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街はいつでもnoisy noisy

#キマイラフューチャー #テレビウム・ロック! #テレビウム #システム・フラワーズ

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●鍵っ子テレビウム
 軽快な音楽で華やぐ街なかを、ひとりの少女がひた走る。
 豊かな色彩がビルを塗りたくり、電飾が歪な路地や建物の陰にまで光を呼び込む。
 連なった数基の大型ビジョンでは絶え間なく映像が切り替わる、明るい街だ。
 しかしそんな街の外れには、少女の他にひと気が無い。
「ドッ! ドッ!」
「頑丈だド!!」
 ひと気の代わりに通りを占拠する、大量のサンドバッグ怪人。
 険しい顔つきで威圧感を出しながら、群れは次から次へと道を封鎖していく。
 力強くも素早く跳ねて、少女の行く先々にかれらが立ちはだかる。
 少女の顔には恐怖ではなく、鍵のような映像だけが浮かんでいる。
「こっ、こない、で……ッ、チュチュ食べてもおいしくないよッ」
 迫るサンドバックの怪人たちに行く手を阻まれ、少女は後退る。
「ナグルド! 囲めド!!」
「ナグルド! 叩くド!!」
 少女は吠え続けるサンドバック怪人たちに背を向け、駆けだした。
 待つんだド、追うド、とけたたましく怪人たちも追走する。
「や、だよ! やだ……だれか、だれか助けてぇ!」
 いつまでも少女は泣き叫ぶ。涙流れぬ顔のまま。鍵を映した顔のまま。
 けれど道路にも建物にも、やはりひと気は無い。
 だから少女は休むことなく逃げ続ける。首からさげた鍵を、ぎゅっと握り緊めて。

●グリモアベースにて
「とにかくオブリビオンの数が多いから、急ぎ向かってほしいの!」
 ホーラ・フギト(ミレナリィドールの精霊術士・f02096)は猟兵たちへそう告げた。
 転送先はキマイラフューチャーの、とある街の外れ。
 キマイラやテレビウムは確かに住んでいるのだが、どうやら中心部でのみ暮らしているらしく、街はずれにひと気は無い。
 ゆえに街はずれへ迷い込んだテレビウムの少女にとっては、絶望的な状況だ。
「オブリビオンたちは道を塞ぎながら、その子を追い込んでいってるのよ」
 中心街へ続く道はすべて、疾うに封鎖されている。
 掻い潜って中心部へ逃げようにも、少女ひとりでどうにかなる数ではない。
「その子、物陰に隠れたり、建物へ逃げ込もうとはしてないみたい」
 していないというより、できないのだろう。
 すでに何度か建物へ逃げ込み、怪人に発見された後のようだ。
 隠れても無駄だと思い込んでいる少女は、パニックに陥りながらも走るのを止めない。
「チュチュさんよ。名前。……歳はだいぶ幼いわ」
 人間で言うところの5、6歳ぐらいだろうか。
 そんな年端も行かぬ子が、たったひとりで脅威から逃げ続けている。
 ホーラはそこまで説明を終えると、猟兵ひとりひとりを確認して頷いた。
「あとは現場判断でお願いね。さ、転送準備に入ります!」


棟方ろか
 お世話になっております。棟方ろかと申します。
 一章と二章は集団戦、三章がボス戦です。
 ちなみにどの章でも、出てくる怪人が『うるさい』です。

 転送先は街はずれの、まだ敵がいない通りです。
 基本的に少女も敵も騒いでいるので、移動していけばすぐ発見できます。
 戦場となる街はずれには、少女チュチュの他に人っ子ひとりいません。
 なので周りを気にせず、とにかく敵を倒してください。
 シナリオに慣れていない方、プレイングや動きを模索中の方も、お気軽にご参加くださいませ。

 それでは、皆様のプレイングお待ちしております!
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第1章 集団戦 『戦闘員・ナグルド』

POW   :    強靭で無敵だド!
全身を【頑丈なサンドバッグ 】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD   :    バチバチするド!
【触れると爆発する砂 】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    飛び道具卑怯だド!
【ボクシンググローブ 】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。

イラスト:井渡

👑7
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

木元・杏
【かんさつにっき】
第六感働かせてチュチュの居場所に急行する
チュチュを後ろにかばって
怪我はない?こわかったね
嫌じゃなかったら手、つなご?
少しだけ安心できるから(こくん、と頷いて)
ん、後ろは大丈夫よ

ちいさいこいじめるなんて最低
そんなのサンドバックの風上にもおけない
(ぐ、と睨んで)(……怪人の姿が少し怖い)(でも勇気だす!)

ずっとチュチュを守る位置に
砂は『絶望の福音』で予測して声かけ
まつりん、砂くる

わたしもチュチュと一緒に避けて
避け切れない時は白銀のオーラの剣で防御

うさみみメイドさん(人形)は砂を見切って前に出て目潰……(目、どこだろ?と考えて)殴って?

チュチュ、耳ふさいで?>まつりんの歌


木元・祭莉
【かんさつにっき】で!

なぐるど? えーとえーと……どーなつ!
え、違う?

だーっと駆け寄って、少女を背中に庇う。お兄ちゃんだからね!
チュチュちゃん、かー。
だいじょーぶ? 頑張っててエライなあー!
うさみん☆(杏の人形)も、そう思うよね? ねーっ♪

チュチュちゃんはアンちゃんに任せてっと。
ナグルドさん、殴られたがってるみたいだから、殴りに行くねー♪

なんかいろいろ叫んでる。
そんじゃ、おいらも対抗してー♪

アンちゃんの指示を狼耳で聞きながら、ナグルドの集団に突撃ー。
十分距離が離れたら。せえのー。
『ぼえぇーーーーー!!』(人狼咆哮)

(お父さん仕込みの調子っぱずれ怪音波)

え、歌は飛び道具じゃないよ? ねーっ♪


鈍・小太刀
【かんさつにっき】

間に合った、かな?
チュチュに杏と祭莉んが合流するのを距離を置いて確認しつつ
サモニング・ガイストで鎧武者のオジサン(お調子者でノリがいい)を召喚
オジサン、またいきなりで悪いけど宜しく頼むわ
報酬はって?仕方ないわね、後で苺サンド驕ってあげるわよ(サンドなだけに

祭莉ん達を取り囲むナグルド達の背後へ忍び寄り
炎の属性攻撃で火をつけて回るよ

背後からは卑怯?
あんな小さい子を大勢で追いかけ回してるような奴らに卑怯とか言われる筋合いないし?
それに、炎も刀も飛び道具じゃないない
オジサンも炎の槍で放火、宜しくね♪

祭莉んの動きを察知したら慌てて耳栓
そうね、煩さ勝負なら祭莉んも負けてなかったね(遠い目


レイン・フォレスト
【SPD】
幼い少女を襲うとか最悪だな
まあオブリビオンは全部最悪だけども
一刻も早く駆け付けてあげたいから
「聞き耳」を使ってより音(騒ぎ)が大きい方へ急いで向かおう

少女を見つけたら、その前に出て背中に彼女を庇い【ブレイジング】で攻撃

チュチュ、無事かい?
もう大丈夫、こいつは僕らが引き受ける
安心していいよ
僕らの傍からあまり離れないようにしてね

にっこり笑って見せて安心感を与えるように
敵には睨むような眼差しを向けて
愛用の銃で寄ってくる敵を片っ端から撃ち抜いていく

しかし砂の攻撃はやっかいだな
避けるよりも「オーラ防御」で防御を固めてやり過ごそう
あいつが次の攻撃に移ろうとする瞬間が好機
そこを狙って攻撃してみよう


鵜飼・章
この感じ、覚えがあるな
東京の繁華街をこじらせたような喧騒
煩いのはあまり好きじゃないんだ
静かにしてもらえないかな

声を頼りにチュチュさんの保護を目指す
煩いな怪人
彼女の声が聞き取り難くなる
素で苛々混じりの【恐怖を与える】で威圧し
道中の敵にはUC【悪魔の証明】を放つ

恐怖と【先制攻撃/早業】を併用し
無敵になられる前に先制狙い
針で【串刺し】にできたのを目視したら即移動
これで追ってはこれないし
後は鴉が始末してくれる筈

怖かったね、もう大丈夫
僕達猟兵に任せて
【優しさ/コミュ力】で優しく声をかけ
合流後はチュチュさんから離れず戦う
戦法は先制狙いの速攻を継続
仲間と連携し四方に目を配って
どこから何が来ても対応できるよう


彩瑠・姫桜
まずはチュチュさんを敵の攻撃から護りたいわ
できる限り、敵とチュチュさんの間に割って入って【かばう】わね

チュチュさんは背中に庇って
怖がらせないよう声掛け意識するわね
ごめんなさいね、怖いと思うけどもう少しよ
一緒にこの場を切り抜けましょう?

(庇いながら敵を睨みつけ)ふざけるんじゃないわよ
大勢で女の子囲んで殴るとか許せないにもほどがあるわ
貴方達のその咎ごとまとめて串刺しにしてあげる、覚悟なさい!

攻撃は【サイキックブラスト】で【範囲攻撃】
まずサイキックエナジーの電流を編み上げ、複数の青白い槍にして私を中心に配置
それらを敵に飛ばし貫かせて【串刺し】にしていくわ
更にドラゴンランスで突いて【傷口をえぐる】わね


玖・珂
己の身体が自由にならぬのは不安であろうな
其処にオブリビオンの襲撃とあらば尚更の事

上空へ羽雲を放ち少女と怪人を探して貰おう
姿が見えたなら教えてくれ
私は聞き耳を立てつつ失せ者を探そう

騒々しい一団を見つけたならば庇うように割って入り
少女の安全を最優先に立ち回るぞ
囲まれて逃げ場がないなら猟兵達の傍から離れぬよう伝えよう

幼い娘ひとりを追い回すなど言語道断
覚悟はよいな

敵の攻撃は糸雨で頑丈なサンドバッグを引き寄せ盾にして防ぐぞ

無敵と豪語するだけはある
が、燃え続けたらどうなるのであろうな
突き立てた黒爪から紋様を伸ばし白炎を咲かせよう
燃える敵を別の敵に向けて怪力で投擲するぞ

テレビウムが鍵ならば、錠は何であろうか


レザリア・アドニス
テレビウムのその姿に、なんの秘密が 隠れているかしら…
とりあえず、こんな小さな子をいじめるなんて、見過ごせないのよ…

街に転送されたら急いで騒いでる方角へ移動
件の子を見つければすぐに死霊騎士を召喚し、彼女と敵の間に割れ込ませて壁にする
そして彼女を庇って、簡素に話して落ち着かせ、後ろに避難させる
大丈夫…あいつらには、貴女を食べさせたり、傷つかせたりはしない
確保後は本格的に戦闘に入る

基本はミサイルで、一体ずつ集中攻撃
砂を噴こうとする敵には、荒れる花の嵐で砂を吹き散らすのを試す
硬いサンドバッグになった敵は一旦放置し他のから倒す
ミサイルと花を禁止されたら 騎士と蛇竜に戦わせる
全部倒しても警戒は止めない


フィリア・セイアッド
テレビウムさん達が襲われていると聞いていたけれど 
こんなに小さな子まで… いったい何が起こっているの?
ううん まずはチュチュさんを助けないと、ね

初めて訪れる世界に 興味深そうに周りを見渡す
見慣れない高い建物や電飾を口を開けて見上げ 迷路みたいねとぽつり
人の気配や音 第六感を使いながらチュチュさんを探す

「WIZ」を選択
チュチュさんを見つけたら 空を飛んで一気にそちらへ向かい敵と彼女の間に割り込んで庇う
ひとりでよく頑張ったね、もう大丈夫よ
傍らに膝をついてにこり微笑む
後衛位置で彼女を守りながら戦闘
菫のライアで仲間を鼓舞する歌を
敵の攻撃にはオーラ防御で対応
傷ついた仲間には「春女神への賛歌」で回復を



