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紅の饗宴

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●夜会
 交わされる視線。
 笑い、さざめく声。
 選ばれた紳士淑女が手に手を取り、滑るように広間を舞う。
 広間の壁やテーブルにあふれるほど飾られた香しい紅薔薇は、支配する村に育てさせているものだ。
 扉の一つが大きく開かれた。一人の少女が、両手を男に取られて入ってくる。支配下の村でもっとも美しい容姿をもつ娘だ。金色の髪に若葉色の瞳、白い肌が闇にも輝く。人間の生涯をこの瞬間永遠と留めおくなら、世俗と恐怖と諦観に染まる前の、この年頃がもっとも相応しいと誰もが思うほど。
 髪は高く結い上げて、柔らかな頬と形良い唇に初めて紅を掃き、繊細で上品なドレスを身に纏い、年頃の娘らしく期待に胸を高鳴らせている。
 汚れた襤褸切れを着た子どもも、薔薇の香油を惜しみなく注いだ湯で毎夜肌を磨かせ、干からびたパンではなく至高の美味を与え、赤々と燃える暖炉のある部屋で清潔な寝具に包ませてゆっくりと眠らせたなら、数日もすれば生まれ変わったような輝きを見せた。
 上流階級の礼儀作法を教えたならば、柔軟な魂は知識を瞬く間に自分の物とする。寂れた村を忘れるまで、そう長くはかからない。隙間風の吹き付ける小屋ではなく、ここ近隣を治める主の館だ。
「お屋敷の主様は、怖い人ではないのね」
「こんなに綺麗な服は初めて。全部私にあつらえてくれたの?」
「舞踏会にはどれを着ようかしら。私、ワルツも踊れるようになったの」
 毎日きつい畑仕事にかり出され、泥と土埃にまみれて疲弊した村とは全く違う。優雅で洗練された屋敷での生活に慣れきった頃。父が付けた名を忘れ、次女を母とも慕う頃。
 享楽の宴が開かれる。

 ねえ、どうして音楽が止んでしまったの。
 ねえ、どうして皆笑っているの。
 ねえ、そのナイフは何かしら?
 主様、主様、私をどうなさるの?
 ねえ、私、私は――!

 仮面を付けた貴族たちが伸ばす無数の腕から逃れ、息が切れるほど走って逃げて逃げて逃げて、髪に挿した薔薇も踵の高い靴もどこかに飛んでしまった。裾の長いドレスは走る邪魔になるだけだった。
 遠く近くに獣の声が響くなか、隠れ場所から引きずり出され、腕を、脚を、腹を背を、顔を浅く切り裂かれ生き血を啜られる。恐怖の叫びは嘲笑にかき消された。
 絶望と混乱と、心がありとあらゆる負の感情に押し潰されてから、首に冷たい刃が突き立てられる。
 痛い、怖い、痛い、怖い、こわい、たすけて――!
 まやかしの日常の果てに訪れた恐怖を、両の瞳と魂に刻みつけた少女の末期の血は、この宴の最上の美酒となる。
 希望をもった人間の絶望ほど、彼らを喜ばせ酔わせるものはないのだから。

●グリモアベース
「我々にも覚えがある話だろう。新年の祭りに、一番良い家畜を屠り晩餐とする話」
 フェアリーの死霊術士、ユエ・イブリス(氷晶・f02441)は唇の端を上げ、雪の結晶を模したグリモアを指先で弄んだ。
 ダークセイヴァー世界に住む人間たちは、ヴァンパイアという存在に支配されて久しい。反逆などすれば丸ごと村は焼かれ、人々もまた残酷に命を奪われる。滅ぼされずに済んでいるのは、ヴァンパイアの余興にすぎないのかも知れない。
「その村はこう命じられている。『貢物を育てよ、さすれば焼かずに置いてやる』とね」
 即ち薔薇と生贄だ。
 痩せ衰えた農地で食料となる作物を育てることを禁じ、薔薇のみを丹精することを命じられた。
 宴のための贄として子どもを差し出すことを命じられた。栄養状態が悪いこの村では、子が生まれ育つこと自体が少ないのだ。断ることなど考えもしない――断れば直ちに村は破滅する。ならば細々とでも、生きのびるために犠牲は仕方のないことだと。
 薔薇を求めて交易に訪れた他の村の者は言う。数年に一度の犠牲ですむ、この村が羨ましい。だが、作物を育てることができる、自分の村はここよりマシだと。
 飢えと寒さは人の心を無力にさせる。命じられるまま諾々と、命を細らせ主に尽くす。
「その村の子どもは、ある程度育つと領主の選別を受ける。選ばれた子は領主に引き取られ、それは大切に育てられるんだ。労働の苦役から解放され、村のことも親兄弟のことも忘れるほどに」
 そうして無垢に健やかに育てた子を、恐怖と絶望に突き落としてから殺す。既に絶望し言うがままの村人を殺しても、何の面白みがあるだろうか。この世界で既にお伽噺と化した単語、『幸福』あるいは『夢』、『美』『愛』『希望』といった光を宿した魂を汚すほうが、余程楽しい余興になるのだと。
「吐き気のする悪趣味だ」
 ユエは言い捨てる。この村で人間は、家畜より低い扱いだ。
 ぱちんと指を鳴らすと、グリモアベースがダークセイヴァー世界にあるひとつの館を描き出した。
「路は繋いだ。ここからは君たちの物語だ」

 移動できるのは、数年に一度の祝宴が開かれている領主の館だ。
 宴もたけなわ、贄の少女は広間近くの控え室にいる。辺境で夜会を開くためだけに建てられた館に、領主の手下たちが集っている。
「客を討伐する必要はないよ。この村の支配者は、彼らではないからね。成すべき事は他に山ほどある」
 招待客は領主を喜ばせるだけに集まった、近隣の有象無象や賑やかしだ。手を割く暇はない。
「宴を台無しにして、領主の面目を潰すほうが余程効果的だ。それに、囚われている少女がいる」
 まずは彼女を探すことだ。両親は手放した娘を思い涙に暮れている。村には過去に贄を差し出すことを拒み、壊滅寸前まで滅ぼされかけた経緯もある。だからといって、我が子を思う親、子を失った親たちの嘆きはいかばかりか。
 広間近くの控え室にいる少女に見張りはいない。初めての大きな舞踏会に純粋に期待し、自分から逃げると言い出すことも、そもそも逃げる理由が分からない。納得させるには手間がかかるだろう。
「気がかりは、彼女は館の外での暮らしをほとんど覚えていないことだ。幼い頃に村から離れ、館で何年も何不自由なく育てられてきた。村に戻ることは即ち、今の『幸福で安楽』な暮らしはできなくなるということだ」
 どちらが彼女にとって幸福かは、私が断じることではないけれど。とユエは前置きし、
「ここで無残に断たれていい命ではない」
 宴をぶち壊したなら、じきに領主の飼い犬が侵入者を察知して殺到する。それらを蹴散らしたならば領主が自ら出てくるだろう。領主を倒したなら、この村は圧政から開放されるのだ。
 猟兵たちは視線だけで各々の役割を決め、館の各所に散っていく。
「君たちの道行きに、幸あらんことを」
 ユエは唇の端を絡げた。


