バトルオブフラワーズ⑩~堅き盾、鋭き感受性
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「やあやあみんな、よく来てくれた。また戦況が動くようだよ、キミたちの活躍でね」
徒梅木・とわ(流るるは梅蕾・f00573)が労いの言葉と共に猟兵たちを迎える。浮かべた微笑みは普段の通りに、尻尾は上機嫌な分だけ左右に揺れて。
「それはつまり、新たなる強敵と対峙する時が来た、という意味でもあるけれど」
――なに、キミたちなら心配はあるまい。
語る妖狐の尾は変わらず揺れて、集った猟兵へに信頼も露わにしていた。
「次に相手をしてもらうのはこいつ、『ラビットバニー』だ。カワイイ怪人、なんて呼ばれているそうだね」
とわの手によって配布される資料には、カリカチュアのように誇張された兎の要素を持つ被り物で頭部を隠した、スタイルのいい女性の姿が描き出されていた。
「どうにも愉快な見目をしている。もう随分慣れてきはしたけれどね。……だがしかし、能力の方は愉快とは言い難い」
絶対無敵バリア。
曰く、あらゆる攻撃を無効化する、その名の通り絶対にして無敵の盾。
ラビットバニーはそれを猟兵たちに先んじて発動することができ、それを以て一方的な戦闘を行う事が出来るのだという。
「厄介極まるね、まったく。けれど……敢えてもう一度言おう」
――だが、しかし。
とわの口端が仄かに上がり、丸眼鏡がきらりと輝く。
「そんなもの、展開できなければ絶対でも無敵でも無いわけだ」
彼女が言うには、絶対無敵という圧倒的な能力故にそれを維持するには相応の労力が必要であり、ラビットバニーの心を乱す事ができればバリアの解除が叶うのだそうだ。
「どうやって心を乱すかなんだけれど……キミたちさ、『エモい』っていう概念、知ってるかな」
語る妖狐はいまいちぴんと来ないのか、困ったように笑っている。
エモい。何かを見て、聞いて、知って、心が強く揺り動かされた状態。
美しい景色。熱い音楽と歌詞。可愛らしいイラストに、もの悲しい昔話。
趣味嗜好の差はあれど、誰かしらがエモさを感じるものはこの世界に、あらゆる世界に溢れかえっている。
「そのエモいってやつ、どうやらラビットバニーは感じすぎるくらいに感じるようなんだ。それこそ誰かしらが感じるものなら、何にでも感じるくらいに。感受性が豊かなんだろうね。良い事だと思うけれど、それが仇だ。利用しない手は無い」
感情が揺り動かされるという事は、心が平静の状態から乱れるという事。つまりエモさを与え、バリアを解除する事が、ラビットバニー攻略の糸口なのだそうだ。
「エモさを感じさせる方法やエモさの種類は各自に一任する。とびきりのエモさを、そして強敵を打ち倒す一撃をかましてきたまえ」
くれぐれも敵が先んじて動くことは忘れないようにね? とわは最後にそれを念押しし、浮かび上がらせたグリモアに力を送る。
水面のように揺らぐ景色と身体。それが収まる頃には、猟兵たちはシステム・フラワーズの内部へと――。
芹沢
エモさ。捉えどころのない言葉ですが、その性質の通り心で感じるものなのだと思います。
猟兵の皆さんが心に感じるエモさをプレイングにぶつけて頂ければ、きっと道は開けるのだと芹沢は思います。
●特記事項
ラビットバニーは必ず、猟兵に先制して『絶対無敵バリアを展開するユーベルコード(POW、SPD、WIZ)』を使ってきます。
絶対無敵バリアは本当に絶対無敵で、あらゆる攻撃を無効化しますが、「ラビットバニーがエモい物を目撃する」と、精神集中が乱れてバリアが消滅します。
ラビットバニーのエモい基準はかなりユルいので、バリアの解除は比較的容易と思われますが、バリアなしでも彼女は相当の実力者です。
●その他
このシナリオが公開され次第プレイング募集中となります。
また、スケジュールとキャパシティの都合でプレイングをお返ししてしまう可能性は常に付きまといます。無理のない範囲でより多くの採用をしていきたい所存ですが、予めご了承して頂けますと幸いです。
以上、芹沢でした。
皆様のエモいプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『カワイイ怪人『ラビットバニー』』
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POW : 赤べこキャノン
【絶対無敵バリア展開後、赤べこキャノン】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : うさちゃんカンフー
【絶対無敵バリア展開後、兎面の目が光る】事で【うさちゃんカンフーモード】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : おはなハッキング
【絶対無敵バリア展開後、両手の指先】から【システム・フラワーズ制御ビーム】を放ち、【花の足場を自在に操作する事】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:和狸56
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
クロヴィス・オリオール
エモいねぇ……はー、初めて聞く言葉。誰が考えたんだか知らねェが、またよくわかんねぇ言葉思いつくモンだ。
ま、説明を聞きゃわからんこともねェが……
そうさな…じゃ、ちょっとした見せモンでもしてやるか。
なぁに大したことじゃない、女を口説く時に使うちょっとしたテクニックだよ。見た感じ乳でけえし女だろ、効くンじゃねェの?
(おもむろにトランプを取り出し、右手から左手へ、左手から右手へ、手品のシャッフルをするように器用に鮮やかにカードを捌く)
ラビットバニーのヤツが好感触な反応を見せたら、バリアが解けてるってことかね?
