灘に渦巻く悪意~前編
●密談
始まりは、エンパイアのとある夜。
丑三つ時――所謂、草木も眠る夜でも、その闇に蠢く者がいる。
ピタリと閉じられた障子の向こうに、行灯の光に2つの影が揺れていた。
『……ハニワプリンス……まさか花粉症にかかるとは……』
『こんな事で綿密な計画が崩れるとは。油断しましたな』
ひそひそと、潜める声はどちらも壮年の男のものだ。
『ヤツから安く仕入れた埋蔵品を、島の特産品と偽って他藩に売り捌いて利益を得ると言う手はもう使えんな』
『左様で。ですが、そろそろ、もっと大きく動いても良いんじゃねえですかね?』
『ほう?』
『あやつもあたしらのやり方にすっかり染まっとります。つまり、東西の港は磐石。そろそろ、集めた連中を海に出してもええ頃かと』
『例の海賊計画か。予定より早いが――まあ、良かろう。島民は儂がどうにでも出来る。気がかりなのは日内の娘子よ。何か感づいてなければ良いのだが』
『……では、薬を取り寄せておきましょう。なに、元々身体の弱い娘です。たまたま新しい薬が体に合わずに病が悪化しても、何もおかしくはありますまい』
『ふっ……お主も悪よのう』
『いえいえ、お代官様ほどではございませぬよ』
●孤島の現在
サムライエンパイア、西方の内海に、燧島(ひうちじま)と言う島がある。
燧灘(ひうちなだ)と呼ばれる、伊予の国と讃岐の国の間の海――UDCアースの地図ならば瀬戸内海に当たる海域――に浮かぶ島である。
ところでこの島、元々は存在しなかった島だと言う。
大昔、何者かが領主の依頼を受けて『周辺の小島を呪術法術で寄せ集めて作った』と言う謂れが、島民や近隣諸国の者の間に伝わっているのだ。
「言い伝えの真偽は、今回は気にしないでいい。問題は、燧島がオブリビオンの巣窟になりそうと言う事だよ」
自分で言い出した前置きをあっさりと放り投げ、ルシル・フューラー(ノーザンエルフ・f03676)は猟兵達に本題を切り出した。
燧島を収めるのは、日内という城主。だが、その殿様は参勤交代で江戸に逗留中。
一人娘の姫様は、齢十歳。あまり身体が丈夫ではなく、江戸までの旅についていけそうにないとお留守番している。かと言って、政の代わりをするにはやや幼い。
「と言う訳で、現在は代官が島を収めているのだけれど。この代官オブリビオン」
巣窟って言うか、既にトップが抑えられていた。
しかも、話はこれで終わらない。
燧島はその立地から、近年は海運業の寄港地としても開けていた。そうなると、現れるのが廻船問屋――平たく言えば海の運送業者である。
「港を仕切る『廻船問屋』もオブリビオンなんだけど……1つ問題がある。この島、大きな港が東西にあって、『廻船問屋』も2人いるんだ」
西の港は風早(かざはや)屋。
東の港は鵜足(うたり)屋。
どちらも、それぞれが仕切る港は素性の知れない無頼者が幅を利かせ、行商、島民問わずに高値を吹っかけるあこぎな商売。悪い時は略奪さえ起き始めている。
それが通っているのも、どちらも悪い代官と繋がっているから。
「問題は、オブリビオンなのはどちらか片方だけと言う事だ。うん、申し訳ないけど、どちらがなのか特定は出来ていないんだ」
ただの悪い商人であれば、現地の人々の沙汰に任せれば良い。だが、オブリビオンだけは猟兵が倒すべき存在。
予知で判らない以上、現地調査をするしかない。
「代官の方を先に潰せば良いと思うかい? 確かに、そうすればどちらの商人がオブリビオンか、確かに判明する。けれど、判明する頃にはとっくに海の上だよ」
どちらにせよ廻船問屋だ。船は持っている。
だが、代官の方はそうは行かない。立場的にも、代官と言う立場に成り済ますのは、ここがダメならあっち、と気軽に移れるものでもない。
「代官の方は商人を倒してもすぐに逃げない――逃げられない、と言った方が正しい。だから後回し。先に悪徳商人の方を特定して、倒して欲しい」
そう言うと、ルシルは掌からグリモアを出し転移の準備を始める。
「最後に1つ。今回の行き先は島だよ。そう大きくはない。余所者だと言う事を隠すのは難しいと思っておいて欲しい」
その上で、どう立ち回るか――情報を集める上で、気に止めておくべきだろう。
「転移先は島の南部にある、無人の浜だ。それじゃ、頼んだよ」
泰月
泰月(たいげつ)です。
目を通して頂き、ありがとうございます。
さて、今回はサムライエンパイアで、オブリビオンの悪代官と悪徳商人に牛耳られつつある島が舞台となります。
タイトルに前編、とあります通り、2本構成の予定です。
今回は、悪徳商人を特定したのちに、討伐までが目的となります。
このシナリオでは、まだ悪代官と戦うことはありませんので、プレイングを書く際は注意してください。
●舞台
燧島(ひうちじま)と言う島です。
現代地図で言えば、瀬戸内海に当たる海にあります。そんな島ありませんが。
規模はさほど大きくなく、子供でも1日で一周できるくらいです。
島の西部。風早(かざはや)屋が仕切る港があります。
島の東部。鵜足(うたり)屋が仕切る港があります。
島の南部。転移地点の無人の砂浜があります。
島の中央。悪代官と、本来の城主の日内家の姫がいる小城と村があります。
集落と呼べるものは、城下村と、東西それぞれの港町です。
なお、それ以外の島の状況は、あえて記載していません。
調査の為に『ここに森が欲しい』『こう言う立地がいい』と言うのは、どんどんプレイングに書いてください。それにあわせて島が出来上がっていきます。
●悪徳商人
OPに記載した通り、2人いる廻船問屋のどちらがオブリビオンの悪徳商人です。
どちらがオブリビオンかは、この段階では決定しておりません。
1、2章を通して、プレイングで決定します。
基本的には、多数派の方になる予定です。
ですので、推理と言うより、皆で決める悪徳商人!と言う感じで、気楽にプレイング掛けて頂ければと思います。
●構成
1章では、2人いる廻船問屋を調べる冒険パートです。
2章も冒険パートになります。詳細は、その時に。
3章で、悪徳商人との決戦です。
キマイラフューチャーの戦争もありますので、ゆっくりペースで進める予定です。
ではでは、よろしければご参加下さい。
第1章 冒険
『山吹色のお菓子』
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POW : 船に船員として乗り込む
SPD : 廻船問屋や代官周りの聞き込み調査
WIZ : 上客のフリをして廻船問屋に近付く
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
黒夜・天
イイニオイだなあ
オレの好きなカネのニオイだ
ああ、オレは上客だろうさ。ここで散財をするって意味ならな
さて、どっちがオブリビオンかはわからねえが、どっちもカネを持ってるんだろう?
それなら貧乏神の出番だろうよ
オレは【貧乏神の真骨頂】を披露させてもらうぜ
どいつもこいつも、全員まとめて貧乏になるまで経済を回してやるよ
そして勝手に財産が減る2人の姿を見て、どっちがオブリビオンなのか考えることにしようかねえ
●鵜足の港
燧島の東――鵜足の港。
(「イイニオイだなあ。オレの好きなカネのニオイだ」)
ボロボロの黒布を纏った貧相な少女――黒夜・天(有害無益の神・f18279)は、口の端を釣り上げた笑みを浮かべていた。
港は丁度、船が着いたばかりだったらしい。
荷の積み下ろしで、大柄な男達が忙しなく動いていた。その中には何人か、明らかに堅気と思えぬ風貌もいたが、天の目当ては連中ではない。
「――で、カネを持ってんのは何人かいるが、問題のはどいつだ?」
賑わう港の中、人並みを縫う様に歩き回りながら、天は胸中で首を傾げる。
商人と思しき身形の者は、何人かいるのだ。
海運業の寄港地として拓けたのだ。他藩から買い付けに来た類の商人がいても、おかしい事ではあるまい。
それらがオブリビオンでないことは明白であったが、逆に言えばオブリビオンかもしれない商人が見当たらなかった。
(「ま、そう簡単に尻尾掴めたら世話ねえか」)
「お? 何だ、お前は。どこから入った。物乞いなら、なんもねえぞ」
積荷を運んでいた男の1人が、胸中でひとりごちる天に気づいて声をかけてくる。
彼らでさえ着ているものはそこそこのものだ。確かに、今この港で一番外見が貧相であるのは、間違いなく天自身であろう。
「物乞いねえ……上客に向かってそりゃぁねえだろ?」
天の口がニィっと笑みを深める。
「客だぁ? そんなボロ布しか着れねえガキが――」
「カネならあるぞ」
男が言い終わるのを待たず、天が懐からズタ袋を放り投げる。
ガシャリ。小汚い見た目と裏腹に、落ちた袋からは幾つかの金属が擦れる音がした。
「ここで珍しいモン売ってるって聞いて買いに来たんだ。言い値で買うぜ?」
「は? お、おい、こんな金――」
突然放られた、外見に見合わない金。そして、それを惜しまない天の態度に、男が目を白黒させる。
「ケチケチすんな。宵越しの銭を持つんじゃねェ! 使い切ろうぜ!!」
その背中をバシンと叩く天のボロい黒布の中から、天を小さくしたような小人が数人飛び出し散らばっていく。
『腹減ってねえか? たまには良いモン食おうぜ』
『試し? んな事言ってないで、どかんと買っちまえ――』
貧乏神の真骨頂――天のユーベルコードによって喚ばれた存在である小人達は、似運びを終えた船員や、商談中の男達の下へ向かっては、散財を唆す言葉を囁く。
それこそが、貧乏神の力の一端。
何故かその言葉は、彼らの耳から頭の中にするりと入っていった。唆された男達は、港から続く町中へと駆けていく。
(「そうらカネを使え。どいつもこいつもカネがあろうがなかろうが、全員まとめて貧乏になるまで経済を回してやるよ」)
姿が見えない商人が、鵜足の屋号を頂く店の主である事は間違いない。
ならば、その店の財を散らして引っ掻き回してやろう。
財産とは、何も小判や銭と言った貨幣に留まらない。商品も店の財だ。
天は周囲の人のみならず、『鵜足屋』と言う廻船問屋そのものを対象として、貧乏神の力を使っていた。
散財が広まり俄かに活気が高まるのを眺めながら、やけに高かった銅鏡を片手に、天はニヤリと笑みを浮かべていた。
それからしばらくして――島の南の浜の近くに戻った天は、首を傾げていた。
「東も西も誰も店のもの盗ろうともしなかったな……?」
西の港も東より人は少ないが、似たような状況であった。
天は東西2つの港で店そのものを対象に【貧乏神の真骨頂】を使ってみたが、素寒貧になっても誰も店の倉庫から品物を持ち出したりする事がなかった。
つまるところ『鵜足屋』も『風早屋』も、そのものの財が天が思っていたようには減らなかったと言う事。店を対象にしたからだろうか?
(「……どっちの店にも、店のもんじゃねえのがある? もっと上って事か」)
『鵜足屋』と『風早屋』。どちらがオブリビオンか確かめる事は出来なかったが、これも何かの手掛かりになるだろうか。
――まだ『鵜足屋』も『風早屋』も怪しい。
成功
🔵🔵🔴
御先狐・燐花
POW
船に船員として乗り込む
島の南部に転移すれば先ずは東部の港を目指そう。
身なりを少々見すぼらしく装いつつ、如何にも流れ者ですといった具合にの。
警戒されぬように装備品は護身用の小刀だけに抑え、ふらふらとした足取りで鵜足屋の男衆に歩みを寄せてみよう。
食べ物を恵んでもらうような素振りから入りつつ、上手く取り入って船で働かせてもらえるように試みるのじゃ、船上でも飯に困らぬ様にお世話をするとかそんな理屈をつけての。
もし断られそうなのであれば誘惑の技能を活かしてたらし込みを決めてみようかの。上手く潜入する事が出来れば後は狭い船内じゃ、こっそりと聞き耳を立てていれば何か情報が手に入るやもしれぬのでな。
●鵜足の船
散財の騒ぎが収まった東の港では、荷降ろしもひと段落着いていた。
「あ、あの!」
休憩中と思しき男達の前に、御先狐・燐花(刀の社の狐巫女・f00160)がふらふらとした足取りで近づいていく。
いつもよりも服装を見すぼらしい身形に変えて、言葉遣いも変えた燐花の姿は、食い扶持に困った流れ者と言った風であった。
「ふ、船に乗せてもらえませんか」
率直な燐花の懇願に、男達は顔を見合わせる。
「お、お金は要りません。乗っている間、食べ物を恵んで頂ければそれで……お料理も出来ます。船の上でも、食事に困らぬ様にお世話いたします!」
「つってもなぁ……」
「ああ、俺らも雇われてる身だからな」
「何とかしてやりてえとは思うが……」
まくし立てる燐花の懇願に、男達は再び顔を見合わせ困ったように頷きあう。
その表情は、本気で困っているようだった。演技だとは欠片も疑っていない。
(「ふむ……もう少し押せばいけそうじゃの」)
彼らの様子に、燐花が胸中で次の言葉を思案する。
「何を騒いでいる」
そこに、随分とガタイが良く人相の悪い男が現れた。
「こ、これはその……!」
「この娘が船に乗せろと頼み込んで来まして……!」
途端に燐花と話していた男達の顔色と態度が変わる。様子からして、上役と言ったところだろう。
(「これは都合が良いのじゃ」)
「あ、あの。船に乗せてもらえませんか。食事のお世話も……なんでもしますから」
燐花は人相の悪い男へと、再び懇願してみせる。
「ほう……」
すると男は、燐花の全身を頭から足の先まで舐めるように視線を走らせた。
「いいだろう。おい、あの部屋に連れて行け――判るな?」
人相の悪い男は二つ返事で燐花に頷くと、後半は最初に話していた男達へ告げた。
(「あの部屋? どこじゃ?」)
燐花の疑問は、すぐに判明した。
なんの事はない。頼んでいた船内の、奥の船倉である。
尤も、船倉として使われている事の方が少ないのでは、そう思われる場所だった。
燐花は手足を縄で雑に縛られ、そこに放り込まれたのだから。
「ま、こうなったら乗る船を間違えたと諦めてくれ」
「大人しくしてれば、殺される事はないからな」
燐花を連れてきた男達は、そう言い残して去っていった。
(「むう……必要ならたらし込みでもしてやろうとは思っておったが……ちょいと仄めかしただけで、これか」)
燐花は『そう言う目的』で連れ込まれたと見て、まず間違いないだろう。
だが、念の為にと隠し持っておいた小刀はそのまま。確かめもしなかった辺り、杜撰と言うか何と言うか。慣れしていない感はある。
(「まあ良いわ。今すぐどうこうされる事もなさそうじゃし、狭い船じゃ。この中におれば、外とは違う話も聞こえるやもしれぬ」)
燐花は胸中で呟くと、まず念動力で動かした小刀で手足の縄を切って拘束を解いた。
いつでも逃げられるようにした上で、そのまま目を閉じて、耳を澄ます。
船越しに潮騒の音が聞こえる。
やがて――大人数の足音と、話し声が聞こえてきた。
『――今回はやけに武器の積み込みが多いな?』
『聞いてないのか? 今後はずっとだ。ついにアレを始めるらしいぜ』
『え、もう? ……出来ると思うか?』
『仕方ない……食っていく為だ』
(「ふむ……海賊まがいの事かの? あまり猶予はなさそうじゃ」)
事態が進行しつつあるのは間違いない。だが、まだ『鵜足屋』が黒と言う確証には足りない――燐花は声と気配が遠ざかるのを待って、船から抜け出した。
――『鵜足屋』の船に武器が積み込まれた。『鵜足屋』の怪しさが増した。
成功
🔵🔵🔴
ベルベナ・ラウンドディー
【情報収集・毒使い・毒耐性・医術】
毒を扱うため人派の姿
外来の医者という体を装い、城中で調査
姫、或いは病状の診察者や薬を用意する者(薬師?)の周辺環境の変化を調べます
毒殺を見抜かれぬようになどと専門性が高すぎる偽装工作は
どこかで大変な労力が必要になる
糸口を掴むならそこでしょうか
誰が診た?誰が薬を手配した?その薬の信頼性は?
