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防衛戦上の抵抗

#アックス&ウィザーズ

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#アックス&ウィザーズ


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 雲一つない夜空の下、山と森を切り開いた大地の上、家々がある。家々の殆どはおおよそ道路に沿って密集し、一部は少し離れて存在していた。
 村だ。森を開拓して進むその村は、しかしその姿が異質であった。
 村の周囲を装甲を組んだバリケードが巡り、進行を防ぐための杭が打ち込まれ、抵抗の意思を全身で表現していた。
 しかし、それらの防衛力は今やことごとくが破壊されていた。
 村を見て、最初に目に入るのは倒壊した家屋だ。それらは炎と煙を立ち上らせ、広場に目を向ければ、店の中が血と泥で荒らされ、もはや正常な村の姿を思い起こすことが難しいほどだ。
 月夜に照らされた大地の上には無数の足跡と、人間とゴブリンの死体が残っている。道常に残る足跡から、村を襲ったゴブリンは街へ続く主道へ向かって行っているのが見てとれた。
 炎と煙、血と骨、そして静寂。残されたのはそれだけであった。
 月光を遮り、村に影が落ちた。


 猟兵たちの拠点、グリモアベースに一つの声が聞こえる。
「皆さん、事件ですわっ」
 ベースに響くのは、グリモア猟兵であるフォルティナ・シエロによるものだ。
「現場である世界は、アックス&ウィザーズ。そこで、ある村がゴブリンに蹂躙される未来を予知しましたわ」
 言葉を送るフォルティナの表情は硬質だ。
「猟兵の皆さんへの今回の依頼は、村に生じる惨劇を防いでもらいたいのですの」
 彼女は集まった猟兵たちを見わたしながら言葉を送る。
「現場の現状を説明しますわ」
 近くにあった紙を広げ、猟兵たちに向き直る。
「村は山森に囲まれ、それらを切り開く開拓村ですの」
 紙に描かれた簡単な地図を提示しながら言葉を続ける。
「村の片側は、街へ続く道があり、もう片側は、森や山へと伸びていく小道があるばかりですわ」
 図示された絵の中央、丸のなかを指さす。
「村の外はすぐ山や森となるわけではなく、ある程度切り開かれた大地が広がり、そこには農地や畑、猟師小屋がありますわ」
「村内部には教会や広場、領主からの派遣兵たちの駐在所、雑貨屋などの施設に民家が複数……。まぁ、いたって普通の村ですわ」
 フォルティナは予知の内容をメモした手帳を見ながら、言葉を続ける。
「用心深かったのか、すでに幾度かの襲撃があったのかは分かりませんが、どうやら村ではすでに防衛の準備が済んででいたようですの」
「そこで村人たちは村を装甲化し、ゴブリンを凌ごうとしたのですけれど……」
 そこで言葉を止め、首を左右に振る。
「どうやらゴブリンの数が想像以上だったようですわ」
 フォルティナは眉を立て猟兵を見回す。
「オブリビオンから村を守るには、村のさらなる装甲化が不可欠ですわ。猟兵たちだけではとてもじゃなく防ぎきれませんの」
 そこで、とフォルティナは言葉を続け指を一本立てる。
「皆さんにはまず村の装甲化の協力をしてもらいますわ」
 猟兵たちの顔を見回しながら、装甲化を進める方法はいくつかありますの、とフォルティナは指を立てる。
 一つ。
「時間は有限ですわ。装甲化に必要な材料の運搬や工事を担えば、分かりやすく協力となるでしょうね」
 二つ。
「もしくは、村の周囲を回り付近の状態を把握したり、罠を仕掛けたりするのもいいと思いますの」
 三つ。
「あとは……、砦となる村での戦い方や避難経路等々、実際の戦闘時にどう村で戦うかを考えるのも有用ですわね」
 指を立てた手は降ろさず、全て開き、光を生み出す。
 オレンジ色の光はグリモアだ。
「事件の現場近くまではグリモア猟兵である私の能力で、テレポートし、皆さんを召喚しますわ」
「恐らく、アックス&ウィザーズでは猟兵である皆さんは特に警戒されないでしょう。むしろ、村へ近づく冒険者と思われ、向こうから装甲化の協力を要請されるかもしれないですわね」
 猟兵たち一人ひとりの顔を確認しながら、フォルティナは言葉を続ける。
「時間的に村の装甲化が完了するかはギリギリだと思いますの。それ以降は何があってもおかしくありませんわ。情報収集が済んでも用心してくださいまし」
 全員の顔を見渡すと、フォルティナは眉を立て、口角を上げた。
「皆さんならできますの! 私はそう信じていますわ!」


シミレ
 シミレと申します。今作から初めてマスターをします。
 不慣れなところもあると思いますがよろしくお願いいたします。

 今回はアックス&ウィザーズにある村を防衛化し依頼です。
 皆さんの活発な相談やプレイングを待ってます!
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第1章 冒険 『砦の建設』

POW   :    砦の建設に必要な力仕事を行う

SPD   :    周辺の探索を行う、仕掛け罠を用意する

WIZ   :    砦を利用した戦い方を提案する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シオン・ハートブレイク
SPD。

相手に相応に知能があることを踏まえていきましょう。

相手の歩幅を考えて落とし穴。木の槍くらいは仕込んでおきましょう。
あとは糸をひっかけたら発動するスパイクボウルや吊り岩……
って言っても相手の数を減らすタイプの罠は労力の許す範囲だけ。

力を入れるべきは――鳴子かしら。
三重くらいにして、どこからくるかを把握できるようにしましょう。

あとは村の中。鳴子が鳴った時どのルートを辿って向かえば最速なのか。
そして、多分何より大事なのは、私だけの情報にしないこと、ね。
しっかり共有しましょ。

自分の力で相手を斃しきるなんてのは、大英雄クラスの子に任せるわ。
私は小狡く仕留めさせてもらうわよ?




 
 目的に向けての活気が満ち溢れる場、防衛に向けて作業中の村から森側に少し離れた場でシオンは思う。
 敵のことだ。
 ある程度の知能があると見た方がいいわね……。
 グリモア猟兵から聞かされた予知の内容を頭の中で思い返す。そこらの野獣であればここまで村を装甲化する必要性は薄い。しかし、この村がそれを選択したということは、それが有効であり必要な存在と認識しているということだ。
 シオンは足元を見下ろす。自分が立っているのは道上だ。
 …………。
 グリモア猟兵から聞いた予知を再度思い返し、目を細める。
「――まぁ、私はシーフらしく小狡く罠でも仕掛けましょう」
 そういって取り出すのはスコップだ。村から借りた道具を、地面に向かって突き刺していく。
 その作業をしばらく繰り返し、出来あがるのはある程度の広さの地面の陥没だ。
 落とし穴だ。シオンは手に着いた土を叩いて落とすと、出来上がりを確かめるように少しのぞきこみ、近くに置いてあった木槍を幾本か手に持つ。
「上出来ね。それっ」
 呟き、穴に飛びこむ。
 着地と共に手に持っていた木槍を、落とし穴の底に上向きに差し込んでいく。
 刺し込んだ木槍の具合を触れて確かめた後は、自分を囲む壁の一つに手をかけると一気に上る。
 「ふぅ……」
 一息。
 眼下の落とし穴を含め、自分の周囲を見る。
 面倒くさがりの私にしては頑張ったわね……。
 自画自賛の思いを確かにするのは、自身を包む疲労もだが、周囲に配置した罠だ。
 落とし穴だけじゃないわよ……。
 視線の奥、森の内部では、ワイヤートラップであるスパイクボウルや吊り岩もすでに設置してある。
「まぁ、数はそんなにないんだけどね……」
 労力の問題もある。敵の数を減らす罠はほどほどにし、本命とするのは、
「こっちね」
 土を払った手の中で小さく鳴るのは、鳴子だ。
「これがあれば、周囲のどこから敵が来るか分かるわ」
 もう片方の手では糸を持ち、森や村の付近を回っていく。鳴子も糸も大量だ。それらを不足無く、潤沢に設置していく。
 そうして村を包むように生まれた鳴子によるセンサーは三重だ。
「一つだけでは、どこから来るか不確かだものね」
 そう言って最後の鳴子を設置し終わったシオンは、屈んだり立ったりの作業の繰り返しで強張った身体を伸びをしてほぐす。
 あとは……。
 伸びをしながら村の方に目を向け、歩きだしていく。
 鳴子の位置は自分が設置したので頭に入っている。
「村の地図も頭に入れなきゃね」
 都市と違い、土地の広い開拓村ではある種無秩序発展していく。そういった場で周囲の鳴子が作動した場合、どういったルートが最速に脅威に対応できるのか、それを頭に入れておく必要がある。
 そうして路地や通りに目を向けながら進んでいくシオンは、付近の村人や猟兵にも声をかけることを忘れない。
 情報の共有化はしっかりしないとね……。
 落とし穴やスパイクボウルといった危険な罠については事前に告知していたが、鳴子や村内のルートについても漏らさず伝えていく。
 現状、大英雄がいる戦場ではないのだ。情報の共有化を不断無く進め、一体となったコミニュティの中、自分も活気の流れの中に身を進めていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ニレ・スコラスチカ
【POW】

ごめんなさい、ごぶりん…ってなに?

なるほど。予知にあった以上、滅ぼすべき異端であることに変わりはないのでしょう。わたしも尽力致します。
わたしは洗礼により祝福を賜った【怪力】。砦の建設や罠の設置のような器用なことはできませんが、材料集めならいくらでも。木を切り、岩を運び、村人の仕事を積極的に肩代わりします。

む、このなりで力仕事ばかりしていたら怪しまれるかも。……村の平安を願って祈りを捧げましょう。わたしは旅のシスターです。





 村から借りた斧を振りかぶりながら、ニレは思う。
 ごぶりん、ってなんだろう……。
 自分は今、村の防衛強化のための材料集めの一環として森に入り、木を切っている。
 この世界にテレポートする前にグリモア猟兵から予知の内容を聞いたが、曰く、ごぶりんとやらが村を襲うらしい。
 そのため、自分の怪力が役立つ現場を選択したつもりで、実際にそうしているのだが、
 なんだろう……。
 目の前の木に斧を叩きつけながら、自分の知識の範囲外である存在を思う。
 村人たちの会話を聞く限りは、最近になってごぶりんの姿が富みに目につくようになってきており、村全体が不安がっているようだ。
 ならば、答えは一つ……!
 周囲に人がいないことを確認し、斧を再度叩きつける。
 すると、今まで直立していた木が破砕の音を響かせながら傅いていく。
「――ッ」
 地面を響かせる振動を足裏で感じた時には、ニレは急いでその場から離れいていた。
 ……危なかった。
 振り返り、自分が先ほどいた場所を見ると、自分が断ち切ったものとは別の木に成っていた枝が、その太く長大な存在を示すかのように、そこに横断して横たわっていた。
 あのままそこに立っていたら無事ではなかっただろう。十分気をつけていたつもりだが、運が悪かったのかもしれない。
 先ほどの衝撃で飛び散った石つぶてによる擦過の傷を指で拭い、意識を新たにする。
「……ごぶりんがなにかはよく分かりませんが、滅ぼすべき異端であることに変わりはないのでしょう」
 よく分からないのは確かだが、異端というものはよく分からないのが常だと、そう思う。
 理解の外である異端、それらを滅するのが自身の使命だ。
 「――異端に滅ぼされる未来を滅しよう」
 そう言葉をこぼすと、倒れた木に斧を振り下ろして、適当な大きさに整える。
 「ふぅ……。とりあえずはこれくらいでいいのかな……。あ、馬車」
 斧を地面に下ろし、村の方を見ると、あちら側から馬車が来てるのが見えた。
 作業する前に村から斧を借りたが、そのことでこちらの心配をしに来てくれたのだろう。手を振り上げ、挨拶とする。
 「――あ」
 挨拶したところで気付いた。
 周りを見てみると、倒れた木は一本だけではなく数本あり、寸断され材木となったのはそれ以上だ。
 はっ……! い、岩も……!
 木を切るために場を整地しようと、地面からひっくり返して割った岩もいくつか地面に転がってるのを改めて確認する。
 まずい。なにがまずいかと言うと、どう考えても少女である自分一人の仕事には見えない。いや、自分がやったのだが。
 無用な混乱は望むところではないこちらとしては、どう説明しようかと気をもんでいたのだが、どうやら村人はこちらのことを魔法かなにかで身体強化してるのかと思ってくれ、想像していたよりは説明がスムーズになった。
 今は、荷物を全て馬車に運び入れ、村人の隣で馬車の御者席に腰掛けて村に向かっている時間だ。
 胸をなでおろしながら馬車に揺られるニレは、近づいていく村の姿を視界に収めると、先ほどの決意を再度確かにし、村に入って行った。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ニトロ・トリニィ
【POW】を選択 使用するユーベルコードは《念動力》

この砦を強化すれば良いんだよね?

とりあえず、僕が出来る事は、重くて持ち上げる事が出来ない物や、
高い所の作業なら担当出来るよ。
《念動力》を使えば楽に完成すると思うから任せて!

でも、戦い方を提案したり、周囲の探索、罠の設置などは他の猟兵方にお願いします!




 
 村の中、大声が聞こえる。
 ……?
 怪訝に思ったニトロが声のする方に向かうと、村を囲む防壁の近くで二人の男が見えた。
 体格のいい男がもう一方の青年に詰め寄り、青年側は平謝りの状態だ。
 親方と弟子、かな……?
 叱責の内容を聞き、二人の関係性を想像する。村の大工か石工かはたまた金工の二人だろうかと、そう考えながら、二人の会話を引き続き聞く。
 あー……。
 追加の会話を聞いて気付いた。見上げる。視線の先にあるのは防壁の上部だ。
 結構高いな……。
 村人たちの防衛への意識を表しているのだろうか、とそんなことを思考の片隅で考えながら、叱責の原因を見つけた。弟子側の方が防壁の上に、装甲化の材料や道具を置き忘れたようだ。
 防壁の下側にはそれらを用意できていないのは、弟子の不手際もそうだが、
 村全体が不足の場なんだろうね……。
 周りが資源に囲まれていたとしても村自体が不足なのが開拓村の特徴だ。
 周りからあらゆるを得ていき、それを後方の街や別の村に分け与えていき、そうして自身も活気と充実の場となる。
 今はその過程なのだ。
 思いがけず全体的な感覚を得て、頷く。
「あの……」
 声をかけたのは、その過程を守ろうと思ったからだ。
 振り向く二人に会釈をして防壁の上に視線を向けると、二人も視線を追随させた。
 そして思いを叶えるために、念じる。
 すると、視線の先で異変が起きた。
 驚きの声を背景に、置き忘れられていた材料と道具がその身を宙に浮き上がらせる。
 外部からの力で固定されたそれらは、数メートル上空から次第に身を滑らせていき、二人のそばへ静かに着地する。
 手で頭を守るようにして身をすくめていた二人は、目を幾度か開閉させ、しばらく身をそのままにしていたが、数瞬の後に事態を把握すると、歓喜の声を上げる。共に聞こえる空気を打つ音は拍手だ。
 なんだか照れくさいな……。
 片手を親方と弟子に向け、もう片方の手は頭の後ろだ。
 いや、いや、と称賛の言葉に合わせて言うのを何度か繰り返し、その後は三人で協力だ。
 親方が防衛工事に使う材料や地点の指示を出し、自分が指定された材料の運搬をしたり混ぜ合わせを行い、弟子がそれら全てを防衛力に変換していく。
 防壁の土台となる部分を弟子と一緒に整地し、弟子の打ち込みに合わせて念動力で支えたり、逆に、弟子や親方が支える部分に念動力で打ち込んだりもした。
 なんかいいなあ……。
 マイペースな自分だが、二人と過程の場を共にする。その感覚が存外いい。
 “僕合わせ”だからだね……。
 飛び入り参加の自分だが、いまこの場では別世界でいう重機のような存在だ。指示は親方だが、その指示も自分を中心に回してくれて、弟子もよくこちらのことをフォローしてくれている。
 自分のペースが十分に発揮できるのは心地よいが、
「なんか申し訳ないね……」
 口から漏れた思いにはっとしていると、共に防壁に跨って作業をしている弟子が言葉を聞いていたのか、笑顔で親指を立ててくれた。すると、その拍子でバランスを崩して落ちかけたので慌てて掬って、救う。眼下の地面では親方が掌を空に向けたヘッドスライディング姿勢だ。
 また拍手と称賛が来たのでいや、いや、と拍手に合わせて言う。
 そしてそのあとはまた協力だ。
 協力を続行していく。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユウ・タイタニア
【POW】
騎士(注:自称)として罪のない民草を襲う悪漢など見過ごせるはずがないッす。
「騎士道大原則ひと~つ。騎士たるもの悪逆非道なゴブリンを生かして返してはならない!!」
あっしも手伝うッす。これでも力持ちッすから砦建設を手伝うッす。フェアリーだからと言って舐めるなよッす。
ドラゴンランスのネメシスと協力して材料の運搬や設置を手伝うッす。
逆茂木や木柵は防衛戦には必須っす。




