バトルオブフラワーズ⑤~オンリー・メモリーズ
●オンリー・メモリーズ
――出会えた、この一日を――。
「わたくしと一緒に、過ごしていただけませんか?」
「ワタシとあそんでほしいのデス!」
「……私に同行するよう、貴方に要請します」
それは、不思議な少女達との、奇妙な一日の物語。
●自由行動型シミュレーションゲーム
「テレビウムの事件がこんな大きな陰謀に繋がっていたなんて、びっくりですね……ですが、驚いてばかりもいられません。色々なことが起こって大変な時ですが、作戦の案内をさせて頂きますね」
ロザリア・ムーンドロップ(薔薇十字と月夜の雫・f00270)は努めて冷静に、戦場へ赴くであろう猟兵達へ話し始めた。
「現在『キマイラフューチャー』で起こっている『バトルオブフラワーズ』と呼ばれる戦争については、皆さんもご存知かと思います。『システム・フラワーズ』へと辿り着くためには六つの『ザ・ステージ』をオブリビオンから取り戻さなければなりません。今回私が案内するのはその中の『ザ・ゲームステージ』というものになります」
その名からわかるように、ゲームを攻略し、オブリビオンを撃破していくものだ。
「この場所では『ゲームキャラクター』という特殊なルールに従って行動しなければなりません。このルールを簡単に説明しますと、猟兵の皆さんがゲームのキャラクターとしてゲーム世界に入り込み、行動することでゲームをクリアに導いていく、というものになりますね」
このルールの下ではゲームクリアを目指すことが重要で、たとえ敵を倒したとしてもゲームとしての失敗――ゲームオーバーになってしまうと、強制敗北となる。
「それで、皆さんにチャレンジして頂くゲームですが、ジャンルはシミュレーションになるでしょうか。皆さんはゲームの主人公として、三人のヒロインから一人を選んで一日を過ごしながら、発生するイベントをクリアする、という感じの内容になっています」
よくある感じのシミュレーションゲームだが、一日を楽しく過ごして終わるだけの簡単なもの、というわけではない。
「登場するヒロインはちょっとワケありで、終盤になると敵が主人公とヒロインの邪魔をしようとしてきますので、それを倒してクリアを目指して下さい」
後はゲームをプレイする猟兵達の腕にかかっている……のだが、如何せんこれは世界を守る戦争。そのため、ロザリアは予め攻略情報を調べていた。
「ゲームをクリアするためのポイントですが、まずはヒロインと仲良くなることですね。どうやらヒロインはゲームの舞台となる街のことを知りたがっているようなので、主人公である皆さんが『好きなこと』をヒロインに教えてあげて、コミュニケーションを図るのがいいそうです。あれこれ色々教えるとヒロインが混乱してしまうので、一つか二つのことを色々掘り下げてお話をすると良いのではないでしょうか」
相手の趣味、嗜好を予想して話題を選ぶよりは、自分が純粋に好きなことを自然に話す方が、好感度が上がりやすい、といったこともあるようだ。
「次に、敵との遭遇に関する部分ですが、ここは『戦って倒す』以外の選択で切り抜けようと好感度が下がるか展開が変わってしまって、バッドエンドに向かってしまうみたいです。ですから、ここではどういう選択であれ、最終的に倒すことを目標として下さい」
ゲームの、ひいては作戦の成否を決定づける重要な要素だ。ロザリアは語気を強めて告げた。
そして、今一度、集まった猟兵達の表情を見る。
ここにいる者達なら、きっとゲームをクリアしてくれる――言葉では説明できないが、確信できる根拠が、彼らの表情から感じ取れた。
「中枢へと進むためにも、私達がここで頑張らないといけません! ですけど、ゲームもしっかり楽しんで、作戦を成功させちゃいましょう!」
沙雪海都
沙雪海都(さゆきかいと)です。
令和の時代になりましたがあまり変わらずいきたいと思います。
●本シナリオについて
シミュレーションゲームを攻略する内容となっております。
いわゆる恋愛シミュレーションに近い気はしますが、女性の方でもおよそ問題なく参加できるのではないかと思います。
●世界観
リアル東京を想定してもらえればいいです。そういう感じの仮想都市が舞台になります。
PC的にはUDCアースと非常に近いもの、という認識でOKかと。
●ヒロインについて
攻略対象は以下の三人になります。一人をプレイング内で指定してください。
雪乃(「わたくしと~」の子):黒髪茶眼、着物姿の清楚系少女。箱入り娘らしく世間的なことはほとんど知らない。15歳。
マリー(「ワタシと~」の子):金髪碧眼女子高生。留学生で、その国に来て日が浅く、何か面白いことがないか探している。17歳。
ノルン(「……私に~」の子):青髪銀眼、黒いスーツに身を包むクール系少女。人文学者で様々な国の文化を研究しているという。19歳。
●攻略方法
主人公となる皆様がヒロインに物事を教えることで交流を図り、好感度を上げていきましょう。
(例:『ハンバーガー』という美味しい食べ物がある。近くにお店があるから一緒に行って食べてみよう!)
説明が多いほど理解が深まり、好感度が上がりやすいです。体験できるものなら実際に体験させてみる、といった方法も有効でしょう。
●戦闘について
最終的に倒すことを目標に行動して下さい。
戦闘場所等は、ヒロインとの交流の仕方にある程度左右されるかと思います。
●ヒロインの設定
プレイングを書く時の参考などに。PCはゲーム進行に従って知ることになる話です。
雪乃:裏社会の二大勢力、その片方の頭の娘。もう一方との抗争が激しくなっており、主人公と過ごす中で相手勢力の構成員に狙われてしまう。
マリー:母国で富豪の御曹司に目をつけられ、交際を迫られたため留学という形で逃げ出してきた。だが、その御曹司に雇われた者が街に現れマリーを襲う。
ノルン:未来人。肩書は偽称。荒廃した未来を作り替えるため、過去の物を未来へ持ち出そうとしている(ただし犯罪)。時空管理組織に動きを掴まれ捕らえられそうになる。
●リプレイについて
本シナリオはプレイングを全て単独採用と致します。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『大頭頭ズ』
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POW : x形拳
【様々な生物や機械、自然現象等を模した拳法】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : i極拳
【健康体操のようにも見える連続した攻撃動作】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : n卦掌
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【大地の中を走る気の流れの噴出点(龍穴)】から排出する。失敗すると被害は2倍。
イラスト:ケーダ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ユーリ・ヴォルフ
UDCアース風に衣服を整え黒髪に染め参加
清楚だ…佇まいから、心の美しさを感じる
これが一目惚れというものか
雪乃に惹かれ博物館へと誘う
博物館は模造品から実物まで、形そのままに展示されている
書物以上の叡智の結晶がここにあるのだ!
…すまない、振り回してしまっただろうか
甘味でも食べに行こう
洒落たカフェで
あんみつやパフェを勧めつつ
珈琲を頂き同伴を感謝する
これからも雪乃と共に様々な文化を目にしたい
付き合って頂けないだろうか…?
緊張でカチコチになりながら告白
構成員は【絶影】で空手の達人の如く撃破
『見きり』で銃弾を避け時には『かばう』
『範囲攻撃』『属性攻撃』風で纏めて吹き飛ばす
雪乃には指一本触れさせはしない!