高遠しゅん
 初めまして。高遠です。
 ダークセイヴァー世界の冒険をお届けにまいりました。よろしくお願いいたします!
 第一章は『ヴァンパイアの夜会を潰すこと』となります。
 少女の救出は必須条件ではなく、集まった客に攻撃はできませんのでご注意下さい。

●プレイングについて
 描写したい行動をひとつに詰め込んでいただけると採用が高いです。
 アドリブ可、歓迎します。NG行動などありましたらプレイングに記入をお願いします。
 複数名でご参加の皆様は、プレイング一行目に【お相手のID】【団体名】の明記をお願いします。

 では、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『ヴァンパイアの夜会』

POW   :    真っ正面から敵に戦いを挑んだり建物等を破壊してまわる。

SPD   :    罠の設置や先回りして生贄のダッシュを行います。

WIZ   :    変装して侵入し話術によって敵を撹乱します。

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

リーヴァルディ・カーライル
…ん。たとえ嘘偽りであっても、この世界では幸せな暮らしなんて望んでも手に入らないもの
…その偽りを暴いて現実を突きつけることが彼女にとって幸福かどうかは、私には分からないけど…
私はヴァンパイアは滅ぼすだけ…

…私は招待客に紛れた吸血鬼に変装して宴に潜入
客の一人と礼儀作法に則って会話してこの宴の主旨を話す
「…領主の古い知人」とでも騙って存在感を出し疑いを持たれないようにする

「…生け贄の娘?何を言っているの?贄なら既にここに揃っているでしょう?」

「…希望を持った人間の絶望。
それこそ『領主様』が好まれるものよ?」

「ほら、獣の鳴き声が聞こえてきたわ?」…と告げて【見えざる鏡像】を使用して姿を消す



「……たとえ嘘や偽りであっても、幸せなんて望んで手に入るのかしら。この世界で」
 仮面の奥、紫水晶に似た瞳に冷ややかな光をのせ。独語めいた言葉を紡ぎ。
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は、暗紫色のドレスの裾をひいて招待客に紛れていた。
 ああ、この館はあらゆる意味で終わっている。確かにこの世界において、館の様子はこれ以上なく豪華で華やかだ。だが、招待客の間の空気、退廃と享楽、怠惰と傲慢はそこに出入りする者たちを底の底にまで堕落させている。
「そう思いませんこと? あなた」
 慣れない紅をさした唇で笑いかけたなら、褐色の髪の男が微笑みを浮かべた。奇怪な仮面の若者は、目の前に立つ淑女があろうことか『猟兵』であることに気づきもしない。強者に従っていれば危険などないと、心の底から信じきっている。自分たちのいる安全な世界が永遠に続くと信じて疑わない。
 男はリーヴァルディの手を取り、広間の中央に出た。弦楽器が奏でる三拍子に合わせ、滑るようにフロアに紫の花が咲いた。
「あなた。領主様はどちらなのか、知っているかしら」
 ヴェールの下で銀の波うつ髪が揺れる。リーヴァルディが囁きかける。男は言う。もっとも夜会が盛り上がる、晩餐の儀式には現れると。この夜会は数年に一度、とびきりの美しい贄ができあがったときに開かれるのだと。紫の瞳が細められたのにも気づかず、べらべらと下品にまくし立てる。
 ――ああ、腐っている。なにもかも。
「何を言っているの? 贄なら既に、ここに揃っているでしょう」
 男の手を離れ、美事なターンを決めて一礼する。
「ほら、聞こえてくるでしょう。あれは崩壊の序曲。終わりの始まり」
 希望を持つ者の絶望を好むのは、なにも領主だけではない。私もそのひとり。ヴァンパイアは必ず、殺す。

 男が聞き返したとき、リーヴァルディの姿は消えていた。まるで宙に溶けてしまったかのように。
 こつり、こつりとヒールの音がする。それをかき消すように、轟音が建物全体を震わせた。

成功 🔵​🔵​🔴​

赭嶺・澪
【POW】建物等を破壊してまわる
少女を見つけるのは他の人に任せるわ。

まずは技能『忍び足』『目立たない』『情報収集』、ユーベルコード『ステルスソルジャー』を利用して建物内に侵入。
1階の人がいない部屋、倉庫を見つけ技能『範囲攻撃』『破壊工作』を利用し、見つからない隠れた位置に武器『PE-5s』を設置。
3か所くらいに仕掛ければいいわね。タイマーはほぼ同時に爆発するようにセット。

人殺しが主じゃないからね。
どこに仕掛けたってかまわないけど、救出対象の少女にだけは被害がいかないように。

静かに脱出後は、外から少女が被害に会わないような位置の部屋にでも2~3発『グレネードランチャー』でもぶっぱなしておくわ。



広間で銀髪の娘が舞踏を終える少し前。
「情報通りね」
 身を隠しつつ館に忍び込んだ赭嶺・澪(バレットレイヴン・f03071)は、ひとけのない倉庫らしき場所に辿り着いた。探し回るほど広い建物ではない。細い廊下の先や、手ぶらの使用人が急ぎ足で物を持って来た方向を辿れば、すぐに見つけられる。
 階段の影に身を隠し息を潜めれば、大きな花瓶を抱えた使用人が足早にそのすぐ脇を通り過ぎる。視線で見送り、周囲の気配を確認して粗末な扉に滑り込む。
「……!」
 雑多な物が押し込まれている物置に、ひっそりと並ぶ物がある。
「生きていなければ『物』扱い。本当に、いい趣味してるよ」
 棚に数個並んだ古い頭蓋骨は、大きさから推測してまだ若い人間のものだ。戦場暮らしの長い澪には見て取れるものだ。
 恐らくは、過去に贄となった子どもたちのものだろう。美術品のように磨かれ、骨董品のように埃を被っていた。
「ごめんね。でも、これで終わりにするから」
 安らかに。こんな犠牲は最後にする。
 懐から出した小さなパーツを物陰に隠し、扉を出る。頭の中で数を数えながら、同様に物置や空き部屋を渡り何度か繰り返し、広間の前を通りがかったとき。同じように忍んできた猟犬とすれ違う。
 彼らとは目的は同じ、けれど手段は違う。彼らに任せておけば少女はきっと救出される。
 館を出て目を閉じる。
「……3、2、1」
 辺りを揺るがす轟音が館を震わせた。窓のいくつかから火の手が上がっている。澪の仕掛けた爆弾が、タイミング良く同時に破裂したのだ。闇夜に赤々と、それは美しく見えた。知らず笑んでしまうのを抑えられない。
――任せたよ。
 踵を返すと軽い足音を残し闇に消えた。宴はまだ始まったばかりだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マリア・ルイゼット
【アドリブ歓迎】
美しく大切に育て上げた末にその命を摘み取る、か
…イイ趣味してるな、化物ども

【POW】
堂々と乗り込む
【怪力】を使用、周囲の物をひっくり返したり拷問具を振り回し暴れ回る
行動を咎める奴、目立つ奴がいたらそいつに物を投げつけ
「はいはい。残念だけどアンタらのお楽しみの時間はお終い。だからとっととお家に帰りな!」
「アンタら雑魚じゃ話にならない、領主でも呼んでこい!」
自分が強者だと驕る輩には身の程を知らせてやりたくなる性分でね
言葉でも行動でも相手を煽り、宴をぶち壊して混乱させる
向かってくる相手がいたら【咎力封じ】を使用しつつ、控室と逆に逃げるようにする
…これで少しでも逃しやすくなるといいが


ゼイル・パックルード
【アドリブ可】
領主とは気が合うかもな、俺は何もかも思い通りに行くと思ってるヤツの思惑を潰すのが大好きだからなぁ?