 
 雲一つない昼空の下、装甲化が進む村では、どよめきの声が生まれていた。
 声は内から外、森側に向けられたものだ。村人たちの視線の先、もはや防壁の付近となった地点の空中に、点と三角形のようなシルエットがある。
 「行くッすよ~!」
 村の方へ近づいてくるシルエットから声が聞こえるころには、接近によってシルエットの詳細が分かってくる。
 点はフェアリーで、三角形は竜だ。両者は共に裁断された材木を所有している。
 フェアリーはその手で材木を抱え、竜は爪を立てた足で確実のホールドだ。
 フェアリーから発せられた声を聞いた村人たちの間から、再度どよめきが生まれる。声が含むのは疑念と驚きの念だ。
 原因は一人と一頭の体躯だ。
 フェアリーはもちろん、竜も小柄だ。23センチメートルと30センチメートルほどのコンビは、しかしその身に似合わぬ質と量を支え、運搬していく。
 危うい気配も無く、コンビはそれを確実に実行する。
 そうして、村人たちから幾度目かの声が生まれた。声は感嘆と称賛の念を含んでいた。
 一人と一頭がその仕事を全うしたのだ。
 
           ●
 
 フェアリーだからと言って舐めるなよッす……!
 抱えた材木を地面に下ろしながら、ユウは思う。大事なのは志だと。
 自分は小柄な種族だ。しかし同族の中では力持ちで、騎士としての意識もある。
 騎士といっても、別に誰かに叙勲されたわけでも、仕えたわけでもない。
 だが思う。大事なのは志だと。
 誇り高い騎士となろうと、そう決めた。
 そんな自分の思いに呼応するように、側に着地したネメシスが姿勢を下げる。
 良い相棒ッす……。
 頷いてパートナーに跨り、身を起してもらう。
 抜剣して、言う。
 「――騎士道大原則ひと~つ!」
 聞け、とは思わない。
 この言葉は何より自分の原則だ。
 だから言葉を届かせる相手の一番は自分自身だ。
 だから、言う。
 「騎士たるもの悪逆非道なゴブリンを生かして返してはならない!!」
 陽光に剣が煌めき、ネメシスが雄々しく吼えた。
 応える村からの声は、喝采と称賛、そして決起の念だ。
 道具を掲げて吼え終わった彼らと視線を合わせ、どちらともなく歯を向いて笑うと。
「――さぁさぁ! 運んできたこれを使って、木柵や逆茂木を作るッすよー!」
 そうして作業が再開された。
 腕力に自信のある自分は、直接の作業もそうだが、空中からの視点で全体の指示にも最適だ。
 だから、材料を運び、村人たちと共に木柵を打ち込むこともあれば、
 「もう少し右ッすー! そこ! そこでオッケーッす!」
 時には逆茂木の間隔を上空から指示したりもした。
 村人たちからの称賛や笑顔を受け、装甲化の作業が進められていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルパート・ブラックスミス
【砦の建設に必要な力仕事を行う】
口下手の自分が提案など愚策、罠を作る技術もなし。村の装甲化作業を担当するしかない。だが、ただ闇雲に強化するわけではない。

曰く「村の装甲化はギリギリ」であり「予知の範囲では装甲は破られる」。
つまり最善を尽くしても突破される可能性は十分あるということ。
ならばそれを逆手にとり「装甲に突破されていい一点を意図的に作る」。
ゴブリンたちの知能は正確にはわからないが突破口ができれば雪崩れ込もうとするはず。予め待ち構えていれれば迎撃は容易になるはずだ。
村人たちにも相談し都合のいい場所を見繕おう。

で、誰がその一点で待ち構えるのかと?
無論、自分だ。我が炎で一網打尽にしてくれる。


御狐・稲見之守
ゴブリン達の乱妨取りとは剣呑じゃの。何処の世界でも村から掠奪しようという輩がおるのは同じ、か。

[wiz]物見やぐらになる建物はないかの。どんな世でも敵の発見は重要じゃ。周囲を見渡せる場所数カ所に複数人詰めて伝令を出せるようにしておくがよろし。村人には伝令役をやってもらえるとありがたいが。

また、村内に本陣を定め、各方面の情報とどうすれば良いかの指令の発信をそこに集中させよ。それらにあたるのは派遣兵が良いか、使いモノになれば良いが。防衛線に穴あれば増援を出せるようにしておくこと。斯様な賊ならば情報と統率こそ戦を制するものよ。

さてま、どうなるやら。


エドゥアルト・ルーデル
防衛戦を!一心不乱の防衛戦を!
ゴブリン共をタワーディフェンス並みの勢いで殲滅でござるよ!

■UC
誰だお前!!

■戦闘
ここは一つ砦改修や罠の設置場所の為にも周辺の地形を観察でござるかね
周辺の地形を探るために影の追跡者を…【知らない人】だこれ!…召喚でござる、怖いよぉ…
知らない人と五感を共有して砦の外観情報と侵入しやすそうな箇所、砦から知らない人がどう見えるのかを観察ですぞ
ホントに誰こいつ…

後は得られた情報を元に人員の配置、罠設置箇所、罠への誘導ルート、重点補修箇所、矢弾の射線、殺し間等などを要検討でござるね!これは全員と共有したい所でござる!

アドリブ歓迎ですぞ




 
 稲見之守は広場にいた。村人たちや猟兵たちの活躍で装甲化が着実に進む村を、中心から眺め思う。
 活気があるの……!
 しばらくすればここが戦場になることは皆理解の上だが、陰気な雰囲気があまりない。これは猟兵たちの活躍によって、作業が順調に進んでいるのが“効いてる”のだろう。
 ハレな空気に身を置くこと違和を覚えない自分に苦笑していると、付近の村人が微笑ましい視線を寄こし通り過ぎていく。
 む……。童と思われているのか……?
 猟兵の能力によって村人たちに違和を与えてはいないが、だからといって身長など物理的な部分はそのまま認識されているのかもしれない。
 そうでもないと見かけの身長と実際の身長でギャップ出るじゃろしなー、と思っていれば、家の陰から村の子供たちが、興味深げにこちら見ている。
 暇ができれば遊んでやろうか……。
 そう思えるだけの余裕がある自分にまたもや苦笑しながら、その余裕の予定を後の現実のとするため、行動するのは今だ。
 「これ。そこの」
 声をかける先は、広場の中央、設置した机の上に地図を広げ会議をしている数人の男たちだ。
 訝しげな視線を送ってくる男たちに挙手を挨拶とし、机の上にある地図を覗き込む。物理的な問題で見えなかったので、そこらの箱を持ってきて踏み台とする。
「作戦は? ――あぁ、案ずるでない。わしはこう見えて旅のか、術師じゃ」
 神と言いかけたわしったらお茶目じゃの。術師術師、わし術師。そう思いながら、男たちに視線を向けると、得心がいったように頷いていた。
 便利じゃのー、アックス&ウィザーズ……。
 異種族が多いのもそうだが、旅人が多いのもいい。これまでの旅人たち――つまり、猟兵たち――の活躍から受け入れも早いのだろう。
「……ふーむ」
 男たちから作戦を聞き、唸る。
 唸る口元を覆うのは霊符だ。特に意味は無いが、こうすると術師っぽさが増す。
「ちと、伝令が少ないの……」
 村の戦力としての配分が戦闘員に偏っているのだ。
 伝令や見張りは必要最低限で、ゴブリンたちと衝突する役割が重要と考えているのだろう。
 顔は動かさず、視線だけで男たちをちら、と見る。
派遣兵か……。
 他は村長か商工業の頭取かなにかだろうか。とりあえず作戦立案の肝となっているのはやはり、戦闘の専門職である兵士たちだ。
 彼らの考えとしては、何度か行ったゴブリン退治程度の認識なのだろう。
 いつもより数が少し多いと予想されるので、恐らく村での防衛を提案し、村長他も了承して今に至ったのだろう。
 普段であればそれで良いのだろう。
 ……でも、それではいかんのじゃな……。
 グリモア猟兵から聞いた予知のことを思い、彼らの中心、兵長に向かって言う。
「――わしは見張りと伝令を増やすことを提案する。足りない部分、矢面に立つのはわしら猟兵が担おう」
 兵長が渋い顔をするが、信ずるに値するかどうか決めかねているのだろう。
 開拓村という現場で冒険者は珍しくないが、ここまで得意な能力で協力してくれる存在は稀有なのだろう。
 じれったいの……。
 神として短期なのはどうかと思うが、珍しくはないのでセーフじゃ。なにより時間が惜しい。彼らを説得し、納得させるための判断材料を得る必要があるのだ。
 なので、立っていた箱を降りる。
 怪訝な顔を向ける男たちを視界の隅に捉えながら、箱を蹴る。
 すると、箱からヒゲが出てきた。
 
           ●
 
「――こちらルーデル。潜入に成功した。御狐様、指示をくれ……」
「箱がもぞもぞすると思ったら御主なにやっておるのじゃ。村の周囲情報寄こせ」
 新感覚な会話で御座るな……。と思いながら、エドゥアルトは箱から身体を抜き出し、服の汚れを払って地面から立つ。
「うーん……、実はこの村来てからずっと知らない人を召喚して村の外走らせて御座るよ?」
「知らない人……?」
「知らない人で御座るよ? ご存じ無い? 拙者もで御座る」
 怖いで御座るなあ、という言葉で締めた調査の結果はこうだ。
「外から見て村の防備はバッチリで御座ろうな。防壁もしっかりして、逆茂木やトラップも仕掛けられていて拙者的には一応良好かと。
 あぁ、森の中も同様で御座るな。スパイクボウルとか見つけた時はベトナムを思い出したで御座るよ」
 顎ヒゲを撫でながら言葉を続ける。
「しかし、気になった点がいくつかありましたなー。」
「ふむ……?」
 稲見之守が促しの視線を送ってくる。
「一つ、森の中、木の洞に金貨が詰まった袋があったで御座る」
 男たちの中で誰かが挙動不審になった。商工業の頭取だろうか。
 大方、脱税で御座ろうな……。
 もっと上手くやらねばいけませんぞー。と思いながら、これで自分の言葉が嘘ではないことが証明されただろう。
 軽いジャブを送ったあとは本題だ。
「一つ、ちょっと気合い入れて森奥入ったら、まぁゴブリンの足跡とかあるわあるわで。あれ結構、並大抵の数では無いと思うで御座るよ」
 ざわめく皆をあえて無視し、言葉を続ける。
 時間が惜しいのだ。会議のイニシアチブを取り、進めていく。
「一つ、やつらの進入ルートがこのままでは分かり辛いで御座るな。どこを“通らせる”か、これ重要だと思うで御座るよ」
 幾度目かの訝しげな視線を男たちから感じる。その視線の意味はおおよそ分かる。
 村に侵入させることはカケラも考えてないんで御座ろうな……。
 もし突破された際の段取りなどは決めているだろうし、わざと内部に引き入れて撃退することは知識としては持っているだろう。
 しかし、それを強く意識していないということは、それが必要のない相手という認識で御座る……。
 相手をナメてかかってる。そのことにエドゥアルトは歯を向いて目を細める。
 相手の数について述べた後でのこの指摘は、懸念させる材料として十分だろう。
 稲見之守からの半目の視線を流し、会議の紛糾を予想しながら、さらに言葉を続ける。
「一つ、防壁がしっかりしてるとさっき言ったで御座るが、一部の様子が変で御座るな。不釣り合いというか、歪みを感じるで御座るよ。森側、南西の方角で御座る」
 皆がその方向を見る中、一人、視線を向けない男がいた。
 蓄えた立派な白髭とは不釣り合いな大柄な体躯。開拓村の村長だ。
 ……?
 もしやと思い、エドゥアルトは言葉を発する。
「……川の方を見たときに工事跡があったで御座る。池跡を埋め立てたので御座るか」
 ごく小規模なものであるが、と言葉を付け加え、村長が頷く。
 指示を出し確認を急がせ、村長に詰め寄る兵長を眺めながら、エドゥワルトは、自分の手を打つ。
「ならば――」
「――そこをゴブリンたちの侵入経路にするべきであろうな」
 自分たちがいるテーブルから少し離れた場所、そこからの声に皆が振り向いた。
 そこに黒の鎧に身を包んだ騎士がいた。
 
           ●
 
「失礼、私はルパート・ブラックスミス。猟兵だ。村の装甲化に必要な金工作業を行っていたところ、貴殿らの会話が聞こえたので口を挟ませてもらった」
 担いでいた鉄板や武器を、同行していた金工の職人たちに託し、彼らの快諾に頭を下げ、テーブルの方へ向かう。
 鎧が擦りあう音を響かせながら、ルパートは思う。
 口下手の自分が提案など愚策かと思っていたが……。
 罠を作る技術が無く、口下手な自分としては、村の装甲化作業を担当するのが一番とそう考え、そうしてきた。
 しかし、ただ闇雲に強化するわけではいけないと、そんな風にも思っていた。
 ゴブリンの侵入経路だ……。
 ただ闇雲に強化しているだけでは、どこから侵入するか分からない。そのため、そのことについて村人たちと相談し、侵入箇所を特定しようかと、ある程度の意識を向けていた矢先に、今の会話だ。
 渡りに船だな……。
 自分も考えていた事案を、同じく進めているものがいることに心強さを感じる。
 自分より長身である顎ヒゲの男や、袖裾が広い衣服に身を包んだ少女に視線を向けて会釈し、会議に加わる。
 自分は記憶喪失だ。否、喪失したのは記憶だけではない。身体もだ。
 しかし唯一失わなかった騎士道精神に従い、今この場にいる。失い、しかしその失ったものを知らない自分が、何かを得られるだろうか。
 そんなことを考えながら、鎧の奥から声を発する。
「池跡、そこをゴブリンたちの侵入経路にするべきであろうな」
 繰り返した言葉に反応した者がいる。村の派遣兵たちの取り纏め、兵長だ。
 急な防衛計画の変更に対する差し止めか……。
 今回の防衛作戦の指揮者にとって、急な変更は了承しかねることだろう。
 しかし、
「最善を尽くしても突破される可能性は十分ある。設置場所に不確定要素があるならなおさらだ」
 兵長が言葉をやめ、こちら、兜のスリットの奥に視線を送ってくる。その視線を、まっすぐに受け止めてルパートは答える。
「ゴブリンたちの知能は正確にはわからないが、突破口ができれば雪崩れ込もうとするはず。
 予め待ち構えていれれば迎撃は容易になるはずだ」
 予知のことはここでは口に出さない。猟兵たちだけならまだしも、村人たちもいる場所では混乱の元だろう。
 すると、声が来た。
 左手側、長身の男からだ。
「拙者も賛成で御座るな。罠等を用いてそこに誘導して、矢弾の車線を確保した殺し間を作るべきかと」
 兵長が二人の提案に唸る。
 唸り、しばらくの沈黙の後、低い声で告げるのは人員の配置についてだ。
 一歩前進という言葉をルパートは思う。
 人員の配置について会議を進めたということは、猟兵たちの提案に一定の価値を認めたということだ。
 しかし、
「――誰がその地点で待ち構えるのか?」
 その殺し間の配置についてまで話が進めば、もはやあと一歩だ。
 ルパートは言葉と共に、鎧の各部から光を漏らす。
 光は熱を持ち、周囲の景色を紅の色と陽炎で歪める。
 炎だ。
 ルパートの身体、鎧の中に流れる炎が鎧の関節部やスリットからその姿を現す。
 兜のスリットや甲冑の肩部分の関節から炎を噴出させ、背後へ流し、鎧の奥からくぐもったような、煮立ったような声を皆に送る。
 「無論、自分だ。――我が炎で一網打尽にしてくれる。」
 呆気にとられたような顔の兵長へ、口元を霊符で隠した少女がここ、と笑いかける。
「だから言ったじゃろ? 矢面に立つのはわしら猟兵が担おう、と」
 そうして、皆が再び動き出した
 昼が過ぎ、日が沈むころには村の装甲化の準備が整った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『ゴブリン』

