渇望のアスクラピウス
#UDCアース
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渇望する。渇望する。
痛みに軋む身体をどれほど動かしてみても、もうここから動けない。
此処から外へは、もう二度と出られない。
どうして。どうして。
痛い。痛い。どうにかしてほしい。誰か。誰か。誰か。
けれど、何度呼んでもそれは鳴らない。いくら叫んでも扉は開かない。
泣いて叫んで、もう声が出なくなって、それでもひたすらに呼び続けているのに。
痛い。苦しい。辛い。もうこんな場所は嫌だ。もうこんな日々は嫌だ。もうこんな生は嫌だ。
渇望する。渇望する。
生を。安楽を。安寧を。安らぎを。それが得られぬのなら、もういっそ――。
渇望する。渇望する。
その帰還を。その声を。その温度を。再び。
為ればこそ。故にこそ。私は――。
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「……渇望。渇く程に望むもの。君たちにはあるのかな、そんなものが」
答えを望むわけでもないけれど。
独白めいた問いを零して、ディフ・クライン(灰色の雪・f05200)は深く澄んだ藍の瞳を猟兵たちに向けた。
「集まってくれてありがとう。UDCアースで邪神復活の予兆が見えた。それを阻止してもらいたい、のだけど……」
目線を下げて言い淀む。その様子を不可思議に見る猟兵たちに、ディフは申し訳なさげにゆるゆると首を横に振った。
「予知から得られた情報が少ないんだ。わかっているのは、予兆が見える大きな町のこと。その街では行方不明者が徐々に増えていること。それから、どうやら都市伝説が流行っているらしいこと。この3点だ」
その街は、以前より不審な失踪を遂げる人間がたびたび居た。失踪する人物に共通点は少なく、また時期もバラバラであるとディフは告げる。だが、その失踪者がここ最近、徐々に増加傾向にあるのだという。
「時を同じくして、都市伝説……というよりは怪談かな。それが、密やかに囁かれはじめたようなんだ。恐らく無関係じゃないと思う。皆にはまず、それを足掛かりにして調査を進めてもらいたい」
SNSを使ったり、失踪事件ということでマスコミなどに取材したりするのもよいだろう。被害者の最後の足取りの場所を調べてみるのも、何か収穫があるかもしれない。何をどう調査するかは、猟兵たちに信によって任せられている。
「それからもうひとつ。邪神について、なんだけど」
藍の瞳が憂いを帯びる。それは猟兵たちひとりひとりに向けられて。
「ぼんやりとしかわからなかったけれど、恐らく死霊を使う相手だと思う。うまく対峙出来たなら、気を付けてほしい。特に――」
特に、そう。
例えば、過去に大切な人を喪ったり。記憶に大きな傷遺すような死を、目の当たりにした人は。
邪神であれば、そこを突かぬことはないだろうから。大きく心を乱せば、それだけ危険度も増すだろう。心構えだけは、確りと。
「こんな状況だけど、貴方たちならきっと邪神の復活を阻止し、無事に帰ってきてくれると信じているよ」
雪花のグリモアが淡く光を放ち始める。
いってらっしゃい。気をつけて。
おまじないのようにいつもの言葉をかけて、ディフは猟兵たちを送り出すのだった。
花雪海
御覧下さりありがとうございます。花雪 海で御座います。
3作目は、UDCアースでの邪神復活を阻止して頂きます。
今回のシナリオはホラー要素が御座います。ご注意下さい。
●第一章「都市伝説を追え」
少ない手がかりを頼りに、まずは都市伝説・怪談など、状況を捜査して頂きます。
※第1章・第2章のフラグメントのPOW・SPD・WIZは一例です。
●第二章
引き続き探索パートとなります。
ホラー描写が御座います。ホラーに対しどのような反応を見せるのかなど、教えて下されば参考にして反映致します。
●第三章
死霊使いのボスとの戦いとなります。
この章では、「過去に大切な人を喪っている」「守り切れずに亡くなった人」など、人生に於いて大きな影響を与えた死者がいる場合には、その死者の姿の死霊が召喚されます。
ご指定があれば、プレイングに書き添えて頂ければ描写致します。
●プレイングに関しまして
プレイングの受付開始や終了日時などのお知らせは、逐次マスターページとお知らせ用ツイッターにてお知らせ致します。
大変お手数ですが、ご参加の際は一度そちらをご確認下さるようお願い致します。
長々と失礼いたしました。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 冒険
『都市伝説を追え』
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POW : 事件現場を調べる
SPD : SNSで情報を収集する
WIZ : マスコミに聞き込みを行う
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
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転送された猟兵たちは、舞台となる大きな街のある公園に降り立った。「山に抱かれた緑の街」という看板が、役所と思しき建物に立てかけられている。役所の周囲にはオフィス街や繁華街が立ち並び、閑静な住宅街を経て、街の一方が山へと通じている。
往来を行き交う人々に不安の様子はなく、至って普通の日常を送っているように見えた。けれど着実に、「異常」は「日常」に侵食している。猟兵でなければ気づかぬほど微かに、少しずつ。それを思えば、「異常」と薄皮一枚隔てた程度の「日常」に、どこか薄ら寒さを感じもしようか。
互いに知りえた情報は逐次共有することにして、猟兵たちは各々の方法で調査を開始する。手掛かりは「失踪者」と「都市伝説」の二つ。
遠くで、鴉の群れが騒ぎ立てながら飛び去った。
水貝・雁之助
うん、また現れたみたいだし・・・今度はきっちり決着を付けないと、ね・・・
でないと、あの子の父親として・・・情けないにも程がある師、ね
先ず町の地図を確保
街の中を探索し情報収集
行方不明になった人がどの辺りでどの時間帯に居なくなったか調べる
人に聞く傍ら『動物の友』を使用し『動物使い』の技能を上昇
猫や鴉等の動物が多い街という『地形を利用』し『動物使い』で周辺の猫や鴉を餌を報酬に呼び『動物会話』で情報収集を行う
その際、怪しい人間や動く骨、浚われた人等を見なかったか等の情報を主に集める
集めた情報は地図に記入
まとめる事で何処で多く起きているか、人が多く監禁されうる広さの建物は近くにないかを考える材料にする
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初夏の陽射しは思いの外熱を孕んで、街に照り付けていた。
「今日はずいぶん暑いね」
友人とそう語り合って、若者が通り過ぎていく。
確かに暑いと思いながら、太陽に似た色を持つシャーマンズゴースト、水貝・雁之助(おにぎり大将放浪記・f06042)は、一度空を見上げた。彼の手には、この街の地図と役所で貰った観光用パンフレット。地図を頼りに繁華街へと足を向け、雁之助はまず人相手に話を聞くことにした。
だが、早速手近な人に行方不明者について尋ねてみるも、返ってくるのは「最近増えてるらしいねぇ」「そういうのは警察に聞いた方が詳しいんじゃない?」という、何処か無頓着な返答ばかり。唯一好意的に話を聞いてくれた若者も、「最近家に帰ってないっていう先輩はいるけど、遊び人だからなぁ」という曖昧な答えを返すのみ。
表通りでの情報収集を一旦諦め、雁之助は次に繁華街の裏路地へと入っていく。ユーベルコード『動物の友』を使用し、動物使いとしての技能を著しく強化した雁之助は、誰もいないその路地に向かい「おーい」と声をかけた。
そこは一見して、何もないし誰もいない。だが、裏路地とは飲食店の残飯を狙う野良猫や鴉の縄張りでもある。動物を友と慕う彼の声に応えるように、屋根の上から、路地の細い隙間から、ポリバケツの裏から。縄張りへ踏み入る侵入者への警戒心を解いて、野良猫や鴉が姿を現した。
餌を報酬に、今度は彼らに話を聞いてみる。主に、怪しい人間や動く骨、攫われた人等を見なかったか、といった内容だが……
『見てないにゃー』
『骨は動かないぞ』
『人間より、ちょっと前までは犬や猫がいなくなる方が多かったな。最近は落ち着いたみたいだけどよ』
「……そうか。ありがとう」
報酬の餌を猫や鴉たちに与えながら、雁之助はどこか固い表情をしていた。思えば、邪神のことを聞いた時から、胸のあたりをかきむしるような苦い思いと、妙に確信めいた予感があった。
胸騒ぎが雁之助の心の中で形を得て叫んでいるのだ、今度こそ、きっちりと――と。
「でないと、あの子の父親として……情けないにも程があるし、ね」
ぽつりと呟き、雁之助は得られた情報を地図に書き込んでいく。曖昧な情報でも、まずは一歩。胸騒ぎの正体を掴むため、雁之助は調査を再開した。
成功
🔵🔵🔴
末野木・松路
穏やかじゃないな、どうにも
大切な、人か…
ああいや、今は捜査に集中しよう
人と対話するのはあまり進まないが…
ネットにおける情報収集なら俺の得意分野だ
都市伝説を取り扱うサイト、まとめサイト…
こういったものには嘘も含まれるだろう
出来れば実際にアカウントを作って、その手に詳しくて信用できそうな相手に話を持ちかけてみるか
人物に共通点が少ないとなると、街の問題が大きいのか…?
失踪が相次ぐ場所の絞り込みを徹底し
情報を資料にまとめよう
後程同じ捜査を進めている猟兵にも共有できるように
…巧く活用できるといいが
▽アドリブ歓迎/他猟兵には敬語を
カトリーヌ・モルトゥマール
失踪者に都市伝説、行きつく先が邪神となると……嫌な予感しかしないわね。
・行動方針-POW
ヒーローである以上マスコミやSNSにむやみに姿を晒すわけにはいかないし、ひとまずは事件のあった場所の調査ね。『目立たない』様にしながら足で稼いでいくわ。私のコスチューム、目立ちそうだものね。
あんまり地道なことをする柄じゃないんだけど、オブリビオンが関わってるなら話は別。何が何でも見つけ出して地獄に送り返して二度と甦れなくしてあげるわ。
・その他
アドリブや連携歓迎です。
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「大切な、人か……」
一方、末野木・松路(Silence・f16921)は公園の隅に人目の死角となる場所を見出し、そこでスマホを操作していた。スマホに映る画面は暗く、恐怖感を煽るような字体とデザインが延々と続いている。
ネットにおける情報収集なら自分の得意分野だと、松路は都市伝説に関するサイトに目を走らせていた。尤もらしい体験談や、それっぽい写真を後目に、松路はこの町の周辺での都市伝説に検索条件を絞り込んでいく。書き込みに目を通していると、松路のスマホがメールの新着を知らせた。
「おっ、来ましたか」
メールは、とある都市伝説サイトを扱う管理人のものからだった。面白おかしく「恐怖スポットに行ってみた」などという肝試しの記事を扱うサイトが多い中で、この管理人は地方の歴史的背景や地理などから、都市伝説を考察しているサイトの管理人だ。独りよがりではない文章に信用できる可能性を感じ、松路がコンタクトを取ったのだ。素早くメールの文面に目を滑らせていく。
『ご質問の件ですが、その街で最近噂になっている都市伝説というと、『廃病院のナースコール』かと思います。一か月前くらいから、若者を中心に密かに流行っているようです』
「『廃病院のナースコール』?……一か月くらい前からの流行、ですか」
「あるわよ、その時期の『捜索願い』の張り紙」
松路の傍の木の陰から、女性の声。半面の髑髏面。黒い隠密服に赤のロングマフラーが特徴的なその女性、カトリーヌ・モルトゥマール(ゲヘナ・f16761)は、自身のスマホに収めた写真を確認しながら思案する。
彼女のスマホには、失踪者の情報を求める警察のポスターや、家族の手書きであろう張り紙が幾枚か写真に収められていた。それはカトリーヌが、大きなこの街を歩き、地道に足で集めた情報だ。ヒーローである以上SNSやマスコミに無暗に姿を晒すわけにはいかないと、目立たぬよう細心の注意を払いながらの調査ではあったが、幸い大きな支障もなく失踪者の手掛かり集めに成功している。
「二、三週間前から帰っていない、行方が知れないという張り紙は、二、三枚あるわ。これを被害者とみて、調査を進めてみる?」
「そうですね……その写真、共有できますか?」
「もちろんよ。他の張り紙の写真も、一応全部共有しておくわね」
人との対話が苦手なのか、微かに震える声の松路に促され、出発の際に作っておいた共有場所にカトリーヌが写真をアップロードしていく。
「穏やかじゃないな、どうにも」
「失踪者に都市伝説、行きつく先が邪神となると……嫌な予感しかしないわね」
松路の独白に応えるように、カトリーヌが苦々しく呟いた。本来ならば、カトリーヌは地道なことをする柄ではない。だが、オブリビオンが関わっているのなら話は別だ。彼女のヒーローとしての矜持の為。己の正義の為、何が何でも地獄に送り返し、二度と甦られなくすると決意を固めている。
「必ず見つけてやるわ。私はこの張り紙の失踪者を調べてくる。あなたはその『廃病院のナースコール』っていう都市伝説、もう少し詳しく調べてくれる?」
「わかりました。お気をつけて」
そうしてカトリーヌはもう一度街へ。松路はスマホに指を躍らせた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アルトリウス・セレスタイト
情報は纏めておくべきだが、まず集めることからだな
界離で全知の原理の端末召喚。淡青色の光の、二重螺旋の針金細工
失踪者の情報を走査し、最後に訪れた場を把握。直に赴く
それぞれ違う場なら順次確認
街中では針金細工はポケットにでも
UDCアースにおける常識外の事象を自身の視覚で捉えるよう調整し現地を確認
異常があれば更に干渉の精度を上げてそれの正体を探る
異常が見受けられなければ、失踪者の最後の状況に搾って走査し、何が起きたか探る
●
情報はまず集めることから。
仲間から共有された失踪者の情報を元に、アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)はある居酒屋の前に立っていた。情報によれば、三週間前、その若者は「友人同士で飲んでくる」と言い、そこから消息を絶ったらしい。
ユーベルコード「界離」によって呼び出した二重螺旋の針金細工は、淡い青の光を放ちながら、くるくると回っている。その針金細工は、アルトリウスだけが扱える原理の端末だった。
UDCアースにおける『常識外の事象』を、アルトリウス自身の視覚で捉えられるよう端末を調整し、まずは居酒屋周辺における『異常』を視る。だが―――
「異常なし、か。ならば、失踪者の最後の状況はどうだ」
端末を調整しなおし、今度は失踪した若者の最後の状況を『視』た。
過去を覗くアルトリウスの『目』に視えたのは、張り紙にあった写真と同じ人物が、数人の友人と楽しく酒を飲みかわす場面だった。素早く他の別の捜索願と照らし合わせると、若者の友人の一人にも捜索願が出されていることが判明する。
だが飲んでいる様子自体にも、飲み物・食べ物にも『異常』は見当たらない。やがて彼らは何事かの話で盛り上がった後、居酒屋を出た。何やら怯えた様子の一人をからかい、ふざけ合いながら、住宅街の方へ歩いていく。だが彼らの周囲には、アルトリウスの『目』に引っ掛かるような『異常』は、やはり見受けられない。
不可解さにアルトリウスの形の良い眉が顰められる。彼らの背を追い、視線を住宅街の方に向けた時。
建物と建物の隙間から、アルトリウスは、それを見た。
「……なんだ、あれは」
住宅街の更に奥。街の背にある山の一か所に、一際禍々しいオーラが立ち昇っていた。
繁華街からでは、そこに何があるのかまでは見えない。だがそこから、緩やかに『異常』が街へと伸びているのが『視』える。
何かあるとしたならば、そこ。アルトリウスはそれを確信した。
成功
🔵🔵🔴
榛・琴莉
失踪事件、都市伝説、死霊使い…
「不穏なワードだらけですね…これだから邪神絡みは」
スマホを使い、インターネットで【情報収集】。
検索ワードは『失踪事件』『都市伝説』『怪談』…街の名前も合わせれば範囲を絞り込めるでしょうか。
SNSは学生のアカウントを集中的に確認。
若者による噂の拡散力はかなりのものですし、フォローしている中にも学生がいるかもしれません。
そこで充分に集まらなければ、マスコミや警察のデータベースにお邪魔してみましょう。
「くれぐれも、痕跡など残さないように」
どこか人気の無い路地などでErnestに【ハッキング】してもらいます。
街中でガスマスクは目立ちますし、職質とかされたら面倒ですしね。
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失踪事件。都市伝説。おまけに死霊使い。
「不穏なワードだらけですね…これだから邪神絡みは」
人目に付きにくい路地裏の一角で、榛・琴莉(ブライニクル・f01205)は独り言ちていた。ガスマスクをした彼女の黒い瞳は、スマホに表示されたSNSを素早くチェックしている。
検索ワードに『失踪事件』『都市伝説』『怪談』、それにこの街の名前を合わせて、範囲と発言を絞り込めば、街の怪談について話している学生と思しきアカウント発見し、琴莉はその子を足掛かりに、学生のアカウントを集中的に確認していった。
「若者による噂の拡散力はかなりのものですし……おっと、これでしょうか」
琴莉が見つけたのは、『兄が何日も帰ってこない。失踪でもしたのかな…』という書き込み。コメントに対するレスポンスの流れを追う。
『あんたの兄って、いつからいないの?』
『二週間前くらい。友達と肝試しに行くっていってそのまま……その友達も帰ってないんだって』
『肝試しってどこに?』
『ナースコールの怪談あるじゃん!あそこっぽい』
『あー、山の廃病院かー。よく行ったね、あそこ前からイワクツキじゃん。事件に巻き込まれてたりして』
琴莉の白い指が、『山の廃病院』の単語を指して止まる。先程「山の方に何か異常がある」との情報が共有されたが、もしかしたらそれのことを指すのかもしれない。ただ、前から曰く付き、という言葉が、少し琴莉の心に引っ掛かった。
微かな違和感を抱えながら、引き続き学生のアカウントを中心に調べを進め、琴莉は怪談の内容を得ることに成功する。
続いて戦闘補助用AI『Ernest』を使い、警察のデータベースにハッキングを試みる。捜査資料。捜索状況。失踪者リスト。それらを洗い出す。すると、家出人扱いのものまで含めると、今月だけで六人が失踪していることが判明した。だが、失踪者リストはそれ以上を語っている。
「…失踪者の多い街ですね。昔から度々失踪者が出てるじゃないですか…」
普通一つの街で、こんなにも失踪者が出るものだろうか?そう疑問に思う程に、リストに並んだ名前の数が異様に多かった。
「意外と最近だけの事件じゃないかもしれませんね、これは」
ハッキングを切り上げ、琴莉は手に入れた情報を共有する。
『昔から失踪者の多い街』『昔からイワクツキの廃病院』。
心に刺さる引っ掛かりに眉を顰めつつ、琴莉は仲間と合流する為に路地裏を出た。
成功
🔵🔵🔴
●「廃病院のナースコール」
それは、とある廃病院にまつわる都市伝説。
以前はどこにでもある普通の病院だった。けれどある日、突然院長が変わったことで、病院は徐々におかしくなっていった。
やがて経営悪化により廃業し、廃墟だけが残されたその病院に、ある噂が立った。
夜、その病院にいくと声がどこからともなく悲痛な声が聞こえてくるという。
「ならない。ならない。きてくれない。押しても押しても、ならない。どうして。どうして」
その声を聞いたなら、もう後戻りはできない。
ナースセンターで、ナースコールの電源をいれるまでは。
けれど気を付けて。ヌシが怒り出す前に電源を入れられなければ。
死ぬまで。
出られないよ。
カレリア・リュエシェ
世界を渡ることには慣れてきたが、世情や常識、地理に疎いことには変わりない。
無闇に歩き回るより、情報を持っている者を梯子して話を聞くのが良いだろう。
記者は高い情報収集力や勘を有している。
UDC組織を伝手にして話を聞けないだろうか。
大衆向けの怪異、いや怪奇か?
