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骸談巷説~偽物の話~

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●偽物の噂
「これ、隣のクラスの子から聞いたんだけど――」
「あのね、ふらっと聞いた話なんだけど――」
「ねぇ、こんな話があるらしいんだけどね――」
 噂。噂。噂。
 某県地方都市S市。皐月の新緑に潤う時期であってもこの街に渦巻く噂はなくなることはなく、坂道を転がりだした小石のように、形のない恐怖は加速していく。
「「「最近、自分の偽物がいるだって」」」
 街では、歪な噂が囁かれていた。
 『自分と瓜二つの姿形をしたモノ』が、自分の知らないところで生きている。
「出会うと殺されちゃうって聞いたよ」
「出会うとどっちかが『なかったこと』になるの」
「出会うと自分が偽物になるらしいよ」
 曰く、曰く、曰く。
 噂は歪み、崩れ、曲がり、そうしてその真像を変えていく。
 何が真実で、何が虚偽なのか。それを見極めることなどできるわけもなく、噂という病みは人から人へと次々に“感染”していくのだ。
 ――街は、再び闇に落ちていた。
 囁き声がくらやみをざわめき立てる。
 喋り声がものかげをゆらめかせる。
 この街が異常だということに、一体どれほどの住民が気づいているだろうか?
「一人の女の子が願ったんだって」
「神様に贈り物を貰ったんだって」
「空けてはいけない匣を開いたんだよ」
 しかし、気づいていたとして、それがどうしたというのだろうか。
 誰も何もできない。何かをすることなどできやしない。
 恐ろしいのだ。怖いのだ。得体の知れないものが、理解できないものが。怖くて怖くて堪らない。
 だから、見てみぬふりをする。
「「「噂なんだけどね」」」
 そうして人々は噂の語り手へと変わっていく。
 根も葉もない怪談話は、娯楽となって街を侵す。
 これは、百にも届く噂のうちの一つ。
 ――人知れぬ、偽物の話。



「偽物と本物の区別ってぇ、どこでつけると思いますぅ?」
 ふと、終里・めあ(狂恋タナトフィリア・f14028)は猟兵達に訊ねた。
 突然の問いかけに口を噤む彼らに、めあはいつも通りにこやかな調子で続ける。
「わたしはぁ、『つけられない』と思いますぅ。スワンプマン然り、テセウスの船然り、『わたしたち』にはぁ、きっと判別がつかない問題なんじゃないかな~って」
 そこまで話したところで、めあは何かを思い出したような顔をして、掌にグリモアの光を灯らせる。
「そうそう、お仕事のお話をしに来たんですよぉ。今回はぁ、そんな判別のつかない偽物のご依頼ですぅ。場所はぁ……おなじみの方もいるかもしれませんねぇ。某県地方都市、S市ですぅ」
 数多の噂、数多の過去が渦巻く歪なる都市・S市。
 猟兵達はその名を聞いてわずかに眉間にシワを寄せる。何故ならば、そこではここ最近いくつかの怪異現象が発生しているからだ。
 二月には奇妙な落書きが、四月には人が変死する団地が。
「現在、S市内のとある高校を中心にして『偽物の噂』が広まっていますぅ。皆さんにはぁ、この噂を解決するために、高校に潜入してほしいんですよぉ」
 『偽物の噂』。それは一体どういうことだと猟兵が質問すれば、めあは微笑み。
「つまり、ドッペルゲンガーですぅ。このまま噂を放置すれば、街の人々はいずれすべてが『偽物』に変わります。もしもそうなれば、この街は終わりですねぇ」
 きゅっ、とめあはS市の未来を示唆するかのように掌を握る。
「潜入方法はお任せしますぅ。急な転校生や保護者、或いは学校関係者に偽装してなんとか中に入り込んでぇ、『偽物の噂』を探ってください~。おそらくぅ、噂の元となった何かがあるはずですぅ。それは人かもしれないしぃ、物かもしれないしぃ、ソレ以外かもしれません~」
 火の無い所に煙は立たない。無から有を作り出すことはできないし、ネタがなければ噂は噂たり得ない。
 彼女は参考程度にと学校の内部と制服の画像をグリモアを介して映し出す。
「おそらく噂の真相に辿りついたその時、皆さんの前に『偽物』が現れると思いますぅ。その時はぁ、くれぐれも気をつけてくださいねぇ」
 めあのグリモアが眩い光を放つ。

「乗っ取られてしまわないように」


ヒガキ ミョウリ
 学校のシナリオです。
 学校というものは色々な人がいるものですから、それだけ色々な話が飛び交うものです。勉強の話、恋愛の話、他愛もない噂話。もしも自分が話している相手が、実は偽物だったとしたら。ふいに耳に入った噂話が、ひどく気味の悪いものだとしたら。
 ――なんて、あるはずのないたわごとです。
 こちらのシナリオは一応『骸談巷説~落書きの話~』『骸談巷説~団地の話~』の連作ですが、前作に参加していなくても特に問題はありません。

●第一章
 『学校への潜入調査』
 『偽物の噂』がなぜ広まりだしたのか。それを調べてもらいます。
 転校生や教師、用務員や保護者などに偽装し、うまく学内へ潜入してください。
 学内には様々な生徒がいます。あなたの推しがきっとみつかる! かも……。
 また、この章では🔴の数だけ恐怖描写が入ります。お気をつけてください。

●第二章
 『都市伝説『ドッペルゲンガー』』との集団戦。
 トップに出てるオブリビオンとの戦闘です。
 ドッペルゲンガーは猟兵である『あなた』と全く同じ姿を取り、『あなた』の恐怖を掻き立てるように精神干渉を行ってきます。
 『あなた』は何が怖いですか? 『あなた』は何を怖れますか?
 よろしければ、教えてください。

●第三章
 『???』とのボス戦。
 今回の事件を引き起こした黒幕との最終戦闘です。
 どんなオブリビオンが出てくるかはここでは秘匿とさせて頂きます。
 特殊処理として、一章で発生した『恐怖(🔴)』の数だけ強化されます。

●恐怖描写について
 全PCに入ります。『いっぱい怖くしてもいいよ!』ということでしたらプレイング冒頭に『★』の記載を御願い致します。

 内容は以上になります。
 皆さんの熱いプレイング、お待ちしております。

 ※フラグメントに記載されているPOW・SPD・WIZの行動は一例です。
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第1章 冒険 『高校潜入調査』

POW   :    放課後、運動系の部活動に励む学生を対象に調査

SPD   :    学外、バイトをしたり遊んでいる学生を対象に調査

WIZ   :    校内、生徒会活動や勉学に励む学生を対象に調査

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※お知らせ
 プレイング受付は“5/15(8:30~)”になります。
※訂正
 申し訳ございません。Twitterの方で間違えて告知してしまったのでプレイング受付期間を変更します。
 プレイング受付変わりまして“5/14(8:30~)”になります。
 お騒がせしました。
●『雁坂高校』
 鼓膜を震わせるざわめきの声の中に、僅かな違和感を感じた。
 視界に広がる少年少女の群れの中に、歪な忌避感を覚えた。
 本物が偽物へと変わり、真偽の堺が曖昧となる噂。
 ドッペルゲンガー。
 今、この空間ではそんな噂が席巻している。
 『学校』という一つの世界の中に落とされた『噂』という雫は、画布に広がる絵の具のように、浸透し、侵食している。
 生徒達は今日もささやく。根も葉もない噂を。
 生徒達は今日もさえずる。ただの娯楽話を。

 果たして、今こうして生きている彼らは本物だろうか?
 もしかしたら、もう既に。

 校門を潜った彼らは、次々と昇降口へ吸い込まれていく。
 間もなくして、チャイムの音色が鳴り響いた。

 ――さぁ、偽物探しをはじめよう。
花菱・真紀
S市の噂…また出てるんだな。
今回も参加させてもらうよ。

学校に潜入調査かぁ。俺は童顔だからな高校なら転校生でいけるかな?
制服を着ればだいたいOKな感じだな。うわっ、高校の時とほとんど変わんねぇ。
童顔…っていうか。子供ぽいだけかもだけどなぁ…。
転校生として好奇心いっぱいに学校の話を聞いて回ろう。【コミュ力】【情報収集】
ドッペルゲンガーか…一般的には自分のドッペルゲンガーに出会ったら死ぬってのが定番だよな。
ドッペルゲンガー。もう一人の自分。
別の人格である有祈はもうすでに俺の中にはいるけれど…もう一人の自分ってどんな感じなんだろうな。

アドリブ連携歓迎。



●二重に歩くもの
「なぁなぁ! 最近変な噂が流行ってるって聞いたんだけどさ、よかったら教えてくれないか?」
 いつもどおりの明るい調子で花菱・真紀(都市伝説蒐集家・f06119)は生徒たちに聞き込みをしていた。
 転校生として制服を着込めば、真紀の顔立ちも相まって他の生徒達となんら違和感はない。そのまま好奇心赴くままに休み時間を利用して同じクラスの生徒を中心に話しかける。
 真紀のクラスは3年1組。進路に悩む彼らも、不穏に噂に踊らされる群衆に過ぎなかった。
「変な噂じゃなくてもいいんだ。なんかこの学校の面白い話があれば」
 そんな風に声をかければ、幾つかの噂を聞くことができた。
 
 ――曰く、自分の偽物は学校の中にいるらしい。
 放課後や授業中、休日にふらりと現れては、いつの間にかどこかへ消えてしまう。もしもその姿を本物が見てしまったら、偽物は即座に牙を剥く。
 よくある話だ。それは真紀の知るドッペルゲンガーと相違なく、やはりと彼は納得する。
 既に別人格である有祈が内側にいる彼にとって、『もうひとりの自分』というのはなかなか想像し難い。ぼこりと、湧き出る水のような興味が溢れた。
 ――曰く、『名無しに繋がる電話』という噂があるらしい。
 名無しは三つまでどんな質問でも答えてくれる。その代り、名無しの出す問題に正解しないといけない。でないと体を奪われる。
 いわばおまじないだ。ただし、このおまじないは必ず学校でやらないといけない。そして、三つ目の質問はしてはならない。
 もしも三つ目の質問をしたら、おそろしいことが起こるという。
 かつてどこかで聞いたことがあるような内容に、真紀は奇妙な感覚を覚えた。アレは確か、ただのネットロアの実験だったはずだ。根も葉もないどころではなく、正真正銘『あり得ない』噂。オブリビオンとして具現化したのか、はたまた再び『噂』として復活したのか、真偽の定かではない感覚にわずかに心がざわめく。
 
 その時。

「真紀」
 頭の中にノイズが走る。どこかで聞いた覚えのある声がする。
 ざり。ざり。ざり。ざり。ざりざりざりざりざりざり。
 脳味噌をやすりで削られるような厭な感触がする。
「真紀」
 それはすぐ後ろで、俺の後ろで。
 厭な感触。そうだ、これを俺は知っている。知っているんだ。思い出したから。
 だからこそ、動けない。
「久しぶり」
 頭蓋を貫くような低く静かな声がした。
 ふっと体が軽くなる。即座に振り向けど、そこには誰もいなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

宮前・紅
【SPD】★
そうだなぁ、学外の遊んでる子供たちに聞いてみようかな?
そんな10も違う年のふりして行くのって、恥ずかしいんだけど、まあ潜入だから、ね?制服を着て、転校生として聞き込み調査といこうか!

ね、キミ『偽物の噂』って知ってる?良かったら俺にも教えて欲しいんだけど……俺?
俺、最近ここに越して来たから、そういう『噂』があるって知って不安になっちゃって…だから此処の地理のことも全部よく知らないんだ、ごめんね?

のらりくらりと徘徊して高校生の子供たちに声を掛けて、情報収集
俺、引きこもりだからね!人と話すのって得手ではないんだけど、そうも言ってられないっぽいからね♪

【アドリブ・共闘、どんな展開でも歓迎】



●違和感
 宮前・紅(絡繰り仕掛けの人形遣い・f04970)がその少女を見つけたのは、聴き込みに訪れたゲームセンターだった。
 時刻は昼。学校には一定数存在している、昼間に学外で遊んでいる不真面目な生徒達に話を訊くべくその場所を徘徊していた。
 そんな中、紅の目に止まったのが彼女だった。
  
 自分が潜入のために袖を通した学校指定のセーター。それと同じものを着た、長い黒髪の少女。
 彼女はUFOキャッチャーの前でぼんやりと佇み、時間を浪費するようにコインの投入口に500円玉を落としていた。
(「お、可愛い子みっけ。早速話しかけちゃおっと!」)
 かつかつと近寄れば、紅はそのまま少女に声を掛ける。
「ね、キミ『偽物の噂』って知ってる?」
「……え」
 不意に聞こえた声に、少女は怪訝な表情をして振り返る。紅の顔を見れば、一瞬不可思議な顔をするが表情がわずかに緩んだ。
「良かったら俺にも教えて欲しいんだけど……」
「てか、あんた誰? 同じクラス……じゃないよね」
「あぁ俺? 俺は宮前・紅! 最近ここに越して来たから、そういう『噂』があるって知って不安になっちゃって……」
「ふーん、ってことは転校生か。あたしは香坂・麗。『偽物の噂』ね。悪いけど、あたしあんまり興味ないから、詳しくは知らないよ」
「え、そうなの? なんかみんな噂してるっていうから。興味ないって、なんで?」

「気持ち悪いから」

 即答だった。忌避するようなその口ぶりに、紅の探究心が揺さぶられる。
「気持ち悪い?」
「うん。気持ち悪いでしょ。自分と同じ姿したやつが学校の中にいるなんてさ。皆面白がって話してるけど、正直あたしには気持ち悪いとしか思えない。ひとりかくれんぼだとか落書きだとか、変な噂は前からあったけど、今回のは変だよ。あいつらも、学校も」
「それってどういうこと? 変な噂ってどんな?」
「なんか変なんだよ。言葉にはできないけど。なんかおかしい。まるで、あたしの知ってる学校やクラスメイトじゃないみたいで」
 そこまで話して、麗は息を吸い込む。己の中にある違和感が口に出した途端現実になるような錯覚を覚えながらも、言葉を紡ぐ。
 
「偽物みたいだ」

「……」
 紅は理解する。目前の少女は、今起きている異変を察知している。この街に染み込んでいる淀みに気づいている。
 くるりと紅に背を向け、麗は続ける。
「『偽物の噂』は単純な話だよ。『自分の偽物が学校ん中にいる』って、それだけ。だけど、あたしはどうにも気持ち悪い。だからここでこうしてゲームしてる。なんの解決にもならないけど、あたしにはこれくらいしかできない」
 かしゃんとアームが揺れて、ペンギンのぬいぐるみを掴み上げる。
「紅って言ったっけ。あんた、気をつけなよ」
「……何に?」
「決まってんでしょ」
 取り出し口に落ちたぬいぐるみを手にして、麗は紅に振り返る。
「偽物に」
 半ば押し付けるように紅にぬいぐるみを渡すと、麗はそのまま歩いていった。
 紅の脳裏に厭な想像が過る。もしかしたら、もう手遅れなのかも知れない。すべてがすべて、偽物に変わっているのかも知れない。
 
 ふと視線を感じて振り返る。
 同じ制服をきた男子生徒が、静かに己を見つめていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

鬼竜・京弌朧
偽物の偽物は、やはり偽物なのだろうか?

……いや、我ながらつまらないことを考えたものだな。さて、調査といこうか……
学生服なら一人でも着れる(インナー無しでカッターシャツのうえに学生服)
ここは生徒として潜入しよう。

偽物の噂について調べてみう。聞き込みをするなら男子だな。
女子の方が噂には強そうだが……(女にベタベタされると恐怖で気絶するため)……まあ、無理だな。

仕方ない。チャラそうな男にでも声をかけるか。そういうやつなら噂にも詳しいだろう。明るくて元気が良さそうなのがいいな。まあ、色々聞いて怪しまれたら最悪誘惑して誤魔化すか……。

推し:短髪で筋肉質で明るい系不良男子。

アドリブ歓迎。
好きにしてほしい。



●ニセモノ
 偽物の偽物は、やはり偽物なのだろうか。
 あまり着ることのない学生服に身を包みながら、鬼竜・京弌朧(失われた満足を求めて・f08357)は思考する。
 王になるためだけに育てられ、然し王になることはできずに棄てられた。この身は最早『王子』でなければ『王』でもない。どちらにも成ることができなかった紛い物である己の映し身さえもが『偽物』であるならば、あぁ、それはなんと滑稽なことだろうか。
 と。そこまで思考して、止める。
 我ながらつまらないことを考えたものだと頭を振って霧散させる。今はそのようなことに脳を回している暇はない。
 自分はこの学校に調査をしに来たのだ。偽物の噂、その真相を暴くために。
 
 ――京弌朧が先ず声を掛けたのは、くすんだ茶色の髪をした体格のいい男子生徒だった。
 授業の間の休み時間に女子生徒から逃げるようにして学内を探索している途中に見つけた彼は、ちょうど京弌朧好みの体型をしていた。故に話しかけた。
 もちろん、女性が恐ろしいという部分もあるが。
「偽物の噂を調べているんだ。何か知らないか?」
 そう聞けば、男子生徒はあぁと納得したように口を開く。
「見ねぇ顔だと思ったら転校生か。センセが言ってたっけなぁ確か。あー、偽物の噂? ドッペルゲンガーのことか?」
「そうだ。以前いた高校ではあまり聞かなかったからな。興味があって」
「はは、そうかそうか。転校生は噂好きってわけな? おういいぜ。教えてやるよ。……ま、俺もそんな詳しくは知らねぇんだけどな」
 ニヤリと悪戯げに笑めば、生徒は噂を語る。
 
「だいたい二週間くれぇ前から聞くようになったんだけどよ」
「『自分のそっくりさん』が学校の中に現れるんだと」
「あ? 何で学校の中なのかは知らねぇよ。まぁなんかあるんだろ。そういうルールみたいなのが」
「んで、それを見たやつは『いなくなる』らしい」
「けど本当に『いなくなった』やつはいねぇ。誰かが失踪しただとか、行方不明だとかって話は聞いたことがねぇ」
「――でもな、『いる』んだよ。そういうやつ」

