6
バトルオブフラワーズ④〜タマゴの塔を食い尽くせ

#キマイラフューチャー #戦争 #バトルオブフラワーズ

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#キマイラフューチャー
🔒
#戦争
🔒
#バトルオブフラワーズ


0




●ニワトリと炭水化物
 コケーッコッコッコ!
 コッコケー!
 ニワトリ達の喧しい鳴き声が響き渡る。
『イテ。イテテ、痛くないけど』
『痛くないけど突くな!』
『お前達を取って食うわけじゃないんだぞ!』
 けたたましく鳴きつづけるニワトリに紛れているのは、炊きたて、焼きたて、蒸したての3拍子揃った炭水化物トリオ。
 彼らの目当てはニワトリそのものではない。
『ご飯にかけてよし!』
『パンに乗せてよし!』
『中華まんにもよし!』
 ニワトリが生み出すもの――卵であった。

●鍵は卵の中に
「やあ、集まったね。ありがとう。また『ザ・ステージ』に行ってきて欲しいんだ」
 グリモアベースに集まった猟兵達に、ルシル・フューラー(ノーザンエルフ・f03676)はそう話を切り出した。
 キマイラフューチャーで起こっている大きな戦い。
 コンコンの源たる『システム・フラワーズ』を取り戻す戦いは、今のところは大きな問題も無く進んでいると言えるだろう。
 既に周囲の『ザ・ステージ』は制圧し、道は拓けている。だが、まだ怪人達も取り戻そうとしつこく攻め込んできている状況だ。
「もう一押し必要そうだからね。ザ・フードステージの1つに行って来てほしい。怪人達に卵が収穫され尽くす前に」
 転移先のエリアは、一言で言うならば、養鶏場である。
 広い草原を金網が囲い、その中にいるのは大量のニワトリ達。
 そして、ニワトリの卵を収穫中の怪人達だ。
「怪人達は、『炊きたてごはん怪人』『焼きたてパン怪人』『蒸したて中華まん怪人』の炭水化物トリオだ」
 どうも卵を収穫しているのは、ごはんにもパンにも中華まんにも合うからとか、そんな理由が根底にあるらしい。
「収穫なのさ。このエリアは『シュウカクフードバトル』という特殊なルールに支配されている。怪人連中が卵を収穫している間は、皆の攻撃は一切通じない」
 そのまま怪人達に卵を収穫され尽くすと、猟兵の敗北になってしまう。
 攻撃無効を崩して勝つ手段は、ただひとつ。
「料理だよ」
 怪人達が収穫し、塔の様に高く積み上げた卵。
 その卵を使って何か料理を作ってしまえばいいのだ。
 料理で怪人達の食欲を刺激し、ついつい手が出て食べてしまえばこちらのもの。その瞬間に、怪人達から攻撃無効の力が消え去るのだ。
「卵を使った料理なら何でも良いけれど、是非、一番美味しいと思うものを頼むよ。料理に不慣れでも問題ないよ。何しろ卵は、大量にあるからね」
 そう告げると、ルシルは転移の準備を始めた。


泰月
 泰月(たいげつ)です。
 目を通して頂き、ありがとうございます。
 既にボスへの道は開いておりますが!
 フードバトルしたい、とのお声を頂きましたので!
 卵タワーをば、積み上げてみました。

 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結する、バトルオブフラワーズ⑧の戦場のシナリオとなります。
 『システム・フラワーズ』の周囲を守る6つの『ザ・ステージ』の1つ、ザ・フードステージが戦場です。

●シュウカクフードバトル
 今回の戦場は『シュウカクフードバトル』という特殊戦闘ルールが適用されます。
 食材を収穫中のオブリビオンは攻撃が無効になるという特殊能力があり、一定以上の収穫をされてしまうと、猟兵側の敗北になります。

 オブリビオンは、収穫された卵を積み上げているので、皆様には、卵を使って何か料理を作っていただきます。
 完成した料理が美味しそうならば、敵は食欲を刺激されて作業を中断して、料理を食べてしまい『攻撃無効の効果が無くなる』ので、攻撃して撃破する事が出来ます。

 作る料理は『卵を使った』ものなら何でも良いです。
 目玉焼き、スクランブルエッグのシンプルなものから、他の食材を足して作るのもOKです。卵と言えばスイーツもいける筈。
 おいしそうな卵料理プレイングをお待ちしております。

 卵の数は大量にあるので、多少失敗しても無くなる心配はありません。
 なんなら料理の練習に来ても、多分大丈夫じゃないでしょうか。
 作る専門、戦う専門、食べ専門(サクラ的に)などの役割分担をするのもありでしょう。

 ではでは、よろしければご参加下さい。
157




第1章 集団戦 『炭水化物トリオ』

POW   :    炊きたてごはん怪人・ウェポン
【炊きたてごはん兵器】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    焼きたてパン怪人・ジェノサイド
【焼きたてパン攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    蒸したて中華まん怪人・リフレクション
対象のユーベルコードに対し【蒸したて中華まん】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

風見・ケイ
オルタナティブ・ダブルで螢を呼び出して手際よく行きましょう。
攻撃が必要な際は、私が剣、螢が銃。

【慧】
私たち、料理は人並なので簡単な物で。
パンは私の大好きな店の物を用意しました。
パンと卵といえば「フレンチトースト」です。
レンジで温めると短い時間で卵液を染み込みます。
あとはバターたっぷり弱火でじっくり焼き上げれば、ほらプルプル。
仕上げに粉砂糖と蜂蜜を。

【螢】(瞳が両目赤)
手伝いついでにダメ元で怪人を煽ってみるか。
ちょっとでも積み上げ作業が鈍ればラッキーだ。

アンタらさ、パンはもちろん、ご飯もわかるけどさ、中華まんに卵ってあまり聞かないんだけ。
ホントのところさ、パンとご飯の二人はどう思ってんだい?


