バトルオブフラワーズ⑪〜風編みの番人
――ごう、と。
風がなる。風がうなる。
舞い散る花弁の彩が、門前へ辿りついた猟兵たちを出迎える。
ついぞ辿り着いた中枢への道。この世界を襲った異変の源。
元凶在りし其処へと続く門を、護るようにして。
その者は、立っていた。
「モンキーに続きバニーまでとは、驚きました」
とつと語る、その声は高く。
物々しい姿をしたその人影が、女人であると気づいた者も居るだろう。
顏を覆う赤のフルフェイスから、その表情は窺い知れず。
ギィギィと。両の手に持つ歯車の様な剣が、歪な嗤い声を上げていた。
「でも、私の役目は門番。ドン・フリーダムがシステム・フラワーズを取り戻すまでの時間稼ぎならば、私の『風を操るユーベルコード』でも、決してあの2人にひけは取りません」
――かつて。ドン・フリーダムが開放した『無限大の欲望(リビドー)』は、人類を怪人化させ、滅亡へと導いた。
「だけど今なら、オブリビオンとして蘇った私達なら、無限大の欲望も喰らい尽くせるはず」
風がなる。風がうなる。
荒れ狂う暴風の最中。その女は、毅然と立ちはだかっている。
「私達は全てを手に入れる。――誰にも、邪魔は、させないッ!」
●風編みの番人
「今回の相手は『ウィンドゼファー』。スピード怪人、との通り名がある。その名の通りとても素早い怪人のようだね」
もう事態を把握している者も多いだろう、と。
前置きを略して、ハロルド・マクファーデン(捲る者・f15287)は戦場へ向かう準備を整える猟兵達に声を掛けていた。送り出すだけの己が出来るのは、せめて伝える事のみなのだから。
「風のように速く。加えて、その風すらも操ってしまうのが特徴だ。戦場の足場となる花を散らしもするし、その暴風を自身で纏いながら肉薄してくる事もあるだろう」
風を操る『ウィンドゼファー』の特性。そして、目視で確認できる彼女の主要武器。
両手に装備された二つの車輪剣。チェーンソーの様に鋭い刃を装備した車輪が先端に付属し、歪な音を立てながら回転し続けている代物だ。
「……あれをまともに喰らってしまうのは、拙そうだね」
苦々しげに眉を顰めながら、ハロルドが呟く。彼女の持ち得る殺傷能力は、想像するに難くない。
「彼女が、最初にどの攻め手で来るかは分からない――しかし“先手を取られる”事だけは確実だろう。あちらに辿りつくまでに、何らかの対処を考えておいてくれ」
『ウィンドゼファー』に、先の二人の様な特殊な能力は無い。
しかし、彼等の立場は対等に窺えた。――つまり、ただひたすらに『強い』のだ。
「危険だと思ったら引き返してくれて構わない。無茶だけは駄目だ――けれど」
転送の為のグリモアを展開しながら、言葉を紡ぐ。
託す事しか出来ぬ、己の拙い言葉が。少しでも、鼓舞となるならば。
「既に中枢は目の前だ、ここが正念場でもある。……皆の武運を、祈っているよ」
瀬ノ尾
こんにちは、瀬ノ尾(せのお)と申します。
お目通し有難うございます。
初めての戦争シナリオ参加、どきどきです。
今回はスピード怪人『ウィンドゼファー』との戦いです。
彼女に前の二人の様な特殊な能力はありません、力のぶつかり合いとなるのでしょう。
以下、今回の戦闘の絶対条件です。
敵は必ず先制攻撃します。
敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
この先制攻撃に対抗する方法をプレイングに書かず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、必ず先制攻撃で撃破され、ダメージを与えることもできません。
また、運営シナリオ数に制限はありません。
戦場の戦力「40」をゼロにできれば制圧成功ですが、それ以上の成功数があった場合、上回った成功数の半分だけ、「⑬『ドン・フリーダム』」の戦力を減らせます。
どうぞ宜しくお願い致します。
第1章 ボス戦
『スピード怪人『ウインドゼファー』』
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POW : フルスロットル・ゼファー
全身を【荒れ狂う暴風】で覆い、自身の【誰よりも速くなりたいという欲望】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD : レボリューション・ストーム
【花の足場をバラバラにする暴風】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : ソード・オブ・ダイアモード
対象の攻撃を軽減する【全タイヤ高速回転モード】に変身しつつ、【「嗤う竜巻」を放つ2本の車輪剣】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
イラスト:藤本キシノ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
京奈院・伏籠
清々しいほどの逆風だねぇ。ま、風の流れは変わるのが常。追い風になったタイミングに乗ってやろう。
対策:SPD
なにはともあれ放たれた暴風を回避。
破壊されるなら足場に拘っても仕方ない。思い切って足場から飛び出すようにジャンプだ。
少なくとも敵が立っている足場は残っているはず。義手のワイヤーを敵の足元(足場の『裏』や敵の脚そのものも狙えれば尚良し)に撃ち込んで強襲を仕掛けるよ。
その豪風、貰い受ける!
暴風の音に勿忘雪のアンプルを反応させて『水鏡』を使用。
生まれた動物型の幻影(何が出るかな?)と拳銃とで攻撃しよう。
銃で狙うのは武器についたミラー。遮音性の高い幻影の死角からの攻撃が本命だ。
さて、風は凪ぐかな?
