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バトルオブフラワーズ④~フォアグラとトリュフが彩る牛肉

#キマイラフューチャー #戦争 #バトルオブフラワーズ

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●フランス料理フルコースメインの風格
 ――その肉は厚さ3cmという極厚に切られていた。
 ナイフを入れれば、中は赤みを色濃く残したレアであることが解る。それだけを口に含んでも極上の旨味を堪能出来ることは明白だが――いけない。それではいけないのだ。
 その肉の上には濃いクリーム色をした物体のソテーが乗せられ、薄切りにされた黒い物体も散りばめられている。それらも一緒に口に含まねば、この料理の神髄は解るはずも無いのだから。
 赤色もクリーム色も黒色も仲良くフォークで突き刺して、共に口内へ。そうすれば、まず広がるのは黒の独特にして芳醇な香り。次いで噛み締めれば、赤より溢れ出す肉汁……。そこにとろけたクリーム色のコクが絡んで、口から喉、胃に至るまで楽園を顕現する……!
 旨し、美味し、UMASHI!!
 聞いたことがある者も居るかもしれない。その料理の名は……。

●多分、食わずに一生を終える人の方が多いと思う
「……皆は、『牛フィレ肉のロッシーニ風』っちゅう料理を知っとるやろか?」
 神妙な顔付きで、グリモア猟兵の灘杜・ころな(鉄壁スカートのひもろぎJC・f04167)は集まった猟兵たちへ切り出した。
 コツコツとグリモアベースの床を鳴らして彼女が歩く度、短いプリーツスカートがひらひら揺れて舞い踊るが……魅惑的な太股はともかく、それより上はどうにも見えそうで見えない。
 100を超すテレビウム・ロック事件を解決した猟兵たちだが、事態がそこで終わらなかったのは多くの者たちが存じていることだろう。
 真っ二つに割れてしまったキマイラフューチャー……その割れた先から至ることが出来る彼の世界の中枢・『システム・フラワーズ』。
 ……そこを今、キマイラフューチャーのオブリビオン・フォーミュラである『ドン・フリーダム』が占拠しているという……。
 システム・フラワーズに到達してドン・フリーダムを討つには、その周囲を守る6つの『ザ・ステージ』と呼ばれる場所をオブリビオンたちから取り戻さなければならない。今回集まった猟兵たちはころなの予知に従い、その内の『ザ・フードステージ』に挑む……のだが。
 ――そこでころなのあのような台詞である。
 困惑する他の猟兵たちへ、ころなも流石に説明が足りなかったと改めて話し始めた。
「ザ・ステージにはな、それぞれ『特殊な戦闘ルール』が存在するんよ。それを守らんと、最悪強制敗北。ザ・ステージから叩き出されてしまうんや」
 つまり、戦闘には著しい制限が科せられる。今回ころなが予知したザ・フードステージでの戦いでは、『オオグイフードバトル』なるルールが科せられるというのだ。
「皆に戦ってもらうオブリビオンはたったの1体や。せやけど、そいつの周りには大量の『ある料理』が並べられとる。オブリビオンはその料理を食べまくっとるんやけど……そうやって食べ続けとる限り、オブリビオンの力は増大し続けてしまうんや。……今のうちらでは、どう足掻いても勝てん領域まで……」
 即ち、そのまま戦っては勝ち目など一切無いということ。絶望的な情報に緊迫感が走るが――ころなの予知は、それを打破する手段を既に見付けていた。
「そのオブリビオンが食べとる料理、それをオブリビオンの側よりも早く、たくさん食べることが出来ればな、立場が逆転するんよ。いつもより遥かに強力なユーベルコードで、オブリビオンを一蹴することが出来るんや」
 要するに、本格的な戦闘の前に大食い勝負でオブリビオンを下す必要があるということだ。
「とはいえ、最低限オブリビオンと同等の量を食べられれば、互角の勝負には持ち込めるんやけどね。……ただな。用意されとる料理は、相手のオブリビオンが最も有利に食べられる料理なんやよ。それに対抗するには、『オブリビオン以上にその料理をたくさん食べられる理由』、『オブリビオン以上の大食いへと懸ける熱意』……そういうもんを猟兵側も秘めとらんといかん……」
 それ故に、『用意されている料理が何なのか?』……それも大きなファクターになるはずであった。
「……もう解った思うけどな。今回用意されとる料理いうんが、牛フィレ肉のロッシーニ風なんやよ。知らん人も居るかもしれへんし、説明するとな――」
 ころながゴクリと唾を飲み込み、告げる。
「基本的には牛フィレ肉のステーキや。ただ――中心部、要はシャトーブリアンを、厚さ3cmの極厚に切り分けて使うとる。それを、血が滴らんばかりのレアに焼き上げとるんや」
 !?
「しかも、その上にソテーした、これまた極厚のフォアグラを乗っけてな。さらに薄くスライスしたトリュフも振り掛けとるんやよ。そう、世界最大珍味の内の二つもや」
 !?!?!?!?
「……もしも、UDCアースで本格的なそれを食べようもんなら――そろそろお役御免を、と言い渡された諭吉さんが数名一気に飛んでいってしまうで……!」
 !?!?!?!?!?!?!?!?!?!?
「……何でも、最高級フレンチのフルコースでメインを張ることもある一品やそうや。それを大食いとか……金銭感覚ぶっ飛びそうやけど……」
 ころなは頭痛を堪えるようにこめかみへ指を当てつつ、猟兵たちに訴える。
「……今回のドン・フリーダムたちとの戦い……戦争で奴を討てんかったら、キマイラフューチャーからは『コンコン』が失われてしまうんや。それは、事実上あの世界の滅亡を意味するんよ。今回のザ・ステージでの戦いも、突き詰めればキマイラフューチャーの未来を左右するもんや。皆、気張ってな?」
 たかが大食い、されど大食い。全力を尽くしてほしいと、ころなは頭を下げるのだった。


天羽伊吹清
 どうも、天羽伊吹清でございます。

 まず申し上げますと、当シナリオは現在行われているキマイラフューチャーでの戦争・『バトルオブフラワーズ』に関わるものです。
 1フラグメントで完結し、戦争の勝敗に影響を及ぼします。
 そこをご理解の上、ご参加下さい。

