笑って、硬貨の入った袋を取り出した。
「よし、今日はたっぷり勝たせてもらったからな。この場は私の奢りだ、たっぷり飲んで、食べてくれ!」
「あ、わたしも! アストレアさん、一緒に払いましょう!」
二人の申し出に、酒場が一瞬で活気を取り戻した。その熱狂に包まれながら、ユーフィとアストレアも、なるべく明るく振る舞った。
心に留まる靄のような不安を、振り払うように。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
レギーナ・グラッブス
旅の僧を装い情報を集めるとします。正確には違うのですが回復魔法を使えますし上手く誤魔化すとしましょう。修行目的で霊峰に入山する体で道順や地形、危険な生き物等の注意べき情報を集めます。修行で山に籠る事は普段からやっていますし、装備もその為の物が多いので然程不自然という事は無いと思います。まず酒場で軽く注文してマスターに霊峰の事を知ってそうな人がいないか聞いてみます。当たりをつけたら、一杯奢る、怪我してたら回復魔法をかけたり手持ちの薬を提供したりする、次の冒険が無事であるよう祈る、とか必要に応じて恩を売り話を聞きだすつもりです。もし情報収集の結果、用意した方が良い物があれば街で入手して出発します。
「こんにちは。飲み物をいただきたいのですが」
「あいよ。ジュースな」
酒場のマスターは、こちらを一瞥すると少し珍しそうな顔をしたが、すぐに注文を用意し始めた。
まずは上々。レギーナ・グラッブス(人形無骨・f03826)は一人頷きながら、カウンター席に座った。
全身を覆うタイプの旅装束を着込み、僧侶の帽子を被っている。その他の装備は普段から使っているものを持ち込んでいることも、自然に振る舞えている一因だろう。
飲み物を持ってきたマスターは、ストローに口をつけるレギーナを見ながら、尋ねた。
「あんた、僧侶かい」
「はい。旅の僧です。噂に聞く霊峰で、修行をしようかと思いまして」
「……最近、あの山は人気なのか? ずいぶん登りたがる奴がいるが」
間違いなく猟兵たちだ。レギーナは小首を傾げて、知らないふりをした。
「そうなのですか? 皆さん、霊験あらたかな山に登りたいのでしょうか」
「いや。大抵の奴は、どこからか聞きつけた竜の噂を追っているらしい。今時そんなものを真面目に受け取る奴がいることに驚いたがね」
皿を洗いながら、酒場のマスターは器用に肩をすくめた。
「連中が同じパーティなのかそうじゃないのかは知らんが、面白い奴もいるもんだと思うよ」
「ドラゴンですか、恐ろしいですね。実在するなら、倒していただきたいところです」
演技のせいで少々無感動だったかもしれないが、そもそも笑い話にされているような内容だ。マスターが怪しんだようすもなかった。
またジュースを一口飲んでから、酒のボトルを数えている店主の背中に声をかける。
「ところでマスター、その山についてなのですが、詳しい方、いらっしゃいませんでしょうか。道中で必要な物などを聞きたくて」
「んー、そうだな。まぁこの辺りで冒険者やってる奴らは、大抵狩場にしてるが……上の方を目指すなら、あいつだな」
マスターが指さしたのは、槍使いだった。まだ若いが、戦いなれている様子ではある。
彼が山に詳しいというのがピンと来ず、マスターを見ると、彼は苦笑した。
「まぁ、疑問だろうな。ここだけの話にしてくれよ。あいつは努力家でな、山頂付近の崖に上って体を鍛えてるんだ。誰にも内緒で、一人でな」
「それはまた、すごいですね」
「だろう。おい、お前! ちょっとこっち来い」
ぶっきらぼうにマスターに呼ばれて、槍使いは意外そうな顔をしながらやってきた。
促されるままにレギーナの隣に腰かけて、出された酒を手に取る。
「なんだよ、マスター」
「どうせ暇だろ。このお嬢さんがお前と話したいってよ」
誤解を招きそうな言い方ではあるが、僧侶の衣服が役立ったのか、槍使いが妙な想像をすることはなかった。
むしろ、怪訝な顔をしている。警戒を解くために、レギーナは頭を下げた。
「こんにちは。私はレギーナといいます」
「あぁ、どうも。で、何の用だ?」
「あの山について――」
聞きたいことを尋ねると、槍使いは自分の秘密を洩らしたことをマスターにひとしきり怒り、うまくかわされてから、頬を掻いた。
「必要なものねぇ。俺は妖精の村より奥にはいかねぇしな」
「その手前までで結構です。これだけはなければ困るとか、これがあると便利とか、ありますか?」
「そうだなぁ……。あんた、戦えるのか?」
聞かれて、レギーナはわずかに考えた。正直に答えてもいいが、僧侶を自称しているし、余計な戦闘を避けられるのであれば、それに越したことはないだろう。
帽子を押さえながら、首を横に振る。
「いえ。得意ではありません」
「なら、魔除けのベルを持っていくといいな。大型には効かないが、雑魚は寄ってこないぜ。あれなら道具屋で売ってたはずだ」
「なるほど、ありがとうございます。山頂まで行くとしたら、食料と水はどのくらいいるでしょう?」
「んー……妖精の村から山頂までは二時間もかからんと思うから、そこまでなら、まぁ往復で三日分ってところか」
何事もなければな、と槍使いは付け足した。レギーナがメモを取り終わると、友人に呼ばれたようで、彼は仲間のもとへと去っていった。
悪くない情報を得た。無駄な消耗を抑えつつ山を登ることは、その先の強敵と戦う上で重要な問題となる。
「道具屋……。他にも入用なものを揃えておきましょう」
槍使いと自分の飲み物代を支払っても、手渡された軍資金はまだ多くある。魔除けのベルやその他もろもろ、買い揃えておいて損はないだろう。
マスターに礼を言って、レギーナは早速店を出た。道具屋は、そんなに遠くないところにあるはずだ。
◆
長いこと繁盛しているらしい道具屋には、ありとあらゆる道具が揃えられていた。
魔除けのベルを始め、様々なものを購入していると、店の扉から一人の老婆が現れた。レギーナが買ったものを見て、よろよろと駆け寄ってくる。
「あんた……あんた、どこに行きなさる」
「妖精の村があるという山です。修行に……」
「やめなさい。やめておきなさい。あそこは今、行ってはならんよ」
老婆は鬼気迫る様子だった。彼女が何か知っていることを察して、会計を中断して、レギーナは尋ねた。
「おばあさん、なにかご存じなのですか?」
「あぁ知っているとも。あの山には……世界を滅ぼす者が封じられておる。奴を蘇らせては――」
激しくせき込む老婆。レギーナはすかさず回復光で癒し、店内の椅子に座らせた。
しばらく息を整えてから、老婆は静かに言った。
「山守の力が、感じられんのじゃ……。彼らに何かあったに違いない。今やあの山は、崩壊の力で満ちておるのじゃ」
老婆は、占い師か何かのようだった。得も言われぬ力が伝わってきて、レギーナはそれを話を信ずる根拠とした。
興奮させないように、静かに落ち着いた声音で、尋ねる。
「それは……ドラゴンですか?」
「行ってはならぬ。……奴を、ヴァッフェントレーガーを蘇らせてはならぬ。世界に呼んではならんのじゃ」
「ヴァッフェントレーガー……それが、崩壊の竜の、名前」
息を呑む。すぐに気を取り直して、レギーナは怯えた様子でしきりに呟く老婆の肩に、そっと手を置く。
よくないことが起こっている。それは猟兵たちで共有している情報から分かってはいた。しかしそれが、自分の想像している範囲を超えている気がしてならない。
だからこそ、老女の耳元で、優しく言った。
「大丈夫ですよ。私たちが、必ず倒しますからね。世界は私たちが、守ります」
それは、まるで自分に言い聞かせているような声音であった。
「……崩竜を、封じねば……」
錯乱したように、老婆は店の外に出ていった。レギーナも立ち上がり、会計の続きを済ませる。
金を払って、店を出る。一秒でも早く、仲間のもとへ急ぎたい思いだった。
それでもふと、足を止める。霊峰を見上げれば、山頂は今も厚い雲に覆われていた。
その奥から、唸り声にも似た雷鳴が――あるいは雷鳴に似た唸り声が、空を揺るがすように聞こえてきた。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『崩壊妖精』
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POW : 妖精の叫び
【意味をなさない叫び】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : 妖精の嘆き
【なぜ痛い思いをさせるのかへの嘆き】【私が悪かったのかへの嘆き】【助けてくれないのかへの嘆き】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : 妖精の痛み
【哀れみ】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【崩壊妖精】から、高命中力の【体が崩壊するような痛みを感じさせる思念】を飛ばす。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
登山は順調だった。
地図や収集した情報により道に迷うこともなく、モンスターのリストによって、大型の敵の生息域を迂回できたことも大きい。
道中のモンスターは魔除けの道具で寄せ付けず、木こりの情報網で、登山道が消えてからも止まることなく登り続けられた。
山頂を覆う雲が、次第に近づく。やがて、高所にありながら不自然なほど木々に囲まれた空間に出た。
山を守る妖精の村。非常に静かだった。
供え物を取り出しながら中へ進むも、気配はない。
いや――気配がないのではない。
そこには、生命が、なかった。
全てが、崩壊していた。祭壇も、小さな家も、畑も、防壁も、風も、水も、何もかも。
倒れている妖精たちもまた、その体と心を崩壊させていた。
何が起こったのかを、考えるまでもない。崩壊の神――ドラゴンが現れたのだ。
間に合わなかった後悔を感じる間もなく、猟兵たちは得物を抜いた。
動いたのは、倒れていたフェアリーだ。肉体も魂も壊れた妖精たちが、力なく飛び上がる。
苦痛への怨嗟。使命を果たせなかった罪悪感。ドラゴンへの憎悪。誰も助けてくれなかった絶望。それらの嘆きが、崩壊したフェアリーから迸る。
猟兵たちは悟った。彼らは、死んだのではない。生きながらに、壊れているのだ。
そしてもう、元には戻らないのだ。
もはや、彼らを助ける術はない。今はただ、その苦痛を終わらせてやるしかない。
それができるのは、猟兵たちしか、いない。
エーカ・ライスフェルト
私が妖精に哀れみを抱かないのは無理だけど……
「元が何であれ、オブリビオンなら倒すだけよ」
元凶も後で確実に仕留めるけどね
最初に使うのは【念動力】よ
できれば抑え込んだり突き飛ばしたりして敵UC発動を邪魔したいけれど、多分間に合わないから敵UCで召喚された【崩壊妖精】を突き飛ばす感じで使って私に対するUCの狙いを外させようとするわ
「いつも通りに雑な力ね。でもこうすれば少しは役に立つのよ?」
その後は【ウィザード・ミサイル】で【魔法の矢】を放ち【崩壊妖精】を狙う
また、【宇宙バイク】を【運転】して距離をとり、安全重視で戦闘
「数が多すぎるわ」
「戦闘開始直後に大勢仕留めるのは無理。でも2人くらいは減らすわよ」
死ぬことも叶わず、過ぎ去った存在として骸の海に揺蕩うことも出来ず。
崩壊した心は、崩れた肉体から悲痛の身を声に出し、命無き目を猟兵に向ける。
「……」
エーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)は、心に浮かんだ哀れみを、心の奥底にしまい込んだ。
桃色の長髪が揺らめく。不可視の力が、吹き荒れる。
「元が何であれ、オブリビオンなら倒すだけよ」
彼らに望まぬ破壊をさせないためにも。エーカはあえて、その瞳に冷酷さを宿す。
しかしそれでも、一瞬抱いた哀れみの情を、崩壊した妖精たちは敏感に察知する。
声になっていない叫びを上げて、対面したフェアリーが頭を抱えた。その声が空中に伝播して、新たな崩壊妖精が、次々に空中に出現する。
召喚の類か、あるいは仲間を呼び寄せる技か。かつて彼らが使っていた魔法の、なれの果てだろう。
崩壊妖精たちは一斉に苦しみ始め、同時に彼らの小さな体から、明らかに異質な力が迸ろうとしているのを、エーカは察した。
脳が疼く。思念攻撃の類だ。
「……悪いけれど、あなたたちの想いすべてに向き合う時間はないわ」
右掌を、妖精たちに向ける。途端、見えない巨大な質量に跳ね飛ばされるように、空中に現れた妖精たちが吹き飛んだ。
念動力だ。そのコントロールは、相変わらず雑と言わざるを得ない。しかし、エーカは炎の矢を展開しつつ掌を見つめ、呟いた。
「こうすれば、少しは役に立つものよ」
誰ともなく言って、無数としか表現できない数の火炎の矢を、撃ちだす。
妖精の家屋に矢が突き刺さり、燃え移る。しかし、妖精たちはそちらを見ることもなかったし、住まいが燃えることに怒る者もいなかった。
ただ、壊れた感情の行き場を求めて、叫ぶ。エーカたち猟兵が現れたことで出現した妖精は、今もその数を増やしていた。
生き残りがいる可能性は、絶望的か。頭の隅で考えながら。炎の矢で仲間を召喚した妖精を狙う。
次々に仲間を呼び寄せる妖精は、見える限りで、二人。衣類がよく似た、男女だ。兄弟か、恋人か。
ともかく、彼らを倒せば呼び出された者も消えると、エーカは踏んだ。
「魔術のセオリーが通用するか……試してみるしかないわよね」
妖精はすばしこく飛び回り、エーカの火炎を避けていく。時折仲間が巻き添えを食って消滅すると、そのたびに悲し気な声を上げた。
エーカは頭を押さえた。妨害はすれど、彼らの思念は全てを防げない。
それは、死してなお現世に縛られる存在――オブリビオンとなったフェアリーたちの、絶望だった。
頭痛は体にまで侵食していき、エーカは後退しつつ痛みを堪え、後方に止めていた宇宙バイクに跨った。
即座に距離を離す。今も思念の残滓と体の痛みが残る中、わずかに目を伏せる。
「数が、多すぎるわ」
敵の数もそうだが、何よりも、嘆きの感情があまりにも満ち満ちている。この場にいるだけで、絶望が伝播してきそうだ。
なればこそ、エーカにしかできないことがある。彼らの絶望を、奪うのだ。
「はぁ――」
深呼吸と共に心を冷静にさせ、さらに冷えた感情で埋めていく。見据えるのは、心の壊れた妖精たちと、その奥にいるであろう、ドラゴン。
「元凶も確実に仕留めるわ。だから――あなたたちは、正しく死になさい」
バイクを駆りながら、追ってくる妖精たちに手をかざす。真上から叩きつけた念動力に押しつぶされ、召喚された妖精たちが消える。
最後尾にいた二人のフェアリーが、頭を抱えて悲鳴を上げた。その声が耳に届くや、エーカはまた頭から走る電流のような痛みに呻いた。
「分かってるわよ。あなたももう――」
バイクを反転。距離は離れているが、この間合いは、エーカにとって最適だった。
「楽になりたいのよね」
放たれる火炎の矢。全方位から逃げ場をなくすように、崩壊妖精を包み込む。
二人の崩壊妖精が、崩れた唇から甲高い絶叫を上げた。しかし、もはや彼と彼女を庇おうとする者はない。
火葬としては、あまりにも残酷かもしれない。だが、手向ける花など持たないエーカのしてやれることは、これが全てだ。
「大勢を仕留めるのは無理。だけど、せめて二人くらいは――!」
せめて彼らだけでも、持てる力で、永遠の安息を。彼女の火炎は、さらに勢いを増していく。
突き刺さった炎の矢が、妖精の叫びを止める。次々に突き刺さり燃え上がる炎の中で、フェアリーが互いの顔を見合わせる。
火球となっていく炎に包まれる崩壊妖精が微笑んだように見えたのは、エーカの錯覚だっただろうか。
赤熱する火炎により、妖精の姿は見えなくなる。もう、悲鳴は聞こえない。
やがて、周囲を赤く照らしていた火が消えた。そこにはもう、フェアリーの姿はなかった。
「……無事、逝けたかしら」
独り言ちながら、エーカは空を見上げた。
天蓋を覆う暗雲に、稲光が走る。山を焦がす雷が、壊れた彼らの怒りを代弁しているようだった。
成功
🔵🔵🔴
駆爛・由貴
ったく…いつだって真っ先に食われるのはこういう奴らだよな
だけど、コイツらが俺たちの邪魔をするってなら容赦はしねぇぜ
グレネード・パーティーを発動
俺のスティール・ラバーに魔力を通して身軽になって更に速度を上げるぜ
妖精の嘆きを見切りで回避して、ジャンプで飛び回りながら敵のど真ん中に手榴弾をばらまいて吹っ飛ばす
…どんなに祈ろうが、もうコイツらが元に戻ることはねぇ
ならせめて、その嘆きを終わらせてやることが俺たちの役目だ
少なくとも、俺はそう思うぜ
俺のオンモラキとバサンも操作して、一斉射撃で爆風から漏れた奴らも一網打尽にする
許してくれ…なんて言わねぇよ
だけどお前等の恨みと憎しみは百倍にして奴に叩き返してやる
駆爛・由貴(ストリート系エルフ・f14107)は、十人ほどの妖精少女がまとまって嘆き崩れている姿を見た。
彼女たちには、まだ感情が残っているのだろうか。
恐らくそうなのだろう。しかし、もうコントロールは出来ない。壊れてしまった心では、溢れる感情を抑えることができないのだ。
妖精少女たちの体は、四肢を失い顔が削られ、崩壊の一途を辿っている。心も体も崩れていく状況でも、死ぬことすら許されないというのか。
「ったく……いつだって真っ先に食われるのは、こういう奴らだよな」
やるせない想いになった。だが、それでも。由貴は隠し持っていた手榴弾を握り、妖精たちを見据える。
「だけどな。俺たちの邪魔をするってなら、容赦はしねぇぜ」
纏うスティール・ラバーに魔力を伝導させ、その身を極限まで軽くする。
跳躍。突如頭上に移動したエルフの姿に、壊れたフェアリーたちが一斉に悲鳴を上げた。
「――聞くなッ!」
自分に言い聞かせて、手榴弾を投擲。上からいくつもの爆弾が投げ落とされる様子は、由貴とフェアリーたちの体の大きさもあって、爆撃のようにすら見えた。
爆風が吹き荒れる。妖精たちが、砕け散る。変質した紫の血飛沫が、由貴の体まで飛び散った。
着地と同時に、さらに投げる。ピンを抜いてからきっかり五秒、固まって嘆く妖精たちの真ん中に落ちた手榴弾が、炸裂した。
肉片と血液が散乱し、死に損なったフェアリーが、骸と化した妖精たちの破片を抱き上げて叫ぶ。その声が嫌でも耳に入って、由貴は膝をついた。
少女たちの嘆きは、言葉になっていない。しかし、それでも意味は伝わってくる。
なぜ、痛い思いをしなければならないの?
