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バトルオブフラワーズ⑪〜花に嵐

作者：つじ

●疾風迅雷
　歩みに合わせて花が咲く、それがシステム・フラワーズ内部の特徴だ。空に生まれる花の通路はシステムの中枢へと続くはずだが……例によって例の如く、現在の所、この道はそれを遮る門番の元にしか繋がらないようになっている。
　エイプモンキー、ラビットバニーを退けた彼等が次に見つけるのは、花を散らす一陣の風、ウインドゼファーの姿だった。

「――というわけで、次はこのスピード怪人『ウインドゼファー』が立ち塞がるって話だよ」
　グリモアベースに集まった猟兵達に、オブシダン・ソード（黒耀石の剣・f00250）がそう語りかける。これまでに戦った二体の幹部と同じく、この怪人を倒さない事には先に進めないらしい。
「ウインドゼファーについては、今までの二体のような特殊な戦い方はしてこないようだね。純粋な実力勝負になりそう、かな」
　とはいえ、風を操る彼女の力は侮れない。想像の創造や、無敵のバリアーといった特殊な力もなしであの二体と肩を並べているのだ、戦闘力は推して知るべしといったところだろう。
「タイプとしては、風使いのスピード自慢、といった感じかなぁ。正直言って、僕達が先手を取れる可能性はないに等しい。相手の先制攻撃をどうにかして、それから反撃……っていう形になると思うよ」
　やれやれ、と彼は肩を竦める。
「相手が『時間稼ぎ』とある程度割り切ってるのも性質が悪いね。あのスピードで逃げ回られるだけでも相当厄介だ。機会を逃さず、確実にダメージを与えていきたいところだけど……」
　高速戦闘、足場崩し、強力な攻撃、と予測される動きはどれも強力なもの。
　どう崩していくかは任せるよ、と、そう言ってオブシダンは転移の準備を開始した。

　オブリビオンであるウインドゼファーは、一度倒してもすぐに骸の海から戻ってきてしまうだろう。だが、これを繰り返し、短期間に許容値を超えるだけの回数葬り去れば、復活を阻害することができるはず。
　決意を固める猟兵達の前に、戦場への道が開かれる。

第1章 ボス戦 『スピード怪人『ウインドゼファー』』

POW   :    フルスロットル・ゼファー 全身を【荒れ狂う暴風】で覆い、自身の【誰よりも速くなりたいという欲望】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。 SPD   :    レボリューション・ストーム 【花の足場をバラバラにする暴風】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。 WIZ   :    ソード・オブ・ダイアモード 対象の攻撃を軽減する【全タイヤ高速回転モード】に変身しつつ、【「嗤う竜巻」を放つ2本の車輪剣】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。 イラスト：藤本キシノ 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