【POW】で暴れまわるか。

とにかく派手に五月蝿く暴れまわって、ガキを助けるやつらを動きやすくするとするか。いや、別にガキがどうなろうと知ったこっちゃねぇけど。

テーブルがあるなら燃やしつくし、洒落た飾りがあるなら鉄塊剣で砕き壊す。絵画があるなら炎で焦げ付かす。
そして笑う、宴と領主をコケにするように。

警備やら敵がいるなら【二回攻撃】。頑丈そうな鎧とか来てるなら【鎧砕き】でさっさと倒すか。暴れるのに夢中になって不意打ちされても弱いヤツなら【第六感】で気づけるだろ。



まるで蜘蛛の子を蹴散らすようだ。
 轟音が聞こえたときの客の顔はどうだ。何が起こったのか分からず慌てふためき、他人を押しのけて出口に殺到する。紳士は淑女を押しのけ、淑女は紳士に爪を立て、転倒した者を踏みつけて我が身可愛さに扉を目指す。
「これじゃあ、どっちが狼藉者かわかりゃしないね」
 好戦的な笑みを浮かべ、マリア・ルイゼット(断頭台下のマリア・f08917)が嗤った。燃え立つような赤茶の髪もまるで炎のようだ。
 広間中央の扉から堂々と入り、扉の前で事が起こるタイミングを待っていた。紳士淑女たちは、見栄を張ることにかかりきりで、邪魔にもされなかったのが不思議なほど。場違いな者に投げられる怪訝な視線など、笑い返してやるだけだ。
「なあ、少年」
「お子様扱いは勘弁だな、姐さん」
 自分より高い視線からの言葉を、ゼイル・パックルード(火裂・f02162)はけらり笑って流した。
「ここの領主様とは気が合いそうだぜ? 俺はな」
 全て思い通りに行くと思ってるヤツの思惑を、ぶっ潰すのが大好きだからなぁ?
 身の丈ほどの鉄塊剣を巧みに使い、手近なテーブルを蹴って大きく飛び上がり、天井のシャンデリアを叩き壊す。硝子の塊が割れる華やかな音と混ざった、淑女の悲鳴と紳士の怒声。止める気などさらさら無いが。
「気づいてるか」
「ああ、分かってる」
 鎖の先に鋭利な刃物、振り回せば錆びた刃が紳士の燕尾だけを切り裂いた。愛用の拷問具は脅しをかけるにはうってつけだ。振り回せば悲鳴が上がり、爆音と乱入者に挟まれた招待客が割れた窓から身を乗り出す。
「あいつら、『人間』だ」
「領主に取り入って虐げる方に回るなんてな、生き汚い人間だからこそってヤツか」
「人間らしくてアタシは好きだねぇ。狩られるのを大人しく待つなんて真っ平御免だよ!」
 一段高いテーブルに駆け上がり、マリアは声を張る。
「アンタらじゃ話にならない! 領主サマを呼んでこいよ雑魚どもが!!」
 マリアの刃が客すれすれを飛ぶ中を、ゼイルの炎が焦がして回る。派手に燃える割りには延焼しない、ブレイズキャリバーであるゼイルの血が燃やす炎だ。
 引っ繰り返ったテーブルに焦げた調度品、惨憺たる広間の有様の割に怪我人は少ない。仕事に満足して廊下に出れば、一張羅と髭を惨めに焦がし、廊下の床を這って逃げる男の襟首を捕まえた。
「オッサン、そっちは通行止めだよ」
 ぽいっと捨てればみっともない悲鳴を上げて逃げていく。
「麗しの姫君の控え室だ。雑魚にゃもったいない」
 視界の端に扉を開けて入っていく猟犬の姿を認め、来たときと同じように正面玄関から館を後にした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ショコラッタ・ハロー
悪趣味な宴はおしまいだ
愉悦も面子もブン盗って、台無しにしてやる

<spd>
説得は後回し、どさくさに紛れて娘を奪取する
館で起きている騒動は領主の用意した余興ってことにして、
おれはお姫さまを浚いに来たキザな女盗賊役を演じるぞ
「籠の中のお姫さまを盗みにきたぜ」なんつってな

ワイヤーを使って客がいるホールの上を派手に通過して逃げりゃ、
演技も真に迫るし領主の面子も潰れて一石二鳥だろ

無事館の外に連れ出せたら、辻馬車に乗せて故郷に帰そう
故郷の薔薇を手渡して、これからはこの花を育てて生きることを願う
どれだけ苦しくとも、人は人らしく生きるべきだ
それでも耐えられなかったらおれを呼べ
また浚いに来てやるぜ、お姫さま


アルジェロ・ブルート
仕込んで玩具にするか、玩具にして食うかはうちの都市にもあったが、両方兼ねるとはまた効率が良い。それとも人間の数が足りねーのかね。
ま、ドッチデモいいけど。

【SPD】
生憎媚び諂うのはもうごめんでね。
【聞き耳】【忍び足】で控室に。
まさか鍵かかってるとは思わねーけど、かかってンなら【鍵開け】るわ。
他の猟兵が説得するんなら止めねーよ。俺はまんま口縛って掻っ攫うけど。
ンな事でいちいち手間取ってられっかよ、騒がれても困るしよぉ。
【逃げ足】【ダッシュ】ですたこらさっさってな。
メインディッシュを寸前で取り上げたら、あいつらどんな顔してくれんのかねェ。



