バトルオブフラワーズ⑩〜ゆすって、こわして
咲き乱れる花々の足場。
その全てが交差する場所に、それは立っていた。
キャッチーなウサギの被り物と露出の多い服装を揺らして、愉快気にため息をついた。
「もー、あーしらの中で最強だってのに、やられちゃってさー」
それは、復活できぬほどに消耗し、姿を消したエイプモンキーへの言葉だ。
まじびびったー、とぷんぷんと全身で憤慨を表現しながらも、楽しそうにそれは、被り物の下で笑い声を上げる。
「まー、でも、あーしが全員始末すればいっかぁ。だって、なんつっても、あーしの能力ってのは――」
●
ありとあらゆる攻撃を無効化するバリア。
その他に何の補足説明もいらない。単純に、全ての攻撃を無効化する。
それがそのオブリビオン、ラビットバニーの有する能力だ。
「凡そ、最強の言葉にふさわしい能力だね」
長雨は、肩を竦めながら、そんな諦めたようなセリフを吐いた。
その突き放したような言葉は、しかし、だからこそか、諦念の欠片すら一切感じさせない軽快さすら滲ませる。
「一切合切弱点なんて無いような能力だけど」
事実として、この能力には穴が無い。
そう、能力、には。
「エモい、と思わせる事が出来たら、精神統一を乱してこのバリアを解除する事が出来るようだ」
エモい。
さてはて、エモい、とは何なのか。
耳にし、目にし、日常に侵食するこの形容詞であるが、果たしてその意味するところは何なのか。
衝動なのか、快感なのか、悲哀なのか、歓喜なのか。感情とは、さながら心の海原に浮かぶ船の如きものである。
否、炒った豆の様なものかもしれない。
一先ず、その感情を大きく揺すり、バリアを壊してラビットバニーを攻撃する。
「実を言うと僕は、ピンと来ないんだけど」
と長雨は、申し訳なさそうに耳を垂らして言う。
「でも君たちならば、あのバリアを突破できる、と」
僅かに眉尻を下げながらも、彼は笑う。
「そう信じて、いいかな?」
おノ木 旧鳥子
あなたのエモを教えてください。
当シナリオを担当させていただくおノ木 旧鳥子です。
エモい、と思わせるシナリオです。
ラビットバニーは必ず、猟兵に先制して『絶対無敵バリアを展開するユーベルコード(POW、SPD、WIZ)』を使ってきます。
絶対無敵バリアは本当に絶対無敵で、あらゆる攻撃を無効化しますが、「ラビットバニーがエモい物を目撃する」と、精神集中が乱れてバリアが消滅します。
ラビットバニーのエモい基準はかなりユルいので、バリアの解除は比較的容易と思われますが、バリアなしでも彼女は相当の実力者です。
大まかに、二つのプレイングを一プレイング中に行っていただきます。
・感情揺さぶる、『エモい光景(モノや語り、行動)』のプレイング。
・バリアが解除されたラビットバニーを攻撃するプレイング。
の二点です。
また、私は、あまり『エモ』に造詣が深くありません。
ですので。
皆様の『エモ』で私をぶん殴ってください。
よろしくお願いいたします。
第1章 ボス戦
『カワイイ怪人『ラビットバニー』』
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POW : 赤べこキャノン
【絶対無敵バリア展開後、赤べこキャノン】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : うさちゃんカンフー
【絶対無敵バリア展開後、兎面の目が光る】事で【うさちゃんカンフーモード】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : おはなハッキング
【絶対無敵バリア展開後、両手の指先】から【システム・フラワーズ制御ビーム】を放ち、【花の足場を自在に操作する事】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:和狸56
