氷彩のカナリアは光る海を目指す
●intro
――その檻は氷でできていた。
「――、――」
少女は歌う。美しい声で。
吐く息は白く、時折息も凍えて光る。夢さえ醒めるほど寒いのだ。
少女は歌う。氷の鳥籠の中で。
それが彼女に与えられた人々の望みだからだ。
――歌っておくれ、カナリア。
――歌って、その歌で、この街を救っておくれ。
――カナリア。お前にしかできない。
少女は歌う。光る海の歌をうたう。歌だけが、彼女が紡げる言の葉だった。
●melody
「ハァイみんな、突然だけれどお誘いよ。――星と海蛍の光る夜の海で、楽しい時間を過ごさない?」
真っ赤な燕尾を靡かせて、真っ赤な男はにっこり笑った。ウインクまでおまけする。その辺りで察しの良い者は気づいたろう。訝しげな視線がいくつか向いたところで、あらやだ、とベルナルド・ベルベットはくすくす笑う。
「ええ勿論、タダでそんなお楽しみ、なんてコトはないのよ、残念なことにね。アナタたちにはまず、オブリビオンの群れをなんとかして貰うわ。場所はアックス&ウィザーズ。どうにも季節ハズレの鳥がとんでもない拠点を築いてるみたい。それがアタシが見た予知ね」
拠点、と問うように呟いた声に、ベルナルドは頷いた。
「そうよ、もう夏が近づいてるって言うのに、氷の森を作り上げてるの。……しかもお伽話よろしく、『お姫様』を捕らえてね」
これがどうにもつまらないお伽話だけれど。そう肩を竦めて言えば、一呼吸を置いて真っ赤な男は語り出す。
「あるところに、小さな村があったわ。その村はなんてことない普通の村。近くの森で狩りをして、森の恵みで暮らす村。――けれどある日、その森がモンスターに支配された」
モンスター、すなわちオブリビオン。青羽の鳥たちは巨体を羽ばたかせ、美しくも壮絶な魔力を持って、一昼夜で森を氷漬けにしたと言う。
「それは美しい鳥たちよ。魔力を持った氷を作り出すのが得意で、その力で森を凍らせたようだけど、おかげで普通の陽の光や炎なんかじゃ溶けたりもしない。――更に厄介なのが、この青い鳥たちを従える奴がいることね」
つまりはボスよ、とベルナルドは集まった猟兵たちを見渡した。
「そいつが率いているから、この鳥たちは森から離れない。空を飛んで哨戒して、唯一整備された森の道には待ち伏せがぞろぞろ。しかも極寒よ、極寒。やぁね、アタシ寒いのって好きじゃないのよ。……一番奥に、大樹がある開けた場所があるみたいだけれど、そこが本拠地――ボスのいる『巣』ね」
途中ぶつくさとベルナルドが眉を顰めたのはさて置き、最終的にはそこを目指すことになるのだろうと察しはつく。けれども話を聞く以上、そう簡単には辿り着けないようにも思えた。顔を見合わせ、考え込むような空気が漂ったところで、ふと明るい声が笑う。
「さて、ここで思い出して欲しいのが『お姫様』ね」
お話にはまだ続きがあるわ。そう、ベルナルドは続けた。
「村の生命線とも言える森が氷漬けにされて、当然村の人々は困り果てた。――そこで村人たちは『生贄』を捧げることに決めた。村一番の美しい歌声を持つ少女をね」
少女の名はカナリア。歳は十七。村人たちは懇願して、美しい鳴き声を持つ鳥と同じ名の少女をドレスや宝石で飾り立て、鳥たちの元へ送り出した。するとどうだろう、少女の歌声が響く昼間は怪物は飛ばなくなり、森の半分が以前の状態に戻ったのだ。
「……鳥たちは美しいものが好きなようね。金品や宝石なんかには特に目がなくて、カナリアも最初は身に付けていた宝石のほうに気を取られて連れて行かれたみたい。けれどその歌声も気に入った。――今は氷の檻に捕らえて、歌わせているようよ」
カナリアの歌が響く昼間、陽が空の真上に登り、夕焼けに消えるまで。その間は、鳥たちの警戒が薄くなる。そこを狙えば奇襲も難しくないわ、とベルナルドは付け加えた。その瞳がすいと伏せられる。
「カナリアは、望んで行ったわけではないでしょうね。証拠と言っては何だけれど、彼女の歌は悲しい歌が多いわ。悲壮な覚悟、と言うのかしら。……でもひとつだけ、よく歌っている歌に、海の歌があるわ」
それは、光る海を歌ったうた。優しいその光景を柔らかく紡いで、そこに行きたいと歌ううた。
「森を抜けるとね、岬があるの。その先を少し行くと、砂浜があるのよ。そこには毎年夏の前頃に、海蛍がたくさん現れるのですって。……夜までにオブリビオンたちを倒せたら、きっと素敵な光景が見られるわ」
ふわりと淡く光りながら打ち寄せる波、それに星空――それは、カナリアが見たいと願うものでもあるのかもしれない。
「カナリアを救うのは必須ではないけれど。小さな小鳥を羽ばたかせられないアナタたちじゃないと思うのよ。ね?」
茶化すようにウインクをぱちりとすれば、グリモアが応えるように光る。
「どうか、頑張ってちょうだい。……ああ、でも、海蛍を驚かせちゃダメよ。海に入るのはなしね」
そう付け加えて、ベルナルドはアタシも楽しみにしているわ、と猟兵たちを凍える森へ送り出した。
柳コータ
お目通しありがとうございます、柳コータと申します。
アックス&ウィザーズにて、氷の森を解放し、海蛍と星空を楽しみませんか。
●大まかな流れ
第一章…集団戦。場所は森の入り口から進み、凍えた森との境界線辺りから始まります。青い鳥たちを倒して下さい。カナリアの歌が響いており、鳥たちの警戒は少し鈍めです。連続技や連携に弱いかもしれません。凍える森は寒いですが、美しいかと思います。
第二章…ボス戦。場所は森の最奥。大樹があり、その前に大きな氷の鳥籠があります。カナリアはそこで歌っているようです。なお、カナリアは氷耐性のある魔鳥の羽を与えられているため、凍死などの心配はありません。また、カナリアの救出はシナリオの成否に関わりません。
第三章…日常。夜。海蛍が美しい海岸で、素敵な光景を楽しむことができます。岬のほうには小さなカフェがあり、軽食程度なら一緒に楽しめるようです。星空や海蛍を存分に楽しんで下さい。海蛍を驚かせないよう、今回は海に入る行動は禁止とさせて頂きます。この章のみの参加も大歓迎です。
●プレイングについて
こちらのシナリオは『5/19(日)08:30〜』プレイング受付とさせて頂きます。
それ以前に頂いたものは流させて頂きますのでご了承下さい。
割とのんびり受け付けているつもりですので、送れる限りは人数など気にせず送って頂けると幸いです。
力量が伴う限り、できるだけ全採用を目指します。また、再送が発生する場合がございます。もしも戻って来てしまった場合はご再送頂けると嬉しく思います。
お連れ様やグループでの参加は【団体名】を明記して頂けると助かります。
●アドリブ・連携について
何も言わずともしますのでご注意下さい。ソロ希望の場合は明記して下さい。
※第三章では、お声がけがあった場合にのみベルナルドがご一緒します。個性的なオネエで宜しければお気軽に。
第1章 集団戦
『氷凝鳥』
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POW : 爪の一撃
【非情に素早い突進からの爪】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : 氷柱雨
レベル×5本の【氷】属性の【鋭利な結晶体】を放つ。
WIZ : 大空を舞う
【空高く飛ぶことで】対象の攻撃を予想し、回避する。
イラスト:玻楼兎
👑11
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●カナリア
憎くはなかった。悲しくもなかった。――ただ、心の中がぼんやりとしていた。
カナリアは瞳と同じ金色の髪を緩やかに落とし、白い霜に染めながら、歌をうたう。
村のために怪物の元へ行ってくれと懇願されたとき、さほど驚きはしなかったのだ。ああ、それしかないのだろうなと、ぼんやりと思った。
こんな辺鄙な田舎に、冒険者さまはそうそう通り掛からない。ついこの間までモンスターの噂だってほとんどなかった、本当に自然だけが取り柄の村。広くて狭い、カナリアの生まれ育った世界。村一番に歌が上手いと褒めてもらえて、歌えば喜んで貰えて。それだけで良かったのだ。
(「……ああ、でもそうね。私、本当は――」)
どこかに行きたかった。
七つの頃。危ないから近づいてはいけないよと教えられた岬に、こっそりと行ったことがある。そこから覗いた、光る海。お伽話のような光景を、今でも覚えている。
だから歌う。うたう。あの光る海を思い出す。
――あそこに行けたなら、きっと帰りたいとは、思わないのだろう。
澄んだ歌声が、春を忘れた氷の森に響いてゆく。
歌に聞き入るように時折羽を休める鳥たちは、大きな音を立てない限りは、森の上空を飛び回る哨戒を再開させないだろう。
村人たちは森で狩りや木の実の収穫をしても、決して大きな音を立てないようにしている。そうすれば、氷の森に潜み伏せた鳥たちが出て来ることはない。
氷の森の境界を絶対として、踏み入ることをしなければ。カナリアの歌声が聴こえても、決して。
セリオス・アリス
【雨鳥】
アドリブ歓迎
鳥籠で歌い続ける息苦しさは誰より知ってるつもりだ
安心しろ、絶対放っておかねえ
なるべく早く助けてやんねえと
ん…?騎士…ああ、アレスか
そういや旅館で見たなぁと思いだし
守りたいもの、の一部にでも入ってりゃいいなと笑う
助けはありがたいが、巻き込まれんなよ!
【青星の盟約】を歌い攻撃力をあげる
靴に風の魔力を送り『ダッシュ』で距離を詰め『先制攻撃』
剣に炎の『属性』を纏わせ
…ッち!
ヒラヒラと動いてんじゃねえよ
攻撃を『見切り』回避…っと
ははっ小せぇのにすげーな!
カッコいいぜ!
『ジャンプ』し回転で勢いをつけ楽しげに
とっととけりをつけてやるッ!
動きの封じられた鳥の首を狙って『全力』の炎を叩き込む
氷雫森・レイン
【雨鳥】
何故毎度これの相手をするのかと言えば依頼に頷いたからで
仕方ないわ、この世界の四季と実りを守らなくては私の故郷の様に冬以外の季節を失い、草木も育たず交易に頼りきりになる
此処を守れなければその故郷の交易も
味方である以上に依頼中その日の支えるべき相手として認めるのは顔見知り以上だけ
「貴方、旅館に騎士様と居た…ああ、彼の守りたいものって貴方なのかしら」
星祭りの夜に少し聞いたの
「そう。じゃあ今日は私が貴方を助けてあげるわ」
私は導き手、貴方が今日のパートナー
無鉄砲さには頭が痛むけど…本当に誰も彼も
「私のパートナーに触らないで頂戴」
敵の動きを封じれば少しは負傷も防げる筈よね
●melody.RainAlice
何度この鳥の羽ばたきを見ただろうか。
何度その羽が纏い落とす氷に眉を顰めただろうか。
色と音ばかりが美しい青い鳥。――氷雫森・レイン(雨垂れ雫の氷王冠・f10073)はそれが嫌いだ。
(「……いいえ、『気にくわない』のよ」)
巨鳥に比べては勿論、人に比べても小さな妖精の身体は氷の森にその色を溶け合わせる。冬の化身のような小さき妖精は、一見美しい冬が何を奪うか、よく知っていた。
(「この世界の四季と実りを守らなくては、私の故郷のように冬以外の季節を失って……いずれ草木も育たなくなってしまう」)
そうなれば交易に頼り切る他ない。けれどもしも、此処を守れず、冬が世界に広がって行ったなら。それは冬に眠ろうとする故郷を、緩やかに殺すことに他ならない。
――春のあたたかさを知ったから。レインは美しく凍える冬に、目を伏せることなどしない。
「……あら、貴方」
まだ微かな歌声を辿るように翅を羽ばたかせた先で、レインは知った顔を見つけた。
蒼く鎖された氷の森に漆黒の髪が靡く。鳥の羽ばたきよりも歌に耳を澄ますように伏せられた長い睫毛が、僅かに震えて開く。覗いたその青に――ふと金色を思い出した。
「貴方、旅館に騎士様と居た……」
「ん……? 騎士……ああ、アレスか?」
セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)は現れた小さき妖精に問い首を傾げながら、呼び慣れた名を口にした。騎士と言われてまず浮かぶのは一人しかいない。そして旅館、と言われると記憶を辿るのはさほど難しくはなかった。そういや見たな、とセリオスが呟けば、今度はレインが首を傾げる。
「今日は一緒ではないの? 騎士様と」
「そりゃ、四六時中一緒じゃねえよ。俺が放って置けなくて来ただけだ」
鳥籠で歌う少女。――その息苦しさを、セリオスはよく知っている。
誰よりも、その鎖された籠の中から見る景色を、胸に灼けつくような息継ぎを――それでも諦めずにうたう、その音を。
耳を澄ます。歌が届く。消えそうで、決して自ら消すこともできない息が。
(「……苦しいな。――絶対、放っておかねえ」)
安心しろ、と届きはしないだろう歌の先へ、セリオスは小さく呟く。いつかの誰かに、囁くように。
「なるべく早く、助けてやんねえと」
先を見据える瞳を、レインは見つめた。小さき妖精たる彼女には、導き手としての矜持がある。
支えるべき相手が味方である以上に、顔見知り以上であるか。その点を、セリオスは満たしてもいた。
いつか、星降る夜に優しい瞳の騎士が話した『守りたいもの』。それが今目の前にいる彼なのだとしたら。
「そう。……じゃあ今日は、私が貴方を助けてあげるわ」
「へ? いや、助けはありがたいが」
「ありがたいならあやかりなさい。――私は導き手。貴方が今日のパートナー」
そう告げるレインの声は、変わらず凛として氷の森に落ちる。けれどどこか柔らかな響きがあった。
「って、もう行くのかよ? 鳥が――」
ひらりと、パートナーと呼んだ自分の周りを一周して進み始めたレインを、セリオスは追う。
「ええ、いるわよ。当然でしょう。その先よ」
それを叩き落としに来たんでしょう、とでも言いたげにレインが導いたその先に、一羽の青い巨鳥がいる。それを見つけるなり、駆け出したのはセリオスのほうだった。
――青い星をうたう。
それは力だ。願いの明星だ。ささやかな鳥の囀りさえ、彼の握った剣の力になる。
爪先から踵へ。追い風を呼ぶ。魔力は風となって、セリオスの艶やかな髪を靡かせた。鳥籠を抜けた翼が羽ばたくように、彼は駆ける。
「巻き込まれんなよ!」
置いた言葉は、小さき相棒へ。セリオスが勢いを上げて突っ込んだ先で、先制を取られた巨鳥が身構えるがもう遅い。氷が炎の剣を浴びて、がらりと砕け散る。けれどその爪が、至近距離で振り上げられたときだった。
「――ちょっと貴方、無鉄砲が過ぎるわよ」
その声と同時に、天から滝のような雨が注いだ。重く圧し潰すような水流は、雪解けのそれを思わせる。
ひょいとセリオスの肩に掴まったレインが顔を覗かせて苦言を呈せば、むしろセリオスは楽しげに笑った。
「ははっ。小せぇのにすげーな! カッコいいぜ!」
「面白がっている場合じゃ……避けて」
本当に誰も彼も、とレインは軽い頭痛を覚えながらも、横薙ぎに暴れ回った鳥の羽を雨で縫い付ける。
「――私のパートナーに触らないで頂戴」
レインの声に導かれるように、セリオスが身軽に跳躍する。楽しげにくるりと回れば、その身体は宙でさらに勢いをつけて、鳥の羽ばたきを阻害するように、降りた。雨と鳥――飛ぶのは、ふたり。
「とっととけりをつけてやるッ!」
ごうと唸る炎を纏った剣が、鳥の首に叩き込まれる。
魔力を帯びた炎は凍りついた森を溶かし、歌声を搔き消すような最期の一声まで、その鳥に許すことはなかった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鵜飼・章
悲しい歌だ
けれどとても綺麗な歌
僕の笛がずっと下手なのは人の心が無いからなのだと
ひとの奏でる音を聴くたび考える
防寒対策にコートとブーツを着用し
極力音を立てず木陰に隠れて
鴉と共に索敵しながら進む
鴉達も寒そう…鳥用の洋服を着せてあげよう
鳴き声はあげないようにね
敵を見つけたら気づかれない内に
UC【現在完了】を放ち自由を奪う
騒げないように蜘蛛で昏睡状態にするのを優先
喉元や脳等の急所を狙って針を【投擲】し
【早業】で仕留めていきたい
仲間と連携可能なら協力
その場合はサポートを主に
氷の森に流れる血を目にしても
ただその色彩の鮮やかさを美しいと思う
僕には歌に込めたい思いなんて何も無い
だからかな
彼女に会ってみたいんだ
ニトロ・トリニィ
生贄か… 嫌なものだね。
そうするしか無かったんだから、仕方ないと言われればそうなんだろうけど…
この歌声が喜びに満ちたものにする為に、全力で助け出すよ!
【行動】
あの鳥達は、炎が弱点な気がするから、《蒼炎ノ一撃》を使って戦ってみよう!
〈念動力/範囲攻撃〉を使って火炎放射的な感じで燃やしてみるよ!
… 味方を巻き込まない様に気を付けないと!
攻撃以外でも、周りを暖めて味方が動きやすくする為に使っても良さそうだね。
UC以外の攻撃手段としては、蒼き星の僕かな。
〈盾受け/オーラ防御/激痛耐性〉で敵の攻撃を防ぎつつ、〈鎧砕き/2回攻撃〉を使って切りつけるか、溶岩に姿を変えて焼くか、どっちかだね。
アドリブ歓迎!
●melody.ヒトモシ
声が歌う。言葉を紡ぐ。
それが耳に届いて、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)はゆっくり首を傾げた。
「悲しい歌だ。……けれどとても綺麗な歌」
その音が、詞が、何より声が、悲しいと伝う。――ヒトの歌だ。
悲しいのだ。悲しいのだろう。その感情を思考で理解しても、共感として揺らぐことはない。だからだろうか、と章は白い息を吐いた。
(「僕の笛がずっと下手なのは、人の心がないからなんだろう」)
いくら章が愛用するオカリナを鳴らしても、調子外れの音が彷徨うばかりだ。今耳に届く歌声のように、全て諦めたような。何一つ諦められないような、そんな音は紡げない。
ひとの奏でる音を聴くたび考える。――この音は、自分にない音だ。
ひとに満たぬ自分が持たぬ音。だからこそ、足は進む。
「……誰かいるかな」
鳴き声はあげないようにね、と言い含め、静かに索敵をしながら共に進んでいた鴉たちが、ふと舞い戻った。
防寒対策に身に付けたコートの裾を膨らませて、章は一度足を止める。
その先から現れたのは、ニトロ・トリニィ(楽観的な自称旅人・f07375)だった。鈍色の肌は、一見して彼がブラックタールであることを教える。ニトロは章を見つけると、青い瞳を緩ませた。
「やあ、人がいたのか。……この森の鴉は服を着ているのかと考えていたところだったんだ」
ニトロが見るのは章の傍らにいる鴉たちだ。それを聞けば、ああ、と章は口元に笑みを浮かべる。
「寒そうだなって。鳥用の洋服を着せてあげたんだ。……君は猟兵だね」
「ああ。仲間がいたなら心強い。一緒に行ってもいいかい?」
勿論、と頷いて、章はニトロと並び進み始めた。鴉たちが警戒している。敵はどうやら近い。
「……それにしても、生贄か。嫌なものだね」
「……嫌?」
ふとニトロが呟いた言葉に、章はきょとりと首を傾げた。ニトロが頷く。
「だって嫌じゃないか。そうするしか無かったんだから、仕方ないと言われればそうなんだろうけど……」
ほら、とニトロは歩みと共にはっきりした音になる歌声に耳を澄ますように空を仰いだ。
「この歌声が喜びに満ちたものにする為に、全力で助け出すよ!」
「……なるほど。人らしい考え方だ」
ブラックタールである彼よりも、血肉の伴った自分のほうが、よっぽどひとらしくない。
どこか淋しげに笑みを浮かべた章は、視線をふと上げると、戻って来た鴉が向けた視線の先に三匹の虫たちを放った。蜂、蠍、蜘蛛。毒持つ三匹が向かった先に、青い翼が覗く。
「あれは……」
遅れて気づいたニトロに、声を抑えるようにと示すように指を自身の口元に当てて、囁く。
「動きは僕が奪おう」
騒げないように。ちょうど言ったそのタイミングで、巨鳥が何かに驚いたように翼を広げた。けれど、鳴き声は上がらない。蜘蛛の毒が、章の投げた針が鳥の声をまず潰す。だが鋭い爪と翼は舞い上がろうとして――その目前に、ニトロが立ちはだかった。
振り下ろされた爪を星の加護を受けた剣で受け止める。ばきばきと氷の森が巨鳥の代わりのように喚く。
「僕の炎は、一味も二味も違うよ。……味わってみるかな?」
言うや、蒼き炎が猛々しく巨体を燃やした。放たれた炎はニトロの予測通り、氷鳥の弱点であったらしい。畳み掛けるように斬りつければ、青い羽が声もなく散る。
すまない、と呟いたのはニトロだった。その声を縫い付けるように、章の針が炎に鳥を沈める。
氷の森に、鮮やかな赤が流れていた。その鮮やかな色彩を、章は見つめる。
――ああ、美しい。
ただぼんやりとそう感じながら、未だ途切れぬ歌声に、もう一度耳を澄ませた。
(「僕には歌に込めたい思いなんて、何も無い」)
だから、だろうか。
「行こうか、早く行ってやらないとな」
ニトロが剣を収めながら明るく笑った。それに頷いて、章も足を進める。鴉たちが羽ばたく。悲哀を歌う、ひとらしい少女の元へ。
(「彼女に、会ってみたいんだ」)
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
シン・バントライン
アオイ(f04633)と
大勢が助かる為に一人を犠牲にする。
この世界ではよくある事だ。
昔の自分だったら英断だとさえ思ったかもしれない。
アオイさんと出逢って自分は随分変わった気がする。
その手を取り歩んでいきたいと望むのは大それた願いだろうか。
凍える森は懐かしくて美しい。
寒いのが苦手と言っていた彼女を抱き締めたいと、そんな思考を振り払い戦闘態勢に。
彼女の作り出す霧が後押ししてくれる。
UC
手に持つ剣を牡丹の花に。
何処かへ行きたいと、この世界でそう考えない人を私は知らない。
第六感で敵の方向と数を予測。
2回攻撃でなるべく多くの敵を巻き込む。
青い鳥は人を幸福に導くのではなかったか。
彷徨う心は人を不幸にする。
アオイ・フジミヤ
シンさん(f04752)と
ひとりの犠牲で大勢が助かる道
他に選択肢はなかったのだとしても
この道は……嫌い
シンさん、頼りにしてるね(微笑むも上手くいかず)
……寒いね!早く解決しよう!
