敵か味方か!?カウボーイ
#ヒーローズアース
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爆轟、怒号が吹き荒れる。
大勢で押し寄せるオブリビオンの軍勢に、ヒーローたちは窮地に立たされていた。
「くっ……こいつら、いったいどれだけいるんだ……」
「レッド、このままじゃ持たないぞ!」
「くそっ、俺たちもここまでなのか……」
町の大通りに押し寄せる大量のふとましい雀のオブリビオン『ちゅんちゅんさま』の物量の前に、三人組のヒーロー『RGBS』は徐々に追い詰められていく。
殴りつけても柔らかな羽毛に阻まれ、支給品の光線銃もいつもの通りあまり効果を上げない。
敵が少なく、決定的な隙ができれば、三人合体攻撃が使用できるのだが、あまりの物量によって、彼らの武器である連携が取れない状況なのである。
「こいつら、攻撃が効いていないのか?」
赤いマスクのヒーロー、通称・力のレッドの渾身の拳が炸裂するも、ちゅんちゅんさまは数メートル転がった後、すぐに何事もなかったかのように立ち上がってくる。
「ならば、手数でどうだ!」
青いマスクのヒーロー、通称・スピードのブルーが怒涛の連撃を繰り出すが、正対したちゅんちゅんさまはその攻撃をくちばしと鋭い翼であっさりといなしてしまう。
「くっ、だ、だめだ!」
「みんな、下がれ!」
後ずさるレッドとブルーの前に立ったのは、緑のマスクのヒーロー、通称・なんか頑丈なグリーンだった。
体の前で両腕を盾にして立ちふさがるいわゆるピーカブースタイルのグリーンだが、攻撃に転じるほどの余裕はない。
雪崩のように降り注ぐちゅんちゅんさまの攻撃を受け続け、渓流に沈む大岩のごとくその身を硬直させていたが、グリーンの防御も絶対ではなく、度重なる攻撃についに両腕の防壁は突破され、体勢の崩れたところに重い一撃をもらったグリーンは勢いよく吹き飛ばされた。
「ぐわーっ!」
「グリーン!」
悲鳴を上げながら吹き飛ばされ、付近の移動販売の出店が広げていたらしい折り畳みテーブルを粉砕しながらグリーンは倒れ伏す。
いつも派手な戦いをしているRGBSだったが、壊したものはだいたい保険が利かない限り自己負担になってしまうので、勝ち筋が薄い戦いでの器物破損は避けたいところだったが、それはこの際どうでもいい。
弱々しく起き上がろうとするグリーンに駆け寄るレッド、ブルーの前には、なおもちゅんちゅんさまの大群が押し寄せようとしている。
「……やれやれ、騒がしい連中であるな」
二つの勢力に割って入るように、移動販売の改造キャンピングカーから大柄な人影が現れる。
くたびれたカウボーイハットを目深にかぶり、全身をポンチョで覆っているが、あちこちの隙間から見えている部分は金属の光沢がある。
「あんたは一体!?」
「ふふ、吾輩の名は──」
表情の作りにくい戦闘スーツ姿のせいか大袈裟に驚いて見せるレッドに対し、名を名乗ろうとする古風なカウボーイだが、それよりも前に、押し寄せるちゅんちゅんさまが動きを止め、新たに道を開けるような動きを見せたため、それが中断される。
「──おやおや、年寄りヴィランがヒーローの助っ人とは、様はないね。えぇ、ピッツァ・デュベル」
開いた道の奥からやってくる、大きな杵を担いだウサギのようなオブリビオン。
若く小柄な姿に似合わず、圧倒的な存在感を放つその立ち姿に気おされるでもなく、ピッツァ・デュベルと呼ばれたカウボーイは、機械の指先で帽子の前を押し上げる。
「貴様に言われたくはないな、アクロラビット。ひどい有様ではないか。吾輩の全国ピザ売り歩きを邪魔するためだとするなら、貴様のほうこそ様はない」
「フン、馬鹿らしい……。ピザだのピッツァだの、どうだっていい。未来なんて、叩き壊してしまえばいいんだよ。全部、全部、壊れてしまえ」
かつてのヒーローとヴィランは、今のヒーローを巡って一触即発の空気をぶつけ合わせる。
そうして、どちらからともなく動き出した暴力の嵐は、ヒーローヴィランのみならず街々を完膚なきまでに破壊しつくすのだった。
「ヒーローズアースでの予知を確認した。どうやら、とある街に大量のオブリビオンがやってくるようだ」
グリモアベースはその一角で、青灰色のコートを着込んだグリモア猟兵、リリィ・リリウムは事務的な言葉で告げた。
街を襲うオブリビオンは、丸々とした巨大な雀のようなオブリビオン『ちゅんちゅんさま』と、それを統率しているかつてのヒーロー『アクロラビット』のようだ。
それらを迎え撃つのは地元のヒーロー、全身に原色の強化スーツをまとった三人組『RGBS(アールジービーズ)』だが、どうやら予知を見る限りでは、旗色が悪い。
「更に、騒ぎが起こる前から街にピザを売り歩きに来ていた『ピッツァ・デュベル』というヴィランがいるが……、こいつは正直、相手として考えなくてもいい。
歴史はRGBSよりも古いが、もう長いこと移動販売のピザ屋をやっているらしい。
敵にも味方にもならないが、アクロラビットとは浅からぬ因縁があるようだな」
ヒーローであってもヴィランであっても、それを排除するのは猟兵の仕事ではない。ただし、それがオブリビオンというのなら、話は別である。
「我々猟兵は、異物であるオブリビオンを排除せねばならない。まずはRGBSの身動きが取れないため、ちゅんちゅんさまを倒してもらう必要がある。
配下が倒れれば、アクロラビットは場を仕切りなおす為に、一度撤退するようだ。
集団戦に畳みかけてこないのは、いかにも元ヒーローらしいといえるかな。
ただし、我々を敵と見定めれば、こちらを逃すことはすまい。わずかな猶予の後、再び襲撃してくるはずだ。
そこを再び叩くこととなる」
そうして説明が終わると、リリィは居並ぶ猟兵たちを改めて見渡す。
「資料を見る限り、オブリビオンとなる前の彼らは、いずれもヒーローであったと聞く。だが、彼らを放置すれば、街は破壊されてしまう。
ヒーローと呼ばれた彼らにそんな真似をさせるのは、忍びない。
すまないが、皆の力を貸してほしい」
現場に赴けないグリモア猟兵としての心情を吐露するかのように、リリィは帽子をとって一礼するのだった。
みろりじ
どうもこんばんは、流浪の文章書きみろりじです。
新しい世界ということで、出たらすぐヒーローズアースやりたいぜ!
と思っていたのですが、いろいろと環境の変化なども重なって、もう結構新しめとは言い難い時期になってしまいました。
色々と名前のあるキャラなども出せる余地があるだけに、それはそれで参加する皆さんとの裁量が難しくなりそうなお話ではあると思います。
さて、今回は「集団戦→日常→ボス戦」というシナリオフレームを採用させていただきました。
人物紹介のために、ややオープニングを長めに取らせていただきましたが、当エピソードはあくまでも猟兵が主役なので、RGBSやピザ男の活躍は程々になるかと思います。
彼らはあくまでも、物語を盛り上げるためのエッセンスです。尚、タイトル。
色々と書きたいことはありますが、ここから先は皆さんと一緒に作る内容になりますのでこれくらいで。
今回も、猟兵の皆さんと一緒に楽しいシナリオを作っていきたいと思っております。
なお、今回はリリィが案内役なので、頂いたプレイングは翌日の朝に返却する形をとろうかと考えております。
ですので、ご友人と誘い合わせの際は、タイミングを合わせてみることをお勧めいたします。
それでは、皆さんのプレイングをお待ちいたします。
第1章 集団戦
『ちゅんちゅんさま』
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POW : 頑丈なくちばし
単純で重い【くちばし】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 鋭い翼
【翼】が命中した対象を切断する。
WIZ : 羽根ガトリング
レベル分の1秒で【翼から羽根】を発射できる。
イラスト:橡こりす
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
休日の大通りには、多くの一般人が溢れかえっていた。
休みでも仕事の入っているサラリマン、友達と誘い合わせて出かける若者、お店の呼び込みなどなど、多くの人間がそれぞれの理由をもって、もしくは持たずに賑わいを作っていた。
と、そんな活気という名の賑わいにあふれる大通りに響き渡る甲高いブレーキ音。
事故か。それにしては衝突音がない。
複数のブレーキ音が折り重なって、車のために作られた交差点の精緻な軌跡を歪ませる形で、行き交っていた車が舳先を変えた姿勢で大きく円を作る。
「ちゅちゅん、ちゅんちゅん」
鈴を転がすような囀りが、怒号と喧騒の中に不自然に響く。
いつの間にか交差点の中心に湧いて出たそれは、こんもりと盛ったチョコレートアイスのようでもあった。
だがそれにしては、乗用車一台分ほどのサイズは、いくらなんでも大きすぎる。
「ちゅちゅん、ちゅんちゅん」
胃の腑を震わせるような、嫌に響く鳥のさえずり。
それがまさに、交差点の中央にいくつも現れた茶色い謎の生き物から発せられたものであることは、だれの目にも明らかだった。
そして、彼ら──「ちゅんちゅんさま」がまず手始めに、自分たちを覆うように停車した車を乗り越えがてら押しつぶしにかかった瞬間、喧騒は悲鳴に変わった。
オブリビオン、その脅威が今まさに街を蹂躙せんと溢れかえったのだ。
月凪・ハルマ
へー、戦隊モノみたいにチームを組んでる
ヒーローもいるんだなぁ
いやまぁ、考えてみれば
特別な事でもないんだろうけど。
今まで単独で戦ってるヒーローにしか
会ってこなかったもんで
◆SPD
さて、無駄話はこの辺にしとこう
助太刀しますよ、RGBS!
なんか随分と可愛い見た目だが敵は敵
故に容赦手加減、一切無し
まず遠距離から急所を狙い(【暗殺】)手裏剣を【投擲】
そのまま【忍び足】で気配を消して群れの中へ入り込み
破壊錨・天墜で【範囲攻撃】を叩き込む
その後は武器を魔導蒸気式旋棍に持ち替え戦闘続行
同時に【大神召喚】で黒狼を召喚して一緒に戦ってもらう
敵の攻撃は【見切り】【残像】【武器受け】で回避
さて……ひとまずこんなもんか
「う、うわぁぁ、なんだあの化け物は!?」
「逃げろ、つぶされるぞ!」
ゆっくりゆっくりと交差点にいつのまにか現れたちゅんちゅんさまの異様な迫力にすっかり動揺した一般人たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
幸いなことに、ちゅんちゅんさまの足はそれほど速いわけではなく、そもそも一般人を蹂躙するというわけでもなく、自分たちの周囲を囲むように停車した車を体重で押しつぶして巣作りをするように歩き回るに留めていることだろう。
彼らがその本性を発揮すれば、一般人はひとたまりもない。
そして、彼らが人に興味を示すよりも早く、対抗すべき能力を持つ者は到着した。
その名も猟兵……ではなく、
「待て待てい、怪人め。悪行もそこまでだ!」
「俺たちRGBSがいる限り、この街の平和は乱されない!」
「そうだ、車は高いんだぞ。器物破損は、場合によっては僕たちに被害請求されるんだ。絶対に許さないぞ!」
現れたのは、揃いのデザインに色だけ変更したスーツの三人組のヒーロー『RGBS』
地下鉄入り口のやや高い屋根の上に陣取り、センセーショナルなポーズをとりつつやや悲しい風味のセリフで意気込む。
が、力強く見得を切ったものの、ちゅんちゅんさまはRGBSを一瞥しただけで、特別興味を持ったわけではないようだ。
「力のレッド!」
「スピードのブルー!」
「なんか頑丈なグリーン!」
そこで、三人は更に声を張り上げ、力強い声で名乗りを上げる。
全身を覆う原色カラーのスーツに内蔵された拡張機で発した、なんだかいまいち統一感のない名乗りをうるさいと感じたか、ちゅんちゅんさまの一体がその泥のように黒い目を向けて翼を広げる。
「ちゅちゅん」
球形の体を包む羽毛から、鋭い羽根がマシンガンのように発射されると、三人の立つ地下鉄入り口の屋根が爆炎を上げる。
礫片と粉塵をまき散らして形を歪めるその場所に、しかし三人の姿はなかった。
「とうっ!」
やけにカッコいい掛け声とともに、姿を消していた力のレッドが、ちゅんちゅんさまの頭部に飛び蹴りを放っていた。
ぼうん!と、奇妙な反発音とともにはじけ飛ぶちゅんちゅんさま。そして蹴りの反動で宙返りを打って着地する力のレッドと、その周囲に駆け付けるその他二人。
「なかなか物騒な技を持っているようだが、たいしたことは……むっ!?」
油断なく構えるレッドは、しかし蹴られて尚、何事もなかったかのように立ち上がるちゅんちゅんさまに、大袈裟に驚いたようなしぐさを見せる。
「どうやら、一筋縄ではいかないみたいだな。二人とも、油断するな!」
「「おうっ!」」
そうして、三人は多勢のちゅんちゅんさまに果敢にも立ち向かっていく。
その様子をやや離れた位置から見届けていたのは、今しがた現場に到着した猟兵、月凪・ハルマ(天津甕星・f05346)だった。
「へー、戦隊モノみたいにチームを組んでるヒーローもいるんだなぁ」
ほのぼのと呟きつつも、ハルマは着々と戦闘準備を整えはじめる。
化身忍者にしてガジェッティアである彼の持ち物は、一癖もふた癖もある仕掛け道具ばかりだ。
これらを十全に使えてこその猟兵。
今まさに奮戦している彼らRGBSのように、鍛え上げた五体とスーツで戦うというのも浪漫だが、ヒーローの在り方や戦い方だって、一つではない。
今までに出会ったヒーローは、いずれも単独で戦うものばかりだったが、ああいうのもあるのだ。連携をとって戦うの言うのも、考えてみれば自然な流れかもしれない。
それに、自分だって一人で戦っているわけではない。
「そうさ、俺が助っ人になるっていうのも、いいものさ」
無駄話もそこそこに、忍ぶように口元に笑みを乗せつつ、ハルマは駆けだす。
ひとまずすぐに使わない道具は鞄にまとめて物陰に置いておいて、ちゅんちゅんさまの群れに駆け寄るハルマの手に握るのは、手の込んだ仕掛け道具ではなく、黒く塗った鉄串のような手裏剣。
相手はかわいらしい雀だが、敵は敵。
故に容赦手加減一切無し。
駆けるハルマの足音が唐突に無音に変じると、指に挟んだ手裏剣を擲つ。
「うおお、止まれぇ!」
両手を広げたなんか頑丈なグリーンが、全身を使って押しとどめたちゅんちゅんさまの、その黒い瞳に、黒い鉄串状の手裏剣が突き刺さる。
「ぎちゅっ!?」
勢いを殺された形で一瞬で意識をその灯ごと刈り取られた状態で、グリーンに投げ飛ばされる。
「なんだ、今の?」
困惑するグリーンの枠を通り過ぎる形で気配を消したハルマは、そのまま敵陣へと飛び込みつつ、背負った大型の錨状の武器「破砕錨・天墜」を振りかぶる。
「だりゃあっ」
靴がアスファルトの地を噛むのを感じた瞬間、振り回した錨に搭載したブーストエンジンが唸りを上げて推進力を得る。
そのままハンマー投げの要領で放り投げれば、それは大質量とブーストのエネルギーも手伝い、ちゅんちゅんさま数体を巻き込んで押し潰しながら吹き飛んでいった。
轟音と共に敵を薙ぎ払うその様子を認めて、ようやくRGBSはその場にやってきたのが、ただの少年でないことに気づいた。
「君はいったい……」
呆然と声を上げるレッドに構うことなく、そのわきを通り過ぎるように交錯し、今しがたレッドの背後を襲おうとしたちゅんちゅんさまの鋭い翼の一撃を、ハルマの武器が受ける。
「助太刀しますよ、RGBS!」
かしゃん、と乾いた音を立てて、攻撃を受けたガジェットが展開し、トンファーの形をとって蒸気を噴出すると、それに慌てたか、ちゅんちゅんさまが距離をとる。
「ありがとう、少年!」
その背に、レッドの暑苦しい声が降りかかる。
勇気というものに熱量があるなら、レッドの言葉は沸騰するようなそれだった。
気恥ずかしいといえばそれまでだが、ヒーローの格好をしてヒーローらしく、何の気兼ねもなく、本来ならば守る対象ともとれるような14歳の少年をして、激励の言葉を投げるという、なんともヒーローとしか言いようのない扱いの仕方に、ハルマは胸に熱いものが宿るのを感じる。
