ある浮遊霊は、焦燥感に駆られていた。不幸な事故で命を落としてから幾星霜。帰る場所は既になく、ただただ望郷の念を抱えたまま、無意味にさまようばかりの哀れな雑霊である彼は、その人生、いや、霊生で最大と言っていいほどの焦燥に駆られていたのだ。
帰りたい。どこかはわからないけれど、その場所に帰りつきたい。そんなことを思いながら、延々と彷徨って――ちりん。小さく、風鈴の鳴る音が、その耳に届いた気がした。
気づけばそこは、一面に広がる向日葵畑。輝く太陽がじりじりと肌を焼き、すぐ側には寝転びたくなるような縁側を備えた和風建築。そんな、郷愁を誘う光景の中心で、背の高い向日葵に囲まれた、とても懐かしい雰囲気の少女が振り向いて。
「おかえりなさい」
●
「お盆、って知ってるー?」
グリモアベースで君たちを出迎えたウェンディ・ロックビルは、開口一番、そんなことを言う。
お盆。アース系世界の日本や、サムライエンパイアなどで広く行われている、祖霊を死後の世界から出迎え、そして再び送り出す儀式である。仏教行事が元になったとされるが、その他の信仰とも融合し、長年続く民俗行事となっている。
「そうそう。そのお盆です!それでね、お盆といえば、幽霊さんたちもおうちに帰る日なわけなんだけどー」
このお盆もなお、家に帰れぬ者たちがいるのだという。行き場をなくした浮遊霊たちだ。だが、そう言った浮遊霊たちは通常、強い力を持たないため、大きな群れを作りでもしない限り、猟兵の出る幕ではない――はずなのだが。
「その浮遊霊さんたちが、何かに引き寄せられるみたいに、ある地域に密集する事件が発生してるんだぁ」
周辺一帯の浮遊霊たちが、それこそ“どこかへ帰ろうと”するかのように、足早にある地域に集まったかと思うと――そのまま忽然と姿を消すのだという。
「これがね?あるUDCオブジェクトの仕業みたい。そのコードネームは――『向日葵』」
訪れた者の郷愁を誘うような異界を生み出し、己もその異界に引きこもり続ける少女型UDCである。
しかし、異界に引きこもるだけならば、無害とは言わないまでも、優先して対処すべきUDCは他にもいるはず。そう言った疑問を投げかけた猟兵に、ウェンディは眉尻を下げながら静かに頷く。
「うん。そうなんだぁ。このままにしておけない理由があるの」
如何に無害に見えようとも、オブリビオンなのだ。放置すれば、必ずや人類に災いを為す。彼女の場合ならば、いずれ異界は霊体のみならず居場所のない生者まで招き寄せて、浮遊霊の仲間入りをさせてしまうことだろう。
「だから。積極的に悪いことをするわけじゃない、ただそこに在るだけのUDCを、僕らは退治しないといけないんだ。辛いかもしれないけど……大丈夫?」
己も辛そうな表情になりながらも、心配げに尋ねたグリモア猟兵は、集った面々からの返事に、ほっと笑みを浮かべる。
「みんな、ありがとう。それじゃあ、今回の作戦を説明するね?」
まずは、異界に引きこもる向日葵の元へと辿り着かねばならない。だが、異界には明確な入り口がなく、招かれるのは相手の匙加減次第。
「そこで……みんなには、浮遊霊さんたちに接触して欲しいんだー」
行き場をなくし、故郷を愁う幽霊たち。そんな彼らを見つけ、打ち解けることで、彼らとともに異界へと招かれるはずだという。
「打ち解けるにはやっぱり、みんなの望郷の想いとかをお話ししてあげるのがいいと思う。後は、浮遊霊さんたちのやり場のない想いを聞いてあげたり」
勿論、他に彼らと打ち解ける手段があるなら、それもありだろう。そうして打ち解けることができれば、やがて異界への門が開くはずだ。
「異界に辿り着いたなら……あとは、『向日葵』ちゃんを倒すだけ」
彼女は敵愾心もなく、まるで久し振りに故郷に帰ってきた友人を出迎えるかのように、来訪者を歓迎するため、戦うのは難しくない。
「ただ……あの子は、一切攻撃はしてこない。ひたすら、みんなの郷愁の念を誘って、敵愾心を削いで、最後には、ただ夏休みを楽しむ子供みたいにしちゃう」
心の強さが問われる戦いになるだろう、とウェンディは告げる。
「『向日葵』を倒したら、異界はなくなるんだけど……その時、多分、みんな少しばらばらの場所についちゃうと思うんだぁ。合流場所だけ決めておくから、ゆっくり鈍行電車でプチ旅行気分を味わいながら帰ってくるっていうのは……どうかな?」
月光盗夜
お久しぶりです。月光盗夜です。酷暑の夏。みなさんいかがお過ごしでしょうか。体調を崩さないようにお気をつけくださいね。
さて、今回はお盆をテーマにした、どこかノスタルジックな物語を描きたく思っております。つきましては、プレイングにも、故郷への思いなどを記していただくのが良いかと思います。
シナリオ進行は、浮遊霊との集団戦――というより、浮遊霊たちから異界への行き方を探る第1章、異界の主『向日葵』との戦闘となる第2章、異界から脱出し、束の間の小旅行を楽しむ第3章(日常)となっております。
●第1章について
第1章は、浮遊霊との集団戦になります。ただし、異界への入り口を見つけるためには、彼らの共感を得なければなりません。彼らに、みなさんの思い出話を語りかけるような方針で行動していただくのをお勧めいたします。無論、他の手段でも構いません。
第1章 集団戦
『帰宅するものたち』
|
POW : 俺はただ家に帰りたいだけなんだ! やめてくれ!
対象の攻撃を軽減する【カバンを盾にした必死の超防御モード 】に変身しつつ、【思わず攻撃をためらってしまう哀れな姿】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD : 俺のことを待っている人がいるんだ! 死ねない!
自身に【超回復する根性のオーラ 】をまとい、高速移動と【大切な者の記憶を呼び覚まし共感を誘う波動】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 俺には戦う力なんてないのに! あんまりだ!
【猟兵の強さや自分の弱さに絶望する】事で【どんな隙間でもすり抜ける超走行モード】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
聖護院・カプラ
今回の『向日葵』が何も悪事を起こしていなかったとしても、
いずれその手を血に染め凶行に走る――理解はしていても、躊躇う脳リソース領域がないとは言えません。
ですが『帰宅するものたち』の姿を確認して気持ちを改めました。
彼らはいずれ還らねばならない。
自分を、家を、名前すらも忘れた彼らをこのままには……
ああ、名前ですか。確かめましょう。
どの世界も挨拶は名乗りからです。
『存在感』コンバータで生成された『説得』力で通話パスを通し、
『帰宅するものたち』との対話を試みて流れから異界を突き止めましょう。
聖護院と申します。サラリマンと見受けますが、お名前をお伺いしても宜しいでしょうか?
武器など持ち合わせていません。
都会に程近い割には、驚くほど、自然を……というよりは、昭和の風景を残した、郊外の一角。そんな場所が、グリモア猟兵の告げた、浮遊霊の集合する地であった。
そんな町並みを小高い丘の上から見下ろしながら黙考する、異形の僧侶がいた。聖護院・カプラ(旧式のウォーマシン・f00436)である。
とてもではないが昭和の町並みには似合わない姿の彼であったが、祈る様に手を合わせながら黙考する彼は、ある種宗教画めいた存在感でもって、周囲の景色に一体化していた。その方には小鳥が停まってすらいる。
「今回の『向日葵』が何も悪事を起こしていなかったとしても、いずれその手を血に染め凶行に走る――理解はしていても、躊躇う脳リソース領域がないとは言えません」
景色の中に点在する向日葵を見つめながら、そう呟くカプラ。ヒトの善性を肯定する彼にとって、善意でもって、浮遊霊に安息の場を与えようとする彼女の行動は、実に悩ましいものであった。
だが、そんな懊悩は、町の中を彷徨う、一人の勤め人風の浮遊霊を目にしたことで改められた。すく、と立ち上がると、その大きな歩幅でもって、浮遊霊のもとに近づいていく。
「あなたたちはいずれ還らねばならない。『向日葵』の異界は穏やかなれど、真なる安息はもたらさないでしょうから」
『帰る……?ああ、帰るんだ……。でも、どこへ……?』
巨大な人影に急に話しかけられても驚いた様子もなく、ふらつく浮遊霊。
「自分を、家を、名前すらも忘れたあなたたちを、このままには――」
そこまでいって、カプラはひとつ頷いた。
「ああ、名前ですか。確かめましょう」
どの世界も、挨拶は名乗りから。そういって、彼は両手を合わせて、深々と一礼する。
「聖護院と申します。サラリマンと見受けますが、お名前をお伺いしても宜しいでしょうか?この通り、武器など持ち合わせていません」
彼の体内に組み込まれたコンバータによって生成された説得力が、無手を示す仕草を通じて浮遊霊に伝えられる。
『ああ、ドーモ……?俺の……俺の名は……』
有無を言わせぬ説得力に、つい釣られたように一礼を返す浮遊霊。
「やはり、思い出せませんか。……では、ともに行きましょう、『向日葵』の異界へ。その後のことは、私にお任せを」
混乱した様子の浮遊霊に、悼むような声色になるカプラであったが、このやりとりを通して、二人の間にパスは繋がれた。今の彼には、浮遊霊を招き寄せる向日葵の気配が、ありありと感じることができた。
「『向日葵』の後は……あなたたちも、還すことを約束しましょう」
成功
🔵🔵🔴
穂結・神楽耶
…帰る場所、ですか。
実はかなりおぼろげな記憶しかないのですけれど。
話していれば思い出せるかな。
聞いて頂けますか?
…ありがとうございます。
わたくしの故郷。神楽耶の街。
実りの豊かな場所でした。
特に稲作が盛んで…この季節は風が吹くと垂れ始めた穂が揺れる音が聞こえる程でした。
それを聞きながらたくさんの子供たちと隠れ鬼をしたものです。
向日葵に隠れる子もいれば、葉の繁る樹に隠れる子もいて。全員見つけるのには難儀しました。
…懐かしいな。
もう、どこにも存在しない街ですけれどね。
…何でもありません。
さ、次はあなたの番です。
聞かせてくださいな、あなたの思い出話を。
パーム・アンテルシオ
ふふふ。珍しいね、幽霊と話してもいいだなんて。
だいたい皆、この世のものじゃない人とは、無闇に話さないように…って言うのに。
それじゃあ…こんな機会、あんまり無いことだし。
たくさんお話、しちゃおうかな。
私の故郷の話は…そうだね…
恋しくなる時は、もちろんあるよ。
でも、思い出したくない事もあるから…
帰りたいけど、帰りたくない。そんな場所…かな。
それに…今は、皆がいるから。
寂しくないから…ね。大丈夫だよ。
私ばっかり話してないで、あなたの…あなた達のお話も聞きたいな。
やっぱり、"そう"なっても…故郷には、帰りたい?
故郷には、良い思い出が詰まってる?
人として生きてきて…生きられて。よかった、って。そう思う?
