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バトルオブフラワーズ⑧〜地獄へようこそ

#キマイラフューチャー #戦争 #バトルオブフラワーズ

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●邪魔すんなら容赦しねえぜ
 この辺りは今からオレらの縄張りだ。
 文句があんなら聞いてやらねえこともねえが、話が終わるまでおまえがそこにいられるかは保証の限りじゃねえな。とっとと帰ったほうが身のためだぜ。
 オレたちがここを塗り潰すのが気にいらねえってのか? 黒は困るって?
 そんなこと言ったって、ここらを真っ黒にするのがオレたちの仕事だからよ、しょうがねえよな。おまえにゃ関係ないだろ? 関係ある? 知らねえな。
 邪魔するってんなら相手になるぜ。まあ、おまえの鼻がいつまでもつかはこっちの知ったこっちゃねえからな。
 オレたちは『ペンタトゥミディア』。オレたちに手を出すなら覚悟しな。

●鼻をころす気か
 ガチャガチャのカプセルかなってぐらい真っ二つに割れたキマイラフューチャー。
 この世界の滅びを防ぐためには、コアであるシステム・フラワーズへ侵攻しなくてはならない。それには敵の拠点である6つのザ・ステージを制圧し、取り戻す必要がある。
 で、あるザ・ステージの予知をしたテス・ヘンドリクス(人間のクレリック・f04950)は途轍もない渋面だった。
「いやもうほんと……頼みにくいっていうか……」
 いつになく歯切れの悪い口調には理由がある。
 このステージはキマイラフューチャーの街並みを模した戦場になっている。そして適用される戦闘ルールは『クロヌリスレイヤー』。戦場となっている街並みを真っ黒に塗り潰されたら猟兵たちの敗北だ。
「敵は集団なの。だから黒く塗りつぶされている場所を見つけて、そこにいる敵を片っ端から撃破していくことになるんだ。あっちも見つかったら応戦するから……」
 相手が塗り潰すことより戦闘を優先する点は、幾分猟兵にとってはやりやすい点だろう。しかし問題は敵の特性にある。
「……こいつら……ほぼカメムシなんだよね……」
 なにしろ臭う。どう取り扱っても臭う。触らなくても臭う。
 十数匹いる集団敵だが、幸いにしてワンパンで倒せる。しかし倒しても臭う。
 そしてタチの悪いことに、こいつらはその臭気で街を黒く染めるのだ。
 習性は昆虫そのものなので、街のそこらじゅうで群れている。効率的に発見して撃破していくことが重要だ。もちろん数が多ければ多いほど臭いもひどい。
 地獄である。
「自分が行かないでこんなの頼むの本当にゴメンなんだけど、うん。でもお願いする。こいつら見つけて絶滅させてきて欲しい……」
 ステージの街じゅうが真っ黒に塗り潰されてしまう前に、どうあっても倒さなくてはならない。臭いなどには負けない猛者が必要なのだ。
 求む、鼻の犠牲を顧みない勇者。切実に。


六堂ぱるな
 はじめまして、もしくはこんにちは。
 六堂ぱるなと申します。
 拙文をご覧下さいましてありがとうございます。

●ご注意!
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「バトルオブフラワーズ」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

●状況
 こちらのザ・ペイントステージのルールは『クロヌリスレイヤー』です。
 キマイラフューチャーの街を模した戦場を闇のような黒に塗り潰されたら『敗北』です。全てが黒く塗り潰される前に、集団の敵を戦場の各所で発見し撃破して下さい。

 基本的に塗り潰されている場所を見つけ、居合わせた敵を撃破することになります。
 より早く駆けつける方法や敵を早く探し出す方法があれば、あまり臭い思いをせずに戦いを終えることができるでしょう。

 皆さまのご参戦をお待ちしております。
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第1章 集団戦 『群れを成す者『ペンタトゥミディア』』

POW   :    臭気放出(臭い)
【凄まじく不快な臭気】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    絶望的な余韻(臭い)
【十秒前に攻撃されたかの如く臭いを撒きつつ】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    バッドスメル(臭い)
【どこ】から【ともなく耐え難い臭気】を放ち、【不快感】により対象の動きを一時的に封じる。