館の轟音と大騒ぎはここまで響いてくる。
「派手にやってくれるよ」
 曲げた針金を鍵穴に、アルジェロ・ブルート( ・f10217)は舌打ちする。
 籠の鳥は、籠を居場所と定めても籠の鳥。外の世界を知らずとも、外の世界に触れぬよう。最後の用心だけはあったようだ。
「連中の鼻を明かしてやろうと思ったのに、出遅れかよ」
「そう悲観するものではないぞ。派手に騒いでくれているから、おれたちがこっちに専念できるんだからな」
 ひらりとドレスの裾を翻し、ショコラッタ・ハロー(盗賊姫・f02208)が微笑んだ。見た目だけなら姫君なのは、ショコラッタも同じこと。金の髪がさらりと背に流れ、白い肌に銀にもみえる灰色の瞳は可憐な少女だ。
「なので早く鍵を開けてやれ。怖がっているだろうからな」
「態度がでけーんだよ、オジョウサマ」
 毒づくアンジェロの指先でピンと弾けた音がして、扉の鍵が外された。瀟洒な扉に不似合いな、頑丈で無骨な錠前だった。
 するりと滑り込んだ部屋の中では。一つだけ置かれた豪華な椅子から立ち上がり、不安そうに来客を迎えた少女がいた。
「この音は何かしら。ねえ、誰も迎えに来てくれないの」
 金の髪に若葉の瞳、年の頃ならショコラッタと同じほどか。ただ、籠の鳥らしいあどけなさが少女を幼く見せている。今夜のために選んだだろうドレスは、年頃には似合わない襟元が大きく開いたものだ。『この後』の邪魔にならぬようにと、誰かが少女に選ばせたのだろう。
「……いい趣味してやがる、ヴァンパイア」
 アンジェロが吐き捨てる。名のとおり天使の如き美貌を歪めて。
「籠の中のお姫さま。おれたちは君を盗みにきた盗賊だ」
「盗賊さん? では悪いひとなのかしら。盗むのは悪いことなのよ」
「義賊を気取る気はねーよ。仕事は終わりだ。さっさと……」
「そう急ぐな。性急な男は女に逃げられるぞ」
「知るか」
 ショコラッタの物言いに、アンジェロは気も失せて大窓に向かう。勢いで蹴破れば窓枠ごと吹き飛び、冷たい夜風が吹き込んできた。少女が肩を覆う前に、ショコラッタが上着を着せてやる。
「いいか。君はこれから村に帰る」
「私の家はここよ。私がどうして村に行かなければならないの」
「父君と母君が待っている。苦労はするが、乗り越えられるさ。人は人らしく生きるべきだ」
 生きるためには自ら労働して糧を得る必要がある。どの世界でもそれは変わらない。
 首を傾げて聞いている少女が理解しているとは思えないが、ショコラッタは言葉を紡ぐ。外の気配を探っていたアンジェロが耳を澄ませた。遠く、遠くから何かが来る。猟兵としての勘が警鐘を鳴らす。
 何かが来る。唸り声を上げる何かが、多数。領主が猟兵に気づいたのか。鼻っ柱を折られたと、怒り狂ってでもいるのだろうか。
「拙いぞ、急げ!」
 ショコラッタは自分と同じ程度の少女を有無を言わせず担ぎ上げ、悲鳴にも構わず窓枠から身を躍らせた。そのまま夜闇を駆けて駆けて、程よい場所で娘を降ろした。 まっすぐ行けば村に着く路だ。村ではきっと、金の髪した父親と若葉の瞳の母親が、娘を一目で見いだし抱きしめるだろう。
「ここから先は自分で走れ。自分の足で帰るんだ」
 少女の手に、そっと握らせたのは優しげな桃色の薔薇の花。広間から拝借してきたものだ。花言葉は『美しい少女』。
「耐えられなくなったら、おれを呼べ。浚ってやるよ」
「あなた、だあれ?」
「猟兵さ。この世界を救うために来たんだぜ」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『暗闇の獣』

POW   :    魔獣の一撃
単純で重い【血塗られた爪】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    暗闇の咆哮
【血に餓えた叫び】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    見えざる狩猟者
自身と自身の装備、【自身と接触している】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


怨々と響く声がある。
 轟々と唸る声がある。
 燃える館から散り散りに逃げ延びた人間を喰らいながら、獣が走る。館を潰した猟兵を狙って、来る。
 ねじくれた角と鋭い牙、遠吠えが夜闇を切り裂くように震わせた。
ナナ・ナナ
《アドリブ大歓迎》
夜会の招待客に相応しい服装で
「あらあら、どうしましょう」
怖い大きな音が聞こえるかしら
わたくしと、一緒に行きましょう?
と手を差し伸ばし、リザレクト・オブリビオンを使用し、
主に【死霊蛇竜】達を召喚する




 牙むき唸る漆黒の獣。夜闇の毛皮に爪と牙、捩れた角も瞳すら禍々しく。牙からしたたる雫は、今し方喰らった不幸な人間の残滓だ。
 燃える館を背景に、佇む淑女がひとり爪の脅威に晒される。哀れ淑女は爪と牙の餌食と見るや。
「あらあら、どうしましょう」
 夜闇に艶めく黒髪さらり、指先で梳き。歌うように淑女は言葉を紡ぐ。
「どうしましょう、いけない子。おいたは駄目よ」
 とろりとした夕暮れ色の瞳が笑う。古風なドレスに身を包んだ、夜会の客にも見える出で立ち。冬の夜空の星を散らしたリボンが袖に裾にゆらり揺れた。
 ナナ・ナナ(七都闇・f03089)は見上げて語りかける。
 レースに包まれた指先が、虚空をなぞる。編み上げた魔方陣が闇夜におぼろな光を放ち、解き放たれたのは死霊蛇竜。黒真珠の艶した鱗、身の丈は計り知れない。ナナを護るようにしてのたうつ蛇体が、ナナの命じるまま空に吠えた。
「わたしの、かわいい子。根の国に送ってあげて頂戴」
 怯んだ獣に巻き付き締め上げ、毒のしたたる牙を突き立てたなら、やがて獣は力をなくす。足音の先に棘持つ尾が宙を薙いだなら、身を隠した獣がもう一匹。繻子の扇の下、紅薔薇の唇が柔らかな弧を描く。
 指先を翻し指した獣が、再度喚んだ死霊蛇竜に貪り尽くされるまで、そう長くはかからなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ショコラッタ・ハロー
<SPD>
親玉が登場する前に、無駄な怪我を仲間に負わせるわけにはいかない
おれは戦場を引っ掻き回して、敵の動きを鈍らせることに専念する

常に敵どもの間を駆け続け、攻撃の無駄打ちを誘う
射程はよく観察し、仮に食らっても致命傷にならない位置取りを心がけるぞ
時折あえて懐に飛び込んで、敵の虚を突いてやる
透明化したヤツがいたら足音や足跡で判別し、仲間に注意を呼びかけよう
おれが掻き乱している間に、仲間が連中をブッ叩いてくれるだろ

動きを見極められてきたら上着を脱いで軽装に
敵が隙だらけの時や、仲間がピンチのときにシーブズ・ギャンビットで攻める
おまえらは奪われる側だ。仲間の血の一滴もくれてやらねえぞ