「ふふふ。珍しいね、幽霊と話してもいいだなんて」
大人からは、この世のものじゃない人には近づかないように叱られるのが相場なのに、とどこか楽し気に言うパーム・アンテルシオ(写し世・f06758)に、穂結・神楽耶(思惟の刃・f15297)は困ったように頷く。
「ええと……そうですね、確かにわたくしも、どちらかといえばそういったやんちゃな子供たちには苦労させられたものですので……」
「ふふ、そうだよね。それじゃあ……こんな機会、あんまり無いことだし。たくさんお話、しちゃおうかな」
尻尾を揺らしながら、楽し気に浮遊霊を探しに出たパームの後を、とことこと神楽耶がついて行ったのが先程の事。
それからしばらくして、二人の少女は、目当て通り、この辺りに引き寄せられてきた、少女の浮遊霊を見つけたのであった。
『私は行かなきゃ……帰らなきゃ……』
パームと神楽耶に話しかけられても上の空でぶつぶつと呟き続ける浮遊霊に、二人は少し困ったように首を傾げる。
「ううん……どうも、私たちを無視してどこかに行っちゃいそうなんだけど。どうしよっか」
「やはり、ここはウェンディ様が言っていたように、故郷への想いを話して仲間意識を感じていただく必要があるのでは……?」
グリモアベースのミーティングを思い出しながら言う神楽耶に、パームはこくりと頷いた。
「そうだったね。それじゃ、私の方から、ちょっと話してみよう、かな」
「私の故郷の話は……そうだね……」
そういって話を切り出せば、瞼の裏に、ありありと故郷の光景が思い浮かんでくる。雪の降り積もる、人によっては幻想的と評するであろう町並みや、大きく頼りになる里の住人――“家族”たち。懐かしさと、つらさや悲しさがいっぺんに少女の胸に襲い来るようであったが、その痛みに耐えながら、言葉を紡ぐ。
「恋しくなる時は、もちろんあるよ。でも、思い出したくない事もあるから……。帰りたいけど、帰りたくない。そんな場所……かな」
『帰りたいけど、帰れない……?』
言葉を選ぶようにして、途切れ途切れに故郷の想いを呟いていくパーム。幼い容姿に反した、何かを堪えるような、痛々しくも見える様子に何かを感じ取ったのか、浮遊霊が小さく反応した。
「……大丈夫、ですか?」
「……今は、“皆”がいるから。寂しくないから……ね。大丈夫だよ」
心配するような神楽耶の言葉に小さく首を振ると、己の尻尾を撫でつけるように触れながら、パームはそっと囁いた。
「でも……うん、語れるのは、このくらいかな」
「では、わたくしの帰る場所、ですか。実はかなりおぼろげな記憶しかないのですけれど。話していれば思い出せるかな。……聞いて頂けますか?」
パームの言葉を引き継いだ神楽耶は少し不安げに首を傾げるも、浮遊霊が小さく首肯したのを見て、ほっと安堵の笑みを浮かべる。
「……ありがとうございます。わたくしの故郷、神楽耶の町はですね……」
おぼろげな記憶の糸を手繰り寄せるようにしながら、思い出を口にしていく。
自然の実りが豊かな街であった。
「特に稲作が盛んで……この季節は風が吹くと垂れ始めた穂が揺れる音が聞こえる程でした」
目を閉じれば、輝くような黄金色のたんぼが目に浮かぶようであった。
「その音を聞きながら、たくさんの子供たちと隠れ鬼をしたものです」
それこそ、向日葵畑に隠れる子供たちを見つけるのには苦労したものだ、と、そんなことまで思い出してしまって。
「……懐かしいな。もう、どこにも存在しない街ですけれどね」
そんな言葉とともに、一滴。ほんの一滴だけ落ちた水滴が、彼女の腰の柄巻に垂れたかと思うと、そのまま真紅を滲ませた。
『存在しない……?』
「……いえ。何でもありません」
その言葉に反応した浮遊霊に、静かな笑顔で首を振る。
「さ、次はあなたの番です。聞かせてくださいな、あなたのことを」
『私も……帰りたくても帰れない、けど。それは、あなた達みたいな事情じゃなくて……自業自得なの』
そう言って、ぽつぽつと彼女が呟き始めたのは、このUDCジャパンではある意味ありふれた……だからこそ、もの悲しい話。友情、恋愛、勉強、家族……。様々なことに、少しだけ問題を抱えていた少女は、感受性豊かな心を徐々に張り詰めさせていき……あるきっかけで心は決壊し、自ら命を絶つに至った。
『でも、死ぬ瞬間になって、やっぱり、死にたくないって。家に帰って、お母さんのごはん、食べたかったなって。気付いたら……こう』
自殺なんてした私に、帰る場所なんてないよね。と、自虐的に呟く彼女に、しかしパームは問いかける。
「……やっぱり、“そう”なっても……故郷には、帰りたい? 故郷には、良い思い出が詰まってる?」
『……“こう”なるくらい、悩みもしたし、つらいこともあったけど……でも、それだけじゃなかったよ。あの時はわからなかったけど……多分本当は、それと同じくらい、楽しいこともたくさん、あったと思う』
そんな言葉を交わしていると、三人の中心に、突如一輪の向日葵が現れた。
「これは……“向日葵”の異界への入口、でしょうか」
『……うん。帰れる場所がない、私たちは、きっとあそこなら、安心できる』
そう言って、少女は向日葵に手を伸ばす。
『……ね、あなた達も、一緒に行く?』
向日葵に触れる瞬間、少女は振り向いて、パームと神楽耶に微笑みかける。
「……そうだね」
「ええ、参りましょう」
少女に共感するものがある二人の少女は、これから彼女の安息の場所を壊すことになることを確信しながらも、それでも頷いて、彼女の手を取った。
――ねえ、あなたは、人として生きてきて……生きられて。よかった、って。そう思う?
――うん、きっと。あなたは、どう?
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ミンリーシャン・ズォートン
椋(f19197)と行動
――私はもうダメだぁ……
幽霊に接触する前から恐怖心が強すぎて……
震えながら、常に隠れるように彼の背にひっつき顔を埋めたまま歩きます
浮遊霊を見つければ
悲鳴をあげ
更に強く椋にしがみつき
異界の入口を聞く為に幽霊に話しかけるのは彼に任せ
二人の会話を聞き続け、少しずつ怖さが落ち着けば
怖がったりしてごめんなさい、と謝罪
私と彼の名前を改めて伝え自己紹介した後、浮遊霊さんの名前も伺い、名前で呼びます
霊の想いや願いを聞いて私達に協力出来る事があればなるべく応えてあげたい……
無理難題な願いでなければ協力する約束を交わし
改めて異界の入口の場所を尋ねます
※アドリブ歓迎
霊には丁寧な敬語
椋には平語
杣友・椋
ミンリーシャン(f06716)と行動
リィと呼ぶ
幽霊が苦手とは聞いていたけど、此処までとはな
しがみつく彼女に苦笑しつつその頭をぽむぽむ叩く
浮遊霊を見つけたら、よお、と声を掛け
突然悪いな。俺達、おまえの話を聞きたいんだ
想い出話でもしねえか?
先ず語るは自分
俺はふるさとに帰ることができない
帰りたいけど、もう故郷の地が存在しねえんだ
黄昏照らす家の灯りに、おかえりと微笑む両親
遠い記憶に想いを馳せ――懐かしいな
今度はおまえの番だよ、と霊を見つめ
君の話に丁寧に相槌打って、共感の言葉を
おまえも、苦しいのな
俺とリィは、おまえの想いを果たす為に協力したい
なあ。俺達の目指す場所へ、導いてくれないか?
▼アドリブ歓迎
夷洞・みさき
この手の霊はオブリビオンなのか迷う所だけど…まだ咎を重ねていないなら
禊潰す必要は無いのかな。
【WIZ】
魚介専門の屋台を装う。
生身一人と霊体六人で切り盛り。
そんなに急いで何処に行くんだい?
少し食べていかないかい。僕の故郷の料理なんだけど(魚介系パエリアっぽい何か)よく友達と一緒に良く食べていたんだよね。好きな具が被ると大騒ぎだったけどね。
君にもそういった料理はあったりするのかい?
浮遊霊と故郷の友達や郷土料理の話をする。
帰ればご飯が待っているのかな?
お土産にしてもいいよ?冷めるとあまり美味しくないかもだけど。
…おや、この匂いはなんだろう?君、わかるかい?
六連星・伊織
望郷。郷愁。……難しい言葉です。
私には、故郷というものがありませんから。何も、覚えていなくて。何も
家族はいたのか。友人は。どんな所に住んでいて、どんなものが好きで。
自分が、どんな自分だったのか……そんな事もわからない私に、言葉の意味はわかっても、その言葉に込められた想いは、わからなくて。
だから――
「……だから、聞かせてほしいんです」
「あなたは、どんな人だったのですか。何が好きで。どんな人達と過ごして。どんな日々を、愛していたのですか」
――私は、それが知りたいのです。そう、浮遊霊に語りかけましょう。
私に語るべき思い出はないけれど。きっと、彼らの思い出を聞いてあげる事はできるはずですから。
各々の方法で、浮遊霊たちと接触していく猟兵たち。そしてここにも、新たに彼らと接触しようとする猟兵たちが――
「私はもうダメだぁ……」
いなかった。浮遊霊に接触とかそれ以前の問題であった。
「帰ろうよ椋ぅ~」
「幽霊が苦手とは聞いてたけど、此処までとはな……」
恐怖心のあまり、背中に顔をうずめたまま歩を進めるミンリーシャン・ズォートン(綻ぶ花人・f06716)の態度に、呆れと微笑ましさの混じったような苦笑を浮かべながら、杣友・椋(涕々柩・f19197)は彼女の頭を軽く撫でるように叩いた。
「安心しろよ、俺がついててやるから……と、早速浮遊霊発見、か?」
「ひゃああああっ!」
遠目に浮遊霊を見つけた椋がそう呟けば、己の目で見たわけでもないのに、恐怖心のあまりさらに強く彼にしがみつくミンリーシャン。ともすれば自分の方がおんぶおばけの如き引っ付き具合であった。
「安心しろって。ほら、こっちにはまだ気づいてないみたいだ」
「ぁぁぁぁ……あ? …………ほんとだね」
か細い悲鳴をあげていた少女は、おっかなびっくり背中から顔を浮かせると、浮遊霊が何かに吸い寄せられるようにふらふらと歩いていく様を見て、小さく安堵のため息をつく。
「よし、あいつから話を聞いてみることにするか」
「えっ、気付いてないんだからほっとこうよ! ほらきっともうちょっと話しかけやすそうな幽霊さんもいるはず、あぁぁぁぁぁぁ」
安堵したのも束の間。引きずられるように歩きながら、ミンリーシャンは情けない悲鳴を上げるのであった。
『行かないと……辿り着かないと、あの場所へ……』
さて、自分がそんな二人につけられているとは気づかず、ふらふらと歩いていた浮遊霊であったが、その足がふと止まる。
「そんなに急いで、何処に行くんだい?」
「私たちと、少しお話しませんか?」
『これは……屋台……?』
浮遊霊を呼び止めた二人の女性がいるのは、路傍に佇む移動屋台であった。何やら巨大な車輪がモニュメントのように飾られていることも目を引くが、より特徴的なのは、その屋台を切り盛りするのが、青白い肌の不健康そうな人影――死霊であることであった。
「少し食べていかないかい? 僕の故郷の料理なんだ」
死霊たちを率いる同じく青白い肌の女、夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)が、小皿に盛り付けた料理を差し出して、浮遊霊を手招きする。
「私も一口頂いたんですけれど、とても美味しいですよ」
『これは一体……?』