――相対。
吹き荒れる風、佇む女。
システム中枢への道を塞ぐ番人を前にして、京奈院・伏籠(K9.2960・f03707)は鳥羽の布をはためかせながら立っていた。
舞い散る花弁の中。目前の敵の動向を窺いながら、伏籠は右の手に持った拳銃を握りしめる。
ごうごうと音を立てて唸る風は、ウィンドゼファーが内に秘める熱と比例するようにその強さを増していた。
「清々しいほどの逆風だねぇ」
この暴風で飛ばされてしまわぬ様、左の義手で丁番を押さえながら伏籠はひとりごちる。
まるで梟の羽のような模様を描いた髪の房が、迫り来る強風にあおられて揺れていた。
猛威を奮う風は、純粋な力の塊だ。ただその身を晒すだけでは、如何に猟兵と言えど無事では済まないだろう。
――しかし。風の流れは変わるのが常である。
今は逆風であろうとも、追い風となるタイミングは必ず来る。
狙うべきはその一瞬だと、伏籠は静かに機を窺っていた。
獲物を定め、狩りをする野鳥が如く。伏籠の鋭い瞳は、硝子越しに虎視眈々とその時を待っている。
「……バニーとモンキーを制しただけはありますね。私の風を前にして、無闇に飛び出してくる事はありませんか」
そうであれば話も早かったのに、と。ウィンドゼファーは両の手の剣を構えながら口にする。
「君たちは怪人の中でも強者だろう? さすがに無策で挑みはしないさ」
「策ですか……あの2人のような特殊な能力であれば、搦め手には弱さを晒したでしょう」
ウィンドゼファーは、まるでバイクのハンドルを思わせるグリップを握り込む。ブゥゥゥン、と唸りを上げる車輪剣。その剣先が回転し、渦巻く暴風を発生させる。
風は我が手に有り。嵐が如き脅威を、野望阻みし者共へと送り付ける為に。
「ですが、私の風を前にして小手先の策など無用! 全て吹き飛ばして差し上げますッ!」
風纏し剣を、振り被る。一閃、放たれる剛風。ただただ暴力的な、力。
唸る、風が。この空間に満ちた花の足場を、全て吹き散らす勢いで。花々を抉る鋭い暴風が、相対する伏籠へと襲い来る――!
「ああ、さすがの威力だ。普通であればなす術なくその風に嬲られてしまっただろう……何も知らなければ、ね」
硝子の向こう、薄く細められた梟の瞳。崩れゆく花の足場、向かい来る暴風を前にして伏籠は――高く、翔んだ。
「――――!」
風をいなす。舞い散る花弁の鋭さに傷付く身体、しかし躊躇わず構えた左手。義手に内蔵されたワイヤーが、ウィンドゼファーを目掛けて射出される。
全てを抉るように崩された花の足場。しかしその猛威から確実に逃れる場所が、此処には一つ存在する。それ即ち――立ち塞がる門番の、足元だ。
放たれたワイヤーが、ウィンドゼファーの足首を捉えると同時。宙に浮いた体勢のまま、伏籠はコートからアンプルを取り出す。勿忘草を冠する錬金薬、この轟音を逆手に取る一手。
「その豪風、貰い受ける!」
――暴威翻して幻となす。来たるは、因果の鏡影。
暴風が起こす音に反応する錬金薬、幻影顕す水鏡。音を吸収しながら形作られるそれは、動物を――荒々しくもしなやかな、一匹の虎を象っていく。
「私を掴むとは、小癪なッ!」
足首をワイヤーに絡まれ、一時は体勢を崩しかけたウィンドゼファー。しかし、彼女も為すままにされる訳ではない。絡みつくワイヤーを切断しようと、回転する車輪剣を振り翳す。
如何に頑丈なワイヤーと言えども。高速回転を伴う刃を持ってすれば、断ち切るのはいとも容易く……。
――発砲。
「なッ!」
放たれた魔術弾、砕け散る手元のミラー。飛び散った破片が彼女のフェイスを傷付ける。
咄嗟に視線を滑らせれば、不安定な体勢ながらに拳銃を構えた敵の姿。命綱のワイヤーを切られんとしていた筈の伏籠は、しかし何やら不敵な笑みを浮かべている。
「お膳立てには十分だね――さて、風は凪ぐかな?」
パッと、自らワイヤーを取り外す伏籠。瞠目するウィンドゼファーは、落ち行くその姿に気を取られて気付いてはいない――音もなく背後に忍び寄る、獣の姿に。
牙剥く水鏡の幻影が、その喉元に喰らいつかんと顎門を開く。気付いた時には、もう遅い。
再び構築され始めた花の足場に、伏籠が落ち行く間際。
彼が目にしたのは、獣の牙に晒された風の女の姿だった。
成功
🔵🔵🔴
矢来・夕立
●*SPD
…パンドラボックスの類でしょうか。一回滅亡したのに懲りませんね。
今回は別の方法で滅びますよ。猟兵に滅ぼされる。
にしても、速いですね。…非常に腹立たしいですが、オレより速いですね。
この動きなら暴風が来るはずです。
風の隙間を《見切》って、受け流しつつ避けつつ。被害を最小限に留める。
こんなやり方では多かれ少なかれ傷を貰うでしょうけど…
…身体が動けばいい。一手でも決められるなら、それで構いません。
嵐に紛れて《だまし討ち》【神業・絶刀】。
気配を殺す。息をしない。目の前の相手を殺すことだけ考える。オレがダメでも後がいます。
