バトルオブフラワーズ⑩〜我が覚悟を、君に
●ラビットバニーが語るには
「はーまじびびった! まじびびったし!」
システム・フラワーズ内部「咲き乱れる花々の足場」にその怪人の姿はあった。
カワイイ怪人『ラビットバニー』
ウサギのような被り物をした彼女は、まじで、まじでさー、と声を零して、だが、笑うように息を零す。
「でもまあ、あーしが全員始末すりゃいいか。どんな攻撃も、あーしには全部無効なんだから。それで負けるわけなくない?」
うんうん、と頷いて、だが、ちょっとばかし考えるようにラビットバニーは足を止める。
「まあ、エモいもの見ちゃったら、心が乱れてバリアも解けるけど……」
かわいい仕草とか、血だらけで立ち上がるとか。それにーー……。
「主従とか。あーしのエモ基準かなりガバいけど……」
まーなんとかなるっしょ! と明るい声が響いた。
●主従は三世と語られる故
「どうにもきな臭いというか、何とも言えない話にはなってきましたが……、まずは仕事の話といきましょう」
集まった猟兵達を前に、そう告げたのはルカ・アンビエント(マグノリア・f14895)であった。
「キマイラフューチャーでのこと、既に耳に届いているひともいるでしょうが、第二の関門に辿り着くに至りました」
第二の関門を守護するのはカワイイ怪人『ラビットバニー』だ。
「システム・フラワーズの内部の「咲き乱れる花々の足場」は、ラビットバニーに集中しています。倒せなければ先に進めないでしょう」
強敵と言って申し分ない相手です、とルカは告げる。
「幸いなことに、ラビットバニーは同時に一体しか存在しませんが『絶対無敵バリア』というものに覆われており、ありとあらゆる攻撃が一切効きません」
ですが、と息を落とし、ルカは静かに笑みを浮かべた。
「別に、穴がないってわけじゃありません。このバリアは、ラビットバニーが「エモい」ものを目撃すると一時的に解除されます」
エモい、エモいとか言ったのかーーという空気を微笑で黙殺して、ルカは続けた。
「えぇ、どんな不可思議事情であれ、勝利に必要であれば使うべきでしょう。幸い、ラビットバニーが「エモい」と感じる基準はかなりユルいようですし、最近の流行りもあるようです」
曰くーー主従だと。
「主従関係を思わせるエモい1シーン。ただ主従ですはいどうぞ、ってわけにもいかないでしょうから……まぁ、戦闘時における主従ネタ、みたいなのがエモいとかなるんでしょうね」
本当の主従でワンシーンを見せるのも、この瞬間の為に演じるのも良いだろう。
たとえ一人でいるとしても、主人たるものの覚悟を見せるのも、主のいないところでは死ねぬとでもーー……。
「見せつける感じで。まぁ、エモいかどうかで、実のところ敵の最強の能力を一時的ではありますが剥がすことができます。剥がせなかったらーー正直、分が悪いでは済まないでしょう」
そもそもが、容易い相手ではない。
「戦場についての詳細はつかめてはいませんが……、障害物となるようなものは無いでしょう。バリアが剥がれれば、その間に全力で攻撃を」
以上です、とルカは顔を上げる。グリモアの淡い光が、手のひらに落ちる。
「じゃぁ、仕事の時間です」
武運を、と短くオラトリオは告げた。
秋月諒
秋月諒です。
何だか大変なことになりましたが、エモいってシナリオで初めて使った気がします。
●プレイングの受付期間について
5月15日8:30〜5月16日18:00で受付です。
シナリオの構成上、2人、もしくは1人での参加推奨です(3人以上は採用率が下がります)
お二人参加の方は、プレイング送信日時を合わせていただけると幸いです。
執筆時間の関係上、全てのプレイングを採用できない場合がございます。
プレイングには特別何の問題もなくとも、お返しする場合もあります。大丈夫だよ、という感じでご参加いただければ幸いです。
●カワイイ怪人『ラビットバニー』のエモい基準について
主従ネタが響くようです。
ただ主従だというのではなく、ひとつネタがあると良いようです。ルカの説明を参考にしていただければ。
●特殊ルール
カワイイ怪人『ラビットバニー』が『絶対無敵バリア』に覆われている時は、ありとあらゆる攻撃が一切効きません。
エモいものを目撃すると一時的に解除されます。
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ラビットバニーは必ず、猟兵に先制して『絶対無敵バリアを展開するユーベルコード(POW、SPD、WIZ)』を使ってきます。
絶対無敵バリアは本当に絶対無敵で、あらゆる攻撃を無効化しますが、「ラビットバニーがエモい物を目撃する」と、精神集中が乱れてバリアが消滅します。
ラビットバニーのエモい基準はかなりユルいので、バリアの解除は比較的容易と思われますが、バリアなしでも彼女は相当の実力者です。
====================
それでは皆様、ご武運を。
第1章 ボス戦
『カワイイ怪人『ラビットバニー』』
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POW : 赤べこキャノン
【絶対無敵バリア展開後、赤べこキャノン】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : うさちゃんカンフー
【絶対無敵バリア展開後、兎面の目が光る】事で【うさちゃんカンフーモード】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : おはなハッキング
【絶対無敵バリア展開後、両手の指先】から【システム・フラワーズ制御ビーム】を放ち、【花の足場を自在に操作する事】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:和狸56
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
浮世・綾華
ヴァーリャちゃん(f01757)と
姫に仕える従者の設定
旅中の騎士に見えるような服着用
巫覡載霊の舞、神霊体で攻撃軽減の準備
誘惑で敵を引き付け彼女を護るように前衛で盾役を担う
命を削る技も惜しむことはない
何を今更
この命はヴァーリャ様の為だけにあるのですから当然でしょう?