リーヴァルディ・カーライル
…ん。予定通りヴァンパイアの面子を潰せたみたい
贄の少女も遠くへやったみたいだし…
後はいつも通り、敵を滅ぼすだけ

戦場が燃える館の中である以上、いつ倒壊してもおかしくない
獣はそんな事関係なく暴れる以上、常に退路は意識しておく

私は【吸血鬼伝承】を発動して行動
蝙蝠に変化して館内を探索
超音波の反響で獣の位置を探しだし、
敵の行動を見切り奇襲をしかける

変身を解除して無防備な敵にむけて大鎌の刃を突き刺し、
怪力任せになぎ払い傷口を抉る2回攻撃を行う

第六感が危険を感知したら即座に体を霧化して回避
…館の倒壊に巻き込まれた場合は、霧になって無事な場所まで避難する

「…ん。隠れ潜むのは、お前たちの専売じゃない」




 夜風に煽られた炎が、館の端から全体に燃え広がろうとしている。贅を尽くした調度も村の血を吸い咲いた薔薇も、何もかもが炎の洗礼で灰と化そうとしている。
 これがもし他の世界であれば、灰の中から若芽が萌え、新たな生命が広がるのだろうが。
「この世界は酷だよな」
 ショコラッタ・ハロー(盗賊姫・f02208)は嘯いて、焼ける館に駆け戻る。
 贄の娘は戻れたとしても、亡くした子らは戻ることなく。村が圧政から解放されたとて、貧しい土地が一夜で富み潤うわけでもない。新たな領主が現れる可能性も大いにある。
 この世界で、どこまでいっても人間はヴァンパイアの遊び道具、気の向いたときにいつでも踏み潰せる蟻が行列しているようなものだ。
「だからこそ、なんて気負うわけじゃないぜ」
 グリモアの力で世界を渡る術を持ち、様々な世界を見た。この地が猟兵を必要とするならば、出し惜しみなどしてやらない。
 獣が群れる中、黄金の光が疾走する。跳び跳ね、でたらめな軌道を描き攪乱する。姿消しの目くらましをかけていた獣が腱を断たれて苦悶の声を上げ、力任せの一撃はするりと際を掠めもしない。
「あなた、小鳥は巣に帰って?」
 燃え落ちる館から滲み出す黒い霧。抑揚のない少女の声がする。
「ああ。素直な小鳥で助かった」
「……ん、ならば後は、殲滅するだけ」
 獣の間をすり抜けて中央、霧が凝って少女を造る。暗紫色の夜会服、人形めいたその容貌。
 ダンピール、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は振り下ろされる獣の爪の真下にいた。真上から、また横から、四方八方同時に獣が爪を振りかぶり、縦に横に、無尽に少女を引き裂き潰し、獣同士が傷つくほどに地面を抉り破壊する。
 四散したはずの少女の姿は真上にあった。輪郭に黒霧滲ませ、リーヴァルディが唇に一言乗せる。
「邪魔」
 魂狩る不吉な大鎌は、華奢な少女にこそ相応しい。手繰る大鎌に抵抗も感じぬまま薙ぎ払えば、獣の首が縦横に飛んだ。
「幾つ取った?」
「三つから先は、数えない」
 ショコラッタの問いに短く応え。血煙の中夜会服の裾翻し、リーヴァルディは変化する。唸る爪を梳く黒霧から、届かぬ高さを飛ぶ蝙蝠へ。
 にやり笑ったさほど歳も変わらぬ少女、ショコラッタもまた戦装束の裾を翻す。唸り上げようと顎を開いた獣の喉に、空駆ける速度で短剣を突き立てた。
「悪ィな、犬っころ。いつもはもっと遅いんだけどよ」
 上着は小鳥に貸し出し中だ。今のおれは、お前よりずっと早いぜ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ノワール・コルネイユ
【アドリブ可】

潜入した面子は派手にやってくれたらしい
そうすると、次は露払いという訳か

小者は一匹ずつ、着実に減らすとしよう
突出して来た奴から相手してやる

もし、逃げ遅れた人間を追い掛けているものがいれば
そいつの隙を突く序でだ
逃げる隙ぐらいは作ってやるさ


咎力封じを使用して敵の拘束を狙おう
動きが鈍ったところに追撃を重ねるか
トドメを周りに委ねてもいい
数を減らすのが早ければ早いほど良いからな

狙う隙があれば【傷口をえぐる】ことで怯ませてやろう
いつまで自分達が狩る側だと思っているんだ?

さて、悪趣味な主催者を早々と引きずり出せると助かるんだが
その顔は怒りに打ち震えているか?それとも…
何にせよ、楽しみだ




 この地生まれこの地育ち、この世界の空はいつも陰鬱で、起きる事件はだいたいが残酷だ。騒動に慣れた身であったとしても、何も思わぬ訳ではない。
「派手にやってくれたらしいな。お陰で仕事が捗るものだ」
 今はまだ露払い、大物は最後のデザートか。準備運動にはちょうどいい。
 人のようなもののわめき声が聞こえたした。向かってくる獣がいて、逃げ遅れた客が顎に飲まれようとするところ。狙い定まり、紅玉の瞳を僅かに細め。
「目の前でやられても寝覚めが悪い。逃げる隙は作ってやるよ」
 右手に長剣、左手に短剣、この世界の落とし子の如き黒の出で立ち。ノワール・コルネイユ(ル・シャスール・f11323)が不可視の枷を解き放つ。
 まず一つめは猿轡、品無く吠え立てる口を閉じてやり。行儀の悪い前足は、二つめの手枷が封じ込んだ。どうと倒れた獣の下から、男が這いずり逃げ出した。
「生き延びられるか運次第。お家に帰りな、紳士様」
 三つめの枷は不要だと、ノワールは思い笑みを浮かべる。動きが鈍ればこちらが有利、手中の銀刀が血を望む。黒髪の尾を引き低い疾走、藻掻き足掻く喉元に勢い乗せて、深く刃を突き立てた。食い込んだ右の刃を中心に、ねじるように地を蹴り体を上へ。刃引き上げ首は半ば断ち切れる。とどめに眼窩に短剣を、重力かけて叩き込む。
「……それで隠れたつもりか」
 虚空に突き込む血濡れた刃。目くらましの術が解け、獣が姿を現し吠えた。音も気配も隠さぬままに、姿を隠しても意味が無い。ねじくれた角だけ立派でも、知能は低く群れるだけ。どちらが狩られる方だろう。
「どちらが化物なのだろうな」
 血煙に濡れながら、自嘲する。確かにこの身の半分は、この世界に仇なすものの血なのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

ゼイル・パックルード
【アドリブ可】
宴を壊されてから来るんじゃ手遅れもいいとこだな。そんなやり方するようじゃあこいつらの飼い主のオツムもたかが知れるぜ。

【POW】で行く。

一匹で飛びかかったりしてきたら来るなら烈破灼光撃で確実に。身体も腕もでかいし懐には入りやすそうだ。

複数に飛びかかられたりしたら鉄塊剣で【なぎ払い】とか【二回攻撃】で一気に落とす。

じりじりと様子を窺われるようならその隙に【力溜め】ておくようにして迎撃態勢を整える。

【見切り】や【第六感】を働かせて攻撃を読む。
避けられそうになかきゃ【武器受けで】

喉とか狙えたら潰せたら潰すけど、鉄塊剣じゃ大振りで難しいか、できたらくらいで基本は他のヤツに任せておく




 音立てて館が焼け落ちていく。上等の調度も壁を飾る絵画も、爪先が沈ゼイル・パックルード(火裂・f02162)ような絨毯も炎に消え、集まる客すら生き延びたのはどれだけいただろう。
 どの世界でも『人間』ほど、生きることにしぶといものはない。命あっての物種ともいう、生き残りさえすれば、何処かで再びのし上がる。この世界ならば、なおのこと。
「どうした。もう終わりかよ!」
 息の触れるほど間近に迫る、身の丈倍の獣がある。髪一房を爪に食わせ、ゼイル・パックルード(火裂・f02162)は呵々大笑。地獄の炎も赤々と、突き込む拳が獣も焦がす。
「燃えろ、燃えろよ。もっとだ、もっと」
 肘まで深く突き入れて、熱く赤く燃え上がらせる。毛皮と腹を焦がしつつ、獣が苦痛に高く吠えた。頬を掠めた傷も構わず、ゼイルは更にねじり込む。肉と毛皮の焦げる煙が、更にゼイルを昂揚させる。
「もう終わりかよ、つまらねぇ。もっとデカいの連れてこい!」
 雑魚はあらかた片付けた。残り少ない残党も、どこかで猟兵に狩られるだろう。
 ならば次、もうすぐ近くにいる。こんな犬とは比べものにならない、強くて血の匂いがする奴がいる。
「物足りねえんだよ。この程度じゃあな」
 金の瞳の奥深く、金の炎が冷たく燃える。
 背に負う巨大な鉄塊剣、片手で使うも慣れたもの。振り向き勢い振り抜けば、腹から二つに裂かれた獣が沈む。