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
樫倉・巽
エモい
よくわからぬな
ただ俺の覚悟のほどを見せることくらいしかできぬな
目の前に対峙した者との命のやりとりを、己の存在のすべてを賭けてやっていると言うだけだ
この求めれば与えられる世界を離れ
剣を極めることを求め
命の全てを注ぎ込んできた
この戦いもまたその道にあるものだ
捨てたとは言え恩義のあるこの世界だ
救うためならこの命惜しくはない
絶対無敵バリアとやらをこの覚悟をもって打ち砕き
必ずや一太刀浴びせてくれよう
全ての気合いと覚悟を込め
相手を睨み付けながらバリアを壊すべく剣を振る
傷ついても体の動く限り立ち上がり再び戦う
バリアが開けば【無風人】で覚悟を決め
一気に切り捨てに行く
覚悟の部分だけ踏み込みは深くなる
花咲く道の上に現れたその姿に、ラビットバニーはこてんと、その首を傾げた。
「へえ、あーしの一番手柄はあんた――ッ」
道を覆っていた花弁が、吹き散らされた。
瞬く間に数歩の踏み込みを経て、彼はラビットバニーの懐へと踏み込んでいた。無防備に片足に体重をかけたラビットバニー、その体の斜め前方。
藍染の深い青が、沈む緑の鱗肌が、腰に掴んだ刀が、その五体全てが、次の瞬間にぶれた。
放たれた一撃は、防御の姿勢を欠片も見せないラビットバニーの腹部を確実に切り裂く軌道を描き。
「きゃははっ」
放った刃が肌に届くその寸前で、まるで油に滑ったかのように、何もない空間を刃が上滑りした。
あまりにも空虚な手ごたえ。
揶揄すように放たれた笑い声が、その一撃がラビットバニーに一切効果を為していない事を必要以上に伝えてくるようだ。
だが、彼は、止まらない。
振り抜いた刀をそのままに、更に踏み込み、体を回しながら刀を逆手に、足首を裂く。その勢いを殺さず、しゃがめた体を一気に伸ばし、刀を順手に。体の発条の勢いを全てのせた突きで喉を貫く。
一瞬の硬直から、伸び切った体を今度は、折り畳むように突きあげた刃を肩口へと袈裟切り。横へと流れた刃で胸を真横に割り、返す刀の峰に片手を添え圧し、脛骨を砕き折る。
その全てが、軽い、というにも余りある程の空虚で帰っていた。
「オジサンさあ。あーしの敵じゃねえぜ、って感じじゃね?」
体重を押し当てるように振るった斬撃の直後の隙の一瞬、兎の被り物の目が光った。
「っ」
咄嗟に離れようとした動きに、しかし、ラビットバニーは上回るスピードで肉薄し、貫手で肩を穿ち、衝撃に開いた胴体へと掌底を叩き込んでいた。
「ッが、……っ!」
動きの全ての終点が手の平へと収束する、鈍重な一手に体が吹き飛ぶ。
花の道へと弾き返された彼は、吹き飛ぶ体を繰り、地面を蹴り上げて勢いを回転に変え、着地する。
「あーしって、何も効かないってゆーか?」
爛爛と被り物の目を光らせ、赤べこキャノンを回すラビットバニーを睨みつけ、漸く彼は、動きを僅かに止めた。
「ワンチャンもなくない? って」
爬虫類。トカゲを映しとったような姿の男性は、掌打に乱れた藍の着流しをそのままに、口の端を拭う。
巽は、邪魔とばかりに着流しの後ろと脱げた片袖を、乱雑に帯に挟み込み、尻端折る。
「え、ちょ、話きけしー」
ラビットバニーは、その言葉を聞く素振りもなく、再び迫る巽にブーイングをあげる。
掬うような下段からの斬上げに、正拳を交差させる。本来であれば、拳ごと腕を裂くような悪手は、バリアによって一方的に巽の胸へと叩き込まれた。肺への衝撃で、詰まる息に無理矢理動かした体を、振り上げられた脚が襲う。
胴を蹴り抜いた衝撃に耐え、踏ん張った脚で次ぐ刃を放つ前に、踏み込んだラビットバニーの手刀が巽の肩へと落ち、崩れかけた腹に肘打ちがめり込み、炸裂。
「ゥ、ごっ」