したらそのまま、隠し持ってたスペードのエース、リスキーソードの出番ってわけだ。
連携・アドリブ可
「(エモい、ねぇ……)」
フェアリーの青年は心中で独り言ちる。
或いは今目の前に広がる一面の花畑――システム・フラワーズ――を見てそれを感じる者もいるだろう。
エモいという言葉をこの作戦にあたって初めて聞くこととなったクロヴィス・オリオール(GamblingRumbling・f11262)の視界にもそれは映っているが、しかし、心は揺り動かされない。
何故なら彼が焦点を合わせているのは花畑でなく、その中に佇む敵の姿なのだから。
「早速来たじゃん、猟兵?」
ラビットバニー。表情の変化を反映しない兎面の被り物をした怪人。しかしその声は野兎のように跳ね。
「早速ガチってこ! あーし全員始末しなきゃなんないし、秒で片付けっから!」
彼女は言葉通りに早速バリアを展開し、臨戦態勢を整える。瞳は染めた赤い光は猟兵への警告色か。
「まぁまぁ、そう言うなよ。いいモン見せてやっから」
しかしそんな様子はどこ吹く風。ニヒルな笑みを浮かべてクロヴィスが取り出すのは一束の、フェアリーである彼の手に収まる小さなトランプ。それを手の中で扇に広げ、ラビットバニーに示して見せる。
クロヴィスが始めたのは小気味のいいオーバーハンドシャッフル。続いて慣れた手つきでリフルシャッフルし、よく混ぜられたトランプはカスケードで上から下へと流れ、スプリングで左から右へ飛んで、両の手を往復していく。
「やばっ! あんたもしかしてマジシャン!? てか指めっちゃ細くてキレイなんですけどー! 動き艶っぽ! つかエッロ!!」
赤い光は今や好奇の光。小さな空間で大きく動き回るトランプを、それを巧みに操る指先を追っていた。
「違ぇよ、ギャンブラーだ」
「なーんだ、手品見せてくれるんじゃないわけ? それならもうちょっとだけ見てようと思ったけ――どッ!」
秒で片付ける。その宣言には些か遅れたが、それもここまで。鮮やかな技に心を動かされたが、未だにワンハンドシャッフルに興じる男相手にバリアの乱れなど些細なこと。さっさと片付けようと、繰り出されるのは横薙ぎの裏拳。
クロヴィスは無抵抗のままそれを受け、弾き飛ばされてしまう。
「手品が出来ねぇとは、言ってねぇ」
しかし彼の表情に変化はなく、デッキから一枚のカードを捲り上げる。
それはスペードのエース。度重なるシャッフルの中デッキトップに忍ばせておいた反撃の為のカード。その身に受けた、無力化したダメージがカードから衝撃派となって排出され、ラビットバニーへと飛んでいった。
「はぁ!? カッコよっ!! 確かに言ってないけど出来るなら出来ぶべっ!?」
だがダメージこそ無力化したものの、振るわれた拳の速さと力強さは想像を遥かに超えるもの。弾かれた宙で放った一撃は被り物を掠め、それを勢いよく、スロットのドラムが如く回転させるにとどめる。
「鼻めっちゃ擦ったし! 赤鼻はトナカイっしょ! あーしウサギなんですけど!!」
面食らった……否、面に食らったラビットバニーは回転の止んだ被り物の位置を直し、声を荒げてバリアを再展開するのだった。
苦戦
🔵🔴🔴
神威・くるる
エモいとかはよぉわからへんけど
かわええもんならお見せできるえ?
指差す先には
みーみーと甘えるような声を上げながら母猫の乳を飲む生まれたての子猫たち
一生懸命前足を動かして飲む子
バランス崩してコロンと転がる子
お腹いっぱいになって足を踏ん張りながらくぁ、とあくびする子
飲みながらうとうとしている子
そして、そんな我が子らを愛しそうに毛繕いする母猫
ふふ、かあいらいおすやろ?
あぁ、しー
静かに!子猫ちゃん起きてまうやろ
ところで知ってはる?
赤ちゃん産んだ後のお母ちゃん猫て
めちゃめちゃお腹すいてて
めちゃめちゃ気ぃたってるんやて
というわけで、はい、これ(猫缶を渡す)
そんでもって、はい(マタタビも渡す)
そんで、UC発動
「無理ぃ……まぢ無理なんですけどぉ……!」
システム・フラワーズ内に涙に湿ったような、潤いの滲む声が響く。
ラビットバニーが溢れさせる心の内は適切な言語化をする間もない勢いを持ち、そして大きい。それに比するように声量も大きなもので。
「ああ、しーっ。静かに、子猫ちゃん起きてまうやろ?」
対して彼女を諌める神威・くるる(神の威を狩る黒猫・f01129)の声音は囁くように静かなもの。
何故なら二人の前には、身体を横たえる母猫と、その母猫から乳をもらう生まれたての子猫たちの作り出す暖かな光景が広がっていたからだ。
「わかってるけどぉ……あんよ、あんよがぁ……」
子猫の一匹は懸命に前足を動かして乳を飲み、その隣ではころんと体勢を崩して仰向けになる子。またある一匹はお腹いっぱいになるまで乳を飲めたのだろう、身体をしならせて小さくあくびをし、乳を飲みながらうつらうつらと夢見心地な子猫も居る。母猫はといえばその一匹一匹を慈しむように、丁寧に毛繕いをしてやっていた。
「ふふ、かあいらしおすやろ? ところで知ってはる?」
「やめてえ、追加の情報とか要らなぃ……キトゥンキャットに改名したくなるぅ……」
目の前の光景だけで既に耐え難い程に心を揺さぶられているラビットバニー、これ以上のエモをぶつけられれば兎の被り物を猫に挿げ替えねばならないと、例え刹那的であってもそんな事を考えてしまう位に心は肉球のスタンプに塗れ、みぃみぃと甘えるような鳴き声がリピート再生される程にやられていた。
くるるは優しい声音と表情で、しかし追撃を止める気はない。
「赤ちゃん産んだ後のお母ちゃん猫て、めちゃめちゃお腹すいてて、だからめちゃめちゃ気ぃたってるんやて」
「うううう……頑張ってるんだねえ……ごめんねえ、あーし何もしてあげられなくてぇ……」
――おお、もう。
健気な母猫さえ愛おしく、限界を超えたラビットバニーは被り物の瞳を両の手で覆ってしまう。
「大丈夫。できる事、あるんやよ。というわけで……」
「え……?」
そんなラビットバニーの肩をくるるが突っついて、
「はい、これ。そんでもって、はい」
手渡すのは猫缶とマタタビ。
「あ、あーしが餌を……おかあさんに……! あざまる水産……!」
「それじゃ、あとよろしくー」
「任しとい……へっ?」
……喚び出すのは、お腹を空かせた黒猫の大群。言葉はラビットバニーにではなく、猫たちへ。
「ちょ、待って待って待ってぇ! おかあさん! おかあさん猫ー!!」
くるるの合図で津波と化した猫たちは我先にとラビットバニーに、彼女が持つただ一つの猫缶目掛けて殺到していく。
「エモいとかはよぉわからへんけど、かわええもんはやっぱかわええよなあ」
バリアの維持など出来ていようはずも無かったラビットバニーは津波に押し流され、爪に引っかかれ、ざりざりと舐めあげられ、踏まれ。うさちゃんカンフーにてそれを脱するまでの間、くるるの放った可愛いに揉みくちゃにされるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
リンタロウ・ホネハミ
なるほど、要はときめかせればいいんすね?
任せてくださいっす!
