バトルオブフラワーズ⑦〜霧謡いの狐
●きりうたい
街を模した壇上で少女は歌う。
くるりとその身を翻して、冷たい瞳でステージを眺めながら歌い続ける。響いた声は静かで、それでいて力を宿していた。
手鞠を投げながら紡ぐ歌声は少女――オブリビオンの能力を増幅させるものとなる。
「きらきら、きらきらー。縁は全部切る、斬る、きーる」
淡々と、それでいて妙に伸びやかな声。
すべての縁を斬ると紡ぐ歌はステージの上で響き続ける。
まるでこの世界を断ち切ってしまうかのごとく、深く、深く――。
●システム・フラワーズとザ・ステージ
キマイラフューチャーが真二つに割れた。
それは突然のことであり、この世界に住む誰もが予想だにしていないことだった。
この世界の理そのものとも呼べる『システム・フラワーズ』。そして、その周囲を守る六つの『ザ・ステージ』。
「何だか妙なことになってしまいましたね」
世界の現状と実際の配置図を説明したグリモア猟兵、ミカゲ・フユ(かげろう・f09424)は集った者たちへ戦いに出向いて欲しいと願った。
しかしこの戦いは普通のものではない。
少し戸惑った様子のミカゲは今回の戦場を示し、詳しい話を語ってゆく。
ザ・ステージにはそれぞれ特殊な戦闘ルールがあり、たとえ敵を倒しても敗北条件を満たすと謎の力で追い出され、強制敗北になってしまう。
「今回、皆さんに向かって貰うのは『ザ・サウンドステージ』です」
其処には『パッショネイトソング』というルールが適用されているという。
この戦場では常に自分自身を奮い立たせる歌を歌い続けなければならない。歌わずに行った攻撃はまったく効果を発揮せず、何の意味も持たない行動になる。
そのかわり、歌にさえすればユーベルコードは普通に発動するらしい。
「歌は何でも良いみたいです。話したいことをメロディに乗せてもいいし、たとえ音がずれていても自分を奮い立たせることだったら、それが力になるそうです」
また、秘密にしていることをカミングアウトしたり恋人への告白を歌にして捧げるなど、強い思いを歌に乗せることができれば、より強力な攻撃を行える。
敵もまた歌を紡いでいるので、さながらミュージカル舞台のようになるかもしれない。
「少し恥ずかしいかもしれないですが……皆さん、頑張ってきてください!」
ミカゲはぐっと両手を握り、仲間たちにエールを送る。
その眼差しは真っ直ぐで、瞳の奥には揺るぎない信頼が宿っているように見えた。
犬塚ひなこ
こちらのシナリオは『バトルオブフラワーズ』の戦争シナリオです。
一章のみで完結するシナリオとなります。
●特殊ルール
ここはザ・ステージのひとつ「サウンドステージ」です。
歌を歌わないとユーベルコードなどの攻撃、支援行動は何の意味も持たないものになります。OPにあるように自分を奮いたたせる歌を紡ぎ続けることで通常の戦闘が可能になります。
皆様の声や歌に乗せた思いについてしっかり描写していく予定です。
特に指定が何もなれば、プレイングの台詞部分は歌っているものとして扱うことがありますのでご注意ください。
また、著作権の関係上で実際にある歌詞は描写できません。
そうだと判断出来るプレイングを頂いた場合、採用はできかねますのでご了承ください。それ以外でしたら遠慮なく、思うままに歌っていってください!
第1章 ボス戦
『キリ』
|
POW : 縁切断(物理)
【手刀】が命中した対象を切断する。
SPD : 縁消去(物理)
【何らかプラス】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【狛犬のような自動砲台】から、高命中力の【その感情を抱いた時の記憶を消す光線】を飛ばす。
WIZ : ただの八つ当たり
【なんかムカついた】から【強烈なビンタ】を放ち、【あまりの理不尽さからくる動揺】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:華月拓
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠カスミ・アナスタシア」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
海月・びいどろ
お歌…なるほど、了解したよ
上手じゃない、けれど
…きもちをこめる、というやつ、だね
ビスケットじゃないのに
二つに割れた、おほしさま
世界は誰かの、ポケットの中?
