#UDCアース
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「よく来たな、猟兵ども!」
怒声で猟兵たちを迎えたのは、軍服にベレー帽をかぶった初老の男だった。
「俺が今回の任務で転送を担当する、人間の戦場傭兵、マクシミリアン・ベイカーだ! 貴様ら猟兵には特別にマックス軍曹と呼ぶことを許可してやる!」
猟兵たちの顔を睨みつけながら見回し、マクシミリアンは何に怒っているのか、舌打ちを一つ、また怒鳴る。
「面構えだけは一丁前だな、えぇ!? 俺が見たクソみてぇな地獄を教えられても同じ顔をしていられるか、見ものだな!」
ひとしきり吼えたあと、まったく息を切らさずに、同じ調子で作戦説明を始める。
「貴様らが行く世界は『UDCアース』世界だ! この世界の島国、ジャパン――貴様らには日本といったほうがいいか? ニンジャ気取りめ! ……まぁいい。とにかく日本にはオブリビオンが集中して現れている! オブリビオンは例外なくクソだ! そのクソまみれの地獄に行きクソを殺すのが貴様らの仕事だ! OK!?」
猟兵たちが向かう「UDCアース」世界は、太古から蘇った邪神――無論オブリビオンである――が蔓延る世界だ。とはいえ、民間人に周知されているわけではなく、あるいは都市伝説として語られ、あるいは人目から隠れて活動する邪教が崇拝しているなど、暗躍していることが多い。
今回の任務も、例に漏れない。邪神復活を目論む教団が、雑居ビルを拠点としているらしい。
「まったく面倒な連中だ! だが最低限の足取りは俺が予知で掴んである! これから貴様らにそれをレクチャーしてやるから、俺に感謝しろ!」
鼻息荒く、マクシミリアンは作戦の概要を説明しだした。
曰く、日本の首都、東京の都心から四十分ほど離れた地、国分寺にて、怪しい宗教の噂が跋扈している。
「俺が見た予知は断片的だが、うねうねと蛇のように動き回るクソが、女のアレをナニする邪神を崇拝している宗教があるのは間違いない。もっとも大体の信者は、聖典扱いされている触手のアダルトブックでナニをアレして喜んでるらしいがな!」
一アダルトコンテンツとして根強い人気があるとかないとか、ともかく触手である。
本来はただそうした性的嗜好を持つ人間のサークル、という程度の教団だった。
しかし、そこにUDCの影がちらついた。邪神と崇められるレベルのものではないにしろ、人の精神を蝕む触手型UDCを召喚する方法を、教団の何者かが掴んだらしい。
「クソの幹部が触手のクソを味方につけた場合、教団の中では絶対の権力を得ることになる。町から女を攫うような事態にもなりかねん! そうなれば、女の末路は言わずもがなだ。どうだ、クソみてぇな話だろう! 考えるだけで今朝のコーンフレークを吐きそうになる。だが貴様らは床を汚すなよ!」
放置すれば、冗談ではすまない。UDCを始めオブリビオンはそれだけで脅威だが、性の欲求は時に死をも凌駕する。悪しき力で歪んだ欲望が増幅されれば、危険性は増す。
世間に飛び出す前に、その目を摘み取らなければならない。
「そこで、貴様らには教団に潜入し、是が非でも情報を掴んでもらう! 手段はいくらでもある! 腕っぷしに自信がある奴は、怪しい奴の胸倉を掴んででも聞き出せ! 足が自慢の猟兵は、隠れて情報を探せ! へまをするなよ! 頭が切れるつもりか? それとも顔に自身があるのか? だったら誘惑でもなんでもしてみるんだな!」
得意分野はそれぞれだから、自分の得手とする方法で情報を探れ、と言いたいらしい。
「奴らの行動は素早いぞ! 触手のクソは高確率で沸く! 見つけ次第、殺せ! クソの親玉もだ!」
猟兵たちが頷くが早いか、マクシミリアンは凛々しくも美しい敬礼で、皆を見送った。
「勇敢で無謀な猟兵どもに、敬礼! 死体になったら回収してやらんぞ、いいな!」
七篠文
どうも。秋篠文です。
まず、マクシミリアンのお披露目ですね。
口は悪いですが、根はいい人です。他人に厳しく自分にも厳しいのです。
さて、触手です。
まずは教団に潜入し、情報を探ってください。
触手教団は触手サークルみたいなものなので、「入ります」と言えば入れます。抜けれるかは知りません。
また、教団の一部の人間以外、UDCの存在は知りません。薄かったり厚かったりする触手本をいろんな意味でバイブルにしている、隠れていれば害のない連中です。
いわゆる一般人ですので、殺さないようにしましょう。
しかし、彼らは触手に関しては興味津々なので、工夫を凝らせば凝らすほど、有益な情報が聞き出せるかもしれません。
それでは、みなさんのプレイング、お待ちしています。
第1章 冒険
『触手邪神教団に潜入せよ』
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POW : 怪しいやつを脅し、強引に情報を引き出させる
SPD : 見つからないよう隠れながら潜入し、情報を集める
WIZ : 教団員を誘惑し、情報を引き出させる
👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
エーカ・ライスフェルト
SPD
ひょっとしたらWIZ
マクシミリアンさんの話では、まだ一部しか邪教化していないようなのよね
なら、その一部の影響があったとしても一般的社会生活を送っている教団員もいるはず
例えばコンビニやスーパーに買い物に行ったりね
そこに買い物客や立ち読み客を装って待機し、遭遇次第【影の追跡者の召喚】で監視の目をつけようとします
集まった情報は他の猟兵にも伝えます
また、教団員の顔は、教団のホームページやSNS等の触手好き集団のあれこれを【ハッキング】して集めておきます
「性と趣味の深淵はどこの世界も深すぎるわね。不用意に触れたら戻ってこられなくなりそうよ」
「色仕掛けは苦手なの」術でのストーキングの方が早いので
●
日が暮れて、夜八時16:46 2018/12/29。
自身の端末を見つめるエーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)は、コンビニの客を装っていた。
買い物かごには、旅行用のシャンプーセットと裂きイカが入っている。特に意味はない。
かれこれ数時間、このコンビニを張っている。無論何度か出入りはしているが、店員からは奇異な目を向けられていた。
それも仕方のないことだ。ここは教団の人間が現れるであろう確率が、極めて高いのだから。
「あくまで、予測だけれど」
端末に表示されている、数名の男。触手系のアダルトサイトをハッキングし、頻繁にアクセスしている者の中から国分寺市在住の人間を探し出し、その顔データを保存していた。
さらにSNSも調査し、件の噂についてのコメントを洗い、特定の地名が書かれているものを抽出。信憑性の高い情報を集めた結果、この番地が特定された。
教団の連中は人間だ。物資が必要になるだろう。この番地で唯一食料や雑貨がまとめて手に入るのは、このコンビニしかない。
地味な仕事だ。しかし、今回の任務を考えると、致し方ない選択肢でもあった。
「色仕掛けは、苦手だもの」
無論、色目を使うことが敵に対して有効かどうかは分からないが、力を活かせない可能性がある場面よりは、こうして地道でも結果を残せるほうが、よほどマシというものだ。
コンビニに、痩せ細った男が入ってきた。チェックのシャツをジーパンに入れた、眼鏡の男。
「まったく、あともう少しで本日五射目というのに、なぜ拙者が買い出しに……」
素早く端末と顔を見比べ、エーカは例のサイト常連者にこの男がいることを知る。
しかし、まだ確定ではない。距離を少しずつ詰めつつ、様子を伺う。
男はティッシュとトイレットペーパーを無駄に買い込み、コンビニから去ろうとした。
その足が、止まる。
何かを考えこみ、重そうなティッシュ群を手に図書コーナーに戻ってきた。迷わず十八禁のいかがわしい本を手に取る。
証拠をつかむチャンスだ。エーカは聞き耳を立てる。
「いやはや拙者としたことが、最新号を逃すところだったでござる。ふぅむ……」
食い入るように目を見開き、ページをめくる男。子供がその後ろを通り過ぎ、母親に「見ちゃいけません」と注意されている。
エーカは男の後ろで、猫缶の成分表を見つめながら、男の声に耳を澄ます。
「ふむふむ、なるほど。ううむ、上等でござるな。しかし、ううむ」
黙って読めないのかこいつは、と内心で苛立ちが生まれるが、男はエーカの気持ちなどまったく気づかない。恐らく、後ろに立っているのにも気づいていないだろう。
と、男の手が止まった。あるページをこれでもかと開いて、顔を近づける。
「おおおおおお、これは……! ヌルテカクチュ太郎先生の、曼荼羅触手! ……おぉ、そのように捻ってぶち込むでござるか。ムムッ! 五本もまとめて、その形っ! それは前衛的すぎるのでは? なんと、女の子のおにゃのこからも生えるとな!? それではセルフ……いや、受けと攻めの両立でござろうか。ぐぬぬぬ、奥が深い! これはもはや芸術でござるな……。 素晴らしい……新たな聖典となり得る、良いものでござる!」
何を言っているかはさっぱり分からないが、最後の「聖典となり得る」という言葉に、エーカは可能性を見た。
店員が向かってきたので、男は本を閉じてレジに向かってしまった。
非常に複雑な感情が渦巻く顔をしている店員とやり取りを済ませ、男がコンビニから去る。
マナー違反は重々承知でカゴをその場に置き、エーカは男を追って店を出た。
静かに後をつける。店の周りは明るく、下手にユーベルコードを使えば、目立ってしまう。
「それにしても、性と趣味の深淵はどこの世界も深すぎるわね。不用意に触れたら戻ってこられなくなりそうよ」
男の話を思い出しつつ、エーカは頭を振った。軽い頭痛がしている。
彼らの趣向を毛嫌いするつもりはないが、理解するつもりもなかった。
ほどなくして、男が裏路地に入る。端末で地図を確認し、このあたりが入り組んだ地形であることを認め、エーカは力を開放した。
「我が目よ、追え」
魔術により生まれた小型ドローンが、裏路地を進む。その五感は一切がエーカと共有されていて、彼女自身の目や耳で男を追いかけているのと変わりない。
裏路地で一人、男がニヤニヤと呟く。
「いやはや、良きものを見つけましたな。これで教祖様に認められれば、アーカイブで裏の裏触手本が見放題ですぞ。ディヒュヒュヒュヒュ!」
奇妙な笑い方はともかく、教祖という単語からも、宗教を連想させる。ほぼ間違いないと見て、エーカは仲間に情報を通信した。
やがて、男が足を止めた。酷く古びた雑居ビルの前だ。
扉の前に立ち、あたりを見回したかと思うと、男はドアをノックした。まず四回、一泊置いて九回。また間を空けて、四回。
ドアが開く。太った男に手招きされて、男は新たな聖典を自慢しながらビルに消えた。
「……今のは、ドアを開くための合図ね。よし」
再び端末を開き、今の合図を送信する。
教団の一部以外は、ただの触手好きサークルでしかない。であるならば、エーカの調査結果は、現在の最適解だろう。
あとは、内部に潜入する仲間の情報をもとに、確たる証拠を掴むだけだ。
ビルを囲むように近づく猟兵の気配を感じながら、エーカは都心の夜空を見上げた。
大成功
🔵🔵🔵
ミコトメモリ・メイクメモリア
サーイエッサー! 任務を遂行するよ!
潜入捜査といえばこのボクさ!
教団員の一人を捕まえて、仲間に入れてもらおうじゃないか。
何、ボクのコミュ力と言いくるめにかかれば教団員とはいえ、一般人などちょちょいのちょいさ!
「ねえ……キミたちの信仰してる神様に興味があるんだ」
「常々思ってたんだ、ボクのこの体は神に捧げられて贄になるために生まれてきたんじゃないかって……」
「生贄を連れてきたとなれば、キミの教団内での信仰を疑うものもいなくなるだろうなあ……神からの信頼……上役からの憶え……昇進……」
射幸心を煽って教団に潜入、内部調査といこうじゃないか
ほら、ボク顔がいいからね。なんとかなるなる。
「四回、九回、四回!」
薄暗い街灯に照らされる雑居ビルのドアをノックし、ミコトメモリ・メイクメモリア(ポンコツプリンセス・f00040)は返事を待つ。
ドアには覗き穴があり、こちらの姿は見られているだろう。
しかし、ミコトメモリには自信があった。
「ボクのコミュ力と語彙力にかかれば、教団員なんてちょちょいのちょいさ! ボクは顔がいいからね!」
一人呟いていると、ドアが開いた。中から、頭に迷彩柄のバンダナを巻いた、太った男が顔を出す。彼が門番のような役割をしているらしい。
太った男は、ミコトメモリを足元から頭の先までねっとりと見つめてから、怪訝そうに首をかしげる。
「なぜ、可愛いおにゃのこがここに? 某(それがし)、幻でも見ているのでありましょうか」
「幻なんかじゃないよ。ボクはミコトメモリ。キミたちの信仰してる神様に、興味があるんだぁ」
腰の後ろで手を組んで、上目遣いに男を見上げる。太った男はドギマギしつつ、汗を桃色のハンカチで拭った。
「いやいや、そちのようなおにゃのこが信仰するような神ではないであります。我らの神は、いわば邪教。そちはどちらかと言えばシスター服とか似合いそうな感じで、某らにとっては、どっちかというとほら、生贄的な――」
きらりとミコトメモリの目が光った。彼の言葉から、内部に侵入するキーワードを得たのだ。
「そう、それなんだ」
「ふぉん?」
発音が理解しがたい相槌を受け流し、ミコトメモリは男に一歩、近寄る。
「常々思ってたんだ、ボクのこの体は、神に捧げられて贄になるために生まれてきたんじゃないかって……」
「……」
太った男の顔が、ミコトメモリの顔に近づく。一瞬ゾッとしたが、どうやら彼はやましい気持ちはなく、こちらを観察しているらしい。
やがて、男は顔を離してミコトメモリに尋ねた。
「そち、年いくつ?」
「えっ、じゅ、十四だけど」
「ふぅむ、なるほど! 合点がいったであります」
手を打って、男は何やら満足げに頷いて、ミコトメモリを指さした。
「つまりそち、厨二病でありますな!?」
「えっ!? いや、ちが――」
「恥ずかしがらずともよいであります。十四歳といえば、まさにその絶頂期。己が神に選ばれし者であるという夢想は誰しもがするもの。某もまた、高貴なる吸血鬼と人間の間に生まれた超常の者と信じ込んでいた時期がありましてな」
それダンピールじゃん、と叫びたい思いを、ミコトメモリは飲み込んだ。少なくともこの男は、ダンピールのように美形ではない。
「しかしまぁ、贄でありますか。某らの神は、ご存じで?」
「う、うん。あれでしょ、触手の」
手をうねうねさせるミコトメモリに、太った男は頷く。
「そう、ニュルリンホテプ神であります。だからそちが言うような、地獄の第十六封印門を守護する呪いと死を司り七本の魔剣を操る悪魔の生贄は、必要としてないのであります」
「そんなこと一言も言ってないんだけど!?」
訴えても、太った男は聞く耳をもたない。ミコトメモリは、完全に厨二病認定されてしまった。
これでは内部への侵入が難しい。それに外には、他の猟兵が列をなして待っている。きっと非常に奇妙な光景のはずだ。
やぶれかぶれだ。ミコトメモリは、頬が熱くなるのを感じながら男に耳打ちした。
「つまりね、ボク、触手の生贄になりたいの!」
「いやいやそち、それ意味わかって言ってるでありますか? 触手の贄とか、にゅるぐちょでありますよ?」
「――っ! だから、それでいいの! 生贄を連れてきたとなれば、キミの教団内での信仰を疑うものもいなくなるでしょ? そしたら神様からも信頼されるし、昇進だって――」
早口で捲し立てるミコトメモリ。男はやや考え込んでから、なぜか偉そうな態度でため息をついた。
「やれやれ。ここまで厨二病をこじらせ、かつ触手熱も強いとあらば、表の世では生きづらいでありましょうな。ここはひとつ、某らが面倒をみてやるであります」
「……ありがと」
あまりにも感情のこもっていない礼だったが、太った男は満面の笑みで頷いた。
「礼には及びませんぞ! あ、でもこれだけは言っておくであります」
泣きたい思いをこらえて、人差し指を立てている男を見上げる。ミコトメモリの心はズタボロだった。
「触手は二次元の産物。実在はしませんからな。しっかり聖典を読み、そのあたりも含めて学習を深めるであります」
「……」
どうやら聖典の一つらしい『触手とローション風呂とアタシ』なる薄い本を受け取って、ミコトメモリは死んだ魚の目で頷いた。
「ようこそ、ニュルリン教へ! さ、中に。歓迎しますぞ!」
背中を押されて、薄汚い雑居ビルに足を踏み入れる。
どうにか潜入には成功したが、ミコトメモリの心は、これ以上ないほどに空虚なものだった。
苦戦
🔵🔴🔴
火奈本・火花
「厄介な話ですね。ただのそう言ったサークルであれば、その手の本を集めても崇めても、自分好みに作っても好きにすれば良かったのでしょうが」
■行動
こういった人達には誘惑が効きそうですね(WIZ)
その手のコンテンツに興味があるふりをして入団します。その後は彼らの本を読んだり、話を合わせながら位階の高そうな人間に接触しましょう
念のため、ネットや組織に連絡して触手の出てくるえっちな本に関する情報収集をしておいても良いかも知れません
接触出来たら胸元を見せたりや太腿を触らせて「誘惑」。好意を抱いているふりをします
「本当の触手って、どんな感じなんでしょうね……?」
全力で期待をさせ、聞ける情報は全て聞きましょう
アルテミス・カリスト
「触手を崇める邪悪な教団は、
この正義の騎士アルテミスが許しません!」
まずは教団員として教団に入会し情報を集めましょう。
いったいどんな触手を崇めているのでしょうか。
「はじめまして、アルテミスです。
触手に興味があって入会しました」(誤解されそうな言い方)
触手に詳しそうな方を探して詳しく聞いてみましょう。
「あの、あなたはどんな触手を崇めているのですか?」
教典を見せてもらい、内容を確認しなくてはいけません!