黒天・夜久
フレンチトーストなんてどうでしょう。卵液を甘くしなければごはんにもなると何かのレシピ本で読んだことがあります。
チーズとハムを挟んでみたり、ツナサラダを挟んでみたり、明太子ポテトサラダを挟んでみたり、味のバリエーションもそれなりにあるようですし、飽きは来にくいのではないでしょうか。
最後にクリームチーズに蜂蜜をかけたものを挟んだフレンチトーストをデザートとして出せば、サプライズとしてもいい感じだと思います。

まあ、食べ終わったらユーベルコードでさっくりと。


榎・うさみっち
【ニコ(f00324)と!】

美味しく且つ芸術的なスイーツを作ってやるぜ!
うさみっちクッキング開幕~♪
(うさぎアップリケつきエプロン装着)
【かくせいのうさみっちスピリッツ】で
うさみっちゆたんぽを増殖させてお手伝いさせる

作るのは卵たっぷりのうさみっちプリン!
卵、牛乳、砂糖をよく混ぜて茶こしでしっかりこす!
そしてこのウサギさん型容器に入れて蒸す!
最後にカラメルソースでうさみっちの顔を描く!(廿x廿)
ほらニコ、食ってみろ!

ニコのオムレツも美味そうだな!
よし、仕上げは任せろー!
ケチャップでうさみっちの顔を描く(廿x廿)

怪人達にも料理をふるまって満足したら
そこら辺のフライパンでポコポコする


ニコ・ベルクシュタイン
【うさみっち(f01902)】と
成程、卵を使った料理を作れば良いのだな
大量にあるというなら、ふんだんに使う料理を選ぶべきか
…ならば、スパニッシュオムレツ…だな!
うさみよ、デザートは任せるぞ

じゃがいも、玉ねぎ、ピーマンは角切り、ベーコンも一口大に切る
良く卵を溶いてから、熱したフライパンで切った具材を熱し味付け
溶き卵を加えたらざっくり混ぜつつ、蓋をして弱火でじっくり火を通す
フライパンをひっくり返せば、程良い焼き目の付いたオムレツの完成だ

うさみよ、その神絵師としての腕を活かして
ケチャップで絵を描いてはくれないか?
そちらはプリンか!

怪人にも料理を振る舞ったら攻撃をせねば
こんな所に丁度良いフライパンが…


エリシャ・パルティエル
連携、アドリブ歓迎
戦うのは得意ではないけれど、料理なら役に立てそうね。
こんなにたくさんの卵を使えるなんて贅沢ね。それじゃあ、それぞれの怪人の心に響く料理を作ろうかしら。
まずは新鮮な卵を使った親子丼はどうかしら。
それからだし巻き卵を使ってサンドイッチにするわね。厚みのあるふわふわのだし巻きを挟むの。
そして牛乳を浸した肉まんを潰して豆腐や卵を入れて混ぜ、パイ生地にそれらを入れてチーズをのせて焼くと、キッシュの出来上がり。
ほら、熱々を早く食べないとね。
戦闘は他の仲間に任せて料理に集中するわ。もし仲間が怪我をしたらUCで癒すわね。
デザートも必要かしら?足りないなら美味しいプリンを作るわよ。


クリミネル・ルプス
【食べのサクラ】
【アドリブ、連携勿論良いです】
卵料理は色々あれど、単純なモノほど卵の良さがモノをいうので単純に熱々炊き立てご飯の卵かけごはんを美味しそうに【大食い】で食べるの魅せて、主に炊き立てご飯怪人をおびき寄せる。
おびき寄せて、一緒に食べ、満足して貰えたら、ガシッとハグ(抱きしめ)し合う。
抱きしめ=タックル成功とも言えるのでそのままUCで残り二人諸共怪人を滅する。

「食材に罪は無いんや……キマフューの方々は困っているんや……」
息が残ってる怪人は【グラップル】でマウント取ってトドメ。
その他の案として、ゆで卵をレンジで作り食べた怪人が口で爆発したら介抱するフリ(タックルと仮定)しUC発動。


真守・有栖
たまごが食べ放題!?
たまごかけごはん。ふれんちとーすと。たまごやき……(じゅるり
これは食狼たる私の出番だわ。出番ね!出番よ!!!ふーどばとるはお任せあれ!
えぇ、今回も食べて食べて食い貯めてお腹いっぱい……

え?そーゆー依頼じゃない?