●風を阻む壁
　花の道の続く先にその姿を認めて、幽草・くらら（現代のウィッチ・クラフター・f18256）は思わず足を止めた。赤く染まったマスクに、こちらを威圧するような一対の車輪剣。さすが強敵といったところか、既にこの距離で圧が凄い。
　行きたくないなぁ、という分かりやすい表情を浮かべながらも、くららは引き返すことなく前へ進んだ。現在キマイラフューチャーを襲っている事態を思えば、何もせず見過ごすなど彼女には到底できないことだ。
「今度の相手は、貴女ですか」
　くららに気付いたウインドゼファーが呟く。くららがそれに返すまでもなく、ウインドゼファーの全身に配された車輪が、その両腕の剣の先のブレードが、凄まじい勢いで回り始める。
　足の裏のそれもまた排気と共に高速回転し、花の道を引き裂くようにして、ウインドゼファーを猟兵の元へと瞬時に運ぶ。
「距離を詰めるの早すぎません！？」
　間合いが一瞬で無くなった事実に狼狽しながらも、くららの身体は攻撃に備えて動いていた。後ろに飛び退きながらも絵筆が走る。が、腕を振るうのも移動の速度も、敵の方が早い。
「さあ、この哄笑を聞きなさい」
　車輪に蹴りたてられた花弁の舞う中、車輪剣が薙ぎ払われる。車輪の付け根の擦過音と、巻き込まれ唸る風の音色が奇妙な嗤い声の様に響く。生じたのは、竜巻。
「倒さなきゃいけないのはわかるんですけど怖すぎますよぉ！」
　泣き言に近いセリフを吐きつつ、くららはそれを竜巻の到着までに間に合わせた。早撃ちならぬ早描。描き出されたゴーレムが、彼女の魔力で具現化する。
　実体化した岩の巨人は、迫り来る風を押さえ込むように両腕を広げた。
「ほう、見事なものですが、その程度で止められますか？」
「一体では無理！？　ですよね！！」
　関節の軋みと共に、刃と化した風でごりごりとゴーレムが削られていくのを目の当たりに、ついでに二刀流のウインドゼファーがさらなる竜巻を放っているのを察して、くららは止まることなく筆を動かした。
　描き出されたさらなるゴーレムが壁を形成し、一時を凌いで崩れ去る。
「ええっ、と、じゃあこれは！？」
　けれど、今はその一時で十分。追い詰められた彼女の筆致は精密さを増していく。『神は細部に宿る』のだから、その手はより上の作品を描き出した。
　絵画物質化法。通常よりも硬度を増したゴーレム達が、その身を挺して嗤う竜巻を押さえ切った。巻き上げられた花弁が降る中、解けた風が彼女の頬をくすぐる。
「やった……！」
「まさか、凌がれるとは……。けれど、私が倒されたわけではありません」
　くららもまた気を引き締め直す。そう、問題はここから。
　硬度はあるものの、ゴーレムの動きではウインドゼファーを捉えきれないようで――。大振りの一撃を躱したウインドゼファーが車輪剣を振るい、腕を、脚を斬り飛ばして人形を地に伏せさせる。
　これは、竜巻よりもまずい。
　くららが連続召喚するゴーレムを踏み越えて、ついに敵は彼女の眼前に至った。
「貴女はよくやりました。もう諦めなさい」
「……ッ！」
　回転鋸の要領で唸りを上げる刃が、くららの身を深く抉る。高速回転するそれが血肉を吹き飛ばし、一時の赤い霧がその場に生じた。
　けれど、くららの臆病さはそこで折れることを良しとする類のものではない。
　なおも絵筆は走り、赤いゴーレムを描き出した。
　強化されているのはこれまでの個体のような硬度ではなく、知性。敵の動きを観察するような間を置いて、そのゴーレムは我が身を回転する車輪の軸へと叩き込んだ。
「なッ――！？」
　石が削れて飛び散る中、その身が根元に挟み込まれて、回転が止まる。
　さらなる一体がウインドゼファーの動きを抑えつける間に、くららは生み出される塗料の容器を振りかぶっていた。
「お返しです！　思いっきり凍えてもらいますからね！！」
　凍て付く魔力を込めたブルーの塗料がぶちまけられ、ウインドゼファーを氷の色に染め上げた。
「――まだまだ！　ここで倒れるわけには！」
　氷の下、またも高速回転を始めた車輪が凍て付く空気に罅を入れ、さらに生じた暴風が冷気を吹き飛ばす。
　有効打は与えたがウインドゼファーは未だ健在。戦いは、まだ終わらない。