●Noisy-one
 うるさいな、と鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は眉根を寄せた。
 ドド、ドドド、と暴れまわる怪人の群れ。
 ――彼女の声が聞き取り難くなる。
 苛立ちを隠さず混じらせて、眼光でサンドバッグを射貫いていく。
「静かにしてもらえないかな」
 そして道中の群れへ贈るのは――悪魔の証明。
 大針が串刺しにするのを見届けることなく、章は地を駆けた。
「煩いのはあまり好きじゃないんだ」
 少女の姿を捉え、章がみちゆく遥か頭上。
 キュイィィ、と突き抜けるような上空を、真白の猛禽が舞う。
 直後。鳥とは異なる白が眩く割って入った。
「幼い娘ひとりを追い回すなど言語道断」
 ひとりの猟兵が舞い降り、サンドバッグを押しのける。
「覚悟はよいな」
 白い猛禽の主――玖・珂(モノトーン・f07438)の眼光は、鋭く群れを突き刺した。
 直後、ばさりと空で翼がはばたく。
 空から少女を探していたフィリア・セイアッド(白花の翼・f05316)のものだ。
「! チュチュさんっ」
 ふと停まり、直後に急降下。滑空した様は鳥の動きを思わせる鋭利さで。
 しかし敵と彼女の間に割り込んだ姿に、だれかを傷つけるような鋭さは微塵も見られない。
 時を同じくして、聞き耳を使い駆け抜けていたレイン・フォレスト(新月のような・f04730)も、割り込むようにして少女を庇う。
 そして襲い来るボクシンググローブを次から次へとオートマチック式の拳銃を腰から抜き撃ち、形見のハンドガンのトリガーに指をかけ、連射した。
 片っ端から撃ち抜いていレインの後ろ、レザリア・アドニス(死者の花・f00096)が召喚した死霊騎士は、ナグルドたちとチュチュを分断した。
 騎士を前へ立たせて、大丈夫、とレザリアは口を開く。
「あいつらには、貴女を食べさせたり、傷つかせたりはしない」
 言葉には言葉が続く。彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)はチュチュを背へ送りながら、唇を震わせて。
「怖いと思うけどもう少しよ。一緒にこの場を切り抜けましょう?」
 安心させるための言葉をかけながら、殴りかかってくるグローブを叩き落す。
「……ふざけるんじゃないわよ」
 そうして少女を庇いながらも、姫桜は敵を睨みつけた。
「大勢で女の子囲んで殴るとか許せないにもほどがあるわ」
「ドド!」
 姫桜に続き、フィリアもチュチュへ声をかける。
「……ひとりでよく頑張ったね、もう大丈夫よ」
 フィリアはチュチュの傍らに膝をつき、にこりと笑いかける。
 そしてすぐさま菫のライアで歌を響かせ、仲間たちを鼓舞していく。
「もう大丈夫、こいつは僕らが引き受ける。安心していいよ」
 レインはチュチュはにっこり微笑みかけた。安心感を与えるように。
 そして敵には、命奪う猟兵としての眼差しを。
「幼い少女を襲うとか最悪だな」
 空薬莢を排しながら睨んだ。
「まあ、オブリビオンは全部最悪だけども」
「バチバチするド!」
 砂が撒かれ、咄嗟に避けるのではなく守りを固める道をレインは選ぶ。
 纏う気で振り払いながら跳ね、レインが銃で殴りつける。
 ――砂の攻撃はやっかいだな。
 範囲が広いだけに、侮れない。レインはそう感じ取った。
 そこへ、ナグルドのボクシンググローブが襲い掛かる。
 無数の連打を避ける気力はもちろん、体力の消耗も気に留めていたのはフィリアだ。
 フィリアがすぐさま仲間へ贈るのは、清かな春風と陽光が招く、癒しの歌。
「降りしきれ、春の陽射しよ……」
 そうして奏でられた言の葉は、フィリアの祈りをも乗せて仲間たちの背を支えた。
「間に合った、かな? よかった」
 チュチュの無事を確認してほっと息を吐き、鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)は鎧武者のオジサンを召喚した。
「オジサン、またいきなりで悪いけど宜しく頼むわ」
「あいよー任せて」
 調子の良いオジサンが、炎の槍を振り始める。
 兜の下で唇を引き結ぶ壮年男性のまなこが、小太刀を射す。
 他者から見れば召喚主と召喚された側のアイコンタクトにも思えるやりとりだが、小太刀はやれやれと肩を竦めて。
「報酬? 仕方ないわね、後で苺サンド驕ってあげるわよ」
「サンドド!?」
「殴るドッ!!」
「えっなんで」
 何に反応したか言を俟たないが、異常な興奮を見せたナグルド一派を前に、小太刀は首を傾ぐ。
 その頃、木元・杏(微睡み兎・f16565)は後ろへ寄せたチュチュへ、そっと手を差し伸べていた。
「嫌じゃなかったら手、つなご?」
 逃げ回るばかりだったチュチュの前へ、突然与えられた温もり。
 戸惑ったのか固まってしまったチュチュに、杏は柔らかく続きを紡ぐ。
「少しだけ、安心できるから」
「う、うん!」
 ようやくチュチュは杏の手にしがみつき、それを確かめた杏は静かにうなずく。
 そして迫りくる敵を睨みつけた。
「ちいさいこいじめるなんて最低」
「ドッ!?」
「最低」
 繰り返したストレートな言葉のパンチが、ナグルドの胸に突き刺さる。
 サンドバッグという形状ではあるが怪人には変わらず、杏は両足を奮い立たせながら、喉から勇気を振り絞る。
「そんなの、サンドバックの風上にもおけない」
「ナ、ナグルド!」
 半泣きに近い悲鳴をあげて、オブリビオンは杏に飛び掛かろうと動き出す。
 そこへ。
「なぐるど? なぐるど、えーとえーと……」
 ぱちくりと瞬きした銀のまなこに敵の姿を焼き付けて、木元・祭莉(花咲か子狼・f16554)が思考を渦巻かせていた。
「どーなつ!」
「ツツクド!!」
「またド!?」
 今度は不満を露わに、祭莉が唇を尖らせた。
「同じの続けるのナシね!」
「ド……ッドド……?」
 杏へ襲い掛かろうとしていたはずのナグルドだが、すっかり困惑している。
 しりとりに興じて祭莉が無自覚に翻弄する中。
 レザリアが火矢を射出した。卑怯だド、と口答えに余念のない敵に構うはずもなく、振り回されるボクシンググローブを射貫き、燃やす。
 その近くでは。
 前触れもなく鍵が映像として浮かんだテレビウムの少女。
 続けざまに襲い来るのはオブリビオンの群衆。
 心痛は想像に難くないと、珂は息を吐く。
 ――己の身体が自由にならぬのは、不安であろうな。
 直後、しなやかな鋼糸が舞う。珂の糸雨がサンドバッグを引き寄せ、その頑丈さを逆手に取った。飛び掛かろうとするグローブだろうと、振りかかろうとする砂塵だろうと、無敵のサンドバッグを盾にすればどうということはない。
 別の怪人が総身を堅牢な守りに変えようとした刹那。
 章が地を踏みしめ、腕を構えていた。
 ――無敵にはさせない。
 何百、何千と標本つくりに勤しんできた腕が彼にはある。培ってきた美技がある。
 少年の日の思い出を今も連れている章に、ケアレスミスは起こり得ない。
 無理も浮かれもせず、常より共にある泰然たる様子で。しかし目にも止まらぬ早業で、章はサンドバッグへ次々と大針を突き立てて行った。
 頼まずともすでに甲高く鳴く黒の群れがはばたき、立つ章の跡に食らいつく。
 そして群れる鴉の食事からチュチュの意識を逸らすように、近寄った章は声をかける。
「怖かったね、もう大丈夫」
 帯びる声音は淡々としながらも、どこか優しい。
「僕達猟兵に任せて」
「りょー、へい」
 チュチュが繰り返した。
「かっこいいね!」
 少女の無垢な感想にこくりと頷いたのち、章は再び混沌とした戦場を見渡す。
 空を仰ぎ見れば、鴉たちが次なる時機を待っている。抜かりはない、とゆったり瞬き針を撫でた。
 跋扈するサンドバッグの怪人を、討ち滅ぼすために。

●Noisy-two
 だだだ、と文字になりそうな足音を立てて祭莉が杏とチュチュのところへ駆け寄る。
 そして泣き喚きもせず堪えるチュチュに、お兄ちゃんっぽい笑顔を向ける。
「だいじょーぶ? 頑張っててエライなあー!」
 すぐに精一杯胸を張り、安心させるように自身を大きく見せて。
 年上らしく振る舞う祭莉からの声かけに、えへへ、とチュチュが照れたように笑う。
「うさみん☆も、そう思うよね? ねーっ♪」
 祭莉に尋ねられ、杏のうささみメイドさん人形が会釈した。
 こうしている間もずっと、杏はチュチュの手を握ったままだ。
 おかげで、怯えていたチュチュの様子が、だんだんと別のものへと変わっていくのもわかる。
 戦う猟兵たちの姿に、テレビウムの少女は好奇心を覚え、そして半ば陶酔する。
 そんな少女と手をつなぎながらも、くいくいと糸を操る杏の指。メイドさん人形の行動は、彼女の手に委ねられていた。
 チュチュと杏の様子を窺い、祭莉は顎を引く。
 ――チュチュちゃんは、アンちゃんに任せてっと。
 小柄な身ながら、祭莉の跳躍力は群を抜いている。
「ナグルドさーん!」
 地を蹴ったかと思えば、次の瞬間には祭莉の身体が群れの中に突っ込んでいた。
 呼ばれたことにナグルドたちが気付いたときにはもう、好奇心旺盛な祭莉の双眸がかれらを見つめていて。
「殴られたがってたから、殴りにきたよー♪」
「まつりん、砂くる」
 10秒先の未来を知り、杏が注意を促す。
「サセナイド!」
 砂が舞う。ああ砂が舞う。砂が舞う。
 しかし、杏の声を聞き届けていた祭莉の肌にも尾にも、触れる砂塵は無い。ナグルドの視界をよぎりながら、祭莉はかれらを翻弄した。
 跳ねるたび、そして走るたび、そこかしこで砂が爆発するも、そこには少年の残像すらない。
 そして杏が狭間へ向かわせたうさみみメイドさんが、サンドバッグと相対した。
 淑やかなメイドの想像からは程遠い肉弾戦を繰り広げる。突き出した腕は狙い違わずナグルドの目を殴打する。渾身の一撃で。
「ドオオオオ!」
 最高級本革といえど、目潰しは痛いらしい。
 人形を操る杏は、ほっと胸を撫で下ろす。
 ――よかった、目、どこだろと思ったけど。
 とりあえず立体的な目鼻立ちから選んで正解だったようだ。
 そうして群れの気を祭莉と杏が惹いている間に、そろり、そろりと小太刀がゆく。
 祭莉たちを相手取る群れの背を盗み、革から革へ火をつけて回った。
 指の腹で押し付ける炎は小さくとも、確実にナグルドたちの身を焦がす。
「卑怯ド! 前から来いド!」
「……卑怯?」
 突きつけてきた文句に対し、小太刀は一歩も譲らない。
 彼女を遠ざけようと振るわれるグローブのジャブも、ひらり、ひらりと揺れるように躱す。
「あんな小さい子を、大勢で追いかけ回してるのに」
 じんわり滲み出てきた情が、小太刀の声を彩る。
「そんな奴らに、卑怯とか言われる筋合いないし?」
「ド……ドド……」
 怖い、と言わんばかりにナグルドたちが狼狽える。
 空気をも震わす大音声で暴れまわるサンドバッグたちも、形無しだ。
「オジサンも炎の槍で放火、宜しくね♪」
「あいよっ!!」
 そして小太刀の追撃が飛ぶ――正確には、呼び出した古代の戦士だ。
 威勢よく応と答えたオジサンは、小太刀の願いに沿うべく、滾る炎の槍を振るう。
 突き立てられた真っ赤な槍が、サンドバッグの中心で燃えあがった。
 轟々と吹き上がる赤に、奇抜な電飾の輝きが映り込んだことで、サンドバッグはより精彩を放つ。
「サンドド!」
「イチゴド!」
「そう、これが私お手製苺サンド」
 ふ、と小太刀は目を細めて。
「……奢りだから、よく味わって」
「ドドーッ!」
「イタダクドー!」
 春の陽気の下、ピクニックに相応しい苺サンドが完成した。
 ――味の保証はしないけどね。
 小太刀は双眸に煌めく紫を、そっと瞼で覆った。弾け散る苺サンドには目も呉れず。
 その頃。
 姫桜の繊細な掌が編み上げたのは、サイキックエナジーの電流だ。建物が放つ豊かな色彩をも眩く照らす、高圧電流。
 やがて彼女の決意の証は、青白い槍を模って。
「貴方達のその咎ごと、まとめて串刺しにしてあげる」
 天をも切り裂く凄まじい電気の流れ。
 それを圧縮しつくり上げた槍は、姫桜の意志に沿い空を翔ける。
「覚悟なさい!」
 地上に蔓延る黒という黒を、悉く貫いていく。
 悪意を吐き散らす黒革のサンドバッグたちが、走り抜ける電流に痺れてよろめいた。
 直後、感電を逃れたサンドバッグから爆発の起因となる砂が撒かれる。
 すぐにフィリアが春の女神へ賛歌を口ずさみ、仲間が砂塵に視界も声も奪われぬよう癒しをもたらす。
 その隙にレインは纏う夜気で砂を払い、閃光迸る道路を踏みしめた。
「ナグルド!!」
 浮遊するボクシンググローブが踊ろうとするのを、レインは見逃さない。
 一度ぐっと引いた拳を打ちだすときのように、グローブがサンドバッグに引き込まれていく。
 ――好機。
 兆しはレインの狙い通り示された。
 そこを狙いホルスターから速く抜き撃ち、オートマで速射を連ねる。
 順に解き放たれた弾はいずれも、サンドバッグの同じ部位に穴をあけた。彼女の手中において、銃口が狙いから逸れることはない。
 排莢が煌めき小気味よい音を奏でる間、敵は為す術なく破れた穴から砂を噴き出し、縒れる。均衡を保つための中身を失ったサンドバッグがしわしわになってゆく様を、レインは顔色ひとつ変えず見守った。
 奮い立つ残党のボクシンググローブも、愛用の銃二挺の餌食と化す。
 レインと銃の揺るがない呼吸を前にして、仇なすものは姿を消した。
「やった、レインっ」
 後方からフィリアが、友の勇姿に嬉々として名を呼ぶ。
 ふわふわと安らぎを帯びるフィリアへ、レインも微笑みで返し、すぐに銃への装填をはじめた。
 同じころ。
 先の先を心掛け針を展開した章は、昆虫標本に見立てた敵を矢継ぎ早に串刺しにしていく。針は大きく鋭利で、つなぎとめた命を決して逃さず固定した。
 右を向けばサンドバッグの標本が。左を向いてもサンドバッグの標本が。
 意識せず、章は溜息を吐く。
「……革は思い出にならないんだよ」
 いかに表皮なめらかな最高級本革でも、たとえそこに命を宿していても――かれらは、虫ではない。
 ましてや、はためく翅も世を感知する触覚もない、ただのサンドバッグ怪人。得も言われぬ虚無を滲ませつつ、章はかれらを意識から外す。
 章の手にはすでに、次なる獲物を縫い留める大針が用意されていた。
「ドオオオォォォ!?」
「ドドオオオオォォ!!」
 後背から叫びが響く。それでも章は振り向かない。
 針に固定された空しき標本たちは、鴉に貪られ尽くすのだから。
 ――鴉が雑食でよかった、かな。
 怪人とはいえ革も喰らえる鴉たちを、少しばかり頼もしく思った。
 その一方。
「バチバチだド!」
 触れると爆発する砂を、敵は視界内に撒き散らした。砂塵が散るというだけでも厄介なのに、爆発も加わると脅威だ。
 だからレザリアはすぐさま鈴蘭の花嵐を立ち昇らせて、砂を吹き散らしていく。
 護るべき少女チュチュはもちろん、レザリアの双翼や柔らかくなびく黒髪にさえ、砂が触れるのを許さない。
 淡く愛らしい鈴蘭の花弁は、そのまま敵を覆っていく。
「ド!? ド!?」
 無数の花弁によって身動きを封じられたナグルドの困惑が、レザリアにも見えた。
 しかし躊躇う理由など、無い。
「こんな小さな子をいじめるなんて、見過ごせないのよ……」
 やがて花弁はナグルドたちの息の根を止め、きらきらと輝きながら天高く昇華されていった。
 ちらりとレザリアが一瞥した別方向、そこにいたナグルドは、一部始終を目撃したこともあってかすぐ身を固めてしまう。恐怖を誤魔化すかのように。
「ドドド! 強靭で無敵だド!」
 堅固の守りを宿したサンドバッグが、叩けるものなら叩いてみよと言いたげに立ちはだかる。
 けれどレザリアは冷静にかの者へ背を向け、代わりに珂がかの者と対峙する。
 触れずとも珂にはわかる。向かうところ敵なしの防御力なのは確かだ。その見目やふざけているようにしか思えぬ言動に、惑わされてはならぬと。
 ――無敵と豪語するだけはある。……が。
 眼光炯々、見誤らない珂は五指を覆う黒爪を最高級本革に突き立て、艶めく黒に同じ色の紋様を伸ばしていく。爪すらへっちゃらな無敵ナグルドはまだ、彼女が伝わせた前兆を知らない。
 まいのぼれ、と珂が吐息だけで宣告する。
 伸びゆく黒の紋が突如として咲かせたのは、白炎の花。はらはらと舞う花片さえも美しき炎となって、黒光りする過去を呑み込む。
「燃え続けたその身は、どうなるのであろうな」
「ナンダド!?」
 敵の驚愕さえ口端の不敵な笑みに溶かして、珂は延焼するサンドバッグを鷲掴みにした。
 無敵には違いない。だが炎は確かに噴きあがり、しかもナグルド本体は身動きが取れない。
 炎に包まれたナグルドを、珂は思い切り投擲する。
 風を切り、ごうごうと音を立てながら炎纏うナグルドは、仲間のサンドバッグたちにぶつかった。火の粉が散り、辺りにいた他のナグルドも巻き添えになる。
 熱いド、熱いドと訴える群れのなか、今し方投げた相手の前で珂は眦をゆるめた。
「柔軟性も大事であろう。サンドバッグというものは」
「ド……」
 耐久性ばかりを重視しては、見失うものがある。
 そう珂から教わった気がするナグルドだったが、省みる余地もなく白炎に埋もれていった。
 まだ炎が残りながらも逃げ惑うナグルドめがけ、すかさず姫桜が揮うは二本の竜槍。
 赤と黒、赤と白、それぞれを湛えた竜の矛で風を切り、傷口を抉る。
「イタイド!」
「あったりまえよっ」
 押し返そうとするサンドバッグは強い。
 しかし研ぎ澄まされた姫桜の穂先は、迷わず過去を突くために。
「ナグルド!!」
「もうっ、ちょっとはお口にチャックしなさい!」
 白光を噴き、喧しい怪人の芯を貫く。
 姫桜はチャックをさせる暇も与えずサンドバッグを横たわらせた。そしてランスの石突きでトンとアスファルトを叩き、息を吐く。
 鼓膜がまだ少しばかりひりつき、姫桜は難しげに瞼を伏せた。
 だが静穏はもうまもなく訪れる――はずだった。
 ちょこまかと駆け回っていた祭莉が、ふさふさの耳をそばだてて仁王立ちする。常より嬉々として上がる口端が、今もなお楽しげだ。
 残るナグルドは数体。それも猟兵たちの猛攻に、弱りつつある。
「ナグルド!!」
「タオスド!!!」
 始まりから終わりまで弛みなくうるさい怪人たちを前にして、祭莉はぺろりと唇を舐めた。
 ――そんじゃ、おいらも対抗しよっと!
 声には出していない。あくまでも祭莉が、頭の中で考えただけだ。
「チュチュ、耳ふさいで?」
 前兆を感じ取った杏が耳打ちし、チュチュは全スピーカーを全力で塞いだ。と同時に、祭莉が凄まじい脚力で砂埃を上げながら、集団へ突撃する。
 その姿を視界の隅に捉え、はっ、と小太刀は目を瞠る。
 ――祭莉んの気配を察知!
 奔る戦慄。兆す前触れ。
 小太刀が慌てて耳栓(見切り13)をずっぽり押し込んだ、その直後。
「ぼえぇーーーーーーーッ!!」
 全キマイラフューチャーを震撼させる、祭莉の咆哮が轟いた。
 父親譲りの、否、父親仕込みの調子はずれな怪音波は、所かまわぬ『無差別攻撃』と化して周囲を包む。アスファルトが悲鳴をあげ、建物が震えて破片をぱらぱらと散らした。
 祭莉本人が至って無邪気な分、尋常ではない破壊力だ。
「そうね、そうだったね……」
 危うく致命傷を負うところだったと、小太刀は己の反射神経(見切り13)に感謝する。
「煩さ勝負なら、祭莉んも負けてなかったね」
 小太刀の虚ろな眼差しは遥か彼方、色めくキッチュなネオンと高層ビルの先へと消えた。
 そして肝心の怪人はというと。
「ト、飛び道具、卑怯だ、ド……」
「えっ、何言ってるの??」
 祭莉は、にかっと至高の笑みを浮かべて。
「歌は飛び道具じゃないよ? ねーっ♪」
 歌とはいったい何なのかと、考える暇などかれらには無い。
 容赦のない同意要求に、ナグルドたちはガクリと項垂れ、命燃え尽きてしまった。
 そして揚々と勝利の拳を掲げた祭莉の姿を、高層ビルから降り注ぐスポットライトが照らす。
 試合終了のゴング――の代わりに、珂の羽雲と章の鴉が高らかに鳴いた。