POW   :    ゴブリンアタック
【粗雑な武器】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    粗雑な武器
【ダッシュ】による素早い一撃を放つ。また、【盾を捨てる】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    足払い
【低い位置】から【不意打ちの蹴り】を放ち、【体勢を崩すこと】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。




闇に包まれ、しかし遮る雲が無いために十全に光を浴びる満月の夜。
その時間において、異変に真っ先に気付いたのは人間でも、猟兵でも無かった。
森。篝火が灯した開拓村を遠巻きに包むように自然がある。その内部にいる獣たちが一斉に動き出し、射出されるかのように森から駆け出し、飛び立っていったのだ。
直後。森の中から様々な音が聞こえる。
地を踏みしめる音を切っ掛けに、金属が擦れ合う音や、打ち鳴らす音、そして硝子を釘で掻き毟ったような笑い声が森の中から響くと同時に、森の中から光が灯る。
光は笑い声の主が掲げる松明の明かりだ。炎は数十、否、百を超える数だ。
松明に照らされ、緑色の体躯が蠢く。
戦いの時間が近づく。
ニトロ・トリニィ
うわぁ…思っていたよりも数が多いな…
でも、村人達の為にも、戦わないとね…
それに、強い仲間もいるし、大丈夫!

今回は、砦の前に立って戦おうかな。
敵が遠くにいる時は《念動力》を使って攻撃するよ!
敵が近くに来たら、技能〈目立たない〉を使いながら〈範囲攻撃〉
〈2回攻撃〉〈なぎ払い〉〈鎧砕き〉〈目潰し〉を駆使して、
味方と協力しながら戦うよ!
もし、誰かがピンチだったら〈かばう〉を使って守ろうかな?

こういう時って、決めゼリフを言った方がカッコイイかな?
「ゴブリン共!覚悟はいいかな?」
うわぁ…ちょっと恥ずかしい!

アドリブ歓迎です!


ユウ・タイタニア
【心境】
ついに来たッすか。返り討ちにするッす。

【戦闘】
ネメシス行くっすよ。
ドラゴンランスのネメシスに騎乗してルーンソードを武器に、ヒット&ウェイで攻撃を仕掛けるッす。
蜂のように刺し、蝶のように逃げるッす。
体の小ささを利用してゴブリンの群の合間を抜くように死角攻撃ッす。正々堂々?あーあー聞こえないっす。
勝てば王道ッす。
隙を見てドラゴンランスを使って串刺し攻撃ッす。
深々と突き刺し『ドラゴニック・エンド』を使用っす。出でよパパネメシスっす。敵を焼きつぶしてほしいっす。


ニレ・スコラスチカ
「──作戦はわかった。わたしは遊撃を」

あれがゴブリン…審問を行うまでもありません。自分の罪を自覚していない哀れな咎人。わたしがその贖罪を代行し、死をもって救うべき異端です。

あえて防衛線に穴を開け、そこに誘い込んで殲滅する作戦のようですね。わたしは【十四号洗礼聖紋】を起動して敵陣に突貫。拷問器の鋸でゴブリン達を薙ぎ倒します。当然、熾烈な攻撃に晒されるでしょうが、【激痛耐性】があります。損傷は怖くありません。それに、本当の危機が迫れば神の啓示が…いいえ、【絶望の福音】がもたらされることでしょう。

「わたしが未来を救ってみせる」



 
           ●
 
 状況の開始は音によって知らされた。
 音は村からだ。村で一番高い建物である教会の尖塔から鐘の音が鳴り響く。そして直に、鳴子の甲高い音が響き、敵の接近がもはや間近であることを村へ知らせた。
 鳴子の音に反応したゴブリン達は苛立ちの叫声をあげ、木々の間をそのまま駆け抜けることを選択するが、しかしそれは叶わなかった。
『――!!』
 森の中から、轟音とともにゴブリンの悲鳴が聞こえてきた。
 トラップだ。木々の枝に設置された、スパイクボウルや吊り岩が森の中で暴れ、跳ね、ゴブリンたちへ猛威を奮った。
『――』
 急ぎ、転げ出るように森を抜けたゴブリン達は、それを見た。
 装甲化した村、その上方。月光を浴びる位置に身を置く三つの人影をだ。
 村の防壁頂上から、猟兵が跳躍したのだ。
 戦闘が、始まる。
 
           ●
 
 三つの内、最初に動いたのはニレだ。
 あれがゴブリン……。
 眼下を見る。
 大地の上では、緑色の集団が蠢いていた。こちらに向かって武器を振り上げ、何かを吼え、唾を撒き散らしながらがなりたてている。
 すると、矢が飛来した。
 頭を左に振ることで避け、応答するようにこちらも武器である鋸状の処刑具を構える。
 審問を行うまでもありません……。
 自分の罪を自覚していない哀れな咎人。その贖罪を代行し、死をもって救うべき異端。
 そのことを認識したニレは言葉を呟く。
「――十四号洗礼聖紋"Embla"」
 紡ぐ言葉は身体の表面を覆う黒い刺青、洗礼聖紋の名だ。
 言葉に合わせ、月光で照らされたシスター服の下、聖紋が力を得る。
「――」
 そして、処刑具を両手で持ち、上段からまっすぐに下へ振った。
 ニレは未だ落下中であり、ゴブリン達とは数メートルの距離がある。届くはずもない振り下ろしの攻撃行動に、眼下のゴブリン達は訝しげな顔をするが、振り下ろしの勢いのまま一回転したニレを見て、その疑問はすぐに晴れた。
 宙返りによって頭とその位置を入れ替えつつある部位、そこに月光を鈍く反射させる存在がある。
 鉄球だ。
 足首の拘束具から鎖で連結された質量は、風を切って自身の存在を誇示する。
 落ち行く先は眼下、ゴブリンの直上だ。
 墜下。
 その言葉通りの現象が地表で起こった。脳天が割られ、舞う血飛沫の中、ゴブリン達がその中央へ武器を振り上げ殺到していく。
「――遅いです」
 そうして、次に起こる現象は暴風だ。
 落下のエネルギーをそのままに叩きつけ、衝撃に跳ねる身をしかし留めること無く、流れのままに処刑具である鋸を振う。
 返す刀の向かう先は、粗雑な剣を振り上げるゴブリンだ。
 鋸に追随するように身を低くかがめ、剣を回避すると、下段から斬り上げ、身を回す。
 回した身を同じく粗雑な槍が掠め、その肉を削ぎ落していくが、ニレは表情を変えることなく、行動を続行する。
 こちらを突いてくる槍のベクトルに逆らわず、その柄に添わせるように身体を回転させ近づく。
 持ち主を蹴り飛ばすのと同時に槍を引き奪い、そのまま穂先を直進させ、背後から接近していた一体の身体を刺し貫く。
 二体による上方からの振り下ろしの二撃が振われる頃には、槍の下をくぐり、その柄で身を守り、足元を斬りつけていく。
 ゴブリンの足元。そこでは蹴られ、踏まれもするが、ニレの表情は変わらない。
 変わらず、鋸を振う。
損傷は怖くありません……。
 損傷は避けたいと、そういう思考はある。現に、今も【絶望の福音】によって致命的な攻撃を避けている。
 血が流れ、肉が削がれ、骨が軋むと身体のパフォーマンスに影響が出る。それでは十分に異端が狩れない。
 だが、恐れの感情は持たない。
 血肉や骨の欠損を承知な現場で育てられ、訓練し、自身が持つ処刑具もそうして生まれ、それらを実行してきたのが自分だ。
 だから、恐れず行く。
 頭から流れる血を拭い、肩に刺さった折れた剣を抜き、近場の敵に突き刺す。
 損傷も損害も欠損も、避けるべき上等だ。
 その思いを確かにし、しかし、一旦後退する。
私の役目は遊撃です……。
 チームで動いているのだ。今回の作戦では、わざと防衛戦に穴を開け、そこに敵を誘導することだ。
 これが自分一人だったら異端狩り続行も吝かではないが、今も背後の村から村人や猟兵たちによる援護射撃が来てる。
 仲間の存在を感じながら、ゴブリンを蹴り飛ばし、後方、村側へ跳躍する。
 すると、視界が矢で埋まった。
「――――」
 後衛のゴブリン達による射撃だ。こちらが後方に引いた一瞬を狙った攻撃、それら大量の攻撃が飛来するが、しかし、ニレは表情を変えない。
 矢が風切り音を立て、距離を詰める。
「――動けぇ!」
 その瞬間、矢が軌道を変えた。
 
           ●
 
 ニトロは安堵の息をついた。
 ま、間に合った……。
 自分もニレや他の猟兵と同様に防壁上から飛び立ち、防壁前で戦おうと考え、接近してくるゴブリンを念動力や鉄塊剣で薙ぎ倒していたのだが、
「む、無茶しすぎだよ!」
 近くで戦うニレの損傷をものともしない戦い方には見ているこっちが生きた心地がしなかった。
 そう思っていたところに、あの大量の矢だ。
 ニトロはあれほどの矢を高速で個別に操作することは至難と考え、大量の空気を念動させ、弾き飛ばすことをとっさの判断で選択した。
 果たして、ニレの周囲は矢の草原だ。
 その草原の中央に着地したニレは、ニトロに一礼をすると、またすぐに鋸状の処刑具を振いながら、後退戦闘を再開していく。
 それを見届けると、自分も順次後退の準備をしていく。
 思っていたよりも数が多いな……。
 防壁の上から見たときもそうだが、現場にいるとより強く感じる。
 圧だ。押し寄せるほどのゴブリンの波が目の前に広がっている。
 手に武器を持ち、こちらや村へ突撃してくるそれらから、憎悪と暴虐の圧をその身に受け、ニトロは走る。
 でも、村人達の為にも、戦わないとね……!
 背後からの援護射撃が止む気配は無い。
 心強いなと、思う。
 時折、それらの射撃を念動力で後押し加速したり、操作して攻撃をするのは、その心強さを実感したいという思いだろうか。
 走る方角は南。事前の打ち合わせで決めた、敵を誘導する地点だ。
「だけど、そう簡単にいかないか……!」
 撤退しようとするこちらを妨害するための力が来る。
 投げ斧だ。それも三つ。
 腕をかざし、飛来する三つの攻撃力を静止させる。
 静止させながら、ニトロは気付いた。
 狙いが甘いな……。
 かざした手を見て、気付く。
 ブラックタールの身体が有利に働いてるのか……!
 黒い自分の肢体は夜の闇に溶け込む。そのため、距離感がつかみづらいのだろう。
 好機を直感し、異能の力を叩きつける。
 しかし、その力の行く先はゴブリンではない。
「せー……のっ!」
 地面だ。巻き上げるように土を吹き飛ばし、ゴブリンの顔へ浴びせる。
 制限された視界にうろたえる敵から一歩離れ、再度、叩きつける力の行き先はゴブリンだ。
「さっきの応用だよ。――吹き飛べっ!」
 投げ斧を核に圧縮した空気を、密集したゴブリン達の元へ正面からぶち当てる。
 大質量の衝突によって、先頭のゴブリンは後方へ吹き飛ばされ、背後の仲間をなぎ倒していく。
 その終着点で、まるで管楽器を撒き散らしたような音が響き渡る。音はゴブリンが持つ武器や盾が破砕された結果だ。
 その奏楽の中央では、弾けた空気によって全てを外側へ吹き飛ばす空気の流れが生じ、周囲のゴブリンは立っていることもままならず倒れ、吹き飛ばされる。
 鉄塊剣を地面に突き刺してその突風を耐えたニトロは、吹き飛んでくるゴブリンを引き抜いた鉄塊剣で打撃し、打ち返す。
 異変に気付いた周囲のゴブリンがこちらへ注目する。
 よし……!
 先ほどの攻撃によって生まれた距離と注目に、満足気に頷く。
 打ち合わせの場所まで誘導するには、こちらへの注目が必要だ。
 それをさらに確かにするために、言葉を続ける。
「こっちだ、ゴブリン共! ――覚悟はいいかな?」
 うわぁ……! ちょっと恥ずかしい……!
 なれない決めゼリフで相手を挑発し、それによってこちらへ駆けてくるゴブリンの姿を確認すると、先ほどまでと同じく南への移動を再開する。
 背後に放つ攻撃は、残った投げ斧二本を使った照れ隠しの打撃だ。
 