せり上がる痛みと不快感を呑み込んで、顔を上げた瞬間に、再び舞う脚撃。反射的に上げた腕が蹴りに軋み上げ、衝撃に身を任せて跳躍して、距離を取る。
「あーしの絶対無敵バリア、やっぱ絶対無敵だし」
崩れ落ちそうな体を、持ち上げて構える。
そうして巽は鉄の味に満ちた唾を嚥下して、語るラビットバニーを睨み上げていた。
「まあ、エモには、揺らいじゃうんだけど。オジサンには期待できないかなあ?」
は、と。
喘ぐように吐き出された息は、痛苦に満ちながらも、しかし、それは確かに笑声だった。
吐息に混ざるそれは哄笑よりも尚、重く響く。
「なんだし」
「エモ、か」
彼は、縦長の瞳孔を鱗を纏う瞼に隠す。自らの言葉を意味を考えるように僅かに沈黙し。
「よく分からぬな、そんなもの」
開かれた瞳は、胴を打たれ、頭を打たれ、焦点の合致すら怪しい。だが、そこには不知に惑わぬ光が、変わらず宿っている。
「あいにく、俺にはこれしかないのでな」
と、逆手に握った刀を、眼光に映すように引き上げる。
「この求めれば与えられる世界を離れ、剣を極める事を求め、命の全てを注ぎ込んできた」
この場、この時の戦いも、その途上だ。
離れたとはいえ、捨てたとはいえ、恩義あるこの世界。
「救うためならこの命惜しくない」
只の一片となるまで、剣を振るう。
それが全て。
「え、それ、ちょー不器用じゃん」
敵の言葉に集中できない。巡る血流すら頭痛を引き起こして、鼓動が轟くようだ。
「剣に命も全部賭けて、それ一本で挑んでるとか」
視界は朦朧として、蹴られた腕も少しでも動かせば、鈍く痛みを叫ぶ。
「絶対に諦めないみたいなガッツ?」
巽は、刃を鞘に納める。
どうにも届かない。
止めだ。
「そんなん」
身を護ろうとするのは、止めよう。
「めちゃ、エモだし」
「ただ、斬る」
踏み込む。
それ以外は痛みが阻害して、思考出来ない。
空気を押し退けて進む巽の体に、しかし、花弁が吹き上がる事は無い。
彼が起こした風が花を揺らすよりも早く。
「早――」
巽の体は、ラビットバニーの正面に沈み込む。
その踏み込みは、重く。
後方に風の巻き起こる予感だけを背負いながら、彼の体の全てが、一つの動作へと束ね、紡がれていく。描かれるのは、刃の通る狭い面だ。
何千、何万と描いてきた道だ。
幾度となく、眼前の敵に放ち、届かなかった剣だ。
間断なく、巽の手の内で行われた動作は、確かな手ごたえを彼に伝えながら過ぎ去っていく。刃が円を描き、鞘に滑り落ちていく。
抜刀から納刀へ。
止まったかのように緩慢に過ぎる世界では、残心まですら冗長だ。
鞘口と鍔が重なり、金具が震動する。
その瞬間、小さな鍔鳴りが夢から叩き起こしたかのように、世界が時間を取り戻す。
巽の駆け抜けた道で風が爆ぜて花が吹雪き、ラビットバニーに刻んだ一筋の傷が口を開いた。
荒ぶ花の中で、巽は握った鞘と柄を手放すことなく、言い捨てる。
「一太刀くれてやったぞ、絶対無敵」
ラビットバニーが情動を鎮静化する前に揺らぐバリアに滑り込んだ刃の感触。暗く、落ちていく瞼の中でそれに笑みを浮かべて、そして、気を失った巽の体はそのまま地面へと倒れこんだ。
苦戦
🔵🔴🔴
星群・ヒカル
このおれ、超宇宙番長の存在そのものが既にエモい気もするが……(謎の自信)
仕方ない、兎のねーちゃんを感動の渦に巻き込んでやろう
『逃げ足・第六感』で敵の初撃を回避する
かするくらいはいい
最悪軽く転がされてもいい
その拍子にクマの小さなストラップを落とすぞ
可愛い人形、きっと拾ってくれるはず
ここからは『存在感・パフォーマンス』だ
傷ついて立ち上がりながら
「その人形を返せ!それは記憶喪失のおれが持つ、唯一の家族への手がかりなんだ!」
敵は素早い、勝負は一瞬だ
超宇宙・武勇星舞台で身体能力を上げたら敵に肉薄し人形を持った『手をつなぐ』
そして全力の超宇宙背負い投げだ!
