バトルオブフラワーズ⑪〜風のように、風よりも迅く
●迅風の脅威
まっぷたつに割れたキマイラフューチャー世界は、いつ見ても現実離れしている。
そして幹部級オブリビオン二体を倒したとはいえ、戦いは激しさを増していた。モニターを眺めていたテス・ヘンドリクス(人間のクレリック・f04950)が振り返る。
「みんな、お疲れさま! ラビットバニーも斃れて、いよいよ大物オブリビオンは三体ってところだね!」
順調なのはいいことだ。
モニターに映し出されているのは、いかにも風を感じてそうな感じのオブリビオン。一見してわかりにくいが声を聞けば女性だとわかる。
「彼女はスピード怪人『ウインドゼファー』、名前のとおり風を操る能力を持ってるよ」
そして何度倒されようとも骸の海から蘇る。けれど短期間に集中して、許容値を超えるほどに倒されれば、復活はできなくなる。
その点は今までの幹部と同じだ。
「今までの幹部たちと違うのは、彼女は圧倒的な能力があるわけではないってことかな。でもやっぱり、絶対油断はできない相手だよ」
彼女の能力はとてもシンプルなものだ。それだけに強い。
その上彼女は必ず先制攻撃をするので、きちんとした対策を立てなければ殴り合いにもならずに撃破されるだろう。
「でも、彼女はこちらの攻撃属性に対抗する攻撃をするわけだから。考え方を変えるなら、彼女の攻撃を指定して対抗する手が打てるってことでもあるよね」
戦い方がないわけではないし、仲間と協力することでも打開はできる。それに第三の関門たる彼女を倒せば、『ドン・フリーダム』への道も開けるというものだ。
「みんなのことだから油断はしないと思うけど、気をつけて行ってね!」
一瞬浮かんだ心配げな表情を打ち消して、テスはグリモアを起動した。
六堂ぱるな
はじめまして、もしくはこんにちは。
六堂ぱるなと申します。
拙文をご覧下さいましてありがとうございます。
●ご注意!
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「バトルオブフラワーズ」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
●敵:ウインドゼファー
風にまつわる攻撃を有する幹部オブリビオンです。
ウインドゼファーは必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
この先制攻撃に対抗する方法をプレイングに書かず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、必ず先制攻撃で撃破され、ダメージを与えることもできません。
●シナリオについて
戦場の戦力「40」をゼロにできれば制圧成功ですが、それ以上の成功数があった場合、上回った成功数の半分だけ、「⑬『ドン・フリーダム』」の戦力を減らせます。
皆さまのご参戦をお待ちしております。
第1章 ボス戦
『スピード怪人『ウインドゼファー』』
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POW : フルスロットル・ゼファー
全身を【荒れ狂う暴風】で覆い、自身の【誰よりも速くなりたいという欲望】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD : レボリューション・ストーム
【花の足場をバラバラにする暴風】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : ソード・オブ・ダイアモード
対象の攻撃を軽減する【全タイヤ高速回転モード】に変身しつつ、【「嗤う竜巻」を放つ2本の車輪剣】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
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アポリー・ウィートフィールド
多くは語るまい。通してもらうぞ、怪人よ。
【野生の勘】【見切り】で動きを予測し、【覚悟】【気合い】【武器受け】【激痛耐性】にて飛翔能力による接近攻撃に対し身構える。
そしてユーベルコード・貪食の黒き靄にて、射程範囲の外縁に蟲を隙間なく固めて蟲の壁を作り上げる。
事前に大きく息を吸う。そして蟲に周囲の空気を喰らわせる。蟲の結界の中に真空空間を作り出すのだ。
敵は暴風で蟲を吹き飛ばせるであろうが、それでも暴風の源である空気がない真空に踏み込めばその力は衰えるであろう。蟲を絶え間なく出して空気を奪い続ける。真空と蟲の結界の中で、全身を食われるが良い。短時間にできるだけのダメージを与えねば……!