 不意に、生徒の纏う空気が変わる。
 パズルがズレたかのように、何かのスイッチが入ったかのように。
 ぐちゃりと、平凡の爛れ落ちる音がする。

「おまえだってそうだろ?」

 そうして軋んだ笑顔を向けるその男の顔は、鬼竜・京弌朧。自分自身だった。
「ッ……?!」
 ばちり。と京弌朧は一つ瞬きをする。
 そこには、はじめから誰もいなかったような虚空が広がっていた。
 脳裏に、男子生徒だったモノの声が響く。
 ――偽物の偽物は、或いは本物なのかもしれない。

成功 🔵​🔵​🔴​

エスタシュ・ロックドア
★◎▲

UDC組織に用務員の身分と服用意してもらうぜ
他の選択肢は悪目立ちが過ぎるわ俺のガタイ

人目のないもの陰で『大鴉一唱』発動
子分の烏どもに普通のカラスを装わせ、学校中に放って生徒達を探らせ……
うるせぇ、唐揚は仕事してからだ
目ぼしい情報拾えたら戻って来い、【動物と話す】で聴いちゃる

子分の情報仕入れたら俺が動く
校舎内とか烏が入ったら不自然なとこは俺が行かねぇとな
途中生徒や先生方に引っかかったら【コミュ力】で追加情報引き出しつつ躱す
現場じゃ【第六感】とか【呪詛耐性】とか役に立つかぁね

※恐怖は怒りに置き換える
獄卒に連なる羅刹、恐れられる者であり自身が恐れてはならない
恐怖で俺から自由を奪えると思うなよ



●獄卒
 エスタシュ・ロックドア(ブレイジングオービット・f01818)が学校中に放った三十七羽の烏はひどく忠実だった。
 偽物の噂の情報を見事回収し、エスタシュの元へと戻ってきたのだから。
 授業中の時間を見計らい、用務員を装ったエスタシュは人目のない体育館裏で烏達の情報を整理していた。

 曰く、偽物の噂は二週間ほどまえから流行しはじめたという。
 『自分と瓜二つの姿をした生き物が、学校の中をうろついている』。『もしもそれに出会ってしまったら、殺される』。『自分が自分でなくなる』。『成り代わられる』。口遊む生徒達によって細部は微妙に異なるが、それでも大本は変わらない。
 いわばドッペルゲンガーだ。自分の偽物に出会ってしまったら災厄に見舞われる。
 どうやら教師達も頭を悩ませているらしく、実際に生徒の『偽物』を見た者もいるという。
「随分過激な噂なことで。だが、失踪者や行方不明者はいないときた」
 にも関わらず、噂は今現在も流行している。
 それは、つまり。
「……時間がないかもしれねぇな」
 既に『成り代わられている』生徒がいる可能性が高い。
 偽物と本物の区別など、他人にはつかないものだ。喩え成り代わっていたとしても、『ドッペルゲンガー』などという非日常の存在を本当に信じ、異常を指摘する人間などそうそういない。
 彼らにとって噂話はあくまで噂話。面白がって拡散するただの娯楽に過ぎない。
 小さく舌打ちをして、エスタシュは学内へと向かって歩き出した。烏達が入れば不自然になる幾つかの場所へと赴き、自らの五感で調査するためだ。

「あぁ、用務員さん。丁度良かった」
 そんな時、ふとエスタシュの耳に声が届く。男の声だった。
「あ?」
 そちらを振り向けば、黒縁の眼鏡を掛けた青年がいた。顔には柔和な表情を浮かべており、胸に下げているカードホルダーの中には『教育実習生 蒼井・一葉』の文字。
 エスタシュはその名前を知っている。烏達が持ってきた雑多な情報の中にあった名前だ。柔らかな物腰と人当たりのいい雰囲気で、多くの生徒から人気を博しているイケメン実習生。心理学の心得があるらしく、放課後に相談に乗ってもらっている生徒も数名いるという。
 そんな彼が、エスタシュのことを呼んでいた。
「どうした?」
 そのまま通り過ぎてしまいたいところだが、用務員を装っている以上そんなことをしたら確実にアウトだ。
 早る気持ちを抑え、エスタシュは一葉へと近付く。
「猫が、死んでるんです」
 見れば、そこには横たえた黒猫の体があった。目は見開かれ、四肢はぴんと張って微動だにしない。
「あぁ、可哀想に。教えてくれてありがとうな。こっちで処理しとくから、先生は授業に戻りな」
「はい。ありがとうございます。……時に、用務員さん」
「なんだ?」

「偽物の噂って、知ってますか?」

「……あ?」
 その言葉にエスタシュの内側がざわめく。ただの質問。それなのに、何故かひどく禍々しく感じる。
 まるで、得体の知れない何かが己を見定めようとしているような。
「いえ、なんでもありません。それじゃあ、俺は授業に戻りますね」
 にこりと微笑んで、一葉はエスタシュに背を向けて歩いていく。
 その背中に言い様のない怒りを覚えて、エスタシュはぎりと歯を噛んだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルーク・アルカード
POWで判定。

【心情】
学校ってお勉強するところだってきいた。
お勉強嫌い。だから、お外でお話聞こうかな。

【潜入方法】
暗殺術を駆使して『目立たない』ように気配を消して行動。
警備員や監視のあるところは『忍び足』で歩いて見つからないようにする。
見つかった場合は、逃げるか迷子のフリ。

噂ってどこから広まったんだろう?手当たり次第聞いてみます。
小難しい話は理解できないので、難しい話が始まったらマフラーで顔を隠してます。

【他】
学食とか売店とか、あれば行っちゃうかも。



●隠遁
 少し前に、学校は勉強するところだと聞いた。
 勉強は嫌いだ。
 難しいことを幾つも言われるし、自分で考えないといけない。出された問題を解いて正解しなきゃいけないし、間違えたら正解するまでやり直さないといけない。
 考える、ということは難しい。
 人殺しの道具は考えることなんてしないと、何も考えずに命を奪ってきたルーク・アルカード(小さな狩人・f06946)にとって、それはあまり好ましいものではなかった。
 正解があり間違いがある。真があって偽がある。それはあらゆるものごとに言えることだけれど、ルークにとってそれはまだ『よくわからないこと』だった。
 頭で考えてわからないのならば、体のままに動くしかない。
 噂が流布されているのであれば、その流布した本人を叩けばいい。どんな相手でも殺せば死ぬ。それがたとえオブリビオンであったとしても。
 故にルークは噂の大本を探ることにした。気配を消し、姿を隠せば、誰も自分を捉えられない。これまで何度も何度もやってきたことだ。間違えるはずもない。
 そうして、ルークは生徒たちの間を潜り抜ける。
 
「ねぇ、ドッペルゲンガーの噂知ってる?」
「偽物がどうたらって話だろ。会ったら死ぬとか」
「学校の中にいるんだよね。授業中うろついてるらしいよ」
「だけど、誰も視たことがないんだって」
「それじゃあ、嘘ってことだろ」
「でもさ、本当だったら面白くない?」
「胡散臭。お前らそんな話ばっかしてんのか? だいたい誰から聞いたんだよ」
「えー? 先生だよ。前話した時に教えてもらったの」
「どの先生だよ」
「知らない?」

「――蒼井先生」

 丁度今は体育の授業中らしく、外周する生徒から聞こえてきたそんな会話にルークの耳がぴくりと動く。
(「蒼井先生……きょういくじっしゅう? の先生、だよね」)
 かすかな違和感を覚える。腹の中に、苦い何かが投げ込まれたようないびつな感覚。
 蒼井先生。蒼井・一葉先生。
 全身の体毛がぞわりと逆立つ。ただ名前を聞いただけなのに、どうして自分はこんなに。こんなに。
(「……きもちわるい」)
 怯えている?
 薄弱な自意識で内側を探る。深い水の中に沈んだ石をすくい取るように、自分の気持ちを無意識に思考する。
(「蒼井先生が、犯人、なのかな」)
 心の中がざわつく。何かが崩れそうな不安がある。殺すべき相手がわかったはずのに、この、気持ちは。
「……っ」
 ――わからない。
 得体の知れない不快感を抱えながら、ルークはその場をあとにした。

成功 🔵​🔵​🔴​

銀山・昭平

自分の偽物が成り代わる、っていろんなところである話だべなぁ。
そして噂が針小棒大に広がっていくのもよくあることだべ

◆行動(POW)
というわけでおらも聞き込み調査だべ。
可能であれば売店のおじちゃんに偽装して高校生、主に運動部員に色々売りながら偽物の噂についてしらべてみたいべ。
……変装するにはおらのたっぱはちょっと小さいかもしれねぇが、まぁなんとかなるべ。

しっかし、学校ってとこはいろんな生徒がいるんだべなぁ。
……おっといけねぇ、目的を忘れるところだったべ。



●電話と影
 己の偽物が己に成り代わる。――よくある話だ。
 喩え成り代わられてしまったとしても、それは本人以外には真偽不明。本物なのか、偽物なのか、そんなことは誰にも分からない。
 噂というものは針小棒大に広がっていくものだ。たとえそれがどんな噂であったとしても、人の口に戸は立てられない以上、伝言ゲーム式に歪曲していく。
 だからきっと、この噂も捻じれて曲がっているのだろう。
 そう銀山・昭平(田舎っぺからくり親父・f01103)は思う。
 
 ユーベルコードによって召喚した2mほどの大地の巨人は精確に己の動きをトレースし、購買の職員としての業務を全うしていた。本来であれば戦闘に用いられるそれは、昭平の調整によって本物の昭平と変わりないほどの容姿を再現していた。
(「まぁ、変装するにはおらのたっぱはちょっと小さいしな……」)
 大は小を兼ねるともいう。しかし2mというのは流石に大きすぎたかもしれない。遠くで男子生徒達が「でかい」「ヤバイ」と話している声が聞こえてきた。
 カウンターの隙間から僅かに顔を出せば、そこには坊主頭に制服の襟首からアンダーシャツを覗かせた野球部らしき生徒たちや、明るい髪のチャラそうな生徒、顔立ちの整ったスポーツ刈りのいかにもイケメンといった様相の生徒……どうやら今購買に訪れているのは運動部の生徒が多いようだった。
(「しっかし、学校ってとこはいろんな生徒がいるんだべなぁ。……おっといけねぇ、目的を忘れるところだったべ」)
 そうだ。自分は今、噂を調査するためにここに潜入しているのだ。運動部の生徒達は確かに気にはなるが、そちらの方にばかり目を向けている訳にはいかない。
「いらっしゃーい! 今日は唐揚げが安いべよー!」
 巨人の影から声を呼び込みをして、生徒を集め、彼らから噂についての話を聞いていく。

「噂? あぁ、ドッペルゲンガーの話っすか?」
「最近みんなその話してますもんね! いやー、ほんとにいんのかなドッペルゲンガー! いたら会ってみたいなー」
「いるわけないだろ。第一誰も見たことがねぇんだぞ? ただの噂だよあんなん」
「えー、そうかなー。……あ! 噂といえば知ってます? ドッペルゲンガーって、『タタリ』なんすよ」
「は?」
「ちょっと前に『名無しの電話』って流行ったじゃないすか。あのアレ、どんな質問でも三つまで答えてくれるってやつ」
「………は? あー……そういやあったな、そんなん」
「実は、それをやらかした子がいるらしいんすよ! なんでも三つ目の質問をしちゃったみたいで、今流行ってるドッペルゲンガーの事件は、『名無し』のタタリらしいですよ! ……あれ? 先輩? どうしたんすかそんな顔して。ちょ、待ってくださいよどこ行くんすかー! スンマセン! 会計ここに置いときます! あざした!」

 ――その中でも坊主頭の二人の男子生徒から聞いた話は、特筆すべきものだった。
(「……『名無しの電話』、だべか」)
 他の猟兵から伝えられた噂だ。問題に答える代わりに、どんな質問でも三つまで答えてくれる。けれど三つ目の質問をすると、恐ろしいことが起こる。
 此処にきて初めて出てきた『噂』。『ドッペルゲンガー』と『名無しの電話』が線でつながったような気がした。
 何かが、この学校を覆い尽くそうとしている。
 ふと、粘つく厭な空気が背筋を撫でたような。そんな気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルトリウス・セレスタイト
まず根の調査か

転校生でも装っておく
物陰で目立たぬように行動開始

界離で全知の原理の端末召喚。淡青色の光の、二重螺旋の針金細工
学校の建造物と内部の人間に対して偽物の噂に関する情報を走査し、俯瞰して把握
何時から流れ始め、どのような形で伝播していったか整理する

特定の場所や人物が怪しいと感じれば直に調査
その際は針金細工はポケットにでも
噂に関する、UDCアースの常識から外れた要素を視覚で認識可能にして赴き確認する

※アドリブ可
他の猟兵と適宜情報は共有



●偽理
 どうやら、この学校に巣食う噂の『根』は随分と深く張り巡らされているようだ。
 世界を構築する『原理』。その端末の一つであるアルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)は、肺に吸い込んだ空気を通じ直観した。
 空気に染み込んだ淀みは学生たちの思考を縛り、この小さな世界を偽りの理で満たそうとしている。
 既に『偽物』に成り代わられた生徒もいるのだ。世界に染み込んだ残滓の気配は、残骸である己の肉体によく響く。
 偽物は一人? それとも二人? 否、それ以上。もはや片手で数え切れる数字ではなく、然し校内すべてを侵すほどではない。
 ――まだ、間に合う。
 
「……しかし、気分が悪いな」
 時刻は昼過ぎ。アルトリウスは人気のない非常階段にて、ぼそりと呟いた。
 己の埒外の力によって端末を呼び出す。そうすれば、次の瞬間にはアルトリウスの手の中に淡青色の光を帯びる二重螺旋の針金細工が握られていた。
 それは原理を内包し、望む規模で世界へ『触れる』ことができる干渉端末。幾つかの制約はあるが、それでも情報を得るためには充分すぎる代物だ。
「顕せ」
 命じるのは噂の経歴。何時から始まり、どのように広まり、そうして何が起こっているのか。
 アルトリウスの言葉に応じるようにしゅるしゅると針金細工が形を変えていく。まずは電話、次に仮面、ローブを纏った人物、象徴化された人々、やがて人々は仮面を被り、仮面のない人々に手を伸ばす。壁画のようなその展開に、アルトリウスは思考を巡らせる。

 ――おそらく、『名無しの電話』の噂がすべての発端なのだろう。真偽は不明だが、『偽物の噂』と『名無しの電話』を結びつけた人物がいる。
 それはおそらく『教育実習生の蒼井・一葉』だ。彼は何人もの生徒から相談を受けている。であれば、生徒たちに噂の種を植え付けることなどたやすい。
 丁度噂が発生したのは二週間前、蒼井・一葉がいつからいるのかは不明だが、教育実習生の最低期間は二週間。
 他の猟兵達が感じたという『違和感』も含めて、蒼井・一葉が犯人である可能性は極めて高い。
「赴くか」
 であれば、直接『視て』確かめなければならない。
 そう思って非常階段から場所を移ろうとした時、眼下に誰かが視えた。
 
 女子生徒だ。
 仮面のような無表情で、眼鏡の奥の瞳にはどろりとした深淵の色を湛えた少女が、じっとアルトリウスを見上げていた。
 アルトリウスは、彼女と目が合う。
 瞳を通じて、アルトリウスははっと理解する。この世界の常識から外れた異形、異貌、異物。それが、少女の瞳の中には在った。
 
「あぁ、偽物(おまえ)も端末なのか」
 ニィ、と。少女が笑う。
 厄介なものだと吐き捨てて、アルトリウスは扉を閉じた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レナータ・メルトリア
★ アドリブ歓迎

たとえそれが偽物だったとして、一体全体、何の問題があるんだろうね?
本物と偽物の差がゼロだとしたら、それは本物と変わりが無いよ。周りからすれば、ね。
そう思わない。お兄ちゃん?

それはさておき、わたしは外国からの転校生と言う背景で潜入するよ。
配属されたクラスで一番大きいグループに【コミュ力】で取り入って、噂の出所を探ってみよっかな。
そうそう、日本の学校には学校毎に七不思議があるってお兄ちゃんが言ってたけど、ホントウかなぁ?