きらきらするのは、猫の瞳
追いかけてく、まあるい毛糸玉
絡まって、こんがらがって
それでも切れない、繋がらない
ほころびほどいて、結んで開いて
ぴん、と張ったら、もう一度
あしたは、上手に出来るかな
キミのこころが、わかるといいな
きれいでなくても、不安定な曲調も気にせずに
最後まで歌い上げるのが、目的だもの
海月の兵隊たちは、歌の間はふわりと踊って
攻撃をうまく躱していこう
ボクは、にびいろのナイフをくるり
歌に合わせて舞踏にしよう
黒谷・英壱
目を閉じ、気を落ち着かせ3拍子のリズムで口ずさむ
「
夢を見ていたんだ
ちっぽけな僕が世界で
ただひたすら ただ必死に
誰か為に立ち向かう夢
朝目覚めて それを知って
急いでノートに書いた
嘘じゃないさ 本当だもの
きっと叶う気がしたんだ
何者にでもなれる
それを君は笑うだろう
でもね聞いて ほら向いて
きっと出来る そう信じてみてよ
」
昔こんなミュージカル調の歌を聞いた事があるな
そう、自分を信じればきっと何者にでもなれるはず
キマフュは俺にとって第二のふるさと
だからこそ元に戻してもらうぜ
歌の最中に【時間稼ぎ】として【属性攻撃】と【2回攻撃】の準備
そして視線が合った所で叩き込む
お前のその透き通った歌、しっかり記録しとくよ
●世界の為の詩
ふわ、ふわり。ステージの上で少女は謳う。
まるで霧のように。汎ゆる縁を覆い尽くして、見えなくして、斬り刻むために。
転送された先では歌が響いていた。
それもすべてを斬るだとかいう不穏で妙な少女の歌声だ。
「ステージだか何だか知らないが、これがこの世界の危機か」
黒谷・英壱(ダンス・オン・ワンライン・f07000)は都市を模した不可思議な壇上を見渡し、特殊な空気に支配された領域を確かめる。
「……なるほど」
海月・びいどろ(ほしづくよ・f11200)もこの場に満ちるパッショネイトソングの不可思議なルールを思い、こくりと頷いた。
歌は上手じゃない。けれど、けれどきもちをこめればそれは力になる。
ステージに立つ少年たちに気付き、オブリビオンのキリは胡乱な眼差しを向けた。来る、と感じた英壱は敢えて目を閉じ、気を落ち着かせる。
踵で刻むリズムは三拍子。
びいどろは偶然いっしょに居合わせた少年が奏でる心地好い音律に双眸を細め、周囲に海月の兵隊たちを踊らせた。
それは未だ何の力も持たないが、これから紡ぐ歌が変えてくれる。
そして、びいどろが身構える中で先に英壱が口をひらいた。
「――夢を見ていたんだ」
ちっぽけな僕が世界で ただひたすら
ただ必死に 誰か為に立ち向かう夢――。
そんな歌い出しから始まるのは、己と世界を表す夢のうた。
きれい、と英壱の声にちいさな感想を告げたびいどろも、刻まれてゆく三拍子に乗せて思い浮かべる歌を声にしていく。
「ビスケットじゃないのに、二つに割れた、おほしさま」
――世界は誰かの、ポケットの中?
きらきらするのは、猫の瞳 追いかけてく、まあるい毛糸玉。
絡まって、こんがらがって それでも切れない、繋がらない。
リズムと共に音にしていったのはこの世界――キマイラフューチャーの歌。謳う世界は違っても、少年たちが紡ぐ思いは何処か似ている。
びいどろと英壱は頷きあい、此方に向かってくるキリに目を向けた。
「変な縁繋いでもこっちは無問題。ぜんぜんぜんぶ、きるきるきーる」
妙な韻を踏みながら振るった手刀が英壱に迫った。だが、素早く身を翻した彼はキリからの一撃を避ける。
次の瞬間、機械海月の兵が敵へと突撃していった。
衝撃がキリを襲い、その声が一瞬だけ止まる。歌の力で効果は取り戻せたが、まだまだ敵を倒すには至らない。
びいどろは自分が紡ぐ歌を止めぬよう、更に声を響かせていく。
プリズムを纏う電子。そう表すに相応しい、少しだけバグめいた声が続けていくのは、この世界を守るために己が抱く思い。
「ほころびほどいて、結んで開いて――」
ぴん、と張ったら、もう一度。あしたは、上手に出来るかな。
キミのこころが、わかるといいな。
両腕を広げるようにして腕を前に伸ばしたびいどろの歌は、少しだけつたない。けれどそんなことは今は二の次。
最後まで歌い、この壇上から縁切り狐を退場させるのが自分の役目。