隠密行動が約束される範囲で薬の調達経緯に着眼した情報を拾いつつ
ユーベルコードにて過去の様子を探り
不審な点の有無を姫と共に確認してもらいます
外部者が歩き回れば敵に警戒されてしまいます
薬、医術には明るいほうですが
狭い島、まして城中の変化なら私よりも詳しいはず
協力をお願いできますか?
●燧の城
「御免」
淡い緑の髪と緑の瞳。額には瞳の色と似た月に似た形の紋様を持つ青年が、燧島の中央にある城を訪れていた。
ベルベナ・ラウンドディー(ドラゴニアンのバイク乗り・f07708)である。
「な、何奴か!」
「私は医者です。こちらの姫の御身体の件で、この城の薬師とお話があるのですが」
「そんな話は聞いて――」
「悪いようにはしませんので」
警戒を強める門番に、ベルベナは天下自在符をちらつかせる。
一度瞬きし、天下自在符を凝視した門番は、顔色を変えて後ずさった。ベルベナは騒がぬよう、口元に指を立てながら門をくぐる。
「江戸の殿様より内密の依頼を受けております故。どうか、ご内密に」
ベルベナの言葉に、門番は緊張しきった様子で無言で頷く。
とは言え、そう大きくもない城だ。
彼はこれで黙らせられたが、それだけで余所者が入った事をいつまでも隠し通す事は出来ないだろう。時間が経てば経つほど、歩き回るのも難しくなる筈だ。
(「時間との勝負ですね」)
やがて、ベルベナが案内されたのは城内の外れにある庵だった。
中にいたのは、老人の薬師であった。
「はて……客の予定はなかったがのう?」
「あなたが、この城の姫の御身体を診ている医師ですね?」
首を傾げる老人の前に、ベルベナは無言で天下自在符を見せると、そのまま向かい合う形で腰を降ろした。
「何か周囲に変わりはないですか?」
「一番の変わりは、今目の前におりますがのう?」
ベルベナの言葉に、老人はのらりと笑って返す。
意外に食えない。
(「向こうも、私の事を訝しいと思っている……まあ当然ですね」)
ベルベナは小さく息を吸うと、本題を切り出した。
「単刀直入に聞きます。姫の薬が増えたり変わったりしたのではないですか? しかも、ごく最近になって」
「何故、それを――」
今度は、老人も驚きを隠しきれなかった。
毒殺を見抜かれないように偽装すると言うのは、専門知識も必要になる、それに関わるどこかで大きな労力のかかる偽装工作だ。
もしも目の前の老人がそれに加担しているのであれば、この程度のカマかけに顔色を変えて露呈させるとは考え難い。
「……望む光景を出せるわけではないのですが」
ベルベナが立てた指先に、炎が灯る。その炎の中には、この庵の中で薬師の老人が薬を作っている姿が映し出された。
「……!」
「この炎には過去が映ります」
「……天下自在符をお持ちの上に、斯様な術まで使う方に隠し事は出来ませぬか」
ややあって、老人も大きく吐いた息と同時に言葉を搾り出した。
お互いに、探り合う腹がないと確かめられたのだ。
「この薬の事ですな」
老人が取り出したのは、一見、何の変哲もない粉薬。
「誰が薬を手配した? その薬の信頼性は? 城中の変化なら私よりも詳しい筈」
「代官じゃ」
ベルベナが矢継ぎ早に重ねた問いの答えは、あっさりと得られた。
「代官も港の商人を通じてでしょうが、儂には言われるがまましか――」
「ですが、その薬がここにあると言う事は」
喋る言葉を遮ったベルベナに、老人は黙って首を縦に振る。
「協力をお願いできませんか?」
「ふむ? 何をお望みか」
「姫に会わせて頂く事は? 先の炎で姫にも――」
「そこまで動けば、確実に気づかれましょう。今やこの城で、代官の息がかかっていないものは姫を含めて極僅かですからのう」
ベルベナの提案を、しかし老人は今度は首を横に振った。
「今の所は、行かれよ。薬の事は儂がもうしばらくは持たせられるし、姫の御身体も肺が強くないと言うだけ。今すぐ動けなくなるような事はないですじゃ」
そう告げると、老人はベルベナに1枚の紙を持たせた。
『城の北側はまだ拓かれておらず、島の者でなければ土地勘はないのじゃ』
開いた紙に描かれていたのは、その北側の地図らしいものだった。
それが何を意味するのか。
城中に留まる事は叶わなかったが、託されたものを手にベルベナは城を後にした。
――島の北部の地図を手に入れた。
大成功
🔵🔵🔵
テラ・ウィンディア
よし!お船に働きに行くぞ
意外とおれって力仕事も頑張れるんだぞ!
風早屋の港で働くぞ
その…お金がなくて
こんななりだけどっ…力仕事とか得意ですよっ(なれない丁寧語であたふた
それでもやるからには存分に木材とか運んだり【料理】による目利きでお魚とかの良い悪いの判別したりとか働き続けるぞっ
この風早屋ってどういう所なんだー?
やっぱり働いてる所をちゃんと知っておきたいし
何より周囲の関係についても周りに合わせなきゃいけないから教えてほしいぞー?
基本相手の話には驚いたり頷いたり疑問点は素直な気持ちで聞いたりして徹底的に情報を洗い出して
メモを取ってきちんと他の猟兵とも情報共有を行うぞ
得意じゃないけど出来る事はするさ
櫟・陽里
仕事探してるんだマジで!
体力あるしキツくてもいいから稼ぎたい
…っていう態でどっちかの廻船問屋に押しかけバイト面接
なんとなく他の猟兵の空気を読み捜査が手薄な方の港を選ぶ
俺、乗り物は大体得意なんだけど水運系は初めてなんだ
船の操作に興味津々で質問攻め
どさくさ紛れにこの積み荷儲かるやつ?なんて質問も織り交ぜつつ
はにわ?ってのが名物なんだって?実家の土産に買おうかなーなんて世間話もしつつ
敵の目を盗んで荷の中身や宛先確認
港の倉庫の数、立地、人の出入りなんかをよく見とく
夜中に不自然な船出がないかとか
武器庫なんかあれば怪しい
そこで何してる的なピンチには
船を速く走らせるための体力づくりでーす
スポーツマンのノリ
●西の風早
「ここで働かせて下さい!」
「ここで働かせてくれ!」
西の港に、テラ・ウィンディア(炎玉の竜騎士・f04499)と櫟・陽里(スターライダー ヒカリ・f05640)の声が響き渡る。
2人とも、西の風早屋に働き手として潜り込もうという魂胆だ。
風早屋に当たりをつけたテラに、西側の調査の手が少ないと見た陽里が加わり、2人で口裏を合わせる手筈は整えている。
「ええと……急に来られても……」
積荷の目録らしき紙を捲っていた男は、押しかけて来るなり頭を下げてきた親子のようにも見える2人組みに、訝しむような困ったような、微妙な反応を見せた。
「仕事探してるんだマジで! 体力あるから、キツくてもいいから稼ぎたい」
「その、おれもお金がなくて。こんななりだけどっ、力仕事、得意ですよっ!」
ならばと、陽里は食って掛かりそうな勢いで、テラは慣れない敬語ながら、困窮に困っているような言葉を重ねた。
「わかった、判りました。旦那様に掛け合ってみますから、そこでお待ちを」
そう言うと男は紙を手にしたまま、『風早屋』の屋号を掲げた建物へ入っていく。どうも今の男は、風早屋の関係者であるのは間違いないが、本人ではないようだ。
確かに待つ時間は、あまり生じなかった。
「許可が出ましたよ。一応、採用です」
(「「早っ!」」)
店から出てきた男の一言に、陽里とテラは思わず噴きそうになる。ものの数分の出来事だった。だが、一応とは?
「今後の事は――今日の働き次第、と言う事です」
現代風に言うなら、仮採用期間、と言うヤツだろう。
「力仕事もこなせると言う事でしたので、ここの荷物、船に運んでください」
男が言うここの荷物とは、まさか周りにある木箱全てだろうか。
こうして、テラと陽里は自分達がアピールの中で口走った力仕事に、しばし従事することになった。
まあ、さすがに新入り2人だけ、と言う事はなかった。
「新入りってのは、お前達か」
「親子? にしちゃ似てねえな?」
昼食でも取っていたのだろう。ぞろぞろと姿を現した男達が、テラと陽里に視線を送りながら木箱を担ぎ上げては運び出していく。
陽里もすぐにその並びに加わって、木箱を1つ担ぎ上げた。
「これって儲かるやつ?」
「さてな?」
「はにわ? ってのが名物なんだって? 実家の土産に買おうかなーなんて」
「長く雇われたけりゃ、余計な詮索はしない事だ」
あくまで興味本位という風に陽里が探りを入れてみるが、港で積み込みをしている男たちは、運び込んでいる荷物の中身を知らないようだ。
或いは――敢えて知らないようにしているのか。
「今日の荷は1つ1つがデカイが、運べるかぁ」
一方、テラは数人の男たちの視線を浴びながら、木箱の1つへ近づいていき。
「持て……ますっ!」
回しても手が回りきらない状況で、それでも木箱はひょいと持ち上がった。
実はテラの手が光っていたり、こっそりグラビティ・チェインの超重力の鎖が出ていたりしているが、気づかれた様子もない。
「やるじゃねえか!」
「ちゃんと働けるな!」
そうと知らぬ大人の男達から、感嘆の声が上がった。
「あの、この風早屋ってどういう所……なんですか?」
そんな彼らに、テラは荷物を運び終えた所で情報を探り出しにかかった。
「おいおい、そんな事も知らねえで働きに来たのかよ?」
「やっぱり働いてる所を、ちゃんと知っておきたい……ですし……周囲との関係とか、合わせないといけない事もあるかと」
たまに途切れるのは、テラが丁寧な言葉遣いに慣れてないからだが、その辿々しさが働く事自体の不慣れさと男達の目には映っていた。
故に、口も軽くなる。
「風早屋。この燧島の西の港を一手に仕切るやり手の旦那さぁ」
「売ってるもんは馬鹿みたいに高いもんばっかだが……おかげで土地勘のある俺らが、こうして雇って貰えてるわけだ」
(「……この人たちは、元々島に住んでた人なのか?」)
胸中で呟きながら、テラは成程と書き記す。
「東の鵜足とは、どういう関係、ですか?」
「別に仲は悪くねえよな?」
「西と東じゃ、客が違うからなぁ」
廻船問屋同士で、潰しあうような事はないと見てよいだろう。
どちらもオブリビオンの代官と繋がっているのであれば当然だが、廻船問屋同士に明確な上下がないとも取れる。
(「対等? オブリビオンと人間の商人が? そう装ってるだけか?」)
「どちらも対等、ですか」
「そう言う事になるんじゃねえか?」
テラが念を押して、男たちから情報を得ようとしていたその頃。
「倉庫、幾つあるんだ……?」
陽里は、荷の方を調べにかかっていた。
船に積み込んだ方ではなく、まだ陸にある方の荷物だ。
何とかその中身を確認できればと思ったが、さすがに蔵には番がいた。その目を盗んで蔵に入って、更に荷物の中身を調べるのは猟兵でも難しい。
何とかならないだろうかと歩き回っていると、やけに番の人数が多い蔵が視線の先に見えてきた。
(「随分と厳重だなぁ……武器庫とか?」)
もしそうであるなら――やはりただの商人ではないようだ。
「そこで何をしているのです?」
様子を伺う陽里の背中にかかる声。
最初に雇ってもらうよう話した男が、そこに立っていた。
「船を速く走らせるための体力づくりに走ってたら、迷っちまって」
「……まあ良いでしょう。風早の船は、手漕ぎではないから意味は無いですが」
陽里の言葉を信じたのか、男はそれ以上追究する事無く、戻って別の荷を運ぶよう短い指示を飛ばしただけだった。
――『風早屋』と『鵜足屋』の関係は悪くないらしい。
――『風早屋』の武器庫?を見つけた。不審な船は見当たらない。
――『風早屋』の怪しさが増した。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
真守・有栖
わっくしょん!?
まーた誰かが私の美狼っぷりを噂していたのね!?
全く、罪な狼ですこと!
東と西。どっちに行くか悩むわ。
此処は棒を倒して、と。ふむふむ、方角は北ね!
つまり、城下町に赴けと?
そーゆーことね!
何を隠そう、私は流れの巫女。
どこにいたってちっっっとも可笑しくないわ!
わったっしはおおかみっ
とっっってもおおかみっ
おおかみのおうたを披露するわ!
おいしいおさかな料理と……そう、情報を集めるために!
忘れてはいないわよ?今、思い出したもの!
(たぶん)たくさんの観客から美味しいお店と……廻船問屋について聞き込み開始よ!
お店を聞き出したらさっそく調査しなくては!そこにおさか……手がかりがきっとあるはずだわ!
