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バトルオブフラワーズ⑪〜勝利の追い風

#キマイラフューチャー #戦争 #バトルオブフラワーズ #ウインドゼファー

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 システム・フラワーズ内部。
 自身の担当する区画で、怪人軍団幹部の一人であるスピード怪人『ウインドゼファー』が佇んでいた。
 幹部が既に二人、数多の強力な猟兵達の手により討たれた。
 骸の海から二人が帰る気配がもう感じられない。
 次は自分の出番か。そう思った矢先にウィンドゼファーの区画が猟兵達のいるメンテナンスルートと繋がる。
「いいでしょう、来なさい猟兵達。私があなた達の向かい風となりましょう。」
 光に包まれ始めた区画入り口を睨み、彼女は呟いた。

「みんなここまでお疲れ様!ついに最後の幹部戦だね!」
 グリモアベースに集まる猟兵達に、グリモア猟兵の明石・真多子が激励する。
 門番ともいうべき幹部たち、その最後の三人目へのルートが先ほど繋がったのだ。
 ここを乗り越えればオブリビオン・フォーミュラへの道が繋がるはずだ。
「次の幹部はウィンドゼファーっていうみたい!そして朗報なんだけど、今回は厄介な特殊ルールはないんだって!…まぁその分弱点もないみたいだけどね~。」
 上げて落とす話に、あははと苦笑いで誤魔化す真多子。
 しかし、希望がないわけではないらしい。その目はやる気に満ち溢れていた。
「敵は流石幹部だけあって、すっごく速いから気を付ける必要がるよ。でもそれさえ凌げれば逆転のチャンスが生まれるはずなんだ!風を操る能力みたいだから、みんな工夫して打ち破ってね!」
 説明を終えると真多子がグリモアベースに集まった者一人一人に眼を配らせていく。
 皆の眼に闘志が宿っているのを確認すると、大きく頷き口を開いた。
「幹部を倒せば戦争終結の追い風になるよ!みんなでがんばろ~~!!」


ペプシ派
 戦争シナリオの幹部『ウィンドゼファー』戦です。
 以下、注意点。

 ====================
 敵は必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
 この先制攻撃に対抗する方法をプレイングに書かず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、必ず先制攻撃で撃破され、ダメージを与えることもできません。
 ====================

 今回は特殊ルール無しとはいえ、幹部なので対策は油断なくお願いしますね!

 それと戦場の戦力「40」をゼロにできれば制圧成功ですが、それ以上の成功数があった場合、上回った成功数の半分だけ、「⑬『ドン・フリーダム』」の戦力を減らせます。
 皆さんの活躍は無駄にはなりません。思いっきりオーバーキルしてやりましょう!
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第1章 ボス戦 『スピード怪人『ウインドゼファー』』

POW   :    フルスロットル・ゼファー
全身を【荒れ狂う暴風】で覆い、自身の【誰よりも速くなりたいという欲望】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD   :    レボリューション・ストーム
【花の足場をバラバラにする暴風】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    ソード・オブ・ダイアモード
対象の攻撃を軽減する【全タイヤ高速回転モード】に変身しつつ、【「嗤う竜巻」を放つ2本の車輪剣】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。

イラスト:藤本キシノ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

才堂・紅葉
単純に強いってのが一番洒落にならないのよね。
あのスピードと隙の無さは脅威だ。

「こう言うのは性に合わないけど」
奴の暴風に合せ、分厚く重い【紋章板】を構え重力加重で身を庇う。
【ダッシュ、盾受け、激痛耐性、オーラ防御】
防ぎきれずに裂傷を刻まれつつ、足場の崩壊は暴風の衝撃に上手く乗って大きく後ろに跳び回避を図る。【見切り、野生の勘、ジャンプ】

空中では盾を影に身を捻り、密かに紋章を光らせ攻撃準備。【迷彩、封印を解く】

「天衝っ!!」

奴の追撃に合せ、【紋章板】に正拳を入れてUC発動。
巨大なオーラの拳で反撃を狙う。
奴に二度目の奇襲は入らない、絶対にここで決める!
【気合い、野生の勘、カウンター、グラップル】



「こんにちわ。あなたが幹部で間違いないですね?」

 最後に残る幹部『ウィンドゼファー』が睨む先、まず先にグリモアの光から姿を現したのは才堂・紅葉(お嬢・f08859)であった。
 礼儀正しく一礼をして相手に問いかける紅葉。
 戦場に似合わぬ儚げな表情で相手を見つめるその様は、動きやすいホットパンツとミリタリージャケットという服装でなければ、誰もがお嬢様が和平の話し合いにでも駆り出されたのかと疑うだろう。
 しかし、視線の先にいる敵は紅葉を一瞥すると吐き捨てるように口を開いた。

「私の前で下手な虚飾は止めておきなさい。あなたからは闘争心、それも相当な量のアドレナリンの匂いが風に乗ってきていますよ。」

 普段の学園生活で被る仮面。その下にある本性はあっさりと嗅ぎ分けられていた。
 紅葉には事前にグリモア猟兵からは敵の情報が伝えられていた。
 今までの幹部と違い、『単純に強い』と。その中でもスピードは頭抜けているとのことだ。
 ならば近付く隙など与えてくれないのだろうと考え、話し合いにでも持ち込み奇襲をかけようとも考えていたが失敗。
 幹部クラスの相手ともなるとインファイトで確実に仕留めたかったが仕方が無いだろう。
 ゼファーとの距離は全力で駆けても先手を取られるのは感覚で分かる。
 それは敵も重々承知なのか、容赦なく攻撃の構えを取り始めて余裕を見せるように紅葉に声を掛けて来た。

「見たところ中々鍛えた身体のようですね。しかし、それだけです。人の身であり続けるあなたの拳が私に届くことは一生ありませんよ。」

 これでその一生も終わりですがね。と言葉にしながら、手にした武器の車輪を高速回転させて唸りを上げる。
 回転は次第に風の渦となり、地に咲く花々を散らし吸い上げ始める。
 ゼファーの周囲に本来見えるわけがないはずの風が集まる過程が紅葉にも見えた。
 まるで竜巻をその手に巻き付けたような腕が振り降り降ろされると、地を裂く衝撃波が扇状に広がって紅葉に向かい襲い来る。

 持ち前の反応速度で考えるより先に動いていた己の身体は、既に後方へ飛退き少しでも衝撃を和らげようとしていた。
 我ながら褒めたいと思う。
 しかし、地を抉り巻き上げる光景に紅葉は直感した。これはおよそ人の身で受けきれる類の攻撃ではないと。

