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『バトルオブフラワーズ⑤〜不幸自慢は蜜の味～』

作者：影帽子

●ザ・ゲームステージ・メランコリー・ネガティブ・ゲーム
　巨大なコンピューターがあった。ゲームという用途のために用意された……筐体である。
　その巨大さに比して人形のように小柄な、一人の少女の姿があった。
　寝間着のような衣装、折れたウサギ耳、抜けるような白い肌、手に持つぬいぐるみ……暗い輝きを放つ宝石のような瞳。
「このゲーム、不幸になったら勝ちなんだって……一緒にあそぶ？」
　……でもね、と、少女は続ける。
「私は嫌われもの……私に居場所なんてないの……負けないよ」

●嘆きの人生ゲーム
「人生ゲームって、やったことある？」
　モルツクルス・ゼーレヴェックス（5歳）がポツリと言った。
「ザ・ゲームステージ……この戦争に勝つためには、まずはゲームをしなきゃいけない。決着がつくまでお互い攻撃できないし、ゲームに勝った方が有利になるんだ……そのゲームと対戦相手が際物でね」

　対戦相手は『鬱詐偽『ウサギ』さん』
　かつてメインキャラを引き立たせる為に陰湿・根暗・不幸なキャラとして作られたバーチャルキャラクターで、番組終了と共に眠りについた過去の……オブリビオン。

　そんな彼女とやるのが不幸になったら勝ちの逆人生ゲーム。
「プレイヤーは、自分を模したキャラクターとして10ターン、ゲーム時間で10年をUDCアースみたいな世界で過ごす……その10年後に一番不幸になってる人の勝ち」
　模しているのは姿や性別など表面的なことだけで、スタートは一律で一般人。
　ルーレットで進む従来の人生ゲームと違い、無数に用意された選択肢の中から自分の選んだイベントで不幸を高めていく。……シミュレーションゲームに近い。
「僕のお薦めの攻略法は二種類。ひたすら不幸になる、もしくは、うさぎさんを……幸福にする事」

　不幸になりたいならば「最終的ゴールの不幸な姿」を見定めて「どんなイベントを選ぶか」を決めていくことが必要だ。
　例えば「無一文」を目指すなら「賭け事」にのめり込んだり「借金」して「起業」して「倒産」したりすればいい。怪我をしたり死亡したりも出来るがおすすめはしない。死んだらそれ以上不幸になれないからだ。

　幸福にしたいのなら「ウサギさんの選択を予測」して防いだり「問答無用で幸せにする」ために「能力を高めたり」する選択肢を選ぶべきだろう。
　例えば「料理を勉強」して「ウサギさんに振る舞う」などが典型的だろうか。
　……当然ながら、ウサギさん独走は防げても高順位は望めない。

「ゲームに決着がついたら、実物のウサギさんと戦って倒すんだ。……容赦しちゃ、いけないよ」
　ゲームに勝てば、つまりウサギさんが一位を逃がしたら、戦闘を有利に戦いを進めることができるだろう。
「難しい……そして、悲しいゲームになると思うけど、がんばって」
　モルツクルスは感情を伺わせない瞳を伏せて、猟兵達を送り出した。

第1章 ボス戦 『鬱詐偽『ウサギ』さん』

POW   :    どうせ、私は嫌われ者 【自身への好意的 】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【陰湿な雰囲気】から、高命中力の【自身への悪印象】を飛ばす。 SPD   :    私に近寄ると不幸になる 【自身でも制御できない近寄らないでオーラ 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。 WIZ   :    世界に私の居場所は無い 小さな【自身が引き籠った鬱詐偽小屋 】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【自身の心象風景が広がる空間】で、いつでも外に出られる。 イラスト：慧那 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●１ターン目
「鬱詐偽は芸能界入りを決意した」
『私は嫌われもの……より多くの人に嫌ってもらう……それが不幸、それが私』

