バトルオブフラワーズ⑧〜さよならサイケデリック
●塗り潰された極彩色
世界が真っ二つに割れた。
その日、猟兵が集うグリモアベースに駆け巡ったのはキマイラフューチャーに関する衝撃の報道だった。北半球と南半球にごっそりと分かたれた極彩色の世界はしかし、オブリビオンに追われていたテレビウムたち──その、この世界の中枢であるシステム・フラワーズからの救援要請に猟兵が答えた結果でもある。
それゆえに。
分かたれた世界、その開かれたメンテナンス・ルートを辿り、速やかにシステム・フラワーズを目指す必要があった。
既にオブリビオン・フォーミュラである「ドン・フリーダム」はシステム・フラワーズを占領している。開かれたメンテナンス・ルートにおいても、彼の手先である怪人軍団が溢れていることだろう。その先へ至るためには、すべてのステージを攻略しオブリビオンから取り戻さなければならない。
侵略されているステージのうちのひとつ、ザ・ペイントステージでの事件を予見したクリス・ホワイト(妖精の運び手・f01880)は、集ってくれた猟兵を見上げて色彩の異なる双眸を瞬かせた。
「やぁ、よく来てくれたね」
目礼をひとつ。親しみを込めて微笑みかけながらも、その目は真剣さを湛えている。
「あまり時間がないから、手短に行こうか。キマイラフューチャーで怪人軍団が一斉に暴れ出したようでね」
見えたのは、極彩色を『闇のような黒色』で塗り潰していく怪人集団だった。
熊に、犬に、兎に。その手に持つものこそ物騒ながら、つよくてかわいいを自称するだけあってか一見可愛らしい見た目をしているらしい。しかしそれでも、彼らがやっていることは侵略行為に他ならない。
「──街並みから黒以外の色が消えたとき、僕たちは敗北となるだろう。君にはそうなる前に塗り潰されている場所を発見し、彼らを倒してきてほしい」
舞台となるザ・ペイントステージに送ろう、とクリスは手に馴染んだステッキでコツリと床を小突く。手のひらの上に線を描くようにして現れたのは、花を模したグリモアだ。
ぐるりと手中で周り、グリモアが一際強く光輝く頃。静かにはじまる転送の光を前に、クリスは送り出す猟兵の武運を願うように、小さな祈りを込めてやわらかく微笑んだ。
「いってらっしゃい、親愛なる君」
atten
お目に留めていただきありがとうございます。
attenと申します。リアイベシナリオとなりますため、以下ご留意ください。
▼ご案内
舞台はキマイラフューチャーになります。
怪人軍団による侵略行為を防ぐべく、現場に急行し戦闘に参加してください。
どのように塗り潰された場所を探して駆け付けるかも大事になってくるようです。
よろしくお願いします。
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「バトルオブフラワーズ」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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第1章 集団戦
『つよくてかわいいアニマルズ』
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POW : 丸太クマさん怪人・ウェポン
【丸太兵器 】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : 鉄球ワンちゃん怪人・ジェノサイド
【鉄球攻撃 】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : ピコハンウサちゃん怪人・リフレクション
対象のユーベルコードに対し【ピコハン 】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
イラスト:まめのきなこ
👑11
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
連・希夜
可愛いのに厄介なんて、シュールだね
キマイラフューチャーにはぴったりかな?
って、のんびり考えてる場合じゃないか
街が塗り潰される前に片付けちゃおう。大丈夫、きっとなんとかなる
一見、普通な眼鏡の電脳ゴーグルをおもむろに装備
電脳空間にダイヴして街の現在状況を調べ上げる
人が逃げ出してる場所があれば、きっとそこは黒く塗り潰されかけてるのかなって
サイバー都市だし各種カメラの映像も参考にしよ
目途がついたら、最短ルートで一目散
オブリビオンを発見できたら、やっぱりいたね、と笑って【ガジェットショータイム】発動
虹色を吹き出すカラースプレーみたいなガジェットを召喚して攻撃
楽しくて眩しい極彩色、黒で塗り潰したらダメだよ
イリーツァ・ウーツェ
【POW】
翼を使い、上空へ。背の高いビルの屋上などから全体を見渡す。
黒く塗られた地域を見つければ、そこに敵も居るだろう。
最も疾く届くであろう光熱属性の集束レーザーで遠距離狙撃を行う。
(属性攻撃+UC+スナイパー)
可能な限り威力を上げるため、魔力をため込んでから放とう。
(全力攻撃+力溜め)
黒く塗られた場所ごと破壊してしまうと思うが、
戦争における副次的な被害として許してもらいたい。
すまない。
(イメージはゴ●ラのあれです)
ロク・ザイオン
(塗りつぶすなら。たくさん、塗料の匂いがする。
【地形利用】で風向きを読み【野生の勘】で匂いを【追跡】)
……あれがオブリビオン。
世界の病。
(意外と…愛らしい…)
(それでも病は焼かねばならない。森番は病と病葉を焼いて、森を。世界を守る。
【ダッシュ】で迫り【先制】し、【早業】「烙禍」でおもちゃのハンマーごと焼き潰そう。外したところで、土が焼ければ焼けるほど、自分は戦いやすい)
……同じ黒でも。
炭と灰なら、また芽吹くから。
真幌・縫
つよくてかわいい…?