           ●
 
 ユウは依然、空中にいた。
 ニレとニトロが地上で敵を引き付け、自分は上方、空中で敵の意識を引き付けている。
 こちらへ飛んでくる攻撃は矢や投石が主だ。ネメシスに騎乗し、それらを打ち払い、回避する。
 敵の武器はフェアリーであるこちらにとって巨大だが、重量に力負けはしない。
「フェアリー舐めんなッすよ――!!」
 腕力に自信のある自分だ。飛来してくる矢を横合いから叩き斬り、投石に剣を突き割り、自分の身体ほどもある武器にも臆しない。
 しかし、
 なかなか降りられないッすね……!
 こちらへ投げかけられる弾幕に厚みがあるのだ。
 自分としては、ネメシスと共に突撃、後に離脱とヒット&アウェイ戦法を想定していたのだが、それが中々できない。
 自分がこうしているだけでも、敵の射撃攻撃の何割かは無効化させているが、
「このままじゃジリ貧ッす……!」
 直に限界が来る。それまでに退避をするべきかと、そう意識を巡らせていたところ、
 ……?
 弾幕が弱まった。飛来してくる矢弾の数が減ってきたのだ。
 怪訝に思い、眼下の大地に目を向ける。
「――敵の移動が開始したッすか!」
 ゴブリンの集団が村の南西へ移動していくのだ。
 移動していく集団、その先頭にいるのはニレとニトロだ。事前の打ち合わせ通り、ゴブリン達を誘導していく。
「ならば!」
 自分のやるべきことは一つだ。
「ネメシス、行くッすよ!」
 咆哮を空に響かせ、竜が背に乗せた妖精と共に突撃した。
 開拓村西側上空、降り注ぐ月夜が疾駆する銀白の姿を照らす。
 ネメシスは加速を得るために力強く羽ばたき、ユウは身を縮めそれを助ける。
 大気の壁を突き破りながら進むと、風の轟音が身を包むがそれには構わず、行く。
 目標は前方、移動していくゴブリン達だ。
 こちらに気付き、矢を射かけてくるが先ほどに比べれば少ない。
「――楽勝ッす!」
 飛来する矢を旋回と軸転の動きで回避し、交差する瞬間、力を送った。
 速度が乗った一撃を見舞い、その勢いのまま、二体目をすれ違いざまに斬りつけ、周囲が自分に警戒したところで、
「退避――!」
 方向転換だ。しかし、向かう先はゴブリンがいない場所でなく、むしろ敵中に突っ込んでいく。
 ネメシスをドラゴンランス形態に戻し、ゴブリン達の間を縫うように飛び回っていく。
「こっちこっちー! こっちッスよー!」
 時にゴブリンの胸前の位置に。時にゴブリン顔横の位置に。様々な場所にユウが姿を現す。
 互いの距離が近く密集した状態のため、翻弄されたゴブリン達は右往左往し、場合によっては同志討ちをし始める始末だ。
 そして、隙を見て死角からルーンソードで斬りつける。斬りつけながら、思う。
 これ騎士的にセーフッすかね……。
 うろたえる相手を死角から強襲し、斬りつけるのはどちらかというと騎士道より邪道とかそんな気もする。
 まぁそれはそれッす……!
 大事なのは志だ。
 正々堂々、悪を討つのではなく、悪を討つことを、正々堂々とする。そのことを念頭に攻撃を継続していく。
 飛んで、跳んで、回って、舞わって、斬りつける。
 そうして、また飛ぶ。
 すると、敵の動きが変わってきた。
「死角を潰しに来たッすか……!」
 見れば、ゴブリン達は自分から急ぎ距離を取り、しかし背中を向けない。
 そうして出来あがるのは、自分を中心とした円陣だ。
 全体は南へ移動しているが、ここだけは移動を取り止め、こちらと相対だ。
「ネメシス……!」
 全体から離れてもこちらの撃破を優先。
 そのことに危機感を抱き、翼での上昇を駆け、急ぎの離脱を選択する。
 しかし、敵が速い。
 包囲の輪を縮め、上下左右、全ての方向からの攻撃を寄こす。
 間に合わない。
「だったら……!」
 そのことを確認すると、パートナーの名前をもう一度呼ぶ。
 声に応じて変化した槍を、両手で力強く握り、
「正々堂々、正面勝負ッすよ!! ――出でよ、パパネメシス!」
 叫びと武器の衝突は同時だ。
 瞬間、暴風が生まれた。
 ゴブリンを吹き飛ばし、その包囲の中央に現出するのはドラゴンだ。
 槍の穂先から召喚された竜は、その首をもたげ、開口する。
 一拍。
 振り下ろした首に追随する炎は、轟音と共にゴブリン達を焼き払った。
 その威力に慌てて背を向け、南へ逃げ行くゴブリン達を見ながら、ユウは言う。
「さぁ、邪道続行ッスよ!」
 竜の吠声が大地を揺らした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

緋翠・華乃音
……何処の世界でも似たような光景が繰り返されてるな。
戦況はまだどちらに転ぶか分からない段階……だったらもう一手、押させて貰おうか。

「地形の利用」を生かし、村の建物若しくは防壁上の、戦場が見渡せる高い場所に「目立たない」の技能を使用しつつ潜伏。
戦況を見ながら、敵に戦線の突破を許しそうな箇所や苦戦しような箇所に狙撃(「スナイパー」)で「援護射撃」を行う。
「視力」「暗視」「見切り」「第六感」を駆使して一体に一発、必中の銃弾を見舞わせる。
リロードは「早業」を用い、決して隙は見せない事を心掛ける。
ユーベルコードは必要と判断した場合にのみ使用。

……数だけが頼りの雑兵共か。悪いがそれでは――単なる的だ。



 
           ●
 轟声が響く村の中、それらを高所から見下ろす場がある。
 教会だ。
 鐘が取り付けられた尖塔の上、そこに華乃音はいた。
 傾斜した屋根に座り、視線を向ける先は前方、村の外だ。
 月光に照らされた緑の波が草原の上を蠢いている。
 濃藍色の瞳で波を眺めながら、華乃音は思う。
 ……何処の世界でも似たような光景が繰り返されてるな。
 怪異や魔性、そういった存在による暴虐。異常な光景だが、しかし世界を超え共通する普遍的な事象だ。
 そして今は、視界の先でそれら怪異が列を成し、全体が村の南西側へ移動の時間だ。
 しかし、
「暴虐への対抗。それも変わらずか……」
 その波の先頭や最後尾では、他の猟兵たちがゴブリン達を誘導し、追いたてている。
 波として来る敵に臆せず立ち向かい、自分たちの思いを力と共に通していく。
 遠く、数キロメートルは離れた現場の様子を確かめ、それに気付いた。
 増援だ。
 未だ森の中からゴブリン達が飛び出してくるのだ。
 それらは直進し、迂回し、現場の猟兵たちへ奇襲を仕掛ける。
 増援の奇襲によって生じた隙を、波が広げていく。
 戦況はまだどちらに転ぶか分からない段階……
 ならば、
「もう一手、押させて貰おうか」
 その言葉と同時に、華乃音の手に現出したのは、各部が突起した細長い棒状のものだ。
 狙撃銃だ。
 それを華乃音は両腕で構え、狙う。
 姿勢は座ったままだ。しかし、現場に半身を向け、塔の屋根に背を付ける。そうして、狙撃方向の片膝を立て、そこを支点とする。
 左右の腕で狙撃銃を包むように構えれば、体勢の完了だ。
「――」
 見る。
 何もかもをだ。
 ゴブリンや猟兵だけではない。
 村も、森の木々も、光源である月光も、平原にある草花や、石の一つ一つまで全てを知覚する。
 聴覚も同じだ。
 木立が生むざわめきに、ゴブリン達の怪声、猟兵たちの雄叫びや、村人の怒号もだ。
 数百の生物や周囲の自然が生じさせる結果。
 それら全てを、なにもかもを知覚し、処理をしていく。
「――」
 およそ常人では処理できない情報量だ。しかし、強化された脳の演算処理能力はそれらを把握し、分析し、飲み込む。
 風が吹く。
 大気が動き、周囲を揺らす音すらも知覚し、
「――ヒット」
 果たして貫通力は正確に送られた。
 視界の先、強化された視力が見るのは崩れゆくゴブリンだ。
 奇襲によって生じた隙。それらを拡大するための行動を阻害されたゴブリン達は明らかにうろたえ、動揺する。
「――ヒット」
 動揺の声が一つ減った。
「――ヒット」
 狙撃元を探そうと忙しなく頭を振っていたゴブリンはもはやその動作を繰り返さない。
「――ヒット」
 離脱を試みたゴブリンは大地を蹴った矢先、胴体を貫かれ、蓄えたエネルギーごと吹き飛んでいく。
「――ヒット」
 森の枝葉を貫いた力は、対象の落下という結果を得た。
 そこで、変化が生まれた。
 波の後方。北西側で召喚竜が爆炎を放ったのだ。
 燃焼が生み出す高熱は、大気を乱れさせ、北西側から周囲へ大気を押し出し、そして失われた大気を補おうと、周囲から大気が流れ込んでいく。
「――ヒット」
 銃弾が大気に乗るように波を走った。
「――リロード」
 銃声の合間、言葉が周囲に染みる。
 マガジンが排出される硬質の音が甲高く響くのと、充填されたマガジンが差し込まれる重量の音が鳴る間隔は一瞬だ。
 構え、狙う。
「――ヒット」
「――」
 違和感を得た。
 その瞬間、もはや思考を超越し反射的に引き金を引く。
 動作を一瞬取り止め、無意識下での情報処理の結果、もはや直観としてシナプスを反応させた原因を見る。
「――ヒット」
 矢だ。
 現場の猟兵へ、飛来した矢がその身を横合いから銃弾によって砕かれた。
「――ヒット」
 動作を繰り返す。動作は二つだ。
 狙い、放つ。
「――ヒット」
 ただそれだけを繰り返す。
 繰り返す動作の中、周囲の情報を処理する脳から思考が表出する。
 視界が捉えるのは波だ。数を減らしていくそれを双眸が冷ややかに見下ろす。
 ……数だけが頼りの雑兵共か。
 前方、1500メートル先。ゴブリンがこちらに気付き、もはや半狂乱になりながら盾を構えた。
「悪いがそれでは――」
 狙い、
「――単なる的だ」
 動作を繰り返す。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

明石・真多子
フッフッフ。この闇に包まれた時間。そして舞台は鬱蒼とした森!忍べと言わんばかりだね!ついにアタシの出番だよ!

深海に棲むタコにとってこのくらいの闇は余裕余裕!
森の木々も触手を使ってスイスイ進めるし平野よりもありがたいよ!
【姿隠しの術】で保護色能力の【迷彩】全開にしながら【八足歩行の術】で樹上を渡りながら【忍び足】で敵を音もなく探すよ。
時には触手を伸ばして首に括って【暗殺】したり、【蛸墨手裏剣の術】で金属音も出さずに喉笛を切り、味方にさりげなく【援護攻撃】したりと暴れまわろうかな。
灯り持ちは優先して潰して相手の足を止めていくのもいいかも。

珍しく忍んでて、軟体魔忍の本領発揮って感じだね!



 
           ●
 
 来たね……!
 真多子は思う。自分の番だと。
 自分が今立っている場所は森の北西側。立ち並ぶ木の枝上だ。
 視線の先、ゴブリン達が村へ殺到して行くのが見える。
 森の外、平原上にある緑の波が移動していく方向は装甲化された村の南西だ。そこに、ゴブリンを撃退する用意がある。
 誘導するのは、猟兵たちだ。
 波の前方に二人、後方に一人。ゴブリン達を引き連れ、追いこんでいく。時折、弾けるように波の中からゴブリンが吹き飛ばされるのが見える。
 みんな派手だねー……。
 勇ましく、猛々しく、結果を得るために手を尽くす仲間たちだ。
「アタシも頑張らなくちゃね……!」
 意気込みと拳を握る。
 自分の武器はこの触手の身体と軟体忍術だけだ。
 皆のような派手な手立てを自分に持ち合わせていない。
 ならば、
「後は何でカバーするか、ってね」
 呟いた言葉が響く周囲を見る。
 樹上、その位置からまず視界に入るのは、月光で照らされた夜の闇と、闇に沈む森だ。
 そのことを確認すると、真多子は歯を向いて笑う。
 南。その方角へ身体を向け、枝を蹴った。
 地面に落ちる前に、しかし触腕が枝を捉え、身を運んで行く。
「ふふふ……」
 枝葉に紛れて移動しながら、真多子は喜の感情が思わず沸き出るのを自覚する。
 感情の原因は自身の周囲全てだ。
 闇に包まれ、視界の奥には鬱蒼とした森。
 派手な先頭で目を引く仲間たちと、それに立ち向かう多量の敵。
 つまり、
「忍べと言わんばかりの条件だね!」
 軟体魔忍の本領発揮だ。このごろ、忍ぶ場面や選択が少なかったが、今日は違う。
 事実、すでに普段の赤い姿はその見た目を変え、今や周囲の木や夜の闇に紛れる暗色だ。
 擬態の能を全開にして、行く。
 すると、
 見えた……!
 前方、森の中を走るゴブリン達を真多子は視界に見止めた。
 数は四。
 月光を反射する粘液痕を枝上に残しながら、ゴブリン達を視界の左前方に捉え、追跡する。
 そこで気付いた。
 目的は平原の猟兵たちへの奇襲か……!
 サインだ。
 ゴブリンが平原側へ送る視線や手捌きから、目の前の敵の目的を悟る。
 ゴブリン側にとって当初の予定通りなのか、それとも平原の猛攻から逃げてきたのかは分からないが、猟兵への奇襲をしようとしていることには間違いない。
 幸い、向こうはまだ右手側後方の位置にいるこちらに気付いていない。
 そのことを認識すると、真多子は動いた。
 行く道は最短だ。
 枝を踏んで飛び、掴んで身を回し、また枝上に着地する。
 それらの動作を何度か繰り返すと、比較的太い枝が来たので、それを踏み切って跳躍。
 触腕を手ごろな枝に巻きつけて勢いを繋ぎとめ、その勢いのまま身をスイングし、弾き飛ばされるように前に飛び出した。
「――」
 接触は一瞬だ。
 眼前、背を向けているゴブリンの首に触腕を絡め、加速のまま直上へ引き上げ、枝に着地。
 そうして首を絡め取ったゴブリンを近場の枝へ引っかけるようにし、自重でその首を圧迫する。
『――!』
 ゴブリンの掠れた悲鳴は戦場の轟音にかき消され、それまでだ。
 そのことを確認すると、ゴブリンを放り投げ、真多子は追跡を再開する。
 先ほどと同じように近づき、追いつくころには、放り投げたゴブリンが残りの3体の近くに落下する。
『――ッ!?』
 突然の重量物の落下に警戒したゴブリン達は、一匹が訝しげに近づき、それが仲間の死体だということに気付くと、急ぎ残った二匹の仲間に知らせようと振り返るが、
『――』
 ゴブリンの喉笛に高速の飛翔物が触れ、加速のまま押し切った。
 手裏剣だ。それも高圧力の蛸墨によるものだ。ゴブリンの背後、樹の幹に衝突した手裏剣が微かな飛沫の音を立て霧散する。
 受けた加速と自身の動きの合成によって、ゴブリンは喉元からの水音を伴いながら身を回し、その身体を地面に横たえた。
「――ふぅ」
 ゴブリンの絶命を見届けたところで、真多子は手裏剣を投げた触腕を降ろして一息をつき、
「よいしょ……っと」
 貫手で貫いていた二体のゴブリンからも触手を引き抜き、血を振り払う。
「アー、真面目に忍ぶのなんて久しぶりだから疲れたー……!」
 腕の先を掲げて擬態の様子に問題が無いことを確認すると、軽く伸びをして身を解す。
「――んじゃ、また行きますか!」
 そう呟くと再度、跳躍し、夜の森へ溶け込んでいった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルパート・ブラックスミス
他の猟兵の健闘を信じ、作戦通り用意した侵入経路にて敵を迎撃。
【燃ゆる貴き血鉛】発動、燃える鉛を撒いて侵入経路を炎上、敵の進退を妨害。
後は炎を越えてくる敵を片っ端から【なぎ払い】といこう。
遠距離攻撃は【誘導弾】として機能する短剣、そして火達磨にしたゴブリンを【怪力】任せに【投擲】する。

方針としては戦線維持。これ以上村に入れず、矢弾の射線を確保した殺し間から出させない。
村の外での戦闘が収束すればそのまま残存戦力で包囲戦に移行するはず。
それまで敵をここに釘付けにする為、己を誇示するように派手に立ち回る。
「どうした、かかってこい。この村を蹂躙したくば、まずは我を打ち砕いてみせよ!」

共闘・アドリブ歓迎


エドゥアルト・ルーデル
■UC
WIZ

■戦闘
ゴブリンまみれ、数だけが頼りの雑兵共が…スレイの時間ですぞ、拙者が本当の戦争を教えてやる

出せるだけの【爆撃機部隊】を召喚し、上空で待機ですぞ
自分は【地形の利用】を使って隠蔽し、敵集団が通り過ぎるのを待つでござる

敵集団が全て通り過ぎたら背後から攻撃開始
自身は手持ちの武器で敵の後方集団を銃撃、爆撃機部隊は三隊に分散させて集団の先頭、左右をそれぞれ爆撃して包囲しますぞ

急降下の風切り音…爆風…閃光…全てこの世界には無いものでござる。フハハ怖かろう
怯えろ!竦め!集団の利を生かせぬまま死んでいけ!