UC【Kanaoa】発動、高熱の虹の霧を発生させる
彼の周りを漂わせ氷攻撃から守れるように
また、同じ霧で青い鳥を取り囲む
溶けて、と囁く
幸福の青い鳥ではないから
切ない声が聞こえる
何処かへ行きたい、と伝えてくる歌に心を突かれる
わかるよ
私もずっと思っていたから
シンさんと出会う前
子供のころはずっと何処かへ行きたいと願っていた
大人になってもそれは変わらなくて
でも今は
この人の隣で、私のために生きたいと
どうしようもなく願ってしまうんだ
●melody.BlueBird
しゃらしゃらと、氷の降る音がする。それともあれは砕ける音だろうか。
「……寒いね」
氷の森を進みながら、アオイ・フジミヤ(青碧海の欠片・f04633)は白い息を吐いて呟いた。彼女が見上げた先を覆い隠すように、隣で黒装束が揺れる。
「平気ですか、アオイさん」
深く響く声でシン・バントライン(逆光の愛・f04752)は隣の彼女を見やった。――その視線は伺えない。彼の姿は頭から、すっぽりと夜の帳に覆われたように隠されている。けれどだからこそ、その声音は静かに、隣を歩くアオイに優しさを伝う。
――凍える森は、懐かしくて美しい。
その温度を、静けさを。シンはさほど、恐ろしいものと捉えはしない。どちらかと言えば慣れたものだ。
「カナリアさんも、この道を行ったのかな」
「……そうかもしれませんね」
多くが救われるために、たった一人を犠牲にする。
この世界ではよくあることだ。いつかのシンならば、カナリアの行動を、英断だと思ったかもしれない。――けれど。
「この道は……嫌い」
ぽつりと。アオイが呟いた。白い息が、凍えた森を溶かさず消える。
他に選択肢がなかったのだとしても、カナリアが自ら歩いて行ったのだとしても。この道は氷よりもずっと冷たい。
「……シンさん! 頼りにしてるね!」
早く解決しよう、と俯きそうになった顔を上げて、アオイは笑う。――笑おうとした。けれど、上手くはできなかった。
「……アオイさん」
いつも明るく笑う彼女の笑みがぎこちない。その理由は問うまでもなく、だからこそ。
(「――抱き締めたい」)
無性に、そうしてやりたくなる。あたたかな海が好きだと笑う彼女に、僅かでもぬくもりを渡せたなら。けれど胸に抱いた想いは未だ冬に隠して――剣を取る。
「来る」
第六感がそう告げた。方向。数。――四。
シンが手にした剣が、花に変わった。ふわり、咲くは牡丹。大輪の花は春を知らぬ森に、鮮やかにひらく。
「シンさん!」
その呼び声をあたたかいと思う自分は、随分と変わったのかもしれない。
「何処かへ行きたいと、この世界でそう考えない人を私は知らない」
青き巨鳥が、氷をばきんと割り鳴らして、飛来した。
「――我が心を春嵐と成す」
牡丹の花びらが舞い、鳥たちを襲う。しゃらしゃらと散り落ちる青い羽は、美しくもある。だがシンはそれより鮮やかな青い鳥をよく知っている。
「私の“海”、楽しもうか」
アオイの声が、虹を呼んだ。熱を纏った虹色の霧はシンを守るように広がり、波打つ海のようにきらきらとひかる。
「……溶けて」
囁く。あなたは。きみは――幸福の青い鳥ではないと、青き羽持つ小鳥は教える。
耳に、歌声が微かに届いた。切ない声がうたう。何処かへ行きたいと、そう歌う。
(「わかるよ。私もずっと、そう思っていたから」)
あたたかな場所で、花を胸にして、潮騒を聞いた。――ずっとずっと、何処かへ行きたかった。小さな頃も、大人になっても、それは変わらずアオイの心の隅にあって。
(「――でも」)
「あと一羽。……アオイさん」
「うん、決めよう!」
シンの花を乗せるように、霧が流れる。花は波に揺られるように柔らかく、一瞬のうちに花吹雪を作り出して、氷鳥を包み込んだ。
「行きましょうか。……手を、取っても?」
「えっ」
「その……寒いのが苦手だと言っていたでしょう」
うん、とアオイがどこかぎこちなく頷いた。その手を温めるように、握る。
じわりと冬を溶かした森を、二人は歩き出す。
「……シンさんの手、あったかいね」
ふわりと、笑う。いつか、何処かへ行きたかった。――でも、今は。
(「この人の隣で、私のために生きたいって、どうしようもなく願ってしまうんだ」)
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と
自然に出来た凍る森であれば
ただただ美しいと思えるのでしょうけどね。
……我ながら芸がないと思いながら、
上着を彼女へ
俺は大丈夫ですから。
どんな理由があろうと、
安全な場所から生贄を与えるという村人が、
俺は気に食わないので。
助けるというのには賛成しますよ。
開戦は彼女のダガーの一投から
連携し一羽ずつ確実に落としていこう
『焔喚紅』から黒炎を喚ぶ
<呪詛>と<全力魔法>で怨嗟を爆ぜさせよう
敵からの攻撃もすべて炎に巻く
彼女への攻撃も同様に、届く前に焼き尽くそう
精々いい声で鳴くがいい
断末魔を聞かせろよ
オルハ・オランシュ
ヨハン(f05367)と
※片思いの相手
さむい……
肺まで凍りつきそうな寒さに身も息も震わせて
ヨハンは大丈夫?
え、でも。それじゃ君が風邪引いちゃうんじゃ……
……ううん、ありがとう
早くカナリアさんを助けないとね
このままじゃ可哀想すぎるもの
……!いた!
準備はいい?
見上げた先には複数の青い影
ダガー投擲で一羽を引き寄せたら他の鳥も気付くはず
そのまま戦闘を仕掛けよう
声を掛け合いヨハンとの連携を意識
他の個体を巻き込めそうなら【範囲攻撃】で効率を、
そうでなければ【2回攻撃】で威力を重視
弱ってる鳥を優先して、一羽ずつ確実に落としたいな
結晶体が飛んできたら【見切り】で対処
ヨハンが狙われていたら【武器受け】で庇うよ
●melody.ヒメゴト
眠ったように森は凍る。進めば進むほど、音はしない。――歌だけが聞こえる。
「さむい……」
悲しげな歌声を追うように氷の森を見上げて、オルハ・オランシュ(アトリア・f00497)は髪から覗く大きな耳と、結い上げたポニーテールを揺らす。
息を吸えば、肺まで凍りついてしまいそう。そんなことを思ってしまうほど、寒い。
「――お人好しですね」
オルハが震え零した白い息に被せるように、先ずは盛大なため息が白く隣から落ちた。
呆れ返った声は、オルハにとっては耳によく慣れた、ヨハン・グレイン(闇揺・f05367)のもの。見れば、空よりも近く、少し視線を上げた先にある彼の藍色の瞳に自分が映って見えて、こっそりと鼓動が跳ねた。
「見ず知らずの誰かを助けるために、こんなに寒いところにまで来て」
「だって、放っておけないから。……ヨハンだって、すぐに頷いてくれたよね」
話を聞くや、迷いなく助けに行こう、と言ったオルハに、ヨハンから否の言葉はなかった。
「どんな理由があろうと、安全な場所から生贄を与えるという村人が、俺は気に食わないので」
相変わらず愛想のない声音で理由を述べて見せながら、ヨハンは身に纏った夜色の上着をおもむろに脱ぐ。そうしてそれを、オルハの肩にぱさりと掛けた。
「え」
「なんですか不服ですか。我ながら芸がないとは思いますが」
「そうじゃなくて。……それじゃ君が風邪引いちゃうんじゃ……」
「……俺は大丈夫ですから」
言って、ヨハンは細い身体の線を氷の森にすんなりと馴染ませながら歩き出す。数歩遅れて追いついたオルハの歩幅に合わせて歩くのが、ほとんど癖のようなものになってしまっているのに、ヨハンは気づかない。
「ヨハン。早く、カナリアさんを助けないとね」
このままじゃ可哀想すぎるもの、と呟いたオルハに、ヨハンも頷く。
「ええ」
「……ね、ヨハン。ありがとう。――君の匂いがする」
嬉しそうにふわりと笑って、ひとまわり大きな上着を両手で手繰り寄せたオルハに、ばきっと思い切り氷の枝を踏み折ったヨハンだった。
「……いた!」
ぴく、とオルハの耳が動いて、色の薄い森に目立つ青を捉える。潜めた声を伝えれば、ヨハンが頷く。
――準備はいい?
動いたのは唇だけ。その言葉を正確に読み取って、ヨハンは紅の石が収められた銀の指輪にそっと触れる。オルハのしなやかな指に挟まれたのはダガー。開戦を告げるのは、その一投だった。
ひゅ、と僅かに風を切る音だけで投げられたダガーは、狙い通り、一番手前に見つけた氷鳥に命中する。声を上げた仲間に吊られたように、あと数羽の鳥たちが姿を見せた。
「ヨハン、来るよ!」
「見えていますよ。……単純思考で有難いが、つまらない鳥たちだ」
囲われた鳥ならこんなものか、そうぽつりと落としながら、ヨハンは黒炎を喚ぶ。ぶわりと広がる黒き炎は注がれた魔力と共に増幅し、呪詛を喰らうようにして巨鳥を襲う。狙うのは、オルハが打ち込んだダガーの傷跡。
「――爆ぜろ」
狙い澄まして注がれた怨嗟が、爆ぜた。
一瞬にして仲間の一羽が落とされて僅かに躊躇した鳥の動きを、オルハは見逃さない。
「見切れるなんて、思わないでくれる?」
愛用の槍に持ち替えれば、柔らかな雰囲気を凛として、槍を振るう。素早く打ち込めば、一度、二度。勢いに乗って風を纏えば、更に速く、鋭く。
「オルハさん」
「わ……っ!」
名を呼ぶ声と共に、オルハの死角から迫った氷塊が焼き尽くされた。黒炎はオルハを守るように立ちはだかり、それを操る少年は、眼鏡の奥の瞳の色を深くする。
「精々良い声で鳴くがいい。――断末魔を聞かせろよ」
「ヨハン!」
「ええ、決めますよ」
最後の一羽をオルハの槍が叩き落とし、ヨハンの黒炎が焼き尽くす。一息の間に決められた連携は、互いの動きをよく知っているからこそ。――そして、信じているからこそ。
ごう、と音が鳴り、氷鳥が最期の一声を鳴らし。
「やったね、ヨハン!」
ヨハンの上着が、オルハの肩でひらりと靡いた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ライオット・シヴァルレガリア
白雪さん(f09233)と
歌が聞こえるね…カナリアさんが歌っているのかな
美しいけれど、悲しい歌だ
早く彼女を助けてあげよう
ここは樹氷とはまた違う、まさに氷の森だね
白雪さん、寒くはないかい?
いつでも上着を貸すから、遠慮せずに言うんだよ
やぁ、こんにちは
君達も氷の力を使うんだね
ならよかった、氷なら相手をし慣れているから
守りは僕が引き受けよう
攻撃は白雪さんに任せたよ
口笛で鳥達の注意を引きながら、『無敵城塞』で敵の攻撃を受けるよ
後ろへ行こうとする鳥には『属性攻撃』の魔法で光の杭を
盾がここに立つ限り、何者も後ろへは通さない
さすが白雪さん、頼もしいな
僕まで燃えてしまわないように気を付けないと
鶴澤・白雪
ライオット(f16281)と参加よ
そうね、生贄なんて下らないわ
行きたい場所に行って歌えるように邪魔な鳥は焼き鳥にしてやりましょ
綺麗ではあるけどまるで魔女の森ね、夏でも涼みに来たくないわ
ありがと。寒さには耐性があるから平気よ
やっぱり鳥たちに見つからずに進むのは難しいようね
戦闘はライオットが攻撃を防いであたしが狙撃する流れ
爪の一撃と大空を舞う瞬間あたりがチャンスかしら?
『属性攻撃』で炎の属性を付与
『クイックドロー、スナイパー』で狙い撃つ
氷柱雨に対しては『2回攻撃、全力魔法』とUCを使う
目的は結晶体を砕くこと
盾にしてるとはいえ成るべく被弾はさせたくないのよ
王子の持ってるレイピアも一応気がかりだしね
●melody.LapisLumen
凍りついた森は、息を止めた宝石のようだ。
葉も枝も全て眠らされて、身動きひとつしない。それが美しいのは確かだけれど。
「まるで魔女の森ね。……綺麗ではあるけど」
夏でも涼みに来たくないわ、と足元に転がった氷塊に眠る花を拾い上げたのは鶴澤・白雪(棘晶インフェルノ・f09233)だ。白い肌に良く映える澄み切ったレッドスピネルは、枯れることも許されない花を覚えるように映して――ばきん、と砕く。
「早く行きましょ。……ライオット?」
「――歌が、聞こえるね」
白雪が呼びかけた先で、ライオット・シヴァルレガリア(ファランクス・f16281)はぽつりと呟いた。カナリアさんが歌っているのかな、と誰にともなく小鳥の名を口にすれば、碧海のような瞳は翳りを知らず氷の森を見渡し、やがて目の前の眠らぬ姫に戻る。そうして、柔らかく微笑んだ。
「美しいけれど、悲しい歌だ。……早く彼女を助けてあげよう」
「そうね。……生贄なんて下らないわ」
柔らかな声に釣られるように少し瞳を緩めた白雪は、しかし歩き出しながら吐き捨てる。時代錯誤な御伽噺。昔から、すんなり絵本の結末を受け入れられるような子供ではなかった。
「白雪さん、寒くはないかい?」
「ええ、平気よ。寒さには耐性があるの」
「ならよかった。もしも寒くなったらいつでも上着を貸すから、遠慮せずに言うんだよ」
「……ありがと。ライオットは本当に王子様みたいね」
「そうかな。……ふふ、前もこんな話をしたね」
「そうよ。……そうだったわね」
冷え切った森に、いくらか和んだ空気が流れる。けれどそれも、白雪の黒いブーツの爪先がカツンと氷を鳴らした数歩先で、冴えた。
どこかで、氷が派手に割れる音がする。しゃらしゃらと鳴る氷の翼が青く舞う。それは、白雪とライオット、二人が進むその先にも蠢くものだ。
「やっぱり、鳥たちに見つからずに進むのは難しいようね」
「どうやらそうらしい。――守りは僕が引き受けよう」
ライオットが躊躇なく前へ出る。守り護る、その本質は彼が盾を器物とするヤドリガミゆえだろう。けれど、その手に携えたのは華奢なレイピアだ。
良く通る口笛が、鳥たちを誘い出す。まんまと凍る森から躍り出た氷鳥に、にこりとライオットは微笑んだ。
「やぁ、こんにちは」
呑気に聞こえる挨拶は、しかし光の杭と共に撃ち込まれる。尾羽を打ち付けられた数羽が足留めを食らっているうちに、ライオットはレイピアを構えて鳥たちの前に立ちはだかった。柔らかな金の髪が淡く光れば、振り上げられた爪は真白い青年を屠ろうとして――傷ひとつ付かない。
「君たちも氷の力を使うんだね」
散った氷塊を軽く払って、ならよかった、とライオットは笑みを深めた。親愛を告げるように。
「氷なら、相手をし慣れているんだ」
「――アンタたちには炎の相手をして貰うわ」
がしゃん、と無骨な音が氷に混ざる。光を前に、色を濃くした黒影は、燃える晶石を撃ち出した。ライオットの築く盾に怯んだ鳥たちはそれを避けることもできずに喰らう。
「邪魔な鳥は、焼き鳥にしてあげる」
一息。ほんの一瞬、白雪はライオットの庇護のある光から飛び出した。もがいた青い鳥が空へ羽ばたき、氷柱を叩きつける。その礫が――宝石の白い肌を、僅かに砕いた。
くすり。白雪は笑う。ライオットの呼び声に平気、と短く返して、宝石は赤く――業火に燃える。
「降り注ぎなさい」
あたしの化身。あたしの灼焔。砕けたスピネルは炎を纏い、盾に降り落ちようとした氷結柱を砕き落とす。その翼さえ叩き落せば、光の杭が最後の鳥を貫いた。
「頼もしいけど、無茶をするね」
ずん、と沈んだ巨体を横目に見やって、ライオットは苦笑を浮かべる。白雪は少しその視線から目を逸らした。
「盾だとしても、なるべく被弾はさせたくないのよ。……王子の持ってるレイピアも一応、気がかりだしね」
視線の先にはレイピアがある。この森と同じ氷の気配を纏うそれは、ライオットの獲物であり、友に預けられた彼の器。
なるほど、と笑みを浮かべながら、ライオットはレイピアを仕舞う。同時に光の癒しが、宝石の少女に与えられた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
雨乃森・依音
リル(f10762)と
歌声を乞われて生贄に、か
少しだけ羨ましい
…俺は特別にはなれねぇから
当人にとっちゃ一大事なのはわかってるけどさ
ああ、籠の中でだけ歌うなんて勿体ねぇ声だしな
お前見た目に反して強いんだな…
俺は寒いのは苦手
猫が混ざってるから尚更かもな
防寒してく
おうよ
戦闘はからっきしだがお前がいれば、きっと
悪ぃな
俺もロックしか演れねぇんだ
それもオルタナっつーマイナーなやつな!
ソテル、出番だ
邪神を喚べば歌で力を与えて
リルの炎が届くように触手で鳥を捕らえて連携
炎で怯めば体当たりさせる
正直恋愛の歌とかクソ食らえって思ってたけど
お前の歌は悪くねぇ
ああ、きっと
これは“量産された愛”ではなく“本物の愛”だから
リル・ルリ
■依音/f00642
アドリブ歓迎
歌が聴こえる
寂しくて哀しい籠の鳥
僕にとっては懐かしく苦い
何かに焦がれる歌声
尾鰭を揺らして隣の依音を見やる
放ってはおけない
依音は平気?