「…っこう言うのは性に合わないけど!!」

 紅葉が手荷物からA3大の極薄鉄板を引っ張り出すと、頭と腕を丸めて上半身だけは覆うように盾のように構える。

 やはり人間程度の力量では避けきれなかったようで、向こうでは猟兵が今まさに風に飲まれようとしていた。
 咄嗟に取り出したそんな薄い板切れにさえ望みを賭けるとは、愚かしい人間だ。
 などと観察するウィンドゼファーがすぐに態度を改めた。
 板切れで覆えなかった下半身は風の刃で裂傷こそすれ、盾にしていた板切れはびくともせず持ち主を遠くに吹き飛ばしたのだ。
 自惚れではないが、手加減無しのあの攻撃は生半可な防具など切り裂けるはずだ。
 よほどの質量を持っているとでもいうのか。
 だが、破れぬというのであれば奈落の底に叩き落とすまで。
 手にした武器の動輪の回転数を再び上げていく。

「奴に二度目は撃たせない、絶対にここで決める!」

 痛みと急激な衝撃で鈍る頭を叩き起こすように紅葉が声を吐き出す。
 脚の感覚が鈍い。盾に使った『紋章板』で上半身は動くが、この脚では地に着いたところで役には立たないだろう。
 迷っている暇はない。今も刻一刻と自分は落ちているのだから。
 紅葉が構えた紋章板に添えていた拳へ意識を集中させると、手の甲に青白く輝く紋章ハイペリアが浮かび上がる。

『(システムメッセージ)コードハイペリア承認。疑似高重力場放出用デバイス確認……デバイスへの入力をお願いいたします』
「私の拳が一生届くことはない…ね。ならその身で確かめてみなさい、天衝っ!!」

 手の甲に輝くハイペリアの紋章に呼応するように紋章板が機能を解放すると、紋章のある拳で腰の入った正拳突きを紋章板の裏へと叩きこむ。
 瞬間、鈴の音のような凛とした音と共に青白い光の拳が飛び出した。
 ウィンドゼファーの放った初撃の影響で荒れ狂う風の壁を悠々と抜けて、光の軌跡を残しながら真っ直ぐにゼファーの芯を捉えている。
 今にも二度目を振るわんと風を腕に纏ったゼファーが、その目に光の拳を入れたころにはもう既に遅かった。
 ガシャリ、とゼファーの仮面が拳の形に凹み、頭を揺さぶられた衝撃で膝をつく。

「人間だからって見下す、その長い鼻っ柱も少しは折れたかしらね。」

 天衝を放った衝撃でさらに後方へ跳ぶ紅葉。
 その先にはグリモア猟兵が待つ光。最小の被害で最大打点を叩き揉む。
 引き際を弁えた見事な戦略勝ちであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニュイ・ルミエール
花風舞う世界
見てる分にはとても素敵で
戦争なんかじゃなければピクニックでもしたかったの

分裂したミニスライム達に鈴を持たせ
にゅいも液状化し花の影に目立たないように潜みながら進む

竜巻は時間差で鈴を鳴らさせ囮にし只管隠れる

あの速さには決して追いつけない
けれど
時間さえ稼げたら……

信仰は祈りに磨かれ真澄の水鏡となるから

神さまの力を降ろしUC発動

神さまは善も悪も
その行いをずっと見てるの

この瞳は神さまの瞳
全てを映す天の眼

貴方が速ければ速いほど
望めば望むほど
氷の茨は車輪に絡み
欲する熱を肥料として玲瓏なる花と咲くの

だから、もう
逃げられない、よ?

無限大の、よく…ぼう……此処で…とめ……させ、て……もら…う、の……!



 花びらが生気を宿しながら、瑞々しい香りを風に乗せている。
 吹き抜ける風は優雅に交差し、互いに顔を突き合わせると高く舞い上がった。
 すると風が拾ってきた色とりどりの花々が、シャワーのように一面に降り注いでいく。
 ふわりふわりと色のついた初雪のように優しく地を埋めていくその光景は、それはそれは美しく、ここが戦場でなければいつまでも眺めていたいと願うばかりだ。

「(戦争なんかじゃなければピクニックでもしたかったの)」

 そんなことを思いつつ、ニュイ・ルミエール(神さまの遊び場・f07518)が花の積もった小山に隠れていた。
 ブラックタールゆえに望めば己の姿は変幻自在。
 薄く液状化することで積もった花びらの下を潜伏しながら移動が可能であった。
 自身の身体特徴を活かし、ここまで幹部にも気が付かれずに戦場へと入ることが出来たのは幸運だった。
 自分の知る限りの多種族では同じ真似は出来なかっただろう。
 小山を少しだけ掻き分け覗き穴を開けると、ニュイがちょこんと顔を作り戦場を観察する。

 先の戦闘の影響であるのか、既に暴風が地面を抉った爪痕が奥に見えている。
 ここからでは底が見えないが、恐らく落ちれば命はないのだろう。
 こんな恐ろしい傷を花で作られた戦場に作った本人、ウィンドゼファーは顔を押さえて膝をついている。
 息を殺し潜んでいた甲斐はあった。今が絶好の好機だろう。
 しかし、だからといって焦ってはいけない。
 先ほど目にした大穴、敵が隙を見せているとはいえあの威力の攻撃がいつ飛んで来るとも分からないのだ。
 ならば念には念を入れなければならない。
 いくら不定形の身とはいえ、不死とは異なる。
 幼きニュイは殊更、素の体力が心許無いだろう。

 ニュイが再び身体を液状化させて潜伏すると、花の小山の下で小刻みに震えだす。
 別に恐怖や武者震いというわけではない。震えるニュイから少しずつ気泡のようなものが浮き出ると、ぷるんと水まんじゅうのような分体がぽてぽてと溢れて来た。
 水まんじゅうは突起のないつるりとした球体であり、中には核のような色濃い部分が覗いている。
 物言わぬニュイの分体達は言葉の代わりにぷるんと跳ねると、ニュイから鈴を咥えて預かり各々別々に散っていく。
 
 今はまだ幹部との距離があり気付かれてはいない。
 しかし、あれほどの敵がこれ以上接近した気配に反応しないはずがない。
 あの鈴はその気配を分散させて誤魔化すための布石。
 いくら素早いといっても、四方から敵の気配があれば多少は時間が稼げるはずだ。
 幼いニュイでも敵の発する只ならぬ気配は感じ取れている。
 あの速さについていくことは初めから考えない。いや、実際難しいだろう。
 だからこそ隙を突き確実に決定打を与えたいのだ。

 そろそろ分体達が四方を囲み気付かれるだろうか。
 今回出したのは戦闘用ではないため戦力としては期待できない。
 有効打は自ら打って出なければならない。
 だからこそ、勇気と信仰心を胸に祈りを捧げる。

