バトルオブフラワーズ⑩〜艶麗可憐
●彼女の基準
「まじびびった! だってモンキーやられてっし!」
――『システム・フラワーズ』内部、『咲き乱れる花々の足場』にて。
ピンク色のバニーちゃんことカワイイ怪人・ラビットバニーはそう息巻いていた。
なにしろ倒されたマニアック怪人・エイプモンキーは、自分たちの中で最強戦力の筈だったのだ。
「誰も勝てるわけねーって思ってたんですけど! でもまあ、あーしが全員始末すりゃいいか」
表情の読めないカブリモノの顔で、ラビットバニーはほくそ笑む(多分)。
ユーベルコード『絶対無敵バリア』。これがある限り、すべての攻撃が自分には無効。ふっふーん、とドヤりつつ、
「それで負けるわけなくない? ……まあ、エモいもの見ちゃったら、心が乱れてバリアも解けるけど。あーしのエモ基準、かなりガバいけど……」
あんなのとかー、こんなのとかー、あっこーいうのも超エモ! マジ正義!
などなどと、身悶えしつつ大きな独り言を呟いて、
「ま、そんなんあいつらに分かるわけねーし!」
――と盛大なフラグを立て、拳を衝き上げる。
「まーなんとかなるっしょ! よっし、アゲてくぞー!」
――かくして、怪人と猟兵たちとの奇妙な一戦が幕を開けようとしていた。
●猛く美しく咲く華よ
「面白い奴がいるもんだねえ、キマイラフューチャーには。小物感が否めないけど、これが実力者だって言うんだからねえ」
くっくと肩を揺らして、グレ・オルジャン(赤金の獣・f13457)は仲間を募る。
『システム・フラワーズ』第二の関門の番人は、カワイイ怪人『ラビットバニー』。システム・フラワーズの内部の『咲き乱れる花々の足場』はラビットバニーに集中しており、彼女を倒さない限り先に進むことは不可能だ。
『絶対無敵バリア』を帯び、ありとあらゆる攻撃を無効化する彼女はまさに『絶対無敵』。――の筈なのだが、このバリアには弱点があることが早々に判明した。
「あたしにゃよくわからないんだけどね。『エモい』ものを目撃すると、動揺でバリアが一時解除されるらしい。知ってるかい? 字引にも載ってなくてさ」
からから笑うグレに、知る者たちが教えてくれる。――要は、感情が高まる、心震える、というような状態を指すらしい。
「はあ、なるほどね。なら話は早いじゃないか」
予知に見たラビットバニーの物言いに、答えがあったとグレは言う。
『――かわいい仕草とか、血だらけで立ち上がるとか、……(中略)……あっイケメン女子とかいうのも超エモ! マジ正義!』
前のは正直よく分からないけど、と前置いて、グレはにやりと口の端を上げる。
「『イケメン女子』だってさ? 心震わすような格好良い女って言やあ、あたしにも覚えがないでもないよ」
男性にも負けない芯を持つ、しなやかな麗しの華。猟兵たちの中にはそんな女も少なくないだろうと心当たりを問うて、
「我こそはってのも勿論だけど、そんな女を目指して演じてみるのもいいさ。自分で基準が緩いようなことを言ってるようだし、案外さっくり引っかかるんじゃないかねえ」
などと笑ってみせる。
そうしてラビットバニーの『基準』に届いたならしめたもの。護りを失った相手を、魅せたとおりの強かさで叩きのめせばいいだけだ。
「レディな扱いをしてやったっていいし、野郎顔負けに猛々しく戦って見せたっていい。……ん? 壁ドン? よく分からないけど、まあそれで相手が動揺するってんならそれだっていいだろうさ」
艶やかに麗しく、可憐に――そして何より、男よりも男前に咲き誇って、
「あんた達の強さ、見せつけておいでよ」
そう不敵に微笑んで、グレは美しい華たちを光の先へと送り出した。
五月町
五月町です。
エモという言葉をこの度生まれて初めて使いました。合っているか不安です…!(笑)
お目に留まりましたらよろしくお願いします。
●プレイング受付期間について
5月14日8:30〜同日20:00の間受け付けております。(※採用は先着順ではありません!)