吉柳・祥華
◇先制攻撃×戦闘
「ぬっ? 高威力の無差別攻撃じゃ…と?! 範囲攻撃じゃろうか…むむっ!」
ユーベルと発動同時に【力溜め】をし
続けざまに【オーラ防御×カウンター】で応戦
『カウンターからの咄嗟の一撃(ここで力溜めを発動)』
ついでに【早業+二回攻撃】のおまけつきなのじゃ!
【鎧無視攻撃+鎧砕き+破壊工作+串刺し+傷口をえぐる】
※オプションで毒使いや気絶…もしくはマヒ攻撃も面白うそうじゃ…(ふふり)
(多少のダメージは想定内じゃ!覚悟と気合いで凌ぐのじゃよ)
「さア!、次は妾のターンでありんし(クックック)覚悟はよいかのぉ」
(絶賛嗜虐的思考モード)
嗚呼、武器は結羽那岐之(なぎなた)ざんしよ
アドリブはご自由に
ニコラ・クローディア
スピード怪人ねぇ
拙速は巧遅に勝るとはよく言うが、それは拙速で決めきれればの話だ
…龍の粘り強さ、甘くみないでもらおうか
基本はオーラ防御と激痛耐性、拠点防御で守りを固めてからのカウンターを狙う
先制攻撃をしてくるようだが、装備から考えてPOWで挑めば接近戦の公算が高い
肉を切らせて骨を断つ、一撃を受け止めた瞬間ならば貴様はオレサマのすぐそばに存在すると言うことだ
ドラゴニアンチェインをゼロ距離でぶっ放し、チェーンデスマッチといこうじゃないか
その大振りな剣は肉弾距離では使いにくかろう?
鎖が決まれば祖龍覚醒でこちらも戦闘能力と再生能力を上げて、あとは根気の勝負だ
アドリブ、連携歓迎
リンカーベル・ウェルスタッド
先制攻撃を必ずされると分っている上、更に手段まで判明しているのなら難しく考えることはありませんよね!
そう、ガードしてから全力でぶっ飛ばせばいいと思います!
大丈夫、右の頬を殴られたら、相手の左の頬を粉砕しろと偉い人も言っていました。
ちょっと違う気がしますけれど、多分大体合っているはずです。
相手の突進(と思われる)を盾受けしながらユーベルコードを発動。
そのままカウンターで、メイスをフルスウィングして叩き返します。
似たようなユーベルコードとは言え、相手の方が早いのは間違いないでしょうから空中戦は控えましょう。
回避行動や味方の連携の時だけ飛ぶ感じですね。
後は基本的にガードとカウンターを繰り返します。
●最後の関門
花びら舞うシステム・フラワーズの行く手を阻むもの。
バイクを体現するような彼女の姿は、いみじくもその力の性質をよく物語っている。骸の海から何度でも蘇るとあれば確かに不死に近いかもしれないが、押し寄せる猟兵たちと幾度も死闘を演じるというのはどんな気分なのだろう。
「多くは語るまい。通してもらうぞ、怪人よ」
アポリー・ウィートフィールド(暴食のイナゴ男・f03529)はそうとだけ告げて、動きを見切るべく意識を集中する。必ず先制攻撃が飛んでくるとわかっている以上、出来ることは覚悟を決めて攻撃を受け止める気合いだ。
一方でやはりウインドゼファーも、退くつもりはないらしい。
『速さで私を上回れるなら、好きにしたらいいでしょう』
「スピード怪人ねぇ。拙速は巧遅に勝るとはよく言うが、それは拙速で決めきれればの話だ……龍の粘り強さ、甘くみないでもらおうか」
そう聞いて、普段の可愛らしさを遥か彼方へ放り出したニコラ・クローディア(龍師範・f00091)がにやりと笑みを浮かべた。いざ接近戦となれば、身体の頑丈さにも痛みへの強さも並外れている自信がある。
荒事とは無縁そうなリンカーベル・ウェルスタッド(ルーベル・アニマ・f01718)もまた、全てを知った上でこの場へやって来ていた。