アドリブOKでござる



 
           ●
 
 ゴブリンは走りながら、困惑していた。
 どういうことだ、と。
 自分たちは大量の力をもって眼前の村を襲撃し、略奪をするはずだった。
 しかし現状はどうだ。
 森から飛び出し、猟兵を数で押し切ろうと突撃したのが数十分前だ。
 数の利があるこちらが、隙を見て攻撃を仕掛けていくが、未だ猟兵に決定的な攻撃を与えられていない。
 集団の全体に苛立ちが募れば、動作と確認が粗くなり、
『――ッ!!』
 落とし穴だ。先行していた仲間たちが落下したのを確認すると、周囲は迅速に迂回の選択を取る。
 幾数も設置され、先ほどから何度もこちらに被害を与えるトラップに更なる苛立ちを募らせたゴブリンは、その苛立ちをぶつけるように夜空へ吼えた。
『――?』
 するとそれに気付いた。
 上空。自分たちのやや後方右手側の位置にそれはあった。
 それは小柄で、鳥のような姿をしているが、存在する高度と硬質な雰囲気も相まって、地上から見上げると十字架のような印象を得る。
 それは複数で、縦列を組み、数十の数で空を埋めていることをこちらに知らせてきた。
 そしてそれが動いた。
 身を捩じり、進路を変える。鼻先の向く先は下方、大地にいるこちらだ。
『――!』
 警戒の声を上げ、周囲に知らせる。
 その頃にはもはや鼻先はこちらに向け、周囲をつんざくような甲高い音が聞こえている。
 度重なる攻撃により精神が高ぶっているゴブリン達は声を荒げ、威嚇をするが、空からの異物は構わず高度を下げる。
 こちらを向く鼻先から、大気を掻き毟るような音も加わって聞こえるころ、気付く。
『――?』
 異物が何かを切り離したのだ。
 あれは、と思った瞬間、周囲が爆炎に包まれた。
 大地が鳴動し、轟音と高熱が駆け巡る。
 爆発と高温によって生まれる大気の流れは、様々な音を各所へ運び、打ち消し合う。
 そうした中、途切れ途切れに周囲から聞こえる驚愕の叫び声は、次第に肺の内外が燃え、消えた。
 破壊力の跡地から我先にと逃れる足音は無数だ。
 すると、大地に異常な動きが生まれた。
 地面から人が生えてきたのだ。
「アンダー・ザ・グラウンド・拙者……!」
 
           ●
 
 いい気分にござるな……!
 自分がいるのは落とし穴の跡地だ。爆撃を見越し、先んじて横穴を掘って隠れていたのだ。
 ゴブリンサイズだから、隠れるのはちょっと大変でござったな……!
 しかし、その分脱出は容易だ。
 爆撃の後、土とゴブリンの死体を押しのけ、落とし穴の淵に積み上げる。そうして出来あがるのは即席の簡易土嚢だ。
「すなわち塹壕戦ライク……!」
 先ほどから英語は正しいだろうか。分からない。敵性語だ。じゃあ適当でいいでござるな。
 その思いのまま、こちらへ逃げてくるゴブリンに目がけ、土嚢に乗せたライフルの引き金を引く。
 狙いも間隔も適当だ。スコープを覗き、引き金をタップし、連射の力を適切に当てていく。
 手に持った武器を振り上げた姿勢のまま、もんどりうって倒れるゴブリンが瞬時に十を超えた。
 そうすれば全体が踏みとどまり、生じた隙を利用しリロードを完了させる。
「怯えて竦むんじゃ集団の利が死んでござるなあ! ――Feuer!」
 眼前を横薙ぎに一掃すれば、飛来する弾丸と倒れる死体に押されるように残ったゴブリン達が来た道を引き返していく。
「おろ? 敵前逃亡? いかんでござるなあ……」
 再度のリロードを済ませ、塹壕を上って地上に立つ。スコープを覗き、散り散りになって逃げていくゴブリン達へ前進しながら射撃を続け、口を開く。
「――休んでいる暇はないぞ出撃だ!」
 言葉を送る先は夜空だ。
 直後、九十機から成る爆撃機部隊が順次、空を昇って行くのが見える。
 月光に照らされた機体は、機首を真上へ向け、差し込むような鋭い上昇をしたかと思えば、さらに機首を持ちあげていく。
 上昇を続けながら、大気の流れを機首では無く腹に受け、後方へ流す。それを続ければ完成する形は、天地が逆転した姿だ。
 満月を背景に、九十機の機体が宙返りを行っていく。
 空中での後方宙返りを果たした機体の向く先は、やはり地上だ。
 眼下へ向けて速度を上げ、再度の急降下爆撃を敢行する。
 再度の轟音と熱気は、しかしゴブリンへの直撃弾ではない。
 ゴブリン達の左右と前方へ着弾したのを確認すると、エドゥワルトを笑みを濃くした。
 
           ●
 
 殺し間が必要だった。
 装甲化が果たされた村、その南西側の防壁上に立つルパートが思うのは、その一点だ。
 防壁に不備があることが分かり、むしろそれを利用しようした作戦を皆で立てたのだ。
 わざと不備をそのままにし、そこへ敵を誘い込む。しかし、無秩序に誘い込んでも意味が無い。
 そのためには誘導と殺し間が不可欠だ……。
 誘導は猟兵達が行うにしても、問題は誘い込み、撃退するための殺し間だ。猟兵達が手伝ったとはいえ、完成間近で発覚した事実は追加工事の時間が無く、新しく空間を作るにはどうしたものかと思っていたが、
「――成程。荒っぽいが、果たしてどうだ」
 腕を組み、視界の先を見る。
 防壁前、そこにあるのは、たった今新たに生じた空間だ。
 空間は大地の陥没だ。
 エドゥワルトの爆撃によって、削れ、穿たれた大地はその大部分を吹き飛ばし、その威力を物語っている。
 自分の周囲では、耳を塞ぎ口を大きく開けてしゃがんでいた村人たちが、その表情のまま大地を見下ろしている。
 上空を爆撃機が飛び去っていくのを見送ると、ルパートは大地へ飛び降りた。
 地面にグリーブを突き刺し、待ち構えるのはゴブリン達だ。
「来たな……」
 防壁の不備を狙う目的と、背後の猟兵達からの攻撃によって、こちらへやってきたゴブリン達は、現状、その状態にいくつかの差異がある。
 集団の前方や左右にいたゴブリン達は、至近で生じた爆撃の衝撃によって平衡感覚を打撃され、おぼつかない足取りのまま、直前までの思考である前進を実行している。
 それらの後方、全体の中ほどにいたゴブリン達は、前方の大地の異常に気付き、たたらを踏んでその身を止める。
 しかし、後方のゴブリン達は自分たちの背後からやってくる攻撃から逃れるために必死だ。
 それらが合わさるとどうなるか。
「決壊だ」
 ルパートは眼前の光景を言葉にする。
 ゴブリンたちは、まず混濁した意識のまま、こぼれ落ちるようにその身を爆心地に落とし、しかし後続は堪え、大地を踏みしめ止まろうとするが、後方からの多量の圧力に負け、爆心地の淵が崩れ、その身を投げる。後は勢いと何かにしがみつく手に引き寄せられた落下が連続するだけだ。
 爆撃の衝撃で地下からの水が染み出し、泥土と化した場では、ゴブリン達が足を取られ、もがいている。。
 殺し間の完成だ。
 それを確認すると、ルパートは燃え上がる鉛が滴る大剣を上段に構え、アーメットの奥から言葉を告げる。
「――我が血はもはや栄光なく、」
 言葉と共に、大剣を這う鉛の勢いが増す。
 熱量を伴う光の増幅は辺りに陽炎を生み、焦熱の力を示す。
「――されど未だ闇に消えず…!」
 言葉と共に、大剣を上段から振り下ろし、殺し間の淵に突き刺すと、力を一直線に送った。
 瞬間、泥すらも燃えた。
 大剣を包む燃え上がる鉛は、大剣を伝って流れ出る。
 そうして、大雑把な円を描く殺し間の淵や、その内部を鉛が巡って燃やし、ゴブリンを炙る。
『――――ッ!?』
 殺し間から苦痛の叫びが夜空に響いた。
 殺し間の内部、村を目指し数匹のゴブリンが、這い上がるように淵を登ってくるが、ルパートは大剣でそれらを薙ぎ払い、吹き飛ばす。
「どうした」
 陽炎に身を包み、その身の各所から高熱の飛沫を散らしながら、再度剣を構える。
 夜の闇の中、足下から多量の光と熱が上昇する場において、なお煌々と光る色は兜のスリット奥から見えるルパートの瞳だ。
 構えた剣を横薙ぎに振ることで、飛来した矢を打ち払う。
 そして、片手で懐から取り出した短剣を投擲することで、離れた位置にいるゴブリンの射手を貫く。
 投擲した瞬間、その隙を狙って武器を突き付けながら突撃してきたゴブリンを、しかし武器ごと足裏で蹴り飛ばし、地面に倒れたその身に大剣を突き刺す。
「かかってこい」
 大剣から流れる鉛によって、その身を瞬時に燃やしたゴブリンを大剣で持ち上げると、その頭を片手で掴み、眼下のゴブリン達へ見せつけるように掲げる。
 炎上したゴブリンを咆哮と共に投げつけると、それを合図に背後の開拓村から矢弾が飛んできた。
 村人や派遣兵たちの矢や投石は、吸い込まれるように殺し間へ正確に降り注ぐ。
 「――この村を蹂躙したくば、まずは我を打ち砕いてみせよ!」
 殺し間は正しくその役割を全うした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ワイバーン』

POW   :    ワイバーンダイブ
【急降下からの爪の一撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【毒を帯びた尾による突き刺し】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    飛竜の知恵
【自分の眼下にいる】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    ワイバーンブラスト
【急降下】から【咆哮と共に衝撃波】を放ち、【爆風】により対象の動きを一時的に封じる。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 
           ●
 
 百を超えるゴブリン達はそのほとんどを退治された。防壁の南西側、そこでの激闘によってだ。
 驚異の撃退に成功した村は、しばらくの沈黙ののち、勝鬨の声で満たされた。
 村人たちは共に抱き合い、今までの苦労を分かち合い、協力してくれた猟兵達に口々に感謝の言葉を述べた。
 そのような活力と成功の場において、しかし、最初に異変に気付いたのは一人の村人だ。
 殺し間を逃れたゴブリンを把握し、場合によっては追撃するために、教会の尖塔から周囲に目を光らせ、索敵していた派遣兵だ。
……?
 異変の正体はゴブリンだ。焼失から逃れた数えるほどの個体は皆、蜘蛛の子を散らすように殺し間から逃げていく。
 しかし、
「何故、引き返さない……?」
 逃げていく方向が限定されているのだ。
 来た道を戻らずに横の森へ入り、逃げていく。場合によっては村のすぐ側を通り抜け、わき目も振らずに逃げていく。
 おかしい。
 その思いが脳裏を駆け巡ると同時に、それを見た。
「山が……!」
 森の奥、山がその身を削ったのだ。山の一部が外れ、離れていく。
 否、削られたのではない。山からその身を離した一部は、しかし落下せず、空中にその身を留まらせる。
 飛翔体だ。
 山から飛び立ったそれを確認した派遣兵は、側にあった鐘を掴んで鳴らす。
 打ち鳴らす音は全力の連続だ。
 けたたましい警鐘の音と共に、言う
「――ワイバーン発見! ワイバーン発見! 森の奥、山の上に一体が飛行中!」
 皆がそれを見た。
 夜空へ向け上昇をかける飛竜の姿だ。
 急ぎ、派遣兵の兵長が猟兵達にワイバーンの特徴を知らせ、協力を要請する。
「――ワイバーン接近! ワイバーン接近!」
 夜の闇に身を浸し、満月を抉るようにその翼を広げたその姿がこちらを見る。
 月光を遮り、村に影が落ちた。
ユウ・タイタニア
【心境】
デカいっすねー。あっしらなんか一飲みにされそうっすよネメシス…。
【行動】
騎士道大原則ひと~つ。騎士たるもの如何なる敵に背を向けてはならなーい…っす。
『勇気』を胸に突撃っす。
ネメシスに『騎乗』して『空中戦』っす。
まずは遠距離からルーンソードで『衝撃波』を放って攻撃っす。
距離があるうちはこれでけん制しつつ、なんとか接近っす。
ドッグファイトを演じつつ、ワイバーンの巨体に対してあっしらの『目立たない』小ささは利点。
ワイバーンがあっしらを見失ったら、一気に背後に回り込むッす。
そしてあっしのドロップキック『踏みつけ』&ドラゴンランス『串刺し』攻撃っす。
同時にドラゴニック・エンド発動っす。

やったかッ



 
            ●
 
 防壁上、そこにユウはネメシスと共に、村に背を向けた姿勢でいる。
 その姿は万全とは言い難い。傷自体は負っていないが、疲労の色が濃い。
 先ほどまで村から離れ、飛び続けながら複数のゴブリンを相手にし、そのままの流れで村へ戻ってきたのが今だ。
 荒れた呼吸を落ちつけながら思う。
 デカいっすねー……。
 前方の上空にいるワイバーンだけではない。何もかもだ。
 背後の村も、足下の防壁も、離れたところに立つ村人も、何もかも、隣に立つネメシスすらもだ。フェアリーの自分からは特にそう感じる。
 でも、だからこそっすよね……。
 今、目の前の人たちが怯え、竦んでいる。自分より大きいものたちがだ。
 しかし、大事なのは身体の大小ではないことをフェアリーの自分は知っている。
 大事なのは志だ。身体の大小ではない。
 そして、自分の果たすべきことも自分は知っている。
 暴力と理不尽に苦しめられる存在を守る。騎士を目指す自分がやるべきことはそれだ。
 志を果たすために、剣を掲げ、言う。
「――騎士道大原則ひと~つ」
 聞け。
 この言葉は何より自分の原則であり、皆の原則だ。
 だから言葉を届かせるべき相手は自分と皆だ。
 だから言う。
「――騎士たるもの、如何なる敵に背を向けてはならなーい…っす」
 月光に剣が煌めき、言葉の後半が少し震えていたのを誤魔化すように、ネメシスが雄々しく吼えた。
 そんな付き合いの良い相棒に口角を上げて応え、跨る。
 ネメシスは大きな歩幅で防壁上を走り、防壁の淵を思い切り踏み切った。
 勇気を胸に夜空へ飛び上がる。
 
