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バトルオブフラワーズ⑦〜その世界は何色ですか?

#キマイラフューチャー #戦争 #バトルオブフラワーズ

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 柊木・ましろ(ミューズの描く奇跡・f03701)はいつになく真剣な表情をしていた。
 グリモアベースに集まった猟兵たちは、そんな彼女が口を開くのを、固唾を呑んで見守っている。いつもならここでおふざけが始まることを、猟兵たちは知っていたからだ。
 しかし今回ばかりは状況が状況だけに、そんな事にはならないだろう。これは、遊びではないのだ。

「キマイラフューチャーの、システムフラワーズにオブリビオンたちが侵入したのは知っているよね」

 以前別の世界でも現れた、オブリビオンフォーミュラと呼ばれる存在が、今度はキマイラフューチャーに出現している。それが、世界の中枢を担うシステムに侵入しているという。

「何の目的か、ましろは知らないけど……このままじゃ世界が滅んでしまう。それは分かってるよね?」

 そう、それだけは何としても避けなければならない結末だ。

「そういう事だから、今回の作戦の説明を始めるね」

 ましろはそう言うと、ポケットから一台のプロジェクターを取り出す。瞬間一人の猟兵がえっ、と声を上げたが、他の猟兵が何も言わないので再び黙り込んだ。
 壁に映し出されるのは、南北で二つに別れたキマイラフューチャーの図。中心にはピンク色の核のようなものがある。おそらくはあれがシステムフラワーズなのだろう。

「みんながシステムフラワーズに乗り込むためには、まずその前に邪魔する敵を倒さなくちゃいけないの。たくさんいるんだけど、重要なのは、何度も蘇るオブリビオンたちを全部制圧した状態でしか、システムフラワーズには侵入できないってこと。だからもう既に各地で戦闘が始まってる」

 言いながら白いリモコンを操作すると、図の一部がズームされる。そこには、ザ・サウンドステージ~パッショネイトソングと表示されている。

「それぞれステージにはいろんなルールがあるんだけど、今回担当するのはこのサウンドステージ。ここでのルールは『常に自分を奮い立たせる歌を歌い続ける』こと。それを満たさない限り、どんな攻撃も相手には通用しないよ。でも逆に、強い思いを歌に乗せることが出来れば、普段以上の力を発揮できるかもしれないね」

 再びリモコンを操作すると、今度は全体的に暗い色の服装をした、ウサギ耳の少女が映し出される。

「相手はこの子。昔番組用に作られたバーチャルキャラクターで、番組が終わってから破棄されたみたい。なんていうか、見ての通り陰鬱を絵に表したような性格なんだけど」

 と、そこでましろの言葉は途切れた。まるで何かを躊躇うように、うーんと唸るだけ。今までの様子からして、今回の敵に何か因縁のようなものがあるとも考えづらい。

「……ましろは正直、こういう子好きじゃないんだよね」

 私見だった。

「ほんとはましろが直接行って、幸せすぎて申し訳ありませんって土下座するまでボコボコにしてやりたいところなんだけど、皆の転移を維持しないといけないから」

 プロジェクターの電源を落として、ポケットに仕舞う。瞬間一人の猟兵がえっ、と声を上げたが、やっぱり他の猟兵が何も言わないので再び黙り込んだ。

「確かにこの子は不幸で、根暗であることを運命づけられて生まれたのかもしれない。だけど……だけどましろは、生まれたからには幸せにならなきゃいけないと思うの。不幸なままなんて、絶対に許せない。だから――」

 だから皆の思いをぶつけて、引導を渡してあげて。そう告げると、グリモアは静かに輝きを増した。


朝霞
 はじめまして、皆様のおかげでそろそろ初心者卒業してもいいのかなって思ってるMSの朝霞です。
 ざっと内容を要約すると、常に自分を奮い立たせる歌を歌い続けること、という特殊ルールが存在します。ので、それを満たしつつ敵を倒しましょう(倒す手段はいつも通りの戦闘と同様です)。
 戦争シナリオなので、ボス戦のみとなっております。プレイングの際はお気を付けください。
 皆様の熱いプレイング、お待ちしております。
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第1章 ボス戦 『鬱詐偽『ウサギ』さん』

