2

バトルオブフラワーズ④〜飯テロは世界を救う

作者：灰猫

●
　うららかな昼下がり。さわやかな風。
　キマイラフューチャーのとある畑では、瑞々しい緑を揺らしながら鮮やかな橙を柔らかな土の下から覗かせていた。
　その橙を土の中から引き出そうと3人の小人がそれの茎に手をかける。
　土の下から現れたのは太く立派に育った人参であった。
　人参が抜けると同時に尻もちをついてしまった小人たちは全身の土を払い落とし、協力して収穫した人参をどこかへと運んでいく。
　似たような3人組が畑のあちこちで人参を収穫し、橙色の山を目指してそれを運んでいく。

　それ自体は畑であれば珍しくない、ありふれた収穫風景であろう。
　収穫しているのがオブリビオンでなければ。

●
「みんな聞いてー！キマイラフューチャーが真っ二つになっちゃったんだよー！」
　指矩・在真（クリエイトボーイ・f13191）は手をばたつかせて異常事態を知らせる。
「『システム・フラワーズ』。この言葉に覚えがある人もいるよね。それがかかわってるんだけど、ルート開くためにこうなるなんてびっくりだよー……」
　しかしそのような事態を引き起こした元凶がこの世界のオブリビオン・フォーミュラ『ドン・フリーダム』である以上、猟兵が動くしかない。
　姿勢を正し、指矩は再び口を開いた。

「みんなはここ、『ザ・フードステージ』にある人参畑でオブリビオンを退治してもらうよ」
　宙に展開されたウィンドウに人参畑が映し出される。
　頭が財布や金庫、宝石になっている小人たちがせっせと人参をどこかへと運ぶ様子が映し出されていた。
「たくさん人参を持っていかれると僕たちはここから追い出されちゃうんだ。だから追い出されないようにオブリビオンの数を減らしたいんだけど……収穫作業中のオブリビオンには攻撃が全く通らないんだよね」
　しかし対策方法はあると指矩は言葉を続ける。
　どうやら攻撃無効能力はあくまでも収穫している間だけ発動するらしく、その作業を中断させてしまえば攻撃して倒すことが出来るようなのだ。
「だから思わず飛びつきたくなっちゃうくらいおいしそうな料理を作って、攻撃無効の効果がなくなったところを叩けばいいんだよ！」
　一言で言えば大規模な飯テロである。
　このステージにおいては飯テロこそ勝利をもたらす切り札なのである。
　幸いにも材料となる人参はわかりやすいところで山になっており、調味料や調理器具等調理に必要なものも調達に苦労することはない。
　場は整っている。
　如何にオブリビオンたちの胃を刺激できるか、全てはそこにかかっている。

「ボクも食べる側で参加したかった……じゃなくて！この世界を守るために、レッツ飯テロなんだよ！」
　楽しげな指矩の言葉を最後に、猟兵たちの視界が青く染まる。
　どこか遠くでぐぉんと低く開戦の音が響き、大地を揺らしたような気がした。

第1章 集団戦 『マニーギャザラーズ』

POW   :    金庫怪人・ウェポン 【金庫兵器】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。 SPD   :    おサイフ怪人・ジェノサイド 【おサイフ攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。 WIZ   :    ジュエリー怪人・リフレクション 対象のユーベルコードに対し【ジュエリー】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。 イラスト：まめのきなこ 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

「そんなに凝った料理はできねえぞ俺は……」
　鳳仙寺・夜昂（仰星・f16389）は積み上がった人参の山の前で不機嫌そうに顔をしかめていた。
「こなれた料理じゃなくてもいいと思うよ。人参美味しいし」
　その横では食材を抱えたシュデラ・テノーフォン（天狼パラフォニア・f13408）が人参を吟味中。
　手に取る人参はどれも鮮度抜群で思わず笑みがこぼれるほどだ。
「あー、ならきんぴらにんじんとか、天ぷらとかにするかな」
「もしよければ俺も一緒に作ろうか？　ちょうど天ぷらも作ろうとしてたんだ」
　シュデラの申し出に鳳仙寺はよろしくと頭を下げるのであった。