●SAVE DATA 1:ユーリ・ヴォルフ(叛逆の炎・f07045)
それは、山野に咲く一輪の桔梗のような。
一分一秒が惜しいと、表情のない数多の残像が行き交う街頭にぽつんと佇む少女の姿が、ユーリの目にはやけに色濃く映った。
衣装が派手というわけではない。その少女が纏うのは、和らぎのある薄紫の着物。首筋から背中に流れる黒髪もこの街では溢れかえるほどに平凡で、それよりも今まさにユーリの目の前を通過する、褐色肌で金髪の、スマートフォンを耳に当てゲラゲラと人目を憚らず大笑いする女性のほうがよっぽど目を引きそうなものだが。
爆弾のような個性は白霧に呑まれた。凛と咲く花は露に濡れ、一層艶やかに。それでいて雑踏に流されることなく、彼方へと視線を投げかける端麗な横顔に、ユーリは時を忘れるほどに目を奪われていた。
容姿のみならず、その佇まいに自然と滲み出る心の色。清楚、清廉。声色すら知らぬ少女の稟性をユーリは信じて疑わない。高鳴る鼓動にも意識は向かず、ユーリは少女という小世界に没入していく。
「ねぇ、君、何してるの?」
不意に走った不快なノイズが小世界を歪ませる。少女の前に雑念塗れの男達が群れていた。他者を適当に値踏みして、貪り喰らう下衆共が獲物に目を付けた――そう直感したユーリの時が急速に動き出す。不規則な人の波をすり抜け少女の元へ。
「わたくしは、その――」
「一人? 今、暇? よかったら俺達と遊ぼうよ」
「いえ、あの……」
リーダー格と見られる男の手が、少女の意思を踏みにじらんと伸びていく。だがそれを、すんでのところで到達したユーリが真横から払い上げた。詰め寄る男を強引に押し除け、少女との間に割って入る。ユーリよりも少し高い位置からギロリと射下ろされる視線に真っ向から睨みを利かせて動かない。
「あ?」
「悪いが、彼女は私の連れだ。お引き取り願おう」
「何だと……?」
男達は引き下がらない。ユーリの言葉を嘘と見抜けるほどの冷静な思考を持ち合わせているとは到底思えず、傍若無人で厚顔無恥な愚者なのだろうとユーリは悟り、嘆息した。
それがいよいよ男達の短気に拍車をかける。リーダー格の男は額に青筋を浮かべ、隙だらけの動きで拳を振り回す。しかし、ユーリは難なく片手で受けた。力を込めてがっしりと受け止めるのではなく、ただ拳の軌道に合わせて差し出した手の中に、男の拳がすっぽりと包み込まれた。
押せそうで押せない。ヤニで黄ばんだ歯を食いしばって拳を突き動かそうとするが、受け止められた力は逃げ場なく、男の腕は小刻みに震えていた。
傍から見てもわかる力量差。それでも折れぬ男はただの虚勢でしかない。最後の仕上げと言わんばかりに、ユーリは男の拳の甲に指をかけて掴むと、捻り上げて一気に男を引き倒した。腕が捻じれた勢いで体がぐるりと回転し、無様に尻餅をついて地に落ちた。
天地がひっくり返ったような感覚に一瞬理解が追いつかず、ぱちくりと見開かれた男が見たのは、自身に向いた人垣の目。ユーリが割り込み喧嘩模様へと状況が発展したことで、衆目を集め始めていたのだ。
そこで男の心はぽきりと折れた。腕を返され、仰向けにされた自分を横目にひそひそと話す女性がいた。スマートフォンのレンズを向けて、フラッシュを光らせる若者がいた。ああ、若者が何かバカをやっているな、と冷たい視線を横目に浴びせて足早に立ち去るスーツの男がいた。
自分の存在がこの場において全く歓迎されていない。男の虚勢は現実に打ちひしがれて、
「くそっ、離せ! ……行くぞ」
ユーリの手を強引に振りほどき、男は取り巻きに一声かけると同時にその場を離れ、取り巻きの男達も慌てて小さく縮んだ背中を追っていった。
諍いが収まり、風船が萎むように興味を失った民衆は三々五々散っていく。そうして街は平穏を取り戻す。
「……あの、お怪我は?」
背中から声がかかり、事は済んだと一瞬気が抜けていたユーリは我に返る。振り返ると、高嶺の花のように見惚けていた小さな顔がそこにあった。
「……大丈夫だ」
「そうですか。危ないところを助けて頂き、感謝致します」
少女は両手を組み揃え、丁寧に頭を下げる。間近で見る一つ一つの所作を、ユーリの目は追いかける。追いかけてしまう。
一目惚れ。そう認めるしかなかった。ユーリの胸の内に湧き上がるもやもやした、それでいてもどかしく、かつ少女を前にして、どこか満たされていくような甘酸っぱい感情を、他の言葉で置き換えることはどうしてもできなかった。
不埒な男達の登場により、現れた接点。それを点のままで終わらせたくないのは山々だったが、かといってこの流れで誘うのは、先の男達と同じになってしまうのではないか。
想いを寄せる女性に対しては、真摯に、誠実にありたい。相手の気持ちを尊重するが故の板挟み。目の前の少女は丁寧に、実に丁寧に深く腰を折り、感謝の意を示している。時で表せば数秒よりもまだ少し長く、考えが一周巡る時間があっただけに、ユーリは苦悩する。
ようやく頭を上げた少女と目が合い、沈黙が流れる。手を差し出すのが良いのか、言葉をかけるのが良いのか――脳裏によぎった選択肢は、そのどれもが不正解に見えて、ユーリは次の行動に逡巡していた。
「ところで……よろしければ、お名前をお聞かせ願えませんか?」
そうしているうち、先に少女から言葉を掛けてきた。少し躊躇ったような、わずかに俯いてからの上目遣いに、ユーリの心臓がドキリと跳ねる。
「ユーリ……ヴォルフだ」
「ユーリさん、と仰るのですね。わたくしは、霧峰雪乃、と申します。それで、その……先程の、お言葉ですが」
「……何か?」
「『私の連れ』と仰っていたのは」
「ああ、いや――」
男達を追い払うための口実。あの時、咄嗟の判断の中で飛び出したものだったが、願わくは現実としたい言い回し。事情を事細かに説明すべきか、これ幸いと押すべきか。
「気を悪くしてしまったのなら、すまない」
「いえ、そのようなことは全く」
「……そうか」
ひとまず無難な受け答え。語り口や表情から、悪い印象を与えていないことは感じ取れた。
それからさらに何か、会話を続けられないかと考えていたが、またも先に口を開いたのは雪乃だった。
「わたくしを庇ってのことと存じますが、わたくしとしては、むしろユーリさんの『連れ』であったほうが、有難く」
「……え?」
予想だにしない話の流れに、ユーリは素っ頓狂な声を上げていた。
「助けて頂いたお礼をしたい……という思いもありますが、如何せん、世間の事情に疎く、先程まで途方に暮れておりまして……。もしお時間が許すようでしたら、わたくしと一緒に、街歩きなど……その中で、わたくしにできる限りの、お礼をさせて頂きたいと」
突如降ってきた雪乃からの提案は、ユーリにとって願ってもない幸運だった。逸る気持ちを何とか落ち着かせようと、一つゆっくりと息を吐いて、
「わかった、雪乃に付き合おう。だが、礼などという大層なものは必要ない。私にとっては……雪乃が今日一日、共に過ごしてくれるというのが、一番の礼だからな」
ユーリが素直に本音を打ち明けると、雪乃の顔に一瞬驚きの色が現れたが、すぐに柔和な微笑みを見せる。
「ふふ……ありがとうございます」
また一つ、新たな雪乃の表情に、ユーリは得も言われぬ高揚感を覚えていた。
ユーリと雪乃、二人は雑踏の中を並んで歩く。ユーリは若者の流行を取り入れた服装で街並みによく馴染んでいたが、雪乃の着物はそれだけで若干印象が強い。それでも人々の関心は専ら自分の目的へ向いているためか、雪乃が目立って視線を向けられるということはなかった。
「……今はどちらへ向かわれているのですか?」
「博物館だ」
「『博物館』……とは、どういったものなのでしょう?」
雪乃は首をかしげながら聞いてくる。道すがら説明するのもいいが、展示物を実際に見て、己の肌で、心で感じることが第一。
「模造品から実物まで、形そのままに展示されている場所だ。無論、展示は一つの主題に従って行われている。……まあ、実際に目で見たほうが早いだろう。ほら、あそこだ」
ユーリは目の前に現れた、大通りに面した巨大な建物を指差す。同じ道を歩く人々の大半も目的は同じようで、敷地内へと吸い込まれていく流れに乗って二人も入館した。
この日行われていたのは太古の恐竜展だった。入館時に受付横に置かれていたフリーペーパーを手に取り、展示物の解説を読みながら回っていく。
「……これが、発掘された化石、というものなのですね……」
「そうだ。これは状態がかなりいい。この色合いや質感といったところは、書物に載っている写真だけではわかりにくいところだからな。こうして直に見ることで、そのものが辿ってきた『時』というものを感じ取ることができる。……ああ、向こうには化石を基にして復元された、恐竜の骨格標本があるぞ! 実物を見るのもいいが、当然こういうものは全てが揃っているとは限らない。それを現在の科学技術を駆使して復元することで、その時代を生きたものの躍動感だったり、迫力なんかを味わえる」
ユーリが息巻いて展示物について解説し、雪乃を先導する。ユーリとしてもなかなか見られるものではないが、雪乃にとっては輪をかけて目新しく、どの展示にも目を丸くしていた。
順路に従い、館内を広く移動していた二人。初めは雪乃のペースに合わせようと考えていたユーリだったが、展示物の数々に興奮し、いつしか雪乃は小走りでユーリの後を追うようになっていた。それでもユーリと巡るこの瞬間を非常に楽しく感じ、笑顔すら見せて同じ時間を過ごしていく。
そんな雪乃の様子にユーリが気付いたのは、館内を一通り見て回った後だった。展示物観賞が終わり、興奮が昇華されたところで、着物の裾を気にしながらついてくる雪乃にようやく意識が向いた。
「……すまない、振り回してしまっただろうか」
「いえ、とても楽しい時間を過ごさせて頂きました。古き時代の産物を眺め、壮大な時の流れを感じる……素晴らしい体験でした。ありがとうございました」
「ならよかった。……結構歩き回ったから、このまま甘味でも食べに行こう」
「はい、お供致します」
先に出口へ向かうユーリの後で、雪乃は入館チケットの半券をそっと手提げ巾着の中にしまいこんでいた。
ユーリは博物館近くにあるテラス席併設のカフェを選び、雪乃を連れて入店した。この日は天気が良く、二人の他にも家族連れやカップルが何組も見て取れる。
爽やかな風が抜けていく席を見繕い、ユーリはさっと椅子を引く。雪乃をエスコートしてから、自身も雪乃の正面に座った。
「ここでは、お食事ができるのですね」
他の客の様子に、雪乃も何となくカフェの役割を察していた。だが、どうすればそこまで至るのかが分からぬようで、まるで面接を受ける就活生のように背筋を伸ばし、畏まっている。
「そうだな。パスタやサンドイッチといった軽食に、デザートやドリンクなどもある。……ほら、この中から選ぶんだ」
話しながら、ユーリはテーブルに用意されていたメニューを開き、雪乃が見やすいように目の前に置いた。色鮮やかな写真が見開き一杯に溢れ、ここでもまた雪乃は一つ一つ、じっくりと眺めていた。
「これらは、依頼すればどれでも食べられる、ということなのですか?」
「まあ、そうだな。甘味なら……この辺りだ。あんみつやパフェといったものが色々あるぞ」
「これは……どれも惹かれるものがありますね……」