私が悪いことをしたの? 山守りは、悪いことだったの?
どうして助けてくれないの?
なんで来てくれなかったの?
「……あぁクソ、そうだよな。そりゃそうだ」
彼女たちの言う通りだ。由貴は舌打ち交じりに地面を蹴った。
この村に住んでいた妖精たちは、どのような目に遭ったのだろうか。
ドラゴンに襲われ、食われ、崩壊させられ、その恐怖は想像を絶するものに違いない。
世界のために生きてきた一族の最期としては、あまりにも、報われない。
理不尽すぎる。残酷にもほどがある。
だが、どれほど祈ろうが、妖精たちが元に戻ることはないのだ。その生活も、笑顔も、命も。
「だからせめて、その嘆きを終わらせてやる」
それが、猟兵たる自分たちの役割だ。由貴はそう信じていた。
空中に浮遊する、二機の自立ポット。搭載されているビームランチャーとライフルが、妖精たちを容赦なく撃ち抜く。
再び響く悲鳴に、もう由貴は顔をしかめることはなかった。
二つのポット『オンモラキ』と『バサン』の射撃援護を受けながら、再び跳躍する。
妖精たちの破壊された精神が小さな体から迸り、不可視の力となって、由貴の心を蝕む。
構わず投げた手榴弾が爆発し、妖精たちが飛び散り、動かなくなる。自立ポットに心臓や頭を撃ち抜かれた者もまた、倒れていった。
空気を揺るがす爆音に、フェアリーの嘆きが混ざる。耳を覆いたくなるその音を聞きながら、由貴は唇を噛む。
死んだフェアリーと、壊れながらも生きているフェアリー。どちらがいいのかなどということは、考えられるはずもない。
「許してくれ、なんて言わねぇよ」
着地した姿勢で地面を見つめ由貴は呟いた。
彼らはオブリビオンと化したが、この世界に貢献し続けてきた一族だ。その命を奪う行為をしている自覚はあった。
それが例え必要なことであるとしても、何も思わずに処理できるような冷酷さを、由貴は持ち合わせていない。
足下には、絶望に顔を歪めて死んだフェアリーがいた。その頬を撫で、子供に言って聞かせるような優しい声音で、呟いた。
「だけど、お前らの怨みと憎しみは……百倍にして、奴に叩き返してやる」
立ち上がり、由貴は再び走り出した。
嘆きの連鎖をここで断ち切り、山に穏やかな静寂を迎えるために。
戦いは、続く。
成功
🔵🔵🔴
フランチェスカ・ヴァレンタイン
…介錯致します。せめてもの鎮魂を…!
悲痛な顔は一瞬、羽ばたいて舞い上がる姿はいつも通りで
飛び上がった妖精達よりも更に上空から、誘導弾で一斉砲撃や他の方への援護砲撃などを
弾幕を抜けてきた妖精には斧槍や蹴りでカウンターを見舞い――
あえて叫びを間近で浴びることで妖精達に苦痛と嘆きを強いて魂を縛るモノを”捉え”ます(野生の勘・第六感)
「その苦痛、その嘆きを諸共に……一切を斬り裂いて差し上げます――!」
UCの光刃を纏った斧槍をマニューバと共に揮い、高機動強襲での擦れ違いざまに妖精達を斬り払っていきましょうか…!
何だか同じ”モノ”がこの場にも充ち満ちていそうな…
いっそのこと、ついでに斬り裂いてしまっても?
雛菊・璃奈
助けられなくて…ごめんね…。
わたしにできるのは…貴方達をその崩壊から解放する事だけ…。
だから、せめて安らかに…。
自身に【呪詛、オーラ防御】を纏わせて敵の攻撃を防ぎ、【見切り、第六感】で敵の行動を予測…。
黒桜の呪力解放【呪詛、衝撃波、なぎ払い】で纏めて吹き飛ばし、凶太刀と神太刀による【呪詛】を纏った高速斬撃【早業】で斬り捨てていくよ…。
最後は【unlimitedΩ】を展開…。
終焉の魔剣達により、彼女達の苦しみ、終わらせるよ…。
…可能であれば【ソウル・リベリオン】で崩壊した彼女達の魂だけでも在りし日の姿に戻して救済を…。
最後は破魔の鈴の音を鳴らし、安らかに眠れる様祈るよ…
※アドリブ等歓迎
呪槍の切っ先が下がる。肉体が崩壊しながらも死ねず、その精神を嘆きの中で崩し続ける小さな山守たちに、雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)は知らず、唇が震えていた。
間に合わなかった。何一つ、してあげられなかった。その事実がただ悲しくて、届かないと知りながら、言葉が漏れる。
「助けられなくて……ごめんね……」
「……」
打ちひしがれる璃奈の肩に、フランチェスカ・ヴァレンタイン(九天華めき舞い穿つもの・f04189)が手を置いた。
気持ちは分かる。フランチェスカとて、この様な結果に心が揺らがぬはずがない。
悲痛な面持ちで、斧槍『ヴァルフレイア・ハルバード』の刃を、崩壊妖精へと向ける。
もはや、彼らにしてやれることは、ただ一つ。
「……介錯致します。せめてもの鎮魂を――」
純白の翼を羽ばたかせ、妖艶なる淑女が空に舞う。その時にはもう、妖精たちを見据える瞳には、静けさが佇んでいた。
敵意を感じた崩壊妖精が、もはや意味をなしていない絶叫を上げる。この世の全てを遠ざけるような声は、身に沁み込んだ崩壊の力を放出させ、世界を崩していく。
世界を守ろうとしていた妖精たちが、こんなことを望むものか。璃奈は覚悟を決めた。
フランチェスカが上空から放つ重流体加速砲に、フェアリーたちの小さな体が粉砕されていく。変色した紫の血が、辺りに飛び散る。
璃奈が崩壊の波動を跳躍とステップで避け、悲しみと恐れの絶頂から解放されることのない山守に、薙刀状の刃を向ける。
「わたしにできるのは……貴方達をその崩壊から解放する事だけ……」
踏み込んだ。呪槍『黒桜』がその呪いを解放させ、璃奈と刃に力を与える。
「だから、せめて安らかに……!」
取り囲む妖精たちが叫ぶより速く、呪槍の刃が銀の円を描く。衣服を変質した妖精の血に染めながら、歯噛みをしてその場を離れる。
砲撃が止んだ。見上げれば、フランチェスカが弾幕を抜けた妖精に応戦している。
崩壊の力を受ける前は、さぞよい戦士だったのだろう。素早い動きで上空からの砲撃をすり抜けたフェアリーに、フランチェスカは斧槍を構える。
飛翔からの斬撃、得物は剣だ。斧槍で受け止め、妖精を蹴り落とす。泣き叫びながら落下していく同志を振り返らずに、崩壊妖精が次々に飛び上がる。
感情を外に置いて観察すると、彼らは崩壊しきったのではないことが分かる。まだ、崩れている最中なのだ。
「ならば……」
原因がある。彼らの内から体と心を破壊する、何かが。
それを探らなければならない。方法を模索していると、下方で璃奈が悲鳴を上げた。見れば、妖精たちとの間合いは開いているにも関わらず、膝をついている。
「璃奈さん!」
急降下して駆け付け、庇うように立って様子を伺う。見れば、彼女は激しくせき込みながら、嗚咽を上げて、泣いていた。
「……ごめ、なさい……。体が、崩れ、そうで……!」
「心を落ち着かせて。璃奈さんの哀れみが、彼らの精神と繋がってしまっていますわ」
「じゃあこれは……あの子たちの、痛み……?」
涙を吹きながらも必死に立ち上がる璃奈の言葉に、フランチェスカは頷いた。
「恐らく、その片鱗でしょう。そして、伝播する彼らの精神も、この悲劇の理由の一つかと」
「ひどい……」
璃奈の呟きに、フランチェスカはいつものような淡々とした言葉を返すことができなかった。
彼らが抱える崩壊の連鎖を、止めなければならない。息を整えた二人は顔を見合わせ、同時に動いた。
フランチェスカが斧槍を、璃奈が呪槍を一閃、取り囲んでいた妖精たちを、まとめて薙ぎ払う。
倒してもその奥から現れる妖精が、崩壊し四肢が欠けた体のいたるところから、理解を許されない叫びを上げた。
純白の翼を広げて璃奈を庇ったフランチェスカは、敢えてその叫びを、全身で受けた。崩壊の波動が、彼女の豊かな肉体を引き裂く。
「くぅッ――!」
迸る鮮血と全身の激痛はもとより、叫びは心の奥底にまで染み渡り、精神を崩壊させんと揺さぶってくる。
「フランチェスカさん……!」
突然庇われた璃奈は、困惑しながらも背後の妖精を凶太刀と神太刀で斬り払う。ともすれば抱いてしまう哀れみを、必死に抑え込んだ。
それでもなお湧き上がる悲しい気持ちが、フェアリーの壊れた心と同調し、璃奈の体に激痛をもたらす。
膝はつかない。例えこの身が打ち砕かれようと、その苦痛は崩壊妖精には遠く及ばないのだ。
絶叫を受け切ったフランチェスカが、ふらつきながらも翼を羽ばたかせ、僅かに浮いた。
心配そうに振り返る璃奈に微笑んで、呟く。
「“捉え”ましたわ。彼らの魂を、今も食らい続けるモノ」
それは、崩壊の竜が残した爪痕。妖精たちの魂に深く突き刺さった、時を蝕む過去の毒牙だ。
斬り裂けるか。確証はないが、やらない理由は、ない。
「ブレイザー、イグニッション」
斧槍が光の刃を纏う。2対のテールバインダー型重流体加速砲を背面展開し、フランチェスカは高機動戦闘の体勢に入った。
「その苦痛、その嘆きを諸共に……一切を斬り裂いて差し上げます――!」
羽ばたきと同時に、光の軌跡を引っ提げて、嘆きの叫びを打ち消す刃を振り抜く。
すれ違いざまに斬り払われた妖精たちが、次々と声もなく落ちていく。その魂の奥底を斬り裂いた感触が、フランチェスカの手に染み込む。
死にゆくフェアリーたちの顔は、穏やかだった。それだけを救いに、璃奈も魔剣の巫女としての力を解き放つ。
「全ての呪われし剣達…わたしに、力を…立ち塞がる全ての敵に終焉を齎せ……!」
声に応えて虚空から顕れたのは、二百に届くかというほどの、数多の魔剣だった。その刀身が纏うは、終焉の力。
「その苦しみ、終わらせるよ……」
魔剣が動く。璃奈とフランチェスカの隙を庇うように、悲鳴を上げて逃げ惑いながら崩壊の力を放つ妖精を、斬り払っていく。
朽ちていく小さな体は、振り返らない。死にゆく彼らの遺志は、猟兵たちが継がなければならないのだ。
光刃を振るいながら、フランチェスカは崩壊の波動が大気に満ちているのを感じた。ドラゴンの力が高まっているのか、それとも。
「この場に、満ちている……?」
すれ違うと同時に胴を斬った妖精が、力なく地面に落ちる。広がる変色した血からも、その“モノ”の気配が広がっている。
魔剣の群に囲まれて妖精を討ち倒す璃奈もまた、その気配を察していた。この気配を打ち払うことが出来れば、あるいは。
璃奈の背中についたフランチェスカが、斧槍を油断なく構えながら、口早に言った。
「璃奈さん、空間に広がるコレ、斬れます?」
「……ソウル・リベリオンなら……たぶん……」
「では、同時に」
数多の魔剣から、璃奈が呪詛を喰らう魔剣を掴む。
二人が同時に、踏み込んだ。振り抜かれた光刃と魔刃が、取り囲む妖精もろとも、空間に満ちる波動を斬り裂く。
一瞬の静寂。直後に大気を蝕む崩壊の力が、霧散した。
璃奈の魔剣に斬られた妖精たちが、本来あるべき赤い血を流して、安らかに死んだ。彼らの魂もまた、在りし日の姿を取り戻したことだろう。
確かな手応えがあった。しかし、清浄を取り戻した山の空気は、山頂から響いた雷鳴の如き咆哮によって、再び崩壊の波動に満ちていく。
山が崩れ、凄まじい振動にバランスを崩す璃奈を抱えて、フランチェスカが上空に退避した。
「これは、厄介ですね。下手にアレを斬り失せさせると、その度にお山の神様が激昂する、と」
「だからフェアリーたちは、中和に留まっていたんだね……」
竜の怒りに、妖精たちの嘆きが大きくなる。このままでは、彼らの悲しみが世界を滅ぼすことになりかねない。
二人は再び地に立って、光の刃と魔の剣を、それぞれに握りしめた。
「全部終わったら……弔ってあげるからね……」
悲痛な覚悟で呟いた璃奈の腰で、破魔の鈴が、小さく可憐な音を鳴らした。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
月宮・ユイ
アドリブ◎
登山も順調……情報に感謝ですね
気の良い方でした。あの様な方にならお礼しても良かったのですけど
ドラゴン退治後こっそりと報告にいきましょうか。
と、最後まで気分良くとはいきませんか
守り人の皆さん……ですね。間に合いませんでしたか
(一度目を閉じ”覚悟・祈り”)
哀れみはしません
きっと最後まで役目を果たそうとしたのでしょう
その想い無駄にはしません。ですから今は、押し通ります
<機能強化>維持。”呪詛”で祝福強化し呪い侵す
”第六感”含め知覚強化”情報収集。学習力基に早業”で行動に反映、最適化
<不死鳥>
葬送の炎とし操り、彼らを眠らせ力は喰らい私の中へ
この力借り受けます。ドラゴンは必ず討ちますから
順調な登山は、皆が集めた情報があってこそだろう。その中にはもちろん、大剣使いが話してくれたものも含まれる。
彼になら「お礼」をしてあげてもよかったかもしれないと、月宮・ユイ(捕喰∞連星・f02933)は道中で考えていた。ドラゴンを退治したら、こっそりと報告ついでに「お礼」をしてもいいかな、などと。
しかし、全てが良いままにとはいかない。崩れ落ちた体を引きずるように飛ぶ妖精を見て、ユイは目を閉じた。
「守り人の皆さん……。間に合いませんでしたか」
目を閉じて手を組み、彼らの魂に祈りを捧げる。
大剣使いの父親が、山守の妖精と縁があったと言っていた。このことを話したら、彼はどんな顔をするのだろうか。
だが、ユイは覚悟を決めた。彼らを哀れみはしない。これから行なうことも、躊躇わない。
「あなたたちは、きっと最期まで――役目を果たそうと、したのでしょうから」
その想いを、無駄にするわけにはいかない。
目を見開く。金と銀の瞳が輝き、ユイの本体である共鳴コアが、不可視の振動に包まれる。
「共鳴――保管庫接続正常」
ユイを中心とした周囲の熱が上昇し、嘆きの声が遠くなる。妖精たちの悲哀に満ちた表情が、陽炎に揺らめいていく。
「知覚・処理能力強化。無限連環具現化術式起動……」
ふと、目に入る。一人の妖精が、その手に抱いている者。
幼子だ。妖精の赤ん坊なのだから、いかにも小さい。しかし、それにしても、何かが欠けている。
「――ッ!?」
その子は、他の妖精と同じく、崩壊していた。小さな四肢は砕け散り、そして、頭は、無かった。
いけない。心に平静を。そう胸中で叫ぶも、湧き上がる哀れみの情は、止められない。
心がフェアリーたちと同調し、ユイは体が崩壊しそうな激痛に襲われた。崩壊妖精が発する怨嗟の声が、脳内に響く。
しかし、耐えた。震える足を踏みしめて、同情の念を押し殺し、コアの共鳴を高める。
「概念制御……! 効果・対象指定、具現――!」
存在しえない概念が具現化し、選別の炎が噴き上がる。火炎はユイを取り巻くように吹き荒れて、彼女の手元に集まった。
痛みは消えていない。だが、崩壊妖精から目を逸らすようなことは、しない。強化された知覚から、山守の悲哀が流れ込んでくるからこそ。
炎の渦を纏った右手を、抱き合い崩れて嘆く妖精たちへ向けた。
「舞えッ!」
放たれた火炎は、容赦なく妖精たちを包み込み、その業火で崩壊した体を滅していく。
絶望に満ちた、あまりに悲しい悲鳴がユイを包み込む。その声がまた、彼女の体に痛みをもたらす。
だが、ユイは炎を操ることを止めなかった。彼らが受けた痛みの幾ばくかでも、共に感じてあげられるのならば。
「……私の中へ」
概念から生まれた炎は葬送の火となり、妖精の体を燃やし尽くし、その身と魂を抉る力を喰らい、ユイの元へと流し込む。
突き抜ける崩壊の波動に、背筋が凍る。なんと冷たく、悍ましいことか。しかしその中に、ユイは柔らかな春のような温かさを感じた。
本来の彼らの力だろう。世界を守るために山へ籠り、下界との交わりを断つようにしながら、竜を封じてきた力。
優しかった。誰よりも世界を愛する想いが、伝わってくる。
「……あなたたちの力、借り受けます」
立ち上る炎に消えていく妖精たちに、ユイは今一度手を組んで、目を閉じた。
どうか、彼らの魂が安らぎますように。穏やかに天へと昇れますように。そう祈りを捧げて。
「ドラゴンは、必ず、討ちますから」
その誓いこそが、ユイが彼らに捧げられる、唯一の供物なのだ。
成功
🔵🔵🔴
トリテレイア・ゼロナイン
装甲内の格納スペース、一番奥に大事にしまい込んだ手紙
小さな小さなそれが自身の全備重量を遥かに超える重さと感じるのは、去来する感情データに電子頭脳が焼き切れたせいなのか
竜への怒り? それとも、浮かれて砂糖菓子のような甘い被害予想図を描いていた自身への怒り?