うーん…ぬいの趣味とはあんまり合わないかな?
キマイラフューチャーってカラフルなイメージだからこんな風に黒く塗っちゃうと悲しいね。
とにかく全部塗り終える前に止めないと。
まずは【挑発】してこっちに意識を向けられるといいんだけど。
そうしたらUC【ぬいぐるみさん行進曲】で攻撃!
ぬいぐるみさん達!ぬいと一緒に戦って!
ついでに黒く塗りつぶしてるとこも上書きしちゃえ♪
(翻弄するかのようにちょこまかしつつ突撃)
これで少しは動きを止められるかな。
うん、やっぱりぬいのぬいぐるみさん達の方が可愛いね♪
アドリブ連携歓迎です♪
スノウ・パタタ
んーと、空を飛んで探したりはわたし、まだ出来ないからユキさんにお願いするのよっ
真っ黒しかないのは、何だか、やーなの…
【白雪姫の童話】
バディペットの「シラユキウミウシ」へ、水分の多い体に相性の良い水の精霊魔法で力添えをして大量に増殖。
広範囲の探索を任せあちこちへ分布。
塗り潰されている場所が絞り込めたら、増殖したウミウシの集中豪雨で敵にぴたっとくっ付き。
毒性の精霊魔法で麻痺や痺れを誘発、動きを鈍らせるのを目標に。
集団戦では続けて精霊魔法を使役し敵の討伐を。
星が割れるなんて、大変なのよっ!コンコンなかったら、キマイラさん達困っちゃうの。皆が生きるのに必要なものを悪い事に使うのは、めーなのよー!
アルバ・アルフライラ
ああ、知っておるぞ
斯様な着ぐるみを「キモ可愛い」と呼ぶのだろう?
可愛いか否かは疑問だが、まあ捨て置こう
黒は嫌いではないが…黒一色は何とも味気ない
五月蝿い極彩こそ、賑やかなこの世に相応しかろうよ
召喚した【夢より這い出し混沌】に騎乗
上空より黒く塗られた場所を捜索
怪人共を目撃した際は他猟兵へ伝達し、翼竜を駆り現場へ急行
不意討ちにと我が魔術を降り注ぐ
敵の挙動は常に観察
時には第六感も使い、翼竜の速度をもって回避
鉄球はリーチから外れるよう飛翔を試みる
出来た隙を我が範囲魔術で、翼竜の爪牙で一網打尽にしてくれる
無論、他猟兵の支援も忘れておらんとも
声掛や高速詠唱による魔術にて死角を補おう
(従者、敵以外には敬語)
ジャハル・アルムリフ
平和な世界だと聞いていたが、解らぬものだ
黒一色では面白みに欠けるだろう
ならば、ひとつ暴れてゆこう
*他猟兵との連携も積極的に行い
必要あらばそれを補う戦い方を
【竜追】を用いて、街の上空で一旦停止
視力を活用し、街並みの中に不自然に黒い箇所
あるいは有り得ぬ所を移動する影などを探す
…なんだ、あの戯けた見目は
随分と小さいのは気の所為か
発見次第、再び竜追にて急行
到着の勢いついでに弾き飛ばす
当人達が塗り潰した黒に沈めるのも良かろうか
丸太の攻撃は怪力で受け止めるか、見切りで避け
カウンターの黒剣で首を狙う
斬れぬなら蹴り、殴りもして
とにかく二度と動けぬようにしてくれよう
玩具は玩具らしく
早々に玩具箱にでも戻るがいい
朧・紅
【アドリブ歓迎】
【紅】で行動
かわいいですけど悪い子ですね?なら殺っちゃうのです!