跪いて手をとり――
手の甲に忠誠の口付けをするふり
――なぁんてな?
バリアが解除されたら
ビームは早業、フェイントでかわし
実際守られるだけの子じゃないのは知ってる
だからこそほっとけないのだけれど
操る花は鬼火で燃やし相殺に努める
それでも攻撃が迫ったなら黒鍵刀で受け
カウンターで衝撃波で反撃を
(傷ついて欲しくないことは本当
でも何より彼女を信じてる
ヴァーリャ・スネシュコヴァ
綾華(f01194)と
ええーいままよ!
従者と共に旅をする姫君の設定
姫っぽい白ワンピースで、口調も姫っぽく
身を呈して立ち向かう綾華に駆け寄る
綾華!お…私の為に傷つくのはもうやめて!
どうしてそこまでするの?
ギューーーンッ❤︎
口づけのフリでも、心射抜かれ爆発しそうに
でも【勇気】でなんとか踏ん張り
バリアが解除された瞬間に地形を凍らせ
靴裏の氷のブレードで、【残像】が見えるほどの速度で滑り
一気に敵の元へ【スライディング】
花が迫るなら、【属性攻撃】で凍らせてそれさえ足場に【ジャンプ】
そのまま『雪娘の靴』の【二回攻撃】を叩き込む!
(半分本音、半分演技
綾華が傷つくのを見るのは悲しい
だから敵へ思い切り力を込め)
●とある従者と姫の物語
はた、と長い外套が揺れていた。伏せた瞳がゆっくりと開き、落とす吐息と共に指先に光が落ちる。
それは、神霊を降ろした証。
盾たる身を望んで引き受けた浮世・綾華(美しき晴天・f01194)の髪が静かに、揺れた。淡い光と共に、赤の瞳がラビットバニーを見据えていた。
「へぇ。なになに? 一人で挑もうってわけ? なになにあーしったら嘗められたわけ?」
それにさぁ、とラビットバニーは仮面の向こうで薄く、笑う。
「その状況、ずっと続けられるもんでもないっしょ?」
瞬間、向けられた指先から光が走った。衝撃が体に走りーーだが、痛みは裡よりも足元からきた。
「ーー下か」
動いているのだ、花の足場が。しゅるりと伸びたつる草が足に絡みつく。踏み出す為の一歩が綾華を押しとどめる。永遠ではない。だが、迫る熱を前にすれば十分すぎる時間だった。
「ほらさぁー、やっぱぜんぜんじゃん?」
赤べこキャノンを肩に担ぎ、ラビットバニーは笑う。呆れに似たその声を耳に、は、と綾華は2度目の息を落とす。ただの砲撃だ。傷は、さほど深くはない。ぱた、ぱたと落ちる血を見送って、体を起こせば駆け寄る足音が耳に届いた。
の時、駆け寄る一人の姿があった。
「綾華! お……私の為に傷つくのはもうやめて! どうしてそこまでするの?」
真っ白なワンピースが揺れる。ヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)の揺れる瞳に、綾華は静かに笑った。これ以上近づけば、膝を折ればーーきっと彼女の方が血に濡れてしまうだろう。
「何を今更」
だからこそ先に、綾華は告げる。ふ、と吐息を零すように笑って。
「この命はヴァーリャ様の為だけにあるのですから当然でしょう?」
そう、告げた瞬間ーー戦場の奥、一撃を叩き込んだラビットバニーの方から変な声が出た。
「は? え? いや待つっしょ。そういう系!?姫と従者!? 何あの守りは、姫の為なわけ? え? 姫今駆けつけた系はなわけ!? いや、いやいやそのくらいじゃあーしのガードは揺るがないし……」
そう、揺るがないまだ大丈夫揺るがない。
呪文のようにそう唱えて、ぎゅ、っと拳を握ったラビットバニーと同じように、耐える姿がもうひとつ。
跪いてそっと手を取られたそのひと。主たるヴァーリャは、姫は、手の甲へと注ぐ忠誠の口づけに、そのフリにーー撃ち抜かれていた。
「ーー!」
ギューーーンッ❤︎
口づけのフリでも、ヴァーリャは心射抜かれ爆発しそうになる。なんとか勇気で踏ん張っていれば「うそ」と声がひとつ、届いた。
(「今のは……」)
ラビットバニーだ。
うさぎの仮面、その口元を抑えるようにしてもう一度、うそ、と零したラビットバニーは、ゆらり、とその身を揺らして呟いた。
「忠誠の口づけじゃん……エモい」
パリン、と破砕の音が響き渡った。淡い光は、絶対無敵バリアが砕けた音か。
「――なぁんてな?」
ふ、と笑い、綾華は立ち上がる。ヴァーリャちゃん、とひとつ声をかければ、こくこくと頷く彼女が、一度息を吸う。パキン、と空気が震えた。
「うっそやばいじゃん!? でもでもだってエモいっしょあんなの! 別に、このまま、あーしが始末すれば……!?」
いいか、と続くはずの言葉は、凍りつく地面に気がつき、搔き消える。息を飲む声の代わりか、舌打ちと共にラビットバニーが後ろに飛ぶ。距離を取ったのは、一撃、あちらも叩き込むつもりだからか。だが開けられた距離もーーこちらから詰めれば、同じことだ。
「ほらほら、こっちだぞ!」
靴裏の氷のブレードで、ヴァーリャは一気にラビットバニーの間合いへと滑り込む。凍結の世界は、彼女の絶対の間合いだ。飛ぶように向かった先、払うようにぐん、とラビットバニーが腕を振り上げる。
「させないし!」
「それはこっちのセリフだ」
振り上げる銃口に身を低める。
結局のところ、半分本音、半分演技だったのだ。
(「綾華が傷つくのを見るのは悲しい」)