開口一番、オレっちは彼女に愛の言葉を贈るっす
なんて美しい人だ……
その絹糸のごとくさらりと流れる御髪、
華奢でありながら妖艶な魅力に満ちた肢体、
それらを彩るビビットなファッション、
全てが美しいっす……
正直に言うっす、貴女に一目惚れしたっす
もはやオレっちは貴女の心の虜、貴女に見放されることを恐れる憐れな下僕となったっす
どうかオレっちにもっと貴女を知ることを許してもらえないっすか?
そうして無敵バリアが解けたらゆっくりと歩み寄り
それじゃ……
【〇六三番之城砕士】をドーン!
おっとすいやせん、ときめかせちゃいましたか?
罪な男でごめんなさいっすよー!
「なんて美しい人だ……」
津波がさって穏やかな花々の風景が帰ってきたシステム・フラワーズ。
その中で、花を愛でるように優しげな言葉が紡がれる。
「その絹糸のごとくさらりと流れる御髪、」
リンタロウ・ホネハミ(Bones Circus・f00854)が囁くたびに口端に咥えた大振りな骨が揺れ、
「……何言ってんの……? あーし今ぼろくそなんですけど……?」
ラビットバニーも鮮やかな――今は猫の黒い毛が所々に混じる――エメラルドグリーンの艶やかな――今は津波に揉まれて崩れた――髪を風に揺らしていた。
「「……」」
流れる沈黙。かちゃり、骨と歯が擦れる音。
「……華奢でありながら妖艶な魅力に満ちた肢体、それらを彩るビビッドなファッション、全てが美しいっす……」
「聞いてた!? 今あーしの話無かったことにしたっしょ!?」
リンタロウは人好きのしそうな朗らかな笑顔を維持したまま話を着地させるが、ラビットバニーは抗議の声と共に赤べこが覆いかぶさるように据えられた大砲、赤べこキャノンを肩に担ぎ、その砲門をリンタロウへと向けて引鉄を引く。
「いやいや聞いてるっすけど!」
こりゃ参ったっすね、なんてリンタロウはにこにこと笑ったまま。
「ただね、それを押しても言いたい事があるっつーことっす! それの前にはそんなこと些事って感じっすよ!」
雨霰と降り注ぐ砲弾を躱し、爆風に煽られながら、尚も流暢に言葉を紡ぎ続ける。
「正直に言うっす、貴女に一目惚れしたっす!」
「はっ……はぁ!? わ、わわっわわけわかんないですけどーーー!!」
突然の告白に砲弾が明後日の方向へと飛び、それを最後に爆音が収まった。
代わりにラビットバニーの心中で炸裂するのは、有り余るエモさ。
「わかんなくてもいいっす。もはやオレっちは貴女の心の虜、貴女に見放されることを恐れる憐れな下僕となったっす」
「こんなめたくそななり見て、あーしの素顔もわからないのに、それで急に虜とかっ……!」
「そうそう、まだ知ら無い事ばかりっす。貴女が身なりを整えた時の姿も、その素顔も。だから、」
臆することなくリンタロウは一歩、
「どうかオレっちにもっと、」
また一歩と、
「貴女を知ることを許してもらえないっすか?」
一際優しく笑んで、ラビットバニーに歩み寄っていく。
「はうぅッ……! それ……っ……そういう口説き文句……! 夢見ちゃうでしょうがっ……エッモエモでしょうがっ……!」
古き良き少女漫画のように手の甲を口元に添え、びくりと身体をのけ反らせるラビットバニーには、最早リンタロウの歩みを阻めただろうバリアを維持させることは出来ていない。
「それじゃ……」
「は、はいぃ……」
子兎のように震えるラビットバニーにリンタロウは両腕を、
「ドーン!!」
突き出した。広げるのではなく。
それはまるでサイの突進。
絶対にブチ込むという意志を乗せ、三トンに達する自重にも拘らず毎時四十五キロの速力を出せる膂力と、大型SUVを凹ませるほどの硬い皮膚で繰り出した一撃。
「あーしのエモさ返してぇええーーー!!!」
「おっとすいやせん、ときめかせちゃいましたか?」
弓なりに身体をしならせ吹き飛んでいくラビットバニー。彼女の姿と叫びにリンタロウはけらけらと笑い、
「罪な男でごめんなさいっすよ!」
悪びれる事もなく、軽やかに別れの言葉を口にするのだった。
成功
🔵🔵🔴
浅葱・シアラ
どんなに倒しても骸の海から復活してくる……!
何度だってシアたち猟兵が勝つから……!
使用するユーベルコードは「神薙胡蝶蘭」
エモって言うのは心を動かされるってことだよね……だったら……!
持ってた鉄塊剣を白い胡蝶蘭の花弁に変えて、花弁を嵐に乗せて!
これが胡蝶蘭の舞だよ!
ねえ、知ってる?ラビットバニー
胡蝶蘭の花言葉って、「幸せが飛んでくる」なんだ
嵐に流されながらも舞う花弁、まるで胡蝶たちがひらひらと舞い踊ってるみたいで綺麗だよね?
えへ……もし、綺麗って感じてくれたなら、バリア、解いてくれたかな?
バリアが解けたら、胡蝶蘭の嵐でラビットバニーを攻撃!
【高速詠唱】でどんどん追加で発動して攻撃していくよ!
「もーっ! もうもうもうっ! あいつらほんといけ好かないんですけどーっ! トランプ技とか猫とか甘い言葉とかめっちゃいけ好くんですけどーっ!!」
花畑に放り棄てられたような格好で、ラビットバニーは相反する二つの感情に悶えるようにじたばたと暴れていた。
「次から次にエモいもんばっか見せつけてきて、あんなんズル……はぇ?」
そんなラビットバニーの身体に……否、その少し上部。彼女を覆うバリアの上にひらり、はらり、花弁が舞い降りてくる。それはシステム・フラワーズに咲くどの花とも違う、白の花弁。
それがバリアの上に積もるように留まるという事はつまり、
「もう新しいのきてっし! 今度こそぎったんぎったんに……」
その花弁は彼女を害する攻撃だという事。
身体を丸めるように足を上げ、勢いを付けたネックスプリングで立ち上がるラビットバニー。彼女を中心に展開されているバリアも動きに追従し、花弁が払い落とされていく。
「…………やーばいって……めっちゃ美少女来た……愛と正義っぽいの来た……」
立ち上がり、良好になった彼女の視界に入ったのは、ゆらゆらと飛ぶ一人の可憐なフェアリー。
「えへ、綺麗でしょ。胡蝶蘭の花弁」
浅葱・シアラ(黄金纏う紫光蝶・f04820)は手にした鉄塊剣を胡蝶蘭の花弁に変じさせながらラビットバニーに笑いかける。
「は、花弁とか見飽きる程に見られっし! そこら中花弁だらけだし! 平気の助なんで!!」
――綺麗は綺麗だけど、いけるっ!