穏やかに微笑みかける小柄な少女、六連星・伊織(六連星製超人兵壱○六號・f16683)に警戒心を解かれたのか、浮遊霊は困惑しながらも促されるように、彼女の隣の席に着いた。
「みさきさんの故郷の味なんだそうです。パエリアみたい、って言ったらいいんでしょうか」
そういうことを聞いているのではないのだが、と戸惑っている浮遊霊であったが、更に現れた二人組によって、その質問はさえぎられることになる。
「へぇ、屋台。確かにゆっくり話すのにはよさそうだな。ほら、リィも入れよ」
「あ……これなら、うん。確かに、落ち着けるかも」
かくして、4人の猟兵たちは、浮遊霊を交えて食事を行うことになった。といっても、ミンリーシャンはまだ浮遊霊が怖いのか、おっかなびっくりとでもいうべき様子だが。
「さて、突然悪かったな。俺達、おまえの話を聞きたいんだ」
『私の……話を……』
未だ困惑げな様子の幽霊を落ち着かせようとするように、普段の皮肉気な表情とは裏腹に、どこか優し気に椋が微笑みかける。
「ま、人に話を聞くときはまず自分から、だな。俺もふるさとには帰りたいんだけどな――」
想い出話でもしようぜ、とそういって、竜の少年は己の故郷に思いを馳せる。幼き日に、陽が暮れるまで遊び徹した後の黄昏の中を照らす我が家の光に、疲れ果てて帰りついた自分を温かい微笑みで出迎えてくれた両親。
懐かしく、温かい想い出だ。しかしもう、故郷も、家も、両親も、全てこの目で見ることはできない。記憶の中にしか存在しない、儚い想い出になってしまった。
「でも、俺の故郷はもうないんだ。俺に残されたのはほんの僅か。だから、帰りたいのに帰れない……そんなおまえの気持ちは分かる気がするよ」
「椋……」
今となっては唯一の身寄りとなった兄の姿を思い浮かべながら、そう言って話を結ぶ椋。改めて聞いたその身の上に、ミンリーシャンも小さく目を潤ませる。
「あのね、浮遊霊さん。さっきは怖がったりしてごめんなさい」
気にしていない、と首を振る浮遊霊に、しかし彼女は深々と一礼してから、言葉を続ける。
「私、ミンリーシャン・ズォートンといいます。彼は杣友・椋。あなたのお名前も、聞かせてもらえませんか?」
『私の、名前……』
己の名前すらも思い出せない、と首を振る浮遊霊に、今度は伊織が声をかける。
「ふふ、私と似てますね」
『似ている……?」
正者である君と、自分のどこが似ているのだろう。そんな風に首を傾げる浮遊霊に、どこか甘えるような色を感じさせる吐息で笑いかけた。
「私も、故郷というものがありませんから。何も、覚えていないんです。何も。六連星・伊織という名前はありますけれど」
『それは、確かに……似ているかもしれない……』
そういって頷いた浮遊霊は、所在なさげにきょろきょろと周囲を見回した後、沈黙に耐え切れないかのように、ようやく差し出された料理を一口食べてみた。
『これは……』
口に含んだ瞬間に通り抜ける、香ばしい香りに、穀物に染み込んだ魚介のコク。気付けば浮遊霊は絶句していた。こうして彷徨うようになって以来、食事などをとるのは初めてだったというのもあるが、それ以上に、この一皿から、不思議な温かみを感じたがゆえ。
「どうだい? 口に合うかな。これが僕にとっての想い出の味でね。よく友達と一緒に食べていたんだ」
そういって、にへら、とみさきは微笑むと、自分のことがわからないという浮遊霊の代わりのように語り始める。 今となっては己しか語る者のいなくなった失われた都の想い出を。
「この料理はみんなが好きでね。好きな具が被ると大騒ぎだったよ」
そう言って言葉を切ると、料理の手を休めて己を取り囲む死霊の少年少女たちをちらと見回すみさき。
その表情に、伊織は何故だか不思議な気持ちを感じたが、彼女はその気持ちを表現する言葉は生憎持ち合わせていなかった。みさきを見つめた後、浮遊霊に向き直り、一礼する。
「……浮遊霊さん。あなたのことを聞かせてほしいんです。あなたは、どんな人だったのですか。何が好きで。どんな人達と過ごして。どんな日々を、愛していたのですか」
『私が好きだったもの……愛していた日々……。そうだ、コテツ……』
『ああ、思い出した、思い出したよ。私が帰りたかった場所』
二人の話を聞いて、ぽろぽろと涙をこぼしながら、浮遊霊は途切れ途切れに呟く。
「では、改めて名前を教えてもらえませんか?」
「俺たちは、おまえの思いを果たすために協力したいんだ」
ミンリーシャンと椋の言葉に、男は小さく首を振って。己の名前も、故郷さえも曖昧になった記憶の中で、唯一心に刻み付けられていた未練を語る。
『もし君たちが、無事に“里帰り”を終えることができたなら――どうか。どうか、コテツを……』
己の可愛がっていた野良犬の様子を見に行ってくれないだろうか――。そういって男の姿は掻き消えた。
「……成仏した、ということでしょうか?」
「いいや、そういうわけじゃなさそうだ。この匂い……きっと、未練をはっきりと思い出したことで、“向日葵”の世界に招かれたんだろう」
首を傾げる伊織に、みさきは小さく鼻を鳴らすと首を振る。言われてみれば、確かに突然、香ばしい料理の匂いに紛れて、夏の草原のような香りが漂ってきていた。そして、気づけばいつの間にやら、屋台の前には、一輪の大きな向日葵が咲いている。
「つまり、これが、入口っていうことですね」
「ああ。気を付けて突入して……帰ってこないとな」
約束もしてしまったのだから、と頷き合って、猟兵たちは向日葵の花に手をふれた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
玉ノ井・狐狛
「なぁなぁ、おニィさん。ちょっとアソぼうじゃん。見るだにキマジメそうな顔だし、どうせ溜まってるんだろ?」
懐から取り出すのは、何枚かのカード。和風の意匠は、花札を想起させる。
「単純な博打さ。掛け金が“魂”であること以外は」
本来ならば遊戯の場に乗せる算段が必要となるが、今回は元より相手に敵愾心がない。好都合だった。
勝てば無論よし。負けてもそれはそれで、異界に入り込みやすくはなるだろう。
「ほら、何なら世間話でもしながらさ」
追放された身ではあるが、里のことは嫌いではない。思い出話のネタはある。
「おニィさんによく似た顔のヤツが居てさ――」
「なぁなぁ、おニィさん。ちょっとアソぼうじゃん。見るだにキマジメそうな顔だし、どうせ溜まってるんだろ?」
ともすれば軽薄にも思える態度で、道行く浮遊霊を呼び止めたのは、小柄な妖狐の少女、玉ノ井・狐狛(代理賭博師・f20972)である。
『遊ぶ……?何を……?』
「大したことじゃないよ。ちょっとした札遊びさぁ」
懐から取り出されたのは、和風の柄が描かれた何枚かのカード。花札のようにも見えるが、どうにも違う雰囲気である。
「単純な博打だよ。掛け金が“魂”であること以外は」
代理賭博師を生業とする彼女にとっては、本業ともいえる遊びだ。本来であれば、魂を賭けた札遊びに際しては相手を遊戯に乗せるために、ちょっとした手練手管、あるいは綿密な相談が必要となるが、此度の相手は、自我も敵愾心も薄い浮遊霊。有体に言ってしまえば“カモ”である。
「ほら、何なら世間話でもしながらさ」
『世間話……幽霊に世間も何もあったもんじゃないけどね』
狐狛の態度に釣られるように、冗談めいたことを言う浮遊霊に小さく笑って。札を配ると、遊戯を開始した。
「それじゃ、アタシの故郷の話にしようか。おニィさんによく似た顔のヤツが居てさ――」
軽妙な語り口で故郷の想い出話を紡ぐうち、あっという間に札遊びは勝負がついた。無論、勝ったのは言うまでもない、狐狛である。勝負師としての彼女の武器である観察眼や霊感はほとんど必要なかったほどあっけない勝負であった。だが、勝負は勝負。これによって、勝者は敗者の魂に干渉が可能になる。よって――。
「掴まえた。……なんてな」
相手の魂を通じて、向日葵の気配を感じ取った狐狛は、ニヤリ、と笑うのであった。
成功
🔵🔵🔴
灯火・紅咲
あっはっ♥
こーゆーのもヒーロー活動って言うんですよねぇ?
くふっ、うひひひひっ♥
ボクぅ、あんまり人とお話を合わせたりって苦手なんですよねぇ
だって、なんでか周りの人はボクの話を分かってくれなかったりすんですよねぇ
不思議ですよねぇ
だからぁ……お話しやすい姿に変身しちゃいましょぉ
周りから離れてるような人? ゆーれーさんを狙ってぇ、【シリンジワイヤー】でぶすっと【吸血】
できれば女の子の方がいいですけれど、その辺りは適当にいきましょぉ
ダメだったら別の人を使えばいいだけですしぃ
血を手に入れたらユーベルコード発動
幽霊さんと同じ姿に変身してお話を聞いて周りましょうぉ
【アドリブ、他の方との絡みは歓迎】
「あっはっ♥どーしよっかなぁー?」
小川の傍を行く数人の浮遊霊を眺めて、灯火・紅咲(ガチで恋した5秒前・f16734)はぺろりと己の指を舐めた。
「ボクぅ、あんまり人とお話を合わせたりって苦手なんですよねぇ。だって、なんでか周りの人はボクの話を分かってくれなかったりすんですよぉ」
不思議ですよねぇ、とそんな独白をしながら、紅咲は思索する。実際の所、彼女の人格が破綻していることをさておいても、特異な見た目の彼女は簡単には幽霊たちと馴染むことが難しいというのは事実だったかもしれない。
「そーゆーわけでぇ……」
きょろきょろと周囲を見回すと、都合よく一人で竹林の中に入っていくOL風の浮遊霊を発見。狙いを定める。
「うん、折角ですしぃ、女の子の方がいいですよねぇ」
高い身体能力で音もなく近づくと、袖下に仕込まれたワイヤー射出機構を発動。高速で発射されたワイヤーの先に取り付けられた小型注射器が浮遊霊の首筋にぶすっと突き刺さり、血を吸い取る。
「えへへ……ゆーれーさんも、血は通ってるんですねぇ」
巻き取ったワイヤーから注射器を外すと、アンプルをからからと揺らして、生者と変わらぬ真紅の血に見惚れるように笑った。そして、アンプルの蓋を外すと。
「それじゃ……いただきますねぇ♥」
ぺろりと軽く突き出した舌の上で、注射器を傾ける。どろり、と零れた血液が舌の上を這うように伝って、彼女の口腔内へと飲み込まれていく。猟奇犯めいた一連の奇行は、全て、彼女のユーベルコードを発動するための手続き。
「メイクアップ……なぁんて」
彼女の骨格が音を立てて変形する。小柄だった体が、女性としては長身に変わったかと思えば、顔立ちも、そして服装すらも、先程血を盗った浮遊霊と全く同じ姿へと変わっている。
『それじゃ、お話しに行きましょうか』
先ほどまでの蕩けるような口調とは真逆の、おそらくはこの体の持ち主と全く同じ、大人しく生真面目な口調で呟く紅咲。儚げなOLと化した彼女が浮遊霊たちと打ち解け、向日葵の異界へと通じる入り口を見つけるまではそう時間はかからなかった。
『――こーゆーのもヒーロー活動って言うんですよねぇ?くふっ、うひひひひっ♥』
大成功
🔵🔵🔵
臥待・夏報
(苦笑いで銃を下ろして)
うーん、確かにこいつはやりづらい。
この人たちは帰りたいだけなんだもんな。
夏報さんも、色々な世界を見るたびに地元を思い出すよ。
どこにでもある海と雪の町だ。
居た頃はつまんない場所だと思ってたけど、……自分はあの町で生まれて、あの町で死んだんだ。
最近、そう実感する。
……UDCを継ぎ接ぎした身体で生きたフリしてる夏報さんは、この人たちとどう違うだろう?