 また、今回のオブリビオンとの戦いでは、『オオグイフードバトル』という特殊なルールが科せられます。
 これについては本文中でころなが解説しておりますので、読み込んでおいて下さい。
 ……一点だけ補足しておきますと、食べる料理に猟兵側が何かしらの手を加えて食べ易くする行為は『ルール違反にはなりません』。
 それも上手く利用して頂ければ幸いです。

 さて……必須な説明が終わったところで。
 皆様、肉ですよ牛フィレですよシャトーブリアンですよ!
 それにフォアグラやトリュフなんかの最高級食材を加えているわけですから……不味いわけがねぇ!
 ビバ! 牛フィレ肉のロッシーニ風!!
 ……現実ではそうそう食べられないだろうこの料理、興味のある方はどうぞ、ご来訪下さい。
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第1章 ボス戦 『猪狩・アントニオ』

POW   :    オトメン投げキッス
【男女問わず投げキッス】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD   :    メイド秘奥義「メイド感情ミサイル」
【男に対する欲情もしくは女に対する憎悪】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【自身を模したエネルギー体】で攻撃する。
WIZ   :    メイド秘奥義「猪突猛信(恋する乙メンの暴走)」
【男に対する欲情もしくは女に対する憎悪】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。

イラスト:桐ノ瀬

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は狗飼・マリアです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

中村・裕美
今回は副人格のシルヴァーナで参戦
「美味しいものがいただけると聞きましたので。よろしくお願いいたしますわ」
【優雅なるお嬢様】でお嬢様然とした立ち振る舞いでお肉をもぐもぐと食べ、ペース配分を乱さないようにする
「格式高い料理ですので、それなりの礼をもっていただくべきですわよね」
チラリとアントニオを見て行儀が悪いところがあれば
「気にしないでくださいまし。獣に作法を求めたりはいたしませんもの」と微笑み、精神攻撃でペースを乱す

戦闘は敵の攻撃をドラゴンランスの【武器受け】で弾き、【串刺し】【傷口をえぐる】で攻撃「あとは狩猟のお時間かしら?」

「少し食べ過ぎてしまいましたかしら?太らないといいですが」胸揺らし


伊美砂・アクアノート
【SPD】【オルタナティブ・ダブル】 ーーータダ飯より美味しいモノがこの世に存在するだろうか。いや、無い!(反語) つーワケで、タダ飯ゴチになりまーす! いやー、見てくださいよ。もうね、ナイフを軽くあてただけでスッと切れる。そこからジュワーっと、溢れてくる肉汁! 実況者的に話すアタシと、黙々と食べるボクに分身。食べるペースを落とすコトなく、食レポをする。 可能なら【料理9】でステーキに合いそうな相応の値段の赤ワインを見繕って持ち込み、優雅にステーキを味わう。…あ、呑みたいヒト(成人済み)がいたら、一緒に飲みましょ? こんな良いお肉、急いで食べたら勿体無いわよ?(オブリビオンさんに、微笑み挑発)