噂の出どころになった人とか様子の変わった人がいたら、『影の追跡者の召喚』で動向を探るよ。



●傀儡
 もしも目前の誰かが偽物だったとして、一体全体なんの問題があるのだろうか。
 配属されたクラスの派手な女子グループに混ざって談笑する傍らで、レナータ・メルトリア(おにいちゃん大好き・f15048)はふと思う。
 本物と寸分違わず同じ偽物がいるとするのならば、それは最早『本物』と同じだ。真偽の堺が崩れた時、本物は偽物になり、偽物は本物になる。真偽を観測する他者はそれに気付かず、気付いた時にはもう手遅れ。
 けれどたとえ誰かが『本物』だろうと『偽物』だろうと、本人以外には関係のないことだ。
 ――そうでしょう? お兄ちゃん。
 ――そうだね、レナータ。おまえの言う通りだ。
 傀儡の声が聞こえる。それが本物か偽物かなど、壊れた少女にとってはどうでもよかった。
 
「それでね、麻衣が……」
「ちょっとー! それは柚那が勝手に……」
「でもでも、歌穂だってさぁ……」
 眼の前で楽しげに笑う少女たちを見て、レナータはふと自らと照合してしまう。
 年は自分と同じくらいで、着ている服は自分と同じ制服。きっと、彼女たちはなんの変哲もない人生を送ってきたのだろう。雪の降る冷たい夜を裸足で歩くこともなければ、肉体と精神を弄ばれることもない。父親がいて、母親がいて、もしかしたらきょうだいがいて、そんな平々凡々とした人生の途中に"現在"がある。
 羨ましい、と。思わないと言われれば嘘になるだろう。
 私の祈る神は不幸を救わない。悪人を殺さない。なのに私が神へ祈るのは、愛する『お兄ちゃん』と共に在るため。
「そうそう、日本の学校には学校毎に七不思議があるってお兄ちゃんが言ってたけど、ホントウ?」
 噂の出処らしき人物は他の猟兵によって特定された。ならば、私はその動きを探るだけでいい。こうしてただの生徒に紛れ込んで、普通に溶け込む。
「七不思議? うーん、よく覚えてないなー」
「わたしもー。ないことはないだろうけど、今はそれどころじゃないしね」
「それって進路でってこと? それともドッペルゲンガーで?」
「どっちも!」
 残念。やはり今は偽物の噂に持ちきりのようだった。
 そうしていれば、ふと追跡者と感覚が共有される。どうやら、彼が動いたらしい。

 そこは屋上。自殺防止用のフェンスに体を預け、蒼井・一葉は呟いていた。
「誰が偽物に代わろうと、誰もそれに気付かない。それはそうだ。体を奪われてしまったものは、もはや死人と同じなんだから」
 顔には道化のような笑みを浮かべて。
「何が本物で何が偽物かなんて、どうでもいいこと。真偽が入れ替わったところで、一体全体なんの問題がある?」
 瞳が揺らぐ。薄いレンズの奥の瞳が、自分を射貫いたような錯覚。
 
「きみに言ってるんだよ」

 ぶつり。
 感覚が閉ざされる音がして、レナータの視界が元に戻る。
 そうだ。たとえ誰かが『本物』だろうと『偽物』だろうと、本人以外には関係のないこと。本物と偽物の差がゼロだったら、それは周りからすれば本物と変わりがない。
 ――そうでしょう? お兄ちゃん。
 傀儡の声は聞こえない。まるではじめから、そんなものは存在しなかったかのように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マレーク・グランシャール
★◎▲

UDCエージェントに協力を得て音楽の臨時教員として潜入
衣装は無難なスーツを現地調達
俺は誰からも親しみを持たれるタイプじゃないから、年上の男性教員に異性として憧れを抱きそうな女子学生にターゲットを絞って接触

「俺とそっくりな男を見たという学生がいたのだが、俺と似た者がここにいるのだろうか?」
似た者がいるというのは方便
偽物らしき人物とその共通点、見分け方があればそれについて聞き出す

「お前は本物か?確かめさせろ」
相対している女子学生が本物であるとは限らない
本物か、偽物か、肌に触れてみれば解るだろうか
若い女を前にして男の情欲よりもグールドライバーの食欲が先立つのなら、それはそいつが偽物である証拠だ



●飢渇
 マレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)は飢えていた。
 この学校の中に入ってからというもの、胸の刻印が疼く。
 過去の骸達の気配が濃すぎるのだ。蔓延する空気はひどく魅力的な香のように、抑圧していた食欲を沸き立たせる。
 然し、抑えられぬ程ではない。嵐のように吹きすさぶ己の獣性に鎖を付け飼いならす。
 問題ない。己はまだヒトで在れる。
 噎せ返る過去の匂いが喪った己を想起させようとするのを、鼻を摘んで押し殺した。

「――しかし、少しばかり厄介だな」
 音楽の臨時職員として潜入し、無難な黒のスーツに身を包んだマレークは小さく零す。
 時刻は昼下り。つい先程授業の終わった音楽室からは一人また一人と生徒たちが移動しつつあった。
 濃厚な過去の臭気のせいで感覚がうまく回らない。しかし己は猟兵だ。この噂を解決するために此処にやってきた。ならばそのような事は言っていられない。
「俺とそっくりな男を見たという学生がいたのだが、俺と似た者がここにいるのだろうか?」
 丁度最後の一人になった女子生徒に声を掛ける。
 栗色のボブカットが目立つ、どこかぼんやりとした少女だった。
「最近妙な噂が流行っていると聞いてな。何か知らないだろうか」
「……あぁ、ドッペルゲンガーの噂ですね。だったら、大丈夫ですよ」
 にこりと微笑んで、少女は言う。
 
「ドッペルゲンガーに姿を取られるのは、学生だけなんです」

「……そうなのか」
 違和感がした。何故、そんな顔をする?
「はい。名無しさんを怒らせてしまったのは女の子なので、すこしだけ女の子のほうが狙われやすいのかもしれませんけれど」
「名無し……どんな質問でも答えてくれるという噂の」
「すごい。さすが先生。知ってるんですね。ドッペルゲンガーは名無しさんの祟りなんですよ。三つ目の質問をしてしまったから、名無しさんは手当たり次第に体を奪おうとしてるんです。ドッペルゲンガーは名無しさん。名前が無いから、何にでもなれる――らしいですよ」
「成程。ドッペルゲンガーに共通点や見分け方などはあるのか?」
「ありませんよ。何から何までそっくり同じなんです。だから、誰がドッペルゲンガーで、誰がそうでないのかわからない」
「やはり厄介な噂だ。時に、お前」
「はい」
「お前は本物か?確かめさせろ」
 ぱしり、とマレークは少女の手を握る。
 刹那、鎖をつけた獣性が荒れ狂う。それは男としての情欲? 否、それは屍肉喰いとしての食欲。
 それが示すところは、即ち。

「――お前は、偽物だな」

 少女の体がぐにゃりと歪む。黒い煙のような不定形に変わり、マレークのすぐ目の前へと移動する。
「ご明答」
 煙は肉を、骨を、皮膚を再形成し、よく知る男の姿を形成する。
「では、お前は何者だ?」
 影は問う。記憶の無いお前は自分をなんとすると。
 影は嗤う。記憶の無いお前は、本物か、偽物か。
「――俺は」
 ばきり。
 どこかで、硬いものが砕ける音がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

空亡・柚希

アドリブ→◎、▲
判定→WIZ

偽物が発生して、本物がいなくなって。その噂通りに、すべて偽物に変わっていったら。……本物を知る人もいなくなる。知らなくてもよくなる。
気味が悪いね、考える程に

学校司書ってことでUDC組織さんに便宜を図ってもらおうかな
あ、手袋は……アレルギーが中々治らなくて。(嘘) うん。ごめんね。

放課後ということは図書室もある程度は人がいるだろうし、
話し声は少ないだろうけれど、噂の広がりを考えるにここでも話す子は居るんじゃないかな、って
もしかして、学級新聞にも噂を書く子がいるかもしれない
ここ最近の学級新聞や、生徒との話で噂を探るよ
(〈目立たない〉〈情報収集〉〈コミュ力〉〈第六感〉)


クララ・リンドヴァル
★★◎◎▲
……
舟ならば目の当たりにしても、議論するだけの心の余裕を持てそうです。
しかし、それが人であれば不気味さは段違い……。
親しい人の偽物が目の前に居るとして、
それが本物に近くとも……いえ、近ければ近い程、
『得体の知れない違和感』はより強く感ぜられる……そう思います。

【WIZ】
高校に潜入し【情報収集】を行います。
私服が【目立たない】事を利用し、本を抱えた学校司書として潜入。
図書館を中心に手がかりを探します。【第六感】も積極的に使います。
噂をしている生徒さんが居たら、【優しさ】を使ってコンタクトを取ってみます。

何か情報を掴んだら他の猟兵に伝達します
でも、恐怖したら……声が出ないかも知れませんね



●図書室
 或いは船であったのならば、議論するだけの心の余裕を持てたのかも知れない。
 しかし、それが人であったのならば気味の悪さは段違いに跳ね上がる。
 親しい誰かが、近しい誰かが偽物に変わってしまっていたとして、そうしていずれ本物がどこにもいなくなってしまえば、誰も本物のことを知る必要はなくなる。たとえ言いようのない違和感があったとしても、ただの人にはどうすることもできない。
 どれほど本物に近かろうと、どれほど精巧な偽物であろうと、『得体の知れなさ』を拭うことはできないのに。
 考えれば考える程に、形のない淀みは濃度を増していく。
 この学校の中にはそんな淀みが溢れかえっていた。教室の中、廊下の間、そういった場所を侵食し、やがてこの学校すべてを完全に飲み込もうとしているかのような。
 残された時間は、あまり多くない。
 図書室の司書として潜入した空亡・柚希(玩具修理者・f02700)とクララ・リンドヴァル(本の魔女・f17817)はそれを察知していた。
 しかし、だからといって派手な行動は起こせない。
 時が満ち、倒すべき相手が動き出すまで。速る気持ちを抑えて仮初めの役割を演じるしかないのだ。

 ――時刻は放課後。二人は静かに図書室で生徒たちの噂を探っていた。
 柚希は広報委員が発行した学級新聞から、クララは書棚の整理をする傍ら図書室に訪れた生徒たちから何か聞けないかと。
「……あら?」
 先に違和を見つけたのはクララだ。状態の悪い本や抜けている本はないかと注意深く本達を見ていると、とある本が目に止まる。引き抜いてみれば、それは本ではなく、一冊のノートだった。
「っ……」
 触れている指から、ぞわりとした厭な感覚が伝わる。見かけはただのノートなのに。どうしてだろう?
 なぜか、恐ろしい。
 だが、自分はこの事件を解決するために此処にやってきたのだ。怯える自分を抑え込んで、ノートの頁を捲る。
 どうやら中身は少女の日記のようだった。最初は当たり障りのない日常のことが綴られていたそれは、徐々に様子が変わっていく。

『4月1×日
 結里花ちゃんが死んだ。きっとひとりかくれんぼのせいだ。でも、どうして?
 ひとりかくれんぼで人が死ぬなんて、そんなのはじめて聞いた。

 4月30日
 誰に聞いても何を調べても、結里花ちゃんが死んだ理由はわからない。
 こうなったら、私も噂に頼るしかない。
 『名無しの電話』をやってみよう。そうすれば、何かわかるかも。
 
 5月2日
 ついに明日、麗ちゃんや東一くんを誘って『名無しの電話』をやる。
 聞きたいことはたくさんある。
 だけど、たしか三つまでって言ってたっけ。
 
 5月3日
 間違えた。どうしよう。私は死んでしまうかも知れない。
 
 5月4日
 私の偽物がいるらしい。どういうこと?
 
 5月5日
 蒼井先生はどうしてだか『名無しの電話』について知っていた。
 あの人はどこか怖い。まるで、人じゃないみたいだ。
 
 5月6日
 見ちゃった。
 
 5月7日
 私の偽物を見てしまった。怖い。
 私は殺されるのかな。どうすればいいんだろう。どうすれば助かる?
 どうすれば。私、死にたくな』
 
 クララの次の頁をめくろうとする手が、止まる。
 頭の中で警笛が鳴り響いている。見てはいけない。見てはいけない。見てはいけない。
 しかし、何かに導かれるように、彼女はそれを捲り。

『5月19日
 お前のところにいくよ』
 
 まるで別人のような筆跡で書かれたその文字を、見てしまった。
 刹那、背筋に冷たいものが走る。眼の前にあるのはただの文字だ。ただの文字。シャープペンか鉛筆で書かれた、すぐに消える文字。
 ほんとうに?
 ならばどうして自分は今、こんなにも視線を感じるのだろうか。
 声が出せない。足が動かない。指が震える。体温が下がっていく。
 つたえなければ。これを、もうひとりの猟兵である彼に。
 その時。
「代わろうか」
 耳元で、静かに女の声がした。



 一方その頃、学級新聞を見ていた柚希はうーむと思案していた。
 ドッペルゲンガー、通称『偽物の噂』は5月の頭頃に広まったらしい。内容は他の猟兵達が集めてきた通りのものだ。
 『自分の偽物が学校内を徘徊していて、それを見つけると成り変わられる』。
 『自分の偽物と出会ってしまうと、自分が殺されて偽物が本物になってしまう』。
 『けれど、偽物と出会った生徒は誰もいない』。
 『ドッペルゲンガーは『名無しさん』で、ルールを破られた祟りを起こしている』。
 『『名無しさん』を鎮めない限り、ドッペルゲンガーは消えない』。
 どこまでが本当で、どこからが嘘なのかは分からないが、共有されていたものと似たような内容ばかり。
(「ハズレ、だったかな……」)
 そう柚希が思い、学級新聞を畳んで元の場所に戻そうとした時、ささやく声が聞こえてきた。

「ねぇ。どうして誰もドッペルゲンガーを見たことないか、知ってる?」
「知らなーい。授業中にうろついてるからでしょ?」
「違うよ。本当はね、ドッペルゲンガーを見た子がいなくなっちゃうからなの」
「いなくなるって……それ、入れ替わられちゃうってこと?」
「そう。……3組の子でね、見た子がいるんだって。すごい怯えてたんだけど、その次の日にはケロッとした顔で『なんでもないよ~』って登校してきたらしいの。変でしょ? だから、もしかして『入れ替われた』んじゃないかって言われてんの」
「うっそだ~。だってそんなの聞いたことないもん」
「そりゃあそうだよ。だって」

「――みんな知ってるもん」

「!!」
 その声が、まるで作り物のように聞こえたから、柚希は思わず席を立った。
(「今の声、何だ……?」)
 第六感が歪を告げる。何かが、おかしい。形容しがたい違和感。それが、今姿を現した。

「あぁ……それもそうだよねぇ。みんな知ってるか、そういえば」
「そうだよ。みんな知ってるでしょ」
「知らないのは、新しい子達くらいだよね」
「うん。それと『まだ』の子達だよ」
 囁き声は未だ止まず、柚希が周囲を見渡せどそれらしき生徒の姿はいない。
「そっかぁ。それじゃあ、代わってあげなきゃね」
「代わってあげよう」
 厭な予感がする。何か、とても厭な予感がする。
 そういえばもう一人の猟兵である彼女はどうしたのだろうか。書棚を整理するといって、どれほどたった?
(「クララさん……っ」)
 幸い図書室はそれほど大きくない。県立高校の図書室であれば、大の大人が早足で回れば人一人を見つけることなど容易い。
 目当ての彼女は、本棚の前で硬直していた。外界から遮断されているかのような彼女に、柚希はすぐさま歩み寄り肩を叩く。
「クララさん、大丈夫……?!」
「……ぁっ。あ、は、はい。ありがとう、ございます。私、日記を見ていて、そしたら……あれ? 日記が、ない……」
「僕がクララさんを見つけた時は、何も持っていなかったよ。だから、もしかすると」
「魅入られてたんでしょうか、私……」
「そうかも。……気をつけたほうがいいね、此処」
 囁き声は途絶え、誰かの日記は霧散した。
 然し背筋に張り付く怖気は拭えず、時計の針は進んでいく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

萬場・了

さあて、潜入だな。俺も転校生…
いや。今回は不登校のヤツの名前でもちょっと拝借してみるか。
組織の協力で、ある程度は話を合わせられるようにしておくぜ。

やることは校内の〈撮影〉をしながらの〈情報収集〉だ。
ふひひ、俺にとっちゃ普段通りだけどな!
だけどよ、急に登校してきた不登校生徒(の名を語るヤツ)が不審な行動をしてたら、誰かしら向こうから声をかけてくるはずだろ?
小言でもいいぜ?そういうヤツの方が、こっちが聞くまでもなくお喋りしてくれるだろうからな!

それに、あからさまに「入れ替わった」ヤツがいりゃ、周囲も噂をはじめるだろ。
俺自身が目立ってる間、怪しいヤツを見つけたら【影の追跡者】で〈追跡〉をかけるぜ!



●射影
「つーわけで、俺は久しぶりにこの雁坂学校に登校してきたわけだけどー……」
 学校指定のワイシャツを着て、いつもの通り愛用のビデオカメラを回して、夕陽の差し込む放課後の校内を歩き回っているのは萬場・了(トラッカーズハイ・f00664)。
 然し呪われたレンズを通して映る世界は美しい黄昏色とは程遠く、影のような靄が揺蕩うどこか作り物じみた世界だった。

「前からこんなんだったか? 此処は」
 此度彼が演じるのは不登校生の弓屋・一清。ここ数ヶ月の間、学校に姿を見せなくなった一清の名前と身分を借りて、了はこの不気味な校内で歩みを進めていた。
 派手な桃色の髪に水色のネックウォーマー、グラデーションのかかった青色の瞳は必然的に生徒たちの目を引く。

「ねぇ、あれほんとに弓屋なの?」
「冗談だよね……変わり過ぎじゃない?」
「別人だろ? 弓屋はもっと大人しいよ」
「噂のドッペルゲンガー?」
「ウケる。派手すぎでしょ」
「――じゃあ、あの人誰?」
 残っていた生徒たちがひそひそと話し合う声が聞こえる。
 突然登校してきた不登校生を名乗る男に、生徒たちは疑惑と好奇の眼差しを向けていた。
「ふひひ、いい感じに目立ってるな? 順調、順調!」
 そこまでは了の計画通り。こうして自分が目立っている間に、何か妖しい行動をしている人間がいたら格好の的だ。即座にユーベルコードを使用して、その素性を暴き立てる。
 それにあからさまに入れ替わった人間がいれば、周囲も噂を始めるはず。
 そう、『あからさまに入れ替わった人間』がいれば。

「分かった」
「分かった」
「分かった」

 生徒たちの声が聞こえる。それはどこかくぐもっていて、不快な声。
「何だ?」
 不自然に思い、了は前へと踏み出そうとした足を止める。
 レンズを通して周囲を見渡し、声の主である生徒たちを探そうときょろきょろと視線を彷徨わせた。
 視界に映るのは、いつの間にか誰もいなくなっていた教室。
 液晶に映るのは、そこかしこに佇む暗色の人影。
「ギ、ギギギ――」
 首元の異形が鳴く。ネックウォーマーの姿をしていたソレは、了に寄生する過去の残滓だ。
 同類を感知すれば自ずと動くそれが、この場の危険を知らせる。
 うるさいほどの静けさが、この場の異常を分からせる。
「おいおい……! いきなりかよっ!」
 まもなく此処に『何か』が来る。
 忍び寄る気配を察知して、了が走りだしたその時。

「「「ニセモノだ」」」

 ――そんな、声が聞こえた。 



 

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『『都市伝説』ドッペルゲンガー』

POW   :    自己像幻視
【自身の外見】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【全身を、対象と同じ装備、能力、UC、外見】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    シェイプシフター
対象の攻撃を軽減する【対象と同じ外見】に変身しつつ、【対象と同じ装備、能力、UC】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    影患い
全身を【対象と同じ外見(装備、能力、UCも同じ)】で覆い、自身が敵から受けた【ダメージ】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。