攻撃が防がれるなら、ためらうなら、いっそ止めにしようか。
その代わり、できるだけ相手の……まあ情けない攻撃を、【存在感、勇気、コミュ力】などで夏報さんに引き付ける。
最後にUC【通りすがりの走馬灯】。
夏報さんにも、君の走馬灯を見せて。
『やめてくれ……殺さないで。私は帰りたいだけなんだ……』
「うーん……確かにこいつはやりづらい」
UDCエージェントとして、いつもの調子で銃を突きつけた結果、情ない声をあげられるに至って、臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)は困ったように頬をかいた。
「報告例としてよく聞く『帰宅する者たち』とも妙に反応が違うし……本当に、帰りたいだけなんだね」
ため息をついて銃を下ろすと、語り掛けるように独白する。
「夏報さんも、色々な世界を見るたびに地元を思い出すよ。どこにでもある海と雪の町でね」
居た頃はつまらない場所だと感じていたが、確かに“カホ”はあの町で生まれて、あの町で死んだのだ。
どこまでを語りかけ、どこまでを心の中で思ったのだろうか。言葉を止めて、夏報が相手の様子を見ると、浮遊霊は、じっと、彼女の話に心を奪われたかのように、視線を向けていた。
「……なんだか、恥ずかしいね。今度は夏報さんにも、君の走馬灯を見せて」
そういって、銃ではなく、己の手で、浮遊霊に手を振れる。するとたちまち、夏報の全身が、49枚の写真に姿を変える。
それは、この浮遊霊――家族を残し、通り魔殺人に巻き込まれて命を落とした青年の一生を切り抜いた、スクラップブックのようで。
だが、柔らかい夜風に吹かれて写真がぱらぱらと舞う中で、一枚だけ異様な写真があった。それは、青年も、家族も一切映っていない――だが、どこか温かみを感じさせる。感じさせられてしまう、向日葵畑の写真。
「――おっけー。君の走馬灯、見せてもらったよ」
写真の姿から、再び人間に戻ると、どこか飄々とした態度で、しかし、じっと浮遊霊の瞳を見つめて、夏報は笑った。走馬灯は受け取ったし――向日葵の居場所もわかった。ならば、いかねばなるまい。
――UDCを継ぎ接ぎした身体で生きたフリしてる僕は、この人たちとどう違うだろう?
成功
🔵🔵🔴
ヴォルフガング・ディーツェ
今はまだ無害な向日葵、か
仕事である以上手心は加えないが…彼女は一体、誰を求めているのだろうね
予知して貰った霊体の集うポイントへ
やあ、肉体なき者達
…構えないでよ、なるべく事は荒立てたくない
キミ達が惹かれる先に行きたいだけなんだ
理由?
…オレはね、これでも100年生きているんだ
殺された妹と大切な子ども達を探して、さ
だから、霊のキミ達が惹かれるような場所なら…ひょっとしたらあの子達がいるかもしれない
もう、声は忘れてしまった
でも、顔は微かに覚えているんだ
まだ、今なら会っても彼らだと分かるから
もしも未だにこの世をさ迷っているのなら、その内に、一目だけでも会いたいんだ
忘れられていても良いから、それでも……
「今はまだ無害な向日葵、か。仕事である以上手心は加えないが……彼女は一体、誰を求めているのだろうね」
獣相の青年、ヴォルフガング・ディーツェ(花葬ラメント・f09192)は、行き交う浮遊霊たちに、咎人殺しの感覚がざわつくの感じながら、小さく思案した。
「やあ、肉体なき者達」
浮遊霊たちの集まる場所へ行くと、軽妙に声をかける。幽霊や死者、そんな言葉ではなく、あえてそう呼び掛けたのは、彼なりの気遣いだろうか。
「おっと、事を荒立てたいわけじゃない。キミ達が惹かれる先に行きたいだけなんだ」
だが、咎人殺しの雰囲気に反応したのだろうか、警戒するように浮遊霊たちは身構える。その視線から、いぶかしげな雰囲気を感じ取った彼は、小さく頷いた。
「理由かい?……オレはね、これでも100年生きているんだ。殺された妹と大切な子ども達を探して、さ」
ぽつり、ぽつり、と己の身の上を語り始める。
「だから、霊のキミ達が惹かれるような場所なら……ひょっとしたらあの子達がいるかもしれない」
もう、声は忘れてしまった。でも、顔は微かに覚えている。――だから、今なら会っても彼らだと分かるはずだから。
それは、確信なのか願望か。おぼろげな記憶を頼りに、そう呟いて。
「だから――もしも未だにこの世を彷徨っているのなら、その内に、一目だけでも会いたいんだ」
――忘れられていたとしても、それでも。一目だけでも。
その、痛切なるまでの念が、どうやら向日葵の心に触れたらしく。異界への扉は、開かれた。
成功
🔵🔵🔴
シャルロット・クリスティア
……帰りたい、だけなんですね。この人たちは。
もう、帰れないと言うのに。
……一緒ですね。
帰る場所がなくなったか、あなたたち自身が帰れなくなったかの違いはあるけれど。
あなたが帰りたい場所は、どんなところだったんでしょうね。
……はい。私も帰りたいですよ。
パパも、ママも、隣に住んでいたあの子だって、貧しかったけど、みんなで暮らしてたあの場所に。
けど、もう戻っては来ないんです。
仇をとっても、花を植え直しても、失ったものは、戻ってこない。
……だから、連れて行ってくれませんか?
幻の故郷に浸る為じゃない。
ケジメを付けて、前に進むために。
「……帰りたい、だけなんですね。この人たちは。もう、帰れないと言うのに」
あてどもなく、同じ場所を行ったり来たりする浮遊霊たちを見ながら、シャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)は悲し気に眉を曇らせた。
『……?』
「……ええ、一緒ですね」
浮遊霊の中でも、特に自我の希薄な者たち。そんな彼らを見つめて、シャルロットは、静かに頷いた。帰る場所がなくなった自分と、帰ることができなくなった彼らの違いはあるけれど、きっと、一緒なのだろう。
「……はい。私も帰りたいですよ」
日の昇らない昏い世界で、それでもみんな必死に生きていた。パパも、ママも、隣に住んでいたあの子だって、貧しかったけど、みんなで暮らしてたあの場所に。
「でも、もう戻ってはこないんです」
静かに、首を振る。
「仇をとっても、花を植え直しても、失ったものは、戻ってこない」
脳裏に浮かぶ、美丈夫の笑み。例え新たな花が咲いても、摘み取られた果実が再び実るわけではないのだから。
「だから、私も連れて行ってくれませんか?」
そう、それは、幻の故郷に囚われに行くのではなく――。
「ケジメを付けて、前に進むために」
その決意に応えるように。夏が香った。そして……少女の前には、花が咲いた。里帰りへ彼女を誘う、一輪の大花が。
成功
🔵🔵🔴
第2章 ボス戦
『『向日葵』』
|
POW : あの日、あの時、あの場所で
小さな【相手の戦闘力を無効化する向日葵畑】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【郷愁漂う優しく平和な真夏の異界】で、いつでも外に出られる。
SPD : あたしといっしょに遊ぼ?
【幻影としての向日葵】の霊を召喚する。これは【嗅いだ者を幼少期の姿にする夏の香り】や【触れた物を無垢な童心に還す夏の風】で攻撃する能力を持つ。
WIZ : 夏はいつまでも
戦闘力のない【太陽】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【日が暮れ、暮れる毎に相手の敵愾心を削る事】によって武器や防具がパワーアップする。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠詩蒲・リクロウ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
暑いよね、日差しには気を着けなきゃ。あたしみたいに、すっかり日焼けしちゃっても知らないよ?
暑かったら、ほら。たんぼの傍に、小川があるから。一緒に水遊びなんてどうかな。
遊び疲れたら、縁側で一休み。あいすもお茶も、ちゃーんと、冷やしてるからね。
日が暮れて、涼しくなってきたら、外で一緒に花火をしようよ。
たくさん遊んだら、ぐっすり休んで、また明日一緒に遊ぼ?
大丈夫。夏はいつまでも、君といっしょにあるから。
「――おかえりなさい」
●
猟兵たちは我に返った。とても温かなその空気に、一瞬なれど、飲み込まれてしまっていた。
そう、敵意なく、優しさのみで呑み込んでしまう、それこそが、この異界の恐ろしさ。
この温かさに心を任せてしまったら、きっと帰ることはできなくなるだろう。
だから、猟兵は戦わなければならない。送り還すべきを送り還し、自分たちもまた、今在るべき戦いの場所に帰るために。
なぜなら今日は、8月15日。お盆である。里帰りをしたならば――霊を偲んで、見送って。自分はまた、街へと帰る。それが、お盆というものなのだから。
【2章備考】
『向日葵』は、戦闘能力はほとんどありません。精神に干渉するユーベルコードを使用してきます。
こちらの章も、心情面を重視したプレイングをお書きになることをお勧めします。
なお、『向日葵』の異界のテクスチャは主に断章で示した通りとなりますが、実際にどのようなものと接することになるかは、参加者様の自由に決めていただいて構いません。
聖護院・カプラ
ここはスペースシップワールドの末期コロニー……私が在り方を決めた場所。
宇宙磁気嵐によって普段は見えない第5太陽も高らかに登っているではありませんか。
これならコアマシンの稼働にも余裕ができましょう。
純度の高い水を配るという約束が―――そう、約束が。
【因果応報】
・・
サラリマンと此処で約束しましたからね。
春夏秋冬に輪廻転生。巡りが滞れば世の理が乱れるのです、『向日葵』よ。
その能力、そのままお返しします。
貴女の永遠が自己完結した純然であると言うのなら、
貴女の外に向ける力を貴女だけに向け続ければ良い。
ただそこに在るだけのまま、誰にも認識される事なく、骸の海へ還る時を待ち……輪廻を待つのです。
「ここは――スペースシップワールドの末期コロニー……ですか」
聖護院・カプラは、かつて己の在り方を定めた起源の地に立っていた。懐かしい景色だ。空を見上げれば、磁場安定化装置の老朽化により年中晴れることの無い宇宙磁気嵐によって普段は見えない第五太陽が高らかに昇っている。
「これならコアマシンの稼働にも余裕ができましょう」
旧式がゆえに安定性に欠ける彼の中枢部も、この環境ならば平時よりは性能を発揮できる。
「純度の高い水を配るという約束が――」
そこまで言って、カプラはカッと緑色の瞳を発光させた。
「――そう、約束が」
もう一度重ねて言えば、先程まで彼のメモリーの中に刻まれるコロニーを映し出していた光景は、UDCアースの牧歌的な風景に書き換わっていく。
・・
「サラリマンと此処で約束しましたからね」
そう、これは、向日葵の異界への突入前に、浮遊霊と邂逅していた場所。
「春夏秋冬に輪廻転生。巡りが滞れば世の理が乱れるのです、『向日葵』よ」
異形の僧侶の説法とともに、向日葵の異界に、新たな摂理が書き加えられる。
彼女の永続性を崩すことができないのならば、彼女が外界に向ける力を自身に向けさせ続ければいい。
「貴女はただそこに在るだけのまま、誰にも認識される事なく、骸の海へ還る時を待ち……輪廻を待つのです」
「……あなたは、とっても強いんだね。みんな君みたいだったら――あたしは」
祈りの形に組まれた手のままカプラが一礼すると、『向日葵』は困ったような笑い声で応じた。
これによって、『向日葵』は外界から新たな浮遊霊や犠牲者を呼び込むことはできなくなった。後は、この異界内部で彼女を討伐するだけである。
成功
🔵🔵🔴
杣友・椋
ミンリーシャン(f06716)と行動
リィと呼ぶ
郷愁の世界へ足を踏み入れ
見つけたのは主と思しき少女の姿
――あいつか。行くぞ、リィ!