「この軀、この魂は神の依代「真澄の水鏡」……ならば心まで透徹し、凪ぎ冷める水面の如く、静かな終わりに手向けの花を咲飾るの。」

 祈りがニュイを清め、淡く青白い光に染まっていく。
 薄っすらと透き通り光を反射するその身は、まるで水鏡のようでいて、見つめていれば秘める心まで映し出されそうな荘厳さを見せつける。
 神の依代、器となる準備が終わると、一際強く煌めいた。
 神の降臨、その余波が衝撃の波となり花々を舞い上げ次々に凛と鈴の音が木霊していく。

「……っ鈴の音!?私としたことが、こんなにも敵に囲まれるまで気が付けなかったとは不覚です……。」

 痛む顔を上げてウィンドゼファーが周囲に気配を探る。
 舞い上がる花で目視は出来ないが、音と気配で複数人に囲まれているのは即座に理解した。
 ゼファーにとって1も10も変わらない。木っ端が集まってもまとめて散らすだけだ。
 身体のタイヤ全てのアクセルを全開に回すと、軸脚を固定しながらその場でドリフトさせるように唸りを上げて回転しだす。
 さらに両手の車輪剣を掲げて振り切ると、対角上に二つの竜巻が姿を現し、舞い散る花々ごと侵入者を散らすように弧を描いて貪欲に飲み込んでいく。
 次第に周囲を囲む気配がカランと鈴の割れる音と消えていくのが伝わってくる。
 一網打尽、呆気ない戦いであった。勝利を確信し、回転のために開いていた脚を止めて花の表面にタイヤ跡をつけながら立ち止まる。
 しかし、花のカーテンが払われ露わになったその先に、ゼファーは目を疑った。

 液状だったニュイの身体はまるで氷のように白く霜を纏い、キリキリと音を立てて周囲を氷が囲んでいく。
 よく見ればその氷は茨のように攻撃的な切先をいくつも形成しており、今もなお伸び続ける様は、まるで意思のある蛇のように獲物を狙いすますかに見えた。
 その動きに眼を取られていると、ふいに足元の冷気に気が付く。
 先ほどまで煙を上げていた花の熱をも奪い、ゼファーの脚を氷の茨が捕らえていたのだ。

「もう…逃げられない、よ?無限大の、よく…ぼう……此処で…とめ……させ、て……もら…う、の……!」

 ニュイの言葉に堰を切って茨の牙がゼファーの身体に突き刺さっていく。
 血を流しことも許さず、傷口すら凍らせて。
 ゼファーの苦悶の叫びすら氷の中で虚しく反響して漏れだすことさえなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハルカ・ラグランジュ
あの速度、私では一矢報いることすらできないでしょうね…今日の私では。

ウィンドゼファーを光魔法で攻撃するわ(誘導弾/全力魔法/属性攻撃)。
と言っても、目的はダメージを与える事じゃなくて相手の動きを見ること。
どれほど速くても、予備動作や思考時間ををゼロに出来る訳じゃ無い。
それらを見て、覚えて、理解するための攻撃よ(学習力/第六感)。

私が倒されたら「Night after night」で召喚した私が同じ魔法の斉射で攻撃ね(一斉発射)。
明日の私なら、今日の私が学んだことを生かして、必ず彼女の隙にねじ込めるはずよ。

※アドリブ・連携歓迎



「あれが目標の敵幹部…あれだけやってもまだ消えないとは、本当に恐ろしい強さなのね。」

 ハルカ・ラグランジュ(人間のサウンドソルジャー・f17426)が目の前にしたウィンドゼファーは今や氷に覆われて身動き一つしていない。
 しかし、それなのに敵意、いや殺意のような肩が重くなる気配のようなものが溢れているのをヒシヒシと感じる。
 アレをあそこまでした猟兵は既に役目を終えて下がってしまった。
 自分が駆り出されたということは、アレと対峙できると見込まれているからだ。
 そう言い聞かせて戦場に勇み出て来たはいいものの、いざ対峙すると本当にそうだろうかと少し弱気になる。
 それだけ強者のオーラを幹部から浴びている気がするのだ。

 猟兵の策略により生ける氷像と化したウィンドゼファー。
 しかし、その状態となっても彼女の欲望は尽きることはなく、むしろ拘束されたことにさらにその欲望を高めていた。
 今度は間違いなく付近に猟兵の気配がする。
 先ほどの陽動を反省し、頭を冷やして冷静に周囲を探っていたゼファー。
 ハルカの気配を探り当てると、押さえつけていた欲望を解き放つ。
 氷像が小刻みに震え湯気が立ち、ヒビが割れてパラパラと欠片が落ちてゆく。
 左腕の氷が崩れ落ちると、血を巡らせているかのようにグッと握り拳を作って自信に付いた氷を叩き割った。

「…ついに動き出したわね。予定より早かったようだけど、そんなに私に会いたかったようね?」

 氷の中から甦るという、目の前の人外行為を見せつけられるのはやはり強烈だ。
 覚悟はしていたつもりだったが、少しだけ、ほんの少しだけ緊張する。
 だから強がりを口にして、自らを奮い立たせて気を張った。
 既に幹部は脚すら自由になっている。いつ迫って来てもおかしくはない緊迫した状況なのだ。

「ええ、会いたかったですよ。我々の邪魔をする猟兵達にまとわりつかれるのもいい加減飽きて来たので始末したかったのです。それに、少し身体が冷えてしまいましてね。あなたでウォーミングアップするとしましょう。」

 そう言うと、ウィンドゼファーは内から溢れ出る暴風を鎧のように身に纏った。
 両腕を大きく広げたその姿勢のまますっと浮かぶと、その場で鎧を見せつけるように一回転して空へ跳び上がる。
 欲望を抑え続けていたゼファーの爆発は凄まじいものであった。
 その速度は音を超え、衝撃波がハルカに伝わり吹き飛ばすころにようやく飛翔音が追い付いてきたほどだ。
 あっという間にハルカの視界を飛び出し、音で探るも後手に回る。

「ここで完全に見失うのは…不味いわよね!」

 目で捉えられる内、今だけならまだ一矢報いる可能性はあるかもしれない。
 焦る自分を抑えつけて冷静に視線を這わしていく。
 見つけた。
 遥か上空、この一瞬でゼファーが点に見えそうな距離まで上昇していたというのか。
 敵との力量差に、ハルカの額に冷や汗が這う。

 敵の狙いは、恐らくこのまま急降下して八つ裂きにでもするというところか。
 しかし、信じて送られてきた以上、むざむざやられてやるつもりはない。
 どれだけもつかは分からないが、奴の行動を少しでも分析してやるつもりだ。