あ、今の話は嘘な
記憶喪失はほんとだが!(てへぺろ)
「……」
地面に転がった巽に、ラビットバニーは胸の下、開いた傷に手を当てながら表情の見えぬ被り物の顔を向けていた。
気を失った彼に止めを差そうとしたのか。足を踏み出す。
「っ!」
咄嗟に空を振り仰ぐ。
その視線は、花の大地から上空へ。機械質なボディの輝きを見せるバイクから飛び降りた人影が、青い髪を乱しながら大地へと降り立ち。
「だ、らぁっ!」
彼が突き出したのは、奇を衒わぬ直線的な拳だ。
「っは、そんなん当たらねえし!」
「と、わは」
バリアによって流されたヒカルの拳に、ラビットバニーの振り上げた蹴りが交差する。正しく顎を打ち抜かんと、迫る厚底のブーツを体を逸らして躱したヒカルは、更に加えて打ち出された貫手を避け、繋がる手刀に体を回し対処して、足を砕かんと既に下段に放たれていた踏み蹴りに目を剥く。
「まずっ」
一度後方に跳んでは、転がるように距離を取る。
危ない、危ない。と冷や汗を拭いながら、ヒカルは拭った頬から垂れる血と、いつの間に打たれたのか痛む手首に、回避が紙一重であった事に気付く。
油断していたのなら、手足の骨を砕かれ地面に転がっていたかもしれない。
「……まあ、それはそれとして」
作戦通り。
トカゲのおっちゃんに気を取られた状態じゃ、やりづらそうだし。と巽から離れるように、ヒカルに近づくように、歩を進めるラビットバニーとの位置関係を確認しながら独り言ちる。
その時。
「……お? なにこれ、かわわじゃん」
ラビットバニーが足を止め、地面から何かを摘まみ上げた。
「……っ」
それは、小さなストラップだ。クマが括られた紐の先で小さく揺れている。
「か、返せ!」
叫ぶ。
その声には、隠し切れぬ焦りの色が明確に浮かんで、クマのストラップが誰の物かを如実に示している。それは、ラビットバニーにも伝わったのだろう。
「え? あんたの? ちょっと可愛いくて似合わなくない?」
と、ラビットバニーはヒカルに見せ付けるようにそれを揺らす。胸元にリボンをあしらった小さなテディベアは女児の好みそうなデザインで、確かにヒカルが普段使いするには似合わないかもしれない。
特に、超宇宙番長には、そぐわない。
「それは……、その人形は……っ」
だが、ヒカルの目は真剣そのものにその違和感の答えを告げる。
頬から拭った血を甲に張り付けたままの拳を胸に押し当て、僅かに震える声を絞り出す。
「それは、記憶喪失のおれが持つ、唯一家族へ繋がる手がかりなんだ……っ」
だから、と大地を踏み締め、ヒカルは駆けだす。その先には、当然ストラップを持つラビットバニー。
「返せっ!」
背負った望遠鏡ガントバス。そこに組み込まれた鏡面が、駆けだしたヒカルの影を照らす。
降りる日光に浮かぶ等身大の影が揺らぐ。
ただ薄暗く花を陰らせていただけの影は、鏡面の光に移ろい、水面に浮かぶかのように煌めきを見せる。それは宛ら、暗い宙に浮かぶ銀河の星々の光だ。
「え、そういうアイテム? これ、やばばじゃん」
語尾を僅かに弾ませるラビットバニーの言葉を無視し、ヒカルは更に加速する。
銀河を映す影は、今のヒカル、少年の形から青年の形へ成長している。
その体捌きは、直前まで見せていた彼のそれとは、明らかに違っていた。
「……っ!」
指の先にストラップをひっかけたままに、ラビットバニーは肉薄したヒカルへと足を蹴り上げるが、彼はそれをひらりと躱して、その懐へと潜り込み、次いで放たれた正拳を弾き、受け流す。
「甘ぇぜ!」
正拳を受け流した直後、その手首を掴み取り。
重心を崩し、ヒカルは旋回するように遠心力を味方に付けて、ラビットバニーを全力で地面へと叩きつけた。
成功
🔵🔵🔴
「あ、今の話は嘘な」
轟然と叩きつけられたラビットバニーの周囲に大地から散った花弁が舞い上がる。
無数の花びらの中に緩く回転しながらラビットバニーの指先から逃れたクマのストラップを掴み取ると、ヒカルは舌を突き出し、ウィンクをかます。