成功 🔵​🔵​🔴​

●コピーキャット
　吹き荒れる風を肌で感じながら、セツナ・クラルス（つみとるもの・f07060）は迫り来る敵を見遣る。足裏の車輪を駆使して花の足場を滑ってくるのは、敵幹部、ウインドゼファーだ。
「正直言って勝てる気がしないのだが……」
　感じ取れる圧力にそう呟くが、言ったところで状況が改善するわけではない、と彼は思い直し、敵を迎え撃つ体勢に移った。
「疾く、去りなさい、猟兵よ」
　ウインドゼファーもまた、全身のタイヤを高速モードに移す。マスクの下からの静かな声音に反し、高らかな哄笑のような音を立てて、車輪剣が『嗤う竜巻』を生み出した。
「そうもいかないのだよ。わかってもらえるかな？」
　セツナの指先に従って、彼の周りに土の障壁が発生する。迫り来る竜巻の正面には二重、三重にと壁を展開、衝突に備えた。
「残念ですが、それでは私の風は止められない」
　ウインドゼファーの宣告通り、捩じれる風が土の障壁を引き裂き、散らす。障害物を呑み込んだ竜巻は、そのままセツナの身を切り刻んだ。
「――ッ！」
　全身を襲う激痛、噴き上がる血が風を染める。けれど、その眼は正面を、ウインドゼファーの動きを捉えていた。
　先制攻撃に対する防御は完全とは言い難い。だがまともに受ければ致命傷だったそれを、軽減する事には成功している。
　そう、敵に一矢報いることが出来るほどには。
「あなたの力、使わせて貰うよ」
　描き出すは『仮の隣人』。セツナは脳内でウインドゼファーをトレースし、速やかに敵の動きを再現する。得物の差を踏まえて一度大きく旋回、弧を描く大鎌の刃から、竜巻を発生させた。
「それは、私の――！？」
「その通り、威力は折り紙つきだよ。なんせ、先ほど私が体験済みだ」
　花を散らして巻き上がる刃の渦に、今度はウインドゼファーが身を晒す。再現された嗤う竜巻の威力は、今セツナの述べた通りだが。
「けれど、今の私ならば耐えられます」
　タイヤというタイヤを高速回転させたウインドゼファーは防御能力に関しても強化されている。身体の各所で唸る風が竜巻を軽減し、傷付きながらも彼女は竜巻を突破してきた。
「さあ、もう一度行きましょうか？」
「……いや、もう2度と受けたくはないんだがね」
　振り下ろされた車輪剣が、セツナの鎌とぶつかり激しく火花を散らす。敵のユーベルコードを再現したセツナの側も防御能力は上がっている。しかし、同じ技を使うならば、勝敗を決するのは地力の差、そして初撃によるダメージの差だ。
「これは――」
　まずいかも知れないね？　心中でセツナが呟く。彼の見立て通り、ここから状況を覆すのは難しい。だがしっかりと一撃を刻むことは出来た。ここからは後続の仲間に託すべきか。
　そう判断しつつも、少しでも多く敵を疲弊させるべく、セツナは得物を握り直した。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

●花弁
　色とりどりの花の足場を歩み、ライラック・エアルオウルズ（机上の友人・f01246）はそこに至る。童話に出てくる『不思議な世界』にあるような光景。だが目の前に居るのは鋼と車輪で飾られた怪人だ。
「……全く、随分と物騒な物を身に着けているね。此の賑やかな世界と華やかな場所には、不似合いだとは思わないのかい？」
「いいえ。これは私の『欲』の形ですから。……そう言う貴方こそ、この世界の事を誤解されているのでは？」
　ライラックが動くその前に、ウインドゼファーの全身に配された車輪が唸りを上げる。
「そうかい？　少なくとも、ここはこんなにも美しいのに――」
　来る、と直感の鳴らす警鐘に従って、ライラックは後ろに跳躍する。刹那、彼の胸元を掠めるように車輪剣が行き過ぎた。
　続いて発生した竜巻が刃を伴って吹き荒れる。舞い上がる花びら、そして浅く肌を裂かれたライラックの血が風に散る。敵の動きを見切り、第六感にも頼りながらの回避、だがこれで初撃は凌いだかと言われれば、答えは否。肥大化していく嗤う竜巻は、このままいけばすぐにライラックを呑み込むだろう。
　その前に、彼は可能な限りの速度でそれを詠唱する。鏡よ鏡。
　最速で発動したのはユーベルコード、『鏡合わせの答合わせ』。ライラックの前に現れた魔法の鏡が目の前の『風』を映し出す。生じたのは鏡合わせに逆巻く竜巻だ。正反対の力が嗤う竜巻と衝突し、互いを正確に打ち消し合った。
「なるほど、やりますね」
　一時生じた無風地帯、巻き上げられていた花弁の降るその空間を、ウインドゼファーがさらに踏み込み、剣を振り下ろす。
「やはり、それはここでは武骨に過ぎるよ」
　風情がないと嘯きながらもライラックはそれから身を躱した。避け切れなかった鋸状の刃に苛まれながらも、彼はそこから転がって距離を取る。
「――？」
　そんな彼の手元から魔導書が消えていることにウインドゼファーが気付くが、既に遅い。車輪の起こした風に混ざったリラの花弁。それはライラックの魔導書が形を変えた無数の刃である。
「くッ……！」
　風に乗ったそれらが、ウインドゼファーの身体を撫でる。
「ああ。どうやら」
　細かな無数の刃に切り刻まれる敵の姿に、ライラックは眼を細めた。
「淡い花弁に塗れた事で、少しばかりか御似合いになった様だね」
「……減らず口を」
　ウインドゼファーが忌々し気にそう返す。再び車輪が勢いを上げて、彼女を中心に生まれた風が、また空間を満たす花々を揺らし始めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

