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バトルオブフラワーズ⑩～ＫＡＷＡＩＩ☆レボリューション

作者：西東西

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「貴様らの活躍のかいあって、ようやくカワイイ怪人『ラビットバニー』への道がひらいたぞ！」
　バーチャルキャラクターのグリモア猟兵、天元銀河・こくう（黒猫看守・f16107）が愉快そうに告げ、集まった面々へと顔を向ける。
「第ニの関門、システム・フラワーズ内部の『咲き乱れる花々の足場』は、ラビットバニーに集中している。よって、あのウサギ女を倒さん限り、先に進むことができん」
　こくうは中空に映しだした立体モニターにラビットバニーを映しだし、続ける。
「ヤツの厄介な点は、ありとあらゆる攻撃を無効化する『絶対無敵バリア』を持っていることだ。あれを破らん限り、すべての攻撃は無効化され、我々に勝機はない。ただし――」
　こくうは、にんまりと眼と口を曲げ。
　悪だくみをするように、言った。
「あのバリアは、ラビットバニーが『エモい』ものを目撃すると、一時的に解除されるのだ」
「「「　エ、エモいものって……！？　」」」
　ハテナマークを飛び交わせる猟兵たちに、こくうはしたり顔で頷いた。
「そう言うと思って、今回転送する先に出現するウサギ女が、特に好きそうなものを調べておいた。それはズバリ、『ＫＡＷＡＩＩ（かわいい）』ものだ！！！！」
　ラビットバニーの怪人名にもなっている――『かわいい』。
　その言葉は、ひとつの形容詞としては実に奥深く、いとおしさ、趣き深さをはじめ、なんらかの意味で『愛すべし』と感じられる場合に用いられるもの。
「いかに無敵のバリアといえども、維持できなければ無いも同然。ヤツの心を乱すことができれば、我々にも勝機はある！」
　ゆらり、黒い尾を揺らしながら、こくうは笑んだ。
「わたしはあいにく、転送に専念する関係で参戦が叶わん。わたしの分まで、あのウサギ女に貴様らの『ＫＡＷＡＩＩ』をブチかましてくるがいい！」

第1章 ボス戦 『カワイイ怪人『ラビットバニー』』

POW   :    赤べこキャノン 【絶対無敵バリア展開後、赤べこキャノン】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。 SPD   :    うさちゃんカンフー 【絶対無敵バリア展開後、兎面の目が光る】事で【うさちゃんカンフーモード】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。 WIZ   :    おはなハッキング 【絶対無敵バリア展開後、両手の指先】から【システム・フラワーズ制御ビーム】を放ち、【花の足場を自在に操作する事】により対象の動きを一時的に封じる。 イラスト：和狸56 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

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　システム・フラワーズ内『咲き乱れる花々の足場』に仁王立ち、カワイイ怪人『ラビットバニー』は、赤べこキャノンを撫でながら猟兵たちを待っていた。
「まじびびった！　だってモンキーやられてっし！　あいつ、あーしらの中で最強っていうか、誰も勝てる訳ねーって思ってたんですけど！」
　――猟兵の力は、いまだ未知数。
　しかし、カワイイ怪人も、己の実力にはそれなりの自信がある。
「でもまあ、あーしが全員始末すりゃいいか。なんつっても、あーしのユーベルコードは『絶対無敵バリア』！　どんな攻撃も、あーしには全部無効なんだから。それで負けるわけなくない？」
　豊満な胸をそらし、無敵バリアの前に倒れていく猟兵たちを夢想する。
　ウサギ頭の被り物の下で、どんな表情をしているかは、だれも知らない。
「ふふふふん！　あーしだって、だてにカワイイ怪人を名乗ってるわけじゃないかんね！　あの猟兵たちに、あーしの『ＫＡＷＡＩＩ』の好みがわかるもんか！　ちょっとやそっとの『ＫＡＷＡＩＩ』じゃ、心乱されたりなんてしないぞー！」
　えいえいおー！　と拳を固め、ラビットバニーはその時を、待った。