イラスト:天之十市

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●五十六番目の噂『ドッペルゲンガー』
「――『そういえば、君たちはこんな話を知ってる?』」
 黄昏に染まる空の下で、一人の男が愉快げに微笑んでいた。
 黒縁眼鏡を掛け、首からカードホルダーを下げた男。『教育実習生 蒼井・一葉』と書かれたそれが、じくりと黒く染まっていく。
「『ドッペルゲンガー。自分の偽物がいるって話なんだけどさ』」
 それは徐々に男の全身を覆っていき、更にはまるで濁流のように屋上全体へと広まる。噂のように、戯言のように、街談巷説の都市伝説のように。
「『実は、この学校に出るらしいんだよ』」
 男は呟く。唄うように、囁くように。ひどく楽しげに、とびきりの悪意を込めて。
「『先生たちが言っていたのを聞いただけだから、証拠はないんだけどね』」
 やがて漆黒の濁流は屋上からこぼれ落ち、この高校すべてを覆う。
「『秘密だよ。俺と君たちだけの、秘密だ』」
 これは結界だ。噂に汚染されたこの場に飛び込んできた獲物を確実に屠るための絶対無欠の領域。入り込んだものは、喩え誰であっても逃れられはしない。
「高校生っていうのは扱いやすくていい。根も葉もない噂を簡単に信じて、面白おかしく踊ってくれる。おかげでこんなに沢山出来上がった」
 男がぱちんと指を鳴らせば、影からずぶりと人影が立ち上がる。
 次々と現れるそれは無数。黒く塗り潰されたようなそれは、形を持たない不定形の存在――ドッペルゲンガー。
「さぁて、それじゃあ始めようか猟兵ども」
 蒼井・一葉と名乗っていた男は両手を広げて空を仰ぐ。
 底の視えない黒に染まった、暗夜の如き空を。

「百にも届く噂の一つ。これが『偽物の噂』だ」



 猟兵達の視界が暗転する。学校内にいたものも学校外にいたものも、この場にいるすべての『偽物の噂』に携わったもの達の視界が黒く染め上げられ、次に気づけばそこは教室だった。
 各学年のホームルーム教室、音楽室、保健室、図書室、体育館、生物室、コンピューター室、職員室……猟兵達によってその場所は異なるものの、目前に広がる先ほどまでは違う光景。
 肌に感じる違和感は、紛れもなく過去からの残滓であるオブリビオンのもの。
「……仕掛けてきたか」
 猟兵達の誰かが言った次の刹那。
 ごぽりと暗闇が沸き立つ。じゅくじゅくと空気が腐っていく。床から漆黒のなにかが湧き上がりゆっくりと人の姿を形づくる。
 形のないくらやみが、姿を取り、猟兵達の眼の前へと顕現する。
 その姿は、よく知る自分。

 二重に歩くもの(ドッペルゲンガー)。

 ぞわり。
 自分が揺れる。
 ぞわり。
 心が揺れる。

 ――何かが、内側から引きずり出されるような厭な感覚がした。

================================
 プレイングは 5/21(火)8:30~ からの募集とさせて頂きます。

 ドッペルゲンガーは猟兵である『あなた』の姿を取り、『あなた』の恐怖を掻き立てる干渉を行ってきます。
 『あなた』は何が怖いですか? 『あなた』は何を怖れますか?
 『あなた』にとって、最もおそろしいことはなんですか?
 もしも秘することがあるのならば、暴かれてしまうかもしれませんね。

 また、こちらの描写は全体的にアドリブ多めになります。ご容赦ください。
================================
宮前・紅
【SPD】★
成る程ねえ。恐怖、恐怖か…敢えて言うのなら“孤独”になる事かもね…

独りが平気な時もあった
でも、色んな出会いもあって人の温かさを知ってしまったから、“孤独”がより一層怖くなった

『本当は君は、怖いから
 “独り”になるのが怖いから笑ってるんでしょ』

“俺”だったらきっと認めたくなくて「違う!」って言い張る筈。本当の事なのにね…全くの皮肉だよ
これは賭け、だ。ドッペルゲンガーが完璧な“俺”になるのなら思考も真似るだろうと思ってさ、嘘を言えばUCが発動して攻撃する

それが駄目だったら、そのまま攻撃するしかないか……生憎死ぬ恐怖は無いからね(早業+捨て身の一撃)

きっとこれが終われば孤独から逃れられる



●孤毒
 ――眼の前を、相棒が歩いていく姿が見える。
 伸ばした手が空を切り、『彼』はどんどん遠ざかる。
 ハッと周りを見れば、馴染みの店主である彼女が、同僚の彼が、飲み友達のあの人が、遠く遠くへと歩いていく。
 どれほど走っても、どれほど声を張り上げても、彼らの足は止まらない。自分などまるでいないかのように、彼方の闇へと消えていく。
 
「まって、置いて行かないで。どうして行ってしまうの? 俺を独りにしないで」
 ふと、耳元で囁かれた自分の声に、宮前・紅の心が軋む。
「独りは嫌だ。独りは嫌だ。独りは嫌だ」
 呪文のように口遊まれる言葉は紛れもなく本心。
 独りが平気な時もあった。けれど、多くの出会いを通じて人の温かさを知ってしまったから、『孤独』がより一層怖くなった。
 誰も彼もが自分から離れていってしまったら? 皆、自分のことなど見向きもしなくなったら?
「……黙れ」
 ざわめく心を押し殺し、紅は吐き捨てる。
 そんなことは有り得ない。有り得ない、はずなのに。
「嘘吐きだね。俺(キミ)は」
 クスクスと楽しげに嗤う声。ぬるりと冷たい感触が体に纏わりつく。視界の端に映るのは、自分と同じ灰色の髪。
 
「人殺しのくせに」

 一族全ての命を奪ったその手で、誰かの手を取れるなどとわらわせる。
 クスクス。クスクス。クスクス。クスクス。
「うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさい――!!」
 無理矢理に影を振り払い、糸繰り人形を展開。
 全身に流れる埒外の力を流し込み、紅は絶叫する。
「本当は君は、怖いから――『独り』になるのが怖いから笑ってるんでしょ!!」
 その質問に。
 
「違うよ」

 ひどく歪な笑みを浮かべた影が答えれば、紅のユーベルコードが発動する。
 嘘を吐いたものを罰する一撃。その名を。
「ッ……!!『人形:裁定者による諧謔曲(マリオネット・スケルツォ・アービトゥレイター)』!!」
 刹那、無数の欠陥人形が目前の宮前・紅(ドッペルゲンガー)を刺し穿った。
 串刺しのように貫かれた影は、苦悶の表情を浮かべながら崩壊し、やがて消滅する。
 ――皮肉なものだ。自分自身の嘘を、自分自身で暴くことになるなんて。
 独りは怖い。独りは怖い。独りは怖い。
 だから、速く終わらせないと。そうしたら、きっとこんな孤独から逃れられる。

成功 🔵​🔵​🔴​

鬼竜・京弌朧
【ホワイトロック】
敵UCWIZ希望。

偽物の偽物に負ければ、俺は、俺は……!
くそっ!UC発動!!!
俺が、俺として培ってきた力だけは……お前たちに負けない……!
(しかし、強化された相手の放つ同じユーベるコードによって自分の虚皇兵達が倒されていく)
う、嘘だろ……なぜ俺よりも上手く扱えるんだ。……何故……。

そう、か。やはり、偽物の偽物が、お前が、本物なんだな……。
(心が折れ、戦意を失ったところに俺が世話してやってる男の声が上がる)

……エスタシュ?
ああ、君がそう言うのなら、俺はそうしよう(もう俺には、自分で選ぶことはできないから)
そう、俺はいつだって、誰かの言うとおりにしてればいいんだよ……。

そうだろ?


エスタシュ・ロックドア
【ホワイトロック】
おそろしきもの
とんと思いつかねぇが我慢ならねぇモンはある
自由の剥奪
だが同じ位ぇ我慢ならねぇのが、
俺が面倒見たヤツにちょっかい出される事だ

京弌朧!
自分のドッペル放って【ダッシュ】で駆け寄るぜ
京弌朧のドッペルに【怪力】で鉄塊剣を振るって斬る
どっちか俺の知る京弌朧かって?
【第六感】だよ
オブリビオンなら悠長にボコられる訳ねぇだろ
腹立つ事に俺のドッペルは【火焔耐性】持ち
『羅刹旋風』で動きの読みあいしながら斬り結ぶぜ

偽物だの、本物だのうるせぇな
そんなん浄玻璃の鏡で一発だ
閻魔サマの御前に引っ立ててやろうか

なぁ京弌朧、
俺ぁお前以外の京弌朧に伝票見せる気も飯食わせる気もねぇからな
一緒に帰ろうぜ



●浄玻璃の鏡
 一人、二人、三人、四人、五人。己と全く同じ姿をして、ひどく冷徹な表情を浮かべる影がじくりと虚空に浮かび上がる。
 揺れる青髪に額に生えた一対の角を持つ彼らは、紛れもなく鬼竜・京弌朧の鏡像。
 鏡像達はゆっくりと京弌朧を囲むように歩みを進める。一歩、また一歩。
 鏡像達が己に近付く度に呼吸が浅くなる。気分が悪い。頭がずきずきと痛んで、足場がぐらぐらとおぼつかなくなる。
 はやく、はやく倒さなければ。でないと――。
「偽物の偽物に負ければ、俺は、俺は……!」
 瞳孔が揺らぐ。冷や汗が流れる。もしも偽物である自分の偽物に負ければ、その時自分は本当に『何者にもなれない男』になってしまう。王にもなれず王子にもなれず、誰かを救う英雄にもなれない。何者にもなれない自分に、きっと居場所はどこにもない。だから。
「くそっ! UC発動!!!」
 振り切るように京弌朧は声を上げる。
 俺が、『俺』として培ってきた力だけはこんな鏡像達に負けはしない。そうだ。俺は幾度となく闇の決闘で生き残ってきた。強敵との死闘も
制し、多くの死線を潜り抜けたのだ。この『虚皇』達と共に。
 装備するクロスオーバーディスクからカードを一枚引けば、それは仄暗い光を放って埒外の顕現を促す。
「フラッシュマジック! 濫立する虚皇兵を発動!」
 京弌朧の声に応じるように、まるではじめからそこにあったかのように二十三体の黒き兵士たちが姿を現す。
 彼らは京弌朧を守るように鏡像達へと突撃し、その剣戟を振るう。
 
 しかし。
 
「フラッシュマジック。濫立する虚皇兵を発動」
 底冷えするような声で、鏡像の一人が囁く。ぴしりと何かが砕けるような音がして、世界の狭間からもうひとつの虚皇兵達が姿を現す。
 その数、四十六。京弌朧の呼び出した虚皇兵と、鏡像の呼び出した虚皇兵が激突する。
 はじめは京弌朧が優勢かと思われたが、徐々に京弌朧の虚皇兵は撃ち倒され消滅していく。
「う、嘘だろ……なぜ俺よりも上手く扱えるんだ。……何故……。」
 まるで砂糖菓子のように次々と消えていく虚皇兵。まるで何処かの『王』のような冷たい眼をした鏡像達を前にして、遂に。
「そう、か。やはり、偽物の偽物が、お前が、本物なんだな……」
 京弌朧の心が、折れた。
 刹那、廊下を満たしていた暗闇が己の体へと纏わりつく。
「そうだ。お前は偽物だ。何者にもなれず、何処にもいけない」
 ――声が、聞こえる。
「何者にもなろうとしないものが、何者かになれるはずもない。何処にもいこうとしないものが、何処かにいけるはずもない。求めることができぬものに、満足など訪れるものか」
 ――それは、自分の声だ。自分を囲む、鏡像達の声。
「お前はそうして、自分で自分を諦めているといい。偽物のお前には、それがよぉく似合っている」
 ――ゆっくりと、瞼が重くなってくる。ひどい眠気だ。それにもう疲れてしまった。自分よりも優れた自分がいるのならば、『鬼竜・京弌朧』など要らないじゃないか。
「あとは俺が、俺たちが引き継いでやろう。お前はその闇の中で、未来永劫眠ると良い」
 ――声が、聞こえる。奴等がそう言っている。ならば、きっとそれがいいのだろう。もう、何も考えられない。何も自分で決めることなどできない。それにひどく眠いんだ。だったら、もう。
 京弌朧の頬を一筋の涙が伝う。そうして彼が瞳を閉じようとした、その時。

「京弌朧!!」

 地獄の底から響くような、男の声が聞こえた。
 ザンッ!! と鏡像の京弌朧の一人が断ち切られる。その向こうにいたのは、漆黒のライダースに身を包み憤怒に顔を歪ませた鬼。
 ――エスタシュ・ロックドア。
「我慢ならねぇ。ふざけんじゃねぇぞてめぇら。俺が面倒見たヤツにちょっかい掛けて、タダで済まされると思うなよ!!」
 再び暗闇から生まれ落ちた鏡像達を手にした燧石の鉄塊剣でなぎ払い、エスタシュは暗闇に飲まれつつある『鬼竜・京弌朧』へと歩み寄っていく。
 周囲に蠢く同じ顔をした奴等など眼中にない。何故? そんなものは決まっている。火を見るより明らかで、どんなことより単純明快。
 
 エスタシュ・ロックドアは、『鬼竜・京弌朧』の友だ。何者にもなれないと嘆く、一人の男の隣を歩く者。
 
 だからこそ迷わない。鏡像の零す耳障りな雑音も届かない。立ちはだかる虚皇兵は叩き斬り、追いついてきた自分の鏡像は吹き飛ばす。
 恐ろしいのは自由を奪われること。されどそれ以上に許せないのは京弌朧に手を出されたこと。恐れも怖れも振り切る憤怒が、獄卒の体を果なく駆動させる。
「偽物だの本物だのうるせぇな。そんなん浄玻璃の鏡で一発だ! 閻魔サマの御前に引っ立ててやろうか」
 斬りかかる鏡像の動きを読み一撃、ひるんだ隙に二撃、最後に心臓を貫く三撃目を食らわせて前へと進む。
 それでも邪魔をする敵達を怪力を伴った腕で顔面を掴んで側の壁に叩きつけ、鉄塊剣の斬撃で纏めて斬り払う。
「なぁ京弌朧! 俺ぁお前以外の京弌朧に伝票見せる気も飯食わせる気もねぇからな!」
 そうして辿りついた友の襟首を掴んで、暗闇に沈みゆく彼をぐいと引き上げる。
「だから、一緒に帰ろうぜ」
 その時、闇に閉ざされようとしていた京弌朧の視界に、僅かな炎が灯った。
「ぁ……エスタシュ? ――ああ、君がそう言うのなら、俺はそうしよう」
 目が覚めたような、どこか呆けたような瞳をして京弌朧は素直に頷く。
「なら、さっさとこいつらぶっ倒すぞ!」
「……分かった。倒せば良いんだな」
 こくりと頷き、ゆっくりと京弌朧はクロスオーバーディスクを構える。
 ――そうだ。簡単なことじゃないか。俺はいつだって、誰かの言うとおりにしてればいいんだよ……。
「そうだろ?」
 くすりと自嘲のように微笑む京弌朧の姿を、エスタシュは視えていただろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

銀山・昭平
◎▲
やっぱり噂を広めてたのはオブリビオンだったんべな。
しかもそれで増えてたという嬉しくねぇオマケつきだべ。

◆戦闘
おらと全く同じ姿と能力ってなんかやりづらいべ。
できる限り、UCを使う前に先制攻撃で数を減らしてぇが……

【ガジェットショータイム】を発動させて相手に何が有効なのかヒントを得たいべな。
…………お粥?というかこれは『おもゆ』だべ。まるで離乳食かなにか……あぁ、つまり『捨て子だったらしいおらにも』有効なものって事なんだべな。ますます戦いづらいというか悪趣味な奴だべ。

だが甘かったべな。本物のおらは過去に囚われるくらいなら、たとえ生みの親に捨てられようが、育ての親が殺されようが、前だけを見るべ!