デザートのページは写真がふんだんに盛り込まれ特に華やか。メインターゲットが若い女性層ということもあるのだろう。雪乃もメニューのディスプレイマジックにどっぷり嵌り、視線を左右にふらふらと。
その様子もこれまで見てきた雪乃とはまた違った。新たな一面を前に、ユーリはそれ以上何も言わず、じっと見守っている。
「……これに、致します」
しばらくして、雪乃は静かに告げた。雪乃の中でも葛藤があったのだろうが、最終的にはメニューの中で一番写真が大きかったパフェを選んでいた。
ユーリは雪乃がメニューを決めると店員を呼んだ。雪乃のパフェと、自身は珈琲を注文し、しばし待つ間は博物館で見た物の感想を語り合っていた。
そして、先にユーリの珈琲が、少し遅れて雪乃のパフェが届く。
「写真の通りに、大きいものなのですね……!」
でん、と置かれた大きなグラスの中に、生クリームやらアイスやらクッキーやらがこれでもかと言うほどに詰め込まれていた。スプーンを手にしたが、雪乃はどこから手をつけていいのかわからず固まっている。
「ど、どうしましょう……!?」
「……上から少しずつとかが、いいんじゃないか?」
これについてはユーリも自信のある答えが出せず、様子見のような選択肢を伝えていた。上部に刺さったクッキーなどはグラスから飛び出しているような格好のものもあったが、うまく均衡が保たれているようで、雪乃がスプーンを差し込んでみても、意外と崩れない。
初めの一口は控えめに、スプーンにクリームを乗せ、口へ運ぶ。
「……!! 大変甘くて、美味しいです……!!」
「ならよかった」
二口、三口と雪乃がパフェを少しずつ崩す中、ユーリも静かに珈琲を含む。
「今日は、一緒に来てくれてありがとう」
「そのようなお言葉……わたくしこそ、感謝しなければなりません。助けて頂いた上に、博物館や、このような『カフェ』にも連れてきて下さって。様々なものを見て、知って、大変有意義な時間を過ごさせて頂けたことは非常に有難く思います」
常に物腰低く、相手に対して感謝の気持ちを忘れない。雪乃の姿勢には強く心を動かされるものがあり、喜びや驚きのような感情表現も思いの外明確で、傍で見ているだけでも楽しい。
一目惚れというどこか不安定な心の動きも、この時になればしっかりと土台に据えられていた。この時間を、もっと、ずっと、長く、長く。これからも、いつまでも。
そんな感情が、沸々と胸の内から湧き上がってくるのを自覚する。
「……美味しく、頂きました。ありがとうございました」
このパフェを提供してくれた店とスタッフへ、雪乃は空になったグラスを前に、手を合わせて感謝を述べた。雪乃らしい、と自然に感じ、ユーリは口元で少し笑いながらわずかに残っていた珈琲を飲み干した。
カチャリ、とソーサーにカップが触れる。それが、ユーリにとって心を決める合図となった。
「雪乃、少し私の話を聞いてほしい」
「如何致しましたか?」
真っ直ぐユーリを見つめる雪乃を前に、ユーリも居住まいを正す。表情は穏やかで、これからユーリが何を話そうとしているのか、ということはきっとわかっていないように、ユーリには感じられた。
今からしようとしている話で、雪乃はどんな表情を見せ、どういう言葉を返してくるのか。受け入れられるか、拒絶されるか。それは伝えてみなければわからない。
膝に置いた拳に、自然と力が入る。落ち着こうと珈琲のカップに手を伸ばしたが、すでに飲み干され空だった。飲んだのは自分だ。慌ててカップを元に戻す。
明らかな緊張にも、雪乃は動かず、ユーリを待っていた。笑われでもしていれば決意にひびが入ってしまっていたかもしれないが、待ち続けていてくれたことで救われた。
「私は一日、雪乃と過ごして感じたことがある。雪乃と一緒にいると、楽しいと……心の内から、強く感じた。今日だけと言わず、明日も、明後日も、ずっと共に、様々な文化を一緒に見て、共有して、分かち合いたい」
雪乃はユーリの言葉を黙って聞いていた。ユーリが語る、その目を見つめて、自分に向けられる言葉を真摯に受け止めている。何かしらの動揺があってもいいようなものだが、それを全く表に出さないのは、それだけ完成された人間、ということなのだろうか。
「私と、付き合って頂けないだろうか……?」
言い切って、ユーリはゴクリと唾を呑む。伝えるべきは全て伝えた。後は、雪乃の返事を待つのみ。
ユーリの告白に、雪乃は静かに目を閉じる。
「ユーリさんのお気持ち、大変有難く思います。わたくしを想って頂いているという強い気持ちが伝わってきました。ですが、わたくしはその気持ちにお答えする前に、一つ、話しておかなければならないことがあるのです」
「……?」
再び茶色の瞳を向けた雪乃の表情には、覚悟のようなものが読み取れた。雪乃の口からどんな事実が伝えられるのか、ユーリは固唾を呑んで見守る。
「実は、わたくしの家は――」
雪乃が言いかけた時、その後ろでカフェの客達が突如椅子から跳び上がり、妙な動きを見せながら蹴りを繰り出した。その標的は紛れもなく雪乃。
何故急にカフェの客が暴れ出したのか。何故雪乃を狙うのか。湧いた疑問に答えを出す暇もない。今重要な事実は雪乃が狙われているという一点のみ。
「危ない!」
声を上げ、ユーリもまた椅子から跳んだ。目の前のテーブルに足をかけ、そのまま客を迎撃すべく空へ。
雪乃を傷つけさせない――確固たる意志の力がユーリの戦闘力を急激に引き上げる。竜の闘気に全身が覆われたユーリは、蹴りやら拳やらを繰り出す客達に跳び蹴りを合わせ、纏めて風の力で吹き飛ばした。ユーリはそのまま地面へ着地し、体勢を失った客達は皆、一様に地面に叩きつけられ動かなくなる。
ほとんど反射で対応したが、冷静に客の姿を見ると、チャイナドレスや拳法着のようなものを纏った巨大な顔の男女のようだった。その巨大な顔も、さらによく見ると何かの被り物らしく、デフォルメされた同じ顔がいくつも並ぶのは不気味だった。
そんな謎の客が、いつしかカフェのテラス席に溢れかえっていた。店の中からも現れ、いつの間にかユーリと雪乃以外の一般客はおろか、カフェのスタッフの姿も見えなくなっていた。
彼らがどうなってしまったのかはわからないが、とにかく逃げ場のない窮地。ユーリは雪乃を背に庇いながら一旦下がる。
「こいつら、何者だ……?」
「彼らは、わたくしの父の敵対勢力、新峠組の構成員かと思われます」
普通なら悲鳴を上げてもいいような状況でも、雪乃は落ち着いた振る舞いを見せる。これまでは人間が出来上がっている、くらいに思っていたが、ここまで来るともう人間云々では収まらない。
口ぶりからもわかる。この状況は、雪乃自身が原因だということだ。
「しん、とうげぐみ……?」
「裏社会の二大勢力……霧峰組と新峠組。わたくしは、その霧峰組の頭の娘です。この二つは覇権を争って敵対していますから、新峠組の者がわたくしを狙ってきたのでしょう。このような公の場で、というのはいささか驚きを禁じ得ませんが」
裏社会の組織の構成員、というにはどうも目立ちすぎのような気もしたが、ユーリに実情は全くわからない。それよりも今は、この場をどう切り抜けるか、ということのほうが重要だ。
構成員達はユーリと雪乃を囲むようにじりじりと迫ってくる。隙を伺っているのだ。ユーリはその場のあらゆる方向へ意識を向けて牽制し、打開策を考える。
「……わたくしと付き合うということは、こういうことなのです」
「常に狙われる危険と隣り合わせ……そして、それを退けるだけの力が必要……そういうことか?」
「そうなりますね。そうでなければ、いずれ命を落とすことになるでしょう。そのような方とは、お付き合いすることはできません」
一呼吸置いて、雪乃はユーリの気持ちに対する答えを提示した。
「この場を、ユーリさんの力で切り抜けて下さい。そしてもし、先程の気持ちにお変わりがないようであれば……その時は、謹んでお受け致しましょう」
背中で声を聞き、ユーリはぐっと噛み締める。喜びと、決意、そして覚悟を。
もとより気持ちなど変えるつもりはない。ならば、やることは一つ。
「……上等だ。雪乃には指一本触れさせはしない!」
一層気合が入り、今度はユーリから間合いを詰めた。一瞬虚を突かれた構成員が動く中、設置されたテーブルを蹴り出し進路を塞ぐと、その上方に飛び込んで空を切り裂く蹴りと共に風の刃を飛ばし、慌てる者達を一気に薙ぎ払った。正面を突破したが、カフェの屋内から腕を蛇のようにくねらせた者達が飛び出してくる。ピンと突き出した指先で、蛇の噛みつきのように鋭い動きの突きを見せたが、ユーリはその出所から敵の狙いを見切って体を開き突きをかわすと、そのまま風を纏った拳を懐に突き入れ、まず一体。さらに襲い掛かる攻撃を掠るかどうかというところで際どく回避し、蹴る、殴るの肉弾戦に風の属性の力を合わせて確実に倒していく。
「そっちか!」
ユーリが他を相手している間に、構成員が雪乃へ迫る。その場の者達を倒し切ったユーリは即座に雪乃の傍へ舞い戻って立ち塞がり、風の力を構えた。
対し、構成員は先の者と同じように指先を伸ばして構えたが、そのまま腕を伸ばすと、回転しながら手刀を浴びせてきた。
回転しているため一瞬はユーリに背を向けているが、動きが俊敏かつ攻撃が鋭く、背後を狙っての攻撃が合わせられない。上手く誘導して雪乃の元から引き離し、二本の腕が通過する軌道を回転の中から読み切って、
「……そこだ!」
体を反らして顎先で手刀を避けると、重心を一気に前へ動かしながら頭を下げ、次に襲い掛かる手刀が届かないところまで沈み込んでから体のバネを使い、腕を思い切り突き上げた。被り物の中に見えた本体の顎先を叩いて吹き飛ばすと、竹とんぼのように両手を広げて跳び上がった構成員はくるくると飛び出し、他の敵を巻き込んだ挙句半壊のテーブルに突っ込んで動かなくなった。
「次は誰だ!」
気迫のあまり叫んだが、気付けば敵は全て倒れていた。ユーリも敵も派手に暴れたことで、洒落たカフェの面影は今やほとんど残っていない。
本当に敵が動かないことを確認すると、ユーリは拳を下ろし、雪乃の様子を確認した。
着物に乱れはほとんどなく、怪我もない。ユーリは雪乃を守り切り、窮地を切り抜けたのだ。
「無事か?」
「はい、お陰様で。これだけの数を相手に、お一人で……お見事でした」
ユーリにも怪我がほぼないのを確認し、雪乃はにこやかに微笑んだ。それは、ユーリが見た、雪乃の今日一番の笑顔だった。
それが意味するところは――。
「では……今度は、わたくしから。……ユーリさん、わたくしと、お付き合いして頂けますか?」
ユーリが緊張に体を強張らせていたのとは打って変わって、雪乃はすんなりと告白の言葉を口にした。
だが、その度胸も、今となっては理解できる。日々、このような抗争を間近で目にし、そのような教育を施されていたのであれば、合点がいく。
清楚に見えて、その根本は計り知れないほどに強靭で。
それはさらに、ユーリの心を惹きつけた。
無論、そうでなかったとしても、ユーリは心を変えるつもりはなかったが。
「……もちろんだ。これからもずっと、雪乃……君を、守り続ける」
ユーリは固く誓い、付き合うという事実を確かめるように、そっと雪乃の体を腕の中に抱きしめた。
成功
🔵🔵🔴
アヴィル・ガスフェルト
恋愛ゲームかぁ、これは行くしかないじゃん?