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　『咲き乱れる花々の足場』に真っ先に至ったのは、羊の角と耳をもつキマイラの自称芸術家、キララ・キララ（リトル・シープ・ウィズ・ビッグビート・f14752）だった。
「見つけたわ！　あなたがカワイイ怪人『ラビットバニー』ね！」
　愛用のスプレーを両手に構え先制攻撃を試みるも、キララがスプレーを噴射するよりも、ラビットバニーがユーベルコードを発動する方が早かった。
「来たな猟兵！　だけどあーしには、この『絶対無敵バリア』があるんだかんね！　アゲてくぞー！」
　声とともに女怪人の周囲に不可視のバリアが張られ、キララのスプレーはバニーに届く前に消滅。
「さすがに一筋縄じゃいかないみたいね！　でも、カワイイものなら、きらちゃんにまかせて！」
　手持ちの再生デバイス、ZONY『EXPERT for Chimaira』を床に置き、まずはポップなＢＧＭを準備。
　虹色のスニーカーでステップを踏みながらシャカシャカとスプレー缶を振り、３６０度、周囲の壁を確認していく。
　「うん、ここからにしようかな」と、コンコン、缶の底で壁をノックすると、
「このへん！　ちゅうもーく！」
　キララが最も信頼を置く株式会社キマイラ画材のカラースプレー『虹色』と『ゆめかわ』を両手に、最初に描きはじめたのはたくさんの花だった。
「お花にケーキに、たくさんのお菓子でしょ」
　話しながらも、手が止まることはない。
　リズムに乗りながら、時にはジャンプ！
　高い壁にも虹や雲を描いて、ラビットバニーの周囲を、きらきらいっぱいの虹色のグラフィティで埋めつくしていく。
　バリアの維持に精神力を使うため、極力キララの行動を見まいとしていたラビットバニーだったが、
「か、可愛さのカケラもなかった壁が、あっという間に『ＫＡＷＡＩＩ』に埋めつくされていく……！？」
「観覧車やメリーゴーランドや、ぬいぐるみの行進とか……。こういうのを、きらちゃんはカワイイとおもいます！」
　バニーの視線に気づき、キララが描いたグラフィティの物語を聞かせながら、なおも周囲の壁を彩っていく。
　甘くておいしいスイーツたちに、ふわふわ漂うシャボン玉。
　空にかかった虹の橋には、植物の蔓で作ったブランコ。
　夢のような遊具で遊ぶのは――、
「あ、もしかしてそれ、あーし？　あーしだよね！？」
「ご名答！　こっちには、ウインドゼファーとエイプモンキーも遊んでるんだから！」
　ブランコに揺られるラビットバニーに、縄跳びをするエイプモンキー。
　そして、綿毛を掴んで空を飛ぶウインドゼファーを示して、キララがウィンク。
　バニーはたまらずバリアを解除して、壁まで走った。
　ゆめかわいい世界に描かれた自分たちの姿を見やり、思わず声をあげる。
「か、ＫＡＷＡＩＩ～～～～～！！！！」
　続けてグラフィティの感想を告げようとして、気づく。
「あ」
　にっこり笑顔で、キララはラビットバニーへとスプレーを向けた。
「今は、これの気分！」
　虹色に染まった身体をなんとかかばい、ラビットバニーはきららから瞬時に距離をとる。
「あ、あーしのバリアが破られるなんて……！」
　驚きを隠せないといった声音ではあったが、ウサギ頭の被り物の下で、彼女がどんな表情をしているかは、だれも知らない。
「こんなにたくさんのカワイイものがあるステキな世界、まだまだ遊びたりないもの！　こんなとこで終わっちゃだめよう！」
　キララは再びスプレー缶を振り、バニーと対峙する。
　まだまだ、キャンバスに残したい願いと希望と情熱は、キララの内から溢れてくるのだから！

