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かくもめでたき初春の

#サムライエンパイア

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#サムライエンパイア


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●師も走れば狐に?
 時は江戸。
 天下泰平と言うには騒乱の種が多々あれど、サムライエンパイアと呼ばれるその国にも、春を迎える慶事を前にした活気が満ち始めていた。
 街道沿いの水茶屋では看板娘が常連客に笑顔を振り撒きながら来年もどうぞご愛顧をと挨拶に回り、神社の境内からは、餅が湯気を上げている石臼に杵を振り下ろす男衆の威勢の良い声が響く。
 どこか浮き足立った大晦日の空気の中、各々が忙しなく準備に勤しんでいた。

 蕎麦屋の亭主、五平もその一人。年越しといえば蕎麦は欠かせないと、お天道様がすっかり登っても蕎麦打ちに明け暮れる。

 ちりりりん。

「おん?」
 どこからか季節外れな風鈴の音がする。五平は顔を上げた。没頭しすぎて幻聴でも聞こえたのだろうか。
 首を傾げた五平の聴覚を次に叩いたのは、風鈴よりも涼やかで高い少女の声。
「ねえねえ、お蕎麦屋さん!」
 突然背後から声を掛けられて飛び上がる。驚いて振り返れば、黄味がかった髪の少女がいつの間にか厨房に居た。
「何でえ嬢ちゃん。ここはお客さんの入る所じゃねえよ、注文なら表で」
「きつねうどんくださいな!」
 注意の声を遮って、少女が五平にねだる。
「いやだから、注文は」
「甘ぁく煮込んだふわふわのおあげが乗ってるおうどん食べたいの!」
「だか」
「きつねうどんくださいな!」
 おかしい。子供らしい我儘と呼ぶには話が通じなさすぎる。期待にきらきらと瞳を輝かせる様子は、無邪気と呼ぶに相応しいのに。一体どうして気圧されているのだろう。

 ちりりりりぃいん。

 表通りの方から、また風鈴の音がした。
 それに混じって聞こえたのは、屋根瓦の崩れた音?転んだ子供の泣き出す声?逃げ惑う人達の上げる悲鳴、風鈴の音、馬が嘶きどうと倒れる地響きあれは十九文屋の平六の断末魔風鈴の音風鈴の音風鈴の。

 ごくり、と息を飲む。
「どのお店で聞いても、無いって言われるの。年越蕎麦の準備で手一杯だからって」
 呆然と立ち尽くす五平を見る目は期待から失望へ。
 すっと温度の下がった声音で呟く少女の腰裏で揺れるのは、化生の尻尾。ああ、今更身の危険を知ったところで、一体何ができようか。
「──ここにも、ないのね?」

 振り上げられた鋏には、べったりと赤い血錆の色。

●今年最後の厄払い
「うどんより餅食いたくね?」
 グリモアベースに集まった猟兵達へ、エン・ギフター(f06076)は雑に聞いた。
「俺が目を付けてた飯屋の近辺が、面倒事に巻き込まれそうな具合なんだわ。ちっと手ェ貸してくれねえかな」
 予知によれば町を襲撃するのは明日香と呼ばれる妖狐と、そのペットである彼岸の兜風鈴。
 おあげ大好き女狐が怒った理由はしょうもないし、腹いせの手段は随分えげつない。このままでは正月を迎えるどころか町ひとつが壊滅してしまうのだと、マスクの下でエンが深い溜息を吐く。
「ちゃんと注文すりゃ、あの蕎麦屋は普通にうどんも出すんだが」
 多様性の持てない店は、すぐに淘汰されてしまうのだ。きつねうどんだって実は品書きにある。蕎麦屋の亭主、やられ損である。
 ともあれ、町を守らねばならない。
 猟兵達が向かう場所は、町と街道とを結ぶ門の前。明日香とそのペットが襲撃してきた時点で、一般人は門番によって安全な場所へと誘導される。オブリビオンとの戦闘に巻き込む心配はない。
「風鈴の数は十匹かそこらだったかな。一匹ずつは雑魚だが、数が数だ。自己強化だの範囲攻撃だの取り巻き召喚だのもやらかしてくる。明日香も手強い」
 指折り数えて敵についての説明を終え、けど、とエンは事も無げに笑う。
「猟兵さんらにとっちゃ、なんてこたない仕事だろ?」
 言葉に込めるのは、確かな信頼。
 さっさと片付けて、翌日からの正月気分を楽しもうぜと気楽に告げた。

 平穏を手に入れた町で迎える新年は、賑やかなものになると予想される。
 茶屋や料理屋などは、お節や甘味などさまざまな物を振る舞い猟兵を持て成すだろう。この土地の氏神を祀る神社では初詣に向かう人々が行き交っている。詣でるもよし、おみくじを引いて運勢を占うもよし。境内では独楽や羽根つき、川原に行けば凧揚げなども行われている。
 各所でサムライエンパイアならではの正月を満喫できる事だろう。
「今年の厄は今年のうちに、ってな。んじゃ、よろしく頼む」

 それじゃ、現場までは安心安全にお届けします。
 畏まって一礼をすると、自称運び屋はグリモアを掲げた。


白日
 お目通し頂き有難うございます。白日(しらくさ)と申します。天麩羅蕎麦派です。
 シナリオニ本目の舞台はサムライエンパイアとなりました。

 一章、集団戦。二章、ボス戦。そして三章の日常(お正月)。
 以上の構成でお届けします。お正月やりたいの一心です。

 一、ニ章は2018年12月27日より、三章は最速でも2019年1月1日よりリプレイをお届けする予定です。
 三章でプレイングの最後に"○"と記入して頂いた場合は、能力値とは別にダイスによる判定を行い、その結果をリプレイに反映します。ゲームの勝敗やおみくじの吉凶などにご利用ください。頂いたプレイングは力の及ぶ限りリプレイとしてお返しできればと思います。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『彼岸の兜風鈴』

POW   :    風鈴の音が響き渡る
予め【風鈴の音を響かせ続ける 】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD   :    風鈴の音が共鳴する
【共鳴振動となる甲高い風鈴の音 】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    風鈴の音が死者を呼ぶ
【黄泉の国 】の霊を召喚する。これは【悲鳴】や【武器】で攻撃する能力を持つ。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●幕間
 幕府より与えられている、天下自在符の効果は覿面だった。
 開門の要請はすぐさま聞き入れられて、街の外へと向けて門扉は開く。
 
 猟兵の皆々が町の外へと足を踏み出したのを機に、災禍の顕現、その先触れが数間を挟んで立ち昇った。冬の濁りない空気に墨を落としたかのように、街道の真上へぽつりと滲んだ黒い染み。
 ぽつり、ぽつぽつ、ぽつり。一つ増え二つ増え、波紋の如くに繋がり広がる真昼の闇の中から鳴いたのは。
 
 ――ちりん。
アルトリンデ・エーデルシュタイン
融通の利かなさというか話を聞かないのもオブリビオンらしいというべきでしょうか……。ですが、どのような理由があれ人を傷つけるのは看過できません。
まずはペットの……ずいぶんと物騒なペットですね。剣を抜いて斬り込みながらユーベルコードを積極的に使っていきます。当たれば良し、外したとしてもこちらの立ち回りに有利になりますし。
囲まれて死角から不意を討たれないよう注意して、なるべく聖域の範囲内を動き回りながら数を減らしていきましょう。
黄泉の霊を呼んだとて、今度は昇天させるまで。破魔の力を剣に乗せて数で押されないように倒していきます。


多々羅・赤銅
おーおー聞き分けの悪い妖が居るみてえだな?困ったせっかちお狐さんだ。ここはおひとつ、ちぃと仕置きする他無ぇな。

シンプルに斬って、斬って、斬り伏せる。りいんりいん、妙に長く鳴いてる奴が不穏だ、優先的にそこから斬って回るかね。

いざとなりゃあ。
この剣刃一閃。触れたものを斬る力にかけちゃあ、立派なモンさ。それは物体にすら限らねえ。【勘】【見切り】も重ねまして、音すら切り裂いてご覧に入れましょうーーー空気が避けて通る程の純真無比の一閃にて、この身と仲間を護りつつ、タフに立ち回ってご覧いれてやらあ。


多々良・円
年の瀬の惨劇なんぞ、許さんのじゃ。
皆が笑って初日を迎える、そんな未来を掴みとってみせよう。

錬成カミヤドリで複製した傘を広げて並べ、魑魅魍魎からの攻撃を防ぐのじゃ。
振動となれば龍の波動(衝撃波1)をぶつければ相殺できるかもしれんのう。
隙あらば残りの傘を飛ばし、奴らを叩き割ってくれよう。(念動力1)


五条・巴
折角新年を楽しむ準備をしてたのに、こんな時期に暴れられるのは困るなあ。
季節外れの風鈴は眠っていて。

十数体いる上に攻撃も厄介だ。最低3体は確実に仕留められるように明けの明星で攻撃。
共鳴時、複数体の攻撃範囲に入ってしまわないようにユーベルコードを用いながら集中砲火を回避しよう。
前衛で戦う仲間が集中出来るように援護するよ。


伊兵・ミカ
集団行動なら!
同じことしか言わない子は怖いよね…絶対会いたくないや

さて、前衛で守り手で戦うよ
同じ前衛や、後衛で補助してくれる仲間を無敵城塞でかばっていく
間に合わない敵には、武器受けで受け流す
攻撃はできなくても、戦い方は如何様にもあるれ

美味しいうどん屋さんをだすお店を減らすわけにはいかないよね
がんばろう


曙・ひめ
新しい新年を迎えるためにも、一体残らず倒してしまわないといけませんね…!
わたくしたちが、お相手ていたします!