「流石にあの速度、前言撤回、私では一矢報いることすらできないでしょうね…今日の私では。」

 諦めではなく、冷静な状況判断だ。
 だからこそ分析するのだ、『明日の私』のためにも。
 予想通り、敵は真っ直ぐこちらに突っ込んで来た。
 向かってくるなら当てるのは容易いかと光魔法をゼファーに向けて連続で放つ。
 しかし、光線のように早く放たれている光魔法でさえ、奴には遅いか全く当たる気配がない。
 まるで踊るようにくるりくるりと舞落ちてくるではないか。
 癪に障る優雅な動きに見惚れる前に、気が付けば既に目の前に奴の顔があった。
 走馬灯、というわけではないが、死を覚悟すると人は世界がスローに感じるという。
 今奴の顔、目と目が合ったのを確認できたのはきっとそれなのだろう。

 その瞬間でハルカの意識はホワイトアウトした。
 ウィンドゼファーからすれば少し身体を動かしたにすぎず、手で払うコバエのように猟兵が吹き飛んだ。
 やはり人の身とは脆弱だ。憐れみを感じながらもトドメを刺そうとハルカへ歩み寄る。

「この程度で倒れるなんて、我ながら情けないわね。ま、その分私が活躍してあげるとするわ。」

 だがそれは、二人の間に立つ人物によって阻まれた。
 その人物とはハルカ。『明日のハルカ』がゼファーの前に立ち塞がる。

「ほう、猟兵は増えることがあるとは聞いています。ですがコピーが今更出たところで何になるというのでしょう。」
「勝つのよ、あなたにね。私は後ろで倒れている子とは一味違うってことを教えてあげるわ。」

 一瞬の睨み合い。
 先に動き出したゼファーが一直線に飛び掛かる。
 ハルカは再び光魔法での攻撃で返している。
 一見すると先ほどと同じ構図。
 しかし、結果は同じとは限らなかった。
 ゼファーの攻撃は大きく逸れて、大きく距離を取って肩を押さえている。

「なぜ、どうやって見切ったというのです…。」
「答えは簡単よ、『昨日』既に同じ技を見たからね。一日技を分析したらあなたが車輪と同じ方向に回って避けているのが分かったのよ。」

 ゼファーはこれ以上戦闘しても同じ結果となることを予見したのか、その場で忌々しそうにハルカを睨みつけていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

霧枯・デスチーム
【2m半のガジェットブラザーに乗り込み行動。アドリブ協力歓迎】
「やれっかナー?」
『信じてます、ガージ』
「ならおいらも信じるよ、ブラザー」

【POW】
マトモにやって勝つ自信は無ぇ。だから博打を打つ。
近接攻撃を仕掛けてくるだろうから、【第六感】でその瞬間を狙ってアンカーガンや【グラップル、怪力】で組み付く。
暴風で吹き飛ばされるなら【盾受け】とブレーキ用ピックを地面に突き刺して耐える。
組み付けたら【メカニック、鎧無視攻撃】でコックピットからパイルバンカー銃剣を叩き込む。
衝突して瀕死になっても【激痛耐性】とUCで耐える。

お前がおいらを信じるなら、その信頼には応えるぜ。
そいつが【恩返し】ってもんだろう?



 音速を超えた激戦。
 その余波が風と共に土煙を上げて巻き上がる。
 鼻をくすぐる、光線で焼けた生花が燻る臭い。
 目を見張るその戦場に、緊張で止めていた息を吐き出し、再び肺に思い切り酸素を取り込もうと吸い込めばむせ返るような苦みが口に広がった。
 未だ止まぬ向かい風に髪が揺れるのを視界の端に入れながらも、戦士は物陰から立ち上がり姿を見せる。

「ヒュー、こいつぁー中々キビしそうだナ。やれっかナー?」
『ガージだけなら100万回やっても勝てないですね。ですが、私達ならやれると信じています、ガージ。』
「オーウ、ならおいらも信じるよ、ブラザー。」

 戦士がそう言いながら、話し相手の相棒の脚をコンと手の甲で小突いてやる。
 戦士の相棒は彼からからすればとても大きく、ゆうに6倍はあろうか。
 その大きさがとても頼もしく、そしてその相棒から信頼されていることが彼をとても安心させてくれた。
 彼と相棒は長年死地を潜り抜けた仲だ。
 だからこそ、この緊張の糸が張り詰める戦場で軽口を本音で言い合えるこの相棒がいてくれること、それがとても誇らしかった。
 彼と相棒が組めば怖い物などないのだろう。

 とはいっても戦士の彼、霧枯・デスチーム(100万回殺しても殺せない猫・f13845)は小柄な種族のケットシーであり、彼の基準では大きいという相棒の『Big Brother No.9(B29)』も2.5mほどの全高しかない。
 一般的なパワードスーツの大きさであるため、数十mの鉄の巨人ほどの無茶はできないだろうが。

『ガージ、そろそろ搭乗してください。そんなに空の旅に出たいのですか?』

 B29内の自称紳士的な戦闘支援精霊AI『ブラザー』がデスチームに忠告する。
 先ほど戦闘していた猟兵が退いたのだ。
 煮え湯を飲まされ苛立っている幹部が、じきにこちらに眼を付けて襲い掛かってくるのは間違いない。
 デスチームが生身で外にいたら、実際空を舞うことになるのだろう。

「余計なお世話だナ。よーブラザー、それより戦法はどうすっかナ?」

 物陰に隠れて一部始終を観察していたが、敵は自慢の速度を活かした接近戦でくるようだ。
 竜巻なんかで近づけないよりは幾らかマシだろうが、マトモにやり合って勝つ自信はデスチームには無かった。
 だが、自信がないのと勝算がないのは別だ。
 勝ち筋自体はある。今しがた『ブラザー』が提案してくれた戦法だ。
 正直、内容を聞いた限りでは分の悪い賭けだが、打って出ない手はない。
 何よりも彼には相棒がついているのだ、恐れるものはない。
 覚悟を決めると猫のようなしなやかさで、ひょいひょいとB29を駆け上がり胴部分のコックピットへすっぽり納まる。
 ガージ、遅刻です。などと『ブラザー』が小言を言いつつコックピットカバーを閉じてヘッドランプが敵を見据えた。

『敵接近。カージ、対処を。』
「今やってるけどナ、初っ端から難易度高すぎるぜ!」

 音を置き去りにする速度で、デスチームへと跳びかかるウィンドゼファー。
 ゼファーの纏った風の鎧が、自らへ射られた矢をいともたやすく弾き飛ばす。
 光線すら真正面からいともたやすく避けることが出来る彼女であるが、射られた矢は避けてやる必要すらないと判断したようだ。

『アンカー部、弾かれました。』
「チッ!だがそいつは本命じゃなねぇ!」

 先ほど弾かれた矢は、B29の放ったアンカーガンの鏃だ。
 しかし、B29の両腕についたアンカーガンを楔として打ち込みたかったが、残念ながら命中しなかった。
 だが、アンカーとは本体と繋ぐチェーンが付いているものだ。当然このアンカーガンにも強靭なものが備わっている。
 外したことを確認したデスチームが、すぐさま右腕のウェイトを利用し鉄の身体を振ってチェーンをゼファーに巻き付ける。
 いくら風の鎧がアンカー部自体は逸らせても、チェーン同士の絡み合いに巻き込まれれば関係ないのだ。

