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バトルオブフラワーズ⑦〜歌え！　キマフュー！！

作者：七転 十五起

　キマイラフューチャーの未来を占う『バトルオブフラワーズ』！
　その中枢たる『システム・フラワーズ』に到達するためには、６つの『サ・ステージ』と呼ばれる箇所を制圧する必要があるのだ。
　ここはそのひとつである『ザ・サウンドステージ』！
　ここを守るオブリビオンは、勿論、歌い手だ。
　なかなかの美貌にシックかつ可憐なドレス。
　歌姫というのに相応しいオブリビオンの女性は、感情を乗せて歌い上げる……。

「こ゛の゛素゛敵゛な゛世゛界゛に゛ぃ゛！　わ゛た゛し゛は゛生゛ま゛れ゛ぇ゛っ゛！　自゛分゛の゛夢゛を゛歌゛い゛続゛け゛る゛の゛よ゛ぉ゛！」

「ひどい音痴だったよっ！！」
　蛇塚・レモン（叛逆する蛇神の器の娘・f05152）は予知で見た歌姫オブリビオンの歌声がよほどキツかったのか、自身の両耳を塞ぎながら全力でツッコミを入れた。
「うん、キマイラフューチャーで戦争が勃発したのはみんな、もう知ってると思うんだけど、今回は『ザ・サウンドステージ』っていう場所を守っているオブリビオンの討伐をお願いしたいんだよっ！」
　どうやらそれぞれの『ザ・スタージ』には特殊ルールが設定されており、これを守らずオブリビオンを撃破すると猟兵たちの強制敗北となってしまうのだとか。
「今回のルールは『パッショネイトソング』！　戦闘中は常に『自分自身を奮い立たせる歌』を歌い続けなければいけないんだよっ！　もし、歌を歌わずに行った攻撃は、効果を発揮しないから気を付けてねっ！」
　歌いながら戦う……？
　大勢いる猟兵の中に、そういうのが得意な猟兵もいるのかもしれない。
「更に！　オブリビオンに強烈な一撃を与えたい場合はねっ！　『秘密にしている事をカミングアウト』したり『恋人への告白を歌にして捧げる』とか、とにかく強い想いを歌に乗せる事が大事なんだよっ！！」
　それって猟兵によっては、黒歴史を撒き散らしながら戦うことになりそうだが！？
　しかし、己の告白で世界が救われるのであれば、ここは恥のかき時だ。
「みんな、恥ずかしがらないで、思い切って“歌って”きてねっ！」
　猟兵たちは覚悟を決め、キマイラフューチャーへ転送されてゆくのであった。

