鍵穴の在処、箱の中身
夕焼けに染まる空、紫を帯びた雲。今日もキマイラフューチャーは愉快に平和である。
――平和なはずであった。
「いーち、にーい、さーん……」
今度のかくれんぼの鬼は兎の耳を生やした少女。公園で子供たちは散り散りになって思い思いの場所に隠れていた。
少しだけ耳の大きい緑と紫のテレビウムの少年もその一人で、名札に「さつき」と書かれている。
さつきはきょろきょろとあたりを見回すと、キマイラの少女であっても大きいと思うようなごみ箱の陰で体を縮こまらせた。いつもいつも小さな物陰にばかり隠れているよりも意表が付けると思いついたのだ。
町の喧騒を静かに聞きながら鬼を待つ。時間がただ過ぎていき、中々見つからないことを得意に思い始めた直後、異変が彼を襲った。
突如画面が砂嵐に覆われた。もちろんさつきの意思ではなく、あわてて声を上げそうになるが、かくれんぼの途中だと半端に思い出して口を噤んだ。その間にも異変は続き、画面にはシンプルに簡略化された鍵が映ったのだ。
子供の脳味噌でなくとも混乱に陥るだろう。どうしたらいいのかおろおろと上を見たり下を見たり、せわしなく体をもぞもぞさせていると。
突如背後から声が掛けられた。
「みつけた」
それはかくれんぼの鬼役の声とは全く異質なものであり、災厄という意味で鬼の声そのものであった。
幽暮・半月(一葉・f00901)は頭をひねるかのようにタールの体の一部をひねった。
「よく来てくれた」
きゅっと音を立ててひねりを解除すると、半月は丸い持ち手に柄が付き、更に二本の突起が付いている――古典的な『鍵』のような形状を作った。
「キマイラフューチャーで異変が起きているのは聞いているか? テレビウムたちの画面に鍵のような映像が映し出されているようなのだ」
俺が見たのはこのような形の鍵の画像だった、と鍵を象った部分を持ち上げた。細かい形状を保つのが困難なのかぷるぷるとタールの表面を波打たせながら説明が続いた。
「これを映し出している少年が襲われるからその保護と、何を指し示しているのか調査を頼む」
襲われるテレビウムの名前はさつき、公園で友達とかくれんぼをしている最中のようだ。
彼を襲撃するのはヒーローマスクの如き仮面姿だが、勿論オブリビオンだ。『邪悪な仮面』と呼ばれるそれらは連携して光線を放ったり、影を使ってダメージを与えようとしたりする。
幸いというべきかオブリビオンの狙いはさつき一人。他の子どもたちも隠れているので巻き添えになることも無いだろう。
最初の襲撃者を凌いでも次から次へと敵は湧き出てくる。ではどう対処するのかというと、
「鍵はどこか一点の方向を示しているようなのだ。その終点に至れば何か分かるだろう」
道中でも別のオブリビオンが追撃をしてくる。可愛らしい外見の『アキクサさま』だ。
これまた複数体で現れ、移動に適した能力を持っているので振り払うのは困難だ。また夕暮れの色に体色が紛れてしまうので不意打ちに注意が必要だろう。
そして終点ではというと――何が起こるか分からない。おそらくオブリビオンがいるだということだけ。
もちろん鍵の向く先に行かなくてはいけないのでさつきを連れて行かなくてはいけない。何故狙われているのかは不明だが、彼の今後のためにも原因追及は必要だろう。
「謎が多いが、一件でも多く事件を解決できれば必ず何らかの進歩はあるだろう。よろしく頼む」
ぷるぷるさせていた鍵型の体を元に戻し、半月はそう締めくくった。
赤城
赤城と申します。
空飛ぶ仮面で邪悪というとマリオが出ていきます。
一章:不気味な仮面をたくさん倒す。
二章:可愛い鳥さんをたくさん倒す。
三章:???
さつき:七歳の大人しい少年。物分かりはいい方。
公園の子供たちや周囲のパンピーはオブリビオンと猟兵に気付いたら勝手に退避してくれますので気にしないでください。
それではプレイングをお待ちしています。
第1章 集団戦
『邪悪な仮面』
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POW : 怪光線
レベル×5本の【闇】属性の【光線】を放つ。
SPD : 闇影の鎖
【自身の影】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
WIZ : 暗黒の力
予め【邪悪なオーラを纏う】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
イラスト:夜月蓮華
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
白木院・雪之助
ふふん、ここは神さまたる我に任せておけ。さくっと解決してやるであるぞ!
子供を守るように前に立ち塞ぐ。我の神さまたる【存在感】と【おびき寄せ】でこちらに注意を向けておくぞ
暗黒の力など【破魔】を込めた札を【投擲】して祓ってやろう
炎【属性攻撃】で強化した【フォックスファイア】にてこちらに向かってきた仮面を焼いていくぞ
守ってやったからな。感謝するがよいぞ?