「いくぞ!」
「おおっ!」
敵の気勢、それを感じたのか、掛け声とともに二人は駆けだす。
彼らヒーローは、オブリビオンに対して猟兵ほど戦えるわけではない。
しかし技術や力ではないものが、彼らを突き動かしている。
「ぐ、やるな! だが、まだだ!」
果敢に挑むRGBSの攻撃は、しかしあまり有効打をとれているわけではない。
しかし彼らにひるむ様子はなく、いくらその身に攻撃を受けても立ち上がり、戦い続ける。
おそらくは、猟兵という世界に選ばれた存在とはいえ、若輩のハルマにも劣るとしても、その姿勢は崩れない。
それはシンプルに、彼らがヒーローだからであり、一人ではないからだ。
そうだ、一人ではない。
「……力を、貸してくれ」
ハルマのユーベルコードが顕現する。
足元から延びる影が命を得たように盛り上がり、そこに毛並みが生え揃い、ハルマの二倍にも達する狼の形をとって、その身を震わせる。
穏やかな瞳とハルマの視線が交差すると、それがお互いを高めあうかのように、獰猛な光を宿していく。
「グルルォォォ」
喉を鳴らし、吼える黒い狼と共に、再びハルマは戦場へと身を投じる。
巨大な狼がその前足と牙を存分に振るえば、敵陣を崩し、食いちぎる。
そして崩れた戦線を突き崩すように、ハルマはトンファーのガジェットで並み居るちゅんちゅんさまを薙ぎ倒す。
「さて、ひとまずこんなもんか……ん?」
やがて目に付く雀のオブリビオンを倒した辺りで周囲を見回すと、ハルマは頭上から降りてくる、決して少なくない茶色い球形を目の当たりにする。
「……来るなら来い」
脇に侍る狼の同様に、獰猛な笑みを浮かべ、ハルマは空を見上げると、両手に握るトンファーが白い蒸気を吐いた。
成功
🔵🔵🔴
アシェラ・ヘリオース
ビジネススーツ姿で現れ戦況を一瞥。
【戦闘知識】で状況を見極め、【礼儀作法】でRGBSに助力を依頼する。
落ち着いた声音は歴戦を感じさせる。
「奴らを倒せる大技がある。だがチャージの隙が大きい」
腰だめにフォースを構え【黒気収束】。
巨大な気配が膨れ上がる。
「良ければ、君達の力を貸して欲しい」
「君達の力は奴らに通じる。少し視点を変えればよい」
「レッドはカウンター狙いだ。君の拳を奴のくちばしに合せれば必殺だ」
「ブルーはガトリングの妨害。あれは打つ前に為がある。君の速度なら殴り潰せる」
「グリーンは翼だ。あれは素早く鋭いが軽い。君なら耐えて拘束出来る」
指揮を取って戦況を測り、合図しフォースを解き放つ。
「く、くそぅ……これで終わりじゃないのかよ」
ブルーが両手をだらりと下げつつ、降りてくる大量のちゅんちゅんさまの様子に、うんざりとしたように悪態をつく。
すでに最初の段階で、数的不利があったとはいえ、RGBSの攻撃は極めて有効打を与えているというわけではない。
手応えがないわけではないが、効果的に働いているように思えないのだ。
力自慢のレッドの攻撃は、丸みを帯びるほどのちゅんちゅんさまの羽毛に阻まれて芯をとらえることができない。
スピードのあるブルーの攻撃も同様で、真正面から攻撃してはくちばしの連撃でいなされてしまう。
頑丈なグリーンがいくらダメージに強いとは言っても、圧倒的物量で迫られれば成す術なく防御を崩されてしまう。
これまで彼らが体験してきた戦いとは違うものだった。
今までは、強力な怪人であっても、一体を三人で連携して倒すのが主だった。
卑怯かもしれないが、三人がかりでやっと対等に渡り合える相手だったのだ。
RGBSの歴史は浅い。まだまだ、個としての実力はそれほどでもないのである。
「くっ、だが、ここで引くわけにはいかない!」
「ああ、わかってる。わかってるよ、くそっ」
既に疲労しているレッドが、チームメンバーを奮い立たせる。当たり前の論理を口に出すほどには、既に余裕がない。
猟兵という特効薬でもないかぎり、オブリビオンと化した敵の力は脅威なのである。
その力さえあれば、と望まなくもないが、世界に選ばれるという宿命は、それはそれで大きな責任が伴うのだろう。
悔しいが、ここにある戦力で乗り切るしかない。
それがヒーローというものだ。
そうして自身を叱咤し、気合を入れなおしたレッドの視線の端に、見慣れない女性が映る。
スーツ姿の凛々しい佇まいの女性。尋常でない気配はするものの、その姿はどうみても一般人のそれである。
「そこのご婦人、ここは危険だ。すぐに逃げるんだ」
レッドはあくまでもヒーローとして、一般人を守る言動、行動をとる。
見れば、いきなりこの場に迷い込んだかのように、周囲をきょろきょろと見まわしている。
佇まいに全く隙がないため、ややもすると戦況を確認しているようにも見えなくもないが、一般人にそんなことをする必要はないはずだ。
「なに、気にするな。私は一般人ではない」
レッドの予想に反し、スーツの女性は避難誘導しようとするのを手で制し、自分の存在を示すがごとくその身にフォースの輝きを身にまとって見せる。
そう、彼女は猟兵。その名を、アシェラ・ヘリオース(ダークフォースナイト・f13819)。
「どうやら敵の増援のようだな。私も連中を排除する目的がある。良ければ君たちの力を貸してほしい」
「え、あ、はい……」
極めて冷静に戦況を読みとり、真正面から礼儀正しく援助要請をされ、その凛々しい佇まいと雰囲気にのまれたレッドは、思わず疲れも忘れて背筋を伸ばして応じてしまう。
「ありがとう。差し当たっては、奴らを一掃とまではいかぬまでも、一気に倒す大技を使いたい。だが、これにはチャージのための隙がてきてしまう」
RGBSの面々を集め、自身の技の準備をするために、アシェラは漆黒のフォースを両掌に収束し始める。
有無を言わせぬ状況の進め方に、ブルーは慌てて口を挟む。
「い、いや、力を貸せってのはいいけど、俺たちの攻撃はあんたがた猟兵ほど素直に通用するもんじゃないんだぜ」
「なら、ここで私やハルマ君に任せて、君たちは指をくわえて見ているのか?」
「そんなわけはない! やらないとは言っていないだろ!」
アシェラの言動に言葉を荒げるブルーだが、その様子にアシェラは満足げな笑みを浮かべる。
「それを聞いて安心した。大丈夫、君たちの力は奴らに通用する。少し視点を変えてみればいい。
焦る必要はない。出来る事だけをやろう。
……来るぞ!」
指揮官の貫録を感じさせる異様な説得力に満ちた言葉に、三人のヒーローは知らずのうちにオブリビオンに対する恐れが薄れていく。
そうして、力を溜めるアシェラと、ちゅんちゅんさまを迎え撃つRGBSが戦闘を開始する。
「くそ、やってやる。やってやるぞ!」
いち早く飛び出したブルーが、間近なちゅんちゅんさまに最短距離で肉薄する。
だが、それまでだ。正面からぶつかれば、いくらブルーの手数が優れていても、くちばしの連撃で対応されてしまう。
「くっ、だめか」
「速さで揺さぶれ。足を止めるな!」
「っ!?」
後ろから飛んでくる檄に、ブルーは言われた通りの行動をとってしまう。
攻め手を続けるふりで、半歩退いてフットワークを使ってサイドからの攻撃を増やす。
首を振るだけで対応していたちゅんちゅんさまは、次第に振り幅の大きくなる動きに対応が追い付かなくなる。
「ちゅちゅ」
やがて焦れたらしいちゅんちゅんさまが翼を大きく広げる。至近距離からあの羽根のマシンガンを飛ばすつもりだ。
「あれは撃つ前にタメがある。君の速さなら叩き潰せるはずだ」
「やってやろうじゃねぇか!」
的確に飛んでくる指示に、ブルーは自身を試されているようで奮い立つものを感じる。
そうして降り注ぐ羽根を一つも漏らすまいと、短く構えた拳を散弾銃のように広い範囲に繰り出して、対抗する。
「うおおおお! 撃ちきったな!」
そのまま技の撃ち終わりに合わせて襟元を掴み、足払いを仕掛けると、あっさりそれに引っかかって転んだ。
こてんと転んだところを容赦なく蹴りつけると、ちゅんちゅんさまは悲鳴を上げて転がっていった。
「すごいぞブルー! む、こちらも来たか!」
見事に敵をいなして見せたブルーを称賛するレッドのもとにも別のちゅんちゅんさまが猛然と突撃してくる。
さてどうする。あの羽毛にレッドの拳のパワーを伝えるだけの芯をとらえることができるだろうか。
「相手の攻撃に合わせろ。カウンターを狙うんだ。奴のくちばしに合わせれば必殺だ」
「っ、そうか!」
迫りくるちゅんちゅんさまの豊満な体格にこそ注目が行きがちだが、たしかに拳が有効に働きそうな部分がある。
相手の正中線をとらえることを考えていたが、頭部を狙うのは定石中の定石。なぜこれを思いつかなかったのか。
そして、相手の攻撃の最中ならば、
「来い、受け止めてやる! ちぇすとぉ!」
渾身の体当たりと、迎え撃つレッドの正拳突きが激しく衝突した。
おおよそ拳と毛玉がぶつかる音とはかけ離れた音がしたが、倒れ伏したのは、くちばしを砕かれて泡を吹くちゅんちゅんさまだった。
「すごい、きれいに決まればあそこまでの威力になるんだ……」
「油断するなグリーン! そっちにもいったぞ」
猛然と迫るちゅんちゅんさまを前に、グリーンはいつもの通り両手を盾に受けの姿勢をとる。
一体ならば受けきれる。だが、それだけだ。攻め手に欠くには違いない。
どうやって、相手を御すればいいのか。
「グリーン、翼だ。あの翼は鋭いが、それ自体は軽い。受けるのは容易いはずだ。そして羽根もまた関節だ。君なら取れる」
「取れる? ……羽交い絞めか!」
アシェラからの助言を即座に噛み砕いたグリーンは、防御の姿勢から手を反転、コマンドサンボのような受けの姿勢に変じる。
襲い来る翼の連撃を甘んじて受けつつ、その手に伝わる翼の重さと感触からその可動域を推測する。
ダメージは無視できる範囲だ。
そして連撃が止まる瞬間を見逃さず、折りたたまれる翼の根元へと手を滑り込ませる。
「ぢゅっ!?」
体を支えるほどの翼の筋力に逆らわず、逆に利用してグリーンはちゅんちゅんさまの背に飛び乗ると、それと同時に滑り込ませた腕全体で片翼を固め、さらに片足を固定するためにもう片方の翼の隙間に滑り込ませ、片手と片足を使って両翼を文字通り羽交い絞めにする。
そして、空いた手は、首を絞めるようにしてくちばしを掴んだ。
「これで、どうだぁ!」
体を支える片足の膝を頸椎に押し込みつつ、関節を締め上げるようにしてくちばしを引き上げると、グリーンは吼える。
みしみしと悲鳴を上げる関節が咆哮にかき消される。
「よぉし、チャージ完了だ! 全員、射線から離れろ」
それぞれが、ちゅんちゅんさまの侵攻を抑えつけたところで、アシェラのユーベルコード「黒気収束」のチャージが完了する。
慌てて飛びのくRGBS。そしてその直後、
「黒気収束……加減は、無しだ!」
黒いフォースの奔流が、動けなくなったちゅんちゅんさまたちを飲み込む。
それは確かにちゅんちゅんさまの一団を焼き尽くすに足るものだったが……。
「やれやれ、まだまだ、追加注文があるようだな……」
「なんの、まだまだヒーローの心は折れない!」
嘆息するアシェラを、今度はレッド達が鼓舞するのだった。
成功
🔵🔵🔴
猟兵たちの助けもあり、奮戦するヒーロー達は苦戦を強いられつつも、大量に押し寄せるちゅんちゅんさまを一体一体、排除していった。
しかし、そのペースは素早いとは言えず、度重なる戦闘によってRGBSは確実に疲労していった。
「くっ、こいつら、いったいどれだけいるんだ……?」
「レッド、このままじゃもたないぞ」
「くそっ、俺たちはまだやれる……!」
もう幾度も、自分自身を奮起させ、対応してきた。
戦いを経るごとに、今までにない充足と発見と共に前進してきたはずだった。
だが、それと同時に確実に摩耗していく。ヒーローとして堅固なはずの勇気と根性。
楽な相手ではない。これまでだって楽な戦いなどなかった。だが、それにしてもだ。
いつまでこれは続くのだろう。
倒すべき敵という目標が目前であったなら、彼らの心に陰りが生まれることなどなかったろう。
だが、どれだけ続く? いつまで戦い続ければいい? あと何度、必殺の攻撃を繰り出せる?
延々と押し寄せるちゅんちゅんさまの脅威に、鈍りかけた決意が油断を生んだか、ちゅんちゅんさまの一撃がレッドをとらえる。
「ぐわっ!?」
防御もまんぞくにままならない状態で受けた攻撃に、レッドは木の葉のようにその身を空にさらし、強化スーツの重みのままに落下する。
運悪く、出店の用意した折り畳みテーブルを粉砕しつつ地に身を横たえたレッド。
「やれやれ……騒がしい連中であるな」
弱々しく起き上がろうとするレッドに降り注ぐのは、ノイズ交じりの声だった。
移動販売のために改装されたキャンピングカーの裏手から、コックエプロンを投げ捨てつつ、煤けたポンチョが風を切って泳ぐ姿が出てくる。
「立てるか、若いの」
「す、すまない」
差し伸べられた手に金属の光沢を帯びることに違和感を覚えつつも、その手を取り立ち上がるレッド。そして、そのレッドを上から下まで観察する移動販売の店主は、カウボーイハットの頭頂を抑えて嘆息する。
「助けてもらって悪いんだが、ここはもう危ない。逃げたほうがいい」
「んなこたぁ、見ればわかる。それに、危なっかしいのはお前のほうだろうに」
貫禄のある、しかしぶっきらぼうな物言いに、レッドは思わずむっとするが、それ以上に、ポンチョとカウボーイハットの隙間から覗く、本来は生身であろう部分が機械に置き換わっていることのほうが気になった。
おそらくはサイボーグかロボット。それも、かなり年季を感じさせる。
「あんたは一体……」
「ふふ、吾輩は──」
表情のつかみにくいマスクなので大袈裟なボディランゲージを見せるレッドに対し、古風なロボットカウボーイは帽子の奥から覗くモノアイをぎらりと光らせる。
その時、雑然と押し寄せていたちゅんちゅん様が、一斉に道を開けた。
「──おやおや、年寄りヴィランがヒーローの助っ人とは、様はないね。えぇ、ピッツァ・デュベル」
本人の代わりにカウボーイの名を紡いだ年若い声。それは、道を開けるちゅんちゅんさまの奥から聞こえたものだった。
大きな杵を担いだ青いウサギを模したような姿の少年。オブリビオン特有の圧力を感じさせる絶大な雰囲気を帯びるその存在は、ゆっくりとした足取りで、ピッツァ・デュベルと呼ばれたカウボーイに歩み寄ってくる。
その姿を認めて、ピッツァ・デュベルは多少驚いたように銀色の指先でカウボーイハットの突端を押し上げるが、すぐにその目元を伏せる。
その仕草は、傍目に失望を感じさせるものにも思えた。
「貴様に言われたくはないな、アクロラビット。かつてのヒーローが、ひどい有様ではないか。吾輩の全国ピザ売り歩きを邪魔するためだとするなら、貴様のほうこそ様はない」
「フン、馬鹿らしい……。ピザだのピッツァだの、どうだっていい。未来なんて、叩き壊してしまえばいいんだよ。全部、全部、壊れてしまえ」
お互いの間合いに入ったのか、足を止める両名に、完全に部外者となってしまったレッドは、二人のただならぬ雰囲気に口を挟みあぐねていた。
そんな手持無沙汰のレッドに気付いたのかどうなのか、ピッツァ・デュベルが肩越しに覗き見てくる。
「あれの相手は、お前たちでは厳しかろう。吾輩が時間を稼いでやる。その間に、雀どもを退治せい」
短くぶっきらぼうに言い放ち、ポンチョの裾を開く。露になった右腕を持ち上げると、そのシルバーの腕を真っ二つに展開させながら前進する。
「アンビリーバブルカッター!」
ノイズ交じりの声と共に腕に生えたのは、ピザカッターのような回転ノコギリであった。
「馬鹿の一つ覚えだね。薄汚いヴィランが、ボクに勝てると思うのか?」
「ヴィランがヒーローに勝てぬ道理はない。怖いなら、逃げるがいい。昔のよしみで見逃してやるぞ」
唸りを上げる回転ノコギリと、漆黒の杵が衝突する。
そのすさまじい有様を、レッド達RGBSは呆然と見守るしかなかった。
エーカ・ライスフェルト
オブリビオンに味方するヴィランもいるかもしれないけど、基本的には敵対すると思うわ
倫理とかそういうの関係無く、生きているものにとってオブリビオンは邪魔だから
「肥満雀の相手は私達に任せて頂戴。別のオブリビオンに乱入されると勝ち目が薄くなるから、便りにしてるわよヒーローさんともう1人!