「民を苦しめる竜」…御伽噺の在りがちな一節が重い
幸か不幸か機械の身、●スナイパーの腕に影響は無くUCで妖精達を次々と撃ち砕く
探す姿は手紙の届け先、山守の男の子。聞いていた人相の妖精を見つけて近づき、叫びを真正面から受けつつ、●怪力で振るう剣で一息に粉砕
遺品を回収し、竜を倒し、街の妖精に顛末を伝える
それを終えるまではこの身は謝罪すら許されない
「……どうして」
力なく呟いたトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、装甲に取り付けられたの格納スペースに触れた。
そこにしまい込まれているのは、小さな小さな手紙。妖精少女の想いが込められたそれが、今や彼の全備重量よりも遥かに重く感じる。
「どうして……私は」
ブレインに押し寄せる感情データが、よくない影響を及ぼしているのは分かっている。それによって、電子頭脳が焼き切れたのだろうか。
あるいは、山守の村に残虐なる崩壊をもたらした、竜への怒りか。
「私は、いつも――!」
それとも、小さな冒険者との約束に浮かれた挙句、あまりにも甘い被害予想図を描き、物語の主役にでもなったつもりでいた、己自身への怒りか。
妖精たちの言葉にならない嘆きの叫びが、構えた大盾に衝撃をもたらす。目の前で起きているそれすらも、遠い事象のように感じる。
『いいの!? ありがとう!!』
『はわわ、騎士道ですわ! ナイトですわ!』
妖精少女の笑顔が、記憶回路に焼き付いて離れない。彼女たちの期待は今や、竜の咆哮の前に夢と散ったのだ。
民を苦しめる竜という、御伽噺に在りがちな一節が、あまりにも、重い。
「……」
大盾を構えたまま、トリテレイアは格納機銃を展開した。金属音と共に開かれた銃口が、躊躇うことなく弾丸を射出する。
撃ち抜かれた妖精たちは、嘆きを止めることなく地に倒れ、異常と化した紫の血だまりを広げながら死んでいく。その光景に、彼の心もまた、暗く沈んでいった。
機械制御の銃口に一切の迷いがなく、正確無比に――そして無慈悲に、崩壊妖精の頭蓋や心臓を狙撃してくれるのは、幸運だったのかもしれない。
もしも狙いがぶれてしまえば、それは自分で死ぬことも許されない妖精たちの苦痛を、増やすだけなのだから。
弾幕を展開し妖精を撃ち落としながら、トリテレイアは左右を見回した。自然と探してしまうのは、手紙の届け先である、男の子だった。
銀の髪で、目つきが悪く鼻が低いと言っていた。まるで悪口のようだが、魔法使いのフェアリーは、とても嬉しそうだった。
恐らく彼も、今はもう。そう考えるたびに一縷の望みに縋っていたが、トリテレイアは、見つけてしまった。
井戸のそばで、母と思われる女性のフェアリーに縋って泣く、片腕を失った妖精の少年。銀髪が、崩壊の波動に揺れている。
妖精がこちらに気づく。鋭い目に、低い鼻。あの少女が言っていたことは、本当だった。
剣を抜き、盾を、下ろした。一歩近づくと、崩壊した少年が飛び上がる。
さらに一歩進む。妖精少年が、壊れかけている顔の口元を、大きく開けた。
絶叫が迸る。声に乗った崩壊の衝撃波が、トリテレイアに直撃した。危険を知らせるアラートが響く。
もし、もし機械の身でなかったなら。トリテレイアは考える。
涙を流すことが、出来たのだろうか。彼のために、彼女のために。
稲光に、儀礼用の長剣が輝く。近づくたびに妖精少年が崩壊の波動を放ち、ついに、彼の真下にいる母親が崩れた。
「……」
悲哀と絶望に満ちた少年は、叫びのたびに己の発する波動で崩れていく。左足が落ち、変色した血が溢れ出る。
彼が何度目かの絶叫を上げようとした瞬間、トリテレイアは剣を振り上げた。
一閃。怪力を以て振るわれた刃は、崩壊の波動が満ちる村に、一陣の風を吹かせた。
少年が、地面に落ちる。濁った紫の血の中で一、二度震え、そして動かなくなった。
遺体のそばにしゃがみ、崩れた母と並べて横たえ、仲間の戦闘音を背後に、トリテレイアは少女からの手紙を取り出し、囁く。
「……これを、あなたに持ってきました」
崩れてしまわないように、そっと服の懐に差し込む。そして、少年の手から腕輪を取った。
小さな小さな、トリテレイアの指にも収まらない、金細工。そっと格納スペースに納め、立ち上がり、少年と母親に背を向けた。
冥福を祈ることも、助けられなかったことを謝ることも、しなかった。
できない。できるわけがない。
竜を討ち倒し、あの妖精少女に真実を話すその時まで――。
トリテレイアは詫びる言葉すら、持つことができないのだ。
成功
🔵🔵🔴
露木・鬼燈
ああ、やはり竜は殺さなければならないっ!
その為にもこの場を何とかしないとね。
やるべきことはわかる。
気分はもちろんよくない。
でも、躊躇った分だけ苦痛が長引くのです。
解放こそが救いなら僕は躊躇わない。
苦しみも恨みも引き受け、連れていくです。
化身外装<竜喰>に生命力を喰らわせて強化。
苦しませないように一撃で。
魔剣一閃、肉体から解き放つです。
そして残されたものを取り込み、鎮めて、連れていく。
恨みを晴らさなければ救われない魂もある。
ただ開放のみを望む魂は破魔の力で祓い清めるです。
魔剣で妖精を斬り、攻撃を斬って祓って。
すべての妖精たちを解放し終えたら墓を作る。
そして、果物とお菓子を供えて祈る。
竜は殺す。
想像はしていたが、想像以上だった。
例えばそれは、死して骸の海に行くことも許されず、オブリビオンとなった妖精の、数である。
またあるいは、山守の村という結界を超えて世界に侵食を始めている、崩壊の波動である。
その原因が竜にあることは、もはや疑いようもない。
「あぁ、やっぱり」
魔剣を担いで、山頂を見上げる。暗雲の向こう側にいるだろう敵を思い、目を細める。
竜は、殺さなければならない。
「……そのためにも、まずはこの場を何とかしないとね」
崩壊妖精の嘆き悲しむ声は、そこかしこから聞こえてくる。言葉はもはや聞き取れないが、その意味するところは、はっきりと分かった。
彼らの声を聞いていると、剣が止まる気持ちも分からなくはない。だが、鬼燈は躊躇うつもりはなかった。
「躊躇った分だけ、苦痛が長引くのです。悪いけど――」
解放こそが、彼らにとって唯一の救いなら。
鬼燈の全身を、赤黒い炎が包み込む。身に宿す大百足の大妖と竜を呪う英霊とが、鬼燈の生命力を喰らい力を授ける。
生命が抜けていく感覚に身を浸しながら、鬼燈は漆黒の大剣を構えた。
「全部僕にぶつけてくるといい。苦しみも怨みも引き受け、連れていくです」
苦悶の限りを顔に浮かべ、その身を崩壊させながら、妖精が呪詛を叫ぶ。頭を抱え、友を抱き、父を、母を呼ぶ。
その悉くを、鬼燈は魔剣の一閃で葬り去った。胴や首を叩き斬られ、小さな妖精の体はなす術もなく粉砕していく。
異質と化した血に塗れながら、鬼燈はまるで踊るかのように軽やかに、しかし魔剣による重い風を引っ提げながら、行き場のない嘆きを肉体から解き放っていく。
器の呪縛から解き放たれた魂は、なおも崩壊の力に飲み込まれていた。鬼燈は彼らを、魔剣の中に取り込んでいく。
怨みを晴らさなければ、救われない者もいよう。ようやく死せることが叶った彼らなら、憎しみの連鎖となることもない。
骸の海に流れて消える前に、せめて少しでも、心を楽に。
ふと、鬼燈の刃が止まった。剣の先には、妖精の中でもひときわ小さな女の子がいた。
子供だ。彼女は鬼燈を見上げて、しきりに何かを叫んでいる。他の妖精と同じく、きっと嘆きを訴えているのだろう。
頭が痛む。わずかに浮かんだ哀れみの情を、慌てるでもなく殺した。そして、諭すように囁く。
「みんなを――解放し終えたら、お墓を作ってあげるっぽい。もちろん、君のもね。果物とお菓子も、お供えするですよ」
それによって救われる魂があるとは、鬼燈は思っていなかった。このような状況になり、どうして普通の方法で供養できよう。
だが、これからも生きていく者ができることに限りがあることも、事実だ。
それをすることでしか、人は死者も己も慰めることはできない。この戦いも含めて。
理解できないのだろう、幼い妖精はしきりに声を上げ、苦しみを伝えてきた。
「……おやすみ」
魔剣が動く。小さな女の子の妖精は、無慈悲な程にあっけなく崩れ、事切れた。
彼女の魂が魔剣に宿ったが、鬼燈はそれを解放した。破魔の力で祓い清め、天へと返す。
「この濁った空でも、真っすぐ進めば雲の先に出れるから。……迷っちゃダメですよ」
魂の行きつく先までは、知ることはできない。あとは、祈るだけだ。
だが、まだやるべきことがある。この村には今もなお、心も体も崩壊の恐怖に取りつかれた者が大勢いるのだ。
彼らを解放し、然るべき後に、幼い妖精との約束を守る。
そして――。
「竜は殺す」
魔剣の血を払って呟いたその声は、暗雲から轟く雷鳴すらも打ち消すほどに、低く、重かった。
成功
🔵🔵🔴
霑国・永一
ははぁ、廃人みたいなものか。敗北したのは仕方ないとして、此方の通行を邪魔をするのは宜しくないよ?いやぁ優しい俺は心が痛むなぁ(棒)
じゃ、後は宜しく頼むよ、《俺》
『ハッ!壊れかけを壊しきるたぁ、俺様にゴミ処理させんのかよ!ドラゴン前の準備運動にゃあいいけどよ!』
狂気の戦鬼を発動
高速移動を駆使しつつ敵の死角に回り、衝撃波を叩き込んで各個撃破をしていく。【ダッシュ・見切り・早業】
嘆きに対し、衝撃波を飛ばして相殺、または顔を狙って嘆かせないようにする。
「ハハハハッ!出発前に聞いた言葉を俺様は思い出したぜ!お前らもクソだ!弱肉強食の世界で負けたやつがゴチャゴチャ見苦しく生き恥晒してんじゃねぇぞ!!」
住まう者の精神すらも崩壊した惨劇の村において、霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)は異質な存在となりつつあった。
多くの猟兵が妖精たちの悲劇に悲しむ中、彼は明らかに、『正常』だった。周囲を飛び交い絶望の表情で嘆き叫ぶ妖精を見て、着ているパーカーのフードの下で、顎に手を当てる。
「ははぁ、廃人みたいなものか」
にやりと、笑う。我が意を得たり、といった様子だ。
まるで町中で出くわした知人に声をかけるかのように、永一は手を広げて崩壊妖精に歩み寄る。
「まぁ敗北したのは仕方ないとして、こちらの通行を邪魔をするのは宜しくないよ?」
妖精たちに、彼の言葉を聞く様子はない。どころか、悲嘆を受け入れようともしてくれない永一の周りには、今や何十にも及ぶ妖精が纏わりつくように囲んでいた。
にも関わらず、彼はオーバーリアクションに両手を広げてみせる。
「いやぁ、優しい俺は心が痛むなぁ。うん、悲しい。実に悲しい」
まったく感情の籠っていない声で笑ってから、周囲を飛び交う妖精を見上げて、永一は眼鏡のブリッジを軽く押さえた。
「……じゃ、後はよろしく頼むよ、《俺》」
瞬間、衝撃波が吹き荒れた。狂人じみた猟兵を取り囲んでいたフェアリーたちが、バラバラに引き裂かれ、砕け散る。
永一がパーカーのフードが、破壊的な風に煽られ、外れる。そこにあった瞳は、先程の飄々としたものではなく、戦鬼の如き殺意を持っていた。
「ハッ! 壊れかけを壊しきる、か。俺様にゴミ処理させんのかよ!」
不服そうな言葉とは裏腹に、永一――彼の中に潜むもう一人の彼は、嬉々とした様子で腕を振り、暴虐の衝撃波を放つ。
完全に崩壊して、魂までもが地に落ちる妖精を蹴り飛ばし、右手をゆっくりと握りしめ、ごきごきと音を鳴らした。
「ドラゴン前の準備運動にゃあいいけどよ。愉しめんのかこいつらはよぉ!」
それは、主人格とはまた違う、しかし明確な狂気の存在だった。
飛び交う妖精たちの間を縫うように素早く移動し、フェアリーたちの死角に入っては衝撃波を叩きこむ。
まとめられるならばまとめて、各個撃破ならばそれでよし。永一にとって、死することのできない崩壊妖精は、ただの的に過ぎない。
己の悲しみを訴えようと近づき口を開けたフェアリーが、その顔面に凝縮した衝撃波を受け、頭部を吹き飛ばされる。
力なく項垂れて落下する妖精の体を踏みつけ、永一は苛立たし気に吐き捨てた。
「うるせぇよ。誰の許可で喋ってんだてめぇは? あぁでも言葉話せねーのか!」
フェアリーを踏み砕き、頭上に回り込んでいた妖精を鷲掴み、手中に発生させた衝撃波で、そのまま砕く。
紫の血を頭上から浴びながら、永一は大声を上げて笑った。
「ハハハハッ! 出発前に聞いた言葉を俺様は思い出したぜ!」
崩壊妖精の死体をそこらに放った彼の脳裏には、グリモア猟兵の顔が浮かんでいた。オブリビオンを心底憎む、彼の言葉だ。
過去から染み出し、今を否定する存在。この崩壊妖精もまた、オブリビオンに違いない。そう、つまりこの死ねない連中は、グリモア猟兵の言葉を借りるとするならば――。
「お前らもクソってわけだ! ハッハァ! 弱肉強食の世界で負けたやつが、くたばりもしねぇでゴチャゴチャ見苦しく生き恥晒してんじゃねぇぞッ!!」
狂気の叫びと共に放たれた衝撃波が、顔を手で覆って泣いていた妖精の上半身ごと吹き飛ばす。
彼の物言いは、非道と思われるかもしれない。だが、その実正論であった。
いかなる尊い存在であっても、オブリビオンと化せば、本人の意思は関係なく世界を憎み、やがて滅ぼす存在となる。
今回の事件では被害者である妖精たちであっても、それは同じだ。例えその身と心をドラゴンの力に縛られているとはいえ、彼らは「死ねない」だけで、「死ぬべき」存在である。
もはや妖精たちの居場所は、骸の海しかありえないのだ。そして、そのために取る手段もまた。
永一を中心に吹き荒れた衝撃波の嵐が、嘆き悲しむフェアリーたちの体を徹底的に粉砕する。
もはや破片とすら呼べない妖精の亡骸対して、永一はとても面倒くさそうに舌打ちをした。
「グズグズグズグズ泣きやがって! 分かってんのかお前ら! 俺様が救ってやってんだぞ、優しいだろうが! えぇ!?」
それもまた真実であるが故に、誰も永一を否定することはできないだろう。
例えあんまりなやり方であり、心ない言葉を連ねていたとしても、だ。
「俺様がよ! 世界を救ってやるっつってんだよ! 笑えよおい、クソどもッ!!」
……彼は今、猟兵としてなすべき戦いを、正しく理解し、全うしているのだから。
成功
🔵🔵🔴
セルマ・エンフィールド
……流れで弓をそのまま持ってきてしまいました。
ですが、武器が弓であれ、銃であれ、相手が何であれ、邪魔をするのであれば撃つのみです。
『視力』の良さを活かし【千里眼射ち】の射程ギリギリから妖精を狙います。その位置で嘆きが聞こえないならそれでよし、聞こえる場合でもこの距離であれば音が到達するまでには4秒ほど時間がかかる。声を避けることはできませんがその間に耳を塞ぐくらいはできるでしょう。
後方で敵が見えやすい位置にいますし、挙動から攻撃に移ろうとしている敵を『見切り』、『スナイパー』技術を駆使した複数の矢の『一斉発射』で他の猟兵の『援護射撃』を。
助けることはできませんが、せめて痛みを感じる前に……
ユーフィ・バウム
※アドリブ歓迎
酷いことを……
せめて、その苦痛を終わらせてあげますからね
一度に多くの妖精から囲まれないよう立ち位置に注意しつつ
【なぎ払い】【衝撃波】で一度に多くの相手を攻撃します
仲間と連携を意識
敵からの攻撃は【見切り】、大ダメージを避け
避けきれなくても【オーラ防御】で耐え凌ぐ
全ての対象を攻撃するという叫びですが、
必ず絶え間はあるはず
耐えつつ、反撃の機会を逃さず、【ダッシュ】で
敵への間合いを詰め、 【怪力】を生かして
【力溜め】からの《トランスバスター》で倒していきます
必殺の一撃を打ち込んだ後は、すぐに離れ突出・孤立を防ぐ
このくらいしか、私たちにはできません、けれど
ドラゴンは、必ず私たちが討ちます!