 来いよ、前座はもう飽きた。
 お前も腹が煮えるだろう?
「なあ、お偉い領主サマ」

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ゼラの死髪黒衣』

POW   :    囚われの慟哭
【憑依された少女の悲痛な慟哭】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    小さな十字架(ベル・クロス)
【呪われた大鎌】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ   :    眷族召喚
レベル×5体の、小型の戦闘用【眷族】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は吾唐木・貫二です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 かつて少女は生きていた。
 かつて少女は未来ある生者だった。
 父の名も母の顔も覚えていない。ただ覚えているのは、甘やかな日々に突然訪れた困惑と激痛と絶望と、命が途切れる瞬間の例えようもない恐怖そのもの。
 何故私はこうなってしまったのだろう、何故私はこんな姿となったのだろう。
 村の贄として領主に渡され続け、困惑と激痛と絶望と恐怖の中、弄ばれて命を絶たれた『無垢たち』の過去。オブリビオンとして形を成すほど、彼ら彼女らの恐怖は深かった。いつしか同様の贄を求め続けるだけの存在と化し、新たな『領主』として未来ある無垢を弄び、未来を裁ち切り絶望を肥大させる。
 輝かしい未来など、誰が与えよう。光ある世界など、誰が与えよう。
 かつて贄となった『少女』の姿。
「おともだちは、どこにいるの」
 可憐な少女が微笑んだ。血の匂いのする鎌を掲げて。
ショコラッタ・ハロー
娘に傷はつけない
敵はあくまで黒衣のみだ
さっさと終わらせるために常に接近戦を挑んで攻勢を保つ
ダガーで黒衣を引き裂いては背後に周り、反撃を避けていくぞ
距離を取られたら、盗賊姫の宝石箱から茨の鞭を取り出し、黒衣をズタボロにしてやる

多少のダメージぐらいじゃ、ひるんだりしない
攻撃後の隙を見据えて立ち回り、仲間と自分の攻撃の機会を生み出していく
吸血鬼に全てを奪われた娘の苦痛に比べれば、血を流すくらい何だって言うんだ?
しっかり眼を見て声をかけるぞ
「おまえが奪われたモノを、おれが奪い返してやる」

救えないかもしれない
だが、救いを与えることはできる
おれが最期の友人になってやる
人の子として、眠れ




 グリモアを持つ猟兵の間で、度々見られる予知がある。ある女吸血鬼の遺髪で編んだ黒衣が、少女を捕らえて虜囚にすると。
 オブリビオン、過去の骸が現在に滲んだ染みのようなもの。奴らが『今』を覆い隠してしまったなら、この世界の『未来』が途絶える。
「……そういうことか」
 ショコラッタ・ハロー(盗賊姫・f02208)が拳を握る。
 始まりは見えずとも、この村の過去が滲んだオブリビオンであるのなら、『同じ』である可能性は高くはない。生きた少女を捕らえた黒衣が、村の過去を纏って変質する可能性もあるだろう。人の過去が皆違うように、この村に根付き育ったオブリビオンが『他と同じ』とは限らない。
「全く、救えねぇ」
 華奢な体に黒衣を纏い、濁った瞳がショコラッタを見た。奈落の底より深く暗い瞳だ。数多の少年少女の希望と夢と愛、善なるすべての無垢の結晶を、絶望と恐怖と悪夢に陥れ喰らい続けた過去の凝りだ。
 この村の歴史の、すべての絶望を人の形にしたなら、こんな姿になるのだろう。
 ――救ってやりたかった。
 唸りを上げて振り下ろされる大鎌の真下、手中に生まれた武器がある。瞬き一つ、手に馴染む鞭が刃を逸らした。湾曲した切っ先が背を傷つけはしたけれど、こんな痛みが何だというのか。
 ああ、そうか。
 まるで野茨の蔓のようだ。棘が刺さりはするが、真珠にも似た素朴な花が息づくように咲いている。彼女の願いはこれなのだろう。
「浚ってやる」
 他者の絶望を啜って存在し続けることを、この少女は望んでいない。確信だ。
 地を蹴り距離を測り、刃を躱して鞭が飛ぶ。少女に巻き付き黒衣を破る。悲痛な叫びが響いたが、構わず正面に回り込む。横薙ぎの刃に飛び乗り柄を跳ね、少女の懐に入り込んだ。
「おまえが奪われたモノを、おれが奪い返してやる」
 濁った瞳が僅か、揺れた気がした。

成功 🔵​🔵​🔴​

ゼイル・パックルード
【アドリブ可】
...なんだ、どんな悪辣な野郎が領主かと思ったら生き方も選べなかったガキの成れの果て、か。
途端に面白くない殺しになったが、あぁ、せめて笑って地獄に送り返してやるよ。

【POW】
基本は【怪力】で鉄塊剣を振るい、【属性攻撃】の炎を纏い【二回攻撃】する。
相手が慟哭を【見切り】や【第六感】で察知し、いっそ近づいて【烈破灼光撃】。
相手の鎌に当たらないようすぐ離れる。
相手が弱ってきたら【力溜め】して【烈破灼光撃】で一気に叩き潰す。
万が一眷属召還されたら【なぎ払い】をする。