執筆時間の確保の都合上、何の問題もない素敵なプレイングであっても、お返しする場合があります。
ご参加いただいた方は『それでも大丈夫!』というお気持ちありと受け取ります。何卒よろしくお願いします。
●ラビットバニーの『エモ』基準について
グレの説明の通りです。
『口説け』という意味ではない点ご留意ください。【強い】【格好良い】【漢前】あたりと女性的な美しさ(※外見に限りません)を両立していることが広く対象となります。
●特殊ルールについて
ラビットバニーの心を乱し『絶対無敵バリア』を崩さない限り、一切の攻撃が効きません。
また、以下もご確認ください。
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ラビットバニーは必ず、猟兵に先制して『絶対無敵バリアを展開するユーベルコード(POW、SPD、WIZ)』を使ってきます。
絶対無敵バリアは本当に絶対無敵で、あらゆる攻撃を無効化しますが、「ラビットバニーがエモい物を目撃する」と、精神集中が乱れてバリアが消滅します。
ラビットバニーのエモい基準はかなりユルいので、バリアの解除は比較的容易と思われますが、バリアなしでも彼女は相当の実力者です。
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第1章 ボス戦
『カワイイ怪人『ラビットバニー』』
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POW : 赤べこキャノン
【絶対無敵バリア展開後、赤べこキャノン】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : うさちゃんカンフー
【絶対無敵バリア展開後、兎面の目が光る】事で【うさちゃんカンフーモード】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : おはなハッキング
【絶対無敵バリア展開後、両手の指先】から【システム・フラワーズ制御ビーム】を放ち、【花の足場を自在に操作する事】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:和狸56
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
アストリーゼ・レギンレイヴ
格好良い女、ね
――答えの程は、生き様と戦いぶりで問いましょうか
余計な言葉など持っていない、そういう性分なの
《漆黒の夜》を纏いて前へ
足場を制限してくる、ということは
縦横無尽の攻撃への対処はし辛いでしょうね
闘気を自身の周囲に隈なく展開して衝撃を軽減
或いは、受けられる範囲であれば武器で受け止め
食らう場合は頭部や腹部など、致命を避ける
どれだけ痛めつけられようと膝は折らない
真直ぐに敵を見据え、耐え続けるわ
――もし、守りが綻んだと見て取れたなら
その一瞬を逃さず接近して一太刀を浴びせるわ
黒剣を防がれたところで、
あたしにはもう一つの刃がある
――誰より大切な妹から渡された刃
何が何でも、届かせてみせるわ――!
ワン・シャウレン
少々乗り遅れたが、まだ出番はありそうじゃの
突破手伝わせて貰うぞ
さて、エモいだけじゃとよう分からんかったが
心震わすというなら納得出来る。翻訳感謝
要は強い分、平静でないと保てぬのじゃな
そしてイケメン女子なら解決
わしに任せよ
それよりも、見目に合わず出来るの
功夫積んどる気配がする
なら当然、正面からやり合うのみじゃ
先手はくれてやろう(普通に取られそうじゃし)
かかって来るが良い!
戦闘では水霊駆動を起動し受け・防御主体から入る
水も盾に移動に駆使し格闘戦
ダメージは覚悟の上、怯みはせぬ
ただ寿命削る技を生身でそう続けられまいし、したがる手合いに見えぬ
人形のわしと根競べじゃ
焦れるか攻撃を緩めた所が狙い目
一気に攻める
鎹・たから
かっこいいという言葉は、女性にも当てはまるものです
たからもそう呼ばれたいと思っています
ですからバニーに見せましょう、かっこいいたからを
赤べこキャノンをある程度受け流すも
流血も構わずあえて攻撃を受けます
バリアは承知の上で連珠を握りオーラを纏い連打
たからはこども達のために戦います
どこかで泣いている彼らが居る限り
この歩みを止める気はありません
女の小さな身体だと笑われようと
心に宿した想いがある限り、たからは彼らをすくうヒーローです
この覚悟が、あなたの心に届くものがあると
たからは信じています
解除された直後に急接近
氷の拳をお見舞いしましょう
【グラップル、鎧砕き、ダッシュ、オーラ防御、勇気、覚悟、優しさ】
花剣・耀子
強さなんて、いろいろでしょう。
たとえば分かち合ってくれたヒト。
たとえば帰りを待っていてくれるヒト。
あたしはそういう、やわらかな強さにあこがれていたけれど。
……でもあたしは、おねえちゃんにもおかあさんにもなれないもの。
装えるほど賢くないのよ。
ここに在るあたしが、あたしだわ。
できることは、剣を持つこと。
情けない背中は見せないように。
戦場でだって、どこだって、背筋を伸ばしてひとりで立てるわ。
視線は真っ直ぐ。目を逸らさない。