風を切る音とともに飛ぶ矢が崩壊妖精の頭部を貫いたのを見て、セルマ・エンフィールド(終わらぬ冬・f06556)は止めていた息を吐き出した。
流れで持ってきてしまった弓だが、使ってみると悪くはない。銃に比べれば、どうしてもなじみは薄いが。
「武器が何であれ、敵が何であれ、邪魔をするのであれば、撃つのみです」
その言葉を言うのは何度目か。
声やその身から発する波動が脅威となっているとはいえ、崩壊していく妖精たち自身に、戦う意志はない。そうした者を撃つのは、気が引ける。
だがそれでも、セルマは弓を引く。山を守り続けたフェアリーは今、打倒すべき障害なのだ。
セルマの射程内では、ユーフィ・バウム(セイヴァー・f14574)が巨大な武器「ディアボロス」を振り回していた。
凄まじい腕力から振るわれる一撃は、衝撃波を伴って、泣き叫ぶ妖精たちを吹き飛ばす。討ち漏らしは即座にセルマの弓によって射抜かれた。
戦闘開始からこれまでの時間で、二人は相当な数の妖精を死に帰してきたが、今もまだフェアリーたちは、どこからか姿を現わす。
村の規模からすると、その数はいささか多いように感じる。召喚などの魔法により数が増えているのか、その原因は分からない。
「分からないけど――やるしかありませんっ!」
振り抜いた武器の反動に合わせて跳躍し、ユーフィはその勢いのままに蹴りを繰り出す。鍛え抜かれた足の直撃を受け、すでに左の手足を失っていた妖精は、完全に事切れた。
着地と同時に、全身に防御のオーラを展開する。直後、正面にいた崩壊妖精が声にならない叫びを放ち、崩壊の波動が衝撃波となってユーフィを襲う。
「くぅ……っ!」
周囲の地形を容赦なく破壊する波動を耐え、後方へと叫んだ。
「セルマさん!」
「射抜きます……!」
神経を集中させ切ったセルマが、矢を放つ。一直線に飛んだ矢は、逸れることなく妖精の喉を貫き、その声を止めた。
防御を解いて、ユーフィが巨大な武器を振るいつつ後退する。緩んできた弦を張りなおすセルマと合流し、頬を流れる汗を拭った。
豊満ながら鍛えているだろうことが見て取れるユーフィだが、わずかに息が上がっていた。
残りの矢を確認しながら、セルマは落ち着いた声音で尋ねた。
「大丈夫ですか? 無理せず休憩を」
「ううん。まだ、やれます!」
気丈に笑うユーフィに、セルマはそれ以上詮索せずに頷いた。
嘆き悲しむ妖精を至近距離で葬らなければならないのだ。まだ幼さの残るユーフィは、体力以上に精神力を摩耗しているだろう。
だからこそ、距離を取って戦える自分が重要な位置づけになると、セルマは自覚していた。
「最大限のフォローはします。射線にだけ気を付けてください」
「うん、ありがとうございます!」
街で買った水筒で水を飲んだユッフィーが、口元を拭いながら笑った。元気な人だなと、セルマは心底感心する。
いつまでも休んではいられない。戦う意志こそ見せないが、妖精たちの嘆きは徐々に広がっている。下界の街まで届いてしまえば、悲劇はいつか収拾がつかなくなってしまうだろう。
それだけは、阻止せねばならない。立ち上がったセルマが、弓に矢を番える。
「助けることはできませんが、せめて痛みを感じる前に――」
放たれた矢が、戦闘再開の合図となった。
セルマに射抜かれた同族に悲鳴を上げた妖精が、その叫びを崩壊の力と変えて、周囲に甚大な被害をもたらす。そのただ中に、ユーフィが飛び込んだ。
武器を地面に叩きつけると、舞い上がる土煙とともに衝撃波にが巻き起こり、至近距離にいた妖精たちがバラバラに消し飛ぶ。
変異した紫の血が飛び散る中で、大地に突き刺さった得物から手を離したユーフィが、腰だめに拳を構え、徒手空拳の戦いに切り替えた。
死にゆく仲間たちを見て嘆く妖精たちが、ユーフィを取り囲もうと飛び寄る。そこへ飛来する、幾本もの矢。雨のように降り注ぎ、ユーフィだけを綺麗に避けて、妖精たちを撃ち落とす。
複数の矢を同時に番えて弓を引き、セルマは目線を狙い一点から決して逸らさず、誰ともなく独りごちた。
「意外と、弓も悪くありませんね。選択肢の一つとしては……ありです」
ばらまかれるように撃たれた矢が、放物線を描いて暗雲の下を飛ぶ。その矢はすべて、妖精の崩壊する体を穿った。
矢は大量に買ってある。それでも無駄遣いしないよう必要数だけを手に取って番え、タイミングを見極めて放つと同時に、呟く。
「どうか、安らかに」
矢の軌道を見つめるセルマの表情は、とても冷静に思えるものだった。だが、その言葉に乗せた嘘偽りのない想いは、正確無比な矢たちが、きっと妖精に届けてくれるだろう。
見事な射撃の援護を受けながらも、ユーフィは体が少しずつ重くなっているのを感じた。体力よりも、精神的にきつい。一切を崩壊せんとする波動が、彼女の心も蝕んでいるのだ。
だが、止まらない。握りかためた拳で、次々に妖精たちを殴り倒していく。その手に走る感触は、決して喜べるものではない。それでも、忘れてはいけないものだと感じる。
突出しすぎないよう、援護の矢が届く間合いを心がけながらも、そこは彼女の独壇場となりつつあった。
突き出される拳は、常に全力だ。絶望に苦しみもがく女性のフェアリーが、その威力を受けて直撃した左半身を粉砕し、残された右半身が壊れた人形のように、力なく大地に落ちた。
竜の力によって崩壊しかけているとはいえ、あまりにも残酷な最期をもたらした事実に、ユーフィは自分の唇が悲しみに震えるのを感じた。
くじけてはいけない。戦うのだ。何度も自分に言い聞かせて、強く、強く叫ぶ。
「ドラゴンは、必ず――私たちが必ず、倒しますからっ!」
しなやかな体躯を舞わせるように回転、遠心力を加えた裏拳で崩壊の衝撃波を打ち払い、泣き叫ぶ妖精の顔面を吹き飛ばす。
例え残酷であろうとも、二人は妖精たちが痛みを感じることなく逝けることを優先した。頭蓋を穿ち、心臓を打ち砕き、確実に一撃で仕留める。
戦闘という意味においては、一方的な展開だった。嘆きの叫びを発する妖精は、もはやその数を減らしつつある。
積み上がる、フェアリーの遺体。それらを踏みつけないように立ち回りながら、ユーフィはどうにもならないやるせなさを、口から零す。
「戦うことしか、私たちにはできません。けれど……!」
放たれた破壊の叫びをオーラで防ぐユーフィの表情は、俯いていて見えない。心の動揺に差はあるかもしれないが、思うところは同じだろうと、セルマは思った。
だから、仲間の想いを繋ぐように、言葉を紡ぐ。
「私たちには、それができるから」
戦い続けるのだ。彼らの分も。例えこの身がいくら傷つこうとも――。
悲劇の村に終焉をもたらし、ドラゴンを、必ず討つ。
矢を番える。拳を握る。二人は悲劇が静寂に埋もれるその時まで、戦い続ける。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アストレア・ゼノ
◆SPD/アドリブ歓迎
竜の犠牲になった集落を初めて見たって訳じゃないが
……これは殊更非道いな
思う所は有るが、私に出来るのはせめて手早く終わらせてやるくらいだ
「声」が防げないなら「嘆き」を防がせて貰う
持ち前の【鋼の心臓】で【覚悟】を決め
どんな「嘆き」だろうと「回避」する
ただ鼓膜が痛むだけなら【激痛耐性】でどうとでもなるが
相手が残り何人潜んでいるか分からない以上は
こちらの力が弱まるのは防がせて貰うつもりだ
直接的な攻撃は【見切り】【野生の勘】【残像】で躱し
【カウンター】【串刺し】【なぎ払い】でただ粛々と彼らを仕留めよう
竜退治の前か後かは状況に寄るが、
彼らの事はちゃんと弔ってやりたいな
レギーナ・グラッブス
WIZ/悩んだところでどうしようも無いので割り切って戦うとしましょう。種族柄、職業柄感情を制御するのは割と得意です。命中率の高いジャッジメントクルセイドを用い、確実に数を減らす事に注力、近づかれたら杖で迎撃、気絶しそうなら気絶攻撃も使用します。また、他の方々とも協力してこの場を切り抜けます。必要に応じて連携を取るかもしれません。戦闘中や戦闘後に崩壊妖精や崩壊した村を観察してヴァッフェントレーガーについて情報収集できないか試みます。ここで力を振るったのか漏れ出た力なのかはわかりませんが、ここまでの被害があるなら痕跡から推測できることがあるかもしれません。また、余裕があれば山守達に祈りを捧げます。
竜という猛威の犠牲を見るのは、初めてではない。だが、それにしても。
「……これは、殊更非道いな」
悲鳴と絶叫に満ちる惨状に、アストレア・ゼノ(災厄の子・f01276)は思わず呟いた。
ただ強大なドラゴンというだけであれば、物理的な打撃こそ甚大であれ、このような、名状しがたい惨状は生まれない。
無論、どちらが良いという話ではない。人と妖精という体の差はあれど、同じ精神に重きを置く存在として、その根幹を破壊された者たちを前にすれば、眉を寄せたくもなるのだ。
隣に立つレギーナ・グラッブス(人形無骨・f03826)も白木の杖を手に頷いて同意を示す。だが彼女は、表情をほとんど変えていない。
「確かに。ですが、悩んだところでどうしようも無いので、割り切って戦うとしましょう」
淡々とそう言えるのは、彼女がミレナリィドールという種族であり、また職業柄でもあった。
この状況において、レギーナの冷静さはありがたい。アストレアが「あぁ」と答え、尾の長い白竜を竜槍へと変じさせた。
「そうだな。思う所はあるが、私に出来るのはせめて、彼らを手早く終わらせてやるくらいだ」
槍を構える。崩壊妖精の嘆きにさらなる覚悟を決めて、視線はまっすぐ標的に向けたまま、アストレアは強く言った。
「レギーナ、援護を頼む」
「わかりました」
返答を受けるや、アストレアが飛び出す。頭を抱えて嘆きの声を上げ続ける崩壊妖精の、小さな小さな心臓を一突き、葬る。
これまでの叫びが嘘のように沈黙して倒れる妖精を見もせずに、真横への薙ぎ払い。穂先が空中を飛び回っていた妖精を切り裂く。
「思った以上に多いな……」
「確実に数を減らしていきましょう」
レギーナが言うと同時に人差し指でフェアリーを示し、飛び交う彼らをなぞるように空を撫でる。
指先が指した妖精たちに、暗雲を切り裂いて現れた白光が突き刺さる。天から降り注ぐ光は浄化の光であり、また天罰でもあった。
直射を受けた崩壊妖精たちは、なす術もなく蒸発していった。果たして死を得た彼らが救われたのかどうか。
「……そう信じたいものだ」
穂先を紫の血に染めながら、アストレアは苦々しく呟いた。
嘆き苦しむ山守の妖精たちに飛び込んだ彼女は今、崩壊の波動が伴う声ならぬ嘆きを全身に受けている。
妖精の悲哀が心の奥底まで染み込んでくる。持前の鋼の心臓で耐えているが、油断すれば精神を破壊されてしまいそうだ。
ただただ悲しむばかりの妖精は、直接的な攻撃をしてこない。その彼らに槍を振るわなければならないこともまた、堪えた。
だが、だからこそ、ここで終わらせなければならないのだ。悲劇を広めてはならない。
アストレアは粛々と、その一撃で彼らが解放されていることを祈りながら、槍を振るい続ける。
天からの光を降り注がせて援護に徹するレギーナも、心は静まっているとはいえ、彼らに何も思わないわけではない。
わずかな頭痛に、顔をしかめる。若干でも同情の念があると、妖精たちの崩壊の嘆きが割り込んでくるのだ。
すぐ近くを飛び交う男のフェアリーが、崩れる体を掻き毟りながら苦痛の声を上げている。レギーナは白木の金剛杖を振り上げた。
「……んっ」
威力こそ高くはないが、長く頑丈な杖の打撃は、崩れかけの妖精を黙らせるには十分だった。
頭に八角の杖を叩きつけられた妖精は気を失ったようだが、落下の衝撃で胴体が崩壊し、その命を終えた。
「……」
精神と肉体をこうも脆く破壊してしまうとは。前線で戦うアストレアを援護しながら、レギーナは戦場に満ちる波動から、崩竜ヴァッフェントレーガーの力の痕跡を探る。
さすがにドラゴンだけあり、村の物理的損壊も相当なものだ。家屋はほとんどが原型をとどめておらず、その壊れ方も巨大な物体に押しつぶされたようだった。
そこかしこに見える妖精の遺体も、猟兵たちが葬ったものだけではない。崩壊の力で崩れて死んだ者もいれば、巨大な爪で切り裂かれている死体や噛み千切られた者も見える。そうした亡骸は、ほとんどが武器を持っていた。無謀と知りながらも、戦い抜いたのだろう。
ふと、レギーナは考える。彼らはどうやって、崩竜を封印していたのだろうか。
周囲を飛び交う妖精の最後の一人を貫き、穂先を向けて残心の姿勢を取ったアストレアが、息をついて顔を上げた。駆けてきたレギーナに、振り返る。
「ここらは粗方終わったな。だいぶ静かになったが、まだ、いるかもしれない。他を当たってみよう」
「えぇ。ですがその前に、少し気になることが――」
疑問を口にするレギーナに、アストレアは周囲を警戒しながら顎に手を当てて、「確かに」と小さく言った。
「彼らは竜を抑える術を知っていた。それが分かれば……ヴァッフェントレーガーと有利に戦えるな」
「そう思います。少し、探索をしてみませんか?」
「分かった。仲間が得た情報によれば、供物を捧げるという話だから、儀式的なものを行なっていたのかもしれない。祭壇か、それに類するものを探そう」
白竜の槍を握りしめたまま、アストレアを先頭に、二人は歩き出した。
妖精の家屋は、当たり前のことではあるが、小さい。その中に入ることはできないし、そうでなくとも破壊されてしまっている。
時折瓦礫から飛び上がる崩壊妖精もおり、警戒しながら歩を進める。見かける死体の中には、崩壊の波動に晒される前に命を終えられた者もいた。
彼らの冥福を祈りつつ、二人は一定の方向に歩いていた。互いに何も言わなかったが、そちらになにかがある気がしてならないのだ。
誰でも感じられるほど、濃厚な異常の力が残っている。その波動に引き寄せられるように、アストレアとレギーナは村の奥へと進んでいく。
そして、足を止めた。
「……これは」
目を見開いて、レギーナが呟く。
それは、杭であった。大木と見紛う大きさの鉄杭は、乾いた土に塗れていた。深々と突き刺さっていたことと、抜けてからしばらく時間が経っていることが分かる。
巨大な杭の下には、砕けた白い石の台座が見えた。果物が散乱しているところを見ると、供物を捧げる儀式の台座だろう。二人が引きつけられた力は、そこから発せられていた。
刺さっていたと思しき穴は、ない。アストレアが杭を見、そして暗雲の先にある山頂を見上げた。
「あそこから、か」
「そうだと思います」
己を封じていた鉄杭が、偶然この場に落ちてくるとは考え難い。封印を解いたドラゴンが、見せしめの如く儀式台に叩きつけたのだろう。
そして、彼らは滅ぼされた。なす術もなく。
「……この杭から、何か力を感じ取れないだろうか」
アストレアが言うも、レギーナは杭に軽く手を触れ、首を横に振った。
「残念ですが、そうした痕跡はありません。……恐らく、『崩壊』したのでしょう」
「くっ、ドラゴンめ」
悔しげに吐き捨てて、アストレアは空を見上げる。
竜を倒すための有益な方法は、見つからなかった。しかし、世界を守るという彼らの信念を、二人は確かに受け継いだ。
鳴り響く雷鳴――否、竜の咆哮に、レギーナとアストレアは暗雲を睨み付け、死した妖精たちに誓う。
必ずや、ヴァッフェントレーガーを打ち破ると。
世界は絶対に、守り抜くと。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第3章 ボス戦
『崩竜・ヴァッフェントレーガー』
|
POW : ネーベルヴェルファー
【自身の周囲に生じた魔法陣】から【何もかもを“崩壊させる”火球】を放ち、【超遠距離からの面制圧爆撃】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD : ヴィルベルヴィント
【顎】を向けた対象に、【消失や崩壊を与える速射のブレス】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ : ホルニッセ
【自身の“崩壊”すらも省みない状態】に変形し、自身の【射程距離】を代償に、自身の【巨体による攻撃力や機動力】を強化する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠フォルティナ・シエロ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
真横を駆け抜ける稲妻に臆することなく、猟兵たちは山頂を目指す。
そして、暗雲を抜けた。山頂は、広大な空間となっていた。巨大なクレーターがあるが、それが火山活動の物でないことは、すぐに分かる。
何かがいたのだ。ここに、封じられていた。
上空から、雷鳴に似た音が轟く。猟兵たちは武器を構えて、空を見上げた。
翼を羽ばたかせ、憎悪を崩壊の波動に変えて迸らせる、竜。巨大だからというだけではない威圧感が、猟兵の肌をひりつかせる。
噂の根源にして、悲劇の元凶。今も未来も、全てを崩し破壊せんとする者。
崩竜ヴァッフェントレーガー。
奴が、猟兵たちを捉えた。
口を開ける。世界が震える。
竜哮が、轟く。
※参加者各位 しばらく更新が難しくなるかもしれません。プレイングが流れてしまった時は、再度お送りください。
エーカ・ライスフェルト
強いけど倒すのを諦める程度ではないわね
「どうせ妖精以外も壊したのでしょう。そろそろ壊れてお仕舞いにしなさい」
【精霊幻想曲】で「土」と「突風」を合成して敵の予想進路上に撃ち込むわ
ダメージを与えるという目的もあるけど、主な目的は足止めよ
速度優先で土まみれにして、速度を落とすのと一時的目つぶしができたら理想的展開ね
足止め出来たら【念動力】をとにかくぶつけるわ
引っぱたくのでも、押し止めるのでも、突くのでもなんでもいい
敵のUCは発動中に敵にダメージがありそうだから、【精霊幻想曲】との組み合わせで効率的に時間を稼ぎたい
できれ宇宙バイクを【運転】して、距離をとりながら攻撃を行いたいわ
「前衛と組みたい場面ね」
露木・鬼燈
我が武は竜殺しのために。
化身外装<竜喰>
竜を前にした時の力と意思の高まり。
以前は強引に従えた。
でも、それでは不十分っぽい。
従えるのでも呑まれるのでもなく。
竜を殺すために力と意思を束ねて…
違うな、一つの<竜喰>という存在になる。
それが目指すべき境地っぽい!
