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バトルオブフラワーズ⑪~風の王

#キマイラフューチャー #戦争 #バトルオブフラワーズ #ウインドゼファー

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●スピードの向こう側
「ラビットバニーを撃破して早々だけど、これが中枢に至る前の最後の依頼になる。次の敵は――『彼女』だ」
 壥・灰色(ゴーストノート・f00067)が宙に浮いたホロ映像を指さす。
 そこには、バイクを擬人化したかに見える赤いヘルメットの怪人が映っている。
「彼女の名は『ウインドゼファー』。風を操る怪人にして、幹部怪人の最後の一人。彼女が、システム・フラワーズ中枢のドン・フリーダムを防衛する最後の壁だ。……逆接的に言うのであれば、彼女を打ち破らずして中枢を攻めることは出来ない。正念場だ」
 言いながら、灰色はウインドゼファーの能力詳細をホロディスプレイに表示する。
「ウインドゼファーは風のユーベルコードを用いる。彼女は自身の速度に自信を持っている――生半な機動性では彼女の動きに太刀打ちできないだろう。おそらく――いや、確実に、先制攻撃を食らうと見ていい。勝利のためには、その先制攻撃に対して対策を立て、きみ達の強みを活かした戦闘を展開する必要がある」
 灰色は強敵に対する、最早お馴染みとなった説明を行う。『敵の秀でている部分』の話だ。つまり、そこに対策を取り、全力を尽くせば通ずるであろうという部分。
 ……けれど、今回はそれだけでは勝利を確約できぬ。
「敵は幹部怪人の一人。その超スピードに対策できたとしても、安易に勝利出来るわけではないだろう。……それでも、多数の猟兵が戦わなくては勝てない戦いだ。どうか、皆の力を貸して欲しい」
 祈るように、灰色は言葉を紡ぐ。

 願わくば、きみ達の刃があの風の王を捉えますようにと。



 お世話になっております。
 煙です。

●注意事項
 敵は必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
 この先制攻撃に対抗する方法をプレイングに書かず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、必ず先制攻撃で撃破され、ダメージを与えることもできません。

●運営シナリオ数について
 運営シナリオ数に制限はありません。戦場の戦力「40」をゼロにできれば制圧成功ですが、それ以上の成功数があった場合、上回った成功数の半分だけ、「⑬『ドン・フリーダム』」の戦力を減らせます。

●プレイング受付開始日時
 OP公開後、即時受付開始とします。

●お受けできる人数について
 今回の描写範囲は『成功度達成まで(もしくは、依頼失敗まで)』となります。
 プレイングの着順による優先等はありませんので、お手数に思わなければ、受付中の限りは再送などなどお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『スピード怪人『ウインドゼファー』』

POW   :    フルスロットル・ゼファー
全身を【荒れ狂う暴風】で覆い、自身の【誰よりも速くなりたいという欲望】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD   :    レボリューション・ストーム
【花の足場をバラバラにする暴風】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    ソード・オブ・ダイアモード
対象の攻撃を軽減する【全タイヤ高速回転モード】に変身しつつ、【「嗤う竜巻」を放つ2本の車輪剣】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。

イラスト:藤本キシノ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ドン・フリーダムに至る第三の門を守る怪人が、うっそりと顔を上げる。
 赤いメットに、バイクと一体化した人間とでも言おうか、厳ついフォルムをした怪人である。
「来ましたね、猟兵」
 しかし響くその声は玲瓏にして怜悧。――グリモア猟兵の解説があったとおり、女性である。
「私の名はウインドゼファー。ドン・フリーダムを守る最後の幹部怪人にして、貴方達の終点。――先の二人とは違う、と云うつもりはありませんが、私に言える事はただ一つ」
 ハンドルとタイヤを思わせるデザインのバズソーを始動、高速回転させながら、ウインドゼファーは低く身を屈める。
「ここで止まって貰います。――我々の宿願、『無限大の欲望』のために。私たちは全てを手に入れる。その邪魔はさせない。何人たりとて――絶対に」
 エキゾーストノートが響き渡る。ウインドゼファーの身体から伸びたマフラーが、陽炎と甲高い排気音を上げ唸る。
 ここを推し通らば、最後に残るはドン・フリーダムただ一騎!
 猟兵達は武器を取り、恐れることなく挑みかかる!

 バトルオブフラワーズ・サードゲート!
 ネームドエネミー『ウインドゼファー』、エンゲージ!
 グッドラック、イェーガー!
 
 
ヴィクティム・ウィンターミュート


あんな強敵と長時間戦り合うなんてできやしねぇ
狙うのは一発勝負だ
意識外からの奇襲一発だけ
それに全力を賭ける

まずは先制攻撃の対処だな
風で足場が崩れて、堕ちていくところでUC発動
ステルス状態で高機動能力獲得
【ハッキング】開始
各種サイバネをオーバーロード
演算能力、拡張完了

身体能力、そして崩れる足場から足場へ「どうやって飛び移れば」戻ってこれるかのルート計算能力を高める
【ジャンプ、ダッシュ、早業】で足場を飛び移り続け、戦場復帰
俺はステルス状態、奴は「俺が落下して戻ってこない」と思ってるはず

そこが隙だ
【忍び足】で焦ることなく近づいて
背後から急所部分への【騙し討ち】

この一発はな
「王殺し」の一発だぜ、風の王



●ジャイアント・キリング
 敵は強大である。真面に打ち合えば鎧袖一触、吹き飛ばされて終了だ。
 ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)は、それをよく理解していた。スピードもタフネスも恐らくは向こうが数段上。
(――あんな強敵と長時間戦り合うなんてできやしねぇ。狙うなら一発勝負、意識外からの奇襲一発だけ。それに全力を賭ける)
「まずは貴方ですか。――小技が得意そうですね」
 ヴィクティムの装備したサイバーウェアの数々は、ウインドゼファーから見てさえ奇異に映るようだ。ヴィクティムは額のゴーグルを手で降ろし、唇を歪めて笑った。
「言ってくれるじゃねーか。試してみろよ、ゾーニーズ。端役が大物殺しを出来ないなんて法はな、ヘビーな現実にゃ用意されてねえんだぜ」
 ヴィクティムのゴーグル――『ICE Breaker』にゼロと一のマシンコードが蒼白く流れ走る。生体ナイフ『エクス・マキナ・カリバーンVer.2』を引き抜き、ヴィクティムが構えを取った瞬間、ウインドゼファーは右腕のバズソーを引き、無造作に振り下ろした。
「うおッ……!?」
 余波だけでヴィクティムの軽い身体が煽られて後ろに圧される。ウインドゼファーは自分が立つ足場を、バズソーのたった一振りで引き裂いた。――否、引き裂いたのは――風だ!
 生み出されたのは足場となる花を散らせる程の烈風。それどころか、空気が歪んで可視化するまでになったその『風』は、接触したものを『空気の断層』により引き裂き、破壊する程の暴威を備えている。
 風が足場を壊し、墜ちるヴィクティム。身を捻り手近な足場に着地すると、更に上から追撃が来る。
「Drek!」
 舌打ち交じりに飛び退くヴィクティムだが、上から叩きつけられた『風』――ユーベルコード『レボリューション・ストーム』はその悪態すら呑み込む破壊力だ。ヴィクティムは着地した足場諸共迫撃され、四散する足場と共に下へ落ちる。最早声もない。
「他愛も無い。こんなものですか……小技も無かったようですね、猟兵」
 バズソーを構え直し、ウインドゼファーは次の猟兵の姿を探す。

