バトルオブフラワーズ⑩〜キズアトはエモーショナル
「どんな攻撃も、あーしには全部無効なんだから。それで負けるわけなくない?」
ウサギの被りものですっぽり頭を覆った怪人、ラビットバニーはそう言って足を組んだ。
「まあ、エモいもの見ちゃったら、心が乱れてバリアも解けるけど……。あーしってば、立ち向かう系のシチュに弱いんだよね」
悩ましげにため息をつく。
「ケガしてても立ちあがっちゃうやつとか、カラダ弱いのに頑張っちゃう子とか。あ、コミュ力皆無だったのにボス戦で仲間のために爆発するのなんか最高じゃん? あとは救助モノとか。でもそんなエモいシチュなんて、現実になくね?」
●
「これが僕が予知で見た内容だよ。口調真似るのまじツラくね? って感じだったけど」
茶目っ気たっぷりにシトラ・フォルスター(機械仕掛けの守護者・f02466)は片目を瞑ってから、表情を引き締める。
「あんな調子だけど、間違いなくラビットバニーは『強敵』だよ。正面から戦ったところで、かすり傷ひとつ付けられやしない。だからこそ予知した内容に気を付けて欲しいんだ。ま、要するに敵が『ぐっ』ときそうな状況を考えて実際に見せて、その隙に攻撃しちゃおうって作戦だね。上手い演技ならまだしも、下手な演技はおそらく見破られる。心して向かってほしい」
シトラはそう言うと、もうひとつ大事な事を伝える。
「今から転送する場所なんだけど、花が他と違ってるんだ」
今回の戦場は、人が乗れるほど大きな花が連なった通路の上だ。
足場となる花の一部は、この戦場限定で不思議な特徴を持っている。
赤の花は食人植物。踏むと花弁についた牙で包み上にいる者を傷つける。
青の花は有毒植物。踏むとすぐ病毒に罹り、発熱し体調と顔色が悪くなる。
黄の花は寄生植物。踏むと呪詛によって体の自由が奪われ、思わぬものを攻撃してしまう。
「うまく使えばいい感じのシチュエーションを作れるような気がするけど、耐性持ち以外には結構辛い効果みたいだから注意して。だからこそ演技だって見抜かれちゃう危険は少ないって意味でもあるんだけどね」
花を使わなくても、猟兵同士で工夫すればラビットバニーが『ぐっ』とくる状況を作るのは不可能ではないだろう。ただしそれには息を合わせ、相手に生の感情だと信じこませる必要がある。
「本物以上に心を動かすものはないってことさ。苦しくても前に進もうとする姿に、人も怪人もはっとする。君たちが今までにやってきた事や生きてきた道のりなんてのも思い出してみてね」
そう言うとシトラは、オレンジ色の転移の光で辺りを満たした。
氷水 晶
強敵、カワイイ怪人ラビットバニーを倒しましょう。
●敵について
ラビットバニーは必ず、猟兵に先制して『絶対無敵バリアを展開するユーベルコード(POW、SPD、WIZ)』を使ってきます。
絶対無敵バリアは本当に絶対無敵で、あらゆる攻撃を無効化しますが、「ラビットバニーがエモい物を目撃する」と、精神集中が乱れてバリアが消滅します。
ラビットバニーのエモい基準はかなりユルいので、バリアの解除は比較的容易と思われますが、バリアなしでも彼女は相当の実力者です。
●ギミックについて
『赤・青・黄の花』については使う予定がなければ特に触れなくて構いません。行動として想定していなかったのに踏んでしまう事は基本ありません。
逆に使う場合には、どの花か分かるようにお伝えください。
●リプレイについて
頂いたプレイングを生かせるよう、早めのリプレイのお届けを予定しています。頂いた物から順次お届けしていく予定ですので、プレイング募集期間が想定よりも短くなる恐れがあります。複数人で共同プレイングをかける際などにはご注意ください。
●その他
今回はかなりの『強敵』です。任務の失敗も十二分に考えられます。
シトラの言葉を参考に、どうぞ皆様がやりたいことをありったけの思いを込めて送ってください。
それでは、ご参加をお待ちしております。
第1章 ボス戦
『カワイイ怪人『ラビットバニー』』
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POW : 赤べこキャノン
【絶対無敵バリア展開後、赤べこキャノン】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : うさちゃんカンフー
【絶対無敵バリア展開後、兎面の目が光る】事で【うさちゃんカンフーモード】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : おはなハッキング
【絶対無敵バリア展開後、両手の指先】から【システム・フラワーズ制御ビーム】を放ち、【花の足場を自在に操作する事】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:和狸56
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
カワイイ怪人『ラビットバニー』はひとり花の通路の上に立っている。
自分の身を守ってくれる、絶対無敵バリア。
傷を負う事などありえない無敵の盾。
だから、魅かれるのかもしれない。
ネフラ・ノーヴァ
アドリブ、絡みOK。
「まったく、ふざけた被り物だな。可愛いらしいが。」
まずはバリアの存在を確かめるように刺剣で牽制。
「なるほど、全く通らないか、これならどうだ?」
一点集中の連撃を加える。しかしこれも通らないだろう。しかる後に反撃が来れば、避けようとした先に青い花を踏んでしまおう。
「むぅ、毒か…。だが…!」
おそらく実際に毒効で弱るだろうが、UC「瀉血剣晶」で自らの腹に剣を刺し、血中の毒も抜き放って長剣を形成する。
さあ血塗れの白いドレス姿は奴の目にどう映るかな?