大成功 🔵​🔵​🔵​

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「ふふふふふん！　今は油断したけど、次からは、そうはいかねーんだからな！」
　気を取り直したラビットバニーが、ふたたび不可視のバリアを展開。
　グラフィティアートで埋め尽くされた場に、バニーの足場となっている花々の花弁が降りそそぐ。
　ニーハイブーツのかかとを鳴らし、次に女怪人の前に進みでたのは、人派ドラゴニアンのニコラ・クローディア（龍師範・f00091）だった。
　先ほど戦場をアートに彩っていたキララ（f14752）が、すかさず手持ちの再生デバイスから流れるＢＧＭをキマイラフューチャーのヒットナンバーに変え、演出にまわる。
　ニコラは場が整ったことを確認すると、龍翼外套をばさりとひるがえし、唱えた。
「今ここに、仮初の姿を許す。――来たれ、アンフィスバエナ！」
　勇ましい呼び声に応え姿を現したのは、使い魔としてニコラにかしづく愛槍の双子竜――兄アンフィスと、弟バイネイン。
　ニコラに似た立派な角に、輪郭をなぞるように切り揃えられた髪。
　そして、感情の色をもたない、硝子玉のように透きとおった赤と青の瞳。
　貴公子然と着こなした装束のネクタイは、瞳の色にあわせて色分けがされていて。
　琥珀の瞳をもつニコラと二人が並べば、なんともゴージャスな雰囲気が場を支配する。
　暴君じみた振る舞いの『ドララ』――もといニコラは、内心、八重歯をむきだしにしながら嗤っていた。
（「猫被り全開、『猫ラ』よ？　なぁんて名乗りはしないけれど……。オレサマの趣味を全力でぶち込んだこの体、カワイクねぇとは言わせねぇ！！」）
　ＢＧＭにあわせ、コンセプトの『あざとい系アイドル』を意識したしなりをきかせた歩きで、ラビットバニーの前に歩みでる。
　両手を組みあわせ銃の形を作ると、
「オブリビオンのハートを狙い撃ち。イェーガーニコラちゃん、降臨よ！」
　ずっきゅん！　ハートを撃ち抜くしぐさをした後、カメラ目線でピタッと決めポーズ！
　――with ニコラと同じ顔をしたアンフィスバエナs。
　最初は無視を決めこんでいたバニーだったが、
「それじゃあよろしくね。せーの、ニコラちゃん、プリチー！」
　花咲くような笑みを浮かべるニコラと、無表情の使い魔竜人s。
（「ここはギャップで攻める！」）
　渾身の過剰演出で攻めたニコラを前に、バニーは思わず本音をこぼした。
「シュッとしたイケメンをはべらせるなんて、うらやまし――もとい。その二人、モンキーとゼファーと交換しろ！！！」
　その瞬間、バリアを維持していたラビットバニーの精神力が、乱れた。
「あ」
　慌てて回避を試みるも、反応が遅れて。
「隙を見せたな！　――行くわよ、アンフィスバエナ！！」
　ニコラを背にかばうよう前に出た双子が牙をむき、はなったブレスがラビットバニーの肌を焼く。
　しかし、敵もさる者。
　攻撃を受けながらも体勢を立て直すと、すぐさま絶対無敵バリアを展開。
　そのしなやかな両手の指先から、システム・フラワーズ制御ビームをはなったかと思うと、鞭のごとく花々を操り、ニコラと使い魔たちの身動きを封じこめた。
「残念だったね！　あーしのバリアの前には、敵うわけないっしょ！」
「クソっ！　オレサマの自慢の身体に傷をつけやがって……！」
　捕縛により傷を受け、消滅していく使い魔たちを見やりながら、ドララは悔しげにうめいた。