●歌狼
「わったっしはおおかみっ♪ とっっってもおおかみっ♪」
燧の城下町――と言うか村と言うか――に、弾むような歌声が響いていた。
「つっっっよいおおかみっ♪ きっれいなおおかみっ♪」
ぱたっ、ぱたっと銀の尾でリズムを取りながらそれを歌っているのは、真守・有栖(月喰の巫女・f15177)であった。
作詞作曲も有栖な、おおかみのおうた、である。
良く聞けば自画自賛なのだが、歌っている有栖自身が実に楽しそうで、ひけらかすような空気がまるでない為、そう言う風に聞こえない。
1つの人徳と言っても良いかもしれない。威厳がないとも言うが。
「何だ、何だ?」
「歌芸かい?」
「お狐様だー」
「きっつねじゃないのよっ♪ さいしょくけんびのおおかみよっ♪」
何やら珍しい余所者が歌ってるぞ。
そんな風に聞きつけた村人達がざっと十数人集まったので、有栖は適当なところで歌を切り上げ、本題に入る事にした。
「何を隠そう、私は流れの狼の巫女よ」
「見りゃ判るわい。べっぴんな巫女さんじゃのー」
身分を明かした有栖に、ぷるぷる頷くおじーちゃん。
「で、何しに来たんじゃぁ?」
「……導かれたのよ。この島に」
おじーちゃんの問いかけに、有栖は遠く南を見ながら返していた。
――時は少し遡る。
「わっくしょんっ!?」
南の浜に程近い木立の中に、有栖の可愛らしいくしゃみが小さく響いた。
「まーた誰かが私の美狼っぷりを噂していたのね!? 全く、罪な狼ですこと!」
何故かそう確信して銀の尾をゆらゆら揺らす有栖だが、とりあえず周りに噂をしている者の姿はない――と言うか、人っ子一人いない。
まあ、ここではない何処かなのだろう。
そんな誰もいない木立で、有栖が何をしているかと言うと。
木の棒――と言うか風か何かで折れたらしい枝を地面に立てていた。
有栖は迷っていたのだ。
東と西。どちらに行くべきか。
そして有栖がそっと手を放すと、棒が倒れたのは正面――つまり北であった。
「つまり、城下町に赴けと? そーゆーことね!」
と言うのが、有栖が城下でおおかみのお歌を歌っていた顛末である。
島(の木と土)に導かれた。
まあ、ウソは言っていない。
「私が聞きたいのは情報よ。おいしいおさかな料理のお店と……廻船問屋について」
歌に引かれて集まった村人達に、有栖は率直に問いかけた。
「魚かぁ……この時期だったらまず鰆だろう」
「イカナゴも酒が進むのう」
「カツオも美味しいよ、おおかみのおねーちゃん!」
さすが、島の人々。
旬のお魚情報は子供だって知っている。
「魚が食いたいなら、こんなとこにいないで西か東、どっちかの港さいけ」
「だな。どっちも漁師がいるし」
「この辺は農家が多いからのう」
有栖の元に集まる美味しいお魚情報。だが――集まるのは魚の方ばかり。
「ふむふむ、美味しいお魚たくさんね! ありがと! 廻船問屋は?」
有栖が重ねて問いかけると、村人達の表情がさっと曇った。
「その、関わり合いにならねえ方がいいぞ?」
「あんまり大きな声じゃ……な?」
それでも何人かが言葉を選んで口を開いてくれる。
この反応を見るに、元々島に住んでいた人達は、どちらの廻船問屋の事もあまり快くは思っていないようだ――何かに使えるだろうか?
「そう、判ったわ! とりあえず、美味しいおさかなの調査をしてくるわね!」
村人達に見送られ、有栖は城下を後にした。
――城下の人々が猟兵達に対して一定の信頼を置いた。
成功
🔵🔵🔴
木元・杏
【かんさつにっき】
鵜足に行く
はにわっぽい人がわたし達の島に来て
自分の島には山吹色のお菓子がたくさんって言ってたの
お菓子買いに来たけど……お金足りない
お手伝いでも何でもする
と、港に面した宿場で下働きを申し出る
わたしお掃除得意(こくこく)
潮風、気持ちいい
てきぱき宿の窓拭きし
船から降ろす積荷を観察
積荷、どこに格納するのかな
内緒の積荷は洞窟に入れる島もあるけど
傍を通りかかった人に聞いてみる
休憩時間に
船近くの船員に話しかけ
鵜足屋さんの船すごいね
風早屋さんが島一番の船廻屋って聞いてたけど……
敵対心揺すって
風早屋さんの情報も聞き出してみる
夜、まつりん(祭莉)、小太刀と合流して情報共有
積み荷とか島の地理を調査
木元・祭莉
【かんさつにっき】でー。
どっちも悪い奴なんでしょ? 少しくらいやりすぎちゃってもいーよね♪(にぱ)
おいら、旅芸人の卵を装ってみるね。
(ダンスや歌唱でパフォーマンス三昧、東の村人に披露)
鵜足屋さん。おいら雇ってみないー?
ここの姫様っておいらくらいの年でしょ。遊び相手に!
ふむふむ。
東西の港と中央の村の間に街道がある。
花粉症の原因になりそうな植物(どんなの?)の丘を越えると、獣道(発掘品出土域&ハニワ族?居住地へ)が分岐してる。
その先には(発掘品の隠された)洞窟がある、かも?
小川があって小舟が使えて。
鵜が生息してて、鵜飼いの人がいて?
荷物の動きとか、調べたいなあ。
夜になったら抜け出して行ってみよー?
鈍・小太刀
【かんさつにっき】
べ、別に、ハニワ王子の花粉症が気になって仕方ない訳じゃ無いからね!
(無駄にツンデレ風味
鵜足屋へ
どっちの船廻問屋も海賊始めるんだっけ
雇われた人足達も当然お腹は空くよね
船問屋近くの定食屋にバイト店員として潜入しよう
場に馴染めるよう町娘スタイルに変身
人の集まる場所で聞き耳立てて情報収集するよ
お酒飲んで気が大きくなってる人が居たらお酌して
噂話とか自慢話とか色々聞いてみるのもいいかもね
注目するのは荷物の流れと人の流れ
近頃急に荷物が減った航路とかあればハニワ王子に関係してるかも?
夜になったら杏や祭莉んと合流
互いの情報を整理して現地調査してみよう
できれば証拠、押さえたいしね♪
※アドリブ歓迎
●潜入捜査
カラカラと窓の障子を開けると、海からの風が部屋を吹きぬけた。
「潮風、気持ちいい」
肩上で黒髪を揺らす海風を感じながら、木元・杏(微睡み兎・f16565)は手にしたハタキをパタパタとかけ始めた。
ここは、東の港に一番近い宿。
杏はそこで、臨時の下働きとして働いていた。
「ここで働かせて欲しい。お手伝いでも何でもする」
数時間前、杏自身が、そう頼み込んだのだ。
「はにわっぽい人がわたし達の島に来てね。、自分の島には山吹色のお菓子がたくさんあるって言ってたの。それでお菓子買いに来たけど……帰りのお金足りなくなったの」
勿論、芝居である。杏の目的はお金ではなく情報を得る為だ。
「成程ねえ。何が得意なんだい?」
「わたし、お掃除得意」
「じゃあ、とりあえず部屋の掃除でもして貰おうか」
宿の女将は特に疑いもせず、無事に日雇いとなった訳だ。
それで言われたままに掃除をしているのだが、まだ夕暮れ前とあってか、泊り客は多くはない。杏が本格的に情報を得られるようになるのは、もう少し後になりそうだ。
「大きな積荷を持ってくる人、いないね。やっぱり外にしまってる?」
障子を開けたままの杏が身を乗り出して外を覗くと――何やら歓声が聞こえた。
「集い花 咲き誇りて」
人だかりの中心にいたのは、歌って踊る赤茶の髪の少年――木元・祭莉(花咲か遮那王・f16554)だ。
「憩う庭 想い溢れ」
旅芸人の卵に扮して、祭莉が歌い踊るは母直伝の踊りだ。
ふさふさの尻尾を揺らして、くるっくるっ。回って止まってまた回って。静動のはっきりした動きで周囲の目を引いて、集まった人達に、祭莉はにぱっと笑いかける。
「鵜足屋さんって見てる? おいら雇ってくれないかなー?」
「鵜足屋の旦那かい? 今日は見てねえなぁ」
「そっかぁ、残念。どこに行ったら会えるかな?」
首を傾げる町人に、祭莉は問いを重ねてみる。
「ここの姫様って、おいらと同じくらいの歳なんでしょ? 遊び相手に!と思ったんだけどねー」
だが、祭莉が町人に幾ら聞いても、廻船問屋本人の居場所ははっきりしなかった。あまりしつこく尋ねて、怪しまれても仕方がない。
「じゃあ、この島の事、教えてよ。おいら、探検とかしてみたい! 秘密の洞窟とかあったりしないかなー?」
祭莉は集まった人々に尋ねる話題の、方向性を変えてみる。
「秘密の洞窟?」
「そんなもん……あ、いや待てよ? なぁ……」
「ん? ああ、北側に何かあるんだっけ」
「なになに? 何かあるなら、教えてよっ」
思わぬ反応に、祭莉は愛想の良さそうな笑顔で問いかけた。
「なんだか今日は賑やかだなぁ?」
「いつもの定食と、酒もくれ。冷やで!」
賑わう通りに面した定食屋。そこに、船員らしきごつい男達が数人、入ってきた。
「もう飲むのかい?」
「今日は船も出ねーからな!」
苦笑を浮かべる主に、船員達はしゃがれた大声で応える。これは、飲んで食べないと帰りそうにない勢いだ。
「じゃ、悪いけど先に酒を出してやってくれ」
「はい」
主に言われてこくんと頷き、人数分の徳利を持って行ったのは、灰色の髪の少女――鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)だった。
「あれ? 見ない子だな?」
「親父よぉ? 隠し子か?」
「日雇いよ」
下世話な冗談を叫ぶ男達に、小太刀が鋭い目つきで視線を向ける。小太刀は違和感がないよう町娘と言った出で立ちだったが、他所者である事は隠しきれないようだ。
「船乗りさん?」
「おお。海の男ってヤツだな」
小太刀はその後も給仕の間を縫って、男達と何度も話をした。酔う前からこの様子ならば、酒が入れば口も軽くなるのではないか――そう踏んで、だ。
「船って何を運んでるの? お宝?」
小太刀は男達に追加の料理と徳利を運び、お猪口に酌をしながら話を振ってみる。
「お宝ねぇ。ま、そう言うの運んだ事もあったなぁ」
「そう言やあ、最近はああいうの運ばなくなったよな」
「島の北側回らなくてすむから、らくだけどな!」
(「北に何かあるみたいね」)
男達の酔いはその酒量に従い、深くなっていく。彼らから小太刀が得られる情報は、これくらいだろう。
●夕刻――小休止
夕刻の東の港。
「鵜足屋さんの船? すごいね」
大きな船を見上げ、近くの船員に杏が声をかける。
休憩時間を貰ったので、港まで出てきたのだ。
「ん? ああ、すごいだろ。島一番の船だからな」
急に声をかけられ驚きつつも、船員は杏の問いに素直に返してくれた。その後ろ、船の中から猟兵らしい黒髪の姿がこそこそと出てくるのが杏の目に映る。
「島一番の廻船問屋は、風早屋さんって聞いてたけど……」
そちらが気づかれないようにしつつ、情報を得る為に、杏はわざと煽るような言葉を淡々と口にする。
「あっちは地元の元漁師が多いんだよ。船は上手いかもしれねえが、魚臭いぜ」
「そうなんだ。ありがと」
こくりと頷き、杏は船から離れていく。
港の外れまで行くと、祭莉と小太刀が佇んでいた。
「おいら、すごい情報聞いちゃった♪」
なにやら興奮した様子で、祭莉が口を開く。
曰く。
東西の港から中央の城下町までの街道。その脇に田んぼが続く丘がある。今時分、稲が花を咲かせている間のあぜ道を抜けていくと、北の檜の森の外れにぶつかる。
そこを良く見ると、獣道がある。途中の分岐を左、北西へ抜けていくと――。
「そこに洞窟があるんだって!」
「……なんの?」
「それはわかんなーい」
首を傾げた杏に、祭莉も首を傾げて返す。
「でもでも、何か隠されてたり、ハニワ族がいたりするかも?」
「ハニワ族はともかく、北に何かあるかもしれないのは、私も聞けた」
首を傾げる双子の横から、小太刀が口を挟む。
「だから、夜になったら抜け出して行ってみよー?」
「私も、森は調べて良いと思う。べ、別にハニワ族とかハニワの花粉症が気になって仕方ない訳じゃ無いからね!」
「いいけど、すぐは無理」
にぱっと笑顔の祭莉と、何でかツンデレ風味を発揮した小太刀が告げるも、杏がふるふる首を横に振った。
「宿、これからしばらく忙しい。だから休憩貰えたの」
「……そう言えば、私が雇われた定食屋も、夜まで忙しいんだった」
杏と小太刀、日雇いとして宿と定食屋に潜り込んだが故の忙しさである。
(「あれ? でも私達、そこまで働く必要あるのかな?」)
答えてしまってからそこに気づいて、小太刀が胸中で首を傾げる。
だが、その間にも話は進んでいて。
「どうする、まつりん。明るい内に1人で行く? 夜まで待って真っ暗な森に入る?」
「ええ……っと」
実はビビりな祭莉にとって、杏が割と究極の選択を突きつけてたりした。
●謎との遭遇
そして夜。
【かんさつにっき】の3人の姿は、町からも道からも外れて、田んぼの中のあぜ道をてくてくと歩いていた。
結局、夜まで待って3人で町を出たのだ。
「暗い中のたんけんに行くのも、結構楽しいねー」
先頭を歩く祭莉は今は夜道にもビビる事も無く、足取りは楽しげであった。後ろに2人がいるお陰だろうか。
「ねえ、杏?」
「なに、小太刀?」
その後ろを歩く2人が、小声でヒソヒソ話を交わす。
「私達、夜まで律儀に働かなくても良かったんじゃない?」
所詮は情報を得る為なのだ。とんずらした所で、自分達がただ働きになるだけのことではなかっただろうか――小太刀がずっと引っかかっていた事だ。
「そうだけど。でも」
足を止めた杏が、小太刀の方をじっと見上げて。
「まかない、食べたかった。お肉美味しかった」
「……ああ、うん。そっか」
きりっと告げる杏に、小太刀はそれ以上何も言えなかった。
杏が働くなら私だって――なんて、謎の対抗心が小太刀の中にあったから、ついしっかり働いてしまったのだなんて、言える筈がない。
閑話休題。
「んんー? 獣道って、これかなー?」
「不安になる事言わないで!」
「迷子? 遭難?」
眉間に皺を寄せて茂みを探る祭莉の背中を、小太刀と杏が不安そうに見ている。
辿り着いたものの夜の森は鬱蒼と暗く生い茂り、外から見ただけでは、中は暗闇に包まれていた。灯りはあるが、地図もなしに入るのはどうだろうと思わせられる。
そんな時だった。
ズズ……ズズズ……ズズズ……。
3人の耳に、何かを引き摺るような奇妙な音が、森の中から聞こえて来たのは。合間にガサガサと木々や葉が擦れる音も聞こえる。音の主は、森の中を移動している?
