バトルオブフラワーズ⑧〜ザ・ステージ塗り潰し選手権
「本日も、皆様にキマイラフューチャーの新たな戦場を攻略して頂きたいのです」
グリモアベースにて、雑巾がけをしていたグリモア猟兵、オクタ・ゴート(八本足の黒山羊・f05708)は骸骨の頭に撒いていた三角巾を取りながら説明を始める。
オブリビオン・フォーミュラによるキマイラフューチャーの中核である『システム・フラワーズ』侵略に端を発する今回の戦争、問題の根幹であるフォーミュラ討伐の為、先ずは六つの『ザ・ステージ』とよばれる防御機構の制圧が必要である。
だが問題の『ザ・ステージ』には様々な「ルール」が定められており、これに従わない場合、例えオブリビオンを倒したとしても攻略は失敗となってしまう。今回の攻略対象であるステージで適用される「ルール」、それは……。
「『クロヌリスレイヤー』――それが今回の戦場でのルールで御座います」
曰く、キマイラフューチャーの街並みを完全に再現された戦場で、オブリビオン達が黒いインクを撒き散らし、街を染め上げているのだという。そのインクで街が完全に塗り潰されてしまうと、巨大な洗浄機が出現し猟兵達はステージの外へ投げ出されてしまう。そうなれば、作戦は失敗だ。
「そして――現在、状況はあまりよくありません」
綺麗になったモニターに映し出されるのは、三方向別々の地点が徐々に塗り広げられていく姿。それぞれの地点で、別々の頭の形をした怪人たちがやんややんやと騒ぎ立てながら町全体に黒色のインクを思い思いに塗りまくっている。
「連中の名は、『ナンバーワンズ』。一等であることに執着心の強い奴等は、各々の思う最も効率的な方法で街を塗りあい、誰が一番かを決める事に躍起になっているようです」
メダル頭の怪人たちは、メダルをスタンプの様にして。
「1」の頭をした怪人たちは、水鉄砲を使い。
トロフィーの頭をした怪人たちは、自身のカップにインクを注いで撒く。
「三方からこのまま塗り広げられてしまえば、手の付けられない状況となるでしょう、皆様には迅速に怪人の群れの場所を特定して頂き、そして撃滅して頂きたいのです」
また敵は同じ攻撃手法を持つ、同じ頭の怪人同士で群れていることにも気を付けなくてはならない。個々人の戦闘力は実際のところ高いとは言い難い。しかし群の力は特筆すべきものがあり、それぞれの得意ジャンルで勝負を仕掛けた場合いかに猟兵と言えども圧倒することは難しいだろう。だが、それ以外のジャンルであれば話は別だ。対応力の欠けている相手をどう追い詰めるか、猟兵達の手腕にかかっている。
「オブリビオンを倒せばインクは消えるようですので、掃除やその他に関してはご心配なく。とはいえ少々厄介な状況であることに変わりはありませんが……皆様のご活躍がこの世界を救う鍵。どうかよろしくお願い致します」
深々と頭を下げた山羊の後ろで、世界を繋ぐゲートが開き始めていた。
佐渡
好きな色は黒、佐渡と申します。
今回のシナリオは、戦場を黒いインクで塗りたくるオブリビオンの集団を見つけ出し、撃退するものとなります。
今回の敵はPOW、SPD、WIZそれぞれの怪人たちのグループに分かれており、それぞれがチームとなり街を塗り潰す競争を行っています。もし敵の捜索が不十分であった場合、相手と自分の攻撃判定が同じになってしまい非常に厳しい戦いとなることが予想されます。しかし逆に相手と異なる攻撃判定で攻撃できた場合は、容易く敵をばたばたぶっ飛ばせます。
特殊なギミックを盛り込んでおりますが、皆様の行動を格好良く描写させて頂きますので、宜しければ是非ご参加のほどを宜しくお願い致します。
●※おねがい※●
迷子を避けるため、ご同行の猟兵の方がいらっしゃる場合には同行者名、あるいはチーム名等目印をお忘れないようにして頂けると幸いです。
またマスタープロフィールに御座います【シナリオ傾向】については是非一度目を通して頂くよう強くお願いいたします。
第1章 集団戦
『ナンバーワンズ』
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POW : ナンバーワン怪人・ウェポン
【ナンバーワン兵器】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : トロフィー怪人・ジェノサイド
【トロフィー攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : 金メダル怪人・リフレクション
対象のユーベルコードに対し【金メダル】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
イラスト:まめのきなこ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ポク・ョゥョゥ
街がまっくろなのー?
ぽくが白で塗り塗りしたらぱんだの街になるのかなー。だめー?