POW   :    どうせ、私は嫌われ者
【自身への好意的 】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【陰湿な雰囲気】から、高命中力の【自身への悪印象】を飛ばす。
SPD   :    私に近寄ると不幸になる
【自身でも制御できない近寄らないでオーラ 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    世界に私の居場所は無い
小さな【自身が引き籠った鬱詐偽小屋 】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【自身の心象風景が広がる空間】で、いつでも外に出られる。

イラスト:慧那

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠幻武・極です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 占領されたザ・ステージの一部、そこでは儚げな少女が、陰鬱な空気をまき散らしながら嘆くように歌っていた。

 私の声は届かない。海の底に沈む朽ちた宝石のように、誰にも気付かれないまま。このまま世界が私のことを忘れ去るのなら――世界なんて消えてなくなればいい。

 瞳に涙を湛えながら、少女は叫んでいた。このままでいいのか。世界も、彼女も。
 良いはずが、ない!
 猟兵たちは転移が終わると、一斉に駆け出した。それぞれの思いをぶつける為に――。
フィロメーラ・アステール
「よーし、幸せでボコボコにする!」
テンションを上げてラッキーで殴る簡単なお仕事!
歌は苦手だが、自分用なら気にしなくていいや!

さあて、ラッキーの使者がやってきたぞ♪
なんかこう凄い良い感じのヤバいアレを起こして♪
オブリビオンは全滅だー♪
(語彙力が圧倒的に足りないけど即興で言いたい事を並べる)

嫌われ者が好きな奴だって、不幸が楽しい奴だって♪
世の中には居るんだし♪
枯れ木も山の賑わい♪ いないと寂しいんだぜ♪
えーと、要するに♪
(敵の歌や主張に乗っかったりする)

お前を好きな奴は絶対にいる!

【願い願われし綺羅星】だ!
【第六感】テレパシーで、かつての番組視聴者とかの想いを集約!
ぶつけて幸せを実感させるぞ!


才堂・紅葉
「滅ぼす事が世界への存在証明とは中々にロックです」
優雅に一礼しギターを構える。
「ですが貴女の歌には傲慢さが欠けています」

好意をぶつけ、悪印象を受ける。
オーラの直撃を受け、気合で耐えて静かに笑む。

『そうよ私はみんなが嫌い』

ギターを奏でる。
デスメタル。
焦げ付くような音を鳴らし、世界を呪うが如きギターの音をかき鳴らす。

『私が寄って不幸にするわ』

諦念、絶望、嘆き、悲哀、憎悪、怨念……。
ある日、育った傭兵団が全滅した。
世界に一人取り残された。
負の感情をたっぷりと乗せて。

『世界の真ん中は、ここなのだから!』

己の傲慢を誇らしく高らかに歌う。
世界に己の居場所を刻みこむように。

「さぁ歌いなさいな。嘆きのままに」




「滅ぼす事が世界への存在証明とは中々にロックです」

 才堂・紅葉(お嬢・f08859)は、その存在の証明をあくまで冷静に受け流す。どこか気品を感じさせる優雅な一礼。その彼女の瞳が再び敵の姿を捉えると、彼女の姿に気付いた鬱詐偽はきっと紅葉を睨みつけた。

「――ですが、貴女の歌には傲慢さが欠けています」

 いつの間にか手にしていたギター。彼女の立ち居振る舞いには、放たれた傲慢と言う言葉はどこか縁遠いものに思えた。対する鬱詐欺は、元よりこうあることを宿命づけられた存在。

「ふざけないで……私は――」
「よーし、幸せでボコボコにする!」

 鬱詐欺の声を遮ったのは、フィロメーラ・アステール(SSR妖精:流れ星フィロ・f07828)だった。きらきらと輝く双尾を引いて飛び回る姿は、彗星や流星を想起させる。小さな体のどこからそんな声を出しているのかと不思議に思うほど、元気に歌い踊った。

「さあて、ラッキーの使者がやってきたぞ♪ なんかこう凄い良い感じのヤバいアレを起こして♪ オブリビオンは全滅だー♪」

 気の抜けるような音程。語彙力は完全に死んでいた。それでも彼女が止めなかったのは、それだけ本気だったから。
 自分のステージを邪魔された鬱詐欺が、その声を止めようと叫ぶ。だがその程度でフィロメーラは止まらない。

「嫌われ者が好きな奴だって、不幸が楽しい奴だって♪ 世の中には居るんだし♪ 枯れ木も山の賑わい♪ いないと寂しいんだぜ♪」
「うるさい……うるさいうるさい!! そんなの、幸せだから言えるただのまやかしよ!!」