【鬼神変・改】を用いて戦います。
敵に気をつけながら近づいて、「先制攻撃」で先手を打ちましょう。
複数に攻撃された場合は、「なぎ払い」の「範囲攻撃」で対応いたしましょうか。
敵の攻撃をしっかり見て躱せるように、気をつけますね。動きが単純なので、見破れますよ!
敵の隙を突くことが出来ましたら「二回攻撃」で再び【鬼神変・改】を使用しましょう。


ヨド・カルディヤ
新年。
老体となれば、自身が重ねる年には頓着しなくなりますが……若き方々、特に子らにとっては、大変に大きな変化の到来。
今年の厄は今年のうちに。わたくしも、その通りといたしたく存じます。

戦闘の跡はあまり残したくないものの、事が事。
町中でなく、門の前ならば……多少の侵蝕には、目を瞑っていただけましたら幸いにございます。
(祈りを込めた刻印『rugăciune』へ血を吸わせ、撒き散らし、【紅き世】を発動)

この身が崩れるまで――お付き合いを、願いたく。
(戦闘力が増加すれば、多量出血は気に留めず、血により咢のような形状となった『rugăciune』で風鈴を喰らわんと。技能:覚悟・戦闘知識)


四十八願・狐倶利
狐倶利は兜風鈴達と相対して早々めんどくさそうに言葉を発した。
「強化やら範囲攻撃やら霊やら鬱陶しいわぁ。近づかんとけばええんやろ?」
猟兵達にそんな質問とも取れないような言葉を投げかけた後にニヤリと笑みを浮かべこう言った。
「なら、まとめてふき飛ばしたるわ。」
狐倶利は発言と同時に、巫覡載霊の舞を発動し、薙刀を構えた。
「わいが神霊体になったんやし、霊にもわいの攻撃は通るやろ。」
そんな謎の理屈を並べながら、狐倶利は薙刀による範囲攻撃と共に発生した衝撃波で兜風鈴達を薙ぎ払った。


芥辺・有
子供みたいな我儘にしてやられるのはね。せっかくの新年、憂いなく迎えさせてやんなきゃ、だろ?

囲まれることがないように位置取りに気を付けながら戦う。
逆に複数の風鈴どもを相手取れるような位置にあったなら杭を振り回しつつ2回攻撃や範囲攻撃でまとめて攻撃するのを狙ってみるよ。
長いこと風鈴の音を響かせている奴がいたらそいつを優先的に狙おうか。
基本的にはひとつずつ倒したいところだけど各々弱らせとけば他の猟兵が倒しやすくなるかもしれないしね。

敵の攻撃は鎖でその辺の奴を絡めとって敵を盾にする事で防ぎたいね。ついでにダメージが与えられれば一石二鳥ってやつか。



●季節外れの鈴の音
 それではよろしくお頼み申しますと、門番は緊張を隠せない声を掛けて門を閉じにかかった。軋みをあげて次第に狭まる町の景色の中に、手を引く母と供に駆ける幼子の姿があり、向かい隣の木戸へと声を掛け、避難を促す同心の男の姿がある。

「折角新年を楽しむ準備をしてたのに、こんな時期に暴れられるのは困るなあ」
 五条・巴(見果てぬ夜の夢・f02927)は溜息を吐いた。柔らかく浮かべた笑みこそ消しはしないが、目出度い日を前にオブリビオンの好きにさせるのは些か面白くない。
「子供みたいな我儘にしてやられるのはね」
「新しい年を迎えるためにも、一体残らず倒してしまわないといけませんね…!」
 芥辺・有(ストレイキャット・f00133)と曙・ひめ(春風・f02658)が巴に同意する。そうじゃの、とこちらも気持ちを同じくして、蛇の目模様の傘をくるりと回したのは多々良・円(龍眼・f09214)だ。
「年の瀬の惨劇なんぞ、許さんのじゃ」
 楽しく年を迎えたいと思う気持ちは皆同じと頷いて、琥珀の瞳は闇を見据える。
 それらの声を聞いていたヨド・カルディヤ(ヒドゥンブラッド・f02363)は門扉が閉じられるまでを映していた双眸を、異変を見せ始めた街道へと転じた。肩を並べた猟兵たちが口々に上らせる新年への思い。
「老体となれば、自身が重ねる年には頓着しなくなりますが……若き方々、特に子らにとっては、大変に大きな変化の到来」
 背にするのは、人の子がありふれた日々を営む場所。自身には然程思い入れがなくとも、皆が恙なく新しい年を迎えるのが最善には違いない。
「せっかくの新年、憂いなく迎えさせてやんなきゃ、だろ?」
 その為に、猟兵がここに居る。ヨドは有の言葉に全くの同意を示した。
「左様でございますね。今年の厄は今年のうちに。わたくしも、その通りといたしたく存じます」
 
ちりん、ちりん、ちりん、ちりん。

 門外に生じた黒い歪みから、ほろほろと零れる黒い塊。この国の武士が戦で被る鎧兜によく似た物が、次々と溢れては地面に転がる前にぷかりと浮いた。ただの頭防具でないのは、兜の中身が詰まっている事からも一目瞭然だっただろう。短冊も兜も主の力の片鱗たる狐火を纏い、見目の異質さとは裏腹の澄んだ鳴き声を上げている。
 隈取で飾られた三白眼で右を見て左を見て、町への侵入経路に憚り立つ猟兵を障害物と見定めると、瞬く間に取り囲むその数、十と余。

「おーおー聞き分けの悪い妖が居るみてえだな?」
 じりじりと縮まる風鈴どもの包囲の輪に、多々羅・赤銅(ヒヒイロカネ・f01007)は動じるどころかいっそ娯楽でも見付けたかのような一笑に付す。
「融通の利かなさというか、話を聞かないのもオブリビオンらしいというべきでしょうか……」
 物騒なペットですね、とアルトリンデ・エーデルシュタイン(神なき祈り・f00243)は兜風鈴を一瞥して率直な感想を漏らす。敵意をもめらめらと燃やして猟兵を炙らんとする、あの聞く耳持たなさは飼い主譲りなのかもしれない。
「ですが、どのような理由があれ人を傷つけるのは看過できません」
「そりゃその通り。困ったせっかちお狐さんだ。ここはおひとつ、ちぃと仕置きする他無ぇな」
 赤銅とアルトリンデが交わす言葉に、ひょこり、赤い頭と口を挟んだ少年が紡ぐ言葉は、微笑ましささえあるもので。
「美味しいうどん屋さんをだすお店を減らすわけにもいかないしね」
 がんばろう、と伊兵・ミカ(PigeonBlood・f05475)も意気込んで身構える。それに倣って赤銅が抜いた得物は、自分自身で打って鍛えた大業物。アルトリンデも聖銀で作られた長剣を鞘から抜いて備えた。
「強化やら範囲攻撃やら霊やら鬱陶しいわぁ。近づかんとけばええんやろ?」 四十八願・狐倶利(知識を求めて揺蕩う狐・f06377)は相対した兜風鈴を前に酷く大儀そうに言葉を発する。けれども猟兵たちへと問うそれは、正しく戦況を把握した者の簡素にして効果的な発想。
 そうして、猟兵の目が全て風鈴へと向いたのを皮切りに。兜風鈴は一斉に動き出す。
 鬨の声めいて鳴らす金属音は、十数が合わさり破れ鐘の濁りを辺りに響かせている。戦闘が、始まったのだ。
 
 戦う仲間の守り手として戦う。自分の役割をそうと定めたミカが、赤茶の髪を靡かせながら真っ先に敵の輪を崩しに掛かった。
 果敢に前へと躍り出たクリスタリアンの少年が宿すのは、鳩の血の呼称を冠する朱い石。猟兵たる力を振るえば、硬い宝石で構成されるその身体は更なる硬質に変化する。【無敵城塞】によって跳ね上がった防御力で、不壊金剛の盾となって兜風鈴数匹の接近を直接食い止めようと奮闘する。大きく迂回をして脇を通り過ぎようとする個体も居たが、そんな事態はとうに予測済みだったミカによって武器受けにより阻まれた。
 強引に突破しようとする風鈴が、弾き返されて鳴らす苛立った音。
「こっちは任せて!」
 例え攻撃はできなくても、それは同じ前衛や、後衛で補助してくれる仲間に任せればいい。一度に切り結ぶ対象が少なければ少ない程有利になるだろう。己に課した役目をひたむきに全うするミカが、兜風鈴の足並みを乱して各個撃破の流れを生んでいく。
 
 門前へと朱の色を添えるのは、一人ではなかった。
 
 自身の戦い方を顧みれば、戦闘の跡をこの地に残してしまうのは必至。それはヨドにとって好ましくない事象ではあったが、今は、事が事。
「……多少の侵蝕には、目を瞑っていただけましたら幸いにございます」
 誰にともなく向けた詫言。体内の刻印に込めたのは、誰も凍えぬようにとの祈り。注ぐのは、己の生き血。
 祈りは、命を対価に力と成る。
 振り撒く血液が朱と霞み、地へと浸み、板戸の門を俄造りの朱塗りへと変え、使い手の白い身体をも同じ色で飾り立てる。【紅き世】に用いられた血液は、傍目からにもその命が危ぶまれる量に見えたが、ヨド自身がまるで気にも留めていない。 蹌踉めくでもなく泰然と立っていられるのは、戦闘力の増加からか、内に秘めたる覚悟からか。
 血によって咢へと変じた『rugăciune』を以って迎え喰われた風鈴が、断末の音を鳴らせもせずに砕けて割れる。
「この身が崩れるまで――お付き合いを、願いたく」
 咀嚼され、粉々になる鈴の破片を赤く染め、尚も地へと滴るのは彼女自身の朱。
 
 有もまた、力を振るう為に自身の血を代償とする一人。
 囲まれないようにと、門を背にした位置取りをして兜風鈴との戦闘に臨んだが、それでも三体が有の左右と正面に分かれて到達した。
 牽制の意も込めて作り出した赤い杭の数は、敵の数を倍してなお余る。【列列椿】と呼ばれるそのままに、つらつらと並ぶ赤く鋭い椿色の垣根が、敵意漲らせる兜風鈴に狙いを定めて先端を向けていた。
 
 り、り、りぃ、り。
 攻めあぐねていた兜風鈴が、不意に大きく身震いをして、まるで発声練習でもしているかのように舌を揺らして鳴く。一匹が鳴けば、輪唱のように呼応して二匹、三匹、更にその隣と、波紋のように広がるおかしな鳴き方。あれもこれもが、一緒くたに音を響かせ共鳴振動で猟兵への対抗を始めようと身を揺すり、短冊を舞わせようとする。

「――させないよ」
 兜風鈴の長鳴きを警戒していた有が、不審な音の響かせ方をする敵へと杭を振るった。一体に留まらず、周りの風鈴をも巻き込んで振動を止めて行く。甲高い風鈴の音に代わって、瀬戸物を叩き割るのに似た音がそれぞれから一度、返す刀でもう一度ずつ。止めを刺すには至らずとも、最早高音が出せなくなった風鈴が体当たりを仕掛けに有へと飛んだ、が。
 じゃらり、手繰った『蚦蛇』がそれに追い縋って、絡み付く。一匹を絡め取って、もう一匹との間に置けば。がじゃんと哀れっぽい音を響かせて二匹の風鈴が衝突し、墜落した。
 