 ――電磁クローク展開。ステルス・カモフラージュ起動。カモフラージュパターン、『システム・フラワーズ』ロード。
 崩落した他の足場の位置確認。演算開始。最適経路探索。視界内ルートガイド表示。
 フィジカル・エンハンサー&リアクション・エンハンサーをオーバーロード、身体能力を過剰強化。拡張コード『Parkourist』起動。
 墜ちる身体を捻り、足下に触れた、崩落した花の足場を蹴る。
 ぱ、ぱぱ、ぱッ――
 計算したルートを逆しまに、駆け上る。きっと誰にも見えないだろう。不自然に、風によって崩落した花の足場の表面が削れ飛ぶ事に、この戦場で一体誰が気付けるものか。
 死の足音は、誰にも聞こえない。ウインドゼファーの後ろに、ひたりと、何かが着地した。

「――!」
 ウインドゼファーは殆ど反射的に、振り向きざまにバズソーを振るった。音では無く、気配だけを察知して振るったものだ。本能的な直感に基づく攻撃。だがそれ故に、狙いが甘い。
 放たれる『風』。しかし、背後の気配には命中せぬ。暴風に嬲られ、電磁クロークが乱れて、擦り傷、切り傷だらけのヴィクティムの顔が露わになった。――崩され崩落する足場を蹴り、フルブーストした身体能力と反射神経で駆け上ってきたのだ!
 逆手に持ったエクス・マキナ・カリバーンもそのままに、増幅した身体能力を活かして最短距離を駆け抜ける! 三メートルなど、ブースト状態のヴィクティムには半歩にすら値せぬ!

「この一発はな――『王殺し』の一発だぜ、風の王」
 嘯くように笑うArsene。エクス・マキナ・カリバーンの刃が、ウインドゼファーの胸を穿つ!
「ぐううっ……!?」
 ヴィクティムはすぐさまナイフを引きステップ、距離を取る。
「油断大敵だな。どうだい? ――『小技』の味はよ」
 自称『端役』は、からかうように嗤うのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

鳴宮・匡



先んじられるのが判っているなら無駄に動かない
敵が機動しているなら、周囲環境には必ず反応がある
視える限りの相手の動き、周囲を埋める足場の揺れ
機動音、風の流れ、肌を撫でる風圧
それらから予測しうる相手の軌道を推定
こちらへ突撃してくる軌道の先へ【クイックドロウ】

一発撃てればいい
反応できなければ、あの速度なら少なからぬダメージだ
反応して避けたとして、それは攻撃の手を緩めたと同義
反撃に転じる隙は、生めると信じる

銃弾より遥かに速い相手だ
通常の射撃では捉え切れない
ギリギリまで引き付け
一撃受けた瞬間に【終幕の雨】でカウンター
相打ち覚悟なんて締まらないが
このくらいでなきゃ届かない

もうちょっと、強くならなきゃな



●空を射落とす
 響く銃声。威嚇射撃。
「こっちを見ろ。次は俺が相手だ」
 火を噴いたのは特殊部隊御用達の高性能なアサルトライフル――そのカスタムモデル、BR-646C。通称『Resonance』。
 反響を意味する名を持つライフルを持つのは、黒――否、濃藍の髪をした東洋人であった。名を、鳴宮・匡(凪の海・f01612)という。
 ユーベルコードを下手に用いれば、直後に後の先を取られる危険がある。捉えるべき機はただ一度。
「ガンナーが自ら姿を晒しますか。いいでしょう、その安い挑発に乗ってあげます」
 せせら笑うでもなく、淡泊に声を発するウインドゼファー。ヴィクティムの追走を取りやめ、前進に風を纏ってふわりと浮かび上がる。纏う風は大気を軋ませ鳴り響き、エンジン音が高まってその身に秘めた力の高まりを告げる。
 ふ、とその姿が掻き消えた。
 ソニック・ブームが生まれた。耳を聾する衝撃音。
 匡は背に這い上る危険信号に従って右方に転がる。高速回転するバズソーが一瞬前まで匡の頭があった位置を掻き切る。常人離れした反射神経と運動能力が無ければ、その一撃で全てが終わっていただろう。
(機動しているなら、周辺の環境には必ず影響がある。奴が幽霊でない限り、物理法則は絶対だ。――だが、こいつは)
 速い。『周辺の反応を見てからでは追いつかない』。辛うじて、初動、敵が蹴り放した地面だけは見えた。しかし、そのあとが見えない。音も、風も、宛てにならなかった。匡はすぐに理解する。奴は、風よりも、音よりも速く機動している。
 踵が地面に着くと同時に蹴り放しバック宙。背後から振るわれたバズソーを背面跳びめいて避け、からくも着地。匡は目を見開く。その焦げ茶の瞳の底に、水底めいた藍が揺れる。
 ――こいつは、無傷じゃ無理だな。
 匡は直感する。速すぎる。得られた僅かな視覚情報と、戦場傭兵としての直感のみで、奇跡的に二度、攻撃を躱したが、三度目はあるまい。
 行き過ぎたウインドゼファーはまるで宙を躍る蜻蛉のように鋭角的な軌道で方向転換。その胸のライトだけが宙に曳光し、アトランダムに宙に出鱈目な図形を描く。
 ――飛び回るその動きが、一瞬あとにどう変ずるか、予測がつかない。
 確信する。あの速度は、銃弾よりも遥かに速い。匡の持つResonanceのオリジナル・モデルの銃口初速――マズル・ベロシティはおおよそ九九〇メートル秒前後だ。それよりも速い。自身の感覚の全てをブーストする。ゼロ・ミリオンを起動すれば、或いはそれさえ知覚できるかも知れないが、しかしそれでは今度は威力が足りない。
 自身に備わる感覚のみで、奴を射貫くには――
 匡は、弾かれた様に、敵に背を向け走り出す。
 速度は大体理解した。方向転換しつつ空間を飛び回るあの速度はおそらく六〇〇メートル秒前後、最初に回避した直線直行時の瞬間最大速度は距離からの逆算で、二七〇〇メートル秒程度。
 銃弾の約三倍。しかし、それだけ解れば逆算が出来る。
 恐れを成して逃げ出した風に見えるだろう。実際、そのように見えるようにした。それはただ一つ、敵が『真っ直ぐに突っ込んでくるように仕向ける』為だ。予測できない挙動で宙を飛び回り、どこから直線直行の突撃をかけてくるかが読めないのであれば――
 身を犠牲に釣るだけだ。