(アドリブ・連携OK)
ライヴァルト・ナトゥア
子供を狙うとは不届きな
その性根ごと、噛み砕いてやろう
(年少の妹達のことを思えば、こんな事が許される道理はない。UCで互いの動きの邪魔にならない程度の密度で狼を召喚する。さながら蒼狼の海のように)
(【ダッシュ】【ジャンプ】【空中戦】で時に地を、時に空を、時に狼の上を駆けて縦横無尽に飛び回る)
ユーベルコードはなしだが、お前らに俺を捉えられるかな?
(【フェイント】【2回攻撃】で変幻自在に大鎌を振るう。蒼炎の軌跡が敵の目を眩ますように)
1枚、2枚、皿でも割っているかのようだが、これでも俺は真面目だからな
と、これで最後!
さて、鍵の方向に何かがあると言うことだったが妨害もあるんだったか
気を引き締めていこう
画面に映された鍵、その上に気味の悪い仮面を反射させてさつきは竦みあがった。外見からは分からないがぎゅっと視界を閉じて――痛みは来なかった。代わりに降ってきたのは力強い声。
「ふふん、ここは神さまたる我に任せておけ。さくっと解決してやるであるぞ!」
白木院・雪之助(雪狐・f10613)はさつきの小柄な体を守る様に立ち塞がった。もふっと伸びた白い耳と尻尾は狐のもの。かつて神と祀られた彼は妖狐ながらも神を自称し、その様に振舞う。
「我は白木院雪之助! くるが良い!」
『邪魔をするな』
ばん、と扇を広げ、尊大に堂々と胸を張る雪之助に、仮面の目が妖しく点滅した。
その隙にと、半ば転がる様に飛び出た小さなテレビウムをライヴァルト・ナトゥア(巫女の護人・f00051)は抱え上げた。狼の耳をぴくりと動かす彼はキマイラフューチャーでは馴染み深いキマイラだ。
「大丈夫かい?」
「う、うん」
さつきの画面には鍵が表示されたまま、その表情は映されない。代わりに小刻みに震える体と強く袖を握られた袖が衝撃を如実に表していた。
己の妹たちを思い出してついライヴァルトの腕に力が籠る。
「子供を狙うとは不届きな、その性根ごと噛み砕いてやろう」
増援とばかりに飛来した仮面たちを強く睨み、さつきを抱える腕とは反対の手で大鎌を握り直した。
邪悪な仮面はくるくると猟兵たちの隙を伺うかのようにしながら言葉を一斉に発した。
『邪魔をするな』
『鍵を我らに渡せ』
まるで複数で一体であるかのように同時に同じことを喋る。だがその行いは自らの位置を猟兵たちに伝えるようなものだ。
ふん、と強気な笑みを浮かべて雪之助がひらりと扇を振るとボッと音を立てて狐火が夕暮れ色の中で鮮やかに燃える。
「汝らは影の映し身、地に満ちたる狼の軍勢、意に従いて万里を駆けよ《複製召喚・天地満たす狼の軍勢》」
眉間に皴を刻んだライヴァルトが唱えるとかつて左手に封印したオブリビオン――小さいながら数多の天狼の霊が空で牙を剥く。
そっと背後へさつきを地面に降ろすと狐火と狼の霊、いくつかがさつきの周りをくるくる回る。仮面たちととは正反対、守るために。さつきの画面は依然として鍵が居座ったままだが、その色合いは猟兵たちへの期待を映すかのように明るさを増していた。
仮面である以上オブリビオンの表情は変わらない。だが不愉快がっているのは明らかであった。
日が傾けば影は伸びる。そこから更にぬるりと地を黒く染め、狙った先にいたのはキマイラの青年。
それを黙って受ける理由は無い、とばかりに狼霊に足を駆けてライヴァルトは馬上ならぬ狼上の人となっていた。手始めとばかりに大鎌を振るうと、橙と蒼炎の境界で紫色の輝きが奔る。目を眩ますかのような軌跡は白い仮面の上で弾け、めり込んで斬り砕いた。
「まずは一枚、皿でも割ってる気分だな」
大真面目に頷く彼を狙う影は一つではない。縦横あるいは頭上と三次元的に作った狼霊の足場を駆け飛ぶキマイラを追うが、その隙に雪之助の狐火が本体を呑んで灰にしていた。
「助かるよ! ……って後ろ!」
雪之助の斜め後ろから不意打ちを掛けようとでもしたのか、あるいはさつきを狙ったか。仮面の目の部分に昏い灯りをともし、光を拒否した輝きを放たんと――
「大丈夫だ、こんなのお見通しであるぞ!」
青い瞳の隅っこで、背後に移動する仮面を妖狐の少年は捉えていた。ぴっと微かな音を立てて指先から離れた破魔の札は昏い光線を霧散させた。そしてさつきに迫ろうとした仮面もまた既に炎の中だ。
雪之助はあくまで祀られただけの妖狐であり神ではない。
だが祀られたが故に、人のために為すべきことを為そうと試行錯誤を重ね。そうして得た陰陽の力を振るう。
もう一度雪之助は札を構えた。まだ敵は多くいるのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
レパル・リオン
レパル参上!とうっ!(登場するなり仮面の群れに突っ込む)
とにかく追っかけて蹴って殴って片づけまくるわ!