そう呼び掛け、敵のもとへ
気付けば周囲を取り巻く向日葵畑
ちっと舌打ちして
これがあいつの見せる幻か
遠くで手を振る優しき両親、幼い頃の兄
手を振り返したい気持ちを堪え、槍を構える
病室で眠る兄、そして――
幽霊嫌いなほっとけねえあいつ
俺には、帰らないといけない理由がある
リィのもとへ帰ってくると
飛び込んでくる彼女を受け止め
おう、ただいま
命中率を重視した彗星で攻撃を仕掛け
リィに追撃を促して
彼女の光の花が美しく咲き誇る
俺達の手で、現の世界への扉を開くんだ
大切な宝物たちのもとへ帰る為
ミンリーシャン・ズォートン
椋(f19197)と
此処が異界……
穏やかな空間に一瞬気が緩むけれど
彼の掛け声ですぐ細剣を手に駆け出し
――了解!
でも
共に駆けた筈の彼が一瞬で消えたのに気付き
――椋?
消えた彼の名を何度も呼び
気付けば瞳には涙
彼が戻ってくれば
思わず彼に抱きつき
――おかえりなさい、待ってたよ
柔らかな笑みを浮かべた後
この優しくて、残酷な世界を作り出している向日葵の元へ
椋の彗星に続き剣を突き出すけど攻撃出来ず
――何故ですか?
あなたも……寂しかったの?
だけど、駄目だよ……
帰りたい場所も
会いたい人も
大事な思い出も
全部宝物なのだから
偽りの記憶で飾らないで
私に眠っていた新しい力――
掌から光の芽を生み
優しい光と共に美しい花を咲かせる
郷愁の世界へと足を踏み入れてからの、杣友・椋の行動は速かった。
「――あいつか。行くぞ、リィ!」
いち早く混乱から立ち直ると、敵のもとへ駆け出す。
「――了解!」
穏やかな空間に一瞬心を奪われそうになったミンリーシャン・ズォートンもまた、彼の掛け声ですぐに我に返り、細剣を手に駆け出していく。
だがしかし。
「――椋?」
駆け出して前を向いたミンリーシャンの視界には、細身ながらも頼もしい椋の背中は映っていなかった。その姿があるべき場所には、ただ一輪の小さな向日葵が揺れるのみ。
「椋! ねえ、どこにいるの、椋!?」
名を呼ぶうちに、幻覚の世界に取り込まれたのだと気づいたものの、だからと言って彼女にできることはなかった。名を呼ぶたびに心細さが増していき、次第に瞳には大粒の涙があふれていく。
「椋……!」
それでも、彼女にできるのは、彼を信じて名を呼ぶことのみだった。
姿を消した椋はといえば、世界の果てまで広がっているのではないかという向日葵畑にぽつんと一人立っていた。
「これがあいつの見せる幻か……」
小さく舌打ちをする椋。しかし、その視界の中に、懐かしい姿が映る。最早記憶から薄れつつある優しい声で自分の名を呼びながら、遠くで手を振る両親。二人の間に挟まれ笑顔を浮かべる幼いころの兄。
「――ッ!」
幻だとわかっていてもなお、思わず返事をして手を振り返したくなる気持ちを必死に堪え、槍を構える。それができたのは、一重に、今の彼にとっての大切な者を思い浮かべたがゆえ。
病室で眠る兄。そして――
(椋……!)
声が聞こえた気がしたのは、幻か、果たして。
「幽霊嫌いな、ほっとけねえあいつも。……俺には、帰らないといけない理由がある!」
向日葵の花が爆ぜると、その場に再び椋が姿を現す。
「――おかえりなさい、待ってたよ」
涙目のまま、笑顔で彼女が飛び込めば。
「おう、ただいま」
彼は優しい笑顔で受け止める。
再会の喜びを分かち合うのは十分と、ミンリーシャンと離れると、椋はそのまま、『向日葵』へと猛攻を繰り出す。
「俺が牽制する! 続け、リィ!」
「う、うん!」
しかし、剣を構えたものの、彼女は攻撃を繰り出すことができなかった。
「――何故ですか? あなたも……寂しかったの?」
震える手で剣を突き出したまま、静かに問いかけるミンリーシャン。
「――違うよ。寂しがってたのは、みんな。あたしを呼んだのも」
「……あなたは、とっても優しくて……それ以上に、残酷だね」
向日葵の少女の返答に、顔をくしゃりと歪める。
「だけど、駄目だよ……」
だって。帰りたい場所も。会いたい人も。大事な思い出も
「全部宝物なのだから。偽りの記憶で飾らないで――」
「ああ、俺達の手で、現の世界への扉を開くんだ――!」
ミンリーシャンが祈るように手を合わせると、その掌から、光り輝く小さな芽が生まれた。小さな芽は、向日葵畑の中に根を下ろすと、優しい光とともに美しい花を咲かせた。
それはやはり、向日葵。だが、その向日葵は、優しさで人々を飲み込む残酷な美しさではなく、寂しく在る人の背中をそっと支える温かな輝きで咲き誇っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
夷洞・みさき
アドリブアレンジ絡み歓迎
皆はどこにいっちゃったのかな。
そこの君、知らないかい?え?気にしなくて良いのかい?
懐かしい海と都の光景
いつも一緒にいた六人の姿は無かった
代わりにいたのは向日葵の様な誰か
【SPD】
体を形成(真の姿ご参考)する同胞達による自傷での意識回復
向日葵の霊に呪詛返しの釘を刺して無効化を狙う
あぁ、そうだったね。
僕達はここにいるんだった。
郷愁は六つの潮騒とともに
何時か夏は終わるものだし、友達が迎えに来たからね。
だからここは僕のあるべき所じゃないんだ。
だから、うん。
「--いってきます」
灯火・紅咲
なんだかここは暑いですねぇ……
それに妙に懐かしいような、そんな気持ちになっちゃうというかぁ……
あれ?
あれ?
ボクって、こんな髪の色してましたっけぇ?
んー? もっとぉ、派手派手で可愛いピンクだったようなぁ?
でもでも、こういう大人しめの黒髪もイイ感じがしますし、しっくりくるといいますかぁ
ああ、でもでも、ボクのしたいことは変わりませんねぇ
恋がしたいです
焦がれるような熱くて甘い恋が
会いたいのです、素敵な王子様に
だから
ボクと一つになりましょう
一緒になって、溶け合って、混じりあえば、きっとこの恋は永遠です
向日葵を【吸血】
ユーベルコード発動
ボクと溶け合った方だけが真実です
【アドリブ、他の方との絡みは歓迎】
「なんだかここは暑いですねぇ……」
異界の中に突入した灯火・紅咲がまず感じたのは、そんなことであった。じっとりとセーラー服に汗を染みつかせる彼女の鼻腔を、爽やかな夏の香りが擽る。
「それに妙に懐かしいような、そんな気持ちになっちゃうというかぁ……」
己の髪をかき上げた彼女は、ふと首を傾げる。
「あれ?あれあれ?」
不思議そうに己の髪を一房つまむと、目の前に持ってくる紅咲。その髪は、艶やかな烏の濡れ羽色をしていた。
「あれー?ボクって、こんな髪の色してましたっけぇ?」
わからない。わからないけれど……。
「えへへ、なんだかしっくりきますねぇ」
そう、既に彼女は向日葵の異界に落ちていた。夏の香りは、嗅いだものを身も心も童心に戻す魔性の香り。この術中にはまったならば、もはや戦意喪失と同様……の、はずであった。
「でもでも、ボクのしたいことは変わりませんねぇ」
にっこり、と笑って。
「恋がしたいです。焦がれるような熱くて甘い恋が」
熱っぽい瞳で。
「会いたいのです、素敵な王子様に」
だから……。
「ボクと一つになりましょう?一緒になって、溶け合って、混じりあえば、きっとこの恋は永遠です」
童心に帰ってなお、破綻した恋心はそのままに。敵意すらもなく、純粋な好意のまま『向日葵』に接近すると、彼女はその頸筋に噛みついた。
血液を媒介として、彼女のユーベルコードが発動する。小麦色の肌の少女――『向日葵』と瓜二つの姿に変じた紅咲は、そのまま彼女に絡みつく。全て融けあってひとつになろうというように。
「……あれ?皆はどこへ行っちゃったのかな」
夷洞・みさきもまた、夏の香りの魔力によって、心を昔日に導かれていた。懐かしい海と、今は失われた都で暮らしていた頃に。
「そこの君、知らないかい?」
だが、かつていつも一緒にいた六人の姿はそこにはない。
「……あの子たちは呼べなかったけど。大丈夫だよ、あたしがいるからね」
「え? 気にしなくて良いのかい?」
友の代わりにいたのは、向日葵の様な誰か。その声は暖かく、心に安らぎを与えてくれるようで――。
ぐしゃり。
突然、みさきの胸元から血が噴き出る。我に返ったみさきが、気づけば、そこには。
「あぁ、そうだったね。僕達はここにいるんだった」
大怪魚が、彼女の薄い胸板に齧りついていた。過去に浸るみさきを叱咤するかのように。六匹の怪魚が口々に奇怪な鳴き声を放つ。
常人では正気を失うような光景に、しかしみさきはにへら、と楽観の笑みを浮かべた。
「……行っちゃうんだ」
頬を膨らませるような声で言う『向日葵』に、みさきは少しだけ申し訳なさそうに苦笑する。
「何時か夏は終わるものだし、友達が迎えに来たからね。だからここは僕のあるべき所じゃないんだ」
だから――。
「――いってきます」
紅咲に絡みつかれて身動きの取れない『向日葵』の本体に、六個の怪魚の顎門が襲い掛かった。
『向日葵』に痛打が与えられるのと同時。彼女に絡みついていた紅咲も、その身から分かたれた。
「やんやん。もう少しで融けあえそうだったのにぃ……なぁんて」
「うーん、それは僕らとしては少し困ったことになってた気がする」
――いってらっしゃい。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
玉ノ井・狐狛
「さぁて、お前サンが本命だね」
周囲には一面の向日葵。
空にはあざやかな光を放つ太陽。
どこまでが実体かは分からない。感じる暑さは現実か錯覚か。
少なくとも、湧き起こる郷愁と懐旧は本物だろう。
そして、それだけで十分だった。
愁いも懐かしさも、“もう失った”者だから抱ける感情。それを自覚している限り、抗うコトは不可能じゃない。
「夏休みってのは、いつかは終わるモンさ。ちょうど――」
太陽を、指さす。
「上った陽が、やがて沈むように、な」
ちょいと眩しいが。相手のルールに乗っての勝負も、悪かない!