●餓飢
 銀山・昭平にとって、噂の発生源がオブリビオンであるということはさしたる衝撃にはならなかった。
 自分たち猟兵に仕事として回されてきた時点で、その事は八割決まっているようなもの。故に噂のせいでオブリビオンのドッペルゲンガーが増えていたとしても、異界と化した校舎に自分たちが閉じ込められようとも『厄介だな』と思うに留まっていた。オマケというには余りにも嬉しく無い出来事に、やれやれと昭平は首を振る。
 即座に懐から取り出した絡繰レンチを握りしめると、周囲の暗闇に意識を巡らせる。
 不意に暗闇が粘土のようにぐにゃぐにゃと形を取り、やがて一つの像となって昭平の前へと現れる。
「腹が、減ったべ。食い物はねぇべか。食い物、食い物、頭が、おかしくなりそうだべ……」
 それは呪文のように飢餓を呟く己の鏡像。その手には絡繰レンチを握りしめ、虚ろな瞳で昭平を見ていた。
 
「おらと全く同じ姿に武器……この調子だと能力も同じだべな。なんかやりづらいべ」
 レンチを握る手に力を込める昭平。しかし多数で襲いかかってくると思っていた手前、たった一体で現れたことに些細な違和感を覚える。
(「おかしいべ……本当はもっといるはず。どうして一体で……?」)
 からん。
 ふと、眼の前に何かが落ちてきた。
 目前の鏡像から意識を逸らさないように注意して、落ちてきたものを手に取る。
 それは赤い盃に入った白い液体だった。中身は落ちた時にほとんど溢れてしまったようで、盃の中には僅かしかなかった。
「…………お粥?というかこれは『おもゆ』だべ。まるで離乳食かなにか……」
 そこまで昭平が考え盃を捨てようとしたところで、その異変に気づく。

 体が、動かない。
 
「なんだべっ……!」
 まるで何かにがっちりと固められてしまったかのように、身動きの一つも取ることができない。
 下を見ればそこには無数の『自分』がいた。痩せさらばえた無数の自分が、まるで地獄の亡者の如く自分の下半身へと群がっている。
 
『腹が減った』。
『食い物だべ』。
『食わせろ』。
『肉寄越せ』。
『腕はおらのだ』。
『足はおらがもらう』。

「ひっ……?!」
 鼓膜を震わせる怨嗟の声に小さな悲鳴を零す。
 しかし、昭平はすぐさまキッと前を見つめると、自分を猛らせるように、過去の怨念を押しつぶすように声を上げた。
「――甘かったべな。本物のおらは過去に囚われるくらいなら、たとえ生みの親に捨てられようが、育ての親が殺されようが、前だけを見るべ!!」
 同時、昭和のレンチを握っていない手から光が放たれる。それは彼の身に流れる埒外の力による召喚術『ガジェットショータイム』。
 虚空から現れたのは皮肉にも己の鏡像が呼び出したものと同じ赤い盃に入った白の液体――即ち、重湯。
「……ほんとうに、やりづらいべな!」
 ばしゃりと重湯を周囲に振りまけば、纏わりついていた自分達が餌食を求めて離れ。
「フンッ!!」
 鏡像に、鋼の一撃が撃ち込まれた。

成功 🔵​🔵​🔴​

アルトリウス・セレスタイト
そうか
原理に到れるのなら、見事成り代わってみせるが良い


自動起動する真理の連続行動能力で封殺に掛かる
ユーベルコードで模倣するのなら、魔眼・停滞でその起動を打ち消して阻む
そのまま機を与えず魔眼・掃滅で消去

仮に摸倣を許したなら、どこまで再現されているか確認
真理を写せているか。その盾を纏えているか。消失による反撃は来るか
諸々確認のため魔眼・封絶で拘束を図る
盾があるなら効果無しかもしれないが、その時は魔眼・封絶を連続起動し続け無理矢理拘束し、具象化した原理を叩き付けて排除


恐怖と言うなら、原点たる空虚への旅は恐るべきものだろう
紡いできた物語が無に帰すことは御免被りたい



●幻理
「ァ、――――」
 ごぽりと浮かび上がった自分と同じ姿をした物体が消去される。
 藍の輝きが揺らめいたと思えば、その次の刹那に処理は実行された。
「脆いな」
 アルトリウス・セレスタイトの唇から無機質な声が零れる。
 幾ら己を模倣するといえど、所詮相手は過去の残滓。機を与えずに空間を初期化し、そのまま影を異空へと追放する。
 単純にして明快なるその所作は、彼の纏う真理の機構によるもの。言葉にもできず、心に思うこともできないそれは、ただ唯つの現象として訪れた。
「少しは期待したが、無用だったか」
 吐き捨てる。そうしてそのまま首魁の待つ上へとアルトリウスが歩みを進めようとした、瞬間。

「諸行は無、諸法は虚、一切は寂滅する」

 目前が暗闇に鎖される。
 それが己の鏡像による干渉だと気付くのに時間は必要としなかった。
 身に纏う原理の鎧さえをも無視するそれ即ち――完全なる模倣。
「……そうか」
 己の四肢が塵となっていく、思考が、記憶が、その総てが綻び、那由多の時を彷徨った空虚へと帰依していく。
 アルトリウス・セレスタイトという残骸が、形も残らず消える。
 彼が紡いできた物語の一切が、泡沫の夢の如くはじける。
 それはまさしく、彼が思い描く上で最悪の結末だ。
 己の手で、己の意思で歩んできた道が、これまで己が消し去ってきた過去と同じく零になる。痕跡も証拠も何も残らず、それが『在った』という印さえ残りはしない。まるで『はじめからいなかった』かのように、己の根源である世界から排斥される。あぁ、それはなんと――虚しいことか。
 だが。
 
「原理に到れるのなら、見事成り代わってみせるが良い」

 それは今ではない。
 何れはそんな未来が訪れることもあるだろう。それは明日か? それとも数年後? それは分からない。だが、その時が今ではないということをアルトリウスは確信していた。
 今、この身に起こっていることは幻だ。
 己が原理の器だとするのならば、敵は幻理の器。原理にあって原理に非ず。
 ならば、己が負ける道理はない。
「――淀め」
 世界の根源の『瞳』が開く。存在の核を捕らえる原理の魔眼に見定められた鏡像がその姿を顕せど、彼が動くことはできない。
 禁じられているのだ。能力の発露を。故に、今この場にアルトリウス・セレスタイトという男が負ける未来は存在せず。
 鏡像を覆う幻理の盾が魔眼を弾こうと、幾度となくアルトリウスは力を行使する。一度、二度、三度、四度。そうして重ねる度に幻理の盾は罅割れ、崩れ――。
「排除する」
 そうして具象化された原理が、鏡像の存在を掻き消した。

成功 🔵​🔵​🔴​

花菱・真紀
目の前には俺のドッペルゲンガー。
憎い、憎い、憎い、怖い。
『怖い』
またあいつに騙されるのがまたあいつに大切なものを奪われるのが。
騙されて奪われるだけの俺が怖い。

『蒼井・一葉』はきっとあいつだ…。
『久しぶり』だなんて友達みたいに言うんだ。
そんなあいつが怖い。
もう一人の俺が諦めろと笑う。
もう一人の…もう一人
(UC【オルタナティブ・ダブル】を無意識に使用。別人格の有祈が現れる)
俺があいつに負けないように作った俺。
有祈が大丈夫だと言う。
姉ちゃんの死を乗り越えた今なら勝てると。

目の前の俺になら勝てる。
その俺よりは俺は強くなったはずだから。
(有祈と共に拳銃の引き金を引く)

アドリブ歓迎です。



●再怨
「ッ……」
 眼の前に立ちふさがる自分の鏡像を前に、花菱・真紀は苦い表情を顔に刻んだ。
「怖い、怖い怖い怖い怖い!! 姉ちゃんはあいつのせいで死んだ!」
 頭を抱えて歪な笑顔を浮かべ、声を荒げる鏡像。それは紛れもなく己の映し身、紛れもない偽物。
「もう騙されたくない、もう奪われたくない! 戦いたくない! 嫌だ、どうして? 折角忘れていたのに、どうして思い出させた!?」
 或いは、それは真紀の中に潜んでいた暗闇の発露なのかもしれない。
 姉の死を受け入れられなかった真紀は、その記憶をずっと忘却していた。思い出さないように、目を向けないように、ずっとずっと蓋をしていた。
 姉は死んでいない。誰も喪っていない。自分は誰にも騙されていないし、何も奪われていない。それが花菱・真紀にとって現実で、真実だった。
「諦めろ、真紀(おれ)。お前じゃあいつには勝てない。今度奪われるのは有祈か? それとも、今度こそ」
「やめろ、やめろ……っ!」
「分かってるよ。本当は憎いんじゃなくて怖いんだろう? だったらやめちまえよ。後は俺が引き継いでやるからさァ」
 真紀(かげ)が嗤う。唇に弧を浮かべて。
 影が背後に無限数の悪意を渦巻かせ、ゆっくりと手を伸ばせば真紀の足が黒く染まっていく。徐々に上へ上へと侵食するそれは、自我を消し去る紛い物の闇。
 『自分自身が奪われる』。その恐怖に、『もうひとり』が呼応する。

「いいや。今度は何も奪わせない」

 いつの間にか、真紀の隣には有祈がその姿を現していた。
「有、祈……?」
「俺たちは姉ちゃんの死を乗り越えた。忘れてないだろ? 姉ちゃんの言葉を」
 忘れてなどいない。もう忘れないと誓ったのだから。
 ――姉ちゃんがいなくても、絶対生きるのよ。
「……当たり、前だろ」
 懐から拳銃を取り出して、眼の前の鏡像へと銃口を向ける。
「――勝てるのか? 真紀、お前が、『俺』に」
 囁く声が、誘う声が、あの日眼の前で嘲笑していた男の顔と重なる。
「お前だって『俺』と似たようなモノだろう。根も葉もない噂を集め、ばら撒き、そして愉しんでる。お前と俺、一体何が違う?」
「……ッ」
 ギリ、と歯を鳴らす。怒りと恐れに震える真紀の手の上に、有祈の手が重なる。
「真紀(おれ)。お前じゃああいつに勝てない。真紀(おれ)は、誰かの後ろで泣いているのがお似合いだ」
「……かもな。だけど、少なくとも俺の目の前にいる真紀(おれ)になら勝てる。俺は、ずっと強くなったはずだから」
「それに、勝負というものはやってみなければ分からない。負ける気なんて、最初から無いさ」
 銃声が響く。鏡像の脳天に、風穴。
 無限数の悪意にも負けぬ一発の弾丸が、鋭く過去を射貫いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

空亡・柚希

アドリブ→◎、▲
判定→SPD

*
恐れる事
両手の腐食が隠せなくなること

いくら除こうとも錆びが覆う金属の手
血の通った肉体の手だった頃とは何もかも違う
隠すのは見られたくないから、見たくないから?

*
噂を聞いた時もだけれど、実際に見てみると猶更だ
きみがわるいよ、ほんと……

目を逸らす?瞑る?いや、そんなことしたら死んでしまう
なるだけ早く倒して、早く消えてもらわなくては

錫の兵隊駒を武器に変えて、攻撃を加えていく(《Tinsoldat XXV》使用、〈スナイパー〉)
外れた時は〈誘導弾〉+〈追跡〉で、出来るだけ無駄撃ちを避けたい



●腐廃
 男が、錆び付いている。
 それを隠そうとしていた手袋は朽ち果て、男の両腕を覆う真紅の酸化が明らかになっていた。
 最早ロクに動かないであろうその腕を無理矢理にあげて、目の前の男が呟く。
「隠すのは見られたくないから? 見たくないから?」
 ギィ。
 鉄の擦れる耳障りな音がした。
 空亡・柚希は知っている。ソレが自分自身であると。
 幾ら除いても月日が経つ度に錆に覆われる自分の義手。おびただしい血に汚れ、もう二度と生身の腕に戻ることはない。機械へと置き換えられたこの腕は、ひどく冷たく、そして醜く。とても誰かに見せられたようなものではなかった。
 だから、隠すのだ。
 だから、隠すのか?

「きみがわるいよ、ほんと……」
 自分と同じ姿をした影を見つめて、柚希はぼそりと呟く。
 はじめて噂を聞いた時にも思ったが、やはり実物を前にすると尚更だ。これまで隠していた自分の穢れが、形を持って動いているのだから。
(「目を逸らす? 瞑る? いや、そんなことしたら死んでしまう。なるだけ早く倒して、消えてもらわなくては」)
 ポケットから一本足の兵隊駒を取り出し握れば、それは瞬く間に長銃へと変貌する。
 それが柚希の持つ能力――『Tinsoldat XXV(スズノヘイタイ)』。
「喩えどれだけ他人を巧く騙そうと、僕(じぶん)を騙すことはできない」
 不意に影が謳う。
「分かってるよ、僕。本当は、僕が一番この腕を見たくないんだ。父のせいですべてを喪った。その証拠だから」
「……違う」
「夢も諦めた。理想も棄てた。この腕が生身の腕だったら、もしかしたら成し得たかもしれないのに」
 想起されるのは、あの日。喪った腕を『直された』日。
「きっといつか白日の下に晒される。自分がどうしようもなく汚れていると。この腕は、どうしようもなく穢れていると」
「……違うって、言ってるだろ」
「だったら証明してご覧。錆に塗れたその腕で、一体どこが違うと言える?」
 心無しの空亡・柚希(ぼく)。
 刹那、耳を塞ぎたい程の音を伴って、映し身の腕が『直る』。その形は銃。ひどく錆付き、腐臭と血に塗れた禍々しい長銃。
 
「……煩いな。はやく消えてくれよ」
「だったら君が消せばいい。どちらがどちらをはやく消せるか、勝負といこう」
 銃口を向けるのは同じ姿をした己同士。二人はグリップを確りと握り、引き金を引いた。
 ――ドン。
 ひとつの銃声が鳴り。
「は、はは」
 ぐらりと映し身の肉体が揺れて。
「きみがわるいのは、お互い様だろう……?」
 そのまま、空気に溶けるように霧散した。
 残ったのは、黒い手袋で錆を隠した本物。彼は苦々しく眉間に皺を寄せ、足早に去っていく。
 大丈夫。この錆は、まだ隠せる。

成功 🔵​🔵​🔴​

マレーク・グランシャール
★◎▲
人は自分と似たものを嫌悪するという
俺の偽物を増産されるのも腹が立つが、蒼井・一葉、女学生を標的にしたお前もだ

確かに俺は愛を失うことを怖れている
記憶がないのは忘れなければ悲しみに耐えられなかったからだろう

だがな‥‥そんな俺にも今は大好きだと言ってくれる友がいる
記憶もなければ希望もない俺でも心配してくれる友がいるのだ

【泉照焔】を掲げて友が分けてくれた命の炎で辺りを照らそう
偽物共が目を背けた瞬間に【汗血千里】を発動し、風竜の力で敵を打ち払う
俺のUCを真似したければ真似ろ
偽物のお前らに生ける者の証、血と命があるというのならな

待っていろ蒼井一葉
貴様を倒して本物の学生達を取り戻してやる



●同賊
 ――人は自分と似たものを嫌悪するという。
 自らの衝動や性質を認めたくない時、人は他人にそれを押し付けて非難する。例えば責任、例えば狂気、例えば、愛欲。
 増産された自分の偽物と対峙するマレーク・グランシャールもまた、そんな嫌悪を内側に潜めていた。
「まったくもって、腹立たしいな」
 ぶんと槍を振り、構える。
 自身の偽物がこうも眼の前に何体も現れることもそうだが、唯の女子生徒を標的にしたあの男も許し難い。
「失うくらいならば、いっそ喰らってしまえばいい」
 鏡像が嘯く。マレークとまったく同じ槍を持って、マレークと同じ瞳をして。
「愛を失うことは恐ろしい。ならばこの身に収めてしまえばいい。されどそれでも愛は消え、裂いた内には虚ろが残る」
「……確かに俺は愛を失うことを怖れている。記憶がないのは忘れなければ悲しみに耐えられなかったからだろう」
 人は、抱えきれない悲しみを背負った時に自己防衛の本能として記憶を抹消する時がある。それはごく自然なことだ。猟兵であるマレークとて同じこと。愛失の感情は飢餓の欲望よりも濃く、深く、自壊を促す程。
 故に亡くした。
 記憶を噛み砕き、嚥下し、喰らいつくした。
「だがな……そんな俺にも今は大好きだと言ってくれる友がいる。記憶もなければ希望もない俺でも心配してくれる友がいるのだ」
 脳裏に過るのは『彼』の姿。自分を"まる"と呼び、共に世界を駆けた『彼』。彼のためにも、そして成り代わられた生徒たちのためにも、ここで立ち止まっているわけにはいかない。
「お前たちは、ここで討つ」
 その言葉を起動の合図として、懐にしまう泉照焔が眩い光を放つ。あまりの光に鏡像達が目を背ける。その隙に。
「『汗血千里(ドラゴニック・ワイルドウィンド)』」
 マレークの持つ槍が翡翠色の疾風を纏う。それは千里を駆ける竜の槍。主であるマレークから汗血を吸い、より疾く、より強く荒れ狂う暴風の埒外。
 設置された机が吹き飛び、留められた紙束が飛び上がる。
「真似をしたければ真似ろ。偽物のお前らに生ける者の証、血と命があるというのならな」
 轟!!
 爆風と共に竜槍が振るわれる。激しい風圧を伴って巻き起こったそれは鏡像達の姿を掻き消し、暗闇へと引き戻していく。
 次々と霧散していく鏡像。その最中に、マレークは耳にする。
「だが、それでもお前は飢えている」
「自己犠牲は尊いものではなく」
「何よりも自己を大切にできない証左」

「――その欲は、決して満たされない」

 自分の声だった。真夜中に冷たく凍える鉄のようにどこまでも怜悧で、穴の空いた水壺のような空虚を孕んだ、そんな声。
「……それでも、俺はカガリと歩むと誓ったのだ」
 再び槍を一振りすれば先程までの風はピタリと止み、無謬の静寂が訪れる。
「待っていろ蒼井一葉。貴様を倒して、本物の学生達を取り戻してやる」
 何処かで、嘲笑う声が聞こえた気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レナータ・メルトリア
★◎◎◎◎◎▲

わぁぁ、私のそっくりさん! ……じゃあ、貴女が私の偽物なのね?
でも残念、不完全ね。私はお兄ちゃんが居てこそのわたしなの
姿形は似せてても、その木偶人形を連れている貴女は私足り得ないわ

血晶で作った槍をUCで強化して、躍りかかるよ
私と全く同じなら、潜入の為お兄ちゃんがこの場に居ない私の方が不利だよね
この不利を覆すため【捨て身の一撃】だったとしても私のそっくりさんを早めに仕留めなきゃ
たとえ、偽物のお兄ちゃんが邪魔しても、纏めて【串刺し】にしちゃう


恐怖
人形の兄と本物の兄の差が明確になる事

私はお兄ちゃんに依存している。でも、今のお兄ちゃんがお兄ちゃんじゃ無かったら、私は……何になるのだろう?