うまく行ったなら反撃し、奴の腹に長剣を突き立ててやろう。
色が溢れる花の通路の上を、白いドレスを纏ったネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)は渡っていく。
羊脂玉のクリスタリアンの証のような、淡い緑を内に秘めた髪が揺れる。同じ色の瞳は、ウサギのかぶり物で頭を覆ったラビットバニーの背中をしっかりと視界の中にとらえている。
「まったく、ふざけた被り物だな。可愛いらしいが」
『えー、まちがいなくカワイイっしょ?』
とっくに接近には気付いていた様子で、くるりと怪人は振り向いた。
ネフラは花弁の足場を蹴ると、右手の血棘の刺剣を真っ直ぐ突き出す。その切っ先は、宙に現れた透明な何かに阻まれた。剣先がぽきりと折れる。
『無理無理、あーしにそんな剣、きくわけないじゃん』
避けるそぶりも見せず、ラビットバニーは胸を寄せるように腕を組みけらけらと笑う。
「なるほど、全く通らないか。これならどうだ?」
左手を軽く曲げてバランスを取り、右手を前に構えなおす。折れた剣先が再生される。
ネフラは大きく踏み込むと、連続で剣を突き出した。一点のみを狙ってバリアの突破を図る。
『だーかーらー! 無理って言ってるっしょ』
多少のいら立ちを滲ませて、ラビットバニーはキャノンを構えた。細い腕にもかかわらず一瞬で照準を合わせたバニーは、ネフラに向かって砲弾を放つ。発射の衝撃で、キャノンの上に乗った赤べこの顔がぐらぐらと揺れた。
「くっ……」
反撃を予測していたとはいえやはり強敵。直撃はしなかったものの、着弾の衝撃波にネフラは吹き飛ばされ、後方の花の上に着地する。
花を踏んだブーツの底から、何かが沸きあがった。花粉だろうか、薄いモヤがネフラを包む。毒々しいほどビビッドな青い花弁の花だ。
ネフラの乳白色の肌がみるみるうちに蒼白に変わっていく。寒気に襲われて片膝をついた。
「むぅ、毒か……だが!」
『きゃははは! まじ顔色ヤバいんですけどー! ……ちょ!?』
バニーの笑い声は突然途切れた。
華奢に見えるネフラの腹を貫いているのは、彼女自身の血棘の刺剣。白いドレスに赤い染みが浮き出る。引き抜けばその染みは、一気に腰から下の布を真っ赤に染め上げた。
手には、血で生成した真紅の長剣。
青い花を蹴り、白いマーガレットを模した足場の上に降りる。痛みに耐えながら、ネフラは口の端を釣り上げて笑った。その殺気を纏ったような笑みに、ラビットバニーは気圧される。
「毒は抜いた。さあ、今度は貴殿が血の花を咲かせるがいい……!」
『うぎゃあー! エモいいいいいっ! ……立ち上がる不敵な女子エモすぎ……!』
吐血でもしかねない勢いでラビットバニーは口を押さえる。
おそらく今なら。
バリアが解けたのに気づいたネフラは、血の雫を白い花弁に散らして真っ直ぐ踏み込んだ。
長剣とそれに宿った意志が、ラビットバニーの無防備な腹に吸い込まれる。
エモさに打ちのめされながらも、すんでの所で体をひねったのは、ラビットバニーの実力だろう。
それでも右脇腹を深く傷つけられ、バニーはネフラを置いて花の通路を下がっていく。
大成功
🔵🔵🔵
サリー・オーガスティン
【SPD】
痛いのはイヤだけど、ここは世界を救うためだ。レーシングスーツの上半分脱いだ状態で、赤の花の「流血」のギミックを使うよ。
(一応激痛耐性は使うけど、どれだけ役に立つか?)