六連星・伊織
日照りの暑さ。小川のせせらぎ。一面に広がるひまわり
どれも、どれも。私の記憶にないもの。私の知らない場所。私の知らない夏です
なのに……なぜ。なぜ。あの日が沈みゆくにつれ、私の胸に不思議な痛みを感じるのは、なぜなのでしょう
終わるのが惜しい。終わってほしくない。らしくもなく、そんな感慨に耽り
「いいえ。これは、終わらせなければいけないんです」
どれほど居心地がよくても。どれほど穏やかな気持ちになれても。これは歪みを生み出すもの。なら、終わらせないと
胸の痛みを塗り潰すかのように、自分の腕を愛用のナイフ――アスクレピオスの剣で切り裂いて
溢れる鮮血を【のたうつ神血】で刃と成し、『向日葵』を討つ一撃としましょう
照り付ける日差しに白い肌を焼かれ。小川のせせらぎが耳をくすぐり。視界いっぱいに広がるのは鮮やかな向日葵畑。
「――不思議です。こんな夏を経験したことはないはずなのに」
そう、そんな夏の記憶は、六連星・伊織の記憶のどこにもない。だというのに。
「あの日が沈みゆくにつれ、この胸に不思議な痛みを感じるのは、なぜなのでしょう」
日が暮れる度、夏は過ぎ、秋に近づく。そんな当然のことに、白紙の心が締め付けられる。
「なら、ずっと一緒にいようよ。君さえ望むなら――夏は、いつまでも」
胸を押さえる伊織の後ろに、いつの間にやら現れ囁きかける向日葵の少女。その言葉は、どこまでも優しく、あたたかい。
「そうできたなら、どれほどよかったでしょう。でも……」
「そうさ。そういうわけにはいかないんだよ」
伊織の肩にぽんと手を置いて、玉ノ井・狐狛が頷く。確かに、この場所は余りにも居心地がいい。
ユーベルコードによって生み出された偽物の世界だとしても、胸の内に湧き上がる郷愁と懐旧は本物だ。そして、それだけで十分であった。
「だってね、故郷を愁う気持ちも、懐かしむ気持ちも、故郷に帰れないからこそ掻き立てられるのさ」
そう、だからこそ、郷愁と懐旧が、狐狛に抗う力を与えた。
「夏休みってのは、いつかは終わるモンさ。ちょうど――」
ぴん、と。真っすぐ腕を伸ばす。真上に伸ばした指が示すのは、太陽。眩しいねぇ、と目を細めて。
「上った陽が、やがて沈むように、な」
月に叢雲、花に風。美しきものほど、移ろいやすいもの。日は沈み、夏は過ぎゆく。
「……だからこそ、美しいのサ」
ここに、異界の法則は破られた。時は移ろうものが故。いつまでも続く夏など、ありはしないのだ。たとえ、それがどれほど美しいとしても。
狐狛の一言をきっかけとしたかのように、あれほど明るかった世界は、急速に黄昏へと色を変じていく。
「……ええ。これは、終わらせなければいけないんです」
どれほど居心地がよくとも、どれほど穏やかな気持ちになれるとしても、終わらない夏は、歪みを生み出してしまう。
「私の、とっておきで」
だから、伊織は己の腕を愛用のナイフで切り裂いた。胸の痛みを、夏への悼みを、迸る鮮血で塗りつぶそうかというように。
「だから……さようなら」
アスクレピオスの剣に纏わりつく己の血を刃と変えて、伊織は向日葵を切り裂いた。
噴き出した『向日葵』の血と、伊織の血。二つの血が混ざり合い、風に乗り。
黄昏の光に照らされて、真紅の大華を咲かせるのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
臥待・夏報
(真の姿)
(そこには、セーラー服に眼鏡の冴えない少女が立っていた)
夏の思い出か。
一般的には美しいものだよな。
それでも『僕』にとっては、永遠に呪われたあの季節だ。
お前と同じ、そして真逆の現象で返してやろう。
その優しさに抗って、全力の呪詛を顕現させて、あの日と同じ恐怖を与えてやろう。
夏の香りを灯油の臭いで打ち消して、夏の風を炎で焼き尽くして、燃えさかる夜の校舎を再び世界に描いてやるよ!
【放課後から逢魔まで】。
『夏報さん』に共感してくれた浮遊霊に、できるなら仲間たちにも、チャイムの音を届けて回る。
この不快で歪んだビッグ・ベンのメロディも――今なら、正気に戻る手助けになるだろ?
毒をもって毒を制す、だ。
シャルロット・クリスティア
故郷は、こんなに眩しい日差しは無かったですね……。
けど、ヴァンパイアたちに支配されていなければ、あちらでもこのような暑い日差しを感じることもできたんでしょうか。
……いつか、みんなとこんな日差しの中で遊んでみたかった。
小さいころの、ささやかな……もう叶うことも無い夢。
だから、私には効きませんよ。
だって、知っているもの。これは私の夢。ただ思い描くだけだった、虚構の世界だってこと。
夢からは、覚めなくちゃいけない。
だから、私は躊躇せず、撃つ。
だけど、夢は夢として、持って行くから。
……みんなと一緒に見ることはできないけれど。いつか、きっと……。
視界を茜色に染める西日に向かって手を翳し、シャルロット・クリスティアは目を細める。
「私の故郷には、こんなに眩しい日差しは無かったですね……」
夜闇の晴れることの無い己の故郷。だが、あるいは……ヴァンパイアの打倒が為ったならば、彼の世界でもこのような暑い日差しを感じることもできたのだろうか。
「……いつか、みんなとこんな日差しの中で遊んでみたかった」
日が暮れるまで友人たちと遊び徹して、父に迎えられて家に帰り、母とともに、恐怖の象徴ではない、安らぎの夜を迎える。そんな、ささやかな幸せの光景が、ここにはあった。
「でも……私は知っているんです。これは、もう叶うこともない夢。ただ思い描くだけだった、虚構の世界だってこと」
だから――夢からは覚めなくてはならない。
夕暮れの日差しに照らされる、色褪せた学校。その校門前に佇む、セーラー服姿の少女がいた。
「夏の思い出か……。一般的には美しいものだよな」
冴えない眼鏡のレンズに映る、多くの人々にとっては美しいと言われるであろう光景も、しかし、彼女にとっては、煩わしい、いや、それ以上のもの。
「でも、『僕』にとっては――永遠に呪われた、あの季節だ」
だから、ここにあの呪いの光景を再現しよう。この世界が優しさで飲み込もうとするのなら、それに抗って全力で呪ってやろうじゃないか!
彼女の呪いに応えるかのように、ごう、と炎が燃え上がった。優し気な夏の香りは、鼻をつく灯油の臭いに掻き消され、爽やかな夏の風は炎で焼き尽くされる。
「これが――『夏報さん』にとっての夏の思い出さ」
世界を呪い尽くすようなこの真紅の炎こそが、彼女にとっての夏に他ならない。
「さあ、寝坊助さんたち。お目覚めの時間だぜ――ってね」
呪詛とともに、真紅の炎に包み込まれていく夏の世界に、鐘の音が響いた。それは、とてもよく知られたメロディ。だが、本来ならば、終業を告げる爽やかな音色は、夏の世界の終了を告げる歪で不快な音色。
シャルロットの耳にもその音色が届いたかと思うと、彼女の隣に、夏報が現れた。
「……余計なお世話だったかな?」
「いえ。ありがとうございます。夢から覚めるには、いい音色でした」
問いかけにシャルロットが頷くと、夏報もそっか、とひとつ頷き返して。
「……幸せな夢でした。でも……私は、夢からは、覚めなきゃいけないから」
そう言って、シャルロットは引き金を引いた。ルーンを刻まれた弾丸が、空間に突き立ったかと思うと、世界を罅割れさせる。
「だけど、夢は夢として、持って行くから」
――みんなと一緒に見ることはできないけれど。いつか、きっと。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
穂結・神楽耶
風に揺れる稲穂の音。
子供たちのはしゃぐ声。
眩しすぎる太陽に照らされて何もかもがあざやかな、
──けれど。
言いませんよ。
いくら懐かしくても、ここは、故郷ではありませんもの。
その優しさを、尊いとは思います。
けれどね。やっぱり毒なんです。
優しいだけでは。迎え入れるだけでは。与えるだけでは。
…夏だけでは。
人も植物も、成長できませんもの。
それをこそ欲しいと思う方もいるのでしょうけれど。
だからこそ留まる浮遊霊もいるのでしょうけれど。
そんなもの、ひと夏の夢でいいんです。
けれど……懐かしい夢を、ありがとうございました。
だからせめて、一太刀で終わらせます。
おやすみなさい。──【神業真朱】。
パーム・アンテルシオ
居心地の良い場所。
がんばらなくても良い場所。
全部忘れて、ここで過ごす事ができたら…
どんなに楽だろう。
どんなに、軽くなるだろう。
でも…違った。
「おかえりなさい」
その言葉を言われる場所は、ここじゃない。
私が帰りたい場所は、ここじゃない。
もっと、寒くて。
もっと、桜がいっぱいで。
もっと…帰りたくない場所で。
だから、その言葉は、二度と言われない言葉。
誰かが許したとしても、私が許さない。
そんな言葉を、もう一度望むなんて。許さない。許されない。
私はパーム。
故郷を離れ、海を揺蕩い。
いつかどこかで、根を張る地を見つけたとしても。
それは、帰ってきた故郷じゃない。
だから…
私に、「おかえりなさい」なんて、言わないで。
居心地の良い場所。
がんばらなくても良い場所。
全部忘れて、ここで過ごす事ができたら……どんなに楽だろう。どんなに、軽くなるだろう。
……でも。
風に揺れる稲穂の音。
子供たちのはしゃぐ声。
眩しすぎる太陽に照らされて、何もかもがあざやかな、懐かしい景色。
──けれど。
「おかえりなさい」
「ごめんね、その言葉を言われる場所は、ここじゃない」
そっと目を伏せて、パーム・アンテルシオは首を振る。
「私が帰りたい場所は、ここじゃない」
それは、もっと寒くて。もっと、桜がいっぱいで。もっと……帰りたくない場所で。
「だから、その言葉は、二度と言われない言葉」
誰かが、言ってくれたとしても。自分が、許せない。そんな言葉を言われる自分を、許さない。許されない。
「ただいまとは、言いませんよ。いくら懐かしくても、ここは、故郷ではありませんもの」
静かに頭を振って、穂結・神楽耶は鯉口を切る。
「その優しさを、尊いとは思います。けれどね。やっぱり毒なんです」
優しいだけでは。迎え入れるだけでは。与えるだけでは。
「……夏だけでは。人も植物も、成長できませんもの」
それをこそ、だからこそというひともいるだろう。だけれど、そんなものは、ひと夏の夢でいいのだ。
二人がそういうのと同時、世界が赤く燃え上がった。向日葵の異界は、朽ちていく。
「燃える世界、かぁ。……許されない、って言われてるみたいで」
少し、楽になるかも。と、そんな言葉を呟くと、九本の尾が、それぞれ己の意志を持つかのように揺らめき。
「わたくしの帰るべき場所は、炎の果てに」
夢からは、覚めねばなりません、と、その心を表す様に、黒塗りの鞘から、白銀の刃を抜き放つ。
「私はパーム。故郷を離れ、海を揺蕩い」
それぞれが魂を持つかのように、九本の尾が揺らめくたび、桃色の巨大な柱が降り注ぐ。
「いつかどこかで、根を張る地を見つけたとしても。それは、帰ってきた故郷じゃない。」
『向日葵』を取り囲むように突き立った炎柱が、茜色に染まる世界を、更に塗りつぶす様に桃色の炎で飲み込んでいく。
「だから……」
――私に、「おかえりなさい」なんて、言わないで。
「懐かしい夢を、ありがとうございました」
温かいような、それでいて悲痛な悲しみを感じさせるような、そんな桃色の炎の中を駆け抜けながら、女神と崇められた刀は『向日葵』に肉薄する。
「だからせめて、一太刀で終わらせます」
感謝か、憐憫か、感傷か、あるいはそれらのすべてなのか。複雑な感情を込めて、顔を歪めながら、己そのものを構える。
「――おやすみなさい」
まるで涙のように桃色の炎を纏って振るわれた、真朱の神閃が向日葵の花を摘んだのであった。
――そっか。それじゃあ――またね。
一言。たった一言、名残惜し気に言い残すと――。