あのねー、ぽくっきー持ってきたのー
いただきまーすのーん〜おいしー
そしたらねー、ぽくが増えるのー
よーし、ぽく達で敵たん捜索だー
いっぱい居るとー見つかるー?
ぽくちっちゃくて黒くてー黒塗りに溶け込む?から大丈夫ー
かくれんぼしながらーあっちこっち探すのー
ぽく達でトーテムポールしてー高い所から見下ろすよー
メダルたんかトロフィーたんいるかなー
いたのー、とつげーき
いっぱいのぽくで体当たりあたーっくするよー
後は一斉にー、のびーるお腕のひゃくれつぽくぱーんちー
とどめはぱくのーキラキラブレスだー
お片付けできたかなー?
皆で勝利のあがめよー
レン・ランフォード
【SPD】アドリブ共闘歓迎
黒一色だと結果が分からないと思うんですが…
兎に角、洗い流される前に倒しましょう!
人格をれんに代って彼らをよびましょう
式鬼顕現…きて、おにまるぶらざーず…
29体のぶらざーずを2人1組に分けて連絡手段を持たせて3方向に向かわせる…
余ったきみはれんと一緒に一番高い建物から各ちーむに塗られてる方向をしじする手伝い…
狙うはぱわー型…見つけた報告を受けたら全員集合の指示をだして
れんも手をつないで屋上を跳んで(ジャンプ)渡っていくよ…
見つけたら上から奇襲…あいきゃんふらーい(空中戦)
他のぶらざーずもすけーとやばいくとかに乗って急いであつまってくる…
さぁみんなでやっつけよー…
ユーリ・ヴォルフ
アドリブ大歓迎!
異なる特性同士連携を汲み群れて置けば
さぞ脅威になっただろう。惜しいことだな
その隙、存分に突かせてもらおう!
上空へと飛び
『おびき寄せ』『動物使い』『動物と話す』で
鴉や鳥たちに【SPD】カップ頭の居場所を訪ね襲撃
恐らくは至近からの高速連続攻撃を得意とするのだろう
敵の間合いを避け遠方から攻撃し数を減らすぞ
上空から『先制攻撃』からの【メギドフレイム】!
頭上からカップの中心を狙い炎の剣を撃ち付ける
カップが割れインクが敵の身体に零れることで
黒で汚す面積を最低限に抑え、インクの再充填も防ぐ狙いだ
敵の攻撃が届くなら、より距離を開け『オーラ防御』を展開し防ぐ
弱点を突くのは卑怯ではない。戦術だ
榛名・深冬
※アドリブ・連携等歓迎
自由に書いていただけると幸いです
ナンバーワン怪人とやらを狙っていきましょうか
競争しているとのことですし片っ端から黒く塗ってると思うので
黒くない所を見つけて
エレクトロレギオンで機械兵器を召喚
自身が操れる程度に分散させ
黒くない所複数個所へ待機させます
敵と交戦した所があれば機械兵器に時間稼ぎをしてもらい
(黒くする行為の妨害、攻撃された場合は避け続ける)
他の機械兵器も向かわせつつわたしも向かい
合流出来次攻撃開始、燈(ドラゴンランス)で串刺しにして見せましょう
仲間が傍にいれば交戦場所がわかった時点で情報共有し
応援をお願いしようかと
……話すのは苦手ですが、そんなこと言っていられません
●サーチ&クリーニング
「うおぉおおおお!」
「トロフィー野郎や数字野郎になんか負けねえ! 行くぞお前ら!」
猟兵達の送れられた『ザ・ステージ』の一角。黒いインクを巨大なメダルに塗りたくり、スタンプ宜しく地面や建物の壁にスタンプしていく怪人たちの群れがあった。
彼らは怪人集団『ナンバーワンズ』の一人、名を金メダル怪人。それぞれが「一番」というものに対して並々ならぬ執着心を持つ彼らが、この広大なフィールドを塗り潰すという使命を帯びて顕現した時、何はともなく競争が始まっていた。
彼等にしてみれば当然の事なのかもしれないが、それはある意味で猟兵達に厄介な状況を生み出す原因であり……そして、同時に好機を齎す愚策でもあった。
「ん? ……なあ、おい」
「うるせえな何手を止めてんだ!」
インクを塗る事に執心する怪人の一人が、仲間の一人を小突く。当然勝負で勝つことに躍起になっている怪人は作業を中断した仲間を怒鳴っているが、そんな言葉を耳にしていないかのように、呼び掛けた怪人はある一角を指差す。
「――俺ら、白いインクなんて用意してたっけか?」
「馬鹿言え! 黒く塗らなきゃいけねえのに白塗る馬鹿がいるかっつの!」