『チェーンの抵抗負荷確認。』
「捕まえたナ!」

 ただし、チェーンをゼファーに絡めることが出来ただけであり、その運動エネルギーを殺せたわけではない。
 未だ変わらぬ殺意の込められた体当たりがB29とデスチームに襲い掛かる。

 強烈な衝撃、耳をつんざく機械音と目を開けることすら難しい風がデスチームを包み込む。
 先の一撃で、辛うじて盾に出来た右腕とコックピットカバーが弾け飛んだようだ。
 急に眩しく開けた世界が広がっている。
 アンカーは無事かと目をやれば、なんとか繋がっている左腕が右腕分のチェーンを握って留めてくれているようだ。
 先ほどからけたたましくなり続けている機械音は、脚部のローラーダッシュに付いたブレーキピックが悲鳴を上げている音なのだろう。
 気が付けばデスチーム自身の身体中も同じように悲鳴を上げていたようで、顔に垂れる血を拭うのも一苦労だ。

『聞こえていますか、まだ生きていますね。敵の拘束は30秒も持ちません。ですが、私達ならやれると信じています、ガージ。』

 自分もバラバラに分解する寸前のくせに、こちらの心配をしてくれると泣かせてくれる。
 だが生憎と、気の利いた返事をする暇もない。
 自分たちは分の悪い賭けに勝ち、この僅かなチャンスを手にできた。
 絶対に取りこぼすわけにはいかない。
 開放的になったコックピットの座席裏からパイルバンカー銃剣付きケットシーライフルを取り出しウィンドゼファーに突き付ける。 

「お前がおいらを信じるなら、おいらはその信頼には応えるぜ。」

 そいつが相棒ってもんだろう?その言葉はパイルバンカーの炸裂音でかき消されたが、きっと相棒には届いているだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

桐崎・早苗
ハロ(f13966)さんと二人で参ります。
味方を信じ、私は攻撃に集中致します。
万が一に防ぎきれずとも、踏み出たその覚悟と勇ましさ。決して、無駄には致しません。
私自身の誇りにかけ、覚悟を以て激痛に耐えてでも必ずや攻めへ転じましょう。

袖より霊符を撒き『符術・滅気封命符陣』を放ちます。
疾う、疾う、彼の者が『束縛する』風の気を、散らし給え!急急如律令!
風は操るものに非ず。束縛せし風に宿る其の魔、打ち破り整えましょう。

敵の風と速度を弱める、もしくは符術で注意を反らしたなら、続けて刀で追撃を。
五行において風は木に該当し、火行より生じて木行と成るモノ。ならば五行の相剋、金にて断つ!


ハロ・シエラ
サナエさん(f10614)と共に挑みます。
今回の私の役割はサナエさんを守り、敵の動きを止める事。

戦闘に入ったらまず花を【吹き飛ばし】ます。
目的は花びらを巻き上げ、嗤う竜巻に乗せて可視化する事。
その軌道を【見切り】ます。
【第六感】も使ってサナエさんを【かばう】事に徹します。
【武器受け】【オーラ防御】で自分の被害も抑えますが、やはり【激痛耐性】と【勇気】で耐える事にはなりそうです。
かばいながら隙を見て、ユーベルコードにて敵のタイヤと車輪剣を凍りつかせます。
一瞬でも攻撃を止められればそれでいい。
サナエさんが一撃入れてくれるでしょう。
可能であれば私もレイピアで【鎧無視攻撃】を行いますがね。



「ハロさん、本日のえすこーとは胸をお借りいたします。」
「いえ!こちらこそよろしくお願いします!今日の私はサナエさんの盾なのですから。」

 段々に咲いた大きな花弁、それを階段のように手を引き下りて来る少女達。
 二人の内、少し小柄なハロ・シエラ(ソード&ダガー・f13966)が先攻して手を引き、少しだけ年上の桐崎・早苗(天然風味の狐娘・f10614)が育ちの良さが伺える振る舞いで後を追う。
 まるで絵本に出てくるお姫様とそれを護るナイトのようだ。
 歳は十とそこらといった遊び盛りの二人、一見すればお遊戯の舞台にも見えるだろう。
 実際平和な世界であれば、およそ戦場の血の臭いなど知らず、鉄で出来た本物の重い武器を手にすることなどけして無いであろう年頃なのだから。
 しかし、彼女達はこの場に降り立つ意味を知っている。
 ここが命を奪い合う死地であると。
 そして彼女達にはその覚悟が既にできている。
 彼女達はそれだけの過去を背負ってきているのだ。

 花階段を下りきり広場へ出ると、向こうの方で金属の衝撃音、続けて火薬の炸裂音が空気を揺らし二人の耳に届く。
 グリモア猟兵の話では、既に二人の見知った猟兵が死闘を繰り広げているとのことであった。
 今しがたの音は、恐らくどちらかが致命の傷を負った証に違いない。
 そのことに、狐の耳をひくつかせて妖狐の早苗が先に気が付く。
 彼は、いや彼らは無事か…
 その心配が顔に出ていたのか、心配そうにハロが尋ねる。

「サナエさん?どうかしたのですか。」
「いえ、何でもありませんゆえ、お気になさらず。」

 お互い承知の上とはいえ、これから非道にも歳の下の子に盾役を任せるのだ。
 年上として余計な心配をかけさせられないと早苗が気を引き締める。

「大丈夫ですよ、サナエさん。」

 早苗の気持ちを知ってか知らずか、ハロが握っていた手をギュッと力を込める。
 この子なりに場の雰囲気を読み、彼らの安否に気が付いたのだろうか。
 ハロの心の強さ、それは今早苗にとってとても頼もしく映った。

「ハァ、ハァ、払っても払っても湧いてくる。猟兵とは存外に厄介なものですね。」

 そんな二人のやり取りに突風と共に割って入る者が現れる。
 よほど消耗しているのか、息を切らし、血を滴らせて鉄臭さが鼻に付く。
 敵幹部、ウィンドゼファーの仮面はひび割れており、裂かれた衣服の下に隠す傷穴から察するに先兵は活躍できたのであろう。

「しかし、それもそろそろ終わりですかね。女子供まで駆り出してくるとは。しかし、そこまでして私たちに勝ちたいという貴方たちの欲望は評価しますので一息で終わらせてあげましょう。」

 それだけ告げると、猟兵の返事も待たずゼファーが攻撃態勢に入る。
 口では余裕ぶっているが、そこには焦りがあるのを早苗は見抜く。
 今ならば術も破られまい。
 そう算段したが如何せん隙はなさそうであり、既に敵の手にした武器が風を纏い此方に振るわれた。
 目には見えないが耳で拾う鋭いあの音は恐らく風の刃、鎌鼬の類ではないか。