●風を貫く
「んん？」
　虫の知らせ、とでも言うべきか。何となく、で上に目を遣った尾崎・ナオ（ウザイは褒め言葉・f14041）は、こちらに向かって降ってくるそれに気が付いた。風を操り空さえも飛ぶ、身体の各所にタイヤを配した銀色の影。
「早速奇襲ですかぁ？　ご苦労な事で！」
　ニヤついた表情を変えないままに、ナオは後方に方向転換して走り出す。まともに食らったらマズイなどと言うのは、誰が見ても明らかだ。
　彗星の如く降ってきたウインドゼファーが着地。それと同時に、暴風というよりは爆風に近いそれが辺りに吹き荒れる。花の足場は花弁を散らすに留まらず、衝撃でばらばらに吹き飛んでいった。
「何その隕石ごっこ、ウケるんですけどぉ！」
　その余波に巻き込まれながらも、ナオは散っていく足場を縫うようにして姿勢を整え、自身が吹き飛ばされるのを防ぐ。
「……器用なものですね」
「あっは！　その声、お前、女か！　もうちょっとお淑やかにしたらぁ？　ナオちゃんみたいに！」
　足を止めることなく、ナオが笑みを深める。挑発と共に研ぎ澄まされていく動きで敵の追撃を躱す彼女は、比較的安定した足場を確保したところで反撃に転じた。
「お淑やか？　貴女が？」
「そうですよぉ？　よく見えないなら、まずはそのだっさいメット外してみる？」
　舞い散る花びらを裂いて迫る車輪剣を紙一重で躱し、抜き放った拳銃の引き金を引く。
　銃声。頭部を狙った早撃ちはもう一本の車輪剣で弾かれる。
　銃声。さらなる一射からウインドゼファーが身を躱す。
　銃声。ナオの左手にも銃が一丁。別角度からの弾丸でウインドゼファーの足を捉える。
　銃声、銃声、銃声――。濃縮された時間の中を二人は踊る。防御と回避に徹したウインドゼファーを崩し切れないままに過ぎ行く数瞬。そのまま彼女等はその瞬間を迎える。
　銃声の回数からそれは明らかだ。ウインドゼファーは確実に反撃に入れると見込んだそのタイミングで、一気に距離を詰めにかかった。
「終わりにしましょう」
「あ、弾切れだと思ったぁ？　残ぁん念！」
　リロード、ではなく放り投げられた拳銃に変わって、ナオの手にさらに二丁の拳銃が現れる。
「な――！？」
　その戸惑いを、隙を、早撃ちに関して卓越した技能を持つナオが逃すはずがなかった。銃火が上がり、瞬間を切り裂いて、放たれた弾丸はウインドゼファーを貫いた。
「はっはぁ！　あっちでお化粧直しでもして来てねぇ？」
「ああ、口惜しいですが、貴女の勝ちです。屈辱は甘んじて受け入れましょう……！」
　マスクの奥で血と共にそんな言葉を吐いて、ウインドゼファーはその場から消え去った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

