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バトルオブフラワーズ⑪〜逆風

#キマイラフューチャー #戦争 #バトルオブフラワーズ #ウインドゼファー

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●立ち塞がる風
「モンキーに続きバニーまでとは、驚きました」
 その身に風を纏い、彼女は立っている。
「あの2人を倒して来たのです。初手から全力で仕ります」
 スピード怪人『ウインドゼファー』。
 その風に込めるは、門番としての矜持か。

●第三関門
「朗報だよ。怪人軍団の幹部の、ついに最後の1人になった」
 グリモアベースに集まった猟兵達に、ルシル・フューラー(ノーザンエルフ・f03676)はキマイラフューチャーの戦況を告げた。
 エイプモンキー。
 ラビットバニー。
 猟兵達の奮戦の結果、2体の怪人軍団幹部は復活不可能に陥った。
 残る幹部は、最後の1人。
 スピード怪人『ウインドゼファー』だ。
「ゼファーの能力は『風を操る能力』。これまでの2人の幹部達がもっていたような、特殊なものはないよ」
 全身を荒れ狂う暴風で覆う業。
 花の足場をバラバラにする暴風を放つ業。
 「嗤う竜巻」を放つ2本の車輪剣を操る業。
 風を操る3つの力が、ゼファーの武器だ。他にはない。
 裏を返せば、それだけの実力者と言う事だ。
 シンプルな能力で幹部の座にいるのだから。
「確実に先手を取られる。その対策が必要になる」
 そのあとは、力と力、疾さと疾さの勝負。純粋な戦いになるだろう。
「ゼファーを倒せば、残るはオブリビオン・フォーミュラ――と、あとなんか怪人じゃないのもいるみたいだけど」
 バトルオブフラワーズも、佳境になっている。
「ゼファーが強敵なのは間違いない。だけど、ここまで2人の幹部を倒して来れた。今回も勝てない相手じゃないさ」
 キマイラフューチャーを守る為にも、負けるわけにはいかない。
 ルシルのグリモアが、風の吹き荒れるシステムフラワーズ内部へ、猟兵達を誘う道を開いた。


泰月
 泰月(たいげつ)です。
 目を通して頂き、ありがとうございます。

 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1章で完結する、バトルオブフラワーズ⑪の戦場のシナリオとなります。
 『システム・フラワーズ』の内部が戦場です。

 ゼファーは同時に一体しか存在しませんが、何度でも骸の海から蘇ります。 が、短期間に許容値を超える回数(戦力分)倒されれば、復活は不可能になります。

●先制攻撃
 ゼファーは必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
 この先制攻撃に対抗する方法をプレイングに書かず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、必ず先制攻撃で撃破され、ダメージを与えることもできません。

 シンプルな強敵戦シナリオです。

 ではでは、よろしければご参加下さい。
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第1章 ボス戦 『スピード怪人『ウインドゼファー』』

POW   :    フルスロットル・ゼファー
全身を【荒れ狂う暴風】で覆い、自身の【誰よりも速くなりたいという欲望】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD   :    レボリューション・ストーム
【花の足場をバラバラにする暴風】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    ソード・オブ・ダイアモード
対象の攻撃を軽減する【全タイヤ高速回転モード】に変身しつつ、【「嗤う竜巻」を放つ2本の車輪剣】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。

イラスト:藤本キシノ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

須藤・莉亜
「煙草吸い終わるまでは、風はやめて欲しいなぁ…。」
やっぱしダメ?ケチだなぁ。

敵さんの攻撃は【第六感】【見切り】で察知。
んでもって、自分の足元の花の足場をわざとぶっ壊して、下に落下する事で避けてみようか。

落下中に暴食蝙蝠のUCを発動し、身体を無数の蝙蝠に変化させ、足場の下から敵さんへ攻撃を狙おう。
攻撃前に周囲を霧で覆い撹乱してから、敵さんに無数の牙で全力【吸血】による【生命力吸収】。
タイヤでもなんでも噛み砕いて血を奪ってやる。