ホストクラブで培ったコミュ力・誘惑でマリーちゃんに急接近
へぇ、最近留学してきたの?じゃあ案内してあげようか、ジャパンの祭りとか。街でやってるんじゃないかな
え?恋愛ゲームだしどこかしらにあるよね?祭り(システムへの威圧)
俺、見ての通り遊び歩くの大好きなんだよね。だから楽しい回り方とかは熟知してる
彼女をエスコートしながら満喫しよう
そっと彼女の前に出て
UC見切りでダメージ最小限にi極拳を受け流す
…いいかいマリーちゃん、これがジャパンの伝統的な体操だよ
ラジオ体操第六ッ!!(殴る蹴る)
押し付けの愛なんて苦しいだけだよね。馬鹿みたい
ねぇ、俺と一緒に自由になろう?
●SAVE DATA 2:アヴィル・ガスフェルト(君の心にナンバーワン・f18076)
街の人間模様は時間と共に移りゆく。朝は通勤、通学のためにフォーマルな装いのサラリーマンや学生が多く、正午を過ぎれば家事が終わり、自分の時間を有意義に過ごそうと街に繰り出す主婦層が現れる。
そして、太陽が程よく傾き、光が斜に差し込む時間帯。街が自然な形で最も煌めくその時は、同時に最も若返る時でもあった。
通学鞄を提げた下校中の中高生が、駅の改札から一気に街へと押し寄せる。ある程度のグループは学内ですでにできており、合流したところからカラオケだの買い物だのと、その日の予定をきっちりこなすべく足早に動き始める様子が見て取れた。
もちろん、街には少なからず他の世代の人間もいる。アヴィルもまたその一人。彼はホストクラブ、夜の世界で働き、生計を立てている。故に働き盛りの年代が会社に詰めている時間帯でも、こうして街で自由な時間を過ごしている。
(……お、あの子、なかなかいい感じじゃん?)
道行く女子高生をそれとなく眺めていたアヴィルは、一人の少女に目を留めた。まるで黄金を思わせるような、鮮やかな金髪。ホストクラブの客の中にも髪を金色に染めた女性は多くいたが、それとは全く別物だということを、一瞬で見抜いていた。
街中に少女が一人。今、何をしようとしているのかを、遠目で見ながら推理する。
少女はスマートフォンを右手に持ち、何やら辺りを見回している。画面と街並み、双方交互に視線を向けて、難しい表情を見せていた。
(待ち合わせ……いや、違うね、あれは)
仕事柄、人の仕草や癖にはよく目が利く。スマートフォンを見て、周りを見て。連絡を取りながら互いを探しているように見えるが、少女の視線は水平よりも上方向に向いていた。
そして、アヴィルはスマートフォンを持つ手の、指先を見る。動きはある。だが、文字を打つには緩慢すぎる感じがした。
人との待ち合わせであれば、人の顔を見るために、視線はおおよそ水平を向く。そうでないのは、何かしら別の物を探しているということ。例えば、道標の看板とか。
人と連絡を取るのであれば、メッセージアプリはほぼ必須と言える。この人混みの中で音声認識を利用するのは難しく、メッセージを送るには自分で指を動かさなければならない。
メッセージを打つのでないのならば、何か別の物を操作しているはず。例えば、地図アプリとか。
そんな推理をいくつか組み立てて、アヴィルは少女が人を待っているのではないと判断すると、すかさず歩み寄り声を掛けた。
「ねぇ、どうしたの? 何か困りごと?」
アヴィルの声に、スマートフォンの画面を凝視していた少女はハッとして顔を上げた。少女の視線が自分の顔に向いたと感じた瞬間、アヴィルはニッと白い歯を存分に見せた笑顔を返す。全くの初対面。であれば、第一印象は良くあるべき。彼なりの、渾身の営業スマイルだ。
「え……っと、ちょっト、調べモノを、していたのデス」
言葉はかなり滑らかだが、アクセントに若干の特徴がある。外国人訛りのようなものだ。それでも話す言葉は全てはっきりと聞き取れるのだから、語学力としては相当なもの。ネイティブと同等の会話が可能、と言って差し支えない。
近くで見ると、瞳は碧く潤みを帯びていた。天然の金髪であろうことも合わせて、この少女が外国人であることは間違いない、とアヴィルは考えた。
「そうなんだ。何調べてたの?」
「この街の、遊べるトコロを、探していたのデス。クラスの皆、いつも遊んでいるっテ、聞きマシタ!」
「そのクラスの皆は?」
「きっと、どこかで遊んでいると、思いマス」
アヴィルは努めて警戒されにくいように振る舞うことで、少女から言葉を引き出していた。視線が合った時は、歯を見せ笑顔を向けることを忘れない。
「一緒に遊ばないの?」
「……それ、ハ」
アヴィルの問いかけに、少女の言葉が初めて淀んだ。何か言いにくそうにしていたが、アヴィルが黙って答えを待っていると、少女は恐る恐る口にした。
「ワタシは、この国に来て日が浅いノデ、まだ何があるか、よくわかりまセン。皆に迷惑をかけたくないノデ、あらかじめ、勉強を、しておきたいのデス」
「へぇ、じゃあ留学生なんだ」
生真面目だな、というのがアヴィルの印象だった。クラスの友人と遊ぶために、あらかじめそれを学んでおく。熱心と言えば聞こえはいいが、普通に考えれば、それは少しばかり度が過ぎているように思えた。
だが、その性質は自身の目的とはうまく噛み合っているようにも感じた。
「なら、俺がこの街を案内してあげようか? 色々知ってるんだよねー、俺」
「本当ですカ!? 是非、お願いしたいデス!!」
少女の瞳はキラキラと輝いていた。その視線は期待に満ちている。
「オッケー。俺、アヴィル。よろしくねー」
「ハイ! アヴィルさんですネ! ワタシはマリーといいマス! よろしくお願いしマス!」
ぺこりと一つお辞儀をする。その仕草は、やはり少女。普段客として相手をする女性達とは一線を画す初々しさがあった。
「じゃあ早速、祭り、行こっか」
「『マツリ』……オー、フェスティバル、ですネ! この国のマツリ、気になりマス! 行ってみたいデス!」
マリーの乗り気な様子に、アヴィルは気を良くしながら歩き始めた。
マリーを案内する祭り。行き当たりばったりのようにも思えたが、近くの神社で例祭がこの時行われていた。道路の両側にずらりと出店が立ち並び、多くの人で賑わっている。
「これガ、マツリ……!」
「そうそう。まーオーソドックスなやつだけど、一番楽しみやすいしね」
出店が並ぶ、その端にマリーを案内し、祭りの様子を軽く説明する。横目で様子を伺うと、一刻も早く飛び込みたさそうに身を乗り出して、先の見えぬ出店の列を眺めていた。
「俺、見ての通り遊び歩くの大好きなんだよね。だから、楽しい回り方ってのを教えてあげるよ」
「気になりマス! 教えてくだサイ!」
アヴィルが進むと、マリーが後からついてくる。アヴィルははぐれないよう少し気に掛けながら、良さげな出店を見繕った。
「まずはここ。祭りと言ったらやっぱ焼きそばだよね」
「ヤキソバ! あれデス! パンに挟まってるやつデス!」
「あー、焼きそばパンねー、あるある」
この国に来てまだ日が浅いと言っていた。食文化に関してもあまりよく知らないのだろう。その中で、焼きそばパンなら学校の購買などでも見ることができる。
「でも、こういう店のはね、もっと旨いんだよ」
屋台の店主に声を掛けると、ささっとトレイに焼きそばを盛って渡してくれた。代金を支払い、トレイと箸を合わせてマリーに差し出すと、唸るような声を出して驚いていた。
「おぉぉ、パンに挟まってまセン!!」
「焼きそばはこういうものだね。ソースは濃いめでさ」
マリーが真上に引き上げた麺はソースが程よく絡まり、艶があった。少々ぎこちない箸さばきでマリーが焼きそばを口に運ぶと、パッと花開くように表情が明るくなった。
「おいしいデス! すごいデス!」
一口食べて感想を零すと、それからは最後まで無言で食べ切っていた。
近くの屑籠にトレイと箸を捨て、二人はまた歩く。次は何かとアヴィルは良さげな出店を探していた。こういう場所は食べ物屋がよく目に入るが、そればかりでは祭りの全てを楽しんでいるとは言い難い。
あれにしようか、とアヴィルが決めたものはマリーも興味を持ったようで、付近に差し掛かるとマリーのほうから聞いてきた。
「あれ、皆さん何かを、撃ってマス」
「射的だね。マリーちゃん、やってみる?」
「やりマス! 楽しそうデス!」
二人が店の前に立つと丁度、前の客が全て撃ち終えて景品片手に去っていった。代金を支払い、五発分、コルク弾を貰う。
「あそこに並んでるものに弾を当てて、倒すと貰えるんだよ。五発あるけど、なかなか難しいから慎重にね」