疲れて幻覚でも見たのか、そんな風に口にしながら仲間を引っ張っていく金メダル怪人。ここで彼の言葉を信じておけば結末は変わったかもしれない。
「みつけたのー」
ちいさくちいさく語ったその言葉に、気付けたのならば。
――十数分、経ったころだろうか。三名の怪人の中で最も塗り範囲を広げた金メダル怪人たちは自身の優位を感じ仲間たちと談笑していた。これで俺たちの勝利は確実だ、やはり『ナンバーワンズ』の真のナンバーワンは自分たちだ、と。
だが突如彼らに影が差す。天が突然曇ったような、夕立の前触れの様に。当然ここは天井のある屋内だ。雲などあるわけがない。
見上げた怪人たちは、動くことができなかった。
「「「「あがめよー」」」
頭上を覆い尽くす黒い群れ。それは……ぱんだ。ポク・ョゥョゥ(よろしくなの〜・f12425)と、彼が生み出した分身のぷちぱんだによるものだ。
持参したおやつのクッキーをもぐもぐ食べたポクは次々に小さなポクを生み出し、彼らに捜索を依頼していた。時に物陰にゆるっと潜むスニーキングぱんだとして。時に積み重なってトーテムポールぱんだとして。そして先程目的である金メダル怪人を見つけたポク達は、ビルの上で待ち構え、一斉に降り注いだのである。
塗りまくる事に躍起になって体力を消費し、その上驚き動けない金メダル怪人の顔面に炸裂するベアクローならぬぱんだクロー。顔面が肉球型に凹んだ怪人たちを次々に生み出す小さなポク軍団。驚きからいち早く立ち直った者達が反撃を仕掛けようとするも、地面にも散らされた黒いインクに同化し姿を見せない間に、別の小さなぱんだが背後から肉球印を叩き込む。
そして、十分と経たない間に築かれた自慢の金メダルが肉球型に凹んだ怪人たちの山に相棒の白龍であるぱくがきらびやかな光を放つブレスを放って浄化している間、撒き散らされた黒に白を足してパンダ柄にすべきか暫し葛藤したが、ぶんぶんと頭を振って考えを改めている。そして、頑張った小さな分身体のポク達にぱんだ印のクッキーをあげながら、勝利の「あがめよ」三唱をしている。
「みんなも、がんばってるかなー」
浄化が終わり、天を仰ぐ。時を同じくして他の怪人グループを打倒するために行動している猟兵の事を思いながら、クッキーをむぐむぐ頬張るのだった。
――一方。自身の頭にインクを入れて撒き散らすという手法で街を汚している怪人、『ナンバーワンズ』が一人トロフィー怪人もまた、猟兵の標的となっていた。
「ふ、自らを汚さぬ戦い方など邪道! 金メダル頭や数字頭にはない覚悟を見せてやる!」
「いくぞ者ども! 我らが『ナンバーワンズ』最高にして頂点であることを示すのだ!」
背の高さゆえに気位も高いのか、とはいえやっていることは街を模した空間を黒で汚す事、到底高尚とは言い難い。
そして、頭の上が重くなり、空を見上げる事などない。「彼」の姿を捉える事などできない。目先の事に執心するが故の視野の狭窄は、絶滅への前奏曲だった。
驟雨の如くに業火が天より降り注ぐ。炎そのものが形を為した焔の剣。それが矢のように降り注いでトロフィー怪人の器を破壊する。断末魔さえも上げられず、内に注がれたインクでさえもが蒸発して消え失せる。接近戦であれば素早さの一等速いトロフィー怪人の攻撃は素早く、猟兵であっても避けられたかは怪しい。だが姿が見えない相手に攻撃の様はなく、反撃の予知さえないまま燃えては倒れ、焼かれては消える。
「な、なんだ!?」
思わず声を上げるももう遅い。一秒と経たずに、自分も又砕かれるのだから。
「ふむ――やはり惜しいな。連携を組み群れておけばこうはならなかったろうに」
彼らが決して拝む事のなかった空に在りて、ただ憐憫の表情で無残に砕けた怪人たちの残骸を見下ろす青年。龍の翼を撫でながら、ユーリ・ヴォルフ(叛逆の炎・f07045)はため息をついた。
これが本来の街であったとしたら、彼は同じく空を駆ける鳥たちに怪人の行方を問うつもりであったが、ここは屋内のイミテーション。残念ながらそういった存在達は見当たらなかった。