 己の感覚を研ぎ澄ませ。
 ギリギリの瞬間を見極めろ。
 匡は、殺気がちりりとうなじを焦がしたその瞬間、己に出来る最速で銃を振り向けた。

「――!!」
 果たして、目の前に迫るウインドゼファー。振り下ろされる車輪剣。高速回転する車輪が匡の左肩に食い込み、ズタズタに裂くが――それは敵とて同じこと。突き出されたResonanceの銃口が槍の如くウインドゼファーの腹に突き立ち、その身を軋ませる。
「捉えたぜ」
「そんな――莫迦な」
 狂っている、とでも言いたげにウインドゼファーが呻く。相討ち覚悟。匡は今なお身を裂くバズソーの駆動音をよそに、トリガーを引いた。銃口から溢れるのは『終幕の雨』。
「っあ、あああああッ!!」
 至近距離から炸裂した十数発の銃弾が、ウインドゼファーの身体を吹き飛ばす!

 ――もうちょっと、強くならなきゃな。
 舞い散る血と、確かに自分が穿った傷を見ながら、遅れてきた風圧で同様に吹っ飛び、匡は墜ちる。
 墜ちる、墜ちる。けれどその顔に不安はない。
 この戦場にはどこぞの端役がいるから。――少しくらいは、甘えたって構わないだろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

ムルヘルベル・アーキロギア

同行:織愛(f01585)

“嗤う竜巻”とやら……聞くだに禍々しい
だが悪意ある呪詛の類ならば、禁書を封印してきたワガハイの得手よ
『魔力結晶』も含めた全魔力を『花衣』に注ぎ、〈呪詛耐性〉に特化した障壁を張ろう
風圧が我が身を削るとしても構わぬ、攻撃は任せてあるゆえ

ある哲学者は言ったそうだ、“どんな嵐が吹こうと、道半ばで歩みを止めはしない。それが勇気だ“とな
欲望を貪り果てたオヌシら怪人と、未来を目指す我ら!
真に「歩み続ける」というのがどういうことか……織愛よ、オヌシの【覚悟】で示してやれ!
ワガハイに出来るのは、こうして言葉でオヌシを鼓舞し、今ひととき邪悪な嵐の嗤笑を防ぐ程度ゆえな……!


三咲・織愛


ムルヘルベルくん(f09868)と

ウインドゼファー。あなたが疾さを求めたというのなら、
私は強さを求めます。何があっても挫けぬ心の強さを

車輪剣の回転を止め、竜巻を消します
それが、勇気をくれる彼の身を守ることに繋がると信じて

『noctis』を振るい、<見切り>により間隙を縫い
車輪剣のホイールを<怪力>籠めて<串刺し>ます
もう一つの車輪剣も、懐から『燦星』取り出し<武器受け>、止めてみせましょう
風に身を裂かれようと、退くことは有り得ません

ええ! 示してみせましょう
私の【覚悟】を
未来へ進むための一撃、
拳に想いを籠めて叩き出します
ただ欲望を貪る、あなたの心はとうに死んでいる
そのまま過去と散りなさい



