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本日はたい焼き日和

#UDCアース

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#UDCアース


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 よく晴れた午後のこと。
 近くで買ったばかりの包みを開く。
 まだ熱いぱりぱりの皮のたいやきを頬張る。
 甘さ控えめのあんこの風味が口いっぱいに広がる。
 お腹が満たされれば、なんだか無性に眠くなり……。

 人々は穏やかな休日の午後に、永遠にとらわれてしまう。



「ね、たい焼き食べにいこ!」
 シトラ・フォルスター(機械仕掛けの守護者・f02466)のひそかな楽しみはスイーツ巡りだ。そんな彼女おススメの店がUDCアースにあるらしい。
「一本焼きのたい焼き屋さんがあるんだ。一匹ずつ型に挟み込んで火にかける方法でね。生地がカリカリになって美味しいんだ。食べに行く前に、ついでに邪教団の拠点を襲撃してオブリビオンを倒してこよう!」
 色々とツッコミどころはあるが、シトラの甘味に対する情熱は本物ということだろう。
 今回行く店は、昔ながらの鋳物の焼き型を使ったたい焼き屋だ。しっかりとした香ばしい皮に、サイズは鉄板で作る物よりも2回りほど大きい。
「UDC組織の職員さんに頼んで貸し切りにしたよ。材料を選んで組み合わせて、自分のたい焼きを作ってみようよ。正統派のあんこもいいし、フルーツ入れてみるのもいいし、甘い物苦手な人はおかずたい焼きもいいよね。僕はあんこが尻尾まで入ってない派だけど、そこも好きなようにできるみたいだよ。僕にも良かったらみんなのを味見させてよ!」
 組み合わせ次第では新たな境地が開けるかもしれない。また、料理に自信のない者にもおススメだ。材料を入れたら、焼くのは店員に任せたり教わったりすれば、おいしい物が出来上がるだろう。

 そこでようやく思いだしたように、シトラは付け加える。
「あ。オブリビオンについても伝えないとね。今回、敵もやり方を変えてきてるみたいだ。敵の拠点は公園。遊んでる子供たちに老人、休憩中の人なんかをいい香りで誘ってから眠らせ続けているみたいだよ。元凶のオブリビオンさえ倒せば、みんな元に戻るみたい。戦い続きで疲れている僕らも休日の誘惑にとらえようとしてくると思う」
 まずは『食欲』。たい焼き屋に着く前にお腹いっぱいになっては楽しめない。
 そして『睡眠欲』。眠っていては食いっぱぐれてしまう。
「あと注意事項。とんでもない材料の組み合わせは自己責任。最後まで自分で食べる覚悟をもって作ること」
 そっちの注意事項かよ……!
 猟兵たちのツッコミを受けながら、シトラは笑って『オレンジのグリモア』を輝かせたのだった。


氷水 晶
 戦争後のゆるゆる判定の息抜きシナリオです。
 たい焼きづくりを楽しむまでが任務です。

●第1章・第2章について
 食欲と睡眠欲に立ち向かってもらいます。
 章の間の繋ぎにヒントがある可能性があります。
 真面目に戦うも良し、小腹が空いた時や眠くなった時の裏技的なものやキャラクターがやりそうな事など、楽しめる行動を優先して下さって構いません。
 せっかくだから誘惑に負けてみるのも一興……?

●第3章の『たい焼き屋』について
 好きな具材を組み合わせてたい焼きを作りましょう。
 簡単さが売りなので、料理スキルに自信のない方もぜひチャレンジしてみて下さい。
 店の材料を食べ尽くさない限り個数制限はありません。飲み物は持ち込みでどうぞ。
 焼くのは店員に頼んでも、教わっても、自分でやってみてもOKです。

 生地:プレーン。

 中身:あんこ・白あん・カスタードクリーム・チーズクリーム・チョコクリーム・抹茶餡・さつまいも餡・バター。

 トッピング:いちご・みかん・りんご・バナナ・ブルーベリー・白玉団子・チーズ・レタス・ベーコン・ソーセージ。
 ※その他、近くのスーパーで買える物。

 また、呼んで頂けた場合のみ、シトラがたい焼きの味見に参ります。
 味の嗜好こそ広いですが、評価は『多少気を遣いつつもやや辛口』です。
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第1章 集団戦 『ジンジャークッキーマン』

POW   :    熱々クッキー
【焼き立ての香ばしい匂い】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    満たされない食欲
【食べてみたい】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【ヘクセンハウス】から、高命中力の【小腹を満たすには物足りない飴】を飛ばす。
WIZ   :    美味しい香り
【全身】から【食欲をそそる香り】を放ち、【空腹感】により対象の動きを一時的に封じる。

イラスト:笹にゃ うらら

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 花壇には初夏の花が咲き誇っている。よく手入れされた芝生と、周辺の木陰には過ごしやすそうなベンチ。砦を模したすべり台付きのアスレチック。道に面した一角にはずっと昔に引退した真っ黒な蒸気機関車が、子供たちの遊び場をかねて置いてある。
 市の図書館に隣接したこの公園は、普段なら賑わっている時間だろう。
 その入り口には『設備点検作業中につき立入禁止』の看板が立っている。

 誰もいないはずの公園に動く影がある。
 身長約1m。巨大なジンジャークッキーはその体格に似合わず、おずおずと遊具の影から顔を出すと子供の声で話しかけてきた。
「焼きたて……だよ。食べてくれる……?」

 さめれば消えてしまう宿命の儚いクッキーたち。
 今の気候なら冷めてしまうまでおよそ1時間。

 あなたは戦う? 耐える? 逃げ切る?
 それとも…………食べちゃう?
榎・うさみっち
たい焼き~♪抹茶党の俺としては抹茶案は外せないな!
でもおかず系に挑戦してみるのもいいなぁ

などと計画を立てていたらジンジャークッキーと目が合う
いや、空腹は最高のスパイスと言うし
ここで満腹になるわけには……

うおおおお据え膳食わぬは男の恥!
やっぱり食う!!俺の【大食い】力をなめるなぁぁ!

いでよ【こんとんのやきゅみっちファイターズ】!
まずはクッキーを食べやすいサイズにバッキバキにする
そしてやきゅみっち達と一緒に食べる!
皆で食べれば俺一人だけが食べ過ぎる心配もない
あ~焼き立てクッキーうめぇ~
この温かさと柔らかさ、市販のクッキーには無い魅力!
手作りならではって感じだな!
…誰が作ったんだろうなこのクッキー?



「抹茶党の俺としては抹茶案は外せないな!」
 淡いピンク色の髪、つぼんだ口のどことなく兎を感じさせるフェアリー、榎・うさみっち(うさみっちゆたんぽは世界を救う・f01902)は、今後の作戦を練りながら真っ赤なダリアの隣をゆるゆると飛んでいる。
 言うまでもなく、この後に待ち受ける『たい焼き』についての計画だ。
「でもおかず系に挑戦してみるのもいいなぁ」
 眉間にしわを『むむむ』と寄せて腕組みし――振り向いてびしっと指を突きつけた!
「そこで聞いてるのは誰だぁぁ!? ……えっ」
 金魚草の奥からおずおずと、アイシングの瞳をうるませてぷるぷるしているきつね色の『ひとがた』。
「……たべ……てくれる?」
 ジンジャークッキーと目が合った。でかい。うさみっちの背丈の5倍以上はある。
 食欲をそそるいい香りが襲ってくる。
「くっ……」
 きゅるるるるる……とうさみっちのお腹が訴え始める。空腹は最高のスパイス、とはよく言ったものだ。
 ここで満腹になったらたい焼きが……満腹になるわけには……いやまて、むしろ満腹にならなければ……?
「うおおおおおお!」
 うさみっちは腹の底から叫びながら突撃した。
 迷いをふり払うような腰の入ったいいパンチが、ジンジャークッキーに吸い込まれる。びしぃ! とクッキーの腹にヒビが入った。
「据え膳食わぬは男の恥! やっぱり食う!! 俺の大食い力をなめるなぁあぁぁあ!!!」
 いでよ! と、うさみっちは空を指さす。
 ユーベルコード『こんとんのやきゅみっちファイターズ(ウサミノ・ジショニ・スポーツマンシップナド・ナイ)』。野球のユニフォームを着たうさみっちそっくりの姿が9人。釘バットや鉄球を手に現れる。
「皆で食べれば俺一人だけが食べ過ぎる心配はない! 全員でやるぞ!」
「「「おー! 監督!」」」
 妖精野球集団にわらわらと寄りつかれ、ジンジャークッキーは両手で頬を押さえる。
「きゃー!」
 ひとりが釘バットでクッキーを砕けば、ひとりが欠片をグラブで受け止める。
 素晴らしいチームワークだ。食べ物は皆の心をひとつにするのだ。

 手際のいいUDC職員が準備してあった、たんぽぽ柄のレジャーシートの上。
 うさみっちの集団はまだ熱いクッキーにかぶりついた。
 ショウガのぴりっとした風味に複雑な香辛料の風味。黒糖のまろやかさがそれを優しく包んでいる。
「あ~~、焼き立てクッキー、うめぇ~~」
「手作りならではって感じだな!」
 鉄板で完全に水分を飛ばす前の、柔らかくとろけるようなクッキーの舌触り。全員がその美味しさを堪能する。
「そういえば監督」
「なんだ?」
 顔よりも大きなクッキーの欠片をキャッチャーはじっと見ている。
「これって誰が作ったんだろう?」
「えっ」
 ……そういえば誰だろう。
 うさみっちの脳内に、ローブを纏ってせっせと生地を伸ばす邪教団の姿が再生される。
 いやいや、そんなまさか。うさみっちはぷるぷると頭を振った。
「ま! 誰が作っても美味しきゃ問題ないだろ!」

 1時間後。どこにどう収まったのか、すっかり丸くなった妖精の野球チームと監督が、レジャーシートの上でころころしていたのが複数の猟兵に目撃されたとかなんとか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャスパー・ジャンブルジョルト
空腹こそ最高の調味料!
つーことで、美味い鯛焼きを更に美味く食うために腹を減らしてきたんだが……ちょっと減らしすぎたかなー。しかも、クッキー野郎どもが香ばしい匂いで空腹中枢を刺激してきやがるし。
くそっ! こうなったら、この空腹感を利用して……うぉぉぉ~ん!(UCで巨大化)
でっかくなった後は、あの蒸気機関車を武器にして戦うぜ。
おまえら、まとめて粉末にしてやらぁ!(ミニカーを床でころころ走らせる幼児のごとく、機関車を手に取って走らせ、敵を轢き/挽き潰していく)
なんか、食べ物を粗末にしてるみたいで気が咎めるけど……まあ、いいか。

他の猟兵の引き立て役や敵の噛ませ犬役など、お好きなように扱ってください。



 お腹を空かせた猟兵はここにもいる。
「あー……ちょっと減らしてきすぎたかなー……」
 美味いと噂のたい焼きを更に美味く食すため、腹を減らしてきたのはジャスパー・ジャンブルジョルト(JJ・f08532)。通称JJ。灰色の毛並みのケットシーだ。
 『空腹は最高の調味料』は世界共通の合言葉。くるるる……と鳴く腹に、さっさと邪教団を倒してたい焼きにありつこうと決意を固める。
 芝生の横の広場を歩くJJの鼻孔をくすぐるように風がそよいだ。小麦粉が焼きあがる香ばしさ、黒砂糖の甘さ、それを引き締める香辛料のスパイシーさ……すべてを内包しひとつにまとめた幸せな香りが漂ってくる。
 空腹のあまり幻覚でも見始めたのだろうか? 巨大なジンジャークッキーがひょこひょこっと顔を覗かせて集団で手を振っていやがる。
「おなか……へったよね。……たべちゃう?」
 さすがは邪教団のオブリビオン。やることが邪悪だ。今のJJにとっては悪魔のささやきに他ならない。
「くそっ! こうなったらあの手を……」
 息も絶え絶えに、JJは公園の一角に展示された蒸気機関車に駆け寄った。その姿がみるみるうちに巨大化していく。
 『JUMBO JUNKIE』。空腹によるいら立ちと悲しみを原動力にして体を巨大化させるユーベルコード。
 空腹の中、焼きたてクッキーに誘われた。しかし、この後のたい焼きのためにここで負けるわけにはいかない。JJの切なさはいかほどだっただろうか……察してあまりある。
 そう、今この状況なら最大に近いサイズまでJJは強化される……!
「……うぉぉぉ~~~ん! おまえら、まとめて粉末にしてやらぁ!!」
 巨大なJJは屋根を外すと立派な機関車を片手で掴んだ。芝生に両ひざをついて公園内の道を走らせる。
「うわー」
「きゃー!!」
 てんでばらばらに逃げまどうジンジャークッキーを機関車が押しつぶしていく。

 それをマンションの高層階からじっと見下ろす目があった。
「ママー! ねこちゃん! しゅーーー、って」
「あらあら、すごいわねー」
 洗濯物を畳む母親の前で男の子は木の機関車を手に取ると、両ひざをついて並べた積み木を倒す。

 そんな事はいざ知らず。
「(なんか、食べ物を粗末にしているみたいで気が咎めるけど……)」
 そんなJJの心配は無用だ。
 一応クッキーなので食べられるが、彼らは元よりオブリビオン。砕かれて粉末になった後はさらさら~と骸の海に還っていく。間違って鳩の餌になってしまう心配もない。
「うあああぁぁ! はらへったよぉ~~~ん!」
 巨大なケットシーの猟兵の嘆きを残して、ジンジャークッキーは跡形もなく消え去っていった。
 ええい、たい焼きはまだか!!!

大成功 🔵​🔵​🔵​

本城・やぐら
今回の敵はお菓子ですか!?確かに良い香りです!!
これは…生姜…の香りでしょうか?
ハッ!?思わず気持ちを持って行かれそうになりました!?
なかなかの強敵ですね!
そちらが嗅覚に訴えて来るならば、こちらは視覚に強く訴えてみます!
【琳派百図】で様々な和菓子を描きます♪
琳派風な練り切り等の生菓子は良く見掛けますし、こんがり可愛い鯛焼きも描いちゃいますよ!
敵さんより美味しそうなお菓子を描きまくります☆
眠気対策には竹筒の水筒に入れてきた濃いめのお茶を持って行きます。
ひと口飲めば程よい苦味と香りで目が覚めること請け合いです!
鯛焼きにも合うと思います♪
鯛焼きの分もお茶を残さなきゃなのでサクッと倒しちゃいましょう!