そういった誌面に記事を書く記者なら、実際の記事にはしていなくとも題材として調べている可能性がある。
一般的な視点では解らずとも、彼らから見れば、私たち猟兵から見れば共通点があるかもしれない。
しかし、どうにも落ち着かない街だ。
道行く楽しげな人々や、道ばたで話す者たちに酷い違和感を覚える。
早くしなければと気が逸って仕方ない。冷静にならなければな。
●
猟兵として世界を渡ることには慣れてきたが、世情や常識、地理に疎いことは今も変わりない。無闇に歩き回るよりはと、カレリア・リュエシェ(騎士演者・f16364)はまず情報収集能力に長ける記者に話を聞くことにした。現地のUDC組織の人間に接触すると、組織とパイプが深い記者を紹介してくれた。
カレリアの質問に、記者は神妙な面持ちで話し始める。
「例の怪談の発祥はあるSNS。この街のコミュニティに突然現れたそいつは、怪談に興味はないかって、スレをたてたのさ」
『怪談に興味はないか。度胸を試したいやつはいないか』
語り始めはそんな言葉だった。そうして件の怪談を語り始め、そして最後に、
「お前の度胸を試してみろ」
そう言い残し、病院の名前を告げて、そのアカウントは消えた。
「その後、本当に度胸試しに向かった人たちが居たのですね」
記者は頷く。探索に向かう様子は動画でSNSに中継された。病院に到着した彼らは、そこで奇妙なことを言い始める。
『明るいぞ。電気がまだ通ってるのか?』『玄関が開いてる』『すげぇ寒い』
だが、配信されていた画面には懐中電灯の頼りない明かりしか見えない。そして、ナースコールの電源をいれるという声を最後に、中継はブツリと切れ、二度と再開されることはなかった。
怪談は瞬く間に拡散され、同じように度胸試しに行く者が相次いだ。けれど、その誰もが失踪を遂げた。その後警察がいくら調べてもその病院には誰もおらず、扉も開いていなければ電気などとっくに通っていなかった。
「あの廃病院はもともと、十年ちょい前に邪教の拠点でな。組織と一度戦闘になったところなんだ。もしかして、まだ何かあるんだろか」
「……なんだって?」
記者の言葉に、カレリアの眉が跳ね上がった。
苦々しい顔を浮かべ、カレリアは先を急ぐ。カレリアにとってこの街は、どうにも落ち着かない。これほどの失踪事件が起きているというのに、街はいつも通りの『日常』を謳歌している。道行く楽し気な人々。道端で噂話に興じる人々に、カレリアはひどい違和感を覚えていた。
早くしなければと気が逸る。だが、冷静さを失った騎士がどうなるか、彼の物語にもあったではないか。
「…冷静にならなければな」
カレリアはそう自らに強く言い聞かせ、道を急いだ。
成功
🔵🔵🔴
篝・乙丸
情報収集ですか……。
そのくらいならそれがしにも出来ましょう。
まずは人の多い場所にて噂話などが無いかの確認を致します。
些細な話も聞き逃さぬように目を閉じて集中集中。
興味深い話が聞こえてきましたらそちらに集中致します。
あまり話が聞こえてこなくなったら別の場所に移動を。
今度は人の少ない場所へ行きましょうぞ。
あまりにも人の多い場所は苦手ですから……できるならもう少し遠くに。
何か手がかりがあるかもしれませんからね。
木陰、岩陰、そんな些細な場所にも手がかりはあると学びました。
都市伝説もこういう場所ならではだと思いますし……何か役に立てればそれがしも幸せです。
霑国・永一
渇望ねぇ。金目のものだったらいつも欲してるけど。欲しくなったら盗む、解決だ。
さて、UDCアースで怪しい都市伝説と言えば邪教の連中が関わってるに決まってる。なんだかんだ、連中のアプローチは種類が豊富だなぁ。
ディフが言ってた邪神の懸念は俺は大丈夫そうか。
現場に向かいがてら、歩きつつSNSで情報も探してみようかなぁ。
「(街の名前) 失踪」とでもワード検索で軽くジャブだ。
失踪者が鍵なしでSNS垢持ってたならいくらか情報ありそうだけど。さて共通点とかあるかな?
最後に居たと思われる場所周辺に到着したら軽く探してみようか。
呪具でもなんでも怪しいものあれば拾うし、痕跡あれば撮って他の猟兵と共有するかな
●
昼間の駅前には、音が溢れている。その中から雑音を選り分け、声だけを取り上げる。気配を殺して目を閉じれば、余計な邪魔は入らずに声に集中できる。
篝・乙丸(彼方と此方・f18213)は人気の多い場所を選び、人々の声に耳を傾けた。
溢れるいくつもの声から、それと思われるキーワードを聞き取り耳を聳てる。
やがて必要な情報を得た後、あまりに人が多い場所は彼自身も苦手なことも相まって、今度は人気の少ない住宅街の方に足を向ける。主婦同士の井戸端会議。子どもの噂話。街の雑踏では聞こえないものを聞くため、乙丸は忍ぶ。
同じころ霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)は、住宅街を抜けるように歩いていた。
「渇望ねぇ。金目のものだったらいつも欲してるけど。欲しくなったら盗む、解決だ」
くつりと喉を鳴らす。欲しいと思えば、盗んできた。手に入れる方法は実にシンプルだ。
喉が渇けば水を欲するような。そんな渇望は、自ら解決する手段を永一は既に得ている。
出発前にグリモア猟兵が言っていた邪神の懸念も、永一にとっては大きな問題にはならないだろうと予測もしている。
歩きながらリストにあった失踪者のSNSを検索し、やはり肝試しに行くような記述を見つけた。これでここに三週間の間の失踪者の殆どが、肝試しに向かっていたことになる。
気楽なもんだ、と、永一は思った。失踪者が相次いでいる場所に、更に度胸試しだと向かってしまうのは、果たして度胸なのか無謀なのか。
やがて山道の入り口に辿り着き、同じタイミングで到着した乙丸に、永一は軽く手をあげる。
「や。なんか見つかったかい」
「はい、多少は。若者の噂話は、やはりナースコールの怪談が多いですね。ただ、年配の方の口から、時折『またあの病院なのか』といった声が聞こえました」
「UDCアースで怪しい都市伝説と言えば、邪教の連中が関わってるに決まってる。なんだかんだ、連中のアプローチは種類が豊富だなぁ」
肩を竦める永一に、乙丸は静かに頷く。邪神を復活させようと目論む邪教の所業は様々で、手段を択ばない犠牲も厭わない。怪談によって人をある場所におびき寄せるのもまた、彼らの手段の一つなのだろう。
噂の中心である廃病院に近づく前に、まず二人は周辺を軽く探索してみることにした。山の中は木々が鬱蒼と茂り、昼間だというのに辺りは暗い。視界も悪く、ひとたび山に入ってしまえば、建物も慣れぬ外への通り道も木々が覆い隠してしまう。日が届かぬ故か湿った空気が淀んでいて、その淀みを軽く払うように風が吹く。その時、二人の鼻腔を異臭が通り抜けた。
「なんか、臭うな」
「えぇ……恐らくこっちです。それがしのあとに続いて下さい」
忍びとして鍛えられた乙丸の感覚が、風の流れを読み解いて逡巡なく風上を目指す。森を駆け、ちょうど病院の裏手に周った岩陰で、果たして二人はその臭いの正体を目にし、瞠目した。
誰かが掘ったらしい浅い穴の中に、犬や猫の死体が大量に打ち捨てられていた。
「なんだこれ……もしかして邪教のやつらの仕業か?」
「最近死んだ、というわけではなさそうですね。恐らく死後一か月以上経っているかと……」
見るに堪えぬ凄惨な光景ではあるが、よく見れば、死体の中には首輪をしているものもあった。野良でもペットでもお構いなしに、片端から集めてきたのだろう。
不快に眉を顰め、その腐臭から遠ざかるように数歩下がる。事実だけを淡々と仲間に共有しながら、永一は低い声で呟く。
「邪教。邪神復活の儀式。失踪した犬や猫の末路がああだっていうなら……あれは、生贄だろうね」
「犬や猫の失踪が落ち着いた頃、今度は人間の失踪が相次いだのでしたか。失踪者の安否が、気遣われます」
重い空気は淀んだ大気故か。それとも――。
如何様にせよ。乙丸と永一は言葉を交わすことなく、視界に微かに望む古い建物を見ていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
穂積・直哉
(アドリブ・連携OK)
望んで叶うなら、いくらでも望むけどー
…いや、今考えることじゃないか
(左目を気にしつつも頭振って切り替える)
死霊使いって事は、被害者の中には"誰か"を喪った人も居るのかな
それをヒントに探ろう
皆の情報を基にSNSで被害者本人か友人・親戚のアカウントを探して
被害者が失踪する前の書き込みや写真をチェック
重視して探すのは、被害者の記憶に大きな傷を遺したような出来事に触れたものや、やけに取り乱してるようなものかな
最後に何処に居たか・向かったかもわかれば尚良し
その場所で…ちょーっと躊躇するけれど…【Phantom Pain】だ
呪術で幻を生み出してー被害者が見た・聞いたものを追体験する
三原・凛花
「過去に失くした大切な人」ね…
まあわたしなら特に問題はないかな。
何せわたしもその邪神同様、「過去に失くした大切な人」を道具にする外道なのだからね…
とりあえずわたしは被害者の最後の足取りを調べてみようかな。
なるべく最近の失踪者を選んで、その人が最後に目撃された現場に赴いてみるよ。
そこで【愛し子召喚】で息子と娘を呼んで、その現場にある物(地面や建造物も含む)に取り憑かせて、そこに遺された残留思念…いわば物に宿った記憶を読み取らせる。
そして息子と娘を今度はわたし自身に憑依させて記憶を共有し、そこから更なる手掛かりを探してみるね。
●
「望んで叶うなら、いくらでも望むけどー」
明るさ以外のものを言葉に滲ませながら、穂積・直哉(星撃つ騎士・f06617)は息を吐いた。だが、今考えることじゃないと頭を振れば、ちくりと痛みが走った左目を眼帯越しにそっと抑えた。
「死霊使いって事は、被害者の中には"誰か"を喪った人も居るのかな」
出発前にグリモア猟兵から聞いた邪神の特徴。死霊使いであること。そこから浮かんだ自らの疑問をヒントに、直哉は街のネットカフェの個室を陣取り、三原・凛花(『聖霊』に憑かれた少女・f10247)と共にSNSを検索していた。
被害者本人か友人・親戚のアカウントを探し、被害者が失踪する前の書き込みや写真をチェックする。リストを片端から調べていくと、肝試しで失踪した人には、特に身近な誰かを失くしている人物はいなかった。
それが該当しているのは、もう少し前。一か月程度前に失踪した者たちだ。だがその人物たちは、肝試しでの失踪者とは明らかに違っていた。
「家族全員失踪してる…。それも二件、同じ日に」
「普通じゃちょっと、ありえないね」
猟兵としての勘が、二人の頭の中で警鐘を鳴らしている気がした。すぐさまその家族を調査すると、ある青年のアカウントに辿り着く。最新の日記は、やけに取り乱した様子の短く、そして感情が爆発したような書き殴りだった。
『嘘だ嘘だ。なんでこんなことに。なんでだ。なんでだなんでだ。返せ、なぁ返してくれ!!頼むから、嘘だといってくれ!!!なんであの子が死ななくちゃならない!!!』
そしてそれ以前の書き込みには、『あの子と遊びに行った』とか『結婚式場の予約をしてきた』という、幸せそうな日記が悲しく並んでいる。
「彼女を亡くしてるみたいね、この人。どう?」
「……うん。この人の家族全員と、多分この人の彼女の家族全員が、同じ日に失踪してる。この日記と同じ日、つまり失踪の半年くらい前に、彼女は事故で亡くなったみたいだ。でも、この人自身は、家族の失踪の十日くらい前にもう失踪してるみたいだな?」
二人は顔を見合わせて首を傾げる。その失踪した日時と、肝試し参加者とは違い集団で失踪したという違いは、今答えを出すには少々尚早かもしれない。一先ず二人は、この失踪した家族の家に向かうことにした。
●
『過去に失くした大切な人ね…まあわたしなら、特に問題はないかな』
凛花は集団失踪した家族の家を前にしながら、心の中で独り言ちる。
何せ彼女もその邪神同様、「過去に失くした大切な人」を道具にする外道なのだから、と――。
だがそれも、目の前で若干躊躇しつつも呪術を展開する青年に、わざわざ伝える必要もない。、凛花も『愛し子』である息子と娘を召喚した。失踪した家族は隣同士で、調査には都合がいい。直哉が青年の家を、凛花が彼女の家をそれぞれ調べ始める。
直哉のユーベルコード【Phantom Pain】は、被害者が見た・聞いたものを追体験することが出来る。気が進まないながらに彼が見たのは、雨でスリップしたトラックが、青年を迎えに来たらしい彼女を一瞬で弾き飛ばす光景だった。彼氏の悲痛な叫び声と思ったものは、自分のものだったかもしれない。
幻の場面が変わる。今度は深夜。目の前には老いた夫婦と祖父母がいて、皆悲痛な顔をしている。諦め。恐怖。理不尽。悲しみ。そんなものが彼らの顔には渦巻いている。
『あの子のためだ。みんな、協力してくれるよな?』
青年が発したと思われる声に、やがて彼らは一様に項垂れて、山へと歩き出した。
一方凛花は、愛し子を現場にあった陶器のガーデニング人形や地面などにとりつかせて、そこに残された残留思念――いわぼ物に宿った記憶を読み取らせていた。やがて子ども達を呼べば、嬉しそうに駆け寄ってくる。そのまま二人の子どもを抱きしめるように自らに憑依させ、そこから更なる手掛かりを探す。
共有した感覚と記憶から凛花が感じ取ったものは、絶望と恐怖。諦め。ほんの少しの安堵と、そして――
「生への、渇望……?」
そうとしか例えられない、強い強い感情。その渇望は、家族を覆う大きな絶望と共に山の中へと点々と続いていた。
二家族とも向かう先が、例の山にある廃病院ならば。これは新たなパターンだ。肝試し以外にも、自らあの廃病院に向かって失踪している者がいる。
「どこまで深いんだよ、この事件は……」
「……どこまでかしら、ね」
照り付ける強い陽射しに汗をかいているのに、なぜか二人は背に薄ら寒さを感じて口を閉ざした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
如月・遥
過去に失った大切な人、ね。
ま、そういう人も居ないわけじゃないけど、今となってはどうでもいいや。
私にとって大切なのは今と未来。
大切なものを守る為にも、過去に囚われてる暇はないんだから。
『負の感情』に反応する【魔王の心臓】を探知機代わりにして、<失せ物探し>で『負の感情』が発生している場所を探すよ。
まあ『負の感情』なんて大なり小なり日常的に発生するものだけれど、それでも【魔王の心臓】が強い反応を示すなら、そこに何か手がかりがあると思う。
強い『負の感情』が残ってる場所を見つけたら、【幽体離脱】で生霊を出し、UDCの霊気や妖気が残留していないか<情報収集>でチェックするね。
●
過去に失った大切な人。そんな人が居ないわけではないけれど。今となってはどうでもいいやと、遥はあっけらかんと言う。
「私にとって大切なのは今と未来。大切なものを守る為にも、過去に囚われてる暇はないんだから」
そうきっぱりと言い切れるのは、遥が持つ心の強さの表れだろう。
「こいつはあんまり使いたくないんだけど……」
それを起動のコードに、如月・遥(『女神の涙』を追う者・f12408)のUDCオブジェクト『魔王の心臓』は稼働を開始する。これは本来、『負の感情』を与えることに成功した対象を攻撃するユーベルコードだ。けれど、今はその『負の感情』に敏感に反応する性質を利用し、『負の感情』が発生している場所を探す探知機代わりに捜索を開始した。
大なり小なり日常的に発生する『負の感情』だが、『魔王の心臓』が強い反応を示す程なら、そこに何か手掛かりがあるはずだ。山の廃病院に一際強い反応を示すのは当然として、遥が気になったのは、家族全員失踪した二軒の家と図書館。日にちが経って薄れかけていても尚、その二か所には強い『負の感情』が残っている。
そのうちの図書館に、遥は足を向けた。心臓の反応に導かれるように向かったのは、この街の過去の文献や、昔の新聞が保管されている場所。その場でするりと幽体離脱をして、UDCの霊気や妖気の残留している書籍を調べ、戻ってその本を取り出した。十数年前の廃病院に関することをまとめられたムック本だった。
「案の定と言えば、案の定、か」
ぺらぺらとページをめくる。
『ある宗教にハマっていた院長によって、入院者の不審死が相次いだ病院』
『死者を蘇らせる実験?』
『入院患者全員の死亡を確認し――』
不穏な単語が相次ぐ本に、自然と遥の眉根が顰められていく。やがてめくるページも終わりに差し掛かる頃、あるページにメモが挟められているのを遥は発見した。この本の中で最も強い『負の感情』を検知して、『魔王の心臓』が血管すら伸ばしかけたその走り書きのメモの中で、ただの一言が強い強い感情を発していた。