           ●
 
 雲一つない夜空。何も遮るものがない場所にて戦闘が開始された。
 ユウとワイバーンだ。
 戦闘は一方的な力の射出で始まった。
 力はユウからワイバーンへ、ルーンソードから放たれる衝撃波だ。
 ネメシスに跨り、空を縦横無尽に駆け回りながら切り裂く刃をいくつも放つ。
 マジでデカいっすねー……!
 空中。ワイバーンとの距離を詰めていく中、ユウはその思いを強く再認識する。
 自分の現状は、ワイバーンの正面目がけて、斜めの上昇を最速でかけている状態だ。
 距離が詰められていくに従い、その大きさが具体的に実感できる。澄んだ空で待ち構える向こうからすれば、こちらは豆粒のように見えてることだろう。
「丸飲みされないように注意っすね、ネメシス……!」
 巨竜へ流星が突っ込んでいく。重力に逆らい、衝撃波を放ちながらだ。
 そして竜も、自分の身を削る衝撃波に苛立ちの雄叫びをあげ、その身を傾けてユウと正対する。位置は前方斜め上だ。
 来る。
 上空から、こちらへ目がけての急降下だ。鋭く立てた脚の爪でこちらを捉えようとする。
 数十センチの大きさのこちらに対してはあまり有効的ではない選択だが、
 狙いは背後の村っすか……!
 姿勢を変えることで失速をするが、進路を変えずに最短で村へ攻撃を送れる。
 この高度ならそのままの勢いで村へ降り立つのも、体勢を戻し仕切り直しのどちらも可能だ。
 しかし、
「チャンスっす……!」
 こちらへ迫りくる巨体を見据え、手綱を一気に引く。
 すると、身体の行く先が斜めの上昇から、真上への上昇へ急激に変換された。
 垂直上昇だ。身をネメシスに擦り込むように寄せ、上昇の妨げを出来るだけ排除する。
 昇る。星空へ一直線に。
 重力を引き離し、大気の壁を掻き破りながらの回避行動だ。
 眼下のワイバーンも慌てて体勢を変え、上昇をかけて追ってくる。
 ドッグファイトだ。しかし出力が違いすぎる。向こうが翼を一度打つたびに、こちらは数え切れないほどの加速が必要だろう。
 だから速度勝負はしない。
 むしろわざと失速させ、大気を食い破る向こうから生じる圧力に乗り、夜空をポップする。
 小回りのきくこちらはそうして、相手を撹乱し、そして、
「そこっすよネメシス!」
 手綱を引き、パートナーを誘導する。その先は、
「気流の流れっす……!」
 大気を押しのけて進む分だけ生じる負圧の空間。損失を埋め合わすように生じる空気の流れは、身体の後ろだ。
 翼で飛行する自分たちにとって熟知の現象で、それは相手にも適応できる。
 自分たちの経験と相手の体躯をあてはめ、大体の予測をした後はその位置へ身体を運ぶだけだ。
 だからそうした。
 濁流のように身を押す流れに逆らわず、相棒を抱え、熟知の場へ足から行く。
 行った。
 加速のまま、竜の背甲へ突き刺すように両足で蹴り込む。
 しかし、竜は止まらない。自分もだ。
 竜の背を流れる大気に身体が持ってかれそうになり、手に抱えた槍を深く刺し込むが、やはり止まらない。大気に押され、鱗の上を削り走る。
 痛みに竜が吠え、振り落とそうと身を捩じるが、
「離すもんかっすよ……! ――パパネメシスッ!!」
 竜の背を零距離からの衝撃が打った。
『――――ッ!』
 痛苦の叫びを夜空に響かせ、ワイバーンが身を仰け反る。
 その衝撃で投げ出されたユウは、落下する空中でワイバーンを見る。
「やったっすか……!?」
 ユウが視線を送る先、ワイバーンはしかし体勢を立て直すと、再起を吠声で知らせた。
「まぁ、お約束ってやつっすね……!」
 一緒に落ちている相棒が短い鳴き声で答えた。
ホント、付き合いのいいやつっすねー……。

成功 🔵​🔵​🔴​

エミリィ・ジゼル
ふぅ…なんとか、間に合ったようですね。
あ、これ一度言ってみたかったんですよね。

いやぁ、メイド流サメ騎乗術で颯爽とかけつける予定が盛大に遅刻しました。
さいわいまだワイバーンは村を襲ってはいないようですね。
被害が出る前にフルボッコにしてやりましょう。

とはいえわたくしは途中から来た身
ここはメインで頑張っていた方々に任せ、わたくし自身はサポートに回ります。

相手は飛んでいるデカブツですので、今回は遠距離攻撃を主体に。
インクシューターや重力子放射線射出なんちゃらでの射撃攻撃や
【メイド式殺人光線の術】を目からぶっばなしてどっかんどっかんします。

あ、相手の攻撃は【時を止めるメイドの術】で回避するスタンスです。



 
           ●
 
 背が焼けるように熱い。
 ワイバーンは仰け反らせた勢いのまま、
『――――!!』
 天上へ吠えた。割れるような声だ。が、とも、あ、とも言える音が、星空を振わせる。
 その音を響かせながら、赤の竜は自分へ仇なす猟兵達の排除を最優先と決定した。
 身を翻し、その場で宙返り。気分を仕切り直した視界で眼下に目をこらし、猟兵を探す。
 いた。村の外、平原上に一人の猟兵が見える。
 侍女だ。
 鮫にもたれている。
 
           ●
 
 エミリィは鮫と共に平原にいた。
「ふぅ……。なんとか間に合ったようですね……」
 姿勢は水陸両用のそれに背中を預けた状態だ。その姿勢で上空を視界に収めながら、思う
 やっぱりいいですね、この台詞……。
 一度言ってみたかった。人間には人生で一度は言ってみたい台詞がいくつかある。これがそれだ。まぁ私人間じゃなくてヴァーチャルキャラクターなんですがそれはそれです。
 自己の理念と存在についての再確認が済んだところで、視界に変化が生まれた。変化は赤の動きだ。
 ワイバーンが大気をその翼で弾き、こちらへ目がけて加速を開始したのだ。
 視界の中、その大きさを増していく存在を見ながらエミリィは準備を開始する。
 空ですか……。
 空はいい。自由だ。自分もフライトとしゃれこむのも一つの選択かもしれないが、今宵の相棒は飛行能力を持たない。
 ならば、
「地対空と行きましょう」
 言葉とともに裾広のロングスカートを少し摘み上げ、その下から取り出すのは闇夜の中でも主張する長物だ。
 インクシューター。それを両手に抱え、言う。
「――シャーク1、エンゲージ」
 
           ●
 
 満月が照らす平原、その上を鮫が走っている。その上に騎乗しているのはエミリィだ。
 背びれの傾きで進路を決め、大地を蹴る胸びれのストロークは推進力だ。そして尾びれが制動とターンを担う。
 跳ねるように、時に滑らせるように、その身を加速していく。
 鮫の進路は上空のワイバーンを軸に、地上に弧を描くような円運動だ。常に左手側の上空に竜を置き、大地を回る。
 気分は騎兵ですね……。
 体勢は足を開いて跨るのではなく、スカートの関係から横座りの状態だ。
 そんな揃えた膝が向く側、左手上空をエミリィは見上げる。
「ならば私がするべきはパルティアンショットですね、ワイバーン様」
 言葉とともにエミリィは狙撃仕様のシューターを上空へ構えた。
 結った青の長髪が風によって後方へ流れていく。
 それには構わず、エミリィは引き金を引いた。銃口から連射される極彩色は、シューターに充填されたインクだ。
 荒れる気流に揉まれた不定形の力が、上空のワイバーンを打つ。
『――!』
 身を走る衝撃に苦悶の声をあげ、ワイバーンが身を捩じった。
 その身を塗料に彩られ、翼や足、爪に付着したインクを振り払おうともがくが、
「インクは落ちづらい物ですからねぇ……」
 家事ができない自分だ。掃除の大変さは一般常識程度によく知っている。
 連射を続けながら、粘性の高いインクに濡れたワイバーンの状態を見切る。
「翼に付着したことで身が重くなり、速度が遅くなりましたね」
 なので、こちらはシューターの出力を調整する。
 連射力を低減し、圧力を高めてストッピングパワーを増し、押し込むように力を送る。
 送った。
『――――ッ!!』
 増加した衝突力にワイバーンが身を揺らし、高度を下げていく。
 それを見送りながら、サポートはこれくらいでいいかと、エミリィはライフルを下げようとするが、気付いた。
 あれは落下ではない。あれは、
「パワーダイブですね……!」
 瞬間、竜が翼を力強く打ち、重力落下に自身の加速を合成させた。
 エミリィの視界の中、大質量の塊はもはや羽ばたきを止め、翼を後方へ流れるままに固めている。
 一直線にこちらへ向かう動きだ。距離を詰め、
『――――!!』
 喉の奥から咆哮を発した。咆哮は衝撃波を伴い、爆風となって大気を突っ走っていく。
 それを見止めたエミリィの判断は迅速だ。
 鮫の身体を手で叩き、合図する。
「ふっ……。シミュレーション済みですとも……」
 ゲームが好きな自分だ。航空戦はフライトシミュレーションゲームで熟知している。
 航空機側から発射される飛翔体の回避方法はいくつかある。
 速度で振り切るか、マニューバでかわすか、妨害装置で撹乱するか、
 もしくは、
「PAUSEボタン連打ですね。――ターイム!」
 片手をワイバーンへ向け、叫んだ。
 
           ●
 
 地面に向け加速していく視界の中、ワイバーンはそれを見た。
『――!?』
 視界の先、侍女と鮫が一瞬のうちにその姿を消し、自分の左手側後方にまで一気に位置を変えたのだ。
 一人と一頭へ向け、苛立ちと疑問の叫びをあげる。しかし、それはすぐに取り止めた。
 何故か。
 平原の上をスキッドする鮫の上、長物を構えるのを止めた侍女が、微笑みながらこちらを向いているのだ。
 服の裾と結わえた長髪を風に流しながら、侍女が口を開く。
「タイム切った! ――メイドビーム!」
 ウィンクと共に発せられた言葉は、すぐに空間を焼く焦熱音に掻き消された。
『――――ッ!?』
 侍女の瞳から発せられた光条が穿ったのだ。
 混乱の思いの中、ワイバーンはさらに高度を下げていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

ニレ・スコラスチカ
空を飛ぶ敵…!いいえ、異端は異端。…いきます。

とはいえわたしは跳ぶことはできても飛ぶことはできない。それにあの眼…まるで地上のわたし達を見透かしているようです…。
しかし攻撃のために接近した瞬間は手薄になるはず。わざと隙を作った跳躍で攻撃を誘い、【カウンター】を狙います。

【グラップル】で敵に取りつき、ユーベルコード【審問】を仕掛けましょう。質問は……「あなたは異端か?」でいいでしょう。あの敵が答えられるかどうかは知りませんが。

「あなたに黙秘権はありません」


ニトロ・トリニィ
【心境】
あれがワイバーンか…初めて見たよ。
…なるほどね。
さっきのゴブリン達は、ワイバーンから逃げてきたのかな?
そして、食料を得る為に村を襲ったと…だとしたら、話が繋がるね。

【行動】
今回は、味方の援護に回ろうかな?
《念動力》で風を操り、味方の攻撃をより遠くまで届く様にしたり、敵の飛翔を邪魔するのも良いかもね。

ピンチの仲間がいたら〈かばう/盾受け/カウンター/拠点防御/激痛耐性/毒耐性/〉を使って守るよ!

必要だったら、僕も攻撃するよ!
僕の戦闘系技能が届けばだけどね…

「みんな!怪我したら僕の〈医術〉で治すから安心して!…でも、無理はダメだからね!」

アドリブ・共闘歓迎です!



 
           ●
 
 猟兵の攻撃によって高度を下げる中、ワイバーンは一つの選択をした。
 上昇だ。低下したとはいえ、羽ばたきに必要な高度はいまだ十分にある。
『――』
 いまや猟兵達の存在は明確であり、こちらの撃破を念頭に動いている。
 地上の脅威へ、上空からのアタックを再度敢行しようと、そう決意し、翼で大気を力強く打つ。
 その時だ。
『――!?』
 視界が傾いた。
 気付く。自分の身体が、質量の塊によって一気に押し下げられたのだ。
 自分の翼の真上、それも右翼側。そこから自分を押し下げる力が、羽ばたきを阻害し、身体が傾く。
 まるで壁があるようだ。
『――』
 否、大気の壁は常だ。自分はそれらを翼でかき分け、速度を得る種族だ。つまり大気の壁は通常であり、自分にとっては障害にならない。
 ならば、何故。
 高速で思考を張り巡らせながら、右翼側に傾いた身体を立て直すために、慌てて左翼を力強く打つ。
 打った。
『――!?』
 しかし、次は左翼側が押し下げられた。
 
           ●
 
 ニトロはそれを下から見上げていた。
 始まったね……。
 自分がいるのは森の中、上空のワイバーンと村の被害を警戒し、木の下だ。
 周囲には斧や木材、丸太や切り株が整理して置かれており、ここが伐採の現場だということを知らせる。
 すると、伐採所に落ちる影が濃くなった。
 前方の上空、そこでワイバーンが一度右翼側に傾いたかと思えば、今は左翼側、そちらに身体を傾けていくのだ。
 軸転。そう表現できるような現象が目の前で生じる。
『――!!』
 嫌気と憤怒が混じり合ったような声が響いた。軸転によって竜がその高度を一段落としたのだ。
 何故か。そのような念を感じる、苛立ちの声が森に響き渡る。
「分からないよね……」
 原因は自分だ。
 今、自分は両手を掲げ、ワイバーンに向けている。その掌から生じるサイキックエナジーが到達するのはワイバーンの上空、翼の直上だ。
「そこにある空気を固められたら、飛ぶの難しいよね?」
 竜が感じる違和感はそれだ。
 ワイバーンの翼自体を固める方法や、それこそ付近にある丸太などをぶつける方法も考えたが、相手は大空を高速で駆ける存在であり、翼はその力の源だ。であれば、不確定な力勝負に持ち込むよりは、その周囲を固めた方が操作も簡単だ。
 でもまぁ、簡単って言うのも、“比較的”だけどね……!
 実際、空気を操作するなんてことは、さきほどのゴブリン戦が初だ。
 しかも、投げ斧を念力の核にし、群れるゴブリンに大雑把当てる前回とは違い、今回は力を集中させる核は無く、座標も三次元的で不定だ。
 常に乱れる流体を、それも一部だけを固定化し、意のままに操るのは集中力が必須で、気を抜けば今にでも塊は解れ、弾けてしまいそうだ。
 しかし、やった。結果は目の前だ。
「でも、これで終わりじゃないよ!」
 空気は固めるだけではない。その大質量の塊をワイバーンの翼に押しつけるように、
「空気の塊ごと移動させる……!」
 言葉と共に手を動かし、力を操作する。
 しかし相手はワイバーンだ。羽ばたきに反発するような押し込みでは力負けしてしまう。
 だから押すタイミングは、
「一緒に下へ……!」
 空気を下へ掻く。上昇のための動作を行う翼の末端を後押しするように、力が合わさった。
『――!』
 空気が破裂する音と共に、再度、竜がその身を傾がせ、幾度目かの苛立ちの叫び声をあげた。
「ふぅ……」
 そうして応じるように、こちらも幾度目かの安堵の息をつく。
 作戦は上手くいっている。相手の動きを封じ、思うように動かさない。向こうは大空を駆ける存在であり、そのアドバンテージは絶大だ。だからこそ、その利点をトリッキーな方法で阻止すれば、相手は混乱し、直接的な対応が出来ず、こちらにとって大きなリードになる。
 しかし、
「このままだとジリ貧だね……」
 動きを制限するだけでは、相手に決定打を与えられず、いずれこちらの体力が尽きる。
 ならばどうするか。
「これくらいの高さだったら、届くかな……!」
 右手、開いた掌を閉じ、しかし人差し指だけは飛竜に向ける。
 意識を集中する。思う力のイメージは光だ。
 すると、人差し指の先に光が灯った。
「狙いを定めて……」
 光を散らさないように、収斂する。すると、指先の光量が次第に増していく。
『――!』
 上空。ワイバーンが森の中の光源に気付き、鋭い爪をこちらへ向け、叫びながら突撃してくる。
 しかし、収斂はすでに終了している。十分な量が集まれば、後はそれを解放するだけだ。
「――発射!!」
 明確な指向性を持った光条が、空間を突っ切った。
 貫通力を持った光が到達する先は、飛竜の肩だ。そして、続けざまに放たれた二発目は、軌道をわずかに修正し、胸へ向かう。
『――!』
 身を貫く熱線によって仰け反り、ワイバーンが痛みの声を上げる。
『――』
 衝撃により突進を阻まれ、一瞬静止したその身を、しかし再起動させ、ワイバーンは突撃を再開した。
 雄叫びをあげながら、飛竜が襲来する。
 それを見上げながら、しかし恐れずに立ち向かう。
 飛竜を止める決定打は、何も自分しか打てないわけではない。
「――今だよ!」
 瞬間、自分とは少し離れた木々の間を、影が疾走した。
 仲間だ。
 