 叫んだ。歌ではなく、言葉として。自分だけが不幸で、周りの全てが疎ましくて、でもいつか手を差し伸べてくれる誰かが現れてくれると期待しながら、思いは届かないと卑下し続ける。鬱詐欺には、自分でもどうしてこんなに意味のないことをしなければならないのか理解できなかった。ただ、自分が鬱詐欺として生まれた瞬間から、鬱詐欺としての生を全うしなければならない、それだけは知っていた。
 だから彼女にはフィロメーラの言葉が分からなかった。その意味を知っていたのに、理解を拒まなければならないと、心が命令していた。

「私は――」

 きつくマイクを握りしめる。誰にも愛されない、誰にも見向きされない、どうせ私は、と。

「……えーと、要するに♪」

 たなびく流星が、鬱詐欺のそばに止まる。その彼女の指が、びしっと勢いよく鬱詐欺を指した。

「お前を好きな奴は絶対にいる!」

 白い歯を見せて、心底楽しそうに。

「っ……!」

 その一瞬だけは、何も言葉が出なかった。否定しなければいけないのに。否定しなければ、存在の理由すらなくなってしまうというのに。

「いや……」
「?」

 漏れ出すように吐き出された言葉。同時に、彼女の陰鬱さが一層と増す。何かを察知したフィロメーラは、慌ててその場から退いた。

「嫌……私は居るの……ここに居るの!! 奪わないで、私の意味を! 私の価値を!!」

 重苦しい空気が、まるで意志を持って辺り一帯を包み込むかのように広がる。逃げ出したフィロメーラが身を隠したのは、そんな中でも堂々と立ち続ける紅葉の後ろだった。心を侵食する毒のように負の感情を植え付けていくその空気に晒されながら、しかし紅葉は静かに笑うだけ。

「そうよ私はみんなが嫌い」

 初めて、その手のギターが鳴らされた。初めはただ弾くだけのような、ぽつぽつと音が紡がれる。

「私が寄って不幸にするわ」

 徐々に強く、やがて激しく、脳が焼き付くような音の嵐が舞う。それは諦念、絶望、あるいは憎悪。世界の全てを呪うかのように、攻撃的なメロディは奏でられる。
 ある日突然何もかもを奪われた、そういう猟兵は珍しくないだろう。だが、だからと言ってそれを納得できるかは別の話だ。きっとこの歌には、そんな理不尽を呪う何もかもが込められているのかもしれない。

「世界の真ん中は、ここなのだから!」

 優雅さも気品も欠片もない、傲慢で高慢な。それでいて気高く。彼女は歌う。自らの居場所を刻み込むように。

「さぁ歌いなさいな。 嘆きのままに」

 向けられた視線の先で、鬱詐欺は震えていた。こんなことがあってはならない。私が世界で一番不幸でなければならない。そう言い聞かせるように口を開き、聞こえるか聞こえないか程度の声で何かを訥々と呟いている。何を呟いているか聞き取れなかったが、猟兵たちには彼女が何を言っているのか容易に想像が出来た。
 悲劇のヒロインを演じるでもなく、自らを貶めることでしか存在を確立できない存在の、なんと悲しいことだろう。

「むむむ……! ピコーンってきた!」

 そんな空気を吹き飛ばしたのは、紅葉の後ろで難しそうに唸り続けていたフィロメーラ。即興の炭酸が抜けたラムネのようなメロディを紡ぎ、ふわふわと空へ上がっていく。両手を銃のように構え、片目を閉じて狙いを定める。その先には、ステージに独り立つ鬱詐欺の姿。どことなく泣いているようにも見えた。
 今まで集めていたのは、かつての番組視聴者たちの想い。その中には、確かに鬱詐欺を快く思ってない者も居ただろう。だがそれだけではない。フィロメーラが先に歌い上げた通り、彼女を好きだという人も必ず居たはずなのだ。それらを全て集めて、束ねて、まとめて。

「みんなのパワーをお星様に!」

 撃ち出された煌めく流星。それは眩い光となって、鬱詐欺を包み込んだ。
 視界は未だ晴れず、オブリビオンがどうなったかは分からないが、まだ倒すに至っていないのは本能が察知していた。しかし願わくば――。互いに異なる思いを抱えたまま、光と影は戦いの行く末を見守っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

秋山・軍犬
どうせ、私は嫌われ者?