先を取るだけで勝てるのなら「後の先」なんて言葉はこの世にありませんからね。
「……パンドラボックスの類でしょうか。一回滅亡したのに懲りませんね」
元はこの世界に生きていた人類なのだと、自らの由来と野望を口にする彼女を前にして。矢来・夕立(影・f14904)は、その無感情な瞳を疾き女に向けていた。
キマイラフューチャーにおける人類の歴史。行き着いたその姿に、しかし覚える感慨などこの身には無く。過去の残滓である彼女たちがどう在ろうとも、夕立が為すべきはただ一つ。
「今回は別の方法で滅びますよ。猟兵に滅ぼされる」
手にした漆の刀。刃紋に朱が滲む其れは、ただ敵を屠る為に揮われる。
「滅ぼされなど、するものですか」
応える女は、外敵を前にしてなお毅然に前を見据えている。そのフルフェイスで目元こそ見えないものの、彼女の熱く真っ直ぐな気質は視線にも表れているようで。ぴりぴりとした殺気を伴ったそれが、夕立の肌を突き刺していた。
「私達は今度こそ、全てを手に入れる。お前達に、邪魔はさせないッ!」
振り翳す、剣。舞い散る花弁、渦巻く暴風。
恐るべき速さをもって繰り出される嵐が、この場の全てを切り裂かんと襲い来る。
けれども、嗚呼――其れは、知っている。
先行した同僚。邂逅は一瞬なれども、その情報は共有されている。予知者から伝えられた情報も合わせれば、相手の予備動作から打つ手を絞る事もわけはない。
空間に満ちる花、それを全て抉らんとする風の刃。舞い散る花弁の中、夕立はその風の隙間を――『見切る』。荒れ狂う風。触れる物を裂く鎌鼬の、その鋭い刃先を躱していく。
無論、相手は暴風だ。直線的な刃の太刀筋とは勝手が違う。風の流れを読み、一段と研ぎ澄まされた箇所をいなしこそすれ。受け流しきれぬダメージは、着実に蓄積されていく。
頰切る風、薄く血の滲む手袋。暴風により鋭さを増した花弁が刃となり、黒誂えの布を裂いていく。舞い散る花が目元を掠った拍子に、ピシリと硝子が罅割れていた。
――だが。夕立のあかは、依然と前を見据えている。
「――――、」
嵐に身を晒す。抵抗は少なく、体が風に嬲られる。――否。敢えて風の最中に融ける様に。
息が出来ない程の風が顔を打つ――否。息は、はじめからしていない。
腕を、足を裂かれる。斬られた足では、長くこの場を凌げない。――否。一度を、一太刀を揮えさえすれば良い。
気配を殺す。息を殺す。目の前の相手を殺すことだけを考える。
接敵は一瞬。寸刻で間を詰め、肉薄する。ひたむきな一刀は――確実に。女の、背を捉えている。
――終いだ。
女が。冷えた視線を知覚したのと、背を穿つ痛みを自覚したのは同時だった。
「くっ、後ろに……ッ!」
深々と突き刺さる、漆の刃。ウィンドゼファーは、咄嗟に身を回転させて剣を薙ぎ払う。彼女の鋭い凶刃は、柄持つ夕立の腕を斬りつけこそすれ。その全てを分断するには足りず、嗤う剣は間一髪で獲物を逃す事となった。
斬りつけられた腕の傷を押さえながら、夕立は女を見据える。
全てを絶たんと放った剣閃は、その命を絶つ事こそ叶わなかったが。この怪人の動きを鈍らせるには、十分な手応えを感じさせていた。
「貴女は確かに速い。……非常に腹立たしいですが、オレよりも速いですね」
過去の残滓が纏わりつく刃を、羽織の袖で拭いながら。夕立は言葉を紡いでいく。
「あらゆる物へ先制出来得ると言うのは、大きなメリットでしょう――ですが」
罅割れた硝子越しに、未だ門前に立つ女の姿を見る。傷を負わされてなお、依然と剣を構える怪人に対し。ぽたぽたと血の滴る己の腕の裂傷は、深い。
傷を負った身を惜しむ心など無いが、直ぐの応戦は悪手だろう。であれば、あとは『次』へと任せてしまえば良い。
「先を取るだけで勝てるのなら『後の先』なんて言葉はこの世にありませんからね」
そうした欺瞞の末に屠られていった『過去』たちを、夕立はごまんと見てきた。
どれだけ強かろうと、どれだけ速かろうと。超常的な力を持ってしても、過去はすべからく屠られる。
何せ。猟兵を冠する者は、己のみではないのだから。
成功
🔵🔵🔴
エスチーカ・アムグラド
●
チーカの身体は大きくないから、どっしり構えて嵐や竜巻を耐えるなんて出来ないけど……
でもでもっ! チーカにとって風は友達!
先に攻撃されちゃうなら無理に抵抗しないで、翅で受けて乗るように、敵の風を受け流せないか試してみようっ!【空中戦】
傷を受けても……ううん、受ける度に力を抜いて、風と一緒になるように……
出来るって信じれば……きっと、大丈夫っ!【勇気+鼓舞】
敵の風の癖に慣れて剣を振れるようになったら、風の刃をばら撒いて反撃!
剣で風は斬れなくっても、風と一緒になら立ち向かえるはず!【範囲攻撃+属性攻撃】
風は操るものじゃなくて、一緒に飛ぶ友達なんだから!
あなたには負けたくない! 負けられないっ!
