バトルオブフラワーズ⑧〜ベタ塗り禁止条例
●ブラックアウト・シティ
ビルの立ち並ぶ街の一角。ぴかぴかに磨かれた一面ガラス張りのビルにばっしゃあんと、黒いペンキがぶちまかれる。
「フフフ……これでまたひとつ、黒に染まったでバケッツ」
「カーマッマッマ……黒、それは闇の色……すべてを包み込む宇宙の暗黒の色」
「……このステージのすべてを黒に染めてやるでバチ……いや、やるでゴールド……!」
また一つ、壁に描かれたグラフィティアートの上からぶちまけた黒いペンキでカラフルな文字を塗り潰して、怪人たちは己の手腕を自慢気に語り合う。
「ククク……猟兵共も我らのベタ塗りの速度にはきっと勝てないでバケッツ」
「なにせカマらは包容力に長けた包容力三人衆カマ! 一度に塗れる範囲の広さとペンキの量には自信があるのでカーマッマッマッ」
「そうバ、……そうなのでゴールゴル……お前たちの言う通りボーウル……」
「……自信無いなら、普通に喋ってもいいんでバケッツよ、金魚鉢怪人……」
ブツブツと呟いている金魚鉢頭の怪人の肩をポンと叩くバケツ怪人。包容力に溢れる彼らは仲間の語尾が定まらなくとも気にしない心の広い怪人であった。
「バケツ怪人、釜怪人……こんな金魚鉢を、笑わないでボウル?」
「何を言うカ! マー! 同じ釜の飯を食ったナカマを笑う釜はいないカマ!」
「バケツ怪人、釜怪人……!」
金魚鉢から零れる水に濡れながら、三人は硬く抱擁。
そして包容力に溢れる三人はそのまま、周囲をばっちゃばっちゃと黒いペンキで染め上げながら、猟兵に見つからないよう街を走り抜けて行くのだった。
●修正ペンの用意はいいか
「さぁ、皆の衆──戦であるぞ!!」
大きな声で気炎を吐く甚五郎・クヌギ(左ノ功刀・f03975)は、持っている薙刀の石突でグリモアベースの床をカンと鳴らす。いつにも増してやる気に満ちているのは、彼が意外と綺麗好きだからだろうか?
「先日の一件によりキマイラフューチャーの中枢へ通じるメンテナンスルートが開いて街ごと真っ二つになっているのは知っての通り。そして我々が中枢にいる怪人軍団の幹部の下へ到達するには、まず六つに分かれた『ザ・ステージ』を攻略しなければならない」
「しかし今現在、戦場となっている各『ザ・ステージ』はそれぞれ特殊なルールが適用されているらしい。今回、我輩がゲートを繋げられた『ペイントステージ』に適用されているルールは『街全てを黒く塗られたらこちらの負け』という、至極単純なものであった」
分かりやすいのはいいぞ、と頷くクヌギ。
「街中を黒く塗って回っているのは三体の怪人共だ。奴ら、『包容力三人衆』などと名乗っている怪人はバケツとお釜、金魚鉢の頭をしているから見ればすぐわかるだろう」
しかし、三体がいつも揃っているとは限らない。それぞれで個別に動いている可能性もある。広い街を探索し、いかに早く怪人のいる現場へ駆けつけるかが重要となる。
怪人たちは猟兵の存在が脅威だと分かっているので、猟兵を見ればすぐさま塗るのを止めて戦闘を仕掛けてくることだろう。ただし、限界まで追い詰められた時に怪人が最後の悪あがきをしないとも限らない。街を少しでも黒く染められてしまわぬよう、存分に注意してほしい。
「キマイラそれぞれの色を重ね合わせて出来たカラフルな街こそがキマイラフューチャーであるならば、それを黒一色に塗り潰そうとする奴らの行いは実に許し難いものだ!」
だから、君たちの手で、彼らの筆を取り上げてもらいたい。
朗報を期待していると金色の眼に真剣な色を滲ませながら薙刀の柄をぐるりと回して、クヌギは戦場へと繋がるゲートを開くのだった。
本居凪
戦争ですね! いつもお世話になってます、本居凪です。
今回は一章のみの戦争シナリオなのでリプレイもスピードやや重視です。具体的には来た順に返していければ理想なのですが、執筆時間もあるので(プレイングが来れば)朝か夜にまとめて返却という形になると思います。
いつも通り個人、チーム、どちらの参加も歓迎です。頑張って書かせて頂きます。
●特殊ルールのおさらい
今回の戦場特殊ルールは『クロヌリスレイヤー』。怪人たちはキマイラフューチャーを模したステージ上にあるものをすべて黒く塗りつぶそうとしています。
彼らによって街中がすべて黒く塗られた時点でこちらの敗北。場合によっては例え敵を倒せていても、強制敗北ということもありえます。
怪人によって塗られた場所をどうやって探すか、どうやって塗っている現場に駆けつけるか。今回の戦争に限っては戦い方よりもこちらを重視した方がいいかもしれません。
戦場によってルールも違うので、参加の際はしっかり確認してください。
皆さまのご参加をお待ちしています!