キマフュ舐めんな!色んな意味で
あんたが大好きな奴(ファン)絶対おるわ!

少なくとも自分等と予知ったグリモア猟兵は
あんたを嫌ってねぇ!

…まあ納得できんすよね?
じゃ、その気持ち全力でぶつけて来い!受け止める!
そして…


「自分の飯を食えぇぇーッす!」


突撃する感じの
ジョン&ナンシー&グルメ姫 【UC深夜の夫婦漫才+奇跡の再会】
の演奏で飯への愛を熱唱しつつ調理開始する軍犬

…ってなに料理してんの?!
ここ、フードステージじゃないのよ!?

あそこの連中は勝手に(美味しく)飯を食う
この少女は(美味しく)飯を食わんっす!…な の で

「自分の飯を食えぇぇーーーッす!!!」

ちな、好物あれば注文OKよ!


ユキ・コシイ
『神様が指し示した 運命に抗いたいと』

『涙に溺れて がむしゃらに押し切って』

『ただ只管紡いだ あなたを忘れたくないと』

…忘れ去られることは怖い
過去に去った人達は…多くが望んだ、忘れないで欲しい、生きた証を残したいと。
例え甦った存在だとしても、その心は理解に難くない。
そうね…ならば、あなたの歌を私が歌い、語り継ぐ。それはどうかな

…そんなの信じられない?
…ユーベルコード…【インプロンプト・ソング】―
あなたの力を、世界を、あなたの心を、歌にするユーベルコード

『わたしは歌う あなたの姿を あなたの心を』

『歌は継がれる』

『命が在る限り―』

さあ、歌で勝負しよう
…あなたを語り継ぐこの世界を、守る為にもね




 眩い視界が晴れる頃、そこにはふらふらと立ち上がる鬱詐欺の姿が見えた。立ち上がるのもやっと、と言うほどダメージを受けているわけではなさそうだが、それでも何かに迷って、惑っているように見えた。

「こんなの嘘……こんなのまやかし……私は独りなの……そうじゃないと、私は私じゃない! どうせ、私は嫌われものだもの……私は嫌われるために生まれてきた、だから皆嫌い!」

 そこで秋山・軍犬(悪徳フードファイター・f06631)は初めて合点がいった。この叫びが、彼女の歌なのだ、と。思い返せば、確かに鬱詐欺は戦闘が始まってから満足に歌らしい歌を口にしていない。それでも戦い続けられるのは、きっとそういう事だ。音楽という表現の形は多種多様である。

「どうせ私は嫌われ者……?」

 口を衝いて出た言葉。自分はマイナスでなければならないという呪縛に憑りつかれた哀れなオブリビオンは、彼の心に火を点けるには十分だった。

「この世界舐めんな! あんたが大好きな奴くらい絶対おるわ!」

 吼える軍犬。その背後には、いつの間にか現れたスマートな美男美女と、紫のドレスを纏った少女がそれぞれギター、ベース、ケーキをデザインしたドラムをセットして構えている。

「やあナンシーどうしたんだいそんな楽器なんて持って」
「あらジョン、あなたも人のこと言えないんじゃない?」
「ケキキ♪ 辛気臭い女には、一丁御馳走してやるでケキ♪」

 それを見た鬱詐欺の表情が引き締まる。正しく敵だと認識しているようだ。

「新手……どうせあなたたちも、私のことが嫌いなんでしょう?」
「どうっすかね? 少なくとも自分等と、これを予知したグリモア猟兵は―――あんたを嫌ってねぇ!」

 好きじゃないんだよね、という言葉を思い出して一瞬詰まるが、きっと額面通りの意味ではないと信じて言い切った。当然、と言ってしまうのは悲しい話だが、それだけで考えを改める相手ではない。

「……まあ納得できんすよね」

 諦めていたわけではない。これは当然のことなのだ。

「じゃ、その気持ち全力でぶつけて来い! 受け止める!」

 触発されて、鬱詐欺がマイクを握りしめるのが見えた。それを確認して、軍犬は不敵に笑う。背後では、既に準備が整っていた。あとは始めるだけ。

「さあ、自分の飯を食えぇぇーッす!!」

 そして始まる演奏、軽快なギターの音色が、ベースとドラムのリズムに乗って踊る。悲しみも憎しみも撃ち落としていくような熱い歌声は、料理への、いや、飯への果てることない愛を、軍犬の生きる原動力そのものを表現していた。リズムに合わせて小気味よく、包丁がまな板を叩く。