第1章 ボス戦 『アンマリス・リアルハート』

POW   :    歌は自信があるぞ、聞いていけ！ 【わりと壊滅的な歌声】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。 SPD   :    ダンスは教養、出来て当然だ！ 【躍りながら振り回す剣】が命中した対象を切断する。 WIZ   :    私はちゃんとできてる！間違ってるのはそっちだ！ 【現実をみないだだっ子モード】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。 イラスト：さとみ 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　オブリビオンの『アンマリス・リアルハート』は、『ザ・サウンドステージ』を守護しながら壊滅的な音程で好き勝手に歌いまくっていた。
「私゛の゛歌゛の゛虜゛に゛し゛て゛あ゛げ゛る゛ぅ゛ー゛♪゛　そ゛し゛て゛私゛の゛臣゛下゛に゛な゛り゛な゛さ゛ぁ゛い゛♪゛」
　そこへ転送されてきたロコメルン・ルケッタ（幸福の追求者・f15638）は、思わず顔をしかめてしまう。
「まるで騒音だね……？」
　だが、ロコメルンは耳を塞ごうとせずに、オブリビオンの歌へ必死に耳を澄ませた。
　音程こそ地獄のような惨状であるが、その歌詞自体は『自分の歌でファンを増やしたい』という夢が込められていることにロコメルンは気付く。
「夢……、活動力になる大事なもの。強い想い。望みとも言えるね」
　だからこそ、ロコメルンはオブリビオンへ問うた。
　存在そのものが過去に縛られた者へ、純粋に疑問を投げ掛けた。
「ねぇ、あなたは止まってしまった筈の時間で、何を望んだのですか？」
「ひ゛と゛り゛に゛し゛な゛い゛で゛！゛　私゛を゛チ゛ヤ゛ホ゛ヤ゛し゛て゛ほ゛し゛い゛の゛～゛っ゛！゛」
　目の前のオブリビオンは、よほど承認欲求が強いらしく、自分の下手くそな歌などお構いなしにロコメルンの疑問に回答した。
　それを聞いたロコメルンは、はっと息を飲んだ。
「そっか、そうなんだね……。だとしたら。……忘れられない望みは……いつまでも……残るの？　――あの人は……」
　ロコメルンの脳裏に思い浮かぶのは、病気に臥し弱っていくマスターの顔。そして、紆余曲折を経て、ようやく現実世界へ飛び出し、マスターに対面した直後、迎えた彼の最期の瞬間を。
　ロコメルンには、今は友達と呼べそうな存在も出来つつある。
　ニックネームで呼んでくれる相手も出来た。
　しかし、ロコメルンの心の中で、まだ整理が付かない部分があるのだ。
「幸せな時間って願ったらまた……訪れるのかな……？」
　――悲しむより、今までより幸せになって欲しい。
　マスターの遺言が、耳元でリフレインする。
　思わず涙が零れそうになったその時だった。
「私゛の゛臣゛下゛に゛な゛ら゛な゛い゛猟゛兵゛は゛こ゛こ゛で゛殺゛し゛て゛や゛る゛わ゛～゛♪゛」
　突如、オブリビオンから繰り出される剣の舞い！
　その切っ先がロコメルンの目玉を抉らんとする直前に、彼女は素早くバックステップダッシュ！
　ヴァリアブルマフラーが己の主人を守らんと高質化して、敵の刃を弾いた！
　……ここは戦場だ。
　ロコメルンはキマイラフューチャーを『自分達の大切な世界』だと認識している。
　ならば、世界を守るために戦わなくては！
　幸い、相手の想いの源は理解した。
　ならば、こちらもそれに見合った強い想いをぶつけなければならない。
「アンマリスさん、ぼくの想いを歌うから、聞いてください……っ！」
　ロコメルンはポータルから巨虫の大腕鎌『ミストシックラー』を呼び出して現実世界に顕在させると、澄み切った歌声を響かせながら大腕鎌を、まるでワルツを踊るように回転しながら振り払う。

　♪あなたが願った　夜空を見た
　♪その願いはもう　色褪せて見えないけど
　♪あなたが語った　夢を夢見た
　♪今願えるなら　あの時間に戻って
　♪あなたの夢を　もう一度　一緒に

　オブリビオンの剣舞に負けない横薙ぎの斬撃が、徐々にオブリビオンを後ろへと追いやってゆく！
（……叶わないことは分かってる。でも、ぼくの願いは……今も……昔も……）
　ロコメルンの瞼の裏に、今は亡き大好きなマスターの顔が目に浮かぶ……！
　大腕鎌の斬撃は、このステージの特殊ルールの効果で次第に暴風めいた強力な薙ぎ払いと化す！

　♪想いは時が経つほどに　強くなるけど
　♪振り返ればいつも　あなたは迷いない表情
　♪止まった時間の中で　眩しく生き続けてる
　♪願った夢をあなたが　誇り続けられるように
　♪少しずつ今を　歩き始める