 りぃん、りぃぃぃ。
 兜風鈴は身を震わせて憤慨する。飼い主の食事どきの先触れとして訪れた町で、これほど抵抗を受けるなど聞いていない。どうにかこの不届者どもを倒さなければ、きっと、とてもきつい仕置きが待っている。
 
 もう一度、と共鳴を響かせようと兜を揺らした風鈴が、その視界に鋼色の一条を見た。
「ああやっぱり。当たりじゃね?」
 長鳴きをする風鈴は不穏に見えると、狙って踏み込み両断した赤銅の声。ヂチ、と半端な音を最期に、企みごと断たれた風鈴が、身の上下を別の方向に滑らせながら地へと落ちて塵と化す。
 共振する敵を標的と定めた赤銅の剣筋は、混じり気ひとつない一本気。斬って、斬って、斬り伏せ、斬り落とし、斬り払い。全てが疾く疾くと。刀身閃く度に拍子木を打ち鳴らし口上を付けても様になりそうな程の鮮やかさ。
 斬る、ただそれのみに傾注した人と刀剣の、他一切を削ぎ落とした強きを見せて魅せる【剣刃一閃】は、疲れ知らずの活劇を生む。兜の半ばまでを割られた一匹が、報復の鈴音を届けようと身を震わせたと気付いたのは、耳より目よりまず勘で。思考を挟まず見切った形無き反撃の音へと向けて、飾り一つない大業物を振り抜く純真無比の一閃が、斬と音立てて衝撃までもを両断した。
 
 味方へと余波が届く危険さえも一刀両断切に付す赤銅が剛のたたらならば、和傘を駆使して敵の攻撃を阻む円は柔のたたらと呼ぶべきか。
 
 刻々と生み出されては、ぱっと広がり大輪を咲かせる和傘の防壁は、ただの雨具とは決して侮れない堅固を誇る。【錬成カミヤドリ】の並べ立てた和傘は合わせて十三、ずらり連ねて守らんとするのは、自身であり仲間であり背に庇う町である。化け狐ともども、ただの一匹も通すつもりはない。
「皆が笑って初日を迎える、そんな未来を掴みとってみせよう」
 誓いを立てる声は柔和、中空を転がるように飛来する兜風鈴を見据える琥珀の目は鋭利。
 ――ちりりりぃぃぃぃぃん。
 鋭く鳴り響く害意の音。邪魔立てする傘向こうの円の身体を、共震に巻き込んで壊してしまえと。兜風鈴の目論見は、傘に到達した瞬間に霧散する羽目になった。少年がすいと翳した手の平から、次に生み出されたのは龍の波動。威力を風鈴の音と違わず同一にする精緻が、同時に傘へと届けば。ぱぁん!と拍手によく似た衝突音と供に風鈴の音は完全に相殺された。
 その結果を知っていた円に対し、効かないとは予想だにしていなかった兜風鈴は、次の手に移るまでの決定的な隙が生じていた。そしてそれを見逃す円ではなく、念動で放たれる傘の一突きを食らった風鈴は千々に砕け跡形もなく消えていくのだった。
 
 猟兵によって次々と砕かれた兜風鈴の数は、今や五指で足る。これは良くない、けれど退転は許されていない。数の不利を悟った風鈴どもが、コウ、と纏う炎を強くした。
 ――ォォ、ぉぉお。
 空気を焦がして燻る黒煙より、黄泉路を遡行した霊魂が、怨嗟の呻きと供に姿を見せる。ざあと吹き付ける生臭い風。ざんばら髪の落ち武者たちは、兜風鈴の召喚に応じて続々と数を増やし、手に手に弓を刀を持って見える猟兵全てに踊りかかった。
 
 ――かのように見えた。
 
「……矢張り、物騒なペットですね」
 怨霊まで呼び寄せるとは。抜き身の剣を亡者へと向けたアルトリンデが、呆れた表情と声音で再び酷評する。亡者など取るに足らないとばかりに発動させた【聖光示すは神苑の階】が一帯へ聖印を刻み、おいそれと死者には踏み入れない聖域を作り出した。
「天よ光を与えたまえ。我らが闇に惑わぬよう、神の庭へと至る道を照らしたまえ」
 神の威光を示す眩さが降り注ぎ、聖なる光と聖句に灼かれた亡者は、恨み言の一つも残せず消滅していく。
 光から逃れられたとしても、破魔の力を込められた剣を振るうアルトリンデの間合いの中でその姿を維持できる亡者などただの一体も存在できなかったが。天への道すら切り開き、亡者を送るその姿は宛ら天使の如く。その身に流れるヴァンパイアの血統を、今の姿から誰が知り得ただろうか。神々しささえ漂う少女は、兜風鈴が呼び寄せた悪しき霊の半ばを削り切った。
 
 そして、もう半ばと相対したのは、多数の亡者を前にしても飄々とした態度を崩さない狐倶利だった。次々と亡者を呼び寄せ続ける兜風鈴には、亡者を退けなければ攻撃は届かない。
「なら、まとめてふき飛ばしたるわ」
 簡単な事だと言い放つと同時に、【巫覡載霊の舞】発動し、薙刀を構える。
 神霊体と化した狐倶利の神々しさもまた、アルトリンデに引けを取らない。亡者の攻撃すらものともせずに、構えた薙刀を大きく払った。
「わいが神霊体になったんやし、霊にもわいの攻撃は通るやろ」
 その人生において、ただ只管に知識を追い求め続けていた狐倶利の慧眼は、悉く的を射る。薙刀より放たれる衝撃波が、亡者とそれを操る兜風鈴を諸共薙いで砕いて無へと返す。刻々と寿命を削られ続ける大技を、そうとはおくびにも見せずに使いこなして、すっきりしたやろと狐倶利は笑う。
 
 残るは、ミカが身を挺して抑え続けていた数体のみ。
 
 どうにか猟兵の一人だけでも倒そうと、既に敗残の兵の思惑を抱えた兜風鈴は、ばちりと空中へ轟いた鋭い音に一瞬動きを止めた。複数の敵の攻撃範囲に入らないようにと気を配りながら応戦し、撃墜を重ねていた巴の姿は、今や風鈴どもの真横に在った。狙いを定めて眇められたプルシアンブルーの瞳は、正確に風鈴までへと届く軌道を弾き出す。
「季節外れの風鈴は眠っていて」
 柔らかく告げる死の宣告。【明けの明星】の呼び名を持つ、裁きの雷ともなる彗星の如き矢が、兜を目掛けて引き絞り、放たれた。
「ほら、煌めく夢を見せてあげよう」
 例え夢を見られたとして、それは最早風鈴どもに取っては死出の餞でしかなかったが。
 兜を射抜いた矢は無数。甲高い音を響かせながら、雨霰と注ぐ矢に串刺しにされた風鈴の殆どが、落星が止む頃には姿かたちすら失っていたのだった。
 
 辛うじて攻撃範囲から逃れた最後の一体が、この集団を相手取っても勝てないと漸く悟ったのは幸か不幸か。猟兵達の手の届く範囲から逃れようと、此方も放たれた矢のように飛んで距離を稼ごうと動いた。こうなれば、門の中へと逃げ込んで、町人を盾にしながら飼い主に縋るしかないだろう。
 けれども風鈴の音すら忍ばせて一気に抜けようとしたその目前に立ち塞がったのは――小さな子供。
 
「わたくしが、お相手いたします!」
 意気揚々と、兜風鈴の退路を塞いで名乗りを挙げる。物言いは、天真爛漫にして純粋無垢。反して、着実に敵の隙を窺い、その動きを単純と見切った冷静さは確かに猟兵と呼ぶに相応しい。
 苦し紛れの体当たりはひらりと苦もなく躱されて、兜の裏を晒す羽目になった風鈴の末路は火を見るよりも明らかだろう。
 この度集結した猟兵の中での最年少、しかし敵とする側からしてはそれは何の救いにもならない。小柄な身体で顕現させたユーベルコードは余りにも容赦の無い一撃を風鈴に齎すものだった。可憐な姿は変わらないまま、片腕だけが異形を形成しながら膨れ上がる。
「わたくしたちを、羅刹を、舐めないでください!」
 一駆けで兜風鈴に肉薄したひめが放つ【鬼神変・改】が、いとも容易く兜を砕く。それだけでも、消滅に至るには十分過ぎる攻撃だっただろう。けれど――、それはもう一度。
 最早浮力すら失い始めていた襤褸兜を、【鬼神変・改】が地へと疾く叩き付ける。
 
 ヂッ!!
 
 鈍い音を最期に、砂粒になるまで砕けた兜風鈴は黒い塵となって風に舞った。
 
 全てを屠った静寂は、まだ長くは続かない。
 
 ぼう、と巨大な狐火が、先程まで兜風鈴を生み出していた歪みを焼いた。氷のように冷たく、高温の炎のように青い、物の怪が生じさせる炎の中から弾みを付けて飛び出したのは。
 狐の耳と大きな尻尾を持つ、可愛らしいと形容して差し支えのない少女だ。
(同じことしか言わない子は怖いよね…絶対会いたくないや)
 対面する前から、ミカは明日香と呼ばれるその狐に苦手意識を持っていたが。会いたくないというその願いは、叶えられなかったようだ。
 
 「――リンリンちゃん!!」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『『妖狐』明日香』

POW   :    妖狐の炎
レベル×1個の【妖狐の力 】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
SPD   :    野生の開放
【真の妖狐の力 】に覚醒して【九尾の狐】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    スコールシザーズ
自身が装備する【鋏 】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
👑17
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠暁・碧です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●幕間

 飛び出してきたのが唯の少女に見えたのは一瞬の事だ。
 この国で妖狐は珍しくもないが、可憐な見目に反して強烈に漂う香は酷く血腥く、猟兵達の鼻を不快で突いた。
 先に送り出したペットの気配が途切れたと、慌てて顔を出してみればこの始末。そこに揃っているのは見知らぬ面々と、地面へと点々、僅かに残るペットの破片。

「嘘……リンリンちゃんたちは?もしかして」
 明日香の花のかんばせに浮かぶ色は、驚きから猜疑へ。
「あなたたちが、殺したの?」
 そして、昏い怒りへと。

 金属が擦り合わされる音が響いた。女狐が提げていた籠から取り出されたのは、ようく磨いだ大きな鋏。

 どんな首だって、ちょきんと切り落とせることだろう。
アルトリンデ・エーデルシュタイン
大事な者が失われる悲しみ、それが分かれば非道を改める事もできましょう。ですが、オブリビオンとなっては望むべくもない事、でしょうか。
他の人が立ち回りやすいように、剣と斧槍で飛んでくる鋏などを受け、弾きながら生まれながらの光で傷ついた人の回復を行います。必要でしたら他人をかばう事も躊躇わずに。
皆さん、治癒は私が行います。天に示す御旗の元、存分に戦ってください。周囲を鼓舞して戦意を高く維持できるように。あとは、私の体力が何処までもつか……いえ、たとえ消耗が激しかろうとも誰かが立つためならば何を躊躇う事がありましょうか。


芥辺・有
……物騒なことで。ペットを壊されて怒るのは勝手だけど。こっちもお前を仕留めなきゃならないから。

2回攻撃やフェイントなどで手数勝負。攻撃範囲が広そうだし、なるべく攻撃させたくないからね。
ひとつのところで戦わず、移動しながらなるべく死角を狙って攻撃するよ。

また隙を見て属性攻撃で強化した白蛇を召喚して、雷纏う尾で薙ぎ払わせることで痺れさせたり、毒牙で噛みつかせることで動きを鈍らせるようにしたいね。

基本的には見切りで攻撃は避けられるように気を付けるけど、避けきれないようなら蹴りや衝撃波で叩き落とすのを狙うよ。


伊兵・ミカ
!?女の子
あれが、ボス?
(明らかに顔が歪む)

倒すしかないよね
気を引き締めていくよ!必ず倒す!