「先制攻撃を必ずされると分っている上、更に手段まで判明しているのなら難しく考えることはありませんよね!」
大人しげな彼女の口から次に飛び出した言葉は流石に猟兵というべきか。
「そう、ガードしてから全力でぶっ飛ばせばいいと思います!」
『放言したものですね。覚悟が済んでいるのなら、始めましょう』
激しい排気音が響きわたる。途端にウインドゼファーの体を激しい暴風が覆い、猟兵の視認も追いつかないほどの速度で地を発った。
風に吹き乱される髪を淑やかに押さえて、吉柳・祥華(吉祥天龍・f17147)は穏やかな笑みのまま待ち受ける。
(「多少のダメージは想定内じゃ! 覚悟と気合いで凌ぐのじゃよ」)
ただ耐えるというだけなら困難極まる。知ってはいるが、激突の瞬間こそカウンターを叩きこむには最適だ。
重要なのは誰かの攻撃が決まること。そして、その数が少しでも多いこと。
『ゆくぞ!』
声すら置き去りの攻撃は祥華目がけて迸った。
可憐な身体が激突でぼろ雑巾のように轢き潰される、かに見えたのは幻だ。【シャドウ・ミスト】によって作られた完璧な残像は消えうせて、驚きに振り返るウインドゼファーを絶賛嗜虐的思考モードの祥華が捉える。
「さア! 次は妾のターンでありんし。覚悟はよいかのぉ」
くつくつと笑う祥華の結羽那岐之が、装甲も無視してウインドゼファーの体に深々と沈み込む。この一瞬に渾身の力を溜めた一閃に続いて、竜が巻きついた拵えの青龍戟が目にもとまらぬ二度目の薙ぎ払いを浴びせかけた。
「その大振りな剣は肉弾距離では使いにくかろう?」
手応えあり。苦痛の呻きをもらしたウインドゼファーのコートと、その下の装甲は引き裂けている。この上ない不意打ちに苛立ちを見せて彼女が跳び退る。
追撃せんとした祥華とアポリーの周りで、空気の流れが変わった。
あっと思った時にはもう遅い。舞う花びらすら引きちぎり、誰かれ構わぬ激しい暴風が辺りを席巻する。
「ぬっ? 高威力の無差別攻撃じゃ……と?! 範囲攻撃じゃろうか……むむっ!」
咄嗟にオーラで防ぎながら祥華が呻く。激しい空間断裂で神の肌といえど裂け、風圧に押し戻されてたたらを踏んだ。
アポリーとて無事では済まない。咄嗟の防御もむなしく身体は軋み体表も裂け、苦痛はなんとか呑み下した。
攻撃を食らってみて改めて実感する。確かに風を操るこの強さはどうだ。だがそれは、あくまで空気あってこそのはずだ。
もはや意志ある暴風と言っていいほどに、再び地を蹴ったウインドゼファーの動きはあまりに速く目で追えない。次の狙いは誰か、どこへ現れるかも予想はつかない。
わかるのは、同じようにパワーメインの攻撃であれば対抗できるということだけ。
ぱしゃんと場違いな水音をたてたのは、リンカーベルだった。
「私は殺し、また生かす。私は傷つけ、また癒す――と、神様が言っています」
詠唱は凛と響き、リンカーベルの小柄な身体がふわりと浮いた。次の瞬間驚くべき速さで宙を疾駆してウインドゼファーに肉薄する。
【白き翼を此処に】はオブリビオンと猟兵という出力の違い、聖水を浴びて発動という違いこそあれ、【フルスロットル・ゼファー】と性能面では同じ。
彼女が標的とならざるのであれば、次は――唐突に血がしぶいた。
祝福されし完成と謳うニコラの身が、裂けている。
ざっくりと開いた傷口の無残なさまは車輪剣によるせいか。しかし轢き逃げの如く行き過ぎるには、ニコラの肉体の頑丈さと痛みへの強さは強過ぎた。
「肉を切らせて骨を断つ、とするならば。貴様はオレサマのすぐそばに存在すると言うことだよな?」
決して軽い傷ではない。だが今を逃すわけにはいかない。至近距離での爆発は甘んじて受け、ウインドゼファーが軽い呻きをこぼして走り去ろうとしたその時。