（……だから……幸せでいて……マスター……！）
　ロコメルンの身体が、より一層に捻じれた次の瞬間！

　♪進むために　アンマリスさんを還します

　まるで空間ごと掘削するかの如き、超強力なロコメルンの鎌の斬撃がオブリビオンの肩口を深々と切り裂いた！
　血飛沫を上げて吹っ飛ばされるオブリビオン！
「う、嘘よっ！？　わ、私の夢は、猟兵より大きいのよ！？　ぐっ……！？」
　傷を抑えながら、態勢を整えるためにオブリビオンはステージの奥へと逃走していく。
　これに猟兵たちは追撃を試みる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　手負いのオブリビオンを追走するのは草野・千秋（断罪戦士ダムナーティオー・f01504）、弱きを助け、悪を挫くヒーローを目指す猟兵だ。
「追ってくるのね、猟兵？　でも、ここは歌へ込めた想いの強さが全ての力の根源になる！　それがあなたに出来る？？」
　オブリビオンは再び剣を握り締めると、草野へその切っ先を向ける。
　それに草野は毅然とした態度で突っぱねた。
「今はキマイラフューチャーの危機です！　出来る出来ないではなくて、僕が必ずやってみせます！」
　草野の双眸にヒーローの熱い信念が宿る。
「それに僕も歌い手としての矜恃がある。絶対に負けられませんよ、ここは！？」
　草野は現在『radu（ラドゥ）』名義で音楽活動中だ。動画界隈では歌い手として“高く澄み渡る歌声”が高く評価されている。
　つまり、歌声には自信があるのだ！
「へえ、あなたも歌い手なんだ？　だったら私も負けられない！」
　今ここに、ヒーローを目指す歌い手猟兵男子と無自覚音痴の女王様系歌い手オブリビオンが激突する！
「こ゛の゛歌゛で゛～゛！゛　世゛界゛を゛魅゛了゛し゛た゛い゛の゛よ゛～゛♪゛」
　乱気流めいたチグハグな音程を歌いながらオブリビオンは斬撃の舞を繰り出してきた！
　これに草野は自前のマイク『Pulchrē, bene, rectē』の電源をオンにする。
　美しく善き正しき存在であるために、と願いを込められたその白薔薇を飾ったマイクは、草野のタフな歌声を受け止め、ユーベルコードの起点となる！
「僕の歌は罪人を許さない！　さぁ、今こそ、希望の歌を！」
　ユーベルコード『ヒーローズ・リサイタル』！

　♪時に僕はふと空を見上げる
　♪天国へ旅立った家族の事を思い出すよ
　♪時に僕はふと目を醒ます
　♪悲しみに暮れて眠れない夜もあるよ

　草野の歌声は白薔薇のマイクを通して音波の鎧となり、オブリビオンの斬撃を弾き返したではないか！
　その威風堂々たるパフォーマンスは、見る者・聞く者に非常に強いメッセージを伝播させてゆく。

　♪だけど今は仲間がいる
　♪共に戦う仲間が
　♪宿敵にだって打ち勝てた
　♪僕達は独りじゃないんだ

　草野の声量はいつしか衝撃波を伴って、オブリビオンの体の内側から揺さぶってゆく！
　これには思わずたたらを踏むオブリビオン！

　♪Sing for the future！
　♪未来のために戦うイェーガー達よ
　♪立ち上がれ、武器を取れ
　♪幾多の世界を救ってきた猟兵（イェーガー）達よ

　遂に草野の歌声がオブリビオンの剣を弾き飛ばし、その足を止めた！
　ここからサビに突入、草野の強い想いで撃ち出された歌詞の言霊の弾丸でオブリビオンを貫く！

　♪君たちがいるのなら　僕は恐れず戦えるんだ
　♪過去に埋没した災いに　正面（いま）から立ち向かうんだ
　♪未来を捕まえよう　Oh Yeah！

　フィニッシュに草野はマイクを蒼銀に光る断罪の剣『gladius damanatorius』に持ち替え、腹の底から歌い上げる！
　そしてアカペラのまま、オブリビオンを逆袈裟斬りに伏せんと踏み込んだ！