…………。


全て食べ尽くす。
それくらいの勢いで美味しく料理を頂くことが重要なのよ!?
そうでなければさくらは務まらないわ!

けっっっして、途中から話を聞いていなかったわけではないわよ?

皆が作った料理を頂くわ!
どんな出来映えでも頂くわ!!!
ほかほかのたまご料理が食べられる。
それだけでしあわせよ……わぐわぐ。
ほら?一緒に食べましょう?
とっても。とっっっても!おいしいわよ……!


ハピィ・エンゲルオル
キョウはたまごりょーりー?
パンにごはん、中華まん
どれともきっと、合うよね!

でもこのままじゃナクナルかも?

目的:
怪人を卵料理と一緒に美味しく食べる
手段:
コードで卵を大量に出して敗北回避
料理はチキンオムレツ
怪人に対応して和風洋風中華風と作成する

アタシ、作るよ。オムレツ!
たまごとー、たまねぎとー、しいたけ!
これを混ぜちゃって、ベース作って
アレンジ色々、ハセイするの

まず、ごはん向け
お醤油やシソも入れてふーみ、和風に!

次にパンはねー
七味とか入れて、ちょっとピリからーな感じ
バーガーみたい、合いそう?

中華はやっぱり、オイスター?
とろーり餡もかける、カンペキ?

それじゃ、めしあがれー
アタシもいっただっきまーす!



●たまご三昧の予感
 フードステージの1エリアに転移した猟兵達を待っていたのは、塔のように詰まれた真っ白な卵であった。
 鶏卵である。生卵である。
 凄まじい数の卵が積み上げられている。
「たまごが食べ放だーーーーい!!!」
 その光景に、真守・有栖(月喰の巫女・f15177)は尻尾ぶんぶんさせて弾んだ声を上げていた。
「これは食狼たる私の出番だわ。出番ね! 出番よ!!!」
 言葉の力の入り様とは裏腹に、有栖の頬はじゅるりと緩んでいた。
(「たまごかけごはん。ふれんちとーすと。たまごやき……」)
 その脳裏には、色んな卵料理が浮かんでは過ぎっている。
「ふーどばとるはお任せあれ! 今回も食べて食べて食い貯めて、今日はここでお腹いっぱいに……」
「違うぞー」
 その背中を、榎・うさみっち(うさみっちゆたんぽは世界を救う・f01902)がツッコミ入れながら、沢山の卵を抱えてブーンと通り過ぎて行った。
「え? いっぱい食べていい依頼じゃないの?」
「食べても良いが、その前に怪人たちの気を引く卵料理を作るのが仕事だ」
 目を丸くして振り向いた有栖に、ニコ・ベルクシュタイン(虹の未来視・f00324)も卵を手に取りながらうさみっちの言葉を補足をする。
「……。わ、判っているわ。さ、さくらをすると言いたかったの。けっっっして、途中から話を聞いていなかったわけではないわよ?」
 言い繕う有栖の言葉は、ちょっと苦しい言い訳な感のあるものではあったが。サクラと言う役割を考えていたのは、実は1人ではなかったりする。
「全て食べ尽くす。それくらいの勢いで美味しく料理を頂く事が重要なのよ!? そうでなければ、さくらは務まらないわ!」
「おお。いい事言うじゃねえか」
 何とか場をフォローしようと有栖が続けた言葉に反応した、クリミネル・ルプス(人狼のバーバリアン・f02572)が、そのもう1人である。
「サクラするんやったら、美味しそうに沢山食って、魅せる食べ方せんとな」
「その通りよ!」
 クリミネルの端的な言葉に、こくこく頷く有栖。
 なお、本当に偶然なのだが、サクラ希望の2人とも人狼種族だったりする。
 さもあらん。
「これは……料理は人並みですが。と言っている場合ではなさそうですね」
 頷きあう2人の様子から伺えるきっと旺盛な食欲に、卵を取りながら風見・ケイ(K・f14457)が胸中で溜息を吐く。
「そうね。作り甲斐がありそう」
 そのすぐ横で、エリシャ・パルティエル(暁の星・f03249)はどこか安堵したような微笑みを浮かべていた。
「こんなにたくさんの卵を使えるなんて贅沢な機会なのは、確かだもの」
 作る方だって、気合いが入ると言うもの。
 量を作っても料理が残る心配をしなくても良さそうだと感じて、卵を手に取るエリシャの中に静かに熱が灯る。
「そう言う事なら、ごっそり頂いてしまうとしましょう」
 表情を変えず淡々と告げた黒天・夜久(ふらり漂う黒海月・f16951)の背中から、大量の黒い腕がにょっきりと生えてきた。
 その全ての腕が、ひょいひょいと卵を取っていく。卵というワレモノ食材を運ぶに当たって、ブラックタールの身体ほど向いているものもそうはない。
「皆りょーりする気マンマンだねー。でもこのままじゃナクナルかも?」
 ごっそり減ってく怪人達が集めた卵を見やり、ハピィ・エンゲルオル(時空神の美食家・f16387)が赤い瞳を丸くする。
 これだけ盛大に減ると、さすがに怪人達も気づくかもしれない。
「ぐらぐらしてるしねー」
 それに、怪人達が一定量の卵を集めるとこちらが敗北してしまうのならば、そこに怪人達が集めた以外の卵があったとしたら?
 それを可能にするのが、ハピィの神の力の中にあった。
「今日のゴハン、君なんだね」
 ハピィが広げた両手から、つやつやとした生卵が次々と飛び出して来るではないか。
 ハピィは消化の女神。消化するには、何か消化するものが要る。何も無ければ消化する事は出来ない。故に作る力もあると言う事だ。
 つまり、卵が減ったところに、卵が増えたと言う事である。
 ハピィが召喚した美味しい卵は、怪人達が集めた残りの卵と混ざって――元々ぐらぐらしていたところにそんな雑に卵を混ぜれば。
 卵の塔は当然、崩れる。
 幾つかはぐしゃりと割れてしまうが、大半の卵はコロコロと転がっていった。
『た、卵がー!?』
『転がっている!!!!』
『集めんと!!!!』
 さあ、怪人軍団が大慌てになっている間に、料理を始めよう。