「あの」事故を思い出して来た…(サイボーグになるに至る自損事故)
もし可能なら、右脇腹の傷も見せつける(自損事故の痕跡)
「ボ、ボクはこんな所でリタイヤするのは、イヤだ…せめて完走だけでもするんだ!さぁもう一度走るんだ、ジェイク!」
(演技のはずが、本当に事故を思い出してしまう)
>ゴッドスピードライド発動させラビットバニーに対抗
※アドリブや連携は大歓迎します。
『や、やばい、エモ殺されるとこだったじゃん……』
このくらいの傷なら、ラビットバニーの体力からしてまだまだ戦える。だが、絶対的な防御を破られた衝撃は思いのほか大きかった。傷を負ったのすら、いつぶりだっただろう。
猟兵はどうしてあの傷で動けるのだろう。
バニーの心に疑問が沸きあがる。
「見つけたよ。痛いのはイヤだけど、世界を救うためだ」
サリー・オーガスティン(鉄馬の半身・f02199)は、レース後のレーサーのように、レーシングスーツの上半身だけを脱いで花の上に立っていた。薄手のアンダーウェアの生地に段差を作って、サイボーグ化した右腕が浮き上がっている。
ラビットバニーまではまだまだ距離がある。一歩前に踏み出して、サリーは周りの花弁がせりあがるように自分を包み込んだのに気づいた。
毒々しい赤の花弁についた牙がサリーの体をえぐる。
花弁が僅かに緩んだ隙に、ナイフを使って隣の花に脱出した。どの傷も致命傷には至らなかったが、血が彼の全身を染め上げてブーツの形に赤い水たまりを作る。
『きゃはは! あーしのとこに来る前に血まみれじゃん!』
バニーの笑い声は、ふらつきながら痛みに耐えるサリーには届いていない。
「(『あの』事故みたいだ……)」
サリーがサイボーグとなったきっかけ。
右腕と両脚を失い、生死の境をさまよったあの事故。
破片が辺りに散乱し、フレームが歪んだ宇宙バイクの相棒。
脇腹から止め処もなく流れる血。同時に体の熱までもが失われ、流れていく。
フラッシュバックした光景は恐怖そのものだ。それを振り払うようにサリーは叫ぶ。
「ボ、ボクは! こんな所でリタイヤするのは、イヤだ!!」
『あんたそれ……』
花の牙に裂かれた服の右脇腹に残る大事故のキズアト。バニーは止血したばかりの自分の右脇腹に手をやる。ずっと大きくずっと深かったのは想像に難くない。
「……せめて完走だけでもするんだ!」
伸ばした手に触れるハンドルを掴み、サリーは宇宙バイクに飛び乗った。
ツーリング用のバイクを自分に合わせてカスタマイズした緑の相棒。
大事故を経験すると、その衝撃からスピードを出せなくなるレーサーがいる。そしてその一方で、何かが目を覚ましたように飛躍的に実力を上げ始めるレーサーがいる。
それなら、サリーが選ぶのは。
「さぁ、もう一度。走るんだ、ジェイク!」
『あっ、熱すぎるっっっっしょーーー!』
花の足場を、半身のジェイクと一瞬で駆けたサリーは、マスケット銃の銃口をゼロ距離でつきつけた。
『あはは……あーしも油断しすぎ』
ヒビが入ったウサギの頭を振って、ラビットバニーは花の足場を行く。
頭をかすめた銃弾が波打つ髪の一部を赤く染めている。いつものバニーなら、既にありえないくらいの大ケガだ。
カンフーで反応できていなければ。あと少しでも銃口を逸らせていなければ。こうして歩くこともできなかっただろう。
そのまま走り去ったあの猟兵も、あの傷ではすぐに動き出せない筈だ。
成功
🔵🔵🔴
イデアール・モラクス
エモさとはエロくてエモーショナル!