宇宙バイクに【騎乗】し最も非戦闘員の近くにいるちゅんちゅんさまへ向かう
その後、【エレクトロレギオン】で呼び出した【機械兵器】を非戦闘員を庇う位置に配置し死守を命じるわ
【機械兵器】の隊列を跳び越えてくる肥満雀に対し、【属性攻撃】で作った単発炎の矢をぶつけてダメージの蓄積を狙う
「前衛の助けが欲しいわね
「非戦闘員は逃げなさい
「レッド、僕たちも戦おう! 敵の司令官みたいなやつは、あのヴィランが対応してくれている」
アクロラビットとピッツァ・デュベルがぶつかり合う最中、いち早く事態に対応したグリーンが進言する。
呆然としていた面々も、それを是としてレッドにも新たに闘志が宿る。
彼らには言い得ない因縁があるらしい。
ひとまず、あの二人は二人同士にして、今はちゅんちゅんさまの討伐を急がなくてはならない。
とはいえ、
「やっぱり、数が多い……!」
いい加減、その相手も慣れてきたとはいえ、数の不利は覆すことができない。
そして、かの者の戦力は個として対応するにしても、RGBSの手に余ることに違いはなかった。
今まではかろうじて、その勢力が大通りの外に漏れることを防ぐことができていた。
そこより先に行かせてしまっては、住民に被害が及んでしまう可能性が高くなってしまうからだ。
だが、アクロラビットとピッツァ・デュベルの登場に感けていた分だけ、対応が遅れてしまった。
存外に素早いちゅんちゅんさまが、RGBSの速力の及ぶ先にまで移動し始めていた。
「くっ、間に合わないか!?」
悲鳴のような声を上げたブルーが次に見たのは、大通りを抜けようとしたちゅんちゅんさまに降り注ぐようにやってきた一筋の閃光が、ちゅんちゅんさまを押し潰す様だった。
よく見ればそれは閃光ではなく、宙を駆けるバイクだった。
「ごめんなさいね。こっちは通行止めなのよ」
バイクにまたがったまま、大通りの中央に陣取ってちゅんちゅんさまを見据えるのは、エーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)。
冷静に言い放つ彼女は、迫りくるちゅんちゅんさまの一団に臆することもなく、高速走行で乱れた長い髪をかき上げつつ、ユーベルコードを発動させる。
大通りに雷光が迸る。ユーベルコード『エレクトロレギオン』によって呼び出されたのは華奢な体躯の機動兵器だった。
いかにも頼りなげな装いの機動兵器だが、大通りを横一列に整列し、砲口を構えるその様は総観と言うほかない。
「一騎たりとも、通してはダメ……!」
冷静だが、強い視線をちゅんちゅんさまの一団に向けつつ、振り上げた手を薙ぐように振り下ろして、攻撃指令を出す。
前進しつつ、砲火を浴びせる機動兵器たちは、その作りこそ脆弱だが、中距離を担う光線銃とプラズマトーチによる近接戦は、数の優位を逆転させうる現状において脅威となる。
ちゅんちゅんさまの飛ばす羽根により、機動兵器が倒れる。だが次の瞬間には倒れた以上の機体がちゅんちゅんさまに群がる。
数体が振りほどかれた拍子に四肢をもがれるも、その他の数体が武器をふるって押し込める。
攻撃能力はそこそこ高いものの、一撃もらえばすぐに消滅してしまう機動兵器による戦列は、早々に泥沼化していく。
だが、それだけちゅんちゅんさまの侵攻を遅滞させるに十分な効力を発揮していた。
「すごい、こういう戦いもあるのか……」
その様相を目の当たりにしたグリーンが感嘆の声を上げる。
「こちら側の肥満雀の相手は私達に任せて頂戴。別のオブリビオンに乱入されると勝ち目が薄くなるから、便りにしてるわよヒーローさんと、それともう1人!」
戦況をバイクで巡りながら見て回るエーカが、ヒーローに檄を飛ばす。
いや、それだけではない。
バイクに乗りながら、エーカの視線はちゅんちゅんさまの戦いだけでなく、さらにその向こうで、アクロラビットを相手取っているピッツァ・デュベルにも向けられている。
オブリビオンに味方するヴィラン、あるいはそういう者も居るかもしれない。
しかし、あのピッツァ・デュベルというヴィランは違うらしい。おそらくは、今を生きるものにとってオブリビオンは、すべての敵となる。
勝手気ままなヴィランにとっても、それは同様のことだろう。
まして、今や互い違いになってしまったとはいえ、敵対していた同士には違いない。
そして今というときには、悪役の謗りを受けていた筈のヴィランが、ヒーローのために時間を稼いでいる。
エールを送らずにはいられないのだ。
「っ、やはり、そうきたわね」
戦況の変化を見たエーカは、いち早く反応し、バイクを走らせる。
機動兵器たちの猛攻を嫌ったちゅんちゅんさまは、その丸い身体から翼を広げて飛び上がって空中に逃げようとしていた。
「そうはいかないわ!」
騎乗したまま、ウィザードロッドを突き付け、炎の矢を放つ。
羽ばたいて飛び上がったちゅんちゅんさまを余すことなく撃ち抜いた炎の矢。撃墜されたちゅんちゅんさまに、さらに機動兵器が群がる。
完璧な掃討戦にも見えるが、先を見据えるエーカには、早くも戦闘が長引くことへの懸念が浮かんでいた。
エレクトロレギオンで呼び出せる機動兵器は、やはり脆すぎるのが問題である。
このまま戦闘が長引いてしまえば、どうしてもこちら側が打ち負けてしまう。
「前衛の援護が欲しいところね……」
あるいは、こちらから打って出るか。
刻々と変化しつつある戦況のなか、エーカは炎の矢を撃ち続けていた。
大成功
🔵🔵🔵
胡蝶花・空木
●心情
さて、ヒーロー・ウィンターサイレンスとしてはこの街は管轄外だけど、今は猟兵も兼業してるしね
援軍として参加させてもらいましょうか
なんかこのスズメ、周りの地形を破壊できるみたいだし、このまま街を荒らされるわけにはいかないわね
●戦闘
ユーベルコードで自己強化して空中戦を挑むわ
空中にいる敵は片っ端から蹴り落として、猟兵たちと連携するわよ
地上でも格闘戦で敵の攻撃を躱しつつ反撃
可能な限り数を減らすわ
「くっ、奴ら、地上戦を拒否し始めた!」
ちゅんちゅんさまとの戦いも長引くに連れ、その攻め方も徐々に変化をきたしてきた。
それにいち早く気付いたのは、最も前線に立ち続けたレッドであった。
肉弾戦主体とするRGBSが、彼らの想定以上に奮戦しているというのもあるが、救援に駆け付けた猟兵たちは、いずれも格闘戦においても比類なき力を持つ者ばかり。
それゆえに、肉弾戦で後れを取り始めたちゅんちゅんさまが、自慢の翼をぱたぱたとはばたかせて、跳躍しながら移動するようになったのは、無理からぬことだろう。
「うおっ、こいつら、体格を利用してくるのか!?」
高い跳躍から体重を乗せたボディプレスにより、アスファルトや停車している車を次々と押し潰しにかかるちゅんちゅんさまに、一手では対抗できないRGBSは手を出すことができない。
そして、格闘戦を得意とする一部の猟兵も、これには攻め手を欠くようになった。
「くそう、上方を制する有利ってやつか……。いっそのこと、空中戦を挑んでみるか?」
ブルーのつぶやきに、レッドの脳裏にはある人物の影がよぎる。
最近、頭角を現してきたヒーローの一人、しかし猟兵として選ばれてからはその実力は他の追随を許さないレベルにまでなったと聞く。
そう、彼女の名が頭をよぎる。だが、悲しいかな、ここは彼女の活動する場所ではない。
だが、なぜ不意に彼女の姿を思い浮かべたのだろうか。
その時、レッドの強化スーツ越しに心地よいほどの冷たい風を感じる。
おぉん、おぉん……。
風が鳴るような音。あるいはそれは、遠吠えと呼ばれる類のもの。
それはまさに、レッドの思い浮かべた『彼女』の特徴と一致する。
「おおおおっ!!」
遥か上方から、青白い人影が裂帛の気合と共に降り注ぐ。その蹴り足の先に跳躍するちゅんちゅんさまを捉えたまま。
ちゅんちゅんさまのストンピングを凌駕する垂直降下の着弾地点に白い霧が渦を巻く。
冷気をまとう粉塵が晴れると、氷雪を思わせる銀色の頭髪が風に泳ぎ、頭頂を割るように伸びた獣の耳が揺れる。
「ああ、あの姿、まさか!?」
レッドが驚愕の声を上げる。
白い靄がかった冷気を煩わし気に腕の一薙ぎで払うその立ち姿は、身体のラインを露にするスーツに覆われており、それが間違いなく細身の女性であることを知らしめるに足るが、それ以上にその圧倒的存在感は、生半可なヒーローのそれではなかった。
「ウィンターサイレンス! どうしてあなたが!?」
その名を叫ぶレッドの声色には、困惑するものがあった。
なにしろ、彼が脳裏に浮かべたその姿そのものだったのだ。
北風と共にやってくる、寡黙なヒーロー。
マスクでその正体を隠しているとはいえ、その美しい佇まいだけですらも、連日メディアでも取り上げられるという噂である。
今や広く名が売れてしまったらしく、メディアの取材には嫌な顔をして見せることもあるらしいが、そんなストイックな面も含めて、RGBSもまたヒーローの仲間として、また男としても憧れる存在の一人だった。
その正体は胡蝶花・空木(ウィンターサイレンス・f16597)という猟兵なのだが、今この場としては、ウィンターサイレンスの名を使うほうが適切であろう。
「猟兵だから、来ただけよ。それに……街を破壊する敵を倒すのは、ヒーローとして、当然のこと」
声をかけられて、ウィンターサイレンスは静かに、そして短く答える。
誰にも媚びぬ、孤高の狼のような佇まいには、RGBSも痺れるものを感じるが、本人としては普通の学生もやっている関係上、迂闊な発言で根掘り葉掘り聞かれるのも面倒だから、必然的に口数が減るだけなのだが……。
もう少し丁寧に接するべきか。一瞬の逡巡もあったが、今は敵を排除するほうが先であろう。
空を仰ぎ見れば、跳躍するちゅんちゅんさまがまだかなりの数、やってくるらしい。
空中戦。是非もない。
「空を飛ぶ敵は、私が叩き落す。とどめをお願いするわ」
強い意志を感じさせる言葉と、空を見据える眼差し。RGBSには一瞥もくれない、かなり冷たい態度に取れなくもないが、それほど真剣であること。
何よりも、戦力に数えられ、連携を望まれていることに、RGBSの面々は寒風の中に熱いものを感じていた。
「勿論だ。こちらこそ、あいつらを頼む。ウィンターサイレンス!」
その応答を待っていたかのように、ウィンターサイレンスはヒーローパワー、ユーベルコードを発動する。
周囲を凍てつかせるような風が彼女の周りにまとわり始める。風はやがて銀色の光沢を帯び始め、獣の面影を思わせるウィンターサイレンスの意志に呼応するかの如く脈動し始める。
そしてそれが十分に溜まったと判断したその時、ウィンターサイレンスは助走と共に地を蹴る。
「行くわよ……!私の背に力無き人々がいる限り、この輝きは決して消えないわ!」
白銀をまとう少女の影が空中で加速する。
獣が空を踏み台に獲物を狩らんとするかのように、ウィンターサイレンスはまさに銀色の風と化して、跳躍するちゅんちゅんさまに上から襲い掛かった。
空中で不自然に、そこにまるで壁や足場があるかのように反動をつけて浴びせ蹴りを見舞うと、翼を凍らされたちゅんちゅんさまがアスファルトに叩きつけられ、
加速するままに勢いをつけてドロップキックを食らわせれば、ちゅんちゅんさまはその球体のような体をひしゃげさせて撃墜され、
本当はちょっと気にしている全体重を加速のまま両膝に乗せて重爆を見舞えば、ちゅんちゅんさまは逃れることもままならず、ウィンターサイレンスを乗せたままアスファルトとの間に挟まれる形でつぶれてしまう。
そして、撃墜されたちゅんちゅんさまは、それらが大勢を整える前にRGBSの追撃を受ける。
だが、それに躍起になるあまり、着地したウィンターサイレンスがいつのまにか囲まれていることに気づくのが遅れてしまう。
「しまった、ウィンターサイレンス!」
悲鳴のような声を上げるレッドだが、それに応じる代わり、ウィンターサイレンスは人差し指を上げることで制する。
そして、一斉に襲い掛かるちゅんちゅんさまに対し、低く踏み込むと攻撃をいなして掌で触れるだけで、その動きを封じてしまう。
彼女に触れられたちゅんちゅんさまは、いずれも触れた個所から凍り付き始め、ひび割れてはじける。
「銀色の風を帯びている限り、不用意に格闘を挑まないことね」
凍り付いてはじけて消えるちゅんちゅんさまの中心で、力強く言い放つ。
だが、感傷に浸る暇もなく、だいぶ数は減ったとはいえ、ちゅんちゅんさまは更に猟兵たちに襲い掛かってくる。
こいつらが残っている限り、街は破壊され続ける。それは、許されることではない。
一体でも多く、倒す。
赤い瞳が力強くきらめき、その意志を強固にするかのように銀色の冷気が熱い胸に渦巻いていた。
大成功
🔵🔵🔵
月凪・ハルマ
うーん……皆のお陰で、大分数は減った筈だけど
どうやら殲滅しきるには、もう一手必要か
RGBSの御三方、まだイケます?
あ、大丈夫そうですね。流石ヒーロー
それじゃお互い、もうひと頑張りという事で
◆SPD
余計な時間を掛けると、それだけ周囲の被害が増える
此処は一気に決めるとしよう
飛んでいれば有利だなんて思うなよ?
【早業】【投擲】【暗殺】【範囲攻撃】を乗せた手裏剣、
更に【錬成カミヤドリ】で複製した計33個の宝珠を操り、
残ったちゅんちゅんさまを一気に撃ち落とす
倒しけれなければ【2回攻撃】で再度同様の攻撃を
羽根ガトリングは魔導蒸気式旋棍の【武器受け】で防御
近づいてきた敵はRGBSと連携しながら手持ち武器で対処
リューイン・ランサード
壊したものは保険がきかない限り自己負担・・・
何て恐ろしい制約なんだろう<汗>
RGBSさんが可愛そうなので、せめて助太刀します
自身の翼で空を飛んで【空中戦】
UC:スターランサーで150本以上の光線を放ち、多数の『ちゅんちゅんさま』の羽を撃ち抜いて飛行能力を奪う
スターランサーには技能の【光の属性攻撃、全力魔法、範囲攻撃、高速詠唱】も併せて威力を増す
人への被害は元より、建物や電線を壊して請求されないよう、射程距離は短めに設定
地に落ちた『ちゅんちゅんさま』は上空からスターランサーでトドメ刺します
敵攻撃に対しては、【空中戦、第六感で敵攻撃予測、敵攻撃の見切り】の回避と【オーラ防御、盾受け】で防御
戦いはいよいよ佳境。おびただしい数に思えたちゅんちゅんさまも、今や数えるに苦労しない程度にはその数を減らすことができた。
とはいえ、とはいえ、だ。
「チッ、参ったぜ」
もはや疲労困憊。ブルーが膝をつきこそしないものの、普段の悪態も隠さないほどの有様で肩を落とす。
対多数を経験していないわけではない。だが、それは相手も頭数を用意するのが前提の、個としては強くない部類のものだったから三人でもなんとかなっただけの話であった。
頑張ってようやく後れを取らないまでも、かなり苦戦を強いられる戦いを延々続けるというのは、RGBSにとって未知の領域であった。
強化スーツを着込むことにより、彼らの能力は飛躍的に上昇していて、その耐久性にはまだ余裕があるが、それを着込むのはあくまでもただの鍛えた人間に過ぎない。
その様子を、月凪ハルマも気付かないでもなかった。
彼らの奮戦は、間違いなくちゅんちゅんさま討伐の助けになっているし、オブリビオン討伐に駆り出された猟兵たちもまた、その圧倒的戦闘力で効力を発揮している。
ハルマ自身も、まだまだ余力を残しているつもりである。
あと一手、もうひと踏ん張りだ。
「RGBSの御三方、まだイケます?」
「チッ、ガキが、大人の心配なんかしてんじゃねぇ。まだまだ余裕だぜ」
「ブルー……そうだな、民間人に格好悪いところは見せられないな」
「僕は若干帰りたくなってきたよ」
悪態や叱咤、愚痴を漏らしつつも、ハルマの心配に対し、RGBSはかなりの疲労を滲ませながらもまだ前を向く姿勢を見せる。
猟兵のような比類なき力を持たないながらも、困難に立ち向かう姿にハルマは杞憂だったと心中で自嘲する。
「大丈夫そうですね。流石はヒーロー。それじゃあ、お互いもうひと頑張りってことで」
きっと、RGBSが戦力として限界を迎えつつあるのは、本人たちも理解している。
だから、本当の敗北が訪れるよりも前に、この場の埒を開ける。
強い決意のもと、ハルマは加速する。
「はぁっ!」
トンファー状のガジェットを展開し、盾のようにしてちゅんちゅんさまの羽根ガトリングを受けつつ突撃。
無理矢理に掻い潜った末の肉薄に成功すると同時に渾身の突きを繰り出すと、身体を撓ませたちゅんちゅんさまがたたらを踏む。
「ちゅ、ちゅ……」
地上戦は不利と思ったか、ちゅんちゅんさまは格闘戦は避けて他の個体と同様に翼をはためかせる。
巻き起こる粉塵に思わずトンファーを構えるが、ハルマの顔に焦りはない。
「飛んでれば有利だなんて思うなよ」
切り込んだためか、他の個体にも囲まれる形となってしまっていたが、かえって狙う手間が省ける。
その手にはいつの間にか初手にも用いた黒塗りの手裏剣が握られていた。
「いけっ!」
一息に擲った手裏剣は、余さず空中に浮くちゅんちゅんさまを撃ち落とす。
「トドメは任せろ」
すかさず、撃墜されたちゅんちゅんさまにRGBSが群がり、もはやなりふり構わない様相でとどめを刺しにかかる。
ところが、
「くそ、こいつ、まだ動くのか」
瀕死の状態のちゅんちゅんさまが暴れる。予測不能のその動きにRGBSは思わぬ苦戦を強いられてしまう。
ハルマはそちらに気が向かないでもないが、感けていては自分の相手にしている複数体に対して隙を見せてしまうことになる。
勝ちを急いで踏み込みすぎたか。
一瞬の逡巡。だが、次の瞬間、ハルマの背後から光が迸り、ちゅんちゅんさまの断末魔が響いた。
「うーん、ひどい有様だ……しかもこれ、被害届を出されたり保険適用外ならヒーローの負担になるっていうんだから、恐ろしいなぁ」
力強く風を掻く翼の羽ばたきが、空から降ってくる。
新たな猟兵の増援、リューイン・ランサード(今はまだ何者でもない・f13950)のその右腕が、光の残滓を残しながら今しがた排除したオブリビオンの手前に着地する。
「というわけで、RGBSの皆さんがあんまりにもあんまりなので、助太刀しますよ」
内心では大量のオブリビオンを前にすくみ上る気持ちがあるのだが、もう戦いも有利に運んでいるようだし、何より猟兵ですらないヒーローが戦いの場に居続けるという状況で、率先して戦わずしては名門の名折れである。
本来は気弱なリューインだが、決して吐露しない心中の卑下する部分に理由さえつけてしまえば、戦えないわけではない。
ヒーローのような勇猛な心には常に憧れる。だけど、痛いのも怖いのも勘弁願いたい。
だから慎重に考え、勝てる戦いをするために策を巡らす。
「月凪さん! 来たばかりの自分が言うのも差し出がましいですけど、ここは一気に決めるべきじゃないかと思います」
「何か手があるんだな、魔術師?」
「はい。今さっきのやつを、たくさん撃ちます」
最も近くにいるハルマに声をかけつつ、リューインは自身の周囲に複数の霊符を展開する。
その様子に、すぐさま何をするか思い至ったハルマは、
「了解、合わせるぞ!」
リューインの広範囲魔法の発動に合わせて、ハルマもまたユーベルコードを発動させる。
ユーベルコード『錬成カミヤドリ』自身の本体である宝珠を分身させる奥義である。
集中力を高めるために忍者らしく手で印を組むハルマの周囲に33個の宝珠が浮かび上がる。
無念に散った主人の手にしていた武器の一部。そうだ、俺は戦える。戦う。戦え。
もう二度と、あんな光景を目にしないために。
俺と同じ姿をしているなら、戦えるはずだ。
浮かび上がった宝珠が弾かれた様に飛んでいく。
それと同時にハルマは飛び上がり、両手いっぱいに手にした手裏剣を同時に擲つ。
「こいつも持っていけ!」
そしてハルマの攻撃に合わせる形で、リューインもまたユーベルコードによる魔術の錬成を終えていた。
「天空の光よ、我が元に来りて敵を貫く槍と成れ!」
ユーベルコード『スターランサー』光の粒子が槍穂となり、収束する光の軌跡となり、霊符を燃やし尽くす勢いで射出される。
十重二十重と繰り出される連携攻撃により、空中戦を繰り広げようとしたちゅんちゅんさまは一体残らず叩き落されてしまう。
「やったか!?」
「それはやってないフラグでは……?」
着地すると同時に周囲を見回すハルマに、思わず突っ込みを入れてしまうリューインだが、同じように周囲を見回したところ、
「いや、これで最後だ……!」
RGBSのレッドの拳が、ちゅんちゅんさまのくちばしを捉え、レッドがこぶしを突き上げた姿勢を残したままちゅんちゅんさまだけが倒れる形で、ようやくすべてのオブリビオンがこの場から消滅する。
いや……オブリビオンならば、一体だけ残っていた。
「チッ、どうやらちゅんちゅんさまは全部やられちゃったみたいだな」
最後の決着を機に、離れた位置で戦っていたアクロラビットは、黒い杵を担ぎなおし、撤退の準備を始める。
「逃げるか。昔から、逃げ足は速かったな」
「フン、そんな様で、まだ軽口が叩けるなんてね。ちょっと見誤っていたかな」
もはや戦う余力を持たないピッツァ・デュベルは、アクロラビットを追うこともままならず、諦めたように胡坐をかいていた。
それも手伝ってか、アクロラビットはもはやこの場に興を注ぐほどの価値を見失っているようだった。
「まあいいか。兵隊ならまた集めればいい。お前らが昔からやっていたことさ。
せいぜい、少しだけ伸びた破滅までの平穏を、ゆっくり噛み締めることだね」
そうして戦闘領域から離脱する間際、
「──次は、腕一本じゃ済まないから、そのつもりでいなよ」
それだけ言い残すと、アクロラビットは今度こそ飛び去った。
その場に、引き千切ったピッツァ・デュベルの片腕を放り投げつつ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第2章 日常
『ピザの大食いパーティー』
|
POW : とにかくピザを食べる
SPD : 早食いで勝負
WIZ : 太らないように食べる
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
大通りのちゅんちゅんさま大量発生事件の翌日、傷跡の残る大通りの一角には、ピッツァ・デュベルの移動販売の改造キャンピングカーが停まっていた。
「うーむ、おぬしら、本当にお人好しだのー。吾輩は一応、悪役だったんだぞ」
店主であるピッツァ・デュベルは相変わらずのつば広のカウボーイハットにポンチョという格好だが、先日アクロラビットに引き千切られた腕はまだ完全に繋がっておらず、痛々しく首に巻いた布で吊る形になっている。
「だが、あんたが居なければ、俺たちはあのウサギの怪人に手も足も出ないままだった。
あんた悪ぶってるみたいだが、街の平和に貢献してるんだぞ」
ピッツァ・デュベルと同じく店頭に立つのは、揃いの強化スーツにエプロンを付けた奇妙な井出達のRGBSの面々だった。
自己修復機能のあるロボットとはいえ、人に準拠した形である以上、片腕の使えない今のピッツァ・デュベルには、ピザを作るのが難しい。
そこで、傷ついた大通りに駆り出された一般人の慰労のためと、片腕が不自由になったピッツァ・デュベルを助けるため、RGBSが手伝いを買って出、住民を元気づけるために『ピザ大食いパーティ』を企画したのである。
「ふん、馬鹿を言え。吾輩は、自分の店を妨害されるのが嫌だっただけよ。
それよりもおぬしら、ピザなんぞ焼けるのか? うちは厳しいぞ」
「はっ、嘗めるなよ。ピザ屋でバイトなんざ、何度もやってきたぜ。弱小ヒーローの懐事情を甘く見るなよオッサン」
「店長と呼ばんか、青いの」
早速、憎まれ口を叩きあっているが、ピッツァ・デュベルとRGBSには不思議な信頼関係が生まれていた。
さて、一度退いたとはいえ、アクロラビットは間を置かずに再びやってくることだろう。
しかし、それまでのわずかな平穏を全力で楽しむのもいいかもしれない。
猟兵諸君は、ここで英気を養うもよし。大人げなく大食い勝負を持ち掛けてもいい。
君たち猟兵が楽しむほど、住民やRGBS達を励ましたり、やがて来る決戦に対する決意に繋がるかもしれない。
難しいことは考えず、ピッツァ・デュベルが長旅で研鑽を積んだメニューの数々に舌鼓を打つのもいい。
ちなみに、そのメニューは、スタンダードなマルゲリータはもとより、変わったところでは人参を生地に練りこみパプリカやトマトなどをトッピングした見た目ほど辛くない『地獄のレッドピザ』や、イカスミを練りこんだ生地に海鮮をトッピングした『混沌のブラックピザ』などといったものも存在する。
もっと変わったメニューが欲しければ、注文してみれば案外出てくるかもしれない。
月凪・ハルマ
……苦労してるんだな
(ブルーとデュベルのやり取りを耳にしてホロリ)
まぁ、それはそれとして。
折角だし俺も何か注文しようかな
それじゃ一目見た時から気になってたんで、
この『混沌のブラックピザ』っていうのを一つ
ピザの熱さには少々苦戦しつつも、その味はしっかり堪能
大変美味しゅうございました(合掌)
ところでピッツァ・デュベル……は、なんか言い難いから
ひとまずここでは店長と呼ぼう
良ければその壊れた腕、見せてもらえません?