だからこそ、思い切り力を込めてヴァーリャは行く。スライディングから、たん、と足払いを決めれば、ラビットバニーが踏鞴を踏む。
「ッチ、それなら……!」
瞬間、無数の花びらが舞う。ぶわり、と甘い芳香を零し、指先から焼き尽くすかのような花弁にヴァーリャは冷気の密度を上げた。
バキ、と凍りついた花弁を綾華は見た。
「……」
実際守られるだけの子じゃないのは知ってる。
だからこそほっとけないのだけれど。
「さァて、こっちも忘れないでもらおうか」
凍りついた花を足場に、ヴァーリャが飛ぶ。追いすがる花に鬼火で崩せば、なにそれ! とラビットバニーが叫ぶ。蹴り上げて飛ぶヴァーリャは振り返らないまま。その鮮やかな蹴りが、ラビットバニーに落ちる。
その腕に、傷はあった。花が切り裂いた名残か。赤く、落ちた線はそのまま足元を辿りーーだが、それだけでは少女が足を止めるには至らない。足らない。
守る為に立っていた。姫と従者。この時の為の戯れ。ーーでも、傷ついて欲しくないことは本当なのだ。でも、何より彼女を信じている。
「――ほら、喰らいな」
だからこそ、紡ぐ。今は己の指先で操る鬼火を。
その熱を目の端に、ヴァーリャは凍りついた地面に降り立つ。とん、と軽い着地からそのまま、流れるように回し蹴りを叩き込めば、は、とラビットバニーが息を吐いた。
「とんだお姫様と従者じゃん?」
「そうだな」
「そいつはどうも」
銀盤の支配者たる姫は笑い、戦巫女の術を持つ鍵も笑う。一撃、確かに届けた戦場で、冷気と炎の中、花がーー舞う。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
クーナ・セラフィン
…エモい、のかなあ。
主従、一応は騎士だし当然そういう関係もある。
聖女と騎士とね。
それがあった、いやあるからこそ今もこうしているわけだしね。
私が主従関係を結んだのはこれまでもこれからもただ一人。
…例え彼女がどんな結末を迎えてそれを私がどう受け取ったとしても…それでも最期の願いは何にも優先する。
皆をしあわせに、それを願われたなら私が逆らうなんてね。
――ああそうそう。私がどちらなのかはご想像にお任せするよ。
バリアが解けてもそこからが本番。
先手打てるならUCで幻惑、狙い通りに操作させないようにできないかな?
惑わせれば支援になり、それが無理でも地形を利用し接近して何とか槍で一撃を。
※アドリブ絡み等お任せ
宵鍔・千鶴
…えも…?
言葉遣いや耳馴染まない単語に首を傾げて
意味は解らないけれど
アンタの無敵を崩すために
特別に魅せてあげるよ
手繰り寄せた絲は金糸の髪の少女へと
自身の依代、絶対の従者、妹、家族
全てを分かつ愛しい俺の人形
ネメシスの刃で掌を斬れば
飛沫を浴びた其れは喜ぶように成長し
恭しく跪いた人形は赫滴るその手に口づけを
双眸はいつの間にか紫から赤く揺らめいて
従者がいてこそ、力を、本気を出すことができる
―さあ、踊れ、俺の愛し仔
くるりと軽いステップで
宛ら天使のような微笑み浮かべた人形は
ラビットバニーの被り物の口元へ人差し指当て
まるで秘め事みたいに
バリアが崩れていたなら
ネメシスが喰らうのを見逃しはしない
●と或る聖女と騎士の物語
「いやいや、まだいけるし。まだまだあーしのバリアはいけてるし?」
ふわり踊る花の中で、ラビットバニーは深呼吸を繰り返していた。そう、集中力は取り返すもの。落ち着きさえすれば絶対無敵バリアは、その名の通りの性能を示す。瞬く間に再形成されたバリアを視界に、クーナ・セラフィン(f10280)は思った。
「……エモい、のかなあ」
主従。主従もの。
吟遊詩人が歌うようなそれかどうかは知らずとも、クーナにも二、三、覚えはある。つい、と羽根付きの帽子をあげ、男装ケットシーは息をついた。
「主従、一応は騎士だし当然そういう関係もある。聖女と騎士とね」
「は? ただ関係のだけ晒されただけで、あーしのバリアが砕けるとでも思ったわけ?」
赤べこキャノンを担いで、ラビットバニーは呆れたように息をつく。仮面の下、隠れた瞳に見据えられる。その感覚を感じたまま、ゆるり、とクーナは尾を揺らす。
「それがあった、いやあるからこそ今もこうしているわけだしね」
「は……?」
嘘、なに続くの? と落ちた声を置いて、クーナは薄く口を開く。昔語りのようなそれ。騎士然とした格好でいる放浪のケットシーの語りは、どこか真実味を帯びる。
「私が主従関係を結んだのはこれまでもこれからもただ一人」
吐息を零すように一つ紡ぎ、ふ、と笑う。
「……例え彼女がどんな結末を迎えてそれを私がどう受け取ったとしても……それでも最期の願いは何にも優先する」
ゆるりとクーナは視線を上げる。藍の瞳と出会ったラビットバニーが息を飲んだ。
「皆をしあわせに、それを願われたなら私が逆らうなんてね」
「ーー嘘、うそうそ! やばい、一人残って願いを叶え続けるなんてうそ……」
冗談、とラビットバニーが息を吐く。その言葉は、クーナの語り出しに甘く見ていたのもある。だが、語り続けられたその言葉。終わりにたどり着いてしまえば、じわじわと言の葉と世界は染み渡りーー……。
「やばい、エモい!」
絶対無敵バリアが、崩れた。