「ライアは鬱詐偽のプロデューサーになった」
『さぁ、幸福をお届けするヒーローPのお時間だよ(眼鏡くいモーション)』

「夏報は鬱詐偽のマネージャーになった」
『ロックな人生は柄じゃない。見張りも兼ねてお世話しよう』

「ナミルは遊んでいる」
『遊んでくにゃー』

「極は一流企業に入社した」
『不幸になるために、先ずは幸せになるところからはじめよう』

●２ターン目
「鬱詐偽は大御所の癇癪で番組を外された」
『……理不尽……でも、うん。いつもどおり』

「ライアは次の企画をもってきた」
『気にすんな！あのジジイがおかしい！』

「夏報は、鬱詐偽のコミュ力を磨いた」
『君が君のまま、快適に生きるために、ね』

「ナミルは投資話にホイホイのった」
『にゃにゃ？働かなくても稼げるにゃ？』

「極みは自己投資して社交性を磨いた」
『成功のためのスキルアップ、基本だね』

●３ターン目
「鬱詐偽と共演予定のアイドルが、鬱詐偽に酷い言葉を残して辞めた」
『……これでいい。……独りで、無様に出演する』

「ライアは死ぬ気で覚え、アイドル代わりに共演した」
『おう、プロデューサー舐めんな』

「夏報は鬱詐偽を気晴らしに連れ出した」
『抱えこんでばっかじゃ体に悪いよ』

「ナミルの投資先は見事潰れた」
『にゃー！？晩ごはん煮干しだけにゃ！？』

「極は着実に伸びる業績を評価され昇進した」
『順調、順調。これも計算のうち』

●４ターン目
「鬱詐偽に女装男子だという疑惑が流れた」
『なにこれ……よく分かんないことで騒がれてる』

「ライアは上手にマーケティングしてファンを獲得した」
『女装男子だとしたっていいじゃん！２度おいしい！』

「夏報は鬱詐欺をカウンセリングした」
『え？いやいや大丈夫。鬱詐偽ちゃんは女の子、うん』

「ナミルはカジノに通い始めた」
『ラッキー猫だから、負ける方が難しいにゃー』

「極は美術品を買った」
『よく分かんないけど、気に入ったのを買ってみた』

●５ターン目
「鬱詐偽の生き別れの母だという女性が現れ金銭を要求した」
『……全然、似てないね、いいよ。お金あげる』

「ライアは詐欺師を叩き出した」
『２度と来んな！バーッカ！塩を撒こう！』

「夏報は、業界情報獲得スキルを磨いた」
『鬱詐偽ちゃんを見張るだけじゃ足りないね』

「ビギナーズラックか、ナミルは大きい当たり」
『やったにゃ！！楽しいにゃー！！』

「極は親友と久しぶりに会って旧交を深めた」
『……ゲーム中だから当たり前だけど、誰だ』

●６ターン目
「鬱詐偽は病気になった」
『コホッ……コホッ……あぁ……動けない、けど、仕事』

「ライアは鬱詐偽を病院にぶち込んだ」
『あほかー！任せて寝てろー！治してから仕事！』

「夏報は、鬱詐偽に付き添って世話をした」
『鬱詐偽ちゃん、なんだって自分を傷つけるかね』

「ナミルは勝ったり負けたり、少し負け越している程度が続く」
『……ぐぬぬ、じり貧ってやつにゃ。もっと手っ取り早く稼ぐにゃ』

「極はプロジェクト責任者になった」
『よーし……ここからだ。崩すには積まなきゃね』

●７ターン目
「鬱詐偽は仕事をボイコットして逃げた」
『なんで……私なんか構うの……意味分かんない』

「ライアは鬱詐偽を追いかけた」
『決まってる！幸福にしてやるためだー！』

「夏報は、鬱詐偽に話しかける」
『そういうところだからな！幸せを怖がるな！』

「ナミルは自分を爪でカリッとした。運気が貯まる」
『……これでよしにゃ。きっと大儲けにゃ！』

「極のプロジェクトは無理があった。責任を被せられる」
『……これで仕事を無くした。』

●八ターン目
「鬱詐偽はもう一度、アイドルを始めた」
『あなた達、うるさいから、少し本気だす』

「ライアは張り切ってプロデュースしている」
『いいぞ鬱詐偽！そろそろドームいっとくか！』

「夏報は鬱詐偽を公私ともに支える」
『いい？とりあえず笑顔。挨拶……嫌われっこないよ』

「ナミルは全財産どころか借金までして大勝負」
『……これを全部！黒にゃ！イカサマなしにゃ！』

「極は保証人になっていた親友に逃げられた」
『そして、金を無くした……裏切ったね』

●９ターン目
「鬱詐偽のライブ中に照明が落ちてくる事故」
『ここで……死んだら……不幸よね』

「ライアは躊躇なく鬱詐偽を庇った……死亡」
『怪我はない？……そっか、なら、いいや……しあ、わせ……に……』

「夏報は、鬱詐偽と話をする」
『なんで……こんなに構うかって？……なんか、学生時代を思いだすんだよ』

「ナミルは負けて外国に売り飛ばされた」
『にゃーーー！？檻の中はイヤにゃ！助けて欲しいにゃ！！』

「極は知り合いに助けを求めるも、誰も応じてはくれない」
『人との縁も無い……何も、ないな』

●１０ターン目
「鬱詐偽は復帰ライブをやり遂げた」
『……応援してくれて、ありがとう』

「ライアは死亡している」
『……』

「夏報は拍手を贈った」
『よかった。……よかったねウサちゃん』

「ナミルは遠い異国の地で元気に働いている」
『……暑いにゃ！キツいにゃ！やめたいにゃあ！』

「極は失意の内に衰弱死した」
『……やるだけ……やったね』

●GAME SET
１位幻武・極
２位ナミル・タグイール
３位宮内・ライア
４位臥待・夏報
５位鬱詐偽さん

●決着
「ねえ……聴いていい？」
　ゲームが終われば、敵同士。猟兵達に向かってオブリビオンが疑問を投げる。
「私のこと……嫌い？」
　猟兵達答える。……そんなことはないと、嫌いじゃないと、イラつく程度だと、ぶっちゃけ好きだと。
　それぞれ程度の差はあれ、一緒にゲームを遊んだ仲だ。悪感情だって知れている。
「そう……はじめましょうか」
　はじめましょうか、と、彼女は言ったが、実際にはもう終わっている。……自分こそは不幸であるという根幹を削がれた鬱詐偽さんは、ほぼ、抵抗の余地なく爪に、拳に、刃に……そして燃え盛る炎に倒れ付す。
「でも、一つ……そんな優しい、あなた達が、私なんかを気に病むかと思うと」
　――とっても不幸で、幸福で。

　波が引いた後の砂の模様のように、鬱詐偽さんは、元あった場所へと還っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年05月05日 宿敵 『鬱詐偽『ウサギ』さん』 を撃破！