           ●
 
 手が届きそうな距離。もはやそんな風に錯覚できる位置に竜がいる。
「まぁ、実際にはかなりの距離がありますが」
 木々の間を駆け抜けながら、ニレが言葉をこぼした。
 見上げる。
 目測で数百メートル前後だろう。山から飛翔してきた時に比べれば、随分と低くなった。しかし、それでも十分な高さだ。
 ニレは思う。不足だ、と。
 相手は空を飛ぶ異端だ。しかし、自分は跳ぶことは出来ても、飛ぶことは出来ない。
 異端を狩る自分にとって、上空を飛ぶ異端へは力の不足を感じる。
 だが、仲間たちの度重なる攻撃によって、今や不足は随分と満たされた。つまり、
「十分です。――十四号洗礼聖紋、解放」
 追加で得る身体強化は、加速の力だ。大地を踏みしめ、一歩目から全力で行った。
 森の中、抉り飛ばすように葉土を背後へ飛ばし、まっすぐに駆ける。すると前方、木が見えた。
 このままでは激突コースだ。
「――」
 しかし進路を変えない。むしろ更なる加速を選択し、
「――行きます」
 行った。
 大地を蹴る力をそのままに、木の幹を駆け、昇る。
 螺旋を描くように幹を昇り、葉を散らし、枝を掻い潜る。そうして頂上まで一気に詰めた。
 木の頂上。そこにたどり着いても、尚、動きを止めず、梢を踏み、跳んだ。
 星空の中に自分を浸すように身体を運ぶ。
 浮遊感に包まれながら、見る。
「気付きましたか」
 目が合ったと、そう感じた。
 数百メートルの距離だが、不自然に揺れた木を見咎めたワイバーンは身を翻し、突撃進路を変更する。自身を襲う下降の勢いすらも利用して、突っ込んでくる。
 対するこちらも空中で身体を翻し、身体の正面を向ける。
 飛来してくる飛竜の顔面を見据えながら、処刑具を構え、
「――」
 そのまま落ちた。
 『――!?』
 フェイントの跳躍。それに気付いたワイバーンが、驚きの声を送ってくるのを聞きながら、自分は落下を完了させる。
 風に乗り、落ちる座標は左手側に数十メートル。他の木の上だ。
 踏み込みの衝撃で木がしなった。
 しかし恐れず、さらに踏み込み、聖紋が送る人外の力を木へ通す。
「この木が、どれほど耐えられるかを私は知っています」
 村の装甲化だ。その時の伐採の経験によって、自分はこの木の特性を理解している。
 幾度打てば折れるか。弱い個所は何処か。特性を熟知すれば、必要な力は分かる。
 もはや、ワイバーンとの距離は百メートルを切った。この距離では進路変更は出来ないだろう。
 眼前、竜が通るであろう位置を測り、
「――問います」
 言葉は木が生み出す復元力の轟音に負けないように、はっきりとだ。
 しなった木に弾き飛ばされるように、身体が夜の空へ射出された。
『――!?』
 眼前、竜がいる。
 自分の数倍はある巨体、鱗の色は赤で、驚愕の眼差しを向ける黄金色の瞳は、もはや手が届きそうな位置だ。
 いえ、ギリギリ届きませんね……。
 だから処刑具を伸ばした。
『――――!!』
 眼球を貫く痛みに、竜が爆発するような叫びをあげた。
 竜の顔横、眼窩に刺し込み、噛み止めた処刑具一本でそこにぶら下がる。
「くっ……!」
 吠声の圧力が至近距離から身を打ち、暴れ狂った動きで振り落とそうされそうになるが、処刑具を握る力は緩めない。
 瞳の横、耳があると思わしき部位に顔を向け、再度言葉を送る。
「問います」
 しかし、竜が暴れた。
 言葉が通じない可能性もあるが、風や吠声によって聞こえてない可能性もある。
 どちらでしょうか……。
 審問は正確に行わなければならない。限りなく異端だと自分でも思うが、万が一がある。
 そう思い、声を張り上げることにした。
「――問います!!」
 言う。
 声は大声だ。
「貴方に黙秘権はありません!!」
『――!!』
 竜が頭を振って落とそうとすれば、身体強化でさらに差し込み、しがみつく。
「死せば無罪!! 死せねば有罪!! ――答えなさい!!」
『――!!』
 竜が噛み砕こうと口を開ければ、ぶら下がった状態で重心を揺らして回避し、その牙を蹴る。
 そんな応酬の中、審問官である自分が問うことは一つ。
 すなわち、
「――貴方は異端ですか!!」
 審問だ。
 しかし、
『――――!!』
 竜は答えず、振り落とそうと、身を全力で回す。
 軸転の動きだ。
 回り始める視界の中、しかし、その動きは突如乱れた。
「――残念です」
 静かに告げた。
 手の中の処刑具が駆動し、収縮する。
 添えつけられた乳歯が唸りを上げ、眼窩から下顎まで、途中にある牙すらも断ち割っていく。
 審判が下ったのだ。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

明石・真多子
あの羽トカゲ、目が良いみたいだね。
キョロキョロ下を見て獲物を狙ってるみたい。
見つかったら面倒だなー。

それじゃ、【タコフラージュ】の保護色能力で姿を「迷彩」しようかな。
そして味方の近くの高い木に登るよ。
【ヒッパリダコ】で触手を伸ばして木々の間に網を張って…(吸盤でくっついてる)
あとは蜘蛛のように獲物が近づくのを待つ!

味方に攻撃しようと近付いてきた羽トカゲがタコ網にかかったら、吸盤付き触手で【オクトパスホールド】!
羽ばたけないまま頭から落ちちゃえ!

あとは動けないようにグッと締め上げて、首も絞めようかな。
この状態なら味方も攻撃し放題だよ!

改変、協力OKです


ルパート・ブラックスミス
ワイバーンか……こういう時ばかりは、先程の爆撃や射撃する武器が欲しくなる


短剣にUC【燃ゆる貴き血鉛】を纏わせ【投擲】。なるべく高台を陣取り迎撃する。
ある程度自分の意思で軌道を変えられる【誘導弾】だ、他の猟兵が白兵戦をしていても誤射はしない。

自分より有効打を出せている味方との連携ないし翼や目などの局所を狙った攻撃を主体とする。
この身体でも毒を盛られれば無事とはいかん。大剣で斬り込むのは相手が完全に地に堕ちた瞬間だ。

もしこちらを狙って急降下を仕掛けるのなら好都合。
同じく燃える鉛を纏った大剣を【怪力】をもって投擲、【串刺し】とする。

【共闘・アドリブ歓迎】


緋翠・華乃音
……もう勝負は見えた頃か。
まあ、手負いの獣は何をするか分からないものだ。
だったら最後の抵抗に出られる前に決着を付けよう。

基本的な戦術や使用技能はゴブリン戦と同様。
視覚・聴覚・第六感を駆使してワイバーンの行動を見切り、読み切る。

……十全の状態で飛び回られると厄介だが、その傷ならさっきのゴブリンに羽根が付いたようなものだな。十分に"視える"し、十分に"聞こえる"
だったら――必中を謳える。

仮に近接戦を仕掛けてくるなら狙撃に拘る必要はない。
拳銃やナイフで幾らでも応戦のしようはある。

ある程度のダメージを負わせたらユーベルコードを使用。
銃弾に瑠璃の蝶を宿して狙撃。
後は黙ってても、瑠璃の焔が灼いてくれる。


エドゥアルト・ルーデル
ワイバーンってことはアレでござるな?モンスターをハントするやつ!
拙者ライトボウガンね!!(マークスマンライフルを持ちつつ)

回避できるのは【自分の眼下にいる】敵って事は見えてない敵には無力って事ジャン!
見えないぐらい長距離から羽根を狙って【スナイパー】で叩き落としてやりますぞ
落下地点には当然、【罠使い】で落とし穴でござる!
貴様はもう敵を見下ろすことが出来ないんだ、悔しいだろうが仕方ないんだ

地に落ちた竜なんぞ敵じゃねぇ!反撃できないうちに可能な限り【拳銃弾】、ランチャー等ありったけの弾薬を爪や目にぶち込んで戦闘力を削いでやりますぞ!



 
           ●
 
 真多子は身を運んで行く。夜の闇の中をだ。
 急げ急げ……!
 行くのは地上では無い。森の木の上、枝から枝へ、飛ぶように移動していく。
 夜空を見上げれば、視線の先にいるのはワイバーンだ。
 敵の傷は深く、あと一押しだと、そう感じる。
 だから私ももうひと頑張り……!
 間に合え。速度を上げていく自分の中にある思いはその一語だ。
 擬態した身体を、闇夜の森に浸し、ワイバーンの元へ直行していく。
 自身の位置を修正するために、もう一度ワイバーンを見上げる。
 すると気付いた。
「月が……」
 満月の傾きが随分西に変え、夜が更けていることを知らせる。
 勝負は近いね……。
 真多子は枝を掴みながら思った。
 
           ●
 
 絶叫が響き渡る。周囲を振わせる源はワイバーンだ。
 痛苦と憤怒。疑問と焦燥。それら全てが等しく混ざり、夜の闇に発散される。
 感情の爆発だ。
 荒れ狂う暴風のように、暴れ、何もかもを打撃する。
 足元の木を蹴り飛ばし、地面の岩を羽ばたきで震わせ、周囲の大気を全身で抉った。
 眼窩を断ち割る痛みを怒りの増幅器とし、もはや何も考えず、ただその身を運んで行く。
 方向はどちらでもよい。最も優先すべきは驚異の、猟兵達の排除だ。
 力の無い村は後でいくらでも蹂躙できる。
 そう思い、風を身にまとったその時だ。
 燃え盛る炎が風を食むように、ワイバーンへ向かった。
 
           ●
 
 こういう時ばかりは、先程の爆撃や射撃する武器が欲しくなるな……。
 ルパートは村の西側、森の中ある小高い丘となった箇所にその身を置いていた。
 視線の先、自分と村の間に広がる平原上では、自分の膂力によって先ほど投擲した短剣が、ワイバーンの翼膜のうちの一つに刺さり、その勢いのまま切り裂いたところだ。
 翼に走る痛みにワイバーンが叫びをあげるが、しかし、それだけでは終わらない。
 「身を焦がす熱の味はどうだ?」
 自身の鎧の中を流れる、溶解し、燃える鉛。それを纏わせた短剣の一撃は翼膜を切り裂くだけでなく、焦がし、焼き、その機能を奪っていく。
 『――!』
 ワイバーンの叫びが絶叫へと変わった。狂ったように鳴き叫び、頭を振って限られた視界で敵を探す。
 叫びが木霊するそんな森の中、自分は一つの動きをした。
「見えるか?」
 夜の闇を突き破るように光が生まれた。
 満月の夜。月光が照らす森はそれゆえに影が濃い。だが今は、光も影も、その濃度を一層増加させている。
 森の中、周囲を明るく照らす光源は鎧から漏れる光だ。
 アーメットのスリット、各関節、大剣を伝う鉛。
 放出できる部分のそれら全てを全開にし、送る力を最大として、自身の存在を誇示する。
 そうして出来あがるのは、高熱と発光を伴った小高い丘だ。
 大地や周囲の木を、赤々と、時に青々と照らすその光は不定であり、だからこそ闇夜の森の中でひときわ目立つ。
 一度、円を描くように地面から空へ向け、大剣を回す。闇を炎で出来た円が彩った。
 正面のワイバーンに半身を向け、柄頭を腰に添える。切っ先は自身の斜め後方だ。
「――」
 下段。その位置で構え、敵を迎え撃つ覚悟を示す。
『――!!』
 夜闇を壊す派手な動きに飛竜が気付き、痛む体に鞭打って突進を仕掛けてきた。
 万全の姿ではないとはいえ、その重量と速度はこちらにとって十二分だ。
「――」
 一度、視線を外し、村を見る。しかしそれも一瞬だ。
 腰横、大剣の柄を強く握る。
「行くぞ。オブリビオンよ」
 言葉と共に、光が弾けた。
 火炎だ。大剣を伝う炎と鉛が活性化したのだ。
 多大な熱量の塊となった大剣の柄をしっかりと握り、腕を伸ばした姿勢で、自身の前へ大剣を回していく。高さは一定だ。
 そうしていくと、大剣が視界に入ってきて、切っ先がワイバーンを向いた。
 そこで己は、
「――」
 しかし、回す動作を止めなかった。
 切っ先に引っ張られるように、腕を伸ばし、
「――!」
 回った。
 丘に突き刺した鉄靴の片方を軸に、身を回していく。
 上半身が先行すれば、追いかけるように下半身を運ぶ。
 フォームが完成すれば、大剣が遠心力を得て加速していき、次第に風切り音を奏でる。
 紅と蒼の色が、軌跡を彩った。
 円だ。先ほどとは逆に、地面に対して水平のそれが描かれる。
 彩りを重ねるほど、風切り音は増し、鉄靴によって抉れた大地が盛られていく。
 その動きを繰り返して得るのは、破壊力の先行予約だ。
「――ッ!」
 振り抜くように破壊力を送った。
 紅蒼の輪が夜空を高速で昇っていく。終着点は上空、接近してくるワイバーンだ。
 回旋する大剣はその刃を正しく飛竜の胸に突き刺した。
『――!!』
 身を内側から焼く熱。それに熱せられたような叫びが空へ打ち上げられた。
「少し、お互いに分かりあえたかもしれんな」
 空中で制動をかけられたワイバーンが急ぎ、体勢を立て直し、突撃を再開した。
 向かう先はこちら、丘上だ。乱立する木々を蹴散らしながら進んでくる。
 しかし、
『――!?』
 ワイバーンが透明の壁に“包まれた”
 何も自分の進行を阻害するものが無い空間。そう認識し、全身を速度のままにぶつけていったワイバーンは、疑問と警戒の声を喉から漏らす。
「――かかったね!」
 壁から声が聞こえた。
 真多子だ。
 