巻き起こる強大な嵐。小柄なエスチーカ・アムグラド(Espada lilia・f00890)にとって十二分な脅威であるその暴風を前にして、しかし彼女は臆することなく前を見据えていた。
一際小さなエスチーカの体躯は、そのままであれば嵐や竜巻を耐えるに適さないだろう。蝶を思わせる彼女の鮮やかな翅は、荒れ狂う風を受けて痛いほどに揺れていた。
「――でもでもっ! チーカにとって、風は友達だから!」
己を鼓舞するように、ぐっと引き結んだ口。菖蒲色の瞳に勇気を灯しながら、エスチーカはすっと己の剣を抜く。彼女の家に代々伝わる剣。その鞘には、風の精霊の加護が宿っていると云われている。
脳裏に思い返すは、今は遠く離れた地に居る母の声。「チーカは風に愛されているわね」と柔らかに紡いでくれた母の言葉は、小さなエスチーカを奮い立たせるに充分過ぎるものだ。
ふわりと、彼女の髪が風に揺れる。吹き荒れる嵐とは異なる、穏やかな流れ。精霊の風が、エスチーカの身を包んでいた。
己が起こすものとは違う風の流れを感じ取り、ウインドゼファーがその面をエスチーカへと向ける。表情の見えぬ赤の面、しかしその高い声には溢れんばかりの熱が込められている。
「あなたも、風を操る者ですか。……しかし」
握りしめるグリップ。呼応するように唸りをあげるエンジン音。両の踵に、右肩に、そして剣先に装着された車輪が、常人の目には追えぬ速さで回転する。
「私の風は誰よりも、何よりも速い――そのような柔な風ごとき、私の竜巻の前には無に等しいッ!」
勢いよく揮われる剣、ギィギィと歪に嗤う車輪から竜巻が放たれる。
――次の瞬間。ぐわりと咢を開いた竜巻が、エスチーカを呑み込んだ。
「っ、大丈夫……っ!」
――迫る、風。うねる竜巻が、鋭い刃となってエスチーカヘと襲い掛かる。
牙向く風が、こわくないわけではない。
疾風に裂かれる肌に、痛みを感じぬわけではない。
だけど。今までずっと、エスチーカにとって風は愛すべき隣人であり、友だった。
その経験を、エスチーカは信じる。母の言葉が、鞘の加護が、共に戯れた恵風との日々が。その全てが、脅威に立ち向かうエスチーカの心を支えてくれている。
「出来るって信じれば……きっと、応えてくれる」
渦巻く風に、乗る。翅が受ける流れに逆らわず、身を任せるように要らぬ力を抜いていく。
敵意を持って放たれた風が、鎌鼬となって頰を裂き。風に舞い散る花片が、鋭利な凶器となって翅を穿つ。小さなフェアリーが風に嬲られる様は、見るに痛々しく。己の風を誇示するべく竜巻を放ったウインドゼファーは、その様が当然の帰結であると言うように小さく鼻を鳴らしていた。
――けれど。エスチーカは『飛ぶ』ことを諦めない。
空を舞う、風に舞う。空中での身のこなしならば、お手の物だ。毎日の剣の稽古と同じ様に、彼女にとっては風に乗る事も、また日課であるのだから。
「――風は、操るものなんかじゃなくて」
薄く、目を開く。その華奢な身を風の刃に揉まれながらも、エスチーカは着実に掴み始めていた。ウインドゼファーの『風』の癖を、共に飛ぶ事で学んでいく。
傷は、深い。覚悟の末とは云え、焼けるような痛みが裂傷から広がっていく。
それでも。荒れ狂う風の中、彼女は精一杯に息を整える。先程まで剣を持つのみで精一杯だった右手も、今は動く。この暴風の最中でも、彼女の体は剣を揮うまでに“慣れて”いた。
「一緒に飛ぶ、友達なんだからっ!」
剣を翳す。呼び出したるは、風司る精霊の力。
助力を乞う小さな妖精剣士を、彼らは祝福する。構えた剣の先、数多の烈風が彼女の想いに応えて顕現する。
「あなたには負けたくない! 負けられないっ!」
風を『操る』と。チーカにとっての友達をそう称したあなたにだけは、絶対に。
百を超える風の刃。その全てが、剣掲げる彼女の号令を持ってウインドゼファーへと放たれる!
「なっ、竜巻の中から――ッ!?」
エスチーカを取り囲む様に渦巻いていた竜巻。しかし、エスチーカの刃はその風の壁を物ともせずにウインドゼファーを捉えている。物理的な距離を一切無視した魔法の様な風の斬撃が、ウインドゼファーの身体の至る所を抉っていた。
「そんな、私の風をいなしたと言うのですかッ!」
それぽっちの剣で。それっぽっちの風で。傷口をおさえながら驚愕に吠えるウインドゼファーに、エスチーカはキッと力強い眼差しを向ける。花の意匠があしらった剣の先が、舞い散る花弁の中で一際鋭く光っていた。
「チーカの友達が、チーカを助けてくれたの」
血の滲む指で、剣を握る。傷を負わせたといっても、ウインドゼファーは未だ健在だ。戦いはまだ終わっていない。
「あなたの風がいくら強くても。チーカ達は、何度でも立ち向かってみせるからっ!」
小さな妖精が振り絞った勇気は――風の刃となって再び戦場に降り注いだ。
苦戦
🔵🔴🔴
ジャック・スペード
●*
――お前はスピード自慢らしいな
俺の早撃ちを見切ってみろ
奴の原動力が誰よりも速く成りたい気持ちなら
既に自分が最も速いと思わせれば
欲望と強化も抑えられるのではと推察
敢えて遅く銃を抜き、態と狙い外して撃ち油断を誘う
演技とバレぬよう悔しがる振りも忘れずに
敵の攻撃は怪力で受け止め防御
学習力で行動パターンを予測しダメージを抑えつつ
傷は激痛耐性で堪えてみせる
此方はベルセルクトリガーを発動
――此処からは本気で行くぞ
クイックドロウを活かしつつ、銃から炎の弾丸放ち属性攻撃
隙を突いて零距離射撃も行おう
此の世界を護る為、そしてお前の速さに追いつく為ならば
理性など幾らでも犠牲にしてやる
負けず嫌いのこころを燃やして
七篠・コガネ
●*
先制攻撃への対抗策
逃げても追いつかれるでしょう。攻撃を躱す事だってきっと不可能
ならばダメージを減らすのに専念
離れるように【ダッシュ】してなるべく相対距離を縮めます
飛翔能力は飛ばなきゃ意味を成さない
ので先制攻撃を受けるまで飛翔なんてさせませんよ!