『向日葵』は消滅し、焼け焦げた異界もまた、炭化するように、その輪郭を失っていくのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『普通列車で行こう』
|
POW : 素直に寝て過ごす
SPD : 窓の外の風景や他の乗客を観察して過ごす
WIZ : 携帯ゲーム、スマホ、小説を見て過ごす
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
かくして向日葵の異界は砕かれた。『里帰り』は終わり、後は家路を残すのみ。
――だが、グリモア猟兵の予知通り、異界から現世へ舞い戻る際に、猟兵たちはバラバラの場所へ現れることになってしまった。
とはいえ、もはや危険はない。グリモア猟兵の待つ集合地点まで、ゆっくりと鈍行列車の旅を楽しむのも一興というものだろう。
●
断章通り、依頼達成後のプチ旅行を楽しむ章となります。フラグメントの行動例には縛られず、お好きなように電車の旅を楽しんでいただければと思います。
なお、猟兵たちはバラバラの場所にいる、という体にはなっていますが、異界からの脱出の際に手を繋いでいたですとか、あるいは脱出後に落ち合ったですとかの形で、合わせプレイングを送っていただいても全く問題ございません。
マスターとしても、ソロプレイングの方同士でも、同時に描写した方が面白そうだと感じた場合は連携リプレイを執筆する場合がございます。
それでは、よき旅を。
聖護院・カプラ
ロックビルさんに合流が遅れる旨、公衆電話より入れておきます。
私はこちらの浮遊霊のサラリマンの方々を最寄り駅まで送り、成仏を見届けねばなりません。
約束を致しましたので。
電車に揺られる間、サラリマンの身の上話をお聞きしますとも。
思いだせない事も多々あるでしょう。電車自体に良い思い出がないかもしれません。
ですが列車はマニ車となり、生前の記憶を洗い流す事で帰る場所を思い出す機会を形作るのです。
1週で駄目ならば2週、3週……。
『向日葵』が言い残そうとした言の葉。
オブリビオンの在り方に、あるいはと思う瞬間でありましたが――
それを確かめる術はありません。
再度『向日葵』が現れたとしても、別の彼女でしょうから。
「ええ、ええ。ですので、私は集合時間には少し遅れてしまうことになるかと。ありがとうございます」
聖護院・カプラは公衆電話でグリモア猟兵に連絡を取ると、電話越しだというのに癖で最後にぺこり、と巨体を曲げて礼をしてしまう。
連絡を済ませると、ぐる、と振り向いて周囲を見回す。
そこには、勤め人のような風体をした浮遊霊たち――そう、『向日葵』の異界に囚われていた霊たちがいた。
「では、皆さんの『最寄り駅』までご案内致しましょう。約束ですからね」
がたん、ごとん。
電車に揺られながら、浮遊霊たちの身の上話に耳を傾ける。生い立ちを、成し遂げたことを。
「そうですか、では、あなたは工場町から……」
自我のはっきりしない浮遊霊だ。己の事を思い出せないことも多かった。あるいは、電車自体にいい思い出を持たないものもいる。
だが、異形の僧侶は重々しくもどこか優し気な声で、ゆっくりと、浮遊霊たちの言葉を引き出していく。
「この列車は、マニ車のようなものです。生前の記憶を洗い流す事で帰る場所を思い出す機会を形作るのです」
そう、今世への未練を整理することで、輪廻の環へと帰る手助けをすることこそ、今回、彼に残された仕事なれば。
がたん、ごとん。電車が揺れる。終点まで辿り着けば、また折り返し、2周、3周と……。
「『向日葵』が言い残そうとした言の葉――」
それは彼に、オブリビオンの在り方について、あるいは、と考えさせる言葉であったが――。
それを、確かめる術はない。再度、『向日葵』が現れたとしても、それはきっと別の存在だろうから。
大成功
🔵🔵🔵
臥待・夏報
【WIZ】
夏報さんは普段の行いが超絶良いからな。山間の素敵な避暑地についてしまった。
ふふ、せっかくだから堪能して帰るぞー。
……しかし、なんだ。
内陸で出てくる微妙な海鮮丼を食べてると、さすがに故郷の食事が恋しくなるね……。
今年の夏の暮れぐらいは、顔を出してもいいかな。猟兵になってから、UDCの仕事もフケやすくなったんだし。
ちょっとぐらいなら、――あ、電話だ。
……はあ!?
兄貴また事業失敗したの!?
うちの町で観光は無理だって何回言ったらわかるわけ、親父の会社は兄貴の貯金箱じゃないんだぞ!
だからって妹にたかるな馬鹿!
海に帰れ!!!
……はー、やっぱり無理だあの実家……。
大人しく山菜の駅弁食べよっと……。
「ふふふ。これも夏報さんは普段の行いが超絶良いからかなー」
異界からの脱出後、臥待・夏報が辿り着いたのは、避暑地として有名な山間の観光地であった。
集合時間は余裕をもって設定してあるので、暑い昼時をこの涼やかな避暑地で過ごす程度の時間は十分にある。
となれば、堪能して帰らなければ嘘というものだ。
林の中の遊歩道をゆっくり歩いてリラックスした後は、シャワーを浴びて戦いの疲れをさっぱりと取り。後はおいしいご飯を食べてから、お家に帰りましょう――と、思っていたのだが。
「……ぐぬぬ。こんなことなら、普通に鹿肉の猟師丼……?とやらにしておけばよかったな」
出てきた海鮮丼が、微妙であった。いや、おそらく普通の観光客にとっては十分美味しいのであろう。だが、いかんせん内陸の観光地で出てくる海鮮丼となれば、海辺の町で育った彼女にとっては、満足いく出来とはいいがたかった。
鹿肉を食べ慣れないから敬遠したのと、久々に海鮮を食べたくなったのがこんな悲しい結果になるとは。それでも、ごちそうさまでした、と店員に告げて店を出る。
「はあ、故郷の食事が恋しくなるね……」
今年の夏の暮れくらいは、故郷に顔を出してもいいだろうか。そんなことを考えていると、携帯に着信が入る。
「――あ、電話だ」
「……はあ!?兄貴また事業失敗したの!?」
先程までの故郷を懐かしむ気持ちのまま、温かい声で電話に出た一瞬の事。電話口から聞こえてくる言葉に、つい声を荒げてしまう。
「うちの町で観光は無理だって何回言ったらわかるわけ、親父の会社は兄貴の貯金箱じゃないんだぞ!――いやだからって妹にたかるな馬鹿!」
どうやらこの手の事ははじめてではないらしい。電話越しだというのに身振り手振りも軽く出てしまおうというものだ。
「海に帰れ!!」
罵声にすら近い一言ともに通話を切る。すれ違う観光客のほんのり迷惑そうな視線にぺこぺこと頭を下げて、誤魔化す様に駅へと向かった。
「はー、やっぱり無理だあの実家……。大人しく山菜の駅弁食べよっと……」
里帰りは当分先でよさそうだ。そう言って、列車に乗り込むのであった。
がたん、ごとん。
大成功
🔵🔵🔵
六連星・伊織
異界から戻れば、慣れた様子で手際よく傷口を包帯で処置して
最後にいつもどおり、薬で傷の痛みを誤魔化せば、あとは列車で帰るだけ
最後まで気を抜かず、しっかりと。『帰るまでが遠足です』といいますものね
ゆっくりと、人々の姿や風景を眺めて集合場所まで過ごしましょう
――ふと。列車に揺られながら、窓越しに黄昏時の風景が目に入れば。あの異界を、あの夕暮れを思い出す
その瞬間、ずきり……と。身体のどこかが痛んだ気がして
「……足りなかったでしょうか、お薬。いつも通り、飲んだのですけど」
今日は偶然、いつもより深く斬ってしまったのか。あるいは、これが感傷というものなのか
不思議ですね――と。首を傾げながら、家路を過ごします
がたん、ごとん。
静かに響いてくる列車の音を聞きながら、六連星・伊織は、駅の化粧室の個室で傷の手当てを行っていた。
戦闘終了後、簡単にワイヤーで縛って止血を行ったのみだった傷口を、丁寧に洗浄・消毒を行ってから、改めて包帯を巻いて処置を行う。手慣れたものだ。
「ぁ、いた……っ」
だが、深い傷だ。手当の際にも軽くない痛みが走る。痺れるような痛みを歯を食いしばって耐えると、懐から取り出した錠剤を飲む。
組織から任務用に渡された鎮痛剤は、瞬く間に痛みを消してくれる。これなら帰路も問題はないだろう。
「いつものことながら、副作用がちょっぴり怖いですけど……なんて」
いつも通り。そう、いつも通りに傷の手当てを終えたならば、あとは列車で帰るだけだ。
「折角の勝利ですから。こうして、ゆっくり過ごすのも悪くありませんね。ふふっ」
座席に座って、行き交う人々や景色を眺めながら、集合場所までの時間を過ごそうと考えた伊織であった。
だが、車窓から黄昏時の風景を眺めていると、あの異界の夕暮れを思い出して――。
――ずきり。体のどこかが、軋みを上げた。そんな気がした。
「……?おかしいですね。足りなかったでしょうか、お薬。いつも通り、飲んだのですけど」
この程度の傷は、慣れたもののはずなのだが。今日は偶然、いつもより深く斬ってしまったのだろうか。
あるいは、これこそが、感傷と呼ばれる感情なのだろうか。
不思議ですね――と首を傾げるも、今は心地よい電車の揺れに身を任せるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
灯火・紅咲
いやー!
すっきり、ばっちりお仕事終了ですねぇ!
なんだか不思議な記憶がある気がしますですが、とにかくこれでお勤め終了、本日のヒーロー活動もコンプリートですぅ!
そして、そして!
鈍行列車の帰り旅とくればもちろんこれ!
お弁当! 駅弁!
えへへへー、電車の中でこういうの食べるのに少し憧れがあったんですよねぇ
ただのお弁当でもなんだかこうして食べるだけで美味しさが増し増しな気がするのですよぉ!
今日のボクが選んだのはお肉がたっぷりのお弁当!
一仕事終えたあとのお肉は体に染みわたるですぅ~!
【アドリブ、他の方との絡みは歓迎】
「いやー!すっきりばっちりお仕事終了ですねぇ!」
ふへへ、と笑いながら、灯火・紅咲は列車に乗りこむ。
なんだか不思議な記憶がある気がしたが、それはそれだ。誰かと遊びたかった『向日葵』の記憶。どこかのダレカ、黒髪の少女の記憶。全てが融け合って渾然一体としたそれは、見つめ合おうとした方が、きっと精神を侵すものだ。あるいは、彼女の精神は既に侵されているのかもしれないが。
「とにかくこれでお勤め終了、本日のヒーロー活動もコンプリートですぅ!」
「にひっ、車窓からの景色も綺麗ですがぁ……」
うんうん、と頷くも、一番重要なのはそれではない。
「やっぱり鈍行列車の帰り旅とくればもちろんこれ!」
駅で買った袋を、座席に備え付けられたミニテーブルの上で開くと、でてくるのは、ご飯の上にステーキがぎっしりと敷き詰められたステーキ弁当だ。副菜にもハンバーグにエビフライ。お肉がたっぷりの欲張り使用である。
「おっべんとー!駅弁っ!」
美味しそうなその姿に目を奪われながら、頬に手を当ててきゃいきゃい、と喜ぶ紅咲。
「えへへへー、電車の中でこういうの食べるのに少し憧れがあったんですよねぇ」
普段食べているようなステーキ弁当でも、こうして列車に揺られながら食べるだけで、美味しさが増すように感じられようというものだ。
「うーん、一仕事終えたあとのお肉は体に染みわたるですぅ~!」
おうちに帰るまでがヒーロー活動なのです。
がたん、ごとん。
大成功
🔵🔵🔵
杣友・椋
ミンリーシャン(f06716)と行動
リィと呼ぶ
異界を離れる際にリィと手を繋ぐ
おまえが迷子になったら困るしな
列車に乗るの、リィは初めてなんだっけ
俺も久しぶりだ
彼女の隣に座り、車窓の向こうを眺め
広がる長閑な田舎の景色
真剣な彼女の疑問に、はぁと深い溜息
なんつーか、おまえらしいというか
……俺が出してやるから心配すんな
故郷は恋しいけど
過去にずっと留まることはできない
俺は今ここに居られて良かったよ
故郷に居たままじゃ、おまえに逢えなかったから
静かに微笑んで、彼女の髪をくしゃり撫でる
――はぁ、なんか疲れちまったな
リィ、ちょっと肩貸してくれねえ?
