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ヘヴンリー・ブルー

#UDCアース #呪詛型UDC

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 遮るもののない穹が、夜を湛えてパノラマの如くに広がっている。
 初夏の気配があえかに揺れる、そんな夜空だ。冴える銀の月がとおくとおくに在って、そこからすべてを見霽かしている――この青く蒼い、どこまでも碧いネモフィラの海を。
 藍が可憐に群れ咲いている。地平線向こうまでずっとそうだ。静謐さを湛えて震える様に揺れていて、儚げな貌を魅せていた。
 真昼の青空の許でなら、地と穹との境目がわからなくなるくらいのヘヴンリー・ブルーがそこに寝そべる。訪れるものを、地でも穹でも海でもない場所へと誘っている。
 けれど嗚呼――招かれるものは、決して善良なひとびとだけではないのだ。
 銀の蝶がひらりと舞う。きれいな一葉の銀紙が、そこに漂っているか様に。
 鱗粉がそう見える訳ではない。ただきらきらと煌めいては犀利に月光を弾き返し光零す蝶々は、どうしたって自然界に存在して良いものではないだろう。誰かがそこに蒔いたのだ――そう、誘き寄せる為に。
 いずれ夜が明ける。このネモフィラ畑の絶景を、地上に在る天国を見たさ訪う者も決して少なくはないだろう。
 銀の蝶に餌が釣られてしまう前に、為すべき事が在る筈だ。


「有名なネモフィラ畑が在るんだ。UDCアースの地方都市だな」
 斎部・花虎はそう告げた。
 次いで周囲の景色が揺らぎ、グリモアベースがいっとき柔らかな青に染まる――映し出されるのは地平線までミルクがかった青の色持つ花が群れ咲く、ネモフィラの海。空は初夏らしく青く晴れ渡り、空と地の境目が曖昧なほどだ。
「見事だろ」
 誰かの漏れた感嘆を拾い聞いた花虎が、そこで漸く口端を緩めて囁く。
「昼間に行けば、本当に空と地との境を見失ってしまいそうなほどの色合いでね。……でもそれは、昼間に行けば、の話」
「つまり、夜に?」
 誰かが尋ねる。そうだ、と花虎はいらえて肯いた。
「ここを餌場と定めたUDCが居るらしい――予知には、そのように。朝になれば観光客が、このネモフィラ畑を観にやって来るだろう。そう、餌だな」
 だから夜のうちに、態と用意された罠に身を投じてUDCに辿り着いて欲しいのだ、と花虎は続ける。
 ネモフィラ畑で穏やかなひとときを愉しむ姿を見れば、猟兵たちを餌と勘違いしたUDCが餌を蒔くだろう。後はそれを手繰ってゆけば、本命に行き当たる筈だ。
「ネモフィラ畑には、目立たないが細い小径も敷かれている。座って休みたければ、白い四阿も幾つか在るからそこを使うと良い」
 小径を歩けば、まるで地に在る海を歩いている心地にもなれるだろう。夜風に吹かれてさやと揺らめくネモフィラの漣は、きっと猟兵たちの心を優しく撫ぜてくれるに違いない。
 四阿には簡素なテーブルセットも設えられているから、真夜中のお茶会と洒落込むのも良いかもしれない、と花虎は思いついた様に呟く。それくらい愉しむ時間は在るだろうから。
「仕事も大事だが、そうだな。おれからは――愉しんでおいで、と」
 夜の時間は決して長くはないが、短くもないのだ。
 掌の上に掲げるグリモアを燦めかせながら、花虎はそう囁いてまた笑んだ。どんな風景だったか教えておくれと、土産話を期待する言葉を添えて。
 ヘヴンリー・ブルーは、夜の許にその両腕を優しくひろげているだろう。


硝子屋
 お世話になっております、硝子屋で御座います。
 UDCアースでのお仕事です。

 GWに掛かる進行になる為、今までよりかは小規模での運営を予定しております。
 プレイング期間を短めに区切ったり、採用するプレイング数を絞る可能性が御座います。
 予めご了承頂けますと大変幸いです。

 ・第一章:ネモフィラ畑での散策となります。下記をご参照下さい。
 ・第二章:現時点で不明です。
 ・第三章:現時点で不明です。

 !第一章について!
 こちらのみの参加も歓迎しております。お気兼ねなくどうぞ。
 行動例はあまりお気になさらず、お好きな事をなさって下さい。
 時刻は真夜中、星月夜がきれいに見渡せる様な、一面のネモフィラ畑です。
 今回は事件解決前の為、花虎はご一緒致しません。

 それでは、ご参加をお待ちしております。
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第1章 日常 『『瑠璃と濃藍と、満月と――』』

POW   :    藍の世界を逍遥する

SPD   :    ネモフィラを愛でる

WIZ   :    流星に願いを乗せる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

浅葱・水簾
ひとりで参加

昼ならば天との境が見えないネモフィラですけれど
夜は地上の方が空に見えなくもないのですわ

ひとり、のんびりと四阿でお茶でも飲みますわね
せっかくですもの、飲み物も揃えて、ということでバタフライピーを
花も、空も、お茶も青ですけれど
ひとつとして同じ色はないですの
これから騒がしくなりますけれど、今このひとときだけは
ゆうるりと、穏やかに過ごしていたいものですわ



 ティーカップの碧い水面には、星々が煌めく様に鏤められて光を弾く。
 四阿から見霽かすは、地上に揺蕩う一面のネモフィラだ。昼とはまた趣の違う顔を見せるその様相は、宛らこちらが空の様だった。柔らかなブルーは、陽の照る初夏の空を落とし込んだかの如くに愛らしく揺れている。
 カップに満ちるバタフライピーをひとくち啜って、浅葱・水簾はその口端に笑みを滲ませた。
「――不思議。花も、空も、お茶も、同じ青の筈ですのに」
 浅葱の眸に映る世界は今やどこまでも青いのだ。
 果てまで続くネモフィラの蒼、夜を溶かした遮るもののない空の濃青、バタフライピーの湛える透き通る青。
「ひとつとして同じ色はないですの」
 囁く声が風の隙間に解けてゆく。彼女の声にいらえる様にして、夜風に撫ぜられたネモフィラがさやさやと笑う。
 切り取られた藍の世界の一片が、水簾を誘う如くに視界いっぱいに佇んでいた。
「これから騒がしくなりますけれど、どうぞお目溢し下さいまし」
 誰にともなく彼女が断る。誰に宛てたものでもない――ここを満たす静謐な空気に、青の気配に、それを告げる気になったのやも知れなかった。
 バタフライピーの仄かな馨が、ネモフィラのそれを伴い鼻先を擽る。
 願う通りの穏やかな時間が、もう暫くは甘やかにそこへ微睡むのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カチュア・バグースノウ
SPD

綺麗ね…!
青蒼あお…
地も空も青い

ネモフィラはあたしの目の色とよく似てるのよね
だから人ごと?に思えなくて

花言葉はなんだったかしら?
可憐、どこでも成功…
可憐、あたしみたいねっ
ツッコミがいないからやりにくい…

「ネモフィラは君の目だね」
って昔言ってくれた人がいたわ
幼馴染で12の時に亡くなったんだけど
キザで歯が浮くようなセリフ毎日言ってた

それからはちょっとだけ、ネモフィラはあたしの花って思ってる
…墓前に持ってくのもネモフィラ

しんみりしちゃったわね!
綺麗なのは堪能したし、月夜も綺麗だったわ



「綺麗ね……!」
 全てを呑み込んでしまうかの様なその青の世界に、眼前にひろがる花の色を汲む蒼い眸でカチュア・バグースノウは微笑んだ。
 爪先が軽やかに小径を踏む。屈んで指先を差し伸べれば、ミルクがかった柔い青を湛える花弁が健気に膚を擽ってゆく。同じ色がカチュアにも宿っている――その眼差しを殊更に和らげて、ふ、と呼気を零した。
 花言葉に似つかわしい佇まいだ。可憐、だなんて。
「可憐、あたしみたいねっ。……――、なーんて、」
 明るい声で笑い飛ばして、屈んでいた背を真っ直ぐに伸ばす。
 独り言の端を掴んで突っ込んでくれる誰かが居ないのがなんとなく寂しい様な、けれど誰もいない事に、どこか少しだけほっとした様な――どちらつかずの感情が胸中に潜む理由は、カチュアが一番良く良く知っている。
 ――ネモフィラは君の目だね。
 逝ってしまったあなたの言葉を辿っては思い返す。
「……ほんと、キザだったわ」
 ネモフィラ畑を撫ぜてゆく風が、花弁を幾枚か徒に散らしてゆく。漂うそれを一葉、器用に摘んでカチュアは手許へと引き寄せた。この色が自分の眸にも宿ると云う。
 もう居ない誰かの言葉は澱の様に、心の裡に折り重なっている。柔い部分だ。この花弁みたいに儚くて弱い。
 カチュアの視線が、そのベイビー・ブルーをつと見つめる。
 ――あたしの花だ。
 唇が何かを継ごうとして薄くひらくけれど、結局音にはならなかった。代わりに弧を描く。微笑むに併せて指先をひらけば、掴まえていた花弁はあっという間に夜の硲に嚥まれて消えた。
「しんみりしちゃったわね!」
 切り替える様にそう声にすれば、風に弄ばれる白糸を抑える様にして月の飾る夜空を見遣った。
 満足気に双眸を眇める。眸にはいつだって、あなたが褒めてくれたネモフィラが咲いている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ブルーベル・ザビラヴド
扉の向こうの知らない世界を、訪ねてみようと思ったのはなんでだろう
多分、揺らぎの中に見えた此の世界の空の色が
『僕』の生まれた夜に似てたから?

蒼い花群をただ、歩く

星の降りそうな夜、僕はヤドリガミになった
なんとなくで受け継がれてきた、特別な価値も何もない偽物の宝石
人でなく物でもない僕を家族のように扱ってくれた『あの人』の優しさが、嬉しくて、でもなんだか寂しかった

あの人はもういない
何年、何十年、時間ばかりが過ぎても
ヒトになれない僕は、ヒトの心を持て余している

ねえ、あなたがこの景色を見たら、なんて言うのかな
もう、永久に分からないことだと知っているけれど
愛を教えてくれた、あなた
愛してはくれなかった、あなた



 どこまでも蒼い花の群れを、ただ、歩く。
 生まれたのもこんな夜だった――ブルーベル・ザビラヴドは馳せる想いに息を吐き、足許を擽るネモフィラの感覚に双眸を伏せながら逍遥する。
 いまにも星が降り始めそうな、燦くばかりのさんざめく夜。揺らぐ景色のなかに垣間見たその色が、そうしていま視界を塞ぐほどに空を覆うその色が、『僕』の生まれたあの夜を記憶の隅から喚び起こす。
「――あの人は、もういない」
 貰ったものは時を経た今も尚、身体の裡から暖かくこの身を灯しているのに、ここに無いものばかりを数えてしまうのだ――人でなく物でもない、なにものでもなかった自分を家族の様に扱ってくれた、『あの人』の痕を未だに慰撫している。
 くれた優しさは確かに嬉しかった。けれどどうしても、寂しかった。
「ねえ、あなたがこの景色を見たら、なんて言うのかな」
 尋ねる様に零す声は、ネモフィラ畑を渡ってゆく風に紛れて散ってしまうだろう。
 言葉を返してくれる誰かが傍に居た所で、それのこたえが返ってくる訳ではない事などよくよく解っている。永久にわからない事だ。
 だって『あの人』はもう居ない。
 祈る様に双眸を伏せる――白い目蓋のその奥に、景色を綴じ込んだ様な眸を抱えながら。
 教えてくれた愛はこの身に咲き誇っている。愛してくれなかった癖に、それだけは枯れる気配が未だ無いのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
月明りに仄かひかる花の苑
まるで星野原を歩いているかのような心地がする

――あぁ、まさに天上の青、

知らず零れる感嘆の吐息

魂が辿り着く涯ての骸海も
斯様に清かに凪いでいるのだろうか
心持たぬ『物』――香炉が本体の己にも魂は有るのだろうか
私もいつか、其処へ逝けるのだろうか

高天原を臨むかの光景に佇みつつ
深い海の底に沈み込むかの如き思考に溺れるのも
時にすれば僅かの間

風に遊ぶ花弁へとゆったり伸ばす手
掌に乗る花を指の檻に包みかけ
首を振りて
あえかな笑みを浮かべる
掴まえずに其のまま大気へ還そう

此の花のひとつひとつが
誰かの魂の
命の燈なのだとも思えて
美しい花あかりに柔く双眸を細める

どうか
自由に
あるがままに
咲き誇りますよう



「――あぁ、まさに天上の青、」
 ヘヴンリー・ブルーはそのかいなを淑やかに拡げ、猟兵たちを誘っている。
 抗う事なく青の坩堝へと足を踏み入れながら、都槻・綾はそっと口端を持ち上げそう零した。満足気に漏れるのは感嘆の吐息だ――月明かりを仄かに弾きながら健気に咲き誇る、地に渡る穹を歩く心地。何にも代え難いその感覚が、いまの綾を染めている。
 そこに根付くは確かに魂持たぬものであるのに、息衝く様に囁いているのだ。だと云うのにしゃらしゃら揺れ合う音ばかりの凪ぐ様な静けさに、綾はつと視線を下げる。
 いつか辿り着く果ての涯て、骸の海たるかの地も、こんな風に静かを湛えて凪いでいるのだろうか。
 心持たぬ『物』であれ、そこに至る事は叶うのだろうか。
「……私もいつか、其処へ逝けるのだろうか」
 詮無いことだ。理解している。それでも尚、そうして疑問が浮かび上がっては唇から這い出てしまうのだ。
 刹那、風が吹く。とおいとおい月から何某かが渡る様に、清凉な夜風が青の隙間を撫ぜてゆく。
 その末尾には惑わされた蒼の花弁がいとけなく舞っていた。いずれそのうち花畑へと嚥まれてゆくだろうそれに、綾の指先が思わずと云った風体で伸びる。掬ってやろうとしたのやも知れなかった。
「――、いや」
 呼気が緩む。ふとあえかに笑う。指先の檻に囚えようとしたその一葉を、思う儘に流してやる。
 留めておくには無粋だと思った――或いはもっと、何か違うきらきらしたものをそれに重ねてしまったのかも知れない。真実は杳としている。綾自身もそれを追求などしないのだから。
 いらえる様に風が鳴いた。ひとつ大きな嘶きがあって、瞬きのするくらいの間が空いてから、ざあとネモフィラが唄う。
「地に在る天国とは、また――」
 青磁が淡く笑む様に撓る。舞う蒼は花吹雪となりて、それこそ檻の様に綾をひととき、この天上へと縫い止めようとするのだろう。
 あるがままに咲き誇る、花々の些細な我儘だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サン・ブルーローズ
「う、うぉおおおわあああ!!すっご……すげえー!」

目の前に広がる光景に感動しつつ、自らの故郷に似た光景に懐かしさを覚えます。
雷纏う蒼き薔薇の園に隠れた妖精郷、それがサンの故郷であった。

「〜♪」
パチリ、パチリと雷を纏い仄かに輝きを放ちながら、ネモフィラ畑の上を踊り舞いながら飛ぶ。
今は遙か遠くの故郷の、妖精の祈りの舞。

ここには祝福すべき勇者も、祈りを捧げるべき神なる竜も居ないけれど、戦い前に丁度いい。


「さて、このきれーな場所を餌場なんかにさせない為にボク……じゃないオレも頑張っちゃうぞー!えいえいおー!」
気合い充分!活力全開!悪者め、何処からでも掛かってこーい!