「んー? 土のにおい?」
スンスン嗅いだその匂いの種類を、祭莉が口にする。その間にも、音は斜め前方から近づいてきていた。3人が思わず身構える。
ガサガサガサッ!
草木を押し退けた黒い影が、森の中から現れて3人の前を横切り――。
『……。ウワァァァァァァァ人間ンンンンンン!!!!』
脱兎の如く、逃げ出していった。
「……な、何、今の」
古びた刀に手をかけたまま、小太刀が声を絞り出す。
「きっと、ハニワ族だよ! シルエットがまるーい感じだったし」
好奇心が恐怖を勝ったか、祭莉は目を輝かせている。
とは言え、ハニワ族か否かはさておき、『何か』がいるのは間違いない。
「……一度、戻ろう?」
それが最善だろう。杏が一番、冷静だった。
――『鵜足屋』は以前、島の北に船を寄せた事があった。
――『風早屋』には島の元漁師も多く働いている。
――街道から外れた森の中に、洞窟がある?
――森の中に、何か動いて喋るものが住み着いている?
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
第2章 冒険
『消えたお姫様』
|
POW : ひたすら足で情報を集め、お姫様を探す
SPD : 小さな情報や証拠を探し出し、真相に近づいていく
WIZ : お姫様が消えた理由や、事件の裏側を推理する
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●急転直下
深夜。多くの人々が寝静まった頃。
思い思いに調査していた猟兵達は、一度集まって得た情報を纏めていた。
・『鵜足屋』の船に武器が積み込まれている。海賊の準備だろうか。
・『鵜足屋』の船倉の一部は、人(女性)を監禁する目的にも使われた形跡がある。
・『鵜足屋』の船員には柄の悪いものもいた。
・『鵜足屋』は以前、島の北に船を寄せていた事があった。
・『風早屋』と『鵜足屋』の関係は悪くない。
・『風早屋』の仕切る港には警備の厳重な蔵がある。
・『風早屋』の仕切る港から不審な船が出る様子はない。
・『風早屋』には島の元漁師も多く働いている。
・城下に住んでいる人々は代々の島民ばかり。
・彼らは『鵜足屋』も『風早屋』もあまり好ましく思っていないようだ。
・城内には姫の薬師もいる。
・悪代官の手引きで姫の薬が変わった事に、薬は気づいている。
・今は雌伏の時。
・島の北部は拓かれておらず、元からの島民でなければ土地勘がない。
・島の北部の地図を入手済み。(☆)
・街道から外れた森の中に、洞窟があるらしい。
・森の中に、何か動いて喋るものが住み着いている。(ハニワ族?)
・おさかな料理美味しい!
・まかないのお肉も美味しい。
項目別に整理すると、主な情報はこんなところだろうか。
一部おいしいもの情報は脇に置いておくとして。
情報量としては、『鵜足屋』も『風早屋』も大きな差がなく集まった。現段階でどちらが怪しいかと言えば――『鵜足屋』になるか。
どちらも黒い商売をしているのだから、この調査に白はいないのだ。
黒の中から真っ黒を探すと言うのであれば、今の情報なら『鵜足屋』だろう。
『風早屋』は関係者との邂逅に成功したが、『鵜足屋』は船の関係者だけで廻船問屋の関係者に会えていない点もおかしい。
あと気になるのは、森に潜む何者かの存在だが――敵性存在、或いはオブリビオンであれば、遭遇した3人がただでは済まなかった筈だ。
そう言う意味では、敵でない可能性はある。
猟兵達は情報を交換し、次の方針を考えながらそれぞれ見つけた塒に戻る。
そして、夜が明け――事態は思わぬ方向へと進んだ。
――カンカンカンカンカンッ!
島の中央、城下町に警鐘が響き渡る。そう大きくはない島だ。
警鐘が東西の港、島のあらゆる集落に届くのに、半刻と掛からなかった。
「た、大変だ、大変だー! お城から姫様が消えたってよ!!!」
気づいた時には、姫の部屋はもぬけの殻。
血痕などの惨劇の後はなく、ただ姫だけがいない。
果たして人攫いか家出か神隠しか。城も島も大騒ぎ。
幸い、猟兵達は『誰も城に逗留しなかった』事と、特に城下町の人々から一定の信頼を得ていたのもあって疑われてはいない。
城を訪ねた猟兵に薬師が城を出るよう言ったのは、もしかして――?
今日の燧島は、慌しい1日になりそうだ。
==============
2章のプレイングについて
主な目的は『消えた日内の姫を見つけること』となります。
POW、SPD、WIZの項目はただの例だと思って下さい。
どこをどう探すかは、今回も自由です。
それぞれのスタート地点は、燧島内であれば、どこでも可。
島で一夜を明かした時点からの開始となります。
ミスリード防止で1つだけ明かしておきます。
姫は燧島から出ていません。それはどんなプレイングがきても変えません。
事件は島の中で起きている!
ハニワ族?とか、なんだかカオスな予感もありますが、
姫を見つけ出す事で、悪徳商人の正体もはっきりする筈です。
今回も自由にプレイングをかけていただければと思います。
==============
真守・有栖
なーるほど?
やっぱり私は島に導かれし狼だったのね!
棒が示した先は“北”
つまり、森に向かえと。そーゆーことね!
きっとお姫様もそこにいるに違いないわ!
えぇ、探狼たる私にお任せあれ!
城下町。
おさかな料理を教えてくれた御礼を伝えながら町の人から情報収集よ!
一食の恩義に報いるために。この巫狼たる私がお姫様を探し出してみせるわ!
ところで。いなくなったお姫様ってどんな人なのかしら?
切れ者だったり。武芸に秀でていたり。とっっっても美人だったりするのかしらね!
それに北の森。はにわ族なる者がいるそうじゃないの。
はにわぷりんすの子孫かしら?
はにわに子孫っているのかしら???
ま、いいわ!
さっそく、森の探索よ!(続く)
●姫の名は
「やっぱり私は島に導かれし狼だったのね!」
城下町に続く街道を歩いている真守・有栖の銀の尾は、ぱったぱったと、どことなく自信に満ちた様子で揺れていた。
思い起こすのは、昨日のことである。
有栖が置いた棒が示した先は“北”だった。
つまり。
「森に向かえと。そーゆーことね! きっとお姫様もそこにいるに違いないわ!」
だが、森に向かう前に有栖にはやっておく事があった。
「あ、昨日のお狐様だー」
「狼よ!」
城下町に入った有栖は、昨日も話した子供の無邪気な声に笑って返す。
「おや、昨日の巫女さんじゃねーか」
「今日は何の用だ?」
「昨日は、おさかなの美味しいお店のことありがとう。とってもおいしかったわ」
子供に続いて出てきた大人達に、有栖はまず礼を伝える。
「そしたら、今日は山菜でも食いに来たか?」
「え? この島って山菜もあるの?」
「北の森にゃ結構生えてるぞ」
「そうなんだ――じゃなくて!」
脳裏に浮かんだ山菜料理のアレコレを振り払って、有栖は町人達に向き直る。
「お姫様の事を聞いて来たのよ。一食の恩義に報いるために。この巫狼たる私が、お姫様を探し出してみせるわ!」
「手伝ってくれるんか」
「いいのかい? すまないねぇ」
有栖の申し出に、町人達の顔が明るくなる。
「いなくなったお姫様って、どんな人なのかしら? 切れ者だったり。武芸に秀でていたり。とっっっても美人だったりするのかしら?」
期待の眼差しを向けてくる町人達を見回して、有栖はそう問いかけた。
大事なことだ。
とても大事なことだ。
探す相手の人相や、人となりを知らないでは、探しようもない。
「朔八姫様は、美人と言うか可愛らしい、かねぇ?」
まず、名前は朔八(さくや)と言うようだ。
「綺麗にそろえた真っ直ぐな黒髪ですよ」
「背は、おおかみのおねーちゃんよりも、かなり低いよ」
「頭の良いお方じゃ。あまり外に出られないから、書物を良く読んでおるそうでな」
「あの齢で、算術に長けているとも聞いたことあるのじゃ。参勤に向かう前、殿様が『最近は朔八に帳簿の間違いを指摘される』と笑って言っておられたぞい」
「お城の古い抜け道を見つけたって話も聞いたねぇ」
町人達は有栖を疑う事無く、姫についての知る限りを次々と伝えてくれる。
「ふむふむ。切れ者ってことね」
町人達からの情報を余すところなくメモを取りながら、有栖は神妙な顔で頷く。
帳簿に目を通せると言うのは、年齢を考えれば、かなりのものだろう。
「あ、あとねー。さくや様は、魚よりも山菜のほうが好きだって!」
「……ここの山菜ってそんなに美味しいの!?」
町の子がさらっと混ぜる美味しいもの情報に、有栖の尾がぴくりと揺れかける。
だが、揺れかけ、で止まった。
聞くべき事がもう1つある事を、有栖は思い出したのだ。
「それは置いておいて。北の森に、はにわ族なる者がいるって言うのは知ってる?」
はにわぷりんすの子孫かしら?
なんて思いながら、有栖は町人達に尋ねてみたのだが――。
「はにわ族?」
「はて? 北の森に出るのは猪くらいの筈じゃが……」
どうも町人達は老いも若いもも、森の謎の影については知らないようである。
とは言え、姫についての情報は貴重なものだ。
「ま、いいわ! あとは探狼たる私にお任せあれ! さっそく行ってくるわ!」
有栖はその情報を土産に、他の猟兵達の下へと戻っていった。
――朔八(さくや)姫の情報を得た。
大成功
🔵🔵🔵
黒夜・天
こんなの、(面白そうだから)北に行くしかねーだろ。
鵜足屋は北に船を寄せてたことがあって、風早屋は島の土地勘がある連中も働いてるんだろう?
どっちも北で何かやってる可能性があるじゃねえか
姫様が城から逃げるにしても、なるべく人に見つからないように隠れるならまあ北だろう
となれば、北に何かあるって考えるだろ? 別にハニワが気になるわけじゃねーぜ
オレの喰うものは他人の幸運・健康・財産・愛だ。だから動物が獲物のニオイを嗅ぎ分けるように、オレはそのニオイを感じ取れる。
そういうイイモノのニオイは生物からするものだろ。ニオイを辿れば何かしら生物は居るはずだ。オレはその方向へ歩くぜ
ベルベナ・ラウンドディー
毒殺を謀る代官の手口にしては合点がいきません
別の手合が先んじたか、何者かが匿ったか或いは…
兎角、姫の様子を知る薬師が失踪の兆しすら知らず地図だけ渡すなどと考えにくい
北を調べます
●追跡・失せ物探し
城中から姫が北へ移動した、されたと仮定するなら
…夜から朝にかけての暗がりの短時間で歩ける距離は限られる
つまり狭い範囲に手掛かりが残るはず
地図を参考にユーベルコードで急ぎ調査し
精度は二の次で捜索範囲を広げていきましょう
捜索者が出回って邪魔どころか跡を消されたら厄介です
…妙な丸いのもいるみたいですしね
姫の行方に関係あるならともかく無いなら寝ててくれません?
檜の森とかおすすめですよ。花粉飛んでるし
…あれ?
●北へ向かう理由
「こんなの、北に行くしかねーだろ」
「そうですね。北を調べるのは賛成です」
黒夜・天の浮かべた、ニイッとした楽しそうな笑みとは対照的に、ベルベナ・ラウンドディーは手書きの地図を怪訝そうに見つめていた。
「なんか難しい顔してんな?」
「まあ――正直、合点がいかない所が幾つかありまして。まず毒殺を謀る代官の手口にしては、妙ですよ」
ベルベナの言う事も尤もだ。
いくら毒を偽装するためとは言え、姫と懇意の薬師に毒を渡すなど、成功する確率の方が低いと言えよう。
「別の手合が先んじたか、何者かが匿ったか。或いは……」
ベルベナの頭の中には幾つかのケースが浮かんでいたが、どれも確信に足るだけのものにはなっていなかった。まだ。
それを確かめる術は――手元の地図にあるのだろう。
「この地図も、妙ですよ」
視線を落としていた地図から顔を上げて、ベルベナは天に向き直る。
「姫の人物像や直近の様子を知っている筈の薬師が、失踪の兆しすら知らずに地図だけ渡した、などとは考えにくい。まるで見つけてくれと言わんばかりですよ」
この地図は薬師からの何らかのメッセージ。
ベルベナのその推論に、異論の声は上がらなかった。
「この地図、北の船が寄せられそうな場所は描いてねえんだな?」
地図の写しを見ながら、天が口を開く。
まあ、薬師が描いたにせよ、素人が描いた地図であることは一目瞭然。
正確性は望めないのは致し方ない所だが、島の北側の海岸沿いについては特に何も描かれてはいなかった。
「鵜足屋は北に船を寄せてたことがあって、風早屋には島の土地勘がある連中も働いてるんだろう? どっちも、北で何かやってる可能性があるじゃねえか」
この点については、天の言う通りだ。
どちらの廻船問屋も、島の北側の何処かに船を寄せていたとしてもおかしくはない。
そう言う意味でも、北側を調べる価値は充分にあった。
●北の森にて
それからしばらくして。
島の北部に広がる未開拓の森の中。
「階段だな」
「階段ですね」
地図を頼りに森を探索した天とベルベナが見つけたのは、隠されていたのであろう扉とその中にある地下への階段だった。
扉が開かれていると言うことは、この階段から誰かが出てきたと言う事になる。
「……さてと」
ベルベナが掲げた指先に、炎が灯る。
ベルベナの指先から離れると、炎はその形を薄い楕円形へと変えた。
一つ、二つ、三つ――炎はどんどん数を増やし、やがてその数は三十を超える。
その全ての炎の中に、隠し階段の周りの景色が一斉に映し出された。
「こいつぁ……」
「この場所で起きた、過去の映像ですよ」
目を瞠る天に、ベルベナが告げる。
――ディテクティブフレイム。
その場所で過去に起きた事柄を鏡の様に映す炎の術。
そして――炎の中の一つに、隠し扉の中から出てくる黒髪の少女が映っていた。
他の猟兵が聞いてきた朔八姫の特徴とも、一致する。
やはり姫は、自力で城から逃げ出していたと言う事で間違いない。そして追っ手がかかっていない事から、この隠し階段、代官の知らない抜け道なのだろう。
「この映像……昨日の夜ですが、比較的早い時間ですね」
その炎が映している過去が何時であるかを確認したベルベナは、眉根を寄せていた。
ベルベナが思っていたよりも、早い夜だったのだ。
夜から朝にかけての暗がりの中、短時間で歩ける距離は限られる。
まして、子供の足なら。
「……そう思っていましたが。手掛かりを探す範囲を、少し広く考え直す必要があるかもしれませんね」
「どっちに行ったかはわかんねーのか?」
炎の中の映像から、姫がフレームアウトするのを見やり、天がベルベナに尋ねる。
「……これ、精度が約束できないんですよ。望む映像が流れればいいのですけど」
映った過去が何時であるかは判るが、特定の過去を狙って映せす事は、術者であるベルベナにも出来る事ではなかった。
今も精度は二の次で炎を出せるだけ出して、ようやく一つが当たったのだ。
「兎角、数を出して捜索範囲を広げるしかないでしょうね」
「そー言う事なら、オレも手貸せるぜ」
苦笑混じりに続けるベルベナに、天がニヤリと笑って告げた。
「まあ、手っつーか、鼻だがな」
貧乏神である天が喰うものは、他者の『幸運・健康・財産・愛』と言ったもの。
「オレはそのニオイを、ある程度の距離なら感じ取れる」
それは、動物が獲物のニオイを嗅ぎ分ける様なもの。
「で、そういう“イイモノ”のニオイは生物からするものだろ?」
つまり、だ。天がイイモノ、と感じるニオイを辿っていけば、その先には何かしら生物が居るはずなのだ。
生物、というだけならば鳥や動物も含まれる。
健康や愛であれば、そういった野生動物の類も持ち合わせている。
だが、財――この一点のニオイに於いては、人間か同等の文明を持つ種族と野生動物の類とでは、天には全く異なるものとして感じ取れる。
「姫か廻船問屋か、それともハニワかは、見てみねえとわかんねえけどな」
それでも何かがいるなら、手掛かりになり得る。
地図だけを頼りにするよりも、有力と言えよう。
「んー……こっちの方がニオウな」
時折、スンと鼻を鳴らしながら、天はニオイを追い続ける。
ベルベナはその後ろを歩きながら、広い範囲にディテクティブフレイムの炎を飛ばしながら、そこに映る過去を他の猟兵とも手分けして調べていた。
天のニオイを嗅ぐ力は、ベルベナが懸念していた『他の捜索者』による邪魔・妨害を事前に察知する事も出来る。故に、炎の映す過去に専念できる。
「……あれ?」
北へ北へと歩く中。ベルベナが意外そうな声を上げる。
「どした?」
「また炎の中に姫が映ったんですが……妙な丸いのも一緒でした」
「マジかよ」
ベルベナの声に天が炎の方を振り向くと、その中には、確かに姫と、妙に丸いハニワっぽいものが映っていた。
と言うか、ハニワっぽいものが姫を運んでいるように見える。
「誘拐? ……いや、姫に抵抗する様子が全く無いようですね?」
炎の中の過去の映像を見る限り、ハニワっぽいものが姫に敵意を持っている様子もなければ、手荒に扱っている様子もなさそうに見えた。
「なんにせよ、姫の行方に関係大有りですか――関係ない寝てて欲しい、なんて言えなくなりましたね」
嘆息交じりにベルベナが溢す横で、天が眉間にシワを寄せていた。
「ンー? ンン?」
天は長い黒髪の隙間から黒瞳をギョロリと見開いて、触れそうな程に炎に寄せる。
「……過去の映像だから、はっきりとは判らねえんだが……どうも、このハニワっぽいのから財の気配を感じる気がするぜ」
(「港じゃ感じなかった財の感覚っぽいんだが、な……」)
続く言葉を、天は胸中だけで呟いて口には出さなかった。
自分でも曖昧すぎて、確信が持てなかったのだ。
とは言え、炎の中の映像を見る限り、ハニワっぽいものが姫に敵意を持っている様子もなければ、手荒に扱っている様子もなさそうに見えるが……?
