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たたかえ猟兵!チェスボクシングルメバトル!

#キマイラフューチャー

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#キマイラフューチャー


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●吠える怪人
「――――世界は、堕落の一途を辿っている」
「我らこそがこの世界の支配者であったことは誰の目にも明らかであるはずだ」
 暗がりで、一人の怪人がそう呟いた。
 彼はかつてこの世界を席捲していた過去の支配者(自称)、怪人たちのひとり。
「我らは、世界を取り戻さなければならない」
 機関車怪人は、悲しそうな目で首を振る。
「だがしかし、ただ襲ったところで、この地の支配者であることは示せないだろう」
「暴力は何も生まない。正々堂々と、我らの正当性を示さなければならない……」
 機関車怪人は、決意を込めて立ち上がる。

「そのためには!」

●グリモアベースにて
「みなさーん、大変ですよー」
 東風・春奈(小さくたって・f05906)はおっとりした声で事件発生を猟兵に告げた。
 青い瞳をくりくりと動かして、猟兵たちの顔を見る。
「えっとですねー。キマイラフューチャーに、怪人さんが現れるみたいなんですー」
 場所は、キマイラフューチャーの都市部の一角。
 そこに、リングがあるのだという。
 リングとは、何のリングなのかと一人の猟兵が春奈に尋ねた。
 グリモア猟兵の春奈はにっこりと笑い、告げた。
「チェスボクシングのリングですよー」
 チェスボクシング。これはれっきとしたスポーツである。
 チェスとボクシングを交互に行うことによって進められ、最初はチェスのラウンドから始まり、最大11ラウンドまで続けられる。チェスは1ラウンド4分間、ボクシングは1ラウンド2分間で、1分間の休憩を挟んでラウンドを交互に繰り返す。チェスの持ち時間は12分で時間が切れたら負けとなる。将棋の秒読みのような時間追加は存在しない。
 もちろん、持ち時間切れだけでなく、ボクシングでのKOや、チェスでのチェックメイト、審判の決定によって試合は終了する。
 春奈は百科事典サイトのような競技解説をしたうえで、依頼の説明にたち戻る。

「今回のお相手はー、正々堂々と戦うことに意義を見出しているみたいなんですー」
 正々堂々戦い、打ち負かす。
 勝てばキマイラたちは怪人を崇めるようになるはずだ。
 そう考えているのだという。

「怪人さんはー、本気でチェスボクシングをやりたいみたいですー」
「ちなみにー、どちらも相当な腕前らしいですよー?」
 やりたいみたいだそうだ。
「それからですねー。この怪人さん、どうやら無数の料理好きみたいでー」
 チェスボクシングに負けると、どうやら別の勝負を提案してくるという。
 チェスボクシングのみならず、料理好きでもあるらしい。
 そちらでも、怪人を打ち負かしてほしいのだという。
「皆さんが料理勝負にも勝ったあとー、どうなるかはわかりませんー」
「もしかしたらー、逆ギレとかしちゃうかもしれませんねー?」
 料理勝負の結果、どうなるかは猟兵たちの勝負内容次第だという。
 大人しく引き下がってくれる怪人だといいのだが……いいのだが……。

「一風変わった怪人さんですがー、勝負にかける情熱は本物ですー」
「ですからー、皆さんも油断はせずにー。頑張ってくださいねー?」
 淡い色のエプロンドレスを揺らして、ドワーフの春奈はほほ笑んだ。


隰桑
●挨拶
皆さん、はじめまして。あるいはこんにちは。
初心者マスターの隰桑(しゅうそう)と申します。
微力ながら、皆さんの冒険を彩るお手伝いをしたいと思っております。

さて、今回はチェスボクシングです。実在のスポーツなのは本当ですよ。
隰桑はチェスもボクシングも、脳内でやるのみです。かっこいいですよね。

さて、今回も依頼の細々とした補足をさせていただきますね。

●目的
「機関車怪人をぎゃふんと言わせること」

・一章
怪人とスポーツ……チェスボクシングで対決してください
勝つことは必ずしも重要ではありません
対決することが成功の条件です

・二章
怪人とグルメ対決です
勝つことは必ずしも重要ではありません
怪人を追い詰めることが成功の条件です

・三章
怪人と戦ってもらいます
怪人を倒すことが成功の条件です

●プレイング
皆さんのキャラらしいプレイングを見せてください。
内容は自由に送ってもらって構いません。
合わせプレイング、章の途中からの参加、大歓迎です。
隰桑はアレンジやアドリブが大好きなので、そういったものが不可の場合は【アレンジ不可】などと書いてくださると、最大限配慮いたします。

マスターページで執筆タイミングなどを公開していることがあります。
必要ならご参照くださいませ。

それでは、熱いプレイングをお待ちしております!
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第1章 冒険 『怪人とスポーツ対決!』

POW   :    体力を活かした正統派パワープレイ

SPD   :    速度を活かした敏捷派スピードプレイ

WIZ   :    知性を活かした策略派頭脳プレイ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●チャレンジャー、現る!
「レィィイディイイイイイイイス!!!! エン!!!! ジェントゥゥウメェエエエエエエン!!!!!」
「ウェエエエエルカァムッッッ! トゥーーーーーッ! アワーー!」
「チェェエエス! ボクスィイイインンッ! バァトォオオオオウッ!」
 会場内で、頭頂部が禿げあがった一人のジャガーのキマイラ(自営業独身46歳男性)が叫んだ。
 ここはキマイラフューチャーの某都市に設えられたチェスボクシングの公式トーナメント場。
 キマイラフューチャーなのだから、チェスボクシングの公式トーナメント場くらいあるのである。
 キマイラたちなのだから、チェスボクシングの公式試合くらい観戦に来るのである。
 そしてノリノリの一般キマイラが実況役をしていても不思議はないのである。
 そんなチェスボクシングの公式トーナメント場のリングの真ん中に、圧倒的な威圧感を放つ怪人がいた。
 チェスボクシングの公式トーナメントに相応しいボクサーの装いで立ち、頭の煙突からは煙を吹いていた。
 そう、彼こそが今回のボス。機関車怪人である。

「ここが! こここそが! 俺のためのリング! 俺の正義を示すための!」
「怪人に栄光あれ! 今いるあまたのキマイラどもに! 誰が支配者であるのか教えよう!」
「力・技・知恵すべてを兼ね備える、俺こそが!」

 彼はチェスボクシングで、それらを示したいらしかった。
 少なくとも彼は、示せると思っていた。

「――――――む?」
 自信満々の機関車怪人が、リングの外へと目を向ける。
 そこには悠々と列を為して入場する猟兵たちの姿があった。
 どうやら、グリモア猟兵の春奈から、そのように入場しないと予知から外れるかもしれないとの指示があったらしい。

 今ここに、戦いの火ぶたが切って落とされようとしていた。
秋山・軍犬
「パワーと言えばカレー
 故にカレーとはパワー」

ビーフカレーを食べながら
なんか語ってる男
秋山軍犬。

「肉たっぷりのカレーで得たパワーで
 ボクシングで速攻決めてやるっすよ」

軍犬はユーべルコードの特性による
殴り合いで勝負を決めるつもりだ
…え?チェス?
ふっ…抜かりはない
軍犬は皿に新たなカレー
サバカレーを盛りつつ

「自分の能力特性は
 細胞の活性化…つまり脳細胞も活性化」

サバには脳細胞を活性化させるDHA・EPA
豊富…後はわかるっすね?
そう!チェスもワンチャン!

サラダも食べつつ

「ココを乗り越え料理勝負に持ちむっす!
 したら猟兵仕事の必要経費で高級食材使いまくりっす!」

…でカレーの材料は必要経費に含まれるっす?


マリアブリレ・ニネヴェマスナガ
ふふふ……チェスにて最強の駒は『クイーン』。そして私は『眼鏡女王』! さらに、資本主義にて最強のパンチは『札束パンチ』。つまり私の『人類最強の共同幻想』!!
これは眼鏡の勝利といわざるを得まい。5000兆円パンチによる正統派パワープレイで私の圧勝だ。眼鏡のひとつもかけていない者は眼鏡女王に勝てる道理なし!!!

……それに、あれだ。眼鏡女王といっても私の外見は8歳のめがねようじょに過ぎん。つまり、私を本気で負かそうとしたり、力いっぱい殴ったりしたら世論が許さんぞ?

オーディエンスの心を打つ迫真のウソ泣きの準備はとうにできておる。もしものときはレンズにひびが入るほどの本気ウソギャン泣きをみせてやる!!



●猟兵がやってきたぞ!
「さぁあああて! まず最初のチャレンジュゥワアアアはぁああああ!!」
「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」
 実況席に座った禿頭のキマイラがひと際声を張り上げると、周囲のキマイラたちが歓声をあげてそれに応える。
 このキマイラたち、ノリノリである。会場の盛り上がりは絶好調、テンションは最高潮である。
 そんなキマイラたちの歓声を背景に、まず初めの猟兵が進み出た。

 「彼女こそはぁああああ! クイィイイイイインッッ!! このチェスボクシングに君臨するッ! クイィイイイイインッ!!」
 実況のキマイラさんの声にあわせて進み出たのは、眼鏡の化身であった。
 「流れるような金色の髪、均整の取れた灰色の瞳を中心に整った顔貌。それはまさしく、眼鏡と共にあるための存在ッ!」
 「彼女を創造した存在がいるとしたら、そのとき彼はこう言ったに違いないィィィィィイイ!」

 「「「Fiat lux! (眼鏡あれ!)」」」

 ノリノリの実況さんの声にあわせて、キマイラさんたちが唱和した。
 すると眼鏡はリングに上がるのだった。
 自信満々の表情を浮かべるマリアブリレ・ニネヴェマスナガ(サイバー都市SABAEに降り立った最後の眼鏡女王・f02341)は、機関車怪人と対峙した。
 指を突きたて、機関車怪人へと宣言する。

「ふふふ……チェスにて最強の駒は『クイーン』。そして私は『眼鏡女王』!」
「さらに、資本主義にて最強のパンチは『札束パンチ』。つまり私の『人類最強の共同幻想』!!」
「負ける道理など、一片たりともありはしない!!」

「なにぃ!? クイーンだとぉ!? 貴様は、クイーンだというのか!」
 第一戦から衝撃を受ける機関車怪人。クイーンはチェスにおいて最強の駒。
 どれぐらい強いかというと、飛車と角をあわせた動きができるのである。最強である。

「しかぁし! 我が野望を止めることは誰にもできん! 貴様がクイーンだとしてもぉ! 俺は! 戦う!」
 見栄を切るように、仰々しくポーズを取る機関車怪人である。
 そして、両者向かい合って、――座って、真剣勝負が始まった。


 ――30秒後。

「うっ……えぐっ……、ひぐっ……、負け、ました……」
「ふははははははは!!!! 俺様の!!!!! 勝ち!!!!!!!!」

 ――あっという間の出来事だったよ―― 観戦していた客のキマイラの一人はそう友人に語ったという。
 いくら札束を積んだユーベルコードを用意したところで、はじめのチェスをしのげなければ意味はない。
 チェスは頭脳戦であり、物理では解決できないのだ。そして、怪人を買収することもできない。
 お約束であるが、怪人は勝負に一生懸命である。一生懸命やるから怪人なのである。
 ゆえに、現実は残酷であった。

「びぇぇええええええええええええええええええええええええええええん!!!!!!」
 とうとうギャン泣きである。しかし、眼鏡が割れそうなぐらい盛大な泣き声は、キマイラの観客の心を打った。

「怪人めー!卑怯だぞー!」「あんな幼女を泣かせてどうするんだーーー!」「人の心はないのかー!!」
「ちょっとは手加減しろよー!」「泣いてるマリアブルレちゃーんも可愛いよー!」「機関車怪人ー!お前の血の色は何色だー!」
 キマイラの観客たちからも、同情の野次がとびかう。
 そんな一般キマイラの声を受けても、機関車怪人は堂々たるものだった。

「うるさいうるさいうるさーーーい! 俺様の!! 機関車怪人さまの!! 勝ち!! はい勝ちーーーー!!!」
 マリアブルレのギャン泣きは、オーディエンスの心を打ったし、作戦通りに彼らは怪人を非難した。
 ただし、彼女が一つだけ見落としていたことがあった。
 怪人は、怪しい人と書いて、怪人なのである。それを恥じては怪人ではなくなるのだ。

 あまりにうるさいギャン泣きに支配されたリングを前に、近づく音に、観客は気づけなかった。
 しかしそのかわり、キマイラたちは"におい" に気づいた。
 それはそう、誰もが嗅いだことのある、懐かしいにおい。ウコンの香り、ターメリックの香り、牛の香り。
 その日、キマイラたちは決意したのだ。今日の晩御飯はカレーにしようと。

 顔色を変えたのは、マリアブルレである。
 その日、彼女は思い出した。彼女の――いや、眼鏡にとっての天敵がなんであったのかを。
 寒いあの日に眼鏡をくもらせ、茶色いしぶきをあげて、ギトギトした油汚れを残す、奴の存在を。