ん?そうだね、オルトリンデ。君も一緒だよね。
化身外装・真の姿・魔剣。力を巡らせ、整え、増幅する。
…未だ完成には至らず、か。
それでも竜を殺すには十分、僕はそう信じる!
竜に向かって全力疾走。
遠距離攻撃を躱し、防ぎ、潜り抜けて剣の間合いへ。
竜の攻撃はすべてが僕を殺し得る。
それでも恐れない、止まらない。
幼い妖精との約束。
そのためにも…竜は殺すっ!
天蓋を穿たんとするような竜の咆哮が、崩壊の衝撃波をまき散らす。崩竜ヴァッフェントレーガーは、己こそが天空の支配者であると言わんばかりに、上空から猟兵たちを睨み付けている。
山頂の岩肌が砂と枯れていくのを横目に、エーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)は宇宙バイクのハンドルを捻る。
「確かに驚異的だけれど、倒すのを諦める程ではないわね」
「です。まぁ無理っぽくてもやるんだけど」
背後から聞こえる耳慣れた声は、何度も同じ戦場を戦ってきた露木・鬼燈(竜喰・f01316)だ。いつもどこか飄々としている彼だが、今日はどうも滾っている。
鬼燈が纏う漆黒の鎧から迸る力は、非常に禍々しい。彼を乗せている形のエーカですら、その背筋に冷たいものを感じるほどだ。
「ずいぶんやる気ね」
「まぁね。いろいろと思うところがあるから」
「そう」
仲間とはいえ、エーカはそれ以上興味を示さなかった。互いに過干渉となるのは好きではないし、なにより、そんな暇はない。
竜が吼え、その咢を二人に向ける。口が開かれた瞬間、エーカは急加速しつつハンドルを切った。
得体のしれない巨大な力が、先ほどまでバイクがいた地点を抉る。その先にあった巨岩が砂塵の如く崩れていった。
ブレスだ。直撃すれば命の保証はないその破壊力を目の当たりにしても、二人は顔色を変えなかった。
後部座席に鬼燈が立ったのを感じ、エーカは口元に笑みを浮かべる。
「それじゃ、始めましょうか」
「ぽい」
空を旋回する崩竜の正面に回るようバイクを走らせ、一定の距離は保ちつつ、エーカは大気に漂う精霊たちに力を迸らせた。
「世界が崩れるところを見たくなければ、手を貸しなさいッ!」
途端、走るバイクの横で大地が隆起し、爆ぜた。砲弾の如き土塊が、巻き起こった突風に乗って空へ舞い上がり、ヴァッフェントレーガーの進行方向を遮る。
苛立ちか怒りか、竜はブレスを放って土塊を粉砕し、飛行しながら雷鳴の如く咆哮した。
精霊たちの力を得た土と風は、ヴァッフェントレーガーの動きを読み反撃を封じるように、土塊を打ち上げる。
しかし、ドラゴンは伊達ではなかった。ブレスを放ちながら土弾の中に突っ込み、その悉くを身一で砕いていく。
「まぁ、そう簡単にはいかないわよね」
「エーカさん、僕を空に」
後ろからどこか焦れているような声を上げた鬼燈に、バイクを運転しながらエーカは頷いた。
「えぇ。やはり前衛がいないときついわね。でも、空中戦よ。やれるの?」
「足場を作ってもらえれば、いくらでもやってみせるです」
「頼もしいわね。じゃ――」
大地が爆ぜて、土塊が生まれる。鬼燈がそこに、飛び乗った。
瞬間、エーカは風の精霊をひっぱたくように、その力を解放させた。
「行ってらっしゃい!」
吹き上がる風が、鬼燈ごと土塊を空へと飛ばす。その最中、鬼燈は体に宿る大妖と英霊が滾っているのを感じていた。
以前、竜を繰る者と戦った時もそうだった。ただ、あの戦いでは、無理やりに従えて力を引き出す形になった。
それでは足りなかった。戦いには勝利したが、竜を殺したという実感は得られていない。
従えるのではない。呑まれるのでもない。重要なのは、我が身に宿す力と意志を束ねて――。
「違うな」
正面に現れた竜の顔。鬼燈を見ている。
「僕らは、一つになる」
完全なる、<竜喰>という存在に。
彼の力が、呼応する。心臓が荒れ狂う怒涛のように脈打ち、全身に得も言われぬ感覚が満ちていく。
飢えている。眼前の竜を、鬼燈の全てが、欲していた。
「喰ってやる――」
土塊が爆散する。鬼燈が蹴ったのだ。
空中で突進、漆黒の魔剣を脇に構えた刹那、ヴァッフェントレーガーが口を開いた。
身を捻る。駆け抜ける崩壊のブレスが、その先にあった雲を塵も残さず消し飛ばす。
エーカの土塊が足元に現れて着地、竜の背を目がけて跳躍。漆黒の剣を振り下ろす。その動作の最中で、鬼燈は上から叩きつけられた。
尾だ。巨大な体躯でありながら、凄まじい俊敏性で回転した竜の尾が直撃し、鬼燈は地面に激突した。
巻き上がる土煙目がけて急降下するヴァッフェントレーガーへと、バイクを駆るエーカが手を伸ばした。
「お預けよ、トカゲさんッ!」
全力で放たれた念動力が、ドラゴンの横面を殴りつける。転倒させるには至らなかったが、狙いが逸れたドラゴンは吼えながら上空に退避した。
鬼燈が叩きつけられた地点に急ぐと、彼はまだ土に半分埋もれていた。黒い兜のせいで顔は見えなかったが、意識がないように見える。
「生きてる? 死んでいたら返事をしてちょうだい」
「ベタな冗談っぽい」
あっさりと答えて、鬼燈は跳ね起きた。相当ダメージはあるだろうに、そうした素振りはまったく見せない。体の土を落としながら、改めて魔剣を握りなおす。
「うーん、まだ届かないな」
「タフねあなた。普通なら死ぬわよ」
「普通で竜は喰えないっぽい」
冗談には聞こえない声音で言って、鬼燈が竜を見上げる。空で旋回し、こちらに狙いを定めていた。
バイクに跨って、エーカは尋ねた。
「もう一度やるのかしら」
「お願いできるです?」
「いいわよ、食いしん坊のドラゴンキラーさん」
大地の精霊に力を注ぐ。広範囲の地面が爆散し、空中に巻き上げられた土塊を足場に、鬼燈が空へと跳んでいく。
エーカはさらに風を巻き起こした。土がヴァッフェントレーガーの体に付着し、その重みを増していく。鬱陶しげに咆哮するたびに、竜の体表が崩れる。
「放っておけば、そのうち自壊しそうだけれどね」
その前に世界が甚大な被害を被る可能性を、否定できない。それに、今さら鬼燈を止められる気もしない。
ドラゴンと距離を取りながら、鬼燈が仕掛けるタイミングで念動力を叩きつける。竜の巨体が揺らぐと同時に、漆黒の魔剣が煌めいた。
黒い刃がヴァッフェントレーガーの体表を撫で、その身を削る。が、浅い。身に宿す呪いと一体になりながらも、鬼燈は未だ力が及ばないことを実感していた。
「まだ足りない……」
暴れる竜の背を蹴って跳躍、巻き上げられる土塊を渡り跳びながら、握る魔剣を見つめる。
漆黒の刃が、怪しく輝く。見慣れたはずの光沢に、鬼燈はふと、気が付いた。
「あぁ、そうか」
反転した竜が、大口を開ける。魔剣の輝きが増していく。
「そうだよね、オルトリンデ。君も一緒だよね」
放たれたブレス。同時に、鬼燈は漆黒の剣オルトリンデと掌が一体になったような感触を覚えた。
化身外装、真の姿、そして魔剣。すべてが、つながった。
黒い一閃が、天空を切り裂く。崩壊のブレスを、斬った。
躊躇いなく土塊を蹴り、反動を利用してヴァッフェントレーガーに肉薄する。正面だ。鬼燈は剣を構えた。
竜が体を捻る。前腕の爪が持ち上がる。防ぐか、斬るか。
「……」
鬼燈は、どちらもしなかった。する必要がないと判断したのだ。
直後、ドラゴンが跳ね上がった。真下から不可視の巨大な質量に撥ねられたかのような挙動だ。
直下に、エーカがいた。バイクを止め、拳を真上に突き上げている。
「たまには力技もいいわね」
そう呟いた声は、竜には届かない。届かずとも、彼女は笑って見せた。
またとない好機だ。兜の奥で、鬼燈は目を見開いた。己が身に宿す一切の力が、漆黒の刃に伝播する。
恐れない。止まらない。止まることなどできない。エーカが巻き起こす土塊の嵐の中を、突き進む。
上空に飛ばされたヴァッフェントレーガーが体勢を整え、急降下の姿勢に入る。土塊を足場に、鬼燈は跳び上る。
真上から放たれたブレスに、体を回転させながら飛び込む。つむじ風の如き漆黒の刃が、崩壊の波動を切り刻む。
脳裏に過ぎるのは、妖精の村での出来事だった。小さな、あまりにも小さな妖精との約束。
果たすために、成すべきことは、一つ。
「竜は――殺すッ!」
黒い刃が奔る。ヴァッフェントレーガーが身をよじり、刃先がわずかに逸れる。体表を走る刃の軌跡を追うように、崩壊し変質した紫の血が舞う。
浅くはないが、致命傷ではない。鬼燈は舌打ちしながら空中で体勢を整え、地面へと落下した。
見計らうように走り抜けた宇宙バイクに着地すると、エーカが追撃のブレスを放とうとするドラゴンへ念動力を叩きつけた。
バイクで間合いを離しつつ、彼女は鬼燈に振り返る。
「どう? お腹はいっぱいになった?」
「んー、手応えはあったんだけどね。まだ、完成には至らないっぽい」
「あら、残念ね」
言うものの、鬼燈もエーかも、さして不満そうではなかった。
戦いは始まったばかりなのだ。神とすら呼ばれたドラゴンを、簡単に仕留められるとは思っていない。
バイクを止めて、二人は天空で猛る竜を見据えた。共に戦う猟兵たちが、敵を攻め立てる。
ヴァッフェントレーガーの咆哮が、霊峰を揺るがす。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
駆爛・由貴
へっ、ずいぶんとまぁキレてるみてーだな、ドラゴンさんよ
けどな、俺も結構頭に来てるんだぜ?
バサンとオンモラキを発進させたらミストルティンを構えて同時に奴を狙う
装備に魔力を通して身軽になったらアイツのUCを警戒しながら距離を取って遠距離からの狙撃を中心にしてブッ叩くぜ
崩れるんならなぁ、テメェだけで崩れてやがれ!!
ホルニッセが発動してアイツが崩壊しながら攻撃を仕掛けてきたら見切りで攻撃を躱しながらジャンプで距離を取りつつこっちもUCを発動
ミストルティンの誘導弾やバサンやオンモラキの射撃も交えてアイツに砲撃の雨を食らわせるぜ
テメェに百倍返しするって
アイツらにも約束したからな
アドリブ・連携歓迎
トリテレイア・ゼロナイン
※ボロボロ
私には果たすべき責務があります。麓へは行かせはしません、絶対に
●スナイパー技能で牽制射撃しつつ、爆撃やブレスを●盾受け●武器受け、UCを展開して仲間を●かばい、自らの身体で安全地帯を確保
(装甲真っ黒)
私が動けないことを見抜き状況を打破する為、接近戦に移行するでしょうね
攻撃をスラスターでの●スライディングで回避しつつワイヤアンカーを●ロープワークで絡ませ巻き取り竜に●騎乗
脚部パイルと●怪力で組み付き、自身を●ハッキング、リミッター解除
杭が刺さっていた箇所、治癒したての薄い表皮に腕部銃器を撃ちながらフレームの伸縮機構も使用した貫手を繰り出します
妖精達の封印が齎した滅びを受けてもらいます!