スカイステッパーで空を跳ね回れば、影になんて当たらないわ!
あたしのパンチとキックをくらえー!くらえったらくらえー!
まだまだ襲われてるテレビウムちゃんがいっぱいいるなら、あたしだって戦いまくってやるわ!
日が傾けば傾くほどに影は伸びる。だが今この戦場に突入した影は、そんなゆっくりとした勢いではなかった。
「レパル参上! とうっ!」
格好良いヒーローの如くポーズを決め、ピンクの毛皮が風にふわりと揺れる。レパル・リオン(イェーガー・レパル参上!・f15574)はやる気満々で仮面の群れに飛び込んだ。
彼女の取った戦術はというと――がむしゃらに動き回る。
宙を蹴って影を躱すとそのまま飛び回る仮面に向かっていく。
「あたしのパンチとキックをくらえー!」
きらきらステッキを振る魔法少女を夢見て戦う少女の戦闘スタイルは、実際にはあまり優雅とは言えないが、一種の力強い踊りを思わせる。何よりも挫けず一生懸命に敵に向かっていく姿は正にヒーローのそれだ。
ぽんぽんぽん、と毛皮に覆われた体のためか宙でステップをする度に軽快な音を立て、そして仮面に攻撃を加える度に重い音が響く。
途中で自らの限界以上に宙を跳ねようとして地面に落ちるのはご愛嬌。痛みと涙をぐっと堪えてすぐさま跳ね起きる。ちょっとくらい痛くても怖くても頑張るのがヒーローというものだ。
『そのまま退いたらどうだ』
「……くらえったらくらえー!」
自分の勇気を声に上乗せ、イェーガー・レパルはまだまだ戦える。
大成功
🔵🔵🔵
摩訶鉢特摩・蓮華
こっちでもテレビウムさんの顔に鍵が映ってるんだね!そういえば鍵が映ってるのって子どものテレビウムさんばっかりのような…気のせい?
そういうのは後で考えればいいよね!今はこの子を守らないと!
「こんないたいけな子を狙うだなんて一体どういうつもりなの!あなたたちの目的は何?」
両手の鉄塊剣を構えて真正面から突っ込んでいくよ!
敵の攻撃を体捌きで避けたり剣で受けたり念動力で受け流したりしながら接近して、できれば複数体をなぎ払うね!
敵の意表を突くように下をスライディングで潜り抜けたり、念動力で空中に足場を作って2段ジャンプしたりで翻弄するよ!
避けきれないほど攻撃が集中したら夢見る理想郷で攻撃を全て反射するよ!
この事件も含めた、今キマイラフューチャーで勃発している事件。心なしか被害に遭っているのは子供のテレビウムが多いように思えた。
そう考える間にも仮面は飛び回り、隙を見せればさつきを狙おうとしている。摩訶鉢特摩・蓮華(紅蓮眼・f09007)は頭を振った。
「今はこの子を守らないと!」
拳を握って決意を新たに、倒すべき敵を見据えた。先に駆け付けた猟兵が仕掛けた守りのお陰でさつきは現状無事だ。かといってこの敵を放置するなど有り得ない。
さつきを安心させるように微笑んで頷くと、小さなテレビウムの画面が明るさを増した。
それを確認して敵に向き直ると、ひとつ、鉄塊剣を一閃させて空を切る。少女の体に似合わぬ大きく重たい剣の重低音が仮面に当たって跳ね返された。
怒気を込めて蓮華は問い質した。
「こんないたいけな子を狙うだなんて一体どういうつもりなの! あなたたちの目的は何?」
『答える必要はない』
『鍵を渡せ』
『さもなくば』
にべもない返答と共に仮面の目に開いた穴が昏く光った。だが鉄塊剣を両手に飛び込んだ蓮華の方が速い。紅白二色の巨大な剣を夕日にかざし、振り回すと一枚の仮面が軌道に捉えられて砕けた。
「渡さないよ! 弱い人を利用する奴なんて、大嫌い!」
断固として砕けることのない意志を口にすると、黒髪とリボンをたなびかせてまた仮面を叩き割ろうと地を蹴った。
二度も同じ手は喰らわないとばかりに仮面は高く浮いた。まるで嘲笑しているような余裕の動きだ。
その下を蓮華はスライディングする様に潜り抜け、素早く身を起こしながら足元に念動力の足場を作る。仮面の下を行き過ぎることなくトトッ、と宙を二度蹴り邪悪な仮面に肉薄した。
空を切る重低音と仮面の砕ける音が美しくもないアンサンブルを奏でた。
この戦場にいる他の猟兵たちも戦いを続け、あちらこちらで仮面がオブリビオンとしての終わりを告げられていた。それでも諦めないとばかりに影を伸ばし、目の穴から闇の光線を放っている。
せめて一人くらいは、と思ったのかもしれない。一斉に高く舞い上がると、彼らは蓮華を睨みつけた。
何本もの昏い光線を束にすれば――
『熨斗つけて返すね♪』
――仮面たちの絶望に向けた希望は見事に打ち砕かれた。蓮華の明るい声と、続いて跳ね返された自らの光によって。
蓮華のユーベルコードの名前は『夢見る理想郷』。邪悪な仮面は理想郷には入れない。
「ぼくね、さつきっていうんだ。お姉ちゃんたちは?」
名札を示しながらさつきは少しはしゃいだようにしがみついてくる。
それぞれが自己紹介をし、噛み砕いて説明をすると理解したかはともかく納得はしたようであった。
「んと、画面ね、どうやって変えたらいい?」
一見した感じ、特に変化はない。
だが猟兵たちは見抜いていた。先程から恩人たちの顔を忙しく見渡していたさつきの画面に映る鍵は、一点を示すコンパスのように動き回っていると。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『アキクサさま』
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POW : ぽかぽかの風
【召喚したヒーターの熱風】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : どっちが本物?