――ここでだって、負けてやらない。
阻まれても、傷を負っても、立ち向かいましょう。
おまえは必ず斬り果たす。
あたしが届かなくても、必ず誰かが。
首を落とされるまで、止まってやらないわよ。
●我が心意気に果てなさい
見目麗しい花の園に降り立てば、異質の存在はすぐに察せられた。
「格好良い女、ね。――答えの程は、生き様と戦いぶりで問いましょうか」
「! 生意気言って――」
『絶対無敵バリア』の守りを笠に着て、ろくな守りもなく一閃を受けようとするラビットバニー。その声が、不意に止まる。
言葉よりも多くを語る、ふたいろの尖鋭な眼差し。悪いわね、と近く囁いて、アストリーゼ・レギンレイヴ(闇よりなお黒き夜・f00658)は笑みひとつなく突き放した。
「余計な言葉など持っていない、そういう性分なの」
「……は? 何そのセリフ普通に言っちゃうとか……マジか」
エモ、と最後に思わず付け足した言葉は、しっかり耳に届いた。
外見も言葉も緊迫感に欠ける輩と眉を顰めつつ、アストリーゼは気づく。動揺するラビットバニーの周囲、確かに感じていた魔力の障壁が弱まっていることを。
「――話は本当みたいね」
「な、何のことかわかんねーし!」
分かりやすくぎくりとする相手。どうやら自分の『格好良さ』は、ラビットバニーの琴線に触れたらしい。心底どうでもいいけれど、と吐息をひとつ、花々の足場を奪いに来る指先を躱して、跳ぶ。
装いは闇の底に咲く暗紅色の花、そして纏う鎧は闇の色。その上に帯びる闘気はいっそう深く濃く、アストリーゼの秘める力を余さず引き出した。
「防壁に頼り過ぎじゃない? 悪いけれど、絶対なんてないわ」
「いった――!? ……ちょ、なんでバレてっし!?」
一閃。身の丈ほどの巨剣の刻み付ける傷は決して浅いものではない。動揺するラビットバニーのもとへ、
「さて、少々乗り遅れたが、まだ出番はありそうじゃの」
幼気なかんばせに強かな笑みを乗せ、ワン・シャウレン(潰夢遺夢・f00710)が素早く押し迫る。
エモい――心震わすような、さりとて詳細な言葉にならぬそれを示すもの。なるほどの、と心中に翻訳への感謝を告げつつ、
「要は強い分、平静でないと保てぬのじゃな」
「は……だ、だから何のことだかサッパリなんですけどー!」
「よいよい、隠さずとももう全てお見通しなんじゃよ、イケメン女子とかなんとか全てわしに任せよ。さて水霊よ、少しばかり力を貸しておくれ」
シラを切る敵にさらなる動揺を呼ぶ間にも、ワンに宿る水の精霊は、強者の気配に密やかに猛る主へ加護を広げていく。輝く白金の髪、しなやかな人形の肌。そのどれもに水の気配を帯び、ワンは掌底を敵前へ衝き出した。花咲くように放たれる水が、皮一枚のところで跳ね返る。――ラビットバニーは雫ひとつも濡れてはいない。
「ハッ、効かねーし! 見たっしょ、これが『絶対無敵バリア』の力だし!」
「ふむ、見目に合わずできるの」
「一言余計だし! ナメんな!」
ふわり緩慢な動きと見せかけて、不意を打ちにくる手も脚も速い。豊かな体ごとぶつけるように放たれた一撃に、ワンは素早く転がり受け身を取る。
「功夫積んどる気配がする。……これは愉しむしかなかろうの?」
「は……?」
ぎく、と不自然に凍りつくラビットバニー。攻撃が通らず、吹き飛ばされておきながらこの余裕――何かが相手の心に触れた気配に、ワンはにやり笑う。
「先手はくれてやったまで。――さあ、どこからでもかかって来るが良い! 人形のわしとの根競べ、どちらに分があろうかの?」
「は……? ちょっ、待……どーいうことなの」
「来ぬのならこちらから行くぞ?」
懐に果敢に踏み込んでくるワンを受ける手が弱い。マジわかんねー、イミフ、等と呟きながら、一歩ずつ退がるラビットバニー。
「効かねーって分かってるクセ挑んでくるとか、エモ……じゃなくて、イミフなんですけどー!?」
「それを好いと感じておるのじゃろ? つまりはそういうことじゃよ」
不敵な笑みが、バリアに回された魔力を揺らがせる。緩やかに踊る右の手は、今、と素早く虚を突いた。
相手の力量は分かっている。そう易々と打たせはすまい。けれど動じるまま受けに専心すれば、勝機は必ず訪れる。
「――見えた!」
「はっ!?」
くるり、ひらり、伸びやかに舞った体をふと沈める。繰り出す脚撃が狙うは足許、掬われた相手に堪えることは許さない。翻す腕を肩ごとぶち当てる。――先刻自分が受けたように。
「お返しじゃ。さあ皆の者、攻め時ぞ!」
「ええ、バニーに見せましょう、かっこいいたからを」
遠い雪の日と色硝子を映した眼差しは、見つめる拳に冷気を齎していく。硬化した拳を得物に、鎹・たから(雪氣硝・f01148)は体勢を崩したラビットバニーに躍りかかる。
「させねーし! カッコイイとか、口だけであーしを揺さぶれるとか、ねーから!」
やはり『強敵』――ひとたび破られたバリアは瞬時に回復し、たからの一撃を受け止める。お返しとばかりに放たれる赤べこキャノンの直撃を避け、けれど大きく躱さないのは、その傷こそが誇りであるからだ。
動じない銀の瞳を真直ぐに敵へ向け、告げる。悪を挫き、弱きを救い、隣人を愛して――そうして自らの守るべきものとは、未来あるものだと。
「たからはこども達のために戦います。どこかで泣いている彼らが居る限り、たとえこの拳が通らない相手を前にしようと、この歩みを止める気はありません」