イラスト:笹にゃ うらら

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

黒川・闇慈
「黒は個人的に好きな色なのですが……ほうっておくと敗北するとあれば仕方ありませんねえ。クックック」

【行動】
wizで対抗です。
カメムシの匂いというのは水で洗っても落ちにくいのですが、なんでも界面活性剤で効率よく落とすことができるのだとか。また、熱で揮発させるのもよいそうです。
ですので食器用洗剤のボトルを投げつけつつ、属性攻撃、全力魔法の技能を活用した炎獄砲軍を使用します。
界面活性剤と炎による熱、これでどうにか匂いを抑えたい所ですねえ。

「カメムシもこのサイズだと迷惑極まりないですねえ。クックック」

【アドリブ歓迎】


ユーフィ・バウム
※アドリブ、連携大歓迎です。

街を真っ黒に塗り潰すなんてさせるわけには。
臭いなんてへっちゃらですよ!
【覚悟】を決め【勇気】を持ち、挑みましょうか

街のMAPはテスさんの説明と、【世界知識】で頭に入れておき、
街を歩きつつ敵を発見⇒【ダッシュ】で迅速に駆けつけ
撃破を繰り返していきます
敵に対しては武器に【属性攻撃】虫が弱いだろう氷系を付与し
【なぎ払い】【衝撃波】で
なるべく多くの敵を一度に倒す

迅速に敵を補足すべく、人が大勢集まる場所等
ある程度アタリをつけ歩いていきます
【野生の勘】で何か閃くと嬉しいですし、
【動物と話す】ことで敵の場所がわかると尚嬉しいですね

共に行動する猟兵と情報共有し、速やかに動きますよ!



●Bad smell,Bad Luck
 街のどこに『ペンタトゥミディア』がいるかは、上から俯瞰しただけではわからない。確実に居所を掴もうとするなら、街の黒く染まった場所を探すことになる。しかしそれを許せば、恐らく街はあっという間に黒と耐えがたい臭気に包まれるだろう。
「街を真っ黒に塗り潰すなんてさせるわけには。臭いなんてへっちゃらですよ!」
 決して折れない、という点ではユーフィ・バウム(セイヴァー・f14574)の勇気は芯が通っている。ただ問題は、折れないにしろ臭いことには違いないということで。
「……へっちゃらですが、すごいですね……」
 それが悪臭に対するものか、文字通り墨でも浴びたように黒く染まった街角を指したものかは判断が難しい。そしてこの状況を楽しんでいるかにも見える黒川・闇慈(魔術の探求者・f00672)が、美貌を楽しげに歪めてみせた。
「黒は個人的に好きな色なのですが……ほうっておくと敗北するとあれば仕方ありませんねえ。クックック」
「ええ、ご協力をお願いします。でも不思議なほど動物がいませんね?」
 このかりそめの街の地図は頭に入れてきた。しかし街はがらんとして、人はおろか犬も猫も鳥すらも姿を見ない。
「話を聞きたいと思っていたのですが……」
「この臭いで逃げてしまったのでは?」
「はっ?!」
 闇慈の仮説を聞いたユーフィがぽんと手を打つ。そもそも人がいたかもわからないが、街に何もいないのなら『ペンタトゥミディア』がどこから黒く染め始めるか。
 夜なら灯りに集まるだろう。昼ならば――? 勘が、囁く。
街を見渡し、立ち並ぶ同じ形の建物の群れを見て、銀の髪を翻しユーフィは走った。
「あの建物の、ベランダへ!」
「そういえばカメムシが嫌われる一因に、『洗濯物につく』がありましたね」
 呟いて闇慈が追いすがる。
 団地の一角は既に黒く染まり、尚もその版図を広げつつある。そのはるか先をダッシュで駆け、ひと跳びで三階のベランダへ達したユーフィは、既に拳を固めていた。
「行きますよぉっ! これが森の勇者の、一撃ですっ!」
 視認も難しいほどの拳撃は、そこにいたカメムシ数匹をベランダごと叩き潰した。
 同時にむわっと激しい刺激と悪臭がたちこめる。息の詰まる空気は更なる追い打ちをかけられ、耐えがたい臭気がどこからともなく襲いかかってきた。
 どうやらあの『ペンタトゥミディア』たちのガスは、液化するとかかった場所を黒く染めるようだ。特殊な個体なのかもしれない。
「くうっ……!」
 目に痛みを感じたユーフィの動きが鈍る中、羽音をたてて数匹のカメムシが飛び来る。
 その瞬間、突然粘性の高い液体がぶちまけられた。食器用洗剤だ。
「カメムシの匂いというのは水で洗っても落ちにくいのですが、なんでも界面活性剤で効率よく落とすことができるのだとか」
 かく語る闇慈の鼻や目も、風にのって迫りくる臭気を察知しつつある。涙目のユーフィが直撃をなんとか躱して跳び退くと、変わって彼は前へ出た。
「……そういうものなのですか?」
「ええ。また、熱で揮発させるのもよいそうです――さあ」
 闇慈は全力をもって魔力を紡いだ。焼けつくような熱を帯び、魔力は更に凝集する。
「戦場を満たすは灼炎の王威なり。一切全て灰に帰せ、インフェルノ・アーティラリ!」
 三十を超える炎は彼の意のままに踊り、密集するカメムシたちめがけて飛びこんだ。
 紅蓮の業火が四、五匹のカメムシを飲み込む。かつて人は雷を神の火と呼んだが、この炎が天の主のものでないのなら、戦場の神のものだろう。
 敵をほとんど蒸発させながら荒れ狂う炎はしかし、団地そのものは焼くことなくふつりと途絶えた。この魔術の炎は闇慈の意のままに動く。
 二人を囲む『ペンタトゥミディア』たちの輪がじわりと後退した。こんな勢いで燃やされたのではたまったものではないだろう。
 敵が明らかに怯んだのを見てとり、ユーフィも再び飛び出した。背負った大剣ディアボロスを抜くや一閃。暑さをはらみ始めた空気を裂き、衝撃波は三匹の巨大カメムシを吹き飛ばし凍りつかせた。
 昆虫に対して冷気は二重の意味で効果的だ。動きを縛め、生存を脅かす。
 今もなおくすぶる火炎のせいか、食器用洗剤のせいかはわからないが、カメムシたちの攻撃は最初ほどの効果はない。そして臭いはずっとマシになっている。
「素晴らしいですねっ! この分ならもっと撃破できそうです!」
 まるで小枝でも扱うように軽々と大剣を取り回し、目を輝かせて走り出すユーフィの背を追ってうっそり笑う闇慈も駈け出した。
 なにしろ『ペンタトゥミディア』はまだ、この街のあちこちにいる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