【もう一羽のアキクサさま】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ : 究極の平和主義
全身を【スーパーもふもふモード】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
イラスト:橡こりす
👑7
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
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| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
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ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
もふん。
移動を開始した猟兵たちプラス少しだけ耳の大きなテレビウムの少年を窺う生物の姿が複数あった。
一見すればぬいぐるみのような愛らしい姿、しかしキマイラフューチャーと言えど見慣れない姿の生き物はまごうことなきオブリビオンだ。
何体も寄り集まり、オレンジピンクの体を夕暮れに溶け込ませて彼らは目標に迫る――!
レパル・リオン
あの怪人、っていうか鳥さん…か、かわいいっ!でもさつきちゃんとキマイラフューチャーを守るため、やっつけなきゃ!
夕暮れで姿が見づらい…でも、こんな時のための技があるのよ!
逃がさないわ!【獣感覚】!
あたしの【視力】と【野生の勘】でアキクサさまを【追跡】!【動物と話す】技能でアキクサさまの話し声を聞き分けたりして、本物と偽物を見分けるわ!…いや、両方殴ってもいいかも?
そこよ!くらえ、炎属性の【ガチキマイラ】パンチ!
「あの怪人、っていうか鳥さん…か、かわいいっ!」
レパルはついつい目を輝かせてしまう。無理もない、怪人と呼ぶには程遠いぬいぐるみのような造形なのだから。
さつきも怯えた様子はなく、興味津々とばかりにアキクサさまを指して尋ねた。
「あの鳥さんも『おぶりびおん』なの?」
「……はっ。そ、そうよ。いくらかわいくてもさつきちゃんとキマイラフューチャーを守るため、やっつけなきゃ!」
我に返るとぺちぺち自分の頬を叩く。そして迫りくるアキクサさまをキッと睨みつけ――アキクサさまは夕暮れの中に紛れ込み、熱い風がレパルの腕を掠めて通り過ぎた。
さつきも気付いたのか驚いた気配が伝わってくる。しかしレパルはくるりと一回転、アキクサさまのいるであろう場所に向き直るとこんな時のためのとっておきがある、とポーズを決めた。
「逃がさないわ!」
刮目して周囲の気配を探ると、複数のアキクサさま同士で位置をバトンタッチしながら左右へ振れながらジグザグに近づいてきているようだ。
はて、どっちが本物か。
話でもしてくれれば見分けがつくかもしれないが、残念なことに鳴き声らしきものは発していない。時折翼が空気を叩く音がするだけだ。
レパルは数秒悩んで結論を出した。
「両方殴ってもいいわね! そこよ!」
二匹のアキクサさまが交差する、その一点を目掛けてライオン化した腕を振り抜いた。炎を纏い、アキクサさまの起こす風よりもずっと熱く。
「くらえ、ガチキマイラパンチ!」
その手ごたえはもふっとしたものに包まれながら、確かにその向こうにオブリビオンを捉えていた。
大成功
🔵🔵🔵
ライヴァルト・ナトゥア
何というか、気の抜けるオブリビオンだなぁ
まぁ、だからと言って見逃せるわけでもないのだけど
(UCを起動。無数の狼を召喚する)
一線、二線はさつきを警護、残りは俺と一緒に攻めるよ
(跳躍一回、【ジャンプ】で彼我の距離を一瞬で飛び越え、アキクサさまへと)
さて、見た目通りか否か、確かめさせてもらうとしよう!
(【2回攻撃】音を置き去りにする速度で一閃、二閃)
ふむ、見た目通り、か?
(もふもふもーどに対して)
成る程、防御のユーベルコード。なら、こちらはこれだ
囲め!