「……ッ! あーたも守りたいモンのために身をぶん投げるタチ!? ちょっとどーかと思うんですけど……!」
揺れている。明らかに動揺している。こくり、と頷き、弱まったバリアを拳で砕き続ける。
羅刹とはいえ、少女。女の小さな身体と笑うものもあろうと知っている。けれど――それを吹き飛ばして余りあるほどの熱量が、たからの胸の裡にはあるのだと。
「心に宿した想いがある限り、たからは――こどもたちをすくう、ヒーローです」
「うっ……泣かせるし……! そんなチビのくせして……っヤバ、尊い」
声が湿っている。無論、カブリモノの下の涙は見えないのだが。ついでのように解けたバリアにそれでは、と冷静に頷いて、たからは拳を衝き込んだ。
「氷の拳をお見舞いしましょう。――砕け散りなさい」
「うぐっ……!?」
その一撃は見えぬほど。硝子のような氷に覆われ、小さな拳は苛烈な武器へと変化する。吹き飛ばされたラビットバニーのもとへ、花剣・耀子(Tempest・f12822)のたからの拳ほども冷え切った青い視線が巡る。
「強さなんて、いろいろでしょう」
表層を知るだけ、それも今出逢っただけの敵に、好ましいだの好ましくないだのと定義されたくもないけれど。耀子にも思う強さのかたちがある。
――たとえば、分かち合ってくれたヒト。
――たとえば、帰りを待っていてくれるヒト。
そんなやわらかでしなやかな強さに憧れていたけれど――そうはなれない、と耀子は思う。
「あたしは、おねえちゃんにもおかあさんにもなれないもの。装えるほど賢くないのよ」
ここに在る自分が、自分だ。学び得た信念を胸に、耀子は剣を振るう。抜かずの剣――呪詛を孕んだままの『アメノハバキリ』の鞘が担うのは牽制だ。ラビットバニーのバリアは未だ解かれず、紫色の光弾はしつこく耀子を狙い来る。
「おまえがどう思おうと、あたしは自分ができることをするだけよ」
「刃を抜く勇気もないクセに? あーたも口だけってヤツ? ――なら、真っ先に倒してやるし!」
愉悦を帯びる声に、耀子は真直ぐに立ち向かう。情けない背中は見せない、目は逸らさない。剣先だって震わせはしない。
歳若くも大人びたその姿勢に、揺らいだのはラビットバニーの方だった。
「戦場でだって、どこだって、背筋を伸ばしてひとりで立てるわ。――ここでだって、負けてやらない」
「健気か……!」
何か察したらしい。好戦の気に引っ込んでいた涙の気配が、再びじわりと敵の声を染める。不快を示すこともなく、耀子は二の剣の封を解いた。――フツノミタマ、残骸に堕ちてなお褪せぬ一閃の輝き。
「おまえは必ず斬り果たす。――首を落とされるまで、止まってやらないわよ」
「ッ、覚悟とか尊……ってその首、あーしのじゃね!? エモとか言ってる場合か……ぎゃああっ!」
散らすは花でなく、草でなく。白刃がこの戦場に平らげるは、災魔のいのち。
その一閃は防壁を突き破り、ラビットバニーの身に深傷をひとつ刻みつけた。
『おはなハッキング』で奪われゆく足場に意識を向けながらも、アストリーゼは攻め手を弱めない。軌道を読み難い『うさちゃんカンフー』に精度を高めた『赤べこキャノン』、縦横無尽に繰り出される攻撃を回避するのは至難の業だが、身に纏う夜色の闘気が、刃交わした相手から生気を奪い、充たしてくれる。
「素直にやられてっと思うなし!」
「――別に思っていないわ」
如何に奇妙な風体をしていようと、強敵には違いない。武器で軌道を逸らし徹底して致命傷を避けてはいるが、生命力吸収だけでは賄いきれない傷を負っているのも事実なのだ。
けれど、それだけではなく。どれだけ傷を受けようと、膝は折らない――その決意が力をくれる。
振るう黒剣を赤べこキャノンの砲身が受け止める。にやり笑った気配に、揺れることなくアストリーゼは告げた。
「防ぐなら防げばいい。あたしにはもう一つの刃がある」
今は亡き月の遺したもの。誰より大切な妹から渡された、右眼の義眼が眩く輝いた。
「な……!?」
「邪魔よ。あの子の力、何が何でも届かせてみせるわ――!」
抜いた力に砲身のバランスが崩れる。その瞬間、アストリーゼは退いた剣を素早く返す。身を起こすまでは一瞬、それだけ時があればいい。
月の魔力を纏った一閃が、ラビットバニーを捉える。白い胸元に引かれた血の一文字が、再び守りを打ち破ったことを告げていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
胡・翠蘭
イケメン女子…心意気がイケている方、なれば猟兵様にて拝見する機会はありますし、存じ上げておりますが…
いえ、敵を倒すためですもの…ここは思い出しながらやってみましょう
まずは、普段通り微笑みながら…品良く彼女にデコイの攻撃を行い…
勿論通じないでしょうし、反撃を受けるでしょうから、それを防具改造と激痛体制を活性化した状態で甘んじて受けてから
…不屈の姿、額から血を流し傷つきながらも、その血や汚れを厭わず袖や手の甲で拭いながら
普段は見せない凛とした真剣な表情で、ラビットバニーを見つめてみますわ
…ええ、ギャップでどうにかイケメン女子様に近づければ、と
バリアが破れたなら、…ふふ、本領発揮、UCで攻撃致します
オリオ・イェラキ
ご機嫌よう兎の方
お相手下さる?