「……、は、え、うっそ?」
記憶喪失はほんとだけどな、と言い捨てたヒカルに、跳び起きて文句を言おうとするラビットバニーは、しかし彼に追撃を仕掛ける事は無い。
「まじ、ねーし」とごねた口も閉じる。
天上に、火の華が大輪を開かせていた。
学文路・花束
エモ。情動を揺さぶる。僕ら絵描きの、命題だな。
なあ、兎君。真昼に、花火大会と洒落込もうか。
([オーラ防御]で攻撃を躱しつつ)
(【スタアマイン】を翼から放ち、スケッチブックを広げる)
(彼女に撃つではなく、空に何百もの大輪を)
バリア越しでも、そらの花々は見えるだろう。
(見惚れるなら、彼女ごと[アート+誘惑]で描き留めて、見せる)
言葉も行動も器用でない身。されど、筆ならば雄弁。
どうだい。気に召したならば、幸いだ。
(その絵は白黒なのに、鮮明に華やかに彩りを感じるだろう)
……おや。どうやら花火の方も、君に惹き込まれたようだね。
(兎君に降り注ぐ、花火弾を眺めながら)
(スケッチブックを閉じる)
ヒカルが意識を引いてくれたおかげで、仕込みは十分だ。
心を揺さぶる。それが絵描きの命題であるならば、これはその為の試験でもあった。
花束は、息を吸い込み、深呼吸を一つして。その夜空を思わせる翼を広げ、火炎弾を撃ち放った。
「さあ、兎君」
火炎弾は、ラビットバニーへと向かうのではなく、そのまま上空へと打ち上がっていく。
「真昼に、花火大会と洒落込もうか」
と放った言葉と共に、空に眩く大輪の花が弾けた。
「……」
大地の花に、天空の華。青い空に映えるようにか、赤色の強い炎色が弾けては、散る。
同時に打ち上げられるのは十七の玉が限界だが、間断なく打上のタイミングをずらしてまるで数百にすら見える花を開かせながら、花束はスケッチブックを広げた。
僅かに閉じた瞼の裏に、その画を描く。
一瞬を切り取り、手に持った画材で素早くその光景を描き止める。奔る手は留まる事無く、その時間を切り取ったかのように白い紙の上に鉛の黒を乗せていく。
そうして、浮かび上がったのは、空を見上げるラビットバニーの頭上に光の花火が舞う一瞬で。
「へえ、これあーしじゃん」
肩越しに聞こえた感嘆の声が、その出来栄えを論っていた。
「……っ!」
いつ。手元に視線を落としていたのは、僅かな間だけだ。
いつ、背後に回ったのか。
肩越しから、スケッチブックを覗き込むラビットバニーは、濃密なオブリビオンの気配を漂わせて、しかし、書き込んだクロッキー画に見入っている。
見れば、先ほどまでラビットバニーのいた場所では、花に縛られ身動きを封じられ転がるヒカルが、それをどうにか引き千切らんともがいている。
「え、マジできれーじゃん。こう、なんての? 白黒なんだけど、色とかはっきりわかる、みたいな。え、ちょーきれー」
まるで友人に話しかけるかのような気さくさで、絵を褒めちぎるラビットバニーが、指先から光線を放つ。
「っ!」
花束に、ではなく、地面へと放たれた光線は、大地を埋める花束の絨毯へと命を与えるかのように蠢かせ、操作する。
ヒカルが、動きを封じられたものと同じだろう。咄嗟にオーラを身に纏い、花の拘束の完了を遅らせ、その場から跳び退いた花束へと、しかしラビットバニーは追従する。
「お気に召したようで、なによりだ……っ」
その言葉は、皮肉めいた言い回しではない。
集中しすぎたか、と少し悔いながらも、描き上げたクロッキーには一切の悔いはない。絵を見て真っ正直に告げられた感想は、敵から齎されたものだとしても不快ではない。
オーラを展開させながら、花束は半身に構えた背側へとスケッチブックを下げる。
防ぎきれない。
悟る。
ならば、治る傷よりも作品群を失わせない。
そこに描かれているのは、声よりも、体よりも、何よりも彼が雄弁に語った絵描きとしての、彼の言葉だ。