 牛フィレ肉とフォアグラが焼ける匂い……トリュフが織り成す芳香……それらに包まれたザ・フードステージに、二人の猟兵が足を踏み入れた。
 片方は中村・裕美(捻じくれクラッカー・f01705)……いや、違う?
「『わたくし、裕美の中におります副人格のシルヴァーナと申しますの』」
 スカートを摘み、優雅に礼をする彼女は、多重人格者たる裕美の中に存在するもう一人の彼女であった。
「美味しいものが頂けると聞きましたので。よろしくお願い致しますわ」
 シルヴァーナのおっとりとした挨拶に続き、快活な声がザ・フードステージに響き渡る。
「――タダ飯より美味しいモノがこの世に存在するだろうか? いや、無い!」
 反語でもって主張したのは伊美砂・アクアノート(さいはての水香・f00329)である。……伊美砂の隣には、いつの間にか彼女と鏡に映したように瓜二つの女性が佇んでいた。こちらも多重人格者の伊美砂が、『オルタナティブ・ダブル』で呼び出したもう一人の自分である。
 挑戦者たる猟兵たちを前に、それを迎え撃つオブリビオン・『猪狩・アントニオ』は……もぐもぐもぐ。
「……ボ、ボク、こんな美味しいもの生まれて初めて食べよぅ……!」
 滂沱の涙を流し、ひたすらに牛フィレ肉のロッシーニ風をナイフとフォークで切り分けて口へ運んでいた。
 アントニオは、見た目は可愛いメイドの女の子♪ その実ゲイの男の娘☆ イケメンへの情欲と女性への憎悪を糧に日々ご奉仕という名の事件を巻き起こす怪人……というのが猟兵たちの認識であるが……何やら今日は目の前のシャトーブリアンとフォアグラとトリュフに夢中のようである。
 ……シルヴァーナや伊美砂の登場も認識しているのか怪しい……。
「……調子が狂いますわね……」
「……普段、あまりいいもの食べてないんだろうなー……」
 肩透かしを喰らった様子の二人は、何はともあれ一角に用意された席にそれぞれ就く。
 相手は既に……というか、かなり前から食べ続けているようだが、その分はカウントされない。あくまでも今から、定められた時間内で食べた量で大食い勝負の勝ち負けは決まる。
 シルヴァーナと伊美砂の前にも料理の一皿目が置かれ――オオグイフードバトルの火蓋は切って落とされた(なお、料理の提供はこれもザ・フードステージの機能なのか、全自動で行われております)。
 直後、高らかに声を上げたのは伊美砂である。
「つーワケで、タダ飯ゴチになりまーす! いやー、見て下さいよ。もうね、ナイフを軽く当てただけでスッと切れる。そこからジュワーっと、溢れてくる肉汁! 美味しそうったらないですねー!」
 動画生放送の実況者的に喋る伊美砂の隣では、ユーベルコードで具現化した彼女の別人格が黙々と牛フィレ肉のロッシーニ風を口に運んでいた。何人もの人格を脳内に抱える伊美砂は、こういうものに最も向いている人格を呼び出したのかもしれない。ペースを全く落とさず食べ進める分身の姿に、伊美砂の食レポにも熱が入る。
 そして、シルヴァーナの方も整ったペースで牛フィレ肉のロッシーニ風を食べ進めていた。その立ち振る舞いは食事中でも圧倒的に優雅。ナイフで肉を切り分ける様も、フォークで料理を口に運ぶ仕草も、絵画の世界から抜け出てきたかのように絵になっている。
「格式高い料理ですので、それなりの礼をもって頂くべきですわよね」
 有無を言わせぬ説得力を伴って語るシルヴァーナ。……それは、アントニオに対する挑発も含んでいた。
 チラリと向けられたシルヴァーナの視線が、カチャカチャと皿に当たって鳴らされるアントニオのナイフとフォークを捉える。彼の口元を見れば、ソースやら脂やらでベトベトになっていた。
 音一つ立てないシルヴァーナのナイフやフォーク、染み一つ無い彼女の口元と比べれば大きな違いである……。
 しかし、そんなアントニオにテーブルマナーを説くこと無く、シルヴァーナはふっと微笑するに留めた。
「気にしないで下さいまし。獣に作法を求めたりは致しませんもの」
 これ見よがしに呟かれた台詞は、シルヴァーナからのアントニオに対する精神攻撃であった。これで向こうの食べるペースを乱そうというのが彼女の作戦だったのである。……が。
「――ん? 何か言った?」
(聞いていませんでしたの!?)
 華麗にスルーされて戦慄するシルヴァーナ。
 さて、伊美砂の方は食レポが一段落したところで、持ち込んでいた荷物をゴソゴソと漁り始める。中から取り出したのは――知る人ぞ知るラベルが貼られた、ちょっとお高い赤ワイン!
 牛肉、特にステーキに良く合うことで評判の一品であった……。
 それを、自分と分身の前に置いたグラスに注ぐ伊美砂。
「あ、飲みたい人、居る? よかったら一緒に飲みましょ?」
 ……生憎と、シルヴァーナ(裕美)は未成年であるのでNGが入ったが、26歳の伊美砂たちは牛フィレ肉のロッシーニ風を口に含み、そこで赤ワインをコクリ。――牛肉とフォアグラとトリュフの豊潤さをワインの豊潤さが洗い流していく感覚に、伊美砂もその分身も至福の二文字を思い浮かべる。
 伊美砂は流し目をアントニオに送り、挑発的に微笑んだ。
「こんな良いお肉、急いで食べたら勿体無いわよ?」
 猟兵側からのさらなる挑発にアントニオは……。
「美味しい……おいちい…………あれ? 誰か何か言った?」
(またも聞いてない……!?)
 伊美砂さえも戦慄を味わう。
 ――否、流石にシルヴァーナも伊美砂もここに至れば気が付いた。グリモア猟兵が事前に言っていたではないか。『この場の料理を食べ続けている限り、相手のオブリビオンの力は増大を続ける』と。そして、今回ザ・フードステージにてオオグイフードバトルの相手を担うオブリビオンたちは、『猟兵たちがこの場に到着した時点で、既に能力を増大させた状態にある』のだ。
 ……それは、何も身体能力やユーベルコードに限った話ではない。『精神的な耐性』も、普段のオブリビオンたちより遥かに強化されているのである。即ち――今のアントニオはまさに悟りの境地、仏メンタル! ……挑発で揺るがすのは難しかったのだ。
 精神的に揺さぶってアントニオの食事のペースを乱そうとしていたシルヴァーナも伊美砂も、それが失敗に終わって窮地に立たされる。
(……いえ、まだですわ)
(真っ向勝負で大食いに勝てば、まだ――)
 ……けれど、シルヴァーナと伊美砂の分身がペースを落とさず食べ進めても……徐々に、アントニオの方の食べる速度が上がっていく。「おいちいおいちい」と牛フィレ肉とフォアグラとトリュフを口に詰め込んでいくアントニオと、食べ終わって空になった皿の量に差が広がっていくのだ……。
 ……敗因を述べれば、シルヴァーナにしろ伊美砂にしろ、此度の戦いに赴く上で抱いていた信念が『料理をより多く食べる為のもの』というより、『より美味しく食べる為のもの』であったことだろう……。
 ――大食い勝負の制限時間終了を告げる鐘の音が鳴り響くなり、シルヴァーナも伊美砂ももたれ気味の胃を気力で捻じ伏せ、椅子を蹴って立ち上がる。
「……屈辱ですが……撤退しますわよ!!」
「――異議無し! ……くそぅ……!!」
 シルヴァーナ(裕美)も伊美砂も、猟兵として決して実力が低いわけではない。だから……相手の僅かな身のこなし、漏れ出るユーベルコードの気配から、嫌でも理解出来てしまう……。

 ――今の、この場に居る猪狩・アントニオには、自分たちが真の姿を晒して命を賭しても勝ちは見込めないと。

 本格的な戦闘に移行した段階で詰むと確信出来てしまった両名は、そうなる前にザ・フードステージから退くしかなかったのである……。
 ……猟兵たちが去った後、ナイフとフォークを置いたアントニオは、ナプキンで口元を拭い……首を傾げた。
「……あれー? さっきまで誰か居たような、居なかったような……? ――まあ、いいかー☆ おかわりお願いしまーす♪」
 嬉々として、彼は食事を再開するのだった……。

失敗 🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

カーバンクル・スカルン
フォアグラ、それはガチョウやアヒルに必要以上の餌を与えて肥大化させることで生まれる最高級食材の一つ。
その生産方法は動物愛護団体から「拷問」だと訴えられ物議を醸している。

拷問……つまり私の本職。本職が関わる物事に対して素人に遅れを取るわけにはいかないのですよ。

え? 適当に理由づけて高級フレンチをタダで食べようとしている? ナ、ナンノコトカナー?

オブリビオンのガードが破れたら、今度はあなたが喰われる番。こっそり仕掛けてたワイヤーをオブリビオンに引っ掛けてワニの口までデリバリーいたします!