捜索を続ければ、真相も見えてくるだろう。
――朔八姫が自ら城を抜け出した事を確認した。
――ハニワっぽいものの存在を確認した。
――ハニワっぽいものと朔八姫が一緒にいる事が判明した。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
テラ・ウィンディア
真の姿発動!
考えてみればおれってこの格好の方がこの世界に馴染むよな!
所で…お姫様っておれと同い年なのか
凄いなー(今更気づきやがった
お弁当(?)
しおおにぎりにまかないのお肉
やっぱり探すなら森の中だよな!
おれエルフだから森の中だとちょっと落ち付くしな!
ハニワ族とか気になるから探すぞ!森の中にお姫様が逃げてるかもしれないし
…交渉が出来るならそれこそ匿ってる可能性も否定できないしな!
もしも接触で来たら敵対の意志は無いように手を上げる(【戦闘知識】で襲い掛かる気配が無いかは把握。それでも襲い掛かるなら【空中戦・見切り・第六感】で回避して逃走(
お前達はここに住んでるのか?
最近何か変わった事なかったか?
鈍・小太刀
【かんさつにっき】
また洞窟?やれやれ仕方ないなぁ
(うきうきとお菓子や飲物用意しつつ
ふふふん、推理なら任せなさい!
これはあれだよきっと
お姫様とハニワ王子の種族を超えた恋!
ラブでロマンス!
いいなぁ青春だなぁ♪(超楽しそう
(でも杏の視線に赤くなり
…そりゃあ私だって、一応はお年頃な訳だし?
(祭莉んから目逸らしもごもご
そういえば埋蔵品って
洞窟の先に遺跡とかあるのかな?
代官達は買い叩いて私腹肥やしてたけど
売っ払ったらそれきりじゃない?
ちゃんと価値を認めて観光資源にした方が
島は潤うんじゃないかな…とか
ハニワ族(?)が敵性存在でないなら
姫様と島の人と勿論私達とも
皆でいい関係を築けたら良いね
まーつーりーんー!?
木元・祭莉
【かんさつにっき】で!
お姫様が出奔したー!?(勝手に叫んでる)
やっぱり、お菓子の差し入れしといてあげればよかったかなあ?
風早屋さんは地元の人多くて、北部の土地勘がある。
鵜足屋さんは、北部のことよくわかんない?
んー……洞窟、隠し倉庫なのかなあ。
洞窟のコト知ってるとしたら、土地勘のある風早屋さんだけど。
荷物を北に運んでたのは、鵜足屋さん。
んー、高く売れるのは何だろ。
(仲間を見て)
……おんなのこ?
わわ、冗談だってばー!?
まいっか。ハニワ族に会いに、森の洞窟へ行こうー。
町の人にもらったお菓子を手土産にー♪
うわ。
ホントにいたんだ!?
何してるの?
姫様、カワイイなあー♪
ね、おいらのお嫁さんにならない?
木元・杏
【かんさつにっき】
情報たくさん。これならわたしも推理出来る
実はお姫さまは花粉症だったの
お城には花粉がたくさんで、お姫さまは山吹色のお菓子が食べたくなってお魚とお肉を食べに島を抜け出そうって港に向かうけど森で迷ってサバイバルなう(自信ありげにこくり)(※頭脳戦全くダメな子)
だから、もういちど洞窟いこ?
暗い洞窟対策に明かり持って
第六感働かせ僅かな物音よ聞き逃さず逐一確認
障害物は怪力でずらして避ける
小太刀前見て。顔ぶつける
まつりん、めっ>女の子
お姫さまぽい人影見つけたら
お掃除のお駄賃のお弁当(おにぎり)を広げて
お腹空いたね?ごはん食べよ
お姫さまもお腹空いてたらわたしたちに釣れ……
声掛けやすくなるかも
真守・有栖
森の探索に向かうわ!
丸っこいはにわ。……はにわ?
それって土偶じゃないの?
はにぷりが手下にしてたような気が……わっくしゅん!?
まーた誰かが私の麗狼っぷりを噂しているのかしら!?
お姫様は代官たちの悪事の証拠となるような帳簿と共にお城を抜け出したのよ!たぶんっ
なーんで土偶と一緒なのかはさっっっぱり分からないけれどもっ
どこで意気投合したのかしら???
森にある洞窟。きっと此処に隠れてるはずよ!
とはいえ。
この美狼たる私はとーっても目立つわ!
城下町にいた代官の手の者が後をつけて来てるかもしれないわね!
頃合いを見て、不意にわふっと跳んで死角から峰打ち!
追っ手をごちんと成敗っ
さぁ、朔八姫に会いにいくわよ……!
櫟・陽里
せっかく塒にしたし風早屋の様子を見る
慌てるのか黙るのか逃げ腰なのか?
お殿様に恩を売るチャンスなんじゃねぇの?捜索に人手出すのかと思った
なーんてよそ者ならではの適当発言をしてみる
船に乗ってみたくてこの島に来たからさ
もし船を出すよう仕向けられるなら島の北側の海、行ってみたい!
船が無理そうなら相棒に騎乗してひとっ走り
鵜足屋の様子も確認
慌ただしい雰囲気なら船に忍び込むとか
逃走防止に船を壊しておくとかできるかな?
他に出来る事といやぁ
バイクの機動力をいかして島中をしらみ潰しに走り回ったり
荷物や人を運んだり
緊急事態に高速で突っ込んだりだ
仲間に見せてもらった地図をサイバーアイに登録して
隅から隅まで目視で確認!
●森林探索行
「隠れるなら、森の中だと思うんだよなー」
きょろきょろと辺りを見回すテラ・ウィンディアがそう感じるのは、森を故郷とするエルフであるからだろうか。
(「おれは森の中だと、ちょっと落ち着くしな。お姫様がどーかは判んないけど」)
胸中で呟いてテラが腕を振るうと、淡い紅色の袖がシュッと伸びて枝に巻き付く。それを綱代わりに、テラはひょいと隣の樹へと飛び移った。
樹から樹へ。
紅色の裾を翻し樹上を飛び移るテラの姿は、昨日までとは異なる。
白を基調にした長い袖の衣装の先端は淡い紅色に染まり、その上から赤を基調に金色の模様をあしらったものを羽織っている。
その出で立ちこそが、テラの真の姿であった。
(「おれって、この格好の方がこの世界に馴染むよな」)
街中でなっていれば良かったかもしれないが、さもあらん。
それに案外、手まで隠れる長い袖は森の中でも役に立つ。
尤も、森生まれであり空中戦を得てとするテラにとって、樹上を飛び回る程度は、常の姿であっても難しくはないのだが。
「……お姫様っておれと同い年なんだよな」
まだ見つからない姫の姿を探しながら、今更思い出した事をテラの口が呟く。
「上手く隠れたもんだ。色々、凄いなー」
テラの口から思わず続く、感嘆の声。
「お姫様が出奔したー!?」
それを打ち消すようなタイミングで、下から上がった誰かの叫びが森に木霊した。
●三人寄れば文殊の知恵とは言うけれど
「お姫様が出奔したー!?」
「まつりん、急になに」
「吃驚したなぁ、もう」
木元・祭莉が上げた大声に、木元・杏と鈍・小太刀が慣れた様子で返す。
「ん? 何となく」
2人の視線ににぱっと返して、祭莉は続ける。
「でもお姫様、何で逃げ出したんだろ? やっぱり、お菓子の差し入れしといてあげればよかったかなあ?」
「ちがうよ、まつりん」
首を傾げる兄の言葉に、杏がすかさず口を挟む。
「皆のおかげで情報たくさん。これならわたしも推理できる――実はお姫さまの病気は、花粉症だったの」
「「んん?」」
いつもよりも心なしかキリッとした顔で杏が告げた推理に、しかし祭莉と小太刀は目を丸くしていた。花粉症、どっから出てきたの?
「お城には花粉がたくさんで、お姫さまは山吹色のお菓子が食べたくなって、お魚とお肉を食べに島を抜け出そうって港に向かったけど森で迷ってサバイバルなう」
こくんと自信ありげに頷く杏の、自分以上に頭脳戦ダメな子っぷりに、祭莉が小太刀に視線を送る。
「仕方ないわねぇ……推理なら任せなさい!」
そうは言いつつも、ふふふん、とこちらも自信ありげな笑みを含ませ、小太刀が内心はうきうきしながら口を開いた。
「これはあれだよ。きっと、お姫様とハニワ族の王子の種族を超えた恋!」
(「あ、これは小太刀も迷推理かも」)
何と言うか妄想混じりな感がある小太刀の推理に、祭莉が胸中で呟く。
(「でも実際、良く判んないな。風早屋さんは地元の人が多くて、北部の土地勘がありそう。鵜足屋さんは、北部のことよくわかんない?
洞窟があるとしたら、隠し倉庫? 知ってるとしたら、北部の土地勘のある風早屋さんだけど。荷物を北に運んでたのは、鵜足屋さん……んー?」
隠し倉庫だとしたら、そこに何がある?
何が高く売れる?
頭の中で思考をグルグル回しながら、祭莉が妹と幼馴染の方を見やる。
「ラブでロマンス! いいなぁ青春だなぁ♪」
「小太刀前見て。顔ぶつける」
心なし頬を染め楽しそうな小太刀に、杏が淡々と告げる所だった。
「ん? ふぎゅっ」
自分の推理に酔いかけていた小太刀の額に、枝がぺしんっとぶつかる。
「うぅ……私とした事が」
「小太刀、そう言うの好き?」
「……そりゃあ私だって、一応はお年頃な訳だし?」
枝とぶつけた額をさする小太刀は、杏の問いと視線に顔を赤くしながら祭莉からも目を逸らし、もごもごと小声で返す。
そんな2人の様子に何を思ったか。
「んー、高く売れるのは……おんなのこ?」
祭莉の口を飛び出す爆弾発言。
「まーつーりーんー!?」
「まつりん、めっ!」
小太刀と杏の剣幕に、祭莉の耳と尾がしゅんと下がった、その時だった。
「見つけたぞ!」
樹上から、テラの声が響いた。
●追うもの、止めるもの
『シマッタ、見ツカッチャッタァァァァ!?』
「おーい、落ち着け。こっちに敵意はな――って聞けよ!?」
両手を挙げて敵意がない事を示そうとしたテラの目の前で、ハニワっぽい何かがくるっと反転して逃げ出す。
しかしテラもすぐに樹を蹴って、その後を追い始めた。
「ホントにいたんだ!?」
「今度は――」
「逃がさない!」
驚きつつ、或いはキリッと視線を向けて。
かんさつにっきの3人も地上から後を追いかける。他の猟兵達も続いている。夜の森ならともかく、まだ明るい内であれば猟兵が追えない速さではなかった。
そんな中。
「あれって、土偶じゃないの? はにぷりが手下にしてたような気が」
島外でのハニワプリンスとの戦闘経験がある有栖が、見覚えのあったような土の体に首を傾げていた。
「……わっくしゅん!?」
その時を思い出したのか、有栖の口からくしゃみが飛び出す。
同時に――かすかに草葉の陰がカサリと音を立てていた。
「まーた誰かが私の麗狼っぷりを噂しているのかしら!? まあ、仕方ないわね! この美狼たる私はとーっても目立つものね!」
脈絡なさそうな事を言いながら、有栖もハニワだか何だかを追って飛び出す。
直後。
――。
ガサササッ!