へぇ猫は寒がりなんだ
水底に棲む僕は寒さには強いんだ
来たよ
幸福を齎さない青い鳥
金糸雀の歌声を乱すが僕は歌だ
許してね
依音
一緒に歌おう
歌い響かせ青い鳥を堕とす
歌唱に共に戦う依音への鼓舞をのせ
オーラ防御で攻撃防ぐ
君のおるたな
かっこいいよ
君の歌だ
まいなーとか関係ないよ
もっと聴きたい
彼に合わせ歌う『恋の歌』
心に想う愛しい春
僕の櫻
それだけで全てを灼ける歌が歌える
鳥捕らえるソテルに微笑み
何処へも逃がさず溶かしてみせる
ありがと
これは僕が見つけた
唯一だ
●melody.アクアマリア
「歌が、聴こえるね」
微かな旋律を、リル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)の耳は拾い上げる。ふわりと揺れる真白い髪は、海に揺蕩うように瑠璃色に靡いた。
寂しくて哀しい籠の鳥のうた。空を追いかけることすらできない小さな金糸雀。
(「懐かしい」)
何かに焦がれる歌声を、リルもよく知っている。――水槽から見上げた、狭い青。
「ああ。……歌声を乞われて生贄に、か」
白い息を零して、人魚の隣で少年が呟いた。愛らしい顔立ちは少女めいて、互い違いの両の目が歌声を見つめるように氷の森を仰ぐ。
(「少しだけ羨ましい。……本人にとっちゃ、一大事なのはわかるけどさ」)
それでも雨乃森・依音(紫雨・f00642)は命さえ乞われるような歌をこれまでに歌えただろうか。そんなことが、頭に過ぎる。
(「俺は、特別にはなれねえから」)
ゆらり、いつのまにか落ちていた視界に尾びれが揺れた。
「依音。……寒い?」
「え。ああ、まあ、俺は寒いのが苦手。リルは?」
「水底に棲む僕は、寒さには強いんだ」
華奢な人魚は小さく笑う。それに依音は防寒着のコートを引き合わせながら、へえ、と呟いた。
「お前見た目に反して強いんだな……。俺の場合、猫が混ざってるから尚更かもな」
「猫は寒がりなんだ? それなら――」
ひょこりと揺れる白い耳。それを見やって、人魚はゆるりと宙を泳ぐ。海色の瞳が捉えるのは、青い羽。しゃらしゃらと鳴る、氷の翼の音はイントロ。
「早く、片付けようか」
来たよ、とリルは囁く。
「いらっしゃい、幸福を齎さない青い鳥。――依音、一緒に」
「おうよ。……呼んではねぇけど、聞かせてやるよ」
凍る森に、歌い手ふたり。小さな金糸雀の旋律に、音が重なる。その歌声を乱すことに、ごめんね、とそっと呟いて。
はじめの旋律は、リルから。歌と共に戦う依音への鼓舞が歌声に乗る。戦闘がからきしだと言った友達へ、充分に頼もしいのだと告げる序曲。
広がるオーラは水のゆらめき。弾けて消える、泡沫を響かせて、氷の礫を防ぐ。その護りの向こうで、依音は自らの邪神へ喚びかけた。
「出番だ、ソテル。――悪ぃな、俺はロックしか演れねぇんだ。しかもオルタナっつーマイナーなやつな!」
喚ばれ出づるはてるてる坊主。雨もないのにその愛らしい姿をひらり、踊らせる。
くすりと、リルが微笑んだ。
「まいなーとか、関係ないよ。さ、依音」
頷いて、依音の指がギターを掻き鳴らす。細い指から弾ける、旋律。その音は、心の奥底を引き摺り出すように響き、依音の耳に残る声が歌い出す。
――かみさま、ぼくは。
願え。沈め。叶え。救え。こんがらがった心の奥は歌にすれば、詞にすれば、いくらでも叫べる。横殴りの雨の中で、立ち竦んだって。
「……君のおるたな、かっこいいよ。君の、歌だ」
もっと聴かせて。そう誘うように、リルも再び歌い出す。依音の旋律に合わせた、けれど異なる、うた。淡い色合いの人魚がうたうのは、甘く蕩かす『恋の歌』。
(「僕の、櫻」)
心に想う愛しい春。そのためになら、いくらでも。それだけで、全てを灼ける歌になる。
焦がれるような恋を知った人魚の歌は、灼熱を纏い冬を溶かして。
大きさを自在に変えるソテルが、ごうと唸ってその『手』を伸ばす。歌に気を取られた氷鳥は羽ばたくが、遅い。依音の歌の勢いに乗るように突っ込んだソテルのその手に捕らわれて、微笑む人魚の歌声が焔と化して青い鳥を灼く。
一羽、堕とせばその次へ。間奏の幕間に、依音はぽつりと呟いた。
「正直、恋愛の歌とかクソ食らえって思ってたけど。……お前の歌は、悪くねぇ」
「ありがと。……そうだと、嬉しい。これは、僕が見つけた、唯一だから」
唯一の恋。唯一の愛。春にたゆたう、花霞。それを思えばいくらでも、旋律は甘く熱を持つ。
(「……そうか」)
再び、声を合わせる。音はふたつ。旋律はひとつ。氷の森に、カナリアのものではない歌が響く。鳥たちが翼を鈍らせるところへソテルを放ちながら、歌いながら。依音は雨よりもあたたかな歌声に、ぴくりと白い耳をそよがせた。
――きっと、これは。
(「“量産された愛”ではなく“本物の愛”だから」)
鳴いた青い鳥へ、依音とリルは、最後の旋律を紡いだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
都槻・綾
f01982/咲さん
極寒にきしりきしりと霜降る森の中
けれど
歌声は薄布の如き儚さと柔らかさで届くから
…えぇ
歌う喜びを小鳥が忘れることの無いように
氷の檻から解放したいですね
必ずや貴女の力にも盾にもなりますとも、との想いは口に出さずに
直向きな眼差しへ穏やかな笑みを向け
華奢な身へ暖かな肩掛けを添える事で応える
第六感を研ぎ澄ませ
敵挙動を読んで見切り回避
預ける背の確かさが心強い
高速詠唱による先制攻撃
可能な限り広範囲の敵を堕とせるよう朗々と響かせ詠う鳥葬
咲さんと連携した二回攻撃
絶え間ない灼熱の羽搏きで
凍れる過去より飛来した冬鳥を
春凪ぐ骸の海へと還そう
そして
歌姫を光の海へ連れて行く為に
さぁ、先へと参りましょう
雨糸・咲
綾さん/f01786
外套の襟をきゅっと掴んで、森の奥を見つめる
季節に置き去りにされたような氷の森
響く澄んだ歌声
どちらも美しいけれど
本来はもっと…
いのちの耀きが感じられるものではないのでしょうか
怪物さえ鎮める妙なる声が喜びや幸いを歌えるよう
樹々や草花が息を吹き返すよう
力を貸して下さい、と隣にいるひとを真っ直ぐ見上げ
肩を包む優しい温みに瞳を和らげる
背を預け合い、第六感と聞き耳で鳥たちの動きを把握
綾さんの先制に続く、高速詠唱
全力魔法で降らせる炎の雨は、時間差の2回攻撃
森にあたたかな季節を、少女に希望を取り戻すため
フェイント交え、協力して隙を作らず攻め立てる
待っていて
私たちの手は、必ずあなたに届きます
●melody.タマユラ
花は揺れず、風は軋んで、森は吐息も溢さず眠る。
足元の氷をそっと踏めば、鮮やかな緑のままで眠る蔦葉が、森の樹に絡んだまま凍っているのが見えた。
その奥を、雨糸・咲(希旻・f01982)は外套の襟をきゅっと掴んで見つめる。群青色の髪は、いつもと同じように鮮やかに細い肩に掛かるけれど、似合いだろう初夏の風はそこにない。
季節に忘れ去られた氷の森に、澄んだ歌声が響く。――それは、とても美しいけれど。
「本来はもっと……いのちの耀きが感じられるものではないのでしょうか」
「……ええ」
ぽつりと落ちた咲の呟きに、隣で頷いたのは都槻・綾(夜宵の森・f01786)だった。端整な顔立ちの青年は、青磁色の双眸に冬の草葉の色を映す。儚い歌声は、今にも失せそうな薄布の如く耳に届いた。
「歌う喜びを小鳥が忘れることのないように、氷の檻から解放したいですね」
「綾さん。――力を、貸してください」
咲は真っ直ぐに、隣にいるひとを見上げた。
胸を締め付けるようなこの歌声が、喜びや幸いを歌えるよう。樹々や草花が、息を吹き返すよう。
ひとりでは呼べぬ春風も、並び立てば、きっと。
――ふわり、その華奢な肩に、あたたかな肩掛けが添えられる。
応えの言葉はない。けれど、ひたむきな眼差しには、何より穏やかな笑みが返された。
(「必ずや、貴女の力にも、盾にもなりますとも」)
綾の紡いだ瞳語りは、温もりと共に咲の瞳を和らげさせた。
冬鳥の飛来は間を置かず。どこかで鳥の最期の一声が響く。
「……咲さん、来ます」
「はい。――すぐ、そこに」
互いに研ぎ澄ませた第六感は、鳥たちの挙動を羽搏きが聴こえる前に捉える。すいと自然な動きで背を預け合った綾と咲は、次の瞬間に氷の森から羽搏き立った青い鳥たちへ確と構えた。
綾の形良い唇から、詠唱が紡がれる。速く確かに重なった言の葉は呪となり、先ずは一手が叩き込まれた。
次ぐ声は咲の紡ぎ。器物に宿りしふたりのヤドリガミは、声の届け方をとうに知っている。重なる詠唱は、鳥たちを重ねて吹き飛ばす。
預ける背の確かさは、互いに心強さとなって重なる。
「時の歪みに彷徨いし御魂へ、航り逝く路を標さむ――」
綾が朗々と響く声もまた詠となった。陰陽五行、五芒星は鳥と成り、灼熱を得る。その羽搏きは、疾く早く、鳥たちを薙ぐ。
「……この森は、寒すぎますね」
柔らかな春籠は、詠に重ねて雨を呼んだ。降りしきるは炎雨。春の焔が凪いだ途端に、それは森の氷ごと、鳥たちを溶かしてゆく。
咲の雨が止む頃に、綾は重ねた背を再び並ばせた。
「さぁ、先へと参りましょう。……歌姫を、光の海へ連れてゆくために」
「はい、行きましょう。……待っていて」
そっと、咲は未だ響く歌声を仰ぎ、手を伸ばす。
――私たちの手は、必ずあなたに届きます。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
健気な娘だが森に閉じ込めておくなど哀れだ
…勇者の真似事で放てるなら構わん
邪魔するぞ
樹々は無駄に傷つけぬ様
遠慮なく境界を踏み荒らし、おびき寄せる
集まってきたところを狙い
【餓竜顕現】を用いて攻撃の範囲を広く
また、師の撃ち落とした氷凝鳥どもを黒剣にて砕いてゆく
宙にいるものが多ければ翼を使っての空中戦も厭わず
爪は餓竜で受け止め、反撃を
木洩れ日とて光を増す時期ゆえ
多少冷気を浴びせられる位で丁度良い
…かねてより思っていたが、かの言動
我が師は悪形の才があるようだな
なんでもない、いつも通りだ
残りの連中もその調子で願う
行きたい所で生き
好きな所で歌えばいい
但し、それは今在る者に限った話だがな
アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
囚われの姫を救う勇者なぞ我等には不相応だが
私とて娘に贄を強いるのは本意でない
頭上より、無数に【暴虐たる贋槍】を降らす事で多くの鳥を巻き込む
飛び立とうものならば翼が容易く砕けるやも知れんが…構わんな?
我が高速詠唱にて飛翔する暇すら与えん
ふはは、為す術なく砕け果てよ!
…おい五月蝿いぞジジ
これでも自然に、猟兵に危害を加えぬよう注意しておる
他を顧みず、闇雲に魔術を行使するなぞ愚の骨頂だ
従者に爪の一撃が与えられぬよう
距離が詰められたならば彼奴との間に槍を落として阻止
前に出過ぎるなよ、ジジ
ふふ、そうさな
人は在るが侭生きる様が良い
そしてそれを貴様等に阻まれる謂れなぞない
早々に朽ち果てよ
●melody.StellaStiria
「囚われの姫を救う勇者なぞ我等には不相応だが――なあ、ジジ」
アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は氷の森を踏みゆく足を止めることなく、数歩後ろを歩む従者を振り向いた。星を宿した蒼玉の瞳は言葉よりも楽しげに唇に笑みを乗せる。
「……娘に贄を強いるのは師父の趣味ではない」
師の笑みを引き取るように、ひとつも表情を変えずにジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は静かに呟いた。
「勇者の真似事で放てるなら構わん」
淡々とした言葉とは反対に、ジャハルの歩みは遠慮がない。既に踏み越えた境界は遠く、氷鳥たちの縄張りを踏み荒す。既に戦いの音は、そこかしこから聞こえていた。敏感になった鳥たちは、二人分の足音に――呼び鈴のようにジャハルが踏み割った氷の砕ける音に釣られて、その翼を樹々の隙間から覗かせた。
「……邪魔しているぞ」
「ふは、挨拶にはちと遅いな、ジジ」
迫る鳥たちの鳴き声にアルバは軽く笑って風を纏う。呼び寄せられた鳥たちは知らずその風を翼に孕み――更に天空から落ちる魔槍に気づかない。
「斯様な勇者が客人とは、運の悪い奴等め」
降るは暴虐。風の槍。飛び立てば翼を砕くかも知れんが構わんな、とアルバは問うた。それに答えは必要ない。
蒼き宝石は鳥たちのことごとくを地へ叩き落としながら、微笑みをたたえ、笑みを浮かべ、くつりと笑う。
「ふはは、成す術なく砕け果てよ!」
氷塊は砕け、鳥は堕ちる。どう、と落ちてなお首をもたげた鳥を、ジャハルの黒剣がひと突きに仕留めた。一羽、二羽。アルバが落とした星を拾うように、砕くように。
「……かねてより思っていたが」
ふと、ジャハルは師たるアルバをじっと見た。落ちた鳥を片脚で踏む。
「我が師は悪行の才があるようだな」
「……おい、五月蝿いぞジジ」
「高笑いが様になる」
「ジジ。……これでも自然に、余計な危害を加えぬよう注意しておる」
言いながら、アルバは軽く肩を竦めた。『余計な危害』を気にも留めぬ鳥たちは、氷の礫をばら撒く。それが風の魔槍に叩かれ、互いの翼を傷つけることにも気づかない。
「――他を顧みず、闇雲に魔術を行使するなぞ愚の骨頂だ」
行け、と星の瞳が言う。それを一瞥して、ジャハルは地を蹴った。――飢竜を喚ぶ。瞳なき虚ろなる半人の暴竜。それは鋼の鱗を鈍く光らせ、ジャハルの持つ黒剣の巨大な写し身を持つ。薙ぎ払う翼は蹴り落とし、喰らい付く爪は飢竜が受け止める。動きもまたぴたりと重なれば、空にふたりの黒竜が舞う。
けれど一瞬。ほんの一息、氷の礫がジャハルの頬を掠め、瞳を殴る。その刹那に、爪が振り上げられた。咄嗟に握ったのは護りよりも、拳。
「前に出過ぎるなよ、ジジ」
僅かに低まった声が風を呼ぶ。ほとんど同時に、氷鳥とジャハルの間に、風の槍が撃ち込まれていた。
「……師父」
「なんだ」
「なんでもない。……いつも通りだ」
たしなめるような一撃は、幼き頃から覚えた教えと何ら変わらぬ。
アルバよりひと回りもふた回りも大きな拳を握り直して、ジャハルは再び駆け出した。
「――残りの連中も、その調子で願う」
今度は、アルバから離れ過ぎぬその目前で。夜を灯すその瞳は、歌声の響く先を睨む。獄卒めいた鳥たちを砕く。
「行きたい所で生き、好きな所で歌えばいい。今に在るのなら」
「……ふふ、そうさな。人は在るが侭生きる様が良い。そしてそれを、貴様等に阻まれる謂れなぞない」
僅かに緩んだ星の瞳が、凍える森より鋭く冴え渡り――風が落ちる。堕とされた最後の一羽を、ジャハルの黒剣が貫き通した。それを見届けて、アルバは再び歩みを進める。
「早々に、朽ち果てよ」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
リチュエル・チュレル
タロ(f04263)と一緒に
ふぅん、静かに進んだ方がいいのか?
それなら忍び足と…それなりの靴が必要だな
上空を警戒して肌も極力隠した方がいいか
いつもより大きめのヴェールをかぶっとこう
とりあえずは歌の聞こえる方を目指してみるか
聞き耳、第六感、失せ物探しが役に立たねぇかな
敵に遭遇したらUCをぶちかますぜ
属性攻撃が効くなら火属性だな
お前らの大好きな宝石だ、存分に喰らいやがれ!
敵の攻撃は早そうだ
氷に足を取られても困るし
氷結耐性と盾受けで回避よりも防御重視にしよう
つーか、おい、タロ、お前はもうちょっと自分を守れ
へぇ、タロはお姫様に会いたいのかぁ?
ならばわたくしが、占い人形の名に懸けて導いて差し上げましょう
タロ・トリオンフィ
リチュ(f04270)と
氷の森には静かに、音を立てないよう踏み込む
目立ち難さと防寒も兼ねて薄水色のストールを羽織り
使う?とリチュにも返事も待たず巻きつける
――この冷たさも人の身でない僕らに然程影響は無いけれど
青い鳥の姿を捉えたら、リチュとタイミングを合わせUCで仕掛ける
この凍り付いた状況なら火も大丈夫だろうし
本命であるリチュの攻撃を紛れさせるように
リチュが狙われるなら庇う
武器受けで抑えてオーラ防御で弾くようにして直撃を避けるように
…彼女の歌声は人々を救ったかもしれないけれど
この歌を聴けば思う
カナリアの歌が籠の外を希うならば、きっとこれは彼女の運命ではないから
ねえリチュ、僕は籠の鳥に会ってみたい
●melody.フォーチュンドール
氷の森のその奥で、雪のような白がふわりと揺れた。
リチュエル・チュレル(星詠み人形・f04270)が揺らすのは、いつもより少し大きめのヴェール。白い肌を隠す薄布は、氷の森によく馴染んだ。華奢な身体は静かに歩けば、まるで足音を立てない。滑るように氷の上をゆく人形は、とても美しかった。――けれども。
「うわ……派手にやってんなあ」
相変わらずの口調は、静けさを破ればむしろ人らしい。ずん、と響いて伝う戦いの音。静かに、静かに、進んだことが幸いしたのか、あるいは後方の仲間たちが頼もし過ぎたのか、リチュエルたちは未だ敵と遭遇していなかった。
「静かに進んで良かったね。どうやら僕たちは、まだ気づかれていないみたいだ」
タロ・トリオンフィ(水鏡・f04263)はちらりと辺りに気を配りつつ、息を吐く。タロが生来持つ光と白も、纏った薄水色のストールで淡くぼかされ、この森の色と柔く馴染んでいた。彼が身につけたストールと同じ色のそれが、リチュエルの首にも巻きつけてある。森に入るときに、タロが有無を言わさずきゅっと巻いたものだ。少し微妙な結び目は、特に直されずにそのままである。
「寒くはない? リチュ」
「寒くねぇよ。人じゃあるまいし」
「まあ、そうなんだけれど。……でもほら、人は雪だるまにもマフラーを巻くよね」
「オレが雪だるまと同じってか?」
我知らずリチュエルの眉間に皺が寄る。けれど、それにもタロは微笑んだ。
「そうじゃなくて。……あれはただの飾りかと思っていたんだけれど、何となく、その意味がわかった気がするんだ」
「意味?」
そう、とタロは頷く。
「『寒そう』なのが嫌なんだよ。リチュが暖かそうで、今僕は嬉しいから」
タロの言葉に面食らったようにきょとりとしたリチュエルだったが、ふとそのラピスラズリの瞳が別の『青』を映す。ほとんど同じタイミングで、柔らかなオパールにも、吉兆を齎さぬ青い鳥が映り込んだ。――互いに捉えた感覚は、同じ。
「タロ」
「うん。歌声が近いから、そろそろ出遭うかと思っていたよ」
色無き森に青い鳥が羽ばたく。空に飛び出して来たそれを仰いで、リチュエルは触り慣れた水晶を手にした。占いの水晶。落とし込んだ魔導の源、あるいは鈍器。――その輝きは、宙に浮かんで結晶の花を咲かす。
「潔らかなる乙女は穢れを拒む――可憐なる花を飛礫に変えて」
おいでなさい。乙女は囁く。
百合の蕾。月下の花。星の夢。やがて蓮の華へと変われば、その花びらは惜しまず散りゆく。花弁の礫は宝石と成り、七色に輝いて、そうして細い指先に与えられた炎を纏う。
瞳を開けば、炎の矢を浮かべたタロと視線が合った。ふわり、白いローブを翻して、炎の矢が迫る鳥たちへ、その照準を合わせる。
「……うん。いいよ」
その声が、合図。
「お前らの大好きな宝石だ。存分に喰らいやがれ!」
宝石の雨が降る。炎の矢が鳥を射落す。互いの隙を埋め合う攻撃は、一斉に鳥たちに降り注いだ。
鳥たちがもがく。氷塊が放たれる。
「リチュ、下がって」
タロの放つ矢が氷塊を砕く。けれど、それでも落ちて来るものからリチュエルを庇うようにして、タロはオーラを纏った。淡く光るカードの輪郭が集いて盾を作り、礫を弾く。直撃さえ避けてしまえば、あとの衝撃はささいなものだ。
「怪我は、ないよね」
「またお前は……おい、タロ、お前はもうちょっと自分を守れ」
「うん。リチュを守った後に考えるよ」
ふわりと笑って、タロは立つ。その背中から、深いため息が落ちたのは言うまでもなく、次いで最後の掃除とばかりに、宝石の花びらがいささか不機嫌に飛んでゆく。
――最後の一羽が落ちれば、辺りには歌声が響くばかりになった。
「……ねえ、リチュ。この歌は、カナリアの運命なのかな」
「運命?」
「そう。彼女の歌声は人々を救ったかもしれないけれど――カナリアのことを、救ってはくれない」
それなら、と、タロは思う。カナリアの歌が、籠の外を希うのならば。
「……きっとこれは、彼女の運命ではないから」
運命を示すタロットの化身は、そう呟いた。それの示し方を、タロは知らない。けれど。
「ねえリチュ、」
「――へぇ、タロはお姫様に会いたいのかぁ?」
先を読むようにリチュエルが言葉を重ねれば、タロは軽く瞳を見開いて、緩ませる。
「……うん。僕は籠の鳥に会ってみたい」
頷いて、歌声の先をタロは見た。氷の森の、奥の奥。凍りついた大樹の佇むその先へ。
「ならば」
澄んだ声が、ふと響いた。肌を隠したヴェールを上げて、先告ぐ人形は美しく微笑む。
「――ならばわたくしが、占い人形の名に懸けて、導いて差し上げましょう」
氷の森のその奥へ。彼らは進む。哀しい歌は余韻を残し、――ゆっくりと、光る海を歌い始める。
大成功
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第2章 ボス戦
『氷雪の鷲獅子』
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POW : 極寒の風
【両翼】から【自身を中心に凍てつかせる風】を放ち、【耐性や対策のないものは氷結】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD : 爪による連撃
【飛翔してからの爪による攻撃】が命中した対象を切断する。
WIZ : 凍てつく息吹
【氷の息吹】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を凍らせ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:うぶき
👑11
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●melody.Wish
凍る森が揺れた。
「……ッ」
カナリアは思わず、歌を止める。
歌声が響かぬ森には静寂が――戻らなかった。
しゃらしゃらと、氷が落ちる音がする。青い鳥が熱持つ矢に射貫かれる。
(「そんな、そんな……嘘」)
どうして? 何が起こっているの? わからない。だって、誰も助けになんか来るわけがない。来てほしいとも思っていなかった。
それなのに――どうして。
「勇者……さま……?」
聳え立つ大樹すら氷に眠る森の奥。広く開けたその樹の根元に、ひと一人分の鳥籠が氷で繋がれている。
敷き詰められた青い羽根は生贄の小鳥姫を彩り、その声を枯れさせず――魔力によってその身を繫ぐ。
それを奪われまいと、氷雪を纏う巨体の鷲獅子は森から現れた闖入者たちを――猟兵たちを威嚇せんと大空へ舞う。
歌ではなくけたたましい鳴き声が氷の森へ響き渡れば、戦いは、今。
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●第二章プレイング受付
6/1 08:30~6/4 日付が変わるまで
全員採用を目指します。
再送が発生しないよう精一杯努めますが、返って来た場合は再送をお願い致します。
また、この章からのご参加も歓迎致します。
どうぞよろしくお願い致します。
ニトロ・トリニィ
大きな鳥だなぁ…
そして… あそこにいるのが、カナリアさんかな?
あともう少しだけ待っててね…
すぐに助けるから!
【行動】
今回は、カナリアさんの救出を優先的に狙っていこうかな!
〈目立たない/忍び足〉を使い、物陰に隠れながら鳥籠の側に移動してみるよ。
〈鍵開け〉で静かに開けたい所だけど、ダメなら蒼き星の僕で溶かす感じで開けるよ!
怪我をさせないように、気を付けながら開けないとね!
救出に成功したら、〈礼儀作法〉を使って接しながら、〈かばう/盾受け/オーラ防御〉などでカナリアさんを守りながら、安全な所まで移動するよ!
失敗した時は… 《誘導爆裂弾》を使って囮になるよ!
アドリブ・協力歓迎です!
オルハ・オランシュ
ヨハン(f05367)と
大樹ですら凍らされている光景に目を疑う
このままでは本当にヨハンが風邪引きかねないと案じ
脱いだ上着をそっと彼の肩にかけて
ありがとう、私はもう大丈夫だよ
! カナリアさん、だよね!?
辛かったでしょ……でももう大丈夫
そんな檻、壊してあげるから
ね、ヨハン!