第1章 集団戦
『包容力三人衆』
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POW : バケツ怪人・ウェポン
【バケツ兵器】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : 釜怪人・ジェノサイド
【釜攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : 金魚鉢怪人・リフレクション
対象のユーベルコードに対し【金魚鉢】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
イラスト:まめのきなこ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
リダン・ムグルエギ
広大な街で塗り手を探すなんて…無理でしょ
十分な人手が無いと
というわけで、アタシは動画を投稿するわ
キマフュの新ブーム「カラフルピッチャー」の宣伝動画よ
ルールは簡単、運営がくろーく染めた地面を自分の好きな色に染めるだけ!
ただし、大変な運営役をしてくれている黒に染めてる鬼役の人がいる場合には染めるのは禁止!
皆が近寄らないよう、鬼の位置をSNSで教えてあげよう!
鬼の位置を投稿した人にはカラフルなGOATiaの新作衣装プレゼント!
ってね
そう、流行を操作しての人海戦術で行くわ
アタシにはキマフュで培ったコネ(アイテム)もあるし宣伝を協力してもらうの
当然、猟兵の皆にもこの通知を垂れ流すわ
戦闘は…皆に任せたわ!
●鬼さんこちらと、呼びましょう
「この一帯も俺たちが黒く塗ってやるでバケーーーっ!!」
バケツ怪人が両手で抱えたバケツを思いっきり振り回せば、黒いペンキは今にもバケツから零れそうな程、バケツの中でなみなみと揺れている。
自分を軸にぐるぐると回転したまま、色を塗って進むバケツ怪人が狙いをつけたのは、真っ白で丸くて、つるりとした外壁がまるで卵のような形のオブジェだった。ばっしゃばっしゃと、卵のオブジェへ向かってペンキをぶちまけていくバケツ怪人。
邪魔が入らないのをいいことに、あっという間に、真っ白だった卵を煮卵よりも真っ黒な姿に変貌させてしまう。
「こいつはなかなかに塗り甲斐のある相手であったバケッツ、しかしまだまだ黒く! 黒く! 黒く! この都市のありとあらゆるものを黒く塗ってやるでバッケッケッケー!」
胸を大きく反らして高笑いをするバケツ怪人。その後ろではあの釜怪人と金魚鉢怪人も、真っ黒なペンキの入った自分たちの釜と金魚鉢を抱えて街のあちこちを黒く塗りつぶしていた。
「バケツ怪人、釜怪人、次はあっちの坂を塗り潰してやろう!」
「「オー!!」」
三人の怪人が走っていくのを、リダン・ムグルエギ(宇宙山羊のデザイナー・f03694)は携帯端末の画面から見ていた。短時間で終了する動画として投稿されたそれは、彼女がキマイラたちのSNSへと投稿したある発言への返信として投げられたものだ。『※この後卵はしっかり別の色で塗りました!』というコメントと共に、白から黒に塗られた卵に赤や黄色のペンキがぶちまけられた画像が続く。
【トレンドコンダクター・GOATia】であるリダンの鮮やかな流行操作によって、リダンのブランドのファンであるキマイラたちを中心に、彼らの間では新たなブームが巻き起こりつつあった。
『黒く染められた地面を好きな色で染め直しちゃえ!』
リダンが手に持ったウォーターガンで怪人たちの塗った黒を鮮やかな色で上書きしてみせる。次に画面へ映ったのは、バケツや釜、金魚鉢を抱えて走る怪人たち。リダンが彼らを運営側の用意した鬼役だと告げると、動画にも字幕が浮かぶ。
『カラフルピッチャーに君もなろう!』
『ルールは簡単、運営がくろーく染めた地面を自分の好きな色に染めるだけ!』
『ただし、大変な運営役をしてくれている黒に染めてる鬼役の人がいる場合には染めるのは禁止!』
『皆が近寄らないよう、鬼の位置をSNSで教えてあげよう!』
『鬼の位置を投稿した人にはカラフルなGOATiaの新作衣装プレゼント!』
リダンの運営するブランドの公式アカウントから発信されたこの情報に、アート系パフォーマーのキマイラたちは一斉に外へ飛び出した。
「広大な街で塗り手を探すなんて……無理でしょ。十分な人手が無いと、ね」
『#カラフルピッチャー』のタグで続々と流れてくる動画と発見報告に目を通しながら、リダンは流れるような指さばきで文字を打ち、仲間の猟兵たちへ最新の情報を伝える。適度に動画へコメントを飛ばして煽ったり、怪人へ近づき過ぎないよう盛り上がりすぎるキマイラたちへの注意も忘れない。
「もっともっと、塗ってもらうわよ。デザイナーはね、誰かの「好き」を変えられるの。それに黒一色でシンプルなパターンもいいけれど……私ならもっと上手にこの街を染められるんだから」
だからその分、戦闘は皆に任せたわ!
新たに送られてきた動画へいいねをつけながら、リダンは怪人の居場所を仲間へ送信するのだった。
成功
🔵🔵🔴
山田・キリン
ここか、どんどん黒くなってるステージってやつは!