『……なんです?』
ぐいんと引き戻された目の前にニコラの凄惨な笑顔があった。
「まあ待てよ。チェーンデスマッチといこうじゃないか!」
速さを身上とするウインドゼファーにとって、それがいかほどに屈辱か。そこへ聖水を翼のごとく広げたリンカーベルの言葉が迫りくる。
「大丈夫、右の頬を殴られたら、相手の左の頬を粉砕しろと偉い人も言っていました。ちょっと違う気がしますけれど、多分大体合っているはずです」
だいぶ違うとツッコむ余裕はウインドゼファーにはなかった。信仰の賜物と称する暴力でリンカーベルが振りかぶったメイスが、ウインドゼファーの頭を打ち据える。
衝撃でよろけてもドラゴンオーラは解放してくれず、ニコラの拳とヘルメット状のウインドゼファーのヘッドバットの応酬の間に詠唱は進み。
「我の忌むべき欲望の片鱗、今解き放たん! 【貪食の黒き靄】!」
絶妙なタイミングでオーラを解いたニコラが退くと同時、アポリーが解き放った。
彼のユーベルコードの射程を縁どるように蟲の壁が築かれる。あふれ出る蟲たちは欲望のままに食らい始めた。
『かっ、は
……!?』
顔が見えていれば、ウインドゼファーの驚きがよくわかったに違いない。
アポリーの促すままに蟲たちはまず、敵本体よりも先に別のものを貪った。それは限定された範囲とはいえ、空気。
「真空と蟲の結界の中で、全身を食われるが良い」
無数の異形の蟲は貪婪に空気を貪り、真空を生み、ウインドゼファーへ食いついていく。蟲という視覚的な恐怖と捕食の痛みは絶叫もやむなしと言えた。
『ぐあ! あああああ!!』
しかし真空によって誰の耳にも届くことはなく、アポリーは力の限り蟲を放出し続けた。ユーベルコードは永遠には続かない。蟲に貪られるウインドゼファーの苦痛も察せられるが、断末魔にはほど遠く。
(「短時間にできるだけのダメージを与えねば
……!」)
アポリーの心を読んだように、突然爆発したように蟲たちがはじけ飛ぶ。ユーベルコードの出力が途切れた一瞬をついて、ウインドゼファーが暴風でもって吹き飛ばしたのだ。
『……なるほど。覚悟はよくわかりました』
まだ斃れるには至らないが、消耗しているのは間違いない。疲労を感じさせる言葉に続いて再び風が勢いを増す。
猟兵たちもまた、不敵な笑みをもって相対した。
成功
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ユーフィ・バウム
※アドリブ・連携歓迎
スピードで勝てないのはわかります
ならば、先手を取られても凌ぎます!
ゼファーの動きを【見切り】と【野生の勘】で予測、
避けることを試みる。
暴風は【衝撃波】で相殺を狙い、
攻撃を避けきれなくても、【覚悟】をもって
【オーラ防御】で耐え抜く――頑丈なのが取り柄ですっ
苦痛ダメージは【激痛耐性】で我慢し、
【力溜め】つつ【ダッシュ】――飛んでいれば【空中戦】で
間合いを詰め、【怪力】の【グラップル】で
押さえつけては仲間と攻撃を重ねる
捕まえたなら、絶対離しませんからっ
仲間と連携し攻撃を重ね、敵が消耗してきたなら
敵の攻撃を耐えるのみではなく、【カウンター】を入れ
《トランスクラッシュ》で仕留めにいく
パーヴォ・シニネン
※海洋生物を模したマスクが子供の肉体に憑依
ふむ、強敵だぞ相棒
しかし我輩達も負けてはいられないヨネ
彼女がその身を暴風で覆うと同時かそれよりも早く
手にした串焼きの束を大食いで瞬時に食べ尽くそう
本来ならもっと味わって食べてほしいものだが!