九重・九十九
【保護者同伴】で参加

●心情
真っ黒に染める……墨汁でも使っておるのかね?
若いもんらに人気のす、すぷらとぅーん?という奴じゃな?
臭いのは嫌じゃのう、遠くから燃やしておこうか

●行動
【フォックスファイア】で遠距離攻撃に専念するぞい……近づきたくないしのう
わしの狐火とオデットの猟犬共と連携して、敵の逃げ道をレガルタの方に纏めておく
漏れた敵と倒しきれなかった敵は仕方ない、拳で黙らせてやろう
……嫌そうな顔しておるが、範囲攻撃で一網打尽にする手筈じゃなかったかの?

さて、敵を倒し終わったら臭くなってしまった者もおるじゃろうし、銭湯じゃな!
身を清めてあんな奴らのことなど忘れるに限る!

※アドリブ、他者との連携大歓迎


オデット・クレイトン
【保護者同伴】に参加
※アドリブ、悪乗り大歓迎

うひゃー、近づきたくないですね
消臭スプレーでも持っていったほうが良いでしょうか

●行動
【血の猟犬】『動物使い』を使用
12体になるまで合体させ、3組に分けて前衛に

1班が攻撃したら、別方向から他の班で攻撃させたりと連携を重視
猟犬は私の[呪血]で作られてますし、『2回攻撃』『マヒ攻撃』『毒使い』で弱めていきましょう
攻撃を喰らった猟犬は合体させます

私自身は『迷彩』『忍び足』で気配を消し、猟犬のサポート
[呪血]を染み込ませた[紅月]を『投擲』(2回攻撃、毒使い、マヒ攻撃)してますよ

銭湯行くんです?まぁ、変な匂い移ってたら嫌ですし、のんびり浸かりますか


レガルタ・シャトーモーグ
【保護者同伴】で参加

依頼があればどんな内容であれ、遂行するまでだ…
遂行するまでだが…
…正直、こういうのは予想していなかった
嫌な予感しかしないので、オデットか九十九を前に出して後ろから援護に徹しよう…

空を飛んで上空から黒い場所を見つけて2人に連絡
顔はフェイスガードで鼻から下を覆って多少の臭いはガードしておく
あんまり近づきたくないので、飛針をメインに上空から投げて攻撃
カメムシがこっちに飛んできたら、【第六感】で速攻逃げる
九十九のやつ、余計なことを…!
鈴蘭の嵐の範囲内に複数捉えられそうなら一網打尽にして、こんな場所からさっさと撤退する
…せんとう?戦闘は今終わったばかりだろう?