エモい…はあまり詳しくありませんけれど
貴女と戦い合う事は存分にできますわ
さぁ来なさい。遠慮は不要
この見た目より、わたくしは儚い女ではありませんの
動く花は翼を広げ空へと
カンフーとやらは剣をメテオリオの花嵐に変え視界の阻害を
攻撃は当たらずとも、目眩しはできるでしょう?
煌めく花弁の星空に紛れて避けますわ
あれは赤べこと言いますの?その一撃は大剣で武器受けの後、軌道を逸らす
激戦でも、優雅に。力強く
負ける訳にはいきませんもの
わたくしはオリオ・イェラキ。雄々しき部族が男の妻
夫と前戦で戦うと誓った身
一歩も引きませんわ!
バリア解除が反撃の狼煙
大剣を構え、一気に飛び込み斬り伏せますわ
御堂・茜
武の道は礼に始まり礼に終わると申します
まずは【礼儀作法】にてご挨拶を
御堂茜、この剣にて世に義を示しに参りました
いざ尋常に勝負!
戦が始まればわたくしは武士
姫の立場を捨て修羅と化します
【野生の勘/第六感】で敵のキャノンを掻い潜り
時には斬り捨て、攻撃を受け
なお前進する【勇気】は!
民の祈りを背負い泰平の為に戦う
武士の【覚悟】です!
バリアに向かって【捨て身の一撃】で【完全懲悪】を発動
躊躇は致しません
武士道とは死ぬことと見つけたり
その心は
いつ斃れても悔い無きよう
一分一秒を全力で生きよ!!
エモ、つまりは【気合い】!!
気迫でバリアごと敵を斬ってみせます!
この御堂、乱世に散る花とはなりませぬ
神妙になさいッ!!!
ラティファ・サイード
先制攻撃への対策は大切でしょう
まずは一撃を耐え抜くことが肝要でございます
致命傷を受けぬよう意識を集中し
キャノンの軌道から身体の重心を逸らします
下手に完全に避けようとするのは無謀でしょうし
多少の傷はものともせず
毅然と前を向いて差し上げます
血に塗れようとも
黒髪に手櫛を入れて嫣然と微笑みましょう
…今、何かなさいまして?
微風と勘違いしてしまいそうですわ
今度はこちらの番です
相手が次手に移る前に強く踏み込み
かぎろいでその柔肌を貫いて差し上げる
ご冗談はその兎面だけになさって?
傷の痛みも呑み込み
艶めく微笑みのまま力ずくで斬り裂きましょう
深く深く真直ぐに
わたくし、あなたの喉笛が欲しゅうございます
…よろしくて?
フィオリーナ・フォルトナータ
エモいというのはわたくしにはよくわかりませんが
わたくしの成すべきことはひとつ
可愛らしいキャノンから放たれるオーラは避けられないのであれば
そのまま剣と盾で受け止めます
どれほど傷を負っても、身体が痛くとも、剣を落とさず前を見据え
わたくしは守る者
この剣も盾も、守るべきものを守る、その為だけに在るのです
…わたくしが今守るべきはこの世界
ゆえに貴女達がこの世界を破壊するというのであれば
わたくしはこの世界を守るために
この身を剣と、盾と変え、貴女を斬りましょう
さて、わたくしは貴女のお眼鏡に叶いましたでしょうか?