【血糸】をゴム状の強度にして建物の屋上に伸ばしては引き寄せて、屋上を飛び回って上から黒い所を探すですね。
見つけたら上から槍の強度にした血液を雨のように降らせて強襲かけちゃうです
みぃつけた、なのです♪
丸太兵器は相手の動きの違和感を第六感で見つけて避けれるでしょか?
もし当たっても怯まないのです
僕もギロチン刃で攻撃するですよ
当たらない、と思わせる距離を薙ぐ軌道でぶんまわしてだまし討ち
ギロチン刃に纏わせた血液を【血糸】で操作してギロチン刃に血液の刃を上乗せして届かすです
かわいいお首をちょんぱですよ♪
範囲攻撃で狩っちゃうです
●エレクトリック・メーデー
多数の世界を渡り歩く猟兵にとっても、この世界ほど彩色に入り乱れた世界は他にないだろう。キマイラフューチャーはいつだってカラフルで、ポップなサイバーパンクに溢れた世界だった。
謎の怪人こそいるものの、人々は毎日歌って踊って笑って明るく楽しき暮らしている。惑星すべてが都市リゾートかされた、ある種の理想に近い楽園のような世界。
けれど、そんな楽園も蓋を開けてみれば、システム・フラワーズが無くれば端から瓦解していってしまうような不安定なものだったらしい。いまこの世界で起きている事件の数々はその片鱗、そして崩壊への一手なのだろう。
氾濫した極彩色の世界が汚されていく。溢れる個性の海が黒く塗り潰されていく。ザ・ペイントステージで行われているのは、そんな怪人軍団による侵略行為だ。
──それゆえに。
「街が塗り潰される前に片付けちゃおう。大丈夫、きっとなんとかなる」
可愛いのに厄介、そんなシュールさにくすりと笑みを零して。のんびりとした所作で辺りを見渡しながら呟いた連・希夜(いつかみたゆめ・f10190)は紫の瞳を伏せ、おもむろに眼鏡を掛ける。
一見して普通の眼鏡のように見えたそれは、彼の世界を広げてくれる電脳ゴーグルだった。いかなる世界でも、どんな場所であっても。望むままに電脳世界を展開できるその電脳ゴーグルを媒介として、希夜は電子の海へと飛び込む。
「......うん、あっちかな」
電脳空間にダイヴした希夜がまずはじめに視たのは、街中に設置された各種カメラの映像だ。0と1の隙間を縫うように街の状況を調べていけば、きっと怪人の現在位置も見つけられるだろう。人が逃げ出している場所があればきっとそこは黒く塗り潰されかけているはずだと、あらかじめ目安を付けていた彼はそして見つけ出した現場への最短ルートを割り出し、一目散に駆けていく。
時を同じくして。
小高い坂で風向きを読んでいたロク・ザイオン(疾走する閃光・f01377)は、静かにその青い瞳を開いた。
「......やっぱり、匂うね」
塗り潰すなら、きっとたくさんの塗料の匂いがするだろうと。そう睨んだロクは、想定していた通り風に乗って流れてきた塗料の匂いを追って走り出す。
その背を追いかけたのは、真幌・縫(ぬいぐるみシンドローム・f10334)だった。
野生の勘に従うように街を駆け抜けた縫は、小高い坂に届いた塗料の匂いに小さく鼻を鳴らすと休む間もなくロクの後に続いていく。
「行こう、サジ太!」
自分と同じように翼の生えた灰色猫のぬいぐるみ、大切なお友だちである『サジ太』を強く抱きしめて。
「ユキさん、お願いするのよっ」
空を飛んで探したりは、まだ出来なかった。けれど、それ以外にも探す方法はあると。分裂したバディペットの『シラユキウミウシ』に呼びかけたスノウ・パタタ(Marin Snow・f07096)は空の蒼を映したような瞳をキラキラと輝かせて、その動向を見守る。
水分の多い体と相性のいい水の精霊魔法で少しの力添えをすれば、ウミウシたちは続々と増殖して、広範囲への探索を開始していた。
そうして、程なくして。
塗り潰されかけている場所を絞り込めたのだろう。増殖したウミウシたちの集中豪雨が降り注ぐその場を目指して、スノウは駆けていく。
そしてそれは、屋上に立っていた朧・紅(朧と紅・f01176)も同様に。