ともすれば少女の姿の方が心をかき乱しかねない。そんな判断もあったのだろう、ラビットバニーはシアラの周囲の花畑目掛けて指先からビームを放つ。照射されたビームに呼応するように花畑は局所的な隆起を起こし、シアラ目掛けてせり上がっていった。
シアラも翅をはためかせてそれを回避するが、その先にはせり上がった足場による壁。ひらり、はらり、宙を舞う花弁のように足元からの妨害を躱すが、次第にその動きは制限されていってしまう。
「……ねえ知ってる、ラビットバニー?」
「いや! 知らないっ! てか知りたくないっ! 知りたくないから知ってるってことで!!」
「胡蝶蘭の花言葉って、『幸せが飛んでくる』なんだ」
「まーた話を聞かない手合いかよー! しかもこの子の素っぽい!!」
「宙を舞う花弁、まるで胡蝶たちがひらひらと舞い踊ってるみたいで」
まるで自慢するかのように重ねられるシアラの言葉。えてして子供の自慢というのは、聞いてあげるまで止まらないものだ。
「幸せが羽ばたいてるみたいで、綺麗だよね」
そして最後まで聞いてあげればほら、にこりと愛らしい笑顔のおまけつき。
「そーいう花言葉とか絡めて来るのホント無理だから……お嬢ちゃんもめちゃんこキュートであーし幸せ……」
心の幸せとは裏腹に、ラビットバニーを取り巻く状況は不幸せ。
バリアの消失と共に押し寄せた花弁に身体を切り刻まれ、シアラの姿さえも見失う事になってしまった。
成功
🔵🔵🔴
クロエ・ウィンタース
エモ…?最近の若い娘は判らん言葉を使うな。
さて、流派なし、クロエという。
悪いが貴様を斬らせてもらう。いざ。
>行動
【SPD】
UC【黒】を使用。最初から出し惜しみ無しだ。
やる事は変わらん
黒雷じみた妖気を迸らせて高速で【フェイント】を織り交ぜ【2回攻撃】
敵の攻撃には【見切り】【カウンター】
暗器もナイフもすべて使い
殴られても吹き飛ばされても煽られても繰り返すぞ。
人を斬る業に情動も何も無い。
貴様のばりあ?とやらが見事な技で
俺の攻撃が貴様に劣り刃が立たないのは事実。
だがそれがどうした
その上で俺は貴様を凌駕する。
言っただろう。貴様を斬る、と。
貴様の情動など知った事か。
貴様のその業を超えて俺は貴様を斬るのだ!
「(……皆、ばりあ? とやらの解除には成功しているようだな)」
花弁舞う戦場を観察する青い瞳があった。
「(俺にはエモというのがいまいち判らんが……やる事は変わらん)」
花弁交じりの風に揺れる、野暮ったく括られた銀糸の長髪。
宙を舞う花弁の全てが地に降り立つ頃には、その持ち主の少女は影も形もなく。
――瞬く間の後、澄んだ金属音。
「……もう再展開してるしー。何、不意打ちなら通ると思っちゃった感じ?」
「いいや。只の確認だ」
音の出どころはラビットバニーの至近。
苛立たしさを孕んだくぐもった声が兎面の被り物の隙間から漏れ出てくる。
少女は狼の耳だけをその言葉に貸し、振るった、そしてバリアに弾かれた太刀を、少しの痺れの残る手で黒い鞘へと戻す。
「さて、不躾な一撃失礼した。流派なし、クロエという。悪いが貴様を斬らせてもらう」
少女、クロエ・ウィンタース(刃狼・f15418)は静かに言い放つとじわり、妖気をその身から滲ませる。
改めて太刀を抜き放てば、身体から迸るのは黒雷の如き力の奔流。それに染められるように銀糸の髪は漆黒に色を変え、青い瞳は今や赤く。
「斬れるもんなら斬ってみなって!」
応するラビットバニーもまた、被り物の瞳が赤く輝かせる。
「いざ」
開幕の合図はクロエの一言。
機先を制するべく妖気に覆われた太刀を袈裟に振るう。
しかしこれは見せかけの一振り。実際に弧を描いたのは黒雷だけで、一呼吸のズレの後に太刀が閃く。
「何々、今度はフェイントならワンチャンあると思っちゃった感じ?」
だから澄んだ音も、一呼吸の後に。
クロエは怯むことなく、バリアを叩いて起きた反発力を殺さないまま身を翻して、逆袈裟切りを放つが、
「……もしかして脳筋ってやつ? やば、もしかしてボーナスタイム? っしゃー、さっさと片付けて気分アゲるかー!」
ラビットバニーは身じろぎ一つしない。絶対の守り故に、無敵。無敵の身故に、防御は不要。
棒立ちの姿勢から揚々と繰り出される蹴撃をクロエは半歩の後退で躱し、続く大きな跳躍で追撃の殴打から逃れる。
宙を舞う最中に左手に握られているのは、羽織の袖に仕込まれた三本の苦無。着地までの隙を埋めるためにとそれを投げ放つ。
「――だからさ、無駄なんだって」
しかし冷ややかな声は、クロエの鼻先から。
「あんたの刃なんてあーしに届かないわけ。そろそろご理解オッケー?」
打ち合い、というには一方的な戦いが続いた。
戦いの最中に身だしなみを整える余裕さえあったラビットバニーに対して、
「それが……、どうした……」
クロエは肩で息をし、身体のあちこちに痣と切傷を作り、白の羽織にも血を滲ませていた。
「その上で……俺は……貴様を凌駕、する」
しかし瞳の赤は、
「言っただろう……貴様を斬る、と……ッ!」
闘志は、未だ失せることなく。
「(あっ……やばっ……)」
「貴様の情動など、知った事か……。貴様のその業を超えて、俺は……貴様をッ、斬るのだッ!!」
ラビットバニーを震わせたのは寒気か、それとも歓喜か。
「……一途っっっっっ!!! おまっ、おまえ……っ! 流派なしとか言っといてめっちゃ剣術ばかだなッ!?」
戦う為の、余りに愚直な情動が、立ち塞がる絶対無敵を切り裂いていた。
大成功
🔵🔵🔵
作図・未来
よし、僕は天命座君と一緒に戦うよ。
とは言ってもその、エモい……? という表現がよくわからないんだよね。
っと、天命座君は何かアイデアがあるのかい?
君の考えることだし、一体どんなことが起こるのか見当もつかないけど……。
まぁ、何かあったらサポートはするし、君に任せるよ。
…………?