●増える身体、生える腕
「螢――出番ですよ」
 オルタナティブ・ダブル――ケイの隣に、もう1人のケイが現れる。
「あたしに料理を手伝えと」
「ええ。私たちは2人で作ります」
 ケイと違う口調で話すもう1人のケイもまた、ケイ自身。
 されど慧とは別の人格――螢である。
「ま、1人より2人か」
「そう言う事です」
 自分自身なのだから、何を作るつもりか把握しているというもの。
 慧と螢はそれ以上特に何を打ち合わせるでもなく、2人でコンコンと卵を割って中身をボウルに入れ始めた。
「…………」
 その様子を、向かいから黙って見ているのが夜久である。
 ケイが増えたことに驚いているのではない。
 見ているのは、慧と螢の前にある様々な食材だった。
 卵があるのは当然として――大きなパンと、牛乳が目を引く。
(「これはもしかして……いや、間違いないでしょうね」)
 パンの種類こそ違えど、全く同じ3つが夜久の手元にもあった。
 慧が卵を混ぜるボウルに螢が牛乳を入れるのまで見れば、夜久の中でそれは確信へと変わり――視線を感じたケイ達が顔を上げ。
「もしやそちらも――」
「フレンチトーストです」
「マジか」
 思わず顔を見合わせる3人。まさかのメニュー被りである。
 とは言え、最終的に炭水化物トリオたちの食欲を刺激できれば良いのだから、別に全員バラバラの料理を作る必要はない。被ったところで何ら問題はないのだ。
 それに、一口にフレンチトーストと言っても、その調理手順、使う食材などによって、様々なバリエーションに作り分ける事が出来る。
「こちらは卵液を甘くして――」
「自分は甘くない卵液でご飯にもなるような――」
 そして幸い、ケイと夜久は、同じフレンチトーストと言っても最終的に考えていた方向性は別だった。
 とは言え、お互いに卵液に取り掛かった今この時点で気づいて、充分に確かめ合う事が出来たのは僥倖と言える。
 覆水盆に返らず。
 零れたミルクは戻らない。
 一度混ぜてしまった卵液は、そのまま使うしかないのだから。

「螢、パンを――」
「もう切っておいた。これ、あの店のだろ?」
「ええ。私たちの大好きな店のパンを用意しました」
 相談を終えた慧が戻ると、用意したパンは螢が厚めに切り分けてあった。
 慧は切り分けられたパンが並ぶ耐熱容器に、砂糖を加えて混ぜた卵液を流し込む。全てのパンを2、3度ひっくり返して、卵液を両面にたっぷりと浸け込む。
 そして、容器のままレンジの中に投入し、軽く1分ほど温める。
 こうして軽く温める事で、卵液が短い時間で中まで染み込むようになるのだ。
 あまり料理は得意ではないと慧は言っていたが、中々小技を知っている。
 一度レンジから容器を出して、パンをひっくり返して、もう1分。
 両面からたっぷり卵液を染み込ませる間に、螢がフライパンを火にかけてたっぷりのバターを溶かしていた。
 温め終わったパンを、慧が容器から上げてフライパンに入れると、ジュウッと染み出た卵液が焼ける音が響いた。

 一方、夜久の手順は卵液の段階でケイ達と異なっていた。
(「さすがに2人だと早いですね」)
 ほとんど同じでありながら、どんどん先に進んでいくケイ達調理工程を眺め、夜久は胸中で感嘆していた。
 まだ、牛乳を入れた溶き卵に塩コショウを少々振って味を調えたところだ。
 差は明白――料理の早さを競うものではないが、時間が無限にあるわけではないのもまた事実。ならば、早いに越した事はない。
「生やしますか」
 再び、夜久の背中から2本の腕が生えた。今度は少し抑え目だ。
「飽きがこないよう、味のバリエーションを付けてみますか」
 そして夜久は、2組の腕を使い、パンを切ってはその中に様々な具材を詰め始めた。
 まずはハムとチーズ。
 マヨネーズのツナサラダ。
 明太子を和えたポテトサラダ、等々。
 自分自身を増やす業には及ばないにせよ、腕を増やした夜久の調理の効率が幾らか上がったのは間違いない。
「さて、後はこのパンを卵液につけて、と」
 夜久は様々な具材を詰め終えたパンの両面に、その両面に卵液を浸すと、そのまますぐにフライパンに乗せて焼き始めた。