●賢者、星を詠みて
「……小細工を弄しますか、猟兵。しかしこの程度のダメージでは我が欲望は潰えません。すべて――すべて飲み干して見せましょう。この後に呑み込む『無限大の欲望』に比べれば、この程度、前菜にもなりはしない」
 銃撃を受けて仰け反り、後退したウインドゼファーだが、着弾のダメージを感じさせぬ動きで姿勢制御、空中にて静止する。その周囲には圧倒的な暴風が吹き荒れている。勢いに陰りは全く見られず、その姿はともすれば、『本当にこいつを倒せるのか――』と、歴戦の猟兵らをして疑念を抱かせるほどだ。
 しかしてまた二人。新たな猟兵が踏み出す。
「――ウインドゼファー。無限大の欲望を求める怪人。あなたが疾さを求めたというのなら、私は強さを求めます。何があっても挫けぬ心の強さを」
 歌うように言うのは、三咲・織愛(綾綴・f01585)。その横を、ムルヘルベル・アーキロギア(宝石賢者・f09868)が固める。
「オヌシらには分からぬかも知れぬな。織愛の言う『強さ』が。ドン・フリーダムが解放した欲望に依ってのみしか歩けぬ、それを求めることしか出来ぬものよ。ウインドゼファー、来るがいい。ワガハイ達が引導を渡してくれる」
 真っ直ぐに視線を向けて謳う賢者に、ウインドゼファーは高まるエンジン音で応えた。その身体が強風に支えられるままに中天へと舞い上がる。
「知ったような口を叩く……! 貴方たちに、何が分かるというのです! 我々の悲願を、宿業を! その重さを一つとして知ることなく――吼えるならば受けてみせよ、我が魔剣『ダイアモード』の風を!!」
 叫びと同時に繰り出されるその両手のバズソ――車輪剣『ダイアモード』が嘲笑うが如き高音と共に高速回転!
「欠片も残さず、拉げて潰えろ!」
 神速での先制攻撃。振り抜かれたダイアモードが大気を引き裂き、渦を作り出した。
 空を軋ませ渦巻く烈風は、“嗤う竜巻”の名に相応しい。渦を巻く音の狭間に、明確な悪意が見え隠れする。魔が潜み、笑って居るかに聞こえるのだ。
「成る程、聞くだに禍々しき“嗤う竜巻”の名の通りの眺めであるな。――だが、悪意ある呪詛の類ならば、禁書を封印してきたワガハイの得手よ。織愛! ワガハイの後ろへ!」
 この先制攻撃を織り込み済みであったムルへルベルは、前に出るなり腰のポーチから予め用意しておいた『魔力結晶』を取り出した。
 五指に四つを挟んで抜き、眼前に掲げた手を一息に握る。極彩色の魔力が光を散らし、ムルへルベル本人の内蔵魔力と共鳴する。
 手で呪印を切り、魔力の流れを制御。己が魔力、そして魔力結晶から供給される魔力の全てを、非物質的拘束呪式『花布』に一挙に流し込む。
 そうして生まれるのは、ムルへルベルが為し得る限り最大級の対呪詛障壁! ムルヘルベルと織愛を目掛け殺到する嗤う竜巻を、障壁が真っ向から受け止める!
「ぐ、うう、うううっ……!!」
「ムルヘルベルくん!」
 無傷で、とは行く訳がない。風圧が、そして風に隠れる『ダイアモード』の邪気が、物理的な威力、そして呪詛のフィードバックにより物理・精神の両面よりムルへルベルの身体を削る!
 障壁を維持すべく掲げたムルへルベルの両手、両腕に亀裂。そこから血が飛沫き、あまりの圧力にモノクルのレンズに亀裂が走る。
『キィイイヒヒヒヒヒ!! テメェらなんぞ所詮無意味で無価値な存在よォ!! 死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!! 潰れちまえよォ、クソ猟兵どもォーーーッ!!!』
 精神を引っ掻き、哄笑するはダイアモードの声。ともすればそれは膝を屈させるに値する精神攻撃だったやも知れぬ。
 だが――
「案ずるな。織愛。ワガハイは折れぬ、砕けぬさ」
 紫水晶の瞳をした賢者は、確かな声音で言う。
「ある哲学者は言ったそうだ、“どんな嵐が吹こうと、道半ばで歩みを止めはしない。それが勇気だ”とな」
 ムルへルベルの瞳から、光が消えることなどない! 初手を凌いだ賢者が発するのは『鼓舞』の声!
「片や欲望を貪り果てたオヌシら怪人!! 片や未来を目指す我ら!! 真に『歩み続ける』というのがどういうことか……織愛よ、オヌシの『覚悟』で示してやれ!」
 ムルへルベルは障壁の出力を全開にし、一時、障壁で嗤う竜巻を捕り篭める! 呪詛を孕む風に障壁が噛み付き、その自由な機動を妨げるのだ!
 そして、賢者の加護を受けた綺羅星が、その後ろより――僅かな空隙を衝いて飛び出した。
「――ええ! 示してみせましょう――私の『覚悟』を!」
 織愛である!
 ムルへルベルの後ろより駆け出た織愛は、囚われた嗤う竜巻の横を駆け抜け、ウインドゼファーへ突撃する。
「その竜巻――止めて貰います!」
「舐めるな、猟兵!」
 迎え撃つウインドゼファーの手の内、バズソーの高速回転は止まらぬ。『嗤う竜巻』ほどの規模ではないにせよ風を纏い、打ちかかる織愛に応じた。
 火花が散る。真っ向からの打ち合い。龍槍『noctis』をその並外れた膂力で振るい、唸り音を立てるバズソーに叩き付け、至近距離での格闘戦を演じる織愛。打ち合うだけで、『ダイアモード』から発される風の刃が織愛の身体を傷つけていく。
「その程度で私の前に立ったことを後悔なさい!」
 ウインドゼファーは巻き起こした風により身体を回し、大振りの一撃を繰り出す。――しかし、その一撃をこそ待っていた。
 刹那の見切り! 織愛は身を屈め、バズソーの刃から身を躱すと同時に、槍を一閃。
 がっ……ぎいいいいいい!!!
 軋み音を立てて槍を噛み込み、バズソーの回転が止まる!
「な――?!」
「一つ……!」
 織愛はnoctisを手放しステップイン。懐刀を引き抜く。
「二つっ!」
 軋み音、再び!
 二本目のダイアモードの廻転を止めるは、永海・鋭春作、斬魔鉄製懐刀『燦星』……!
 決して折れず曲がらぬ斬魔鉄が、そして星夜を彩る槍が、織愛の意を汲み、邪悪なる車輪剣をここに停止させる!
「くッ、――動け、ダイアモード!! 動け!!」」
 車輪剣の停止と共に、背後の『嗤う竜巻』が瞬く間にその勢いを減じていく。織愛はナックルダスターを装じた両拳を構える。
 敵の動揺を、逃がさぬ。
 揺れず、負けぬ、矜持がある!

 桃色の瞳がウインドゼファーを射竦める。その瞬間、確かにウインドゼファーは恐れた。
 賢者の加護を受け、凜と立つ。
 傷だらけとなって尚一歩も退かず。
 ただ、真っ直ぐに殺気をぶつけてくる三咲・織愛を。

「ただ欲望を貪る、あなたの心はとうに死んでいる。――そのまま過去と散りなさい、ウインドゼファーッ!!」
 未来へ進むための一撃。
 全ての思いを拳に乗せ、帚星の如く輝く拳がウインドゼファーの顔面を、全力を篭めて強かに打ち抜いた。
「が……はっ……!」
 メットに亀裂が入り、ウインドゼファーの身体は殆ど吹き飛ぶように後ろに投げ出される!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

花剣・耀子

流石は幹部ね。
その速さ、機動力には、きっと易くは追いつけない。
……だけど、あたしはするべき事をするだけよ。

機械剣《クサナギ》、全機能制限解除。

アンカーを射出。
流されても、進むべき方向を見失わないように。
風が面で圧してくるなら、
それを穿つ点になるようすべての動力を注ぎ込むわ。

正面への切り込みは暴風の壁を裂く為。
後方への吐き出しは後押しの為。
鋼糸を巻き上げて踏み留まり、前へ。
製鉄技術も上がったもの。そう易くは壊れない。

残骸剣の布を解いて風の流れの目印に。
緩んだ一瞬が勝負。

機械剣全機構パージ。
最高速度で踏み込み、一閃。
浅ければ旋体、逆手に残骸剣を抜いてもう一閃。

奇遇ね。あたしも嵐と呼ばれているの。



●天叢雲剣
「くッ……!! この、程度、ォっ!!」
 ウインドゼファーは車輪剣を逆旋、異物を除きながら飛び退き、宙へ舞い上がった。質量を伴うほどの『風』の刃を全方位に吹き荒らす。
 対する猟兵達が待避し、即座に後退する中、嵐が如く吹き荒れる飄風の中を、一人の猟兵が逆に突っ込んでいく。
 絶対的なアドバンテージは敵にある。ユーベルコードが既に発現しているのだ。先制攻撃の術中に飛び込むのは、開いた敵の顎門に飛び込むのと同義であろう。
 しかし、彼女がそれを恐れることはない。

   Code name Tempest.
 ――彼 女 は、 花 剣。

 花剣・耀子(Tempest・f12822)だ。真っ向から、暴風を前に次から次へと吹き散らされる足場の上を飛び渡っていく。
 ウインドゼファーの速度を見た。――あの速さ、機動力に追いつくのは困難だろう。死力を尽くしたとて、或いはそれは叶わないかも知れない。しかし、それでも耀子がやるべきことはたった一つだけ。
           リミットリリース
「機械剣《クサナギ》、全機能制限解除」
 彼女の手の内で、『機械剣《クサナギ》』が目を覚ます。エンジン音と共に、設計限界以上の速度で高速回転を始める刃。オプション兵装が次々スタンバイ状態となり、耀子の全力機動に対応できる状態となる。