そのためにも鷲獅子の討伐が先決かな
風を纏い【早業】と【鎧砕き】を併せて先制攻撃を狙うよ
槍を抜かず、敵に隙が生じている内にヨハンからの追撃を待とう
爪での反撃は【見切り】狙い
ヨハンへの息吹攻撃は身を挺してでも庇う
敵の動きが大きく鈍った時には檻の破壊も試みたいな
力技でどうにかできればいいんだけど……
ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と
見事なものですね。
どれだけ凍土が好きなんだか。
呆れ半分に溜息吐いて
上着を返されれば、そのまま受け取る
まぁ、これから戦う訳ですし、
自然とあたたまるでしょう
殺してしまえば氷も消えるでしょうしね
……はいはい。
偉そうに舞う鷲獅子は地に落としてやりましょう。
その後の事は、まぁ、あなたや他の人に任せますよ。
『焔喚紅』を用いる
氷と炎で純粋な力比べが出来るというのも悪くない
<呪詛>を纏わせ<全力魔法>で黒炎を喚ぶ
風も息吹も、彼女に向く攻撃は全て焼き尽くす
翼の影から【蠢く混沌】で羽根を裂いてやろう
無様に地に落ちる様を見たいんですよね
檻を壊すならその背に敵が向かわぬよう、
足止めに尽力を
セリオス・アリス
【雨鳥】
アドリブ◎
カッコつけるのはどっかの騎士に任せてるんでな
王子でも勇者でもなくて悪いが
助けに来たぜお姫様…ってか?
鳥籠を見れば沸き上がる激しい怒りを覆い隠して強気に笑う
逸る気持ちのまま
【望みを叶える呪い歌】を歌い
速度にまかせて『先制攻撃』
青い炎を剣にまとわせ燃やし『2回』斬りつける
空に逃げられると厄介だな
…っと!
レインに助けられつつ
ギリギリのところで攻撃を『見切ったら』回避
カウンターでぶちこんでもいいが
目の前で弾ける炎に敵の意識が集中しているならむしろ
靴に風の魔力を送り『ダッシュ』
敵の裏手に周り『全力』の炎をその羽に叩きつけてやる!
…自由を奪われる息苦しさ
少しはその身で味わいやがれ
氷雫森・レイン
【雨鳥】
極寒の地での幽閉生活から自力で飛び出した私にとって逃げ出してこないのって本来論外だけど
逃げても敵は大自然だけ、自分さえ守れればよかった私が今尚歌い続ける少女を責めるなんて出来ない
でもまぁ理不尽な冬の化身達を葬る役に徹するのが一番ね
私はフェアリーだから
中身はともかく「助けてやる」も「迎えに来た」も顔の綺麗な勇者様の方がきっと適任よ、…知らないけど
さ、そういう訳だからあの小鳥にもこっちの鳥にも
「お触り厳禁!」
私は春の愛しき花を灯すわ(花型の炎を追尾ミサイルの様に扱う)
味方が攻撃し易い位置への誘導、冷風を相殺して凍った地形は融かしてあげる
約束の海までもう少し待っていてね
リチュエル・チュレル
タロ(f04263)と
運命、ねぇ
オレはその先をほんの少し見易くするだけの存在だからな
何がお姫様の運命か断じることはできねぇけど――
まぁいいか、とりあえず進もうぜ
戦闘には他の連中も合流するんだよな
それならオレは敵の戦力を削ぐことに注力しよう
火属性、鎧砕き、武器落とし、マヒ攻撃を乗せて
色々と厄介そうな翼を狙ってUCを使うぜ
防御では氷結耐性は必須か
敵の攻撃を第六感で見切りながら盾受け
爪攻撃はカウンターでシールドバッシュを狙ってみるぜ
オレは勇者様じゃねぇし
お姫様を鳥籠から出してやろうとは思わねぇな
どうするかは彼女次第だ
もし、自分の意志で、足で、籠を出ようとするのなら
――その時は、導いて差し上げましょう
タロ・トリオンフィ
リチュ(f04270)と
籠の鳥は彼女の運命じゃない
囚われて歌う哀しい歌も、行きたいと願った光る海の歌も
そして――異変に止む歌声も、とても人らしいから
その願いに手を伸ばして欲しいと思う
鳥籠から出してあげたいところだけれど、それは終わった後だね
危険だし、極寒の場から守っているのはあの魔力
万一、鷲獅子が害を加えようとするならば守るけれど
攻撃はUCで
咲く花々、輝く水辺、温かく明るいイメージを綴る色を乗せて
氷結耐性は勿論、オーラ防御と武器受け、見切りで自身とリチュの身を守りつつ
全て終わった後には
温かいストールと
温かい飲み物
それから、美しい鳴き声の籠の鳥ではない、人としての彼女の名を呼ぼう
よく、頑張ったね
都槻・綾
f01982/咲さん
「歌」は芯までは凍て付かせぬように
カナリアさんの心も護っていたのだろう、と
驚きに瞠目した様子へ柔らかな笑みを向け
冬は疾うに仕舞いの季節
どうぞ春告げの歌を紡いで下さい
雪融け水が流れる先の
眩い海原へと漕ぎ出しましょう
歌姫へ呼び掛ける声は穏やかなれど
敵挙動を見切る為に研ぎ澄ませた第六感は鋭利
春陽の如きオーラで自他防御
交わす眼差しに乗せる微笑み
――さぁ、いらっしゃい
駆ける咲さんへ鷲獅子が意識を向けないよう
朗々と声を響かせ陽動
指で空に描く五芒星
捕縛技に合わせて高速詠唱、二回攻撃
氷の森へ春を呼ぶ花筐
ひらひら銀白に煌く花弁
宛ら月夜の海のよう
歌を忘れたカナリヤさん
どうか喜びを吟じて下さいな
雨糸・咲
綾さん/f01786
鷲獅子の向こう
鳥籠に囚われた少女を見た
歌声を止めた彼女の表情に玉響曇らせた表情は
すぐに穏やかな微笑みに変え
カナリアさん
私たちと一緒に、輝く海を見に行きましょう?
――大丈夫
諦めるのはまだ早いですよ
見切り、第六感を駆使して攻撃を避け
綾さんへ目配せ
地形の利用で樹々の間を抜け、死角へ回る
飛び回られると面倒ですからね
両腕から伸ばした蔓で、動きを封じてしまいましょう
手が塞がっている間に攻撃されても
氷結耐性で凌げるでしょうか
小娘の細腕と甘く見ないで下さいね
目一杯締め上げてあげますから!
小鳥の名を持つお姫様
次はぜひ
あなたの心が自由な喜びで歌う歌を聴かせてください
●Crescendo
氷の森が叫んでいた。
鷲獅子が舞い上がり、雄叫びを上げる。その目前に、猟兵たちは臆さず姿を現して見せた。
歌を止めた鳥籠の少女は、その猛る声も聞こえぬように、大きな瞳いっぱいに驚きを浮かべている。
「――カナリアさん」
その様子に一瞬表情を曇らせたものの、雨糸・咲(希旻・f01982)はすぐに穏やかな笑みに代えて、少女の名前を呼んだ。声は、届く。その名前を知っていると伝うように、並び立った都槻・綾(夜宵の森・f01786)も柔らかな笑みを浮かべる。
こうして見れば、ただの少女だ。彼女の歌は悲哀を紡ぎ、光を歌い――そうしてきっと、彼女の『心』を凍てぬよう、守っていたのだろう。
「冬は疾うに仕舞いの季節。どうぞ春告げの歌を紡いで下さい」
「どう、して……」
「あなたの歌が、聴こえていたから。……私たちと一緒に、輝く海を見に行きましょう?」
海。咲のその言葉に、カナリアの瞳が揺れる。――その揺らぎを遮るように、鷲獅子が翼を大きく扇いだ。
研ぎ澄ませた第六感。敵の挙動は予測のうち。とうに察していた綾は慌てるでもなく、僅かに唇を動かす。
「咲さん、私の後ろに」
その暴風と氷片から庇うように、綾が咲の一歩前に出る。その身に纏うオーラは春の陽射しのように柔らかく、凍てつく森の中でもその訪れを思わせる。
ありがとうございます、とその春めく光に息を継ぐ間を貰って、咲は瞠目したままのカナリアへ言葉を次いだ。
「――大丈夫。諦めるのは、まだ早いですよ」
そうだね、と届けた声に頷く声がある。
「籠の鳥は彼女の運命じゃない」
真白い少年――タロ・トリオンフィ(水鏡・f04263)は静かに言葉を紡ぐ。運命の欠片を示すばかりだったタロットカードを器物とするヤドリガミの彼は、自らその運命に囚われんとしている人の子に、そっと声を向ける。
「君が歌う哀しい歌も、行きたいと願った光る海の歌も。――とても、人らしいから」
諦めたように美しく歌うよりも、今震える息を忘れないで。君の心のままに、息を呑んで見つめた先に、どんな道があるか、どうか思い出して欲しい。
願うなら、その指先で鍵を――運命を開いて。その願いに手を伸ばして欲しいと、タロは思う。人は、その心は、そういうことができると知っている。
「……運命、ねぇ」
一方で、タロの隣で鳥籠を見た美しい少女――リチュエル・チュレル(星詠み人形・f04270)はぽそりと感情の滲まない声を落とした。
占い人形として作られたリチュエルは、それに導かれる誰かにとっては運命の階に等しい。だからこそ、その言葉がどれほどの意味を持つか、或いはそれに人がどれほど囚われるか。両目に選ばれた深い月灯しのラピスラズリに幾度も映して来た。
ふと見れば、隣で柔くオパールの瞳が微笑む。
「何だよタロ、ご機嫌だな」
「うん? そうだね。だって僕は、リチュの導きで彼女に会えたから」
きっとこれも運命だよ。そう笑えば、呆れたような視線が返る。
「……オレはその先をほんの少し見易くするだけの存在だからな。何がお姫様の運命か、断じることはできねぇけど」
どうするかは彼女次第だ。それでも、だからこそ。その手が、足が、踏み出すことを望んだならば。
(「――その時は」)
「……見事なものですね」
はあ、と白い溜息を吐き出して、ヨハン・グレイン(闇揺・f05367)は半ば呆れた視線を鷲獅子に注ぐ。眼鏡越しに見渡すこの森。その象徴だったろう大樹。それすら凍りついた森は、時を止めたようですらある。
「生態は知りませんが、どれだけ凍土が好きなんだか」
「――ヨハン」
そっと同じ白い息で名を呼んだ聞き慣れた声を振り向く。それとほとんど同時に、オルハ・オランシュ(アトリア・f00497)はヨハンの肩に上着を掛けた。
氷の森の入り口で彼に貸して貰ったそれは、オルハの体温を移すように温もりを残したまま、ヨハンに返される。
「……オルハさん?」
「こんなに寒いんだよ。このままじゃ、本当にヨハンが風邪を引いちゃう」
心底心配そうな声に、どこかつっかえたように拒否する言葉は出なかった。そもそも、同じ心配を抱いて上着を貸したのはヨハンのほうが先だ。上着を受け取れば、自分より僅かに高い体温が残るそれを羽織り直す。
「まあ、これから戦うわけですし、自然と温まるでしょう」
「うん。ありがとうヨハン、私はもう大丈夫だよ」
君がいるから。そう言葉にはせず、ふわり、オルハが笑う。その柔らかで真っ直ぐな笑みを藍色の瞳に残すように見て、ヨハンは視線を鷲獅子に向け直した。
(「――殺してしまえば、氷も消えるでしょうしね」)
闇夜の底から湧き上がるのは、揺らがぬ冷たさだ。その隣で、オルハがよく通る声を上げる。
「カナリアさん! もう大丈夫だからね! ――そんな檻、壊してあげるから!」
その声を聞き取ったカナリアが丸く見開かれた瞳でオルハを見た。その視線を安心させるように、オルハは屈託のない笑みを浮かべて見せる。
「ね、ヨハン!」
「……はいはい」
自分の名を呼ぶ、真っ直ぐな言葉と声。いつだって敵わないその音に促されるように頷いてしまう。――あの翼を落とす理由は、きっとその笑みにも載せられるだろう。
肌を刺すような冷気が、色を失って息をしない森が、終わらない冬を思い出させる。――その場所から飛び出したあの寒い寒い日を、思い出す。
(「自分では逃げ出さないのね、あの子」)
氷雫森・レイン(雨垂れ雫の氷王冠・f10073)は静かに息を吐いた。自力で永久の冬から飛び出したレインにとって、カナリアの諦観は本来論外だ。
けれど、彼女がこの『冬』に囚われているのは、きっと自分のためではない。自分さえ守れたならそれで良かったかつてのレインと彼女は違う。そして何より、今は。自分以外を案じて思う気持ちには、覚えがあった。
春。私のあたたかな、春。だからこそ、春を喰らう冬の王のように羽ばたく鷲獅子を睨む。
(「内心が穏やかでないのは、私のパートナーも同じのようだけれど」)
菖蒲色の瞳に僅かに物思う色を宿す。
当然のようにその肩を借りた今日限りのパートナーたるセリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)は、氷の鳥籠を目にするや、ほんの一瞬、まるで壊れた人形のように立ち尽くした。鮮やかな星を歌い、笑っていたその唇は色を失くし、表情は抜け落ちて、それこそ凍りついたように。――そしてその瞬きひとつあとには、何でもないような顔をしていた。その手だけは、爪が掌に食い込むほど強く握り締められていたけれど。
「……レイン? どうかしたか?」
「なんでもないわ。……笑えるならそれでいいのよ。助けてあげたいんでしょう、勇者さま」
「勇者さま、なあ。カッコつけるのはそれこそどっかの騎士に任せてるんでな」
セリオスは軽く笑って、腹の底から込み上げる、吐き気に似た怒りを軽い口調で覆い隠す。
勇者でも、ましてや王子でもない。――ここにいるのは、ただの鳥だ。鳥籠の狭さも、息苦しさも、空の広さも、自由な歌も。幼馴染との『約束』も。忘れない。忘れていない。
――『セリオス』。その全てが、今得た自分であるならば。
あの鳥籠の小鳥に、いつかの黒い鳥の子は微笑めるはずだ。
「セリオス。……大丈夫ね」
確かめるように、呼び戻すように。呼んだ導きの小さき妖精に、ああ、と強気に笑って頷いた。剣を抜く。敵を見上げる。あいつなら、なんて言うだろう。
考えるまでもなかった。目に浮かぶ。こうして同じように構えれば、きっと恥ずかしげもなく、迷わずに。
「――助けに来たぜ、お姫様。……なんてな」
●Conslancio
行動は示し合わせた訳でもなく、一斉に始まった。
ヨハンの喚んだ黒炎がその魔力に依って召喚される。文字通り鷲獅子の目と鼻の先にごうと立ち上った火柱が天を衝いた。
その瞬間、影の色が濃いうちに、鳥籠を目指す者たちはぱっと散って樹々の隙間に身を隠す。
残ったのはその足止めを、そして頭から鷲獅子を相手取ろうと構えた者たちだ。
――その様子を樹々の合間からそっと見ながら、ニトロ・トリニィ(楽観的な自称旅人・f07375)はどこかのんびりと呟く。
「大きな鳥だなぁ……」
改めて見てもそう思う。カナリアの救出を一番に考えて身を潜めていたおかげで、どうやらニトロの存在にはまだ気づかれていない。
(「あそこにいるのが、カナリアさんかな」)
鷲獅子が守るように舞うその下。凍りついた大樹に繋がれるように氷の鳥籠があるのが見える。けれど、まだ少し距離がある。こうして息を潜めていては、攻撃に参加するのは難しいだろう。そう判断して、ニトロは動くタイミングを、他の仲間たちに託す。
(「あともう少しだけ待っててね。すぐに助けるから!」)
立ち上った火柱が、僅かな間鷲獅子の動きを阻んで、やがて途切れる。その刹那。
「――はああっ!」
オルハによって勢い良く振り抜かれた槍が、風を纏いて放たれる。その一撃は鷲獅子がヨハンへ氷の息吹を吐くよりも速い。
「避けさせないよ」
「ええ、偉そうに舞う鷲獅子は、地に落としてやりましょう」
言うや、ヨハンの追撃の黒炎がオルハの槍が叩き込まれたそこを目掛けて燃え盛る。
鷲獅子は雄叫びを上げると、大きく旋回して氷の息吹を吐きつけた。
「ヨハン!」
咄嗟のようにオルハが飛び出す。その小さな身体が、ヨハンを守ろうと身を呈す。――けれど、その息吹はオルハに届く寸前で、黒炎に焼き尽くされた。
「……あれ?」
「あれ? じゃありません。危ないでしょう」
「それはヨハンもだよ。でも、ありがとう」
オルハが微笑めば、ヨハンはふいと視線を外す。その視線はオルハに向けられた爪を捉え、炎に巻いた。
その大きな翼の影から黒闇が出ずる。それが一息に羽根を裂けば、ぶわりと羽根が舞い、鷲獅子が叫びを上げた。たまらず落ちる鳥に、冷え冷えとした声が響く。
「そう。無様に地に落ちる様を見たいんですよね。……オルハさん、任せますよ」
「――うん、今だね」
ヨハンの視線に頷けば、鷲獅子の隙をついて、オルハは鳥籠に走り出す。カナリアが驚いたように見つめる中で一瞬のうちに鳥籠を検分する。
「……難しそうかい?」
ふと見た先に、灰色の肌を持つ青年がいた。ニトロだ。オルハもすぐに猟兵とわかれば、頷く。
「これ、力任せじゃとても」
「溶かしてもいいが……今は少し、時間が足りないね」
氷の鎖で雁字搦めになった鳥籠は、容易く壊れそうにない。――なら、せめて。
「ね、手伝ってくれる?」
「勿論、そのために来たんだ」
ニトロの快諾を得て、オルハは改めて鳥籠に向き直る。
「辛かったでしょ……すぐに出られるようにするから、安心してね」
籠の中のカナリアを安心させるように微笑んだ。
オルハはその鳥籠を押さえつけるようにしている鎖を槍で狙う。ニトロも掛けられたらその鎖を、剣で溶かし砕いてゆく。がしゃん、と派手な音が響いて、氷が砕けた。同時に鷲獅子がこちらに気づく。
「あ……っ」
「大丈夫、僕が行くよ」
ニトロの言葉に頷いて、オルハは攻撃が鳥籠に向かぬよう一旦離れた。残った青年は申し訳なさそうな笑みを浮かべる。
「すまない、本当はすぐに出してあげたかったんだけれど。……まだ、鍵が開かない。君はここの鍵の開け方を知っているかい?」
「え……」
「――ああ、いけないな」
鷲獅子がいよいよその雁首をもたげる。同時にニトロが囮となるべく光弾を放ちながら駆け出した。
再び飛び上がった鷲獅子を誘うように、その場に朗々とした声が響く。
「――さぁ、いらっしゃい」
綾の声が鷲獅子を捉える。眼差しは変わらず、柔らかく。けれど微笑みを向けたのは荒ぶる獅子にではない。樹々の向こうに駆ける、群青の春の色がある。
目配せを受け取れば、空に描くは五芒星。その真上に降る羽根の舞を、綾は微笑んで見上げる。
春を。夏を。秋を、冬を。四季を謳う花と成った武具たちは、羽根よりも鮮やかな彩りで、空の柩を描き出す。春を呼ぶ。
「堕としましょうか」
「飛び回られると、面倒ですから」
ね、と死角へ回り込んだ咲の両腕から蔓が伸びる。するすると伸びた葡萄の蔓は華奢だ。けれどその蔓は確と鷲獅子の翼を捉え、その羽ばたきを阻害する。
「小娘の細腕と、甘く見ないで下さいね。目一杯締め上げてあげますから!」
咲の蔓が絡みつくのに合わせ、綾の呼んだ花弁がその翼を打つ。ひらりと煌めく白銀の刃華。それはさながら、月夜の海のようにきらきらひかる。
「――まだ、飛ぶぜ」
「なら、まだ、あそこから出してあげられないね」
早く出してあげたいところだけれど。タロはそう呟きながら鳥籠を一瞬見やる。あの息苦しそうな鳥籠は、それでも彼女をこの極寒の『冬』から守っているのも事実だ。
「落とすぞ、タロ」
「合わせるよ、リチュ。――詠んで」
リチュエルが頷く。同時にふわり、その手を離れた水晶は、空に上がって星のように光る。魔力を呑む水晶に重ねたのは、火に麻痺、氷を砕く硬さと、占を告げる千里眼の石を――狙い定める輝く鈍器に。
「――我が手に、シロンの加護を」
「……痛そう」
相変わらず。ごうと音を立てて鷲獅子の翼へ落ちた水晶に、ついタロが呟いたのをリチュエルが横目で見れば、しかし真白い少年は躊躇いなく取り出した絵筆に、彩りを乗せていた。
描くのは咲く花々、輝く水辺、透き通るような心弾む色。
ひととき、色の失われた氷の森に花が咲く。ほっと息が吐けるような、温かく明るい色の綴りを筆先に乗せる。
それは魔法の絵筆だ。一筆ずつ水晶の軌道を追うように、七色の塗料が森を辿り翼を撃てば、その色を映したカナリアがへたりと鳥籠の中で座り込んだのが見えた。――きっと、座り込むことすらできなかった少女が、開かれようとしている冬に、その両脚が凍りついていないことを思い出すように。
(「……頑張ったね」)
本来なら、直接そう、声を掛けてあげたかった。
あたたかいストールを巻いて、あたたかい飲み物を飲んで。そうしたら、ほっとするのだと、人の身を得て知ったから。
「――立って。歩いて良いんだよ、カナリア」
それが君の名前。鳥ではない、人としての君だと、そう名を呼んだ声はきっと届いた。
鳥籠の少女が、よろめいて、立ち上がる。その脚はきっと先を目指す。
「……ったく。お節介だな、お前は」
「そうかな。……ううん。彼女は自分で立ったんだ」
見てた、とリチュエルはまだ少し遠い少女に瞳を向ける。彼女が選び、進むのなら、その時は。
(「――導いて差し上げましょう」)
走れ。走れ。走れ。歌を歌う。
望みに応えろ。叶え。走れ。歌え。――この生命を喰らっても良い。
風を呑んで速度をいや増す足元は速く速く、セリオスは翼を叩かれた鷲獅子を目指す。
灯した炎は青。赤よりもずっと熱いくせ、その色ばかりは冷静そうに剣に纏う。
闇影に、蔓に、花弁に、色彩に。仲間たちが残した斬り口をなぞるように二回斬りつける。
「ちっ……まだ捥げねぇの。空に逃げられると厄介――どあっ」
「セリオス、右よ!」
「――っと!」
澄んだ声が肩で叫ぶ。その声の導きを疑いもせず辿れば、もがいた氷の翼がぎりぎりのところを掠めて行った。
「全く、前しか見えていないんだから。――お触り厳禁!」
ぴしゃりと叱りつけるように飛んだレインの声と共に、花が灯る。凛とした形をしたヒツジグサ。その花が炎となって白く輝き、鷲獅子の目を眩ます。――その花たちは他の猟兵たちの安全な立ち位置を知らせるように散って、春を告げるように咲き燃ゆる。愛しき私の春の花。――桜花には少し、負けるかもしれないけれど。
「レイン、行くぜ」
「ええ。飛びなさい」
地を駆ける。飛ぶ。その足裏に、風を持つ。剣に灯した炎は青と白。花灯りすらそれに応じた。
狙うは羽。その傲慢な翼。
「自由を奪われる息苦しさ――少しはその身で味わいやがれ!」
大成功
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雨乃森・依音
リル(f10762)と
勇者なんて柄じゃねぇけど
見て見ぬ振りができるほど薄情でもねぇから
クソ寒ぃのに元気な鳥だな
…俺の歌が好きとか物好きな奴
あのなぁ、綺麗ってだけでも特別だろ?