　♪高みを目指して　無限の天空（そら）へ
　♪この背に翼がなくても　飛んでゆけるさ
　♪明日を信じる勇気を胸に宿して！

　痛烈な斬撃を身に受けたオブリビオンは後方へ吹っ飛ばされた！
「ハァ……ハァ……！　ま、まだ、よ！　臣下たちが、私の勝利を待ってる……！」
　息絶え絶えにオブリビオンは立ち上がると、その場からほうぼうの体で逃走してゆくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　かくして、猟兵たちはついにオブリビオン『アンマリス・リアルハート』を追い詰めた。
　オブリビオンはもはやここまでと、不退転の覚悟か、猟兵たちへ向き直り、呼吸を整える。
「ここで華々しく逆転して、勝利を待つ私の臣下の元へ帰るのよ！」
「勝利を待ってるって……それ、負けフラグよ？」
　呆れ返る美星・アイナ（インフィニティアンロック・f01943）は、思わず苦笑いを浮かべていた。
　美星は猟兵業の傍ら、『AinA（アイナ）』という名義で音楽活動を本格的に開始したアーティストでもある。
　お気に入りゴスパンブランドのフラッグシップモデルのコーデ『ScarletKnight』に身を包み、目の前のオブリビオンにはっきりと言い渡した。
「今からその言葉が本当に負けフラグだってことを実証してあげる」
　ハンドマイクを握り締めた美星が、いい笑顔でダメ押し。
「お代は、あんたの敗北よ！」
　前口上がビシッと決まった美星の背後から、更に２人の猟兵が駆け付けてきた。
　藍色の長い髪が目を惹くエルフの女性、アンネリーゼ・ディンドルフ（エルフの歌うグールドライバー・f15093）は駆け付けるやいなや、自信たっぷりに宣言した。
「歌なら負けませんよ～。私、故郷の森では歌姫でしたので」
　淑女然としたアンネリーゼが微笑む。だがその直後、彼女のお腹が空腹を訴えてぐーぐー鳴り始めた。
「……失礼しました。グールドライバーなので、オブリビオンを目の前にすると、つい空腹の虫が……」
　そんなアンネリーゼが旗揚げした旅団が『オブリビオン料理研究所』である。
　それを察したかどうかは分からないが、オブリビオンは自身に向けられているのが敵意以外の何かを向けられていることに戦慄している様子。
「ま、待ちなさいよ！？　さすがにキマイラフューチャーがアリ寄りのアリアリとはいえ、とてつもなくヤバい感情を向けられている気がするわ！？」
　たじろぐオブリビオンだったが、アンネリーゼとともにやってきたもうひとりの猟兵へ目が奪われてしまう。
「感情……果たして、虚ろな其れを拠り所にして我々はよいのでしょうか？」
　聖護院・カプラ（旧式のウォーマシン・f00436）が浮遊する台座に結跏趺坐（けっかふざ）の状態で乗ったまま、神々しい煌めきを放つ宝玉に囲まれながら語る。
　彼の後光がオブリビオンを優しく照らせば、その圧倒的な存在感にその場にいる誰もが自然と視線を向けてしまう。
「今回のオブリビオン、こちらが歌いながら戦わねばならぬようです。しかも、強い想いを乗せなければ一撃は届かない、と」
「そ、そういう事よ！」
　オブリビオンは特殊ルールを盾に強気な態度を取り戻した。
「妙ちくりんなマシンに乗ったままで、魂を震えさせる想いを届けられるかしら？」
「順調に負けフラグを建設してゆくのね……」
　もはや後戻りが出来ないところまでフラグを重ねる相手に、呆れるどころか同情しかねない美星である。
「魂を震えさせれば、いいのですね？　他力本願、承りました……」
　カプラはオブリビオンから距離を置くと、呼吸を整えて言葉を唱えだした。

「仏説摩訶般若波羅蜜多心経――」

　これは、般若心経だ！
　般若心経の正式名称は『般若波羅蜜多心経（はんにゃはらみったしんぎょう）』と言い、大乗仏教の重要な経典として位置づけられている。
　その解釈は様々だが、一般的には『空（くう）の概念を説く内容』とされている。
　これにアンネリーゼがハッと何かを閃いたようだ。
「いきます！　般　若　心　経　・　デ　ス　メ　タ　ル　！！」
　アンネリーゼは持っていた槍『コルセスカマイク』を反転させ、石突に装着されたマイクに向かって、腹の底から野太いデスボイスを炸裂させた！
「ＶＯＯＯＯＯＯＯＯＯＯＯＯＯＯＯ！！」
　そして首がもげるかと思うほどのヘッドバンキングを披露！
　先程までの淑女然としたふるまいからは想像だに出来ない極悪パフォーマンスに、オブリビオンはおろか美星も唖然としてしまう。
「な、なんだか凄いことになっちゃったけど、こうなったらやってやろうじゃない！」
　カプラの存在感が強すぎるのか、猟兵たちの頭の中には今、般若心経の言葉が自然と湧き上がってくるのだ。
　美星はアンティーク調の南京錠型チャーム付きペンダント『インフィニティ・アンロック』を触れた状態でユーベルコード『オルタナティブ・ダブル』を発動。
　自身の隣に戦士達を鼓舞する戦場の歌姫を呼び出し、オブリビオンにデュエットソングで挑む！
　２人の腕の中にはギターとベース、超極悪な骨太重低音ギターリフとチョッパー奏法の荒ぶるベースラインが読経を盛り上げてゆく！
「「さぁっ、私達の歌（サトリ）を聞けぇっ！」」
　やぶれかぶれ！
　カオスになった戦場を猟兵たちの読経（デスボイス）が切り開く！