「――斬り果たすわ」
 ああ、ただそれこそが、彼女の成すべきこと。

「落ちろ、猟兵!」
 高速接近する耀子目掛け、ウインドゼファーが風を放つ。耀子が着地する予定だった足場が砕け、その余波が空中の耀子を襲う。しかし、耀子はすかさずクサナギより、鋼糸に繋がれたアンカーを射出。無事な足場に突き刺して巻き上げることで空中をさらに加速しながら飛び渡る。
 耀子は残骸剣《フツノミタマ》の布を半ば解き、それによって風を読みながら駆け抜ける。
 放たれた風の余波が耀子の肌を撫でた。まるで風に捲かれた剃刀のように、空気の断層を含む飄風が身体を撫でる。細かな傷が耀子の膚に刻まれ、血が流れる。余波だけで、この威力。
 それでも止まらぬ。青の瞳に映るのは、風の王、ただ一人。
 業を煮やした風に、ウインドゼファーは大きな溜めから、面的制圧を目的とした風――壁めいた面積をカバーする烈風を放つ。
 ワイヤーで迂回すれば速度を殺される。然りとて、この強風の中をワイヤーを放つのでは、狙いが定まらぬ危険がある。
 ならばとばかり、耀子はクサナギのサブトリガーに指をかける。
 風が面で圧してくるのなら、それを貫く点となるのみ。
「《ヤクモ》、展開」
 クサナギの背に推進器が迫り出す。試作機《ヤクモ》、クサナギのオプションパーツの一つ。嵐の如き加速を成す推力システム。
『風の壁』が迫る。耀子は眦を決し、サブトリガーのロックを解除。

「雲霞を散らせ。八艘八雲」

 声、手の刃の唸りに似て。
 回数制限付きの《ヤクモ》を一瞬で全弾放った。その瞬間最高速度はともすれば、ウインドゼファーにさえ比肩するのではないかと思われた。
 耀子の身体はその瞬間、音の壁を突き破り、ウインドゼファーが放った『風の壁』を蜘蛛の巣のように引き裂く。
 全身より迸る血。構わぬ。血の朱を曳いて飛ぶただ一条の矢と化す。
「――?!」
 敵の驚愕の気配。迎撃法に迷った一瞬に畳みかける。耀子はオプション兵装《ヤシオリ》から五寸釘を連射、ヤエガキのワイヤーをさらに加速に用い、最後の足場に殆ど銃弾めいて着地、そして跳弾めいて跳躍!
 パージされたオプションパーツが散る様は、まるで大気圏を落ちる壊れかけの衛星を見るようだ。
「物狂いめ……!」
「失礼ね。――これしかないと思っただけよ」
 直前まで誰も近寄らせまいと風を放っていたウインドゼファーに、最早回避罷り成らぬ!
 旋風のごとく身を返し、クサナギが袈裟切り上げに! 血がパッと散る中を白布翻し、左手に抜いた残骸剣がウインドゼファーの身体を殴り飛ばす――!
「――ッ!!」
 言葉すらない。ウインドゼファーはそのまま吹き飛び、轟音を立てて足場の一つにめり込む。耀子は落ちながら、それを見た。辛うじて近い足場に着地し、膝をつく。
「――奇遇ね、風の王。あたしも、嵐と呼ばれているのよ」
 身体から止め処なく流れる血は止まらないが、しかして。
 確かに彼女の剣は敵を捉えた。――誇るような、一声であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

皐月・灯
……速さで対抗できるなんて思っちゃいねー。
ただ、試してみてーんだ。風のユーベルコード、速さの化身。
オレのアザレア・プロトコルは、その速さを捉えられるのか。

先制攻撃が来るってのは解ってる。
その速度に【見切り】で挑む。
攻撃の間隙に身を滑り込ませて、回避か、ダメージ軽減を試みる。

オレが狙うのは、【カウンター】だ。
ヤツに触れる一刹那。他はいらねー。その為に全てを研ぎ澄ます。
こいつは賭けだ。【捨て身の一撃】って名前のな。

「解除するまで毎秒寿命を削る」なら、ヤツの負荷だって高いはずだ。
その負荷とオレの見切りに賭けて、《轟ク雷眼》を叩き込む……!

この瞬間をものにするのは、オレか、それともヤツか――勝負だ!



●風を貫く雷轟
 速さで対抗できるなどとは、初めから思っていなかった。
「がっ……あ!」
 スピードという概念を固めたかのような早業。二者相対の瞬間、車輪剣が唸りを上げて回転し、皐月・灯(喪失のヴァナルガンド・f00069)へと次々と小型の『嗤う竜巻』が繰り出された。灯は地を駆け、ギリギリのところで致命傷を回避する。竜巻は間断なく連射されており、開戦よりこちら、灯は近づけぬまま防戦を強いられている。
 先制攻撃が来ることは分かっていた。それ故、まずは攻撃を見切ろうとした。……結論から言えばそれは正解だ。攻撃への対処を考えなければ、その時点で詰んでいただろう。
 連射される竜巻の間隙を縫い、竜巻同士をぶつけ合わせて相殺、効果範囲外のギリギリを駆け回避。『スケイル・アイズ』『サラウンド・コレクター』にて集めた情報を『エレクトロ・ナビ・カリキュレータ』に叩き込み、生存への最短経路を演算。術式搭載靴『メテオ・レイダー』による早駆けで、生と死の境界を駆け抜ける。
「逃げ回るだけが得意な猟兵というのもいるのですね。そろそろ向かってきてはどうです?」
 敵、ウインドゼファーはその全身にダメージを刻まれつつも依然健在だ。二本の魔剣『ダイアモード』もまた然り。
 投げ掛けられる挑発の言葉に、灯は眦を尖らせた。しかしそれは言葉に応じるためにあらず、放たれた『嗤う竜巻』の間隙を縫うためである!
「その逃げ回るだけの猟兵をここまで殺せてねーってこと、忘れてんじゃねーよ。……それに、そろそろ目が慣れてきたころだ」
 灯はそのオッドアイを見開き、連射される小型の『嗤う竜巻』を回避。余波が身を裂くも、浅い。彼の身体には既に多数の切り傷が刻まれていたが、いずれも決して致命傷ではない。
 彼の尋常ならざる攻撃予測、学習能力――その見切りの力は、もはや予知の域にある。
 材料の少ない動き始めはともかく、情報が得られればその精度が上がるは必定。
「その竜巻じゃオレは殺せねーよ。……掛かってこい、ウインドゼファー。それともその車輪剣は飾りかよ?」
 回避行動と合わせての挑発は、風の王の矜持をいたく刺激したらしい。全身のタイヤをエンジン音と共に回転させながら、ウインドゼファーは車輪剣の出力を上げる。
「言わせておけば――傲慢が過ぎる。轢断されても同じことが言えるか試してみましょうか……!」
 挑発は成った。敵が翔る。来る。
 ウインドゼファーは地を蹴り、一瞬でトップスピードに達した。地面に轍を刻みながら灯へと接近する。その速度は今まで放っていた竜巻など比にならぬ。竜巻を生み出す高回転のダイアモードを、二刀、その速力に載せてゼロ距離で叩き付けようというのだ。
 この段に至っては――音による知覚は不能。なぜなら敵は音よりも速い。
 視覚による検知も困難。なぜなら視神経の電位伝達、そして認識までの速さよりも、敵が迫る動きの方が速い。
 しかし、それでも。
(対抗できるとは思っちゃいねー。――ただ、試してみてー。あの風の王を、オレの『アザレア・プロトコル』で捉えられるか)
 閃くような内心は一瞬。灯は加速する思考の中、雷霆を宿した拳を握りしめる。
 暴風の化身となったウインドゼファーがダイアモードを振り下ろす。時を何百倍に引き延ばしてさえ、それは一瞬のことだった。ダイアモードの刃が灯の頭を唐竹に割り、殺害せんとする当にその瞬間――
 触れる、その、一刹那。
 灯の脚が動いた。踏み込む。ダイアモードの刃は先端にしか付いていない。その射程の内側に潜る。当に雷光の動き。電瞬の前進。強かにパイプ部分が肩を叩く。左鎖骨が粉砕。撃力で吹き飛ばされそうになるのを右脚を突っ張って堪え、残る右手を強く、強く握る!
 加速された世界では、敵の驚愕の声も、自身の咆哮すらも鈍い。灯は鈍化した世界で拳の銘を叫んだ。
 それ即ち、紫電轟雷の拳術式。幻釈顕理『アザレア・プロトコル』、第三番!
「トラロォォォォック!! ドラアァァァァァイブ!!!」
 自分の命をコインにして賭けに投げ込んだ、その結果は――全身に紫電を爆ぜさせ、言葉もなく吹き飛ぶウインドゼファー!
 叩き込んだ灯の拳は、敵の速力と自身の攻撃威力で砕け、その身体も激突の撃力に負けて後方に吹き飛ばされる。
 ――しかし、
「どうだよ。捉えてやったぜ、風の王」
 足場を外れ、吹き曝しの宙を墜ちながら、灯は不敵に笑った。
 