●うさにこ
「うさみっちクッキング! 開幕~♪」
 うさぎのアップリケがついたエプロン姿のうさみっちの後ろには、ジト目の桃色たれウサ耳付きの少年のぬいぐるみゆたんぽが並んでいる。

 37体も。

 これが命が宿ったゆたんぽの本気!――と、うさみっちが複製した、うさみっちゆたんぽである。
「まずは卵を割るぜ!」
 卵を手に、全てのうさみっちゆたんぽが大きなボウルの周りに集まる。そして、一斉に卵を持ち上げて、カンカンゴンッと割り始めた。
 このゆたんぽ、動くぞ……!
 うさみっち本人含めて、38個同時割りである。
「うさみよ。デザートは任せたぞ」
 中々壮観な光景であるが、お揃いのうさぎアップリケエプロン姿のニコは、料理にもうさみっち38にも慣れた様子で、片手で卵を割りながら淡々と告げていた。
「任された! 数は力だ! 美味しく且つ芸術的なプリンを作ってやるぜ!」
 実際、ニコはうさみっちが増える事など、慣れっこである。
(「まだ少ない方だしな……」)
 うっかり何かを思い出しかけたニコは、無心でジャガイモの皮を剥き始めた。

 卵と砂糖の入ったボウルの上を、うさみっちゆたんぽがぐーるぐーると回っている。
 その体に括りつけられた泡だて器もぐーるぐーる回っている。
 中の卵は、シャーカシャーカと混ぜられる。
 かなりゆっくりな混ぜ方だが、これで良いのだ。
 プリンの元となる液体を作る際、あまり勢い良く混ぜると空気が混ざり気泡が出来てしまう。そのままにしておくと、これが後に「す」となるのだ。
「次! 牛乳!」
 気泡がほとんど無い、綺麗な溶き卵となったボウルの中に、うさみっちの指示と言う名の念力で動くゆたんぽ達が代わる代わるに牛乳を入れていく。
「そして再び混ぜる!」
 適量の牛乳を入れ終わると、泡だて器を結んだうさみっちゆたんぽが再びぐーるぐーるとゆっくり回り出し、中身もゆっくりシャカシャカ混ざっていく。
「こんなもんだな。次、茶漉し部隊!」
 ボウルの中身を確認し、うさみっちは茶漉しを抱えた2体のゆたんぽを呼び寄せる。
「ここでしっかりと、漉す!」
 目の粗い茶漉しの下に細かい茶漉しを重ねるように縦にゆたんぽを配置して、うさみっちはその上からプリンの元を流して漉していく。
 こうすることで卵の白身のダマや、うっかり混じった殻の欠片を取り除いてより滑らかなプリンを作る事が出来るのだ。
「最後に、ウサギさん型容器部隊!」
 ウサギ型の容器の並んだ蒸し器を運んでくる、別のゆたんぽ達。
 容器から零れぬように慎重に注いでいけば、後はじっくりと適温で蒸すだけだ。
「ゆたんぽ部隊――解散!」
 うさみっちゆたんぽ達に向けていた念力を止めると、うさみっちは隣で調理中のニコの方へ、ぶーんと飛んで行った。
 何故か。
 トントントンッ。
 ジャガイモを剥き終えたニコが、玉ねぎを刻み始めていたからである。
(「ニコの泣き顔を拝んでやるぜ!」)
 うさみっちの口元に、ニヤリと悪魔の微笑みが浮かぶ。
「――あれ?」
 だが、回り込んだ先にいたニコは、いつもの鋭い目つきだった。
「甘いな、うさみよ」
 トントンと刻む音と手を止めずに、ニコが口を開く。
「玉ねぎはレンジで軽く温めてから刻めば、目に沁みにくくなるのだ! それに俺には眼鏡がある。ここにいて危ないのは、裸眼のうさみの方だ!」
「ちくしょー!」
 うさみっちは、自分の調理スペースへと戻っていった。

「さて。俺もうさみに負けてはいられんな」
 逃げ帰るうさみっちを見送るニコの前には、大凡均等に角切りにされた、ジャガイモとピーマンと玉ねぎ。そして、一口大にした厚切りベーコン。
 オリーブオイルを引いて熱したフライパンに、まずは入れるのは厚切りベーコン。
 続いて玉ねぎを入れて、じっくり炒める。ジャガイモを途中で入れて、ピーマンは色が変わらないよう最後に軽く炒める程度に。
 塩コショウで味を整えながら具材を炒めたそこに、ニコが投入したのは溶き卵。
 具材が全部浸るくらいたっぷりと卵を入れて、具材に卵を絡ませるようにざっくり混ぜつつ、卵が固まりだしたら蓋をして弱火にしてじっくりと熱を通す。
 充分熱が通った所でフライパンを返せば、程よい焼き目の付いたオムレツの完成だ。
 ただのオムレツではない。卵をふんだんに使えるようにとニコが選んだのは、フライパンの形を活かして円形に作るオムレツ――スパニッシュオムレツであった。

