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ゆきいろこんこん

#サムライエンパイア

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#サムライエンパイア


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●雪祭りと妖狐
 今年の冬も雪が降り、町は純白の景色に包まれていた。
 雪深い地域のとある藩では毎年この時期になるとちいさな祭りが行われている。
 その名は雪祭り。
 町の人々皆で雪像や雪だるまを作って通りに飾ったり、広場にかまくらを作って集まり、その中であたたかいものを食べたりするささやかな催しだ。
 近頃は祭りに合わせて汁粉や団子、飴細工の屋台なども出ているらしい。またこの日は子供たちが町中を駆け回っての雪合戦も行われる。
 そうやって賑わう祭りは町の人々にとって欠かせないものとなっていた。
 そうして、今年も変わらず穏やかな雪祭りが行われる、そのはずだった。
 其処にオブリビオンである、一匹の妖狐が現れるまでは――。

「これって何かな、ゆきまつり?」
 通りに並んだ雪像を見つめた『妖狐』明日香は首を傾げた。
 様々な形の雪だるまは可愛らしく思わず笑顔になってしまう。見れば少し離れた通りには湯気が立ち上る屋台も出ているようだ。
 ちょっと遊んで行こうかな、と上機嫌に歩き出した明日香は雪に足跡を付けていく。
 そのとき――。
「隙あり! ていやー!」
「わ……!」
 路地の影から飛び出した子供が雪玉を明日香に向けて投げ、その球が尻尾に命中した。それは子供からすれば遊びの一環であり、普通の大人ならば笑って許してくれる行為だ。
 だが、明日香にとっては違う。
「よくも……絶対に、絶対……許さないんだから……」
「ひっ」
 顔をあげた明日香が恐ろしい形相になっていることに気付き、子供は一目散に逃げ出していく。しかし、もう何もかもが遅かった。
「……出ておいで、お前達」
 妖狐は軽い身のこなしで屋根の上まで跳躍すると片手を天高く掲げる。その呼び掛けに応じるようにして周囲に『黄泉の本坪鈴』と呼ばれるオブリビオン達が次々と現れた。
 そして、眼下の町を昏い瞳で見下ろした明日香は冷ややかに呟く。
「雪祭りなんてくだらないもの、全部壊してあげる」

●守るべきもの
「やれやれ、たったひとつの雪玉が逆鱗に触れるとは……」
 ミレナリィドールのグリモア猟兵、鴛海・エチカ(ユークリッド・f02721)は肩を竦めた。今回、サムライエンパイアにて予見されたのはオブリビオンである妖狐、明日香が起こす襲撃事件だ。
「配下を呼び出した妖狐は町ごとすべてを壊そうとしておるのじゃ。幸いにして我らは配下共が暴れ出す前に現場に迎える。人々が襲われる前に駆け付けられるのじゃ」
 しかし、明日香が雪玉を受けて怒ることまでは確定事項だ。
 妖狐は駆け付けた時点で無人の家の屋根に上っており、そのまま高みの見物をしようとしている。近付こうにも配下達が邪魔をすると予想される為、まずは黄泉の本坪鈴を倒さねばならない。
「黄泉の本坪鈴の数は六体。力も配下として呼ばれる程度の弱いものじゃ」
 しかと戦えば勝てると話したエチカだが、舐めてかかるのも拙いと話す。
 また、妖狐は配下達をすべて倒すまでは戦いに加わらないようだが、本坪鈴を倒してすぐの連戦となるため油断は禁物。
 そう注意を告げた後、エチカはちいさく笑む。
「なあに、心配はしておらぬのじゃ。無事に終われば祭りが待っておるでのう」
 町のささやかな祭りを楽しむ為にも負けていられない。
 勿論お主たちも参加するじゃろう? と、問い掛けたエチカもまた、雪祭りを楽しみにしているひとりらしかった。
 守るべきものは寒さにも負けず日々を楽しもうと過ごす人々の平和。
 その為にも、白い雪を血の色で汚すわけにはいかない。


犬塚ひなこ
 舞台は『サムライエンパイア』
 今回の目的は祭りを滅茶苦茶にしようとするオブリビオンを倒し、平穏を取り戻すことです。

●戦闘について
 時刻は昼前。場所はとある町の一角。
 周辺一帯は雪が積もって一面真っ白です。
 戦場となるのは誰も棲んでいない家屋付近。逃げた子供があっちは危ないと言って回っているので一般の人々が近付く危険はほぼありません。
 一章は黄泉の本坪鈴、六体との戦い。二章は『妖狐』明日香との戦いになります。

●雪祭りについて
 無事に敵を撃退した場合、雪祭りに参加することが出来ます。
 戦闘に参加しなかった(できなかった)方もどうぞ遠慮なく遊びに来てください。お祭りが賑わうとそれだけで街の人々も喜びます。
 かまくらでゆっくりする、雪だるまを作る、屋台を巡る、自ら出し物を催す、子供達に交ざったりチームを組んだりして雪合戦をする、などなどお好きなことをどうぞ!

 また、お誘いあわせの上での参加も大歓迎です。皆様の思うままに楽しんで頂けると幸いです。
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第1章 集団戦 『黄泉の本坪鈴』

POW   :    黄泉の門
【黄泉の門が開き飛び出してくる炎 】が命中した対象を燃やす。放たれた【地獄の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    人魂の炎
レベル×1個の【人魂 】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
WIZ   :    後悔の念
【本坪鈴本体 】から【後悔の念を強制的に呼び起こす念】を放ち、【自身が一番後悔している過去の幻を見せる事】により対象の動きを一時的に封じる。

イラスト:marou

👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

リーファ・レイウォール
まぁ、なんて言うか……厄介よねー

そんな事を思いつつ。

あたり一面が真っ白と言うこともあるのでユーベルコード【梨花の暴風】で蹴散らしましょう。
ユーベルコードでは、背負っている『第八聖典』を、梨の花びらに変えて攻撃します。
白い花びらなので、見えづらいでしょう?

近づいてきた敵は、Frisches Blutでなぎ払っておきましょう。

傍目には、お気楽そうに見せますが、油断はしませんよ?


紅葉・智華
後方からの狙撃が理想ですが、敵戦力を人々に近づかせるわけにはいかないので、足止めか必要ですね。

私がサイボーグとなった際に得た義眼、その機能(【虚構の神脳】)で、敵の攻撃を回避し続けて、囮となります。あらゆる物質の位置と運動量を同時に、即座に把握したのなら、それは未来を視たも同然です。
「その攻撃は既に視たものであります」

仮に被弾しても多少の炎はなんて事もありません。
「効かないであります!」

私に攻撃が集中すれば他の方は楽できるでしょうし、隙があるなら此方からも手早くアサルトウェポン改で攻撃できればベターかと。
【使用技能:時間稼ぎ1,見切り1,第六感1,おびき寄せ1,火炎耐性1,クィックドロウ1】


終夜・凛是
祭の雰囲気は、嫌いじゃない。けど、別に好きでもない。
でもこういうの放っておくの、にぃちゃん嫌いなの知ってるから俺もちゃんとする。
会った時にいろいろ話して褒めてもらえるように。

助けなきゃ人がいないなら好都合。そういう気を回すの苦手。
とにもかくにも、目に付いた敵を殴ればいいだけ。
すごく簡単、何も考えなくていい。
向かってきた炎や攻撃は、うけても気にしない。熱いのも何もかも、そんなによくわかんねぇし。
まずは一体、懐に入って確実にあてる。そのためなら傷を負おうと別に気にしねぇ。
真正面から、進んで、倒れる前に一撃いれてぶっ倒す。


コノハ・ライゼ
イイねぇ、何だか懐かしいねぇ
美味いモン食えるんなら尚の事、ちょいと張り切っちゃいましょ

【WIZ】あらぁ、幼子に目くじら立てるとかはしたないコト。
炎を使うってンならコチラは【彩雨】を降らせましょか
ヒトが居ないとしても周囲にあんま被害出したくないし
敵を囲い追い込むように展開
ソレで仲間の攻撃が当てやすくなりゃ御の字
コッチの隙をついてきそうな敵には氷集中させて攻撃すんよ
氷水晶の雨、炎で溶かしきれるかしらん?

反撃には一瞬目を細め
ケドどうしようもなく変える事が出来ない過去だってのは
アタシが一番分かってンの
受けた攻撃は『激痛耐性』で凌ぎ
お返しに武器「柘榴」を『傷口をえぐる』ように振るって『生命力吸収』するヨ


朽守・カスカ
寒風は覚えがあるが
此処まで積もる雪には
縁がないから、新鮮だな

悪ふざけが過ぎたら悪戯に怒りたくなる気持ちも分からなくはないが
そこまで目くじらを立てずとも…
それに悪いが私も雪祭りが楽しみなんだ
見過ごすつもりは、ないよ

不慣れな雪の足場…
滑ってしまわないか心配だが…
【ライオンライド】
四肢でしっかりと地を踏めば心許なさも消えるだろう
獅子の四肢…いや、なんでもない

さぁ、敵が広がり祭りを台無しにされる前に
追い立てるように動いて
確実に一体ずつ倒していこう

後悔の念は怖い気持ちもあるが大丈夫だろうさ
父との別れだって哀しいものであっても
悔やむものではないからね
それよりも、そんな幻覚を見せることの方が、気に入らないね


東雲・咲夜
雪合戦、得意な子も苦手な子もいるんは仕方ないと思うのやけど…
町を壊すやなんてあんまりや。
お祭り、きっと楽しいよ?
許してくれへんかな…。

あれは…小さなお狐さん?
お願いや、関係の無いひとたちまで巻き込むのは許したって。

過去の幻に囚われる方がいはったら、桜の神様を降ろして、優しい歌で苦しみを取り除きましょう。
大丈夫。前を向き続けられたら、世界はきっと応えてくれはるんよ。


ミハル・バルジライ
児戯に激すとは狭量……とも言い切れないが、報復は明らかにやり過ぎだろう。
人々の生活を脅かすならば相応の扱いを受けて貰おう。

周辺家屋等には極力害の及ばないよう留意を。
叶う限り他の猟兵達と連携、協力を心懸ける。

件の妖狐は自尊心の強い性と思える、立ち回り次第では後々油断を誘えるかも知れない。
戦闘時、攻撃を受ける際にやや大袈裟に顔を顰めるだとか
攻撃する際には避けられない程度乍らも隙を見せるだとか
危機に陥る程ではないが梃子摺っているような印象を抱かせるよう図ってみる。

攻撃は召喚した死霊に任せ、俺は敵の手の内を見切り見極めることに細心を。
負傷嵩む者や集中的に狙われる者がいる場合等は割り入って引き受けよう。


神々廻・夜叉丸
子供の悪戯に目くじらを立てるだなんて、オブリビオンとは随分と狭量なやつらなんだな
しかし、町を破壊しようとそちらに気が向いているのなら好都合だ
おれは【忍び足】で黄泉の本坪鈴の内一体に近づき、背後からの【暗殺】【鎧無視攻撃】を活かした剣刃一閃で両断する。斬り捨て、御免
反撃してくるようであれば、その炎を【見切り】、泡沫でいなす
間違っても民家や人々のいる方角へ炎を飛ばさないよう注意する
とはいえ、町に被害を出す訳にはいかない。敵がおれよりも早く動くというのなら、真正面から立ち向かうだけだ

過去の亡霊共よ。おれがここに立つ限り、人々からそう易々と未来を奪えるとは思うな

アドリブ等、歓迎だ


ユヴェン・ポシェット
何というか…。彼女をそこまで怒らせたのは何なのだろう。尻尾、なのか…?

何にしろ、まずは奴等をどうにかしないとな。
本坪鈴か、複数いると…流石に騒がしくないか?(ライオンである)ロワは耳が良いからな…辛いかも知れない。今呼ぶのはやめておくか。

ミヌレ(槍)を振るって戦う。
できる限り、ユーベルコードは使用控えて、槍で門を砕き、炎や念を払って戦う方向で。
もしも…後悔の念とやらにやられそうなことがあれば、ドラゴン姿になったミヌレに思い切り噛み付かせる。

よほど、ピンチになればユーベルコードを使用する。


フレズローゼ・クォレクロニカ
🍓櫻宵(f02768)と一緒に
アドリブ、他PCとの絡み歓迎

雪ー!櫻宵、見て雪だよー!
雪を被れば雪兎
ボク、雪祭り行きたいなぁ!雪だるま作りに雪合戦、櫻宵の作った暖かいホットチョコ飲みたい!
お祭り、皆が楽しめる様にがんばろね

あれ?櫻宵寒いの?ボクが手、ぎゅっとしてあっためたげる
黄泉の本坪鈴は可愛いけど
悪さはさせないんだからね!
雪に足とられないよう空中戦で空を舞い
攻撃はオーラと見切りでうまく躱すよ
炎には水の属性を乗せた青の魔法石絵の具で対抗して、櫻宵の補佐をするように『女王陛下は赤が好き』で攻撃
ボクが止まってもキミは動ける
ボクが奴らの隙を作る
ほら、櫻宵……今だよ!
キミの判決は……死刑です!なんてね


誘名・櫻宵
🌸フレズローゼ(f01174)と一緒
アドリブ等歓迎

うう寒……あたし寒いの苦手なのよ……
今日もフレズは元気でいいわね
雪祭り…あなたがそう言うなら行きましょっか
勿論暖かいホットチョコも持ってね
さ、お邪魔虫をやっつけちゃいましょ!

フレズが握った手が暖かくて
この子を守らなきゃって気が引きしまるわ

あなたに手出しされる前に両断してあげる
残像や見切りで躱しながら
衝撃波を乗せてなぎ払い、斬りふせるまで
フレズの絵の具を刀に纏わせるも一興かもね!
フレズに辛い思いはさせない――隙を逃さず斬りこんで一体ずつ確実に、葬ってあげる
距離をつめ放つのは『絶華』
あら、女王陛下の判決は死刑なのね?
じゃ、執行しなきゃいけないわね


花咲・まい
【POW】世の中何が誰かの逆鱗に触れるか、なんて分かりませんですねえ。
とはいえ、ちょーっと度が過ぎると思いますです。村が壊される前に、私たちで退治してしまいますですよ!

戦闘にはブラッド・ガイストを使いますです。ちくっとしますですが、全力で戦うためには仕方ありませんですからね。
加々知丸くん、お仕事の時間が来ましたですよ!


河南・聖
オブリビオンは必ず世界を滅亡に導く……
でも今回、もし雪玉の件がなければ何事も無かったんでしょうか
なんて、考えても詮無い事ですね
だって現実問題として今回の件が予見されてるわけですから

それにしても、ここがサムライエンパイアですか~。
やっぱり私の居た世界とは全然違いますね。

さて、戦闘です
ちょっと可愛らしい外見ですけど、炎使いなのですね
私のブレイズドラゴンと同じような炎
……なら対するは……うーん、こんな感じかな?
フロストバード!
うん、いい感じにできました!
これで全部凍らせ……へくち!