「ハロさん、あの風に触れてはなりません!」
「…っならば!私に任せてサナエさんは下がってください!」

 ハロの持つ鞘に施された細工により、居合いのように素早くレイピアを引き抜くと、足元の花々を横なぎに一閃して散らす。
 すると、支えを失った花弁が次々と風の渦へと飲み込まれ、渦の正体を浮き彫りにした。
 それは堆く巻き上がった2本のうねる竜巻。
 まるで小さき二人を見下して指差し嗤うようで、力量を見せつけ大人げなく悦に入っているようでもあった。
 しかし、見えてしまえ被害範囲を予想するのは造作もない。
 ハロは迷うことなく早苗を押し出し、風の範囲から出してやる。
 残念だが風は自分まで逃がすほど甘くはなかったようで、前に出ていたハロは完全に範囲から出ることは出来なかった。

「ぐ、ぐぁ、う!!」
「ハロさん!?」
「あの猟兵無駄な足掻きを…。そんなことをしたところで苦しい時間が増すだけですよ。」

 すっかり優位に立ったことで落ち着きを取り戻したのか、ゼファーが余裕を見せる態度をとる。
 早苗をかばい一人竜巻に残されたハロは、地面に突き立てたレイピアにもたれかかるように、力なくぐったりとしていた。
 見れば、風の刃は衣服どころかハロの幼い柔肌をも引き裂いたようで、ようやく噴き出した血が彼女の装束を血化粧で染め始める。

「さぁ、いい加減これで逝きなさい。それ以上抵抗しても、情けなく痛みで泣き叫ぶだけですよ。」
「子供…扱い、は、失礼です、よ!」

 動けなくなったと見たのか、確実にトドメを刺そうと風を纏った腕が再び振り上げられる。
 しかしそれを遮りハロが息も絶え絶えに叫ぶと、懐から蛇のように波打った刃を持つ短剣を抜き、ウィンドゼファーに投擲する。
 狙いは振り上げられたゼファーの腕。
 だがそれは、一瞥もされることなくあっけなく弾かれた。

「ハロさんの攻撃が弾かれ…いえ、あれは!?」

 ゼファーが短剣を払った腕、丁度そこを中心として凍りついていた。
 広がり続ける氷は、今や振り下ろそうとしていた腕の動きを止めるにまで至っている。
 ハロは予め熱操作のしやすい短剣を媒介にして放っており、相手を凍らせる力の導線としていたのだ。
 
「長くは…持ちません!サナエさん!」
「好機!ハロさんの尽力は絶対無駄にいたしません!」

 風の止んだ今なら霊符を使える。
 傷ついたハロに駆け寄ってやりたいが、彼女はそれを望んではいないはずだ。
 グッと堪えて袖から霊符を取り出すと、ゼファーに向かって放ち祝詞を唱える。

「疾う、疾う、彼の者が『束縛する』風の気を、散らし給え!急急如律令!風は操るものに非ず。束縛せし風に宿る其の魔、打ち破り整えましょう。」

 放たれた霊符ゼファーに近付くと、急に輝き出して腕に纏っていた風の中へ吸い込まれていく。
 そのまま引き裂かれるかと思いきや、逆に霊符が風を散らしゼファーの支配から解放する。

「馬鹿な!私から風を奪えるものがいるなんて!」
「五行において風は木に該当し、火行より生じて木行と成るモノ。ならば五行の相剋、金にて断つ!」

 そう言い放つと、早苗が刀を抜いて斬りかかる。
 だが、敵幹部としての自力か、風の力を失っても手にした武器で易々と受け流す。
 それだけでは終わらなかった。凍っていた腕も、今音を立てて氷片を零しながら動き出し、受け流され隙を生んだ早苗の刀を天高く弾き飛ばす。

「なるほど、確かに子供だと思い侮り過ぎました。もう、これ以上油断はしません。」

 剣術を扱う者として、早苗にはゼファーがとった2刀を構えるその佇まいに一切の隙が無いのが分かる。
 流石は幹部。武器を失い、付け焼刃の体術でどうにかなる相手ではないだろう。
 王手寸前、ここに来て手詰まりとは…。
 早苗が諦めかけたその時、後ろからハロが叫ぶ。

「サナエさんこれを!私の力をあなたに託します!」

 風を切る音を頼りに、ゼファーから目を逸らさず手にしたもの。
 それはハロの獲物の白銀のレイピア、名は『リトルフォックス』。
 妖狐の炎と霊力を宿す一種の妖刀だ。
 そして今、リトルフォックスに宿る妖狐の力が、妖狐である早苗と共鳴し力を増幅させて炎の渦を切先に纏う。

 ゼファーがこれ以上の状況の変化を望むわけがなく、先に動き出した。
 地から足を離す音もしないほど早く、そして確実自らの間合いに入れるよう跳ぶ。
 獲物があるなら居合いは早苗も望むところ。迎え撃つように脚をするように地を蹴り稲妻のようにジグザグに駆ける。
 お互い一閃のみを振るい抜ける。

 一瞬の静寂の後、先に膝を着いたのは早苗であった。
 しかし、程なくしてゼファーの胸から血飛沫が舞う。
 小柄な体躯と独特な歩行術により、早苗は紙一重で刃が急所を外していたのだ。

「やりましたねサナエさん!」
「ふふ、此度の勝利は二人の力でしょう。」

 嬉しさのあまり抱き着くハロの頭を撫でて、二人の無事を笑顔で迎えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

バルディート・ラーガ
【サメ】
まずは敵サンの竜巻攻撃。
体躯と尻尾でもって高岩サンを重点的に「かばう」姿勢、伸ばした腕を使った「ロープワーク」で花を括って身体を固定。
「激痛耐性」で竜巻の通過まで耐久戦です。
……なアるほど、竜巻はあの剣から飛んで来るってワケですねエ。

動けるようになったら即座に「ダッシュ」、敵サンの懐へ突っ込む!
ヒヒ、攻撃が軽減されるからって油断しちゃアいけやせんぜ。
【掏摸の大一番】。そのご立派な剣、ちょいとお貸し下さいな。

ソッチが「嗤う竜巻」ならば、こっちはさしづめ「笑う竜巻」(ギャグジクウ・ネード)ってなトコですかね。
余裕ありゃサメぐるみで風に乗っかって、シャークネードに一花添えやしょ。