けど、厚い本は読むのが大変ですから、
ここは薄い本を見せてもらいましょう。
「ふむふむ。
って、ええっ、き、騎士が触手にっ?!」
他人事ではなく真っ赤になってしまいます。
●
雑居ビルの前に立つ、女が二人。
触手教団の本部と特定されたそのビルを睨み、火奈本・火花(エージェント・f00795)は眉を寄せる。
「厄介な話ですね。ただのそう言ったサークルであれば、その手の本を集めても崇めても、自分好みに作っても、好きにすれば良かったのでしょうが」
「いいえ、いけません! 女性を辱めるような恐ろしい神を、認めるわけにはいかないのです!」
拳を強く握り断言するアルテミス・カリスト(正義の騎士・f02293)は、怒りに燃える瞳を、そのドアに向けていた。
「触手を崇める邪悪な教団は、この正義の騎士、アルテミスが許しません!」
「まぁ、落ち着いていきましょう。UDCなら、私の専門ですし」
「頼りにしてますよ!」
意気揚々とついてくるアルテミスを背に、火花はドアを教えられた情報の回数、ノックした。
やがて出てくる、太った男。彼はとても不思議そうに眉を寄せていた。
「またおにゃのこ……?」
「はじめまして、アルテミスです。触手に興味があって入会しに来ました」
直球もいいところのアルテミスに、火花が思わず頭を抱える。
しかし、これが功をなしたらしく、二人はすんなり中に通された。
「某の見たところ、お二人の威風堂々とした佇まい、歴戦の触手玄人でありましょう! 聖典はお持ちでござろうが、アーカイブの図書は好きに使ってよいであります」
本を「読む」ではなく「使う」という表現に些か思うところはあったが、首尾は上々だ。
二人は雑居ビルの中を歩きつつ、信者たちを観察した。男がほとんどだが、時折女もいる。皆一様に地味な服装をしていて、眼鏡をかけている割合が高い。それぞれ、厚かったり薄かったりする本を持っている。
正面から歩いてきた痩せ細った男に、アルテミスが声をかけた。
「あ、あの!」
「ほいさ」
「えっと、あなたはどんな触手を崇めているのですか?」
「ふぅむ、拙者のジャンルに興味があると見える。実は今日、新たな境地を発見しましてな!」
痩せ細った男は、意気揚々といかがわしい表紙の雑誌を取り出し、付箋が張られたページを、自慢げに開く。
「ヌルテカクチュ太郎先生の最新作、曼荼羅触手! 凌辱ジャンルは食傷気味でござったが、今回は芸術性すら垣間見える美しくも淫靡な作品でござる」
「凌辱、ね。卵を植え付けられたり、長時間快楽から解放されなかったり、ですか?」
事前に様々な触手本を読み漁り、情報収集を重ねていた火花が即応する。痩せ細った男は、彼女に信頼感を覚えたようだった。
「そう、定番中の定番、触手あるあるでござるな。しかし今回は違う。使い古されたネタとはいえ、さすがはクチュ太郎先生と言わざるを得ないでござる」
「どれどれ、ふむふむ……」
男の手から雑誌を受け取り、アルテミスが中に目を通す。
何やら真剣な顔で読んでいたが、アルテミスは次第に顔が真っ赤になっていくのを、熱で感じた。
それもそのはずだ。なぜなら、触手にぬるぐちょにされている、その女性は――。
「え、えぇ、えぇぇぇぇぇ!? き、騎士が触手にっ!?」
「あら、この騎士、よく見たらあなたに似てますね」
淡々とした火花の言葉に、アルテミスは食って掛かった。
「ちょ、やめてください! 他人事じゃないんですから!」
なぜ女騎士ばかりがこんな目に。アルテミスは涙目で項垂れた。
その様子を見て、痩せ細った男が訝し気な目線をアルテミスに向ける。
「……お主、本当に触手スキーでござるかぁ?」
「あぁ、ごめんなさいね。彼女は『イチャラブ専』なの」
見事なタイミングで相槌を打つ火花。
イチャラブとは、仲睦まじくあれやこれやをするジャンルであるらしい。触手好きの中には、触手と人間が愛で紡がれた結果、そういう行為に勤しむ内容を好む者がいる。
その一人とされてしまったことに気づかず、アルテミスはとりあえず頷いておいた。
「そ、そうです! 私は触手イチャラブスキー? です!」
「おぉ……なかなかにコアな……。疑ってしまって申し訳ないでござる」
「いえ。ところでお兄さんは、触手スキーはじめて、長いのですか?」
火花に問われ、男は雑誌を閉じつつ、自信満々に頷いた。
「いかにも! 拙者、八つの時に父上の触手本で目覚めてから、はや二十二年が経つでござる」
「えっ! 結構いい歳なんもがもが」
アルテミスの言葉は、火花に口をふさがれて遮られた。
努めて笑顔で、火花は相槌を打つ。
「そうなんですか。ねぇ、歴戦のプロのあなたに、質問があるのだけれど……」
火花は痩せ細った男の角ばった体にすり寄り、胸を押し付け男の手を太ももに這わせた。
突然の事態に硬直し、縁のなかった女性の香りに目を白黒させている男の耳元で、妖艶に囁く。
「本当の触手って、どんな感じなんでしょうね……?」
「そ、そそそそれは拙者に聞かれても」
「ふぅん。なら、どなたに聞けば、教えていただけるのかしら……?」
首に手を回して、さらに密着。後ろではアルテミスが、真っ赤な顔を両手で覆っている。指の間から覗いているのがバレバレだが。
痩せ細った男の体に、汗が滲む。混乱が極まりながらも、彼は絞り出すように言った。
「と、時折、女性信者がお主と同じような疑問を抱くことがあるのでござる!」
「へぇ……それから?」
上に下にとすりすり動く火花の感覚に、男は悲鳴じみた情けない声を上げながら、必死に続ける。
「きょきょきょ教祖様が、そうした女性を『特別教義』と申して、最上階の自室に連れ込むことがあるらしいでござる! どうせ適当にホラ吹いてセクロスかましてると、男性信者は怒り心頭――いや! 拙者は違うでござるぞ拙者は! 教祖様を信じているでござる!」
パッと、火花が離れる。アルテミスの顔色も、即座に真面目なものに変わった。
一歩詰め寄って、アルテミスが男の顔を覗き込む。
「特別教義? それ、どのような内容ですか?」
「いや、拙者にも詳しくは。ただ噂では、触手の感触を教えてやるとかなんとか申されているようでござる」
今も混乱と興奮冷めやらぬ痩せ細った男は、顔をしきりに撫でながら答える。
彼が冷静さを取り戻す前に、情報を聞き出すべきだ。そう断じて、火花は追い打ちをかけるように尋ねた。
「連れ去られた女性は?」
「さぁ。拙者、あまり女性信者との接点がない故」
「じゃあ、女性信者が突然減ったり、女性じゃなくても誰かが行方不明になることって、ありました?」
「そのような話は聞かないでござるな。あぁでも、一か月ほど前に十五人も突然脱退したことがあったでござる。そういえば似たようなことが、半年前にも」
「……そうですか」
最上階の、教祖の自室。そこに何かがあると見るべきか。
アルテミスと火花は目を合わせて、頷く。
「最上階への道のりを、教えていただけませんか?」
まったく目を逸らさないアルテミスのまっすぐな質問を受けて、汗を拭き終えた男は首を横に振った。
「や! それは分からないでござる。拙者は初期メンバーとはいえ、所詮聖典の調達班。教祖様と直接お話できるのは、儀式班以上と――」
「その儀式班の顔、お分かりになります?」
冷静な火花の声に、男の顔色が変わる。こちらへの疑念を全面に浮かべ、動揺していた面影は、もはやない。
「お主ら……妙に詮索するでござるな」
火花と男が睨み合う。緊張が走る。
その間に、アルテミスが割って入った。男にすり寄り、慣れていない猫なで声を絞り出す。
「ごめんなさぁい! 私たち触手も好きですけど、宗教とか神話とかも好きでぇ」
「……お主、演技ヘッタクソでござるなぁ」
痩せ細った男から、半眼を向けられる。あらゆる潜入調査でそうした手段を会得している火花のようにはいかなかった。
顔を真っ赤にして離れるアルテミスに、痩せ細った男はため息をつく。
「拙者たちが楽しく過ごすコツは、触手を楽しみ、いらぬ詮索をせぬこと。オリエンテーションでそう教えられているはずでござるが、お主ら、まだ受けておらぬのでござるか?」
「いらぬ詮索……。そう、それは知りませんでした」
火花が頷くと、痩せ細った男は小声で囁いた。
「この教団におかしなことが起きているのは、拙者も承知のこと。教団が発足して三か月後に教祖が交代してから、妙に女信者が増え始めましてな」
「えっ」
アルテミスは驚いて、男の顔を見た。警戒をしていたはずの男は、周囲を見回して、唇に人差し指を当てる。
「静かに。誰に聞かれているか分からないでござるよ。女信者は一様に、ある日パソコンにウイルスが侵入し、無理矢理飛ばされたサイトで触手絵を見てハマり、そこに書かれたURLを辿ってこの教団を知ったそうでござる」
早口で捲し立て、誰かに見られていないかを常に気にする男に、アルテミスの方が困惑する。
火花も同様で、男の姿勢に不信感を抱くも、有益な情報として記録していた。
「でもあなた、どうして?」
「……拙者どもの性癖は所詮アングラ。世間に出ればキモヲタとして迫害を受けるが運命。ようやく見つけた居心地のいい住処を失くしたくない、それだけでござる」
もしかしたらこの男は最初から、火花とアルテミスの思惑に気づいていたのかもしれない。
そうだとしたら、なかなかに食えない男だ。火花は口元に笑みを浮かべた。
「なるほど。では、私たちとあなたの目的は、一致していると?」
「革命には常に、伏した知れ者がいるのがお決まりでござるよ」
ニヤリと呟き、男は二人に背を向けた。
「最後に一つ。儀式班の班長は、この教団で唯一の禿頭。他の班員は、すべて女性でござる」
「……ありがとう、ございます」
頭を下げるアルテミスに、痩せ細った男は振り返らずに手を上げた。
「なに。新人にレクチャーするのは古参の役目。当然のことをしたまででござるよ」
突き当りのT字路を曲がり、痩せ細った男が去った。
残された二人は、即座にあらかじめ決めていた通信手段を用いて、すべての猟兵に情報を共有する。
手順を終えて、アルテミスは火花に尋ねた。
「ここからは、どうします?」
「仲間の猟兵から連絡が来るまで、どこかで待機してましょう。できれば、人影の少ないところで」
「潜伏ですね。了解です」
二人は即座に行動を起こす。人気のなさそうな小部屋を見つけて、そこに身を隠した。
だから、二人は気づかなかった。
痩せ細った男が曲がったT字路を、その後ろを追いかけるように、禿頭の男が通り過ぎていったことに。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
御手洗・花子
(これも仕事…仕事なのじゃ…)
予め『情報収集』で触手愛好家が好みそうな衣装を調べた結果は魔法少女、まさに鉄板である。
しかし、外見上は問題ないとは言え実年齢28歳の心にその衣装は痛みを伴う
影の追跡者を召喚し教団内で怪しい動きをする者がいないかを探りながら『コミュ力』情報の聞き出しを試みる。
「は、ハナね、お兄ちゃんの本で見た触手さんが実際にここに居るって噂を聞いてね…あ、会ってみたいなぁって…」
お兄ちゃんの本で性に興味を持っちゃった少女を演じつつ
装備品の万華電灯を魔法ステッキの先端に取り付けて『催眠術』を用いて誘惑し情報を聞き出す。
(全て終わったら全ての記録を抹消したいのじゃ…)
静馬・ユメミル
静馬さん頭がよくて顔も体も完璧なので色仕掛けしましょうか
何人かに適当に話しかけ、反応から静馬さんを好きそうな教団員を路地裏に誘いましょう
お兄さん。よかったら、静馬さんとイイコトしません?
【誘惑】して【情報収集】
【恥ずかしくない】ので平気です
ほら、静馬さんぱんつはいてないんですよ
徐々に脱いでじらしながら情報を聞き出します
触手? 静馬さんに触手は這わせてみたいんですか
えっち。でも、いいですよ
静馬さんにいっぱい教えてくださいね
適当に情報聞き出したら搾り取って寝かせます
ごちそうさまでした
普通の幼女もいいものでしょう?
危なそうなら【足を引き摺って】るうちに逃げます
一人称:静馬さん
どんな時でも平然と無表情
「これも仕事……仕事なのじゃ……」
自身の体を抱きながらぶつくさとやる御手洗・花子(人間のUDCエージェント・f10495)に振り返り、静馬・ユメミル(くもりぞら・f09076)は首を傾げた。
「さっきから、何をブツブツ言ってるんです」
「いやだって、この格好、やっぱ二十八の女心には来るもんがのぅ」
そう言って見下ろす花子の服装は、魔法少女のそれだ。触手愛好家が好みそうな少女の衣装について、花子が調べた結果である。
今のところ、二人は誰とも出会っていない。その服装が功をなすのかならぬのかは、まだ分からなかった。
すでに何人もの猟兵が、ビル内に潜入している。情報を聞く限り、うまくやっているのだろう。
しかし、二人は外にいた。ビルの裏口あたりに回り込み、情報を探っている。
ビルの周りは、花子が放った影の追跡者が、数体配置されていた。
「しかし、どうする? わしらは中に入れてもらえんかったしのぅ」
花子と静馬の見た目は、童女のそれだ。一応扉は叩いてみたが、入口を守る太った男に心配され、追い返されてしまった。
無理からぬことだというのが、二人の共通見解だった。無論、それで諦めるつもりもない。
「裏口から人が出てきたら、情報を探ってみましょう」
壁から身を乗り出して裏口を見張りつつ、静馬が言った。その顔の下でしゃがみ、花子は静馬の顔を見上げる。
「そりゃ構わんが、わしらの話を聞いてくれるかの」
「それは大丈夫だと思います」
「なんで」
断言する静馬への花子の疑問は、ある種当然のものだった。
だが、静馬は平然とした無表情を崩さず、淡々と答える。
「静馬さんは頭がよくて顔も体も完璧だからです。なんなら色仕掛けでもしましょうか」
「どっから来るんじゃ、その自信……」
呆れた様子で、花子が呻く。しかし静馬は、まったく気にしていないようだった。
見張ること十分、裏口が開いた。出てきたのは、中肉中背の丸渕眼鏡の男だ。ゴミ袋を持っている。
恐らく重役ではないだろう。しかし、新たな情報を探るには十分だ。
二人揃って裏口に向かい、ゴミを出し終えた男に静馬が声を掛ける。
「お兄さん」
「ポゥ!?」
頓狂な声を上げて、丸渕眼鏡の男は文字通り飛び跳ねた。
暗闇から声を掛けられれば、誰でもそうなるだろう。それにしても、妙な声だったが。
ともかく、花子は両手を広げて敵意がないことを示してから、男に尋ねた。
「お主、ちと聞きたいことがあるんじゃが、時間をもらっていいかの」
「え、のじゃロリ魔法少女? 小生、夢でも見てるっすか?」
丸渕眼鏡をくいくいやって、男がまじまじと花子を見る。
ここは裏口からはっきり見える場所だ。位置を変えたいと、静馬が丸渕眼鏡の男の手を引く。
「ねぇ、お兄さん。こっち来て。よかったら静馬と、イイコトしません?」
「いや小生、ロリは趣味じゃ。ましてビッチじゃ……」
「のーぱん」
「えっ」
「静馬さん、ぱんつはいてないんですよ。見たく、ないですか?」
丸渕眼鏡の男が、生唾を飲む。静馬はすかさず、男の手を引いた。
裏口から死角となる路地裏に誘い込み、静馬はスカートのすそを掴み、ゆっくりと上げていく。
色の白い太ももが露になり、丸渕眼鏡の男が食い入るようにそれを見つめる。花子のじっとりとした半眼にも気づかない。
「ねぇ、お兄さん。ここ、どんな建物なの?」
「ここ、ここは新興宗教ニュルリン教の本部っす」
「どんな宗教なんですか?」
するすると、徐々にスカートが上がっていく。あと少し、あと少しですべてが露に――。
「触手愛好家が、集まって、聖典を集めて、それを」
「いろいろ使うわけじゃな。まったく男ってのは」
ため息交じりに花子がつなぐが、丸渕眼鏡の男は目を充血させて、静馬の足に注視している。
「無論、研究や執筆も怠らないっすよ! 小生らが描く同人誌、めったくそ評判いいっすからね!」
「ふぅーん。じゃあお兄さん、女の子に触手でえっちなこと、したいんですね」
スカートの裾は、ギリギリのラインで止まっていた。焦らされて、丸渕眼鏡の男が静馬ににじり寄る。
鼻息荒く、男は何度も頷いた。丸渕眼鏡がずれて、震える手で直している。
あまりに必死な形相だが、静馬の表情は微動だにしない。さすがに哀れに思えてきて、花子が頭を掻いて静馬に言った。
「おいおい、あんまり弄んでやるな。気の毒じゃろうが」
「花子も、もうちょっとがんばってほしいんですけど」
「わしもか!? 静馬だけで十分じゃろ」
「そんな服まで着て、何もしないんですか?」
無表情のまま事実を告げられ、花子は唇を噛んだ。
とはいえ、一理ある。猟兵としての責務は、果たさなければならない。
咳ばらいを一つ、花子はスカートの裾を注視する男の背中にもたれかかった。
「は、ハナね。本物の触手さんがここに居るって噂を聞いてね……その、えっちなこと、興味があって。あ、会ってみたいなぁって……」
「フォゥ!? それはマジっすか? いやでも小生、ロリは……」
「触手、静馬さんたちに這わせてみたいんですか」
突然しゃがんだ静馬が、丸渕眼鏡の男に顔を近づける。息がかかる距離で、男の鼻息の荒さが伝わってくる。
無表情なまま、しかし妙に艶のある声で、静馬は囁いた。
「えっち。……でも、いいですよ」
「エッ!」
「静馬さんと花子に、いろんなこと、いっぱい、教えてくださいね」
もはや男は限界に近い。気絶しそうなほどの心臓の鼓動にふらつきながら、何とか最後の理性で、彼は二人に尋ねた。
「き、君たちも……あのサイトを見たっすか?」
例のウェブサイトのことだ。女性がある触手の絵を見て、例外なくそれにハマり、この教団に足を運ぶという。
あるいはそのインターネットサイトが何らかの洗脳を施しているとしたら――。
まだ憶測の域を出ない。もう少し情報がいる。花子は丸渕眼鏡の男の耳元に息を吹きかけながら、問う。
「そのサイトを見てきたんだけどぉ……ここに来た女の人、みぃんな、ハナたちみたいにえっちになっちゃったのぉ?」
「そっ、そうっすね、うん。まぁでも触手スキーが集まってる以上、みんな変態みたいなもんっすから」
「そうじゃなくて、わかるでしょ? 静馬さんたちみたいに、こう、したくなってくるってこと、ですよ」
裾上げが続行される。スカートをめくる静馬の指先が、自身の太ももを艶めかしくなぞる。
花子が眉をひそめているあたり、丸渕眼鏡の男にはもう、いろいろと見えているのかもしれない。
しかし静馬は冷静だった。相手の追い求める言葉を、的確に打ち込む。
「静馬さん、触手と遊びたいなぁ。いろんなこと、されたいなぁ」
「ふーっ! ふーっ!」
もはや言葉を失くした男が、手を伸ばしたり引っ込めたりしている。目の前にある、幼くとも女の体。しかし幼い。理性と欲望のせめぎ合いだ。
「触手さんと遊ぶ方法、知ってますか?」
「ハナも、知りたいなぁ」
花子の猫なで声は、声だけだった。顔には渋面を浮かべている。
丸渕眼鏡を激しく上下させて、男は息も荒く呟いた。
「ぎ、儀式班が、時々女性を、教祖の部屋に連れていくっす。たぶん、あるとしたら、そこかなと」
「見たことはあります? 触手」
「ないっす! 二次元だけだと思ってるっす。でももし、もしもワンチャンあったら――静馬ちゃんとハナちゃんが触手と遊ぶところ、小生も見てて、いいっすか?」
「いいですよ。じゃあそれまで、お預けです」
スカートの裾を下ろす静馬。男は興奮したまま立ち上がって、二人の手を激しく引いた。
「こ、こっちへ! 儀式班の班長と、小生は仲いいっすから!」
「わかったから、焦る出ない! 腕がちぎれるじゃろが!」
花子の叱責を聞きもせず、男は裏口に一目散に歩いていく。
もうすぐというところで、裏口から人影が現れた。大きく、筋肉質な男だ。脇に横長の袋を抱えている。
花子と静馬は、ひそかに目を丸くした。
「禿頭」
静馬が呟く。花子も頷いた。
男の頭は、剥げている。儀式班の班長だ。
「あっ、班長! 実はお願いしたいことがあるっす!」
丸渕眼鏡を上下にチャカチャカやりながら、男が儀式班の班長に歩み寄る。
班長はゆっくりと、男に振り返った。張り付けたような笑みに、花子は背筋に冷たいものを覚える。
「なんだい眼鏡、ゴミ出しにずいぶん時間がかかってると思ったら」
「いやそれが、ちょうど例のサイトを見たって子が二人来たっす! 幼女っすけど、ドエロっすよ! 特に白い髪の子は!」
「……へぇー、あのサイト見たの、君たち。まだ子供なのに、いけないねぇ」
しゃがみこんで、班長が花子と静馬の顔を交互に見る。
二人は班長を警戒していた。正確には、彼が小脇に抱える、大きな横長の袋だ。
漂う血の匂いに、猟兵である二人が気づかないはずがない。
「……んー? 本当に君ら、あのサイト見た?」
笑みを張り付けたまま、班長が首を傾げる。静馬と花子は、答えない。
やはり、例のウェブサイトを通して何かしらの洗脳を施しているのだろう。そして儀式班の班長は、一目見れば洗脳できているかどうかが分かるのだ。
だが、退くわけにはいかない。静馬は無表情のまま淡々と言った。
「静馬さんは、触手さんと遊びたいです。花子もですよね?」
「そ、そうじゃ! ううん、そうなの。ハナも、えっちな触手さんと――」
「嘘はだめだよ、お嬢ちゃんたち」
男が血の匂いのする袋を、丸渕眼鏡の男に向かって放り投げた。
異常な速度で投げられたそれは、丸渕眼鏡の男の顔面にぶつかり、その頭蓋を破壊した。即死だ。
転がる袋から、人間の顔が覗く。痩せ細った男が、恐怖に目を剥いて、死んでいた。
「……チッ! 静馬、退くぞ!」
「惜しいところまでいったのですが」
「やれるだけやったじゃろ!」
あくまで笑みを張り付けたままの班長から、静馬と花子は脱兎の如く逃げ出した。
戦えば勝てるだろうと思ったが、それは班長が、人間であったならの場合だ。
班長の体と顔を、その皮膚の下を、太い何かが這いずり回っているのに気づいたのだ。
「あのデカい男、UDCの宿主じゃ。間違いない」
暗闇を走りながら、花子が呟く。並走する静馬が、首を傾げた。
「わかるのですか? さすがはUDCエージェントですね」
「……まぁの」
自身の半身もUDCであることを、花子は説明しなかった。時間が惜しいし、言う必要もない。
ビルから一度遠く離れてから、二人は仲間の猟兵に通信する。
UDCは、常にすぐ隣にいると思え。いつでも戦える心づもりを。
それが、静馬と花子が手に入れた、最大の情報だった。
苦戦
🔵🔵🔴🔴🔴🔴
トリテレイア・ゼロナイン
触手ですか…
UDCアースでは触手状のUDCが出ると聞いて「騎士 触手」で調べたら「くっ、殺せ」だの「こんな雑魚にやられるなんて」だの「らめぇぇぇ」だの大量の艶本めいた情報に行き当たったトラウマが…
私はかっこいい触手退治の騎士道物語を知りたかっただけなのに…
ですがこれで得た知識を活かす時が来たようです
教団に入信希望者として接触しましょう。嗜好は「鎧の隙間から触手に侵入されて辱められる女騎士って最高」の設定で
(個人的には情けない女騎士の姿など見たくもありませんが)
「礼儀作法」で信者たちの警戒を解いてなるべく情報を持っている方に接触できたら「怪力」による「だまし討ち」で情報を入手のプランで
●
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の記憶データには、これまで不要極まりないと思っていたものがあった。
「触手ですか……」
単語を呟くだけで思い出してしまうのは、記憶回路に故障でも起きているのだろうか。そうであるならまだ良いと、トリテレイアは重い頭を項垂れさせる。
猟兵となり各世界を回るようになった頃、このUDCアース世界に蔓延るオブリビオンについて調べた。
検索キーワードは「騎士 触手」。騎士としての戦い方をこの世界で貫くための方法が分かると思ったのだ。
しかし、出てきた結果は凄惨を極まるものだった。
「くっ、殺せ!」
「こんな雑魚にやられるなんて!」
「ら、らめぇぇぇっ!」
以上のような台詞が、大体どの書物にも出ていた。どれも女騎士が触手に囚われ、まぁ相当ひどい目に合う本である。
少なくともトリテレイアの記憶データには、女騎士が勝利した話は一つもなかった。
あれからというもの、「触手」という言葉に過剰反応する自分がいる。いわゆるトラウマというやつだ。