先制攻撃後
『羽型ジェット』で飛んで【空中戦】へ持ち込みます
なるだけ敵の上方にいるように飛びます。足蹴りで対抗しますが…
速さはあるのは分かりましたがパワーはどうなのでしょう?
ゼファーの腕を挟むように僕の脚で抑え込んで『Heartless Left』瞬時装備
【ホークスビーク】を撃ち込んでみます!
速さは強さ、それは同意です。ですが速さだけが強さじゃない!
場に色濃く残る戦の痕、吹き荒れる風の最中。
ジャック・スペード(J♠・f16475)と七篠・コガネ(そして最期は海の底・f01385)の二機は、花咲くその門前へと降り立った。
空気中に漂う鉄のにおいを感知して、ジャックは金の双眼を傍らに向ける。彼らの足場となる花の幾つかに、まだ鮮やかさを保った赤がこびりついているのが見てとれた。
恐らく、先発した猟兵の物だろう。同じく血痕を確認したコガネが、爬虫類を思わせる瞳を更に鋭くさせていた。
目にした赤は、仲間が傷ついたと云う証。その事実が、コガネに焦燥を抱かせる。加速する正義感が、そのまま目前に立つ怪人への敵愾心となって彼の思考を支配する。
「これ以上、誰かが傷付くのは見ていられません……!」
「同感だ。此の堅き躰は、人々を、仲間を守る為にこそある」
二組の金が、敵の姿を捕捉する。
風操る門番、スピードを武器とする怪人・ウインドゼファー。
半瞬、交錯する視線。
コガネとジャック、両機の間で交わされるコンタクトに言葉は必要とされなかった。
この怪人の情報は、既に共有されている。
速さを一番の武器とするウインドゼファー、その攻撃を避けきる事は困難だろう。逃げても追いつかれ、躱すにも難しいとコガネはシミュレートする。であれば、専念すべきは『ダメージの削減』だ。
幸いにも、彼等は並みの人間よりも遥かに硬度な躰を持っている。故に、ジャックもまたコガネと同じ思考に辿り着いていた。
最初の一手を受け止める覚悟のもと、如何にダメージを抑えるか。
彼等の勝機は、其処にある。
「――余程のスピード自慢らしいな、お前は」
疾きを信条とするウィンドゼファーを見据えて、ジャックは言葉を放つ。
誰よりも速くありたいと。その想いを糧にして、数多の怪人達の上に立つまでに化けたウインドゼファー。その直向きさと熱量は決して侮れない、『こころ』を源として発揮される力の程を、ジャックは我が身をもって知っている。
だからこそ。ジャックは、敢えてその熱に触れていく。
「ええ、私は速い。遺憾無く自負しましょう。私の風は、あなた方の遥か先を行くと」
臆面もなく放たれる科白に滲むのは、絶対の自信。
言葉を返しながら、ウインドゼファーは再び己自身に風を纏わせる。彼女の身を包む暴風は、徐々にその威力を増していた。
手を打つならば、一刻も早くに。己のこころを奮い立たせて、ジャックは目前に渦巻く脅威を睨み付ける。
「ならば――俺の早撃ちを見切ってみろ、怪人」
――挑発。それが、戦闘の口火を切る事となった。
両者の初動は同時、否。ウインドゼファーが寸刻速い。
瞬く間に迫り来る女を前にして、ジャックは銀のリボルバーに手を添える。
その動作は――努めて、遅く。
「ふっ、早撃ちとのたまう割には――随分と遅い!」
「くッ!」
ジャックが銃を抜く、その前に接近する身体。はためく白が肉薄し、緩慢な黒の挙動をせせら嗤う。
荒れ狂う暴風纏し女が、その猛威を力に変換して斬り掛かる。
速く、この目の前の敵よりも速く。そうして、“相手”を意識した彼女の一閃は放たれる。
「ぐ、ぅ……ッ!」
勢いのまま斬り付けられたジャックは、肩の装甲を抉る車輪の刃に呻きを上げた。
鈍く、高い音を立てて。ぶつかり合う鉄が悲鳴を放つ。飛び散る火花を物ともせずに、ウインドゼファーはその剣を――下ろし、切った。
黒の鉄が、抉れる。裂かれる。
銃を抜かんとしていた腕がガクリと力無く垂れ、電池を切れた玩具の様にその巨体が崩れ落ちていく。
それを手応えと見て取って、ウインドゼファーは瞬時に目標を切り替えた。
滑る視線、捉えるは別の個体。赤のマフラーを靡かせたその姿を捉え、ウインドゼファーは駆け出していく。暴風は未だ衰えない、衰えるべくもない。
「あなたも、すぐに切り払って差し上げましょうッ」
飛び出す。駆ける。自分のスピードをもってすれば、猟兵の一つや二つ、討ち取る事など容易いと。
?既に一機を仕留めたと言う自負。それが念頭にあるウインドゼファーは“疑うことなく”駆けている。
――だから。
「その油断が、命取りです!」
接敵を察知したコガネが『後方』へ翔ぶ。彼の常人離れした脚力は、地を駆ける事に殊更適している。
後方への回避は、相対距離を縮める為の策。彼女の速さを、戦闘力を、コガネは侮らない。確実に、そして少しでも威力を殺すべく、彼は持ち得る全力を脚部に込めている。
――故に。彼女は、追い付けない。
空を切る剣。ただ狩られるだけの筈の獲物が出した予想外のスピードに、その一瞬だけ欲望よりも驚愕が勝る。
何故、どうして。
既に誰よりも速い筈の私が――?