 転送を抜けてUDCアースに降り立った本城・やぐら(ゆるりんぱ絵師・f06242)は、公園に足を踏み入れると深呼吸する。そんなやぐらの場所にも、美味しそうな香りが流れてくる。
 ほろ苦さを含んだ甘さ。その後にぴりりと際立つアクセント。
「(これは……生姜の香りでしょうか?)」
 香りをたどって無意識のうちに数歩歩いてから、やぐらはハッとして両手で頬に触れた。
「思わず気持ちを持っていかれそうになりました!?」
 なかなかの強敵ですね。
 やぐらは近くにあったベンチに腰掛けると、竹筒製の水筒を取り出す。濃い目に入れたお茶を一杯、湯飲みがわりの蓋にあけて飲み干す。程よい苦みと香りが、頭の中に残る甘さをすっきりと押し流していった。
 たい焼きにもきっとよく合うだろう。
「……やきたて、だよ?」
 子供の声にきょろきょろと見回せば、植え込みの陰からジンジャークッキーが顔を出していた。香りがひときわ強くなる。
 やぐらは躑躅の筆入れを取り出すと絵筆を握る。
「そちらが嗅覚に訴えて来るならば、こちらは視覚に強く訴えてみます!」
 お茶の効果が残っている間に片を付ける。揚羽蝶の墨入れに筆先をつけると、勢いよく走らせた。
 和菓子もまた芸術だ。四季の草花や動物を模した菓子の数々は、食べるのがもったいなくなってしまうほどに美しい。
 紫と紅の寒天を用いた紫陽花。絢爛豪華な牡丹の練り切り。口を尖らせた若鮎。
 思いつく限りの和菓子を筆で並べていく。敵よりもおいしそうに、味まで思い出せるように。最後にこれから食べる『こんがり可愛いたい焼き』を描き上げて、やぐらは筆を止めた。
「……いいな」
 ぽそっとジンジャークッキーが呟く。
「え……?」
「……いいないいな。ゆうめいな子は描いてもらえて」
 ジンジャークッキーも決してマイナーな存在ではない。が、UDCアースの日本人の大多数が作ったり食べたりした事があるかと問われれば、少々心もとない。
 うつむいて地面に目を落とし、小石でもけり出しそうなジンジャークッキー。
 分かりやすくいじけた様子を見かねて、やぐらは声をかけた。
「あの……描きましょうか?」
「ほんと!?」

 妙なことになった。
 目の前でポーズを取るジンジャークッキーを、やぐらは筆で描写する。
 丸い頭。短い手足。糖衣(アイシング)の線をぐるりと輪郭に沿って引いてから、蝶ネクタイにボタン。最後にちょんっと目と口を描いてから眉をつける。
「これが……ぼく!?」
 出来上がった絵のまわりをくるくると回り、手足をぱたぱた動かすクッキー。
 ――ありがとう、おねえちゃん!
「……これでも倒せるんですね」
 粗熱が取れたのか満足したのか。ジンジャークッキーは飛び跳ねながら消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真守・有栖
たい焼き!?もちろん食べにいくわ!
わぅう……甘くてほっかほかのおさかな。美味しいわよね!

えぇ、さくっと邪教団を成敗しておやつの時間よ!
さぁ、推して参るわ!かかってらっしゃい!


くっきー。くっきーじゃないの!?


ふん。そーんなこと言われても――

もっっっちろん!食べるに決まってるじゃない?!
いいのね?いいのよね!?
今、焼き立てって言ったわよね食べてもいいって言ったわよね!!?

わふー。たい焼きの前の腹ごしらえよ!
いっただっきまーす!わぐわぐっ

冷めない内に美味しく頂くわ!
えぇ、食べ物を粗末に扱うのはよくないわ!きちんと食してあげないとっ

わふぅ……何よ美味しいじゃないのっ
なかなかの強敵だったわね!……けぷっ



「たい焼き!? もちろん食べに行くわ! わぅぅ……甘くてほっかほかのおさかな。美味しいわよね!」
 二つ返事で依頼を引き受けた真守・有栖(月喰の巫女・f15177)は、遊歩道に敷き詰められた中から同じ色のタイルを踏んで歩く。銀色の狼耳と狼の尻尾が、バランスを取るように揺れている。
 かさっ、と道端の紫陽花の茂みが鳴った。
「邪教団ね。さくっと成敗しておやつの時間よ! さぁ、推して参るわ。かかってらっしゃい!!」
 腰を引き、打刀『月喰』の柄に手をかける有栖。ユーベルコードも準備万端だ。
 そんな気合十分の有栖の前にそっと顔を覗かせたのは、困り眉のジンジャークッキーだった。ふんわり焼き立てのいい香りが辺りに広がる。
「やきたて、だよ。……おねえちゃん、たべて、くれる?」
「ふん。そーんなこと言われても――」
「……だめ?」
 描かれた表情のせいか、どこか弱気なオブリビオンはおろおろと猟兵の顔色を窺う。
 腕組みしてジンジャークッキーの様子をじいっと見ていた有栖は、にぱっと笑った。
「もっっっちろん! 食べるに決まってるじゃない?!」
「やったー!」
 くるくる回るクッキー。交渉成立(?)だ。
 そんなクッキーの撫で肩を有栖はがっと掴んだ。
「いいのね? いいのよね!? 今、焼き立てって言ったわよね食べてもいいって言ったわよね!!?? じゃっ、いっただっきまーす!」
 かぷっ。
 そう言うや否や、八重歯のように犬歯を覗かせて、ジンジャークッキーの頭にかぶりつく。
 程よく水分が抜けたさくさくの生地に、黒糖と蜂蜜の甘い香り。規格外のサイズの焼き菓子が陥りがちな生焼け感もない。
「わぐわぐっ……わふ-。何よ、美味しいじゃないのっ!」
 たい焼きの前の腹ごしらえ。
 焼きたての『今』しか楽しめない瞬間がある。飲み物が欲しくなったのは確かだが、最後のひとかけらまで有栖は美味しそうに噛み砕いた。

「わふぅぅぅ……なかなかの強敵だったわね」
 ベンチに座ると、気の利くUDC職員に差し入れてもらったクッションに有栖は寄りかかる。風が銀色の毛並みを撫で葉の影を揺らす。目に入った日光に有栖は目を瞑った。
 光の中。笑顔で手を振る困り眉のジンジャークッキーが見える気がする。
「食べてくれて……ありがとう。おねえちゃん」
 満腹になった有栖はクッションに寄りかかったままひらひらと手を振る。
「けぷっ……今はちょっと見たくないかも」
「そんなー」
 ジンジャークッキーの幻影は、くるくると回って骸の海へと還っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

インディゴ・クロワッサン
アドリブ連携大歓迎~
クッキーのオブリビオン… 粉微塵に砕いたら、その部分が逆再生みたいな感じで再生したりしないかな…(そわぁ
【POW】
「あ、僕はいいや。今はたい焼きの気分だし」
良い香りの無差別攻撃程度じゃ、クリームチーズとマスカルポーネを入れた甘めのたい焼きとか、ピザ風のおかずたい焼きに目が眩んでる今の僕には届かないよ!
(※既に材料は購入してありUC:無限収納に収納済)
「よし。勿体無いけど、粉微塵にしちゃおう」
愛用の黒剣:Vergessenを【怪力】と【鎧砕き】と【鎧無視攻撃】を発動した状態でぶん回して【なぎ払】っちゃおう!
あ、飛び散ってるその辺のパーツは【踏みつけ】で砕いておくよ



 涼やかな藍色の髪の間から、金色の瞳が覗く。木陰の道を行くインディゴ・クロワッサン(藍染め三日月・f07157)が足を止めると、3体のジンジャークッキーが遊歩道の向こうからやってきた。
「……しってるよ」
「たい焼き……食べにいくんでしょ」
「……ぼくらも、あまいよ?」
 どうやら、他のジンジャークッキーの戦いを見て、猟兵たちの目的を知ったようだ。
 クッキーの焼きあがる匂いがふわりと漂う。蜂蜜と黒糖が入り混じった甘い香り……だが、その誘惑にインディゴは全く動じなかった。
「いつ、僕が『甘いもの』と言ったかな?」
 既に準備は整えてある。インディゴはユーベルコードの中からさっと何かを両手に取った。
 まず取り出したのはマスカルポーネチーズ。このフレッシュチーズにも甘みはある。ただしそれはほのかで爽やかな風味であり、黒糖や蜂蜜とはまた違った種類の甘さだ。
 もう一つはクリームチーズ。濃厚でほんのり酸味のあるこのチーズは、サラダに添えたりパンに塗るのが代表的な使われ方だ。
「この2つのチーズを入れてほのかな甘みと酸味の調和したたい焼きを作る……僕の今の気分は、おかずたい焼きなんだ!」
「な、なんだって……!」
 たい焼きと言えばお菓子と思い込んでいたのだろう。ジンジャークッキーの間に動揺が走る。クッキーたちが辺りに漂わせる甘い香りに、揺らぎが生じる。
「まさかアイツが……おかずになるなんて」
「……でもそれは、同じおかしと……スイーツの一員だっていえるの?」
 しん、と全員が静まり返る。
 軽率にシリアスになった空気に、チーズを元通りユーベルコードの中にしまい込んだインディゴは口を開いた。
「クッキーの仲間に、クラッカーがあるね」
 ジンジャークッキーたちははっとする。
 お菓子として食べられる事もあれば、野菜や魚、チーズを乗せておつまみになったりするアイツ。定義上では、クッキーもクラッカーも同じビスケットの仲間だ。
 料理と世界の知識に明るいインディゴの言葉に、クッキーたちは首を振った。
「クッキーだから……たい焼きだからおかし……じゃないね」
「……うん、ぼくたちは大切なことを忘れてたよ」
 どうにか丸く収まったようだ。
「ということで、そろそろ倒させてもらうよ」
 インディゴは剣をすらりと抜いた。思い出したようにクッキーは逃げ始める。
 イレギュラーな敵ゆえにうっかり忘れがちだが、猟兵とオブリビオンは水と油。基本的には不倶戴天の敵同士なのだ。
 焼き固められたクッキーの表面を黒剣『Vergessen』が撫でる。線の細い印象ながら力のあるインディゴの剣は、それだけで固いクッキーたちをなぎ倒し粉微塵に砕いていく。
 すべて斬ってからかがんで見てみると、欠片まで骸の海に還っているようだ。
「砕いても再生はしないか……」
 それぞれの欠片から手足が生えだして増えだす、などという展開も内心楽しみにしていたインディゴは『残念!』と立ち上がった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

明智・珠稀
据え膳食わぬは男の恥…!!
食べて、という愛らしい方(オブリビオン)を
食べずにいられますでしょうか…!
鯛焼きも勿論楽しみです、ですが!
ご安心ください別腹というものがあります、さぁ愛し食べ尽くしてみせましょう、ふふ…!
※食べる気満々

■戦闘
UC『明智・ザ・ジャイアント』を使用し
大きな明智を出現させ
「さぁ、いきますよ…!」
と大明智と共に長鞭で攻撃&動かぬように捕縛
敵攻撃にはオーラシールドでの【オーラ防御】と
【武器受け】を
多少攻撃されても
「あぁ、香ばしい…!」と悦ぶド変態

「いただきます…!」
【吸血】するが如くカプリと噛みつきモグモグし【生命力吸収】
美味さに満足そうな大小明智

※アドリブ&絡み&ネタ大歓迎!



「……そこの猟兵」
「食べて……くれる?」
 モデルのように見える男、明智・珠稀(和吸血鬼、妖刀添え・f00992)は背中からかけられた声に振りむいた。2体のジンジャークッキーが遊歩道の真ん中に立っている。
「私に、あなたがたを食べろと?」
 珠稀の答えにクッキーは交互に手を挙げた。
「そうだよ……おなか、いっぱいにしてやる!」
「……たい焼き、食べにいかせない」
 ぶわぁっ、と甘く魅惑的な香りが広がる。このクッキーたちはどこかで猟兵の戦いを見てきたに違いない。2体は全力で珠稀を篭絡しようと、焼き立ての香ばしい匂いを放つ。
 暴力的ともいえる香りの攻撃を身に纏ったオーラで防ぎ、珠稀は手をひらひらと振ると顔の前に残った甘い空気を払う。彼の長身が落とす影の縁に手をかけるように、大きな珠稀――『明智・ザ・ジャイアント』が現れる。
「さぁ、いきますよ!」
「やはり……たたかうのか……」「こ、こい……!」
 戦闘の気配を察して身構えるジンジャークッキーたち。
 彼らの予想に反して、2人の珠稀は慈しむような笑みをオブリビオンたちに向ける。
 そして、両腕を大きく広げた。
「ふふっ、据え膳食わぬは男の恥! 『食べて。』という愛らしい方を食べずにいられますでしょうか……!! さぁ、いらっしゃい。大きな愛で包み、愛し、食べ尽くしてみせましょう、ふふ……!」
 黒髪から覗く紫の瞳が怪しく煌めく。
 ……何か、なにかこの猟兵は違う!
 クッキーにそんなものがあるかどうかは定かでないが、ともかくジンジャークッキーマンたちは本能的な危機を感じ取るとじりじりと後ずさりし始める。
「や、やっぱやめ……」「……ぼくも」
「逃がしません!」
 ぴしぃっ! とジンジャークッキーに何かが巻き付いた。大きな珠稀と普通の珠稀、それぞれが振るった鞭が生き物のようにクッキーたちを拘束する。
「「あーれー」」
 そのままくるくるっと引き寄せられれば、ジンジャークッキーは珠稀たちの腕の中。
「ああっ、香ばしっ……いただきます!!」
 じたばたする短い手足を避けて、珠稀は血でも啜るようにかぷりと首に噛みつく。牙が触れると同時にオブリビオンはただのジンジャークッキーに戻っていた。