だって、こんな場所で縁を切るだけなんて寂しくて、悲しい気がするから。
びいどろが鈍色の刃を握る中、英壱は魔力を練り上げた。先程のお返しだ、と告げるかのように黒の瞳が敵に差し向けられる。
紡がれた魔法の炎矢は少年が示した先へと飛ぶ。
キリは矢を受け止めたが、多少の傷みは与えられたようだ。そして、防御をびいどろの海月たちに任せた英壱はふたたび瞼を閉じた。
「朝目覚めて それを知って 急いでノートに書いた」
――嘘じゃないさ 本当だもの。
きっと叶う気がしたんだ。
何者にでもなれる それを君は笑うだろう。
「でもね聞いて ほら向いて きっと出来る そう信じてみてよ――」
歌いあげていったのは先程の歌の続き。
いつだったか、こんなミュージカル調の歌を聞いたことがあった。英壱は昔の記憶を裡に巡らせながら謳いあげる。
そう、自分を信じればきっと何者にでもなれるはず。
きっと――この舞台に立つ歌手にだって、この世界を救うヒーローにだって。
それが自分に似合っているかはまた別の話。隣で戦うびいどろも、その相棒の海月たちだって慣れない場所で懸命に力を揮っている。
対するキリはむう、と頬を膨らませて此方を睨みつけてきた。
「きらきらきらきらー。光るのは星じゃなくて、キラーな一手っ!」
怒った様子のキリは歌いながら平手打ちを放ってくる。しかし、さっとびいどろの間に入った海月兵がそれを肩代わりしてふわりと消えた。
ありがとう、ごめんね、と身代わりになってくれた海月に告げたびいどろは、更に海月の兵隊を呼んでゆく。
戦いはまだ、これからだ。
そう感じた英壱は炎の矢を顕現させ、敵に指先を向けた。
「この世界は俺にとって第二のふるさと。だからこそ元に戻してもらうぜ」
「キミのお歌も、わるくないけれど……ボクたちも、負けないよ」
びいどろも思いを伝え、ナイフの切っ先を差し向ける。
そして少年たちは敵を見据え――巡る戦いの中で歌い続ける覚悟を抱いた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
リル・ルリ
■櫻宵/f02768
アドリブ等歓迎
ふふ
君からの愛の歌が聴けるなんて
夢みたいだよ櫻宵
僕も君がいれば最高の歌が歌える
【歌唱】には【鼓舞】と君への愛をめいっぱいこめて
さぁ「愛の歌」を歌おうか
人魚姫の恋のうた、恋し焦がれて愛となれ
愛しい櫻
僕の焦がれた薄紅
人魚の囚われた昏い水槽に光をくれた
君が壊してくれたから
生きることの歓びを
幸せの意味を初めてしった
否定させない
離しはしない
やっとみつけた
やっと結べたこの縁―愛を
永遠に守り君を愛そう
嗚呼
しあわせだ
おかしい
戦闘なのに
君が僕への愛を歌ってくれるなんて
君への愛を堂々と歌えるなんて
邪魔するものは全て
焼き尽くす
君と合わせて歌う
この「恋の歌」で
下手じゃない
上手だよ
櫻宵
誘名・櫻宵
🌸リル/f10762
アドリブ等歓迎
リル…
あたしの可愛い歌姫
あなたの前でこの音痴を披露する日がくるなんて
けどやってやるわ!
見様見真似リズムをとって紡ぐ言の葉歌にして
「愛華」を歌いましょう
愛しい人魚に捧ぐ愛の歌
あなたを泡になんてさせないわ
桜の花弁の数より愛を囁きましょう
真珠の泪零さぬように
あなたの笑顔がいつも咲いていられるように
寄り添い共に生きましょう
私の桜をあなたの横で咲かせていさせて
あんな幸せそうに
あたしへの愛を歌ってくれるなんて
こんな落ちこぼれを愛してくれるなんて
涙が出そう
応えるわ
散りゆく華へ、華麗に美しく――『鬼哭華』歌わせて
首刎ねてあなたへ捧ぐわ
結ばれた愛を絆を思い知りなさい
あら本当?
●きみを想う愛の歌
歌声が聞こえる。
それは聞き慣れた人魚の唄ではなく、悪意を持って縁を切る為の歪んだ歌。
「リル……」
あたしの可愛い歌姫、と言葉にした誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)は傍らのリル・ルリ(瑠璃迷宮・f10762)の横顔に目を向けた。
あなたの前でこの音痴を披露する日がくるなんて、夢にも思っていなかった。