さっきの青い鳥共をてるてる坊主に変えて
雨のち晴れ
春麗らかな晴天を祈る
リルの歌に合わせてギターをかき鳴らして
攻撃はてるてる坊主を盾にしてゾンビ戦法で支援
リルの歌の邪魔はさせねぇ
これが雪解け――春の歌
つーか感情ダダ漏れ…あー恥ずかしい奴!
…でも嫌いじゃない
ははっ綺麗なだけとか
この歌でよく言うぜ
鳥籠はギターをフルスイングでぶっ壊す!
お前の相棒もやるじゃん
お待たせ、お姫様
誰かのための歌もいいけど
今度は自分のために歌えよ
好きな歌をさ
リル・ルリ
■依音/f00642
アドリブ歓迎
勇者、とは言えないかもしれないけれど
籠鳥恋雲な君の歌が聴こえたから
今度も大きい鳥
依音、いこう
また君の歌を降らせてよ
僕、君の歌が好きなんだ
剥き出しな君の想いが豪雨のように吹き荒れて
僕の歌は、只綺麗なだけだから
歌唱に鼓舞をのせて依音の歌に負けないように響かせて
飛んできた攻撃は水泡のオーラで防ぐよ
解けぬ冬を溶かす薄紅を『春の歌』を歌う
カナリアの所まで届けるよ
泪凍らせる冬はもう終わり
ヨル?!
籠に体当たりした相棒に驚き頷いて
尾鰭で思いっきり籠を打つ
依音
ぎたー壊れないの?頼もしいや
氷の籠も
不幸せな青い羽も全部散らせて
飛んでいくといい
君の行きたいところへ
歌は自由に歌うものだ
ライオット・シヴァルレガリア
白雪さん(f09233)と
足止めならお任せあれだ
お姫様の救出は頼んだよ
まずは『オーラ防御』で氷攻撃に備えよう
白雪さんに攻撃が向けば『かばう』で阻止
『盾受け』で攻撃を受け止めて、隙が生まれれば『カウンター』で攻撃を
けれど氷の細剣では少し分が悪いかな?
戻ってきた白雪さんから投げ渡された黒剣を受け取って、くるりと手で一回転
ありがとう、なるほどこれはいい剣だ
大丈夫、これ以上傷付けさせないよ
僕も白雪さんも、それから小鳥のお姫様もね
合流後は前衛で盾になろう
敵の攻撃にも白雪さんの炎にも当たらないように立ち回るよ
敵が空中へ飛ぼうとすれば、UCで撃ち落とそうか
◆アドリブ歓迎
鶴澤・白雪
ライオット(f16281)と
先ず『氷結耐性、オーラ防御』で身を守る対策
ライオット、悪いけど檻を壊すまで足止めお願いできるかしら?
ご機嫌よう。奪いにきたわよ、小鳥姫
火傷したくなかったら下がってなさいな
『全力魔法、高速詠唱』とUCで氷の檻を貫くわ
戦ってる間は巻き込まれないよう物陰に隠れてて
お待たせ……もしかして苦戦してる?
あぁ…属性的にも打撃与えるにもそのレイピアじゃ分は悪いか
だったらあたしの黒剣を使いなさい
その代わり相棒預けるんだからそれ以上怪我増やさないでよ
さァて、あたしも参戦するわ
『範囲攻撃、属性攻撃』とUCで攻撃しながら凍った地形を溶かしてやるわ
注意するけど当てちゃったらゴメンナサイね?
アオイ・フジミヤ
シンさん(f04752)と
苦く諦めることを知っている
でも、この人と出会った
諦める前に手を伸ばそうと思えるようになった
(繋いだ手をぎゅっとして)
シンさん、あの子をあったかい場所へ帰してあげよう
寒いあなたの故郷の話は、今度聞かせて?
UC発動
暖かな波で彼や周辺に害が及ぶような攻撃を打ち消す
空中戦でNaluの青に熱を纏わせて属性攻撃
氷の風には氷結耐性で耐える
翼を中心に狙って地上に落とすように
あとは彼に任せよう
終われば籠の扉を開けて彼女に向き合う
がんばったね
救われたいと望んでいいんだよ
その“光”さえ失った心は夜よりも暗く足元さえ見えない
そんなの、悲しすぎるから
……帰ろう
そして、光る海を見よう?カナリア
シン・バントライン
アオイ(f04633)と
凍る森。凍る国。凍る世界。
心まで凍らせてしまったら一体何が生きる証明をくれるのだろう。
懐かしい空気の冷たさに囚われそうになるけれど繋ぐ手が温かくて何処にいるのかを思い出す。
この手があれば何度でも帰って来れる。
ええ、帰してさしあげましょう。暖かい場所へ。
国の話を聞いてくれるという彼女の優しさが嬉しい。
小さな鳥にも彼女のような温かい人がきっと待っている。
UC発動
彼女の波と共に攻撃開始
騎士と蛇竜を正面からの囮に自分は剣を抜き死角から攻撃
第六感で動きを予測
氷結耐性で耐え2回攻撃
小鳥は彼女に任せます。
私にとって勇者も女神も救世主も、愛と名の付く全てのことは彼女以外に思いつかない。
アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
ほう、斯様に手放したくないとは
貴様にとって大事なのは歌か、それとも娘の方か
どちらにせよ、もそっと丁重に扱うべきであったな
ジジの言葉に自慢げに頷き【愚者の灯火】を召喚
配慮はするが、氷が閉ざす森ならば
多少火力が強くとも問題なかろう
…そう師を睨むでない
加減はしていると言ったろうに
鷲獅子が下降を余儀なくされれば炎を重ね、追撃
…ジジが私に当てる事なぞそうなかろうが
先程の仕返しにと睨めつける
全く、要らん所まで似おって
互いに死角作らぬよう支援怠らず
息吹は第六感を用いて回避に努める
無論、凍った大地を放置する程間抜ではない
我が炎で跡形無く融かしてくれよう
――さて
姫は貰い受けるが、構わんな?
ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
文字通りの籠の鳥か
尤も、故郷ごと人質では檻など必要なかろうに
鷲獅子の「主」ぶりも高が知れている
すぐ傍を吹き過ぎる師の炎には
ちらと本人へ抗議の眼差しを向けつつ
…釘を刺しただけだ
空を選ぶならと翼を広げ、空中戦
鷲獅子の上空まで飛翔し
上から<範囲攻撃>【うつろわぬ焔】を用いて
地上側にしか逃れられぬ様、黄金の焔を広く、広く
ただし樹々と娘には決して炎の害が及ばぬよう
墜ちぬならその背に組み付き黒剣で斬撃を
随分と勝手をした仕置きだ、獣
自由さえ奪えば、師が送ってくれるだろう
はて、なぜ此方を睨んでいるのやら
飛び離れるついでに娘の籠を断って
もう此処で歌わなくていい
…戻るも、戻らぬも自由だ
鵜飼・章
共感、同情、憤慨
或いはまた別の何か
彼女の悲しみを軸に渦を巻く他人の感情
その旋律の激しさに眩暈がする
勇者どころか人でもない僕は
どんな顔で此処に立てばいい?
考えろ
考えれば
答えは出る
カナリアさんが着けていた宝石を
鴉の【盗み攻撃】で拝借する
この子達も光る物は大好きでね
敵の宝を横取りして【挑発】し気を逸らす
目立つのは苦手なんだ
その間に仲間が彼女を助けてくれればいい
攻撃の兆候が見えればUC【無神論】を発動
彼女の海の歌を模倣した旋律は
今日も猿真似以下の退屈な出来だろう
それでもほんの少し努力はする
この場に渦巻く想いの全てを集めて
感じるな
考えろ
僕らに出来る事はそれだ
皆の気持ちを想像し
音に籠め
敵の足止めに注力する
●Confuoco
雄叫びと氷翼はいまだ空を塞ぐ。
「……気にくわないわね」
「え?」
ぽつりと独りごちた友人に、ライオット・シヴァルレガリア(ファランクス・f16281)は思わず瞬く。その隣で強い眼差しを鳥籠に向けて、鶴澤・白雪(棘晶インフェルノ・f09233)は華奢な宝石の身体を震わせもせずに、常と変わらぬ落ち着いた声音を保って言った。
「ライオット。悪いけど、足止めをお願いできるかしら。――檻を壊すまで」
「それは勿論、お任せあれだ。……また、無茶をするつもりじゃないだろうね?」
ふと先の白雪の攻撃を思い返して問えば、白雪の瞳はふと色を和らげてきょとりとする。そうして首を傾げる様子は年相応の少女らしい。けれど。
「あら、無茶もしないで何か護れるなんて、言わないでしょ」
それは彼のほうが良く知っているはずだと言うように、白雪は盾から生じたヤドリガミに首を傾げる。柔和な笑みを決して絶やさず。そして無茶を問わずに一歩も引かない。その立ち方は、戦場に慣れた者の振る舞いだ。無茶と無謀は違うよ、と言葉になりかけたところで、ライオットはそっと笑みに代えた。冷ややかに燃えるようなレッドスピネルが、今止まるとは思えない。
「……なら、お姫様の救出は頼んだよ」
ええ、と頷いて、白雪は小さく笑う。お姫様。――酷く忌まわしい、呪いのようなこの名前。
「――あたしにできるのは、『救う』じゃなくて、『奪う』がせいぜいでしょうけど」
歌が途絶えた森は増して寒いような気がする。
雨乃森・依音(紫雨・f00642)は白い猫耳をぴんと立てて、喚きながら随分と低い空を飛ぶ鷲獅子を見た。
「クソ寒ぃのに元気な鳥だな」
「……依音、寒い? 大丈夫?」
そっと気遣わしげな声を向けたのはリル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)だ。寒いのが苦手と聞いてから、友人の尻尾や耳がひとりでにぶるりと逆毛立つたび、少し心配になる。その視線に依音は色違いの双眸を少し緩めた。
「大丈夫だって。……それより、鳥籠。勇者なんて柄じゃねえけど」
「……見て見ぬ振りなんて、できないよね、依音。だって、聴こえてしまったもの」
わかるよ、とゆるり、人魚は微笑む。籠鳥雲を恋う――海を恋う。その歌がもう、耳に届いた。その旋律の意味を、歌を紡ぐふたりだからこそ無視などできない。
「依音、いこう。また、君の歌を降らせてよ。――僕、君の歌が好きなんだ」
叩きつける豪雨のような、剥き出しの歌。吹き荒れるのはその想い。きっとそれが届いたなら、足を止めずにはいられない。水底で泡沫を紡ぐ人魚には、きっとその音は紡げない。
「僕の歌は、ただ、綺麗なだけだから」
「……あのなぁ。綺麗ってだけでも、特別だろ?」
つい呆れたような声で依音はリルに言った。何でもないことのようにリルが言う『綺麗』はただ音の並びが美しいだけではない。それを紡ぐ声が、リルの歌が『綺麗』なのだ。叩きつける雨とは違う。揺蕩う水面が生まれ持つたたえた美しさは、きっと誰にも真似ができない。
「ていうか、俺の歌が好きとか、物好きな奴」
ぽそりと呟く声はそっけない。けれど、どこか和らいで聞こえるのも気のせいではないだろう。
凍る森。凍る国。――凍る世界。
懐かしい空気の冷たさが、指の先から体温を奪ってゆくようだ。
(「心まで凍らせてしまったら、一体何が生きる証明をくれるのだろう」)
音もなく凍え死ぬようなその感覚を思い出して、シン・バントライン(逆光の愛・f04752)は顔を覆った布の下で、ふと視線を翳らせた。吸った息が喉を凍らせたようだ。ここは、何処だろう。
「……シンさん?」
そっと、凍てついた心を溶かすような声が呼ぶ。同時に指先に、あたたかな温度を感じた。ぎゅっと握られた手は、彼女に、アオイ・フジミヤ(青碧海の欠片・f04633)にぬくもりを渡したかったはずであるのに、今それが彼女から与えられている。
ここにいるよ、と伝えるように微笑んで、アオイはもう一度彼の名前を呼んだ。
「シンさん。あの子を、あったかい場所へ帰してあげよう」
「……ええ」
指先に灯るようなぬくもりに、今いる場所を思い出す。彼女の隣にいることを、思い出す。握るのは、小さな手だ。自分よりもふた回りほども小さい。けれどその小さな手があれば、きっと何度でも、凍りついた地の果てからでも帰って来られる。――そんな気がする。
「帰してさしあげましょう。暖かい場所へ」
「うん。……寒い、あなたの故郷の話は、今度聞かせて?」
ふわりと微笑んで、アオイは柔らかく微笑む。
諦めることは、よく知っている。――その苦さも、息苦しさも。でも、この人と出会ってから。こうして、手を伸ばしたいと思った。思えるようになった。
(「諦める前に、手を伸ばそうって、そう、思えるようになったから」)
頷く彼の嬉しげな声を、誰より嬉しいと思うから。いまだ満ちる冬を、早く溶かして。やわらかな波音を、彼に聞かせてあげたかった。
喚く鳥。凍る森。止まった歌。――それにひた走る、音、音、音。
共感、同情、義憤。或いは、また別の何か。
(「カナリア。――彼女の悲しみに、皆駆けて行っているのか」)
渦を巻くような、誰かの感情。およその定義で使われる、『皆』の感情。
(「眩暈がする」)
鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は、くらりとしそうな心地を抱えて、ただぼんやりと鳥籠を見つめた。
勇者。勇者?
違う。
――勇者どころか。
(「人でもない僕は、どんな顔で此処に立てばいい?」)
ニンゲンながら、人に非ず。こうして立っていても、その両足の裏は地に着かぬようだ。
見目は、構造は。きっとヒトに近い。けれど空回りする思考は、追いつかぬ感情は、紡げぬ音だらけの、壊れた楽器のようなこの身は、ここで、どんなふうに。
(「考えろ」)
考えれば。
「答えは、出る」
――ほんとうに?
知らず、その思考を断つように鴉の子が飛んだ。きっと飛ばした。その両翼が目指すのは、きらきら光る、鳥籠の少女の宝石。
ばさり、一息に迫った小さな鳥に、カナリアは驚いたようだった。けれど悲鳴を上げるでもなく、細い檻の隙間を潜り抜けた鴉は彼女の宝石を得る。
「……この子たちも、光るものは大好きでね」
少女も、それを飾る宝石も、敵の宝で違いない。そのひとつを横取りすれば、鷲獅子は怒りに満ちた叫びを上げた。それでいい。
「目立つのは、苦手なんだ」
小さな鴉が空を舞う。――大きな鷲がそれを追う。その隙を、見逃す猟兵たちではないと、知っている。
●Cadenza
宝の一部を奪われた鷲獅子が吠える。びりびりと凍る森が震えるのを感じて、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)はくつくつと笑った。
「ほう? 斯様に手放したくないとは。貴様にとって大事なのは歌か――それとも、娘のほうか?」
黒鴉が宝石を咥えて天翔ける。決して奪えぬ美しき蒼玉を両眼に宿して、アルバはその軌道に誘われた鷲獅子の前に立った。
「――どちらにせよ、もそっと丁重に扱うべきであったな」
風が唸り、鷲獅子が迫る。その、アルバの前に星持つ竜が、ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)が降り立つ。
夜に透かしたような褐色の肌。その節張った拳が躊躇いもなく握り込まれると、次の瞬間に過ぎる暴風の盾となる。長い手足と、鍛え上げた身体。蒼き宝石を護るのに、一分の迷いもありはしない。檻に閉じ込められずとも、この場所に立つのは自らの意思だ。
「……文字通りの籠の鳥か。尤も、故郷ごと人質では、檻など必要なかろうに」
それでも籠に捕らえたのは、人の子への圧制か。
「鷲獅子の『主』ぶりも高が知れている」
「比べてやるなよ、ジジ?」
弟子にして従者たるジャハルに、アルバは自慢げに頷いた。――その手に、灯火が呼ばれ出づる。
ひとつ、ふたつ、みっつ。数えられたのは五つまで。薔薇色の輝石で彩る指先が燃ゆるように彩られれば、ごうと唸ってアルバの周りを炎の子がぐるりと囲む。
「配慮は、するがな」
あらかじめ伝えるように傲慢な森の主を見やれば、アルバは唇を美しく笑ませた。
「――氷が閉ざす森ならば、多少火力が強くとも、問題なかろう?」
叩き込まれた炎に次ぐように、依音のギターが鳴り響く。始めの音は、今度は依音から。
「……歌お、リル」
「うん、依音。――冬を、溶かそう」
声がふたつ。音が重なる。雨の音のようなギターは、春をうたう声に合わせるように、僅かに柔らかさを持つ。雨のち晴れ。晴天を願うてるてる坊主が、青空に笑うように。
もう動かない青い鳥たちが、依音の声に導かれるように姿を変える。てるてる坊主。吊り下げられずとも、旋律に踊るように二人の歌い手の盾となる。てるてる坊主を泳がせる、ぱちりと弾ける水泡は、海からの贈り物のような、護りのオーラ。
――終わってたまるか。
いつもなら叫ぶように繰り返す音が、リルの声と合わさると、願うように響いてゆく。
咲く、響く、咲く。――ひらく、櫻。
薄紅は、冬を溶かす。そのぬくもりは、蕩けるような歌声に乗る。甘やかに、華やかに。美しい歌声が、依音の声と重なれば、春を告げる。
(「ねえ、聞こえる? いとおしいひと」)
冷たい冷たい水底にいて、春のぬくもりを、忘れずにいられるのは。花咲くこの声を届けたいと、そう願うから。誰よりも自分が驚くほどに、瓶詰め人魚は戀をした。
(「僕の、櫻」)
声を合わせる。歌をうたう。リルのように甘やかな、蕩ける声は依音には紡げない。けれど依音の耳に残るハイトーンボイスは、リルにはない旋律を辿り、重なる。
(「これが雪解け――春の歌」)
リルの歌を遮らせまいとてるてる坊主たちを壁に成しながら、紡ぐ音を聞き、鳴らし、歌う。
(「つーか感情ダダ漏れ……あー恥ずかしい奴!」)
でも、けれど。
――嫌いじゃない。
そう思えば、間奏を奏でる間に、思わず笑みが漏れた。
「ははっ。……綺麗なだけとか、この歌でよく言うぜ」
この歌に、自らの笛を混ぜるのはどこか申し訳ないけれど。――ただ、仰いだ氷の翼が攻撃の兆しを見せたのを、見逃すわけには行かなかった。
章は笛を奏でる。いつまで経っても上達しないと自己評価するその音は、響く歌のような情愛を持たぬ。ただ、聞き覚えた旋律は、海。光る海。カナリアが歌った、その旋律を、正確になぞる。
今日も、猿真似以下の退屈な出来だろう。
それでも、ほんの少しの努力を乗せる。込める想いがなくとも、わからずとも。この場に渦を巻く想いの全てを、集めるように。
(「感じるな」)
――考えろ。
――考えろ。
――考えろ。
出来ることは、それだ。それしかない。そうすることしか、知らない。
渦巻く気持ちの色を見るように、想像して、音を作れ。その翼を止めろ。
そうすれば。
(「ひとに、近づけるだろうか」)
ふたつの歌声と笛の音色が響く。その合間を、白雪は縫うように駆けた。
目指すは鳥籠。その堅牢な氷。――そう簡単に壊れる檻でないことは、既に分かっている。けれど雁字搦めの鎖は既になく、カナリアは自分の足で立ち上がった。
「――御機嫌よう。奪いに来たわよ、小鳥姫」
鷲獅子が巻き散らす息吹を、ライオットたちが引きつけている。その隙に鳥籠に辿り着いた白雪は、氷の格子越しに何でもないことのように言って見せた。
カナリアが驚いて、でも、と呟く。既に開こうとした猟兵たちがそれを叶えられなかったのは見ていた。けれど、だからこそ。
「火傷したくなかったら、下がってなさいな」
そう言えば、白雪は小さく微笑んだ。
「……今、出してあげる」
紡いだ声は柔らかく、姉のように。――次いだ詠唱は鋭く、カナリアが奥に下がったのを捉えるや、宝石の身を焦がすような炎が氷の鳥籠に叩きつけられた。
氷が砕ける。溶ける。燃える。
焔は一瞬にして輝くように森の中心に燃え上がり――鳥籠が、壊れた。
「鳥籠が……」
アオイがその焔の渦に息を飲めば、一瞬のうちに膨れた熱から庇うように、シンがその側に立った。
「何とも豪快ですが、あれくらいしなければ開きませんか。……小鳥は放されました。ならば、あとは」
「うん、終わらせよう」
握り合った手を、そっと離す。そのぬくもりを覚えるように握る。――剣を取り、波を呼ぶ。
私の海。
そう、何度呼びかけて、応えてくれたろう。私の海。瑠璃色の波、翡翠の飛沫。青いきらめきに熱を覚えさせれば、その波はざあんとうたう。どうしようか。そう問うように。
「――全部、流そう」
アオイの声に応えて、熱い波が森を流れた。瑠璃色の波は凍土を誇る鷲獅子の足元を春に返し、高度を保てなくなりつつあるその翼を襲う。
「シンさん、あとは」
「ええ、任せて下さい」
同時にシンが駆け出した。前を行くは死霊の騎士と蛇竜。それを囮にすれば、弱った鷲獅子の死角に回り込むのは容易い。その羽根を断つ。繰り返し、斬り裂けば、それでも氷の息吹が吹きすさぶ。それを、アオイの波が防いでくれた。――ああ、やはり。
(「私にとって、勇者も女神も、救世主も。――愛と名のつく全てのことは、彼女以外に思いつかない」)
「……火傷をしていないといいんだけれど」
立ち昇った焔の渦が、友人が放ったものだとわかる。あの赤は、きっと彼女のものだ。そう思えば、ライオットはレイピアを手に一旦後退して、つい呟いていた。
「しないわよ、自分ので。……もしかして苦戦してる?」
お待たせ、と鳥籠から戻った白雪は、ライオットが些か戦いにくそうにしていることに気づいた。ライオットが苦笑する。彼が手にしたレイピアは、氷を宿す。同じ属性を相手取れば、耐えれこそすれ、打撃はそこまで決定的にはならない。
「少し、分が悪いかな」
「だったらあたしの黒剣を使いなさい」
ひょいと白雪が投げやったのは、使い慣れた相棒だ。それを難なく受け取れば、ライオットは首を傾げる。