 口いっぱいに広がる味の余韻に、珠稀は満足そうに息をつく。その肩がちょいちょいと叩かれる。
 見上げれば、大きな珠稀が目で何かを訴えているようだ。
「……まだ、足りないと?」
 考えてみれば、珠稀にとっては1mある巨大クッキーでも、2倍の背丈の『大明智』にとっては50cm程度の大きさ――いや、それでも結構大きいが。
 果たしてこの後たい焼きが入るだろうか?
 迷いは束の間のこと。珠稀は両手をぐっと握った。
「ご安心ください、別腹というものがあります! さぁ、次の愛らしい方を探しに参りましょう!!!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

石守・舞花
【OCL】で参加

わーいい匂い
でもいしがみさん的には焼きたてクッキーよりも少し置いてバターが馴染んだやつのが好みです
なので砕いて持ち帰るですよ

【クロックアップスピード】発動
超高速で敵の背後?裏面?に回って薙刀でぶっ叩いて砕きます
「お二人のぶんも確保しときますねー」
細かい破片はつまみ食い

飴玉ももちろん食べれるだけお口でキャッチ
ヘクセンハウスにも【捨て身の一撃】で齧りついてみます
「ヘンゼル不在のグレーテル、みたいな?」

いしがみさんにはオブリビオンを食べるっていう使命もあるし
うちら3人とも食欲だけは有り余ってるんで
ここでがっつり食べてもデザートのたい焼きは別腹かなーって


タマコ・ヴェストドルフ
【OCL】で参加します
誰かといっしょにオブリビオンを食べるのは、はじめてです
いっしょに食べるのはおいしいでしょうか
食べるのがへってしまうでしょうか
おなか(愛)はいっぱいになるでしょうか
それともおなか(愛)はへるでしょうか
食べてみればわかるかもしれません

黒いの(黒剣)に血をあげて
食べる状態(殺戮捕食態)にします
黒いのはわたしの口です
十本を刺して斬って投げて
手当たりしだいにクッキーマンを食べます
焼き立てのおいしそうな匂い
おなかはずっと空いています
空腹で動けなくなるなんてありえません
だって
食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて
食べ続けないとわたしは満たされない


アンネリーゼ・ディンドルフ
チーム【OCL】の3人で行動
◎WIZ
アンネリーゼは今日もおいしいオブリビオン料理を求め依頼を受ける。

「オブリビオン料理研究所として最初の団体行動です」
団員が増え、今回は団員達との初依頼である。感慨深い。

「たい焼き……ですか。これはとても興味があります!」
エルフのアンネリーゼには馴染みのない食べ物だ。

「なにやらおいしそうな匂いがしますね」
UC【パースート・アロー】を発動。

「数には数で対抗です」
団員への【援護射撃】としてレベル×5本の誘撃の矢を放ち、ジンジャークッキーマンやヘクセンハウスにダメージを与え収穫の手助けを試みる。

「今日はこのためにお腹を空かせてきました」
お腹がぐーぐー鳴っている。



「オブリビオン料理研究所として、最初の団体行動です」
 感慨深いですね。アンネリーゼ・ディンドルフ(オブリビオン料理研究所の団長・f15093)は今までの道筋を思い返す。今日は集まった団員たちと初めて受ける依頼だ。
 アンネリーゼが団長を務める『オブリビオン料理研究所』ではその名の通り、美味しいオブリビオンを探し求め調理方法を研究している。
 『猟』とはすなわち狩ること。兵種として知られる『猟兵』も、元はハンターとしての意味を持っていた。狩った獲物を食材として頂くのはハンターの醍醐味のひとつだろう。
 おまけに一足早く現地に入った猟兵によると、今回の敵は調理済みで出てくるらしい。

「わーいい匂い」
 石守・舞花(神石の巫女・f17791)は公園の中に一番乗りする。どこかマイペースに見えて、スペースシップワールドのコロニー出身の舞花にとって、解放された広い空間は物珍しいのかもしれない。風に乗って流れてくる香りの元を探して、きょろきょろと辺りを見回している。
「誰かといっしょにオブリビオンを食べるのは、はじめてです」
 白い髪に黒いドレス、消え入ってしまいそうな儚い雰囲気の少女タマコ・ヴェストドルフ(Raubtier・f15219)は舞花に続いて公園に入ると、こくん、と生唾を飲み込んだ。
「確かに、なにやらおいしそうな匂いがしますね」
 団員の2人を見守るようにアンネリーゼが後ろからやってくる。他の猟兵の戦場から流れてきたのだろうか。公園内にはいい香りが立ち込めていた。
「いったいどこにいるんでしょうか」
「あれかな?」
 舞花が指さしたのは、芝生の近くのアスレチックの上。
 ネットにゆらゆら揺れていたジンジャークッキーは、こちらに気付いて飛び降りてくる。4体――いや、その後ろからも次々に顔を出している。
「たべて!」「……たべてくれる?」「食べてよ……!」
 自ら食べられに来るとは稀有なオブリビオンもいたものだ。
 距離を詰められる前に、アンネリーゼは200本近い矢を周囲に呼び出した。腕を真っ直ぐ前に掲げ、凛とした声で告げる。
「収穫しますよ!」
 舞花はぱちん、と指を鳴らした。
「お二人のぶんも確保しときますねー」
 大きめの白パーカーを着た舞花の姿がぶれる。ユーベルコードで速度を上げ、撃ちだされたアンネリーゼの矢とともに駆けた舞花は、敵の目の前で靴底を強く踏みしめて転回。矢が次々に刺さっていくクッキーたちの背面に現れると、振り向く暇も与えずに薙刀で斬りつける。
「うん、味に問題なしですよ。むしろ美味しいかな」
 クッキーが地面に落ちる前にスピードを生かして回収。鞄の中の紙袋にも詰めていく。ついでに小さくなってしまった欠片はそのまま口の中に放り込んだ。
「(いしがみさん的には焼き立てクッキーよりも、少し置いてバターが馴染んだやつのが好みですね)」
 粗熱が取れて生地内の水分が落ち着き、味に一体感が生まれたクッキー。その味わいを想像しながら舞花は欠片を捕まえては袋に詰めていく。
「数には数で対抗です」
 それぞれの方面のクッキーに対応する舞花とタマコを援護するように、矢が曲線を描いてオブリビオンの手足に刺さっては動きを封じていく。アンネリーゼの手には、舞花から受け取ったクッキーの大きな欠片。
 かじってみれば、黒糖と蜂蜜の甘さの中にショウガと香辛料の風味がアクセントとして利いている。食べ物系のオブリビオンだけあって、味が整っている。未知のオブリビオンの味を確かめる観点からすれば驚きは少ないものの、これはこれで安定感があって楽しめそうだ。
「たーべてー!」
 ジンジャークッキーの呼び声とともに、ヘクセンハウスが出現する。いわゆる『小さなお菓子の家』だ。扉が開くと同時に中から飛び出してきたキャンディを、舞花は器用に口でキャッチした。
「イチゴミルク味ですね。こっちはどうですかねー」
 そう言うなり、開いたお菓子の家のドアを掴む。ヘクセンハウスが消えてしまう前に捨て身で突っ込んで剥ぎ取ると、顔ほども大きさがあるドアにかぶりついた。
「ん……時間が経ってバターが馴染んだジンジャーブレッドです」
 アンネリーゼの前で口いっぱいに頬張ってサムズアップする。
 ヘクセンハウスの部品となるよう固めに焼き上げられているのか、ジンジャークッキーマンとも味が微妙に違う。甘さが控え目でより香ばしい。
「ヘンゼル不在のグレーテル、みたいな?」
 舞花のたとえに、アンネリーゼは微笑んだ。
 なんとも頼もしいグレーテルたちだ。

 タマコは躊躇なく自分の手首を傷つける。
「黒いの、食事です」
 溢れた血を受け止めて、タマコの持つ黒剣が真っ黒な口を開いた。殺戮捕食態に形を変えた黒剣は、刀身で砕いたクッキーの欠片を丸ごとさらって呑み込む。
 アンネリーゼの援護射撃を受けながら芝生の上に駆け出した。口を閉ざした表情のまま、タマコは黒い剣の口を操って、咀嚼し、嚥下し、クッキーを胃に送り込んでいく。
 くるる……とお腹が鳴った。まだ、まだ足りない。体の中にぽっかり空いた冷たい隙間を埋めるように、熱いクッキーを詰め込む。
「(誰かといっしょに食べるのはおいしいでしょうか。おなかいっぱいになるでしょうか。それとも、おなかはへるでしょうか)」
 満たされない空白を理解しようと、真っ黒な口を動かし続ける。
 食べて、呑み下して、また食べて、喉に送り、食べて、食べて食べて、食べて食べて食べてたべて…………。
 気付けばタマコは全てのジンジャークッキーマンを食べ尽くし、芝生の上にひとり。
 靴の下で青々とした芝生を風が揺らす。

「あれっ」
 声にタマコは顔を上げた。
 舞花は近くまで歩いてくると、クッキーをいっぱいに詰め込んだはずの鞄を逆さにして振る。僅かな粉を残して、鞄は空になっていた。
「冷めたら、骸の海に還ってしまったのかもしれませんね」
 アンネリーゼは舞花を気遣うように苦笑する。
「そんなー。いしがみさん、まだ欠片くらいしか食べてないよ」
 残念そうに空っぽの鞄の底を見る舞花。
「この後、たい焼きもありますからね。私の故郷では馴染みのなかった料理ですので、今から楽しみです。今日はこのためにお腹を空かせてきたのですから」
 エルフのアンネリーゼにとってたい焼きは未知の食べ物だ。その味を想像するように、うっとりと息をつく。
「うちら3人とも、食欲だけは有り余ってるもんね。デザートのたい焼きは別腹だよ。タマコさんは食べたことある?」
 向けられる舞花とアンネリーゼの瞳を見返してから、タマコはふるふると首を振った。
 見てみなければなんともいえないが、たぶん、ない。
「(食べることは……)」
 ふたりと並んで歩きながら、タマコは落ちかかる前髪の間から仲間の楽しそうな表情をじっと見つめていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シン・バントライン
大好きな人にたい焼きを持って帰れたらいいなと、どんなのを作ろうか考える。
「スタンダードなあんこ。ちょっと洋風にカスタード、チーズ。サムライエンパイア風に抹茶…どんなのがお好きですかね」
最近彼女のことしか考えてないなと自分でも少々呆れてしまう。
「そもそも持ち帰りって出来るんですかね?」

ん?なんだか良い香りがしてきました。
あ、クッキーも悪くないですね。
「みんなで美味しく頂きましょう」
剣を抜いてクッキーを等分に切り分けようと試みる。
駄目だったら一旦引いてUC発動。
「騎士さん、蛇竜さん、やっておしまいなさい!」
(食ってまえ!)

「なんか腹減ってきたな…ご飯系もええかもしれん。焼き立てってのがいい」



「スタンダードなあんこ……ちょっと洋風にカスタード? チーズ? ……サムライエンパイア風に抹茶……どんなのがお好きですかね」
 誰もいないブランコをベンチ代わりに腕組み。シン・バントライン(逆光の愛・f04752)はグリモア猟兵に聞いたたい焼きの食材を、頭の中で組み合わせては考える。
 自分の好みはともかく、誰かの好きな味を考えるのは楽しい、けれど難しい。作るものの自由度が広ければなおさらだ。
「(最近、彼女のことしか考えてないな……)」
 そんな自分に気付いて、顔を隠す黒い布の内でシンは呆れたようにそっと笑った。暖かい気持ちになるのは、黒装束の熱吸収率が良いというだけではないだろう。
「そもそも、持ち帰りって出来るんですかね?」
 UDCアースの一般的な情報によれば、ほぼ出来ると考えてよさそうだが……と思考を巡らせたところでシンは気付いた。
 ……どこからか良い香りがする。
 すぐにその原因は判明する。ジンジャークッキーマンが走り寄ってきたからだ。
「黒いおにーさん……ぼくをた……べ……?」
 動くクッキーなどオブリビオン以外の何者でもない。
 シンは立ち上がると同時に剣を抜き、稲妻が走るような軌道でクッキーを切り分けた。
「何か言いかけていたみたいですが…………まあ、ええか」
 澄んだことは仕方ない。刀身についた小麦粉を拭って、シンはユーベルコードを発動する。
 呼び出された死霊騎士と死霊蛇竜は身構えてから敵の姿が無いのに気づき、シンを振り返った。ブランコに座る召喚主の膝の上には、大きなお皿と積み上げられたクッキーの欠片。
「さあ、騎士さん、蛇竜さん、やっておしまいなさい!」
 そう言ってシンはジンジャークッキーを1人と1匹に勧める。
 顔を見合わせた騎士と蛇竜は、おそるおそるクッキーを手と口に取った。召喚中は戦えないシンに代わって、クッキーをかじり始める。
 なかなかシュールな光景だ。

「半分、か」
 騎士はもしかしたら甘い物が苦手で、蛇竜は蛇の血が濃かったのか1週間に数回の食事で済んでしまうようだ。(※個体差があります)
 それでもよく頑張ってくれたほうだろう。残ったクッキーをシンも食べてみる。
「ん、うまいな。……なんか腹減ってきたな。ご飯系もええかもしれん」
 たい焼きも焼きたてなら美味しさを存分に……、持ち帰って渡す時にはトースターか何かで軽く温め直した方が……?
 冷めたクッキーがいつの間にか消えて手が空を掴もうとするまで、シンはそのまま考え続けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『睡魔』

POW   :    貴方も段々眠くなる
【なんだか眠くなる波動 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    羊が一匹、羊が二匹
【極僅かでも、興味】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【レベル×10の匹数の、モフモフの羊達】から、高命中力の【強い眠気を催す波動】を飛ばす。
WIZ   :    あと5分
予め【起きるまでの時間を申告し起床を引き延ばす】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。

イラスト:笹にゃ うらら

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアルル・アークライトです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「ふああ……今日は何人釣れたかな」
 羊に乗った少女は大きく伸びをすると、寝床から公園へと繰り出す。
 くるくるっと指を回す。公園内に設置された防災無線のスイッチが勝手に入った。オルゴールのゆったりとした子守歌が流れ出した。
 ジンジャークッキーマンたちは眠気を誘う布石だ。
「お腹いっぱいになると~消化のために副交感神経が働くんだよね~~。……眠くなったり~心拍数を下げたり~……すやぁ」
 そして、魔法の眠りで徐々に鼓動は弱まり、最後には穏やかな死を迎える。
 少女は眠そうに言うと、大きな羊の上でまどろみながら猟兵を眠りに誘い始めた。

 次に襲い来るのは睡眠欲。
 一度ぐっすり眠りこんでしまえば目覚めるのは猟兵でも至難の業だ。一般人ともなればそのまま永遠に夢の中。
 全ての人を目覚めさせるにはこのオブリビオン『睡魔』を倒すしかない。

 太陽は空の頂に。とろとろの日差しが公園に降り注ぎ、スピーカーはゆったりとオルゴールの音色を奏でる。心地のいい温度のそよ風が吹いている。

 あなたは睡魔と戦う? 耐える? 逃げ切る?
 それとも…………ちょっとだけうとうとしてみる?
榎・うさみっち
ふ~クッキー食った食った!
ころころとレジャーシートの上でくつろいでいたら
綺麗なオルゴールの音が…こりゃー気持ちよく寝れそう…
…ハッ!あれはオブリビオン!
一般人のため、そして何よりたい焼きを食うために
やっぱり寝ちゃダメだー!