「ひぃいいいいい!? カレーのにおいはダメだーーーー!!」
 ギャン泣きしていたのはどこへやら、一目散にリングから逃げて行った。
 眼鏡が油で汚れると、拭き落とすのちょっと大変なんですよね。
 実際に現れたのがうどんを持たない、ただのビーフカレーであることなど、彼女は知る由もなかった。

 そうして第一の挑戦者を見事退けた第二の挑戦者の名は、秋山・軍犬(悪徳フードファイター・f06631)である。
 彼は、和食が好きである。
 彼は、洋食が好きである。
 彼は、中華が好きである。
 彼は、スイーツも好きである。

 だが、今日の気分はカレーだった。
「パワーと言えばカレー。故にカレーとはパワー」
 ――だそうだ。
 そう言って、お皿に半分ほど残っていたビーフカレーをぺろり。
 もちろん粗末にはしない。全部綺麗に平らげた。

「肉たっぷりのカレーで得たパワーで、ボクシングで速攻決めてやるっすよ」
 彼が食べていたのはビーフカレー。それも最高級ブランドのコーベ=ビーフを使用した至高のカレー。
 野菜も拘っている。その土地に根差した品種を開発していることで有名な、キョート=ベジタブルをふんだんに使っている。
 香辛料は、カレーの本場、インドから直々に取り寄せていた。
 カレーたった一杯で、いくらするのだろうか――見当もつかないほどの逸品であるった。

「いや、その、初めはチェスなんだが……」
 やる気満々の軍犬に、なんだか申し訳なさそうに機関車怪人が告げる。

「……え? チェス?」
 一瞬ぽかんとした顔を浮かべた軍犬だが、抜かりはないという顔で、新たなカレーを取り出した。
 どこから取り出したのかは、読者諸兄の想像にお任せしよう。
 カレーの真ん中には、魚の切り身がぷかぷかと浮かんでいる。

「自分の能力特性は、食物による細胞の活性化……つまり脳細胞も活性化……意味は、わかるっすね?」
 機関車怪人にどや顔を向けながら、軍犬はカレーを頬張る。
 サバの旨味と、それに調和した香辛料の柔らかな香りが軍犬の舌を包み込む。
 それはさながら、サバと共に海を遊泳しているような、疾走感と開放感を彼に与える。
 流れるような海水のうねりを感じる。それは、口から入り、食道を通り、胃へ、空腸へ、回腸へ、十二指腸へ、流れていくように。
 潮の旨味は、海、そして母なる地球が彼の戦いを祝福してるようにすら感じられた。
 ああ、眼下にサンゴ礁が見える。頭上には太陽の光を受けて白く輝く水面が見える。
 その身に含まれる脳細胞を活性化させるDHA・EPAの力を軍犬は強く感じた。
 突き抜けるような感覚を受けて、プロである彼はサバの正体に気づいていた。
「このDHAとEPAの旨味……このサバは、ハチノヘマエ沖さばっすね。へへっ、シェフもまた一段と腕をあげたんじゃないっすか?」
 自らの推理に確信をもって、軍犬は鼻をこすった。シェフが誰なのかは、きっと本人のみぞ知る。

「ハチノヘ……? それは一体、なんなのでしょうか?」
 と。実況のキマイラさんが、傍らに座っている解説のシェパードのキマイラさん(63歳男性 最近三人目の孫が生まれた)に尋ねる。
「うむ、解説しよう! ハチノヘマエ沖サバとは、ハチノヘ前沖さばブランド推進協議会が協議会が認定した期間にハチノヘ前沖で漁獲し、ハチノヘ港に水揚げされたさばのことでジャパン最北のサバの漁場であるハチノヘ前沖では、秋になると急激に下がる海水温と豊富な餌でおいしさの決め手となるEPA・DHAという不飽和脂肪酸を含む粗脂肪分を蓄え、ジャパン一脂ののった美味しいサバが水揚げされるのじゃ!」
「なるほど、すごいサバなんですね!」
 だそうだった。

「ま、まさか……! くっ、これは二人目が本番というやつか……!」
「だが、負けられん! 怪人の野望は、負けられんのだ!」
 機関車怪人は軍犬から発されるオーラを前に、動揺の呻きを漏らす。
 しかし彼は引き下がろうとはしなかった。彼とて誇りある怪人。古より蘇った戦士なのである。
 そんな機関車怪人をものともせず、軍犬はゆうゆうとサラダに取り掛かる。
 カレーを美味しく食べるには、一緒にサラダを食べることも重要。
 フードファイターである軍犬は、美味しいものを美味しく食べることを忘れない。
 世界三大珍味トリュフの入った最高級ドレッシングのかかった朝の採れたてレタスとクレソンのサラダは大変美味である。

(「ココを乗り越え料理勝負に持ちむっす! したら猟兵仕事の必要経費で高級食材使いまくりっす!」)
(「ところで、カレーの材料は必要経費に含まれるっすよね? 大丈夫っすかね?」)
 なんて、軍犬はほくそ笑む。でもちょっぴり心配だった。
 最後の疑問に答えるように、リングの外からおっとりとした声が飛んできた。

「軍犬さーん、言い忘れていましたがー、経費で落ちるのはー、二戦目の素材であって~」
「ここでのご飯は猟兵さんの自腹ですのでー、お気を付けくださいね~」

「そ、そんな馬鹿なっすーーーーー!」

 グリモア猟兵の春奈の注意を受けて、軍犬がぎゃふんと倒れこむ。
 彼が目覚めるのは、きっとこのチェスボクシングバトルの決着が着いた頃だろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鉤山・瑠璃
ちぇ…ちぇす…も、勿論ルールは存じておりますわ…。
淑女の嗜み…ですものね…?
一応チェスのルールは復習しておきますわ。
あ、あくまで復習ですわ!
当日の試合ではチェスでの戦いは負けないことを優先して動きますわ。
そのかわりボクシングでKOしてしまえば問題ありませんわ。
ボクシングの試合では積極的にKOを狙いに行きますわ。
たとえやられそうになっても戦場の亡霊さんがKOを狙い続けてくれますわ。


ヘルメス・トリスメギストス
「ふふふ、チェスボクシングでの対決でしたら、
この最強魔術師にして天才軍師にして万能執事の私にお任せください」

キマイラフューチャーの御主人様、お嬢様たちのために、
この怪人は執事である私が倒してみせましょう。

「チェスは軍師の嗜みとして、当然、それなりの実力は自負させていただいております。
ですが、それ以上に、主を守る執事にとって、格闘技は必須の能力。
この執事格闘術でボクシングのお相手をさせていただきましょう」

モノクルや執事服をきっちりと着こなしたまま、
ボクシングで激しく動き回りますが、
服装は一切乱れさせません。

「常に優雅さを求められる執事にとって、
格闘も優雅にこなすのは当然のことです」


ウドンチャン・ウドンチャン
小鳥まみれでぼんやりしていた。

しばらくパンチしてなかったせいか
「パンチしたいなぁ…」
口に出していた。
小鳥たちがそわそわし出した。

ボクシングって聞こえた気がした。
「パンチできそうだなぁ…」
事件が起きていた。
小鳥が数羽、飛び去った。呼び戻しておいた。

機関車に乗ってリングを目指し
会釈を交わしてリングイン。
目の前には、パンチしてもいい人がいる。
機関車怪人の目の前をちょこまかうごきながら
拳を突き付け、宣言した。
「ぼくはユーに…拳を押し付けて、強く押すよ!!」

チェスのことは後で教えてもらおう。



●猟兵の戦いは続く
「次は貴女様の番のようですが、大丈夫ですか?」
「ちぇ……ちぇす……も、勿論ルールは存じておりますわ……。淑女の嗜み……ですものね……?」
 二人の挑戦者たちが挑んでいる間に、愛らしい碧眼をくりくりと動かして、「初心者でも安心!チェスの駒の動かし方入門」と書かれた本を読んでいたのが鉤山・瑠璃(羅刹の剣豪・f05937)である。一方、そんな彼女を見守るように、優し気な笑みを浮かべるエルフの青年がヘルメス・トリスメギストス(最強魔術師にして天才軍師な万能執事(自称)・f09488)であった。
 必死にチェスの復習をする瑠璃の集中が切れた頃を見計らって、温かな緑茶を差し出す。見事な執事っぷりを見せるヘルメスである。一方の瑠璃は背筋を正して椅子に座って、ヘルメスの気遣いを当然のように受けた。その落ち着いたたたずまいは育ちの良さ、いうなれば"お嬢様感" を誰しもに与えるといっても過言ではあるまい。
「どうぞ、お嬢様」「あら、ありがとうございますわ」
 なんてさりげない会話も、この二人ならば堂に入っている。
 ただ一つの心配は、誰がどう見ても、瑠璃がチェスのルールを覚えているようには見えないことだった。

 先に挑んでいた軍犬がリングから退場させられた後で、実況のキマイラさん(最近太った)が瑠璃の名前を高らかに読みあげた。
「負けないように……負けないように……」
 ぶつぶつと呟きながら、水色の和服のままリングに設えられたチェス盤の前に座る瑠璃。
「心配いりませんよ。お嬢様なら勝てます」
 その傍らには、お嬢様に従うのは執事として当然のこととばかりに控えるヘルメス。言うまでもないことだが、チェスボクシングは個人競技である。しかし、二人の人間がリングに上がっても違和感を感じさせないのが、瑠璃のお嬢様力であり、ヘルメスの万能執事たる力であろう。
 現に、機関車怪人も全く異常に気付いていないようだった。
 大丈夫なのだろうか、この怪人。

「それではァァア! 第二試合、レディイイイイイ! ゴォオオオオオオ!!!」
 かーん。威勢の良い実況のキマイラさん(今日の朝ごはんは納豆ごはん)の合図とともに、試合開始のゴングが鳴った。

「ええと……、まずは――――」
 先手はチャレンジャーの瑠璃、初手からして、考え始めてしまった。
「お嬢様、初手はe4にポーンを進めるのが定番ですよ」
 なんて、こっそり耳打ちするのが完璧執事。
「そうでしたわね。では、e4にポーンを動かしますわ」
 進言を聞き入れる、デキたお嬢様が瑠璃である。
 世界が違えども、お嬢様はお嬢様だったし、執事は執事であった。
 今日初めて出会ったはずの二人のコンビネーションは、完璧だ。

「……ほほう、これは。シシリアン・ディフェンスですか」
 いくらか盤面が進んだあとで、ヘルメスは眺めて呟く。そういう形になったらしい。
「シシリ……? それは、どうやって動かせばいいんですの?」
 シシリアン・ディフェンスという戦形の意味もわからず、瑠璃は首をかしげて聞き返す。
 戦いは持久戦となり、第一ラウンドはそのまま決着がつかず。
 すなわち三人目にしてはじめて、第二ラウンドへと突入した。

「ようやく戦闘ですわね。腕がなりますわ」
 しゅっしゅっ、とシャドーボクシング。不安げだったチェスとは打って変わって、イキイキとした目になる瑠璃であった。
「お嬢様、頑張ってくださいね。応援しております」
笑みを向けて戦いの邪魔にならないように、チェス盤をどかすのが執事のヘルメスである。
ゴングが鳴ると同時に、瑠璃は機関車怪人へと一気に詰め寄った。
華奢な体とは裏腹の、機敏な動き。お嬢様とて侮るなかれ。彼女こそは、羅刹。
すなわち、こと近接格闘において、最も優れた種族のひとつ。

「ふっ! せいっ! その動き、甘いですわ!」
 機関車怪人の黒い腕から織りなされる、パンチ、パンチ、パンチを躱し、凄絶な笑みを浮かべる。観客のキマイラさんたちも、思わず手に汗握って見いってしまうほどの熱戦であった。
「くっ、貴様ッ! なかなかやるじゃないか!」
 機関車怪人も、表情の読めない顔ながら、どこか楽しむような声で拳を繰り出した。瑠璃の戦いぶりは華麗そのもの、麗しい白髪と、きらきら光る汗を舞わせて、機関車怪人を翻弄した。

「――隙あり! どっせい!……ですわ!」
 どかんと良い音が鳴る。それは、機関車怪人の腹に瑠璃の拳の当たる音。
 あたりを震わせるその音は、まるで車両衝突を思わせるほどの轟音である。

「むぅおおおおおおおお! なかなか良いが、負けぬぞ! ぽっぽぉおおおおお!」
 一般人なら絶命しかねない一撃だが、それで倒れる怪人ではない。頭の煙突からもくもくと白煙をあげて、機関車怪人がカウンターの一撃を瑠璃へと放つ。

 がつん。一発で、瑠璃がリングへと倒れてしまう。カウントが始まった。
 あれは当たり所が悪かったですね、と後で解説のキマイラのお爺さん(持病は高血圧と心房細動)は語った。

「ふはははは! 他愛ない! 猟兵よ! この程度か!」
 機関車怪人は勝ち誇る。機敏に動き、重い一撃を油断なく放つ瑠璃は間違いなく強敵。それを倒れさせたのだから、調子に乗るのも当然だ。
 だが、戦闘は終わっていなかった。