今度は明らかな物音が鳴った。
有栖を追って慌てて飛び出して来たのは、顔を頭巾で覆った怪しい人物。
「成敗っ!」
その声と共に有栖が木陰から振り下ろしたのは、鞘に収めたままの刀。
それをごちんっと頭部に喰らい、怪しい人物が声もなく崩れ落ちる。
有栖は気づいていた。城下町を出た後から、自分を尾けて来る者の存在に。
そして不審者が代官の手の者だろうと確信した有栖は、前を追った振りをして、わふっと跳んで木陰に身を隠していたのだ。
「そろそろ、追いついているかしら? さぁ、朔八姫に会いにいくわよ……!」
不審者を剥いだ頭巾で何とか縛り終えると、有栖は今度こそ、ハニワっぽい何かを追った仲間たちを追っていった。
「……おいで」
呟く小太刀の手の中で、小さな黒塗りの蓋が開く。
潮騒の音と共に飛び出した螺鈿細工の桜が、ハニワっぽい何かの進路に舞い散った。
『フワワワッ!?』
「今よ!」
「おう!」
共に高いレベルの見切り技能を持つ小太刀とテラの、咄嗟の合わせ。
動きが止まったそこに、テラが飛び降り、背中(?)に飛び乗る。
「落ち着け。おれたちは聞きたい事があるだけだ。お前達はここに住んでるのか?」
そのまま土の体にしがみ付き、テラが問いかける。
『地下洞窟ニ住ンデルノダ――ア』
思わず答えてしまったハニワっぽい何かが、間の抜けた声を上げる。
「最近何か変わった事なかったか?」
『黙秘ナノダ!』
口を“×”の形にして閉ざすハニワっぽい何か。
「答えないと、メカたまこに突かせちゃうぞ」
祭莉の背後に、いつの間にかニワトリ型ロボの群れが『コケーッ!』と翼を広げて瞳をギラリと輝かせている。
『ヒヒ、姫ナンカ来テナイノダ! ――ア』
ちょろかった。
『デ、デモ。洞窟ハソコノ岩デ塞イデアッテ、中ノ仲間ジャナイト開ケナ――』
「よいしょ」
ハニワっぽい何かの目の前で、杏が岩に両手をかける。
杏の小さな体に似合わぬ怪力があっさりと岩を持ち上げ、海にぽーいと投げ捨てた。
『詰ンダノダ』
「おれたち、お姫様の敵じゃないぞ」
このまま崩れて消えそうなハニワっぽい何かの背中を、テラがぽんと叩いた。
●土の中の邂逅
ハニワっぽい何かを宥めすかし、何とか信用させた猟兵達はその案内で洞窟の奥へと奥へと進んで行く。
やがて、がりがりと何かを削る音が聞こえてきた。
『姫、ドウシター?』
『木の根しか出ないぞー?』
「茸とか出るかも……おなかすいたのじゃ」
ハニワっぽい何かに囲まれた少女が、土の壁をガリガリしていた。
「ほら。やっぱり、お姫様サバイバルなう」
どうだと言わんばかりに、杏がこくんと頷いていた。
「お姫さまもお腹空いたね? ごはん食べよ」
「おおおお、た、食べて良いの……?」
少女――朔八姫の前にずらりと並んだのは、猟兵達のお弁当とおやつ。
杏が広げたのは、宿で働いた駄賃に貰ったおにぎりを詰めた箱。
その横にテラが、しおおにぎりと港働きのまかないのお肉を添える。
「おいらはお菓子持ってるよ」
「お茶もあるからね?
祭莉は町で踊った時に町の人から貰っていた、大福餅とお煎餅を並べ、小太刀がその横に、定食屋で貰って来たお団子と冷たいお茶を並べる。
「沁みるのう……」
もっきゅもっきゅと、それらを頬張る朔八姫。
「お姫さま、釣れ……お腹いっぱいになったら話しやすくなるよね」
自分もおにぎりをもぐもぐしながら、杏が小声でポツリ。
平たく言えば、姫、餌付け完了。
『姫、良カッター』
『コイツラ良イ人間ー』
朔八姫が懐柔されたことで、ハニワっぽい何かも態度をコロリと変える。
「やっぱり、ハニワ族は敵性存在じゃないのね」
「ハニワ族?」
その様子を見た小太刀が上げた安堵の色の混じった声に、朔八姫が首を傾げる。
「土わらしの事を言ってるのかえ?」
「「「土わらし???」」」
今度は、猟兵達が首を傾げる番だった。
「昔からこの島に居る、土のアヤカシぞ?」
朔八姫が曰く。
土わらし――土偶の姿を象る、燧島の土着のアヤカシ、妖怪であると言う。
妖怪の全てが、人の害となる存在である訳ではない。
「アヤカシと言っても、島を作った時の呪術によって生まれたそうなのじゃ」
人が妖を使役したり、作ったりすることもある。
森を探索する中、緑髪の猟兵の炎が映す過去の映像の中の土わらしを、別の黒髪の猟兵が財と感じたのは、その辺りが一因かもしれない。
ともあれ、少なくともこの島に居る土わらしが害なき類であるのは、朔八姫との様子を見れば疑い様がなかった。座敷わらしに近しい性質なのかもしれない。
ハニワプリンスとの関係は不明だが――今猟兵達の目の前にいる土わらし達が、オブリビオンではないのも明白だ。
オブリビオンなら、猟兵と遭遇した瞬間、敵であると理解している筈なのだから。
「さて、そろそろ行こうかの?」
空腹が落ち着いた朔八姫が、すくっと立ち上がる。
「隠れてるんじゃないの?」
「妾はただ城から逃げ出した訳ではないぞ?」
どこへと問う杏や他の猟兵達の視線に、朔八姫はふふんと笑みを浮かべ――。
「お姫様は代官たちの悪事の証拠となるような帳簿と共にお城を抜け出したのよ!」
「な、何故知っておるのじゃー!?」
有栖が殆ど勘で言った言葉がズバリ的中で、朔八姫はアワアワ目を白黒させた。
「姫様、カワイイなあー♪」
表情をころころ変える朔八姫の飾らない様に、祭莉は好感以上を感じる。
「ね、おいらのお嫁さんにならない?」
「それは断るのじゃ」
にぱっと笑った祭莉から飛び出した発言に、しかし朔八姫は迷わず返した。
「妾、土わらしとこうしているのが一番楽しいのじゃ!」
「そっかー。残念」
朔八姫の屈託のない表情に、祭莉は狼耳をぱたりと倒す。
「ん」
「本当に、種族を超えた恋だったわね?」
その赤茶の頭を、杏と小太刀の手がわしゃわしゃと撫でていた。
●1人の正体
西の港にて。
「なあ、なあ。ちょいと良いかい?」
『風早屋』の中で、櫟・陽里は昨日自分を雇うと許可を出してくれた男を見つけて声をかけていた。
「なんでしょう?」
「動かないのか?」
陽里の言葉に男の眉がピクリと上がる。
陽里がこの店に居る理由は、折角の塒だからと言うのもあるが、塒に出来たからこそこの事態に『風早屋』がどう動くかを、様子を見るという理由の方が大きかった。
「捜索に人手出すのかと思った」
「出しているじゃないですか」
「探しに行きたいって言い出した連中の事だろ? そうじゃなくて、あんた自身が指示を出してないじゃないか」
はぐらかす男に、陽里が食い下がる。
「お殿様に恩を売るチャンスなんじゃねぇの?」
「何故、私が恩を売る――と?」
「だって、風早屋ってあんただろ?」
白を切ろうとする男に、陽里は事も無げにそう告げた。
半日以上も居れば、見えてくるものもある。走ることに特化した陽里ではあるが、その情報収集力は決して低くない。
姫の捜索に行きたいと申し出た人々の全てが、目の前の男から許可をもらうのを見ていれば、そのくらいの想像は難しくなかった。
「意外と見ていますね。そうです。私が風早の主人です」
これ以上は言い繕えないと踏んだか、男――風早屋は、陽里の言葉を認めて。
「相すみません。初対面の人間を信用しない性質でして。そんな私ですから、恩と言う不確かなものも信用しないのですよ」
事も無げに、そう言ってきた。
「でもな。さっき一走り見てきたけど、『鵜足屋』の方は動いてたぜ?」
陽里は愛車のライを駆って、東の港と『鵜足屋』の様子も軽く見て来ていた。
「動いてましたか。どの程度?」
「ほぼ全員じゃねえか? 船にも港にも、船乗りっぽいのはいなかったぞ」
陽里の言葉を聞いた風早屋は、しばし顎に手を当て、ふむと呻き――。
「頃合、ですね。貴方も来て下さい――その方が良さそうだ」
陽里にそう言うと、風早屋はやおら踵を返して歩き出す。
店の裏口を出て歩いて向かった先は、陽里が昨日注目した、やけに番の人数が多かったあの蔵であった。
今は、番は誰も居ない。
「ここに一体何があるんだ?」
「入れば判りますよ」
そう促す風早屋に続いて、陽里が蔵に入ると――そこには見覚えのないしっかりとした身形の少女と、その後ろに他の猟兵達がずらりと勢揃いしていた。
「こんなところに繋がってたのね。なーんで土偶……じゃなかった。土わらしと一緒なのか、さっっっぱり分からなかったけれども、やっと判ったわっ!」
地下に続く穴から有栖が顔を出す。
「あれ? 皆じゃんか」
「なっ――」
軽く驚く陽里の前で、風早屋が何故か絶句していた。
●真相へ
「持ってきたぞ、風早の」
朔八姫が件の帳簿を取り出した、ここで種明かし。
朔八姫が今回の騒動で、土わらしを頼ったのは、単に城外で信頼できる人間が居なかったから、というだけではなかった。
地下の道を、土わらしの力を借りて広げるためである。
どこに?
西港の外れ。風早屋が蔵に見せかけた中に作った、地下空洞へ。
朔八姫が持ち出した帳簿は、鵜足屋と代官のつながりを示すためのもの。それを渡す相手は風早屋――。
「あれ? お前は……」
「よ。聞いて驚け、こいつ、やっぱり風早屋」
見覚えのある風早屋の顔に首を傾げたライに、陽里が告げる。
(「くっ……なんですか、この人数。これでは、朔八姫には手を出せませんね」)
そのやり取りを聞きながら、風早屋は内心、臍を噛んでいた。どうも、風早屋も素直に帳簿だけを預かるつもりはなかったらしい。
もしもの保険、と言ったところだろう。
だが、多くの猟兵が朔八姫と接触し同道できたことで、その企みも潰えていた。
「では、これは手筈通り、私が付き合いのある大名を通じて幕府に届けましょう」
「うむ、頼むぞよ!」
とうの朔八姫は、そんなことには全く気づいた様子はなかった。
数字に強く頭の回転も悪くなさそうだが、どうにも素直すぎる。政や、ましてや権謀術数には、今の朔八姫では無理があるだろう。
「そういえば埋蔵品ってあるの? 遺跡とか」
「何のことです?」
小太刀の問いかけに、風早屋は首を傾げる。
「代官達は買い叩いて私腹肥やしてたらしいけど、売っ払ったらそれきりじゃない?
ちゃんと価値を認めて観光資源にした方が、島は潤うんじゃないかな……と」
島の発展の為ならば、小太刀の言う形もありだろう。
「あいつらは島を牛耳るつもりですから。観光など望んでいません」
代官も鵜足屋も、潤うのは自分達だけで良いのだと、風早屋が告げる。
「それに……鵜足屋は『黄金の最中』と称して小判をいくらでも作る事が出来ます」
外に出て行ったハニワプリンスが、掘り出した骨董品。
それを買い取るのに使うのが、鵜足屋が作り出した小判。
そうして元手なしに買い取ったものを、島の特産として他藩に売れば、他藩から入ってきた小判は。代官たちの手元に残るのは。
このエンパイアに流通する本物のお金である。それも、元の何倍かになって。
「怪しい術とは思いましたが、金が増えるのは歓迎でしたから。それが出来なくなり、海賊行為などに走らなければ、私も彼らと手を切ろうとは思わなかったでしょう」
既に諦めたのだろう。
諦観を滲ませた声で、風早屋は特に聞かれていない事まで猟兵達に喋っていた。
――朔八姫を無事に発見した。
――ハニワ族?の正体が土わらしなる妖と判明した。
――鵜足屋と悪代官の悪事の証拠となる帳簿があると判明した。
――風早屋も何かを企んでいたが、その企みは潰えた。
――2人の悪徳商人の正体は、これで暴かれた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
第3章 ボス戦
『悪徳商人』
|
POW : 先生、お願いします!
【オブリビオンの浪人の先生】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
SPD : 短筒での発砲
【短筒】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ : か、金ならいくらでもやる!
【懐】から【黄金の最中】を放ち、【魅了】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:毒沼ハマル
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠犬憑・転助」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●激突
猟兵達が鵜足屋がオブリビオンと知った、少し後。
燧島の東西の港から、船が一艘ずつ出て行った。
それとは別に、島の北側。
大きく出ばった岬の下に、その陰に隠れるように秘密の港があった。
外からの品を島の品にするべく、こっそり運び込むのに使われていた場所である。降ろした荷物を運ぶ秘密の通路は、鵜足屋の蔵に続いていた。
――この道を風早屋も知っていたからこそ、朔八姫に土わらしの洞窟から自分の店の蔵までの道を作る事を進めたのだ。
『やれやれ、どうにも雲行きが怪しい。お代官様、あたしは先に逃げさせて貰います。後は精々好きにやっておくんなし』
薄ら笑いを浮かべて、止めてある船に乗るその男こそ。
廻船問屋『鵜足屋』を名乗っていた、過去から蘇った強欲の片割れ。
オブリビオン、悪徳商人である。
逃げる準備も整えていたという訳だ。
だが、そこに。
ザァザァと波を掻き分け、一台の船が海原を駆けて来る。
その帆に書かれたのは丸の中に風の一文字。
『風早ァ……ッ!』
その文字を見た悪徳商人が、裏切りを知って怒りに顔を歪ませる。
だが、向かってくる風早の船の上に居るのは風早屋ではなかった。舵を取るのは、レーサーの猟兵。甲板にて待ち構えるのも、猟兵達。
さあ、まずは船上にて、強欲の片割れを倒す時だ。
ベルベナ・ラウンドディー
ははは
姫君の前では言えませんでしたが
蜜貿と通貨偽造は超重罪です
あははは
諸藩の経済妨害で信用問題
如何に代官の所業と言えど城主の責任は免れない
あはははは
バカ正直に幕府に通しちゃった
信じられます?
あはははははは!
もう終わりですよ全部全部ぜーんぶ!