　観゛自゛在゛菩゛薩゛　行゛深゛般゛若゛波゛羅゛蜜゛多゛時゛！
　照゛見゛五゛蘊゛皆゛空゛　度゛一゛切゛苦゛厄゛　舍゛利゛子゛！
（超スゲェ楽になれる方法を知りたいか？
　誰でも幸せに生きる方法のヒントだ
　もっと力を抜いて楽になれよ
　苦しみも辛さも全てはいい加減な幻さ、なぁブラザー？）

「私の頭に何かが流れてくる！？　しかも現代語訳付きぃっ！？」
　オブリビオンは錯乱している！
　圧倒的な“徳”パワーとロックの精神が融合した結果、謎のイメージが強制介入！
　オブリビオンは歌声を上げることが出来ず、剣を振るうこともできず、かといって駄々をこねて暴れまわることすらできない。
　つまり、フルボッコ状態！

　色゛不゛異゛空゛　空゛不゛異゛色゛！
　色゛即゛是゛空゛　空゛即゛是゛色゛！
　受゛想゛行゛識゛　亦゛復゛如゛是゛　舍゛利゛子゛！
（この世は空しいモンだ、なんたってこの世の物体全ては実態が無ぇに等しい
　痛みも悲しみも最初から空っぽだ、オマエの考えることや認識だって根拠が無ぇ）

　読経はマイクを通して、アンネリーゼの義足に仕込まれたシンフォニックデバイスで音量が増幅され、オブリビオンの全身に浴びせられるのだ。一方的な徳を積まされ、オブリビオンはその場でのた打ち回るほか出来ない！
　激しいヘドバンから繰り出される般若心経はまだまだ序盤である！

　是゛諸゛法゛空゛相゛　不゛生゛不゛滅゛！
　不゛垢゛不゛浄゛　不゛増゛不゛減゛！
　是゛故゛空゛中゛　無゛色゛　無゛受゛想゛行゛識゛！
（この世は空っぽなんだぜ、生きることも滅びることも無ぇ、
　汚れることもきれいになることも無ぇ、増えることも減ることも無ぇ
　全部が空っぽってこたぁ、物質やテメェの思想すら空っぽだ）

　ここでアンネリーゼが唐突にシャウト！

　！オブリビオンをブッ倒せ！
　！オブリビオンをブッ倒せ！
　！オブリビオンをブッ倒せ！

　ユーベルコード『デスボイス』の効果で猟兵たちの戦闘力が跳ね上がる！
　というか徳の高さで一兆を遥に超えているような気がする。
　美星も読経の合間を縫ってデュオ歌唱を披露！

　♪Ah、世界が終わるなんて
　♪一体何処の誰が言った？
　♪止まない雨に明けぬ夜
　♪そんなの只の思い込み
　♪駄々をこねてる時間があるなら
　♪前に進む術を考えなさい！
　♪困難乗り越えその先に行かなきゃ
　♪見えない景色もあるんだから！

　つまり、スタイリッシュ解脱である。
　このデスメタル読経は苦行であり、オブリビオンと猟兵を煩悩から解放する唯一の方法なのだ。
　美星は歌いながらパルクールめいた動きで敵を翻弄、常に敵の死角から飛び蹴りを叩き込み、もうひとりの自分とのツープラトン攻撃を実現させていた。

　無゛眼゛耳゛鼻゛舌゛身゛意゛　無゛色゛声゛香゛味゛触゛法゛！
　無゛眼゛界゛　乃゛至゛無゛意゛識゛界゛！
　無゛無゛明゛亦゛無゛無゛明゛尽゛！
　乃゛至゛無゛老゛死゛　亦゛無゛老゛死゛尽゛！
　無゛苦゛集゛滅゛道゛　無゛智゛亦゛無゛得゛！
（眼や鼻や舌に意味なんて無ぇ
　だから声も香りも味も実は存在して無ぇし勘違いだ
　つーか世の中のすべてが無感覚なんだぜ
　だから迷うどころか迷う事すら出来ねーし
　そもそも迷う原因を取り除くことなんてできねー
　老いて死ぬことはねーしすべての苦しみはどうしようも出来ねーし
　知ることもできねーし得ることもできねー）