しかも腹立たしいことに、今現在、そのトラウマ知識は、非常に役に立っている。
「ではそち、触手と絡む女子の鎧は、そのままがよいと?」
如何わしい図書しかない部屋で、椅子に腰かけ、ビルの入り口で渡された聖典『屈辱の女騎士 超絶悶絶触手攻め 百五十時間もなんて脳みそ壊れりゅ!』を読んでいるフリをしていたトリテレイアは、太眉の男に確認されて、頷いた。本心ではないが、そうするしかない。
努めて――本当に心から努力して――明るい声で、答える。
「えぇ。私は鎧の隙間から触手に侵入されて辱められる女騎士が、好物でして」
「ほっほー! これはまた、なかなかハイレベルな趣向じゃの! 麿はなんだか、己がノーマルな気がしてきたの」
「そうですか」
思い切りため息を吐き出す。さっさと本題に入ろうと、トリテレイアは心に決めた。
「そういえば、先輩。この教団には、礼拝などの時間はあるのですか?」
「むー! そち、オリエンテーションを受けておらぬな? そうであろ!」
「えぇ。先ほど入信したばかりでして」
彼の聖典『ムチムチピンチ! ケモミミ南国触手パラダイス』をめくっていた太眉の男は、その手を止めてトリテレイアの巨体を見上げた。
「正式にそうと定められている時間はないの。儀式班以上の幹部は知らないけど、麿ら下級信者には、少なくともそうした時間はないの」
「そうなのですね」
「自由に聖典を読み、己の知識を深く磨きあげ、より悟りに近づけば、上にいけるかもしれんの」
上。トリテレイアは直感した。
この男、他の下級信者と呼ばれる連中よりも、知っている。
「悟り、とは」
「言葉でどうこう説明するもんじゃないの」
「そこをなんとか」
「むむむ、そち、なかなか信心深い奴じゃの!」
聖典を閉じて、太眉の男が立ち上がる。後ろに手を組み、ビルの要所にある自販機に向かった。その後ろを追って歩く。
男は自販機で缶コーヒーを買って、プルを引いた。
「性欲はの、時に死よりも重いんじゃの」
「ふむ。というと」
「分からんかの? 性は命とつながっているの。子供が生まれるためには、性が必須じゃの。麿らがやっていることは、それに逆行しているように、思えるの」
これには、トリテレイアは素直に頷いた。性あっての命。機械の体であっても、あらゆる生命にとって基本中の基本であることくらいは、分かる。
そして、この教団がその生命の根源に逆らっていることも。
何やら深い話になってきた。トリテレイアは静かに続きを待つ。
「そう、思えてしまうのも無理ないの。でも、考えてみるの。聖典の触手様は、何故おなごを襲うのかの」
「……」
「理由はない、かの? ほっほ、それも正解じゃの。麿たちの性欲のはけ口、そのために書かれた本である以上、そこに理由はいらないの。でも、触手様が実在していたら、どうかの?」
トリテレイアは考える。触手が女を襲う理由。その多くは、性的な凌辱を伴う。
それは、人の視線だ。そこに人間というフィルターをかけるから、「女性が一方的に凌辱されている」と捉えてしまうのだとしたら。
触手の視点に立って考えるとしたら――。
「繁殖、でしょうか」
「おしい! それも合ってるの。実際そういう本もあるの」
化け物を孕んだ女が産み落とす。悪夢のような絵図だが、それを好む連中もいるらしい。
その正否はともかく、繁殖だけが目的ではないとすると、残るものはなにか。
考えても分からず、トリテレイアは太眉の男の言葉を待った。
「こっからは、麿が悟ったことじゃの。正解かどうかは、分からんの」
「お教え願いたい」
「よしよし、素直な奴は好きじゃ。そちに教えてしんぜよう。それはの――愛、だの」
遠くを見るようにして、太眉の男が言った。その顔は、光悦とした笑顔を浮かべている。
「……愛」
純愛もの、というジャンルが頭をよぎる。そうした情報を自分が取っておいていることにも衝撃を受けたが、何か、それとは違う違和感がよぎる。
彼の言う愛とは、そんなに小さな、個人的な視点のことだろうか。太眉の男の顔を見ていると、どうもそうではないように感じるのだ。
あの表情を、トリテレイアは見たことがあった。あれは、神に縋る信者の顔だ。
「つまり……触手神ニュルリンホテプ、の愛、ですか」
そういう名前で呼ばれてはいるが、ようはUDC、さらに言えば、オブリビオンである。
そのことを踏まえると、太眉の男の表情は、邪神の狂気に触れているように思えてきた。
「そち……勘がいいの。精進を積めば、儀式班も夢じゃないの」
「あなたは、ならないのですか? 儀式班に」
「……そうじゃの。ならないの」
一瞬、男が目を伏せたのを、トリテレイアは見逃さなかった。
顔を上げた時には、本を読んでいた時と同じような、間抜けな笑顔に戻っていた。
「麿は、触手本を好きなだけ読みたいんだの。組織班なんて幹部組にいったら、面倒ごとが増えてしまうの」
「あなたは」
「下級信者でいられるのは、幸せだの。触手に囲まれてハッピーライフだの」
「あなたは」
「ムラムラしてきたの。麿はもう行くの。また何か聞きたくなったら、麿を訪ねるの」
「あなたは!」
突然捲し立てて逃げようとする太眉の男の肩を、トリテレイアは掴んだ。
太眉の男が振り返る。その開き切った目を見て、彼が狂気に囚われていることを確信する。
だが、構わない。構ってはいられない。
「あなたは、まだ何かを知っている。この教団の、何かを」
「……離すの。知らない方がいいことも、この世にはあるの」
何かを諦めたような眼光。これが悟りというのであれば、あまりにも救われない。
太眉を無理矢理担ぎ上げ、人気のない倉庫に連れ込む。そのまま壁に押し付けて、トリテレイアは改めて問う。
「悟りとは、なんですか?」
「……知って、どうするの」
「役立てます。戦いに」
暗い倉庫に、沈黙が下りる。埃っぽい空気が、深夜に近づく倉庫に舞い上がっている。
ややあって、太眉の男は言った。
「女信者が、最近減ったの。教祖様に連れていかれて、それっきりだの」
「えぇ、知っています。その目的となる儀式を阻止するために、私はここにいます」
「なるほどの。警察か何かかの。まぁいいの」
腕に力を籠める。ぐぅ、と男の口から空気が抜け、太眉を苦しそうに歪めた。
トリテレイアは、強烈な恐怖を感じていた。この、首を一掴みすれば殺してしまえそうな、軟な男を、恐れていた。
「……答えてください。儀式はどこで? どうしたら止められるのです」
「そち、勘違いしているの。止めるってのは、まだ始まってないことを前提にしているの。触手神様がお生まれになられていないと思ってるの」
太眉の男の言葉と同時に、機械の体に通信が入る。ビルの裏口に回っていた猟兵のものだ。
――儀式班の班長とやらは、UDCに侵されている。
敵は、すぐ隣にいると思え――。
咄嗟に男の胸倉を離し、トリテレイアは間合いを取った。しかし、太眉の男はゆっくりと立ち上がり、頭を振る。
「ひどいの、そち。仲良くなれると思ったのにの」
「もう、儀式は終わっていたと。そういうことですか」
「儀式もなにも、ないの。最初からいたの。女はエサか、新しい袋だの」
袋の意味を聞く気にはなれなかった。想像できるし、それが合っているであろうことも分かる。
しかし、最初からいたとは。
「このビルに、昔から、ですか」
「ほっほ。そち、やっぱり勘が悪いのかの? 気づかんかのー」
まだまだ甘い、とばかりに太眉の男は笑う。
笑う。笑う。笑う。笑う。笑い続ける。
「ずっといるんじゃのーほっほっほ。ほっほ、どこにでも、ほっほっほ。いないと思っておるのはほっほっほっほっほっほ麿たちだけじゃのほっほっほっほ」
「……では教祖や儀式班は、なぜあなたたちのような下級信者を集めるのです」
「ほっほっほっほっほ。知らぬままに死ねることほど、幸福はなかろ。慈悲じゃの」
「知らぬままに……?」
もしも信者が触手のUDCに捧げられる贄だとしたら、最後は必ずUDCを見ることになる。恐怖に怯えながら食われていくことになるだろう。
今現在も、消えた女信者がそうした目に合っているに違いない。だが、またも違和感を感じ、しかしトリテレイアは、その答えに辿り着けない。
服の埃を払って、太眉の男は倉庫の入口に向かう。
「もういいかの。じゃ、行くの。……あ、最後にこれだけ、言っておくの」
すれ違いざまに首だけで振り返り、太眉の男は小さく呟いた。
「ニュルリンホテプ神は――否、それだけじゃないの。麿らが感知しえない存在は、いついかなる時にも、そちの隣にいるの」
ゆめゆめ忘れるな。そう言い残して、太眉の男は去った。
何かの拍子に、すべてを知ってしまったのか。あの男から感じられた、自我に救う狂気の素因は、一体。
トリテレイアは、自身の巨大な機械の体が、小刻みに震えていることに気が付いた。
成功
🔵🔵🔴
アイル・コーウィン
触手を崇める? アダルトブック?
説明がよく分からなかったけど、要するに潜入して親玉の情報を集めればいいって訳ね。
ついでに盗賊の本分として、教団のお宝もゲットしちゃおうかしら。
まずはSPDを生かして、見つからない様に潜入ね。
見つかりそうな局面が来たら「レプリカクラフト」で壁なんかを作って隠れてやり過ごすわ。
もし盗賊としての経験と直感で彼らの大事なものが保管している場所を探り当てれたのなら、早速情報収集を開始よ。
まずはこの本から……って何よこの内容!?
い、いえでも、どこに親玉の情報が隠れてるか分からないし読まなきゃダメよね、うん。
これも猟兵としての務め……す、凄い内容だわ、他の本はどうかしら……?
露木・鬼燈
妄想で楽しむだけならいいけどUDC案件はダメですよ。
健全な世界を守るためにも速やかに排除しないと!
でも、まぁ、実際に触手を召喚するとは・・・エロは強いっ!
執念だけはすごいよね、全く尊敬できないけど。
さて、排除するためには情報の収集からなのです。
僕は見つからないように潜入する方法を選ぶですよ。
目標としては一部の幹部しか出入りできない場所の特定なのです。
UDCのことは一部の人間しか知らないならそーなるよねたぶん。
でもいきなり潜入するのは準備不足。
他の猟兵が潜入に役立ちそうな情報を持ち帰ってから行くのです。
レアな触手本やグッズを用意して手持ち込むと潜入中に役立つかも?
交渉や囮に使えるといいなぁ。
火奈本・火花
「既にUDC化していましたか。それを誇って言いふらさない辺り、理性も残っているようですね――厄介な手合いです」
■行動
他の猟兵から得た情報をもとにビルを捜索しましょう(SPD)
もう情報を集める必要はないでしょうし、ダクトや通風孔を通り、人に見つからないよう物陰や棚に身を隠しながら、儀式班の班長を探します
ネズミ型の追跡用ドローンも併用し、早期の発見、および私が見つからないように努めましょう
……人が死んでいます。騒ぎを辿れば見つかるでしょう
私の行動は「暗殺」に繋げます。禿頭の男を先に補足出来たら、気付かれない内に「先制攻撃」、もしくは道に迷った信者を装って射程ぎりぎりで「クイックドロウ」で攻撃します
●
通気ダクトに身を隠し、火奈本・火花(エージェント・f00795)はネズミ型のドローンを放つ。
自身の五感とリンクしたそれらは、あらゆる細い道からビルの内部をくまなく探索していく。
そう長くはかからないはずだ。捜索している相手は、大きい。
「既にUDC化していましたか。それを誇って言いふらさない辺り、理性も残っている――厄介な手合いです」
儀式班の班長と呼ばれる、禿頭の男。裏口に回っていた猟兵から、UDCに侵されているという情報を得ている。
危険因子は、先に排除しておくべきだ。それが火花の確信だった。
「……見つけた」
禿頭の男は、下級信者が入ることを許されていない三階にいる。時折頭が壊れたビデオの映像のように、ガクガクと揺れている。
気味の悪い光景だった。少なくとも、普通ではない。
「……三階か。私一人では、厳しいですね」
ネズミのドローンだからこそ、辿り着けたのだ。例え通気ダクトといえど、これが三階に繋がっている保証はない。
いや、繋がっていないと見るべきだろう。この教団が邪神崇拝の危険な団体である以上、自分たちの命を守る手段は確保しているはずだ。
敵に見つからないよう潜入した猟兵が、幹部のみしか入れないフロアを捜索している。速やかに合流するために、多少強引にでも三階へ行きたいところだが、タイミングを図らねばならない。
「今は、待機」
二階の通気ダクトにいる間は、少なくとも気づかれない。あとは、然るべき侵入経路を見つけるのみ。
すでに、猟兵の侵入は気づかれているのだ。時間はないが、焦るのも愚策である。
急ぎ決着をつけたい気持ちを抑えて、火花は一人、通気ダクトで気配を殺す。
◆
「す、凄い内容だわ。ほ、他の本はどうかしら……」
アイル・コーウィン(猫耳の冒険者・f02316)が、書物の山を漁っている。例外なく如何わしい漫画本だが、顔を真っ赤にしても手は離さない。
「これも猟兵の務め、情報収集よ。仕方ないの、仕方ない……」
「なんでもいいから、早く終わらせるっぽい」
机の引き出しを開けては触手本に当たり、いい加減うんざりしていた露木・鬼燈(竜喰・f01316)が、吐き捨てるように言った。
敵の資料室には辿り着けたものの、目ぼしいものは見当たらない。
「守りが厳重になっている以上、本丸は三階から上で決まりだと思うです」
「幹部以上しか入れないフロアね。普通に階段から上がるか、非常口から行くか、窓から飛び込むかだけど」
信者から盗んだのであろう見取り図を広げるアイル。後ろから覗き込み、鬼燈は顎に手をやった。
「ううん、三階に上がると、どこから行っても防火扉が閉まってるですね。完全に施錠されてて、通れないっぽい」
「蹴り破れる?」
「んー、どうかな。でも、失敗したときのリスクを考えると、やめておくです」
地図から視線を離し、鬼燈は改めて資料室とは名ばかりの部屋を見渡した。
量こそすさまじいが、結局、触手本しか置いていない。鬼燈は呆れが混じったため息を漏らす。
「執念だけはすごいよね。……全く尊敬できないけど」
「そうねぇ。あ、これたぶんレア本だわ。お宝として持って帰りましょ」
鞄に薄い本を詰めるアイルを、鬼燈が半眼で睨みつける。
苦笑しつつ、アイルは本から手を離した。
「あはは、冗談だにゃん」
招き猫のような手を見せるアイルに、鬼燈がため息をついて苦笑する。
「ならいいですけど。それにしても、本当に何もないっぽい?」
「そうねぇ。手掛かりになる資料も――あら」
アイルが、散乱された書類の中にあった小箱を見つける。
吸い寄せられるかのように開いたそこには、カプセルケースが入っていた。
「あ、何かあったわ! 鬼燈さん、こっち」
「どれどれ? ……これは、薬っぽい?」
一見すれば、それは風邪薬などに使われるカプセルだ。どこを見ても、説明書きも何もない。
だが、二人の猟兵としての直感が告げる。これは、異質だと。
「アイルさん、当たり引いたっぽい」
「えぇ、そうらしいわね。これは、取っておきましょう」
腰のポーチにカプセルを入れ、アイルが立ち上がる。
「ここにはもう用はないわね。鬼燈さん、移動しましょう」
「ぽい」
鬼燈も頷いて、二人は資料室を後にした。
廊下には冷たい空気が充満しており、静かだった。足音もない。
三階へのルートを巡らせ、鬼燈が決断する。
「正面突破はなしです。非常階段口を調べて、ダメなら窓から。これでいくっぽい」
「仕方ないわね。最も、これだけ侵入を拒んでいる以上、開いている可能性は低いと見るべきだろうけど」
それはお互い百も承知だった。あわよくばという思いはあるが、期待はしていない。
二階の非常階段口から外に出て、冷たい夜風を受けながら階段を上る。階段を封じる柵のようなものはなかった。
そして、アイルが三階へ続く金属製の扉の冷たいドアノブを捻る。
あっさりと、開いた。
少しだけ押し開け、中の光が漏れ出すのを確認して、二人は顔を見合わせる。
「……誘われてるっぽい?」
「それしか、ないわよね」
猟兵の侵入は、もう気づかれている。その上で、この守りの甘さ。見落としであれば、あまりにも間抜けが過ぎる。
意図があるのは明白だ。しかし、迷ってもいられない。
鬼燈が棒手裏剣を手に、いつでも投擲できる体勢を取る。アイルが短剣を片手にドアを押し開け、素早く中に入った。
二階と変わらない内部構造だが、余計なものは散乱していない。自販機の影に身を隠し、様子を伺う。
部屋の一つ一つを検めるのは、リスクが高すぎる。急ぎ、上階への突入手段を見極めるべきだ。
早速、二人は階段へ向かって移動した。まずは、階段付近を索敵し――。
「ッ!?」
突然顔色を変えたアイルが壁際により、鬼燈を強く引っ張ってそばに寄せてしゃがみ込み、自身の能力「レプリカクラフト」によって、大きな段ボール箱を作り出した。
レプリカ段ボールの中で、鬼燈は事情を察する。目の前のドアが開き、誰かが出てきたのだ。
取っ手穴から見えるその人影は、逆行で暗い顔に満面の笑顔を張り付けている。禿頭の、大男だった。
「……」
その男、儀式班の班長は、じっと段ボール箱を見ている。その奥にいるアイルと鬼燈を、見つめているかのようだった。
息を呑む。鬼燈の頬を汗が流れ落ち、短剣を持つアイルの右手は、緊張のあまり白く握り固められている。
この場で飛び出し、片付けるべきか。しかし、まだ教祖の部屋がある最上階、七階に続く階段を見つけられていない。進める保証も、ない。有力な情報が足りないのだ。
時間が酷くゆっくりと過ぎていく。微笑む班長が段ボールを見つめてから、もう何分経ったのか。
あるいは、十秒程度しか経っていないのかもしれない。時間を数えている余裕など、ない。
「よくやったとは思うよ。うん」
突然発せられた低い声に、アイルがびくりと体を震わせる。鬼燈がその肩を叩いて、落ち着かせた。
班長がしゃがんだ。その視線は、取っ手穴から覗く鬼燈とアイルを捉えている。
まずい、やるか。判断を誤るな。様々な思考が二人の脳裏を駆け抜ける。
「でも、もう遅いよ。キミたち、遅かったんだ」
班長の顔面、その皮膚の下を、触手が蠢く。それらは目に集まって、酷く充血した眼球が、膨らむ。
「にげッ――」
どちらの声だったかは、鬼燈もアイルも分からなかった。どちらともなく叫び、段ボールから飛び出そうとする。
触手の群れが、班長の眼窩から溢れ出す。触手は取っ手穴から段ボール箱に侵入せんと蠢く。
その時だった。乾いた銃声が三回、廊下に鳴り響く。音に合わせて振動した班長の体が、ゆらりと立ち上がる。
段ボールから飛び出したアイルと鬼燈は、即座に得物を構えて距離を取った。
眼孔から触手を溢れさせ、体を不気味に震わせながら、班長は歪んだ声で笑った。
「いたた。酷いなぁ、銃なんて。そんなもの撃っちゃ、ダメじゃないか」
「……UDC。ようやく捕まえた」
班長を挟んで反対側に、火花が自動式9mm拳銃を構えて、立っていた。その銃口は、今も班長を狙っている。
彼女のジャケットには、ガラス片が刺さっている。班長がいた部屋の窓を破って来たらしい。
不自然に体を捻らせて、班長が火花と向き合う。アイルはその背中に赤い弾痕を三つ認めた。すべて、急所に当たっている。
「こいつ、もう」
「だめっぽい」
鬼燈も頷き、棒手裏剣を構える。アイルも短剣を逆手に持ち、油断なく班長を見据えていた。
三人の猟兵に囲まれ、しかし儀式の班長は、触手が這いずる体を震わせながら、歪んだ声で穏やかに言った。
「今日一日でこれだけ嗅ぎまわれば、嫌でも気づくよ。でも、僕らがなんで君たちを炙り出さなかったか、分かる?」
「……」
「もう遅いからだよ。全部、手遅れ」
眼窩から触手が零れ落ちる。気味悪く這いずってアイルに近づいたそれは、鬼燈によって踏みつぶされた。
「御託はいいです。お前はどのみち殺すと思うけど、上へのルートは教えてもらうですよ」
「ルートも何も。四階への道は開いてるし、そこからは一本道だよ。行きたければ行けばいい」
班長の背中が膨れる。否、ふくらはぎも、腹部も、右腕も、左手も、すべてが触手によって、内側から膨張している。
「行きたければ行きなよ。行けばいい。行ってしまえ、行って行って行けばいい行けば行け行けイけイケ逝――」
「くっ……やるわよ!」
火花の銃声を合図に、鬼燈が素早く棒手裏剣を投擲、背後から頸椎を捉える。
前後から衝撃を受けて震えた班長の脳天に、アイルが短剣を突き刺した。絶命は必須、誰もがそう思った。
しかし、口以外の穴という穴から触手を噴き出し、腹を喰い破り背中を突き抜けて、班長は全身から触手を生やす異形と化してなお、生きていた。
ここまで来たら、もはや化け物だ。これはもう、人ではない。しかし聞こえる、班長の声。
「あぁ――! キモチイ! キモチイ――!」
触手に臓腑を喰われてなお、快楽に悶える。
このまま放っておけば、コレはどのような被害をもたらすか知れない。
アイルは咄嗟に、先ほど見つけたカプセルを一つ取り出した。効果があるかは分からない。なければ首を切り落とすつもりで、班長に飛び掛かる。
全身から生えた触手が、アイルの体を絡めとる。触れた皮膚から感じるおぞましい快楽に、脳が一瞬麻痺したような感覚を覚えた。
「はぁ――ぐッ!」
血がにじむほど唇を噛んで快楽を追い出し、班長のぽっかり空いた口へと、カプセルを放り込む。
触手を短剣で切り裂いて、即座に離れる。ふらつくアイルを、火花が抱きかかえた。
「無茶したわね。何を入れたの?」
「資料室で見つけた、カプセル。解毒剤とかなら、効くかなって思ったのだけど……」
班長の体が、膨れ上がる。快楽に悶える声は苦痛の悲鳴と化し、やがて、
「離れるですッ!」
鬼燈が叫んだ。同時に、班長の肉体が弾け飛ぶ。
血肉とともに噴き出した十数本の触手は、床に落ちた瞬間、三人に向かって襲い掛かってきた。
直接触るのは危険だ。それぞれが棒手裏剣やダガー、銃で、危なげなく倒していく。
やがて、触手は一本残らず動かなくなった。数がそこまで多くなければ、猟兵の脅威ではない。
額の汗を拭ってから、アイルが言った。
「あの薬、解毒用じゃないわね。あれはむしろ――」
「えぇ。触手を植え付けるためのものとみて、間違いないでしょう」
銃をホルスターに収めつつ、火花が頷く。
班長は、アイルによって飲まされた触手のカプセルにより、許容範囲を超えてしまったのだろう。
その結果が、あの末路。そう考えた三人だが、火花がふと、眉を寄せる。
「本当に、そうでしょうか。もし遅かれ早かれ、そうなっていたのだとしたら――」
「植え付けられた触手が体を喰い破るのは、時間の問題だったってこと? それはあり得るでしょうけど、今はこの場を乗り切ったのだし、先を急ぎましょう」
「同感っぽい」
アイルと鬼燈が、四階へと続く階段に向かう。違和感を消せずに、火花はその背を追いかけた。
階段を上りながら、火花が味方に通信を送る。猟兵に集合をかけているのだろう。
三人は、四階に辿り着いた。そして、絶句する。
明らかに異質だった。ぶち抜かれたフロアはいかにも宗教的装飾が施され、七階まで吹き抜けとなっていた。
フロアの外壁を使った大きな螺旋階段には、触手と邪神のレリーフが飾られている。
そして、螺旋階段の最上階には、空中に浮いているかのように作られた床が見えた。あれが、儀式を行う場所か。
「教祖の部屋って、ここのこと?」
アイルが呟く。鬼燈が無言で頷いた。
最上階からは、粘液質の物体が床を叩く音が絶え間なく聞こえる。触手がいることは、間違いない。
それだけではなかった。濃厚なオブリビオンの気配がする。敵は、すぐ近くにいる。
嫌な予感が、三人の背中を駆け抜ける。ずっと何かを考えていた火花が、口を開く。
「アイルさんが使ったカプセル……触手のUDCを植え付けるものでしたね」
「えぇ。……まさか」
インターネットで集められ、特別教義と称して連れていかれ、それに逆らわない女信者。
女信者を指した「袋」という単語。どこかで製造されている、触手を植え付けるカプセル。
教団のフェイクとして集う触手愛好家。その頂点にいるであろう、教団発足三ヵ月で交代した教祖。
新教祖の指示により、すべての信者に施される、「オリエンテーション」。受けた猟兵は、いない。
そこでは、「教団に対する詮索を禁止する」旨を説明される。黙っていればただの触手サークル、ジョークカルトと捉えられるだろうに、なぜわざわざそれを告げるのか?