貴方は責任取って死んでもらう…!(殺気)
●
【言いくるめ・恐怖を与える】鵜足屋、鉛弾が船底を抜けば逃げ場はなくなりますよ
なので此方も狙いは正確に【スナイパー・串刺し】とユーベルコードを主軸に展開
雇われ者が先なら【時間稼ぎ】で引き受けます
他の猟兵が鵜足屋を仕留めればそれで結構ですしね
船外へ【吹き飛ばし】を狙うのもいいですが…
見えませんか?もう斬りました
黒夜・天
逃がさねえよ!
船に奇禍の鎖を何本も突き刺し、それを渡って鵜足屋の船へ
禍殃の幻影でネズミの群れを生み出し、自分とネズミにミゼリーウイルスを感染させて、ネズミを鵜足屋に放つ
何? 金ならいくらでもやるだって? あーやべえ、そりゃ動けねえ。動けねえからウイルスを解除できないしネズミを止めることもできねえ。このままオレはウイルスの感染源になるしかねえのか……っ!
攻撃が来ても、ネズミどもの群れが勝手に壁になってオーラ防御で受け止めようとしちまう……っ!
よし! そろそろ良いか。その金、全部貰うぜ
UCで鵜足屋を殴り、そのままボロ布を鵜足屋に纏わせて、黄金に盗みを仕掛けるぜ
テラ・ウィンディア
んーと…
こういう時はこういうんだったな
人々の生活を護るべき商人の身でありながら己の利益に溺れ民を食い物にする悪行三昧(闇の中ぼっと炎が灯る
天と地が見逃しても…このおれの目は誤魔化せない(そして浮かび上がる真の姿こと炎を纏った和装で登場。…でも実は割と難しい事は解ってなかったりする子)
この世界にて…悪の栄えた試し無しだ
覚悟しろよ!(ばばん
【見切り・第六感・残像・早業】にて刀と剣の二刀で銃撃や先生の攻撃に対処
物語だとああいう悪徳商人の単筒ってまず当たらないらしいがな
ちゃんと見切らないと危ないよな
必要時は【空中戦】も利用してアクロバティックに
そして剣劇が最高潮に達した時にユベコ発動
斬斬斬斬斬斬斬斬!
真守・有栖
~回想~
風早屋に天下自在符どーん!
幕府御墨付きの狼とはこの私!
今回は見逃してあげるけど、次はないわよ?
がるる、と唸り。釘を差しておく
鵜足屋を成敗する間、朔八姫のことは任せたわよ
何かあったら、分かってるわね?
~回想終了~
後顧の憂い無し!後は鵜足屋をやっつけるだけね!
――月喰
刃に込めるは“斬”の一意
逃げられると思った?何処だろうと私の間合いよ!成ば――って、止められた!?
ふん。用心棒まで連れてるなんて準備が良いじゃないのっ
用心狼たる私が相手よ。鵜足屋は皆に任せたわ!
接舷。剣戟。
激しく刃を交え、同時に距離を取り
互いに笑みを浮かべ
――交錯
斬撃を狼に転じて交わし
刀を咥えて刃狼たる牙と為し――瞬閃
成敗!
櫟・陽里
これが帆船!
バイクじゃ常に向かい風だけど
追い風に乗るのもいいもんだな
一番良い風を掴み波の動きを読め
視野を広くとり周辺環境の変化を素早く判断
舵の切り方と船の動きを感じ取る
集中力が高まるし動かすほど経験値になる
思い通りにターンできた時の達成感といったら!
これだから乗り物を操るのは最高だ!
初心者のテンションと
まだ限界を見極められてない故の恐れ知らずな操船で
豪快に航路に割り込み敵の逃走阻止!
衝突沈没しない範囲で
仲間が船から船へ飛び移れる距離には寄せたい
バイクがないと攻撃手段が乏しくてさぁ
戦闘は仲間のサポートに回る
拳銃の狙撃で敵を牽制したり
向こうの船には一般人の船乗りもいるだろうから
そいつら捕縛するとか
木元・杏
【かんさつにっき】
他の皆との連携・アドリブOK
鵜足屋倒す
でも手下の人達はお縄にする
港の人達、まかないとお弁当くれたし(こく)
船にある鎖鎌を怪力で思い切り投げ
鵜足屋船の船縁か柱に絡め固定し
船同士を繋げ逃走阻止
小回りの利くうさみみメイドさんに回復薬の小瓶を沢山持たせて。
皆の様子を確認しながらメイドさんを動かして
過不足なく回復していく
攻撃を見切り避けながら渡して、遠くの人には投げて
大丈夫、当たっても痛くない(こくん)
短筒は灯る陽光(幅広の野太刀)を盾代わりにオーラで防御
小太刀が扇を射て怯んだ隙をついて後方からダッシュ
灯る陽光の射程距離から一気に鵜足屋に斬り込む
わたしたちの連携プレイ、味わって?
木元・祭莉
【かんさつにっき】でー!
うー。おいらより丸いヤツらがいいなんてー。
ぜんぶ、鵜足屋さんのせいだー!(やつあたる)
高速船の舳先に、海賊立ち(どんな)で。
「この世に 悪の栄えた 試し無し!」
叫びながら、アンちゃんが接舷試みる前に、ひらりとジャンプ。
今牛若と呼ばれた(誰に)おいらの雄姿をとくとご覧あれー!
あれ、舟、八艘もなかった?
っと、センセ、強そう!
アンちゃんコダちゃんは、見切り得意だけど。
おいらは、身体で受け止めちゃう方なんだよね!
(左の拳で攻撃を受け流し、右の拳で灰燼拳!)
体勢崩した鵜足屋さんの髻に、日輪の扇を刺し込んで。
さて、コダちゃんの、ちょっとイイとこ、見てみたいー!
(満面の笑みで手拍子)
鈍・小太刀
【かんさつにっき】
他とも連携アドリブ大歓迎
逃がさない
鵜足でも迂回はさせないよ
大人しくお縄に付きなさい!
黒塗りの小さな玉手箱を手にUC発動
「古より大海原で戦いし海の生物(なかま)達よ、我が呼び声に応え……あのさ、ちょっと手伝って欲しいんだけどさ、いい?」
巨大イカと巨大アンコウの霊を友達(なかま)として召喚、一緒に戦うよ
巨体で船を揺らし威嚇して一般の船員達を無力化
海への逃走者がいたら捕縛と救助も宜しくね
祭莉んが扇立てたらスナイパー技能で狙い定め
破魔の矢で正確に射抜いてやるわ
杏に繋げて続けて援護
ほら、逃がさないって言ったでしょ?
敵の攻撃は見切って武器受けで弾き飛ばす
最中?お生憎様、団子の方が好みなの
●晴朗で波も無く
帆に風の一文字を抱く船が、海原を駆ける。
その舳先に、はためく黒旗一つ。描かれたのは、鶏。
(「うー。おいらより丸いヤツらがいいなんてー」)
たまこ印の旗を海賊旗の様に掲げた木元・祭莉の胸中は、そのキリッとした表情とは裏腹に、悔しさが渦巻いていた。
(「ぜんぶ、鵜足屋さんのせいだー!」)
祭莉はその悔しさをバネに――もとい、八つ当たる気満々だった。
対照的に喜色を顔に浮かべているのが、初めて船の舵を取った櫟・陽里である。
「これが帆船! 追い風に乗るのもいいもんだな!」
風に乗り、風を掴む感覚。バイクの風に向かう其れとは違う乗り心地に、陽里の口の端が楽しそうに釣り上がる。
どう舵を切れば、どう船が動くか。
そう言った船のクセのようなものを、陽里は船で走れば走るほどに感じ取り、己の中へと溜めていく。
陸と海原は違う。子供でもわかることだが、それでも、ひたすらバイクで走り込んだ陽里の経験は海の上でも活きていた。
風の流れ。
波のうねり。
視野を広く、耳を澄まし。集中力の高まった陽里は、全身をフルに使って環境の変化を感じ取りながら、敵船目掛けて船を操り続けていた。
常識外れの速度で、陽里は船に慣れていっている。
とは言え、一朝一夕ですらない短時間で、船の限界を見極められたとは言えない。
通常、港に近づくにつれて船は速度を落とすものだ。
船に限らず、乗り物と言うものは停まる際は速度を落とすものだ。
でないと、ぶつかる。
『な、なんですか? あの無茶苦茶な操船は』
その辺りの常道を敢えて無視して、岬が抉れて出来た入り江と言う特異な環境の中ですら豪快に速度を増して迫る陽里の操船に、悪徳商人――偽鵜足屋は目を丸くしていた。
『くっ! 船を出しなさい。廻り込んでやり過ごすのです!』
その指示に、船員達も動き出す。未だ従う彼らはオブリビオンではないが、偽鵜足屋が生み出す金に魅了されていた。
「向こうも動いたね」
鵜足の船が船首の向きを変えるのを見て、鈍・小太刀がその掌に黒塗りの小さな玉手箱を掲げた。
「鵜足でも迂回はさせないよ」
その蓋が開けば、船の上に潮騒の音が鳴り螺鈿細工の桜が海へと降り注ぐ。
「古より大海原で戦いし海の生物(なかま)達よ、我が呼び声に応え……何?」
海のなかまを呼ぶ言葉を唱えていた小太刀がふと気付くと、木元・杏と祭莉がじぃっと視線を向けてきていた。
「小太刀、ダジャレ言った」
「コダちゃん、ちょっと外したー?」
「ば、場を和ませようとか思ってないんだからね!」
容赦なくツッコまれた小太刀は、ばっと視線を外して船から海に顔を出す。
(「でもまつりんも、調子戻ってきてるみたい」)
「……あのさ、ちょっと手伝って欲しいんだけどさ、いい?」
胸中でこっそり安堵しながら小太刀が海に向かって呼びかけると、螺鈿の桜の下に何か大きな影がゆらりと現れた。
影はゆっくりと、鵜足の船の方へと向かっていき――ザパァッ!!!
巨大イカと巨大アンコウの霊が、船の針路を阻むように海中から姿を現した。イカの霊はその足で鵜足の船をぺちぺち叩き、アンコウは大口を開ける。
「はは、ビビってるビビってる」
「小太刀。まつりんも。皆も、屈んで?」
海の友達(なかま)で敵の船が止まったのを確認して微笑む小太刀の背中に、杏が声をかける。
その直後。
ぶぉん、ぶぉんっ!
何か大きなものが風を切る音が鳴り響いた。
杏が振り回している、船の錨が立てる音である。小さな体に見合わぬ怪力で、鎖鎌か何かの様に――実際、鎖鎌がなかったんでその代わりに、杏はぶん回していた。
「鎖鎌なんて扱い難い得物、漁師に毛が生えた連中が使える筈がねえでしょう」
海賊ごっこ用の武器の中に鎖鎌が無いと、つっこまれた風早屋の言い分である。
閑話休題。
錨がぶんぶん回るその上で、何もない虚空に影のような黒が生まれる。
其処から滲み出てきた細い黒は、幾つかの黒い鎖となった。
黒夜・天の奇禍の鎖である。
「――鵜足屋、逃がさない」
「ああ。あんな美味そうな連中、逃がさねえよ!」
杏が小さな手にぐっと力を入れてぶん投げた錨が二艘の間の宙を舞い、ズドンッと重たい音を立てて鵜足の船の甲板に突き刺さる。
天が放った奇禍の鎖は、矢の様に、されど音も無く伸びて鵜足の船体にグルグルと巻きついた。
「ここだぁっ!」
其れを好機と、陽里が一気に舵を切る。質も太さも違う二種類の鎖の繋がり、その張力と波と風と。
風早の船がぐんっと浮いてちょっと非常識な感じで船首の向きを変えた風早の船が、鵜足の船と海上で向き合う形になった。
「これだから乗り物を操るのは最高だ!」
後ろの海面に描かれた船跡が思い通りの弧を描いているのを視界の端で認めて、陽里はニッと笑みを浮かべた。
なお、その風早の船の船室では、港に残すよりは安全だろうと連れてきた朔八姫と風早屋が、船酔いで完全に目を回してぶっ倒れていた。
●連環の計
繋がった二艘。その間に渡された鎖の上に、ぼっと炎が灯る。
「その財で人々の生活を護るべき商人の身でありながら、己の利益に溺れ、民を食い物にする悪行三昧」
黒い鎖の上を駆け抜けながら、炎を纏った白と赤の和装に身を包んだテラ・ウィンディアが口上を述べる。
「天と地が見逃しても……んーと……このおれの目は誤魔化せない!」
実は良く判ってない口上をそれでも言い切って、テラは鎖を蹴って跳んだ。
(「あ、これおいらと同じ事言おうとしてる」)
ほぼ同時に、祭莉が錨の鎖を蹴って跳んでいた。
二人は空中で目配せし、軽く頷きあう。
「「この世に 悪の栄えた 試し無し!」」
着地と同時についでに船員蹴っ飛ばし、テラと祭莉はびしっと偽鵜足屋を指差し、声を揃えて言い放った。
『こうなったら……せんっせぇぇぇ!! 先生、お願いします!』
対して偽鵜足屋が取った手は、オブリビオンの浪人の先生を呼び出すこと。
『どおれ』
「ははは」
現れた先生に迫るは、双緑の竜。
ガキィンッ!
乾いた笑いと共に切り込んだベルベナ・ラウンドディーの直刀と、浪人の先生の刀がぶつかりあい、火花を散らす。
「あははは」
浪人の先生と切り結びながら、ベルベナは何故か乾いた笑いを上げ続ける。
『な、何だお前は』
「あはははは」
口では笑っているが、ベルベナの目は全く笑っていない。
切りあう先生すら息を呑むその様子には、勿論理由があった。
――時は少し遡る。
それは、西の風早の港を出てすぐだった。
「これを見なさい!」
甲板の上で、真守・有栖が風早屋に、どーんっと天下自在符を突きつけていた。
「幕府御墨付きの狼とはこの私! 今回は見逃してあげるけど、次はないわよ?」
がるるっと犬歯を見せて唸りながら、有栖がすごんで釘を刺す。
仕方ありませんなぁ、と肩を竦める風早屋の後ろで――。
(「え、ちょっと、見逃しちゃうんですか!?」)
ベルベナはそのやり取りに、目を丸くして驚いていた。
(「いやあの、蜜貿と通貨偽造は超重罪ですよね?」)
驚きの理由はそこである。
(「諸藩の経済妨害したことになる以上、この島の信用問題。如何に代官の所業と言えど城主の責任は免れない――ですよねぇ?」)
ベルベナはそう思っていたのだが。
バカ正直に幕府に通しちゃったのだ。
天下自在符でなかったことに――できるのだろうか?