彼女の肩へこてりと頭を傾け、瞼を閉じた
見るのはきっと、君の夢だろう
ミンリーシャン・ズォートン
椋(f19197)と一緒に
繋いだ手が嬉しくて
自然と笑みがこぼれる
揺れる列車に
わぁあっ
と楽しそうに声を出し彼の横に座って共に長閑な景色を眺める
ふと真剣な表情に
椋――
私、列車に乗ってからずっと気になっていた事があるのだけれど……
この列車――
タダかしら……?
至って真剣な表情で尋ねます
故郷が恋しい
そう語る彼の話しを静かに聞いていたけれど
逢えて良かった
そう紡ぎ
くしゃりと髪を撫でる彼に
みるみる赤面し鼓動が早く
ふぇええと情けない声を出して混乱していると
私の肩で眠る彼
お疲れさま
彼が寝たら耳元で
好きだよ(あなたに好きな人が出来るまで)
もう少しだけ
そばにいさせてね
そう囁いて
自分も気付けば彼の頭にこてり凭れ眠ります
がたん、ごとん。
ミンリーシャン・ズォートンは、杣友・椋と二人寄り添い、列車に揺られていた。
「わぁあっ!」
「列車に乗るの、リィは初めてなんだっけ。俺も久しぶりだ」
トンネルを抜けた先で、パッと広がる長閑な景色に、つい歓声を上げる彼女に対し、椋も微笑まし気に頷く。
気づけば、ずっと手を握りっぱなしであった。
――おまえが迷子になったら困るしな。
そんな台詞とともに、自然に手を取ってくれた時の椋の表情を思い出すと、ミンリーシャンはどうにもニコニコしてしまうのである。
「……どうした?リィ」
ニコニコしていると、怪訝そうな彼から疑問をかけられて。
「え?あ、えーっとね……」
そのことを言うわけにもいかず、少し視線を逸らしてきょろきょろと見回していると、ふと疑問が思い浮かぶ。
「あのね、椋――」
「なんだよ、急に真剣そうな顔で」
ニコニコ顔から急に真剣な表情に変わったことに、更に訝し気に眉を顰める彼に、一大事のように尋ねてしまう。
「私、列車に乗ってからずっと気になっていた事があるのだけれど、この列車――」
ごくり。唾を飲み込む。
「タダかしら……?」
「…………はぁ」
真剣に聞いて損をした、とでも言わんばかりに、呆れたようにため息を吐く椋。
「の、乗ったことないんだもん!気になるでしょ!」
「なんつーか、おまえらしいというか……俺が出してやるから心配すんな」
呆れと微笑ましさが混ざったような顔で、ぽんぽん、と頭を撫でられてしまえば、ふくれっ面もいつの間にかどこかへいってしまうのであった。
がたん、ごとん。
「……なあ、リィ」
「……うん」
広がる長閑な田舎の景色を眺めながら、椋が口を開けば、それまであれやこれやと尋ねていた言葉を、一旦納めて。
「故郷は恋しいけど、過去にずっと留まることはできない」
「そうだよね……」
瞳に郷愁の色を浮かべる彼の横顔に、少し不安げな表情になりながらも、静かに頷く。
「でもな」
そういうと、彼はミンリーシャンに顔を向けて。
「俺は今ここに居られて良かったよ。故郷に居たままじゃ、おまえに逢えなかったから」
優しい笑顔で、くしゃり、と彼女の髪を撫でるのであった。
「ふぇえっ……!?」
ひそかに――といえるほど隠せているかはさておき――思いを寄せる彼に頭を撫でられたことに、頬を真っ赤にさせて目を白黒するミンリーシャン。
「――はぁ、なんか疲れちまったな。なぁ、リィ……」
「う、うんっ。なに?」
だが、そんな彼女をよそに、彼はマイペースに声をかける。
「ちょっと肩貸してくれねえ?」
そう言うが早いが、ことん、とミンリーシャンの肩に頭を預けて、もたれかかるようにして眠ってしまった。
「ふえっ……うん、お疲れ様」
最初こそ混乱していたミンリーシャンであったが、次第に、優し気な笑みになって。
「疲れてたんだもんね……」
今回の冒険で感じていた疲労は、自分の比ではないであろう彼の髪をそっと撫でる。
「あのね、椋」
耳元にそっと唇を寄せてささやいても、返事がないのを確認すると。
「好きだよ」
あなたに好きな人ができるまでは。
「もう少しだけ、そばにいさせてね――」
そう囁くと、彼女もまた、寄り添うように頭を預けて、うつらうつらと夢の世界に旅立つのであった。
さて、二人が見るのはどんな夢か……きっと、それは言うまでもないことだろう。
がたん、ごとん。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
穂結・神楽耶
窓の外の向日葵畑に、対峙したオブリビオンを回想します。
…あの『向日葵』は、「またね」と最後に言いました。
オブリビオンは、得てして幾度も蘇るものですが……
来年も、ああして咲いて。
誰かにとっての『夏』を映して。
…寂しいひとを招き続けるのでしょうか。
……はぁ。
けど、「またね」なんて言われたら。
来年もあの『夏』を終わらせにいかないといけないじゃないですか。
まったく、なんて厄介なオブリビオンでしょう!
何回でも斬らないといけませんね。
あれ。
そういえば集合地点の駅って、ええっと。
……乗り過ごしましたか!?
がたん、ごとん。
「あら、向日葵畑……」
揺れる列車の車窓にちらり、と映った向日葵畑に、穂結・神楽耶は此度対峙したオブリビオンを回想する。
――またね。
「……あの『向日葵』は、「またね」と最後に言いました」
確かに、オブリビオンは因縁ある者に倒されない限り、得てして幾度も蘇るものだ。
「ですが……では、彼女は、来年も、ああして咲いて」
美しくも残酷な夢の世界を作り上げて。
「誰かにとっての『夏』を映して」
「……寂しいひとを招き続けるのでしょうか」
その在り方は……とても、寂しい在り方に思えた。
「……はぁ。まったくもう」
だが、ため息を吐く彼女は、どこか楽しげにも見える。
だって、「またね」なんて言われたら――。
「来年もあの『夏』を終わらせにいかないといけないじゃないですか!」
勿論、どちらが誓ったものでもない。次にあの異界が生まれたとしても、『向日葵』は別の存在だろう。だとしても。
それが、約束というものだ。
「まったく、なんて厄介なオブリビオンでしょう!」
何回でも切らないといけませんね、と静かに笑う神楽耶であった。
がたん、ごとん。
「あれ」
そういえば。アナウンスに耳を傾ければ、なにやら。
「集合地点の駅って、ええと」
乗り込む前に、確認した液を過ぎているような。
「……乗り過ごしましたか!?」
――まったく、あわてんぼうさんなんだから。
車窓から除く向日葵が、揺れた。
大成功
🔵🔵🔵
玉ノ井・狐狛
郷愁とともに赴いた以上、あれは間違いなく“里帰り”で。
そして同時に、自分の故郷とは異なる何処かへの、旅行めいてもいた。
(まァ、無事に終わったコトだし。夏休みの行事としちゃ、どっちにしたっておかしくない)
安全の約束されたレジャーなんかではなかったけれど、危険なんて日常茶飯事。
なら、普段できない――まさか追放された身で、実際の帰郷をするワケにもいかない――体験ができた分だけ、お得ってモンだわね。
「……おっといけねェ」
ギリギリアウトの土壇場で、ひとつ思い出す。土産を用意しなきゃだ。
そこらの駅で、それっぽいものでもあればイイんだけどねェ……。
脱出時に飛ばされた、山間の林から、近くの駅に向かって歩きながら、玉ノ井・狐狛は思案する。
郷愁とともに赴いた以上、あれは間違いなく“里帰り”で――。
そして同時に、自分の故郷とは異なる何処かへの、旅行めいてもいた。
(まァ、無事に終わったコトだし。夏休みの行事としちゃ、どっちにしたっておかしくない)
なにせ、故郷に帰るのも、遠出をするのも、どちらもつきものなのが、この季節。夏休みの日記にはどう書こうか、なんて冗談めかして。
安全の約束されたレジャーなんかではなかったけれど、危険なんて日常茶飯事。
「なら、普段できない体験ができた分だけ、お得ってモンだわね」
故郷よりは追放された身。まさか実際に帰郷をするわけにもいかないのだから。
そんなことを言っていると、小さな駅にたどり着いて、後は集合場所までゆっくり列車に乗るだけ、という所になって――。
「……おっといけねェ」
切符も買った後の、ギリギリアウトの土壇場で、ひとつ思い出してしまった。
お土産を、用意しなければならない。
「売店にそれっぽいものでもあればイイんだけどねェ……」
がたん、ごとん。
乗らなければならない列車の近づく音を妖狐の耳で捉えながら、素早く売店を物色する狐狛であったとさ。
大成功
🔵🔵🔵
パーム・アンテルシオ
ゆっくり帰ってくればいい、かぁ。
それなら…せっかくだし。
駅のお弁当とか、お土産とか。
色々楽しみながら、帰っちゃおうかな。ふふふ。
こうやって、知らない風景を眺めてると…
エンパイアで、旅して生きてた頃を思い出す。
いい人に会って、悪い人にも会って。
人の生からすれば、短い間だったかもしれないけど…
それでも、私にとっては、長い旅だった。
…そうじゃない。
今も私は、旅してる。
どんなに優しい人たちが、周りにいても。
ここはまだ、故郷じゃないんだから。
もしかしたら…
私はいつまでも、旅をするかもしれない。
それを、望んでるかもしれない。望まれてるかもしれない。
どこにも辿り着かずに、朽ちて沈む実のように。
…なんて、ね。
「ゆっくり帰ってくればいい、かぁ」
グリモア猟兵からの言葉を思い出して、楽し気に尻尾を揺らしながら、駅の売店を覗くパーム・アンテルシオ。
「それなら……せっかくだし」
お弁当とか。お土産とか。
「色々楽しみながら、帰っちゃおうかな。ふふふ」
思う存分、売店巡りを楽しむと、いくつか必要なものを買って、列車に乗り込むのであった。
買い込んだおやつが、少し多めなのはご愛敬。
がたん、ごとん。
車窓から覗くのはUDCアースの田舎らしい光景。低めの山があり、田畑があり、住宅街があり、小さな工場がある。
そんな、ありふれた……しかし、どこにでもある、というような一言ではくくれない、確かにその土地ならではの表情を持った光景だ。
「こうやって、知らない風景を眺めてると……エンパイアで、旅して生きてた頃を思い出す、かな」
いい人に会って、悪い人にも会って。
「人の生からすれば、短い間だったかもしれないけど……」
それでも、子狐からすれば、随分と長い旅だったのだ。
――いや、旅だった、では、ないのだろう。今も彼女は旅をしている。
「だって、どんなに優しい人たちが、周りにいても」
ここはまだ、故郷ではないのだから。
あるいは、もしかしたならば。
「私は、いつまでも、旅をするかもしれない」
それを、望んでるかもしれない。望まれているのかもしれない。
「どこにも辿り着かずに、朽ちて沈む実のように……」
芽を出し、花実をつけず、さまよい続けることこそがふさわしいというかのように。
「……なんてね」
そんな風に考えて、小さく頭を振ったパームの視界に、何の変哲もない、向日葵畑がちらりと映った。
がたん、ごとん。
●
こうして、異界の門は閉じられた。
終わらない夏は終わりを告げる。
だが、日が沈みまた昇るように、夏はまた訪れるもの。
寂しくなったならいつでもおいで、君を待っているから。
大成功
🔵🔵🔵