●総違
 物言わぬ『兄』を連れて、もうひとりの『妹』が微笑む。
「わぁぁ、私のそっくりさん! ……じゃあ、貴女が私の偽物なのね?」
 血潮に満ちたような赤い瞳が揺れれば、レナータ・メルトリアは鈴の音のようにはしゃぐ声で問う。
「ごきげんよう、私。偽物だなんて寂しいこと言わないで? 私は貴女、貴女は私よ」
 『妹』は暗い笑みを浮かべて答える。『兄』はそんな妹を守るように前へと立ち、レナータをじっと見つめる。
「そうなのかな? そうなのかも! だけどどっちでもいいよ、そんなこと」
 唄うようにつぶやきながら、持ち込んだ魔術装置を起動する。同時、レナータの腕から鮮血が迸り、それは禍々しく鋭い槍の形を成した。
 そして続けざまに何事かを囁やけば、槍は二叉に別れ、獲物を食らう獣のような形態へと変化する。
「貴女はここで終わるの。すぐ、貫いてあげる!」
 槍を携えたレナータは疾走る。目前の『兄妹』をこの手で刺し穿つために。
「くすくす。怖いのね、とっても怖い。だけど、ねぇ貴女――」
 対する『妹』は何がおかしいのか薄い笑みを浮かべて、その言葉を紡いだ。

「真っ赤なお花は、すきかしら?」

「!!」
 刹那、『妹』から針状種子が発射される。
 しかし、それでもレナータは止まらない。無数の針が体に突き刺さろうと、痛みを堪えて偽りの『兄妹』へと接敵する!
「なっ、どうして……!」
「残念、不完全ね。私はお兄ちゃんが居てこそのわたしなの。姿形は似せてても、その木偶人形を連れている貴女は私足り得ないわ」
 そうして――血槍が、『兄妹』を貫いた。
「ぁ……」
 けれど、レナータは同時に気付いてしまう。
 今目の前に在る『兄』は、人形ではなく。
「"レナータ"」
 肉体を持つ、人間で。
「"お兄ちゃん"」
 僅かに言葉を交わした『妹』こそが、人形。
 
 最期までお互いのことを愛おしそうに想いながら、レナータ・メルトリアという一人の少女が貫いた紛い物の兄妹は霧散した。
 
 分かっている。分かっているのだ。ほんとうはずっと、分かっている。
 私はお兄ちゃんに依存している。でも、今のお兄ちゃんがお兄ちゃんじゃ無かったら、私は……何になるのだろう?
 少女の心に宿る不安の種が芽を出す。
 幾度壊れても壊しても、決してなくならない私の『お兄ちゃん』。だけどそれは、本当に『兄』なのだろうか。

 ――私は、何か大きなことを忘れてるんじゃないだろうか。

 ぎゅ。と服の裾を握りながら、レナータは歩き出す。
 一刻も早く『お兄ちゃん』の元に戻るために。こんな気味の悪い場所から、抜け出すために。

成功 🔵​🔵​🔴​

萬場・了

ふひひ、さすが。俺と違ってモノマネがお上手で。
…んで、ニセモノの真似をして、お前はいったい誰に成ったんだ?
さあ、笑えよ。お前が本物のパフォーマー(ドッペルゲンガー)であることを、俺が証明してやるぜ。

俺の手には〈恐怖を与える〉〈呪いのカメラ〉。
もし同じ能力を使うなら。
「先に」動いてヤツの動きを鈍らせるのが有利か…

目の前の恐怖は、別の演出(恐怖)で塗り替える。
【渡し鬼】で〈首のUDC〉を開放し、今度は青鬼の姿を借りる。
さあ!恐怖のバイキングだぜ……!

最後にはより面白い方、必要とされた方が残る、そうだろ?
お前が俺なら……倒されたって悔いはねえよな?

まだ物語を終わらせる気なんて、さらさらねえんだよ!



●鬼縁
 ――その教室には、光の無い眼をした己がいた。
 派手な桃色の髪も、目立つ碧の瞳も、その手にもつビデオカメラも、鏡に写したように同一。己の主観が乖離するような錯覚を覚えながらも、萬場・了がそれを移すビデオカメラから目を逸らすことはない。
「ふひひ、さすが。俺と違ってモノマネがお上手で」
 吐き捨てるように笑う。精緻な人形細工のように整えられた自分の鏡像の姿は、一見すればどちらとも同じに見える。
 この空間の影響だろうか。
 目覚めたはずの過去が、ノイズのように脳裏に走る。
「……んで、ニセモノの真似をして、お前はいったい誰に成ったんだ?」
 己が偽物だということなど知っている。どうしようもないほどに知り尽くしている。
 どれほど焦がれ願おうと、どれほど真似て近づけようと、自分は決して『彼』にはなれない。
「『誰にもなれない』。よぉく知ってるはずだぜ、了(おれ)」
 鏡像が笑う。その輪郭がゆらりとぼやけ、いつかどこかの誰かの姿を取ろうとする。
「はじめからどこにもいなかった人間を真似することなんてできない。できるとしたらそれは『真似』じゃあなくて――」
 ひどくゆっくりと、周囲の景色が移り変わろうとしている。
 眩い陽射しの差す、いつかの夏の日へと
 
「『演技』だ」

 了は理解できる。何故ならばそれは己の持つ力とまったく同じもの。
 無自覚に対象を迷い込ませるオニの迷宮。もしもそれが完全に召喚されたら、どこに迷い込むのか想像もつかない。
 本能的な忌避感。呪物であるビデオカメラによって相手の動きには制限がかかっているはずなのに、胃を溶かすような悪寒。
「うるせぇな……辛気臭え顔してんじゃねぇよお前。俺だってんなら、笑えよ。お前が本物のパフォーマー(ドッペルゲンガー)であることを、俺が証明してやるぜ」
 ばくり。
 首元のUDCが了を飲み込み、その姿を変貌させる。
 顕現するのは、ひどく青褪めた一ツ目の鬼。
「さあ! 恐怖のバイキングだぜ……!」
「おお、怖ェ。俺達は『本物の偽物』なのに。手酷いねぇ」
 刹那にして近づいてきた鬼の剛腕の一撃を、ワイヤーで減衰させながら鏡像は呟く。それでも完全には殺しきれず、後方の黒板へと派手に叩きつけられ。
「ハッ……! 最後にはより面白い方、必要とされた方が残る、そうだろ? お前が俺なら……倒されたって悔いはねえよな?」
「ふ、………ひひっ。答えるまでも……ねぇな」
「そうかよ……ッ!!」
 まだ物語を終える気はさらさらない。
 『彼』が夢でないと証明するために、『彼』の行方を突き止めるために、己はカメラを回し続けなければならないのだから。
 そうして再び繰り出された青鬼の拳が、鏡像の肉体を掻き消した。
 
 ――遠くで、蝉の鳴く声が聞こえた気がした。

成功 🔵​🔵​🔴​

クララ・リンドヴァル
◎◎◎▲
……ぁ
あの、大丈夫です
仕切り直しませんとね

手札6つ
内『使った側』が不利になりそうな3つ
①炎で溶かされる氷槍
②手数に弱い死霊術
③燃え易く相手も恩恵を受ける可能性がある書架迷宮
以上を不使用
相手のこれらにはWミサイルできっちり応じる事
終始Wミサイル主体
残り2つは影患い対策&考えを読ませない為のフェイク
看破され攻撃UCの撃ち合いとなるまで
少しずつ有利を積み重ねます

恐:不本意な変化
絶えず変化し対応を迫る世界こそ無二の恐怖
幼くして世界の抑圧に倦み疲れた者は
何時しか狭い世界に閉じ籠り
その中での平穏と調和を望みます
本を読み森を散策し
独り夢想を貪る無為の日々の愉しい事
それで怒りも哀しみも消える筈無いのに



●変禍
 ――今日も昨日と同じように日が昇って、明日も同じように日が沈む。時が前に進む度に咲いた花は枯れ、小鳥は成長し親鳥となる。
 時間というものは不可逆で、世界というものはいつだって残酷だ。昨日が戻ることがなければ、今日が繰り返されることもない。
 息をする度に、どこかでなにかが変わっている。
 私の世界が、私の知らない内に変化している。
 昨日と同じ今日は無く、今日と同じ明日もない。
 クララ・リンドヴァルは、そんな世界にどこか取り残されているような気がしていた。
 絶えず変化し、対応を迫る世界はなんと広く、そして恐ろしいものか。
 何時しか、少女は狭く小さな世界に閉じ籠もるようになっていた。
 本を読み、森を散策し、独り夢想を貪る日々のなんと愉しいこと。そこには変化もなく選択もなく、平和と調和に満ちていた。

「……けれど、本当は分かっていたんでしょう? そんなことで、怒りも哀しみも消える筈ないって」
 燃え盛る炎の矢を躱しつつ、自分の鏡像が薄氷の笑みを浮かべる。
「あなたに、何がわかるんですか……っ」
 躱される度に矢を作り出しては鏡像へと放つ。百と三十のそれは、確実に鏡像を消耗させていた。
 戦況は少しずつクララの有利へと傾きつつある。
 だと、いうのに。先程から、己の内側がざわつく。
(「あまり、長い間戦うのはよくないかもしれません……。はやく、終わらせないと」)
 計六つの手札の内、『使った側』が不利になりそうなもの三つを抑え、相手の攻撃への対抗策として残りの二つを使用。
 鏡像の攻撃を受け流しつつ、生まれた隙を炎矢で突く。
「どんな世界でも変化することからは逃げられません。どれほど小さな世界でも、どれほど閉じた世界でも」
「っ……」
 わかっている。だけど、目を向けたくない。
 クララは再び炎矢を作り出し、撃つ。
「この世界だってそうです。あなたが私を倒したら、それに応じた変化が起こる」
 鏡像のつぶやく言葉にはできるだけ耳を貸さずに。これは恐怖を煽るためのただの文句だ。
 
「あなたは、自分が恐れる変化を、他人にも押し付けているんですよ?」

 息が苦しくなる。心臓の鼓動が早まる。
「それでもあなたは、戦うことを選ぶんですか?」
「静かに、してっ……!!」
 絞り出すように声を出せば、彼女の意志に応じるように百三十の炎が一つの巨大な『剣』へと姿を変える。
 それはそのまま鏡像の胸へと深く突き刺さり、轟々と音を立てて――。
 やがて、完全に燃やし尽くした。
「はぁっ……はぁっ……」
 荒くなった呼吸を収め、この事件の終着点へとクララはゆっくりと歩き出す。
 
 ――今日も昨日と同じように日が昇って、明日も同じように日が沈む。時が前に進む度に咲いた花は枯れ、小鳥は成長し親鳥となる。
 そんな世界に倦み疲れてしまったのは、いつからだっただろうか。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『『都市伝説の語り手』偽蒼・紡』

POW   :    ドッペルゲンガー
自身が戦闘で瀕死になると【自身のドッペルゲンガー】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD   :    俺は頭脳労働組なんで
【口裂け女】の霊を召喚する。これは【包丁】や【精神的苦痛】で攻撃する能力を持つ。
WIZ   :    信じるも信じないもあなたしだい
【都市伝説】【SNS情報】【フェイクニュース】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。

イラスト:春都ふゆ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は花菱・真紀です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※プレイングは5/30(木)8:30~よりの受付となります※
●偽装を紡ぐ者
 屋上へと上り詰めた猟兵達を出迎えるのは、眼鏡を掛けた灰色の男だった。
「やぁ! 遅かったね猟兵。待ちくたびれたよ。こんにちは、こんな時間まで学校に残っているなんて忘れ物かい?」
 その顔に張り付くのは歪な笑み。
 果てしなく続く暗黒の帳を背にして、男は続ける。
「わかってるよ。そんな怖い顔をしないでくれ。俺が誰かって、分かってるだろう? 会った子もいるじゃないか。そうだよ、俺は」
 いつの間にか手には黒い手帳が握られており、周囲には形のない悪意が集まりつつあった。

「『蒼井・一葉』」

 違う。誰かがそう呟いた。
 違うだろう、お前は。
 深い憎しみを抱いた誰かの声に、男は愉快そうにつぶやく。

「だから怖い顔しないでくれって。本当は俺、『偽蒼・紡』っていうんだ。好きなものは都市伝説とフェイクニュース、あと扱いやすいガキかな。よろしくね」
 まるで友達と出会ったかのように、にっこりと人当たりのいい笑みを浮かべる。
 猟兵達は理解できるだろう。
 この男は、根本的に理解できない部類のモノなのだと。
 人の存在を奪っておきながらこんな風に笑えるモノが、平常であるはずがないと。
「さて! 君たちは俺を殺しに来たんだっけ。人を殺す感覚ってどんな感じ? きっと君たちは何度も人を殺してきたんだろう? よかったら教えてくれよ」
 軽快な口調も、普通の人間のような振る舞いも、その総てが偽装だと直感できる。
 一人、また一人と戦闘態勢へと移る猟兵達を前に、紡は薄くため息をついて。

 その表情が、反転する。

「なんだ――つまんねぇの。だったらいいさ。お前たちの腸引きずりだして腕を引き千切って眼玉くり抜いて、泣いて喚いて暴れて狂う姿を記録してやる。ひひっ、ひひははあぁははははははは。……あぁ、そうだ。教えてやるよ猟兵。知りたいだろう聞きたいだろう? 耳かっぽじってよォく聞けよ」
 紡の目が見開かれる。闇よりも昏く濁った瞳が、猟兵達の姿を写す。
「一番最初に偽物に変えてやったのはツインテールの女だった。友達が死んだ友達が死んだとうるさく喚いていたから適当な噂を教えたんだ。そしたら案の定勝手に実行して勝手に大・失・敗!! ひひっ。本当は偽物にするつもりなんかなかったんだぜ? だけどあの女が体を取られる祟られるってうるさかったから……くひっ。つい偽物にしちまった」
 醜悪な笑みを浮かべながら、男は早口にまくし立てる。
「あの時の顔は見ものだったなぁ……。目ェ見開いて涙をこぼして、真っ青になってガタガタ震えて『許して』『助けて』『ごめんなさい』!! ひっ、ひぁははっ。なんで謝ってたんかはよくわかんねぇけど、まぁなんか悪いことしたんだろうな。悪いことはしちゃいけないよなぁ。知ってるか? 悪いことをすると天罰が下って死ぬんだぜ? ひひっ、ひひはははっ」
 その姿は先程までの飄々としたものとは打って変わって、視るも無惨な悪そのもの。
「………だからつまりそういうことだ。俺の目的の邪魔をするのは悪いこと。悪いことをするのはお前たち。お前たちは猟兵。猟兵は殺す。そういうもんだろ? そういうもんなんだよ。俺は今日この日まで生きてきて悪いことなんて何一つしてない。だから俺は死なない。死なないんだよ。何度死んでも生き返る!!」
 闇が蠢く。混沌が渦巻く。深淵が、目を開く。

「なぁ、悲鳴聞かせてくれよ」

 ――唇が真っ赤な三日月を描いて、その殺意が暴発した。

※ボスは一章で発生した『恐怖(🔴)』の数だけ強化されます。ご容赦ください。
銀山・昭平
★◎◎◎◎◎▲
どんなヤツかと思ったら、自分を微塵と悪と考えねぇ快楽殺人鬼なんだべな。
ならもう生き返りたいなんて考えなくなるまで、お前がして来たことをその体に教え込んでやるだけべ!
食うために汚れ仕事もやってきたおらは一切悪い事をしたことが無いなんて傲慢にはなれねぇ、だがお前をこの世から追い出してやるのは悪だとは考えねぇべ!!

◆戦闘
【ガジェットショータイム】で特製メガホンを取り出して攻撃するべ!
嘘と噂をかき消すような轟音の音波を思いっきり浴びせてこっちの攻撃手段を封じられる前に封じてやるべな!
その間も物理攻撃は忘れねぇ、【二階攻撃】もかけた小型手裏剣を大量に投げつけて本体を重点的にねらってやるべ!


宮前・紅
★◎◎◎◎◎
【POW】
ふうん……つまんない思想の持ち主だね、君

わけわかんない相手なら丁度良いや
UCを発動しよう
相手も狂人なら俺も狂人となってぐちゃぐちゃにしてあげるよ!
でも、対象を倒すまで敵味方関係なく攻撃しちゃうし、制御が出来なくなるからちょっと賭けな部分が強いけど……

さ、とっておきの獲物だよ
俺たちに相応しい晩餐だ

ドッペルゲンガーが出ても同じようにあいつら(兎頭)が攻撃する
まあ俺も殺るけど、ね
靴での踏みつけ(捨て身の一撃+踏みつけ)と糸を罠のように張り巡らして攻撃(早業+恐怖を与える)をしようか

ふ…………あはははははは!面白いなあ君の偽善意識は
じゃあ永遠に死ぬ瞬間を味わわせてあげるよ!


アルトリウス・セレスタイト
暇人なんだな
退屈を取り去ってやろう

魔力を溜めた体内に破天の魔弾を生成・装填
解放せず高速詠唱と2回攻撃で間断なく装填を繰り返し、全力魔法で魔力を過剰供給し威力を増強
更に蓄積し自身を装填した魔弾で死に染めて目標の元へ

敢えて急がず歩いて向かう

向けられる攻撃も死の魔弾と化した自身の肉体で殺し進む
仮に突破されても真理の盾と消失の吸収・反撃が機能する
無言で迫ってくれば恐怖を煽ることもできるだろう

接敵したら目標の身体を掴み取り、打撃に乗せて全弾を同時に解放し撃ち込む


満足するだけ悲鳴は聞けたか


マレーク・グランシャール
★◎▲

‥‥‥言いたいことはそれだけか?
ならば俺に穿たれて滅びろ
お前は喰うに値しない
何度でも討ち滅ぼす

この男は瀕死になると増殖するようだ
だが俺の技の前にいくら分身を作ろうが無駄だ

好機を逃さず【黒華軍靴】でダッシュ+ジャンプしたら【竜星蒼槍】を成就
【碧血竜槍】を偽蒼・紡めがけて槍投げ
分身を作ろうが双頭竜の追撃は本体にのみ向かいトドメを刺すだろう
分身が邪魔するなら【魔槍雷帝】を手に足止めするぞ

この男を討ったとて偽物とすり替えられた者が帰ってくるとは限らない
だがそれでも希望は捨てない
戻った者がいたならば「お帰り」と声をかけてやる
戻らねば失踪として扱われるであろう死を、俺だけでも悼み弔おう