 ゆらり、とリングが歪む。
 思わず機関車怪人は、顔をごしごし擦って自分の目を疑った。もっとも、彼に目はないが。

「おっとぉーー! いきなり現れた、あれはいったい、なんなのかー!?」
 実況のおっさんがのりのりで吠える。
「あれは、猟兵たちに許された必殺技、ユーベルコード。広義に、【戦場の亡霊】と称されるものじゃな」
 解説の爺さんが、その隣で心臓のあたりを抑えながらしたり顔で答える。
 瑠璃を守るように、一体、二体、三体、彼を守るようにちょんまげを結った亡霊たちが現れる。もちろん彼らは、ボクシングのグラブを着けていた。
「彼らは、どうやらサムラーイに見えますが……!? この世界の住人ではありませんね!?」
「もしかしたら、瑠璃選手の出身世界の亡霊なのかもしれんのぉ」
「瑠璃選手はやんごとなき身分の様子! もしかしたら、彼女の家に仕えていたセンゴクブショーの霊かもしれませんね!?」
 などと、勝手な解説を繰り広げる調子の良いキマイラたちであった。

 ボクシンググラブを付けた亡霊たちはそのまま、機関車怪人へと殴り掛かる。
「えっ、ちょっと、待っ―― ぎゃー! 三人に勝てるわけないだろ!」
 あまりの劣勢に、怪人が悲鳴をあげる。がっし、ぼかっ。

「圧倒的数の利を活かして、怪人をタコ殴りにする亡霊たちー! これは怪人の敗北も間違いなしですねー!」
 楽しそうに解説する一般キマイラ。だがしかし。
「おっとぉー!? ここで審判がストップをかけたー! ……えー、なになに?」
 差し入れられた紙切れを、実況のキマイラが読み上げる。
「えー、ボクシングは一対一の勝負であり、複数人が参加することは許されないとの審判の見方ですねー」
「これは、若干怪人有利の判定ではないでしょうか。そこのところ、どう思われますか?」
 解説の一般キマイラへと水を向ける実況の一般キマイラ。
「そうじゃねぇ。それを言うなら、そもそもチェスの時点で、猟兵側は助言を受けていたように見えたのじゃが……」


 ――あ。

 今更ながらに気づいた顔で、機関車怪人がヘルメスを見る。

「貴様ぁあああああああ!!」
 機関車怪人は、猛烈な煙をふきあげて、まわりにいた瑠璃の亡霊を弾き飛ばして、さっきまで瑠璃へ助言しまくっていた執事へと一直線。大きく振りかぶり、高速でパンチを繰り出すと――

「――まったく。その程度の攻撃、当たるとお思いですか?」
 そこにはすでにヘルメスの姿はなかった。
 服装を一切乱さずに、機関車怪人の後ろを取る完璧執事。

「常に優雅さを求められる執事にとって、格闘を優雅にこなすのは当然のことです」
 声につられて振り向いた機関車怪人の顔面へ、そのままジャブ、ジャブ、ストレート。その優雅な連撃は、執事格闘術の賜物。機関車怪人がその動きに順応するには、時間を要した。

 ――最初からあの執事がチェスボクシングに出れば勝負は済んでいたのでは?
 観客の誰しもがそう思ったし、ヘルメス自身もチェスボクシングに自ら出場するつもりだった。しかし、ヘルメスは執事。執事はお嬢様を前にして、その存在をたてずにはいられなかったのだ。いうなれば、彼が完璧なまでの執事であるがゆえの悲劇だった。

 怪人にとっての悲劇は終わらない。

「パンチできそうだなぁ……」
 とぼけた声が、怪人のすぐ近くで発された。チチチと小鳥がその拳の上で鳴く。

「――――え?」
 ひょいひょいと、ちょこまかと、体を左右に動かした後で、ぴたりと止まった。
 ウドンチャン・ウドンチャン(羅刹の聖者・f05256)は、怪人に拳を突き付け、宣言した。
「ぼくはユーに……拳を押し付けて、強く押すよ!!」
 拳に小鳥を乗せたまま、ウドンチャンは怪人に向けてパンチを繰り出す。
 一発、二発。新たな乱入者に戸惑う怪人。だが、怪人の力は伊達ではない。
 ウドンチャンの攻撃を、すんでのところで躱して見せる。
「最初はちょーっと戸惑ったが、躱せる攻撃じゃないか! はははっはー!」
 どかっ。
「あんぎゃーーーーーーー!」
 怪人が足を抑えて、飛び上がる。ウドンチャンの足パンチ。
「何しやがる! ボクシングだぞ! 痛いじゃな――ぎにゃーーーー!」
 文句を言う怪人に向けて、ウドンチャンの頭パンチ。怪人は舌を噛んだ。

「ぜぇ……はぁ……」
 ルールなど知らぬとばかりの猟兵たちを前に、息切れしながらも、怪人は審判を呼んだ。
「えー、三人とも、チェスボクシングのルール違反につき、失格となります」
 気絶したままの瑠璃。
 瑠璃を優しくお嬢様抱っこしてリングから降ろしてあげるヘルメス。
 えー、どうしてー?と何がなんだかわかっていない様子のウドンチャン。

 ちなみに、チェスのことは後でヘルメスから教えてもらったウドンチャンだった。
 へー、そういう競技だったんだ。
 はい、そういう競技だったんですよ。
 ふふふ、こんな競技があるなんてわたくしも今日初めて知ったんですのよ。

 不屈の機関車怪人はまだまだ諦めない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

犬上・爪牙
文武両道、知性と野生持つ相手ですか。知性は……少し苦手です

●チェス
生兵法ですがまずはクイーン同士を取り合い1:1交換
素人には読み違え易い動きのナイト同士、あるいは敵ナイトをビショップと交換し、戦場から早々に退場を狙います
明確な格上相手。盤面の戦況も読めませんが、せめて駒のポイントは負けぬよう

●ボクシング
爪ではなく素手は得意というわけではありませんが、グラップリングなしなら力任せなんとかなるでしょう
人狼の怪力を持って拳を放つパワーファイトで参りましょう
とはいえ、怪人とて本物のプロ相手では持ちこたえるだけでも至難
水の魔力で防御力を底上げしつつ激痛耐性で痛みに耐え、倒れぬよう

アドリブ&絡み歓迎


ステラ・ハシュマール
アドリブ大歓迎

こういうスポーツ、嫌いじゃないよ。
ボクシングではスピードを活かして、ガードの緩いところを執拗に狙うよ。小さくて細い見た目に騙されてたら【怪力】もちのボディーブローを何度か体に叩き込んであげるよ。
肝心のチェスは得意なんでね。数手でチェックメイトまで持っててっあげるよ。

「ボディーが空いてる!シャラァァァァ!!」

「はいチェック。弱いねぇ以外と」


クネウス・ウィギンシティ
「正々堂々の戦いですか、良いでしょう。受けて立ちます。さあ、殺りましょうか」

戦闘方針:POW、正統派プレイでユーベルコード・技能無しでプレイングで戦います。

チェス戦闘方針:相手の出方によらず、初手はクイーン前のポーンを動かす「オープニング(初手)」で「キャスリング(キングとルークの位置交換)」を生かして中央突破を狙います。突破後、ポーンの「プロモーション(昇格)」で勝ちを狙います。

ボクシング戦闘方針:機関車怪人は頭のアゴに相当する部分が長いので、「アッパーカット」でKOを狙います。どんな改造を行おうと「脳だけは鍛えることが出来ない」ことをサイボーグ(改造人間)である私はよく知っています。



●猟兵たちは戦う
「こういうスポーツ、嫌いじゃないよ」
 そう歪んだ笑みをこぼす咎人殺しは、ステラ・ハシュマール(炎血灼滅の死神・f00109)である。炎となって燃える左目を愉悦の色となし、機関車怪人を見つめる。チェスが得意と豪語するステラは、機関車怪人との試合にあっても、まったくの余裕を見せていた。しかし、彼女の目論んだ数手でチェックメイトにもっていくことはかなわず、試合は膠着を見せていた。駒遊戯における短期決戦狙いとは、俗にハメ手と呼ばれ、"相手が対策を知らない" ことが大前提となる。機関車怪人はチェスボクシングを選ぶだけあって、基本を当然抑えていた。そしてハメ手は外れたときに隙を突かれる――ゆえにどれだけステラが優秀なチェス・プレーヤーであろうと短期に決着をつけることは難しかったのだ。しかし、それで気落ちする猟兵ではなかった。作戦は次の段階へと進んだ。そう、ボクシングだ。

「ボディーが空いてる!シャラァァァァ!!」
 先ほどの余裕とは打って変わっての豹変ぶりで、奇声をあげてとびかかる猟兵。漆黒の髪を揺らし、加虐心に満ちた顔で機関車怪人の隙を突かんと跳躍した。彼女の動きにあわせて、まるで炎が揺れるように軌跡を描く。

 ――だが。
「はい、KO。弱いねぇ、意外と」
 彼女が空いていると錯覚したボディーの隙。それは、機関車怪人の誘いであった。
 彼女が勝てる確率は、およそ5割だった。ステラがユーベルコードを持ってきていたら。それほど高くない腕力に頼らず、より自身に適したスキルを採用していたら。結果は変わっていたかもしれない。怪人は小さくてか細い、可憐な見た目に騙されたりはしなかった。それは、先ほどの怪人のマリアブリレに対する大人気ない態度を見ても明らかだ。

 現実は厳然として存在した。
 ステラが踏み込んだ瞬間を活かした、怪人の長い腕を用いたカウンターパンチ。
 芸術家の咎人殺しはリングに沈んだ。

「――ですが、これで対策は見えました」
 冷徹にすら聞こえる冷静な声で、ステラの戦いを見ていたのがクネウス・ウィギンシティ(鋼鉄のエンジニア・f02209)であった。そして彼は、眼前の同胞の戦いを無駄にしまいと思考を重ねていた。
「それは……どうやって?」
 クネウスの隣に立って温和な声で尋ねるのは、人狼の騎士。犬上・爪牙(人狼のパラディン・f06689)は、目前でカウントをとられるステラへ同情のまなざしを向ける。油断したら、僕だってああなりかねない――だからこそ、油断するわけにはいかない。まして相手は知性に自信を持つ難敵だと彼は認識していたから。隣のクネウスが思い至った対策に、興味を惹かれたのだった。

「チェスで勝とうとすると、怪人の土俵に乗せられてしまうんです。勝ちを狙うなら、ボクシングのタイミングで勝つこと。チェスは負けないように、堅実に戦うことこそが重要でしょう」
 機械化された青い瞳が、きゅいと縮まった。それは、焦点をあわせるためにしぼりを入れるカメラに似ていた。その先には、勝ち誇ったようなポーズを取る機関車怪人。そして、次にリングに上るのは、クネウスの番。実演して見せましょうと爪牙に笑って、リングに入った。

「それでは、よろしくお願いします」
 余裕の笑みすら浮かべながら、d4へと白のポーンがクネウスの命令で動く。
「おおっとぉー、クネウス選手。瑠璃選手と異なり、クイーンの前のポーンを動かしたー! これは一体、どういった意図なのでしょうか!? 解説のキマイラさーん!」
「はい。解説のキマイラです。先ほどの瑠璃選手がe4にポーンを動かすオープン・ゲームを選択したのに対して、クネウス選手はd4、いわゆるクローズド・ゲームと呼ばれる手筋を選択していましたね。これは、非常に防衛的な戦術です。dラインを軸にポーンによる中央の位置の奪い合いに発展することで……そしてこれに対する対策として……最近ですと、ロンドン・システムのようなモダンな……これによるf4ビショップによる筋が……そこで悩むのがたまらんわけでして…………」
 解説のキマイラさん(実はキマイラ将棋の指導教官の資格を持っている)が嬉しそうに語り始める。ようやくやってきた、実況のしがいがありそうなチェスの試合にわくわくしているようですらあった。その語り口は止まる様子はなく、実況のキマイラさんは寝ていた。

 ぴぴぴぴぴ。対局時計が鳴って、チェスの試合が中断される。
「ぽっぽぽー! やるじゃないか! だがぁ! 頭だけではチェスボクシングには勝てない。」
 熱中していたらしい機関車怪人が嬉しそうに手をわきわきさせる。強敵の出現に、燃えているようですらあった。クネウスは怪人の闘気に応じるように、かけていた眼鏡を外す。彼の眼鏡は、サイボーグとなってしまった今、本来意味のないものであるが、改造される前の癖で、ずっとつけているのだった。

 ボクシングがはじまってもなお、怪人とクネウスは一進一退の攻防を続けた。怪人が攻めると、クネウスが下がり、それを怪人が追撃しようとすると、逆にクネウスは窘める。機械の腕で、怪人の拳を受け止め、逆に殴り返す。それを怪人は両拳でガード。まさに、熱戦であった。