大きな傷を負った崩竜ヴァッフェントレーガーが、天高く舞い上がった。
紫の血は地面に辿り着く前に崩壊し、消えていく。竜の声が響くたびに、聳える霊峰が崩れる。
「へっ、ずいぶんとまぁキレてるみてーだな、ドラゴンさんよ」
二機の自律ポッドを従えた駆爛・由貴(ストリート系エルフ・f14107)は、激昂する崩竜を見上げた。
随分と高くまで飛んでいるが、まさか逃げるわけでもないだろう。左手に握る漆黒の化合弓を構え、装備に魔力を通す。体が空気のように軽くなる感覚の中、由貴は天を狙う。
「けどな……俺も結構、頭に来てるんだぜ」
魔力が矢を形成し、狙いのままに、放たれる。天空目掛けて直進した矢の狙いは、正確だった。
ヴァッフェントレーガーの反応は素早い。殺気に気づき羽ばたいて、魔力の矢を回避する。わずかに足をかすめたが、あの程度ではびくともしないだろう。
だが、気を引くきっかけにはなった。由貴に気づいた崩竜が叫び、山を揺らし大気を崩壊させながら、急降下を始める。
自身が纏う崩壊の波動により、ヴァッフェントレーガーは体を崩し始めている。全力で戦うと、己が身を維持することができないのだろう。
ふざけた話だと、由貴は思った。その力のせいで、どれほどの命が失われたと思っているのか。
「崩れるんならなぁ……、テメェだけで崩れてやがれッ!」
弓を射ると同時に、二機の自律ポッド『バサン』と『オンモラキ』が竜に接近、高威力の射撃を開始する。
しかし、由貴の矢も自律ポッドの火砲も、降下するドラゴンが纏う崩壊の力がバリアとなって消えた。
敵はもう眼前だ。直撃したら負傷は必至、噛みつかれでもしたら死に至るだろう。
飛び退ろうとした、瞬間、由貴の眼前に巨大な影が割り込んだ。スラスターの疾走音と土煙を引っ提げて現れた人影が、身の丈ほどはあろうかという盾を構えた。
衝突、とてつもない衝撃波が巻き起こる。しかし、その盾はドラゴンを受け切った。
「行かせません」
淡々と、しかし非常な覚悟を以て、その盾――トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、すぐ目の前にいる崩壊のドラゴンに言った。
「私には、果たすべき責務があります」
押し返し、斬りつける。剣の刃は鱗の隙間に滑り込み傷をつけ、巨大な竜を押し返す隙をもたらした。
大盾で無理矢理上空へ押し戻して、ひしゃげた盾を構えなおしながら、トリテレイアは崩竜を見据える。
「麓へは行かせはしません。……絶対に」
上空へ飛んだヴァッフェントレーガーが、由貴とトリテレイアを睨みつけ、忌々し気に吼える。その声を聞きながら、由貴は笑った。
「悪いなトリテレイア! 助かったぜ」
「お気になさらず。とはいえ――今のはまだ、序章というところでしょうが」
羽ばたいて猟兵たちを見下ろすドラゴンの周りに、崩壊の力が凝縮している。由貴はそれを吐き気を催しそうな感覚で知覚し、機械の身であるトリテレイアですら、危険を感じていた。
黒い弓を引き、由貴が片眼をつむった。
「野郎、気持ち悪い魔力を出しやがるぜ」
「狙えますか?」
「任せとけって!」
迷いなく放たれた魔力の矢は、崩壊の波動を突き進むよう強化していた。集中に若干時間を要したが、これならば届くと、由貴は確信していた。
実際、矢は崩壊の波動を突っ切って、ドラゴンを穿たんと天に登っていく。誰もが命中を思った。
が、魔方陣の魔力が膨れ上がったと思った刹那、魔力の矢は空中で霧散した。
「……は? おいおい、マジかよ」
「これは……!」
二人が見上げた先、ヴァッフェントレーガーを取り囲むように現れた魔方陣から、巨大な火球が複数、浮かび上がる。そのどれもが強烈な崩壊の波動を持っていた。
まずいと思った刹那、竜の咆哮を合図に、火炎の球が落下を始める。一気に速度を増し、山頂を破壊尽くさんと迫る。
由貴の自律ポッド二機による射撃をものともせず、崩壊の火炎は凝縮し、二人の頭上に迫る。
凄まじい熱波の中、トリテレイアが大盾を構え、由貴が慌ててその腕を掴んだ。
「ちょ、正気かよ! あんなの防ぐつもりでいんのか!?」
「防ぎます。由貴様は私の後ろに」
「馬鹿野郎! ここは一旦――あぁもう間に合わねぇ!」
やけくそ気味に叫ぶ由貴を無理矢理かばいながら、トリテレイアが大盾を火球へと向けた。
足を踏みしめ身構えた刹那、煉獄の炎と大盾が接触した。尋常ならざる熱量に、ブレインがすぐ危険のアラートを鳴らし始めた。
炎の塊が膨張し、由貴が何か叫んだ瞬間、一切を崩壊せんとするような大爆発が巻き起こった。山頂が抉れ岩石が吹き飛ぶ。
熱波の向こうから竜の叫びが聞こえる。トリテレイアの陰で必死に耐える由貴は、それが勝ち誇った声に聞こえた。
やがて熱波が去り、山頂は再び暗雲に包まれる。
「……お、おい、おい!」
即座に立ち上がって、由貴はトリテレイアの体を掴もうとした。しかし、熱すぎて触れない。
金属の体である彼は今、圧倒的な熱を受け切ったせいで、機能停止寸前にまで追い込まれていた。溶けずに煤塗れで済んだが、これでは。
ヘッドパーツのアイカメラが、弱々しく緑に光る。
「由貴……様。ご無……でしたか」
「大丈夫か? しっかりしろって!」
「えぇ……大丈夫です。問題ないとは、とても言えませんが」
言語機能が戻ってきたのを確認しつつ、トリテレイアは何とか一度だけ、頷いた。
機械の体はまだ動く。竜が二人に気づき、再び火球を呼び出そうとしている。
「やらせるかよッ!」
由貴が弓を引く。魔力をより高い純度で練り上げ、強力な矢を生成、同時に機械ポッドを二機上空に向かわせた。
バサンとオンモラキがドラゴンの火炎生成を妨害するために、射撃を開始する。タイミングを合わせて矢を放ち、魔力の矢は崩壊の波動を突き抜けて、崩竜の腹部に突き立った。
痛みだろうか、酷く醜い叫びを上げて、ヴァッフェントレーガーが由貴とトリテレイアを睨んだ。
この場を乗り切るのに、退くという選択肢はあり得ない。トリテレイアがもはや盾としての機能がなくなりつつある盾を構え、由貴がその目にどこからか取り出したゴーグルをセットした。
二人は何を話し合ったでもないが、互いの顔を一度見て、即座に頷き合う。
「頼みますよ、由貴様」
「そっちもな、トリテレイア」
ドラゴンが急降下を始める。一瞬で距離を詰められ、二人は同時にその場を離れた。着地と同時に振るわれた鋭く大きな爪は、スラスターで回避を試みるトリテレイアを狙っていた。考える暇もなく大盾で受け止める。
盾が崩壊し、咄嗟に突き出した剣が折れ、機械の両腕を伸ばして無謀にも爪を掴む。左腕パーツの肘から先が、消し飛んだ。
それでも、敵の勢いは殺した。着地したドラゴンの片腕は、今やトリテレイアの右手が抑え切った。
「ナイスだぜ、トリテレイア!」
声は上から。ドラゴンの体躯より遥かに高く跳躍した由貴が、二機の自律ポッドの銃口を頑強な鱗で覆われた敵に向けている。
「上を取られた気分はどうだ! 崩壊のカミサマッ!」
ゴーグル越しに二機の自律ポッドの狙いを定めた由貴が、指を鳴らす。直後、巨大なビームと鉄鋼をも穿つ弾丸が放たれた。
連続した射撃音と共に鱗が弾け肉が焼かれ、山頂にドラゴンの悲鳴が迸る。
敵の背中に着地した由貴は、身をよじって振り落とそうとするヴァッフェントレーガーを踏みつけ、自律ポッドの銃口を真下に向けた。
「アイツらにも約束したからな……。テメに百倍返しをするってよ」
自身も弓を構え、ゼロ距離から、魔力の矢を鱗の剥がれた背中に放つ。突き刺さった直後に、崩竜が暴れるが、構わずポッドによる一斉射撃を続けた。
悶え苦しみながら崩壊を続けるドラゴンが、飛び上がった。由貴がその首にしがみつき、トリテレイアがワイヤーアンカーを射出、後ろ脚に巻き付ける。二人は竜と共に、暗雲の空へと舞い上がった。
トリテレイアがアンカーを巻き取らせて下方から接近し、腹部にある真新しい表皮に目をつける。恐らくは、封印の杭が打ち込まれていた場所だ。
残された右腕の銃器を展開、腹部目掛けて射撃する。ドラゴンが苦痛に吼え、空で身をよじりトリテレイアの巨体を振り上げ、空中で制御できない彼に向かって爪を振り下ろした。
胸部パーツが、あっさりと崩壊する。重要なコアには触れていないが、それでもアラートが緊急停止モードに切り替わる。
「くそッ! こんだけやられてんだから、ちっとは大人しくしやがれッ!」」
毒づきながら、由貴が二機の自律ポッドに命令を下す。竜の顔面目掛けて砲撃し、ヴァッフェントレーガーが激しくのたうち回る。
暴れてはいるが、一時的にでも視界を奪った。絡まるアンカーに振り回されるトリテレイアに、手を伸ばす。
「生きてるか! おい!」
仲間の声を受けて、トリテレイアは残された最後の自我を燃やす。
自身をハッキング、リミッターを解除。絡まったワイヤーを強制的に巻き上げ、敵と接触すると同時にパーツを破棄した。
脚部パイルを敵の体に打ち込む。大きく暴れるのを無視して、貫手の構えを取った。
「妖精達の封印が齎した滅び……受けてもらいます」
突き出した右手が竜の鱗を砕き皮膚を貫く。臓腑までは届かないが、ヴァッフェントレーガーが痛みに絶叫した。釣り上げた魚のように空中を跳ねて暴れ、由貴とトリテレイアは同時に空中へ投げ出される。
落下しながら、由貴は落ち着いて漆黒の弓を構える。敵はまだ死なないだろう。だが、このままでは終わらない。冷静に、粛々と、狙いをつける。
痛みと比例して怒り狂うドラゴンが、地面に落ちていく二人を捉えた。狙うは、生身の由貴だ。
こちらを向き、牙を剥く。突進し、噛みつき、砕いて、呑み込む。
それが、奴のプランだったに違いない。
「だけどな、そいつはボツだ」
弦が、由貴にだけ聞こえるような音を鳴らした。放たれた魔力の矢は吸い込まれるように、敵の右目へ、突き立った。
狂気じみて吼えながら、ヴァッフェントレーガーは由貴から遠ざかっていく。紫の血が空に散り、崩壊していく。
致命傷ではないかもしれないが、敵の動きはしっかりと制限したはずだ。
地面が近くなる。これはダメかもしれないと考えた瞬間、えらく硬いものに、抱き留められた。
「ご無事ですか」
トリテレイアだった。鋼鉄の体はあちこちが歪み煤に塗れて、どこもかしことボロボロだ。
由貴は呆れたように笑った。
「それ、そのまま返すわ」
「む……」
難しそうに唸ったトリテレイアは、脚部スラスターを異常なまでに噴出しながら勢いを殺し、着地した。由貴を放すと同時に、仰向けに倒れ込む。
それ見たことかと、由貴は彼の肩を担ぎ起こそうとしてすぐに諦めた。
「ほらみろ、やっぱり俺の台詞じゃねぇか」
「そのようですね」
軽い調子で言ってから、揃って竜を見上げる。
共闘している猟兵たちとの激戦が、暗雲の下で繰り広げられている、止めには至らなかったが、大きな傷を与えることはできた。
戦いの流れは、猟兵にある。崩竜が骸の海に帰る瞬間は、決して遠くない。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
フランチェスカ・ヴァレンタイン
この距離からですと全速機動でも一手遅れそうですねー…
クロスレンジに持ち込んでしまえばどうにかなりそうですが、さて?
エンゲージ――交戦前に面制圧爆撃に晒される形かと思われますので、選択UCにてありったけの念動アンカーを全射出
爆導索を広域の網の目状に張り、崩壊を受ける前に全起爆して爆轟による火球の相殺を
爆炎の薄い箇所へパージした外殻を押し込み、裂けた隙間を強引に切り抜けます
全推進器の超過駆動で接敵後、密着距離で斧槍を揮っての高機動戦を
「ごきげん、ようッ――!」
最終的には攻勢限界点を見極めて零距離から徹甲爆裂の【九天に舞い 灼き穿つもの】を見舞い、龍鱗を穿っての内部爆裂に乗じて急速離脱、でしょうか
月宮・ユイ
全てを崩し破壊する
これ程猟兵の相手として相応しい存在は居ないでしょう
狩り殺す
[コスモス+コメット]飛行付与+運搬・機動力
[ステラ+ケイオス]槍剣:復元増殖”投擲”
<機能強化>維持。”第六感”含め知覚強化
敵や周囲等の”情報収集。早業”で情報反映最適化
<捕食者>”オーラ防御・呪詛”と共に体と武装に纏う形
吸収した山守達の力は祝福強化へ重ね、蝕んでいた力は”学習力”基に調査し対抗力へ
攻撃の影響範囲が広い。攻防一体この身毎武器とし戦う
攻撃に傷つきながらも力を喰らい治癒強化しながら継戦
十分な力が溜れば、ブレスを突き抜ける様突破し不意をつく痛烈な一撃を
戦い後には供養と報告を
約束と誓い、果たしてみせます
強大な力を振るう度に自壊していくドラゴン、ヴァッフェントレーガー。それでも未だに、弱った素振りを見せない。
純白の翼で空を打ちながら、フランチェスカ・ヴァレンタイン(九天華めき舞い穿つもの・f04189)は、怒りのままに吼え狂う竜を見据える。
「この距離からですと、全速機動でも一手遅れそうですねー……」
至近距離ならばやりようもあるだろうが、空では敵に分がある。簡単にはいかない。
上空にて戦う猟兵は、もう一人いた。全環境対応型機動兵装群『コメット』を装着し、精霊『コスモス』が姿を変えた衣を纏う、月宮・ユイ(捕喰∞連星・f02933)だ。
空を飛ぶ力を得てもなお、ヴァッフェントレーガーには容易に近づけない。それでもユイは、恐怖や絶望をまるで感じていないようだった。
「全てを崩し破壊する……。これ程猟兵の相手として相応しい存在は居ないでしょう」
手を上げ、呼び出した槍剣を大きく振り上げて、ユイが投擲の姿勢に入る。
「――狩り殺す」
呟いて、投げた。稲妻を浴びて一筋の光となった槍剣が、ヴァッフェントレーガーの体をかすめる。
初撃は外れた。が、憤怒のドラゴンをこちらに注目させることには成功したらしい。
それは果たして、吉か凶か。ヴァッフェントレーガーの周りに、巨大な魔法陣が浮かび上がる。
「来ますわね」
斧槍の矛先を崩竜から逸らさず、フランチェスカが目を細めた。
凝縮する崩壊の力が、火球として顕現する。
全てを打ち崩す炎が放たれた。その狙いは二人だけでなく、かなり広範囲だ。
落下する火球が直撃すれば、地で戦う猟兵に被害が出かねない。
フランチェスカはユイと一瞬目を合わせてから、唇を舐めた。
「少々強引に、いきますわよ」
無数の念動アンカーが、バインダースカート展開される。触れれば身を焼き尽くすだろう熱波を、頬に感じる。
新たな槍剣を召喚したユイと再び投擲の姿勢に入ったまま、その時を待つ。
ギリギリまで近づけるのだ。敵が仕留めたと油断するほどに。
迫る火球は、二人の体を簡単に飲み込める。そこに確かな死を感じながらも、ユイとフランチェスカは焦らない。
空を覆い尽くす火炎が、念動アンカーに触れた。刹那、ワイヤーに張り巡らせていた爆導索が起動、崩壊の火を打ち消さんとする大爆発が起こる。
大気が揺らぎ、景色が振動する。吹き荒れる熱風の中、ユイが目を見開いた。
「今ッ!」
一直線に放たれた槍剣が、爆発に相殺されつつある火球を穿つ。
煉獄の天空に、小さな突破口が現れた。フランチェスカが白翼を羽ばたかせ、ユイが纏う装備の力を解放し、同時に飛び立つ。
先行したのは、ユイだった。火球の只中に飛び込み、体にオーラと呪詛を纏って盾となる。
それでも、間近で感じる崩壊の熱は彼女を苦しめた。肌がひりつき、長く触れていれば成すすべなく崩れてしまいそうだ。
しかし、ユイの中には山守の妖精がいる。彼らの魂が、守りのオーラをより強めていく。
爆導索による爆発が消え、火球が再び勢いを増す。直後、ユイの背後を飛ぶフランチェスカが、自身の装備をパージした。射出されたパーツが火球を切り裂き、竜への道を作り出す。
「突破しますわよ、ユイさん!」
「了解!」
二人は同時に最大加速、爆炎の渦から、とうとう抜け出した。
眼前に、ヴァッフェントレーガーがいる。
巨大な口を、開けている。
ユイは咄嗟にフランチェスカを突き飛ばした。瞬間、崩壊のブレスが放たれる。
真正面から直撃を受け、全身が粉微塵になるのではないかと思うほどの衝撃が、幼さの残る少女を襲う。
それでも彼女が崩壊せずに済んだのは、妖精たちが受けていた同じ力を解析し、オーラ防御に組み込んでいたからだ。
想像より遥かに上等な結果だった。即座に治癒を施しながら、凌ぎきったユイは、ドラゴンに笑みを向けた。
「いいのかしら。私ばかり見ていて」
言葉を理解しているのかいないのか、ヴァッフェントレーガーが再びブレスを放たんとする。