成功 🔵​🔵​🔴​

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　キマイラのリダン・ムグルエギ（宇宙山羊のデザイナー・f03694）は、間近に見える敵を前に、先日視た予兆を思い返していた。
「『欲望マックスでガチる』……ね」
　つぶやき、思い描くのは、己の内に秘めていた野望。
　――自分発の情報で、人の心を塗り替えたい。
「その程度のＫＡＷＡＩＩであーしを倒せると思ったら、大まちがいなんですけど！」
　ラビットバニーは、幾度目かの絶対無敵バリアを展開。
　ウサギ頭の被り物の下で、どんな表情をしているかは、やはり、だれもわからず。
　バニーは憤りながらも愛嬌のある表情の赤べこキャノンを構え、猟兵たちへ正確な一撃を加えていく。
　リダンは、自身が手掛けるファッションブランド『GOATia』の牛さん柄衣装（距離感が狂う催眠効果付き）をまとい、バニーの攻撃を受けながらも、できうる限りの根回しをすべく、策を練っていた。
　――この場において、己が成すべきことは、理解している。
「アタシの一番の欲求で……ガチってみるわ」
　愛用のスマートフォン『万魔電』を手に、コネやSNSをフル活用すべく情報の拡散を開始！
　――狙うは、『牛』の流行。
「デザイナーはね、誰かの『好き／嫌い』を変えられるのよ」
　緑色の瞳を細め、悪戯っぽく微笑めば、リダンの発信した情報は瞬く間に拡散につぐ拡散をくり返し、いくつもの『バズ』を経てキマイラフューチャー中に広がっていく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