……そういえば今居るの雪まつり会場でした。雪の中で氷……
風邪引く前に短期決戦で終わらせましょう!



●雪のいろ
 踏み締めた雪に足跡を刻む。
 ふわふわとした新雪のやわらかさは冬の風情を感じさせてくれた。
「イイねぇ、何だか懐かしいねぇ」
 コノハ・ライゼ(空々・f03130)は道の先を見遣り、真白な景色を瞳に映す。吐く息が白く染まる光景に、朽守・カスカ(灯台守・f00170)もふと思いを零した。
「何だか、新鮮だな」
 寒風は覚えがあるが、此処まで積もる雪には縁がなかった。不思議な感慨めいた気持ちを抱くカスカ、そしてライゼは向かう先を見遣る。
 其処に残るのは幾つものちいさな足跡。
 子供たちが駆けて行った跡なのだろうか。この道の向こう側、町の中心に進めばきっと賑やかな祭りの光景が見られるに違いない。
 爪先で雪を蹴った終夜・凛是(無二・f10319)は軽く肩を竦め、そっと独り言ちた。
「祭の雰囲気は、嫌いじゃない。けど、別に好きでもない」
 されど、この先で巡るのは悪しき妖狐による襲撃の未来。にぃちゃんなら放ってはおかないから、と顔をあげた凛是は歩みを進める。
 すると、凛是を追い越す形でフレズローゼ・クォレクロニカ(夜明けの国のクォレジーナ・f01174)が元気よく駆けていった。
「雪ー! 櫻宵、見て雪だよー!」
 振り返って手を振り、フレズローゼは誘名・櫻宵(誘七屠桜・f02768)を呼んだ。
「うう寒……あたし寒いの苦手なのよ……」
 対する櫻宵は、今日もフレズは元気でいいわね、と呟いて身震いする。そんな櫻宵の回りをくるくると回ったフレズローゼは町で行われる祭りに思いを馳せた。
「ボク、雪祭り行きたいなぁ! 雪だるま作りに雪合戦、櫻宵の作った暖かいホットチョコ飲みたい! だから、頑張ろうね!」
 フレズローゼは寒そうな櫻宵の手をぎゅっと握り、戦いへの決意を告げる。
「雪祭り…あなたがそう言うなら行きましょっか」
 櫻宵はそっと微笑みを返し、寒さになど負けないと心に決めた。
 さくり、さくり、と仲間達が雪を踏む音が響く。
 リーファ・レイウォール(Scarlet Crimson・f06465)は警戒を強めながらもゆっくりと息を吐き、件の妖狐について思う。
「まぁ、なんて言うか……厄介よねー」
「致し方ありません。それがオブリビオンというものなのでしょう」
 紅葉・智華(紅眼の射手/サイボーグの戦場傭兵・f07893)も雪玉ひとつで町を滅ぼそうとまで考える敵について考え、周囲を見渡す。
 間もなく予知された地に辿り着くだろう。
 そう察した東雲・咲夜(桜歌の巫女・f00865)もまた、辺りを見回した。
「雪合戦、得意な子も苦手な子もいるんは仕方ないと思うのやけど……」
 町を壊すやなんてあんまりや、と呟いた咲夜。
「児戯に激すとは狭量……とも言い切れないが、報復は明らかにやり過ぎだろう」
 彼女に頷きを返したミハル・バルジライ(柩・f07027)は同意を示す。神々廻・夜叉丸(終を廻る相剋・f00538)も、全くだ、と口にして眉間に皺を寄せた。
「子供の悪戯に目くじらを立てるだなんて、随分と狭量なやつなんだな」
「何というか……。彼女をそこまで怒らせたのは何なのだろう。尻尾、なのか……?」
 ユヴェン・ポシェット(クリスタリアンの竜騎士・f01669)も首を傾げて傍らに控える竜、ミヌレの尾を見下ろす。確かに尾を大事にしている種族は多いと聞くが、それであってもいささか沸点が低過ぎるだろう。
 ユヴェンと同じく、夜叉丸とミハルも度し難い行動だと感じていた。
「世の中何が誰かの逆鱗に触れるか、なんて分かりませんですねえ。とはいえ、ちょーっと度が過ぎると思いますです」
 花咲・まい(紅いちご・f00465)もやりすぎだと話し、軽く頬を膨らませてみせる。
 されど、オブリビオンとは必ず世界を滅亡に導くもの。
 きっと今回の件が無かったとしても何かが起こっていたのだろうと考え、河南・聖(人間のマジックナイト・f00831)は頭を振る。
「なんて、考えても詮無い事ですね。そろそろでしょうか」
 自分の世界とは違う景色に興味を引かれながらも、聖は前方を見据えた。
 予想通り、其処には屋根の上へと跳躍した妖狐、明日香の姿が見える。まいは「いましたです!」と指をさして仲間に敵の存在を報せた。
 仲間達は家屋の影や路地へと向かい、其々に家屋を包囲するような形で布陣していく。その最中、頭上から妖狐の怒りに満ちた声が響いた。
「……出ておいで、お前達」

 明日香の声に呼応する形で黄泉の本坪鈴が次々と現れる。
 主に命じられたそれらが狙うのは街の破壊。それゆえに六体の獣たちはめいめいの方角に向かい、別々に襲撃を行う心算のようだ。
「追いかけるわよ」
「了解したであります」
 その動きを察したリーファは駆け出し、後に智華が続いた。リーファのたった一言でその意図を理解した智華は戦闘態勢を整える。
 敵が分かれるならば此方も其々にタッグを組んで追いかけるだけ。
 その作戦を感じ取ったカスカは仲間の背を見送り、もう一体の敵に狙いを定める。
「見過ごすつもりは、ないよ」
「私もそちらに参りますですよ!」
 雪を蹴って本坪鈴を追うカスカの数歩後ろにはまいの姿がある。コノハも彼女達と共に向かおうと決め、一度だけ屋根の上を見上げた。
「あらぁ、幼子に目くじら立てるとかはしたないコト。でもま、美味いモン食えるんなら尚の事、ちょいと張り切っちゃいましょ」
 コノハが零した言葉は妖狐に向けたもの。あの存在が居る限りは楽しい祭りの時間は訪れない。それゆえに先ずは悪の手先を屠ることが先決。
 凛是とミハルも軽く辺りを見渡し、自分達から一番近い敵を追うべく駆けた。
「人々の生活を脅かすならば相応の扱いを受けて貰おう」
「うん、許しちゃいけないやつらだ」
 ミハルの黒い髪が雪景色の中になびき、凛是はその後を追う。彼が今回の相棒となるのだと感じたミハルはちいさく頷いた。
「これを無事に解決したら、にぃちゃんは褒めてくれるかな」
 きっと、いや絶対に褒めてくれるに違いない。そう感じた凛是ははそっと目を細め、ミハルと共に頑張ろうと決意する。
 敵を追った仲間と同じく、咲夜と聖も頷きを交わして標的を追っていった。
「ちいさなお狐さん。お願いや、関係の無いひとたちまで巻き込むのは許したって」
 咲夜はその背に呼び掛けるが、主の命に忠実であろうとする獣は聞く耳など持たない。聖は敵を追い抜き、前に回り込むことで進路を阻む。
「申し訳ありませんが、戦って貰います」
 聖が上手く足止めに成功した同じ頃、別の路地では夜叉丸とユヴェンが敵の気配を追っていた。標的の死角になっている家屋の裏で息を潜めた夜叉丸が見据える個体はどちらに行こうか迷っている様子。
 町を破壊しようと別のことに気が向いているのなら好都合。
「――斬り捨て、御免」
 夜叉丸が鋭い一閃で以て斬りつければ、ピャア、と本坪鈴から悲鳴があがる。
 だが、そのとき。
「何なの、あの人たち……邪魔する気?」
 頭上から妖狐の声が響き、重い視線がユヴェン達に突き刺さった。彼女は暫し高みの見物をする心算なのだろうが、その圧力はかなりのものだ。
「何にしろ、まずは奴をどうにかしないとな」
 ユヴェンはミヌレを槍へと変じ、重圧を払うように頭を振った。
 同じ頃、フレズローゼと櫻宵も妖狐からの鋭い眼差しに気が付いていた。しかし二人は怯まず、先ずは目の前の敵を倒すことに集中しようと心に決める。
「可愛いけど、悪さはさせないんだからね!」
「さ、お邪魔虫をやっつけちゃいましょ!」
 笑みを交わしあったフレズローゼと櫻宵は黄泉の本坪鈴に狙いを付けた。
 翼を広げて踏み込み、少女が蹴りあげた雪が宙に舞う。陽を受けてきらきらと雪が散る様はまるで、決して負けないと決めた意思の煌めきを映しているかのようだった。

●紅の乙女達
 四方に散った敵は六体。
 対する猟兵達も其々別の敵を追い、六組に分かれて戦いに挑む。
 逸早く敵を追って駆けたリーファと智華は今、広場の隅に敵を追い込んでいた。追われていることに気が付いていなかった獣は慌てた様子を見せる。
 行き場を失った獣は毛を逆立てて人魂の炎を解き放った。義眼で炎を揺らめきを捉えた智華は、まるで未来を予測したかのようにそれらを避けていく。
「その攻撃は既に視たものであります」
 真白な景色の中で揺らぐ炎は朱く、それを見据える智華、そしてリーファの眸もまた紅の色を宿している。
 智華が敵の囮となっている隙にリーファは背負った第八聖典に魔力を注いだ。するとそれは梨の花弁となって周囲に舞い、敵に襲い掛かってゆく。
「白い花びらなので、見えづらいでしょう?」
 避けられるでしょうか、とリーファが問い掛けた次の瞬間。幾重もの花弁が本坪鈴の身を鋭く穿っていった。
 しかし、敵も負けじと黄泉の門をひらき、更なる炎を解き放つ。避けきれなかった激しい焔が身を包み込んだが、智華は鋼鉄の右腕を払ってその勢いをいなした。
「効かないであります!」
 身を翻して敵との距離を取った智華は銃を構え、反撃として弾丸を撃ち放つ。
 その一撃が本坪鈴を穿った一瞬の隙を狙い、リーファは真紅の刃を持つ大鎌を振りあげた。黒の長柄を強く握ったリーファは黒き獣を見下ろす。
「油断も、容赦もしませんよ?」
 そして、リーファの緋色の双眸が薄く緩められた刹那――。
 一体目の獣が地に伏し、雪の上に骸となって転がった。
「さあ、これでこちらは倒せましたね」
「任務完了であります」
 猟兵にとってこの程度の敵ならば怖いものではない。そう示すかのように紅の乙女達は頷きを交わし、消えていく敵を見つめた。

●炎と血と記憶の雨
 路地裏の隙間、塀を駆け登った黒獣。
 それを追って跳躍したのはまいとカスカ、そしてコノハの三人だ。其処で漸く追われていることを察したのか、塀の向こうに降り立った敵は猟兵達を迎え撃った。
 まいはひらりと着地して大刀を構え、カスカも傍らに獅子を召喚する。
「町が壊される前に、私たちで退治してしまいますですよ!」
「悪いが私も雪祭りが楽しみなんだ」
 まいが強く宣言し、カスカも四肢でしっかりと地を踏む。そうすれば心許なさも消えるだろうと考えたカスカだが、不意に獅子の四肢という言葉が浮かんで首を振る。
 そして、先手を取ったコノハが敵を見据えた。
「炎を使うってンならコチラは雨を降らせましょか」
 次の瞬間、氷めいた色彩を宿した水晶の針が彩成す雨となって降り注ぐ。
 カスカが金獅子と共に突撃すれば、まいも自らの血液を代償として大刀の封印を解き、その力を解放した。
 いきますですよ、とコノハ達に続いて刃を振り下ろそうとするまい。だが、それよりも先に身を翻した黄泉の本坪鈴が黒き念を巻き起こした。
「お二人とも、大丈夫ですか!」
 まいが気が付いた時にはその奔流がカスカとコノハを包み込んでいた。斬り込んだまいが本坪鈴を横薙ぎに吹き飛ばすが、攻撃は既に巡っている。
 無理矢理に想起させられるのは過去の後悔。
 一瞬だけ目を細めたコノハは、じり、と雪を踏み締めた。誰しも一度は何かを悔やむものだ。だが――。
「どうしようもなく変える事が出来ない過去だってのは……アタシが一番分かってンの」
 痛みと苦しみに耐えたコノハは顔をあげた。
 カスカもまた、苦痛に負けはしないと掌を握って堪える。
「あの記憶は哀しくとも、悔やむものではないよ」
 父との別れが思い起こされたが、それは痛みなどではない。それよりも、そんな幻覚を見せることの方が気に入らないと告げたカスカは獅子と共に駆けた。
 黄金の獣が黒の獣に喰らい付き、尾を噛み千切る。
 仲間達の様子にほっとしたまいも追撃を加えるべく更なる血を刃に与えた。少しばかりちくっとするがこれも全力で戦う為。
「加々知丸くん、お仕事の時間が来ましたですよ!」
 大刀の名を呼んだまいが振り下ろした一閃は重く、その衝撃は敵の身を塀に叩きつける。それによって敵の力が大幅に削られる。
 コノハは勝機を感じ取り、柘榴の名を冠する刃を差し向けた。
「さぁて、終いにしましょか」
 言葉と共に傷口を抉る勢いで突き放たれた刃。それは黒き獣の力を奪い取った。
 雪の上に倒れた黄泉の獣はもう、二度と起き上がることはない。やりましたですね、と勝利を喜ぶまいにちいさな笑みを向け、カスカとコノハは視線を交わしあった。
 この調子ならきっと他の仲間達も敵を屠ることが出来ているだろう、と――。