　凝った料理はできないと称していた鳳仙寺であったが、人参の皮を剥いて切ってゆく手つきは慣れたもの。
　謙虚な彼は下味をつける手間だって惜しまない。
　料理が好きなシュデラもまた次々に料理を生み出していく。
　野菜スティックというシンプルを極めた料理ですら味噌とマヨネーズ、隠し味に粉チーズという仕込みを加えられて戦闘力は十分だ。
　最も暴力的に食欲を刺激したのは天ぷらを揚げる作業だろうか。
　熱々にするために最後にまとめてやろうと相談した結果、油の音と匂いに仲良く完敗して思わずつまみ食い。
「……酒飲みたくなってきた」
　鳳仙寺はぺろりと指についた衣を舐め取る。
　依頼……それも戦争真っただ中で酒を飲むのは難しいであろうが、間違いなく合う出来栄えに頷くのであった。

　せっせと3人組が人参を運んでいると、ふと炒ったゴマの香りを嗅ぎつけたダイヤモンド頭の足が止まる。
　残りの2人もすぐに鰹節の香りに気が付き、その正体を探して視線を走らせれば。
　口の中でさくりと軽い音を立てそうな黄金の衣をまとった天ぷらは、拍子木切りと極細切りの2種類を作ることで食感に違いを生み出し。
　きんぴらにんじんは唐辛子の辛みと人参の甘みのコラボが食欲を加速させる。
　他にも黄色と橙のコントラストも美しいしりしりにシンプルに歯ごたえを楽しめるスティック野菜、デザートのケーキが3人組を誘惑する。
「ちょっとだけなら許されるよな……」
「そ、そうそう！　俺たちが収穫したんだし、その権利はあるはず！」
「働き続けるにもエネルギーはいるからね！」
　好奇心に負けた3人組はおそるおそる料理へと手を伸ばし、口へと運ぶ。
「うっま！　ぼりぼりいけるのも口の中でとろけるのもうっま！　うっま！」
「このピリッと感に人参のやさしさがうれしいんだよなぁ……」
「このソース、すごくコクがあるよ！」
　3人は頬張っては料理を褒め称え、こっちはどうなんだとすっかり夢中。
　すっかり作業のことが抜け落ちたその背中は実に無防備である。
　そこにゆっくりと近づくのはシュデラだ。
「気に入ってもらえたかな？」
　声をかけられた3人はギギギとぎこちない動きで振り返る。
　無慈悲に微笑む彼の手には光を受けて美しく輝く拳銃。
「じゃあお勘定、お代は君らで」
　3人が最後に喰らったのは、美しく透き通った弾丸の雨だった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

「この趣味全開で上げた料理の腕前、披露するのはまさに今！」
　高々としっかりと洗った拳を突き上げて、エダ・サルファー（格闘聖職者・f05398）はやる気を露わにする。
「じゃあさっき決めた通り、にんじんしりしりを作ろうか」
　御宮司・幸村（いいかげんサマナー・f02948）もまた手洗いを終え、身につけたHDMと同じ赤色のエプロンを身にまとい準備万端。
　腕っぷしの強い聖職者と酒と食べ歩きを愛するおっさんによるクッキングタイムが始まった。