雨咲・ケイ
この世界の人類は欲望により滅んだ……、
という事なのでしょうか?
そしてあなたは欲望により強くなる、
というわけですね。

【POW】で行動します。

敵の先制攻撃には、敢えて動き回らず
五感を研ぎ澄まし、更に【第六感】を駆使して
こちらの射程まで引き付けてからの
【光明流転】で対抗しましょう。

成功した場合は、追い打ちとばかりに
【シールドバッシュ】による【2回攻撃】で
一気に攻めます。

失敗した場合は【盾受け】と【オーラ防御】を
併用してダメージを最小限に抑え、
再度【光明流転】による反撃を狙いましょう。

アドリブ・共闘歓迎です。


スノウ・パタタ
【先制攻撃への対処】ワープ前に、ナノマシンのんでいつもより硬めになっておくのよー。風でバラバラにならないよーに、です!(第六感、激痛耐性)
【香水瓶の魔法】拠点防御・全力魔法・属性攻撃、技能の応用。
足元の花が散らされちゃうなら、せーれーさんにお願いなのよ!
木や枝をにょきにょき生やして補強し足場の確保、敵の暴風でインクが飛び散るのは想定。本人に当たれば上々、周囲に撒かれ掌握する陣地が拡がるなら幸い。
風を防ぐ木の壁をあちこちに生やし、他の猟兵達の護りも視野に。
インクを足元の目安にしてね、なの!
インクを飛ばしながらびよびよと動き回り、陣地を踏んだら絡まる蔦や枝を放出、
あの人の自転で絡め取れないかなあ?


一駒・丈一
SPD重視
ダメージ覚悟で暴風をよけずに逆に利用する。

具体的には
先ずは会敵の段階で、敵より高い足場を陣取る。
これは己よりも下の位置で暴風を食らうため。

その後、敵の暴風が発動し足場が崩される瞬間を『見切り』
予め準備していたパラシュートを展開し、下からの暴風に乗り舞い上がる。
吹き飛ぶが、足場崩れによる落下は防げる。

このままでは風に流され戦場離脱になるが
コンマ数秒の僅かの時間は必ず生じる

この僅かの間で
『早業』と『咄嗟の一撃』にてUC『罪業罰下』を放つ。今時点の俺の攻撃範囲は1225m
間合いは充分。

戦場離脱まで、そして敵との距離が1225m以下の……この条件が重なる僅かの間にUCを放ち活路を拓くぞ……!


リュカ・エンキアンサス
バイクに乗って銃を準備する
運転中でもすぐに打てるように準備をしてから
少しだけ、頼むよ、アルビレオ
て、バイクを走らせる

足場がばらばらになったらそのばらばらになった地形を利用して足場から足場へと飛ぶようにバイクを走らせながら接近
騎乗もあるし、最後は第六感で何とかしよう
そして射程距離に入ったら一瞬でいい
狙いを定めて銃を構えて撃つ
出来れば致命傷を狙いたいけれども、無理なら腕を狙う
…その剣は、あなたが持っていても仕方がないものだよ
届け、願いの先へ
この世界に生きているものとして
あなたの願いを俺は否定する
あなたも俺たちの願いを否定すればいい
最後に立っていたほうが、きっと正しい

そのまま可能な限り攻撃を続行する


香神乃・饗
情けなく呆気なくすっとばされやられたフェイントをかけるっす
香神写しで複製した苦無を剛糸で手に縛り念で引っ張り飛ばされる方向を調整し致命傷を避け
出来るだけ上空に舞い上がり出来れば範囲外で花の嵐が弱まるまで念で浮かべた苦無を足場に待つっす
嵐が弱まったら重力という地形を利用して落下、花弁にも隠れられるなら利用していくっす!
敵までの進路に浮かべた苦無を足場に蹴りながら方向調整と一層加速を行い光速で攻め敵の頭上から苦無で斬り暗殺をするっす!
強さ、速さ、これで倍返しっす!
同時に剛糸で手足首の束縛をしてどちらかで仕留めるっす!

後の事は考えないっす
倒すことだけ考えぶっこんでいく
覚悟を決めどーんと突っ込むっす!