「う、うぉおおおわあああ!! すっご……すげえー!」
 見渡す限りに青が染め上げるその類稀な光景に、サン・ブルーローズはその背の翅を震わせながら声を漏らす。
 原初の記憶、雷纏いし蒼薔薇の園に隠された秘匿の地、ふるさとたる妖精郷。いまはただ懐かしきその風景を想起させるネモフィラ畑に、サンの双眸がきらきらと煌めく。
 居ても立ってもいられなくて、鼻歌と共に花の海へとそのちいさな身を躍らせる。近くを擦り抜けてゆく度に、可憐な花々が歓迎する様にさやと揺れた。まるで手でも振るかの様だ。
 愉しいから、サンの口端にも自然と笑みが毀れて溢れる――ぱちりと軽やかな音と共に雷を纏う。
 弾ける様な仄白い輝きを得て、ちいさな四肢を夜の気配に遊ばせる。舞い踊る如きその所作は、今は遥か遠くに在る故郷に伝わる祈りのそれだ。
 ここには祝福すべき勇者も、祈りを捧ぐべき神なる竜も居ない。けれど戦う前の、どこか高揚する気分を昇華するには丁度良い。
「さて、このきれーな場所を餌場なんかにさせない為にボク……じゃない、オレも頑張っちゃうぞー!」
 えいえいおー、と元気良く月下に拳を突き上げて、サンはひらりとその身を花明かりの上に躍らせた。
 気合は十分、活力は全開。――さあ、どこからだって掛かってこい。

大成功 🔵​🔵​🔵​

千桜・エリシャ
バレーナさん(f06626)と

咲き誇るネモフィラに思わず感嘆の息を
月明かりにも負けないくらいの眩さで
花明りは桜だけかと思いましたが、ネモフィラでも見れますのね
美しい…美しいですわ!
さあ、バレーナさん!もっと中まで歩いてみましょう!と手を引いて
位置面の蒼の中を泳ぐ姿は、ここを深海と錯覚するほど美しくて――
でも今日は少し幼く…可愛く見えるかしら?なんて

嗚呼、そうですわ!
次のアクアリウム(己が営む宿にある巨大なそれ)はネモフィラを題材にするのはどうかしら?
ネモフィラと一緒に泳ぐあなたもきっと美しいですわ
ふふ、あなたの白皙はまるでキャンバスのよう
きっと、どんな色を差しても魅力的に調和するのでしょうね…


バレーナ・クレールドリュンヌ
■エリシャ(f02565)と。

ネモフィラの花畑に思わず見惚れてしまうわ。
月夜に照らされた青が、まるで蒼天の海のよう。

月明かりの下で、こんな美しい景色に出会えるなんて。
隣で喜びに満ちたエリシャに手を引かれたなら、
嗚呼、なんてこと、胸の高鳴りが、ときめきが止まらなくなりそう。
一面のネモフィラを背景に、青のワダツミの波間を躍りましょう。

そしてエリシャから、アクアリウムの新しいモチーフにネモフィラを使ってみては?という提案を受けるわ。
この景色、エリシャと一緒に過ごしたこの幻想のような世界の青に、わたしの白が調和していく……。
自分の中にある新しい色が目覚めていくような感覚になっていきそうね。



 波間は今宵、どこまでも続く蕩ける様な青の花だ。ヘヴンリー・ブルーは風に撫ぜられ時折揺れて、それこそ漣めいた音を立てながら娘たちを待ち構えている。
 花の海が寧々と寝そべる。嗚呼、と解ける様な感嘆の吐息を散らして、千桜・エリシャは月下に誇るその光景を見霽かした。
「美しい……美しいですわ!」
 ときめく胸を抑える様に、エリシャの白魚めく指先が組み上げられる。桜のそれに伯仲する花明かりの麗しさに上擦った声を上げながら、エリシャは傍らの彼女を振り返った。
 視線の先で、彼女――バレーナ・クレールドリュンヌもまた、すべてを差し招く様な蒼の花海に視線も吐息も奪われている。
 冴える月光の照らし出す蒼は柔く煌めいて、揺れる度に表情を変えるひかりは水面のそれに良く似ていた。見惚れてしまう。惹かれてしまう。
「月明かりの下で、こんな美しい景色に出会えるなんて……」
 感嘆の色濃く継がれるバレーナの声に、エリシャがそっと微笑んで手を伸ばす。暖かく手を繋げば、ほら、と誘う様に小径へとふたりで踏み出して。
「――さあ、バレーナさん!」
 もっと中まで歩いてみましょうと微笑めば、おずおずとバレーナがそれに導かれて泳ぎ出す。
 ようこそ、ようこそ――花々は決して喋らねど、さやと揺れる音がそんな風にふたりへ囁く。踊るに足る楽こそ無いが、初夏の銀月は独り占めが叶うだろう。艶かしく鱗を、尾鰭を、ひかりがそこへ描き出す。水中で斯く在るが如く。
「嗚呼、なんてこと、」
 夢に浮かされる響きでバレーナがそっと左胸に指先を添えた。胸の高鳴りは鳴り止まず、ときめくばかりで吐息が染まる。
 見えぬものに導かれる儘、ひとりの人魚が泳ぐ様に舞う。舞う様に泳ぐ――花とも穹とも定まらぬ様な繊細なネモフィラの波間は、けれど白皙の麗魚がそこへ収まる事で確かに海になるのだ。
 エリシャはそこに深海のゆめを視る。だってこんなにも、美しい。
 いつもよりかは少しだけ幼く、愛らしく見える彼女の姿が、それでも尚麗しい。
「ね、次のアクアリウムはネモフィラを題材にするのはどうかしら?」
 己の宿に在るそれを話題に出して、閃いた様な明るい笑みでエリシャが尋ねる。きっとネモフィラと一緒に泳ぐ彼女も美しいに違いない。
 提案には微笑む様にバレーナの頬が綻んだ。エリシャと過ごしたこの蒼い花海に、自らの白が蕩けていく様な幻想を想う。
「すてき。わたしの中の新しい色が、覚醒めてゆくみたい」
 夢と零すバレーナの声に、エリシャも嬉しげにはにかんで見せた。
 ネモフィラの海は、ふたりを抱えて微睡む様に揺れている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497と

綺麗なものですね
視界全てが藍に染まるとは

少し歩いてみましょうか

言って、少しだけ先を行くように歩きだす。
風に揺れる可憐は甘い香りを届けて、
冴える月光に照らされ、儚くも見えるようだ。

あとどれくらい咲いているんでしょうね、この花は
今だけのこの景色、見られてよかったですよ

振り返れば、藍色の中。
月の光を浴びる姿を見て、
花も眩むほどに目を惹かれ。

――手、繋いでもいいですか?

幻想に入るようで、地が分からなくなりそうだから。
なんて言い訳をしながら。
握る手のあたたかさを、離し難いと感じてしまう。
忘我の境に入るような青の世界、
立てるのはこのあたたかさがあるから。

もう暫く、夜の青を歩こう。


オルハ・オランシュ
ヨハン(f05367)と

本当に綺麗……この世とは思えないぐらい

ふふっ。歩くなら夜が明ける前に、だよね

月下に揺れる一面の藍は神秘的で
甘い香りが別世界へと誘ってくれるよう
……綺麗な藍色は、ヨハンの瞳とよく似てる
背を向けられているのをいいことに、前行く彼をちらりと見て

花は儚いからね
満月と併せて見られるなんて、運が良かったかも

――!
突然振り向かれて、目が合った
それだけのことなのに
この空を映したような藍の眼差しに鼓動は高鳴る

……うん。私もね、繋ぎたいな……

地がわからなくなっても、君とならきっと平気
彼の手をぎゅっと握る
願う先は言えないけれど
夜明けまではこのままでいさせてもらえるかな
馨しい青の世界で、一緒に



 ふたりの視界すべてが柔らかな蒼と藍に埋められている。
「少し、歩いてみましょうか」
 ヨハン・グレインは振り返ると、傍らに佇むオルハ・オランシュに向けて誘う様に声を掛けた。意識すべてを浚っていく様な青に眸を瞠っていた彼女に否やもなく、うん、と口端を浅く持ち上げて肯く。
 そうしてちいさく、ふふ、と笑った。
「歩くなら夜が明ける前に、だよね」
 先を往く様に歩き出すヨハンの背を追い掛ける形で、オルハもまた歩き出す。
 彼らふたりを歓迎するかの様に、ネモフィラの群れはさやさやと揺れていた。夜風を孕んで儚げに花弁を一葉一葉散らしながら、それでも健気に犀利な月光をその隙間に蓄えては、花明かりめいて地を照らす。
 地上に在る天国、大地に在る穹――或いは花の海。くゆる様なささやかな甘い花の馨に、夢の世界を逍遥している様な心地を覚えてオルハの目許がとろりとほどける。
「(……綺麗な藍色は、ヨハンの瞳とよく似てる)」
 彼が背を向けて前を歩くからこそ、その背を見つめていられるのだ。ちらと視線を遣れば、背中越しにヨハンの声が向けられる。
「あとどれくらい咲いているんでしょうね、この花は」
「花は儚いからね。満月と併せて見られるなんて、運が良かったかも」
 軽やかな言葉の応酬が心地良い。月の照る音すら聞こえそうなほどの静寂に散るそれが耳朶を擽る度、こそばゆくて少しだけそわつく。
「今だけのこの景色、見られてよかったですよ」
 括る様にヨハンが告げて、そこでふと足を止めた。
 花の甘い馨に袖を引かれたのかも知れなかったし、もっと単純に後ろを歩く彼女の事が気になったのかも知れない。そんな事を思う前に、ヨハンは振り返る。
 ――ざあ、と、花海を渡る風がひときわ強く流れてゆく。
 藍の世界にベイビー・ブルーの甘い花弁が鏤められる。驚いた様にオルハもまた足を止めていて、その後ろには銀の星月が穹の海を飾っていた。
 きっとお互いがお互いを、この一瞬だけは知り得る事など叶わない。
 月光を受けて燐光得た様に煌めくオルハの姿に、花も眩むほど眼差しを惹き付けられたヨハンのことなど。
 この夜空の如くに優しくすべてを見霽かす様な藍を染め込んだ、ヨハンの眼差しに鼓動を高鳴らせるオルハのことなど。
「――手、繋いでもいいですか?」
 そう尋ねて、ヨハンが片手を差し伸べる。わからなくなりそうですから、とちいさく添えられた声に、君とならきっと平気、と細い声があえかにいらえる。
「……うん。私もね、繋ぎたいな……」
 重ねた手が、そこだけ熱を帯びた様に暖かい。離し難い、と思えどそれを口に出す事は叶わない――いまは、まだ。願う先は言えねども、代わりにぎゅっと握り返す。
 すべて忘れてしまいそうな青の世界が、彩る様に漣をつくる。
 夜明けまではまだ遠い――ネモフィラの海の果てまで、きみと歩こう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レイラ・エインズワース
鳴宮サン(f01612)と

ワァ、これが全部ネモフィラの花なんだカラすごい話だよネ
綺麗で、綺麗で
こんなに素敵な場所、散らすわけにはいかないカラ

出されたのは誕生日の贈ったモノ
絶対聞かないタイプなノニ、聞かれたカラ
何で聞くのって、逆に聞いてみるヨ

花には花言葉があるんだケド
「いつでも成功」トカ、「可憐」って意味があるヨ
アハハ、やっぱりわかル?
えっとネ、籠めた言葉は「あなたを許す」ダヨ

よかったってどういうコト?
内緒はなしダヨ
こっちはちゃんと言ったんだカラ

……そういうコト言う
ソレはできない、約束はできない
デモ、そう思うコトまでは否定できないヨ
だって、そうじゃないとフェアじゃないデショ?
でも、ありがト


鳴宮・匡
◆レイラ(f00284)と


今まで
ただそこに在る景色に、特別な感慨を抱いたことはない
でも、この青に彩られた景色が
どうしようもなく胸を打つのはわかる

ところでさ、レイラ
声を掛けて取り出すのは瑠璃唐草の飾り
これ、どうして俺に贈ったんだ?
なんで訊くのって
「花には思いを込める」んだろ

流石に俺でもはぐらかされてるってわかる単語来たんだけど
――

許す、か
じゃあ、一緒に来てよかったかな
何って内緒……あ、ダメ?

レイラが俺を許すなら
俺といる時くらいはレイラも
世界を楽しむことを自分に許してほしいって
……それだけだよ
お互い様じゃないと、フェアじゃないだろ

いいよ、約束はしなくて
俺も出来ないからさ
ただ、憶えていてくれればいい



 ところでさ、と何気なく掛けられた声に、果てまで蒼く染めるネモフィラの海から視線を剥がしたレイラ・エインズワースは振り返る。
 鳴宮・匡の掌の上に乗っかるちいさなものが何であるのか気付けば、つと双眸を眇めてほんの少し、唇を尖らせた。
「これ、どうして俺に贈ったんだ?」
「……何で聞くノ」
 絶対聞かないタイプなノニ、とはレイラの心中だ。
 匡の掌のなか、硝子の裡には瑠璃唐草が微睡んでいる。蔦を模す飾り紐がそれを繋ぐ逸品は、確かにレイラが匡へ宛てて贈ったものだ。
 レイラの返答に、匡の片眉が浅く持ち上がる。
「なんで訊くのって……、『花には思いを込める』んだろ」
 視界を染める青が優しくさやかに揺れている。そのひとつひとつが薄明るく夜を滲ませて、ふたりの足許から見上げていた。
 いかにも花を愛でる様に、レイラは軽い所作でしゃがんでその青の群れへと指先を伸ばす。膚を擽る様に揺れる感覚を愉しみながら、何でも無い様に彼女がいらえる。
「花言葉ダヨ。『いつでも成功』トカ、『可憐』って意味があるヨ」
 息をひとつ吐く気配と共に、匡もまた彼女の傍らへと膝を折る。
 視線の高さが近くなれば、それだけ言葉も声も距離を縮めるものだ。
「流石に俺でも、はぐらかされてるってわかるんだけど」
「やっぱりわかル?」
 やや半眼になって向けられた視線と声とに、ちいさく肩を竦めて笑うレイラが口端を持ち上げる。
 指先にはネモフィラが触れている。花弁の輪郭を爪の先でそっとなぞれば、恥じる様に青い花は震えた。
「――えっとネ。籠めた言葉は『あなたを許す』ダヨ」
「……じゃあ、一緒に来てよかったかな」
 密やかに告げるレイラの声に、ふうん、とそれを吟味する様に匡が視線を投げ上げる。どこか独り言にも聞こえる調子でそう零せば、花海へと向けられていたレイラのかんばせがぱっと持ち上がった。
 よかったってどういうコト? ――手繰り寄せる様に尋ねる彼女の鮮やかな赤をいちど覗き込んでから、匡が唇をひらく。が、何事か紡ぐより前に、レイラが追撃を入れる方が僅かに早い。
「内緒はなしダヨ」
 こっちはちゃんと言ったんだカラ、としれっと付け加える。
 内緒、の二文字を封じられて、匡はいちどぱくんと口を閉じた。ふ、と浅い笑みが唇を彩る。ほんの少しの沈黙を惜しむ様に、レイラの髪に絡まる青の花弁を指先で摘んで風に放した。
「レイラが俺を許すなら。――俺といる時くらいは、レイラも世界を楽しむことを自分に許してほしいって……それだけだよ」
 それだけ。
 それだけだと彼は云う――それがレイラにとって難しい事だと、彼もその片鱗に触れているだろうに。
 レイラの赤い眸が少しだけ瞠って、それからふいと逸らされる。夜風が縷々と流れて髪が揺れ、匡の指先もまた離れてゆく。
「ソレはできない、約束はできない。……デモ、そう思うコトまでは否定できないヨ」
「いいよ、約束はしなくて。俺も出来ないからさ」
 匡の声は存外に柔い。ひとつ身動ぐと共に立ち上がれば、ほら、と片手をレイラへ差し伸べる。
 掴まって立ち上がれば、添えられていた手はするりと離れてゆく。その程度だ。ネモフィラの甘い馨がくゆる度、靄が晴れていく様な。
「ただ、憶えていてくれればいい」
 歩き出す間際に告げられた匡の言葉に、ふ、とレイラの口端が綻んだ。
 それで良かった。
「――……、ありがト」
 小径は先へ先へと続いている。
 涯てまで溢れんばかりに続くネモフィラが、ふたりを招き入れる様にただ、揺れていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セラ・ネヴィーリオ
【POW】
わあ、すごく綺麗な所だねえ
こんなに沢山のお花に囲まれるなんて初めてかも!って笑顔で走り出しちゃう
だって故郷は雪と重たい雲ばっかりだったしー。こんな景色を見られるなんて夢みたいだよ!世界って広いねえ

あ、でも
もしかしたら、本当に夢なのかなあ

想像に寝首をかかれ立ち止まる。近くには誰かいる?誰もいない?
きゅっと冷たい思いが降ってきて、ぺたんと座り込んだら花を撫で「……遠くに来たんだねえ」なんて
ついこの間まで過ごした場所を思い出すのは、この光景がひんやりと、寂しく感じたからなのかな

……うーん、よし!
この依頼が終わったら、団地に帰ってラーメン食べに行こーっと!