俺こう見えてメカニックなんで、ひとまずの
応急修理くらいはできると思いますよ
いやだって、そのままじゃ色々不便でしょ?
ピザも焼けないし、またアクロラビットが襲ってきても
対処しきれないだろうし
ピザ大食いパーティーは、早くも盛況の様相を呈していた。
元から謎のカウボーイがたまに出店しているという口コミで話題ではあったのだが、今回は地元でそこそこ人気のRGBS、更には先日のちゅんちゅんさま襲撃事件で奮闘したのも手伝い、街を愛する者たちにとってそこは今現在最もホットなスポットとなっていた。
「こんちはー」
心地よい活気に軽くなった足取りでパーティー会場に足を踏み入れたのは、先日の戦いにも参加した猟兵、月凪ハルマ。
「おお、ハルマくん! 来てくれたんだな!」
真っ先に気づいたのは、RGBSのレッドである。
表裏のないレッドの人隣りは、リーダーにふさわしく直情的だが人懐こく情が深い。
ただ、マスク越しでも伝わるほどの感情の豊かさが、時として暑苦しい。
あと、戦場で常に大声を出してるせいか、基本的に声がでかい。暑苦しい。
長時間一緒にいると胸やけを起こしそうなタイプだが、ハルマはこのステレオタイプの熱血ヒーローが割と嫌いではなかった。
「先日は世話になったな。君は、怪我とかしていないか?」
「はい、おかげ様でピンピンしてますよ。レッドさんこそ、昨日の今日で大変じゃないですか?」
「はは、ヒーローを気遣うとは、流石は猟兵、余裕だな! 心配ご無用。俺たちヒーローは、みんなの笑顔さえあればいくらでも戦える!」
強化スーツにエプロンというしまらない格好のまま、力こぶを作って快活に笑って見せるレッドの様子に、ハルマは眩しいものを見る気持ちになってしまう。
上滑りするような陳腐な言葉ともとれるが、そんな事をおそらくは本気で言ってのけるのがヒーローのヒーローたる所以なのかもしれない。
「せっかく来たんだ、何か食っていかないか?
ピッツァ・デュベル、おっと今は店長だな。店長考案のピザは、ちょっとしたものだぞ。
今回は街からお金が出たので、災害復興と広告代代わりにピザとドリンクは全品無料だ!」
「へぇ、それはずいぶん太っ腹ですね。うーん、
それじゃ一目見た時から気になってたんで、この『混沌のブラックピザ』っていうのを一つ」
実はここに来るまでに、メニューのチラシを偶然目にしていて、会場に来る前から気になる品があったのだ。
商品写真に並ぶ中で、異彩を放っていた漆黒のピザ。そのビジュアルもさることながら、混沌のとはいったいどういうものなのか……聞くよりも食してみるのが手っ取り早い。
「おお、それを選ぶとは勇気があるな。かしこまりました。少々待っていてくれ!」
リアクションと店員対応、そして馴れ馴れしさを残したまま、レッドは厨房代わりのキャンピングカーへと引っ込んでいく。
客商売としては色々とおかしなところがあるが、それが気にならないほどの勢いがある。
そういう変なノリも、リーダーシップをとるのに一役かっているのだろうか。
それにしても、『混沌のブラックピザ』はどういうものなのだろう。
生地から具材にかかるソースまで真っ黒なようだが、トッピングが海鮮なのを考えればイカスミを使用しているのは予想ができる。
では、混沌というのは何を意味しているのだろうか。
「混沌……といえば、這い寄る……まさかな」
かの混沌の生き物のデザインは、深海生物をモデルにしているらしいが、まさかそういうネタとかじゃないよな。
などと益体もないことを考えていると、ピザ皿を持ったレッドがやってきた。
「おまたせした。最高の出来だ!」
「ありがとうございます。黒いですね」
「ああ、毒々しいな! それじゃ、ごゆっくり!」
まったく歯に衣着せない事を言い残して、レッドは別の客のオーダーを取りに行く。
さて、食べる前に観察してみると、確かに生地からすでに黒い。
具材は見える範囲だと、イカとエビ、玉ねぎと舞茸のようなキノコが入っているようだ。
チーズだけが乳白色で、格子状にかかった黒いソースはマヨネーズがベースだろうか。
確かに真っ黒なのだが、湯気が上がるほどの焼き立てのピザから立ち上る焼いた海鮮特有の香ばしい匂いが異様に食欲をそそる。
「とにかく食べてみよう。いただきまーす!」
百聞は一見に如かず。切れ目の入ったピザの一片を引っ張り上げて、重みの感じる熱の塊へと思い切ってかぶりつく。
「あっつ! あっつい!」
その熱さに思わずむせそうになるが、はふーはふーと熱い呼気を漏らしつつ咀嚼していくと、その味が鮮烈に味覚を刺激していく。
真っ黒な生地は少し不安だったが、底面はサクッと、中はモチっとした柔らかなピザ生地で、違和感はない。
味付けされた具材はイカスミパスタをモデルににしたのか、ニンニクと唐辛子の風味があるが、尖った塩味にチーズとマヨネーズベースのソースが優しくまとめている。
そして何より、旨味が強い。
見た目のインパクトにばかり注目してしまうが、食べてみるとその味わいの完成度に驚いてしまう。
有名な話だが、イカスミにはアミノ酸を含む旨味成分が豊富に含まれている。それはイカ本体も言わずもがなである。
つまりは、生地自体にうまみ成分が練りこまれているという時点で既に味わいが深いのである。
更に、具材に使用されたイカとエビ、舞茸という、それぞれが異なる旨味を持ちつつ食感も異なるため、食べ飽きず味わいも多層的に感じるというわけだ。
そんな理屈は、まあ長くなってしまうのでこれ以上は割愛するが、とにかくいろいろな味わいを奇跡的なバランスで組み合わされた『混沌のブラックピザ』を、ハルマは熱いのも構わず夢中になって食べていく。
そうして、
「ふー……大変美味しゅうございました」
確かな熱量を帯びた息をつき、ハルマは満足げに両手を合わせる。
一枚丸々はさすがに食べ過ぎかと思ったが、気が付けば食べ終えてしまっていた。
このお祭りの雰囲気のせいだろうか。
まあいいか。
細かいことは気にしないことにして、紙ナプキンで手を拭きつつ食後のオレンジジュースをのんびりと楽しんでいると、ふとキャンピングカーのほうから会話が聞こえてくる。
「ふーむ、流石に経験があるだけある。スジがいいぞ、青いの」
「だろ? 伊達に正社員になりかけてないぜ」
「そんなに儲からんのか?」
「ヒーローメインで稼いでるやつもいるけどな。ほとんどが普通に仕事持ってるか、副業で稼いでるぜ。だいたい、人助けで金儲けしてるって方が怪しいぜ」
「世知辛いな」
ヴィランとヒーローという奇妙な取り合わせながら、不思議と波長が合ってしまうのか、ブルーとピッツァ・デュベルは、ピザを焼きながら実に辛気臭い話をしている。
「……苦労してるんだな」
人々を助けるために体を擲って戦う姿と共に戦線を駆けたハルマとしては、ブルーの身の上に涙せずにはいられなかった。
方や、昔は名の通った悪役だったが、ピザ屋をやりながら全国を旅する男。
方や、悪と戦いながら、日々の生活とも戦わなくてはならない弱小ヒーロー。
華々しい表の顔ばかりに目が行きがちだが、その裏には一目には想像もつかない気苦労があるのだろう。
ハルマには想像するしかない内容ではあるが、それはそれとして、オレンジジュースを啜りながら何とはなしに目に映るのは、せかせかと厨房代わりの車内を動き回るバイト戦士ブルーと、彼に指示を出す悪役店長。
具体的には店長こと、ロボットヴィランのまだ完全に繋がっていない片腕である。
「あのー、ピッ、店長。ちょっといいですかね?」
「うん? なんだ猟兵の小僧。おかわりか?」
「いや、それは後でいいです。その腕、ちょっと見せてもらえません?」
気が付けば、ハルマはピッツァ・デュベルに声をかけていた。
その手には、鞄からいくつか取り出したガジェット整備の道具が握られていた。
「俺こう見えてメカニックなんで、ひとまずの応急修理くらいはできると思いますよ」
「むう、気持ちは有難いが、そのうちくっつくぞ。ヴィラン相手に余計な心配ではないか?」
「いや、だって、そのままじゃ現状、不便でしょ。ピザだって焼けないし、それに、またアクロラビットがやってきたとき、対処できないのでは?」
「むむぅ……」
「オッサン、諦めろよ。ヒーローってのは、お人好しなもんなんだぜ」
渋る店長を見かねたのか、ピザを作る手を止めぬままブルーが口を挟んできた。
ハルマはヒーローという感覚はないのだが、少なくともRGBSにとって、共に戦ってきた猟兵であるハルマは既に志を同じくする戦友に等しい存在だった。
「ふん、馬鹿者どもめ。とはいえ、このまま若造にばかり焼かせるわけにはいかんしな。厚意に甘えるとしよう」
そういうと、ピッツァ・デュベルは不貞腐れたように、ハルマの近くの席に腰かけた。
素直ではないその言動に苦笑しつつ、ハルマは道具を広げて、壊れた腕の修理を開始するのだった。
大成功
🔵🔵🔵
アシェラ・ヘリオース
「折角だ。馳走に預かるとしよう」
凪の時間だ。ここは大いに身を休めるべきだ。
兵の緊張を解すのも指揮官の務めである。まぁ、今は一猟兵なのだが。
「ほう、美味いな」
それに堅苦しい事を言わなくても、デュベル氏のピザは美味い。
ジンジャーエールを片手に様々なピザを楽しむのも悪くない時間だった。
ピザの寸評を挟みながら住民と話をしたり、RGBSの面々の先程の戦いぶりを称えるとしよう。
生意気にも食事機構はあるようなので、ピザに余裕があるなら部下達も召還して食べさせておく。
報酬ばかりにローテで索敵・偵察はさせておくが。
【改変・連携歓迎】
「ふう、何やら、朝より人が増えているな」
先日のちゅんちゅんさま襲撃事件の爪痕は未だ新しく、崩壊した設備や破裂したアスファルト、潰れた車両などの補修や撤去に手を貸していたアシェラ・ヘリオースは、休憩のために『ピザ大食いパーティー』の会場に足を運ぶのだった。
「あ、アシェラさん。お疲れ様です!」
朝から現場検証や、危険個所の点検などで歩き詰めだった彼女を出迎えたのは、店員として働いているRGBSのグリーンだった。
「なに、それほどでもないよ。日々の仕事に比べれば、穏やかなものだ」
「そんなこと言って、朝から働きづめじゃないですか。街の住人でもないのに、色々もらいすぎになっちゃいますよ」
「そんなものかな……」
恐縮するグリーンの様子に、アシェラは思わず苦笑する。
そうしている間にも、グリーンは手慣れた様子でアシェラを席まで案内し、紳士的に椅子を引かれてしまっては、促されるままについつい席についてしまう。
RGBSの中では目立たない存在だが、他の二人に比べると物腰がずいぶん柔らかく、人の扱いがうまいように感じる。
きっと、気性の激しいレッドやブルーの良き緩衝材となっているのかもしれない。
「せめて一息ついていってください。ご馳走しちゃいますよ」
「そうだな。折角だ。馳走になる」
どうやら逃げられそうもない。善意の押し付けではないが、有無を言わせないやんわりとした強制力というのは、下手に強く言われるより厄介だ。
まあ、それでなくても、一休みのつもりで来たのだから、別に悪い気はしないのだが。
今は凪の時間だ。ここは大いに体を休める時間だろう。
「ふーむ、それでは、この赤いピザを頼もう。ヘルシーさを謳っているそうだからな。それとジンジャーエールを」
「かしこまりました。少々お待ちください」
優雅な仕草で注文を出すと、グリーンもまた優雅に受け応えてキャンピングカーのほうへ戻っていく。
優雅は優雅なのだが、原色の強化スーツにエプロンというシュールな恰好はどうにもならない。
戦うでもないのにスーツでいる必要はあるのだろうか。
まあ、あの格好のほうがわかりやすいといえばそうなのだろうが、あれで接客や厨房は辛くはないのだろうか。
それとも、あの格好のほうがかえって動きやすいというほどまでに装備に馴染んでいるとでもいうのだろうか。
あり得なくもない。
優れた戦士は、フル装備した状態でポテンシャルを最大限に引き出す。むしろ重装備を常とすることにより、身体を慣らしておく者も少なくはないという。
……と、そこまで考えたところで、心中で否定する。
彼らRGBSの熱意は本物だとは思う。しかし、戦士として一流かどうかは疑問である。
ヒーローではあっても、戦士ではないのは間違いない話だが、いざ戦闘力という価値に限った話ならば、評価を厳しくせざるを得ない。
彼らがオブリビオンと戦えているのは、ひとえにあの強化スーツの性能ありきだろう。
猟兵でもない者がオブリビオンと渡り合うには、いくらか超人的な能力が必要なのだ。
あの強化スーツの性能は、決して低くはない。事実、先日のあの激しい集団戦をただの人間が戦い抜けるわけがないのだ。
それを可能にし、五体満足で翌日にピザ屋で働くまでできるのは、あのスーツの性能と、彼らの精神性によるものだろう。
あの強化スーツの限界性能を引き出せるほどに成長すれば、彼らは間違いなく猟兵に匹敵するほどの人材になる。
「ふっ……ダメだな、私は」
頭を振り、自嘲気味に笑みを浮かべる。
戦闘力という個体値にこだわり過ぎるのは、自分の出どころが問題だろうか。
彼らは兵ではない。ただの常人が、あのようなスーツで戦い続けられる筈がない。
兵士の使命感、義務感。そんなものを背負わせるような連中ではない。
彼らには彼らの正義感があり、それこそがあのスーツを着続け、戦い続けられる何よりの原動力なのだ。
私が口を挟めることではないのかもしれない。
「お待たせしました。『地獄のレッドピザ』とジンジャーエールです」
「ああ、ありがとう」
気が付けば、頼んでおいたものが出来上がったらしい。
グリーンが赤いピザとジンジャーエールの入った紙コップを運んできた。
改めて実物の赤いピザを見てみると、思ったほど赤くはない。どちらかというとオレンジに近いが、乗っている具材はなるほど、赤いものをそろえているようだ。
人参を練りこんだという生地に乗っているのは、赤いパプリカとスライスしたプチトマト、サラミに、赤紫の根菜はビーツだろうか……。
とにかく野菜メインの構成で、見た目ほど偏ったものには見えない。
だが、味はどうだろうか。こういう派手な見た目のものは、得てして見掛け倒しなことが多い。
全国を旅して回って考案したというピザというのがどれほどのものか想像もつかないが、まさかこれだけというわけではあるまい。
とにかく考えていても仕方ない。実際に食べて見なくては。
「いただきます」
地球に住む者の作法に則って、さっそくピザを口に運ぶ。
ふわりとした生地と野菜の水分が十分に熱されていたピザはずいぶん熱かったが、軍人たるもの、早々に食事をとるのが美徳というもの。この程度の熱量に怯むことはない。
「ほう、美味いな」
思わず感嘆の声と共に、熱気を帯びた呼気が漏れる。
熱することで甘みと旨味の増した野菜の味わい、淡白であってもサラミやソースの塩気や油を吸い、旨味の相乗効果を引き出している。
十分に火が入りながらも、しゃくしゃくとした野菜本来の食感が残っているのが、なんとも小気味よく、食べ進める手が止まらない。
たかがピザと、心のどこかで侮っていた気持ちがあったのを密かに恥じる。
「でしょう。僕も初めて食べたときはびっくりしましたよ。あの粗野なデュベルさんが、こんな繊細な味わいを表現するなんて……って言ったら、怒られましたけど」
「わからなくないな。確かにこれは、一朝一夕で手にできる技ではない」
陽気に話すグリーンの言いたいこともわかる。
ただ、頑固な性格というのはそれだけ繊細という意味でもあるだろう。
細かな差異すら許さない妥協のなさを持たなければ、境地へ至ることもないのだろう。
とはいえ、本来は味覚を必要としないロボットが、どうしてピザを作ることになったのか。そこは気になってしまう。
『ただいまっすー』
『哨戒行ってきたっすー』
『あー、隊長、ピザ食ってるっすー』
食事を進めていると、見回りに出していた小さな部下たちが戻ってきたところだった。
ユーベルコードで呼び出していた黒騎どもは、なりは小さくとも生意気にも食事を欲する。
テーブルに上って恨めし気に見上げてくる仕草は、なんとも規律に甘い。
「わかったわかった。任務ご苦労。私一人では食いきれん残敵を掃討してよし」
『わー、飯だー』
『飯だー』
『んめー』
物欲しそうな眼差しに屈した形で許可を出すと、部下たちは諸手を上げてピザの残りに殺到する。
「すまないが、もう一枚お願いする」
「食事中も部下に指示を出してらしたんですね。道理で、指示が堂に入っていたわけです。かしこまりました。少々お待ちを」
茶化すように敬礼の仕草を真似て新たな注文を反映しに行くグリーンを、アシェラは穏やかな笑みで見送りつつ、ジンジャーエールを啜るのだった。
大成功
🔵🔵🔵
リューイン・ランサード
【WIZ】で
一度関わりましたので、最後までお付き合いします。
と『ピザ大食いパーティ』に参加。
住民の皆さんには「頼もしい猟兵さんが大勢いますから、次で決着付けられますよ。」と安心させる対応を。
(自分も参戦するけど、”頼もしい猟兵”のカテゴリには入っていない。誰かから指摘されると、「あっ、そうでしたね。」と相槌を打つが、正直自信は無い。)
ピザはミックスピザを頼んで美味しく頂く。
色々挑戦する周囲を見て、自分もやってみたくなり『混沌のブラックピザ』を注文。
”しまったなあ~<汗>”と思いつつも、食べたら美味しいのでピッツァさんに「すごいですね、とても美味しいです!」と心からの賛辞を。
アドリブ・連携歓迎
バーン・マーディ
確か此処に実力あるヴィランが居たな
…ヴィランとヒーローが共にピザをか
…時代は変わったのだな(過去の苛烈な戦いと悲劇を思い出して
地獄のレッドピザや混沌のブラックピザ等を注文して頂こう
因みに礼儀正しく丁寧に切って食べてる見た目巨大な闇黒騎士
しっかりと味わい感想も語ろう
そんな和やかな中
アクロラビットは直ぐに行動に移すだろう
我らはその瞬間…奴を倒しに向かう
(特に何の答えも求めず事実だけを伝える。どうするのも彼の自由だからだ
我もまたヴィラン
故に滅びだけを齎す者を粉砕せねばならない故な
……ああ、おかわりを頂こう。お勧めはなんだ?(言いながらも黙々と…しかし実に美味しそうに食べてる
尚、RGBS手製のも味わう
大通りの復旧は急ピッチで行われていたが、休憩の時間は大いに休憩することにしていた。
つまりは、『ピザ大食いパーティー』は街の復旧に携わる者たちが数多くいた。
その中には猟兵の姿もいくつか散見され、時にその特異な能力を駆使して、街の復興に尽力する姿が見られていた。
「ふう、こういうお仕事ばっかりならいいんだけどなぁ」
先日のちゅんちゅんさま襲撃事件から参加していたリューイン・ランザードもまた、乗り掛かった舟ということで街の復興のため、その魔術の手腕を存分に振るい、一仕事終えてから会場入りしていた。
その顔は晴れやかで、戦闘行為を行わない人助けは、多少危険を伴うとはいえ血みどろの命の取り合いと比べればとても気が楽だった。
自分には戦う力とその術がある。とはいえ、あの身も心もすくみ上るような感覚はどうにも慣れない。
「すいませーん、ミックスピザくださーい!」
注文を出す声も明るく、話題のピッツァ・デュベル氏のピザは個人的に興味もあった。