裏口で死んだ眼鏡の信者が言った、「ワンチャンあったら」という言葉。なぜ彼は、もしかしたら触手神が実在するかもしれないと思ったのか?
オリエンテーションでは、口留めしなければならないことがあったのではないか?
そしてそれは、勘のいい信者に触手の実在を思わせるものだったのではないか?
それが例えば、「触手神と一体になるための投薬」などだったら――。
ニュルリンホテプ神がいついかなる時も隣にいるという言葉が、そのままの意味だとしたら――。
知らぬままに死ねる幸福が、班長の最期のように、狂った快楽の果ての死だとしたら――。
「アイルさん。その、まさかっぽい」
呟いた鬼燈は、最上階の床を、殺気に満ちた眼光で見上げていた。
階下から、肉が弾ける音がした。
苦戦
🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
第2章 集団戦
『パープルテンタクルズ』
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POW : 押し寄せる狂気の触手
【触手群】が命中した対象に対し、高威力高命中の【太い触手による刺突】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 束縛する恍惚の触手
【身体部位に絡みつく触手】【脱力をもたらす触手】【恍惚を与える触手】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : 増殖する触手の嬰児
レベル×5体の、小型の戦闘用【触手塊】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
イラスト:某君
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
月が沈み切った頃、異変は訪れた。
「あ……あぁ……気持ちいい! 気持ちイイ!!」
聖典を読んでいた男が、突然胸を掻きむしり、光悦とした顔で虚空を見上げる。
そして、頭が弾ける。飛び出した触手は体を喰い破り、全身を貪って、一塊の触手と成り果てた。
ビルのあちこちで、肉が弾け飛び、血を撒き散らし、臓腑を壁に、床に叩きつけ、触手が生まれる。
「アー! キモチイイ――!」
信者たちは男女問わず、一斉に性感を破壊するかの如き快楽に悶え、絶頂し、内側から触手に喰い破られて死んだ。
戦闘態勢を取る猟兵たちには目もくれず、信者たちは壁に頭をぶつけ、体を抱き、こすり、快感に身を委ねる。
「オーッ! オーッ!」
「カンじ……感じルッ!」
「デルー! デル――アッ!!」
狂った快感の果てに死ぬ彼らは、幸福だった。
全身を駆け巡る、死の訪れに気づかないほどの快楽に喰いつくされる。まるで、聖典の少女が触手と戯れるかの如き、悦び。
否。触手と信者たちは、一体なのだ。
彼らは今、触手神ニュルリンホテプとひとつになった。
それが、幸せでないはずがない。
「アーッ! 幸せ、幸せ!」
「神が、中に! 中に!」
叫び、弾け、肉塊と成り果ててなお、触手の与える快楽に震える。もはや、止める手段は、ない。
信者たちが一人残らず触手の塊に変わるまで、時間はかからなかった。
血と臓腑に塗れたビル内には、触手が蠢く粘液質な音だけが、妖しく響いていた。
◆
その異変は、儀式の階層にも訪れる。
猟兵たちが見上げる螺旋階段の最上階から、何かが叫びながら落ちてきた。
「イグ! イッヂャウ――!」
人だ。全裸の女が、快感に悶えながら、落ちてくる。
地面に衝突し、全身をひしゃげさせてなお、快楽の絶頂にいる彼女ら。
絶句する猟兵の目の前で、女たちは体中を喰い破られて、触手塊へと成り果てた。
次々に、次々に、女たちが落ちてくる。触手のオブリビオンが、降り注ぐ。
ビル内の触手を全て滅ぼし、最上階にいる狂気の根源を断たなければ、この狂気は街に溢れるだろう。
狂騒を止められるのは、惨劇の渦中にいながら正気を保つ、猟兵たちしかいない。
エーカ・ライスフェルト
wiz
彼らの趣向を理解するつもりはなかったけれど、こんな終わり方が相応しいとも思わなかったわ
テレポート後、最も民間人の近くにいる敵へ【宇宙バイク】に乗って向かうわ
【宇宙バイク】にはコンビニのレシートと旅行用のシャンプーセットと裂きイカの包装紙が入れっ放しよ
到着後は【エレクトロレギオン】で可能な限り多くの【機械兵器】を召喚
その後、【属性攻撃】による炎の矢を【パープルテンタクルズ】に撃ち込んだタイミングで、【機械兵器】に突撃を命じる
個々の質が同等なら機先を制することで有利にしたい
「あの触手塊は厄介ね。術的リソースの使い方が巧い。耐久力が必要最低限なのが嫌らしいわ」
「1機1.5殺程度にはしたいわね」
●
深夜の裏路地を、エーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)の宇宙バイクが疾駆する。
「彼らの趣向を理解するつもりはなかったけれど……」
これは、あまりにも。こんな終わり方が彼らに相応しいなどと、どうして思えるのか。
バイクのハンドルには、コンビニ袋が揺れている。取り置いてしまったシャンプーセットと裂きイカ、そしてそれらを購入したレシートが入っている。
役目を終えて買いに戻り、コンビニのフードコートで潜入した猟兵の報告を待っていたら、このような展開になってしまった。
グリモア猟兵の説明から、戦闘はほぼ必須と思っていた。だから、避難誘導をするために屋外に待機していたのだが。
「必要、なくなったわね」
信者たちは一斉に触手塊と成り果てて死亡、猟兵以外の生存者は絶望的。
あらゆる事態を想定していたが、これは最悪の事態に近い。
「……」
ビルが近づく。まだ屋外に、UDCは出てきていない。正面から入ろうと考え、思いとどまった。
裏口に回る。あそこには確か、班長に捨てられた死体があると報告が――。
「やっぱり」
苦々しく呟いた視線の先には、人間だったらしい二つの肉塊から生える、黒くぬめりのある十数本の触手があった。近づくエーカの気配を察知し、その先端をこちらに向けて蠢いている。
バイクを止めて飛び降り、触手に近づくことなく炎の矢を召喚、放つ。
無数の炎を受けて、触手が燃え上がる。生き物を焼くのとも違う、理解し難い臭いが鼻を衝く。
不快気に眉を潜めて、それらが息絶えるのを待つ。燃え尽きることはなかったが、触手はひたひたと地を打ってから動かなくなり、溶けて消えた。
喰われた肉塊だけが残る。唯一、彼らが人だった証拠だ。
「なるほど。慈悲はいらなそうね」
冷淡に呟き、エーカは自身の武器であり忠実な配下である機械兵器を召喚した。
その数、実に九十機。どれも一撃で破壊されるほど耐久力は低いが、火力はなかなかのものだ。
裏口のドアノブを握る。エーカの掌に、冷たい予感がよぎる。
しかし、躊躇はなかった。開け放ち、即座に炎の矢を無数、召喚する。
エーカはそのまま、絶句した。
「……これは」
そこかしこに転がる肉塊から生える触手は、明らかに増殖していた。
壁を伝い天井を這いまわり、フロア全体をあたかも巨大な触手塊の如く変えてしまっている。
足の踏み場もない触手の群れが、エーカへとその先端を伸ばす。ドア付近の触手が勢いよく伸びれば、エーカの体は容易く絡めとられるだろう。
背筋を過ぎった恐怖に舌打ちし、エーカは躊躇いなく、炎の矢を全弾、触手の群れに叩きこんだ。
即座に、機械兵器「エレクトロレギオン」に号令を下す。
「奴らを滅ぼしなさい! 突撃!」
黒光りする触手がひしめく屋内へと、機械兵器が進む。
あるものは撃ち、あるものは高速回転する刃で切り裂き、触手は声も上げずに蠢いて動かなくなる。
しかし、一方的展開にはならなかった。触手に絡め取られた瞬間、機械兵器は沈黙していく。
どのような力が働いているかは分からないが、触れられたら致命的であることは、機械であっても同様らしい。
裏口の外から、エーカは炎の矢をもって機械兵器を援護する。触手の群れは少しずつその数を減らしているように見えるが、一進一退といったところか。
ふと、エーカは違和感を覚えた。確かに数は減っていると思ったが、次第に減る量が遅くなっているような。
「いや、これは……!」
触手塊が、子を産んでいる。
触手の先端が開いたかと思うと、そこから新たに小さな触手塊が生まれ、それらが優先的に機械兵器に攻撃をしかけているのだ。
生まれたばかりの触手塊はいかにも小さく、エーカの炎にしても機械兵器にしても、一撃で消滅する。その点で言えば、こちらの機械兵器も似たようなものか。
標的が増え、機械兵器の銃声が激しくなる。エーカも炎を懸命に射出する。
しかし、潰してもすぐに触手が湧き出てくる。倒しても倒しても、きりがないと思えるほどに。
「厄介ね。術的リソースの使い方が巧い。耐久力が必要最低限なのが嫌らしいわ」
触手たちにとって必要なのは、機械兵器を潰すこと。小型の触手が死のうが生きようが、どうでもよい。
だから、触手の耐久力は最小限なのだ。質より量で攻めてくる。
「知性があるとでも? ……考えたくもない」
吐き捨て、さらに炎の矢を投じる。燃え盛る魔法の炎を受け、屋内は火の海と化していた。
火災報知器が一瞬鳴って、すぐに消えた。触手が報知機に絡みついた瞬間のことだった。
小型触手は、その数を減らしていく。触手塊の地力が、エーカには段々と分かってきた。
油断せず、淡々と、作業のように機械兵器を繰り、炎の矢を飛ばす。
この触手だらけの建物に、幾人もの猟兵が入っている。彼らは、無事だろうか。
「うまく戦えれば、なんとでもなりそうだけれど」
油断が、死よりも恐ろしい結果を招く。エーカが今も裏口から一歩も踏み入らないのは、そう確信しているからだ。
肉を焼く音を立てて、天井に張り付いた触手が落下し、動かなくなる。地面の触手はすでに溶けて消え、壁のものも機械兵器が順次刈り取っている。
このフロアの制圧は目前だ。だが、それで満足している暇はない。
教祖がいるという四階に行くためには、ここからが本番なのだ。
機械兵器が五機、戻ってくる。触手の掃討が完了したのだろう。思っていたよりも減ってしまったが、よく働いてくれた。
「それじゃ、いきましょうかね」
猟兵の、戦士としての本分を果たすべく、形容できない臭いの立ち込める屋内へと、エーカは足を踏み入れた。
成功
🔵🔵🔴
トリテレイア・ゼロナイン
この光景が触手神の「愛」だというのでしょうか
私は恐ろしい。惨劇ではなく、この所業が慈悲によるものだと感じてしまう私自身が。この恐怖を…狂気を振り払うには打ち砕くしか道はありません
塗布機で薬剤を私の表面装甲にコーティング、摩擦を減らし触手の捕縛を防止してから積極的に前に出ることで仲間を「かばい」ます
「武器受け」「盾受け」で触手に対処しつつ盾で殴打…打撃より斬撃が効果がありそうなので剣で攻撃
捕縛されたら「怪力」と格納スラスターでの「スライディング」で無理やり引きちぎります
真の騎士であればこの恐怖にも辱めにも屈しず勇敢に戦うでしょう
紛い物は機械的に処理することで模倣するだけ
騎士の道は険しいですね
アルテミス・カリスト
「くっ、すでに手遅れでしたか……
仕方ありません。触手たちはこの正義の騎士アルテミスが倒します!」
大剣を構えて触手たちへ向き直ります。
色々教えてくれた信者さんの思いを無駄にしないためにも、
この触手たちをやっつけるしかありません!
「触手ごときに騎士が遅れを取ると思わないでくださいっ!」
大剣一閃。触手たちを切り裂きます。
……が、ここは狭いビル。大きな得物は不利。
さらに、仲間の調査結果にあったように騎士と触手は相性最悪でした。
【騎士の責務】が発動しピンチ(女騎士と触手的な意味で)に陥ってしまいます。
「あっ、やっ、服に入ってこないでっ」
触手に絡みつかれて脱力し、恍惚の感情を与えられてしまうのでした。
「くっ、すでに手遅れでしたか……」
アルテミス・カリスト(正義の騎士・f02293)は、眼前の惨状に顔色を青くしながらも、巨大な剣を握る手に力を込めた。
情報をくれた痩せ細った男は、班長なる男によって殺されたらしい。共に行動をしていれば、守ってやることもできたかもしれない。
しかし、結果がこれでは。蠢く触手の根元にある、人であった肉塊を見ながら、アルテミスは涙を堪えた。
彼らの趣味はよく分からないけれど、皆一様に楽しそうだった。
ようやく見つけた居心地のいい住処を失くしたくない――。痩せ細った男の声が、耳に蘇る。
彼らの安住の地は、奪われてしまった。二度と取り戻せることはない。
死を遥かに超えた生命への冒涜を、アルテミスは許さない。せめて彼らを、正しく死なせてやりたい。
「……仕方ありません。触手たちは、この正義の騎士アルテミスが倒します!」
大剣が輝く。その鋭い切れ味をもってすれば、斬れぬものなどないと思えた。
「触手ごときに、騎士が遅れを取ると思わないでくださいっ! たぁぁぁッ!」
大振りの一閃。触手が切り裂かれ、引きちぎられ、ぬめるそれらが飛び散り、嫌な音を立てて床に落ちる。
個の戦力は、大したことがない。アルテミスは勝利を確信した。
「この世に顕れてはいけない者ではないのです、あなたたちは!」
荒れ狂う怒涛の如き大剣が、触手の肉片を飛ばす。アルテミスに絡みつこうとする触手は、その刃が起こす風により、近づけない。
今、アルテミスは二階にいる。上を目指すためにも、まずは階段までの通路を制圧しなくてはならない。
そのために切り裂くべき触手は、あとどれほどだろうか。今のペースであれば、そう時間はかからないだろう。
そう、信じ込んでしまった。自身が負けることなどないと、わずか一瞬でも、思い込んでしまった。
その油断がもたらす結果は、すぐに訪れた。
振るった刃が、何かに引っかかる。アルテミスの動きが、止まる。
「えっ」
見れば、巨大な刃はコンクリートの壁に深くめり込んでいた。
一歩下がれば抜けるだろう。しかし、その一瞬を敵が与えてくれるはずがない。
足に冷たいぬめりを感じ、アルテミスは悲鳴を上げた。
「やっ! なに!? 気持ち悪い!」
足首から太ももへ、そしてスカートの中へと侵入してくる触手たち。
そうしている間にも、腕が、腹が、胸が、触手に絡めとられ、アルテミスは壁際に引き寄せられた。
剣が、手から離れる。
「やだ……やめて! やめてください!」
悲鳴を上げても、触手たちには届かない。袖口や裾からも侵入し、アルテミスの柔肌を蹂躙する。
「あっ、やっ、服に……入ってこないでっ……!」
声が出しにくくなってくる。なぜか、アルテミスの体は火照りを覚えた。
胸が熱い。下半身も熱い。不快で仕方ないはずのこの感触を、言葉にするならば――。
「き、きもちい――」
全身を這いずる触手の感覚に、アルテミスは酔いしれる。脳髄まで痺れるような快楽に、彼女は涎を垂れ流し、その青い瞳はうつろになっていく。
このまま、死んでしまうのだろうか。騎士としての責務を、猟兵としての務めを果たさなければ。
思考は上滑りし、彼女の深層にまで染み渡らない。あるのは、深く暗い快楽だけ。
全身が痙攣する。快感に震えているのだと、アルテミスの脳は判断できなかった。
「も――っと、して――」
触手の群れに覆いつくされた少女の呟きに答えるかのように、太ももを這う触手が蠢き這い上がり、彼女の内側へ侵入せんとした、その時だった。
「ぬぅぅぅあぁぁぁぁぁッ!」
耳に届いた咆哮は、どこか遠くの世界で発せられたもののようだった。
聞き覚えがあるような、ないような。どうでも、いいような。
朦朧とする意識の中、声と気配が近づいてくるのを、アルテミスは感じた。
堅い誰かに抱きかかえられた感触に、アルテミスの体が小さく跳ねる。
「アルテミス様! しっかりなさい!」
「だれ……? 私は、もっと……してほし……」
「馬鹿なことを言いなさるな! 今助けます、心を強く持たれるのですッ!」
叱責する声に、視界がわずかに蘇る。
大きな人影だった。触手に埋もれるアルテミスを抱きかかえ、力任せに引きずり出す。
「うぉぉぉぉあぁぁぁぁッ!」
「あぁっ……」
最後の快楽が剥がれ落ち、アルテミスは切なそうな声を漏らした。
触手を引きちぎりアルテミスを救った巨体が、一度後退する。
「アルテミス様、しっかりするのです! 戦えますか!?」
「あ……ぅん……」
虚ろな目で声を漏らすアルテミスの頬を、現れた巨体、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が大きな掌で張った。
驚くほどの痛みに、アルテミスの意識が急速に回復していく。
「アルテミス様、剣を取りなさい! 呆けている暇が、どこにありますか!」
「っ……え、私、すみません! 私、嘘。こんな、こんな……」
屈辱に顔を歪めるアルテミスを正常と判断し、トリテレイアは立ち上がった。
「目覚めたなら結構です。このことは、誰にも口外しません。……実際、私も似たようなものですから」
機械の体から発せられたトリテレイアの声は、どこか苦し気なものだった。
アルテミスが快楽に囚われたように、彼の心もまた、この狂気に囚われかけているのだ。
目の前の惨劇。人が肉塊となり、その肉を苗床として増殖する触手たちを、トリテレイアは「神の慈悲」と感じている。
冷徹なウォーマシンの判断をもってしても、それは変わらない。おかしいと分かっていても、変えられずにいた。
見れば、アルテミスは剣を手に体勢を整えたものの、全身を這う触手の感触が抜けないのか、頬を赤らめ潤んだ瞳で触手を見つめている。
「……アルテミス様。私は恐ろしい。自身の心、その奥底まで蹂躙されているかのように、私は自分の本質的思考を見失っています」
「私も、同じようです。こんなこと、あっていいはずないのに」
アルテミスの唇は、震えていた。彼女は今、蠢くおぞましい触手たちを、愛おしいと感じてしまっていた。
残された冷静な機械の思考が、トリテレイアを頷かせる。
「やはり。ここは一度、心を捨てるべきでしょう。感情ではなく、猟兵としての責務で戦うのです」
「えぇ、分かりました。私も騎士として、最善を尽くします!」
騎士として。アルテミスの迷いのない名乗りに、トリテレイアの心は揺れる。
何度か共闘したことのある彼女は、騎士だ。そう名乗れるだけの自信と覚悟が、アルテミスにはある。
羨ましさを感じつつ、トリテレイアは触手に向かって猛進する。
「アルテミス様は触れずに攻撃を!」
「トリテレイアさん、危ないですよ!」
「ご心配には及びませんッ!」
儀式用の長剣を抜き放ち、トリテレイアに伸びる触手を切り裂く。大盾に取りつく触手は、壁に叩きつけて潰していく。
巨体に絡みつこうとする触手は、粘液質な体をもっても、滑り落ちていく。トリテレイアの体に施された、対襲撃者行動抑制用薬剤によるコーティングだ。
金属製の巨体は今、摩擦抵抗が極限まで減らされている。いかに触手といえども、取りつくことはできない。
しかし、触れられている以上、狂気の快楽は機械の彼をも蝕む。ブレインがうなりを上げ、頭部から煙が上がる。
「トリテレイアさん! はぁぁぁぁッ!」
アルテミスが駆け出す。先ほどのミスを反省して、柄を短く持ち、なるべくコンパクトに振るう。触手を切り裂くには、十分だ。
アルテミスの身体能力は、爆発的に増していた。屈辱と羞恥に心を折らず、むしろそれらを糧にしてまで、アルテミスは騎士の魂を燃やす。
絡みつこうとする触手は、すべて回避する。受ければ先ほどの二の舞だ。トリテレイアが敵を引き付けてくれているので、避けることは難しくない。
ぬめる触手を切り裂く音と、アルテミスの気合の声が、二階に響く。
全身を捕縛されたトリテレイアは、その状態が最適だという判断を下す機械の己を無視して、持ち前の怪力と格納スラスターによる出力を用いて、引きちぎり、盾で潰し、踏みつける。
どれほど触手を倒しても、二人の脳裏からは、まだ狂気が抜けない。
動いたせいだけではない汗を流しながら、アルテミスが下腹部を抑える。救われてからずっと、得も言われぬ切なさが抜けない。うずきが、止まらないのだ。
慈悲を破壊する罪悪感に苛まれているトリテレイアも、同様だった。あらかた触手を片付けても、自身が過ちを犯している気がしてならない。
二階の廊下を侵食する最後の触手塊を叩き切って、アルテミスが熱っぽい吐息を吐き出した。
「元凶は……上ですね」
「えぇ。四階から先、でしょう」
沈んだ声で、トリテレイアが答える。二人は揃って、天井を見上げた。
狂気により心を破壊されることの恐ろしさを、アルテミスとトリテレイアは身をもって感じた。
このようなおぞましい存在を、世に放ってはならない。猟兵としての役割は、一つだ。
二人はそれぞれ違う理由で足を引きずり、上階を目指して歩き出した。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アイル・コーウィン
かなりヤバイ状況になっちゃったわね……。
でもこんな惨劇を繰り返さないためにも、まずは触手達を全力で狩らせて貰うわよ!