(アドリブ大歓迎/共通描写OK)



 視界いっぱいに花を咲かせ青に染める、そこは確かに地に在る穹だった。
 故郷は雪と重たい雲ばかりだった。だからこんな風に、広い世界の片隅で、夢の如くの景色を観られるだなんて思ってもみなかったのだ。
 重く冷たい白も灰色も、ここには何処にもない。目の醒める様なヘヴンリー・ブルーだけが、この地へ艶やかに凪いでいる。
「わあ、――……!」
 セラ・ネヴィーリオは感嘆の声を零すが早いか、小径を駆けて花の波間へと走り出す。
 地を踏んでいるのに漣が聞こえる。駆けている筈なのに花の海を泳いでいる。否、翔んでいるのかもしれない――まるで、夢まぼろしの様に。
「……あ、」
 零す声は子供のそれに良く似ていた。あれだけ心が跳ねていたのに、急に不安になってしまった様な。
 首筋にひやと冷たいものが在る。故郷の雪かも知れなかった。或いはずっと怖がっていたものだろうか。弾ける様に振り返れども、見渡す限りの青にただひとり、セラだけが取り残されている。
 崩折れる様にぺたりと座り込めば、迎え入れる如くにさやとネモフィラの群れがセラの四肢を擽ってゆく。
 どうしたの、こわいことがあったの、ここはだいじょうぶ――花は決して喋りはしないが、言葉を添えるならそんな風な。
 ふと、セラの唇に笑みが咲く。脳裏に目眩く思い起こされるのは、ついぞ最近まで身を置いていた場所の事だ。
「……遠くに来たんだねえ」
 花は応えない。
 ただ、風が渡ってゆく――夜色の穹の彼方より来たるそれが、いっとき、蒼い花弁を巻き上げて流離う。
 記憶が雪に染まるのならば、至上の青が塗り替えよう。もしも風が、花が雄弁ならば、そんな風に謳うのやも知れなかった。
 惹かれる様に、青の花嵐を鮮やかな紅色の双眸が追い掛ける。ゆらと立ち上がるが、それだけだ。藍を流した様な星月夜に流れていくのを見送って、ふと息衝く。
 そうして、切り替える様にちいさくよし、と呟いた。口の端には今度こそ、明るい笑みが滲む。
「この依頼が終わったら、団地に帰ってラーメン食べに行こーっと!」
 あの楽しい隣人たちに、何から話そうか。どこまで話そうか。
 少し先のささやかな未来に思いを馳せて、セラはネモフィラ畑を渡ってゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
【双星】
アドリブ歓迎

実物みるとすげぇな
まあ…色は昼の方が好きだが
昼の空と続きのような花は好ましい
アレスの目みたいだ

…んだよ突然だまりこくって?
はは~んと笑ってふざけつつ
小首を傾げる
もしかして、見惚れてる?

予想外の肯定に僅か頬を赤くして慌て
はっ…と息を吸う
ジト目で拗ねたように照れ隠し
…こんだけ綺麗なとこの感想がそれかよ
花だって、お前の目見たいで綺麗じゃん

二人の…って考えると
まあ悪くねぇな

そうだアレスちょっとそこ寝転がってみろよ
いいからいいから少し強引に強請ってアレスに転がってもらい
覆いかぶさるように覗き込む
ん、やっぱすげー綺麗
アレスの瞳と花を並べて嬉しそうに
手を伸ばされたら擽ったそうに目を細める


アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎

間近で見ると凄いな…!
夜空も美しい

ああ!本当に綺麗だ
セリオスの方へ振り返った瞬間
…夜空色の瞳、夜風に揺れる黒髪
満天の空と蒼い花の海の世界に立つ彼の姿に思わず目を奪われる
見惚れてる?の問いに
うん、と即答
君に見惚れていた
いつも思っているが、君は星空と青がよく似合うな
拗ねた彼におかしなことを言ったかなと首を傾げ

花が…僕の?
頰が赤くなるのを感じながら笑う
じゃあ、この景色は僕と君の色ってことだ

寝転がれって…急にどうしたんだい?
苦笑しながら彼に促され寝転がる
覗き込んできたセリオスに少し驚くも
彼の瞳と星空を見上げながら
…嗚呼、やはり綺麗だと微笑み
手を伸ばし、頰と髪に触れる
…もっとよく見せて



 つい先刻までは、ふたりして景色に見惚れていた筈だ。
 間近で見るパノラマのネモフィラ畑に、遮るもののない夜空――垣間見た昼のそれも美しかったが、夜もまた顔が違って甲乙付け難い。
 アレクシス・ミラは傍らの幼馴染を振り返って、綺麗だな、とかそんな様な声を掛けようとした筈だ。その筈だった。
「……んだよ、突然だまりこくって? ――ああ、」
 息を呑む様にして黙り込むアレクシスの視線は、それでもセリオス・アリスから離れない。
 訝しんでセリオスはそう声を掛けるが、言い切らない内に夜空色の眸をきゅうと眇め、悪戯っぽく口端が歪む。ははあん、と勿体振った様な声が添うた。小首を傾ぐ。
「もしかして、見惚れてる?」
 向けられた問いに、アレクシスは一も二もなく肯いた。当然だ。
「うん。君に見惚れていた」
 天上にひろがる夜空を落とし込んだかの様な夜空の眸、風に遊ばれ散らさるる黒い髪。星月夜とネモフィラの花海の硲、彼だけが滲む様にそこに在る。
 美しいと、そう思った。星空と青が、よくよく似合う。
「ッ、……な、」
 衒いのない肯定は余りにも真っ直ぐで、セリオスの心を甘く穿つ。頬にじわりと滲む熱が自らにも感じられて面映い。ちいさく息を吸って粟立った心を撫ぜながら、照れ隠しめいてアレクシスへと視線を投げる。
 じとりと睨め付ける様なそれ。拗ねるみたいなその色に、何かおかしな事を言っただろうかとアレクシスは首を傾ぐばかりだ。
「……こんだけ綺麗なとこの感想がそれかよ。花だって、お前の目みたいで綺麗じゃん」
「花が――、僕の?」
 思わずと云った風情で持ち上げられたアレクシスの指先が、己の目許をそっと撫ぜる。撫ぜた膚には熱が咲く――今度はアレクシスの頬が、薄紅に染まる番だ。
 屈託なく彼は笑う。ふたりで同じ事を思い合っていたのが、ただ純粋に嬉しかった。
「じゃあ、この景色は僕と君の色ってことだ」
 ふたりの宿す色を示してアレクシスが囁やけば、悪くねぇな、とセリオスもまた微笑んでいらえる。
 そうしてふと、セリオスの表情が色を変える。何か思い付いた様な、そんな顔だ。なあアレス、と強請る様に彼の手を引き、促される儘にアレクシスは花の海へと寝転がる。
「ん、やっぱすげー綺麗」
 セリオスの声は、アレクシスの真上から降るものだ。
 花を褥に寝そべる彼を、覗き込む様にして黒の帳が降りている。絹糸の様なその黒髪を指先で浚って零せば、擽ったげにセリオスが喉奥で笑った。
 その視界では、アレクシスの眸と花とが、隣り合って並んでいるのだ――本人はきっと、まだ気付かない。
 アレクシスの視界では、セリオスの眸と星空とが隣り合っているのだから。
「……もっとよく見せて、」
 伸ばされた手を受け入れて、擽ったげにセリオスは笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

終夜・嵐吾
キトリ(f02354)とチロ(f09776)と一緒に

ネモフィラか……夜の色より淡い色よな
お、キトリ、チロ
あの四阿で休憩しようかの
そろそろチロはおねむさんかもしれんが……いや、おめめぱっちりじゃな
おお、昼寝か。ふたりは賢いの……しかし、しかしわしも呼んでほしかったんじゃよ!

この場で茶を淹れるのはちと難しかろうと、水筒からになるがの
ささ、飲んでみると良い
ミントティーじゃ、目が覚める
ちょっとすーっとしすぎたかの
ではおともの…クッキーじゃ!
夜も遅い、あまりがっつり食べるのは良うないからなぁ
あとは金平糖もあるからの

さて少し休んだしの、またネモフィラの中を歩いて過ごそうか
眠くなれば言うんじゃよ


チロル・キャンディベル
嵐吾(f05366)とキトリ(f02354)と

この青いお花、ネモフィラっていうのね
お空の色をしていてとってもきれいなの!
いつものチロはもうねている時間だけど
今日のチロはいっぱいおひるねしてきたのよ(えへん)
じゃあ今度は嵐吾もいっしょにね!

お花の中でのお茶会!
尻尾パタパタ嬉しそうに紅茶を一口
…ん!なあに、これ
スースーするのよ
びっくりしてちょっと涙目になりながら
嵐吾からクッキーを貰って口直し
ハチミツ入れれば飲める?
一口飲めばさっきよりまろやかになっていて
キトリはまほうつかいさんね!

ふわあ
んー…ちょっとねむくなってきちゃったの
ぽふっとソルベ(白熊)の背中でうとうと
なでられたらうれしくなっちゃうの!


キトリ・フローエ
嵐吾(f05366)とチロ(f09776)と
すっごーい!綺麗ね!
あたしもチロと一緒にお昼寝したから、目はぱっちり冴えてるのよ
…欠伸とか出たりしてないわ、大丈夫!

でもそうね、休憩しながらお花を楽しむのもいいわね!
ミントティーを一口、すーっとする美味しさに目もぱっちり
…チロはびっくりしちゃった?
蜂蜜を入れると少しはびっくりが収まるかも
ちょうどいい甘さになると思うわ、飲んでみて?
(さり気なく自分のカップにも入れつつ
クッキーも金平糖も甘くて美味しいの
真夜中のお茶会、とっても素敵ね

おねむなチロをよしよししつつ
嵐吾も帰ったらお昼寝しましょ!
素敵な夢を見るためにも、悪い夢には早くいなくなってもらわなくちゃ!



 夜の袂、ネモフィラの群れる中をつとミントの馨が泳いでゆく。
 四阿の下からでも、見渡す限りのネモフィラ畑は十分に見霽かす事が叶うだろう。
 夜の色より尚淡い、それでも凛と佇まいを保つネモフィラを好ましく眺めながら、終夜・嵐吾の手許ではミントティーが手際良く用意されてゆく。水筒から微かな音を立てて注がれる暖かな琥珀色は、夜寒の気配をそっと遠ざけてくれるだろう。
「お空の色をしていてとってもきれいなの!」
 ネモフィラ、と教えて貰ったばかりの花の名を繰り返して口にしながら、周囲の光景を見遣ってチロル・キャンディベルは屈託なく笑う。
「すっごーい! 綺麗ね!」
 彼女の傍らで双眸を煌めかせたキトリ・フローエもまた、そうやって感嘆の吐息を零すのだ。青に染まるこの一夜が、少女たちの心を鷲掴みにしている事に肯きながら、嵐吾はふと彼女らを見つめる。
「そろそろおねむさんかと思ったが……いや、おめめぱっちりじゃな」
 普段ならとっくにベッドへ潜り込んでいる時間だろう。
 えへんとチロルが胸を張る。その隣で、キトリも負けじとえへんと胸を張った。
「今日のチロはいっぱいおひるねしてきたのよ」
「あたしもチロと一緒にお昼寝したから、目はぱっちり冴えてるのよ」
 おめめぱっちりの絡繰を聞いて、成る程と嵐吾が笑う。今宵夜更かしをしていられるのはそのお陰らしい――視界の端で、キトリがちょっぴりふわっと欠伸をしていたのが見えた様な気もしたが。
「ふたりは賢いの……しかし、しかしわしも呼んでほしかったんじゃよ!」
 楽しそうな事なら呼んでおくれと拗ねてみせる嵐吾に、チロルがくすくす笑ってそれじゃあ今度は一緒にね、と肯いた。
 約束じゃよと笑い返してから、そら、と嵐吾が手許のカップを彼女らへと勧める様に押し出す。ふわりと漂うミントの馨が華やかに際立って、チロルとキトリは思わず顔を見合わせた。
「ささ、飲んでみると良い。ミントティーじゃ、目が覚める」
 ぴんと立つのはチロルのましろい耳と尻尾だ。次いで嬉しそうにぱたぱた尻尾が揺れ始める。
「お花の中でのお茶会!」
「休憩しながらお花を楽しむのもいいわね!」
 翅を震わせるキトリも、喜色を滲ませながらそう紡ぐ。
 四阿を取り囲む様に、ネモフィラの花海が横たわるのだ。月光を凛々しく弾き返すのに佇まいは柔く儚げで、青く蒼くどこまでも碧いその光景は、眺めるだけでも贅沢だった。
 少女たちはカップを手に取り、頂きますとそわそわしながら唇を寄せる。
「……ん! なあに、これ」
「美味しいけど、すーっとするのね」
 言葉よりも雄弁な尻尾や翅が、ぴんと立ったり震えたりと忙しない。その様子にちいさく笑みを零しながら、嵐吾が楚々ともう一つのお楽しみをチロルとキトリの前へと差し出した。
「ちょっとすーっとしすぎたかの。――では、こちら」
 お供のクッキーじゃ、と言うが早いか、はっとしたチロルが手を伸ばす。初めてのミントはちょっと刺激が強かったけれど、甘いクッキーがそれを慰撫する様に癒やしてゆく。
「夜も遅い、あまりがっつり食べるのは良うないからなぁ。嗚呼、あとは金平糖もあるからの」
 ぽんと撫でる様に嵐吾がチロルの頭に手を置けば、応じる様に白い耳がひこっと揺れた。もしかしたら、金平糖に反応したかも知れない。
 びっくりしちゃったのね、とちいさな手で同じくチロルを撫でていたキトリは、そうだ、と思い付いた様に声を上げる。
 蜂蜜を入れると少しはびっくりが収まるかも――少女たちの許へと引き寄せられる蜂蜜を傾けて、ミントティーを掻き混ぜた。
「ちょうどいい甘さになると思うわ、飲んでみて?」
 少し背伸びのミントはほんのちょっとの涙をチロルに残していた。蜂蜜を織り込んだミントティーをおずおず傾ければ、はっとした様に双眸が瞠る。
 見つめていた嵐吾も、安堵する様に息を吐いた。
「お、これは良さそうじゃの。……キトリもな」
「何のことかしら」
 こっそり自分のカップにも蜂蜜を混ぜていた事は、しっかり露見していたらしい。キトリは聞こえない素振りをする事を選んだ。
 ねえ、と微笑むチロルがキトリに云う。
「キトリはまほうつかいさんね!」
 どういたしましてと笑い返すキトリの双眸に、その光景が燦めいて映り込む。
 差し込む月夜を弾くミントティーの水面、果ての見えぬネモフィラの花海。白い四阿はきっと小舟だ。地に在る穹を、征く為の。
「――真夜中のお茶会、とっても素敵ね」
 零す様に溢れた声に、嵐吾が鷹揚に肯いていらえる。
「そうさな。……ひとつひとつが、特別じゃ」
 再びのおねむが訪れる迄は、ネモフィラの海を泳いで歩こう。
 さあ、向こう岸はまだまだ先だ――素敵な夢を視る為に、悪い夢を退治しに往こう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

境・花世
ふらふらゆらりと花の海をさ迷って、
やがて小さくしゃがみこむ
指先でそっとふれる青い波は
確かに天の雫で染めたようで

どうしてこんなきれいないろになれたの?
なんて物言わぬ花に話し掛ける

そのままころんと道に寝転がれば
わたしも花のひとつになれるかな
滴る藍色に憧れ焦がれるように
真っ直ぐ見上げる清かな夜空

こうして隣でおんなじに咲いていたって
たったひとり染まることも、混ざることも出来ないけれど

……夜は片隅にわたしが咲くのを
きっとゆるしてくれているから

希うようにするりと手を伸ばし
届くはずもない色彩に掌を浸す
ああ、だけどやっぱりこのまま、
染まってしまえたら、いいのにな

※アドリブ、絡み大歓迎



 ネモフィラの花が揺れて漣を生むその海は、おおらかに彼女を受け入れるだろう。
 柔い青の花々に埋もれる様にしてしゃがみ込む境・花世の指先に、可憐な花弁が口吻ている。天から滴り落ちた雫が染め抜いた様な、ヘヴンリー・ブルー。
「――どうしてこんな、きれいないろになれたの?」
 物言わぬ花が応える筈もないのだけれど、確かに風は吹いたのだ。
 青を湛えたネモフィラたちがさやと謳う。こちらへおいでと誘う様に、いいえ、染まってしまえと唆す様に――惹き寄せられる様に、花世はその身を小径へと横たえる。
 背の下には確かに地が在るのに、視界は藍と青とで埋まっていた。遠くから聞こえるのは漣だと、そう説かれれば信じてしまえそうな程だ。
 双眸を瞑れば花の一輪にもなれるだろうか。――いいや、叶わない。異彩がひとつ混じった所で、紅が蒼に成り代わる事など許されない。
「……ずるいな、」
 ふと唇から零れ落ちる声は、花と己と両方に向けたものだったのかも知れなかった。
 それでも全ては、夜に内包されている。藍色の穹から滴り落ちる月光が、鋭利に燦めいては花世の頬を、膚を、撫ぜてゆく。
 混ざれぬのならばたったひとりで咲くだけだ。この世の片隅でそうやって咲くのを――あの夜だけは、きっと赦してくれるから。
「嗚呼、でも、だけど――」
 希う様に白魚の指先が天上へと伸ばされる。藍色を掴む様に五指をひらいた所で、そこから染まってゆく訳でもなし、よもや何かを得る事など叶いはしない。知っている――識っている。
 それでも願って仕舞うのだ。
 だってそれが、他の誰でもないわたしなんだ。
「染まってしまえたら、いいのにな」
 目の醒める様なネモフィラの海に、咲き誇るのは薄紅の花だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ザハール・ルゥナー
ルカ殿(f14895)と

星空とネモフィラ……ああ、これは宇宙の狭間にあるようだな。
大海の只中に浮かぶ心中やもしれん。
いずれも、経験したことはないのだが。

夜ゆえ、小腹が空くかと思い、ひとつ差し入れを持ってきた。
(携帯食バー差し出し)
仕事の前の腹ごしらえに。
……なんなら、別の味もあるが?