「いいのかい?」
「その代わり、相棒預けるんだから、それ以上怪我増やさないでよ」
愛想の足りない声音で言えば、それさえ愛想だと言うように、ライオットは微笑む。
「ありがとう、いい剣だ。――大丈夫。これ以上傷つけさせないよ。僕も白雪さんも、それから小鳥のお姫様もね」
それならいいけど、と白雪は低空でなお吠える鷲獅子に笑う。
「――さァて。あたしも参戦するわ」
盾たるライオットが前に出る。その後ろに白雪が立つ――その上を、ひとつの影が飛んだ。
「低いな」
風に混ざる掠れた声で、ジャハルは呟いた。その背に広げた竜の翼は、鷲獅子よりも上をゆく。その飛翔に気を取られた鷲獅子が爪を向ければ、ジャハルの翼を掠めるように火炎が駆けた。
「……師父」
ちらと向けた眼差しは、抗議である。若干毛先が焦げたような匂いが鼻を掠めたのもいけない。
「そう師を睨むでない」
加減はしている、とアルバが主張すれば、ジャハルはじいっともう一度アルバを見やり、自らの喉に長い指を当てる。――その奥に、焔を成す魔法陣がある。
「釘を刺しただけだ」
言うや、黄金の焔が鷲獅子を包み込むように広く放たれた。その焔はアルバを掠めはしないが、熱風が宝石の白い頬を打つ。
それは師に害を及ぼさないまでも、紛れもなく、抗議であった。
(「……全く、要らん所まで似おって」)
くすりと笑えば、黄金の焔に蒼き焔を重ねる――それに、紅き焔が追随した。
「乗らせて貰うわよ、その焼き鳥」
スターサファイアの隣で、レッドスピネルが笑う。ほう、とアルバが面白げに笑えば、宝石同士の双眸が見合った。
「ライオット。そこの竜のお兄さん。――注意するけど、当てちゃったらゴメンなさいね?」
「だ、そうだぞ、ジジ。上手く避けろよ。そこの青年も、お気をつけなさい」
「……」
「……」
そこの、と示された二人の目も合う。黒き竜と白き盾。蒼と紅。ふたつの焔に焼かれる前に。
「堕とす」
「そうだね」
言葉少なに頷きを交わせば、ふたつの黒剣が鷲獅子に向かう。ジャハルが厭わず組み付けば、ライオットが斬撃を叩き込む。その剣先が、向けられる。
「随分と勝手をした仕置きだ、獣」
「これが君への――天罰だ」
天から光が落ちる。ジャハルの脚が蹴り落とす。
叩き落とされた鷲獅子は、地でのたうち跳ね回る。
「見苦しいぞ」
「うるさいわよ」
唸る二つの焔が灼き尽くせば――最後の鳴き声も残さず、氷の森の主は焼け落ちた。
さて、とアルバは主を失い溶け始めた森に、焔を回す。――名残など、残さぬほうがいい。
「姫は貰い受けるが、構わんな?」
●Cantabile
「……カナリア?」
そっと、アオイは壊れた鳥籠に立ち竦んだ少女に歩み寄った。
「あ……」
「もう、出ても大丈夫だよ」
おいで、と手を差し出す。それに、カナリアがおずおずと手を伸ばした。おそるおそる踏み出せば、その背後で鳥籠さえ焔に溶かされ、失せる。
「私……その」
「うん。無理をして喋らなくてもいいよ。……がんばったね」
柔らかく、アオイが微笑む。その手を引く。ぽすりと温かな身体に抱きしめられれば、カナリアは一瞬びくりと震えて、それから声もなく、ぽろぽろと泣き出した。
「わ、わた……私、ごめん、なさい……っ」
「いいの。……救われたいと望んで、いいんだよ。あなたの歌は、光をずっと求めていたから」
その光さえ失わなくてよかった。ほんとうに、よかった。
優しい声が、ゆっくり紡ぐ。凍える場所にたったひとりだった少女に、柔らかなぬくもりを届ける。
「……帰ろう。――そして、光る海を見よう? カナリア」
何より欲しかった言葉とぬくもりに、少女は頷き、声を上げて泣いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『海蛍と星空のシンフォニア』
|
POW : 海蛍を眺めながらカフェで楽しむ
SPD : 海蛍と星空を眺めながら散歩する
WIZ : 海にそっと笹舟を流す
|
●melody.Symphony
――柔らかな初夏の風が、髪を揺らす。
目の前に広がるのは、海蛍の海。
頭上には満天の星。
森を抜けたその向こう。岬に立ち寄れば小さなカフェがある。
珍しいものは特にないが、パンケーキやサンドイッチ、紅茶、珈琲などの軽食を、海を見ながら楽しめるだろう。
その先に進めば、静かな砂浜がある。海蛍たちはそこに集まっているようだ。この季節、淡い光を打ち消さぬよう、海への立ち入りは禁止となっているようだが、程近くで光る海を見つめることができるだろう。
――鳥籠から放たれた小鳥は、砂浜でひとり、そっと海を見る。
==========================================
●第三章:プレイング受付【6/13 朝08:30〜6/16 昼12:00頃まで】
ゆっくりと期間を空けて受付致します。
この章のみのご参加も歓迎致します。お誘い合わせや、グループ様などもお気軽に。
美しい景色を、どうかお楽しみ下さい。
行動の選択はかなり自由です。例の三つ以外の行動でも可能と致します。ただし、海に入ることはNGです。
※2名以上でご参加の場合は【グループ名】か【ID】を明記して下さい
※1名様でのご参加はソロ描写になります
※お声がけがあった場合、ベルナルドがご一緒します。また、カナリアもお応えできます。
==========================================
オルハ・オランシュ
ヨハン(f05367)と
うん、静かな夜だね
でも私はこの静けさも好きだな
わぁ……海が光ってる!
星屑を散りばめたみたいでとっても素敵
ベルナルドが言ってた海蛍、だよね
もちろん見るのは初めてだよ
そうだね、もう少し近くに行ってみようか
砂浜を踏むふたり分の足音に、徐々に波音が重なって
なんだかくすぐったい
……耳も、心も
これまで並んで見た景色は何もかもが眩しくて
他でもない彼が隣にいたからなのだけれど
そんな風に言ったら困らせてしまう気がして
秘める言葉は増えるばかり
……ね、本当に綺麗
いつまでも眺めていられそう
やっぱり口にはできなくても
またこの海を一緒に訪れられたら、と胸の内で願う
――水面がいっそう煌めいて見えた
ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と
静か、ですね。
遠く見える光はなんだろうかと目を向ける
海に揺れ、星空を水面に閉じ込めているかのようで
あれが海蛍か
聞いた事はあっても見るのは初めてだな
行ってみましょうか。せっかくですし。
あなたも見たことはないでしょう。
言いながら砂浜に向け歩き出す
近付くにつれ確かに聞こえ始める波の音
……いいものだな
漠然とそう思う
波音も星空も、彼女と共に見るのは初めてではない
色々なところに行ったものだ
きっと、次にこの光を見る時は、二度目と思うのだろう
こうして少しずつ……増えていくものなのかもしれないな
綺麗ですね。
暫く眺めて行きましょうか。
次の約束などはしなくとも
きっと、また
●
寒くない夜だった。
見上げれば満天の星。
聞こえるのは、星が囁くような波の音。
「静か、ですね」
ヨハンが小さく零せば、砂を軽く踏む足音が自然にその隣に寄り添った。
「うん、静かな夜だね。……でも、私はこの静けさも好きだな」
オルハはその静けさに耳を傾けるように目を閉じる。甘い春色の髪から覗く二対の大きな耳が、潮風を受けてひょこりと揺れた。
語りかけるような波音も、風も。全て凍りついた森を抜けた今は、とても暖かなものに思える。
「……あの光は」
ふとヨハンが夜に混ぜるように呟いた。視線を向けた潮風の先――砂浜の向こうに、淡い光がいくつも揺れている。ふわ、ふわり。海に揺れるそれは、星空を水面に閉じ込めているかのように、夜の中でその場所を示す。
「わぁ……っ」
隣から、小さな声が上がった。瞳だけで視線をやれば、声のままにオルハはきらきらした瞳をその光へ向けている。
「海が光ってる!」
淡い光よりも輝いた声に、ヨハンはほんの僅かに口元を緩める――我知らず。波音に誘われるように踏み出せば、いつも引っ張って行かれる彼女の前に足跡が残った。
「……行ってみましょうか」
「え」
「せっかくですし。あなたも見たことはないでしょう」
俺もです、と小さな声を添えると、オルハは嬉しげに瞳を緩めた。
「そうだね、もう少し近くに行ってみようか」
そうして、二人分の足音は重なって、砂浜を歩き出す。光に、海に近づくたび、少しずつ大きくなる波音がその足音を柔く包んだ。
――海蛍の海。
淡く、強く、ふわりと光る、青く白い光。海のかたちを知らせるように揺れる光は、ヨハンとオルハ、二人の瞳に同じ光景を映して残す。
「星屑を、散りばめたみたい。……とっても素敵」
「ええ。いいものですね」
ほう、と漏れたオルハの見惚れたような声音に、いつもと変わらぬ調子で、けれどほんの少し和らいだヨハンの声が応える。
星空。そう思ったのはヨハンもだ。
(「もしも、彼女と出会う前なら、この光景を星空と思えただろうか」)
波音も、星空も。彼女とこうして共に見るのは初めてではない。
――思えば、色々な場所に行った。
重ねた記憶はこれまでの十七年のうち、ほんの僅かでしかないはずだ。けれども少し思い返しただけで、いくつも鮮やかに浮かび上がる。
きっと、次にこの光を見るときは、二度目と思うのだろう。
(「こうして少しずつ……増えていくものなのかもしれないな」)
それは記憶。それは思い出。――暗く重く降り積もる、怨嗟のような呪縛とは違う。
春の陽射しのように柔らかく差し込んだ、あたたかな光のような。
そっと夜の中から盗み見た彼女の横顔は、前よりも少し綺麗になったように見えた気がした。
「……オルハさん? 今日はあまり喋りませんね」
「そ、そう?」
ふとよく耳に馴染んだ声が名前を呼んで、オルハは無意識に耳をぴこぴこ動かした。
だって、なんだかくすぐったい。
(「……耳も、心も」)
重なった足音も、波音も、星空だって初めてじゃない。それなのに、彼とこうして並んで見る、ただそれだけで――何もかもが、眩しい。
(「君が、隣にいるから」)
眩しくて、心が跳ねてしょうがないんだって。もしもそう言ったなら、彼はどんな顔をするだろう。
(「困らせてしまう、よね」)
困らせたくはないから、彼を大切に思うから。――秘める言葉は、増えるばかりで。
「初めて……だから、上手に言葉が出なくて」
海蛍を見るの、と付け足せば、なるほど、と少し納得したような声が返ってほっとする。
(「やっぱり口にはできないけど」)
まだ気づかないで、気づかれないで。こうしてそっと肩を並べて見る景色が、何よりも好きだから。
「綺麗ですね。暫く、眺めて行きましょうか」
――そうやって、欲しい言葉をそっとくれるから。
「……ね、本当に綺麗。いつまでも眺めていられそう」
またこの海を、一緒に見に来ることができたら。それもそっと、願いにして胸にしまう。
ただ、それだけで。次の約束がなくたって。
――きっと、また。
そう思ったのが、ふたり、重なっていることは知らず。
いっそう煌めいて見える光る海を、オルハとヨハンは静かに見つめた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鵜飼・章
カナリアさんに借りた宝石と
敵が集めていたろう宝を渡す
これがあれば色々便利かなと
こんな時現実的な解決策は要らないんだっけ
この後どうするの?
僕なら村には帰らずに旅に出ちゃう
薄情だからね
きみが望めば目にうつる景色を何処でだって歌える
それは覚えておいてね
カフェで軽食をとりつつ
海蛍と人のいる光景を眺めて過ごす
そうだベルナルドさん
良かったらきみの演奏も聴かせてほしいな
僕と違って上手そう
何を考えて弾いたか当ててみるよ
それなら割と得意なんだ
演奏の方は…あれだけど
聴かせて貰えたら答えと礼を
どう、当たった?
…僕の笛も聴く?
忌憚ないご意見お願いします
…
んん?
さっきは上手く吹けたと思ったんだけど…
今のなし、もう一回…
●
光る海を、少女はただ静かに見つめていた。――カナリア。美しい声で囀る小鳥の名を与えられた彼女は、歌で何度もなぞった光景を前に、歌も言葉もない。
(「……どうしよう、かしら」)
あの森で、歌をうたって。それでおしまいのつもりだった。どこかに行きたかったけれど、この海以外のどこを目指せばいいのかだってわからない。
「……カナリアさん」
寄せる波の隙間で、名前を呼ばれた。突然聞こえたそれに驚かなかったのは、波や風の音と同じくらい、その声が景色に馴染んで聞こえたからだ。
振り向くと、数歩先に漆黒の髪に紫の瞳を持った青年がいた。それは『勇者さま』のひとりだろうとわかる。
青年――章はカナリアへゆっくりと近寄ると、きらりと輝く小さな石を差し出した。
「こんばんは。これを、返しに来たんだ」
「これ、って……あ」
章が差し出したもの。それは美しい宝石だった。村から贄に出されるときに、皆の手で衣装に飾られた、いくつもの。
どうして、と出掛かった問いは喉で留まった。それより先に章の肩に寄り添った鴉に気がついたからだ。
そういえばあのとき――鳥籠にいたとき。掠めるようにして飛来した鴉が宝石を持って行ったのを覚えている。
「わざわざ……こんなもの」
いらないのに。そう言外に零せば、章は軽く首を傾げた。
「どうして。これがあれば、色々便利かなと思うよ」
これだけじゃなくて。そう言って章は、ずっしりとした重さのありそうな袋を、ひょいとカナリアへ差し出した。
「あの鳥たちが集めていた宝、この子たちと集めて来たんだ。この後どうするにしても、あって困るものじゃないと思うけど」
感傷を叱るでも笑うでも、励ますでもなく章はただ現実的なことだけを述べる。それにカナリアは呆気に取られるようで、同時に考えようとするだけで、何も考えられていなかったことに気づいた。
「この後、どうするの?」
「……っ」
思わず言葉に詰まる。それは一番考えなければいけないことで、逃避していた現実だ。
「――僕なら村には帰らずに、旅に出ちゃう」
けれど次いだのは訝しげな視線でも気まずい沈黙でもなく、淡々とした声だった。思わずカナリアは、章をまじまじと見る。
「旅……?」
「そう。薄情だからね」
迷うことも、きっと振り向くこともない。そう言わんばかりの静かな紫は、あるがままに光る海を映して、またカナリアを見る。
「カナリアさん。きみが望めば、今目にうつる景色を、何処でだって歌える」
「でも、そんなの、何処で……っ」
「わからない。僕は知らない。――きみにしか、いけない」
言いながら、章は重い袋を、カナリアへ手渡す。今度はカナリアも、いらないとは言わなかった。言えなかった。
いつでも、どこへでも。それは紛れもなく自由と呼ばれるものだ。あの歌は光る海を、限りない自由をうつす海原を、きらきらとうたう歌だった。
「……それは、覚えておいてね」
そう言うと、章はカナリアの応えを待たず、踵を返す。――その足音が遠ざかる波打ち際で、少女は重い袋を、ぎゅうと抱きしめた。
「あら章、早かったわね。用事は終わったの?」
章が岬のカフェに戻ると、テラスに設けられた席の一つで、この場所へいざなった赤い男――ベルナルドがにっこり笑った。
頷いて、何気なく共にしていた席に戻る。頼んで置いたホットサンドとカフェオレは、ちょうど来たばかりのようだった。
岬からは、砂浜に佇む人影と海蛍が見える。さすがに、カナリアがどれなのかはわからない。
「彼女に借りていた宝石を返しに行ったんだけど。……こんな時、現実的な解決策は要らないんだっけ」
ホットサンドを齧りながら呟けば、ベルナルドはそうでもないわよ、とくすりと笑った。
「そうだ、ベルナルドさん。良かったらきみの演奏も聴かせて欲しいな」
ふと章がそう口にすると、ベルナルドは瞳を瞬かせる。
「良いけれど、唐突にどうしたのよ。カナリアに何か言われた?」
「ううん。単に、僕と違って上手そうだから」
「あら、ありがとう。そうね、ヴァイオリンは得意よ」
ここでならいいかしら、とベルナルドはケースから愛用のヴァイオリンを取り出す。そうして音を合わせながら、章のほうをちらと見た。
「僕と違って、ってコトは、アナタも楽器ができるのかしら」
「できる、と言うか。演奏のほうは……あれだけど。でも、何を考えて弾いたか当てるのは割と得意なんだ」
「当ててくれるの?」
「当ててみるよ。当たればね」
それは楽しみだわ、とベルナルドは立ち上がる。そうしてヴァイオリンを奏で出せば、章はその音に耳を澄ませた。――そうして、皆の憩いを妨げぬ程度で、短く演奏は終わる。
「……旅人について、かな」
「――驚いたわね。当たりよ」
ヴァイオリンを降ろしながら、ベルナルドは驚きよりは楽しげに笑って頷いた。
「……僕の笛も、聴く?」
「あら、いいの?」
「きみが良いなら。……忌憚のないご意見、お願いします」
そうして、章は黒いオカリナに息を吹き込む。響く、笛の音。どこか考えあぐねて結局単調になったような、そんな音が出た。
「……」
「んん? さっきは上手く吹けたと思ったんだけど……今のなし、もう一回」
良いわよ、とそれから何度か繰り返される章の笛の音にベルナルドは耳を傾ける。
感想は結局のところ、『下手ね、また聴きたいわ』に集約されるのだが――何か探すような笛の音は、しばらく光る海に揺蕩った。
大成功
🔵🔵🔵
ニトロ・トリニィ
SPDを選択
へぇ、良いカフェだね。
中もおしゃれだし、景色も最高だ!
ゆっくりサンドイッチとコーヒーをいただきたい所だけど、せっかく静かで美しい砂浜があるんだし、何とかしてテイクアウト出来ないかな?
砂浜に移動したら、カナリアさんを驚かせない様にしないとね。
だって… 夜の砂浜でブラックタールがコーヒーを飲んでいるなんて、見かけたら驚かない?
もし話しかけられたら、〈礼儀作法〉で紳士的に対応しようかな!
アドリブ歓迎です!
●
ちりん、と小さなベルが鳴る。
その音を耳に留めながら、ニトロは岬のカフェに足を踏み入れた。
いらっしゃいませ、と店員がひとり声を掛ける。
「へぇ、良いカフェだね」
こぢんまりとしたカフェではあったが、内装は程よく凝った作りで、窓から覗けば光る海が見える。
「中もおしゃれだし、景色も最高だ! ゆっくりサンドイッチとコーヒーをいただきたいところだけど……」
砂浜が気になりますか、と店員がやんわり声を掛けた。ここを訪れる客に、そういった者は多いらしい。
「このお店、テイクアウトはできる?」
「食べ物は遠慮していただいていますが、お飲み物だけなら」
「なら、それをお願いしようかな」
――そうして、ニトロは温かなコーヒーを手に入れた。ありがとう、と礼を伝えて、砂浜へ向かう。
「……うん、美味しいな」
光る海と、静かな砂浜。それを眺めながら、ニトロはコーヒーを傾ける。
けれどすぐそこに見覚えのある少女の姿を見つけて、一度コーヒーのボトルを下ろした。
(「だって、夜の砂浜でブラックタールがコーヒーを飲んでいるなんて。……見かけたら驚かない?」)
せっかくの景色を楽しんでいるのなら、驚かせるような真似はしたくない。それが紳士的な対応と言うものだろう。
「あ……」
「やあ、こんばんは、カナリアさん」
ニトロに気づいたカナリアは、微笑んだニトロに丁寧に頭を下げた。
「森では……助けていただいて、ありがとうございました」
「いいや、僕は何も。でも、無事で良かった」
そう言えば、カナリアはちいさく笑った。その視線が、ふとニトロの片手にゆく。
「それは……コーヒー?」
「ん、ああ、そうだよ。あのカフェで貰ったんだ。とても美味しいから、良ければ、きみも行ってみるといい」
「でも私、コーヒーは飲めなくて」
「ああ、そうか。……だったら、飲めるようになったら、またこうしてここに来るのもいいね」
そう言葉を向けて、ニトロはそっと砂浜を歩き出す。何か悩むように海を見つめる彼女の邪魔をしないように。
最後の一口を傾けたコーヒーは、ひかる波音と共にこくんと飲み込まれた。
大成功
🔵🔵🔵
雨糸・咲
綾さん/f01786
カフェのテラス席で
紅茶の香りを楽しみながら見る光る海は
本当に御伽噺みたいな景色で
触れてはいけないと知りつつ
…何だかあの海の底に
別の世界がありそうな気がしてしまいます
少し遠くに見えるカナリアさんの姿に声はかけないまでも、
もう、諦める必要は無いのですから
この空と海の耀きが
彼女に新しい、優しい歌を齎してくれますように
祈るような呟きと瞳は、
テーブルに運ばれてきたホットサンドにふわんと綻ぶ
一口齧ればサクッと香ばしく
蕩けたチーズがハムに絡んで
これ、とっても美味しいですよ
綾さんもおひとついかがですか?