しかし彼もただ闇雲に空を飛び回っていたわけではない。他の猟兵が召喚した様々な者達の姿を捉えたり、時に情報提供を受ける事でおおよそのあたりをつけ、目立てのトロフィー怪人の群れを見つける事が出来た。敵を発見するまでは手こずったものの、対しその労をかけた相手には彼のお眼鏡に適うものではない。少々の不満こそあれど、もう起き上がってくる者はいない。
「弱点を突くのは卑怯ではない、戦術だ。まさか卑怯とは言ってくれるなよ」
倒れた怪人たちへとそう言い残し、彼は再び空を飛ぶ。恐らく他の場所でも決着はついてしまっているだろうが……それでも、万が一がある。自分の索敵を援護してくれた他の猟兵達へ、今度は自分が手を貸す為に「守護者」としての無意識のまま、ユーリはその場を後にした。
最後に残るはナンバーワン怪人の群れ。水鉄砲を中心に中にインクを仕込んだ兵器の数々で街を塗り広げていく。
しかし彼らもただ無心に色を塗り広げていたわけではない。他二人の怪人に動きがない事に違和感を持った彼らは、猟兵が嗅ぎ付けてきた可能性を念頭に置いて行動を行っていた。
しかし、それも最早無駄な事だ。彼らは一切わかっていないが、その場所は既に包囲網の中心である。
「――うん、大丈夫。うまくいった、うまくいったんだ――」
ゆっくりと、ビルの屋上から敵の様子をうかがうのは、引き摺る程の丈の白衣と黒いセーラー服を纏った少女、榛名・深冬(冬眠る隠者・f14238)。人嫌いな彼女は胃がキリキリする思いをしながら、自分に言い聞かせるよう反芻する。
彼女こそ、ユーリに援護を行った猟兵の一人。小型の機械兵器による索敵を作戦のメインに据え、数による人海戦術でインクの痕跡を見ながら徐々に怪人を追い詰めていた。けれどここで彼女にとっては誤算があった。
「みとちゃん……ないすー」
「ありがとうございます、一人でならもっと早かったでしょうけど……」
彼女の胃痛の原因は、隣で深冬にサムズアップする猟兵によるところが大きい。白いマフラーに、少し形状の違う黒セーラー。レン・ランフォード(近接忍術師・f00762)の心に宿る同居人「れん」が、彼女に共闘を申し出たのである。
共に狙う相手が合致していたため、深冬も断らなかったが――まさか了承と同時にれんの召喚する式神、「おにまるぶらざーず」に引っ掴まれた挙句にビルとビルの間をジャンプで飛び移るパルクール擬きまでするとは思ってはいなかった。
機械操作や作戦の段取りも直感で決めていた彼女にとって作戦のすり合わせ、そして予期せぬ行動というのは予想以上のストレスだ。
とはいえ、油断している時ならいざ知らず他の猟兵の活躍によって他の怪人が早期に斃れたがゆえに警戒が高まった今、自分だけの戦力で倒しきれるかはやや不安ではあった。少なくとも手数が増えるのは喜ばしい――。
「よし……そんじゃ、あいきゃんふらーい」
「え、ちょ、きゃぁあああああ!?」
何の前触れもなくビルから落下するれん。当然連れ添う式神も一緒であり、それ即ち深冬もまた道連れだという事である。
落下しながられんは苦無を投擲し、正確に怪人たちが手にした水鉄砲を筆頭とする武器を狙い撃ちにし、その手から取り落とさせる。スピーディなその攻撃に、ナンバーワン怪人は一切手出しができない。
「くっ、現れたな猟兵!」
「俺たちナンバーワン怪人は戦いでもナンバーワンだ!」
威勢よく向かってくる怪人たち。だがそれ以上に感情が高ぶっているのは他でもない深冬だ。
「何してんですか!? ほんとに何考えてるんですか!?」
もうキレ散らかしながら怒鳴るが、そんな事を相手は待ってはくれない。すぐに兵器を携え照準を合わせるナンバーワン怪人……。
を、横から大型バイクの群れが轢き潰した。
「うん……集まったね」
満足気に頷いたりんは、文句などどこ吹く風。既に、この場には包囲網が完成していた。深雪と、そしてりんによる包囲網が。
召喚された二十八体の式神。二等身ながら一メートルを超す背丈の鬼たちは、バイクやらスケートやらジープやらで参上すると、すぐに乗物から降りて怪人たちを手にした長杖でしばきまくる。小柄であれど怪力は持っているらしく、怪人の頭部で輝いていた自慢の「1」の字はひしゃげて「7」になったり「く」になったりしてしまう。兵器での攻撃も、兄弟の名を冠する彼らの連携によって躱され、術師であるれん本人への攻撃もひらりと逃げられる。