バリアの解除が確認できましたらダッシュで一息に懐へ飛び込み
聖煌ノ剣にて捨て身の一撃を叩き込みましょう
●その一撃は差し上げる
「ご機嫌よう兎の方。わたくしともお相手下さる?」
「は、はあ? 望むトコだし……!」
猟兵たちの思いもよらない『エモさ』に動揺するラビットバニーの元へ、夜空が降ってくる。
白肌に星霜のドレスを纏った女、オリオ・イェラキ(緋鷹の星夜・f00428)。星の瞬きほどの速さを帯びた一閃は無論、ラビットバニーの『絶対無敵バリア』に阻まれる。鮮やかなピンクに彩られた指先がぴこぴこと動き、
「あは、ムダっしょ! サーセン、これでもあーし、実力者だしー!」
オリオの足許、花の足場を周囲と切り離す。一歩踏み外せばまっさかさま、どこへ落ちるのかも分からない――それでも、
「貴女こそ見縊っていらっしゃるのね。エモい……はあまり詳しくありませんけれど」
「うっ」
うっそこいつも知ってるし!? ――と、あからさまにぎくりとする兎。その視界を、しっとりと沈む夜の色、黒薔薇の彩が覆い尽くす。
「それでも、貴女と戦い合う事は充分にできますわ」
「は……!? 何ソレ、この状況でそのヨユーとかちょっとエモ……いだだだだだだっ!?」
星の煌めきを露に結んだ、幾千幾万の花弁の向こう。心を衝かれたラビットバニーを切り刻みながら、翼を広げふわりと浮かんだオリオは微笑む。
――そう、易々と通らぬ一撃など、この場の誰もが想定の内。
「さぁ来なさい。遠慮は不要――この見た目より、わたくしは儚い女ではありませんの」
「えっヤバ、カッコよくね!?」
心理的追撃が、防御を編み直す間をラビットバニーに与えない。ふわりと嫋やかに、しかし猛々しく微笑んで、オリオは再び剣戟を繰り出した。
「まあ、本当にそれで解けるのですね」
夜色の女の芯ある美しさには、フィオリーナ・フォルトナータ(ローズマリー・f11550)も微笑んだけれど――これがエモというものですか、と小首を傾げた次の瞬間、金色の柄より伸びる未来を拓くひとふりの剣は、ラビットバニーの眼前に在った。それは即ち、
「! っそー何度もやられねーし!」
バリアの展開とともに翻された砲身もまた、近くあるということ。炸裂したビビットカラーの光弾は、まるで目の前で爆ぜるよう。澄んだ光を帯びた一閃が弾かれた気配、そして盾と剣で庇ってなお身を穿つ衝撃にも、フィオリーナは強かに笑んでみせる。
「貴女が壊すものであるのなら、わたくしは守る者。この剣も盾も、守るべきものを守る、その為だけに在るのです」
「……! そのナリで、女だてらに守護とかキシドーとか語っちゃう!?」
別にそう思われようと意図した訳ではないのだが。コイツ、やるな――と分かりやすく揺らいだラビットバニーの、守りが崩れた気配をフィオリーナは逃さない。
青い瞳をふわりと和らげ、一瞬で踏み入る。薔薇色の躍る人形――その柔さとは裏腹の、剣呑な一閃を携えて。
「さて、わたくしは貴女のお眼鏡に叶いましたでしょうか?」
囁きは可憐に。けれど白銀の光を宿す剣は、眩く鋭くラビットバニーを斬り裂いた。
――その背から喉元を掻きに来る、黒曜の竜の鉤爪。
「!?」
咄嗟に展開したのだろう、魔力の障壁に阻まれる気配があった。翼を広げふわりと跳び退った瞬間、身に迫るけばけばしいほどの光弾。ラティファ・サイード(まほろば・f12037)は空中に身を捩り、その確かな軌道から僅かに体の芯を逸らしてみせた。
「あ……っぶねー! バリア張り直してなかったらやられてたし! ――って、えっ、何そのヨユーの面」
バリアに守られたラビットバニーに対し、ラティファは直撃は避けたとはいえ、確実に一撃穿たれている。艶やかな肢体を彩る傷は、血の色は、その証明だ。それなのに、
「……今、何かなさいまして?」
「な、何ってあーた、その傷」
――ヤバイ。傷口をさすラビットバニーの指が、既にエモの気配に震えている。先刻喉笛を掻き切りに来たばかりのあの爪で、乱れた黒髪を梳きながら。ああ、と美しくも剣呑な竜の瞳は微笑んで、
「貴女はこれを傷のひとつと数えますのね。もう少し烈しく穿って頂かなければ、風の悪戯と勘違いしてしまいそうですわ」
「……!!! あ――煽られてんのに悔し――!!」
至る鉤爪より先に心をぐさぐさと抉られて、葛藤にウサギの頭部をがしがしと掻き乱すラビットバニー。艶やかな唇をふと撓ませ、ラティファは間隙に躍る。
「今度はこちらの番です。断ち切って差し上げる」
竜の魔力に強度を高められた鉤爪が、美しくも鋭い一閃に肉を断つ。ごく近く、強請るように見つめるラティファの瞳に身震いしつつ、
「いって――!? 黙ってりゃヒトの弱みをぐっさぐっさ、あーたら容赦ねーな!?」