というわけでこの睡眠欲に対抗するために
【きょうふときょうきのせみっちファイナル】召喚!
約200匹ものせみっち達が子守唄に
負けないくらいけたたましく鳴いて睡眠を妨害!
うっかり寝落ちた奴が居ても他の奴が叩き起こしに行くぜ
こうして寝ないように皆で協力しながら
本体の睡魔へ突撃だー!そのツノをへし折ってやるぜ!

なッ、この羊、羽毛のようにふかふかだと…!?
このまま埋もれて寝てしま…アーー


真守・有栖
お腹はいっぱい。
ぽかぽかのお天気。
ふかふかのくっしょん。
ゆらゆらのおるごーる。

わふぅ……とっても眠くなってきた、わ!!?

何よあれ。
もっこもっこじゃない。もっふもふじゃないの!!?

わぅう……もふもふのめぇめぇでふかっふかですやすやするなんてっ

私も!もこもこでもふもふですやすやしたいわ!するわ!!!

眠りを誘う波動も何のその。
覚たる意志を持つ狼を妨げることなんて、できな……っ…て、まだよっ!?

狼力(おおかみぢから)で睡魔をがるると堪えながらめぇめぇに近づき。

もふり。もふもふ。

わぅう……このもふ心地たるや!

私がめぇめぇをもふ……抑えておくわ!皆はその隙にとどめを……後は頼んだ、わ…よ……すやぁ…わふぅ


タマコ・ヴェストドルフ
【OCL】で参加します
ラムでしょうか
マトンでしょうか
どちらも食べたことはありません
おいしいのでしょうか

アンネリーゼさんの声援を背に奮闘します
歌っている間
アンネリーゼさんは食べられません
羊も上の人も狩って来ないと
みんなで食べられません

羊に近付くとなんだか眠くなりますが
頭がぼんやりと胡乱でもオブリビオンは食べられ(戦え)ます
手足の一二本持っていかれようが
黒いのを突き立てて噛み付けば生命力吸収でなんとかなります
それに今回はアンネリーゼさんの声援があるのです
眠気で止まる理由なんてありません

1本、2本、3本……
何本刺せば狩れるでしょうか
黒いの10本で足りなければ
牙でも爪でも腕でも衝き刺しましょう


本城・やぐら
何だか綺麗でのんびりした音楽が流れ始めましたね?
なるほど、次の敵さんは睡魔ですか!?
子守唄の曲なのですね。確かに眠くなりそうです。
嗅覚の次は聴覚に訴えるという訳ですね。
もう一杯濃いめのお茶を飲んで気合いを入れ直します!
くーっ!空きっ腹に沁みます!
鯛焼きを早く食べる為にも退散して頂きますよーっ!!
羊が苦手そうな動物を描く事にします。
今回は水墨で大きな虎をば!
ただ実は私、本物の虎を見た事が無いものでして。
毛皮は骨董屋さんの店先とかで描かせて貰った事があるのですけれども。
どう見ても大きな猫ちゃんに見えますが誰が何と言おうがこれは猛獣の虎です!
さあ、虎さん!鯛焼きの為に睡魔を追い払って下さい!ガオー!


明智・珠稀
ふふ!
眠たくなる気持ちもわかります。
何も危害がないのでしたら、人々をゆっくり寝かしつけたい、そして
その寝顔をガン見し悦に浸りたい…!(はぁはぁ)
ですが!
(サウンドウェポン『三味線』を取り出し)
さぁ、私の激しくロックな三味線で目覚めさせてみせましょう…!

■戦闘
「ふ、ふふ。いつだって私の三大欲望は残る一つが勝っております…!」
ギターの如き三味線での激しい演奏を
UC【サウンド・オブ・パワー】も発動し
自身や仲間の戦闘力を増強しつつ
「♪私のプレイで寝かせませんよふふふ~」
と三味線での【マヒ攻撃】【衝撃波】で敵を攻撃
「戦闘が終わりましたら皆様好きなだけ睡眠を貪ってください♡」

※アドリブ&絡み&ネタ大歓迎♡


シン・バントライン
天気晴朗なれども夢見たし。
…眠い。
最近いろいろありすぎてお疲れ気味の私。
たまにはUCに丸投げしてサボっていたって良いのではないでしょうか。
呼び出し中はどうせ戦闘出来へんし。
騎士と蛇竜に
「起こすなよ。戦闘終わるまで絶対起こすなよ」
と言い、適当に頑張れと指示。
愛しいあの人の夢が見れたらいいなぁなんて思いながら公園のベンチで安眠。
オルゴールの音が耳に優しくて罠だと分かっていても争う気がしない。

このまま目が覚めなかったら魂はどこへ行くのだろう。
死は存在せず生きる世界が変わるだけだというが、本当にそうだろうか。
眠ったまま違う世界に行くだろうか。
数多の世界を飛び回る猟兵の存在と何が違うのだろうか。


石守・舞花
【OCL】で参加

ふわぁ、なんだか眠くなってきました
でもここで寝ちゃうわけにはいかないので、がんばって耐えるです
自分の身体を傷つけて痛みで目を覚まして、ついでに【ブラッドガイスト】発動
薙刀を殺戮捕食モードにしちゃいます

そういえば、いしがみさん全然クッキー食べれなかったんですよね
自分も神石様もまだ全然満たされてないですよ
「じんぎすかーん!」
寝ぼけ眼で羊にばしばし斬りかかって、ついでに自分の口でもかじりつきます。
「なまにくー」
別に生で食べてもお腹こわさないですよね、相手はオブリビオンですし(謎理論)

アンネさんの分のお肉も切り分けますよー
とどめを刺す前に食べちゃえば消えないはずです!


アンネリーゼ・ディンドルフ
【OCL】で参加
◎WIZ
「( ˘ω˘)スヤァ……( ゚д゚)ハッ!」
音に敏感なアンネリーゼは、ついオルゴールの音色に聴き入ってしまう。
「うっかり聴き入ってしまいました。これはいけませんね」
UC(デスボイス)を発動。

「オブリビオンをぶったおせ!!」
「オブリビオンをぶったおせ!!」
「オブリビオンをぶったおせ!!」

アンネリーゼのデスボイスが【コルセスカマイク】を通し、彼女の義足に仕込まれたシンフォニックデバイスから爆音で公園内に響き渡る。
「私の歌声でオルゴールの音色をかき消します」


ジャスパー・ジャンブルジョルト
うおおおぉぉぉ~ん!? 空腹と睡魔のダプルパンチ! これはキツい! うとうとして目がとろ~ん……ってなるのに腹が減りすぎてるから、眠れねえよぉーっ! なんだ、この生き地獄!? いっそ、眠らせてくれぇーっ!
しかも、なんか大半の猟兵がクッキー食ってるし。食ってないのは俺を含めて三人くらい?
くそー、俺を差し置いて満腹になった奴らを安眠させてなるものか!(やつあたり)
誰一人として眠れないように(&戦闘力をアップさせるために)ツィターを大音量で演奏してやるぜー! おらおらおらぁーっ! (充血&隈の鬼気迫る形相でツィターをかき鳴らす)

他の猟兵の引き立て役や敵の噛ませ犬役など、お好きなように扱ってください。



 とろけるような陽光が降り注いでいる。
 眠気を周囲にまき散らし、羊に揺られて片目を開く。またひとり、猟兵が目を瞑ったろうか。満足そうに微笑して目を閉じる。
 ふかふか羊毛はおひさまの香り。
 放っておいたって、人はゆるやかに死へと歩む。
 その手を少し引いてあげるだけ。背中に手を添えるだけ。
 ほら、鼓動が弱まっていく。



 公園の防災無線から突然流れ出したオルゴールのメロディに耳を傾けて、アンネリーゼは芝生の上に膝をついた。
 幾重にも重なった音が、頭の中でこだまして揺れている。
「アンネ……リーゼ、さん……」
 駆け寄ってアンネリーゼの袖を引いたタマコの手から力が抜け、目蓋が緩やかに落ちていく。
 反対側の肩に寄りかかった舞花は、船をこぎかけて目をこすった。彼女の腕に真っ赤な血がしたたる。薙刀の切っ先を腕に当て、痛みで意識を繋ぎとめているようだ。
「いけない……これは……」
 焦点の結べなくなった視界がぼんやりと霞みがかる。

「なんだか綺麗でのんびりした曲が流れ始めましたね……」
 芝生に面した道までやってきたやぐらは、ベンチに座って目を閉じる仲間に気が付いた。陽だまりの中、銀色の狼耳を伏せた有栖はクッションを抱きしめて寝息を立てている。
 揺り起こそうとしてやぐらはふらついた。すとん、と有栖の隣に座り込む。
「(急に眠気が……)」
 竹筒の水筒に伸ばそうとした手が途中で止まり、膝の上に落ちた。

 芝生へと足を向けたシンは、大きな羊の姿を目にした途端、意識が急激に遠のくのを感じた。地面が回って、真っ直ぐ歩けなくなる。
 とても立ってはいられずに、近くのベンチに崩れ落ちた。

 ジャスパー・ジャンブルジョルト――通称JJは地獄の中にいる。
 とろん、と目蓋が落ちかける。
 ぐぎゅるるるるる……と腹が泣く。
「ぐうっ…………うおおおぉぉぉ~~~ん!? 眠いのに腹が減りすぎて眠れねえよぉーっ!! なんだこの生き地獄?!」
 空腹と睡魔が交互に襲ってくる。
 おかげで眠り込まずに済んでいるが、こんなに切ない思いをするのなら。
「いっそ眠らせてくれぇーーーっ!!!」
 JJは血走った目でキッと正面を睨みつけた。
 芝生の上で呑気に寝ている巨大な羊とその上にいる少女。あれが元凶か。

 ふらついて木の幹に片手をつくと、珠稀は木陰から芝生を見あげる。よろめいて座り込んだ仲間の影がまたひとつ。
「……眠たくなる気持ちも分かります」
 周囲に漂う、狂気を帯びた魔法の気配。おそらく敵は精神を操るのを得意としているのだろう。この波動を受けたのが一般人ならば、ひとたまりもない。
 害が無ければ、珠稀は喜んで人々を寝かしつける側に回っていたかもしれない。そして、その無防備な寝顔を心ゆくまでガン見して……。
 珠稀は口元を緩めた。
「ふ、ふふ! 逆に目が冴えてきました。いつだって私の三大欲望は、残る一つが勝っております……!」



 6月の晴れ空に寝返りを打つ。
 巨大な羊とその上でまどろむ少女。一緒に合わせて睡魔というひとつのオブリビオン。
「ん~……この調子ならあと5分……寝れるね。すやぁ……」
 広い羊の背を転がり、羊毛に顔を半分沈める。申告と同時に睡魔の力はどんどん高まっていく。
「……ゆっくりおやすみ、猟兵たち」



 シンはベンチの背にもたれかかった。
 芝生の真ん中では睡魔がまどろんでいる。重い腕をのろのろとオブリビオンに向かって掲げる。
 いつもならすぐ来るはずの死霊騎士と死霊蛇竜は、シンの呼びかけになかなか応えようとしない。眠くて集中を高められないのだ。
 少しだけ目を閉じる。オルゴールの音が耳に優しい。
 ついこの前も、戦争をひとつ乗り越えた。そのせいだろうか。ずっと疲れきっていたような気がする。
 黒衣に包まれたシンの腕が、体の横に力なく垂れた。

 死は終わりではなく、生きる世界が変わるだけなのだと聞いたことがある。
 本当にそうなのだろうか? 眠ったまま違う世界へと辿りつくのだろうか。それは、数多の世界を飛び回る猟兵とよく似ている気がする。
 このままずっと目覚めなかったとしたら、魂はどこへ行くのだろう。

 ごぼり、と耳の近くで音がした。目を開けばそこは青の世界。
 シンを取り巻くように螺旋を描いて、泡が上へと昇っていく。頭上に広がるは透き通った群青。足の先にあるのは深淵。青藍から鉄紺、そして漆黒へと色を変えていく。
「(ああ、……そうか)」
 愛しいあの人の夢を見たいと思っていた。
 ここには誰もいない。ただ沈みゆく自分がひとり。
 暗く冷たく凍える海を、ゆっくりと同じ速度で沈んでいく。
 水をかく腕にも蹴りつける脚にも、何の抵抗も感じない。他の世界へ行くことも叶わない。
 ただ、緩慢に黒が迫ってくる。
 昏い水の底から、墨のように滲みだす何かがある。淀みながら人の形を取ったそれは、真っ黒な体のままシンとすれ違うように浮かび上がる。顔の中央に光る眼が一瞬合う。
 ……あれは、……オブリ……ビ……――。