 ――賭けは、彼の勝ちだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヘンリエッタ・モリアーティ
きひひひひひっ!強い奴がやッと出てきやがったなコラ、あ?
てめェ、早いンだってェ?良ィねェ。そういう手合いとやりあえるのは光栄だァ
――敬意をもってぶち殺してやるよ、この俺様がよゥ

早ェ奴は確実に俺様の先制をとっちまうだろうなァ
行くぜ『嘴喰』、折れンなよ
【劇場型犯罪】は移動速度と攻撃をブチ上げる
ロープワークで常にワトソンを空間に奴から逃げるの時に張り巡らせてやる
真っすぐなヤロウだ、俺様のことを追いかけちまうだろう
その速さで見えてるかァ?――この「蜘蛛の巣」がよ
狙うはそのタイヤみてェな脚だ。マフラーにゴミでも詰まったかァ?
足りねェンだよ何もかも!俺様にはそれじゃァ届かねェ!
――届かねェなら、死ねや!!



●強者の論理
 吹き飛び、足場の一つを貫通してようやく、空中で制動をかけるウインドゼファーを貫くように、足下から声が浴びせかけられる。
 ――狂笑。
「きひひひひひっ!強い奴がやッと出てきやがったなコラ、あ? なぁ、おい、遊ぼうぜェ!!」
 黒髪に銀の瞳の、整った顔の女だった。ヘンリエッタ・モリアーティ(獣の夢・f07026)と呼ばれる女のはずだった。しかしその表情に理性の影は薄い。歯を剥き出しに、凶暴性を隠すこともなく笑う――否、嗤う。
 黒い実用的な拵えの刀をずらりと引き抜いて、鞘を横に投げ捨てる様子は、とても女のものとは思えない。
「良ィねェ。そういう手合いとやりあえるのは光栄だァ――敬意をもってぶち殺してやるよ、この俺様がァ! ヘイゼル・モリアーティがよゥ!!」
 彼女――否、『彼』は、ヘンリエッタの人格の一人。物理戦闘担当、ヘイゼル・モリアーティである!
「来やがれよ、それともブルッちまって出来ねぇか? ア? こっちから行ってやろうか、よォ!」
「揃いも揃って――度し難い!!」
 ウインドゼファーの身体から風が溢れる。スロットルを開けたように高速回転する身体のタイヤ、強風を纏って、静止状態から急加速!
 ウインドゼファーはそのまま急降下して、ヘイゼル目掛け襲いかかる。
 ヘイゼルはバックステップし、辛うじて攻撃を躱した。地面を砕くダイアモードの一撃。爆ぜる飄風と瓦礫を蹴り飛ばすようにして、ヘイゼルは脇目も振らず、ウインドゼファーから遠ざかるように走る。
「大口を叩いて逃げるばかりか、猟兵ィッ!!」
 ウインドゼファーの復位までほぼ一瞬。彼女は即座に風を纏い直し、逃げるヘイゼルに狙いを定めて再加速する。低空を這うように超音速で翔け、その頸を刎ね飛ばそうとダイアモードをバックスイングするが、その動きが急激に鈍る。
「だろうよ、そうだよなァ! 追いかけてくるだろうさァ! 俺様をブッタ斬りたくてたまんねェだろう!? そんな速さで動いちゃよォ――見辛ェよなァ、この『蜘蛛の巣』はよォ!!」
 哄笑しながらヘイゼルは一転身を返し、打刀を閃かせた。
「貴様ッ、何を――」
 した、と言う前にウインドゼファーもまた気付く。彼女の身体に絡んだのは、細く強靱なワイヤー様のUDC――『ワトソン』!
 早駆ける脚を、ダイアモードを振るう腕を、僅かばかりでいい、遅らせる! そうすることで先制攻撃に対する対処とし、その上で――ヘイゼルはユーベルコードを発露。
 ゆらり、とヘイゼルの身体から殺気が立ち上る。『劇場型犯罪』。最早『彼』の目には、『速く動くもの』――即ち、ウインドゼファーの姿しか映っていない。
「行ィくぜェ、嘴喰ィ!! 折れンなよォ!」
 速度の鈍ったウインドゼファーとであれば、その瞬間のヘイゼルのスピードが勝る! 飛び込んだヘイゼルは、打刀『嘴喰』を構えて敵の射程へ躍り込んだ!
 ウインドゼファーが応じる二刀を、高速回転するバズソーを相手に一歩も退かぬ。空中に幾つも幾つも金属音と火花が咲き散り、いっそ無邪気なまでの哄笑がそれに並び響く。
「オイオイオイ、マフラーにゴミでも詰まったかァ? 足りねェ、足りねェなァウインドゼファー! 俺様を殺すにゃそんなモンじゃァ届かねェ!!」
「何が足りないという!! 私は――貴様らを乗り越えて!! 無限大の欲望に至る身だ!!」
 最早ウインドゼファーの言葉には虚飾も何もなかった。そこにはただ意地と切願、切望だけがあった。かつて至れなかった境地に、今一度。オブリビオンとしての力を宿して至ろうと――方法など、もう何も選ばないと――
「それだよ」
 が、ぎいいいん!!
 瞬息、抜き放たれたフォン・ヘルダーとの二刀流。片方のダイアモードの車輪とシャフトの間に、刃を突っ込み止めるなり、ヘイゼルはウインドゼファーの間合いの内側に踏み込んだ。
 ――そして、言う。
「俺様ならァ! 手前ェの欲しいモンは手前ェで掴み取って飲み干してやったろうぜ!! それすら出来ねェで、未練ったらしく骸の海から這い上った手前ェが、俺様に届くワケがねェ!!」
 気勢、烈火のごとく。ヘイゼルは空いた左拳を突き出す。殴り飛ばすように繰り出された拳が、ウインドゼファーの亀裂の入ったメットをガツンと揺さぶり――
「がっ……!?」
「そんで――届かねェなら、ここで死ねやァ!!」
 高笑と共に放たれる強者の論理。反論の隙ならあっただろう。
 しかし、それを許さないのが強者というものだ。
 振るわれる、永海・鋭春作、斬魔鉄製打刀『嘴喰』。その切っ先が当に猛禽の嘴のごとくに、ウインドゼファーの両脚装甲、更には胴を喰い裂いた。血が飛沫を成し、またも慟哭、烈風。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真守・有栖