ただ、変わったメニューではなく、スタンダードなものを頼んでしまうのは、なんともヘタレ気質のリューインらしかった。
「おお、魔法使いの坊主。さっきは色々助けてくれてありがとうな」
わくわく顔で注文したピザが焼きあがるのをまっているリューインに話しかけてきたのは、瓦礫の撤去作業などに従事していた土木業のおじさんであった。
「あ、いえいえ。お役に立てて何よりです。僕も派手にやっちゃったみたいですから、お手伝いするのは当たり前ですよ」
一般人のおじさんの顔をすぐに思い出したリューインは、笑顔で対応する。
怪人やヴィランが、街を襲うことはここでは珍しいことではない。だからこそ、RGBSのようなヒーローがいるわけだが、怪人の襲来が日常化したこの世界におけるその対応というのは実に手慣れたものである。
それでも、頻繁に破損する公共物などの撤去作業は、それだけで大仕事だ。
そんな中で、物理法則や肉体労働をある程度無視できる魔法という技術を使えるリューインの手伝いは、彼ら一般人にとっても有難いことだったのである。
「よくできた子供だなぁ。おいちゃん助かるよ。あんな量の怪人は見たことがなかったからなぁ。
しかも、連中の親玉は、またいつやってくるかわかったもんじゃないしな」
「大丈夫ですよ。RGBSの皆さんは健在ですし、それに、頼もしい猟兵さんが大勢いますから、次で決着付けられますよ」
おじさんの表情が曇るのを気にして、リューインはなおも明るく振舞って元気づけようとする。
ちなみに、頼もしい猟兵という言葉からは、ナチュラルに自分は含まずに考えている。
「はは、そうだな! 期待してるぞ、頼もしい猟兵さん」
頑張って励まそうというリューインの心意気に気をよくしたのか、おじさんは快活に笑ってリューインの背を叩く。
当のリューインはその言葉の意味を図りかねていたものの、そういえば自分も猟兵の一人であったことにようやく気付いて苦笑いを浮かべる。
「あ、そうでしたね……あはは、頑張ります……」
正直に言うなら、戦うのは未だに苦手だ。その時になれば諦めもつくのだが、それ自体を好きになるのは何時になっても無理なんじゃないだろうか。
あの、アクロラビットというオブリビオン。きっと、またやってくる。それも近いうちに。
ちゅんちゅんさまを従えていたことを考えれば、あれほど容易に戦える相手ではないだろう。
でも、やらなきゃ。あのおじさんや他の一般人の皆さんに被害が及ぶことは避けなくてはならない。
あーでもやだなー。逃げたい。あー逃げたい。
「お待たせしました。ミックスピザおまちどうでーす」
ネガティブに陥りそうになったリューインだったが、その憂鬱な気分も、注文のミックスピザの到着で、あっさりと好転した。
焼けたチーズとオリーブの香りが、なんとも食欲をそそる。
一仕事終えたばかりだからだろうか、胃の腑が空腹を訴えてきゅうと鳴る。
もはや一刻も待てそうもない。いや、待つものか。
「いただきまー……す?」
この世界の作法に則り手を合わせ、さっそくピザ攻略に取り掛かろうとしたリューインだったが、その視界の隅っこに、この場に似つかわしくない姿を認めて、思わず手を止める。
突如現れたその姿は、まるで西洋の騎士。それも全身を覆うフルプレートは黒い光沢を放つ異様な存在感があり、その圧倒的な佇まいは、超常のそれだった。
というか、漆黒のフルプレートって!
思わず心中で突っ込みを入れてしまうが、よくよく考えれば別世界の住人ならそういう人もいるし、ヒーローやそれに対する悪役がいるこの世界にだって、大仰な恰好の人は珍しくないはずだ。
筈なのだが、やっぱり目立つ。
それだけならば、よかった。いやいいのか? まあとにかく、スルーしてさっさと食事にありつけば、少なくとも気にすることはなかったのかもしれないが、うっかり釘付けになってしまったのがいけなかったのか、その闇黒騎士はリューインと目が合ったかと思うと、大股で近づいてきて隣の席についた。
(ええーっ!? なぜ隣に……!?)
すさまじい圧力を隣に感じつつ、それでもなんか怖くて目を向けることもできず、さりとてそのまま暢気にミックスピザにありつける事ができるかというと、そんなわけもなく縮こまるだけしかできないリューインは、更に席に座りなおすと同時に腰の剣をテーブルに置く闇黒騎士の所作にすら肩をビクリと震わせる。
「確か此処に実力あるヴィランが居たと聞いたが、随分と繁盛しているな……」
渋い声で呟くように語る闇黒騎士ことバーン・マーディ(ヴィランのリバースクルセイダー・f16517)は、その禍々しくも神々しい全身鎧からすれば意外なほど穏やかな語り口であった。
「あ、あのー……ひょっとして、ピッツァ・デュベルさんのお知り合いの方でしょうか。その、悪役的な」
なんというか、話さないといけない雰囲気を感じ取り、リューインは恐る恐るとごっつい闇黒騎士に話しかける。
表情の見えないフルフェイスがぐりっとリューインのほうを向くと、それだけで蛇に睨まれたような気分になるが、不思議と争いになる雰囲気は感じないためか、嫌な気分にはならない。
「こちらが一方的に知っているだけだ。一匹狼の男だったからな。いつかは顔を出そうと思っていたから、猟兵として赴けるこの機会にと思って、な」
超然とした物腰すら感じさせるまま、リューインへの返答と同時に自身が猟兵であることも説明する。
ラスボスのような姿にしては、話が簡潔でわかりやすいな。と思うリューインだが、それはちょっと失礼かもしれないと口には出さない。
彼の登場で会場は一時不穏な気配に包まれるも、猟兵であるリューインと穏やかな様子で話し始めると、なんだ無害そうだなと祭りの喧騒を取り戻す辺り、この街の住民もたくましい。
そこまで語ったところで、店員をやっているRGBSの一人が注文を取りに来たので、話を中断する。
「ふーむ、『地獄のレッドピザ』と『混沌のブラックピザ』というのを頂こう。それと、できればナイフとフォークを用意してほしい」
「えっ、紙ナプキンもありますけど」
聞き返すRGBSのグリーンに、バーンは無言のまま顔を向ける。
フルプレートの巨漢がオープンテラス状態のテーブルについているというのも既にシュールな姿だが、無言の抗議をするその顔は、表情がうかがい知れないというのに、「えーっ」と口をとがらせているかのような様子を窺わせるほど雄弁に思えた。
「……かしこまりました。少々お待ちください」
「うむ、すまんな」
根負けしたように引っ込むグリーンを満足げに見送りつつ、
「どうした、食わんのか? 冷めては味も落ちよう」
ぽかんと様子を窺っていたリューインに気づいて、ミックスピザを指さす。
「あ、そうですね。じゃあお先に失礼して」
改めて手を合わせると、リューインは気を取り直してようやくミックスピザにありつく。
たっぷりのサラミと野菜が乗ったピザは、スタンダードながら完成された調和のある味わいだった。
「うん、これこれ。おいしい!」
一切妥協のない、ピザと言えばこれだろ!というイメージと合致するような、バックストリートなギャングでも一口分け合えばブラザーになるような、うまく説明できない味覚の妙がそこにはあった。
リューイン自身、「これこれ」と思わず言ってしまうものの、なにがこれこれなのかよくわからなかったが、とにかくこれだよこれ!と思ってしまうほど、親しみを感じるのだ。
と、ミックスピザに舌鼓を打つ傍らで、やたらと圧を感じて思わず目を向けると、バーンがリューインのほうを見ていたようだ。
「あ、あの、お分けしましょうか?」
「む、いや……それでは、汝に悪かろう」
いやでも、すごいもの欲しそうな顔してるんだもん。とは言えず、リューインは一計を案じる。
どうでもいいが、表情がうかがい知れないのになんとなく表情がわかるのは、どういうことなのか。
となんとなく思ったものの、こういうちょっと変な感じの人に細かいことをあれこれ考えても無意味かもしれないとも思う。何しろ、猟兵となる者は大体の人が個性の塊なのだ。
「だったら、そうですね……。貴方の注文された赤いピザと黒いピザをお分けした分だけ交換するというのはどうでしょう? 周りに頼んでいる人も居たので、僕も挑戦してみたくなりまして……」
「むぅ……妙案だな」
シェアしませんか?というのを遠回しに提案してみたのだが、どうやら了承するらしい。
黒い鎧の周囲がぱっと明るくなったように見えた。
それからさほど待つこともなく、バーンの注文したピザもすぐにやってきた。
ちゃんとナイフとフォークも用意されている。
赤いピザと黒いピザは、イメージしていた以上に色味が強いが、それでも湯気が上がるほど出来立ての香ばしい香りは、それだけで食欲を刺激する。
「インパクトはありますけど、おいしそうです!」
「うむ、見た目にも楽しい見事な出来だ」
おいしいものに敵味方は無いのか、そもそも猟兵同士で敵対というのもないのだが、それでも毛色の違う二人は、二種の変わりピザとミックスピザを前に、すっかりはしゃいでしまっている。
さすがにリューインは手で食べるが、バーンはナイフとフォークで丁寧に切り分けて上品に口に運ぶ。
どうでもいいが、フルフェイスでどうやってものを食べるのか不思議なものだが、口元に運ばれたピザの切れ端は、吸い込まれるようにフェイスガードの奥に消えていく。
説明は不要らしい。
「うむ、美味い。薫り高い魚介の食感、その味わいも実に品がいい。ジャンクフードと侮っていては、手痛いしっぺ返しをもらうほどの完成度だ。余程の研鑽を積んだに違いない。赤いほうのピザも、やや野菜が多いように感じるが、その偏りを極端に感じさせぬ味わいの調和、多くの特徴的な味を包むチーズも然ることながら、それぞれの具材やソースの煮汁を吸った野菜のなんと味わい深いことか……。それらを計算し尽くし、和合を以て一つの舞台に構成せしめるのは、なんたる妙……」
なんか凄い語り始めた。
変わりピザの味わいにはリューインも軽く感動を覚えるほどのものだったが、急に雄弁に語り始めたバーンに至っては、滔々と語りつつもフォークを握る肩を震わせるほどだった。
いや、おいしいけど、ピザですよ? いや、おしいけどさ。
「すまぬ、店員」
「え、はい?」
ちょっと大袈裟なリアクションに軽く驚いているリューインを差し置いて、バーンはきびきびと歩き回るRGBSの一人を呼び止める。
「おかわりをいただこう。お勧めはなんだろうか?」
もう食ったのか。
心中の突っ込みを止められず、ぎょっと目を見張るリューインをさらに差し置いて、バーンは残ったピザを平らげつつ、どこか喜色に染まった様子でメニューから追加注文を行う。
口を挟む余地すらなかったが、その様子を眺めつつ、リューインはなんとなく「食べるの好きなんだなぁ」とシンプルに考えることにした。
「ふむ、それにしても……ヒーローとヴィランが一緒に店か……時代は変わったものだな」
注文を受け取ってキャンピングカーのほうで店主のピッツァ・デュベルと漫才のようなやり取りをするRGBSの面々を遠めに見ながら、ふと食べる手を止めたバーンが呟く。
その視線は、彼らよりももっと遠く、かつてあったヒーローとヴィランとの悲惨な戦いの歴史を見ているようだった。
懐かしむような、眩しいような、そしてどことなく寂寥感を覚えるその横顔に、切ないものを感じたリューインは、改めてミックスピザを頬張る。
「食べましょう。冷めたらせっかくの味が落ちちゃいますよ」
「む、そうだな」
食事を再開する。
しかし、その食事の時間も、そう長くは続かなかった。
ふとバーンがピザを切り分ける手を止め顔を上げる。
その足元から延びる影が、ゆらりと細長い炎のように立ち上って人型を構成する。
いつの間にかそこに立っていたのは、バーンと同じようなやや細身の甲冑を纏う黒い騎士だった。
バーンのユーベルコード『叛逆の組織「デュランダル」』により呼び出された騎士は、食事の合間もやがで再来するであろうアクロラビットの襲来を知らせるため、会場の更に周囲に忍ばせておいたのだった。
『閣下、現れたようです』
「うむ、任務ご苦労」
短い報告に、バーンもまた短く応じる。
その硬質な声色に、隣に座っていたリューインも背筋に冷たい汗が流れるのを感じる。
食器を置き、立ち上がるバーン。
「みな、仕事の時間が来た。すまぬが宴はこれまでのようだ」
注目を浴びるバーンが静かに、しかしはっきりと告げると、すぐにその言葉の意図を飲み込んだ会場の面々は、にわかにざわめいたものの、その行動は迅速だった。
さすがに何度も怪人の来襲を経験しているだけあって、住民の対応は慣れたものらしく、手早く会場の設備を一方に寄せて大通りを開け、一般人は避難を開始する。
バーンもまた、テーブルに置いた剣を取り、リューインも重い腰を上げて準備を始める。
「はぁ、参ったな……」
その顔は食事の時とは打って変わって憂鬱そのものだ。
「来たか……勝てんのかな、俺たちに……?」
「勝つんだ。そして、そのために、できることをやる」
「そうだね。みんなで勝つんだ」
RGBSの面々も、エプロンを外して、歩き始める。
猟兵あっても、苦戦は必至だろう。まして、ヒーローとはいえ中の人は一般人。RGBSがオブリビオンに対抗する術は、決して多くはない。
だが、それでも彼らは猟兵と同様に戦うため、その歩みを止めるわけにはいかない。
ヒーローであるがゆえに。
その生きざま、歩みを見つつ、バーンは腰に剣を差す。
我もまたヴィラン。
故に滅びだけを齎す者を粉砕せねばならない。
その在り方は違えど、共通の敵を討つために、共に戦いに出よう。
それぞれの決意を胸に、ヒーローと猟兵たちは、傾き始めた陽を目指す。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『アクロラビット』
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POW : ラビットスタンプ
【ウサギ印のスタンプ】が命中した対象に対し、高威力高命中の【対象の所有するユーベルコードのコピー】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : スピットスタンプ
自身からレベルm半径内の無機物を【ウサギのスタンプで刻印して無数の機械兵器】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
WIZ : ラピッドワイヤー
【青いワイヤーロープによる拘束】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【にワイヤーを縦横無尽に張り巡らし】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:茶犬
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ヴィル・ロヒカルメ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
街々に傾いた陽のオレンジ色がヴェールのように降りかかる。
ビル影から現れて伸びる黒い影が、その橙を染める。
そのシルエットは黒いウサギにも似ていたが、肩に担ぐ黒い杵やその身に帯びる剣呑な気配は、かつてのヒーローとして活躍した姿からは見る影もない。
破壊こそが存在価値。
かつて多くのヴィランを追い詰めたというその姿は、今や目に付くすべてを許せない、破壊者の権化であるかのようだった。
「あーあ、またぞろやってきたのか、雑魚ヒーロー共め」
圧倒的な存在感。オブリビオンとなり果てた在りし日のヒーローは、その邪悪を隠すこともなく、立ちはだかる三人のヒーローにも苛烈な形相で、手持ちの杵を差し向ける。
「勝ち目があると思ってるのかな? 三人がかりなら何とかなるとでも?」
あざけるようにゆっくりと歩み寄るアクロラビットのその周囲に、もはや見飽きた丸い茶色が数体降り立つ。
最初に比べればずいぶん数が少ないが、それでも一体一体の戦力は対峙するヒーローRGBS個人の戦闘力を凌駕する。
だがそれでも、
「俺たちは三人じゃない!」
「そうさ、三人でそれなりに最強なのは譲らねぇが、今回はそれ以上に最強の味方がいるんだぜ!」
「そう、生き汚さにおいて僕たちは最強さ!」
けしかけられたちゅんちゅんさまの一団を真正面から受けつつ、RGBSは力強く叫ぶ。
「雑魚共は俺たちに任せてくれ! 猟兵のみんなは、あいつを!」
RGBS決死の奮闘により、諸君ら猟兵は、アクロラビットとの戦いに専念することになる。
先日の死闘を乗り切った彼らならばちゅんちゅんさまに後れを取ることはないだろう。
決戦の時である。
月凪・ハルマ
前にも、お前みたいに甦った『元』ヒーローに会ったよ
もっともどうなったかは……まぁ、言うまでも無いだろ
◆SPD
真の姿を開放
髪が白の長髪に、瞳の色が黒から金に変化
成程、戦いながら自己強化してくタイプなのか
なら、それを妨害させてもらおう
まず【忍び足】で敵の至近距離まで接近
以降も決して距離をとらず、【残像】も使い執拗に張り付き、
【早業】【2回攻撃】を駆使して魔導蒸気式旋棍を叩き込む
杵を振るおうとすればその動きを【見切り】、自身や地形に
杵の先端――スタンプが突かれない様【武器受け】で止める
相手が焦りかイラつきから大きな隙を見せる様なら
それに合わせて【降魔化身法】で、【捨て身の一撃】を
喰らわせてやろう
日の傾いた大通りに降り立ったアクロラビットの顔面に描かれた三日月が青白い輝きを帯びる。
敵対の意思を示すその輝きは、かつてヴィランや怪人を震え上がらせるものだったに違いない。
それが今は猟兵たちに向くことになる。
「ふうん、そんな間合いの短い武器で、僕に格闘戦を挑むつもりかな?」
ちらりとRGBSにけしかけたちゅんちゅんさまのほうを見やりつつ、目の前に立ちはだかる人影を認めて、アクロラビットは向き直りながら、自身の得物を改めて誇示するかのように振り回し、柄尻をアスファルトに打ち付ける。
「打ち合った後に、同じことが言えたら褒めてやるさ」
真剣な顔で応じ、その口元に不敵な笑みを湛えつつ、月凪ハルマはその両手に、西日にも尚銀色に輝くトンファーのガジェット「魔導蒸気式旋棍」を構える。
出足を悟られないため、その足取りは軽いステップを刻み、それでいながら足腰は柔らかくしなやかに弾みをつけつつ、上体はほとんど上下しないまま左右にゆらゆらと揺れて、細かくけん制をかける。
「それは楽しみだな。まあ、期待外れじゃないことを祈ろうか……なっと!」
ハルマの軽口に乗る最中、唐突にアクロラビットの身体がぶれてみえた。
そうかと思えば、アクロラビットは一直線にハルマのほうへと踏み込んできていた。
その手に武器である黒い杵は握られていない。
「!?」
意外に思いつつも、ハルマはあくまでも冷静にその場で迎え撃つべく足を止め、アクロラビットの踏み込みに合わせる形でトンファーを繰り出す。
それを読んでいたアクロラビットは、直前で跳躍し、ハルマを飛び越える形で宙返りをうつ。
背後を取るつもりか!?