けれど郷に入っては郷に従えとも云われる。視線を前に向けた櫻宵はこの壇上の規律に従おうと決めた。
「仕方がないわね、やってやるわ!」
折角ふたりで紡ぐならば愛しき想いを、と意気込む櫻宵の姿を瞳に映し、リルは口許を穏やかに緩める。
「ふふ、君からの愛の歌が聴けるなんて。夢みたいだよ櫻宵」
奇妙な壇上とルールの中だけれど、不思議と心が浮き立った。
だってきっと、僕も君がいれば最高の歌が歌える。そんな気がするのだと示して、リルは花唇をそうっとひらいた。
「さぁ「愛の歌」を歌おうか」
「ええ、「愛華」を歌いましょう」
誘うようにリルが刻みはじめたリズムに合わせ、櫻宵は屠桜を抜き放つ。
標的は現在、別の猟兵を相手取ることに夢中になっていた。
歌えば自ずと普段通りの力が出せる。それならば後は見様見真似でもいい、同じリズムをとって紡ぐ言の葉を歌にしていくだけ。
そう、君への愛をめいっぱいこめて。
人魚姫の恋のうた、恋し焦がれて愛となれ。リルが紡いだ音は旋律となり、ステージの上にやわらかな心地を宿しながら広がっていく。
「――愛しい櫻、僕の焦がれた薄紅」
人魚の囚われた昏い水槽に光をくれた。
君が壊してくれたから。
生きることの歓びを、幸せの意味を初めてしった――。
リルが歌いあげていく音色に耳を澄ませ、櫻宵は己の声に音を載せていった。
これは、愛しい人魚に捧ぐ愛の歌。
「――あなたを泡になんてさせないわ」
桜の花弁の数より愛を囁きましょう。
真珠の泪零さぬように、あなたの笑顔がいつも咲いていられるように。
「寄り添い共に生きましょう」
私の桜をあなたの横で咲かせていさせて――。
真摯に、ただひたすらまっすぐに紡がれる櫻宵の歌は心地好かった。その歌に気持ちを返したくて、リルも歌を続けていく。
否定させない、離しはしない。
やっとみつけた、やっと結べたこの縁――愛を。
「永遠に守り君を愛そう」
嗚呼、と感嘆交じりの呼吸がリルの唇から零れ落ちた。
しあわせだ。
これは戦いなのにおかしいね、と示して櫻宵に向けた眸は愛おしさに満ちている。
だって、君が僕への愛を歌ってくれるなんて。
そして、君への愛を堂々と歌えるなんて。
リルの眼差しを受け止めた櫻宵も嬉しいと感じる気持ちを抑えきれなかった。
あんな幸せそうに、あたしへの愛を歌ってくれるなんて。
こんな落ちこぼれを愛してくれるなんて。
涙が出そうになったが、堪えた櫻宵は敵が此方に気付いた気配を悟る。リルも同じく身構え、オブリビオンが此方に向かってくる姿を捉えた。
「仲睦まじく愛の歌? そんなの、斬るしかないよね。きって切って、断ーつ!」
無表情ながらも不機嫌そうに歌ったキリは手刀でリルを自ら切り裂こうと狙う。だが、即座に身を挺して割り込んだ櫻宵がそんなことはさせない。
刃が振るわれたことで、ちぇ、と舌打ちをしたキリは後方に下がった。
されど追い縋った櫻宵はキリに向けて刃を振り下ろす。歌の力は既に発動していた。さすれば次に歌うのは屠桜。
散りゆく華へ、華麗に美しく――啼き歌え。
鋭い剣閃が少女の身を裂き、短い悲鳴があがった。しかしそれだけではない。櫻宵の刀が振り下ろされた瞬間、リルは歌声から灼熱の炎を顕現させていた。
蕩ける程に甘く熱く、恋を想い歌う。その聲はこのステージの力を得て、更には真に焦がれる心と合わさってより激しい炎となった。
「邪魔するものは全て焼き尽くすよ。君と合わせて歌う、この「恋の歌」で」
リルが迷いのない声で告げれば炎が敵の身を包み込む。
その炎は更に己の中の血を熱く誘ってくれるかのようで、櫻宵は敵にもう一閃を与えようと決めた。
これほどに愛を強く歌ってくれるのならば、応えよう。
散りゆく華へ、華麗に美しく――あなたに捧ぐのは、彼の狐の首。
「結ばれた愛を、そして絆を思い知りなさい」
落とされた言葉と共にキリの尾が刃によって切り裂かれ、毛並みが散った。しかし分が悪いと感じたらしきキリは身を翻し、ふたりから距離を取るために駆け出す。
リルと櫻宵は視線を交わし、敵を追おうと頷きあった。
あの少女が縁を切ると決めたのならば、自分たちはその悪意ごと断ち斬るだけ。その為に歌の力が必要なら何度だって愛しきひとの為に謳おう。
偽物の街のかたちをした壇上で游ぎ駆けるふたり。