 ――ザ・フードステージに転移してオオグイフードバトルの席に就いたカーバンクル・スカルン(クリスタリアンの咎人殺し・f12355)は、クールな顔付きで呟いた。
「フォアグラ、それはガチョウやアヒルに必要以上の餌を与えて、肝臓を肥大化させることで生まれる最高級食材の一種――」
 ……実のところ、カーバンクルと猪狩・アントニオの大食い勝負はもう既に始まっていた。アントニオの側が「美味しい、おいちい」と牛フィレ肉のロッシーニ風を食べ進めている中、カーバンクルはナイフもフォークも手に取らず、独白を続けているのである……。
 ……最初から勝負を投げているのか? ――否である。
「フォアグラの生産方法は動物愛護団体から『拷問』だと訴えられ物議を醸している」
 ここでようやくナイフとフォークを手にしたカーバンクル、その赤き瞳に揺るぎない信念の光が灯った。

「拷問……つまり私の本職。本職が関わる物事に対して素人に後れを取るわけにはいかないのですよ」

「おいちい、おいち……っっ!?」
 順調に食べ進めていたはずのアントニオの手が一瞬止まったのは、カーバンクルから噴き上がった目に見えぬプレッシャー……気迫のせいに他ならなかっただろう。
 スタートで遅れたはずのカーバンクルのナイフとフォークが、霞む。彼女の前に置かれた皿の上から、牛フィレ肉のロッシーニ風が跡形もなく消えた。間髪入れずに出されたおかわりも瞬時に消え失せ、空になった皿がカーバンクルの脇へ瞬く間に塔の如く積み上がる。
 ……カーバンクルはお嬢様育ちのはずだ。スペースシップワールドの歴史ある宇宙船で大事に育てられてきた……そのはずである。しかし……しかし、本当に目聡い者ならば、その経歴の中にどうにも不自然なものを感じ取る……それも事実であった。
 そんな、カーバンクル自身は黙して語らぬ過去……それが今、彼女の背中を押し、牛フィレ肉を、トリュフを、何よりもフォアグラを食す速度を上げている……そのように感じられた。
 食べた量に大差を付けていたはずのアントニオ。なのに、一分、二分と時間を経るごとにその差は縮まり……五分、一〇分を数える頃には、空になった皿の量はカーバンクルの方が逆転していた。
「う……嘘……嘘だよー! ボクよりもコレをたくさん食べられるヤツが居るなんて!! というかオマエ、適当に理由付けて高級フレンチをタダで食べようとしてるだけだろー!?」
「――んがぐふっ!?」
 ……涙目で、苦し紛れに言い掛かりを付けたアントニオ。――だけれど、カーバンクルは焦った様子で料理を喉に詰まらせ、激しく咳き込んだ。
「げふげふごほごほ!! ……ナ、ナンノコトカナー?」
「………………」
 目を逸らしてごまかすようにカタコトで話すカーバンクル。……ザ・フードステージに、何やら白けた空気が蔓延した……。
 ――気を取り直して大食い勝負再開!
 一瞬ペースを落としたカーバンクルだが、直後に持ち直して食べる速度を余計に加速する。アントニオも食い下がるが、その差を縮めることはとうとう叶わなかった……。
 オオグイフードバトルの制限時間終了を告げる鐘の音に、カーバンクルはとびきりの笑顔を浮かべる。
「今度はあなたが喰われる番。ワニの口までデリバリー致します!」
「えっ? あ、あれっ!?」
 アントニオの身体が座っていた椅子から持ち上がり、宙へと浮かぶ。……そのメイド服の背中には、いつの間にかワイヤーに結ばれたフックが引っ掛かっていた。アントニオがどれだけ暴れてもびくともしないそのワイヤーフックは、彼をクレーンゲームの景品のように運んでいく……。
 ――その先には、歯車が噛み合い、発条が伸び縮みする音を鳴らせる金属製のワニが鎮座していた。
「……ひっ……!?」
 ワニの顎が開き、その中に並んだ凶悪な刃の牙を目にして、アントニオが本当に乙女の如き悲鳴を漏らす。
「『苦しませず、一撃で仕留めてあげる。……だから安心して死になさい』」
 無慈悲に告げられたカーバンクルからの死刑宣告。ワニの口の中へとアントニオが落下し、さらなる悲鳴が轟く前に……ワニの顎は閉ざされた。
 肉が裂かれ、骨が砕かれる不協和音をワニの口内より聞いたカーバンクルは、終わったと判断してザ・フードステージから背を向ける――が。
 ……ギ、ギギギッ……。
「……わ、まだ生きてた」
 拷問具たるワニの口を押し開き、アントニオが這い出てくる。
 メイド服はズタズタで、その内の肉体はもっと酷い有様だが……床を這って席に戻ったアントニオは、そこのテーブル上に再び出された牛フィレ肉のロッシーニ風を手掴みで貪り食らう。
「こんなに……美味しいんだもん……食べればすぐに元気百倍……だよ☆」
「……まだまだ終わらないんだね……」
 言葉通り、料理を食べるアントニオの傷が少しずつだが治っている。自分自身は完全勝利したカーバンクルだが、このステージ自体の勝敗はまだ解らないことを噛み締めるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミラ・グリンネル
ミラは持参のお酒を抱えながらステーキに目を輝かせる。
「ステーキには赤ワインが合いマスネ!これで永久機関デスヨ」
肉・肉・ワイン・肉・ワイン
ステーキの美味しさを堪能しながら口に残った油をワインで洗い流す。そしてリフレッシュした口の中へ肉を放り込む。
躍動感溢れる食べっぷりにミラの胸も大きく躍動する。アルコールで火照った身体に観客の露骨な視線を感じたミラは意味深な表情を浮かべ
「これより美味しいディナーをご馳走してくれるなら……良いデスヨ?」
何を!?というツッコミをスルーしてステーキに戻るミラ。