 流れるオルゴールの音色が、うさみっちを優しく眠りへといざなった。
「ふ~。こりゃー気持ちよく寝れそう……」
 たんぽぽ柄のレジャーシートの上。うさみっちは真っ青な空を見上げる。
 いい天気だ。髪を揺らす風が心地いい。
 ころころと転がって、組んだ腕の上に顎を乗せる。
 芝生の丘が見える。その天辺で綿雲のようにふわふわした生き物が眠っている。この陽気じゃ羊だって昼寝したくもなるだろう。
 それにしても大きな羊だ。上でまどろむ少女を見てそう思う。
 フェアリーはともかく、人間が広々と寝っ転がれるほどの羊なんて見た事がない。強いて言うなら、オブリビ…………。
 がばっとうさみっちは顔を上げた。
「……寝ちゃだめだ……」
 ぷるぷると桃色の髪と耳を振る。重い頭を持ち上げ、両手で地面を押しのけるようにして体を起こす。
「この世界の人のために――そして、なによりたい焼きを食うために! やっぱり寝ちゃだめだーー!!!」
 うさみっちは背中の翅でふわりと宙に浮くと、ユーベルコードを発動した。

 物音に気付いて、やぐらは落ちそうになっていた目蓋をうっすらと持ち上げた。
 足の傍で、セミが脚をたたんでひっくり返っている。
 もう死んでしまっているのだろう。まだ暑くなりはじめの季節だというのに儚い……。
 有栖の肩に手を乗せたまま、虚ろな思考の中で考える。
 そういえば、セミに耳のようなものなんてついていただろうか……色もどことなく桃色がかっているような……?
 違和感に囚われ始めた時だった。
「ぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢ!!!!!」
「きゃあああああ!?!?!?!」
 セミと思しき生き物が、脚と翅をばたつかせて地面を一回り。勢いよく直角に空に飛びあがる。
「なっ、なにごとっ!?」
 やぐらの悲鳴に飛び起きた有栖の足元にも1匹。
「ぢっ! ジジジジジジジジジジジジジジジ!!!」
「わっ、わふうううぅぅl~~~~?!?!??」
 アリスは尻尾の毛の先まで逆立てて、やぐらの首に抱きついた。

 『きょうふときょうきのせみっちファイナル(シンダ・フリナラ・マカセトケ)』。
 200匹近くの『セミ形態うさみっち集団』による、恐怖と狂気の目覚まし時計が鳴り響く。
 夏の終わりに稀によく遭遇するアレをモチーフにした、うさみっちのユーベルコードだ。

「今のセミ!? セミっぽかったわよね!?」
「わ、分かりません! でも、おかげで目が覚めましたよ!」
 やぐらはぐっと濃い目のお茶を飲んで気合を入れ直す。もう一杯を有栖に差し出して、筆を構える。
 ありがと。と受け取ったお茶を飲み干して、有栖は芝生に目を向けた。
「それはそうとあれ。もっこもこじゃない。もっふもふじゃないの!」
 眠っていた者が目覚める気配を感じ取ったのか、羊は立ち上がるとこちらを向いた。
 やぐらは巨大な羊から目を逸らさずに頷く。
「あの羊が睡魔の正体でしょう。鯛焼きの為にも退散して頂かなくては!」
 有栖は一歩前に踏み出した。
「私があの『めぇめぇ』をもふ……ううん、抑えておくわ! その隙にお願い」
「分かりました。私、向こうの仲間にも声をかけてきます!」
 やぐらが指さしたのは芝生の反対側にいる猟兵たち。
 有栖と頷き交わし、やぐらは睡魔の死角となった花壇の脇を走っていく。

 改めて有栖は睡魔へと向き直った。
 可愛い顔をしているが大きい。芝生の傾斜を使えばなんとか飛び乗れるくらいか。
「わふぅ……ひとりだけ、もふもふのめぇめぇですやすやするなんてっ!!」
 有栖の怒りのポイントはあくまでもそこだ。
 あのもこもこかつふっかふか具合。普通のメリノー種の巨大版に見えて、羊を獲物としてきたオオカミの目は誤魔化せない。未だかつてない極上の寝心地に決まっている。
「私も! もっこもこのもふもふですやすやしたいわ! するわ!!」
「おーー!!」
「わふっ!?」
 いつの間にか隣を飛んでいたうさみっちに、有栖は身構える。セミショックはまだ影響しているようだ。
 うさみっちは勇ましく右手の拳を突き上げた。
「寝ないように協力しながら突撃だー!」
「ジジジジジジジジ!!!」
「わぅぅう!?!? セミといっしょなのっ!?」
 半ば追われるように、うさみっちと有栖はせみっち集団を引き連れて走りだす。



 どこかから悲鳴が聞こえたような気がする。仲間がオブリビオンに襲われているのかもしれない。
「(起きなくては……)」
 目蓋を上げようとするアンネリーゼの耳が捉えたのは、オルゴールではなく新たな楽器の音。
 びぃん……ぎん……。
 ……ぴぃん……ぴん……。
 異国情緒あふれる張りのある典雅な弦の音。
 後から重なるは、鋭くも懐かしい響きで震える弦の音。どことなくギターの音に似ている。
「さあ、寝覚めは激しいロックにしましょう!」
「くっ――、ほとんど全員がクッキーを食ってたとはな! 俺を差し置いて満腹になった奴らを、安眠させてなるものかー!!」
 目を開く。
 エレキギターのごとく三味線を構えた珠稀に、鬼気迫る表情でツィターの前に胡坐をかくJJ。奇しくも同じ弦楽器。
 2人は己が魂が叫ぶままに弦をかき鳴らす。
 しゃんしゃんしゃんしゃんしゃん!!
 どこからかバックコーラスに虫の声までもが加わった。
「私のプレイで寝かせませんよ! ふふふ!!」
「おらおらおらぁーっ!! 誰一人として眠らせるかーっ!!」
 三味線が強く響けば、ツィターが応える。
 アンネリーゼは槍の切っ先を柔らかな地面に突き立てた。
 よろめく体を支えて、手繰るように辿りついた槍の柄の先にはマイク。絡繰り仕掛けの義足から飛び出したのは、蒸気機関式拡声器。
 マイクが拾って増幅された激しい弦の音が、公園中に響き渡る。
 アンネリーゼはすうっと気を吸い込むと、マイクテストの代わりに叫んだ。

『おはようございまーーーーーす!!!』

 腹の底からのシャウトは、UC『デスボイス』。
 うつらうつらしていたタマコと舞花が飛び起きる。
 アンネリーゼの外見と声のギャップに、珠稀とJJは目を丸くしてから、合わせるように弦を弾く速度を変えた。
 弦楽のデュオに歌姫の声。即興のライブがはじまった。
 2人が奏でるオスティナートに乗せて、アンネリーゼは歌い始める。バックコーラス(蝉)が追従するようにフィルをつける。

『オブリビオンをぶったおせ!!』『しゃん!』
『オブリビオンをぶったおせ!!』『しゃん!』
『オブリビオンをぶったおせ!!』『しゃんしゃん!』

 ライブ会場となった猟兵たちの元へ走ってきたやぐらは、手短に状況を伝えた。
 そして、筆を手に思案する。
「(羊が苦手そうな動物……)」
 毛皮だけなら骨董品屋の店先で描かせてもらったことがある。だが、本物はまだ見た事がない。
「でも、この曲を聞いていると、獰猛なのが描けそうな気がします!」
 濃度を調整した墨を筆先につける。
 音に耳を傾けて、想像をふくらませて。筆を地面に一気に走らせた。
 背中を丸め、牙を口から覗かせ、絵を見る者を睨み今にも飛び出してきそうな猫科の動物。
「(巨大なトラ猫……?)」
 やぐらは筆を上げ、睡魔に向かって指を突きつけた。
「さあ、虎さん! 鯛焼きのために睡魔を追い払って下さい! がおーー!!!」
 『にゃおー!』と今にも吠えそうな、愛らしくも勇ましい水墨画の小虎。

 音楽と絵に鼓舞され、タマコと舞花はこちらに走ってくる睡魔に向かってそれぞれの得物を引き抜いた。



「うーるーさーいー……」
 響き渡るロック。いや、デスメタル?
 どちらにしても、これでは満足に眠気の波動が放てない。叩き起こされてイラついた睡魔の集中が途切れる。
 だから不意打ちを受けた。
「がるるるるる!!」
 有栖は羊の背から狼力(おおかみぢから)を溜めて襲いかかる。顔の右側の巻き角に飛びつくと、体を羊の上に引き上げた。
「め゛ーーーー!!」
 天敵の狼の匂いを間近に感じ取って、羊が混乱し始める。
 おひさまの熱をいっぱいに吸い込んだ羊の背は、暖かさといい滑らかさといい極上の肌触りだ。
「わぅうう……このもふ心地たるや!」
「おりろー……そこはお前の場所じゃない」
 睡魔の妨害もなんのその。私服の表情で寝転がった有栖は、羊毛に頬をすり寄せる。
「ジジジジジジジジジジジ!!!」
 有栖を落とそうと膝立ちになった睡魔の少女の視界がセミ(せみっち)に包まれる。
「もらったああぁぁぁーーー! ぴゃあああーー!!」
 セミの合間を縫って、上空から飛来したうさみっちの手には刀。勢いよくぶち当たれば、左の巻き角が『ばきっ!』といい音をたてて砕けた。
 勢いのまま羊毛の中に突入したうさみっち。
「なッ……この羊、羽毛のようにふかふかだと……!?」
 ぬくぬくと先に毛皮を堪能していた有栖が片目を開く。
「でしょ? すやぁ…………わふぅぅ……もふぅ」
「こ、このままでは埋もれて寝てしま……アーー……」
 睡魔に囚われたうさみっちに、せみっちの集団がパッと消えた。

「め゛ーーー! め゛ーーー!」
 角を叩き折られて完全に取り乱した羊は、芝生の上を暴走する。
 少女の睡魔がなだめる声も、耳に入っていない。

 びぃぃぃん……!
 羊が向かう先から、弦の音が響いた。
 珠稀の三味線から放たれた音の衝撃波が、羊の足をマヒさせ鈍らせる。長い指が正確に弦を押さえ、叩きつけるように振るわれた撥(ばち)が旋律を最高潮に乗せた。
 JJの奏でるツィターが、三味線の上下に和音をつけては装飾音で飾り、味方の攻撃力を増幅させる。フレット付きの弦で旋律と和音を重ね、開いた指で伴奏弦を掻き鳴らす。猫の爪を器用に使って生まれる音は、人間の使うピックとはまた違った音色で響いた。

「ラム――角があるからマトン? どちらも食べたことはありません。おいしいのでしょうか」
 『黒いの』を手に、タマコは切っ先を羊に向ける。
 ピンクの瞳がより赤く、真紅に染まる。その身に流れるヴァンパイアの血が、眠った力を引き出す。
「食べてみれば分かりますよー。じんぎすかーん!」
 舞花は腕からしたたる血で薙刀を濡らす。封印を解かれた薙刀は、殺戮捕食モードへと姿を変えた。
 さっきはクッキーにお預けを受けてしまった。ヘクセンハウスの扉とクッキーの欠片くらいじゃ、舞花自身も体の内に眠る神石も全く満たされない。

『オブリビオンをぶったおせ!!』
 アンネリーゼの声と合わせる弦が、眠気を完全に吹き飛ばしてタマコと舞花の力を高めてくれる。

 歌いながらアンネリーゼが食事することはできない。だからわたしたちが狩ってくる。
 走り寄ってみると、小柄なタマコの身長を優に超える大きな羊だ。
「……1本」
 タマコは足取りの鈍った羊の体に、黒いの――黒剣を突き立てて埋めた。
 手足を失うくらいのことは気にしないつもりだった。でも、今回に限ってその心配はなさそうだ。
 アンネリーゼの声が背を押してくれている。眠気に襲われていた体は、目覚めを通り越していつもよりも軽快かつ力強く動いた。
「……2本。……3本」
 黒い刀身が途中で何かに引っかかって止まる。芝生に手をついたタマコは、足で蹴りつけて剣を最後まで埋めた。白い羊毛の中に、黒い剣の柄が飛び出している。
 どれほどまで貫かれたならば、このオブリビオンは死を迎えるのだろうか。
 4本目を5本目の剣を手に、淡々と白に黒を埋める。手の甲に跳ね返った羊の血を、タマコはぺろりと舐め取った。
「上の人は……どんな味がするんでしょうか」

「別に生で食べてもお腹壊さないですよね、相手はオブリビオンですし」
 謎の理論で納得させて、舞花は羊毛を刈り取ってようやくたどり着いた肉を薙刀でそぎ落とした。
 口に運んでみる。新鮮なおかげか臭みはない。噛み切りにくいが、薄くスライスすれば何とかなりそうだ。塩コショウがあれば、もう少し美味しく食べられるかもしれない。
 UDCアースのシリア地方には『クッベ・ナーイエ』という伝統的な料理がある。羊の生肉をミンチにし、塩コショウで味付けたものだ。新鮮な肉であればお腹を壊すリスクは減り、肉本来の旨味が味わえる。
 幸い、今回は鮮度について問題無さそうだ。
 タマコが突き刺した剣を起点に、舞花はその間を繋ぐように薙刀を振るった。切り取られた塊肉をキャッチして鞄の中の紙袋に確保する。
「……とと」
 羊の巨体に押しのけられ、舞花は鞄をしっかりガードしながら転がって蹄を避けた。これ以上睡魔が暴走すれば、アンネさんたちにも危険が及んでしまうかもしれない。
「(そろそろ潮時でしょうかね)」
 もうひと塊。
 羊肉を切り取って離れようとした体が、宙にふわりと浮いた。痛みに体を揺すった羊が偶然、舞花を跳ねのけたのだ。芝生を巻くタイルの道目掛けて吹き飛ばされる。
 受け身を取ろうとする舞花の体に、細長い紐が巻き付いた。よく見れば、蛇のような尾だ。受け止めた死霊蛇竜はそのままするすると舞花を地面に降ろす。
 アンネリーゼと珠稀、JJの音楽によってようやく戻ってきたシンが、黒布の下でほっと息をついた。

 刺さった剣を足掛かりにして、タマコは羊の上に着地する。
 足元で眠っているのは有栖。それをどかそうとしているのは、パジャマ姿のオブリビオン。
 登ってきたタマコに気付いて、睡魔の少女は立ち上がる。
「君も眠りを邪魔しにきたの?」
「10本」
 呟くなり睡魔の腹に剣を突き刺した。タマコの真っ白な髪と肌に、赤黒い血の斑点が散る。
「う……ぐ……」
 うめき声と共に屈みこんだ睡魔の輪郭がぼやける。見れば、足元の羊も半透明に透き通っている。
 タマコは有栖を肩に抱え上げ、埋もれていたうさみっちも発見して掴む。
 そして、暴走しながら消えかけた羊の背を蹴った。