「おおっとぉー! ここでボクシングのタイムアーップ!!!」
実況のキマイラさんが中断を宣言した。挑戦者七人目にして、ようやく二巡目のチェスが回ってきたのだった。

「やることは変わりません」
 冷静なままのクネウスは、積極的なプロモーションを図り、怪人の陣地を削り、支配権を確立していく。芸術的な戦法であった。しかし、決着はつかない。つかなかった。名人同士の戦いは長考が入るもので、容易に決着が着くことは稀である。第四ラウンド――二回目の殴り合いがあっという間にやってきた。

 ――だが。
『――敵、補足完了』
 クネウスは、一回目のボクシングで怪人の戦闘力を見切っていたのだった。そして彼は、自らの特性から怪人の弱点を知っていた。どんな改造を行おうと「脳だけは鍛えることが出来ない」――サイボーグである彼にとって、彼自身の弱点としてそれをわかっていた。だから。飛び出す。必然。アッパーカット。

 ごすん。小気味良い音が鳴って、機関車怪人がリングに倒れ伏す。
 わん、つー、すりー、……カンカンカン!
 まぎれもない、猟兵の勝利であった。

「ふっ......なかなか強敵でしたが、当然の結果ですね」
 あくまで冷静なまま、勝者としてリングから退場するクネウス。
 これで、猟兵側の勝利により、機関車怪人も諦めるはず―――はず―――

 ―――いや。
 ―――そうは問屋が卸さない。

「ずるい!!!! ずるい!!! ずーーーるーーーーいーーーぞーーーー!!!!!」
 がばっと立ち上がった機関車怪人は、駄々をこねだした。さながら子供のように。
「俺様は何度も戦って疲れてたんだ!!! ノーカン!! ノーカン!!! ノーカン!!!!」
 諦めて引き下がる様子は、かけらも見られなかった。
 観客のケルベロスたちは大ブーイング。だけど怪人はあきらめない。
 問題は、この怪人を放置するわけにはいかないということだった。
 満足していない怪人に今暴れられるわけにはいかないし、観客を抑えなくては、暴動になりかねない。万一にも熱中した一般キマイラが怪人に挑みかかっては大惨事である。猟兵たちは、選択を迫られた。

「ならば、僕が行きましょう。……さあ、満足してもらうためにもやりましょうか」
 それは、先ほどからクネウスの試合を見ていた爪牙だった。人狼たる彼は、音もなくリングへと入り込んで、機関車怪人を誘う。隙のない彼の挙作に、機関車怪人もにんまり。彼を倒せば、一度負けた怪人の権威も復活するに違いない。キマイラたちも、なんだかんだで面白そうな試合が見られればおっけーらしく、次第に落ち着いて行った。

「チェスはあまり得意ではありませんが……負けません」
 彼の駒捌きは、クネウスの戦法の良いところを十分に吸収したこともあり、有効なものだった。まずクイーン同士で動きを封じ、価値の等しい駒たちをかみ合わせ、戦局を膠着させていく。勝つように戦うことは難しい――だが、持ち時間を十分に使って負けないように戦うことは誰にでも可能だった。

「むぉおおおお!!! なかなかやるではないか!!」
「俺様の猛攻……そのやわな体で耐えられると思うなよ!!」
 第二ラウンドで、機関車怪人は爪牙に挑みかかる。彼の戦いぶりは、クネウスとは異なった。ユーベルコード【トリニティエンハンス】を用い、三種の魔力で体を強化した彼は、怪人の攻撃のもたらす激痛を耐えて見せる。その力は、猟兵としての力が為すものであると同時に、彼の人狼としての血、あるいは傭兵としての血が為せるものなのかもしれない
「――この程度の攻撃で猛攻とは、かたはら痛いですね」
 痛みは本物。だがそれを表には出さない。涼やかな目のまま、人狼の猟兵はその怪力を、一挙に怪人の顎に集中させた。――顎が弱点らしいことも、さっき見たからな。

「おおっとぉおお!! ここで機関車怪人がダウゥーーーン!!!」
 機関車怪人が倒れるのと同時に、実況のキマイラさんが嬉しそうに声をはりあげた。彼が動くと同時に、頭髪がはらはらと舞うが、そんなことにもおかまいなし。
「勝者はぁ! 犬上・爪牙選手だぁ!!!」
「「「うおぁああああ!!!」」」
 一般キマイラの歓声を受けても、爪牙は冷静なままだった。
 自分に助言をくれたクネウスとちらりと目をあわせ、笑いあった。
 爪牙は温和な表情のまま驕らず、勝者としてリングを後にした。

●だが。
「まだだぁああああああああああああああ!!!!!」
 クネウスに、爪牙に、こてんぱんにされてもなお機関車怪人はあきらめなかった。
 いつまで続くかチェスボクシング。
 それはきっと、彼の体力が尽きるまで。

 それを見た猟兵たちは、ため息をつくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

佐之上・権左衛門
【POW 】別にチェックメイトせずに倒してしまって(KO )も構わんのだろう?ということでチェス方面は適当に、そしてボクシングの方をメインで体力にものをいわせて肉弾戦で挑む。


ウサコ・ブラック
チェスボクシングってすごいわね…
とりあえずパワー勝負をしかけるのよ

チェスはあんまり自信がないけど精いっぱいやるわ1
序盤は定石に沿って、そのあとは時間をかけてやるのよ
とにかくあんまり早く負けないように、勝てなくてもいいのよ

その分ボクシングは全力でやるのよ!
「気合」からの「怪力」でユーべルコードを使ってガッツリぶん殴っていくのよ!
腰の入ったパンチ、パンチ、パーンチ!

勝てなくてもいいから、とにかくボクシングで体力を削るわ
私以外の人に回ることがあれば、その人に勝ってもらえればいいのよ


空雷・闘真
「ふぅぅううううう!!」
闘真はチェスの駒を取ると、体中の気を練り上げ、指先とチェスの駒へと集中させた。
そしてそれを高く振り上げ、チェス盤へと振り下ろす。
「ぬぅん!!」
チェスの駒を【武器】とした【グラウンドクラッシャー】。
駒はチェス盤に深くめり込み、ちょっとやそっとでは抜くことは出来ない。
「こいつを取れなきゃ、チェックメイトには出来ねぇぜ?」

(昔365歩のユウキって漫画で、将棋の駒を怪力で将棋盤にめり込ませて取れないようにするとかやってたキャラがいたので、ちょっとそれをパクッてみました)

ちなみにボクシングに関しては、巧みなフットワークによる【二回攻撃】で、蝶のように舞い蜂のように刺しました。


桜庭・英治
WIZ

チェスは1ラウンド4分間
ボクシングは1ラウンド2分間

……なるほどな
ルールはわかったぜ
つまりボクシングの時間を利用して
怪人がチェスをできなくなるまで追いつめればいい…
そういうことだろ?

任せろ!!

チェスは堅実に守りを固める
とにかく負けないことを重視

ボクシングは苛烈に攻める
ガードの上から殴りこむ
両腕へダメージを蓄積させることが狙い


ようやく気付いたか
お前の両手がもう、チェスを打てないことにな!


これが頭脳プレイ(脳筋)だ!



●機関車怪人くん元気を出す
「なるほどな……。チェスでどうやって戦えばいいか迷っていたが、彼らのおかげで解決法が見えたようだ」
 眼光鋭き長身の男が名案を思い付いたと言わんばかりの表情で進み出る。彼の名は空雷・闘真(人間のバーバリアン・f06727)。伝説の古武術、【空雷流】最強の使い手にして継承者であり、ルール無用の強さを求める求道者である。闘真は機関車怪人と向かい合い、駒を動かすこと数回。時が来たとばかりに、闘真は右手を自分の白のキングを添えて、大きく持ち上げた。彼の右手はごうごうと空気の渦が巻き、覇気とすら称せよう威圧感すら周囲に与えた。ぱたり、ぱたりと観客のキマイラの一部がそれに耐えきれず、倒れ伏す。それほどまでに、危険な技。

「へぇ、あれは……」
「ええ、あれは決着が着いたわね」
 そんな闘真の様子を観客席に座って冷静に観察していたのが、桜庭・英治(NewAge・f00459)とウサコ・ブラック(黒兎狂騒曲・f05324)であった。英治は自信満々の表情で、きんきんに冷えた缶ジュースを口に運びながら、隣の椅子にすわるウサコに問いかける。
「どっちが勝つと思う?」
「――そんなの、決まっているじゃない」
 おやつの棒付きキャンデーをぺろぺろと舐めながら、ウサコは不敵に笑う。ちなみにこのウサコ、今日のおやつ代は324円もかけてしまった、極悪破戒ウサギである。
「――だよな」
 英治は確信していた。この勝負――猟兵の勝ちだと。

「ふぅぅううううううううううううううううう!!」
 ベキィ!と木目が割れる音が鳴った。駒はチェス盤に深くめり込み、ちょっとやそっとでは抜けるように見えない。直撃地点周辺の白黒模様すらわからなくなったチェス盤を前にして、どや顔のまま、闘真は機関車怪人に勝ち誇った。ちなみにチェス盤は特別製で、怪人や猟兵が手荒く扱っても壊れないようにできているぞ。
「こいつを取れなきゃ、お前は勝てねぇぜ?」

「あ、それチェックメイトだぞ」

「――――え?」
 闘真の誤算を挙げるとすれば、それは発想元となった将棋とチェスのゲーム性の違いにあるといえよう。すなわち、将棋は相手の王を取ることで勝つゲーム。チェスは、相手の王が逃げられないチェック=王手をかけること、すなわちチェックメイトで勝つゲーム。勝利条件が、違うのだ。ちなみに将棋も、逃げられなくなった時点で詰みとなり、詰んだ側が降伏するのが慣例であるが、本対局とは関係がないため割愛する。

「ゲェエエエエム!! セット!!!!」
「そんな馬鹿なぁぁああああああああ!!!!」
 実況のキマイラさんが、高らかに試合終了を宣言する。絶叫する闘真は、審判のキマイラさん(一般人)によって、リングから引きずり降ろされた。

「チェスと将棋の違いさえなければ、あの子も勝てたかもしれないわね」
 そう語るのは、ペロペロキャンデー(税込162円)を舐めるウサコ(6歳)であった。
「おっ……そ、そうだな。あの展開は読めていたとも!! うん!!」
 同意するのは、桜庭・英治である。声が震え、いささか顔を汗が伝っているのは、気のせいに違いなかった。

「そう!!! 俺様は強い!!! さっきのはまぐれ!!! まぐれだもんね!!!!」
 調子が戻ってきたらしい怪人は、今度はかえって調子に乗り始めた。

●機関車怪人くん、追い詰められていく
「次は私がいくわ。たぶん、私とあなた。考えていることが同じだから」
 協力して怪人の意気をくじきましょうとウサコは隣の英治に提案し、彼の返答を待たぬまま、そのままリングへと上がっていく。長身の機関車怪人と黒い6歳ウサギ女児。危険な絵面ができあがった。

 チェスの流れは、もはや決まっていた。クネウス以来、猟兵伝統となった「チェスは時間を稼ぎ、ボクシングでケリをつける」戦法である。ウサコの小さな手がぷるぷる震えながらチェスの駒を掴む。ちょん、すいーっ、ぽてり。愛らしい手つきで動いていくチェスの駒たち。破戒僧であるウサコだが、今回ばかりは基本を破らない。偉い子であった。

 第二ラウンド、ボクシング。第三ラウンド、チェス。第四ラウンド、ボクシング……ウサコは、今までの猟兵たちに見られないほど、長く、戦っていた。彼女には明確な目的があったのだ。「体力を削る」……その一点にこそ、彼女の狙いがあった。
「ボクシングは、全力でやるのよ」
 パンチ! パンチ! パーンチ! 短いふわふわなおててから繰り出される、大威力の一撃。何も傷つけないようなふわふわなウサギさんパンチのどこからそんな威力が生じているのかさっぱりわからないが、猛威力のパンチの嵐を前に、とにかく機関車怪人は防戦するほかなかった。

「これは、一方的な展開ですねー。どう見ますか、解説のキマイラさん?」
「いえ、この勝負、まだわかりませんよ。勝負を分けるのは、もしかしたら、その力の本質かもしれません」
 実況のキマイラさんはウサコの勝ちを疑わない。だが、解説のキマイラさんには異見があるようだった。彼は首を振った。

 解説のキマイラさんの発言の意図は、第五ラウンドのチェスで明らかになった。
「うーん、飽きたわね」
 堅実に戦っていたウサコ。だが、次第に押されていった。それが明らかとなってから三手、五手、七手、やがてチェックメイト。急展開からの勝利に、機関車怪人ご満悦。

「おっとぉー!? これはどうしたことかー! あっという間に機関車怪人が勝ってしまったー!」
「これは単純な話です。ウサコ選手の本質は、ルールを破る……破戒にあります。破戒せず、定跡どおりに指すチェスの戦術では、彼女の力を十全に発揮できない。そういうことですじゃ」
 解説席からそのような解説が飛び交う。その真偽のほどはわからないが、とにかく勝負の決着はついたのだった。ただしそれは表面的な事実に過ぎなかったのかもしれない。