戸惑いが女の体を縫い止める。それは、ほんの一瞬のことだったのだろう。
しかし、『彼』が狙いを定めるには十分だった。
――発砲。
「――――ッ!」
死角から放たれる弾丸。既に“仕留めた”筈の後方、ジャックの銃から放たれたそれ。
炎を纏った弾が、彼女の肩を撃ち抜いた。
体が、焼けるように熱い。否、焼けている。
弾丸と共に身体へと入った炎は、断続的な痛みを齎してウインドゼファーの動きを鈍くする。
そして。その隙を見逃す道理が、彼女の敵――悪を前にした使命感に燃えるコガネに、有る筈もない。
「今度は、こちらの手番です!」
瞬く間に背中へ展開させた、羽型のプラズマジェット。
空を翔ける様にと製造されたコガネの体は、その飛翔力をもって敵の上方を取る。
ウインドゼファーの頭上に、影が落ちる。咄嗟に身の危険を感じて、彼女もすかさず剣を向けた。痛みはある、けれど速さへの欲は復活していたから。傷を負ったにも関わらず、ウインドゼファーの動きは、速い。
細かな刃が回転する剣先に、しかしコガネは怯まない。彼の思考にあるのは、目前の悪党を討ち滅ぼさんとする正義感のみ。
その凶刃が、コガネの金眼へと差し迫り――その寸前で、止まる。
「これ以上を許さないと、言っただろう」
「あ、なたは……何故……ッ!」
剣の意匠を刻んだ黒の巨体――ジャックが、ウインドゼファーの背後を取りその身体を押さえ込んでいた。彼が動く度に、ウインドゼファーが抵抗する度に、軋む機体からは火花と液体が飛び散っている。
明らかな満身創痍。けれど、ジャックは譲らない。
痛覚は遮断した、パーツの修繕は後に専念すれば良い。今は、この脅威を倒しさえすれば、それで良い。
「ウインドゼファー。お前は誰も速くなりたいと言う欲で力を増すのだろう?」
「そうだッ! 私は相対する誰よりも速く、疾く駆ける事が出来る! 現に私は、お前よりも速く――」
速く、速く――本当に?
疑問が浮かぶ、思い至る。
もしや、と言葉を溢すウインドゼファーに、ジャックはノイズ混じりの嗤いを溢した。
「お前は、俺達の速さを見誤った」
そう。ジャックが仕掛けた早撃ちは、ブラフ。
敢えて、初動を遅くする。誰よりも速くありたいと願う女の欲望を『満たして』やる。
傷を負う覚悟は、最初からしていた。全ては、この女の慢心を引き出す為の布石に過ぎない。
息を呑むウインドゼファーの腕を、頭上正面から肉薄したコガネが絡め取る。その鳥の様な脚で、刃と一体化した腕を挟み込む。尚も回転する刃先が彼の服を白服を削るが、今この時においては気に留めるものではない様だった。
「あなたは油断した。……それでも、あなたの速さは充分に恐ろしいものでした。認めましょう」
ですが、と。言葉を続けながら、コガネは瞬時に左腕の形態を変える。瞬間的に装着されたのは、パイルバンカーのパーツ。常に左の腕部に内蔵されたそれは、悪の鼓動を撃ち止める為の武器。
「パワーはどうなのでしょう。――昔の人はこう言いました。“天網恢恢疎にして失わず”!」
振り被る、左。至近距離から放たれる強烈な一撃が、ウインドゼファーの肩を抉る!
攻撃の反動か、コガネも僅かに眉を顰める。しかし、その猛攻は止まらない。止めるべくもない。
抉れ。穿て。この悪を、野放しにしてたまるものか。
「速さは速さ、それは同意です。ですが、速さだけが強さじゃない!」
コガネの咆哮に、同意を示す影がある。その身をもってウインドゼファーを抑えていたジャックもまた、振動を感じながらも次の手を打ち始めていた。
「――此処からは、本気で行くぞ」
ベルセルクトリガー、オン。
理性の喪失と引き換えに、攻撃力と耐久力を得る最終武装モード。速く動く物体を無差別攻撃し続ける特性を持ったこの形態は、速きを司るウインドゼファーを相手取るにはうってつけだ。
此の世界を護るため、そして彼女の速さに追いつく為ならば。理性を放棄する事など、鉄の英雄は厭わない。
理性を燃やす。こころを燃やす。獲得した負けず嫌いの性質が、彼の原動力となる。
鷹の鋭い嘴を喰らいながらも、未だ息のあるウインドゼファー。
痛みに呻きながらも脚から逃れた彼女が、目にしたのは。
零距離で放たれた――燃え盛る、炎の弾丸だった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
御堂・茜
サイボーグの利点を活かして出発前に自らに改造を施し
多少の風や攻撃では吹き飛ばぬ重量と耐久性を手に入れます
敵の攻撃の第一波は【野生の勘/第六感】で察知し
【覚悟】を決め【勇気】と【気合い】で【武器受け】致します!
衝撃が来たら即座に【絶対正義】を発動
敵が速ければ速い程
この技との相性は悪い筈!
空中に居ようと無差別に刀を振るって
見えない【衝撃波】を広範囲に見舞い
敵を守る風を散らすと共に
速く飛べば飛ぶ程に体が切り刻まれる空間を作ります
わたくしに突っ込んできたら勝負の時!
理性無くともその一瞬を【野生の勘/第六感】で見切り
【怪力】で渾身の斬撃を叩き込みます!