『渇望の祭壇は、まだ完全には壊れていないかもしれない』
嫌な予感が遥の背筋を走る。
つまり、この状況を作った犯人がやろうとしていることは、そういうことなのだ。
成功
🔵🔵🔴
キキ・ニイミ
怖い話って苦手なんだよね。
ボク達キツネにまつわる話って、そういうの多いけど。
それでも苦手なものは苦手なんだよ。
だけど怖いからってこんな事件を放っておけないよね。
まず≪キツネ耳≫で磁場を感じ取りながら、【第六感】【野生の勘】【失せ物探し】を使って街中を探してみるね。
その途中で変な磁場を感じたら、そこを中心に徹底的に調べてみよう。
【バトルキャラクターズ】で『アニマルGO!(動物のデータを集めるゲーム)』からハツカネズミ25体を出して<操縦>し、周辺を隈なく捜査させるよ。
ボク自身も<オーラ防御>を纏って感度を高め、<聞き耳>を立てて、周辺を探してみるね。
●
「怖い話って苦手なんだよね」
一方その頃、金のキツネ耳をくたりと下げながら、キキ・ニイミ(人間に恋した元キタキツネ・f12329)は廃病院周辺の探索を行っていた。彼女たちキツネにまつわる話に、そういった呪いや怪談が多いけれど。それでも伝承のキツネの印象と、彼女本人の性質が同じわけではない。苦手なものは苦手なのだ。
けれど、とふるふる首を振って、きりと前を向く。
「だけど怖いからって、こんな事件放っておけないよね」
そう思えるのもまた、キキもまた猟兵であるが故か。
まずは廃病院の周囲にキツネ耳を向け、磁場を感じ取る。キツネは磁場を感じ取り、それを狩りに活かしているのではないか、という説がある。それをキキは耳をピンと立てて、おかしな磁場がないか探り始めた。すると幾度か方向を変えた先で、ふと、ほんの少しだけ磁場が乱れている場所を発見出来た。
「みんな、お願い!あのあたりを調べて!」
キキの勘が、そこを調べろと囁いている。ならばと、アプリゲーム『アニマルGO!』からハツカネズミ二十五体を召喚する。彼女の掛け声に呼応して、ハツカネズミたちが周辺を隈なく探索していく。
やがて一体のハツカネズミがその場所を発見した。何かあるようだが、ハツカネズミの体で持ってくるのは難しいようだ。
ならばとキキも、音によって周囲を警戒しながら、ハツカネズミが何かを見つけたその場所へと向かう。
近づく程に、思わずキキが耳をそむけたくなるような呪いの残滓の気配を感じる。近づくことを躊躇いながら進んでいた金の瞳に、ネズミ達が此処だと鳴いて知らせる。
その場所には、古びて朽ちかけたカップや、人を象った木の板が、無造作に多数捨てられていた。
普通の廃棄品ではないことは、一目瞭然だ。なぜならその廃棄品には、赤で何事かの文字がびっしりと書かれていたのだから。
「これは、呪物かな。結構古いし、捨てられてるってことは、昔の……?」
キキは、先程仲間から共有された情報を思い出していた。
『都市伝説『渇望の祭壇』。その病院の地下にある霊安室を祭壇として、呪物を用意し、命を捧げ続けることで、望む人間を蘇らせることが出来る儀式が、あったらしい』
キキは改めて、目の前に立つ廃病院に相当な嫌悪感と肌寒さを感じた。
●
これで情報は全て出揃った。
死霊を扱うらしい邪神復活の予兆。
失踪する人々と肝試し。怪談『廃病院のナースコール』。
以前邪教の拠点だった廃病院。
邪教に手を染めた院長による、入院患者の連続不審死事件。
その時に語られたる都市伝説『渇望の祭壇』。
失踪した犬や猫の死体と、捨てられた古い呪物。命を捧げ続ける儀式。
家族全員が失踪した二家族と、事故で命を落とした女性と、その恋人。
全ては最後に、猟兵たちの前に聳え立つ廃病院に収束する。
事態を解決するにはもう、何が待っていようとこの廃病院に突入するよりない。
逢魔が時。
錆びて古びた佇まいに、戦闘の爪痕を残しながら不気味に佇む廃病院へと、猟兵たちは突入していくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『廃病院探索』
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POW : 開かない扉はぶち破る。通れない柵は乗り越える。ひたすら突き進め!
SPD : 怪しい部屋や薬棚、普段触れないものがたくさんあるぞ! いろいろ探してみよう。
WIZ : 昔この部屋は病室だった? 情報を集めて推理しよう。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
廃病院の扉は案外簡単に開いた。エントランスには瓦礫以外は何もなく、しんと静まり返っている。
不自然に崩壊している壁や受付カウンターは、以前UDC組織との戦闘でついた傷跡か。
廃病院に突入した猟兵たちは、まず地下へと通じるルートを探す。『渇望の祭壇』なるものがある霊安室は、地下にあるとされていたからだ。
だが。
「…ないぞ。地下に通じるルートがどこにもない」
探せど探せど、階段、エレベーター跡、その他地下に通じそうなルートは何処にも見当たらない。
そしてひとつ気づいた違和感は、連鎖的に次の違和感を表出させていく。
「すごく寒い。さっきまで、外は汗ばむくらい暑かったのに」
「おい。なんで灯りが……」
いつの間にか病院内は真冬の朝のように冷え込んでいる。猟兵の指差す先で、天井からぶら下がる蛍光灯が誘うようにゆらゆら揺れて、不確かな灯りを明滅させている。電気など既に、止められているはずだ。
嫌な予感がする。そう思い振り返った先の正面玄関だったはずの場所には、壁しかなかった。
既に此処は邪神のテリトリー内ということか。どうしたものかと迷い、やがて猟兵たちは「ナースコールの都市伝説の再現をしてみよう」という結論に至る。わざわざナースコールを鳴らせと指定しているのだ。何かあるだろうと踏んだ。
暗く明滅する蛍光灯に誘われるように進めば、ナースセンターを見つけるのは然程難しくはなかった。だが、通り過ぎては消える蛍光灯が、猟兵たちの背後を闇で満たして退路を断つ。
此処に来るまでは、病院内には本当に何もなかった。このナースセンターとて同じこと。ナースコールを見れば、確かに電源スイッチは切られている。猟兵たちは互いに目配せをし、心の準備を整えたところで、ナースコールの電源を、入れた。
……ピンポーン……ピンポーン……
鳴るはずのないナースコールが、響く。
次々に病室のランプが点灯し、ひとつだったナースコールの音は増えていく。呼び出し音は次第に重なって大音量となり、まるで病室全てでナースコールを鳴らしているような錯覚すら覚える。大きすぎる騒音は耳鳴りとなって猟兵を襲い、その耳鳴りが最大音量になった時
生き返らせたいか? ならば贄を捧げよ。
なにかの声が、地の底から聞こえて。
生き返らせたい!!!誰を何人犠牲にしたって、あのこを生き返らせたい!!
悍ましくも純粋な、誰かの渇望が聞こえて。
視界が暗転した。
やがて嘘のように音が消えて目を開ければ、世界は激変していた。
蛍光灯は全て赤色で点り、病院内は在りし日の姿を思い出したかのように、様々な器具や道具で満たされている。異様な気配がそこら中にある。
病院内のあちこちに生命力を吸い上げる呪具が設置され、此処にある命全てを何かに捧げようとしている。
それを全て壊さぬ限り、猟兵とて例外なく、命を捧げることとなるだろう。
在りし日に、そしてつい先日まで、此処に捉えられていた人々のように。
在りし日の、在りし誰かの生の渇望で、死の渇望で、猟兵の心を苛みながら
「生きたい」「死にたい」
生と死の渇望が渦巻く病院で、猟兵は駆ける。
=======================================
激変した病院内には、いくつもの呪具が設置してあり、周囲から生命力を吸い上げています。
皆様の体力が全て尽きる前に、病院内の呪具を探し出して破壊してください。
一定数壊せば、儀式に必要な呪具の不足により邪神復活儀式を阻止できます。
呪具を破壊する際、貴方には「生きたい」「死にたい」と願った誰かの渇望と絶望の記憶を半強制的に見せられます。
それはこの病院で犠牲になった誰かの、死の間際の記憶や声。
生と死の渇望に、貴方は何を『思い』、どう『行動』しますか。
=======================================
カトリーヌ・モルトゥマール
私達すらも贄にね・・・・・・大したタマだわ。
・行動方針ーPOW
呪具とか病院とか改造された時のこと思い出すから不愉快なのよね。
「ここからは【ゲヘナ】として望ませてもらおうかしらね」
Fouet de l'enferを『ロープワーク』の要領で味方に当てないように操って呪具を『なぎ払う』わ。
「死の間際の声・・・・・・いつ聞いても不愉快極まりないわ。でもねーー」
今の私はヒーローなの。
貴方達の生きたいって願いはもう叶えてあげられない。けれど貴方達の仇は討ってあげるわ・・・・・・。
「Que Dieu est pitié de nos âmes」
・その他
アドリブ、絡み歓迎です。
●
院内を赤く照らす蛍光灯。邪神の領域に入ったのだと否応なく感じさせるように、そこは淀んだ邪気と負の感情で満たされていた。
その廃病院内で、びっしりと赤黒い文字を刻まれた呪具が胎動し、領域内に居る者の命を根こそぎ吸い取ろうとしている。
「私達すらも贄にね……大したタマだわ」
吐き捨てるようなカトリーヌ・モルトゥマール(ゲヘナ・f16761)の言葉に、嫌悪が彩を乗せる。
カトリーヌにとって、此処は不愉快な記憶を呼び覚ます場所だ。呪具や病院というものは、組織に拉致され、被検体として改造を受けた過去を想起させる。遠くというには拭い去れず、自らの体を見るたびに忘れることを許さぬ過去。カトリーヌの紅の瞳が、ギリと細められる。
「ここからは【ゲヘナ】として望ませてもらおうかしらね」
自らの顔を覆う髑髏の半面に手を当てたなら、そこに居るのはカトリーヌではない。ダークヒーロー【ゲヘナ】。悪を裁くために、内の炎を燃やし続ける地獄の引き渡し手。
地獄の炎纏いし鞭『Fouet de l'enfer』を巧みに操り、付近にあった木彫り人形の呪具を一気に薙ぎ払う。地獄の炎に焼かれた呪具が、その断末魔を叫ぶ――
『……なんで斬るの、なんで裂くの……なんで拘束するの……』
『いやだ、やめて、もう悪いところなんてないから、やめてやめてやめて』
『痛い、痛い!!もう痛いのは嫌だ、殺さないで、生きたい、帰りたい、帰りたい!!』
それはかつてこの病院で犠牲になった、誰かの最後の声で。
それはかつてこの病院で最後を迎えた、誰かの生の渇望だった。
もう救うことのできない、呪具に囚われていた魂の悲しい叫びだった。
痛むはずのない【ゲヘナ】の腹が、裂かれたようにズグリと痛む。眉が険しく顰まるのは、痛み故か、悲痛な断末魔故か。
「死の間際の声……いつ聞いても不愉快極まりないわ。でもね――」
それでも、と。過去に背を向けず。その声に背を向けず。【ゲヘナ】は前を向く。
今の彼女はヒーローだ。復讐者となろうとも、彼女がヒーローとしての矜持を捨てない限り、【ゲヘナ】はヒーローだ。
――貴方達の生きたいって願いはもう叶えてあげられない。けれど、貴方達の仇は討ってあげるわ……。
「Que Dieu est pitié de nos âmes」
鎮魂の言葉を置いて、ヒーロー【ゲヘナ】は廃病院を駆ける。
成功
🔵🔵🔴
雷・春鳴
目に悪い。元から悪い視界が余計に。
鏡に映る己の血色の悪いこと。憂鬱だ。けれど恐ろしくは無い。
寒いのだけは、少し嫌いだ。
【呪詛】の感覚は知ってる。異様な雰囲気が強くなる感覚を辿って呪具の場所を探せないかな。
耳障りな音、
わかるよ。俺もまた渇望している。
生きようとすればする程、少しずつ死んでいく身体で。生きたいとしがみついている。
ああ、目眩がするから。
喰らってしまおう。
Azure、古い本を手にとって
【言喰】渇望は彷徨うだけの亡霊に成り果てた。
生きたい、死にたい。その言葉を紡ぐほど喪われる。これは記憶、喰われて仕舞えば後には何も残らない。ようやく、おやすみ。
死んでも迷子になるのは、嫌だな。
●
普段世界を明るく白く照らすはずの蛍光灯は、まるで写真現像の為の暗室のように、赤く暗く院内を照らしている。淀んだ邪気はその赤にノイズを零し、正常な視界を奪う。
『目に悪い。元から悪い視界が余計に』
黒髪から覗く青を憂鬱気に細めて、雷・春鳴(迷子の跡・f11091)は院内を歩いていた。途中洗面所に備え付けられた鏡に映る己の、血色の悪いこと。
嗚呼、憂鬱だ。けれど恐ろしくはない。
ただ、赤色の世界のくせに、感じる温度はひどく寒い。寒いのだけは、少し嫌いだった。
呪詛の感覚には覚えがある。肌から生命力を吸い取る嫌な感触と、異様な雰囲気が強くなる感覚を辿って行けば、そこは談話室だった。かつては人々が家族と談笑したかもしれないテーブルの上で、揃いの一対のマグカップが赤黒い呪言を浮かべて呪具と成っている。
『いやだ、いやだ、なんでだよぅオレたち肝試しに来ただけじゃんよぉ』
『こんなの聞いてない、ばか、置いていくな、オレだって帰りてぇよぉ』
『動けない、帰りたい、父さん、母さん、助けて、助けてくれよ……』
呪具と成ったカップが奏でるのは、耳障りな音。生を渇望した、誰かの悲鳴。
――わかるよ。俺もまた渇望している。
Azureと名付けられた記憶を消す銃と、
――生きようとすればする程、少しずつ死んでいく身体で。
一冊の古い本を手に取って、
――生きたいとしがみついている。
嗚呼。目眩がするから。
喰らってしまおう。
本を開く。それは文章が書けた古書で、開かれたことで文字と言葉を食むUDC『紙魚』が放たれる。
此処にある声は、既に失われた残滓。渇望は彷徨うだけの亡霊に成り果てた。呪詛となった「生きたい」「死にたい」という言葉は、紡ぐ程に紙魚が言葉やその記憶まで食んで、喪われていく。
これはただの記憶だ。ならば、喰われて仕舞えば、後には何も残らない。
ようやく、おやすみ――。
最後に呪詛を吐き出す呪具のマグカップを紙魚が食めば、カップがぱきりと罅が走り、粉々に割れた。
言葉が止み、春鳴の生命力を吸っていた力が、少しだけ弱まる。無事呪具の一つを破壊出来たようだ。小さく息を吐いて割れたカップを一瞥する。それは一体、誰のものだったのか。
「死んでも迷子になるのは、嫌だな」
ぽつり、呟いた。
成功
🔵🔵🔴
アルトリウス・セレスタイト
焦りは間違いを呼ぶだろう
界離で拒絶の原理の端末召喚。淡青色の光の、砕けた鎖の針金細工
自身へ害をなす外的干渉を拒絶して阻み焦らず捜索
見付けたら片端から破壊
直に触れ、存在を拒絶して破壊する
見える幻像は生死どちらも、気の毒だが終わったこと
間に合わなかったものをどうにかするだけの干渉は、万能ではあっても全能ならぬ自身には不可能
今あるもの、先にあるはずのものを捧げる理由にはならない
今の事案を早々に終わらせて回答とする
●
焦りは間違いを呼ぶ。
異常が支配するこの廃病院に在って、アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)は現状を冷静に把握し、そう結論付けた。焦って闇雲に歩き回ったとて、それは体力の消耗を早めるだけに他ならない。
例えばそう。怪談につられて、此処に迷い込んだ者たちのように。
「――顕せ」
此度ユーベルコード【界離】にてアルトリウスが召喚するのは、拒絶を司る端末。淡青色の光の、砕けた鎖の針金細工を手に巻き付ける。それが担うは、自身へ害なす外敵干渉を拒絶し、阻むこと。生命力を吸い取らんと放たれている邪気とて例外ではなく、薄皮一枚隔てて邪気を肌に近づけさせない。
決して焦らず、淡々として見える程に冷静に、アルトリウスは捜索を開始する。
呪具とはひとつではなく、この廃病院内にいくつも設置してあるようだった。わかりやすい位置にあるものもあれば、秘されて見つけにくいものもある。
『ああ……ああ……痛い、つらい、なんなんだよ、この病院は……』
『いいさ……ああ、諦めたよ……殺してくれ……頼むから』
『こんなつらい思いをするだけなら、もう殺してくれ、なぁ、死なせてくれよぉぉ!!』
また一つ。
呪具と成ったカルテに直接触れ、呪具としての存在を拒絶し破壊したアルトリウスの耳に、まるで目の前で誰かが叫んだような声が、否応にも流れ込んでくる。
それは腕を失くし、足を切られ、動くことすら儘ならなくさせられた誰かの死の渇望。
生に絶望し、死を望むしかなかった誰かの渇望。
呪具を見つければ片端から壊してきて、こうしていくつの幻像を見てきた?いくつの声を耳で心で聞いてきた?