●桜の巫女と魔法騎士
 路地に向かった敵を追い、前後で挟撃する形となった聖と咲夜。
 これで黄泉の本坪鈴を逃がす心配はないだろうが、咲夜には気にかかることがあった。敵の動きを警戒しながらも見上げるのは屋根の上の妖狐。
「お祭り、きっと楽しいよ? 許してくれへんかな……」
 だが、咲夜の思いも言葉もきっと届かない。妖狐が纏う悪意と怒りの気はもう止められるものではないのだと周囲の空気が教えてくれている。
「来ます、気を付けてください!」
 聖の声にはっとした咲夜は身構え、敵が放った人魂に備えた。
 咲夜が攻撃を受け止めて耐えいる中で聖は雪の上で揺らぐ炎を注視する。敵の見た目は可愛らしいが、かなりの炎の使い手のようだ。
「……なら対するは……うーん、こんな感じかな? フロストバード!」
 自身の魔力を凝縮した聖が目の前に形成したのは氷の巨大鳥。翼を広げて舞った氷鳥に攻撃を願った聖は胸を張る。
「うん、いい感じにできました! これで全部凍らせ……へくち!」
 寒さに加えて巨大鳥が起こした氷風によって、おもわずくしゃみが出てしまった。そんな聖とは裏腹に氷の鳥は鋭く敵を穿ってゆく。
 だが、痛みを堪えたような仕草をした本坪鈴も更なる攻撃を放つ。鈴本体から黒い靄のようなものが巻き起こったかと思うと、聖の身を包み込んだ。
 それは後悔の念を強制的に呼び起こす黒き念。
「わ、なに……これ……?」
「待ってて、すぐに祓うから」
 咲夜は仲間の危機を察し、甘やかで優しい唄を紡いだ。
 花神の舞を彷彿とさせる嫋やかな歌声は桜の神を呼び、聖の身を包み込んでいく。
「大丈夫。前を向き続けられたら、世界はきっと応えてくれはるんよ」
 淡い咲夜の声と共に苦しみは一瞬のうちに取り祓われ、聖は安堵の息を吐いた。そして、聖は咲夜に呼び掛ける。
「風邪引く前に短期決戦で終わらせましょう!」
 頷いた咲夜は薙刀の切先を向け、聖も純白の魔法剣を構えた。
 そして――ひといきに振り下ろされた二振りの刃は、黄泉の獣に終わりを与えた。

●拳と刃
 辺りに響くのは剣戟と獣の鳴き声のみ。
 凛是とミハルは各方面に散った仲間達が次々と敵を屠っているのだと感じながら、目の前の敵に意識を向ける。
 敵の背後は行き止まり。ミハル達は今、獣を追い詰めるまでに至っていた。
 凛是の好戦的な彩を宿す橙の眸が捉えるのは低い唸り声をあげる獣。
「とにもかくにも、殴れば良いだけだな」
 周囲に猟兵と敵以外の気配はない。助けなければいけない人がいないなら凛是にとっては好都合だ。そういうの苦手だから、と零した凛是は地を蹴った。
 彼が跳躍して一気に距離を詰めたことで周囲に舞った雪の欠片が散る。その雪が地落ちた瞬間、灰燼の力を纏う拳が敵を真正面から穿った。
 ミハルは少年が放った一撃の重さに目を見張りつつ、掌を胸の前に掲げる。
「なかなかやるな。ならば此方も――」
 其処から喚び起こされた死霊が顕われ、黄泉の本坪鈴に向かっていく。ミハルは眸を細めて敵の出方を窺った。
 すると、本坪鈴の周囲に幾つもの人魂が浮かび上がる。気を付けろ、とミハルが呼びかけるが凛是は敢えて止まらなかった。
「これくらい、たぶん平気。熱いのも何もかも、そんなによくわかんねぇし」
 避けるくらいならば受けて一撃を入れる。
 それが真正面から拳を振るう少年の戦い方なのだろう。ミハルは軽く片目を眇め、それならば凛是が戦いやすい局面を作れば良いと考えた。
 そして、ミハルは死霊を操って黄泉の獣を翻弄していく。其処に生まれた隙を狙って距離を詰める凛是は炎をその身体で以て受け止め、容赦のない拳を打ち込んでいった。
 そうして戦いは続き、本坪鈴が大きくよろめく。
「好機のようだな」
 ミハルは敵があと少しで倒れると察し、凛是も掌を握り直す。
「遠慮なく、ぶっ倒す。アンタも続いて」
「勿論だ」
 少年が僅かに視線を向けてきたことに気付き、ミハルもちいさく頷いた。そうして凛是は最後の一閃を突き放ち、ミハルも死霊を向かわせてゆく。
 そして次の瞬間。
 凛是の拳が敵を雪上に薙ぎ倒し、死霊騎士の刃が獣の身を真上から貫いた。

●🌸+🍓=✨💪✨
 雪を纏う風に翼が揺れ、炎の軌跡が空に舞う。
「わ、危なっ……!」
 敵から放たれた人魂の炎を間一髪で避けたフレズローゼは翼をはためかせ、近くの塀に着地した。そのまま其処から飛び降りた少女は未だ追って来る炎の残滓を避けながら、再び空へと飛翔する。
「フレズ、大丈夫だった?」
「平気だよ。櫻宵も気を付けてね!」
 櫻宵からの問い掛けに明るく答えたフレズローゼは敵を見下ろす。
 素早く立ち回り、此方に炎を放ってくる黄泉の獣。その動きは厄介だがフレズローゼはひとりではない、地上には果敢に敵を相手取る櫻宵がいる。
「またフレズに手出しする前に両断してあげる」
 屠桜の名を持つ刀の柄を握り、櫻宵はひといきに刃を振り下ろした。空間ごと断ち斬る不可視の剣戟は敵を見る間に裂き、黒の毛並みを散らしていく。
 先程、頑張ろう、と告げて握ってくれたフレズローゼの手はとても温かかった。
 ――この子を守らなきゃ。
 あのとき、気が引き締まる思いがしたことを思い返し、櫻宵は動き回る敵を追う。
 フレズローゼもまた、彼もとい彼女に頼もしさを覚えていた。炎が来るなら、と身構えた彼女が空から放つのは氷青の魔法石で作った絵具で描く一閃。
 それに合わせて櫻宵が衝撃波を乗せた一撃を放ち、敵の力を削る。
 だが、空からの攻撃が厄介だと感じたらしき敵はふたたびフレズローゼを狙い始めた。その炎が翼の一部を焦がし、鈍い痛みを齎す。
 地に降りる他なくなったフレズローゼだが、その瞳に宿る意志は潰えていなかった。
「いたた……でも、ボクが止まってもキミは動ける。ボクが奴の隙を作るよ!」
 金の薔薇十字架を握り、痛みを堪えた少女が放つのは爆発してゆく赤薔薇と白薔薇が織り成す鮮やかな光景。
 その彩が散る中、フレズローゼは呼び掛ける。
「ほら、櫻宵……今だよ! 黒の獣くん、キミの判決は――死刑です!」
 なんてね、と悪戯っぽく笑った少女の眼差しには揺るぎない信頼があった。
「あら、女王陛下の判決は死刑なのね? じゃあ……」
 執行しなきゃいけないわね、と囁いた櫻宵はしかと頷き、敵を見据える。
 彼女にこれ以上の辛い思いはさせたくない。だからこそ次で終わりにすると決めた櫻宵は大きく踏み込み、そして――絶華の刃が黒き獣を斬り裂いた。

●泡沫と竜と白雪
 夜叉丸による背後からの不意打ちを受けた獣は走っていた。
 一太刀で相手との力の差を理解した黄泉の本坪鈴が選んだのは逃走だ。主は高みの見物をしたまま助けてくれることはなく、あのまま戦っていれば死が待っているだけ。
 そう直感した獣の動きは素早かった。
 だが、猟兵達がオブリビオンをそう易々と逃がすはずがない。
「其処か」
 ユヴェンは曲がり角に獣の影を見つけ、雪の地面を強く踏み込む。塀から屋根へと駆け登ったユヴェンは敵よりも速く先を往き、その進行方向に着地した。
 ぴっ、と怯えたような声をあげた敵は毛を逆立てる。
 ユヴェンは真正面から竜槍を突き放ち、その身を深く抉り穿った。そして、彼の視線はすぐに敵の背後に向けられる。
 其処に新たな追っ手、つまりは先ほど自分を斬った夜叉丸が居ると気付いた本坪鈴は苦し紛れの炎を背後に放った。
 しかし、攻撃の軌道を見切った夜叉丸は身を低くして焔を避け、その勢いを殺さぬまま敵の真横に回り込んだ。
「喰らうといい」
 剣刃一閃。夜叉丸が紡いだ言の葉と共に、泡沫の刃が振り下ろされる。
 獣は身を捩り、苦しみながらも黒き念を周囲に撒き散らした。夜叉丸は咄嗟に身を引いてそれを避けたが、追い縋る念はユヴェンを包み込んでしまう。
 黒き力は後悔の記憶を呼び起こそうとしてユヴェンに纏わりついた。
「しまった――」
 己の意思が支配されていくかのような感覚にユヴェンが槍を握る力が弱まる。すると竜に戻ったミヌレが彼の腕に牙をかけ――思いきり噛み付いた。
「……っ、すまないな、ミヌレ」
 その痛みによって我を取り戻したユヴェンはミヌレを再びに槍に変えて身構え直す。夜叉丸は仲間の様子に内心で安堵を抱き、厄介な力を使うものだと独り言ちた。
 されど、その力も斃してしまえば其処で終わり。
 ユヴェンと視線を交わした夜叉丸は次の一手を最期にすると決めた。
 力を振り絞った敵の炎が迫る。だが、二人は決して動じなかった。振るわれた泡沫の切先、そして竜槍の刃が其々にその衝撃をいなす。
「さあ、やろうか」
 そして、ユヴェンが放った槍が獣の身を雪上に縫い付けた。その機に合わせて動いた夜叉丸は息を吸い、ひといきに刃を振り下ろす。
「過去の亡霊共よ。おれがここに立つ限り、人々から未来を奪えるとは思うな」
 死した獣に送ったその言葉は深く、雪に沈むかのように静かに響いた。

●妖狐の怒り
 リーファと智華が相手取る配下が倒れた時はただのまぐれだと思った。
 まいと共に戦うコノハとカスカが後悔の念に囚われた時は、しめしめと感じた。それに加えて聖やユヴェンが念を受けた時はそのまま倒れてしまえと願った。
 だが、咲夜の力によって回復したり、自ら過去を振り払った者達を見たとき、明日香は嫌な予感を感じてしまった。
「あの人たち……どうして邪魔をするの?」
 わなわなと震えた妖狐は少しばかり焦っていた。だが、まだ配下達が負けると決まったわけではない。自分はこのまま奴らが殺されるのを待っていればいい。
 そう思っていたのだが――。
 フレズローゼと櫻宵が見事な連携で獣を屠り、ミハルと凛是があっという間に標的を打ち倒し、夜叉丸達が最後の一体を斃した。
 全ての配下が倒れたことを知った明日香は深い溜息を吐いた。
「そっか、あの子達がやられたなら仕方ないなぁ……」
 しゃき、しゃき。
 明日香が手にしている鋏が無機質に鳴る。
 どうやら配下を倒した猟兵達は自分の元に集って来ているようだ。
 かくりと首を横に傾けた妖狐は氷や雪よりも冷ややかな、すべてを凍り付かせるかのような声で呟いた。
「――あたしが直接、ヤるしかないよねぇ」
 しゃき、じゃきん。
 血に濡れた鋏が鈍い音を立てた刹那、妖狐は屋根を蹴って跳躍した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『『妖狐』明日香』

POW   :    妖狐の炎
レベル×1個の【妖狐の力 】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
SPD   :    野生の開放
【真の妖狐の力 】に覚醒して【九尾の狐】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    スコールシザーズ
自身が装備する【鋏 】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。

イラスト:麦島

👑17
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠暁・碧です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●『妖狐』明日香
 各所に散った黄泉の本坪鈴を全て倒し終わった猟兵達は妙な気配を感じた。
 ふわりと舞った影がやわらかな雪の上に着地する。
 それと同時に冬の空気よりもさらに冷たく、無慈悲なほどの冷気が吹いた気がした。だがそれは風などという生易しいものではない。
 配下を全て斃され、町を壊す目的を潰された妖狐が放つ怒りの殺気だ。
「さぁ、誰から殺されたいの……?」
 妖狐は光の消えた眸で周囲を見渡し、手にしている鋏を鳴らす。
 誰からでもかかってくると良い。冷たい眼差しからそんな意思が伝わってきた。

 オブリビオンたる妖狐の力は計り知れない。
 しかし、此処で彼女に負けてしまえば平和な町の光景が、そして楽しい雪祭りが人々の平穏ごと壊されてしまうだろう。
 妖狐から放たれる強い殺気を受け止めた猟兵達は身構え、決意を抱く。
 必ず敵を屠り、この先に巡る時間を守ってみせると――。
ユヴェン・ポシェット
お前は一体何に対して怒りを感じているんだ…。
何が嫌なんだ?お前の気持ちを聞かせて貰えたら良いのだが。

皆、お前の事を傷つけたい 訳ではないのだがな。
子どもはお前と一緒に遊びたかった。


終夜・凛是
アンタに殺されるとはまったく思わない。けど、一人で勝てるとも思ってない。
そのへんはちゃんと、理解できてる。

俺、最初に攻撃かけていい? その間に、態勢つくってあとはよろしく。
最後まで立ってられるか、わかんねぇから。

俺の相手、してよ。
やることは簡単、ひとつだけ。
拳に全部載せて、いつもよりちょっとだけ深く踏み込んで、殴るだけ。
向けられた攻撃からも逃げない。逃げたりよけたり、そんな暇があれば距離詰める。

俺も妖狐だから炎で遊べるけど、アンタの炎は綺麗じゃないな。
心、踊らない――俺のにぃちゃんの方がアンタより綺麗に遊んでみせる。
この炎はどれだけあっても怖くないから、前に進むだけ。


紅葉・智華
敵の意識が我々に向き、一時的に町からは離れたように感じます。
近接戦闘向きの方もいるようなので、中~遠距離での援護射撃に徹します。

攻撃が此方に来るようであれば、回避。(【ユーベルコード:虚構の神脳】)
目立たぬ位置で敵の攻勢に出た瞬間等に、狙撃を敢行(ユーベルコード:【支配者の弾丸】)し敵の隙を作り出します。
乱戦であっても直射で味方には当たらずに敵に必中する射撃でありますので、皆さんの邪魔になる事はないかと。また、乱戦であれば敵に私の位置は悟られにくいかと。

「この弾丸は鋏だろうと狐だろうと逃さないでありますよ」

【使用技能:スナイパー2,見切り1,視力2,第六感1,目立たない1,援護射撃1】


リーファ・レイウォール
「あらー。可愛い顔してるのね。男受け良さそう……」
一部、女性受けもよさそう、とは心の中でだけ。

(やっている事は、えげつないわね。……妖狐って、人を甘やかすの好きじゃなかったかしらね?)
疑問には思えど、問答は不要。

攻撃は【WIZ】で魔法主体。
状況次第では、当てるだけでなく、味方の攻撃の軌道に誘い込むための魔法も放つ。
確実に当てる時は【全力魔法】。

大技が来そうなら、【高速詠唱】で、ユーベルコード【禍封紫青焔】を発動
両手で持った『Frisches Blut』を掲げて、紫青色の炎を召喚し紫青色の炎の渦で、動きを封じるわね。
「それを通すわけにはいかないのよねー」

使用技能は、2回攻撃、全力魔法、オーラ防御


ミハル・バルジライ
苦杯を嘗める心算は無い。
力の及ぶ限り鋭意努めよう。

他の猟兵達と連携を心懸ける。
敵の手の内を図るべく動作の癖や特徴は随時観察を。
標的が判明すれば注意喚起し極力被害を抑えるよう。
俺へ矛先が向く場合は見切り躱すよう試みる。

攻撃の際はフェイントを交え咎力封じを以て。
味方の戦い振りへも留意し、弱味等が垣間見えることがあれば周知を。
危機に瀕する者がいれば一時身を呈することも厭わない。
傷付こうと煽られようと、冷静さを欠くことのないよう心して。

白の上に咲く紅は嘸かし美しいだろうが、祭事を穢すわけにはいかない。
非道は必ず此処で仕留めてみせる。
雪に刻まれた足跡くらいは暫く形見に遺してやるさ。


花咲・まい
【POW】妖狐とは初めて戦いますですね。彼女がなぜ怒ったのか、剣を交えれば私にも分かりますでしょうか?
……ふーむ、深く考えるのはやっぱり性にに合いませんですね。うん!こういうのは大体、斬れば分かりますですよ!