胸糞は悪いが笑う、こいつは敵だ。哀れんだところで敵だ。悲しむ心なんてないが、仮に悲しんだところでどうにもなりやしない。




 あれは生き方を選べなかったなれの果て、未来を摘まれた世界の先か。
 何者であるかもわからぬまま籠で育った金糸雀は、籠の外で絶望するだろうか。
「クソも面白くねぇ話だな」
 口角を上げるゼイル・パックルード(火裂・f02162)は、この場においていっそ清々しい。絶望の悲鳴を笑い飛ばし、身の丈ほどある鉄塊剣を軽々片手で振り回す。
「おともだちは、どこ」
 濁った瞳で、血の気の無い唇で、可憐な少女は嗄れた声を上げる。招待客たちはこの少女の求めるまま、贄を作って捧げていたのか。それとも別の何かが少女を差し向けたのか。ヴァンパイアの思惑など、知ったことではないけれど。
「おともだちは、ここにはいねぇよ」
 それはさながら小さな竜巻。鉄板とも見える鉄塊剣、大鎌の唸りに真っ向向き合い重い斬撃受け止めたなら、鉄打つ火花が派手に散る。二度も三度も受け止めて、傾け薙いで勢い殺し、滑り込むのは息も触れる間合い。大ぶりの剣は地に刺した。
 燃え立つ炎が少女を照らす。轟と吹き出すゼイルの炎、地獄に送るに似合いの色合い。瞬き一つのこの間合い、ゼイルは炎を拳に宿す。
「あんたの行く先、照らしてやるよ」
 大鎌構える暇もなく、黒衣の少女の胸元に超重量の一撃が埋まる。抵抗らしい抵抗もなく、少女は折れて吹き飛んだ。
 見た目だけなら年端もゆかぬ、物も分からぬ可憐な娘。痛みを感じぬ体なのか抉れた体に構いもせずに、やや傾いた姿勢で立ち上がる。大鎌を支えに唇開き、声なき叫びを上げたなら、地から眷属らしき幽鬼が這い出した。
 それらも見越していたかのように、無造作にゼイルが地を薙けば、刃に幽鬼は儚く散った。
 金の瞳の奥深く、揺らめく炎は冷えている。憐れみなどは持ち合わせていない。憐れんだところで娘はどうにもなりはしない。
 捧げられた幾人もの無垢の絶望がこの娘を形作ったなら、この娘を倒すことこそが村の救いとなるのだろうが。
「やりきれねぇのはお互い様だ」
 だからゼイルは笑うのだ。
 憐れみ悲しむ時間より、猟兵には先に成すべきことがあるのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。おともだちなら、家に帰った
夜が明けたら、永かった宴もこれで終わり…
あなたも元いた場所に還してあげる“領主様”

私は他の猟兵と連携して前に出て、常に挟み撃ちになるよう行動
…この暗紫色のドレスだと飛んだり跳ねたりできないけど
幸い、大鎌の扱いには慣れている…攻撃動作、攻撃範囲も予測がつく

敵の攻撃を見切り、力を溜めた大鎌でなぎ払い武器で受け、
その隙に他の仲間が敵を攻撃できないか試みる
第六感が危険を感じたら全力でその場から飛びのく

隙ができたら【限定解放・血の聖槍】を発動
一瞬だけ吸血鬼化した怪力で黒衣を掴んで地面に叩き付け
生命力を吸収する魔杭で傷口を抉る2回攻撃を行う
…舞踏会はこれで終わり。良い夢を…


ノワール・コルネイユ
【アドリブ可】
これが『領主』の正体とは、な
狂宴の首謀者は最初からここには居なかったということか
…笑わせてくれる

離れれば衝撃波や使い魔の類、近付けば強烈な一撃
流石に一筋縄で行く相手ではないだろう
私は前に詰めて近接戦闘を仕掛けるぞ
距離を取って手駒を増やされるよりはマシだ

魔を祓う銀の剣を命中率重視で発動
【2回攻撃】を狙いながら着実に敵の体力を削りに行く
腕でも脚でもいい、奴に傷を負わせて
仲間の追撃の助けとなる様に食い下がってやる

少しでも長く食いつける様に【第六感】を働かせ
致命的な一撃を容易く貰わない様に警戒しよう

同じ化け物の誼みだ
お前達が味わった絶望も、お前達から伝播する絶望も
ここで終わらせてやるさ




 見た目の歳で言うならば、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)とノワール・コルネイユ(Le Chasseur・f11323)、二人と『領主』は似ているだろう。
 骸の海から滲んだ淀み、この世界には色濃く表れている。いくつか世界を渡っても、ここほど闇の濃い世界は今のところは見たことがない。村の誰もが希望をなくし、それでも生きようと足掻いている。支配を振りほどく力が無くとも、生きている。
 この世界における人間と猟兵の関係は何なのか、。ただリーヴァルディが思うのは、ヴァンパイアもヴァンパイアの生み出したモノも、この手の鎌で狩り滅ぼし尽くすことだけだ。
「元いた場所に還してあげる、『領主様』」
 結いの崩れた髪を解き、指で梳いたリーヴァルディが身構える。音立て空切り大鎌が回る。体制崩れた今ならば、娘の鎌の傾きで攻撃範囲も分かるというもの。大鎌の心得があるのは敵だけではないのだから。暗紫の衣装の裾乱さぬような、立ち回りすらも慣れたもの。
「『あれ』が領主の正体なのか。知性があるようには見えないが」
「……さあ、ね。狩ってみたなら、わかるわ」
「違いない」
 短く応え、ノワールもまた四振りの剣を持ち替える。更に近接に適したものへと。
 この村の過去などとうに骸の海の中。真実など過去を語る村人の数だけあるだろう。館に集った招待客が人間だったことからも、どうせ碌でもない理由に違いない。
 例えばこうだ――村を占領したヴァンパイアの残虐性に苦しんだ村人が、美しい子どもを貢ぎ物にして難を逃れた。貢ぎ物を気に入った領主は、更に貢ぎ物を望んだ。人間はヴァンパイアのように不死でもなければ、見た者を狂わせる美貌を持ち合わせてもいない。ならば数年待ってくれ、更に美しい子を用意しよう――追い詰められた人間の残虐性もまた、村の『過去』に積み重なる。オブリビオンは未来を喰らう。この村はとうの昔に行き止まりだったのだ。
 変化があるならこの『領主』を、倒してみればわかること。
「仕掛ける」
 『Mistarille』と呼ぶ魔祓いの短剣、両手に馴染む銀の刃。長身を屈めて低く低く、地を蹴り跳ねた先は大ぶりに振り下ろす大鎌の直下。黒髪ひと筋断ち切らせ、黒衣の少女に肉薄した。
「逃がしはしない」
 逆手に持ち替え振り向きざま、黒衣に突き立て伸び上がる。返す刃でもうひと突き、少女がかばりと口を開けた。端正な顔もここまできては、古びひび割れた人形の如き有様。
 ――あああああ、嗚呼、あああ、ああ、あアア――!
 無差別の慟哭が響き渡る。至近で聞いたノワールに、鼓膜が痺れ頭が割れるような痛みが襲いかかった。息を詰め距離をとったなら、その寸隙を暗視の衣装が翻る。
「……刺し貫け、血の聖槍……!」
 ざわりと銀の髪がうねる。これが自身の持つ半分の血の力。この世界を覆うヴァンパイアの、もつ力。
 黒衣の娘の胸の中心、手のひら当てて気を送る。娘の痩せた背中から、魔力の杭が貫き通る。
 娘の濁った目が見開かれた。珍しいものを見た子どものような、僅かに光が宿ったような。鎌を落として立ちすくむ、その姿は糸の切れた操り人形にも似ていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 威厳のあるお父様と、優しいお母様。
 あたたかい部屋、きれいなドレス、おいしいお食事。ふかふかのベッド。
 きれいな花の咲くお庭には出てはいけないの。館の外にはこわいおばけが出て、わたしを食べてしまうのですって。だから、ダンスの先生や物語の先生のおっしゃるとおり、私はひとりでいい子にしているの。
 だけど、時々胸の奥がきゅっとするの。物語では、お姫様は王子様と幸せになるけれど、私はいつもひとりきり。怖いことも悲しいこともないけれど、少しだけ一人が嫌になるの。お父様もお母様も先生も、一緒にいてはくださらないから。
 だから、とても楽しみにしていたの。舞踏会のための一番上等なドレス、きれいな靴。私をおともだちのところに連れて行ってくださるって。
 とても楽しみにしていたのよ。