さぁ、私のエモを存分に見るがいい!
・行動
「私がなぜタイトスカートばかり履くのか、今こそお前は理解する!」
UC【魔導覚醒】を『高速詠唱』で行使。
本気モードになり、魔導防壁を纏いながら空を縦横無尽に飛翔し『誘惑』の【パンチラ】でエモさを演出しながら両手から次々と『全力魔法』の力で威力を増した『属性攻撃』魔法【風の刃、聖なる光線、闇の球体、炎弾、氷の槍、足元から隆起する石の棘】を無詠唱連射、圧倒的弾幕の『範囲攻撃』と成して飽和攻撃をかけ『なぎ払う』。
「我が魔力に屈せよ!アーハッハッハ!」
足場操作は飛翔する事で無効化し、キャノンは攻撃魔法で相殺だぁ!
※アドリブ歓迎
『こりゃ、ゴリラのこと笑ってらんないねー』
新たな猟兵に行く手を塞がれて自身を揶揄するように笑う。
先程のように距離を詰められるのをきらってか、ラビットバニーはバリアを展開すると猟兵の間の足場を切り離した。
全く動揺するそぶりも見せず、漆黒の髪を背中に流して高らかにイデアール・モラクス(暴虐の魔女・f04845)は宣言する。
「私がなぜタイトスカートばかり履くのか、今こそお前は理解する!」
花弁の端を蹴って躊躇なく虚空へと身を投げ出したイデアールは、ユーベルコードで宙に体を留めた。そして、艶やかな笑みを浮かべると、脚の線を見せつけるように組む。
見えそうで見えないが見えた気もする。
『ぐうっ……アヤしげでアブないお姉様のチャレンジングなパンチラ……っ……!』
エモ苦悶するラビットバニーのバリアが解けた。
「アーハッハッハ! 我が魔力に屈せよ!」
ここぞとばかりに、イデアールは持てる限りの魔法を全力で叩き込んだ。
風の刃と聖なる光線が、ラビットバニーが放ったビームを相殺して空中で爆発を起こす。闇の球体がバニーを包み、畳みかけるように炎弾と氷の槍を放つ。無詠唱の魔法の連撃がバニーの手足に傷を作った。
とどめにイデアールは石の棘を呼び出す。バニーを体ごと串刺しにしようとして、その穂先がバリアに防がれた。
『はぁはぁ……ギリギリ耐えられたし』
ラビットバニーは手足に傷を負ったものの、どうやらバリアが解けた時間が思ったよりも短かったようだ。バリアを完全に復活させたラビットバニーはイデアールの魔術を防ぎながら、両手の指先で操れる限りの花の足場を操作する。
花の足場が回転しながら、次々にイデアールを襲う。風の刃で切り裂き、光線で撃ち落とすが、10本の指で次々に操られる足場に、次第に押されていく。
結界を抜けた小さな一つがイデアールのこめかみをかすめた。バランスを崩しかけて花の通路の上に片膝をついたイデアールの顔に、血の筋が垂れる。その足場をビームで狙い打たれ、イデアールは後退を余儀なくされた。
足場を操れる射程限界に達したか、ラビットバニーはバリアの向こうで手を降ろす。
『そう、そーいう顔がきたら、ガチでやばかったかも』
じっとイデアールを見ていたラビットバニーは、何かに気付いて背を向けた。
苦戦
🔵🔴🔴
本城・やぐら
今度はウサギさんがお相手なんですね!?
エモい…とは…もののあわれ…とかそう言う事でしょうか?
ゆる琳派な絵がエモいに当てはまると良いのですが…。
転送されてすぐに大きくて見た事もない鮮やかな花々に思わず気を取られてしまい青の花をうっかり踏んでしまいました!?
…急に気分が悪くなって身体がふらつきます。
…でも猟兵の皆さんも頑張っているのにこんな所で倒れる訳には行きません!!
必死に堪えて絵師の意地を魅せます!