不発でもUCの超耐久力で踏ん張り
何度も試行しましょう
その手には身の丈ほどの大太刀を。その胸には溢れんばかりの熱い正義を。
一見にして華奢な身体に、驚く程の熱量を携えて。御堂・茜(ジャスティスモンスター・f05315)は花咲き誇る決戦場へと降り立った。
「御機嫌よう、そして観念くださいませ!!」
堂々と啖呵を切る茜。場に現れると同時に臨戦態勢へとお入った彼女に、ウインドゼファーもまたすぐさま攻撃の一手へと移る。
ウインドゼファーは、連戦により既に傷を負った身だ。新手は早めに斬り払うに限ると、彼女は瞬く間に茜へと肉薄する。
接敵。荒れ狂う暴風纏し剣戟が、恐るべきスピードを伴って茜へと襲い掛かる。
回転し唸りを上げる剣先が、茜の大太刀ごと両断せんと振り被られ――。
――ガギンッ!!
「なっ!?」
しかし。その凶刃を受け止めた茜は、揺らがない。常人では有り得ざる速さで繰り出された一撃を、彼女は、彼女の大太刀は受け止めきったのだ。
有り得ない。怪人であるウインドゼファーに比べれば、相対する茜は小柄な部類だ。ウインドゼファーの全力を尽くした一撃を耐え切れるとは、到底思えない。
動揺が、ウインドゼファーの思考を支配する。鍔迫り合いながら、気付けば彼女は叫ぶように問い掛けていた。
「何故ッ、その細身で何故耐えられるッ!?」
「異な事を仰りますね。――無論、悪を滅ぼさんとする気合と覚悟、それ故です!!」
カッと見開かれる瞳。淡い薄桃に、燃え盛る火のような熱が浮かんでいた。
勿論、気合と覚悟のみの恩恵ではない。――いいや、彼女の気迫は本当に鬼気迫るものであるから、実際それだけでも十分嵐に耐えてしまいそうではあるが。今回ばかりは、一応種がある。
御堂・茜。細々と続く武家である御堂の家に生まれた彼女は、なんと現在サイボーグの体を持っていた。女ながら武士道に憧れ、民を守る力を欲した姫。そんな彼女が、猟兵特有の異界渡りを会得した結果。異世界での文化・概念にこれでもかと言うほどの感銘を受け、元の猪突猛進な気質も相俟ってサイボーグ化するにまで至ったらしい。その辺りの詳細はまた別の回にて期待したい。
そんなこんなでサイボーグの身となった彼女であるが、悪を滅ぼす為にはただ機械化しただけでは勿論足りない。
このキマイラフューチャーと言う世界を脅かす悪に対抗する為に。なんと、茜は自らに改造を施していたと言うのである。此度の戦場を垣間見、敵の特性を把握してからの速攻改造。恐るべきはその手の速さか、自改造という手段に踏み切る熱意か。はたまた両方か。
結果、彼女は初撃に備えた耐久性と、荒れ狂う暴風に吹き飛ばぬ重量を手に入れいていた。日がなダイエットに勤しむ女子達が聞いたら、裸足で逃げて行きそうである。
と言うわけで。いっそ漢らしい程に清々しい決断と実行力をもって、茜はこの風操る怪人に対峙していたのだ。
戦いは、既に始まっていたと言わざるを得ない。
鍔迫り合いを続けながら、茜はキッと鋭い眼差しをウインドゼファーに向ける。
「あなたは、いいえ、あなたこそ!! 悪です!!!!!!」
悪。すなわち打ち滅ぼすべきもの。
既にただ人ならぬ破壊力を備えた茜が、その力を存分に揮うべきもの。
――実際、今の彼女にとっての悪判定が結構ガバガバになってしまっているのは、ここだけの話。そこらに放られているペンでも悪にはなるし、おそらく箸が転んでもすべからく悪と見做されるのだろう。
ともあれ。この世の悪っぽいものを全て成敗せんとする茜は、敢えて己の理性を手放していた。呵責、葛藤etc。迷いなるものは、今の彼女の中に一切存在しない。目前の悪を屠る為だけに、今の彼女は存在している。
既に狂戦士と化した彼女を止めるものは、ない。
圧倒的な絶対正義。ジャスティスモンスターが、その直向きな勇ましさが、目前の悪へと向けて放たれる!