風に揺れる艶やかな紅い髪を気にすることもなく、建物の屋上から街並みを見下ろしていた紅は、ある一方を見つめて弓形に瞳を細めて笑んだ。
血糸をゴム状に強化して伸ばしたなら、また引き寄せて。屋上からまた屋上へと飛び回る紅は歌うように口ずさみながらその血を弄ぶ。
あめ、あめ、降れや、もっと降れ──
「みぃつけた、なのです♪」
悪い子なら、殺ってしまえと。
少女の微笑みと共に、槍のように鋭く研がれた雨垂れの血液が降り注ぐ。
その、一方で。
よく晴れた夏空を映したような上空にて。
夢より這い出し混沌、名伏し難き黒の翼竜ジャバウォックへ騎乗していたアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は、陽に透けた黎明が煌めき風に踊るのを手のひらで抑えながら、地上を見下ろしていた。
「黒も嫌いではないが......黒一色では何とも味気ない」
五月蝿い極彩こそ、賑やかなこの夜には相応しかろうよ。
ぽつりと呟いて、小さく溜息を吐く。そんな五月蝿い極彩の世界だからこそ、塗り潰す『闇のような黒色』は上から見ればよく目立つだろう。
憂うような彼の声に続いたのは、風の鎧を身に纏うことで音もなく飛翔したジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)だ。
「平和な世界だと聞いていたが、解らぬものだ」
「──おや。ジジ、お前もおったのか?」
肩越しに振り返った師父の言葉には、眉間の皺を寄せるも沈黙を返し。
緩く頭を振ってから研ぎ澄まされた視力で街並みの中に不自然な黒色を発見したアルバは、眉を潜めながらその目を凝らした。
それは喧騒から隠れるように、それでいて開けている1坪の路地裏だった。
まるでその場所だけテクスチャが剥がれているような、もしくはマップ外に入り込んでしまったかのような。そこだけ黒く切り取れた、バグにさえ見える空間がある。
「......あそこか」
見つけた、と互いに視線を交わし。そうして地上へと急降下していく2人だったが、その背にかかる声があった。
それは宙を滑空する2人よりも高く、陽に近い上空から。
「おーい! 危ないから退いてくれー!」
逆光を受けながら、影が揺らめく。そこにいたのは1人のドラゴニアンだ。
鋭く尖った骨接ぎのような翼をはためかせ、その男──イリーツァ・ウーツェ(盾の竜・f14324)は声高に叫ぶ。
そうして。
時間にするなら、瞬く間のことだろう。大きく開かれたイリーツァの口の前に集められた大量の魔力の塊が、圧縮され、濃縮され、最大限の威力をもって放たれる。
それは、音速よりもさらに早く。最も疾く届くであろう光熱属性の集束レーザーが、光の速さで地上へと降り注ぐ。その音が伝わるのは熱された魔力の塊が地に落ちてから程なくのこと。響き渡る轟音に、宙を滑空しながらイリーツァは眉を顰める。
「......やりすぎたか?」
戦争における副次的な被害として、許してもらえるだろうか。
頬を掻いたイリーツァに、光線を回避することに成功していたアルバが思わずと笑った。周囲の破壊さえ厭わない程の高威力、その心意気や良しと。
「私たちも続くぞ、ジジ!」
「......承知!」
翼竜を駆り、竜追に翔け。色を失っていく街並みの中へと急速に降りていく。
──世界の命運を賭けた戦いは、そうして始まった。
●モノクローム・アウトサイダー
「ク、クマさーん!?」
猟兵たちが駆けつけた現場となる、その路地裏には悲鳴が響いていた。
悲鳴の元は先程まで辺り一辺を黒色に塗り潰していたとされる怪人軍団、つよくてかわいいアニマルズの内の1人である鉄球を持ったワンちゃん怪人である。名前の通り犬のような形をした彼は、その腕の中に仲間なのだろうクマさん怪人を抱きとめ叫んでいた。
「クマさん......! あんたが死ぬにはまだ早すぎるワン!」
「いいや、俺はもうダメだクマ......。あとは、お前たちだけで......ッ」
──ガクリ、と。糸が切れたように崩れ落ちたクマさん怪人に、ワンちゃん怪人はもう一度叫ぶ。クマさーん!