キリンさんがやってきたからにはもう安心だ、
いつものカラフル楽しいキマイラフューチャーに戻してやるぜ
いや、前よりもっと最高な街にしてやる!
【グラフィティスプラッシュ】で街をキレイに塗りながら怪人たちを探すんだ
向こうも猟兵を始末したいってんなら、
キリンさんが通ったよってアピールでささっと「Killin」ってサインも残しつつ
あれ、キリンさんのスペルってこれでいいんだっけ、まぁいいや次々!
怪人発見したら怪人諸共塗りつぶしてやる!
金魚鉢とかなんのその、キリンさんの塗料は特製の油性塗料だ、水なんかじゃ落ちないぞ!
尻尾洗うの大変なんだからな、こんちくしょう!
レパル・リオン
(※『カラフルピッチャー』に参加するつもりで行動)
イェーーーイ!あたしもカラフルに行くわよー!
塗って塗って塗りまくるっ!ついでに新作衣装もゲット!塗りながらこまめにSNSを確認しなきゃね!
スカイステッパーで空を飛んで、真っ先に駆けつけるわよ!
あ、鬼役発見!投稿しなきゃ…って、よく見たらアイツら、怪人じゃない!
だったら遠慮する必要ないわ!うおおっ!【竜咆拳】でぶっ飛べー!
…え?他の猟兵?え、クロヌリスレイヤー!?
こ、ここは『ザ・ステージ』だったのね!全然気づかなかったわー!
ルク・フッシー
こ、これが…リダンさんの戦術…いや、デザイン…
あの人の事は噂には聞いていましたが…市民という強力な力を味方につけ、かつ人々を傷つけない為の配慮も欠かさない…スゴい…
…ボクも、できる事を全力でやります!
怪人への攻撃は他猟兵の援護に留め、【安心塗装】で街を塗る事を優先します
効率よく塗る為に【ドラゴニアン・チェイン】を使って【ロープワーク】を行い、ターザンのように街中を移動します…この動きも少しは慣れてきたでしょうか
ところで【グラフィティ・スプラッシュ】系統のユーベルコード、強化の対象は自分だけなんでしょうか?味方も強化できるなら、それはかなり有効に働きそうですね…
●ワイルド・グラフィティー
怪人たちによって黒く塗られた街を、キマイラたちがカラフルな色へ鮮やかに塗り替えていく。
ここにもポップな書体で描かれたサインを目にしてより奮起するキマイラがまた一人、長い首をぐるりと巡らせて街に残る黒いペンキの跡を追っていた。
「ここか、どんどん黒くなってるステージってやつは!」
山田・キリン(キリンさんだ・f14194)は力強いライオンの後脚で跳ね、真横に伸びる真っ黒なペンキの線の上から筆代わりの三本の狐尾を走らせる。彩られた尾の先から伸びていく【グラフィティスプラッシュ】のカラフルな軌跡は彼へと力を与え、その筆を走らせるスピードは更に早く、力強くなっていく。
「キリンさんがやってきたからにはもう安心だ、いつものカラフル楽しいキマイラフューチャーに戻してやるぜ! ……いや、前よりもっと最高な街にしてやる!」
その身体に光る星も、飛び散る黄のペンキで尾を引いて。
「キリンさん、ここに参上!……ってな!」
通り過ぎた壁に自分のサインを残していくキリンさん。
(あれ、キリンさんのスペルってこれでいいんだっけ、……まぁいいや、次々!)
「Killin」と、急ぎながらもしっかりとした文字を背に少しだけ心の中で傾げた首も、またまっすぐに伸びて、先を行く。
そんな彼の頭上を文字通り飛ぶように駆けていくピンク色の影。レパル・リオン(魔法猟兵イェーガー・レパル・f15574)はリダンのコーディネートしたイベントに、夢中のようだ。
「イェーーーイ! あたしもカラフルに行くわよー!」
ピンク色の塗料が入ったウォーターガン片手に、黒く塗られた場所を空中から彼女の色で染め上げていく。スカイステッパーで移動する合間にしっかりタグを追いかけて現状把握も忘れない。
どうやら鬼役はここからそう遠くない場所にいるらしい、タイムスタンプは数秒前、障害物の少ない空を走っていけば、次の最新発見者としてレパルの名前が流れるかも!