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「かわいいものっ。わたしね、かわいいものしってる」
　ミレナリィドールのオズ・ケストナー（Ein Kinderspiel・f01136）の声を耳にして、兎面の目が光ったかと思うと、間近から睨みつける。
「何人がかりで挑もうと、あーしの『絶対無敵バリア』は最強っしょ！　結果は同じだし！　誰も勝てるわけねーって！」
　バニーはふたたび、絶対無敵バリアを展開。
　オズは、うさちゃんカンフーモードに変身したバニーの攻撃をギリギリで――それでも、幼さの残る面差しにやわらかな笑みを浮かべながら――回避し、雪色の髪と桜色の瞳のからくり人形『シュネー』と共に、うやうやしく辞儀をしてみせる。
「わたしはオズ。こっちは、ともだちのシュネーだよ。よろしくねっ」
「そっか、かわいいものがすきなんだ。おれもだよ」
　人狼の揺歌語・なびき（春怨・f02050）も深く一礼し、さしだした手の上に、四季の花香る愛らしい手鞠を乗せ、見せる。
「そんなきみにプレゼント。この手鞠が見える？　じゃ、よく見ててね」
　ユーベルコード『煌々と咲く（グランツ・ブルーメ）』を発動し、２５個に複製した手毬を、バニーの立つ『咲き乱れる花々の足場』へと転がした。
　手毬は、ぽんころりと、思い思いの方向へ転がっていく。
　その様は、まるで手毬の群れが、楽し気に踊るようで。
「わああ、すごいっ」
　オズが感動の面持ちで表情を輝かせ、シュネーの手を取り、踊りだした。
　ＢＧＭを切り替えたのは、やはりキララ（f14752）で。
　荘厳なメロディに合わせ、オズが、つたないワルツを口ずさむ。
「ずんちゃっちゃー、ずんちゃっちゃー」
　ふわり、くるりとシュネーもドレスと髪をひるがえして。
　シュネーの手をすくいあげるように、オズが指先で手を繋ぐ。
　軽やかに浮かび踊るシュネーも、どことなくたのし気だ。
　二人の足元では、なびきの操る手毬もペアを組み、曲にあわせて、ころころり。
「陽の光に当たるたび、きらきら虹の花が咲くだろう？　花畑がもっと輝くようになれば、ＳＮＳ映えするんじゃないかな」
　もちろん、デザイナーたるリダン（f03694）も、その瞬間を逃さない。
「うん、いいじゃない。アタシの生み出した流行にも、ばっちり映えるわ」
　キマイラフューチャーで、『ＫＡＷＡＩＩと思うものを立体広告に映す流行』を生みだしていたリダンが、スマートフォンを構え、ＳＮＳで生配信をしながら小さく笑んだ。
　ラビットバニーはというと、
「そ、そんなの全然ＫＡＷＡＩくない！　ＫＡＷＡＩくないんだからなっ！！」
　できるだけ、猟兵たちを直視するまいとして。
　それでも、オズたちの華麗なダンスや、なびきの手繰る幻想的な手毬を見るまい、見るまいと、むりやり意識をバリアに向けようとする。
　しかし。
　バニーはそこで、一連の様子を見守っていた妖狐の火狸・さつま（タヌキツネ・f03797）と、目があってしまった。
　小首を傾げ、問いかけてくる。
「かわいい、が、好き……なの？　もふもふ、は、すき？」
　――ふわもこは、其れだけで可愛さがアップする、らしい。
　それならばと、さつまが変身してみせたのは、狸っぽい色合いの狐姿。
（「俺、このくらいしか、無い。から」）
　人語での会話はできなくなるため、ちょこんとオスワリし、アピールしてみせる。
　その瞬間、バニーの精神力がきれた。
「も、もふもふＫＡＷＡＩＩ～～～～～～～！！！！」
　バリアを解除し、『咲き乱れる花々の足場』を駆けてきたかと思うと、花弁を散らしながら狐姿のさつまへ飛びかかる。
　攻撃――と、見せかけて。
　バニーはそれまで担いでいた赤べこキャノンを放り投げると、ぬいぐるみのような愛くるしい姿のさつまを逃すまいと、腕の中へぎゅっと抱きしめて。
「！」
　驚いたさつまがすぽん！とバニーの腕から抜けだし、女怪人のかぶっている兎面へ、超高速かつ大威力の蹴りをはなった。
「……しゃ……！」
　尻尾をぼふっ！と膨らませ、二本足立ちで両手を広げ身体を大きくみせる様は、はた目にはタヌキのぬいぐるみが、万歳をしているようにしか見えなくて。
「はああ、やっぱりＫＡＷＡＩＩ～～～～～！！」
　ふたたび抱きしめようとするバニーを阻んだのは、オズとシュネーだった。
「怪人さんもおどる？　でも、おいたはだめだよ」
　さつまをかばうように立ち、「ごめんね。シュネーの蹴りはいたいんだよ」と、牽制。
「――あの花が、見えるだろ」
　なびきも操っていた手毬をバニーのもとへ集め、爆破。