●和洋中、隙はなし
「これだけの卵を使えるなら……それぞれの怪人の心に響く料理を作ろうかしら」
「アタシも、作るよ。怪人に対応したオムレツ! パンにごはん、中華まん。どれともきっと、合うよね!」
 エリシャとハピィは、炭水化物トリオ、それぞれに響く3種類の卵料理を作ろうとその準備を始めていた。
 そんな訳で、2人の前にはそれぞれ、3つの大きなボウルが並んでいる。
 エリシャは左右それぞれの手で片手で卵を割っていき、その内2つのボウルにたっぷりと卵を入れる。
 もう1つのボウルには、何故か肉まんを入れて牛乳を浸した。ターゲットとする怪人は判るが、ここからどうするのだろう。
「まずはだし巻きからね」
 だがエリシャは肉まんを入れたボウルはそのまま置いて、卵を入れたボウルの1つを手に取った。
 卵の白身を切る様に、あまり泡立てないように混ぜて溶き卵を作る。
 そこにだし汁を適量入れ、少量のマヨネーズも入れる。マヨネーズを加える事で、焼き上がりがふわふわになるのだ。
 後は、みりんと醤油で味を整えながらかき混ぜれば、卵液の完成。
 混ぜ終わったところに、登場するのは四角いフライパン――玉子焼き器である。
 中火にかけて油を引いた玉子焼き器全体に広がるくらいに、卵液を注いでいく。ある程度固まったら、卵を手前に寄せながら丸めて、最初の芯を作る。
 芯を奥に戻したら、空いた部分に油を引き直して、残りの卵液を入れて――。
 これを卵液を使い切るだけ続ければ、ふわふわだし巻きの完成だ。
「後は耳を落としたパンで挟めば――ふわふわだし巻き卵のサンドイッチの完成ね」
 早速1品完成させると、エリシャは次の調理に取り掛かる。
「次は――先にこっちね」
 向き直ったのは、肉まんを入れていたボウルの方。
 もう1つの卵を入れたボウルを使う料理の方は、エリシャは焼きたてを出したいと考えていた。

「たまごとー、たまねぎとー、しいたけ!」
 一方、ハピィの場合は、もう少しシンプルだ。
 3つのボウル全てに入っているのは、溶き卵の中に、別に炒めた玉ネギと椎茸を混ぜ込んだもの。
「これをベースに、アレンジ色々、ハセイするの」
 作るものは全てオムレツ。
 それを味付けとアレンジで3種作ろうというのだ。だからこそ、具材は和洋中どれにも合うようにシンプルに2つに留めている。
「ごはん向けは、お醤油やみりん、シソも入れてふーみ、和風に!」
 刻んだ紫蘇の葉を加えて、卵液の段階で、醤油ベースの下味をつけておく。
「パンはねー。タバスコとソーセージ入れて、ちょっとピリからーな感じ」
 香辛料を少々、輪切りにしたソーセージでアクセントと旨味を追加。
「中華は……オイスター? イカとエビも足そう!」
 3つめの下味はオイスターソース。具材はシーフード系を追加。
 これで、3種類のオムレツの為の卵液が完成。後は焼くだけなのだが。
「……焼くのはさすがにドウジむりだねー?」
 フライパンにオリーブオイルとバターを溶かしたところで、ハピィはその事実に気づいて目をぱちくりと瞬かせた。
 フライパンならば、用意しようと思えば3つ並べる事も可能だ。
 だが、流石に3つ同時にオムレツを焼いていくのは神の身でも中々に難しい。
「1つずつねー」
 ハピィはフライパンの上のバターから泡が出ているのを確認すると、まず、和風の卵液から投入していった。

●実食、そして――
 甘い卵の匂い。
 香ばしい卵の匂い。
 色んな卵の匂いが、フードステージの1エリアに漂っていく。
『ん? なんだこの匂いは』
『美味そうな匂い』
『この匂いは――卵!?』
 それは、卵拾いに追われていた怪人達の元へも届いていた。
『誰か卵を料理しているのか!?』
『と言う事は、つまり――』
『卵泥棒!』
 炭水化物トリオ軍団の誰かが口にした卵泥棒の言葉に、にわかに色めき立つ怪人達。その勢いのまま、匂いのする方へと駆け出して行き――。