前衛、守り手で戦うよ
武器受けで敵の攻撃を受け流す
受け流す攻撃もないかも知れないけど、守るなら任せて
俺を狙ってもらうために、前衛に前衛に向かう

敵が本来の姿になったら、綾止刺剣で攻撃する
悪いけど君には消えてもらう!



●道を敷く 
しゃりん、しゃりん、しゃりん。

 刃裏を擦り合わせる、不快を呼び寄せる金属音。指を通した鋏を何度も開閉させながら、明日香は緩りと一同を見渡した。尖らせた艶やかな唇、寄せられた細い眉。一見は年頃の少女が拗ねている表情に酷似していたけれど。撒き散らす血臭と殺気は、人ならざるもののそれ。

「……折角」
 しゃりん。

 擦過の音に喚呼されて、明日香の周囲に拳大の狐火が生じた。空気を揺らし、常人ならば忽ち骨まで炙られるのだろう焔の青。一つ生れて二つに別れ、四つに八つにと増殖し、瞬く間にその数は明日香を取り囲む猟兵の数を大幅に上回る。
「折角おいしいもの、食べに来たのに。リンリンちゃんにお店探して貰おうとしたてのに。酷い」
 楽しみを邪魔されたばかりでなく、手飼いまで壊されたと詰る声に合わせ、狐火が大きく燃えて不興を熱で伝えてくる。

(!?女の子……あれが、ボス?)
 伊兵・ミカ(PigeonBlood・f05475)は、町へ惨劇を齎す元凶の姿を前にして、あからさまに顔を歪めた。ただの少女のようなその姿と、纏う気配との乖離を飲み込むのに苦労すしていた。
「大事な者が失われる悲しみ、それが分かれば非道を改める事もできましょう。ですが……」
 アルトリンデ・エーデルシュタイン(神なき祈り・f00243)も、幾分複雑そうにそう口にする。目の前に居るのは、骸の海より蘇ったもの。悔い改める機会を永遠に失った、終わりの残滓。そうとなった今では、差し出せる手段が一つしかない事を、聖者として戦ってきた彼女はよく知っていたけれど。
 アルトリンデの声を受けて、妖狐は尾を揺らしさも可笑しげに笑い声を響かせた。
「改めるのは、あなたたちよね?」
 すいと明日香の鋏の先が猟兵を指すと、狐火が一斉に指された目標目掛けて飛来する。
「させません!」
 はっと、弾かれたようにアルトリンデが狐火の前へと出た。仲間を守りたい。その思いは葛藤を凌駕する。大きく前に踏み出すと、襲い来る狐火を剣と斧槍で打ち払う。焔の中へ核でも持つかの手応えを感じて切っ先を向け、真上から斬り下ろす。両断された狐火が再生しないと見て取れば、他の猟兵が立ち回り易くなるようにと、盾となり焔を可能な限り引き受けて、数を減らそうと奮闘する。
 
 アルトリンデが身一つで作り出す防壁を越えて、他の猟兵へと届く狐火も見られるが――易々と灼かれる猟兵が居る筈もない。
「……物騒なことで」
 金の瞳に映る青。それが白い貌を焦がす前に、焔を見切った芥辺・有(ストレイキャット・f00133)は無造作に手の平を差し出した。そこから生まれた衝波が、青い焔を呑んで、彼女への攻撃を許さない。忽ち霧散する狐火の余熱に眉を寄せながら、有は気怠げな呟きを舌へと乗せる。
「ペットを壊されて怒るのは勝手だけど。こっちもお前を仕留めなきゃならないから」
 オブリビオンの見目に惑わず、己の成すべきを。手にする得物はどれも黒を纏い、他の色に染まらない。
 狐火の軌道を見切りながら、隙を窺う有を見て、ミカもその前へと踏み出して行く。
「……うん、そうだよね。倒すしかないよね」
 連戦の中で、自分の役割を守り手として貫くことを選んだ少年は、アルトリンデに大きく減らされた狐火の隙間を掻い潜り、炎を繰る明日香の眼前に飛び込んだ。
「気を引き締めていくよ!必ず倒す!」
 気迫込めた声を上げて、明日香が牽制にと振るった鋏を長剣で受ける。
 ガギィ!と鈍い金属音が辺りに響いた。華奢な少女の扱う裁断具は、そうとは思えない程に重い手応えをミカへと伝えた。
 強敵だ、とは切り結んだ少年だけでなく、この場に居る誰もが実感し始めていたが、猟兵がそれで怯む筈もなく。ごく自然に誰もが連携を意識して攻勢の流れを作り上げていく。
 ミカが受け流しきれなかった攻撃で傷付けば、狐火を潰す傍らでアルトリンデが【生まれながらの光】で癒し。思うように猟兵を嬲れない明日香が苛立った声を上げる。
「もう!なによ邪魔!あななたちうるさいの、消えて!」
 感情に任せた大振りの一撃をミカへ向けて薙いいだ、その隙を。死角に回り込んだ有が突く。
「――動くなよ」
 【厳つ霊】召喚した巨大な白蛇が、大きく口を開けて毒の滴る牙を見せた。しゅるしゅる空気を震わせて鳴く蛇を、明日香の背後から嗾けた。
「い……っ!」
 振り返った明日香は咄嗟に身を逸らせて牙を避けたが、手数で勝負に出る有の策はそれだけで終わらない。次の一手で閃いたのは雷纏う尾の一撃。強かに肩口へと食らって顔を歪めた敵にへと、更に畳み掛けたのはミカの【綾止刺剣】だ。
「これでも、くらえ!」 
 少年の剣が、それを受けた鋏を両断する。その衝撃を受けて明日香自身も体勢を崩す。それを見て取ったアルトリンデは、消耗を厭わず癒し続けて乱した呼吸のさ中に、周囲の猟兵を鼓舞するのだった。

「皆さん、治癒は私が行います。天に示す御旗の元、存分に戦ってください!」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

五条・巴
わがままなお嬢さんのおでましだね。
その大きな鋏は不似合いだよ。血なまぐさい匂いもね。
仲間と連携して早く倒してしまおう。
複数飛んでくる鋏も炎も邪魔だ。
仲間が本人だけに攻撃を集中できるように矢を放ち続けて相殺していく。
隙を見つけたら達人の智慧で攻撃を180秒止め、一斉に攻撃するチャンスを作るよ。


四十八願・狐倶利
女狐が鋏を取り出してから、狐倶利はしれっとした顔で宣った。
「あぁ、あれお嬢ちゃんのペットやったんか?ここにおった子達ならどっか行ってしもうたわ。せやからそないな物騒なもんはしまってくれへん?なんなら探すの手伝おか?人手は多いほうがええやろ?」
そのような言葉をかけながら狐倶利は術の用意をしていた。
「お嬢ちゃんのペット見つけたら、祝いにきつねうどんでも食べへん?美味しいとこ知ってるんよ。」
女狐を誘惑していた狐倶利だが、準備が完了するとユーベルコードを発動させた。
「わるいなぁ、お嬢ちゃん。」
『狐疑逡巡惑魂』
先程の言葉と共に放っていた妖気が女狐を縛りあげた。



●重ねる謀略
「うっざい……嫌い、嫌い嫌い!死んじゃいなさいよ!あんたたちみんな!」
 全く自分の思い通りにならない猟兵達に、明日香がぶわりと毛皮を膨らませて憤りを撒き散らす。切り結んでいた猟兵達から跳び退って距離を取ると、斬り付けられた肩を怒らせて歯を剥いた。猟兵を睨む目は激した感情そのままが宿って鈍く光り、明日香自身が妖しの焔と化すかのように、その矯躯が輪郭を暈す程の妖気を立ち昇らせる。
――狐の尾が、一つ一つ増え始めているのは真の力の解放を目論むが故の。

「……わがままなお嬢さんだね」
 ざり、と街道の土を踏み締めて、明日香を阻止せんと動いたのは五条・巴(見果てぬ夜の夢・f02927)と、悠然と白い尾を揺らして続く妖狐、四十八願・狐倶利(知識を求めて揺蕩う狐・f06377)だった。
「その大きな鋏は不似合いだよ。血なまぐさい匂いもね」
 絶ち折られ道に転がる鋏を一瞥して、柔らかい微笑を明日香へ向ける巴の姿は、怒りに油を注ぐには充分過ぎた。そしてそれは、仲間と連携して明日香の力を削ぐ為の置き石となる。
「――なら、あんたに鋏は使わないであげる。燃えちゃいなさい!」
 再び生み出した狐火は、明らかに火力を増している。巴は三日月の意匠を持つ、愛用の紫弓に矢を番えると、引き絞って数多浮かぶ狐火の群れへと狙いを定めた。
 ひゅ、と空を切る音がして、明日香の真横に浮いていた狐火が一つ、焔の芯を射られて四散する。
「沢山飛んでくる炎も邪魔だね」
「く……もう絶対ゆるさないから!リンリンちゃんを殺しただけでも最低なのに!!」
 煽り文句のおまけに添える一笑、そして再び番える矢。頭に血が上った明日香が、巴へ向けて腕を振ると、一斉に狐火が殺到する。その焔よりも深い青の双眸は、柔らかく、しかし冷静に、放たれた狐火の動きを見抜き始めていた。
 