その後姿からは目には見えない、けれども確かな絆と縁が感じ取れた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アウレリア・ウィスタリア
歌は好きですよ
ボクにとっては想いを伝える大切なものだから
さあ、奏でよう
ボクの想いを
伝えたい想いは愛
ボクは知らない。私は知っている
私の魂だけが知っている。だからボクは知りたい
愛すること、愛されること
その想いの意味を
鞭剣を花弁に【空想音盤:追憶】を発動
玉咲姫花忍を奏で、歌を紡ぎ
ネモフィラの嵐で縁を断ち切るという歌を切り裂きましょう
歌は想いを伝え、縁を繋ぐもの
歌に狂気はいらない
だからボクは嵐のなかで歌を奏で続けましょう
いつか出会うかもしれない
出会わないかもしれない
それでもボクの歌が誰かと繋がる縁となることを祈りましょう
アドリブ歓迎
●ボクと私と花の縁
ロベリアの花がふわりと揺れる。
降り立った場所はいつもの賑やかなで騒がしい世界ではなく、都市を模した不可思議なステージの上。
アウレリア・ウィスタリア(瑠璃蝶々・f00068)じゃ仮面越しに周囲を見遣り、何処からか響く歌声に耳を澄ませた。あれが縁を切ると歌うオブリビオンの声なのだろう。
けれど、歌は好きだ。何故なら――。
「歌は、ボクにとっては想いを伝える大切なものだから」
アウレリアは敵の声を辿り、その影を捉える。
キリは不機嫌そうに此方を見遣った。敵は誰かから逃げている最中らしく、面倒そうにアウレリアに向き直ったキリは溜め息をつく。
「邪魔するなら、きるきーる、きるっ!」
自棄気味に歌ったキリは腕を振るい、此方に攻撃を仕掛けてきた。
しかし、身を翻したアウレリアは手刀を避ける。僅かに翼に相手の手が掠ったが痛みは免れた。そうして敵に向き直ったアウレリアは反撃の歌に移る。
「さあ、奏でよう。ボクの想いを」
普通に戦っては攻撃の効果は期待できない。それなら、とアウレリアは顔を上げた。
紡ぎ、伝えたい想いは愛。
――ボクは知らない。けれど、私は知っている。
魂だけが知っているならば、ボクは知りたい。
愛すること、愛されること。
その想いの意味を――。
携えていたソード・グレイプニルに振れた後、アウレリアは玉咲姫花忍の名を抱く薄い青紫色のショルダーキーボードを奏でる。
その旋律に乗せて歌を紡げば、鞭剣がふわりと浮いてネモフィラの花に変わった。
ここにはない記録を追憶し、空想で奏でる音色は遠い世界の絆の証。きっとそれは、愛するもの全て護る勇気の象徴。
相手が縁を断ち切るというのなら、此方はネモフィラの嵐で歌を切り裂く。
「くう……っ!」
キリは襲い来る花を両手で振り払い、尻尾を巻いて逃げ出そうとしていた。
アウレリアは逃さないと決め、玉咲姫花忍を抱えて地を蹴る。その間も歌は止めず、裡から溢れ出す思いを音へと変えてゆく。
歌は想いを伝え、縁を繋ぐもの。
歌に狂気はいらない。縁を切るだなんて、歌が担う役目ではないはず。
だから、と一度だけ目を閉じたアウレリアは瞼をひらき、標的を見据えた。壇上で踊るように駆ければ、追走撃が始まる。
「ボクは嵐のなかで歌を奏で続けましょう」
いつか出会うかもしれない。
出会わないかもしれない、縁と絆。
それでも、己の歌が誰かと繋がる縁となることを歌と共に祈ろう。真っ直ぐに向けた眼差しはこの世界の未来と希望を映していた。
大成功
🔵🔵🔵
ヘルガ・リープフラウ
※アドリブ歓迎
【奇しき薔薇の聖母】で慈悲深き聖母の如き白いドレス姿に変身
キリの攻撃をUCのベールで防ぎながら、舞い散る薔薇の花びらで反撃
【シンフォニック・キュア】の力で傷ついた仲間たちを癒しながら「祈り」と「優しさ」に満ちた聖歌を歌います。
♪
愛しき人よ その傷も孤独も
全てを包み 癒しましょう
涙にくれた辛い日々は終わり
繋いだ手の そのぬくもりが
絆をつなぐ導となる
絶望の闇を切り開く剣を
嘆きの壁を越える勇気を
あなたが私を支えたように
私は希望の星灯となり
あなたを包む翼になる
共に苦難に立ち向かう仲間たちに
(誰よりも大切なわたくしの騎士、愛するあの人の幸せに)
そして、全ての善き人々に祝福を……!