赤べこキャノンの砲撃で突き放す。
「……ご自身で弱点、と仰ってしまわれるのですね? 可愛らしい方」
いけね、と慌てて口を押さえるラビットバニーに、胡・翠蘭(鏡花水月・f00676)は二色の瞳を和らげた。
「聞けばラビットバニー様、『イケメン女子』に思うところおありとか?」
「は、はァ!? ちげーし! イケメン女子とか何ソレ、イミフ!」
バリアを解くそれとは別種の動揺を露わにするラビットバニー。やはり可愛らしい方、と微笑みながら、動揺する相手へ『胡蝶の夢』の銃口を向ける。
(「――心意気がイケている方、なれば猟兵様にて拝見する機会はありますし、存じ上げておりますが……わたくしに演じきれるものか」)
されど敵を倒すため。知り得る彼らが如何に敵に立ち向かったか、それを端正なかんばせに映し、翠蘭は迷いなく撃つ。
「はっ、効かねーし! その程度の精神攻撃で、あーしのバリアが破れると思うとか!」
「!」
ラビットバニーのくぐもった声が笑った。次の瞬間、奇態な姿が翠蘭の眼前にあった。ゆるり舞踏のように巡った拳が肩を打つ、崩れた姿勢を立て直す暇もなく、今度は脚が空を舞う。額に受けた衝撃に打ち倒され、花々のもとへ転がされる。
「どーよ? ふふん、あーたから始末すりゃよさそ?」
けれど、その流れはとうに思惑のうち。固めた守り、痛苦に耐える精神――身に活性した力の加護は、敵の一撃の威力をそう大きく削ぐものではなかったが、追い詰められ、より厳しい状況に追い込んでこそ、翠蘭の狙った『変化』は意味を成す。
「――」
「……な、何そのカオ。さっきまでなよっと笑ってたクセに……!」
ぎくり、と身を強張らせるラビットバニー。
そう、翠蘭の知る強き女たちが皆、そうであったように。鰭のように美しく棚引く袖が染まるのも構わず、額の血を拭って――再び露わになった白い顔からは笑みが失せ、美しくも妖しい眼差しが凛と相手を射る。
「ギャップ!? ギャップとか!? そーいう心にクるやつやめろっての……!」
よろりと一歩退いたラビットバニーから、防護の魔力の気配が消える。今、と口角を微かに上げ、翠蘭は揺れる袖で敵を指し示した。
「ふふ、……甘くて深い泥濘の沼に堕ちてしまいましょう?」
己の知る、すべての快い感覚を代償として。身の底に蠢く異形のものが、身を出でて襲い掛かる。絡め取り、戒め、締め付ける。
「何コレキモッ……!?」
もだもだと異形を拒み暴れる敵であれ――如何な珍妙な姿の敵であれ。武の道は礼に始まり、礼に終わるものである。
御堂・茜(ジャスティスモンスター・f05315)は姫らしい純粋さと世間知らずに澄みきった眼差しで、敵をきっと見定めた。
「御堂茜、この剣にて世に義を示しに参りました! ……いざ尋常に、勝負!」
「ってこの状況見ろっつーの! あああだけどッ、ちまっこい女がブシドー語るとか、ちょっとエモくね……!?」
根性で異形を吹き飛ばしたものの、波のように心を襲い来るものに、絶対無敵バリアは制御を失う。ちまっこいは余計です! と憤慨し、茜は放たれる光弾を恐れることなく全力で前へと馳せる。
回避が間に合わないなら、斬り捨てればいい。それすら難しければ、身に受けて。
「民の祈りを背負い、泰平の為に戦う武士の覚悟――ご照覧あれ!」
「ぐっ、追いエモとか鬼か……!」
「ええ、戦が始まればわたくしは武士……!」
鬼にも修羅にもなろうというもの。――ラビットバニーと少しばかり認識の齟齬がある気がするが、ひたむきな茜がそれを知る由もなく。
「さあ、お受けなさいませ! このジャスティスミドウセイバーの一閃を……!」
茜の気合いを纏う大太刀が、飛ぶ斬撃を解き放つ。それこそが正義と信じてやまない娘の心に似て、実直な軌跡を描いた衝撃波は、深々とラビットバニーに突き刺さった。
「……はあ、はあ……ホント何なワケ、あーた達……エイプモンキーは確かに最強だったけど、あーしだって負けてねー筈……っていうか負けない筈じゃね……?」
何しろ『絶対無敵』の力を持つのだから。けれどそれは、悉く穿たれてもいる。美しきその膚に傷を受けることを厭いもしない、戦場の花たちによって。
鈴転がすようにラティファが笑う。
「うふふ、ご冗談はその兎面だけになさって?」
「冗談とかマジか、気に入ってんだけど――!?」
幾度でも張り直されるバリアを気にも留めず、指先に顕現する竜の血の片鱗を振り翳す。ラビットバニーの傷も少なくはないが、傷受けるを厭わず懐に踊り続けたラティファのそれも相応のもの。けれどそれすら、風の悪戯と笑って、痛みを呑んで。光弾に今一度、その身を喰らわせる。
「望まれるなら穿たせて差し上げますわ。けれど見返りには、わたくし――あなたの喉笛が欲しゅうございます」
……よろしくて?