(狼数匹で逃げられないように包囲、攻撃する)
この手の技は完全な無敵ってわけじゃない。逃さないようにして攻撃を続ければ、いずれ死に至るが道理だろう
「何というか、気の抜けるオブリビオンだなぁ」
夕日の中でうっすら見えるその姿は可愛らしいものだ。
だがオブリビオンである。
「まぁ、だからと言って見逃せるわけでもないのだけど」
猟兵として至極真っ当な判断を下すと、召喚の文言を唱えた。最初の邪悪な仮面を相手にした時と同じ、小さな天狼の霊を数多呼ぶ。
その戦力をいくぶんか護衛対象のテレビウムに振り分け、当の本人も慣れたようで「今度もよろしくね」と天狼にぺこりと頭を下げていたりする。
「さて、見た目通りか否か、確かめさせてもらうとしよう!」
さつきたちの様子を尻目に一蹴跳躍、一閃してアキクサさまを捉えると大鎌が青い炎を灯した。あまりにも早い振り抜きに、鎌の後に音がついて行く。
だがアキクサさまたちも負けていない。連係プレーで互いの位置を変えながら着実に迫り、天狼に喰われたり逆に熱風で消滅させたりと健闘している。
その中の一体が大鎌の刃にかかり、だが倒れない。くるりと宙で一回転すると、全身をスーパーもふもふモードに変えた。あらゆる攻撃を羽毛のもふもふで受け止める強力な技だ。
キリッとした眼差しはどうだ、参ったか! とでも言いたげだ。
ただし体は毛の先程も動かせない。
「成る程、防御のユーベルコード」
ライヴァルトは真面目くさって頷き、そして鞭を打つような鋭い声を上げた。
「囲め!」
瞬く間に天狼たちはアキクサさまを包囲した。がぶがぶと食らいつくたびにピンクオレンジの羽毛が舞い上がり、爪を立てるとふかふかの毛が引き裂かれて夕暮れの中へ消えていく。もふもふにつつまれダメージを受けた様子はない。
ただし体は毛の先程も動かない。というか動かせない。
「この手の技は完全な無敵ってわけじゃない。逃さないようにして攻撃を続ければ、いずれ死に至るが道理だろう」
そんなことを言って、ライヴァルトは他のアキクサさまの相手を始めている。
周囲で戦闘が続く中、アキクサさまは天狼に襲われ続ける。周囲には他の猟兵もいる、とても助けを求められる状況ではない。
やがてぷるぷると震え始めた。限界が近いのだ。
それでも動けない。
アキクサさまは夕日の中に完全に溶け込んだ。そして人知れず塵と散っていったのである。
大成功
🔵🔵🔵
白木院・雪之助
なんじゃ、今度の敵はお主か。
可愛い……いやいや、可愛さであれば我の方が負けないであるぞ!
というわけで狐の姿になるぞ。
ほれ、見るがよいこの綺麗な毛並みを!そしてもふりたくなるふわふわ感を!
我の【存在感】と【誘惑】で敵のもふもふに対抗するである。我のもふもふを前に意気消沈し、隙を見せたら雪だるま達をけしかけるぞ!
(アドリブOK)
摩訶鉢特摩・蓮華
えっ、なにこれ!すっごく可愛い~!さっきのキモイ仮面のオブリンとは大違いなの♪
でも倒さなきゃいけないんだよね…できればオブリンになる前に会いたかったなぁ…よし!さつきくんを守る為にも全力で倒しちゃうよ!
POW
体内の地獄の炎を爆発的に活性化させて身体能力を強化するよ!
「そんな温い風じゃドライヤーの代わりにもならないよ!」
敵に突っ込んでいって両手の鉄塊剣で一度に複数をなぎ払うよ!炎迅で攻撃速度を高めて(攻撃回数増加)竜巻のように回転しながら切り裂くね!
※オブリビオンを「オブリン」と呼びます。そのほうが可愛いから♪
「なんじゃ、今度の敵はお主か」
ころーんと飛ばされてきたアキクサさまを雪之助は軽く躱した。同じように躱しながらも、可愛いものが好きな蓮華は黄色い声を上げてはしゃいだ。
「えっ、なにこれ! すっごく可愛い~! さっきの仮面のオブリンとは大違いなの♪」
脳裏に浮かびつつ既に目の前の光景に押し流されそうになっているのは先程まで戦っていたオブリビオン。
公園にいた邪悪な仮面には可愛いの要素は一ミクロンたりとも無かった。それに比べたらどうだろう、丸っこい体に短い手足、円らな瞳を包むは暖色の体毛。オブリビオンでなければどこかのマスコットキャラクターか何かとして人々に愛されていただろう。
『オブリン』というのは蓮華特有のオブリビオンの呼称だが、アキクサさまに違和感のない呼び方である。
「確かに可愛い……いやいや、可愛さであれば我の方が負けないであるぞ!」
蓮華につられながらも雪之助は対抗心を燃やし、水煙にも似たものを纏うと白い狐の姿になった。長さと艶のある毛皮、その密度は濃く手を差し入れれば空気と幸福を蓄えること間違いなしだろう。
そのふわふわもふもふ具合に今度は蓮華の方がつられてしまう。
「雪之助くんも可愛い~!」
「はっはっは、そうだろうそうだろう。ほれ、お主らも見るがよいこの綺麗な毛並みを! そしてもふりたくなるふわふわ感を!」
気合の入った雪之助が胸を張るように首を上げると首元の勾玉飾りがちゃらりと鳴る。後ろの方ではさつきが画面を輝かせていた。