真守・有栖
ふん。最初っから本気の全開じゃないの。
いいわ、この刃狼が相手になってあげる!
今日の私は全力の全開でわおーん!よっ
なんせ、今宵は――

吹き荒れる暴風。
花の足場は崩れ散って。

落ちていく。
舞い散る花びら。
天を仰ぐ。崩れた天井。
夜空に浮かぶは

――満月

墜ちていく。
月が満ちる。
月を喰らう。
本性が暴かれる。

欲望に対するは本能。

空を駆ける。
散る花びらを足場に跳び。
高く、高く。あの月に届くまで、と。

暴風の範囲を抜ければ――抜刀。

此処は全てが己が間合い、と。


刃に込めるは“断”の極意。


鞘走るは光刃。
何もかもを喰らい尽くす、と。
裂帛の気合いと共に月天に吼え。


――光刃、烈閃


迸る烈光にて。
一切合切、暴風ごと断裂する……!



●嗤う風
 システム・フラワーズ――花の足場。
 文字通り、色彩々の花で作られた足場が幾つも浮かぶ空間に、紫煙が流れゆく。
「煙草吸い終わるまでは、風はやめて欲しいなぁ……ダメ?」
『……』
 初手から全力で仕る。
 転移してきた猟兵達に告げたゼファーに対し、須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)が煙草片手に返した言葉がそれだった。
『時間稼ぎを主とする私に対して、煙草を吸う時間を要求……成程。時間稼ぎに乗る振りをして、私の動揺を誘う作戦ですか』
「はい? いや、ちょっと待て?」
 なんか盛大な勘違いをしたらしいゼファーは、莉亜が思わず発したツッコミの言葉を聞かずに二振りの車輪剣を振り上げる。
 車輪が回れば刃が回る。
 刃が回れば風を切り裂く。
『そんな手には、乗るものですか! 回れ! ソード・オブ・ダイアモード!』
 車輪剣のみならず、ゼファーの肩、踵、あらゆる車輪が回り出す。
 全タイヤ高速回転モード。寿命を削る業をのっけから使うそれこそ、本気の証。
『私達は全てを手に入れる。誰にも、邪魔は、させないッ!』

 ――ヒャヒャヒャヒャヒャ!

 ゼファーが両手の剣を振り上げると、嗤い声のような音が鳴り響いた。回転する車輪剣に切り裂かれ、渦を巻いた風の音が。
 嗤うような音を立てる風の姿は、さながら2匹の竜。
「結局吸わせてくれないのか……ケチ」
 嗤う竜巻が放たれると同時に、莉亜は対物ライフル『Lady』の白い銃口を自分の足元へと向けて、引鉄を引いた。
 ズドンッと重たい音が響いて、花が散らばる。莉亜の立っていた場所には、人ひとり分くらいの穴が空いていた。
 自ら足場を壊し重力に引かれて落下した莉亜の頭上で、花が舞う。通り過ぎて行った嗤う竜巻が、花の足場を飲み込んでいく。
『逃しましたか……ですが、私が狙っていたのが1人だと』
 標的を逃したかに見えた嗤う竜巻だが、その後ろの花の足場を飲み込んでも勢いが衰えることはなく、その先にで何かを掲げる黒い小さな姿へと迫っていく。

「せせ、せーれーさん、お願いなのよ!」
 ゼファーが嗤う竜巻で狙っていたもう1人は、ストームグラスペンを掲げていたスノウ・パタタ(Marin Snow・f07096)だった。
「風でバラバラにならないよーにナノマシン飲んできたから、だいじょーぶ!」
 竜巻の勢いに、ナノマシンで硬くした筈のスノウの体がプルプルと揺さぶられる。
「ふわわわわわわっ!?」
 千切れてしまいそうな不安定な中、それでもスノウは雪色ポンチョが飛ばないように片手で抑えながら、氷のようなペン先で香水瓶の魔法を綴っていた。
 やがて掴まる足場すら吹き飛ばされて、スノウの体もそのまま飛ばされる。
 こんな状況ではインクの飛沫も風に散らされ、ゼファーに届く筈もないけれど――スノウはそれでもある思惑を胸に秘め、ペンを振り、インクを飛ばし続けていた。