　にんじんしりしり。それはUDCアースに存在する郷土料理のことである。
　ご飯と合わせてよし。酒のお供によし。冷めてもおいしい。
　スライサーを使うとすりすり音がするからというかわいらしい名前の由来を持つこのにんじんしりしりだが、この場においては十分に凶器になり得る素質を持っている。
「……まさか使える機会が訪れるとはなぁ」
　エダは感慨深い面持ちで人参を素早く千切りにしていく。
　たしかに普段であればここまで料理の技能が重要視される場面というのは戦闘技能や調査技能と比べれば多くはないであろう。
　しかし今この瞬間において、趣味で鍛え上げたその実力は何よりもの武器となっている。
「人参はそのくらいで大丈夫そうだね」
　先にフライパンの準備をしていた御宮司がエダに声をかける。
　ごま油を熱し、そこに先ほど千切りにした人参を加えて炒める。
　くたっとしたところに追加の人参とツナ缶を汁ごと投下。
　全体が馴染んだところで一旦火を消し、溶き卵を余熱だけで熱を通していく。
　御宮司が蓋を開けて覗き込めば、ドロドロだった卵が人参とツナに絡みつきながらプルプルと揺れて黄色を主張しているではないか。
　ごま油とツナの暴力的な香りが直撃した御宮司は思わず勝利を確信する。
「おじさんはちょっととろっとした方が好みなんだけど、しっかり火を通したのも作っておこうか」
「醤油の芳しい香りも怪人の注意が引けそうだよねぇ」
　2人の凶器作りはもうしばらく続くようだ。

　味付け、卵の固さが様々なにんじんしりしりを仕掛けて5分後。
「「「どれも美味しくて選べない！！！」」」
　香りに釣り上げられた3人組はどれも気に入った様子であった。
　見事に運んでいた人参を放り投げて料理を頬張る。
　財布顔に至ってはその袋の部分がぱっつんぱっつんに膨れ上がっている。
「料理も得意だけど、せっかくならもっと得意な拳を見せてあげるよ！」
　この後エダの聖拳突きによって3人組がしりしりの人参よりも細かく砕けたのは言うまでもない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

「ちうりーん☆クッキング―！今日はちうりんがこちらのゲーム世界で人参料理をおいしく楽しく作っていきます」
　清楚な雰囲気が溢れる白いエプロンの裾を揺らして料理開始の宣言をするのは朱鳳・智優利（異世界転生したら邪教の教祖兼変身ヒロインにされた件・f01245）であった。
　わーとかきゃーとか拍手とかそんな声や音が聞こえた気がしないでもないが、これは今も真面目に人参運びに勤しむオブリビオン撃破のための真面目な戦闘のための下準備である。
「用意するのは人参、バター、砂糖、塩！」
「人参のグラッセって割と作るの大変だった気が……」
　思わず突っ込んでしまった佐久間・嶺滋（想葬の黒影・f00774）の表情はやや渋め。
　悲しいことに、料理に関しては疎い彼には彼女を止める手段がない。
　朱鳳の料理が完成し、ギャザラーズへ攻撃が通るようになるまでは佐久間は雑用に徹する構えだ。
　いつでも攻勢に出られるよう勤労意欲たっぷりなギャザラーズを警戒しつつ、佐久間は朱鳳から頼まれた人参をはじめとする材料の調達に向かうのであった。
　
　調理風景は妨害も危ういこともなく、実に平和に料理が完成。
　皿の上ではマッシュ人参がバターの香りを振り撒いて食されるその瞬間を待ちわびていた。
「はい、レージ、あーん！」　
　朱鳳はスプーンですくったマッシュ人参を佐久間へと差し出す。
　それを佐久間は大きく口を開いて頬張ると、濃厚なバターと強く引き出された人参の甘みが口の中に広がる。
　柔らかすぎず、食感がある程度残ったマッシュ具合もまたちょうどよい。
　まさに愛情たっぷりな一品であると佐久間は感じた。
　2人を取り巻く空気まで甘く調理されてしまったかのような錯覚に陥りそうになるが、それを許さないのがマニーギャザラーズ。
　じりじりとにじり寄る彼らの目からは『それを寄越せ』という強い意志がはっきりと見て取れる。
　「ちうりと比べると料理はあんまり得意じゃないが、此方の『料理』は得意だぞ」
　佐久間の両の掌から生み出された火花がばちりと音を立ててはじけた。
　ねずみ花火のようにジグザグと地面を走る稲妻はマニーギャザラーズから身体を動かす自由を奪い去り、動けなくなったギャザラーズの命を確実に刈り取っていく。
　中には電流から逃れダイヤモンドから模倣した白い稲妻で反撃する者もいたが、朱鳳の銃弾が放出元たるダイヤモンドを砕き、隙だらけの頭を背後から落としていった。
　佐久間が宣言通りの手腕を発揮した跡地には、完璧に仕上げられたオブリビオンの残骸という料理が並べられることになった。　