しかし、その真上。天使を思わせる女が、斧槍槌、三位一体の得物を振り上げている。
「ごきげん、ようッ――!」
戦槌が脳天にめり込み、奇妙な呻きを上げたドラゴンが、落下する。
地に届く前に崩壊の火球が消え失せ、地面に叩きつけられる前に激しく翼を打って飛び上がった崩竜へと、フランチェスカとユイが迫る。
口から紫の血を吐きながら、ヴァッフェントレーガーがブレスを放つ。二人は難なく回避、飛び散る血が翼や装備にかかる。
「あらやだ、汚されてしまいましたわ」
艶っぽく微笑みながらも、フランチェスカは斧槍を回転させて高速接近、敵の巨体に斧の刃を走らせる。
鱗が剥がれ肉を裂かれた竜が、悲鳴を上げる。しかし、彼女たちは躊躇しない。
槍剣による接近戦に移行したユイは、先行した仲間が示した弱点である腹部を徹底して狙った。
高速飛行で回転しながらの斬撃は、強靭な竜の体表をたやすく切り裂く。それでもなお、この敵を倒すには遠いと感じるのは、なぜか。
「妖精たち、かしら」
身に取り込んだ魂が、滅ぼされた絶望を伝えてきているのだ。恐るべき力として封印してきた者に襲われ喰いつくされる恐怖は、筆舌に尽くした難い。
だが、だからこそ。
「約束と誓い――果たしてみせます」
傷つき、癒し、また傷を負う。そのたびに、ユイは己が武器として磨き上げられていくのを感じていた。
フランチェスカもまた、激情に身を委ねることこそないが、こみ上げる感情を無視することは出来ずにいた。
斧槍に光の刃を宿し、直線的な高速起動でヴァッフェントレーガーに肉薄する。巨体から繰り出される俊敏な爪や尾を躱し、優雅に舞い上がったと思うと急降下、竜の背に槍を突き立てた。
激しくのたうち回るヴァッフェントレーガーから槍を抜いて、上空へ。血を吹いて咆哮するドラゴンを追跡する。
「崩壊の神と呼ばれる存在がどの程度かと思えば……。確かに脅威ですが、『神』を気取るには、あまりにも、品がなさすぎますわ」
「同感です。私たちに追い詰められて、苛立っているのがその証拠よ」
気づけば真横を飛んでいたユイが、槍剣を投擲しながら言った。投げられた得物は竜の足をかすめ、その爪を斬り落とす。
徐々に傷を負いながらも、未だに死する気配とは程遠いドラゴンに、ユイは新たな武器を召喚し、さらに速度を上げていく。
フランチェスカも加速した。崩壊の波動が影響しているのか、急激なスピードの上昇に、二人は体に相当な負荷を感じた。
それでも、竜に追い付けるのならば。装備が壊れ翼が折れてもという想いで、フランチェスカとユイは空を駆け抜ける。
ヴァッフェントレーガーが急反転した。巨大な口が二人に向けられる。崩壊の波動が、口の中に凝縮される。
ブレスだ。放出された破壊の吐息に、二人は避けず、突っ込んだ。
同時に、穂先を正面に構える。光の刃を纏う斧槍と喰らった呪詛を付与した槍剣が、ドラゴンのブレスを突き抜ける。
もしもヴァッフェントレーガーに表情があったのならば、浮かべたのは焦りか、恐怖か。波動を吐き切り反転しようとした刹那、両側面に回り込んだユイとフランチェスカが、ともにユーベルコードを発動する。
「共鳴・保管庫接続正常、能力強化。無限連環強化術式起動。喰らえ……!」
「全動力炉、出力上限カット。全兵装・全能力の超過駆動、開始。落ちなさい――ッ!」
左側面から一切を喰らう捕食能力による斬撃が、右側面からは怒涛の如き砲撃と斧槍による滅多打ちが、ドラゴンを徹底的に叩きのめす。
暗雲の天空に響く絶叫。それは、憤怒の咆哮にも聞こえ、また苦痛にあえぐ悲鳴のようでもあった。
翼を羽ばたかせることもできず、空中でヴァッフェントレーガーがふらつく。その機を逃がさず、フランチェスカが戦槌で叩き落とした。
姿勢を整える間もなく、ドラゴンが地面に激突する。崩壊の一途を辿る山頂の土が、もうもうと砂埃を上げる。
その様子を上空から見つめながら、ユイはさらなる武器を手に取った。
「これでもまだ、死なないのね」
「さすがはドラゴン、というところでしょうかねぇ。精力がありすぎるのも、困りますわ」
冗談めかして言うフランチェスカも、斧槍に纏う光刃は消さずにいる。
土埃の中で、巨体が長い首をもたげる。瞬間、崩壊の力が嵐となって吹き荒れ、土埃の悉くを消し飛ばした。
全身から紫の血を垂れ流し、胴は千切れ臓腑が溢れかけているにも関わらず、竜は飛んだ。一直線に、空へ。
避けたユイとフランチェスカの間を飛び抜けたドラゴンは、上空をがむしゃらに飛び回り、怒りのままに吼えまくった。
「……あれだけやったのだから、弱っているはず」
自分に言い聞かせるように言ったユイに、フランチェスカは頷きながらも、溜め息をついた。
「そう、信じたいものですね」
山を揺るがす竜の叫びは、世界に向けた殺意に思えて仕方がなかった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
セルマ・エンフィールド
敵討ちなどと言えるほどあの妖精たちと縁があったわけではありません。
ありませんが……あの光景を繰り返させないためにも、ここで確実に仕留めます。
ブレスの挙動や顎の向きを『見切り』、番えた矢を『クイックドロウ』で先んじて撃つことで敵のブレスを『武器落とし』の要領で相殺します。完全に相殺できずとも回避行動の猶予ができればそれで構いません。
この開けた場所で飛び回られると面倒ですが、遮るものがないのはこちらにとっても僥倖です。【霜天弓】で39本の矢を『一斉発射』、『スナイパー』の技術を以って降り注ぐ氷の『属性攻撃』の矢で両の翼を狙いましょう。
私があなたに供するのはこの矢のみです、崩壊の神。
雛菊・璃奈
貴方が村を…妖精達をあんな風に…絶対に許さない…。
これ以上、悲劇は繰り返させない…!
【見切り、第六感】で攻撃を回避しながら機会を伺い、魔剣アンサラーの力【呪詛、オーラ防御、武器受け、カウンター、早業】で攻撃を反射して隙を作る…。
反射で隙を作ったら【ダッシュ】で接近し、竜殺しの力を持つバルムンクによる【呪詛と衝撃波】を纏った【力溜め、鎧無視、鎧砕き、早業】の剛剣の一撃で叩き斬るよ…!
最後は切り札の【ultimate】の究極の一刀による一撃で仕留める…!
戦闘後は崩壊の力が消えた村へ戻り、妖精達を弔い、安らかに眠れる様、祈りを捧げるよ…。
※アドリブ等歓迎
徐々に飛行の力を失いつつあるヴァッフェントレーガーが、地上で待ち受ける猟兵を睨みつける。
手にした魔剣を握りしめ、雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)は竜を見上げた。
「貴方が村を……妖精達を、あんな風に……!」
普段はあまり動かない表情が、今ばかりは怒りに染まっていく。明確な敵意を持って、語気を荒げる。
「絶対に許さない…!」
殺気が届いたのか、ドラゴンが吼え、急激に速度を上げて璃奈に迫る。魔剣を構えるも、巨大な体躯の突進を受ければ、ただでは済まない。激情だけで勝てる相手ではないのだ。
避けるか。間合いを見切ろうとした刹那、璃奈の横を、風が駆け抜けた。直後に上がる竜の絶叫。反転して空に飛んでいく。
振り返れば、銀髪を揺らして次の矢を番えるセルマ・エンフィールド(終わらぬ冬・f06556)がいた。彼女はいつものように冷静さを失っていないが、それでも敵を見据える目は、鋭い。
「敵討ちなどと言えるほど、あの妖精たちと縁があったわけではありません」
淡々とした、しかし心の籠った言葉だと、璃奈は思った。セルマの目に強い決意が宿っているのも、気のせいではないだろう。
弓を構えて空を狙うセルマが、続けた。
「ありませんが……あの光景を繰り返させないためにも、ここで確実に仕留めます」
「うん……そうだね……。これ以上、悲劇は繰り返させない…!」
ヴァッフェントレーガーが再度急降下してくる。がむしゃらな突撃だ。怒りに任せている。
口を開いた。崩壊の力が渦を巻き、放出される。二人は同時にその場を飛び退り回避、大地に突っ込んできたドラゴンに、璃奈が仕掛ける。
竜殺しの魔剣バルムンクを横薙ぎに振るい、ヴァッフェントレーガーを斬り裂く。紫の血が飛び散り、璃奈の服と体に付着する。
ゾッとするような、悍ましい力を感じた。思わず身震いした刹那、璃奈は吹き飛ばされた。
「うあっ!」
突如動いた後ろ脚が、おかしな方向に折れ曲がりながら直撃したのだ。もはやなりふり構わない一撃をもろに受け、崩れる土の上を転がる。
すぐに立ち上がると、竜の口がこちらを向いて開いていた。崩壊の波動が、放たれんとしている。
「あっ――」
死ぬ。そう脳裏で呟いた刹那、連続で放たれた矢がヴァッフェントレーガーの横面に突き刺さった。
怒りの絶叫を上げて、方向転換したドラゴンが、攻撃を阻止したセルマを狙う。トカゲのように這って移動しているくせに、驚くほど素早い。その様に、わずかに眉を寄せる。
「とうとうただの爬虫類じみてきましたね」
ブレスが放たれるも、セルマは敵の顎が動く瞬間を捉えて対処していた。当たれば脅威だが、癖を見抜き彼女の運動神経をフルに活かせば、避けられないことはない。
璃奈が走る。接近し、バルムンクを叩きつける。後ろ脚を斬り裂くも、自壊していくドラゴンは構わず脚を振り回した。
だが、二度目はない。左手に魔剣アンサラーを召喚、刀身に宿る呪詛がオーラを展開し、ヴァッフェントレーガーの直接攻撃を受け止めた。
オーラにひびが入る。この期に及んでこれほどの力があるとは。璃奈は驚きに目を見開きながらも、地面に突き立てたアンサラーを盾に隙を伺う。
狙うは、相手もなく振り回している尾。あのリーチがなくなれば、戦いやすくなる。
セルマが正面に位置取り、ブレスを回避しては矢を放って隙を作ってくれている。今がチャンスだ。
ヴァッフェントレーガーの気が璃奈から完全に逸れた瞬間、璃奈は跳んだ。オーラの盾から飛び出してドラゴンの巨体を駆け上り、さらに跳躍。
あとは簡単だった。暴れる尾に狙いを定め、落下の勢いを利用して、バルムンクに宿る竜殺しの力を存分に解き放つ。
「これでっ……!」
振り下ろした刃が、あっさりと尾を斬り落とした。激痛か怒りかの咆哮が、暗雲の空に轟く。
落ちた尾は、すぐに崩壊して消えた。残された紫の血だまりも、即座にどこかへと消えていく。
怒り狂ってそこかしこにブレスを吐きまくるヴァッフェントレーガーへ、側面に回り込んだセルマが弓を構えて矢を向けた。
「飛び回られたら璃奈さんの剣が届きませんので、止まっていてもらいますよ」
弓をおもむろに空へ向け、誰もいない上空に向けて、矢を放つ。空を走る矢は三十九本に分裂し、弧を描いて落下する。その矢じりから、強烈な冷気を発して。
「霜天を切り裂くは無尽の流星――私があなたに供するのはこの矢のみです、崩壊の神」
雨のように降り注いだ氷の矢が、ドラゴンやその周囲を凍てつかせていく。
翼や足が凍りついたヴァッフェントレーガーが、身動きを取れずに苛立たし気な咆哮で猟兵を威嚇する。
完全に凍らせられるとは思っていない。動きを止められたなら、それでいい。
「璃奈さん!」
「わかった……!」
呪詛の力を最大限に溜めたバルムンクを手に、璃奈がドラゴンに駆け寄る。危険を感じたヴァッフェントレーガーが暴れ、動きを阻害する氷を割ろうと試みる。
だが、璃奈が速い。すでにゼロ距離にで、腰だめに魔剣を構えていた。
その周囲に、百を遥かに超える数の剣が顕れる。それらは全てを無に還し、終わりを齎す魔剣たち。
魔剣の群が持つ終焉の力は今、璃奈が握るバルムンクの刃に集約された。銀の瞳を輝かせ、璃奈は叫ぶように言った。
「貴方は許さない……! 絶対にっ!」
振り抜いた魔剣の刃が、竜の横腹を抉る。再び上がる咆哮と絶叫。目を見開いて血を吐きのたうち、璃奈とセルマはその衝撃に吹っ飛んだ。
受け身を取ったセルマのもとに、璃奈が駆け寄ってくる。互いに短く無事を確認し、ドラゴンを見据える。
横たわったまま、動かない。紫の血だまりが広がっていく。
「勝った……?」
璃奈が呟いた。全力は尽くした。とっておきの技も使った。だとうのに、勝利の実感が湧かないのはどうしてか。
空を難しい顔で睨みつけていたセルマが、首を横に振った。
「まだです。まだ……力が」
「うん……」
本当は気づいていたが、そうであってほしいと思ったのだ。これで死んでくれていたらいいのに、と。
大気に満ちる崩壊の波動は、まだ山頂の土を蝕んでいる。それは、崩竜ヴァッフェントレーガーが生きている証拠に他ならない。
巨体が動く。紫の血に染まりながらも起き上がり、苦し気に息をしたかと思うと、絶叫と共に天空へと飛び上がった。
「まだ飛ぶの……!?」
「やらせませんッ!」
素早く弓を構え、セルマが二本の矢を連射する。芸術的なほど正確な狙いで放たれた矢は、ドラゴンの両翼を貫いた。
一瞬くぐもった唸り声を上げたが、ヴァッフェントレーガーはなおも羽ばたきを止めない。突き刺さった矢が、波動を受けて崩壊していく。
「これだけやっても、落ちてはくれませんか……」
「……悔しい……」
俯いた璃奈は、絞り出すように呟いた。
奴を倒すことが出来れば、妖精の村から崩壊の力も消え去る。そうすれば、妖精たちを弔ってやれるのに。彼らのために祈ってやれるのに。
力が及ばなかったというのか。全力を叩きつけて、まだ死なないなんて。そう落ち込みかけた璃奈の肩に、セルマが手を置いた。
「敵はもう瀕死です。大丈夫、もうすぐ終わります」
「うん……」
「私たち猟兵には、まだ戦力が残されています。圧倒的な有利を、璃奈さんと私が引き寄せました。大丈夫」
硬い物言いだったが、セルマの言葉には熱がこもっていた。彼女が自分たちの戦いの結果を信じ、そして仲間たちを信じている証拠だ。猟兵は、一人じゃない。
セルマと璃奈は、天空で暴れるヴァッフェントレーガーを見上げた。血と臓腑を撒き散らしながらも、崩壊の波動を放ち続けている。
「もうすぐ、終わるからね……。待っててね……」
暗雲の先で見守ってくれているだろう妖精たちへと、璃奈はわずかな間だけ、胸の前で祈るように手を組んだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
霑国・永一
おー出た出た。大した圧だねぇ。さて、妖精なんかじゃ物足りなかったろう、《俺》。俺は寝てるから好きなだけ食べるといい
『ハハハハッ!これで食わせてくれなきゃ一生恨んでたぜ!』
肉体主導権全て戦闘狂人格に委ねたうえでの真の姿な狂気の戦鬼発動
よぉーし!ぶち殺す!あのブレスは速ぇーし、受けりゃやべぇな!だが顎向けた先にしか撃てないとなりゃ顔面よく見て予備動作見切って高速移動で回避、俺様の衝撃波を叩き込んでやらぁ!
顔面狙って衝撃波やりゃあブレス相殺や攻撃中断もさせられそうだな!
速射とか相手のペースのまま撃たせりゃじり貧だ!邪魔するに限るぜッ!
つうか空から何見下してやがる?
うざってぇ!翼穿って叩き落す!死ね!
アストレア・ゼノ
◆SPD/アドリブ歓迎
妖精の村の惨状と、麓の冒険者達との記憶が頭を過る
随分と暴れてくれたようだが、これ以上の勝手は許さん
蘇ったばかりの所で悪いが、お前はここでお終いだ
ブレスの一瞬の前動作や、他の攻撃を【見切り】
【残像】で惑わしながらの
【ダッシュ】と【ジャンプ】で回避し、敵へと接近
多少の負傷は【覚悟】と【激痛耐性】で堪えて
竜の鱗だって貫く【鎧無視攻撃】の槍で以って
一撃離脱の【早業】で繰り返し【串刺し】にしてやろう
相手が私を振り払って空へと逃げようとするなら
【槍投げ】【投擲】【怪力】からの【眩きモノ】で追撃だ
取って置きをくれてやる、暴れて来いグウェン!
ユーフィ・バウム
※アドリブ・連携歓迎
さぁ、いざ勝負ですよ崩竜!
妖精たちの分も思いっきり殴ってやりますからね!
【真の姿:蒼き鷹】を解放
さぁ、レスラーとして堂々とお相手いたしますわ
【グラップル】での格闘戦で戦闘。
仲間と連携し打ち込み、力強くも見栄え良い拳
ブレスに対しては【見切り】、大ダメージを避けた上で体で受ける
受け切って勝つスタイルですわ。さぁまだまだまだ!
強靭な【オーラ防御】と、鍛え抜いた【激痛耐性】のある体
屈しませんとも!
【力溜め】つつ敵の隙を見出しては懐に潜り込み、
相手が飛翔していたとしても【空中戦】と追い捕まえ
【怪力】を生かし抱え上げては必殺の投げ《蒼翼天翔》!