触手達とはなるべく距離を取りつつ、メインで使用するユーベルコードは「錬成カミヤドリ」。
本体である硬貨を複数枚に複製後、それぞれを高速回転させて触手達にぶつけるわ。
上手くいけばチェーンソーの容量で触手達を切断出来ると思うのだけど、どうかしらね。
触手がすぐ近くまで迫ってきたら「2回攻撃」でダガーによる切断攻撃、追い詰められたら装備品の「フック付きワイヤー」を使って距離を取るのを試してみるわ。
さっき触手を受けた時、確かに凄まじい快楽だった。でも人の命を奪う様な存在を私は許しはしないわ!
露木・鬼燈
さっきの戦いで思ったんだけど…
これ、触れられただけでもダメなやつだよね?
一瞬でも麻痺したらこの数だし…
薄い本が厚くなるです?
やっぱり近接戦闘は避ける必要があるっぽい!
ここは距離をとって戦うのが正解かな。
連結刃を使って敵を寄せ付けないように戦うですよ。
武器の性質上、広い場所で戦いたいよね。
そーなると一人でがんばるのは無理があるっぽい。
他の猟兵と協力するのです。
ここで殲滅しないと街が大変なことになるのです。
こーゆーのは妄想の中だけにしてほしいよね。
触手の数は多いけどきっと限りはある。
それに数が多いとゆーことは吸収できる生命力も多いとゆーこと。
これはイケルイケル!
触手になんて絶対負けないっぽい!
東雲・ゆい
サー!イエッサー!(義務)
うっわーほんとに触手だ! 触手がうごうごしてる!
ってか常識的に考えて触手と戦う機会なんて人生で一度あるかないかだよね!?
やっばい! 猟兵やっててよかった~!
ってゆわけで♪
★ヒロイックフォースで強くなって戦うよ~!
触手さんいっぱいいるんでしょ?
どうせ囲まれちゃうし、触手さんの中にドーンって突っ込んで暴れまわっちゃえ♪
触手さんに捕まってドキドキしたらいっぱい強くなれるもん♪
最初は手加減してわざと攻撃されちゃったりして~
●束縛する恍惚の触手だっけ、あれをされちゃったら…わたしとーってもピンチになっちゃうね♪
べ、べつに、襲われてみたいなんて思ってないし♪
あ、手加減無用だよ♪
●
降り注ぐ女の顔は、触手の苗床になりながら、その顔を快楽に歪めている。
「かなりヤバイ状況になっちゃったわね……」
反吐が出そうな状況に、アイル・コーウィン(猫耳の冒険者・f02316)は呟いた。
彼女の周りには、自身の器物である硬貨が十六枚、浮いている。触手と距離を取るべく作り出した、アイルの武器だ。
高速回転した硬貨は、回転する刃となって触手を切り裂く。全身をひしゃげさえてなお生きていた女が上げる矯正に、眉を寄せる。
「さっきの戦いで、アイルを見てて思ったんだけど……。これ、触れただけでもダメなやつだよね?」
黒い連結剣を振るって、広範囲の触手を斬り飛ばす露木・鬼燈(竜喰・f01316)が言った。
アイルは自身を襲った感触を思い出しつつ、頷いた。
「えぇ。確かにすさまじい快楽だったわ。少し絡みつかれただけなのに」
「じゃ、近接戦闘は避ける必要があるっぽい。ここは距離をとって戦うのが正解かな」
そうお互いに頷き合った、矢先だった。
場に似つかわしくない明るい声が、狂騒の間に響く。
「うっわーほんとに触手だ! 触手がうごうごしてる! てか常識的に考えて触手と戦う機会なんて人生で一度あるかないかだよね!? やっばい! 猟兵やっててよかった~!」
ひとしきり叫んだのは、幼女だった。触手に向かってスキップで向かい、金のツインテールが楽し気に揺れている。
足取りに迷いがない。なさすぎる。彼女も猟兵のはずだが、警戒心が皆無だ。
「ちょ、ちょっと! 危ないわよ!」
「退くです!」
「えー?」
振り返って首を傾げる、その少女。名を東雲・ゆい(それ以外の何か with グリモア・f06429)といった。
ゆいは鬼燈とアイルの顔を交互に見て、なぜか悟ったような真顔を浮かべる。
「いや触手には幼女だろ……常識的に考えて……」
そして、飛び込んだ。触手の群れの、只中である。一気にゆいの体に絡みついた触手が、小さな体を引きずり寄せていく。
「言わんこっちゃない! 助けるですよ!」
「もう、仕方ないわね!」
口々に叫んで、鬼燈とアイルは得物を振るう。
連結剣の刃が触手の肉を裂き、追うようにアイルの硬貨が飛来して、再生する触手を摘み取っていく。
そうしている間にも、最上階からは肉塊が落ちてくる。もはや、女の形を留めているものはなかった。
「この降ってくるのを止めてから、四階を制圧するっぽい!」
「止まりますかね!?」
「止まらなかったら、そん時は僕らの死ぬときです!」
やけくそ気味に叫びながら、ゆいが運ばれていった触手の中心部に近づく。
しかし、触れないように戦うことは、骨が折れる。遅々として、なかなか進まない。
一方、ゆいは触手に全身を包まれて、体中を弄ばれていた。服の中には無数の触手が這いずり回り、得も言われぬ快楽が、ゆいの心と体を蝕んでいく。
誰にも触れられたことのない場所を、触手が這い、蠢いている。もたらせれる感触に、ゆいは体の奥から熱が迸るのを感じた。
「あぁッ……これ、すご……アーイキソ……」
電子の鼓動が高鳴る。光悦とした表情で、ゆいは口元を這っていた触手を、その口内に受け入れた。
「んむぅ……ファッ!?」
喉の奥まで滑り込む触手に、甲高い声を上げて痙攣する。
全身が熱い。触手にすられた二の腕や腹部が、切ない――。
触手が口から抜け、潤む視界の中で、零すように呟く。
「やっぱ猟兵やっててよかった……性的な意味で……」
「遊んでんじゃ、ないのッ!」
飛び込んできたアイルの声で、ゆいの絶頂は終わりを告げた。
包み込んでいた触手が硬貨の刃ですべて斬られ、ゆいはその場にへたり込む。
「あなた、自殺行為よ! 死にたいの!?」
「急に触手がきたので」
「わけわかんないこと言ってないで、立つですよ!」
漆黒の連結剣が、アイルとゆいに迫る触手を肉片へと変える。
肉塊の落下は続いている。どこからこれほどの死体を用意したのかは分からないが、無限ではないはずだ。
「ゆいさん、大丈夫? 戦える?」
「もちろん! 今のでいろいろ充電したからね! ちょっと変な感じ続いてるけど」
「あれはただのいやらしい触手じゃないですよ。慎重にいくです」
螺旋階段に辿り着くまで、距離にして十五メートルもないだろう。
だというのに、近づけない。触手が多すぎるのだ。
「ここは、ボクが一掃するっぽい。二人はちょっと、離れてて」
連結剣を高く振りかざし、鬼燈が触手の群れに向かって振り抜く。
一振りで、刃が通過した一面の触手が切り払われる。が、すぐに再生を始めてしまう。
返す刃でもう一閃。復活した触手も含めた、さらなる広範囲の触手が飛ぶ。
鬼燈の刃は、次第に加速していった。やがてはアイルとゆいにも見えないほどの速さとなって、再生を許さない勢いで触手をそぎ落としていく。
秘剣、剣嵐舞踏。鬼燈はさらに踏み込み、その攻撃範囲を拡大していく。
その様子を見ながら、ゆいがぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「鬼燈くん、やる~! アイルちゃん、私たちはどうしよっか?」
「上のをやるわよ!」
アイルは硬貨を上方に飛ばし、落下してくる肉塊を切断する。あの肉塊が奴らの「食事」だとしたら、それを細切れにすることは、意味があるはずだ。
意図を受けて、ゆいはまず、自分の周りに塗料をばらまいた。その上に立ち、ゴッドペインターの能力を底上げしたうえで、塗料入りの水鉄砲を降り注ぐ肉塊に向ける。
「っしゃー! 今の私はツヤッツヤやぞ! 負ける気せえへん塗料の上やし!」
連射される塗料は、アイルの硬貨で切り裂かれた肉塊を包み込み、触手が生えてくることを完全に封じた。
二人の連携により、新たな触手の脅威は一気に減った。
しかし、床には今もおびただしい数の触手が蠢いている。
気づけば、アイルの足元に、太く黒い触手が迫っていた。伸びあがり、アイルの体にその先端を伸ばす。
「あッ……ぶないっ!」
間一髪、ダガーによる二連撃で先端部を切り落とした。
「油断は大敵だぞ~、アイルちゃん♪」
水鉄砲を乱射しながら、ゆいが舌をペロリと出してウィンクしてきた。
「そうね。あなたに言われるなんてね……」
「んーでも、まだちょっと刺激が足らないかも?」
ゆいのユーベルコードは、彼女の「いじめられるとドキドキする性格」がトリガーとなり、身体能力を増すものだ。
どんな形であれ鼓動が高まった触手との接触が、彼女の力を増大させているのは間違いない。
「やっぱもう一回いこうかな? いいよ触手! 来いよ! 股に来て股に!」
「やめなさい、はしたないから!」
ゆいが手招きしていた触手を切り落として、アイルは呆れながら叫ぶ。
冗談のようなやり取りだが、快楽の狂気を知ってしまったアイルにとって、そのやり取りはありがたかった。
ともすれば彼女自身も、触手の誘惑に負けそうになるのだ。
ゆいを助けたあの瞬間、とろけるゆいの表情を見て、アイルは羨ましいと感じた。班長から噴き出した触手との接触から、正気を保ち切れていない証拠だ。
心が張り詰めてしまっていては、いつか狂気に引っ張られる。ゆいには呆れもするが、アイルの心を正気に繋ぎとめる大切な存在だった。
「これで、終わり!」
硬貨が空中を走り、最後の一つらしい肉塊を切り裂いた。
「ザッケンナコラー!」
細々と降り注ぐそれらに、ゆいがすかさずペイントブキで塗料を撃ちつける。
全ての肉塊に塗料が命中し、落下してきたそれは、触手を生やすことはなかった。
「みっしょんこんぷりーとっ! NKT……」
「よし、鬼燈さん! あとはそっちだけよ!」
「任せるっぽい!」
汗にまみれながら高速の連結剣を振るっていた鬼燈が、口元に戦闘狂じみた笑みを浮かべる。
触手の数は多い。だが、それは鬼燈にあるメリットをもたらしていた。
このおぞましい連中が生命とは思えないが、それでも鬼燈は、自分の体に生命力が吸い込まれてきているのを感じていた。
「お前らも、一応命があるですね。ま、無価値な命だけど」
無慈悲に、冷酷に、哄笑を上げながら、鬼燈は連結剣を振るう。
「どういう意図があるかは知らないけど、殲滅しないと街が大変なことになるのです。だから――」
体を捻る。勢いのついた斬撃の予兆に、仲間が慌てて後退するのが見えた。
「ここで死ねッ!」
とどめの一撃。漆黒の連結剣が、残っていた触手を無残な肉片へと変えていく。
黒い液体が空中に舞い上がり、飛び散った触手は床に落ち、肉を焼く音を上げながら蒸発していく。
ついに螺旋階段への道が開かれた。
しかし、その先にはまだ、大量の触手が残っている。最上階はまだ、遠い。
「疲れたけど、もうひと頑張りするですよ」
「えぇ、止まってはいられないわね」
鬼燈とアイルの言葉に、ゆいが酷く面倒くさそうな顔をする。
「えー! まだ働くのー? やだよー社畜じゃあるまいし」
「……」
無言で、アイルがゆいの首根っこを掴んだ。
引きずられながら喚き散らすゆいに苦笑しつつ、アイルと鬼燈は、螺旋階段の掃討に入る。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
火奈本・火花
「下衆が」
これで、あの痩せ細った男の願いが叶う事もない、か。……すまない
■戦闘
元の姿に戻してやる事も叶うまい。一刻も早く終了してやる
仮に彼らが望んでいたのだとしても、我々はUDC組織だ。狂気を許すわけにはいかない
「呪詛耐性」「激痛耐性」をお守りに、「捨て身の一撃」で触手群の前か、その直中に進もう。仲間が援護してくれるなら助かるが
全ての触手が命中しては元も子も無い、「敵を盾にし」ながら「2回攻撃」で近付く触手を牽制しよう
最大多数を攻撃できる限界まで進んだ所で、寄木乱舞で一気に攻撃・終了させる
「欲望を否定する気はない。それは人類が前に進む為に必要だからだ――だが、これは進歩などではない。断じて」
御手洗・花子
「ちぃ…」
今までの経緯と経験からの予測が当たってしまった事に苛立ちを覚える
だが、UDC相手には常に薄氷の上を歩く慎重さが求められる…一瞬で頭を切り替え目の前の狂気ではなく為すべき仕事と、客観的な現実を見る。
なすべき事は触手の掃討、だが群れに飛び込むのは余りに無謀、一度でも絡め取られ引き摺り込まれたら終わりだ
「『長谷川さん』門を開くのじゃ」
骸の海の向こうより古代の戦士の霊を召喚する。
情報収集で戦場の状況を把握し比較的孤立してる触手から狙いガイストや味方との連携で撃退していく、けして単独では挑まない。
味方が絡まれたらその触手を優先で撃破、絡んでる間は動けず使える触手も減ってるはずだ。
●
四階。御手洗・花子(人間のUDCエージェント・f10495)は眼前に広がるおぞましい光景に、唇を噛む。
「ちぃ……」
味方が切り開いてくれた螺旋階段への道。しかしその先には、今もなお無数の触手が蠢いている。
会談は、その一段一段が触手の苗床になっていた。
「まさか、あの階段……」
カプセルに入れられた触手の幼体は、非常に小さい。であるならば、考えたくもない使い方ができてしまう。
絨毯の要領で引き延ばした人肉を敷き、そこに幼体を植え付ければ――。
「ぐっ、クズどもめッ!」
あまりにも非道だ。花子は憤怒の感情をその目に燃やす。
しかし、怒りだけでは解決しない。吹き抜けの壁を覆いつくす触手は、花子の感情だけでは消えはしないのだ。
「なすべきことは、掃討じゃな」
「そうです」
隣から聞こえた声に振り向くと、そこには火奈本・火花(エージェント・f00795)が拳銃の弾倉を交換しながら立っていた。
彼女は凛とした声で正気を保ち、真っすぐ螺旋階段の最上階を見つめていた。
「我々は、UDC組織。この事態を速やかに収束させるために、対象を終了するのが仕事です」
「……あぁ、そうじゃな。いつも通りじゃ」
「えぇ、いつも通りです」
淡々としていながらも、強い決意を感じる花火の声に、花子は愉快そうに笑った。
「そいじゃ、わしからいくぞ!」
眼前で掌を打ち合わせ、花子が強く念じる。足元の床が、波打つ。
「『長谷川さん』、門を開くのじゃ!」
彼女の内なるUDCが、骸の海とつながる。床に波打つ骸の海から、影が浮かび上がった。
黒く淀んだその影は、人の形をしていた。手には槍のようなものを握っているように見えるが、全て黒く、判別がつかない。
「ゆけ! 古代の戦士よ! 触手どもを葬り、道を切り開くのじゃ!」
床に顕れた骸の海が掻き消え、黒い人影は虚空に何事かを叫び、槍を振るって螺旋階段に飛び込んだ。
時代も分からないほどの、古代の戦士の霊だ。あるいは英雄だったかもしれないし、名もない一兵士だったのかもしれない。
ただ、花子と融合する「長谷川さん」なるUDCが抱く、現在に滲み出した過ぎ去るべき過去であるオブリビオンへの凄まじい憎悪が、この霊を強化していることは間違いなかった。
槍を振り回すたびに、触手がちぎれ、弾け、溶けて消えていく。すでに心のない戦士を快楽が襲うことは、ない。
「UDCの有効活用。なるほど、目には目を、ですか」
「常套手段じゃろ?」
「確かに」
一言で返しつつ、火花は拳銃のトリガーを引く。
表情にこそ出していないが、彼女は内心で激昂していた。
あの痩せ細った青年の願いが叶うことは、もうない。救ってやれなかった申し訳なさが、火花の心に冷たい影を落とす。
それらを憎しみに変換し、弾丸に込めて、火花は触手を撃つ。
「下衆が」
肉塊と化した人間は、もう二度と元には戻らない。速やかに終了させてやることが、彼女のせめてもの慈悲だった。
花子が召喚した霊が暴れに暴れ、的確な火花の射撃で次々に触手が討ち倒されていく。
しかし、減らない。螺旋階段は、次々に生まれる触手に埋め尽くされている。
このままでは、上ることができない。突破口を開かなければ。
「さすがに本丸は、守りが堅いのう!」
「そうですね……。仕方ありません。花子さん、援護をお願いできますか?」
「構わぬが、お主、何をするつもりじゃ」
言外に無理はするなと伝えてくる花子に、火花は微笑んだ。
銃をホルスターにしまい、捨て身の覚悟で螺旋階段を駆け上る。そこには、大量の触手が蠢いているにも関わらず。
「ば、ばかもんが!」
花子が慌てて古代の戦士を向かわせるが、槍が届くよりも深い位置に、火花はいた。
古代の戦士は臆することなく螺旋階段の触手を葬っていく。再生の勢いは、徐々に衰え始めているように思えた。
全身に纏わりつく触手から、狂気の快楽がもたらされる。火花はそれを、歯を食いしばって耐え忍ぶ。
彼女には耐性があった。UDC組織に務める以上、こうした事象と遭遇することは珍しくない。狂気に侵されかけることにも、慣れている。
それに何より、火花もまた花子と同じように、その身にUDCを宿しているのだ。
「ッ、く……いき、ますよ……!」
絡め取られた右腕から、黒くぬめる触手とは別の蔓が吹き出す。植物の、蔓だ。
火花の血液を用いて急成長したそれらは、彼女の意思を超越して動き出し、鞭の如きしなやかさで触手を打ち据え、引きちぎっていく。
一歩一歩、火花は歩を進めていく。彼女の腕から生える蔓が、触手を根元から機械的に処理していく。
古代の戦士がそこに加わり、黒い影が一陣の風となり、手すりや壁の触手を叩き切る。
触手のエネルギーは無限ではない。栄養源となる肉塊があれば別だが、忌むべき方法で直接螺旋階段に植え付けられたそれらは、古代の戦士と蔓によって供給源を剥ぎ取られた以上、増殖力は途絶える。再生能力のすべてを、根こそぎ奪い取ってやった。
蔓が消えた。血を消費し崩れる火花を、駆け寄った花火が支える。
「おい、しっかりせんか! まったく、無茶をしよる」
「ごめんなさい。でも、これで――」
ふらつく体を叱咤して、花子と火花は、後方の猟兵たちに目配せし、螺旋階段を上り始めた。
◆
各々の得物を手に、猟兵たちは最上階――儀式の間へと辿り着いた。
巨大な邪神像に跪いていた修道服が、立ち上がる。
「ようこそ。よくぞここまでたどり着いたね、猟兵の諸君」
男とも女ともつかない声で、その修道服――教祖は唇を三日月形にゆがめて、猟兵たちを見据えた。
「君たちを、待っていたよ」
猟兵たちは、振り向いたその修道服が、男なのか女なのか、判別することができたなかった。
なぜなら、その頭部は――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『膨らむ頭の人間』
|
POW : 異形なる影の降臨
自身が戦闘で瀕死になると【おぞましい輪郭の影】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD : 慈悲深き邪神の御使い
いま戦っている対象に有効な【邪神の落とし子】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ : 侵食する狂気の炎
対象の攻撃を軽減する【邪なる炎をまとった異形】に変身しつつ、【教典から放つ炎】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
イラスト:猫背
👑17
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
修道服の人物――教祖は、どうやら笑っているらしかった。
しかし、猟兵たちは分からない。
醜くひしゃげ、もはや原型をとどめていないその頭は、性別も年齢も、判別できるものではなかった。
「私はね、猟兵の諸君」
顔のどこから発声しているかも分からないが、その声は妙に大きく、儀式の間に響く。
「性欲こそが至高の欲と信じているのだよ。最高の快楽とともに、子を産み出だす。まさに神聖なる儀式だ。神と交わることができれば、その聖なる快感はいかほどのものか……」
突然、教祖はその巨大な頭を項垂れさせて、しょげたように言った。
「でもダメだった。神は私とまぐわってはくれなかった。フラれたと思った。……でも違ったんだ!」
今度は頭を振り上げ、高らかに笑う。
「神は私に言った! 床を集めよと! 女がよいと! 男でもまぁよいと! そうして集めたものに種を植え付ければ、いつか来る子供らの目覚めの時に、より良い床が、私のもとに訪れると。そう、君たち猟兵のことだ!」
教祖は今も膨らむ頭に痛みを覚えているのか、ひとしきり悲鳴を上げてから、その声を笑いに変えて、叫び続ける。
「神は言った! 猟兵の肉を苗床にせよと! だから私は待った! そして猟兵は来た! 来たのに、神は待ちきれなかったようだ……」
声が小さくなり、教祖が倒れる。
猟兵があっけにとられる中、その頭は肥大を続け、やがて、赤黒く結晶化し始めた。濃厚な影の気配に、猟兵たちに緊張が走る。
教祖が、むくりと起き上がる。
「この者は、成し得ぬ。あまりにも弱い。故に我はこの者の肉体をもって、己が力によって汝ら猟兵を喰らうこととした」
低い、低い声だった。教祖ではない何者かであることは、猟兵にはハッキリと分かった。
「この者は、貴様らをおびき出す撒き餌にすぎぬ。良い餌ではあったが」
教祖の脳髄が破壊され、後頭部から脳漿が吹き出す。しかし、その何者かは、しゃべり続ける。
「我は名もなきもの。忘却の混沌、骸の海より蘇りしもの。猟兵よ、貴様らの骸をもって、我は真の姿をこの世に顕現させん」
両腕を広げる、教祖――否、邪神。迸る邪悪な気に、場の空気が淀んでいく。
猟兵たちは、武器を構える。
強大な邪神は、その精神を人間の肉体に入れ込んでいる。顕現させなければ、勝機はある。
守るべき人々のために、諦めるわけにはいかない。
今も脳裏にちらつく狂気を振り払い、猟兵たちは、邪神に立ち向かう。
東雲・ゆい
(残り体力は二章の続きだよ♪)
うっわ頭でっかい! これ着ぐるみじゃないんでしょ?