●Noisy-zero
 型にはまらないビルが建ち並ぶ区画を、章は仰ぐ。
 ――この感じ、覚えがあるな。
 東京の繁華街をこじらせたような喧騒が、章の内に浮かんだ。
 鮮明に思い出される車の駆動音や、収まりきらずに店という店からあふれ出る歌曲。雑踏から延々と湧き立つ声は周波もちぐはぐなノイズで、そこに高低差のある様々な靴音が重なった。
 今ここに在る風景からは、ひと気こそ失われている。それでも知らず知らず蘇ってきてしまう、濁った音。
 遮るにはかぶりを振るうしかなく、章は漸く意識を現実へ引き戻した。
 音さえ考えなければ、広がるのはキマイラフューチャーならではの奔放な光彩だ。
 派手な色と光が雄弁に物語るのは、この世界に染みついた極楽具合だろう。
 誰もがエンターティナーとなれる環境で日々を楽しみ、各々の個性や生き様が芸術作品の中で躍如として表現される。
 そんな世界を、初めて訪れたフィリアはぐるりと見渡す。
「……迷路みたいね」
 人通りの無いこの場所は、流れを持たないただの迷路に違いなかった。
「ありがとお! おねえちゃん、おにいちゃんっ」
 残党の気配も無いと確認できた頃、チュチュが猟兵たちへ頭を下げ始めた。少女のお辞儀はあまりに深く、頭のテレビごとひっくり返ってしまいそうな勢いだ。
 一番近くに居た姫桜が、素直に向けられた感謝を受けるや否や、途端に総身がカチコチに強張る。
「べっ、別にあなたにお礼言ってもらうためにしたんじゃ……っ」
 ぷいと顔を逸らした姫桜の青い瞳が、そっぽ向いたまま微かに揺れる。
 チュチュはキョトンと彼女を見つめたままだ。姫桜自身、二の句に惑う。
「……ないん、だから……」
 声調が弱まり、みるみるうちに萎んだ。
 ツンやデレといった属性を認識していない少女チュチュは、彼女の言葉を額面通りに受け止める。
「ありがとーのためじゃないんだっ、かっこいい!」
「かっ、かかかっこ、い……い!?」
 姫桜は思いもよらぬ単語に射貫かれ、戦いを終えたというのに息も絶え絶えだ。
 それを見兼ねたわけではなくとも、話題を切り替えるため章が口を開く。
「和んでいるところ、水を差すようで申し訳ないんだけどね」
「なっ、和んでなんかないわよっ」
 放っておけばパンクしてしまいそうだった姫桜から、すぐさま指摘が飛ぶ。
 すると、言われてみれば、と章は静かな面差しで沈思しだした。
「和んでいるという表現は相応しくなかった。和むというよりむしろ……」
 思考の渦に呑まれそうな章を前にして、姫桜はどうしたら良いのか戸惑う。
 助力を求めたくとも、姫桜の気持ちは最初の一歩が踏み出せない。
 そんな彼女の傍らに立ったレザリアが、緩やかに本題を紡ぐ。
「テレビウムの、その姿に隠れた秘密のこと……でしょう?」
 レザリアの眼差しは、少女チュチュを真っ直ぐに捉えていて。
 そこで思い出したように章が首肯し、周りにいた猟兵たちもチュチュを見る。
 どこからどう見ても、ごくごく普通のテレビウムの女の子。
 だがモニターには謎の鍵が画として浮かび、しかも怪人――オブリビオンの群れに追われていた。
 一段落しても未だに、少女のテレビに映るのは鍵のみだ。
 レインが目線の高さを合わせて少女に問う。
「痛いとか、苦しいとかは無いかい?」
 いきなり映像を挟まれたことで、不調が生じていないかをレインは気に掛ける。
 チュチュは服の裾を摘まみながら、へーき、と頷いた。
「でもね、ちょっと、つかれたな」
 全力で逃げ続けていたのだから無理もない。レインはフィリアと顔を見合わせ、思わず笑みを溢す。
 チュチュはふと、戦いの間に手を繋いでくれていた杏の元へ駆け寄り、手遊び歌を始めた。辺りを警戒しながら会話を交わす猟兵たちをよそに。
 耳を傾けていた珂は、小さく唸る。
「テレビウムが鍵ならば、錠は何であろうか」
 何に鍵をかけたのか。何を施錠しているのか。
 尽きぬ疑問の重さが如何ほどかは、猟兵たちの表情からも窺える。
 至る所で同時期に発生している事態だけに、只事ではないはずだ。
 誰もがそう肌身で感じていた。
「テレビウムさん達が襲われているとは、聞いていたけれど」
 頬に手を添えフィリアも、不思議そうに呟く。
「こんなに小さな子まで……いったい何が起こっているの?」
 そのときだ。
 チュチュや杏たちと一緒にいた小太刀が、あっ、と声を上げたのは。
 続けて、祭莉の声が木霊して弾ける。
「ねえ見て見て! チュチュちゃんの顔に!」
 ぴょこぴょこ跳ねる祭莉に手招かれ、猟兵たちの視線もチュチュに釘付けとなった。
 先ほどまで、テレビウムのモニターを黙したまま占拠していた鍵の画が、突如くるりと動き出していた。やがて鍵は、一定の方角を示して止まる。
 導かれた方向を猟兵たちも見てみると、遠く霞んだ街の外れ――ちぐはぐな形状をした廃ビルの一帯があった。
 今居る地域と差の無さそうな、街の外れだ。だが間違いなく、鍵はその方角を示している。
 自分の意志とは関わらず浮かぶ映像に、チュチュはぎゅっと手を握って。
「チュチュ、わけわかんない……っ」
 震える少女の姿は、明るく話をしていたときより一段と小さく見えた。
 猟兵たちは顔を見交わし、次第に進むべき景色へと意識を向ける。

 いったい、鍵が指し示す先に何が待ち受けているのか。
 今はまだ、誰にもわからない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ゲソフレイム』

POW   :    汚物は消毒でゲソーッ!
【松明に油を吹き付け発射した火炎放射】が命中した対象を燃やす。放たれた【油の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    俺色に染めてやるでゲソーッ!
レベル分の1秒で【ベタベタするイカスミ】を発射できる。
WIZ   :    見るがいい、これが俺の変身ゲソーッ!
対象の攻撃を軽減する【激情体】に変身しつつ、【右腕に装備された火炎放射器】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。

イラスト:ケーダ

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●鍵の示す先
 広大な街はずれは、猟兵たちを呑み込むように横たわる。
 テレビウムの少女チュチュの画面が映した鍵は、その中でとある方角を指した。
 遠くに霞むのは、歪な形状をした廃ビルが建ち並ぶ区画。
 ひと気は相変わらず無さそうだが、今までいた場所よりも明らかにビルが多い。
 チュチュが向きを変えても変わらず、鍵はその方角を示している。
 だから猟兵たちは、チュチュを連れて鍵の誘いに乗った。乗ったまではいいが。
「ゲソーーーーーッ!」
 乗ってほしくない存在までもが、猟兵たちを追い始めた。
 殲滅したサンドバッグに代わって何処からともなく出現したのは、イカだ。
「逃がさないゲソーー!!」
 火を噴き、イカスミで動きを鈍らせ、追走してくる赤き群れ。
「チュチュ、イカきらい……」
 不安そうに呟きながら、チュチュが猟兵たちの背へ隠れる。
 猟兵たちがチュチュを見遣るも、やはり表示された鍵の方角は変わらない。
 どうにかしてしつこい追撃を振り払い、鍵が示す場所へ向かう必要がある。
 到着した先で、何が待つのかはわからない。
 だが、少なくとも鍵の謎については迫ることができるはずだ。

 猟兵たちは武器を構える――迎撃開始だ。
鵜飼・章
イカが走りながら火を吹いてる
率直に言って滅茶苦茶な生き物だ…
是非とも捕まえて解剖したいけど
そんな余裕はないか

イカ嫌い?
ならチュチュさんはどんな動物が好き?
見ててね
きみを守るために今この図鑑から出てくるよ
あの悪いイカさんをやっつけてもらおう

UC【無神論】で敵の足止めをしつつ
チュチュさんのご希望の動物を召喚してイカと戦わせる
何となくタコも出しておこう
【早業/スナイパー】で墨をかけて【目潰し】し
仲間の攻撃を補助する
少しは怖くなくなったかな?

僕自身は極力チュチュさんから離れず
【投擲】で敵の腕を狙う
逃げながら戦う必要があれば
UC【相対性理論】でチュチュさんを乗せて飛ぶ事も検討
目的地まであと少しだ
頑張ろう


レイン・フォレスト
【アイビス】

チュチュはイカ嫌い?
じゃあ、こいつらはとっとと消し去るに限るね
フィリア、チュチュを頼んだよ

【SPD】
二人を背に庇うように前に立って
左右で違う銃を持っての二丁拳銃状態で構える
攻撃は【ブレイジング】で連続攻撃を叩き込む
オートマの銃で一番近い奴に叩き込んだら
もう一方の銃でトドメを狙ってみようか

敵のイカスミ攻撃には…イカスミって撃ち落とせるだろうか
やってみて無駄そうならなるべく回避するように試みて

フィリアの歌には「ほんと優秀だよね君は。助かったよ」と笑う

片付いたらチュチュに大丈夫かい?と問いかけて
鍵の向いてる方向を確認
銃に弾を込め直して何があってもいいように準備
さあ、何があるか確かめようか


フィリア・セイアッド
「アイビス」で
まあ 大きいイカさん…
私知っているわレイン
大王イカっていうのよね?
チュチュさんには 安心させるよう笑顔
すぐに追い払うわね 大丈夫、皆とっても強いのよ

「WIZ」を選択
気をつけてね と駆けだすレインの背に
チュチュさんを背後に庇うように立つ
菫のライアを爪弾き 戦う仲間を歌で援護
攻撃力を奪うよう 柔らかな音色の子守歌を
そろそろお家へ帰りましょう?
燃える炎の海ではなく 黒く染まった海でなく
青く輝く海の中へ
チュチュさんへの攻撃はオーラ防御で盾に
傷ついた仲間は春女神への賛歌で回復

戦闘後 レイン、レイン怪我はない?
ぱたぱた友人の体に触れて確認
チュチュさんや仲間を見渡し 無事ならほっと溜息を


玖・珂
これまた騒がしい者達が出てきたな
烏賊には良い栄養素もあるのだが……此奴等はそういった範疇にはなさそうだ
此のイカは私も嫌いだとチュチュに同意しておこう

先の様子からチュチュは皆が護るだろう
ならば私はオブリビオンの撃滅に専念しようか

羽雲を手元に寄せたなら長杖を構え
火炎放射へ向けて全力魔法で水塊を放つぞ
早業2回攻撃で松明の吹き飛ばしを狙ってみよう

イカスミは御免被る
敵の挙動や第六感で察知次第、ダッシュやジャンプで回避するぞ

戦場や敵が水浸しになったのを確認したら仕上げと参ろうか
冷気の嵐を喚び氷漬けにしてやろう

画面を戻す手立てが無い以上、鍵の指す方へ往かねばなるまいな
チュチュよ、もう少し辛抱してくれ


彩瑠・姫桜
今度はイカなの?
まったく、しつこいのは女の子に嫌われるって知らないのかしら?