戦闘には悪鬼礼賛を使いますです。
妖狐さんの気持ちには寄り添えないけれど、せめてあなたの怒りは私たちがここで断ち切りますですよ!


コノハ・ライゼ
【WIZ】
単独でどうこう出来るモンじゃねぇでしょ
仲間と合わせ隙のない動きを作れるようにすんよ

牽制する様に【月焔】を分散させ四方から撃ち込み
敵が移動すれば進路を狙って壁作るように撃つ
少しでも敵の動き封じ仲間が戦いやすくなりゃ御の字
モチロン牽制だけでなく
足止めたら全弾合体させた【月焔】を撃ち込むし
近距離に迫ったら「柘榴」振るい『2回攻撃』活かして深く『傷口をえぐる』ヨ
『生命力吸収』すりゃ一石二鳥ってヤツ

鋏の反撃は「柘榴」で往なすが
ある程度は『激痛耐性』頼ってそのまま突っ込む
苦しむ様がお好きなようなンで、見せるのは癪デショ

何ひとつ、テメェの玩具にしてイイ命なんざ無ぇんよ

(アドリブ歓迎)


朽守・カスカ
…殺されたいなどと問われても、はいと答えるものも、そうはいないだろうさ
それに、大切な父との思い出をあのように弄ばれると
私も些か頭に来ているんだ

どうやら、思いとどまるつもりもないようだから
意思を通すため、容赦せず力尽くで行くとしようか

とはいったものの、どうにも手数が多ければ
彼女自身も油断ならない相手だ。
的を小さくするためにも、ライオンライドはやめて
【幽かな標】で回避に専念しつつ
隙を突くチャンスを伺って一撃を与えよう

その激情は生まれついた性分かもしれないが
もう少し寛容であったら
雪祭りを楽しめたのかもしれないのに
残念な選択をしたものだね

でも、お祭りにはその激情は不要なんだよ
おやすみなさい――


神々廻・夜叉丸
*アドリブ歓迎
おれには誰かを背に守りながら戦うなんて、そんな器用な真似はできない
だから、ただ目の前の敵を屠るだけだ

夢幻泡影で生み出した刀を使い捨てながら、敵の攻撃を【第六感】を駆使してギリギリで【見切り】、【破魔】の力を乗せつつ【鎧無視攻撃】で【傷口をえぐる】よう、ただひたすらに斬る
心などとうの昔に凍らせた。死への恐れなんてない

一太刀で届かぬなら十の刃を、それでも届かぬのなら百の刃を
それは儚く消える泡沫なれど、決して尽きぬ無限の一刀

たとえ一度退けられたとしても、仲間の生んだ隙を突き、背後からの【暗殺】を試みよう

未来を喰らう悲しき骸よ、恨むならば恨んでくれて構わない
だから、お前はここで朽ちて逝け


河南・聖
実際に目にすると随分と可愛らしい女の子ですね。いや、男の娘という可能性も……?
まぁそれは置いといて。

ユーベルコードの炎って真空でも燃えるんですかね?
まぁ、多分燃えるでしょうけど、試してみますか。
本体に向けてバキュームスフィアを使用。
閉じ込めてる間に【高速詠唱】でフロストバード使用。

オブリビオンとはいえ、あまり女の子の肌に傷が付くのを見たくはないので
これで倒れてくれると助かるんですけどね。


フレズローゼ・クォレクロニカ
🍓櫻宵(f02768)と一緒に
アドリブ、他PCとの絡み歓迎

いたた……
あっ櫻宵ボクは大丈夫
だからそんなに怒らなくても(と言いつつ心配されたのが嬉しい)
櫻宵が傷つくのボクもやだもん
頑張る!

あの子が悪い子なんだね
皆の雪祭りも笑顔も壊させないんだから!
キミの暴虐を塗り替えたげる!
折角雪があるから、雪玉に雷や炎の魔法石絵の具を練り込んだ魔法を放ってみるよ!
ビリビリ動けなくしちゃう
オーラで上手く防御して躱し
明日香が大技を繰り出しそうな時は『黄金色の昼下がり』で動きを止める
―櫻宵、今だよ!

明日香
キミには明日は来ないんだ
雪薔薇色の美しい日を嘆きの赤薔薇色で染めさせはしない
今日の女王陛下は白の気分なんだよね!


誘名・櫻宵
🌸フレズローゼ(f01174)と一緒
アドリブ等歓迎

フレズ!羽根見せて?ああ……可愛い翼がこんな……なんてこと
すぐ治してあげるから少し待ってね…

狐だか何だか知らないけど……あんた…許さないからね
うちの子を傷つけた代償はあんたの首で払ってもらうわ!!
もうフレズを傷つけさせない、そんな決意をもってこの女狐を殺す
フレズをかばい、上手く残像や見切りで躱し
1度斬ったなら次も同じ傷を抉り、刀には雷撃の属性を帯びさせ連撃してくわ
フレズ…無理しちゃダメよ!
けれどありがと
あなたがいるから戦えるのよ!

あたしもいいとこ見せなきゃね!
隙を見せたなら一気に踏み込んで『絶華』を叩き込む
ねぇ、サヨナラの準備はできたかしら?


霧城・ちさ
先ほどの敵とはプレッシャーが違いますわね
配下を倒された怒りで最初から容赦なく攻撃がきそうですの
私は戦闘でせっかく守った町や町の人たちを守るべく戦わせて戴きますの
私も敵の隙をついて攻撃したり回りこんで挟撃を狙ったりしていきますわっ
ユーベルコードで受けるダメージも大きいと予想されますし私もユーベルコードで戦うみなさまを回復して援護も行いますわっ



●鋏と刃
 雪景色の中、悪意が揺らぐ。
 真白な世界に落とされた黒い感情は周囲の空気まで酷く歪ませているかのよう。
 誰から殺されたいか。
 その問いにカスカは首を振り、妖狐に視線を返す。
「……殺されたいなどと問われても、はいと答えるものも、そうはいないだろうさ」
 カスカに続き、ユヴェンも明日香を見据えて竜槍を構えた。此方が知っているのは、ただ子供に雪玉を投げつけられたということだけ。
 何が嫌だったのか。明日香の気持ちを知りたいと願ったユヴェンは問う。
「お前は一体何に対して怒りを感じているんだ……」
「強いていえば全てかな。あたしの気に入らないもの、全部が嫌い」
 明日香の声は冷ややかだ。
 霧城・ちさ(夢見るお嬢様・f05540)はぞくりとした感覚をおぼえる。きっと彼女は猟兵達が戦った黄泉の本坪鈴などよりも遥かに強い力を秘めているのだろう。
「先ほどの敵とはプレッシャーが違いますわね」
 ちさが思わず落とした言葉にカスカとユヴェンも同意を示す。
 配下を倒された怒りもあり、敵は最初から容赦のない攻撃を放ってくるはずだ。
 おそらく彼女は人々が行き交う祭りを見ても、自分達だけ楽しんでずるい、と感じて憤りを覚えるのだろう。そんな雰囲気が妖狐から漂っていた。
 リーファはじっと敵を見つめ、あれはそういった存在なのだと実感する。
(「可愛くてもやっている事は、えげつないわね。……妖狐って、人を甘やかすの好きじゃなかったかしらね?」)
 妖狐の形を取っていても、彼女はただ悪意を撒き散らすだけのオブリビオンだ。
 そして今、相手の怒りはリーファたち猟兵に向けられている。
 だが、智華はそれが好都合だと感じていた。敵の意識が自分達に向いたことで、一時的にではあるが町を壊すという目的が薄れている。きっと敵は此方を倒した後で町を破壊しようと考えているのだろうが、智華達がそうはさせない。
 フレズローゼも強く敵を睨み付けたが、先程の戦いで負傷した翼が傷んだ。
「いたた……」
「フレズ! 羽根見せて? ああ……可愛い翼がこんな……なんてこと」
 思わずフレズローゼが零した声に櫻宵が反応する。直接手を下してはいないとはいえど傷は妖狐の配下から齎されたものだ。顔をあげた櫻宵は明日香に向け、宣戦布告めいた眼差しを送る。
「狐だか何だか知らないけど……あんた……許さないからね」
「あっ櫻宵ボクは大丈夫。だからそんなに怒らなくてもいいよ」
 慌てて平気だと告げるフレズローゼだが、内心ではそこまで心配してくれることが嬉しかった。だから、と痛みを堪えた少女は自分も櫻宵の為に頑張ろうと胸の裡で誓う。
 寒さに合わさった殺気は肌を刺すかのようだ。
 いつ向こうから攻撃されるとも分からぬ現状、凛是は静かに唇をひらいた。
「アンタに殺されるとはまったく思わない」
 ――けど、一人で勝てるとも思ってない。
 胸中で独り言ちた凛是はミハルに一瞬だけ視線を送り、即座に雪の地面を蹴る。
 自分が先陣を切って攻撃を仕掛けると凛是の瞳は語っていた。「あとはよろしく」とだけ告げられた言葉を聞いたミハルは頷きを返し、身構える。
「苦杯を嘗める心算は無い。力の及ぶ限り鋭意努めよう」
 思いを言葉に変え、ミハルは少年の背を見つめた。
 刹那、凛是と明日香の距離が一瞬で縮められ、振るった拳が標的を穿つ。一撃を受け、わ、と声をあげた妖狐は数歩後ろに下がった。
「危なかった。じゃあ次はこっちから……」
 凛是を見据えた明日香は軽く振り被ったかと思うと手にしていた鋏を投げつける。
 そんなもの、と一投を交わした凛是だが、妖力によって複製された鋏が次々と迫って来た。受け止める気概はあっても流石に数が多過ぎる。
 咄嗟にミハルが咎の暗器を投擲して幾つかを打ち落としたが、それでもまだ足りない。痛みを覚悟した凛是の頬を、そして腕や脚を刃が掠め、突き刺さった。
 未だ迫り来る幾つもの鋏は少年を更に切り刻もうと舞う。
 だが、其処にコノハが割り込んだ。柘榴の刃で仲間に迫った一閃を弾き落とし、襲い来るものを次々と捌く。
「これは流石に、単独でどうこう出来るモンじゃねぇでしょ」
 見事に刃で刃を打ち落としながらも、コノハは警戒を強めた。妖狐が操る鋏ですらこの数と威力なのだ。仲間と共に動きを合わせなければ勝てる見込みはない。
 まいは敵の強さを感じ取り、大刀を振りあげた。
「任せてくださいです。妖狐だろうと何だろうと、斬るだけですから!」
 大振りの一閃は敵に迫り、紫電となって迸る。
 それに、剣を交えれば自分にも彼女の怒りが分かるかもしれない。きっと言葉より何より、剣戟こそが饒舌に事を語ってくれるはず。
 そう信じたまいの眼差しと、怒りに満ちた妖狐の眼差しは対照的だ。聖も攻勢に入ることを決め、両掌から魔力で生成した真空の球体を放つ。
「実際に目にすると随分と可愛らしい女の子ですね。それなのに……」
 あの眸は濁っている。
 そのように感じた聖が解放した力は妖狐を包み込み、動きを一時的に止めた。だが、球体は念力によって操られた鋏によって破壊されてしまう。
 されど、次に動いた夜叉丸にとって隙は一瞬でいい。
「無限の一刀、受けてみると良い」
 瞬時に生成された夢幻の刀を引き抜き斬撃として放つ。夜叉丸の連撃は敵に容赦なく襲い掛かっていくが、鋏がそれらを弾いていった。
 甲高い音が雪の上に響く中、夜叉丸は敵を瞳に映し続ける。
 自分には誰かを背に守りながら戦うなんて器用な真似はできない。そう自負しているからこそ――ただ、目の前の敵を屠るだけ。
 刃が冬の陽を映し、雪の色が煌めく。この先に巡るのは勝利か敗北か。
 未だ、運命の行方を知る者はいない。