まさにやりたい放題という言葉に相応しい蹂躙ぶりだ。
――だが。巨大な殺気が爆発し、戦場の動きは止まる。怪人も、おにまるぶらざーずも、そしてれんでさえ停止する。
視線の向かう先には……とんでもない感情の渦がオーラの如くに巻き上がり、背後に化身のような幻覚さえ見せる気迫を宿した、榛名・深冬その人だ。
自分の絵図は滅茶苦茶になり、それに悪びれない様子の共闘相手とそもそもの原因であるオブリビオン。気付けば多脚の小型戦闘兵器が周囲を取り囲み、砲門を一斉にオブリビオンに向けている。そして……彼女の手には、やや怯え気味ながら槍の姿に変形した彼女の唯一無二の友である竜、「燈」が握られていた。
「ふざけ、るなぁあああ!」
しっちゃかめっちゃかとはいえ戦果は確かなものだったが、彼女のメンタルは崩壊寸前。慣れない事をした後悔も含め行き場のない感情全てをその一撃に籠めて放つ。
竜の槍が彼女の手から離れ、刹那橙の閃光となり怪人の群れの中心へと穿たれる、十を優に超える数の怪人の身体を串を通すように突き刺しながら飛んだ槍は最終的にビルの壁に突き刺さる。同時に兵器たちの携えた機関銃が、残りの敵をも一掃した。
どのような形であれ、互いに力を貸しあうだけで、これほどまでに強力な力を発揮することができる。
武器を失い、多数の砲火を浴びながら、ナンバーワン怪人は悔いる。ああ、競わず協力していれば……と。
「ああ、どうやら無事のよう……だが、大丈夫か?」
すべての怪人を撃破した後、ユーリはれんと深冬に合流した。しかし、どうにも妙な雰囲気を感じ深冬へと声を掛けてみるが、反応はない。
「いやあ、その……うん。おんがくせいの違い、みたいな」
ふわっとした例えだがあながち間違いではない。感覚的に理詰めを好む深冬と、考えながらシンプルイズベストを地で行くれん。どちらも時に有効な形の異なる戦略ゆえに、ぶつかりあってしまったのだろう。
後ろを向き、友人の竜と向き合っている深冬――普通ならば声を掛けずらい状況だが、ユーリは納得したように頷くと、彼女の元へと向かう。
「深冬様、あなたのお陰で怪人の掃討が進みました、ありがとうございます」
深々と、頭を下げる。……五秒、十秒と沈黙が続いたが、ふと呟くように彼女は漸く返した。
「――そう、ですか」
俯いた彼女の足元に、小竜は何時もと変わらぬようにそっと寄り添う。それが、彼女の心を落ち着かせた。
「作戦はぐだぐだでしたけど……人様の役に立てたなら、まあ、よかったですよ」
毒を含んだ慇懃無礼な言葉で、彼女は自嘲気味に笑う。怒りに任せていたとはいえ、彼女は味方に銃を向ける事もなかったし、槍で味方を突くこともなかった。
薄々は勘付いていた。れんに召喚された式神がオブリビオンの攻撃から守っていたのは術師であるれんだけでなく、自分も含まれている事。小型兵器が相手の視界外から攻撃できるよう穴をあけていた事。無知無策だとその時は思ったそれは、確かに自分へのバトンだったことを。
「あれ……あれ……?」
そんな中で、れんはきょろきょろと辺りを見回している。一体どうしたのか、そう問われ首を傾げてこう言った。
「一人……足りなくない?」
――ユーリは一瞬驚愕した後飛び出そうとし、深冬は「あ」と声を漏らしてまだ現場に残っている兵器でスキャンを始める。まさか戦死者が出たのか、オブリビオンがまだ残っているのでは。様々な憶測と心配が巻き起こり……一番初めにずっこけたのは深冬。後に「それ」を見せられ、ユーリは苦笑しれんもずっこけた。
――真っ先に敵を倒した後、おやつの食べ過ぎで丸くなって眠るパクの姿が、猟兵達の完全な勝利の証だった。
『ザ・ステージ』にこびり付いていた黒いインクは、猟兵達の帰還とすべてのオブリビオンの消滅と共に消え、模倣された街並みは現実のものと大差ない輝きを取り戻す。日が沈む事も昇ることもないイミテーションではあったが……それは、猟兵達が守るべき世界の姿に違いない。
この変わらない世界が、現実のものとなるように。まだ、戦いは続く。全ての混沌の源、フォーミュラを討つその時まで。
大成功
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