チュチュさんの守りは仲間に任せる
私は率先してイカの前に出て攻撃仕掛けるわ
もちろん、チュチュさんへの攻撃は通さない

見てなさい、今度はまとめてイカ刺しにしてあげるんだから!
【咎力封じ】を【範囲攻撃】で使用
高速ロープをカウボーイロープよろしく振り回して、広範囲のイカをまとめて拘束
その後は【手枷】【猿轡】を続けて放って動きを封じこめるわ

できる限りたくさんのイカを捕らえられるように
「schwarz」には、ドラゴン形態で動いてもらって
イカをロープ範囲内に誘導してもらうわね

うまくいったら「Weiß」を槍形態で持ち【串刺し】にするわね


木元・杏
【かんさつにっき】
チュチュ、はい(うさみみメイドさん(チュチュが抱けるサイズです)を渡して)
手、繋いでたらきらいなイカが近づいて来ちゃうから
代わりに、ね
わたしはこっちでたたかう(灯る陽光を手に)

イカ、足が10本あるのは反則ね
【絶望の福音】と第六感も働かせてイカスミを避け
足を切っていく
攻撃の手をまつりんや小太刀に任せて一呼吸
皆の様子も見渡して守りの不足がないか
確認する余裕も大事ね
不足する人にはオーラを飛ばして防御して
庇いに入りながら刀で斬りつける

チュチュ、こわくない?
不安そうなら防御に徹して
メイドさんを動かしてあやしたり
イカが近付けばメイドさんが殴って追い払うよ
ほら、大丈夫。遊ぼ?


レザリア・アドニス
イカは、食材としてはいいけど、こんなイカなら、私もいやですね…
チュチュちゃんを宥めつつ、彼女を戦闘に巻き込まない所に下げる

くちゅくちゅもべたべたも嫌いです…
誰が、あんたなんかの色に…そんなの、ダサすぎるの…
さっさと、焼きイカに…あ、元々燃えてるかしら

死霊騎士を壁にして、火焔もイカスミも、騎士の後ろに隠して回避
同時に蛇竜をイカの後ろに回して、隙を見れば不意打ちして、
動きを封じるように締め付ける
その後はこちらも負けずに、炎の矢を飛ばす
普通のイカなら両目の間は弱点らしいので、命中を確保した上、可能ならそこを狙ってみる
だめなら触手の付け根を切断するように矢を刺してみる


木元・祭莉
【かんさつにっき】の三人で!

チュチュちゃん、イカ嫌いなんだー。
おいら好きだけどなぁ、美味しいし♪(食べ物基準)

えーと。
コイツらに追い付かれずに、目的地に着けばいいの?
熱そうだし、あんまり触りたくないけどー。

先行して高いトコから様子を見てくるー、とダッシュ。
アンちゃんコダちゃん、後は頼むねー!

地形と最短距離を理解したら、みんなと再合流。
目的地情報を伝える。
殿を守りながら、追っかけてくるイカさんたちを脅かすー♪
力溜めからの吹き飛ばしパンチで気絶させ、時間を稼ぐよ。

最後の一息で、チュチュちゃんを励ます歌を歌いながら、ステップ踏んでサウンド・オブ・パワー♪

さあ、もうひと踏ん張りだよ、逃げ切ろうー!


鈍・小太刀
【かんさつにっき】

また喧しいのが来たわね
焼きイカ?そうね、たれは少し甘めが好きかしら…って、食べないし!
(笑うオジサンに)そこ、笑うな!

ほら、迎撃行くわよ
さっきは祭莉んのお陰で見切りの大切さを実感したからね
経験って大事大事、更に成長した私の技を見せてやるんだから!

わらわらとやってくるイカ達の動きを見切って避けて
カウンターの剣刃一閃で薙ぎ払う
ざっくざっくと輪切りにしながら、ふと

大体ね、現れるなりなんでそんなに怒って…
輪切りのイカ…イカリング…怒りんぐ?
いやいやまさかね?

チュチュの様子はどうかしら
(祭莉の歌を聞きながらふふと笑い)
杏達がいれば大丈夫そうね

さあ、もうひと踏ん張り頑張るわよ!



●Noisy-Noisy
 夥しい数の、赤いイカ。
 食材としてのイカの美味しさを思い起こして、レザリア・アドニス(死者の花・f00096)は現実との差を痛感する。
「こんなイカなら、私もいやですね……」
 レザリアの率直な感想に、チュチュがブンブンと大きく頷く。
「イカが……」
 ぽつりと落ちる鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)の呟きもまた、ただただ愕然と現実を目の当たりにしたものだ。
「走りながら……火を吹いてる……」
「燃やし尽くすゲソー!!」
「しかも……ゲソ、って語尾……」
 意識せず眉間を押さえる。
 頭が痛くなるぐらいの、名状しがたい感覚。理論や理屈で言い表そうにも、想像を絶する違和感。
「率直に言って滅茶苦茶な生き物だ……」
 オブラートに包むことすらできず、章は渦巻く思考のままに敵を見据えた。
 しかしパニックに陥ったのではない。ただ、僅かながら捉えどころに悩んだだけで。
 ――是非とも捕まえて解剖したい、けど。
 ぞくり、と皮膚の下を走る好奇。
 章の興味をくすぐり解き放とうとするのは、いつだって己自身だ。
 だが彼はかぶりを振る。さらさらと揺れた黒髪の内側に、関心を秘めながら。
「……そんな余裕はないか」
 吐息に混ぜた想いは、掬う者もなく地に落ちる。
 ただ肩に停まった鴉だけが、カァと短い返事をしてくれた。
 まあ、とフィリア・セイアッド(白花の翼・f05316)の朗らかな驚きが口をつく。
「大きいイカさん……」
 うぞうぞと揺れる一面の赤は、フィリアの記憶にも無い様相で。
 しかも、イカ。全身が赤く染まったイカだ。
 森と共に生きてきた少女にとって、この光景がいかに不可思議なものかは、語らずとも知れる。
「私、知っているわレイン」
 どことなく楽しげに手の平同士を合わせて、フィリアは瞳を輝かせた。
「大王イカっていうのよね?」
「ゲ、ゲソ……」
 フィリアの言葉に衝撃を受けたのはイカ本人だ。
 大王という単語が引っかかったのだろうか、そこばかり反芻している。
 イカが嫌いだと告げたチュチュを振りかえり、レイン・フォレスト(新月のような・f04730)は目をやさしく細める。
「じゃあ、こいつらはとっとと消し去るに限るね」
 消し去るのなら、速い方が良い。
 数が数なだけに、悠長に時間を費やすことはできなさそうだとレインは察する。
 だから友の名を呼んだ。
「……チュチュを頼んだよ」
 手にした銃に、すでに弾は込められている。
 一方、広がる光景に目を瞠り、玖・珂(モノトーン・f07438)は唇で言葉を食む。
「これまた騒がしい者達が出てきたな」
 思いもよらず、ふ、と息を吐く。
 ――烏賊には良い栄養素もあるのだが……。
 掲げた片腕へ羽雲を寄せつつ、珂の思考は、食事を摂る行為による恩恵へ傾いた。
 栄養素の宝庫でもある大海。
 つまり海の生物を喰らえば、力も気力も漲るはずだ。かれら、イカもまた然り。
 だが珂のまなこに映り込む赤いイカが、栄養を蓄えているかは疑わしい。
 ――此奴等は、そういった範疇にはなさそうだ。
 わざわざ食して確かめずとも知れる。蓄えているのは別のものだろうと。
「ああ、此のイカは私も嫌いだ」
 だから珂はチュチュに同調した。長杖へと変じた羽雲を、しかと握りながら。
 まったく、と髪を梳いて払いながら彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)は胸を張る。
「……サンドバッグの次はイカなの?」
 視覚がチカチカするのは、真っ赤なイカが蠢いているからだろう。
 恐ろしいはずの光景を前に、姫桜は胸から上がってくる溜息を呑み込んだ。
 ――大丈夫。何の問題もないわ。
 おまじないのように喉の奥で呟き、前を見据える。
 振り返らずとも、チュチュの守りが万全であるのは伝わってくる。
 仲間がいるのだ。心強さは、姫桜の背をきちんと押してくれる。
 だから率先して飛び出し、軽やかな身のこなしで群れの気を惹いた。
「ゲソー! 目につくゲソー!」
「目につくやつから倒すゲソよー!」
 呼応しながら襲い掛かるイカたちにも、姫桜の歩みは揺るがない。
 つま先で地を蹴り、跳躍する一瞬に不敵な笑みを投げれば、イカはご機嫌斜めになる。
 そして彼女と同じ空を行くのは、街のネオンを映した黒竜。美しい黒は彩り豊かな街でもひと際輝き、群れを翻弄する。
 姫桜とは異なる速度、異なるテンポ、異なる角度で竜は大空を翔けた。
 屯するイカたちは、ふたつの存在を夢中で追うがあまり、時おり互いにぶつかり合う。
 かれらは姫桜と竜の軌道を追いきれずにいた。身内同士で衝突しあうのもその証だ。
「あっちいったでゲソー! 痛っ!」
「ちゃんと見るゲソ! こっちでゲソー!」
「……また喧しいのが来たわね」
 群れから鳴る声を半分ぐらい聞き流しながら、鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)は冷ややかにイカたちを眺める。
 その傍らで。
「はい。チュチュ」
 木元・杏(微睡み兎・f16565)が手渡したのは、つい先ほどまで戦場を謳歌――もとい格好良くバトルしていた、うさみみメイドさん人形。
 規律に反する乱れを削ぎ、言葉通り敵をお掃除するメイドさんの次なる役目は、過去を屠ることではない。
 スカートを翻しながら懐へ飛び込み肉弾戦で打ち崩す、そんなスタイリッシュさはメイド服の下に秘め、人形として少女と共に在ることだ。
「手、繋いでたら、きらいなイカが近づいて来ちゃうから」
 代わりに、と杏は片目を瞑り囁く。
 おずおずと受け取りながらも、チュチュは不安そうな眼差しを杏へ向ける。
「で、でもおねえちゃん、お人形なくてだいじょうぶ?」
 チュチュの尤もな質問にも、杏の表情は揺らがず笑顔のままだ。
「平気。わたし、こっちでもたたかえるの」
 吸い込んだ酸素が体内を巡るのと同じ速さで、白銀の炎が手元へ集められていく。
 やがて集束した光は剣を象り、杏の手に灯った。
 かっこいい、とチュチュの瞳がきらきらと輝く。
「チュチュちゃん、イカ嫌いなんだー」
 手足をぶらぶらと解していた木元・祭莉(花咲か子狼・f16554)が声をかける。
「おいら好きだけどなぁ、美味しいし♪」
 どっぷり浸かって味が滲みこんだ里芋とイカの煮物、醤油やらバターやら様々な味の展開が期待できるイカの炒め物に、さくさくの薄衣でくるんだフライ。
 想像していたら急にお腹が鳴ってしまい、へへ、と祭莉は頬を赤らめた。
「焼きイカ?」
 会話を小耳に挟んだ小太刀が、んーと唇を引き結んだまま唸る。
「そうね、身はふっくらプリプリの食感で、たれは少し甘めが好きかしら」
 まるまると膨らんだ厚い身に、こんがり刻まれた焼き目。
 色濃い醤油を塗りたくると、香りが立ち昇り喉が鳴り。
 醤油が垂れてジュウと焦げる音さえ、胃袋を刺激する。
 湯気に頬を撫でられながらかぶりつくも良し、一口サイズに切ってじっくり味わうも良しの逸品。
「……って、食べないし!」
 思い浮かべれば止め処なく、小太刀は自らの言葉で打ち切った。
 小太刀はそこで、一部始終を見守っていた鎧武者のオジサンが笑いを噛みしめているのに気付く。
「そこ、笑うな!」
 鋭い言葉に差されてもオジサンの顔つきは締まらず、にこやかなままだ。
 オジサンと小太刀の和やかな応酬をよそに、段差やビルの高さを大きな瞳で見ていた祭莉が、えーと、と声をこぼす。
「目的地までの様子、高いトコから見てくるー!」
 ぴょんぴょこ跳ねて準備も万全。猛然と駆けだす。
「アンちゃんコダちゃん、後は頼むねーっ!」
 祭莉の声は尾を引きながら、あっという間に遠ざかっていった。
 取り残されてぽかんとするかと思いきや、杏も小太刀も彼の気質をよく知っているようで。
「ほら、迎撃行くわよ」
 オジサンに呼びかけながら小太刀が前を向き、杏も手にした陽光を構えた。