「ちょっと遠いですネ……でも、頑張りマス!」
前の客の見よう見まねで、マリーは銃を構える。狙うは縦長直方体の駄菓子の箱。だが、狙いがなかなか定まらず、銃口が揺れる。
納得がいくポジションに銃を据えられぬまま、マリーは引き金を引いた。パン、と放たれたコルク弾は目標とする菓子箱の上を抜けてしまった。
「当たらなかったデス……」
「惜しかったね。もう一度、今度はなるべく動かないようにして……」
アドバイスと共に少しマリーの姿勢を正し、二発目を見守る。先程より銃口が安定しており、マリーはあまり時間を掛けずにコルク弾を発射した。
放たれたコルク弾はうまく軌道修正し、今度は見事目標とする菓子箱に命中した。だが、わずかに奥へと押し出された程度で、倒れるまでには至らない。
「あー、当たったのに倒れませんデシタ……」
「倒れないと貰えないからねー。あと三発」
少し見込みが出てきて、マリーはすかさず三発目のコルク弾を取った。同じ要領で弾を当てるも、これもまた箱を動かすのみ。四発目。当てた弾がぐらぐらと箱を揺るがしたが、憎いことに箱は耐えた。
「最後の一個デス。これで……!」
気合の入った一発をマリーは込める。アヴィルがさっさと手を貸してしまえば、楽に倒すことができていただろう。だが、真っ直ぐ標的に向かうマリーの熱意が、銃を構える姿から感じられた。
言葉ではある程度アドバイスを与えたものの、最後まで手は出さなかった。
そうして訪れた運命の時。マリーは引き金に掛けた人差し指に力を込める。
カツン、とコルク弾が当たった箱は、一度ぐらりと大きく揺れて。
揺り戻しがあるかと思えば、そのまま重力に引かれて台から落ちた。
「やりまシタ!」
「おー、おめでとう」
店主が落ちた菓子箱を拾い上げ、マリーが差し出す両手に乗せた。自分の力で初めて掴み取ったもの。値段にすれば大したことはないかもしれないが、値段が全ての価値を語るわけではない。
駄菓子というのもマリーにとっては初体験のものだろうが、マリーはそれを大事そうに鞄の中に入れていた。
食べ物やら娯楽やら、それからもいくつか堪能し、アヴィルとマリーは出店が並ぶ道の、反対側の端に到達した。
「色々なことができまシタ! とっても楽しかったデス!」
「それなら、何よりだよ」
この場に来てから、もう結構な時間が経っていた。いつの間にか太陽は夕日に変わり、街灯に光が灯る。
そろそろ別れの時間か――アヴィルは時計を見ながら考えていた。相手は未成年。遅くまで連れ回せば警察沙汰にもなりかねないし、何よりホストの仕事もある。
「マリーちゃん、それじゃあ――」
声を掛けようとして、アヴィルは異様な光景を見た。マリーは怯えるように後ずさり、目の前には、奇妙な面をつけた、中華風の衣装を身に纏う謎の集団。
「な、なんデスカ!?」
「……オマエヲ、ツレテイク」
面の中で声が籠り鈍く響く。アヴィルには突然のことで事情は理解できていないが、この連中がマリーを狙っていることだけはわかった。
徐に、アヴィルはマリーの前に出る。
「マリーちゃん、こいつらのこと、わかる?」
「よくわかりまセン……ですが、もしかしたら、ワタシを追ってきたのかも、しれまセン」
「追ってきた? 追われる理由、あるの?」
「ハイ……実は、ワタシの国にいた時に、ある男子に付きまとわれていまシタ。とてもお金持ちで、周りが皆その人の味方だったノデ、ワタシは留学生として、この国に逃げてきたのデス。でも、お金を持っていたら、こうやって、人を使ってこの国まで乗り込んで来ることも、できマスね……」
マリーは俯きながらも、声を絞り出して語ってくれていた。いい思い出でないのは確か。それでも、自分の目の前に立つ、今日あったばかりだが信用に足る人物には、話しておかなければならないと考えたのだ。
「押し付けの愛なんて苦しいだけだよね。馬鹿みたい」
アヴィルは迷わず切り捨てる。本人がいれば何百回と言い切ってやりたかったが、いないものは仕方ないので口元で呟くに留めておいた。
「……アヴィルさん、どうしますカ?」
「任せて」
アヴィルがマリーに告げたのはたった一言。それが全て。それで事足りた。
集団が一斉にアヴィルへと殺到する。アヴィルはさらに前へ一歩、飛び出して敵を迎え撃った。
「アヴィルさん!?」
マリーが思わず声を上げる。戦闘員達は皆、健康体操のようにも見える動きを繰り出し、連続攻撃をアヴィルに放ってきていた。多方から飛んでくる攻撃は回避が非常に難しく、それなのにアヴィルは身動き一つせず、だらりと脱力してその場に留まっていた。
敵からすれば、棒立ちの的以外の何物でもない、拳を、蹴りを。立て続けに、雨のようにアヴィルへと浴びせかけていく。ほとんど袋叩きの状態で、攻撃が当たる瞬間、マリーは耐えられず目を背けていた。
動かない的なら、じっくり確実に潰してから目的を果たせばいい。敵の一切がアヴィルへ集中している。その中でアヴィルはダメージを最小限にして、反撃の時を待っていた。
ただやられるわけがない。当たり前だ。曲がりなりにもマリーを守るために、ここに立ったのだから。
「……いいかいマリーちゃん」
相手が一頻り攻撃を加えて、一瞬、凪が発生した。全て受け切り、アヴィルは後ろにいるであろうマリーへ話しかけた。
穏やかではあったが、声色は低く、やけに落ち着いている印象があった。一度その場から目を離していたマリーが視線を戻すと、アヴィルはその場に変わらぬまま立っている。
どうしてあれだけの攻撃を凌ぎ切れたのか。それも無傷で。理解が追いつかず、感情がごちゃ混ぜの安堵感は実感に乏しい。
「これがジャパンの伝統的な体操だよ」
攻撃のように見えた体操。体操のように見えた攻撃。敵の放ったのは果たしてどちらか。
考えるまでも無い。結局のところ、どちらでもよかった。
「ラジオ体操第六ッ!!」
瞬間最大風速は敵のそれを軽く凌駕した。竜巻のように荒れ狂う動きは、アヴィル自身が言うように、やっぱりどこか体操なのか。それでも敵のものとは格段に洗練された動き――アヴィルが自分なりに作り替えた、謎の体操攻撃。
手段としては変わらず、殴る、蹴るの肉弾戦。それを嵐のように回りの敵達へと次々に叩き込み、手当たり次第に倒していく。
腹に蹴りを受けた者は電柱にぶつかり動かなくなった。蹴りを頭上から受けた者は面が割れ、地面に突っ伏した。顔に興味はない。倒れた者の背中を踏みつけ、アヴィルという竜巻が敵軍を蹂躙していた。
竜巻に相応しく、アヴィル自身、体の捻り、回転を加えながら敵前へと迫っていた。回し蹴りは鋭く、二人纏めて腰の辺りを刈り取り薙ぎ払った。さらに迫る者には跳んで足を交代し、後ろ回し蹴りの要領で踵を面のこめかみ部分に叩き込んだ。衝撃に脳震盪を起こしたらしく、敵は一瞬で脱力し膝から崩れ落ちた。
そうして敵の攻撃と同じくらいの時間を暴れ回り、後に残されたのは死屍累々のような光景。立っているのはアヴィルと、それを見守るマリーだけ。
「ビックリ、しまシタ……アヴィルさん、すごく、強いデス!」
パチパチパチ、マリーが手を叩く。アヴィルは額にわずかに滲んだ汗を拭い、マリーの元へと戻ってきた。
「あんなの、これからもやってくるの?」
「そう……デスね。ワタシの居場所は知られてしまったようですシ、きっと、また来ると思いマス」
「そっか。……ねぇ、俺と一緒に自由になろう?」
「……え? 自由、ですカ?」
「そうそう。見たでしょ? 今の。俺ならどんな奴が来ても倒せるしさ。俺と一緒にいて、楽しかったでしょ?」
「ハイ! 楽しかったデス! ……えっと」
アヴィルの提案に、マリーはくるくると指先を回して、迷うような仕草を見せた。いいか悪いかではなく、それを今日、会ったばかりのアヴィルに背負わせても良いものか。そんな複雑な悩み。
それをアヴィルは素早く察知して、不安そうな視線に、やっぱりキラリと歯を見せて笑ってみせた。
それで決心がついたのだろう。マリーの口がゆっくりと動く。
「……ハイ、ご迷惑で、なければ、お願いしたい、デス。自由というのは、まだちょっとわかりませんケド、ワタシには、アヴィルさんのような人が、必要な、気がしマス」
「じゃあ、決まりだね。これからも、よろしくね、マリーちゃん」
アヴィルが差し出した手をマリーは、確かにそこにあるもの、ということをじっと確かめて、そっと自分の手を合わせるように取っていた。
成功
🔵🔵🔴
カイジ・レッドソウル
ノルンを選択