 なのに。とても怖い目にあったの。とても痛かったの。
 だから、だから、あなたも私と同じになればいいの。
 痛くて苦しくて悲しい、誰も助けてくれない怖い目にあわせてあげる。
ゼイル・パックルード
アドリブ可
お前を殺したのはヴァンパイアだ、そして今お前を殺そうとしてるのはこの俺だ。
生まれ変わりがあるのなら…次生まれるときは。お前を笑って殺すこんな人でなしはきっと減ってもっとマシな世界に、他の猟兵たちが変えてるだろうさ。
だから今は…死ね。俺はお前との殺し合いを楽しませてもらう。

【POW】
さっきの戦いで【怪力】を生かした【烈破灼熱光撃】で吹き飛ばせたし、主軸はこれに変えていいな。弱ってきてるし一気に畳みかける意味でもな。
【第六感】、【見切り】で間合いが同じの鎌には注意する。
もし対策されたら間合いを取って鉄塊剣の【二回攻撃】に切り替える。
眷属対策もさっきと同じ【なぎ払い】だ。


ナナ・ナナ
【アドリブ可】
注)「一人称:わたくし」です

わたくし達が、助けてさしあげるわ
そうでしょう?
他の猟兵の方との連携も可

【トリニティ・エンハンス】で炎の魔力を纏い
攻撃力を強化して攻撃

炎に包まれれば、貴女もきっと眠れるわ
この物語はこれでお仕舞いね


リーヴァルディ・カーライル
…まだ、倒れないのね
もう使える魔力も残り少ない…多分、次が最後の攻撃
こんな土壇場で使う業じゃないけれど…これで決めてみせる

…味方を巻き込まないように【限定解放・血の教義】を発動
再度、吸血鬼化して増幅した生命力を術式に吸収させて力を溜める
暴走する限界は第六感で見切り、呪詛を浄化する“光の暴風”を発動
両手の掌に一つずつ維持しておき、初撃で召喚された眷属をなぎ払い、
次の一撃は領主に向けて放つ2回攻撃を行う(※術の反動で傷口が抉れる)
…これが私の魔法。魂の叫びを癒す光…。眠りなさい、安らかに…

…ん。聖人の真似事、では無いけれど…
やっぱり吸血鬼化した状態で、浄化の光なんて…使うべきじゃない、ね




 かわいそうな子。
 世界を知らずに籠の中、誰からも名を呼ばれぬまま生きて死んだ子。故郷も父も母も忘れ村の貢ぎ物として扱われ、生きていたことも死んだことも知られずに絶望の中で消えたかわいそうな子たち。
「わたくし達が、助けてさしあげるわ。そうでしょう? 皆々様」
 ヴェールのように纏うは炎、宙舞う指先でルーンを綴り、ナナ・ナナ(七都闇・f03089)は唇に笑みを乗せた。哀れみは『彼女』に何の意味も無いだろう。だけど、後に続く貢ぎ物はここで断たれる。
 もしかすると、もしかしたら。貢ぎ物を出した夫婦がその後ふたたび子をもうけていたなら。その子が育ち子をもうけ、細々とでも村で血を繋いでいたのなら。『彼女』をここで断つことで、『彼女』の子孫を救うことになりはしまいか。それは無念すら知らずに消えた『彼女』たちへの、救済になりはしまいか。
 炎の魔力が渦を巻き、黒衣の少女を焼き焦がす。黒衣が端からちりちりと、燃えかすとなって宙に舞う。
「……限定解放。テンカウント」
 詠唱の声が炎に乗る。リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)が唱えるは、呪われた血を解放するユーベルコード。もはや魔力も心許ない土壇場で使うには、血にも身体にも負担がかかる。
 聖人の真似事をしたいわけではない。ただ、未来を繋がる今を過去に蝕ませたくないだけ。灰は灰に、塵は塵に、過去は過去へと帰るべき。あるべきものをあるべき場所へ。
「オドとマナ、今ここに一つに――」
 詠唱が完成する。曇天を切り裂くように、光が降りる。暴風となって吹き荒れる。地から這い出す眷属が、地を薙ぐ光に吹かれて消えた。黒衣の少女を中心に、竜巻となって収束する。
 あなたを縛るなにものも、もうこの世界に存在しない。あなたを苛む苦痛もなにも、もうあなたを苦しめない。憎しみ、苦痛、怒りと痛み、すべてを無垢に返す魔法。
「声なき叫びを癒す光……眠りなさい、安らかに」
 炎と光に包まれて、黒衣の少女が目を閉じた。見た目の年齢相応の、あどけない寝顔を垣間見せる。
「生まれ変わりがあるのなら……あんたが次に生まれるときにはよ」
 命は廻るという説がある。ゼイル・パックルード(火裂・f02162)は、そんなお伽噺を思い出す。この世の役目を終えた魂は、巡り廻ってふたたび世界に生まれるのだという。子供じみたお伽噺、けれど『彼女』にはそんな物語が相応しい。恐怖と絶望の凝りだなんて、救われなくて笑えない。
 それでも全てを笑うのが、ゼイルという猟兵だ。身構えるまでもなく無造作に、まるで小さな子に語るように、物語を話して聞かせる。
「今よりマシな世界に変えてるだろうさ。お人好しで気のいい猟兵は多いんだぜ、俺みたいな――」
 おまえを笑って殺せるような、人でなしじゃない連中が、この世界を変えようとしているからな。時間はかかるかもしれないが、その間は眠っていればいい。目を閉じたなら、目覚めるまでは一瞬だ。
「だから今は……死ね。俺は充分に楽しんだ」
 地獄の炎絡む拳が二度、少女の身体を強か打った。
 炎と光と炎に包まれ、消えゆく少女がふと目を開く。銀の瞳が光宿し、微笑んだ気がした。
 夜が白々と明けていく。

 村を訪れた猟兵は、貢ぎ物の少女が無事に一人で村に戻り、両親と再会したことを知る。
 『領主』の真相は語られず、しかし『領主』が消えたことは村人に驚愕と解放をもたらした。
 解放されたとしても貧しい村が、一夜で潤い富むわけではなく、村人の心に深く根付いた恐怖と諦観も、また直ちに拭いきれるものではない。
 数々の世界を見ている猟兵には、一つだけ分かることがある。殆どの世界で人間は、図太く根強くたくましく生きている。光さすほうに歩いて行けたなら、この村にも少しずつ夜明けが訪れるだろう。恐怖に縛られることのない真の夜明けだ。
 幸いなことにこの村には、無垢の少女がいる。すべての幸いを形にしたような少女が、村人の光となるかも知れない。
 それは、もう少し後の物語となる。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年01月16日


挿絵イラスト