「よーーーし! まってなさい、鬼ー!!」
気合を入れてもう一段、レパルは二階建ての建物よりも高く跳んで鬼役のいたという場所までまっしぐらに進んでいった。
ファンの多いブランドの新作衣装が景品とあって、彼女のようなアーティストではないキマイラたちも続々と街中でペンキを手にイベントを楽しんでいるらしい。
猟兵ではない純粋なキマイラたちが大勢で盛り上がる様子にやや尻込みしつつも、ルク・フッシー(ただの少年猟兵・f14346)は素直に感嘆の声を漏らした。
「こ、これが……リダンさんの戦術……いや、デザイン……」
それなりに知名度のあるブランドのデザイナー、キマイラならば噂には聞いたことのある相手。この大騒ぎも、彼女の動画が火をつけたといっても過言ではない。
「市民という強力な力を味方につけ、かつ人々を傷つけない為の配慮も欠かさない……スゴい……」
だけど、ルクだって猟兵だ。この世界を守る為にゲートへ飛び込んだのだ。なら、ここで驚いて感心している場合じゃない。
「ボクも、できる事を全力でやります!」
ぎゅっと握った絵筆を振るう。この街を黒く塗りあげている怪人たちを倒すのは、自分たち猟兵なのだから。
周囲を塗り直していくキマイラたちの間を抜けて、ルクは先へ先へと走る。
熱狂するキマイラたちが黒い場所を見つけた端から塗り続けているのもあって、黒く染められた場所は遠目からでも判別しやすくなっていた。そして、拡大し続ける黒い波の最前線。
ここまで近づいたのは、キリンと、レパルと、ルク。他のキマイラたちはマナーを守ってしっかり遠くから鬼役(と説明されている)怪人を写真に撮っているようだ。
「……見つけたぞっ!」
「バッケッツ!? ちぃっ、猟兵風情が、もう追いついてきたのでバケ!」
ペンキの入ったバケツを両手にぶら下げたバケツ怪人は背後から迫る猟兵たちを見て動きを止める。
「あ、鬼役発見! 投稿しなきゃ…って、よく見たらアイツら、怪人じゃない!」
ルクのすぐ傍の地面へと勢いよく着地したレパルが咄嗟に端末を構えて、ようやく相手を認識する。
「わああっ、び、びっくりしちゃった……!」
「我々の作戦を邪魔しようとは不届きな奴等バケ! しかしこのステージ、クロヌリスレイヤールールがある以上、ただではやられはせぬバケッツ!!」
「……え? 他の猟兵? え、クロヌリスレイヤー!?」
驚いた様子のレパル、なのだがこちらの衝撃はまったく別の理由からである。
「こ、ここは『ザ・ステージ』だったのね! 全然気づかなかったわー!」
ピシャーン!と後ろに白い稲妻が走りそうな顔で、赤い瞳を見開くレパル。しかしそれもすぐに怪人を見つめてきりりと引き締まる。拳握ってファイトポーズ、魔法少女のようなひらひらした赤い衣装を着た彼女はしかし、格闘系魔法少女であった。
「だったら遠慮する必要ないわね!」
「小娘の癖に小癪なことをいうバケ……しかしそれも若さ故の自信バケッツ、我らにもそんな時代はあったバケッツ……」
うんうんと頷くバケツ怪人だが、それは包容力というよりも、油断や隙と呼べるものではないだろうか。
もちろん、そんな目に見えた攻撃のチャンスを見逃す猟兵たちではない。
「もう黒くは塗らせないぞ、キリンさんがそのバケツの中身ごと塗り潰してやるからな!」
「うおおっ!【竜咆拳】でぶっ飛べー!」
「いやっ、ここはもう少し待っても良いバケッツ!!? はーーっ、くらえ、バケツ旋風!」
バケツ怪人は二人分の攻撃を避けながら両腕のバケツをぐるぐると回転させ、そのバケツ兵器から飛び出す黒いペイント弾が猟兵たちへと立て続けに発射された。
「バケツの利点、それは許容量の多さ! そして持ち運び安いからこその安定! 命中精度ならば包容力三人衆随一バケッツ!」
解説しながらもぐるぐると腕を回し続けるバケツ怪人。どうやら腕を止めると攻撃も止んでしまうらしい。
だが、猟兵たちも負けていない。バケツ怪人の放った攻撃が彼らへと届く前に、編んだロープにターザンよろしく掴まって衝突地点へ割り入ったルクと、彼の【安心塗装】が塗られた大きな看板がペイント弾を跳ね除けるように二人の壁になったのだ。
「ふ、ふぁ~……こ、これで、どうでしょう!」
ロープに揺られて振り子のように揺れながら、ルクがキリンとレパルへ筆を振り上げる。地形の質を変えるユーベルコードは、己の内から発生するもの。人それぞれに影響を受ける色は違えども、地形を無害化させるなら、敵の攻撃を受け止める──このような使い方だって出来るのだろう。
「おうっ、ナイスペイントだぞ!」
親指立ててルクのガッツを称えるキリンも、自分の尻尾から飛ばした三色の塗料をバケツ怪人へと浴びせる。キリンさん特製の油性塗料はべたりと顔のバケツを一瞬でトリコロールへと変化させた。だがその塗料はいくら擦ろうともまるで取れない。
「うおっ、なんだバケッツ、このペンキ……とれ、とれないバケッツ??!」
「当たり前だぜ、キリンさん特製塗料は水なんかじゃ落ちないぞ! だから尻尾洗うの大変なんだからな、こんちくしょう!」
命中したことに胸を張りつつも悔しそうなキリンさん。今日は何色のペンキをその尻尾で塗ったのかは、あまり考えたくなさそうだ。
そしてあたふたとするバケツ怪人に飛び込んでいくのは、ピンク色の小さな影。
「隙、見たりーーっ! でりゃーっ!」
溜めに溜めた気合と共に正拳突き!