「何という獰猛さ……!」
大太刀による無差別な攻撃。その刃は当たらずとも、目に見えぬ衝撃波となってウインドゼファーの身体を切り刻んでいく。
堪らずと言った風に、ウインドゼファーは一度距離を取る。しかし、身を守る為に展開する風もこの猛攻の前には意味をなさない。防御や逃げに徹した長期戦では、不利になるばかりだろう。
「ならば……ッ!」
ウインドゼファーは、飛翔する。逃げる為ではない、再び接敵する為に。
勝負を決める。今一度、この見目以上に丈夫な女を壊す為に。
無論。そう思考していたのは、茜とて同じ事。
――待っていた、と。理性なき今、言葉こそ無けれど。茜の瞳が、好機を捉えて輝きを増す。先のような鎌鼬で行動を制限すれば、ウインドゼファーが接近戦で勝負を仕掛けて来るであろう事は容易に予測出来ていたから。
正義の怪物と為った今。理性なき彼女に、技はない。
けれど、代わりに冴え渡る――勘/感がある。
正義への貪欲さを顕すような、恐るべき野生の勘が。鍛錬により、身体に染み付いた感覚が。
己に近づく『悪』を、捉えている。
見開かれる瞳、交差する二影。――振り抜く、刃。
数瞬の、後。
地に伏していたのは、飛翔していた筈の怪人の女の姿だった。
大成功
🔵🔵🔵
ヴラディラウス・アルデバラン
風か。ならばその悉くを呑み込んでみせよう。
車輪剣や素早さを武器に攻撃するのであれば、その動きを見切り、回避。
それすら難しいならば、我が剣や術の出番だ。敵の動きそのものを止めてしまおう。
花の足場を失うならば、氷の足場を。
渦巻く暴風には、逆方向に回転する氷のそれを。
他にも氷の津波、氷柱の雨、剣術、体術など。
適切なタイミングに適切なすべで対抗、反撃。
敵はオブリビオン。身体の構造から我々とは違うということも有り得るだろう。
だがもし、体温や血液、臓腑などという概念を有しているのであれば。
我が剣はお前の血を、心蔵を、痛苦と共に凍りつかせん。
傷喰らえども、耐えてみせよう。
命を奪う氷の力、存分に味わうがいい。
ヴラディラウス・アルデバラン(冬来たる・f13849)が、花咲き乱れる其処へと降り立った時。彼女の凍てついた瞳に映ったのは、服を裂きフェイスを砕かれ、数多の傷口から過去の残滓を漏れ出しながらも門前に立つ女の姿だった。
車輪剣と一体化した右腕を杖代わりに立て、肩で息をするウインドゼファーの様子は痛々しく。しかし、彼女の放つ膨大な敵意は、未だ衰える事はない。
その証拠に。ヴラディラウスが現れた瞬間から、この場にはまた『暴風』が満ちている。
「――風か」
目前に渦巻く、嵐が如き風を目にしながらヴラディラウスは呟く。彼女の長い銀糸が、風に煽られて揺れていた。
先発していた猟兵との戦闘で、敵のダメージは見て取れるほどに蓄積されている。しかし、その『風』の殺傷力に変わりはないのだろう――いいや。追い詰められた獣ほど、土壇場で発揮する力は恐ろしい。鋭利な風が、ヴラディラウスの頰を打っていた。
『風』が、来る。全てを抉り、裂かんとする暴風が。風の様に疾き女が、来る。
「ならば、その悉くを呑み込んでみせよう」
ヴラディラウスは、毅然と前を見据えながら剣を抜く。冷え渡った細身の刀身が、彼女の殺意を顕すかの様に冷たい光を放っていた。
――来る。
唸る車輪。剣先に渦巻く竜巻が、歪な嗤い声を上げながら放たれる!
花の足場を抉りながら迫り来る竜巻に、しかしヴラディラウスは怯まない。彼女はただ、剣を構えるのみ。
「――嵐よ」
呼び出すは、凍て付いた氷の風。渦巻く吹雪。
それは目前に差し迫る風と似た様でいて――その実。風向きを、対とさせたもの。
ヴラディラウスは、迫る暴風が身を包む直前にその吹雪を放つ。壁の様に展開させた氷の嵐が、ウインドゼファーのそれとぶつかりい合い。激しい音を立てながらも打ち消しあっていく。風と風の衝突、余波を受けて飛び散る花弁が、鋭利な刃となってヴラディラウスの頰を裂いていった。
しかし、それだけだ。武人である彼女は、依然としている花の上に立っている。
「私の風を打ち消すなどと、小癪なッ!」
暴風を纏ったウインドゼファーが、氷の如き女へと肉薄する。振り被る剣、回転する刃先がヴラディラウスの顔を抉らんと迫り来る。
瞳に差し迫る刃、ヴラディラウスは咄嗟に身を捻ってそれを躱す。身を屈ませ、イスティルの刀身をもって敵の剣を打ち払う。車輪を避けてしまえばあの刃先はそこまで脅威では無い。
剣を払った勢いのまま、ヴラディラウスは一度飛び退る。敵の頭上を取る様に上方へと作った氷の足場、彼女はそこに降り立った。
すぐさま此方の姿を捉え、風を纏うウインドゼファー。彼女の様子を見ながら、ヴラディラウスもまた剣を構える。
「お前はオブリビオンだ。身体の構造から、我々とは違うということも有り得るだろう」
だが。もしも体温や血液、臓腑などという概念を有しているのであれば話は別だ。
元は人間であったと言う怪人共は、果たしてどれだけ耐えられるだろうか。
「我が剣はお前の血を、心臓を、痛苦と共に凍りつかせん」
ヴラディラウスの持つ片手剣。イスティルの刀身が、氷雪を纏う。
剣構える彼女を中心として、氷の渦が巻き起こる。
空気中の水分が瞬く間に凍りつき、うすらとした靄のようになって展開される。
顕現されしは、凍土そのもの。全てを凍てつかせる氷の津波が、敵の全てを呑まんとその顎門を開いている。
凍れ、凍れ。霜に包まれし世界の風は、お前らの何もかもを凍てつかせよう。
「命を奪う氷の力――存分に、味わうがいい」
――振り下ろされる、凍波。
凍てつく世界の空気そのものが、ウインドゼファーへと襲い掛かる。
「――――ッ!」
凍る。全てが。嵐起こす剣が、馳ける車輪が、唸るエンジンが。何もかもが凍っていく。
「そん、な……私は、まだ……馳け……」
身体が凍る、息が凍る。残滓の洩れる傷口が、張り付いた喉が――焼けるように、痛い。
凍り付く体は、やがてその稼働を停止させ。ガシャンと、壊れゆく音を立てて地に伏せる。
冷たい風の残り香に、髪を靡かせながら。ヴラディラウスは、眼下へとその視線を向ける。
己の欲に、熱に殉じた、女の最期を。ヴラディラウスの紫の瞳が、静かに見届けていた。
◆
風は、止んだ。
疾き女は地に伏せる。花に埋もれる女は、やがて唯の残滓となり消えゆくのだろう。
風編みの番人は、既に倒された。
かつて人間を超えた怪人たち。そんな彼女たちを、猟兵たちは越えていく。
自由を冠する脅威を、今度こそ討ち取る為に。
大成功
🔵🔵🔵