――欲望を喰らい尽くす

随分と吼えたものね。けれど、気に入ったわ

――月喰

瞬閃

崩れる中天
仰げば銀月

欲望に対するは本能
喰らい尽くすは何れや、と

語るは無粋
示すは己で

真守・有栖。……参る

暴風と対峙
狙うは一点。受けて、断つ

肉も骨も何もいらぬ
身を以て、命を晒して

返す刃で一切を断つ

無造作に構え。瞼を閉じ

脳裏に浮かぶは先の戦
続く“八”なる担い手に
くつりと笑みと牙を覗かせ

迫る疾風
肉を裂き。骨を断ち
命に至る、その寸前

――開眼

刃に込めるは“断”の決意

渾身を以て、地を踏み鳴らし
勁く振るうは至近にて

彼方も間際も
此の場全てが己が間合い

刃を。拳を。風を。
月に餓う狼が一切を喰らう、と


――光刃、烈閃


迸る極光にて、穿ち断つ……!



●狼牙、極光を成す
「欲望を喰らい尽くす、か」
 狂ったように荒れ吼える風の中、髪を嬲らせるに任せ剣鬼は立つ。
「随分と吼えたものね。けれど、気に入ったわ」
 呟くのは真守・有栖(月喰の巫女・f15177)。
 荒風の中心には、最早狂気めいた叫びを上げダイアモードを振り回すウインドゼファーの姿がある。最早接近すら困難。炎とは、消える間際が最もよく燃えるものだ。
 有栖は決然と、右手に刀を抜く。『九代永海』永海・鍛座作、烈光鉄製打刀『月喰』。
 瞬撃一閃。刀の先より迸った光が、システム・フラワーズの中天を穿つ。天にぽっかりと空いた孔より、覗くは銀月。
 システム・フラワーズの照明に紛れて消えてしまいそうな真円の光を、見失わぬよう目に焼き付けた有栖の瞳が、すう――と尖る。狂う、狂う、何視て狂う。美狼の剣鬼は月視て刎ねる。
「真守・有栖。……参る」
 ウインドゼファーは、『無限大の欲望』を欲したと言った。それが本懐であると。
 それに対する有栖は、本能で応ずる。この敵を、刃にて断たんと。
 欲望と本能。喰らい尽くすは果たして何れや。
 静かな名乗りを発した有栖は、地に足をしっかりと付けて立つ。それ以上の言葉は不要。語るは無粋、示すは己の剣にて。
「邪魔などさせない――させるものか、させるものかァ……!!」
 唸るように叫び、ウインドゼファーは今一度暴風で己が身を包んだ。エンジンは最早自壊寸前。それでも尚、速度を上げずにはいられぬ。
 最速であることこそが、彼女を彼女たらしめる。彼女の速度を革命出来るのは彼女のみ。速度に対する際限のない欲望。
 そこにいたのはオブリビオンであるというよりは――最早、ただ、速度を求めた概念であった。
 その概念と、剣鬼は睨み合った。
 ――否、睨み合っていたのはほんの一瞬のこと。
 まだ、目の前に何もいない瞬間。殺気のみを頼りに、有栖は月喰を渾身の力を籠めて振るった。それは、斬るためではなく――
 がッ、きいいぃぃいいいいいいぃンっ!!
 振るわれるダイアモードの一撃を、伸びた月喰の斬光にて、遠間より先行して『受け』る!
 有栖が採る策はただそれだけ。『受けて、断つ』。ただそれだけ。しかし覚悟の重さたるや、並ならぬ。
 ――最早、肉も骨も何も要らぬ。
「死ねっ、死ね、死ね!! 死ねええええええええええッ!!!」
 呪いの言葉を発しながら、間近にてもう片方のダイアモードが唸りを上げる。ゼロ距離で放たれる『嗤う竜巻』。有栖は迷わず左手を突き出した。破壊力の権化たる竜巻に巻き込まれた左手は瞬く間に骨まで粉砕されズタズタになる。しかし、己から叩き付けたことで反発力が生まれ、その一撃に身体全てを巻き込まれるのだけは防ぐ。弾かれるように右方に離脱。
 ゼロ距離でそんなものを放てば、ウインドゼファーとて無事で済む訳がない。自ら放った風が彼女自身をも傷つける。
「あああああアアアッ!!!」
 叫びを前に、有栖は残る右手に提げた月喰の切っ先を上げる。
 何を喪おうと。身を以て、命を晒して。