●Noisy
 ふと章は思い出す――チュチュは、イカが嫌いだと言っていたことを。
 あどけなさの残る少女へ章が広げてみせたのは、生物図鑑だ。
 もちろんただの図鑑ではない。章にとっては智識の宝庫でもあり、得意分野という名の武器でもあった。
「チュチュさんは、どんな動物が好き?」
 これとか、これとか、どうかな、とページをめくりながら章が尋ねていく。
 ゾウやキリン、ライオンといた定番の動物から、名前の長さにフルネームで呼ばれる機会が滅多に訪れない生き物まで、様々な存在が記載されている。
 子どもにとってはまだ見ぬ姿かたちばかりだろう。わあ、と歓声があふれた。
「チュチュね、これっ、これがいい!」
 すっかり図鑑の虜になってしまったチュチュは、鍵の映像を表示させたまま、図鑑を指さす。
 鹿だ。しかも、枝分かれした立派な角を冠する凛々しい顔立ち。
 イカとシカ。気の所為かどことなく響きも似通っていたが、章はチュチュの望むがまま、図鑑を指の腹でなぞる。
「見ててね」
 章の行為が不思議なのだろう。チュチュはぱちくりと目を瞬かせるだけで。
「……きみを守るために今、この図鑑から出てくるよ。ほら」
 綴る言葉で呼び寄せて、編みこんだ術式で実体化する。
 現れた鹿は、少女ひとりぐらい簡単に角で絡めとってしまいそうな大きさで。
 そろりと鹿を撫でてみるチュチュの動きも、どこか緊張気味だ。
 けれど現実に留まる魔法の鹿は、無暗に誰かを襲ったりしない――それが、章の持つ本から出てくるという何よりの証拠。
「あの悪いイカさんをやっつけてもらおう」
「! シカさんがやっつけるの?」
 秘密めいて話す章に チュチュも倣って小声になる。
 章が緩やかに首肯すれば、少女は嬉しそうに跳ねた。
 密やかな囁きが交わされている、その近く。
 ノリノリに足を動かすイカが、騎士の後ろから顔を覗かせたレザリアを睨みつける。
「俺色に染まるでゲソよーッ!」
 レザリアの呼びだした死霊騎士が盾となり、墨を真正面から受け止めた。
「誰が、あんたなんかの色に……」
 火焔も墨もすべて死霊が肩代わりしてくれた。
 おかげで死霊騎士のいかめしい雰囲気は、赤く染まったりベタついたりと大忙しである。
 騎士の有様を目の当たりにしてきたためか、レザリアは想像してしまう。
 自身の衣服や翼が、火やべたつくイカスミの色に染まる姿を。
「そんなの、ダサすぎるの……」
 想像力は時として目に見えぬ暴力と化す。
 浮かんだ光景を断ち切るかのように、レザリアに代わって死霊騎士がイカを真っ二つにした。
 水の塊が宙を翔ける――珂の呼び寄せによって。
 掛ける属性も珂が招いたもので、凝縮させた塊は火焔を噴くイカに効果てき面だ。
「ゲソッ、ゲホゲッホ、ゲソー!」
 水が変なところに入ったらしく、イカがむせる。
 苦しげなかれの様子に、珂は微かに唸った。
 ――気管も無い筈だが、いったい……。
 疑問が深まるすんでのところで、羽雲に救われる。杖と化した羽雲の働きかけが、珂の肌身を震わせたのだ。
 おかげでイカに気を奪われることなく、新たな水塊を生み出せる。
 燃える炎は幾度となく珂の水が消化した。それでもイカたちに諦める気配はない。
「ゲッソー! 頭くるでゲソ!」
「火吹くでゲソ! 吹き飛ばすでゲソよー!」
 むしろやる気だけは充分だ。
 珂の消火活動で萎むほど、軟ではないらしい。
「……そうでなくては過去の残滓など務まらぬ、か」
 オブリビオンがなんたるかを再認識しながら、珂もまた屈せず水塊を撒く。
 不意に、飛翔し続ける黒竜の鳴き声が、こだました。
 ――よしよし、そのまま、そのままの意気よ。
 姫桜は着々と整えられていく準備に、ほくそ笑む。
 竜のschwarzがはばたくのも、姫桜が休む暇も持たず戦場を駆け巡るのも、大切な計画だ。ただ闇雲に動いていたわけではない。
 そして端からチュチュのいる後方へ抜けようとした一匹へ、すかさず飛び掛かり釘を刺す。
「……通さないわよ」
 海も空も映したかのような瞳で敵を射貫き、姫桜は告げた。
 得物で強く押し返せば、イカもここはすり抜けられないと感付く。
 いかに足の数が多くとも、足取りはみるみるうちに重くなっていった。

 穏やかなフィリアの微笑みは、チュチュにも惜しまず与えられた。
「すぐに追い払うから、待っていてね」
 自身へ言い聞かせるのではなく、少女を安心させたくて口にした言葉。
 ひとつでも多くチュチュの心から不安や怖さが無くなればと願う、人柄の為せる業。
 子どもは意外と敏感で、歌と演奏を聴きながらも、きちんとフィリアの想いを受け止め、双眸を見つめてくれている。
「大丈夫、皆とっても強いのよ」
 仲間たちの姿を見つめるフィリアの面差しに、チュチュの視線は縫い留められたままだ。
 その頃、レインの両手に宿る魂は、これまで歩んできた彼女の道を知り、これから歩むための道を作る。
 迫りくる脅威も、修羅場も、掻い潜ってきた。
 研ぎ澄ませた感覚は、ゲソゲソという鳴き声の微かな違いも見極めた。
 息を止める。耐えるのではなく、反射神経の赴くがままに動けるように。
 そしてレインは、伸ばせば届く位置まで来たイカへオートマで一筋の線を刻む。
 籠もった熱にバレルが呻く直前、息を吸い、今か今かと出番を待っていたもう片方のハンドガンで仕掛ける。
 仕掛けた先のイカは、ゲソ、と一鳴きする余裕もなく朽ちた。
 別のところでは、イカの掲げた松明がまだ轟々と燃え続ける。
 得意げに油を松明に吹き付けたイカは、やはり得意げに炎の球を打ち上げた。
 弧を描いて落ちてくる熱を、小太刀はツインテールを軽やかになびかせながら避ける。
 ひらりひらりと舞うような仕草に、揺れるスカートも心なしか楽しそうだ。
 ――祭莉んのお陰で、見切りの大切さを実感したからね。
 短時間で10段階もパワーアップした小太刀の見切り能力に、避けられぬものは無し。
 そして読み通り、いかに精度を上げた炎が発射されようとも、舞い踊る彼女の舞台装置にしかならなかった。
「どういうことゲソー!? ちっとも当たらないゲソ!」
 喚くイカに、目覚ましい成長を見せつけた小太刀は、更なる技を贈ろうと刀を抜き打つ。
 無数の足をうねらせて間合いを縮めてくるイカの群れにも怖じ気付くことなく、踏み込む。
 伸びてきた足の間に、片時雨。雨のように繊細な振りでイカたちを薙ぎ払った。
「大体ね、現れるなりなんでそんなに怒って……」
 ぼたぼたと地へ転がり消えていく輪切りのイカ。
 降っては止み、また降る小雨を思わせる太刀筋で返しながら、ふと考えた。
「輪切りのイカ……輪……リング……イカリング……」
 はっ、と小太刀が息を呑む。

「……怒りんぐ?」

 停止する時間。冷え込む空気。
 イカが誇らしげに掲げ続けた松明の炎も、吹く風に掻き消えそうだ。
 心なしか、イカたちが小刻みに震えている。
「いやいやまさかね?」
 辺りを見回し誰かに問う。
「まさかよね???」
 確認の声が空しくイカたちの合間に響いた。その直後。
「ゆ、ゆ、許せないゲソ! イカり心頭ゲソーーッ!」
「あっ……」
 一匹のイカが発した言葉で小太刀は察する。
 ひと振りの刀を手に人ならざるモノと向き合う少女は、ついにイカ世界の真理に到ってしまった。
 そうして小太刀が哀れむ視線をイカへ送る一方。
 杏はブンブンと明るく元気に、暖かな陽の色を戦場に咲かせていた。
 陽光を振るうたび、イカスミが黒に染め上げようと阻む。
「足が10本あるのは反則ね」
 大量の足によって絶え間なく注ぐイカスミを前にしても、杏の足は止まらない。
 未来を覗いてきたかのような流麗な動きで、着弾し撥ねたイカスミさえも衣服に触らせない。
 そして舞い散らせた陽光の花弁で、イカ足を瞬く間に切断していく。
「うーん、減らしたら減らしたでバランス悪いのね」
「ゲソ、ゲソォ、あんまりゲソ……」
 もはや半ベソだ。
 こうして各々で猟兵が動いていようと、様子というものは判断がつく。
 珂は先の戦いを想起し、チュチュの護りに関して不備はなかろうと思い至った。
 万が一など起こり得ないと、確信がすでに珂の中にある。
「これが! おれの変身ゲソー!」
 しかしイカも負けじと抗う。激情体と化したイカが放つのは、身に近い色の火焔。
 ――ならば。
 珂が練り上げた自然現象は、瞬く間にイカの群れを撃つ。
 ぱしゃ、ばしゃん、と音と飛沫をあげて、水は汚れを浄化しようと当たっては砕け、砕けてはまた新しい塊が当たる。
 矢継ぎ早に送り込めば、火炎放射器は一溜りもない。
 水浸しになりながらも、何匹かのイカたちは起き上がる。よろめきながらも無数の足を駆使して。
「ま、まだまだゲソ……!」
 異常な執着心だけは、認めても構わない。
 だが哀れむ情よりも、釈然としない部分が珂の中で勝る。
 変身は止めずイカが火炎放射器を構えようとした、そのとき。
 くい、とやがて珂は杖でイカの右を示す。
「な、なんでゲソ」
 恐る恐る、イカが自らの右側を見遣った。
 言葉にならない悲鳴があがったのは、その直後。
「ないでゲソ! 火炎放射器が消えたゲソー!!」
 あたふたと慌てだしたイカから目を伏せ、珂は口端で笑みを象る。
 かれらが頼りとする松明は、疾うに水が撥ね飛ばしていたのだ。

●silent-town
「たっだいまぁー!」
 突然ふって湧いた溌剌とした声。
 空から降りてきたのは男の子――祭莉だ。
 ビルの上や屋根を跳び移り、一帯の地形と最短距離を把握してきたのだ。
「あんねー、この先の信号っぽい標識の横道に入って行くのが近いよー!」
 猟兵たちは祭莉の報せを聞き、頷きあう。
 報告を終えてダイブし、恙なく着地した祭莉が布陣の最後尾へと走る。
「熱そうだし、あんまり触りたくないけどー」
 イカが噴いた炎の脇をすり抜け、火の粉が襲い掛かるよりも一瞬早く渾身のパンチをお見舞いした。
 シュシュシュ、とイカたちへ軽いジャブで威嚇しながら祭莉が声を張る。
「殿はおいらにまかせてー!」
 彼の宣言を耳にしながら、杏は一呼吸を挟んで下がる。
 不足はないか、守りが薄くなっていないか、確認の目を仲間たちへ向けて。
「チュチュ、こわくない?」
 そして戦況を見守るばかりの少女に尋ねた。
 だいぶ見慣れたのか、へーき、とチュチュは頷き、猟兵たちの戦いっぷりを記憶に刻んでいく。
 飛んできたイカスミもなんのその。たとえ粘着質な液体であろうと、チュチュの抱えたメイドさん人形の拳が隈なく打ち返す。強いボディガードだ。
 直後、前方で鹿が鳴く。チュチュが望み、それを叶えさせるべく章が呼び出した鹿だ。
「ゲソー! べたべたゲソー!」
 相も変わらず騒がしいイカたちを前にして、章は虚無のオカリナを口に添える。
 ――どうにも、音楽の神様に嫌われているけど。
 それでも、音のかたちを成した何かを拒む理由にはならない。
 イカスミにまみれる前に、イカスミに纏わりつかれるより早く、吹いた笛の音は無数にうねる触手の海を、ぴたりと停止させた。
 動きだけでなく、奇妙なイカ言語も封じる。
 ――今のうちに。
 こうして章の奏でた笛が、赤という赤を阻む間に、呼び出した幻獣たちが活気づく。
 鹿は突き出した角でイカを引っかけ投げ飛ばす。かと思えば、別のイカを鋭利な角で力強く抉ってみせた。
 まともな悲鳴もあげられないまま、イカが少しずつ消滅していく。
 そしてもう一種。
 章の図鑑から飛び出した幻のタコが、己と比べまだまだ細身なイカ足に絡みつき、引き抜く。
 同じ軟体であるためか、イカが持つ松明にも恐れず、タコはじわじわと器用に敵の命を削り取っていく。
 イカ対タコ。海を棲み処とする多足生物たちの決闘が、今ここに実現した。
 ――何となく出しておいて良かった。
 章は芽生えた過去の思考に感謝しつつ、群れが数を徐々に減らしていく様を眺める。
 その一方で。
 ――普通のイカは、両目の間が弱点……そう聞いた気がする……。
 ふと引き出された記憶の真偽を確かめるべく、レザリアは照準を定めた。
「さっさと、焼きイカに……あ、元々燃えてるかしら」
 魔術を編み尖らせた火矢で、瞬く間にイカを射る。
「ゲソー! 目がッ! 目がぁぁぁ!!」
 目と目の間を寸分違わず射貫いたというのに、イカは目の痛みを訴えて果てた。
 無事に活き締めにできたものの、レザリアの胸中は複雑だ。
「……何なの……」
 異質な存在による奇妙な反応に、落ち着かない心境を抱きながらレザリアは瞼を伏せた。
 一匹、また一匹と数が減っていく中。
 真白を穢すのに黒は好都合だろう。珂へ狙いを定めたイカスミが、休まず放たれる。
 しかし珂は触れさせない。澱んだイカスミが彼女に降りかかるよりも早く、飛び退いていた。
 ――イカスミは御免被る。
 己の衣が染まるのは避けたい。たとえ汚れが、オブリビオンと共に消滅したとしても。
 さて、と珂はやがて呼気に近い言葉をこぼした。
 見渡せば戦場も敵も水分にまみれ、水音を荒く立てている。おかげで水溜まりからは波紋が失せない。
 かざした羽雲から白雪が浮かび上がる。
「仕上げと参ろうか」
「ゲソっ!?」
 なにっ!? と同じイントネーション。
 形容しがたい違和感をほんのり覚えはしたものの、イカの言語に振り回されることなく珂が杖の石突きで地面をノックする。
 珂の靴裏からひんやりと冷気が滲み、次第にそれは嵐となって立ち昇る。
 横たわる水という水、イカに染みた水という水を、嵐が凍てつかせていく。
 そうした氷の真上を、黒竜が舞う。schwarzの一鳴きは、姫桜への合図だった。
 ようやく姫桜は跳ね続けた身を停め、片腕を掲げる。
 ――見てなさい!
 押し黙ったまま予告する彼女の手にあるのは、拘束するためのロープ。
 それも、端に巨大な輪をつくったロープだ。
 姫桜はそれを器用に振り回し、ドラゴンとの連携で吹き寄せた群れへ――投げる。
 かつて竜の翼が見下ろしていた群れの頭上を、まるい輪が飛ぶ。
「ゲソ? 何だゲソ?」
 群衆にいた一匹や二匹が縄に気付いたところで、時すでに遅し。
 風を切った投げ縄は、イカ様御一行を括り、姫桜がロープを引いたのを境にまとめて拘束した。
「ぐえーゲソー!」
「苦しいゲソー!」
 縛り上げた塊から次々と悲鳴があがる。足もあがる。
 かれらの叫びがあまりにうるさく、姫桜はすぐさま手枷と猿轡で、拘束のお代わりを差し出す。
「しつこいのは女の子に嫌われるって、知らないのかしら?」
 姫桜がロープをきゅっと引き絞り告げると、かれらの悲鳴は途端にか細くなっていく。