増した戦闘力と共に怪力でその場にしっかり足をつけ
暴風に煽られぬようフォークを足場に突き刺し支えとするよ
補いきれぬ消耗は一度生まれながらの光で回復【祈り】
一撃でも当てれば我輩達は猟兵の勝ちへと繋げられる
彼女の剣と化した腕を無理矢理掴み【手をつなぐ】
空いた手に持つフォークでその身を斬り裂こう
君の追い風と欲望は尽きないだろう
だが、我輩達の生への渇望こそが勝利をつかみ取る
スパイニア・ソーン
アドリブ連携歓迎
SPD&先制対策
崩れた足場を【見切り】【野生の勘】で掻い潜り、時に足場にしながらウィンドゼファーに接敵。
刃に毒を塗ったダガーによる奇襲を試みる。暴風の中を行くのも、嵐の海を泳ぐのも、似たようなものだろう。花弁と瓦礫を目くらましにしつつ、戦闘用装備を投げ捨てて加速。
『風を操る』ただそれのみで幹部に上り詰めたお前の実力は相当なものだろう。シンプルゆえに弱点がない。だが、届きさえすれば私の毒がお前を蝕もう。
自身の周囲を崩せば誰も近付けまいと思ったか?暴風に飛び込む術さえあれば、私の毒牙はお前を捉える。風の止む時を教えよう、ウィンドゼファー。お前の欲望は此処で費える。
仲間に手ひどい傷を負わせ、尚暴れ回るウインドゼファー。
その戦いぶりに息を呑みながらも、退くことも選びはしない💠パーヴォ・シニネン(波偲沫・f14183)が呼びかける。
「ふむ、強敵だぞ相棒。しかし我輩達も負けてはいられないヨネ」
語っているのは鯨ともイルカとも見える海洋生物を模したマスクそのもの。それをつけた子供が、いささかの怯えも見せずにこくりと頷く。
「強敵結構。一点に重きをおいた使い手、不足はないな」
豊満な身体に挑発的ともとれる衣服をまとったスパイニア・ソーン(致命の一矢・f03958)のありようは、ウインドゼファーとは対照的だ。悠然と微笑む彼女の言葉に首肯して、ユーフィ・バウム(セイヴァー・f14574)がにこやかに宣言する。
「スピードで勝てないのはわかります。ならば、先手を取られても凌ぎます!」
『それは楽しみですね。是非感想を伺いたいものです』
手傷を負っているのは間違いないが、強さに翳りも未だないウインドゼファーが
「自身の周囲を崩せば誰も近付けまいと思ったか――?!」
スパイニアの声が吹き千切られる。暴風の中を行くのも、嵐の海を泳ぐのも、似たようなものだろう。そう思っての見切りだったが、ウインドゼファーの攻撃は予想を超えて足場を打ち崩し、身を打つ衝撃は強い。
近づくことがままならず、苦痛に息を詰まらせ落ちゆく。
「スパイニアさん!」
風そのものに轢かれたような彼女を、歯を食いしばってユーフィが捕まえた。もちろん苦痛に襲われている。咄嗟の衝撃波で多少を減衰したものの、オーラの防御を軽々と越えた風の暴威に全身が痛い。
身体が小さいこともあって遠くまで吹っ飛ばされたパーヴォは間に合わなかったが、聖なる光を浴びているところをみると回復はできているだろう。
効果範囲から外れた花びらの足場に着地し、二人は上を仰ぎみた。
ごう、と音をたててウインドゼファーの全身を暴風が覆う。こちらを見下ろすウインドゼファーと目があった、とユーフィが思った途端、敵の姿はかき消えた。
視認も及ばぬ疾風と化したウインドゼファーが誰を襲うか。
恐らくは自分。
ウインドゼファーの動きを見切ろうとは試みたが、まるで目が追いつかない。躱せないなら耐えるしかない。覚悟を決めればあとは耐えるだけだ。