この光景は、何か見覚えがある、ような……。
いや、これは、もしかして、あの時の――
――――
――っ、すまない。反応が遅れた!
攻撃に移るよ! ええと、君だ! 来てくれ、双剣の騎士!
ああもう、戦闘中に天命座君に見惚れるだなんて一体僕は何をやって……。
ああえっと違う、なんでもない。大丈夫!
とりあえずは、目の前の敵が先だ……!!
天命座・アリカ
未来君と共に!兎退治としゃれこもう!
心を震わせればいいのかい?ならば私の「エモ」をお見せしよう!
再現するは記憶の欠片。桃色桜の花吹雪。
思い出に思い出を彩って。桜に混ざるは梅の花。
君といつか見た舞台。その光景をもう一度。
見ていなくても心に描く。表裏一体傍に在る。
さあさどうぞと見給へば。これが私の天命座。
桜の扇を仰ぎ見せ。優雅に舞を繰広げ。
踊り奏でる二重奏。永遠に未来へ鳴り響く。
今だぜ未来君!隙あり灯台下暗しなのさ!ちょいさー!
(持っていた扇をバニーへ投げつける)
演出だけじゃあないんだぜ!舞い散る花でね目隠しを!
辺りを桃色に染め上げて!私の姿は見えるかい?
というわけで!終幕は任せた未来君!
大きな太刀傷を負ったラビットバニーの耳に届いたのは、空を切ってどこまでも届きそうな澄んだ声。
「さあさ兎退治の時間だよ!」
天命座・アリカ(自己矛盾のパラドクス・f01794)は威風堂々と仁王立ち、立ちはだかる敵への宣戦布告、或いは並び立つ少年への意思疎通を済ませる。天才美女の言葉は各方面に配慮され、一粒で二度美味しく、その上機能的なのだ。
「そうだね、皆でダメージを蓄積できている。この調子でいこう。……と言いたいのだけれど……」
同意しながらも歯切れが悪そうにしている作図・未来(朝日の死者のタンツ・f00021)はラビットバニーに聞かれまいと僅かに膝を曲げ、
「その、エモい……? という表現がよくわからないんだよね……」
アリカに耳打つ。
ふんふん、なるほど。アリカは瞼を閉じて彼の声に耳を傾け、再び瞼を開けば、
「わからないなら仕方ない! 心を震わせればいいのだろう! ならば未来君が代わりに私の『エモ』をお見せしよう!」
再びの良く通る声。天才美女は伝わりやすさだって貴ぶのだ。
そんな気はしていたけどね、と未来は耳打ちの甲斐なく明け透けになっただろう会話に額を抑え、
「はい来たー! 話を聞かない奴三号ー! そこまで言ったら全モロって感じだし! そっちが危なくない奴で! あんたは危ない奴!」
ラビットバニーはアリカの言葉から会話の大筋を推測し、未来を、次いでアリカを指さす。
アリカに向けられた指は、彼女の身体をなぞるように下へ。
「……! 天命座君、すまない!」
未来はその指を見て咄嗟にアリカの身体を突き飛ばす。
同時にラビットバニーの指先から放たれる、システム・フラワーズ内の足場を操作するビーム。ビームが照射された、今この瞬間までアリカが立っていた――今は未来の身体を支える――足場がプリンのように柔らかく震え、その上に立つ者の足を取る。
「ありがとうだが未来君! あっちの心を震わせる前にキミが震えてしまっているよ!」
「僕の方は大丈夫だから! 何かアイデアがあるんだよね? そっちを任せた!」
着地したアリカは二歩三歩とその場からさらに距離を取る。震える足場は照射され続けるビームに合わせてゆっくりと範囲を広げていた。
「本命じゃないけど結果オーライ! ってかとても大丈夫に見えないし? 今度こそもらったぁ!」
ラビットバニーは空いた手でアリカの足元にを狙い、更なるビームを放っていく。
「いやいや、彼が大丈夫だと言ったんだからね――」
だがしかし、その間に割り入るように燃え立つ炎が、
「僕は彼女に任せたんだ――」
突き立つ雷があった。
「キミには手は届かないよ!」
「彼女には手出しさせない!」
刹那、炎と雷、二つの眩い光を裂いて影が跳ぶ。
今は二振りの剣を鞘に納め、両腕でアリカを抱えるのは未来が喚び出した霊体の騎士。窪み、せり出し、揺れ動く足場を躱し、風に流れる桃色の髪と共に宙を舞う。
「――再現するは記憶の欠片。桃色桜の花吹雪」
よく通る声は距離を、地鳴りさえも飛び越えて、桜の花弁と共に降り来る。
アリカの歌うような声が未来の耳を、ラビットバニーの被り物を揺らしていた。
「思い出に思い出を彩って。桜に混ざるは梅の花」
「は、花弁系は二度目だし! 免疫出来てっから……増えたぁ!?」
アリカの声に呼応するように、舞い降りる桜色の中に梅の白が混ざる。
「キミといつか見た舞台。その光景をもう一度」
「見てない! あーし見てない!!」
それもその筈。
「(この光景は、何か見覚えがある、ような……?)」
これはラビットバニーが知る由もない、アリカが記録してきた記憶の再現。彼女が『君』と過ごした日常の一幕。
「見ていなくても心に描く。表裏一体傍に在る」
そしてここには居ない、もう一人の『君』と過ごした日常の一幕。
二つは溶け合い、くるりと翻れば梅は桜に、ゆらり揺れれば桜が梅へとその姿を変えていく。
「さあさどうぞと見給へば。これが私の天命座」
「(いや、これは、もしかして、あの時の――)」
右手を『キミ』に向けて伸ばせば、いつか花見をした桜の木。『キミ』と贈りあった感謝の記憶。
「桜の扇を仰ぎ見せ。優雅に舞を繰広げ」
「もう、もうやめてぇ……堪忍してつかぁーさい……」
左手を振り仰げば、いつか買い物をしたエンパイアの町並み。『キミ』と演じあった即興劇の記憶。
「踊り奏でる二重奏。永遠に未来へ鳴り響く」
――演目『災厄再来再興災禍』(キオクノアリカ)改め、この日にあっては『幸躍再来再興幸花』(キミトノキオクノアリカ)。この身に溢れる幸福の記憶を、キミに贈ろう。
「エ”モ”い”ぃ”ぃ”……」
安定した足場の上で、しかしラビットバニーは崩れ落ちる。被り物の隙間からは、だばだばと涙の川。
「ダーイブ! 今だぜ未来君! 隙あり灯台下暗しなのさ!」
思う存分にエモを見せつけ、アリカは騎士の腕の中から飛び降りる。
「(まったく、君は敵どころか僕の心まで――)」
未来はアリカを、一面の花吹雪を泳ぐ天才美女を見上げ、或いはその姿に見惚れ、
「……いや待って!? 天命座君、着地は!?」
しかしぐんぐんと近づく彼女との距離に現実へと引き戻される。
「頼んだ! 大丈夫だろう!?」
「それずるくない……!? ああもう……っ、ロホスッ!」
未来からの指示を受け、騎士は遂に二振りの剣を引き抜く。
壁の如くせり上がった足場を蹴ってラビットバニーの元へと飛び込み、右手に携えた炎の剣で焼き斬り、左手に携えた雷の剣で貫くのだった。
一方アリカはといえば、騎士の腕に代わり、真下に居た未来の両腕の中。
「ほら大丈夫だったろう!」
「無茶が過ぎるよ……!」
……なら格好は良かったが、実際は彼の身体の上。
落下と転倒の衝撃は、柔らかく震える足場が包むように受け止めていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴィクティム・ウィンターミュート
◎
テメェがどんなに強くても関係無い
俺は「勝ってくる」とアイツに言って、ここに来た
見送るだけで歯痒い思いしてるかもしれねぇアイツに
「勝った」と言う為に、ここで終われ
先に言っておくぜ
俺は一人で戦いにきたわけじゃないのさ
俺と、"こいつ"でお前を出し抜く(霊符を見せる)
あいつが誕生日プレゼントに送ってきてくれたものだ
こんな俺にだぜ?