そして、ラビットバニーも自分の描かれた絵を攻撃しようとは思わなかったのか、それとも、花束の無意識のオーラの偏りの薄い場所を狙ったのか、クロッキー帳の逆。半身に開いた花束の表側へと攻撃を放っていた。
オーラの壁をぶち抜いて、ラビットバニーを足が迫る。
「……っ」
瞬間、跳躍して衝撃を和らげながらも、強烈な蹴撃に意識が揺らぐ。猛烈な勢いで脇腹に打ち付けられた脚を起点にして体が吹き飛ぶ、その最中に。
「あーあ」
と、どこか残念だというように、しかし、昂りを隠し切れない声が、花束の耳を打つ。
「あんなの見せられたら、防げないじゃん、もー」と、ぼやける視界に空を見上げるラビットバニーの姿が映る。
大団円とばかりに最後に開いた十七の花火の火炎が束となり連なり、ラビットバニーへと着弾する。
陽光を吸い込んだような橙黄色の炎の花弁が、ラビットバニーの体を包み込み、爆ぜる。
苦戦
🔵🔴🔴
才堂・紅葉
【廃墟】てに行動
チームのメンバーと衣装を交換して出撃するわ。
私は狙撃手のシーラさんの服。普段ははかない女性用のロングパンツが新鮮ね。
少し背伸びして一足先に大人の女性気分よ。
謎めいた表情で前髪に触れ、シックな雰囲気を出したりしてみるわね。
【戦闘】
アサルトライフルによる【制圧射撃】で味方の【援護射撃】。
高密度の弾幕で相手の行動を制限するのが目的だ。狙撃手を守る役割もある。
ただし兎の眼が光ったら要注意。あの速度を相手に間合いは無意味ね。
仕掛けた爆弾と電磁の罠で勝負。【カウンター、野生の勘、見切り、罠使い、破壊工作、吹き飛ばし、マヒ攻撃】
超反応速度で回避されても、一瞬の足止めができたら十二分だしね。
イサナ・ノーマンズランド
【廃墟】にて
衣装交換? エモい? みんなの言ってることよくわかんない。
わたしは紅葉おねーさんの服を着ればいいのか。フードの下はショートのレイヤーボブなんだ。
絵がないからわかんないよね! この服も動きやすくていいかも。
だめおしの一手? しかたないなあ……。
かっこういいポーズしながら包帯をほどいてー
「ふうじられしわがみぎめでみぬかれたものは!」
「……たぶんそのうちしぬ!」(キリッ)
この戦いがおわったらしんでるからウソは言ってない、たぶん。
包帯の下?
ヤ●チャみたいな傷のある金色のオッドアイなんだよ。
エモいセリフとポーズで【恐怖を与え】、【クイックドロウ】+【早業】で取り出す銃器類を【一斉発射】。
シーラ・フリュー
【廃墟】で参加
仲間と衣装交換で私はうららさんの服を着用。交換って結構エモくないですか…?…ただ、似合っているか分からなくて少し恥ずかしかったりしますが…!
ええと、その、兎も角…イサナさんとうららさん、とても可愛くないですか…才堂さんも格好良くてお似合いです…!
(あっ、イサナさんのポーズが可愛い…こんな時ではなければ【撮影】したかったです…!)
…戦闘中でしたね。
【スナイパー】で【援護射撃】を。キャノンの弾を撃ち落とすのを重視したいと思います。
バリアが剥がれたら【早業】と【クイックドロウ】で撃てるだけ撃ちます…!弾が切れたらリボルバーも使用、もし余裕があれば【ダッシュ】で近寄って【猟犬の咆哮】を。
五曜・うらら
【廃墟】
えもというものはよくわかりませんが!
きっと心動かされる何かの事なのでしょうっ!
と、いう訳で衣装を交換してみました!
うふふ、普段えんぱいあの装いばかりですから
イサナさんのこの外套は新鮮ですっ!
頭巾(フードの事)も髪を隠してしまうのはどうかと思いましたが
これはなかなか私、似合っているのではないでしょうかっ!
皆さんも普段と違ったお姿、素敵ですよっ!
さて、遊んでばかりもいられませんっ!
我が念によって宙を舞いし刀たち……
いざ、その赤べこを斬らせていただきますよっ!
その砲撃、様々な使い道はあれど
一度にそれを発揮できるのは一種のみと見ましたっ!
しかとその動き見極め、一瞬の隙も突いてみせましょうっ!