 やがて、風の渦が解けるように消えていく。
『散開しましたか』
 嗤う竜巻を逃れつつ包囲するように散らばった猟兵達を見回すゼファーには、まだ余裕が見て取れた。
『それで私の風から逃れたつもりですか!』
 ガキンッとゼファーが2本の車輪剣を打ち合わせる。
 それぞれの車輪を回転させたまま、ゼファーは2本同時に車輪剣を振り下ろした。生じる筈の2つの風の渦が生じる間もなくぶつかり合い、渦が壊れる。
 渦を巻く筈だった風の暴威は、そこから外へと向けられた。
 無差別に無軌道に、暴れる風が花弁を巻き上げ、花の足場を崩していく。
 猟兵達の立つ場所が、バラバラに壊されていく。

「少しだけ、頼むよ、アルビレオ」
 吹き荒れる嵐の中を、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)は『アルビレオ』の古びたハンドルのグリップを両手で握ってその機体を駆っていた。
「少し荒い運転になるけど、うん」
 風に持っていかれそうになるハンドルを、リュカの手が必死に抑える。
 嵐でバラバラになっても、花の足場が全て消え去るわけではない。無数の花びらと散らされる事もあれば、崩れた欠片が小さな足場となって残るものもあった。
 リュカはその残った小さな足場にアルビレオの車輪を載せては、短い距離を走ってすぐに次の足場へと跳んでいく。
 まるで空を駆けるようにバイクを走らせる。
『中々巧みな走りですが――それも、いつまで持ちますか?』
 背中の銃はいつでも撃てる様になっている。だが、現状ではリュカがそれに手を伸ばす暇すらないのは確かな事実だ。
「それでも、俺はこいつで走る。この世界に生きているものとして、あなたの願いを俺は否定するから」
 荒ぶる風の中から告げてくるゼファーに、リュカはアルビレオのハンドルから手を放さぬまま、ちらりと横目で視線だけ向けて返していた。
「だから、あなたも俺たちの願いを否定すればいい。そうして最後に立っていた方が、きっと正しい」
『ならばそうさせて貰いましょう!』
 再びゼファーの車輪剣から放たれた暴風が、リュカが進む先で吹き荒れる。
 その風は、他の猟兵が飛び移る足場も奪っていた。

 激しい風に、赤い半纏がバサバサとはためく。
「足場崩して来るとか、ずるいっすよ!」
 まさに飛び移りかけていた足場をバラバラにされた香神乃・饗(東風・f00169)が、どこか情けない声をわざと上げて吹っ飛ばされていた。
 実際の所は、饗の足はギリギリ崩れる直前の花の足場に届いていて、そこを蹴って自ら風に乗る形で吹っ飛んでいたのだが。
(「っ――ふりでもこれっすか」)
 それでも足場を崩すほどの暴風は凄まじく、風の余波だけで、饗の耳の奥で木霊がキィィィンと鳴り出していた。
 あえて吹っ飛ばされた体は風に流され、上下左右が目まぐるしく入れ替わる。
「一つが二つ、二つが四つ、香神に写して数数の――」
 視界が定まらず、自分の声がまだ遠い中でも、饗は香神写しの詞を唱えていた。例え満足に聞こえなくても、間違うことなどない言葉。
 唱えた詞のもたらした現象は、それぞれ37本に分裂した二振りの苦無。饗はその片方を剛糸で束ねて己の手首に巻きつけ、念力を推進力に変える。
 もう片方の37本は先々に飛ばし、足場の代わりに。
(「ここまで来れば、嵐の射程範囲外にちたいっすね」)
 苦無の上に立って胸中で呟く饗の先で、また新たな嵐が吹き荒れる。