「(わぐわぐわぐっ!)」
「卵とじの上に卵追加とか、豪華な親子丼やな」

 有栖とクリミネルが、出来立て熱々の親子丼を、はふはふとかっ込んでいた。
 着々と出来上がる卵料理の数々。
 その調理の輪の中心で、人狼2名は時に瞳を潤ませ頬を緩ませ、まだかなーって顔にもなったりしながら、食べられる時を今か今かと待ち構えていたのだ。
『こ、これは……』
 その光景に怪人達の喉がごくりと動く。
「美味そうやろ? 早よ来ないと、ウチら食ってまうで?」
「ほら、一緒に食べましょう? とっても。とっっっても! おいしいわよ……!」
 空になった丼を手にしたクリミネルと有栖に呼ばれて、怪人達がふらふらと集まってくる。すぐにそこは、炭水化物頭だらけの立食会みたいな事になった。
『『あの2人が食べていた親子丼はもう無いのか!』』
「すぐ作るから待っててね? やっぱり、熱々を早く食べないと」
 特に炊きたてご飯怪人が多く群がったのは、エリシャの前だった。その勢いにやや圧倒されかけそうになりつつも、エリシャはフライパンを火にかける。
 フライパンの中に本だしを入れ、一口大の鶏肉を並べる。中火で数分茹でて、鶏肉に火が通ったところで溶き卵を投入し、半熟になった所ですかさずご飯の上へ。
 更にその上に、生卵の黄身だけを乗せれば完成だ。
 この親子丼こそ、エリシャが出来たてを出したいと調理を後回しにしたもの。
 そして、猟兵達が作った中で、ご飯に乗せる前提の料理は、意外とこれ1種類のみであった。だから炊きたてご飯怪人も集まっているのだろう。
「ほかほかのたまご料理が食べられる……しあわせ……」
 並ぶ列の中には、ほわんほわんになっている有栖の顔もあった。
 他の猟兵が作った料理なら、どんな出来映えものが出てきても美味しく頂く。そのつもりが有栖にはあったけれど、美味しいものしかなかったなんて。
 嬉しい誤算でしかない。

『こっちも良いのか?』
「はーい、めしあがれー」
 醤油ベースのタレをかけた和風、トマトソースをかけた洋風、やや酸味も利かせた餡をかけた中華風の、オムレツ3種。
「ごはんにのせてもー、バーガーみたいにしても、合いそうでしょ?」
 ご飯にもパンにも、中華まんにだって合うようにとハピィは料理していた。
「これ、ご飯に乗せたらそのままオムライスなるんちゃう?」
「いい……オムライスもいいわね」
 怪人達に混じって、クリミネルと有栖も尻尾振りそうな勢いで並んでいたとか。

『だし巻きとパンも合うんだな……美味い』
 エリシャのふわふわだし巻きサンドを焼きたてパン怪人が食べている。
『おい、こっちのフレンチトーストも中々だぞ!』
 それを別のパン怪人が呼びつけた。焼きたてパン怪人の多くは、フレンチトーストにも目を引かれている。
『こっち側は、ご飯にもなるような3種類の味付けを楽しめるものです』
 夜久が作ったのは、フレンチトーストの中に所謂オカズのような様々な食材を入れたフレンチトーストサンドとでも言うものだ。
『パンの歯応えを残しているので、中のハムチーズの食感とも合うな』
 卵液を浸す量を加減し、パン本来の食感を残しているのもポイントである。
「こっちのフレンチトーストは甘いタイプですよ」
 慧が紹介している方は、粉砂糖と蜂蜜をかけた甘いフレンチトーストだ。甘めに仕上げた卵液をたっぷり浸し、バターもたっぷりでじっくり焼き上げた。
『耳までぷるぷるの食感がたまらん……!』
 どちらのフレンチトーストも、焼きたてパン怪人に好評であった。

 (廿x廿)

 こんな感じの顔がケチャップで描かれた、円形のスパニッシュオムレツ。
 その顔が、中央から真っ二つに切り分けられた。
 ニコの頼みで神絵師としての腕を活かしたうさみっちが書いた、うさみっち自身の顔である。うさみっちの顔が、オムレツと一緒に切り分けられているとも言えるだろうか。
 だが、その顔は他にも沢山描かれていた。
 うさみっち作のウサギさん型プリンにも、(廿x廿)の顔模様がカラメルソースで描かれている。
『イモとベーコンの食感も合う。玉ネギの風味もあるし……具沢山がいいな』
『な、何だこのプリン。滑らかで、口の中で溶ける!』
「さすがじゃんか、ニコ。オムレツも美味そうだったぜ!」
「うさみのプリンもな」
 その食われ行きを見守っていたのが、勿論、うさみっちとニコである。
「うさみよ。抹茶プリンと珈琲プリンなど、いつの間に……」
「いいじゃんか、ニコ。俺達用があっても! ほら、食ってみろ!」