レパルの一撃に伴う衝撃波が周囲を揺らして、バケツ怪人はその両腕に掛けたバケツもろとも、姿も見えないほど遠くへ吹っ飛んでいったのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
櫟・陽里
了解、つまり走り放題って事だなっ!
広い街を走って探索するにも
仲間からの情報を元に急行するにもバイクってのは便利なもんだぜ
トライアルって知ってるか?バイクが岩も崖も登るんだ
階段も塀も余裕余裕
街の高い所に登って状況確認とサイバーアイで地形のインプット
目視と味方からの情報を整理
参加者と通信できるなら手分けの相談をして敵の所に急行だ!
兵器載せてない俺にできる事と言ったら体当たり位のもんでさ
高所から一気に駆け下り建物屋上からの大ジャンプでバイクの質量をぶつける
黒ペンキでタイヤが滑るかもしれないなー止まろうと思ったんだけどなー当たっちゃったなー?
滑る路面も面白いもんだ
円形ターンで敵を吹っ飛ばす
とんでけー!
琶咲・真琴
【WIZ】
むむ
敵さんを倒さなければいけないし
この小さな街を真っ黒にしちゃいけない
やることがたくさんありますね
敵さんや黒く塗りつぶされた場所は第六感・野生の勘・聞き耳・視力で探しつつ
familia pupaも念動力で上空に揚げて索敵
見つけ次第、ダッシュで追跡
神羅写成・彩色演舞を
早業・高速詠唱・範囲攻撃・力溜め・全力魔法・2回攻撃でばら撒き
敵さんの黒はボクのアートで塗り潰していくのです
できる限り広範囲を塗り潰せるように念動力も使う
こういうゲーム、やったことがあるのです
その戦闘知識と学習力を活かして
地形の利用や誘導弾、フェイントもしていく
金魚鉢はグラップルとカウンターなどで阻止
アドリブ
連携大歓迎
ルフトゥ・カメリア
……たっく……キマイラフューチャーの戦争ってどうしてこう緊張感ねぇんだよ……。
取り敢えず、飛んで上空から見てみることにする。色が変わってるの、一目瞭然だからな。
【空中戦、第六感、祈り】で多少見付けやすくなると良いんだが。
見付けたら、塗ったあとを少し離れて辿るように上から塗り替えてくか。
ついでに、上空からの写メ撮ってSNSに流しとく。
黒く塗られた地面をカラフルに塗り替えろってイベント扱いにでもしておくさ、キマイラフューチャーの奴らこういうの楽しむだろ。遊びの方が行動早いだろうしな。
但し、黒く塗ってる奴らに手出しは厳禁、と。……やってることがどんなにアホくさかろうとオブリビオンだしな、一応。
●黒を追いかけろ!
高所からの観察、数多の眼を使った広域探索。それぞれの手段で怪人を探す猟兵がいる一方で、街中を疾走するのは櫟・陽里(スターライダー ヒカリ・f05640)と愛機、宇宙バイクのライである。
「ヒューッ! やぁっぱ、走り放題ってのはいいなっ!」
都市型リゾートとして作られた街である。多少周りに歩行者が多くとも、彼の愛車が走るには申し分ない道幅があった。視界に見えるルートはGGサーキットへインプットしたばかりの最新情報。新たな怪人の出現情報があった場所を示すマーカーまで一直線に、目の前を塞ぐ壁も塀も乗り越えて陽里はひた走る。
「──おっ? おーい、そこの人!」
進む先、やや遠くの空に浮かんでぐるぐると何かを探しているような片翼の人形を見つけた陽里がその中心地帯へ向かえば、そこには難しい顔で悩んでいる琶咲・真琴(今は幼き力の継承者・f08611)の姿。
「もしかして、あなたも猟兵さんですか? あの怪人たち、このすぐ近くにいる気がするんですけど……どっちかなって迷ってしまって」
陽里もバイクに乗ったまま見渡せば、周囲の壁にも同じ黒いペンキが互いにもつれあうように、波状にぶちまけられていた。
場所は丁字路、その中心。右か左か、怪人はどちらへと行ったのか──手分けをするかと、周囲の地形情報を持つ陽里が言おうとした矢先。
「見っけたーー! こっちこっち、まだ黒エリアあったよー!」
「……まだあった、ということは、向こうにはもう黒く塗られた場所はなさそうですね」
「……つまり怪人はこっちの道、だな!」
片方の道から大きな刷毛を手に現れたキマイラの大声が、場を覆っていた空気を盛大に砕いていく。見つめていた壁からお互いに目を合わせて、逆の道を同時に見て。
響くバイクのエンジン音。走るよりは速いからと、今だけの二人乗り。黒い波を追いかけて道なりに進めば進むほど。周囲で盛り上がるキマイラたちの歓声とは違う──激しく争うような音が、二人の耳にも聞こえてきた。