●序戦~骸の談を騙るもの
 黒く染まった世界がどくんと脈動した。
 今この瞬間、偽蒼・紡と名乗った過去の雫に敵意を向けた刹那から、世界が己にとっての敵になったのだとアルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)は理解できる。
 世界の外側を覆う『原理』の端末である彼だからこそ察知できる異変。限定的であり一時的なものであるが、この『雁坂高校』の校舎と敷地内は目前の男の手中に収まっている。正真正銘、この場は異界。あらゆるものが自分たちに害を成し、あらゆるものが偽蒼・紡に従う。
「……暇人なんだな。ならば、その退屈を取り去ってやろう」
 空虚な声色でアルトリウスが呟く。
 ここまでの大規模な術を行使するのであればそれなりの準備が必要だ。加えてこの精度、よほど『暇』でなければできないだろう。
「嫌だなぁ……研究熱心だと言ってくれよ。まぁ暇だったのは事実だけど。きひっ、だけど暇は創造性を育む素晴らしい空白だ。お陰でこんなにも手駒が揃ったわけだ!!」
 ズォッ!! と紡の足元から無数の黒き腕が猟兵達へと伸びる。
 触れずとも理解できる。それは存在を奪い去る呪いの魔手だ。増幅した呪詛は指向性を持つ悪意の塊となり、目前の現実へと襲い掛かる。
 曰く、曰く、曰く、曰く―――。
 囁く噂は呪いの言霊。嘯く奇談は忌まれる虚構。
「へっ! どんなヤツかと思ったら、自分を微塵と悪と考えねぇ快楽殺人鬼なんだべな! ウォオオオオッッ―――!!」
 しかし、それらは猟兵達の体に触れることはかなわない。
 紡によって放たれた嘘と噂は、『ガジェット・ショータイム』によって召喚されたメガホン型ガジェットを通した銀山・昭平(田舎っぺからくり親父・f01103)の雄叫びによって吹き飛ばされた。
 言葉も会話も、空気を震わせることによってはじめて存在しうるもの。であれば、それと同じ位相の轟音を叩きつければそれを封じることができる。
 ビリビリと僅かに痛む喉を抑えながら、昭平はしてやったりと笑みを浮かべ、
「なら、もう生き返りたいなんて考えなくなるまで、お前がして来たことをその体に教え込んでやるだけべ!」
 昭平が改めて宣戦布告を叩きつければ、
「……くひっ」
 紡の口から空気が漏れる。
 体をくの字に折り曲げて、己の顔を両手で抑え小刻みに体を震わせながら。
「アーーーァァァアア、教えるだって? ……ひひっ。俺がして来たことを? ひひひっ……ンなこと俺が一番よォくわかってるんだよォ!! 好みの女がいたから×××して偽物にした生意気そうな男がいたから×××を××××したあとに偽物にした鬱陶しい女どもはみんなまとめて××して××して××して××して××して偽物にした!! 最ッッッッッ高だったなァ……!! どいつもこいつも無様に這いずり泣き喚いて!! ――無駄なのにな。笑えるよな、……くひひっ」
 濁流のように流れ出す醜悪な文言の数々は、この空間ではそれ自体が呪詛となって吹きすさぶ。暴風の中にいるかのような衝撃と精神汚染が襲おうとする、だが――。
「ふうん……つまんない思想の持ち主だね、君」
 此度は三体の人形を目の前に展開する宮前・紅(絡繰り仕掛けの人形遣い・f04970)によって防がれる。神を殺すための機構、故に神からの呪いを一身に受ける絡繰人形達にとって、人が紡ぐ呪いなどそよ風にもならない。
「あ?」
「君みたいにわけわかんない相手だったら丁度いいや」
 ――0|0O0o0_0`0n0F0U0N0`0??
 呪詛の嵐を防ぎきった次の瞬間、僅かな詠唱と共に人形の構造が変化する。
 瞳に狂気の色を満たした、兎頭の人間。
 『Haigha(マッド・アズ・ア・マーチヘア)』。
 紅の人間性を糧として顕現したそれは、ゆっくりと自律する。
「さ、とっておきの獲物だよ。俺たちに相応しい晩餐だ」
 ここに静かな狂気が目を覚まし、動く狂気の蔓延る世界へと牙を向けた。
「ハハハッ!!」
 刹那、紡へと殺到する三体の兎頭人間と、それに追従するように疾駆する紅。彼らはものの数瞬で紡へと肉薄すると、獲物に群がる飢獣のように攻撃を繰り出す。
 兎頭人間の拳や爪、紅による蹴撃、そして彼らを支援するように射たれた昭平の小型手裏剣は確実に紡の肉体を捉えていた。そうして集中した撃は、偽蒼・紡という一体の醜悪な過去を討ち滅ぼためには充分なものだっただろう。

 ――ここが、従来の世界であれば。

「『ねぇ、私キレイ?』」
 雨のような襲撃の中で、紡の声が聞こえた。
「ッ?!」
 何よりもおぞましい気配を察知し、紅が本能的に身を引いた次の瞬間。
 ずぱん。
 兎頭の上半分が飛んだ。
 それが『顔を切断された』のだと紅が理解するまでに僅か三秒。
 そんな紅に、呼び起こされた真紅の女が接近するまでに僅か一秒。
『ねェ、ワたシ、機Reい?』
「ク、ソッ……!!」
 間に合わない。間に合わない間に合わない間に合わない間に合わない間に合わない間に合わない間に合わない間に合わない!!
 耳ほどまでに口の裂けた女の刃が紅に迫る。その美しく整った顔を真っ二つにしようと振るわれる刃は、
「……言いたいことはそれだけか?」
 すんでのところでガギン!! と弾かれた。
 そこに居たのは、濡羽色の髪を揺らし碧玉の嵌まる優美な槍を携えたマレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)。彼は丁度紅と口裂け女の間に入ると、槍を一振りして告げる。
「ならば俺に穿たれて滅びろ。お前は喰うに値しない」
 それは口裂け女の彼方に坐す、歪んだ笑みを浮かべた偽蒼・紡へと。
「かァっこいいねェ猟兵。いいや、マレークって言ったかな? マレーク、マレーク、マレーク先生!! 音楽室で俺の端末に情熱的なアプローチを掛けてきたマレーク先生じゃアないか!!」
 紡が自分についた無数の傷を一撫ですれば、それはまるで初めからなかったかのように消えてゆく。
「なぁ、新鮮な女子高校生の感触はどうだった? 唆られたか? 生唾を飲んだ? 俺わからないんだよなァそういうの。だから教えてくれよ。せ・ん・せ・い」
「……フン。答える必要はないな」
「ハッ! そうかよ。だったら……」
 口裂け女からごきりと厭な音がする。見れば、脇の下から新たに四つの腕が生えていた。
 瞬きをすれば次は脚が増え、更に瞬きをすれば今度は目が増えた。
「死ねェェェエッ!!」
『ね、ェ、ねェ、ねえ音ねねネネねわたワたわたわWaわわししし私歯死Si――きれい?』
 最早異形と化した口裂け女の一撃はそれを喰らうだけで致命傷となりかねない。
 咄嗟にマレークが空気を蹴り上げて回避すれば、その隙に紅が口裂け女の全身を縛り上げた。
「……愚問だね。見るに堪えない、ひどく不細工だ」
 声には怒気を孕んでおり、それは彼の狂気をより底冷えさせる。
「この女は俺が相手する。君は偽蒼(あいつ)を宜しく」
「解った。……用心は忘れるなよ」
「当たり前でしょ? そっちこそ気をつけてよね」
「無論だ。あの男を討ったとて偽物とすり替えられた者が帰ってくるとは限らない。
だがそれでも、希望は捨てない」
 そんな短いやり取りの後、マレークは紡へと、紅は異形の口裂け女へと向かう
「エルシーとラシーとティリーの顔ふっとばしといて………ただで済むと思うなよ、この××××がァッ!!」
『しししししし死死死死、しき、シキ、死期、れい? れい? れい? れい? れい?』
「千切れろォォxッ!!」
 そうして、怒りによって何よりも研ぎ澄まされた糸が歪な赫を斬り裂いた。



「食うために汚れ仕事もやってきたおらは一切悪い事をしたことが無いなんて傲慢にはなれねぇ、だがお前をこの世から追い出してやるのは悪だとは考えねぇべ!!」
 一方その頃、昭平はメガホン型ガジェットで呪詛を吹き飛ばしつつ小型手裏剣で紡を撃ち続けていた。
 一度の投擲で二つ射出されたそれは、少しずつ紡の肉体を斬り裂き、そこから鮮血を滴らせていく。
「……人ってのは正義のためであればどこまでも冷徹な怪物になれるものだ。お前もそうか? だとしたら悲しいなぁ。俺だってちゃあんと良いことだってしたんだぞ? 悩める生徒たちの相談にのって解決策を渡してやった。そんな俺を本当に追い出すのか?」
「詭弁だべ……! どうせ、その解決策とやらも『偽物にする』ことなんだべ……! だったらそれは解決でもなんでもなくて、ただその子の人生を奪っただけだべ!」
「おぉ、よくわかったなぁ。ははは、大正解大正解。ご褒美に死んでくれ」
 同時、紡から再び呪詛の嵐が放たれる。
 しかしそれは先程と同じ手法だ。昭平は難なくメガホンで吹き飛ばし、小型手裏剣を放とうと――。
「何度も同じ手をッ!」
「すると思ったか?」
「なっ……?!」
 した、瞬間。昭平の背後から根も葉もない談話の囁きが昭平を目掛けて襲来する。
 都市伝説、SNS情報、フェイクニュース。それらは昭平の動きを封ずるべく蛇のような動きで迫る。もしもそれが全て命中すればどうなるか、想像に容易かった。
(「避けれないべ……!」)
「ひひッ、終わりだなぁ!!」
 ――そうして悪意が迫る刹那、世界に銀色が閃く。
「……既に終わっている者が『終わり』と。笑えない冗談だな」
 それはアルトリウスの声だった。同時、昭平に向かっていた根も葉もない噂が崩れ、綻び消えていく。
「な、なんだべ……?!」
「チッ……。お前、何をしやがった?」
 二人の問いかけにアルトリウスは答えない。ただただ無言のまま、彼は紡へと迫っていく。夥しいほどの『死』を、その身に纏いながら。
「気に食わねぇ……気に食わねぇなその顔はァ! 『失せろ』ォ!!」
 呪詛の爆風がアルトリウスと昭平を襲う。これまでの何よりも強烈なそれは、アルトリウスの纏う死の原理さえも掻き消そうとしている。
 しかし、紡は忘却していた。
 ここに、己の呪詛に対抗しうる男がいることを。
「させ、ねぇぇぇぇえええええッ!!!」
 鳴り響くハウリングを伴う昭平の轟音が呪詛を相殺する盾として巻き起こる。自らの渾身の一声が押し止められたその刹那、紡の意識に隙が生じた。

 斯くして、二つの真蒼が到達する。

「『流星蒼槍(メテオ・ストライカー)』!」
「――『破天(ハテン)』」

 マレークの槍が、アルトリウスの拳が、紡へと触れる。
 蒼い稲妻が迸り現れた碧眼の双頭竜に猛追撃、加えてアルトリウスによる死の原理による魔弾の弾幕が撃ち込まれる。激しい衝撃と埒外の力の奔流に、紡の作り出した偽りの世界も、紡自身も耐えきることはできない。

 ばきり。

 そんな音が二重に響けば世界の黒が取り払われ、紡の口からは血反吐が吹き出た。
 しかし、戦いはまだ終わらない。
 偽装を紡ぐ男の意思は未だ潰えず、猟兵達を睨んでいた。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

空亡・柚希
……うん、根本から理解できないし、理解しちゃダメな気がする。
勘に障るという点では、非常に分かりやすいのに。
(ある種自分の手袋を見るのと同じ目で、ふらり、気味が悪いと目を逸らし)
(塞ぎ切れていないのは承知で片手で耳を塞ぐと、もう片手は歪な音を立てて長銃に変貌した)

こんなのでも自分の手だからか、ある程度の融通は利いてくれる
武器自体は威力に重点を置き、〈目立たない〉ように息を殺しブレないように狙う
〈視力〉+〈第六感〉+〈スナイパー〉で命中率は少しでも補正
仲間が少しでも傷を与えているのなら、そこを〈傷口をえぐる〉ように狙って
ドッペルゲンガーには警戒して、不意打ちがないよう距離を保っておきたいかな


クララ・リンドヴァル
★◎◎◎
……。なるほど。
では、図書室で見たあのノートの中身は……。
……うっ、思い出したら気が遠く。
しっかりしませんと。敵が目の前に居るんですから。

味方を支援します。戦術級開架図書防衛機構発動。目標は屋上のフェンス傍。即席の橋頭堡を作り、そこからさらに迷宮を広げていきます。
屋上を好きに動き回られたらきついので、これで敵の動きを制限しつつ、入って来た敵を自力で迎え撃つ作戦です。
……ふう、狭い場所に居たら、少しだけ落ち着いて来ました。あの人の言い分、随分と都合の良い事。聞けば聞くほど、混乱してしまいます。


レナータ・メルトリア
★◎▲

お兄ちゃんが、お兄ちゃんじゃない筈が無いわ
私が不安に駆られて抱き着いたら、優しく抱き返してくれるし、胸に顔を埋めたら頭を撫でてくれるんだもん
だから、そこにいるよね。お兄ちゃん?

【深紅の憂鬱】を辺りにばらまいて、血晶兵器での戦闘効率を上げてから攻撃に移るわ
使えそうな技能はとことん使って、変幻自在の血晶を生かして、手を変え品を変え派手に動くよ
でも、そんなのは全部『フェイント』。本命はおにいちゃんの【腸食いの歯車】を確実に当てる為なの

うふふ、何度殺しても生き返るんだ? それはツゴウがいいね
あんな偽物を当てられて、凄く厭だったもの
何度でも見つけ出して、芥も残さずバラバラにする楽しみができちゃった



●破戦の壹~書架迷宮
「――静粛に」
 校舎を覆う深淵の黒が砕かれたと同時、クララ・リンドヴァルの声が落とされた。
 それを合図として屋上のコンクリートを割いて現れたのは巨大な本棚。肉体を貫く
槍のように出現したそれを紡は避けるも、本棚は次々と地面から現れ、またたく間に屋上は無数の書架が立ち並ぶ迷宮へと変化した。
 其はクララの手繰る埒外の力。
 『戦術級開架図書防衛機構・書架大迷宮(ライブラリアンズ・ビブロラビリンス)』。
「……面倒なことをするなァ、お前」
 ペッと血の混じった唾を吐き捨てて紡は呟く。
 己の動きを阻害するかのように出現した本棚はまるで森の如く。その高さと幅も相まって対峙する猟兵達の姿をも覆い隠す。
「だけどこんなに本棚を立てていいのか? これだけの本棚の数だ。お前達のほうからも俺のことは見えな……」
 と、続けようとした紡の言葉を遮るように襲来する黒が一つ。
「うふふ! 何度殺しても生き返るんだ? それはツゴウがいいね!」
 血晶と呼ばれる兵器によって造られた剣を両手に携えるレナータ・メルトリア。彼女は紡の首を落とすかのように上空から剣を振り下ろす!
「ッ゛!!」
 紡は咄嗟に影の防壁を以てして剣戟を防ぐもレナータの攻撃は止まず、
「あんな偽物を当てられて、凄く厭だったもの! 何度でも見つけ出して、芥も残さずバラバラにする楽しみができちゃった! どうされたい? どんなふうにされたい? 斬って裂いて千切って破いて叩いて薙いで捻って、メインディッシュにしてあげる!!」
「ハハハハハ……イカれてるなァ……! 餓鬼ィッ!!」
 バギィン!! と嵐のように繰り出されるレナータの斬撃を受け止めるのは再び召喚された口裂け女の霊。その両手に持つ鈍く輝く包丁は血晶の剣を弾き、受け流し、鍔迫り合い、背後の紡を護るべく攻防を繰り広げる。
 
 その様子を、少し離れた本棚の上から見ているものが二人。
 一人は先程この書架迷宮を呼び出した本人であるクララ。
 もう一人は彼女と共に司書の仮面を被った青年、空亡・柚希だ。
「……ふう、狭い場所に居たら、少しだけ落ち着いて来ました。あの人の言い分、随分と都合の良い事。聞けば聞くほど、混乱してしまいます」
 こうして書架を展開するまで、クララは図書館で見つけたノートの中身にひどく心を乱されていた。それこそ、うっかり気が遠くなるほど。
 しかし今此処は自分のよく知る閉じた世界。ゆっくりと深呼吸をして本の匂いを吸い込めば、すぐに平常心を取り戻せる。
「……そうだね。根本から理解できないし、理解しちゃダメな気がする。勘に障るという点では、非常に分かりやすいのに」
 柚希はある種自分の手袋を見るのと同じ瞳で気味が悪いと目を逸らす。薄っぺらい皮に隠された醜悪な本性。それは、嗚呼、まるで。
「僕はここから彼を狙撃する。クララさんは、レナータさんを御願い」
「分かりました。……ここは私の世界です。好き勝手は、させません」
 そう頷いて、クララはレナータの付近の本棚へと転移する。
 クララが完全に場を離れた後、柚希は片方の手でゆっくりと耳を塞ぐ。
「……あまり、多用はしたく無いんだけど」
 同時、錆びた機械を無理矢理動かすかのような悲鳴にも似た歪な音をあげながら柚希の腕が長銃へと変形する。それは先程己の偽物がやってのけたものと同じ、邪神の残滓による腕の『修復』。
 息を殺し、気配を薄め、そうしてスコープを覗き込み、好機を狙う―――。

「ここはお前の世界か猟兵? 随分よくできた世界だなぁ、発展もなければ展望もない。世界ってのは良くも悪くも変化し続けるものだ。その変化を拒絶してちゃあ、前に進めるものも進めないぜ? ……『信じるも信じないも、あなたしだい』」
 口裂け女の霊にレナータを任せた紡は、付近へと現れたクララへ向かって真偽不確かな情報の縄を放つ。都市伝説、SNS情報、フェイクニュース。それら無数の囁き声となって彼女に襲い掛かるが、
「……何を仰っているのか、わかりませんが」
 彼女の耳には届かない。彼女の心には届かない。
 何故ならここはクララ・リンドヴァルという一人の魔女の箱庭なのだ。この迷宮にある書物はその総てが彼女の智慧。それらを用いれば有象無象の声を遮断するなど造作もない。
「『あなたの言葉は、信じませんよ』」
 バヒュン!! と紡の放った幾つもの呪詛が弾かれ、
「なっ……!!」

 偽蒼・紡に、意識の隙間が生じる。

 そして一方、口裂け女と交戦するレナータは――。
「お兄ちゃんが、お兄ちゃんじゃない筈が無いわ」
 右手の剣を受け止められたら咄嗟に脚で蹴り上げ距離を取り、左手の剣を斧に変えて一気に踏み込み叩きつける。それを防いだ口裂け女が僅かに体勢を崩せば、その隙を突くべく今度は斧を槍にして刺突。
「私が不安に駆られて抱き着いたら、優しく抱き返してくれるし、胸に顔を埋めたら頭を撫でてくれるんだもん。だから」
 口裂け女が精神干渉をする暇も与えずに手を変え品を変え、目前の赤を翻弄する。剣、斧、槍、鞭、小剣、鎌と次々に姿を変える血晶兵器に口裂け女は対応することはできず、徐々にその勢いは押されていく。
 だが、レナータ・メルトリアの狙いは『口裂け女』ではない。
「――そこにいるよね、お兄ちゃん?」
 同時。レナータのすぐ後ろに101番目の兄が出現した。
『――あぁ、勿論だとも。お兄ちゃんがそばにいるよ』
 傀儡の声が聞こえる。それは確かに自分のよく知るお兄ちゃんの声で。
「そうだよね! そうだよね! それじゃあ」
 少女の瞳が赤い満月を描く。

「ぜんぶ、ぜ〜んぶ、ぐちゃぐちゃになっちゃえ」

 次の瞬間、『お兄ちゃん』の胸部から突き破り飛び出した鉤針が口裂け女の横をすり抜け紡の肉体を捕らえた。
「なっ……?! ガッ、ァァァッ!!」
 ズリズリズリズリ!! と擦れる大きな音を立てて、口裂け女の霊ごと紡は『お兄ちゃん』の元へと引き寄せられる。

 引き裂く獲物を待ちわびる獣のように鳴り響くシュレッダーを携えた、『お兄ちゃん』の元へと。

「ヒッ……?! ハ、ハハ、オイオイオイなんだそりゃあ……!! オイ! 聞いてねぇぞそんなもの!! ふざけんな!! オイ、おまえだよおまえ!! おまえが身代わりになれやブス!!」
 それはひどく醜悪な様だった。紡は怒鳴り声をあげながら鈎針に抵抗し、自らが召喚した口裂け女の霊を身代わりに差し出そうとしていたのだから。
 己のためにお前が犠牲になれと、なりふり構わず怒鳴り散らすその声の主を、

「……ほんとうに、勘に障る男だね」
 
 柚希の放った弾丸が容赦なく貫く。
「あ」
 額の中央を射抜かれたことによって抵抗する力を僅かに失った紡は、霊と一緒にシュレッダーへと飲み込まれる。
 引き裂くような絶叫は、彼の肉が細切れになったという証明に他ならなかった。

 しかし、それでも偽蒼・紡は死なない。
 死なない。
 死なない。
 死ねない。
 ずたずたになった下半身を引きずりながら、彼は自身の鏡像を召喚した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鬼竜・京弌朧
【ホワイトロック】
目が覚めたぜ……エスタシュ。俺は……俺はあんな奴に負ける訳にはいかねぇ!