 一方狐倶利も、黙って巴の背後に居るだけではない。狐火が次々と射られる様を見物していたが、焔が途切れた合間を見計らい、徐にしれっとした顔を明日香へと向ける。
「あぁ、あれお嬢ちゃんのペットやったんか?ここにおった子達ならどっか行ってしもうたわ。せやからそないな物騒なもんはしまってくれへん?なんなら探すの手伝おか?人手は多いほうがええやろ?」
「……へっ?」
 俄には信じられないような話に、思わず気の抜けた声を出して狐倶利に気を取られる明日香。――途端、ふっと勢いの緩んだ狐火に、見透かす眼差しを注いでいたのは巴だ。まだ兜風鈴が殺されずどこかに居るなどと、常ならば嘘だと見抜ける筈の単純な事実。それを『もしかして』と僅かでも明日香に思わせられるのは、狐倶利の詐術の賜物だろう。人を誘惑し、欺き、惑わせる妖狐の本領を存分に活かし、さも親切な顔をするその裏で術の発現に備える。
「お嬢ちゃんのペット見つけたら、祝いにきつねうどんでも食べへん?美味しいとこ知ってるんよ」
「……えっ。……え?」
 きつねうどんと聞いて、狐倶利の誘いに飛びつきはしないまでも、明日香の耳がぴんと立って興味を惹かれている事を如実に物語る。本当に?と物語る明日香の視線を受けて、真白の妖狐は嫣然と微笑んだ。そして、告げる。
「わるいなぁ、お嬢ちゃん」
 言葉と裏腹、全く悪びれずに発動させる【狐疑逡巡惑魂】が、真の妖狐の力に覚醒しかかっていた力を妖気で縛る。そして。
「その狐火、当てる相手から気を散らすと大して怖いものじゃないんだね」
 巴が、敵の操る術の穴を言及する【達人の智慧】を重ねた。巴の前方に顕現した守護明神が、無数の狐火を全て掻き消していくのを、明日香は驚愕の色を湛えた目に映す。

 巴の使う【達人の智慧】が持つのは180秒、狐倶利に至っては、力を使い続ける限り命を削り続ける代償の重い術。有利でいられる時間はごく短い。今だ、と攻勢に転じる合図を出したのは――どちらが先だったのか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

終夜・還
曙・ひめ(f02658)に呼ばれて来たぜ。

……へぇ。人の命刈り取ってる奴が何言ってんだか。ひめ、オイタする悪い小娘にお仕置きしてやろうぜ。折角の年の瀬にこんな悪い事をするとは、許しちゃいけねえもんなァ。(やり過ぎ、はスルー)


ほれ、その鋏こっち向けてみな
全部叩き落として使えなくしてやるよ
丁度血生臭さいんだ、俺としちゃあ最高の舞台だぜ。精々愉しく踊ろうぜ?

あ、そうだ。狐うどん食いたきゃキチンと店の入り口から入って注文する事をお勧めする。次があればだがな
蕎麦の季節だからとうどんが無い訳でもあるまいに…

UC:『血の宴』を使用
技能の見切り、二回攻撃、激痛耐性、怪力などを駆使して肉弾戦にて鋏を叩き落とす


曙・ひめ
終夜・還(f02594)とご一緒に。
お揚げ…それほど好きなのですね。
ですけど、街一つを壊滅させるワケにはいきませんから!
還様、悪いことをする子にはお仕置きと参りましょう。でも、血の臭いがあるからといって……やり過ぎないでくださいね?

近接戦で戦います。
明日香の隙を見て近づいて、【鬼神変・改】を「先制攻撃」で、明日香より先に放ちます。「2階攻撃」や「吹き飛ばし」を使用して、追撃もかましましょう。
妖狐の炎が襲いかかってきたら、く明日香を盾にして回避しますね。(敵を盾にする) 
「残像」を見せる等して撹乱することも、忘れませんよ。
「火炎耐性」もあります。早々簡単にはやられません!



●姫と従者
「お揚げ…それほど好きなのですね」
 曙・ひめ(f02658)が、鬼気迫る明日香の剣幕を前に、やけに長閑な感想を漏らした。終夜・還(一匹狼・f02594)がそれを普通に聞き入れているのは、信頼関係と呼ぶのであろう、彼女との浅くはない間柄のお陰か。
「ですけど、街一つを壊滅させるワケにはいきませんから!」
「おー。折角の年の瀬にこんな悪い事をするとは、許しちゃいけねえもんなァ」
 気合は充分。悪い子にはお仕置きを、と意気投合する二人は緊張とは無縁の空気で明日香と対峙する。

「どうして、どおして、明日香の邪魔、するの?……意地悪されただけ、切り刻んでいいよねぇ?」
 幾重にも力を封じられ、それでもゆらりと身を起こした明日香が、軋るような声音で吐く呪いの言の葉。一つたりも召喚が叶わなくなった狐火に代わり、虚空より引きずり出したのは銀色の刃の長い鋏だ。姿を見せた数は、焔を呼んだ時と同程度。大きく二つの刃をを開いた形で、明日香の周りに浮かんで並ぶ。
「……へぇ。人の命刈り取ってる奴が何言ってんだか」
 明日香の呪詛を一笑のもとに片付けると、先に敵との距離を詰めようとしたのは還が先だ。その背中に向かって、慌てたようにひめが声を掛ける。
「でも、血の臭いがあるからといって……やり過ぎないでくださいね?」
 還の身を案じる声は、確かに彼へと届いた筈なのだが。返事としては何も返って来なかった。お小言を完全にスルーした還は、明日香を楽しげに挑発してみせる。
「ほれ、その鋏こっち向けてみな。全部叩き落として使えなくしてやるよ」
 丁度血生臭さい此処は、還にとって最高の舞台だと。指先で殺意の刃を誘えば、望み通りにと鼻白んだ明日香が還を左右から串刺しにするべく、速度を乗せて鋏を飛ばす。
 ジャリィン!と高らかな音立てて刃を弾いたのは、瞬く間に強化人狼へと変じた彼の鋭い爪。【血の宴】によって強化された身体は、絶え間なく降り注ぐ刃を薙ぎ払い、例え刃がその身を掠めたところで、激しい痛みをものともしない強靭な肉体の前では鋏の方が刃毀れを起こす始末だ。

 ――精々愉しく踊ろうぜ?
 黙してなお語る、獣の瞳。

 「この……っ!」
 念力で鋏を飛ばし、自らの手で振るってもまだ拮抗する男の力に歯軋りする明日香の背後に、するりと滑り込んだ小柄な影に気付いたのは還だけだ。
 妖狐に気付かれるより早く、ひめが繰り出す先制攻撃。【鬼神変・改】により巨大な異形のものと化した腕で、強かに明日香の背に重い一撃を放つ。
 ぐぅ、と鈍い呻きを上げた明日香が、振り向きざまに念力で飛ばした鋏はひめの残像を切り裂くのみ。軽やかに回避して、少女は還の隣に並び立ち、阿吽の呼吸で明日香へ踏み込む。
 一瞬だけ、互いに視線を交わした。何を言わずとも息は合う。同じ戦場を、修羅場を、幾度となく潜り抜けてきた二人が放つ同時攻撃。強化された狼の爪が、鬼神と化した少女の腕が、明日香を大きく跳ね飛ばした。

「…あ、そうだ。狐うどん食いたきゃキチンと店の入り口から入って注文する事をお勧めする。次があればだがな」
 還が明日香へ掛けた声は、果たして届いたものなのか。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヨド・カルディヤ
嗅ぎ慣れてはいても、不快に変わりはございませんね。
……とはいえ、わたくしが言えた義理でも。
(未だ滴る自身の血を軽く払い)

先の風鈴につきましては、どうかお許しいただきますよう。
貴女方が「厄」であるからには、仕方のないこととご理解いただければ幸いにございます。
――いただけなくとも、構いませんが。
(咢と化したままの刻印、兼獣奏器から。唸るような吠え声を響かせ、禍々しい気配の大狼を呼ぶ。技能:楽器演奏)

では、わたくしに続きなさい。
……ただし、敵存在以外の破壊は最小限とするように。頼みましたよ。
(刻印の咢で食みに、従えた大狼の【獣老爪】で破壊に。技能:動物と話す・戦闘知識・2回攻撃)


多々羅・赤銅
おお、私らお目当の狐の嬢さんのお出ましか。
そうさ私らが壊した。お前の大切な子達を殺した。私らにゃ害悪だったんだ、許せたぁ言わねえが同じ彼岸には送ってやるよ。

味方を庇うような剣戟といこう。
鋏は急所のみ譲らねえが無理に捌ききりはしない。
刻まれる私に油断しろ。
飛び散る私の血は傷ついた仲間を癒すだろうさ。
良い匂いだろう?酒でも呑んでりゃもっと香ったが
それはこの後のお楽しみといこう。ひひっ。

(血にまみれ、妖を斬りて尚、隣人を癒す鬼が、多々羅赤銅である。)



●朱と朱
「きゃあぁぁぁぁ!!」
 猟兵達の相次ぐ攻撃に、遂に明日香の膝は折れる。跳ね飛ばされて地へと転がり、傷に塗れた身体を起こそうとして、散々に痛めつけられた四肢を動かすのが容易でない。くぅ、と喉を鳴らして顔を上げた先、居るのは猟兵、猟兵、敵、敵敵敵テキ――。

「おお、私らお目当の狐の嬢さんのお出ましか」
 己の間合いに転がり込んできた明日香へと、多々羅・赤銅(ヒヒイロカネ・f01007)は大いに歓迎の声を上げる。数歩の距離を置いて、ヨド・カルディヤ(ヒドゥンブラッド・f02363)もまた、咢の届く範囲に捉えた妖狐に鋭い眼光を向けていた。
「嗅ぎ慣れてはいても、不快に変わりはございませんね」
 元より撒き散らされていた血臭は、今や妖狐自身の傷によってその濃度を増している。衣を着せる気もない言葉で零した所感は、直ぐに、自らの出で立ちを見下ろして少しばかりの遠慮を足すことになったが。
「……とはいえ、わたくしが言えた義理でも」
 ヨドが払う手より、未だ滴る朱の色。

 狩られる、と明日香の本能が脳裏で警鐘を喧しく鳴らす。手負いの獣じみた挙動で跳ね起きると、散らばった鋏を再び念動で掻き集め始めた。未だ意のままに操れるのは数にして十と少し。
「リンリンちゃ……」
 戦力が足りないと、思わず口にしたのは手飼いの呼び名。まだ生き延びているかも、などと縋る声にいらえは無い。代わりに応えたのは、真っ向から刀を構えた赤銅の苛烈な斬撃。
 が、ギィッ!
 三本束にした鋏が、それを受け止めきれずにバラバラと金属片を地へと撒く。
「やっぱり……やっぱりあんた達が殺したんだ!」
 ただの一つたりとも姿を現さない兜風鈴に、激した明日香は猟兵達へと跳び掛かる。