●世界を染める、君の色
「はっ、アホみてぇな見た目の奴に負ける気はしねぇぜ!」
その第六感の高さとどこへとも知れぬ祈りが、確かなどこかへ通じたのだろう。幸運にも怪人を発見したルフトゥ・カメリア(月哭カルヴァリー・f12649)だが、彼は一人で釜怪人、金魚鉢怪人と相対していた。
「アホとは何カマ! 歴史あるこのブラックでヘヴィなフォルムを前にしてーっ!」
「落ち着くんだ釜怪人、沸点低め! 低めで!」
(……たっく……キマイラフューチャーの戦争ってどうしてこう緊張感ねぇんだよ……)
少々煽ってみた程度でこの沸騰具合には、ルフトゥの口からも思わず吐息が漏れ出よう。この世界では見かけない人間そのままの姿に黒い翼、その体の部位で灯る空色の焔、カラフルに染まった街中よりもこの黒一色の戦場の方がしっくり来てはいるが、それはそれで、沈んだ色ばかりの昔が思い起こされそうで、やや不愉快でもあった。
なら、街中で見かけたキマイラたちの様に、鮮やかな色で上書きしてやろう。ルフトゥの体に残された古傷を引き裂いて、溢れ出す地獄の炎は彼の体を伝って下へ、下へと流れて落ちていく。それは空を映した、花の色をして。
「花開け、地獄は此処だ」
怪人たちはざわりと揺らめくネモフィラを幻視する。
「アアツ、熱熱、アッツ!!?」
「落ち着くカマ、金魚鉢怪人! ぐっ、これしきの炎……!」
水を頭に抱えていても、直接燃やされるのには弱いらしい。金魚鉢怪人はあたふたと炎を前に逃げ惑うが、ルフトゥの炎は途絶えることなく彼を追いかける。釜怪人も彼を助けようとその手に持った釜で殴りかかって気を反らせようとするが、ルフトゥの意思でのみ消える炎が消える様子はまるでない。
「こうなれば今こそ金魚鉢の真骨頂を見せる時、だっ!」
きらりと金魚鉢を光らせて、金魚鉢怪人がその手に空っぽの金魚鉢を取り出した。
「これで貴様の炎など消してや………」
「や?」
「───……ぁぁあああーーーー!」
絶叫しながら、バイクが飛んでいた。いや、飛んできた。
「くら、えええええぇぇっっ!!!」
そう。陽里と真琴の乗った、ライである。
燃え盛るネモフィラの草原へ勢いよく飛び込んできた彼らは盛大な音と共に、ぐるぐると円を描くように周囲を走る。突然現れたバイクに怪人たちは呆気にとられ、一瞬動きを止める。それを見逃さず、真琴は舌を噛みそうになりながらも一息に詠唱を完成させた。集まる魔力で、彼のモコモコした白いうさみみがふわりと浮かぶ。
「そこ、今! この世を彩りしものよ、舞い踊れっ! ―――神羅写成・彩色演舞っ!!」
陰陽五行、五色を基本として移り変わる色。真琴の放った魔法弾は命中した場所へと色を与えていく。
(色を塗って、塗り返して……こういうゲーム、やったことがあるのです)
その時はここまでアスレチックな要素は無かったが、これはこれでVRのレースゲームを体験しているような感じだろうか。バイクを操る陽里からも、喜の感情が見えそうな気がする。
「いやいや、止まろうと思ったんだけどなー、当たっちゃったなー?」
黒いペンキに足を取られてなどと口に出してはいるが、陽里も高層からの大ジャンプには内心では叫びたくなるほど高揚していた。
(滑る路面も面白いもんだ!)
滑るタイヤの黒い痕を残しながら、怪人へとバイクで体当たり。目の前で燃える炎、しかしその炎は決して彼らを燃やさない。むしろ怪人たちの目前で広がって、こちらの攻撃の援護をしているようでさえある。
目まぐるしく変わる視界で探した姿、炎を操るルフトゥへと陽里は手を軽く振ればこちらの声無き声が伝わったか、ターンの瞬間に見えた彼の顔、愉快そうに赤椿の瞳も笑っていた。
派手に燃えて、回って、弾けて。黒かった場所は一転、華やかに色付いて。猟兵たちの攻撃は怪人たちの体力をじわじわと削り、その頭部に掲げた器へと罅を入れていくのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
三千院・操
ルークくん(f06946)と!
ベタ塗り、ねぇ。もっと綺麗な色だったら良かったかもだけど、黒塗りはちょーっと頂けないかなぁ。
黒は好きな色だけど、それとこれとは話がべつ!
それにこのまま放置するのは良くないんでしょ? だったらさっさと終わらせなきゃね!
【蠅の王】を使うよ!
同時に召喚された眷属を使って索敵! 見つけたらルークくんに共有して『葬送曲』で射出した糸を利用して接敵するね。
戦闘は【蠅の王】の腐敗の吐息を主軸にヘイトを集めるように立ち回るよ!