「命懸けの想いで描く絵には人の心を打つものがあるはずです!私が描く青い花はこんな人を苦しめる花ではなく、人を幸せにする青い花です!!」
琳派百図で渾身の杜若図をウサギさんのまわりに描ききってみせます!
「それ以上はさせません!」
本城・やぐら(ゆるりんぱ絵師・f06242)は身の丈ほどもあろうかという筆を構えて、ラビットバニーに迫った。その足が、足場として用いた青の花弁を踏む。
そのまま次の花弁へ走り抜けるも、ふわりと舞い上がった花粉を浴びる。急に気分が悪くなり、やぐらはふらつきながらも倒れまいと、筆の柄で体を支えた。
『ありゃー。ここアブないじゃん? あーしも気をつけなきゃ』
けらけらと笑って同じ花に移動してきたラビットバニーを前に、やぐらは顔色を真っ青にしながら筆を持ち上げた。
『ん?』
攻撃に反撃しようと腕を上げ、ラビットバニーは手を止める。筆に攻撃するような意志が感じられなかったからだ。
バニーの視線の先――真っ白な花の足場の上に穿たれた青。僅かに紫がかって凛とした、それでも少しだけ温かみを残したような色。
重い体を引きずるようにやぐらは青を塗り、そこに一本の白い筋を入れる。筆先を操って葉を描く。
『……花?』
即座に名前が出るほどラビットバニーは花に詳しくない。それでもどこかで見た事くらいはある。
「杜若(かきつばた)です」
やぐらは更に筆を躍らせる。
エモいとは何か。言葉に馴染みは無かったが、やぐらなりに調べてきた。
転送されてここにやってきた時、色鮮やかな花々に目を奪われた。やぐら自身が普段使う顔料の色とも全く違う。だが、元の世界とは違った、この溢れんばかりの色彩の世界もまた美しい。
筆を動かし続ける。線が一部かすれ、それが勢いのある筆跡となり、咲き誇る杜若に変わる。
向こうに花が見える。さっき踏んでしまった青い花。病毒の花粉を散らす花。
「命がけの想いで描く絵には、人の心を打つものがあるはずです! 私が描く青い花は、人を苦しめる花ではなく、人を幸せにする青い花です!!」
絵師の意地で、怪人の周囲を杜若で囲んだ。
地形効果によって、やぐらの体がほんの少し楽になる。
「それが、私の世界で言うエモい……『もののあわれ』です」
言いようのない感情がラビットバニーを包んだ。
えもいっしょ 少女のえがく かきつばた
『わが心打ち ばりあ解かれん――――って、なんじゃこりゃーーー!』
世界を越えた謎の化学反応によって、兎にも角にもバリアは解かれた。
やぐらは熱っぽい息を吐くと筆を振りぬき、ラビットバニーを青く染めた。
ラビットバニーは新たな猟兵の気配を察すると、そのまま病毒に倒れた少女を足場ごと高く上げた。
何となく、あの花の絵を消す気にはなれなかった。
『あーあ。あーしのカワイイ顔が』
青い絵の具に染まったかぶり物を撫でる。
ラビットバニーの言葉はどうしてか、どこか楽しそうに聞こえた。
成功
🔵🔵🔴
シン・バントライン
友人の事を思う。
熱いヤツだった。
いつも先陣を切って敵陣を突破し
撤退時は鬼気迫る勢いで殿を務めた。
厳しい戦況の時必ず言う台詞があった。
「死神なんざ怖くない。俺の方が強いからだ」
なんざ、なんざ、と煩かった。
仲間内でついたあだ名は「なんざ系」。
借りてみようと思う。
黄色の花
呪詛耐性で耐える
それにもう、すでに寄生されているのだ。
なんざ系のアイツも、紅茶好きな隊長も、本好きなあの人も、全部自分の中にいる。
呪詛ならあの「諦めるな」という言葉ほど強い呪はない。
自分は本当に色んなもので出来ている。
「こんな花なんざ俺の敵ちゃうわ!お前もや!」
演技などではない。