そしてそこへ駆け付けた猟兵たちに、振り向いたウサちゃん怪人が声を上げた。つよくてかわいいアニマルズの紅一点らしい彼女は、怒ったような身振りでその感情を表現している。その仕草が普通以上に大振りなのは、着ぐるみで顔が見えないための誇張表現の一種なのだろう。
「ちょっとー! いきなり酷いウサ! クマちゃんかわいそうウサ!」
いや、そう言われましても。
なんて思いつつも猟兵たちは顔を見合わせ、小さく頷き合う。血の雨やレーザーやらで半壊している現場ではあったが、彼らの足元にある黒色のペンキこそ何よりの証拠である。つまりは現行犯だ。
到着していた猟兵たちの内、紅は1歩前に出るとビシリと細い指先で指して口を開いた。
「キャラ付けが適当すぎると思うのですよ!」
犬がワンと鳴くのはまだ分かる。けれど熊はクマとは鳴かないし、兎だってウサウサと言うことはないだろう。
言うべきは他にもある。けれどその真っ当な指摘に少しの沈黙が落ち、やがて顔を見合わせていたほかの猟兵たちも強く頷き出す。
「というか、思ってたより可愛くないんだねぇ」
「おれは......意外に愛らしい、と思う......」
「うーん......ぬいの趣味とは、あんまり合わないかな?」
「随分と小さいのは気の所為か」
「ああ、知っているぞ。斯様な着ぐるみを『キモ可愛い』と呼ぶのだろう?」
喧々囂々。口々に発せられる評価はまるで千差万別。
そんな言葉の弾丸を浴びせられるうちに、アニマルズの肩がぴるぴると震えはじめることにスノウは気付いた。そして、あっと小さく声を漏らしたとき。
「ええーい! うるさいうるさーいクマ! こうなったらお前たちごと真っ黒にしてやるクマ!」
先程ワンちゃん怪人の腕の中で力尽きたと思われていたクマさん怪人が飛び起きるようにペンキを手にして、猟兵たちに宣戦布告をする。その体は確かに既にぼろぼだったが、力尽きてみせたのは猟兵たちを油断させるためのパフォーマンスだったのだろう。
どうにも、このつよくてかわいいアニマルズ。隠れてこそこそと見付かりづらい場所で黒色を塗り広げていたり、死んだふりをしてみたり。然るに、あまり強くないのかもしれない。
胡乱な眼差しを向けながらも、しかし宣戦布告をされたからにはこちらもそれ相応の対応をする必要がある。猟兵たちは気を取り直すように各々の武器を手に取り──そして、怪人軍団と猟兵の戦いは佳境へと入るのだった。
まだしっかり戦ってもいないのに佳境に入るのは早すぎるのではないだろうか。
世界の命運を賭けた戦いとは何だったのだろうか。
思うことは色々ある。キマイラフューチャーでの戦いはどういう訳か、いまいち気が引き締まらないらしい。
「......って、のんびり考えている場合じゃないか」
沈みかけた思考を引き上げて、前を見据えた希夜はカラースプレーのようなガジェットを召喚し、ワンちゃん怪人が塗り潰した黒色へ向けて思いっきり噴きかけていく。塗り潰されてしまったなら、また塗り返してしまえばいい。
仄かな笑みを湛えた希夜は、ワンちゃん怪人さえ虹色に染めるように大胆に噴射口を動かしながら楽しげに紡ぐ。
「楽しくて眩しい極彩色、黒で塗り潰したらダメだよ」
どこまでも賑やかさに溢れたその色こそが、この世界だから。黒色だけではちょっと寂しい。
広がってゆく虹色に沿うように無数の青い蝶を送り出したアルバもまた、きらきらと冱てる鱗粉の向こう側で軽々と鉄球を避けて、唇を釣り上げた。
「目潰し、ってね。さぁ、狙うなら今だよ」
「感謝します......!」
──其は『厄災』。
蝶の鱗粉に気を取られたワンちゃん怪人の目を潰すように、希夜の虹色が噴かれれば。視界を奪われたワンちゃん怪人に、アルバが駆るジャバウォックの鋭い爪先が襲いかかり。戦況は瞬く間に進んでいく。そうして。
ワンちゃーん! と叫ぶウサちゃん怪人の悲鳴を背に、ワンちゃん怪人はあえなく地面に伏すのだった。
「くっ、まさかワンちゃんが真っ先にやられてしまうなんて! さては貴方たち、私たちより強いウサ!?」
「そうだよっ! それに、ぬいのぬいぐるにさん達の方が可愛いんだよ!」