『葬送曲』で敵を盾にしたり薙ぎ払ったりして、できるだけ派手に戦って注目をおれと蠅の王に集めたいな。
……え? 黒インク? まぁ、ちょっと興味はあるよね。
ルーク・アルカード
操(f12510)のお兄ちゃんと参加。
【心情】
お家とか壁に落書きしちゃだめなんだよ?
真っ黒だけだと寂しいのに何で黒だけ使うんだろ?
【探索】
聞き込みは操のお兄ちゃんにお任せ。
高いところから見渡して騒ぎが起きている場所へ向かう。
移動手段はパルクールみたいに移動所作に重点を置き全力『ダッシュ』。
【戦闘】
武器に『吸血』させ、『生命力吸収』させ、『武器改造』する。※形状はお任せ
『忍び足』で『目立たない』ように近づき、背後から『暗殺』を行う。
初撃以降は『フェイント』を交えての『だまし討ち』。
【他】
最後に不慮の事故で真っ黒インクを全身に被ってみたいです。
●君だけの色、僕だけの色
「お家とか壁に落書きしちゃだめなんだよ? それに、真っ黒だけだと寂しいのに何で黒だけ使うんだろ?」
キマイラも怪人もそろって街中を色とりどりに着色している光景に、むむ、と赤いマフラーに顔を埋めて悩む様子のルーク・アルカード(小さな狩人・f06946)、そのふわふわの頭に手を置いて、三千院・操(ヨルムンガンド・f12510)も頷く。
「ベタ塗り、ねぇ。もっと綺麗な色だったら良かったかもだけど、黒塗りはちょーっと頂けないかなぁ」
「でも、操のお兄ちゃんも黒いの……は、好き、だよね?」
隣で怪人の暴挙に眉をひそめる操の服装もまた黒をメインとした色彩で、それなのに否定するような言葉を述べた操に対して浮かんだ疑問で、ルークはまたマフラーに手をやった。
「確かに黒は好きな色だけど、それとこれとは話がべつ!」
「ふぅん……?」
黒と紫、三千院・操という男が常に纏うあの色と、彼らの広げる黒は何が違うのだろう。わかるような、わからないような。自分の好きな色ならどうだろうとルークは自分の持っているクレヨンの色を思い浮かべてもみるが、一色だけじゃやっぱりおえかき出来ないよね、と思うばかりで答えには辿りつかない。
(それに……僕の好きな色って、なんだろう?)
困ったように眉を下げて赤いマフラーに埋もれたままのルークの髪を手で梳いてやってから、操は座っていた高いビルの縁で立ち上がった。
ビルの上から見下ろしたザ・ステージの中央。猟兵と怪人の戦いで上がる光も真っ黒な地面もここからならよく見えた。
「それにこのまま放置するのは良くないんでしょ? だったらさっさと終わらせなきゃね!」
大きく声を上げて腕を広げた操の後ろから聞こえてくるのは、彼が開く門の向こうに住まう者の眷族たちの存在を示す音。低く重い蟲の羽音。
「来なよ、魔王。悪食の、蠅の王」
操がまるで指揮者の様に白い手袋を振りかざし、指先の黒い爪で悪魔の様に指差せば、魔王の眷属である黒蠅が我先にとキマイラフューチャーの空へ広がっていく。グローブから射出される鋼の糸をビルからビルへ渡して身を翻す操の姿は、さながら都市の空へ糸を張る蜘蛛が如く。
「……ん、そう、だよね」
埋もれていたマフラーをもふ、と一撫でし。顔を上げた時にはもう、彼の周囲に漂っていたぼんやりとした空気は霧に散って、ルークはただ敵を倒す狩人の顔になる。体を低く屈めて駆けだすルーク。操の後を追いかけるように、脇目も振らずただ走って。
──戦場へ、黒と白が入り混じる。
「じゃあ、喰われる準備はいい?」
にやりと笑った黒と紫を纏う男の背後、巨大な蠅の王の吐息は腐敗を招く。乾いた黒いペンキの上を紫の風が撫でていく先からぶくぶくと泡立ち、腐った水の悪臭が周囲に立ち込めていった。
毒々しい空気の中で伸びる鋼糸は怪人たちの足元を薙ぎ払い、絡めとる。操が前へ出れば、糸の光を隠すように蟲共が密に集まって怪人たちの視界を眩ませる。怪人たちが近づこうとしても、背後に控える蠅の王の腐った息がそれを躊躇させた。
飛び回るしつこい虫のように攻撃を繰り出す操には怪人たちも一筋縄ではいかないと意識を向けるが、彼らの敵は一人では無い。
「……ごめんね?」
金魚鉢怪人は、小さな声を背後に聞く。
急いで振り返った後ろ、忍び足で近寄ったルークが手に持っているのは赤く染まったダガーだ。その瞳は【告死・奪命乃誅戮】の影響か、感情が無い、硝子玉のような瞳に変化していた。
何度も何度も繰り返してきたのだ、意識せずとも、人の仕留め方をこの身体は覚えている。機械のように正確に、少年は背後からでも人体の急所を貫いたのだった。
「──怪人、金魚鉢怪人!」
「釜怪人、クッ、俺の中の金魚ちゃんはまだ無事か……?」