アイツはいつも本心だった。
UC発動
死霊に足場は必要ない
ラビットバニーの姿を探して、シン・バントライン(逆光の愛・f04752)は花の道を渡る。
「(演技ではない本心、な……)」
思い起こされる記憶がある。
先陣を切って敵陣を突破していく後ろ姿。撤退時には鬼気迫る勢いで殿を務めていた姿。
友人は熱いヤツだった。
仲間内でのあだ名は『なんざ系』。いつも『~なんざ』と口癖のように言っていたからだ。
「死神なんざ怖くない。俺の方が強いからだ」
厳しい戦況の中にある時、ヤツはいつも必ずそう言っていた。
絶望的な状況でも、どうにか乗り越えてしまえそうな響きを持った言葉。
黒装束に隠した金色の髪が逆立つような感覚をシンは覚える。
『見っけた! あーしも気配消すのうまいっしょ』
「ええ。あなたがラビットバニーですね」
演技などではない。アイツは、強敵を前にしてもいつも本心からそう言って不敵に笑っていた。
その言葉、借りてみようか。
ウサギのかぶり物の一部を青く染めて、体に大小さまざまな傷を負いながら、ラビットバニーの動きはまだ鈍ってなどいない。
鋭い勘で後ろから迫る足場を避け、自分の乗った花が動き出したのに気づいて花弁の端を蹴る。
花弁につかまって体を引き上げると、ひとつ先に目に眩しすぎる黄色の花。シンは躊躇なくその花を踏みに行く。
途端、体の自由が奪われ足が止まる。シンの手は勝手に剣を抜くと滅茶苦茶に振り回し始めた。剣の刀身がラビットバニーのビームをはじき返す。そして、勢いよく腕が振りかぶられると、目の前の花弁に切っ先を突き立てた。
特別、操られた体は敵に有利なだけの行動をしているようにも思えない。が、腕は自分のものでは無くなってしまったかのように動こうとしない。
『あ。もしかして動けないとか? あーしが余裕で勝っちゃうじゃん』
ラビットバニーが腕を上げるのが見える。
それだというのに、シンはどこか達観したように落ち着いていた。呪詛耐性の力を行き渡らせるように祈り、腕に力を籠める。
黄色の花は寄生植物だと、グリモア猟兵は言っていた。
寄生にも様々な種類がある。宿主から栄養などを搾取し続けるもの。いずれ死に至らしめるもの。少しばかりの利益を宿主に返すもの。そしてまた、大枠では『共生』と呼ばれる関係でもある。
この花に寄生されるより前からずっと、自分は寄生されていたのだ。
なんざ系のアイツも、紅茶好きな隊長も、本の好きなあの人も。全部自分の中にいる。
時にシンを過去に縛り、時に生かし、力を与え、こうしてたまに顔を出す。
駆け抜けていった思考は刹那の出来事。
シンは今度こそ剣を握る。
「こんな花なんざ、俺の敵ちゃうわ! お前もや! ラビットバニー!!」
花弁から剣を引き抜き、死霊騎士と死霊蛇竜を呼び出す。
自分は本当に、いろんなもので出来ている。
『ま、まさか――普段は丁寧口調なのにやばくなると本来の口調がよみがえっちゃう系っ……!』
ぱりん、とバリアが砕ける音がする。
成功
🔵🔵🔴
臥待・夏報
チーム【GN3】で行動
いの一番、「魚座代行調査の名刺」を【投擲】、【存在感】をアピールしよう
さもこれから夏報さん自身がすごい攻撃をするような口上を並べ、「赤べこキャノン」の先制攻撃、「おはなハッキング」もできるだけ夏報さんに引きつけ、敵の第一波をしのぐ
これもひとつの【だまし討ち】、と言えるかな?
攻撃をできるだけ引き受けたらラフカくんに回収してもらい、彼女を対象に【通りすがりの走馬灯】を発動
このUCはボロボロでも死にかけでも、誰かに触れさえすれば発動してそれ以上のダメージを防げるし、過去を写した写真が風に舞ってエモい!