「うーん、負けてしまったのよ」
「ウサコ、お前の戦い……無駄にはしねーぜ。あとは任せろ!!」
 リングから降りてきたウサコに、キンキンに冷えたオレンジジュースを渡して、にっこり笑うのは英治である。鋭気を養い、戦いへと赴く。彼の狙いは、ウサコと同じ。威勢よくリングへ飛び込んでいく。

「ほう……威勢が良いじゃないか。だが、二連勝して勢いづいた俺様を止めることなど、できはしないぞ!!」
 機関車怪人は英治を睥睨した。圧倒的な存在感、自信。だが、勇敢な猟兵である英治はそれにひるむことはない。両者座って、対局開始となった。

 とはいえ、チェスの試合に特筆するようなことはなかった。英治は堅実に戦ったが、目をひくような戦法はない。クネウスの、ウサコの、とった戦法とさして変わりない。防御を固めて、堅実に守っていくスタイル。ラウンドは、ボクシングへと移った。

「お前の敗因は……俺と言う猟兵と戦う羽目になったことだ!!」
 英治の戦闘スタイルは、苛烈なものだった。一見体格に特筆するような特徴はなかったが、彼の一撃はとても重かった。それもそのはず、彼はサイキッカー、超能力の使い手だ。さきほど、ウサコに差し出したオレンジジュースをさりげなく冷やしておく気遣いのためだけに超能力が存在するのではない。彼の拳はサイキックで強化され、強烈な一撃となった。
「ぬぅ! 貴様! いいパンチを放つではないか!」
 敵ながらあっぱれと怪人は英治を褒める。褒めつつも、英治へとカウンターとばかりにストレート・パンチ。豪速で迫るパンチを下に英治は躱し、お返しのアッパーカット。それを怪人は左腕で受け、右手でジャブを放って英治を牽制。英治はサイキックの補助を受け、機敏に躱して再び殴る。

「へぇ、あの子。なかなか考えたじゃない」
 観客席に戻ったウサコは感嘆を漏らす。英治の狙いは、彼女には明らかなものだった。
「それは……どういうことだ?」
 傍らで、だらしのない恰好をしたおっさんが黒いウサギの少女に尋ねた。
 ウサコは飲んでいたオレンジジュースから口を離して、得意げに言った。
「彼は、腕を狙っているのよ。つまりボクシングじゃなくて、チェスで勝つつもりってこと」

 そこまで!という審判の合図とともに、リングにチェス盤が運び込まれた。
 怪人と英治、両者互いに対峙して、チェスが再開されようとしていた。

 ――が。
 怪人は、すぐさま自らの体の異変に気付いた。

「ば、馬鹿な……! 腕が、俺様の腕が、動かない……!?」
 ぷるぷると震える機関車怪人の腕。彼の腕は、動かない。それは数多の猟兵たちと連続で戦ってきた証であり、そして英治の作戦勝ち。腕を集中的に狙った結果、怪人の腕は疲労の極致にあった。もう持ち上がらない。チェスの駒をもう持ち上げることが、できない。

「ようやく気付いたか!」
「お前の両手がもう、チェスを打てないことにな!」
 自信満々の英治。その表情は、勝利を確信していた。
「貴様は俺の罠にはまっていたのさ! これこそが、頭脳プレイというやつだ!」
「はははははー!!」
 呵々大笑。気持ちの良い笑い声がリングに響く。観客たちも、英治の勝利を確信していた。

 ――だが。

「ぬぅうううううおぉおおおおおお! 負けはせん! 負けるわけにはいかん!!!」
「な、なにぃいいいいい!?!」
 続く、あまりに予想外の光景に英治は驚愕した。
 
 機関車怪人の口が、がぱりと開いた。彼はナイトを口にくわえ、進めた。
「――チェックメイト」
「馬鹿なぁあああああああああああああ!!!!!」
 英治は負けた。その天才的な頭脳プレイの敗因はひとつ。
 チェスの駒を動かすのは、何も手だけとは限らないこと。

●チェスボクシングの終着点
「無敵!!!!! 俺様は!!!! また勝った!!!!!」
 英治という難敵をも倒し、雄たけびをあげる機関車怪人。その足は生まれたてのカモシカのように震え、腕は振り子のようにだらりと垂れ、もくもくと立ち上がっていた煙突の煙は、もはや枯れかけていた。だが、彼はそんなことを気にしない。だって勝ってるもんね。さっき負けたことなんて、もう覚えてないようだ。

「あー……」
 そんな機関車怪人に最後に向かい合ったのが、うらぶれた外見をした佐之上・権左衛門(おっさんは蛮族傭兵・f00239)であった。あからさまにやる気のない表情で、リングへと座る。もはや疲れてきたのか、キマイラたちもいささか反応に欠けていた。
 対局開始のベルが鳴っても、権左衛門は微動だにしない。

「……おい、お前の番だぞ?」
 心配そうに尋ねる機関車怪人である。――だが。

「ああ、いいのいいの。だって持ち時間12分あるんだろ。で、第一ラウンド2分なんだろ。指さなくていいじゃん」
 もはややる気のない様子。本当に何もしないまま2分が経過。

「……それじゃあまあ、やるとするか」
 ぱきぱきと関節を鳴らし、権左衛門が腕を回す。
「――来い!」
 やる気に満ちた機関車怪人が迎え撃ち、熱戦が――起こらなかった。
 大きく振るって、まっすぐ飛んだ権左衛門のストレートパンチが、怪人の顔面に直撃。

「――あれ?」
 権左衛門の一撃KO勝ちである。
 それも当然の結果である。ウサコによって、英治によって、チェスの駒すらつかめないほど疲弊させられてしまった怪人が、ボクシングに耐えられるわけがないのであった。

「勝者!!!! 猟兵(イェーガー)!!!!」
 高らかに解説のキマイラさんが宣言する。もはや怪人に反駁する気力はないようで、「馬鹿な……この俺が……」とぶつぶつつぶやくのみ。こうして、猟兵と怪人のチェスボクシング・バトルは猟兵の勝ちに終わったのだった。


●でも。
 ぴょん。と怪人が立ち上がる。
「それはそれとして!!! 俺様は世界征服をあきらめない!!!」
 だそうだった。

 疲れ果てた様子の怪人だが、まだあきらめないそうだった。
 ここで戦う選択肢も猟兵にはあった。
 しかし、追い詰められた怪人は何をするかわからない。
 万が一暴走されて、多くの観客のキマイラを傷つけられでもしたら、たまらない。

「あー……、それじゃあ、どうするってんだよ。まだチェスボクシング、する?」
 いささかげんなりした顔で、桜庭・英治が怪人に尋ねる。
「いや、チェスボクシングはもういい。お前たちとは、俺の第二の得意分野で勝負してもらう!!!」
 怪人が、「第二の得意分野って何?」と聞いてほしそうな顔で猟兵たちを見回す。

「第二の得意分野って何?」と聞いてほしそうな顔で猟兵たちを見回している。

「第二の得意分野って何?」と聞いてほしそうな顔をしているぞ猟兵!!!

「はあ……第二の得意分野って、何なんですか?」
 人が良いのか、あきらめたように、あきれたように、猟兵を代表して犬上・爪牙が尋ねると、機関車怪人は、満面の笑みを浮かべたような声で答えるのだった。

 「うむ!!! 料理勝負だ!!!!!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『激突!グルメキング決定戦!』

POW   :    限界を超えた特訓や食べる相手を思う心で勝利フラグを立てる

SPD   :    封印された伝説の料理法を駆使して勝利フラグを立てる

WIZ   :    だれも知らないような伝説の食材を手に入れ勝利フラグを立てる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●料理勝負
「ではー、勝負の内容を説明させていただきますねー」
 どこからともなく現れたグリモア猟兵の春奈は、猟兵たちと怪人に向けて、レギュレーションを説明しだした。

「審査はー、この世界の一般キマイラさんたちが担当してくださいますー」
「キマイラさんたちがー、こっちの勝ち!と言ったらー、勝ちですー」
 よろしいですかー?と猟兵と怪人の顔を交互に見る春奈であった。

「それでですねー。料理勝負の題材ですがー」
 ごくり。猟兵たちに緊張が走る。いったい、どんなトンチキ料理が題材となるのか。キマイラフューチャーなのだ。何が起きても不思議ではない。

「怪人さんの同意を得ましてー」
「【お弁当勝負】となりますー」
 のほほんとした声で、春奈が告げる。

「うむ!! 俺様は機関車怪人!! 機関車と関わる食べ物といえば、乗りながら食べる駅弁!!! それで決まり!!!」
「確かにー、車窓を眺めながら食べる駅弁は絶品ですよねー」
 なんてとぼけたことを言う春奈。

「どんな駅弁を作るかはー、皆さんの自由ですー」
 グリモア猟兵は、頑張ってくださいねーと猟兵を励ますのだった。
秋山・軍犬
【駅…弁?】
前回の衝撃から目覚めた軍犬は
ぐぬぬと唸る。

弁当は箱に詰め
時間が経ってから食すもの
それに対する対策。

しかも駅弁
ご当地感・名物感必須。

寝ていた軍犬には
時間が足りない。

「ぐぬぬッ!」
これしかないと軍犬は空高くジャンプ
無駄に華麗でリズミカルに
コンコンッココンとそこら辺を叩くと
舞飛ぶ出来合いの食品と紙箱
シュタッと地上に戻ってきた軍犬の手には
開いた紙箱、その上に空から食品がタタタッとおちてくる
どう見てもハンバーガーです

ぱたんと蓋を閉め、その蓋に超スピードでアートに何かを描く
デフォルメされた狐耳のキマイラ少女だった。

「完成!キマイラフューチャー名物コンコンバーガー弁当!」

軍犬は高級食材を諦めた…


クネウス・ウィギンシティ
方針:【POW】食べる相手を思う心で勝利フラグを立てる(UCなし)
「小細工不要の『ほっかほかな駅弁』で真っ向勝負と行きましょうか」

「真に美味しい駅弁とは『名産品』を『一番おいしい状態』で食す駅弁です!」

「昨日から仕込み液に漬けた牛タンを、油を使わずフライパンで強火で焼きます。次に、下拵え済み(【先制攻撃】)の野菜を加え炒める。牛タン野菜炒めの完成!それを焚きたての麦飯の上に載せます!」

「最後に加熱機能付容器(【メカニック】)を作成。出来上がった牛タン野菜炒め丼をその容器に入れますよ」

「駅弁はお客様の手に渡る前に、冷めるでしょう。しかし、この駅弁は甦ります。さあ、この紐を引いて食してみて下さい」


ヘルメス・トリスメギストス
「料理であれば執事のたしなみです。
この私が御主人様、お嬢様たちをご満足させる料理をお作りしましょう」

執事秘伝の料理法で調理開始です。

「ここに取り出しましたのは、新鮮な高級牛肉です」

と、生きた高級和牛を連れてきます。
そして【執事格闘術】で見る見るうちに解体していきます。

さらに、その他の素材も観客の目の前で華麗に切断。
調理を進めていきます。

「執事はどんなときでも素材の味を最大限に活かした
新鮮な料理をお出しできないといけないのです」

こうして、豪華な重箱に綺麗に納められた
豪華弁当が完成するのでした。

「さあ皆様、どうぞ召し上がってください」

高級な食器と友に料理を配ります。


ステラ・ハシュマール
チェスボクシングでやらかした名誉挽回…といきたいけど。
料理、あんまり得意じゃないんだよね。作りやすそうな牛丼弁当にするかな?
とりあえずブレイズフレイムで肉を一気に焼いて、それから知り合いにもらった秘伝のタレにつければ……あっ、焼きすぎて真っ黒に。
「いやこれ炭だね完全に…」
まあどうにかなると思うし、いっか。
試食後。
「どうにもならないや、にっがぃ……」
やっぱりボクには料理できそうにないね。素直に負け認めて、試食側に回ることにするよ。

アドリブ大歓迎



●グルメバトル
「はーっはっはっはっはっは! 俺様は料理が大得意! チェスボクシングではいくらか遅れをとったが、なんだっていい! 俺様の威厳を見せつけるチャンスがまたやってきた! いくら猟兵の数がいようと、俺様の料理にびっくり仰天するがいい!」
 一体どうしてこんなことになったのかわからないが、とにかく始まったグルメバトル。機関車怪人はあいかわらずのビックマウスだった。自信満々に弁当を作り出す怪人。野菜、肉、手際よく調理を始めた。

 だが、それに対峙するのは猟兵である。
 猟兵とは、すなわち戦場を自由に動き回る散兵であり、その特技を活かして戦線の有利を取る自由な兵士のこと。つまり、料理だってできる。……たぶん。

●鮮やかなる解体
「料理であれば執事のたしなみです。この私が御主人様、お嬢様たちをご満足させる料理をお作りしましょう」
 恭しく観客にお辞儀してみせたのは、猟兵にして執事。ヘルメス・トリスメギストス(最強魔術師にして天才軍師な万能執事(自称)・f09488)だ。