「――ああそうそう。私がどちらなのかはご想像にお任せするよ」
「え、嘘嘘、どっちとか選べないし!? てーか、バリア無くなってんじゃん!」
今だ、とクーナは破砕の音を聞く。た、と飛ぶように前に出れば、詰める間合いを避けるようにラビットバニーが横に飛んだ。
「させないし!」
向けられた指先が、瞬間、光を生んだ。放たれる光線がクーナの肩口を掠る。
「浅いね」
「は! まさか此処からが本番っしょ!」
パチン、と指を鳴らせば、花の足場が蠢く。しゅるりと伸びた蔓草がクーナの踏み込みを阻む。バリアが解けたとて、先制が取れるほど容易い相手ではないか。ぐら、と傾ぐ体に、ふ、と息だけを落として、突撃槍を地面にーー向ける。
「こんな趣向はどうだい?」
ぶわり、と雪混じりの花吹雪が舞った。冷気を纏う花びらが、クーナを捉えた蔓草を凍りつかせる。パキン、と小さな音さえ聞こえれば、もう、動ける。足裏で花を捉え、た、と蹴り出す。身を低めて一気に飛ぶクーナの周りを花びらが踊れば、残像めいた幻惑が騎士猫の姿を一瞬、ラビットバニーの視界から失わせる。
「ッチ」
「ーー届いたさ」
どこでも良いと思ったか、荒く向けられたキャノンの下、滑り込んで突撃槍を突き出した。
「ーーぁっ、く、痛いし!」
穿つ、一撃がラビットバニーに沈む。吐き出した息と共に、赤べこキャノンが払うように振るわれる。撃つ、というよりは間合いを嫌うように使われたそれと共に、バリアが再形成されていく。
「流石のスピードだね」
「褒めても何もでないし? ま、あーしは集中できれば最強なわけだし、もうそっちの語りは効かないし?」
あーしの勝ちっしょ、と響いた声に、成る程、とクーナは息を落とし、カツン、と足音を響かせる少年を振り返った。
「だ、そうだよ」
「……えも……?」
言葉遣いや耳馴染まない単語に、宵鍔・千鶴(nyx・f00683)は首を傾げた。
「意味は解らないけれど、アンタの無敵を崩すために特別に魅せてあげるよ」
「は? ちょっと美少年だからって、特別とか言って見せたところで……」
別に、と続く筈だった言葉が、揺れる。ほっそりとした少年の指先が手繰り寄せた絲は金糸の髪の少女へと向かったのだ。
●少年と愛しの人形
それは、自身の依代、絶対の従者、妹、家族。
「全てを分かつ愛しい俺の人形」
そう、と千鶴は囁き告げる。ネメシスの刃で掌を斬れば、飛沫を浴びた人形は喜ぶように成長する。とん、と足を下ろす。恭しく跪いた人形は、赫滴る千鶴の手に口付けた。
「……」
唇を寄せたまま、ゆるりと上がる視線。交われば千鶴の双眸も紫から赤く揺らめいて。いつの間にか色彩を違えた瞳に、ほう、と息を落としたのは誰であったか。
従者がいてこそ、力を、本気を出すことができる。
「え、え、うそ……まじ嘘、なにそこで主従なの。そっちなの!?」
たじろぐように足を引いたラビットバニーを視界に、千鶴は静かに告げた。
「ーーさあ、踊れ、俺の愛し仔」
くるりと軽いステップで、宛ら天使のような微笑み浮かべた人形は、とん、とラビットバニーの前に立った。
「は? 何して……」
しぃ、と告げるように。ラビットバニーの被り物の口元へ人差し指を当てて、人形は微笑んだ。まるで秘め事のように。
「え、なにこの世界観……」
エモい、と零れ落ちた瞬間、パリン、と絶対無敵バリアが崩れた。
「ちょ、バリア崩れたし!? でも初めてのエモさだったのがいけないっしょ!?」
ようは、と構えられた赤べこキャノンに、人形は、とん、と身を飛ばす。引き寄せる絲で、千鶴がそれを選んだのだ。軽やかな跳躍は一瞬、ラビットバニーの視線を奪いーーだが、砲撃は迷わず千鶴に向かう。爆砕の一撃に、だが、少年は身を前に飛ばす。瞳の赤が、踏み込む体に速度を与えていたのだ。
「ちょ……!?」
「ッチ」
肩口、軽く、痛みが残る。流石に全ては交わしきれなかったか。攻撃回数に強化を乗せた砲撃が、再び放たれる。だが、大鋏の方がーー早い。
「は?」
手にしていたのは、人形の方だ。ネメシスがラビットバニーを喰らう。衝撃に、は、とラビットバニーは息をついた。
「は、やるじゃん? 全部あーしが全員始末すりゃいいかって思ってたけど」
ぱた、ぱたと落ちる血。吐息が熱を帯びているのを理解しているのはラビットバニーだけか。ーーだが、声に滲む喜悦までは隠しきれない。エモいもの。様々な主従を見せつけられれば、幾らバリアを形成できても、絶対の防御であっても崩れる瞬間さえあればーーその瞬間に、叩き込まれる攻撃があれば、蓄積するダメージがあることにラビットバニーはまだ、気がつけていなかった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
英比良・與儀
ヒメ(f17071)を愛情込めて蹴りつつ
バリアだってよ、ヒメ
突っ込んでためしてこいよ
あの感じだと顔面衝突って感じかァ?
…冗談、本気にすんなよバーカ(蹴り
あれが、かわいい?かわいいのか…わからん
エモ……?
若い奴の言葉もわかんねェなァ
事務所の奴に聞いても、知らなさそうだ
…俺見た目通りの年齢じゃねェし
態度がでかいんじゃなくて、偉いんだよ(蹴り
まァ、主従っつーよりは……ご主人サマと忠犬?