 防災無線から流れるオルゴールの音は、いつの間にか鳴り止んでいた。
 蹴散らされた芝生は、またゆっくりと修復していけばいい。それ以外に被害が及んだ場所がほとんど無いのだから、猟兵たちは邪教団の手からほぼ無傷で公園を取り返したと言っていいだろう。
 意識を失ったまま入院していた市民たちも、続々と目を覚ましている。病院から連絡を受けたUDC職員は、そう猟兵たちに伝えた。

「わふっ!?」
「もう食えねえ!?」
 羊の背から荒っぽく救出された有栖とうさみっちが、がばっと起き上がる。
 どうやら2人とも無事のようだ。

 アンネリーゼは声を収めると、息をついた。
「アンネさーん!」
 舞花が芝生の上で大きく手を振っている。
 その隣で、髪の一部を赤く染めたタマコが起き上がる。どうやらそれも返り血で、大きな怪我は無さそうだ。
 舞花は鞄の中から取り出した紙包みを三つ、大きく頭上に掲げた。
「切り取った羊の肉、今回のは消えませんでしたよー!!!」
 エルフの歌姫は微笑むと、仲間に会釈して彼女たちの元に駆け寄った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『お菓子を作ろう!』

POW   :    気合いと根性で作ります。

SPD   :    自分の知識をフル活用で作ります。

WIZ   :    本やネッでコツを調べて作ります。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 公園近くのたい焼き屋は、準備を整えて待っていた。

 ここの店では鋳型を使って一匹ずつ焼き上げる、いわゆる『天然物』や『一本焼き、一丁焼き』と呼ばれるたい焼きを売りにしている。
 今回は貸し切りということで、好きな具材を組み合わせて自分だけの味を作ることが出来る。

 生地はプレーンのみ。
 中身は『あんこ・白あん・カスタードクリーム・チーズクリーム・チョコクリーム・抹茶餡・さつまいも餡・バター』の中から。
 トッピングは『いちご・みかん・りんご・バナナ・ブルーベリー・白玉団子・チーズ・レタス・ベーコン・ソーセージ』が用意してある。
 また、中身とトッピングについては、近くのスーパーで買える物でもいいそうだ。

 焼くのは店員に焼いてもらっても、教わりながら挑戦してみるのもいいだろう。
 店に用意してある生地を食べ尽くさない限り個数制限はない。
 食べる場所は通りに面したたい焼き屋のテーブル席を使ってもいいし、先ほどの公園もすぐ目の前にある。

 日常を全力で満喫してこそ猟兵というものだ。
 さて、あなたならどんなたい焼きを作る?
榎・うさみっち
待ってました、たい焼きー!!
さっきオブリビンと戦って良い感じに腹ごなし出来たし
せっかくだから色んな味を堪能してやるぜ!

まずはこれ!抹茶餡!トッピングは白玉で!
んーっ焼き立てうめぇうめぇ!
抹茶餡のホロ苦さと甘さ、生地のカリカリさと白玉のモチモチさ…
どれもが絶妙なハーモニーを奏でている!(食レポ)

次はおかず系!
チーズクリーム・ベーコン・卵焼きで!
んーっホットサンドって感じでうめぇ!
おかず系クレープやパンケーキも見かけるし
甘くないたい焼きも有りだな!

他にも
フルーツ盛り盛りたい焼き
チョコバナナたい焼き
ソーセージとマヨネーズたい焼き
等々を作りお持ち帰り用にしてもらう
家に帰って同居人達にも振る舞うのだ!



 かちゃん、かちゃん。
 たい焼き型がくるりとひっくり返され、まんべんなく温められる。
 うさみっちは顔に火照るような熱を感じながら、隣でその様子を見守った。
 職人は十分に熱せられた型を開くと、綿糸を束ねた『油ひき』で型の中に薄く油を引いた。それから、おたまで生地を軽くひとすくい。鯛の形の中央に流し込む。
「お客さんのは抹茶餡でしたね」
「おう、ここに中身を入れるんだな」
「ええ」
 淡い卵色の生地の中央に、鮮やかな緑の餡が山盛りに乗る。生地よりも中身が多いんじゃなかろうかといった量だ。
「仕上げに――」
 うさみっちは目にもとまらぬ早業で、餡に埋めるようにぽぽんっと白玉団子を乗せた。抹茶餡と白玉団子で作った山の上にとろりと生地をかけて、『かちゃん』と型が閉じられる。
 あとは時々上下をひっくり返しながら職人が焼きあげていく。

 オブリビオンとの戦闘で腹ごなしもできた。うさみっち茶屋にあるような椅子に座って、通りを見ながら今か今かと待ちわびる。
「はい、お待ちどうさま」
「待ってました、たい焼きー!!」
 長方形のシンプルな黒い板皿の上に、焼き立てのたい焼きが乗っている。
 うさみっちの顔より、それどころか体並みの大きさがある立派な姿だ。
「ぴゃっ、あちち……!」
 急いで手をつければまだまだ熱い。ぷるぷる手の平を振って丹念に息を吹きかけてから、もう一度餡の詰まった頭を持ち上げた。しっかりと焼き上げられた生地の表面には張りがある。
 かじればいい音と共に温かい抹茶餡の風味がうさみっちの体いっぱいに広がった。
「〇×△! Θ@×&%〇!!!」
 何かを言いながら口いっぱいに頬張っては、カリッ、ふわあ、もちぃ……。
 ようやく飲み込んでお茶を一口。うさみっちは空に向かって思いの丈を声にする。
「んーーっ!! 焼きたてうめぇうめぇ!! 抹茶餡のホロ苦さと甘さ、生地のカリカリさと白玉のモチモチさ……すべてが絶妙なバランスで組み合わされ、ハーモニーを奏でているっ!!」
 うさみっちの食レポを耳にした職人が笑いながら次の皿を持ってくる。
 熱さに慣れてきた手で持ち上げて、かじりついた。
 香ばしく焼いた生地とチーズクリームが絶妙だ。羽部分のカリカリ加減といい、ホットサンドっぽい感じがする。生地の中でチーズクリームと合わさって相乗効果を出しているベーコンの風味。薄めに焼いた卵焼きがその味をふんわりと包み込む。
「甘くないたい焼きも有りだな! ボリュームがあってうまい。考えてみると、おかず系クレープやパンケーキだってあるもんな」
 もしゃもしゃと堪能する。大食いのうさみっちからしてみれば、2匹などまだまだ序の口だ。

「次はフルーツ盛り盛りたい焼き。その後にチョコバナナたい焼き。その次がソーセージとマヨネーズたい焼きだったな」
「はい。あとお持ち帰り用のもそろそろ焼き始めますね」
 同居人に振舞ったらどんな反応が返ってくるだろうか。
 うさみっちは足をぷらぷらさせながら次のたい焼きが焼きあがるのを待つ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シン・バントライン
骸の夢から帰って来たのでたい焼きです。

やはり二人で食べる方が美味しいと思うので持ち帰りにしようと思います。

たい焼きの味を2種類2個ずつ作ります。
味は食事系と甘味系がいいですかね。
一つは「バター、チーズ、ソーセージ」
もう一つは「こし餡と抹茶餡、白玉団子、いちご」で、可能なら噂のタピオカ粉で生地を作ります。
もちもちして美味しいらしいですがどうなんでしょう。ちょっと気になります。
近くのスーパーで入手出来なかったら諦めてプレーンでいきます。
折角なので店員さんに教えてもらって自分で焼いてみます。
上手く出来ればええな。

シトラさんに味見をお願いしたいです。
「どうでしょう。ちょっと中身詰め込み過ぎましたか?」



「(上手く出来ればええな……)」
 シンはゆったりとした黒装束の長い袖を留めて、調理台の前に立った。せっかくお土産にするのだから、教わりながら自分の手で焼いてみたい。
 あの人は喜んでくれるだろうか。

 買い物に行く前、タピオカ粉の生地は使えないか相談したシンに『難しいかもしれませんね』と店員は答えた。
 タピオカ粉で作った生地を加熱すると、でんぷんが糊化(こか)することでもちもちとした食感に仕上がる。この生地は弱火か中火でじっくりと火を通していくのがいい。
 そして天然物のたい焼きには、型を直接火にかけるため『火力が強い』という特性がある。
 この店の道具でタピオカ生地の白いたい焼きを焼いた場合『表面は真っ黒に焦げているのに中身は生のまま』といった状態になる危険があるそうだ。
 今回はプレーン生地を使った方が良いだろう。
「ご家庭で作るなら、ホットプレートを使って焼く方法もありますよ」
 それはそれで楽しそうだ。

 ずっしりと手に重い型をあらかじめよく熱してから、中にうっすらと油を引く。
「(食事系と甘味系がいいですかね)」
 教わった通りの分量の生地を流し入れてから、バター、チーズ、ソーセージの順に中身を乗せる。蓋をするように上から生地をかけて、型を閉じて火の上に置く。
 なんとかうまくいった。
 こうして焼き型の柄を手にしているだけで、じりじりと火の熱さが伝わってくる。集中を切らさず、まずは最初の1匹目を焼き上げるのに専念する。
「そろそろいい頃合いですね」
 職人の声に型を火の上から外す。慎重に型を開くと、こんがりと焼けたたい焼きが皿の上に滑り出した。
 教わっただけあって綺麗な色に焼けているが、肝心の味はどうだろうか?

 2匹目を焼き上げた時、タイミングよく歩いてきた人物にシンは声をかけた。
「シトラさん」
「あっ、シンさんだ。おいしいのできた?」
 こちらに気付いて気さくに話しかけてくる。
 任務では猟兵とグリモア猟兵として何度か『顔と黒い布』を合わせていたものの、こうしてのんびり挨拶を交わすのは初めてかもしれない。
「ちょうど焼けた所です。良ければシトラさん、味見してくれませんか?」
「うん、いいよ! 僕でよければ!」
 にかっと笑っていそいそと席に座る。
「持ち帰りにしたいんですが、ちょっと中身を詰め込み過ぎたか心配で」
「どれどれ……」
 ぱくり、とまずはおかずたい焼きを口にする。
「お。ウィンナーにチーズだね。正統派の組み合わせでおいしいよ」
 続いて甘味系たい焼き。
 口にしてからシトラは視線を空に向ける。何か考え込んでいるようだ。
「もしかして……」
「違うんだ! 和風パフェみたいでおいしいよ」
 おそるおそるといった様子でシンが口を開けば、シトラは慌てて両手を振った。
 こしあんに抹茶餡、いちごに白玉団子。色とりどりの中身がたい焼きの頭から覗いている。
「意外に思ったんだよね。おかず系たい焼きはシンプルで、これ以上は中身を減らせないくらいだったんだ。それとは逆に甘味系たい焼きは『おいしい物をめいいっぱいに詰めこむ!』みたいなギャップを感じてね。どっちもアリだけど、シンさんの心配もそこだったのかな?」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャスパー・ジャンブルジョルト
●序
やっと食える! 会いたかったぜ、鯛焼きちゃ~ん!
だが、ここまで待ったからには、もう普通の鯛焼きでは満足できねえ。餡の中にイチゴとブルーベリーと白玉をトッピングするぜ。
名付けて『ベリーベリーボール』だ!

●破
うまぁーい!
甘酸っぱさを主張しながらも餡をしっかり引き立てるダブルベリーズ!
食感にアクセントを加えるもちもちの白玉!
もう最高!
シトラにもお裾分けして、感想を聞いてみっかな。まあ、聞くまでもないけどよぉ(好評だと調子に乗り、不評だとヘコむ)。

●急
ふわぁー(欠伸)。まだ四十二個しか食べてないのに、睡魔がぶり返して……眠く……なっ……zzz


他の猟兵の引き立て役など、お好きなように扱ってください。



 ここに辿りつくまでに幾多の試練があった。
 目の前に焼きたてクッキーがあるのに食べられない、あの飢餓感。眠りたいのに腹が減りすぎて眠れない『拷問か?』と思ったあの時間。
 ほとんどの仲間がクッキーを食べていたと聞いた時の孤独。そして絶望感。

「やっと食える! 会いたかったぜ、たい焼きちゃ~~ん!!」
 今、JJの目の前にあるのは幻でもなければオブリビオンでもない。本物の『たい焼き』を売る店だ。
「だが、ここまで待ったからには、俺はもう普通のたい焼きじゃ満足できねえ……」
 ごくりと喉を鳴らして、JJは店員の職人にオーダーを伝えた。

「うまぁーーい!!」
 火傷しない温度になった瞬間にかぶりつく。
 ぱりぃっ、と気持ちのいい音に続いて、じゅわっと染み出す甘酸っぱい果汁。あんこの中で温められたイチゴとブルーベリーが程よくとろけて、生地にしみこんでいる。食べ進めていけばもちもちの白玉団子が食感にアクセントを加える。
「甘酸っぱさを主張しながらも餡をしっかり引き立てるダブルベリーズ! もっちもちの白玉!」
 JJの想像通り。控えめに言っても最高の仕上がりだ。
「どんどん持ってきてくれ!」
 たい焼きの皿に囲まれて、食べ頃になったものから順に頬張る。
「ふふ、幸せそうに食べるね」
 いつの間にやら、テーブルの向かいの席にはこの依頼を持ちかけたシトラの姿。JJが周りに積み上げたたい焼きを見て苦笑している。
「いったい、幾つ食べたのさ」
「これでちょうど30匹目だな!」
 はむっ、と胴にかじりつくと、30匹目のカリッカリの尻尾を口の中に押し込んだ。手を休めることなく、JJは次のたい焼きを取る。
「うわあ……」
 感嘆に呆れが混じりながらも、尊敬の念がこもったシトラの声。このケットシーの中にあと何匹収まるというのだろうか。
「シトラもひとつどうだ? 俺の自信作――名付けて『ベリーベリーボール』だ!」
「あっ、いいの? じゃ、遠慮なくいただきまーす」
 JJは31匹目を食べる手を止める。感想を聞くまでもなく『うまい』――に決まっているが、人には好みというものがある。ぱくっと頭を一口する様子を、固唾をのんで見守る。
「んー! あんこにイチゴとブルーベリーだね。あったかくてジューシーで美味しいよ! あっ、白玉も入ってるんだ」
「だろ! 最高だろ!」
「ただ……」
 後に続く不穏な接続詞に、JJはシトラの顔を見あげる。
「……ちょーっとだけグロいかな?」
 どこか言い難そうにJJの方を見るシトラ。不思議に思って近くに止まっていたスクーターのサイドミラーを覗き込んでその理由は判明する。
 鮮やかな赤に染まったJJの手と口のまわり。イチゴの赤とブルーベリーの紫がグラデーションを成して、内出血しているようにも見える。
 がくっと肩を落とすJJ。
「そこかーー!! くっ、こうなったらやけ食いだーーー!!」
「まだいけるの!?」