「ここに取り出しましたのは、新鮮な高級牛肉です」
 彼が連れてきたのは、誰の目にも明らか。生きた高級和牛であった。彼がどこから連れてきたのかは、一切不明である。キマイラフューチャーに和牛がいるのか、簡単に手に入るものなのかとか、連れてこようと思って来れるものなのかとか、そういった疑問はこの際脇に置こう。とにかく目の前に高級和牛がいることだけは事実なのだ。

 そして確かに、新鮮であることは間違いなかった。
「いいぞいいぞー!」「牛さんかわいそー!」「あーっと、気絶させたー!」
「うわー! もうあんなところまでー!」「全然血が漏れてないぞー!」「綺麗ー!」
 みるみるうちに解体されていく牛、きっと彼は痛みを感じることはなかっただろう。観客のキマイラたちは、見事な解体術に大盛り上がり。それは【執事格闘術】のちょっとした応用。見事に肉を切り分けて、周りの猟兵に笑いかける。

「これは一人では使いきれません。皆様もぜひ、どうぞ」
 猟兵たちが歓声をあげる。猟兵たちは武器を手にしたのだ――おや。

「美味そうじゃないか。その、なんだ。……俺も使っちゃダメか?」
 ヘルメスに尋ねたのは、なんと機関車怪人。ヘルメスの華麗な牛捌きに感心した様子で、なんと頭を下げている。
「ええ、構いませんよ。美味しい素材と料理は皆のものです」
 なんとにこやかに承諾するヘルメス。キマイラの観客たちも、これにはびっくり。このフェアな爽やかさは、ヘルメスが万能執事であるからこそ出せるものなのかもしれなかった。そしてそんなヘルメスの期待を裏切るのが、機関車怪人であった。

「よっしゃーーーー! 言質とったもんね!!! いただきまーす!!」
「げーーーーひゃっひゃっひゃ!」
 ひときわ美味しい希少部位をあれもこれもと真っ先に奪って、急いで自分の調理台に戻っていく機関車怪人。その笑いは、あまりにも残念であった。

「ふふふ……」
 それを見て、ヘルメスは意味ありげに笑うのだった。

 猟兵の中でひときわ目を惹く調理法をしたのは、ステラ・ハシュマール(炎血灼滅の死神・f00109)であった。彼女は燃え盛る炎の化身、ブレイズキャリバーとしての側面を持っている。しかし料理が得意ではないステラ。この事態にどう対応すべきか悩んだ彼女は、決断をする。得意な火を用いる、簡単な料理。牛を焼き、ご飯に乗せる牛丼弁当なら自分にもできるかもしれない。ヘルメスから牛肉のスライスを分けてもらって、さっそくフライパンにのせる。――そして。

 決意した彼女は、自らの体を引き裂き、地獄の炎を噴出させる。その紅蓮の炎は、【ブレイズフレイム】と呼ばれるユーベルコード。ステラのとっておきの技のひとつだ。
「いいぞー! かっこいいぞゴスロリの子ー!」「いよっ、美人シェフ!」
 まさしく炎らしい炎であるそれは、視覚効果まんてん。面白がって観戦しているキマイラさんたちも、歓声をあげる。芸術家であるステラは調理の仕方で、観客を圧倒した。

 が。

「いやこれ炭だね完全に……」
 戦闘用の猛火力のブレイズフレイムは、戦闘用でありすぎたのかもしれなかった。秘伝のたれにつける前からまっくろこげ。それでも一応食べてみようと、ステラは焼き肉をぱくり。焦げた脂と、遠くに微かに感じる牛肉の旨味。そしてそれらを味わう前に立ちはだかる苦み。とてもじゃないが、食べられたものではないと即座にわかった。ちなみに、魚肉類の焦げに含まれるヘテロサイクリックアミン類は発がん性があることで知られる。無理して食べるのは駄目、ゼッタイ。意気消沈するステラであった。

●怪人のターン
「くくく……、最高の食材も手に入り、そして猟兵はあのありさま……!」
「俺様!!!! 勝ったな!!!!」
 ヘルメスから食材を奪い、ステラの失敗を見て、もう完全に勝った風の機関車怪人であった。機関車怪人は、分厚い牛肉を頭の上にのせた。赤身の牛肉が、みるみる内に良いにおいを発し、焼けていく。機関車怪人の頭部から発される煙突の煙も、胃をくすぐる良い香りに。

「ぽぽぽぽーっ! これぞ秘儀! 牛の機関車頭焼きステーキ!」
「うぉおお!」「絵面は地味だけど美味しそー!」「機関車焼きってかっこいいー!」
 キマイラさんたちにもなかなか受けている様子。

 これは、猟兵もピンチかもしれないぞ!!!!!

●ハンバーガー
 怪人と猟兵たちが調理をはじめて数分後のこと。目を覚ました男がいた。
 緑色のミリタリ・ヘルメットにジャンパー。黒い犬耳。そしてまだ口からはサバカレーの匂いがする。そう、秋山・軍犬(悪徳フードファイター・f06631)だ。

 「ぐぬぬ……。自分としたことが、あまりのショックに寝てしまっていたっす!」
 「美味しそうな匂い! これは一体!?」
 料理勝負が始まり、時間が限られていることを知る軍犬。寝ていた彼には時間が足りない。先ほどヘルメスが捌いた牛も、もう残っていない。さらに、グルメな彼はヘルメスの素材の弱点に気づいていた。そして、今から彼自身が納得するような高級食材を手配するのは難しいだろうということも彼ならばこそわかった。

 「ぐぬぬぬッ!」
 一層悔しそうに呻いて、――だが彼は諦めない。
 なぜなら彼はグルメに生きる戦士だからだ。
 グルメを諦めてはグルメファイターではない。

 これしかないと心に決めて、軍犬は空高くジャンプした。
 華麗に、リズミカルに、コンコンッココンとミリタリジャケットのポケットを叩くと、舞飛ぶように出てくるのは、出来合いの食品と紙箱。もひとつ叩くと、アートの道具。そんな不思議なポケットも、きっとグルメファイターにして、ゴッドペインターの彼なら持っている。シュタッと華麗な着地音。地上に戻ってきた軍犬の手には、蓋の開いた空の紙箱がひとつ。その空箱に、空から何かがタタタッとおちてきた。

 あれはなんだ!?
 鳥か!?
 飛行機か!?
 いや、ハンバーガーだーー!

 どう見ても普通のハンバーガーでした。
 だが、ただでは終わらない。ぱたんと蓋を閉め、続けて落ちてきたアートの道具をキャッチ。その蓋に超スピードで、アーティスティックに何かを描く。それは、愛らしくデフォルメされた狐耳のキマイラ少女のイラスト。

「完成! キマイラフューチャー名物コンコンバーガー弁当!」

 そっと審査員のキマイラのテーブルに差し出す軍犬だった。

●審査の時間
「えー……ただいまより、審査を始めます」
 全猟兵と怪人がでそろって、キマイラの審査員たちが審査をしはじめた。
 ぱくり。もぐもぐ。なるほどこれは。へぇ、これはなかなか。
 うん? これは……。 あ、こっちは美味しい。

「結果を発表します!」
 高らかな声で、キマイラの審査員が宣言した。
 微笑を浮かべるヘルメス、まだ落ち込んで立ち直っていないステラ、審査員の前に並ぶお弁当を食べたそうな軍犬。そして、自分の勝ちを疑わない機関車怪人。

「勝者は、クネウス・ウィギンシティさん!!!」
 黒髪のサイボーグにスポットライトがあたった。クネウス・ウィギンシティ(鋼鉄のエンジニア・f02209)は笑顔で審査員に応じた。
「そんな馬鹿なぁああああ!?」
 まっさきに叫んだのは機関車怪人だった。最高の素材を独特の方法で調理したステーキ弁当が美味しくないはずがない。そう確信していた。とうのクネウスは涼し気な顔をしていた。

「えー、選考理由についてですが、……端的に言いますと」
 審査員のキマイラさんが口を開く。

「皆さんには、是非とも課題を今一度思い返して欲しかったと申しましょうか」
 ということらしかった。曰く、審査対象となったお弁当の中で、唯一駅弁を追及していたのがクネウスのお弁当だった。クネウスさん、お弁当の解説をお願いしますと審査員がクネウスに水を向ける。
「真に美味しい駅弁とは『名産品』を『一番おいしい状態』で食す駅弁と考えました」
「昨日から仕込み液に漬けた牛タンを、油を使わずフライパンで強火で焼きます。次に、下拵え済みの野菜を加え炒めることで、牛タン野菜炒めの完成です。それを焚きたての麦飯の上に載せました!」
 もう聞くだけで美味しそうな響きであった。
「問題は、駅弁はお客様の手に渡る前に、冷めることにありました」
 それが最大の懸念でしたとクネウスは語った。
「しかし、この駅弁は甦ります。さあ、この紐を引いて食してみて下さい」
 いつの間にか、観客のキマイラさんたちと、猟兵、さらには怪人にまで、クネウスのお弁当がいきわたる。どうやってそれだけの人数ぶんを作ったのかとか、野暮なことは考えてはならない。

 ぷしゅー。
 一斉に紐がひかれ、あたりに白い煙が立ち上る。

「最後に加熱機能付容器を作成しました」
「出来上がった牛タン野菜炒め丼をその容器に入れて、作動させることで温かさを取り戻します」
 仙台名物で有名な温かな牛タン弁当を猟兵流にアレンジしたそれは、非常に美味なものだった。強い弾力のある牛タンは、噛みしめるだけで肉の旨味が広がる。しかし老若男女誰でも噛み切れるほどよい柔らかさなのは、仕込み液に漬けたからだろうか。下ごしらえのできた野菜も地元のものを使っており、瑞々しい喜びを口に与える。
  

「なるほど、これは大変美味っすね!」
 グルメファイターの軍犬がうんうんと頷く。彼の舌にもばっちり見合ったらしい。
「でも、どうしてヘルメスさんのお弁当は駄目だったんだい? あっちも美味しそうだったんだけど……」
 そう首をかしげるのはステラ。落ち込んでいたが、牛タン弁当で元気が出たらしい。
「それは簡単なことっすよ。ヘルメスさんのは、駅弁というより執事が出す豪華料理っすから。高級な食器と重箱で食べたら、ただの高級弁当っす!」
 あまりの力説に、なるほど確かにそうかもしれませんねと頷いてしまうヘルメスであった。ちなみに「自分のは……さすがに絵だけではお弁当というには苦しかったっすね」なんて苦笑する軍犬であった。

 和気あいあいと、答え合わせのように料理で盛り上がる猟兵たち。牛肉はまだまだあった。思えば、牛肉を使った弁当尽くしの審査だった。

●そして
「納得いかーーーーーーーーーん!!!」
 独り蚊帳の外におかれて、猛反論するのは機関車怪人。得意のチェスボクシングえも負け、なりふり構わず勝ちを狙った料理対決でも負けて、面目丸つぶれ。ぶんぶん腕を振り回して怒り心頭であった。

 「もう許さん!!! こうなったら!!! 実力排除して!!! 俺様の優位を証明する!!!! してやる!!!!」
 もくもくと煙をふきあげて、機関車怪人が戦闘態勢に入ったことを猟兵たちは察した。

 冗談のような外見をしていても敵は怪人。放置することはできない。
 チェスボクシングと違って怪人もなりふりかまわず攻撃してくるはずだ。

 猟兵よ、怪人を討伐せよ―― 戦いが始まる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『機関車怪人』

POW   :    トレイン・フリーク
【時刻表】【鉄道模型】【鉄道写真】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD   :    出発進行!
自身の身長の2倍の【蒸気機関車】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
WIZ   :    アクシデントクラッシュ
対象の攻撃を軽減する【高速走行モード】に変身しつつ、【煙を噴き上げながらの体当たり】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

クネウス・ウィギンシティ
アドリブ&絡み歓迎

「最後まで正々堂々と戦ってくれましたね。故に、真に全力でお相手しましょう」

・【POW】
・戦闘前準備:会場内の近くにいるはずなので怪人に接近しておきます
・部位狙い:頭部(顎〜脳)
・UC:ZERO-DISTANCE SHOOT(ゼロディスタンスシュート)
・説明:【アームドフォートの零距離射撃】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
・技能:先制攻撃・零距離射撃(UC)、視力・スナイパー(頭部狙い)
「ボクシングの時と原理は同じです、武装と技術こそ違いますが」
「自らの性能と技能を掛けた正真正銘の全力です。チェックぐらいにはなりますかね」


イズン・アンシャール
アドリブ&『相互活性化』のクネウス・ウィギンシティ(鋼鉄のエンジニア・f02209)と絡み歓迎 「美味しい駅弁のために来たのに、もう残ってないの...?  怪人に八つ当たりしましょう」 攻撃方針:【SPD】 ・攻撃順:先行して注意を引きます ・UC:刹那・五月雨射ち ・技能:野生の勘(弱点看破)、傷口をえぐる(ダメージ蓄積) 「最新式列車、村を出てから初めて見たけど、速くても横に回られたらどう?」 (敵SPD UCに対して) 「横に回りこみ、猫耳から噴出させた血でUC発動、『車輪を繋いでる連結棒』、テクノロジーの粋に違いないからそれを壊すわ。 フフッ…『私の血に付いてこれるかしら?』」