…仲間にはあまり使いたくない力なんだけどね。見せたくないものもあるだろうから…
フェン・ラフカ
チーム『GN3』として行動。
夏報さんのUCを受けて私の過去語りを。
これは傭兵時代に瀕死の仲間を引き渡して殿を務めた奴ですね、こっちは戦場に残された少女を助けた出来事……
少々恥ずかしく懐かしい光景ばかりですが、民間とはいえ軍事会社なのでこういった情報はあまり出ないんですよね。
……そういう事をした後は大体ボロボロになってましたが。(小声)
戦闘に関しては『スナイパー』として前衛の『援護射撃』します。
立ち回る周辺の花を撃ち、隙を見て【フレイ・カ・グル】でラビットにダメージを与えましょう。
現れた最後の写真を『物隠し』して一言、それは"わたし"の写真なので検閲です。(封印を解いて警告)
ミスティ・ミッドナイト
チーム【GN3】(計3名)
私は…夏報さんの屍を超えていく…!(死んでない)
お二人の作戦により、バリアが解除されたら反撃開始です。
私が近接格闘術(クラヴ・マガ)にてお相手致しましょう。
常に肉薄することでキャノンの射撃動作に入らせません。
頭に被っているのはお面でしょうか?
だとしたら視野は狭そうですね。
【フェイント】を駆使しながら、死角に入り込むように立ち回ります。
赤い花を踏むかもしれませんが、フェンさんに花弁を撃ち抜いてもらいます。更に、花びらを蹴り舞い上げることで【目潰し】に。
フェンさんが隠した写真、いずれ見せて頂ける日も来るのでしょうか。
そのためにも、共にこの場を切り抜けなければなりませんね。
臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)は、あやうくラビットバニーの姿を見落としかけた。
伝えられていた外見情報と食い違うその負傷は、おそらくここまで戦ってきた他の猟兵の手によるものだろう。
顔の左半分に青い絵の具をかぶり、もう片方には深くヒビが入っている。髪の色は一部が血の色に染まり、腕や足には無数のキズアト。右脇腹は深く切り裂かれたようで、止血した布の下から再び血が流れ始めていた。
やってきたラビットバニーは夏報が落とした名刺を拾わずに読む。
『魚座代行調査? なかなかアヤしいじゃん』
「そうかな? それにしても傷だらけだね。じゃあ夏報さんの『フラッシュバック・モンタージュ』でキミの傷口を狙おうか」
夏報が口にした自身のユーベルコードは、精神攻撃と物理防御を主体とした技だ。自分のユーベルコードの本質を隠すようにフェイク情報をさらりと口にした夏報は、故意に落としておいた名刺と合わせてバニーの注意が自分に向くように仕向けていく。
『やってみればいいし。あーしのバリアを抜けるならね!!』
夏報を狙って、赤べこキャノンから砲弾が発射される。
それをすんでの所で撃ち落としたのは、フェン・ラフカ(射貫き、切り拓く、魔弾使い・f03329)だった。爆風に花の上を転がった夏報は、よろよろと体を起こす。
「大丈夫ですか、夏報さん」
歩み寄ったミスティ・ミッドナイト(夜霧のヴィジランテ・f11987)は、冷静な顔のまま夏報に手を差し伸べた。
「ありがと」
「夏報さんの屍を越えていかなくてはならないかと思いました」
そんな冗談が言えるのも、彼女たちが信頼しあっている証だろう。
ミスティの手を取って立ち上がり、夏報はバニーから目を逸らさずに顎に手を当てた。
「このままラビットバニーの攻撃は、夏報さんが防御したほうが良さそうだ。それには……仲間にはあんまり使いたくない力なんだけどね」
夏報のユーベルコードの本当の力は、触れた者の過去を写真に変え、身を守るというもの。
猟兵稼業をしている以上、仲間の背負った過去は決して明るい物だけではないと夏報は知っている。そして、今のラビットバニーに効くであろう写真は明るい内容ばかりの写真ではいけないはずだ。
それを分かって迷うそぶりをみせる夏報に、フェンは狙撃銃を手に駆け寄った。
「大丈夫です。私は私に出来る事をやります」
フェンは手を差し出す。夏報は意を決してその手を取った。
『よそ見してると死んじゃうしっ!』
ラビットバニーは3人の猟兵に向けて砲弾を放つ。それを防いだのは、夏報の周りを舞い始めた49枚の写真だ。1発、2発と続けざまに打った砲弾も、すべて写真に防がれる。
キャノンが効かないなら、とラビットバニーは操った足場で猟兵たちを花弁の下へ落そうとする。その巨大な質量による攻撃すらもごく薄い写真が数枚重なり合う事で防がれる。