見せつけられたアキクサさまはと言えば、自分たちに匹敵する――いやあるいは凌駕しかねないもふもふな敵の登場に警戒、驚愕、衝撃の様々な色を浮かべていた。スーパーもふもふモードを発動して対抗するものまでいる。
「できればオブリンになる前に会いたかったなぁ……」
迫力は無いが倒すべきオブリビオンである、とその隙に蓮華は体の中で地獄の炎を大きく燃やす。ユーベルコードの名前は炎迅、己の身体能力を大幅にあげるものだ。
「……よし! さつきくんを守る為にも全力で倒しちゃうよ!」
前半は漏らすように、後半はしっかりと声を上げて。全て本心だ。倒すのが実に勿体ないとはいえ躊躇うつもりは全くない。
『行け、我がしもべたちよ!』
不敵な笑みを浮かべた雪之助も迷わず雪だるまを呼び出した。小さな雪だるまと侮るなかれ、しっかり戦闘能力は備えている。そして数はアキクサさまにも負けていない。ぽこぽこと突撃していく。
蓮華は自らの体を軸にして竜巻の如く鉄塊剣をぶん回す。押し返すかのようにアキクサさまはヒーターを召喚するが、
「そんな温い風じゃドライヤーの代わりにもならないよ!」
ダメージが無いとは言わないが、蓮華の体は闘志に燃えてまるで痛いとは感じない。当然押し返せるはずもなく、羽毛を舞い上がらせながらぶった斬られていく。
地獄の炎は蓮華の体内でごうごうと燃え、当然回転数も上がれば敵の負傷も増えていく。アキクサさまの密度の高い場所へ突っ込めばよりピンクオレンジの毛羽が立つ。涙目で逃れようとするアキクサさまを可愛いと思いつつ、竜巻の中心にいる少女が攻撃の手を緩めることは無かった。
危うく刃から逃れたものも雪だるまの遊撃を受けて消えていく。ヒーター攻撃のために溶かされた雪だるまもいるが、召喚された数が上回る。
こうした猟兵たちの順調な攻勢の前にもスーパーもふもふモードを切り崩すのは厄介だ。ぽこぽこと雪だるまが殴り続けたり蓮華が紅白二本の鉄塊剣で斬りつけたりしているが、このままでは完全に日が沈んでしまう。
そんな状況の中、雪之助がおもむろにふんぞり返った。西日を背に、両前足を雪だるまに乗せて。伸びた影はアキクサさまの擬態を許さず、逆光に明らかな彼のふかもふの輪郭はスーパーもふもふモードの余裕に罅を入れた。
隙を見逃す猟兵たちではない。雪だるまが飛び、武器は風を切り。
完全に日が沈んだ頃、猟兵たちはさつきを連れて完全に移動を始めていた。鍵の謎を解くために。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『機関車怪人』
|
POW : トレイン・フリーク
【時刻表】【鉄道模型】【鉄道写真】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : 出発進行!
自身の身長の2倍の【蒸気機関車】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
WIZ : アクシデントクラッシュ
対象の攻撃を軽減する【高速走行モード】に変身しつつ、【煙を噴き上げながらの体当たり】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
イラスト:来賀晴一
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
夕暮れの残滓を振り払い、星の瞬き始めたキマイラフューチャー。
その一角に猟兵たちが辿り着いた時異変が起こった。
さつきの画面の中、コンパスのように振れていた鍵の動きがぴたりと動かなくなったのだ。まるで押さえつけたかのように。
猟兵たちが訝しむのとどちらが早かっただろうか、急激に鍵がまばゆく輝きだした。
「えっと、これどうしたんだろう……」
自信なさげなさつきの声。彼の意思を反映していないことは明らかだ。
鍵、画面、さつき自身と光を放つ範囲が広がっていく。やがて周囲までもを呑み込んで猟兵たちは堪らず目を閉じた。
――それから数十秒も経たない。瞼越しにも分かった輝きは静まり、そしてどこからか独特の音が響いてきていた。
流れてくる煙とその匂いに、猟兵たちは一斉に視線を向けた。
体の各所から煙を上げながら、一目で分かる怪人と分かるオブリビオンが現れた。気のいい陽気な声で、
「さあさあ、この私が送り返してあげよう。こんな場所に君たちは用なんかないはずだからな」
などと言っているが『送り返す』というのが一体どういう意味なのか。問う意味もない。
急激に吹き上げた蒸気と刺々しい敵意が如実に示しているのだから。
レパル・リオン
送り返されるのは…アンタよ!【変身】っ!
さつきちゃんにも負けないくらいの【光属性】を体に宿すわ!
【スカイステッパー】で空中を飛び回り、回数制限は怪人を蹴ってリセット!時刻表や模型やら写真やらは見つけ次第【踏みつけ】て蹴り砕くわ!