 敵の数が減ろうとも、フィリアの為すべきことに変わりはない。
 フィリアは猟兵たちそれぞれの動きが確認できる位置を確保し、竪琴を爪弾く。
 竪琴は小さくても奏でる音は美しく、それぞれの心へ響いていく。
 繊細な菫のライアは、同じく繊細な指先で彩られ、乗せる柔らかな歌声に調子を合わせる。
 奏者と楽器の呼吸が合っている証だ。
 フィリアによって弾かれるからこそ、安らかな音色が漂う。
 ――もう、帰りましょう?
 音楽に乗せる想いもまた、心地よい眠気を誘うほどに穏やかだ。
 ――おうちへ。帰れるうちに。
 フィリアが音に沿って響かせるのは、子守唄に似たやさしさ。
 音調に委ねた身が揺れ、披露する指先から熱が滲みだす。
 仲間はもちろんイカたちの耳も打つ歌と音だ。意識して抗わなければきっと、流されている。
 そして一度でも閉ざした瞼は、次にひらくときを予測できない。次に押し上げたときにはもう、時間が幾らか進んでしまっているだろうから。
「ゲソー! やめるゲソー!!」
 フィリアの綴る温和な歌が響くのを、イカの群れは良しとしない。
 毒気が抜かれるのか、はたまた単なる好みの都合なのか。
 真相は不明だが少なくともイカたちにとって、しなやかな平穏を描いた曲は苦手な分類なのだろう。
 しかし、音楽の邪魔はレインがさせなかった。
「抵抗するなでゲソー!!」
 止まない猟兵たちの猛攻に耐えきれなくなったのか、一匹が叫びながらレインめがけ泣きっ面を見せつけてくる。
 正確には、涙代わりのイカスミを発射してきた。
 ――撃ち落とせるだろうか。やってみよう。
 粘度があるのなら可能性が高いとふんで、レインの銃口はイカスミを狙い定める。
 そして銃弾を受け飛び散ったイカスミは、色彩にあふれるキマイラフューチャーから悉くそれを奪おうとする。
 黒や墨の色はたしかに美しい。だがオブリビオンであるイカたちが噴き出すのは、夢も理想も楽しみも塗りつぶすかのような、粘着性の高いイカスミ。
 ――歓迎できるものじゃないよ。
 過去から蘇った悪意に、現在と未来が塗りつぶされるなどあってはならない。
 足を射返しながら一匹ずつ仕留め、排莢する。
 繰り返すルーティンのような流れは、手際よく、そして誤りなくレインの手により行われる。
 レインがちらりと見遣れば、たおやかにフィリアが演奏を続けている。
 竪琴もそんな彼女の意向を掬い、激化する戦いの最中においても平静さを損なわない。
 オブリビオンには帰りましょうと呼びかけながら、仲間へ癒しの音色を運ぶ。
 ――青く輝く海の中へ。
 炎の海でも、黒く染まった海でもない真の海をフィリアは想う。
 さざなみが歌い、泡が昇りゆく母なる海。
 今は赤くとも、きっとイカたちも海の色をその身に映す一部だったのだろうと、過去を垣間見る。
「燃やすゲソー!」
「火炎放射だゲソー!!」
 不明瞭な言語だけは、大いなる海とは違う気もした。
「ほんと優秀だよね、君は」
 助かったよ、と笑うレインの頬の緩みも、フィリアを安心させる要素のひとつだ。
 同じころ。
 章は標本作成も迅速に行えるが、射返すのもまた一流だった。
 弾けるイカスミの隙間を縫って墨を狙い撃てば、滞りなくイカの視界を真っ黒に染め上げる。
「目的地まであと少しだ」
 頑張ろう、と鼓舞する章の言葉に猟兵たちから頷きが返る。
 火炎放射の輪をくぐりぬけ、祭莉は最後の一息を戦場に響かせた。
 それは心躍る励ましの歌。両親から受け継いだレパートリー。
 ステップを踏み奏でれば、猟兵たちの力を増強させていく。
「さあ、もうひと踏ん張りだよ、逃げ切ろうー!」
 祭莉が弾ませる言葉を聞き、気にかかっていたチュチュの様子を、小太刀がちらりと窺う。
 メイドさん人形の腕をつまんで掲げながら、がんばれー、と嬉々として応援する少女の雰囲気に陰りは無い。
 祭莉の歌も相俟ってか、場の空気も弾んでいるようだ。
 ――杏達がいれば大丈夫そうね。
 言葉に出さずとも表情が物語っているのか、オジサンが小太刀の傍らで頷いた。
 その頃、お縄についたイカの群れはというと。
 姫桜は放置を決め込まず、すでに後片付けに取り掛かっていた。
「おいで、Weiß」
 囁きにも似た柔らかさで呼んだのは白竜。
 槍の形態をとった白竜は、姫桜の頼もしき相棒として矛先を敵へ向ける。
「まとめてイカ刺しにしてあげるんだから!」
「イカ!?」
「刺し!?」
 それは正しく死の宣告。真っ赤な身からサッと怒りの気が引く。
 白くはならないが、青白くなったに等しい怯え方だ。
「それっ!」
 構わず姫桜は槍を投擲する。
 身動きが取れないイカたちを、ドラゴンランスは串刺しにして見事に葬った。

●next
 覗いてみるも、チュチュの画面は未だ戻らない。戻る気配すら感じない。
 原因は定かでなく、幼き少女に降りかかった災難としてはあまりに痛ましい。
 一刻も早く顔が戻したいが、手立ても無い。
「やはり鍵の指す方へ往かねばなるまいな」
 もう少し辛抱してくれ、と囁く珂に、チュチュは躊躇わず首肯する。
「チュチュ、だいじょぶだよ。がまんできるもん」
「……そうか」
 返す言葉に迷い、珂は笑みを含めるだけに留めた。
 素の後方で駆け寄る足音は急ぎながらも慎ましく、しかし音の癖はなかなか抜けないもので。
「レイン、ねえレイン、怪我はない?」
 呼び駆けられるのとほぼ同時にレインは振り向いた。フィリアだとわかっていたのだ。
 両手で挟み込むように友の身に触れ、感覚を確かめる。
「何事もないよ、大丈夫」
 易しく応えるレインに、フィリアははっとなり辺りを見回す。
 チュチュも仲間も揃って元気だ。それが認識できた途端、フィリアは張っていた気を緩めるために、息を吐ききった。
 しかしゲソゲソと鳴く余韻が、まだレインの耳の奥に残っている。
 だから邪念を払うように、歩きながら銃に装填していく。
 いつ、どこで、何があってもいいように。
 ざわつく予感は猟兵としての勘か、あるいは経験によるものか。
 それすらも決めきれないぐらい、喧騒の名残が濃い。レインだけでなく、他の猟兵たちもそうだ。
「さあ、何があるか確かめようか」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『マルチプル・アースムーバー』

POW   :    タイヘン キケンデスノデ チカヅカナイデクダサイ
【放り投げた瓦礫や、ドリルの一撃など】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を瓦礫の山に変え】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD   :    シャリョウガ トオリマス ゴチュウイクダサイ
【ブルドーザー形態による猛烈突進攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    ゴメイワクヲ オカケシテオリマス
【排気マフラー】から【環境に厳しい有害物質たっぷりの黒煙】を放ち、【強烈な粘膜刺激と視界の悪化】により対象の動きを一時的に封じる。

イラスト:おおゆき

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠グァンデ・アォです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●終着点
 テレビウムの少女チュチュの顔に突如として現れた、鍵の映像。
 謎に包まれたまま、猟兵たちは少女を守り、オブリビオンと戦いを続けてきた。
 殴っても殴らなくてもうるさいサンドバッグ怪人。
 いかりに震えながら襲い来るイカ怪人。
 いずれも、とにかく、うるさかった。
 こうして猟兵たちが駆けぬけた先も、やはりひと気のないビル街。
 先ほどまで戦っていた場所よりかは、色彩がくすんで見える大通り。
 けれど気になる点は無い。何の変哲もない通りだ――その気配が迫るまでは。
「な、なに……? なにか、くる?」
 地響きは遠くから伝ってくるようだ。しかし姿はまだ見えず。
「チュチュ!?」
「チュチュちゃん!」
 数人の猟兵の呼びかけが重なった。
 警戒のため四方八方へ視線を呉れていた猟兵たちも、異様な声音に振り返る。
 少女チュチュが、前触れもなく輝きだしだ。
 光は瞬く間に強まり、とうとう直視するのも困難になる。
 どうしたのかと、何人かがチュチュを呼ぶが応答はない。
 触れるには触れられるが、ぴくりとも動かず揺することもできない。
「皆! 後ろから来たっ!」
 後方にいた猟兵が今度は叫んだ。
「シャリョウガ、トオリマス、ゴチュウイクダサイ」
 通りの奥、角から急に曲がってきたのは、巨大な重機。
 駆動音も然ることながら、地響きも騒音クラスだ。そのうえ。
「タイヘン、キケンデスノデ」
 アナウンス音声が、とても甲高く大音量。
 注意を促しながら迫ってくる様は、見ようによっては奇怪だ。
「チカヅカナイデクダサイ。チカヅカナイデクダサイ」
 光り輝くチュチュを連れて退避を試みるが、なぜかチュチュの身体が動かせない。
 腕を掴めば感触はある。
 たしかにそこにいるのだが、この景色に貼り付いたかのように侭ならない。

 ならば為すべきは――。
 オブリビオンの接近を阻止し、撃破することだ。
玖・珂
チュチュは心配だが
巨大な敵が迫りくる光景を見ずに済むのは不幸中の幸いか

しかし、有機物も無機物も騒がしいのだな

戦闘では動けぬチュチュや護衛している者達に
流れ弾が飛ばぬよう注意して立ち回るぞ

接近を防ぐなら足を狙うが定石か……変形などせぬだろうな
機械の仕組みはよく分からぬ
駆動輪となりそうな物はすべて破壊しよう
必要とあらば鋼糸を引っ掻けクライミングもするぞ

己が危険だと自己紹介するのか
では其の危険を取り除いて遣ろう

緋色の花咲かせ怪力を増幅したなら
2回攻撃で黒爪を穿ち、部品や巨体覆う鎧を砕いていこう

無事チュチュの様子が戻ったのなら
よく我慢した、つよい子だと伝えよう

此の世界で今、何が起こっているのだろうな


鵜飼・章
僕にも嫌いな事はあってね
その一つが安眠を妨げられる事
工事車両には私怨もあるし
喜んで破壊するよ

さっきの鹿さんにはチュチュさんの側にいてもらうね
角で瓦礫を払ったり
盾になって守ってあげて

流石に空は飛ばないだろうから
僕はUC【相対性理論】で【空中戦】を仕掛ける
突進をかわした隙を狙い
【早業】の高速急降下で攻撃
当たったらすぐ空中に戻り
ヒット&アウェイで立ち回る

瓦礫や建物の倒壊には注意かな
【見切り】で兆候を見て仲間に警告できるように
黒煙は隼の羽ばたきで散らす
拷問具のテープを【投擲】してぐるぐる巻きにし
機動力を奪う事も試みる

チュチュさん大丈夫かな…
元に戻れば一安心
お家に帰ったら一人なの?
心細いなら送って帰るね


レザリア・アドニス
ええいキマイラフューチャーってもうわけがわかれないの
と半分現実逃避気味でただひたすら戦う

突進攻撃にチュチュちゃんを巻き込ませないように、自分の立ち位置は常に注意
そしてそいつの進路にチュチュがいないようにさりげなく誘導
無理な時は騎士で受け止めてみる
地形を改変させないように、ドリルと瓦礫も、騎士に受け止めて貰う
ごめんね騎士…こんなことさせるばかりで…

攻撃時はやはり炎のミサイルを撃ち込む
こんなに大きいと当たりもしやすいね
汚染の煙は鈴蘭の嵐で吹き飛ばす、ついでに敵も巻き込んでみる

その後
近距離にチュチュの様子を見て、異変が起きればすぐにも対処できるように警戒し続ける
鍵…なら、開ける扉は、ここにあるの…?


彩瑠・姫桜
可能ならチュチュさんに近づいて
ぎゅっと手を握って伝えるわね

「チュチュさん、私達、ちゃんとここにいるわ
あなたは一人じゃない
だから、一緒に、もう少しだけ頑張りましょうね…!」

チュチュさんに声をかけた後は
チュチュさんからは距離をあけて【かばう】ように
重機の進行先を妨げるように立ち、通せんぼするわ

「危険なのはどっちよ
うるさくて目障りなそのガタイごとぶっ潰して黙らせてあげるんだから」

通せんぼはそのまま
まずは積極的に攻撃を仕掛け
重機の動きの【情報収集】を試みるわね

重機の足元部分中心に攻撃仕掛ければ止められるのか、など
弱点にある程度あたりを付けたところで接近
【双竜演舞・串刺しの技】で【串刺し】にしてあげるわ


木元・杏
【かんさつにっき】
チュチュに手で触れて
がんばって、と勇気と祈りをこめて
わたしたちも負けない
がんば……(黄色いヘンなの見て)
(硬直)
(まつりんのうしろに隠れる)

灯る陽光を手に間合いを詰めて攻撃
通常の攻撃はオーラ防御で防いで
チュチュを巻き込まない位置取りに
注意しながら
ヒット&アウェイを繰り返して
【絶望の福音】
見切りと第六感も働かせ
高速攻撃を回避して
後方に待機させてたうさみみメイドさんを動かす
メイドさん、殴って?

うるさくて皆の声を聞き取り難いけど
皆で闘ってるって知ってるから大丈夫
連携を忘れずに声も掛けて

倒したらチュチュ、元にもどる?
手をつないで
チュチュの遊んでた手遊び歌
歌って遊んでみるの


フィリア・セイアッド
「アイビス」で参加
チュチュさん、チュチュさん大丈夫?
手を引こうとするも無理な事に気付き断念
レインと視線を合わせ 確認するよう頷いて
チュチュさんを庇うように立つ

「WIZ」を選択
近づくつもりはないのよ?だけど どうしてもここから動けないの
申しわけないけれど 道を譲ってくれないかしら?
相手の丁寧?な言葉にあわせ こちらも丁寧に話してみる
効き目の無さに眉を下げつつも オーラ防御を展開
瓦礫や煙から彼女を庇う
大丈夫よチュチュさん 私たちが守るからね
一番不安であろう少女に声をかけ 
排気ガスを散らすための風属性の歌を歌う
仲間の怪我は春女神への賛歌で回復

チュチュさんが解放されれば よかったとぎゅっと抱きしめ


レイン・フォレスト
【アイビス】で参加

チュチュは動けない、動かせない……となれば敵を倒すのみ、か
フィリアと視線を合わせて頷いたら言葉はいらない
前に走り出て敵との距離を詰める

近づかないでと言うなら、そっちが止まればいいだろ
チュチュにやフィリアには絶対に近づけさせない!