鎖を絡めた指を折り数えかけて、やめた。見える幻像も聞こえる声も、生の渇望も死の渇望も、気の毒に思いはするが終わったことだ。
万能の原理に触れ、溶けあい、その残滓が原理の端末という身体を得て、彼は此処に居る。けれどいくら万能の端末とはいえ、全能ではない。間に合わなかったものをどうにかするだけの干渉は、自身には不可能だと知っている。
故に。気の毒だと憐れみはしても、今あるもの、先にあるはずのものを捧げる理由にはならないのだ。
「…今の事案を早々に終わらせて、回答とする」
それがきっと、今アルトリウスに出来る最善であろうから。
成功
🔵🔵🔴
霑国・永一
いやぁ参ったなぁ、閉じ込められてしまったよ。これは愉しくなるに違いないねぇ。
とはいえ、のんびりしてればお陀仏。ほどほどに愉しんで終わりにしなきゃいけないか
入り口付近から順番に探索だねぇ。どれ、会計窓口とか無いかな?金があれば盗みたいしねぇ。まぁどうせあっても持ち帰れる代物じゃないだろうけど、シーフ的本能さ。レジとかが呪具かもしれないしねぇ。
ああ、呪具とか怪しいものは片っ端から狂気の銃創で撃ち抜いて壊していくよ。
せっかくだから雰囲気づくりに輸血パックでも探しに行こうか。
あれを撃ち抜いて飛び散らせれば如何にもそれっぽい、素晴らしい。
「ははは、病院らしく生と死が交差する記憶だなぁ。いやぁ『面白い』」
●
「いやぁ参ったなぁ、閉じ込められてしまったよ。これは愉しくなるに違いないねぇ」
言葉とは裏腹に、少しも困ってなどいない弾んだ声。霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)は、まるで遊園地のホラーハウスでも探索するように、この状況を愉しんでいた。とはいえ、廃病院のあちこちにある呪具は未だ健在で、この病院内にある命全てを吸い取ろうと脈動している。のんびりしていればお陀仏。ほどほどに愉しんで終わりにしなければいけない。
入り口付近に辿り着いて、くるりと踵を返す。ここから順を追って探索し、呪物を壊していく算段だが、それだけかと言われればそうでもない。
「どれ、会計窓口とか無いかな?」
邪神のテリトリー内に在って、そう口にする永一は平時と変わらない。金があれば盗みたい。盗みは永一にとってライフワークであり、シーフである彼の本能ともいえる。それはどんな場所であっても変わらない。
会計窓口への入り口を見つけた永一は、そのドアを蹴り開く。果たしてそこには永一が望むレジが鎮座していたが――
「あー、残念。これはダメだな」
びっしりと呪言が書かれたレジは、金ではなく命を仕舞う呪具と化していた。もともと持ち帰ることが出来る代物はないだろうとは予想していたけれど、盗めないのなら壊すだけ。黒い銃口をレジに向け、逡巡もなく撃った。
その銃は銃声が響かない。けれど確かに、レジは穿たれている。その銃創は見る間に傷を広げ、やがてレジ全体に罅が行き渡ると同時に崩れ去った。
『出してくれ、ここから帰らせてくれ!!オレは帰るんだ!!』
『連れていかないで、やっとここまで逃げてきたのに、戻りたくない…!!』
『アンタらオレを殺す気なんだろ、離せ、死にたくない!!死にたくない!!』
破壊と同時に、外来のロビーであったであろう出来事の残滓が、断末魔を再生する。けれど永一の唇には、薄い笑みが浮かんだまま。
会計窓口を出た後も永一は病院内を探索し、呪具と思しきものは片端から『盗み貫く狂気の銃創』で撃ち抜き壊していく。誰かの断末魔を聞きながら、ふと輸血パックを見つけて、それも撃ち抜いてみた。
衝撃で、鮮烈な赤が飛散する。誰かの叫び声が響く。
――嗚呼。如何にもそれっぽい。素晴らしい。
「ははは。病院らしく生と死が交差する記憶だなぁ。いやぁ『面白い』」
永一は、心底楽し気に笑みを深めた。
成功
🔵🔵🔴
篝・乙丸
生と死の記憶が……早く、早く探さして壊さなければ…。
そうでないと気持ち悪い……
サモニング・ガイストを召喚します。
それがしよりもずっと強いのですから……。
古の強者、呪具を探して壊さねばならぬのです。協力してください。
とは言っても呪具がどこにあるのやら……。
この景色はとても嫌になります…。
とても恐ろしい……死ぬのは恐ろしい…。
頼むからそれがしにこの景色を見せないでくれ…!
呪具は古の強者が先に見つけてくれることでしょう…
それがしは足手まといにならぬよう、この状況から目をそらして呪具を探します。
一番気持ち悪いと感じる場所に、呪具があるかもしれませんね。
行きましょうぞ。
●
赤い視界に、凍えるような温度。違和感が目眩を起こすような世界を、篝・乙丸(彼方と此方・f18213)は苦し気に歩む。
「生と死の記憶が……早く、早く探し出して壊さなければ…」
胸を焼く焦燥があった。
生を渇望し死を渇望し、その実与えられたのは等しく死ばかりだった場所。早く壊してしまわなければ、気持ちが悪い。
一人での探索に苦しさを感じ、乙丸は古の強者を召喚した。それは自分よりもずっと強い戦士だ。頼りになるものが欲しかった。
「古の強者、呪具を探して壊さねばならぬのです。協力してください」
乙丸の、願いにも似た協力の要請に、戦士はしかと頷いた。
とはいえ呪具がどこにあるのか、乙丸には見当がつかない。故に、呪具の探索と破壊は、古の強者に任せることにした。
立っているだけで生命力を吸う世界。断続的に響く、残滓の悲鳴。
――とても恐ろしい……死ぬのは恐ろしい…。
誰かが強く掴んだ手形と爪痕。床に散るどす黒く変色した液体。幾度も全力で叩かれたのか、部屋の内側にだけ無数のへこみがある扉。
濃い、濃い、死の彩。
「頼むからそれがしに、この景色をみせないでくれ……!」
息苦しささえ覚える景色に、乙丸は知らず声を上げていた。
苦しくて、気持ち悪くて、仕方がなかった。
死して尚鋭い強者の眼光は呪具の存在を見逃さず、乙丸の先を行き、見つければ即座に破壊してくれる。強者の足手まといにならぬよう、この凄惨な状況から目をそらし、否応にも聞こえる断末魔に耳を塞ぎながら、それでも乙丸は呪具を探し歩いた。
逃げ場がないことは、乙丸とてわかっている。進むも戻るも、呪具を破壊し、その奥に潜む邪神を倒さないことには叶わないとも知っている。喉をせりあがる不快感に耐えながら、一刻も早く、此処に残る死の残滓を消してしまいたかったけれど。
願うだけでは如何様にもならぬ現実ならば、行動するしかない。最も気持ちが悪いと感じる場所に呪具があるのではと踏んだ乙丸は、古の強者と共に進む。
蹲って足を止めることも出来たかもしれないが、乙丸はそうしなかった。
それは、乙丸が猟兵であるが故か、それとも。――それでも。
乙丸は、踏み出す。
「……行きましょうぞ」
成功
🔵🔵🔴
水貝・雁之助
うん、かなりきっついなあ此れは・・・
此処で死んだ訳じゃない、あの子の死にたくないって思いや記憶迄見える様に感じるのは、単なる幻覚か、其れとも・・・
・・・親に捨てられ人身御供にされたあの子が穏やかに笑える様になって・・・そんな頃に村人達に殺されたんだ
死にたくなんてなかったに決まってる
でも、あの子はそれでも怨まないでと、親不孝で御免と言った
そんなあの子の死を穢すやり口は親として止めないと、ね・・・
UCで呼んだ悉平太郎に周辺を警戒して貰いつつ探索
閉鎖空間という『地形を利用』し装備品のアリアドネの糸で何処から何処まで探索を済ませたか判るようにして探索、呪具破壊
探索をし終えた道は他の人に判るように目印も
●
悪逆を為した非道の猿神を討ち滅ぼしたという柴犬『悉平太郎』を召喚し、水貝・雁之助(おにぎり大将放浪記・f06042)は周囲を警戒しつつ進んでいく。
廃病院とは特殊ではあっても閉鎖空間だ。アリアドネの糸を使用し、探索した箇所を判るようにしながら呪具を壊していく。探索済みの場所には、他の猟兵にも判るよう印をつけることも忘れない。
そしてまた一つ。ナースステーションに隠されていた呪具を『悉平太郎』の爪が引き裂けば、誰かの遠い断末魔が耳を突き刺した。
「うん、かなりきっついなぁ此れは……」
呪具をひとつ壊すたびに、誰かの生死の渇望の絶叫が問答無用に流れ込む。思わず零した言葉は、思いの外苦しさを孕んでいた。生や死の渇望の叫びを聞くたび、雁之助は『あの子』を思う。
――此処で死んだ訳じゃない、『あの子』の死にたくないって思いや記憶迄見える様に感じるのは、単なる幻覚か、其れとも……。
無意識に、胸のあたりを強く抑えた。一度『あの子』を想えば、胸の内に次々と『あの子』との思い出が蘇る。親として『あの子』と紡いだ日々には、楽しかったこと、悲しかったことが、たくさんあった。
――……親に捨てられ人身御供にされたあの子が穏やかに笑える様になって……そんな頃に村人達に殺されたんだ。
短くはないけれど決して長くもなかった思い出は、自然とその終わりの日へと記憶の糸を手繰る。雁之助にとっても忘れ得ぬ、あの日の記憶が蘇る。
非道と理不尽に晒されながら、けれど『あの子』はそれでも怨まないでと、親不孝で御免と言った。
「……死にたくなんてなかったに決まってる」
喪われた幼い命を想い、足を止め、ぽつりと零した。
俯いた雁之助を、『悉平太郎』が見上げる。シャーマンズゴーストである彼の表情を読み取るのは、少し難しい。『悉平太郎』が心配そうに擦り寄る。けれど俯いていた時間は、そう長くはなかった。
「だから、そんな『あの子』の死を穢すやり口は親として止めないと、ね……」
雁之助の目に、決意が宿る。
『あの子』の最後を想い、雁之助は改めて、自分が『親』であることを強く意識した。争いを好まずのんびり屋の雁之助だが、誰かが悲しむ姿を見るのは嫌だった。こんなやり方は、『あの子』を穢してしまう。きっと『あの子』が悲しんでしまう。
だから。
今、行くからね。
大成功
🔵🔵🔵
カレリア・リュエシェ
何かを犠牲にする願いなど、してはいけない。
いつか報いがある。
【第六感】の赴くまま、立ち塞がるものを【怪力】で解決して探索。
寒さは装備品「風精の守り玉」の気温を保つ効果で軽減する。
見つけた呪物は剣で破壊。これが体力を奪っているなら【生命力吸収】をすれば多少は取り戻せるか?
『生きたい』
呪物が無ければ生きていたかもしれない。
今からでも何かできることはないか。
『死にたい』
彼らにとっては救いだったのだろうか。
だが、違う形での救いはなかったか。
街の怪談話を思い出す。
「ナースコールが鳴りましたが、どうしました? もう大丈夫ですよ」
彼らに届くかも解らないが、せめて求めていただろう看護士を演じて安心させたい。
●
何かを犠牲にする願いなど、してはいけない。
いつか報いがある。
世界が暗転する直前に聞こえた誰かの声に、カレリア・リュエシェ(騎士演者・f16364)は思う。
自らの周囲に空気の膜を作り、凍えるような寒さを対策しながらカレリアは進む。その行く手に在った、或いはカレリアの勘が囁くままに進み見つけた呪具は、彼女の剣で破壊していく。呪具が生命力を奪っているのなら、或いは呪具から生命力を吸収すれば、多少体力を取り戻せるかと試みる。だが、呪具は生命力を吸った先から何処かに送っているようで、壊れたそれにはほぼ何も残ってはいなかった。
『死にたくない、生きたいだけなのに、なんでこんなことに…!!』
呪具を壊すたび、かつての誰かが悲痛に叫ぶ。カレリアはその全てに対し、思ってしまうのだ。
呪具がなければ、呪いがなければ、みな生きていたかもしれない。
『はは、もうだめだ、みんな死ぬんだ。だったら今すぐ殺してくれ。もういやだ、今すぐ死なせてくれ!』
恐怖と絶望の先にあった死は、彼らにとっては救いだったのだろうか。
強く唇を噛む。これはもう手が届かないものだ。絶望の残滓が呪具に囚われ残っていただけだ。わかっているけれど、思わずにはいられない
違う形での救いはなかったのか。
今からでも出来ることはないのか、と。
『なんで鳴らないの。何度も押してるのに。ねぇ誰か来て、痛いの、苦しいの、ねぇ誰か…!!』
呪具と成ったナースコールを壊すと、少女の泣き声が胸を貫いていった。その声に、カレリアは街の怪談話を思い出す。
鳴らないナースコール。看護士を呼び続ける声。
――黙っていられなかった。
「ナースコールが鳴りましたが、どうしました?もう大丈夫ですよ」
届くかどうかはわからない。けれどせめて、求めていただろう看護士を演じることで、安心させたいと思った。それだけだった。
絶叫だった泣き声がやみ、やがて辺りがしんと静まる。
――届かなかったか。
無念に目線を下げ、病室を後にしようとした、その時。
『……看護士さん。看護士さぁん……来てくれた、やっと来てくれた……』
先程の悲痛な声とは違う、心の底から安心したような、静かな泣き声が聞こえた。
咄嗟に振り返る。
誰もいない。何もいないけれど。
少しだけ、部屋の温度が温かくなった気がした。
成功
🔵🔵🔴
榛・琴莉
多少の【呪詛体制】はありますが、専門知識は然程無いので…
捜索は詳しい方に任せ、【第六感】頼みの私は先へ。
見つかれば御の字くらいに考えて、道を塞ぐ物を排除して捜索範囲を広げます。
「Ernest、演算を。【破壊工作】なんてお手の物でしょう」
障害物に手間取る余裕はなさそうですし、効率重視で。
「煩い。人の頭ん中で生きたいだの死にたいだのと…」
それがどうした。
どんな叫びも、どれだけの嘆きも。
足を止める理由にはならない。
過去を救う事なんて出来やしないのだから。
ならば私がやるべき事は、後続の死を、絶望を撃ち砕き、未来を救う事。
「それが仕事ですので」
まぁ、前者には全面的に同意なんですけど。
誰が死ぬものですか。
●
病院に設置された呪具の数は多く、それだけ犠牲になった者も多いのだろうことは何となく察せた。
かつてもこの病院では、邪教の幹部であった人物に院長が交代したことで、入院していた者全てを犠牲にして邪神を呼ぼうとしていたのだという。その頃からの、そして肝試しにつられて罠に捕らえられた人々の渇望が、呪詛が、この廃病院に渦巻いている。
呪いには詳しくないという榛・琴莉(ブライニクル・f01205)は、探索を他の猟兵に任せ、勘を頼りに院内を進む。呪具の探索は、見つかれば御の字。琴莉はそれよりも探索範囲を広げることに主眼を置いた。
「Ernest、演算を。破壊工作なんてお手の物でしょう」
通路を塞ぐ回診車やベッドを一撃で弾き飛ばすのに、最適な弾道を戦闘補助AI【Ernest】がガスマスクのレンズに投影する。アサルトライフルが火を噴いて、彼女の前を塞ぐものを排除していく。
『生きたい、生きたかった、どうしてこの病院の外に出られないんだ』
『死にたい。先に死んでいった連中が羨ましい。吸い上げられるだけの命なんて、早く無くなってくれよぅ』
呪具と成っていた誰かのぬいぐるみを撃ち抜けば、絶望と諦めが、生を渇望し死を渇望する声を琴莉の内に響く。呪具を壊すたび、過去の残滓が呪いのように頭に入り込み、その膝を折らせようとする。
「煩い。人の頭ん中で生きたいだの死にたいだのと……」
どこか苦虫を噛み潰したような顔で呻いた。
――それがどうした。
どんな叫びも、どれだけの嘆きも。
足を止める理由にはならない。
過去を救う事なんて、出来やしないのだから。
そう断じる琴莉の心は冷静で、それらの声に惑わされることはない。
琴莉はしっかり前を見据えられている。武器を握る指は、そのタイミングを誤らない。
「生きたい」と思うことには全面的に同意する。どんなに救いを願っても、この手は『死』には届かないから。
――ならば私がやるべき事は、後続の死を、絶望を撃ち砕き、未来を救う事。
「それが仕事ですので」
自らのすべきことを再確認するように、琴莉は態と声に出した。雪華連れた女神に愛されし彼女は、氷の断罪を落とすべき相手を邪神と定め、院内を駆ける。
誰が死ぬものか。
成功
🔵🔵🔴
加里生・煙
なんだ!? 突然雰囲気が変わったと思ったら……身体が重い。
くそっ、早くなんとかしねェとな。
アジュアに乗って元凶を探そう。こいつなら何かしらそういう不思議なものに鼻が利くかもしれない。
ん?何かあったのか?…なんだろうこれ。……よくわかんねぇが、これを壊せばいいのか?