駄犬って言わないだけ優しいよなァ俺は
今日も喜んで、俺の壁になれよ
そこだけは頼ってやっても、いい
……ほんと、扱いやすい忠犬だなァ!
敵じゃなけりゃあ、真っ当に遊んでやれたのにな
揃いの赤べこ銃でも作って遊んでやるよ
姫城・京杜
與儀(f16671)と!(蹴られつつ
バリアか、よし試しに俺が…ってそれ、出オチになるやつ!!
でも試しに突っ込んでみるか…?
って!冗談かよっ、痛!?(蹴られ
てか、あの赤べこ可愛くね?(きゅん
與儀の見た目通りじゃない感とかエモみあるんじゃね?
ちっちゃいのに態度やたらデケェとことか…って、蹴るなァ!(だが嫌そうではない
だーから、犬って!?
まぁでも…與儀に怪我されても困るし
お前今ちっちゃいから、全力で護るけどよ
って、俺頼られてる!?
よし任せろォ!
俺が與儀の盾になってやる
この身を挺してでも、お前にまで絶対に攻撃通させねェッ!
バリア消滅後、與儀庇いつつ距離詰め
命中重視【紅の衝動】を
って、赤べこォ!(きゅん
●ご主人様と忠犬の話
「バリアだってよ、ヒメ。突っ込んでためしてこいよ」
「バリアか、よし試しに俺が……ってそれ、出オチになるやつ!!」
ぶん、と振り返った姫城・京杜(紅い焔神・f17071)は、いやでも、と思う。そう、でも、だ。世の中には真逆の考えもある、と。どこらへんがどう真逆か箱の際置いておくとしてだ。
「でも試しに突っ込んでみるか……?」
「は? なになに? 試しにあーしの絶対バリアでふっとんでみるわけ?」
ひらひらと舞う花びらの向こう、息をついてみせたのはラビットバニーの方だった。は、と落ちた息は好戦的な色を見せる。
「あの感じだと顔面衝突って感じかァ?」
傷こそ確かに負ってはいるがーー、まだ膝を折るには足らないか。ラビットバニーの纏うバリアを見据え、は、とひとつ、英比良・與儀(ラディカロジカ・f16671)は飛び出しかけた背に、息をつく。
「……冗談、本気にすんなよバーカ」
一発の蹴りを入れて。
「って! 冗談かよっ、痛!?」
ゴス、と一発入ったところで10歳の少年の蹴りだ。京杜がすっ転ぶという訳もなく。ほんの僅かに姿勢を崩した青年は、ぱち、ぱちと瞬いた。
「てか、あの赤べこ可愛くね?」
顔を上げた先でちょうど見つけたのが、ラビットバニーの担ぐ赤べこキャノンだったのだ。
「あれが、かわいい? かわいいのか……わからん」
同じように瞬いて、だが、與儀は眉を寄せる。その物言いは少年の見目とは程遠い。少しばかり違う、という言葉で収まらないのはかもし出すものが大きいのか。
(「……あれ、そういや……黙ったままだな?」)
ラビットバニー側に、動きがないのだ。
沈黙か、将又伺いか。
バリア自体は残ったままだ。結局の所、あれを崩さない限りは攻撃もできない。あちらからの視線は感じるまま、京杜は薄く口を開いた。
「與儀の見た目通りじゃない感とかエモみあるんじゃね?」
「エモ……? 若い奴の言葉もわかんねェなァ。事務所の奴に聞いても、知らなさそうだ」
エモみ。
最早この地においては絶対の単語と化したエモみの前に、與儀は眉を寄せる。見目こそ幼くはあるが、與儀の人生はとある世界で一度重ねている。なんの因果か所以か。辿り着いた世界で10の姿を得たがーー……。
「ちっちゃいのに態度やたらデケェとことか……」
「……」
その視界の低さも、それなりに楽しく、享受しているのだ。だから。
「……俺見た目通りの年齢じゃねェし。態度がでかいんじゃなくて、偉いんだよ」
ドゴス、と一発、與儀の蹴りが、京杜へと決まった。
「って、蹴るなァ!」
そんな二人がエモい談義に花を咲かせーーる結果になっていた頃、エモいを叩きつけられる先ことラビットバニーは考えていた。
「え……え、うそマジ。何、あーしにその属性なかったんだけど少年なのに尊大だとか、え、年上なのにワンコ系とか」
否、審議中だった。
蹴られたところで、嫌そうでも無かったあたりがやばかった。そう、やばかったのだ。ラビットバニーは初めて出会うジャンルに、心を揺らしていた。行けるか、どうか。イエスかノーか。いやだってもう心は震えている気がするけど初めてなわけだし。
「いやでも、主従って感じともちょっと違うじゃん? あーしのバリアはそれっくらいじゃ……」
「まァ、主従っつーよりは……ご主人サマと忠犬?」
破れないし、と続く筈だった言葉は、薄く笑う與儀の補足を得た。
「駄犬って言わないだけ優しいよなァ俺は」
「だーから、犬って!?」
はぁ、と京杜は息を吐く。尊大な物言いにため息こそつくが、此処で手を離す、という選択肢が京杜には無いのだ。見上げる緑の双眸に、結局、否は紡げない。
「まぁでも……與儀に怪我されても困るし。お前今ちっちゃいから、全力で護るけどよ」
「今日も喜んで、俺の壁になれよ」
は、と笑い、そうして、ふと、少しばかり柔い声音で少年は言った。
「そこだけは頼ってやっても、いい」
まつ毛の影が瞳にかかる。その言葉に、小さな呟きに息を飲んだのはーー二人。
「って、俺頼られてる!?」
「え? なになに嘘嘘、そういう系なの!? ちょっとだけ心とか見せちゃうわけ? 少年と忠犬主従? 主と忠犬なわけ!? 手綱持っちゃっている系なわけ!? 身を呈して守っちゃうとか……!?」
京杜とラビットバニーだった。