 『ペンタトゥミディア』たちの捜索は、翼あるものが上空からというのも有効な手段となる。偵察を担うことになったレガルタ・シャトーモーグ(屍魂の亡影・f04534)は、あくまでびしっと言い放った。
「依頼があればどんな内容であれ、遂行するまでだ……」
 どこからか鼻が曲がりそうな臭いが漂ってくる。
「遂行するまでだが……」
 ずしんという揺れや、何かの焼ける臭いもするところをみると、もう敵と接触している仲間がいるらしい。げんなりした顔でレガルタはフェイスガードを鼻まで引き上げた。
「……正直、こういうのは予想していなかった」
「真っ黒に染める……墨汁でも使っておるのかね? 若いもんらに人気のす、すぷら、なんとかいう奴じゃな?」
「そんなリアルでやってみた系の話じゃない気がしますけどね」
 ぴこっと立った狐耳にぷにぷにほっぺた、どこをどう見ても立派な幼女の九重・九十九(老狐・f04781)が舌を噛みそうにしながらゲームタイトルを思い出そうと首を傾げる。横のオデット・クレイトン(三歩下往く・f04351)はツッコみながら【血の猟犬】を12体になるまで合体させていた。
「しかし、うひゃー……近づきたくないですね。消臭スプレーでも持っていったほうが良いでしょうか」
 手で目の上に庇をつくって、オデットが彼方に見える団地を見やる。棟の一角が黒く染まっているが、そこにはさっき炎が踊って、団地の黒化は進行しなくなっていた。
 やがて到来する鼻を刺すどころではない凄まじい悪臭に、九十九の耳が幾分萎れた。
「臭いのは嫌じゃのう、遠くから燃やしておこうか」
 二度言うがどこをどう見ても合法なロリの彼女、これでも99歳である。カメムシも臭さも知らないわけではない。
「探してくるぞ」
 漆黒の翼を広げてレガルタが飛び立った。