【SPD】

ダガーを構え上着を脱ぎ捨てる
【シーブズ・ギャンビット】で高速移動
敵の高速攻撃を「見切り」と「第六感」で躱し、後ろに回り込み、
関節、可動域にダガーをねじ込み
ハンドガンで「零距離射撃」の攻撃を
「2回攻撃」で連続攻撃を行いつつ距離を取る
敵の攻撃が僕を狙ってくるようなら「カウンター」も狙ってみよう

それにしても
どうしてチュチュは動けなくなったんだろう


木元・祭莉
【かんさつにっき】で!

チュチュが光ったー! だいじょぶ? え、動けないの?
どーしよ……(アンちゃんの目線追って)

なんか出たー!
うっわ……カッコイイー!!?(キラキラ☆)
あ、あいつ倒さないといけないよね? ん、突撃しよーっ♪(ダッシュ)

ゆんぼー(命名)が地形を崩してくるから、それを逆利用して高くジャンプ!
空中で踊るようにゆんぼー表面を駆け上がり、『力の詩』でみんなを援護!
『着ぐるみイエロー、空を舞うー♪ コドモは世界のオタカラだー♪♪』

鍵を渡しちゃダメだ、チュチュを日常に戻してあげなきゃー!

ゆんぼーに飛び乗ったままで、騒音に負けないよう歌いまくる!
攻撃はひらりと避け、自傷ダメージ狙ってみよー♪


鈍・小太刀
【かんさつにっき】

目を輝かせる祭莉んに男の子だなぁとしみじみと

全く次から次に変なのが
でもチュチュにはネジ一本触れさせない
そんなに騒ぐならこの場で解体してやるんだから!

行くわよ
オジサンは援護よろしく!

見切りよりも更に先
ノイズの雨の先の未来を読んで連続攻撃を回避する
そしてカウンターの剣刃一閃!
キャタピラを切断して転倒させるわ

騒音が頂点に達したら
ああもう煩い!と一言叫び
『海の調べ』の圧倒的に穏やかな波音で騒音を押し流す
そしてついでだからねと負傷者の回復を(ツンデレ)

光の中で見えなくても
チュチュもきっと頑張ってるから
大丈夫だよって
みんなここに一緒にいるよって
優しい海のぬくもりが
その耳に心に届くといいな



●街はいつでもnoisy noisy
 運命はいつだって、街ゆく者たちを翻弄する。
「チュチュさん、チュチュさん大丈夫?」
 フィリア・セイアッド(白花の翼・f05316)が少女の手を取り引こうとするも、やはり微動だにしない。どうしても離したくない想いを掴むフィリアの手が、震える。
 その光景を、レイン・フォレスト(新月のような・f04730)は両のまなこで確かめた。
 チュチュを連れて動き回るか、隠せるかすれば、状況もまた変わっていただろう。
 しかし、叶わない。
 ――となれば選択肢はひとつ。敵を倒すのみ、か。
 そこで重なり合ったのは、フィリアとの視線だ。
 繋ぐまなざし以上に物語るものはなく、ふたりは同時に頷きあい、そしてレインは走り出た。
 レインの背を見送り、フィリアはチュチュを庇うように立つ。
 図鑑から呼び出した鹿の背を、鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)が撫でる。
 チュチュの傍にいるよう告げ、鹿が耳をぱたぱたと揺らしたのを見届けてから章はチュチュたちへ背を向け、ぴゅう、と指笛を吹く。
 ひとの耳には細やかな音だが、聞きつけた隼が、どこからともなく飛んでくる。
 現れた隼は、翼を広げていることもあってか地から天を隠すほど巨大だ。
 双翼や身を染める黒が、空との境界線をくっきりと生む。
 その境界線へ、章は手を伸ばした。
「いくよ」
 章が背へ飛び乗ったのを感覚で察し、隼が大きく羽ばたく。
 羽ばたきにより地上へ吹き付けた風の代わりに、天高く飛翔する。
 そっとチュチュに触れたのは木元・杏(微睡み兎・f16565)だ。
 あどけなさの残る杏よりも、まだまだ幼いテレビウムの少女。
 光がいつ治まるのかもわからなくとも。少女の声が聞こえなくとも。
 触れた手に、温もりが伝わってこなくとも。
「わたしたちも、負けないからね」
 真っ直ぐにチュチュを見つめて、杏は籠める。
 がんばって、と。揮う勇気とあたたかな祈りが、チュチュの心にしっかり伝わるように。
 そんな杏とチュチュを後背から覗き込み、木元・祭莉(花咲か遮那王・f16554)が眼をまんまるにさせた。
「え、動けないの? どうやってもムリそー?」
 落ち着きなく杏や少女の周りをまわる。
 だが彼がつついても、テレビ画面の前で掌をふよふよ泳がせても、少女は反応しない。
 どういう原理なのかもわからず、不思議そうに眺める祭莉のそばで、杏が突然硬直した。
 どしたの、と問いながら振り返る祭莉の後ろに、ささっと杏が身を隠してしまう。
「き、黄色いヘンなの……」
 杏がぷるぷるしながら指し示す先を辿って、祭莉は漸く事態を呑み込む。
「えっ! なんか出たー!?」
 轟いた祭莉の叫びは、どことなく歓喜に打ち震えて。
「カッコイイー!!? なんだあれーっ!」
 祭莉の両目から、きらきらと銀の星がこぼれた。
 大きな二足歩行の重機。定番のイエローカラー。
 アタッチメントはバケットとドリル、そして添えられた無限軌道。
 ロボやメカといった要素に満ちた怪人だ。当然、祭莉もそこにロマンを見出す。
 ――男の子だなぁ。
 しみじみと鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)は起こる光景を眺めた。
 それにしても、と小太刀がちらりと見遣ったのは、その怪人――マルチプル・アースムーバー。
「ゴチュウイクダサイ。キケンデス」
 道行く人への警告を、移動しながら常に怠らない。
 ――まったく次から次に、変なのが。
 小太刀は唇をわずかに尖らせて、びしりと重機を指差した。
「チュチュにはネジ一本触れさせないから!」
 堂々たる宣言に、重機はピーピーと信号音を響かせるだけだ。
 彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)は光輝を纏うチュチュに近づいて、ぎゅっと手を握る。
「チュチュさん、私達、ちゃんとここにいるわ」
 応答はない。それでも姫桜には伝えたい想いがあった。
「あなたは一人じゃない。だから……っ」
 握る指先が震えるのも構わず、姫桜は呼びかけ続ける。
「だから、一緒に、もう少しだけ頑張りましょうね……!」
 ひとりじゃない。いっしょに。
 一音一音をはっきりと姫桜は告げた。たとえ返事がなくても、頷く素振りがなくても、届くと信じて。
 声をかけた後、姫桜は奔った。チュチュと距離を取り、戦うために。
 同じころ、玖・珂(モノトーン・f07438)はすぐさまビルの物陰へ身を寄せていた。
 探っていると知られないよう隠れながら、重機の足まわりを睨みつけた。
 思ったよりも鈍いスピードではあるが、徐々にチュチュたちのいる場まで迫っていく重機。
 迅速に倒せば問題はないが、当面の目的は接近を防ぐことだと珂は既に考えが至っている。
 そして距離を縮めてくる存在の移動を損なわせるには、足を狙うのが定石。
 ――仕組みはよく分からぬ。……変形などせぬだろうな。
 珂は個人的に無限軌道――クローラーがどうにも気になっていた。
 変形機構を有し、二足歩行の基礎を折った途端クローラーで進んでこないか、懸念がよぎった。
 それにしても、と珂は敵の脚部をじっくり確認しながら異様さを痛感する。
「タイヘンキケンデス!」
 ――有機物も無機物も。
「チカヅカナイデクダサイ!」
 ――騒がしい。
 駆動音に忠告アナウンスが重なると、耳をつんざく音量になった。
 チュチュから敵の意識を逸らそうと、レザリア・アドニス(死者の花・f00096)は、死霊騎士を連れて動き出す。
 しっかりした甲冑の騎士が、どっしりと通りで構えていれば目立つはずだ。
 相手が巨体だからこそ、見落とされることがないようにきちんと騎士を前へ出す。
 その間も、チカヅカナイデクダサイ、と重機からのアナウンスは止まない。
 ――ずっと注意が促され続けるの、嫌……。
 近づきたくはないのに迫りくる存在という理不尽さは、レザリアの眉間を僅かに険しくさせた。
 立ち位置が決まったところで、レザリアの死霊騎士はアースムーバーへ睨みを利かせる。
 敵対の意志を露骨に示したことで、アースムーバーはぐるりと方向転換した。
 そしてすかさずバケットで転がる瓦礫を掬い、放り投げてくる。
 アームの動きこそ緩慢に思えたが、いざ投擲された瓦礫は大きく、レザリアの頭上に大きな影を生む。
 一瞬早くレザリアは後退り、死霊騎士が瓦礫の着弾点で構えた。避けるだけではだめだとレザリアが判断したためだ。
 地面へ叩きつけられようとしていた瓦礫を、騎士が踏ん張って受け止める。圧し掛かった重みは尋常でなく、大股に構えた死霊騎士の足が、衝撃を地面へ逃しながら沈む。
 地面への直撃を免れたおかげで、地形の変化は起こさずに済んだ、が、死霊騎士への重圧は相当だ。ぷるぷるしている。
 思えば先刻も騎士は、火に炙られたりイカスミにまみれたりと散々だった気がして。
「ごめんね……こんなことさせるばかりで……」
 なんとなく後ろめたくてレザリアは囁く。
「それもこれも、キマイラフューチャーがわけわからないから……」
 この世界もおかしな怪人たちも、レザリアの心身にひどいショックを与えたようだ。

●マルチプル・アースムーバー
 倒さなきゃ。そんな一言が祭莉の口から発せられる。
 しかし使命感に駆られるというよりも、楽しさを前面に出したような身の弾み方だ。
 ふんふんと鼻歌混じりに、祭莉はかけっこのスタートポーズを決める。
 それを見ていた小太刀が、片腕を天高く振り上げて。
「位置について」
 小太刀の一声に、祭莉が唇を舐め体勢を整える。
「よーい……ドン!」
「突撃ーっ♪」
 かけっこのスタートダッシュとは思えない、初っ端からの全力疾走。祭莉は渦を巻く勢いで突き進んだ。
 砂煙を立たせていった祭莉を見届け、ぽつんと取り残された杏を小太刀が覗き込む。
「……大丈夫?」
 固まったまま微動だにしない杏に、呼びかける。
 聞き慣れた友の声にハッと我に返り、金の瞳をぱしぱしと瞬かせた杏は、すぐさま掌に白銀を集める。
「大丈夫。たぶん。ゼッタイ」
 意味合いの異なる単語を三つ並べながら、象った剣――灯る陽光を握り緊め、杏も走り出した。
 首をかしげた小太刀は、子どもたちの微笑ましさを目の当たりにして腕を組み頷いていたオジサンを振り返る。
「そういうことで、オジサンは援護よろしく!」
 小太刀の呼びかけに、鎧武者のオジサンがサムズアップで応じる。とても気さくなオジサンだ。
 その頃レインは上着を脱ぎ棄て、道の片側を駆けていた。
 力を籠めるあまり、握ったダガーが熱を帯びている。
「シャリョウガ、トオリマス、シャリョウガ、トオリマス」
 ピピ、と信号を鳴らしてブルドーザー形態へ変化した重機が、轟音を撒き散らし突進してくる。
 ――そんなわかりやすい動きで!
 にらみつけるレインの双眸に宿るのは、赤。敵を射貫く熱を秘めた色。
 その色で仕掛けるまでの道筋を切り拓き、浅い呼吸と共に駆けた足で辿る。
 機械らしく硬くて重いアースムーバーに比べ、レインの身軽さは格段に高い。
 突撃してくる巨躯を避け片腕で揺れるバケットの歯を、後方からダガーで斬り落とした。
 仕返しとばかりに重機がアームを揮い、バケットでレインを叩こうとする。
 フィリアがそこで、す、と胸いっぱいに空気を吸い込んだ。
「近づくつもりはないのよっ?」
 騒音鳴りやまない中、アースムーバーへと呼びかけた。
 己へ語り掛ける声に気付いたのか、重機の頭が遠くフィリアを見遣る。
 バケットの衝突を退いたレインは、また別の方向へ走る。
「だけど、どうしてもここから動けないのっ」
 重機に届いているのかはわからない。
 けれどフィリアは、丁寧に、穏やかに、言葉を紡ぎ続けた。
「申しわけないけれど、道を譲ってくれないかしら?」
 フィリアへ重機の意識が寄っている間に、仲間たちも走る。
 キマイラフューチャーにも、風は吹く。
 賑やかな色彩を眼下に、風音に撫でられながら章は隼に身を委ねていた。
 ――流石にあれは、空を飛んだりしないよね。
 地上から見れば巨躯としか言いようがなかったアースムーバーも、見下ろすと小振りに思える。
 変形はしても飛行しないのなら、章に分がある。空に生き空を知る鳥たちは、彼の味方だ。
 キュイィ、と隼が控えめに鳴く。クールな合図は、風を呼んだからこそのもの。
 章は頷く代わりに隼の背を撫でた。直後、彼らの命は地へと急降下する。
 舞い降りた彼らめがけて、ブルドーザーの形態をとった敵が突撃してきた。
「シャリョウガ、トオリマス」
 しかし隼はふわりと羽ばたく。
「ゴチュウイクダ……」
 突進をかわした直後に生じた、一瞬の隙。
 そこで章と隼は再び舞い上がり、アースムーバーの天辺を襲う。
 拉げた頂きは下からだと見えにくいが、たしかに操縦席部分を圧迫する。
 軋む板金の悲鳴がこぼれる頃には、そっぽ向いた隼の姿も既に空の上だ。
「キケンデスノデ、チカヅカナイデクダサイ」
 雨のように注ぐ瓦礫の向こうで、安全圏から怪人は訴え続ける。
「危険なのはどっちよ」
 むっと口を尖らせて姫桜が立ちはだかった。
「うるさくて目障りなそのガタイごと、ぶっ潰して黙らせてあげるんだから」
 姫桜は通せんぼしながら、重機の動きに注目した。
 ――やっぱり、狙いは足元かしら。
 行動を鈍らせる術を、模索する。
 一方で、珂の片目に凛と咲くのは、己を養分とする緋の花。
 増幅した力は、その細腕からは想像もつかないほどのものになる。
「己が危険だと、そう自己紹介するのか」
 両手の指をくいと動かし、纏う鐵の装甲を慣らす。そして。
「では其の危険を取り除いて遣ろう」
 左右の黒爪で二足を掻く。本体を支える大きな足が、ぐらりと歪み均衡を失い始めた。
 会話を交わす素振りもない重機にフィリアは眉を下げ、けれど気落ちせずにチュチュを振り返る。
「大丈夫よ、チュチュさん」
 返答が無くても、一番不安であろう少女に微笑みかけた。
 眩いチュチュの身ごとくるむように双翼を広げる。光をそっと覆う白き翼。やわらかい翼に透けた光輝が、辺りをより明るく照らす。
「私たちが守るからね」
 不意に、重機の排気マフラーが唸った。環境を破壊する悪意で作られた排気が、もくもくと戦場を包み始める。
 嫌な煙に章は眉をひそめ、隼の羽ばたきですぐさま吹き飛ばしていく。
 粘膜や気管が侵されぬよう、フィリアも風をはらんだ歌を紡いで、有害な煙を散らした。
 黒煙の残り香がある中、レザリアは吸い込まないよう咳をしつつ、手に炎を編む。
 編み上げた炎は火矢となり、彼女の頭上に浮く。指し示す先は当然、怪人だ。
 赤を連れた矢が火の粉で軌跡を描きながら、怪人の頭部に刺さる。
 パリン、と硝子の割れる音がした。見事、額らしき操縦席の部位を、火矢が射貫いたのだ。
「大きいと当たりやすいから、いいかも……」
 もはやレザリアにとって重機は的でしかない。
 むしろ的だと考えないと、なんとなく心が落ち着かない。
 理解が追いつかないこの世界で、半分ぐらい現実逃避気味だ。