●料理会場にて
「ぽっぽほぉおおおお!」
 汽笛のような咆哮を口にして、機関車怪人の頭部が赤く光った。機関車は、その駆動原理に長い歴史を持つが、最も有名なもののひとつが蒸気機関と言って差し支えはあるまい。蒸気機関とは、高温高圧の蒸気を産みだし、その熱力学エネルギーを運動エネルギーへと変換する機構そのものである。猟兵たちにある意味正々堂々と負かされて、敗北し赤面した彼の抱える熱は、最高潮であった。すなわち、油断できる相手ではない。
 
「食べられなかった怨み――、晴らさせてもらう!」
 機関車怪人の視界に、舞い散る赤い雨が見えた。それは、イズン・アンシャール(大海を游ぐ宵の暗殺者・f01468)の流す血の雨に相違ない。機関車と名乗る以上、相手は速さに相応の力を持つはず――そう考えていた彼女は、音もなく飛び上がり、怪人へと飛び掛かる。それは獲物を前にした猫の動き。あるいは、空を舞う様子を魚と形容すべきなのかもしれない。

「その程度の攻撃で勝とうなどーッ! 卑怯ッ! 許さんッ! 俺様は負けないッ!」
 散々好き勝手勝負を引き延ばして悪あがきをしていた怪人は、自らの正義を固く信じてイズンをひとにらみ。サイドステップで跳躍し、はらはらと降る血の雨を躱した。だが、彼女のユーベルコード【刹那・五月雨射ち】が降らせる血は、ただ流れ落ちるものではない。きらきらとした異質の光が、暗殺者の猫耳から放たれた。それは、結晶化した無数の血であり、咎人を殺すための刃である。
「私の血に付いてこれるかしら?」
 躱しきれない機関車怪人は、立ち止まり、足を踏ん張り腕で急所をかばう。怪人の青い血がそこかしこから流れた。そして、怪人の足が止まる瞬間を待っていた男がいた。

「最後まで正々堂々と戦ってくれましたね。故に、真に全力でお相手しましょう」
 機関車怪人の吐き出す蒸気をものともせずに、機関車怪人の眼前へ。見上げる形で笑った様子が、眼鏡の奥に見えた。クネウス・ウィギンシティ(鋼鉄のエンジニア・f02209)は、背負った巨大な砲塔――猟兵に許された武器のひとつ、アームドフォートを怪人の顎へ向ける。ユーベルコード【ZERO-DISTANCE SHOOT】。――日本語に訳すと、零距離射撃を意味するそれは、確かめてある怪人の弱点を精密に射貫くもの。怪人をあの世へと繋ぎとめ返す楔の一つ。その脅威を前にした怪人の眼――ヘッドライトが煌々と輝きを強めた。

 ゴウと巨大な音を立てて、怪人の頭部が爆発したように見えた。
「ボクシングの時と原理は同じです、武装と技術こそ違いますが」
 あくまで冷静な口調なまま呟いて、射撃の際にわずかにずれた眼鏡を直した。
 盟友を、悪友を、互いにちらりと見やっては微笑む。
「イズンのおかげですね。さて、チェックぐらいにはなりますかね?」

 ――だが。

「ぬふっ! ぽっぽぽっぽーっ!」
 機関車怪人未だ健在。気色の悪い笑い声をあげて、頭部のヘッドライトは爛々と輝き、爆煙を振り払った。いや、健在というのは、わずかに語弊があるだろうか。頭部の泥避けが粉々に砕け、顔面にひびが入っていたそれを。

「正真正銘の全力で挑んだはずですが――」
 あくまで冷静なまま。悔しがるとしても心の中で。あくまで探るように尋ねた。
「くぷぷほっほほ! 俺様にーッ! 一度見せた攻撃はッ! 効かないッ!」
 口を割らない機関車怪人。得意げに胸を張ってみせた。

「アイツ、クネウスさんの攻撃の瞬間――頭が、加速していました。無事なのはきっと、そのせいです。でも、当たったはずなのに……加速して、相殺?」
 爆炎の広がる瞬間を見ていた暗殺者の少女。彼女は音もなく友に駆け寄り推論する。
「それはあるかもしれませんね」
 とエンジニアは同意した。怪人の猛パワーで加速した頭部が、零距離射撃を致命傷にならない形で回避したこと。無理に顔を逸らさず逆に加速することで、衝撃の相殺を図ったこと。それを為しえたのは、おそらく怪人という特殊な生命体――オブリビオンだからこそ。そこまで類推して、それでも頭部には大きなダメージを与えたはずだと頭を切り替える。彼の推論は当たっていた。怪人は、決して無傷ではなかった。

 戦いは続く。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ステラ・ハシュマール
ボクシングの時、そして料理の時の汚名、今こそ返上するときだね。隙を見て、怪人に掴みかかるよ。怪力持ちから逃げれると思わないことだね。そのまま空中に投げ飛ばして、そこで僕流パイルドライバーこと天国送りの超特急を食らわしてあげるよ。
掴みを回避されそうなら、武器が鎌であることを活かして、背中に鎌の刃を回して思いっきり引いてこっちに引き寄せてあげるよ。

「ボクね、こう見えてプロレスラーなんだよね。なんでもアリなら、ワタシの得意分野なんですよね!!」


秋山・軍犬
Q相手がチェスボクシングを挑んて来たら?
Aカレー食べます。そして戦闘力が上がります。

Q料理勝負で相手が自分より美味い料理を出して来たら?
A美味しくいただきます。さらに戦闘力が上がります。

つまり軍犬は初めから
戦闘態勢に入っていたのだ!
フードファイター的な意味で!流れで!

しかも弁当は猟兵がその力を尽くた一品!
不味いはずがない!
あ…コゲ肉さんは例外で。

ちなみに怪人
お前の料理も美味しくいただいたぜ
敵に頭を下げてまで食材をGETする
その心意気嫌いじゃないぜ?

敵の想いも味方の想いも力に変えた
軍犬の一撃が機関車怪人に今襲い掛かる!【POW】

こう書くと、何かちょっとカッコいいぞ
実際は飯食ってただけなのに…


ヘルメス・トリスメギストス
「どうやら本性を現したようですね。
執事として、キマイラのご主人様、お嬢様たちに害が及ぶ前に駆除させていただきましょうか」

あまり同じ技ばかりというのも芸がありませんね。
ここは【三重の知恵】で戦うとしましょう。

三重の知恵、それは、魔術師としての魔力、軍師としての知力、そして執事としての執事力を束ね、自身を強化する奥義です。
ここは攻撃重視といきましょうか。

知力で見極めた敵の弱点を、魔力で強化した拳を用いて、執事パワーで殴り飛ばします。
(あくまで格闘)

「私のことを、ただの執事とは思わないことですね。
魔法が使えて策が練れる万能執事です」



●意外と強いぞ機関車怪人
「ボクね、こう見えてプロレスラーなんだよね」
ボクシング、料理での屈辱を晴らさんと怪人に鎌を奮った少女がいた。ゴスロリにして炎使いにしてプロレスラー。多数の属性を持つのはステラ・ハシュマール(炎血灼滅の死神・f00109)である。鉄の腕でステラの鎌を受け止める怪人、だがそれはステラの狙い通りだった。一息に鎌のリーチを活かして思い切り引いて、怪人と距離を詰めた。

「なんでもアリなら、ワタシの得意分野なんですよね!!」
 言葉の途中でサディスティックな表情へと切り変わった彼女は、戦闘態勢である。一気に怪人の眼前に至った彼女は、勢いを利用して掴みかかった。猟兵の怪力を活かして、怪人を持ち上げ腕に力を籠めた。
「あぁっ――と、捕まえた! ここで出るか、出るのか!」
「――出たぁ! ステラ必殺のォ! ドライバーだぁ!!」
 何処からともなく聞こえる実況の声は、避難もせずに延々と観戦していたキマイラのもの。キマイラフューチャーなのだから、ステラ得意のプロレス技を解説できるキマイラがいてもおかしくはない。そして、技は綺麗に機関車怪人にヒット。ゴキリとどこかの鋼鉄が折れる音がした。

「――痛ぁあああああい! 俺様をこんな目にあわせるとは!」
「こうなっては奥の手! いざや来い我が相棒! しゅっぽぉおおおお!」
 だが。止まらない機関車怪人。掴むステラを大きく払い飛ばして、パチンと指を鳴らしてみせる。空間が歪み、現れたのは白煙振りまく蒸気機関車。錆びた鉄の匂い、石炭の焦げた臭い、なによりその重々しい威圧感は本物に相違なかった。

「あれは……見過ごせませんね」
 味方のピンチを感じ取ったのは、ヘルメス・トリスメギストス(最強魔術師にして天才軍師な万能執事(自称)・f09488)だった。機関車のパワーを用いて、ほかの猟兵たちを駆逐し、そのまま当たり散らす様が簡単に予想できた。魔力の波動があたりに広がる、それはユーベルコード【三重の知恵】使用の合図。魔術師であり、軍師であり、執事である彼は、自分の持つ三重属性の能力で自らを強化する。彼が選んだのは、攻撃重視。魔力を拳に集めると、機関車怪人へと殴り掛かった。
「いくら派手な召喚をしようと、本体は貴方です。やわな本体さえ倒せば――」
 ――こちらのものだ、と微笑して。執事パワー(魔力)を込めた拳で、機関車怪人へアッパーを。それは既に、味方が見つけてくれていた弱点であり、それが未だ有効であることは、彼の観察眼には容易に見て取れた。

 そんなヘルメスの行く手を遮るように、怪人は一枚の紙を突き出す。
「――その程度の紙で、私の攻撃は防げませんよ」
 実際その通りなのだが、ヘルメスはその紙の内容を見て驚愕した。
 それは公共交通機関を利用したことがあれば、誰でも目にしたことのある。
「ぽっぽぉおおお! 列車は定刻通りに運航しております!」
 駆け寄ってきたヘルメスに危険を知らす踏切も、警笛もない。
 機関車は一直線に執事を弾き飛ばした。
 
 ひらりと機関車に飛び乗って、騎乗による移動の利を得た怪人。
 だが、その猛進の前に立ちふさがる次なる刺客がいた。

 美味しいものの匂いをまとったキマイラ、秋山・軍犬(悪徳フードファイター・f06631)だ。彼の体は今、輝かんばかりに活性化していた。それもそのはずである。

 怪人とのチェスバトルで彼は何をしたか。
 カレーを食べていました。

 怪人との料理勝負で彼は何をしたか。
 仲間の作った料理に舌鼓を打っていました。

 つまり軍犬は初めから、戦闘態勢に入っていたのだ!

 サバカレーは絶品であった。
 与えられた弁当も、猟兵がその力を尽くして作った逸品。不味いはずがない。
 あ、コゲ肉さんは例外です。

「くっ、あれがフードファイターだというのか! なんてオーラだ!」
「卑怯者! はっ、俺様の弁当もまさか……!?」
 軍犬の気迫に、怪人は気圧されていた。

「そうだ、怪人。お前の料理も美味しくいただいたぜ」
「敵に頭を下げてまで食材をGETする、その心意気は嫌いじゃないぜ?」
 軍犬は、ちゃっかり怪人の作った弁当も入手していた。
 きちんと美味しく間食したた、フードファイターの鑑であった。

 そう、今や彼のフードファイターとしての活力は満ち満ちて、立ち上らんばかりであった。敵の想いも味方の想いも力に変えた、軍犬の一撃が機関車怪人に今襲い掛かる!

「って、アホかぁあああああああああああああああああ!」
「やっぱりっすかあああああああああああああああああああ!」
 残念力及ばずして、軍犬の一撃は巨大機関車の動きを止めるに至らなかった。
 そりゃあそうでしょ勝手に飲み食いしてただけじゃない。
 ついでにPOWERもちょーっと足りなかった。
 轢き飛ばされる軍犬。
 だが。
 空中を旋回しながらも、軍犬が意味ありげに笑った様子を誰が目撃しただろうか。

 車掌席から覗く機関車怪人は、彼の機関車と共に加速した。一気に、一気に、一気に。ぐんぐんと速度を上げて、猟兵たちへと迫る。このままでは大ピンチ。猟兵たちは圧倒的な質量の加速に耐えることはまず不可能だ! このままキマイラフューチャーの平和が打ち破られて、怪人の天下が来てしまうというのだろうか!?