●焔と血と叫び
「これだけ相手するの、ちょっと面倒だけどまぁいいかな。だって……」
 妖狐が猟兵達を見遣り、薄く笑む。
 そして周囲に幾つもの炎を浮かべた明日香は妖狐の力を解放して言葉を続けた。
「全員纏めて殺せるから――!」
 その声と同時に全方位に向かって炎が舞い、猟兵達ひとりずつに襲い掛かる。リーファとまいはそれを真正面から受ける他なく、凛是も齎された痛みに耐えた。
「待っていてください、すぐに癒しますわっ」
 ちさは目の前に立っていたリーファが自分への炎を受けてくれたのだと察し、聖なる光で仲間の痛みを和らげていく。
 櫻宵はフレズローゼに迫った炎を屠桜で叩き落とし、夜叉丸とライゼはそれぞれ、夢幻の刀と深紅の刃を当てることでそれらを相殺していった。
 ユヴェンとミハルは間一髪で炎を回避し、智華は即座に炎の動きから未来を予測して身を翻した。カスカもまた、咄嗟にランタンを翳してその軌道を読む。
 已の所で躱したカスカの脳裏に先程の光景が蘇った。
 無理矢理に思い起こされた大切な父との思い出。記憶をあのように弄ばれた今、カスカ自身も怒りめいた思いを抱いていた。
「どうやら、思いとどまるつもりもないようだね。容赦せず力尽くで行くとしようか」
 相手は話し合いで解決できるような輩ではない。
 幽かな灯の導きに身を委ねたカスカは敵の動きを窺った。敵が自ら隙を生むことはないだろう。それならば、此方から作るだけだ。
 カスカの狙いを感じ取り、聖も敵を確りと見つめ続ける。
 鋏に炎。妖狐を取り巻く力は強く、攻撃も防御もそれらが行うようだ。炎の勢いは収まることなく、躱しても尚ふたたび向かってくる。
「この炎、厄介ですね」
 おそらくどのような状況でも燃える炎に対抗できるのはユーベルコードのみ。
 聖は今一度スフィアに敵を閉じ込めようと狙う。しかし、その動きを察した妖狐が聖の動きを阻もうとして鋏を飛ばした。
 避けられないと感じた聖が目を瞑った瞬刻、コノハの声が耳に届く。
「させるかよ、ってな」
 即座に仲間の前に回り込んだコノハが先程と同じ要領で鋏を弾き、軌道を逸らしていった。だが、幾重もの攻撃はコノハの身を切り刻む。
 血が散るのも構わず、コノハは鋏の連撃をいなして反撃の機を狙っていた。
 その様子を見つめるのちさだ。
「心配ありませんわ。わたくしにお任せください」
 守る者として、支える者として戦うと決めたちさは聖光を生み出し、傷の手当てを行っていく。多少の疲弊が蓄積しようともちさの意志は固い。
 だが、このままではいけない。直感した凛是は鋏の奔流を掻い潜り、ふたたび妖狐の懐に近付かんとして駆けた。
 やることは簡単、ひとつだけ。
 拳に全部載せて、いつもよりちょっとだけ深く踏み込んで、殴るだけ。
「俺の相手、してよ」
 耳元で囁けるほどの近距離で告げた凛是。彼の拳が妖狐の胸元に容赦なく抉り込まれる。一瞬後、きゃあ、という声が響いて妖狐の身が揺らぐ。
 凛是が作った好機を逃さず、フレズローゼは雪玉を手にした。雷と炎を練り込んだ絵具で彩られた雪は魔力を孕んで浮遊する。
「あの子は悪い子だね。皆の雪祭りも笑顔も壊させないんだから!」
 勢いのままに放たれた雪玉は弧を描きながら妖狐の頭上から降り注いだ。
「わ……雪玉なんて嫌い!」
 フレズローゼの攻撃に明日香が気を取られた瞬間、櫻宵が地を駆ける。敵は魔力の雪玉を鋏で斬り裂いて回避したが、櫻宵の接近にまでは気が回らなかった。
「うちの子を傷つけた代償はあんたの首で払ってもらうわ!!」
 言葉と共に斬り放たれた一閃が妖狐の身を裂き、その身を吹き飛ばす。きゃん、と鳴き声めいた悲鳴があがったが櫻宵は躊躇などしない。
 踏み込んでもう一撃。そして更に凛是が真横から迫り、櫻宵の刃が付けた傷を抉るように拳を重ねた。
「いったぁい……!」
 それでも未だ妖狐の力は然程削れていない。
 リーファはまだまだ攻撃を叩き込んでいくべきだと感じて第八聖典をひらいた。其処から生まれる魔力の奔流に込めた力は全力。
「確実に当てて見せるわ」
 見てなさい、と告げたリーファが放った一閃が妖狐に迫る。周囲に浮かぶ炎すら巻き込んで迸る魔力は真正面から敵を包み込んだ。
 眩い光が収まるか否かという瞬間、既に智華は動いていた。
 相手は同時に何人もの相手をしても怯まぬ強敵だ。しかし、乱戦である今の状況だからこそ狙い通りに動ける。
 智華は自分の位置が悟られていないと察し、ライフルを構えた。
「もう一度、隙を作り出します」
 ――逃さない。
 銃口が火を噴き、必中の弾丸が妖狐に撃ち放たれる。智華が宣言した通りに敵の動きは封じられ、ミハルは好機を掴み取った。
 動きは止まれど、それはたった一瞬。それでもミハルは妖狐が身を翻す前に枷でその身を捉え、拘束具で以て縛ろうと狙った。
「く、う……! こんなもの!」
 一時は拘束出来たと思ったが、明日香は力任せにそれらを引き千切る。
 そしてミハルに向けて怒りの籠った念を向け、幾重もの炎を飛ばしてきた。激情の矛先が自分に向いていると気付いたミハルは即座に後退する。
 黒衣を翻した彼の元に刻まれる足跡。それに追い縋る炎の軌跡。
 避けきれぬ焔がミハルの身を焦がし、その黒髪が雪風になびいた。だが、どれほどの痛みを受けようとも彼の表情は変わらぬまま。
「もっと苦しんだらどうかな。痛い癖に我慢しちゃって!」
「云いたい事はそれだけか」
 妖狐からの声にミハルは頭を振り、視線を返す。傷付こうと煽られようとミハルは決して冷静さを失うまいと努めていた。
 その間にまいが駆け、妖狐の鋏を弾き落としながら接敵する。
「まだ怒っていらっしゃるのですね。どうしてなのでしょうか。……ふーむ、深く考えるのはやっぱり性に合いませんですね。うん!」
 軽く首を傾げたまいの羅刹紋が浮かび上がり、その手に力を与えた。
 やはり、何でも斬って斬って斬り落とせばいい。そうすれば分かるかもしれない。そして、妖狐に斬りかかったまいの一閃が深い衝撃を巡らせた。
 思わずよろめいた明日香へと竜槍を振るい、ユヴェンは何処か悲しげに告げる。
「皆、お前の事を傷つけたい訳ではないのだがな」
 彼女が雪祭りを楽しむだけの少女であったのなら、こうして戦うこともなかった。もしかすれば子供達と雪合戦で遊ぶ未来もあったのかもしれない。
 ユヴェンは肩を竦め、敵との距離を取る。
 だが、きっと想像したすべてが在り得なかった未来だ。それがオブリビオンである限りは戦いは避けられなかった。
 妖狐は再び鋏を複製して操り、猟兵達を傷付けようと狙う。
 雪上を、そして屋根の上を駆けて立ち回る夜叉丸は背後から迫る気配に気付いた。来る、と第六感が告げた危機に従って夜叉丸は跳躍する。
 攻撃を見切ると同時に妖狐に刃を向けた夜叉丸は其処に破魔の力を乗せた。
 振り下ろすのは衒いのない剣閃。
 身を抉られた妖狐から血が散り、少年の頬を濡らした。それでも夜叉丸は顔色ひとつ変えずに更に傷口を抉った。
「なんで、そんなに冷静に……っ」
「心などとうの昔に凍らせた」
 苦しむ明日香に夜叉丸が答える。死への恐れも、殺すことへの躊躇も最早ない。
 戦いにおいて彼の姿勢は心強いものだ。しかし年頃の少年としてはどうなのだろうか。コノハの裡にそんな思いが巡ったが、今は戦いの最中。
 放ち返された狐炎に対抗すべく、コノハは月白の炎を顕現させる。分散させた炎は狐の力を打ち消し、更に四方からの攻撃となって戦場に舞った。
 明日香は軽い身のこなしで月焔の幾つかを避ける。されどコノハは避けられた焔をひとつ処に集め、最大火力の炎を打ち込んだ。
「避けてもまた創るだけ。ほら、ドウゾ」
 コノハの言葉が落とされた直後、焔が妖狐の尻尾を焦がす。
「この、このぉ……!!」
 熱さと痛みに地団太を踏んだ明日香は明らかに弱りはじめている。
 櫻宵とフレズローゼは頷きを交わし、仲間達と共に敵を追い詰める意志を抱いた。ミハルと凛是も微かな勝機を感じ取り、敵との間合いを計る。
 其処に聖が氷の巨大鳥を放ち、妖狐の力を更に削り取ってゆく。
「さっきは壊されましたが、これでどうでしょうか」
 聖は魔力の奔流が見事に命中したと悟り、先程のお返しだと明日香に告げる。
 だが、猟兵達も迫り来る鋏や炎の対応と慣れぬ雪上の戦いで消耗していた。カスカが呼吸を整えると、白い息が宙にのぼっていく。
「その激情は生まれついた性分かもしれないが、もう少し寛容であったら雪祭りを楽しめたのかもしれないのに」
 残念な選択をしたものだね、と口にしたカスカは魔導蒸気機械を構えた。彼女の傍ら、リーファも敵の様子を窺い、次の一手の機を見定めている。
 だが、智華は知っていた。
 手負いの獣ほど凶暴で、獰猛な本性を見せるものだ。
「気を付けてください。何か感じるであります」
「嫌い……きらい、キライ。全部……大っ嫌い!」
 智華が呼び掛けた刹那、明日香が空に向かって叫んだ。途端に辺りの空気が淀んだような重い感覚に包まれ、まいと夜叉丸は身構え直す。
 思わず身体が震えてしまったことに気付き、首を振ったちさは敵を見つめた。
「何ですの? 妖狐の魔力が今まで以上に膨れあがっていますわ!」
「……こんな世界、壊れてしまえ――!」
 ちさが示した先で明日香が再び声をあげる。
 その瞬間、彼女の尾が九つに分かれ――真の妖狐の力が解放された。