「これでフィニッシュ!」
最後まで美味しくステーキを頂いたミラはとても満足そうであった。



 四人目の挑戦者を迎えたザ・フードステージにて、またもオオグイフードバトルの幕が上がっていた。
 此度猪狩・アントニオに挑むミラ・グリンネル(妖狐の精霊術士・f05737)は、目の前に出された牛フィレ肉のロッシーニ風に目を輝かせる。
 ミラは、元々食への欲求が強い女性だ。そういう意味では、このステージの食べ物に関する特殊ルールは願ったり叶ったりであろう。――それに加え、ミラには今回『切り札』があったのである……。
 デデンッ! と取り出したのは酒、赤ワインのボトルであった。
「ステーキには赤ワインが合いマスネ! これで永久機関デスヨ!」
 赤ワインさえあれば肉を無限に食べられると豪語するミラ。その感覚、まさにメリケン人である(偏見)。
 ――とはいえ、豪語するだけはあった。
 肉・肉・ワイン・肉・ワイン・肉・肉・ワイン・肉・ワイン……。
 先の猟兵のユーベルコードにて負った傷を補わんと、肉を貪るアントニオ……それに勝るとも劣らない速度でミラは肉を、ついでにワインを消費していく。
「美味しいデス! 今までに食べたステーキの中でも、ベスト3に入る絶品デス!!」
 噛めば噛むほど溢れ出る牛フィレの肉汁。それとハーモニーを奏でるフォアグラの脂。両者を包み込むトリュフの芳香……。暴力的ですらある旨味が口内で飽和したところで――赤ワインがそれを洗い流すのだ。
「爽やかにリフレッシュデス! これでまた改めて、ステーキを堪能デキマス!!」
 肉とワインのコンビネーション、それはまさに永久機関を豪語するだけはある技巧であった。ワインを挟むことで、単純に牛フィレ肉のロッシーニ風だけを食べ続ける単調さと比べて圧倒的に食を進み易くしている。
 皿の上で舞い踊るように動くミラのフォークとナイフ。その合間に挟まれるワイングラスの合いの手。躍動感溢れるミラの食べっぷりに余計に躍動する物体が二つ……。
 ――ミラのおっぱいである。
 ……いや、本当に……デカい。まさにアメリカンサイズ。その食べっぷりを見ればこのサイズも納得だが……真に大きい。……それが、ブラジャーを着けているのか疑わしくなるレベルで揺れているのである。今にもノースリーブのシャツのボタンを弾け飛ばし、零れ落ちそうで……とんでもなくデンジャラス。
 しかも、ミラの頬や首筋はアルコールで火照っているのか赤みを増し、色っぽい。……今回のザ・ステージを巡る猟兵たちと怪人たちの戦いは、キマイラフューチャー全土に動画配信されている場合も多く、実のところこの場の戦いもそうなのであるが……その見えるはずの無い動画の視聴者たちが唾を飲み込んだのを、ミラは意識した。
 途端、ミラの顔に意味深な表情が浮かぶ。キマイラフューチャーの何処かに居る、自分に釘付けになっている誰かに向け、ミラは指を突き付けた。
「これより美味しいディナーをご馳走してくれるなら……良いデスヨ?」
 ――一体ナニが良いのですか!? 何処かから響いたかもしれないツッコミをスルーして、ミラはオオグイフードバトルへと舞い戻る。
 この一連のやり取りは、決してミラの遅れとはならなかった。彼女はアントニオと一進一退のペースで食べ続ける……。
 ――そう、『互角』であった。
 ……もしも、これが牛フィレ肉のロッシーニ風ではなく、単に『ステーキ』の大食い勝負であったなら……恐らくミラの側が圧勝していただろう。
 だが、今回の料理はあくまでも『牛フィレ肉のロッシーニ風』。それを『ステーキの一種』という認識で想って食べるミラと、純粋に『牛フィレ肉のロッシーニ風』として想って食べるアントニオでは、そこに差が生まれてしまう……。
 赤ワインの存在でブーストを掛けていたとしても、今回のミラではその差を埋めるのが限界……ぶっちぎることは出来なかったのだ。
「これでフィニッシュ!」
 牛フィレ肉のロッシーニ風の最後の一口を飲み込み、グラスに残っていたワインも飲み干したミラ。同時に高らかに鳴った鐘の音が大食いパートの終了を告げる。ミラの顔には、最後の一皿まで料理を美味しく食べ切った満足感が浮かんでいるが……彼女とアントニオ、双方の前に積まれた皿の数は……パッと見では差が解らないほど拮抗していた。
 ……アントニオがリボンを巻いた槍を手に、ゆらりと立ち上がる。他の猟兵に痛め付けられたその身には未だ傷が無数に残るが……地を踏み締める両脚には揺らぎは見られない。
 アントニオは小首を傾げて、にっこりとミラに微笑んでみせた。
「そういえば自己紹介がまだだったねー! ボクはメイド十二神将が一人! 猪狩・アントニオです! 気軽にアンって呼んでね♪ ――金髪デカ乳女、ぶっ殺す」
 牛フィレ肉とフォアグラとトリュフ、そして赤ワインの香りが薄れていくザ・フードステージに、代わりに濃厚な殺気の香りが満ちていく……。
「……美味しい食事を悪用する奴は馬に蹴られて鏡餅デス!!」
 今から始まるこの戦闘が、一手違えれば即座に死に繋がる死闘になることを予感しつつ――ミラは雄々しく叫んでエレメンタルロッドを手にするのだった……。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

雨咲・ケイ
今度は大食い勝負ですか。
実にキマイラフューチャーらしいといえますね。
私はどちらかと言えば小食ですが、
ここは最善を尽くしましょう。

【WIZ】で行動します。

こんな事もあろうかと(?)私は昨日の朝から
絶食してるんです。
け、決して金欠だったわけではありませんよ。
胃袋も心もハングリーな状態というわけです。
つまり、この勝負でカロリーと
精神エネルギーを補充しなければ、
本番の戦闘で満足に戦う事ができません。
正に背水の陣というわけです。
追い込まれた人間をナメるんじゃあないですよ。
では、いただきます。

胃袋だけでなく心まで満たされれば、
最早敗北などありえませんッ!
【サイキックブラスト】でごちそうさまでしたッ!