思えば、目覚めた時も美しい夜空だった。
あの日は月ばかりが赫いて、星は殆ど見えなかったが。

しかし仕事の前とはいえ、妙に穏やかな心地になるな。
宵闇でルカ殿がどんな表情をしているか、解りかねるが。

風が吹いて、青い花弁が髪につき
……とれないな。
そうか、とってくれるか(頭を僅かに下げ)

ああ、花は良いな。荒野より、断然いい


ルカ・アンビエント
ザハール(f14896)と

見上げれば星の海、世は果てまで花が続く
ヘヴンリー・ブルー、か

まぁ小腹は空くでしょうけど、普通にそれ携帯食ですよね
…いやまぁ、仕事の前の腹ごしらって意味じゃ間違っちゃいないんですけど
情緒ってやつですよ。あんたはもう

目覚めた時、って…

仔細は知れず、だが横顔に思い出す顔はある
彼の主たる人
己の上官
彼が居るから起きた結論では無い
居ても起きた結論だというのに

(何であんたは一人で目覚める羽目になったんでしょうね)

花……?
ふは、あんたもう。似っ合わないですねぇ

落ちかけた気分は知らず上向いて
手を伸ばして届かないなら翼を広げて

ほら、取れましたよ

俺も、あんたといるなら荒野より花が良いですね



 頭上には藍の海に星と月とが燦めいて、地には果ての涯てまでネモフィラの漣が揺れている。
 穹にも海にも地にもなるだろう――ともすれば、天地が引っ繰り返った所で気付けそうもないくらいの。
 見霽かす限り続くその光景に、ひととき呼吸すら忘れていたのやもしれない。そんな空気に真っ向から挑む様に、そっとルカ・アンビエントへ差し出されるものが在る。
 携帯食だった。
「夜ゆえ、小腹が空くかと思ってな」
 仕事前の腹ごしらえに差し入れだ、と真摯にザハール・ルゥナーは携帯食を差し出す儘に言葉を重ねる。
 整った顔立ちから繰り出されるその光景に、ルカは一瞬だけネモフィラの余韻が脳裏から掻き消えた。
「まぁ小腹は空くでしょうけど、普通にそれ携帯食ですよね」
 どこから突っ込んだものかと真面目な顔をして考えつつ、ひとまず手頃な所から切り崩しに掛かる。
 いやまぁ仕事前の腹拵えって意味じゃ間違っちゃいないんですけど、と呟くルカを眼前にして、ザハールは再び真っ直ぐに口をひらいた。
「……なんなら、別の味もあるが?」
「情緒ってやつですよ。あんたはもう」
 そうじゃない、と否定するにも躊躇われて、ひとまず携帯食は受け取っておく。
 更に言葉を重ねようとしてルカは眼差しをザハールへと向けた――が、口を開く前に噤む。彼の双眸がどこか物思いに耽る様に花の海を睥睨するのを、横目に気付いてしまった故に。
「――思えば、目覚めた時も美しい夜空だった。あの日は月ばかりが赫いて、星は殆ど見えなかったが」
「目覚めた時、って……」
 自らをその空間へと織り込む様な、訥々零される言葉はほんの少し、重たい。そう感じるのは自分だけかも知れなかったが、彼の前にはいま己自身しか居ないのだ。
 ルカの視線が、その横顔からふいと逸れる。ザハールのそれへ重ねる様に、どうしたって思い出してしまうひとが居る――嘗ての彼の主たる人、己の上官。
 揺るぎのない結論がそこに在って、それだけはもう変えようがないものだ。解っているのに、考えて仕舞う。
「(何であんたは、一人で目覚める羽目になったんでしょうね)」
 ネモフィラの花群れへと視線を落として寡黙になるその横顔を、ザハールもまた垣間見る。
 仕事の前だと云うのに、妙に穏やかな心地になる――眼差しの先、月明かりばかりの宵闇の中では、彼の表情こそ解りかねるが。
 帳を下ろす沈黙を厭う様に、初夏の夜風がふたりの間を浚ってゆく。少しだけ強いその風はネモフィラの青を舞い上げて、そうして空気を読まずに降らせるのだ。
「……とれないな、」
 自分の髪に絡まる花弁を摘もうとして、巧く行かない。容姿端麗な男がそうしているのがどうにも可愛らしくて、きょとんと一拍置いてから、ふは、と緩やかにルカの口端から笑う呼気が漏れる。
「あんたもう。似っ合わないですねぇ、――ほら」
 指先を伸ばせば、応じる様にザハールの頭が下がる。羽根を拡げて背伸びをすれば、足りないものも補えるだろう。
 ほら取れましたよ、とルカが囁くと共に指先をひらけば、青の一葉がはらりと風に揺れて流れてゆく。
 あっという間に夜と花との境目に吸い込まれたそれを名残惜しく見つめながら、ザハールはちいさく呟いた。
「ああ、花は良いな。荒野より、断然いい」
 奇遇です、と軽く肩を竦めたルカが唇の端を持ち上げる。
「俺も、あんたといるなら荒野より花が良いですね」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花剣・耀子
花はすきよ。
青色もすき。
真夜中の散歩だって好みだわ。

これは、UDCを招くために必要なこと。
仕事を忘れてはいないけれど、結果が同じなら過程を楽しんだ方が得だもの。

小径を通って散策。
常よりゆっくりとした足取りは、風景を楽しむために。
映像に残すのはなんとなく気が向かなくて、
今はただ、目に映すに留めるだけ。

あちら側を連想する花はいろいろあるけれど、ネモフィラもそのひとつだったかしら。
これだけ青いと、空を泳いでいるみたい。

――、慣れると他の色彩が恋しくなるのだから。
きっとあたしは、天上には向いていないのね。
帰る場所も、帰りたい場所も、青色の果てではないのよ。
許しがなくたって、自分で行けるところが良いわ。



 それを地に在る天国と呼ぶ者も居るのだと云う。
 関係のない事だ。けれど眼前の、視界すべてを染め上げるこの青は厭ではない――花はすきだし、青色もすきだ。真夜中の散歩だって好ましい。だから。
 花剣・耀子の足取りは軽い。
「結果が同じ事なら、楽しんでしまった方が得だものね」
 彼女の頂く黒曜石の角にすら、月光が写り込んできらきらと煩い。同じ色した髪にだって、光が滑り落ちている。
 足許を覆い尽くすネモフィラの、花の輪郭もそうやって光を得ては弾き返すのが、海原がうねる様だと耀子は思う。これだけどこまでも青ければ、空を泳いでいる心地にだってなった。
 海の向こう。空の果て。彼岸に連なる導き手たりうるもの――ネモフィラも確か『あちら側』を連想させる花のひとつだったろうかと、ふと、思う。
「きっとあたしは、天上には向いていないのね」
 四方どこを見ても青が埋め尽くすこの世界を、物足りないなとふと思う。
 踏み入ったばかりの時は好ましく感じたのだ――否、好ましいとは思っている。けれど足りないのだ、そう、色彩が足りない。
 だからきっと、向いていない。
 帰る場所も、帰りたい場所も、青色の果てには在りはしない。きっと。
「許しがなくたって、自分で行けるところが良いわ」
 そんなに許してくれなくたって、良いの。
 そっと風に乗せた囁きは、誰に聞き咎める事も無かっただろう。
 ただただ初夏の夜を颯々と渡り、頭を擡げて揺れるばかりのネモフィラだけがものさみしげに、歩き出す耀子を見送っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

緋翠・華乃音
――天と地とを。繋ぐ青藍の境界線。
まるで全てが穹のようで。
"あなたを許す"と、言ってくれているのだろうか。
本当に懐かしい――昔見た光景のまま、ここは何も変わっていない。
――不変の美しさ。というものだろうか。

ユーベルコードで青の海に似合う無数の瑠璃の蝶を呼ぶ。
普段は熱を持つそれも今は単なる蝶として。
これからも頼りにしてると、そっと蝶に囁き掛ける。

……花と蝶だけで、この世界は完結するのかも知れないな。

【アドリブ・絡み等歓迎】



 この地を満たす夜だけが、天と地との境界線を引いている。
 夜空の許には青い穹が在るのだと錯覚してしまいそうなほどの、目も眩む様なヘヴンリー・ブルーはあの時と変わらぬ穏やかさを湛え、緋翠・華乃音を出迎えていた。
 風がさやと渡りゆく――揺られるネモフィラが笑いささめき音を為す。おかえりなさい、おかえりなさい――あなたが居なくなってから、ここは変わらぬ儘に在る。
「……“あなたを許す”と?」
 尋ねた所で花が言葉を結ぶ訳でもないと承知の上で、けれど華乃音は問い掛けずには居られなかった。
 記憶の中の最後の景色と、なにひとつ変わらない――懐かしい、とただ音が感嘆を為す。不変と呼ぶに相応しい美しさが、今も尚ここに蹲っている。
 華乃音の指先が空をなぞれば、その軌跡を追う様にして瑠璃色の蝶が現出する。
 ひとつ、ふたつ、みっつ、――何枚も、幾枚も。瑠璃の翅が羽ばたいて、群れ為す蝶が華乃音を慕う様にひらりひらりと舞い飛び踊る。
「――これからも、頼りにしてる」
 囁きかける声にいらえる様に、その鼻先に一羽が愛らしく舞い降りた。

 ふ、と。
 青く蒼いその世界に、銀の燦きが差し挟む。
 月ではない。星でもない。まして誰かでもない――目を凝らせば、それはどこからともなく顕れた、銀の翅持つ蝶々だと識れるだろう。
 銀の蝶が群れる。群れてゆく。猟兵たちを誘う様に導き出す。
 さあおいで。さあ、おいで。

 ――花と蝶とで、世界は綴じ込んでしまえるのかも知れなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『虫の知らせ』

POW   :    周辺に同様の虫がいないか調べる

SPD   :    解決に繋がる虫の情報がないか本やネットで調べる

WIZ   :    虫に何らかの魔術や呪詛、儀式的な気配がないか調べる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ぎんいろ、ひらり
 銀の蝶が、何処からともなくひらり、ひらりと舞い降りる。
 猟兵たちを誘う様に、導く様に――それらはひらひらと群れ飛んで、愛らしくその翅を瞬かせるだろう。
 青の向こうへと招いている。穹と海との境目を示す如くに、月の輝る方へと翔んでゆく。

 戯れるのも良いだろう。案内役が説明した通り、これは餌を誘き出す為の仕掛けにすぎない――が、直接的に害を為すものでもない。銀色にひかると云うだけの、ただの蝶々だ。
 よくよく観察をしたところで、得られるものはあまりないかもしれない。自然にあるものでない、という事はひと目見れば解る事だ。それ以上に判明する事柄に期待は出来ないだろう。
 招かれる儘についてゆけば、そこにきっと解が在る。
 喩えそれが、青の涯てであったとしても。
オルハ・オランシュ
ヨハン(f05367)と

蝶がいっそう綺麗に見えちゃうのは
この青い世界の中だからかな?
うん、誘き寄せられてみようか
綺麗な罠たちにね

手を繋いだまま蝶を追う
ちらりと見遣った横顔は蝶だけを真っ直ぐ見つめていて
なんとなく、少しだけ寂しい
そんな風に思う資格なんてないはずなのに
でも、やっぱり……

流れる沈黙
うるさい鼓動が聞こえちゃうんじゃないか心配で
何か喋らなきゃと思っても何も浮かんではこない
言葉を探りながら、握る手に少し力を籠めて

……
なかなか着かない、ね

口にできたのは独り言のようなその一言だけ
まだ着かなくたって構わない、なんて言えなくて

やっと視線が交われば
そのまま小さく頷く

少しでも長くこのままでいられたらと


ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と

あの蝶が撒き餌という訳ですか
綺麗な光景ではありますね
惹かれてしまうというのも分かる気はします
ついて行きましょうか

繋いだ手は離さぬままに

熱が籠もる
掌の温度だけではなくて、
心の内に燈るあたたかさだろうか

顔を見れば口をついて何か言ってしまいそうで、
銀の蝶を見つめたまま

沈黙を楽しめるような間柄ではない、と
昔に言ったことを思い出す
変わった自分を自覚するのはまだ慣れないが
静かな時間も悪くないな

ふと、力の籠もった手に気付き
呟かれた言葉に、隣を見る

……もう少し、ゆっくり行きましょうか

まだ着かなくていい

零した言葉の意味は、伝わらなくても構わない



 繋いだ指先をそっと握り直す感触に、は、とちいさく息を呑んだオルハ・オランシュの眼差しが揺れる。
 それに気付かなかった振りをして、ヨハン・グレインは眼前の光景を指し示す様にして顔を擡げた。ふたりにじゃれる様にして、或いは青い花海を闊歩するかの如く、銀の蝶々が翔んでいる。
 呑んだ息の意味から視線を逸らし、オルハがその蝶を見遣って囁いた。
「――蝶がいっそう綺麗に見えちゃうのは、この青い世界の中だからかな?」
 綺麗な光景ではありますね、といらえてヨハンが首肯する。
「惹かれてしまうというのも分かる気はします。――ついて行きましょうか、」
 言葉と共に導かれる様に繋いだ手を揺らされれば、口端に微笑みを灯したオルハが肯く番だ。
 うん、と返す音を聞いてふたりが歩き出す。ふと膚を撫ぜるささやかな夜の冷気は初夏特有のものだけれど、繋ぐ手だけがただ暖かい。指先は未だ離されず、ふたつの影をひとつに結わえていた。
 重ねた掌が熱を帯びてゆく。それは決して人膚の暖かさだけではないのかもしれないと、藍に染まる眸の奥でヨハンは思考する――きっと心の裡に燈る熱が、そっとそこに滲み出しているのだ。
 この穹に広がる藍を落とし込んだかの様な双眸は、けれど傍らの彼女へ向けられはしない。未熟な感情が勝手に言葉を紡いでしまう気がして、ヨハンは惹かれる儘に銀の蝶へと眼差しを据える。
 ――なんとなく、少しだけ寂しい。
 ふとそんな風に思うのは、彼に手を引かれるオルハの方だ。だって彼の眸はずっと蝶を追っていて、此方の方へは向いてくれない。
 寂しいだなんてそんな事、思う資格なんてない筈なのに――でも、やっぱり。胸の奥を擦る様に刺す甘い痛みに耳が揺れた。
 沁み入る様な沈黙は心地良いけれど、煩く跳ねる心臓の音が殊更心配になる。この鼓動が聞こえてしまっている事ばかりを心配して、オルハは繋ぐ指先に柔く力を籠める。
「……なかなか着かない、ね」
 銀の蝶の歩みは遅い。遊ぶ様に舞いながら、どこへともなく気儘に導くばかりだ。
 燐光を得てプリズムの如くに煌めく蝶の鱗粉の向こうに、ヨハンは過去を垣間見ていた――変わった自分を自覚するのは慣れねども、静かな時間も悪くはないものだと。
 それでもこのネモフィラに、ふとした瞬間に引き戻されるのだ。少しだけ強さの増した指先に、オルハの声に。
 藍の眼差しが傍らを見る。翠宿すそれと絡んで漸く、解ける様に笑い合う。示し合わせた様に肯いた――それが何を意図するのかだなんて、きっといま言葉にするのは野暮なのだ。
「……もう少し、ゆっくり行きましょうか」
 まだ着かなくていい。
 零す言葉は端から解けて、夜風とネモフィラの硲に消えてゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レイラ・エインズワース
鳴宮サン(f01612)と

綺麗な蝶々
青い海の中を行く銀の光、空には満天の星と綺麗なお月様
ナンテ、素敵な光景だよネ
鳴宮サンに見えてる世界も綺麗カナ?