●憤怒の代償
「こいつは拙いかもな」
 目の前で見せつけられたのは膨大な力の奔流と覚醒の力。コノハは思わず後退りをしたが、それは怯んだからではない。
 近くに居たカスカの腕を引き、共に数歩に下がる。
 一瞬後、それまでコノハ達が居た場所に鋭い鋏が突き刺さった。
「これは予測すらさせて貰えないね」
 危なかったとカスカが礼を告げ、二人は其々の方向に跳躍する。
 それまでよりも疾く、雪上に舞う刃は猟兵達を皆殺しにする勢いで飛び交っていた。
 こんなものといつまでも渡り合えるはずがない。コノハは舞い飛ぶ鋏の追撃を躱しながら明日香の真横に回り込む。彼女の回りには主を守る鋏が浮いているがそんなものになど構いはしない。
「……ッ、――!」
 激痛への耐性があっても痛みは身を駆け巡る。それでもコノハは突き進み、柘榴の刃を横薙ぎに振るった。
 一撃、そして二撃目。生命を吸収しながら放たれた攻撃は見事に命中する。
 妖狐の尾の毛並みが刃によって乱され、金色の毛が雪の上に散った。
 悔しげに唇を噛み締める明日香がコノハを睨み付ける様を、ユヴェンはしかと見つめている。彼女は今、命と寿命を削りながら此方に対抗しているのだろう。
「どうして――」
 何故、分からないのだとユヴェンは呟く。
「子どもはお前と一緒に遊びたかっただけだというのに。誰も、何者も傷付けない世界だってあるはずだというのに」
 ユヴェンは届かぬ言葉を落とし、仲間に続いて竜槍を振るった。
 その一閃が鋏を弾く中、ミハルは戦場を幾つも飛び回る鋏を目で追う。この場は乱戦となっており、いつ誰に刃が迫ってもおかしくなかった。
 ミハルは死霊達を呼び寄せて自分を守護させ、凛是に視線を向けた。
 そのとき、拳で鋏を叩き落とした彼の横手から新たな刃が迫ってきていることに気付く。ミハルは考えるよりも先に地を蹴り、少年を襲う刃に手を伸ばした。
 防いだのは自らの腕。
 突き刺さった鋭利な切先をもう片方の手で引き抜けば、黒衣に紅い血が広がっていく。緋色の雫がぽた、と雪の上に落ちた。
「白の上に咲く紅は嘸かし美しいだろう」
 ミハルが息を吐くと、空気が白く染まって滲んだ。
「だが、祭事を穢すわけにはいかない。非道は必ず此処で仕留めてみせる」
「……そうだな」
 決意が宿ったミハルの言葉に対し、凛是は短く答えて駆け出した。自分を守ってくれた彼に感謝を伝えるよりも、今は敵を斃すことが礼になる。
 凛是は俺も妖狐だから、と掌の上に炎を纏わせた。それを拳で握り込んだ凛是はひといきに敵との距離を詰める。
 対する明日香は少年の接近を拒むように狐火を躍らせた。
「アンタの炎は綺麗じゃないな。心、踊らない――俺のにぃちゃんの方がアンタより綺麗に遊んでみせる」
 敵の炎はどれだけあっても怖くない。だから、前に進むだけ。
 何も恐れぬ真っ直ぐな眼差しを向けた凛是は焔を受け止めながらも拳を振るった。その一撃が多大な衝撃を与えたと察し、まいも追撃を放ちに向かう。
「妖狐さん、あなたの気持ちには寄り添えませんです」
 どれほど斬って、打ち合っても、怒りの根源には辿り着けなかった。悲しいけれど理解しあえることはないのだと知ったまいは今、新たな思いを抱いている。
「だから、せめてあなたの怒りは私たちがここで断ち切りますですよ!」
 まいの宣言と共に加々知丸が振りあげられ、刃が雪の白を反射して煌めいた。その瞬間、地を轟かせる勢いで紫電が迸る。
 まいの全力に圧倒されたのか、明日香の表情が歪んだ。
 だが、その怒りを表すかのように狐焔が激しく燃えあがる。まいは咄嗟に距離を取り、危ない気がしますです、と周囲に注意を促した。
 その声に気付いたフレズローゼはすぐさま空に舞い上がって炎を避ける。
 余波はオーラで防御し、威力をいなしたフレズローゼ。彼女が痛みに耐えているのではないかと察した櫻宵は上空に向けて呼び掛ける。
「フレズ……無理しちゃダメよ!」
「平気だよ、櫻宵。ボクも守って貰ってばかりじゃないから!」
「ありがと。あなたがいるから戦えるのよ!」
 少女からの気遣いに櫻宵は笑みを湛えて答えた。その光景を睨み付ける妖狐は何もかもが気に入らない様子。
 智華は紅葉のマークが刻まれたゴーグルを被り直し、標的との距離を測る。銃口を向けた先、明日香は未だ自分に注意を向けていない。
 ならば今こそが新たな好機だとして、智華は引鉄に手を掛ける。
「この弾丸は鋏だろうと狐だろうと逃さないでありますよ」
 瞬時に決して狙いを外さない銃弾が敵を穿ち、その身に深い傷を刻んだ。見悶えた敵に緋色の眼差しを向けた智華は銃身を引き、更なる一撃を与えるべく構える。
 其処にリーファが続き、大鎌を大きく掲げた。
 黒の長柄に真紅の刃。血を欲するかのように鈍く輝く鎌に魔力が巡り、青い炎焔が浮かび上がる。瞬時に詠唱を終えたリーファが狙うのは狐火の阻止。
「それを通すわけにはいかないのよねー」
 仲間が怪我するのも好きじゃないし、と付け加えたリーファが刃を振るう。
 紫青の炎は渦となり、攻撃を放とうとしていた妖狐の動きを封じた。されど力を増大させた敵の身を縛れるのもほんの僅かだ。
 聖は更に動きを止める為、封じのスフィアを発動させていく。
「オブリビオンとはいえ、あまり女の子の肌に傷が付くのを見たくはないです。これで倒れてくれると助かるんですけどね」
 解かれようとした拘束に新たな拘束が加わって妖狐を包み込む。其処へ高速詠唱で以て二撃目に移った聖による、フロストバードが解き放たれた。
「う、うぅ……ああっ!」
 妖狐から痛みに苦しむ声が何度もあがる。
 だが、それまで攻撃一辺倒で立ち向かっていた夜叉丸のやることは変わらない。雪原に突き刺さる刃が引き抜かれ、その切先が狐に迫る。
 一太刀で届かぬなら十の刃を、それでも届かぬのなら百の刃を。
 それは儚く消える泡沫なれど、決して尽きぬ無限の一刀。
「未来を喰らう悲しき骸よ、恨むならば恨んでくれて構わない」
 夜叉丸の蒼の双眸は敵を捉えて離さず、一片の加減も容赦もなく血を散らせていく。
 だが、少年を睨み返した妖狐は鋏を解き放った。
 夢幻の刃で迎え撃つ夜叉丸は攻撃を弾き返していく。だが、刀を逆に弾いた鋏が夜叉丸の腹に真正面から突き刺さった。
「……!」
 声なき声が少年からあがったことに逸早くちさが気付き、掌を掲げる。
「いけませんわ、その傷は放っておいては駄目ですの」
 普通のヒトであれば致死の衝撃。それに表情を幾分も変えずに堪える少年に向け、ちさは渾身の癒力を放ってゆく。
 生まれながらの光はちさ自身の魔力を生命力へと変化させて対象の身を癒す。それだけで息があがる程の疲労がちさの身に巡るが、負けてなどいられなかった。
「わたくしは、支えると決めたのですもの!」
 ちさの頑張りが仲間の傷を塞いでいく最中、妖狐は怒りのオーラを増していく。
「仲間だとか支えるだとか、くだらない……!」
「くだらなくなんてないよ! ―――櫻宵、今だよ!」
 増大された力で狐火を放とうとした明日香の動きを悟り、フレズローゼが反論と同時に永遠のお茶会を描いたキャンバスを放つ。
 其処から顕われたのはきらきら光る蝙蝠、そして紅茶と砂糖の乱舞の嵐。
 時間を奪われ、今に磔にされた明日香は身悶える。
 そしてフレズローゼの合図を受けた櫻宵がその隙を突き、敵との距離を詰めた。
 紅い血桜の刀身を振りあげ、一気に懐まで踏み込む。
「あたしもいいとこ見せなきゃね!」
 刹那、空間ごと断ち斬る不可視の剣戟が妖狐を襲った。更に其処へ続けてフレズローゼが魔力を込めた絵具の雪玉を投げ付ける。
 雪薔薇色の美しい日を嘆きの赤薔薇色で染めさせはしない。今日の女王陛下は白の気分だから、と告げたフレズローゼは凛と言い放つ。
「明日香、その名前は美しいけれど……キミには明日は来ないんだ」
「ねぇ、サヨナラの準備はできたかしら?」
 雷の魔力が弾ける最中、双眸を細めた櫻宵が問う。
 絶華の剣閃は花のような赤い血を滴らせ、妖狐の身を苦しめた。命を削ってまで増幅させた九尾の力はいま、見る間に衰えていっている。
「終わらせようか」
 凛是が終幕を悟って駆ればユヴェンも、ああ、と答えて彼に続いた。拳と竜槍がふたたび重なった瞬間、智華は弾丸を撃ち放ち、リーファと聖が其々に魔力を解放する。
 何とかそれらを受けた明日香はふらつく足取りで後方に下がった。
「逃がしませんわ。きてくださいませ、うさぎさん達!」
 だが、彼女を挟み込む形で後ろに立ち塞がったちさが白うさぎと黒うさぎを召喚した。可愛らしい白と格好良い黒が交差したかと思うと妖狐の身を貫く。
 呻く声しか零せぬ明日香。
 彼女を見つめたまいとコノハは夫々の刃を構え直し、頷きを交わした。
「ここで終わりにしてみせますですよ!」
「苦しむ様がお好きなようなンで、見せるのは癪デショ。何ひとつ、テメェの玩具にしてイイ命なんざ無ぇんよ」
 片や紫電の一閃。片や冷たき月白の炎。
 混じりあった雷撃と焔が敵の身を貫く光景を見遣り、夜叉丸も刀の柄に手を掛ける。
 瞬時に回り込んだ死角から放たれるのは月が冴えるかのような抜刀術。
「お前はここで朽ちて逝け」
 夜叉丸から落とされた言の葉が雪に沈み、妖狐の身体も大きく傾いだ。カスカとミハルは次が最期を与える一手になると察してガジェットと呪珠に其々の力を込める。
「お祭りにはその激情は不要なんだよ。おやすみなさい――」
 歪んだ火炎放射器めいた蒸気機械から放たれる炎は、狐火よりも激しく周囲の空気を焦がす。そして、ミハルが解放した死霊の一閃が膝を付いた明日香の胸を貫いた。
「あ、ああ――何もかも、キライ……」
 妖狐は掠れた声で呻き、その場に倒れた。
 ミハルは死を迎えゆく彼女を見下ろし、最後の言葉を送る。
「雪に刻まれた足跡くらいは暫く形見に遺してやるさ」
 その瞬間、オブリビオンたる彼女の身体はまるで最初から其処に存在していなかったかのように静かに、音もなく消え失せた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 日常 『祭りだ祭りだ』

POW   :    力仕事に加わる、相撲などの興行に参加する

SPD   :    アイデアを提案する、食事や飲み物を作る

WIZ   :    祭りを宣伝する、歌や芸を披露する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●雪祭りのひととき
 町を破壊しつくそうとしていた妖狐は猟兵達の手によって斃された。
 後に残ったのは雪の上に残った足跡と戦いの軌跡だけ。
 しかし、雪はすべてを覆い隠してくれる。何も知らない者が見れば其処はただの踏み固められた雪の地面でしかない。
 戦いを終えた猟兵達が其々の得物を仕舞うと、家屋の影から少年が駆けて来た。
「すげー! 兄ちゃんと姉ちゃんたち、悪い奴をやっつけたんだ!」
 その声の主はおそらく予知で視えたという雪玉を投げた少年だろう。いつからか戦いをひっそりと見守っていたのか、猟兵達の勝利した事実に興奮している。
 危ないだろう、と仲間の誰かが言おうとしたがそれよりも先に少年が口をひらいた。
「ね、ね! 向こうでお祭りやってるんだ。良かったら遊びに来てよ!」
 雪像の並ぶ通りは賑やかで、今からでも雪だるまや雪兔を作ることができる。
 屋台通りはあたたかな湯気が立ち上っていて、美味しいものもたくさんある。
 それから、自分の仲間と雪合戦をして欲しいと少年は願った。
 嬉しげに誘われれば断る理由などない。
 元々参加する心算だった者もおり、猟兵達は快い笑みや眼差しを少年に向けた。

 これから始まるのは寒い冬を乗り越える為のあたたかな祭の時間。
 どう過ごすかは君次第。
 さあ――雪を祀る白き祭りで今日という日を思いきり楽しもう。
ユヴェン・ポシェット
設営の手伝いをさせて貰おう。
人手…人手?といってよいのか判らないが、手伝ってくれる仲間ならたくさんいるからな。

キツネや大きな犬達をハーモニカ(獣奏器)を呼び寄せる。

ある程度大きな荷物でもソリ等と使わせて貰えるなら運べるし、体力もある。とても頼りになる仲間たちだ。
皆、優しい奴らだから子ども達とも喜んで雪遊びをするだろう。一仕事終えたら一緒に雪合戦に加わるのも楽しそうだな。

しかし、改めて見ると雪は美しいな。色々と思うところはあったが…この景色と人々の笑顔が奪われなくて、良かったと思う。
皆とこの祭りに参加する事ができて嬉しく思う。


リーファ・レイウォール
香りに誘われるも、先にあったのはお酒。
これは……来年ね。
19歳なので、今年は飲めないが、来年なら……と言うことで
来年も来ようと心に決めて、屋台巡り。
湯気に誘われて、いろいろと巡ります。
辛いものが好きと言うこともあって、寒い地域の濃い味付けは舌に合うようで【大食い】なところを見せています。
とはいえ、一つの屋台では4人前くらいずつで抑えています。
「だって、このままじゃ一人で食べ尽くしてしまいそうなんだもの」
という理由をつけて、村の人に作り方を聞いたりしています。
抑えていても食べ尽くしそうなのは傍目からも分かるほど。

お気に入りは、数種類のお肉をメインに根菜やこんにゃくを味噌で煮込んだ料理。


紅葉・智華
祭り……夏とか冬とかの祭典も好きだけど、こういう「祭り」っていうのも好きだなあ……であります。

行動指針:POW

何か力仕事があるようであれば、手伝いを致しますし、なければ食べ歩きなどしながら、何か面白いものがないかぶらつきます。
祭り会場に射的屋があるようなら、誰かが景品を取れなかった場合に、代わりに【ユーベルコード:支配者の弾丸】を射的屋で使用する銃に適用、必中の状態で景品を獲得し、プレゼント致します。



●白の世界
 ハーモニカのやさしい音色が雪景色の中に響き渡る。
 その音に導かれ、雪を掻き分けながらユヴェンの傍に駆けて来たのは真白な犬と賢明そうな狐達。
「さあ、行くぞ」
 ユヴェンは彼等と共に祭屋台の設営を手伝おうとしたのだが、もう大丈夫だと断られてしまった。しかし、それはどうやら好意から成る返答らしい。町には既に猟兵達の噂が広まっており、化け物を呼び出した悪い妖異を撃退した者としてユヴェン達は英雄視されていた。
「本当に手伝わなくて良いのか?」
「はは、町の恩人を働かせちゃあこっちに罰が当たるってもんさ!」
 屋台の商人は明るく笑い、代わりにこれを持っていきな、とユヴェンに鶴を模して作られた飴細工を何本か渡した。店主に礼を告げたユヴェンはそれならば仕方ないと気を取り直し、動物達と祭りを見て回ることを決めた。
「わあ、おっきいわんちゃん!」
「可愛い狐さんもいるよー!」
 雪で遊んでいた子供達が動物達に興味を示し、白い犬がわふわふと鳴いて彼等にじゃれつく。いつしか其処に狐も加わり、動物と子供達は元気に雪遊びを始めていた。
 暫しユヴェンがその光景を眺めていると一人の少年が此方を見て不意に笑った。
「……ん?」
 どうかしたかと問い掛ける前に少年は雪玉をユヴェンに投げつける。
 その笑みと行動は子供からの無邪気な挑戦状だ。そう気付き、薄く双眸を緩めたユヴェンは受け止めた雪玉を手の上で転がしながら答える。
「良いだろう。その勝負、受けてみせよう」
 そして、子供達対ユヴェンと動物隊の雪合戦が繰り広げられた。
 雪玉が飛び交い、白い雪の欠片が宙に舞う。
 それから暫し後。雪遊びを満喫した彼等に土産として飴を分け与えたユヴェンはその帰路を見送り、周囲の雪を見渡す。
「しかし、改めて見ると雪は美しいな」
 色々と思うところはあったが、この景色と人々の笑顔が奪われなくて良かった。
 これが自分達が守りきったものなのだと感じ、ユヴェンは冬の空を振り仰いだ。

●食と心地好い喧騒
 良い香りに誘われた先には酒の屋台が見えた。
「これは……来年ね」
 心擽られる気もしたがリーファの齢は未だ十九。今は大人しく眺めるだけに留めて来年も来ようと心に決めた彼女は屋台巡りを始めた。
 雪の中に立ち昇る湯気はあたたかく、寒さも忘れてしまいそうだ。
「あれは美味しそうね。あっちも良いかしら」
 汁粉に団子、人が集う屋台の様子にリーファは視線を巡らせる。
 目移りしてしまいそうになりながらも、ふと目に止まったのは根菜や蒟蒻を味噌で煮込んだ汁物料理の店。寒い地域の料理は味付けが濃いことが多く、どうやらそれはリーファ好みの辛めに煮込んであるもののようだ。
「ここにある分だけ全部……いいえ、四人前ほど頂けるかしら」
 その注文に店の人間は少し驚いていたが、こう見えて大食いでもあるリーファにとって四人前など朝飯前。これでも抑えている方だ。
 絶妙な辛さと旨みに舌鼓を打ちながら、リーファは様々な屋台を回っていく。
 鳥を炙った肉料理に醤油を塗り込んで焼いた餅。
 更には熱々のおでんのような料理、山菜を使った煮物などたくさんの美味しいものが揃っている。そのひとつずつを大量に、もとい彼女にとっては控え目に食べていく様子は町の人々に大いに気にいられていたようだ。
「だって、このままじゃ一人で食べ尽くしてしまいそうなんだもの」
 そんな理由をつけて其々の料理の作り方を聞くリーファの周りには人が集っていた。うちのも食べてくれ、こっちはどうだと次々勧められる料理は何だかとてもあたたかい味がする。そんなやりとりが続くものだから、抑えてはいてもリーファが屋台の料理を平らげる寸前なのはご愛嬌。
 そうして暫し、賑やかな時間が巡っていった。