ステラ・クロセ
(黒瀬家はあまり裕福ではありません。いえ、お金が無いわけではないのですが……無駄に家名が高いので、お父さんお母さんは見栄を張るのにかなり出費してるからです)

先日は弟達と一本のソーセージを分けて食べる始末…なので高級食材には縁がなく……
えっ?!ハガキより厚い牛肉なんて初めて見た!
ええっ?!なになにこのすごい良い香りがする黒いの?キノコ?
Now or Never!この機会を逃さず食べまくっちゃう!

(敵の方を眺めてから)
「アンタはもうたくさん食べてるじゃない、食べるのに都合がいいその席、アタシによこしなさい!」
背負い投げして席を奪うよ!

※アドリブ歓迎です。



「今度は大食い勝負ですか。実にキマイラフューチャーらしいといえますね」
 ザ・フードステージに足を踏み入れた雨咲・ケイ(人間のクレリック・f00882)は、感嘆しているようにも呆れているようにも取れる調子で呟いた。
 ケイが目を向ければ、また少し負傷を増やした猪狩・アントニオがそれを補うように「美味し、美味し」と牛フィレ肉のロッシーニ風を口に運んでいる。……が、唐突にそれがピタッと止まった。
 持ち上がったアントニオの視線が、ケイの繊細に整った容姿を捉える……。
「……や、やったー! 執事風なイケメンボーイ、キター!!」
 椅子を蹴って立ち上がり、ガッツポーズするアントニオ。ケイの目が点になる。
 イケメン大好きアンちゃん、来る猟兵がことごとく女性で少々食傷気味だったようだ。やっと来てくれた美形男子にテンション爆上げである。
 ……ちなみに、挑戦者はもう一人居た。ステラ・クロセ(星の光は紅焔となる・f12371)である。名門の戦士一族・『黒瀬家』の長女であるという彼女、普段は元気な女の子であるのだが……今は何やら物静かだ。
 とにかく、ケイとステラが用意されたテーブルに着席し、アントニオも自分の席に座り直して――オオグイフードバトル、開戦である。
 ケイとステラの前に、「我こそが食卓の主役!」と言わんばかりの存在感をもって牛フィレ肉のロッシーニ風が鎮座した。その威容に、ケイの黒瞳の輝きが増す。
 それも仕方がなかった……。
「こんなこともあろうかと――実は、私は昨日の朝から絶食してるんです」
 要するに、24時間以上何も口にしておらず、ケイの胃袋は完全に空っぽの状態。その胃が、シャトーブリアンの、フォアグラの、トリュフの芳香を受けて再活動を始めたのを彼は自覚した。
「……今の私は、胃袋も心もハングリーな状態というわけです。つまり、この勝負でカロリーと精神エネルギーを補充しなければ、本番の戦闘で満足に戦うことが出来ません……」
 それは、まさに背水の陣。敢えて自身を苦境へ追い込むことにより、ケイのこの大食いに懸ける気迫は爆発的に膨れ上がっていた。
 流石は己の弱さの克服を命題とし、猟兵として戦う道へ踏み込んだ求道者・ケイ。決して金欠で食事もままならなかったわけではない!
「………………」
 ……何故そこで目を逸らす、求道者?
「ともかく、追い込まれた人間をナメるんじゃあないですよ。では、頂きま――」
 フォークとナイフを手に取ったケイだが――そこで隣のテーブルから立ち昇る歓喜のオーラに気が付いた。
 牛フィレ肉のロッシーニ風の乗った皿をかけがえのない宝石のように掲げて、ステラが感動に打ち震えている。