 猟兵たちの戦いはまだもう少し続く。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

鉤山・瑠璃
うふふふ、ボクシングでは遅れを取りましたが…実践は『ばーりとぅーど』。紳士様のすぽるとのようにお行儀の良いものではなくってよ?
もはやオーディエンスの反応を(もともとしてないけど)気にする必要などありませんわ!
残像にて一気に距離を詰めて相手の弱った部位を剣刃一閃で一気に切りつけますわ。
そして二回攻撃で同じ場所を何度も攻撃しましょう。
うふふふ、怪人さんですものそう簡単にはこわれないでくださいましね。



●お嬢様は笑う
「うふふふ、ボクシングでは遅れを取りましたが」
 負けず嫌いな風に、今までの戦いを振り返りながら微笑むのは、鉤山・瑠璃(羅刹の剣豪・f05937)である。

「実戦は『ばーりとぅーど』」
「紳士様のすぽるとのようにお行儀の良いものではなくってよ?」
 ばーりとぅーどとは、Vale tudo。ポルトガル語で「何でもあり」を示す言葉。今日の総合格闘技で広く使われている、代名詞的存在である。もはやオーディエンスの反応を気にする必要などありませんわ!とばかりに、大太刀<アイゼン・シュロット>を構え、怪人のもとへと駆ける。

「その程度の速さで、俺様に追いつけるわけがなかろう!」
 高らかに怪人が笑う。そりゃそうだ。人間が、機関車の速度に追いつけるはずがない。
 
 そう、ただの人間なら。
 怪人の眼前に、鈍い金属光を放つ広刃の大剣を構えた、瀟洒な少女の姿があった。
「な、なにぃ!? 馬鹿な!!」
 怪人が、驚愕の声をあげる。今あちらにいたはずの瑠璃が、なぜ。
「あら、気づきませんでしたの? 残像ですわ」
 強靭な脚力は、オウガのものであり、猟兵のものである。可愛い少女と見た目で侮るなかれ。彼女もまた、常識の埒外の存在、猟兵であるのだから。凄絶な、でもどこか楽しそうな笑みを浮かべて、瑠璃は斬り付ける。一回。いや、二回。ユーベルコード【剣刃一閃】の煌めきは、一閃で終わらなかった。
「うふ、ふふ、ふふ! なんて楽しいのでしょう!」
「怪人さんですもの! そう簡単にはこわれないでくださいましね?」
 怪人も必死で長い腕の拳を交えて、瑠璃を阻まんとする。楽しそうに笑うオウガの様子は、表情だけ見れば箱入り娘であるのに。今まで猟兵たちが傷つけて行った頭部を、執拗に斬り付ける。瑠璃の刃は、斬撃であると同時に、打撃力をも持っていた。広刃の大太刀は、その質量そのものが凶器なのである。瑠璃との格闘幾馳せも経て、怪人の装甲はずたぼろに。はらはらと怪人の一部だったものが、疾走する機関車の床を跳ねて、地上へと零れていく。
「だが! いかん、いかん、いかーーーん!! やられっぱなしではいかんのだ!」
 吠える怪人。怒る眼。運転席に飾られた【鉄道写真】をちらりと見ては、きっとたぶん勇気を取り戻して。あの写真はなんだったか。かつてこの機関車がまだこの世界で走っていた頃の――という嘘か誠かさっぱりわからない回想を自分の中でひとしきりしたあとで、体躯にぐっと力を漲らせる。
「あら、あら、あら!?」
 ガタンと機関車が揺れて、瑠璃が体勢をわずかに崩した。その隙を、怪人は見逃さなかた。ぐっ! ぐっ! ぐっ!と拳が打ち出される。今まで攻めに徹していた瑠璃が、防戦に回り、驚きの声をあげる。てっきり、このまま押し切れると思いましたのに。
 急激な猛攻、それもさらなる隙を作るために。
 瑠璃のガードが、わずかに緩んだ。
 胸の正中へ、怪人渾身のストレートパンチ!
「あら!? これは、躱しきれない、――まずいですわ!」
 
 そのとき。戦いが動いた。
 機関車怪人の乗る機関車の操縦席、その前方爆発の音。それは、機関車の心臓。ボイラー部。機関車怪人と機関車の生命力は同期されており、機関車もまた満身創痍であった。そして、POW全開の一撃を、直前にあてていたグルメファイターがいた。軍犬の笑いは、まさしくここにあった。彼の一撃は、決して無駄ではなかった。さらに、美形の暗殺者が、疾走する車輪の軸、連結棒へと血を飛ばしていた。爆発による設計想定外のモーメント圧を受けて、機関車が悲鳴をあげた。機関車怪人は気合で耐えられても、モノである機関車はそうもいかない。

「――ぐぬぬぬぬーっ!!!」
 どこか悲しむような目を、相棒たる機関車に向けて、機関車怪人は吠えた。眼前の瑠璃へと猛烈な体当たり。自分ごと、彼女を突き落とす決死の一撃。その意図はどこにあるのだろうか。

「猟兵ども! 俺様はここだ! ここにいる!」
「地獄より蘇って、再び栄光を掴まんとする怪人は俺だ!」
「俺を倒せる者はいるか!!!」
 両腕を高らかに掲げて、怪人が吠えた。
 
 戦場のすべての耳目を一身に受けて、怪人はまだ立っている。
 まだ、立っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クネウス・ウィギンシティ
アドリブ&絡み歓迎

「っく、何か使える物は......これは!」

以下、内容で攻撃します。
・【POW】
・方針:射撃しつつ特攻
・技能:(全てUC)一斉発射10、スナイパー30、2回攻撃6、メカニック20、武器改造1、零距離射撃10、視力10、防具改造5

(コタツ改造)
「自走式にしたコタツと故障した武器を組み合わせれば」

(コタツ特攻)
「私もここにいますよ!」
「某シナリオでコタツ怪人に間違われたこともある私が行きます!」
「ここにいますよ!」

(VS 敵UC)
「衝突事故を起こせばどんな【時刻表】は狂う、
その【鉄道写真】に映った光景を、【鉄道模型】が模した雄姿を
 『機関車怪人』が裏切ることが出来ますか!」


アレクシア・アークライト
チェスと料理は門外漢だから見ていたけど、怪人が暴れだしたんなら私も出番ね。

貴方、蒸気機関車の怪人なのよね?
なら、この辺りに落ちてるものでその排気管を塞いでしまえば動けなくなるんじゃないかしら?(サイコキネシス)

って、こんな負け方はイヤよね。地味だから、観客も納得しないだろうし。
だから、私はこの一撃にかけるわ。これで倒せなかったら、もう私は手を出さない。
正義の拳は一突きだけよ。

[敵の攻撃は多重障壁で弾き、全力の一撃を放つ。(念動力、グラップル、捨て身の一撃、全力の一撃)]

貴方の戦いっぷり、見ていて気持ちよかったわ。
うち(UDCアース)の邪神達に、貴方のコークスを煎じて飲ませてあげたいくらい。



●怪人の倒れるとき
 怪人がいかに咆哮したとしても、それにひるむ猟兵ではない。まして、勝機を常に探す賢明さこそが猟兵たるの証であるのかもしれない。アレクシア・アークライト(UDCエージェント・f11308)は赤い髪をたなびかせ、先の蒸気機関車の突撃を華麗に避けながらも、その弱点を探っていた。アレクシアの赤い蠱惑的な瞳、麗しい赤髪、色白の肌。一見しては、普通の女の子にすら見える。だが、スペースシップワールドの世界が走りとも言われる、フォースナイトたちは、念導力にて万物を操る力に長けることで知られる。アレクシアもその一人であり、いかに外見が嫋やかであろうと、その秘めたる力は強烈の一言である。
「貴方、蒸気機関車の怪人なのよね?」
 機関車怪人の突撃でできた瓦礫のひとつが、ゆらゆらと揺れ浮かぶ。
「なら、その排気管を塞いでしまえば動けなくなるんじゃないかしら?」
 自分ならそれができるという確信と、からかうような意地悪い笑みを浮かべ、UDCエージェントの少女は怪人を挑発した。ぴし、ぴしと瓦礫の群れが、怪人目掛けて吹きすさぶ。おっと、これは、危ない。怪人はすんでのところで躱しながらはり叫ぶ。
「き、貴様ーっ! 遠距離攻撃なんて、卑怯だぞ! ずるい!!! 俺様はそんな超能力使えないのに!!!」
 機関車怪人は、今までの自分の行動すべてを棚に上げて、アレクシアに指さし不平を垂れる。大人気ないとはまさにこのこと。本来聞き入れる理由はない。しかし、彼女は違った。
「たしかに、こんな負け方はイヤよね。地味だから、観客も納得しないだろうし」
「そ、そうだろう!! そうだろう!! だからやめよう、なっ!」
 調子の良い怪人である。
 アレクシアは、拳を掲げ、握りしめ、怪人に向けて勢いよく突き付けて宣言する。
「だから、私はこの一撃にかけるわ」
「これで倒せなかったら、もう私は手を出さない。正義の拳は一突きだけよ!」
 どこか好戦的な笑みを浮かべると、赤髪の少女はひらりと走り出した。その走りは軽やかに、自然に。目の前の怪人への恐れなどみじんも感じさせない。消防士が火事を前にしたように、医者が患者を前にしたように、彼女にとっては、それが当然のことだから。
 ―――問題は、近接が得意な相手にどうやって当てるかよね
 走りながらも、プランを組み立てる。行き当たりばったりでは、フォースの力は扱えない。相手は近接を主に戦う怪人、一撃必殺の拳を当てるためには、あと少しの力が必要。

「忘れてもらっては困ります! 私もここにいますよ!」
「――お、おまえは!?」
「かつてコタツ怪人に間違われたこともある私が行きます!」
 ――なんということでしょう。
 ――自走式に改造したコタツと共に、まるで列車のように突撃してくるのは、あのクールだったクネウス・ウィギンシティである。
 ――ほんとうに、なんということでしょう。
 一斉発射される銃弾と共に、クネウスが怪人の動きを拘束するように射撃していく。
「あっこら!! 射撃はずるいって!!! 今言ったばかりだろう!!!」
 怪人の抗議に、クネウスはさすがに耳を貸さない。
「ちょっと、クネウスさん!? 私の方にも飛んできてるんだけど!」
 同僚の抗議には、クネウスも少し申し訳そうな顔になる。
「アレクシアさん、回避は自前でお願いします! 大丈夫、あなたならできる!」
 言ってることはやっぱり変わらなかった。
 冗談みたいな弾幕を、放ちながら、コタツ列車は駆けて行く。
 それを見た機関車怪人はあることに気づく。
「あれは、まるで列車……! 俺がかつて見た、そして今夢見るあの日の光景!」
「まさかあれは、機関車の再現だというのか!」
 驚愕の声をあげる機関車怪人に、不敵に笑うのは機械仕掛けの猟兵。
「――衝突事故を起こせばどんな【時刻表】は狂う。その【鉄道写真】に映った光景を、【鉄道模型】が模した雄姿を、『機関車怪人』が裏切ることが出来ますか!」
 自信満々に、言い切るクネウス。

 ――そして。

「って、アホかぁあああああああああああああ!!!」

 ――ぶつかる直前で怪人は気づいた。
 ――いや、さすがにそれはねーよと。

「ふっ……、危ないところだったぜ」
 あわやKO・TA・TSUと激突その瞬間に、怪人はすんでのところで躱してみせる。
「……あれ、俺様、なーんか忘れてない?」
 クネウスのインパクトに、忘れてはいけないものを忘れる怪人。

「ご名答。気づいたところでもう遅いけどね」
 にっこり笑う赤髪のサイボーグ。
 ちなみにクネウスの弾丸は気合と念導力の多重障壁で耐えた。
「――ちなみに、加減とかはないわよ?」
 どこかストレスたっぷりの声で、うなる剛腕。迫る鉄拳。フォースの力場で加速されたアレクシアの全力の一撃の射程は、わずか30cm。だが、仲間のおかげで接近できた今、その技を回避するのは困難であり、そして、実際できなかった。

「ば、馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿なぁあああ!! この俺様がぁあああ!!?」
 頭部の列車が、粉々に砕ける音がする。ほっそりとした怪人の腕と足が、まるで水中を泳ぐくらげのように、ふわふわと舞う。ドサリ、と怪人の体躯が地面に触れる音が鳴った。それを見て、アレクシアは拳に息を吹きかけて、埃を払った。曰く。
「貴方の戦いっぷり、見ていて気持ちよかったわ」
「うちの邪神達に、貴方のコークスを煎じて飲ませてあげたいくらい」
 ――でももう叶わないわね、と言い捨てる。

「俺様は、この世界の、未来を、再び――――」
 直後。巨大な爆発音が響いた。それは、ある意味怪人のお約束。
 敗れ去った怪人は、爆発するのが礼儀なのだ。
 猟兵たちは、生に、勝ちにあがいた怪人の最期を見た。

 ここに、ひとつの悪は滅びたのだ。
 ……それほど悪いことをしていたわけではないけれど。

 だが、猟兵たちの戦いはまだまだ続く。この世の時を取り戻すため、またいつか怪人はやってくる。心配はいらない。きっとそのときも、きっと未来を守られる。それが、それこそが、猟兵たちのいる意味なのだから。

 ~Fin~

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月12日


挿絵イラスト