そういえば、と青い海の中
そうしてまで許せないようなコトって何?
あ、コレは言わなくてもいいんダヨ
デモ、聞いてみたくてサ

アハハ、隠しもしないんダネ
デモ、うん
私も、私もそう思ってるヨ
私なんかが望んだら、ばちが当たるカラ

ネェ、鳴宮サン
いつか私の本体を壊しテ、ってお願いしタラ
そのトキはソレをかなえてくれる?

アハハ
厳しい条件ダネ
そんなの、難しすぎるヨ
デモ、ありがト
そのトキは、ちゃんとお願いするカラサ

なんてネ
変なコト言ってごめんネ
忘れても、いいヨ?
残念って笑うネ


鳴宮・匡
◆レイラ(f00284)と


……綺麗か、って?
一人で見るよりは綺麗に見えてるんじゃないかな
そうだといいな、って思う

問うレイラの言葉に目を伏し
広がる青を見詰めて

――レイラは
いや、レイラも
思ったことあるだろ

何も持つべきじゃない
幸福であるべきじゃない
……生きているべきじゃないって

俺は、自分をそう思ってる
そんなものを望むのは許されないって

――レイラを?
俺が?

――そうだな
レイラの思い残すことがなくなっても
まだ自分を許せなくて
気持ちが変わらないとしたら

……いいよ
その時は、俺が、レイラの願いを叶える

(――きっと)
(その時が来るなら、それは自分への応報なんだ)

――忘れないよ
だって、本気だろ?
ちゃんと受け止めるさ



 ついと指先を差し伸べれば、怖がる様子もなく銀の蝶はその翅を震わせながらレイラ・エインズワースの爪に宿る。
 青い花海、ネモフィラの波間に銀の飛沫が跳ねている――彼らはそれらひとつひとつが無邪気に舞い飛ぶ蝶々だ。満天の星がさんざめく夜の下、レイラは傍らの彼へと視線を遣る。
 そうしてまで許せないようなコトって何、とささやかに切り出すと、彼の――鳴宮・匡の眼差しがレイラの方へと向けられた。
「聞いてみたくてサ」
 言わなくてもいいと前置きはしつつも、好奇心は裏切れない。
 問われた匡は眼差しを伏せ、広がる青でその眸を染め上げる。ネモフィラの青は果てもなく、ただそこに在るが儘に猟兵たちの凪を務めているのだろう。
 ――何も持つべきじゃない。幸福であるべきじゃない。生きているべきじゃない。
 匡が己にそう課す呪いを口にすれば、レイラは穏やかに口端を持ち上げる。望むことは許されないのだと、鏡写しの様にふたりはそうして言葉にする。
 肯定する様な柔い沈黙を挟んで、ネェ、と声を掛けたのはレイラの方だ。
「いつか私の本体を壊しテ、ってお願いしタラ、そのトキはソレをかなえてくれる?」
 尋ねる口調はいつもと変わらぬ穏やかさを宿していて、だから一瞬だけ匡もきょとんと瞬いた。
「――レイラを? 俺が?」
 がらくたなのだと自らを宣う少女を見遣る。狂気に溺れた魔術師が、その歪な生涯を賭して創り上げた魔導具のランタン。物品に宿る付喪たる彼らにとって、壊す、というその単語が言葉以上の意味を持つ事は、匡だって勿論識る所だ。
 レイラの緋色が、じっと匡を見つめている。真摯に。
 生半な返答ではお互いに納得しないだろう。だから少しだけ逡巡する間があって、匡はそうだな、と口を開く。
「レイラの思い残すことがなくなっても――まだ自分を許せなくて、気持ちが変わらないとしたら」
 口にしながら、ふと唇が薄く笑む。
 諦念かも知れなかった。或いはもっと奥深い所で傍観しているのかも知れなかった――きっとその時が来るなら、それは自分への応報だ。
「その時は、俺が、レイラの願いを叶える」
 古いランタンは良く良く辺りを照らすのだろう。穏やかな語調で括る匡に、それを見霽かす様にして見つめるレイラが花咲く如くに微笑んで小首を傾ぐ。それこそ、何某かで照らし出す様に。
「アハハ、厳しい条件ダネ。そんなの、難しすぎるヨ」
 愉しげに笑う儘に零して、レイラは銀の蝶を指先に掬い取る。甘えるかたちで翅を休めるその蝶に少しだけ視線を逸らしてから、レイラは匡を振り仰いだ。
「デモ、ありがト。――そのトキは、ちゃんとお願いするカラサ」
 蝶がひらりと逃げてゆく。止まり木にしていた少女の指先が、何か感情を汲んだ様にその胸元で組み合わされた所為だ。
 なんてネ、と誤魔化す様に添えられたのは、逃げ道を作っておきたかったのやも知れなかった。
「忘れても、いいヨ?」
「――忘れないよ」
 伸ばされた退路を絶つ様にするのは、それと意識した為ではないのだろう。たぶん鳴宮・匡と云うのは、そういう男だ。
 だって本気だろ、と彼は継ぐ。眩しげに双眸眇めるレイラとのはざまを、月光に縁晒す蝶々が優美に横切ってゆく。まだもう少しは――本音も建前も何もかも、夜の帳が包んでくれる。
「ちゃんと受け止めるさ」
 残念、とレイラが笑った。
 流れてゆく青の花弁と銀の蝶とが、それを一幅の絵画の様に彩っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

境・花世
綾(f01786)と

花の海底から見上げる世界に、
夜空の髪した美しいひとの幻
願う指先にふれる温みは、
耳を擽るやさしい声は、

……ほんもの?

驚きに跳ね起きてみれば
艶やかに微笑う王子様の眸を
きららかな蝶々が過ってゆく

どうしてここに、とか
蝶を追わなくちゃ、とか
言葉は幾つも浮かぶのに

銀のひかり散らす青磁が
あんまりきれいで眩くて
目を、離せないままに

誰とも違う色、ひとりぼっちで
だけどそうして咲いたのが
きみに見つけて貰えたのなら

――綾、わたしのこと、摘んでって

理由もなく咲いた花だけど
今ここからはきみの眸に映るため
さざめく波音みたいに笑みを零して
その指先に繋がれたなら
青の涯てを、越えに行こうか


都槻・綾
f11024/花世さん

蒼い漣の中
薄紅の春が咲いて居たから

伸ばされた繊い指が
地に憧れる人魚姫の願いにも思えたから

掬い取るように手を繋ぎ
顔を覗き込む

泡と消えさせはしませんよ、と
柔らかく彼女の名を呼べば
驚いた様子がいとけなく

えぇ
此の身は幻ではないようです

零した笑みに悪戯な色を乗せる

異質を知らせる第六感と
視界の隅で捉えた煌く銀の鱗粉もまた
妖精の悪戯めいていて
成程、此れが涯てへの誘いかと
目線で追う行方

耳に届く花世さんの申し出に
蝶に連れて行かれかけていた意識を現に戻し
双眸を瞬く

――おやおや
花盗人は罪にはならぬと申しますけれど、

楽しげに笑って腕を引き、彼女の身を起こして
蝶の舞に導かれ
青の涯てへと踊りに行こう



 花が一輪、咲いていた。
 ただ最果てまで続く蒼い漣の中に、そこにだけ春が滲む様な薄紅が在る――都槻・綾がそれを他の何ぞと見間違う筈もない。
 覗き込めば、零れ落ちそうな程に瞠られた片の眸が綾を見返す。それすらも花の様相だった。
「……ほんもの?」
 確かめたがる境・花世の声色はいとけない――宛ら青の花海の、底に沈んだ人魚が地に焦がれて片腕を伸ばす様な。或いはただひとり世界に咲き初む麗しの花が、ひとの姿を初めてその目にした様な。
 綾の眸をスクリーンにして、銀の蝶々が燦めいて舞う。ふたりの周囲を群れ翔ぶそれが映り込む、その様にすら惹かれながら花世はそっと手を差し伸べる。
 連れ出されるのを望むのは誰だろう。ここを水底として揺蕩う花の尾鰭の姫君か、それとも。
「泡と消えさせはしませんよ、」
 花世さん、といつもの様に名を呼んで、伸ばされた指先を綾のそれがしっかりと柔く握り込む。輪郭の曖昧なものがそれで初めて縁を得て、くっきりとこのネモフィラの海に現れいでるのだ。
「どうして、……」
 どうしてここに。蝶々を追わなくては。口にすべき事もやるべき事も花世の脳裏には幾つも浮かぶのに、眼前の彼があまりにも夢のようでいけなかった。
 銀の蝶が羽搏く度に、その青磁を汲む眸に同じ燦きが閃いては散る。きらきら、ちらちら、それが心の端を擽って背がそわつく。
 己へと注がれる花色の眸に、ふと綾の口端が淡く笑みを灯す。涯てへと誘っているのは、恐らく蝶だけではないのだ――彼女もまた、その一端なのやもしれないと、そんな風にふと思う。
 繋いだ手が暖かい。その僅かな熱に綻んだのは、花世が先だ。
「――綾、わたしのこと、摘んでって」
 この青く蒼いどこまでも碧い花の海、誰とも違ういろでたった一輪咲いていた、わたしを見つけてくれたのはきみだった。
 摘まれるならばその手を選びたいだなんて、そんな事はきっと、口には出来なかったけれど。
「花盗人は罪にはならぬと申しますけれど、……」
 おやおやと甘く吐息して、綾もまたそういらえる。
 明確な返事は音にするにはあまりに無粋だ。だから綾は立ち上がると共に、繋いだ手を引き花世の身体を引き上げる――共に歩き出す為に、青の花海から薄紅を手折り盗る。
 理由もなく咲いた花だ。けれどそれで漸く意味を得る――今ここからは、このひとの眸に映る為だ。
 頬に淡く花の色を忍ばせて、導かれる儘に花世も海を歩き出す。
 花盗人の行き路を煌めかせる様に、お節介な銀の蝶がひらひらと舞っていた。
 月光得て犀利に輝るかれらに彩られての逃避行は、青の涯てを越えるまできっと、続いている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
【双星】
蝶が来ても見ている光景が惜しくて駄々こね
んーもうちょっと…
青が近くなったのは嬉しいのに抱えて…と聞いて苦悶の表情を浮かべ
ぐぅ…ずりぃぞ
渋々起き上がる
不意打ちで撫でられた頭を押さえる
…マジでずりぃヤツ

蝶を追いかけてんのか月を追いかけてんのかわかんなくなるなぁ

…ん?なんだアレス、手でも繋ぎたいのか?
にんまり笑うと手首を掴む指をほどき
アレスの指に指を絡ませ手を繋ぐ
いいじゃんこうしてると昔みたいだし
細かいこと言うなよ
誰も見てねえしいいじゃねぇか
ほどかれないのをいいことにそのまま蝶を追いかける

んー…俺もしかしてアレスの手、結構すきなんじゃ?
時折無意識に指先でアレスの手を撫でる
なんだよアレス
変な顔


アレクシス・ミラ
【双星】

蝶が現れても動こうとしない彼に呆れ顔をし
こら、駄々をこねるな
…全く…
彼に顔を近づけ、真面目顔で告げる
…君を抱えてでも連れて行く事になるんだが、いいんだな?
渋々起き上がる彼に笑って見せ
ん、いい子だ
褒めるように彼の頭を撫でる

蝶を追う彼の姿を見て
ふと、このまま星空に溶けて消えるんじゃないかと錯覚に陥り
思わず彼の手首を掴む
…あ
慌てて手を離そうとする前に解かれ
絡められる指に頰が熱くなる
…これは昔はしていないだろ
ため息は吐くが手は繋いだままに

時折撫でてくる指先に少し擽ったさを感じ
また頰が熱くなるのも感じた
君と言う奴は…
ーー何でも無いっ
不思議そうな顔をする彼に何故だか悔しくなったので
絡める力を強めた



 幾ら誘う如くに銀の蝶が羽搏こうとも動こうとしない幼馴染の姿に、アレクシス・ミラは呆れ顔で彼を見つめた。
 蝶を追わねばと急かしても、あともうちょっとと駄々を捏ねるばかりのセリオス・アリスに、ふと息を吐いてアレクシスは顔を寄せる。
「――君を抱えてでも連れて行く事になるんだが、いいんだな?」
 至近距離から真面目な顔をしてそう告げられれば、セリオスも渋々肯いてみせた。好ましく思う青がこんなに側近くに見えて嬉しいものの、抱えて、と聞けば苦悶の表情を浮かべざるを得ない。
 渋りながらとは言えちゃんと起き上がるセリオスの姿に、いい子だ、とアレクシスは笑ってその指先をセリオスの黒絹へと伸ばす。
 褒める様に漉き撫でる手付きに、ぐ、と一瞬だけセリオスの喉に呼吸が閊えた。
「……マジでずりぃヤツ」
 出し抜かれた様な気がして少しだけ不服で、だからセリオスはアレクシスに一歩先んじて花弁揺れる地の海原を歩きゆく。
 ネモフィラの花海はまだ途切れる気配を見せず、銀の蝶は遊んでいるかの様に舞うばかりだ。降るひかりは怜悧で在るのにどこか優しくいとしくて、見上げればその月が存外に大きな事を識る。
 光を弾いて翅を揺らす蝶を追いながら、セリオスは訥々囁いた。
「蝶を追いかけてんのか、月を追いかけてんのか――」
 わからなくなる、と。
 そう続く筈だった独り言は、けれどそこで不意に途切れる。セリオスは瞬いて、自らの片手へと視線を落とした――アレクシスの手が、その手首をしっかりと掴んでいた。
 掴んだ本人にも、それは殆ど無意識下の事だ。
 ――揺れる黒髪が、そのまま花海の硲へと消えてしまいそうだと思った。蝶を追ううち、そのまま星空の彼方へ融けて消えてしまうのではないかと肝が冷えた。繋いでおかないと傍から居なくなってしまいそうで、だから咄嗟に手を掴んだ。
 けれど、そんな事を言葉に出来よう筈もない。慌ててアレクシスは手を離そうとする――が、それよりもセリオスがにやと笑うのが早い。
「なんだアレス、手でも繋ぎたいのか?」
 揶揄する様に告げると共に、するりと抜けた手が今度は指先に絡み付く。そのまま絡め取る様に繋がれてしまえば、制止を諦めたアレクシスの頬に僅かな熱と赤が灯った。
 昔は良く手を繋いで遊んだ。けれど、こんな繋ぎ方はしなかった。それが今の自分と彼との関係と距離の相違である様な気がして、堪らない心地になる。
 果てまで続く青いネモフィラの花海も、その中を翔んでゆく銀の蝶も、今宵が夢の様な一夜である事の証左なのだ。
 だからきっと、今宵ばかりは赦される――指先で繋ぐ手を柔く撫ぜるのも、その行為に言葉にはし難い感情を覚えてしまうのも。
「君と言う奴は……、」
 赤い顔の儘でアレクシスは文句を言い募ろうとして、けれど止めた。不思議そうな顔をして此方を見る彼に、何故だか悔しさが勝るから。
「変な顔」
 セリオスが笑う。
 言葉にするよりもきっと雄弁に、アレクシスは繋ぐ指先に力を籠めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

サン・ブルーローズ
おぉー……なんか綺麗な蝶々だなー。(ふわふわふらふら)(導かれるままに蝶を追いかける)

っと、そういえば、これ罠かも知れないんだっけ。
いけねーいけねー、油断してちゃダメだよな、うん。(ちらちらふわふわ)

……冒険者は時に、罠と分かっていても進まなきゃ行けない時だってあるんだ、これは決して綺麗なキラキラに惹かれてる訳じゃなくて、勇気ある行動の結果……!
……だから、ちょっとぐらい大丈夫だよね。
(念の為に、ドラゴンランスを竜化させておき、ミニドラゴンに周囲を警戒させておく)