「……えっ? えっ!? ハガキより厚い牛肉なんて初めて見た!」

 ……アントニオでさえも、ステラの発言にフォークとナイフを動かす手を止める。
「ええっ!? 何なにこの凄い良い香りがする黒いの? キノコ? 裏山とかに生えてるのかな? 昨日も弟たちと一本のソーセージを分け合って食べただけだから、お腹空いてたんだー。Now or Never! この機会を逃さず食べまくっちゃう!」
 先程までとは打って変わって元気爆発なステラ。どうも、牛フィレ肉のロッシーニ風という未知の高級料理を前に、一時的に思考がフリーズしていたようだ。
 ……何でもステラの実家の黒瀬家は、実のところあまり裕福ではないらしい……。誤解無きように言えば、決して金銭に乏しいわけではないそうなのだが……戦士の名門一族として無駄に家名が高いせいか、ステラの父母は見栄を張り……余計なところで相当の出費を重ねているそうなのだ。
 そのしわ寄せがステラとその弟三人の食事などに現れているとのこと……。黒瀬家の内情に、全キマイラフューチャーが泣いた。
「……。改めて頂きます」
「……頂きまーす」
 ケイどころかアントニオまでしんみりとし、気を取り直してオオグイフードバトルが再スタートした。
 何にせよ、ケイもステラも今この瞬間における食への執着が凄まじい。スタートダッシュの時点でアントニオをぶっちぎり、空になって積み上がる皿が止まらない、止まらない!
 それでも、どうにか食い下がろうとするアントニオだが……。
「もぐっ! おかわりお願いしまーす! ああ、次のも美味しそう! 頂きまーす……?」
 ……スカッ。アントニオのフォークとナイフが空を切る。「……あれ?」と思ったアントニオが目を擦ってみれば、いつの間にか皿の上の牛フィレ肉のロッシーニ風が無くなっていた。
「……無意識に食べちゃったかなー? おかわりお願いしまーす!」
 再度おかわりを要求し、出されたそれにナイフとフォークを突き出すアントニオ――カチンッ。
「…………」
 牛フィレ肉もフォアグラもトリュフも消失した皿に衝突した己のナイフとフォークを見て、アントニオの目が細められる。
 アントニオがテーブルの下を覗き込む。そこには……。
「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ」
 ――頬をハムスターのように膨らませたステラが居た。
「それボクの料理ー!? オマエ、何で人の料理取ってるのー!?」
「もごもごもごもごもごもごもごもご」
「……口の中のもの飲み込んでから喋ってよー!?」
 とりあえず、口に詰め込めるだけ詰め込んでいた牛フィレ肉のロッシーニ風を嚥下したステラ、ずびしっとアントニオに指を突き付ける。
「だってこの席の料理の方が、少しだけだけどより美味しそうだったし!」
「どの席に出される料理も変わらないから!?」
 ……『隣の芝生は青い』というあれである。だが、食欲の権化となっているステラはそんな言い分では止まらない。
「アンタもうたくさん食べてるじゃない、食べるのに都合がいいその席、アタシに寄越しなさい!」
「勝手なこと言うなー!!」
 ……まだオオグイフードバトルの途中ながら、ステラとアントニオの間でキャットファイト染みたものが開戦する。
 それを尻目に、ケイは黙々と牛フィレ肉のロッシーニ風を食べ進めていた。アントニオも絶賛の執事風イケメン男子、食事する姿も本当に絵になる。
「……実際のところ、私はどちらかと言えば小食ですが、ここは最善を尽くしましょう」
 ナプキンで口元を拭いつつ、真剣に料理と向き合うケイ。
 大食い勝負そのものはまだ中盤だが、スタート直後からの圧倒的食べっぷりでケイもステラもアントニオを置き去りにする量を食していた。……そのおかげか、もうこの段階でアントニオが受けていた特殊ルールによる強化の恩恵は薄れている。ステラとのキャットファイトはアントニオが押され気味。当然、食を進めることはオブリビオン側には出来ておらず……その隙にケイはさらにその差を開きに掛かる。……やがて……。
「たぁぁっ! ――って、あれ?」
 アントニオを背負い投げで床に叩き付けたステラが、鳴り響いた鐘に首を捻る。……オオグイフードバトルの終了を告げるそれの音色と共に、ケイは椅子を引いてゆっくりと立ち上がった。
 ――その身から立ち昇るユーベルコードの気配は、最早天を衝かんばかりである。
「胃袋だけでなく心も満たされれば、最早敗北などありえませんッ!」
 威風堂々と叫んだケイの両の手のひらで、周囲の陰影を変えるほどの電光が轟いた。
 ステラが慌てて飛び退いた直後、身を起こし掛けていたアントニオに向かって、かつてない『サイキックブラスト』が殺到する。
 それは大気が粉砕された如き爆音を響かせ……ザ・フードステージに爆煙の塔を築いたのであった。
「――ご馳走様でしたッ!!」
 完全勝利を遂げたケイが眼鏡を押し上げる。……その向こうで、ステラが残っていた牛フィレ肉のロッシーニ風をナプキンに包んで回っていた……。
「……あの、何をしているんですか?」
「まだまだ食べ足りないから、持って帰るの! 弟たちへのお土産にもしようかなって」
「……そうですか」
 逞しくも切ないステラの姿に、ケイは天を仰いだのだった……。

「……ま、まだ……だよ。ボクはまだ――食べられるんだからー……!」
 そして――爆煙の向こうで、満身創痍のアントニオがそれでも身を起こしていたのである……。
 決着は、あと少し。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

桐生・明澄
美味しいものが食べられるって聞いたから来たけど相手もなかなかやり手だね。油断は出来ないな。
ステーキを前に〈礼儀作法〉で丁寧に手を合わせてお辞儀をする。
そして「いただきます」と感謝の意をこめて言う。

さぁ、食べようか。
〈早業〉で肉のわずかな油を除き食べていくか。まずはアイツよりも多く食べないといけないから〈大食い〉でとにかく食べ続けるよ。最優先。
念のためアイツが妨害するかもしれないから〈武器受け〉で対応できるように常に気配は探っておく。

ある程度食べた後、〈見切り〉で攻撃時を見極めたらUC〈剣技之一・稲妻〉で相手を攻撃、さらに〈2回攻撃〉で相手を刀で突いて〈串刺し〉にしてやる。

アドリブ・連携歓迎です


フレミア・レイブラッド
雪花を連れて参加するわ。
数人掛かりで相手してるんだし、別に眷属連れてても良いわよね?
この子にも食べさせてあげたいし♪

あら?大分良い肉使ってるわね。フォアグラもトリュフも高品質なものを使ってるわ♪

元よりお嬢様でグルメなので、味を楽しみつつも【礼儀作法】で上品に頂く…ただし、速度が異常。
【血統覚醒】を発動。【早業】で皿の料理を切り分け、口に入れて味わい、時に口直しにワインを飲み、次を食べる。この一連の動作が超高速で行われており、パッと見肉が消えていく様に皿が積み重なっていったり…。
ちなみに、雪花は肉が消えていくのに唖然としてたり