 彼奴を断つ。

「猟兵ァァあァアッ!!」
 風の王が、メットの下の赤い瞳で有栖を睨め据える。――有栖には予感があった。来る。殺気が、私を斬ると言っている。
 瞳を閉じた。脳裏に映るのは兎の怪人。八極拳を含む拳法の達人であった。有栖は場違いにも笑う。奇しくも、八刀八束に続いて挑んだ敵がまたも“八”の担い手であったか。
 これでこそ浮世は面白い。
 殺意が瞼の向こうに押し寄せてくる。目で見えずとも心で視得た。引き延ばされた知覚の中で、有栖は踏み込んだ。
 一撃目をまたも受ける。即座に月喰に意念を込め、光刃を発して敵の攻撃の撃力を吸収させて打ち返す。二撃目が来る。解っている。その飄風が肉を裂き、骨を断つその前に。
 有栖は目を開く。
 月喰に己の剣気の全てを籠めた。渾身の力込め、踵を強く踏む。
 踏み込みの衝撃で足場が、どう、と椀型に撓む。袈裟懸けに奔る月喰の刀身。
 八極拳の基礎、震脚を模し、それに乗せた渾身の踏み袈裟。その切っ先から光が迸った。
 
 ――光刃、烈閃。

 走り、彼方へ延びる極光が、光が、魔剣『ダイアモード』ごと、ウインドゼファーを薙ぎ飛ばした。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジャガーノート・ジャック
(ザザッ)
セットオンポジション。対象との距離"350km"。
問題皆無。
是より対象の狙撃ミッションを開始する。

(ザザッ)
UC"Call:Thundercloud"起動、衛星より対象位置確認。(視力+情報収集+追跡)

"Thunderbolt"起動待機。
サイズ規定:縦横1×1cm。残りの容量は全て長さに――これで最長350kmの破壊光線となる。

350kmを"ナノ秒"で完成させ敵を狙撃――
光の速さはナノ秒で約30cm。それを遥か凌駕する速度をUCの特性を強引に利用し再現する。

狙いは敵の急所をピンポイントにて。
弾道を衛星にて算定、解析――(スナイパー+誘導弾)

算定完了。
Fire.(ザザッ)



●嵐を裂くのは
 彼方を薙ぎ斬るが如き極光に圧され、システム・フラワーズの外壁を突き破り、ウインドゼファーの身体は宇宙に投げ出される。身を深く裂いた刃傷は、人ならぬ身ですら致命傷と言ってよい。
 手にした二本の魔剣『ダイアモード』は左が喪失、腕と一体の右はシャフトが曲がり半壊。
 それでもまだ回る。未だ動く。
 震える手を抑えながらユーベルコードを発動し、軌道制御。この漆黒の暗中、宇宙空間という真空であろうと、彼女のユーベルコードは十全に機能する。
 ――そして。己に向けられる殺意を見通す力も。
 弾かれたように、ウインドゼファーは彼方を見た。
 見えるわけもない彼方を。風を伝える術すらないこの真空を経て。

 ――ザザッ……
 セット・オン・ポジション。
 キマイラフューチャー周辺の残存衛星をサーチ、Ping, ping, ping... Complete.
 計算機能を有する衛星を発見。現地にて計算資源を確保。
 衛星より光波観測、彼我の距離算定完了。弾道計算開始。
 これより、対象の狙撃ミッションを開始する。

 ――いる。
 システム・フラワーズの内部ではなく、遥か彼方に何かがいる。
 どこから? 誰が?
 疑問符は尽きぬ。しかし、最早意識も朦朧としつつあるウインドゼファーは、だからこそ純粋に――「ならば止めねばならぬ」と考えた。
 音が響かぬ宇宙空間にて、ユーベルコードの風が爆ぜる。
 ――この無空に、風など吹くはずがないのに!
 ああ、しかし、いま、キマイラフューチャーの銀河に!
 嵐の如き烈風が――否、嵐そのものが現出する!

 
 ターゲット・インサイト
 標 的 を 視 界 に 捕捉。“Thunderbolt”、起動待機。
 ザッ……対象のユーベルコード反応を検知。
 アラートが脳裏に鳴り響く。
 想定より、遥かに速い。
 ――しかし、問題はない。問題など、なくしてみせる。
 飛翔する敵対象。バイザーの望遠機能を最大から徐々に緩めつつ目視で観測。衛星からの送信データでそれを補完する。然し、衛星からのデータは参考にしかならない。敵は画像データの転送よりも速く動く。
 冷徹に、冷静に計算を繰り返す。
 ――赤いバイザーが、意思の光を点すように、無空の闇に煌めいた。

 彼は何者か。
 ――彼は、“人間”だ。

 ジャガーノート・ジャック(AVATAR・f02381)は、想定と現実の誤差を即座に計算で埋める。
 敵の『先制攻撃』に対し、ジャガーノートが採った対策は『距離』。容易に埋められぬ長距離を彼我の間に設け、一方的に射撃することで先制攻撃を無に帰そうとした。
 さりとて、敵は強大であった。その対策に対して尚も光る、恐ろしいまでの速度。
 ウインドゼファーは銃弾よりも、音よりも速い。その速度はレールガンめいていた。
   フルスロットルゼファー
 正に凄 絶 な る 烈 風の如く迫る彼女の速度は、直線直行速度に換算して秒速三キロメートルをマークする。
 しかもジグザグの軌道。射撃武器の命中計算が途端に煩雑になる。ジャガーノートの『武器』は一発限り。光速を遥かに凌駕する武器だ。――然し、当たらなければ意味がない。
 ロックオンサイトがフラフラと彷徨う。許された百十秒あまりの猶予が、瞬く間に削れていく。ジャガーノートは

 ――欲しかったのだろう。
 無限の速さが。
 何よりも速くあろうとしたのだろう。
 渇望する心は、理解出来る。
 ……だが、それでも、
 世界を下敷きにした願いを、本機は許容できない。

 相対距離、三〇キロメートル。
 残三秒。外せば三秒後に死ぬのは己。
 ロックオンサイトが、緑から朱に霞む。

 構えた、赤き光帯びた銃身のラインが蒼白く輝く。
 それは雷の色。
 ――そうとも。貴様が風を名乗った時点で、本機が貴様を射貫くことは確定していた。

 Lock on.
 これは雷。嵐すら裂く一条の光。
 トリガー。雷霆が銃口より迸った。
 放たれるのは“Thunderbolt”。

 ――それは、射程内の物質を崩壊させる破壊光線。有効射程範囲……
ワイズ
 幅、一センチメートル。
ハイト
 縦、一センチメートル。
デプス
 射程――三五〇キロメートル。
 
 放たれた光が、ウインドゼファーの額を完膚なきまでに貫いた。
 それが最後。

 推進する風の力も、魔剣に注ぎ込んだ力も――
 その全ての力を、『速さ』ではなく『光』に換え――
 
 ウインドゼファーは、無空に、盛大な爆光を上げて散った。
 それこそ、ただ一つの欠片も残さず――最後に残した烈風と共に、散り果てた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年05月22日


挿絵イラスト