●薔薇と想いの聲
壇上に響く様々な声を耳にしながら、ゆっくりと目を閉じる。
誰かを想う歌、愛を謳う歌、世界を憂い信じる歌。そして、縁を切る歌。
ヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)は仲間や敵が歌い上げていく音に耳を澄ませ、閉じていた瞼をひらいた。
――ローザ・ミスティカ。
発動した力の加護で慈悲深き聖母の如き白いドレス姿へと変身したヘルガは他の猟兵と戦うオブリビオン、キリへと眸を向けた。
髪に揺れるミスミソウの花にも似た蒼の瞳は真っ直ぐに敵を見つめている。
だが、このステージでは普段通りの効力は出せない。
キリから攻撃が来てもベールは守護の力を発揮出来ず、薔薇の花びらと茨の蔓も威力を持たない戯れになってしまう。
だから、とヘルガはそっと花唇をひらく。
此方に攻撃が向いていないうちに紡ぐのは、想いを込めたやさしい歌。
――愛しき人よ
その傷も孤独も 全てを包み 癒しましょう
涙にくれた辛い日々は終わり
繋いだ手の そのぬくもりが
絆をつなぐ導となる
透き通るようなヘルガの声は戦場であるステージに広がっていく。
其処で敵も此方の存在に気が付いたらしく、むっとした視線を向け返してきた。
「きらきら、きらー♪ 傷ついて孤独のまま、いなくなっちゃえっ」
リズムも音も無茶苦茶な歌をうたいかえしたキリはヘルガとの距離を詰め、全力の攻撃で以て此方を撃退しようとしてくる。
しかし、歌を紡いだヘルガには確かな力が宿っていた。
振るわれた一撃は白きベールがひらりと舞うことで防ぎ、解き放った薔薇の花がキリを包み込んで反撃となる。
そして、ヘルガは更に己の声に音と想いを乗せた。
絶望の闇を切り開く剣を
嘆きの壁を越える勇気を
あなたが私を支えたように
私は希望の星灯となり
あなたを包む翼になる
どうか、共に苦難に立ち向かう仲間たちにこの声が届きますように。
そして――。
(誰よりも大切なわたくしの騎士、愛するあの人の幸せに)
全ての善き人々に祝福を。
そう願った薔薇の聖母は聖歌を歌い、戦場に癒やしの力を広げていった。
キリはちいさく舌打ちをしてヘルガから距離を取る。自分さえ倒されなければこのステージは消えない。そう考えたらしい敵は逃げ出すことを決めたようだ。
ヘルガは双眸を細め、敵が駆けていく先を見つめる。
未だ戦いは続く。されどこの思いも歌も止めないと近い、ヘルガは翼を広げた。
成功
🔵🔵🔴
サン・ダイヤモンド
自分を奮い立たせる歌……強い、思い……
僕の一番は
普段のぽわわんモードから一転
精霊術士×シンフォニアらしくふっと大気へ意識溶かすように
一歩また一歩ゆっくりと歩を進め、あの人への歌を歌う
風よ、どうか届けておくれ
大切なあの人の許へ
強い貴方
優しい貴方
でも僕は知っている
貴方が寂しがり屋だと言う事を
(だから、僕はね)
この心も身体も全て貴方に捧げよう
貴方が凍えてしまわぬように
ぬくもりに包まれますように
愛しています
僕の全て――
縁を切るなんてさせない
(僕の全てはあの人のものだから)
君を倒して僕は帰るんだ
大切なあの人の許へ
攻撃はエレメンタル・ファンタジア
氷の鎌鼬が敵を切りつける
揺るがないよ、絶対に
僕達は永遠だもの
●貴方へ謳う
この世界の都市に似たステージの上で、歌が響いていた。
それが悪しきオブリビオンの縁を断つ歌なのだと悟り、サン・ダイヤモンド(甘い夢・f01974)は掌を握る。
「自分を奮い立たせる歌……強い、思い……」
――僕の一番は。
自問するように頭を振ったサン。その姿に普段の緩やか雰囲気は見えない。
ふっと大気へ意識を溶かすように前へ踏み出す。
一歩、また一歩と歩を進める度に彼が纏う空気が真剣なものへと変わってゆく。
この壇上で歌が力になるというのなら、紡ぐものは決まっていた。
「風よ、どうか届けておくれ。大切なあの人の許へ」
片腕を胸の前に掲げ、壇上に吹き抜けたやさしい風へと願う。
翼めいた白い髪が風になびく中、サンは唇をひらいた。
強い貴方 優しい貴方
でも僕は知っている
貴方が寂しがり屋だと言う事を
――だから、僕はね。
音にはしない想いを歌の間に込め、サンは続ける。
この心も身体も全て貴方に捧げよう
貴方が凍えてしまわぬように
ぬくもりに包まれますように
愛しています
僕の全て――
そう謳いあげたサンは猛禽の爪先で地を蹴り、標的の元へと跳ぶ。
幸いにも敵は別の猟兵に気を取られており此方の存在に気付いてはいなかった。
あの人への歌を紡ぎ、想いを声に乗せたサン。強い力を得た彼の魔力は今、縁切りを謳う少女に向けられている。