よし任せろォ! と京杜が声を上げる中、ラビットバニーは初めての遭遇に対しての決定を下していた。
「やばい、エモい!」
即ち、エモかったのである。
「俺が與儀の盾になってやる。この身を挺してでも、お前にまで絶対に攻撃通させねェッ!」
「……ほんと、扱いやすい忠犬だなァ!」
ガシャン、と派手な破砕音を響かせて、絶対バリアが砕け散る。ラビットバニーの舌打ちは一拍、遅れた。
「あぁああ、もう! 何そのエモいの! バリアぶっ壊れたじゃん!?」
た、とラビットバニーが軽く足を引いた。間合いを作り直す為か。
「宿れ焔、我が神の拳に」
だが、その間合いを京杜は喰らう。瞬発の踏み込みから、拳に焔が落ちる。それは、紅葉舞い燃ゆる焔の拳。叩き込む一撃が、深く、ラビットバニーに落ちた。
「っぁ、やらせ、ないし……!」
ぐらり、と傾いだ体を、踏み込んだヒールで支える。軽い火花が京杜の目の端に映る。次の瞬間、キュイン、と兎面が光った。
「カンフーモードっしょ?」
ぐん、と身を低められたかと思った瞬間、蹴りが来る。一撃で倒れるほどものではないがーー速い。
「っく」
二発目は腕で庇った。だが、衝撃が返る。体に響く。は、と笑うラビットバニーの、その気配が揺れたのに京杜は気がつく。
(「このスピード、もしかして負荷がかかるとかか……?」)
だが、負荷が掛かるとしても、こちらとてダメージを延々には受け続けられない。は、と息を吐き、手に宿す焔を上げた瞬間、銃撃が眼前に届いた。
「敵じゃなけりゃあ、真っ当に遊んでやれたのにな」
與儀だ。揃いの赤べこ銃を作って構えた少年に、ぐん、とラビットバニーが顔を向ける。
「は、はは。なに、やるじゃん? 別にいーし、全部あーしがぶっ倒せば良いだけじゃん?」
身を飛ばす。一直線に向かうその姿に、與儀が銃撃を選ぶ。庇うように軸線に飛び込んだ京杜を相手とするラビットバニーは知らない。叩きつける一撃の分、確かにその身が削られていることに。噛みしめるエモみが、度重なり見せつけられる主従ポイントがその判断力を奪っていることに気がついてはいなかったのだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
黒蛇・宵蔭
エモい、ですか。
屈強な精神をしているのか、していないのか、悩みますね。
キャノンを受けた傷で、血界刺鞭を発動。
本来は貴方に思う所などひとつもない。
ただ――主の憂いを晴らすために、この戦場に立っている。
我が主はこの場にはいませんが――。
(傷から溢れる血を、指で掬い)
この身は――血潮ひとつ残さず、主に捧ぐもの。
いつか、かの刃に命を預けるまで。或いはこの刃で命を奪うまで。
無数の魂を、主に捧げるが我が定め。
ですから、ここで脚を止めている場合ではないのですよ。
障壁の消滅を確かめるように、距離を詰めて確実に当てに行きます。
負う傷はすべて主のため――戦くことなどありません。
さあ、貴方の命を捧げましょう。
●黒き従者の話
花舞う領域には、血と鉄の匂いが溢れていた。戦場特有の熱を帯びた空気の向こう、は、と兎面を被った怪人は告げる。
「あーしにはまだ、絶対無敵バリアがあるし? だいたい、どんなに来たってあーしが全部最後には始末すれば良いだけじゃん? どんだけエモいものが来たって!」
「……」
さてそれは、開き直りというものではないのか。赤の瞳を細め、黒蛇・宵蔭(f02394)は息をつく。
「エモい、ですか。屈強な精神をしているのか、していないのか、悩みますね」
「は? あーしは心乱れる時があるだけだし、最後に全部始末しちゃえば問題ないっしょ」
あんたも、と仮面の奥、ラビットバニーは笑う。
「始末しちゃえば」
瞬間、赤べこキャノンが宵蔭へと向けられた。一撃は、叩きつけられる熱のようだ。下手に払うことも無いままに、一撃が腕を赤く染める。は、と落とした息は受けた衝撃にか、走る熱にか、それともーー……。
「呪われた血、その真を少しだけ」
紡ぎ落とす、次の笑みにか。
静かな微笑を浮かべたまま、滴り落ちる血は鉄錆の封印を解く。触れたものをすべて裂く無数の刺鞭へと変じた鞭を手に、ゆるり、と視線を上げる。
「は、なになに? こっからあーしのこと倒しますとでも言うわけ? 一人っきりで?」
嘲笑うようなラビットバニーの言葉に、宵蔭の微笑は変わらない。浮かべられたままの笑みは、実際、どれだけの情を浮かべているというのか。
「本来は貴方に思う所などひとつもない」
ただ一つの変化も見せぬままに、告げられた言葉に、ラビットバニーの動きがぴくり、と止まる。その動きを、今はおいて宵蔭は言った。
「ただ――主の憂いを晴らすために、この戦場に立っている」
我が主はこの場にはいませんが――。
うっそりと笑い、息を落とす。傷から溢れる血を指で掬い、滴り落ちる色彩に赤の瞳を細めた。
「この身は――血潮ひとつ残さず、主に捧ぐもの」
いつか、かの刃に命を預けるまで。或いはこの刃で命を奪うまで。
「無数の魂を、主に捧げるが我が定め」
「え、うそ。嘘うそ、そういうの持ち込んでくるわけ!? 何、その重い感じ! 主の憂いとか言いながら、命を預けて取り合うわけ!? 生殺与奪は互いにあるとかそんなの……」