「ってなんで料理してるケキ?!」
「ここ、フードステージじゃないのよ!?」
「まあまあ慌てるなよナンシー、こんな時にはこのアイテムさ!」

 ジョンと呼ばれた好青年は、片手にギターを鳴らしながら、どこからともなく醤油のボトルを取り出した。かつての歴史に、片手でギターを弾くミュージシャンが居なかったわけではないが、片手で片手間にギターを鳴らすギタリストが居ただろうか。

「あそこの連中は、黙っていても勝手に飯を食う」

 曲調に合わせて火力が上がり、中華鍋が振るわれる。踊る白米に絡めるように、卵と刻葱が舞う。塩と胡椒、それに受け取った醤油をさっと垂らして、香ばしい香りが漂う。隣のフードステージの猟兵やオブリビオンたちが目をぎらつかせてこちらを見ているような気がしなくもないが、放っておいてもいいだろう。

「でも、この少女は飯を食わんっす!」

 飯が旨いのは幸福の象徴。だから。

「自分の飯を食えぇぇーーーッす!!!」

 準備されていた卓にどんと置かれたのは、どこにでもありそうなチャーハン。どこにでもありそう、なのに。立ち上る湯気が、香ばしい醤油の香りが、何故が食欲をそそる。鬱詐欺はそれを――。

「いらないわ」
「なんでッす!!?」

 一刀両断。その後スタッフが美味しくいただきました。
 フードステージではないので当然と言えば当然のことだったが、そのすべてが無駄だったかと言うと。

「……」

 楽しそうに食事をする面々をみつめる鬱詐欺の瞳は、どこか揺れているようにも見えた。
 ああ、と漏らす。この喧騒から離れた静寂。すぐ近くにあるはずなのに、手を伸ばしてはいけない幸福。追い求めてはいけない、手にしてはいけないもの。
 何故。どうして。本当に求めてはいけないのか。分からない。分からない。
 思っているのに。ふとした時の孤独が、自分でも抑えきれない何かが、形として溢れ出すのを止められない。

「皆は、私のことが嫌いじゃないといけないの……私は独りぼっちじゃないといけないの……!」

 何故。自分の心の奥底から湧き上がる疑問に、鬱詐欺は震えた。自分の存在意義を、自ら疑っている。本当は結論など最初から分かっていたのかもしれない。でなければ、聞こえてきた歌声に、ここまで心を揺さぶられることは無かっただろう。

「神様が指し示した 運命に抗いたいと」

 すっと、自然に耳に入ってくるような、透きとおる声。ユキ・コシイ(失われた時代の歌い手・f00919)のそれは、もはや歌と言うより、それを超越した、天啓。

「涙に溺れて がむしゃらに押し切って」

 呆然とただその啓示を待つかのように聞き入る鬱詐欺。

「ただ只管紡いだ あなたを忘れたくないと――」

 骸の海を漂っていた、どこの誰とも知れない記憶。自分が誰かも分からない、でも、自分は確かに存在したんだと、生きていたことを忘れられたくないと、そう望んだのは自分自身で。自ら嫌われて、拒絶されて、不幸を振りまいて、自分は独りだと、誰からも見向きされないと、そう言い聞かせて。何を得られただろうか。

「……忘れ去られることは怖い」
「……っ!」

 ふと、歌が止んだ。

「過去に去った人達は……多くが望んだ、忘れないで欲しい、生きた証を残したいと」

 奇跡のような歌声と比べると、それはあまりにも儚く、今にも消えてしまいそうな声。

「例え甦った存在だとしても」

 揺れていた。

「私は……私は……!」
「そうね……ならば、あなたの歌を私が歌い、語り継ぐ。それはどうかな」

 穏やかな笑みで鬱詐欺を見つめるユキ。彼女は、すぐには答えなかった。ただ、否定もしなかった。迷っている。葛藤しているのだ。

「……信じられない?」

 先ほどからずっと溢れ続けている、周囲を拒絶するような空気。それを一心に浴びながらも、ユキは表情を曇らせなかった。

「――聞こえたよ、あなたの歌が」

 再び息を吸うと、その思いを形にする。

「わたしは歌う あなたの姿を あなたの心を」

 真っすぐに鬱詐欺を見据える。もう絶対に逃がさない。この戦いから。自分との戦いから。

「歌は継がれる」

 想いは継がれる。

「命が在る限り――」

 正面から視線をぶつけられた鬱詐欺には、ユキの言葉が聞こえていた。歌ではなく、言葉が。その心が。
 ここはサウンドステージ・パッショネイト。
 さあ、歌で勝負しよう。
 あなたを語り継ぐこの世界を、守る為にも。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