●流星
「この先へ進みたいのなら、まずは私を倒す事ですね」
　いかにも番兵らしい台詞を、ウインドゼファーは衒いもなく言い放つ。そんな彼女と相対し、鴛海・エチカ（ユークリッド・f02721）は遥か上方を指差して見せた。
「疾き暴風の門番とやらか、面白い」
　不敵な微笑みをウインドゼファーへと向けて、彼女は従えたそれに命令を加える。瞬間、激しく強い唸りがウインドゼファーの全身からこぼれ、車輪という車輪が高速回転を始めた。
　それはウインドゼファーの手にした車輪剣も同様……けれど、そこから放たれる攻撃全てを見切ろうなどとは、さすがにエチカも考えていなかったようで。
「消えなさい」
　一閃。走った刃と共に、風が嗤う。剣風は一気に湧き上がり渦を成して、辺りの足場の花々を虹色の霧に変えてしまう。
　それでも、それに切り刻まれる前に、諦める前に、彼女は従えたガジェットを連れて、花の足場を蹴りつけた。
「――チェシュカの箒星よ、我と共に翔べ！」
　逆巻く風と共に急上昇、吹き飛ばされるような勢いを付けながら、エチカは描かれた竜巻の上端、風の刃ですら届かない場所まで一息に上昇する。
「おお……ちょっとばかり目が回るのう」
　道中では強く、避けようもない風の影響をもろに受けてしまう。大した事は無いようにエチカは言うが、捩じ切られていない幸運をまずは喜ぶべき状況だろうか。
「どうせなら、そのまま退場願います」
　箒型のガジェットに跨るエチカを見上げて、ウインドゼファーはなおも車輪剣を薙ぎ払う。哄笑する竜巻が新たにもう一つ生まれ、うねりながら上へと伸びた。
「あ、こら！　こっちにも攻撃機会を寄越さぬか！」
　先程よりも強く、遠く、風の刃は唸りを上げてエチカを襲う。避けきれぬそれに切り裂かれ、掻き回されて――。
「あー、仕方ないのう」
　エチカは、それに乗ることにした。
「――ほう？」
　追撃に移ろうとしていたウインドゼファーが、風に乗って無茶苦茶に飛び始めた相手の姿に、一時手を止める。
　ウインドゼファーを中心に、不規則な挙動で旋回を始めたエチカを目で追いながら、彼女は問いを投げた。
「それで、どうするつもりです？」
「このままでは埒が明かない、か？　そんな事は分かっておるわ！」
　一度勢いよく風に乗ったところで、エチカはぐい、と急旋回。箒の先を下へと向けてやる。急降下するように軌道を捻り、ウインドゼファーの方へ。迎撃に放たれる竜巻、花びらの嵐の中心へ、その身を飛びこませた。
「星の命題よ、因果と為って廻れ」
　箒の上で、エチカはその天球儀を模した星杖を振るう。『二律排反』。放たれるのは幾筋もの光の矢だ。
「ウインドゼファーよ、我が流星の力を受けてみるが良い！」
　降り注ぐ流星を、ウインドゼファーは高速回転する車輪、そしてそれに伴う風の障壁で弾いて見せる。
「この程度で、私は屈するつもりはありませんよ」
　たとえそれが多少なりとその身を傷つけようが、彼女はきっと戦いを止めないだろう。
「ドン・フリーダムによる『メンテナンス』が成されてこそ、この世界はあるべき姿となるのです」
　使命に殉ずる覚悟を滲ませた敵に向け、エチカはさらに前進する。
「――お主にも譲れぬ路があるのじゃろう。されど我らとてこの星を欲望の渦に沈めたくはない」
　攻撃の効果が薄いことは先ほど実証されてしまった。このままいけば閉じる竜巻の中で捻りつぶされて終わりだろう。
　が、しかし。
「疾き風を越え、戰の勝利を克ち取ってやるのじゃ！」
　これまでエチカの続けざまに放ってきた星は、気が付けば花弁の舞う世界の中で六芒星を描いている。勝算があるとすれば、それだ。
「受けよ！」
　魔法陣の力を乗せて、エチカの全力の魔法で描かれるさらなる流星が、西風を貫いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