　古い裂傷が目立つ貌に、浮かべる表情は穏やかかつ、気弱な印象。
　しかし、桜の瞳を持つ灰緑の男は、どこか好戦的に笑んだ。
「ほら、爆破も綺麗でかわいいね！　こうすれば、きみ自身もかわいいの一部になれてうれしいだろ？」
　一方、人間の浮世絵師である菱川・彌三八（彌栄・f12195）も、片肌脱ぎの背に紋々（刺青）をちらり覗かせ。
　着物の裾を腰の両わきにから帯に挟みこむ東（あずま）からげ姿で、絵筆を手にとる。
（「どこの世界でも女の好みが同じたァ、それこそカワイイもんじゃあねェか。まァつまり、ヱモいたァ粋って事だろ？」）
　『妙ちきりんな世界』の女怪人を前に、腕まくり。
　「あ、しまった！」と、またバリアを解除してしまったことに頭を抱えていたバニーを前に、彌三八は言った。
「お前ェさん、可愛いナリして随分やり手みてェだな。さあ。俺の韋駄天と、速さ勝負といこうか」
　切れ長の茶の瞳でバニーを見据えたかと思うと、
「――オン イダテイタ モコテイタ ソワカ」
　自身に韋駄天の梵字をまとい、高速移動で接近すると、衝撃波付きの独鈷をはなち、攻撃！
「女に手ェ上げるなァ、気は進まねぇがな」
「こ、こんの～～～！！」
　反撃にかかろうとするバニーを前に、彌三八も他の猟兵たちと足並みをそろえ、追撃を加えようとした、その時だった。
「ちょっとタイム！　ここで、牛衣装の山羊と牛背負った兎のＫＡＷＡＩＩツーショット、撮らない？」
　攻撃は一切しないと決めていたリダンが、猟兵たちとバニーの間に割って入った。
　バニーがその言葉に思わず聞き入ってしまったのは、リダンのまとう牛さん柄衣装に、距離感の狂う催眠模様を施してあったからだ。
　そして、カワイイ怪人として、ＫＡＷＡＩＩの誘惑には、抗えなかった。
「これだけＫＡＷＡＩＩが集まってるんだから、集合写真！　集合写真で決まりっしょ……！」
　牛衣装の山羊リダン、狐姿のさつま、オズとシュネー、なびきと手毬。
　そして、ニコラ（f00091）とアンフィスバエナsも混ざり、キララが手持ちの高品質デジタルカメラZONY『Shooting Star』を構え、呼びかける。
　キララ自身が描いたゆめＫＡＷＡＩＩグラフィティを背景に、
「みんな、今日一番いい笑顔で！　撮るよー！」
　――カメラ目線で、はい、チーズ！
　バニーもそろってデジカメの液晶画面をのぞきこめば、そこには、楽し気によりそう猟兵たちと女怪人の姿が並んでいる。
　ひとり、写ることを拒んだ彌三八は、というと。
　一同が写真撮影に興じているうちに、一枚の浮世絵を描きあげていた。
「よっく見てみな。題して、『桃源美人図花下兎姫』てな具合でどうでェ」
　――兎の面に贅沢な着物で、花の下に立つとびっきりの美人画。
「こりゃ、扇にしたら人気が出そうだ」
　職人技ともいえるその技量に、さすがのバニーも目を輝かせた。
「なにこれ！　あーしってば、超エモＫＡＷＡＩＩーーーーー！」
　そして今、この時。
　リダンの仕掛けていた精神攻撃――ユーベルコード『トレンドコンダクター・GOATia（ハヤリハヤギノテノナカ）』が完成する。
　キマイラフューチャーの立体広告は、バニーの愛する牛と、ＫＡＷＡＩＩバニー自身にジャックされていた。
　最初は牛だけを流行らせるつもりだったが、途中から、猟兵たちの提示するＫＡＷＡＩＩと、バニー自身を流行らせる方向にシフトしたのだ。
　もとより、キマイラフューチャーには、ラビットバニーのブランドが根強く残っていた。
　住民たちに受け入れられるのは、そう難しいことではなかったのだ。
「アナタも思ったんじゃない？　こんなＫＡＷＡりもののＩＩ世界なら、壊さないのもアリかも、って」
　バニー自身にあふれたキマイラフューチャーの世界を、スマートフォン越しに見やって。
　リダンの問いかけに、バニーは、静かに頷いた。
「悔しいけど。あーしのＫＡＷＡＩさには、叶わない。それは、あーしが一番よくわかってるんだ」
　ウサギ頭の被り物の下で、女怪人がどんな表情をしていたかは、だれも目にすることはできなかったけれど。
「完敗だよ……！」
　そう告げた彼女がきっと満足げだったであろうことは、猟兵たちにはよくわかった。
　世界の流行を巻きこんだ戦いに、満足したらしい。
「今回はあーしのＫＡＷＡＩさに負けたけど。次は絶対、負けないかんな！　覚えてろよー！」
　カワイイ怪人『ラビットバニー』の姿は、咲き乱れる花々に包まれて。
　吹きすぎた風とともに、骸の海へと、還っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年05月17日