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

「世界が割れるって、普通だったらもう猟兵どうこう言ってられる事態ではなく手遅れだよね？」
　花月・椿（百鬼粉砕・f12960）は今この世界で起きていることを思い出し、半笑いを浮かべて得て人参をすりおろしていた。
　侵入者を追い出すために世界を南北で真っ二つ。
　短時間で手際よく異物を排除するためには理には適っているのかもしれないし、これが面白おかしく生きるキマイラフューチャー式だと言われればそれ以上何もいう事ができないのだが、豪快にもほどがある。
「えーっと、人参の次はどうするんだっけ」
　作業台の上に置かれたキャロットケーキのレシピを確認する。
　実のところ花月はキャロットケーキを作ったことがない。
　万全を期すために、こうしてキャロットケーキのレシピを本や動画から探し最も簡単なものを準備しておいたのである。
　とはいえこれだけではインパクトに欠けると感じた彼女は何か。
「次は薄力粉をふるい入れるっと」
　材料を後ろの棚にまとめていた花月が振り返る。
　視線の先には大量の袋。それらすべてがキャロットケーキの材料である。
　そう、質を上げようとやったことのないアレンジに手を出すより味が保証されたレシピ通りのものを大量に作ればいいじゃないと考えたのだ。
　オーブンの音がテーブルが優しいオレンジ色で埋め尽くされることになるのだが、作業中の彼女がその未来に気が付くのはもう少し先の話である。

　いくつもの大きなテーブルの上で、デザートらしい甘い香りを漂わせるオレンジ色のケーキ。
　大量に作ればそれだけ香りも増え、必然的におびき出されるギャザラーズの数も増える。
「ケーキだ」「疲れた体には糖分こそ至高」「甘いもの万歳」
　第一陣が1皿完食しようとしている間も数を増やし、倉庫へ人参を運ぶ代わりに胃へキャロットケーキを運んでいく。
　そんな一見平和な空気の中、罠の料理がある場所から遠く離れた場所……農具を保管している倉庫の上から飛んできた一発の弾丸が財布頭の布に丸い穴を作り上げた。
　その屋根の上ではエミーリア・ソイニンヴァーラ（おひさま笑顔♪・f06592）と軍服を纏った小人が陣取っていた。
「1体沈黙を確認。次だ」
「イエス！　マム！」
　観測手を務めるブラックタールの分裂体『ミュイちゃん』の声に威勢よく答え、トリガーを引く。
　わふーっと独特の発砲音と共に撃ち出された魔弾はまっすぐと金庫頭の鍵部分を撃ち抜いた。
「反撃来たぞ、撃ち落とせ！」
「イエス、マム！　わふーっ！」
　『死神』とも呼ばれ、相手から恐れ続けられた狙撃手に憧れて身につけた狙撃技術。
　いくらユーベルコードで追尾能力を模倣したと言えど、エミーリアの技術までは模倣できない。
　冷静に狙うべきターゲットを判断し照準を合わせる技術でギャザラーズを圧倒したエミーリアとミュイちゃんペアは確実にギャザラーズを狙撃し続け、誘い込んだ敵を殲滅という成果を挙げたエミーリアは花月のいる方向へピースサインを向けるのであった。

　畑が静かになる頃には、オレンジ色の線は消えていた。
　怪人の殲滅、つまり猟兵たちはこの戦いに勝利したのである。
　さわさわと風に揺れる人参の葉が猟兵たちの勝利を祝っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年05月05日