ラビットバニーがたじろぐ。何度目かの嘘、の後、ひゅ、と息を飲んだのは視線を上げた男の微笑に出会ったからだ。
「ですから、ここで脚を止めている場合ではないのですよ」
「……っエモい!」
耐えきれずに出た言葉。ガシャン、と派手な破砕音が戦場に響き渡った。
「ッチ、しまった……!」
「ーー」
舌打ちと共に、ほんの僅かラビットバニーの動きが遅れる。その一瞬を、宵蔭は逃さない。とん、と軽い踏み込みは間合いを詰めるそれでは無い。一撃を、ただ振るう為のもの。
「負う傷はすべて主のため――戦くことなどありません」
薙ぎ払う腕が、刺鞭を振るう。緩く弧を描き、打ち据えられた先、ラビットバニーが踏鞴を踏む。
「っは、やるじゃん? けど、あーしだってやられてばっかじゃない、し!」
カン、と高い音を響かせ、ヒールで一気に飛び込んできたラビットバニーの銃弾を刺鞭で弾く。中空で光が裂けた。破砕の雨を解放した武器の纏う血で濡らし、宵蔭は静かに告げた。
「さあ、貴方の命を捧げましょう」
「……ッエモいやばい!」
イマイチしまらない戦場で、エモいと息を飲むラビットバニーの零す赤が花を染める。その色彩にさえ、最早気がつかないのか。満たされる心が、確実にダメージを負っていく体を補うからか。バリアの砕ける音は、一層派手になってきていていた。
成功
🔵🔵🔴
ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
えも…
師父よ、どういう意味なのだ
なるほど解らぬ
が、要は我等の信念を示せということか
賜る師の言葉を深くへと収めるように頷いて
――我が主
我は御身の剣であり、盾となろう
お言葉に恥じぬ戦いを
剣を納めるべき場所は、かの方の御許だと見せるよう
鞘は師の手に残す形で抜剣
師を背に庇いながらラビットバニーを睨む
五感で敵の動きを追いながらも、師の提言は耳に
無敵の防御が綻んだ瞬間を狙い
怪力と捨て身の一撃で以て【竜墜】を叩き込む
そら、ついでにその巫山戯た面を外してゆけ
我が師に対し無礼であるぞ
呼ばれれば師を抱え跳び、安全な所へ
圧されど決して退かず
この程度で臆しては
あの方の従者など務まらぬ故
口許で笑む
アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
安心せよ、他世界の知識の吸収にも余念はない
エモい――それは感情が昂ぶる事柄に対して使う言葉らしい
ならば、彼奴へ示す解答は簡単であろう
ジジ、唯一にして無二の我が従者よ
お前は私にどの様な勝利を齎してくれるのだ?
騎士の叙任式が如く剣をジジへ与え
【賢者の提言】を用いて焚き付ける
…その言葉、期待するとしよう
さあ、存分に暴れるが良い
ジジの、敵の動きを見極め
敵が隙を見せたら即座に従者へ伝達
一撃を喰らわせた際は心よりの賛辞を
大義であるぞ、ジジ
無論、ジジへ支援も忘れておらぬ
鞘を杖代わりに魔術を行使
敵を麻痺させる事で隙を作る
足場が動いた時は――ジジ!
呼んだ従者に抱えられた状態で攻撃を与えよう
●主と従者の物語
荒く、落ちる息と共にぱたぱたと血が落ちた。は、と吐息は受けた傷による熱を帯びーーだが、重ね紡がれば「エモさ」を前にラビットバニーは正常な判断を失いつつあった。
「いーじゃんいーじゃん! 別に、最後にあーしが全部始末すればいいってわけだし? 多少のダメージもハンデ上げてるってだけでいーわけだし?」
傷の事実は認めた。痛みもある。バリアとて砕かれてはいる。だが、それも完全に破壊されたという訳ではない。絶対の名を持つ防御方法を張り直すことができる時点で、ラビットバニーには一つの優位性を得ている。
「エモいの来なきゃいーわけじゃん? 耐えればいけるっしょ!」
ーーはずだ。
「えも……。師父よ、どういう意味なのだ」
よっし、と担がれた赤べこキャノンを視界にジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は、師たるひとに目をやる。眉を寄せ、僅かに首を傾げたジャハルを前に、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)はスターサファイアの髪を揺らし、ふふん、と唇に指を当ててみせた。
「安心せよ、他世界の知識の吸収にも余念はない」
そう、魔術師たるもの知識探求というのは呼吸に近い。それが例え、少しばかり特異な言葉であっても、特殊な状況であってもーー……。
「エモい――それは感情が昂ぶる事柄に対して使う言葉らしい」
「……」
知識である限り、知り得ることは可能なのだ。
「なるほど解らぬ」
師父の言葉に、ジャハルが示したのはその解であった。ついでに真顔である。表情を崩さぬまま、だが、と緩く口を開く。
「要は我等の信念を示せということか」
「あぁ。彼奴へ示す解答は簡単であろう」
エモい、という言葉を正しく理解、吸収したアルバからしてみれば「絶対」を歌うバリアの綻びは見えたようなもの。ただ一つ、考えることがあるとすれば此処が戦場であり、ラビットバニーが既に傷を得ているという事実だ。
(「己の弱点を理解しているのであれば……」)
対策を練ってくるタイプには見えず。だが、動いては来るはずだ。
「は? なになに。作戦会議でもするってわけ?