素手じゃ……壊れそうにないな。しょうがねぇ。この小型の拳銃なら撃てるだろ。こいつで………っ!?
――生きたい。
―――死にたい。
――――――――愛されたい。
っ……はっ。ぁ……
心臓が壊れたように速く 高鳴る。
手が震えて口元を思わず押さえて。
何かに気づきそうになって。頭をふる。
振り払うように 拳銃のグリップをそれに叩きつけた。
アドリブ絡みOK
●
「なんだ!? 突然雰囲気が変わったと思ったら……身体が重い」
絶叫と耳鳴りからの暗転。そして目を開ければ赤く染まった、異様な光景。生命力を吸い取る呪具の存在。邪神の結界内に抱かれて、加里生・煙(憑かれ者・f18298)は膝に手をついた。ただ立っているだけでも、身体を支える力が抜けていくのを感じる。
「くそっ、早くなんとかしねェとな」
乱れそうになる息を数度の深呼吸で整えて、煙は顔をあげた。
「…行くぞ、お前も手伝え」
閉じた左目を抑えながら、右手をかざす。その声に応えるように、煙の体から仄かな赤の光が右手を通り、地に落ちて群青色の巨大な狼【群青の青―アジュア―】がその形を成す。その背をぽんと叩いてから背に飛び乗り、【アジュア】の鼻を頼りに院内を駆ける。こいつならば、何かしらそういう不思議なものに鼻が利くかもしれないと踏んだからだ。
【アジュア】の鼻と、肌から生命力を吸い取る嫌な感覚を辿り、やがて薬品庫へと辿り着いた。
「ん?何かあったのか?」
薬の臭いを好かなそうに鼻を鳴らす【アジュア】の背を降り、扉を開く。その奥で、この場に不似合いな一つの写真立てが赤黒い呪言を纏っていた。
「……なんだろうこれ。……よくわかんねぇが、これを壊せばいいのか?」
素手で壊せるかと手を伸ばせば、生命力を吸いとる力が強くなってやめた。しょうがなくホルスターから小銃を引き抜いた。手に馴染むそれで狙いをつけて、撃つ。
『生きたかった、あなたと生きたかった』
『あの人が居ないのなら、死にたい。あの人の傍に行かせてください』
「………っ!?」
破壊と同時に、煙の体を誰かの残滓の記憶が通り抜けていった。
静かな静かな、諦めとも希望ともつかぬ切なる渇望。
それが、煙の心を突き抜けていく。それは、そう。ただの切欠だった。
――生きたい。
―――死にたい。
――――――――愛されたい。
「っ……はっ。ぁ……!」
無意識に呼吸を忘れた。
【アジュア】が小突いたおかげで我に返り、急激に息苦しさを思い出して息を吸い込み、噎せて咳き込んだ。
煙の心臓が壊れたように速く高鳴る。
手が、震えて。思わず口元を抑える。
今、何かに気づきそうになった。
振り払うように、拳銃のグリップをその写真立てに思い切り叩きつけた。
完全に砕け散ったその写真立てに、汗が一滴零れ落ちた。
それを見ながら、何度も頭を振って。
なんでもない。なんでもないんだと、煙は自分に何度も言い聞かせていた。
成功
🔵🔵🔴
キキ・ニイミ
元々病院ってあんまり好きじゃないけど、これは流石に…
なんて言ってられないよね。
外での探索(第一章)同様、≪キツネ耳≫<第六感、野生の勘、失せ物探し>で磁場を感知しながら呪物を探し出し、見つけ次第【アニプラズマショット】27個を<念動力>で<操縦>して破壊するよ。
死ぬ間際の声…
皆、辛かったよね。
帰る場所があるのに帰れない。
想像するだけで…ぞっとする。
どれだけ効果があるか分からないけど、【アニプラズマヒール】を放って少しでも皆の心を癒せないか試してみるよ。
皆の魂がお家に帰れるように<祈り>ながら…
●
「元々病院ってあんまり好きじゃないけど、これは流石に…」
目の前に広がる光景に、キキ・ニイミ(人間に恋した元キタキツネ・f12329)は思わずふるりと震えた。
こんなのはまるでホラー映画か何かだ。けれど、生きる力を奪い続ける呪具の存在が、これが嘘ではないのだと知らしめる。恐ろしい、けれど。立ち止まっていては、待っているのは死だけならば。
「言ってられないよね」
そう自分に言い聞かせるキキの瞳が、意思を宿して前を向く。
外での探索と同様、耳と勘を活かして病院内を駆ける。レントゲン室、手術室。如何にもな場所を駆ければ、確かにそこに呪具が在った。呪具にはなんにでもなれるんだな、なんて思いながらも、あまり病院に関係ないものの方が呪具として強い気もしていた。
『帰りたい、帰りたいよぅ……おとうさぁん……おかあさぁん……』
『ああ助けてくれ、生きて帰りたいんだ!嫁さんと子どもがいるんだ、なぁ頼むよ!!』
呪具を壊せば聞こえる声に、キキの耳がしゅんと下がる。
全て全て、例外なく死ぬ間際の声と渇望で。皆一様に切なる願いだった。
「皆、辛かったよね。帰る場所があるのに、帰れない」
口にしてみたら、あまりに悲しかった。どんなに望んでも、何をしても、帰る場所に帰れない。会いたい人に会えない。想像するだけで、背筋がぞっとした。
駆けていた足を止める。
これが過去の記録の再生だというのはわかった。もう変えられない過去だというのもわかった。
でも、何もせずにいられなくて。
キキは自らの体を構成する物質の一つ、アニプラズマを陽のオーラに変化させる。癒しのオーラを纏ったそれを、たった今壊したメスの呪具へと当てた。
どれだけ効果があるのかはわからない。それでも少しでも犠牲になった人々の心を癒せないか、試してみたかった。
生を望み死を望み、結局帰ることが出来なかった人々の魂が、皆家に帰れるよう祈りながら。
耳を騒がす声はなく、かと言って周囲の状況が何か変わったわけではない。
呪具だったメスが役目を終えて黒く朽ちていっただけ。
けれどキキは、確かに聞いていた。
――……ありがとう、優しいお嬢さん……――
ふわと一瞬、温かな風が通り過ぎた。慌てて振り返った先で、窓も開いていないのにカーテンがひらひらと揺れていた。
成功
🔵🔵🔴
黒暗九老・有麓落羅区
呪具とは少し興味深いが、今は儀式阻止が優先じゃな。
はて…どんな形をしておるのかのう?
【第六感】で怪しい気配を探し回る。
見つけられたら【鬼灯夜行】で【なぎ払い】してみる。
(死の間際の記憶を見たら)
ユーの気持ちを正しく理解してあげることは難しいが
この記憶は辛いのう。
可哀想に。ただただ可哀想に思う。
この時の苦痛を取り除く事は出来ぬが
どうか安らかに
そう祈らずにはおられんのう。
静かに刀を鞘に納め祈るように目を閉じる。
アドリブ等歓迎
●
薄暗く点滅を繰り返す電灯の下を、黒を纏った長身が歩く。長い漆黒の髪を揺らし、浮世離れした見た目は、真実人ではなく神である。
「呪具とは少し興味深いが、今は儀式阻止が優先じゃな。はて…どんな形をしておるかのう?」
自身も呪われた武具を纏う身である黒暗九老・有麓落羅区(戦闘狂の神・f16406)だが、その用途はこれとは大きく異なる。他者を犠牲にすることだけを考えた使い方ではなく、有麓落羅区は呪具を好奇心と供養の気持ちから纏う。呪具に対する興味はあるが、今は儀式阻止が最優先と足を速めた。
怪しい気配を探り、有麓落羅区の髪がざわめく方へと向かう。食堂と思しき部屋に辿り着けば、いくつもの病衣が山を成している。無造作に積まれたそれらには清潔感など無く、赤黒い染みがついたり破れているものばかりで、その全てが一つの呪具と成っていた。
なぜそんなものが呪具となったのか。或いは、なんでもよいのか。
有麓落羅区はブーゲンビリアに似た瞳を細めた。『鬼灯夜行』と銘打たれた妖刀の鯉口を切る。そして、無造作に薙ぎ払った。手応えは存外に重く、一度では斬りきれなくて、もう一度薙ぎ払う。
『あの子の為とはいえ、こんなのは聞いてない、私は嫌だ、私は帰る、帰るんだ!!』
『苦しい…苦しい…ここは病院なんかじゃなかった、こんなのは棺桶だ。頼むよ看護士さん。もう、死なせてくれよぉぉ…』
全ての病衣を斬り、呪いの残滓を振り払いながら、有麓落羅区はその声を聞いていた。
彼らはかつて生を望み、死を望んだ。過程は違い望んだ渇望は真逆でも、与えられた結末は皆、同じ。
「……ユーの気持ちを正しく理解してあげることは難しいが」
ただの服に戻った病衣の山を見下ろす。有麓落羅区の顔に、普段の楽し気な様子は一切ない。
この記憶は、辛かった。
可哀想に。ただただ可哀想に思う。
きっとこの声の主には、悔いしかなかった。正しい死ではなかった。それが、ひたすらに可哀想だった。
「苦痛を取り除く事はもう、出来ぬが。……どうか安らかに」
UDCアースにとっては有麓落羅区もまた異世界の神だ。だが、そう祈らずにはいられない。
囚われ渦巻く魂が、あまりに可哀想だった。
静かに刀を鞘に納め、祈るように目を閉じる。
彼らの魂が、在るべき場所へと帰ることができるよう。暫しの間、有麓落羅区は黙祷を捧げた。
成功
🔵🔵🔴
如月・遥
ふぅ、しんどいね、全く。
どうにも嫌な事を思い出しそうになる。
UDC『魔王の心臓』に取り憑かれた時。
それで私の家族は…
おっと、今は過去に囚われてる場合じゃない。
さてここには『負の感情』が溢れている。
中でもとりわけ強い負の感情…呪詛を放ってるのが『呪具』。
【魔王の心臓】で一気に破壊出来そうだね。
それにしても「生きたい」だの「帰りたい」だの…
幾ら言われたって私にはどうにも出来ないんだよ!
頼むから少し黙っててよ!
私だって好きで見殺しにしたわけじゃ…
<激痛耐性>と、【心の一方】で自分に自己暗示をかけ続ける事で、死の間際の声を堪えるよ。
「私にはどうにも出来なかったんだ、仕方なかったんだ」って。
●
「ふぅ、しんどいね、全く」
かなりの数の呪具を壊しはしたが、未だに病院内には生命力を吸い取る呪詛が満ちている。重さを感じ始めた足取りで、如月・遥(『女神の涙』を追う者・f12408)は【魔王の心臓】を手に、院内を探っていた。
どうにも、嫌なことを思い出しそうになっている。
UDC『魔王の心臓』に取り憑かれた時のこと。その時の自分のこと。家族のこと。一つ紐解けば、次々と浮かび上がる記憶。
「…おっと、今は過去に囚われてる場合じゃない」
記憶の海に溺れかけた意思を、頭を振って呼び戻して進む。今足を止めたら、此処で永久に眠ることにもなろうから。
遥のUDC【魔王の心臓】は負の感情に反応する。呪いという負の感情が廃病院全体を覆っているが、とりわけ強い負の感情――呪詛を放っているのが呪具だ。もともと反応過多の状態だが、より強い反応を示す場所を探せばいい。【魔王の心臓】から伸ばされた血管が、負の感情を放つ呪具を見つけて壊す。けれどそのたびに、遥の頭に誰かの断末魔が響く。
「生きたかった」「死にたい」「痛い」「怖い」「助けて」「助けて」
或いはそれこそが、猟兵を襲う最も強い呪言だったのかもしれない。
探索自体は順調だが、遥の額には冷や汗が浮かんでいた。一度紐解かれた記憶は簡単には仕舞えない。まして、その記憶の紐を解くような声が常にあるのなら。
燻り続けるものに火をつけるのは、簡単だ。
UDCオブジェクト【魔王の心臓】。寄生された衝撃、自らの体を駆け抜けた衝動。それが引き起こしたもの。
赤い赤い記憶が、院内を赤く照らす蛍光灯と重なって――
「生きたいだの帰りたいだの…幾ら言われたって私にはどうにも出来ないんだよ!頼むから少し黙っててよ!私だって好きで見殺しにしたわけじゃ…」
言って、即座に口を押えた。
【魔王の心臓】がピクリと反応するのに気づき、遥は深呼吸を幾度も幾度もする。呼吸を整えなければならない。心を整えなければならない。
痛みへの耐性が多少なり自分にあるならば、心の痛みへの耐性だって少しはあるはずだ。
けれどこのまま進めば、探索にも自分にも悪影響が出る。そう判断した遥は、ユーベルコードまで使って、自らに強い自己暗示をかける。歩みながらも、ずっとかけ続けた。
遥自身の心を守るように、遥は言い聞かせ続ける。
「私にはどうにも出来なかったんだ、仕方なかったんだ…」
成功
🔵🔵🔴
穂積・直哉
…何が"あの子のため"だよ
大部分は"自分のため"だろ
その渇望でどれだけ犠牲になったんだよ
あぁ、すっげームカツク
生命力を吸い取るって事はつまり『殺気』立ってる…よな
それを『第六感』で読み取り呪具を探して
『破魔』の力を乗せた『衝撃波』で片っ端からぶっ壊す
あと【影の追跡者】を喚んどこう
オレとは別行動で呪具を追跡・破壊させる
オレには霊を鎮めるとか慰める力は無い、ただこわすだけ
壊して毀して請わして―必死に生への道を切り開いて縋り付く
予想はしてたよ、わかってたけどさ
救えなかった事をオレは一生引き摺るだろうなぁ
…でも、だからこそ、それを弔いと言わせてくれ
皆の分までオレが生きて生きて、生き抜いてやるから
●
望んで叶うなら、いくらでも望むけれど。
確かに自分はそう言った。
けれどその代償を、何処まで払えるか。
それが問題だ。
穂積・直哉(星撃つ騎士・f06617)は苛立ちを隠しもせずに、破魔の力を乗せた衝撃波で呪具を砕く。
直哉の怒りは、この事態を引き起こした人物――犯人とも言うべき人物に向けられていた。犯人は願いの為に、どんなものを犠牲にしてでも、と言った。その言葉に嘘はないと証明するように、此処は何人もの命を吸い取り続けている。
噂に踊らされ、自らやってきた獲物を何人も犠牲にしても飽き足らず、今も。
「……何があの子のためだよ。大部分は"自分のため"だろ。その渇望でどれだけ犠牲になったんだよ。あぁ、すっげームカツク……」
怒りを吐き出すように【影の追跡者】を呼び、自分とは別行動で呪具の探索・破壊を命じる。
直哉は邪神召喚の儀式に巻き込まれたことがある。その影響で偶然にも猟兵となったが、邪神に傷つけられた左目は視力を失った。直哉は犠牲になった側だ。自らの状況と重ねうるからこそ、直哉の怒りは深い。
呪具を壊せば響く呪詛のような断末魔に、眉根を寄せる。それでも、直哉は見つけ次第片端から呪具を壊していった。耳を塞いだって聞こえるような生と死の渇望に、それでも耳を塞ぎはしなかった。
『死にたくない、死にたくない死にたくない死にたくない!!!』
『ああ、もっと……もっと、生きたかったなぁ……』
直哉には霊を鎮めるとか慰める力は無い。ただ、こわすだけ。
壊して毀して請わして――必死に生への道を切り開いて、縋り付く。
「予想はしてたよ、わかってたけどさ」
ぽつぽつと呟いた。
救えなかった事を、きっと直哉は引き摺るのだろう。
自分でわかっている。
「…でも、だからこそ、それを弔いと言わせてくれ。皆の分までオレが生きて生きて、生き抜いてやるから」
それは直哉の独白で、祈りで、願いで、決意。彼に出来る精一杯。
【影の追跡者】が呼ぶ部屋の扉を開ける。
一際強い呪いを纏った呪具が、個室の真ん中にかけられていた。
それはさして古くもない、けれど誰かの血が染みついた、誰かのウェディングドレス。
それが呪具となって、他人の生命力を集め続けている。
「…オレ、やっぱコイツ嫌いだ」
吐き捨てるように呟いた。
成功
🔵🔵🔴
三原・凛花
わたしの中の『聖霊』が大はしゃぎしてる…
確かにこの病院は、こいつにとっては五つ星レストランみたいな場所なんだろうね。
とりあえず<生命力吸収>で生命力を奪い返しながら、病院内を探索してみよう。
『呪具』というからには相当の<呪詛>を発している筈だから、わたしの【呪詛の篝火】で探知出来ると思う。
何せ<呪詛>そのものを燃料にするわけだから…
これで呪具をどんどん燃え上がらせて破壊していこう。
わたしも何度も何度も思ったものだよ、『死にたい』って。
死ぬことすら出来ず永遠に苦しみ続けるだけの生…地獄だよね、本当に。
そしてこの『死にたい』という心からの願いこそ、『聖霊』にとっては最高のご馳走なんだよ…
●
呪いと嘆きが産む寒さで満ちた病院内で、三原・凛花(『聖霊』に憑かれた少女・f10247)は、自らの中のUDC『聖霊』が大はしゃぎしているのを感じていた。
「(確かにこの病院は、こいつにとっては五つ星レストランみたいな場所なんだろうね…)」
まずは、生命力を吸われることに対して、同じように生命力を吸収することで力を奪い返せないかと試みてみる。
多少の奪い返しは出来るようだったが、やはり呪具は生命力を吸ってすぐに何処かに送っているようで、奪い返すことが出来た量は少ない。くわえて、未だいくつかの呪具が健在である以上、力は吸い取られ続ける。
呪具を壊してしまうのが最短の道かと、凛花は手を差し出した。ユーベルコードを発動することで掌に燈るのは、凛花の長い髪と同じ漆黒の焔。それは凛花の【呪詛の篝火】。
呪詛を燃料して着火する炎。故に、呪詛を発する呪具そのものを燃料として、燃やし尽くしてしまうことが出来る。
院内を探索し、呪具を見つけて篝火を寄せれば、あとは勝手に燃えてくれる。
此処に来たばかりの頃に比べれば、生命力を吸われる感覚は、ずいぶんと弱まったように感じる。他の猟兵も頑張っているのだろうなどと、考える余裕があった。