●masquerade
　あぁ、悲劇は殺して、壊しましょう。
　あの赤く染められた仮面は、きっと笑っているのだから。
　車輪剣、ソード・オブ・ダイアモードが唸りを上げて、「ヒャヒャヒャ」、と不気味な哄笑を奏でる。そこから生み出される竜巻の中に、あえて静海・終（剥れた鱗・f00289）は身を置いた。
　来るとわかっているのならば、急所のみを守る事は不可能ではない。全身を抉り切り裂く嵐の中で、終は敵だけを見遣る。
「――不愉快でございますねえ、その嗤い」
　体を濡らす鮮血。だがそれこそが、彼のユーベルコードのトリガーとなる。紅涙、彼自身の血をきっかけとして溢れ出す癒しの力が終を包み、全身の傷を急速に癒やしていく。
　激痛、そして代償として生じる疲労感を押さえ込みながら、終は竜巻をやり過ごすことに成功する。命に関わるであろう負傷をカバーする代償は軽くなかったが、それも前に出た彼は、蒼槍の一閃でウインドゼファーの右足を穿つ。
「――なるほど」
　まさか正面から乗り越えてくるとは。そんな感嘆の意を表に出すウインドゼファーから距離を取りつつ、終は次なる仕掛けを始める。
　こちらを遥かに上回る速度で迫り、強力な攻撃を仕掛けてくる敵の様子をよく見つつ、終は急所を守りながら立ち回る。負傷は避けられなかろうと、彼のUCを駆使すれば問題はない。
　花の足場のみという乏しい地形条件を極力利用し、展開するは鋼糸の陣。即席の砦はウインドゼファーを囲み、その内側へと敵を捕らえた。
「風を捕まえて御覧に入れましょう」
　高速回転モードの車輪に鋼糸が触れれば、後は勝手に口が締まる。ワイヤーを巻き込んで車輪の止まったその身に、終は再度槍を突き込む。先程の傷をもう一度抉れば、脚へのダメージからさらに相手の動きは鈍るはず。
　だが、そこまで。
「私も、止まるわけにはいかないのですよ」
　知っているのでしょう？　そんな呟きがマスクの下から聞こえる。ぎ、と音を立てて車輪剣が軋み、縛る糸を引き千切る様にしてまた回転を始めた。
　再度、風が嗤う。抉れた傍から傷は癒えていくだろう。だがこれまで治してきたダメージは果たしてどれほどか。不死身ならぬその身には、とうに限界が迫っていた。

　彼の刻んだ傷は、迫る悲劇を確実に遠ざけたはず。鈍り行く嵐の中、それでもなお戦いは続く。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

●一瞬を繋ぎとめて
「私も足に多少の自信はありますが……」
　それでも、彼女に勝つのは難しいだろう。疾走する敵の姿に、フィン・クランケット（蜜柑エルフ・f00295）はそう判断する。ダッシュ――つまり自らの足でウインドゼファーの動きに拮抗するのは、ちょっとやそっとでは不可能だろう。
「とは言え、負けるつもりはありませんよぉ」
　『幻世』と銘打たれた薙刀を手に、フィンは迫りくるそれに集中する。車輪が足場を蹴るのに合わせて、巻き上げられた花弁が疾走の軌跡を形作っていく。その先端が、ついにフィンを射程範囲に捉えた。
「――ええ、胸を借りる気持ちで挑ませていただきます！」
「慢心しないその姿勢は認めましょう」
　しかし、それでこの技を超えられるか。ウインドゼファーの振り抜いた車輪剣の動きに合わせて、暴れる風が彼女の周囲を一薙ぎする。レボリューション・ストーム。爆発でも起きたような風圧が発生し、姿勢を低くして堪えていたフィンの身体をも攫って行く。が。
「魂すらも凍てつき砕ける。この森の命は斯くも儚き」
　『Valkoinen hautakivi』。瞬間、空間が白く塗り替えられる。局所的に呼び起こされたのは、彼女の故郷に吹く風だ。常冬の世界に踊る、透き通った氷の花弁は、システム・フラワーズの色彩豊かな花びらを、バラバラに崩れていく途上の足場を、吹き荒れる風さえも凍てつかせていく。生命の鼓動も、時間さえも縛り付けるような冷気の中で、ただ一つフィンの放ったワイヤーが走った。
「やっぱり！　自分の足場までは崩せませんよね！」
　先端のアンカーがウインドゼファーの足元に突き刺さり、ピンと張ったワイヤーが、吹き飛ばされていたフィンの身をその場に留める。さらにワイヤーの巻き上げ機能が彼女の身を強く引っ張り――。
「……ッ！」
　身を縛る氷、そして襲い来る冷気をウインドゼファーが操る風で吹き散らす。だがその間に、フィンは敵の眼前に至っていた。
「あてて……」
　まぁ、空中を移動する間にあったのは凍った花びらと常冬の冷気だ、彼女自身も無傷とはいかなかったが。
「でも、これで――！」
　道中と着地の痛みでふらつく体に鞭を打って、フィンがもう一つ大きく踏み込む。腕輪にワイヤーを巻き取り切って、自由になった左手を振りかぶった薙刀に添えて。
「これで、痛み分けですよっ！」
　一閃。襲い来る二本の車輪剣間を抜けて、反り返った刀身がウインドゼファーを薙ぎ払った。