「――頑丈なのが取り柄ですっ」
次の瞬間、再びの激痛と共に血が舞った。車輪剣にざっくりと肌を裂かれている。
よろける脚を踏ん張って、痛みには幾つもの戦いの経験をもって耐えて。
「いきますよっ!」
駆け抜けようとするウインドゼファーに体当たりを食らわせた。待ち受けていた間に溜めた力も込めた、外見に似合わぬ怪力がウインドゼファーを打ち落とす。
『これは?!』
予想せぬ反撃に遭ったウインドゼファーが花びらの上に転がり、跳ね起きた。車輪剣を構えようとした一瞬の隙、舞う花びらにまぎれて。
今度こそその動きを見切った赤い瞳は渾身の一投を済ませていた。
『な……に?』
白衣に深々と突き立つダガー。その刃は毒々しい色でぬらりと光る。
「『風を操る』ただそれのみで幹部に上り詰めたお前の実力は相当なものだろう。シンプルゆえに弱点がない」
『このような、手を……!』
「暴風に飛び込む術さえあれば、私の毒牙はお前を捉える」
掠れた声で笑ったのはスパイニアだった。血にまみれ、立っているのもかろうじてという有様だったが、その毒は確かにウインドゼファーを蝕み蹂躙していく。
震える脚が花びらを支えに膝をつく風の主を見下ろして、スパイニアは嫣然と笑った。
『おのれ!』
いきりたつウインドゼファーの身を暴風が包んだ、とみるや、やりとりの間に駆け寄ったパーヴォはずらりと大きな串焼きの束を取り出した。それを相棒の少年が掴み瞬く間に食べ尽くしていく。
「本来ならもっと味わって食べてほしいものだが!」
相棒の生い立ちを思うパーヴォにとって身を切るように辛いけれど、今は。怒りに震えるウインドゼファーが足場を飛び立つ。冷静な彼女なら、相対することもままならないスパイニアよりユーフィの無力化を優先するだろう。
携えたフォークを花びらの足場に突き立て、パーヴォは襲来に備えた。
「一撃でも当てれば我輩達は猟兵の勝ちへと繋げられる」
互いに手を取り合い戦う猟兵なればこそ。
暴風は再び目にもとまらぬ疾走を始め、その終着地だけは三人の誰にも明らかだった。
――接触。
「くあっ……!」
『ぐおあ!』
相手の速度も再びの痛みも承知の上で、ユーフィはカウンターを狙ってのラリアット。両者勢いで弾け飛んだその一瞬、パーヴォの手がウインドゼファーを捕まえた。
何が起きているのかわからないウインドゼファーが慣性で半回転するその先へ、少年の携えたフォークが閃く。
「君の追い風と欲望は尽きないだろう」
それこそがウインドゼファーの原動力。それこそが彼女の存在意義。
「だが、我輩達の生への渇望こそが勝利をつかみ取る」
巨大なフォークはウインドゼファーの体を深く抉り、切り裂いた。舞う花びらに血が飛んで、着地できない暴風は宙を泳ぐ。
その行き先を見定めて、スパイニアのダガーは空を貫いた。
「風の止む時を教えよう、ウインドゼファー。お前の欲望は此処で費える」
毒をまとった最後のひと刺し。
白いコートの中央に突き立ったダガーはちかりと光を反射して――ウインドゼファーの体は爆発でもしたように激しい風を撒き散らして消えうせた。
あとに、勝利を手にした猟兵たちを残して。
最後の関門たるウインドゼファーは斃れた。
その身が再び骸の海から蘇るのか、今はまだわからない。
けれど全力を尽くした猟兵たちの前から消えうせたのは、確かだった。
成功
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