怪人とはいえ人のコレクションをぶっ潰すのは罪悪感ないわけじゃないけど…手加減なんてしないんだから!
とどめっ!【虎狼竜・神風脚】!
摩訶鉢特摩・蓮華
急に光りだしたけど、さつきくん大丈夫かな?一体何が起こったっていうの?ちょっとよくわかんないけど、それより今はこの機関車オブリンのほうが先だよね!「送り返す」とか、それはこっちのセリフだよ!あなたこそ骸の海に送り返してあげるよ、過去のガラクタさん!(挑発込み)
POW
時刻表や鉄道模型で、どうやって強化してるんだろうね?ちょっと気になっちゃうよ。
蓮華も対抗して紅い炎の闘気を身に纏うね!鉄塊剣も闘気で覆って攻撃力アップだよ!
正面からのガチンコ勝負!敵の攻撃は身を捩って回避、念動力や鉄塊剣でいなしつつ、もう片方の剣で斬りつけるよ!
他のお仲間さんが動きやすいように、敵の注意を引きつけて派手に立ち回るね!
白木院・雪之助
どこに送り返すというのだ?
悪いがお主の言う通りには動いてやらぬ!
あまりこの手は使いたくないが【勾玉の首飾り】の【封印を解く】
抑えていた妖力をすこーしだけ開放するぞ
そして呼び出すは雪嵐
この辺り一帯を襲う荒れ狂う吹雪が現れるである
相手の技は厄介であるから、【破魔】と【マヒ攻撃】の【呪詛】を持つ札を【投擲】して妨害じゃ
お主は雪像にでもなっておれ
あぁ、さつきと他の猟兵には炎【属性攻撃】を宿した札を渡しておくぞ
寒いであるからな。凍え死なれるわけにはいかぬ
(アドリブ・連携OK)
「どこに送り返すというのだ? 悪いがお主の言う通りには動いてやらぬ!」
そう宣言すると雪之助は勾玉の首飾りを摘まんだ。気乗りはしないが妖力を抑えるためのそれを、今は解放する時だと。
「送り返されるのは…アンタよ!」
レパルが円を描くように両腕を広げると浮かび上がったのは火の輪。そこを勢いよく潜り抜けると火の粉は生命力の煌めきと化してレパルの体を彩る。煌めきが落ち着いた後、勇ましいライオンを思わせる魔法少女――イェーガー・レパルが現れていた。
「そうだよ! あなたこそ骸の海に送り返してあげるよ、過去のガラクタさん!」
テレビウムの少年の様子を気にしながらも、蓮華はできるだけ気を引けるよう強気に機関車怪人を睨みつけた。
さつきの画面にはもう鍵は無い。代わりにぐるぐるの渦巻マークが二つ、どうも目を回しているようだ。何故彼が光り出したのか、ここがどこなのか。分からないことだらけでも一つだけ確かなのは、目の前の敵を倒すことだ。
「はっはっは、聞き分けの無い子たちはみーんな私が遠くに送ってあげよう! どこがいいかね?」
機関車怪人が頭から煙を吹き上げるとその中から時刻表やら鉄道模型やら鉄道写真やらが現れる。しかしそのどれもが古ぼけていて、年季の入り方が過去のものだと強調していた。
過去からやってきたオブリビオンは掲げるようにして猟兵たちにそれらを見せつける。
「どこがいいかな? ここがいいかな?」
おそらく具体的な地名が時刻表やら鉄道模型の行先表示に書いてあるのだろう。だがどれを選んでもその場所に送り届ける気は微塵も無いとこの場にいる誰もが分かっている。
「そんなどこだか分かんないとこ、お断りよ!」
彗星のように光の尾を描きながらレパルは宙を跳ね、勢いよく踵を落とすと掲げられた時刻表が真っ二つに裂けた。機関車怪人は哀れっぽい悲鳴をわずかに上げてレパルの良心が僅かに痛んだ。相手が怪人とはいえ人のコレクションを壊すのは罪悪感がある、真っ当な少女なのだ。かといって戦わないなどという選択肢は無い。
蓮華は小さく首を傾げた。
「あの時刻表とかで、どうやって自己強化してるんだろう?」
「少年とはそういうものだよ!」
たぶん少年心が気合を入れてくれるのだろう。それが一般的に理解されるものであるかどうかはまた別だが。
苦笑して、振り払うように蓮華もまた自らに気合を入れた。
『紅く燃え上がれ、蓮華の闘気! 奥義、紅炎闘気!』
紅色の炎の闘気を纏い、それは腕を伝い手に添って武器までもを包み込む。激しく燃え上がる様は決して敵を逃がすつもりはないという思いの表れだ。
「さつき、これをしっかり持っておれ。寒いであるからな」
その後ろで、雪之助は札に炎の属性を付与するとテレビウムの少年に握らせた。画面はまだぐるぐるマークのままだったが、話しかけられたことで意識をはっきりさせたようだ。さつきは顔文字を浮かべてこくこく頷くと渡された札をぎゅっと握りしめた。
「他の者もこれを。皆に凍え死なれるわけにはいかぬ」