それも目で追っていたハルマはトンファーを繰り出した動きに逆らわないまま、身体を入れ替えるようにして振り向きつつ、飛び上がったアクロラビットを視界に留める。
その手元に青白いワイヤーのようなものが伸びているのを辛うじて視認する。
それで攻撃の意図を感じ取ったハルマは、アクロラビットが着地と同時に再突撃してくるのに合わせてトンファーを再び繰り出しつつ、左手は正面ではなく背後の防御のために後ろに回す。
「ぐがっ!」
アクロラビットの拳とハルマのトンファーが激突する。そして、それと同時にハルマの背後に衝撃が走った。
アクロラビットの手のワイヤーと繋がった杵が引き戻され、背後からハルマを襲ったのだ。
だが直撃はせず、背後に伸ばしたトンファーで受けたため、ダメージはない。
「へぇ、読まれちゃったか。やるじゃん」
跳び退いたアクロラビットの手元に得物の杵が戻り、あらためて担ぎなおす。
試すように小首をかしげる仕草は、あいさつ代わりとでも言いたげだ。
「力任せの武器かと思ったら、案外トリッキーなんだな」
「シンプルなことばかりしてちゃ、すぐに見切られちゃうからね」
会話をしながらも、対峙する二人は機を外して攻防を再開する。
今度はシンプルな杵の振り下ろしからの切り替えしで石突が跳ね上がる。
さすがに杵による振り下ろしをいなすのは難しく、ハルマは初撃をスウェーで回避し、跳ね上がる石突をトンファーでいなして突きを放つ。
アクロラビットは更にそれに対応し、跳ね上がった杵の柄を支柱に鉄棒で逆上がりをするように体を回転させて鋭い足刀でハルマのトンファーを打ち落とす。
「ははっ、楽しいな!」
「カァッ!」
身軽な矮躯で長柄の杵を振り回し、その重心を利用して間合いの内側すらも対応し、踏み込もうとすればするほど巻き込まれてしまうような素早い動きに、ハルマは翻弄されまいと気勢のままトンファーを繰り出す。
捉えた、と思った。
吹き飛ぶアクロラビットはしかし、空中で体を回転させて何事もなかったかのように着地する。
(また距離を取られたな。小さいせいで、ちゅんちゅんさま以上に芯を捉えづらい)
素早い攻防に止まっていた呼吸を取り戻して、冷静にアクロラビットの攻勢を分析する。
と、その頬がいつの間にか浅く切れ、赤いものが伝う。
そしていつの間にか攻撃をかすめていたのか、トレードマークのキャップが不意の風にあおられて落ちてしまう。
「悪くないよ。でも、まだ僕のほうが早かったみたいだね」
血が出てるよ。と言うかのように、ハルマの切れた頬と同じ個所の自分の頬を指先で叩いて見せるアクロラビット。
その煽りに、一瞬だけ血が湧きそうになるハルマだが、そこで冷静さを欠いたら相手の思うつぼだ。
だが、どうやら出し惜しみしている余裕はないようだ。
「前にも、お前みたいに甦った『元』ヒーローに会ったよ」
落とした帽子を拾いつつ、ハルマは自身の心の中にあるリミッターを外す準備を瞬時に完了させる。
露になった髪が白く染まり蛍火のような燐光を帯びて長く伸びる。
「尤も、そいつがどうなったか……まあ、言うまでもないよな」
髪をかき上げ、帽子をかぶりなおすと、麦穂のような黄金に変じた瞳をアクロラビットに向ける。
「ふうん、本気なんだね。まあ、何度やっても同じだと思うけどな」
アクロラビットが言い終わる前に、今度はハルマのほうから踏み込む。
白い軌跡を残し、一足飛びに低く低く音もなく踏み込むハルマの動きに、アクロラビットは反応が遅れる。
「チッ!」
舌打ち交じりに迎撃するアクロラビットだが、咄嗟に突き出した杵の石突がとらえたのはハルマの残像だった。
その突き出た手にトンファーが絡み、固められた腕の付け根、鎖骨にあたる部分にもう片方のトンファーが振り落とされる。
「ぐあっ!?」
声をあげつつも、アクロラビットは絡んだトンファーを外す為に杵を手放して逆にワイヤーで絡めとろうとするが、その動きを読んだハルマは動きを止めず、トンファーを引き戻しながら振り回すように連撃を繰り出す。
ハンマーに近い杵は、どうしても間合いの内側に入り込まれると、その特性を活かしづらい。
アクロラビットはその弱点を克服するため、杵の重さや重心、自身の矮躯すらも利用して体術で器用に戦うトリッキーな戦法をとることを編み出した。
しかし、その起点となるのはやはり杵による振りが必要なのである。
元より体重の少ない小柄なアクロラビットが、杵の重さを利用して戦うには、ある程度の速さが必要なのだ。
だから、ハルマはより早く先手を取り、最初の起点となる振りを使わせないよう間合いの内側に張りつき続けたのだった。
「ぐ、がっ……や、野郎! 離れろっ!」
やがてアクロラビットが焦れたように体をひねって杵を振り上げようとする。
その動きに隙を見出したハルマは、好機とばかりユーベルコードを使用する。
アクロラビットが杵を構えなおす、それとほぼ同時に降魔化身法により悪鬼羅刹の宿った渾身の一撃が放たれる。
ごう、と暴風が吹き荒れる。
防御すら考慮に入れない一撃を、好機と見た瞬間に叩きこんだハルマの攻撃は、確かにアクロラビットを捉えたはずだ。
「ぐ、ふ……やってくれたな」
真の姿を用い、リスクのあるユーベルコードを用い、動きを止めずに攻撃をし続けたハルマは、肩で息をしていたが……。
よろよろと立ち上がるアクロラビットもまた、無傷では済まなかった。
しかしどうするか。同じ手は通じないかもしれない。
だが、ここで退くような消耗があるわけでもない。
つまりは……まだまだ、これからだ。
疲労を訴える肉体に檄を飛ばすように、ハルマは勝気な笑みを浮かべる。
成功
🔵🔵🔴
リューイン・ランサード
地元のおじさんと仲良くなりましたし、美味しいピザもごちそうになりました。
怖くても戦わないとダメですよね~(嘆息)。
(逡巡を振り切り)では、頑張ってアクロラビットを倒しましょう!
翼で空に舞い上がり、上空からUC:スターランサーを撃ち降ろす。
スターランサーには技能の【光の属性攻撃、全力魔法、範囲攻撃、高速詠唱、2回攻撃、鎧無視攻撃】も併せて威力増強。
160本の光線を束ねた方が威力は強いが、あえてバラバラに放ち、ラピッドワイヤーを破壊して戦闘力向上を無効化しつつ、アクロラビットを貫く。
手数で勝負です!
敵攻撃に対しては【空中戦、第六感で敵攻撃予測、敵攻撃の見切り】の回避と【オーラ防御、盾受け】で防御。
激しく何かがぶつかり合う音が聞こえる。
地を蹴る音、空を切る音が聞こえる。
そのたびに噴煙のようなものが舞い、肌にまとう風にざらついたものを感じさせる。
むせかえる戦場の匂い、はりつめた戦場の空気。
早くも大通りは戦場の様相を呈していた。
そして、その場に戦うためにやってきたはずのリューイン・ランザードは、未だに尻込みする気持ちを振り払えずにいた。
もはや、オブリビオン討伐のために戦いに赴いたことなど、数多くなったはずなのだが、戦いの場の空気に気圧されるのはいつまでも変わらない。
文人気質の彼には、積極的に前に出て戦うというのは、いくら経験を積んでも慣れないものだった。
一緒に笑い、一緒に食事をした、自分と同じような猟兵であっても、戦う瞬間には獰猛に声を上げ、時には嬉々として、敵の排除に臨む。
それは力があるからというのもあるのかもしれないが、戦いそのものを望んでいるかのようにも思える。
リューインにとってそれは理解しがたいことだが、しかしながらオブリビオンという存在に対し猟兵というものは、それを排除するのが存在理由であるわけで、戦いを望む特性を持っているというのは、まさにその職に適性があるということなのではないだろうか。
自分で考えてよくわからなくなりそうだが、オブリビオンと戦うための猟兵であるはずの自分が、いつまで経っても戦場の空気に馴染めないのは、やはり自分にそういった素養がないのではないかとも思うのだ。
「はぁ……でもなあ」
嘆息するリューインの脳裏に、先刻まで一緒にピザを食べていた頃の記憶がよみがえる。
地元のおじさんにエールをもらった。仲良くもなった。はずだ。
怖いな。体が震える。
でも、戦わなきゃダメだ。ああ、やだなぁ。
心中でヘタレそうになる意志に鞭を打つ。もはや、思うだけでは体が言うことを聞かない。
ならば、とばかり、両手で頬を打って喝を入れる。
「では、頑張ってアクロラビットを倒しましょう!」
なけなしの闘志を漲らせ、リューインは魔術符を手に取ると、上空に向けて地を蹴る。
飛び上がったリューインの手中に光が収束すると、それが槍となり矢となり、まだ遠方にいるアクロラビットに向かって穿たれた。
戦いは怖いし苦手というリューインだが、経験は図らずとも彼の力となっている。
幾度にも及ぶ戦い、その研鑽から、アクロラビットの視界外から攻撃するという手を無意識に選んでいた。
だが、
「うわっと……危ないなぁ。遠距離から狙撃だなんて、賢いじゃないか」
単発の光弾は、アクロラビットがのけぞっただけで逸れていってしまった。
既にダメージを負っているとはいえ、身軽なアクロラビットにただの遠隔攻撃だけでは足りなかったかもしれない。
ぐるりと視界を巡らすアクロラビットが、空を飛ぶリューインの姿を見つける。
「なんだ、どこにもいないと思ったら、そんなところから……。
さすがに、空から撃たれたんじゃ、こっちも成す術がないかも。なんて、思ったてる?」
アクロラビットの手元から青白いワイヤーが幾重にも伸びてくる。
「うわわっ、待って待って!」
鋭い軌跡でもって空中を飛び交うワイヤーをおっかなびっくり回避するリューイン。
その機動は危なっかしくもあるが、それなりに場数を踏んできた彼にとって、地上から延びるワイヤーの軌跡はなんとなく予測できる範疇であり、空中での戦闘機動は今までに何度か行ってきた。
その経験則は決して無駄ではなく、危うげながらもワイヤーの機動を見切って回避することに成功していた。
のだが、優位に感じていたのは、飛び交うワイヤーがいつまでも空中に漂い、付近の建物に張り付き、気が付けば蜘蛛の巣のように張り巡らされたワイヤーの上にアクロラビットが降り立ったのを見るまでだった。
「さて、と。これで距離的な優位は由来じゃったね。どうする?」
言いながら、アクロラビットがワイヤーの上を駆けてリューインに接近してくる。
近接攻撃に持ち込まれるのは困る。直接攻撃ほど怖い戦闘空間もなかなかないだろう。
そんな場所に長いこと居られるつもりもない。
それに、それにだ。相手が空中戦を仕掛けてくるのなら、それはそれで好都合だ。
ユーベルコードによる光線の魔法。スターランサーを更に一斉攻撃で用いる。その準備を終えた知らせとして、リューインの周囲には光を帯びた霊符が漂っていた。
「またそれ? そんなものが、二度も当たると思ってるの?」
「そうですね。二度も同じ手が通じるなんて思ってないです。でも、よかった。空中に来てくれて」
「うん? どういうこと?」
「ここでなら、大通りを破壊する憂いもない」
疑問に答える形で光を増幅するリューインの霊符に嫌な予感を覚えたらしい、アクロラビットがスピードを上げる。だが、もはやスターランサーの発動は止められない。
『天空の光よ、我が元に来りて敵を貫く槍と成れ!』
自身の持つあらん限りの知識と魔力をもって繰り出された、全力の魔法が一挙に放出される。
「チイッ!」
バラバラに撃ちだされる百数十本もの光線の嵐に、アクロラビットは体を低くしてワイヤー上を駆け抜けるが、不意にその身ががくんとスピードを落とす。
踏みぬいたワイヤーが光線に焼き払われて蜘蛛の巣のように張ったワイヤーのあちこちが断線しているのだ。
しまった、と空を掻くアクロラビットに、更に光が殺到する。
「くそ、くそっ! こんな、臆病者なんかに……! くそぉ!」
光に呑まれ悪態をつきつつ、アクロラビットは少しでも直撃を避けようと杵を盾にしながら落下していく。
手応えはあったが、仕留めた感じではない。
あれだけの数の光線を受けつつも、まだ倒しきれていないのか。
だが、それでも、
「そうですね。僕は臆病者かもしれません。でもだから、ここまで生きてこれたんですよ」
弾はまだある。
更に光を帯びる霊符を取り出しつつ、リューインは油断なく魔力を練り直す。
成功
🔵🔵🔴
アシェラ・ヘリオース
「機動力に優れた相手か」
スーツ姿から戦闘服に早着替え。
冷徹な目で戦場と相手を見極める。
【戦闘知識、情報収集】
方針としては、威力の低い数優先のフォースの槍で弾幕を張り、相手の行動に制限をかける。
わざと薄い部分を作って相手をこちらの懐に誘導し、右掌に溜めていたフォースを開放して地形破壊。
【オーラ防御、零距離射撃、属性攻撃、範囲攻撃、誘導弾】
相手の二つのUCの前提を覆してから、返す刃で軍刀の抜き打ちを仕掛けたい。
【二回攻撃、串刺し】
【アドリブ、連携歓迎】
バーン・マーディ
(立ちはだかるヴィラン騎士
之がヒーローか…否…オブビリオンとして本来持っていた想いも歪められたか
哀れなる過去の死者…お前は本来何を求めていた
否…それを聞いても詮無き事か
喜ぶがいい…滅びを齎すヒーローよ
我が…否、我らヴィランがヴィランの未来を護る為に貴様を粉砕しよう(ユベコ発動:飫肥城を占拠していた騎士達を召喚
不条理を齎す者は更なる不条理に蹂躙される
我らが叛逆を以て貴様に教えよう
【オーラ防御】展開
【武器受け】で受け止めて【カウンター】で切り裂き
【吸血・生命力吸収】で回復しながら更に猛攻を続ける
同時に召喚したデュランダル騎士達により死角全てを蹂躙するような同時多角的猛攻を繰り返す
正義…死すべし…!