甘く艶めく囁きに、ごくりと動いた喉が答えを紡ぐ前に。薄く柔い喉の皮膚を、黒鉤のひと掻きが深く、真直ぐに斬り裂いた。
「――ッ、ゲホ……! な、何なワケホント血にもエモにも溺れ死ぬんだけどあーし……!」
「まあ、まだ心震わす余裕がおありですのね」
喉に溢れる鉄の味の水に声を凝らせながら、立つ女。その只者ではない強さに、ラティファの瞳が好ましげな熱を持つ。けれどさらに好ましきものが、傍らにある。
懐を譲りひらりと跳び退いたラティファに横目の目礼をひとつ、花のような娘が入れ違いに駆け抜ける。
「その余裕もここまでです。申しましたでしょう? 守るべきものを守る、と」
そうでなければ意味がない、そう在れなければ意味がない。フィオリーナのからだの芯に、頑ななほどに強く脈打つその志を、決意を。一点の曇りもない剣は映し、乗せて――操る娘の華奢なからだごと、ラビットバニーのもとへ飛び込んでくる。
今守るべきはこの世界。それを破壊するというのであれば、
「わたくしはこの世界を守るために、この身を剣と、盾と変え、貴女を斬りましょう」
「!? ちょ、いったーい!?」
金の柄をとる指先に、心注ぐように力を籠めて。想いが輝いた、と思った時にはもう、輝き勝る一閃は敵を捉えていた。
「……っず、ズルくね!? そーいうカッコイイ言葉で惑わすとかさあ……ホントねーんだけど……!」
ない、と言いつつ、その動揺は明らかに『あり』と思っているようである。お気に召して何よりです、と花咲くように微笑んだ次の瞬間、フィオリーナは軽やかに花の足場を跳び、身を転がした。傍らを掠めていく悔し紛れの光弾をやり過ごし、裾払う暇もなく身を起こす。
そこから視線を削ぐように、ラビットバニーの懐を目指す茜。
「武士道とは死ぬことと見つけたり。その心は――いつ斃れても悔い無きよう、一分一秒を全力で生きよ!」
「ぐっ、まだブシドーを……! あ――クソ、バリア保てねー!!」
間隙を詰めに来る茜に、せめてもと拳を繰り出すラビットバニー。一撃が掠め、ゆうらりと気配もなく襲い来る脚が蹴り伏せようとする。それを、
「!?」
「見切りましたよ!」
はったと止め、茜は花色の瞳に強い意志を映す。
「エモ、つまりは『気合い』! この御堂、乱世に散る花とはなりませぬ――神妙になさいッ、【勧・善・懲・悪】ッッッ!!」
至近より放たれるのは正義の鉄拳――もとい鉄剣。悪を断ち正義を勝たせる、暴力的なまでの一閃。
「あーしの気合いが負けるとか……ガッツリアゲてきたのにー!?」
かろうじて繋がった肩から、滑り落ちそうになる赤べこキャノンを逆肩に負い直す。ラビットバニーの体勢が整う前に、オリオは再び夜の彩りをその眼前に降らせた。
「それは赤べこと言いますの? 可愛らしいものですのね」
「片腕だからってナメてっと痛い目見るし! まだ使えんだから……!」
「いいえ、その類い稀なる威力は確と味わいました。――ですから、もう充分」
次々と放たれる紫色の光弾を、夜空を磨き上げたかのような黒剣に受けるオリオ。威力の全てを殺すには及ばない――実力者と自ら語るのは伊達ではないようだ。だが、押し切って翻すオリオの一閃も、ドレスの裾捌きも、あくまで優雅に力強くある。
そうだ、自分は負ける訳にはいかない。ラビットバニーの熟達の一撃が繰り出される前に、懐へ飛び込み、その覚悟を清々と示す。
「わたくしはオリオ・イェラキ。雄々しき部族が男の妻――夫と前線で戦うと誓った身、いかなる危地にも一歩も引きませんわ!」
「ちょ、夫とか……! 戦地の絆とか引き合いに出してくんの、反則――いったー!?」
その速さは星の如く。斬り上げた黒刃を反転、素早く胸へと突き立てれば、緊張感のない悲鳴も止まる。
「ごほ……はは、やるじゃん、あーたら……」
カブリモノを取り払うことは最期までなく。けれどとても満ち足りた声が、花の上に零れていく。
「いいエモだった……ふふ、うふふ……人生に、悔いなしって、ヤツ……?」
戦いに散った花が風に舞う。ふわふわと空へ翔けゆくそれらと共に、ラビットバニーは溶けるように姿を消した。
大成功
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