「縁を切るなんてさせない」
僕の全てはあの人のものだから。
艶やかに笑むサンの気配に気付きキリが振り向く。そのときにはもう、彼の魔力は氷の力を得ていた。
「はっ、しまった……!」
相手が歌う暇すら与えない。鋭く冷たい氷の鎌鼬が敵を切り裂き、痛みを齎した。
それが世界を揺らがす存在ならば譬え少女であろうと容赦などできない。しかし、痛みを堪えたキリは無理やり言葉を歌にした。
「どんな縁か知らない、けどっ お前ごと全部きるきるきーるっ」
振り被ったキリがサンを引っ叩こうとする。しかし、くるりと身を翻したサンはキリから即座に離れて一閃を躱した。
「君を倒して僕は帰るんだ。大切なあの人の許へ」
ふたたび紡がれたのは二重にかさねた冷たい氷の連続攻撃。
どれほど縁を切ると歌われても平気だと思えた。サンの胸の裡には大切なものがずっとある。あの歌は、この想いは、そのことを改めて教えてくれた。
「揺るがないよ、絶対に」
だって――。
僕達は永遠だもの。
紡がれた言の葉はやさしく、それでいて強い響きを宿していた。
成功
🔵🔵🔴
アイリ・ガングール
…歌ねぇ。
ええよ
「いつも見たいは、君と盃と春の初花……」
そうして口から流れ出るのはエンパイアが戦国の世であった際に流行った歌謡。
内容は恋の歌。もはやそのような事に夢も希望も望みも抱いては居ないけれども、かつて姫であったころに戯れに聞いたそれが、自然と口をついて出てくるのだ。
歌の流れ(テンポ)に逆らわずゆるりと刃を振るう。力を込めるのは踏み込んだ僅か一瞬で良い。その一瞬で振るうスピードを最高速にして、ただ無我にて斬る。即ちそれこそ無拍子なり。
(恋の歌で切るなんて、恋に罰当たりかもしれんねぇ)
なれど恋など望めぬ身。例え、きりの歌にて縁切れども、縁無き身には欠片も効かぬよ。
●嘗て聴いた恋の詩
舞台の様々な場所から歌が聞こえた。
調子はずれの歌もあれば、美しい歌声やあどけない声もあった。
「……歌ねぇ」
アイリ・ガングール(恋以外は概ねなんでもできる女・f05028)はそれぞれの歌を耳にしながら片目を眇めた。
やわらかな尾をふわりと揺らし、アイリは「ええよ」と口にする。
そして、彼女は花唇をひらいた。
「――いつも見たいは、」
紡ぎはじめたのは、己の世界が戦国の世であった際に流行った歌謡。
その内容は恋の歌。
アイリ自身はもはやそのようなことに夢も希望も望みも抱いてはいなかった。けれども、この歌はかつて姫であったころ――あの頃を思い出す。
「君と盃と春の初花……」
続きを音に乗せ、アイリは刃を抜き放った。
いつか、戯れに聞いた歌は自然と口をついて出てくる。
アイリの声を聞きつけたオブリビオンが此方に近付いてくるのが見えた。近くに他の猟兵の姿も見えたということは交戦中だったのだろう。
「そんなくだらない恋の歌、きらいきらいきーらーいーっ!」
怒った様子のキリが無茶苦茶な歌をうたい、襲い掛かってくる。
されどアイリは自らが紡ぐ流れに逆らわぬまま、ゆるりと刃を振るいあげた。
交差する視線。
迫るキリの一閃。相手は緩やかなアイリの動きならば避けられると感じているらしく、まったく警戒を抱いていない。
だが――。
「甘く見たら、痛い目にあうんじゃよぅ」
薄く笑ったアイリは力を込める。
それは踏み込んだ僅か一瞬。刹那だけ、刃を振るう速度が最高速になる。
ただ無我にて斬る。
即ちそれこそ無拍子なり。
「わ……!?」
完全にアイリを侮っていたキリは刃の一閃で斬り伏せられた。その身体はアイリに攻撃を加える前に後ろに倒れ、痛みの悲鳴があがる。
起き上がろうと身悶える敵を見据えながら、アイリはふと思いに耽る。
(恋の歌で切るなんて、恋に罰当たりかもしれんねぇ)
なれど恋など望めぬ身。
例え、霧に惑わせるような歌で縁を切られども、縁無き身には欠片も効かぬ。
「コココココ。歌が力になるというのなら、幾らでも歌うでのぅ」
敢えて楽しげに笑って見せたアイリは刃の切っ先を標的に差し向けた。
どうやらキリは他の猟兵たちから逃げ回っていたらしい。悲鳴を聞きつけた仲間たちが集ってくる足音を聞きながら、アイリはしかと身構えた。
そして、戦いは最終局面へと向かってゆく。
●霧の向こうで謳う世界
「……みつけた」
海月兵たちを連れ、びいどろは前方を見つめた。
交戦していたキリが逃げたときはどうしようかと思ったが、アイリと対峙する姿を発見したことで少しの安堵を覚える。
「かなり弱ってるみたいだな。一気に片を付けるか」
びいどろと共に敵を追ってきた英壱は双眸を鋭く細め、魔力を紡ぐ準備を整えた。
其処へアウレリアとヘルガが訪れる。