成功 🔵​🔵​🔴​

●風を掴む
　風が暴れ、花弁を一息に吹き散らす。その一瞬前に、廼・柩（からのひつぎ・f00796）の手にした拷問具――巨大な棺桶が地面に突き立てられた。巨大なそれは盾として、杭として、柩をその場に縫い留める。
　そう、先手は相手に打たせてやろう。後手に回ろうが、こちらはその風を捕らえてしまえば良い。
　棺桶で閉じた視界の裏を渡る足音、風切り音。崩れ、散っていく足場の中で聞こえたそれに、柩は棺桶を傾けた。
「聞こえてるよ」
　まさにそこに突き込まれた車輪剣の一撃を、棺桶が受け止める。それと同時に放られた閃光手榴弾が爆ぜて、辺りを白く染め上げた。
「く、うっ――！？」
　正面からそれを受けたウインドゼファーに、棺桶の影から抜け出た柩が続けざまに拘束具を放つ。手枷とロープがその身体を縛る合間に、彼は残った僅かな足場を頼りに敵の背後へと回った。
　気配を消した彼の動きを、敵が察した様子はない。先制攻撃こそ許したものの、完全に後の先を奪った形で柩は拳銃を手にする。

　――悪いけれど、暗殺や騙し討ちは得意な方なんだ。
　胸中でそう呟いて、彼は装甲の隙間へと銃弾を叩き込んだ。
　そのまま銃倉が空になるまで撃ち込んで、彼は後方へと跳躍した。目の前を、拘束を引き千切った車輪剣が轟音を上げて行き過ぎる。
　紙一重の回避――とはいえ、乗り移るべき足場は既に吹き散らされた後だ。そう、これは完全に足場が散らされるまでの瞬間の出来事。
「……惜しい。もう一歩だったかな」
　落下していく中で、彼は誰にともなくそう呟く。
　とはいえ、あのままもう一歩踏み込んでいれば首を飛ばされていた可能性がある。逆にあの直前で足場の確保に退いていれば、じり貧だった公算が高い。危うい綱渡りを、得られる最大限の成果を掴んで切り抜けた、と評するべきだろう。
　さらに数瞬の後、グリモアの輝きが、勝者をベースへと引き戻した。