一気に頭から投げ落とし、KOを狙いますわ。
レギーナ・グラッブス
SPD/何が何でもここで被害を食い止めなければなりませんね。他の方々とも協力して討伐を目指します。狙いを定めにくい様に動き回って鎖鞭で攻撃。また、村での破壊の痕跡と他の方々との戦いからミレナリオ・リフレクションでヴィルベルヴィントの相殺を試みます。上手く相殺できそうならうまく挑発して打ち合いを狙ってみましょうか。他の方が攻撃する隙を作れるかもしれませんし、ヴァッフェントレーガー自身が崩壊の力に耐えられないのなら自傷してくれるかもしれません。あとはブレスの直前に顎を殴って自滅を狙ってみましょうか。可能ならジャッジメント・クルセイドで着実にダメージを与えたり、回復光で他の方をサポートしたりします。
穢れた紫の血を吐き散らし、ヴァッフェントレーガーが雷鳴めいて咆哮する。
放っておいても、敵は長い時間を生きることなく朽ちるかもしれない。だが、猟兵たちがそれを待つ理由はなかった。
常人ならば当てられるだけで気を失いかねない殺気を全身に受けて、霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)はやる気のない拍手をしてみせた。
「おー、大した圧だねぇ」
「凄まじい闘気だ……。もう一息とはいえ、油断できる相手ではないな」
天空を飛ぶドラゴンへ向けて槍の穂先を向けるアストレア・ゼノ(災厄の子・f01276)が、緊張を浮かべて言った。その横に立つユーフィ・バウム(セイヴァー・f14574)の頬を、一筋の汗が伝う。
「危険ですね。絶対に……下へは行かせない」
ヴァッフェントレーガーに崩壊の火球を呼ぶ力は残されていない。が、ブレスだけは無尽蔵に放ち続けていた。
ポケットに手を突っ込んで空を見上げ、永一があくびをした。怪訝な顔をするアストレアをちらりと見てから、彼は退屈そうに呟く。
「さて。妖精なんかじゃ物足りなかったろう、《俺》。俺は寝てるから好きなだけ食べるといい」
ふと俯き、すぐに顔を上げた。その顔には、先程までの永一とはまるで違う、狂気じみた笑みを貼り付けていた。
「ハハハハッ! これで食わせてくれなきゃ一生恨んでたぜ、俺!」
「……!?」
ぎょっとしたように永一を見ていたユーフィだが、すぐに首を横に振った。猟兵に多重人格者は多くいる。彼もその一人だというだけだ。
「よぉーし! ぶち殺す! ハッハァ! 降りてこいクソトカゲッ!」
「まぁ、人格に難があるかもしれないですけど」
「そうだな」
ユーフィの呟きにアストレアが同意を示し、永一が笑みを崩さずに振り返る。
「なんか言ったか!?」
「いいや」
呆れたように返してから、アストレアは槍を構える。ユーフィが拳を握り、永一もまた、下げた両手に不可視の力を溜めながら、空を睨んだ。
ヴァッフェントレーガーが吼え、そして降下する。稲光が走る空に臓物を撒き散らし、人間など一飲みに出来てしまうだろう口を開ける。
放たれたブレスが、地面を抉る。そこにはすでに、三人の姿はない。敵が接地ギリギリで急上昇していくのを、見て、俊敏なバックステップで躱した永一が、さも楽し気に哄笑する。
「ヒューッ! 今のブレス、速ぇーし、受けりゃやべぇな!」
「あぁ。だが見切れさえすれば、問題ない」
答えたものの、それには限界があると感じた。顎の動きを読んで避けても、長い首をわずかに動かすだけで、狙いはいくらでも変えられてしまう。多少の被弾はやむを得まい。アストレアはその覚悟でいた。
上空で旋回したヴァッフェントレーガーが、再び急降下を開始する。直後に放たれたブレスが、三人を頭上から襲った。
アストレアが危惧した通り、敵は首を左右に振ってブレスの範囲を広げてきた。かなり広範囲だ。
「ハッ! 見ろよ、まだ多少は考える力が残ってたらしいぜ!」
「感心している余裕はないぞ!」
「ダメです、避けられません! 防いでくださいっ!」
隠れる場所はない。三人は同時に、防御の姿勢を取った。崩壊のブレスを前に、果たしてどれほどの効果が望めるか。
だが、彼らがブレスを受けるより早く、割って入った人影が天空に手を掲げる。
「その技――いただきます」
放たれたのは、崩壊の波動。まったく同じ性質、そして威力のブレスが、少女の手から溢れ出す。
ヴァッフェントレーガのブレスと衝突し、崩壊の波動が互いに喰い合って消滅する。相殺に成功したレギーナ・グラッブス(人形無骨・f03826)が、振り向いた。
「間に合いましたか」
「レギーナさん!」
「あぁ……。助かった」
「余計な真似すんじゃねぇ!」
三者三様の言葉に、レギーナはわずかに頷いた。仲間が無事なら、それでいい。すぐに鎖鞭を取り出して握る。
「また来ます。今度は地面に引きずり下ろしましょう」
「いいねぇ! クソデカいトカゲの串焼きといこうや!」
手を打って何やら喜ぶ永一が、怒りに任せて吼えまくるドラゴンを見上げた。
瞬間、敵は俊敏に方向を転換し、急加速してこちらに向かってきた。紫の血が飛び散る口から、崩壊の波動が放たれる。
レギーナの肩を掴んで下がらせた永一が、無造作に手を振るう。その軌跡から強烈な衝撃波が発生し、ブレスを掻き消した。
遠距離の攻撃手段を潰されたドラゴンが、勢いを殺せず突っ込んでくる。その質量がすでに脅威ではあるが、アストレアは恐れることなく突撃し、上昇しようと体をもたげたドラゴンの腹下に滑り込みながら、鱗が揃っていない腹部に槍を走らせる。
大量の血が、頭から降りかかってきた。おぞましい気配を感じる血液に辟易しながらも、アストレアは地面を転がり、すぐに立ち上がる。
激痛に悶えながら空へ昇ろうとするヴァッフェントレーガの切れた尾を、ユーフィが掴んだ。そのまま上空に引っ張られながらも、彼女は手を放さない。
「させません! 妖精たちの分も、思いっきり殴ってやりますからね!」
ユーフィの体が眩く輝く。光の中から現れたのは、肌が白く短い青髪の、一見すれば別人と見紛う少女だった。
その力が飛躍的に増していることに気づいているのは、ドラゴンだけだろう。半分ほどしかない尻尾を握りつぶされながら絶叫し、振り落とそうとしつつ急降下する。
落下に近い速度で地面が近づく中で、ユーフィは腕の力だけでヴァッフェントレーガを、振り回す。
「お見せいたしますわ、私のフェイバリット・ホールドを!」
仲間たちが驚愕に目を見開く中、気合いの叫びと共に、大地へとドラゴンを、投げ飛ばす。
なす術もなく山頂に衝突したドラゴンが、全身の傷口から血を噴出させながら絶叫する。遅れて着地したユーフィが、猟兵たちに振り返った。
「皆さん、今ですわ!」
「っしゃあ! いい投げっぷりだぜ、ユーフィよぉ!」
いの一番に仕掛けた永一が、縦横無尽に腕を振るい、暴虐の衝撃波を放ちまくる。
穢れた血がそこかしこに飛び散る中で、アストレアが全速力で接近、敵の側面で強く足を踏みしめ、突きを繰り出す。
鱗に阻まれた感触は一瞬、目を見開き、渾身の力を振り絞る。
「はぁぁぁッ!」
鎧を思わせるほどの頑丈な鱗が砕け散り、竜槍がヴァッフェントレーガーの体内に侵入する。
激痛と臓腑を抉られる感覚に、さしものドラゴンも喚き散らして暴れ、至近距離にいたアストレアとユーフィがその動作に巻き込まれて、吹き飛んだ。
永一の衝撃波を援護に受け身を取ったアストレアに、ブレスが襲う。回避しようとするも、避け損ねた左足が、崩壊の波動に巻き込まれる。
「あああッ!」
体が崩れていく感触に思わず叫んだが、それでも耐えて、地面に立つ。槍を構え、またもブレスの体勢に入ったドラゴンを見据える。
崩壊の力が高まった瞬間、ヴァッフェントレーガの顔面に衝撃波が衝突した。攻撃を中断させられた崩竜が、永一を睨みつける。
「おいお前、動けねぇなら言え!」
「すまない。足が内側から崩れているようで、これ以上は……。悪いが、どかしてくれないか」
「仕方ねぇな。この借りはでけぇぞ!」
敵を見もせずに、永一がアストレアを担ぎ上げ、そして投げた。放られた女騎士は、その先にいたユーフィに抱き留められ、下ろされる。
高らかに笑いまくりながら衝撃波を乱れ撃つ永一のおかげで、敵の気は逸れている。負傷の具合を見たユーフィは、魔法を撃つタイミングを見計らっていたレギーナに叫んだ。
「レギーナさん! 癒しの力を貸してくださいまし!」
「わかりました!」
駆け寄ってきたレギーナが、アストレアの足に手を当てる。淡い光が、その手を包む。
「今、治します」
回復の光が輝き、崩壊の力に飲まれていた左足を癒す。すぐに痛みが引いていき、アストレアは安堵の息をついた。
「すまない、レギーナ」
「いえ。立てますか?」
「あぁ」
足はもう快調だった。つま先で地面を叩いて靴を整える。ユーフィもまた、拳を打ち鳴らした。
「さぁ、まだまだ勝負はこれからですわ! 行きますわよ!」
レギーナが再び魔法を唱える姿勢に入り、ユーフィとアストレアが駆け出す。永一と撃ち合っていたヴァッフェントレーガの視線が、こちらを向いた。
「ブレスだ! レギーナッ!」
「撃たれなければ、相殺するまでもありません」
魔力を高めたレギーナの人差し指が、ドラゴンに向けられる。直後、暗雲が割れ、一条の光が差し込んだ。
天から降り注いだ光の柱が、敵の巨体に突き刺さる。身を焼かれ内臓を貫かれて、崩壊の竜がのたうち回る。
その前足に、ユーフィが駆け寄る。掴もうと手を伸ばした刹那、巨大な爪が動いた。咄嗟に身を逸らすも、爪の先が彼女の胸元を駆け抜け、鮮血が舞う。
「くっ……! 私は、屈しませんッ!」
鍛え抜いた体で激痛を抑え込み、敵を掴み、持ち上げる。鍛えているとはいえ少女の体躯でドラゴンを振り上げるその様は、絵画のようですらあった。
暴れまくるヴァッフェントレーガを、叩きつける。轟音が響く中で、ユーフィは叫んだ。
「アストレアさん!」
「おぉぉぉッ!」
起き上がる敵の懐に入り込み、アストレアが心臓に向けて槍を突き立てる。竜槍は深々と体内に侵入し、竜が目を見開き、制止した。
力任せに槍を引き抜くと、穴の開いた酒樽の如く紫の血が噴き出し、遅れてヴァッフェントレーガが絶叫する。
仕留めた手応えがあった。それでも、アストレアは後方に退避した。そこにいた永一が、半笑いを浮かべる。
「おいおい、あれでも殺れてねぇの?」
「心臓を貫いた感触はあったんだがな。ドラゴンに常識は通用しないさ」
「そんなもんかね」
身じろぎ一つしないヴァッフェントレーガは、死んでいるように思えた。ユーフィとレギーナもまた、そう思った。
永一が指を鳴らして放った小さな小さな衝撃波が、竜の顔に触れた。パチリと空気が弾けた、その刹那。
VOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!
世界を揺るがすような破壊の音波が、山頂に響く。山が崩れる音がそこかしこから聞こえ、この場にいる猟兵全員に緊張が走った。
最期の抵抗であることは、誰しもが感じた。そして、早急に止めなければ危険であるということも、また。
竜の顎が開かれる。濃厚な崩壊の力が渦巻き、放たれようとした。
「やらせません!」
レギーナが離れた位置から振り下ろした鎖鞭の錘が、ヴァッフェントレーガの鼻面を叩きつけた。崩壊の波動を口に宿したまま強制的に顎が閉ざされ、内部で爆発する。
竜の巨体が跳ね、行き場を失った崩壊の波動が、眼球を破壊して外に飛び出す。その様を見た永一が、声を上げて笑った。
「ハッハハ! やるじゃねぇかレギーナ!」
惨い結果だが、敵の視力を奪ったのは大きい。敵が見えなくなった崩竜が、所かまわず崩壊のブレスをぶっ放す。
しかし、その背後が隙だらけだ。素早く移動したユーフィが跳躍、その背に飛び乗りさらに駆け、両翼の間で仁王立ちして拳を振り上げた。
「私、言ったはずですわよ。『思いっきり殴ってやる』、と!」
固めた拳を、振り下ろす。「蒼き鷹」と呼ばれるレスラーの渾身の拳は、竜の鱗を通して伝播し、体内の隅々にまでその衝撃を叩きこんだ。
体の中から揺さぶられ、破けた心臓がさらに血を吐き出す。目を剥いて絶叫しながら、崩竜がよろめく。
もはや何も見えていないヴァッフェントレーガが、翼を大きく打ち始めた。
己の肉体をも巻き込む崩壊の波動を撒き散らし、紫の血を撒き散らす巨体が、背にユーフィを乗せたまま、空を舞う。
「まだ飛びやがるのかよ! うざってぇ! 翼穿って叩き落す!」
「協力します!」
永一が両腕に溜め込んだ衝撃波を放ち、レギーナが人差し指を竜に向ける。
地上からは暴虐の波動が、天からは敵を穿つ光が、それぞれヴァッフェントレーガの巨大な翼を、その根元から奪い取った。
とうとう千切れ落ちた両翼。ドラゴンはその象徴たる天空を失い、落下を始めた。
しかし、まだ生きている。口を開けて、地上の猟兵に崩壊のブレスを放とうとしていた。
「往生際が、悪いですわよ!」
その声は、這い上って竜の首にまで到達していたユーフィだ。すでに彼女は、敵の頭を掴んでいる。
「お見せいたしますわ、私のフェイバリット・ホールドを!」
ほとんど強引に、しかしプロレスの技術を十二分に活かして、ユーフィがヴァッフェントレーガを大地に向けて投げ飛ばす。
遥か上空から落下より速い速度で落ちる敵を、アストレアが見据える。その手には、竜槍「グウェン」が煌めいていた。
穂先を上に向け、腰を落とす。
「蘇ったばかりの所で悪いが――お前はここで、お終いだ」
上体を引いて槍を握る手に力を込める。大きく息を吸い込み、そして――。
「とっておきをくれてやる。暴れて来い、グウェン!」
全力を以て投げられた槍は、落下するヴァッフェントレーガー目掛けて迷うことなく飛翔した。
空を走る竜槍が輝く。光の中で、槍は尾の長い白竜へと姿を変えた。清らかすら感じさせる甲高い咆哮と共に、堕ちゆく崩竜が開いた口へと、飛び込む。
喉を破壊し臓腑を引きちぎり骨を砕いて、白き竜はヴァッフェントレーガーの背から飛び出した。勝ち誇ったように、グウェンが気高く吼える。
おぞましい血を撒き散らしながら、崩壊の竜が山頂に落下した。何度目かの土煙がもうもうと立ち上り、足元が激しく揺れる。
振動に倒れないよう踏ん張りながら、全員がドラゴンを見据えた。まだ動くのではないか。そんな不安が周囲を包む。
土煙が晴れる。そこに現れたものを見て、レギーナが肩から力を抜いた。
「ようやく終わり、ですね」
その声を合図に、皆が一様に警戒を解く。暗雲が晴れ、晴れ渡る空が見えた。
ヴァッフェントレーガーは、二度と動くことはなかった。その身に宿す崩壊の力が、神と崇められた竜の身を、急速に朽ちさせていく。
大気に広がる腐臭は、やがて清々しい空気に押し流されて、どこかへと消えていった。
猟兵たちが見つめる先には、己が力で崩れ去ったドラゴンの頭骨が、音もなく佇んでいた。
◆
柔らかな陽光に包まれた妖精の村に、猟兵たちは戻ってきた。
精神まで崩壊させられた妖精たちは、蝕む波動から解放された。朽ちた肉体は戻らないが、魂はきっと、天に昇っていったことだろう。
手分けをして墓を作り、供物を捧げ、一人一人を丁寧に弔う。それは、戦った猟兵たちの多くが望んでいたことでもあった。
竜は死んだ。仇を討ち、約束は果たした。この山に悲劇をもたらす巨悪は、もういない。
世界を守らんと生き抜いてきた彼らに、永遠の安らぎを。そして願わくば、これからも山を見守り続けられんことを。
村の跡地に並ぶ墓の前で、各々が自由に天へと想いを馳せる。
グリモアの光に包まれて帰還の途につくその瞬間まで、猟兵たちの祈りは続いた。
行商や旅人が行きかう交易都市の酒場は、ある話題で持ちきりだった。
曰く、「霊峰の頂に竜がいた」と。
曰く、「勇敢な妖精一族が命を懸けて封印していた」と。
曰く、「名もなき勇敢なる戦士たちが、竜を討ち倒した」と。
fin
成功
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