『なっ……あーしのバリアに似た力? こんな写真が?』
巨大な花の足場を止めたのが信じられない様子で、バニーは目の前をゆっくりと横切る一枚に目をとめた。
重症を負い背負われて運ばれていく兵士がいる。その傍で敵が来ているであろう方向に銃を構え、殿を務めている兵士がいた。所々に傷を負い、鉄色の髪は所々血に染まっている。今よりも少し幼さを残しているように見えるが、それは間違いなく目の前の猟兵のひとり、フェンの顔だ。
「それは、傭兵時代に瀕死の仲間を引き渡してから、殿を務めた時の奴ですね」
次の連続写真に写るのは2人。フェンが手を引き、抱き上げ、身を挺して庇っているのは幼い少女だ。フェンが銃を手にして周りに隙なく目を配っているのは、そこが戦場だからだろう。
「戦場に残された少女を助けた時です……今見返してみると、大体ボロボロになった記憶ばかりでしたね」
声を抑えるフェンの表情が、心なしか照れくさそうに緩む。
どれも戦場での記憶ばかりだ。民間でも軍事会社ともなれば、写真は機密上表に出せなかったり、そもそも写真が撮れない状況が自然と多くなってしまう。
フェンにとって記憶に留めておくのみで、形に残す手段のなかった過去だ。それが今、夏報の力で写真となって目の前にある。
「そしてこれは……」
フェンは自分の前を通り過ぎる一枚を、指で挟んだ。そのままオーバーコートの内ポケットへとしまい込む。
「……これは、『わたし』の写真なので、検閲がかかります」
気にかかる一言を残し、フェンは銃を構える。
後ろに控えていたミスティが前に進み出た。
「ラビットバニー。あなたにとってはこんな写真かもしれませんが、そこにはフェンさんの過去が詰まっています」
「キミの攻撃くらいなら、たやすく防げるくらいのね」
夏報は写真の隙間からラビットバニーに告げた。
ラビットバニーは3人のいる花の足場の上に移る。
バリアは写真を見ている内にとっくに解かれている。かぶり物はどこまでも口の端を上げた顔のまま。内に隠した表情を窺い知る事はできない。
しかし、その口調は何かが吹っ切れたように明るかった。
『じゃ、あとは実力勝負しかないじゃんね。いいよ、あーしが相手してあげるよ』
ミスティは近接格闘術『クラヴ・マガ』の構えを取る。
使い手の気質にあった、一切の無駄を削いだ格闘技だ。ミスティはそこにOODAループに通じるような思考も落とし込んでいた。
敵の出方をよく見て観察し、仮説を構築し、どのような行動を取るべきかを判断する。
「(ラビットバニーの頭はかぶり物に覆われています。左側には青いペンキが付着している……そちらの方が視野が狭くなっていると考えられるはずです)」
キャノンの砲弾を夏報に防がれ続け、バニーは距離を詰めてきている。更には、常に至近距離戦を強いることで、重いキャノンでは狙えなくさせる。
ミスティは作戦通り、バニーの左側の死角に飛び込んだ。
ヒールを突き立てようとする回し蹴りを避け、右脇腹の傷口にハンドガンのグリップを叩き込む。
『ぐううっ……!』
苦悶の声をあげながら、ラビットバニーはキャノンの重い銃身をミスティ目掛けて振り下ろした。
そこに、仲間と一緒に写りこむフェンの写真が舞い込む。バニーの右側にいる夏報がその場で防御を固めている。
銃身を写真に弾かれたバニーは反動を生かしてキャノンを構えると、ミスティのいるであろう方向一帯に砲弾の雨を降らせた。それをフェンがユーベルコード『フレイ・カ・グル』で狙い撃ち、誘爆させる。
轟音が響き砲弾の破片が降り注いだ。
その中で、ラビットバニーは肌に直接触れる冷たい銃口を感じた。
「これでとどめです」
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戦略上、鉄壁の要塞は敵の侵攻を防ぎ跳ね返す事が求められる。必ず通らなければならない要衝から動かず、敵の迂回を許してはならない。
バリアが守るのは、彼女ひとり。だから他の仲間と作戦を共にすれば、先にそちらを狙われてしまう。
『無い物ねだりって言うじゃん? 自分の力で絶対に手に入らないものがあったら、……見たくなっちゃうもんっしょ……あーしも…………』
そこで途切れてしまった言葉の先は、もう誰にも分からない。
猟兵たちは、ラビットバニーを退けて先へ進む。
成功
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