薔薇園に誘う
「丁度薔薇ノ季節ダ、彩りガ綺麗ダ」
「薔薇ノ花言葉ハ幾つもアルガ概ね愛に関する物が多い、黄薔薇ハ愛の薄れと言ワレルガ友愛ヲ示すには一番と言われてイル」
薔薇の花を入れたキャンドル作成教室
も体験させて貰いお土産にします。
生花に興味ありそうなら、1本のピンク薔薇を買ってプレゼント
秘密を知っても
「友達なのは変わらない」
と受け止めます
戦闘
ノルンを【かばう】
呪剣を抜き
「彼女ヲ傷ツカセナイ」
切りかかります。
さり気無く出てくるオブリビオンごと【天獄の雷】電撃【属性攻撃】【範囲攻撃】【マヒ攻撃】【なぎ払い】など容赦なく斬りかかる
「早ク逃ゲロ、イツカマタ会オウ」
「約束ダ」と指切り
アドリブ可
●SAVE DATA 3:カイジ・レッドソウル(プロトタイプ・f03376)
人混みの中からズンと突き抜けた体躯は、一種のオブジェクトのように、街の風景によく映えた。足元をちょろちょろと行き交う人の中には通りがけに真上を覗く者もいたが、カイジは別段気にする様子も無い。そんなことは日常茶飯事。もう慣れている。
ただ、人の中を歩く際は、誤って蹴り上げてしまわないよう細心の注意を払っていた。歩くための足の動きに巻き込まれてしまえば、普通の人間なら簡単に吹き飛んでしまう。
それは周りも察していたようで、向かって歩いてくる人々は自然とカイジの前方に道を開けていた。申し訳なさがカイジの心に沁みるが、これも互いの為だった。
かつて、海を割り、民衆を導いた者がいたという。カイジの眼前に広がる光景はまさにそのようで、人海がカイジを避け、左右に割れて道が通じる。
壮観だが気分がいいかと言われると話は別で、カイジは人通りの少ない裏通りへと抜けるべく、雑居ビルの間の小道へと入っていく。
「……ン」
入ってすぐだった。道の中央に一つの影。よく見れば、晴空のように澄んだ青髪の人間が、うずくまるようにして道を塞いでいる。
急病人の可能性がある。カイジはすぐに駆け寄り、声を掛けた。
「ドウか、したノカ?」
反応があれば、と耳を澄ますが、その人物はくるりと機敏に振り向いた。
背後に迫る何かを確認するように、真上に向いた顔。端正な顔立ちの、つり目がちの少女だった。
「……何か?」
「いヤ、どこカ具合デモ悪いノカト思ったのダガ」
「体調に問題は、ありません」
はっきりした声。顔色も普通で、こうして見れば何も問題はなさそうだった。
「ソウだったカ、済マナイ。邪魔をシタ」
うずくまっていたのには別の理由があるのだろうが、そこは詮索しないまま、カイジは立ち去ろうと少女の横を過ぎていく。
「……ちょっと、待って下さい」
何事もなく終わろうとしていた少女との邂逅が、カイジを呼び止める声で引き延ばされる。振り向いたところへ、歩み寄ってくる少女。
「貴方は、この街に詳しい人ですか?」
「……それなりニハ、ナ」
質問にカイジが答えると、少女は徐に着ていたスーツの内側に右手を差し入れて、小さなカードを取り出した。カイジの顔に向けて、ビンと腕を張りカードを掲げる。
「私はノルン・リンカーネイト。人文学者です。現在は世界各国の文化・文明の研究をしており、その一環でこの国に滞在しています」
カードには、ノルンと名乗る少女の顔写真に、大きなロゴマーク。そして見慣れない文字が何列も並んでいた。雰囲気からすれば身分証のように見える。
「この街は研究対象として実に面白いところですね……そこで、現地人を代表して貴方に、この街の案内をして頂きたいのです」
「案内……ソレハ、ドコデモ良いのカ?」
「ええ、どこでも。貴方が今向かおうとしているところでも構いません」
ノルンは期待の眼差しを向けてくる。文化・文明の研究――詳細はよくわからないが、何かの役に立てるのなら、と。
「……ワカッタ」
カイジとノルンの不思議な一日は、ここから始まった。
カイジは一旦当初の予定通り、ノルンと出会った道をそのまま抜けて裏通りに出た。個人営業の飲食店が軒を連ねるが、ここが賑わいを見せるのは日が沈んでから。今はただの通り道として利用する者や、夜の開店に向けて準備を始める店主などがちらほらと見えるだけで、静けさが漂っている。
一人歩きはノルンを連れたことで二人旅へ。並んで歩いてわかったが、ノルンの身長はカイジの半分ほどしかなかった。
「……ところデ、ノルンは何故、アノ場所ニ居タンダ?」
ほとんど足元を見るような格好で、カイジはノルンに話しかける。それに対しノルンは特にカイジのことを気にする風でもなく、真正面を見据えたまま答えた。
「地面に埋まっていた、奇妙な円形の金属塊が気になったので、観察していました」
「金属塊……もしかシテ、マンホールの蓋ノコトカ?」
「マンホールの、蓋……そうですか、なるほど。しかしその、マンホールの蓋とは、不可思議なものですね。人目に付きにくい場所にあるというのに、そのデザインは非常に美しいです」
「……ソウカ」
実際のところ、カイジはあの場所にマンホールの蓋があったかどうかすら覚えていなかった。ノルンの話を聞いて該当しそうなものはそれくらいだと思い言ってみたが、まさかそれを美しいと表現するとは。あっけにとられ、大した反応も出来ずにいた。
「……それで、今はどちらに向かわれているのですか?」
今度はノルンがカイジへ質問を投げかける。
「薔薇園ダ。今ハ丁度薔薇ノ季節ダ、彩りガ綺麗ダ」
「そうですか、それは楽しみです」
楽しみという言葉も、調子はこれまでと変わらない。これまでの口ぶりを見ても、あまり感情が表に出てこない性格なのだろうと、カイジは納得した。
道をジグザグに右へ左へ幾度も曲がり、しばらく歩いてようやく表の通りに戻ってくると、通りを挟んだ正面に薔薇園が見えていた。少し離れた場所にある横断歩道へと回り、入園を目指すカイジとノルンの横を、薔薇園のラッピングバスが通っていく。
入場口には人だかり。列の最後尾につき、他の客と足並みを揃えてゲートの役割を果たす薔薇のアーチをくぐると、目の前には辺り一面に広がる薔薇の花園が広がっていた。王道イメージの赤い薔薇の他にも、ピンクや黄色、白といったバリエーション豊かな色合いの薔薇が緑の中に広がる光景が、地平線を作らんとするほどに遠くまで続いている。
その中を通る観賞用の道を辿りながら、カイジは案内役として丁寧に解説を始めた。
「薔薇ノ花言葉ハ幾つもアルガ概ね愛に関する物が多い、黄薔薇ハ愛の薄れと言ワレルガ友愛ヲ示すには一番と言われてイル」
「花言葉という文化は、非常に興味深いですね。花言葉が一つでないというのは、花から受ける印象を感じ取る人間の多種多様性を象徴しているのかもしれません。そして、色……これも、心情を示すには重要なファクターです。パッション――情熱を示す赤に比べれば、黄色はどこか、健全性……複雑な人間感情を排除した、純粋な関係性を象徴するもの、ともとれそうです」
道の脇に屈んで咲き誇る薔薇に視線を合わせながら、ノルンはどこか学者らしい、独自理論を展開する。小難しい話を並べてはいるが、カイジの話には積極的に耳を傾けていた。
「……この薔薇は、持ち帰ることはできないのですか?」
「ココにあるノハ無理ダガ、お土産トイウノナラ、別ニ用意されてイル物ガアル」
カイジはノルンを連れてここまで歩いてきた道を戻り、その途中、まだ通っていない分かれ道へ入っていく。緩やかに蛇行した道の先にはレストランや売店、資料館といった園内施設が集まっていた。
カイジはノルンを連れ、売店に向かう。薔薇にまつわるグッズが所狭しと並ぶ中には、生花もきちんと売られている。
ノルンが一つ一つ売り物を確認する横で、カイジはさっと一輪のピンクの薔薇を手に取った。
「……コレがイイダロウ」
「……これを、頂けるのですか?」
「アァ、折角ダカラナ」
カイジは会計を済ませると、そのままの状態でノルンに差し出した。巨体を大きく曲げてノルンの顔の前まで下げた手に握られた薔薇を、ノルンはじっと見つめながら、両手をゆっくりと伸ばして、茎を優しく包み込むようにして受け取った。
「ありがとうございます。大切に……します」
薔薇に向けられた表情の中に、ふと微笑みが浮かぶのをカイジは見ていた。
売店を出たところで、来園客の一団が移動してくるのが見えた。その手には皆、同じデザインの袋を提げている。
「何かのイベントでしょうか?」
「キャンドル作成教室ガ行われてイルヨウダナ。丁度先程、終ワッタヨウダ」