弾む声音で皿を勧めるのは、
美味しいもの、楽しいことは
誰かと分け合えば一層幸せだから
都槻・綾
f01982/咲さん
光燈る水面は
星を映し出す鏡みたいで
――えぇ、
魔法で隠された水中都市があるかもしれませんよ
今宵の譚がめでたしで閉じられた後も
次なる物語の幕開けが待っているに違いない、との
冒険浪漫への褪せぬ期待を込めて
咲さんが囁いた優しき祈りへ微笑んで首肯
「これから」の未来を祝した歌を
恐れず惑わず紡げると良い、と言霊を添えて
卓へ届いた香しい湯気に相好を崩す
勧めてくれる咲さんの嬉しそうな様子に
遠慮なく相伴
美味しいですねぇ
適度な塩分加減がまた食欲をそそるから
あっという間に平らげてしまうけれど
幸せのお裾分けは身の裡に確りと
やがて風に乗って届く歌声へ
視線を合わせて笑み交わす
海蛍の明滅は歓喜の拍手のよう
●
ふわり、華やかな紅茶の香りが鼻をくすぐる。
両手で包んだティーカップは、ぬくもりと穏やかな時間を与えてくれた。ほうと息を吐きながら、光る海を見やる。
「……御伽噺みたい」
咲の口から、吐息と共にそんな感想が溢れた。不意に子供っぽいだろうかと思えば視線が彷徨いそうになるが、揺れた飴色の瞳を、澄んだ青磁色がゆるりと受け止める。
「何だかあの海の底に、別の世界がありそうな気がしてしまいます」
触れてはいけないと言われたからでしょうか。
綾の瞳に促されるようにして咲がそう呟けば、綾は形の良い唇を微笑ませた。
「――えぇ、魔法で隠された水中都市があるかもしれませんよ」
例えば。光燈す海蛍は、海底の都の灯り。
例えば。星空を映し出す鏡のような水面は、読み解けぬ宝地図。
「今宵の譚がめでたしで閉じられた後も、次なる物語の幕開けが待っている――」
そうに違いありません、と楽しげに綾は紡ぐ。冒険浪漫への褪せぬ期待は、光る海へ向けられる。そうして視線が咲へ戻せば、瞳をきらきらと輝かせた彼女に、茶目っ気たっぷりに片目を閉じた。
「……などと言うのも良いでしょう?」
「ふふ、はい」
釣られて笑った咲は、一口紅茶を傾けて、海を――砂浜を見つめた。
ぽつんと砂浜に佇む、金色の髪の少女、カナリア。咲たちが力を尽くして救った少女は、あれだけ恋うた光る海を前に、その歌を奏でていない。
「……もう、諦める必要はないのですから」
カフェのテラスからでは、声は届かない。だからこそ祈るように、咲は呟く。
「――この空と海の耀きが、彼女に新しい、優しい歌を齎してくれますように」
優しい祈りは、潮風に乗る。綾も微笑んで頷けば、同じ風に呟きを混ぜた。
「『これから』の未来を祝した歌を、恐れず惑わず紡げると良い」
紡いだ言葉は、言霊となる。視線を合わせれば言霊を重ねるように、ふたりは少女への言の葉を紡いだ。
「歌を忘れたカナリヤさん。――どうか喜びを吟じて下さいな」
「小鳥の名を持つお姫さま。次はぜひ、あなたの心が自由な喜びで歌う歌を聴かせてください」
届くだろうか。わからない。
けれど確かに紡がれた言葉は、きっと世界のどこかに降り積もる。そういうものだと知っている。
しばらくして、お待たせしました、とテーブルに運ばれて来たのはホットサンドだった。こんがりと焼かれたふかふかのパンに、ハムとチーズ。それからレタス。
「わ……」
とろりととろけたチーズが食べ頃だと知らせているようで、つい咲の瞳も綻ぶ。
冷めないうちに一口齧れば、さくりとした食感と、ふわふわのパンの甘さ。同時に香ばしさが口いっぱいに広がって、中からチーズがとろけ出す。少し厚めに切られたハムに絡んだチーズがじゅわりと噛み合えば、レタスの爽やかな歯応えが瑞々しい。
「これ、とっても美味しいですよ。綾さんもおひとついかがですか?」
つい声が弾んだ。だってとても美味しい。
美味しいもの、そして楽しいことは、誰かと分け合えば一層幸せだと知っているから。
「では、遠慮なく相伴に預かります」
弾んだ声と同じに輝いた表情に相好を崩せば、綾も勧められた皿に手を伸ばした。
さくり、じゅわり、しゃくり。
三つの食感は見事に噛み合って、香ばしさと適度な塩加減がまた食欲をそそる。
「美味しいですねぇ」
あっという間に平らげてしまえば、皿はすっかりからになるけれど、幸せのお裾分けは身の裡に確りと残り、あたたかさを伝う。
――そのうちに、風に乗って、声が届いた。
歌だ。その歌声を、ふたりはよく知っている。
「綾さん」
「えぇ、届きましたね」
視線を合わせ、笑みを交わすと、歌声に耳を澄ませた。
響く歌声と、ひかる海原。その呼応は、まるで歓喜の喝采のように、ゆっくりと響いてゆく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
セリオス・アリス
【雨鳥】
まあ…ちっと親近感わきすぎた気もするが
わざわざ言う事でもねぇしなぁ
気づかれてた事に気づきもせず自己完結
…まあ、助かったならそれでいいっつーか
むしろ、アレスと何話したのかの方が気になる
アイツ何言ってた?
ふーん、そうか
アイツの守りたいモノ
外からもそう見られた事が少し嬉しいが
純粋に喜ぶには複雑な感情が邪魔をして
誤魔化す様に
アイツは
優し過ぎて周りの人全部守る勢いだからなぁ
そりゃぁ俺も含まれるし合ってるな
絶対守るって、こう…手を とって言うんだぜ?
前落ちた時も受け止めてくれたし
腕も安心感あるっつーか
アレは絶対モテる
カッコいいし
そう思うだろ?
聞いてあげると解釈して
顔を輝かせ
よぉしケーキもつけてやる
氷雫森・レイン
【雨鳥】
意外だったわ
「あの小鳥の所へ行くと思っていたのだけど」
私は別段用が無いとはいえベルナルドのグリモア次第だから適当に1人で散歩でもと考えてたのに
騎士様?ああ、依頼をこなす間に少し身の上話を聞いただけよ
守りたいものがあり、守る為に騎士になった…そう言ってたわ
彼と貴方は一緒に旅館に来たし、知己だと言うから
世界広しと言えど何となく貴方のことなんじゃないかと思ったのよ
女の勘、かもね
帰還してこの依頼が終わるまではこの子がパートナー
だからまぁ好きにしてくれて構わないのだけどこれは所謂惚気なのかしら
「…その話の続きをするのなら私に紅茶と軽食くらい用意して頂戴(カフェ指差し)」
●
海の匂いに、夏が混ざって感じられた。
「……春も終わりなのね」
ぽつりとレインは呟いて、どこか名残惜しげに初夏の訪れを告げるような海蛍の光を見る。
冬が終わり、春が過ぎ、夏が来る。――けれど、春が過ぎ去っても、心の内のぬくもりは決して消えず傍らにある。
(「約束、したもの」)
この冒険での『導き』は終わり。あとはゆっくりと散歩でもして――と思っていたのだけれど。
「あの小鳥の所へ行くと思っていたのだけど」
どうしてここにいるの、とばかりにレインがふわりと羽ばたいた先。砂浜で海蛍の光る海に長い髪を靡かせて、セリオスは淡く苦笑した。
「……まあ、助かったならそれでいいっつーか」
視線を外して、呟く。――カナリアに感じたのは、親近感。一方的なシンパシー。
閉じ込められた鳥籠も、息苦しそうに歌うしかない虚しさも、そうするしかできない虚無感と、彼女には抱けなかった、身に余る程の憎しみも。
――歌え。囀れ。
時折、未だ耳にこだまする、呪いのようなその言葉。足元にもう鎖はない。そんなことは知っているのに、鳥籠に広がる、粘ついた赤黒い水溜りが足を引きずり込む。
喉が千切れるほど叫んだって、あの檻からは出られなかった。――覚えていた光る星のような笑みを思い出せば、諦めるなんてできなかった。
(「まあ……ちっと親近感湧き過ぎた気もするが」)
わざわざ言うほどのことでもない。そう思って口にしなかったそれに、小さき妖精が気づいていたと青年は知らない。
「むしろ、アレスと何話したのかのほうが気になる」
「騎士様?」
「そ。アイツ、何言ってた?」
セリオスは一歩ほど空いていた距離をぴょんと跳んで詰めると、頭の上辺りをふわりと飛ぶレインを隠さない好奇心の瞳で見上げた。
「……大きな子供」
「なんだと」
「何も言ってないわよ。……騎士様もね。依頼をこなす間に、少し身の上話を聞いただけ」
「……ふーん?」
「守りたいものがあり、守る為に騎士になった。……そう言ってたわ」
思い返すようにレインが話せば、セリオスは守るため、と呟く。そうよ、とレインはため息混じりに頷いて、ひょいとセリオスの肩に留まった。
「彼と貴方は一緒に旅館に来たし、知己だと言うから。――世界広しと言えど、何となく貴方のことなんじゃないかと思ったのよ」
彼の――あの騎士様の『守りたいもの』。それは余りにも強く、心に刻まれたもののように感じた。
「女の勘、かもね」
きっとそれは、絶対精度の正確さを誇る。
「……そっか。俺が、アイツの守りたいモノ」
「……どうして冴えない顔をしてるのよ」
「いや、だってさ」
誰かから見てもそう見られていたことは少し嬉しい。けれども純粋に喜ぶには、何とも言い難い感情が波音のように打ち寄せる。
「――だって、アイツは。優し過ぎて、周りの人全部守る勢いだからなぁ。そりゃあ、俺も含まれるし合ってるだろうけど」
誤魔化すように言葉が次いで出る。脳裏に幼馴染を思い浮かべれば、声さえ聴こえてくるようだった。
「絶対守るって、こう……手を とって言うんだぜ?」
「……ええ」
「前落ちた時も受け止めてくれたし。アイツ、腕も安心感あるっつーか」
「……」
「アレは絶対モテる。カッコいいしさ。そう思うだろ?」
矢継ぎ早に続いた言葉に、完全にレインの目が据わっていた。否、心の底から呆れている、と言った様子で、ため息もない。
(「帰還して、この依頼が終わるまではこの子が私のパートナー。……だから、まぁ」)
好きにしてくれて構わないのだけど、いれは所謂――惚気、なのかしら。
「……その話の続きをするのなら、私に紅茶と軽食くらい用意して頂戴」
そうレインが肩から岬の上のカフェを指差せば、セリオスはぱあっと顔を輝かせた。
「任せろ。よぉし、ケーキもつけてやる」
意気揚々と、セリオスは砂浜を踏みしめて踵を返す。
「聞くとは言ってないけれど」
「言った言った」
「……はぁ。しょうがないわね」
――ふわり、濡羽色の髪と雨色の髪が、自由な風に靡いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アオイ・フジミヤ
シンさん(f04752)と
彼の隣でこの景色が見たかった
光る海だなんて夢でも見たことない
海蛍って、いつもの蛍と全然違うね
海に咲く花みたいな青
(瞼の奥に焼き付けて)
カナリアの姿を見つければ手を振る
救えてよかった
あの子は家族はいないのかな
あなたの故郷はどんなところ?寒い国、だよね
故郷ではどんなことが好きだった?
あなたの家族を教えて?
良い国だという彼の故郷
暖かい彼らしい家族の話、会ってみたいなと思う
けれど彼の言葉が、それが叶わない夢なのだと伝えてくる
自分のことよりもずっとずっと苦しい
でも繋がれた掌が、彼の眼の色が、幸せを伝えてくる
何よりも大事なこの人が笑ってくれるのなら
今ここにいてよかったと思えるんだ
シン・バントライン
アオイ(f04633)と
海中の蛍は見慣れている蛍とは随分違って驚く。
彼女からの問いに答える。
故郷は寒い所だった。
育つ作物も少なく冬は身を寄せ合って暖をとるようなそんな国。
でも今思えば、人の温かさを欠くと生きてはいけないあの国は良い国だったのかもしれない。
家族は呑気な母、生意気な弟が一人。
父は母に会う為だけに家に帰って来るような変なヴァンパイア。
好きだったこと…言われてみると父と母の間に割り込む弟を見る父の顔が面白くて好きだった。
彼女の手を取る。
全て失くしてしまったけれど、ちっとも不幸ではない自分がおかしくて笑う。
世界の全てが今自分の隣にあるからだ。
だからカナリアもきっと大丈夫だと、そう思う。
●
海が、光っていた。
青くて白い、柔らかな光。それはゆっくりと呼吸するように明滅して、穏やかな波音と共に揺れる。
「これが……海蛍?」
すごい、とアオイは波打ち際で呟いた。
「光る海だなんて、夢でも見たことない」
――だからこそこの景色が、彼の隣で見たかった。
「シンさん、シンさん」
はしゃいだように二度名前を呼んで、隣の彼を見る。――そこには、金髪碧眼の青年がいた。
いつもしている覆面は今はなく、端整な顔立ちに、柔らかな笑みが浮かぶ。その視線は光る海に――何よりは、アオイへ注がれていた。
「海蛍って、いつもの蛍と全然違うね。海に咲く、花みたいな青」
「アオイらしい見方だな」
海の近くで花屋を営んでいたと言う彼女らしい言葉に柔く笑えば、ふふ、とくすぐったそうにアオイも笑う。
それからしばらく、瞼に焼き付けるように海を見つめていたアオイの視線が、ふと砂浜のほうへ向けられた。
「カナリアだ」
森で抱きしめた少女を見つければ、大きく手を振る。離れた場所にいたカナリアは少ししてからアオイの手に気づくと、慌ててぱたぱたと手を振り返してくれた。そんなささいなやりとりができることが嬉しい。――救えてよかったと、そう思う。
「……あの子は家族はいないのかな」
ぽそりと呟けば、アオイは静かにシンのほうへ向き直った。
「――シンさん。あなたの故郷はどんなところ?」
森で交わした言葉と約束。それを果たすように訊ねれば、シンも真っ直ぐに視線を返した。
「寒い国、だよね」
「……ああ。故郷は、寒い場所だった」
光る海に、シンの声が響く。今目の前にある温かな海とは正反対の、故郷を思う。
「育つ作物も少なく、冬は身を寄せ合って暖を取るような。そんな国だ」
「すごく、寒いんだね」
「ああ。……だが、今思えば。人の温かさを欠くと生きてはいけないあの国は、良い国だったのかもしれない」
懐かしむような声にアオイは微笑む。
「故郷では、どんなことが好きだった?」
もうひとつ問えば、そうだな、とシンは少し考えた。
「父と母の間に割り込む弟を見る父の顔が、面白くて好きだったな」
「お父さん?」
「ああ。父は母に会う為だけに家に帰って来るような変なヴァンパイアだった。母は呑気で、生意気な弟が一人。……賑やかな家族だったよ」
「そっか……。素敵な国と、家族だね」
あたたかい彼らしい家族の話。――会ってみたい。そう思ったのは心からだ。
けれど彼の言葉が、全て過去形で語られる思い出が。
今はもうどこにもないものなのだと、叶わない夢なのだと――そう何よりも伝えてくる。
(「自分のことよりも、ずっとずっと苦しい」)
つい、視線が下がる。我知らず、痛む胸元できゅうと握った手は、寒くもないのに震えそうだ。
「……アオイ」
優しい声が名前を呼んだ。顔を上げれば、声以上に優しい笑みが、アオイを見つめている。
そっと、手が握られた。硬く握った手をほどくように。アオイより大きくてあたたかい、ひとの温もりをよく知る、その手。優しい指先が、柔く緩んだ碧い瞳が、何より幸せを伝えて来るから。
「……っ」
言葉は出ずに、ただ手を握り返す。強く、優しく。
シンが笑った。波音に合わせ、花が咲くように。
「――全て、失くしてしまった。けど、ちっとも不幸ではないんだ。……おかしいやろ?」
茶化すように言葉尻が鈍る。柔らかな訛り言葉と共に笑んだ表情は、強がりでもなんでもなく、ただ幸せそうだった。
自分にとっての、世界の全て。それが今、隣にある。
「だからカナリアもきっと大丈夫だ。……俺も、アオイがいれば」
「……うん」
よかった、とアオイも笑う。
(「今、ここにいてよかった」)
何よりも大事なこの人が、こうして笑ってくれるのなら。アオイも心から幸せだと、そう思えたから。
――眦に浮かんだ雫は、きっと暖かい海の味がする。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リル・ルリ
■依音/f00642
アドリブ歓迎
光る海、だ!
みて、海が光ってるよ依音!
宇宙が海の中にもあるみたいだ
揺蕩う尾鰭は月光ベール
興味深く光る海を眺めながら、白猫の君を呼ぶ
君もみるのはじめて?