「金魚は、金魚は……心配するなカマー……!」
釜怪人は金魚鉢の中を見た。金魚は白い腹を仰向けてピクピクとしていたが、釜怪人はあえて金魚鉢怪人にそれを伝えずに言葉を飲み込むのだった。
「流石我らの中でもとびきり包容力のある釜怪人だな……前に食わせてくれた炊き立ての米も、美味かったぞ……」
がくりと崩れ落ちそうになる金魚鉢怪人に肩を貸しながらも、まだ釜怪人は猟兵たちに勝つことを諦めてはいない。
「まだ戦えるカマ、せめて最後にその金魚鉢を輝かせるカマ!」
がしりと怪人の頭の金魚鉢を抱え込み、猟兵たちと向ける釜怪人。最早立つのもやっとなのか、金魚鉢怪人も抗うことなく残った全力を蠅の王へと向けて放った。
「蠅がなんだ! こっちは魚だーーー! 喰っちゃるぞ!!」
太陽の光を受けて輝く金魚鉢。光の球体となった金魚鉢が蠅王の腐息を浄化していく。清々しい風の中を釜怪人も黒く鈍く光る釜を抱えて猟兵たちへ向かって突撃を仕掛ける。
「せめてカマが、カマだけになってもこの街を黒く塗りつぶしてやるカマーー! ニューカマーには負けないもん!!」
釜を構えて振り回す、超高速にまで至るその動きは当たればすべてをジェノサイドするだろう。重い物を振りかぶって下ろす風の音がビュウビュウと離れた場所まで聞こえていた。
「うわ、はっやーい! でもねぇ、ざーんねーんでーした~っ!」
子どものようにはしゃぐ声。操の赤い瞳が凶暴な光を宿す。牙を剥き出し、獣の笑みが紡ぐ糸、さあ、葬送曲を奏でよう。
釜怪人の腰が鋼糸で引き留められる。勢いに反った肩へも伸びた糸は幾重にも巻き付いて、がっちりと上下する腕の運動を止めてしまう。
「ルークくん、やっちゃってー!」
「………うん!」
ただ一度、最初で最後の応答。
蜘蛛の糸に絡まれて動けない釜怪人の懐へと、ルークは赤いマフラーをなびかせて素早く駆ける。怪人が防御しようと盾のように構えた釜も、滑りこむように体を低くして潜り込んでしまえば、狙うべきものはすぐそこだ。
ルークの突き出したダガーの鋭い一撃は狙い澄ましたように、怪人の体へと吸い込まれていった。
「く、黒こそ、いちば……いちばん……だ……!」
膝をついて事切れる釜怪人。しかしその肉体が虚ろの海へと消えていく前に、頭の釜にかかっていた蓋が斜めにずれて中身が零れだしていく。
「わ? ……わぁ!」
流れてきたのは黒い塗料。途中で切らさないように、釜の中へいっぱいに溜めていたのだろう。どばどばと流れてくる黒色でルークの白い毛並みは頭から真っ黒になってしまった。ルークは宝物の赤いマフラーだけはなんとか守ろうと腕で頭を庇うが、そうすればそうする程に彼の手も真っ黒に染まってしまう。
わたわたと困惑する彼を救ったのは、操だった。彼はその場で動けないままになっていたルークの体を抱えて倒したての怪人から引き離す。
「あーあ、思いっきり真っ黒だねぇ」
「お兄ちゃん、た、たすけて……」
「こいつもしぶっといな~……まぁ、ちょっと興味はあったんだよね、このインクにも」
「……操お兄ちゃん?」
わきわきと両手を動かして、にやにや浮かべた悪戯小僧のような笑顔。半分と言わず釜の蓋を全部取っ払って、両腕をどぼんと、勢いよく。
飛び散る黒いインクは腕どころか、顔にまでべたべたとひっついている。その勢いたるや、近くにいたルークにも余波が及んでしまう程。
「うー、全部真っ黒だよ……」
「うわー、意外と冷たくない、っていうかなんかぬるくて、ちょっと楽しくなってくるんだけど!」
沈むルークと対照にはしゃぐ操の声は明るい。
結局、怪人が消滅するまでしばらくの間、釜の中にあった黒インクは操の手で弄ばれていたのだった。
黒く染められた『ザ・ステージ』。しかし今や街中は猟兵やキマイラたちの手で鮮やかな色に染まっていた。それぞれの色は主張も激しいが、なぜかこの世界においては調和が取れているようにも見えるのは、きっとここが個性を尊ぶキマイラフューチャーだからだろう。
最後に残っている黒い塗料を皆で塗り潰して帰ろうと、猟兵たちも各々の道具を手にして街へと飛び出していった。
まだこの世界を覆う危機は残っているし、戦争も続いている。
だが、この騒々しい街が騒々しくてカラフルな新しいリゾートスポットとなるのも、きっとそう遠い未来の話ではないだろう。
この世界へどんな未来を描けるかは猟兵たちの腕次第。
だがこの街のように未来もきっと──明るい色で、満ちている。
大成功
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