この薔薇園では目玉イベントの一つで、開催時間が大きく貼り出されていた。それによると、次の部は三十分後に始まるようだ。
「参加してミルカ?」
「そうですね、興味があります」
キャンドル作成を終えた客に逆らうように二人はエリアを進み、教室が開かれる会場に辿り着いた。会場にはすでに次の部に参加する客が集まっており、カイジとのノルンも参加申し込みを済ませ、会場内に用意された席に着く。
テーブルにはキャンドル作成に必要な道具一式が置かれており、その中には薔薇の花もあった。作成手順が書かれた説明書きを読むと、薔薇の花を入れたキャンドルを作ることができるようだ。
開始時間まで待っていると、二人の後からも参加者が集まり、最終的には全ての席が埋まっていた。キャンドル作成の講師とスタッフが会場前方に登場し、挨拶やら注意点の説明やらを一通り済ませた後、キャンドル作成が始まった。
講師は手順に沿ってゆっくりと全体を説明し、他のスタッフと共に参加者のテーブルを見て回る。
「ロウソクは砕イテオク。溶かす準備ヲ頼ム」
「わかりました」
カイジとノルンは手分けして作業を進める。作成するキャンドルはそれなりに大きく、大量のロウソクを砕く必要があったため、カイジが力仕事を請け負った。
ロウソクを溶かす間、ロウを流し込む容器の準備も進める。ここに薔薇の花びらを入れることで、薔薇入りキャンドルが出来上がるのだ。
様々な色合いの薔薇が用意されており、作成者のセンスが試される。溶かしたロウを糊代わりに容器へ花びらを貼りつけて、ロウを流し込んだ後は固まるのを待つだけ。
「火を灯せば、今日のことが思い出される……こうして自分の手で思い出を形にするのも、またよいものですね」
固まりかけのキャンドルに思いを馳せる眼差しは、どこか儚げな色をしていた。
キャンドルが完成し、先に見た集団が持っていたものと同じ袋を受け取って、二人はキャンドル作成教室を後にした。
「お土産ガ増エテ、ヨカッタナ」
「えぇ、お陰で――」
道すがら話をしていたノルンだったが、これまでほとんど崩れなかった一転、一瞬にして鬼のように険しく変わり、体を強張らせて何かに対し身構えた。
二人の行く手に、ずらりと並ぶ謎の集団。それが来園客でないことは、男女共に統一された赤と黒の武道着に、ステレオタイプの中華系民族をデフォルメした面を被った姿からすぐに理解できた。
それだけでも恐怖ではあるが、ノルンは一際強い警戒心を見せていた。激しく視線を周囲へと振って、さらに別の仲間がいないか確認しているようだった。
「ノルン・リンカーネイト」
面を被った男の一人がノルンの名を呼ぶ。ノルンの知り合い――にしては、ノルンの挙動が明らかにおかしい、とカイジは感じていた。
「ここにも……追ってきたというのですか」
「当然だ。我々は、犯罪者を決して逃がさない」
「……犯罪者? ノルン、ドウイウコトダ?」
聞き流せない言葉にカイジが尋ねたが、答えたのはノルンではなく、ノルンを犯罪者と表現した男だった。
「その女は、過去へ干渉し未来の世界構造を大きく変えようとしている。これは各時代における人類、生物、その他一切へ多大な影響を及ぼす重大な犯罪だ」
カイジの疑問に対する答えのようだったが、カイジには全く理解できなかった。そこへ、ノルンが横から口を挟む。
「こうなっては仕方ありません……なるべく簡潔に話しますが、遥か先の未来、人類は時を越える術を完成させます。それを使い私は、この時代の、この街にやってきました」
「……ツマリ、ノルンは未来カラ来た、トイウコトカ?」
「理解が早くて助かります。そうなりますね。ここからは、何百年も先の未来ですが。彼らは私が生まれた時代の、時空防衛隊……時を守る警察のようなものです。私の動きに気付いて、この時代にやってきたのでしょう」
「……ノルンハ、本当ニ犯罪者なのカ?」
「残念ながら、彼らが扱う法では、そうなっているようです。過去はありとあらゆる未来へと繋がっている……前時代的な発想を頑なに信じて動くしか能のないマリオネットですよ」
「我々は、法に従い犯罪者を裁くのみ」
ノルンの言い方には含みもあるが、何らかの形で定められたものを、ノルンは何らかの形で破っているようだ、ということは把握できた。それを犯罪者と言うのなら、そうなのかもしれない。
一般的な善悪とは異なる気がして、カイジの中に落とし込まれた犯罪者という言葉はどうにも軽かった。ノルンは人を傷つけたわけではない。出会ってから今、この時まで、ざっと見積もっても数時間という程度のほんの短いものだが、その人となりはここまでの振る舞いからわかる。
ノルンは、人を困らせるようなことをする人間ではない。
カイジが動くには、十分すぎる理由だった。
集団が一斉に奇妙な構えをとり、跳躍して上空から、そして疾駆して地上から、ノルンへと襲い掛かるのを、持ち前の超長身を生かし、全身で全て受け止めた。
「彼女ヲ傷ツカセナイ」
カイジは『呪剣アオス・シュテルベン』を抜き、まずは腕で受け止めた者達を弾き、追い打ちをかけるように刃で薙ぎ払った。地上から殺到する敵へは全身から迸らせた電流を走らせた。白昼に飛ぶ迅雷が放射状に広がり、迫った者達へカウンターのようにその体を打った。赤い衣服が黒く焦げたかと思うと、その焦げ跡から閃光と共に炎が立ち上がり、瞬く間に体を焼いていく。
「貴方、どうして――」
「早ク逃ゲロ」
後ろは振り向かず、カイジはただひたすらに、ノルンを狙う敵を薙ぎ払っていく。斬撃を受け、雷に縛られた体が周りの敵を巻き込みながら転がっていった。
「逃げろと言っても……それより、彼らを攻撃した貴方も、彼らに――」
「大丈夫ダ」
自分の身など、どうなったって構わない。それよりも大切なのは。
「ノルンハ、友達。ソレは、変わらナイ。ダカラ守ル」
「友、達……」
ノルンはピンクの薔薇を見る。自作の薔薇のキャンドルを見る。嬉しかった思い出、楽しかった思い出。他の時代の人間と関わる上で感情は不要と考えていたが、それらを見た時に心の中に湧き上がってきた気持ちは、不思議とすんなり受け入れることができた。
ノルンの目の前が激しく光る。カイジの電流が敵を焼き、残滓の炎が広がっていた。薔薇園へと飛び火しないよう気を配り、焼くべきもののみ焼き払う。
ある者は呪剣の露となった。ある者は地へ還る灰となった。
斬り捨てられ、電流を浴び、やがて立ち上がる者は一人もいなくなった。
「……マタ、追っ手ガ来ルかもしれナイ」
敵を殲滅してなお、カイジは戦闘態勢を解かない。
「なら、貴方も――」
「イツカマタ会オウ」
食い下がろうとするノルンに、カイジは手を伸ばし、小指を立てた。パッと差し出された指にノルンはたじろぐが、
「約束ダ」
カイジは言葉を続ける。それを見て、もう何を言っても変わらないと思ったか、
「……わかりました。ところで……貴方の名前を、まだ聞いていませんでした」
「カイジ・レッドソウル」
「カイジ……えぇ、約束です」
ノルンは同じように小指を出し、カイジの小指に絡めていく。
「変な文化ですが、私は好きですよ。この『指切り』は」
数度、腕を振る様に上下に動かして、ノルンはするりと指を離す。
「また会いましょう……未来で、きっと」
ノルンはカイジに背を向け、走り去る。二人で作ったキャンドルと、ピンクの薔薇を、ぎゅっと胸に抱いて。
これからノルンがどこに向かうか、カイジは知る由もない。ただ、時を超える力があるなら、この時代から離れてしまうのが賢明だ。
そして、約束は守らなければならない。カイジは再び剣を取る。
『天獄の雷……始動』
たとえどんな敵が来ようとも、ノルンを守り抜く――それが、この時代に生き、この時代でしか生きられないカイジがノルンへと向けた、最初で最後の約束だった。
大成功
🔵🔵🔵
【注意】
以降のリプレイは通常進行と致します。ご了承ください。
鈴木・志乃
ノルン
とびっきりの、いいものがあるよ?
演劇!
そこは夢の世界
綺麗だけど迫力のある歌と踊り
思わず惹き付けられる魅力的な台詞回し、動き
色とりどりに輝く人間達のドラマ
楽しいのも怖いのも
切ないのも馬鹿馬鹿しいのも
皆に感動を与えてくれる
素敵な場所が劇場なの!
さあ、行こう!
UC【ショータイム】発動
女の子を遊園地に誘う、とある劇中歌を夢の世界に替え歌して【歌唱、ダンス、パフォーマンス、誘惑】
劇場でなら、貴方は誰にだってなれる
どんな体験だって出来る
さあ、もっと、もっと、ワクワクしよう!