●必中の矢
 祭りと聞いて思い浮かぶのは夏や冬の祭典。
 そちらも好きだけど、と口にして周囲を見渡した智華は目の前に広がる祭りの光景も良いものだと感じた。
「祭りらしい祭りっていうのも好きだなあ……であります」
 暫しぶらぶらと大通りを歩いた後、智華は何か力仕事はないかと出店の人々に聞いてみる。だが、誰もが口を揃えて町の恩人に手伝いはさせたくないと言い、寧ろ祭りを楽しんでくれる方が嬉しいと話した。
 それなら、と自分なりに祭りを満喫しようと考えた智華は何か面白いものを探す。
「あれは……」
 ふと見かけたのは射的の屋台。
 此方の祭りにあったのは現代日本によくあるコルク式の鉄砲で景品を落とすタイプではなく、簡易の弓矢で的を射る遊びのようだ。
「面白そうですね。ひとつ挑戦してみるのも良いかも知れません」
 銃と弓は似て非なるものとはいえ射撃という点では同じ。
 智華は精神を集中させて次々と矢を放った。的を大きく外した矢は殆どなく、いつの間にか智華の周りには見物人が集まってきている。
 的の中心を射ればどうやら景品が貰えると知った智華は呼吸を整え、真剣な眼差しを前方に向けた。
 屋台の弓と的にユーベルコードは使えないが、腕を試す価値はある。
 刹那、放たれた矢は見事に的を貫いた。
 誰の目にも中心を射抜いたことは明白であり、屋台の店主も「負けたぜ」と膝を打つ。店主は台の奥から愛らしい着物を着た市松人形を取り出して智華に手渡した。そして、智華はそのまま近くに居た少女にその人形を差し出す。
「はい、どうぞ。プレゼントであります」
「わあ、いいの? ありがとう、お姉ちゃん!」
 少女はずっと景品をきらきらした瞳で見つめていた。それは先程からそのことに気付いていた智華からのささやかな贈り物だった。
 人形を大切そうに抱き締めて家路につく少女の嬉しそうな姿。きっとこれこそが猟兵として守った未来に巡る倖せのひとつ。
 その背を見送り、智華はそっと手を振った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神々廻・夜叉丸
*アドリブ等歓迎
祭り、か
遠巻きに見つめることはあれど、自ら携わることなど久しくなかったな
とはいえ積極的な参加はしない
人々の営みを、この手で守り抜いた平穏を。一人穏やかに笑みながら見つめていよう

ああ、件の妖狐がされたようおれにも雪玉が飛んでくるやも知れないな
一発目は笑って許そう。「気にしてはいない」、と
言葉とは裏腹に、しかめっ面を浮かべているかもしれぬがな
二発目以降は……うん、そうだな
そうまでされて黙っていられる程、おれは大人ではない
無言で雪玉を作り、子供達の内に混ざろう
騒ぎ立てるつもりはないし、表情が変わることもない
されど、少しの間だけでも自らが背負った業を忘れ、楽しい時間を過ごせることだろう


朽守・カスカ
異国…というよりも異世界か
雪に飾られた見知らぬ世界の、見知らぬ祭り

屋台…?
どんなものがあるのだろうか
食の細い私だが今日はよく働いたし
目移りしつつ、美味しそうなものを幾つか見繕い
食べてみるとしよう、か

そうして、うろうろと歩いて並ぶ雪像の前に行く頃には
お面やおもちゃなどを沢山抱えた私の出来上がり

物珍しさから色々と持ちすぎてしまったか。
お祭りとは楽しいものだね

立派な雪像を見つければ
ポーズの真似をしたり
荘厳なものがあれば見惚れたり
可愛らしいものには、目を細め
最後に、雪うさぎを一つ作っておこう

ふふ、お祭りを心行くまで楽しめたね
このお祭りを守った甲斐があったというものだ


河南・聖
雪合戦ですか!
よーしお姉さん本気出しちゃいますよー!
回避は【残像】を使用して、雪玉投げるのは【二回攻撃】で!
あ、怪我しないように投げる強さは加減しますよ?でもそれ以外は本気!

……え、大人げない?
『遊びも本気』。これ、お姉さんの流儀ですから!

ところで何かお祭りのお手伝いもした方がいい流れです?
じゃあ雪合戦がひと段落ついたら屋台の食事とか飲み物作るのお手伝いしましょうか。
なんなら売り子もやりますよ?


霧城・ちさ
・雪祭り盛り上がりそうですわね
雪像もいっぱい並ぶと楽しそうですの
かわいい動物の雪像とかもあると嬉しいですわね
このお祭りの様子も写真に撮ったり映像でお祭りの様子を伝えたりするのもいいですわね

・雪合戦も参加しますわね。少年達も痛くないような雪玉を投げて怪我の無いように遊んで欲しいですの。私は一生懸命雪玉を作って皆様に渡したりしますわね。雪合戦もチームワークですわっ


リル・ルリ
「おやおや、賑やかだと思ったら、そう、雪のお祭りをしていたのか」

雪の上をふわふわ、游ぐように進めば照り返した白が美しく、触れてみれば冷たくて柔らかくて不思議

「雪をみるのは初めてだ。これが氷の粒だなんて不思議だね」

見れば、雪の人形もあるし雪を投げている子の姿もある――これはそうして使うものなのかと理解して

「じゃあ、僕も何か雪で作ってみよう――何がいいかな」

思いついたのは、靴。雪の靴。
僕には履けないけれど
お気に入りが完成すれば
嬉しくなって自然と歌が零れる

「せっかくの雪の日、雪の歌を歌おう」
それが少しでも、戦い終えた者の心を癒せるように
皆の心を楽しませられると願い


*アレンジや他のPCとの絡み歓迎です


終夜・凛是
雪祭り、かぁ……
そういえば、雪合戦とかもしたことない。
雪深いとこに住んでたけど、そういう遊びはしなかったな。
したいとも思わなかったけど。皆やんの? そっか、ふーん……俺もやる。

雪合戦に参加。
本気で狙ってあてていく。
大人気ない? 何事も本気でやんなきゃだめだろ。
ふふん、あてられるものならあててみろよ。
受けてたってやる。

……こういうのも悪くない。
遊んだら腹減った。一緒に遊んだ子らに何が美味いのか聞く。
あったかい物を何か求めて屋台通りに足向ける。
雪合戦は楽しかった。楽しかったんだけど、ちょっと寂しい。
にぃちゃんがいたらもっと楽しかっただろうなぁって、思ってしまうから。


花咲・まい
雪合戦!よいですね、私も参加しますですよ。
遊びは全力で!子供たちと遊ぶのも元気いっぱいでやりますです。

少年くん、狙うなら胴体をオススメしますです。お腹ですよ。
頭はちょっと当てづらいですからね、確実に当てるならここ!
雪玉もがばっと作っておく方がよいかもしれませんです。
もしくは投げる係と作る係で分けるのもよいですね。

他にも雪合戦する猟兵がいれば、一緒に遊びましょうですよ!
敵も味方も勝っても負けても大騒ぎ!それがお祭りですから!


エン・ギフター
コノハ(f03130)さつま(f03797)と行く
【WIZ】
この狸多芸すぎね?タンバリン?
ステージ要るかと雪を積んで踏み固め
ってコノハ食うの早え
俺も汁粉食うぞ、焼き餅一択…いや白玉もイイな、くれ
白玉貰って咀嚼、うめえ
こっちの餅も味見するか?と白玉組に
幾らでも食えんぞ旨いぞと通行人に【大食い】っぷり見せて汁粉の宣伝
食事中はマスク外す
両頬に傷痕と歯並びはシャチ的なギザギザの顔面
二人の線感じたのでキシャーッと口開いて威嚇する
この面で嘴は辛すぎんだろ
やんのかコラって空気でさつまとシャーシャー
してたら雪玉詰められたので咀嚼
まっず!
おうよく分かった、食後の運動って事だな
雪玉を二人に全力投球するしかない


コノハ・ライゼ
たぬちゃん(f03797)エンちゃん(f06076)と

たぬちゃん精が出るねぇ、ボクも手伝おか
言って雪のお立ち台を片脚で固めるだけ
だって手と口は既に焼き餅入り汁粉を制覇して白玉入りへと移ったトコ
オシゴト明けの汁粉は格別デスって

あ、エンちゃんコッチの白玉も食う?
屋台のおねーさんサービスしてくれたからさぁ
はい、あーん♪
にこにこ視線は興味津々マスクの下へ
盗られる白玉にも気付かず
嘴でも生えてんの?ナンて予想裏切るご尊顔に
わぁ~と物珍しげに顔近付けたらめっちゃ威嚇されたし

キャーたぬちゃんが食べられちゃう!!
楽しげな声上げ手近な雪をひょいとエンちゃんの口へ
いつの間にか汁粉は完食
次々小さな雪玉作りにこりと笑い


火狸・さつま
コノf03130とエンf06076と一緒に
狸っぽい色合いの狐姿にて参加
人語不可能


【WIZ】
器用に二本足立ちで
【楽器演奏】技能生かし尻尾で毬蹴りの要領で弾ませタンバリン奏でつつ
しっかりと手には箸と白玉入りお汁粉。もぐもぐ。
エン&コノ共作?ステージにて三人で並んで…並?並んで無い
まぁ気にせず
もぐもぐ
汁粉、旨いぞ。と宣伝しているつもり
芸も披露しとるから良かろうと舌鼓
エンと白玉と餅を交換
エンに意識がいってる間に横からコノから白玉奪いまくる
高台に乗っとった特典だろ


エンの食べる姿をコノと一緒になり凝視
俺も嘴想像していた事は心へ秘め
きしゃーと真似っ子威嚇仕返してみる

雪玉いつの間に
作られた雪玉盗み二人へ投げる


誘名・櫻宵
🌸フレズローゼ(f01174)と一緒
アドリブ、他PCとの絡み歓迎

フレズ、羽は平気?
あたしに癒しの力があればよかったのに…壊すのは得意だけど、術はからっきしなのよね
歌により癒される傷を見ながら不甲斐なく思う

あら、フレズ!上手ね!
元気になったフレズが作ったあたし達の雪だるま
仲良しで微笑ましくなっちゃう
あの狐の墓標までなんて優しい子なの
なんて思いながら
2つの雪だるまの横にもう2つ作る
ほら、フレズのお姉さん達!これでみんな一緒ね?

気がつけば冷え冷えの手
暖かいホットショコラをいれる
美味しいって笑顔が嬉しいの
突然飛んできた雪玉に驚き
悪戯兎に微笑む

いいわ、受けてたったげる!
こんな平穏を取り戻せてよかったわ


フレズローゼ・クォレクロニカ
🍓櫻宵(f02768)と一緒に
アドリブ、他PCとの絡み歓迎

わーーい!櫻宵、雪!雪遊びしよー!
元気いっぱい駆け回り雪を満喫
傷は楽しい歌で癒してしまお
だから大丈夫だよ、櫻宵

まずはうさぎの雪だるま
横に、桜の角の雪だるま
…あと小さく狐の雪だるまを作る
これはあの子の墓標
春にはとけてなくなる、泡沫だけど

雪だるまはやっぱり櫻宵のが上手で、ちょびっと唇を尖らせる
さすが彫刻家なの
手が冷えたら櫻宵の暖かいホットショコラで一息
暖かく蕩ける甘い味に心まで温まったら…雪合戦!
櫻宵には負けないんだからね!(雪玉をなげる)

純白の雪に、皆の姿を笑顔を描く
キラキラ煌めく
この笑顔と一時が描きたかったんだ、ボク
守れたって事だから



●雪合戦と想いの欠片
 人形を大切そうに抱きかかえた少女が雪道を嬉しそうに駆けてくる。
 擦れ違い様に道を譲った夜叉丸は其処で立ち止まり、賑わう通りの様子を眺めた。
「祭り、か」
「雪祭り、かぁ……」
 すると、夜叉丸の呟いた言葉に重なるようにして凛是の声が落とされる。
 偶然にも同じ通りに立ち寄っていた彼らは、同時に似た感慨を抱いたのだと気付いて緩やかな視線を交わしあう。
 雪像が並ぶ通り、屋台から立ち上るあたたかな湯気。
 遠くには町の人達と協力して大きな雪だるまをつくる、ちさの姿があった。
「雪だるまも雪像もいっぱい並ぶと楽しそうですの」
「お姉ちゃん、次はこっちも手伝って!」
「わかりましたわ。たくさん作りましょうね」
 ちさを呼んだ子供が手招きをする先には雪兔が幾つも並んでいた。いっぱいの大家族にするのだと意気込む少女の傍らに屈み込み、ちさは淡い笑みを浮かべる。
 一方、屋台通りでは売り子のひとりとして駆け回る聖の姿が見えた。
「あっちの団体さんにお汁粉をお届けですね!」
「ありがとうねえ。それが終わったらアンタも一息つきな!」
「はい!」
 店主と和気藹々とした遣り取りを交わす聖は楽しそうだ。
 それらを遠巻きに見つめることはあれど、夜叉丸は敢えて其方に参加しようとはしなかった。自らが其処に相応しくないとまでは考えていないが、見守るのもまたひとつの在り方だ。
 人々の営みを、この手で守り抜いた平穏を、夜叉丸は穏やかに笑んで見つめる。
 その隣で彼の横顔をちら、と見た凛是は広場の方を指差した。
「俺、あっちの方に行くけど来る?」
 折角だからいっしょに、と凛是が誘う言葉を断る理由は特にない。
 ああ、と頷いた夜叉丸は彼と共にゆるりと歩み始めた。
 その先の広場では、はしゃぐ子供達が雪合戦を行っていた。元気なものだと目を細めた夜叉丸の傍ら、凛是はぽつりと零す。
「そういえば、雪合戦とかしたことないな」
「一度もか?」
「雪深いとこに住んでたけど、そういう遊びはしなかったな。したいとも思わなかったけど。皆やんの? そっか、ふーん……」
 夜叉丸の問い掛けに、うん、と答えた凛是は暫し雪合戦の様子を見つめていた。
 そのとき――ぼすっ、と鈍い音が聞こえたのと同時に、夜叉丸の肩にやわらかな雪玉が当たった。
「わあ、ごめんなさい!」
 それは雪合戦を行っていた少年のひとりが投げた流れ弾だ。すぐに謝罪の言葉が投げかけられたが、夜叉丸は「気にしてはいない」と首を振る。
 しかし、その後に元気な声が広場に響いた。
「少年くん、狙うなら胴体をオススメしますです。お腹ですよ!」
 その声の主はいつの間にか子供達と一緒に雪合戦の団に加わっていた、まいだ。
「で、でもあの子達は雪合戦してないよ?」
「私のお仲間さんですから問題ないです。さあさあ、頭はちょっと当てづらいですからね、確実に当てるならここ!」
 ふふ、と悪戯っぽい笑みを浮かべたまいは自分のお腹をぽんぽんと叩いた。そして夜叉丸と凛是を指差して、少年達に次の玉を投げるように示す。一瞬、夜叉丸がしかめっ面でまいを見つめたがそんな視線はお構いなしだ。
 次の瞬間、まいに扇動された少年達が大きく腕を振り被った。
「てーい!」
「くらえー!」
 幾つもの雪玉が夜叉丸、そして凛是に向けて投げつけられる。しかしそれを甘んじて受ける彼らではない。
 凛是は拳で雪玉を叩き割り、夜叉丸は即座に後退して避けた。
「……うん、そうだな。そうまでされて黙っていられる程、おれは大人ではない」
 夜叉丸は子供達とまいから視線を逸らさぬまま、足元の雪を掌ですくいあげる。彼が雪玉を作ったのだと気付いた凛是もそれに倣って雪を固め始めた。
「俺もやる」
 凛是達が勝負を受けて立ったのだと感じたまいは明るく笑む。来ますよ、と身構えたまいは自分が雪玉を受ける覚悟を抱き、自陣の子供達に呼び掛けた。
「少年くんたち、雪玉をがばっと作っておいた方がよいかもしれませんです」
「ふふん、あてられるものならあててみろよ」
 こっちも本気でいく、と告げた凛是の投げる雪玉が宙を舞う。すると騒ぎを聞きつけた聖が広場にひょこりと顔を出し、自分も加わりたいと手をあげた。
「雪合戦ですか! よーしお姉さん本気出しちゃいますよー!」
「まあ、猟兵合戦でしょうか。わたくしも参加しますわね」
 ちさも聖と一緒に夜叉丸達の後方に陣取る。そしてちさは雪玉を作ることに徹すると決め、先程の雪像作りで培った雪の扱いを披露してゆく。
 ふんわりと、それでいて投げやすいサイズに作られた雪玉を手に取った聖はおもいっきりそれを投げつけた。わー、とはしゃぐ子供の声が広場に響く。
 夜叉丸と凛是、そして聖が次々と雪を投げ、ちさがせっせと玉を作る。共に戦った故の連携の良さが光っているのだろうか。まいは「むむむ」とちいさく唸った後、それでこそ敵に相応しいと感じた。
「投げる係と作る係でわかれていますですね。こちらも迎え撃ちますですよ!」
「はい、団長!」
 まいの指示に少年が答え、反撃に移っていく。
 どんどん作られて投げられる雪玉が当たりそうになりながらも、聖は攻勢を保ち続け、ちさはしっかりと後方支援を行っていった。
「団長って呼ばれるのは何だか羨ましいですね!」
「ふふ、雪合戦もチームワークですわっ」
 吐く息は白くて空気も冷たい。けれど心と体はあたたかくなっていく気がしたちさは穏やかに、それでいて楽しそうに微笑んだ。
 そして――雪合戦は賑やかに、子供たちが疲れ果てるまで続いた。
 勝敗はつかなかったがこういった遊びもまた良いものだ。ばいばーい、と手を振って家に戻っていく彼等に手を振り返し、聖は仲間達に提案をする。
「そうです、おいしいお汁粉の屋台があるんですが皆さんも行きませんか?」
「素敵ですわね。ぜひ行ってみたいですわっ」
 先程、手伝った屋台の料理が絶品だったと聖が告げるとちさが瞳を輝かせた。
 まいも賛成だと話してふたりに続き、夜叉丸と凛是も仲間の後を追う。
「そうだな、相伴に与りに行こうか」
「うん、あったかい物食べたい」
 夜叉丸の言葉に凛是が頷き、雪の上に新たな足跡を残してゆく。
 少しの間だけ、自らが背負った業を忘れられた気がして夜叉丸は楽しかったひとときを思い返す。凛是も雪合戦を思い出していたのだが、不意に少しだけ俯いた。
 にぃちゃんがいたらもっと楽しかっただろうなぁ。
 それに、楽しかった時間が終わってしまったことは少し寂しい。
 少し遅れて歩いてくる二人の様子に気が付いたまいは振り返り、両手を振った。
「お二人とも、はやくおいでくださいです。もしかしたらお汁粉がなくなっちゃうかもしれませんですよ!」
 まいは敢えて元気よく呼び掛ける。
 穏やかな気持ちも、胸が浮き立つ気持ちも、寂しい気持ちだってよく分かった。
 勝っても負けても大騒ぎ。賑わうからこそ後には寂寞も付いてくる。でも、寂しさは楽しい気持ちの裏返しであるのだから決して悪いことばかりではない。
 きっと、それで良い。
 だって――それがお祭りというものだから!