「ふん。最初っから本気の全開じゃない」
 大きな塊がどんどん崩され、バラバラになっていく花の足場を、真守・有栖(月喰の巫女・f15177)は軽快な足運びで跳んで逃げ回っていた。
「いいわ、この刃狼が相手になってあげる!」
 そんな状況でも、有栖は自信に満ちた笑みを浮かべていた。
 有栖の自信は根拠がない事が多い。
 だが――この時は、何かが違った。
「今日の私は全力の全開でわおーん!よっ。なんせ、今宵は――」
『ならばその全力を出す前に、吹き飛ばすまでです!』
 有栖が言い終わる前に、嵐の如き暴風がまたも吹き荒れる。
 花の足場をバラバラに崩した嵐は、それで収まるわけもなく、そこに立っていた有栖の体も容赦なく巻き上げていた。

「ちっ!」
 崩れる花の足場から、一駒・丈一(金眼の・f01005)が舌打ちしながら飛び出す。
「俺の事なんざ、とっくに気づいてやがったか」
 丈一は最初から、ゼファーよりも高い花の足場に陣取っていた。
 どうだろう。丈一が乗っていた花の足場がバラバラに崩されたのは、或いは偶然かもしれない。ゼファーは明らかに、この空間を壊そうとしていた。
「案外人が悪いな」
 飛び移る先のない空中で呟いて、丈一は背中に手を回した。背負っていたリュックサックのようなもの。その底にある玉を掴むと、ぐっと引っ張る。
 バサッと音を立てて、丈一の背にパラシュートが開いた。
『落ちる対策を取っていましたか。ですが、そんなもので私の風で!』
 それを見たゼファーがまたも嵐の如き暴風を放つ。
 丈一を空中で支えていたパラシュートはその風圧に耐え切れず、びりっと無情な音を立てて引き裂かれてしまった。
「本当に――人が悪いな」
『私とて、譲れぬものがあるのです』
 落ち行く丈一の呟きに、ゼファーの背中が呟き返した。

「っ……凄まじい風ですね」
 開戦から何十秒と経っていないのに随分と様変わりした空間を見回し、雨咲・ケイ(人間のクレリック・f00882)が呻く。
 それでも、足場が減り続ける中でも、ケイは敢えて動かずにいた。
「この世界の人類は欲望により滅んだ……という事なのでしょうか?」
『昔の話です』
 ケイの問いを肯定するでも否定するでもなく、降り立ったゼファーが短く返す。
「そしてあなたは欲望により強くなる、というわけですね」
『そう言うものでしょう、生き物と言うのは。何かしらの欲望を求める為に、力を求めるものでしょう!』
 告げるゼファーの周囲に、ケイは渦巻く氣を見た。
 氣の流れは気の流れ。即ち集まる風の流れ。
『そして私は――速さへの欲望ならば、私は誰にも負けないつもりですッ!』
 ゼファーが暴風を纏い終わると同時に、ケイの頭の中で警鐘が鳴る。
 次の瞬間、ケイが咄嗟に翳した小型の盾のすぐ前に、文字通り飛んで来たゼファーの風を纏った機械の足があった。
 飛翔からの蹴り。衝突音は鳴らなかった。
 車輪が回る踵よりも早く、風が盾ごとケイの体を浮かせていたから。
 盾に触れずに浮かせる、纏った風のその厚み。それはそのまま、ケイの返しの一撃の間合いが遠くなった事を意味している。
「っ! これでは、届かない――ですが次こそ必ず」
 ゼファーの蹴りが飛ばす風に見える氣の流れを目に焼きつけながら、ケイの体は花の足場の外まで蹴り飛ばされていた。

 風に散らされた花が舞う。
 幾つもあった花の足場は、その大半が暴風で無残にバラバラにされ、足場ですらなくなった花はただただ散るのみ。
 荒れ狂う風が壊した世界の中心で、佇むは白衣の機人。
『翼なき身で足場を奪われそれでも戦えますか?』
 それでもまだ挑むかと、猟兵達に問う声に。

「飛べるのが自分だけだと思ってるなら、大間違いだ」
 のんびりと答える声があった。
 風に翻弄されたかに見えた猟兵達。
 だが、まだ誰一人、その瞳に諦めの色は浮かんでいなかった。