凛花もまた、検査室の奥で見つけた古い呪具に篝火を寄せた。篝火が呪詛を辿った先、呪具が悲鳴のように誰かの死の渇望を再生する。
『死にたい、死にたい…こんなにつらい思いをするなら、もう、死にたい』
『生きている意味なんかない…どうせ皆此処で死ぬんだ。なら今死にたい…』
検査室の奥で何かが座り込んでいるような、そんな錯覚すらリアルに感じられて。
「……わたしも何度も何度も思ったものだよ、『死にたい』って」
深い絶望と渇望を耳にしながら、静かに凛花は言った。
凛花自身、『聖霊』に取り憑かれてからは、不幸の連続だった。それを苦に自ら命を絶とうと決意もしたけれど、その決意を成就も出来ないままで。不幸は続き、その間に何度も何度も思った、凛花の渇望。
「死ぬことすら出来ず永遠に苦しみ続けるだけの生…地獄だよね、本当に」
呪具が燃える。燃える。その最後の一欠片が、燃え――。
「そしてこの『死にたい』という心からの願いこそ、『聖霊』にとっては最高のご馳走なんだよ…」
呪具の最後の一欠片が、一際大きく燃え上がって、消える。
凛花の漆黒の瞳が、その一部始終を目をそらさずに見ていた。
『聖霊』は未だ燥いでいる。
成功
🔵🔵🔴
水標・悠里
生と死を天秤に掛けたのなら、どちらに傾くのでしょう
どれほど願い請うても変わらないのが現実なのかも知れません
さて、ここは元の病院とは同じ場所なのでしょうか。病室に当たりをつけ探しに参りましょう
生と死、どちらも思う私の気持ちに誰か応えるのでしょうか
もし応えるものがあればそれは『呪い』、壊してしまいましょう
あなたの手出しなど無用です。全て私が食らうと決めたのですよ? この思いの端くれだろうとくれてやるものか
さあ、見つけたのなら壊しましょう、食らいましょう。無慈悲な鬼の所業だと嗤いましょう
恐れも涙も、鬼には必要ありません。そうですね、姉さん
ただ、鏡だけは見たくありません。醜態をさらす前に破壊します
●
「生と死を天秤に掛けたのなら、どちらに傾くのでしょう」
少なくとも邪教の手に落ちたあとの廃病院では、現実として、等しく死しか与えられなかった。生と死。相反する、けれどまるで鏡合わせのような願い。どれほど願い請うても、変わらないのが現実かもしれないと、水標・悠里(羅刹の死霊術士・f18274)は思う。
景色や色が変わってしまっても、この廃病院の構造はどうやら元の病院と然程変わらないようだった。病室に当たりを付けて、そちらに足を向ける。病室ひとつひとつを調べ、呪具があれば淡々と壊していった。
「生と死、どちらも思う私の気持ちに、誰か応えるのでしょうか」
そう独り言ちては、最後の病室の前に立つ。病棟の一番上の階。一番奥の部屋。人目に触れにくい角の奥。悠里はその扉を、遠慮なく開いた。
思いの外重い扉だった。電灯はなく、小さな窓にも鉄格子が嵌められている。隠されるようにあったこの部屋に、果たして以前どんな用途があったのかはわからない。
ただ、今は。
部屋の中央に、恐らく今までの何よりも強力な呪詛を放つ、二つの指輪を持つ木像が安置されていた。
近づくだけで、今までの比ではない勢いで生命力が奪われていく。壊さずとも響く呪いの言葉が、ずっと低く響いている。
『あの子に生きてほしい。死んでほしくない。生きていてほしいんだ』
『だから、死んでくれ。みんな、みんな死んでくれ。あの子の為に』
生死の渇望と呪詛と共に襲い来る呪いの黒い手。それを悠里はするりと躱し、響く声に何を想ったか、怒りを孕むような声で言う。
「あなたの手出しなど無用です。全て私が食らうと決めたのですよ? この思いの端くれだろうとくれてやるものか」
だから壊してしまいましょう。
壊しましょう。食らいましょう。無慈悲な鬼の所業だと嗤いましょう。
歌うような悠里の声に合わせ、彼の放った呪いが木像を蝕んでいく。誰かの声に惑わされず、呪いであるのならば壊してしまえと彼は嗤う。
壊して。壊して。木像を壊しきって。力を失った二つの指輪が、からりと床に落ちた。その指輪に何の意味があろうと、悠里には関係のないことだ。
「恐れも涙も、鬼には必要ありません。そうですね、姉さん」
還る声はなかった。
静寂が部屋を支配する。
ただ、部屋の隅にかけてある鏡に気づいて、それに映る自分を見るよりも早く、悠里は鏡を破壊した。
見たくないものを、見ない為に。
●
廃病院の各所に設置されていた、生命力を吸い取る呪具。
悠里の破壊したものが最後だったのか、中心だったのか。いずれにせよ、呪具は効果を失い、生命力を吸い取る力が消えていく。体の軽くなった猟兵たちは、一度エントランスホールで合流して一息ついた、その時――。
ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!
地の底から響く、悲鳴に似た絶叫。
廃病院全体が、まるで巨人に掴まれて揺さぶられているように大きく揺れる。立っていることも難しい程に建物全体が揺れ、鳴らないはずのナースコールがデタラメにけたたましく鳴り響き、絶叫は止まない。
それら全てが最高潮に達して、強い強い耳鳴りになり。
ガゴンッ!!!!!!!
一際巨大な音と振動。それが全て収まった時。
猟兵たちの視界の先で、地下へと続く階段が、不気味な寒さを湛えて出現していた。
成功
🔵🔵🔴
第3章 ボス戦
『九渓之永久姫』
|
POW : 契約者共戦うが良い、大事な者と再び会いたかろう?
戦闘用の、自身と同じ強さの【嘗て契約をし死者の蘇りを願った者達】と【其の血を引く者達で構成された軍勢】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
SPD : 捕えよ死者共、終わらぬ死より開放してほしかろう?
【嘗て蘇らせてきた死者や弐の約定を守らず人】【すら殺め其れですら止まらず嘗ての友や親、】【子に喰らわれた契約者の成れの果ての群れ】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : 亦紅よ我が尤も信頼せし友よ、そなたの出番ぞ?
自身の身長の2倍の【永久姫と生前から共にあった狼の変化、亦紅】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
イラスト:狛蜜ザキ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠水貝・雁之助」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
霜が降りる程に凍える階段を、猟兵たちは降りていく。先程は立っていられない程に揺れていたというのに、建物や階段に損傷はない。あれほど煩かった音も止み、今は猟兵たちの息遣いと足音ばかりが響く。底冷えのする螺旋階段を、猟兵たちは下る。下る。
階段の果ては何処だ。そう思いながら更に下り、そうしてその終わりは唐突に表れる。
「霊安室……」
扉の上のプレートを見て、誰かが呟いた。普通では絶対にありえない場所にある扉の、触れれば凍り付きそうなノブに触れた、その時。中から声が響く。
「足りないなら俺の命を使ってくれ!あと少しなんだろう?!」
猟兵たちは一瞬で目配せし合い、霊安室に突入した。
凍える霊安室の中は、青白い電灯で照らされた広い広い部屋だった。部屋にはいくつもの棺が置かれていたが、その窓は霜に覆われ顔を覗くことは叶わない。霊安室とは名ばかりの、不気味な広間の奥で――
「よかろうよかろう。ぬしがそう望むなら、そうしてやろ」
幼くも、どこか悍ましさを感じさせる少女の声が響いた。次の瞬間には耳をつんざく絶叫。猟兵たちがそちらに目を向ければ、最奥に祭壇がある。祭壇には青白い棺が置かれ、それに縋り付く人影とその頭を撫で続けてる小さい姿。
「おぉ、よしよし。可哀想になぁ。あと少しなのになぁ。あと少しで、その娘を黄泉帰らすに足る生命力が集まったというに、客人たちが呪具を壊してしもうた」
「とはいえ足りぬ。ぬしの命だけでは全く足りぬよ。ほれ、動け、動け。大事な者と再び会いたかろ?ならばあの客人ども、全て殺して妾に捧げよ」
人影に寄り添う少女の声は、慈愛に満ちている。その声を受けて、人影は――この事件を起こした犯人たる青年が、ゆらり、立ち上がる。青年の顔は青白く、生気は全く感じられない。今しがた命の全てを邪神に捧げた彼は、渇望の果ての妄念と成り果てていた。
「こんなところまで来よって、猟兵どもめ。大人しく妾の完全なる復活の贄となっていればよいものを」
薄暗い灯りの中で、少女の輪郭を纏った邪神が、にたりと笑う。少女に付き添う狼骨の眷属が、がしゃりと音を立てる。
「あぁそうだ、ぬしらにもあろう。黄泉帰らせたい誰か。もう一度会いたい死せる誰か。そら、妾が生き返してやろ。こんな風に」
部屋中の棺の蓋が音を立てて開く。虚ろな青年がナイフを構える。闇の力を湛えた少女は嗤っている。
棺から出た死体が、次々と誰かの顔を象っていく。
「妾の為に、その者らの手にかかって死ね、猟兵」
邪神が、歪んだ月を浮かべて嗤っている。
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※死霊使いのボスとの戦いとなります。少々特殊ルールとなっておりますので、参加の前にご確認下さい※
今回の敵の行動です。参考にどうぞ。
POW:今回の事件を引き起こした青年や、かつて邪神と契約した契約者たちが召喚されます。
彼らは等しく貴方に言うでしょう。
生き返らせたいんだ」と。
SPD:この病院で犠牲になった患者や一般人などの死者が召喚されます。
また、皆様に「過去に大切な人を喪っている」「守り切れずに亡くなった人」など、人生に於いて大きな影響を与えた死者がいる場合には、その死者の姿の死霊が召喚されます。ご指定があればプレにどうぞ。
彼らは等しく貴方に言うでしょう。
「生き返りたい」と。
WIZ:邪神「九渓之永久姫」とその愛狼「亦紅」との直接戦闘となります。
何と『戦い』、何を『思い』、どう『行動』するのか。選ぶのは猟兵の皆様です。
=======================================
●
邪神がくすくすと微笑む。
部屋を埋め尽くすばかりの棺の扉が次々と開かれ、緩慢な動きでそれらは棺から這い出づる。はじめはのたりと。次第に機敏な人の動きに。誰かもわからない顔が、対峙する猟兵を前に「誰か」の顔を象り、その誰かの体に成って、猟兵の前に立つ。
それは、邪神が言う、「大切な誰か」。「もう一度会いたい、死せる誰か」。
水標・悠里
【SPD】
私が亡くしたのは、痛みで埋め尽くされた世界の中で、唯一暖かな心を向けてくれた姉でした
鏡を見なくても覚えている。きっと今の私と同じ顔、幾らか年が離れていても、本当によく似ていた。年が追いついた今なら、尚更のこと
生き返りたいのですか
あなたはそう願うのですか
なら願いを叶えましょう。私と共にいきましょう
あなたの死が今も私を苦しめるのです。未だに疼いて、痛くて堪らないのです!
この痛みは私が私である所以。いきたいと願うなら、その場所は私の心の内だけでいい
あなたが下さった愛も痛みも、すべて私が食らいましょう
さようなら、春のように暖かな人。今度は私があなたの手を取る番
もう私の涙を拭う手はないのですね
●
水標・悠里(羅刹の死霊術士・f18274)の前に立つのは、一人の少女だった。まるで悠里と生き写しの姿の、青白い顔色の少女。
悠里が亡くしたのは、痛みで埋め尽くされた世界の中で、唯一暖かな心を向けてくれた姉だった。自分の姿を鏡で見なくなって、もうどのくらい経つのか。だが、鏡を見ずとも覚えている。判っている。
――きっと、今の私と同じ顔。幾らか年が離れていても、本当によく似ていた。年が追い付いた今なら、尚更のこと。
『……生き返りたい』
姉の姿をした少女はそれだけ言った。おもむろに少女が振り上げた手に、いつの間にかナイフが握られている。
『生き返りたい』
もう一度呟いた刹那、少女は地を蹴った。存外素早い動きで距離を詰め、悠里にナイフを突き立てんと襲い掛かり――鮮血が、飛んだ。
悠里は避けず、しかしナイフを握る少女の手を掴む。ナイフが己の手を抉るのも構わずに。
悠里の手を流れ続ける鮮血を見ても、少女に表情はない。悠里はゆっくりと、狂気に似た色を宿して少女を見る。
「生き返りたいのですか。あなたはそう願うのですか」
ギリ、と。強く強く、少女の腕を掴む。
「なら願いを叶えましょう。私と共にいきましょう」
悠里が自らに悪鬼を降ろす。鬼の力で強化されゆく体は、力と引き換えに呪縛に苛まれるとしても。
「あなたの死が今も私を苦しめるのです。未だに疼いて、痛くて堪らないのです!」
もうとっくに、彼女の死からはじまる呪縛と痛みに苛まれている。
今更こんな痛みなど。
「ですがこの痛みは私が私である所以。いきたいと願うなら、その場所は私の心の内だけでいい。あなたが下さった愛も痛みも、すべて私が食らいましょう…!」
姉を失ったその時の痛みに、そして日々彼女の記憶が薄らいでしまう恐ろしさに比べれば…!
失ったものを取り返したくて取り込んだ狂気を開放し、己を刺すナイフを引き抜いて少女を切り裂いた。酷い断末魔をあげて、少女だったものが崩れ落ちて消えていく。
「…さようなら、春のように暖かな人」
それが姿を似せただけの紛い物だと知っていても、そう言わずには居られなかった。
今度は私があなたの手を取る番。
もう私の涙を拭う手はないのですね。
流れる血もそのままに、静かに佇む悠里の背が微かに揺れた。
成功
🔵🔵🔴
黒暗九老・有麓落羅区
死霊(追腹で死したサムエンの友人の姿)
日焼けした肌の優しげな目の男に懐かしさを感じながら
久しぶりじゃ
ユーが旅立ってから、どのくらい経つかのう?
友が自らの手で旅立つ前日
最後に会ったあの日を何度思い出しただろうか
彼は最後まで何も語らなかったから、世事に疎く鈍い自分は、彼の胸に秘めた覚悟に気づかなかった
未だに手向けの言葉を送れないのは彼の心の内がわからないから
のう、死の間際、ユーの心にはどんな景色が広がっていたんじゃ?
……なんてのう
本当はユーが本物の友ではない事は分かっておる
少し残念だがUCで散ってもらうかのう
結局友の死に際の思いは分からず仕舞いだが、最後に会った日の空のように澄んでいたらと願う
●
日焼けした肌。優し気な目元。…少し青白いが、それは死霊じゃからな。仕方ない。
嗚呼。懐かしいのう。
もう一度会いたい死せる誰か。
そう言われて、何処か予感はしていたのかもしれない。かつて追腹で死したサムライエンパイアでの友人の姿を前に、黒暗九老・有麓落羅区(戦闘狂の神・f16406)は動揺よりも懐かしさを覚えていた。
「久しぶりじゃ。ユーが旅立ってから、どのくらい経つかのう?」
決して戦闘で抜くことのない刀に、そっと触れる。
最後に会ったあの日を、何度思い出しただろうか。彼は最後まで何も語らなかった。故に、世事に疎く鈍かった有麓落羅区は、彼の胸に秘めた覚悟に気づかなかった。
手向けの言葉を未だに送れないのは、彼の心の内が、未だにわからないから。だからほんの少しだけ、期待してしまったのかもしれない。
「のう、死の間際、ユーの心にはどんな景色が広がっていたんじゃ?」
『…生き返りたい』
有麓落羅区の言葉を聞いても、手を振れる刀をちらと見ても、かつての友の表情は変わらない。ただそれだけを繰り返す。有麓落羅区の言葉に返す言葉もない。
それどころか、友は腰に履いたボロボロの刀を抜いて、上段に構えて有麓落羅区へと襲い掛かる。けれどその足運びにも刀の扱いにも、かつての面影はない。
「……なんてのう。本当はユーが本物の友でない事は、分かっておる」
矢張り別人。ただ姿を真似ただけの紛い物。期待したところで、返ってくる言葉も紛い物。彼の本心を知るには、邪神の操り人形では遠い。
残念そうに、少しだけ悲しそうに、有麓落羅区は怨念纏う刀に手を置く。妖刀の怨念が呪いと成りて有麓落羅区の体力を削って力に変えてゆく。
腰を落として低い体勢に構え、駆ける。
怨念を纏った高速移動で奔り、すれ違いざまに『流血白雪』を抜刀した。
まずは刀が一閃。立ち上がって血を払えば、衝撃波がその体を千々と切り裂いた。
友の顔をした「誰か」だったものは声もあげずに絶命し、その返り血が真白の雪となって「誰か」の上に降り積もっていった。
結局、友の死に際の想いは分からず仕舞いだった。答えは有麓落羅区自身が見つけるしかないのだろう。
ただ今は、最後に会った日の空のように、外に出たならば澄んだ青空が広がっていたらいいと願った。
成功
🔵🔵🔴
如月・遥
『てぶくろ』で連携。
私のお父さん、お母さん…
あの時死んだ筈なのに…
私が…殺した筈なのに…
私は…あなた達に会いたくなかった!