──なおさら勝たなきゃな
握りしめて、UC発動!
どれだけ速く動いて攻撃しようとなぁ!
耐えりゃいい!
【激痛耐性】と【オーラ防御】で高速の一撃を耐え抜いて!
無敵のバリアが無くなって、しかも距離を詰めたせいで無防備なところを!
【破魔】の力を込めた霊符をナイフに巻きつけ!ぶちかます!
ラビットバニーが負った傷は数知れず。
「もうこいつらなんなの!! どんだけエモいことしてくんの!?」
しかし見た目に反して彼女の肉体的な疲弊は未だ薄く、兎面の被り物を震わせて怒りとも動揺ともつかない叫びを上げている。
「あーしの方が絶対強いじゃん! 無敵のはずじゃん! それを次から次へと……」
「テメェがどんなに強くても関係無いって事だよ」
そんな彼女の叫びを遮ったのは、一人の少年の声。
「全員『勝つ』って気持ちでここに来てんだ」
「あーよかった……今度は一人……! いい加減ぶっ飛ばーす!!」
ニヒルに口端を釣り上げる少年の姿に、ラビットバニーが零すのは安堵の声。
先の二人との戦いが、特に繰り出されたエモさが精神的には相当堪えたのだろう。
しかし余裕を見せる――未だ限界を見せない――強敵を前に少年は、
「残念だったな。一人だけど一人じゃない。俺は『勝ってくる』とアイツに言って、ここに来た。見送るだけで歯痒い思いしてるかもしれねぇアイツの分まで、背負って来てる」
ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)は、尚も不敵に笑って言い放つのだ。それが敵の能力を鈍らせる妨害工作になると知っているから。
「あ”ー!! も、だめ! ストップ!! もう端々からやばみが来てんだよね!?」
「だからよ、アイツに勝ったと言うために……いや、アイツが勝ったんだと胸を張らせる為に」
……或いはそれをアイツが居る場では、それにチームの仲間たちと肩を並べては言えそうにない事を知っているから。
「俺と、『こいつ』でお前を出し抜く」
ヴィクティムが取り出したのは一枚の霊符。彼の誕生日を祝った贈り物。
――こんな俺に贈って来てくれたんだぜ? なおさら、勝たなきゃな。
引き抜いたナイフの柄に巻き付けて、込められた思いを、湧き上がる思いを離さぬようにと強く強く握りしめる。
「どう見たって一人なんだから一旦アイツもこいつも置いとこ!?」
ラビットバニーは直感した。この男の口は相当にヤバイ。だが何よりヤバイのあの一枚の紙切れだと。あれは極薄軽量にして高純度のエモそのものだと。
だからそれを弾くために、瞳を赤く輝かせて踏み込む。
一瞬の一歩。目に映らない速さ。知覚できない速さは地に落ちた幾つもの花弁を巻き上げる。
しかし兎がどれだけ速く跳ねようと、ヴィクティムのプランに揺らぎはない。妖狐の業に抜かりはない。
これ見よがしに取り出した霊符は、それがこちらの切り札だと印象付けるための舞台演出。そしてそれに狙いを定めるならば、敵は既に心を揺り動かされたということの、バリアの維持に問題を起こしていることの証左。さらに彼が霊符を握りしめた時には、それに内包されていた力――結界――が既に発動している。
「――んなっ!?」
「へっへ、自信に違わぬ効果じゃねぇか!」
ヴィクティムの身体を覆うように張り巡らされた結界はラビットバニーが繰り出した爪撃を受けてなお健在で、被る筈の痛みさえ和らげていた。
故に反撃の一撃は万全の身体能力で以って。ヴィクティムは突き出されたラビットバニーの腕にナイフを這わせ、駆けあがった先の肩口へと深く突き立てる。
「俺とアイツのありったけ、その身体に刻むんだなァ!」
一際強く霊符を握りしめれば、魔を払う力が刃を介して流し込まれ、痛みに喘ぐ――或いは尊さに咽び泣く――ラビットバニーの声を木霊させた。
大成功
🔵🔵🔵
ヌル・リリファ
◆匡さん(f01612)と
◆アドリブ歓迎
(わたしが下手に動けばそれが致命傷になるとわかるから、見ていることしかできなかった。
そして、赤い血が飛ぶのを呆然と見る。)
きょう、さん……。
……わかった。
(任せられたのだ。なら、やるべきことはひとつだ。
だから今は浮かんだ全てを切り捨てる。いつもそうしているように)
匡さんは貴方のこころをうごかせた?