さすがのあーしも無視されるの好きじゃないし。ってか、そこまでさせないし?」
ぐん、と赤べこキャノンが向けられる。空間が歪む。射撃までにはーーまだ、少し時間があるか。それならば、告げるべきはひとつ。
「ジジ、唯一にして無二の我が従者よ」
向き合った先、黒の瞳を見据えアルバは告げる。
「お前は私にどの様な勝利を齎してくれるのだ?」
その手には、一振りの剣があった。騎士の叙任式が如く、まっすぐ、伸ばした腕で差し出した剣に息を飲んだのはキャノンを構えていたラビットバニーだった。
「え、うそ……」
思わず口元を抑える姿は、さっきまで見せていた姿とはまるで違う。堪えるような、その姿を視界にーーそこに残るバリアを捉えながら、アルバは、告げた言の葉を深く収めるように頷く従者を見た。
「――我が主」
視線が交われば、言の葉が返る。
「我は御身の剣であり、盾となろう」
「……その言葉、期待するとしよう」
賢者の提言を紡ぐ。頷くジャハルへとアルバの言葉は力を注ぐ。
「お言葉に恥じぬ戦いを」
僅か、体が熱を帯びたようだった。剣を納めるべき場所は、かの方の御許だと見せるよう鞘はアルバの手に残す形で抜き払う。緩やかな抜刀。師を背に庇うようにして向き直せれば、睨みつけた先で、うそ、と落ちた声を聞いた。
「うそうそうそ!? なに、待って待って、従者かなぁって思ってたけどそう来るの!? 騎士の叙任式ってだけでもやばいのに、鞘、残して!? 剣は自分で持って……!?」
何うそそれって、いやでも待って待って。保たなきゃダメだし、冷静にならるべきっしょ、と呪文のように繰り返しーーだが、バキバキと派手な音を立てながら絶対無敵バリアはひび割れていく。
「さあ、存分に暴れるが良い」
頭を振るい、必死に耐えようとする姿を瞳にアルバは悠然と告げた。
「……やっばい、エモい!」
ガシャン、と派手な破砕音を響かせて、ラビットバニーの絶対無敵バリアは砕け、散る。それが、この戦場で最も大きな破砕の音になったことをラビットバニーだけが気がつかぬまま。
「ジジ」
短く、届いた声はジャハルへと機を告げていた。た、と従者は飛ぶように前に出る。ッチ、と響いた舌打ちはラビットバニーのものだ。
「やらせないし!? こっち来ようが、全部あーしが始末すればいいっしょ!」
キュイン、と高い音共に迎撃の光が来た。穿ち来る衝撃にーーだが、前に出る。捨て身の一撃だ。熱が、払うように出した拳を喰らう。は、と落とした息ひとつ、零した血さえ蒸発する衝撃の中、従者の腕は変じる。
「墜ちろ」
否、竜化し呪詛を晒しただけのこと。
握る拳が呪いを帯びる。踏み込む足の、最後のその一歩で、速度を上げる。
「マジ!? 立って……!?」
「そら、ついでにその巫山戯た面を外してゆけ」
踏み込めば、単純で重い一撃がラビットバニーへと叩きつけられた。
「な……!?」
右から、叩きつける拳にラビットバニーの体が僅かに浮いた。打撃の衝撃が、兎面に伝わる。
「我が師に対し無礼であるぞ」
仮面に、罅が入っていた。ぐらり、と身を揺らすラビットバニーを視界に、アルバは心からの賛辞を従者へと紡ぐ。
「大義であるぞ、ジジ」
「ちょ、何するし……!? ってあぁあでもエモい! なにそれ!」
そこの! と声をあげ、ラビットバニーの足元、花びらが舞う。淡く、光を帯びたのは一撃に変じるのか。ふわり、と舞い上がりかけた花びらはーーだが、中空で止まる。
「は!? ちょっと!」
アルバの魔術だ。止められたのは花びらだけではない。ラビットバニーの腕も、一撃、放つ為にキャノンにかけた指さえも止まっている。
麻痺だ。
鞘を杖の代わりに手にしたアルバによる麻痺の陣。僅か溢れた光に、その一瞬に、ジャハルは動いた。身を低め、滑り込んだ先でラビットバニーへと一撃をーー沈める。
「ーーッぁ」
衝撃に、赤べこキャノンが右上へと砲撃を飛ばした。
「あーしに外させるとか! 気に食わない!」
「この程度で臆しては、あの方の従者など務まらぬ故」
口許でジャハルは笑う。ふ、と吐息一つ零した笑みに、っち、と舌打ちが響く。
「エモいのがムカつくし! ってかそこの後ろの!」
だん、とラビットバニーが地面を踏みしめる。震脚に、花びらが揺れた。
「これ以上させないし!」
瞬間、光が来た。システム・フラワーズ制御ビームだ。一撃はアルバの肩口を擦り、足場を揺らす。しゅるり、と蔓草が蠢いた。
「ーージジ!」
その声に、ジャハルが来る。掬い上げる腕に素直に身を預け、抱え上げれればーー蔓草の拘束も届かない。
「これで」
柔く言の葉を紡ぐ。手にした鞘が光を帯びる。
終焉を告げる魔術がラビットバニーを撃ち抜いた。
「ほんと、もう、なんでこんなエモいの、ばっか……」
ぐらり、とラビットバニーの身が傾ぐ。構えられたキャノンは一撃を放たぬままに床に落ちる。ばたばたと、落ちた血にスーツを汚していた赤が漸く意識に追いつく。その状況にまで自分が追い詰め切られていたことに膝を折って気がついたラビットバニーは、は、と息をついた。
「あーしが負ける、なんて……ッ、でも、すごいエモかったし」
満ち足りちゃったし、だめか。と小さく笑いーーカワイイ怪人『ラビットバニー』は光となって、消えた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