波の音が心地いい
星も歌ってるみたいだ
そうだ、依音
一緒に歌おう
氷の森で歌ったのとっても楽しかった
感情の込められた歌はいい
真っ直ぐに心に伝わってくるから
僕もそんな風に歌えたらと思うよ
囚われの歌はもうない
優しく紡ぎ歌を合せるよ
光が踊る海に焦がれた籠鳥の歌
薄紅に焦がれた瓶詰め人魚の戀雲の歌
君は何に焦がれるのかな
歌えるよ
君ならね
君紡ぐ歌は小夜時雨
僕の心に甘雨のように降り注い
笑顔が咲く
君の歌を歌わせて
一緒にどこまでも響かせよう
雨乃森・依音
リル(f10762)と
はしゃぎ過ぎだろ
…まあ、気持ちはわかるけどよ
寒さで縮こまってた羽を伸ばして
揺れる尻尾は悟られないよう人魚の元へ
海は見たことあるけど光る海は初めてだ
そういえば
敵を前にしたときしか一緒に歌ったことねぇもんな
波の音を伴奏に
星々はスポットライト
海蛍は観客
――ははっ、ライブ会場みてぇ
アコギで爪弾く星の瞬きのようなアルペジオ
誰かと演るなんて煩わしいと思ってた
実際上手くいかなかったし
でも今この瞬間はこんなに心地よく
音が胸に沁みていく
何かに焦がれる、か
…俺もいつか
恋を歌いたくなるのだろうか
そのときは
お前みたいに歌えたらいい
柄にもねぇけど
この歌声を海風に乗せて
どこまでも響かせられたなら――
●
うたうような波音が、光る海と共に寄せる。――その波打ち際へ、美しい人魚がふわりと風を泳いだ。月光を纏ったような尾鰭はヴェールのごとく柔らかく揺蕩って、薄花桜の瞳が輝く。
「光る海、だ! ――みて、海が光ってるよ、依音!」
美しき人魚と光る海。まるでそれこそ御伽噺のような光景だ。けれども人魚は――リルは、御伽噺よりもずっと鮮やかに、はしゃぐ子供のように楽しげに笑う。
「はしゃぎすぎだろ」
人魚に呼ばれた白猫は、少し呆れたように言いながら、耳と羽をあたたかな風によそがせる。森では寒さで縮こまっていた羽は、やっとふわりと広がった。
「……気持ちはわかるけどよ」
光る海に、はしゃぐ人魚。その尾鰭と同じように楽しげに揺れた白猫の――依音の尻尾には、誰も気づかない。
並んで海を見れば、改めてその光が視界いっぱいに広がる。
「宇宙が海の中にもあるみたいだ。ね、依音、君もみるの、はじめて?」
「ああ。海は見たことあるけど、光る海……海蛍を見るのは初めてだ。リルも?」
「うん。……ひかりも、波の音も、心地いいね。きらきら、星も歌ってるみたいだ」
光る水面、星の瞬きのうた。――そんな景色は、水底にはなかった。咲く華も、空に共に響く声も。ずっとリルが知らなくて、きっと知りたかったことだ。
「そうだ、依音。一緒に歌おう」
リルがふわりと微笑んで友を誘えば、耳で覚えた旋律が、記憶の中で巡り出す。
「森で歌ったの。とっても楽しかった」
「……そういえば、敵を前にしたときしか、一緒に歌ったことねぇもんな」
依音が呟けば、そうだよ、とリルも頷く。もちろん、戦いの中で紡ぐのも悪くはないけれど。――本来歌は、戦いのためのそれではない。
伝え、伝う。そして合わせ、重ねることだってできるものだ。
「感情の込められた歌はいい。真っ直ぐに心に伝わってくるから」
リルは柔らかく微笑んで、呟く。
「僕も、そんな風に歌えたらと思うよ。――囚われの歌はもう、ない」
凍る森にも、見世物の劇場にも。囚われて、ただ美しいだけの歌は、きっと何も伝えられない。
けれど、今なら。
海風が吹き渡る。光る波音を伴奏に、人魚は優しく紡ぎ出す。
あの森で聞き覚えた、光が踊る海に焦がれた、籠鳥の歌。
そして――薄紅に焦がれた、瓶詰め人魚の戀雲の歌。
歌声が、響く。
柔らかく誘うように伸びたリルのオクターヴ。その音に、依音の歌声が重なる。
星々はスポットライト。海蛍は観客。
(「――ははっ、ライブ会場みてぇ」)
きらきらと輝く音と海。声と声。視線を交わせば音が変わる。
リルが息を継いだ僅かな間に、依音の声がひととき引く波のようにそっと引く。
だってその歌は、リルの紡ぐ甘い『誰か』へは、リルが歌うべきだと思うから。
(「……僕の」)
櫻。――君を紡ぐ。甘く甘く降り注ぐ、小夜時雨のよに心にやわらかく。
焦がれて、想えば、歌えば。リルの、一番やわらかく甘い歌声と、笑顔が華開いた。
――それを覚えるように聞いた、依音のアコースティックギターが爪弾かれ始める。
海に響く、星の瞬きのようなアルペジオ。
(「誰かと演るなんて煩わしいと思ってた」)
実際、上手くは行かなかったのだ。アーティストとして活動する依音のネット上の記事にはこうある。曰く、全て一人でやるスタイルの理由として『我が強く揉めやすい性格故に、一人でやるほうが楽だとわかったから』。曰く、『以前はバンドで活動していたと思しき発言も見られる』。
(「でも、今は」)
今、この瞬間は。――誰かと一緒に歌うのが、こんなにも心地よく、音が胸に沁みてゆく。
やがて余韻を残して歌声が終われば、楽しげに笑ったリルがふと零した。
「君は、何に焦がれるのかな」
「……何かに焦がれる、か」
依音は覚えるように繰り返して、光る海を、隣の人魚を見る。
(「俺もいつか、恋を歌いたくなるのだろうか」)
そのときは。
「……お前みたいに、歌えたらいい。柄にもねえけど」
ぽそりと零せば、いっそう嬉しそうにリルが笑った。
「歌えるよ。君なら、ね」
ねえ、とリルは依音を呼ぶ。
「君の歌を歌わせて。一緒にどこまでも響かせよう」
「……ああ」
そうしてふたりは、光る海でまた歌い出す。
この歌声を海風に乗せて、どこまでも響かせられたなら――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リチュエル・チュレル
タロ(f04263)と一緒に海蛍と星空を堪能するぜ
砂浜までは降りてもいいんだよな
あったかい紅茶も捨てがたいけどよ
せっかくだからもっと近くで見てみようぜ
満天の星空に、海に広がる青白い光
これは壮観だな…
星空に放り出されたみたいだ
なるほど
オレの知ってる星図とは全然違うな
世界が違うんだから当然だけどよ
この星空にはどんな星座があるんだろうな
運命ってのは本当に思いもよらないところに転がったりするよなぁ
こんな景色を見る日が来るなんて
その隣にお前がいるとかさ、本当にわかんないもんだぜ
ま、どんな運命でもよ
自分で選び取れてるうちは意外となんとかなるもんだ
――運命を諦めの理由にしない限りは、な
タロ・トリオンフィ
リチュ(f04270)と
夜の海辺に星空がふたつ
空の星と、静かに寄せる波にも輝く星
……これが、海蛍
カナリアが、終わりの見えない極寒の籠の中で願った光景
世界には、まだまだ知らない景色が沢山あるね
この地への導となった縁に感謝を
夜空の藍は、星の輝く空は我が主の彩
天と地の星の境目を探すように
ふとその導く声を聞きたくなって
――これからどうするのかな
きっと良くも悪くも、村に戻って以前通り、という訳にはいかない
生贄にさえされなければ、村で平穏に暮らす筈だった齢17の少女
――カナリアは、どう、したいのかな
稀有な歌い手である少女に問うて、願いがあるのなら
リチュ、彼女の道行きに少しだけ、先を照らす事は出来るだろうか
●
――星のような、月のような。満ち光る海が、青く、白く明滅する。
「これは、壮観だな……」
海に広がる、光たち。瞬くそれを見つめれば、リチュエルは思わずと言った様子で呟いた。長い髪が、潮風にふわりと靡く。
「星空に放り出されたみたいだ」
「うん。……これが、海蛍」
リチュエルの隣で、タロもその景色を覚えるように呟いた。
夜の海辺に、星空がふたつ。――空の星と、静かに寄せる、海の星。
(「これが……カナリアが、終わりの見えない極寒の籠の中で願った光景」)
彼女はどんなふうにこの景色を覚えて、繰り返し思い描いていたのだろう。
ひとはどんなふうに、思い出を願いにするのだろう。
「……世界には、まだまだ知らない景色が沢山あるね」
見て、と主たる少女にタロは頭上を示す。その視線を辿るようにリチュエルも星空を見上げれば、なるほど、と呟いた。
「オレの知ってる星図とは全然違うな。まあ、世界が違うんだから当然だけどよ」
星詠みの少女は、興味深そうに呟く。蒼玉の瞳に知らぬ星座の形を写すように見つめて、深い藍色がふと緩む。
「……この星空には、どんな星座があるんだろうな」
名前も知らない。軌道も読めない。けれど空に輝く星は、この世界で巡り続ける。その光が燃え尽きるまで。――幾百年、幾億年。
「運命ってのは、本当に思いもよらないところに転がったりするよなぁ」
人形として造られて、占い人形と呼ばれ、いつしか封じられて。
何かが違えば、もしかしたら、目覚めていなかったのかもしれない。
いつか手にしたタロットカードと、あるいは出会っていなかったなら。
「こんな景色を見る日が来るなんてさ。……その隣に、お前がいるとか、本当にわかんないもんだぜ」
「……そうかな?」
「そうだよ」
「そうか。……でもね、リチュ。僕は、君と出会えていたなら、たとえ辿る道が違ってもこうして君と星と海を見ていただろうなって思うんだ」
ふわりと、夜に浮かぶ星のように真白い少年は微笑む。――百代を経て、占い人形の少女に愛されたタロットカードは、それをただ純粋に、子供のように信じて笑う。
「だって、君は僕を大事にしてくれるから」
それは、それだけは、もしも世界が違っても変わらないだろうと言うように。
その笑みに、リチュエルの瞳が僅かに丸く見開かれた。唇が何か紡ごうと動きかけて、やがて悪戯に笑う。
「――当然だろ」
それからしばらく、ふたりで波の音を聞いた。光と星をただ見つめた。
その、天と地の星の境目を探すように、タロは夜空の藍を見上げる。輝く星に、主の彩りを見つける。そうしてふと下ろした視線の先に、ぽつんと佇む少女を見つけた。
「……カナリアは、これからどうするのかな」
おそらくは、村に戻ったとしても以前と同じように暮らせはしないだろう。生贄にさえされなければ、村で平穏にその生涯を終えたのかもしれない、稀有な歌声を持つ、ほんの齢十七の少女。
カナリアは何かを重そうに抱えて、ぽつぽつと砂浜を歩いている。何か考え込んでいるのか、すぐ先にいるタロたちには気づいていないようだった。
「そりゃ、あいつにしか選べねえよ」
「……選ぶ機会は、カナリアにあったのかな」
ただ、願われるまま、乞われるまま。そうして、救われた命は、在り方を見失ったように、所在なさげに砂浜を歩いている。
誰か。彼女に、問うてやった人はいただろうか。
「――カナリアは、どう、したいのかな」
声は、少女に届いた。
名前を呼ばれたカナリアははっと顔を上げて、すぐ目の前にいたタロとリチュにようやく気づく。
「……君の願いは、ある?」
「あ……私、は」
「どんな運命でもよ、自分で選び取れてるうちは意外となんとかなるもんだ」
リチュエルが真っ直ぐに言葉を向ける。その瞳にはふわりと海で光る星が宿る。
「――運命を、諦めの理由にしない限りは、な」
「……っ、私は! 好きに歌いたいの!」
諦めと運命と言う言葉に背中を叩かれたように、カナリアがそう叫んだ。
「誰に褒めて貰えなくたっていい、好きな歌が、歌いたい。――どこか、この海の向こうに、遠くに行きたい! 私は、小鳥なんかじゃないわ!」
半ば泣きそうな声だった。けれど彼女は泣いていない。どこかに行きたいと願う、理不尽な運命に声を上げる、ひとりの人間だった。
その願いに――叫びに、タロはゆっくりと微笑み、リチュエルは呆れたように息を吐く。
「……リチュ。彼女の道行きの先を少しだけ、照らすことは出来るだろうか」
「ったく、しょうがねえな。――カナリア」
リチュエルは、すっとカナリアの前に進み出る。その手に、美しいタロットカードがある。
ふわり。リチュエルの手からぱらぱらと浮かび上がったカードたちは、カナリアの周りをぐるりと囲み、海蛍と共に、白く光って夜に道をいくつも示す。
いつのまにか、タロの姿がそこにない。ただ、彼と同じ光がそのカードに宿り、リチュエルの澄んだ声が、導きを告げた。
「――さあ、あなたの運命を選びなさい」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鶴澤・白雪
ライオット(f16281)と
籠の鳥なんてお伽話の中だけ充分よ
これであの子も好きな場所で歌える…
小鳥姫の邪魔もしたくないし散歩には賛成よ
噂には聞いてたけど星空の中にいるみたいな気持ちになるわね
夜の海って静かな印象があったけど波打つ度にキラキラしてて何だか新鮮だわ
……ライオットって時々本当に王子様みたいなこと言うわよね
景色を共有した相手がお姫様じゃなくて申し訳ないけど光栄だわ
あたしも来れて良かったと思うわ
星と蛍の光は優しいのにしっかりと暗がりを照らしてる
そういう所、ライオットに似てるからか見てて安心するもの
そうだわ…忘れる前に伝えておかないと
今日は一緒に来てくれて助けてくれてありがと。感謝してるわ
ライオット・シヴァルレガリア
白雪さん(f09233)と
カナリアさんが無事で本当によかった
安心した様子の白雪さんを微笑ましく見ながら
少し、二人で散歩に行かないかい?
とお誘いするよ
砂浜を一緒に歩きながら、初めて見る景色に思わず目を輝かせて
素敵な光景だね、白雪さん
まるで海にもう一つ星空が生まれたみたいだ
この景色に出会えたことはもちろん嬉しいけれど
それよりも、同じ景色を君と共有できたことがとても嬉しい
白雪さんはお姫様よりも強くて優しい、僕の大切な友達だよ
光なら君だって持ってる
君の光が僕の光を強くしてくれるんだから
役に立てたのなら嬉しいよ
それ以上のものをたくさん貰ってしまったしね
僕でよければ、またいつでもお供しよう
●
砂浜と、海。
いつものコテージから見渡す景色とは違うけれど、潮風の匂いは、白雪とライオットにとってはよく馴染んだものだ。
景色の中に佇む少女を見つけて、ふとライオットが微笑んだ。
「カナリアさんが無事で、本当によかった」
「……ええ」
籠の鳥なんてお伽話の中だけ充分よ、と白雪も呟く。その表情は酷く優しい。目つきが悪い、と自らも言うレッドスピネルは、見守るような優しい色を灯していた。
「これであの子も、好きな場所で歌える……」
そうであれ、と願うように。この先の幸せを祈るように。その声がどれだけ優しいか、きっと本人だけが気づいていないのだろう。
そう思えば、ライオットは微笑ましい思いで白雪を見つめる。
「……ねえ、白雪さん。少し、二人で散歩に行かないかい?」
そう誘いかければ、白雪は笑んだままで頷いた。
「ええ、小鳥姫の邪魔もしたくないし。行きましょう」
そっと、もう一度だけカナリアを見て。白雪とライオットは、少女がいるのとは別の方向へ、静かに歩き出した。
ふわり、光る海がそこにいた。
瞬くように、満ちるように、波の形に海蛍がいくつも揺れる。
わ、と小さく声を上げたのはライオットが先だった。
「素敵な光景だね、白雪さん」
初めて見る、と子供のように目を輝かせれば、ライオットは振り向くと、柔らかな笑みを白雪に向けた。
「まるで海にもう一つ星空が生まれたみたいだ」
「ええ、噂には聞いてたけど、まるで星空の中にいるみたいな気持ちになるわね」
夜の海なのに、見渡す先は月よりも明るい。静かで夜に溶けるような海の印象は、また違った景色を覚えさせてくれる。
「波打つたびに、きらきらしてる。……何だか新鮮だわ」
「うん。この景色に出会えて良かった。――でも、それよりも僕は、同じ景色を君と共有できたことがとても嬉しいな」
ふわりと微笑んだまま、いつも通りの親しみを込めて、ライオットは素直な気持ちを伝えた。
それに、つい面食らったように白雪がぱちくりと瞬く。
だって、言い方によっては。あるいは人によってはあまりに気障な言葉だろう。それを何一つ取り繕うことなく、素直に言ってしまえるのは、彼の彼たる所以だろう。
「……ライオットって時々本当に王子様みたいなこと言うわよね」
「どうしてかな、よく言われる」
「ふふ。景色を共有した相手がお姫様じゃなくて申し訳ないけど光栄だわ」
くすくすと白雪が笑って言えば、今度はライオットが瞬く番だった。
「白雪さんはお姫様よりも強くて優しい、僕の大切な友達だよ」
「……そういうところね。でも、あたしも来られて良かったと思うわ。だって、何だか見てて安心する」
安心か、とライオットが改めて海蛍に視線を戻す。それに白雪は頷いた。
「ええ。星も蛍も、光は優しいのにしっかりと暗がりを照らしてる。――そういうところ、ライオットに少し似てるわ」
柔らかな光は、背中を押してくれる。振り返らない無茶を支えて、戻れば時にそれを叱ってもくれる。
白雪の言葉に、ライオットは尚優しく笑み綻んだ。
「それは嬉しいけれど。光なら、君だって持ってるよ。君の光が、僕の光を強くしてくれるんだから」
守るべきもの――大切なもの。それはきっと、彼の強さの理由なのだから。
それからしばらく、ゆっくりと他愛ないことを話しながら、星と海を眺めた。いくつかの話の合間に、ふと白雪がライオットを見上げる。
「そうだわ。忘れる前に伝えておかないと。……今日は、一緒に来てくれて。助けてくれてありがと。感謝してるわ、ライオット」
心から告げられた言葉を、ライオットは真っ直ぐに受け止めるように目を細めて頷いた。
「役に立てたのなら嬉しいよ。それ以上のものをたくさん貰ってしまったしね。……僕でよければ、またいつでもお供しよう」
「あら、じゃあまたお願いするわ。……それ以上のもの、って?」
「この景色も、君との時間も。帰ったら、良い土産話ができそうだ。あの森も、カナリアさんを捕らえてはいたけれど、美しかった」
「……そうね。あたしも、綺麗だったと思うわ」
冬も、春も――そして、海蛍が告げる、これから訪れる夏も。
きらきらと輝いて、先へ続いてゆくのだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
疲れた身には甘味と云うだろう?
偶には私も、お前に師匠らしい事をさせよ
ふふん、なに
これは気分の問題だとも
訪れたカフェの一角に腰掛け
さあ、今宵は好きに頼むが良いぞ
紅茶で喉を潤し、ひかりに彩られた光景を望む
ああ然し、今日は良い夜だ
何より風が良い――空が良い
…ふふ、そうさな
何処迄も心地よい、穏やかな夜だ
斯様に美しい光景はそうあるまいよ
強制、か…うむ、それは宜しくない
何より望まぬ侭動く者は美しくない
不意に紡がれた言葉に目を瞬かせ
星を湛える瞳を見詰め、悟る
っはは、そういう事か
安心せよ、お前の姿は何よりも美しく映る
故にこそ危なっかしい嫌いもあるが、な
吊るし上げ?
…ふふん、さて何時の事か
ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
うむ、正しき栄養補給であるな
…普段から師父は師だが
師父よ、夜の過食は健康に悪い故
二人前で充分だ
檸檬を落とした紅茶を手に
耳には潮騒と海風、目にはひかりを湛えた海
そうだな、もう望まぬ歌も聞こえない
あの娘が二度と選択を強制されぬよう
自身の言葉に、ふと思い出す
いつか云っておこうと思っていた事
――師父
…俺が仕える事を選んだのは、俺の意志だぞ
幼い頃どんな悪行を働こうと
師父が俺の自由を縛った事は一度とて無かったのだから
視線は海へと投げたままで、そう紡ぐ
時折、この忠誠をこそ憂えているような
そんな恩人の眼差しを知って
…仕置きだと吊るされはしたがな
今も、この先も
望む場所へ
在るべき場所で飛ぼう
●
小さなベルが来客に喜ぶように鳴る。
――岬のカフェをふたりが訪れたとき、店の中の席に人はいなかった。
他にも客はいるようだが、どうやら景色とカフェとどちらもを楽しむべく、テラス席を選んでいるらしい。
まだ空きはありますがどうされますか、と店員に問われて、アルバは一歩後ろに控えるように佇んでいた弟子を振り向いた。
「ジジ、どちらにする?」
「師父がどちらに座るかだ」
ジャハルは迷いなく答える。彼らしい即答に、アルバは呆れるよりも眉を下げて苦笑した。
「……全く」
ならばとアルバが進んだのは、窓辺の一席だった。大きな窓が開け放たれており、海蛍の光る海が臨め、それを揺らす風が吹き通る。
青藍に陽を透かすスターサファイアの髪を風に靡かせて、アルバは席に腰掛けた。その向かいの席を、ジャハルに視線で勧めれば、唇を機嫌良く笑ませる。
「さあ、今宵は好きに頼むが良いぞ」
「……師父?」
席に長身の身を収めながら、ジャハルの表情は動かないまでも、怪訝そうな視線をアルバに向ける。言われた言葉の意味よりは、楽しげなその様子を問うように。
「疲れた身には甘味と云うだろう? 偶には私も、お前に師匠らしいことをさせよ」
「……なるほど。うむ、正しき栄養補給であるな。ただ」
「ただ、なんだ?」
「――普段から師父は師であるが」
今更何を云うのかと言うようにジャハルが澄んだ夜色の瞳を向ければ、アルバはその目前で堂々と胸を張った。
「ふふん。なに、これは気分の問題だとも」
星を見上げたい気分、本を捲りたい気分、眠り、食べる――当たり前のようにふと過ぎる、日々の一部。幼き頃からその成長をすぐ傍で見てきた弟子の頭を撫でることは、今はそうあることではないけれど。それに等しい気持ちは、今も変わらず薔薇色の指先が覚えている。
「……そうか。よくわからぬが、師父よ」
相変わらず揺らがぬ端正な顔立ちの竜の青年は、ほんの僅かにその瞳を緩めた。
「夜の過食は健康に悪い故、二人前で充分だ」
――それを教えたのもまた、師である。
香り立つのはダージリン。――運ばれて来た軽食をそれぞれ平らげて、アルバとジャハルは食後の紅茶を楽しんでいた。
「ああ然し、今日は良い夜だ」
紅茶で喉を潤しながら、ひかりに彩られた夜の海を見る。アルバは双眸に宿る星を笑ませて、楽しげに声を弾ませた。
「何より風が良い――空が良い」
見上げれば星、見渡せば光。吹き渡る海風は、穏やかな潮騒を耳元に運び込む。
「そうだな。もう、望まぬ歌声も聞こえない」
紅茶を片手に、ジャハルも柔らかな髪を風に揺らした。
「あの娘が、二度と選択を強制されぬと良いのだが。――自らの意志で、この先を選べると良い」
自由に、思うがままに。そうして生きるのは、案外と難しいものだ。
「強制、か」
ふと、アルバがジャハルの言葉をなぞるように呟いた。一口、紅茶を口に含む。
「うむ、それは宜しくない。何より、望まぬ侭動く者は美しくない」
望まずとも、そうせざるを得ない瞬間がある。カナリアのように、他にいくつ可能性があろうと、それしか選べない道が、ある。
「――師父」
ふと、思い出したようにジャハルがアルバを呼んだ。かちゃりと小さな音でカップをソーサーに置けば、いつか――アルバと出会った頃から変わらず、揺るぎないその双眸が、美しき蒼き星の双眸を真っ直ぐに見る。そしてその瞳は、また海へ戻るけれど。
「俺が仕えることを選んだのは、俺の意志だぞ」
不意に、その言葉は紡がれた。
少なくともアルバには唐突に聞こえたし、つい目だって瞬かせる。その星の瞬きを見ずに、ジャハルは海の星空へ視線を投げたままで言葉を続けた。
「幼い頃、どんな悪行を働こうと。師父が、俺の自由を縛ったことは、今まで一度とて無かったのだから」
ジャハルからアルバへ向ける、絶対の忠誠。それは、誰に強制されたわけでもない。
けれど時折、他の誰よりもアルバこそが、この忠誠をこそ憂えているような――そんな気がしていた。
アルバは、ジャハルにとって恩人だ。命を掬われ、居場所を与えられ――知識を、戦う術を授かった。けれども、その恩人の憂うような眼差しを、ジャハルは知っている。
ふわり、海蛍がゆっくりと明滅する。その青く白い光が、ジャハルの瞳にも星を宿した。
「……っはは、そういうことか」
アルバを見るでもない瞳を見やって、彼は軽く吹き出した。――師は、悟る。
「安心せよ、ジジ。……お前の姿は、何よりも美しく映る。故にこそ」
くるり、紅茶をカップの中で回す。揺蕩う澄んだ琥珀色は、脳裏に未だ褪せぬ、小さな竜の子を映すようだった。
「……危なっかしいきらいもあるが、な」
それさえこの弟子らしさだと思うからこそ、時折頭を痛めそうにもなる。
しかし、海からアルバへ戻されたジャハルの視線は、凪いで見えた。
「……仕置きだと、吊るされはしたがな」
「ふふん。さて、何時のことだか」
くつくつとアルバが笑って、紅茶を飲み干した。ちょうどそのタイミングで、店員がすいと二人へ歩み寄る。そうして、サービスですのでよろしければ、と差し出されたのは、新しいティーカップだった。
「これは?」
「ハーブティーにございます。名を『マロウブルー』。……あまり入手できませんので、こうしてお客様に出すときは、ほんの気持ちばかりのものですが」
お二人に似合う眺めかと思いましたので。
そう残して、店員はそれ以上余計なことを言うでもなく、また裏手へ戻ってゆく。
アルバとジャハルの前には、透明の硝子のティーカップがふたつ。ソーサーには、瑞々しいレモンが添えられている。
カップの中でゆれるのは、澄んだ海のような、空のような蒼。
「良い香りだ」
静かにカップを持ち上げたジャハルがその香りに言葉を零せば、アルバも頷く。
「美しい色、でもあるな。――ああ、美味い」
一口、小さな海を傾ければ、つい笑みが浮かぶ。ほっと気が安らぐ味が華やかに香って感じられた。
「……これは」
ジャハルは添えられていたレモンをハーブティーに落とす。――そして、軽く目を瞠った。
澄んだ蒼は、鮮やかな夜明けの暁色に染まる。
同じように瞬いたアルバは、やがて柔らかく微笑んだ。
「なるほど、これは確かに。……ひかる海に、黎明の空、か。斯様に美しい光景は、そうあるまいよ」
「ああ」
短く頷いて、褐色の長い指が、夜明けの色に染まったハーブティーを持ち上げる。
(「今も、この先も。――望むべき場所へ、在るべき場所で、飛ぼう」)
何気なく見た視線の先で、陽に透く黎明が風に踊り――ひかる海に、自由に歌うカナリアの声が響き渡った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