すっごいよー触って確かめたぁい
ってわけで!ここからは本気だよー!
★グッドナイス・ブレイヴァーと★ヒロイックフォースで強化して
★グラフィティスプラッシュで攻撃するの
一気に強化したいから最初は【挑発】【誘惑】【かばう】で
ピンチや狂気でドキドキする攻撃をわざと受けちゃうの
「あんたより触手のほうが強かったもーん!」
そしたら敵を挑発して、味方をかばうことに集中するよ
攻撃も敵の隙を作ることに専念するの
顔にしがみついて視界奪っちゃったりね♪
あとね、わたしに有効な落とし子は、ごっくんって食べちゃってもぐもぐしてくるようなやつかなぁ
アイル・コーウィン
いよいよボスまで辿り着いたわね。
今までの悪行、殺された人達の無念、その身をもって償って貰うわよ!
相手が一人なら「シーブズ・ギャンビット」の方が有効そうね。
他のみんなと連携を取りつつ、素早く攻撃を仕掛け続けるわ。
相手は邪悪な触手達のボス。
得体の知れない相手である以上、決して油断せずに戦わないとだわ。
そう、決して油断はしないけど、さっきのゆいさんの表情凄かったわね。
もししっかりと触手に絡みつかれてたら私……って、今はそんな事考えてる場合じゃない、しっかりしなきゃ。
アルテミス・カリスト
「これが教祖……いえ、邪神ですか。
これ以上の惨劇を産まないためにも、正義の騎士アルテミスが決着をつけます!」
とはいえ、さっきから身体の火照りが止まりません。
吐く息にも甘い吐息が混じっています。
「長期戦になったら不利ですね。
一気に勝負をかけます!」
防御のことを考えず、全身全霊の【超加速攻撃】を叩き込みます!
音速を超えた剣の一撃、受けてくださいっ!
ですが、攻撃後にできた隙を邪神の落し子に突かれてしまいます。
それは私に有効な形状……すなわち、触手による全身への責めでした。
「どのみち万全でない私にできるのは、あれが精一杯。
あとはお任せします、皆さん……」
仲間に後を託し快楽の海に落ちていくのでした。
●
邪神の依り代とされた教祖の体は、その腕も足も、骨を失くしたかのように波打ち、不自然に歪みながら動いている。
それでも倒れず歩行を保っているのは、邪神が発する何がしかの力が働いているためと見るべきだろう。
壊れた映像のように頭を振動させながら、邪神は頭上に向けて開いたままの口から、声を発する。
「猟兵……異界を跨ぐ者よ。その強大なる魂の器を、我に差し出せ。我が子を産む『袋』とならば、我は汝らに終わりなき快楽を与えん」
邪悪な力が膨れ上がる。その得体のしれない気配に、アルテミス・カリスト(正義の騎士・f02293)は火照る体の奥底から、冷たい恐怖が湧き出すのを感じた。
「これが、邪神……!」
「うっわ頭でっかい! 着ぐるみじゃないんでしょ? すっごいよー、触って確かめたぁい!」
極度の緊張感にいながら、東雲・ゆい(それ以外の何か with グリモア・f06429)が底抜けに明るく笑った。彼女の頬も、赤みが差している。
ゆいの力は、今も止まらないときめきにより、高まってはいる。しかし、精神に染み込む歪んだ快楽の気配が、その力をも抑制していた。
二人の様子がおかしいことと、その原因を、アイル・コーウィン(猫耳の冒険者・f02316)はいち早く気づいていた。
触手の群れとの戦い触手に囚われたゆいの、異常なまでに光悦とした表情が、脳裏に焼き付いて離れない。
班長を倒した時に触れた、肌を這いずる触手の感触が甦る。本当に囚われてしまったなら、あの快楽に飲み込まれてしまったならば、一体どれほどの――。
「……っ! しっかりしなきゃ!」
自ら頬を叩いて、アイルは気合を入れなおし、ダガーを構える。
「あなただけは、決して許さない。今までの悪行、殺された人達の無念、その身をもって償って貰うわよ!」
「悪行。それは我が恩寵を受けたものが、我が子の床となったことか」
ガクンと首を回転させて、上を向いたままの顔がアイルを向く。そちらには、アルテミスとゆいもいた。
体に残る快楽の残滓を振り払うように、アルテミスが叫ぶ。
「そうです! これ以上の惨劇を産まないためにも、正義の騎士アルテミスが、この場で決着をつけます!」
「おっ! 二人とも気合入ってるねー! じゃ、私も本気モード、いっちゃうよー!」
高鳴る鼓動に小さな体を震わせて、ゆいが飛び跳ね、小型の飛行機械、ドローンを召喚する。
ドローンはゆいの周りを飛び、あらゆる角度から彼女を映した。
「いえーい! ゆいちゃんのUDC討伐生放送、はっじまるよー!」
どこで見ているのか、どのような需要があるのかは知らないが、ともかく視聴者の応援を受けて、ゆいのペイントブキはその真価を発揮する。
棒立ちの教祖へと、大量の塗料がばらまかれる。その上に立つことで、ゆいの力はさらに上昇していく。
邪神を囲うように塗料がばら撒かれ、ゆいが目にも止まらぬ速さで、敵の背後を取る。
しかし、邪神は動かない。その首だけをぐるぐると回し、ゆいをしっかりと捉えている。
「いっけぇー!」
不気味な邪神にひるまず、ゆいは塗料を放出した。ただ色を塗りたくるだけでなく、オブリビオンにダメージを与える塗料だ。
その一撃は、届かなかった。邪神の全身が炎に包まれ、塗料の一切を蒸発させてしまった。
「えーっ! 升乙! BANはよー!」
ジタバタと怒るゆいに、邪神は纏った炎を火炎弾と化して、放出する。怒声を上げながら、ゆいは火炎弾を回避つつ後退した。
一人の力ではどうにもならない。アルテミスとアイルは目を合わせて頷き、二方向に分かれる。
「その腕、切り落としてみせるッ!」
距離を詰めたアイルのダガーが、かすむ。
目に見えないほどの高速の斬撃は、経典を持つ邪神の左手に食い込んだ。しかし、邪神はまるで、動かない。
舌打ちを一つ、左腕を蹴り上げて体を捻り、もう一撃。左手に突き刺さったが、邪神にダメージがあるようには見えない。
負けじと押し込むアイルの反対側、右方面から、アルテミスが仕掛けた。
「一気に勝負をかけます! てぇぇぇやぁぁぁ!」
床を踏み砕くほどの勢いをつけて、アルテミスの体が音速を超えた速度で迫る。
まさに一瞬。音速の衝撃波により鎧や服が破け飛ぶほど、彼女は速くなる。
速度と力に巨大な剣の質量も合わさった、超重量の一撃が、邪神に振り下ろされた。
撒き散らされる衝撃波に、ゆいが悲鳴を上げている。これほどの一撃、並のオブリビオンであれば粉砕されているはずだ。
しかし、敵は並ではない。邪神であった。
「なっ――!」
右手で、受け止めている。軽々と、棒きれでも掴むかのように。
「貴様らから」
上を向いたままの邪神の顔が、何事もなかったかのように言った。
「感じる。我が子により与えられた悦びを」
邪神の顔が、壊れた人形のような挙動で正面を向く。そして、アイルとアルテミス、ゆいを順繰りに見つめた。
死んだ教祖の顔と目が合い、その奥に確かに邪神を認めて、三人は恐怖のあまり飛び退る。
「今もその身に刻まれているな。苗床となる悦びを、今も」
「う、うるさい! そんなこと……絶対に、ありません!」
「そうだそうだ! べ、別に触手のことなんか、好きじゃないんだからね!」
必死に否定するアルテミスとゆいだが、邪神に見つめられた恐怖の中に、抱きたくもない期待が生まれるのを止められなかった。
心を支配されかけているのか。二人の様子を見て、アイルは戦慄した。
そしてそれは、彼女自身も例外ではない。
邪神の瞳が、アイルを捉える。目を逸らすことが、できない。
「忘れられまい。我が子がもたらす悦びは、命を宿すそれを燃やし高める。まして女子とあらば――『袋』となる愉悦は、人の身には、収まらぬ」
「……今すぐ、黙らせてやる」
心を蝕む恐怖を押し殺し、アイルが動く。
攪乱するように素早く動き、相手の死角に回り込み、腕の届かない角度から、その首を狙う。
敵は動いていない。邪神だろうが、慢心をつかれれば、必ず――。
「もらっ……!?」
アイルは、ダガーを振るえなかった。何者かに掴まれた足に、痺れが走ったのだ。
足に走った感触は、得も言われぬ、快楽。
足元に、触手がいた。すべて倒したはずなのに。
「うそ、やだ、なんで!?」
必死にダガーを振るい、触手を切り落とす。しかし、触手塊は真下にいた。抵抗もむなしく、引きずり込まれる。
太く黒い、粘液質な触手が、全身を這いまわる。想像を絶する快楽が、脳を麻痺させていく。
「其は、我が子だ。苗床なき子はすぐに死ぬが……生み出すことなど、造作もない」
触手に埋もれていく中で、アイルは邪神の顔を見た。笑っているように見えたのは、遠のく意識が見せた幻覚か。
体のどこをまさぐられているのか、もはや分からない。全身が溶けていきそうで、声も出なかった。
「アイルちゃんを離せー! 薄い本が厚くなるでしょうがー!」
ゆいが射出したピンクの塗料が、触手に命中する。一瞬激しく蠢いて、触手は動かなくなった。
体中が熱い。視界が涙でぼやけている。それでも猟兵としての本能で立ち上がる。
即座にアルテミスが駆け寄って、肩を貸してくれた。
「一旦下がりましょう」
「えぇ……」
体が疼くのを、止められない。深い快感の中にいながら、アイルは恐怖していた。
二人が後退する間、ゆいが足止めに出る。弾かれるのを覚悟で塗料を射出しつつ、隙を作る機会をうかがう。
「あんたよりも、触手のほうが強かったもーん!」
熱い体を湿らす汗を飛び散らせ、塗料を射出する。やはり、地面に叩き落とされる。
「我が子を望むか」
淡々とした言葉に、ゆいは強烈な期待が膨らむのを感じた。封じようにも、消耗している精神力ではそれも叶わない。頬が真っ赤に火照っていく。
「べ、別に!? ヌルンヌルンのグチョングチョンなんて、期待してなんて――」
「よかろう」
最後まで言葉を待たずに、邪神が右腕を上げる。途端、ゆいは自身が影に覆われたことに気づく。
「ゆいさん!」
満身創痍のアイルが、叫んだ。
見上げて、固まる。床から現れた巨大な触手が、ゆいの頭上に顕れていた。
黒い触手が、その口を大きく開く。内部は、朱色だった。粘液が怪しくしたたっている。
「……えっ?」
ペイントブキを構える暇もなかった。触手は一瞬でゆいに襲い掛かり、その大きな口で、彼女を、捕らえる。
全身を丸呑みにされ、ゆいは捕食される恐怖に怯えながらも、再び全身を襲う凶悪な快楽に震えていた。
何も見えない真っ暗な触手の体内で、あの触手たちよりも濃厚な粘液が、蠢く触手の体内が、彼女の体を隅々までこすり上げる。
「……っ! ぷぁ……」
息ができない苦しみよりも、快楽が勝る。粘液に服が溶かされ、その肌を余すところなくぬめる肉に擦られ、ゆいの意識は薄暗い快楽の底へと堕ちていく。
触手が嚥下するかのように頭を振り、そのたびにゆいの体を触手の体内が絞り上げる。
溢れる粘液は、口だけでなく全身から、ゆいの体内に入りこんでいく。粘液に満たされた体が、激しい熱を発している。
「ぁ……ぇ……ゃば……」
「ぁぁぁぁぁああああッ!」
聞こえた勇ましい叫びが、ゆいに光をもたらした。
触手を切り裂き、呑み込まれたゆいを救い出したのは、アルテミスだった。
服を溶かされ裸体となったゆいを、アルテミスが全力で放り投げる。荒っぽいが、今は仕方がない。
快楽に支配されたまま床に転がるゆいに、アイルが駆け寄り、その息を確かめる。
「よかった、生きてる。ゆいさん、しっかりして!」
「ごっくん……すごぃ……」
「くっ、戦闘は、無理そうですね……」
一度下がったアルテミスが、ゆいの様子を見て呟く。アイルはそれに、無言で頷いた。
仲間たちが、邪神と激闘を繰り広げている。アルテミスとアイルはゆいを快方しつつ、その戦いを観察した。
必ず、必ず突破口があるはずだ。仲間の猟兵の攻撃を受けながらも、あの敵はダメージを受けている様子を見せない。
教祖の体と邪神を繋ぎとめるものが見つかれば、あるいは。
「……もしかして」
邪神に体を支配されてなお、敵は経典を決して離さない。アルテミスは、その経典を目を細めて注視した。
禍々しい瘴気は、あの経典から溢れている。
彼女の、騎士ではなく聖女としての直感が告げる。あの経典を、破壊せよと。
「アルテミスさん、あなたも万全じゃないんだから、無理しちゃだめ」
立ち上がろうとするアルテミスを、アイルが引き留める。彼女は、アルテミスの吐息に甘ったるさが混じっていることに、鋭く気づいていた。
しかし、その手を優しく退けて、アルテミスは大剣を構えて立ち上がる。
味方が気を引いてくれている。今なら、きっと。
「……いけるッ! でやぁぁぁぁぁっ!」
アルテミスは再び、音速を超えた。衝撃波を伴う大剣は、刺突の構えだ。
残された衣服が飛び散って、仲間にその裸体を晒すことになってもなお、彼女の刺突は止まらない。
強烈な一撃が、経典に――それを守る結界に、突き刺さる。衝撃波に、アルテミスの金髪が乱れる。
結界が破れる。しかし、あと一撃が、届かない。
「くっ……」
「まだぁぁぁッ!」
飛び込んできたのは、アイルだった。超高速で放たれた必中の斬撃は、まさしく渾身の一撃。
経典の表紙を、アイルのダガーが切り裂いた。
邪神が、この世のものではない絶叫を上げた。それは痛みか、苦しみか。
「効いた!」
恐るべき敵に一撃を見舞った歓喜に、アイルの顔が満面の笑みを浮かべる。
仲間たちに合図をと思った瞬間、アルテミスとアイルは宙を舞った。
「あっ!?」
気づいた時には、遅かった。体に巻き付いた触手が、二人を上空へと引き上げる。
咄嗟に、アルテミスはアイルを触手から引きちぎり、投げ飛ばしていた。
「アルテミスさん! だめっ!」
手を伸ばすアイルが、遠ざかっていく。
高く高く、アルテミスは天井から生える触手の群れに飲み込まれていく。
「んぅっ! やめ、て! おねが、い……」
恐ろしい快感地獄が、再び訪れる。仲間たちは遥か下方にいた。
彼女を助けられる仲間は、いない。触手の侵攻をある程度防いでくれていた鎧も、ない。
「我の愛を記した書に触れた罪は、重い」
邪教の声が、すぐ耳元で響く。まるで触手に囁かれているようで、その声すらも、アルテミスの脳をくすぐった。
「いやっ……あぁ……」
「我が子の飢えを満たして、己が贖罪とするがよい。これは、我の慈悲だ」
「あ――ゃ――」
囚われたアルテミスを助けんと歯噛みする仲間たちの声が、遠ざかる。全身を駆け巡る心地よい痺れに、全てがどうでもよくなっていく。
「アルテミスさん! アルテミスさぁぁぁんッ!」
悲鳴を上げているのは、アイルだろうか。ぼやけた視界に映る彼女は、ゆいを抱きながら、こちらに必死に手を伸ばしている。
甘い吐息を漏らしながら、アルテミスはうっすらと考える。
思えば、戦う前から、敵に精神を侵されていた。万全ではなかったのだ。その中で、十分よくやったではないか。消えゆく自我の中で、自分を慰めた。
もう、十分だ。真下で戦う仲間たちへと、口を開く。
「ぁ――とは――ぉね――ぁぃ――」
唯一呟けた、言葉らしい言葉。
アルテミスの唇には、快楽のあまり、微笑みすら浮かんでいた。
苦戦
🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
火奈本・火花
「教祖だった男の説法を全て否定する気はない――だからこそ、お前のような存在がそれを利用する事を我々は断じて許さない」
■戦闘
「クイックドロウ」での「先制攻撃」で、奴の足を狙って銃撃する。機動力を削げれば良し、そうでなくとも機先を制する事は出来るだろう
その後も間断なく脚への銃撃を続けつつ、奴の出方を伺おう
銃の効果が薄い、避けられるなどの結果があれば、奴が炎を纏った異形に変身した事と併せて驚愕するふりをしよう
「やはり、触手とは違うか……!」
あくまで睨みつつ、怯えたふりで後退する。その中で躓き転ぶことで慢心を誘うつもりだ、併せて女らしい悲鳴でもあげてみるか
奴が私を標的にして近づいたら、宿木で反撃する
エーカ・ライスフェルト
蘇っただけでは満足せず、敵を増やして力も取り戻そうとする、か
「救いようのない存在ね」
ただ、邪神基準では雑魚でも一介の猟兵が相手にするには厳しい相手なのは事実
出し惜しみせずいきましょう
敵の足止めは味方を信じて任せ、私はひらすら【属性攻撃】を【ウィザード・ミサイル】に練り込むわ
敵がどんな対処をしても一定のダメージは与えられるように、貫通性能を高めた魔法の矢や、一定の範囲を燃やす矢や、ひたすら硬いだけの矢など、いくつか無駄になるのを覚悟の上で複数種類揃える
「大人しく戻れとはいわないわ。灰にして骸の海に戻してあげる」
【教典から放つ炎】がどんどん飛んでくる気がしますが、ひたすら【見切り】で躱して耐えます
●
火奈本・火花(エージェント・f00795)は、性は生命の根幹であり、生命の存続を思えば至高の欲であるという教祖の言葉を否定するつもりはなかった。
「だが、いや、だからこそ」
この教団を支配する連中がしようとしたこと。それは、もはや生命への冒涜だ。
右手が、ホルスターの拳銃に触れる。火花の闘志は燃え盛っていた。
「お前のような存在がそれを利用する事を、我々は断じて許さない!」
邪神が察知するより早く、ホルスターから拳銃が抜かれる。
発砲音と共に射出される弾丸が、触手のようにうねる邪神の足を貫く。
一瞬よろめいたように見えたが、邪神は体を震わせたかと思うと、ゆらりと火花に向き直った。
「利用。猟兵よ、貴様は何か、勘違いしている」
邪神の全身から、炎が噴き出す。火花に向けられた右手から、炎が射出された。
撃ち出された火炎弾を避けて、膝立ちに発砲。全弾が足に命中するが、やはりダメージはない。
「我は神。貴様らを利用するのではない。すでに貴様らは、我がもの也」
「それはお前の思い上がりだ。お前を神と崇めているものがいたとしても、それは私たちじゃない。私たちの神は、お前ではない」
「否。我は生まれながらにして神。生み出だす理を統べる――」
言葉を遮るように、火花が発砲する。銃弾は執拗に足を貫くが。全身を覆った炎にも防がれ、次第に命中精度は落ちていく。
何より、邪神に揺らめく炎を注視しているうちに、火花は眩暈に似た感触を覚えていた。
頭を振って、立ち上がる。
「遠距離でも狂気を植え付けるなんて。やはり、触手とは違うか……!」
「それも、あれでまだ全力じゃないんでしょう?」
火花を狙う炎が、別方向から撃たれた炎の矢で相殺される。
そちらを見れば、エーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)が、冷酷な眼光で邪神を見据えていた。
「蘇っただけでは飽き足らず、猟兵を使ってでも力を取り戻そうとする、か。どうしてもこの世界に顕現したいようね」
「我は慈悲なり。貴様らは、我の供物なり」
「……救いようのない存在ね」
炎の矢が、邪神に降り注ぐ。邪神を包む炎が膨れ上がり、エーカの魔法の矢を相殺する。
そこに畳みかけるように、火花が拳銃を発砲した。足を中心に、弾倉が空になるまで撃ち続ける。
防御に充てられていた邪神の炎が、薄れていく。効果はあると分かったが、直接的なダメージにはなっていないようだった。
「ちっ、堅い」