●霧の中に羽ばたく翼
 さぁっと、どこからともなく生じた霧がゼファーの周りを漂っていた。
『この霧は……どこから』
 周囲の急変に身構えるゼファーの周囲、霧の中で何かが羽ばたく音がしている。
『ですが、この程度の霧、私の風で!』
 ゼファーが纏う風を豪と轟かせれば、その周囲から霧が晴れていく。
 そして露わになったのは――無数の蝙蝠となった莉亜の姿だった。
 暴食蝙蝠。
 無数の蝙蝠へと姿を変える、莉亜の能力。
 自ら花の足場を撃ち抜いて落下した後、莉亜は落下しながら能力を発動し、その全身を蝙蝠と変えていた。そのまま暴風の外で、機を伺ってきたのだ。
『っ!?』
「あ、驚いてる?」
『その声は、煙草の――落ちたのではなかったのですか!』
「飛んでたよ、ずっと」
 さすがに驚き狼狽た声を上げるゼファーに、莉亜は無数の蝙蝠のまま四方八方から飛びかかっていく。
『ですが、その小さな蝙蝠の体で私の風を超えられると――』
「――鉄の体だろうが、タイヤだろうが、噛み砕いてやる」
 言いかけたゼファーの目の前で、蝙蝠が風を悠々と飛び越えた。
 暴食蝙蝠は、ただ蝙蝠に姿を変える業ではない。蝙蝠になった事で、莉亜の戦闘能力は吸血能力に比例し飛躍的に高まっていた。
 無数の莉亜が風を掻い潜り、ゼファーに群がり小さな牙を突き立てる。
『ち、力が……!』
「血も肉も全部、僕のモノ」
 莉亜が突き立てた無数の牙は、まさに暴食の牙。その心の奥底に隠した吸血衝動を示すかの様に、ゼファーの血と生命力を容赦なく吸い上げていく。
『この……離れ、なさい!』
 ドルンッとゼファーの肩の筒が煙を上げて、タイヤが回転の勢いを高める。
「うおっと」
 轟々と勢いを増した風が、蝙蝠の姿の莉亜を引き剥がした。

 その姿を、遥か下方から見上げる金の瞳があった。

●罪と罰の距離
(「ここだな」)
 目を細めた丈一の手が、介錯刀の柄を握る。
 スラリと引き抜いた刃に滑らせた指先で、霊薬『雷光』を塗布し再び鞘に納める。
「この一刀を持って活路を拓く」
 呟く丈一は、落ち続けていた。
 このままでは、この空間の外に出てしまうのは時間の問題だ。
 翼もなくパラシュートも失った身では、それはどうしようもない――因果だ。
「余罪は地獄にて禊がれよ」
 だからこそ。ゼファーと丈一の距離はどんどん遠くなっているけれど。刀の間合いは遥か遠くなっているけれど。間合いは充分となるのだ。

 罪業罰下――因果逆転による、距離の概念を越える一太刀。

 鞘走った介錯刀の剣閃は、常識であり得ぬ距離を迸り、吹き荒れる風もゼファーが纏う風をも斬り裂いて、ゼファー本人をも斬り裂いて尚その後ろの風まで斬り裂いた。
『……これ、は……私の風よりも遠い斬撃……ですか』
 己の遥か後方にまで突き抜けた斬撃の衝撃に、ゼファーの声に驚愕の色が混ざる。
(「遠いなぁ……」)
 丈一の耳に、その苦悶の呻きは届いていなかったけれど。斬撃が届いた手応えは確かに感じていた。
 常識であり得ぬ間合いを斬れても、まだ届かないものがある。
 感じてしまった仇の遠さに自嘲気味な笑みを浮かべて、丈一の体が真っ直ぐに落ちていき――トサリと、緑の網に受け止められた。

●壊れた世界を繋ぐ色
 ひょこり。
 スノウが小さな花の足場から、顔を出す。
「せーれーさーーーーん! お願いなのよー!」
 そしてスノウが大きく声を張り上げると、壊れた世界に残った幾つもの小さな花の足場から、縦横無尽に緑が迸った。