「そうさ私らが壊した。お前の大切な子達を殺した」

「先の風鈴につきましては、どうかお許しいただきますよう」
 
 明日香の問いに重なる声が、ふたつ。

「貴女方が『厄』であるからには、仕方のないこととご理解いただければ幸いにございます」
「許せたぁ言わねえが同じ彼岸には送ってやるよ」
 異句異音。赤銅とヨドが発した言葉は些か異なりはしたが、明日香に齎すだろう結果は、同じもの。
 金切り声を上げた妖狐が振り翳した鋏の双刃を、味方を庇うように赤銅が受け止める。時間差で降り注ぐ念動の鋏は、往なすべきものは往なすが、急所を外す軌道の刃は敢えて食らう。ぱっと飛沫く朱の珠は、惜しみなく振舞う【祈酒】。隣人を癒しながら、猛る獣を血に酔わせる。
 刻まれる私に油断しろと、明日香を引き付けるその様は、献身と呼ぶには凄絶な――。

 血の香を連れて生み出される隙を、ヨドは獣を呼ぶ為使う。咢の形状を保ち続ける刻印、兼獣奏器より鳴り響く音は唸るような吠え声。禍つ気配は呼び出しに応えて四肢を持ち、異形の大狼となってヨドに付き従う。
「では、わたくしに続きなさい。……ただし、敵存在以外の破壊は最小限とするように。頼みましたよ」
 命じる声を、大狼は理解する。それを確認するまでもなく地を蹴ると、赤銅に気を取られている明日香へと回り込み、ヨドは刻印の咢をその細い胴へと喰らい付かせた。
「ぎっ……!!」
 濁った悲鳴は、大狼の【獣老爪】が引き裂いて短く切れる。叩き付ける一撃は明日香の身体ばかりでなく地をも穿ったが、それでも狼としては上出来なのだろう。被害を最小限に抑え、赤銅を巻き込む事もなく正しく明日香のみ屠る主従もまた、血の色を新たに纏った。

 身の削り方は違えども、纏う朱を同じくした二人の猟兵によって、妖狐明日香は骸の海へと追い返される最後の一押しを受ける事となる。
 此岸に繋ぐ最期の細い糸を絶ったのは、妖斬りの鬼が放った一閃。悲鳴もなく、絶望もなく、あっけないほど速やかに訪れた終わり。
 妖狐の身体は、手飼いと同じく形を失い風に攫われて、後に残るは――何もなし。

●一難去りて
 そして平和は訪れた。
 町の外から物騒な音が聞こえなくなったと、そっと木戸から首を出した門人はさぞやぎょっとしたことだろう。
 街道の土を染める色は、夕陽に浸かるよりもなお赤く。けれどもそれは、確かにこの町を救った退魔の朱色だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『お正月!』

POW   :    ご馳走を食べる

SPD   :    凧揚げや羽根つき、カルタなどで遊ぶ

WIZ   :    初詣に行く

👑11
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●かくもめでたき初春に
 固く閉じていた門扉が大きく開かれる。
 戦いを終えた猟兵を待っていたのは、固唾を呑んで町の命運を案じていた人々の、安心と感謝に満ちた歓待の空気だった。
 有難うございます、有難うございます、折しも明日は目出度き年の始まり、どうぞ本日は御身をゆるりお安めになって、供に祝いの日を迎えて頂きたい――。
 老いも若きも口々に、猟兵の手を引き袖を引き、慶びを分かつ一時を希う。
伊兵・ミカ
WIZで初詣する

さい銭はご縁がありますように、と5円
(今より不幸になりませんように。あとほんの少しでいいのでラッキーでありますように)

願うことはたくさんあるけど、今はこれだけでいいや

(助けてくれてありがとう神様)

まぁ助けてくれたのが神様でなくてもお礼はしたいはしたいけど
欲張るのはよくないし、願い事もしたしさっさと帰ろうっと

…ああ、おみくじは…
悪い結果がでると立ち直れないからいいや

また来年よろしくお願いします


芥辺・有
ずいぶんと賑やかなもんだ。……騒がしいのは得意でもないけど、折角だしちょっと寄らせてもらおうか。

その辺をふらふら歩きながら町の中を眺めてみるよ。
……酒とかあんのかな。お神酒とか、お屠蘇とか、だっけ?そういうの。

あとはふらっと適当に神社でも行ってみて。初詣、っていっても神様に願うような質でもないからね。
……まあ、折角だし、おみくじでも引いてみようか。




ヨド・カルディヤ
初詣……一年が平穏であるようにとの願掛け、でございましたか。
善神の加護というものは、世界が違えど変わらず有難きもの。
わたくしも一度、参らせていただきましょう。

その前に、どなたかお詳しそうな方に、参拝の作法などご教授願いたく。
『郷に入れば郷に従え』という言葉を聞いたことがございます……いつか、子らも必要とするやもしれません。
(学べば、『experiență』、己の知識を詰め込んだ教科書へ書き加えておく。技能:世界知識・礼儀作法・情報収集・学習力)

(無事参拝できたならば、祈願を)
(「この世界に、そして叶うならば他地にも、生きる人々の日常が穏やかであるように。子も、誰も……害されぬ未来を、どうか」)



●年の初めに
 短い石段を登って、鳥居を潜り抜け、参道向こうには大きな拝殿。
 厄を退けた町の神社は、常よりもずっと新しき年の始まりを喜ぶ色に溢れている。

 ヨド・カルディヤ(ヒドゥンブラッド・f02363)にとって、この国に訪れた新年の装いはどこもかしこも目新しい。
 例え世界は違えども、善き神の加護は有難いもの。この機会に参拝をと、思い立って足を進める参道の石畳。行き交うの人の流れを妨げないよう参道の脇にて足を止めたヨドは、辺りの様子を暫し窺う。
手水舎で清めをする参詣客、境内に幾つも並ぶ出店の数々、きんと冷えた風にはためくのぼり旗。サムライエンパイアの、ハレの一日。
 一人佇む猟兵の姿に気付いたのは、通りすがったこの神社の禰宜だった。どうかなさいましたか、と白髪頭の男が浅葱の袴を捌きながらにヨドへと柔和な声を掛ける。渡りに船とばかりに、ヨドは折り目正しく挨拶をした後に首肯した。
「よろしければ、参拝の作法などご教授願いたく」
 郷に入れば郷に従えという言葉を聞いたことがございますので、と次ぐ言葉に、お安いご用ですと応じた男は道案内も兼ねながらに、手順を追って解説していく。
 手本の仕草を見、説明に耳を傾け、その都度に手元の書物――『experiență』へと新たな知識を書き綴る。いつか子らにも必要になる知識かもしれないと、残すもの。
 熱心ですなと目元に笑み皺を寄せた禰宜は、拝殿の前での別れ際に、ヨドへ4文銭を手渡そうとする素振りを見せた。遠慮の声と、見通しが良いと験を担いで賽銭は穴開きの銭を使うものなのですと講ずる言葉は、さてどちらが強かったのか。
 ともあれ、知識を得て礼儀作法にも長じたヨドは恙なく参拝の手順を踏んだ。
(この世界に、そして叶うならば他地にも、生きる人々の日常が穏やかであるように。子も、誰も……害されぬ未来を、どうか)
 ヨドが祈るその後ろでは、親に手を引かれた幼子の、まろび笑う声が響いていた。

 一夜明けてすっかり活気を取り戻した町を、芥辺・有(ストレイキャット・f00133)は緩やかな足取りで散策する。
 新年早々に開けている店も少なくはなく、客を呼ぶ声は通る道の其処此処から。その上町を危機から救った猟兵の一人である有の姿を忘れるなどと、そんな恩知らずの町人はいやしない。タダでいいから持って行ってくれと威勢のいい声が彼女へいっそう降って来る。
 ずいぶんと賑やかなもんだと、肩を竦めた。静かな場所を好む有が、それでも悪い気分にならないのは、声を掛けてくる顔の全てが笑みに彩られているからだろうか。
 折角だからと足を止めたのは、丁度小ぢんまりとした酒屋の前だった。鏡割りを終えたばかりの店の亭主は、有の顔を見るやの恵比須顔だ。
「……酒とかあんのかな。お神酒とか、お屠蘇とか、だっけ?そういうの」
 問う声に、勿論ございますとも、ですがまずは此方をどうぞと手渡されるのは五合枡での振る舞い酒。両手で持っても随分大きい。土産に屠蘇散まで持たされて、暫くは酒屋で足止めを食っていたのかもしれない。
 さて気を取り直して赴いた神社も、また賑やかな空気に包まれていた。神頼みの参拝は柄ではないと、有は参道を逸れて社務所へと向かう。
 初詣と言えば、年の初めの運試しは定番中の定番。みくじ棒と引き換えにみくじ箋を受け取って、そっと開いてみる。
 くじに大きく走る墨跡は『中吉』
 良き日の前触れとして新しきを始めるか。それとも凶事の走りと気を引き締めるか。受け止めようによって変化する結果ではあれども、めでたきこの日に出たのであれば。
 良き結果として持ち帰るのもよろしいかと、と内容が垣間見えてしまったらしい巫女の一人に勧められる声を聞きながら、有は紙片を畳み直して歩き出す。
 
 神社に辿り着いて、まず真っ先に参拝を済ませたのは伊兵・ミカ(PigeonBlood・f05475)だ。拝殿の前に立つミカに、参詣客は視線を送り会釈を向け、好意的に道を空ける。
 お賽銭はきちんと持参した準備の良さを見せた少年が、ちゃりんと賽銭箱に投げ入れたのは五円玉。がらんがらんと大きな鈴を鳴らして、手を叩き頭を下げ。願うものへのご縁がある、そんな験を担いでミカが一念、思うことは。
(今より不幸になりませんように。あとほんの少しでいいのでラッキーでありますように)
 ささやかで、本当に最低限。願いたいことはたくさんあるけれど。今はこれでいいと遠慮深い姿勢を見せる。今は、願うよりも感謝がしたい。
(助けてくれてありがとう神様)
 それから、神様じゃなくても。感謝の気持ちを溢れるほどに神前へ。何かにつけて控えめな少年は、ここにおいても謙虚を美徳としていたようだ。
 願い事も終われば、あとは帰るばかりだと踵を返した先に見えた社務所。そこで、昨日戦場を供にした猟兵が見えはしたけれど。
 ちょっと興味を引かれもしたけれど。
「……悪い結果がでると立ち直れないからいいや」
 やっぱり謙虚に思うのだった。
 けれども回れ右をしたミカが手ぶらで帰る前に出会ったものがあった。ミカの様子に気付いたのは、お神籤を引いていた齢五つほどの小さな娘。親へと一つ二つ何かを告げた後に駆け寄ると、あのう、とミカへと声を掛ける。
「たすけてくれて、ありがとうございました」
 懸命に見上げて、嬉しそうに笑って、思い切り手を伸ばしてミカヘと差し出される少女の手には、彼女が引いた「大吉」のくじが一枚。
 精一杯のお礼の気持ちを、受け取るかどうかは君次第。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

終夜・還
曙・ひめ(f02658)に付き従って初詣へ。血塗れの服は正月用の着物に着替えとこう
あ、勿論ひめのも含めさっさと洗濯したぞ。昔仕えてた奴に炊事洗濯の類は仕込まれたりしててな。出来る従者だろ?