色彩を花に照らす火炎に焼かれたラビットバニーは、随分と草臥れた姿で花の上に立っている。
全身を燻られ、刻まれた裂傷は爛れ血を滲ませ、叩きつけられ折れた左腕がぶらりと垂れている。
「……っ!!」
まるで開戦の調べの如きアサルトライフルの掃射音が、一瞬の弛緩を裂いて迫る。
ラビットバニーは迫る銃弾に、しかし、緩慢なままに振り向いた。ゆっくりと振り返る最中に、その足に、腹に、腕に、頭に、眼に、銃弾が吸い込まれ、そして、バリアに阻まれ、バラバラの方角へと跳弾して消えていく。
「び、びびってねーし?」
「……いや、聞いてないですよ」
振り向いた瞬間、眼球の前に弾丸が見えたのは流石に驚いたのか、僅かに上ずる声で勝手に弁解をしたラビットバニーに、灰色の髪の女性が小さく呆れ声を上げた。
「不意打ちとか……っ」
「せりゃ!」
と、文句を言うラビットバニーの言葉に、弾むような声色が割り込む。
その少女、うららは近代的な軍服を思わせるカーキ色のモッズコートに身を包み、短いバルーンパンツの絞った裾を、コートの端から覗かせる。
だが、それよりも目を惹くのは、彼女が携える五本の刀だろうか。軍用迷彩じみた色彩の服に合わぬ武装だが、呼びにしては数が多い。
深くかぶったコートのフードの中で茶の髪を緩く揺らしながら、彼女は腰から抜刀の一撃を。
と同時、その頭上に舞っていた二本の刀が、まるで宙に浮かぶ見えない腕に掴まれたかのように、振り下ろしの軌道を描いて、三本の剣閃が走る。
だが。
「あ、ホントに当たらないですね!」
「さがって、うららおねーさん」
やはり、とバリアに弾かれた瞬間に、そのバリアの効果を再確認したうららに声がかかる。
集まった四人の中でも最も小さな体躯の少女は、少し大きな黒のタンクトップに濃いカーキ色の上着を羽織り、ホットパンツから白い肌を見せている。
全体的にぶかぶかに見えるのはそういったファッションか。小さく愛らしいイサナの風体に、しかし、彼女が構えたのは、可愛らしさの欠片も無いボルトアクション式のスナイパーライフルだった。
「……っ」
だが、彼女がその引き金を引くことは無い。狙った射線に、剣を逸らされたままだったうららの体が投げ飛ばされたのだ。
咄嗟に銃口を上げるイサナに、投げられたうららの体が激突し、転がる。その二人へと追撃せんと、駆けだしたラビットバニーの眼前に影が割り込んだ。
間髪入れず、アサルトライフルが火を噴く。それは、最初に放たれた弾丸と同じものだ。
「効かねえし!」
と、ロングパンツと首元までを覆うシャツ、そしてロングコートという肌を隠した出で立ちの彼女へと言い放つラビットバニーは、僅かな違和感を抱いて無視できる弾丸から身を逸らすように、後退。
だが、後退するだけではない。その切り返し際にラビットバニーは構えた赤べこキャノンから砲撃を吐き出す。
狙いすまされた一撃は、確かにアサルトライフルを打ち放った紅葉へと向かい、しかし彼女に着弾するその手前で、何かが強烈に衝突する衝撃にその狙いを外していた。
「ふう、間に合いましたね」
「ありがと、シーラ」
紅葉は、スナイパーライフルから伝わった痛みを帯びた痺れにも表情を変えないシーラへと礼を告げる。
どこか冷ややかな印象を受けさせる風貌の彼女は、しかし、赤に紫という色合いの、しかも動きやすいように出来るだけ布を排したと言わんばかりの服装を身に着けている。
「んー?」
とラビットバニーは、そんな二人と立ち上がる二人を眺めて、首を傾げて不思議そうな表情を浮かべた。
いや、被り物の下なのだから、そんな雰囲気を出しているだけだが。
そんな数秒にも満たない隙に、四人は態勢を整え直すと、首をひねりつつも今にもこちらへ跳びかかってきそうなラビットバニーの動きに注視する。
今か、と息を呑むその時。
「……っ!」
ラビットバニーは大きく踏み出した。
その速度に、動きに対処しようと四人が動き出すその寸前に。
「あ! ちょま、まって!」
つんのめるような動作で急ブレーキを掛けたラビットバニーが、体の前で腕でバッテンを作って、そんな事を言い出した。