栗花落・澪
例えそういう風に作られた存在だったとしても
目の前で悲しんでる人を放ってはおけないよ

【催眠歌唱】で対抗

祈りましょう 自分のために
悪夢に囚われた籠の鳥
心だけでも壊れぬように
明日の希望を信じて

紡ぐのは過去への想い
子守唄のように【優しい祈り】を込めながら
眠りに誘う【誘惑の音】

同時に★Staff of Mariaから放つのは
【破魔】を宿した光の【全力魔法】
攻撃と同時に視界を奪い心を揺らがせ
接近する隙を作る狙い

念のため【オーラ防御、呪詛・激痛耐性】で守りつつウサギさんを抱きしめ

祈りましょう 貴方のために
必要なのは手を取る勇気
僕がそうであったように
貴方は貴方の心を信じて

痛みを消し温もりだけを残したUCで攻撃




 栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は鬱詐欺の姿を見ながら拳を握りしめる。例えどうであったとしても、それがどんな存在であったとしても。

「目の前で悲しんでる人を……放ってはおけないよ」

 鬱詐欺の抵抗はほぼ無いに等しかった。だが、相手がオブリビオンである以上、倒さなければならないことに変わりはない。だから澪は歌う。これ以上彼女が悲しまなくていいように。

「祈りましょう 自分のために」

 純白の翼を拡げ。

「悪夢に囚われた籠の鳥」

 両手を組んで、祈るように。

「心だけでも壊れぬように」

 それは過去を想う歌。囚われた過去を馳せる歌。

「明日の希望を信じて」

 どんなに辛くても、必ず光は射す。必ず希望はある。だから安心していいんだよ、と言い聞かせるように。同時に彼の持つ杖から、眩い光が放たれた。聖なる光が、視界を埋め尽くしていく。
 その光の中で、鬱詐欺は夢を見た。
 それが誰の夢だったのかは分からない。番組のために、嫌われ役、疎まれ役になりながらも、確かに応援してくれる人たちがいて。主役にはなれなかったけど、それでもたくさんの愛に囲まれて、この世界を去った。そんな夢。
 私はどうだ。愛されていたか。孤独になることだけを考えて、拒絶して。何がしたかったんだろう。何もかもが分からない。
 鬱詐欺は歌うことを止めていた。

「泣かないで」

 もしかしたら、鬱詐欺という存在はもっと純粋で、ひたむきで、鬱詐欺という「役」に一生懸命な少女だったのかもしれない。でなければ、彼女の頬を伝うこの涙が、こんなにも美しいはずがない。
 指で優しく涙をぬぐい、壊れ物のようにそっと抱きしめる。
 もはや勝敗は決していた。このステージにおいて、自らの想いを歌い上げることのできない者は、存在すら許されない。鬱詐欺にはもう、その気力が残っていなかった。

「祈りましょう 貴方のために」

 だから澪は歌う。これ以上彼女が涙を流さなくていいように。

「必要なのは手を取る勇気」

 諦めたものへ、もう一度手を伸ばしてもいいんだと。

「僕がそうであったように」

 光へ、手を伸ばしてもいいんだと。

「貴方は貴方の心を信じて――」

 優しく温かい光が、鬱詐欺を包み込んだ。それは浄化の光。あらゆる痛みや苦痛を取り除いた、温かく優しい光。彼女は、ここで自分が消えてしまうのだと分かっていた。この光に包まれて、一緒に消えてしまうのだと。それでも抵抗などしなかった。
 だってもう、思い出したから。自分を愛してくれたたくさんの人の姿を。声を。想いを。だから。

「ありがとう――」

 そう聞こえた気がしたのは、澪の気のせいではなかっただろう。
 やがて光が晴れた後、そこには澪の姿しかなかった。ゆっくりと立ち上がる。

「――行こう」

 振り返った彼の顔には、涙の代わりに、切なくも優しい微笑みだけが浮かんでいた。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年05月02日
宿敵 『鬱詐偽『ウサギ』さん』 を撃破!


挿絵イラスト