ようやっと気付いたような仕草で動揺を見せるウサちゃん怪人に、縫の無邪気な追い打ちがかかる。ウッと胸を抑えたウサちゃん怪人の前に立つのは、ぬいが召喚した小型の戦闘用ぬいぐるみたちだ。
ぬいぐるみさん行進曲と呼んだその名にふさわしく、行進するように雄々しく進むぬいぐるみたちは塗り潰された黒色を上書きしてみたり、あえて翻弄するようにちょこまかしみたり。各々に異なる動きを見せながらも、縫と一緒に戦ってくれている。
もちろん、ぬいぐるみだけではない。縫と共に戦っているのは、ここにいる猟兵たち全員に言えることだ。縫のぬいぐるみたちが挑発するように意識を逸らせている間にも、スノウが振り撒く毒性の精霊魔法で麻痺や痺れを誘発し、ウサちゃん怪人の動きをじわじわと鈍らせていく。
そうして、ウサちゃん怪人が自らの身体の重さに気づいた頃には、もう遅い。
「星が割れるなんて、大変なのよっ! コンコンなかったら、キマイラさんたち困っちゃうの。皆が生きるのに必要なものを悪いことに使うのは、めーなのよー!」
「そうだそうだー! やっちゃえー!」
わいわいと囃すような声を受けて。ロクもまた『烙印刀』を振り抜く。動きを鈍らされたウサちゃん怪人のおもちゃのハンマーなんて恐るるに足らない。刀身に滴る血は炎を喚び、断罪の印はその咎を焼き潰すだろう。切っ先から炎が広がれば、黒く染められた壁さえ呑み込むように地を舐める。
どんなに愛らしく見えても。油断を誘うような形をしていても。怪人とは、オブリビオンとは世界の病である。それなら、ロクは森番としてその病を焼かねばならない。病と病葉を焼いて、森を──世界を守る。それが森番の使命だ。
「......同じ黒でも。炭と灰なら、また芽吹くから」
それゆえに。塗りたくられた黒色を跡形もなく燃やし尽くしたロクは、炎の中で倒れ伏せたウサちゃん怪人を見下ろす。相容れない彼らが正しく骸の海へと還り、すべての過去を昇華して、いつか新しい命として芽吹くことを信じて。
ワンちゃん怪人も、ウサちゃん怪人も。既に力尽きて倒れ伏している。最後までこの戦場に立っているのは、奇しくもはじめに死んだふりをしてみせたクマさん怪人だった。
彼らの連携よりも、猟兵たちの連携の方が上回っていたのだろう。早くに分断されてしまったクマさん怪人は、倒れていく仲間を見て悔しげに唸る。
「おのれ、おのれ猟兵め! ......こうなれば、あとは少しでもこの世界を黒く染めるのみクマ!」
既にクマさん怪人の体力も限界が近い。先制攻撃を受けて元々ボロボロだちゃのだから、それも仕方のないことだろう。自らの限界を悟ったクマさん怪人は、その命が尽きることよりも己の使命を優先させる。黒く、黒く。爪弾きのこの世界をすべて黒く塗り潰すのだと。
──けれど。
「いいや、もう終わりだ」
再び放たれたイリーツァのレーザーがクマさん怪人の行く手を阻むように、その地を削る。そして。
「玩具は玩具らしく、早々に玩具箱にでも戻るがいい」
「悪い子は、かわいいお首をちょんぱですよ♪」
ジャハルの研ぎ澄まされた黒剣が。紅の血液を纏ったギロチン刃が。
路地裏の暗がりに鈍く輝く剣閃を交差するように残して──ゴロリと。声を上げる間もなければ、痛みもなく。怪人と成り果てた玩具はその生涯を今度こそ閉じて、海へと還るのだった。
●ウィニング・ハイライト
黒く染められていた敷地は壊され、極彩色に上塗りされて。元の形を取り戻したわけではないが、少なくともその色を取り戻すことは出来た。もう、この路地裏に『闇のような黒色』はない。
「とはいえ、まだまだ他のところに黒色は残ってるみたいだね......」
「次はどこに行こっかなー?」
まだどこかに残っているだろう黒色や、他のステージのこともある。バトルオブフラワーズの戦いを制してキマイラフューチャーを完全に救えるのは、今よりもう少し先のお話。
ただ、今だけは。
小さくても確かなその勝利を讃えるように拳を交わした猟兵たちはそうして、次なる戦場へとそれぞれに駆けていく。
大成功
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