 42匹を完食し、満腹になって陽だまりですやすやと眠りだしたJJの前には、誰かからの濡れタオルが置いてある。

大成功 🔵​🔵​🔵​

本城・やぐら
1個ずつの金型を使ってるだけに鯛焼きの顔にも個性がありますね!?
私の借りる金型は少し丸顔な気がして可愛いです♪
具はこの世界のお店が気になるので行ってみる事にします!
かなり空腹なので甘いのとご飯ものと両方食べたいです。
わぁ!青物屋さんや魚屋さんなど全て1つのお店なのですね!?漬け物まで!?
そうです!前に旅した所の名物のおやき風にしてみましょう♪
ご飯ものは野沢菜のお漬物を具に、甘い方はシンプルに粒餡に。
焼けたらサラサラっと画帳に見た目を書き写してから早速頂きます♪
とてもまわりがカリッとしていて中身はしっとりしていて美味しいです♪
中身をたっぷり入れたので端っこがお焦げになっているのも美味しいですねv



 教えてもらった『スーパーマーケット』は平日の昼間だからか、ゆったりと歩いて回れるくらいの混み具合だった。
「(これがこの世界のお店なんですね)」
 やぐらは見様見真似でカゴを腕にかけると、野菜と果物の山の間を歩きはじめる。青果コーナーは見た事のない色と形で溢れていた。
 猟兵に働いているという力のおかげだろう。ひとり和服姿で、きょろきょろと店内を見て回るやぐらの姿を注視する現地住民はいない。
 びっくりするくらい生きのいい魚の刺身に、これまた鮮度のいい肉を見て、偶然触れた棚の冷たさにヒヤッとする。生まれ育った世界では、青物は青物屋さん、魚は魚屋さんと、それぞれ別の店を回って買い求めていた。何でもある店など初めてだ。
 未知の食べ物が入ったキラキラした袋がこれでもかと並んだ棚の間を行き過ぎると、揚げ物の美味しそうな香りが漂ってくる。
「お惣菜……コーナー?」
 看板の通りに行ってみるとそこには、てんぷらにかきあげ、魚の揚げ物に肉の揚げ物。これも売り物のようだ。
 その隣に見知った姿を見つけて、やぐらは駆け寄った。ツルツルした透明な袋に入っているが間違いない。
「やっぱり。筆文字で『野沢菜』って書いてあります」
 いつか旅した、峠を幾つも越えた先の高原地方。そこで保存食として漬物にされていた野菜だ。
「あの時はおやきの生地に包んで囲炉裏で焼いていました。たしかあの生地も小麦粉で作ってたはず……」
 もしかしたら、たい焼きにも合うかもしれない。

 熱くなった型に油を塗る。
 薄力粉でできた生地を流し込み、ざるでしっかり水を切っておいた野沢菜のお漬物を乗せる。もう一つはシンプルに『粒あん』だ。教えて貰った通りへらで山のように盛り、どちらにも上から少量の生地をとろりと流す。
 型を閉じたら火の上に移動させ、時々回しながら焼き上げていく。
 やぐらの借りた型は、愛嬌のある丸っこい顔をした鯛だ。琳派の『絵師の目』で見てみれば、それぞれの型が違う表情をしているのに気付く。この子はどんな風に焼きあがるだろうか。
「そろそろもう一回、型を回しましょうか」
「は、はい!」
 職人に促され、猟兵の手にも重みのある型を慎重に回す。
 十分に焼けたところで型を開けば、きつね色に焼きあがった立派な鯛が飛び出した。丸っこい、優しい表情をしている。薄皮で中身がぎゅっと詰まっているおかげだろう。鱗や尻尾の部分に中身が透けている。
 皿の上に二匹を移し、香りを胸いっぱいに吸い込んでからやぐらは筆を取った。熱いうちにさらさらと画帳に見た目を書き写す。
「それじゃ、頂きます♪」
 さて、お味の程は……?
「とてもまわりがカリッとしていて、中身はしっとりで美味しいです♪ 野沢菜だとご飯もの風に、あんこは甘くてどちらも美味しいですね。中身をたっぷり入れたので、端っこが薄焼きのお焦げになってるのも美味しいです!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

アンネリーゼ・ディンドルフ
【OCL】で参加、アレンジ大歓迎
◎WIZ
シトラ・フォルスター(f02466)さんを誘います。

たい焼きの知識に乏しいアンネリーゼはスマホを片手に【たい焼きレシピ】を調べる。
「……なるほど、色々な【たい焼き】があるのですね。たい焼きは奥が深いです」

「食材がたくさんあるので、いろいろ作ってみましょう」
料理研究所の団長ながら、料理の腕前は未知数である。
「そうそう、先程獲れた【羊のお肉(オブリビオン)】も使ってみましょうか」

「~♪」鼻歌UCを歌いながら楽しそうに料理を作る。
「シトラさん、“味見”お願いしますね❤」
アンネリーゼはシトラさんに味見をさせつつ、他の人達にも【お手製たい焼き】を振舞った。


タマコ・ヴェストドルフ
【OCL】で参加します

たい焼きを食べたことがありません
実はそれどころか食べたことがあるものは
パンと野菜のスープとオートミールくらいです

お父様を食べた後もお腹が空いたら
基本的にA&Wの人里の外や
アルダワの地下迷宮でオブリビオンを食べています

小麦粉を使うということはパンに似ているのでしょうか
歯が痛くなるほど固くてパサパサして口が渇く感じでしょうか

とりあえずあんこが定番だと聞きました
それを食べてみましょう

オブリビオンを食べるのも
ひとりで食べるのと
みんなで食べるのでは
すこし違った気がします

たい焼きもみなさんと食べれば
おいしい(たのしい)のかもしれません


石守・舞花
【OCL】で参加

教わりながらたい焼きを焼いてみます
コツを覚えておけば、この先オブリビオン料理にも役立ちそうですしね

いしがみさん的にはカスタードクリームのたっぷり詰まった厚皮たい焼きが至高だと思ってます
決してあんこの代替品じゃないです。熱々の生地となめらかクリームのハーモニーは何物にも代え難いです
今日はフルーツもトッピングしてみましょうかね

せっかくだから、他の人チョイスの味も試してみます
アンネさんのアイデア、新感覚たい焼きって感じでいいですね
タマコさんチョイスのあんこのたい焼きも、シンプルながらやっぱり奥深いです
シトラさんは、どの味がお好みですか?



「……なるほど。色々なたい焼きがあるのですね。奥が深い」
 スマホを片手に『たい焼き レシピ』と検索したアンネリーゼは顎に片手を当てた。このバリエーションの豊かさはオブリビオン料理研究所の団長としても興味深い。
 お手本代わりに、タマコのオーダー『あんこのたい焼き』を職人が焼き上げるのを見ながら案を練る。
「アンネさん」
 隣に目をやると、へらを手にした舞花の姿。じっと卵色のカスタードクリームがいっぱいに詰まったバットを見つめている。
「いしがみさん的には、カスタードクリームは決してあんこの代替品じゃないと思うんです。クリームにはクリームの良さが。熱々の生地となめらかクリームのハーモニーは何物にも代え難いです。クリームにしか表現できない世界があります」
 あんことクリームの間で過去に何かがあったのだろうか。初めてたい焼きを食べるアンネリーゼには知りようのない深い確執を感じる。
 舞花は並々ならぬ情熱を燃やして、カスタードクリームたい焼きを作るようだ。さすが料理研究所の一員。アンネリーゼも負けてはいられない。
「それなら私は、先ほど獲れた『羊のお肉(オブリビオン)』を使ってみましょうか」
 睡魔と呼ばれしオブリビオンの肉。いったいどんな味がするのだろうか。

 アンネリーゼの料理の腕前は未知数だ。
 羊のオブリビオンからタマコと舞花が獲ってきてくれた生肉の塊を手に職人に聞いてみると、ひき肉にした方が扱いやすいのではないかと意見を貰う。
「この時期、湿度が高くて食中毒も怖いですからね。たい焼きの生地に入れる前に多少火を入れておけば、生焼けの心配も無くなると思います」
 なるほど、そういった心配もあるのか。
 店の奥で包丁とフライパンを借りて、方法を教わりながらやってみる。
 簡単に血抜きした肉をまずは包丁で薄く切る。それから肉を細かく叩くように細切れにしていく。大体できたら方向を変えてもう一度。十分だと思うまで繰り返す。刃物の扱いに慣れ、素早さと力を兼ね備えたアンネリーゼにとっては手慣れた作業だ。
 出来上がったあらびきのミンチ肉を、今度はボウルに入れて塩コショウを振る。それを粘りが出るまで手でこねる。段々と目にも肉の雰囲気が変わっていくのが面白い。
 あとは形を整えて、フライパンで熱を入れれば中身の完成だ。
 薄い小判型に成形した羊肉は、フライパンの上で『じゅわわわ』となんとも美味しそうな音をあげた。肉が焼けるいい香りが漂い始める。
 なんだか楽しくなってきて、フライ返しを手に鼻歌を歌ってみる。
「おっと、危ない」
 肉の表面が焦げてしまう前にひっくり返す。

 奥から聞こえてくるアンネリーゼの歌を聞きながら、舞花も集中していた。
 油を引いた型に生地は多め。今回は厚めの皮を意識して作る。
 へらでどっしりとカスタードクリームを乗せて、フルーツの欠片をひとつ。その上から生地を流しかけて型を閉じる。
「わっ……」
 少々欲張り過ぎただろうか。型の間から押し出された生地が溢れ出た。火の上に垂らさないようによく切ってから移動する。
 舞花の身長ではやや高すぎる位置にある焼き台の前には『みかん箱』が用意されていた。上に乗って型をくるりと回す。
 約2.6キログラム。大人の手にも少々重い型を片手で器用に回す舞花に、見守っていた職人のひとりは驚いた様子だった。
「お嬢ちゃん、力があるんだねえ」
「普段から薙刀を使ってますからね。このくらい余裕ですよ」



 タマコが職人に焼いて貰った『あんこたい焼き』。
 アンネリーゼのオブリビオン料理『羊肉ハンバーグたい焼き』。
 舞花渾身の逸品『厚皮クリームたい焼き』。

「シトラさーん! 『味見』お願いしますね」
「僕もいいの? 食べる食べる!」
 声をかければ、いそいそとシトラもテーブルへとやってきた。
 それぞれの皿の上に3種類並べて、まずは自分のたい焼きを手に取る。



 目の前で職人がくるくると回す型をじっと観察して、タマコは故郷のパンを思い出していた。
 たい焼きを食べたことがない――どころではない。
 タマコがずっと口にしていた物といえば、パンと野菜のスープ、オートミールで全てと言っていい。
 小麦粉を他の穀物でかさ増ししたパン。固くカチカチで歯すら弾いてしまう石のようなパン。ぱさぱさに乾燥して口の中に刺さり、ぼそぼそと口中の水分を奪ってくパン。
 それでも、食べる物があるだけマシだっただろう。
「(同じ小麦粉なら、パンに似ているんでしょうか……)」
 嬉しそうにたい焼きを頬張る他の猟兵の姿は、タマコの目にはどこか妙に映る。
 アックス&ウィザーズの郊外や、アルダワの地下迷宮で食べたオブリビオン。それに、タマコが猟兵に覚醒した時に初めて食べたヴァンパイアのお父様。
 あっちのほうがずっとずっと暖かくて柔らかかった。
 かちゃ、かちゃん、かちゃん。
 冷たい金属の音をたてて、型がひっくり返される。

 そろそろ焼き上がると聞いて、タマコは行儀よくテーブルについた。
 タマコの目の前には優しい金色に焼きあがったたい焼き。指先で温度を確認してから両手で取り上げる。
 おそるおそる小さくひとかじり。
 高温で焼き上げられた生地の表面は、顎に力を入れるか入れないかで『ぱり』と破れた。口の中に転がり込んだそれを咀嚼してみる。表面には張りがあり、中はしっとり柔らかく。小麦の風味が広がって鼻から抜けていく。
 中くらいの口で、もうひとかじり。
 一口目とは違ったしっとり感だ。薄皮に包まれた粒を口の中に感じるが、舌で押しつぶせてしまえるほどに柔らかい。噛みしめていると、ほのかな甘みがじんわりと広がる。
 飲み込む。決して味付けが濃いわけではないのに、まるで血を飲んだ時のように……しかし、優しい濃厚な甘さが喉を潤した。
 3口目、4口目。こんな感じは初めてだ。

「おいしい?」
 はっと顔をあげると、アンネリーゼと舞花、シトラがたい焼きにはまだ口をつけずにこちらを見ている。
「(おいしい……?)」
 感覚がよく分からない。今のが果たして『おいしい』だったのだろうか。
 だからタマコはこう答える。
「オブリビオンを食べるのもたい焼きを食べるのも、ひとりで食べるのとみんなで食べるのでは――――すこし違った感じがします」
 今出せる、タマコの精一杯の答え。
 聞かずとも、彼女が何かおかしな状況にあったのだろうというのが伝わってくる。
 何かを感じた。その事自体がタマコにとっての一歩なのだろう。



「はっきり言って……これはかなり美味しいですよ」
 アンネリーゼは真顔でハンバーグたい焼きを口にする。
 ジューシーな羊肉がこれでもかと身いっぱいに詰まっていて、肉汁ごとたい焼きの中に封じ込められている。
 肉が新鮮なおかげで、味付けも塩コショウで充分だ。逆に肉のうまみがよく引き出されている。いい素材で作ったワイルドな味わいのおかずたい焼きといったところだろう。
 シトラも一口かじってみて、目を丸くした。
「これがオブリビオンの肉!? 聞いた時は『どうしよう』って思っちゃったけど、結構いけるもんだね。新たな世界が開けた感じだ」