そっか。じゃあ、遠慮なく。
……殺す。
UC起動。ここまでのうごきを観察して、【学習力】でえた相手のうごきのくせと【戦闘知識】をもとに演算、それにしたがって【属性攻撃】でひかりのちからを強化した武器をうごかす。
ここまで匡さんのしたこと、無駄だったなんていわせないから
鳴宮・匡
◆ヌル(f05378)と
◆アドリブ歓迎
相手の動きを注視、五感知覚全てを用いて捉える
高速機動を見切り、先んじてその動きを予測
足場が制限されるなら、それも「視て」計算に含め
射撃による牽制や行動制限も駆使
視、聴き、推定しえた全ての情報
全てのリソースを以て
後ろに立つヌルを守る
絶対に、そちらへ攻撃は通さない
……合理的じゃないって? わかってる
どう考えたって、俺の方がヌルよりも弱いから
でも、傷つくのは見たくないんだ
自分にとって――
(大事な存在、という言葉は喉からは出ず)
……近くにいればいるほど、余計に
だから、ヌルはそこにいてくれ
最後までちゃんと守るし
ヌルが強いのを、俺は知ってる
――信じてるから
あと、任せた
アストリーゼ・レギンレイヴ
【セレナリーゼ(f16525)と】
もう二度とあの子を傷つけさせはしない
喩え、どんな相手であろうとも
……行くわよ、覚悟はいいわね
胸に刻むは《黒の守誓》
――あの子を必ず護り抜くと、そう誓うわ
あたしのすべきことは唯一つ、「守る」こと
自身への攻撃だけではない
あの子へと迫る攻撃も、その全てを受け止め
その祈りを妨げさせないこと
武器で受け止め
或いは自身を守るオーラ――暗黒の力でその威力を軽減し
防ぎきれなければ、致命傷にならぬ範囲でこの身に受ける
傷など厭わない
血を流すことなど恐れない
この背に庇った命を
あの子の優しき祈りを
その笑顔を、平穏を、護る為ならば
……お前のような者には、きっと一生判らないでしょうね
セレナリーゼ・レギンレイヴ
アストお姉ちゃん(f00658)と共に
変わった風貌の相手、なのですね
ですが立ち塞がる敵だというのならば止まってはいられません
必ずや、突破いたしましょう
私にできるのは書に【祈り】、奇跡の力を振るうことだけ
威力と範囲に目覚ましいものはあれど、時間もかかり隙も多いその力
けれど――
私は一人でここにいるわけではありません
前には大切な姉がいるのですから
ならば私にできることはただただ祈りを紡ぐのみ
視界すら不要、目は閉じて
回避すらも不要、ただ手を組んで
次に私が目を開ける時、それは
貴女に裁きの光が堕ちる時です
ああ、でも
傷ついた姉の背中を見るのは何度だってつらいです
少しでも、その重荷を代わる
その為の力を、どうか
擦過傷に打撲痕、斬り傷に刺し傷。兎面の被り物は所々に焦げている有様。
満身創痍。そう形容するしかないほどにラビットバニーは傷を負っていた。
しかし、
「ぶっ飛ばす……片っ端からぶっ飛ばーす……!」
未だ戦う意志は、猟兵たちに向ける意思は衰えぬまま。兎面の被り物に内包されているのは、或いは血に飢えた肉食獣。
殴りかかるエモさに大荒れの心中だったが、流した血の分だけ今は冷ややかに。
「……変わった風貌の相手、なのですね」
「かわり果ててる、そういったほうが自然かも」
赤く灯った無機質な瞳の先で、二人の猟兵が獰猛な色を見つめ返している。
普段は柔和な表情のセレナリーゼ・レギンレイヴ(Ⅵ度目の星月夜・f16525)だが、この戦いの重要性を思えばその面差しは引き締まった、真剣なものになっていて。
一方で彼女の傍ら、応じるように口を開くヌル・リリファ(出来損ないの魔造人形・f05378)の表情は平坦そのもの。戦場での自分の在り方を示すようにどこまでも無機質で、機械的で。
「そう……かもしれませんね。もとより果てさせるために来たのです。やることは、変わりませんね」
「うん。あいつを殺してしまおう」
その言葉を事もなげに選んだのだろうヌルにセレナリーゼは小さな恐れを感じたが、しかし言葉はどこまで行っても言葉だ。
――立ち塞がる敵を倒し、ここを突破する。
セレナリーゼがそれを成し遂げるなら、言葉は違えど辿り着く結果に大きな違いは無い。
今一度覚悟が揺らがぬようにと左胸に手を当て、己が鼓動を確かめる。感じる高鳴りは覚悟の高揚か、……或いは血縁への心配か。
「……行くわよ、覚悟はいいわね」
血色の大剣を握り締め、アストリーゼ・レギンレイヴ(闇よりなお黒き夜・f00658)は誰よりも先んじて歩を進める。
――喩え、どんな相手であろうとも、
唯一つのすべきこと、
――……もう二度と、あの子を傷つけさせはしない。
妹であるセレナリーゼを守るために。
「ああ」
数歩遅れて……否、定刻通りに鳴宮・匡(凪の海・f01612)も歩き出す。手にはハンドガンと諸刃のナイフ。他の一切合切は花畑に放り、出来る限りの身軽さを選んだのは少しでも彼我の機動力の差を埋める為。予備のマガジンすら手元にはない。必要になる頃には、決着は既に着いている。
それは奇妙な共闘だった。
猟兵にとって共闘することは珍しいことではない。
しかしながら彼らは、
「もしかしてあんたら、余りもんか何か?」
勝利に向けた筋書が無かった。
「それとも脳筋二号と三号なわけ?」
絶対無敵を打ち破る手段を、敵の心を強く揺り動かす手段を、持ち合わせてはいなかった
故にこれは、勝利の見えない、当て所なく彷徨うばかりの、奇妙な共闘。
「……合理的じゃないってのは、……ッ! わかってる……!」
嬉々として振るわれるラビットバニーの拳をナイフで受け止め、しかし有り余る膂力によって強引にねじ込まれれば、諸刃故に匡の身体に赤い線を残し滴を零させる。
「(そもそも……どう考えたって、俺の方がヌルよりも弱い。これが最善手じゃない)」
戦いとは切り離されたように冷静な思考で匡は考える。
何故この場に立っているのか。その意味を。
自分では絶対無敵を破れぬと悟っていながら、機巧の少女にもそれは叶わぬだろうと理解していながら、なぜ戦っているのか。
頬を伝う血を手の甲で拭う。
「(……ヌルが傷つくのを、見たくないのか)」
滲んだ赤が、見慣れた筈の赤が鮮やかで。
「(自分にとって――)」
その赤を払うように腕を振れば、血の飛沫が花畑に舞った。
ヌルはただ静かに、風にそよぐ野花のようにあり続けた。
自分が下手に動けば、それが男の予測を乱すことを知っていたから。一歩が致命傷となり、瞬く間に瓦解することを推測していたから。