エミリィ・ジゼル
【サメ】風を駆るオブリビオンですか
相手にとって不足はありません
シリアスを粉砕するメイドの力、とくとご覧に入れましょう

相手はスピード怪人を名乗るほどの速さ
ましては繰り出してくるのは竜巻です
その攻撃を回避しきるのは至難でしょう

なのであえて敵の接近します
竜巻が出せないほどの至近距離に
その距離を可能な限り維持し続け、攻撃自体は見切りと第六感で出来るだけ回避して致命傷を避けます

そしてラーガ様の反撃を起点に
『だまし討ち』『カウンター』『範囲攻撃』を使ってこちらもUCを発動
相手の速度でも逃げ切れないような
超巨大なサメ属性の竜巻を呼び出してお見舞いします

「竜巻の回転を得たサメの恐ろしさをご覧ください」


高岩・凛
【サメ】かっこよさげな怪人だ怪人!怪人戦だ!とテンション上がりながらも竜巻にビビりラーガさんのカバー内に入った上で自分でも『武器改造』で左の義手を杭にして地面に刺し、右の義手を空気抵抗に優れた形状の盾に変形して竜巻を耐える!//動けるようになったら「プロップシューター」で敵の目をラーガさんから逸らすよう牽制射撃を行い援護!//ラーガさんが剣を奪ったら待ちに待った反撃タイム!竜巻を使えるのがテメエだけだと思うなよ?UC【JAE性能試験番号-049】で呼び出したメカ鮫爆弾竜巻に乗り突撃してサメ爆撃&その勢いで再び『武器改造』で義手のブレードをチェーンソーに変形させて一撃!



 花の海に漂う血の臭い。
 赤い鮮血の飛沫が鮮やかな花々を一色に塗り替える。
 これは先ほど敵幹部ウィンドゼファーが致命傷を負ったために巻かれたものだ。
 花の香りに包まれていた世界に血の臭いが混じったとなれば、どこからともなく獲物を求めてやってくる、『血を欲した獰猛なヤツラ』が…

「こちらシャークリーダー、敵を捕捉しました。」
「シャーク1、同じく補足でさア。」
「えーっと、シャーク2?右に同じだ。…というかコレ本当にやる必要あるのか…?」
「シャーク2、当然です。そのまま私に着いてきてください。」

 それは花の海から威嚇するように背びれを立て、堆積した花片の下を押しのけ器用に泳ぐ。
 それだけではない。見えはしないが、四つん這いの姿勢で尚且つ短い手足を使い這い進む様は、まさにキマイラフューチャー的優雅さであると言えよう。
 このまま敵の虚を突き奇襲すれば、この戦いは穏便に終結するだろう。
 現在、この高度で知的な作戦は完璧な進みなのだから。

「あなた達、一体なんの真似ですか。今の私はあなた達のお遊びに付き合えるほどの余裕はないのですが。」

 しかし、完璧だった作戦は突如破綻した。
 ウィンドゼファーが彼女達の奇襲作戦に気付いてしまったのだ。
 ゼファーの指摘が当てずっぽうではなく、本当に見破ったのは確かなのだろう。
 こちらをしっかりと見据えているその視線を確認すると、ハンター達は立ち上がり姿を見せる。

「くっ、この完璧な作戦が破られるとは…流石幹部つよい!」
 特徴的なホワイトブリムとリボンをあしらったサメの着ぐるみに身を包み、大真面目な表情で語るシャークリーダーことエミリィ・ジゼル(かじできないさん・f01678)。

「ヒヒ、這いずるってことに関しちゃ人一倍自信があったんですがねエ。」
 闇のような漆黒の羽織マントを着せたサメの着ぐるみに身を包む、剽軽な顔したヘピ顔のシャーク1ことバルディート・ラーガ(影を這いずる蛇・f06338)。

「ああ、うん。まぁ分かってたけどさ。見つかるよなこれ。」
 一見するとシンプルだが、お腹に付けた若葉マークがチャームポイントのサメの着ぐるみに身を包んでいたシャーク2こと高岩・凛(ヒーローのなりそこない・f17279)。

 この三名が、今宵の血を求めてグリモアベースから現れた頼もしいサメ、もとい猟兵達だ。
 今回の完璧な作戦に落ち度があるとしたら、着ぶくれしたサメぐるみだと花片の下を潜ってもモッコリとシルエットが浮かび、押しのけた花片が線のように連なっているため経路が一目で分かる他、特徴的すぎる背びれがずっと見えていたことだろうか。

「どこまでも私を虚仮にするつもりのようですね。いいでしょう、ならば一息に消し去ってやります!」

 挑発されたのだと捉えたゼファーが、わなわなと震える拳を強く握りしめて両手の武器を振るうと、見上げた天を包むほど程大きな竜巻が3人へ迫る。
 吸い寄せるように巻き上げられる力を感じ、その脅威は猟兵達が足にいっそうの力を込めて踏ん張らなければならないほどだ。

「うおぉ~!かっこよさげな怪人だ怪人!怪人戦だ!いざ生で目の前にすると、ヒーローしてるって実感が湧いてくるよなラーガさん!」

 幹部らしい出鱈目な威力の攻撃に、高岩が興奮して隣にいるバルディートの背中を短いサメぐるみ腕でペシペシ叩く。

「…いやア、どうもそれどころじゃなさそうですぜ高岩嬢ッ!!」

 逃がす気は毛頭なく、侵入者を全て蹴散らす。そんな気迫が目の前から漂っていた。
 現に今、初動が遅れたために竜巻から逃れるのは難しいだろう。
 ならばと、高岩を押し倒しバルディートが覆いかぶさる。
 剽軽でいて抜け目ない、そんなバルディートの咄嗟の判断は、下手に動くよりも身を屈めてやり過ごすことだった。
 しかし、近付くにつれて吸い上げる力を強く感じるあの竜巻、これだけではすぐに地を離れてしまうだろう
 そこで、漆黒の羽織マントに隠していたブレイズキャリバーたる力、炎の腕を露わにして地に向ける。
 この大地はみな自分たちを支える程の巨大花の集まりだ。ならばその茎は、さぞ頑丈なのだろうとの考えである。
 そのまま炎の両腕を長い蛇の形に変化させると、鞭のように振るって花弁の下へと潜らせた。
 しっかりと掴むと風が抜けていくのをただ耐え忍ぶ。
 しかしあれだけの竜巻、無傷というわけにもいかず、風の刃がバルディートを幾度も執拗に襲い身体を引き裂いていく。

「ラーガさん!?」

 しまった、浮かれ過ぎていた。後悔の念が高岩の頭を埋める。
 目の前に覆いかぶさる彼は、声にこそ漏らさないが相当な痛みを覚悟で自分を守ってくれているはずだ。
 このままではあの時と何も変わらない。自分は誰かを護るヒーローになるんじゃなかったのか。何をしているんだと自分を責めたくなる。
 今度は自分の身で以って護る側にならなければならないと、強迫観念が湧き高岩の目を覚ました。
 すぐさまサメの着ぐるみの腕を引き千切ると、鈍く光る両腕の義手と対面する。
 どんな時でも、どんな状況でも人助け出来るように、この両腕は組み換えできるようになっている。
 そして今必要なのは…目の前の彼を護る盾!