目の前の蓮華に、くるりと一回転して舞い戻ったレパルに。それぞれ炎の札を渡すと指先で勾玉を弾いた。
ふっと漏れ出た妖力が粉雪のように空を漂ったがそれも一瞬。
『寒いのは嫌である……寒さは全てを奪ってゆくからな』
どこか遠くを見る目で呟くと空気の流れが止まった様に静まり返る。すぐに元に戻り――そして極寒が戦場に降りた。
叫ぶように荒れ狂う風、それに乗って叩き付け降り注ぐ雪。
山の怒りとも思える過酷な冷気が吹き荒れる。
幸いにして猟兵たちは札と生命力と闘気が体を温め、戦意も高い。
それらの加護のない機関車怪人はというと――
「こんなに雪が積もったら雪かき車の出番じゃあないか!」
陽気を通り越して暑苦しく叫んだ。体は冷えに冷えているだろうに、いやだからこそ言葉でくらい己を温めなくてはいけないのだろう。
そうして呼ばれたのは雪かき車、ではなく蒸気機関車。
「雪かき関係ないじゃない!」
「中はあったかいだろうけど……」
「柔軟性のない奴め」
猟兵たちの突っ込みを気にした様子も無く、高らかに機関車怪人は叫んだ。
「しゅっぱつしんこーお!」
雪の積もった体で煙を吹き上げる。これが本物の機関車であれば頼もしい限りなのだが、そもそも機関車は喋ったりしないし人を襲うこともしない。
質量を増大させて突撃してくる様は実に迫力がある。まして外見は蒸気機関車そのものだ。
だからといって猟兵は怯まない。
蓮華は激しい舞踏のような足取りで地を蹴ると、正面から蒸気機関車部分に飛び乗った。雪嵐といい速度といい、体感温度はかなり低くなっているがそれは蓮華の動きを鈍らせるに至らない。足元の速度のお陰で、数歩駆けただけで機関車怪人の方から突っ込んできてくれる。思い切り蓮華は鉄塊剣を叩きつけた。
機関車怪人の肩の装飾が吹き飛び、顔面ランプが砕けて重力に引かれていく。勢いそのままに蓮華は怪人の背後に回り、紅の炎で雪を照らしながら斬りつけた。
「こっちだよ!」
声をかけるとぐりんと人間離れした、怪人らしい動きで上半身が蓮華と相対する。だがその隙に光を曳いて飛び掛かったレパルがその後頭部を狙い、迷いのない動きで回し蹴りを入れると大きく上半身が傾いた。
「あたしだっているんだからねっ!」
「ぐっ……」
それでもしぶとくレパルの脚を掴もうとしたようだ。そこに間髪入れず踏み込んだ蓮華の鉄塊剣が一閃すると、レンガが割れるような音と共に肘が割れた。
更にがくんと蒸気機関車の速度が落ち、慣性に従って機関車怪人の体は振り回される。
「お主はそのまま雪像にでもなっておれ」
狩衣の袖を風にはためかせ、麻痺の札を飛ばす。自ら起こした嵐に飲まれるはずもない札は、大きな的となった蒸気機関車に張り付いていく。
彼が用意しているたは炎や麻痺の札だけではない。破魔の札も飛ばして蒸気機関車上の猟兵たちを援護する。
時が未来へ進むにつれ、機関車怪人の体には罅が入り札が付き雪が積もり、呼び出した蒸気機関車は動きを止めていく。
「いいや、いいや、機関車は後退などしない!」
オブリビオンは駄々っ子のように首をぶんぶん振り立てる。当たり前だが彼の言い分を聞く猟兵は、いない。
「あなたの終点は、骸の海だよ!」
「我らがレールに乗せてやろう、有難く思え」
「とどめっ! 虎狼竜・神風脚!」
ぴしぴしと音を立てる体を砕くのは容易い。最後に吹き上げた煙が蒸気なのか、それとも爆風であったのか。あるいは両方かもしれない。
少しだけ耳の大きいテレビウムの少年が顔文字をしばたかせ、完全に表示を戻した時には雪は止み、怪人の姿は消えていたのであった。
少しずつ周囲がキマイラフューチャーの光景と重なり、人工的な明るさが沁み込んでくる。いずれこの空間は消え、無事帰還できるだろう。
「さつきちゃん、顔も元に戻ってよかったわ!」
「うん! よかったー」
「これで一件落着であるな!」
「でも、どうしてこんなことが起こったんだろう?」
猟兵たちとさつきがわいわいと声を交わすのも束の間。
アラームのような音が鼓膜を震わせ、極端に肉声に近づけたような機械音性が響いた。
『システム・フラワーズより緊急救援要請』
『全自動物資供給機構≪システム・フラワーズ≫に、侵入者あり』
『テレビウム・ロックの解除数が多ければ多いほど、開放されるメンテナンスルートは増加する。至急の救援を請う』
『繰り返す。システム・フラワーズより緊急救援要請――』
大成功
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