『美味い』『これも美味い』『いけるな』
『………………』
 口々に炭水化物トリオ軍団の中から料理を賞賛する声が上がる中、一部の中華まん怪人は少し寂しそうにしていた。
(「突くならこの辺か」)
 それの様子に気づいたのが、螢の方のケイである。
「アンタらさ、パンはもちろん、ご飯もわかるけどさ、中華まんに卵ってあまり聞かないんだけど」
 あえて中華まん怪人にも聞こえるように、螢が他の怪人に声をかける。
「ホントのところさ、パンとご飯の二人はどう思ってんだい?」
 螢のその一言で、辺りの空気が変わった。
『ご飯と卵も悪くないが、やはりパンと卵が最高。だし巻きはパンとがベストだ』
『パンと卵も悪くないが、ご飯が一番だな。卵かけご飯みたいな事は、ご飯ならでは』
 まず、パン怪人とご飯怪人が軽く火花を散らし――。
『『中華まんと卵は、正直良く知らネ』』
『お、お前らぁぁぁぁぁぁぁ!? あんまんのカスタード版をを知らんと抜かすか!』
 ぶっちゃけたパン怪人とご飯怪人の言葉を聞いて、中華まん怪人が地団太踏んで絶叫を上げていた。
「あ、中華まんを使った卵料理ならあるわよ?」
 その騒ぎを聞きつけたエリシャが、丁度焼き上がった料理を手に話に加わる。
 その手にある皿の上にあったのは――パイ生地に入った黄色いものだった。
「キッシュよ」
『え? 中華まんどこ?』
 ホカホカと湯気を上げているが、中華まんの要素がまるで見当たらないキッシュに、中華まん怪人がますます困惑する。
「これは牛乳に浸した肉まんを潰して、豆腐や卵を入れて混ぜて――」
『潰されてるぅぅぅぅぅぅ!?』
 ぎゅーっと押し潰すエリシャのジェスチャーつきの説明に、中華まん怪人はしかし頭を抱えていた。
「形は残ってないけど、後はチーズを乗せて焼いただけだから、肉まんの味と風味は活かしているのよ? 食べてみて?」
 エリシャが差し出すキッシュを、中華まん怪人が躊躇いがちに手を伸ばす。
『あ、本当だ。食べると肉まんの味が残ってる……でも形はない……でも美味い……』
 食べてみると、頭を抱えるようなことはなかった。むしろ空気は和らいでいる。
 美味と哀愁が交互に襲っている感じである。
『でも原型ない』
『やっぱりパンかご飯のどちらかだな』
 そんな中華まん怪人を、ご飯怪人とパン怪人が容赦なく揶揄る。
『お前ら……やるか?』
(「……ダメ元で煽ってたんだけどな」)
 トリオ崩壊しかねない展開に、火種を入れた螢は胸中で溜息を吐いていた。
「アンタらだけで話してても、決着つかんとちゃう? 皆自分が一番言いたいやろ」
 そこにクリミネルが、茶碗片手にふらりと入っていく。
「やから、ウチの意見や。卵料理は色々あれど、卵の良さがモノをいうのは単純なモノほどそうや。つまりは、これや!」
 クリミネルの持つ茶碗の中は、卵かけご飯になっていた。それをクリミネルは殆ど飲み物の様に一気に食べつくし、どやっと怪人達に見せ付ける。
『お前……判ってるじゃないか!』
「ウチはアンタの味方や!」
 その食べっぷりに釣られたご飯怪人と、クリミネルはガシッと熱いハグを交わす。
 ところでハグと言う事は、抱擁である。
 つまりクリミネルは今、怪人と組み合っているとも言えるわけで。本人がそう思えば、それはそう言う事になる。
『む? 力が強くないか? って言うか絞まってる絞まってる!?』
「どっ!せぇーーーーい!!!!」
 抱擁で組み合うのをタックルした時に見立てて、クリミネルはそこから強引にご飯怪人をスープレックスに持って行った。
 エクスプロード・クラッシャーでクリミネルが投げ落としたのは、食パン怪人と中華まん怪人の間。
 砕け散る茶碗頭。爆発したような衝撃だけで、2体の怪人も吹っ飛ばされていく。
『な、なんで……』
『攻撃が効いて……』
「食材に罪は無いんや……キマフューの方々は困っているんや……」
 吹っ飛ばされて虫の息の怪人に、クリミネルはマウントを取ってガッとトドメの打撃を加えていく。
『しまった、シュウカクフードバトルの守りが、消えている!?』
 このクリミネルの攻撃で怪人達が事態に気づいたが、時既に遅し。
「咲け。散れ。悉く微塵に裂き散らせ」
 ――彼岸の獄。
 夜久が掲げた黒一色の薙刀が、白く染まりながら細長い欠片へと離れていく。武器が姿を変えた白い彼岸花の花びらが、炭水化物トリオ軍団を次々と撃ち抜いていった。
「こんなところに、丁度良いフライパンが……そら!」
「おりゃ、おりゃおりゃ!」
 夜久の白い花びらの業を逃れたり耐えちゃった怪人達を、ニコとうさみっちがフライパンで容赦なく叩いて回る。
『ちょ! フライパンで遊んではイケなごはっ! 後でちゃんと洗いなさぐはっ!』
 フライパンで叩かれる事にツッコム怪人もいたが、まだマシな方である。
「アタシもいっただっきまーす!」
 中華まん怪人の頭に齧りついた、ハピィに比べれば。何を隠そう、ハピィの目的は『怪人を卵料理と一緒に美味しく食べる』事であった。
 怪人『と』卵料理『を』ではない。怪人『を』だったのだ。
 ハピィは、とても健啖家です。

 攻撃無効の守りがなくなり、一部はお腹いっぱいになって動きが鈍った炭水化物トリオ軍団が、猟兵達に蹴散らされるのに、あまり時間はかからなかった。
「回復の必要はなさそうね」
「食狼の出る幕もないわ……」
 食べ過ぎて動けない有栖を介抱しながら、エリシャが戦況をのんびり眺めていられるくらいには余裕の展開であった。
 つまるところ、こう言う事になるだろう。
 皆で美味しく頂きました――と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年05月15日


挿絵イラスト