           ●
 
 ぬ、おおおおおお……! お、重っ……!
 自分の数倍はある巨体が突っ込んできたのだ。真多子は自分の身体を襲う強烈な衝撃を、自身を伸縮させることで衝撃を逃がす。
 しっかし、間に合って良かったねー……。
 周囲への擬態を解除し、ワイバーンの身体を包みながら思う。
 ゴブリン戦同様、姿を周囲の風景に同調させることで迷彩し、木と木の間に触手を網状に張り巡らせ、ワイバーンを待ち構える準備を整えたのがつい先ほどだ。
 これによって、木々の間に竜を捉える透明の壁が出来あがった。
 気分は鳥モチだねー……。
 しかし、それだけではワイバーンが自分のいる場所を通過するか分からない。
 そのため、仲間との連携は必須だ。ルパートが敵の注意を引くために派手に立ち回り、ワイバーンの経路を誘導したその結果が今だ。
 いやほんと間に合って良かった……!
 間に合わなかったらルパートに突撃コースだ。それを避けられたことに心中で安堵の息をつく。
 しかし、
『――!!』
 目と鼻の先、否、壁として受け止めている。それよりも近い距離で、竜が再び動き出す。
 伸縮した身体で包むこちらを、その速度と重量で突き破ろうと力を送ってくるのだ。
 ぬ、おおおおおお……! お、重っ……!
 吸盤によって自分を支える複数の木が、軋む音を立てた。
 ルパートを含め、他の猟兵達が度重なる攻撃を与えたが、それでも尚、ワイバーンの力は重大だ。
 だが、
「負けないよ……!」
 力技で来る敵はまさしく忍者である自分の領分だ。
 正面から来る強大な力に対し、こちらは、
「――えいっ」
 吸盤を木から離した。
 竜の突き込みに合わせ、身体が後方へ流れていく。
『――!?』
 予想していた反発が無いことに戸惑ったワイバーンだったが、すぐさま意識を切り替えた。
 鼻先にまとわりつく猟兵を噛み千切ろうと、その顎を開いたが、
「おおっと危ない! すいすーい」
 自由になった吸盤を鼻先、額、頭と走らせて、竜の上を行くことで攻撃を避ける。
 首にまで到達すれば後は簡単だ。喉元に触腕をひっかけ、空いた触腕を翼の基部、両脇に通していく。
 そうして出来あがるのは、竜の身体にハーネスのようにかかる自分だ。
「絞っていこ――!」
 柔よく剛を制す。その言葉通りのことを実行していく。
 首を起点に、翼の基部である肩関節を下向きに固めたのだ。
 翼の動きが制限されたことによって、ワイバーンがもがくように身をよじる。
「離さないよっ……!」
 振り落とされないようにしっかりとしがみつきながら、叫ぶ。
 あと少しなのだ。ワイバーンに絡みついている自分にはよく分かる。
 傷だ。ワイバーンの身体の上、幾つもあるそれを触腕で確かめるように触れ、荒い呼吸や滴る血の一滴すらをその身で感じる。
 皆が通してきた攻撃を、再度通すように自分を振り絞り、首に回している触腕を力強く引いた。
『――!?』
 気道と動脈を圧迫されたことで、ワイバーンの叫びが絞られたようなものに変わる。
 動きも、以前までの身体を振り回すような動きとは違い、その場で対空し、足をバタつかせるような動きになる。
 激しい縦揺れの視界の中、ワイバーンの首に懸命にしがみつきながら、叫ぶ。
「――お願い!」
 すると、銃弾がワイバーンの東から襲った。
 ライフルによる狙撃だ。
 
           ●
 
 ……もう勝負は見えた頃か。
 ワイバーンから東、開拓村の教会の上。ゴブリン戦のころから変わらず華乃音はそこにいた。
 流星を模した狙撃銃、to be alone.を構え、尖塔の上から強化された視力で見るのは西の空、そこに浮かぶワイバーンの状態だ。
 背中を割られ、翼を浸され、瞳を抉られ、顔を半ば断ち割られ、各部に貫通する穴は複数だ。
 満身創痍。その形容が相応しい存在が、しかしいまだその身体を拘束されながらも空を飛び、その身からは殺気を撒き散らしている。
 まあ、手負いの獣は何をするか分からないものだ……。
 ならば、
「――最後の抵抗に出られる前に決着を付けよう」
 言葉と同時、先ほど撃った、挨拶代わりの銃弾に身じろぎした竜へ、追加で銃弾を叩きこむ。
『――!!』
 場所は様々だ、真多子がしがみついている場所は避け、頭や胴体はもちろんのこと、
「――傷跡だ」
 これまでの戦いによって生じた傷跡に弾丸を叩きこんでいく。
 鱗の上を走る擦過痕をなぞるように弾丸を走らせれば、ひりつく様な痛みで、竜が身を仰け反る。
「――胸」
 そうして身体を仰け反れば、胸部には焦げた鱗の跡がある。すでに刺し貫かれたそこを再度貫通させる。
 そして、
「――眼」
 身体の中心を貫けば、身体の動作は止まる。穿たれた眼窩をさらに穿ち、逆側から弾丸が吐き出されていった。
『――――!!』
 痛みと全ての視界を奪われたことによる恐怖の絶叫が、離れたここまで聞こえてきた。
 その場を旋回するような暴れ方に変わり、全方位を警戒するような、かと思えば見当違いの方向を威嚇する。
 視界を失ったゆえの無秩序な動きだ。
「仮にも竜なら、みっともなく暴れるな……」
 狂った動きを抑えるために、「無垢なる涙」から、衝撃力が増した弾丸が充填されたマガジンを現出させ、ライフルに差し込む。
 次に狙うのは、
「――身体の端」
 宣言と同時、旋回する竜の身体を見切り、弾丸をワイバーンの頭部、その角先に衝突させていく。
『――!』
 頭の先端、そこを揺らされワイバーンが目を回す。
 その隙に、旋回する身体を逆回しするように身体の各末端へ当てていく。
「――翼端」
 目を回し、バランスを取ろうと振り回した翼の先端を、下から上に跳ねあげるように、弾丸で打ち上げる。
 一発で動かなければ連射だ。度重なる衝撃によって、竜の身体が揺れていく。
「――足爪」
 まるで地面を掴むように振り乱れていた足は、斜め打ちの角度で射撃され、垂直の重心を乱れさせる。
「――膝」
 生物のバランスの要である膝は前後や縦方向の衝撃や変位には強いが、横からの衝撃に弱い。
 膝横、その正中央を狙えば弾丸は一発で済んだ。
「――尻尾の先端」
 狂った重心によって身動きが取れなくなり、壊れた振り子のように振り回される尻尾は、タイミングに合わせ数え切れぬほどの弾丸を叩きつけていく。
『――――!』
 翼を拘束され、身体の各所を衝撃で撃ち止められ、思うように身を動かせないワイバーンが苛立ちを吹き上がらさせる。
「直情的だな。分かりやすい。――能力を使わなくても狙えるぞ」
 狙った。
 ワイバーンの鼻先が消し飛び、痛みと衝撃で、
「――頭を跳ね上げる」
 だから、上から蓋をするように頭部の角、その先端を打つ。
 そうすれば、
「――バランスを取るため、翼を打つ」
 撃った。
 目を回し、その場にとどまるため、羽ばたく動きは、しかし完遂されない。
 ああ……。
 繰り返しだ。先ほどの動きがまさしく逆再生かのように繰り返されていく。
 そのことにワイバーンも気付き、動きがさらに激しく、暴れ回るように荒れるが。
「見えている」
 いくら激しくなろうが、ワイバーンの身体は変わらない。
 各所を撃って反応する部分は一緒なのだ。例え反応が素早く、力強くなろうと、その部分を撃てば必ず、
「筋肉と骨が動く」
 例えば、足爪を撃てば、足先が振り回される。それは足全体に波及し、しかし腰はバランスを取るために制動をかけ、その直後、引き寄せられるように膝の筋肉や骨が引きつる。
 それらを事前に読み取れば、先んじての反応が出来る。
 しかし、これは普通では分かっていても反応できない。
 全長数メートルのワイバーンといえど、二千メートル以上離れた距離にいる標的だ。
 その標的の各部を撃てばどう反応するかのパターン処理や、筋肉の動きを鱗の上から読み取るのは並大抵のことではない。
「しかし、見えて、反応できれば、それは通常のことになる」
 強化された知覚と演算処理によって、相手の動きを読み取り、射撃を続けていく。
 撃てば、響く。
 その思いのまま、動作を繰り返すが、
「――しかし、変化が生まれるな」
 視界の中新たな光が生まれる。
 自分の左手側、南西の森から銃弾が飛来したのだ。
 
           ●
 
 村を包む森、その南西側の木の上では稲妻のような音と共に、木の葉が不自然に揺れていた。
 木の葉は風とは無関係に揺れ、葉の間から、先端を明滅させる金属の長物を突きだしている。
「ワイバーンとか初めて見たでござるよ拙者……!」
 ギリースーツを着込み、マークスマンライフルを射撃しているエドゥワルトだ。
 眼前、曳光弾が向かう先にワイバーンがいる。それを見ながら己は思う。
 拙者、モンスターをハントするのは慣れてるでござる……!
 ゲームが好きな自分だ。飛竜戦はモンスターハントゲームで熟知している。
 大空を駆ける飛竜の攻略法はいくつかある。
 剣で斬るか、槍で突くか、鈍器で殴るか、
 もしくは、
「飛び道具にござるよ! ――というわけで、拙者ライトボウガ――ン!!」
 7.62mmが火を噴いた。
 梢に座り、幹に持たれた背中と、枝の又を支点にして放たれる光は複数だ。
 闇を切り裂く曳光弾は全てワイバーンに吸い込まれ、
『――!』
 その貫通力を発揮した。
「ふぅーむ……。やっぱり予想した通りでござるなあ……」
 ここに来る前に、派遣兵の兵長から聞いたワイバーンの特徴を思い出す。
 曰く、眼下からの攻撃を回避する。
 まるで、予知しているかのような動作でそれらを回避するというのだ。
 つまり、
「つまり、視界の外から攻撃すればいいってことジャン! 拙者クレバー!!」
 今、ワイバーンは村からの狙撃によって残った眼も穿たれ、完全な盲目であるが、自分がいる場所もまた、いまだに“眼下”であることには違いない。
 しかし、距離を取り、視角から外れた場所からによる狙撃を再開する。
 そうして生じた結果は、ワイバーンが回避を行わず、その身に刺さる7.62mm弾に身もだえする姿だ。
 もちろん、回避不能なのは他の猟兵達の協力も一因でござるな……。
 ルパートが羽を傷つけ、真多子がその身で捕縛し、華乃音が正確無比な弾丸で硬直させているのだ。
 こちらとしては、気兼ねなく十全に撃てる状態であり、そのうえこの世界にきて、初めてのワイバーン戦だ。
「気分もアガるってもんでござるよなぁ!」
 ワイバーン相手に7.62mmがどれほど通用するか少し気になっていたが、スコープの先、抉られた鱗を見て己の杞憂を知る。
 やはりワイバーンは格が低いんで御座ろうか……。
 それとも産地か、それに伴う種族の差か。
 リンドヴルムやドラゴンといった既知の存在について夢想していると、眼前、竜の翼が跳ね上がった。
「――」
 すかさずライフルを向け、引き金を絞る。
 長年の戦場で培った経験は、無意識で戦場の状況を読み取って身体を適切に動かす。
「ていうか? まあ、そもそも?」
 トリガーを引く回数は、一度では無い。断続的だが、高速で何度も引く。
 指切りの射撃。攻撃の精度と速度を両立した攻撃が飛来し、弾着する箇所は、
「――その翼自体が無くなったら、“眼下”の範囲も滅法減るでござるなあ! ――拙者ジーニアス!!」
 敵性語の叫びと共に、鋼の雨が翼膜を切り裂いていった。
『――!』
 他の猟兵達によって、身体の各所を固められたワイバーンは、ろくに身動きができない。
 気分は縁日の型抜きにござるな……!
 スコープの先、鱗と骨ばった筋で区分けされた翼膜がある。
 それらの区分けの淵をライフルの先で切り裂いていくイメージで、引き金を絞る。
 絞った。
 スコープの視界の中、右翼側の翼膜がはがれ、地に落ちていく。
 あとは繰り返しだ。
 スコープを覗き、着弾点をイメージし、引き金を絞る。
 数百メートル先のワイバーンを相手に高速でこれを繰り返していけば、出来あがるのは、
「いやーん、お洒落さんにござるなあ。丸坊主にされた気分はどうでござるか? どんな気持ち?」
 歯を見せて笑う先、そこに全ての翼膜を失ったワイバーンがいる。
『――!!』
 飛竜が墜ちていく。
「――明石殿!」
 眼下の大地、そこには自分の策がある。
 声を張り上げ、敵に組みついた仲間に危険を知らせる。
           ●
 
 落とし穴……!
 落下し、周囲を風切り音に包まれながら、真多子は遠く離れた木の上からエドゥワルトの声が聞く。
 眼下の地面に仲間が施した策を思い、巻き込まれないように、触腕のほとんどを解放し、離脱のための予備動作を行っていく。
 しかし一部の触腕は未だ、ワイバーンの身体を探り、
「――あった!」
 それを引き抜いたことを確認すると、手から放り投げ、ワイバーンの身体を蹴り飛ばして一気に離脱した。
 直後、ワイバーンが地面に落下し、その身を大地に飲み込まれるように沈めていった。
 
           ●
 
 夜。開拓村の西、森との間にある平原を照らすが存在ある。
 月だ。月は静かな、しかし全力の光で平原を照らしていく。
 そんな月に円が重なった。
 円は、下からはね上げられた飛翔体で、紅と蒼の色を持っていた。
 火炎と溶解した鉛が照らす下、大地では複数の動きが生まれている。
 大地に飲み込まれたように身を沈めるワイバーンに、攻撃が集中しているのだ。
 森の奥、樹上から大小様々な鋼の弾丸が降り注ぎ、その鱗を抉っていく。
 竜が飲み込まれた大地のそばでは、触腕を高速で伸縮させ、抉られた鱗を剥がすように連打していく。
 そのころには、空中で身を回していた大剣がその所有者の手に返り、鱗が剥がれた竜の身体へ、その大剣を力の限り振り下ろした。
 それらすべてが実行されたタイミングで、開拓村、その教会の尖塔上で瑠璃色の光が生まれた。
「――」
 瑠璃の光を確認した三人は飛竜への攻撃を取り止め、各々が準備の動きに入った。
 樹上で狙撃していた兵士は、携行ミサイルランチャーを構え、そのセーフティや照準を完了させていく。
 竜を呑み込んだ大地の側では、触腕で身を宙に跳ばした少女が、その触手の全てを振りかぶるように後ろへ送った。
 竜の上で剣を突き刺していた騎士は、沈んだ大地から退避すると、一層燃え盛る大剣を地面に突き刺し、準備とした。
 すると、それが来た。瑠璃色の弾丸が、尖塔の上から発射されたのだ。
 その瞬間、全ての攻撃が再び集中した。
 樹上からはミサイルが、空中からは高圧高速の手裏剣が、大地からは燃え盛る鉛の波が、教会からは瑠璃色の弾丸が。
 それらすべてが、一斉の動きでワイバーンの身体へ到達した。
 爆発と斬撃と劫火が同時に起こり、そして、それらすべてを飛来した弾丸が突き抜けていく。
 竜の身体を貫いた弾丸は、その逆側から光となってその身を現す。
 瑠璃色の光は、蝶の姿で、その数は無数だ。
 蝶の群れは、爆発も斬撃も劫火も、それらすべてが影響しないかのように羽ばたき、竜の身体を包み、
『――――』
 散った。
 否、散ったのではない。星空のように散る光の正体は、炎だ。
 瑠璃の霧が、飛竜の身体を灼いたのだ。
 爆発と斬撃と劫火と灼熱が混ざり、合一していく。
 そして、それらが全て等しく混ざりあい、その威力を夜空に打ち上げ、発揮した後に残るのは、破壊の後だ。
 大地は、爆発によって抉れ、斬撃でその断層を深め、二種の高熱で結晶化し、中央に巨大な白色の塊を遺していた。
 白の塊は、ワイバーンの骨だ。
 猟兵達の手によって、ここに、ワイバーンが討伐されたのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年01月30日


挿絵イラスト