「待って、おっけ。当てる、当てるわ」
と構えた四人のそれぞれを眺めながら、人差し指をくるくると回りて、うんうん、と唸っては、そしてびしっと音が鳴る様な鋭さで、建てた指を突き出した。
その先にいたのは、シーラだ。
「まず、その服は……その子っしょ?」
と指を滑らせ、シーラからうららへ。
「そんでー、その服は」
次はうららから紅葉へ。
「んでー」
と間延びする声が示したのは、紅葉からイサナ。
そして、最後にイサナからシーラへと移り、一周する。
「おー」と感嘆の声を上げたのはうららだ。
「やっぱし、服交換してっよね!」
と、嬉しさを噛み締めるように、ラビットバニーは顔を覆い、はー、と一つ息を漏らした。
「サイズも微妙に違うし、色合いもあってないしなんでかなって思ってたけど、そういうね。そういう」
一呼吸に。早口である。
「はー、仲良しかよ……」
ラビットバニーの反応に、四人は目配せを交わし、イサナはあまり分かっていないような表情で、しかし、こくりと頷いた。
一つ踏み出すと、肩幅に足を開き、指を真っすぐに立てると腕を斜に交差させる。その動作の最中に片目を覆っていた包帯を解きながら、彼女は叫んだ。
「ふうじられしわがみぎめでみぬかれたものは!」
「うん」
「……たぶんそのうちしぬっ!」
レイヤーボブの髪を膨らませ決めポーズ、加えて決め顔である。
あのさぁ、とはラビットバニーの声。
「ぶかぶかでさあ、それはかわかわのかわじゃん」
はあーと深いため息を勢いよく吐き出すラビットバニーに、威厳などもはや感じられない。
「ねえ」
その反応に紅葉が、髪を掻き上げる動作で微笑みながら、問いかけていた。
「エモ?」
「エモ」
「そう、じゃあ――」
と紅葉は、即答に満足したように頷き。
「起爆」
させた。
「はぇっ!」
接近した際に仕掛けていた爆弾が、轟音と共に衝撃を撒き散らす。爆発に押し出されたラビットバニーの体は、宙に吹き飛んでいく。
だが、その最中体勢を御したラビットバニーは、着地すると同時に、その失敗を悟る。
バランスを崩したままに花の地面を転がっていた方がよかったのかもしれない、と。
「……っ」
体を跳ね起こし、同時に放たれた三つの刃を弾き、逸らし、躱し切る。
「三振り不意打ちで避けますか!」
それを放ったうららが、なら、と手に持っていた刀を手放し、鞘に収まった残り一本、そして背負った一本に手を掛けた。
「四を飛ばして五振り」
不可視の力に振るわれる三振りと両の手の二振り。合わせて五つの剣閃が躍る。
指先から放った光線に溢れる花の束で一本を絡め取り、蹴りが二本を纏めて崩す。だが、そこまでだ。
握った刃がラビットバニーの胴体を抉り、落ちた刃が背後から赤べこキャノンを竹の様に克ち割っていた。
「あー、あっしの!」
と砕けた武器に嘆く声を上げる暇もなく、弾丸がラビットバニーを襲う。
イサナが一斉掃射させた武器の弾丸が、まさしく風雨の如くその肌を穿ち、そして最後に、尻から火を噴かせながら飛来した円筒が、ロケットランチャーの弾頭が。
「……っ!」
爆風を撒き散らす。
再び爆風に転がされたラビットバニーの視界で、銃口が煙の中から突き出された。
「あー」
と仰向けに転がったラビットバニーは、逃さぬよう体を跨ぐように銃口を突きつけたシーラに諦めたような、しかし気まずそうな声色で、言葉を発する。
その何か迷うような表情にシーラは少し、首を傾げ、そして。
「短いスカートで人跨ぐのはNGっすよ!」
そんなアドバイスに、引鉄を引いた。
●
花の道を遮る者はいなくなった。
気を失っていた巽と花束もすぐに意識を取り戻し、結局始終拘束に捕らわれていたヒカルは、ラビットバニーの消滅に漸く自由の身になる。
姦しく、互いのファッションに笑みを浮かべる四人の声をBGMに、不意に吹いた向かい風が彼らの意識をその先へと導いているようだった。
大成功
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