 壊れた世界を繋ぐように、閉ざすように。
 伸びて、絡みあう緑の正体は、花の足場から伸びた太い蔦だ。
 風に散らされても、スノウが飛ばし続けていたインクは、精霊魔法を綴じたもの。精霊への純度の高い干渉媒体だ。
 それを撒いた地点は、スノウが干渉できるスノウの拠点と言える。
 故にスノウは、竜巻に飲まれながら体が千切れそうな状況でも、ストームグラスペンを振ってインクを周囲へと飛ばしていた。風に撒き散らされるのも判った上でだ。
 何とか耐え切った後も、花の足場がバラバラに鳴る中、スノウは時に風に流されながらびよびよとインクを撒いて回っていた。
 インクを撒いた花の足場がバラバラに崩されれば、それはスノウの干渉領域が増えることと同じであった。
『まさか壊した足場を繋がれるとは思いませんでした』
 その声に感嘆の色を露わにして、ゼファーが空を蹴って飛びだす。
『ですが――術者が倒れても残るのでしょうか?』
 一度、嗤う竜巻を受けたスノウに次の攻撃を耐える余力はない。

 けれども、その行く手を阻む者がいる。

●風を破る光
「させません。今度こそ、止めてみせます」
 進み出たケイが、小さな盾――アリエルを構える。
『また蹴り飛ばしてあげましょう!』
 一度は蹴り飛ばした相手――そう見たか、ゼファーはケイの姿を見ても、むしろ速度を上げて一気に突っ込んで来た。
「スノウさん!」
「せーれーさん、にょきにょきお願いなのよー!」
 真っ直ぐ迫るゼファーを迎え撃たんとするケイの背後に、スノウのお願いに応えて新たな蔦が縦に生えた。
 絡み合ったそれは緑の壁となる。
『なっ!?』
「これで、見えた一手を叩き込めます」
 先の蹴り飛ばされた時も、ケイにはゼファーが風を操る氣の流れは見えていた。
 それでもその風の強さと厚みで、己の間合いに引き寄せる事が出来なかった。ならば、風に飛ばされないようにすれば、その問題は消える事になる。
 例えば――背後に壁を持つこと。
「ぐっ――ぅぅぅぅっ!」
 一度は吹っ飛ばされた、ゼファーが纏う暴風。
 その勢いに緑の壁に押しつけられながら、ケイが構えたアリエルが、その闘氣の昂ぶりを受けて強い輝きを放つ。

 光明流転。

 後の先を取った返しの業。
 一撃目で機械の足を叩き落とし、翻った一撃が風と氣流を押し退ける。
 身体を打つ風の衝撃をも乗せて、ケイが叩き込んだ光り輝く盾の打撃が、ズドンッとゼファーの体を叩いて蔦の足場の遥か外へと吹っ飛ばした。

 次の瞬間。
 ――おぉぉぉぉぉんっ!!!!
 力強い遠吠えがゼファーの遥か下方から響いて来た。

●穿つ星、切り裂く月
 足をつける地を失い。
 吹き荒れる風に花ともに打ち上げられれば、後は落ちるだけ。
 中空から天を仰いだ有栖の紫瞳に映ったのは――月だった。丸い丸い、満月だった。
 システムフラワーズの中にあって、それは本当に月だったのだろうか。
 その真偽など、どうでも良い事だ。
 有栖にとっては満月だった――それだけで、充分だった。
 成す術なく落ちて行く中、月が満ちたと認識した光が呼び覚ます。
 有栖の中の、月を喰らう本性を。
 自然と、有栖の喉が震えていた。あまり上手くないはずの遠吠えが、朗々と花舞う空間に響き渡った。
 緑の蔦を蹴って跳び上がり、さらに何もない空を蹴って有栖が飛び上がる。
 否、空を駆ける。
 舞い散る花びらを置き去りに、高く高く。月まで届けと空駆ける。
「見えた!」
 月より先に見えたのは、ゼファー。
「何もかも、月まで伸びて喰らい尽くせ……!」
 有栖の手が『月喰』の柄に伸びる。それに気づいたゼファーも、車輪剣を振り上げた。一度間合いの外からの斬撃を喰らった後だからこその警戒。
 その頭上に、蒼白い光が生まれた。