【会敵】
歌唱の衝撃波か鎖でなぎ払い
鎖で武器受けカウンター
第六感見切りダッシュスライディングで護衛&回避
オーラ防御
●SAVE DATA 4:鈴木・志乃(ブラック・f12101)
「とびっきりの、いいものがあるよ?」
「気になります。それは何なのでしょう?」
ノルンが興味を示したのを見て、志乃はにんまり笑って言った。
「演劇!」
志乃は花開くように両手を空へ大きく伸ばし、ステップを踏んでくるりとターン。
「そこは夢の世界。綺麗だけど迫力のある歌と踊り。思わず惹き付けられる魅力的な台詞回し、動き。色とりどりに輝く人間達のドラマ」
情緒豊かな歌声に乗せて、志乃は演劇の魅力を全身で表現する。ノルンが目にする全てが志乃の舞台。それを端から端へと余すことなく駆け巡る。伝えたい言葉は時に優しく、時に力強く、動きは繊細かつ大胆に。ノルンへと手を伸ばし、指先に意識が触れるのを感じ取ると、導くように引き寄せて七色の光景を見せていく。
「楽しいのも怖いのも、切ないのも馬鹿馬鹿しいのも、皆に感動を与えてくれる、素敵な場所が劇場なの!」
演者は演者でありながら、その世界に在る一人の人間として、己の生き様を観衆に示す。人生は楽しくもあり、苦しくもあり、悲しくもあり、そして思いの外、あっけない。しかしながら、その全てを全力で駆け抜けた姿こそが、人の心を打つ。
「さあ、行こう!」
今度はノルンの心も体も受け入れるように、志乃は小さな手を取った。見た目通りに軽く、すんなり持ち上がった手に、視線を合わせて微笑みながらとある劇の中に流れる歌を口ずさめば、ノルンは誘われ、一歩、躊躇うことなく夢の世界へ。
「素晴らしいですね……。個を超越していながらも、そこには確かな『個々の人間』が織り成す人間模様が描かれる……。『演劇』というものは、非常に素敵な文化だと思います」
「劇場でなら、貴方は誰にだってなれる。どんな体験だって出来る!」
この場に立てば、ノルンさえも一人の登場人物。志乃のリードを受けて軽やかに舞い踊る。
「さあ、もっと、もっと、ワクワクしよう!」
「……はい」
見つめ合う二人。しかし、物語はそのままハッピーエンドとはいかなかった。
舞台への乱入者。奇妙な面を被った集団が突如として空から現れ、二人を取り囲む。
「……ここも、見つかってしまいましたか」
苦虫を噛み潰したような表情を見せるノルン。ゲームクリアを阻むオブリビオン、大頭頭ズをあくまでも時空を超えてやってきた追っ手と認識するのは、紛れもなく演者の証。
「あともう少しですね、一気にやってしまいましょう」
見渡す限り、どこもかしこも敵ばかり。ならばと志乃は歌にありったけの力を込める。助けたい。守りたい。何もかもを現実とする夢の中ならば、歌がきっと、ノルンを救ってくれるはず――。
舞台女優として歌唱力を存分に生かし、気持ちを、願いを込めた歌は大頭頭ズへ多大な質量となって襲い掛かった。掴みどころのない圧力に耐えきれなくなった者から巨大なハンマーで殴られたかのように高々と弧を描きながら弾き飛ばされた。
衝撃で面をガタガタと震わせながらも必死に食らい付き、その場で踏み止まった者が緩慢な動きから鋭く腕や足を動かし、志乃へ逆襲を図る。躍動感のある全身運動から手刀を繰り出したが、志乃は『光の鎖』をビンと張って受け止めるとそのまま鎖で腕を絡め捕り、余った端の部分をぶんぶん振り回し勢いをつけて真上から叩きつけた。面は頂点から真っ二つに砕け、中の顔面に真上から鎖が突き刺さると、その者は白目を剥いて動かなくなる。
「そこっ!」
守りが薄くなったと見てノルンを狙う別の大頭頭ズへは鎖を縄のように放ち、捕縛したところを引き寄せながらダッシュで詰め寄り足元をスライディングで掬い上げた。大頭頭ズの真下を逃げるように抜けつつ鎖を引けば、足元の支えがなく、宙へ放り出される格好となった大頭頭ズはぎゅるんと回転し地面に面ごと頭を強打。ぐしゃりと潰れて面の中身にも強烈なダメージを受け、びくびくと痙攣していた。
数に劣る守りは鎖のリーチでカバーする。攻めと守りを両立させた志乃の大立ち回りは舞台のクライマックスを鮮やかに演出し、最後の一体は鎖でがっちり固定して遠心力で振り回し、
「これで、フィナーレですね」
面を被った体が高く浮いた。手足をじたばた動かしもがいても、空を泳ぐことはできない。
終幕を飾るようにポーズを決める志乃の後では、高々と舞った大頭頭ズが誰の目にも留まることなく墜落していた。
大成功
🔵🔵🔵
堕神・リカィ
「えーと…。これっていわゆるギャルゲーよね…?」
間違えて迷い込んでしまった件
「けど、ゲームの神として、クリアしないわけにはいかないわ
ね!」
・ヒロインとの行動
相手:雪乃
「ゲーセンって、アンタ知ってる? めっちゃ楽しいのよ!」
ゲーセンに行って、様々なゲームを体験してもらう
警官になったり、パイロットになったり、パティシエにも
彼女がまだ体験したことがないような世界を、ゲームの中ならばそれができる
その中で、きっと雪乃自身がやりたいことを見つけられるはずだから
・戦闘
【オーラ防御)で雪乃を庇って、UCで身体能力を上げて敵を蹴散らす
「彼女が自分の足で一歩を踏み出す、その邪魔はさせないわ!!」
※アドリブ歓迎です
●SAVE DATA 5:堕神・リカィ(レベル0・f16444)
リカィは混乱していた。つまり理解に苦しんでいた。リカィだけに。
「えーと……。これっていわゆるギャルゲーよね……?」
ちょこんと公園のベンチに座る様は借りてきた猫のよう。今は状況把握に脳の処理能力の大半を割いているので仕方がない。
ブランコや鉄棒、ジャングルジムなど、見慣れたようでどこか懐かしい遊具に子供達が群がる平和な日常。決してキノコ型モンスターやカメ型モンスターが襲ってきたり、突如城に呼び出されて魔王討伐の使命を与えられたりということはなく、このまま黙って家に帰ればきっとベッドでぐっすり寝られそうな平々凡々な世界。
そして横には、雪乃と名乗る少女がいた。今もリカィの横顔を見つめ、何かを待っているかのように動かない。この世界に足を踏み入れると何故か目の前にいて、ひとまず一旦ベンチに座った。
初めて来た場所のはずなのに、何故か雪乃というヒロインとの接点、すなわちフラグが存在する。ギャルゲーと呼ばれる類のゲーム世界。
リカィには探し人がいる。自身の権能を奪い、今もどこかの世界を渡り歩いている因縁の相手。キマイラフューチャーでの戦争の最中、一度運よく出くわしたものの、その時は因縁の決着をつけるどころではなく、結局有耶無耶になってしまった。
今度こそ、決着を――そう息巻くも、今いる場所は、どうにも因縁の相手とは縁遠い気がして、肩透かしを食らった気分になる。
それでも、ゲームマスター――ゲームの神を自称するだけの自負があるリカィは、
「けど、ゲームの神として、クリアしないわけにはいかないわね!」
ギャルゲーだろうと何だろうとゲームはゲーム。気を取り直し、雪乃へと顔を向けた。
「ゲーセンって、アンタ知ってる? めっちゃ楽しいのよ!」
「『ゲーセン』……? 聞き慣れない言葉ですが、楽しいことと言いますと、遊戯か何かでしょうか?」
「うーん……まあそんなものだけど、実際にやってみたほうがわかりやすいわ! 今から一緒に行くわよ!!」
リカィはすぐさま立ち上がると、雪乃の手を引いて近場のゲーセン――ゲームセンターへと駆け込んだ。
大量の電子音が耳を打つ。雪乃は圧倒され、目をぱちぱちと瞬かせていた。
「ね! 凄いでしょう!? ここには色んなゲームがあるのよ!!」
リカィは溢れかえるゲーム音に負けないように声を張り、ゲーセンの何たるやを語る。
「あれはシューティングゲームね! 主人公が警官で、街に現れたゾンビをやっつけるの! あっちはシミュレーションゲーム! パイロットになって飛行機の操縦を楽しむのよ! 向こうのはパティシエになって、お店を大きくしたり新しいお菓子を作ったりする、育成型のゲームね!」
聞けば、雪乃は世間一般に疎いと言う。彼女が知らない世界はそこかしこに転がっているが、それら全てに触れられるわけではない。
しかし、ゲームならそれができる。警官にも、パイロットにも、パティシエにも、何にでもなれる。
「ゲームの中なら何もかもが自由よ! その中には、きっとアンタがやりたいことも見つかるはずだわ!」
「ゲームで、世界を追体験する、ということなのですね……これだけの数の世界との巡り合い。『ゲーセン』とは、実に魅力的な場所なのですね……!」
数々のゲームを前に、感銘を受ける雪乃。両手を胸の前で合わせ、穢れ無き眼差しを筐体に向けていた。
せっかくだから実際にゲームを、とリカィは雪乃を連れてゲーセン内を回ろうとしたが、そこへ奥からぞろぞろと、奇妙な面をつけた集団が現れた。
ゲーセンは時に、素行の悪い連中のたまり場になることもあるが、彼らの外見はそれとは比べ物にならないほどに異質だった。
ぎょろりと大きな目をした中華風の面が、雪乃へと一斉に向く。ヒロインの身を脅かし、ゲームクリアを阻む敵。通路の幅などお構いなし。筐体を足場に、面の集団、大頭頭ズが飛び掛かってきた。得物は持たず、徒手空拳にて雪乃へ迫るのを、リカィがすぐさま割って入り、腕をクロスして攻撃を防ぐ。腕の前に薄く張られたオーラの盾が衝撃を吸収し、多方から繰り出された連撃にも、リカィは雪乃の前で踏み止まった。
「彼女が自分の足で一歩を踏み出す、その邪魔はさせないわ!!」
リカィの体が仄かに光り始め、現れる虚数式が帯のように包み込んでいく。大頭頭ズの攻撃に晒され蓄積されたダメージが虚数式により反転し、リカィの力へと変換された。
「そして……ゲームを足蹴にするんじゃないわよ!!」
衝撃を受けた筐体の画面は映像が歪み、固まっていた。リカィはゲーセン内の通路を跳ぶと、真上から殴りつけて叩き伏せる。面などお構いなし。反動で傷つく拳も、【ヴァニトロム・オーバードライブ】により得た生命力吸収能力を以てすれば何のその。わずかな痛みも、次の瞬間には綺麗さっぱり消え去っている。
大頭頭ズはリカィを前にだらりと全身脱力し、攻撃を待った。叩き込まれた拳は確かに面を打ったが、その衝撃は吸収され、気の流れの噴出点、龍穴へと流れ込む。跳ね返る衝撃、それをリカィは、巨大な相手の面を手掛かりに跳び箱の要領で真上へ飛び跳ね受けに回った。凝縮された衝撃砲が龍穴からリカィを狙って真上へと迸るが、一瞬遅く天井を空しく穿つ。
そしてその背後に降り立ったリカィががら空きの背中を蹴り飛ばすと、弓なりに反った大頭頭ズは壁に激突しずるりと床に落ちていった。
相手の攻撃すらも決してゲーム本体へと向かないように立ち回り、リカィは迫る敵全てをなぎ倒していく。
そして全てが終わった頃には、まるで格闘ゲームの主役のように、倒した敵の山の中で勝者の威厳を見せつけていた。
辺り一面がキラキラ輝き、辺りにファンファーレが広がる。
ゲームクリア。それが世界の終焉を告げる鐘の音だった。
成功
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