「ごめんラーガさん!今度は俺がラーガさんを護る番だ!」

 左腕の手首は杭のように継ぎ目のない頑丈な突起へと変貌し、地面に突き刺し身体を固定すると、右腕の開いたような半球形の盾でバルディートの傘となり、彼を風の
刃から凌ぐ。
 流石に巨大竜巻といえども鋼鉄を真っ二つとまではいかないらしく、腕の激しい負荷を感じながらもギリギリで耐えきった。

「ヒヒ、高岩嬢が腕無し仲間だったたア驚きやした。その変形ついでと言っちゃなんですが、もう一仕事頼みますかねエ。」

 助け起こしてくれる高岩の腕、そして自分を痛めつけてくれたゼファーの腕を見てバルディートが舌なめずりで呟く。
 起きるのと同時に飛び出すと、ゼファー目掛けて身を隠すように低い体勢のまま一直線で駆け抜けた。
 その後ろで高岩が、銃身がブレないよう腕に取り付けた散弾銃をゼファーに向けて連射する。
 距離のせいで威力こそないものの、バルディートから高岩へ注意を向け足音を誤魔化すことはできるはずだ。

 ゼファーは放った自分の竜巻の威力でどれだけの猟兵が生き残るか考えていた。
 多くても一人か二人だろうか。
 花を巻き上げ視界を染めた竜巻。
 今それが猟兵達を通過すると残ったのは一人、他は竜巻に飲まれたのだろう。
 あの猟兵達はしぶとく初撃の竜巻を凌いだようだが、負傷したのか距離があるのに苦し紛れの豆鉄砲で遊んでいる。
 見苦しいから仲間たちの所へ逝かせてやろうと再び腕を上げた瞬間、視界の端に異物が映り込んだためゼファーは咄嗟に飛退いた。

「あなた…いつの間に!」
「え?サメなので獲物目掛けて走ってきたんですけど?それにわたくしがいたら、あっちのシリアス空気ぶち壊しますし。」
「い、一体何を…?」

 目の前でカバディカバディと言いながら短い腕を振るエミリィに困惑するゼファー。
 まさか竜巻発生直後の巨大化前の竜巻を狙って、初見で潜り抜けてくるものがいようとは予想外であった。
 この猟兵に関しては行動が全く予測できない。一体何者なのか…。
 底知れない恐怖を感じゼファーが武器で振り払おうとすると、横から新たな声が掛けられる。

「ヒヒヒ、よそ見してると手癖の悪い奴にカモられますぜ。なアるほど、竜巻はこの剣で飛ばしてるってワケですねエ。」

 エミリィを攻撃しようとしていた武器は、何故かそこにいるバルディートが手にしている。
 盗られたことに全く気が付けなかったということは、これがこの猟兵のユーベルコードということか。
 そして、これ見よがしにこちらを横目で伺いながら武器を品定めするバルディートの態度が、ゼファーを益々苛立たせた。

「でかしたラーガ様!それでは反撃と参りましょう!」
「だ、そうでさア高岩嬢!準備は出来てますかい!」
「よっしゃその言葉を待ってたぜ!」

 反撃の狼煙を上げて、猟兵達が各々攻撃態勢に入る。
 まず最初に、バルディートが盗んだ武器で風を起こし竜巻を作る。
 続けて高岩が数多の鮫型接触爆弾を飛ばしバルディートの風に乗せた。
 そして最後の仕上げにと、エミリィが前に出て竜巻の具合を確かめる。

「いい感じに下地が出来ましたね。あとはこちらにサメ属性を加えれば良質なシャークネードの完成でしょうか。」
「さ、サメ属性!?サメ属性とはいったいなんなのです!」
「サメ属性はサメ属性です!んもー、ちょっと!気が散るから話しかけないでくだち!」

 聞いたことのない属性、サメ属性。
 火や水、それこそ風なら対処のしようがあるというものだが、長年幹部としてやってきていても全く知らないサメ属性。
 やはりこの猟兵は底知れない何かを秘めている…。

「あ、やべ。暴走したわこれ。」

 マケドニア背景が透けてみえそうなテヘペロ顔でエミリィが言い放つと、発生していた竜巻が爆発したように急激な成長を見せ暴風を放つ。
 その吸引力は使用者たちをも区別なく無差別に吸い込み、着ぐるみを来た猟兵達もわーわー言いながら短い手足をバタつかせて飲み込まれていく。
 無論、風を操れるゼファーであっても、武器を半分失った今ではあらがう術もなく上空へ舞い上がった。

「くっ車輪剣が揃っていれば!ぐぅっ、また爆弾が!」

 いつの間に紛れ込んだのか、竜巻の中には鮫型接触爆弾や着ぐるみだけでなく本物のサメまで飛んでいる。
 姿勢の制御も自由に出来ないこの乱気流では、襲い来るサメを車輪剣で切り払い、爆弾の爆風に耐え忍ぶしかなかった。
 そして血の臭いに誘われたのか、一際大きなサメが再び大口を開けてゼファーに襲い来る。
 喰われてなるものかと腕に装着した車輪剣の回転数を上げて、サメを口から横にひらきにしようと払った。
 しかし、タイミングを計ったようにサメが口を閉じて、強靭な歯で車輪剣を咥えこみ離さなかった。

「こいつ…離せ!まて、この音はなんだ!?」

 その時、どこからともなくチェーンソーの駆動音が鳴り響く。
 突如、サメが痙攣し始めたかと思えば、その下腹部を切り開きながらチェーンソーの切先が姿を現す。
 次いで鋼鉄の腕、そして血に染まり真っ赤になった着ぐるみ、そして鬼気迫る表情の高岩が顔を見せた。
 それだけではない、いつの間に泳いできたのか着ぐるみを来たエミリィとバルディートまで高岩に寄り添っているではないか。

「竜巻の回転を得たサメの恐ろしさ、特等席でご覧くださいませ。」
「ソッチが『嗤う竜巻』ならば、こっちはさしづめ『笑う竜巻』(ギャグジクウ・ネード)ってなトコですかね。」
「へへ、竜巻も回転ノコもお前の専売特許ってわけじゃないんだぜ!こいつで、トドメだぁぁぁ!!」

 ゼファーに残されていた車輪剣は腕に接合されているもの。
 そこを狙い、エミリィが操つるサメによって武器を抑えたのだ。
 だからこそ今、いくらスピード怪人といえども絶対に避けられない状況を作ることが出来た。
 高岩のチェーンソーがゼファーの肩口に喰い込むと、そのままゼファーを真っ二つに両断する。
 暴走する竜巻の中、猟兵達は遂に決着を迎えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年05月27日


挿絵イラスト