だって!あなた達は私が殺したも同然なのに!
【心の一方】を全開にして、死者に「来ないで!」と念を叩き込んでみる。
これで何とか<時間稼ぎ>をして…
でも…そんなことして結局何になる?
私は…過去から逃れられるの?
お願い!生き返らないで!
来ないで!来ないでよぉッ!!
キキ・ニイミ
『てぶくろ』で連携。
いつも頼もしい遥さんがあんなに怯えて…
こんなときこそ、ボクが何とかしないと!
お世話になってる遥さんに<恩返し>する為にも!
まず<救助活動>で怯えてる遥さんの元に駆け寄り、抱き付いて体を抑え付ける。
そして密着したまま【アニプラズマヒール】を使って、遥さんを落ち着かせるよ。
さっき(第二章)あの悲しそうな声に【アニプラズマヒール】を使った時、声の主は「ありがとう」とボクに言ってくれた。
【アニプラズマヒール】は本来『陽のオーラ』で相手を回復させるUCだけど、今回の敵には逆に攻撃に使えるかもしれない。
遥さんを介抱する一方で、敵にも【アニプラズマヒール】を放って攻撃するよ!
●
なんで。どうして。
私は、会いたくなんかなかったのに。
疑問は震えに。現実は恐怖に変えられていく。
邪神はくすくすと嗤っている。
此処に至るまで常に気丈だった如月・遥(『女神の涙』を追う者・f12408)が、がくがくと膝を震わせていた。
邪神が嗤って象るは、一組の夫婦。懐かしさと恐ろしさを同時に運ぶ、青白い死霊。
それを目にし、遥の血の気がさっと引いた。
「私のお父さん、お母さん…あの時死んだ筈なのに…私が…殺した筈なのに…」
遥がぺたりと尻餅をついた。父母は虚ろに遥を見下ろしている。表情は、ない。
『生き返りたい』
『生き返りたいんだ』
疑問に答える声はない。
執拗に一つの言葉だけを繰り返しながら、一歩、また一歩、遥へと迫る。父母の伸ばした手が、遥の首筋へと迫る――。
「来ないで!!」
拒絶はユーベルコードを纏って衝撃波として父母に叩きつけられる。母の片腕が飛んだ。けれど、父母の足を止めるには至らない。もう一度放った。
「私は…あなた達に会いたくなかった!だって!あなた達は私が殺したも同然なのに!」
衝撃波が父の腹を吹き飛ばす。けれど、止まらない。
――どうしよう。時間稼ぎをしたいのに。
――けれど、そんなことをして結局何になる?私は、過去から逃れられるの…?
未だ過去を乗り越えられない。
それどころか、逃げたくて、見たくなくて、心の奥底に蓋をしていたのに。
どうして引き摺り出すんだ。どうして。どうして。
不規則に呼吸が乱れて息が苦しくて、遥は出鱈目に拒絶を繰り返す。
「お願い!生き返らないで!来ないで!来ないでよぉっ!!」
「遥さん!」
ぼろぼろと涙を流しながら後退する遥の元に、キキ・ニイミ(人間に恋した元キタキツネ・f12329)が駆け寄って抱き締めた。
いつも頼もしい遥が、見たこともない程に怯えている。ならばこんな時こそ、自分が何とかしないといけない。何とかしたいのだと思った。世話になっている遥に、恩返しをする為にも!
キキは決意を胸に、遥を抱きしめる手に力を込めた。
「遥さん、遥さん、わかる?キキだよ。もう大丈夫!」
「…キキ?あぁやだ、いやだ!来ないで、来ないでよぉ!!!」
まずは遥を落ち着かせねばならない。なるべく穏やかな声で、遥に話しかける。それと同時に、暖かな陽の光を思わせるオーラを遥へと送る。一度は落ち着きかけた遥だったが、視界に父母の姿を捉えるとまた逃げようとする。
ならばと、キキは遥が心を乱す原因となっている父母を見遣った。彼らは死者だ。そして、邪神によってその場で顔と体を作り替えられているのを見ている。
つまり、彼らは死者ではあるが、遥の本物の父母ではない。
―…さっきあの悲しそうな声にアニプラズマヒールを使ったら、声の主は「ありがとう」とボクに言ってくれた。
あれがどう作用したか、正確には判らない。だが、「アニプラズマヒール」とは陽のオーラで相手を回復させるユーベルコードであるが、今回の敵には逆に攻撃に使えるかもしれないと、キキは考えを巡らせる。
「なら、とりあえずやってみる!」
遥を強く抱きしめたまま、キキは暖かな陽のオーラを父母へと届ける。本来なら敵を回復させるような真似は、戦闘中では御法度だろう。事実、母の弾き飛ばされた手が、父の腹が、みるみるうちに回復していく。
だが。確かにキキの勘は当たっていたのだ。
父母はぴたりと足を止める。肉体を満たす邪神の冷たい力が、陽のオーラによって温められて性質を変えていったのだ。死者は黙したまま語らず、だが明らかに、遥とキキを見る目が戸惑っている。
効果を確信したキキは、更にアニプラズマヒールを父母に施す。すると温められた体が性質変化に耐えられずに、自壊していく。頭からボロボロと崩れていくその間際。
父母が遥を見る目が、ほんの少しだけ、柔らかさを宿していた気がした。
「…遥さん。大丈夫、もう大丈夫だよ」
「……キキ?……今、そこに、お父さんとお母さんが……」
「うん。大丈夫。もういないよ。遥さん、もう大丈夫」
死霊が去った後。
幼子をあやすように、キキは遥に優しく語り掛ける。大丈夫だよ。大丈夫だよ、と。
恐る恐る遥が振り返れば、確かにもう父母の姿はなかった。
思い溢れて涙する遥に、キキは優しく抱きしめながら、大丈夫だと繰り返した。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
カトリーヌ・モルトゥマール
生き返らせたい人……私にだっているからその気持ちはわかるわ。
でも他者を巻き込みオブリビオンにまで縋るのは許せないの。
・行動方針ーPOW UC【Le Jugement dernier】
「私はゲヘナ。お前たちに永遠の滅びをもたらす者。冥土の土産に覚えて逝け」
召喚された契約者達には同情こそすれど慈悲は必要ない。今ここにいるのはかつてその身を捧げるほどに他者の命に執着した抜け殻。
「一人残らずお前たちの会いたい者に再会させてやろう」
UC起動。彼らの苦痛を今すぐにでも断ち切るために最初から全力で行かせもらうわ。
炎の翼で機動力を確保し、契約者達を地獄の炎でまとめて焼き尽くす。
・その他
アドリブ、絡み歓迎です。
榛・琴莉
ほんと、邪神ってやつはどいつもこいつも…
一応は約束を守る分、悪魔と契約した方がだいぶマシですね。
先手は譲りましょう。
【オーラ防御】を使いHaroldで【武器受け】、【カウンター】を仕掛けます。
攻撃を仕掛けてくる瞬間の動きは予測しやすくて良いですねぇ。
敵の足元を狙い、【全力魔法】のUCで【串刺し】に。
死者を生き返らせることなど出来ない。
そんなこと、きっと誰だって分かっているんです。
それでも彼の様に、貴女の嘘に縋る人は、少なからずいるのでしょう。
だから、此処までです。
これ以上、貴女の嘘っぱちを信じた、新たな犠牲者が現れる前に。
彼らの願いも、貴女の願いも。
叶う未来など、ありませんよ。
カレリア・リュエシェ
【POW】
見知らぬ誰かを犠牲にしてもか。
犠牲者にも大切な者がいるとしてもか。
そんな遣り口で救われた相手が何を思うか解らないのか。
絶望するだけだ。愛していたお前にも、屍の上に成り立つ自分にも!
引導を渡してやる。せめて骸の海で共にいられるように!!
情けはかけない、容赦もしない。
彼らも形が違うだけでオブリビオンの犠牲者だったとしてもだ。
騎士は彼らを許容してはいけない。
全て斬り捨てる。
願いを潰す私を恨むなら恨め。好きなだけ憎め。
それこそ【大食い】の望むところ。
彼らのドロドロした思いを黒剣で全て喰らって飲み込んでやる。
穂積・直哉
あと少し。
…本当にそうだったのか?
やっぱこいつ一発ぶっ飛ばさないと気が済まねぇや
周辺の敵は見切りや踏みつけで回避して
フェイントやスライディングで視界外からデカイのぶっこんでやる
オレだって喪った
大事な大事な親友を邪神に奪われた
なんでオレだけ残った、どうして、なんでだって思ったさ
会えるなら会いたい、謝りたい、また一緒に遊びたい…
望んで叶うなら…
あぁ、望むだけだよ
オレにそんな力はないし、誰かを犠牲にする度胸も無い
だって、そいつが誰かを犠牲にしたと知ったら喜ぶと思うか?
代償を払ったら立派だとか思ってんじゃねぇぞ
お前はあの子を一番想ってたかもしれないけれど、一番冒涜もしてんだよ!!
●
立ち塞がる人々の顔は総じて青白く、それらが全て死者であることを物語る。敵の先鋒は、今回の犯人たる青年と、嘗て邪神と契約をし死者の蘇りを願った者たち。それらの成れの果て。
青年の唇が、か細く紡ぐ。
『生き返らせたかったんだ。何を犠牲にしても。死ぬべきじゃなかったあの子を…』
虚ろな呟きと共に、青年だったものはナイフを振り上げる。
「見知らぬ誰かを犠牲にしてもか。犠牲者にも大切な者がいるとしてもか」
腹の底から煮えたぎるような怒りを、カレリア・リュエシェ(騎士演者・f16364)は声音に隠しもせずに含める。ずっと思っていた。ずっと怒っていた。身勝手を極める青年の声に。
多くの苦痛の声を聞いた。生を渇望し死を渇望した人々の声を聞いた。騎士として、許せるものかと剣を構える。
「生き返らせたい人……私にだっているからその気持ちはわかるわ」
青い部屋において、赤のロングマフラーが鮮烈に翻る。カトリーヌ・モルトゥマール(ゲヘナ・f16761)は、渇望の果ての妄念たちを前に苦々しく眉根を寄せた。
でもね、と、カトリーヌは言う。黒の髑髏に覆われていない右の瞳が、朱く、青年と邪神を見据える。
「他者を巻き込みオブリビオンにまで縋るのは、許せないの」
その言葉を合図に、カトリーヌは「ゲヘナ」と成りて鞭を握る。
『生き返らせたいんだ』『あの子を』『あの人を』『どうしても』『だから』
死んでくれ。
「お断りだ!」
ゲヘナが吼えた。愛用の鞭が強く床を打つ。
召喚された契約者達には同情こそすれど、ゲヘナが慈悲をかける必要はない。今ここにいるのは、かつてその身を捧げる程に他者の命に執着した、その抜け殻なのだから。
「ははっ。あまり苛めてやるな、猟兵。それらは必死だったのだ。妾に縋らねばならぬほどに」
祭壇の上で楽し気にその様子を見ていた邪神――九渓之永久姫が口を挟む。邪神の指先が踊れば、骨でありながら尚大きな狼骨が、派手な音を立てて地を蹴った。
「だが同時に欲深であった。犬猫の命で繋いだ一週間の黄泉返りで我慢しておれば、人を贄に差し出す必要もなかったというにな。悍ましきは人の欲。人の渇望よ」
鞭を振るうゲヘナに狙いを定め、その腕噛みちぎらんと狼骨が襲い掛かる。だがその牙がゲヘナの腕に届く前に、狼骨の横面を連打して弾き飛ばすものがあった。
それは、鳥。ところどころバラバラで異形の体ではあったが、それはオーラを纏う鳥の群れだった。飛ばされて尚軽く着地する狼骨の足元に着弾音。一瞬で成長した氷の槍が、更に狼骨を打ち上げた。
「ほんと、邪神ってやつはどいつもこいつも…一応は約束を守る分、悪魔と契約した方がだいぶマシですね」
鳥の群れ「Harold」が榛・琴莉(ブライニクル・f01205)の元に帰還する。愛用のアサルトライフルの銃口を向けたままの琴莉に、永久姫が微笑む。
「妾とて契約は守っておるぞ。犬猫の命を捧げ続ければ、一週間黄泉返らせてやろ。それが終わったら妾の胎に戻すべし。それ以上を望むのなら、人の命を捧げ続けよ。選んだのはそやつらよ」
『そうだ……俺が選んだ。だから……』
虚ろに、しかし必死にナイフを振り回しながら、青年が言う。
街の犬猫を捧げ、家族を捧げ、怪談を流して誘われた者たちを捧げ、彼女との思い出が深いものを呪具に捧げ、そして最後に自分の命も捧げた。
それでも尚足りぬと、邪神は言う。故に青年は、死して尚、ナイフを振る。
「そんな遣り口で救われた相手が何を思うか解らないのか」
『わかってる、そんなこと』
「いいやわかってない!絶望するだけだ。愛していたお前にも、屍の上に成り立つ自分にも!」
『わかってる!!』
カレリアと青年の押し問答は平行線を辿る。だが一番聞き捨てならぬ言葉を聞いて、穂積・直哉(星撃つ騎士・f06617)の頬がぴくりと引き攣った。
「わかってる?本当にかよ」
『あと少しなんだ、あと少しで、あの子は…』
「…本当に、あと少しだったのか?」
イラついた。直哉がジャリ、とインラインスケートの車輪を鳴らす。
「やっぱこいつ一発ぶっ飛ばさないと気が済まねぇや」
「あぁ。引導を渡してやる。せめて骸の海で共に居られるように!」
騎士たるカレリアの激昂の叫びを合図に、皆が駆ける。
●
「私はゲヘナ。お前たちに永遠の滅びをもたらす者。冥土の土産に覚えて逝け」
ゲヘナの傷口から、地獄の炎が噴き出す。炎を背に宿したゲヘナが、不死鳥が如き炎の翼を羽搏かせ。
「一人残らずお前たちの会いたい者に再会させてやろう!」
翼によって機動力を得て、契約者達の前衛を炎が薙ぎ払った。死者であり罪人である契約者達を、地獄の炎が包む。地獄の炎は、ゲヘナが思う悪を逃しはしない。
悶え苦しむ契約者達にカレリアが突っ込んだ。恐れず、怯えず、情けもかけない、容赦もしない。彼らも形が違うだけで、オブリビオンの犠牲者だったとしても。
カレリアは騎士だ。騎士は彼らを許容してはいけない。正義を為す者として、罪と知って尚手を染めた罪人を、許してはいけない。全てを切り捨てる勢いで悪食の剣を振るい契約者達を切り捨てて進む。
「願いを潰す私を恨むなら裏目。好きなだけ憎め!」
それこそが「大食い」の望むところ。彼らのドロドロに濁った想いを黒く呪われた剣で全て喰らって飲み込んでやるのだと、カレリアは契約者達を斬り続ける。
狼骨――亦紅が駆ける足元を琴莉の氷の弾丸が次々と穿つ。駆ける軌道を予測しながら次々とトリガーを引き、着弾点から氷槍が次々と突き出す。そのどれもが亦紅を穿つことは出来ず、亦紅は嘲笑うかのように琴莉との距離を一気に詰める。だが琴莉は、銃口を亦紅から急に逸らし、全く別の一点を狙う。それは――
「死者を生き返らせることなど出来ない。そんなこと、きっと誰だって分かっているんです」
狙いを定めた先で、永久姫が笑っている。亦紅が主を守ろうと踵を返し、駆け寄ろうとしたところで気づいた。己が辿った永久姫への道は、突き出した氷槍によって複雑に阻まれていた。
「それでも彼の様に、貴女の嘘に縋る人は、少なからずいるのでしょう。だから、此処までです。これ以上、貴女の嘘っぱちを信じた、新たな犠牲者が現れる前に」
弾丸に魔力を込め終わった琴莉が、躊躇わずに引き金を引いた。亦紅は間に合わない。棺から飛びのいた永久姫を追うように、着弾点から氷槍が祭壇を貫き永久姫の足を捉え貫いた。
「彼らの願いも、貴女の願いも。叶う未来など、ありませんよ」
「くっ……はは。怖や怖や。」
永久姫の貫かれた足を亦紅が引き抜き、彼女を庇いながら低く唸る。永久姫は未だ嗤っている。琴莉は冷静に、弾丸にジャック・フロストを再装填した。
ゲヘナの炎に焼かれ、カレリアの剣で斬り払われる契約者達を踏みつけ、その奥でナイフを振るう青年を直哉は急襲する。上段から襲う素振りを見抜き、青年は高めにナイフを構え、タイミングを見計らい一閃しようとして――直哉を見失った。
飛ぶと見せかけ重心を落とし、膝に力を溜め、そのまま前のめりに突き進む。
「オレだって…オレだって喪った!大事な大事な親友を、邪神に奪われた!」
超高速で左足が跳ね上がる。靴に仕込まれた暗器を衝撃波と共に一斉発射し、その全てが青年を切り裂き腕を奪いナイフを弾き飛ばす。
「なんでオレだけ残った、どうして、なんでだって思ったさ。会えるなら会いたい。謝りたい。また一緒に遊びたい…望んで叶うなら…」
直哉は爪が食い込む程に強く、拳を握りしめた。片腕を失い後退する青年を、怒りの込められた黒い瞳が強く睨みつける。
「あぁ、望むだけだよ。オレにそんな力はないし、誰かを犠牲にする度胸もない」