ひめが人混みで流されて行かない様に抱っこしてやろう。はぐれたら大変だからな
社の前まで来たら降ろして、参拝
神を冒涜する術を使う死霊術師が異教とは言え神前で拝むっつーのも皮肉だが…ま、倣うのも大事だろう
そうさな、『ひめが目標へと近づけますように』とでも願おうか。俺?面白きゃなんだってイイさ

おみくじを俺も引いてみるか。反応や結果はその時のお楽しみってなァ(結果等お任せ
最後に甘酒飲んで帰るぜ
俺は勿論アルコール入りのだ


曙・ひめ
終夜・還(f02594)とご一緒に。
赤い振袖+金の帯という晴れ着に着替えて、いざ、初詣です!
還様に抱っこしてもらって、はぐれないようにしっかり抱きついてましょう。…コアラじゃないですよ?
神社でしっかり参拝して、今年一年の平穏と無事を祈りましょうか。あとは……還様の珈琲依存が収まりますように、とも。コッソリと。参拝が終わったら、おみくじを。
還様、一緒にひいてみませんか!
どんな結果でしょうか?(結果はMS様にお任せします)
全て済んだら、甘酒で一息入れましょう。
ふうふう冷ましながら、ゆっくり飲みます。
今年もよろしくお願いいたしますね、還様



●姫と従者・2
 仲睦まじく、二人並んで参道を歩く。
 終夜・還(一匹狼・f02594)と曙・ひめ(春嵐・f02658)の本日の召物は、サムライエンパイアの元日によく映える和装。赤の着物に金襴帯、ひめの晴れ姿を機嫌良く見下ろす還も渋色の和服に袖を通していた。因みに、戦闘で汚れた衣服はきっちりと還によって洗濯を終えられている。昔取った杵柄というものか、できる従者ぶりはいつだって健在だ。
 好対照の二人は道行く人々の目をよく引くのだろう。昨日町の為に戦ってくれた猟兵だと知る者も多くあり、挨拶と供に礼を伸べ、晴れ姿を褒めそやす。元より込み合う元日の境内、人が集まり始めれば、足止めされない内にと歩き出し。
 はぐれないように、と言い出したのはどちらが先だったのか。ごく自然に還がひめの小柄な身体を抱き上げて、人混みに流されないようにと気を配る。ひめも素直に身を預け、けれども少しばかりこの状態が何かに似ていると気付いてか、近くなった還の顔に訴えるような目線を向けた。
「……コアラじゃないですよ?」
 訴えに、破顔一笑。
 石畳を歩いて暫し、拝殿まで辿り着けば、ひめは参拝の為に腕より降りた。からりからりと二人で軽快に鈴の音を鳴らして、さて、何を願おうか。
「俺が神前で拝むっつーのも皮肉だが…」
 死霊術師を生業とする還は、己の仕事がいかに冒涜か自覚をしている。それなのに異教とはいえ神前で祈っていいものかと憚る気持ちもありはするが。けれど隣で嬉しそうにしているひめを見ていれば、そんな気も薄れる。まあ、ここは彼女に倣ってみるのもいいだろう。
「今年一年の平穏と無事を祈りましょうか。あとは……」
 願いごとの中身を口にしたひめが、ちらり、と還を見上げて言葉尻を窄める。
(還様の珈琲依存が収まりますように)
 心の中で、おねがいごとを一つ追加。どうしたと言いたげに見てくる還には、内緒にしておくことにした。訝しんでいた還も、こういう場合は突っ込んでも聞き出せないと踏んだのか、問いを向けるでもなく。
「そうさな、『ひめが目標へと近づけますように』とでも願おうか」
「還様ご自身のお願いごとは、ないのですか?」
「俺?面白きゃなんだってイイさ」
 お互いに相手を大事に思う。その気持ちも、新年を迎えて改めて胸に刻んだのかもしれない。
「還様、おみくじを一緒にひいてみませんか!」
 そんな風にひめにねだられた還が断るはずもなく、社務所で揃って引いたおみくじを見せ合えば。
「私は小吉でした」
 ひめが自分の紙片を還に見せた。ささやかな幸せを予感させる結果に、良かったなと言いたげに頷いた還がお返しに見せた手の中に書かれた文字。『凶』と書かれたおみくじに、ひめは何と返したものか。
 社務所からでも凶の文字が見えたのだろう巫女が微かに笑い、『新年の最初が一番お悪くあるのでしたら、明日からの運は昇るばかりでございますよ』などと。
 なれば今年最初の厄落とし。還のおみくじは、ぎゅっと神木に結んで託し。二人はまた歩き出す。
 甘酒は、うんと甘いものと酒精が入った二種類を。ふうふう冷ましながら飲めば、身体もぽかぽか温かく。尽きない話で笑い合えば、初春の寒さもどこへやら。ひめと還の楽しい一日は、まだまだ終わらない。
 
 ――今年も、来年も、きっとその先も。ずっと、こんな風に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

五条・巴
皆お疲れ様。
あけましておめでとう。今年もよろしくね。
僕は一緒に戦ってくれた狐倶利(f06377)を誘うよ。
よかったら一緒にご飯、食べない?
いっぱいの御馳走にちょっとわくわく。何を食べようかな。
折角だから、おせちが食べたいな。
狐倶利はおせちなら何が好き?
場所によっておせち料理は違うっていうし、いろんなおせちを食べてみたい。
美味しいものは大好きだ。今日は格別においしく感じるね。
いっぱい食べて英気を養って次も頑張るよ。
おみくじも引いて、今年最初の運試し。いい結果だといいな。
今年もまた、いい一年になりますように。



四十八願・狐倶利
あけましておめでとさん。今年もよろしゅう。
騒動後の散策はご五条巴はん(f02927)とご一緒しますわ。

狐倶利は巴に誘われるまま、食事に赴いた。
巴と共におせちをつつき、歓談する。
「今回の騒動も無事解決出来てよかったわぁ。巴はんのお陰で大した怪我もせんかったし、助かったわ。おおきになぁ。」
会話をしながら暫くおせちを食べ進めた後、狐倶利は好物の栗きんとんをつまみながら巴に提案した。
「せっかくやし、この後御籤でも引きにいかへん?新年やし、神さんにも参拝せんとな。」
おせちを食べ終えた後、巴と神社へ行き御神籤を引き、二人はお互いの運勢を見比べ一喜一憂した。(判定はお任せ)○



●肩を並べて
「あけましておめでとさん。今年もよろしゅう」
「あけましておめでとう。今年もよろしくね」
 同じ戦場を共にした四十八願・狐倶利(知識を求めて揺蕩う狐・f06377)と五条・巴(見果てぬ夜の夢・f02927)は、これも何かの縁とばかりに二人で町の散策へ。片や雑誌のモデル、片や弁舌を揮わずとも人を篭絡するに苦労のなさそうな妖狐。並んで町を往くその光景は、とても、たいへん、目立っていた。
 特に町娘からの視線の集中ぶりは相当なもので、あの方々が町を救ってくれたのだという感謝以上に別の意味での黄色い声が飛び交っている具合。
「……狐倶利、よかったら一緒にご飯、食べない?」
 そう提案したのは巴だ。浴びせられる視線は、慣れたものではあるのだけれど。ゆっくり過ごすならば店の中の方がいいだろうと狐倶利を誘う。同意を示した狐倶利と探して辿り着いた店は、座敷席のある品のいい料理屋だった。ようこそいらっしゃいました、と女将からの愛想のいい出迎えを受け、奥座敷に通される。
「今回の騒動も無事解決出来てよかったわぁ。巴はんのお陰で大した怪我もせんかったし、助かったわ。おおきになぁ」
 狐倶利からの礼に、こちらこそと巴も綺麗に微笑む。
 今年もここで無事店を続けられる、これは心ばかりのお礼だと、女将は持て成しの料理を次々と座敷に運び込んでくる。卓に並べられるのは、重に詰められたお節に、雑煮に、鍋に。多岐に渡る種類の料理は、何から食べるかを決めるだけでも一苦労しそうだ。
「折角だから、おせちが食べたいな。狐倶利はおせちなら何が好き?」
 巴が箸を取って、まずはお正月の定番とお節料理に手を伸ばす。鯛の姿焼きまでが乗った豪華な重箱から、幾つか選んで小皿へ取ると、栗きんとんが好物だと応える声に頷いて、それも一緒に皿へ取る。自分の分も皿へと盛れば、あとは料理に舌鼓を打ちながらの歓談へ。
 猟兵の二人が何を話すのか、と興味はあれども聞き耳も立てられない店のものが、時折足りぬものは無いかと様子を窺いに来る一幕もありはしたが、そこはそれ。美味しいものが大好きな巴も、栗きんとんに箸を付けて愉しむ狐倶利も。守り抜いた町での食事は格別においしく感じたのかもしれない。
 いっぱい食べて英気を養い、次も頑張ると意気込む巴に笑いながら、先に満腹を迎えた狐倶利は次の予定を持ちかけるのだった。
「せっかくやし、この後御籤でも引きにいかへん?新年やし、神さんにも参拝せんとな」
 こちらも定番、初詣と一年の運試しとも言える御神籤。勿論と頷く巴と連れ立って、料理屋を出た二人は神社へと足を運ぶ。鳥居を潜って拝殿にて参拝を済ませ、その足で境内にある社務所へと。
 さておみくじの結果といえば。
「……中吉やな」
「こっちは小吉だね」
 狐倶利は中吉と書かれた紙を、巴は小吉と書かれた紙をそれぞれ見せ合って報告を。地味?と首を傾げつつも、一喜一憂して笑い合う。けれどもくじの中身はどちらも、時間や努力は要しても、全ては望めば叶うと示されていて。
 ――今年もまた、いい一年になりますように。心に浮かべたそれは、きっと叶う、願い事。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルトリンデ・エーデルシュタイン
ゆく年の厄を祓い、くる年の福を願う。そんな風にゆっくりと過ごすのも良いですね。