 ゼファーがスノウを狙って、ケイに迎撃される間、リュカは緑の蔦の道にタイヤを載せてアルビレオを走らせていた。
「これだけ距離を取れば充分か」
 アルビレオを停めたリュカは、ハンドルから放した片手で、背中にかけた愛用のライフル『灯り木』のベルトを掴む。ぐるりと回して銃杷を握り、照準鏡を覗きこむ。
 照準鏡に捉えたゼファーは、まだ諦めていないようで車輪剣を振り上げていた。
「……その剣は、あなたが持っていても仕方がないものだよ」
 聞こえないであろう呟きが、リュカの口をついて出る。

 届け、願いの先へ――星よ、力を、祈りを砕け。

 ふっと小さく息を吐いて、リュカが灯り木の引鉄を引いた瞬間、銃口から強く眩い蒼白い光が溢れ出す。
「気づいたね。でも、遅いよ」
 光に気づいたのだろう。照準の中ではっとこちらを振り仰いだゼファーの姿に、リュカが告げる。
 リュカが灯り木に込めて撃ったのは、あらゆる装甲や幻想を打ち破る星の弾丸
 鳴らした筈の銃声をも置き去りにして、さながら流星の如き速度で降っていく星の弾丸――バレット・オブ・シリウス。
 それは光り輝くものにして、焼き焦がす程の光の星。
 ある世界のある地域では、その星はこんな名前で呼ばれる。
 天狼星、と。
 その輝きに引き寄せられるようにして、有栖の足が空を駆ける最後の一歩を刻むと同時に、腰の刀を鞘走らせる。
 溢れ迸る烈光。
 月喰らう狼の振るう光刃が描いた軌跡は、三日月。喰われた月だ。
「一切合切、暴風ごと断裂する……!」
 断の極意を込めた光刃の一太刀、月閃の斬撃也。

 そして、星と月の輝きが交錯したそこに、飛び込む影があった。

●せめて苦しく無いよう
「この足場、利用させて貰うっすよ!」
 増殖させて念力で操る苦無に乗って空中を漂っていた饗は、緑の足場に降り立つなり、その最も高い頂へと駆け出した。
 ゼファーが散々に花の足場をバラバラにしたお陰で、そこから伸びた蔦は本来花の足場があった所よりもいくらか高くまで伸びている。
 高くまで伸びる蔦を駆け上がった饗は、そこから迷わず飛び出した。
 空中に身を躍らせると同時に、饗は両手に持っていた増殖させたままの苦無の大半を空中へ放り投げる。
 手元に残したのは2つの苦無だけ。
 それを握った饗がぐるりと体の向きを変え、重力に引かれて落ちていく。
 落ちる先、眼下に2つの光が閃く。
 それを見やる饗の靴底で、ガキンッと音がした。
 増殖させた苦無の靴底に仕込み、残る全ての苦無で靴底のそれを叩き続ける。
 軌道の調整と、落下の速度に更なる加速を加えるための手段。
 目指す速さは音の先。光の速度。
「強さ、速さ、これで倍返しっす!」
 饗が落ちる速度が、グングンと上がっていく。後のことなど考えていない。
 ただ敵を倒す事のみ考え、加速する饗の視線の先で。

 リュカの星の弾丸が纏う暴風を破り、白衣を着た胴体の中心を撃ち抜いて。
 有栖の月閃の刃が右肩の車輪を斬り裂いた。
 腕と一体化した車輪剣がゼファーの体から離れて落ちていく。
「翼はなくても、飛ぶ方法はあるっすよ」
 そこに一切の迷いなく飛び込んだ饗が、両手に持った苦無を頭上から首元へ深々と突き立てていた。

●風は吹いているか
『は……はは……これは、参りましたね』
 プスンとゼファーの肩の気筒から、空気が抜ける音がする。
『この場は私の負けのようですね……ここまで強いとは』
 その左手から、残る車輪剣が滑り落ちて――何処かへと消えていく。
『この私が何回目か、私も判りません。ですが――』
 ですが。
 その先を言い終わる前に、ゼファーの姿は風に溶けるように消えていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年05月21日


挿絵イラスト