 黒く塗り潰されゆく街角を見つけたのは、それから間もなくのこと。十匹以上の『ペンタトゥミディア』が郊外の果樹園に集まっていた。ビニールハウスや家、果樹が真っ黒に変わっていく。
 なんかもうその辺り一帯が黄色い靄に覆われている錯覚すら覚えるほどの、鼻をつくどころではない臭気が渦巻いていた。
 空中での自由度ははるかに上のレガルタだが、この数を見ては嫌な予感しかしない。
 レガルタの連絡を受けて駆けつけた九十九とオデットは、街を黒く染めているのが悪臭のもと、カメムシたちの分泌液であることに気がついた。
「遠距離攻撃に徹するぞい……近づきたくないしのう」
 溜息とともに九十九から迸ったのは三十を超える狐火。不意の炎はカメムシ数匹を捉えて燃え上がり、逃げ散るものたちを追った。業火の熱さにぼとりと木から落ちたカメムシから、目を刺すような不快な臭いが放たれて辺りを包む。
 宙へ舞い上がった個体が九十九めがけて飛来したが、オデットの猟犬たちが駆け寄るなり食らいついた。3隊に分かれた猟犬たちは敵を囲いこみ、連携技で次々と仕留めていく。
 その間にも悪臭はカメムシたちから次々に放たれて、後方のレガルタはフェイスガードの無力さに咳き込んだ。九十九の炎やオデットの猟犬たちの届かない高度のカメムシに飛針を浴びせて叩き落す。
「これ本当にひどい臭いですね?!」
 気配を消して立ちまわり、自身の呪血を染み込ませた紅月で一匹を仕留めたオデットが思わず叫んだ。猟犬のサポートのためとはいえ臭いの真っ只中はちょっと。
 どこから出たのかわからない悪臭の直撃を受けて、オデットの猟犬すら一頭ばったりと倒れたほどだ。
「臭いはいかんのじゃ。鼻が使い物にならなくなってしまうのじゃ」
 耳も尻尾もしんなりした九十九が、それでも気力を奮いたたせて炎を操る。果樹には傷をつけず、敵だけを焼き尽くすべく意識をしっかりしなくては。どんなに臭くても!
 踊るような狐火に追われ、オデットの血の猟犬に追われ、カメムシたちは次第に行動範囲を絞られていった。唯一手薄な方向へ羽音を響かせ殺到する。空からの制圧射撃中の、レガルタの方へ。
(「九十九のやつ、余計なことを……!」)
 敵の数が多いなら追いこみ猟にする手筈ではあったが、あんな臭いを至近距離で浴びるなど真っ平だ。普段から鋭敏な第六感だが、今日ばかりはフル稼働でレガルタはカメムシの包囲を逃れた。
 敵が態勢を立て直す前に全てを終わらせなくては、鼻が終わる。
「とっとと片づけて、こんなところさっさと出るぞ!」
 宣告とともにレガルタが黒いマントが翻らせる。
 煌めく光は刃のもの。輝きは風に浚われるように乱れて光り、無数の鈴蘭の花弁となってカメムシたちを押し包んだ。白く小さな花はまるで鋭利な刃のように害虫たちを切り刻み、引き裂いていく。
 可憐な花の嵐が終われば、カメムシたちはぼとぼとと音をたてて落ちていった。嵐の範囲に全てのカメムシを収めたか、悪臭を放ちつつもそれきり動かないものばかり――否。
「そこじゃ!」
 飛びたとうとするカメムシの虚をついて、黄金の風が踏み込んだ。小さな拳は見た目とは裏腹の破壊力をもって外殻を穿ちぬく。拳撃の勢いで真っ二つに砕けながら、カメムシは反射行動で悪臭を撒き散らした。ただの反射で攻撃ではなかったようだが、やはり馬鹿げて臭いことには違いない。
 山と積みあがった死骸の中から飛び立とうとしたカメムシには、既にオデットが迫っていた。十分な距離を保って放たれた紅月は外殻を貫き、一撃必中で打ち落とす。
 思わず唸り声をもらしたレガルタの顔を、悪臭のこびりついた拳を振った九十九が細い眉を寄せて覗き込んだ。
「……嫌そうな顔しておるが、範囲攻撃で一網打尽にする手筈じゃなかったかの?」
 そのとおりだ。ただ、攻撃を予想して回避していたカメムシがいただけで。
 フェイスガードの下でお手本のような渋面になったレガルタは黙っていた。当然全力で攻撃はしたが、前は二人に任せて援護に徹しようと腰が引けていたのも事実だ。オデットの猟犬が体をぶるぶる振っているさまさえ、悪臭に辟易しているように見えてくる。
 その時、やたら軽快な電子音の後で街全体に響くようなアナウンスが流れた。
『撃破を確認。戦闘を終了します』
 どうやら『ペンタトゥミディア』の殲滅に成功したようだ。アナウンスを聞いた九十九がふうと息をつき、笑顔で仲間を振り返る。
「さて、臭くなってしまった者もおるじゃろうし、銭湯じゃな!」
「……せんとう? 戦闘は今終わったばかりだろう?」
 きょとんとした顔でレガルタが問い返す。闇に潜み密かに死をもたらす術ばかりを学び続けた彼の知識は、一般的な常識がごっそり抜け落ちていることがある。お風呂屋さんですよ、とざっくり彼に説明したオデットも、自身の外套へ目を向けた。
「まぁ、変な匂い移ってたら嫌ですし、のんびり浸かりますか」
 月の魔力を宿す静謐の紗幕には消臭効果があるが、あの臭気相手では不安が残る。自分の鼻もほとんどマヒしていて、臭いが判断できるか微妙なところだ。
 お風呂と聞いたレガルタは切実な顔で頷いた。
「そうか……マントは洗いたいな」
「そうじゃろうな。身を清めてあんな奴らのことなど忘れるに限る!」
 この街のどこかで同じように戦った猟兵たちにも声をかけるか、と笑って九十九はぽんとビルの屋上から身を躍らせる。今は街に立ちこめている悪臭もいずれ消えるだろう。

 鼻が正常に戻らないのではないか、という恐怖すら覚える戦いは終わった。
 いや実際鼻は曲がったかもしれないが、ともあれこのステージを支配していた『ペンタトゥミディア』たちは一掃され、コアへ向かうための戦果をあげることに成功したのだ。
 ありがとう猟兵、お疲れさま猟兵。
 ――鼻という尊い犠牲を払った彼らに栄光あれ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年05月12日


挿絵イラスト