デュエルだ!!!!(UC発動)

いくぞ!

俺は凍狼の咆哮を使い、エスタシュよりも早く敵の前に出る!
貴様の名などどうでもいい。そして、俺の名も……。
俺は偽物だ……何者にもなれない俺だ。だが、守りたいものを守り、戦う心は!俺がデュエリストである限り消えたりはしない……!
友がくれた武器と、鍛えてきた俺の体と、デュエリストの魂が俺の力だ!
氷の誘導弾、そして、クロスオーバーディスクをつかい、3体の虚皇の銃騎兵を召喚!一斉援護射撃による衝撃波で敵の攻撃も噂も全部吹き飛ばし、てやる!
そして、エスタシュへの攻撃はすべて庇う!


エスタシュ・ロックドア
【ホワイトロック】
悪さしたらバチが当たるし、閻魔サマに裁かれる
嫌って程知ってらぁ
じゃ、お前を折檻しねぇとな偽蒼・紡
嘘吐きの舌は抜くもんだ

急にどうした京弌朧
なんだ良いツラになったじゃねぇか
ああ、行こうぜ
って、おいお前が先に行くのかよ
は、意気軒昂でなによりだ
京弌朧の猛攻の後から、悠々と行くか
『羅刹旋風』と【怪力】でフリントぶん回しながらな
攻撃を受けた敵の隙を突いて【なぎ払い】【吹き飛ばし】
ガッツリお灸据えてやるよ

庇われるってのはどうも性に合わねぇが
ま、その心意気に水差すのは野暮ってもんだ
頼らせてもらうぜ京弌朧
庇ってもらったらその陰からすかさずフリントでぶん殴るぜ



●破戦の貳~空洞を埋める熱
 ずるり。
 偽蒼・紡の影から現れた鏡像は、ゆっくりとその首をもたげる。
 金色の瞳が澱んだ輝きを放てば、口角が弧を描く。
「はっ、ははは――痛いなぁ。痛い痛い痛い痛い、だけど言っただろう? 俺は死なないんだ。この『俺』はこれから偽物になって、今の『俺』がこれから本物になる」
 呟いたと同時。下半身を挽肉のように斬り刻まれた紡は影へと飲み込まれ、現れた無傷の鏡像が猟兵達の前へと立ちはだかる。
「第二ラウンドだ。まだ遊べるだろ? 猟兵」
 『砕けろ』。
 呪言が世界に響き渡れば、書架の迷宮が砕け散った。

 再び漆黒の怨念をまとう紡に相対するのは、黒白の鬼。
「あぁ……悪さしたらバチが当たるし、閻魔サマに裁かれる。嫌って程知ってらぁ」
 燧石の鉄塊剣をブンと振り回すのは黒鬼、エスタシュ・ロックドア。
「じゃ、お前を折檻しねぇとな偽蒼・紡。嘘吐きの舌は抜くもんだ」
「くく、嘘? どんな嘘だって、それを心から信じられる奴にとっては真実になるんだ。俺が『噓吐き』だなんてどうして言える? なぁ――、用務員さん」
 感情を逆撫でするかのような紡の声に、
「ゴチャゴチャうるせぇ!! ……閉じろよ、その口」
 雷のように怒号をあげたのは白鬼、鬼竜・京弌朧。
 先程までの光を失った瞳ではあるものの、そこに宿るのは虚無ではなく憤怒。
「目が覚めたぜ……エスタシュ。俺は……俺はあんな奴に負ける訳にはいかねぇ! ――『決闘(デュエル)』だ!!!」
 京弌朧の身を黒紅の闘気が包む。それは京弌朧を漆黒の決闘者『ヴォイド』へと変容させる魂の覇気。それは鬼竜・京弌朧という男の時間を犠牲にして莫大なる戦闘力を手に入れる埒外の力――『決闘覚醒(デュエルスタンバイ)』。
 血が沸き立つ。思考が澄み渡る。内側に沸騰する仄暗くも熱い感情に仮面をかぶせ、此処に一人の決闘者が君臨する。
「――いくぞ!」
 氷狼の遠吠えが鳴り渡る。それは携行砲台が京弌朧の肉体を打ちだした音だ。
 弾丸の如く発射された肉体は紡の元へと肉薄する。
「おいおいどうした猟兵? さっきまで怖い怖いと震えて泣いてたじゃないか。お前なんて言ったっけ、たしかァ………」
「俺の名などどうでもいい。そして、貴様の名も……」
 そのまま虚皇デッキから三枚のカードを引く。
「俺は偽物だ……何者にもなれない俺だ。だが、守りたいものを守り、戦う心は! 俺がデュエリストである限り消えたりはしない……!」
 『虚構の銃騎兵』と銘打たれたそれがクロスオーバーディスクにセットされれば漆黒の光とともに三体の騎兵が召喚された。
 紡と騎兵達の距離は零。その身が屋上の床に降り立ったと同時に射たれた銃撃によって、紡は激しく後方へと吹き飛ばされる。
「グッ……アァァッ!! "何者にもなれない"と宣うクセに"決闘者(デュエリスト)"だァ……? ッひひ、悲劇の主人公ヅラしてんじゃねぇぞ猟兵ェェェエッ!!!」
 随分と都合のいいものだと紡は嘲笑し、憤怒する。
 一斉射撃の衝撃によって距離は開けられたものの、それでも充分呪詛の届く範囲にある。全身に行き渡るどろりとした負の感情を集約し極大の矢として放とうとしたが、
 
「は、どっちも意気軒昂でなによりだ。そんじゃあ、ガッツリお灸据えてやるよ――ッ!」
 
「ギッ……?!」
 歩み寄られた黒鬼の鉄塊剣による一撃がそれを許さない。
 『羅刹旋風』によって強化された刃は激昂した紡の腹部に食い込み、屋上端のフェンスへと叩きつける。
「カハッ……!」
「頼らせてもらうぜ、京弌朧」
 振り向きざまにエスタシュは京弌朧を見て歯を見せて笑えば、エスタシュを護るように京弌朧が前に出る。
「あぁ。存分に頼るといい」
 今度は、己が友である彼を守る番だ。
 この身の内にあるのは依然として虚。ゆえに仮面を被り実とする。
 『決闘者(ヴォイド)』であれば、彼を守れる。
 『決闘者(ヴォイド)』でなければ、彼を守れない。
「ギィィッ……青臭え三文芝居してんじゃねえよ……。頼るだの頼られるだの、とんと理解できねぇ。他人だなんてものは利用するだけの駒だろ?」
「フン。好きなだけ言うがいい。貴様がそう思っている限りは」
「オレ達には勝てねぇよ」

 ――再び、決闘が始まる。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

萬場・了

鬼の姿は一時的
出番が終われば、よくよく馴染んだ偽物の姿。
敵も含めて成りすまして潜入したんだ
もとより本物なんていたのか、ってな。

ふひひっ
さあて、あのお喋りな語り部。ベラベラ喋って登場しやがって
三つ質問する演出(儀式)にのっとるまでもねえな
それなら、俺からは一つだけ…

この噂、自分の偽物と出会うとどうなるんだったか、教えてくれよ

解放した真の姿を【終幕影法師】で覆う。
相手の姿を〈盗み〉〈生命力吸収〉をしながら
「“俺”の目的の邪魔をするのは悪いこと」なんだろ?

俺が撮りたいのは「必死」に生きる演者(本物)の姿だ。
生き返ったお前が本当にお前自身だと、信じられるか?
一度きりの恐怖の舞台、倒れるまで踊ろうぜ!



●急戦の壹~影法師双ツ
 ざぁぁぁ。
 出番を終えたことで萬場・了の身を覆っていた青鬼の外殻は砂のように崩れ落ち、もとの姿へと戻っていく。
 そうしてよく馴染んだ偽物(おのれ)の手を握っては開き、確かめる。
 ――大丈夫、この手はまだ『俺』のものだ。
「敵も含めて成りすまして潜入したんだ。もとより本物なんていたのか、ってな」
 教育実習生という身分は嘘。生徒の何人かも紛い物。蔓延る噂も虚言。
 ならば、此処に真実などあったのだろうか?
 現実が陽炎のように揺らぐ。それは昔日のあの日のようで、しかしあの日とはまるで違った現在の光景。
「ふひひっ」
 口の達者な語り部は随分と多くを話してくれた。であれば演出家である自分がすることは一つだけ。
 ふたたび己の影から鏡像を召喚しようとする紡に向かって、了は囁きかける。

「この噂、自分の偽物と出会うとどうなるんだったか、教えてくれよ」

 影が蠢く。黒が犇めく。了の身体に暗い焔が灯り燃え上がる。
「な、んだ……?」
「『終幕影法師(ファンタスマゴリア)』」
 無形の影焔が身体を灼く。それは歪め映した贋作の演出。焔は対峙するものの姿と命を少しずつ奪い去り、着実に終幕へと導く埒外の力。
 何者でもなく何者にもなれず、けれど誰かになろうとした少年の真髄が、今ここに顕れる。
 嗚呼、己は一体何者だ? お前は一体何者だ? 真はなく、実もなく。此処にあるのは虚偽ばかり。であればお前は何を視る? この影法師に何を視る?
 了の姿が揺れる。それは確かに目前に在る紡の姿を写し取っており、少しずつその顔が、身体が、空気が変わっていく。
「『“俺”の目的の邪魔をするのは悪いこと』なんだろ?」
 ――曰く、こんな話があるという。
「『悪いことをすると天罰が下って死ぬ』んだろ?」

 誰かに写真を撮られると、撮られた者は魂を吸われると。

「俺が撮りたいのは『必死』に生きる演者(ほんもの)の姿だ。生き返ったお前が本当にお前自身だと、信じられるか? 一度きりの恐怖の舞台、倒れるまで踊ろうぜ!」
 ばちり。了の瞳がシャッターのように降ろされれば、その身体は完全に偽蒼・紡と同じものへとすげ替えられた。
「クソが……クソが、クソが、クソがッ!! 『とりやがった』な?! 俺の身体を、俺の力を、俺の嘘を!! いいさ……教えてやるよ猟兵。この世に『本物』なんてものはない!! あるのは嘘と、偽物だけだ!」
 ぐらりと大きく体勢を崩して、紡は憎々しげに声を上げる。
「信じられないなァ。それってつまり、お前のその言葉だって嘘だってことだろ? それに言ったはずだぜ。俺が撮りたいのは『必死』に生きる演者の姿だってな! ――出番だぜ!!」

 すべての準備はここで演出家たる了によって完成され、終幕はもうすぐそこまで来ている。
 これまでに他の猟兵達がそれぞれの意思によって付けた傷は紛れもなく真実のもの。故に偽装は果たされない。
 どれほど虚言を弄そうと、どれほど虚構を手繰ろうと、それは結局『虚』でしかないのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花菱・真紀
▲◎◎◎
『久しぶり』なんてお前みたいに言いたくないけどほんと久しぶりだな。
俺はお前の紡いだ嘘に騙されて遊ばれて一度は負けた人間だ。あの時は姉ちゃんが俺を庇って死んだ…死んだんだよ…!
もう、誰もお前の犠牲にはしたくない。

(真の姿は目が赤色に)
お前には【真の姿】ってやつで戦わせてもらうぜ今までは不安定だったが…今なら。
お前のクリアな思考がよくわかるぜ有祈
お前の強い感情がよくわかるよ真紀
2人で一つの俺だ。

UC【都市伝説の過剰摂取】
お前が人に向けるそれを俺は全部自分に向ける。
【クイックドロウ】からの【先制攻撃】
【スナイパー】で確実に撃ち抜く。
攻撃は【第六感】で【見切り】

さよならだ、偽蒼・紡。



●急戦の貳~都市伝説の語り手
 ――花菱・真紀はこれまで姉の死を忘れていた。己の眼の前で、自分を庇って死んだ大切な家族のことを、彼はずっと忘れていたのだ。
 何もおかしなことではない。かつての真紀にとって、その出来事は充分な恐怖になった。故に、記憶を封じ込めることで自我の崩壊をとどめたのだ。
 その結果として有祈が産まれ、その結果として彼の中から『姉』はいなくなった。
 だが、猟兵として幾つもの戦いを越えていくうちに彼は思い出した。
 姉の死を、彼女の言葉を、そして姉を殺した因縁の男、偽蒼・紡のことを。
 であれば、もう逃げているわけにはいかない。もう知らないフリをしているわけにはいかない。偽蒼・紡の犠牲になる人間を、これ以上増やす訳にはいかない。
 故に彼は此処に立つのだ。その手に、何よりも強い真実を握りしめて。

「『久しぶり』なんて。お前みたいに言いたくないけど、ほんと久しぶりだな」
 多くの猟兵との戦いによって消耗した紡の前へと、真紀は歩み寄る。
「真、紀? はっ、ははは……久しぶりだね。元気、してたァ?」
 抑揚の乱れた声で紡は答える。
「あぁ、お陰様でな……。俺はお前の紡いだ嘘に騙されて遊ばれて一度は負けた人間だ。あの時は姉ちゃんが俺を庇って死んだ……死んだんだよ……!」
「クッ――ハハハハ!!! なんだ、死んだのかあの女! 馬鹿だよなぁ……! でも当然か……お前なんかを守るから死んだんだぜ? お前が馬鹿で、弱くて、簡単に騙されるから、さァ……!!」
 状況は明らかに紡の不利。口遊む言葉だって挑発だ。
 けれどもう、花菱・真紀はそんな言葉には惑わされない。
 己の弱さを、己の真実を、その全てを理解した彼に、偽装の声は届かない。
「……相変わらずだな。お前には【真の姿】ってやつで戦わせてもらうぜ。今までは不安定だったが……今なら」 
 真紀の瞳が紅く染まる。
「お前のクリアな思考がよくわかるぜ、有祈」
 ――お前の強い感情がよくわかるよ、真紀。
 裡に潜むもうひとりの自己が答える。
「『二人で一つの俺だ』」
 二重に空気を震わせたその声に、紡の悪意が爆発する。
「あぁ……本当に気に食わないなぁ、猟兵ってやつらは。仲間? 家族? ハ! 嗤わせるよ。そんなもののために戦って何になる? 何にもならない! 人は結局、どこまでいっても『独り』だ! 独りで生きて独りで死ぬ! 本当のことなんて何一つない! 所詮は全部偽物の嘘っぱちだ!! それなのに――、あぁ、それなのに!!」

 お前たちはどうして、立ち向かう?

「何よりも気に食わないのはお前だよ……真ァァアア紀ィィィイイイイ!!!!!!」
 曰く、曰く、曰く曰く曰く曰く曰く曰く曰く曰く!!
 正真正銘、全力を賭した偽りの情報が真紀へと放たれる。都市伝説、フェイクニュース、SNSでまことしやかに語られる噂。
 だが、それよりも。
「さよならだ、偽蒼・紡」

 花菱・真紀の弾丸の方が疾い。
 その身に宿したのは今己に向けられたものと同じ力。都市伝説、フェイクニュース、SNSでまことしやかに語られる噂。此処に至るまでに己に牙を向けてきたものたちが、花菱・真紀に力を貸す。
 『都市伝説の過剰摂取(フォークロアオーバードーズ)』。
「お前がそう思ってる限り、お前はずっと独りだよ」
「は」
 弾丸が紡の額を射抜く。
 同時、そこに吸い込まれるように紡の肉体が圧縮されて消滅した。残る言葉はなにもなく、残る表情はなにもなく。まるで何もなかったかのように、偽蒼・紡は花菱・真紀の手によって『討伐』されたのだった。



 ――斯くして雁坂高校に伝わる偽物の噂は終止符を打たれた。
 偽物に変えられた生徒たちは偽蒼・紡を倒せども戻らず、行方不明者として処理されることとなった。
 独りの過去を討ち倒し、一つの因縁は解かれた。
 しかしこの街に潜む淀みは未だ晴れず。
 百に至る噂は、まだ続く。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年06月07日
宿敵 『『都市伝説の語り手』偽蒼・紡』 を撃破!


挿絵イラスト