この蝶、どこから来たんだろ?
何処に向かってるのかな?
(不意に空を見上げ、ひかる月を見つめ)
このまま月に行っちゃったり……なんてね。



 銀の蝶が群れ翔ぶ中に交じる様に、景色を溶かし込んだ様な青い髪を翻す妖精の娘がふわりふわりと翔んでゆく。
 目を惹く鮮やかなそれらに夢心地で導かれていたけれど、はた、と気付いてサン・ブルーローズは瞬いた。
「っと、そういえば、これ罠かも知れないんだっけ」
 自然界には有り得ない、銀色の翅持つ蝶々の群れ。ここを餌場と定めた何者かによる撒き餌――けれど付いていかねば、この罠を撒いた者にも辿り着けまい。
 油断なく行かねば、とサンは自らに言い聞かせる。冒険者は時に、罠と解っていても進まねばならない局面が在る――今がまさにその時なのだ。
「これは決して綺麗なキラキラに惹かれてる訳じゃなくて、勇気ある行動の結果……!」
 そう、なので決して綺麗できらきら煌めく銀の蝶に惹かれて付いていっている訳ではない。
 断じて無いのだ。
「……だから、ちょっとぐらい大丈夫だよね」
 呟くのは他でもない自分への言い訳も兼ねているのやも知れなかった。念の為にと重用する槍竜を傍に控えさせて、時折その竜とじゃれ合いながら進んでゆく。
 ――蝶は当然喋るものではない。寡黙にひらひらと、粛々と光を弾き返して燦き瞬きながら羽搏いている。
 どこから来たとも、どこへゆくともまだ知れぬ蝶々の群れだ。手繰り寄せるものはきっと決して良くはないのだろうけれど、蝶の美しさだけは掛け値なしだった。
 サンはふと空を見上げる。藍を融かした夜空にひとつ、冴える月が照り照りと浮かぶ。
「このまま月に行っちゃったり……なんてね、」
 独り言めいた呟きは、けれど心中に少しだけつめたいものを一滴、落としてゆく。振り払う様に緩慢に首を振って、サンは導かれる儘に進み征く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルカ・アンビエント
ザハール(f14896)と

銀の蝶が、最果ての青の先へと誘うか
幻想的ですね

…ザハール?(首を傾げ)

! ーそう、ですね
会いたかったかと言われれば…、えぇ、会いたかったですよ
あの日、俺は部隊に合流できなかった

…、あんたを初めて見た時、心底驚いて
確かに少し腹立たしくも思いました

少尉じゃないんだ、と

でもま、開けてみれば
あんたは、本体は無事だからとか言って、ほいほい怪我してきますし?
腹立つ方向といえば、そっちですよ

俺が…何時だって思っているのは、
どうして俺だけが生き残ったのかってことです

…ちょっと、なんで笑ってるんですか

俺が、気に病んでることと変わらないって
ーー、あんたは、あんた自身も大事にしてくださいよ


ザハール・ルゥナー
ルカ殿(f14895)と

銀纏う蝶、ああ、闇に鮮やかだ。
追いかけたくなるのは、光に縋る人のこころか。

……蝶は魂となって、親しい者の元に還る、か。
ルカ殿は、やはり、
(少し躊躇い。やはり言わねばならないと)
生きた少尉に会いたかったか。

私はあの人の血肉、魂とは縁の無い存在。
いつわりの身だと腹立たしく思っていたのではないか。

――(思わず、笑い)
いや、すまない。私は人らしく身を守るという発想が足りないようだ。
だがルカ殿が自身の事で気に病むのと、変わらぬと思う。

……心に留めておこう。

言葉にするまでは、あんなにも難しいと思ったことだが。
してしまえば、存外楽だな。
これも花の力か。

青の涯、誘われたものの魂は何処へ



 藍色の闇を背に、銀の蝶が気儘に舞っていた。鱗粉纏う翅の淵が犀利な月光を拾い上げては、複雑に燦めいて弾き返す。
 ひとの魂が蝶と変じて親しい者の許へと還るだなんて逸話も在ったなと、ザハール・ルゥナーはその指先を銀の蝶へと遊ばせながらふと思う。そうして、その双眸で傍らの男を見遣って呟く。
「――ルカ殿は、やはり、」
「……、ザハール?」
 声を掛けてから生まれる躊躇いの所為で、少しだけ不自然な間が空いた。名を呼ばれたルカ・アンビエントは瞬いて首を傾ぐ。
 言わねばならない。ルカの緑を覗き込んで、ザハールは真摯に顎を引いた。
「生きた少尉に会いたかったか」
 後に思い返せばそう長いものでもないだろう沈黙が、けれどこの時は長々とふたりの間に横たわる。
 向けられた言葉にルカははっとした様に少しだけ眸を瞠って、それから、そうですね、と首肯した。ふいと逸れた視線は、ともすれば何から逃げる為のものでもなかったのやも知れない。
 ただ単に、月と蝶とが眩しかっただけだ。きっと。恐らく。
「会いたかったかと言われれば……、えぇ、会いたかったですよ」
 逸れたルカの眸に、その緑の向こうに過去が過る。幾度となく悔いたそれだ。忘れようもない呪詛だ。
 ――あの日、俺は部隊に合流出来なかった。
「いつわりの身だと腹立たしく思っていたのではないか。私を、」
 眼差しを追い掛けはしない。ただその美しい横顔を見つめて、ザハールは物静かに言葉を重ねる。
 この身はあの人ではない――あの人の血肉や魂とは縁の無い存在だ。それを弁えているからこそ、声色の輪郭は繊細で柔い。
 向けられたザハールの科白に、ルカが漸くそちらを見る。何時も通りの美しい彼の面立ちが、いつもの眼差しでザハールを射ていた。
「……、確かに少し腹立たしくも思いました。少尉じゃないんだ、と」
 でもま、とそこで少しだけ声の調子が崩れる。眼差しが僅かに眇められ、ほんの少しの笑う気配が添えられる。けれど視線は睨め付けるばかりだ。
「あんたは、本体は無事だからとか言って、ほいほい怪我してきますし?」
 腹立つ方向と言えばそっちですよ、とルカは告げる。
 漸く真正面から相見えた緑の眸をとっくり見つめ返し、それからふ、とザハールの口許が崩れる。思わずと云った風体で溢れる彼の笑みに面食らってから、ルカはやや不服そうにじろりと睨めた。なんで笑ってんだこの人。
「いや、すまない。私は人らしく身を守るという発想が足りないようだ」
 笑い収めてからザハールはそういらえて、それから密やかに言い添える。
 ――だがルカ殿が自身の事で気に病むのと、変わらぬと思う、と。そう言葉を向けられて、ルカは再び少しだけ眩しげに眉根を寄せた。
 どうして俺だけが生き残ったのか。自信への問いの様なそれはひとつだけの棘めいて、いつだってルカの心中の柔い箇所に刺さっている。
「俺が、気に病んでることと変わらないって……、ああ、もう」
 ザハールへと言いたいことは山のように在れど、まだ牙城は崩れない。入り口はまだ少しだけ狭くて、全て伝え切るにはきっと時間が足りないのだ。
 くしゃりと一度自身の頭を混ぜて、ルカは顔を上げた。夜の藍とどこまでも続くネモフィラの青の、その硲に銀が良く良く映えている。
「――、あんたは、あんた自身も大事にしてくださいよ」
「……心に留めておこう」
 紫の眸が彼を見つめ返す。
 言葉にするまではあんなに難しいと思っていた事が、してしまえば存外に楽だ。これも花の力だろうかと、少しだけ機嫌良くザハールは眼差しを持ち上げる。
 銀の蝶が、奥へ奥へと誘っている――青の涯てのその向こうに、誘われた魂も征くのだろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

バレーナ・クレールドリュンヌ
■エリシャ(f02565)と。

綺麗に舞う銀色の蝶々、
それを見て童女のように微笑むエリシャ。
彼女が呼び寄せ、折りこんだ桜色の蝶々。
嗚呼、こんなに美しい光景を見て、わたしの心に澱む痛みは何?

心配そうに尋ねるエリシャにわたしは、
「いいえ、そんなことはない、だってエリシャの好きなものじゃない?」
繕うわたしの本心は……あの光を瞬かす白銀色。
あれがオブリビオンの疑似餌、
その事実を抜きにしても、エリシャの目には……。

(影に溶ける暗殺者を忍ばせ、この疑似餌の主がエリシャを襲うのなら、いつでも刃をオブリビオンに突き立てられるように)

(愛されているのに、なぜこうも心が乱れるの?わからなくなる、息の仕方さえも)


千桜・エリシャ
バレーナさん(f06626)と

あら、今度は蝶々ですのね
銀色の蝶……嗚呼、素敵!
死霊の魂を蝶に変じて扱う身
色んな蝶を扱ってきましたが、こういう蝶を見るのは初めてかしら
自然界ではまず有り得ない色、されど見目は自然のままで……不思議
ほら、あなた達
一緒に飛んでおいで、と己の連れる蝶を戯れさせて
うふふ、この子たち連れて帰れないかしら?
ぜひとも私のものにしたいですわ!
くるりふわりと、自分も一緒に舞い踊るように戯れてみて

……?バレーナさん?どうなさったの?
なんだかあまり乗り気でないような……蝶はお嫌いかしら?
ええ、ええ
私の愛する物のうちの一つですわ
たとえオブリビオンといえど、美しさは翳りませんもの



「――嗚呼、なんてこと!」
 ふわりと群れ翔ぶ銀の蝶を見遣って上擦る声を上げ、千桜・エリシャは躊躇いなく嫋やかな指先をその銀へと差し伸べる。
 人懐こい蝶だ。そう在る如くに造られたものだ。鱗粉のひとつひとつに月光を汲んでは燦めいて弾き閃き、きらきらと輝きながら翔んでいる――エリシャの爪先にもまた、甘える様にひとひらが宿る。
「素敵、銀色の蝶だなんて……ほら、あなた達も」
 あなた達、と彼女が呼ばう先は己の吊れる蝶々だ。眼にも鮮やかな色合いの翅を羽搏かせ、桜色の蝶が銀のそれへ群れ交じる。
 死霊の魂とは蝶であり、その蝶を扱う身と在らば、自ずとそれへの愛着も湧く――優美にはためき藍の夜空に彩りを添える、そんな蝶々たちと共に舞い踊る様に戯れるエリシャは、ふと傍らの少女へと眼差しを据えた。
「ほら、バレーナさんも御覧になって!」
 誘うようにその指先が、今度はバレーナ・クレールドリュンヌへと伸べられる。
 けれど、嗚呼――それは確かにこの世のものではないほどに美しいけれど、だからこそ心を許してはいけない気がした。
 それでも招く様に向けられたエリシャの指先を無碍になんて出来なくて、そっと白磁の指先を彼女へと預ける。
 藍と青とが溶け合う果てのないヘヴンリー・ブルー、星の様に燦きながらそれを飾る銀の蝶、そしてエリシャがその景色へ織り込んだ桜色の蝶。
 こんなにも美しいのに、何もかもが優しくて甘やかなのに。
「(――わたしの心に澱む痛みは、何?)」
 傍らに惹き寄せたバレーナの表情の曇りに気付いて、エリシャがふとその顔を覗き込む。
「バレーナさん、どうなさったの? ……蝶はお嫌いかしら?」
 気遣わしく漏れる声に、バレーナは務めて柔く微笑みを返す。この美しいひとがこの世界に浸り夢心地で居るのなら、それを壊す事など決して本意ではないのだ。
 いいえ、そんな事はないのと前置いてから、バレーナは繋いだ手をそっと柔く握り返す。
「だってエリシャの好きなものじゃない? だったら、嫌う理由なんて無いわ」
 繕うわたしの本心は、あの光を瞬かせる白銀色。愛しいひとを護る為には、時として真実ばかりを告げる事が最良では無い――だから。
 微笑むバレーナの表情と返答とに、嬉しげに破顔したエリシャがまた肯いた。
「ええ、ええ。私の愛する物のうちの一つですわ」
 喩えオブリビオンと言えど、美しさは翳りませんから――なんて、軽やかな声音で言い添えられて、ほんの少しだけバレーナの眸が揺れる。嗚呼、エリシャの眼には――。
「(嗚呼、愛されている筈なのに――……わからなくなる、息の仕方さえも)」
 乱れる心を抑える様に、そっと左胸に掌を押し当てる。
 成る程、ここは海なのだろう。そっとバレーナは眩む視界にネモフィラを映す。
 どこまでも続く青い花海へと、今は飛沫の様に、或いは泡沫の様に銀の蝶が舞い翔んでいる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘宵・カレン
▼緋翠・華乃音さん(f03169)と共に

何しに来ただなんてひどいなー。
心配だから着いてきてあげただけなのに。
……うん。懐かしいね。あの時と本当に何も変わってないや。

天上の青かー……ん?
えっ、ねぇこの銀に光ってる蝶々は?
貴方の――では無いよね。色が違うし。

そっか。ねぇ見せてよ瑠璃の蝶。そう言わずにさー?
私のは"告死蝶"って名前の武器ってだけだよ?
いーよ? 見せてあげる。なんならここで舞ってあげても良いし。
え? なに? 首を飛ばして良いの? ――ってなんだ冗談かー。
本気にしちゃうからやめてよねー。

――あ、本当だね。急がないと遅れちゃうよ?
なにしてるのー? 早くしてー?


緋翠・華乃音
▼誘宵・カレン(f17601)と共に

……何しに来た? なんて聞くのは間違いだな。
後でも尾けてきたのかは知らないけど……懐かしいだろう、このネモフィラの蒼い世界。

天上の青、ヘヴンリーブルーか。
――ん? ああ、その銀の蝶を負えば本命に辿り着くらしい。
……というかグリモア猟兵の説明くらい聞いてから来いよ。

俺の蝶は別に見せ物じゃないんだけど……
そういや――君も蝶を持っていただろう?
見せてくれよ、死を告げる蝶。あれは本当に美しかった。
――その鎌になら、俺の首をくれたって構わない。
……って、いや冗談だ。本気にするな、仕舞え。

ほら、急ぐぞ。他の猟兵よりかなり遅れてしまったじゃないか。



「……何しに来た? なんて聞くのは間違いだな」
 視界に見えた彼女の姿に向けて、緋翠・華乃音は息を吐くと共にそう呟いた。
 彼の視線の先で、誘宵・カレンのルベライトが笑うように眇められる。
「何しに来ただなんてひどいなー。心配だから着いてきてあげただけなのに」
 ふたりを押し包むのは、一面の青――ネモフィラの花海、冴えた銀の星月煌めく夜色の天蓋、そのすべてだ。
 記憶に横たわる彼の地の景色を思い起こしながら、華乃音が声を紡ぐ。
「――懐かしいだろう、このネモフィラの蒼い世界」
「……うん。懐かしいね。あの時と本当に何も変わってないや」
 共有する記憶を辿る。まだ色鮮やかに脳裏に蘇るその光景を重ねて、カレンも眩しげにそういらえた。
 そうしてふと、彼女が何かに気付く様にして瞬く。ひらひらと遊ぶ様に人懐こく宙を泳ぐ、銀の翅持つ蝶々たちに視線がひととき、奪われる。
「えっ、ねぇこの銀に光ってる蝶々は?」
 貴方のではないよね、と翅の色を見ながら疑問を零す彼女に、華乃音は僅かに肩を竦めてみせた。説明くらい聞いてこい、とその背を少しだけ小突く。
「オブリビオンの撒き餌だろう。その銀の蝶を追えば本命に辿り着くらしい」
「そっか。――ねぇ、じゃあ見せてよ、瑠璃の蝶」
 成る程、と肯いてから、それならとねだる様にカレンが振り返りながら云う。銀の蝶に混じって瑠璃の蝶が可憐に舞う様子は、確かに叶うのならば観てみたいと思える程の美しさだろう。
 俺の蝶は別に見世物じゃない、と断りかけたところで、ふと華乃音もまた思い出すのだ。眼前の彼女もまた、銀でもなく瑠璃でもない、美しい蝶を従えていた事を。
「そういや――君も蝶を持っていただろう? 見せてくれよ、死を告げる蝶」
「私のは、『告死蝶』って名前の武器ってだけだけど……いーよ? 見せてあげる」
 馴染みのふたりの会話は滑らかに紡がれて折り重なる。
 あれは本当に美しかった、とどこか夢見る様に華乃音が言えば、舞ってあげても良いとカレンが微笑む。首ひとつを賭けた様な遣り取りは、けれど結局戯れだ。
「……冗談だ。本気にするな、仕舞え」
「って、なーんだ冗談かー」
 本気にしちゃうからやめてよね、とカレンが唇を尖らせる。
 往なす様にその頭にいちど掌を乗せてから、華乃音が先立って歩き出す――銀の蝶が導く向こうに遂げるべき本懐が在るのなら、そこへ往かねばなるまい。
「ほら、急ぐぞ」
 急かされながら、青の花海を人影ふたつが進んでゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花剣・耀子
釣り餌のようなものなのかしら。
……じっと眺めていても仕方が無いわね。
後を追ってゆきましょう。