●冬と雪の唄
 異国情緒、もとい異世界の情緒が深い雪景色。
 雪に飾られた見知らぬ世界の、見知らぬ祭りを眺めたカスカは双眸を細めた。
「きれいだな」
 戦いの場ではゆっくり意識することも出来なかったが、白の世界は眩しい。先ずは何をしようかとカスカが考えていると不意に声が聞こえた。
「おやおや、賑やかだと思ったら、そう、雪のお祭りをしていたのか」
 譬えるならば銀細工のような聲の主はリル・ルリ(瑠璃迷宮・f10762)。雪の上をふわふわと游ぐように現れた彼は指先で雪をすくってみる。
 照り返した白は美しく、触れてみれば冷たくて柔らかくて不思議な感覚だ。
「雪をみるのは初めてだ。これが氷の粒だなんて不思議だね」
「ふふ。冷たいだけではないのが、雪の面白いところだね」
 リルの様子と言葉に頷いてみせたカスカはそっと歩み寄る。どうやら彼も猟兵らしいと感じたカスカはそっと、屋台通りを示した。
「良かったら一緒にどうかな。たくさんの店が出ているようで、ね」
 誘うカスカの眸は穏やかで、行くも行くまいもどちらでもご自由に、と告げている。リルは暫し考え込むと緩く首を振り、誘いへの礼と共にふわりと舞った。
「僕はもう少し、此処で雪を見ているよ」
「そうか、じゃあ……」
 行ってくるよ、と告げたカスカの背を見送ったリルは掌をひらひらと振る。
 一緒に行くのも楽しかっただろうが、初めての雪をもう少しだけ見ていたかった。リルは掌の上でとけてゆく雪を見つめ、暫し冬の証と緩やかに戯れる。
 それから少し後。
「やあ、面白い格好をして帰ってきたね。おかえり」
 リルは先程の彼女が屋台通りから戻って来たのだと気付いて顔をあげた。
「ただいま。物珍しくてつい、ね」
 カスカの頭には狐の面、そして手には剣玉などの玩具。店の者に町の危機を救った者への感謝として押し付けられたのか、大小様々な凧まで背負わされている。更には色々と屋台の食べ物を口にしてきたらしい。
 折角、偶然に重なった縁。君にも見せたくて、と話したカスカは玩具を示す。
 そのときカスカはリルの足元にあたる地面にちいさな雪の塊があることに気が付いた。視線に気付いたリルは自分で作り上げたそれをそっと示す。
「周りを見て、僕も何か雪で作ってみようと思ってね」
 形作ろうと思い至ったのは、雪の靴。
 僕には履けないけれど、と零したリルだが、自分で作った雪の像はお気に入り。素敵だと告げたカスカはその隣にちいさな雪うさぎを作って並べた。
「どうやら、お互いにお祭りを心行くまで楽しめたようだね」
 このお祭りを守った甲斐があると感じてカスカは微笑む。そっと顔を見合わせ、それから其々の雪像を見つめたふたりに穏やかな心地が巡る。
 リルは何だか嬉しくなって唇をひらいた。自然と零れ落ちるのは、唄。
「せっかくの雪の日、雪の歌を歌おう」
 少しでも良い。この歌が戦い終えた者の心を癒して、祭りを楽しむ皆の心を楽しませられるように――。
 願いの歌はやさしく、雪色の世界に響き渡っていく。

●たぬちゃんオンステージ
 しゃんしゃん、しゃりん。
 祭り広場の雪を固めて作った演台から鈴の音と膜鳴楽器の音色が聞こえる。
「この狸多芸すぎね? タンバリン?」
 エン・ギフター(手渡しの明日・f06076)はしゃんしゃんと楽しい音を響かせる狸色の狐――もとい、火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)を眺めて呟く。
 器用に二本足で立ったさつまは先程からタンバリン演奏で広場をいく人々の目を奪っている。可愛らしくも見事な尻尾の動き、毬蹴りの要領で弾ませる音は軽快だ。
 今の姿では言葉は喋れないが、さつまの目と行動は口ほどにものを言っている。
 その手にしっかりと握られているのは箸。そして、白玉入りのお汁粉。もぐもぐ、もきゅもきゅと汁粉を食べる姿は店の宣伝も兼ねている。
「たぬちゃん精が出るねぇ、ボクも手伝おか」
 エンと同じく、さつまの演奏を聞くコノハはぎゅうぎゅうと足で演台を固める。
 何故、手伝いといっても手を使わないのか。
 その理由は既にコノハの手と口が焼き餅入り汁粉を制覇し、白玉入りへ汁粉へと移ったところだからだ。
「コノハ、食うの早え」
「オシゴト明けの汁粉は格別デスって」
 エンがその様子に気付けば、コノハは箸で白玉を挟んで軽く持ち上げる。
「あ、エンちゃんコッチの白玉も食う? 屋台のおねーさんサービスしてくれたからさぁ」
 はい、あーん♪ とにこにことエンを見つめるコノハの視線はマスクの下へ。きっとその下には嘴が生えているかもしれないと予想して興味津々のコノハ。
「うめえ」
 意外にあっさりとマスクを外したエンはコノハの箸ごと白玉を食む。
「こっちの餅も味見するか? って聞いてんのか」
「わぁ~、嘴じゃなかったんだねぇ」
 鯱を思わせる尖った歯。そして両頬には傷。
 問い掛けにも気付かず、コノハは自分の予想を裏切るご尊顔に物珍しげな顔を見せる。その間に一時タンバリン演奏を中断したさつまがコノハの椀から白玉だけを選んでもぐもぐと咀嚼する。その姿は実に愛らしい。
「この面で嘴は辛すぎんだろ」
 やんのかコラ、とコノハを威嚇したエンもまた箸を伸ばし、遠慮なく白玉を頂いていく。さつまも嘴を想像していた事は心に秘め、きしゃーとエンを真似て威嚇ごっこを始めた。
 はっとしたコノハは自分の椀にもう何も残っていないことに気付き、シャーシャーと威嚇を続けるエンの口に丸めた雪玉をひょいと放り込んだ。
「キャーたぬちゃんが食べられちゃう!」
 冗談めかした楽しげな声をあげ、コノハは手早く汁粉の残りを完食する。
 そして、新たな雪玉を作って身構えた。思わず雪玉を咀嚼してしまったエンは咳き込みそうになりながらもマスクを被り直す。
「まっず! おうよく分かった、食後の運動って事だな」
「……!」
 さつまも尻尾をぴんと立てて臨戦態勢に入った。
 其処から始まるのは三人が入り乱れる雪合戦。エンは直撃すれば人が死ぬかもしれないほどの固い雪玉を作りはじめ、コノハが思わず驚く。その間にさつまが彼のストックしていた雪玉を抱え、雪玉を避ける為に物陰へと疾走していく。
 凶器の雪玉持ちのエン、漁夫の利である雪玉持ちさつま、弾数ゼロのコノハ。
 三者三様。一球入魂。
 そして今、全力の戦いが幕あける。

 その後、誰が勝利を得て誰が完膚なきまでに敗北を喫したかの結末は彼らだけが知ることとなる。けれど、皆が同じ思いを抱いていたことは確かだ。
 その思いとは――共に過ごす時間が楽しいものだった、ということ。

●雪色の明日
 賑わう祭りの通りから少し離れた町角のちいさな広場。
 人気があまりない一角は、まだ誰にも踏まれていないふわふわの雪があった。偶然にその場所を見つけたフレズローゼは自分達が此処に最初に足跡を付けられるのだと気付き、一歩を大きく踏み出した。
「わーーい! 櫻宵、雪! 雪遊びしよー!」
 足跡を刻みながら駆け回り、雪を満喫するフレズローゼは元気いっぱい。
 その背を見守る櫻宵は彼女の翼に視線を向け、先程までの戦いを思い返す。
「フレズ、羽は平気?」
「傷は楽しい歌で癒してしまお。だから大丈夫だよ、櫻宵」
 振り返ったフレズローゼは平気だと答えて明るい歌を紡ぐ。
 その声を聞きながら、あたしに癒しの力があればよかったのに、と呟いた櫻宵は肩を落とした。壊すのは得意だが術はからっきしだと自覚している。それゆえに不甲斐なさが櫻宵の裡に浮かぶ。
 しかしフレズローゼは気にしていない様子。彼女の笑顔を見ているうちに櫻宵も元気付けられた気がして、二人の間に微笑みの花が咲く。
 櫻宵に笑みが戻ったことが嬉しく、フレズローゼの気持ちも更に浮き立った。
「見てみて、櫻宵」
 雪と戯れはじめたフレズローゼが示したのはちいさな雪だるま達。
 先ずはうさぎの雪だるま。
 その横には、桜の角の雪だるま。
 そして、最後の一体は狐の雪だるま。
「あら、フレズ! 上手ね! この二つはあたし達ね。仲良しで微笑ましくなっちゃうわ。けれど……こっちは?」
 三体目を指差した櫻宵が問うと、フレズローゼは雪の狐の頭にそっと触れた。それは自分達が屠った者――妖狐、明日香を思って作り上げたものだ。
「これはあの子の墓標。春にはとけてなくなる、泡沫だけど」
 あのとき、キミには明日は来ないと告げた。
 けれど過去から滲み出た存在にだって少しの明日を夢見る権利があっても良いはず。これはその代わり、と静かに瞼を閉じて祈る。
「あの狐の墓標までなんて優しい子なの」
 その姿を見守る櫻宵はフレズローゼを抱き締めてやりたくなった。
 しかし櫻宵はそうせず、雪だるまの隣に新たなふたつの像を作っていく。
「ほら、フレズのお姉さん達! これでみんな一緒ね?」
「わあ……やっぱり櫻宵のが上手だね」
 流石は彫刻家。少しだけ悔しい気持ちが浮かんで唇を尖らせたフレズローゼだったが、嬉しい気持ちの方が大きい。それにみんな一緒なら寂しくはない。
 手が冷えちゃったね、と彼女が零すと櫻宵はこのときのために用意していたホットショコラを淹れてやった。
 やわらかな湯気が白い雪の景色に交じり、蕩ける甘い味に心まで温まる。
 おいしい、と笑うフレズローゼの笑顔に櫻宵も微笑んだ。
「それじゃあ、櫻宵。次はね――雪合戦!」
 そして少女は不意に数歩下がり、くるくると掌の上で雪玉をつくる。悪戯兎から突然投げられた雪玉に驚いた櫻宵だったが、すぐに笑みを浮かべて応戦していく。
「いいわ、受けてたったげる!」
 飛び交う白の軌跡を辿り、思うのは平穏を取り戻せてよかったという感慨。
 きっと今、この町で時を過ごす誰もが祭りを楽しみ、其々に今日という日を満喫している。純白の雪の中に描かれていく皆の姿と笑顔を思い、フレズローゼは冬の心地に身を委ねた。
「キラキラ煌めく、こんな一時が描きたかったんだ、ボク」
 ――だって、これが守れたって事だから。
 ゆきいろこんこん、ふゆまつり。
 町の片隅に並ぶ雪だるま達は不思議と皆、柔らかく微笑んでいるように見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月03日


挿絵イラスト