『けれどそんな力があったならどうする。お前だって縋るだろう…!』
青年が、筋肉の限界を超えた力を込めて跳躍する。牙を剥きだしにして噛み裂かんと、爪を尖らせ食い込ませんと、責め立てるように直哉に飛び込む。
「縋らねぇよ。だって、そいつが誰かを犠牲にしたと知ったら喜ぶと思うか?」
もう一度。暗器を仕込んだ右足で、その開放と同時に勢いよく回し蹴りを放った。
「代償を払ったら立派だとか思ってんじゃねぇぞ。お前はあの子を一番想ってたかもしれないけれど、一番冒涜もしてんだよ!!」
青年が部屋の奥まで吹っ飛ぶ。祭壇にぶち当たり、衝撃でその上の棺と共に転げ落ちて壁に叩きつけられ棺に挟まれて潰される。壊れた棺の扉が開いて、最早身動きの出来ない青年の前に、中の死体が転がり出た。
『あの子』の顔が、青年の正面にあった。
明るくて、料理はちょっと下手だったけど、なにより青年を好きと言って憚らない子だった。いつも照れ臭くなってしまって、青年はその言葉を返したことが終ぞなかったけれど。
全ての生命力を捧げて死に、そうしてまた死のうとしている今、黄泉返らせたかった彼女の顔を見て、ようやく猟兵の言葉全てが青年の死した心に刺さった。
彼女は、眠りながら泣いていた。
あぁクソ。本当だよ、俺は本当に勝手だ。
ウェディングドレスも指輪も用意しておいてさ。
なのに「愛してる」というたった一言さえ言えない意気地なしで。
言えないままに去ってしまった罪悪感に耐えきれなくて。
俺は、たった一言を伝える為だけに、こんな死体と罪で出来た場所まで、この子を連れて来てしまった。
『……香奈。香奈。好きだ。愛してる。ごめん。ごめんな、香奈……』
青年の冷たい瞳から、温かな涙が一筋落ちる。それが、彼の最後の命の炎。
伸ばそうとした、罪に塗れたその手は彼女に触れることなく。
悔し気な泣き顔のまま、犯人であった青年は霜と散った。
青年に何があったとて、犯した罪は変わらず、犠牲にした命は還らない。
けれど皆、黙したまま、その終わりを見ていた。
大成功
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アルトリウス・セレスタイト
大人しく忘れ去られておくが良かろう
破天で掃討
高速詠唱と2回攻撃で間隔を限りなく無くし、全力魔法と鎧無視攻撃で損害を最大化
爆ぜる魔弾の嵐で蹂躙する面制圧飽和攻撃
攻撃の密度速度で反撃の機を与えず、周囲一体を残らず吹き飛ばして回避の余地を与えず
それでも反撃してくるなら消失の攻撃吸収と自動反撃で対処
全である空虚に態々名をつけて扱う程度の己は万能に動けても全能には遠い
終わったものを逆しまには戻せぬ
この場では邪神を狩るに力を尽くす
霑国・永一
この期に及んでそんな死に損ない以下の残り滓を嗾ける気かな?いやぁ、随分と余裕だなぁ。
それじゃ、任せるよ、《俺》
『ハハハハッ!生意気な小娘だ!』
肉体主導権全て戦闘狂人格に譲渡した真の姿の上で狂気の戦鬼を発動
高速移動で成れの果ての群れを回避、または衝撃波を放って相殺・吹き飛ばす【ダッシュ・見切り・早業】
道が開けたら永久姫へ向けて接近しつつ死角から衝撃波を叩き込み続ける
嗾けられた敵の群れを攻撃の最中に、余裕あれば装備している武器を盗み、破壊するか遠くへ捨てる【盗み・盗み攻撃】
『ハッ!生き返りたい生き返りたいうっせぇよ!有象無象の死人に口は要らねぇな!俺様が口を永久に塞いでやらァッ!!』
三原・凛花
お生憎様、わたしは一々あなたの力を借りる必要なんかないんだよ。
だってわたし、自分で呼べるもの。
「過去に喪った大切な人」「守り切れずに亡くなった人」、つまりわたしの子供達を。
こんな風にね。
【水子召喚】で子供達を呼んで、<生命力吸収>で敵の霊力を奪うよ。
流石に『邪神喰い』までは不可能だろうけど、あの狼位なら魂を取り込んで『お友達』にも出来るかもしれない。
「大切な者に生き返って欲しい」という思いに付け込むなんて、あなたも大概外道で悪趣味だね。
ふふ…でもあなたなんてまだまだ可愛いものだよ。
死んだ自分の子供を戦いの道具にするわたしに比べたら…
本当、いつまでわたしはこんなことを続ければいいんだろうね。
●
「契約者共はやられてしもうたか。良い良い。人の渇望ある限り、契約者は消えず、妾も完全に復活できるというものよ」
のんびりした口調は余裕の表れか。ひらひらと掌を振って、永久姫は嗤う。邪神にとって契約者とは贄を運ぶ道具でしかないのか。飽きたら捨てるかのように、邪神に執着はなかった。
「して?ぬしらにはおらぬのか?生き返らせたい誰か。妾に贄を捧げれば、生き返らせてやろうぞ?」
楽し気にコロコロ笑って吐き出す言葉には毒しかない。けれどその甘い毒に、ぴしゃりと冷水を打ったのは三原・凛花(『聖霊』に憑かれた少女・f10247)だ。
「お生憎様、わたしは一々あなたの力を借りる必要なんかないんだよ。だってわたし、自分で呼べるもの」
「ほう?」
興味を惹かれて邪神が身を乗り出す。
凛花にとって、過去に喪った大切な人。守り切れずに亡くなった人。それはつまり、凛花の子供たち。
――こんな風にね。
そう言った凛花の周囲に、愛すべき凛花の水子達が徐々にその姿を現した。
邪神が半月を歪める。まるで「同類を見つけた」とでも言うように。
「面白くなってきた。さぁさ、駒を進めようぞ。ほれ、動け死者共。黄泉返りたかろ?」
「この期に及んでそんな死に損ない以下の残り滓を嗾ける気かな?いやぁ、随分と余裕だなぁ」
永久姫に負けず、のんびりとした口調で霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)が歩み出る。多重人格者である永一が、人格を切り替えるスイッチは簡単だ。ただの一言、言えばいい。
「それじゃ、任せるよ、《俺》」
纏う雰囲気が一変する。のらりくらりと掴みどころのなさそうな永一が、人格を切り替えた途端体中から殺気を漲らせ――それを見て、被害者の死霊を展開させて永久姫もまた嗤う。
「猟兵如き、残り滓ぐらいで丁度よかろ」
『ハハハハッ!生意気な小娘だ!』
肉体の主導権を全て戦闘狂人格に譲渡し、真の姿を露わにした永一が、凶暴に笑った。
「そら行け、死者共。こやつらを倒せば、よい生命力が手に入るかもしれんぞ?」
まるで盤上の駒を動かすかの如く、永久姫が死者を嗾ける。永一一人に対し、五人、十人、まだ増える。一人に対して増えて、増えて、まるで圧し掛かるように殺到する。人海戦術。数の上で有利に立つが故の基本戦術。
だがそれも、敵が一人で、此方が一定以上の実力を有し、圧倒的に蹂躙出来るだけの数を有しているならの話。
永一に覆い被さるように殺到する何体もの死霊たちを、高い天井から降り注ぐ青い魔弾の雨が貫いた。
「行き止まりだ。大人しく忘れ去られておくが良かろう」
お前たちは。そして此処は。
アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)の青の目が、死霊を射抜く。たくさんの言葉など必要ないと、アルトリウスは持てる技能をフルに動員し、200本近い青く爆ぜる魔弾を生成する。暗く冷たい部屋を照らす、青の光芒。彼はただ、彼のすべきことを、行動によって示すだけだ。
「破天」の名の如く、天を裂いて魔弾の嵐が降り注ぎ、邪神や死霊を圧倒する。攻撃密度を高め、反撃の機会も与えない程高密度な面制圧飽和攻撃。死霊程度ではひとたまりもない。
『あっぶねぇなぁおい!!俺様ごと貫く気かよ!!!』
魔弾に貫かれた死霊の山から、永一が飛び出す。言葉とは裏腹に、永一は愉し気に笑っていた。半月の軌道を描く高速の蹴撃が、手近な死霊を巻き込みながら衝撃波を放つ。
「ほれ。残り滓とはこう使う」
残酷な笑みを浮かべて、邪神は死体を集めて肉の壁を形成する。叩き込まれた衝撃波に死体がいくら弾け飛ぼうが、「生き返りたい」「生き返りたい」という死体の声を呪詛のように響かせながら、死体は再び邪神を守る盾となる。
その壁の上段から、亦紅が飛び出た。勢いのまま永一に飛び掛からんとする亦紅に、何かが唐突にまとわりついた。それは、子どもたちの霊。まるで犬とでも遊んでいるような楽し気な笑い声をあげて、子供たちは亦紅に次々に取り憑いて。いくら噛み裂かれて数を減らしても、その動きを制限する。
「それにしても、「大切な者に生き返って欲しい」という思いに付け込むなんて、あなたも大概外道で悪趣味だね」
凛花はそれを目を細めて見ている。子ども達が触れた個所から亦紅の生命力を奪われていく。子どもたちは無邪気だ。無邪気で、ただただ、お友達が欲しいと、その思いで亦紅と「遊ぶ」。
「ふふ…でもあなたなんてまだまだ可愛いものだよ。死んだ自分の子供を戦いの道具にするわたしに比べたら…」
「はは。外道同士、仲良くできそうではないか。なぁ」
肉壁の隙間から、邪神がにたりと笑っていた。それはすぐに見えなくなってしまったが、あの笑いが凛花の目に焼き付く。外道同士と言った。否定する言葉を、凛花は持ち合わせてはいなかった。
――わたしに、比べたら。
――わたし。
――……本当、いつまでわたしはこんなことを続ければいいんだろうね。
邪神へ向けたはずの言葉は、どうしてか凛花自身にも返ってくる。胸が苛まれるような感覚とは裏腹に、子供たちは動きの鈍くなった亦紅と、楽し気に遊んでいた。
『ハッ!生き返りたい生き返りたいうっせぇよ!有象無象の死人に口は要らねぇな!俺様が口を永久に塞いでやらァッ!!』
凛花の横を永一が駆ける。死体を衝撃波で吹き飛ばし、契約者の成れの果てを踏みつけ、邪神に迫る。一瞬のすれ違いざまに敵の武器を盗み取り、破壊し遠くに放り投げる手腕は、盗みと言うにはあまりに洗練された鮮やかさを放つ。
「つまらんのう。ぬしらには生き返らせたいと思う誰かは居らぬというのか」
肉壁の後ろで永久姫が嘆息する。
「全である空虚に態々名をつけて扱う程度の己は、万能に動けても全能には遠い。終わったものを逆しまには戻せぬ」
それに応えたのは、死体たちの攻撃を受けて尚静かなアルトリウスの声。「原理」の端末である彼ならば、万能に事に対処するだろう。しかし、全能ではない。自らの出来得ることを知るアルトリウスは、魔弾の狙いを肉壁へと定める。
青い閃光が流星となる。肉壁と成った人だったものを撃ち抜き、次の壁となるはずだった死体を砕き、その壁を剥がしていく。
そして。永一は死体の壁に開いた穴に、ガッと手を入れた。
『見つけたぜ、小娘よぉ!!』
狂乱の笑みが、真正面から邪神と見合う。
「亦紅!!」
永久姫が狼骨を呼ぶ。だが。
「無理だよ、間に合わない。この子たちと遊んだから」
冷たい瞳で凛花が言う。子どもの霊にたっぷりと触れられ、生命力を大量に奪われた亦紅の足が震えている。駆けようとすれど、間に合わない。
『ハハハハッ!残念だったなァ小娘!!吹っ飛びなァッッ!!!』
思い切り力を溜めた暴虐が衝撃波となって、駆け寄る亦紅ごと永久姫を抉り裂いた。
「ぐっ……あああ!!!」
永久姫を庇った亦紅の右半身が砕け、その破片が壁に叩きつけられた永久姫に降り注ぐ。
永久姫自身に、大きな攻撃力はない。今までの攻撃で、猟兵たちは既に気づいていた。脅威となるのは、永久姫が集めた契約者や死霊、そして亦紅のみ。その亦紅も半身を砕いた。
決着は近いと、誰もが確信していた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
水貝・雁之助
蘇らせたい誰か、もう一度会いたい誰か、か・・・
居るよ
・・・だからこそ、君を止める
僕の知ってる永久は邪神の煽動によるものとはいえ自分を殺した村人達を赦せと憎むなと僕に言う子だった
僕の知ってる亦紅はとても優しい僕等の友だった
亦紅の友として永久の父親として・・・あの子の眠りを妨げる君は・・・絶対に止める
其れが僕の・・・『君』の親としての務めだから・・・っ!!
例え躯とはいえ君達と戦う事になったとしても絶対に・・・っ!
永久達と共に過ごした姿である異形染みた真の姿に
UCで悉平太郎を呼び連携
『地形を利用』し祭壇等を攻撃を防ぐのに利用したり敵の攻撃の際にもう一人の『敵を盾にする』様に動いて攻撃を防ぐ
アレンジ可
●
「蘇らせたい誰か、もう一度会いたい誰か、か……居るよ」
水貝・雁之助(おにぎり大将放浪記・f06042)が、永久姫の前に立つ。
「……だからこそ、君を止める」
決意を。覚悟を。その身に宿して。
「誰かと思えば、この体の縁者か。道理で、先程から体が疼くわけよな」
満身創痍でありながら、永久姫は未だ嗤っていた。未だ負けたとは思っていない。
あの日の記憶は、今日だけで一体何度廻ったことだろう。記憶が蘇るたびに、少し苦しくて。あの子の言葉を思い出すたびに、切なくなって。
永久姫に寄り添う骨狼が、低く唸り声をあげる。それに、かつての姿を重ねた。
「亦紅の友として、永久の父親として…。あの子の眠りを妨げる君は……絶対に止める」
ざわざわと雁之助の肌が粟立つ。親しみやすい優しい姿が、変化していく。
「其れが僕の……『君』の親としての務めだから……っ!!例え躯とは言え、君たちと戦うことになったとしても、絶対に……っ!!」
雁之助の手足が、鬣がざわつくように伸びる。異形染みたその姿こそ、雁之助の真の姿。
「永久」達と共に過ごした姿。
「妾のものとならぬのなら要らぬわ、猟兵」
邪神からはじめて、笑みが消えた。
雁之助がかつて神殺しを為した霊犬、悉平太郎を召喚し、二方向から永久姫を攻める。
永久姫はそこらにあった死体の骨から亦紅の体を紡ぎ、半身を与えなおして真っすぐに雁之助を狙わせる。
「僕の知ってる永久は、邪神の扇動によるものとはいえ、自分を殺した村人達を赦せと、憎むなと、僕に言う子だった!」
「知らぬわ!黙れ!!」
悉平太郎を死体の肉片から構築した壁で防ぎ、亦紅が機敏に爪を振り上げれば、雁之助が手近に転がっていた祭壇を掴んで攻撃を防ぐ。
「僕の知ってる亦紅は、とても優しい僕等の友だった!」
「黙れと言うておろうが!!」
主の激昂に呼応するように、亦紅が猛然と雁之助に襲い掛かった。雁之助は身軽な動きで部屋を駆け抜け、悉平太郎によって視界を遮られて身動きのとれない邪神にぶつかる直前で、その横をすり抜けた。勢いのまま亦紅が邪神へと突っ込む。
「これで…終わりだ!九渓之永久姫!!あの子の体を返せ!!」
弾き飛ばされた邪神を雁之助の腕が捉え、亦紅ごとそのまま壁へと渾身の力で叩きつけた。
「ああああああっ!!そんな、嘘だ、なぜ、妾が消え……っ!!!」
邪神の断末魔が、響いた。
辺りはしんと静まり返っている。今、猟兵以外に動くものは、この霊安室にはいない。
倒され邪神の抜けた少女の体を、雁之助は異形の腕でそっと抱きかかえた。少女はもう動かない。骨狼は立ち上がらない。
邪神が消えたことで、ぽつ、ぽつ、淡い光が浮かび始める。それは肉片から。棺から。祭壇から。
淡い光は、邪神に囚われた肉体や魂を取り込んで、浮かんでは消えていく。
雁之助は、愛しい少女をぎゅっと抱きしめた。
少女の体も、淡い光が包み込んでいく。
まだ。もう少し。抱きしめていたいんだ。
「永久……」
愛しい子の名前を呼んだ。お願いだ。もう少し。
もう少しだけ、この子を。
「――……、…――」
響くはずのない声が、確かに雁之助の心に届いた。
驚いて目を見開けば、少女が淡い光に包まれて―――ぱっと、消えた。
蛍が散るように儚く。どこか温かく。
消える間際に、確かに雁之助は見た。
息絶えた少女は、雁之助の腕の中で、静かに笑っていた。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2019年06月04日
宿敵
『九渓之永久姫』
を撃破!
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