まだ警戒するには早い。
剣を抜くこともしないけれど。
手を込んだ真似をされると、どうしても眉間に皺が寄る。

きれいなものは、きれいだと思うのだけれど。
青の中にまたたく銀色は、たしかにうつくしい。
まるでゆめのよう。
只でさえふわふわしていた足元が、もっと不確かになってしまうような。

――でも。
生憎と蝶の夢を観ようにも、この剣が重いのよ。
このたましいは、きっと飛べない。

飛べはしないから、居所を確かめるように小径を踏みしめて。
行ける場所に、行きたい場所に、自分の足で行きましょう。
誘われるのだってあたしの意志よ。



 夢の様な世界だった。
 足許には目の醒める様なヘヴンリー・ブルー、顔を上げればこの世のものではない銀の蝶が遊び舞う。その向こうには満天の星が埋め尽くす藍色の闇が在って、それですべてが綴じ込まれている。
 じっと眺めていても仕方がないから、確かな意志を持って導く様に群れ翔ぶ蝶々を追い掛ける――それこそ、物語の登場人物の様な行動だ。
 剣は未だ抜かれずとも、蝶を追う花剣・耀子の眉間には皺が寄る。
 ゆめのなかを駆けている――蝶を追って。青の涯てへと向けて。それはきっとふわふわしていた足許が、もっと不確かになってしまうかの様な曖昧なこと。
「生憎と蝶の夢を観ようにも、この剣が重いのよ」
 このたましいは、きっと飛べない。
 斯く在れと、剣がいつだって征くべきところを示している。ゆめみる爪先が軽やかに翔ぶのなら、切っ先がそれを拒むのだろう。
 飛べはしないのならば、居所を確かめるように小径を踏み締める。
 ――行ける場所に、行きたい場所に、自分の足で行きましょう。
 だってそれが出来るのだから。叶うならば、願うべきだ。
「誘われるのだってあたしの意志よ」
 その横顔に垣間見える眼差しに、きっと曇りも迷いも見当たらないのだ。

 ――ふふ、と、誰かがそれを笑う。おんなの声だ。
 いつの間にか辺りには夥しい銀の蝶が群れ集っていた。それら全てが煩いくらいに燦めいて、さんざめいて、その向こうに真珠色の尾鰭がふわりと舞う――このネモフィラの硲を波間に見立てて、人魚がふわりと泳いでいる。
 ――ふふ、うふふ、ようこそ、ようこそ。
 甘い声が猟兵たちを差し招く。

 夢の向こうの楽園の涯て、暗渠を征く人魚たちの食餌會へと、招かれている。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『腐屍海の百人姉妹』

POW   :    神歌:永劫の夢に微睡む貴方へ
【深海に眠る大海魔】の霊を召喚する。これは【無数の触手】や【神経系を破壊する怪光線】で攻撃する能力を持つ。
SPD   :    召歌:黒骨のサーペント
自身の身長の2倍の【骸骨海竜】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
WIZ   :    戦歌:インフェルノウォークライ
【召喚した怪物の群れによる一斉攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●花海のさかなたち
 歌が聴こえる。
 銀の蝶を遊ばせる彼女たちは、波打つ尾鰭で光をうねらせながらくすくす、くすくす、あまくふわふわと微笑んでいる。
 気が付けば、猟兵たちを取り囲む様にして、彼女らはネモフィラの花海に揺蕩っているのだろう。漸く釣れた餌を愉しむ為に、この麗しの青を惨憺たる食餌の場とする為に。
 彼女らが笑う最中に、蕩ける様に甘い声が歌を紡ぐ――けれど、何の歌なのかはちっとも要領を得ない。幾ら耳を澄ませても、旋律の一欠片たりとて猟兵たちには解らないだろう。

 それは邪神を呼び寄せる謌。
 それは異なるものへと捧ぐ恋の戯言。
 それはこの世蹂躙せしものを喚び招く歪な祝詞。

 月下、ネモフィラの青は穹であり海である。
 泳ぐさかなは無数に居る――けれどそれらのどれひとつとして、逃す事は許されない。
 謌は止まない。祝詞は甘く續いている。
 銀の蝶にて呼び集めた餌を、さかなたちは可憐な顔に殘忍な本性を隠して見つめているのだ――それらを喰らわば、彼女らのちからになるのだから。謌の詩篇となり得るのだから。

 花の海にはさかなが泳ぐ。
 いずれこの青い景色を赤黒く染める、それは確かに毒だった。
誘宵・カレン
▼緋翠・華乃音さん(f03169)と共に

さて、無慈悲なる死神の女王――その舞台へようこそ。
――え? 何言ってるのー? 貴方も前衛に立たないと詰まらないでしょ?
狙撃手ねぇー……? あ、やる気になった? やっぱりそうじゃないと。ね? ――暗殺者さん。


詩篇7章17節
『わたしは主に向かってその義にふさわしい感謝を捧げ、いと高き者なる主の名を誉め歌うであろう。』――なんて、もちろん嘘だよ。


舞うは死神。舞台は幻想の蒼。
殺気を放ち、気配を消して、高速で移動。
それを繰り返して敵を翻弄。
意識の間隙を縫うように大鎌による首狩りの一撃。
深追いはせず、危険と判断したら直ぐに距離を取る。
――臆病に、そしてとても勇敢に。


緋翠・華乃音
▼誘宵・カレン(f17601)と共に

――カレン、前衛は任せた。俺は後方から援護射撃を……って、また面倒なことを言う……
今の俺は狙撃手なんだけど――まあ、良いか。君に合わせて俺も昔のように戦ってやるよ。……勘違いするな、そういう気分だったというだけのことだ。


詩篇7章14節
『――見よ。悪しき者は邪悪を孕み、害毒を宿して偽りを生む。』


武装『Gespenst.』と『夜蝶牙』で近接戦を行う。
優れた視力・聴力・直感で敵の行動を見切って予測する。
常に気配を絶ち、音を立てず攻撃し、そして離脱。戦法はヒット&アウェイ。
舞わせた瑠璃の蝶による攪乱も駆使して常に敵より優位に立つ。
命中しそうな攻撃はUCで回避する。



「さて、無慈悲なる死神の女王――その舞台へようこそ」
 誘宵・カレンが口端をそっと笑うかたちで持ち上げれば、そのルベライトにネモフィラの花が一葉、散りゆくのが映る。
 その傍らに控える緋翠・華乃音は、油断なく人魚たちを見つめながらカレンへと告げた。
「カレン、前衛は任せた。俺は後方から援護射撃を……、」
 遮るように、何言ってるの、と彼女は瞬いてその科白の先を奪い取る。
「貴方も前衛に立たないと詰まらないでしょ?」
 当然の様にそれを求める姿に、また面倒な事を言う、と華乃音は半眼になってカレンを見遣る。彼女はいつだってそうだ、自分のペースにその気なく相手を巻き込んでゆく。
 ひとつ嘆息を挟む。諦念の色をしていた。
「今の俺は狙撃手なんだけど――まあ、良いか。君に合わせて俺も昔のように戦ってやるよ」
 狙撃手ねぇ、と、つと双眸を眇めてカレンは薄く笑う。見分する様に、その眼差しが華乃音を見つめた。
「やっぱりそうじゃないと。ね? ――暗殺者さん、」
 掛けられた言葉には紫色の視線が返るのだろう。勘違いするなと雄弁に語るそれを置いて、人魚たちへと一歩先んじたのは華乃音の方だ。
 危機を察した人魚が、黒骨を喚び寄せるべく声を上げようとする――が、叶わない。死を忘る勿れと銘打たれたその黒艶の切っ先が、喉笛を掻き切ってしまったが為に。
「――悪しきは邪悪を孕み、害毒宿して偽りを生む、か」
 諳んじたのは祷りにも満たない戯言だ。
「主に向かって相応しい感謝を捧げ、主の名を誉め歌う――なんて、」
 ――もちろん嘘だよ。
 睦言の様に囁くカレンが、追従する様に人魚たちへと肉薄する。
 無窮の青を舞台にして、舞い踊るは死神ひとり。援護する様に伸ばされた華乃音のゆびさきから、瑠璃色の蝶がひらりひらりと現出する――そこに在る全てを、泡沫へと嵌め込んでしまう様な。
「あんまり遊びすぎるなよ、」
「わーかってるって!」
 軽やかに躱される遣り取りの末尾に、ふたりの気配が好き勝手に跳ねてゆく。
 どちらかひとりが動く度、人魚の頸が落ちてゆく――臆病な癖に勇敢な、彼らの軌跡が夜に煌めく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鳴宮・匡
◆レイラ(f00284)と


遠い、いつかの約束
もしその日が来たとして
自分は迷わず引き金を引けるんだろうか

振り切るようにかぶりを振って銃を握る
感情も感傷も、今は沈めよう

謝らなくていいさ
お互い様、だろ

基本は前に立っての戦闘
レイラへ向かう敵及び召喚存在を通さぬように立ち回る
出来るだけ距離があるうちに射撃で対処し
接近を許した場合はナイフで応戦

止めきれずレイラに近づかれた場合は
こちらへ引き寄せて敵から遠ざけるか
最悪、割り込んで庇う
言ったろ、傷つくのは見たくないんだよ

喩え本体じゃなくても一緒だよ
俺にとってはどっちも「レイラ」なんだから

……怒るなって
わかった、わかったけど
敵が来ないように守るくらいはいいだろ?


レイラ・エインズワース
鳴宮サン(f01612)と

さっきは変な話をごめんネ
フフ、変なコト言われたカラ、ついつい言ってみたくなっちゃったんダ
だから、気にしなくてもいい――ナンテ言っても気にするヨネ
……ごめんネ
ジャ、気にしないヨ

呼び出すのは魔術師の幻影
私の創造主
呼ぶのは久々ダッケ、サァ一緒に頑張ろう
【全力】の魔力を籠めて【高速詠唱】で魔法を重ねて、放つのは雷撃
【呪詛】が広域を広がるように、召喚された者たちを絡めとって攻撃するヨ

……庇うのはヤダって言ったデショ
私のコレは本体じゃないんだカラ
今度庇ったらこっちが先庇うヨ

だったらソレはこっちも一緒
そっちは生身なんダシサ
私庇って傷が増えるくらいナラ、攻撃してヨネ
ホラ、前見て!



 引鉄に掛かる指先に、交わした約束の重みが絡み付く。
 未だ遠くに在る約束を意識する――もしもその日が来たとして、自分は迷わず引鉄を引けるのだろうか。
 飲み下しきれないそれを幾度もなぞる鳴宮・匡を、青の花海へと引き戻したのは彼女の声だ。
「……ごめんネ」
 先程の遣り取りを詫びる様に、レイラ・エインズワースはそうちいさく告げる。
 柵の様に脳裏へとしがみ付く過去の記憶も、その言葉に対して湧いた感情も振り切る様にかぶりを振って、匡は改めて銃を握り直す。掌に、冷たい熱が心地良い。
「謝らなくていいさ。お互い様、だろ」
「ジャ、気にしないヨ」
 微かに笑ってレイラは云う。
 そうして彼女の指先が、繊細なものを描き出す様にして幻影を喚ぶ――藍と青の合間に於いて、いまひととき、狂気に嚥まれた魔術師が舞い戻る。
 それを横に置いて共に闘うのは久方振りだ。少しだけ懐かしくも感じる気配に、僅かに双眸を眇めるレイラの周囲に光が寄り集まっては弾けてゆく――それは膨大な力を賭して編まれる魔力の片鱗、雷撃帯びた力の破片に相違ない。
 魔力を束ね魔法のかたちへと撚り集めるレイラへと、けれど人魚のひとりが苛立った様に尾鰭で空を叩く。悍ましい歌は見るに堪えない化物を呼び寄せ、容赦なく彼女へと襲い掛かる。
「御生憎様、」
 笑う様な呼吸が引鉄に重なって、瞬きひとつの間に肉薄していた化物が弾け飛んだ。ぶれることのない弾丸が、狙い通りにその向こうの人魚の頸も撃ち抜いたのを見て、匡は拍を取る様に爪先で地を蹴る。
 蹈鞴を踏んだ様に見えたやもしれない。が、それは躊躇や練度不足に依るものではない――間合いと射撃の感覚を把握しているからこその『読み』だ。
 姉妹を殺された敵を取るべく黒骨の海竜が喚び出されるのを、端から撃ち抜いては沈めてゆく。匡が護る様にその背にするレイラから、束ねられた雷撃が迸る――宛ら地獄より出でし津波の如く、呪詛を施されたそれが花海を、そこに泳ぐ人魚たちを呑み込んでゆく。
 レイラの唇が、綻ぶ様にして持ち上がった。
「たっぷり喰らってくれタ? それジャ、もう一回――」
「レイラ、」
 その声を塞ぐ様にして名を呼ばれ、レイラは瞬く。
 死角から伸びるのはぎらつく黒骨の牙だ。忍び寄る様にして放たれていたそれから、レイラを庇うかたちで匡の腕が彼女を強く引き寄せる。
 代わりに放たれる弾丸が躊躇いなくその図体を打ち倒す様を半眼で見つめてから、レイラは匡を振り仰いだ。
「……庇うのはヤダって言ったデショ」
「怒るなって」
 はいはいといなす様な返答に、私のコレは本体じゃないんだカラと唇を尖らせる。この男はいつだってそうだ。
 尚もあれこれと言い募るレイラに、わかったから、とその言を封じてから、匡が視線を返して言う。
「敵が来ないように守るくらいはいいだろ?」
「だったらソレはこっちも一緒」
 庇って傷を増やすくらいナラ、攻撃してヨネ。
 可憐に言い添えられた科白に少しだけ笑って、軽やかに持ち上げられた匡の火口がまた吼えるのだろう――ふたりで戦ってるんだカラ、と言い募るレイラに、わかってるよといらえる代わりに。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

オルハ・オランシュ
ヨハン(f05367)と

着いちゃったね……
名残惜しくも離した手には、それでもまだ確かに熱は残されて

ヨハンは後ろ、私は前
いつも通りの布陣でいいよね?
君にはかすり傷ひとつ負わせないよ
それに、この紺色の世界に妙な歌声は相応しくないもの
早く終わらせよう!