食べ終わったら食後の運動として魔槍で料理してあげるわ♪

※アドリブ等歓迎



 このザ・フードステージにて行われているオオグイフードバトルも最終局面を迎えようとしていた……。
「美味しいものが食べられるって聞いたから来たけど、相手もなかなかやり手だね。油断は出来ないな」
 一見すると少し押せば倒れそうな様相ながら、猪狩・アントニオはそれでもフォークとナイフを手に取る。その眼光も死んではいない。桐生・明澄(駆け出しの剣豪・f17012)は油断無く自分の席に着いた。
 対して、余裕の笑みを浮かべつつ着席したのはフレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)である。
 ついでに、彼女は自分のテーブルへもう一脚の椅子を所望した。
「数人掛かりで相手してるんだし、別に眷属連れてても良いわよね? この子にも食べさせてあげたいし♪」
 フレミアは過去の事件で虜とした雪女見習いの少女を連れてきていた。名前を雪花という。
「……ははっ。この際一人増えようが十人増えようが全然OKだよー! ――勝つのはボクだしねー……!!」
 狂暴な笑みで了承するアントニオに、雪花がフレミアにすがり付いた。
 そんなわけで、明澄にフレミア、雪花VS猪狩・アントニオ……このオオグイフードバトルの最終戦が幕を開く。
 牛フィレ肉のロッシーニ風を前に、丁寧に両手を合わせた明澄が頭を下げた。
「――頂きます」
 戦いの前には相手に敬意を払い、挨拶をすることを父親に叩き込まれて育ったという明澄。此度のこの大食いも、彼女にとっては一つの戦いなのだろう。
「さぁ、食べようか」
 明澄はナイフとフォークを素早く、精密に動かし、牛フィレ肉やフォアグラから余分な脂を取り除いていく。そうすることでより食べ易くしようという彼女なりの工夫だった。
 元より少々大食いの気がある明澄。その食べる速度は決して遅くはない……。
 ――ただ、アントニオの側はそんな明澄と比べても速過ぎた。
「美味し、おいし、おいち、美味しいー……!!」
 傷だらけの身で、身体の各所から血を流しながらも、それでもアントニオはナイフとフォークを動かす。その鬼気迫る様に、少なからず明澄は気圧された。
 明澄としては、万が一アントニオがこちらの食事を直接妨害してきた時に備えて警戒もしていたのだが……逆にその分、食べることへの集中を欠いていたところもある。
 明澄とアントニオの食べ終わった皿の量に、若干差が開き始めた……。
 それを知ってか知らずか、お嬢様育ちのフレミアは上品に牛フィレ肉のロッシーニ風を楽しんでいる。
「あら? 大分良い肉を使ってるわね。フォアグラもトリュフも高品質なものを使ってるわ♪ 雪花もしっかり味わって、味を覚えておきなさい。こういうのを舌で見分けられるのも淑女の嗜みよ」
 そう言われた雪花だが……彼女の方はフォークもナイフも動かすことを忘れてポカーンとしていた。
 何せ……フレミアが料理を切り分ける様も、口に含む仕草も優雅。時に口直しにワイングラスを傾ける姿も、それ自体が一枚の絵画のようである。しかし――速度が異常。
「……み、見えないのー……」
 雪花が呆然と呟いた通り、テーブル上に出されたシャトーブリアン、フォアグラ、トリュフが、次の瞬間には煙のように消えているのだから……。
 その理由はフレミアの紅玉の如く輝く両目を見れば明白だ。

 ―― 血 統 覚 醒 。

 己が血に秘められし真祖としての力……それを目覚めさせ、フレミアはこの大食いに臨んでいたのである。その強化を受けて食べ進む速さは、明澄を引き離していくアントニオをして置いてきぼりにされる領域。……もしかしたら、このオオグイフードバトルに挑んだ全猟兵の中で最も速いかもしれない。
 ……それも当然と言えた。
 血統覚醒――彼のユーベルコードは、『使用中毎秒寿命を削り続ける』。
 自分の寿命を削ってまで、料理をより多く、より早く食べようとしているのだ……。
 ――そこまでのものを懸けているフレミアに誰が勝てるというのか?
「……嘘だよー……! こんな……ボクが……負けるわけ……!?」
(――今なら!)
 現実を受け入れられない様子でブツブツ呟くアントニオに、明澄は好機の到来を察した。ナイフもフォークも放り出すと、椅子を足場に跳躍――アントニオの眼前のテーブルの上へ着地する。
「――えっ? っっっっ!?」
「『一瞬だよ』――」
 アントニオが我に返った瞬間、鞘走った明澄のサムライブレイドが彼に牙を剥く。『剣技之一・稲妻』……そう名付けられた居合切りを、アントニオはギリギリでリボンを巻いた槍にて受け止めるが――そこで明澄の攻撃は終わらなかった。槍と衝突した反動も活かして引き戻された彼女の刀は、今度は切っ先からアントニオへ襲い掛かる。
「くぁっ……!? ま、まだ大食い勝負も終わってないのに……卑怯者ー!!」
「そもそもこんな自分が圧倒的に有利な戦場へこちらを誘い込んでおいて……よく言うものね!!」
 両肩から新たな鮮血を噴き上げるアントニオの非難に、明澄が吠え返す。
 明澄は、最初からオオグイフードバトルが終わるのを待たずにアントニオへ仕掛けるつもりだったのである。その策は、彼女一人なら失敗していただろうが……共に挑むことになったフレミアの存在が功を奏した。彼女の超越的な食べっぷりにより、この時点でアントニオからは特殊ルールによる強化は失われ……その恩恵はフレミアの方へ移っていたのだから。
 ――今のアントニオならば明澄でも戦える!
 宙を疾駆する明澄の斬撃が、既に多くの傷を抱えていたアントニオにさらなる負傷を刻んだ。反撃として彼は己を模したエネルギー体を放つが、明澄はそれを見切って袈裟懸けに斬り捨てる。
 明澄とアントニオの交錯が何十合にも及び、双方の気力が限界まで張り詰めたところで……高らかに鐘の音が鳴った。同時に、朗らかな声が響く。
「……うん。食べた、食べたわ。……あら? 雪花ったら思ったよりも食べてないじゃない」
「……おねぇさまが食べ過ぎだと思うのー」
 明澄とアントニオが開戦した後も牛フィレ肉のロッシーニ風を食べ続けていたフレミアと雪花の会話。……フレミアの周りには、ザ・フードステージの天井に届かんばかりの皿の塔がいくつも築かれていた。
 この時点で、全ては決定付けられたと言えよう。
「それじゃあ、今度は食後の運動の時間ね――」
 フレミアが魔槍・『ドラグ・グングニル』を構え、アントニオの方に向けて歩み出す。その小柄な身体から立ち昇るユーベルコードの気配は、周囲の重力が十倍……百倍にも増したように錯覚させるほどであった。
「さぁ――料理してあげるわ♪」
 フレミアの笑顔に怯えたように一歩下がるアントニオだが、その背後は明澄が塞いでいた。最早撤退も叶わないと悟ったメイドゲイは、開き直ったように壮絶な笑顔と化す。
「やってやるよー、猟兵共! メイド十二神将の底力、とくと見ろー!!」
 真紅の魔槍の穂先が、覚悟のオブリビオンの心臓の位置へ突き出され……。

 ザ・フードステージの一角で、猟兵たちの勝利の凱歌が唄われた。
 キマイラフューチャーの中枢、システム・フラワーズまでの道のりが、また僅かに拓いたのである……!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年05月06日


挿絵イラスト