光弾の雨から逃れたアクロラビットの目前に、二つの黒い影が立ちふさがる。
慌てて距離をとり、身体を低く保つアクロラビットに、もはや当初の余裕は見られない。
「ちぇっ、まったく次から次へと……そんなにこの世界が大事かい? あんたら、よそ者がさ」
「世のため、人のためなどと大層なことは言わない。お前たちのようなオブリビオンがいて、私のような猟兵がいる。ただの、必然というやつだ」
スーツ姿のアシェラ・ヘリオースがスーツの上着を勢いよく脱ぎ捨てると、いつの間にか戦闘用の黒い装束に着替えていた。
銀色の長い髪が風に泳ぐ。憂いがあるようなその横顔によぎるのは、先刻までピザ休憩をとっていた時に感じた緩やかな平穏。
任務中とは思えぬほどに穏やかな気分を感じられた。それだけ。そのそれだけを破壊する存在というものを、猟兵という力ある者として許容することはできない。
元軍属であるアシェラは、こと戦時においては、シンプルな割り切りを重んじてきた。
それはこれからもきっと変わらないはずだろう。
「之がヒーローか……。否、オブビリオンとして本来持っていた想いも歪められたか」
腕を組み泰然と立ちはだかる黒いフルプレートが一騎。ゆらりと顎をしゃくるまで置物のようだったそれが、低い声で言葉を紡ぐ。
その声にはひどく落胆するものが含まれていた。
ヒーローとして生きる者には、多かれ少なかれ正義を胸に抱くもの。
それにアンチテーゼを唱える者がヴィランというものであり、反目する者の一人であるこの漆黒の猟兵バーン・マーディもまた、それであるが故にヒーローに対し敬意を抱くものであった。
だが、オブリビオンとは、なんと卑しいものか。
アクロラビットというヒーローもまた、誇り高いヒーローだったろう。伝え聞くかの者の記録には、苦々しいものを感じながらも、そこには誇りがあった。
だが、目の前にいるこれはなんだ。
「哀れなる過去の死者……お前は本来何を求めていた」
「なんだと?」
「否……それを聞いても詮無き事か」
もはや語るに値せずとばかり、バーンは腰の剣を抜く。
黄金の柄の豪奢に見える剣だが、抜き放たれたそれが神々しく禍々しい輝きを帯びると、その発した覇気にバーンの外套がなびく。
「悪いが先に仕掛けさせてもらう」
緩慢にすら見えるバーンの動きを待たずして、アシェラが先に動いた。
それまでバーンが貫禄たっぷりにするあまり、フォースをチャージするだけの時間を得ていたアシェラは、一歩前に出て距離を取りながら移動してフォースの槍を生成して次々と放った。
「お前の機動力は見させてもらった。こいつをくらえ」
間断なく放たれる赤黒いフォースの槍はしかし、これまでの猟兵が使ったような面による制圧攻撃とは異なり、弾速と偏差射撃を意識したものであり、素早いだけでは容易に回避できるものではない。
ないのだが、それでも飽和的な弾幕に比べれば、然程でもない。
いうなればそれは、回避不能なのではなく、回避困難なものに過ぎなかった。
「チッ、そんなんばっかだな。生ぬるいんだよ!」
遠隔攻撃による牽制は、もはやこの戦いでいくつも見てきた。
舌打ちと共にアクロラビットが地面を杵で打つと、アスファルトがその硬さを無視したかのように波打ち、盛り上がった地面がそのままトーチカのようにフォースの槍を相殺し、新たに形を形成する。
それは、アクロラビットと同じような耳を持つが、より機械的なフォルムをもつ、無機物から作り起された機動兵器だった。それが複数体。
「発動を許したか」
アシェラにとってはいささか計算違いだった。相手にユーベルコードを使わせる前に、誘導するつもりだったが、こちらの行動に対して使われては、前提が成り立たないか。
しかしそれでも瞬時に戦場の状況を把握し、引き続きフォースの槍を放ち続ける。
このまま機動兵器を破壊し続ければ、焦れて間合いを詰めてくることもあろう。
事実、アシェラの光の槍は、敢えてアクロラビットを焦れさせるため、無機物から作り出された機動兵器が動き出す前を見計らって優先的に破壊して回るため、せっかく作りだされても、その瞬間に破壊されていく。
その状況にアクロラビットは舌打ちを漏らし、槍を放ち続けるアシェラを見据えると一直線に杵を振りかぶって間合いを詰めてくる。
それを見計らい、近づけさせまいとするかのように赤い槍を差し向けるも、突撃するアクロラビットの杵で打ち払われる。
「あんまり邪魔をしないでよ!」
「ふん、来ると思ったぞ!」
奇しくも、間合いの内側に誘導することに成功したアシェラは、間合いまで近づいたアクロラビットに対しもう片方の手に溜めておいたフォースを開放、ユーベルコードを発動する。
ユーベルコード『黒天破』によりすぐ手前の地形を破壊されたことにより、アクロラビットは杵を打ち付けながら無機物を作り出すことができない。
そこまではアシェラの想定内だった。しかし、
「秘策が一つまでとは、思わないことだね!」
「なにっ!?」
空を切った杵とは別の手、その手中に輝く赤黒いフォースには見覚えがあった。
(黒撃槍!? そうか、あの時に)
アシェラの間合いに入り込む時に、アクロラビットはアシェラのフォースの槍を杵で打ち払っている。
ユーベルコードをコピーするアクロラビットの杵を使った防御は、そのまま攻撃手段にもつながる。
「だ、がっ!」
乱射される光の槍を、腰の軍刀を抜き放って打ち落とす。が、それができたのも二撃まで。
三発目以降は、打ち落とす余裕がありそうもない。
相手が一枚上手だったか……。アクロラビットを睨みつけるアシェラの視界に割り込んでくる黒い外套。
「ふんっ!」
吹き荒ぶ暴風のごとき剣の一閃が、赤い輝きごとアクロラビットを横薙ぎに打ち払う。
吹き飛ばされたアクロラビットにたいしたダメージはないようで、平然と着地する。
「あーあ、のんびりしてればよかったのに」
「飛び回る羽虫が目障りだっただけよ」
「羽虫かどうか、試してみるかい、ヴィランのおじさん」
「応とも。喜ぶがいい……滅びを齎すヒーローよ。
我が……否、我らヴィランがヴィランの未来を護る為に貴様を粉砕しよう」
剣を向ける漆黒のヴィラン、バーンの影が広がり、それが次々と火柱のように立ち上り、無数の黒い人影が鎧姿を象ってバーンのもとに跪く。
「往くぞ、我が同胞よ。
不条理を齎す者は更なる不条理に蹂躙される。
我らが叛逆を以て貴様に教えよう」
剣を構えて言い放つバーンに呼応するように、ユーベルコードにより召喚された『デュランダル騎士団』の面々は、泥濘を駆けるがごとく、影から飛び出してアクロラビットに襲い掛かる。
そして、バーンは背後で呆然と佇むアシェラへと振り返る。
「ご無事かな?」
「……ああ、しかし、お前に助けられるとは思わなかったな」
「心外だな。我は、全ての悪役の味方だ」
「ん? 誰が悪役か!」
「フハハ、元気そうではないか。ならば、共に往くぞ、アシェラよ」
「言われるまでもない」
外套を翻し駆け出すバーンに少し遅れつつ、アシェラもまた軍刀を手に駆け出す。
一方のアクロラビットは、現れたデュランダル騎士団の猛攻に苦戦を強いられていた。
まず数が違うのは言うまでもなく、その数が最も有利に働くよう、統率が取れた動きによる間断なき攻撃が、アクロラビットに反撃の隙を許さなかった。
「く、こいつら……いい加減にしろ!」
攻撃を受け続ければ包囲されて飽和攻撃に晒されてしまう。それを避けるべく、アクロラビットは後退するしかない。
騎士団に回り込まれるよりも早く退くことでしか、猛攻をしのぐ手段がない。
そしてそれが戦いを膠着させ、じりじりと追いつめられることを危惧したアクロラビットは、一度大きく退き、再びアスファルトから機動兵器を作り出す。
「そちらが多数っていうなら、こっちだってそうするさ」
「だろうな」
だが、作り出した機動兵器が動き出すよりも前に、再び赤い光の槍がそれらを破壊する。
「また、あんたか!」
「それだけではないぞ」
飛び上がったアシェラの光の槍を見上げながら、アクロラビットは歯噛みする。
その瞬間を見逃すまいと、デュランダル騎士団の剣や槍が次々と襲い掛かる。
咄嗟にそれらを打ち払うが、それらは体勢を崩すための布石に過ぎず、同じく飛び上がっていたバーンが剣を最上段に構えた状態で落下してくる。
アクロラビットにそれを受け止める手立ては無かった。
「正義、死すべし」
振り下ろされた剣がアスファルトに壮烈な亀裂を作る。
真正面からとらえた筈のアクロラビットは、咄嗟に身をよじったことにより、直撃を避けた。
が、その代償は大きく、肩口から片腕を斬り飛ばされた状態で、アクロラビットはまさに死に物狂いの様相で飛び退った。
「浅いか、しかし、逃げられぬぞ」
すぐさま体勢を立て直してバーンが再び騎士団たちに指示を飛ばそうとするが、
その指示はなかなか飛ばず、剣を握るバーンの手に力がこもる。
「貴様……そこまでするか」
底冷えのするような怒りを押し殺し、睨みつける。
跳び退ったアクロラビットの手には、見慣れたヒーローの顔があった。
杵で首を刈り取るかのような形で、その首を締め上げられているのは、周囲で奮闘している筈の、RGBSの一人、レッドだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
「う、ぐぐ……お前、ヒーローのやる事か、これが!」
アクロラビットの杵に絡めとられつつ、レッドは他でもない自らを拘束するアクロラビットに対し、声を上げる。
「うるさい、うるさいうるさい! 雑魚がわめくな!」
既に片腕を斬り飛ばされたアクロラビットだが、ちゅんちゅんさまとの戦いで戦う余力のほとんど残されていなかったRGBSは、不意打ち気味に現れたアクロラビットに手もなく拘束されてしまった。
屈辱や迂闊というよりも前に、まさかオブリビオンとはいえヒーローであった者が人質を取るような真似をするとは思わず、その不意打ちにレッドは対処できなかったのである。
そしてあっという間の早業で捕らえられたレッドを前に、近くにいたブルーやグリーンも、そしてそこに追いつく猟兵たちもまた、手を出すことができずにいた。
「おい手前、うちのリーダーが人質になると本気で思ってんのか?」
「ブルー、何気にひどいよ! でも、この状況で人質が意味あるとは思えないってのは同意かな」
ブルーとグリーンは、レッドがとらわれたことに、それほど気にした様子はないが、相手がどう出るかわからないため、迂闊に距離を詰められずにいる。
ヒーロー同士に通ずるものがあるのか、堕ちたりと言えども、ヒーローがその趣旨を曲げてまで生き汚く振舞う理由が気になったのだ。
「お前たち、雑魚ヒーローに訊くようなことでもないんだろうけどさ……」
アクロラビットの息は既に荒い。度重なる戦いの最中にあって、もはや彼は追いつめられた獣と同じだった。
「ボクはさ。ずっとずっと、正義のために、この世の中をちょっとでも良くしようって、ずっとずっと戦ってきた。
ずっとだよ、ずっと。もうどれだけやってきたか覚えてない。ずっとだ!
それからここはどれだけ経ったんだ? 10年か? 20年か?
そんななのに、一つは良くなったか?
マシになったのか?
お前らみたいなヒーローが未だに頑張ってるってことは、まだまだいっぱい悪いのが居るんだろうな。
なぁ、そうなんだろ?」
牽制するように、締め上げたレッドを突きつけつつ尚も周囲に問う。
「どれだけ戦ったと思ってるんだ。どれだけ犠牲を払ったと思ってるんだ?
どれだけ正義のために戦えば、僕たちは報われるんだよ!
結局、何一つ変わんないじゃないか!
救った先に、マシな世界は訪れたのかよ。
救った僕たちは、マシな世界は報いてくれたのかよ!
なんにも変わってねぇじゃねぇかよ! 同じことの繰り返しだ!
いつになったら終わるんだ。いつになったら、正義を唱えなくてよくなるんだ!?
教えてくれよ。ヒーローならさぁ!」
血を吐くように、アクロラビットは喚き散らす。
それは、ヒーローとして駆け抜けていった彼が、決して口にすることのなかった苦悩の一端だった。
ヒーローは、悪役が居てこそ成立する。
ヴィランが居てヒーローが生まれる。逆もあるかもしれないが、その発端は世界が病巣を排除するための抗体として送り込んだかのように、宿命を抱く者に対症療法を強いる。
ヒーローという呪縛、呪い。
それこそが、アクロラビットを語るオブリビオンそのものといっても違いなかった。
そんな彼のもとに、ヒーローたちは明確な答えを持ちえない。
しかし、彼ら自身の答えならばそこにある。
「ぐ、ぐ……あんたのようなヒーローでも、そんな風に悩むんだな。そうさ。正義に際限なんてないのかもしれない」
押さえつけられながらも、レッドはアクロラビットの問いには答えず、己の答えを提示する。
「だが、そこに悪ある限り、見過ごせないのが俺たちヒーローだ。俺たちがやんなきゃ、誰かが傷つく。そんなの、許せないからだ……俺の、俺たちの魂が、それを許せないんだ!」
「よう言うた!」
レッドの渾身の叫びが、アクロラビットを怯ませると同時に、どこからともなく響き渡る声が、彼らの真上からの助っ人の来襲を告げる。
「アンビリーバブルカッター!」
銀色の回転ノコギリが白い軌跡を描くと、飛び退いた二人のいた地点のアスファルトを派手に削り取る。
「あっぶねぇな、おっさん! レッドが真っ二つになるところじゃねぇか!」
「ふん、ヒーローならばあの程度、かわして当然よ」
抗議の声を上げるブルーを気にすることもなく、カウボーイスタイルのヴィラン、ピッツァ・デュベルは得意げに帽子のつばを押し上げる。
アクロラビットとレッドを分断することには成功したが、しかし応急処置に過ぎないピッツァ・デュベルの片腕は今の一撃が精いっぱいだったらしく、ばちばちと火花を上げてだらりとしている。
「またあんたか、ピッツァ・デュベル……」
「随分若々しい事をいうではないか。お前さんが、ヴィランほど自分勝手であったなら、そんな風に偏屈になることもなかったろうになぁ」
もはや戦うには厳しい状態のピッツァ・デュベルを守るようにしてRGBSが前に出る。
ヴィランを守るために立ち上がるヒーロー。その様子を見て、アクロラビットは無意識に一歩引きさがる。
その光景は、いつか夢見たものに違いない。だが、オブリビオンというその性質が、それを許そうとしない。
争いのない世界。それこそが望む世界だったはずなのに、それが得られないから、壊そうとしていたのに。
目の前のこれはなんだ。
どうしてこんな風になってしまったのか。
「くそ、くそ、なんなんだお前らは……何なんだよ!」
激高し、杵を振り上げるアクロラビット。
再び戦意を取り戻した彼は、果たしてまだ正気を保っているのだろうか。
手傷をものともしなくなったアクロラビットは、手負いの獣と等しい。
だがそれは同時に、決着が近いこともまた示していた。
エーカ・ライスフェルト
歴代ヒーローの努力で世界が続いているだけでも素晴らしいと思うのだけど……
これはスペースシップワールド出身者特有の感覚かしら
>アクロラビット
「ヒーローとヴィランの戦いに介入するつもりはないけれど、今の貴方はオブリビオンよ。骸の海に……いえ、歴史の中に戻って貰うわ」
足を止めて【自動追尾凝集光】を連打する
発射後にも操作できるから、人質をとられても、あるいは私自身が人質になってしまっても、人質を避けレーザーを浴びせ続けるわ
「助けるのも見捨てるのもヒーローとヴィランが決めれば良い。申し訳ないけど、私はオブリビオンが気に入らないだけの悪党なの」
猟兵を続けたいから、猟兵になった後は大人しくしているけど、ね
アレクシア・アークライト
いつまで経っても、悪がなくならない?
そんなことで絶望していたら、警察の人達に申し訳ないわね。
掃除も一緒。
毎日ゴミが出るからって、掃除をやめたりしないわ。
だから、貴方も片付けさせて貰うわよ。
・UCで周囲の人や建物への被害を防御。
・杵を力場で掴み、敵の行動を阻害。
・念動力で加速して敵の間合いの内側に入り、超近接戦を仕掛ける。
世界を良くすることは、ヒーローの仕事じゃないわ。
ヒーローの仕事は、皆が世界を良くできるように、今を守ること。
現状維持。悲しいかもしれないけど、それが正義の現実よ。
でも、貴方が戦い、守った幾多の幸せを、また別のヒーローが守ってきたからこそ、昔と変わらない今があるんだと思うわ。
リューイン・ランサード
困ったな、彼の言う事が理解できない
僕は正義の為にずっと戦い続ける自信なんて無い。
彼はすごいと思う。
世界の危機を何度も救い、多くの人々の命を守り、彼に憧れ意志を継ごうとするヒーローを生み出した筈。
でも、報われなかったから全て壊すなんて事は許されない。
「貴方の意志を継ぐ人達はいる。貴方はその人達を信じて瞑すべきでした。貴方を救う為、ここで斃します。」
上空から(攻撃を捉えられないよう)【空中戦】で螺旋状に落下して攻撃。
それに加え、接近寸前で落下を止めて同高度で1回円を描くように動き、相手の杵攻撃を空振りさせる(タイミングは【第六感、見切り】で判断)。
即座に密着し【炎の属性攻撃】込の震龍波を叩き込む!