攻撃に加担する霊か、厄介だね
それならこっちだって!
UCで[攻撃力]を増したらきっと火力では劣らないはず
自分への攻撃は【見切り】、
ヨハンへの攻撃は【武器受け】で対処を狙う
私を突破しない限り、彼に手は出せないよ
武器では凌げない怪光線は
声を掛け合ってお互い極力避けられるように

【範囲攻撃】と【2回攻撃】を併せて、一体でも多く巻き込んで
効率よく槍で薙ぎ払いたいな


ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と

……着きましたね。

離した掌に残る感触
あたたかな温度
感傷は敵を屠ってからと振り払う

ええ、いつも通りで行きましょう。

紺藍の世界は悪いものではなかった
彼女と歩んできたからこそそう思える
散らすには惜しい

餌を撒いたつもりで、
その餌によりお前達の姿が知れたという訳だ
まんまと釣りだされたな

蠢闇黒から闇を這わせ、刃を形成する
彼女の攻撃のサポートに徹し、
攻撃がくれば防ぐことに専念しよう
攻撃には【降り注ぐ黒闇】を
召喚された敵の群れは一掃しよう
残る刃があればそのまま敵へ

彼女が真っすぐ進めるよう、
道を拓くのが役目と決めよう



 着いてしまったから手を離す。ふたりで少しだけ、それを惜しんだ。
 確かにそこに宿っていた熱が、気紛れに吹いてゆく風に浚われてはあっという間に散らされてゆく――名残を惜しんで指先があまく震えるけれど、眼差しは凛々しく前を見据えていた。
 暖かな指先の代わりに、手に馴染む三叉槍を番えながらオルハ・オランシュは尋ねる。
「いつも通りの布陣でいいよね?」
「ええ、いつも通りで行きましょう」
 異論なくヨハン・グレインは肯いた。『いつも通り』、ふたりならばそれで済む。
 ヨハンに背を向けた儘、前を向いたオルハが少しだけ笑う。軽やかに地を踏み駆け出せば、その足許から生み出される風に散らされ青が舞った。
「君にはかすり傷ひとつ負わせないよ、」
「――勿論。信頼していますから」
 ひとつ言い残す様に置かれた言葉に、ヨハンが浅く笑う。
 ふわりと宙に浮く様に泳ぐ人魚の影へと、オルハの三叉槍が躊躇いなく放ち穿たれる。自らの蓄えたものを吸い上げられる様な感覚を厭って、人魚は悲鳴の様に歌声を上げる――毒々しくとも可憐なそれに喚び起こされる様に、ネモフィラの花海へと悍ましい海魔が現出する。
 オルハを薙ぎ払うべく繰り出される触手をひらりと躱して、朝焼けめいた金色の耳が得意げに揺れた。
「ヨハン!」
 彼女がその名を呼ばう。言葉でいらえる代わりに、この夜の裡へと闇が這う――銀指輪に懐く石から迸るその闇が、何より鋭利な刃を形作った。
 オルハが、彼女が真っ直ぐ進める様に。征くべきその道を拓くのが、今この場に居るヨハンの役目だ。わかっている。
 彼女を身を絡め取って押し潰さんとする触手へと、闇から磨かれた刃が幾つも突き立てられる。触れようとする不埒は端から切り落とされ、オルハは不可侵の儘にそこに在った。
 人魚たちの可憐な顔が醜く歪む。猟兵たちに荒らされる不愉快さに、それを排除出来ない苛立ちに。
「餌を撒いたつもりで、その餌によりお前達の姿が知れたという訳だ」
 ――まんまと釣り出されたな。
 酷薄に笑うヨハンの言に、人魚がまた金切り声を上げて歌う。歌はネモフィラを無差別に揺らして荒らし、そうして彼方より化物を喚び招くのだ――猟兵たちを駆除する為に。
 群れを成す化物より、けれど早いのはオルハだった。
「私を突破しない限り、彼に手は出せないよ」
 言うが早いか、化物の群れを薙ぎ払って撃ち揮う。触手の追撃もきっちり受け流してから、弾む息でオルハはヨハンを振り返った。
 ――視線が絡む事など刹那に過ぎない。
 けれど多分、そうだと思った。ヨハンが笑う。穏やかに。
「――、ええ」
 次陣へと向かうその一瞬、武器を持たぬ片手と片手が互いに伸ばされる。
 絡む指先は瞬きひとつより短かったやもしれない。それでも確かに、暖かな熱をそこに感じた。
 確かに指先に宿る熱をふたりで密やかに共有して、彼らの影がまたネモフィラへと舞い映る。
「また、あとで!」
 花咲く様に、オルハが告げた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ザハール・ルゥナー
ルカ殿(f14895)と

海があれば、魚は泳ぐ、か。
美しい光景の儘で、とも思うが……残念だ。
さあ、仕事だ。

あまりこの場を荒らしたくないが、上品な戦いはできぬ。
天に空砲でも鳴らして、獲物はこちらだと誘き寄せる。
幻想の蝶の美しさに目を細め、

極力範囲を狭めた状態で刃嵐を宿し、戦う。
少々花を散らす無礼を許して貰おう。

線を点と変える戦い方は出来るが、囲い込む戦いはできぬ。
ゆえに任せた――ルカ。
怪我は……善処する。

巨大な相手とはいえ私は刃。呑めるものなら呑むが良い。
美も醜も、問わず内側から裂いてくれよう。

疵は負えど、滅びはしないさ(悪びれず笑い)

人魚は泡と消える。
切ない物語ではあるが……そういうものだ。


ルカ・アンビエント
ザハール(f14896)と

人魚の甘い声、ですか。此処で沈む気も無いですし
仕事といきましょう

ザハールが誘き寄せるなら俺も幻を見せる霊符で誘いましょうか
鳥羽の契を発動、操る幻は蝶

ー今(呼び捨てに瞬いて、ふ、と笑い
任されました。
だからまぁ、無駄な怪我はしないでくださいよ、ザハール

幻を光の鳥へと変え操り囲む
怪物の群れの動きには警戒を
受けたとしても、構わず反撃を

喰らい尽くせると思いますか?
血濡れの霊符とて光鳥は操れる

…善処とて何時迄続くのか
失えないなら、己がまず立ってなければ
…届かないのは、もう十分だ

…ザハール、言っときますけど
後で叱られる覚悟しといてくださいよ

泡となるか水底へと還るか
その歌も終わりです



 どこまでも麗しい藍の夜空を、ふたつに裂く様な咆哮が在る。
 人魚たちの眸が一斉にそちらを向く――彼女らの動きに併せて、群れ集う銀蝶もまた、その翅を艶やかに翻す。
 白銀の短銃が薄く硝煙を燻らせるのを吹きながら、ザハール・ルゥナーは双眸を眇めた。花の海に泳ぐ魚と蝶々は、けれど美しい光景の儘では居られまい。
 ならば、と傍らで気配が揺れる。幻禍の帳がその身に宿れば、ルカ・アンビエントの身が巫女のそれへと変じてゆく――彼の身を取り巻く様に現出する霊符が生み出すは、銀のそれに負けずとも劣らぬ幻の蝶だ。
 音と色彩とで喚び招かれれば、人魚たちは惹かれる様にふたりの許へと集まるだろう。
「――ルカ、」
 ザハールが短く呼べば、ルカの眸が僅かに瞠る。いま、とそれを留めようとして、瞬きと共にふと笑った。彼の意図など、読むに容易い。
「任されました。……だからまぁ、無駄な怪我はしないでくださいよ、ザハール」
「……善処する」
 少しだけ間の空いた返答が在って、ザハールの四肢に風が絡み付く。嵐を喚ぶに相応しいそれは、触れれば斬れる諸刃の刃だ。
 集う人魚たちが、悲鳴の様な歌声を上げて黒骨の海竜を呼ばう。が、その喉が歌を紡ぎ終える前に、鮮血を噴き上げて裂かれてゆくのだ――風は触れれば全てを斬る。花も魚も、美しいものも醜いものも何もかも。
 姉妹を散らされた人魚たちが悲哀と共に化物を招けば、花海の向こうからそれは此処へと至るのだろう。悍ましい腕はルカへと伸ばされる――が、それを甘んじて受けるほど大人しい男ではない。
 膚を痛みが走る。裂けた箇所から血が滲むとも、唇は笑う様に持ち上がった。
「喰らい尽くせると思いますか?」
 幻の蝶は鳥へと変じ、血濡れた霊符が導く儘に化物へと絡み付く。光り輝く一羽一羽が化物の身体を裂き啄むのを、すべて貪欲に巻き込む刃の嵐が横から切り裂いていった。
「――呑めるものなら呑むが良い、」
 獣の如く皓る眸を引き絞って、喰らいつくような声がザハールから漏れた。
 その身から応報たる血が滴るのを、嗚呼、とルカがつと見つめる。失えないのならば、己がまず立ってなければ――届かないのは、もう十分だ。
 ふ、と。それを知ってか知らずか、ザハールの紫色がルカを見遣った。悪びれず笑う。
「疵は負えど、滅びはしないさ」
 すぐには言葉が紡げなかった。ただそれをそうと露見するのも癪な気がして、心中に去来する感情を押し留め宥める様に、ルカはひとつ誤魔化し含めた息を吐く。
 そうして告げる。
「……ザハール、言っときますけど。後で叱られる覚悟しといてくださいよ」
「君が言うのか」
 赤黒く変色した霊符をちらと見てザハールはいらえる。
 片眉を持ち上げて、勿論、とルカは首肯した。
「俺が言わずに誰が言うんです。ほら、」
 向こう、と指し示す。
 雪ぐ様に夜風がひとつ、強く吹く――巻き込んで舞い上がるネモフィラの薄青の花弁が、宛ら泡の様に視界いっぱいに舞い散りゆく。
 その向こうには随分と数の減った人魚たちが、それでも斃れた姉妹の敵を取るべく、或いは獲物を捕らえるべくゆらりと揺らめいていた。
「人魚は泡と消える、か」
 成る程と得心して、ザハールが再び地を蹴る。
 その身を援護する様に光宿す鳥を差し向けながら、ええ、とルカは囁いた。
「水底ならぬ、花の底へと還って貰いましょう」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

花剣・耀子
あまい、あまい。
それこそ花の踊るような光景。
――そうね。
古今東西、招き手は食い殺すその瞬間まで甘くあるものだもの。

誰も逃がさないわ。
朝が来る前に、ひとつ残らず散らしましょう。

踏み込んで一閃。
狙うは宙を泳ぐさかなと、そのうたが招く怪物だけ。
ネモフィラを散らすのは忍びないもの。
優先順位は違えないけれど、余力があるなら気をつけましょう。

霊でもなんでも、そこに在るなら刃は届く。
……けれど、根を潰さないと埒が明かないわね。
行く手を阻むものをすべて斬り果たして、さかなまで。
多少強引にでも斬り込みましょう。
死ななければ良いわ。

見た目だけで惑わせられるなんて思わないことね。
ヒトを喰うものを、あたしは赦さない。



「――そうね、」
 群れ散る花弁の向こうで柔く笑いながら悍ましい眷属を喚ぶ、彼女らを眺めて花剣・耀子は剣の柄をそろりと撫でた。
「古今東西、招き手は食い殺すその瞬間まで甘くあるものだもの」
 目視で距離を測る。充分だ。
 眼前に広がる光景はどこまでもあまい――あまくて、麗しい。花海を泳ぐさかなはその尾鰭に優美ないろを散らし、くすくすと笑いさざめいては品定めをする様に猟兵たちを見つめている。
 逃してはならない。彼女らは既に悍ましい化物を喚んでいる。
 赦してはならない。彼女らは餌として人間たちを捕食するものだ。
 嗚呼、だから、そうね。
「――朝が来る前に、ひとつ残らず散らしましょう」
 ひとつ踏み込むと共に、一呼吸のうちに一閃が煌めく。
 ほんの僅かな一拍を置いて、ざあ、とネモフィラが烈しく揺れる。それでも薙がれた斬撃は、足許で可憐に揺れる青の穹を害する事はない――その代わりに、人魚たちから悲鳴の様な声が上がった。
 そこに在るのならば刃は届く。穢れを払う様に剣を振るって、かろやかな爪先がひとつ、またひとつとさかなの群れへと踏み込んでゆく。
 その度に悲鳴が、或いは化物の断末魔が上がるのだ。
「……けれど、根を潰さないと埒が明かないわね」
 姉妹を薙がれた事に取り乱した人魚がひとり、金切り声を上げて花の海へと魔なるものを喚び招く。悍ましい触手を持つそれをしらと見上げて、耀子は整える様に吐息を挟んだ。
 死ななければ良い。双眸をつと眇めて、指先に馴染む柄を握る。
「ヒトを喰うものを、あたしは赦さない」

成功 🔵​🔵​🔴​

境・花世
綾(f01786)と

敵と相対するその前に
皓るきみの眸を一度見つめて瞬き

ああ、

甘い謌も麗しく游ぐ尾鰭も
わたしを蕩かすものには成り得ない
だから少しも痛まずに
お伽噺を、終りに出来るよ

花海に倒れ伏す人魚と骸竜を
指先で手繰る不可視の糸
祝詞捧ぐ群れへぶつけ散らして
悪しき召喚を泡沫にして

守る者の無い脆弱なさかなを
網に掛けるのはきっと容易い
言わずとも伝うきみの隣
翻す扇で散らす花びらは、
今色付いたようにさやかな薄紅

綾、月より蝶より花よりも
きみがいちばん美しいみたいだ
この眸はひとつきりだけど、
視力は間違いない筈で

肩を並べて戦いながらも、
戦い終えても見ていたいほど
理由は未だわからねど
……も少し傍で、確かめさせて


都槻・綾
f11024/花世さん

風に漣立つ青は
幽き花達が懸命に織り成す敷妙のよう
斯様な褥で永劫眠れるのなら至福やもしれぬ、とは
胸の裡の小さき燈

子守歌を紡ぐ人魚達を見据えたまま
ゆるり踏み出す一歩
誘惑されたからではなく
伽話の最後の頁を捲る為に

第六感で好機を読み
高速詠唱、範囲攻撃、二回攻撃

麗しき謌であろうと
私が摘んだ薄紅の花には敵わず

さやさや笑って
幾多の符を優雅に扇状に翳し
衝撃波を贈る一閃目
態勢整える隙を与えずの二詠目は花筐

泡沫に消え逝きなさい
死の宣告は凪いで穏やか

花世さんの言に双眸を瞬いて
不思議そうに首を傾ぐ

月影に照る白皙も
身に宿す薄紅の燈も
美しいのは貴女の方でしょう

傍に、の願いには
柔く笑んで再び指を結ぶ



 花海をおよぐさかなたちは、もう極僅かだ。
 それでも謌は止まない――止めようがない。姉妹たちを失った彼女らに残された縋れるものなど、最早それしか残っていない。
 彼女らもまた、この青の花海を永劫の褥として眠るのだろうか――それもまた至福やもしれない、と、都槻・綾は胸の裡へとそんな燈を密やかに隠す。
「ねえ、」
 引き戻すのは傍らに咲く花の声だ。
 指先で袖を摘み、境・花世は彼を呼ばう――そうして振り向いた彼の顔を、その眸を覗き込んで、嗚呼、と笑った。
 彼の青磁の眸だけが、花世の心を揺らすものだ。
 甘い謌も麗しく游ぐ尾鰭も何もかも、わたしを蕩かすものには成り得ない。だっていま、綾と交わす眼差しが、花世の心を持っていってしまったから。
「狡いなあ、」
「同じ言葉、お返ししましょう」
 睦言の響きで囁きあって、綾はつと前を向く。そうして踏み出す一歩は、唄い続ける人魚たちに誘惑されたからではない――彼女らを花の泡沫へと還す為、御伽噺の最後の頁を捲る為だ。
 舞い散るネモフィラの硲に好機を読む。容易い事だ。
「幾ら麗しき謌であろうと、私が摘んだ薄紅の花には敵わず」
 零しては綾の口端に笑みが滲む。心を惑わすものがそれきりと在らば、眼前の人魚たちに奪われるものなど何も無いのだから。
 構える符を扇状に翳し扇げば、衝撃纏う一閃が人魚たちへと放たれる。上がる悲鳴は好機に他ならない――綾の全身へと、無数の麗しき彩りが寄り添って力を為す。
 青だけではない艶やかな四季のそれに、人魚たちの眸が根刮ぎ奪われる。それを待ち兼ねていたかの如く、天上の如き花嵐がさかなたちを呑み込んだ。
「泡沫に消え逝きなさい」
 告げる死を美しいことばに包み込む様な、そんな穏やかな綾の声に、ふと花世の唇も綻ぶ。
 そうしてその指先から不可視の糸が紡ぎ出される――絡み付いた先の人魚は確かに死した筈だのに、まるで生き返ったかの如くに起き上がって花を咲かす。
「御伽噺は、綺麗に終わるべきだもの」
 溢るるは薄紅、花咲く人魚が向かう先は必死で邪神へと祷りを捧ぐ姉妹の袂だ。悪しきを喚ぶ為に呪詛紡ぐさかなたち諸共巻き込んで、彼女らもまた青の穹へと還ってゆく。
 人魚たちを相手取って闘う最中、ふと寄り添う様に花世が綾の傍へと寄る。
 綾、と密やかな声で彼を呼べば、いらえる代わりに優しい青磁が彼女を見つめた。それが胸に齎す甘さと暖かさが心地良くて、花世の眸が笑うように撓む。
 ひとつきりの眸でも、きっとこれだけは間違いがない。
「月より蝶より花よりも、きみがいちばん美しいみたいだ」
 綾が瞬く。不思議そうな顔をして、そうして浅く首を傾ぐ。
「月影に照る白皙も、身に宿す薄紅の燈も。――美しいのは貴女の方でしょう、」
 きみだよ、なんてそう返すのはきっと無粋だ。識っている。けれど嗚呼、輝る銀の月と青の世界に彩られた彼の、なんて、なんて――……。
「……も少し傍で、確かめさせて」
 否応なく彼に視線が惹き寄せられる理由を、ずっと見つめていたくなる道理を。
 甘える様に主語を臥せた花世の科白を、綾はふと柔く笑んでいらえてみせた。何か言葉で返す代わりに、ふたりの指先が緩く絡む――それはきっと、一瞬のこと。



 ――やがてネモフィラの花咲くその海から、さかなたちは駆逐され尽くす。
 青の世界のその端には、滲む様に朝日が覗く――やがてこの藍の夜空に陽の齎す白が差して、喩えようもない程の美しい初夏の青が天蓋を覆うに違いない。それは確かに猟兵たちが護り通した尊い景色で、何に替えようも無いものだ。
 ヘヴンリー・ブルーは今日もそこに在って、多くの誰かの心を慰め視界を漱ぐ。
 季節が廻り花の枯れるその日まで、地にある穹には賑やかな声が満ちるのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年05月17日


挿絵イラスト