●ラストバトル
 やらせまいとして、重機も抗う。
「キケンデスノデ、チカヅカナイデクダサイ!」
 一言一句、意味を狂わせず重機が響かせる。
 瓦礫の雨を掻い潜り、珂が駆ける。
 鳴りやまない巨体へ鋼糸を括りつけた。
 その向かい側から、姫桜が重機へ接近する。
「タイヘン、キケンデスノデ!」
 放たれる瓦礫もドリルも、もはや脅威にならない。
 弱い箇所はわかった。姫桜にとってあとは宣言通り、ぶっ潰すのみだ。
 片手に黒竜。もう片方には白竜。相対する色を味方に、彼女は跳ねる。
 風を切った姫桜は、敵の懐へ飛び込んで。
「あなたの咎ごと……」
 姫桜の握る二振りの角度が揃う。容易いことだ。
「貫いてあげるわ! 私の槍で!」
 披露するのは双竜演舞。至近距離からの串刺しだ。
 渾身の力を集約させた一撃は、巨体にぽっかり大穴をあけた。
「今よ!」
 姫桜が叫ぶ。応じたのは珂だ。
 巨体が向きを変えた拍子に、鋼糸に引っ張られる形で珂が跳ぶ。
 乗車に気付いたアースムーバーは両腕を前後に動かし、巨躯を大きく揺らす。
 振り落とされまいと縁に掴み、珂は滑る表面を探った。
「ヤメテクダサイ、ハズカシイデス」
 謎の訴えを投げる重機に耳も傾けず、珂は黒爪でクローラーを穿つ。
 駆動輪に成り得るものはすべて破壊する。それが珂の目的でもあった。
 これで、ブルドーザー形態へ変形したとしても動作は侭ならないはずだ。
 ブン、ブン、と巨体が諦めず揺れる。
 珂は重機の意識が振り落とす行為へ向いている隙に、鋼糸を断ち、近場の瓦礫へ跳んだ。
 間近で駆動音もアナウンスも聞いたおかげで、耳の奥が痛む。慣れていればどうということは無いのだろうかと、珂は重機が入り乱れるような現場環境を想起する。
 ――オブリビオンのそれと混ぜるのは、問題だろうな。
 さすがに気が咎めて思い直すも。
「ワタシ、ハタラククルマデス! タイセツニシマショウ!」
 怪人の主張に、珂はゆるく首を横に振った。
 やはり喧しいものは喧しい。
 ――チュチュがこの光景に遭わずに済むのは、不幸中の幸いか。
 幼い子には、いろいろな意味で刺激が強すぎる。
 当然、ブルドーザーとしての次なる邁進は、叶わなかった。
 すでにクローラーは破壊され、履帯がうまく稼働しない。
 アースムーバーも動かそうと懸命なのだろうが、前へいったかと思いきや後方へ下がり、駆動輪の内部で異物が引っかかったかのような、歪な動作を繰り返すばかりだ。
 哀れな姿を前にして、章が徐に展翅テープを取り出す。
「……僕にも嫌いな事はあってね」
 淡々と紡ぐ章の声は一色で。
「ひとつが、安眠を妨げられる事」
 そこへ追い討ちをかけるように、テープを投げる。
 比べて宙を舞う展翅テープは、街のネオンをも透かし、多くの色をその身に撫でつけた。
 風に煽られ、あるいは章の心に沿い身を捻り踊る様は、まるで船出を見送るテープのよう。
 そんなテープを、狙い違わず板金へかぶせて。
「工事車両には、いろいろと私怨もあるし……」
 舞い踊るテープの華やかな優しさに反して、章の面持ちと声色は穏やかでない。
「喜んで破壊するよ」
 絡まったテープが、重機の進行を完全に制した。
 一方で。
 戦場を駆ける祭莉は、重機の行動パターンを想像しながら唸っていた。
「えっと、ゆんぼーが地形を崩したりしたから……あれがそれで、それがあれで」
 次の瞬間には、飛び出していた。
 そして散った瓦礫を足場にトントントンと空へ躍り出る。
「ゆんぼー!」
 叫びながら祭莉は、重機の山頂へしがみついた。
 操縦席に纏わりつかれ、何事かとゆんぼーが本体を揺すりだす。
 しかし振り落とされることなく祭莉はへこんだ天辺に立ち、高所から見渡す街を確認した。そして大きく、それはもう深く息を吸い込む。
「着ぐるみイエロー、空を舞うー♪」
 高らかに歌い上げるのは、仲間を鼓舞する力の歌。
 彼方まで響く祭莉の歌声は、あたりに建ち並ぶビルの群れをも感動で激震させた。あくまでも感動で。
「コドモは世界のオタカラだーっ♪♪」
 今回も今回とて、マツリ・リサイタル。
 おかげで駆動音も忠告アナウンスも掻き消えてしまう。
 騒音よりも凄まじい祭莉の独唱だ。観客の少なさだけがネックだが、少なくとも小太刀が召喚したオジサンは拍手してくれている。
 ――皆の声、聞き取り難いけど。
 杏はきゅっと拳を握り緊め。
 ――大丈夫。皆で闘ってるって、知ってるから。
 この黄色いヘンなのも倒せば、きっとチュチュは元に戻る。戻ってくれるはず。
 日常を少女が再び取り戻すことを期待しながらも、杏の肌は強張っていた。
「……光で、見えなくても大丈夫」
 そんな杏のそばに、小太刀が佇む。
「チュチュもきっと、頑張ってるから……」
 継ぐ言葉が気恥ずかしくて出てこない。そのまま小太刀は、ふいと歩き出してしまう。
 きょとんと小太刀を見つめた杏は、次第に肌の強張りを溶かしていく。
 歌に掻き消されながらも、相も変わらず騒音を撒き散らそうとする重機めがけて、杏は地を蹴った。
 握る剣に杏の熱が伝い、剣からの温もりが杏を支える。
「ゴチュウイクダサイ」
 通りがどれだけ広くても、整地に用いるブルドーザーだけあって、迫力は抜群だ――履帯が壊れたことで突進はできず、絡まるテープのおかげで身動きも侭ならないが。
 唇を引き結び、杏は瓦礫を踏み台にして跳ね、脇へ着地した。そして。
「メイドさん」
 か細い声ながらも、後方で姿勢よく待機していたうさみみメイドさんを呼ぶ。
 杏の指先が、ひくりと揺れた。うさみみメイドさんの耳も、ぴくりと揺れた。
「殴って?」
 なんとも端的な指示だ。
 メイドさん人形は「仰せの侭に」と言わんばかりにお辞儀をし、重機へと特攻する。
 軽やかなステップで舞いながらも、うさみみメイドさんが繰り出す得物は、己の肉体と拳のみ――つまり肉弾戦。
 華やかな容姿と愛らしいうさ耳からは想像を絶する威力の拳で、重機を抉る。
 あまりの衝撃に、ギィィ、と軋み悲鳴をあげたアースムーバーめがけて、次に仕掛けたのは小太刀だ。
 重機も負けじとふたつのアームで抗うが、雨音の先を知る小太刀に、来たるべき痛みは通らない。
 足取りも軽く、振り回されるアームを避け切った小太刀が、続けざまに一閃を放つ。ひと振りの輝きを、剣で描きあげて。
「そんなに騒ぐなら解体してやるんだから! この場で!」
 壊れていたクローラーの帯を細かく切り刻み、宣言を終える。
「ホボ、カイタイ、サレカケテマス……」
 半壊状態の重機の嘆きが、空しくこぼれた。
 しかし突如、重機の排気マフラーが、異常な震動を起こす。
「ゴメイワクヲ、オカケシテオリマス、ゴメイワクヲ」
 直後、環境汚染まっしぐらな黒煙が噴出した。道路の至る所に散るゴミや破片をも巻きあげる、有害な煙。
 フィリアはすぐさま歌で清らかな風を呼び、章も隼のはばたきで吹き飛ばしていく。
 そんな仲間たちの動きに合わせて、鈴蘭の嵐で煙が迫るのを抑えたのはレザリアだ。
 毒々しい煙があっという間に霧散する中、ため息交じりに告げる。
「迷惑だと本気で思うなら、やめてほしい……」
 敵の注意喚起があまりにもいやらしく感じて、レザリアの顔色も曇る。
 そして風に乗り、風を味方にしてレインが疾駆した。
 しぶとく諦めずに、チュチュたちの元へ寄ろうとする重機の背へ、彼女は回り込む。全身をしなやかに使ってアームへ飛びつき、上腕へよじ登った。
「近づかないでと言うなら、そっちが止まればいいだろ」
 言い捨てながら、腕の隙間へダガーをねじ込んだ。
 ギチギチと鈍い音を立てている間に、すぐさま銃身を差しこむ。
 トリガーへかけた指の腹は、僅かな振動も感じ取って。
「相手に求めすぎるのは、好くないな」
 零距離からの射撃で、レインは内側へ戒めの弾を叩きこんだ。
 双腕の可動域がいくら広く脅威だろうと、関節を砕いてしまえばガラクタだ。
 マルチプル・アースムーバーは、とうとう揮うべく術も失い、ただの塊と化した。

●テレビウム・ロック!
 チュチュに寄り添っていた幻獣の鹿が、章を呼ぶ。
 崩れた怪人が跡形もなく消滅するのを猟兵たちが見届けている間に、事態は一変していた。
 チュチュが放っていた眩いばかりの光が、いつのまにか治まっていたのだ。
 そして。
「システム・フラワーズより緊急救援要請」
 突然響き渡る声は、猟兵のものでも、チュチュのものでもなく。
「全自動物資供給機構『システム・フラワーズ』に、侵入者あり」
 ビルだ。
 街を織りなす建物のそこかしこから、謎の音声が叫び出す。
「テレビウム・ロックの解除数が多ければ多いほど、開放されるメンテナンスルートは増加する。至急の救援を請う」
 同じ言葉を繰り返す建物をよそに、チュチュに真っ先にじゃれついたのは杏だ。
「戻った!」
 彼女の嬉々とした声が弾んだことで、仲間たちも理解する。
 チュチュの顔――テレビに浮かんでいた鍵が消え、少女のにこやかな表情が映し出されている。
 杏がチュチュと手をつなぎ、手遊び歌に興じるのを、ニコニコしながら祭莉が眺めた。
 様子を遠巻きに見て、小太刀も想い馳せる。
 ――届いてたのかな。
 みんなの言葉が。優しい海のようなぬくもりが。その耳に、その心に。
 よかった、と駆け寄ったフィリアも、手遊び歌が一区切りつくタイミングで、チュチュをぎゅっと抱きしめる。
「それにしても、どうしてチュチュは動けなくなったんだろう」
 喜びに沸く仲間たちの脇で、レインは不思議そうに唸る。
 警戒を続けるレザリアも、気にかかる点の多さに首を傾いだ。
「鍵……なら、開ける扉は、ここにあるの……?」
 ふたりの言葉を耳にし、珂は天を振り仰ぐ。
 キマイラフューチャーの空は、ここへ来たときと同じ明るさを保ち続けていた。
「此の世界で今、何が起こっているのだろうな」
 心配していた分だけ、安堵も大きい。
 声をかけ、触れてくれる猟兵たちに、だいじょうぶだよ、とチュチュが笑う。
「おねえちゃんたち、言ってくれたでしょ。いっしょだから、チュチュがんばれたよ!」
 にこにこと微笑む顔がテレビに映る。
 ねっ、とチュチュが姫桜へ微笑みかけると、姫桜は受け取った笑顔と言葉に瞳を濡らす。
 珂もまた、少女へ声をかける。
「よく我慢した、つよい子だ」
 つよい。そのワードを反芻し、チュチュは誇らしげに胸を張る。
「チュチュつよいよ! でもおねえちゃんたちは、もっともっとつよいね!」
 子どもらしく憧れるような仕草に、珂は目許を薄くゆるませた。
 チュチュが元に戻ったと知り、章も胸を撫で下ろしながら目線を合わせる。
「お家に帰ったら一人なの?」
 章からの質問にに、こくんとチュチュが頷く。
「心細いなら送って帰るね」
「ほんと!?」
 突端にチュチュの映像が、きらきらと光りの粒子を飛ばす。
 猟兵たちは集まり、チュチュと一緒に歩き出した。
 ひと気のある、街の中心部へと。
「ねえねえ、りょーへいって、おっきいのとたくさん戦うの?」
「そういうときもあるね」
「すごーい!」
 猟兵たちの武勇伝を堪能しながら、テレビウムの少女は帰路に就く。
 たくさんのあたたかさと、いっぱいの思い出をおみやげに。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年04月30日
宿敵 『マルチプル・アースムーバー』 を撃破!


挿絵イラスト