　アンネリーゼも義足のタケノコドリルでオブリビオンの腹を蹴っ飛ばしてひたすらダメージを蓄積してゆく！
　そしてカプラは存在感だけでオブリビオンを浄化しかけていた。
　つまり常時持続型ダメージ発生装置である。

　以゛無゛所゛得゛故゛　菩゛提゛薩゛埵゛！
　依゛般゛若゛波゛羅゛蜜゛多゛故゛　心゛無゛罣゛礙゛！
　無゛罣゛礙゛故゛　無゛有゛恐゛怖゛！
　遠゛離゛一゛切゛顛゛倒゛夢゛想゛　究゛竟゛涅゛槃゛！
　三゛世゛諸゛仏゛　依゛般゛若゛波゛羅゛蜜゛多゛故゛！
　得゛阿゛耨゛多゛羅゛三゛藐゛三゛菩゛提゛！
（つまり何も得られねぇから菩薩は『智慧』ってやつをキメてる
　するとマジ俺って自由って感じになる
　俺自由だからなんも怖くねぇしマジヤバくね？
　クソみてぇな考え全部から俺一番遠い場所にいるから最強だし
　過去・現在・未来の仏はみんな『智慧』キメてるせいで悟り完璧だぜ）

　オブリビオンはボロボロの体で立ち上がり、剣を掲げて反撃に出ようとする。
　歌声を上げようとする。暴れまわろうとする。
　しかし、それはできない！
　なぜなら、尊いから！！

　故゛知゛般゛若゛波゛羅゛蜜゛多゛！
　是゛大゛神゛呪゛　是゛大゛明゛呪゛！
　是゛無゛上゛呪゛！　是゛無゛等゛等゛呪゛！
　能゛除゛一゛切゛苦゛！　真゛実゛不゛虚゛！
（だから覚えとけ、『智慧』ってやつをよ
　こいつはヤベェ仏の真言でマジヤベェ悟りの真言だ
　これ以外の真言は他にねーし、他の真言はクソオブクソ
　これ唱えりゃみんな最強になれるぜ、噓じゃねぇから！）

　遂にはオブリビオンも涙を流しながら読経に参加し始めてしまう。
　もともと音が外れたダミ声であったため、デスボイスと相性が良かった。
　２人の猟兵と１人のオブリビオンが髪を振り乱しながらヘドバンをし、それを見守るメカ僧侶とともに最強の真言を唱えてゆく。

　故゛説゛般゛若゛波゛羅゛蜜゛多゛呪゛　即゛説゛呪゛曰゛！
　羯゛諦゛羯゛諦゛　波゛羅゛羯゛諦゛！
　波゛羅゛僧゛羯゛諦゛　菩゛提゛薩゛婆゛訶゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ！！
（いいか、耳かっぽじってよく聞けよ？
『唱えよ、心は消え、魂は静まり、全ては此処にあり、全てを越えたものなり』
『悟りはその時叶うだろう。全てはこの真言に成就する』ゥゥゥッ！）

　そしてオブリビオンの身体が次第に透け、虚空へと消えてゆく。
　オブリビオンの表情はとても穏やかかつ晴れやかであった。
　それを見守る猟兵たちは、オブリビオンの新たな旅立ちを盛大に祝った。
　腹に響く極悪重低音とデスボイス、そして渾身のヘッドバンキングで。

　般゛若゛心゛経゛オォォォォッ！（デスボイス）
　般゛若゛心゛経゛オォォォォッ！（デスボイス）
　般゛若゛心゛経゛オォォォォッ！（デスボイス）
　般゛若゛心゛経゛オォォォォッ！（デスボイス）

　最後はカプラもヘッドバンキングに参加。
　読経が終わると、ステージにはもう、オブリビオンは完全に浄化され、安らかに逝った。
「イヤ本当、相手が悪かったわね……、そのまま成仏しなさい！」
　美星が指鉄砲はなく合掌すると、アンネリーゼもカプラも合掌。
　これにて、この『ザ・サウンドステージ』は猟兵側の勝利となったのだった。
　
　だが、まだまだ怪人たちは猟兵の行く手を阻み続ける。
　戦争はますます混迷を極めてゆく……！

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年05月05日 宿敵 『アンマリス・リアルハート』 を撃破！