同じく、キリを追いかけてきたふたりは敵をこれ以上逃さぬよう取り囲む。
「もう逃げられませんよ」
「わたくし達が引導を渡してさしあげます」
アウレリアがキリを見据え、ヘルガは両手を重ねて祈る。
愛を胸に抱き、希望の歌を囀るようにヘルガは癒やしの力を広げていった。その歌声はこの場にいる猟兵たちの身にあたたかな心地を宿してゆく。
アウレリアはヘルガに礼を告げ、駆けつけたサンも響く歌に目を細めた。
「決着をつけよう」
サンの言葉にアウレリアが頷き、キリの真正面に立つアイリも同意を示す視線を返す。其処へリルと櫻宵も到着し、このステージに集った仲間すべてが揃った。
「寄ってたかって、ずるいずるい! お前たちの縁なんて切ってやる――!」
キリは痛みを堪えながらも、中でも縁が強いと感じたリルたちへと鋭い眼差しを向けた。だが、櫻宵がすぐにリルの前に立ち塞がる。
「あら、あたしたちを狙うの? いいわよ、下手だけどまた歌ってあげる!」
迫り来るキリの一手を屠桜で受け止め、櫻宵は衝撃に耐えた。
櫻宵が守ってくれている実感を懐きながら、リルは首を横に振る。
「下手じゃない。上手だよ、櫻宵」
「本当?」
嬉しそうに問い返した櫻宵に頷き、リルはふたたび恋の歌を謡いはじめた。
――嗚呼、このアイで すべてを妬いて、焼いてしまえたら。
恋焦がれる想いを音にしたリルに合わせて櫻宵も唇をひらいた。歌で誓ったように、可愛い歌姫を海の泡になど返したくはない。泡沫のような歌声であっても強く抱いて、受け止めて――。
重なるふたりの歌声を聞き、びいどろと英壱も最後になるであろう歌を紡ぐ。
刻む三拍子。
大丈夫、先程も合わせられたのだから今だって一緒に歌える。
「キミのこころが、わかるといいな。ねぇ、霧の中でも――おしえてよ」
「でもね聞いて ほら向いて きっと出来る そう信じてみてよ」
少年たちは声を響かせる。
そして、びいどろは鈍色のナイフをくるりと回して歌に合わせて駆けた。舞踏めいた軽やかな動きと共に海月の兵がふわふわと舞って敵を翻弄する。
其処に合わせ、英壱は焔の矢を放った。
「や、やめて、こんな縁切れるはずがない――」
「お前のその透き通った歌、しっかり記録しとくよ」
思わずキリが零した声を聞き、英壱は静かに告げる。それは別れの挨拶にも聞こえ、ヘルガはこくりと首を縦に振る。
譬え敵であっても、過去の躯だったとしても其処には意思がある。
「覚えておきます、貴方のこと」
「歌い、奏でましょう。アナタを葬るために――」
ヘルガは歌い、アウレリアも終わりに向かう為の歌を奏でた。
玉咲姫花忍によって奏でられる旋律に乗ってネモフィラの花が舞い、茨の蔓が迸る。そして其処へ、サンの歌声が響きはじめた。
心を震わす聲に風が重なり、翼めいた耳と真白の髪が揺れる。
「――強い貴方、優しい貴方」
サンは大切な人への思いを声と言の葉にのせ、掌をそっと掲げた。其処から紡ぎ出された氷の刃は力を宿し、敵へと解き放たれる。
鋭い一閃が敵を穿つ中で、リルによる灼熱の炎が戦場に巡った。更には櫻宵が振り下ろした鬼哭華の一撃がキリに多大な衝撃を与える。
オブリビオンを貫いた櫻宵は、今よ、と仲間に視線を送った。
その合図を受け取ったアイリは膝をついたキリに狙いを定める。先程、キリはあの恋の歌をくだらないと言っていた。だが、あの歌が力となるのならば何度でも紡いでみせよう。たとえこの身が恋に縁遠きものでも――。
「いつも見たいは、君と盃と春の初花……」
アイリの声が戦場に凛と響く。
そして――。剣刃一閃。刀が煌めいたと思った時にはもう、敵は地に伏していた。
過去の残滓であった存在は躯の海に還り、消えてゆく。
「さて、片が付いたの」
アイリは刃を収め、不可思議なステージを見渡す。これでこの世界の危機も少しは退けられただろうか。
ヘルガは消えた存在に祈りを捧げ、英壱とびいどろも先程までキリが居た場所を暫し見つめていた。思えばまるで狐につままれたような妙な戦いだった。
けれど、想いと歌は自分たちに力をくれた。
リルと櫻宵は微笑みあい、互いの想いを込めた歌の心地を思い返す。
アウレリアはほんの少しだけ、愛することや愛されることの一端を知れた気がした。まだ言葉にはできないが、その想いの意味は確かに存在している、と。
普段通りの穏やかな表情を浮かべ、サンはそっと浮かんだ思いを落とす。
「誰の縁も、切られなかったね」
戦いはまだ霧の中にあるように先が見えない。それでも、謡った思いに込めた気持ちは今、はっきりと感じられる。
この想いと共に、取り戻しに行こう。
騒がしくも賑やかなこの世界――キマイラフューチャーに在るべき姿を。
大成功
🔵🔵🔵