成功 🔵​🔵​🔴​

●タンデム
　花咲く道を、赤銅色の宇宙バイクで進みながら、アリン・フェアフィールド（Glow Girl・f06291）はこの世界――キマイラフューチャーの敵達へと思いを馳せる。
　怪人と呼ばれるオブリビオン達。彼等は皆、何かしらに特化した人間だったもの。
　ゆえに、戦いにくく感じてしまうのかもしれない。
「皆それぞれの好きなことを、真っ直ぐに追いかけてるだけに見えるんだよね……」
「それは否定しねぇけど」
　ゆっくりと進む車体の後部、三寸釘・スズロク（ギミック・f03285）もまた思考を巡らせる。対象はそれらの怪人であり、同時に彼等の居た世界の行く末だ。
「でも、各々好きなコトばっかしてた結果、人類は滅亡したってことだよなー」
　この戦争で得られた情報からすると、そう言う事になる。
「まあ何事もバランスが大事ってことかねぇ」
　思索の時間に終わりを告げたのは、こちらに迫る車輪の音色だ。ウインドゼファー、彼女もまた、『スピード』という拘りに傾倒した者。
「それじゃまずは……逃げよっか！」
「……安全運転は」
「できると思う？」
　諦めたようなスズロクの溜息を聞きながら、アリンは思い切りスロットルを開けた。高速走行向けの形態へと変形した『ミーティア』は、その名の如く疾走を始める。
　レボリューション・ストーム、ウインドゼファーの花散らす暴風の範囲外へ。そうすれば、崩れる足場からもほぼ無関係で居られるだろう。
「まさか、スピードを比べるつもりですか、この私と？」
　体の各所の車輪を駆使し、花の通路を走るウインドゼファーは、逃げる獲物の様子に何かを刺激されたらしい。そのままさらなる加速をして、アリンの宇宙バイクへと迫る。
「スズロクくん！」
「あー、はいはい。期待はしてくれるなー？」
　後方、身を乗り出したスズロクが自動拳銃の引き金を続けざまに引く。走りながらで、しかも姿勢も良くない。命中に一切期待できないそれは、当然牽制のためだ。敵からも警戒優先度は低いだろうが、意識を割かれればその分走りに癖が出る、はず。
　本命はこちらだ、とばかりにスズロクは敵を注視する。『次元Ωから覗く瞳』、その観察こそが後の布石となるだろう。
「どうしました？　まさか、その程度？」
「言われてるよアリンちゃん」
「うるさいなあ――！」
　この宇宙バイクが、そしてライディングが、この世界でも引けを取らないと証明してみせる。
　さらに加速し、ウインドゼファーを振り切るべく『ミーティア』が駆ける。追撃の暴風で崩れ出す足場も、ジャンプで乗り越えてやりながら。
「やるものですね。ですが、まだまだ！」
　高速回転する車輪剣を足場に叩き込んで、自らを引っ張り上げるようにしてウインドゼファーもそれに続く。スピード自慢のこのオブリビオンを千切るのは、やはり予想通り難しい。けれど。
「――演算完了」
　通常ならばこうはいかなかっただろうが、これまでに刻まれた傷が、蓄積されたダメージが、解析の材料を豊富に与えてくれていた。
「いける！？」
「良いけど、まじで？　できんのアリンちゃん？」
　契機は訪れる。スズロクの反応を見たアリンは僅かにスピードを緩める。それは敵にも伝わったようで。
「観念しましたか？」
　即座に、ウインドゼファーはまた風を操り、暴風を自らの周りに展開した。色とりどりの花が散り、鮮やかな濃霧の様に空を彩る。

　――その数秒後の世界。発動する敵の攻撃と、崩れて散っていく足場の様子を、予測されたシミュレーション映像としてスズロクは視ていた。
　まじかよ、という何度目かの笑みを口の端を浮かべる。これまでの情報収集、計算から予測の精度はある程度保証できる。問題は、こちらがそこから導き出された回答通りに動けるかだ。
　宇宙バイクとリンク。ナビ情報みたいに、弾き出した最適経路を示す。
「アリンちゃん、４時の方向」
　これバイクだぞ、冗談だろ。そんなスズロクの内心の声に反して、アリンは即座にそれに応えて見せる。
「舌噛まないでね！」
　横倒しに近い状態でタイヤを滑らせ、急制動、急旋回、そしてそこからの急加速。
　鋭角を描いて方向展開した宇宙バイクは、急激に車体角度を元に戻しながら崩れ行く足場へと突っ込んだ。
　『革命の嵐』でバラバラに弾け飛んだ足場の一つに最大スピードで乗り上げれば、そのまま車体は思い切り跳ねる事になる。
　束の間の飛翔。重力から解放されたかのような一瞬。吹き荒ぶ花弁の嵐の中を突っ切って、車体は空中でウインドゼファーとすれ違う。
「――！」
　言葉を紡ぐには短すぎるその合間に、スズロクはネイルガンの引き金を引いた。
　射出された釘は、正面から真っ直ぐにウインドゼファーの元へ。相対速度を考えればそれが飛んでいた時間など数える事も出来まい。しかし、それが敵の胸を貫くのを、スズロクは確かに見たような気がした。
　瞬く間の交錯は終わり、致命的な一撃を受けたウインドゼファーの身体が消えてなくなる。しばしそのまま空中散歩をしていた車体は、やがて別の足場を捕まえ、一度跳ねてそこに着地。
「やったねスズロクくん！」
「ああ――」
　車体を急制動させ、歓声を上げるアリンに、ついに振り落とされて花の足場に倒れ込んだスズロクが応じた。
　暴風の名残だろうか、静かな風が、勝利を収めた二人の髪を撫でていった。

●風は止む
　立ち塞がる門番を退けて、猟兵達は花の描く道を進む。先に待つのは、この事態を引き起こした張本人と、暗躍する黒い影。
　戦いは佳境を迎える。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年05月24日