少女は瞬き無く、戦闘を観察し続ける。戦場を記憶し続ける。
機巧の瞳は男の背中を、そして流れる血の一滴さえも捉え続けていた。
「(きょう、さん……)」
揺らぎ。
風の向きが変われば野花の顔向きも変わるように、匡の姿はヌルに言い知れない揺らぎを与えていた。
今すぐに手を伸ばしたい、一歩踏み出したいとでも言うように四肢が疼いているように錯覚(かん)じられる。
疼きは末端から中枢へ。観察(み)ていなければならないのに、視界がぐらつく。
「――ヌルはそこにいてくれ」
「えっ……」
錯覚を灌いだのは、静かな水音。波無き海の潮騒。
「…………、……十分、近くにいてくれてる」
自分にとって近くに感じられるから、
――『 』な存在だからこそ……、
「最後まで、ちゃんと守る」
傷つくのを、見たくない。
「……わかった」
気がつけば、錯覚こそが錯覚だったのではないかと感じられるほどにヌルの四肢は彼女の命令を聞き、視界は明瞭で。
きっと今ここにあるのは、水晶の花。
風にそよがず、怜悧に咲いて、
「待ってるね」
その身に戦況を映し出す。
「――それとも脳筋二号と三号なわけ?」
アストリーゼの振るう剣は、やはりラビットバニーには届かない。不可視の壁に阻まれて鈍い感触を伝えて来るばかり。
「そう思うのなら、……勝手にするといいわ」
越えがたい壁に向かい、力ずくで我を――救えるもの、守れるものをこれ以上取りこぼしたくないという我儘さえも――通そうとしているのだ、否定をする気にはなれなかった。
愛する妹も、隣に立つ男も、彼が守る少女も、必ず護り抜く。
それは胸に刻む、潰えない誓い。潰えさせるわけにはいかない誓い。
それが潰えれば、きっとこの身も――、
「――なら何も考えずに逝っちゃおうか!」
重々しい砲口がアストリーゼに向けられる。
殺意を向ける敵に放つのだ、その引鉄はあまりに軽い。
「っぁ……!」
咄嗟に大剣を盾のように構えるが、至近で巻き起こる爆炎は肌を焦がし、爆ぜた砲弾が身体に突き刺さる。
剣を杖に何とか踏みとどまるが、流した血の分だけ体は重く、見えない力に押し潰されようとしている、そう思えてしまいそうなほど。
それでも、
――この身が潰えない限り、誓いも潰えない。
アストリーゼは剣を手放さない。意識を、そして誓いを手放さない。
この身が潰えない限り、あの子を、あの子の祈りを――、
セレナリーゼは祈り続けていた。
奇跡の力を振るうために。
「(アストお姉ちゃん……)」
姉が無事でいられるように。
その祈りの半ばが通じないことは、薄々とはわかっていた。
傷ついた姉の背中をこれまで何度見てきただろう。
その傷を防げなかったことに何度歯噛みしてきただろう。
それでも優しく微笑んでくれる姉に何度涙を見せそうになっただろう。
……わかっているからこそ、彼女は目を逸らさない。
「(私は一人でここにいるわけじゃない)」
手を組んで、閉じた瞼の奥で、己の心と向き合う。
「(お姉ちゃんが一緒に居る。今も、戦ってる)」
熱風が白銀の髪を揺らす。
「(傷に、痛みに耐えてる)」
聞き間違えるはずのない人の、微かな悲鳴が耳に届く。
「(だから私も……今は通じなくても、祈ろう。通じない痛みに、耐えよう)」
止まない戦いの気配の中でセレナリーゼは、それでも尚膝を折らない、今や唯一人となった家族の暖かさをその心に感じ続けていた。
「(次にこの瞼を開けるときは、この祈りを終える時は――)」
「いい加減しつっこい! さっさとやられちゃってくんないかなぁ!」
苛立ちを跳ねさせるラビットバニーの声。
「後ろを、守らなきゃならないんだ……絶対に」
しかし答える匡の声は――荒い呼吸で不規則に揺らいではいるものの――落ち着いたもの。
しかしナイフを握る力はもう無い。数多の砲弾を宙で爆ぜさせたためにハンドガンのマガジンも空だ。
「誰かを守ろうとしている者が……このくらいの傷で……血で、どうこうできると、思わないで……」
アストリーゼもその身に纏う鎧は傷つき、あちこちが砕けていて、魔力的な防護も今や微かなもの。
二人とも立っているのがやっとというほどの状態で、
「テンサゲもいいとこなんですけどー!」
「……お前のような者には、きっと一生、わからないでしょうね」
諸共に吹き飛べとキャノン砲を構えるラビットバニーにアストリーゼは剣を構える事もままならない。
「そういうこと……」
匡は苦し紛れに、揺らぐ視界の中、ブレる照準で、
――……らしい。
引鉄を引く。吐き出されるのは薬室に残った最後の弾丸。
「……へっ?」
上がる血飛沫が一つ。
「はぁー!?!? ちょっとまって、あーし――」
射貫いたのは目前に迫った敗北の急所。
「匡さんは、貴女のこころをうごかせた?」
自覚なき行動への、自覚なき共感。
不意に投げられたボールを優れた反射神経ゆえにキャッチできてしまうような、鋭い感受性ゆえの、細やかな反応。
勝ちが見えなくても一人でなければ戦えるという、祈り、待ち続けられるという猟兵の姿がラビットバニーの心を揺さぶっていたのだ。
「あと、任せた」
「セレナ、お願いね」
その言葉を最後に匡とアストリーゼは倒れ伏し、
「……わかった。殺しておくね」
力尽き果てるまで戦い抜いた二人を照らすように数多の光が、
「うん、お姉ちゃん」
立ち塞がる敵に向けられた極大の光が、宙に生まれていた。
「無理無理無理! ふっざけんなもー!! ボロ雑巾どもだけで――オ”、ぃっ!?」
せめてあの二人はとラビットバニーが駆け出そうとした刹那、
「ここまで匡さんたちのしたこと、全部無駄じゃないから」
余すことなく見届けたこれまでの戦いからその動きを予測したヌルが、操作する光の武器たちで行く手を阻み、四肢を穿ち、システム・フラワーズの上に磔にしていく。
「そうです。姉さんたちがこんなにも時を稼いでくれた」
ゆっくりと、セレナリーゼの瞼が開かれる。
瞳に映るのは光。そして勝利を、妹を信じて穏やかに意識を手放した姉の横顔。
「だから……今度は貴女に裁きの光が堕ちる時です」
降り注ぐは一筋の光条。
それは束ねた祈りの分だけ大きく。
「こんな綺麗なの、ズルいじゃん――」
思う気持ちの分だけ、眩く。
光の過ぎ去った後には、四人の猟兵の姿だけがあった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