「火花さん、足止めをお願いできるかしら」
エーカの全身が、赤い魔力で包まれる。彼女の周囲に浮かび上がる炎の矢が、その力を増していく。
力を溜めて、一撃を経典にぶつける。エーカの意図を察し、火花は頷いた。
「分かりました、確実に足を止めます。エーカさんも」
「もちろん。役目は果たしてみせるわ」
魔力に煽られるように、エーカの髪が揺れる。
銃撃で経典から放たれる火炎弾をおびき寄せつつ、火花は邪神の背後を取る。
しかし、邪神はその首だけを真後ろに向けて、飛び出す首の骨に痛みを感じず、火花を死した教祖の瞳で見つめる。
「……っ!」
炎に包まれていながら、その経典も、体も、衣服さえも燃えていない。明らかに超常的な邪神を前に、火花は表情を曇らせた。
「この、化け物め……」
怯えたように、後ずさる。邪神を睨みつけてはいるが、銃は下ろしていた。
何かに躓いたかのように、火花は転倒した。
「あっ……!」
少女のような悲鳴を上げて、横向きに倒れる。邪神の形容しがたい足音が、火花に近づく。
「……」
邪神は何も言わず、途中で足を止めた。さすがに演技がばれたかと、火花は胸中で舌打ちする。
「我は神。故に、人の子は我を騙すことはできぬ。その身を贄と差し出せ。さすれば、我は貴様に永劫なる享楽を――」
「お断りだ」
火花の口元に、笑みが浮かぶ。直後、その身に宿すUDC、丸い塊となったヤドリギの葉が、邪神に放たれる。
ヤドリギは炎に包まれても燃え尽きず、胸部に接触した。死んだ教祖の体を喰い破って、内部へ侵入していく。
邪神がのけぞる。同時に、心臓に根を張ったヤドリギが、邪神の恐るべき力をも吸い取って、急成長を始めた。
教祖の体の全身から芽吹いたヤドリギが、幾本もの蔓となって、その身を拘束していく。
想像以上の結果だ。火花はしてやったりと、呟いた。
「たまには囚われる気分も、味わってみなさい」
声もなく縛り上げられ、邪神の身を包む炎が強くなる。ヤドリギの葉と蔓を焼き払おうというのだろう。
この瞬間、邪神は完全に動きを拘束された。拳銃の弾倉を取り換えつつ下がり、火花はエーカへと叫ぶ。
「約束は果たしました! 次はあなたの仕事です!」
「えぇ、待ちわびたわ」
エーカの周りには、百に届くほどの炎の矢が召喚されている。そのすべてに、彼女の持ちうる属性魔力がぞんぶんに注ぎ込まれていた。
極大の魔力が込められた炎の気配に、邪神が振り返る。
「無駄だ。我は貴様らの火では滅びぬ」
「でしょうね。だから私は、あなたを骸の海に叩きこむことにする」
邪神が炎弾を機関銃の如く放出する。素早い身のこなしで、エーカは炎の弾を見切り、躱す。
床を転がり、眼前に迫る炎の弾をステップで避け、邪神に右の人差し指を向ける。
「大人しく戻れとは言わないわ。灰にして骸の海に戻してあげる」
エーカの炎が、撃ち出される。弾幕じみたその数に、邪神は身に纏う炎を強めて、防御の姿勢を取った。
邪神を包む炎が硬質化し、巨大な一枚の壁となる。そこに突き刺さる、炎の矢。
あわや砕け散るかと思われた炎の矢は、壁を貫き、狙いの経典に迫る。しかし、新たな炎の壁が立ちはだかり、ついに掻き消えた。
まだ終わりではない。一枚目の炎の壁を打ち破った矢が、二枚目の壁に衝突、同時に燃え広がる。
同じ炎であるにもかかわらず、邪神の炎を食うように、侵食していく。壁を破られ、邪神が火炎弾を撒き散らしながら後退する。
その隙をついて、火花の銃撃。連続で引き金を引き、頭蓋や手、足など、体が不安定にぶれる箇所を集中的に狙う。
衝撃を殺し切れていないのか、銃弾をすべて受けた邪神がぐらつく。
「取った!」
残りの炎の矢がすべて、エーカが人差し指で指し示す、邪神の経典に向けて射出される。
邪神の依り代が、奇声を発する。全身がまたも炎に包まれ、全方位に対し無差別に火炎弾を射出してくる。
狂気の邪神だ。考えていることなど読めるわけがない。しかしそれでも、火花は確信した。
「こいつ、焦っています!」
「骸の海って、よっぽど居心地が悪いのかしらね」
冗談めいて言って、エーカが炎の矢をさらに増やす。
経典に纏っていた邪気は、薄れつつある。わずかではあるが、忌々しい邪神が弱った素振りを見せる。
この瞬間だ。エーカはその身の魔力を最後の一本となった炎の矢に注ぎ込む。
「骸の海に沈みなさい!」
巨大に煌めく炎の矢を、解き放つ。
即座に振り向いた邪神が、黒々と燃える炎に包まれる。これまでのどの炎よりも、邪気が強い。
紅と黒の炎が、衝突する。撒き散らされる魔力と邪気が、稲光となって床を打ち、削る。
「ッ……往生際の悪い!」
押し返される炎の矢に、エーカはさらなる炎の矢を放出し、威力を増幅させる。
「無駄だ。我は超越者、生命の原初たる欲を司る者。我は神」
頭に直接邪神の声が響く。黒い炎が天井を焦がすほどに大きくなり、炎の矢はさらに押し戻される。
しかし、その状況にあっても、エーカは笑った。力強く、冷酷に、笑む。
「火花さんも言っていたけれど、それ、思い上がりね。だって、ほら」
エーカの呟きに合わせるように、黒い炎の壁が内側から喰い破られる。
蔓だ。邪神を縛り上げていた、火花が宿すものと同じ、UDC。
それもまた、邪神と同じく人の理解を超えるものだった。
「そうだ、名もなき邪神。人智を超えた力は、お前だけのものじゃない」
火花の言葉に合わせて、蔓はより勢いを増していた。
燃え盛る黒い炎を、木の蔓が喰らっていく。次第に、エーカの炎の矢が、勢いを取り戻す。
そしてついに、黒い炎が消えた。赤く煌めく炎の矢を、邪神が右腕だけで受け止める。
ここにきてなお、抵抗できるのか。エーカは驚いたが、驚いただけだった。
なぜなら――。
「火花さん!」
「了解! 対象を終了します!」
目にも止まらぬ速度で構えられた拳銃が、火を噴いた。
一瞬のうちに発砲された三発の弾丸が、邪神が持つ経典に、突き刺さった。
死んだ教祖の口は動かないが、そのどこからか、耳を覆いたくなるような狂気を含む絶叫が上がる。
「い、まッ!」
脳を破壊されそうな衝撃を噛み殺し、エーカは炎の矢にとどめの魔力を注ぎ込む。
もはや、抵抗はなかった。炎の矢は邪神の右胴体に突き刺さり、即座に全身を焼き尽くす獄炎と化す。
経典が、燃える。これで邪神を骸の海に追い返せるかと、火花とエーカは安堵した。
だが次の瞬間、二人は揃って目を見開き、絶句した。
経典が燃え尽きるより早く黒い炎に包まれ、その存在を守ったのだ。
死に絶えた教祖の肉体は、白骨になるまで燃え尽きた。しかし、骨となってもなお、襤褸切れを纏い、立ち続けている。
邪神は、消えなかったのだ。
「くッ……本当にしつこいわね」
「及びませんでしたか。しかし、確実にダメージは与えたはず」
悔し気に、白骨化した邪教の依り代を睨みつける二人。その眼前で、さらなる変化が起きる。
白骨の一本一本から、無数の触手が生えだしたのだ。もはや疑うまでもない、信者たちの体を喰い破った、あの触手だ。
触手は白骨を覆い隠し、黒い肉体を形成する。おぞましい光景に、火花とエーカは息を呑んだ。
経典に与えたダメージは大きいが、今なお邪神の左手に残っている。
徐々にその実態を顕す邪神を前に、戦いは新たな局面を迎える。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
(第2章での猟兵達を見て)
狂気に対抗するには狂気に親しむか、強固な自己で律するか
私にはどちらも不足していたようです。ですが非業の死を遂げた人々、私達が背に負う無辜の人々の為、私は騎士たらんと希い続けましょう
名もなき邪神の炎と落とし子は厄介ですね。攻撃が本体に届きにくい。
ならば道を作るまで
炎から味方を「盾受け」で「かばい」つつスラスターでの「スライディング」で接近
「怪力」で大楯を扇のように降り、纏う炎を吹き飛ばしましょう
召喚された落とし子は「武器受け」「踏みつけ」で対処
後続の味方の道を切り開きます
この場面ですが敢えて言いましょう
「触手なんかに絶対負けない!」
露木・鬼燈
顕現させなければ、ですか。
いつもみたいに安全を確保しつつ戦うのはムリっぽい。
むしろ多少の危険を冒してでも速攻で仕留める。
こっちのほうが結果的に安全な気がするとゆーか・・・
顕現されたら勝目ないからやるしかないっぽい!
気配を消して強力な一撃をと行きたいけど…
あそこまで異形と化してると感覚器官とかも普通じゃないかも?
不意打ちはできないと考えて行動するのです。
んー、他の猟兵が動くタイミングに合わせて僕も仕掛けるですよ。
防御は捨てて被弾は覚悟して突っ込むのです。
真の姿に黒風鎧装を乗せて大剣形態での全力の一撃を!
この一撃を当てても外しても、全力での攻撃を叩き込み続けるです。
致命傷だけは避けて倒れるまでっ!
御手洗・花子
「解っておる、解っておるのじゃ『長谷川さん』」
脳裏にちらつくのは憤怒、怨嗟、渇望…その過去を洗い流せと、目の前の邪神に向かう自分の物ではない狂気じみた怒り。
「マックス軍曹も言っておったじゃろ?、奴は『クソ』じゃ、ならばその最後は当然決まっておる」
その言葉に気が立っていた『長谷川さん』の機嫌が良くなる
目的が同じだと理解したのか、ジョークに気を良くしたのかは不明だが。
敵が『クソ』ならば、嘗てと今の『トイレの花子さん』がやる事はただ一つ。
「『クソ』はトイレで流すのじゃ!」
援護攻撃で味方を援護しながら、使えそうなスキルをフル活用して【御手洗の御技】を当てる隙を伺います。
東雲・ゆい
(服とか体力とかは続き♪)
ま、まだまだ負けなぁーい!
攻撃が当たんなくても、あたしが囮になることで誰かが助かる
そういうことに幸せを感じるの(キリッ
敵は苗床さんがほしいんでしょ?
だったらわたしが【挑発】【誘惑】で攻撃をひきつける!
「わたしを捕まえたら好きにしていいよ~! こっちだこっち~!」
攻撃をわざと受けて★ヒロイックフォースと★ギリギリフォースでどんどん強くなるよ~!
なんか塗料投げても当たんないから、塗料モップで殴って戦うよー!
経典を狙ってね!
あ、【恥ずかしさ耐性】あるから、触手になにされてもぜーんぜん平気だぜっ!
べ、べつにずっと襲われたままでもいいとか思って……ないんだからね!?
アイル・コーウィン
アルテミスさん…….くっ……彼女の仇は、私が取るわ!
確かに触手の誘惑は強力、それは認めるわ。
実際さっきの快楽が頭から離れず、へたに戦闘に参加すればさっき以上の凌辱と快楽を与えられるかもしない。
むしろ、それを望んでしまってる自分がいるのも確かよ。
でも、例えそうだとして何度やられようとも、決して挫けず諦めず最後まで戦い続ける。
それが私の猟兵としてのポリシーよ!
真の姿に近づいた私になら、今こそあの技が使えるはず。
それは「特大錬成カミヤドリ」、巨大な硬貨を作り出し相手にぶつけるという大技よ。
さっきの戦いで経典が弱点だと見抜いた今、それを狙ってこの攻撃を仕掛けてみるわ。
今度こそ、あなたの終わりよ!
火奈本・火花
■真の姿
胸から左腕にかけてが樹木化
浮き上がった血管のような根が、顔や腕、脚に張り巡らされている
■戦闘
要請した機動部隊を部屋に突入させると同時に、銃撃によって弾幕を作る
私自身も拳銃による射撃で攻撃を途切れさせないようにしつつ、走って奴に接近しよう。私に近付く落とし子や、奴からの反撃があれば、機動部隊の銃撃によって防がせるつもりだ
接近出来たら「怪力」「捨て身の一撃」で奴から経典を奪う
後は経典を奴に守らせないように空中に放り投げよう。私自身は奴を「怪力」で抑えて、機動部隊に集中攻撃させるつもりだ
「たった一人の超越者め、お前にはこう言った作戦はとれまい。――これが、お前が供物と蔑んだ人類の力だ」
●
体も心も、おかしくなってしまったかのようだ。
全身を触手に覆われた邪神を見て、東雲・ゆい(それ以外の何か with グリモア・f06429)は心がときめくのを止められなかった。
一糸纏わぬ姿となってしまったが、衣服を探している余裕はない。今は戦いの最中にいるのだ。
普段はやたらとノリの軽いゆいであっても、それは分かっている。分かっているのに。
「あぁ……しょくしゅだぁ……」
ふらふらと、足が自然に邪神へと向かう。本能が、あの快楽を求めているかのようだ。
足元のおぼつかないゆいの肩を、大きな手が掴んだ。
「ゆい様! しっかりしなさい!」
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)だ。巨大な体躯を限界までしゃがませて、ゆいの眼前に顔を持ってくる。
冷たい機械の手の感触に、ゆいは我に返った。
「えぁっ、あっぶないー! 飲まれるところだった!」
「気を取り直したなら何より。さぁ、得物を。敵は待ってくれませんよ」
言うや否や、邪神が経典から火炎弾を召喚し、トリテレイアに放った。
巨大な盾を構えてそれらを受け切り、トリテレイアが叫ぶ。
「私に続いてください!」
脚部のスラスターが開き、推進剤が噴出される。地面をスライドするように、トリテレイアの巨体が高速で邪神に迫る。
牽制するかのように放たれた炎を、大盾ですべて受け切る。
彼の正面を遮るように、邪神の眷属である触手塊が、地面から複数湧き出した。
眷属といえど、侮れない相手だ。先ほども一人、猟兵がやられている。だが、騎士としての信念が、あえてトリテレイアを触手の群れに突っ込ませた。
全身に絡みつく触手に、ブレインが悲鳴を上げる。頭から噴き出す煙と、機械の身にありながらしっかりと感じる、不可解な感触。
トリテレイアは、その不気味な存在を、拒否した。
「触手!」
武器を振るって、触手の塊をなぎ倒す。
「なんかに!」
足元で蠢く触手塊を、超重量をもって、踏みつける。
「絶対に!」
スラスターを限界以上にふかし、巻き付く触手を引きちぎる。
「負けない!」
気丈な信念をもって、触手塊を突破した。
眼前には、邪神がいる。当然、彼一人で戦ってやるつもりなど、毛頭ない。
信頼のおける仲間たちが、トリテレイアにはいるのだ。
「今ですッ!」
「待ってたっぽい!」
トリテレイアの背後から、巨大な黒い大剣を振り上げて、露木・鬼燈(竜喰・f01316)が邪神へと斬りかかる。
邪神はその右手をかざし、眼前に黒い炎の壁を作り上げ、剣を防いだ。
弾き飛ばされた鬼燈は、着地と同時に右方向へと転身する。彼がいた場所に黒い炎が突き立ち、焼け焦げた跡から触手塊が吹き出した。
「これ以上顕現されたら、やばいね。速攻で仕留める!」
全身を継ぎ目のない黒い鎧で覆い隠し、鬼燈の足元に、悪鬼を宿した代償としての血が流れる。
彼の真の姿だ。超高威力の一撃を、当たるまで叩き込むために、命を削る。
「どうせ不意打ちなんて効きゃしないんだから、正面からいくですよ! らぁぁぁぁッ!」
爆発的に強化された身体能力をもって、瞬時に邪神に肉薄し、大剣を振るう。
漆黒の剣に触手が纏わりつくが、構わず、振り抜いた。確かに切り裂いた感触はあるが、邪神はひるまない。
どころか、触手に包まれたその顔を鬼燈に向け、言葉を発した。
「無意味な。貴様の宿す鬼では、神たる我は斃せぬ」
「それを決めるのは、お前じゃないッ!」
さらに、横薙ぎの一撃。轟音をもって振り抜かれた大剣は、経典を守る黒い炎に阻まれた。
鬼燈へと触手が伸びる。ゾッとするほどの邪気を感じ、兜の奥で鬼燈は顔をしかめた。
その間に割り込むように入り、トリテレイアが触手を盾で防ぎ、武器で払う。
「守りは私に!」
「助かるっぽい!」
トリテレイアの陰から飛び出し、邪神の背後へ上段からの振り下ろし。触手を切り裂き床を破壊するが、ダメージを与えた手ごたえはない。
離れた位置から援護の隙を探していたアイル・コーウィン(猫耳の冒険者・f02316)は、ふと頭上を見上げた。
共に戦い、触手に囚われてしまった猟兵が、今も天井で快楽の責め苦に合っている。完全に触手に埋もれている以上、下手な攻撃もできない状況だった。
「くっ……。彼女の仇は、私が取るわ!」
「わたしだって! 絶対あの子を助けてみせるんだから!」
隣で飛び跳ねながら答えたゆいは、全裸に塗料モップという、とても戦士とは思えない装備状態だった。
例え猟兵とはいえ、せめて服でもと思ったが、状況がそれを許してはくれない。
鬼燈とトリテレイアは、攻防揃ったコンビネーションを展開しているが、不可視の力を強めつつある邪神を相手に苦戦している。
早急な援護が必要だ。ダガーを構え、アイルはゆいに目配せし、走り出そうとした。
その背後に、声がかかる。
「待たんか!」
振り返ると、御手洗・花子(人間のUDCエージェント・f10495)が腰に手を当て、二人を睨んでいた。
彼女は童女のような身なりだが、UDCの専門家だ。二人の火照った顔を見て、苦い顔をしている。
「お主ら……『期待』、しておるじゃろ」
心臓が飛び跳ねるような感触に、アイルは思わず胸を抑えた。
事実、先ほどの戦闘で受けた触手の快楽が、頭から離れないのだ。邪神が纏う触手は、眷属など比ではない威力を持っているだろう。その快感は、どれほどのものか。
それを望んでしまっている自分がいる。否定できずに、俯く。
隣に立つゆいも、同じだった。彼女は特に、触手に侵された時間が長い。精神の汚染は、申告だった。
「べ、別に? ずっと襲われたままでもいいとか思って……ないんだからね!?」
モップを持ったまま腰の後ろで手を組んで、口笛など吹くゆい。花子は右手で頭を押さえた。
「ゆい、隠す気ないじゃろ」
「……でも、花子さん。私たちが援護しなければ……」
「分かっておる。そりゃわしだって戦うつもりじゃ。だがの、これ以上狂気に浸れば、死ぬぞ」
それは、UDCと長年向き合ってきた花子だから放てる言葉。静かだが、酷く重みがあった。
例えそうであったとしても、アイルは引き下がるわけにはいかない。天井で責め苦を味わう少女を、身代わりになった彼女を、救わねばならないのだ。
アイルのまっすぐな瞳を受けて、花子はため息をついて頷いた。
「……とにかく。やるなら極力、触手に囚われるでないぞ」
「えー!?」
なぜか唇を尖らせるゆいの頭をはたいて、それから花子は、やれやれと頭を掻いた。
「今のはアイルに言ったんじゃ。アイルはまだ、深度が低い。じゃがお前は別じゃ。もう今更というか、まぁもともといかれてるっちゅーか」
「花子ちゃんたらひどいわ! わたしみたいな淑女捕まえて!」
「やかましいわ! とにかく皆に植え付けられた狂気は、わしが何とかして見せる。すまぬが、しばらく奴の相手を頼む!」
方法の確認は、しなかった。アイルとゆいは、花子を信頼している。それだけで十分だ。
今も戦うトリテレイアと鬼燈のもとへ、ゆいが真っ先に駆け付ける。
「おりゃー! 待ってろ触手ー!」
塗料モップを手に、ゆいは一目散に邪神へ飛び掛かった。そのあまりにも唐突な出来事に、トリテレイアと鬼燈が目を丸くする。
「ゆい様、何をしているのですか!」
「離れるっぽい!」
振り抜いたモップが邪神の頭部を捉えるが、触手に飲み込まれ手応えがない。
飛び掛かった勢いのまま床に倒れて、即座に起き上がる。ゆいは邪神に向かって舌なめずりをした。