「鵜足屋を成敗する間、朔八姫のことは任せたわよ。何かあったら――」
「判りましたって」
有栖は朔八姫の安全を確保し、後顧の憂いを失くすために打った手であったが。
様々な思惑が渦巻きまくった結果、かつて星の海の世界で密偵専門教育を受けた過去を持つベルベナをしても、ちょっと整理が追いつかない様相になりつつあった。
「姫君もいる手前、言えませんでしたがね。もう終わりですよ、全部全部ぜーんぶ! 信じられます? あははははは!」
そんなこんなで今現在、ベルベナの思考は『鵜足屋に責任被せて殺そう』って方向にシフトしていた。
『そうですね。終わりでさぁ! だから逃げるんですよ! 先生!』
『応!』
偽鵜足屋の声に応えて、ベルベナと切り結ぶ先生の手に一層の力が篭る。
(『さぁて、今の内に――』)
「逃げられると思った?」
二人が切り結ぶその隙に、離れようとした偽鵜足屋を、有栖の声と視線が射抜いた。
『ちぃっ! 先生!』
「遅いわ。其処は私の間合いよ! ――月喰」
有栖が手に馴染んできた柄を握って刃を抜き放つ。
刃に込めるは“斬”の意思。その具現たる光刃は、刀の間合いを超えて迸り――パァンッと光が弾けた。
「――って、止められた!?」
『どおれ』
有栖の斬撃を止めたのは、二人目の『オブリビオンの浪人の先生』であった。
「ふん。用心棒を複数連れてるなんて、準備が良いじゃないのっ」
『あたしが呼べる先生が一人と言った覚えはねえですよ?』
先生『弐』と向き合う有栖に、偽鵜足屋がニヤニヤと笑いながら告げる。
『それに――二人と言った覚えもねえですなぁ。先生、お願いします!』
「なっ――」
驚く有栖の前に現れる、三人目の先生。
「面白え。そっちはおれが相手してやるよ」
先生『参』の前に、テラが進み出る。
その手には、かつて錆びていた無銘の太刀が握られていた。
●財力
三人と三人が切り結ぶ、剣戟の音が戦場に響く。
(『さて、どうしたものか。先生にも限りがありますし――』)
三人目の先生まで呼んで余裕そうな偽鵜足屋だったが、内心、次の手をどうするべきか実は必死で考えていた。
既に猟兵達は、全員、こちらの船に乗り込んでいる。
「はい、ちょいとゴメンよ」
偽鵜足屋の視線の先では、陽里が昏倒させた船員を縛り上げている。
「手下の人達はお縄で充分。港の人達、まかないとお弁当くれたし」
杏にまかないとお弁当をくれた顔は、船員達の中には無かったけれど。
うさみみメイドさんで軽めに倒した船員達を、杏も縄で縛って風早の方へポーンと放り投げていく。
(『金で魅了した船員では、足止めにもなりませんか』)
最早、偽鵜足屋に退路は無いも同然である。
(『ないものは作るまで』)
偽鵜足屋は、策を頭の中で巡らせながら、懐に手を入れて歩き出した。
その先にいるのは、3人。
「今牛若と呼ばれたおいらの雄姿をとくとご覧あれー!」
「……呼ばれてたっけ?」
くるくる、くるくる。舞うように跳び回って船員達を蹴り落とす祭莉と、ツッコミながらうさみみメイドさんを操り、やはり船員達を海に落とす杏。
「海に落ちた人たちの回収、よろしくねー!」
その船員達を巨大イカと巨大アンコウに回収するよう指示を出す、小太刀。
かんさつにっきの3人を、偽鵜足屋は比較的御しやすそうな子供達、と見ていた。
『見逃しちゃくれませんかね? 金ならいくらでも!』
3人に偽鵜足屋が懐から出してぽいっと投げたのは、黄金の最中。
「……キラキラずっしり」
『そうでしょう。これで何でも買え――』
足元の黄金の最中を拾い上げた杏に、偽鵜足屋は性分なのか、揉み手で話しかける。すると小太刀も黄金の最中を拾って――。
「でも山吹色のお菓子じゃないから、いらない」
「お生憎様、団子の方が好みなの」
『なんでっ!?』
小判は、食べられない。
二人が投げ返した黄金の最中が、偽鵜足屋の額をごっつんと直撃した。
『ぐ、ぐぐぐ……』
「はい、ちょっとしつれーい」
額を抑えて呻く偽鵜足屋の頭に、祭莉が指したのは日輪の扇。
『む、何を……』
「コダちゃんの扇ちゃれーんじ!」
「あ、ほんとにやるのね」
祭莉の意図を察した小太刀が、黒漆塗の和弓を手に取る。
「もち。滑った分、コダちゃんの、ちょっとイイとこ、見てみたいー!」
「小太刀、ふぁいと」
満面の笑みを浮かべた祭莉と、いつもと変わらぬ表情の杏。
「し、仕方ないわね!」
二人の手拍子に促され、小太刀が口ではそう言いながらも姿勢を正して弓を構える。その頭に、銀のウサミミをどこか誇らしげにピンと立たせて。
『な、何てガキ共ですか! ……大人で遊ぶんじゃありません!』
さすがに気付いた偽鵜足屋が、撃たれてたまるかと踵を返し――その足元に、黒い何かが群がっていた。
『痛っ!? これは……鼠?』
「そ。オレのネズミだ」
答えたのは、ちゃっかり黄金の最中の中身を数える天であった。
「金ならいくらでもやるだって? あーやべえ。そんなこと言われたら動けねえ。動けねえから、ネズミも戻せねえなぁ」
偽鵜足屋の足に群がり噛み付くネズミは、禍殃の幻影――天が操る黒いオーラ。天が操れない筈は無いのだが、ニヤニヤ笑う天にその気は全く無い。
「ついでそのネズミにゃウィルス――毒を持たせたけど、動けねえから毒を解除も、ネズミを止めることもできねえ。このままオレは感染源になるしかねえのか……っ!」
『このっ!』
天の言葉に顔を青ざめながら、それでも偽鵜足屋は鼠の群れを文字通りに蹴散らして駆け出そうとした。
「逃がさないって言ったでしょ?」
その瞬間、弓引いていた小太刀の指が、弦から離れる。
音も無く放たれる純白の光。破魔の力を秘めた矢が、すぃっと空中で曲がって飛んで――矢が撃ち抜いたのは、駆け出した偽鵜足屋の頭上の扇。その日輪の中心だった。
『な……あ、あたしがこんな手玉に取られるなんて』
「わたしたちの連携プレイ、味わった?」
偽鵜足屋が愕然としたその隙に、杏が動いた。
一気に距離を詰める杏の掌に生まれる、白銀の陽光。
幅広の野太刀のような形を取った『灯る陽光』――其れを見た偽鵜足屋は、声を大きく張り上げた。
『せんっせい! お願いします!』
「え――」
杏が振るった暖陽の彩を散らした陽光の刃が、別の白刃に止められる。舞い散った光が流れて、杏の頭上の紫を輝かせた。
「アンちゃん! さがって!」
杏の前に割って入った祭莉の琥珀の拳が、四人目の先生の刃を横から叩いて弾く。
「まさか四人目が出てくるとは、ね!」
小太刀も矢を射かけ、2人が先生から距離を取る時間を稼いだ。
『さすがに……これで打ち止めでさあ』
最後の先生を呼んだ偽鵜足屋の額には、脂汗が滲んでいた。
「よし! そう言う事なら、頃合だな!」
打ち止め――その言葉を待っていたのが、天である。
「テメエに残ってる金、オレが全部貰うぜ――ミゼリー・ラブズ・カンパニー! テメエが不幸世界の中心だ!!
天のすぐ隣に、召喚した黒い人型が現れる。黒い人影は、天が何かを言う前に――容赦なくグーで殴らせた。
「コレで、あんたも不幸吸引状態……この先、色々不幸だぜ?」
何故か和服の中から転げ落ちた偽鵜足屋の財布を手に、天はニィッと嗤って告げた。
●過去を越える再現
「ちっ、まだ出せたのかよ」
現れた四人目を横目で見やり、テラは舌を打つ。
もう一つ気になるのが、偽鵜足屋が持っている筈の短筒だ。
「物語だと、ああいう短筒ってまず当たらないらしいが……撃たれたら、ちゃんと見切らないと危ないよな」
何しろオブリビオンの使う短筒だ。
当たらないに越した事はない。
だが、そんなテラの懸念は現実のものとなろうとしていた。
偽鵜足屋が袖口から、鈍く光る銃口を持つ短筒を取り出していたのだ。
「おれに来るか!」
それが自分に向けられていると気付いて、テラが足を止める。
「それ、撃っていいんですか? もしも外した弾が船底を撃ち抜いたら、逃げ場はなくなり詰みますよ?」
其処に、別の先生と切り結んでいるベルベナが口を挟んだ。
「今のテメエは、不幸吸引状態だぜぇ!」
『ちっ……』
天が追い討ちをかけるように告げた言葉に、偽鵜足屋が躊躇ったその直後。
『っ!?』
パンッと乾いた銃声が響いて、偽鵜足屋の手から短筒が落ちた。
「撃たせないよ。バイクがないと攻撃手段が乏しいけど、このくらいはね」
陽里が向けた拳銃で、撃ち落したのだ。
「これ以上――撃たせないのがベストだよな、やっぱ」
そう呟いて、テラは目の前の『先生』に向き直る。
『何をごちゃごちゃ言っている!』
「いやぁ、お前とはさっさと決着つけようと思ってな!」
キィンッ!
先生が振り下ろした刃を弾いたのは、テラが新たに抜いた星刃剣『グランディア』。
『二刀だと!?』
驚く先生を、テラが振るう無銘の刃と星の力を宿した刃が追い立てる。纏う炎を轟と燃やし、跳ね回る上下の動きも加えたテラの動きは、先生の剣を上回っていた。
ギィンッと一際大きな金属音を立てて、テラの二刃が先生を弾き飛ばす。
そのまま空いた距離を詰めず、テラは構えの形を変えた。
「これより振るうは我が悔恨……我が無念……そしておれが知る、恐るべき刃だ……とくと味わえ……!」
構えた両手の刃を、テラはそこから、そのまま振るう。
「斬斬斬斬斬斬斬斬!」
――消えざる過去の痛み。
それはテラが味わった苦い敗北の過去の再現。
次の瞬間、虚空より生じた『空間に刻まれた斬撃』が、先生を両断していた。
●月喰刃狼
ギンッ、ガキンッ!
光刃と白刃が、二合、三合――幾度と無く交わり、ぶつかり合う。
有栖と先生の剣戟は、刃を合わせた数がお互いわからなくなる程、続いていた。
幾度火花を散らしたか。
互いに一歩も引かず、切り結び続け――キィンッ!
そんな剣戟も、唐突に終わりを告げた。
どちらからとも無く、相手の刃を弾いていた。
「やるじゃない」
『そちらもな』
有栖と先生が互いに笑みを浮かべる。
小手先の技術は不要。勝負を決めるには、互いに必殺の太刀を繰り出すよりなし。
ダンッ!
甲板を蹴った2人の足音が、重なる。
タイミングも速度もほぼ同じ――構えは先生が八相、有栖が脇構え。
だが、互いの間合いに踏み込む瞬間、有栖の手は月喰の柄を離していた。
『なにっ!?』
驚きながらも先生が放った逆袈裟の斬撃が、空を切る。
振り切った刃の軌跡の下にいたのは、銀狼。
狼に姿を変えた有栖が、足元を蹴って身をよじりながら跳び上がる。
咥えた月喰は。有栖の体躯に合わせて作られたその刀は。狼となっても、まるで体の延長の様にしっくり来ていた。
「成敗!」
刃狼の牙に斬られ、先生が声も無く崩れ落ちた。
●琥珀の拳
祭莉の琥珀の拳と先生の刀も、幾度もぶつかり合い続けていた。
「っと、センセ、強いね!」
捌ききれなかった先生の太刀を避けた祭莉は、すぐさま返しの拳を放つが、それは先生が逆手に持った鞘に阻まれる。
(「アンちゃんコダちゃんは見切り得意だから、もっと余裕を持って避けられたりするんだろうな」)
僅かに切り込みが入った作務衣の裾を見やり、祭莉は胸中で小さく溜息。
だけど。
「おいらは、身体で受け止めちゃう方なんだよね!」
ゴツッ!
先生が振り下ろした刃を、祭莉の左の拳が受け止めていた。そのまま、琥珀のナックルリングで滑らせて、刃を受け流す。
左拳で受け流したその動きは、次の構えに繋がるもの。
祭莉の右半身が前に出て、腰溜めに拳を握っている。
『くっ!』
「逃がすもんか!」
気付いた先生が後ろに跳ぼうとするが、その前に、祭莉が右拳を突き上げていた。
至近距離で放たれた全身のバネを使った狼拳が、先生に突き刺さる。
『ぐぴゃぁっ!』
高々と殴り飛ばされた先生は、そのまま船の外まで飛ばされ――。
「あ。あれ」
「ん? ……あ」
先生が落ちていった先を、杏が指差す。そこには、小太刀が呼び出したままの巨大アンコウが大きな口をあーんと開いて、待ち構えていた。
●殺気の刃
「先生の悪あがきも、無駄でしたね?」
『ぐぬぬぬぬ……!』
四人の先生の内、三人まで倒された事をベルベナに告げられ、偽鵜足屋が悔しそうに顔を歪ませる。
「貴方は殺します」
追い討ちをかけるように、わざと冷たい声色でベルベナが偽鵜足屋に告げる。
「ええ、貴方は諸々の責任取って死んでもらう……!」
そのベルベナの言葉に込められた強烈な殺気を感じて、偽鵜足屋の背中にぞくりとした悪寒が走った。
恐怖が、偽鵜足屋に思わず距離を取らせる。
『そう言う事は己を倒してから――』
「見えませんか? もう斬りました」
その間に割り込んだ先生が振り下ろす刃を、ベルベナは避けようともせず告げた。
次の瞬間、偽鵜足屋の服が、真赤に染まり出した。
『え――?』
服の下に体を斜めに走る、大きな傷が現れている筈だ。
『こ、こんな……いつの間に』
傷を抑え、よろよろと偽鵜足屋がよろめき倒れる。
ベルベナの『実体のない刃』が付けた斬り傷は深く、致命傷だった。
殺気に不可視の刃を隠し、斬られた事を数秒、相手に気づかせない斬撃。
手持ちの財を使い切ったのみならず、運すら吸い取られた偽鵜足屋に、そんな攻撃を避ける術がある筈もない。
偽鵜足屋が倒れ臥す。
すると、ベルベナと斬りあっていた『先生』も、召喚者がいなくなった事で、声も無くそのまま消えて行った。
――鵜足屋を騙りその座に収まった偽鵜足屋は、猟兵達に倒された。
●更なる戦いの予感
「まだ終わりではないの」
港に戻った朔八姫が、船を下りたすぐそこで猟兵達に向き直って、口を開く。
猟兵達も、その言わんとするところが判っていた。
「燧の城を取り戻すのも、どうか手伝って頂きたいの」
まだ、悪代官が残っているのだから――。
大成功
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