「おー。こんな風になるんだ」
 舞花が一本焼きの方法で焼き上げた『カスタードクリームたい焼き』は、その高温ゆえに一味違う。
 たい焼きの皮に近い部分が加熱され、濃厚に固まりかけた周辺部が生地と一体になっている。身の中央にいくにつれて熱々とろとろのクリームに食感が変わる。
 もちろんこれも、あんこには出せないカスタードクリームならではの魅力だ。
 尻尾の方に入れておいたブルーベリーもいい味に溶け合っている。
「あ。僕のにはバナナが入ってる」
 丁度同じ所まで食べ進めたシトラが嬉しそうに舞花に笑いかける。
「カスタードとあんこって、求めているおいしさが違うよね。このとろっとして生地と混ざってる所が大好き!」



「アンネさんのアイデアは新感覚たい焼きって感じでいいですね。こんなにおかずっぽくなるなんて。タマコさんチョイスのあんこも、シンプルながらやっぱり奥深いです」
 全員のたい焼きを堪能し、お茶で一息ついた舞花が感想を述べる。
「シトラさんはどの味が好みでしたか?」
「んー、そうだなぁ」
 尋ねられてシトラはぐっとお茶を飲み干した。
「こんなおいしいたい焼きだらけだと、全部って答えるしかないでしょ。ごはんとおやつ、どっちかなんて決められないもん」
 ごちそーさま! とそれ以上の質問を躱すように席を立つ。
「……逃げられましたね」
「たしかに、どのたい焼きも美味しかったですからね」
「(……おいしい……)」
 タマコはまだ熱の冷めきらないたい焼きをもう一口、かじってみた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

インディゴ・クロワッサン
アドリブ相席大歓迎
他のお仕事大体終わらせたぞー!(帰還
「まぁぶっちゃけ僕はプロ任せが一番だと思うんだよね」
とは言え、流石に一個ぐらいは作ってみたいので、王道のあんこオンリーを作ってから、後はリクエストしてく感じで。
「ん~ やっぱりプロには負けちゃうねぇ」(もっきゅ
まずは…チーズクリームに持参したマスカルポーネとハム、それにベーコンとソーセージ…(もしゃあ
その次はバターとチーズとレタスとベーコンとソーセージを入れたピザ風を…(はぐはぐ
「僕としては白たい焼きにカスタードが割と鉄板なんだけど、まぁ、それは後でコンビニ寄るから良いとして」
あ、シトラちゃんも食べる?
どのたい焼きも美味しいよ~


真守・有栖
何よ。準備万端じゃないのっ
えぇ、食狼たる私にお任せあれ!
たい焼きをたーんと平らげてあげるわっ

まずはあんことくりぃむよね!
店員さんに中身をわっふりと詰め込んだ、たい焼きを注文するわ。
じぃーっ。そわそわ。尻尾もぱたぱた。

できたわ!さっそく、いただき……
あら?この王狼たるたい焼きに気づくとはさすがね!
くっきー。もこもこ。たい焼き。
とっっっても素敵な依頼を予知してくれた御礼よ。お一つ召し上がれ!
シトラと一緒にほかほかのたい焼きをわふわふと頂くわ。わぅう……とっっってもおいしいわね!

此処からが本番!
皆がとーってもすっっっごいおいしいたい焼きを作っているに違いないわっ
私も味見に付き合うわ!さ?行くわよ!



 有栖がチョイスしたのは『あんこ』と『くりぃむ』という、たい焼き界の双璧だ。
 目の前でわっふりと中身を詰めてくれたそれを焼き立てで頂く。
「さっそく、いただきまー……」
 両手でたい焼きの身を持ち、わふっ、とかぶりつこうとした所でシトラと目が合った。

「くっきー、もこもこ、たい焼き。とっても素敵な予知をしてくれた御礼よ! おひとつ召し上がれ!」
「いいの!? というかそこは出てきたオブリビオンのおかげだと思うけど」
 僕は出てくるのを見るだけだからねぇ……とシトラは笑い、あんことクリームをもう一つずつオーダーする。
「それじゃ」「いただきまーす!!」
 有栖とシトラは同時に頭からたい焼きにかぶりついた。
 ぱりっと表面が焼き上げられた生地から、ぎゅうっと詰められたあんこの優しい甘さが口の中に広がる。頭の部分は厚めの生地。胴に食べ進むにつれて生地は薄く香ばしくなり、代わりにあんこの厚みが増してくる。尻尾部分はカリカリに焼き上げられ、歯触りが楽しい。
 もくもくと静かに尻尾の先まで食べ終える。そして、同じタイミングで満足そうに溜息をついた。
「わぅう……とっっっっっってもおいしいわね!」
「うん、しあわせだねえ……」
 お茶の湯飲みを手に空を見あげる。
 次のたい焼きを待つ間の時間も、この余韻で満足していられそうだ。
「それにしてもシトラ。さすが、よくこの『王狼』たるたい焼きに気付いたわね!」
「だって、有栖さんがあんまりにも美味しそうに食べてるからさ」
「食狼たる私だもの! たい焼きでもクッキーでもたーんと平らげてあげるわっ!」
 見ている側まで幸せになってしまいそうな有栖の表情。つい、また激しい戦闘の合間にもこんな予知ができたらいいな……などとシトラは思ってしまう。
 そんなふたりの前に、2つ目のたい焼きが運ばれてくる。

「ふぁー。おいしかったぁ……」
 満足。とテーブルに落ち着こうとするシトラを制して、有栖は立ち上がった。
「まだまだ此処からが本番よ、シトラ!」
 きりっと銀色の狼の耳を立て、腰に手を当てる。
「皆がとーってもすっっっっつごくおいしいたい焼きを作ってるに違いないわっ! 私も味見に付き合うから急ぎましょ!」
「ま、待って!? 有栖さん」
「さ、行くわよー!」
 腹ごなしの暇も与えずに、有栖がパーティーに加わった!



「思ったより生地は少なめだね。中の具で押して広げる感じか」
「ええ、なので薄く広がった部分にあんこが透けたたい焼きになります」
「なるほどね」
 たい焼きを焼き上げる職人の手の動きをインディゴは間近で観察している。
 最初は王道にして原点のあんこを。
 ここでよく職人の技を見て、2個目は自分でチャレンジしてみるつもりだ。
 先に型は火の上で熱しておき、『油ひき』でさっと中に油を塗りつけた後に生地をたらす。この分量が思った以上に少ない。型全てに流し込まずに、頭と胴の中心が隠れるくらいの量に留める。代わりにあんこはたっぷりと、へらで三角の山になるように。あんこの上から生地を流し、かちゃんと挟み込む。
 あとは両面に火が通るよう、時々返しながら焼いていく。
 数分後、金茶色がかったたい焼きが型の中から現れた。
 いただきます。とインディゴはまだ熱いたい焼きを口に運ぶ。張りのある表面がさくっと音をたてる。中の粒あんは、あえて粒を残し気味に炊き上げているのだろう。
 試しにあんこだけを食べてみて、インディゴは気付く。
「……塩をアクセントに使ってるのかな?」
 口に含んだ時に感じるほんのわずかな塩気。その後にあんこ本来の甘みがやってくる。甘みを際立たせる方法の一つだ。
「よくわかりましたね、お客さん」
 見破られたのが嬉しそうに、職人は顔をほころばせた。

 型が温まるのを待つ。
 この先はスピードが命だ。ゆっくりしていては、生地が固まって広がらなくなってしまう。
 インディゴは順番に食材を取れるように容器を配置してから、型を火から上げてぱかっと開けた。
 油を引く。生地を流す。チーズクリームにマスカルポーネ、ハム、ベーコン、ソーセージ。閉じる前に上から生地を流して、火にかける。
 次の型には……レタスにベーコン、ソーセージ。一番上にバターととろけるチーズ。ピザ風に作ってみたたい焼きだ。
 初めてなのもあって型の間から若干量の生地が外に溢れたが、職人が言うには『それも羽っぽくカリッとして美味しいですよ』とのことだ。
 時間をはかり、中身に火が通るよう注意しながら焼いていく。
「ん?」
 顔を上げれば目が4つ。ゆらゆらと揺れる狼の尻尾がひとつ。窓の外から張りつくようにしてインディゴが焼いている様子を見ている。
 有栖とシトラだ。こういう子供をどこかの世界で見かけたような気がする。
「……キミたちも食べるかい?」
「わふぅぅ食べる!!」「喜んで!!」
 即答だ。
 苦笑しつつ、もう2つ追加で同じ物を焼き始める。
「やったね! 目で訴えてみる作戦、成功だ!」
「わうぅ、どんなたい焼きかしら!」
 有栖とシトラの様子に、こらえきれない様子でインディゴは笑った。



「生地はプロには負けちゃうねぇ」
 全員でまずはピザ風たい焼きを、もっきゅと一口。
 インディゴの言葉にシトラは首を傾げる。
「そうかな? インディゴさんのもいい感じだよ。初めてなら、なおさらうまく焼けてると思う」
「おかずたい焼きもいいわね! チーズがとろけてとっっても美味しいわ!」
 なんとも幸せそうに食べる2人だ。
「ありがとう。こっちはどうかな」
 言いながらインディゴ自身も一口。
 生地はインディゴが思うに改善の余地がありそうだが、数をこなせばもっとうまく焼けるだろう。中身はチーズと肉の味がうまく相乗効果を出せている。お腹が空いたときにご飯として食べるのに良さそうだ。
「はむにべーこんにそーせーじ。ボリュームがあっておいしいわっ!」
「合わせたのはチーズクリームだけど……微妙にお店のとも違う味?」
「実はチーズクリームの隠し味にもう一種類チーズを入れていてね。マスカルポーネっていうチーズが――」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

明智・珠稀
ふ、ふふ。
沢山演奏も楽しみましたし、
たい焼きをいただく準備運動は万端ですよ…!
しかも自分で焼けるとは楽しそうですね、
ぜひご教授いただきながらマイたい焼きを焼かせていただきましょう…!

■想
私、あんみつをはじめあんこが大好きなのです…!
意外とお酒とのマリアージュも素敵なのですよ、ふふ!
(スーパーでラム酒とラムレーズンを購入し)
店主、あんこにこちらの洋酒を混ぜさせていただきたいです♥️
(あんこがゆるくなりすぎない程に多めにラム酒を加え。ラムレーズンも練り込み)

あぁ、私の夢のたい焼きがここに…!
(食し)
あぁ、程よくアルコールが飛び
それでいて風味が残り…あぁ幸せです…!(恍惚)

※アドリブ&絡み大歓迎!



 熱いセッションだった。
「(ふ、ふふ。沢山演奏も楽しみましたし、たい焼きをいただく準備運動は万端ですよ……!)」
 珠稀はまだ耳の奥に残る余韻を感じながら、三味線の糸をゆるめて楽器を布で拭く。手入れを終える頃には、すっかりお腹が減っていた。
 三味線の袋を肩にかけ、スーパーに買い出しに向かう。

「私、あんみつをはじめあんこが大好きなのです……! あんこに、このラム酒とラムレーズンを混ぜさせて頂きたいのですが」
「いいアイデアですね。――それなら」
 どうやら、そのままあんこにラム酒を混ぜ込むとゆるくなりすぎてしまうらしい。
 そんなわけで珠稀は、小鍋と木べらを借りる。
 さらに店にある大鍋から『茹で小豆』を貰った。これは一晩水につけた小豆を渋切りして、1時間ほど弱火で煮たものだ。
 そこに珠稀は店員に教わった通り、ラム酒と三温糖を加える。これからやるのは『あん練り』だ。
 火にかけて、まずは煮詰まるのを待つ。水分が少なくなってきたら、焦げ付かないよう、優しく優しく木べらで混ぜながら加熱していく。
 段々と手ごたえが重くなってくる。混ぜすぎず、焦げさせないように。時々はねる餡を見切って調理用のミトンで受けながら優しく炊き上げていくと、見慣れたあんこが出来上がる。
 ここまで約20分弱。
 今はアルコールが飛んでしまっているが、あんこからは芳醇なラムの香りが立ち昇っていた。
「ふふ! 意外とお酒とのマリアージュも素敵なのですよ」
 炊き上げたあんこが使いやすい固さになるようにラム酒でのばす。仕上げにラムレーズンを加えれば、珠稀オリジナルの『ラムあんこ』の完成だ。
 あとはこれをたい焼きの生地に入れて焼けば完成だ。
 余熱した型に生地を入れ、山盛りに『ラムあんこ』を盛り上げる。生地と型で蓋をして火にかける。火の前はじりじりと熱かったが、ここまでの過程を思えばなんてことはない。
 型の中には明るいきつね色のたい焼き。取り出して板皿の上に乗せる。
「あぁ……私の夢のたい焼きがここに……!」
 思わず震えそうになる手でたい焼きを包んで、一口。
 珠稀はうっとりと息を吐いた。
「(あぁ……程よくアルコールが飛び、それでいて風味が感じられ……)」
 ラム酒の体の芯が揺らぐような濃密な味と香りが、しっかりとあんこに移っている。それでいてお互いが邪魔しあわない。やや軽い口当たりに変化した、大人の味のあんこだ。
 あんこはまるで最初から洋風の味付けも考えて作られていたような気さえしてくる。
 そのまま食べ進めていくと、噛みしめたラムレーズンが歯に当たり、濃厚な甘みが弾けた。
「あぁ……幸せです……!」
 恍惚の表情で、珠稀はゆっくりと自分のたい焼きを食した。



 そろそろ転移で帰ろうかと店を一歩出た所で珠稀は呼び止められた。
 手渡された紙袋の中には、持ち帰り用の長方形の容器。
 中には粗熱が取ったあんこ。珠稀が作った『ラムあんこ』の余りだ。たい焼きの美味しさに心を奪われてつい失念していたが、礼を言って受け取る。
 時間を置くと味がより馴染んでくるらしい。

「ありがとうございました! また食べに来て下さいね」

 傾き始めた西日に照らされ、猟兵たちは平和になった町を後にする。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年06月14日


挿絵イラスト