「たくさん触手生やして、そんなに苗床さんがほしいの? 私を捕まえたら、好きにして……いいよ」
「我が贄となることを望むか、快楽の子よ。ならば――」
足元を這う触手が、ゆいの足首を掴んだ。待ち望んでしまった快楽が脳を駆け巡るが、溢れる涎を拭いもせずに、それでも耐えた。
振り払って脱出し、熱く触手を求める体を抑え込んで、ゆいは叫んだ。
「こっちだこっち~! 捕まえてみなよ直結野郎ー!」
「否。すでに貴様は、我が手の中にいる」
「……えっ」
直後、邪神の体の触手が、爆ぜた。舞い上がった触手の下から、巨大な影が膨れ上がる。
眷属とは比べるべくもない、太く長い触手を幾本も生やした、名状しがたい、あまりにもおぞましい輪郭。
上半身しか見えずとも、見上げなければならないほどの体躯だった。もはや、フロアに収まりきっていない。
トリテレイアと鬼燈が、後ずさりする。この強大な邪神を前に、畏怖が生まれかけていた。
混乱極まったゆいが、叫ぶ。
「なんでなんで!? GM呼んでGM!」
「ゆいちゃん、上! 避けるです!」
鬼燈の叫びで、初めて気が付く。邪神が纏っていたすべての触手が、ゆいに降り注いだ。
「ひゃああああっ!?」
びちゃびちゃと音を立てて床に叩きつけられた触手は、まるで得物を見つけた肉食獣のように、ゆいの体に飛びついていく。
視界が触手に覆われていく。一瞬の出来事に、頭が追い付かない。
その直後、ゆいは全身を痙攣させて、悲鳴を上げた。
「んっ、あぁぁぁぁぁっ! なに、こぇ、さっきのと、全然ちが――」
もはや何をされているのかも分からないほど、破壊的な快楽がゆいの全身を襲う。どこからか体内に何かを注ぎ込まれているような感触が、絶え間なく続く。
実際に何が起きているかは分からない。ただ精神を破壊するためだけの快楽が、ゆいの瞳から光を奪う。
「おっ……うっ……」
邪神の触手塊からは、ゆいの足がかろうじて飛び出していた。しばらくバタついて抵抗を示していたその足は、徐々に弱々しくなり、やがて、完全に脱力した。
触手の中から嬌声とも悲鳴ともつかない声が漏れだす。
「ゆいさん! 今助けます!」
駆け付けようとしたアイルは、その手を強く引かれた。花子だ。
「ならん」
「なんで! 早く助けないと、ゆいさんが」
「ならん! あれに近づいては二の舞じゃ! アイルは邪神をやってくれ!」
見れば、花子は苦悶の表情を浮かべていた。まるで、体内の何かを抑えこんでいるかのような。
唇を噛んで頷き、アイルは邪神へと向かう。その後ろ姿を見送って、花子は頭を抱えて膝をついた。
脳裏にちらつく、憤怒、怨嗟、渇望。様々な感情は、花子のものではない。滲み出した悪しき過去を憎む、彼女が身に宿す狂気から発せられていた。
「解っておる……。解っておるのじゃ、『長谷川さん』」
それは、UDCと呼ばれる存在。彼女が小学五年生の時に融合した、この世ならざるもの。
もはや一蓮托生となったそのUDCの怒りを、花子は必死に抑え込んでいた。
「軍曹も言っておったじゃろ。奴は――『クソ』じゃ」
グリモア猟兵の言葉を思い出す。口汚く罵っていたが、異論はなかった。
ふらつく足を叱咤して立ち上がり、花子は頭痛に顔を歪めながらも、笑った。
「ならば、『クソ』の最期は決まっておる。そうじゃろ、長谷川さん」
コードネーム、「トイレの花子さん」がやるべきことは、一つ。内なる狂気が笑うのを、花子さんは確かに感じた。
「ふっ。機嫌を直してくれたようじゃの」
あとは、その時を待つだけだ。
◆
「奴は完全ではありません! しかし戦闘能力は高い、注意を怠らずに! てぇぇぇぇ!」
高い声が最上階に響く。同時に、凄まじい銃撃音が響いた。
UDC組織の突入部隊を率いてきたのは、火奈本・火花(エージェント・f00795)だ。しかし、その容姿は彼女の常でない。
胸から左腕にかけて、その皮膚は樹木と化していた。浮き上がった血管のような根が、顔や腕、脚に張り巡らされている。
火花の身に宿すヤドリギが、その力を顕現していた。真の姿である。
圧倒的物量の銃弾を受けても、邪神はびくともしなかった。
予想通りの結果だ。火花は特に驚くでもなく、皮肉気に笑う。
「UDCに銃弾が効くほうが珍しいですからね」
何度も戦ってきた相手だ。人間の常識が当てはまらないことは、重々理解していた。
だからこそ、火花はその身に宿したUDCを顕現させたのだ。
銃撃に反応して、邪神が火炎弾を発射する。その速度は猟兵こそ見切れるが、訓練しているとはいえ普通の人間であるUDC戦闘員は、容易に被弾する。
そこかしこから発せられる戦闘員の悲鳴に、火花は舌打ちをした。生きて帰してやりたいが、安全策など、取れるはずもない。
「撃ち続けて! 牽制にはなります!」
叫んで、自身も発砲しつつ、敵の弱点を探る。
邪神の影であるこの巨体は、その上半身だけを最上階に顕現させている。能力は完全なる顕現に比べれば遥かに弱いが、それでもただの人間であれば、簡単に捻り殺せるだろう。
突如現れた突撃部隊の援護を受けながらも、鬼燈とアイル、トリテレイアは攻めあぐねていた。
邪神の巨体ももちろん、その威容、溢れ出す邪悪なエネルギー。どれをとっても、規格外だ。
これが、邪神か。緊張のあまり、唇が渇く。
「鬼燈さん」
隣に立ったアイルが、邪神を見上げて息を呑む。その視線は、まっすぐ邪神の巨大な頭部を見つめていた。
「あそこに、経典が」
「……うん」
邪神の頭部、その眉間の位置に、経典が輝いている。やはり、あれを破壊しないことには――。
「来ますぞ!」
トリテレイアが叫んだ直後、邪神がその触手を縦横無尽に振り払う。
巨大な影の触手は、実体を持っていた。猟兵たちはすかさず回避したが、触手の破壊力は、儀式上を隠していたビルの外壁と天井を、破壊した。
囚われていた猟兵が解放され、アイルが落下する少女をすかさず受け止める。息はあるが、目の焦点があっていない。意識も、ない。
と、そこに力を集中させていた花子が叫んだ。
「アイル! その者はわしが階下につれていく! わしに渡せ!」
「分かったけど、花子さん、あなたは?」
「まだ『準備中』じゃ!」
花子自身にも、焦りが見られる。ともかく少女を受け渡し、アイルは再び邪神と対峙した。
黒い大剣を構えなおす鬼燈に、トリテレイアが言った。
「どう攻めますか」
「どうって、どうしようね。でも実体はあるから、斬れるっぽい」
「なるほど」
破壊された最上階で上り始めた朝日を受けて、いよいよ邪神の輪郭が露になる。
人の上半身に近い輪郭だが、その全身に、びっしりと顔が生えていた。それぞれが呪詛のようなものを呟いている。
「……気味の悪い!」
火花が吐き捨てる。否定するものは、いなかった。
巨大な触手が動く。トリテレイアが大盾を構えるが、その狙いは、四人ではなかった。
触手が狙うその先には、今も眷属に体を弄ばれるゆいがいた。姿こそほとんど見えないが、足は時折痙攣するばかりで、ほとんど動かない。
「ゆい様!」
「やらせないっぽい!」
「いきましょう!」
鬼燈とトリテレイア、火花が、同時に駆け出す。
トリテレイアがスラスターを最大出力まで上げて、高速でゆいに接近する。
その後ろで、鬼燈が黒い大剣を触手に振り下ろしていた。しかし、あまりにも巨大すぎる触手は、彼の剣をもってしても、半分も斬れない。
斬撃の結果を見た火花が、左腕から放たれた蔓を巨体に巻きつける。だが、人の身を超えた力を得た彼女であっても、邪神の腕力には敵わない。振り落とされてしまう。
「ゆいさん! ゆいさんっ!」
アイルが悲痛に叫ぶ。ゆいはもう、瀕死に近い。このままでは、本当に殺されてしまう。
それだけは防がなければ。アイルはその身に秘めた力を、解放する。
「今なら、あの技が使えるはず……!」
トリテレイアが、間に合わない。手を伸ばした先で、巨大な触手がゆいを攫う。
裸体を晒して上空に持ち上げられたゆい。床に叩きつけられれば、即死だ。
「やらせないッ!」
アイルの手の中で、自身の器物である硬貨の複製が、まじりあっていく。
巨大な一枚の硬貨となったそれは、彼女が頭上に掲げると、高速回転を始めた。
「これでも、くらえぇぇぇぇッ!」
放り投げられた効果は、回転する刃となって、触手に迫る。
ゆいを捕らえた巨大な触手が、アイルの硬貨によって、切り裂かれた。
「やった!」
しかし、喜びは束の間にも満たない。切り落とされた触手を痛がりもせず、すぐに他の触手が、ゆいを捕まえた。
「くッ! 撃ち方やめ!」
銃弾がゆいに当たることを恐れて、火花が戦闘員の銃撃を止める。場に不気味な静けさが訪れる。
邪神はゆいの小さな体を、巨体の胸に位置する場所に生える顔へと、近づける。
無数の顔は怨嗟の呟きをやめ、近づくゆいの体に、しゃぶりついた。
「ひっ、やぁぁぁっ!」
顔から伸びた舌が、細く長い触手と化す。ゆいの体は、長い舌に絡めとられるようにして、その身を舐め、吸われ、あるいは噛まれている。
猟兵が絶句する中、邪神の影が、叫んだ。
「美味也! 美味也!」
大音声は衝撃波となって、ビルをさらに破壊した。
ゆいから何かを吸い取っているのか、巨体の触手が活性化する。
極大の触手が二本、薙ぎ払われる。戦闘員が巻き込まれて、階下に落下して死んでいく。
トリテレイアが、そのうちの一本を受け止めた。互いの重量が相まって、最上階の床にひびが入る。
「ぬぅッ……!」
「トリテレイアさん、大丈夫です!?」
「この程度……。捕まえました、鬼燈様! 火花様!」
受け止めただけでなく、トリテレイアは振り下ろされた触手を、がっしりと掴んでいた。彼の体躯だからこそできる荒業だ。
その触手に、鬼燈と火花が飛び乗る。双方ともに限界ギリギリまで強化した体で、触手の上を、疾駆する。
「ゆいちゃんを助けるより、斃した方が速いっぽい!」
「同感です!」
狙うは、頭部の経典。まっすぐに、駆け上る。
しかし、邪神も黙ってはいなかった。経典から幾百もの火炎弾が放たれ、鬼燈を襲う。
「避けてなんて、いられないっ!」
火炎弾の直撃を受け、その邪な力が身に染み込もうと、鬼燈はなおも走る。
他の触手が鬼燈を捕らえようと迫るが、そこに巨大な硬貨が飛び込んできた。大きな触手を、切り裂いていく。
「今度は、今度こそはやらせない! 二人とも、決めて!」
「了解!」
「任せるっぽい!」
狙いを定めて、鬼燈は高く高く、跳躍した。邪神の頭上よりも、高く。
その下に、火花がいる。邪神の眉間に、取りつく。
「いただく!」
未知なる植物に覆われた左腕を、眉間に突き立てる。経典を守る黒い炎の抵抗を、異次元の力が打ち破っていく。
顔面を覆う木の根が、より深く火花に侵食していく。それでも構わずに、力を振り絞る。
「届けぇッ!」
その指先が、経典に触れた。そして、掴み取る。
邪神の強力な抵抗が、火花の体を蝕んでいく。狂気が脳内に流れ込むのを、血走った眼で経典を睨みつけ、押し留めた。
「たった一人の超越者め。お前には分かるまい。私たちが命を賭して戦う、その力を」
経典を引き抜く。邪神が悲鳴を上げ、振り落とされそうになる。
「――これが、お前が供物と蔑んだ、人類の力だッ!」
経典を、放り投げた。上空にいる、鬼燈へ。
「鬼燈さん!」
「はぁぁぁぁッ!」
猛禽類にも似た鋭い瞳で、鬼燈は獲物を捕らえた。
空中で、全身を回転させた。必中必殺の一撃を叩きこむための、予備動作だ。
「これで――」
巨大な剣の重量を使って回転を速め、経典から放出された巨大な炎弾をも切り裂き、その回転は最高潮に達した。
「終わりだぁぁぁぁッ!」
そして、振り抜いた。黒い炎で覆われた経典を、その結界ごと、叩き斬る。
「今度こそ、あなたの最後よ!」
両断された経典を、さらにアイルの硬貨が引き裂き、経典は細かな紙片となって、蒸発していった。
邪神が上げた咆哮に、鬼燈と火花は吹き飛ばされた。待ち構えていたトリテレイアとアイルが、二人を受け止める。
切り裂かれた触手を振り乱し、邪神は言葉も発せず悶え苦しんでいる。
「あとは、その姿が消えるのを待つだけです。奴は恐らく、骸の海に逃げ帰るでしょう」
苦し気に、火花が言った。その身を苛むヤドリギと、部下を殺してしまった重責があるのだろう。アイルが背中をさすって、慰めている。
邪神が苦しむ姿を、彼らは始めこそ勝ち誇って眺めていた。しかし、すぐに異変に気付く。
「……消えない」
アイルが呟いた。
邪神は消えず、どころか次第に回復しているようにすら見えた。経典は破壊しているのに、だ。
この世に邪神を繋ぎとめているものは、もうないはずだ、だというのに――。
「まさか……」
大盾を油断なく構えて、トリテレイアが呟いた。彼は剣の先を、邪神の胸部に向ける。
ゆいが、そこにいた。彼女の幼く細い体は、無数の顔から伸びる舌に蹂躙され、弛緩したまま痙攣を繰り返している。
もはや悲鳴も聞こえない。不気味な顔の群れに全身を凌辱されるその光景は、あまりにもおぞましい行為だった。
邪神が言っていたように、猟兵の体が強大な苗床となり得るのだとしたら、答えは一つだった。
「奴は、ゆいさんからエネルギーを調達しているの? あんな、やり方で?」
火花の手がホルスターに伸びる。しかし、撃てない。撃ってどうなるというのか。
「ゆいさんを助けないと!」
アイルが再び硬貨を召喚する。しかし、どのように。無数の舌を一本ずつ切り裂くことは、現実的ではない。
経典がなくなった今、炎の攻撃はないが、邪神は力を取り戻すばかりか、その体躯を徐々に巨大に膨らましている。
火花の頬に、一筋の汗が伝う。その目は、恐怖に見開かれていた。
「顕……現……」
「これは、やばいっぽい」
鬼燈の声は、震えていた。
巨大化する邪神を見上げる三人の背後から、少女の声がした。
「いや、経典なき今、奴をこの世に留めておくものはない。例えゆいを触媒にしようとも、限界はある。叩き帰すなら、今じゃな」
振り返ると、花子がいた。その黒髪は不可視の力で揺らめき、邪神のそれと近い気配を、小さな体から発している。
まっすぐに邪神を見据え、表情には一遍の絶望もない。どころか、強烈な怒りに燃えている。
「すまぬな。こやつを骸の海に返すのは、わしにやらせてくれぬか」
「手が、あるのですか」
小さく尋ねるトリテレイアに、花子は無言で頷いた。
「これは『長谷川さん』にも言ったのじゃが」
花子から発するその力――言うなれば、妖気だろうか――を感知した邪神が、吼える。その衝撃波を受けても、花子は顔色一つ変えない。
「マックス軍曹が言っておったじゃろ。奴らは、クソじゃ」
手をかざす。花子の妖気を受けて、床が、歪んでいく。
「クソの末路は決まっておろう」
波のように揺らめく床から生える無数の手が、邪神の体に纏わりつく。
そして空間すらも、水流のように蠢く。
花子の身に宿すUDC「長谷川さん」。その実態は、死や過去を「過ぎ去るもの」であるとして重んずる、邪神である。
骸の海とつながった床と、そこに招き引きずりこむ腕。空間すらも捻じ曲げて作られた、忘却の水流。それは疑うまでもなく、邪神の力だった。
「邪神に、邪神をぶつけている……」
火花が呟く。鬼燈とトリテレイア、アイルは言葉もなかった。邪神とは、かくも恐ろしいものなのか。想像を絶する光景に、誰もが己の正気を疑った。
邪神が悲鳴を上げる。無数の白く長い手が、その巨体を揺らめく床に引きずっていく。
空間の水流が、邪神を骸の海へと流し込んでいく。それは、まるで――。
「『クソ』は、トイレに流すものじゃ」
邪神が暴れ、回転しながら床に引きずりこまれていく。その巨体から、ゆいの小さな体が離れた。
「ゆいさん!」
「お任せを!」
舐めつくされた不気味な粘膜だらけのゆいを、トリテレイアが受け止める。
邪神は今も流されていく。骸の海へ、沈んでいく。
「我は……我は、神……」
「そんなわけなかろう」
花子は冷たく、沈みゆく邪神を見下ろす。そして、吐き捨てた。
「お主らはUDC。そしてオブリビオン。過ぎ行く過去がこの世に染み出した、ただの骸じゃ」
「我……ァ……!!」
最期の咆哮を上げて、邪神は骸の海へと、消えた。
嘘のように静けさを取り戻した、天井を破壊された最上階に、朝を知らせる小鳥の声が響いた。
◆
柔らかい布の感触に、ゆいは目を覚ました。
大きなTシャツを着ている。誰のものかは分からないが、寒さは感じないのでありがたい。
おぼろげな記憶だが、酷く恥ずかしい目にあった気がした。邪神が纏う触手に襲われたあたりまでは、覚えているのだが。
「目、覚めた?」
声の方を見てみると、アイルがいた。見渡すと、場所はまだ最上階らしい。
邪神はいない。倒したのだろう。
「……あー」
「大変だったね。でも、無事でよかった」
「うん、まぁ、ども」
戦いの最中はずっと感じていた火照りは、もうない。あれほど快楽に飢えてしまっていたのに、何事もなかったかのようだ。
それでも、酷い目にあったという過去は消せないのだが。
「ゆい様。体調はいかがですか」
巨体を隣に腰下ろし、トリテレイアが尋ねる。ゆいはそれに、曖昧に頷いた。
「ぼちぼち。ていうか、その、わたし、どうやって回復したの?」
「精神に染みついた狂気か? あれなら、わしが流した。皆が経典を破壊してくれたおかげじゃな」
床から儀式の残滓が取れないかを調査していた花子が、あっけらかんと言った。その意味を理解している者は、少ないだろう。
ゆいは理解できなかった。だが、する必要もないだろうと感じた。今回の敵は、あまりにも異質すぎた。
「邪神、怖いわ。ありゃ下方修正されるね」
「そうしてくれると、ありがたいっぽい」
破壊されたビルの外壁に上り、街を眺めていた鬼燈が言った。笑ってはいたが、どこか悔しそうでもある。
武芸者としての意地は見せたが、邪神はさらにその上をいく。
しかもあれで格下だと、花子は断言した。今日戦った邪神は、もしかしたらまた顕われるかもしれないとも。
ビルの下では、警察に扮したUDC組織が一帯を封鎖していた。必要な人間には、記憶処理が施されるらしい。教団のことは、なかったことにされるのだろう。
ここを安住の地と信じて集った者たちは、もういない。UDC組織の戦闘員も、全滅してしまった。
多くを失って掴んだ勝利は、どこか味気ないものだった。
「皆さん、あとは組織に任せても問題ありません。脅威は……去りましたから」
疲れた様子で、火花が言った。彼女の顔色は、疲労の色が濃い。
しばらく、皆無言だった。昇った太陽の眩しさに、目を細めている。
「帰りましょう。皆様を待つ人のところへ」
トリテレイアが言った。
「私たちにはまだ、戦わねばならないのですから」
まだ恐ろしい敵が、いくらでもいる。この世界だけではない。猟兵が戦うすべての世界にだ。
その使命感は、この場の誰もが持っていた。猟兵たちは頷いて、お互いの肩を支え合い、グリモアの力で、世界から消えた。
残された最上階に、朝の光が差し込む。狂気と絶望の戦いは、やがて訪れる日常に覆い隠されていく。
瓦礫の影で、一辺の紙片が黒い炎に包まれて消えたことを知る者は、いない。
fin
大成功
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