バーン・マーディ
(赤の混じった黒き風を纏う騎士。しかし既に怒気は無く憐れみを抱き
哀れなヒーローだ
貴様に断言する
あまりに当たり前の事だ
「人が居る限り悪はけして滅ばない」
簡単な事
戦ってきたと言ったな?
振るわれる拳も…刃も…それらは所詮「暴力」…即ち「悪」だからだ
貴様を蹂躙する我ら猟兵も
ヒーローも
ヴィランも
戦う以上「悪」である事から逃れられん
…哀れだな
貴様はそれを理解したが故にオブビリオンへとなったのか
…それでも…我は宣言しよう
悪には悪の正義がある
【オーラ防御】展開
今回は彼の叫びと慟哭を受け止め
その上で【カウンター・生命力吸収・吸血】で反撃
消えゆく彼に
最後だ…今を生きるヒーローとヴィランの伝えるべき事を伝えよ
ヒーローを追い詰めてはいけない。多くの悪役が、そのピンチに覚醒した能力によって打ち倒された来たからだ。
かつてのヒーローの残滓であるアクロラビットであってもそれは同じことだった。
「壊す、壊す……全て……」
激高して心情を吐露したことによって、彼はもはや本来の正義感やその苦悩もオブリビオンという特性とない交ぜになり、その存在を危うくしていた。
居合わせた猟兵たちもまた、その宿命故か、オブリビオンとして脅威と化したかの者を見逃すことができない。
とはいえ、
「困ったな……彼の言うことが理解できない」
もはやヒーローでもヴィランでもなく、ただのオブリビオンでしかない敵と対峙するように、RGBSをさらにかばう様に降り立ったリューイン・ランザードが呟く。
正義の為にずっと戦い続ける自信なんて無い。
彼はすごいと思う。
世界の危機を何度も救い、多くの人々の命を守り、彼に憧れ意志を継ごうとするヒーローを生み出した筈。
彼の存在そのものが、人々の希望、彼の言うマシな世界を維持しようという心を紡いでいた筈なのに、
それなのに、報われなかったからと、全てを破壊しようなんてのは、許せない。
今までのリューインならば、進んで矢面に立つことなどしなかったろう。
戦場は恐ろしく、生来に臆病な気質のリューインが前に立つことなど、余程の決意が無くてはできないことだ。
だが、今は不思議と、恐ろしいとは思わない。ただ、哀しい。
「ああああっ!!」
既に片腕を失ったアクロラビットの気勢がユーベルコードとなり、その身を突き動かして打ち据えた地面が新たに波打つ。
正面に正対するリューインはその波を、彼の持つ護符によって展開した光のオーラが中和する。
その後ろにいるRGBSをも守るつもりだったが、追いつめられたアクロラビットの力はすさまじく、そしてもとより守ることがあまり得意とは言えないリューインの急ごしらえの防御では、限界があった。
「いつまで経っても悪がなくならない? そんなことで絶望していたら、警察の人に申し訳ないわね」
声が響き、変じていくアスファルトの波が押し留められる。
不可視の念動の力がアクロラビットの攻撃と拮抗したのだ。
ユーベルコードに対抗できるのは、これもまたユーベルコードである。
次の瞬間、超能力で転移してきたアレクシア・アークライト(UDCエージェント・f11308)は、リューインに代わるように立ちはだかり、サイキックパワーを稲妻のように迸らせて自信満々に胸を張る。
いきなり現れたその存在感に周囲が一時唖然とするのを機に、リューインは防御を解いて飛び上がる。
アレクシアの強力な念動力があれば、RGBSの防御も必要ないと判断し、攻撃に専念することを選んだのだ。
「掃除だって一緒。毎日ゴミが出るからって、掃除しないわけにはいかないでしょ。だから──」
そうしてアレクシアは微笑みのままにアクロラビットを指さし、
「──貴方も片付けさせてもらうわよ」
さした指を拳に握りこんで、得意の念動力で自身を加速させる。
地を蹴った初速はあくまでも切欠で、物理法則も捻じ曲げた念動力由来の加速は、まさに滑るような動きである。
しかしアクロラビットもそれを黙って許しはしない。
杵の打撃によるアスファルトの脈動は、それそのものが攻撃でもあるがそれと同時に打ち据えた無機物を自身の配下の機動兵器を作り出す能力でもある。
今までは、それらが動き出す前に撃ち落されてしまったが、窮地に立たされたアクロラビットの力は、その機動までのラグを省いており、生成途中の泥人形のような状態ですら、加速するアレクシアを止めようと襲い掛かってくる。
「無駄無駄っ」
それら機動兵器のなりそこないが道を阻もうとするも、迸るサイキックパワーを纏ったアレクシアの念動力が、触れられる前に機動兵器をひしゃげさせる。
「世界を良くすることは、ヒーローの仕事じゃないわ。
ヒーローの仕事は、皆が世界を良くできるように、今を守ること。
現状維持。悲しいかもしれないけど、それが正義の現実よ」
機動兵器の攻撃を掻い潜り、アレクシアはついにアクロラビットへと肉薄する。
「うおおおっ」
接近に合わせて振るわれた杵だが、それをもらうわけにはいかない。
またも念動力でその杵を抑えつけようとするが、完全に動きを封じることはできない。
だが、その一瞬だけでもアレクシアにとっては十分だ。
斥力のような力場で手首をコーティングした両の拳がアクロラビットに炸裂する。
「でも、貴方が戦い、守った幾多の幸せを、また別のヒーローが守ってきたからこそ、昔と変わらない今があるんだと思うわ……」
打ち据えた体勢のまま動きを止めるアレクシアに対し、ずるりと体勢を崩して膝から崩れ落ちようとするアクロラビット。
(僕は報われているだろうか)
「えっ?」
声ならぬ声が耳ではなく心に響いたような気がした。超能力を増幅されたサイボーグである彼女であるからこそ、感じ取れた彼の心情だったのか。
思わず一瞬だけそれに気を取られてしまったが、アクロラビットにとってもまた、その一瞬があれば充分であった。
「があっ!」
動きの鈍い杵を手放し、崩れた体勢を立て直す動きのまま、鋭利な足先が振り上げられ、アレクシアに襲い掛かる。
なんとかそれを受けるものの、こちらも体勢を崩し、二撃目を受けるのは難しい。
そして正気を失ったとはいえ、戦いがその身にこびりついたアクロラビットのメソッドはその程度では揺らがない。
(しまった……)
私としたことが、少し感傷的になったか。
相手に肩入れするつもりはなかったが、相手を感じすぎてしまったかもしれない。それが油断を招いた。
「貴方の意志を継ぐ人達はいる」
そこへ追撃ではなく、リューインの声が降り注ぐ。
攻撃のために上空へ飛んだリューインといえば、これまでも魔法を用いた飽和攻撃だったが、それはもうアクロラビットも既知のものだ。
そして一度それを杵で受けていたアクロラビットは、杵の能力でそれをコピーすることができる。
またも同じ攻撃を受けるわけにはいかないアクロラビットが、杵の先端から、先刻受けた光の光線を放つ。
だが、リューインは誰よりもその攻撃を知っている。また、彼の経験がこの行動で光弾を使ってくることを予期していた。
解っていれば回避もできる。
守護の魔法を解き、螺旋を描くようにしてリューインは降下する。
構えた拳が陽炎のような靄を纏うのは、何物をも粉砕する超振動を展開させているからだ。
「貴方はその人達を信じて瞑すべきでした。貴方を救う為……ここで斃します!」
上空へまき散らされる光弾を掻い潜り、加速したリューインが拳を振りかぶって、そのままアクロラビットごとアスファルトへ激突する。
(僕は救われているのか?)
ごう、と粉塵が散り、土くれがあちこちに飛び散って、人型を象っていたものの幾つかが半ばから砕けて無機物に戻っている。
その傍らでアクロラビットが杵を杖代わりによろけて数歩下がり、拳を地に打ち付けた姿勢のまま、荒い息を漏らすリューインの姿があった。
周囲の残骸は、激突の瞬間にアクロラビットを守るように間に入った元アスファルトの機動兵器だったものだ。
その介入によって、リューインのユーベルコード『震龍波』は完全には入らなかったものの、アクロラビットの無機質な黒い頭部にはヒビが奔り、トレードマークの黒い耳は片方がちぎれ飛んでしまっている。
だが、攻撃を優先して防御を捨てたリューインもまた、今の攻撃をもう一度行うことはできない。
驚くべきことに、アクロラビットはリューインの攻撃を受けつつも、杵による反撃をしっかり加えていたのだ。
加速を加えていた分だけ、リューインにもダメージがあった。
仕留めるつもりの一撃だったからこそ、防御を捨てて攻撃に転じたつもりだったが、仕留めきれなかったのはまずかったかな。
冷静に行動していたつもりだったが、いつのまにかこの世界の熱い精神に影響されてしまったかもしれない。
だが、気のせいかもしれないが、攻撃の瞬間に頭の中に聞こえたアクロラビットの声に、リューインは不思議と穏やかなものを感じていた。
よろよろと杵を担ぎなおすアクロラビットを見上げながら、リューインはぼんやりと、先刻食べたピザのことなどを思い出す。
もう一歩だけでも動ければなぁ。また、食べに行きたいな。
敵の眼前ではあるのだが、怖いとは思わなかった。
「壊す、壊す……」
うわごとの様に続けるアクロラビット。その側頭部に別の光弾が命中する。
「ヒーローとヴィランの戦いに介入するつもりはないけれど、今の貴方はオブリビオンよ。骸の海に……いえ、歴史の中に戻って貰うわ」
もうもうと立ち上がる粉塵を薙ぎ払うかのように放たれた光線。それにより露になった夜会ドレスのような格好の猟兵エーカ・ライスフェルトは、敢えて言葉を選んで言い直すと、憐れむような慈悲を与えるようなそんな寂しげな笑みを浮かべる。
既にいくつもの文明が滅んだ末に移民船で生活するしかないスペースシップワールド出身の彼女からすれば、歴代ヒーローの努力で世界が続いているだけでも素晴らしいと思える。
だが、長い長い戦いの歴史というのに関わり続ければ、やはりどんな高い志や精神性を抱いていても摩耗してしまうものなのかもしれない。
アクロラビットの持つ悲しみ、エーカはそれをわからないではない。
だからこそ、これ以上彼を、その苦悩の渦に置いておくわけにはいかない。
「助けるのも見捨てるのもヒーローとヴィランが決めれば良い。申し訳ないけど、私はオブリビオンが気に入らないだけの悪党なの」
よろよろと膝をつくアクロラビットに、なおも寂しげな顔を向けつつ、自身を嘲りユーベルコード『自動追尾凝集光』を収束する。
今のアクロラビットはもはや攻撃を満足にはかわせまい。
拡散させて機動力を奪う必要はないが、味方を人質にとられるのも面白くはない。
状況を冷静に読み解きつつ、エーカは収束した光線をアクロラビットに向ける。
その斜線を遮るようにアスファルトから生まれた機動兵器が立ちふさがるが、もとがその辺にある無機物に過ぎない機動兵器では、収束されたレーザーを完全に止めることはできない。
アクロラビットは機動兵器によってわずかな瞬間だけ遮られたレーザーの射線からそれつつ移動するほかないが、その身を掠めるレーザーは着実にアクロラビットの身体を焼いていく。
このまま持久戦に持ち込むなら、機動兵器もいつか在庫が切れて直撃することも可能だろう。
だが、せっかく自由に動く機動兵器があるというのに、防御のためだけに動かすものだろうか。
自分ならどうするか。
今回の戦いでエーカもまた、機動兵器による集団戦を行った。
防御に向かない脆い機動兵器は、攻撃のために用いるのが最善だったはずだ。
そうか、と気づいた時には、エーカの周囲を機動兵器が囲んでいた。
こちらも足を止めて攻撃に専念するあまり、回り込む機動兵器の存在に気づかずにいた。
「ちいっ!」
レーザーを薙ぎ払う様にして狙いを変更するも、全てを破壊するまでには至らなかった。
「後ろは任せろ!」
エーカの背後に迫った機動兵器を破壊したのは、なんと他の猟兵ではなく、RGBSの面々だった。
自分は悪党だって言ったのに。そしてハッカーである自分はきっとそれで間違いない。
だというのに、一緒の戦線に立って、あまつさえ守ろうとさえする。
ヒーローというものは、本当に不思議だ。
だが、微笑みかけたエーカの失策は、咄嗟にレーザーの狙いを機動兵器に逸らしたことだった。
それに気づいた時には、いつの間にかアクロラビットがすぐ近くまで肉薄していた。
その杵が陽炎のような超振動を纏っている。リューインに反撃した瞬間にそのユーベルコードをコピーしていたのだ。
既に手負いとはいえ、その威力はおそらく必殺。
受けることはあり得ない。
だが、足を止めて射撃体勢にあるエーカには咄嗟に回避する術は持たない。
「貴様の慟哭、確かに聞き受けた」
振り下ろされる杵が、すさまじい爆音と共に受け止められる。
黒い外套が強風にあおられて、それ自身が黒い風であるかのように夕闇に染み出す。
全ての悪の味方を豪語するヴィランの猟兵、バーン・マーディが、その漆黒の井出達を盾のごとく滑り込ませたのは、ひとえに守ったエーカが自らを悪党と謳ったからだ。
超振動による甲高い耳鳴りのような音を響かせつつ、その杵を受け止めるバーンの剣が怪しい光を湛える。
ユーベルコード『黒風鎧装』により赤黒い風を纏う今のバーンに守れぬ悪はない。
「哀れだな。哀れなヒーローだ。貴様に断言する。あまりに当たり前のことだ」
拮抗を崩して杵をはじき、返す刀で袈裟懸けに切りつけるが、アクロラビットは飛び退って距離をとる。
もはや得意の機動力はほとんどないため、バーンはそれを追ってさらに剣を振るう。
受け止めるしかないアクロラビットは、またも拮抗状態に陥る。
「人が居る限り悪はけして滅ばない」
バーンの言葉にアクロラビットは明らかに動揺を見せる。
その隙をついてさらに攻勢に出る。剣と杵の打ち合いが続き、アクロラビットは徐々に押されていく。
「簡単な事。
戦ってきたと言ったな?
そうして振るわれる拳も…刃も…それらは所詮「暴力」…即ち「悪」だからだ」
言葉を紡ぎながら、バーンはなおも続ける。
「貴様を蹂躙する我ら猟兵も、ヒーローも、ヴィランも、
戦う以上「悪」である事から逃れられん」
それはまさに、己の存在肯定というより、自身の求める真理を説いているかのようでもあった。
振るう拳にどれだけの大義を乗せたといっても、それは暴力であり、暴力は悪である。
振るわれる正義が、真に求める正義であったかどうか。その先に絶望し、道から外れて悪との謗りを受ける者を、バーンは幾つも見てきた。
人の数だけ正義があるからこそ、誰かにとっての正義がそのまま誰かの邪悪である。
正義の裏に悪があるのではない。悪とは、悪とは。
剣を振るうバーンの心根にあるのは、もはや怒りではない。
「哀れだな。貴様はそれを理解したが故にオブビリオンへとなったのか。
それでも、我は宣言しよう」
大きく弾き、バーンは戦いの最中だというのに構えを解き、剣をアスファルトに突き立てる。
「悪には悪の正義がある」
「うおあぁぁぁ!!」
もはや言葉を失ったアクロラビットが吼える。
その攻撃はユーベルコードでもなんでもない。
ただ力任せに杵を振るう。もう力が残っていないのであろう。
その仮初の命を燃やし尽くすかのように、RGBSに言葉の丈をぶつけた時の様に、血を吐くように、声を上げて、アクロラビットが渾身の力のまま、杵を振り下ろす。
その単純な攻撃を、神の座にまでのし上がったバーンが受けられぬ筈もなく。
あえて構えを解いて誘った攻撃に、地に刺した剣を抜き打つ形で、
二人は交錯する。
「っはは、参ったな……」
一刀のもとに切り伏せられたアクロラビットが発したのは、存外に穏やかな言葉だった。
彼が負った傷は致命的だった。まさに今際の際。オブリビオンとしての性質が死に差し掛かり、本来の彼の性質が浮かび上がってきたのだろうか。
だがそれも長く続くわけではない。骸の海に戻ろうとするその身は、今にも消え去ってしまいそうだ。
「最後だ。言い残すことはあるか? 伝えるべきことは、あるか」
すれ違った姿勢のまま、剣を収めつつ、バーンはヒーローに対し言葉を紡ぐ。
「ないな。満足だよ……。どうしてかな。気分がいいんだ」
そうしてヒーローは、もはや死に体の身体で夕闇に染まりつつある空を仰ぎ見つつ、倒れていく。
「この時代にも、気合の入ったヒーローやヴィランが居る。それが知れたのが、嬉しい……んだ」
やがてささくれ立つように、ヒーローだったものがその存在を風とするまで、バーンや、他の猟兵たちも、空に流れるオレンジに染まる雲と共に、かの者が溶けて消えた風を感じつつ……しばらく佇んでいた。
「果報者め」
やがて風が凪ぐ頃に、バーンは誰にも聞こえないほどの声を漏らす。
それが聞こえたか聞こえなかったか定かではないが、他の猟兵たちもめいめいに動き始める。
「ああ、また派手にやってしまいましたね……片付けなきゃですね」
「手伝うよ、魔術師。俺も結構派手にやっちゃったしな。機械関係の修理なら任せてくれ」
「こんな瓦礫なんて、私の超能力でちょちょいのちょいっと……。あ疲れたから、もうちょいしてからね」
ある者は大通りの片付けの心配をし、
「うーむ、今回は奴の戦略にしてやられた部分があったな。ひとまず、反省会だな。ピザ屋はどこだ」
「ああ、私も食べたいかも。結局食べそびれて戦いしかやってないし。今はゆっくりしたいわ」
ある者はまず腹ごしらえと意気込む。
そしてある者は。
「ふ……。次の悪の道へと、往こうか」
強い意志のもと、外套を翻す。
夕闇に染まりつつある大通りに、猟兵たちの長い影が伸びていた。
後日、オブリビオンの襲撃により傷ついた街が元の様子を取り戻すころ、古いヴィラン、ピッツァ・デュベルは愛用の改造キャンピングカーと共に、地元の住民、そしてRGBSの面々に惜しまれつつ、次の町へと去っていった。
本来は憎まれ役の筈のカウボーイは、結局、その自由な思想のもと、敵か味方か判らないままだった。
だがそれでいいのかもしれない。
去り際にキャンピングカーから手に持った帽子を振る姿は、ヒーローもヴィランもなく、この世界に生き物に他ならないのだから。
大成功
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