件のお蕎麦屋さんできつねうどんを2つ、頼みましょう。一つは自分に。もう一つはきつねうどんを食べたがっていたあの少女のお供えとして。
この国の供養の仕方は分からないですが、故人をしのぶ想いは届くと思いますので。お腹を空かせてまた骸の海から迷い出てきてしまっては可哀想ですからね。

あ、エンさんもご一緒におうどん、いかがですか?ほら、お餅を入れてちからうどんとかもありますし。



●おきつねさま
 ゆく年の厄を祓い、くる年の福を願う。
 アルトリンデ・エーデルシュタイン(神なき祈り・f00243)は、明るい声の行き交う道々を歩きながら緩やかな時間を過ごしていた。
 方々で呼び止めながらも、アルトリンデが目指したのは一軒の蕎麦屋。予知では命を落としていた亭主が忙しなく商売をしている姿は、喜ばしいものであったかもしれない。のれんを潜って席に案内されれば、アルトリンデが注文するものは既に決まっている。
「きつねうどんをニつ、頂けますか?」
「二つでよろしいので?」
 蕎麦屋は首を傾げたが、それでも勿論注文は受ける。間を置かずして厨房から戻ってきたその手には器が二つ。ふわっふわで、甘く煮込んだ油揚げが乗ったうどんの、食欲をそそる匂いがアルトリンデの鼻を擽った。
 一つは自分用、そしてもう一つは狐の少女へ。供養の仕方は国によって違えども、偲ぶ気持ちは同じだと。全てのものへと向ける優しい心根が、今は温かい湯気を昇らせている。
「おいオッサン、生きて……お?」
 蕎麦屋の顔を見に来たエンが、入るなりアルトリンデの姿に気付いた。依頼に応じてくれた猟兵だ、顔はよく覚えている。お疲れ、世話になったなと片手を挙げて隣の卓へと座ると、二人分のうどんに目を丸くする。
「お腹を空かせてまた骸の海から迷い出てきてしまっては可哀想ですからね」
 柔らかく微笑む聖女の言葉に、それだけで誰宛の一人分かを察して、エンは大いに同意するのだった。
「あ、エンさんもご一緒におうどん、いかがですか?ほら、お餅を入れてちからうどんとかもありますし」
「ああ成る程。名案だな」
 アルトリンデの勧めに応じて餅入りのうどんを頼み、並んで啜る。
 
 ――噛み締めたおあげは、狐少女が欲しがったのも納得できる美味しさだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユキ・パンザマスト
(SPD/赤銅、たからと同行)
お正月だ! 赤銅姐さんとたからさんとお餅タイム!
焼き時間が待ち遠しいんですよね。醤油で磯辺焼き、きな粉で安倍川餅もいいなあ。
おっと羽子板勝負? っしゃいいですね、たまには非電源ゲームと洒落込もうじゃありませんか! 

さぁさ掛かってこい! 遊びは全力、真剣勝負! 
小回り利く身体で高速駆動! 
受ける時は野生の勘で察知、コートの何処へもダッシュで駆けつける! 
打つ時は攪乱、足元狙いや地面すれすれの軌道、かと思えば高く弧を描く!
はたして白熱試合の結果は!?

墨付きの顔で食べるお餅は、一味二味も美味しいですね。
磯辺焼きを頬張りつつ。二人とも、今年もよろしくお願いします。へへ。



鎹・たから
【赤銅、ユキと同行】
清々しい空気ですね
磯辺焼きも安倍川餅もおいしそうです
チーズと海苔をのせて食べるお餅も格別とききます

羽子板、とてもお正月らしい遊びです
慣れていませんが、たからも精一杯がんばります
大丈夫です、打ち返して相手の陣に墜とせばいいのでしょう?(真顔

この小柄さでは長期戦に不向きです
背の低さを活かしつつ一気に叩き込むことを意識しましょう
【先制攻撃】で足元など返し辛い場所で素早く打ち込みます
たから、速さには自信があります(ヒュンヒュン
2人とても上手ですが、たからも負けませんよ

全員揃って顔から墨のにおいがしますね
ですがこれも、楽しいです
体も温まったら、焼きたてのお餅をいただきましょう




多々羅・赤銅
【ユキ、たからと同行】
正月ったら餅は外せねえよな
餅米しか使ってないのが格別うまいんだ、そうだよこれこれ。

焼けるまでは腹を空かせるべく羽子板勝負と行くか、こっからここがコートな(がりがり)こっからコースアウトな(がりがり) オラ容赦しねえぞ!エンパイア出身の幼い血肉に染み込んだ羽子板捌きとくと見な!
体躯の大きさを生かして大振りする事で、小柄な相手には受け取りにくいだろうコートの隅を的確に狙う。二回攻撃の一度目を空振りさせてフェイントさせる!火花散るような高速ラリー、その行く末は正月の神のみぞ知る。

顔の墨入れが増えてきたところで、餅食おうぜ餅。
どうぞ、今年もよろしくな。◯



●仁義無きお正月風景
 がりがりがり。がりがり。
 境内の外れの地面に、多々羅・赤銅(ヒヒイロカネ・f01007)によって真っ直ぐに刻まれていく線がある。
 ――ここまでがコート。そしてここから向こうはコースアウト。
 厳密に定められた境界の中、三竦みばりに向かい合うのは、骸の海から生まれ出ずる魑魅魍魎どもすら蹴散らす猟兵三人。其々の手指が握り締める、木製の得物。それが、これから何度空気すら裂いて行くのか。境の向こうでぱちぱちと、薪の爆ぜる音がする。木々に結わえられた注連縄飾りに取り付けられた紙垂が、風雲急を告げて通り過ぎる乾風に身を震わせていた。

 つまりは羽子板勝負である。

 事の起こりは餅を焼く待ち時間まで遡る。一度に沢山焼くなら薪だろうと、串に刺した餅を焚き火の周りに並べていた三人だったが。調味料の準備を終えてもまだ、焼き上がりまでが遠いと気付いてしまったのだ。
「……焼けるまでは腹を空かせるべく羽子板勝負と行くか」
 そう持ち掛けた赤銅の声に、一も二もなく乗ってくるのは遊びに全力の似たもの同士。
「っしゃいいですね、たまには非電源ゲームと洒落込もうじゃありませんか!」
 ユキ・パンザマスト(夕間暮れの鵺・f02035)が、意気揚々と参加を表明する。今日ぐらいはライトゲーマを返上しようとばかりの歯切れの良さだ。
「羽子板、とてもお正月らしい遊びです。慣れていませんが、たからも精一杯がんばります」
 鎹・たから(雪氣硝・f01148)も、表情は薄くともやる気にはきっと満ち溢れているのだろう。三者三様、やると決めたからには全力で。境内で羽根突き遊びをしていた子供達が、猟兵に快く羽子板と羽根を貸してくれたようだ。

 そしてこの状況に至る。
「オラ容赦しねえぞ!エンパイア出身の幼い血肉に染み込んだ羽子板捌きとくと見な!」
 赤銅が羽子板をびしりと突きつけて啖呵を切った。まずは手本とばかり、羽根を高く放り上げて、長身を活かし大上段から羽子板を叩き付ける……と見せかけての空振り、からの二回攻撃!
 ガギィィ!と遊戯らしからぬ衝突音を響かせながら飛んで行く羽根は受け辛そうなコートの隅へと刺さ――。
「遊びは全力、真剣勝負!」
 刺さらなかった。小回りの利く身体を生かしての高速駆動、冴え渡る勘で己の方へと来ると確信して伸ばしたユキの羽子板が、羽根を拾い上げる。高く浮き上がるかに思えた羽根はだったが、撹乱を目論む彼女が利かせた手のスナップによって、たからの足元へと弾丸のように――矢張り刺さらない!
 キィィン!とまた凄い音がした。
「……大丈夫です、打ち返して相手の陣に墜とせばいいのでしょう?」
 真顔で羽子板を構えていたたからは、ユキの羽子板が羽を捉える前に、先制攻撃の構えで身を低くし疾駆を開始していた。足の速さを自負するだけあって、羽根がコートに突き刺さるよりも早く、羽子板でそれを捉える。その身軽さは飛燕の如く。

「オラ、まだだあ!」
 ズダァン!
「さぁさ掛かってこい!」
 ギャリィィィ!!
「たからも負けませんよ」
 効果音、以下延々と。

 猟兵の猟兵による猟兵達の羽根突き大会。埒外の彼女らが技能まで駆使して行う真剣勝負の鬼気迫る勢いに、なんだなんだと観衆が即席のコート周りに集まってきた。羽根を受ける羽子板からは火花が散る。一瞬にして打ち返された羽根は観衆には風しか捉えられず、挙句は戦っている者の姿すら残像になる。
 格が違いすぎる。改めて、彼女達は天下自在符を与えられた常人ならざりし者なのだと町の人々の胸に刻まれていったのだった。

 そんな猟兵でも、お腹はちゃんと減るもので。勝負が終われば、空かせた腹に餅を入れる頃合か。
 磯辺焼きに安倍川餅、かわり種ではチーズと海苔の組み合わせ。各種取り揃えた焼きたて餅三昧に、三人は舌鼓を打っていた。餅の香ばしさに、墨の匂いが混じるのは羽子板勝負の結果を未だに顔へと貼り付けているが故。
 さてその結果と言えば。
「餅米しか使ってないのが格別うまいんだ、そうだよこれこれ」
 嬉しそうに餅を頬ばる赤銅は、黒の面積が一番少ない綺麗な顔を。
「墨付きの顔で食べるお餅は、一味二味も美味しいですね」
 そう言って笑うユキの額には、ひとつ大きな墨印。
「全員揃って顔から墨のにおいがしますね」
 焼きたての餅を手の中で転がすたからは、両頬に一つずつ墨で印が入れられていた。一番多くの黒星を得てしまったたからだが、ですがこれも、楽しいですとこの国ならではの遊びに満足した風だった。

 どうぞ、今年もよろしくな。
 赤銅の声に異口同音、同じ気持ちを返す明るい声は、よく晴れた新年の空へと響いて溶けた。
 
 かくもめでたき初春に、咲いて満ちるは笑みの花。
 町は猟兵によって齎されたハレの日を大いに喜び、明日を生きる糧としていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月07日


挿絵イラスト